前回:「喫茶『アイドル』に集うアイドルたち」―case7.5 Jupiter
128: 2014/01/25(土) 23:08:01.73 ID:Ch29oshM0
店主「リーダー。『先頭に立つ者』を意味するこの言葉は、今や組織のトップを意味する言葉になりつつあるわ」

店主「同じく組織のトップを意味するボスとの違いを考えてみると、ボスが指示者であるのに対しリーダーが先導者である点かな」

店主「彼女はまさしくリーダー。それも事務所単位の話じゃない、最早、そう、この国のアイドルの……リーダー」

――case8 天海春香

春香「おっ邪魔しまーす」カランカラン

店主「はい、いらっしゃい」

春香「オランジェット持ってきたんですけど、食べますか?」

店主「いただきます」

春香「力作ですよ! あ、あとアップルティー下さい」

店主「はい、アップルティー一つ」

店主「最近どう? って、聞くまでもないかな」

春香「もう順調ですよー」

店主「テレビで見ない日はないってくらいだしね」

春香「一年二年前なら考えられませんけどね、私がトップアイドルって呼ばれてるなんて」

店主「でも、それだけの頑張りはしてきたわけでしょう?」

春香「自分で言うのもなんですけど、練習だけは人一倍してきたつもりですから」

店主「それに結果が付いてきただけのことよ。春香ちゃんの頑張りの賜物が、今の人気ってことね」

春香「途中、諦めかけたりもしたんですけどね……全然お仕事無くて」

春香「でも、その頃プロデューサーさんが入ってきたんです。それで、もう少し頑張ろうって」

店主「成程ね」

春香「それで今これだけの人気が出たんですから、プロデューサーさんには感謝してもしきれないです」

店主「765プロのプロデューサーさんは、本当にアイドルたちに好かれてるね」

春香「律子さんがプロデューサーになって竜宮小町を結成するまで、アイドル全員のプロデュースをしてましたからね」

店主「え、全員!? 全員って言ったら、えーと……」

春香「亜美と真美はアイドルとしては一人として活動してましたけど実際には二人ですし、その頃は美希も事務所に居たので11人ですね」

店主「うひゃあ……一体どんな体してたらその仕事量で耐えられるのか」

春香「私も思ったんですけど……一度も体壊したこと無いんですよね、プロデューサーさん」

店主「やっぱり業界人は化け物だらけだわ。はい、アップルティー」

春香「あ、ありがとうございます」
ぷちます!(12) (電撃コミックスEX)

129: 2014/01/25(土) 23:08:31.28 ID:Ch29oshM0
春香「そういえばずっと疑問だったんですけど」

店主「ん?」

春香「私たちアイドルが散々出入りしてるのに、週刊誌に載ったりしないこの店って凄いですね」

店主「褒めてるのか貶してるのか」

春香「いや、でも凄くないですか?」

店主「まあ……仮に載っても困るんだけどね」

春香「単純にお客さんが増えるだけならまだ良いんですけどね」

店主「アイドル目当てに店に来られても困るだけだもん。そうしたら皆は来れなくなるし」

春香「困りますね」

店主「これからも変な雑誌に取り上げられないことを祈るわ」

春香「この間もお気に入りのCDショップでファンの人に見つかっちゃって」

店主「そういう点で、アイドルって大変ね」

春香「でも最近は変装してるから見つかる頻度は低くなりましたけどね」

店主「そういえば、うちに来る時変装してないのは美希ちゃんだけね」

春香「美希変装してないんですか!?」

店主「全く」

春香「ますますこの店が話題にならないのが不思議になってきたんですけど……」

店主「そうね……」

130: 2014/01/25(土) 23:08:58.65 ID:Ch29oshM0
春香「帽子でリボンを隠しただけで八割くらいバレなくなりますよ!」

店主「それってどうなの?」

春香「良いんです……これは私のアイデンティティなので……」

店主「良いのかな……それで」

春香「前は着替えの後にリボン付けるの忘れてレッスンに出たら部外者と思われて追い出されかけたんですよ」

店主「皆顔で覚えてないのね……」

春香「まあ社長を見るとこれでも良いかなあって」

店主「なんで社長?」

春香「いや、だってあれ……特徴……」

店主「……? んー、ん? 特徴……あったっけ」

春香「……黒い?」

店主「それを言ったら黒井社長も黒いし」

春香「石川社長も黒いですしね。オーディションの審査員の人はなんか赤かったりしますし」

店主「赤い人って何」

春香「赤いものは赤いんです。あ、でもオーディション中に段々透明に……」

店主「段々透明になるってそれ本当に人なの!?」

春香「多分?」

店主「やっぱり業界人は分からない」

春香「い、一部だと思いますよ?」

店主「一部でもアイドル業界以外でそんな人見たこと無いもん……」

131: 2014/01/25(土) 23:09:25.15 ID:Ch29oshM0
店主「ところでさっきから気になってるんだけど」

春香「はい」

店主「鞄からはみ出してるその紙は何?」

春香「あ、これですか? チケットです」

店主「チケット? ライブか何かの……」

春香「マスター!」

店主「はい?」

春香「銀幕デビューですよ、銀幕デビュー! 765プロダクションドキュメンタリー!」

店主「ああ、上映今日からだもんね」

春香「正しくは今日の日付変わった瞬間でしたけどね」

春香「今ちょうど、映画の舞台挨拶の帰りでここに来たんです」

店主「疲れてないの……?」

春香「バリバリ元気です!」

店主「凄いね春香ちゃん」

春香「で、このチケットはマスターにあげようかと思ってもらってきたんです」

店主「え?」

春香「特別前売券ですよ! 上映劇場ではいつでもどこでも使えますから」

店主「……春香ちゃん、店の前に出しておいた看板見た?」

春香「へ? 今日は閉店を早めるって書いてあったやつですか?」

店主「うん。なんで早めたかって言うとさ」ガサガサ

店主「7時からの上映見ようと思ってさ」ピラ

春香「あ、持ってたんですか」

店主「だって観たいもん」

春香「でも、入場特典ランダムですし! 二回観ても面白いですよ!」ズイッ

店主「分かったから! ありがたく頂きますからちょっと近い近い」

132: 2014/01/25(土) 23:09:55.56 ID:Ch29oshM0
春香「で、それと関係してるんですけどね」

店主「うん」

春香「事務所が大きなビルに引っ越すことになりまして」

店主「凄いじゃん。むしろ今まで移転しなかった方が不思議なほどよ」

春香「それでですね、事務所の規模も大きくなったので後輩が入ったんです」

店主「後輩! へえ、新しいアイドル?」

春香「はい。だから、今度は後輩の皆と一緒に来ますね!」

店主「それは良いね。気に入ったら、CDくらいは買ってあげるわ」

春香「新しい子たちは何人か映画にも出てますから」

店主「へえ……楽しみになってきた。やっぱり五時からにすれば良かった」

春香「もう始まってますよ……」

店主「流石におやつ時から店閉めることはしないわ、私も」

春香「あ、オランジェット食べましょうか」

店主「貰う」パクッ

店主「美味しい」テーレッテレー

春香「オレンジの砂糖漬けから作りましたからね!」

店主「アイドルやめてうちで働かない?」

春香「やめませんよ」

店主「分かってるわよ」

春香・店主「「えへへへへへへ」」




店主「それにしても765プロも大きくなったね……」

春香「今や東豪寺プロ、961プロと並ぶ最大手アイドル事務所ですからね」

店主「所属アイドルの数では圧倒的に少ないのにね」

春香「所属アイドルといえば、この間設立されたばかりの事務所……あそこも凄い人数ですね」

店主「なんだっけ、Cinderella Girlsプロだっけか。所属アイドルが日に日に増えてるっていう」

春香「なんか、事務所の専属のプロデューサーがスカウトマンもやってるらしくて、凄く勧誘が上手いらしいんです」

店主「今は質より量の状態だけど、もしそれぞれの子が実力を付けたら……恐ろしいわね」

春香「私たちもウカウカしてられませんね! もう少しトップアイドルの名前は渡しませんから!」

店主「その意気よ。期待してるわ。ファンとして、アイドル行きつけの喫茶店店長としてね」

春香「じゃあ私は、期待に応えられるように頑張りますね。アイドルとして、とある喫茶店のファンとして」

店主「……ふふ」

春香「ところで……そろそろ時間じゃないですか?」

店主「ん? あ、そろそろ閉めないと間に合わないわ」

春香「じゃあ私は帰りますね。お会計お願いします」

店主「お会計210円です」

春香「はい、ちょうどです」チャリン

店主「またのお越しを」

春香「はい、また来ま……ぉのわぁ!?」ドンガラカランカランドシャーン

店主「看板直していってねー」

133: 2014/01/25(土) 23:16:07.32 ID:Ch29oshM0
店主「あの純粋な明るさは、真似しようと思って真似できるものじゃないわね」

店主「それにしても、後輩か……春香ちゃんたちも、もうそんなに大きな存在になってきたんだものね」

店主「まったく、私みたいな普通の、ただの一般人がお茶飲みながら話せるような相手じゃないはずなんだけどねえ」

店主「それはそうと、映画は面白かったわ。なんだかちょっと泣けちゃったけれど」

店主「仲間とともに悩み、仲間とともに育ち、そして仲間を先導し、引っ張っていく……リーダー」

店主「春香ちゃんは、そんな輝きをずっと失わないでいて欲しいな……」

Next→???

「マスター! お邪魔しま……うわぁ!」ドンガラガッシャーン

「あ、天海先輩!?」

店主「いらっしゃい」

「あいたたた……はい、こんにちは!」

「こんにちは」

店主「……ようこそ、喫茶『アイドル』へ」

  fine.

134: 2014/01/25(土) 23:18:38.25 ID:Ch29oshM0
喫茶『アイドル』、これにてひとまず終了でございます。
ついさっき映画を見て帰ってきたばかりなので、午前中に書いた原稿を切り貼りしただけになってしまいました。

明日、余談を追加してこのスレをお終いとさせていただこうと思います。
その余談ですが、内容的にはアイマス本編の設定と大きく離れるものとなりますので、興味のない方は天海春香編をもってこのスレをお終いとすることをオススメします。


135: 2014/01/25(土) 23:44:35.67 ID:XtxmIYKM0
いい話だった


次:【喫茶『アイドル』】猫と孤高

引用: 「喫茶『アイドル』に集うアイドルたち」