1: ◆rsH9FLRPiM 2013/07/04(木) 18:11:02 ID:V2/3KD9Y
別板に書いたベルユミを、ベルトルさん視点で書き直したものです。
原作バレあり、別カプ要素としてコニサシャ(中学生カップル)があります。

2: 2013/07/04(木) 18:13:16 ID:/EtU38pc

ベルトルト「……」


ライナー『すまないベルトルト。この様子じゃ明後日出掛けられそうにない』

ベルトルト『それはもう仕方ないよ。けど、気をつけてくれよ。一瞬蒸気が出た時は本当に焦ったよ』

ライナー『あぁ。再生をおさえて怪我を装うのも大変だな』

ベルトルト『全く……立体機動中にサムエルをかばったりするから』

ライナー『ははっ、まぁ、おかげでクリスタに心配されるっていう役得もあったがな』

ベルトルト『……何言ってるんだ、ライナー。僕たちは戦士だろう?』

ライナー『!』

ベルトルト『……』

ライナー『……あぁ、そうだな』
進撃の巨人(34) (週刊少年マガジンコミックス)
3: 2013/07/04(木) 18:15:04 ID:Ju0mj8nE

ベルトルト(ライナー。時々僕は不安になるよ)

ベルトルト(君が必要以上に、壁内の人類に関わりすぎてるんじゃないかって)

ベルトルト(兵士としての自分に、のめり込みすぎてるんじゃないかって……)

ベルトルト「はぁ。このチケット、どうしよう……」ゴソゴソ

ベルトルト「あれ!?」

ベルトルト(ない! おかしいな、確かにこのポケットに――)


ユミル「劇場のチケット?」

ベルトルト「あっ!」

4: 2013/07/04(木) 18:17:51 ID:zQfyXBGY

ユミル「何だ、お前が落としたのか? ベルトルト」

ベルトルト「あ、あぁ。ありがとう、ユミル」

ユミル「それ、今度の休日に行くのか。二枚あるってことは、ライナーと行くのか?」

ベルトルト「そのつもりだったんだけど……ライナー、今日の訓練で負傷してしまって、休日は安静にしているように言われたらしいんだ」

ユミル「じゃあ、誰と行くんだ?」

ベルトルト「うーん、特に当てはないんだ。一人で行くのも味気ないし、今回は諦めようかな」

ベルトルト(誰かにゆずればいいんだしね)

ユミル「なんだ、だったら私が一緒に行ってやるよ」

ベルトルト「えっ?」

ユミル「誰かが一緒に行けばいいんだろ?」

5: 2013/07/04(木) 18:19:06 ID:Ju0mj8nE

ベルトルト(そうとったか……まずいな)

ベルトルト「まぁ、そうだけど……でも」

ユミル「今度の休日、10時に兵舎出口で待ち合わせだ」

ベルトルト「え、ちょっ」

ユミル「それじゃあまた」

ベルトルト「ユ、ユミル!」

6: 2013/07/04(木) 18:20:50 ID:zQfyXBGY


ベルトルト「行っちゃった……すごい強引だったな」

ベルトルト「……」

ベルトルト(というか、参ったな。誰かと一緒に行くつもりなんてなかったのに)

ベルトルト(それにこの演目、女の子にはきついんじゃ……でもユミルなら大丈夫かな? いやそうじゃなくて)

ベルトルト(僕はあまり、深く関わりたくないのにな。ここにいる人類とは)

7: 2013/07/04(木) 18:22:41 ID:cAA86rjM

休日の朝
男子寮
時刻 9:58

ベルトルト(まずい! 完全に寝坊した!)バタバタ

ガチャッ バタン

ベルトルト(ずっと考え事してたから、寝付くのが遅くなった……)タタタッ


訓練兵舎出口*


ベルトルト「ごめん、遅れて……」ゼエゼエ

ユミル「女を待たせるとはいい度胸だな。行くぞ」クルッ*スタスタ

ベルトルト「わっ、ちょっ、待って早いユミル!」

ベルトルト(ほんとに強引だな、もう――)

8: 2013/07/04(木) 18:25:23 ID:ExiOVo/I

トロスト区市街地


ユミル「おーおー、賑わってるじゃねぇか」

ユミル「見ろよ、あっちなんか面白そうなのやってんぞ」

ベルトルト(随分はしゃいでるな……まぁ、この後のこと考えたら、今のうちにはしゃいどく方がいいか)

ベルトルト(というかユミル、チケットろくに見ずに僕に返したけど、演目のこと知ってるのかな? もしかして、何も知らないんじゃ)

ベルトルト(それに――)

ベルトルト「あの、さ、ユミル、その……ほんとによかったの?」

ユミル「あん?」

ベルトルト(こんな僕なんかに付き合って、一緒に出かけるなんて)

ベルトルト(こんな、不誠実な僕に)

10: 2013/07/04(木) 18:29:50 ID:uX8MIenI

ベルトルト「いや……何でもない」

ユミル「何だよ。はっきりしないやつだな。なぁ、劇場ってどっちだ?」

ベルトルト「向こうの通りをまっすぐ行って、左かな。チケットの地図を見る限り」ピラッ「でもまだ時間があるから、先にどこかでお昼を食べたほうがいいかもね」

*ユミル「なぁ、そういや今日って、どんな演目見るんだ?」ヒョコッ*

ベルトルト「あっ」ギクッ*


『古城の真っ赤な階段*~真夜中に現れる少女~』*

11: 2013/07/04(木) 18:32:41 ID:uX8MIenI

ユミル「……」*

ベルトルト「ご、ごめん……言おう言おうと思ってたんだけど。これ、ホラーものなんだ」

ユミル「……」

ベルトルト「だから、ちょっと女の子は誘いづらくって……それに僕は」

ベルトルト(――訓練兵団に来てから、ライナー以外の人と二人で出かけるなんて、考えたことなかったから……)

ユミル「……」

ベルトルト「えっと……ユミル?」

13: 2013/07/04(木) 18:37:47 ID:zOrPfqZM

ユミル「……べ」

ベルトルト「え?」

ユミル「別に平気だっつの! 何だよお前、私がビビるとでも思ったのか?」

ベルトルト「あ、いや」

ユミル「お、地図はこれか。ここなら近くに美味い鶏肉料理の店があるから、そこに行くか! な!」スタスタスタ

ベルトルト「あっ、ちょっ、待ってくれユミル!」

ベルトルト(……これはもしかして、悪い予感が当たったかな)

14: 2013/07/04(木) 18:40:17 ID:Fni8heEQ

鶏肉料理店


女店員「いらっしゃいませ!」

ユミル「ふ、二人!」

ベルトルト「ユミル、店員さんまだ何も聞いてないよ」

ユミル「」

ベルトルト「ごめん、演目のことで緊張させ*ちゃったかな」

ユミル「そんなんじゃねぇって! ほら、行くぞ!」

ベルトルト「ユミル、だからまだ、案内もされてないって!」

16: 2013/07/04(木) 18:44:01 ID:Fni8heEQ

ユミル「……」ソワソワ

ベルトルト「ねぇ、ユミル?」*

ユミル「……」プルプル

ベルトルト「ユミルってば」

ユミル「ふぁっ!?」ビクッ

ベルトルト「そんな驚かなくても」

ユミル「わ、私は別に」

ベルトルト(だいぶ怯えさせちゃったかな……というか、ユミルってホラー苦手なのか。ちょっと意外だな)

ベルトルト(ここは緊張をほぐしてあげるか)

17: 2013/07/04(木) 18:46:50 ID:R7oHzB5w

ベルトルト「ねぇ、よくここには来るの?」

ユミル「ん?*あぁ、まぁな。ここはわりと有名だぞ」

ベルトルト「そうなんだ。来たことなかったな」

ユミル「お前はそもそも、あんまり出かけてないんじゃないか? たまに外出するにしても、*ライナーとしか見たことないぜ」

ベルトルト「ま、まぁ、そうかもね。でも君だって、クリスタといつも一緒じゃないか」

ユミル「私はちゃんと他にも交友関係持ってるよ。だいたいお前、ライナー以外のやつと打ち解けて話してるか?」

ベルトルト「えっ?」

ユミル「お前って、人並みには話すけど、どうも表面的に見えるんだよな」

18: 2013/07/04(木) 18:49:17 ID:ExiOVo/I
謎記号の見当ついてきたけど、ちょっと消していくのに時間かかりそうなんでいったん切ります。
できたら今夜再開します。

19: 2013/07/04(木) 19:28:01 ID:kW2Kkxfc
たぶんあの人かな。
かなり期待して待ってます。

23: 2013/07/04(木) 23:51:41 ID:VhYOvLOc

ベルトルト(――!)ドクン

ベルトルト(そんな……気づかれてたのか? 僕がなるべく、人に印象付けられないようにしてること)

ベルトルト(感情をこめて話したりはしないから、特徴のない声になるし)

ベルトルト(そんな馬鹿な。そもそもユミルとなんて、最近までほとんど話したことなかったのに)

ベルトルト「……どうして」

女店員「はい、お待ちどうさま!」

ベルトルト「!」

ユミル「おっ、来た来た! 食べるか!」

ベルトルト「……あぁ」

24: 2013/07/04(木) 23:52:23 ID:VhYOvLOc

ユミル「このトマト煮込みが絶品なんだよな~」パクパク「ん~うま~」

ベルトルト「美味しそうに食べるね」

ユミル「お前は美味しくないのか?」

ベルトルト「いや、美味しいよ、とても」ニコッ

ユミル「ほら、その顔だ」ビシッ

ベルトルト「え?」

ユミル「今の顔、ほんとに心から美味しいと思って笑ってる顔か?」

ベルトルト(……これは、間違いないな)

ベルトルト(ユミルは気づいている。おそらく相当鋭いんだ)

25: 2013/07/04(木) 23:53:02 ID:VhYOvLOc

ユミル「な?」モグモグ

ユミル「お前は感情を出さなすぎる」

ユミル「出せないのか隠してるのか知らねぇけどさ」

ユミル「こうして向かい合って一緒に飯食ってる相手とは、もっと素直に接してもいいんじゃねぇか?」

ベルトルト「……」

ベルトルト(気づいた上で、今日、僕と一緒に来てくれたのか)

ベルトルト(ひょっとして、気を使ってくれたのか? 僕がもっと、他の人に心を開けるように)

ベルトルト(そんなこと、できるわけがないのに)

26: 2013/07/04(木) 23:53:38 ID:VhYOvLOc

ベルトルト(でも……)

ユミル「何だよ」

ベルトルト(本音を言えば、嬉しいと思ってしまったから)

ベルトルト「いや、その……ありがとう、ユミル」

ユミル「は?」

ベルトルト「今日、僕についてきてくれて」

ベルトルト(お礼だけは、伝えておこう)

ユミル「別に。いいから食おうぜ」

ベルトルト「あぁ」

27: 2013/07/04(木) 23:54:25 ID:VhYOvLOc


劇場前


ユミル「いよいよか……」ドキドキ

ベルトルト「ユミル、大丈夫かい?」

ユミル「別に、どーせ子どもだましのレベルだろ?」

ベルトルト「どうかな……15歳未満お断りってなってるし、結構本気で脅かしにかかるかも」

ユミル「」

ベルトルト「……ごめん。やっぱりやめても」

ユミル「いいい行くぞ!」

28: 2013/07/04(木) 23:55:22 ID:VhYOvLOc

開演


ヒュウウウウ

『何だ……誰もいないのか?』

『おーい……』

ギイイ

『空いて、る……?』


ベルトルト(すごいな。セットが本格的だ。暗くて見えないけど、あの大道具、天井まで届きそうなくらいだ)

ベルトルト(……それにしても)チラッ

ユミル「……」バクバク

ベルトルト「ユミル? 大丈夫?」

ユミル「……」

ベルトルト「聞いてないか……」

29: 2013/07/04(木) 23:55:56 ID:VhYOvLOc

『すみません、道に迷ってしまったんです』

『今晩泊めてもらえませんか?』

シーン

『誰もいないか』

ガタン!


ユミル「ひっ!」

ベルトルト「……」


『何だ? やっぱり誰かいるのか?』

『上から聞こえてきたな……』

『あそこにあるのは……階段か?』


ベルトルト「……」チラ

ユミル「」ガクガク

ベルトルト(この後、どうなっちゃうんだろう)

30: 2013/07/05(金) 00:04:19 ID:6G2Zi3MY

『暗くてよく見えないな。正面に回り込んでみよう』

『大きな階段だな。上の方がよく見えな――うん?』

パッ!(血まみれの階段が照らされる)


ユミル「うわあああっ!!」ガシッ!

ベルトルト(え? 腕つかまれ――痛ったああ!)

ベルトルト「ちょっ、ユミル! 声が大きいよ!」ヒソヒソ

ユミル「あっ、あかっ、か、階段がっ」ギリギリ

ベルトルト「痛い痛いユミル! 手をつかむのはいいけど、爪食い込んでるから!」ヒソヒソ

31: 2013/07/05(金) 00:04:54 ID:6G2Zi3MY

『な、何だこの階段!?』

『血の量が尋常じゃない。これ、絶対氏ん――』

ポタ…

ユミル「!」ビクッ

『な、何だ?』

ポタ…ポタ…

『水……音?』

32: 2013/07/05(金) 00:06:13 ID:6G2Zi3MY

ポタ…ポタ…ヒタ…ヒタ…

『水音に混じって……何か』

『足音が……上から――』

ドロッ(階段がさらに血に染まる)

ユミル「ひっ!」ギュウッ

ベルトルト(痛い)

33: 2013/07/05(金) 00:06:57 ID:6G2Zi3MY

ヒタ…ヒタ…

ヒタ……



『……ダァレ?』

34: 2013/07/05(金) 00:08:19 ID:6G2Zi3MY

ユミル「いやああああっ!!」ガバッ!

ベルトルト(え、え、えぇ!? 抱きつかれた!?)

ベルトルト「ユミルちょっ、前見えないよ!」

ユミル「あああ、あの子っ、血まみれでっ、頭がな――いやあああ!!」

ベルトルト「落ち着いて! あれ作り物だから! ユミル!」

ユミル「うわああああん!!」

ベルトルト(ど、どうしようこれ……)

37: 2013/07/05(金) 21:53:17 ID:ktMNNH/c

ベルトルト(……そういえば、アニも小さい頃は、お化けとか怖がってたっけ)

ベルトルト(僕も今ほどは大きくなかったけど、身長差は丁度このくらいあって)

ユミル「うわああっ、嫌だ、嫌だぁっ」

ベルトルト(落ち着くまで、頭撫でてあげてたんだっけ)

ユミル「ううぅ~~っ」プルプル

ベルトルト「ユミル、大丈夫」ポンポン

ユミル「ひぅ……うっ」

ベルトルト「大丈夫だから、ね?」

ユミル「……」グスッ

ベルトルト(ユミルにこんな一面があるなんて、知らなかったな……)

38: 2013/07/05(金) 21:54:52 ID:tgNDRkJU

閉演後


ベルトルト「ユミル?」

ユミル「……」

ベルトルト「ユミル、もう終わったよ」

ユミル「……え? 終わった?」

ベルトルト「全く、目も閉じて耳も塞いで、ほとんど見れてないじゃないか」

ユミル「だ、だってよ――ん?」

ベルトルト「大丈夫?」*

ユミル「う、うわぁっ!」バッ!

ベルトルト「まだ怖い?」

ユミル「だ、大丈夫だ! もう全然平気!」

ベルトルト「よかった」フッ

ユミル「……!」

39: 2013/07/05(金) 21:56:49 ID:p9dASMmc

ベルトルト「どうしたの?」

ユミル「いや……何でもない」

ベルトルト「いったん外に出ようか」

ユミル「あぁ……」

ユミル「……なぁ、ベルトルト」

ベルトルト「何?」

ユミル「その……ありがとう」

ベルトルト「どういたしまして」

40: 2013/07/05(金) 22:01:31 ID:PsGvzD7s

劇場の外


ユミル「おー、だいぶ日が傾いてるな」

ベルトルト「そうだね。少し散歩して――あっ」

ユミル「うん? どうした?」

ベルトルト「サシャとコニーだ」

ユミル「何っ!? どこだ!」

ベルトルト「あそこ」スッ

ユミル「よし行くぞ!」ガシッ

ベルトルト「えぇっ!? おいちょっ、ユミル!」ズルズル

42: 2013/07/05(金) 22:05:40 ID:8zVC/wlc

商店街 路地裏


ユミル「よし、十分距離はとったし、ここからなら見つからねぇな」

ベルトルト(……前から思ってたけど、ユミルって結構、野次馬根性あるな)

ベルトルト(まぁ、それに付き合ってる僕も僕なんだけど)

ユミル「んー? 何だよあいつら、まだ手も繋いでねぇのかよ。お子様だな」

ベルトルト「まぁ、二人のペースってものがあるんじゃないかな」

ユミル「あいつらのペースって、牛よりも遅いんじゃねぇの」

43: 2013/07/05(金) 22:36:18 ID:13xIcWsk

ユミル「お、立ち止まったぞ」

ベルトルト「露店、かな? おばあさんが座ってる」

ユミル「サシャの奴、随分興味津々に見てるな。あれは……髪留めか?」

ベルトルト「みたいだね。白い花のついた髪留めを手に持って見てる」

ユミル「お、財布出したぞ。買うのか」

ベルトルト「あれ、なんか、がっかりした顔してる」

ユミル「金が足りなかったのか、馬鹿だな……うん? コニーがそわそわしだしたな」

ベルトルト「視線があっちこっち動いてるね」

44: 2013/07/05(金) 22:38:21 ID:zt8Vj1zs

ユミル「待て、コニーがサシャになんか言って……髪留め渡されたな。んで、ばーさんのとこ行って……財布取り出したぞ! 買ってやる気か」

ベルトルト「そのようだね。サシャが驚いてる」

ユミル「やるじゃねぇか、コニー」

ベルトルト「サシャ、すっごく喜んでるね。コニーがサシャの右手をとって、髪留めを渡して――」


ベル・ユミ「「おぉー」」

45: 2013/07/05(金) 22:41:33 ID:03c9dRUM

ユミル「そのまま反対側の手をとって繋ぐとはな」

ベルトルト「ちゃんとコニーの方から繋いであげたね」

ユミル「何だ、男ってのはそういうの気にするのか?」

ベルトルト「気にする男も、いるってことだよ」

ユミル「ふーん……なぁ、あの露店、ちょっと覗いてみないか」

ベルトルト「あぁ、いいよ」

46: 2013/07/05(金) 22:46:46 ID:sOmvorzs

露店


おばあさん「いらっしゃいませ」

ユミル「へぇ、なかなかいいのが揃ってるな」

ベルトルト「可愛らしいものが多いね」

ユミル「あぁ。サシャも見てたが、遊びのきいた髪留めが多いな。あいにく私は、飾りもんに興味はないが」

ベルトルト「そうなの?」

ユミル「似合わないだろ? 私には」

ベルトルト「そんなことは」

ユミル「いいや、こういうのはサシャみたいな、愛嬌あって可愛いやつがつけるもんさ」

ベルトルト(そんな――ユミルだって、きっと似合うのに)

ユミル「せっかくだし、クリスタに何か土産に買ってってやるかな――ん?」

47: 2013/07/05(金) 22:57:57 ID:Rx6nbkzE

ベルトルト「それも、髪留めだね。シンプルだけど、青い石のあしらいが綺麗だね」

ユミル「この石……護り石だ」

ベルトルト「護り石?」

ユミル「持つ人を護るまじないをこめた石だよ。石の御守りだ。こんなところに売ってるなんて……」

ベルトルト「へぇ、初めて聞いたな」

ユミル「……」

ベルトルト「ユミル?」

ユミル「……」ジィー

ベルトルト(真剣に見てる……欲しいんだろうな)

ベルトルト(この髪留め、ユミルに似合いそうだな……)

ベルトルト「……」

48: 2013/07/05(金) 22:59:44 ID:TPsryano

ベルトルト「すみません、これください」

ユミル「えっ!?」

おばあさん「はいよ。ありがとう」

ユミル「お、おいちょっ、お前何やって!」

ベルトルト「見ての通りさ。ほら」グイッ

ユミル「!」

49: 2013/07/05(金) 23:02:06 ID:TPsryano

ベルトルト「はい」ポンッ

ユミル「お前……どうして」

ベルトルト「今日のお礼だよ、ユミル」

ユミル「え?」

ベルトルト(僕に、心を開いてくれたから)

ベルトルト「今日は、ありがとう。ユミル」フワッ

ユミル「――!」

50: 2013/07/05(金) 23:03:23 ID:13xIcWsk

ユミル「……」

ベルトルト「ユミル?」

ユミル「お前、ずっとそのツラしてろよ」

ベルトルト「えっ?」

ユミル「ずっと、そうやって笑ってろ。その方がいい。その方が似合ってる」

ベルトルト「……!」

ベルトルト(今、笑ってたのか、僕は――)

ベルトルト「……ありがとう」

ユミル「礼をいうのはこっちだよ。これ、大切にする」

ベルトルト「あぁ。そろそろ日が暮れるね。戻ろうか」

ユミル「おう」

52: 2013/07/06(土) 00:29:39 ID:yZ5UQn2o


男子寮


ベルトルト「……」ゴロン

ベルトルト(――ユミル、か)

ベルトルト(気付いたら当たり前みたいに呼んでたな)

ベルトルト(あんなに何度も名前を読んだ相手は、この壁内では初めてかもしれない)

ベルトルト「……」

ベルトルト「ユミル……」ボソッ


久しぶりに、こんなに満たされた夜を迎えられたのは、

きっと君のおかげなんだね。


ベルトルト(――ありがとう)

53: 2013/07/06(土) 00:30:37 ID:yZ5UQn2o
翌日
午前 兵站訓練


ベルトルト(兵站訓練用の服って、あっついんだよなぁ。全身覆われてるし)

ベルトルト(今日の組は、僕とクリスタと――ユミルか)

ベルトルト「ユミル、頑張ろう」

ユミル「あぁ」

ベルトルト「……? なんか、元気ない?」

ユミル「いや、そんなことねぇよ」

ベルトルト(なんか、落ち込んでるみたいに見えるんだけど……どうしたんだろ)

54: 2013/07/06(土) 00:31:30 ID:yZ5UQn2o
ザッザッザッザッ

ベルトルト(道ぬかるんでるのに、みんな結構ペース速いな……)チラッ

ユミル「……」ゼェゼェ

ベルトルト(ユミル、随分辛そうにしてる。でも、もっと辛そうなのは――)

クリスタ「ユミル……っ待って……速い、よ……」ゼエゼエ

ユミル「クリスタ! 大丈夫か?」

クリスタ「うぅ……重い……」

ユミル「待ってろ、今荷物をこっちに――」

ズルッ

ユミル「!」グラァ

ベルトルト(!)

55: 2013/07/06(土) 00:32:18 ID:yZ5UQn2o

ガシッ

ベルトルト「ユミル!」

ユミル「――ベル、トルト?」

ベルトルト「大丈夫? ゆっくり体を起こして」グッ

ユミル「あ、あぁ」

クリスタ「ユミル!」ザッ「ごめんね! 大丈夫だった?」

ユミル「あぁ。ありがとな」

ベルトルト「クリスタ。僕が君の荷物を持つよ。貸して」

クリスタ「ほ、ほんと? でも、そんなことしたら、ベルトルトが」

ベルトルト「平気だよ。ほら」ヒョイッ

ユミル「ほー、軽々と持ち上げるじゃねえか。流石だな」

56: 2013/07/06(土) 00:38:10 ID:yZ5UQn2o

ベルトルト「そんな誉めても何もでないよ。ほら、頑張ろう」ザッザッ

ユミル「お前ってわりと面倒見がいいんだな」ザッザッ

ベルトルト「そうかな?」ザッザッ

ユミル「あぁ。故郷に妹か弟でもいるのか?」

ベルトルト「!」ギクッ

ベルトルト(故、郷――)

57: 2013/07/06(土) 00:39:43 ID:yZ5UQn2o

ベルトルト「……」

ユミル「ベルトルト? どうした?」

ベルトルト「いや……その……ごめん」

ユミル「ごめんって、何が」

ベルトルト「その……故郷のことは」

ユミル「え――」ハッ

58: 2013/07/06(土) 00:42:35 ID:yZ5UQn2o

ベルトルト(――そうだ、何を夢見ていたんだ、僕は)

ベルトルト(僕は、故郷に帰るためにここにいるんだ。戦士として、役割を果たすために)

ベルトルト(だから、壁内の人類に心を開かれたところで――)

ベルトルト(……?)


『夢見ていた』?

――何を?


ベルトルト(……)

59: 2013/07/06(土) 00:49:04 ID:yZ5UQn2o

ユミル「――悪かった」

ベルトルト「いや、謝らないでほしい」

ユミル「……」

ベルトルト「ユミル、フードが落ちそうだよ。さっき滑ったからかな」スッ

ベルトルト「――あっ」

ユミル「……?」

ベルトルト「髪留め、つけてくれてたんだね」サラ

ユミル「!」

ベルトルト「……」

60: 2013/07/06(土) 00:54:38 ID:yZ5UQn2o

そうか、僕は。

自分からも、心を開きたいと思ったんだ。

ほんの少しでも、僕をわかってもらいたいって。

それが自分の任務に支障をきたす行為だって、わかっているのに。

――それでも。


ベルトルト「うん、似合ってる。綺麗だよ」

ユミル「――!」


君の前では、素直になりたい。

僕に素直な自分を見せてくれた、君にだけは。

61: 2013/07/06(土) 00:55:23 ID:yZ5UQn2o

クリスタ「はぁっ、はぁっ……もう、私荷物持ってないのに、二人ともなんでそんなに早いの……」

ベルトルト「クリスタ、そろそろ目的地点だから荷物を戻したいんだけど、大丈夫?」

クリスタ「うん、ありがとう」

ベルトルト「あとちょっとだ。頑張ろう」ザッザッ

ユミル「……」

66: 2013/07/06(土) 16:54:47 ID:8vJd.W9g


食堂


ベルトルト(ライナーの怪我、そろそろ完治したってことになってるはずだけど)キョロキョロ

ベルトルト(まだ来てない、か)ガタン

ベルトルト「……」

ベルトルト(何を――ほっとしてるんだ、僕は)

ユミル「なぁ、ベルトルト」

ベルトルト「うん?」

ユミル「その、隣空いて――」

ライナー「ユミル? 久々だな」

ベルトルト「!」ハッ

67: 2013/07/06(土) 16:55:42 ID:8vJd.W9g

ユミル「ラ、ライナー? お前、怪我したって聞いたけど、もういいのか」

ライナー「休日安静にしてたら、この通りだ。もう訓練にも参加できる」

ユミル「そうか、よかったな」

ベルトルト(ライナー……!)

ユミル「ベルトルト? どうした?」

ベルトルト「いや……何でもない。大丈夫だよ」

ユミル「大丈夫な奴は、大丈夫って言わねぇよ」

ベルトルト「はは……かなわないな。君には」

ライナー「なぁ、お前ら、俺がいない間に随分仲良くなってないか?」

ベルトルト「!」ギクッ

68: 2013/07/06(土) 16:56:34 ID:8vJd.W9g

ベルトルト(あぁ、やっぱりそうだ)

ベルトルト「……ライナー」

ライナー「うん?」

ベルトルト「君の目から見ても、そうかい?」

ライナー「何がだ?」

ベルトルト「君の目から見ても、僕とユミルが……仲良さそうに映るのか、ってこと」

ベルトルト(僕は――恐れているんだ)

ベルトルト(君に、今の僕の気持ちを勘付かれるのが)

ベルトルト(君が戦士であることを疑っている僕が、戦士から遠ざかる気持ちを持っているなんて)

69: 2013/07/06(土) 16:57:22 ID:8vJd.W9g

ライナー「まぁ、そうだな」

ベルトルト「……」

ライナー「そんなことよりとっとと食うぞ。ユミルお前、そこに座るんだろ? このテーブルはもういっぱいだし、俺は向こうに行く

かな」クルッ

ユミル「あ、あぁ……ベルトルト、隣座るぞ」ガタン

ベルトルト「……」

ユミル「なぁ、一体どうしたんだよ。さっきライナーに聞いたのは、どういう意味なんだ?」

ベルトルト「……」

70: 2013/07/06(土) 16:58:19 ID:8vJd.W9g

ベルトルト「……ごめん」

ユミル「私には言えないことなのか」

ベルトルト「……」

ユミル「……そうかよ」

ベルトルト(……)

ベルトルト(限界、かな)

ベルトルト(もうこれ以上、ユミルには近づけない)

ベルトルト(近づいては、いけないんだ――)

ベルトルト(戦士であるために)

71: 2013/07/06(土) 16:59:35 ID:8vJd.W9g

翌朝
男子寮


チュンチュン

ベルトルト「……」ボー

エレン「ふぁーあ。ん? ベルトルト、目の下にクマできてないか?」

ベルトルト「なんだか昨日、寝付けなくてさ」

ベルトルト(ユミルのこと考えて、ずっと頭の中がぐるぐるしてたから……)

アルミン「何かあったの?」

ベルトルト「大したことじゃないんだ。大丈夫」

ベルトルト(そう――大丈夫だ)

ライナー「お前らやっと起きたか。食堂行くぞ」

72: 2013/07/06(土) 17:00:30 ID:8vJd.W9g

食堂


ミカサ「エレン、アルミン、やっと来た」

アルミン「おはよう、ミカサ」ガタン

エレン「お、席とっといてくれたのか。サンキュ」ガタン

ライナー「何だ、俺たちの分の席はないのか?」

エレン「あ、悪りい」

ベルトルト「いや、エレンが謝ることではないんだけど」

73: 2013/07/06(土) 17:01:40 ID:8vJd.W9g

ミカサ「もう少し奥なら席が空いているはず。サシャとコニーが行った方だけど」

ライナー「はいはいありがとよ……お、クリスタも一緒にいるな」

ベルトルト「!」

ベルトルト(クリスタがいるってことは……)

ライナー「おいお前ら、道ふさいでるぞ」

クリスタ「あ、おはよライナー、ベルトルト」

ユミル「!」

ベルトルト(やっぱり……)

74: 2013/07/06(土) 17:02:22 ID:8vJd.W9g

ライナー「おお、おはよう皆」

ベルトルト「おはよう……」

ユミル「……あの」

ベルトルト(駄目だ。まともに目を合わせられない)

ベルトルト(以前と同じ接し方にさえ、戻せそうにない――)

ベルトルト「……」フイッ スタスタ

ユミル「――!」

ライナー「ん? お、おいベルトルト!」

75: 2013/07/06(土) 17:10:27 ID:8vJd.W9g

ガタン

ベルトルト「はぁ……」ストン

ベルトルト(傷ついただろうな……きっと)

ベルトルト(でも、これでいいんだ。これで)

ライナー「おいベルトルト、お前いったい――」

ガチャーン!

ベルトルト(え?)

クリスタ「ユミル!? ユミルーっ!!」

ベルトルト(ユミル?)ガタッ!

76: 2013/07/06(土) 17:15:43 ID:8vJd.W9g

クリスタ「ユミル! しっかりしてユミル!」

コニー「お、おい! 一体どうしたんだ!

サシャ「ユミル、しっかりしてください!」

ライナー「おい、どうした!」

クリスタ「ユミルが倒れて……!」

ベルトルト(倒れた?)

ベルトルト(――ユミルが!?)ダッ

77: 2013/07/06(土) 17:17:14 ID:8vJd.W9g

ベルトルト「ユミル!」ガバッ

クリスタ「!」

コニー「うお!? ベルトルト!?」

ベルトルト「すぐに医務室に運ぶ! クリスタ、一緒に来てくれ!」ダッ

クリスタ「は、はいっ!」ダダッ

バタバタバタ・・・

78: 2013/07/06(土) 17:18:34 ID:8vJd.W9g

ザワザワ・・・

コニー「すっげ……ユミル抱えてから食堂出るまで、あっという間だったな」

サシャ「はえー、今のベルトルト、かっこよかったですねー」

コニー「え?」

サシャ「なんというか、たくましくて」

アニ「何だいこれ? 何の騒ぎ?」

サシャ「あ、アニ! 実はですね今――」

アニ「……え? ベルトルトが……そんなことを?」

コニー「……」チカラコブ

83: 2013/07/06(土) 23:38:30 ID:8vJd.W9g

医務室


ユミル「……」スウスウ

ベルトルト「今朝から具合悪かったの?」

クリスタ「うん……何て言うか、顔色も悪くて、心ここにあらずって感じだった」

ベルトルト「そっか……とりあえず、今日ゆっくり休んで、回復してくれるといいんだけど」

クリスタ「……」

ベルトルト「じゃあ、申し訳ないんだけどクリスタ、訓練が始まるまでは、ユミルに付き添ってあげてもらえないかな? 目が覚めて
医務室じゃ、ユミルもビックリするだろうし」

クリスタ「――ねぇ」

ベルトルト「うん?」

クリスタ「どうして……ユミルを避けたの?」

84: 2013/07/06(土) 23:39:28 ID:8vJd.W9g

ベルトルト「……」

クリスタ「昨日の夜、食堂から帰ってきた後から、ユミル、どこか上の空だった」


クリスタ「食堂で一緒だったでしょ? あの時、一体何があったの?」

ベルトルト「……僕からも質問させてほしい」

ベルトルト「どうしてあの時、クリスタはユミルと離れていたのかな? いつも一緒にいるはずなのに」

クリスタ「……」

ベルトルト「答えて。クリスタ」

クリスタ「……私が、ベルトルトの隣に行くように、ユミルをけしかけたから」

ベルトルト「!」

85: 2013/07/06(土) 23:40:06 ID:8vJd.W9g

クリスタ「ごめんね。私、余計なことしてるってわかってる」

クリスタ「けど、週末ベルトルトと出かけてから、少し嬉しそうにしてるユミル見てたら、協力してあげたくて」

クリスタ「だから……」シュン

ベルトルト(ユミルが、嬉しそうにしていた?)

ベルトルト(『協力』って、つまり、そういうことだよな……ユミルも、クリスタの『協力』に乗ったってことか?)

ベルトルト(クリスタ大好きな、あのユミルが?)

ベルトルト「……」


ユミル、もしかして、

君は――


ユミル「う、ん……」

ベルトルト「!」

86: 2013/07/06(土) 23:41:36 ID:8vJd.W9g

ベルトルト(まずい、今起きられたら――どんな顔したら)

クリスタ「あれ、ユミ――」

ベルトルト「ごめんクリスタ、とにかくここは任せたから!」ダダッ

クリスタ「えっ、ちょっ、ベルトルト!」

ベルトルト「あ、それと、僕がユミルを運んで来たことは、ユミルには言わないでね」

ベルトルト「それじゃまた」ガチャッ

クリスタ「ちょっと!」

バタン

87: 2013/07/06(土) 23:42:38 ID:8vJd.W9g

ベルトルト「……」

ベルトルト「はぁ……」

ベルトルト(とりあえず、いったんここを離れよう)テクテク

ベルトルト(そういや、僕もクリスタも朝食食べてないよな。パンだけでも、食堂から持ってこれないかな)


食堂


ベルトルト(よかった、ちゃんと残ってて)

ベルトルト(また医務室に戻るのは怖いけど……クリスタが出てくるのを待ってればいいだろう)

ベルトルト(うん? 入り口の方から誰か来る)

アニ「……」

ベルトルト(アニ?)

100: 2013/07/07(日) 15:11:19 ID:jfTtb1LI

ベルトルト(周り、誰もいないか)キョロキョロ(なら、普通に話しかけていいよな)

ベルトルト「アニ、どうしてここに――」

アニ「今夜入浴時間前に、男子寮裏口で待ってて」

ベルトルト「!」

アニ「話があるから」クルッ スタスタ

ベルトルト「……」

ベルトルト(短い時間を狙って、わざわざ男子寮まで来てする話?)

ベルトルト(……嫌な予感がする。こういう時はたいてい、注意や警告を促されるから)

89: 2013/07/07(日) 00:17:29 ID:hsjKpNOQ

医務室入り口


ガチャッ バタン

クリスタ「あっ、ベルトルト」

ベルトルト「しっ。はい、クリスタのパン持ってきたよ」

クリスタ「ありがとう……ほんとに、中には入らないつもり?」

ベルトルト「もうすぐ訓練が始まるしね。クリスタの班、今日の立体機動訓練の先遣隊役やるんじゃなかったっけ?」

クリスタ「えっ、あっ、そうだ! もう行かなきゃ! ありがとう!」パタパタ

ベルトルト「……」

90: 2013/07/07(日) 00:18:34 ID:hsjKpNOQ

ベルトルト「……」キョロキョロ

コンコンコン

ベルトルト(……寝てる、かな?)

コンコンコン

ベルトルト(返事なし)

ベルトルト「……」

ガチャッ…

91: 2013/07/07(日) 00:45:33 ID:hsjKpNOQ

ユミル「……」

ベルトルト(うん、寝てるみたいだ)コツ コツ コツ

ベルトルト(なんか苦しそうな表情してるけど、熱あるんじゃないよな?)

ベルトルト(……おでこ触っても、起きないかな?)

ベルトルト「……」スッ

ベルトルト(うん、熱くない。大丈夫そうだ)

ベルトルト「……」

ベルトルト(ユミル、意外と髪の毛、細いんだなぁ)スッ

ベルトルト(わっ、すごくサラサラしてる――って、何をやってるんだ、僕は)

ベルトルト(こんなことしてたら、そのうちユミル起きて――あ)カチリ

92: 2013/07/07(日) 00:46:21 ID:hsjKpNOQ

ドクン

ベルトルト(これ……僕があげた髪留めだ)

ドクン

ベルトルト(今日も、つけていてくれたのか)

ドクン ドクン

ベルトルト(ユミル……)

ドクン…

ベルトルト「……」スッ

93: 2013/07/07(日) 00:52:26 ID:hsjKpNOQ

震える手で、ユミルの肌に触れる。

整った眉、凛とした目元、すっと通った鼻筋、そばかすのある頬。

一緒に話している時は、こんなにまじまじと見たことはなかった。

とても――綺麗だ。

少なくとも僕には、綺麗に見える。


ベルトルト「――!」


口元に指先が達して、思わず手を離す。

ユミルはまだ、起きる様子はない。

101: 2013/07/07(日) 15:12:35 ID:jfTtb1LI

ベルトルト「……」


そっと、優しく、ほんの一瞬だけ。

指先が、彼女の唇に触れた。

自分が望んでいる物が何なのかを、自分の行動で知らされることになった。

叶えてはいけないと、わかっていて。


ベルトルト「……」

クルッ

コツ コツ コツ

ベルトルト「……何をやっているんだ。僕は――」

パタン・・・

103: 2013/07/07(日) 19:07:46 ID:bTcG0U5M


男子寮裏口ドア前


ベルトルト(よし、みんな浴場の方に行ったな)

ベルトルト(そろそろ、かな)

ガチャッ

アニ「……」

ベルトルト「わざわざ来てもらっちゃって、ごめんね」

アニ「時間がない。用件だけ言うよ」

104: 2013/07/07(日) 19:08:45 ID:bTcG0U5M

アニ「食堂での一件からか、あんたとユミルのことが噂になりかけてる」

ベルトルト「……」

アニ「別に、それについて私がどうこう言うつもりはない。ただ、今後の任務に支障が出ないように、ってだけ」

ベルトルト(アニ……君にまで、そんなことを言われるなんて)

ベルトルト「……わかった。ありがとう」

アニ「話はそれだけだから」クルッ タタタッ

105: 2013/07/07(日) 19:09:49 ID:bTcG0U5M

ベルトルト(……)

ベルトルト(任務に支障が出ないように、か)

ベルトルト(――そんなの無理だよ、アニ)

ベルトルト「はぁ……」

ユミル「ベルトルト」

ベルトルト「え――ユミル!?」ドキッ

ベルトルト(え? え!? なんでここにユミルが!?)

106: 2013/07/07(日) 19:10:37 ID:bTcG0U5M

ユミル「よぉ。奇遇だな、こんなとこで会うなんて」

ベルトルト「もう大丈夫なのかい?」

ユミル「あぁ。この通りだ」

ベルトルト「よかった……」

ユミル「なぁ、今、アニと何話してたんだ?」

ベルトルト「!」ギクッ

107: 2013/07/07(日) 19:11:29 ID:bTcG0U5M

ユミル「話してただろ? アニと」

ベルトルト「……見てたのか」

ユミル「何だよ、見ちゃいけなかったか?」

ベルトルト「いや、そんなことないよ。偶然会って、話しただけだから」

ユミル「お前さ、いい加減私に嘘が通じると思うなよ」

ベルトルト「……」

ユミル「もう一度聞くぞ。何話してたんだ?」

108: 2013/07/07(日) 19:12:24 ID:bTcG0U5M

ベルトルト「……ごめん」

ユミル「そんな言葉が聞きたいんじゃない」

ベルトルト(僕だってほんとは、こうして謝るようなことをしたくないんだ)

ベルトルト「頼む……これ以上は、聞かないでくれないか」

ベルトルト「君に嘘をつきたくないし、かといって、素直に話せることでもないんだ」

ベルトルト「本当に……ごめん」

ユミル「……」

ユミル「わかった。もういい」

109: 2013/07/07(日) 19:13:31 ID:bTcG0U5M

ベルトルト「ユミル?」

ユミル「邪魔して悪かったな。ベルトルト」クルッ

ユミル「――じゃあな」ダッ

ベルトルト「ユミル!」


行ってしまう。ユミルが。

追いかけるなんて、できない。


ベルトルト「――ユミル! 待て!」ダッ

110: 2013/07/07(日) 19:16:58 ID:bTcG0U5M

こんなことは、決して許されない。


「ユミル!」ガシッ


こんなことは、間違っている。


「離せよ!」バッ

「どうせ何聞いたって、答えてくれないんだろ!」

「どうせ……私になんて……」


なのにどうして、どうしてだ?


「ユミル」グイッ


わかっていてなぜ僕は。


「聞いてくれ」ギュッ


望むがままに、動いているんだ。

111: 2013/07/07(日) 19:21:28 ID:bTcG0U5M

「……」


ユミルの体が、僕の腕の中に収まる。劇場での時みたいに。

だけどあの時とは全然違う感情が、今の僕の中にはある。

そして、君も同じ気持ちだということを、僕はもうわかっている。

わかっている――そのせいで。

112: 2013/07/07(日) 19:23:11 ID:bTcG0U5M

「ユミル。僕は」


君に甘えてしまいたくなる。


「君が好きだ」


君に受け入れてもらいたくなる。


「ベルトル――っ」


君に何一つ真実を明かせない、こんな身勝手な僕のことを、


「んっ……」


愛してほしいと、思ってしまう。

113: 2013/07/07(日) 19:25:22 ID:bTcG0U5M

「んっ……はぁっ、うっ……」


唇を離し、目が合うと、彼女の目から雫が落ちた。

頬を手で包み、涙を拭ってあげると、自分の視界も曇り始めた。


「ごめんね。本当は泣かせたくないんだ」

「本当は……君にすべてを打ち明けてしまいたい。僕が楽になるだけだけど、全部吐き出してしまいたい」

「だけど、そうしてしまったら、君をこの腕に置いておけなくなる。それだけは、どうしても嫌なんだ」

「僕は、君に嘘をついてばかりだけど……この気持ちだけは、本当なんだ」

114: 2013/07/07(日) 19:26:22 ID:bTcG0U5M


最後の方は、もう声が震えていた。ユミルが涙を払ってくれる。

そのまま、慰めるような口づけをもらう。僕も、抱きしめる腕に力を込める。


あとはもう、どちらが求めているかなんて、関係なかった。

僕たちは泣いて、泣いて、泣き疲れるまでずっと、お互いに強く抱き合っていた。

115: 2013/07/07(日) 19:28:10 ID:bTcG0U5M

翌朝
男子寮


エレン「ふぁー、おはよ」

ベルトルト「おはよう、エレン」

アルミン「ベルトルト、このパンフレット、君の? 落ちてたよ」

ベルトルト「あっ、ありがとうアルミン」

ベルトルト(この前の劇場のパンフレットだ……)パラ

ベルトルト(あれ?)

ベルトルト(最後のページに、次の演目のチケットが――)

ベルトルト「……」

サッ

ライナー「食堂行くぞー」

116: 2013/07/07(日) 19:29:54 ID:bTcG0U5M

食堂


マルコ「あっ、おはよう皆」

アルミン「おはよー」

ベルトルト「……」チラ

クリスタ「おはよう!」

アルミン「クリスタ、おはよ――えっ!? どうしたのその顔! 目が腫れてるじゃないか!」

クリスタ「えへへ……ちょっとね」

マルコ「ユミルも目が大分腫れてるね。二人とも喧嘩でもしたの?」

ユミル「そんなんじゃねーよ。ほっとけ」

117: 2013/07/07(日) 19:30:26 ID:bTcG0U5M

ベルトルト「ユミル、ちょっといいかい?」

ユミル「……おう」スタスタ

ユミル「何だよ」

ベルトルト「この前の劇場で、また別の演目が上演されるらしいんだ。今度はホラーじゃないやつ」ピラッ

ベルトルト「その……よかったら、今度の休日、一緒にどうかな?」

ユミル「――!」

118: 2013/07/07(日) 19:32:31 ID:bTcG0U5M

いつかきっと、僕は君を裏切ることになる。

この想いがどんなに強くても、僕は使命を忘れられはしない。

けれど、それでも。


ユミル「……あぁ、いいぜ」


罪深いとわかっているけれど、今だけは。

君のそばにいたい。この気持ちは嘘じゃない。


ユミル「――ベルトルさん」

ベルトルト「ベルトルさん、か……悪くないね」


君が僕に、心を捧げてくれるなら。




終わり

119: 2013/07/07(日) 19:41:37 ID:bTcG0U5M
これにて完結です。
上の方に書いた通り、この話は別版に投下した、

ユミル「劇場のチケット?」ベルトルト「あっ!」

の、ベルトルト視点として書きました。
拙い文章ではありますが、もしよろしかったらそちらも是非、見に来て頂けるとうれしいです。

読んでくださった方、支援してくださった方、ありがとうございました。

120: 2013/07/07(日) 19:49:50 ID:KnNYHVfQ
乙!乙乙!

引用: ベルトルト「このチケット、どうしよう……あれ!?」