3.薔薇園
あたしたちの学院の敷地の隅の方、あまり人の往来がないところに植物園がありました。
ある時、あたしは植物園の方に歩いていくエリーさんを屋根裏部屋の窓から見たのです。
それが、新緑の頃でした。
それからも植物園のほうへ行くエリーさんを見ることはしばしばありましたが、その頃はあたしも特に気にしてはいませんでした。
コーデリア「匂いが変わった気がするのよね」
シャロ「何のですかー?」
コーデリア「エリーよ、エリー」
シャロ「エリーさんですか?」
コーデリア「そうねぇ、ばらの匂いがするわ」
コーデリアさんがそういったのは初夏の頃でした。
ばらの匂い……
あたしはばらの匂いというものがよくわからなかったのでただぼんやりと、そうなのかな、と思って聞いていました。
あたしたちの学院の敷地の隅の方、あまり人の往来がないところに植物園がありました。
ある時、あたしは植物園の方に歩いていくエリーさんを屋根裏部屋の窓から見たのです。
それが、新緑の頃でした。
それからも植物園のほうへ行くエリーさんを見ることはしばしばありましたが、その頃はあたしも特に気にしてはいませんでした。
コーデリア「匂いが変わった気がするのよね」
シャロ「何のですかー?」
コーデリア「エリーよ、エリー」
シャロ「エリーさんですか?」
コーデリア「そうねぇ、ばらの匂いがするわ」
コーデリアさんがそういったのは初夏の頃でした。
ばらの匂い……
あたしはばらの匂いというものがよくわからなかったのでただぼんやりと、そうなのかな、と思って聞いていました。
33: 2011/03/05(土) 21:12:18.45 ID:tdtToVHc0
シャロ「ねーろー?」
ネロ「なに?」
シャロ「ばらの匂いってわかりますー?」
ネロ「ばらの匂い? んー……そういうのあんまりよくわかんないや。でも、なんで?」
シャロ「コーデリアさんが言ってました。エリーさんからばらの匂いがするようになったって」
ネロ「ふーん、ばらねぇ……」
ネロはそうつぶやくと少し考え込むような表情を見せたあと、こう言いました。
ネロ「でも、最近エリー、変わったよね」
シャロ「そうですか?」
ネロ「うん。匂いとかはわかんないけど、なんとなく、表情とか素振りとか見てたらそんな気がする」
あたしはエリーさんのそのような変化に気づいていませんでした。
大げさなのかも知れませんが、あたしの大切な仲間の変化に、あたしだけが気づいていないというのが少し不安でもありました。
ネロ「なに?」
シャロ「ばらの匂いってわかりますー?」
ネロ「ばらの匂い? んー……そういうのあんまりよくわかんないや。でも、なんで?」
シャロ「コーデリアさんが言ってました。エリーさんからばらの匂いがするようになったって」
ネロ「ふーん、ばらねぇ……」
ネロはそうつぶやくと少し考え込むような表情を見せたあと、こう言いました。
ネロ「でも、最近エリー、変わったよね」
シャロ「そうですか?」
ネロ「うん。匂いとかはわかんないけど、なんとなく、表情とか素振りとか見てたらそんな気がする」
あたしはエリーさんのそのような変化に気づいていませんでした。
大げさなのかも知れませんが、あたしの大切な仲間の変化に、あたしだけが気づいていないというのが少し不安でもありました。
35: 2011/03/05(土) 21:13:04.84 ID:tdtToVHc0
エリーさんに何かあったのかな……
そんなふうに珍しく考え事をしながら歩いていたものですから、あたしは知らない間にいつもは来ないようなところまで来ていました。
引き返そうと思ったその時、目の前にある建物が植物園だということに気がつきました。
初夏の夕暮の日差しを受ける厚いガラス張りの古い建物。
ガラスの向こうには様々な植物が見えます。
あたしはふと、その建物に入ってみたくなったのです。
きしむガラス戸を押してその中に足を踏み入れると、いろんな草木や花々があり、足元からアーチ状の高い天井まで緑の葉が西日を受けて輝いています。
あたしはばらを探しました。その花にエリーさんの秘密が隠されているような気がしたからかもしれません。
庭園のような植物園の通路の角に、ところどころはがれおちた白いペンキで塗られた木の立札に「薔薇園」と書いてあるのを見つけました。
ばらのにおい……
あたしはなんだかその先にエリーさんがいる気がして、薔薇園へ足を踏み入れたのです。
色の薄いばらの植わっている花壇のあたりに来ると、西日がまぶしくあたしを照らしたので思わず目を細めました。
たくさんの蝶が舞いました。
暖かい色に照らされたばらの花壇、そこに見慣れた長いつややかな髪が見えました。
エリーさんです。
そんなふうに珍しく考え事をしながら歩いていたものですから、あたしは知らない間にいつもは来ないようなところまで来ていました。
引き返そうと思ったその時、目の前にある建物が植物園だということに気がつきました。
初夏の夕暮の日差しを受ける厚いガラス張りの古い建物。
ガラスの向こうには様々な植物が見えます。
あたしはふと、その建物に入ってみたくなったのです。
きしむガラス戸を押してその中に足を踏み入れると、いろんな草木や花々があり、足元からアーチ状の高い天井まで緑の葉が西日を受けて輝いています。
あたしはばらを探しました。その花にエリーさんの秘密が隠されているような気がしたからかもしれません。
庭園のような植物園の通路の角に、ところどころはがれおちた白いペンキで塗られた木の立札に「薔薇園」と書いてあるのを見つけました。
ばらのにおい……
あたしはなんだかその先にエリーさんがいる気がして、薔薇園へ足を踏み入れたのです。
色の薄いばらの植わっている花壇のあたりに来ると、西日がまぶしくあたしを照らしたので思わず目を細めました。
たくさんの蝶が舞いました。
暖かい色に照らされたばらの花壇、そこに見慣れた長いつややかな髪が見えました。
エリーさんです。
36: 2011/03/05(土) 21:13:50.95 ID:tdtToVHc0
シャロ「エリーさ……」
あたしは呼びかけようとしてためらいました。
エリーさんの向こうに誰かがいるように見えたからです。
その人はすぐに背を向けて行ってしまい、年齢も性別もあたしにはわかりませんでした。
厚いガラスをすかして入ってくる日差しが柔らかくばらの花の中にたたずむエリーさんの背中を照らしていました。
あたしはなぜか声が出ませんでした。
それはエリーさんのその姿が確かに美しいけれど、とても悲しそうに見えたからかもしれません。
紅いバラの花が一輪落ちる。
エリーさんはふとこちらを振り返りました。
その時のエリーさんの目には、夕日を受けて光る涙があったのでした。
あたしにはかけるべき言葉が見つかりませんでした。
エリーさんは涙をぬぐうと、あたしにいつものようなやさしい声で言いました。
エリー「シャロ……どうしたの? こんなところで……」
シャロ「あの……」
不意にあたしはたまらないほど悲しくなりました。
あたしは呼びかけようとしてためらいました。
エリーさんの向こうに誰かがいるように見えたからです。
その人はすぐに背を向けて行ってしまい、年齢も性別もあたしにはわかりませんでした。
厚いガラスをすかして入ってくる日差しが柔らかくばらの花の中にたたずむエリーさんの背中を照らしていました。
あたしはなぜか声が出ませんでした。
それはエリーさんのその姿が確かに美しいけれど、とても悲しそうに見えたからかもしれません。
紅いバラの花が一輪落ちる。
エリーさんはふとこちらを振り返りました。
その時のエリーさんの目には、夕日を受けて光る涙があったのでした。
あたしにはかけるべき言葉が見つかりませんでした。
エリーさんは涙をぬぐうと、あたしにいつものようなやさしい声で言いました。
エリー「シャロ……どうしたの? こんなところで……」
シャロ「あの……」
不意にあたしはたまらないほど悲しくなりました。
37: 2011/03/05(土) 21:14:36.98 ID:tdtToVHc0
不意にあたしはたまらないほど悲しくなりました。
シャロ「どうして、泣いているんですか……?」
エリー「ううん。なんでもないの……」
それ以上問いただすことは、あたしにはできませんでした。
そして、何も言わずにあたしたちは薔薇園を出ました。
帰り道、エリーさんがずっとあたしの手を握っていたことを今でもよく覚えています。
薔薇園を出たあとも、エリーさんからは薔薇の匂いがしました。
あたしは子供のように心配そうな視線をエリーさんに向けることしかできなかったのでした。
シャロ「どうして、泣いているんですか……?」
エリー「ううん。なんでもないの……」
それ以上問いただすことは、あたしにはできませんでした。
そして、何も言わずにあたしたちは薔薇園を出ました。
帰り道、エリーさんがずっとあたしの手を握っていたことを今でもよく覚えています。
薔薇園を出たあとも、エリーさんからは薔薇の匂いがしました。
あたしは子供のように心配そうな視線をエリーさんに向けることしかできなかったのでした。
38: 2011/03/05(土) 21:15:23.50 ID:tdtToVHc0
そのあと、エリーさんはそのときのことを何も話しませんでしたし、あたしもそれ以上のことを尋ねることはできませんでした。
その日の夜、あたしはベッドの中で思い返してみました。
あの人は一体誰だったのか。あの人とエリーさんとはどんな関係なのか、何故エリーさんは泣いていたのか。あたしにはわからないままです。
エリーさんが抱えている苦しみを、あたしはわかってあげられない。
そう思うと急にエリーさんが遠くに行ってしまったみたいでさみしくて、同じベッドで寝ているのに、どうしてだかあたしの目からは涙があふれるのでした。
あたしはそっとエリーさんのほうに手を伸ばしました。
するとエリーさんはあたしの指に指をからめてくれました。
あたしはその晩、そうしてエリーさんのぬくもりを感じながら、その指を離さないように眠りに落ちて行ったのでした。
3.薔薇園 おしまい
その日の夜、あたしはベッドの中で思い返してみました。
あの人は一体誰だったのか。あの人とエリーさんとはどんな関係なのか、何故エリーさんは泣いていたのか。あたしにはわからないままです。
エリーさんが抱えている苦しみを、あたしはわかってあげられない。
そう思うと急にエリーさんが遠くに行ってしまったみたいでさみしくて、同じベッドで寝ているのに、どうしてだかあたしの目からは涙があふれるのでした。
あたしはそっとエリーさんのほうに手を伸ばしました。
するとエリーさんはあたしの指に指をからめてくれました。
あたしはその晩、そうしてエリーさんのぬくもりを感じながら、その指を離さないように眠りに落ちて行ったのでした。
3.薔薇園 おしまい
引用: シャロ「あたしと5つの物語!」
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