251: ◆EBFgUqOyPQ 2014/10/13(月) 03:02:21.42 ID:Rywb3V3Qo


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



 さて本来なら今から投下するのは誕生日用だったのですが間に合いませんでした。(奈緒間に合わせようとしていたかは別

まぁ誕生日前後半年は誤差だっていうから投下しますね。

252: 2014/10/13(月) 03:03:21.31 ID:Rywb3V3Qo
『PiPiPiPiPiPiPi!』

 一定のリズムの無機質な電子音が私の枕元で響いている。
 腕を振り上げて音を放つ目覚まし時計の頭を少し乱暴にたたくと、私を起こさんと声を上げていた目覚まし時計はおとなしくなった。

 私の視界は寝ぼけ眼によって濁っているが、その視線は自然と涼しげな色をしたカーテンから差し込む日差しへと向かった。

「アー……、今日から学校……ですね」

 体勢を仰向けに戻した私は、いまだ見慣れぬ真新しい染みひとつない天井を見上げる。

「これでも引っ越してから、まだ一週間……ね」

「アーニャ!朝よー!」

 扉の向こうからママの声が聞こえる。
 いつもならばママが読んでからしばらくしたら私を直接起こしに来るのだが、今日はなぜか妙に目が冴えている。

 普段なら寝起きで言うことの聞かない身体をゆっくりと起こし、ベッドの縁に腰かけた。

「いつもより普通に起きれたのは……転校初日で緊張しているから、でしょうか?」

 ロシアから日本に帰ってきて一週間。

 随分と長い海外暮らしが続いていたが、久しぶりの日本での暮らしに心が躍っているのだろうか?
 そう言うことなのかわからないが、せっかく気持ち良く朝を迎えられたのだ。

 ママが起こしに来る前に行って、ママを驚かしてあげよう。

 そう画策した私は、ゆっくりと自分の部屋の戸を開けてキッチンのある一階へと降りていく。
 そしてキッチンのある部屋へゆっくり入ると、私に背を向けてママが朝ご飯を作っているのが見えた。

 その姿をほんの少しの間まじまじと見た後、私はママにゆっくりと近づくのだ。
 忍び足で音を立てないように近づく。
 手元の料理に集中しているのか全く気が付く様子のないママの後ろに私は陣取る。

「ドーブラエ ウートラ。ママ」
----------------------------------------



それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



253: 2014/10/13(月) 03:04:05.55 ID:Rywb3V3Qo

***

「ただいまー、って晶葉来てたのか」

 所用で外に出かけていたピィが『プロダクション』に戻ってきたとき、来客用のソファーで珍妙な機会とにらめっこしている晶葉の姿をピィは目にした。

「おや、ピィか。姿が見えないと思ったら出かけていたのか」

「ああ、昼飯ついでにちょっとした用事を済ませてきた。

晶葉一人か?」

 ピィは室内を軽く見渡すが、ぱっと見では他に人影はいない。
 珍しいことにちひろもいないようである。

「いや、そう言うわけではないのだがな。

とりあえずちひろさんから少しの間留守番を頼まれてはいるのだ」

「なるほどな。

ところで晶葉の言い方だと一人ではないようだが、他に誰が……ってああ」

 視線を向けたピィはその疑問に一人で納得した。

254: 2014/10/13(月) 03:04:47.46 ID:Rywb3V3Qo

 晶葉の向かい側のソファにアーニャがソファに納まりきらない体を丸めて眠っているのを見たからだ。
 眠っているアーニャはおでこの辺りからコードが伸びており、それは先ほどまで晶葉が見ていた機械に繋がっていた。

「晶葉、アーニャの頭に繋がっているそれはなんだ?」

「ああ、これか?

まだ名前は決まっていないが自由に夢を見ることのできる睡眠装置だ」

 晶葉がその四角い小さめのブラウン管テレビのような装置を軽く叩く。

「へー、晶葉はロボ関連が専門だと思っていたがそんなものも作れるんだな」

 ピィは感心したようにその装置を見ながら言う。

「確かに専門はロボット工学、あとはロボに搭載するAIのあたりもそれなりだが、私は天才だから家電からあやしい装置までいろいろと作ったりすることができるぞ。

とは言ったものの今回ような物は作ったことがないからできるかどうか心配だったが意外に何とかなったな。

さすが私だ」

 少し胸を張りながら自慢げに言う晶葉。
 本来複雑な技術の塊であるはずなのに、ある程度の感性で物を作り上げるあたりまぎれもない天才なのであろう。

「またその道の研究者に喧嘩を売るようなものを作って……。

ところでなんでこんなものを作ったんだ?

いつもの晶葉ならまたロボットでも作るものかと思うんだが」

 ピィは晶葉にしては珍しい種類の発明にそんな疑問を抱く。

255: 2014/10/13(月) 03:05:30.53 ID:Rywb3V3Qo

「あー……いやー……。

これは、愛海に頼まれたのさ」

 ピィの疑問に対して晶葉はきまりが悪そうにそう答える。

「ししょ……愛海が?なんでまた?」

 あの年中Soft Bodyにしか興味のない、おっOいハンター棟方愛海とこの装置との関連性がいまいちピィにはわからない。
 脳内には疑問符が増えていく一方である。

「ああ、私も始めは何を言い出したか少し耳を疑ったよ。

そして専門外だから無理だと断ったんだが、珍しく妙に食いついてくるからわけを聞いてみたんだ」

「わけ?」

「ああ、そしたら『我慢をするため』とか言い出したんだよ」

「愛海が……我慢?そんな馬鹿な。

あの我慢なんて言葉の対極にいるような愛海が?

女の子が近くにいればパブロフの犬が如くの条件反射で卑猥な指の運動を始める愛海に我慢なんて無理だろう?」

 欲望に忠実な少女で知られる愛海の印象は我慢と言う言葉からはかなり遠いものである。
 当然こんな散々な言われようでも仕方がないのである。

256: 2014/10/13(月) 03:06:29.12 ID:Rywb3V3Qo

「そう、だからだよ。

夢で満足すれば、現実である程度抑えが効くんじゃないかって考えたんだ愛海は。

普段はあんなだけど意外といろいろ考えているんだと私も認識を改めたさ……」

 愛海とはそれなりの付き合いのある晶葉であったが、当然愛海は禁煙ならぬ禁胸しようしたことなど一度としてない。

 今回もそんなことは晶葉を納得させるためのお題目でしかなく、ただ一つの欲望を満たすため。
 夢の中で、理想のおっOいが揉みたかった。ただそれだけである。

『お胸道は、一日にしてならず』

 棟方愛海、究極を求めるためならば妥協はしない。
 結局はいつも通りの愛海であり、夢で完璧なお山をシミュレーションするためだけであった。

「というわけで、そんな珍しい真剣な愛海の頼み事に張り切って答えてみたところ……。

意外と完成してしまった。さすが私、天才だな」

 私利私欲のために利用されたとは知らない晶葉は満足そうに言う。

「で、愛海は使ってみたんだろう?

どうだったんだ」

「もちろんこの装置の初めの被験者は愛海だ。

基本的に人体に害はないことはわかっていたし、すべて予定通り機械は動いてくれたよ。

だが……」

257: 2014/10/13(月) 03:07:19.27 ID:Rywb3V3Qo

「だが?」

「実験後に起きた愛海は何も掴んでいない手をニギニギしたあと虚ろな目でこう言ったんだ。

『ゆめまくら

  ぬくもり残さぬ

    お山かな』

そう言い残して去っていったよ」

「最低な余韻の句だよ全く感心するなぁ……」

 夢で見たお山は確かに愛海の理想とするものであった。
 しかし目が覚めた時の手に残らぬぬくもりと、寂寥の感。

 夢の中のおっOい、ファントムおっOいはただ愛海の胸中に一抹のさみしさを残すだけの結果となったのだった。

 だから彼女はただ一句言い残して外へ出た。
 本物の、確かな人のぬくもりのあるお山を目指すためにだ。
 自らの進むべき道を邁進するために。

 その後の愛海については多くは語らないが、グラマラスな警察官に取り押さえられたとの噂が晶葉の耳に届いたのは翌日のことであった。

258: 2014/10/13(月) 03:08:06.74 ID:Rywb3V3Qo

「まぁそんなわけでせっかく作ったんだ。

もう少し性能実験をしようと思って『プロダクション』に持ってきたのだよ。

そしてちょうどいたアーニャに今使ってもらっているわけだ」

 晶葉はそう言って視線を進行形で夢を見ているアーニャに視線を向ける。

「なるほどな。

俺がちょっと出かけてる間にそんなことしてたのか」

 ピィもソファで眠っているアーニャへ視線を降ろす。
 アーニャは隣で二人が会話しているのにもかかわらず、起きる気配はなく静かに寝息を立てている。

「ずいぶんとぐっすりと眠っているけどアーニャは今どんな夢を見ているんだ?」

「んー……。言っていいものか少し迷うが特に気にしていない様子だったしいいだろう。

どんな夢を見るかの案を提案したのも私だしな」

 晶葉はそう言ってピィに手招きする。
 ピィは晶葉に誘われるがままに晶葉の座っている隣に腰を下ろす。

 装置の正面に来たことによって、装置の正面である画面の前にピィは来た。

259: 2014/10/13(月) 03:08:55.00 ID:Rywb3V3Qo

「今アーニャが見ているのはアーニャの想像する『if』の世界。

つまり幼少期にアーニャが何事もなく平穏に今まで育ってきたらどういう風になっていたのかを夢に見ているのだよ」

 画面の中には誰かの視点で家族が一つの机で団欒をする映像が流れている。
 ただし父親、母親ともに顔はぼやけており、その人相が少しだけ見にくくなっていた。

「とは言ったものの、あくまでアーニャの想像する『if』の夢だから、推測ではなく個人の空想なのだが」

「なんだか他人の夢を覗くなんて、悪い気分になるな……」

「まぁ趣味がいいというわけではないだろう。

とはいっても私は経過観察も必要だから、悪いとは思いつつも見続けなければならないのだけれどな」

「晶葉だけ理由を正当化するなんてずるいな。

俺も気になるから見るのはやめないけども」

「まったく……。

後で何か言われたとしても私は擁護しないぞ」

「……わかってるよ。

ところでアーニャの視点なのかこれは?」

 ピィは今画面に映っている映像についての疑問を尋ねる。
 他愛のない団欒の様子だが音声出力は無いのか何を会話しているのかはわからない。

「そりゃあ夢を映像化しているのだから当然そうだろう。

いくらなんでも第三者視点で夢を映像化するなど私にもできないさ」

「まぁ確かにアーニャの夢なんだから視点はこれが自然か」

260: 2014/10/13(月) 03:10:40.29 ID:Rywb3V3Qo

***

 ママに見送られて、私はパパと一緒に家から出る。

 ただしパパが仕事に向かうための駅と私の向かうべき学校は全くの反対方向にあるのですぐパパとは別れる。

「アーニャ、行ってらっしゃい」

 パパが手を振って私を見送ってくれる。
 電車の時間に余裕があるわけではないのに悠長にしているパパに私はクスリと少し笑った。

 そしてこんな感じのやり取りはこれまでだってやってきたはずなのになんだか妙に新鮮な気がする。
 確かに引っ越してきたばかりだが『行ってきます』のやり取りなんて当たり前はずっとしてきたはずなのに。

「行ってきます。パパ」

 少しだけ疑問に思ったが、世の中にはジャメヴ(未視感)という言葉もあるから私はそこまで深くは考えないことにした。
 余計な事ばかり考えていたら、私まで学校に遅刻してしまう。
 転校初日から遅刻なんて、さすがに冗談じゃないから。

 そこまで遠くない学校へ少し小走りで私は向かう。
 ただ学校に向かうことだけを考えて。
 なんだか些末な違和感のようなものが多く、それについて考えていると思考がどんどんループしてしまいそうだったから。
 そしてその思考に意味がないということを知っているから私は考えないことにしたのだ。

 だってこの普通の世界ではそんなことを考えないのが普通だからね。

 ママの作ってくれる朝食も、パパの行ってらっしゃいも、視界の端に映る尾を呑む蛇も、何一つ不自然などあるはずない当たり前なのだから。



 

261: 2014/10/13(月) 03:11:27.34 ID:Rywb3V3Qo


―――


『では転校生を紹介します。

ロシアの―――から転校してきたアナスタシアさんです』

「アナスタシアです。

アー……父の仕事の都合で日本に久しぶりに戻ってきました。

母は日本人で私はハーフなので気軽に話しかけてくださいね」

 ざわざわとする教室。
 久しぶりの日本の学校の様子は、昔通っていた小学校などと大差がなくある種の懐かしさを……。

 懐かしさを覚えたはずだった。

『アナスタシアさんってロシア語喋れるの?』

『なんて呼んだらいい?アナちゃんとか?』

『ロシアの暮らしってどんなのなの?』

 その後には転校生の好例と言ってもいい質問攻めである。
 これはロシアではあまり経験のなかったことであるはずだ。
 特にロシアから来たハーフということで普通の転校生よりも注目度は数倍高いのだろう。

「アー、エーっと……そんなに言われても、一つずつしか答えられないです」

 こんな風に質問攻めされることなんてないので私の頭の中はパニックになってしまいそうだった。
 でもこんな日常も悪くないと思って私は自然と笑った。

 このクラスの雰囲気は私も気に入ってきたのでこれからもやっていけそうだ。
 でも少し納得できない部分もある。

 みんなの顔を覚えられる気がしないのだ。
 また少し思考は堂々巡りして、すぐ気にしないようにするのだけれど。

262: 2014/10/13(月) 03:12:09.20 ID:Rywb3V3Qo

―――

「ンー?カラオケ、ですか?」

『そうそう!ロシアにはカラオケなかったの?』

 一日の授業も終わり、傾いた夕日の差し込む教室。
 私が帰り支度をしていると学校の帰りにみんなが歓迎会として私にカラオケに行こうと誘ってくれた。

「ダー……はい、私が住んでた辺りにはなかったですね」

『もー固いよアーニャちゃーん。普通にため口でいいよ』

 使い慣れない日本語のせいで丁寧な語り口になってしまうことを、誘ってくれたクラスメイトは笑いながら咎める。

「ムニエー……いや、すみません。まだ慣れてないので砕けた会話ができなくて」

『まただよアーニャちゃん~』

『まぁまぁおいおい慣れていけばいいって。

でカラオケ行けそう?』

「ンー……ママに聞いてみないとわからないですね」

 私は携帯電話を取り出して、電話帳の中のママのアドレスに確認のメールをする。
 返事はほぼすぐに帰ってきて、あまり遅くならないようにという注意の旨が添えられた許可のメールを受信する。

「ダー、いいみたいですよ」

263: 2014/10/13(月) 03:12:44.36 ID:Rywb3V3Qo

『やった!じゃあさっそく行こう!』

 そう言ってクラスメイトの一人に腕を引かれて、私は教室から出る。
 そしてそのままクラスの女子のグループと一緒に近場の駅前。そこに立地するカラオケ店までやってきた。

『女子高生○人で!』

『そんな区切りはないでしょーが。高校生○人でお願いします。

ああ、ハイ学生証です』

 私は物珍しさに視線をいたるところに配っていた。
 日本のカラオケ店はテレビでしか見たことないが、ほぼ内装がその通りであった。

『ほらアーニャも学生証だして!』

 クラスメイトの一人に腕を引っ張られて私は我に返る。

「シトー?学生証?」

『これだよ!渡されてない?』

「アー、ありますあります。えーっとカバンの中に……」

 私は少々もたついて学生証を出した後、カラオケルームへと案内される。
 こじんまりとした部屋だがメンバー全員で入る余裕はあった。

264: 2014/10/13(月) 03:14:11.10 ID:Rywb3V3Qo

 部屋内はカラオケの機械から絶えず流れる曲紹介が響いている。
 みんなはドリンクを取りに行くために席を立ったり、予約用の端末を操作していたりしている。

『一番○○歌いまーっす!!』

 マイクを持った一人の女の子が立ち上がると同時に、カラオケマシンから軽快な音楽が鳴り出す。

『おーねがい!シーンデレラ!夢は夢で……』

 ノリノリで歌いだすクラスメイトと、それに合わせて手拍子したりする他の子。

 なんだが籠る個室の中で、私はふわふわと現実感のない気分となっていく。




『じゃあまた明日ー!』

 気が付くと、私はカラオケルームではなくすでにカラオケ店前でみんなと解散していた。
 どうやってカラオケの中で過ごしていたのかの記憶はない。

 まるで場面転換のように一瞬でカラオケの時間は終わっていた。

「ヌー パカー……」

 すでにクラスメイトは誰もいなかったが私はロシア語で『じゃあ、また』とつぶやく。
 なんとなく私はわかってきた気がする。

265: 2014/10/13(月) 03:15:04.37 ID:Rywb3V3Qo

 それとなく感じていた思考のループと違和感。

 ここは違うのだ。私はここにはいない。そうこれは。

「まるで……夢の中」

 私はそのまま自宅に向かう。
 どこまでが妄想でどこまでが真実か私にははっきりとは自覚できないが、これは何か現実ではないことだけはわかった。

 パパとママとの生活。ありふれた学校での授業。友達とのカラオケ。
 きっと何か正しくないことが混じっている。
 これ以上は自覚はできないことも多分わかったから、私はまた思考がループする前に家路に向かうことだけを考えて歩く。

 私の歩く方向とは逆流する人波を私はかき分けながら歩く。しかし。

「あ痛!」

 ボーっと歩いていたせいか前方から歩いてきた男性にぶつかってしまい、その反動で私は思わず尻餅をついてしまった。
 それは相手の男性の方も同じなようで中腰でお尻をさすっていた。

「アー……すみません」

「ああ、いえ。こちらこそすみません」

266: 2014/10/13(月) 03:15:56.12 ID:Rywb3V3Qo

 男性は立ち上がりいまだ尻餅をついたままの私に手を差し伸べてくる。
 私は差し出された手につかまって立ち上がると、なんだか奇妙な感覚に気づく。

 さっきまでとは周囲が明らかに違っていた。
 そう、言ってみるなら先ほどまでは既視感の情景と未視感の経験で構成されていた世界だった。

 それが今は記憶に全くない情景と、新鮮な感覚に包まれている。
 夢から覚めたような感覚。現実感のなかった世界が一気に色づいたようであったのだ。

「どうしました?」

 先ほどぶつかった男性が、呆然と突っ立ていた私に声をかけ、私は我に返った。

「ニ、……いえ、大丈夫です」

「そうか、それならいいんだが……ん?」

 するとその男性は私の顔を覗き込むようにまじまじと見る。
 その少し怪しい動きに私は思わず後ずさりしてしまった。

「あ……ごめんごめん。警戒させちゃったかな?」

 そんな私の様子を察したのか、その男性はまた軽く頭を下げる。
 そして懐から一枚の紙を差し出してきて、私に渡してきた。

267: 2014/10/13(月) 03:16:48.90 ID:Rywb3V3Qo

「私、××プロダクションでプロデューサーをしている者なんだが君、アイドルやってみない?」

「……アー、うん?」

 私は何が起きたのかよくわからず固まってしまう。
 そんな反応を男性は気にせずに私の腕を掴んで詰め寄ってきた。

「あの……こういってはよくわからないと思いますけど俺、ティン!と来たんです!

きっとあなたならトップアイドルになれる!いやなります絶対に!

だからぜひ、アイドルやりませんか!?」

 そんな必氏の剣幕に通行人たちもじろじろと男性を見ている。
 傍から見れば女子高生に声をかける不審者で、普通の女の子なら悲鳴か何かあげたりするのかもしれなかったけど。

「フフ……フフフフ……」

「ああ!すみません突然!ってあれ?」

「アハハ!!アハハハハハハハハハ!!!」

 なんだか私は、柄にもなく声に出して笑ってしまったのだ。

 私にも何がおかしいのかははっきりとはわからないけど、きっと腑に落ちたのだろう。
 さっきまでの世界以上におかしな展開だというのに、さっきまでの世界に比べれば違和感なんてなぜか微塵もない。

 アイドルをしている私の姿が、そんなありえないような可能性が、きっとどこかにあってそれがあまりにも腑に落ちていることが。
 そんな私がどこかにいることが、私はわかったから。


「ダー、きっとこういうのも、アリなんですね」

 

268: 2014/10/13(月) 03:17:31.44 ID:Rywb3V3Qo

***

「おはようアーニャ、ずいぶんと長く眠ってたな」

 目が覚めれば、『プロダクション』の天井が視界に映り、ここが女子寮でないことを思い出す。
 そして晶葉の発明の実験台になっていたことも同時に思い出した。

「アー……おはよう、ございます?」

 壁に掛けられた時計を見ればすでに3時過ぎである。
 思っていた以上に眠っていたことにアーニャは気づいた。

「で見た夢の感想だどうだ?何か不具合とかは無かったか?」

 実験の結果としてテスターの使用感を尋ねる晶葉。

「夢……夢……?」

 しかしアーニャは晶葉の質問に首をかしげるだけであった。

「あ、あれ?」

「すみません晶葉。どんな夢を見ていたのか忘れてしまいました」

 アーニャはなんとなく夢を見ていた気はするのだが、肝心な内容は思い出せない。
 晶葉はアーニャの言葉を聞くなり頭を抱え落胆した様子だった。

269: 2014/10/13(月) 03:18:19.22 ID:Rywb3V3Qo

「しまった……。

せっかく夢を見せても見る側が夢を忘れてしまったら本末転倒ではないか……。

これは改良の余地ありだな」

 晶葉は傍らの机に置いてあった夢見装置を軽く撫でながら言う。

「晶葉、ところで私は、どんな夢を見ていたんですか?」

 夢をモニタリングしていたということを思い出したアーニャは自身さえも忘れてしまった夢の内容を晶葉に尋ねる。

「ああ、なんてことはないよくある日常みたいな夢だよ。

転校生のアーニャが、父親と一緒に家から出て、学校で質問攻めにあって、帰りに友達と帰りにカラオケに寄る。

改めて考えるとまるで漫画のテンプレートのようだな。

何かに影響でもされたのか?」

「アー……、なんとなく思い当ります」

 アーニャはみくの部屋で読んだ少女漫画の同じような場面があったのを思い出す。
 その内容を思い出せば、どんな夢を見ていたのかは思い出せずとも察することができた。

「……それだけ、ですか?」

「ん?……ああそれで夢は終わりだな。

そのあと暫く夢を見ていたレム睡眠状態からノンレム睡眠に移行して、夢を見ずに眠っていた時間があったが。

何か気になることでも?」

270: 2014/10/13(月) 03:19:01.18 ID:Rywb3V3Qo

「ニェート……、何でもないですよ。

……そうだ、せっかくなので今度カラオケにみんなで行きましょう。

私、行ったことないんです」

「夢で見るほど行きたかったのかアーニャは……?

わたしはカラオケは得意ではないんだが。

まぁ……そうだな、みんなの予定でも聞いて行こうか」





 

271: 2014/10/13(月) 03:22:21.80 ID:Rywb3V3Qo
以上です

2度目なので、誕生日SSではなくSF的世界観の中での少し不思議な夢の話を。
ピィ、晶葉、愛海
名前だけちひろ、みくをお借りしました。


あと少し遅れたのでおまけも投下します。
とある因子マシマシです

272: 2014/10/13(月) 03:23:39.54 ID:Rywb3V3Qo

『おまけ』

 「キャーーー!!!」

 平和な町に突如として響く女性の悲鳴。
 多少殺伐としたこの世界ではこんな非日常もまれによくあることである。

 その悲鳴は周囲の人々に危機感を伝播させるには十分であり、それを耳に入れた者たちは視線をその原因へと収束させる。

「ば、化物だーーー!!」

 視線の先にはおおよそ人間とは似つかぬ容貌の者。
 その薄く、しかしながら強固な壁のような姿に手足を生やし、そしてその上部に備わる頭部は無機質ながらも女性を思わせるような顔であった。

「逃げろーーー!!!」

「助けてーーー!!!!」

「かなりまな板だよあれ!!!!!」

「アッハッハッハーーー!!!この私『カッティングボード』様の前に跪きなさい!!

そして巨Oは滅びるがいいわ!!」

 巷で最もメジャーな怪物といえばやはり『カース』だが当然この非日常が日常と化した世界ではありふれた化物ばかりではない。
 宇宙生物だったり、科学実験の失敗で誕生した原子生物であったり、はたまたよからぬことを企む異世界人であったりと平和を脅かそうとする者には事欠かさない世界観なのである。

273: 2014/10/13(月) 03:24:30.71 ID:Rywb3V3Qo

 当然このまな板のような女怪人もそれに類するものである。
 正体は俗にいう付喪神であり、捨てられた憐れなまな板に多くの貧O女性の恨みの情念が憑りつき、巨Oを滅ぼさんとするべく具現化した姿だったのだ。

「巨O氏すべし!慈悲はない!!」

 その誕生の根底にある胸への恨み。
 それは視界に映る並み以上の胸を持つ女性たちへと向けられる。

 突如として現れたこの化物に逃げ惑う人々。
 だが明確な獲物を定めてこの場に出現した化物の狙いはすぐそばにある。

 化物のすぐ足元で恐怖で身動きが取れずその場にへたり込む女性だったのだ。
 その女性の胸部装甲はまさにダイナマイト。炸裂装甲のごとくの見事なインパクト・ロケットであった。

「世界約72万人の貧Oたちのために、巨Oを滅ぼす!!」

 化物はへたり込む女性ににじり寄り、その女性の前で手をかざす。

「ひっ、ひいっ!!」

 女性は瞳に涙をためて、小さく悲鳴を上げる。

「『搾乳(ドレイン・バスト)』!!!」

「い、いやあああああ!!!!!!!!!」

 化物のかざした手が怪しげな色に輝き始めると、目の前の女性は胸を押さえながら拒絶するような叫びを上げる。
 だがそんな女性のささやかな抵抗の意志は無意味であった。

274: 2014/10/13(月) 03:25:10.84 ID:Rywb3V3Qo

 ああ、何ということかその胸に備わっていた立派なお山が目に見えるようにみるみるしぼんでいくではないか。
 周囲にいた男性たちはその残酷な光景に嘆きを上げ、女性たちは次は自分だと恐れできるだけこの場から離れようと逃げ惑う。
 そして一部の一部が貧しい女性たちは小さくガッツポーズをする。

 そして完全に胸のしぼみ切ってしまったその女性はショックでその場に気絶してしまった。

 なんとこの化物『カッティングボード』には女性の乳エネルギーを吸い取ってバストを小さくしてしまうという恐ろしい能力が備わっていたのだ。

「くっくっく……。この調子でこの世から巨Oを駆逐し、貧Oたちの楽園にしてあげるわ!!」

「くそぉ……。このままおっOいは滅ぼされてしまうのか……」

「そんな……女性におっOいがないなんて、それじゃただの女装少年と変わらないではないか……」

「もう駄目だぁ……おしまいだぁ……」

 その恐ろしい能力を目にした人々はみな絶望の表情を浮かべる。
 もはやこのまま巨Oは駆逐され、母性の象徴は淘汰されてしまうのだろうか。

 誰もがそう思ったその時であった。

275: 2014/10/13(月) 03:26:05.81 ID:Rywb3V3Qo

「まてーい!!!!」

「だ、誰だ!!!!」

 突如としてその場に響く化物の凶行を制止する声。
 この声の下へとその場にいた者すべての視線が集中する。


「ひとーつ、人の世の母乳を啜り」


 路地裏からゆらりと現れる一つの人影。


「ふたーつ、不埒なセクハラ三昧」


 その残像さえ見える高速で、かつゆっくりな腕の動き。


「みっつ、悲しいお山の敵を」


 そして目で追うことさえ困難な圧倒的指運動。

「あ、あれは……あの人は!!!」


「退治してくれよう、棟方愛海!!!」


 異彩を放つ少女、棟方愛海今ここに参上したのであった。

276: 2014/10/13(月) 03:26:38.68 ID:Rywb3V3Qo

「やった!!!先生だ!!!」

「これで勝てる!!!」

 愛海の登場に、絶望していた男性たちにたちまち希望の光が宿る。
 そんな歓声も気にせず愛海はただ一点、カッティングボードをじっと見つめていた。

「な、何者だお前は!?

……いや、どうでもいいわ。逆らうようなら容赦はしない!!!

アンタのおっOい、いただくよ!!」

 突如現れた謎の少女の存在にうろたえながらも、カッティングボードにとっては敵対因子であること間違いない。
 本来なら見逃すレベルのお山だったのだが、敵対するようならば話は別。

 カッティングボードに敵対する者は、貧Oの敵。
 これから来たるべき貧Oの世に、巨O派はいらないのだ。

 カッティングボードはその圧倒的威圧感の巨体ながらも愛海に機敏に詰め寄っていく。
 だが愛海はそんなカッティングボードに悲しそうな眼をしたままつぶやくのだ。

277: 2014/10/13(月) 03:27:48.62 ID:Rywb3V3Qo

「やっぱり、悲しいね。

お山は等しく平等でさ。

おおきいのと、ちいさいのと、それから私。

みんなちがって、みんないいのに」

 そしてにじり寄ってきたカッティングボードを前に愛海は構えを取った。

「あ、あの構えは!!!」

「知っているのか雷○!?」

「……奥義」

 ム ナ カ タ 育 乳 拳 !!!!!

 その動きはまさに神速。
 慈愛に満ちた掌の連撃は、カッティングボードの、そのぶ厚いまな板状の体を的確に突く。

「ムナカタ育乳拳は先生が編み出した、貧Oのための究極奥義!!!

その高速の掌から放たれるソフトタッチ、そしてささやかなお山を上げる動作はたとえ薄いおっOいに対し絶大な効果を生む!

目にもとまらぬその動きの中で、触り、上げ、そして形作るという3工程を一瞬で行う技だ!!!

その技を受けた貧Oの女性は、これまで貧Oによって自分のおっOいというものを感じたことがなかった者でも、自身のおっOいの存在を、おっOいを育む喜びを、そしておっOいの無限の可能性を自覚させるいう奇跡の技!!!

噂にしか聞いたことはなかったが初めて見たぞ!!!」

「なぜ知っている○電!?」

278: 2014/10/13(月) 03:28:53.95 ID:Rywb3V3Qo

 技を受けるカッティングボードはその未知の、快感に近い何かを感じながら思う。

 これがおっOいか。これが女性としての喜びなのか。

 これまで貧Oとして虐げられてきた女性たちの情念の塊であるカッティングボードにとっておっOいは憎悪の対象でしかなった。
 だが彼女とて、胸がなくとも女性であったのだ。

 はじめて感じる胸への喜び、たとえ掴む山はなくともそれは女性のおっOいなのだ。
 カッティングボードは悟った。お山がなくとも、嘆くことはないことを。

 おっOいはそこに存在し、自らに寄り添うものなのだから。

「……そうか。

これが、そうか。

この胸にあるものが


           おっOい か




279: 2014/10/13(月) 03:29:31.54 ID:Rywb3V3Qo

 本来付喪神、悪霊のような存在であったカッティングボードはその貧Oへの劣等感が消え去り存在する理由は消滅した。
 結果としてその怨念は成仏という形で消え去り、後に残ったのは古ぼけたまな板一枚だけであった。

「あのね、大きさじゃないんだよ」

 愛海はその場に落ちていたまな板をそっと撫でてそう呟いた。

「あ、ありがとうございます。おかげで胸が元に戻りました!!!」

 先ほどまでカッティングボードに胸を奪われ気絶していた女性が目を覚ましたのか愛海の下へと駆け寄ってくる。
 その胸も、カッティングボードの成仏と共に元に戻ったようである。

 この場に平和が戻ったことにより周囲の人々も歓喜にふるえている。

「なに……気にすることはないよ。

あたしはただ当たり前のことを伝えただけ。

それだけさ」

 愛海は小さく微笑んでそう言う。

「で、でも何かお礼を……」

280: 2014/10/13(月) 03:30:13.76 ID:Rywb3V3Qo

「ん?お礼?じゃあ一つお願いしてもいい?」

 女性のお礼の申し出に愛海は年相応ににっこりと笑う。

「おっOい揉ませて」

「へ?」

「ね、ねぇいいでしょ?

最初見た時から興味あったんだよねそのお山……。

お、お礼って言うならさぁ……ハァ……ハァ……。

うひひ……おっOい揉ませてよ……ねぇ」

「え……、い、いや……いやぁ……」

 愛海は眼を血走らせ、指を高速で動かしながら女性へと近づく。
 その姿に恐怖を抱いたのか女性は少しずつ後ずさった。





「きゃ、きゃーーーー!!!!!!助けてーーーー!!!!」

281: 2014/10/13(月) 03:30:54.44 ID:Rywb3V3Qo

 悲痛な女性の叫び声。周囲の男性は愛海の百合的行動を今か今かと待つだけで止めようとはしない。
 もはやこの場にはこの女性に味方はいなかった。
 愛海の魔の手にかかるのもあと少しであった。

 だが。

「この感じ……パターン青。警官です!!!」

 周囲の取り巻きの男の一人がそう声を上げた。

「なんだって!?

いったいどこから?」

 愛海はその言葉に緊張の色を表情に浮かべる。
 だが周囲を見渡せど、その姿は見つからない。

「上から来るぞ!気を付けろぉ!」

 だが取り巻きの一人のその叫びに愛海は急いで上を見るがもう遅い。
 青い服を着た警官(あくま)はストンと華麗に愛海の背後に着地した後であった。

282: 2014/10/13(月) 03:31:50.48 ID:Rywb3V3Qo

「通報があったから来てみれば、何をしてるのかな?」

「げえっ、早苗さん!!」

 ビルの屋上から飛び降り、華麗に着地した処刑人、片桐早苗は愛海の耳元でそっと囁く。

「なにか言い残すことはある?」

「……やさしく、おねがいします」

「じゃあ、シめようか♪」

 早苗は一瞬で愛海を抱え上げ、腕を伸ばしきって頭の上部へと持っていく。
 そしてそのまま肩の上に乗せ、流れるように愛海の顎と腿を掴む。

 最後に下におもいっきり力をかけた。

「あれはタワーブリッジ!!!またの名をアルゼンチン・バックブリーカーだ!!!」

「ぐ、グェー!!!ギブギブギ……ぶ……」

 ゴキリという音と共に愛海は白目をむき、そして気絶した。
 早苗はそれを乱暴に捨てて、周囲の取り巻き出会った男たちに笑顔で語りかけた。

「さぁ……お仕置きの時間ね」

 その後、多くの男たちの叫び声とともにパトカーが到着し、この事件は終幕へと向かったのであった。




               終 了

283: 2014/10/13(月) 03:33:18.36 ID:Rywb3V3Qo
以上です

我ながら頭の悪い文章である。

早苗さん、愛海をお借りしました。

284: 2014/10/13(月) 09:25:36.06 ID:Yn/5CemW0
乙です
ifの夢…と、けっこうしんみりしていたのに…
こ れ は ひ ど い(褒め言葉)
「まな板にしようぜ!」→「オマエは全然まな板のスゴさを分かってない!」じゃないか!(錯乱)



【次回に続く・・・】




引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part11