1: 2011/08/05(金) 20:09:31.15 ID:rkRztRK1o
第1話 それはとってもしあわせな

エリー「ネロ……もっとやさしく……///」

ネロ「えと、こんなかんじ?」

エリー「そう、そんなかんじよ……///」

私はそっとネロの手に手を重ね、ゆっくり動かしていきました。

やさしくかき混ぜるように……

ネロ「いいにおい……」

ネロは上気した顔で、うれしそうにほほえみました。

そんな笑顔を見ていると私の頬まで赤くなります。
探偵オペラ ミルキィホームズ-スクールデイズ-

2: 2011/08/05(金) 20:10:51.16 ID:rkRztRK1o
エリー「あ、熱い……///」

ネロが愛撫するのに合わせて蜜は熱くなり、甘い香りをたてています。

ネロ「そろそろ……入れていいかな?」

エリー「あっ、待って……/// まだ、だめよ……///」

私はすがるようにネロをとめました……

エリー「火を止めて、冷ましてからでないと……///」

ネロ「えーまだー?」

ネロは木べらで鍋の中のジャムをかき混ぜながら言いました。

テーブルの上にはミルクやお砂糖、ボウルにカップ。

私とネロはいま家庭科室でお菓子を作っているのです。

それは今朝はやくの出来事がきっかけでした……

3: 2011/08/05(金) 20:11:54.93 ID:rkRztRK1o
ネロ「あまいお菓子が食べたいー!」

ネロはいつもと違って甘える子供のように言ったのでした。

エリー「どうしたの、急に……」

ネロ「あまいのがいっぱい食べたいの! うまうま棒ばっかりじゃ飽きちゃうー」

コーデリア「でも、お菓子なんて私たちには買えないわよぉ」

ネロ「お菓子がないなら、お菓子を作ればいいじゃんか!」

シャロ「何アントワネットですかそれー……」

エリー「材料もないし……」

ネロ「僕、生徒会長に頼んでくる!」

コーデリア「さすがに無理じゃない?」

ネロ「大丈夫、わかってくれるよ! だって生徒会長も女の子だし!」

ネロは自信ありげにそういうと、部屋を飛び出していきました。

4: 2011/08/05(金) 20:13:27.37 ID:rkRztRK1o
なんとなく心配になった私は生徒会長室の前まできました。

中からネロの声が聞こえます。

エリー「し、失礼します……///」

控えめにノックをして扉を開き、中をのぞき込みます。

ネロ「あ、エリー!」

アンリエット「ですから、大した理由もなく家庭科室の利用を許可する訳にはいきません」

ネロ「あるよ! ちゃんとした理由」

エリー「ネロ……?」

ネロ「だってだって女の子にとってあまいお菓子ってとても大事なんだよ!

    みんなと一緒におしゃべりしながらおいしいお菓子を食べるのってすごくたのしくって幸せなことなんだよ」

ネロはまるでそんな瞬間を想像しているかのような、優しい表情でした。

5: 2011/08/05(金) 20:15:07.01 ID:rkRztRK1o
ネロ「生徒会長も女の子なんだからわかるでしよ、ね?」

アンリエット生徒会長はあっけにとられたような顔でしたが、次第に表情を緩めました。

アンリエット「……そう、ですわね」

ネロ「でしょでしょー? だから、お願いっ!」

アンリエット「仕方がありませんわね。今回は特別に認めましょう」

ネロ「ほんとに? ありがとう! 生徒会長、大好きー!」

ネロはそういうと部屋を駆けだしていきました。

エリー「あ、ネロ……///」

アンリエット「たしかに、年頃の女の子に屋根裏部屋できのことお芋ばかりじゃ可哀想ですものね」

それはいつにない明るく包み込むような笑顔でした。

アンリエット「必要な材料も手配しておきますわ」

エリー「あ、ありがとうございます……///」

アンリエット「そのかわり、できあがったお菓子、わたくしにもおすそわけしてくださいね」

いたずらっぽい口調でそう言ったアンリエットさんがいつもより幼くかわいく見えたので、私はどきどきしながらほほえみを返したのでした。

生徒会長室を出ると、廊下の窓ガラス越しに晩春の厚い青空が輝いていました。

6: 2011/08/05(金) 20:16:28.64 ID:rkRztRK1o
瓶に入ったジャムに陽の光が屈折して色とりどりの光が半透明に溶けあっています。

ネロ「まだかなまだかなー」

ネロはオーブンをのぞき込んでいます。

ネロ「よし! 焼っけたー! ねえねえ、どう?」

ネロはエプロンの裾についたフリルをひらめかせて振り向きました。

エプロンとお揃いの可愛いミトンで焼きあがったばかりのタルト生地を乗せた天板を持っています。

ネロ「いい感じでしょ?」

エリー「うん、上手……///」

そうして照れくさそうに笑うネロが本当に可愛くって、私は幸せな気持ちでホイップを泡立てていました。

7: 2011/08/05(金) 20:17:18.93 ID:rkRztRK1o
ネロ「エリーの方はどう? ホイップできた?」

エリー「うん、そろそろいい感じかな」

ネロ「わ、ふわふわだー。ちょっと味見をー」

エリー「だめっ……///」

ネロ「いいじゃん、ちょっとくらい。ね?」

エリー「もう、せっかちなんだから……///」

ネロは小指の先でホイップクリームをすくいとり、なめました。

ネロ「んー! あまーい!」

幸せそうにはしゃぐ姿か愛らしくってすっかり許してしまうのです。

ネロ「ほらエリーも!」

エリー「ええっ!?///」

8: 2011/08/05(金) 20:18:47.91 ID:rkRztRK1o
ネロはクリームのついた小指を差し出します。

ネロ「ほら、あーん」

エリー「えっ!/// ちょっと、ネロ……///」

ネロ「ほーらっ」

エリー「うー……あ、あーん」

どきどきしながら私は、ネロの小指の先にそっと唇をつけ、そのかわいらしい先端に舌を這わせ、クリームをなめとります。

ネロ「どう、おいしい?」

ネロはこういうことを全然気にかけていないのか、純粋に輝く瞳で私を見上げます。

エリー「うん、おいしい……///」

9: 2011/08/05(金) 20:19:32.35 ID:rkRztRK1o
そしてネロはふと真剣なまなざしをしてひそやかにつぶやきました。

ネロ「エリーってほんと上手だよね」

エリー「えっ///」

一瞬、時が止まったような静けさを感じました。

ネロは一歩踏み出し、体が密着するほどに私との距離を縮め、私が今なめたばかりのその濡れた小指を私の鼻先に突きつけます。

ネロ「ね。ほんとに……」

エリー「なにが……?」

ネロの湿った息を肌に感じます。

しかしネロの表情は次の言葉を言った時にはすでに笑顔に戻っていました。

ネロ「こういうお菓子づくりとか!」

甘える子供のようにネロは抱きついて、そう言いました。

10: 2011/08/05(金) 20:20:31.38 ID:rkRztRK1o
エリー「えっ、あ、そう……かな?」

ネロ「うん! ほんと、パティシエみたいだもん。きゅうきょく魔法使いかも」

エリー「ふふっ、ネロは苦手だもんね、作るの」

ネロ「はてー?」

開け放った窓から新緑の匂いを含んだ春の風が吹いてレシピの本のページがめくられます。

裾のフリルは円を描き、ネロはふわりと離れてタルト生地を乗せた天板を持って行きました。

ぱたん、と軽い音を立てて本は閉まりました。

11: 2011/08/05(金) 20:21:57.12 ID:rkRztRK1o
ネロを追ってきた私は家庭科室の扉を開きます。

エリー「ねろー?」

ネロ「みてみて、ほら!」

ネロはテーブルの上の食材を指して言いました。

卵、牛乳、お砂糖、薄力粉、チョコレート、フルーツ……

お菓子づくりに必要な材料がおおかたそろっていました。

ネロ「石流さんが持ってきてくれたんだよ!」

エリー「それで、どんなの作るの?」

ネロ「えっとね、ケーキでしょータルトでしょー、あとあと、シュークリームもいいなー!」

エリー「作り方はわかる?」

ネロ「あ」

やっぱり……

12: 2011/08/05(金) 20:23:03.45 ID:rkRztRK1o
私はため息を一つつくと、お菓子のレシピが載っている本を取り出しました。

こんなことだろうと思って部屋から持ってきておいたのです。

エリー「これ見ながら作ろ?」

ネロ「おおー! ありがとっ、エリー!」

ネロは早速本をめくります。

ネロ「これ、いっぱい載ってるね。どれにしよっかなー迷うなー」

エリー「あと、これ」

ネロ「なに、それ?」

エリー「エプロン」

白と黄色を主調にしたエプロンで、細かいところのフリルやレースまで作り込んであるなかなかかわいいものです。

前からネロに着せたいと思っていた女の子らしいエプロンでした。

13: 2011/08/05(金) 20:23:50.92 ID:rkRztRK1o
ネロ「でもそれ、なんかちょっと……」

エリー「いや……なの……?」

ネロ「や、その……女の子っぽすぎるっていうか」

エリー「えー……」

ネロ「そ、そんなにしょんぼりしないでよ」

エリー「私、手伝うの、やめよっかな……」

ネロ「もう、わかったよ……着るから」

エリー「ほんと!?」

ネロ「何でそんなに嬉しそうなんだよー」

ネロはそういって私からエプロンを受け取ると、しぶしぶ着てくれたのでした。

14: 2011/08/05(金) 20:25:00.93 ID:rkRztRK1o
ネロ「ほらっ、着たよ!」

エリー「かわいい……///」

普段のネロにはなかなか見られない女の子らしい姿ですが、これはこれでとっても似合っていて、非常にかわいらしいのです。

エリー「すっごく似合ってる。とってもかわいいっ……///」

ネロ「そ、そうかな?」

そう言われてネロもまんざらではないようです。

ネロ「エ、エリーこそ、その、かわいい、よ……///」

実はネロの着ているものと同じデザインで色違いのものを私も自分用に用意していたのです。

エリー「ふふっ、ありがとう、ネロ」

いつもは私が恥ずかしくなるけど、今日は恥ずかしがるネロを前にして、何だか素直にその言葉を受け止められます。

15: 2011/08/05(金) 20:25:49.34 ID:rkRztRK1o
ネロ「もう! じゃあ、本気でおいしいの、作るんだからな、エリー!」

エリー「本気……」

私はレシピの本をぱらぱらとめくります。

ネロ「で、どれ作るの?」

エリー「フランボワーズのフレジエと、ガトー・バスク、シュー・ア・ラ・クレーム、タルト・タタンにエクレール。あと、ミルフィーユかな」

ネロ「ほんとに本気だ……」

背伸びをして肩越しに私の持った本を覗きこむネロを振り返り、ふたりで顔を見合わせて笑いました。

16: 2011/08/05(金) 20:26:37.04 ID:rkRztRK1o
シュー・ア・ラ・クレームの仕上げをする私と背中合わせに、ネロはフレジエにクリームを飾り付けています。

エリー「ん、こんな感じかな。ネロ、そっちはどう?」

ネロ「あとちょっとー」

ネロは手を動かしながら、振り向かずに私の声に答えました。

そっと後ろからのぞき込むと、なかなかきれいに飾られています。

ネロ「よしっ、できたー!」

エリー「じゃあ、並べよっか」

ネロ「うん!」

白いテーブルクロスの上に並べられたきれいなお皿。

その上に色とりどりの素敵なお菓子がよりどりみどりです。

17: 2011/08/05(金) 20:27:52.31 ID:rkRztRK1o
ネロ「わー!さっそく食べよ?」

エリー「ちゃんとみんなにあげる分も残してね?」

ネロ「わかってるってー」

ネロはフレジエにフォークを通し、ひときれ口に運びました。

ネロ「んー! おいしいー!」

とろけるような笑顔で、本当に嬉しそうです。

ネロ「ほら、エリーも!」

促されて、私もフレジエを食べてみます。

18: 2011/08/05(金) 20:28:46.69 ID:rkRztRK1o
エリー「うん、おいしい……///」

ほどよい甘さのクリームと甘酸っぱいフランボワーズがうまく調和しています。

ネロ「なんていうのかな、あれだよね、上品な甘さ」

エリー「上品……///」

それはとても幸福なとき。

ネロとふたりでおしゃべりしながら、素敵なお菓子を食べて、笑って過ごす時間。

私はこんな時間がずっと続けばいいなと思うのでした。

19: 2011/08/05(金) 20:29:53.70 ID:rkRztRK1o
なんだかやけに真っ白な視界をただぼんやりと眺めていました。

穏やかに風が吹いて髪を揺らします。

そしてその風は確実に次に来る季節の香りを運んでくるのでした。

ネロ「僕……やだよ」

エリー「え……?」

不意にネロの声が聞こえました。

ネロは座った私の膝にまたがり、じっと私を見つめています。

ネロ「僕、エリーと離れるなんて、嫌だ」

ネロは私の両手を取り、その手を堅く握ります。

そしてゆっくり体重を私に傾けました。

ネロの瞳がすぐ目の前に迫ります。

20: 2011/08/05(金) 20:30:54.78 ID:rkRztRK1o
いきなりのことでしたが、私にはなぜか、ネロの気持ちが分かる気がしました。

エリー「大丈夫、ずっと一緒だから……」

ネロ「ほんとに?」

エリー「だって私たち今こんなに幸せなんだから。たとえこの先なにがあったって、きっと楽しくやっていける」

ネロ「そう、だよね」

ネロは私に抱きつきます。

ネロ「ねえ、お願い」

エリー「なに?」

ネロ「僕のこと、離さないでね、エリー……」

エリー「うん……///」

21: 2011/08/05(金) 20:31:25.59 ID:rkRztRK1o
ネロのその言葉に本当にこわくなったのは、私でした。

ネロにはなにか、確かな予感があって、そこからくるなんらかの思いがそう言わせたのかもしれません。

もしかして、ネロは私たちの別れを直感しているのではないかと……

今のこの幸せが崩れてしまう、そんな怖さをふたり感じながら、それでも離れないように、お互いを、ぎゅっと抱きしめあったのでした。

22: 2011/08/05(金) 20:33:10.32 ID:rkRztRK1o
晩春の光の鈍いまぶしさに目を開きました。

たしか、ネロとお菓子を食べて、紅茶を飲んで、おなかいっぱいになって……

そして、春のあたたかさの中で眠くなってしまったようです。

気づくとネロは床に膝をつき、椅子に座った私の膝の上に突っ伏していました。

私のスカートに顔をうずめるようにして寝ているネロの頭をなでます。

ネロ「ん……」

エリー「ネロ?」

小さく肩を震わせています。

ネロ「たぶん、同じ夢を見たんだ……」

23: 2011/08/05(金) 20:34:53.34 ID:rkRztRK1o
私はネロに覆いかぶさるようにしてやわらかいその髪に額を付けました。

エリー「大丈夫。たとえ季節が変わっても、何年経っても、ずっと、ずっと一緒だから」

私たちはしばらくそのままでいました。

開け放った窓からは初夏の空気をかすかに含んだ風がゆっくり吹きこんでいました。

その後、シャロやコーデリアさん、アンリエット生徒会長、G4のみなさんにもお菓子を持って行ってあげたのですが、みなさん大喜びでした。

どうやらお菓子を前にすると、いつも凛としたアンリエット生徒会長やG4のみなさんでも年相応の女の子になるようです。

お菓子を前にみなさんが笑顔になってくれるのがすごくうれしくて、ネロとふたりで、はしゃいで配りに行きました。

ただ、その間ずっと私たちが手をつないでいたことは内緒です……///

第1話 それはとってもしあわせな おしまい

24: 2011/08/05(金) 20:38:44.52 ID:rkRztRK1o
ミルキィホームズのエリーちゃんことエルキュール・バートンちゃんが主役のお話を5つ書きました。
エリーちゃんらしいとっても工口キュートな仕上がりになっていると思います。よかったら楽しんでいってください。

引用: エリー「私と5つの物語……///」