205: 2015/02/04(水) 13:19:07.25 ID:pagBBv/q0

206: 2015/02/04(水) 13:19:49.09 ID:pagBBv/q0
淡いオレンジ色の空。見慣れているはずなのに、どこか見知らぬ感覚のする街。
それが、夢の中の光景だと理解するのに時間はかからなかった。

お面を被った人々がゆっくりとすれ違って行く。
その顔に見覚えがあったような気がしたが、私は歩みを止めずにいた。
周りの景色に気を取られつつ歩いていると、急に目の前が開けた。
道の前には何も無い。すれ違う人の姿もいつの間にか消えていた。

走る。何かが目に映るまで私は走る。
何かがおかしい。景色も、自分も、世界も。
魔法少女であるはずの自分が、こんなにも早く息が切れるものだろうか。

ショーウインドの方に目をやる。身体が引いた。
ガラスが反射して映し出されたのは決別したはずの、髪を結んだ眼鏡の少女。
空の色が変わって行き、黒色が世界を覆う。道すらも見えなくなっていく。

待って。

何かを追い求めるように手を伸ばしながら走り続ける。
道が完全に消えかけた時、手に感触があった。押して、扉が開く。
開いた先に足を踏み入れた刹那、落下していく自分が分かった。
暗闇の中を声を上げる暇さえなく、落ちていく。苦しい。
暗い水の中に落ちたようだ。だが、浮かぶことはない。
重しでもつけているかのように、身体がどんどん沈んでいく。
必氏に手を上へとやりながら遠ざかって行く光を見た。
抗う気もなくなり、腕は身体と同様に沈む感覚に委ねられた。
光の中から何かが現れる。力の無い手を掴もうとするものがいた。

細い腕を伸ばした少女の姿を見る。

助けてくれる。

赤いリボンを結んだ少女だった。羽が宙に舞う。天使。いや、神様?

にっこりと笑ってみせたそれは、ずっと私を見つめていた。

あの姿は、あの笑みは、差し出された手は。


私は、その手を取れなかった。
第1話 みんなでなら魔法少女になれる気がしたの
207: 2015/02/04(水) 13:22:00.55 ID:pagBBv/q0
浮遊感がして、目が覚める。

今までのループの中で、五指に入る寝覚めの悪さだ。
必要が無いのに、枕元の眼鏡を探そうとしてしまったから精神的にまいっているのかもしれない。
時計を見る。行く気は無いが、学校は2時間目の授業が始まっていた。
初めの方はまどかとの接点を得るために通っていたが、もう必要は無い。
私服に着替えて首に絡まった髪の毛を直す。

玄関のチャイムが鳴った。

杏子「おーい、いないのか?」

間延びした声が少し聞こえた。やめてほしい。
内装は能力でいくらでも拡げられるが、外装はただのアパートだ。声が響いて近所に聞かれたくはない。

杏子「……やっぱいないか?学校ある時間だし、当然か。また後でくればいいや」

帰ろうと思わせる前に扉を開く。私は、焦ってミスを犯した。
どうせ後で来るのなら今招き入れようとする必要は無かった。

杏子「あ、いたのか。って、何?その顔」

ほむら「顔?」

杏子「なんか、胸糞悪い夢でも見てたって面してるよ、お前」

ほむら「あなたには関係無いわ」

酷い顔。形容された通りの顔をしているのだろうなと私も思った。
夢の内容はもう殆ど忘れかけていたが何かを掴もうとして掴めなかった記憶はあった。
差し出された手を取れなかった原因。考えて、昔の自分の姿を思い出す。
まだ、弱さが残っているということだろうか。まだ、甘さが残っていたのだろうか。それが、あんな夢を見せたか。

208: 2015/02/04(水) 13:22:36.09 ID:pagBBv/q0
ほむら「それより、中に入って。話すついでにお茶くらいなら出してあげるから」

杏子「はいはいっと。じゃあ、おじゃまするよ」

杏子が家の内側に入る。家の内観を変えた。

杏子「なんだ!?」

ほむら「慌てないで。ただの私の魔法よ。家の中の空間に手を加えて使いやすくしただけだから」

杏子「これがお前の……幻覚か?」

ほむら「いいえ。本物よ。立体映像も交えているけれど」

立体映像の照射機は具体的な説明をするのに役立つ。
いちいち図を手作業で示すのは骨が折れた経験がある。

ほむら「好きにかけて」

杏子「あ、ああ」

いつ話を切り出そうか悩む。内観を変えない方が話しやすかっただろうか。
落ち着かせるためにどうすればいいか。

ほむら「少し待ってて。お茶を出すわ」

台所へと向かって紅茶の葉を出す。
温めておいたカップ……は無い。あの人はこういうものに関してはうるさかったけれど私は気にしない。
客人もそんなことを気に留めるような性格ではないと思う。

適当なお菓子を皿に載せて。部屋に戻るとこちらを訝しげに覗く杏子がいた。

209: 2015/02/04(水) 13:35:01.36 ID:pagBBv/q0
杏子「それにしてもさ、どんな神経しているんだか。敵になるかもしれない相手にさ。いない間に、帰るところが無くされちゃうかもしれないよ」

ほむら「自信がある」

杏子「自信?へえ、舐められたもんだね。ちょっとグリーフシードを持っているからって調子に乗っちゃってさ」

ほむら「違う。あなたがそんな事をするような人物ではないという自信」

杏子「はあ?なんであんたなんかに分かるのさ。あたしは、お前の事なんざなんも知らねえってのにさ」

ほむら「分かるのよ」

杏子「なんだよ、それもお前の能力ってやつ?」

ほむら「そういうものだと思ってくれていいわ」

言ったところでどうにかなるわけでは無い。
明確に話す必要も、話さない必要も無い。

杏子「ふうん……それじゃ、なんであたしを呼びつけたのか話してもらおうか?」

ほむら「そうね。長話は好きじゃないから、手短に言う」

自分の記憶にある奴の姿を魔法を使ってスクリーンに映し出して杏子に見せた。

ほむら「数日後にワルプルギスの夜がこの街に現れる」

杏子「!? あの超弩級の魔女ってやつか!それを倒すために力を貸せってこと?」

ほむら「ええ、そう。報酬は私の手持ちのグリーフシードを好きなだけ。入用なら先払いでいくつか渡しても構わない」

私の記憶が正しければ、彼女は損得で動く魔法少女だ。
使用する魔力と手に入るグリーフシードの数を比べて戦うかどうかを選べるタイプである。魔法少女らしいといえばそうなのだろう。だから、これくらいの条件を示せば食いついてくる。
美樹さやかが魔法少女になった場合、ワルプルギスの夜が来る日まで魔女になってしまっている可能性は高い。
そして美樹さやかが魔女になった場合、佐倉杏子がその魔女と戦って相討ちになってしまう可能性も高くなる。なら、そうなる前にこちらに取り込んで置いた方が益になるだろう。
幸い、彼女のスタンスは自分のやり方と馬が合う。頼る必要は無いが、居て困る存在ではない。


210: 2015/02/04(水) 13:35:32.43 ID:pagBBv/q0
杏子「いくつか聞きたいことがある」

ほむら「どうぞ」

杏子「まず、なんでお前……ほむら、だっけか?ワルプルギスの夜が来るタイミングが分かるんだ」

ほむら「統計よ。けれど、外れる可能性は限りなく低いくらい正確なデータだとは言っておくわ」

何しろ、自分が何度も体験して証明しているのだ。
証拠は出せないが、信じてもらわなければならない。

杏子「じゃあ、どうしてあたしを誘った?この街にはさやかも、それにマミのやつだっているはずだろ?」

ほむら「あなたが一番頼りになると思ったから。それに、美樹さやかは私の戦い方と相性が悪い」

杏子「戦い方?距離は似てると思ったけれど」

ほむら「押し引きが分からない人と一緒に戦うのは面倒なのよ。戦いの最中に気にする事は出来るだけ少なくしておきたい」

杏子「なら、マミは?」

ほむら「巴マミが戦うなら、その周りの人間も戦いに巻き込まれる。美樹さやかも、その中に入っているわ。でも単純な戦力で考えれば一番高いわね」

杏子「それで、面倒が少なくて戦力になりそうなのがあたしだって言うわけか」

ほむら「理解してくれたかしら。こちらには十分な報酬と戦略がある。こちらの指示通りに動いてくれれば勝てるはずよ」

これだけ言えば、手を貸してくれるはず。
そのはずだった。

杏子「悪いけど、手は貸せない」

ほむら「……何か気に入らない部分でも?」

杏子「いいや、違う。ただ、これはあたしのワガママだ。だから、お前と一緒に戦えない」

ほむら「どういうこと?勝てる算段があって、報酬もある。これ以上何を望むの?」

杏子「別に、何も」

ほむら「じゃあ、どうして!?」

私は杏子に詰め寄る。予想外の返答に動揺していた。

211: 2015/02/04(水) 13:36:05.64 ID:pagBBv/q0
杏子「戦いたくないから」

ほむら「戦いたくない?魔法少女が?……何を言っているのあなたは」

杏子「あたしは、希望に縋りたいだけさ。信心深いからさ」

ほむら「戦いが怖くなった?」

杏子は何も言わずに否定した。
カップの中身を飲み干すと立ち上がる。

杏子「お茶、ありがと。それじゃあ」

立ち去る前に私は思考を巡らせた。
杏子が戦う気を無くす要因となったのは何か。周回を繰り返して些末が異なる事は何度かあった。それでも、根本的な考え方が変わることは今までなかった。
その原因が、イレギュラーにあるのでは無いかと私は推測する。

ほむら「もしかして、あの男の影響?魔女の前で歌う……」

杏子「知っているのか!?」

報酬の話をした時以上に彼女は食いつく。予想以上の反応に戸惑う。

ほむら「し、知っていると言っても魔女の結界の中で見たことがあるだけで」

杏子「……そっか。あいつはやっぱりこっちでも同じように……」

何かに納得したかのように杏子はつぶやく。

杏子「なあ、お前はあいつの歌をどう思った?」

ほむら「どう……って」

杏子「聞いたんだろ?あいつの歌。魔女に向けて歌うあいつを見て、どう思った?」

唐突にそんな事を聞かれても困る。何しろ、私はあの男に興味が無かったのだ。

ほむら「特には、何も。……ただ、戦いの邪魔をしているようにしか見えなかった」

杏子「……そっか」

杏子の顔が一瞬曇る。思ったことをただ伝えただけ。
なのに、少し心苦しさを覚える。

杏子「そう思うんなら、ますます一緒には戦えないや。あいつは、その戦いを止めるために歌っているんだから」

ほむら「戦いを止める、ですって?何のためにそんなことを」

杏子「理由ね、あたしも知らないよ。けどさ、戦う必要がなかったら戦わなくてもいいんじゃない?」

ほむら「私たちは、このソウルジェムがある限り魔女を狩ってグリーフシードを得なければならない。そのシステムは知っているはずなのに、どうしてあなたはそんなことを……」

杏子「……同じだと思ったから」

ほむら「同じ……?」

杏子「魔女も何かに苦しんでいる。悲しいと思う心がある。……あたしらと同じように」

驚いて言葉を失う。
気づいたのだろうか、或いは誰かから聞いたのだろうか。
魔法少女の正体を。私たちの逃れられぬ運命を。


212: 2015/02/04(水) 13:37:08.59 ID:pagBBv/q0
杏子「心があるなら、戦わなくてもいい方法ってのがあるんじゃないかって。……歌っているあいつを見てそう思った」

ほむら「……無いわ」

杏子「え?」

ほむら「そんなもの、あるわけないでしょう。もしあったのなら、既に誰かが試している。成功している。それが無いから私たちは戦っている」

杏子の言うことが気に障って、私は強く否定した。

杏子「試してみなきゃ分かんねえだろ」

ほむら「そんなものを信じて、希望に裏切られた時のことを考えてないの?」

希望は絶望に変わる。それなら、最初から抱かなければいい。
彼女もそれくらいの答えには行き着いているはずだと思った。

ほむら「絶望が心を支配してソウルジェムが割れた時、私はあなたを撃たなければならない。その意味が分からないわけじゃないはず」

杏子「おい、どういうことだよ」

ほむら「何?っ!」

襟首をいきなり掴まれる。
咄嗟の事だったので反応できず、掴まれているから時を止めて抜け出すこともできない。

杏子「ソウルジェムが割れたら撃たなければならないって、つまり……それって」

ほむら「当然でしょう。絶望を撒き散らす魔女になれば、それを狩るのが魔法少女の使命なのだから」

杏子の顔が青ざめていく。
私はそこで、自分が思い違いをしていたことにようやく気がついた。

ほむら「まさか……知らなかったの!?」

杏子「知るわけないだろ!そんなこと!」

杏子が私の身体を突き飛ばす。

杏子「お前は、知っていたのかよ。その事を」

ほむら「……知っていたけれど、それが何?」

杏子「誰かに教えなかったのか。この街には、さやかやマミだっているんだろ」

ほむら「言ったところで、何も意味は無いわ。それに、信じてもらえないだろうし」

杏子「なんでそんな風に言い切れるんだよ」

そのくらい、もう試したことはある。
嘘だと思われ、信じられた時には私とまどか以外はみんな氏んだ。
それをもう一度繰り返せと?

ほむら「あなた何が分かる?」

杏子「分からない!だからお前のことは信用出来ないんだ!自分を何も見せようとしないくせに、全部分かり切ったような面しやがって」

ほむら「なら、交渉は決裂かしらね。残念よ、あなたが物分かりが悪いと分かって」

杏子「あたしが協力しなかったら、お前はどうするんだよ」

ほむら「一人でも戦うわ。元々、そのつもりだったから」

杏子「……っ、だったら、一人で戦っていろよ!あたしは、お前なんかとは絶対一緒には戦えないね」

そう言い放って、杏子は部屋を出て行った。
協力を得られなかったのは正直予想外だ。そして、何よりもその原因となった男の存在が気になった。
これ以上私の行動の障害になるようであればその懸念を無くさなければならない。

部屋のカーテンを開ける。
日は高く昇り、窓からの光に対して手を視線の影にした。

ほむら「やっぱり、結局信じられるのは自分自身だけということね」


213: 2015/02/04(水) 13:40:40.42 ID:pagBBv/q0
見滝原市 魔女の結界


さやかが回り込み、敵の動きを引きつける。マミの援護射撃が迫る影を撃ち落とした。

マミ「美樹さん!」

さやか「てやああああっ!」

振り下ろした剣が影に一閃を加える。

この魔女を最初に発見してから一週間が経とうとしていた。
定形を持たない相手であるためリボンでの拘束があまり意味をなさず、大きな威力をもつ攻撃でなければ仕留められない回復力もある。マミ1人では攻撃までの隙が生じるため、いままで追い詰めることができなかった。

さやか「……!こいつ、やっぱりすぐ元に戻っちゃう……」

マミ「相手の動きを引きつけて。その間に私が」

さやか「わかりました!」

返事をしつつ、さやかは影の腕が伸びる懐へと飛び込む。
必要最小限の反撃だけをしつつ、軽やかなステップで動きをかわす。

さやか(ほんとは、あんたにも何か思うところがあったんだろうけど)

多方向からの腕がさやかへと向かう。息を呑む。マミが見えたのは翻るマント。
影の手が掴んだのはさやかではなくそのマントだけだった。その間にさやかは敵の懐から逃げ出せていた。

マミ(あんな動き……いつの間に?っと、見惚れている場合じゃなかったわね)

リボンを銃の形へと巻き上げて実体化させる。
身体より大きな武器を構えて、マミは敵を見定める。

マミ「これで終わりよ、ティロ……」

巨大な弾丸が魔女の身体を貫く魔法。
何十回と行ってきたはずのそれを唱えようとして、マミは突然指先の感覚を失った。

マミ(あれ……これって、何?)

自分が今形作ったもの。巨大な銃のはずである。
分かっている。何度も繰り返してきた行程。それが一瞬頭の中から消えていた。

さやか「え、マミさん!?」

様子の変化に気がついたさやかがマミに声をかける。
その声でマミは我に帰って弾を放つ。
影の魔女が消滅する。

マミ(……今、私は何を考えていた?)

即座に引き金を引けなかった。
それどころか、銃を創り出すという動作そのものが認識できていなかった。

マミ(あのまま銃が撃てなかったら、私は)

214: 2015/02/04(水) 13:42:16.76 ID:pagBBv/q0
自分が思っていたことに手が震える。

さやか「マミさん……どうかしましたか?」

マミ「……ん、いえ。ごめんなさい。少し気が抜けていたみたい。心配かけてごめんね」

さやか「大丈夫ですよ。私だって、いつまでも腰巾着のままじゃないんですから」

マミ「ありがとう。それにしても見違えたわよ、いつの間にあんな動きを」

さやか「……ちょっと、ありまして」

さやかは考え事をしていた。
先日の出来事、魔女に武器を捨てて立ち向かった少女の姿を。

さやか(人に害をなすのなら……仕方ない……よね)

マミ「美樹さん?」

さやか「ああ、はい、何です?」

マミ「大丈夫?魔女はもう倒したのよ」

自分にも言い聞かせるようにマミは言う。

マミ「それとも、この魔女に何か?」

さやか「いえ……ただ、なんで魔女って現れるのかな……って」

マミ「……」

さやか「ああ、別にすっごく気になっているっていうわけではなくって。少し、疑問に思ったっていうか」

マミ「美樹さん。もし」

さやか「……何です?」

マミ「……いえ、やっぱり何でもないわ。そういえば、ソウルジェムは濁っていないかしら?余裕がある時はこまめに浄化しないと」

さやか「あ、そうですね。あたしって、なんか燃費が悪いみたいだから気をつけないと」

マミはグリーフシードを自分のソウルジェムに当ててからさやかに手渡す。

さやか「すみません。……そういえば、どれくらいグリーフシードを持っているんです?」

マミ「10は持っているわ。けっこう精力的に魔女は狩っていたから」

それだけの数だけ、魔女がいた。
思いを持つものが倒されてきた。

マミ「さやかさん?なんだか具合が悪そうよ、大丈夫?」

さやか「だ、大丈夫ですよ。できなかったことを悔やんでもしかたありませんし。それに、他にはもう心配事はありませんから」

マミ「心配事って?」

マミは少し気になって尋ねる。
もし自分が考えていることと同じ疑問を抱いていた場合、危惧していたことが起きるかもしれない。
自分ですら戦いの際中にそうなりかけたのだ。後輩がそうならない可能性は無いと思っていた。


215: 2015/02/04(水) 13:43:20.00 ID:pagBBv/q0
さやか「あ、ちょっと恭介と……」

しかし、さやかの悩みの理由はマミが危惧していたものとは違うものだった。

マミ「恭介?それってつまり……」

さやか「あ、やば……い、いや気にすることなんてないですって!」

マミ(なんだ、心配事ってそっちの話かあ。……まあ、それはそれとして気になるわね)

マミ「呼び方からして、親しいな男の子なのね。何があったのかしら?」

さやか「ええと……まあ簡単に言うと、どっちが先にバイオリン馬鹿を振り向かせることが出来るか競争している最中ですかね。……はあ」

マミ「……なんだか苦労してるみたいね。というか、それってまさか三角関係?」

さやか「だって恭介は今、バイオリンのことで頭が一杯で。こんな美少女たちを目の前にしておいてどうしてそうなるのかなー……はあ」

ため息をつくさやかを見て、マミは正直返答に困った。
後輩が自分よりも遥かに進んだ場所にいることに、危機感さえ覚えていた。

さやか「 マミさんはそういうの、経験豊富そうですよね。どうしたら相手が反応するかとか、分かります?」

マミ(うぐっ……な、なんでこんな流れになるの……?いや、興味を持って突ついたのは確かに自分だけれど)

マミ「そ、そういうのはちゃんと自分で考えた方がいいと思うわ。相手の気持ちを考えてあげるっていうだけでも嬉しがられるとは思うけれど」

さやか「うーん、そっか。自分のことばっかり考えていて恭介がどう思うかまでは少し忘れてたかも。ありがとうマミさん!ようし、これで仁美に差を付けられる」

マミ「ど、どういたしまして」

安堵しつつも、マミはさやかに聞こうと思ったことを心の内に留めることにした。
幸せそうに好きな人のことを語るさやかを見ていると、そんな事を知る必要はなかったのだと思い知らされる。
藪を突ついて蛇を出す。今の話だけではない。

さやか「それじゃあ、今日はこれからどうします?」

マミ「今日は……」

はっ、と息を飲む。

さやか「今日は?」

マミ「いえ、今日はこのまま解散。ごめんね、新作のケーキを買っておくつもりだったんだけど忘れちゃって」

さやか「いいですって。気にしませんよ」

マミ「今度、鹿目さんも呼んで一緒にお茶会をしましょう」

さやか「はい。じゃあ、お先に失礼しまーす」

変身を解いてさやかは離れて行った。
マミは軽く手を振って見送りつつ、意識を後方へと向けた。

216: 2015/02/04(水) 13:45:35.17 ID:pagBBv/q0

マミ「……久しぶりね」

角から、杏子が姿を見せる。
マミとは対照的に、変身はしておらず私服のままだった。

マミ「あなたの縄張りはこの街じゃないでしょう?どうしてここにいるのか、まず聞かせてもらおうかしら」

杏子「ちょっとした用があった。別に、魔女を取り合おうとかは思ってないよ」

素直に答えたことがマミには驚きだった。
無言、あるいは関係ないと突っぱねられると思っていた。

マミ(信じていいものかしら……)

少しだけ悩んだが、マミは杏子の性格にかけることにした。
わざわざそんな嘘をつくような性格ではないとマミは考えた。

マミ「じゃあ、なんの用?」

最後にマミが杏子と話したのはもう1ヶ月以上も前のことである。
二人は、戦いのスタンスの違いから決別をしていた。

杏子「………」

マミを前にして、杏子は言い淀んでいた。
知ったことを知人とは言え仲違いした相手に話すべきことなのかどうかを判断できずにいた。

杏子(言ったら、マミさんはどうする?そもそもあたしの言うことなんて信じるのか?けれど、言わないでいたら……)

見知った魔法少女が魔女になった時、自分はそれを倒せるのか。
ただでさえ、魔女とは戦いたくない。そして、倒す以外の魔女を止める方法はまだ杏子にはない。

マミ「言わないの?だったら、私もあなたに話したいことがあるわ」

杏子「え……?」

マミ「心配してた」

そう言うと、微笑を浮かべた。その顔を見て、杏子は肩の力が抜ける思いがした。




217: 2015/02/04(水) 13:47:26.03 ID:pagBBv/q0
杏子(ああ、そうだった。この人は……マミさんは……こういう人だった)

杏子「……ごめんなさい」

杏子が思わず言葉に出したのは謝罪の言葉だった。それに、マミは驚く。

マミ「あなたが謝ることなんて」

杏子「それでも、謝りたい。あたしのせいで、マミさんに心配をかけたから」

マミ「佐倉さん。あなた、変わったわね」

杏子「変わった、か。うん、そうだ。けれど、あたし1人の力じゃない」

マミ「何があったかはしらないけれど、前の佐倉さんよりはずっといいと思うわ」

杏子「あたしって、酷いやつだったな……」

心にもないことを口にして、心にもないことを行っていた時。
それに比べればたしかに大きな違いだろうと杏子は思う。

マミ「昔のことは言いっこなしにしましょう。私は、あなたがちゃんとやれているみたいで安心した」

杏子「……聞きたいことがあるんだけどさ」

マミ「ええ、何かしら?」

杏子「魔女って……」

マミ「?」

やはり、伝える勇気は無かった。

杏子「……ごめん、それは今はいいや。それより、ワルプルギスの夜が、この町に現れるんだって」

マミ「ワルプルギスの夜がこの町に!?でも、どうしてその事が」

杏子「ある同業者からの情報。いけ好かない奴だけど、嘘は言ってないと思う」

マミ「そう。ありがとう、縄張りの外にいる私にわざわざ教えてくれて。美樹さんにも伝えないと」

杏子「美樹……って、さやかのことか?」

マミ「えっ、知っていたの?」

杏子「まあ、この前少し関わりがあって。ところで、マミさんはそのワルプルギスの夜とやっぱり戦うのか?」

マミ「……さあ、どうかしらね」

杏子「え?」

そう微かに呟いたマミの姿は、杏子の記憶に映るマミの姿とは異なっていた。

マミ「ワルプルギスの夜はその強大さ故に結界を持たず、その姿が見えない者からは災害として認識される。町に留まることがあれば、被害は免れないでしょうね。町自体も、人も」

杏子「そうだったら、マミさんは……」

杏子(戦わずにはいられないんじゃないのか)

杏子が考えていたのは一緒に戦っていた時。
いつも自分以外の何かのために戦っている姿が思い出された。

218: 2015/02/04(水) 13:48:24.23 ID:pagBBv/q0
マミ「みんなを守るために勝てるかどうかも分からない敵に挑んで敗れる、か。……ふふ、正義の味方らしいとは言えるかな」

杏子「ちょ、ちょっと何で?そういうつもりじゃ」

マミ「確かに、そのほうが格好いいかもしれないわね」

杏子はマミの言葉に危なげな脆さを感じた。
自分から戦いの中で散ることを目的とするような言い方に疑問を覚える。

杏子「マミ……さん?」

マミ「ねえ、佐倉さん。私たちって本当に生きているのかしら?」

マミの言葉に、杏子はギュッと心臓を掴まれる思いがした。

杏子「生きている……って、それは……」

マミ「私ね、聞いたのよ。キュウべえに」

マミ「私たちがどういう存在で、私たちがどうなるのかを全部」

杏子「……マミさん、知っていたんだ」

マミ「その様子だとあなたも知っていたようね。いつ、どこで知ったのかしら」

杏子「あたしだって、知ったのは……今朝、ワルプルギスの夜の話を聞いた時」

マミ「そう。……そのいけ好かないやつ、同業者って暁美さんのこと?」

杏子「……!」

マミ「やっぱりね。あの子、全部知っていながら私たちには……」

杏子「何かされた!?」

マミ「いいえ、寧ろ助けてもらったわ。……あまりいいやり方ではなかったけど」

脚の付け根をさすりながらマミは当時の事を思い出す。
ほむらのせいで、見られたくない姿を後輩たちに見せることになった。
回復用のグリーフシードはもらえたし、あの時の姿を、魔法少女の危険さを見せることは悪いことでは無いことはマミも理解している。
それでも、マミの感情はどうしてもほむらの事を好意的に思うことが出来なかった。

杏子「じゃあ、マミさんがワルプルギスの夜と戦うかどうか決めていないのって、あれが私たちと同じ魔法少女だったから?」

マミ「いいえ。それは関係ないわ。ただ、生きているのか分からないような状態で、生きるために、誰かのために戦うなんてなんだかおかしくて」

自嘲するようにマミは言う。何かを言いたかったが、杏子は何も言うことができなかった。

杏子(マミさんは生きるために戦っていた。でも……戦うってことは、本当に間違いなのか?)

マミ「私たちもいずれはあんな風になってしまう。それなら、そうなる前に誰かの……いえ、自分の手でも」

杏子「マミさん、あんた一体何をするつもり」

マミ「何って、こう」

マミは自分のベレー帽を脱いで手に持つ。それに付いている自身の本体とも呼べるソウルジェムに短筒を突きつける。

杏子「なっ、馬鹿!何やってるんだよ、マミさん!」

マミ「あなたは耐えられる?いつかは自我もなくなって、この街の誰かを襲い、自分と同じ運命を辿るであろう魔法少女に倒される自分の未来に」

杏子「それは……」

マミ「私は嫌。ソウルジェムが魔女を生み出すというのなら、いつかはこうするしかない。誰かに撃たせるのは可哀想だから、その前に……」

言葉の中に、鬼気迫るものがあった。涙すら浮かべず、淡々とマミは続ける。

219: 2015/02/04(水) 13:50:14.37 ID:pagBBv/q0
マミ「それにね。さっきの戦いで、私は一瞬だけど魔法が使えなくなった。その意味が、あなたには分かるでしょう」

息を呑む。巴マミが契約をした時に願ったのは「生きる事」。
魔法少女は、その契約時の願いによって魔法を変質させる。そして、その願いが強ければ強いほど魔法の質は高まる。だが、逆に言えばその願い願わなくなった時、魔法少女は魔法が使えなくなってしまう。
杏子にも、その経験があった。家族を失った杏子は父親の話を聞いてもらうためという願いを失い、幻惑の魔法が使えなくなった。

杏子「……バサラ」

杏子が小声で呟く。

マミ「え?」

杏子「あたしは……新しい願いを見つけた。だから、今はそのために魔法をまた使える」

マミ「あなたが?そうだとしても……」

杏子「変わらないかもしれない。けど、何もせずに受け入れるなんてことは嫌だ」

マミ「……そう。それが、今のあなたを動かす原動力なのね」

マミはベレー帽をかぶり直すと変身を解いて制服姿に戻る。
杏子はほっと胸を撫で下ろした。

マミ「佐倉さんがそういう意思なら、私だけが先に降りるわけにはいかないわね」

マミ「一応聞くけれど、その運命に抗うための当ては何かある?」

杏子「当てになるようなものは……」

杏子はバサラを真っ先に思い浮かべた。
しかし、バサラの方法が果たして本当に解決策になり得るのだろうかと思うと口に出すのは憚られた。暁美ほむらのように、戦いの邪魔としか思われない可能性もある。

杏子「……よく分からない」

マミ「そう。実は、出来るかどうかの保証はないのだけれどこっちは一つだけあるわ」

杏子「本当か!?なんだよ、それ」

マミ「他力本願で、何の確証もないような話よ?」

杏子「それでも。そんな方法があるのなら!」

マミ「……ある、男の人の歌よ」

杏子「歌?もしかして、それって……バサラのこと!?」

マミ「え、知っているの?」

知っているも何も、と杏子はバサラの歌の良さを伝え始めた。
大部分はマミも同じように感じていたということ話し、そしてその歌を聞いていた時はソウルジェムの濁りが遅かったことも伝えた。

杏子「もしそれが本当だとしたら、魔法少女そのものが救われるかもしれない。ははっ、戦わなくてもいいんだ。そうだろ、マミさん!」

マミ「……そう、ね」

喜ぶ杏子に同意を示しながらもマミはその案が現実的ではないと考えていた。
1人の人間を自分たちのために利用する。
それは、非人道的な行いではないのか。

マミ(あの人の歌が解明出来たなら……あるいは……いえ、それでも根本的な解決にはならないかもしれない)

マミ(それに、そんな歌を持つ熱気バサラって人は一体何者なのかしら)

220: 2015/02/04(水) 14:04:16.23 ID:pagBBv/q0
バトル7 


先の戦争で歌エネルギーの重要性が軍部にも理解され、その研究の第一人者であり軍医であるDr.千葉にはそれなりの権限が与えられていた。
今、ミレーヌたちが演奏をしている音響施設もその権限の一つで基地内に増設されたものである。

Dr.千葉「調子はどうかな、ファイヤーボンバーの諸君」

計器から一旦目を離して千葉がマイクを通して録音スタジオのミレーヌたちに話しかける。

ミレーヌ「うーん……なんかここが上手くいかない。ねえビヒーダ。もう一回お願い。千葉さんもお願いします」

Dr.千葉「ふむ、分かった。ではもう一度いくぞ」

ビヒーダは無言で頷き、再びリズムを取り始める。そのリズムに合わせて、合成音のような曲が同時に流れ始める。曲に合わせて演奏をしつつも、所々で顔をしかめる。一度キリの良いところまで曲が進むと、ミレーヌはすぐに手製の譜面にコードが書き足していく。

ミレーヌ「これで合わないの……?だったらこれで……あとは……」

その様子を見てレイとビヒーダは目配せをする。

レイ「すみません、千葉大尉。煮詰まってしまったようなので少し休憩時間にしたいのですが」

Dr.千葉「むう、君たちの演奏は相変わらず興味深いデータが取れるし、私はただ指示通りに音を流すだけだから別に構わないが」

ミレーヌ「ちょっと!私はまだやれるわ。絶対このままじゃいられないんだから」

レイ「やれやれ。一時間前もそう言っていたが、結局まだ納得にはいたっていないだろう?」

ミレーヌ「それは…」

レイ「まだライブには時間がある。焦る必要はないんだ。一度頭をスッキリさせてからやった方が効率も上がるぞ」

ビヒーダが肯定の意思をドラムで示す。

Dr.千葉「いや、実に興味深いデータがまた取れた。本当に君たちには、ファイヤーボンバーには感謝してもしきれないよ」

レイ「いえ、こちらこそ。軍部には世話になっていることもありますから持ちつ持たれつというやつですよ。……ところで、その興味深いデータとは?」

Dr.千葉「ああ。先の大戦時のミレーヌ君の歌エネルギーのデータと今のデータを見比べてみると、なんと波長が一致しないんだよ」

レイ「一致しない?それは曲が違うから、ということでは」

Dr.千葉「いや、たとえどの歌を歌ったとしてもその質自体はだいたい変わらないんだ。歌自体の本質性というか……神秘性とでもいうのかね。私はそれを解明したくて日夜研究に励んでいるわけだが」

レイ「はあ……」

Dr.千葉「おっと。話が逸れてしまったな。とにかく、彼女の歌は変化している。成長していると言ってしまっても良いかもしれない。それがとても興味深い」

レイ「それはきっと、ミレーヌが成長しているってことなんじゃないですかね。いろんな事を経験して、いろんな事を考えて。それが歌にも現れ始めたというか……まあ、詳しいことは専門家ではないので分からないので一般論的な話になりますが」

Dr.千葉「なるほど、精神の成長が歌声の質を左右する。いや、素晴らしい着眼点だよ。そうだな……そうするとこれから候補生を募るとすれば若い……」

Dr.千葉が考えこもうとした時、部屋のインターホンが反応する。

221: 2015/02/04(水) 14:04:56.33 ID:pagBBv/q0
レイ「おや、もう帰ってきた……?」

Dr.千葉「いや、どうやら来客のようだ」

ガムリン「失礼。練習、お疲れ様です。少し様子を見に来ましたが大丈夫ですか?」

レイ「これはガムリンさん。お気遣い感謝します……おっと、ちょうど間が悪かったですね。ミレーヌならついさっき気晴らしに行ったところですから」

ガムリン「べっ、別にそんな邪な気持ちで来たわけでは……」

レイ「はは、冗談ですよ。……マスコミの件、ミレーヌから聞きました。ご心配をおかけしたようで」

ガムリン「いえ、あれは自分の考えが浅はかだったと身にしみましたよ。それよりも、自分の力が至らぬばかりにFIRE BOMBERの皆さんの手を煩わせる形になってしまって……なんというか……そう、不甲斐なく感じてしまって」

レイ「そんなお気になさらずに。こちらも久々に気合いの入ったバンド活動が出来るいいきっかけになりましたよ」

ガムリン「バンド活動?しかし、今バサラの行方は」

レイ「ドクター千葉が解析した音の波長。解析をしたら、それが曲なのだと分かったのですよ。そして、そのバサラのパートに合わせて曲や歌詞を付けて行く」

ガムリン「そ、そんなことが出来るんですか?打ち合わせも何も無しに」

レイ「もちろん、一筋縄じゃいきませんよ。ですが……あいつのパートを聞くだけで我々にはなんとなくですが分かるんです。それが、どんな曲で、どんな思いを伝えたくて歌うのか」

ガムリン「……阿吽の呼吸、というやつですか。言葉など無くてもお互いの考えが分かる」

レイ「そんな大層なものじゃありませんよ。言うなれば、長い付き合いからの経験則ってやつです」

ガムリン「結局、歌の力にはかなわないのか……」

レイ「え?」

ガムリンが呟くように言った言葉にレイが反応する。ビヒーダも刻んでいたリズムを止めた。

222: 2015/02/04(水) 14:05:26.47 ID:pagBBv/q0

ガムリン「分かってはいますよ。それが間違った考え方だということは。だが、やはりバサラは凄い。やつなら何でも出来てしまうと思わせられてしまう。……情けないな、俺は」

レイ「……ドクター、音を流して欲しい。ミレーヌのパートは抜きで通す。ビヒーダ、行けるな?」

千葉とビヒーダは頷き、曲が始まる。

まだ、マクロス7艦隊にいるファンの誰もが聞いたことのない新曲。
まだ未完成で、メンバーも揃っていない。そして、その曲が洗練されていないことはガムリンの素人目に見ても明らかだった。

レイ「……この曲は、いつものやつとは違うんですよ」

ガムリン「違う?それは……どういう?」

レイ「いつものバサラの曲なら、あいつ1人で全て歌えてしまう。俺たちはバサラの歌に沿うようにして音を合わせ、ミレーヌも歌う。それが、曲にも現れていた。だから、FIRE BOMBERの曲の大半は1人でも歌えるようになっている」

レイ「あいつは、確かに凄いやつですよ。大抵のことは1人でなんでもこなしてしまうし、無茶な事だってやり遂げてしまう。それが、今回の曲はバサラだけでは歌えないし、曲として完成させることも出来ない」

レイ「この曲からはあいつの心境が伝わってくるんですよ。1人じゃ出来ない事もある。だから、俺たちの力を借りてこの曲を完成させたいと」

ガムリン「あいつが……そんなことを?」

レイ「……まあ、単なる予想にすぎませんけどね。実際は、違うかもしれません」

ガムリン「いえ……きっとそうなのでしょう。あいつは、変わったということですか」

レイ「根本的な所はどうやっても変わりはしませんでしょうけど」

ガムリン「はは、それは違いない。あいつの馬鹿は奇跡を起こすほどですから」

互いに笑い合う。その場面にミレーヌが帰ってくる。

ミレーヌ「ただいま。あれ、ガムリンさん、いらしてたんですか」

ガムリン「ええ。少し様子を見に……どうかしましたか?」

ミレーヌがガムリンの顔を覗き込むように見つめる。

ミレーヌ「……調子、戻ったみたいですね。よかった!」

それだけ言うと、すぐさまギターを持って再び曲作りに取り掛かる。

ミレーヌ「よーし!パッパと終わらせちゃうんだから。みんな、いくよ!」


223: 2015/02/04(水) 14:06:02.94 ID:pagBBv/q0
ほむらの家

中学校の理科室に行ったのは、個人では手に入りにくい薬品を手に入れるため。
木炭、硫黄、硝酸カリウム。
黒色火薬は、これらを混ぜれば出来上がる。雷管を繋げれば着火装置に。
それで爆発させる火薬はホームセンターに行けば作れてしまう。爆弾は、今や中学生でも作れてしまうのだ。

別に私はその事を悲観しているのではない。どんな情報が載っていようと、それを使うかどうかは本人次第。
私は、魔女と戦う力を得るためにその情報をありがたく利用させてもらっているということ。

火薬の調合も、もはや手慣れたものだ。一歩間違えれば大怪我するだろう作業を平然と進める。自分の感覚はきっとおかしくなっているのだと思う。
だからといって、どうにかするものでも無いけれど。
爆弾を一つ作り終えて、私は一息つく。このままの火力でワルプルギスの夜は倒せるのだろうかと考えると、ため息になる。
倒し方は覚えている。魔力を込めたこれらの火器があいつにどこまで通じるか。

以前時を遡った時にワルプルギスの夜を倒したことはあった。ただし、こちらも捨て身の戦い。
奴を倒した時には仲間と呼べた存在は全ていなくなっていた。とてもじゃないが、あれが勝利だとは言えない。

何より、まどかを。一番大切な友達を……私はこの手で……

インターホンが鳴り響いた。誰が来たのかと訝しむ。
佐倉杏子が引き返して来たか?だとすれば、何のために。
まさか?いや、勝算の無い相手に挑むほどあの子も愚かでは無いだろう。
今朝の会話は、彼女らしからぬ反応が目立ったが流石にそういう行動をするような人物ではないはずだ。

ドアの覗き窓から来客を見る。息を飲んで目を疑った。

ほむら「まどか……!?どうして……」

急いで、机の上にある薬品類を片付ける。部屋に魔法をかけて、佐倉杏子に見せた時と同じような見た目にした。少し髪を整えてから玄関の扉を開ける。

ほむら「……鹿目さん?どうしてここに」

まどか「あ、ほむらちゃん。病気って聞いたけど身体は大丈夫?」

ああ、そうだった。そういうことにしているのだった。


224: 2015/02/04(水) 14:06:53.50 ID:pagBBv/q0
ほむら「身体はもう大丈夫なのだけれど、お医者さんが安静にしていないといけないっていうから仕方なく休んだのよ」

まどか「そうなんだ……良かった。魔法少女でも病気になるのかなって思ったから」

ほむら「それで、用事は何かしら?」

まどか「あ、これ。学校で配られたプリント、誰かが届けてあげないと困るだろうからって」

ほむら「わざわざありがとう。でも、あなたの家はこっちとは違う方向ではなかったかしら」

まどか「そうだけど……よく知ってるね」

ほむら「……魔女を探していた時に偶然見かけたのよ」

前回の記憶と今回の記憶がごちゃごちゃになってしまっていたようだ。
佐倉杏子との会話でもそうだったが、どうにも軽率な言動をしてしまう。親密になり過ぎて魔法少女に興味を持たれるのは良くないが不信感を与えるのも良くない。

まどか「……」

ほむら「……?何かしら。まだ何か用があるの?」

まどか「あ、ええっと……1人なの?」

ほむら「……そうだけど」

まどか「共働き?」

ほむら「いいえ。1人暮らしよ」

まどか「ええっ!?ほ、ほんとに1人暮らしなの」

ほむら「そうよ」

まどか「……あっ、もしかして」

まどかが少し気まずそうな顔をした。

ほむら「安心して。特別な理由があってそうしているわけではないから。ただ、そうした方が都合がよいからそうしているだけ」

別に深い理由があってそうしているわけではない。
ただ、もし病床から出たばかりの娘が夜な夜な外出をしているなんて家族に知れたら面倒だろうと思ったからだ。
……理由はそれだけでは無いが、言う必要は無いだろう。

225: 2015/02/04(水) 14:08:42.19 ID:pagBBv/q0
まどか「そ、そうなんだ。でも1人暮らしって大変じゃない、かな」

ほむら「何がしたいの?」

煮え切らない態度に少し疑心を持つ。

まどか「あの……ええと、ちょ、ちょっとだけでも家の中でお話しとかできたらなあって」

まどかなら別に家に上げたとしても問題は無いだろう。爆薬はあとで作ればいい。

ほむら「いいけれど。たいしたものは出せないわよ」

まどか「うん、全然。気にしなくていいよ」

佐倉杏子と同じように、魔法で拡張した部屋へと案内する。
こう、日に何度も来客を迎えるのは始めての経験だ。お茶を運びながらそんなことを思う。

まどか「魔法って、こんなことも出来るんだ……」

ほむら「全ての魔法少女が同じことを出来るわけでは無いわ。私の魔法はこういうことに向いているから」

まどか「1人だと……広いんじゃ無いかな」

ほむら「普段は普通の部屋にしているわ。自室以外、あまり使うことも無いし」

まどか「寂しいとか、思わない?」

ほむら「別に。慣れてしまえば、どうということも無いわ」

まどか「魔女を倒すみたいに?」

ぐっ、と一瞬息を呑んだ。

ほむら「……ええ、そうよ」

まどか「嘘だよね、それ」

息をもらすことが出来ないほどに私は唖然とした。

まどか「マミさんだって……年上で、みんなのために戦ってきたマミさんだって、1人は寂しいって言ってた」

まどか「さやかちゃんだって、強がっていたけど、ほんとは、1人は怖かったって言ってくれた。だから、ほむらちゃんも」

今まで出会ってきたまどかとは少し毛色の違う言い方に戸惑いを覚える。目の前にいるのがまどかだと一瞬思えなかったくらいだ。

ほむら「……違う」

とにかく、否定しなければならないと本能的に感じた。言われた意味もはっきりと理解しないままに。

226: 2015/02/04(水) 14:10:22.94 ID:pagBBv/q0
まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「私は、そいつらとは違う!そいつらは、弱いから」

まどか「え……?」

ほむら「私はもう弱くない。分かるでしょう?私の強さは。巴マミが苦戦した魔女だって1人で倒せるし、グリーフシードだってこんなに持っている。ほら」

盾の中から幾つものグリーフシードを出して見せる。

まどか「ほ、ほむらちゃん?」

ほむら「私は1人でも戦えるの。だから、仲間なんていらない。必要ない!だから……っ」

まどかは怖いものを見るような目で私を見ていた。

まどか「ごめんなさい。ほむらちゃんの気持ちも考えずに勝手なことを言って」

ほむら「あ……」

私は、何を?

まどか「でも、みんなだって心配しているはずだよ。同じ魔法少女なんだから」

ほむら「そんなこと」

あるはずがない。そんな都合の良い話が、あるわけがない。

ほむら「あなたは……どうして、何の力も持たないのに私たちに関わろうとするの?」

まどか「だって、心配だから」

ほむら「あなたは部外者なのよ。だから、何も知らなくていいし、しなくていい」


227: 2015/02/04(水) 14:10:53.34 ID:pagBBv/q0
これから先に起こる戦いで、まどかが巻き込まれれば魔法少女になるという選択をしてしまうだろう。そうなる前に彼女を戦いから遠ざけなければ。

まどか「嫌だ」

ほむら「……なんで」

まどか「部外者だからって、心配しちゃいけないなんておかしいよ」

ほむら「自分が邪魔だって分からないの!?」

まどか「ほむらちゃんが心配してくれるのは分かるよ。けれど、魔法少女だからとかそうじゃないからとか、そんなの関係ない。苦しんでいる友達がいたら見過ごせない」

どうして……あなたは。
ほむら「どうして、分かってくれないのよ」

まどか「ほむらちゃん?」

ほむら「あなたはいつも、いつも、いつも!そうやって自分を大切にしないから……だから……私は……」

だから私は、何度も時を……

だから……?

ほむら「あ…れ……?」

私が時を巻き戻した理由は……願いは…?
くらり、と世界が傾く。熱くなった頭が一気に冷やされていく。
力が抜けて座り込んでしまった。

まどか「だ、大丈夫?」

声をかけられたが応える気力すらおこらない。
気分が悪い。今まで見えていたはずのものが急に曇って見えなくなった。焦りが生まれる。

ほむら「……ごめんなさい。やっぱり休ませてもらうわ」

まどか「大丈夫?」

ほむら「気にしなくていい。悪いけど」

まどか「分かった……」

まだ何か言いたげなまどかを、私は睨むように見た。
これ以上私を困らせないで欲しい。少しでもその意図が伝わるように。

玄関で見送ってから私は椅子に深く腰掛けてため息をついた。
しかし取り戻した1人の時間にはまだ来客の残照が入り混じっている。

私の願い。
ワルプルギスの夜を倒すために、まどかを救うために私は願った。
『まどかとの出会いをやり直したい。守られるのではなく、守る存在になりたい』と。

その願いは変わっていないし、時を繰り返す度に精神が磨耗していくがまだ意志もはっきりとしている。
そのはずなのに。
何か空虚な感覚がする。
真っ新な紙にぽっかりと空いた穴。それを埋めるものが何だったのか、思い出すことが出来ない。

私は……私の願いは……?

228: 2015/02/04(水) 14:11:46.21 ID:pagBBv/q0
学校


翌日、学校の授業が終わるとみんなは荷物をまとめて帰り仕度を始める。
まどかも仕度をしようとした矢先、机の中に入れていたノートを開こうとした。

さやか「まどか、ちょっといい?」

まどか「はわーっ!な、何?」

さやか「うーん?なになに、何を隠したのかなーっ、とりゃーっ!」

即座にしまおうとしたまどかのノートをさやかが取り上げる。

まどか「わっ、ちょ、み、見ないでよお」

さやか「なーんか最近休み時間に何か書いてるなとは思ったけれど、いったい何を書いているのかなーどれどれー?これって……詩?」

まどか「うう……まだ出来てないし見せるの恥ずかしいのに」

さやか「えっと……ごめんね!見ちゃいけないものだった…よね?でもなんでそんなのを?まどかってそんなの作る趣味あったっけ?」

まどか「なんていうか、なんだか無性に書きたくなって。それで、気がついたら書いちゃってたっていうか」

さやか「へえ。心に浮かんだことをそのまま書いたってわけ。それはそれで凄いんじゃない?……痛々しい詩じゃなければ」

まどか「それが難しいんだけどね。読み直して自分で恥ずかしくなって全部消しちゃうこともあるし」

さやか「ところでそれってやっぱりあの人の影響?」

まどか「えっ…う、うん」

図星を突かれて、まどかは赤面した。

さやか「まどかって結構ミーハーなところあるんだね」

まどか「も、もう。別にいいでしょ!」

さやか「ごめんごめん。というか完全に予想外で。てっきり、絵とかでも書いてるのかなって思ったのに。まどか、ファンシーな趣味あるし。歌のセンスは意外 だけど……ってそれはあたしも同じか。あ、そうだった話があったんだった。なんか今から屋上に来てほしいってさ。マミさんが」

まどか「え、何の話?」

さやか「あたしもよくは聞いていないんだけどさ。大事な話があるからきてほしいって」

少し疑問を感じながらもまどかたちは屋上へ向かう。
教室を出る際にまどかは欠席したほむらの席が意識に残った。



229: 2015/02/04(水) 14:56:47.35 ID:pagBBv/q0
さやか「しっかし、こんなところに集まってて怒られないのかなあ?昼休みならともかく放課後に屋上にいるのはマズイんじゃ……」

マミ「大丈夫よ。この時間はここを使う人もいないし、見回りが来るのも当分後だから」

声をかけると、マミが振り返ってさやか達の姿を見る。
真剣な顔。ただごとでは無い話なのだと二人は理解した。

さやか「話ってなんですか?マミさん」

マミ「重要なことよ。一応、暁美さんにも声をかけておこうと思ったのだけれど、学校に来てすらいないんじゃ仕方ないわね」

さやか「まあ、あんな奴いてもいなくたって同じですよ。同じ魔法少女だってのに何考えているのかよく分からなくて嫌な感じだし」

まどか「昨日は元気そうだったんだけど」

さやか「え、昨日……って、まどか。あいつに会ったの?」

まどか「うん。プリントを届けに」

さやか「だから昨日は用事があるって言ってたのか……あ、大丈夫だった!?あいつになんか酷いこととかされてない?」

まどか「心配しすぎだよ。むしろ、なんだか私の方が悪いことしちゃったみたいというか」

ほむらの様子を思い出す。
言動の中にいくつか気になる言葉はあった。まどかにとってほむらは会って間も無いはずなのに、向こうの話し方はそういう風には聞こえなかった。そして、さらにそれよりもまどかが不可解だったのはどうして自分をそこまで心配するのかということであった。

まどか「でも、どうしてほむらちゃんはみんなと打ち解けようとしてくれないんだろう?何か理由があるんじゃ……」

さやか「まどかがそんなこと気にしなくていいって。まあ、そういうところがまどかのいいところなんだけれどさ。優しくて思いやりに溢れていてさ」

マミ「確かに鹿目さんの優しさには私たちも助けられているわ。魔法少女でないのに、私たちのことをこんなに理解してくれる人なんてなかなかいないもの」

まどか「そんな、は、恥ずかしいですよ」

「おーい、あたしはいつ話に入ればいいんだ?」

声がした方を振り向く。屋上の出入り口の上に登って腰掛け、チョコ菓子を食べる少女がいた。


230: 2015/02/04(水) 14:57:15.59 ID:pagBBv/q0
マミ「あ、ごめんなさい。つい」

「全く、用事があんだからまずそっちを終わらせろっての」

さやか「え、き、杏子、なんでここに?ここうちの学校だよ!?」

杏子「よ、さやか。元気か?って、この前会ったばっかりか」

マミ「紹介するわ……といっても美樹さんはもう知っているかもしれないけれど」

マミ「隣町の風見町で魔法少女をやっている佐倉さんよ」

杏子「ま、よろしく」

まどか「よ、よろしくお願いします」

さやか「驚いた。マミさんと知り合いだったなら、もっと早く言ってよね」

杏子「聞かれてないのに答えられるわけないだろ。同じ町の魔法少女同士であっても敵対している場合もあるから迂闊に名前なんて出せないし」

さやか「あ、それもそっか」

まどか「この人、佐倉さんってさやかちゃんの友達なの?」

さやか「うん。まあ、ちょっと色々あったっていうか……」

杏子「別に、ただこいつがなんだか今にも氏にそうな面してたから放っておけなかったってだけ」

まどか「へえ。佐倉さんって、優しい人なんだね」

杏子「なっ!?や、優しいとか面と向かって言うなよな……」

まどか「え、なんで?嬉しくなかった?」

杏子「なんでってそりゃ……その……」

さやか「んふふ。杏子ってば可愛いヤツめ。言われ慣れてないから恥ずかしがっているな~」

杏子「さ、さやかまで何言って」

マミ「本当にね。私と組んでいた時よりもずっと可愛らしいわ」

杏子「マミさんまで……あーっ、もう。と、とりあえずお前!名前は?」

まどか「え、私?まどか、鹿目まどかだけど」

杏子「よし、じゃあまどかって呼んでいいな。あたしの事も杏子でいいよ。佐倉さん、なんて同じくらいの年のやつに言われるとなんかむずむずするからさ」

まどか「そ、そう。じゃあ、杏子……ちゃん」

杏子「……ま、いいけど」

まどか「ところで、話って何のこと?マミさんには詳しく聞かされてなくって」

杏子「それは……あたしの口からよりはマミさんから言った方がいいかな」

マミ「そうね。ただ、みんなには誓いをしてもらうわ」

さやか「誓い?」

マミ「ええ。たとえどんな残酷な真実が語られたとしても、決して望みを捨てないこと。たったそれだけの事だけれど重要なことなの。出来るかしら?」

さやか「そりゃもちろん。今のあたしに怖いものなんてほとんどありませんから」

さやかがガッツポーズで答える。まどかもマミに頷いて答えた。


231: 2015/02/04(水) 14:57:46.67 ID:pagBBv/q0
マミ「なら、この前の疑問に答えさせてもらうわ。なぜ魔女が現れるのか。魔女はどうして生まれるのか。キュウべえを問いただしたらあっさりと答えてくれた」

ひと息ついて、マミは言う。

マミ「簡単な答えよ。魔女が私たちの成れの果てだからよ」

さやか「成れの果て……ってえ……?」

一瞬言われた意味が分からなかったが、意味を理解した瞬間に初めて話を聞いたさやかとまどかは表情を無くした。

マミ「私たちが魔法少女である証のソウルジェム。私たちの魂はこれに移されていて、濁り切れば私たちは魔女になる」

さやか「ちょっと、それじゃ私たちはまるで……それに私たちがしてきたことって……!」

まどかは口を覆い、息を飲む。

マミ「……言いたいことは分かるし、受け入れ難い気持ちも分かる。でも、決して望みは捨てないってさっき誓ったわよね」

さやか「え、ええ。もちろん……ですよ」

マミ「これからの戦いにおいて私たちは覚悟を決める必要があるわ」

マミ「……ワルプルギスの夜と戦うために」

まどか「ワルプルギスの夜……?」

杏子「すげえでかい魔女だよ。あたしも噂くらいでしか知らないけど、結界が不要なほど強大で、やつが訪れた街は巨大な竜巻に巻き込まれたように目茶苦茶になる。だから、魔女の存在を認識出来ない人からすれば大きな災害だって認識される」

杏子「そいつが、近いうちにこの辺りに現れるってさ」

まどか「そんなのが街に!?そしたら、みんな……パパやママ、タツヤが……学校も」

マミ「それを防ぐために、私たちは戦う。けれどもしその戦いで力を使い果たしてしまった時、私たちはまた新たな魔女となってしまう可能性がある」

さやかの表情は相変わらず凍りついたままである。
言われたことに頭と感情の処理が上手くいっていない状態だった。

杏子(そりゃショックだよな。あたしだって……)

さやか「……杏子は知ってた?」

杏子「いや、あたしも聞いたのはついこの前。なんとなく、そうじゃないかって予感はあったけれど」

まどか「さやかちゃん……」

まどかが心配そうな目を向ける。
深呼吸をして落ち着くと、さやかは顔を挙げた。

さやか「うん……大丈夫。……多分」

ショックであることは隠しようがない。それでも、さやかは精一杯受け入れようと努力をする。

さやか「言いたいことも、聞きたいこともたくさんあるけれど。きっとみんなだって同じように思ったはずだから」

まどか「……ごめんね」

さやか「いいって。どうしてまどかが謝るのさ」

232: 2015/02/04(水) 14:58:30.12 ID:pagBBv/q0
まどか「でも、私は」

また、分かってあげられないことがあるのか。
苦しみを共有することが出来ないのだろうか。そういう考えが、まどかに謝罪の言葉を発せさせた。
少し考えてからさやかは言葉をかける。

さやか「じゃあ聞くけど、まどかはあたしが魔法少女になった後となる前で、あたしがあたしらしくないって思うようなことってあった?」

まどか「それは……ないよ。ずっと、さやかちゃんはさやかちゃんのままだったと思う」

さやか「ありがとう。だったら問題ない、よね。たとえ成れの果てが魔女だろうと、魂がこの小さな石の中にあったとしても、あたしはあたし。気に病むことなんて、無い」

さやかの確認に、マミと杏子は頷く。

さやか「マミさん。あたしら魔法少女のことは分かりました。けど、それじゃそのワルプルギスの夜ってやつはどうするんですか?」

マミ「具体的な解決策は無いわ。けれど、可能性はある。根拠は無いに等しい方法だけれど」

さやか「え、何なんですかその方法って」

杏子「歌だよ。バサラの力を借りるのさ」

まどか「熱気さんの?」

マミ「ええ。以前私が入院していた時、彼はよく病院で歌っていたのを覚えているかしら?私もその歌を聴いていたのだけれど、そしたらあることに気がついたのよ」

マミ「私が入院する前よりも、ソウルジェムの濁りが消えていたの。グリーフシードも使っていないのにね」

さやか「それって……じゃあ、グリーフシードはもういらないってこと!?あの人の歌って、そんな効果が……?」

233: 2015/02/04(水) 14:59:01.31 ID:pagBBv/q0
杏子「あたしも少しその効果には心当たりがある。しかもそれだけじゃない。あたしは、あいつの歌が魔女に届きかけたのをこの目で見た。だから、もしあいつの歌が本当に魔女へ届いたら、魔女と戦わずに止めることだって出来るかもしれない」

まどか「じゃあ熱気さんを探して協力してもらえば、もしかするとワルプルギスの夜を……」

マミ「そこなんだけれどね……私たちもあの人のことはよく知らないし、彼も見ず知らずの私たちにただで協力してくれるかどうか。それに、少なくとも足止めをするための戦いは避けられないと思うわ」

まどか「……そっか。やっぱり危険なことには変わりないんだね」

杏子「なーに、倒さなくていいっていうのならまだ楽なもんさ。それと、バサラのことはあたしに任せてくれない?多分、その日にあいつが来る場所は分かるから」

さやか「杏子が?……って、あー、そういうこと。杏子が影響を受けたのってあの人のことだったわけね」

杏子「そうだけど、悪いのかよ」

さやか「いやー、悪くはないけど……もしかして、年上が?」

杏子「は?……はあーっ!?なんでそういう話になるんだよ?」

マミ「なんだか美樹さん、そういう話が好きになったわね」

さやか「そりゃあ、あたしくらいの年頃だったら誰だって気になりますよ。ねえ、まどか?」

まどか「え、うーん……まあ、気にはなるけれど、熱気さんは違うんじゃないかなあ」

さやか「へ、違うって?」

まどか「なんていうかあの人は恋愛の対象とかっていうよりももっと大きい感じっていうか……」

杏子「そうそうそれ、そういう感じ。だからあたしはファンってだけで別に変なことは思ってもいないっての」

さやか「むう、そうなの」

マミ「はいはい。他人の恋バナよりまず自分。恭介君とは、どうなってるのかしら?」

さやか「そりゃあ、もう…………」

突然、さやかが言葉に詰まる。杏子やマミにはその意味がわからなかったが長く付き合いのあるまどかにだけは分かってしまった。

まどか(さやかちゃん。やっぱり……口ではああ言ってても……)

さやか「……じゅ、順調ですよ、うん。ライバルも強ければ強いほど燃えるってものですし」

マミ「それじゃあ、その辺の話も兼ねて今度うちで作戦会議を開きましょう」

杏子「今一番大事なのはお前の恋じゃなくてワルプルギスの夜をどうするか、だからな」

さやか「えーっ?……なんてね。分かってるって」

不安は少女達の中に多かれ少なかれあった。それが、打ち解けた雰囲気の中では他の感情と織り交ぜられてはっきりとしなくなる。しかし、今はそれでもいいのだろうと思った。今はただこうして笑い合えるだけで、十分幸せなことなのだとこの場にいる全員が感じていた。


そして、運命の日が近づく。

234: 2015/02/04(水) 15:00:04.96 ID:pagBBv/q0
ここまでで5話終了。6話で前スレのラストまで。それからエピローグで終わり。
夜にまた更新します。

238: 2015/02/04(水) 18:20:15.28 ID:pagBBv/q0
第6話
「マジック・ソングス」


239: 2015/02/04(水) 18:20:43.14 ID:pagBBv/q0
バトル7 艦内

FIRE BOMBERのメンバーは楽屋でライブの準備をしていた。
レイは機材のチェックをし、ビヒーダは相変わらずドラムを叩き続けている。
ただいつもと違うのは、その楽屋が戦艦の中にあるということだ。そこへ千葉が訪れる。

Dr.千葉「おお、揃っているな。それではこれからの作戦を説明する」

ミレーヌ「はい!……といっても、私たちはいつも通り歌うだけなんですけどね。バルキリーに乗って、ですけど」

Dr.千葉「うむ、そうだ。君たちはいつも通りに歌い、その歌によって発生したフォールド波で時空干渉をおこなう。熱気バサラのいる場所までのゲートを繋いだ後 にバルキリーでフォールド移動し、バサラを回収する。フォールド航行用の燃料はサウンドブースターに無理矢理取り付けてある」

Dr.千葉「名付けて!『今あなたの声が聞こえる覚えていますか何億光年の彼方へも突撃フォールドジャンプ作戦』だ!!頼むぞ、君たちの歌で無事バサラを救出してもらいたい」

ミレーヌ「……その作戦名、長すぎません?」

グババもミレーヌの肩の上で白けた目線を向ける。

Dr.千葉「そうか?これでも大分縮めた方なのだが……ちなみに元の名称は『今あなたの声が聞こえる覚えていますか手と手が…「はいはい分かりました大丈夫です。その作戦、かならず成功させてみせます!ちゃんとバサラをふん捕まえてきますから」

ミレーヌが途中で千葉の暴走を止める。

Dr.千葉「では健闘を祈る。私はブリッジに戻るが、バサラと接触が出来たら通信を頼むぞ」

レイ「了解しました。よし、ミレーヌ。機体に乗り込むぞ」

敬礼を返して、FIREBOMBERのメンバーはそれぞれのバルキリーへと乗り込む。

レイ「しかし、バルキリーだと1人分いないのが余計に大きく見えてしまうな。誰かスペシャルゲストでも招いてみるか?」

ミレーヌ「うーん、ゲストかあ。ガムリンさんとかは?『FIRE BOMBER with ガムリン木崎』なんて」

その名前が出た瞬間、グババの身体が硬直する。

レイ「……すまん。やっぱりその話は無しだ」

ミレーヌ「え~なんで?あれ、グババもどうしたのさ?固まっちゃって」

宙域に特設されたゼントラーディサイズのライブ会場へと辿り着くと、2機のバルキリーは変形して人型になった。
マクロス7内部の窓にはライブを見ようとしてびっちりと人が立ちこめている。カメラを備えた無人機がミレーヌ達の機体を映すとマクロス7の各ブロックで歓声が上がり、中には間近で見ようとして自前の機体で宇宙空間のライブ会場まで来る観客も大勢いた。

ミレーヌ「みんな、今日は臨時ライブに来てくれてありがとう!相変わらずバサラはいないけれど、もしかしたらもうすぐ会えるかもしれないからみんな期待しといて!」

バサラが来る。そう聞いた瞬間に会場も、それを映像などで見ている人たちも一気に湧き上がった。

ミレーヌ「それじゃあ早速行くよ!MY FRIENDS!!」



240: 2015/02/04(水) 18:22:44.68 ID:pagBBv/q0
見滝原市 


遠くで荒れた空模様が見えた。私はそれが自然災害ではないことを知っている。
この日を何度迎えてきたか。何度あの日へと戻ろうと思ったのか。
条件は前より厳しいが、その分火力は増やしてあるからどうにかなるはず。

隣には誰もいない。いや、これで良かったのだ。
誰にも頼らない。私は始めからそうするつもりだったのだから。
途中で少しだけ欲が出て助力を期待したが、やはり望みというものは裏切られるのが相場らしい。
でも結局、最初に考えた通りにやるのだから何も支障は無い。
協力してくれる仲間なんていうものよりも、ただ単純に強力な火力があった方が確実性は高い。道具は私を裏切らない。

あのイレギュラー。熱気バサラという男。
初めて目にしたのは巴マミが氏ぬはずだったお菓子の魔女と対峙した時。なぜ、魔法少女でもない彼が結界の中にいて生き残っていたのかは分からない。そして、彼がいたから巴マミが生存したというのは考えにくいが、結果的に見ればそうなった。
私としては、まどかが魔法少女になることを思いとどまらせる理由になるのならばあそこで巴マミを見捨ててしまっても良いと考えていた。戦力で言えば申し分 ないが精神的に弱いところがあり、彼女が自分達の真実を何らかの方法で知った場合に敵対する可能性があるからだ。折角上手くいきかけた状況を、彼女の行動 によって台無しにされたこともある。

美樹さやかに関してもそうだ。あの子は毎回高い可能性で魔女に変貌するはずだった。それなのに彼女は生き残り、マミの教えもあって順調に魔法少女としての 力をつけている。あれも、イレギュラーが何かをした可能性がある。そうでなければ、彼女が今まで生き残れている可能性は低いはずだ。

そして、佐倉杏子の性格の変化。話を聞く限りではそれも熱気バサラが関わっていたらしい。彼は一体何をしたのだろうか。人の性格なんてそう簡単に変えられ るものじゃない。私だって昔の自分から変わるのに何度も時を繰り返したのだ。そう簡単に人の性格が変えられるものだとは思えない。

やはり、イレギュラーについては分からないことが多すぎる。彼はいったいどこまで影響している?

しかし、まさかこんな天災のような相手に対してまであの男が何かを出来るわけでもないだろう。考え事をしながら歩いていくと、周りに水蒸気のようなもやがかかってくる。相手が近づいている証拠だ。奇妙な格好をした動物や、飾りのようなものがたくさん私を横切って行く。

ほむら「来る……!」

3

2

1

けたたましい笑い声が空から降り注ぐ。
ワルプルギスの夜が姿を表した。

何度も倒そうとして倒せなかった。未来へと続くはずだった道をこいつに何度も潰された。現れたそばから周囲の建物が瓦礫と化していく。まるで、魔女の結界 の内部のような気の狂った空間を今から作り出そうとするかのように。瓦礫が飛び交い、また新たな廃墟を作る。その気ままな行動は毎度の事だが、どうにも腹 が立つ。
眼前に立った相手を見てすらいない。

ほむら「だから、まずはその認識を大量の爆薬と榴弾で覆してあげるわ」

取り出したのは、各種ロケットランチャーと的榴弾。個人で携行出来る火力としてはおそらく最高峰のものを取り揃えた。それを惜しみ無く、容赦無く、無駄無く、敵へとお見舞いする。

ほむら「覚悟しなさい。その不愉快な笑い声をすぐに止めてあげるわ」

時を止めて攻撃を開始する。
少しして、炸裂音が大気中に響いた。

241: 2015/02/04(水) 18:25:40.20 ID:pagBBv/q0
避難所には多くの人が集まっていた。家族と共に避難をしてきたまどかは無邪気にはしゃぐ弟に笑みを向けながらも心の内では外で起こっているであろう惨状に心を痛める。
見知った顔を見つけると弟を父親に預け、友人の元へと歩み寄る。

まどか「さやかちゃん!」

さやか「まどか!良かった、無事に避難してたんだね。恭介の家と一緒に来たからまどかが無事なのか気にかかってたんだ」

まどか「うん。ママもいてくれたから直ぐに荷物とかまとめられて……今は配給品とかを取りに行ってる」

さやか「そっか。まどかのママさんって、こういう時に仕切るの上手そうだもんね。元レディース系っていうか」

まどか「いや、それとはちょっと違うとは思うけど……。さやかちゃんはこれから……」

さやか「行くよ。あたしは」

その答えが返ってくることをまどかは分かっていた。

まどか「そう……。恭介君は?さやかちゃんがついていてあげた方が」

それでも、こんな風に少し考え直させるようなことを言ってしまう。

さやか「仁美に任せてきた。だから、大丈夫」

まどか「え……?」

さやか「もし、あたしに何かあっても仁美になら任せられる……なんてね。ちゃんと無事に帰ってくるから、そんな辛気臭い表情しなくていいって!」

まどか「本当に……いいの?」

さやか「いいよ。だってさ……あたしは……」

その先を聞く前に、まどかは遮るように口を開いた。

まどか「ご、ごめんさやかちゃん。タツヤの面倒を見ないといけないから先に戻るね!」

さやか「え、うん。いいけど……じゃあ」

手を振ってまどかと別れる。振った手を閉じながら、さやかは少し考える。

さやか(これで、いいんだよね。あたしは魔法少女なんだから)

242: 2015/02/04(水) 19:28:40.96 ID:pagBBv/q0
なるべく人の目に触れないようにして、さやかは出口へと向かう。
出入り口では避難民の誘導が粗方終わったようであり、人の姿はもうほとんど見え無くなっていた。頃合いを見計らって、外に出よう。そう思っていた時だった。

「どこに行かれるつもりですの?」

後ろから声をかけられて驚く。

さやか「どうして……ここに?」

さやかが振り返ると、息を切らしながらも鋭く睨む仁美がいた。
仁美はいつものにこやかな表情とは異なった顔を見せており、なぜ?と思う間もなく言葉が投げかけられる。

仁美「どうしてもこうしてもありませんわ。突然あんなことを仰られて、鹿目さんにも様子がおかしいと言われて探しにきてみれば……いったい、何をなさろうとしていたのです?」

さやか「まどかが!?……あ、あたしはちょっと用があって」

魔法少女だから、街を守るために魔女と戦いに行く。
そう言えればどんなに楽かとさやかは思った。

仁美「やはり、戦いに行かれるのですね」

さやか「な、なんでそれを」

仁美「あの時、あなたが私や他の人を怪物の手から助け出して下さったように。戦われるのでしょう?」

さやか「!……覚えていたんだ」

243: 2015/02/04(水) 19:29:19.64 ID:pagBBv/q0
仁美「ええ。確かその場所には鹿目さんもいらっしゃったはずですが……このご様子ですと、二人は知っていたのですね。学校では二人ともそのことについてお触れなさりませんでしたから正直のところ、自分でも半分くらいは夢だと思っていましたわ」

さやか「その、自分でもどう説明したらいいのか分からなくて。仲間外れにしたとかそういうのじゃなくってさ」

仁美「分かっています。でも、少し寂しく感じましたわ」

さやか「ごめん。けど、他人を危険に巻き込みたく無かったから」

仁美「これからなさろうとしていらっしゃる事について何も話していただけないのは、それも私の身を案じてのこと?」

さやか「見ていたのなら、分かるでしょ。ああいうやつらを相手に……街を守るためには行かなくちゃならない」

仁美「美樹さんこそ危険ではありませんの?」

さやかは、無言で肯定する。

仁美「では、上条君を任せるとおっしゃられたのは、そういう意味だと受け取っても?」

さやか「……仁美になら任せられるよ。こんなガサツで、剣を持って振り回してるような野蛮な子より、あんたみたいなおしとやかな彼女の方が恭介には向いている」

突然さやかの頬に激痛が走る。予想外の衝撃にさやかはよろけた。殴られたところを触ると赤い色がつく。殴られた時に唇を歯で切ったと分かった。

仁美「本気で、本気でそんなことを思っていらっしゃるのですか?」

さやか「え……」

殴られた?
仁美に??
それもグーで???

さやかの頭の中では物理的だけでない衝撃がまだ続いていた。

仁美「あなたの想いは、その程度のものですの!?そんな簡単に人に譲ってしまえるような、そんな生半可な想いで恋をしていらっしゃったのですか?」

さやか「……」

さやかは自分の切れた唇の部分を触る。
指についた色を見て仁美が息をのむ。

仁美「……はっ!も、申し訳ございません。つい、感情的になってしまって」

さやか「違う、見てて」

そう言うと、さやかはポケットの中からソウルジェムを取り出す。
少しだけジェムの輝きが曇り、傷となっていた部分の血が止まり、傷が癒えていく。

仁美「それは……!?」

さやか「これが、あたしたち。魔法少女ってよばれてるモノ。もっと酷い傷だって簡単に治っちゃう。刺されたって切られたって潰されたって、グチャグチャになっても、これさえ無事ならすぐに元に戻る」

仁美は無言でさやかの言葉を聞く。何かを想像したのか、唾を飲む音が聞こえた。

244: 2015/02/04(水) 19:29:45.72 ID:pagBBv/q0
さやか「どれだけぼろぼろになっても氏なない。なんでか分かる?……こっちが、あたしの本体になっちゃったからだよ」

仁美「本体?では、今、私の前にいらっしゃるのは」

さやか「ただの動く肉体。言うなれば、ゾンビみたいなもんだよ。……ねえ、仁美。そんな身体のやつが恭介と一緒になっていいと思う?普通じゃない身体で、恭介に抱きしめてもらうなんてことが許されると思う?」

淡々と、感情のこもっていない声でさやかは問うた。
そして、仁美はそれに答える。

仁美「別に、構わないと思いますわ」

きっぱりと、そう言い切った。

さやか「……え?」

仁美「美樹さんは随分酷いことをおっしゃるのですね。まあ、拳を出した私も酷いですから……酷いやつという事に関してはお互い様ですね」

さやか「待ってよ。気持ち悪くないの?私って、全然普通じゃないんだよ?」

仁美「私には、あなたがゾンビなんていうものには到底見えませんでしたわ。どこからどう見ても、美樹さやかさん。前に見た戦う姿はさながら凛としていながらも可憐な花のようで……」

思い出した光景が相当美化されているのか、うっとりとした表情を仁美は浮かべる。

さやか「いや、ちょ、ちょっと、そ、そんなこと言っても」

仁美「それと、あなたの考える上条恭介という殿方は、『そんな事』で、体が少し他人と違うからといって奇異の目を向けるようなお方ですの?」

さやか「それは……」

仁美「幼少の頃から、彼を見てきたのでしょう?あなただって、彼の腕が動かないからといっても彼への気持ちは変わっていなかったはず」

さやか「そうだけど。そんな事は分かってる……だけど……」

さやか「ああ、そうか……怖いんだ。普通じゃないっていう自分を……恭介に見られるのが」

仁美「好きな殿方の前で格好をつけたいという気持ちはよく分かりますわ。さやかさんは正直なお人ですから、尚更そういうことを気になさるのでしょうね」

さやか「格好つけたい、か。……そうかもしれないけれど」

245: 2015/02/04(水) 19:30:13.08 ID:pagBBv/q0
仁美「誰も気にしてなどいないのにそれでもというのであれば、それは自分の問題ですわね」

さやか「自分の……」

仁美「さやかさんが、自分で自分を許せないから、そういう風に思い悩んでいらっしゃるのではなくって?」

さやか「私が……自分を?」

頭のなかで、自分に向けて問う。
誰のせいでこうなったのか、と。

憧れの正義の味方を見せてくれたマミさん。
非力なのに、自分の身の危険を顧みないまどか。
肝心な事を教えてくれなかったキュウべえ。


誰のせいでもない。

格好つけて、馬鹿をやったのは自分だ。
顔を覆いたくなるような真実を見つけて、さやかは息を呑む。
ならば、これ以上してはいけないことは。

さやか「ごめん、仁美。……おかげで目が覚めた」

仁美「別に構いませんわ。相手が腑抜けていては、私の沽券にも関わりますから」

さやか「いや、なんて言ったらいいのか分からないけど……でも何で返したらいいのやら」

246: 2015/02/04(水) 19:30:55.97 ID:pagBBv/q0
仁美「お気になさらずに……あ、そうですわ!では、折角ですし美樹さんも私のことを殴っていただければそれでおあいこかと」

さやか「ええっ!?いや、返すってそういう意味じゃなくてお礼の意味で」

仁美「ええ、どうぞ。お構いなくおやりになってくださいまし。さあ!」

さやか「いやいやいや、もう怪我は治ってるし、別に殴り返したいわけじゃないんだけど!?」

仁美「……殴り返して、もらえませんの?」

さやか(な、なんで殴らないと悪いみたいな雰囲気になってんの……?)

仁美「熱い友情を確かめ合うために拳と拳で語り合い、夕陽を背景に戦いの後は互いの手を握り合う。真の友情とは、そのようなものだと思っていたのですが……」

さやか(いや、それは昔の少年漫画の読みすぎだから!)

心の中でツッコミを入れたが、ここで断るのも気が引けた。

さやか「じゃ、じゃあ。一発……ね」

仁美「はい!どうぞ!」

喜々とした表情で仁美はさやかの拳を待つ。
その笑顔に拳を向けることにすごい罪悪感を覚えながらさやかは殴りかかる。

さやか「と、とりゃっ!」

247: 2015/02/04(水) 19:31:57.40 ID:pagBBv/q0
仁美「お気になさらずに……あ、そうですわ!では、折角ですし美樹さんも私のことを殴っていただければそれでおあいこかと」

さやか「ええっ!?いや、返すってそういう意味じゃなくてお礼の意味で」

仁美「ええ、どうぞ。お構いなくおやりになってくださいまし。さあ!」

さやか「いやいやいや、もう怪我は治ってるし、別に殴り返したいわけじゃないんだけど!?」

仁美「……殴り返して、もらえませんの?」

さやか(な、なんで殴らないと悪いみたいな雰囲気になってんの……?)

仁美「熱い友情を確かめ合うために拳と拳で語り合い、夕陽を背景に戦いの後は互いの手を握り合う。真の友情とは、そのようなものだと思っていたのですが……」

さやか(いや、それは昔の少年漫画の読みすぎだから!)

心の中でツッコミを入れたが、ここで断るのも気が引けた。

さやか「じゃ、じゃあ。一発……ね」

仁美「はい!どうぞ!」

喜々とした表情で仁美はさやかの拳を待つ。
その笑顔に拳を向けることにすごい罪悪感を覚えながらさやかは殴りかかる。

さやか「と、とりゃっ!」

拳が肌に触れようとした瞬間。

払われて、
捻られて、
倒された。

さやか「へっ?」

仁美の顔が180度反対に見えた。
頭は打たないようにしっかりと腕を握られていたが、身体は床に倒される。

さやか「い、痛いっ!床硬いっ!……な、なんでよ!」

仁美「あら、ごめんあそばせ。つい反射的に護身術が」

さやか「……もしかして、まだけっこう怒ってる?」

仁美「それはもちろん。でも今のは本当にわざとではありませんわ」

さやか「……ははっ。ははははは」

仁美「……ふふっ……くすくす」

なんだかおかしくなって、2人とも笑ってしまう。

仁美「では、次はしっかりと殴り返すためにも必ずお戻りくださいね」

さやか「うん。あ、それとあたしが帰るまで抜け駆けは禁止だよ」

仁美「それとこれとはお話が別ですわ。いつまでも待つような恋は好みではありませんもの。恋は戦争、ですわ」

さやか「んなっ!?ぐぬぬ、絶対すぐ戻ってくるからね!」

嵐の中をさやかは駆けていく。その姿を見送りながら仁美はため息をつく。

仁美「敵に塩を送りすぎたかもしれませんが……致し方ありませんわね。だって、さやかさんだって本当に素敵なお方なんですもの……」

仁美「……あら、この感情って……もしや!?」

見送りながら仁美は大きな勘違いをする。
何か大きな勘違いをされたような気がしながらもさやかは戦いの場所へと向かっていく。

248: 2015/02/04(水) 19:32:25.54 ID:pagBBv/q0
森林公園

確証があるわけじゃないけれど、あたしは待っていた。
もうすぐあいつはここに来ると信じていた。

ひとつの処に留まるなんていうのはあいつらしくない。
長い付き合いでは無いはずなのに、どうして自分でもそう思えるのか不思議に思った。
魔力の乱れ。ソウルジェムの反応を見なくとも分かる。こいつはヤバイと汗が流れる。
振り向いて見滝原の方を見た。

杏子「始まったのか」

一番先に手を出すのは暁美ほむらだろう。1人でも戦うと言っていたのだから。

杏子「戦い、か」

ほむらとの会話の中で、自分の中に疑問が湧いていた。
バサラは魔女に対して歌を聞かせようとして、戦おうとしていたあたしに激怒していた。

だけど、本当に戦うことが悪いことなのか?

バサラのやり方を真似しようとしたけれど、あたしには出来なかった。そして今は魔女の接近によって町が危機に陥っている。歌えないやつが何かを守ろうとするのに戦うことはいけないことなのか?

バサラ「そんなしかめっ面をしてどうしたんだ?」

いろんな事を返答したくなる。けれど、あまりにも咄嗟のことだったから上手く言葉に出来なくてバサラの顔を見たまま黙ってしまった。

249: 2015/02/04(水) 19:32:55.09 ID:pagBBv/q0
バサラ「何か俺に聞きたいことでもあるのか」

なんでこいつは分かるんだ。それともあたしがそんなに分かりやすいやつなのか。

杏子「別に……」

バサラ「言いたくないなら別にいいけど。バルキリーは?」

やっぱりこいつと話すとペースが持って行かれる。仕方なく、バルキリーに手を触れてかけていた幻惑の魔法を解く。何もなかったはずの空間に巨大な乗り物が現れる。

バサラ「それ、魔法なのか」

杏子「まあね。こういう風に幻を見せたり出来るのがあたしの魔法」

バサラ「へえ。やっぱり凄いな、魔法って」

杏子「……そんなことないよ。こんな力があっても、守りたい人すら守れなかった。だったら、あんたの歌の方が」

バサラ「俺はただ、好きに歌っているだけだぜ。それをどう捉えるかはそいつのハート次第だ」

杏子「なあ、バサラ。……行くんだよな?」

バサラ「ああ。俺の歌を聴かせたい奴がいるからな。そして、懐かしい歌声が聞こえた。向こうから届いたってことは、こっちの歌もあいつらに届いていると信じている」

杏子「あいつら?それって……」

バサラ「俺の仲間さ。あいつらなら、あの曲を完成させられる。そして、あいつらも来るだろうから俺は行かなくちゃならない」

250: 2015/02/04(水) 19:33:22.71 ID:pagBBv/q0
バルキリーに乗り込もうとしたバサラを手を広げて阻む。

バサラ「ん?」

杏子「やっぱり、聞きたいことがあるんだけどさ」

バサラ「なんだよ?」

杏子「誰かのために、何かを守るために戦うっていうのは……間違っているのか?」

杏子「お前は戦うのが嫌いだってことは分かってる。けど、生きるために戦うのがそんなに悪いことなのか?」

杏子「それは……だってそれは、あたしたちのやってきたことが、存在が間違っていたってことじゃ……」

一度口を開くと、堰を切ったようように言葉が溢れていく。切羽詰まったような顔したあたしに、バサラは優しい目を向けていた。

バサラ「正しいとか間違ってるとか、良いとか悪いとか。難しく考えすぎなんじゃないのか」

杏子「難しい?」

バサラ「誰がそんなことを決めたんだよ。武器を持って戦えば、そこには悲しみや憎しみが生まれる。だったら、もっとうまい方法を探してやればいい。ただそれだけのことだぜ」

杏子「でも、それが出来ない奴はどうしたらいいんだよ!みんながお前みたいに歌えるわけじゃないのに」

バサラ「それは」

バサラは自分の胸を親指で指して言った。

バサラ「自分のここに聞くしかねえよ。自分が出来る事でうまい方法が何なのかを」

杏子「自分に?でも、あたしは……」

自分に出来ることで、悲しみや憎しみを生み出さないようにするには……。

思い浮かばない?

違う。あるにはある。けれど、けれど、それは……。

251: 2015/02/04(水) 19:34:40.26 ID:pagBBv/q0
バサラ「だから、言ってるだろ。難しく考えすぎなんだって」

杏子「でもさ……」

バサラ「他人がどうこうじゃなくて、お前は何が出来て、何がしたいんだってことだよ」

杏子「それにしたって、自分だけの力でないと……」

だってそれは、他人を利用する自分勝手な考え……

え……自分勝手?

…………あっ!

杏子「……いいのかよ、それで」

バサラはあたしを見て笑顔を見せた。

バサラ「いいんじゃないのか、それで」

だったら。あたしが出来ることでやりたいことはこれしかない。

杏子「……戦わないっていうのは、多分……あたしには無理」

前に言った言葉を……その時は信じられずに出来なかったことを、今度は本気で言う。

杏子「だから、だからさ。今度こそお前の歌を、あいつに聞かせるためにあたしは……」

バサラは真っ直ぐあたしの目を見つめていた。
虫が良い話だとは思う。一度、自分から反故にした約束をもう一度信じろなんて無理な話だ。

バサラ「そうか」

バサラが言ったのは、その一言のみだった。

252: 2015/02/04(水) 19:37:59.28 ID:pagBBv/q0
横を通り過ぎてバルキリーに乗り込むバサラ。

バサラ「乗らないのか?」

あたしは少しの間呆然としていた。

杏子「何か、いや……いい」

バサラの前にあたしも座る。
行動で示す。それが、あたしに唯一残された道で一番確実な方法だ。

ふと、気になった事を聞いてみる。

杏子「なあ。ここで誰か他のやつと一緒に座ったことってあんの?」

バサラ「あるけど?」

杏子「……別にっ」

機体は離陸を始め、戦地へと向かおうとしていた。

253: 2015/02/04(水) 19:38:33.35 ID:pagBBv/q0
避難所


まどか(仁美ちゃん、上手くやってくれたかな)

タツヤの相手をしながらまどかは考え事をしていた。
自分にも出来ることはあるはずだと考える一方で、自分にはどうしても出来ないことがあるとまどかは知った。さやかと会話した時に、それを強く感じたのだ。
今のさやかに必要なのは自分の声ではなく、仁美の声だと。

まどか(今ごろ、外ではみんなが戦っているのかな)

タツヤ「ねーちゃん、げんき?だいじょーぶ?」

考え事をしていたから表情が俯き加減になっていたのだろう。タツヤが心配してまどかの肩を揺する。笑顔を返すと、無邪気に笑う。

知久「ほら、タツヤ。今日はみんなでピクニックだ。まどかもほら、楽しまないと」

パパがタツヤを抱え上げながらそう言う。
その思いやる姿を見てまどかも安心した。

まどか「ありがとう、パパ」

知久「……まどか。不安な事なんて何もないんだからね」

まどか「そう…だね」

知久「何か気になることでも?」

黙ってしまう。嘘をつくのは得意ではないまどかは、何か下手に喋ってしまうとそこから全部分かってしまわれるかもしれない。

知久「言いにくい事だったら無理に言わなくてもいいよ」

まどかの心情を察したのか、知久は無理強いはしなかった、
魔法少女であるなら、もっと周りに気を使わなくてはならないのかもしれない、とまどかは考える。自分がそうであることを周囲に隠して、それでも戦い続ける。

254: 2015/02/04(水) 19:39:05.55 ID:pagBBv/q0
でも、本当にそうしなくてはならないのだろうか?

別に、悪いことをしているわけではない。寧ろ、みんなに褒められることをしているはずだ。それなら、もっと存在を現したっていいはずなのだ。

まどか「もっと、いろんな人達がみんなを知ってくれたなら」

仁美にさやかのことを話してしまったのは一つの賭けでもあった。
それを知った仁美がさやかのことをどう思うか不安ではあったが、仁美も魔女に襲われた時のことを朧げに覚えていたこともあって素直に受け入れてくれた。

まどか(……私が歌っていたことも覚えていたんだった)

話した時に、見知らぬ他人よりも知り合いに見られた方が恥ずかしいのだと分かった。

バサラさんの歌。魔法少女が戦いを避けられるかもしれない、運命を変えるための切り札。
マミがそう言ったことにまどかは疑問を感じていた。自分が歌に対して思った感情はそういう大層なものではなかったからだ。

まどか「怖い時こそ歌え!……かあ」

言葉よりも心に届きやすい何か。心を動かすことが出来るもの。
だから歌うのなら、素直な気持ちで。バサラのように。

歌っていた。


心の底から起こるメロディーを口ずさまずにはいられなかった。
もう一度。私たちの日常をみんなで過ごしたい。
戦場にいけない自分が出来ることは、祈ること。
自分の思い。相手に伝えたい想い。素直な気持ち。

歌いあげると、タツヤがぽかんと見上げていた。

タツヤ「ねーちゃん」

まどか「あ、えっとこれは……」

タツヤ「ねーちゃんすごい!じょーず!」

初めてもらった拍手。

まどか「あ、ありがとう」

知久「……」

まどか「あ、パパ」

知久「なんだか、すごく落ち着く歌だね。その歌を聞いていて思ったよ。子供達を安心させようとしている自分が、本当は不安を感じていたんだって」

255: 2015/02/04(水) 19:41:34.51 ID:pagBBv/q0
知久「ありがとう、まどか。……自分の子供に諭されるなんて、まどかも大人になっていたんだな」

まどか「そ、そんな…大げさだよ」

談笑する鹿目家はいつもの生活と同じ雰囲気が漂い始めていた。

QB(驚いたよ、鹿目まどか)

背後からの声に振り向くと、キュウべえがいた。
位置は離れている。しかし、テレパシーで声を送ってきているようだ。

まどか(キュウべえ!)

知久「ん、まどか。どうかしたかい?」

まどか「え、あ、いや。なんか虫が飛んでたような」

QB(少し話したいことがある。とある魔法少女の話で、君にとても関係のある話だ。そこで話しているのは少し面倒だからこっちまで来てくれないかな?)

まどか(……分かった)

キュウべえに対して警戒心はあった。自分たちのことをエネルギー源としか考えていない存在だということは前に本人の口から聞いている。
それでも、少しでも魔法少女についての事が知れるのであれば知りたいと思う。自分に関係があるというのであればなおさらそう思う。

まどか「ごめん、パパ。ちょっとお手洗いに行ってくるからタツヤを見てて」

知久「ん。行ってらっしゃい」

タツヤ「…あう、ねえちゃん」

まどか「すぐ帰ってくるから、大人しくしてて、ね」

まどかの服を掴もうとしたタツヤを知久が止めた。
まどかはキュウべえが乗っている手すりの前まで行くと周囲に人がいないことを見てから話しかける。

256: 2015/02/04(水) 19:42:24.58 ID:pagBBv/q0
まどか「私に関係のある話って何?」

QB「その前に、君は自分がさっき発したエネルギーについて気づいているのかい。君に巻きついた因果律の糸があのようなエネルギーを生み出すことになろうとは思いもしなかったよ」

まどか「何の話」

QB「……自覚は無いようだね。では、君が何故魔法少女の才能があると言われるか分かっているかな?」

まどか「……知らない」

QB「そうか。なら話しておこう。何の変哲もない君のような少女に、どうしてそれ程までに因果の糸が巻きついているのか」

QB「魔法少女となって強大な力を持つ者は、因果律を多く含んでいる。この因果律というのは他者との関わり、願望、そして、その世界に対する影響の事だ」

まどか「どうして、私がそんなにたくさんその……因果律っていうのを持っているの?私は…何の力も無いただの」

QB「そう。だから僕達は誰かが君を基点として何かを行っているんじゃないかと思ったんだ。君のエントロピーは世界を作り変える神にさえなれるほどだ。そんな力を持つ為には世界そのものの因果律が君に対して降りかかっていないといけない。人の一生の内で、そんな事が出来るわけない。そんな前例は見たことも聞いたこともない」

QB「けれど、その前例を覆すことが出来る能力を持つ魔法少女がいた。暁美ほむら。彼女の持つ力は時間操作。それがどの程度まで機能するものなのかは知らないけれど、少なくとも何度か世界をやり直しているようだね。そして、それは必ず君を基点としているようだ」

まどか「私を……?なんで私なんかを」

QB「さあね。僕にはその理由までは分からないさ。けれど、そう考えると少なくとも君の因果律については説明ができる。まあ、正確なことは彼女自身に聞かないと分からないだろうけれど」

まどか「……じゃあ、いくつか聞かせて」

QB「なんだい?聞かれたことには答えるよ」

まどか「どうして私にそんな話をしたの?私を魔法少女にしたいから?もし本当に私に世界を変えられるような才能があるのなら、世界を作り変えてキュウべえたちがいない世界を願って、魔女や魔法少女なんていうのがいなくてもいい世界を作るかもしれないんだよ」

QB「そうしたら、君たちの文明は著しく低く成り果てるだろうね。君たちの発展は僕たちの干渉があってこその産物だ。今までの文化的な暮らしを捨てて穴蔵で暮らしたいというのなら、それでも構わないけれど」

まどか「それでもいいとしたら?」

QB「合理的じゃない。けれど、その理解が出来ない理由でも動くのが君たちだったね」

QB「分かった。そんなことをされたら僕たちも困る。けど、僕たちの意図を君が知る必要はないと思うよ。それでも知りたいかい?」

まどか「知りたい。少しでもあなた達を理解するために」

QB「迷っているからさ」

257: 2015/02/04(水) 19:42:50.44 ID:pagBBv/q0
まどか「迷う……って、何に?」

QB「たしかに君を魔法少女にして、魔女となった時に得られるであろうエネルギーはとても魅力的なものだ。しかし、それと同時にリスクも生まれる。もし君が魔女となった時にそれを倒すことができる魔法少女が現れなかったら人類にどれほどの被害が出るのだろうか?そうした時にせっかく構築したシステムが継続出来ない事態になってしまうかもしれない。そして、もし君が世界を作り変えてしまって僕たちの使命を、今まで積み上げてきたものを台無しにしてしまうような願いをされたら?」

QB「僕等にはその願いがエントロピーを凌駕していない限り、それを受け入れないことは出来ない。リスクを踏まえながらも君と契約をするいうのが将来的に見て果たして利益になるのだろうか、とね」

まどか「なら、そんなこと話さなければ良かったのに。何も知らないまま契約をさせてしまえば、迷うことだって」

QB「言っただろう、僕たちは最終的な判断は君たちに決定を委ねると。一応、君たちのことは知的生命体と認めているんだよ?」

そこで、まどかは理解した。
目の前にいる相手は、悪意を持って自分たちをエネルギー源としているのではないということ。そうするより彼らには他に方法が無いから、そうしているのだと。
警戒心の他に、ある感情が湧いた。それは、まどかが他人に対していつも抱く感情。

QB「鹿目まどか、念のためもう一度聞こう。君はこの宇宙のために魔法少女となってくれる気はあるかい?」

まどか「……少し前の私なら魔法少女になったかもしれない。誰かの役に立てる何かになりたいって。弱い自分を変えたいって」

まどか「でも、今はそう思わない。こんな私にも出来ることがある。誰かを支えることが出来る。認めてくれる人がいる。だから私は、今のままでいい。ただの少女のままで、いい」

QB「それが君の選んだ答えか。まどか」

まどか「うん。だから……ごめんね」

QB「何がだい?」

まどか「魔法少女になってあげられなくって。でも、私に出来ることがあるのなら手伝うよ。出来る範囲は限られているけれど」

QB「……その反応は予想外だったな。まさか、君からそんな言葉が聞けるとは思わなかった」

キュウべえの反応が珍しく遅れた。

258: 2015/02/04(水) 19:45:02.56 ID:pagBBv/q0

QB「君は、僕たちを敵対視しているんじゃないのかい?今までの人間は残念なことに僕達のやっていることに対して手伝うなんていう気持ちにならないものだと思っていたのだけれど。」

まどか「だって可哀想なんだもん」

QB「可哀想?僕たちが?」

まどか「誰かを魔法少女にすることでしか、キュウべえの使命は果たせないんでしょう?そんな風にすることでしか生きられないなんて、可哀想だよ」

QB「わけが分からないよ。そんな風に思う人間は初めてだ」

QB「何の変哲も無いと言ったのは訂正するよ。君は……もしかしたら本当に特別な存在なのかもしれない」

まどか「そう、なの?よく分からないけれど」

QB「鹿目まどか。その身に多大な因果律を背負いながらも魔法少女となることを拒んだ君に、提案があるんだ」

まどか「提案?」

キュウべえからの話を聞いて戸惑いを隠せなかったが、まどかはその提案に乗ることにした。それは今までの魔法少女とは違う生き方であり、自分にこそ出来るというやり方だった。

259: 2015/02/04(水) 19:45:31.09 ID:pagBBv/q0
キュウべえとの会話の後、一目散に外へ出るための昇降口へと向かった。
パパとタツヤのことは気にかかったが、それ以上に居ても立っても居られない焦燥感に襲われていた。もちろん、向こうに行って何が出来るかどうかも分からない。
けれど自分にしか伝えられない言葉がある。そして、聞きたいことがある。
だから、私は行く。

そんな私の腕を、誰かが掴んだ。

詢子「どこに行こうってんだ?オイ」

まどか「ママ……」

詢子「外はこんな様子だ。まさかコンビニにでも行こうだなんてわけでもないだろう」

詢子「なんで外に出ようとしていた?何をするつもりだった?」

掴まれた腕を引き寄せられて詰問される。
真剣な顔。怖い声。本気で心配していることが容易に理解できる。

まどか「……行かなくちゃいけないところがあるから」

詢子「なんでお前が行く必要がある?素人が動けば怪我をするだけだ。自分1人の命じゃないって分からない歳でもないだろう?」

まどか「分かってる。自分が無力なことも、危ないことだってことも、ママが今どんなに私のことを心配しているのかも。分かってる」

まどか「それでも、私は自分に何か出来ることが少しでもあるのならそれを見過ごすなんてことは出来ない。だから……」

詢子「美樹さんのところもさやかちゃんが居ないって言ってたな。お前の用は、それと同じか?」

まどか「……!」

詢子「理由も話さない。何をするかも言わない。それじゃ行かせるわけにはいかないな。ほら、パパとタツヤの所に戻るよ」

260: 2015/02/04(水) 19:46:08.33 ID:pagBBv/q0
ママの言うことは正しい。心配するのも、危ないことをさせまいとするのも。
それでも引き寄せられた腕を引き返す。驚いた顔でママは私を見た。

詢子「まどか?」

まどか「聞けない」

詢子「おい。もう駄々をこねるような年齢じゃ無いだろ。馬鹿言ってないでさっさと」

更に強く腕を引かれて、よろける。
それでも踏み止まる。ママがこちらを振り返った。
乾いた平手打ちの音と怒りの表情に思わず身がすくんだ。

詢子「あのな……こんな時にガキがナマ言ってんじゃねえよ!もしお前が怪我したらどうする!?命を落としたらどうする!?今はヤバイ、それぐらいまどかにだって分かるだろう。そんな時に何をするっていうんだ!子供が1人でのこのこ外に出て行って何が出来るっていうんだよ!」

ママが手をあげるなんてことは滅多に無い。
本気で心配しているからこそ手をあげる。その痛みの意味が心に響いた。

まどか「何も出来なくなんて……無い!」

ママが私の反応に一瞬たじろぐ。ここで止まるわけにはいかない。
目頭の熱さを振り払うように私は続けた。

まどか「ずっと1人で戦ってきた子がいる。だから私が側にいてあげないと……じゃないと……その子はずっと1人で戦い続けなきゃいけなくなる。それはとても……とても寂しいことだから……!」

詢子「どうしても、聞けないっていうんだな。そんな子に育てた覚えは無いよ」

まどか「お願い、行かせてほしいの。行かなかったら、きっと私は後悔するから」

ママが私の目を真っ直ぐに覗き込んでくる。
心の奥まで見透かされそうな視線だったが、怯まずにその視線に応えた。

詢子(その眼……そっか。見つけたんだな)

ママが私の肩を掴んで背を向かせる。
ポン、とその背中を優しく押された。

まどか「ママ……?」

詢子(叩かれたくらいで折れるような覚悟なら引き摺ってでも引き留めるつもりだったけれど。……いつの間に、あんな眼が出来るようになっていたなんてね)

詢子「なら、もう私が止めることは出来ないな。……行ってこい、不良娘」

まどか「うん。ありがとう、ママ」

振り返ってそれだけ言うと、私は外へと急ぐ。

261: 2015/02/04(水) 19:46:39.37 ID:pagBBv/q0
扉を開けただけなのに突風が行く手を阻もうとする。だけど覚悟を決めて前に進んだ。
突風に足が遅くなる。顔を真っ直ぐ向けていると呼吸が出来ない。
逸らした瞬間に、落ち葉が飛んでくる。腕で顔を防ぐ。前が見えなくなったその瞬間、光るものが目の前にあった。折れたビニール傘。剥き出しになった鉄芯だと気づいた時にはもう遅い。

マミ「はあっ!」

リボンに絡め取られて残骸が勢いを失うとそのまま別の方向へと投げられた。

マミ「危ないところだったわね」

まどか「マミさん!」

マミ「この先はもっと危険よ。あなたはそれでも行くの?」

まどか「……はい。足手まといになるかもしれないことは分かっています。でも、どうしても行かなきゃいけない理由があるから」

マミ「じゃあ、私に掴まって」

まどか「はい……あれ、風が弱くなった?」

マミ「体の周りに障壁を作ったからこれで風を気にせずに進めるわ。さあ、行きましょう」

まどか「はい!」

262: 2015/02/04(水) 19:47:13.79 ID:pagBBv/q0
火力は十分のはずだった。
戦術は完璧のはずだった。

一人でもこいつを倒せるはずだった。

魔女の笑い声が大気を震わせる。その苛立たしい声を止めることは出来なかった。
身体に力が入らない。傷ついた肉体を修復するために魔力を消費しているが、それでもまだ時間がかかる。

これ以上進まれたら、避難所が襲われる。

立たなくてはならない。
戦わなくてはならない。

約束を守らなくてはならない。
そのために、私は何度も何度もこの時間を繰り返してきた。
絶望の未来を変えるために。希望を掴むために。

ほむら「……くっ……うぅ」

動け。動け。動け。
何のためのソウルジェムだ。肉体と魂を分けたのは戦うためだ。
これぐらいの傷で、動きを止めるな。

飛来するビルや瓦礫。無作為に飛ばされたそれらの内の一つが私のいる方へと向かう。
身体の修復がまだ終わらない。時を止めたとしても、身体が動かなければ意味がない。

これで、終わりか。

また、失敗か。それも、とびきり肝心な部分で。


力を込めた奥歯に血が滲む。

263: 2015/02/04(水) 19:48:03.77 ID:pagBBv/q0
「でやあああああああああ!!!!」

掛け声とともに一閃。2つに割れた瓦礫。

どうして?

ほむら「美樹……さやか……?」

どうしてあなたがそこにいる?

さやか「あんたもこの街を守りたいんでしょ。だったら、目的は同じじゃん」

ほむら「私は……ひとりでも」

さやか「……あのねえ、1人でなんでもかんでも背追い込もうとしないでよ!いくら強がって自分だけでどうにかしようっていったって、1人じゃ出来ないことばっかりなんだからね!」

ほむら「……っ、前!」

さやか「えっ…うわっ!そんなに多くは流石にさやかちゃんでも厳しいよ!?」

ひとつだけでは足りないと即座に判断したのか、3つの高層ビルが宙に浮かんでいるのが見えた。それらが急加速して、再度飛来する。

「だから言っただろ。気を抜くなってさ」

ビルのひとつに無数の線が入れ込まれると、細切れの瓦礫となって地に落ちた。

「久々に使うぜ!ピンポイント・バリアパンチ!」

さらに、真紅の機体が変形して人型になると残りのビルを殴りつけて吹っ飛ばす。

さやか「杏子、バサラさん!遅いよ……って、な、何それ!?なんでロボットが!?」

杏子「詳しい話は後にするよ。あれにバサラが乗ってるんだ」

264: 2015/02/04(水) 19:50:28.38 ID:pagBBv/q0
ほむら「……なによ、それ」

杏子「ほむら!やっぱりもう戦っていたのか。無事じゃ……なさそうだな」

ほむら「一緒に戦わないって……言っていなかったかしら……?それとも、それであいつと戦うつもり?」

バサラ「悪いけど、俺はこいつを戦いに使うつもりは無いぜ。俺は、俺の歌を聞かせるためにこいつに乗っているんだ」

杏子「そういうこと。そして、あたしがここに来たのはお前と一緒に戦うためじゃない。戦いを止めるために来たんだ」

ほむら「……そんな分からない理屈で……!っ……」

杏子「ほむら?おいっ!」

さやか「……大丈夫。脈はあるし呼吸もある。気を失っただけみたい」

側に寄ったさやかがほむらの腕を取り、治癒の魔法をかけながら言う。その言葉に杏子は胸を撫で下ろす。

さやか「それにしても……こんなに傷つくまで戦って……」

杏子「それだけの理由が、こいつにもあるんだろう。あたし達とやり方は違うけれどさ」

さやか「……ちょっと見直したよ。でも、まだあんたの事はよくわかんないままだからさ」

さやかは立ち上がって、剣を構える。
それに呼応するように杏子も槍を回して構えた。

さやか「ちゃっちゃとこいつを止めるから、その後でいろいろ話を聞かせてほしいね。……行くよ、杏子!」

杏子「ああ、撹乱はあたしの十八番だからな!動きについてこいよ、さやか!」

「あら、私を忘れているんじゃないかしら?」

声とともに、何発もの巨大な弾丸がワルプルギスの夜を押し戻していく。

マミ「そう簡単に行かせはしないわよ!」

さやか「マミさんも!来てくれたんですね」

マミ「遅れてごめんなさい。さあ、あいつをこの場に留めるわ!」

バサラ「おおっし!俺も行くぜ、ファイヤー!」

ガンポッドを乱射して建物の残骸や魔女の身体にスピーカーを取り付ける。
バサラのギターが戦場に鳴り響いた。

265: 2015/02/04(水) 19:52:59.14 ID:pagBBv/q0
ここはずっと夕暮れ時のままだ。
夜へと向かわなければ朝になることもない。時間も人の流れも止まったままのこの世界で、私は歩き続けている。
自分がどこに向かっているのか。
何をしようとしているのか。

分かっている。
分かっているはずだ。

そうでなければ、自分が今まで歩いてきた事が無駄になる。
私は彼女に追いつくために、ずっと歩み続けた。そのはずなのに。

歩み続けても彼女はどこにもいなかった。
私を待っていてくれるはずの人物は、もう二度と会えない。

なら、どうして私はまだ歩みを続けるの?

疑問に思いながらも歩みを止めることができない。
一度止まれば、また歩き出せないかもしれない。
その恐怖と使命感が、私の足を動かす。

流れていく人とは別に、異質な存在が見えた。
自分とすれ違うように歩き去って行く他の人とは違い、それはそこにずっと立ち止まっている。

駆け出していた。

266: 2015/02/04(水) 19:56:04.72 ID:pagBBv/q0
あれは、違う。
あれは、自分ではない。
あれは、弱い昔の自分であって、今の私とは違うものだ。

だから、認めるわけにはいかない。
自分より前に居させるわけにはいかない。

駆けている。人が流れ、仮初めの景色も様相を変えていく。
早く、早く、早く。
一分一秒でも長く、そこに居させるわけにはいかなかった。
壊れる。壊れてしまう。
私の世界が、ここが崩れ去ってしまう。

それなのに、いつまでも辿り着くことが出来ない。

どうして!?

私は、あの時よりもずっと強くなった。追いつけない理由がない。
走れば走るほど遠ざかる姿を見てようやく気がつく。

離れていたのは、自分の方だ。

立ち止まって途方にくれる。そしてそれを認めた瞬間から世界の崩壊が始まった。

どこかに逃げなくては!
ここにいれば、崩壊にまきこまれる。眼前に見える扉。そして、背後にもうひとつ。
あれの手前にある扉を開くか、逆走して別の扉を開くか。
選択を迫られる。

どっちだ。
どっちが正しい?

私は、どうすればよかった?

時間がない。あれを追いかけるのが正解なのか。
それとも戻るのが正解か。

私はずっと追いかけていた。
彼女の姿を。彼女のやり方を。彼女の想いを。

でも、もし私の追い方が違ったというのであれば。

私はまたやり直すのだろうか?

扉へと駆け込み、開いた拍子に足場が消えた。
世界が無くなっていく。選んだのは、背後の扉をだった。

落ちていく。
無我夢中で伸ばす手を今度は誰かが掴んだ。

私の体は落下をやめて、冷たく心を覆うような暗闇が握られた手の部分から明るく晴れていく。

267: 2015/02/04(水) 19:56:32.75 ID:pagBBv/q0
その手を取ったのは気弱な少女だった。
何事にも自信がなくて、行動も鈍臭い。

人付き合いも悪くて、他人と接することが苦手。

何かを変えようと思って、結局何も出来なかった。

そんな……自分自身。


「大丈夫だよ、ほむらちゃん」

声が聞こえた。
暗かった世界に、青い光が射す。

誰?

手を取った者の正体を改めて見直す。
そこにいたのは、もう自分ではなかった。

「もう、戦わなくてもいい」

これは、夢?

ほむら「どうして……あなたがここに……?鹿目……まどか……」

まどか「ほむらちゃん……よかった、目を覚まして」

ほむら「どうして……どうしてあなたがここに居るの……?」

まどか「ごめん、どうしても居ても立っても居られないから、来ちゃった」

困ったような笑顔を浮かべてまどかは言う。

ほむら「ここがどんな場所だか分かっているのでしょう?あなたがここにいたら……私は……あなたを守れない」

ほむら「お願い、どうか私にあなたを守らせて。……あなたは私に残った唯一の道しるべ。繰り返す時の中で私が戦い続けることが出きたのはあなたのおかげ。あなたを失えば、私は……生きていけない……!だから……ここから離れて」

まどか「ほむらちゃん……」

ほむら「……こんなこと言っても意味が分からないよね。気持ち悪いって思うかもしれない。だけど、それが私に残った唯一の願い……!」

268: 2015/02/04(水) 19:57:33.74 ID:pagBBv/q0
まどか「大丈夫。ほむらちゃんの気持ちはちゃんと分かっているから」

まどか「それに、私がここに来たのは戦うためじゃないの」

ほむら「……じゃあ、何のために?」

まどか「ほむらちゃんに言わなくちゃならない事があるから」

ほむら「私に?」

まどか「……私は、守られるだけなんて嫌」

ほむら「え……」

まどか「ずっと、自分は何も出来ないんだと思ってた。学校でも、家でも、さやかちゃんやマミさんが戦っている時だってずっとそう思ってた」

まどか「何も出来ない自分が嫌い。弱い自分が嫌」

まどか「だから、魔法少女になれば誰かの役に立てるんじゃないかって思った。願い事さえあれば私も戦える。そう、思ってた」

ほむら「それは……」

ほむら(まるで……昔の……私)

まどか「でもね!それは違うって分かったんだ。本当は力が無くったって、何かにならなくったって、自分に出来ることはあるってこと」

まどか「それを教えてくれたのが、熱気さんの歌」

ほむら「熱気バサラ……彼が……?」

まどか「私がここに来たのは、ほむらちゃんが1人じゃ無いってことを伝えるため。さやかちゃんも、マミさんも、杏子ちゃんも、もちろん私だって、ほむらちゃんの味方だよ」

ほむら「そんな……そんなの、あり得ない!私は1人で戦ってきた。誰に認められたいわけでも、褒められるためでもない。信用したって、些細なきっかけでそんな絆はすぐに綻びる!だから関わりを絶ってきたのに!今更になって、そんなのあるわけない!」

269: 2015/02/04(水) 19:59:08.30 ID:pagBBv/q0
杏子「そうやって何でもかんでも決めつけるなよ、お前は」

まどか「杏子ちゃん」

杏子「たしかに、お前の考えはいくつかいけすかないことだってあるさ。でも、あんたにだって守りたいものや戦うだけ理由があったんだろ。だったら、あたしにそれを否定することなんて出来ないさ」

さやか「そうそう。何があったのかは知らないけれど、あたしたちはまだあんたの事をよく分かってないんだからさ!だから……ちゃんと教えてよね!」

まどか「さやかちゃん!」

マミ「魔女の結界内で初めて顔を合わせた時、私は話を聞こうとせずにあなたに銃を向けた。話をすれば、協力することだって出来たかもしれなかったのに……」

ほむら「巴マミ……」

まどか「ほらね、ほむらちゃんの周りには敵なんていない」

少女たちはほむらに笑みを向けた。

ほむら「それじゃあ……私の覚悟は何のため……?私が今までしてきたことは……」

ほむらの手を、まどかが両手で包んだ。

まどか「覚悟も、想いも、ちゃんと伝わったよ。今まで守ってくれてありがとう。でも、もう大丈夫」

ほむら「……でも、あいつは、ワルプルギスの夜はまだ……私の力では……」

まどか「それでも、出来ることはあるよ」

ほむら「何を?」

まどかは包み込んだ手を胸に近寄せる。

まどか「私だけだと、足りないかもしれない。でも、ほむらちゃんが一緒に祈ってくれるのなら届くかもしれない」

その言葉は、不確定なものに頼ろうとしていなかったほむらを唖然とさせるものだった。祈って、何になる。一瞬そう考えた時、自分が何かを思い出してハッとする。

ほむら(そう……そうだったわね。私は、魔法少女……希望を祈って生まれる存在)

かつて多くの少女が契約の際にそうしたように。

そして、自分もそうしたように。

まどかに包まれた手をもう片方の手で包み、祈りを捧げる。

ほむら(私はこの日を越えたい!)

ほむら(まどかと共に……明日を迎えたい!)

ほむらのソウルジェムが輝き出した。共鳴するように、他の魔法少女たちのソウルジェムも光出し、杏子はバサラの方を見る。

270: 2015/02/04(水) 19:59:34.48 ID:pagBBv/q0
杏子「これって……あの時と同じ……!」

バサラ「へへっ……ようやくか!!」

杏子「バサラ?何がだよ……っ!?空が!」

見上げた方向の空に、大きな裂け目が出来ていた。

マミ「何あれ……ワルプルギスの夜が何かをしたの?まさか、新手の敵!?」

さやか「何かが……来る……!?」

裂け目から飛び出して来たのは、4機の巨大な飛行機。
ピンク色の機体が機体のスピーカーを通してバサラに話しかける。

ミレーヌ「ようやく見つけた!バサラーっ!!」

バサラ「ミレーヌ!遅いじゃねえか!もうライブは始まっているんだぜ」

ミレーヌ「何よそれ!私たちがどれだけ苦労してここまで来たと……折角サウンドブースターまで持ってきたっていうのに、もう!……あ、そうだ!こちらミレーヌ機。千葉さん、バサラを発見しました!」

Dr.千葉「よし、よくやった!バサラのサウンドブースターもオートパイロットで無事に届いているようだな……む、なんだかノイズが混じる……そちらの状況はどうなっているんだ?」

ミレーヌ「見た感じ……凄いことになってる。強い嵐?多分これがノイズの原因ね」

レイ「やっぱり、バサラの行くところは厄介なことばかりがつきまとうようだな」

ミレーヌ「あれって……何?見ているだけでなんだか凄く哀しい気持ちに……心が締め付けられるような。……そう!あいつに歌を聞かせるってわけね」

バサラ「……ああ!あいつにも俺たちのハートを叩きつけてやる!ミレーヌ、レイ、ビヒーダ!行けるか?」

ミレーヌ「当たり前でしょう!」

レイ「ぶっつけ本番か、よくある事だな!……よし、ここら一帯の電波もジャックした。軍用のを改造したやつだから町中に歌を届けられるぞ!」

ビヒーダはキレの良いドラムでリズムを取る。
FIRE BOMBERの演奏が始まった。

バサラ「よおっし!新曲行くぜ! MAGIC RHAPSODY!!」

271: 2015/02/04(水) 20:00:15.37 ID:pagBBv/q0

♫ Fly high 黒い Fly high 空に

♫ Fly high 光 突き抜ける

♫ Save me 夢と Save ne 君に

♫ Save me 心 解き放たれた

その歌は町中に響いた。
災害の情報を少しでも知ろうと多くの人がラジオやテレビを視聴しており、その受信機器から突然音楽が流れ始める。

「なんだ、この音楽は……故障か?」

「こっちも駄目だ!ロックみたいな音楽が流れるばっかりで…これじゃあ外がどうなっているか分からないじゃないか!」

突然のことに、多くの人が戸惑い慌てた。だが、その内に何人かが気づき始める。

「あれ……?この歌の声、なんかどっかで聞いたことがあるような……」

「ああっ!あたしこの人知ってる!駅前でずっと歌っていた人だ!」

「そういえば、公園で歌ってたのを見たことある」

前代未聞の規模の災害が迫ってくると聞いて、避難所にいる人たちはみんな少なからず危機感を覚えていた。この災害はいつまで続くのだろうか、この避難所は耐えられるのだろうか。帰る場所は無事に残っているのだろうか、と。それらの不安に押し潰されそうになっていた時にバサラたちの歌が流れる。

♫ 輝く星 汚れた銃は 誰にも撃たせない

「あれ、この声は知らないぞ?でも、なんだか男の声とすごい合う声だな」

「一体感っていうかなんていうかもう……文化って感じ!」

詢子「仕事帰りに聞いたよ。なんだか知らないけど思わず足を止める歌でさ、会社でムシャクシャすることがあったのにそんな気持ちも無くなってさ」

知久「でも、どうしてその人の歌が今流れているんだろう?」

バサラの歌は、少しずつ避難している人たちの心へと染み渡っていった。
歌が響けば響くほど、異常なことであるはずなのに惹きつけられていく。

人々が抱いていた不安や絶望は確実に減っていった。

272: 2015/02/04(水) 20:00:55.33 ID:pagBBv/q0
ミレーヌ(やっぱり、バサラとの歌は違う。ずっと合わせてなかったからこそ余計に分かる)

ミレーヌ(サウンドが、呼吸が、ハートが合う。波長が組み合わさって……それに、なんだか前よりもずっと合わせやすくなったような)

バルキリーに乗ったままの飛行で、相手のキャノピーの内側が見えることはあまりない。
だがその時のミレーヌの目には、アイコンタクトを送るバサラの視線がはっきりと映った。

ミレーヌ(え、今……バサラが後ろの私たちに意識を向けた?いつもなら観客の方にしか目がいかないのに)

ミレーヌ(そっか。変わっていくのは私たちだけじゃないんだね。それなら、私だって!)

バサラとのコーラスの時、いつもは主張の激しいバサラに寄り添うために一歩引いて歌っていた。その部分でミレーヌは自らを主張するように張り合って歌う。
いつもと違う歌い方に、バサラの顔が笑みで綻ぶ。

♫ RHAPSODY RHAPSODY 永遠を

♫ 愛の音を A REAL SHOCK

ほむら「これが……歌?」

飛行機を操縦しながら楽器を演奏し、歌う。そんなことが出来るのかと舌を巻く。
自分が想像していなかった規模で演奏が始まり、ほむらはただ唖然とするばかりであった。

ほむら「こんな……こんなやり方で……」

まどか「上手くいくよ」

ほむらを見て、まどかは強く頷く。

273: 2015/02/04(水) 20:01:24.11 ID:pagBBv/q0
まどか「みんなが希望を胸に祈っていて、精一杯頑張っている人がいるのなら、魔女だって止められる!」

ほむら「……そう、だったのね」

まどか「え……?」

ほむら「あなたはずっと……あなたの強さというのは」

ほむらは自分が長い間誤解をしていたことにそこで気づく。
鹿目まどかという存在をずっと庇護の対象だと、かつての自分のように弱い存在だったと思い込んでいた。

♫ RHAPSODY RHAPSODY 勇気より

♫ 正義より 熱く MAGIC RHAPSODY

ほむら(私が救おうとしていたのは……)

夢の光景がほむらの脳裏に浮かんだ。

ほむら(自分の手を取って欲しかった誰かは……)

その答えが出た瞬間、ほむらは自分の意識がクリアになっていくのを感じた。
灰色の空は、いつの間にか青空が垣間見えていた。

274: 2015/02/04(水) 20:03:31.26 ID:pagBBv/q0
杏子「……!さやか、ちょっとストップ」

さやか「わっとと。何、どうしたの杏子?」

杏子「見てみろよ。ワルプルギスの夜の動きを」

さやか「動きが……止まってる?ってことは!」

杏子「あいつの歌が届いたんだ……へへっ、やっぱあいつは」

QB「歌のエネルギー。人の感情とは奥が深いものだね」

さやか「キュウべえ!?あんたがどうしてここに!」

QB「そんなに敵意を向けないでほしいな。ぼくは君たちにとっても有益な提案をしに来ただけなのだから」

QB「それに、ワルプルギスの夜をこれからどうするつもりだい?今のままだと、危険な事には変わりがないよ」

杏子「どういうことだよ…あいつの動きは止まってる。バサラの歌が届いたんだろ!?」

QB「確かに動きは止まったね。けれど、それによって発散されるはずのエネルギーがずっと一箇所に留まり続けることになった」

QB「君たちにはよく分からないかもしれないけれど、今もあの魔女を中心として力場が作られ続けている。もしこのまま放っておけば魔女は自らの力に耐えきれなくなって自壊するだろうね。その時に一体どれほどの力が放出されるのか、予想もつかないな」

QB「この街、いやもっと広範囲まで巻き添えにされるかも」

マミ「でも、私たちに出来ることは……」

さやか「どうすればいいのよ!?折角歌が届いたのにこれじゃあ、もっと大きな被害が!」

275: 2015/02/04(水) 20:04:22.42 ID:pagBBv/q0
マミ「……ひとつ思いついた手はあるわ」

さやか「本当ですか!?」

マミ「今から、ワルプルギスの夜を私たちの手で倒す。動きの止まった今ならそこまで厳しい戦いではないはずよ」

さやか「で、でも……それって」

マミ「ええ。私たちが自分自身のやっていたことを否定するということ。信じていた希望もね。……けれど、もう私たちに出来ることはそれくらいしか」

杏子「……まだだ」

杏子「まだ、あたしは諦めない。あたしは決めたんだ、もう二度とバサラを、自分を裏切らないって……!」

マミ「佐倉さん……」

さやか「でも、どうすれば……」

杏子「っ……バサラーっ!!歌ってくれよ!お前なら、どうにか出来るんじゃないのかよ!」

バトロイド形態に変形したバサラの機体に向かって杏子は叫ぶ。

バサラ「……俺は歌わねえよ」

スピーカーから、バサラの歌が聞こえた。

杏子「どうしてだよ!?お前は、歌うんじゃなかったのかよ!」

バサラ「俺より歌いたさそうな顔をしているやつがいるからな」

言いながらバサラは機体の指を少女に向ける。
倒れた少女に寄り添う少女。鹿目まどかに指先が向いていた。

276: 2015/02/04(水) 20:04:49.44 ID:pagBBv/q0
まどか「え……私?」

さやか「ま、まどかが?」

マミ「歌う……の?」

バサラ「まどか!お前はどうしたい?」

バサラはまどかに向かって呼びかける。
すぐには答えられず、まどかは少し俯く。

ほむら「そんな、危険よ!確かに歌は魔女に対して、心に対して訴えかける力があるのは分かった。でも、それでもし今のあいつを刺激して、襲われるような事があれば……」

バサラ「俺はまどかに聞いているんだ」

短く、そう言い放つ。

ほむら「……っ、私はただ心配で」

まどか「いいの、ほむらちゃん。これは私が決めることだから」

バサラ「それで、どうしたいんだ?」

まどか「私は……あの子達に歌を聞かせたい。あの子達は、かえり道が分からなくなっているだけなの。だから……ちゃんと送ってないと」

ほむら「あの子達……かえり道……?」

まどか「うまくは説明できないけれど……たくさんの悲しい声が聞こえる。心細くて、今にも泣いてしまいそうな……。ほむらちゃん、私をあれの出来るだけ近くまで連れて行って」

277: 2015/02/04(水) 20:07:12.92 ID:pagBBv/q0
ほむら「私が?それに、そんな危険な事には」

まどか「ほむらちゃん。お願い……駄目かな?」

ほむら「今の私にはもう魔力はほとんど残されていない。武器もほとんど使い切ってしまった。正直に言って、あなたに何か起こった時に私はあなたを守れない可能性の方が高い。他の人の方が適任だと思うけれど」

まどか「……私は、ほむらちゃんがいいな」

ほむら「え?」

さやか「ははっ、無駄だよ転校生。まどかは頑固だから、こうなったらテコでも動かないよ。ま、あたしからも頼むから連れて行ってあげてよ」

さやかとまどかの顔を交互に見合わせてため息をつく。

ほむら「……分かったわ。出来るだけ近くまで行くから掴まって」

渋々といった表情で、ほむらは承諾した。

ほむらはまどかを抱えながらまだ壊れていないビルの屋上へと跳び上がり、着地する。

ほむら「この辺でいい?」

まどか「うん。ありがとう」

278: 2015/02/04(水) 20:09:12.15 ID:pagBBv/q0
ほむら「……彼らの歌には確かに力がある。私が銃を持っても出来なかったことが彼らには出来てしまった、けれどあなたにもその力があるとは限らないと思う。あの人達はきっと特別なのよ」

まどか「そうかもしれない。でも、歌うことは誰にだって出来るはず。私でも、ほむらちゃんにだって」

ほむら「私が……歌う?」

まどか「祈りを込めて、想いを載せて歌えば。きっと、誰だって、私だって、魔女に気持ちを伝えることは出来るはず」

ミレーヌ「おーい、そこの君!」

声の方向に振り返ると機体から身を乗り出して手を振るミレーヌの姿が見えた。

ミレーヌ「歌うんでしょ?これ、使って!」

まどか「えっ……えと……わ、ちょっ」

ゆるやかな放物線上を描いて何かが投げられる。まどかが取ろうと身構えたが、明らかに落下点とはずれている。
地面に落とす前に、ほむらが先に受け止めていた。
みえ
まどか「ほっ、取ってくれて良かった。ありがとうほむらちゃん」

ほむら「これは……マイク?」

ミレーヌ「折角歌うんだから、それぐらいは無くっちゃね!スピーカーに繋がっているから、確実に歌声が届くと思うよ」

ほむらがそれを手渡すとまどかはワルプルギスの夜に真っ直ぐ向き合う。
手が、膝が震えていた。

まどか「……はは。やっぱり、怖いものは怖いね」

ほむら「無理しなくてもいいのよ。あなたが出来ないといっても誰も責めはしないわ」

まどか「ううん。それでもやる。これ以上みんなに、ほむらちゃんに頑張ってもらうのは気が引けるから」

279: 2015/02/04(水) 20:11:10.39 ID:pagBBv/q0
ほむら「そんなこと、気にしてなんかいないのに」

まどか「だって、友達だったら頼ってばかりじゃいられないでしょ?」

ほむら「友達……私が……?」

まどか「まどか」

ほむら「え……」

まどか「まどかって、名前で呼んでほしい。……駄目かな?」

ほむら「……!」

息を飲む。ほむらはその言葉に覚えがあった。
かつての自分がかつてのまどかに言われた言葉。
ほむらのやり直しは、その言葉から始まった。

ほむら(また、言われてしまったわね)

言われたことが嬉しくないわけではない。ただ、ほんの少しだけ自分から言えなかったことを悔やむ気待ちがあった。

ほむら「……もちろん、いいわ。まどか」

まどかはその言葉を聞くとにっこりと笑う。

しかしその後の言葉にほむらは絶句した。

280: 2015/02/04(水) 20:11:36.72 ID:pagBBv/q0
まどか「キュウべえ、いるよね。」

QB「ようやく、か。確かに君の力を披露するにはこの状況は好都合かもしれないね」

ほむら「インキュベーター!?どうしてそこに!」

QB「僕らは契約を願う少女の前にはいつだって現れるさ。それに、まどかとはもう話をして承諾をもらっている。さて、契約は成立ということでいいかな?」

まどか「うん。……心配しないでほむらちゃん。これが私の選んだ道だから」

ほむら「そんな……!?あなたがもう戦う必要は!」

ほむら(時を止めるための魔力が無い!戦いの時にグリーフシードも使い切ってしまった……!)

砂時計に目をやる。一瞬脳裏によぎった考えを否定する。

ほむら(いえ、諦めない。折角、またまどかは私を友達と認めてくれた。それを無為にはしたくない!)

ほむら「止めなさい!今すぐ!」

ほむらは銃をキュウべえに向けながら言い放つ。

QB「それを決める権限は君には無いよ。僕が提案して、まどかはそれを受け入れた。ただそれだけだ」

ほむら「そんな……どうして!?あなたは、戦わなくても、魔法少女になんかならなくってもあなたはもう十分に……!」

QB「鹿目まどかは、人類史上例の無い初めての存在になるだろうね。これほどの因果を抱えながらも願いを何の願いも抱かないなんて、僕らからしても奇妙な存在だと思うよ」

ほむら「……何の願いも……?」

ほむら(魔法少女になるためには、必ず願いという対賞を貰ってからでないとなれないはず)

ほむら(じゃあ、まどかが今なろうとしているのは……?)

QB「さあ、鹿目まどか。僕たちに見せてくれ」

QB「僕たちの持たない文化である歌が、どれほどのエネルギーを生み出すのかを!」

ほむら「……まどか!」

281: 2015/02/04(水) 20:13:37.69 ID:pagBBv/q0
光がまどかの身体から発せられる。かつてほむらが見たことのある姿。
ピンク色を基調とした、魔法少女の衣装……とは異なっている。
それだけでは無く、以前との差異は手に持つのが弓では無くマイクであるということ。
まどかは静かにマイクを口に近づけ歌い始める。

♫ 「それじゃ またね」って手を振って 

♫ 無理に笑って 寂しくなって…

ほむら「この歌は……?まどかは、何になったというの?」

QB「歌エネルギー理論。魔法少女システムに代わる新しいシステムの根幹となる要素」

ほむら「どういうこと?まどかは魔法少女になったんじゃ」

QB「確かに僕らはいずれは魔女になるであろう少女のことを魔法少女と呼ぶ」

QB「けれど、彼女は魔女になる必要はない。それ以上に、恒常的に、安定的にエネルギーを得られる手段があることを知った」
♫ 歩道橋 自転車抱えて登る人 コンビニ 誰かのうわさ話

♫ 交差点 信号 遠くのクラクション

♫ 知らない誰かの笑い合う声

ほむら「それが、歌?」

QB「新しい彼女たちには魔女と戦う使命は無い。その代わり僕達が願いを叶えるなんてことはしないし、彼女たちが使える魔法もたいしたことは出来ない。それこそ、時間逆行なんていうようなことは特にね」

ほむら「……気づいていたの」

QB「確証はなかったけれどね。君と、まどかの存在が僕たちにこの新しいシステムを作らせたんだ。手間がかかるね」

ほむら「私と、まどかが?」

♫ 今日はひとりで歩く 通い慣れた街でも

♫ いつもよりもなんだか じぶんがちょっと小さく思えるよ

282: 2015/02/04(水) 20:14:27.47 ID:pagBBv/q0
ミレーヌ「……いい歌。ねえ、バサラ」

バサラ「こんなサウンドが……」

ミレーヌ「バサラ……、聴いているの?ねえ!?」

バサラ「ああ、聴いている。だから、静かにしてくれ」

ほむら(この感覚は……身体が、心が、溶かされていくような)

QB「彼女が何になったのか、知りたいんじゃないのかな」

QB「この国では、彼女のように歌を歌い、大衆を惹きつける存在のことをアイドルと呼ぶそうだね」

QB「だったら、彼女のような存在は『魔法少女アイドル』と呼ぶべきじゃないかな」

キュウべえは小首を傾げてほむらの方へ振り向きつつ、そう言った。

ほむら(今、分かった。あいつが、イレギュラーが。熱気バサラがこの世界に現れた理由が)

ほむら(あいつは、この歌を私に聴かせたかったんだ。そのために……)

ほむら「魔法少女……アイドル!」

♫ 「それじゃ またね」って手を振って 笑顔作って 寂しくなって

♫ ホントはまだ話し足りないけど

♫ 「それじゃ またね」って言葉で また会えるって 嘘をついて

♫ いつもどおりの笑顔で言うよ 「また あした」



283: 2015/02/04(水) 20:15:02.11 ID:pagBBv/q0
杏子「ワルプルギスの夜が!」

さやか「崩れて行く……これって」

マミ「導かれたのよ、円環の理に。鹿目さんの歌のおかげで」

杏子「そうか。ワルプルギスの夜は還っていったんだな。まったく、バサラもまどかもすごいことをするもんだよ」

さやか「ほんと、あたしたちだけじゃどうなっていたことやら」

喜ぶ3人に、真紅の機体が近づいてくる。
杏子がそれにいち早く反応して駆け寄る。

杏子「バサラ!」

バサラ「杏子、みんなも無事のようだな」

杏子「バサラ……ああ、もう!言いたいことが多すぎて、上手く言えないけどさ……あたしが言いたいのは……」

バサラはハッチを開き、杏子に向かって親指を立てる。
そのサインに杏子も言葉を選ぶことはせずに、同じようにして笑顔で応えた。

ミレーヌ「バサラ!何やってるの?いつまでゲートが安定しているか分からないから、早く行くよ!」

バサラ「分かってる、すぐ行く」

杏子「え、もう行くのか!?」

284: 2015/02/04(水) 20:17:00.95 ID:pagBBv/q0
バサラ「俺は止まらないんだ。俺の歌を求める奴がいる限り、俺の知らないサウンドがある限りな」

バサラは機体を上昇させる。

杏子「バサラ!いつか、いつかあたしも……歌を!」

バサラ「……ああ!」

ハッチを閉じて機体を旋回させる。フォールド転移によって空間が開かれ、そこに機体が入り込んで行く。

さやか「あいつって、どうして私たちの前に現れたんだろう?」

杏子「別に大した理由なんてないよ。あたしたちに歌を聴かせたかった。多分、それだけだろ」

マミ「ふふっ、確かに。あの人ならそういうことを言いそうね」

杏子はバサラたちがいなくなった空を見上げて握り拳を振り上げる。

杏子「ファイヤー……ボンバー!」

空は雲ひとつ無く、ただ青く澄み切っているだけであった。


285: 2015/02/04(水) 20:23:44.35 ID:pagBBv/q0
エピローグ

「コネクト」

286: 2015/02/04(水) 20:24:24.88 ID:pagBBv/q0
ゆま「ただいまーっ」

千歳ゆまが学校から現在の家、養護院へと帰ってきた。
今日学校であったことを話すために園長を探していると、居間に見慣れない姿があった。

ゆま「ただいま……あれ?」

杏子「よう。ゆま、学校はどうだった?」

ゆま「え、キョーコ?」

一瞬、間を置いてゆまがキョーコに飛びつく。

ゆま「帰ってたんだ!今日は休みなの?ここに泊まっていくの?」

杏子「あー、ごめんなゆま。学校の寮がうるさいから外泊は長期休暇中じゃないとダメだってさ。あと今日もライブがある」

ゆま「……そうなんだ。じゃあ、なんでここに?いつもならすぐお仕事に行くのに」

杏子「そりゃあ、ゆまに会いたかったからだけど。いろいろ心配だし、さ」

俯くゆまの頭を杏子は撫でる。

ゆま「わたしは大丈夫。学校だって楽しいし、みんなも優しいし……けど」

杏子「……大丈夫っていうなら、そんなに情けないような顔するなって。そんじゃ、そろそろ行くか」

ゆま「ねえ、キョーコ。今日ね、学校で将来の……」

杏子「ん?」

ゆま「……ううん。やっぱりいいや。キョーコがこっちに帰ってきたら話す」

杏子「そっか。それじゃあ、こっちもキュウべえに言って忙しくなり過ぎないようにしてもらわないとな」

杏子は立ち上がって外へと向かう。日は傾いていて暖かな陽気がする。

ゆま「将来の夢。わたしも魔法少女アイドルになってキョーコみたいに歌いたいな」

杏子を見送りながら、ゆまはそう思った。

287: 2015/02/04(水) 20:30:14.88 ID:pagBBv/q0
バトル7 ブリッジ

マックス「どうやら上手くいったようだ。少し前に彼らからの報告があった」

机の上で小さな人物のホログラムが映されている。中年の怪しげな中華風の格好をした男性であり、どこか不機嫌そうにマックスと会話をしていた。

「……お前が軍人で無ければ、素直に喜べたのだがな」

マックス「君には感謝している。かつて伝説のアイドルをプロデュースしたリン カイフンになら、きっとこのシステムの構築を手伝ってくれると信じていた」

カイフン「お前たちのためじゃない。これは歌の力、平和を広めるためだ」

マックス「それは理解しているつもりだし、君の考えを否定するつもりもない。アイドルというものに関しては君の方が精通していると思ったから声をかけたんだ」

カイフン「体良く利用しただけだろう」

ふん、と鼻息を荒くして答えたのにマックスは表情を変えなかった。

マックス「……実は君に任せたい仕事がある。コピーバンドのプロデューサーなんかよりもずっと君に向いている仕事が」

カイフン「軍人からの紹介など受けん」

そう言い切って、カイフンは通信を切ってしまった。マックスは苦笑いをした千葉に顔を向ける。

マックス「取りつく島もない、か。やれやれ、彼の軍人嫌いにはますます磨きがかかっているようだ」

Dr.千葉「そんな彼がプロデューサーだったのに、よくミンメイアタックを実行出来ましたね」

マックス「ミンメイは平和を願っていて、そのために歌うことを厭わなかった。それを利用されたということが今でも気に入らないのだろう」

288: 2015/02/04(水) 20:30:40.81 ID:pagBBv/q0
Dr.千葉「しかし、艦長はこのインキュベーターたちのシステム構築に随分とご執心のようでしたが、何か理由が?」

マックス「理由は二つある。ひとつは、彼らの存在がとても興味深かったこと。我々の世界と似て異なる世界からの来訪者が、なぜこの世界に、そして、なぜこのマクロス7艦隊へと現れたのかが気になった」

Dr.千葉「平行世界……彼らの話を聞く限りでは『マクロスが落ちてこなかった世界』とでもいうのでしょうか」

マックス「そうだな。もしかしたらゼントラーディもメルトランディも、プロトカルチャーという概念さえもない世界なのかもしれない。その代わりに、その世界には彼らインキュベーターがいる」

Dr.千葉「少女と契約を結び、その代償として願いを叶え、その契約した少女からエネルギーを搾取する。まるでかつてのプロトデビルンのような考えを持った種族でしたな」

マックス「だが、彼らとプロトデビルンの違うところはまだ交渉の余地があるというところと彼ら自身に感情がまだ芽生えていないということだ」

Dr.千葉「彼らの構築するシステムは我々の技術が及ばない部分も多くあってとても驚かされましたよ」

マックス「彼ら自身も、なぜここへとたどり着いたのかが分からないと言っていたが私の仮説だと彼らのそのシステムが関係しているのだと思う」

Dr.千葉「誰かがインキュベーターに歌エネルギー理論を知るように仕向けたと?」

マックス「いや、直接的にそう願ったわけではないだろう。平和への願いや、戦いを止めたい。そういう抽象的な願いがこのような形になったのかもしれない。……証明のしようがないただの仮説だが」

マックス(バサラがいなくなった時の微弱なフォールド反応。誰かが時空間に干渉するような力を持っていたとも推測できるが……)

Dr.千葉「私は正直なところ、彼らに歌エネルギーの理論を渡してそれを悪用しないかどうかが気がかりです。我々の監修の元構築されたシステムもそのまま運用してくれるかどうか」

マックス「それに関しては心配いらない。彼らが君の理論を掌握することは不可能だからね」

Dr.千葉「……ああ、なるほど。歌を理解するためには感情が必要不可欠。それを持たない彼らは理論を用いたシステムは扱えてもその理論を用いて他に何かをするということは出来ない、ということですな」

マックス「そういうことだ。それに彼らは合理性を重視する。効率を下げかねないようなことはしないだろうさ」

Dr.千葉「それで、もう一つは?」

マックス「単純な理由だ。娘と同じ年頃の少女が利用されているのが気に入らなかった」

Dr.千葉「……単純ながら、それ故に強い理由ですな」

ブザーが鳴り、艦長室の前に来客が来たことを知らせた。


289: 2015/02/04(水) 20:31:08.84 ID:pagBBv/q0
マックス「やはり定刻前に来てくれたか。入ってくれ」

モニターを見ると、艦長室の扉の前にガムリンが立っていた。呼ばれて中へと入るなりビシッとした敬礼をする。

ガムリン「はっ!ダイヤモンドフォース隊隊長、ガムリン木崎。ご用命にあずかり参上いたしました」

マックス「楽にしてくれて構わない。熱気バサラ捜索の件はご苦労だった」

ガムリン「恐縮です。しかし、自分はたいした働きはしておりません」

マックス「そう謙遜しなくともいい。君の歌によって発見された反応がバサラ発見の大きな手がかりになったと聞いている」

それを聞いてガムリンは一瞬思考が止まった後、千葉の方を思い切り睨みつける。艦長がこの場にいなければ大声で怒鳴りつけたいところであったが、どうにか理性がそれを止めた。

ガムリン「え、ええ。そのようです」

マックス「ところで、君を呼んだのは君に頼みたいことがあるからだ」

ガムリン「頼みごと、ですか。はっ、なんなりと」

マックス「任せたい役職がある」

艦長から直々の頼みを受けるということにガムリンは誇りを感じたが、同時に一抹の不安がよぎる。

ガムリン「……ひとつ、質問をしてもよろしいでしょうか?」

マックス「何か?」

ガムリン「その内容は千葉大尉にも関係が?」

マックス「ああ、そうだな。彼の推薦で君を選ぶ強い理由になった」

それを聞いて、ガムリンは一気に青ざめた。Dr.千葉に以前された実験には嫌な思い出があるからだ。千葉は目を細めた良い笑顔でガムリンを見る。


290: 2015/02/04(水) 20:31:36.29 ID:pagBBv/q0
ガムリン「そ、そう……ですか」

マックス「まあ、今すぐにという話でもないし君の方でも色々と引き継ぎや準備があるだろうからね」

ガムリン「準備、ですか?」

マックス「ああ。君に新しい部隊の管理官になってもらいたい。新生サウンドフォース部隊のね」

ガムリン「新生……サウンドフォース!?」

Dr.千葉「まだ候補となる人材も集まっていないから、計画段階ですが」

マックス「ついこの間ニュースにもなったばかりだが、FIRE BOMBERが活動を休止するという話は聞いているかな?」

ガムリン「ええ。それはミレーヌさんにも聞きました」

その雑誌のインタビューに同席していたのだから、当然知っている。

マックス「……我々は、バサラの存在によってあの戦いを乗り越えることが出来た。しかし、いつまでもバサラがいてくれるわけではないことは今回の事件を通して強く感じた」

マックス「だからこそ、この新生サウンドフォースはバサラ依存の今の状態から脱却するために必要な部隊だと考えている。FIRE BOMBERが活動を休止した後なら余計に、な」

ガムリン「目的は分かりました。しかし、軍人の私にそんな部隊の管理官が務まるかどうか。それに、私が何をすれば良いのやら検討もつきませんが」

千葉「予定としては、バルキリーなどの機体操作技術。そして歌の指導を行ってもらいたい」

ガムリン「う、歌の!?操作技術はともかくとして、歌なら他に適した人物が」

Dr.千葉「任せたいのは、主に体力面などだ。良い歌声のためには身体も鍛える必要がある。それに部隊としての団結力やそれを率いる統率力もな。士官学校では優秀な成績をおさめ、ダイヤモンドフォース隊のリーダーを務めてきたガムリン大尉にその役は適しているのですよ」

ガムリン「突然そう言われましても……」

マックス「私たちが君を推薦する理由はまだある」

マックスの言葉にガムリンは顔を上げる。

マックス「先ほど千葉大尉が言った君のキャリアの他に、軍人でありながら歌に強い理解を示しているというところが大きい。そう考えれば、もしかすると君にしか任せられるのはいないのかもしれない」

ガムリン「自分だけに……」

マックス「もちろん、これは命令ではないから本人が望まないのであれば辞退してもらっても構わない」

様々な思いが渦巻く。
歌の力によって軍人という職業そのものの存在が脅かされるかもしれない。そう思っていたのは確かだ。歌の力を推す部隊に協力するということは、今まで自分が所属してきた軍人という職業に対して裏切る形になってしまうのではないか、と。だが、自分にしか出来ない役職があると言われて何も感じないわけがない。

ガムリン(俺が、示さなければならないということか)

これからの軍人としての在り方を示す。それが、この拝命の意味だとガムリンは理解した。

ガムリン(これが、俺にとっての道ならば)

敬礼が、ガムリンの答えだった。

ガムリン「ガムリン木崎、謹んでその役を引き受けさせていただきます!」


291: 2015/02/04(水) 20:32:04.15 ID:pagBBv/q0
楽屋

さやか「おっそーーーい!!いったいどこほっつき歩いてるの杏子のやつは!?」

まどか「さやかちゃん、落ち着いて」

さやか「だってもう本番30分前なんだよ!?このまま本番になっても来なかったらどうするのさ」

ほむら「騒いでも仕方がないわよ。それよりも自分の振り付け、しっかり覚えているのでしょうね?前のライブでは少しタイミングがずれていたわよ」

さやか「んぐっ。わ、分かってるよ。今回はちゃんと覚えてきたから!」

マミ「佐倉さんなら心配いらないわよ。自分のやることはきっちりこなす人だもの。学校が違うから多少のスケジュールのズレは仕方がないわ」

さやか「まあ、そりゃそうですけれど。そういえば杏子はミッション系の学校に入ったんだっけ。制服もいかにも教会のシスターって感じの」

まどか「うん。すっごく似合ってたよね!本当にシスターなんだって感じ。……あれ、そういえばほむらちゃんが転校してくる前って」

さやか「あっ、そうそう確かミッション系だって言ってなかったっけ?」

ほむら「そうね。でも悪いけど魔法少女になる前は身体があまり丈夫じゃなかったから学校生活について話せることは殆ど無いわね。寧ろ、ループの回数的に見滝原中学校で過ごした時間の方が遥かに長いわ」

さやか「そ、そんなにループしてたんだ。でも毎回同じだったら結構なんでも簡単に出来ちゃうんじゃないの?」

ほむら「全部が同じっていうわけじゃないのよ。誰かさんが魔女になったり誰かさんが仲間を攻撃したり、時には別の地区の魔法少女まで関わって来ることもあるし……今回だってイレギュラーが現れて一体どうなることかと思ったわ」

盛大な溜息と共にほむらは愚痴をこぼす。

292: 2015/02/04(水) 20:32:29.99 ID:pagBBv/q0

さやか「そ、それはご愁傷様……ええと、なんか、ごめん」

ほむら「もう終わった話だからいいわよ。それに、あのイレギュラーが現れた原因は……」

マミ「それにしても暁美さん、いろんな表情をするようになったわね。前はいつもムスッとしたような表情ばかりだったのに」

さやか「そうそう。なんか冷めた表情っていうか、何を考えているのか分からなくて不気味だったっていうか」

ほむら「そ、そんな風に思われていたのね私って」

まどか「そうだね。確かに前のほむらちゃんはちょっと怖い感じだったかな」

ほむら「まどかまで……」

まどか「あ、もちろん今は違うよ?けっこう表情に出るタイプだなって思うし、笑顔も見るようになったし」

さやか「そうそう。丸くなったっていうのかな?角が取れて取っ付きやすくなった感じ」

ほむら「そ、そう……あまり自覚はないけれど」

マミ「変化ってそういうものよ。自覚はなくても、他人には分かる。暁美さんは変わったわよ」

ほむら「あ、ありがとう」

戸惑いながらもほむらはお礼を言う。

QB「おや、杏子の姿はまだ見えないみたいだね。そろそろ準備を済ましていていい頃だけど」

さやか「あ、キュウべえ。打ち合わせは終わったの?」

QB「まあね。しかし僕たちが君たち魔法少女アイドルたちの活動を手伝うようになるなんて思いもしなかったよ。契約だけすればよかった頃とは労働量が大違いだ」

まどか「いつもありがとう、キュウべえ。あなたが頑張っているから私たちは心おきなく歌に専念出来るって分かってるよ」

QB「まあ、僕らとすればそれで効率良くエネルギーが回収出来るようになるのであれば何だって構わない。君たちの活動に協力することがエネルギー回収の効率をあげることに必要なら喜んでやるさ。以前はこんなにも安定したエネルギーの供給が得られるなんて思いもよらなかったからね」

さやか「……あの、マミさん。キュウべえたちってなんか勘違いしてるんじゃないですかね?別に私達必ずしもキュウべえたちの協力が必要ってわけじゃ」

マミ「……それで当人たちが良しとしているのであれば、何も言う必要はないわよ。実際活動は楽になっているし、それなら鹿目さんのように、お礼の言葉でもあげたほうがいいわ」

さやか「ま、そうですよね。しっかし、猫も杓子もアイドルばかりになりましたね。まさか仁美も契約して魔法少女アイドルになっていたなんて」

まどか「確か、先輩と一緒に活動しているって聞いたけれど……。お嬢様系グループだっけ」

さやか「世の中、わからないものだね。いきなりこれで対等の条件ですわ!とか言われて驚いたよ」

話していると、楽屋の扉が思い切り良く開く。

杏子「悪い、遅くなった」

まどか「あ、杏子ちゃん!」

さやか「おっそいよ杏子!もう直ぐ出番だってのに」

杏子「いやあ悪い悪い。ちょっと寄りたいところがあってさ。でもあたしらは他と違って着替えが一瞬で済むんだし余裕はまだあるだろ?」

マミ「ちょっと心配したわよ。今度からは私たちを安心させる意味も含めてもう少し早く来ること」

杏子「はーい。それじゃ、とっとと支度しますか」

魔法少女たちはそれぞれが宝石を胸の前にかざし、身に包むものを変えていく。杏子、マミ、さやか、そしてまどかが楽屋の扉から出て行ってステージへと向かう。

まどか「あれ、ほむらちゃんどうしたの?」

ほむら「私は少しキュウべえと話があるから」

まどか「そうなんだ。じゃあ、先に行ってるから」

振り返ってまどかは仲間の元へと向かった。それを見届けてからほむらは口を開く。

293: 2015/02/04(水) 20:41:31.19 ID:pagBBv/q0
ほむら「まさか、こんな結末になるなんて思いもしなかったわ」

QB「不服かい?君にとっては」

ほむら「いいえ。過程はどうあれ結果的にはおそらく今までで最高の状態よ」

QB「そうか。でも、君にはまだ過去へと戻る力がある。今回の成功を踏まえてもう一度やり直すことも出来ると思うけれど」

ほむら「少し勘違いをしているわね。私が戦ってきたのは守りたいものを守るためよ。それがいなくならない限り、私はそこを動かない」

QB「守りたいもの?君は確かまどかに執着していたように思えるけれど」

ほむら「あなたに言われたくはないわ。以前ならまどかだけが在ればいいと思っていたけれど、今は違う」

ほむら「私はこの世界も守りたい。大切な友達がいて、その友達が愛するこの世界を。そのために私は魔法少女であり続ける」

QB「そうか。でも今のままだと君から歌のエネルギーを収集することが難しいから出来れば変えてほしいな」

ほむら「私に歌は似合わない。それに、私はあなたを許すつもりはない」

そう言いながらほむらは手をキュウべえへと差し出す。

ほむら「……でも、これからの魔法少女アイドルの活動にあなたの協力は不可欠なのは確か。だから、出来る限りは協力するわ」

QB「そうか。感謝するよ、ほむら」

小さな白い手が少女と握手を交わす。


舞台裏では、全員が揃っていた。
みんな、魔法少女の時の衣装をして。

マミ「さあ、行くわよみんな!」

『はい!』


マミの掛け声の後に魔法少女たちが次々と舞台上に踊り現れ、自らの武器をそれぞれ構えて立つ。

『ピュエラ・マギカ・ホーリー・クインテット!!』

持った武器を全員が頭上へと放り投げる。全ての武器が重なった瞬間、一筋の桃色の光の矢がそれらを撃ち抜き、武器たちは黄、紫、青、赤色の光の筋となってそれぞれの身体を包む。光が晴れると、まどかを含めて全員が魔法少女アイドルとしての衣装に変わり、マイクを手に持っていた。

客の歓声がまどか達を迎えた。

まどか「みんな!今日は来てくれてありがとう。まずは、私たちの好きなこの曲から!」


294: 2015/02/04(水) 20:43:49.35 ID:pagBBv/q0
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ミレーヌ「ようやく全員揃ってのライブね!……でも、今日でFIRE BOMBERとしての活動は一旦お休みなのよね……ファンのみんなに怒られないかなあ」

レイ「そう心配しなくてもいいさ。俺達のファンならきっと分かってくれる」

ビヒーダは手元に叩けるものが無いため、珍しく頷いて答える。

ミレーヌ「……それもそうね。それに、これからも歌い続けることは変わらないんだし。ね、バサラ!」

バサラは空を見上げていた。
宇宙を、星を、銀河を。その奥に広がる無限の世界を。

ミレーヌ「おーい、バサラってば。聞いてる?」

バサラ「……今、聞こえた」

そう言うやいなや、バサラは駆け出す。

ミレーヌ「え?って、ちょっとバサラ!どこに行くつもり?もうライブ始まるのよ!」

バサラを追ってミレーヌも走るが、廊下の交差点でバサラが曲がった瞬間、向かい側から駆けて来た人と運悪くぶつかってしまう。その人が持っていた花束が散らばる。

ミレーヌ「きゃっ!あいたたた……ご、ごめんなさい。不注意で。大丈夫ですか?」

少女「は、はい。大丈夫です。……けど」

散らばった花束と向かってきた方向を考えて、ミレーヌは相手が自分たちのファンだと推測した。

ミレーヌ「もしかして、私達のファンの人?だとしたら、本当にごめんね。これはちゃんと受け取っておくから」

少女「あ……」

ミレーヌ「え、もしかして違った?」

少女「いえ、確かにファンですけれど」

少女「また……渡せなかった」


集まった観衆を残して、バサラはバルキリーに乗って宇宙へと飛び出していく。

バサラ「まだまだ俺の知らないサウンドがたくさんある!待ってろよ、俺も新しいサウンドを創り出すぜ!」

一筋の真紅の閃光が、暗闇に光る星の中へと紛れていった。



to be continued…

295: 2015/02/04(水) 20:47:04.39 ID:pagBBv/q0
マクロス7の話は7thコードとかに続いていくけど自分が書くのはこれで終わり。
あー、疲れた。でもやりたいことは全部詰め込めたからいいや。

乙レスを下さった方々には感謝。完結まで凄い時間かかってほんと申し訳なかったです。


296: 2015/02/04(水) 21:19:40.55 ID:HP5K9igdo

ここから先のアイドル活動を描いた続編も見てみたい

298: 2015/02/05(木) 00:26:02.00 ID:72+tmwpBo
乙です

引用: 杏子「ふぁいやーぼんばー?」Re.FIRE!!