1: 2011/10/13(木) 18:41:42.99 ID:wAqn7pi70
友蔵「おきくさんや、お茶をください」

おばあちゃん「……」

友蔵「ありゃ、みつこさんだったかな?」

ひろし「じいさん、最近ボケすぎじゃねえか?」

まる子「おじいちゃん、はいお茶だよ」

友蔵「おお、やちよさん。ありがとう」

まる子「え?」

12: 2011/10/13(木) 18:46:16.55 ID:wAqn7pi70
ひろし「……おい、いくらなんでも孫の名前を」

おばあちゃん「もう、そろそろとは思ってたけど、いざこうなると……」

まる子「お、おじいちゃん?」

友蔵「あ、ちょうちょが飛んでる」

まる子「家の中なのに、そんなのいないよ」

友蔵「物置に網があったはず」

ひろし「おい……ちっ、行っちまった」

15: 2011/10/13(木) 18:49:45.03 ID:wAqn7pi70
おかあさん「ただいま」

おねえちゃん「夕飯はハンバーグだよ。まる子も手伝って……きゃあああああっ」

ひろし「!?」

友蔵「ちょうちょじゃ! たくさん捕まえるんじゃ!」バシッバシッ

おかあさん「お、おじいちゃん!?」

おねえちゃん「いたっ……やめ……やめて……」

21: 2011/10/13(木) 18:53:22.61 ID:wAqn7pi70
おばあちゃん「じいさん! あんた孫になんてことを――――」

友蔵「おや、こたけさん。久しぶりですな」

おばあちゃん「……!」

友蔵「あんたも好きものじゃのう」

ひろし「……」

まる子「おねえちゃん大丈夫?」

おねえちゃん「ぐすっ……なんでこんなこと……」

25: 2011/10/13(木) 18:58:39.01 ID:wAqn7pi70
 夕飯はできあいの惣菜などをつついた。
 おかあさんは泣きじゃくるおねえちゃんの側にいたし、仲良く料理をする雰囲気でもなかった。
 
友蔵「納豆はおいしいのう」

 おじいちゃんはボロボロと納豆をこぼす、そのたびに糸がひいて、服とテーブルを汚す。

おばあちゃん「……」

 おばあちゃんは黙々とおかずをつまんで口にいれる。
 味わってなんかいない、ただ栄養を運んでいるだけだった。

28: 2011/10/13(木) 19:01:52.82 ID:wAqn7pi70
 ひろし「……」

 おとうさんは既にビール缶を五つ開けている。
 飲み過ぎだ、と止める気力は私にはない。
 止めても、「うるせえ」と怒鳴られて終わりだろう。

 これほどおいしくない食事は初めてだ。

31: 2011/10/13(木) 19:08:11.43 ID:wAqn7pi70
丸尾「ズバリ、それは認知症でしょう!」

まる子「にんちしょう?」

丸尾「ボケ……というのは失礼ですが、高齢化による脳の云々」

まる子「へえ。さすが丸尾くんだね」

丸尾「いやあそれほどでも。では、今度の学級委員選挙には私に清き一票を……」

まる子「あ、たまちゃんおはよう」

丸尾「……」

34: 2011/10/13(木) 19:12:25.38 ID:wAqn7pi70
まる子「かくかくしかじかでさ」

たまえ「大変だったね。おねえさん、大丈夫?」

まる子「学校には一緒にきたけど……問題は」

野口「帰るとき……だね」

たまえ「わっ!」

37: 2011/10/13(木) 19:18:22.39 ID:wAqn7pi70
たまえ(心臓に悪い……後ろから急に出てくるなんて……)ドキドキ

まる子「はあ……」

野口「クックックッ……いつになくブルーだね」

まる子「認知症って治らないのかな」

野口「無理だろうね。さくらさんのおじいちゃんは70をいくつも過ぎてる。多少はよくなるにしても、老化で衰えるのは自然なこと」

まる子「そっか……」

38: 2011/10/13(木) 19:22:05.71 ID:wAqn7pi70
野口「それより……おねえさんのほうが心配だね」

まる子「え?」

野口「今まで優しかったおじいちゃんが、いきなり変貌するなんて。クックック。さくらさん、あなたも気をつけなよ」

たまえ「まるちゃん……」

まる子「……」

41: 2011/10/13(木) 19:27:38.77 ID:wAqn7pi70
――――帰り道――――

 まるちゃんが笑わない。
 いつも面白いことを言って、ときにはひょうきんな行動をして、笑顔で私と接してくれるまるちゃんが、笑わない。
 まるちゃんはおじいちゃん子で、だからこそ、ショックなのだろう。
 私はなにもできない。
 自分の無力に情けなくて泣きそうになる。

佐々木のじいさん「おや、ふたりとも……どうしたのでしょう、元気がありませんね」

まる子「あ、どうも……」

47: 2011/10/13(木) 19:35:51.55 ID:wAqn7pi70
――――

佐々木のじいさん「……なるほど」

まる子「もう、前のおじいちゃんはいなくなっちゃった……」

佐々木のじいさん「私も、仲良くさせていただいてますから……なにかできることがあれば」

まる子「いえ、そんな」

佐々木のじいさん「あ、そうだ。この花を」

まる子「いいんですか?」

佐々木のじいさん「お礼はしないでください。いつもお世話になっていますから」

50: 2011/10/13(木) 19:43:21.56 ID:wAqn7pi70
――――

たまえ「じゃあ、また明日」

まる子「またね」

――――

まる子「ただいま……」

 へんなにおいがする。
 なにかを焦がしたような、気持ち悪くなるにおい。

ひろし「おいっやめろ!

友蔵「カラメル焼きをつくるんじゃ! ときえさんの好物なんじゃ!」」

 台所でおじいちゃんとおとうさんが取っ組み合いをしていた。

友蔵「おや、はなちゃん。違う。えーと……ま……ま……まきえさんだったかのう?」

まる子「まる子だよ、おじいちゃん」

53: 2011/10/13(木) 19:48:31.41 ID:wAqn7pi70
ひろし「くそっ、こんなに汚しやがって」
 
 コンロはべたべたになり、床にも茶色い汚れがついていた。  
 歩くたびに、こぼれた砂糖の粒がざりざりと音を立てる。

まる子「みんなは?」

ひろし「かーさんは買い物……ばあさんは老人会だとよ。ふん、俺に押しつけて遊びに行ったんだ」

まる子「……」

55: 2011/10/13(木) 19:52:44.47 ID:wAqn7pi70
友蔵「あー、茶が飲みたい。こゆきさんや、一杯淹れてくれ」

まる子「……はいどうぞ」

友蔵「うーんうまい、さすがようこさんじゃのう」

ひろし「ちっ……おいまる子。俺はパチンコ行ってくるからな」

まる子「え、待っ……」


57: 2011/10/13(木) 19:55:59.31 ID:wAqn7pi70
 おじいちゃんと二人きり。 
 いつもはこんなとき、なにをして遊んでいたっけ?
 トランプ?
 おままごと?
 浪曲を聞かせてもらったりしてたっけ。

友蔵「あーあー。ちょうちょがたくさん」

 こんな状態のおじいちゃんを置いて遊びにはいけない。
 かといって誰かを呼にわけにもいかない。

まる子「どうして……おじいちゃん……」

61: 2011/10/13(木) 20:00:30.93 ID:wAqn7pi70
 家は静かだ。  
 虫の鳴く声、時計の音、おじいちゃんのうめきだけが聞こえる。
 何時間、ぼうっとしていただろう。

おねえちゃん「ただいま……って、まる子。どうしたのあんた、顔真っ赤じゃない」

まる子「うっ……ううう……おねえちゃん……」

64: 2011/10/13(木) 20:07:47.60 ID:wAqn7pi70
まる子「どうしてみんな……ううう……」

おねえちゃん「大丈夫大丈夫。みんなすぐ帰ってくるよ」

――――
 
 おとうさんはパチンコに負けたらしい。
 機嫌が悪くて怒り顔をしているので、少し怖い。

 おかあさんは買い物袋を四つも下げて帰ってきた。
 家にいたくなくて、あちこち回ったのだろう。

 おばあちゃんは一見なんともなさそうに見えたけど、眼鏡の奥の瞳があらぬほうを向いていた。おじいちゃんの今の現実を認めたくないのだと私は思った。

68: 2011/10/13(木) 20:13:38.78 ID:wAqn7pi70
 夕飯はみんなバラバラだった。
 おばあちゃんは済ませてきたらしく、おかあさんはコロッケを一つ食べてすぐに部屋にこもり、おとうさんはおかあさんにお金をもらって飲みに行った。

おねえちゃん「これからどうなるんだろうね」

まる子「うん……」

 おねえちゃんは学校で先生に認知症のことを訊いたり、図書室で調べ物をしたらしい。

おねえちゃん「一番簡単で最善なのは……やっぱり施設なのかな」

 

73: 2011/10/13(木) 20:18:46.41 ID:wAqn7pi70
おねえちゃん「まる子もテレビ見たり、社会の授業でも教わったでしょ?」

まる子「日本は高齢化社会で、子供も少なくなってる……やつ?」

おねえちゃん「そう。でも、老人の数の割合に対して施設は足りていないのが現状。とくに、おじいちゃんのああいう……」

 そこまで言って、言葉を濁す。
 やっぱりおねえちゃんも認めたくないんだろう。
 家族の「今」も、おじいちゃんのことも。

77: 2011/10/13(木) 20:27:04.27 ID:wAqn7pi70
 それから数日が過ぎた。
 佐々木のじいさんにもらった花はすぐにしおれた。
 まるで、この家の陰気さに負けたようだった。

たまえ「今日の体育はマラソンだって」

まる子「ええー。やだねえ」

花輪「ベイビー、しっかり運動しなきゃ素敵なレディになれないよ」

みぎわ「花輪くんのためなら、アタシがんばるわ。打倒ボルトよぉん」

花輪「おっと、英会話学習の時間だ。アデュー」

78: 2011/10/13(木) 20:30:50.85 ID:wAqn7pi70
――――校庭――――

まる子「はあはあ……」

たまえ「はあはあ……風を切って走るまるちゃん……かっこいい……」

はまじ「はあは……ん? なんだあれ」

友蔵「おーい、おーい」

ブー太郎「あれはたしか……さくらのおじいちゃんだブー?」

84: 2011/10/13(木) 20:35:54.80 ID:wAqn7pi70
はまじ「おい、さくら」

まる子「ん?」

はまじ「さくら、あれお前のおじいちゃんじゃないか?」

友蔵「おーい、おーい」

まる子「えっ……おじいちゃん、どうして学校に……」

城ヶ崎「あ、あれって……」

山田「あはは。さくらのおじいちゃんがパンツ持って叫んでるぞ。あはははははは」

90: 2011/10/13(木) 20:41:37.04 ID:wAqn7pi70
先生「おや? みなさんどうしました?」

藤木「やった……一休みできる……」

永沢「きみは卑怯だね藤木くん」

藤木「だって、みんなも歩いてるじゃないか。きみだって」

永沢「ふん」

友蔵「おーーーーーーーーーーーーーーーい。こうめさんや、忘れものじゃぞーーーーーー」

まる子「ちょっと、おじいちゃんやめて!」

とし子「うわ、すごい……」

冬田「ひ、ひらひらの付いたパンツ……」

城ヶ崎(あれがさくらさんのおじいちゃん……)

山田「さくらのおじいちゃんはボケな上に色ボケだじょーーー。あははははははは」

95: 2011/10/13(木) 20:50:18.98 ID:wAqn7pi70
先生「あなたは、さくらさんの……」

まる子「うちのおじいちゃんです、ごめんなさい、ごめんなさい」

友蔵「忘れものじゃぞーーーー」

――――――

 まるちゃんは早退した。
 クラスはまるちゃんと、まるちゃんのおじいちゃんの話題で持ちきりになっている。

笹山「ちょっと怖かったね」

城ヶ崎「うん……パンツ振り回して叫んでたもんね……」

藤木(大丈夫だよ笹山さん、君は僕が守る)

永山(認知症か……。さくらさんも家族も大変だろうなあ)

98: 2011/10/13(木) 20:54:36.77 ID:wAqn7pi70
野口「クックックッ……大変なことになったね」

たまえ「……」

野口「まあ、私たちにはなにもできないけどね。クックック」

――――

ひろし「もう、駄目だろう」

おかあさん「でも……」

101: 2011/10/13(木) 21:03:49.29 ID:wAqn7pi70
おかあさん「施設代ってけっこう取られるのよ」

ひろし「じゃあ、ずっとアレを家に置いとくのかよ」

おかあさん「そうは言わないけど……まさか学校に行くなんて。おとうさんがちゃんと見ててくれれば」

ひろし「俺のせいかよ、けっ」

――――

友蔵「…………」

おばあちゃん「じいさんや……」

102: 2011/10/13(木) 21:08:15.69 ID:wAqn7pi70
友蔵「ん? おや、これはこれはべっぴんな」

おばあちゃん「こんなになっちまうなんてね……」

友蔵「あーあーあーあーあーあー」

おばあちゃん「もういっそ……楽にしてやったほうが……」

109: 2011/10/13(木) 21:16:23.04 ID:wAqn7pi70
おばあちゃん「50年前は伊達男だったのに……年月がこうも人を変えるのかね」

友蔵「さみだれを   あつめて   ハヤシライス」

おばあちゃん「ぐすっ……」



 まる子「おじいちゃん、さよなら」

115: 2011/10/13(木) 21:23:26.49 ID:wAqn7pi70
 家族みんなで話し合った結果、おじいちゃんを施設に入れることになった。
 家に、いつもいるはずの人がいない。
 それでも、これが最善だといえた。
 おじいちゃんには、数週間に一度会いに行く。
 私のことは覚えていないけど、それでもおじいちゃんの顔が見られるのはうれしい。

まる子「おじいちゃん、浪曲聞かせて」

友蔵「なみーのーあいまーにー」

112: 2011/10/13(木) 21:18:39.99 ID:wAqn7pi70
バッドエンド終了!

113: 2011/10/13(木) 21:19:05.00 ID:x3LkOpcK0
おい

114: 2011/10/13(木) 21:19:37.73 ID:rOHLWBWQ0
え?

119: 2011/10/13(木) 21:28:59.64 ID:tzrW9znY0
ハイパーイケメン介護師(月給16万)のおれが駆けつけたぞ~

118: 2011/10/13(木) 21:28:45.41 ID:wAqn7pi70







おかあさん「まる子、そろそろ帰ろう。先に行ってるわよ」

まる子「うん。それじゃあね。おじいちゃん」

友蔵「……まる子や」

まる子「え……おじいちゃん?」

友蔵「びっくりしたか? まあ、まる子にだけは教えてやろう」

まる子「お、おじいちゃん……ボケは……」

友蔵「名演技だったじゃろ? まあさすがにパンツはやりすぎたがの」

134: 2011/10/13(木) 21:45:20.11 ID:0KsMBar80
ファッ?

引用: まる子「おじいちゃんが認知症になった」