前回:「喫茶『アイドル』に集うアイドルたち」―case8 天海春香
1: 2014/02/05(水) 19:10:23.55 ID:yxTRm8fd0
店主「はじめましての方もお久しぶりの方もいらっしゃい。ようこそ、喫茶『アイドル』へ」

店主「数ヶ月前、765プロの雪歩ちゃんが来店したことがきっかけで、私の店は……」

店主「アイドルが訪れるようになりました」

――1st person 『猫と孤高と』

常連「うはぁ、食った食った。ご馳走様」

店主「お粗末さまでした」

常連「ここんちのハンバーグとビールがないと土曜日がきたって感じじゃないんだよなあ」

店主「今後ともお贔屓に。毎週金曜日は肉捏ねて待ってるわ」

常連「じゃあ、お会計」

店主「ハンバーグランチとビールで1360円です」

常連「お釣りはいらんよ」スッ チャリン

店主「じゃあ、また来週」

常連「また来るよ~……おっと、すまんね」カランカラン

店主(? 外にお客さんが居たのかな)

志保「…………」カランカラン

店主「いらっしゃい。カウンターへどうぞ」

志保「あ、はい」

店主「メニューはこちらに」

志保「ありがとうございます」

店主(この子……どこかで見たような気が?)


ぷちます!(12) (電撃コミックスEX)


3: 2014/02/05(水) 19:25:22.60 ID:yxTRm8fd0
志保「すみません、このノワールスペシャルってなんですか?」

店主「ああ、それはコーヒーにスティックシュガーを三本入れた甘いブラックコーヒーです」

志保「じゃあこれと……あと、このハニートーストを」

店主「はい、ノワールスペシャルとハニートースト」

志保「…………」

店主「えーと、スティックシュガーは……っと」

志保「…………」

店主「…………」

店主(ここ最近よく話すお客さんばっかりだったから無言が辛い)

志保「あの」

店主「はい?」

志保「あっちの壁に飾ってるあるサインって……」

店主「ああ、あれは、765プロのアイドル10人と961プロのアイドル6人、それと876プロの涼くんに東豪寺プロの魔王エンジェル、それとちょっと昔のスキップバードってアイドルのサインね」

志保「765プロの……近くで見てもいいですか?」

店主「どうぞどうぞ」

志保「…………」スッ

店主(うーん、やっぱり見たことある気がするなあ。765プロ? ……あ)

店主「もしかして、最近765プロに入ったっていう」

志保「え?」

店主「貴女、もしかして北沢志保ちゃん? 映画に出てた」

志保「はい、そうですけど……知ってるんですか、私の事」

店主「まあ、多少はね」

店主「映画見たしね、『765プロ 栄光の舞台裏へ』」

8: 2014/02/05(水) 19:43:29.89 ID:yxTRm8fd0
店主(『栄光の舞台裏へ』は、765プロが初のアリーナライブに望むまでを追ったドキュメンタリー映画)

店主(上映日に一回と、春香ちゃんに貰ったチケットでもう一回観てきたから、内容は覚えてるわ)

店主(仕事以外の彼女たちを知ってるだけに、感慨深くて少し泣きそうになったけど)

志保「あの映画、見たんですか……」

店主「ええ、楽しかったわ」

志保「……そう、ですか」

店主「?」チーン

店主「おっと、トーストが焼けた」

志保「あ、良い匂い……」

店主「蜂蜜とアイスを乗っけて……っと。はい、ハニートースト」

店主「それとノワールスペシャル。熱いから気をつけて」

志保「はい、ありがとうございます」

店主「…………」

志保「…………」モグモグ

ネコストラップ「」ニャーン

店主「…………」

ネコアップリケ「」ニャーン

ネコキーホルダー「」ニャーン

店主「……猫、好きなの?」

志保「え? あ、はい」モグモグ

店主「映画でもずっと猫のアクセサリー付いてたわね。ほかにも好きな動物とか居るの?」

志保「猫のほかには、クマ……とかも」ズズッ

店主「可愛いね……真ちゃんは志保ちゃんを見習えば良いと思うなあ」

志保「……ちゃん?」

店主「ああ、ごめん。嫌だった? うちに来る子には皆ちゃん付けだから癖で」

志保「皆……って、天海先輩とかですか」

店主「うん、あそこにサインが飾ってある子は大体常連さんだから」

志保「成程、そうなんですか……」

店主「?」

カランカラン

11: 2014/02/05(水) 19:57:47.36 ID:yxTRm8fd0
麗華「邪魔するわよ」

店主「あら、麗華ちゃんいらっしゃい」

志保(レイカ……?)

麗華「抹茶オレってある?」

店主「あるよ。雪歩ちゃんのリクエストで置いてるから」

麗華「じゃあそれ頂戴」

店主「はい、抹茶オレ一つ」

麗華「ふぅ……ん? なに、今日は珍しくお客がいるのね」

店主「珍しく……って、まあ、言い返しようがないのだけれど」

麗華「どうやってこの店成り立ってるのよ……」

店主「大丈夫、フードメニューは高いから」

麗華「ドリンクが命の喫茶店でそれはどうなのよ」

志保(レイカ……って、まさか、魔王……)

麗華「……ん? あれ、アンタどっかで……」

志保(! こっち見てる……)

店主「はい、抹茶オレ」

麗華「ん、ありがとう」ゴクッ

志保(ほっ……)

志保(……やっぱり、この人、魔王エンジェルの……)

麗華「あ、そうだ。そこのアンタ」グリンッ

志保「!?」

麗華「アンタ、伊織ん所の新人でしょ。確か、北沢志保とか言ったかしら」

志保「え、あ、はい、そうですけど」

麗華「やっぱりね。伊織が随分構ってるようだから話は聞いてるわ」

志保「……水瀬先輩が?」

麗華「ええ、私と伊織は幼なじみだからね」

店主「麗華ちゃんは映画観てないの?」

麗華「なんで私が敵事務所のドキュメンタリーなんか観なきゃいけないのよ」

志保「敵事務所、って……もしかして、やっぱり魔王エンジェルの……」

麗華「ん、そうよ。私は魔王エンジェルリーダーにしてプロデューサー、東豪寺麗華」

店主「業界では暴君と名高いらしいね。私はそこら辺詳しく知らないけど」

麗華「この間もオリコンチャートはアルバム発売直後で二位よ。Venusの新曲と被ってなければ一位だったのに!」

店主「961プロの美希ちゃんとも因縁あるからねえ」

志保「」ポカーン

店主「……どうしたの、志保ちゃん」

12: 2014/02/05(水) 20:08:56.67 ID:yxTRm8fd0
志保「ま、魔王エンジェルと言ったら、かつてトップアイドルの名を蹂躙していたっていう伝説のユニットですよね?」

志保「な、なんでそんな親しげ、なんですか?」

店主「なんでって、常連だし」

麗華「この頃はこの店来ないと落ち着かないくらいだわ」

店主「私の店はくすりか何かか」

志保「事務所の先輩方が、皆このお店の事を話してて気になって来たんですけど……そんな凄い店だったんですか、ここ」

店主「いや全然。お客は少ないから黒字と赤字を行ったり来たりよ」

麗華「さっきも言ったけど、よく潰れないわね」

店主「ていうか、皆私のお店が気に入ってくれてるんだね……感動だよ」

志保「天海先輩には、「あそこのマスターは秘密をばらしたりするような人じゃないから、身内に出来ない相談はあのお店で」とまで」

店主「春香ちゃんの無根拠な信用で私のプレッシャーがマッハよ」

麗華「まあ、間違っちゃねーけどな。ここで相談すると大体解決しちまうし」

志保「先輩方も言ってました。それ」

店主「私が答えを出してるわけじゃなくて、答えを出す手助けをしてるだけだけどね」

麗華「私と星井美希がカラオケバトルするのは手助けだったっけ?」

店主「」のワの

麗華「目合わせろって」

志保「……あの、」

志保「私も相談……良いですか?」

店主「そういうお店じゃないんだけど……まあ、相談事ならお姉さんに任せなさい」

麗華「お姉さん?」

店主「黙らっしゃい。まだ二十代だもん」

麗華「見苦しいわよ、その言い訳自体が」

――――――――――――

小鳥「イックシ!」

高木「音無くん、風邪かね?」

小鳥「いえ、大丈夫です」

13: 2014/02/05(水) 20:09:24.29 ID:yxTRm8fd0
志保「ま、魔王エンジェルと言ったら、かつてトップアイドルの名を蹂躙していたっていう伝説のユニットですよね?」

志保「な、なんでそんな親しげ、なんですか?」

店主「なんでって、常連だし」

麗華「この頃はこの店来ないと落ち着かないくらいだわ」

店主「私の店はくすりか何かか」

志保「事務所の先輩方が、皆このお店の事を話してて気になって来たんですけど……そんな凄い店だったんですか、ここ」

店主「いや全然。お客は少ないから黒字と赤字を行ったり来たりよ」

麗華「さっきも言ったけど、よく潰れないわね」

店主「ていうか、皆私のお店が気に入ってくれてるんだね……感動だよ」

志保「天海先輩には、「あそこのマスターは秘密をばらしたりするような人じゃないから、身内に出来ない相談はあのお店で」とまで」

店主「春香ちゃんの無根拠な信用で私のプレッシャーがマッハよ」

麗華「まあ、間違っちゃねーけどな。ここで相談すると大体解決しちまうし」

志保「先輩方も言ってました。それ」

店主「私が答えを出してるわけじゃなくて、答えを出す手助けをしてるだけだけどね」

麗華「私と星井美希がカラオケバトルするのは手助けだったっけ?」

店主「」のワの

麗華「目合わせろって」

志保「……あの、」

志保「私も相談……良いですか?」

店主「そういうお店じゃないんだけど……まあ、相談事ならお姉さんに任せなさい」

麗華「お姉さん?」

店主「黙らっしゃい。まだ二十代だもん」

麗華「見苦しいわよ、その言い訳自体が」

――――――――――――

小鳥「イックシ!」

高木「音無くん、風邪かね?」

小鳥「いえ、大丈夫です」

15: 2014/02/05(水) 20:37:04.80 ID:yxTRm8fd0
店主「して、相談とは。流石のお姉さんも重たすぎる話は無理よ?」

志保「いえ、それほど重大な話では……」

志保「店長さんは、映画を観たんですよね」

店主「うん。二回ね」

麗華「あー、店長さんじゃなくてマスターって呼んだ方が良いわよ。多分それだとアウェーだから」

志保「? マスター、ですか」

店主「どうしてこううちに来るアイドルは私をマスターと呼ばせたがるのかね」

志保「で、話を戻していいですか?」

店主「どうぞ」

志保「それで……映画を見ていれば分かると思うんですけど、私は天海先輩とあまり合わなくて……」

志保「未だに、私は天海先輩のように「皆で仲良く」っていうアイドルが理解できないんです」

店主「……成程」

志保「私はやっぱり、同じステージに立つ限り皆ライバルだと思ってますし、先輩であろうと越えるべき壁だと思ってます」

志保「だから、私は、私の考えは、765プロでは本当は場違いなんじゃないかと……」

麗華「…………」

店主「…………」

志保「な、なんですか?」

店主「……私が思うに、この件に関しては麗華ちゃんの方が説得力がある気がするわ」

志保「東豪寺さん?」

麗華「そうね……私もそう思うわ」

麗華「北沢志保、私はアンタと同じ考えよ。ステージに立つ者は誰もが敵、打ち倒すべき相手よ」

麗華「一人で頂点に立つことは不可能じゃないし、そうすることを悪だとは全く思わない」

麗華「周りが仲良しごっこしてる中で、一人だけ孤独の戦いに興じるっていうのも、悪くはないと思うわ」

志保「…………」

麗華「でもあの事務所で長く過ごせば分かると思うわ、仲間っていうのは案外おもしろいってね」

麗華「私だって、完全な孤独で頂点まで上り詰めた訳じゃない。りんやともみが居てこそ今の私はここにいる」

志保「……やっぱり、「皆で仲良く」ってことですか?」

麗華「そうは言ってないわ。皆でなんて私から言わせてみれば世迷い事よ、そんなの出来るやつのほうが少ないっての」

麗華「私が言いたいのは、そうね、気の置けない仲間一人居れば十分って話よ」

麗華「それがプロデューサーになるか同僚になるかはアンタ次第でしょうけどね」

志保「気の置けない、仲間……」

麗華「というか、あの事務所に限って場違いなんてありえないでしょ。あんな個性のミックスジュースみたいな事務所でどうやったら場違いになんてなれるんだか」

麗華「今はまともな新人7人で済んでるでしょうけど、今におかしなのが増えるわよ。それでしっかり受け入れちゃうのよ、あの事務所は」

志保「はあ……」

17: 2014/02/05(水) 20:53:58.16 ID:yxTRm8fd0
店主「私からも言わせてもらって良いかな」

志保「え、はい」

店主「うちの常連に、こんな信条を持つ人がいるわ」

店主「『孤独が人を強くする』ってね」

店主「実際彼はその信条に則って生き、今や大手芸能事務所の社長よ」

志保「もしかして、黒井崇男さんですか」

店主「よく知ってるわね。どっちかというと『王者でなければ、生きている価値がない』の方が有名かと思ってたわ」

店主「まあそれは置いておいて、実際仲間が多ければ良いって単純な話じゃないわ」

店主「彼の言うとおり、孤独が人を強くすることもある」

店主「考え方は人それぞれ、正解もそれだけ存在するのよ」

麗華「まあ、つまるところ、「絶対の正解なんかないから、場違いとか気にせず自分の考えがあるならそれに従え」ってことだよ。協調性がないのは困るけどな」

店主「そゆこと。むしろ私としては、自分の信念があって良いと思うわ」

店主「例えば春香ちゃんは、「皆で仲良く」とはいうけど、それでも勝負から逃げたりしない。同じ事務所の仲間であっても、手加減はしないでしょうし」

店主「似たようなタイプでは961プロのJupiterも、黒井社長の下についてはいるけどユニット内での団結は大したものね」

店主「対して千早ちゃんは、殆ど一人の力で高い地位を築いた。流石に大きな挫折の時には、皆の助けが力になったらしいけどね」

店主「アイドルにも色々な形があるから、間違いなんてのはそうそう無いわ」

志保「じゃあ、私は今のままで良いってことですか?」

麗華「ああ」

店主「そういうこと」

志保「……なんだか、こんなことでクヨクヨしてた自分がバカらしくなってきました」

店主「それもまた一歩よ。これからきっと、アイドルとしての苦労はあるだろうし、自分の信念を曲げずには通れない道もあるかもしれない」

店主「けど、進める術があるなら進むべきよ。私の経験上ね」

麗華「私たちみたいに、一度堕ちても蘇ったしぶといのもいるしな」

店主「まあ、志保ちゃんはなんとなく売れていく気がするけど」

麗華「いっそのこと伊織と同じ路線で売ってみれば良いわ。三ヶ月後には『北沢志保 罵倒3時間CD』が全国のCDショップに平積みにされるかもしれないわよ」

志保「それは……ちょっと」


18: 2014/02/05(水) 21:06:23.73 ID:yxTRm8fd0
店主「対立や衝突というのは、悪いことばかりではない。時には人を強くする最高のチャンスになりうるわ」

店主「志保ちゃんには自分の信念を忘れず、より良い選択を見極める目を持っていて欲しいわね」

店主「きっとあの事務所じゃ、もしかすると志保ちゃんの信念が揺らぐかもしれない。それはそれで結構」

店主「志保ちゃんの未来は志保ちゃんの選択で選ばれるべき、彼女が信念を曲げるときがくれば、それが彼女の選択だもの。間違いかどうかは分からないわ」

店主「はてさて、その志保ちゃんだけど、うちを訪れたその後日、なんということか、ユニット活動を始めたとか」

店主「しかもメンバーは、双海真美、矢吹可奈、そして北沢志保……」

店主「志保ちゃんの孤独の戦いは、別の形で始まってしまいそうね……大丈夫かな、あの組み合わせ」

店主「……大丈夫かな、大丈夫、可奈。って、何言ってるんだ私」

Next→『アイスティーはあいつのティー』

19: 2014/02/05(水) 21:07:10.60 ID:yxTRm8fd0
突発的に書いたせいでgdgdになってしまって本当に申し訳ない。こんどから考えて書きます。

それにしても、次回はタイトルだけで誰かバレバレな気がする

20: 2014/02/05(水) 21:11:15.01 ID:53ohXmSeo
おまたせ!アイスティーしかなかったけど、いいかな?

引用: 「アイドルの集う喫茶『アイドル』」