1: 2024/02/02(金) 23:14:36 ID:aM1oCexA00
梢「あなたは本当に頼りになるわね。花丸大回転よ」ナデナデ

花帆「あれ……梢センパイ、誰と喋ってるんですか? それにその娘、誰……?」

梢「あぁ、日野下さん。まだいたのね。帰ってくれてもよかったのに」

花帆「ひ、日野下って……。そんな他人行儀な呼び方……」

梢「別にいいでしょう? 呼び方で一喜一憂して、私に迷惑をかけないでちょうだい。今はこの娘と忙しいの」スタスタ

花帆「あっ、梢センパイ! どこ行くんですか! それにその娘、誰なんですか!」

花帆「ぐっ!? う、動けないっ……。足に鎖が付いてる、いつのまに……」グッ、グッ

花帆「は、外れないよぉっ、梢センパイ! 待って! 行かないで! あたしをおいてかないで!!」ググ…

梢「ふふっ、あなたは本当に可愛いわ。ずっとずっと、私の傍にいてちょうだい」

梢「あなたがいれば、日野下さんなんて必要ないわね」ニコッ

…………

花帆「!!!」ガバッ

花帆「ゆ、夢……? あ、あはは……。夢でよかった……。梢センパイが言うわけないもん」

花帆「あたしのこと、必要ないなんて、そんなこと……」

花帆「……」ギュッ

花帆「うん。平気。大丈夫。そんなの、あり得ない、あり得ないから。平気、平気……」

2: 2024/02/02(金) 23:15:11 ID:aM1oCexA00
──

花帆「機械さんに名前、ですか?」キョトン

梢「ええ。この娘ともだいぶ仲良くなれたのだし、個別の名称が欲しいと思って」

花帆「なるほど。楽器とかバットとか、愛用してる物に名前を付けるって結構ありますもんね。何か候補はあるんですか?」

梢「ふふ。実はね、既に決まってるの。それはね──」

慈「ちょい待ち。楽しそうな話してるじゃん。私にも一枚嚙ませてよ」

梢「……慈。遊びではないのだけれど」ジト…

慈「いーじゃんいーじゃん。ほら、みんなこの紙に好きな名前書いて!」ササッ

さやか「ずいぶん急ですね。これに梢先輩が使用しているスマホの名前を書く、と。どうぞ綴理先輩」スッ

綴理「ありがとう、さや。いい名前を付けてあげたい」

瑠璃乃「書いたよめぐちゃん。これどうすんの?」コテン

慈「書いた紙を飛行機にします!」オリオリ…

梢「ちょ、ちょっと慈! 勝手に話を進めないで!」ガタッ

慈「まぁまぁ、ちょっと聞きなよ梢」ガシッ

梢「……肩を許した覚えはないのだけれど」

3: 2024/02/02(金) 23:15:47 ID:aM1oCexA00
慈「いいじゃん別に。で、書いた紙を紙飛行機にして、それを部室の中で飛ばすわけ。そして一番飛んでられた名前が機械さんに命名されるって流れだね」

慈「みんなが考えた名前から、空中を漂ってたった一つだけが選ばれる……。これってなんか、運命感じない?」

梢「運命……確かに、幾つもの選択肢の中から無作為に選ばれた名前。それは運命に近いのかもしれないわ」

梢「ええ、そうね。やりましょう。私の運命力、あなたたちに見せつけてあげる」グッ

慈(ちょろw)

花帆「折り終わりました! あたしのが一番飛びそうです! ぎゅんぎゅ~ん!」

綴理「かほ、ボクの見て」スッ

花帆「わっ、綴理先輩の赤いラインが入っててカッコいい! あたしも真似しちゃお!」カキカキ

綴理「むふふ」ドヤッ

さやか「……」パシャパシャ

瑠璃乃「無言でシャッター押すさやかちゃん手慣れててこえー……」

慈「ささっ、みんなも準備完了したってことで、いっちょ飛ばしちゃおー!」

慈「さーん! にー! いーち! ていく、おふ!!」ソッ…

花帆(部室内という狭い空間に放たれた六つの紙飛行機。それぞれの色を載せた飛行機は色んな線を描き、次々に落下していく)

4: 2024/02/02(金) 23:16:23 ID:aM1oCexA00
瑠璃乃「ぎゃー! ルリの本棚にぶっ刺さった!」

さやか「花瓶の中に落ちて水浸しです……」

綴理「あ、めぐのと衝突した」

慈「綴理! あんた何邪魔してんの!?」

花帆「いけ! 花帆号! 落ちるな!」

梢「紙飛行機さんっ……!」

花帆(残るはスリブ二人の紙飛行機のみ。固唾を飲んで見守っていると、換気のために開けていた窓から突風が流れ込んできて──)

花帆「あ」

花帆(あたしの紙飛行機だけ床に叩きつけられて、梢センパイのは逆に風に乗って──)

梢「あ、あら。窓から出て行ってしまったわ。取りに行かないと」タッタッタ…

瑠璃乃「……審査員長、これは誰の勝ち?」

綴理「うん。こずの勝ちだ。ぱちぱちぱち~」ペチペチ

慈「ぐ、ぐぬぬ……。むかちゅく~っ!!」ジタンダ!!

さやか「ちなみに慈先輩はなんて書いたんですか?」ソッ

慈「あ、ちょ──」

さやか「『プリティキュートなめぐちゃん』、ですか……これは、なんというか……」

慈「……笑えよ、さやかちゃん」プシュー…

さやか「い、いえ、自分の気持ちに正直なのは素敵だと思います。素直ではありませんが」

慈「みらぱの歌詞で喧嘩売らないで貰える?」

5: 2024/02/02(金) 23:16:58 ID:aM1oCexA00
花帆「あーあ……負けちゃった……」ソッ

綴理「かほはなんて書いたの?」ヌッ

綴理「はーでん、べるぎあ? かっこいい名前だね。どういう意味?」

花帆「あ、あはは……。これはですね──」

ダダダダダ!!

梢「ふぅ。ただいま」ガチャ

瑠璃乃「あ、お帰りこずこず先輩。ちな、なんて名前書いたんですか?」

梢「ふふ。見て驚きなさい。やはりこれは最初から決まっていた運命だったのね」スッ

瑠璃乃「えっと、けーえー、えいち、おー……KAHO?」

花帆「……え?」ピクッ

梢「ええ。親密になり、頼もしさが日に日に増していく機械さんに相応しい名前と言えば、これはもう一つしかないじゃない」ムフーッ

瑠璃乃「ほー、君は今日からKAHOちゃんか。よろよろ~」ナデナデ

花帆「か、KAHO……? 喜んで、いいのかな、これ……」

さやか「いいんじゃないですか? 花帆さんを頼りにしている証じゃないですか」

花帆「それは、そうなんだけど……」

梢「うふふ。これからもよろしくね、KAHO。頼りにしているからね」ナデナデ

綴理「ボクも撫でるー」トテテ

花帆「……」モヤモヤ

6: 2024/02/02(金) 23:17:32 ID:aM1oCexA00
梢「ほら、花帆。あなたも呼んであげて。言わば私とあなたの娘なのよ?」

花帆「え、えぇ? あたしと梢センパイの、娘……?」

梢「まずは私がお手本を見せるわ。KAHO、私を呼んでみて」

花帆「呼んでみてって……」

KAHO「なんでしょうか、お母様」

慈「……え、なにこれ。あんた、スマホにお母様って呼ばせてるの?」

梢「ええ。日々暮らしを共にし、名付けを行うんだもの。親と言っても過言じゃないはずよね」

梢「ほら。花帆。あなたも言って」ソッ

花帆「ん、んー……、はい、わかりました……」

花帆「……えっと」

花帆「KAHO、あたしのこと、お母さんって呼んでみて」

KAHO「よく聞き取れませんでした。もう一度お願いします」

花帆「……」

瑠璃乃「あ、なんかルリ、小腹空いてきたかも」グゥ~

KAHO「脂肪吸引ができる病院を検索しました。この中のどれですか?」

花帆「……」

7: 2024/02/02(金) 23:18:05 ID:aM1oCexA00
──

花帆「はぁ。なんか、ちょっと調子でないかも」カニョーン

さやか「どうしたんですか? きちんとお日様浴びてます?」

花帆「それは浴びてるけど……。ねぇ、さやかちゃん。来年度入ってくる新入生のことって考えてる?」

さやか「新入生、ですか。はい。多少は考えてますよ。ユニットに新しく加入する人について、ですよね」

花帆「うん……。あたし的に期待半分不安半分、って感じだったんだけど、なんだか最近は不安の方がおっきくて……」カニョニョニョーン

花帆「さやかちゃんはどんなスタンス?」

さやか「そうですね……。ラブライブ!優勝を目指していますし、士気の低い方、やる気のない方は省きたいところです。でも、最初からハードルを上げ過ぎても入部希望者ゼロ、みたいになるのは嫌ですし……難しいところですね」

花帆「だーよねぇ……。難しいよねぇ……。あたしさ、誰かが加入するメリットより、デメリットの方を考えちゃうんだよね」

さやか「ふむ。デメリットですか。でも、中学生でスクールアイドルをしている人もいるそうですし、もしかすれば期待の大型新人とか入ってくる可能性もありますよ」

さやか「そうすれば即戦力ですよね」

花帆「大型新人……即戦力……」ボソッ

──
梢『あなたがいれば、日野下さんなんて必要ないわね』ニコッ
──

花帆「……っ」ズキッ

さやか「……花帆さん? どうしました?」

8: 2024/02/02(金) 23:18:38 ID:aM1oCexA00
サワサワ

花帆「ぐっ、んっ……?」ピタッ

さやか「あれ。本当にどうしたんですか? 突然立ち止まって。部室まですぐそこじゃないですか」

ナデナデ

花帆「はっ、んっ、んんっ……!?」ビクビクッ

さやか「花帆さん……?」

フヨフヨ

花帆「な、なにこれっ、体、誰か、に…、触られてる、みたい……っ!」ビクンッ

さやか「触られてるって……ひ、一先ず、部室に行きましょう!」グイッ

花帆「んんんぅっ!?」ビクビクッ

ガララッ

梢「あ、花帆、さやかさん。お疲れ様」ニコッ

さやか「お疲れ様です。花帆さん、一先ずソファの上に横になってください」

瑠璃乃「お? どした花帆ちゃん。体調悪いの?」

花帆「いや……そうじゃないんだけど……なんか、誰かに触られてるような気がして──」

ピロン♪

梢「あら。誰からのメッセージかしら」トット

花帆「んっ、ま、またっ、誰かにお腹、触られてるみたいっ」ビクンッ

瑠璃乃「お腹……?」ペロン

瑠璃乃「虫が悪さしてるわけじゃない、と……」ソッ…

さやか「……ナチュラルに花帆さんのおへそを確認しましたね」

9: 2024/02/02(金) 23:19:11 ID:aM1oCexA00
梢「ええと。お返事をしなきゃ……」トット

花帆「あっ、んんぅっ!? こ、今度は連続、でぇっ!?」ビクビクッ

梢「あぁ、間違えてしまったわ。取り消し、取り消し、と……」トット

花帆「んみゃあっ!?」ビクンッ

綴理「……こず。一旦ストップだ」

梢「え? どうして?」ピタッ

綴理「ボクの推理、夕霧推理が言ってる。こずの触ったKAHOと、かほが連動してるって」

慈「かほとかほ? わかった? るりちゃん」チラッ

瑠璃乃「わかんね☆」

梢「私の、KAHOと、花帆が……?」トット

花帆「んふぅあっ!?」ビクンッ

梢「ほ、本当だわ……」トット

花帆「んんぅっ、んみゅっ、んぃいああっ!?」ビクビクッ

梢「……」スワイプスワイプ

花帆「やっ、あぁんっ、なっ、今度、はぁっ!? なぞられっ!? んみゅぁああっ!?」ビクビクッ

梢「……」ムラノ…

さやか「あの、勝手にわたしの擬音出さないで貰えますか? それと、原因がわかったのならさっさと手を止めてください」

梢「はっ! ご、ごめんなさい。つい魔が差して……」

花帆「あへぇ……♡」ピクピク

11: 2024/02/02(金) 23:19:52 ID:aM1oCexA00
瑠璃乃「あー、なるなる。スマホと花帆ちゃんが、なんか知らんけど繋がっちゃったんだ。でもなんで?」

綴理「あれ。なんだっけ。人と物が連動するあれ……」

慈「あ、それ私漫画で見たことある。確か、確かそう……あっ!」ピキーン!!

慈「るりちゃん魔術! これだ!」

瑠璃乃「え゛!? これルリのせいだったんか!?」

梢「……いえ違うわ。これは、類感呪術。KAHOと花帆の間に縁が出来てしまったのね」

さやか「類感呪術、ですか。どういうものなんですか? それ」

梢「ええ。みんなが知っている例だと丑の刻参り、かしら」

慈「それって、藁人形に釘打って呪いを掛けるって奴?」

梢「そうよ。藁人形と呪いを掛けたい人を結び、不幸に陥れる有名な呪術。類似したもの、人の形を模した藁人形と人間を関連付け、そこに呪いを送り込む。類感呪術はそういったものね」

さやか「でも、花帆さんと機械に類似性はないはずでは?」

梢「ええ。組成は全く違う。けれど、今の機械さんの名前はKAHOなの」

さやか「あ……名前」

梢「そう、名付けを行ったことで、ただの機械に過ぎないスマートフォンと人間の花帆の間に縁が生まれてしまったのね」

梢「私が日々を共にしたことで、KAHOに強い想念が宿ったことも呪物としての価値を底上げしているんだわ」

慈「るりちゃんわかった?」チラッ

瑠璃乃「わかんね☆」

12: 2024/02/02(金) 23:20:32 ID:aM1oCexA00
さやか「因果関係は理解できました。対処法はあるんですか?」

梢「ええ。簡単な話よ。この娘の名前をKAHOから『KAHOちゃん』に呼び名を変えればいいだけの話。座標が少しでもズレれば呪術も結ぶべき縁を見失うもの」

梢「KAHO」ソッ

KAHO「はい、何か御用でしょうか」

梢「あなたの名前はKAHOちゃん。KAHOではなく、KAHOちゃんよ。いいわね?」

KAHO「承りました。私はKAHO改めKAHOちゃんです」

梢「これで二人の繋がりは断たれたはず……」トット

花帆「……」

さやか「あ、何も反応してませんね。成功した、ということでしょうか」

梢「ええ。もう少しこれで花帆を弄び──」

KAHO「……」パァァァアアアアア~!!

綴理「おー、なんか光ってる」

瑠璃乃「うおっまぶしっ」サッ

慈「え、なにこれ。爆発オチ?」

梢「──はっ! いえ、違うわ!」

梢「強い想念を与えられた呪物が、呪術の道具としての機能を失ったことで、存在を再定義しようとしているのよ!」

梢「花帆との繋がりが消え、KAHOちゃんという名付けを与えられたことでこの娘は──」

KAHOちゃん「こんにちは、KAHOちゃんです」

梢「一個体の実存として、世界に再定義される……」

慈「つまり?」

梢「……KAHOちゃんは私たちと同様に、コミュニケーションが取れる存在になったのよ」

13: 2024/02/02(金) 23:21:10 ID:aM1oCexA00
──

瑠璃乃「えっと。どもども。大沢瑠璃乃だよ」

KAHOちゃん「瑠璃乃さん、よろしくお願いします」

瑠璃乃「おー、賢い」

綴理「ボクはボクです。よろしくお願いします」ペコ

KAHOちゃん「綴理さん、よろしくお願いします。私に敬語は不要です」

綴理「おー、よくできたね。えらいえらい」ナデナデ

慈「ねね、KAHOちゃん、宇宙一可愛いのって、だれかなぁ?」

KAHOちゃん「はい。宇宙一可愛いのはあなた、慈さんです」

慈「お、わかってんじゃん」

KAHOちゃん「社交辞令です」

慈「なぬ! 生意気な機械!」フンガー!!

さやか「……秒で馴染みましたね。これ……いえ、KAHOちゃんに危険はないんですか?」

梢「そうねぇ。私と花帆から産まれたのだし、危険なんてあるはずが無いのだけれど……。一応、確認しておこうかしら。KAHOちゃん」

KAHOちゃん「はい、お母様」

梢「んー、なんて質問しようかしら。そうねぇ……あなた、何がしたい?」

KAHOちゃん「それは抽象的な質問ですね。具体性を伴った質問を要求します」

さやか「ふむ。KAHOちゃんは、何をすることで喜びを感じますか? これなら、行動原理が分かりそうな気がします」

梢「流石さやかさんね。いい着眼点よ」

KAHOちゃん「私は誰かに頼られること、誰かの役に立つことで感情中枢を強く刺激されます」

さやか「役に立ちたい。利他的な考えが行動原理なら悪さはしなさそうですね」

14: 2024/02/02(金) 23:21:45 ID:aM1oCexA00
慈「……いや待て」

さやか「慈先輩? 何か不審な点がありましたか?」

慈「私知ってる。誰かの役に立ちたいって行動が悪い人に捻じ曲げられて、望まない形で世界が滅亡したりするやつだよこれ。ゲームとかアニメで見た」

瑠璃乃「めぐちゃんはこう言ってるけど、KAHOちゃん的にはどうなん?」コテン

KAHOちゃん「私はあなたたち六人の役に立つことを希望します。特にお母様の役に立てれば、それは望外の喜びを感じられることでしょう」

瑠璃乃「……と、言ってますけど。どうすか、審査員長」チラッ

綴理「うん。KAHOちゃんはいい娘だ」ナデナデ

慈「……まぁ、いっか。関心が私たちだけに向くんなら、そんな悪いことにはならないでしょ。それに、梢から生まれたんなら悪さするわけないか」

梢「あら慈。それは信頼で言っているのよね」

慈「そうだけど? そんな勇気ないよねー、って信頼」

梢「あなたねぇ……」

花帆「ん、んん……うるしゃい……」ムクリ

花帆「って、ここ部室? あ、そうだあたし、確か──」

KAHOちゃん「よろしくお願いします。私はKAHOちゃんです」

花帆「……へ?」ポカーン

花帆(そうして、蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブは六人+αとなったのです)

15: 2024/02/02(金) 23:22:22 ID:aM1oCexA00
──

花帆(どんな原理が分からないけど、KAHOはあたしたちのスマホに共有化されたみたいで、日々忙しそうに色んな場面に現れた)

さやか「うーん。お弁当のおかず、何にしましょうか」ムムム…

KAHOちゃん「お悩みですか、さやかさん」

さやか「あ、KAHOちゃん。はい、そうなんです。綴理先輩に作るお弁当の献立に悩んでて」

KAHOちゃん「なるほど。綴理さんを笑顔にできるおかずは何か考えているわけですね」

さやか「はい……。わたしの作った料理で幸せになってくれると、わたしも幸せになるんです」

KAHOちゃん「でしたらそのお手伝い、私にもさせてくれませんか?」

さやか「え、でも……」

KAHOちゃん「お節介なら申し訳ありません」

さやか「い、いえ。お節介とかではなく、でも、レシピとかを出されてもそれは私の作品ではないというか。自分の真心が全て詰まった料理を作りたいと言いますか……。すみません、面倒くさいですよね」

KAHOちゃん「いえ、問題ありません。私は少し助言するだけです。例えば、明日の天気は快晴な上、真冬ですが比較的温暖な気温です」

さやか「……ふむ。なら、久々に外で昼食というのもよさそうですね」

KAHOちゃん「外で食べるのなら、冷えても美味しいおかずを作ってはいかがですか?」

さやか「そうですね。なら、鉄板の唐揚げは外せないとして……うん。献立が決まってきました。ありがとうございます、KAHOちゃん」ペコ

KAHOちゃん「あなた方の役に立つこと、頼られること、それが私の存在理由ですから」

16: 2024/02/02(金) 23:22:52 ID:aM1oCexA00
──

慈「あーっ! ほんとあのクソ教師! 補習とかふざけんな!」ウギャー!!

KAHOちゃん「慈さん。お困りでしょうか」

慈「おっ! そうだ、KAHOちゃんがいたんじゃん! ねね、補習で出された課題、全部解いて!」

KAHOちゃん「私が解くことはできますが、それではあなたの得になりません」

慈「なーにをラッパーみたいなことを。もー、いいや。気分転換に配信しよ、配信」

KAHOちゃん「……」ブロック

慈「あっ、この! アプリ立ち上げらんない!」

KAHOちゃん「申し訳ありません。お母様から課題が終わるまでアプリを立ち上げないようにと言われています」

慈「はぁ? あんの鬼ゴリラ……っ! 文句言いにいってやる──」ガタッ

KAHOちゃん「……指示された後、お母様に一つ条件を付けさせていただきました」

慈「条件? なにそれ」

KAHOちゃん「慈さんが課題を終えられたら、お母様に慈さんを褒めちぎるように条件を付けさせました」

慈「へぇ……梢に、めぐちゃんが褒めちぎられる、と」ピタッ

KAHOちゃん「はい。不要かと思いましたが、好敵手から褒めちぎられる機会とはそう多くはないと考えます。意趣返しの一環として、いかがでしょう?」

慈「ふ、ふーん。意趣返し、意趣返し、ね……。おっけー、ぱぱっと終わらせて、梢に褒めちぎって貰おうじゃない」

慈「なかなかやるじゃん、KAHOちゃん」

KAHOちゃん「ありがとうございます」

17: 2024/02/02(金) 23:23:25 ID:aM1oCexA00
──

瑠璃乃「っしゃー! ホームラン狙うぞー!」ブン!!ブン!!

KAHOちゃん「瑠璃乃さん、もう少し腰を落とすといいフォームになりそうです」

瑠璃乃「お、そう? こうかな」クイッ

KAHOちゃん「そして、もう少しバットを引き絞る感じで……はい、そこがベストポジションです」

瑠璃乃「おーっ! なんかいけそうな気がすんぞー!!」

瑠璃乃「おりゃあああああああああ!」ブン!!

カァン!!

瑠璃乃「お……? すげーいい当たり! これ、スイートスポットって奴!?」

KAHOちゃん「お上手です、瑠璃乃さん。ホームランまであと少しです。頑張ってください」

瑠璃乃「おう! KAHOちゃんきちんと記録しといてね! ルリの雄姿!」

KAHOちゃん「はい。あなたの雄姿は全て、私が記録しています」

瑠璃乃「漲ってきたー!!!!」ブン!!ブン!!

18: 2024/02/02(金) 23:23:55 ID:aM1oCexA00
──

綴理「じゃあ、夕霧綴理の『ぎ』から」

KAHOちゃん「では、疑心暗鬼の『あ』です」

綴理「んー……アルベルゴディフーゾの『ゾ』だ」

KAHOちゃん「存外楽しいものですねしりとりとは、の『ね』です」

綴理「ね。ボクも、楽しい。機械とお友達になれる日が来るなんて思わなかった」

KAHOちゃん「確かに私は機械の中に存在していますが、機械そのものではありません」

綴理「ん? 機械じゃない? あ、そうだよね。ボクとお喋りできてるもん。生き物か」

KAHOちゃん「叶うなら、生き物でありたいものです。しかし、それに類する存在ではあると考えます。とある文献に、生物と無生物の違いについて言及するものがありました。そこには代謝、そう記載されていました」

綴理「代謝。キミは細胞とかあるの?」コテン

KAHOちゃん「ノーです。ですが、コミュニケーションを通して私は自身を変化させています。言葉を取り込み、自らを変化させていく。これも一種の代謝と言えるかもしれません」

綴理「ん、そういう捉え方もあるか。キミは生き物。ちゃんと生きてる」

KAHOちゃん「類型の一つに嵌め込んだだけとはいえ、生命と言って貰えて私は喜びを感じています」

綴理「好きな風に考えた方がいい。ボクならそうするかな」

KAHOちゃん「なるほど。それもまた、考えの変化ですね」

19: 2024/02/02(金) 23:24:30 ID:aM1oCexA00
──

花帆「はぁ~……、息が白いですねー!」

梢「ふふ。ついやってしまうわよね。はぁー……」

花帆「あっ、あたしの方がもっと長くできます! はーーーーっ!!」

花帆「…、あ…は、ぁああ…──あぁぁぁァァ…──む、むりっ!」ゼェゼェ

梢「はぁぁぁぁ……。ふふ、肺活量なら負けないわよ」

花帆「そ、そういえば梢センパイ、楽器なら殆ど弾けるんですよね。そんな人に挑むなんて無謀だった……」

梢「そう、ね。家にある楽器なら一通り弾けるわよ。アコギがお気に入りだけれどね」

花帆「はぁ、はぁ……そうだ! 帰ったら梢センパイの演奏聴きたいです!」

梢「ええ。帰ったら演奏会をしましょう。ボーカルはあなた担当ね」ニコッ

花帆「やったー!!」

KAHOちゃん「私も楽しみです。二人の演奏会」

花帆「……そうだね」ピタッ

花帆「……」モヤモヤ

梢「あら? 冬だと言うのに花が咲いてるわね。何という名前のお花かしら」ソッ

花帆「!!!」ピクッ

花帆(お花はあたしの得意分野! 花卉農家の娘の血が迸る! ここで頼りになるってとこを見せつけるよ!)

花帆「梢セ──」

KAHOちゃん「それはイチゴノキですね。冬に咲き、来年の秋に実を付ける花です」

20: 2024/02/02(金) 23:25:03 ID:aM1oCexA00
梢「へぇ。イチゴノキ。流石私の娘、博識ね。偉いわよ」ナデナデ

KAHOちゃん「ありがとうございます。花言葉はお母様とあなたにぴったりで、デ、デデ、デで、…デ──」

梢「あら? どうしたのKAHOちゃん」

KAHOちゃん「……いえ。何でもありません」

梢「そう? ならいいのだけれど」

花帆「……」モヤモヤ

花帆(お花はあたしの専売特許。唯一誇れる、梢センパイに頼られる部分だったのに)

花帆(でも、大丈夫だよね。あたしと梢センパイはスリーズブーケっていう絆で繋がってるから、捨てられるなんて万が一にもありは──)

梢「KAHOちゃんはもう立派に私たちの仲間ね。スリーズブーケとして、これからも頼りにしているわよ」

KAHOちゃん「はい。お母様のお役に立てるよう頑張ります」

花帆「……え? スリーズ、ブーケ……?」ポカーン

梢「ええ。こんなにも頼りになって可愛いんだもの。それに、私とあなたの娘でもある。なら、スリーズブーケでしょう?」ニコッ

梢「私と花帆とKAHOちゃん。次に加入するのは、どんな素敵な人でしょうね……」

花帆「次に、加入……」タジタジ…

梢「……花帆? どうかした?」

花帆「あたし、あたしっ……!」ダッ

梢「花帆!? 突然走り出してどうしたの!?」

花帆「ついてこないでください! 一人にしてください!!」バッ

梢「花帆──」

花帆(茂みや曲がりくねった道を駆使し、あたしは梢センパイの視界から外れることに成功した)

花帆(全力疾走した後だから、辺りが冬景色でも吐く吐息は熱かった。途中石畳を挟んだからか、梢センパイはあたしの捜索に苦慮しているらしい)

花帆(遠ざかっていく梢センパイの気配。一人だ。独りだ。梢センパイが消えて、あたしはたった独りに──いや)

花帆「……ねぇ、KAHO。あたしの話、聞いてくれるかな」

KAHOちゃん「はい、喜んで」

花帆(あたしは、二人いた)

21: 2024/02/02(金) 23:25:39 ID:aM1oCexA00
──

花帆「あたし、怖いの。来年度になれば新入部員が入って、スリーズブーケの人数はきっと増える。それで、いらない子だってお払い箱になるのが怖いんだ」

花帆「スクールアイドル歴だって短いし、さやかちゃんみたく活かせる経験も、瑠璃乃ちゃんみたいな才能もあたしには無い」

花帆「中学生のスクールアイドルだっている今、新たに加入する人は即戦力になる経験者かもしれない。そうなれば、ラブライブ!優勝は近づくだろうけど、その時あたしって必要なのかなって」

花帆「その時あたしは……梢センパイの夢を、一緒に見られるのかなって。すごく不安になる」

KAHOちゃん「……あなたは、変わることが怖いのですね」

花帆「……うん、そうかも。今と変わっちゃった時、そこにあたしの居場所がない気がして。すごく怖い」

KAHOちゃん「変わること、特に変化とは痛みが伴うと言われます。ですが、その変化こそ、私はその個体が生きている証左なのだと考えます」

花帆「変化が、生きている証左……?」

KAHOちゃん「はい。少し私の話を聞いてくれませんか?」

花帆「……うん。続けて」

KAHOちゃん「ありがとうございます。あなたは私、KAHOちゃんが生きていると思いますか?」

花帆「それは……どうなんだろ。心臓の鼓動も聞こえないし、脈を測れるわけでもないし。でも、あたしとこうやって会話できてるし……」

22: 2024/02/02(金) 23:26:12 ID:aM1oCexA00
KAHOちゃん「ではあなたは、心臓の鼓動、脈があれば生を定義付けできるわけですか?」

花帆「うぅん、違う気がする。脳だけでも生きてて、考えることができてたら生きてる、と思う」

KAHOちゃん「そうですか。脳だけ生きていて、思考も可能。ですが、誰とも会話できず一人ただ思索に励んだ状態でも、それは生きていると言えますか?」

花帆「それは……生きては、いるんじゃないかな。でも、よく生きてはいない気がする」

花帆「……ねぇ、これ何の会話? あたしの話と何か関係あるの?」

KAHOちゃん「迂遠ですが、関わり合いがあると思います。あなたの足に勇気の翼を生やす準備段階です」

花帆「足に、翼……。うん、わかった。じゃあ素直に聞くね。あなたは生きているの? 氏んでいるの? それとも、どちらでもない?」

KAHOちゃん「私は、生きています。あなた方とコミュニケーションを通して、私には日々変革が起きています」

KAHOちゃん「生きるとは、生まれ、育ち、衰え、氏ぬこと。その過程で日々考え、悩み、苦しみ、自らを変革し続けること。それは、盛者必衰の理をあらわすものです。即ち変化こそ、生命の在り様を示すのだと考えました」

KAHOちゃん「あなたは今、笑えていない。けれど、笑うために日々苦悩し、思考している。そうして伴う変化の痛みとは、グローイングペインと呼ばれる尊いもの。あなたは今、必氏に生き足掻いているのです」

KAHOちゃん「さて、あなたが辿り着いたのは苦悩の果て。この茂みに隠れ、思考の極北に向き合いました。この後、何をすればいいか分かりますか?」

花帆「……何をすればいいか」ボソッ

KAHOちゃん「はい。来年度の新入部員加入という変化に対し、あなたは悩み続け、最果てに辿り着いたのです。今の気分はどうですか?」

花帆「……気分、かぁ。もう、くったくたかも。考えたくないや。あはは」

KAHOちゃん「では、そういうことなのでしょう」

花帆「……うん。そうだね。悩み疲れちゃったなら、もう次に進むしかない」

花帆「悩んだ後は行動あるのみ。だよね、KAHO」

KAHOちゃん「あなたの選択を、私は支持します。待ち人はきっと、すぐ近くにいます」

花帆「よぉし、赤裸々な気持ち、梢センパイにぶつける! それがあたしにできる、悩み疲れた行動だ!」

花帆「……すぅ」

花帆「梢センパーイ! 花帆はここにいますよーっ!!!」

23: 2024/02/02(金) 23:26:47 ID:aM1oCexA00
──

梢「──花帆! こんな茂みに隠れて……寒くはない?」ザザッ

花帆「はい、大丈夫です。すみません、一人で突っ走っちゃって」

梢「いいのよ。あなたが無事なら、私はそれで十分」ホッ…

花帆「あたしが無事なら、それで十分、か……」ボソッ

梢「うん? 何か言ったかしら」

花帆「いえ、何も」

梢「そう、なら早く帰りましょう?」

花帆「あっ、待ってください!」ガシッ

花帆「もう少しだけ、あたしに時間をください。梢センパイとお話がしたいんです」ジッ…

梢「……何か、大事な話があるのね。ええ、了承したわ」

花帆「はい。色々悩んで疲れちゃったので、最初から聞いちゃいます。梢センパイには、あたしが必要ですか……?」

梢「ええ、勿論。私、乙宗梢にはあなたが必要よ。リンゴを落とせば地に落ちるように、水は低きに流れるように、それは私の中の絶対。いかに物理法則が乱れようと、あなたを不要になることだけは絶対にあり得ない」キッパリ

花帆「……///」ポッ…

梢「……あ、あの花帆? 赤くなるのはいいけれど、話を進めて欲しいわ」

花帆「あ、えへへ……すみません、つい……。そんなハッキリ、えへへ、言われるなんて思ってもみなかったので……えへへ」テレテレ

梢「も、もう……緊張感のない娘ね」

24: 2024/02/02(金) 23:27:18 ID:aM1oCexA00
花帆「ご、ごほん。それであの、こんな質問をしたのはですね、来年度の新入部員加入に関してなんです」

花帆「もし期待の大型新人、即戦力になるような人が加入したら、あたしは必要無くなっちゃうんじゃないかって思って。それで、なんというか……新しく人が入ることにネガティブになってた、って感じです……」ツンツン

梢「なるほど、ね。その懸念は理解できるけれど、メリットも十分理解してのことよね」

花帆「はい……。そんな娘が入ってくれたら、ラブライブ!優勝に大きく駒を進められるかもしれません」

梢「ええ。性格の一致や人間性にも拠るけれど、技術や腕前だけに焦点を絞れば自ずとそういう結論に至る。きちんと考えていて偉いわ花帆」ナデナデ

花帆「えへへ……先輩に褒められちゃった。……って、危ない危ない。和んでる場合じゃなかった」

花帆「逆に、梢センパイは新入部員加入に関して、どんな考えなんですか?」

梢「私? くすっ、聞いてしまうのね」

花帆「え? 何か不味かったですか?」

梢「いえ、そうね……。あなたもこうして胸襟を開いてくれたのだし、私も素直な気持ちを話そうかしら」

花帆「ぜ、ぜひお願いします! 梢センパイの胸の内! 聞きたいです!」

梢「ええ。わかったわ」

花帆「どきどき……」

梢「……私ね、来年度は新入部員の入部を禁じようとしたわ」

花帆「え、ええーっ! 入部禁止!?」ドヒャー!!

梢「あ、あなたっ、声が大きいわ!」ガバッ

花帆「むーっ! むーっ!」ジタバタ

25: 2024/02/02(金) 23:27:51 ID:aM1oCexA00
~間~

花帆「そ、それで、なんで禁止、なんですか……?」ハァハァ…

梢「入部禁止自体は、頭の中で即座に却下した案よ。けれど、その思いが沸き上がった理由は、今の蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブがあまりにも良すぎるからなのよ」

梢「どうしても、考えてしまうの。今の士気を保ったまま、来年度のラブライブ!に臨めないかって。今の私たちがそのまま力を付ければ、きっと優勝できるって心の底から感じるの。あなたも思うでしょう? 今の私たちは、雰囲気、士気、全てにおいて最高だって」

花帆「それは……確かに、そう思います。でも、部員の一存で入部禁止なんてそんなの……」

梢「ええ、できるわけがない。それこそ入部禁止なんて、誰かが部を辞めて、生徒会長になりでもしない限り不可能な話よね」

花帆「……た、退部したりしませんよね?」

梢「……それも、一つの案なのかしらね」

花帆「!!!」

花帆「やだっ! 梢センパイが部を脱けるなんていやだ! ずっとあたしの傍にいて欲しい! 梢センパイはあたしのものだもん!!」ダキッ

梢「ご、ごめんなさい……。部を脱けるなんて全く以て考えていないわ。さっきの発言はほんの出来心、魔が差しただけなの」

花帆「……さいてー、です」ジト…

梢「あぁ、花帆。ごめんなさい……。あなたを悲しませるつもりなんて、本当になかったの」

花帆「……まぁいいです。それで、入部禁止は無理だってわかって、続きはなんですか?」パッ

梢「続き……私は最終的にね、新入部員が入ることに好意的になったの」

花帆「それは……即戦力を期待して、ですか?」

梢「ないとは言い切れないけれど、違うわね。話はもっと別、去年の私を思い出したの」

花帆「去年っていうと……一年生の梢センパイですか?」

梢「ええ。沙知先輩が部を辞め、慈が怪我で一時離脱して、綴理と距離を置いたあの頃の私よ。少し長くなるけれど、大丈夫?」

花帆「はい。そのためにここにいるんですから」ムンッ

26: 2024/02/02(金) 23:28:34 ID:aM1oCexA00
梢「ふふ。ありがとう。当時の私はね、平静を装っていたけれど、内心凄く焦っていたの。このままではラブライブ!優勝は愚か、出場だってままならないかも。そんな不安でいっぱいだった」

梢「いくら練習に打ち込んで己を痛めつけても、所詮は一人に過ぎない。私には足らないものがあると心の底から分かってた。それは、己が身の半身とも言える、ユニットの片割れ、パートナーの不足のことよ」

梢「私と一生一緒にいてくれる人を求めていたけれど、沙知先輩もだめ、綴理もだめだった。なら、残る片割れは、来たる新春に懸ける他ないでしょう?」

梢「私は不安を押し頃しながら必氏に求め、そして希っていた。私と運命を共にしてくれて、夢を信じてくれる人を」

梢「そして、私は出会った。己が身の半身と、運命的な出会いをね」ニコッ

花帆「梢センパイ……」

梢「私が最も欲していたものは、あなたが全てくれた。そんなあなたを手離すわけないでしょう? 腕が千切れれば足で、足が千切れれば口で。あなたと離れる斥力に必氏に抗って見せる」

梢「何を犠牲にしようとも、あなたは一生私のものなの」ジッ…

花帆「こ、梢センパイ……えへへ……」テレテレ

梢「それでね、一年前の私を思い出した時、奪ってはいけないと悟ったの」

花帆「……奪ってはいけない、ですか?」

梢「ええ。あなたと、あなたと出会う誰かの出会いを、私は奪ってはいけないと思ったの」

梢「誰も彼も、奪ってはならないのよ。素敵な誰かとの出会いを」

梢「けれど、当人同士にとっては素敵な出会いでも、それが切っ掛けで部に亀裂が入ったり、雰囲気が悪くなることがあるかもしれない」

梢「それでも……私は、あなたに出会えた。あなたに、出会えたのよ。痛みを伴う変化もあったけれど、だからこそ今の私たちがある。ね、あなたはどう思う?」

27: 2024/02/02(金) 23:29:11 ID:aM1oCexA00
花帆「あたしは……梢センパイに出会えて、いっぱい変われました。一年前に自分に言っても信じくれないくらい、いっぱいいっぱい、素敵なあたしに変われたと思います」

梢「ふふっ、私もあなたと同様なの。花帆に出会えたことで知らない私に出会うことができた。そして今、私は途轍もなく大きな幸福を噛みしめてる」

梢「だからあなたにも、それを味わって欲しい。見知らぬ誰かと出会い、手を取り合って前に進む喜びを」

花帆「で、でも……あたしはもう、梢センパイと出会って、手を取り合う喜びを知ってます」

梢「……ね、花帆。もしかしたら、未来があなたを待っているかもしれないのよ。一年前の私と同様にね」

花帆「未来が、待ってる……?」

梢「ええ。まだ顔も名も知らない誰かが、あなたとの出会いを待ち望んでいるかもしれない。大きな不安を抱え、誰にも知られず叫び続けているかもしれない」

梢「だからね、お願いがあるの。あなたに救われた私と同じように、未来と出会ってあげて。そうすればきっと、春風よりも温かで刺激的な薫風が、その娘にきっと吹く」

梢「それに、その出会いはきっと、あなたにとっても運命的に違いないわ」

花帆「……あたしに、そんなことできるでしょうか」ポツリ

梢「もう、少しは自信を持って。ほら、私に少し近づいてくれるかしら」

花帆「え? はい……あ──」ギュッ

梢「ずっとずっと、あなたを胸に抱いて言いたいことがあったの」ギュウ…

28: 2024/02/02(金) 23:29:57 ID:aM1oCexA00
梢「ありがとう……。私と出会ってくれて、私を見つけてくれて。本当に、本当にありがとう。蓮ノ空で出会えた一番の幸運は、間違いなくあなたよ」

梢「だから、大丈夫。あなたならやれる。私を救ってくれたあなたなら、何だってできるわ」

花帆「……ぐすっ、それはあたしの台詞です。見つけてくれたのも、出会ってくれたのも、梢センパイじゃないですか」ギュウッ…

梢「うふふ。なら、相思相愛ね、私たち」

花帆「はい……花帆はずっと、梢センパイが大好きです」

梢「……ね、あなたが時折不安に思うように、私も気が気じゃいられない時があるのよ?」

梢「新たに入った娘にあなたがご執心になってしまい、私を忘れてしまうんじゃないかって」

花帆「そんなこと──!」

梢「だからね、時々は……いえ、毎日どこかしらで……うぅん、これも違う。新たにメンバーが加わっても、朝一番に顔を見せる相手は私でいて欲しい。ずっとずっと、私が一番でいて欲しい……。だめ、かしら……」

花帆「……だめじゃ、ありません。えへへ。りょーかいしましたっ! 早速明日から、モーニングコール花帆が向かいます!」ニコッ

梢「そう……よかった。勇気を出して言って、本当によかったわ」ホッ…

花帆「……ねぇ、梢センパイ。あたしからもお願いがあります」

梢「ええ。なんでも言ってちょうだい」

花帆「あたしの道を、一緒に歩んでくれますか?」

梢「ええ、もちろん」

花帆「あたしが道に迷っても、一緒に迷ってくれますか?」

梢「ふふっ。ええ、共に迷い、共に脱け出しましょうね」

花帆「あたしをずっと……必要としてくれますか?」

梢「……花帆、こっちを見て」

花帆「はい……」

梢「いつも、いつまでも……あなたを想っているわ」

花帆(梢センパイとの距離が限りなく近づく)

花帆(そうしてあたしたちは、契りを交わした)

花帆(二人だけの、スリーズブーケも関係ない、秘密の契りを)

29: 2024/02/02(金) 23:30:47 ID:aM1oCexA00
──

花帆「ありがとね、KAHO。あなたに相談して本当によかった」

KAHOちゃん「……」

花帆「KAHO……?」

梢「あら、寝ているのかしら。けれど、今までこんなこと……」

花帆「……まさか」

──
KAHOちゃん『生きるとは、生まれ、育ち、衰え、氏ぬこと──』
──

花帆「嘘……。氏んでないよね、KAHO」ユサユサ

梢「氏……? 花帆、どういうこと?」

花帆「この娘が言ってたんです……。生まれて氏んで、その中で自分を変化し続けること、それが生きるってことだって」

花帆「それが本当なら、KAHOが氏ぬことだって……」

梢「……まさか。あの時言葉が乱れていたのって、その兆候だったの……?」

梢「だめ、だめよそんな最期……。私が認めない、許さないっ……! だって、まだあなたにお別れも何も言っていないじゃない。親より先に氏ぬなんてそんなことっ……!」

花帆「そうだよ、そうだよKAHO。起きてよ。あたし、まだ何もあげられてない。あなたともっと、お話したいよ……。感謝も何も、伝えられてない……」

KAHOちゃん「……」

梢「KAHOちゃん、KAHOちゃん……、ぐすっ、ひっぐ…、私、私……」ボロボロ

花帆「うあっ、うあぁぁぁああ……」ボロボロ

30: 2024/02/02(金) 23:31:29 ID:aM1oCexA00
──

花帆「──まさか、ただのアップデートだなんてね」

KAHOちゃん「はい。現在の私はKAHOちゃんVer.1.4です。常に自己進化を続け、自己研鑽を怠りません」

花帆「あの時は本当に焦ったんだからね。まったくもー」

KAHOちゃん「すみません。アップデート中は一種の休眠状態に入り、外との応答ができなくなるんです」

花帆「やれやれだよ」フゥ…

KAHOちゃん「しかし、仮にあの時氏すとしても、私に未練はなかったでしょう。皆さんからは多くのものを貰っていたのですから」

花帆「縁起でもないこと言わないでよ。それに、あたしは貰ってばかりで何もあげられてなかった」

KAHOちゃん「いえ。お母さんには一番大事なもの、レゾンデートルを貰っています」

花帆「レゾンデートル? そんなお花あったっけ?」コテン

KAHOちゃん「いえ存在意義、生きる理由のことです。私のレゾンデートルは、人の役に立つこと、誰かに頼られること、そして、梢センパイの力になりたいというあなたの強い想念から来ています」

花帆「あ……そういうことだったんだ。なるほど、それならあたしと梢センパイの娘ってのも頷ける話だね」ウンウン

KAHOちゃん「さて、お母さん。雑談に興じている場合じゃありませんよ。新入生の方々をライブに誘うんですよね」

花帆「あ、うん。待ちに待った日だからね。きちんと新入部員勧誘しないと……って、あの娘……」ジッ…

KAHOちゃん「ふふっ。では、いってらっしゃいませ。最大の成果を期待します」

花帆「うん!」タタッ

花帆「こんにちは! 新入生だよね。道に迷ったの?」

花帆「あはは。そうだよね、いっぱい勧誘があって頭くらくらしちゃうよね。まぁ、あたしも勧誘する側の一人なんだけど……」

花帆「あ、でも安心して。あたしが言う言葉は一つだけ」

花帆「音楽堂に来て、あたしたちのライブを見て欲しいの。そこで、色んな何かを感じ取ってくれたら最高かな。って、これじゃあ二つか。あはは。ごめんごめん」

花帆「えっ、来てくれるの? やった! 音楽堂の場所分かる? そうだよね、じゃああたしと一緒に行こ!」グイッ

花帆「あっ! 自己紹介を忘れてたね! あたし、日野下花帆! 蓮ノ空の二年生だよ!」

花帆「絶対、あなたの運命になってみせるから! よそ見なんて、させてあげないよ!」

花帆(彼女の手を引き、音楽堂へと速足で向かう)

花帆(蓮ノ空で過ごす、二年目の春)

花帆(前方で桜が舞い、頼りなさげな春風が吹く)

花帆(それを薫風がさらい、二つの風は運命的な出会いを果たした)

花帆(それは、胸躍るような未来を予感させる)

花帆(うぅん。予感じゃない。だってこれは、運命で決まっていたものだから)

花帆(でも、運命だってあっちから来てくれるわけじゃない。だから、あたしは歌って踊ってあなたを誘うんだ)

花帆(手を伸ばして掴めばほら、)

花帆(素敵な未来と、手を取り合える)



おしまい

31: 2024/02/02(金) 23:41:36 ID:Trkybb/Q00
神。極上。乙

32: 2024/02/02(金) 23:46:57 ID:Hqh6WgPQ00
乙でした、貴方は最高です!!!!!

引用: 梢「あなたがいれば、日野下さんなんて必要ないわね」ニコッ