前回:【喫茶『アイドル』】普通とは一体
228: 2014/03/03(月) 18:14:37.34 ID:S3zVZvq20
店主「アイドル業界は回転が早くってね、トップアイドルになったと思ったらパッと消えちゃう子もいるのよね」

店主「もちろん、大成せずに消えていくアイドルも居るんだけど……」

店主「さて、今日はちょっと珍しいお客さんが来るから用意しておかないと」

――19th person 『グリーン・グラス同盟』

律子「こんにちは」カランカラン

店主「はい、いらっしゃい。りっちゃん」

紗代子「お邪魔します」

店主「いらっしゃい、はじめまして。事務所の子?」

律子「はい。高山紗代子、この間デビューしたばかりの新人です」

紗代子「高山紗代子です、以後よろしくお願いします」

店主「そんな、たかだか喫茶店の店主にそんな堅苦しくしなくても……」

律子「あれ、そういえばマスター今日は眼鏡なんですね」

店主「え? うん、コンタクトレンズの入った箱を間違って水張った洗面所に叩き落としちゃって……」

律子「うわぁ……」

紗代子「三人揃って眼鏡ですね」

律子「あ、本当だ。事務所には眼鏡の子が殆ど居ないから、珍しい光景ね」

店主「んーと、実はね、眼鏡の子がもう一人増えると思うよ?」

律子「へ?」

店主「紗代子ちゃんはどうか分からないけど、りっちゃんは知ってるんじゃないかなあ」

律子「私が知ってる人で、眼鏡……?」

紗代子「……ところで律子さん、座りませんか?」

律子「あ」

店主「ふふ、カウンターへどうぞー」

律子「私は……あ、このノワールスペシャルってやつで。前に志保が美味しかったって言ってたから」

店主「はい、ノワールスペシャル一つ。紗代子ちゃんは?」

紗代子「私は緑茶で……はっ!」

店主「?」

紗代子「こ、これは……」
ぷちます!(12) (電撃コミックスEX)

229: 2014/03/03(月) 18:29:23.87 ID:S3zVZvq20
店主「ああ、たい焼き? この間たいやき器が安く売ってたから買っちゃってね」

紗代子「これも下さい」キリッ

店主「はい、緑茶とたい焼き一つずつね。なんかもう見るからに「和」って感じね」

律子「エミリーが好きそうな……」

店主「今度からセットメニューも作ってみようかな。ランチメニューはセット価格が多いけど、スイーツ類はそういうのやってないし」

紗代子「ランチもやってるんですか」

店主「うちのハンバーグは常連に人気よ? 夜もやってるから気が向いたら来てみて」

紗代子「是非」

店主「ところで、りっちゃん……?」

律子「なんですか?」

店主「この間春香ちゃんに聞いたんだけど、この間大規模ライブあったらしいじゃない?」

律子「はい、ありましたけど……」

店主「春香ちゃんに聞いた話だと、参加者は全員で34人で、CGプロからは11人」

店主「その後うちの店に来た美奈子ちゃんから聞いたところ、劇場の子も11人」

店主「残りが春香ちゃんたち765プロの子って聞いてたんだけど、何回計算しても12人しか居ないのよね」

律子「私そのライブ出てませんから」

店主「なんで!?」

律子「だって私は一応あくまでプロデューサーですから」

店主「プロデューサー兼アイドルで良いじゃん……婦警からアイドルに転職する時代、その程度おかしくないって」

紗代子「婦警からアイドルに転職ですか!?」

店主「うん、居るわよ、実際に。このみちゃんは知ってるはずだから聞いてみると良いわ」

紗代子「凄い人も居るんですね……」

店主「実際あの人は婦警のままでも凄い人だけどね」

230: 2014/03/03(月) 18:40:20.01 ID:S3zVZvq20
店主「なんでりっちゃんライブ出ないの? まだまだアイドルじゃなかったの?」

律子「今回はCGプロとのセッティングで忙しくて、自分のことまで手が回らなかったんですよ」

店主「うーむ、そういうことなら仕方ないか……でも絶対りっちゃんを見たいファンは居るからね?」

紗代子「あ、それは私も同意です。律子さんはステージの上に立つべきですよ」

律子「いや、別にアイドル活動完全にやめた訳じゃないんだから……」

店主「今度りっちゃんがライブに出るときは氏ぬ気でチケット手に入れてやるからね。はい、ノワールスペシャルと緑茶」

律子「あ、ありがとうございます」

紗代子「あ、事務所でチケット用意できるらしいですよ。律子さんが言ってました」

店主「マジで? 私関係者でもなくただの一般人だけど」

律子「あ、はい。用意できますよ」

店主「マジで!?」

律子「だってマスター、小鳥さんと知り合いですよね?」

店主「……な、なんで知ってるの?」

紗代子「え、小鳥さんと知り合いなんですか?」

律子「っていうか、この間春香と話してて口滑らしたらしいじゃないですか。事務所、特にスキップバードの話を知ってる子たちの中では話題になってますよ」

店主「……ごまかせてなかったか」

紗代子「スキップバード……? って、確か十年くらい前のアイドルユニットじゃあ……」

律子「それ、小鳥さんとマスターのことよ」

紗代子「……えぇ!? そうだったんですか?」

店主「やめてー! 私の過去を暴くのやめて!」ジュー

紗代子「マスター! たい焼き焦げてる! 焦げてます!」

カランカラン

231: 2014/03/03(月) 18:59:57.14 ID:S3zVZvq20
美心「お邪魔します」

店主「あ、いらっしゃいミコちゃん」ジュー

律子「ミコちゃん……って、あァーッ!」

紗代子「マスター! たい焼きが! たい焼きが!!!」

美心「お久しぶりです、えっと……秋月律子さんでしたっけ」

律子「律子で良いですよ。って、違う違う。佐野さん、随分久しぶりですけどアイドル活動って……」

美心「美心で良いですよ。アイドル活動は続けていますよ」

店主「相変わらず仕事は老人ホームの慰問コンサートばっかり?」パカッ

美心「はい、それを選んで仕事を取ってきてるので」

紗代子「あ、思ったより焦げてない……」

店主「羽の部分が焦げても本体部分が焦げてなければ良いのよ、たい焼きは。はいどうぞ、熱いから気をつけて」

紗代子「ありがとうございます」

美心「隣いいですか?」

紗代子「え、あ、はい、どうぞ」

店主「やっぱ紗代子ちゃんはミコちゃん知らないかなあ」

美心「まあ、アイドルとはいえ殆ど表に出る仕事はしてませんからね。私が選んでるんですけど」

紗代子「えっと……美心さんもアイドルなんですか?」

律子「ただのアイドルじゃないわ……トップアイドルの、更にその上」

店主「アイドル神『佐野美心』と言ったらミコちゃんのことよ」

美心「やめてください、そこまで大それたものじゃありませんよ」

店主「四年前にデビューして一気にトップアイドルになった挙句、忽然と表舞台から三年間姿を消したアイドル。もうこの説明だけで常識はずれのレベルよ」

律子「あの魔王エンジェルが千早と対抗するためだけに引き入れようとする程ですからね」

紗代子「そんな凄い人だったんですか……」

美心「は、恥ずかしいのであんまりそれ以上は……。あ、クリームソーダ下さい」

店主「クリームソーダ一つね」

美心「そういえば今、皆さん揃って眼鏡ですね」

店主「今の話の流れぶった斬り過ぎじゃない!?」

236: 2014/03/03(月) 19:43:50.22 ID:S3zVZvq20
美心「イメージカラーも似てる人が揃ってますし、珍しいこともあるんですね」

律子「イメージカラー? 美心さんと私が同じ緑ってことですか」

美心「あれ、ご存知ないんですか? マスターもアイドル時代のイメージカラーは緑ですよ」

律子「そうだったんですか?」

店主「はい、そうでした。ついでに言うと、小鳥のイメージカラーがひよこ色で、スキップバードのテーマカラーはエメラルドグリーンね」

店主「当時のプロデューサーに、「わさびのような色だな」って言われた」

律子「わさびって……」

紗代子「……ん? あれ、ということは、私だけ仲間はずれじゃあ……」

美心「紗代子さんのイメージカラーは紫でしたっけ」

紗代子「紫というより、すみれ色に近い感じですかね。……って、私、自己紹介しましたっけ」

美心「765プロの美希さんと少し縁があったので、765プロのことは定期的に調べてるんです。新人が増えてちょっと覚えるのが追いつかなくなってきましたけどね」

店主「それは凄いわね……流石に私も最近の765プロの所属アイドルの増え方だと、覚えきれそうにないわ」

美心「イメージカラー以外にも知ってますよ。趣味がハリネズミの飼育というのも珍しいですけど、一晩寝れば元気になれるのは体力勝負のアイドルとしては武器ですね」

美心「あと……ステージに立つときは眼鏡を外すこと、とかですかね」

店主「あ、そうなの? やっぱダンスとかで危ないから?」

紗代子「いえ、私のはそれほどダンサブルな曲ではないので……ただ、眼鏡は私にとって弱気の象徴なので」

店主「ほう?」

紗代子「普段の弱気な私は眼鏡と一緒に楽屋においていって、ステージの上では強気な私で居られるかと思って……」

店主「ふむ、成程」

美心「眼鏡が弱気の象徴……そうやって自分の弱い部分を象徴として形にすることで、半ば自己暗示的に強い自分を作り上げてるんですね」

律子「本番で眼鏡を外してたのはそういう訳だったのね……って、待って紗代子」

紗代子「はい?」

律子「ってことは貴女、本番で裸眼だったってこと!?」

紗代子「はい。だから実はよく見えてなくて……あ、でも逆にそのお陰であまり緊張しなかったんですよ」

店主「そんなお化け屋敷入るときに眼鏡外すみたいな」

美心「…………」

239: 2014/03/03(月) 20:06:01.99 ID:S3zVZvq20
美心「紗代子さんは……あ、これから話すのは私の憶測なので、違ったら無視してくださいね」

紗代子「?」

美心「紗代子さんは、自分に自信がないんじゃないでしょうか。容姿、才能、要領……」

美心「自信が無いから弱気になる。紗代子の眼鏡は、いわばそれを一時的に肩代わりしてくれるスケープゴート」

美心「そしてその反面、燃えたぎるような向上心を持っている。努力は才能を凌駕し報われると信じたい、そんな風に感じます」

紗代子「な、なんでそこまで……」

店主(これがアイドル神か……デビューから間もない一アイドルの少ない情報から人相まで分析する、化け物みたいな子だわ)

美心「でも、大丈夫です。自信がないのはすなわち言い換えれば謙虚だということ。それが行き過ぎればただ卑屈になってしまいますが、紗代子さんは違う」

美心「その謙虚な心を持ったまま、その燃えたぎるような向上心を大事にして下さい。きっといつか、かつての私をも越える日が来ると思いますよ」

律子「か、かつての美心さんって……」

店主「……アイドル神か、ミコちゃんが言うと本当にそうなりそうだわ」

紗代子「私が、アイドル神に……?」

美心「確かに飛び抜けた才能を持った相手を目の前にしたとき、勝てないかもしれない、越えられないかもしれない、そう思うかもしれません」

美心「しかし紗代子さんの信じるように、努力が才能に勝ることはあるんです。努力を続ける努力、それさえ忘れなければ紗代子さんは大丈夫でしょう」

店主「……努力を続ける努力、身に刺さるようだわ」

店主「私はそれが続けられなかったクチだからね、途中で挫ける惨めさを知ってる。悔しいよ? 三日三晩塞ぎこむくらいにはね」

店主「そうなりたくなかったら、努力を信じて突き進むしか無いわね。かっこいいじゃない? 才能で人の上に立ってる奴を努力で追い抜かすのって」

紗代子「……格好良いですね、それ」

店主「でしょう?」

美心「応援してますよ、紗代子さん。一人のファンとしてね」

店主「そして悩みが出来たらうちに来ればいいわ。誰か曰く、ここに来れば大体の悩みは解決するらしいから」

律子「……なんか、今の様子を見てると、二人ともアイドル養成スクールかなにかの先生みたいですね」

店主「ん? それならりっちゃんもでしょう」

律子「へ?」

美心「律子さんのことも知ってますよ? 765プロに居た頃の美希さん曰く、鬼軍曹だとかなんとか」

律子「あの子ったら……そんなことを」

紗代子「緑色がイメージカラーの眼鏡三人組……グリーン・グラス三人衆って感じですね」

店主「三人衆って、なんか下っ端っぽいなあ」

美心「じゃあ、同盟とかどうですか?」

店主「眼鏡っ子の味方、お悩み解決グリーン・グラス同盟! みたいな」

美心「格好良いですね」

律子「……そうかしら?」

240: 2014/03/03(月) 20:20:49.98 ID:S3zVZvq20
律子「さて、そろそろ私たちは帰りますかね」

紗代子「あ、私も今日はこの後事務所で千早ちゃんとテスト勉強する予定なので帰りますね。お会計お願いします」

店主「はいはい、りっちゃんが190円、紗代子ちゃんが490円ね」

律子「はい」チャリン

紗代子「たい焼き美味しかったです」チャリンッ

店主「ありがとう、雪歩ちゃんオススメのお店で仕入れたアンコ使ってるのよ」

律子「じゃあ、また来ますね」

紗代子「お邪魔しました」カランカラン

店主「またのお越しを」

店主「……さて、準備を始めようかなーっと。サッカーボール型ケーキに挑戦してみようかな」

美心「あ、その前に」

店主「ああ、ごめんなさい、忘れるところだったわ」

美心「ちょっと話が弾んじゃって私も忘れてたので、構いませんよ」

店主「注文の品ね……まさか喫茶店を経営してて飲食物以外の注文を受けるとは思ってなかったわ」

美心「でも受けてくれて助かりました。こういう用事を頼める相手も中々居ないので」

店主「まあ、喫茶店店主としてじゃなくて友人としてお願いを受けたと思えば良いことよ。はい、これで良い?」

美心「……はい、大丈夫です。バッチリです」

店主「それにしても、そんなものどうするの? 二種類を同じもの三つずつなんて」

美心「まあ、強いていうならプレゼント用ですかね」

店主「成程」

美心「……っと、そろそろ藪下さんとの待ち合わせの時間なので私もお会計を」

店主「はいはい、180円よ」

美心「ごちそうさまでした」チャリン

店主「またのお越しを」

美心「今度は藪下さんも連れてきますね」カランカラン

店主「……それにしても、本当になんであんなもの注文していったんだろう」

店主「ネックレス二種類とホールケーキのレシピなんて、友達の誕生日か何かかな……?」

店主「まあ良いや。予約も入ってるし、早く冬馬くんの誕生日ケーキ作ろうっと」

241: 2014/03/03(月) 20:25:08.07 ID:S3zVZvq20
店主「アイドルも人間、悩みは抱くし才能の差に苦しむことはある」

店主「そこを努力で打ち破れる子は、才能を持って生まれた人以上に強い人だと思うわ」

店主「私が今までに出会ったアイドルが皆、切磋琢磨し精進していくのを私は楽しみに見届けたいわね」

店主「……なんて思ってたんだけど」

店主「これはどういうことなの……?」

『留守番メッセージを再生します……ピー、お世話になっています、私765プロのPというモノですなのですが――』

Last→『すべての人が夢見る偶像』

243: 2014/03/03(月) 20:29:09.09 ID:S3zVZvq20
高山紗代子編でした。ミリマスでは、L律子、C茜、R紗代子でユニットを組んでるので、思い入れはあります。

次回は一応最終回なのですが、前回のあとがきの通り今回の話以上に店主中心でオリジナル設定多めになる予定です。
そこで読んでくれている皆様にお聞きしたいのですが、本当にサラッとなのですが、次回のワンシーンで店主の名前を出すかどうかについて是非と問いたいと思います。
明日の執筆開始(大体午後6時前後)までの間に、「名前出し反対」「名前出しOK」で多かった方の意見を採用したいと思います。
物語自体には深く関わらないので、率直な意見でお願いします。

引用: 「アイドルの集う喫茶『アイドル』」