61: 2014/03/21(金) 23:10:32.34 ID:80Mii/0t0

第二話『仕事』を投稿させていただきます。

最初から:北条加蓮『不幸な兄妹?』
前回:【モバマス】北条加蓮『不幸な兄妹?』第一話「日常」

アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場(12) アイドルマスター シンデレラガールズ シンデレラガールズ劇場 (電撃コミックスEX)

62: 2014/03/21(金) 23:13:09.39 ID:80Mii/0t0

~side:プロデューサー~

プロデューサーが担当アイドルを持つに際して、事務所が評価の基準にする項目の一つとして、『バランス』の良さが挙げられる。

多種多様な仕事が与えられた際に、それを引き受けることができる担当アイドルがいるか。

その点においては、僕が担当しているアイドルは総じてバランスが良い。

歌、児童向けの服のモデル、子役のエキストラでは、ほたるが。

音楽関連やティーン向けの雑誌、ファッション関連なら加蓮ちゃんが。

商品の宣伝、クイズやバラエティ、モデルでは鷹富士さんが。

女優、化粧品関連、深夜の番組等では服部さんが。

対応できる仕事の幅広さが、僕の担当アイドル達の強みだ。


63: 2014/03/21(金) 23:15:19.10 ID:80Mii/0t0

バランスは良いものの、僕としては絶対に引き受けたくない類の仕事がある。

まず、グラビア。

服のモデルなら良いが、水着のグラビアとかは引き受けたくなくというアイドルはそれなりにいる。

僕の場合、完全に私情だ。

ほたるは論外。仮に数年後来たとしても却下する。

「に、兄さん。私なら大丈夫だから」

と本人は言っているが、そもそも年齢的にそういう仕事は無い。

加蓮ちゃん。一応オファーは来ているが、本人に切り出せていない。

実の妹のような彼女にグラビアをやって欲しくないという私情もある。

「大事にしてくれるのは、凄く嬉しいけど、程々にね」

善処しようと思う。まあ、親御さんからNGが来ているのもある。


64: 2014/03/21(金) 23:16:30.20 ID:80Mii/0t0


鷹富士さん。相当数のオファーが来ている。内容を詳しく検討してから頼んでいる。

「ちょっと不安なので、白菊先輩が一緒に来てくださいね♪」

あのスタイルで上目使いは反則だと思う。

尚、毎回現場に同行している。

「グラビア?別にいいわよ」

服部さん。オファーが来たら自主的に受けてくれるので助かる。プロ意識が凄い。


65: 2014/03/21(金) 23:18:33.81 ID:80Mii/0t0

次にブライダル関係。

これは正直ヤバい。

何がヤバいってヤバいのがヤバい。


主に、服部さんが。


まず、目から光が消える。プロなので頼めば全力でやってくれるが、後が怖い。


「へえ、ブライダルのモデル。ええ、いいわよ。仕事ですもの、もちろん引き受けましょう」


切り出した瞬間に養豚場の豚を見る眼で見られた。


「ところで、この前実家に帰った時、親に結婚はいつするのと言われたのだけど」


正直、この仕事は二度と服部さんに回したくない。

ドレス姿は綺麗だったが。



鷹富士さん。自主的にやってくれる。


しかし、何故か新郎役のモデルが運悪く、事故で来れなくなった。


何故か平均的な身長であるにもかかわらず、タキシードを着れる人間が僕しかいなかった。


何故か他の人が引き受けようとすると、運悪く事故に巻き込まれる。


これが毎回、起こる。偶然が重なりに、重なって。

いつの間にか、ブライダル関係の新郎役は僕に勝手にクライアント側から指定されるようになった。

ほんのりと頬を桜色に染める鷹富士さんの写真は好評で需要も多々あるが、残りの担当アイドルから軽蔑の眼差しで見られる。

「駄目じゃない。プロデューサーがこんなことしちゃ」

「へぇー、茄子さんが相手だと、こんなことするんだ」

ほたるは無言で攻めてくる。正直、これが一番つらい。


67: 2014/03/21(金) 23:19:39.38 ID:80Mii/0t0

加蓮ちゃん。一番無難。写真を見た親御さんも喜んでいた。

「どう?あなたが育てたアイドルだよ」

ウェディングドレスを着こんだ彼女に正直、見惚れてしまった。

「数年後にはちゃんとした結婚式場で見せてあげるから、楽しみにしててね」

あの病院で見せたとこか消えてしまいそうな空気が薄まった気がして、少し救われた。

毎回、現場に同行しているが、一緒に居て落ち着く。


ほたる。やはり、女の子の憧れということもあるのか、着てみたいらしい。

仕事は探しているが、中々見つからない。

見つかったと思ったら、橘さんの担当に先を越された。

確かに橘さんは可愛らしかったのだが、新郎役が同じ年頃の男の子だったので、兄としては正直助かったと思っている。

「兄さん」

ただし、ジト目でほたるに睨まれた。


68: 2014/03/21(金) 23:23:24.13 ID:80Mii/0t0

総じてバランスが良いと思っていた僕の担当だが、困ったことに上司は更にハードルを上げてきた。


「そろそろ担当を増やしてもいい時期では」と


「運動特化系の人材がいれば選択が広がると思う」


確かに、上司の指摘通り、僕の担当に運動系に特化したアイドルはいない。

加蓮ちゃんには体力面で無理をさせるわけにはいかない。

鷹富士さんも運動神経は良いほうだが、事務所内では平均的だ。

服部さんは女優路線であり、ほたるはあまり運動系が得意ではない。

担当を増やすべきなのだろうが、僕には身内や知人以外をスカウトした経験が無い。

ほたるは妹。加蓮ちゃんは従妹。鷹富士さんは後輩。服部さんは同級生。

全員知り合いばかりだ。


69: 2014/03/21(金) 23:30:00.83 ID:80Mii/0t0


担当アイドルに路上スカウトを行うべきか相談してみた。

「白菊君が?止めておいた方がいいわ」

服部さんには苦笑いで駄目だしされ。


「白菊先輩は止めておいた方がいいと思います」

鷹富士さんには神妙な顔で忠告され。


「ごめん、無理だと思う」

加蓮ちゃんには即答され。


「兄さんはそういうのはちょっと」

実の妹にまで、拒否された。


理由を尋ねると、全員に無言で視線を逸らされた。


かなり傷ついた。


やっぱり、顔が悪いのだろうか。


所詮、顔なのだろうか。



70: 2014/03/21(金) 23:39:06.17 ID:80Mii/0t0

その晩はヤケ酒をしてしまい、夜遅く帰り、ほたるに怒られた。

普段、大人しいほたるだが、怒ると怖い。

滅茶苦茶怖い。

目からハイライトが消えた状態で無言で見つめてくる。

睨んでいるわけではないのだが、無言の圧力がある。

ホラー映画に出てくる女の子の幽霊役を一度だけ、ほたるが担当したことがあるが、儚げな空気も相乗効果となり、非常に評価は高かった。

ただ、その時は目からハイライトが消えていなかった。

ホラー好きに定評のある白坂さんが喜びそうな光景だ。

「すいませんでした」

酔いが一気に覚めて、慌てて頭を下げた。

それでも、ほたるは無表情でこっちを見つめてくる。

「もう二度としません」

しばらくすると、ほたるは動き出す。


71: 2014/03/21(金) 23:55:40.17 ID:80Mii/0t0

ガシッと僕の頭を掴んでジィーと光の無い眼で覗き込んでくる。

「兄さん」

「は、はい」

「事故とかには気を付けて、お願い」

そう言った後、本当に悲しそうな表情をされた。

夜も遅いのに私服だったことから、ほたるがどれだけ心配してくれたか分かり、罪悪感で氏にそうになった。

その後、半年間禁酒した。

ほたるには勝てる気がしない。


72: 2014/03/22(土) 00:14:07.05 ID:UBt1YXef0

路上スカウトは無理と断言されたため、事務所及び育成所で担当アイドル候補を探すことにした。

「一緒に行っていい?これから一緒に仕事をするかもしれないわけだし」

トライアドの一員として、名が売れている加蓮ちゃんが一緒の方が相手も話易いだろうと共に向かった。

「どういう人を探しているの?」

明確なイメージは無かった。ただ、確かに現状路線にそろそろ新しい要素を加えるべきだとは思っていた。

「私達だけじゃ不満?」

そういうわけではない。

「ああ、ごめん。別にそういうこと言いたいわけじゃなかったんだけど」

不満であることは明らかだ。

「やっぱり、嬉しくはないよ。頼りにされてないみたいでさ」

ごめんと謝るしかできなかった。

「あとね、道でスカウトとか絶対にしない方がいいよ」

何故だろうか、やはり、不審者として警察の御用になるかもしれないからか。

「育成所とか、事務所内で声かける時も必ず誰かと一緒にいてね。できれば、服部さん。もしいなかったら、私か茄子さん」

何故。

「たぶん、プロデューサーさんの人生が、ううん、私達みんなの人生が終わっちゃうから」

どこか悲しげに、加蓮ちゃんは告げた。


73: 2014/03/22(土) 00:39:38.49 ID:UBt1YXef0

その日は育成所に向かったものの、加蓮ちゃんの言ったことが気になって集中できなかった。

何度聞いても明確な答えをくれなかった。

僕やほたるの人生が終わるとはどういうことだろうか。

それも新人をスカウトするという行為がどう直結しているか分からない。

僕にはXXXXが分からないから、理解できないのだろうか。

XXXXが理解できない僕だから、十分な危機感を抱けないのだろうか。

人生が終わるとはどういうことだろうか。

社会的に、それとも本当に生命活動が停止してしまうのだろうか。

グルグルと思考が回る。回る。回って、回って、グルグル回る。

ベッドで横になり、グルグル考える。

ほたるは、もう寝ただろうか。

もし、加蓮ちゃんの言っていることが本当なら、ほたるにも危険だということだ。

なら、その言いつけを守るべきだ。

スカウトの際は必ず誰かに同行してもらおう。


75: 2014/03/22(土) 01:36:09.76 ID:UBt1YXef0

携帯電話が震えた。

着信画面を確認する。

知らないアドレスからメールが届いていた。

件名には『白菊さんへ緊急』と書かれていた。



白菊さんへ。

仕事を辞めて遠くへ行くことをお勧めします。

これはあなたを思ってのことです。

詳しい事情を話すことはできませんが、なるべく早く遠くへ逃げてください。

あなたの担当アイドルには決して知られない様に、遠くへお逃げください。

不器用で、優しいあなたが生き延びるにはソレが一番確実です。

この忠告は読んだらすぐに消してください。

私が助けてあげられるのは、これが恐らく、最初で最後です。

大事な妹さんを連れて逃げなさい。





76: 2014/03/22(土) 01:42:17.84 ID:UBt1YXef0

悪戯にしては、あまりに僕の事を詳しく知り過ぎている。

担当アイドルがいて、僕に妹がいることを知り、それを明記している。

釈然としないまま、メールを削除した。

ほたるが部屋で寝ていることを確認。

昼間の加蓮ちゃんの発言、この奇妙な警告メール。

ナニカがあると思いつつ、ゆっくりと目を閉じた。

明日には新人候補を探さなくては。



77: 2014/03/22(土) 01:44:39.19 ID:UBt1YXef0

今の事務所はほたるの居場所であり、幸せがある。

ソレを捨てることなんて僕にできるはずがない。

ほたるの幸せが僕の最優先事項なのだから。


本当にほたるは幸せなのか?


そうあって欲しいと願う僕は、傲慢なのだろうか。


78: 2014/03/22(土) 01:48:16.92 ID:UBt1YXef0




~第二話『仕事』~


は以上となります。次回より本格的に物語が動き出します。



84: 2014/03/22(土) 18:13:54.97 ID:/1YieBrz0






~幕間② 北条加蓮 『不器用』~




85: 2014/03/22(土) 18:16:14.65 ID:/1YieBrz0


~side:北条加蓮~


基本的に、私は他のユニットメンバーの二人、渋谷凛と神谷奈緒と一緒に仕事をする。

別に不満があるわけじゃない。年齢差はあるけど、それなりに仲は良い方だ。

アイドルとして、歌手として順調な日々、

学生としてもそれなりに順調な日々、

なのに、2、3ヶ月に一度、私の心が決壊する。

これでも大分少なくなった方。

夢を見る。



真っ白な病室、点滴が落ちる音、揺れるカーテン、


私の胸に空いた真っ黒い穴からこぼれ出すタールのような液体。


粘り気を帯びたソレは私の胸からあふれ出し、病室を満たし、やがて、私は溺れる。



虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、


ドラムロールのように淡々と『虚しい』が連呼されて、潰れそうになる。


時々、こんな夢を見る。



86: 2014/03/22(土) 18:17:44.01 ID:/1YieBrz0


自分が抱えたナニカに溺れる夢を見る。


夢を見た翌朝は酷い顔している。真っ青で、鏡で見て、確信。これがアイドルの『北条加蓮』だと分かる人は誰もいない。きっと、凛と奈緒も分からないし、知らない。


両親と従妹の二人を除いては、誰も知らない。私の秘密。


翌日か、運がいい日は夜中に目が覚めた時、プロデューサーさんに電話をして迎えに来てもらう。

ほたるちゃんが居る時は、お兄さん借りるねと断ってから。

大体の場合、私はパジャマのままで、プロデューサーさんは仕事の帰りでワイシャツ。

そのまま、私が寝て、起きるまで、プロデューサーの心音が聞こえる様に傍にいてもらう。


87: 2014/03/22(土) 18:20:41.45 ID:/1YieBrz0


無言で頭を撫でてもらいながら、トクン、トクン、トクン、トクンって音に耳を澄ます。

私はちゃんとここに居て、生きていて、アイドルで、学生で、家族がいることを確認する。

自分の心音だけだと、ちゃんと生きているか不安になるから、プロデューサーさんのと合わせて確認する。


トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、


プロデューサーさんの心拍数は変わらない。女子高生に抱きつかれても変わらない。

メトロノームみたいに、一定のペースでトクン、トクン、トクン。

偶にそれが乱れるのが聞きたくなって、ワイシャツの中に手を入れて思いっきり爪を立てる。

血が滲んで、ワイシャツが少し染まるくらい、強く、強く、爪を立てる。

トクン、トクンがドクン、ドクンに変わる。

この感覚が好き。ゾクゾクする。


88: 2014/03/22(土) 18:26:39.96 ID:/1YieBrz0


それでも「大丈夫、大丈夫」って言いながら撫でててくれるから、もう少し甘える。

ワイシャツを肩まで降ろして、噛む、甘噛みじゃなくて、痕が残る様に、血が出るまで噛む。まずは右、次は左。

歯磨きをした時、歯磨き粉で歯が染まる様に、血で歯と唇を紅くする

それでも、プロデューサーさんは優しい表情を崩さない。

でも、心音は嘘はつけない、トッ、トッ、トッ、トッ、トッと血の流れが速くなる。

口内が渇く、ざらついた味がする。

美味しくも、不味くもない。血の味と心音。ヌチャ、ヌチャと私が犬みたいに傷跡を舐める音。

これは、ただの確認作業、私は生きていて、大事な人に大事に思われている。

そんなことを確認するだけの確認作業。

こんなことでしか、ちゃんと生きてることが、愛されていることが分からない不器用な私。

この半分、カニバリズム染みた行動が、私なりの確認作業。


89: 2014/03/22(土) 18:36:57.31 ID:/1YieBrz0

普通の男の人なら、肉欲に溺れて行動しているかもしれない。

この人はそんなことはしない。絶対にしないと信頼できる。

だから、尚更、失いたくない。傍に居て欲しい。見ていてほしい。

私はこの人の二番目。

一番はほたるちゃん。

二番目は譲らない。絶対に譲れない。


90: 2014/03/22(土) 18:38:52.77 ID:/1YieBrz0


御婆ちゃんから聞いた話、

白菊家の男は、皆訳ありの女に好かれる。

何故かは分からない。ただ、心に深い傷を負った人に惹かれやすい。

だから、とても心配だと言っていた。

御婆ちゃん。その通りだよ。周りに何人かいるよ。

きっと、これから増えるかもしれない。

だから、不安になる。私の心が、また、こんな風になってしまったら、

私が二番目じゃなくなってしまったら

その時ちゃんと愛してもらってるって、確認できなかったら、

私はどうなるんだろう。

それが怖くてしょうがない。


91: 2014/03/22(土) 18:43:12.13 ID:/1YieBrz0


服部さんは過去に愛したヒトに見捨てられたトラウマが

茄子さんは幸福目当てに他人に利用された経験が

私は今が全部、夢なんじゃないかって不安が、

ほたるちゃんは自分が家族を不幸にしている疫病神かもしれないって恐怖心が、

皆それぞれ、事情を抱えていて、それをプロデューサーさんに吐き出している。

そうやって、自分を保っている。

ほたるちゃんは知らない。私達三人の同盟関係。

お互いが壊れない様に、お互いを守るために、きちんと分ける協定。

だから、新人なんていらない。

いちゃ駄目だ。もし、来て、このバランスが崩れてしまったら、

誰かが暴走する。そして、一番の被害者はほたるちゃんになる。

それだけはダメだ。


93: 2014/03/22(土) 21:11:45.16 ID:/1YieBrz0


また、あの夢を見た。

病室に溢れた黒いタールに溺れる夢。

今度は違う、いつもは黙って溺れるだけ、今度は精一杯足掻いていた。

ほたるちゃんの部屋で一緒に寝ていたから、ほたるちゃんがすぐに異常に気付いてくれた

無理矢理起こされたから、溺れる瞬間まで見ないで済んだ。

プロデューサーさんの胸にしがみ付く、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン

大丈夫、私はまだここにいる。北条加蓮はここにいる。

大丈夫、ちゃんとまだ頭を撫でてくれる。

大丈夫、大丈夫、ダイジョウブ。

私は大丈夫だ。


94: 2014/03/22(土) 21:20:41.12 ID:/1YieBrz0


いつもより甘えた。

いつもよりたくさん引っ掻いた。

いつもよりたくさん噛んだ。

喉が渇いた。

喉が渇き過ぎて、大事な人に傷跡を残してしまった。

舐める、舐める、舐める、動物みたいに舐める。

大丈夫、私の髪を撫でてくれる手は優しい。

だから、大丈夫。

よかった、ちゃんと、プロデューサーさんの部屋まで我慢できて。

ほたるちゃんにこんな光景見せなくてすんで。

大丈夫だよ。新人なんていなくても。

私がほたるちゃんもプロデューサーさんも守るから。

凛と奈緒と一緒にトップになって、最高のプロデューサーの評価をあげるから。

だから、ごめんね、ほたるちゃん。

これからも、ほたるちゃんのお姉ちゃんで、プロデューサーさんの甘えん坊の妹でいさせて。


95: 2014/03/22(土) 21:26:50.00 ID:/1YieBrz0

トクン、トクン、トクン、トクン、

子守唄みたいな心音を聞きながら目を閉じる。

トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、

ちゃんと人肌を感じられてる。温かい。

トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン

眠い。少し、興奮し過ぎた気がする。もう夜中の2時だ。

トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、トクン、

視線を感じる。プロデューサーさんじゃない。

眠い。落ち着いてきた。

眠い。

眠い。

ああ、凄く深くて、黒い綺麗な瞳。

おやすみなさい



96: 2014/03/22(土) 21:29:30.14 ID:/1YieBrz0



~幕間② 北条加蓮 『不器用』~


は以上となります。お目汚し失礼致しました。


加蓮ちゃんはジャンクフードが好みとのことですので、きっと魚より肉を好むと作者は思っています。


97: 2014/03/22(土) 21:34:06.63 ID:DyS0GpxX0
おっつおっつ
興奮した


引用: 北条加蓮 『不幸な兄妹?』