752: ◆6osdZ663So 2015/02/23(月) 19:29:41.73 ID:eNO/EXO5o


モバP「世界中にヒーローと侵略者が現れた世界で」シリーズです


前回はコチラ



 つ、次のレスからはじめさせて頂きますー

あと……はじめに言い訳しておきますが、
血とか結構流しますけど…ボクにリョナ趣味はないです…本当に無いはずです……

753: 2015/02/23(月) 19:30:37.74 ID:eNO/EXO5o

前回までのあらすじ


チナミ「それにしても吸血鬼の私と戦おうだなんて……勝てる気でいるのかしら?」

美穂「ヒーローは負けないひなっ★」

チナミ「…例え、どんな勝負だったとしてもあなたに負ける気がしないわ」

チナミ「ふふっ、何だったらあなたに勝負方法を選ばせてあげてもいいくらいよ」

美穂「……」


美穂「じゃあ人気投h

チナミ「ちょっとカメラ止めてもらえる?」



前回 【モバマス】ひなたん星人VS千奈美さん【前編】
----------------------------------------



それは、なんでもないようなとある日のこと。
その日、とある遺跡から謎の石が発掘されました。
時を同じくしてはるか昔に封印された邪悪なる意思が解放されてしまいました。

~中略~

「アイドルマスターシンデレラガールズ」を元ネタにしたシェアワールドです。
・ざっくり言えば『超能力使えたり人間じゃなかったりしたら』の参加型スレ。



754: 2015/02/23(月) 19:31:09.12 ID:eNO/EXO5o


京華学院、教習棟の片隅で、

”家畜派”と”利用派”の吸血鬼達が邂逅した時点よりも、

ほんの少し前のこと――




肇「ここは手分けをする事にしましょう」

美穂「手分けひな?」

Pくん「マ?」


シロクマPとの電話を終えたひなたん星人は、

肇と一度合流し、京華学院内の緊急事態について話し合っていた。

教習棟内に侵入してきているカースへの対策、その方針についてである。



肇「はい、何しろとても広い校舎ですから…」

肇「幾つあるか分からないカースの進入経路を見つけるなら、2手に分かれたほうが効率が良いかと」

美穂「なるほどナリ」

肇「それに屋内の移動速度にしても、私がついていくよりかは、ひなたん星人さん単独の方がぐっと速いですから」


かつて街中を逃げ回った怪人ハンテーンの逃走に対して、

先回りのできたひなたん星人の機動力をフルに発揮したならば、

広い学院も比較的短時間で回りきれるはずである。

755: 2015/02/23(月) 19:31:52.51 ID:eNO/EXO5o


肇「カースの探知も、七振りの所有者が集中すれば難しくはないはずです」

美穂「ひなたんレーダーひな★」 キュピーン

肇「ふふっ…ええ、今回の事態はきっとひなたん星人さん向きのお仕事ですよ」


アホ毛を揺らしポーズを決めるひなたん星人に、鬼の少女は微笑みかけた。


美穂「それなら私は一人で……」

Pくん「マッ!!」

ひなたん星人の背中にぴたりとくっつく小熊が元気よく声を出す。


肇「……ふふっ、離れたくないみたいですね」

美穂「なら、プロデューサーくんと2人で行ってくるナリっ!」

Pくん「マっ♪」

美穂「振り飛ばされないようにしっかり捕まっててひなっ!」

Pくん「マッ!」


美穂「肇ちゃんはどうするナリ?」

肇「そうですね……」

肇「……教習棟内をくまなく探るためにも、学院の事をよく知る方のお話を聞ければと思います」

肇「情報収集でしょうか」

美穂「なるほどひな★」


そこまで話すと肇は目を瞑り……


肇(何かわかったら、妖術を使ってこうやって連絡しますので)


神通力を用いた念話を使い、向かい立つ少女に思考を飛ばす。


美穂(なるほど、カピバラ怪人さんの時と同じで、これなら離れていても連絡できるから安心ひなた★)

肇(ええ、ひなたん星人さんも、そちらで何かあったときはこの念を通して連絡をください)


美穂「了解ナリっ!」


かくして2人は、事態の解決の為に再び別行動を開始したのであった。

756: 2015/02/23(月) 19:32:29.51 ID:eNO/EXO5o

……

………




美穂「……」

チナミ「ふふっ」


刀を構える少女の前で、吸血鬼の女は余裕ぶって笑う。

学院の生徒を操り、同属である吸血鬼の少女を冷酷に追い詰めていた女。

そのまなざしは……とても黒く、冷ややかでねっとりとしていた。


女のその手先にはべっとりと、血がこびり付いている。

彼女自身の血だ。

先ほど教室の壁に頭を打ち付けた際についた傷から、流れ出た赤い血液。


チナミ「ブラッディーアーム」


その赤い液体はブヨブヨと蠢くと、盛り上がるように形を変え、

彼女の手先を保護するような形態となる。


美穂「……それが武器ナリ?」

                         ワタシタチ
チナミ「まあね、自分の血液を操るなんて吸血鬼には造作もない事」

チナミ「特に私は、刃への変化が得意なのよ」


紅色の血液は、爪先に鋭い刃の付いた手甲となりて、彼女の武装へと変化する。


チナミ「さあ、来なさいよヒーロー。遊んであげるんだから、退屈はさせないでね」

話すことはもうないと、チナミはその爪を構えた。

757: 2015/02/23(月) 19:32:59.75 ID:eNO/EXO5o


美穂「……ラブリージャスティスっ」


チナミが構えるのと同時に、ひなたん星人は力を込めて足を踏み込む。

同時に、カースとの交戦で、呪いの刀が溜め込んだ負のエネルギーの一部を、

刀を通して自身の脚部へと送る。

そして、

美穂「ひなたんロケット!!!」


足に集めたエネルギーを爆発させるようにして、床を蹴り上げ、

少女は、敵へと飛び掛った。


チナミ「なっ!」

美穂「ラブリージャスティスぅっ!」

一瞬で、その距離を詰めたひなたん星人の速度。

チナミの目線からは美穂の姿が消えたようにすら見えたであろう。

そのために、反応が遅れる。

吸血鬼に出来た一瞬の隙を見逃さす、少女は続けざまに技を撃ち放った。


美穂「ひなたんみねうちっ!!」

758: 2015/02/23(月) 19:33:29.69 ID:eNO/EXO5o




――ガシッ


美穂「……えっ!?」

チナミ「はぁ…舐められたものね。そんな攻撃が私に通用すると思ったのかしら、ひなたん星人?」


ひなたん星人の放った渾身の初撃、

吸血鬼はそれを、血装を纏うその手で軽く受け止めていた。


美穂「っ!」

すぐさま、受け止められた刃を引き離そうと少女は力を込めるが…

美穂「えっ?!」

離れない。

美穂(な、なんて力なりっ!?)


吸血鬼の怪力によって、がっちりと掴まれた刀。

負のエネルギーを肉体に供給し、ブーストしているひなたん星人の力であっても、

チナミのその手から引き外すことは出来なかった。

759: 2015/02/23(月) 19:34:00.35 ID:eNO/EXO5o



チナミ「ねえ……あなたの持つこの妖刀だけれど」

チナミ「持ち主に負のエネルギーと、それを扱う技術を与える刀なんでしょう?」

美穂「えっ………そ、それが何ナリ…?」

チナミ「だったら」


ひなたん星人の足が宙に浮いた。

美穂「!?」

チナミがその腕を上げ、”ひなたん星人の身体ごと”掴んだ刀を持ち上げたからだ。


チナミ「例えばあなたの手から刀が離れれば、その肉体を守る可愛い服は霧散するはずよね!」

美穂「ま、まさかっ!!」


その言葉に、チナミが何をしようとしているのかひなたん星人は気づく。

だが、気づいたところでもう遅い。

刀を抑えられた時点で、ひなたん星人はこの後に訪れる脅威から逃れることは出来ないのだから。

760: 2015/02/23(月) 19:34:34.90 ID:eNO/EXO5o


チナミ「吹き飛ばされなさいっ!」

吸血鬼は無慈悲にも容赦なく、その手に掴んだ刀を持ち前の怪力を発揮して振り下ろす。

刀を掴んだままのひなたん星人もまた同時に振り回された。


美穂「ぐっ!」

ひなたん星人はその手を離さないように必氏で柄を掴むが……


遠心力によって無防備に浮いたひなたん星人の身体に向けて、

チナミ「はっ!!」

吸血鬼は、すかさず蹴りを放った。


美穂「――ぁうっ!」


負のエネルギーによって編みこまれたひなたん星人の漆黒の衣装が、

その一撃の破壊力を大きく減退させる。


しかし、その勢いまでは頃しきれず、ひなたん星人は刀を手放してしまった。

美穂「……あっ」



それはひなたん星人にとって、小日向美穂にとっての最悪の失態。



刀から手を離したことによって、負のエネルギーによって編みこまれた漆黒の衣装は霧散し――



身を守る防具を失った美穂の肉体は、勢いのままに教室の壁の方へと放りだされる――


そして、

761: 2015/02/23(月) 19:35:12.48 ID:eNO/EXO5o

 






Pくん「マッ!」


美穂の身体が壁へと打ち付けられる直前、その背の引っ付いていた小熊が何かを行った。



どんがらがっしゃーん!

763: 2015/02/23(月) 19:35:45.41 ID:eNO/EXO5o



チナミ「…………ふーん、これが『傲慢』のカースドウェポン」


非常に強引な方法でひなたん星人からその刀を奪い取ったチナミは、

しげしげと、手に取ったその刃を眺める。


鬼匠の打ち上げたと言う、『傲慢』の呪いを宿す妖刀。


なるほど、確かにこれは見事。


刀の良し悪しの見極め方など、チナミの知るところではなかったが、

しかし、素人目に見てもわかるこの刀の気高き美しさ。

そして刃に込められし厳かなる情念はキリキリと感じ取れる。


もちろん、この刀の価値は見た目の美麗さだけではない。

吸血鬼の怪力を用いて乱暴に振り回し、そして奪い取ったにも関わらず、その刃に欠けたる所は一切見当たらない。

それほどまでにこの刀は頑強であるらしい。


チナミ「これがあの男が求めるものねぇ……」


これが特別な刀である事はよくわかったが、

果たして、チナミにカースドウェポンの収集を命じたあの男……サクライPが求めるほどの真価を備えているのだろうか。



美穂「ううっ」


チナミ「あら?」

投げ飛ばした少女が呻き声をあげたことに気づいて、チナミはそちらへと顔を向けた。

764: 2015/02/23(月) 19:36:27.09 ID:eNO/EXO5o



美穂「……ええっと」


さて、チナミの蹴撃によって、大きく吹き飛ばされた美穂であったが、

その身体は無事健在。


蹴撃自体は、負のエネルギーによって編みこまれた衣装が霧散してしまう前に防いでくれていたので、

それによって肉体が破壊されることは無かった。


そして吹き飛ばされ、床か壁に打ち付けられる事で、その身に襲うはずの衝撃にしても、

”何か”がクッションになってくれたことで、相殺されていた。


美穂「これって……」


果たして美穂の身体を守ってくれたのは、


美穂「……この白くてフワフワして…なんとなく甘い匂いのするものって」



美穂「……………ま、ましゅまろ?」

何処からか現れた……謎の大きな、人と同じほどのサイズの大きなマシュマロであった。

765: 2015/02/23(月) 19:36:52.78 ID:eNO/EXO5o


美穂「な、何だろうこれ……一体何処から……」

Pくん「マっマっ♪」

美穂「プロデューサーくん?」


謎の巨大マシュマロの傍らで白い小熊が小躍りしている。

どうやら……彼が何か関係しているようである。


美穂(な、何がなんだかわからないけれど、とりあえず……助かったのかな?)





チナミ「なにそれ、召喚系の魔術か何かかしら?」

美穂「はっ!」


吸血鬼に声を掛けられて、美穂は慌てて立ち上がる。

今はまだ戦闘の真っ最中。ずっと倒れているわけにはいかない。

766: 2015/02/23(月) 19:37:21.62 ID:eNO/EXO5o


美穂「っ!」

チナミ「……」

立ち上がった少女は素の自分のままに吸血鬼と対峙する。

睨みつけてくるその眼光は正直なところめちゃくちゃ怖かったが、

しかし、だからと言って、泣き言をこぼせる状況ではない。


美穂「ええええとっ、そそそそのっ!」

チナミ「……」

美穂「………ほ」

チナミ「……」

美穂「ほあちゃー!」 ザッ

チナミ「……」

美穂(こ、これは違ったかな……)


……『小春日和』を手にしていない今……全然、形にはなっていなかったが、

それでも少女は、戦う意志を持っている事を示すようになんとか構える。


チナミ「ふんっ……何よ?武器を失ってもまだ戦う気があるの?」


対する吸血鬼は余裕の表情。それも当然。

抗う術を奪った今、チナミにとってただの人間の少女は何の脅威でもない。


767: 2015/02/23(月) 19:37:50.11 ID:eNO/EXO5o

美穂「……」

美穂「……確かに、このまま戦ったらまず負けちゃうと思います」

チナミ「でしょうね」


美穂の言葉をチナミが肯定する。それが必然。

生身の人間が吸血鬼に敵う道理などあるわけが無い。



美穂「でも、それでも!」

美穂「こ、ここで逃げちゃうわけにはいきませんっ!」

チナミ「…………ふーん」


小日向美穂は、ひよっこヒーローの端くれ。まだまだ未熟。

だが端くれでも、未熟であったとしても、その心は立派なヒーロー。

守るべきものを守るため、怯える身体にエールを送り、強大な敵へと立ち向かおうとするのであった。


その行動は、

チナミの目からは、あまりにも愚かに映る。

余分なものを背負って、敵わない敵に挑もうとする、まるで不合理。理解できようはずがない。



チナミ「やれやれね、ヒーローのそう言うところ……とっても面倒だわ」

美穂「は、はい!こ、こんな私でもヒーローの端くれです……

   だから……」

チナミ「だから?」

768: 2015/02/23(月) 19:38:56.66 ID:eNO/EXO5o


美穂「ひなたん星人はまだ終わりませんっ!」

チナミ「何を――」


瞬間、小日向美穂は前へと手を伸ばし、そして叫ぶ。


美穂「ヒヨちゃんっ!!」


チナミ「なっ」

少女の叫びに応じるように、

チナミが持っていた刀はその手から擦り抜けて――

ビュウンと真っ直ぐ、本来の持ち主の手へと、飛んでいく。



戻ってきた『小春日和』をその手にがしりとつかみ、

漆黒の衣装が再び編みこまれて、戦う意志が、この場に再び立ち上がった。



美穂「……愛と正義のはにかみ侵略者、ひなたん星人!ふたたび見参ナリっ!」

美穂「今度はもうちょーっとだって、油断はしないひなたっ!」


少女はその固い意志を、高らかに告げた。


チナミ「……」

チナミ「……」

チナミ「…………ふっ」

吸血鬼の口角が上がる。

769: 2015/02/23(月) 19:39:28.41 ID:eNO/EXO5o


チナミ「”今度は”ねえ?…ふふふっ」

美穂「ま、また笑ったナリっ!?そ、そんなにおかしい事は言ってないはずひなたっ!」


チナミ「いいえ!おかしいわ!おかしい事だらけよ、ひなたん星人」

チナミ「だいたいからして認識が甘いのよ」

美穂「に、認識……ひな?」


吸血鬼は指摘する。


チナミ「そう……。あなたの行動、さっきから見ていたら……笑っちゃうことだらけ」

チナミ「あの家畜派の吸血鬼を無条件に”信じる”って言ったこともそう……」

チナミ「無力で無防備な状態にも関わらず、なお私に立ち向かう気があったこともそう……」

チナミ「それは”認識の甘さ”じゃないかしら?」

美穂「……どういう事ナリ…?」


未熟なヒーローの間違いを。

770: 2015/02/23(月) 19:40:01.14 ID:eNO/EXO5o


チナミ「そうそう……さっきの攻防で、吸血鬼の私に向かって…まさか”不殺の一撃”を放ったことだってそうだったわ」

美穂「それは……」


先ほどの攻防……

ひなたん星人は不殺の必殺技「ラブリージャスティスひなたんみねうち」を放ち、

それをチナミは怪力をもってして悠々と受け止めて見せた。

それがひなたん星人の隙へと繋がった。


だが……もし、ひなたん星人が別の技を使っていたなら?

相手を傷つけることのない技、「ラブリージャスティスひなたんみねうち」ではなく、

もっと威力の高い技、例えば「ラブリージャスティスひなたんフラッシュ」だったならば?

その時はきっと、別の結果が出ていたはずである。


チナミ「カースを狩ることには慣れていても、演舞や練習試合の経験はあっても」

チナミ「人型の生き物にたいして、”本気で”その刃を向けたことは無かったかしら?」

美穂「……」

チナミ「話せる相手なら、”斬り伏す”事は無い……なんて風に思ってたんじゃないの?あなたは」

美穂「……」

771: 2015/02/23(月) 19:40:40.85 ID:eNO/EXO5o


これまでひなたん星人が戦った敵を振り返る。

色々な罪の形を携えたカース達、

斬撃の効かない怪獣人ハンテーン、

海底都市の機械兵イワッシャー。


彼らには言葉が通じなかった。

彼らはただ暴れまわって、人々を傷つけるだけの怪物であったが故に、

ひなたん星人は、彼らと迷いなく戦うことができ、そして切り伏せる事ができていた。



怪物ではない存在との戦闘の経験も少なからずある。


『桜花夜話』を携えた鬼の少女との模擬戦、

『祟り場』で出会った仮面の少女と無限の剣の演舞。


どちらも”言葉の通じる人”が相手。

しかし、前者は模擬戦。後者は演技。

もちろんどちらの場でも手を抜いていたつもりはないが、

それでも放った技に篭る思いは……”本気で相手の身体を斬る事”ではない。



美穂「……話せる相手なら……できるだけ、酷いことはしたくないナリ」

チナミ「だからそれが甘いって言ってるのよ、ひなたん星人。」


そう、未熟なヒーローは、話の通じる相手に本気で斬りかかった事などなかった。

だから先ほどの攻防の際、不氏の怪物であるチナミに対して、不殺の必殺技を放つ”甘さ”が出た。


チナミ「その”認識の甘さ”こそがあなたの弱点、それが致命的な結果を招くわ」

772: 2015/02/23(月) 19:41:31.78 ID:eNO/EXO5o


チナミ「さっきあなた言ったわよね?”今度は油断しない”って」

美穂「い、言ったナリ……それが」

チナミ「ふふっ……”今度”があると思ってる時点で、あなたは甘いのよ」

美穂「えっ」


瞬間、美穂の首筋に痛みが走った。


美穂「っ……?」

それはとても些細な痛み。

軽い違和感を伴う程度の、なんて事のない痛み。

首筋を摩る。まるで虫に刺されたかのように少しだけ腫れているような感触があった。


チナミ「今度なんてないのよ、次なんてない」

チナミ「だって、私はもう”あなたに一歩も近づかない”もの」

美穂「!」


チナミ(”力ずくで強引に奪ってみる”なんて方法は、一度試せば十分)

チナミ(それが出来ないのは、元々聞かされて知っていたこと……)

チナミ「私が接近戦を放棄してしまえば、あなたが技を放つチャンスはないわね」

チナミ「だから油断や隙を探る必要もないわ、その前に私があなたを倒しちゃうから」

美穂「い、いったい……どうやって」

チナミ「今に分かるわよ」


吸血鬼は不敵に宣言した。

773: 2015/02/23(月) 19:42:10.97 ID:eNO/EXO5o



小チナミ「採ってきたわよ」

チナミ「はい、ご苦労様」


美穂「!」

少女は目を見張った。

目の前に立つ吸血鬼の女の手元には、いつの間にか、小さなもう1人の吸血鬼が居たからだ。


美穂「い、いつの間にナリっ?!」

小チナミ「ふふっ、気づかなかったかしら?戻ってきたのはついさっきよ」


ひなたん星人が気づかなかったのも無理は無い。

それは影に潜るのが大の得意な吸血鬼の使い魔。

その姿を捉えるのは難しく、感じ取ることさえも、

そして――


小チナミ「あなたから少しだけ”血を吸わせてもらって”からね」

美穂「えっ」


”攻撃された事”でさえもなかなか気づけない。


ひなたん星人は再び首筋をさする。

首筋の僅かな腫れはどうやら、小さな使い魔によって血を抜かれた跡であるようだ。


美穂「……蚊?」

小チナミ「失礼しちゃうわ」

774: 2015/02/23(月) 19:42:56.73 ID:eNO/EXO5o

美穂「……」


ひなたん星人の頭に、先ほどまでこの場に居た吸血鬼の少女の残した言葉が過ぎる。

”不意打ちには充分に気をつけてください”


美穂(こう言う事だったナリ……?)


目の前に居る敵による不意打ちには十分に警戒していたつもりだった。

だが、小さな伏兵の存在にまでは気がつくことができなかった。


美穂(でも……)


美穂「こ、攻撃されてた事にはびっくりしちゃったけれど、痛みはないナリ……」

チナミ「それはそうよ、気づかれないほど些細な攻撃が強力だったならもっと活用しているわ」


吸血鬼の使い魔による”吸血行為”。

それは、吸血鬼自身よる”それ”とは異なり、格段に些細なもの。

775: 2015/02/23(月) 19:43:44.47 ID:eNO/EXO5o

攻撃によるダメージは小さい。虫に刺された程度の痛み。

肉体に変化を及ぼすこともなく、毒さえもない。

(例え毒があったとしても、少々であれば、実はひなたん星人の能力でどうにかなってしまうのだが。)


ただ、わずかな血を摂取するだけ。それだけの行為。

それほど些細なものでなければ、”意識させない攻撃”として成立しないのだから仕方ない。



そして、


美穂「……?」


だからこそ少女にはわからない。吸血鬼の使い魔によるとても小さな攻撃の意味が。


だからこそ少女は気づけない。そのほんのわずかな一撃が、ひなたん星人にとって致命的な一撃となる事に。

776: 2015/02/23(月) 19:44:12.69 ID:eNO/EXO5o


小チナミ「……それにしても”認識の甘さが致命的な結果”を招く…ねえ」

小チナミ「あなたが言うとすごく説得力があるわね、チナミ」

チナミ「なっ!う、うるさいわねっ!さっきまでのはぜっんぜん油断とかじゃないわよ!」

チナミ「予定外の邪魔が入っちゃっただけじゃない!」

美穂(そう言えばめちゃくちゃ油断してた気がするひなた……)


冷酷な吸血鬼であるチナミだが、彼女もまた油断も隙もないわけではないらしい。

ひなたん星人にとっては、それはわずかな光明となるはずである。


小チナミ「はいはい、そう言うことにしておいてあげるから、早くしたら?」

面白半分に主人の隙を指摘した後、

使い魔は、どこか投げやりに”次にすべき行動”を促す。

チナミ「くっ……まったく本当、自分のことながらムカつくわ」

チナミは、使い魔を乗せた紅色の手甲を大きく開く。


そして――


チナミ「じゃあね」


ぐしゃり

777: 2015/02/23(月) 19:44:54.32 ID:eNO/EXO5o


美穂「!!」


一気に握りつぶした。

彼女の手から使い魔のものと思われる血が流れ落ちる。


美穂「な、ななな何をっ……!」

チナミ「あら?女の子にはショッキングな光景だったかしら?」

チナミ「グロテスクな描写がありますくらいは事前に言っておいた方が良かったかしらね」

チナミ「でもまあ、気にしなくていいのよ」
                                   ツ カ ウ
チナミ「元から”私の血液”で出来ている人形、こうやって利用することを前提に作っていたんだから」


ひなたん星人が唖然としている間に、

潰れた使い魔から流れ出た赤い液体は、

彼女の手甲を構成していた血と溶けて混ざり溶け合い、そしてぶよぶよと形を変える。


美穂「つ、使うって……」

チナミ「決まっているでしょう。私が今手にしているのは何なのか」

チナミ「私の血液……そして、ちょっとだけだけれど”あなたの血液”」


チナミは血を掴む右手を前に伸ばし、そして構える。

その指先に向けて、再度血液が集合し、新しく彼女の武器を創り上げる。


チナミ「教えてあげるわ、吸血鬼にその血を掴ませることの意味を」

778: 2015/02/23(月) 19:45:28.40 ID:eNO/EXO5o

チナミが新たに造りだした血装。

形状は細長く、鋭く尖った針のよう。

それを彼女は片手の指で挟み、支えている。


その形状、その構えから、ひなたん星人は用途を察する。

おそらくは…… 投擲武器!


美穂「ほ…」

美穂「呆けてる場合じゃないひなたっ!!」


急いでその脚を前へと踏み込む。

吸血鬼の意外な行動に面食らい固まってしまっていたが、そんな暇はない事に気づいた。


チナミの自信満々な様子と言動。

それらから考えて、彼女が新たに用意した武器は、”何か恐ろしい効果”を持っている気がする。


武器に宿るなんらかの能力。

見た目から判断できないが、とりあえずは、すぐさま何かが起きるようなものではないようだ。


だが、このまま放っておいてむざむざ攻撃を行わせてしまえばどうなるかはわからない。

779: 2015/02/23(月) 19:46:10.43 ID:eNO/EXO5o


だから、射出の前を叩く。



なるほど。接近戦をする気がないと言うのは本当なのだろう。

さきほど「もう近づかない」と言った吸血鬼が持つのは投擲武器。


なら、崩すとするならば今。攻撃される前に攻撃を潰す。


吸血鬼とひなたん星人、教室のほぼ反対側に位置しているとは言えど、

それほど大きく離れているわけではない。


ひなたん星人の瞬発力ならば、吸血鬼の手から赤い針が離れるよりも先に、

高速接近し、刀を振るうことも不可能ではないはずだ。


美穂(さっきは、「ラブリージャスティスひなたんみねうち」を使ったから迎撃されちゃったけど)

美穂(今度こそは失敗しないナリっ!絶対に打ち勝てる必殺技を…)



チナミ「来なさい、カース」


ひなたん星人の足が地面から離れる寸前、

吸血鬼は、それを呼び出した。


美穂「!」


呪いの刀がその気配を感知する。

吸血鬼が呼び出したのは間違いなくカース。

そしてその気配は、踏み出したひなたん星人の後ろから……


つまり……

780: 2015/02/23(月) 19:46:38.20 ID:eNO/EXO5o

美穂「危ないナリっ!!」


即座に、吸血鬼への突撃を中止し、ひなたん星人は振り向きざまに一閃。


『ゲアッ!』

吸血鬼に呼び出された眷族カースは即座に上下に分断された。

間一髪。

その泥は、ちょうど、ひなたん星人の近くに倒れ伏していた学生たちに手を伸ばそうとしていたところだったのだから。

横薙ぎに切り分けられた泥の怪物は崩れ落ち、消滅する。


チナミ「流石ヒーロー、見事な判断だったわ」


チナミはニヤリと笑う。もちろんカースが一撃でやられる事など承知の上。

それは、ひなたん星人の気を一瞬引き受けるだけでよかった。

その一瞬の隙さえあれば、彼女の攻撃は完了するのだから。



チナミ「ブラッディーダーツ!」

狙いを定めた彼女の手から今、紅色の悪意が打ち放たれる。

781: 2015/02/23(月) 19:47:04.85 ID:eNO/EXO5o


放たれた紅は、一直線に、ひなたん星人を貫くべく飛んでくる。


美穂「……っ!」

美穂(ラブリージャスティスひなたんスターシューターと同じっ)


そう。その軌道はひなたん星人の必殺技である遠距離攻撃「ラブリージャスティスひなたんスターシューター」と似通っていた。

まるで弾丸のように、真っ直ぐと、高速に、狙いを定めた場所へと飛んでくる。


チナミが狙ったのは、ひなたん星人がカースを打ち倒すために刀を振り切った瞬間。

攻撃の直後と言うのはどんな達人でも必ず体勢を崩し、隙ができると言うもの。

チナミの呼び出したカースは、ひなたん星人の気をチナミから逸らすと同時に、

ひなたん星人に隙を作り出す事にも貢献していたようだ。


もっとも


美穂「ひなたんスライドっ!」


無理のある体勢からでも、ひなたん星人の能力ならば僅かな移動であればたやすい。

足首を小さく捻り、足先から負のエネルギーを軽く放出する。

滑るような緊急回避によって、紅の魔弾の軌道から少女は逃れる。





逃れたはずであった。

782: 2015/02/23(月) 19:47:42.86 ID:eNO/EXO5o

美穂「えっ!?」


少女はその目を疑った。

避けたはずの魔弾は突如、急速に方向転換。

直線的な軌道がブーメランのように大きく曲がり、再び自分に向けて飛んできている。


美穂(避けられないナリっ!)


「ひなたんスライド」による移動は、無理な体勢からでも緊急の回避を可能とするが、

移動後も、ほぼ体勢が変わっていないことが欠点。あくまで緊急回費用でしかない。

そのため、軌道が唐突に変わった高速で飛んでくる物体に対応することは難しく……

それでも少女はなんとか防御姿勢に移行しようとするが……


美穂「あっ!ぐぅ!!」


伸ばした右手を射抜かれる。

高速で飛んできた紅の魔弾は、少女の皮膚に突き刺さると、

その勢いのままに肉体を貫通し、突き抜けて行った。

783: 2015/02/23(月) 19:48:26.01 ID:eNO/EXO5o

美穂「痛ぅぅ……!」


痛みに思わず右手を押さえる。

猛烈なスピードで飛んできた赤い杭。

その威力は、ひなたん星人の衣装の持つ防御力にすらも勝るものであった。


チナミ「泣かないのね、普通の女の子なら痛みに悲鳴をあげているはずだけど」


美穂「ひ、ヒーローだから……これくらい、どうってことないナリ!」


少女は痛みを堪えて刀を構えなおす。

肉体を貫くほどの威力を持つ杭によるダメージは、

右手にガンガンと響いており、まったくもって、どうってことないはずが無いのだが……

それでも妖刀を手に持つひなたん星人は、自身の痛みを誤魔化す術を持つが故にそれを堪えることが出来たのだった。



チナミ「そう、見かけによらず案外強いじゃないの」

チナミ「けど、ぼーっと立ってていいのかしら?」


美穂「えっ…」


吸血鬼はにやりと笑って言う。


チナミ「戻ってきてるわよ」



美穂「!?…ぐっ!!?」

背後から、鋭い痛みが少女を襲った。

784: 2015/02/23(月) 19:49:07.39 ID:eNO/EXO5o

赤い杭が、再びひなたん星人の肉体を貫通し、猛烈なスピードで通り抜けていく。

今度は背中から、わき腹にかけて。


美穂「はぁ……はぁ!」

間一髪であった。

背後から飛んできていたそれに直前にきづいて、身体を捻っていなければ、

それはもしかすると、自分の内臓を貫いていたかもしれない。


二度、ひなたん星人の身体を突き抜けた杭は、

やはり猛烈なスピードを維持したまま教室の壁へとぶつかると、

ぐちゃりと潰れ……


美穂「なっ!!」


そして、再結集。

再び、ひなたん星人の元へと突撃を開始する。



チナミ「流石にもう、気付いてると思うけど、それの攻撃はいつまでも続くわよ」


785: 2015/02/23(月) 19:49:44.64 ID:eNO/EXO5o



『ブラッディーダーツ』

血液を用いた武装であり、吸血鬼チナミの切り札。


吸血鬼は、種族的な属性故にか、血液を操る術を得意とするものが多い。

先ほど、吸血鬼の少女、キヨミに噛み付かれた事で、チナミが体内の血流を狂わされたのも一例。

チナミが普段用いている『小チナミ』も血液から作られている使い魔。これも一例。


吸血鬼の血を継ぐハーフの少女、佐久間まゆと言う少女は、自らの血を『リボン』に変化させる事ができるし、

チナミの友人である”利用派”吸血鬼クールPの”看破の魔眼”に用いられる「朱眼」の生成もある種の血液操作能力に属する力なのかもしれない。



いずれにせよ”血液を操る”と言う点で共通はするものの、その形は多種多様。

「吸血鬼」と呼ばれる種族は、共通する体質やスキルを多く持つが、

『魔眼』と、そしてこれら”血液操作能力”は例外として個性的な形をとっている。


そして、チナミの固有能力たる血液操作能力が『ブラッディーダーツ』であった。



必要なのは、”対称の血液”。

これは少量でもいい。

それを自身の血液から作り出した杭状の武装へと混ぜ込み、呪いを込めて投擲する。


彼女の手から放たれる紅の杭は、”指定されたターゲット”へと命中するまで、執念深く追い続ける。


そのターゲットとは……


チナミ「貴女の血を混ぜた『ブラッディーダーツ』は、無限に貴女を追い続けるわ」

チナミ「そう、その心臓を貫くまでね」


対称の、心の臓。

786: 2015/02/23(月) 19:50:46.08 ID:eNO/EXO5o

美穂(ど、どうするナリっ!?)


とにもかくにも、ひなたん星人の既に3撃目となる紅色の杭の襲撃を目前としている。

高速で飛来する杭。

これを目で追うことはできているし、ひなたん星人の持つ身体能力でもどうにかかわす事はできるのだが……


美穂(かわしたとしても……状況は変わらないひなたっ…!)


吸血鬼は先ほど”無限に追う”と言った。

それは言葉の通りなのだろう。


最初の飛来を、ひなたん星人は「ひなたんスライド」でかわそうとしたが、

突如軌道を変えたそれは明らかに、軌道から身を避けたひなたん星人を追ってきていたし、

一撃刺し貫いた後も、視界の外で転回し、次は背後からそれは迫ってきていた。

そして、先ほど、紅の杭が壁にぶつかっても再構成し、こちらを狙いを定める瞬間さえ目撃している。



美穂「……破壊するしか……ないナリっ!!」


避けても状況は変わらない。ならば、無理やり攻撃を止めてしまうしかないだろう。


美穂「ラブリージャスティスっ!!」


すぐ傍まで迫るその紅の弾丸に対して、臆することなく向き合うと、


美穂「ひなたんフラッシュっっっ!!!」


少女は腕と刀に力を込めて、一気に振り下ろす!!

斬り伏す対称の速度や小ささなどは関係ない、ひなたん星人の技量ならば、飛んでくる燕でさえも両断してしまえるのだから。


吸血鬼の放った紅の杭は、

当然、その強烈なかち割りによってバッサリと両断された。

787: 2015/02/23(月) 19:51:33.67 ID:eNO/EXO5o


チナミ「へえ、すごい威力と命中精度じゃないの」

美穂「これくらいは当然ひなっ☆」


チナミ「……けど甘い」


美穂「!!」


確かに、ひなたん星人はそれを斬った。

紅の杭は間違いなく、妖刀『小春日和』の一閃によって2つに別たれた。


2つに別たれて……そのままそれらは高速の飛翔を続ける。

左右に弾かれて、それぞれ壁にぶつかって、潰れて、


そして、それぞれが再結集。


左右から”2つに別たれた杭”がひなたん星人の身体を狙う。


美穂「ず、ずるいひなたっ!!!」


チナミ「元は液体なのよ、それ。斬ったり叩いたりして破壊できるわけ無いじゃない」


余裕そうに長い髪を撫でて靡かせ、吸血鬼は笑った。


美穂「ぁっ…っくぅ!!」


刀を振り切った直後、同時に飛んできた2本の杭には対応できず、

どうにか左から飛んできた杭をかわし、利き腕側の損傷は避けたが、

右側から飛んできた杭によって右肩の負傷を許してしまう。

788: 2015/02/23(月) 19:52:10.32 ID:eNO/EXO5o

美穂「だいじょうぶっ……!」


全然大丈夫などではなかったが、

それでも強烈な思考支配能力を持つ『小春日和』の力で、痛みを誤魔化しきる。

攻撃を受けたからと言って、ふらついている暇は無い。

高速で飛来する杭の突撃は待ってはくれないのだ。


素早く目を動かし、通り過ぎていった2つの杭を観察する。


美穂「えっ?」


そこで、ひなたん星人は気付いた。


美穂(2つの杭の大きさが違うナリ…?)


先ほど両断した際には、綺麗に杭の中心を真っ二つに割ったはずだ。

別たれた杭が再結集したのであれば、それぞれがほぼ同じ大きさでなければおかしい。


にも関わらず、2つの杭の大きさが違う。


いや、もっと適切に言うならば……先ほど右肩を刺し貫いて行った杭は、


明らかに大きくなっていた。

789: 2015/02/23(月) 19:52:38.82 ID:eNO/EXO5o


美穂「ま、まさか……吸血してるひなたっ!?」


チナミ「あらあら、早い回答ね。正解よ」

チナミ「そう。『ブラッディーダーツ』は攻撃の成功と同時に、”貴女の血液”を奪っているわ」


それは吸血鬼の作り出した武装であるが故に持つ能力。

体内を貫通し、通り過ぎた瞬間に、それは対象の血液を啜り、膨れ上がる。


チナミ「それは対称を負傷させる武器じゃない、対象の血を奪っていく武器」

チナミ「ところでひなたん星人、貴女は痛みを誤魔化すことはできても……」


チナミ「不足した血液を補填することはできないでしょ?」


美穂「っ!!」


思考を支配する『小春日和』の力であれば、多少の痛みは我慢することができる。

もっと言えば、ひなたん星人は例え腕や脚が折れたとしても、

痛みを誤魔化し、負のエネルギーによる肉体動作の補助を行えば、戦闘の続行が可能ですらある。


しかし、

痛みの麻酔。思考の強化。筋肉動作の補助。

これらはあくまでその場凌ぎの応急処置が可能であると言うだけで、


生命維持の危機には役に立たない。

790: 2015/02/23(月) 19:53:16.06 ID:eNO/EXO5o


チナミ「攻撃は全自動。破壊は不可能。刺し貫くたびに血を奪い、膨れ上がってそして威力を増す」

チナミ「これが私の必殺の切り札『ブラッディーダーツ』よ」


美穂「…………」


言葉がでなかった。

恐ろしくも、完成されているその能力。

抵抗する術が見当たらない。


いや、ひなたん星人ならば……逃げることはできるかもしれない。

高速で飛来するとは言えど、ひなたん星人は目で追えるし、かわす事も出来るのだ。


ならば、ひなたん星人の最大速度をもってダッシュで逃げたならば、

その脅威から逃れることも、できるのかもしれない。

791: 2015/02/23(月) 19:53:49.71 ID:eNO/EXO5o

しかし、狭い教室の中では、それは不可能。

最大機動力の確保には、ある程度広い空間を必要とする。

この中にいたままでは、どうにか避け続けることが精一杯であろう。


ならば、場所を移したほうが良いのだが……

しかし……


Pくん「……マァ」

ひなたん星人の後ろで、小さな小熊が心配そうに声を出す。

小熊の傍には、倒れ伏す学生達。


美穂「…………」


ひなたん星人の後ろには、チナミに操られていた学生達が寝転がっている。

人質がいる以上、ひなたん星人は、その場から逃げることが出来ない。


チナミ「選択肢は4つよ」


チナミ「心臓を貫かれて倒れるか、」

チナミ「血液を奪われ続けて倒れるか、」

チナミ「力を消耗し尽くして疲れ果てて倒れるか」

チナミ「それとも……諦めて、尻尾を巻いて逃げ出すか」


チナミ「好きなのを選びなさい、ひなたん星人」



美穂「つ……詰んじゃってるナリ……?」


投げたくなりそうな盤面であった。

792: 2015/02/23(月) 19:54:43.63 ID:eNO/EXO5o

チナミ「まぁ、安心しなさい。ひなたん星人」

チナミ「別に私だってあなたを頃すつもりは無いわ」

チナミ「倒れるまで追い詰めたら……攻撃を解除してあげるから」


吸血鬼がニヤリと笑い宣言するとほぼ同時に、

ひなたん星人の左右両側から、また再び紅い杭が飛来する。


美穂「ひ、ひなたんスライドっ!」


その軌道を確認したひなたん星人は、

滑るような動きで、素早く後退すると、


美穂「廉価版っひなたんスターシューター!」


刀を小さく突き動かし、負のエネルギーの塊を射出する。

かつて、怪人ハンテーンに放った「ラブリージャスティスひなたんスターシューター」の応用技。

威力を大きく下げる代わりに、刃の先から瞬時に飛びだす突きを打ち放てる。


小さな黒色のエネルギー体は紅の杭にぶつかると、それを弾き打つ。

威力が下がっているために、先ほどのように杭が潰れて別れることもなく、

ただ軌道を少しだけ反らす事に成功したのだった。


美穂「ほっ!」


軌道の変わった紅の杭の突撃を、ひなたん星人は難なくかわしてみせる。


美穂(……冷静に見切れば、避ける事は難しくないナリ……)


全自動であるが故だろうか、杭は追尾こそしてくるがその動きは単純。

数と速度にさえ気をつければ、回避を続けるだけならば出来そうであった。


チナミ「……チッ」

その様子を、チナミは苦い表情で見つめる。

793: 2015/02/23(月) 19:55:21.36 ID:eNO/EXO5o


チナミ(ここまでやっても……逃げ出す気はないみたいね)


チナミとしては、この場面、ひなたん星人には逃げ出して欲しいのが本音であった。

それもそのはず。

外は大雨、降り止む気配など一向に無く、

「ブラックアンブレラ」を失ったチナミにはここから単純に脱出する術が無い。


せめて雨が降り止むまで逃げ隠れるにしても、

こちらを警戒し続けるひなたん星人を退けねば、それは不可能。


チナミ(人質を作ったのは逆効果だったかしら……もうっ、めんどくさいわねヒーローって!)


人間を傷つけている以上は、ひなたん星人はチナミを見逃す気は無いのだろう。

こうなれば、彼女は何としてもひなたん星人を倒さなければならない。



美穂「ラブリージャスティスっ!!」


飛び交う2つの杭を避けながら、機を見て、チナミへと飛び掛ってくる。


美穂「ひなたんビームっ!!」

チナミ「近づかせる気はないって言ったでしょうにっ…!」


その剣撃は、先ほどの動きよりも遅くなっており、チナミはひらりと身をかわす。


美穂「くっ!」

チナミ「やっぱり鈍くなってるみたいね、ひなたん星人」


ひなたん星人の動きは飛び交う杭によって抑制されているのであろう。

このままでは彼女の刃は、チナミには届かない。

794: 2015/02/23(月) 19:56:06.25 ID:eNO/EXO5o

チナミ「ブラッディーアーム」


彼女の指先に再び血の刃が形成され、

そして刀を振るったひなたん星人に向けて、その鋭い右手が勢いよく差し込まれようとする。


美穂「ひなたんスライドっ!!」

足先から、負のエネルギーを放出し、ひなたん星人は後退して回避。


美穂「ひなたんステップ!!」

さらにエネルギーの向きを下方向に変えて放出、

床をへこませるほどの蹴り上げによって跳躍、少女は天井へと飛び上がる。


先ほどまでひなたん星人の居た位置の左右から、紅い杭が通り過ぎた。

それを見届け、ひなたん星人は着地する。


美穂「……っと」


チナミ「……」

美穂「……」


吸血鬼とヒーローは再び向き合う。

互いに、攻めの手は緩めないが、どちらも決定打までには至らない。



だが、


チナミ「……」

美穂「はぁ……はぁ」


どちらかと言えば、チナミの方がまだ優位に立っているのであろう。

795: 2015/02/23(月) 19:56:45.01 ID:eNO/EXO5o

チナミ「あら、もう息切れしてるの?」

美穂「……ま、まだまだこれからナリっ!」


ひなたん星人は、攻撃の際にも、防御の際にも、回避の際にも、

常時、刀の内に溜め込んだ負のエネルギーを消費している。

普段、カースを狩って溜め込んでいるとはいえど、その量には限りがある。


また、肉体にダメージがあるのもひなたん星人側だけであった。

右手と脇腹、そして右肩に穿たれた傷。その痛みの麻酔と筋肉動作の補助のためにも、

普段より負のエネルギーの消費が激しくなっている。


彼女の息切れは、三度にも及ぶ肉体への杭の貫通によって、

身体から多量の血を奪われたことで起こっているのであろう。

いくら負のエネルギーであっても、血液の不足を補うことは出来ない。


だからもし、次に刀を奪われたとしたら……

傷ついた小日向美穂に、刀を握る力が残っているのか怪しい。



美穂(……決着は、早めにつけないといけないみたいナリ…)


使えるエネルギーに限度がある以上、戦いを長引かせる事は出来ない。

訪れた危機的状況に、少女は焦る必要があった。

796: 2015/02/23(月) 19:57:48.47 ID:eNO/EXO5o




肇(美穂さんっ!)



美穂(!)


その時であった。

ひなたん星人の頭の中に、聞きなれた声が響く。


美穂(肇ちゃんっ!)

神通力の念話を通して、肇の呼びかけに返事を返す。


肇(良かった…まだご無事で…)

美穂(う、うんっ!けど……状況はあまり芳しくないみたいナリ……)


何か変わった事があれば逐一報告する約束だったので、

チナミと戦闘する事となった時点で、ひなたん星人は肇にその事を報告していたのだった。

そのため、肇はひなたん星人が緊迫した状況の中にいる事を知っている。


肇(今、そちらに急いで向かっています!なんとか持ちこたえられますか?)

美穂(うーん、少し厳しいかもしれないひなた……)

797: 2015/02/23(月) 19:58:16.83 ID:eNO/EXO5o


飛び交う紅い杭の猛攻をかわしながら美穂は通信を続ける。

肇の救援が間に合って、2対1になれば、状況はひっくり返るだろうか。


美穂(肇ちゃん、どのくらい掛かりそうナリ?)

肇(……全力で向かっていますが…何しろ広い学園ですので…)

肇(この場所からでは10分……いえっ、5分は…!)

美穂(……)


やはり厳しいかもしれない。


チナミ「……ふふっ」


目の前に対峙する吸血鬼の様子はまだまだ余裕の様子。

彼女が隠し持っている手立てや、呼び出す配下のカースの事を思えば……

5分後、満身創痍のひなたん星人と肇で立ち向かうには手厳しく感じていた。




チナミ(救援が来る前に……どうにかしたいわね……)


……もっとも、チナミの方も既に手を尽くし、

眷族カースに至っては手持ちの核を使い切っている事をひなたん星人は知る由もない。



【次回に続く・・・】