320:◆cKpnvJgP32 2014/11/07(金) 18:59:20.28 ID:KZbFCtvpo


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ




さて、投下します
時系列は『プロダクション』襲撃より後です

321: 2014/11/07(金) 19:00:11.43 ID:KZbFCtvpo
――――今日、俺は『プロダクション』を借りきった。


――といっても、そこまで大げさな話じゃない。

――1、2時間程度、他の人に出入りを控えてもらっただけだ。

――ただしそれは”ある人”を除いて、ではあるが……。


ピィ「ふぅ……」

――どうにも落ち着かず、小さなため息をつく。

――これから自分がしようとしていることを思えば気が滅入りもするさ。

――正直に言えば、気は進まない。

――……が、いずれ避けては通れない道である。ここでめげるわけにはいかないのだ。

――などと、若干以上の緊張を抱きながら、わざわざ二人きりで話したい”ある人”へと思いを馳せる。


ピィ(上手くいくといいんだが……)

――否が応でも、スーツの内ポケットに感じるずっしりとした重みに意識が向いてしまう。

――まったく、俺の人生に”これ”を必要とする日が来るとは夢にも思わなかった。


声「失礼します」

――程なくして、『プロダクション』にその”ある人”はやってきた。
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それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



322: 2014/11/07(金) 19:00:46.41 ID:KZbFCtvpo
楓「……おはようございます」

ピィ「……おはようございます」

――事務所のドアを開け、現れたのは高垣楓さん。

――本日わざわざ他の人を排してまで話をしたかった女性、その人だ。


ピィ「とりあえずどうぞ、掛けてください」

楓「はい、では失礼して……」

――お互い妙に緊張しているのか、どことなく会話が堅苦しいものになってしまう。

――何せ二人きりで真面目な話をする、ということが今まで無かったのだ。

――多少ギクシャクしてしまうのも無理はない。


――……。

――楓さんが応接テーブルを挟んで俺と向かい合うように座った。

――そういえば初めて彼女と会った時も、ちょうどこんな感じだったな。

――……いや、あの時は隣に美玲が居たか。


楓「それで、話というのは?」

323: 2014/11/07(金) 19:01:17.87 ID:KZbFCtvpo
――――ケジメを付けなければならない。

――……一方的にではあるが、初対面の頃から彼女に対して抱いていた懸案を、

――俺は未だに解決できずにいた。


ピィ「今日、あえて楓さんだけを呼んだのは他でもありません」

――と、少し真面目くさって切り出したものの。

ピィ「えー……」

楓「……?」

――よく考えるとなんて言ったらいいものか、と今になって気づく。


ピィ「有り体に言えば、世間話がしたいだけなんですよ」

楓「……はぁ」

――何だか間抜けな発言になってしまったが、今日の趣旨として間違った事は言ってない。

324: 2014/11/07(金) 19:01:49.54 ID:KZbFCtvpo
ピィ「ほら、楓さんの近況が聞きたいなー、みたいな。最近どうですか?」

楓「……」

――にわかに楓さんの表情が強張った。

――……最近の彼女はよくこんな顔をしている。

――同時に俺はその顔をあまり似つかわしくないとも感じていた。

――だが、あの時。

――『プロダクション』に”あの男”が現れた騒動の日から。

――楓さんの表情には、明らかに陰りが見えるようになった。


楓「特に……、変わりはありませんよ」

楓「気に掛けてくださってありがとうございます……」

楓「でも……私は、平気なので……」

――楓さんはうつむきがちにそう答えた。


――……平気なんてことがあるものか。

――そんな虚ろな表情で言われても全然説得力が無い。

325: 2014/11/07(金) 19:02:19.61 ID:KZbFCtvpo
ピィ「ふぅ……」

――と、緊張を紛らわす為のため息を一つ付き、呼吸を整えた。

――――そろそろ本題に入ろう。


ピィ「今から少し真面目な話をします」

――……大丈夫、きっとうまく行く。

――手汗をテーブル上の布巾で拭いながら、自分に言い聞かせる。

――根本的な解決にはならないが、それでもやらなくちゃいけない。

――いや、俺がしたいんだ。

326: 2014/11/07(金) 19:02:50.51 ID:KZbFCtvpo
ピィ「楓さん。初めて会った時から、貴女と俺は対等では無いと思っています」

楓「それはどういう……?」

――楓さんの沈んだ表情に、今度は困惑の色が加わった。

――そりゃあ唐突にこんな話を切り出されれば驚きもするだろう。


ピィ「一つありますよね」

ピィ「楓さんにあって俺に無いもの……」

楓「……能力、の事ですか?」

ピィ「そう、それです」

327: 2014/11/07(金) 19:03:17.22 ID:KZbFCtvpo
――楓さんの能力を初めて見た時の事は、今でも鮮明に覚えている。

――目の前でペンが切断され、バラバラになっていく奇妙な光景。

――次の瞬間、その力は容易に自分にも向けられ得るのだ、と感じた時の恐怖。

――何より、

――そんな怯えた俺を見る、楓さんの悲しそうな表情を。

――俺は一生忘れない。


――未だに心残りで、度々思い返す苦い経験だ。

――『悩みを抱えた能力者に手を差し伸べ、救ってあげるんだ』などと、

――理想を息巻いていた俺の、最初で最大の挫折でもあった。


――以来、ずっと考え続けてきた。

――俺が楓さんにしてあげられる事は無いのだろうか?

――楓さんとまっすぐ向き合うためにはどうすればいいのか?

328: 2014/11/07(金) 19:03:47.42 ID:KZbFCtvpo
――楓さんの悩みは『能力を持っている事』そのものだ。

――いとも容易く人を殺めてしまえる恐ろしい力。

――この力を無くしてしまえれば、それが最善なのだろうが、

――未央や周子曰く、『不可能』な事らしい。

――ならば他の方法を考えるしかないのだが。

――とはいえ、常人の俺にできることなどたかが知れている。


――せめて、俺にも楓さんの気持ちがわかれば……。

――と、思った時に気づいた。

――……これならできるかもしれないと。

――気休めや慰め程度にしかならないかもしれないが。

――彼女の辛さを共有したい。


――その為に俺は……。

329: 2014/11/07(金) 19:04:19.40 ID:KZbFCtvpo
ピィ「楓さん、俺は貴女と対等になりたい」

ピィ「対等な立場にたった上で、ただの世間話がしたいんです」

――それが正しいのかはわからない。

――俺の一人よがりなのかもしれない。

――でも、決めたんだ。

――楓さんの為に、俺が出来うる事をする。

――そしてそのための準備を今日までしてきた。


楓「対等……、ですか」

楓「でもそれは、……どうやって?」

――至極当然の疑問である。

――能力を持った楓さんと、何の能力も持たない俺。

――いくら対等な立場に立つ、と言ったところで、

――肝心要のその隔たりを埋める方法が無ければどうしようもない。

――だからこそ、思い立ってから今日まで時間が掛かってしまったわけなのだが……。


ピィ「もちろん、ちゃんと用意はあります」

――主にこの”用意”に手間取った。

330: 2014/11/07(金) 19:04:47.20 ID:KZbFCtvpo
ピィ「楓さん」

――楓さんをまっすぐに見据えて、静かに彼女の名を呼んだ。

――自身ですら、思わぬほど鋭い語気が口から飛び出したことに驚く。

――それほどまでに俺は今、かつてなく真剣であった。

――呼ばれた瞬間、楓さんもすぐに俺のただならぬ雰囲気に気づいたようだった。

――表情から一切の陰りが消え、まっすぐに俺を見つめ返した。


ピィ「俺が今からすることは、恐らく楓さんを驚かせると思います」

ピィ「……もっと言うと、恐怖すると思います。ひょっとしたら能力を使いたくなるかもしれません」

ピィ「ですが、楓さんはそれを黙って見ていてください」

ピィ「頼りないプロデューサーだけど、それでも今だけはどうか……」

ピィ「騙されたと思って、俺のことを信じてください」

ピィ「今日だけ、この一瞬だけでいいんです」

ピィ「どうか俺を信用してください!」

楓「わかりました、信用します」

331: 2014/11/07(金) 19:05:17.31 ID:KZbFCtvpo
――……。

――……二つ返事であっさり信用されてしまった。

――正直、今のはかなりの覚悟を込めた発言だった為に、少し肩透かしを食らった感じだ。

――いや、いいことではあるんだが、それでいいのか楓さん。


楓「自分で頼りないとか、そういうこと――」

楓「いえ、確かにちょっと……ふふっ、頼りない部分はあるかもしれませんね」

――ガーンだな。

――自分で予防線を張っておいてなんだが、実際に言われてみると案外ショックだ。

――……とかそんなことは今どうでも良かった。


――楓さんの表情に笑顔が戻っている。

――ああ、いつもの楓さんだ。


楓「それでも……、信じます」

楓「今に限ったことじゃないですよ」

楓「私……、ううん、私以外の皆もそう」

楓「ちょっと頼りなくて、不器用で、格好わるい所もあるけれど」

楓「いつだって優しくて、一生懸命で、真摯に向き合ってくれる」

楓「そんなピィさんのことを、……皆いつも信頼してます」

332: 2014/11/07(金) 19:05:48.39 ID:KZbFCtvpo
ピィ「……ありがとうございます」

――こみ上げてくるものを抑えるのに必氏だった。

――そこまで言ってもらえたらプロデューサー冥利に尽きるというものだ。

――ならば俺はその期待に答えなければならない。

――今は泣いている場合じゃないのだ。


ピィ「……ふぅ」

――もう一度、小さく深呼吸する。

――気持ちを落ち着け、平静を保ち……。

――意を決してスーツの内ポケットに手を突っ込んだ。


――指先に、冷たく、固く、ゴツゴツとした物が触れ、

――握りしめれば、今度はズッシリとした質量が手に伝わる。

――それをゆっくりと取り出し、テーブルの上に置くと、ゴトンと重たい音を響かせ、

――現れたのは……。


楓「これは……」

ピィ「はい、見ての通り――」

333: 2014/11/07(金) 19:06:19.15 ID:KZbFCtvpo
ピィ「拳銃です」


――人を頃すための道具。

――俺が楓さんと対等になるための手段であった。


ピィ「もちろん本物です。弾もあります」

――もう一度胸ポケットに手を突っ込み、底の方から今度は小さな塊を一つ摘んで取り出す。


ピィ「よくよく『プロダクション』は物騒な組織だと思いますよ」

ピィ「これ、割と簡単に手に入ったんですから」

――ちなみに入手経路は周子である。

――理由を説明し、頼み込んだら二つ返事で用意してくれた。

――周子に頼んだのは、一番てっとり早いだろうと思ったからだが、

――使い方自体はちゃんと専門家のアーニャに教わった。

334: 2014/11/07(金) 19:06:46.58 ID:KZbFCtvpo
ピィ「最近、『施設』が出来ましたよね」

楓「ええ」


――”隊長”の襲撃を受け、『プロダクション』は壊滅的な被害を被った。

――が、全てが終わり、アーニャとあの男の因縁に決着が付いた後。

――『プロダクション』の口座に大金の振込があった。

――十中八九あの男のしわざだろう。せめてもの罪滅ぼしのつもりだったのか。

――なら最初から壊すんじゃねぇよとも思うが、まぁ憤った所で詮無いこと。

――当然『プロダクション』の修繕に充てられたが、それでもなおあり余る程の金額で、

――ならついでに新しい施設でも建てよう、と事務所の近くに作られたのがそれだ。

――社長のポケットマネーと合わせて、かなり奮発した施設であり。

――事務所の何倍も広く、ぶっちゃけ現在の『プロダクション』に所属してる人数を考えると、

――到底使いきれないようなシロモノができあがった。


――エステルーム、カフェテラス、サウナルーム完備。

――ほぼ晶葉の為に作られた、ロボ作りの環境の整ったラボラトリー。

――そして様々な『能力』の実践や実験に耐えうるトレーニングルーム。

――……等々。

335: 2014/11/07(金) 19:07:21.53 ID:KZbFCtvpo
ピィ「そのトレーニングルームではここだけの話、実弾での射撃訓練もできるんですよ」

ピィ「あ、これはあんまり大きな声では言えない事なので秘密にしておいてくださいね」

ピィ「結構練習しました」

ピィ「なのでこの距離でなら、まぁ……」

ピィ「外さないと思います」

楓「……」


――この距離。

――俺と楓さんとの間の、数メートルも離れていない距離。

――テーブルを隔てただけの、至近距離。


ピィ「俺がこれから何をするのか、もう大体予想がついてると思います」

――言いながら、ゆっくりと拳銃を手に取る。

――実際の重量よりも、やたらと重たく感じた。


ピィ「もう一度言います」

ピィ「俺を信じてください」


楓「はい、信じます」

――力強い返事だった。

――少し、拳銃が軽くなったような気がした。

336: 2014/11/07(金) 19:07:48.46 ID:KZbFCtvpo
ピィ「実は結構前から考えていた事だったんです」

ピィ「本当ならもうちょっと早くこうしたかったんですけど」


――――銃身から弾倉を取り出し、弾丸を一つ詰め、再び弾倉をしまう。


ピィ「まぁ、何かとゴタゴタしたせいで遅くなりましたが」

ピィ「却って良かったのかもしれませんね」


――――スライドを引き、コッキングをする。


ピィ「おかげで射撃訓練ができました」

ピィ「外すような距離じゃないですが、とはいえ万全は期さないと」


――――安全装置を外す。


ピィ「……ふぅ」


――本日何度目かもわからない、ため息にも似た深呼吸。

337: 2014/11/07(金) 19:08:15.00 ID:KZbFCtvpo
――ゆっくりと手に持った拳銃を構え。

――――静かに銃口を楓さんの頭部に向ける。


――覚悟はしていたつもりだが、

――この時点ですでに耐え切れない程の重圧がのしかかってきた。

――銃を人に向けるという行為は、今までの工程とは明らかに違う。


――緊張のあまり耳鳴りがする。

――吐き気が止まらない。

――口の中がカラカラだ。

――手の平は汗でびっしょりで。

――心臓が破裂しそうなほど激しく鼓動している。

――だが、まだ……。


――――撃鉄を上げる。

――カチリと音を立て、人を頃す準備が整ったことを知らせる。


――そして……。

338: 2014/11/07(金) 19:08:45.43 ID:KZbFCtvpo
アーニャ『いいですかピィさん』

アーニャ『撃つまでは絶対にトリガーに指をかけてはダメです』

アーニャ『アシープカ……間違いが起きないように、です』

――銃のレクチャーをしてくれたアーニャは、口を酸っぱくしてそんなことを言っていたな。


――でもなアーニャ、それじゃダメなんだ。

――楓さんの能力は、常にトリガーに指が掛かってる。

――そしてそれは楓さんの意志じゃ外れない。


――だから俺も掛けなきゃいけないんだ。


――そうじゃなきゃ対等じゃない。

339: 2014/11/07(金) 19:09:12.74 ID:KZbFCtvpo
――最後の工程。


――トリガー。


――引き金に。



――――指を、掛けた。




340: 2014/11/07(金) 19:09:43.32 ID:KZbFCtvpo
――今。

――楓さんは容易に俺を殺せる。

――俺も容易に楓さんを殺せる。

ピィ「さて、と……」


――これでようやく対等な立場だ。


ピィ「じゃあ楓さん、世間話でもしましょうか」


341: 2014/11/07(金) 19:10:15.82 ID:KZbFCtvpo
楓「……」

ピィ「……」

楓「……最近」

ピィ「はい」

楓「親知らずが生えてきたんですよ」

ピィ「ええっ!?」

楓「最後の一本がようやく」

ピィ「……生えてくるもんなんですね」

楓「ええ、この歳で」

ピィ「まあ、個人差があるらしいですからね」

楓「ピィさんはどうですか?」

ピィ「俺は全部生えてますよ」

楓「抜いたりは……」

ピィ「いやー……」

楓「ふふっ」

楓「……」

楓「ピィさん」

ピィ「はい?」

楓「……怖いですか?」

ピィ「イエ、コノ歳デ歯医者ガ怖イトカソンナコトアリマセンヨ?」

楓「そのことではなく」

ピィ「……」


ピィ「そりゃまぁ……」

――そんなの、めちゃくちゃ怖いに決まってる。

342: 2014/11/07(金) 19:10:44.31 ID:KZbFCtvpo
――じっと見つめる照準の先には楓さんの顔がある。

――そういえば、こんなに楓さんのことをまじまじ眺めるのは初めてだな。

――わかってはいたけど、改めて驚くほどの美人だ。元モデルと言っていたか、それも頷ける。


――とても綺麗な肌だ。

――色も白く、きめ細かでハリがある。

――よく見ると左右の瞳の色が違う。

――オッドアイというのだったか、何やら楓さんから感じる神秘性を助長しているようだ。

――目元に泣きぼくろがある。

――ほんの小さなアクセントだが、不思議と強く惹かれる色っぽさだ。

――ふわっと柔らかく広がった髪の毛は、

――しっかりと手入れがされているのだろう艷やかさで、彼女が首をふるたび優雅に揺れる。


――背が高くて、とても華奢なスタイルをしている。

――立ち居振る舞いに華があり、何でもないような挙動一つ一つが可憐だ。

――どこかミステリアスな雰囲気から繰り出される、下らないダジャレがどうにも可笑しい。

――どう見ても素敵な大人のお姉さんなのに、茶目っ気があって、そこがたまらなく可愛らしい。

343: 2014/11/07(金) 19:11:12.17 ID:KZbFCtvpo
――モテるんだろうな、なんて不意に思う。

――きっと楓さんの事を好きな男は一人や二人じゃ無いんだろう。

――楓さんは誰か好きな人とかいるのかな。

――……恋人とか、居るんだろうか? 或いはかつて居た事が?

――……いや、やめよう。そんなことを考えると何だか気持ちが落ち込んでくる。


――子供の頃も、きっと可愛かったんだろうな。

――歳をとっても今とあまり変わらない気がする。

――お母さんも綺麗だったりするんだろうか?

――将来、楓さんが子供を産んだとして、多分その子も凄く可愛いんだろう。

344: 2014/11/07(金) 19:11:38.85 ID:KZbFCtvpo
――俺が今、軽く指に力を込めるだけで。


――――その全てが、一瞬の内に失われる。


345: 2014/11/07(金) 19:12:10.54 ID:KZbFCtvpo
――明日から、楓さんがいない。

――未来永劫、何処にもいなくなってしまう。

――世界にたった一人しかいない、楓さんが消えてしまう。

――その存在が失われる。

――俺の一存によってだ。

――――こんなに怖いことは無い。


――人一人の未来を、可能性を、繋がりを、想いを、ぬくもりを、

――かけがえの無い尊いものを、全て奪ってしまう。

――これが楓さんの感じている恐怖。

――人を頃すという事の怖さだ。


――ああ、気付かなかった。

――いや、気付かなかったわけじゃない、実感できなかっただけだ。

――でも今ならよくわかる。

――そうだ、命というのはこんなにも……。

346: 2014/11/07(金) 19:12:41.14 ID:KZbFCtvpo
ピィ「なんて……、重たい……」

――何にも代えがたい、大切なもの。

――楓さんはこんなものを背負っていたんだ。

――いや、一人でもこんなに重たいのに、

――普段いったいどれほどの……。


楓「そうなんです……」

――ポツリと、返事をするように楓さんがつぶやいた。


楓「重たい……、とても重いです……」

楓「重く、て……、怖くて……っ」

楓「でも……っ、誰にも……」

楓「わかって、もらえなかった……っ」

――その声が次第に震えだし、

――やがて嗚咽へと変わっていく。

――口元を手で抑え、涙を零しながら、

――楓さんは静かに泣いた。


――……こんなにも苦しんでいたんだ。

――この苦しみを、少しでも受け止めてあげられたんだろうか?

――俺はただ黙って、彼女が泣き止むのを待った。

――銃口は逸らさず、命の重みを肩に感じたまま祈る。

――どうかわずかでも、楓さんの心が救われますように……。

347: 2014/11/07(金) 19:13:31.63 ID:KZbFCtvpo
『施設』

『プロダクション』が事務所の近くに新たに設立した多目的複合施設。
無駄にでかくて、色々な事ができる。(大雑把)

奈緒、事務所だけで今のところ事足りてる為、あまり使われる事は無い模様。
ただしラボは晶葉がよく使用している。
たまに龍崎博士も顔を出す。

その膨大な維持費は社長のポケットマネーから捻出されている。
皆口をそろえて何のために建てたのかと尋ねたが、社長曰く「先行投資」らしい。

要は『普段は使わないけど、何かあった時に便利な場所』です。

348: 2014/11/07(金) 19:16:16.33 ID:KZbFCtvpo
以上です
アーニャと名前だけ周子をお借りしました

大変遅くなりました
予告を上げたのが6月だから、そこからほぼ半年
しかもアイデア自体は1年前くらいからあったという

最初はね、単にピィが楓さんに銃を向けるって発想だったんだけどね
あまりに短すぎるから内容を足してもうちょっと伸ばそうと考えた結果
なにやら最終的に「命の重み」みたいな壮大なテーマになっちゃってね
案の定そんな大層なもん手に負えず四苦八苦したんですね(言い訳)

349: 2014/11/07(金) 20:00:48.69 ID:Y+wRLX000
乙でしたー
プロダクションがでかくなった!
…ピィは良い人だよなぁ、そしてかっこいい人だよ



【次回に続く・・・】




引用: モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」part11