811: 2013/01/07(月) 21:36:56.02 ID:v2CIp3n50

前回:【禁書目録】ミサカ妹「詠矢さん…?どちら様でしょうとミサカは率直に問いかけます」

(ジャッジメント177支部)

詠矢「…(ポチポチ)」

白井「…(カリカリ)」

初春「…(カタカタ)」

詠矢「…(ポチポチ)」

白井「…(カリカリ)」

初春「…(カタカタ)」

白井「…初春、出来ました。入力をお願いしますわ」

初春「あ、はい…わかりました…」

白井は書きあがった書類を初春に手渡す。

詠矢「…忙しそうだ…ねえ…」

スマートフォンの上に指を走らせながら、詠矢はポツリと言った。

白井「そう、ではなくて実際に忙しいのです!」

白井「…詠矢さんも…お忙しそうで…」

当然ながら、その口調には皮肉が込められていた。



創約 とある魔術の禁書目録(10) (電撃文庫)

810: 2013/01/07(月) 21:35:54.63 ID:v2CIp3n50
こんばんわ。
短編が書きあがりました。
今回は前後編になります。
まずは前編を投下します。

812: 2013/01/07(月) 21:37:44.48 ID:v2CIp3n50
詠矢「んー、まあ、調べ物とかね…忙しくはねえけど…」

詠矢「…あ、なんか手伝おうか?」

白井「結構です!!ここには部外者に頼める仕事などありません!!」

詠矢「そっか、そりゃ失礼しました…」

軽く答える詠矢を白井はじとっと睨む。今更ながら、この人物に支部への出入りを許したことを少し後悔していた。

初春「…えっと…、今の書類で今日の分は終わりですから…」

初春「白井さんも少し休憩したらどうですか?」

白井「…そうですわね…では、お言葉に甘えてひと息入れさせていただきますわ…」

初春の助け舟に促され、白井は手を休め、ふうと小さく息を吐いた。

詠矢「…ん、と…食うかい?(ポチポチ)」

指を休めないまま、詠矢は紙袋を差し出す。

白井「…なんですの?」

詠矢「差し入れだよ…シュークリーム…美味しいと思うよ…」

813: 2013/01/07(月) 21:38:28.14 ID:v2CIp3n50
白井「あら…ありがとうございます…。頂きますわ…」

詠矢「初春サンも手が空いたら食べなー」

初春「あ、はい!いつもありがとうございます…」

白井「では早速…(ガサ)…(パク)…」

白井「…(モグ)…美味しいですわね…」

詠矢「そらよかった…(ポチポチ)」

白井「…」

詠矢「…」

白井「…(モグ)」

詠矢「…(ポチポチ)」

白井「…」

白井「…はあ…」

思わず大きなため息を付く白井。

詠矢「どした…幸せが逃げるぜー」

白井「…逃げるほどの幸せもござませんわ」

814: 2013/01/07(月) 21:39:12.86 ID:v2CIp3n50
詠矢「そりゃまたお疲れだねえ…」

詠矢「その雰囲気は…仕事疲れ…ってだけでもなさそうだね…」

白井「…その無遠慮な洞察力…相変わらずですわね…」

詠矢「ん、まあ、いろいろと想像は付くからね…」

詠矢「確か…御坂サンと同室なんだっけか…まあ、そりゃ疲れるわな…」

白井「お姉さまが毎日幸せそうなのはよろしいのですが…」

白井「毎度毎度…お二人の話を聞かされるのは…少々…」

詠矢「うわあ…結構すごそうだなあ…それ」

白井「さすがに最近はお姉さまも気を使っていただいて…」

白井「あまりお話はされないのですが…」

白井「全身から発せられるオーラというか…雰囲気がどうも…食傷気味でして…」

詠矢「そりゃ大変だねえ…。俺だと聞かされるのはバイト中ぐらいだからなあ」

詠矢「同じ部屋だと逃げる場所もねえもんな…」

815: 2013/01/07(月) 21:40:16.44 ID:v2CIp3n50
白井「かといって部屋を変わるつもりは毛頭ございませんし…。慣れるしかないのでしょうが…」

詠矢「ま、そのうち二人とも安定してくるだろ。しばらくのガマンさ…」

白井「だとよろしいのですが…」

詠矢「…(ポチポチ)」

白井「…(モグ)」

初春「…(カタカタ)」

初春「…!!」

初春「白井さん!!事件みたいです!!」

白井「…!!どこですの!初春、詳細を!!」

白井は椅子から勢い良く立ち上がると、初春の後ろに回りパソコンのモニターを覗き込む。

初春「えっと…別支部で起こった強盗事件みたいです…犯人は取り逃がしたみたいで…」

初春「逃走中みたいです。応援要請が来てますね…」

白井「こっちに向かって逃げてくる犯人を、先回りして抑えればいいのですわね?」

初春「それがですね…(カタカタ)。相手は監視カメラの氏角を選んで移動しています」

初春「かなり地の利があるようですね…」

816: 2013/01/07(月) 21:41:20.56 ID:v2CIp3n50
白井「やっかいですわね…。ですが…逆に…」

白井「移動経路を予測できるかもしれませんわ…初春、お願いできますの?」

初春「はい!やってみます…。えと…犯人は風貌からしてスキルアウトらしいので…」

初春「予想できる目標の場所と…監視カメラの抜け道の情報を組み合わせて…(カタカタ)」

初春「…んでもって…ちょっと加工を…(カタカタカタ)」

初春「出ました!!」

白井「流石ですわね初春…。あら…これは…道が2本…ですの?」

初春「はい…条件を設定して絞り込んでみたんですけど…どうしてもこの2系統が残ります…」

白井「まずいですわね…固法先輩は今別の事件の対応中ですし…」

白井「初春にはここに残ってもらわないといけませんし…」

初春「先回りするにしても…二分の一になっちゃいます…ね…」

詠矢「…」

スマートフォンから目線を外し、詠矢は二人の方に向き直る。

817: 2013/01/07(月) 21:42:56.16 ID:v2CIp3n50
詠矢「手伝おう…か?」

白井「へっ?」

白井「いえ…お気持ちはありがたいですが…お断りします…」

白井「一般人を事件に巻き込むわけにはまいりません!」

詠矢「巻き込まれるのは今に始まったことじゃねえけどな…」

白井「これは既にジャッジメントで対応している事件です。あくまでこちらで対応します!」

詠矢「まあ…正論…だけどね…大丈夫かい?」

白井「お気になさらず…なんとかしてみますわ」

初春「…」

初春『白井さん白井さん…』

白井『なんですの!』

初春『せっかくだからお願いしちゃいましょうよ!』

白井『何をバカな事を!この程度の事件、部外者の力を借りなくても…』

初春『でも今の状況じゃ完全に賭けになっちゃいますよ?』

白井『う…それは…』

818: 2013/01/07(月) 21:43:45.80 ID:v2CIp3n50
詠矢「…(なんか揉めてるねえ)」

白井『ですが、状況的にはかなり危険です。もし何かあったら…』

初春『その辺は、ほら、大丈夫じゃないですか?』

初春『なんだかんだいって、詠矢さん、お強いですし…』

白井『それとこれとは…話が別です!』

初春『うーん…じゃあ、ですね…』

初春『危なくない範囲で、協力してもらえれば…いいんじゃないでしょうか…』

白井『…』

白井「そうですわね…」

白井「詠矢さん…では、ご協力いただけますか?」

詠矢「ういよ…喜んで!」

詠矢は立ち上がると、やる気をアピールするかのように首を回し腕を回す。

詠矢「んで、何やればいい?」

819: 2013/01/07(月) 21:44:26.89 ID:v2CIp3n50
白井「見張り、ですわ」

白井「逃走経路の一方に待機していただき、犯人が通過するかどうかを確認してください」

白井「わたくしは別の経路を確認します」

詠矢「…んで、見つけたらどうすりゃいい?」

白井「こちらに連絡頂ければ結構です」

白井「更に先回りして、犯人を確保します」

詠矢「なるほど…白井サンなら、追いつくのは簡単だもんな」

白井「間違っても、ご自分で犯人と対峙しないように…」

詠矢「わかってる…その辺はわきまえてるさ…」

白井「約束ですわよ?」

白井「では、参ります!」

白井が詠矢の腕を掴むと同時に、二人の姿は掻き消えた。

820: 2013/01/07(月) 21:45:50.66 ID:v2CIp3n50
(とある路地 廃屋)

二人は、朽ちた室内に現れる。

白井「…ここですわ」

詠矢「っと…なるほど…張り込みのポイントか…」

白井「この前の路地が、予想される逃走経路の一つです」

白井「詠矢さんは、ここを対象が通過するか確認してください」

詠矢「わかった…んで、見かけたら白井サンに連絡すればいいわけだね?」

白井「ええ、その通りです」

白井「対象の風体に関しては、初春から詠矢さんの携帯にデータが送られて来ます」

白井「そちらで確認してくださいまし」

詠矢「うい。で、いつまで張ってりゃいいのかな?」


白井「撤収するタイミングはこちらで指示します。それまではよろしくお願いします」

821: 2013/01/07(月) 21:46:37.63 ID:v2CIp3n50
詠矢「了解。逆にこっちが発見されるとマズイだろうから…」

詠矢「隠れながら監視できるポイントでも探しとくか…」

白井「あと、しつこいようですが…」

詠矢「わかってるっての…出過ぎたマネはしねえよ…」

白井「なら結構ですわ…」

白井「わたくしも移動します」

詠矢「おう、んじゃ頑張って…」

白井「…では(シュン)」

詠矢「ってと…」

詠矢は辺りを見回しつつ張り込むポイントを探す。

822: 2013/01/07(月) 21:47:13.75 ID:v2CIp3n50
詠矢「(おあつらえ向きに壁のトタンは穴だらけだな)」

詠矢「(覗き込むには苦労しねえが、相手から発見される可能性も高いな)」

詠矢「(ま…進行方向は向こうみたいだから…この辺…かね)」

適当な場所を見つけると、詠矢は静かに腰を下ろした。

詠矢「(ブブブ)…(お、メール来た…添付写真をっと…)」

詠矢「(…下品なツラしてやがんなあ…なんでこの手の奴って)」

詠矢「(判で押したような悪人面なのかね…)」

詠矢「(ま、確認しやすくていいがね…)」

詠矢「(…さて…)」

詠矢「(…暇なもんだな…)」

詠矢「(当たり前か…)」

詠矢「…」

823: 2013/01/07(月) 21:55:54.28 ID:v2CIp3n50
詠矢「…お?」

五分とかからず変化が起こった。

足音と思われる、地面を蹴り上げるような音が近づいてくる。

強盗犯「ハアッ…ハアッ…」

息を切らせ、男が走ってくる。先ほどの悪人面の主である。

詠矢「…(来たか…こっちが当たりとはね…)」

詠矢「…(さて…集中しますか…)」

足音はあっという間に大きくなる。そして、それが最大音量となったとき。

詠矢のいる廃屋の前を通過した…。

強盗犯「ハアッ…ハア…」

詠矢「…!」

詠矢は息を潜め、走り抜ける男の顔を確認する。

詠矢「…(間違いねえ…コイツだ…!)」

824: 2013/01/07(月) 21:56:48.03 ID:v2CIp3n50
送られてきた写真と対象を再度確認すると、すばやく詠矢はスマートフォンを操作する。

詠矢「(対象が目の前を通過。容貌から犯人であることを確認)…(約一分前に通過…っと)」

必要最小限の情報を入力すると、詠矢はすぐさまメールを送信した。

詠矢「…」

詠矢「…(こんで、仕事終わりかな?)」

詠矢「…(ブブブ)…(お、返信か…)」

詠矢「…『ご苦労様です。後はこちらで対処します。撤収願います』…か…」

詠矢「本格的に終わりだね…さて…」

詠矢「もう行っちまった…よな?」

路地に人の気配が無いことを確認すると、詠矢は人の通れる場所を探して外に出た。

詠矢「もう、白井サンが先回りしてるんだよな…」

詠矢「んじゃ、大人しく帰りますかね…」

詠矢「…」

詠矢は、犯人が走り抜けていった路地の先をなんとなく見る。

詠矢「なんか…やな予感するなあ…」

詠矢「…どうするか…ねえ」

825: 2013/01/07(月) 21:57:40.66 ID:v2CIp3n50
(とある路地 空き地)

強盗犯「ハアッ…ハアッ…ここまで…逃げれば…」

かなりの距離を走り続けた男は、周囲の静かさに安心したのか、その足を緩めた。

強盗犯「ハアッ…さすがに…ハア…追ってこねえ…だろ…」

膝の上に手を置き、息を整えようとした直後。

(キイン タスタスタス)

強盗犯「…!!何だ!!」

突然、男の足元に金属の矢が突き立った。

白井「そこまでですわ!!」

強盗犯「…テメエ…」

白井「ジャッジメントですの!」

白井は腕章を見せ、自分の立場を誇示した。

白井「ずいぶんとお疲れのようですわね?そろそろ終わりにしてはいかがでしょう?」

白井「鉄格子の向こうで、ゆっくり休んで頂けますわ」

826: 2013/01/07(月) 21:58:37.23 ID:v2CIp3n50
強盗犯「野郎…ナメやがって…」

白井「あなたのような小物に、時間をかけるわけに参りません」

白井「とっとと終わらせていただきます(シュン)」

白井は消えた、得意の転移ドロップキックだ。

強盗犯「ぐわっ!!」

突如、後頭部を襲う攻撃など避けられるわけもなく、男は簡単に地に伏した。

白井「終わりです!」

拘束するための鉄矢を手に取った瞬間、白井は勝利を確信していた。

だが、男は突然身を翻す。

強盗犯「けっ!!これでも食らえ!!」

男は台詞の直後に目を閉じる、そして。

白井「…!!!」

白井の目の前に突然強い閃光が発生する。

827: 2013/01/07(月) 21:59:49.03 ID:v2CIp3n50
その視界が真っ白に塗りつぶされた。

白井「し…まっ…!!」

強盗犯「うるあぁ!!」

上体を起こしながら、男は白井の胴体に拳を放った。

白井「ぐはっ!!!」

たまらず膝が落ちる白井。

強盗犯「まだまだあぁ!!」

男は完全に立ち上がると、前のめりになった白井の腹部を力任せに蹴り上げた。

浮き上がった白井の体は宙を舞い、落下し地面に叩きつけられた。

白井「ゲフッ…ん…ぐ…」

白井「…あなた…能力…者…」

強盗犯「ヘっ…爆裂閃光(フラッシュボム)ってな…空間に光を発生させるだけの」

強盗犯「チンケな能力だがなあ…」

828: 2013/01/07(月) 22:00:39.83 ID:v2CIp3n50
強盗犯「使い方によっちゃあ…刺さるだろ!?」

言葉と同時に男は白井の背中を踏みつける。

白井「…ぐ…ぎっ!!」

強盗犯「さあて…どうしてやろうかねえ…」

強盗犯「アジトに連れ込んで…イジメ倒してやろうか…?ええ!!」

白井「…こ…の…!!」

強盗犯「まあ、どっちにしろ、もう少し弱らせてから…だなあ!」

(ザッ)

再び男が背中を踏みつけようとした瞬間。誰かが走りこんできた。

詠矢「ハアッ…ハア…」

強盗犯「なんだ…テメエは…!?」

詠矢「なんか、ヤバそうだったんで…急いで追っかけてきてみたんだが…」

詠矢「間に合った…いや、合わなかったのかな?」

829: 2013/01/07(月) 22:01:33.61 ID:v2CIp3n50
強盗犯「仲間…か?」

詠矢「仲間ってのは間違いないが…通りすがりの一般人だよ…」

白井「…!(この声は…詠矢さん!)」

白井「詠矢さん、逃げてください!!。あたなたが関わることではありません!!」

詠矢「お小言なら後で聞くよ」

詠矢「そんな状態の白井サンを置いて、逃げれるわけねえっしょ…」

白井「…っ!!」

強盗犯「テメエもナメた野郎だなあ…。コイツは、使いたくなかったが…」

男は腰のベルトからバタフライナイフを取り出した。

詠矢「おーおー…定番だねえ…」

詠矢「そういうもの出せばビビると思ってんのならお生憎様」

詠矢「こちとら結構見慣れててね…」

強盗犯「なんだ…やるってのか…?」

830: 2013/01/07(月) 22:03:34.43 ID:v2CIp3n50
詠矢「逃がすつもりなら追って来ねえいっての…」

白井「詠矢さん!コイツは光を使います!!気つけてください!」

詠矢「ああ…こっちに向かってるときに…なんか光が見えたんだが…能力者だったのか…」

強盗犯「…このアマ…」

強盗犯「余計なこと口走ってんじゃねえ!!」

男は力の限り白井の背中を踏みつける。

白井「が…っ…は…!!」

詠矢「…!」

いつもゆるいの詠矢の表情が、一気に鋭くなる。

ぎりっと奥歯を噛み締めると、静かに相手の距離を詰める。

詠矢「来い…相手してやるよ…」

強盗犯「…ナニ余裕かましてんだテメエェェ!!氏んどけやあぁあ!!」

男は躊躇無く顔面を突いてくる。

831: 2013/01/07(月) 22:04:58.23 ID:v2CIp3n50
詠矢「…!」

上体を反らし、詠矢はそれをギリギリでかわす。頬に浅い切創が浮かび、血がにじむ。

詠矢「…!!」

すぐさま詠矢は男の手首を取り、ひねり上げようとするが…。

強盗犯「(今だ!!)」

詠矢「…っ!!」

詠矢の目の前に強い閃光が発生する。と同時に、しばし両者の動きが止まる。

強盗犯「ケッ…チョロイもんだ…」

勝ち誇った男は目を開ける。だが、その視界に移ったのは…

正面から自分の顔面に向かってくる、相手の拳だった。

強盗犯「なっ…!!ガフッ!!」

詠矢の拳は、男の鼻筋に正確に命中した。

だが、腕をとられたまま倒れることも出来ない。

832: 2013/01/07(月) 22:05:36.84 ID:v2CIp3n50
詠矢「ナントカに刃物って奴だな…。とりあえず大人しくしてもらおうか?」

詠矢は取った腕をひねり上げると、相手の体をうつぶせに倒し、そのままのしかかって肩と肘を極める。

強盗犯「い…いでででで!!…てめえ…目は…」

詠矢「あ?アホかてめえは?」

詠矢「まぶしいのはお前も同じなんだろ?能力を使う前に目を閉じないと、自爆するわけだ」

詠矢「同じタイミングでこっちも目を閉じれば、影響なんぞ受けるわけねえだろ…」

詠矢「初見ならともかく…わかってて引っかかるような能力じゃねえな」

強盗犯「…く…っそ…て…めえ!!」

詠矢「はいはい、暴れると余計痛いよ…」

極めた腕を詠矢は更に締め上げる。

強盗犯「いぎぎぎぎぎぎぎいい!!」

833: 2013/01/07(月) 22:07:02.18 ID:v2CIp3n50
詠矢「白井サン!無事かい!!」

詠矢「動けるんなら!コイツの拘束を頼む!」

白井「…はい…なんと…か…」

よろよろと立ち上がる白井。視界はどうにか回復したようだ。

白井「…んっ!!」

鉄矢が転移され、男の上着の数箇所を地面に縫い付けた。

強盗犯「なっ!!」

詠矢「これで動けんな…」

強盗犯「…く…っそ…おぉぉぉお!!」

詠矢「ま、観念しな…」

強盗犯「…おい、テメエ!」

詠矢「何だよ…」

834: 2013/01/07(月) 22:08:02.66 ID:v2CIp3n50
強盗犯「いつまでのしかかかってんだよ!もういいだろうがよ!」

詠矢「…まあ…そうだな」

強盗犯「ならとっととどけよ!!」

詠矢「…」

詠矢「…あ、手が滑った…(ゴキャッ)」

強盗犯「へっ?…ガ…ギィャアアアアァァァァアアア!!!」

強盗犯「…(ガクッ)」

肩関節を外された痛みで、男は気を失った。

詠矢「やれやれ…静かになったな…」

詠矢「白井サン!大丈夫か!!」

まだおぼつかない足取りの白井の傍に詠矢は駆け寄る

835: 2013/01/07(月) 22:08:47.22 ID:v2CIp3n50
白井「はい…この程度…なんてこと…(ゴホッ)」

詠矢「無理すんなって…ほら…」

詠矢は白井の腕を抱えて体を支える。

白井「詠矢さんこそ…血が…」

詠矢「まあ、この程度カスリ傷さ…白井サンに比べればね…」

詠矢「とにかく、容疑者は確保した。応援を呼んで、早いこと医者行こう!」

白井「ええ…その方が…よろしいですわ…ね…」

836: 2013/01/07(月) 22:09:43.51 ID:v2CIp3n50
(常盤台中学女子寮 御坂と白井の自室)

白井「ということがありまして…」

御坂「アンタも大変ねえ…こんなに生傷増やして…」

胸に巻いた包帯を取り替えつつ、御坂は後輩の体の傷を確認しながら呟いた。

白井「職務上仕方ありませんわ…覚悟の上です…」

御坂「そんなこと言って…アンタも女の子でしょ?…まったく…」

御坂「はい、これでいい?」

白井「ありがとうございます…お姉さま」

御坂「なに水臭いこと言ってんのよ。これぐらいお安い御用よ」

包帯と、湿布の交換を終え、御坂はねぎらうように白井の肩をぽんぽんと叩いた。

白井「しかし…今回ばかりは詠矢さんに助けられました」

白井「あの方が居なかったらどうなっていたことか…」

御坂「まあ…意外と頼りになるもんね…あの人…」

837: 2013/01/07(月) 22:10:37.88 ID:v2CIp3n50
御坂「…」

御坂「黒子…さあ…」

白井「なんでしょう?」

御坂「最近…詠矢さんの話…多いわよね?」

白井「へっ…?」

白井「それは…まあ…三日と開けずに支部に来ていれば…」

白井「自然と話題も多くなりますわ」

御坂「…へえ…そう…なんだ…」

白井「…なんですの…その妙な勘ぐりは…」

白井「絶賛恋愛脳のお姉さまの基準で判断されては困りますわよ!?」

御坂「ああ…ゴメン…そういう意味じゃないんだけど…さ」

御坂「黒子から、そんな風に誰かを評価する話って」

御坂「あんまり聞いたことが無かったから…さ」

白井「…まあ…確かに…」

838: 2013/01/07(月) 22:11:16.09 ID:v2CIp3n50
白井「一部高い能力をお持ちであることは…認めざるを得ませんが…」

御坂「普通の高校生のレベルは、逸脱しちゃってるわね…」

白井「…おねえさま…ずいぶんとあの方に肩入れしますのね…」

御坂「え?…あれ?…いや、そうかな?」

白井「お姉さまは上条さんのこともあって、印象は良いのかもしれませんけど…」

白井「わたくしからすれば、詠矢さんはお二人を結びつけた憎き人物なのです!」

白井「そうです、忘れていましたわ…最初からお姉さまに攻撃をしかけたり…」

白井「やはり、あの方相容れる人物ではございませんわ!」

御坂「…」

御坂「…でもさあ…。そこまで悪く言うことも無いと思わない?」

御坂「詠矢さんなりに、いろいろ頑張ってるみたいだし…

839: 2013/01/07(月) 22:12:02.30 ID:v2CIp3n50
白井「…」

白井「まあ…それは…」

白井「(確かに…傀儡の事件も、あの方が居なければ解決出来たかどうか…)」

白井「(以前にも、わたくしとの約束を命がけで守ろうとしてくださいましたし…)」

白井「…」

御坂「…どしたの?黒子?」

白井「え?…いえ…なんでもありません…わ…」

御坂「うーん…じゃあさあ」

御坂「こういうのはどう?」

840: 2013/01/07(月) 22:12:46.65 ID:v2CIp3n50
(ジャッジメント177支部)

詠矢「うい、こんちわー」

詠矢はいつもの調子で支部の扉をくぐる。

頬には傷を覆うテーピングがまだ残っていた。

初春「あ、こんにちわー」

白井「…こんにちわ」

詠矢「お、白井サンもう出てきてもいいのかい?」

白井「あの程度のケガでいつまでも休んでられませんわ」

詠矢「まあ、元気そうで何よりだけど…無茶せんようになー」

白井「わかっておりますわ…」

白井「それはそうと詠矢さん…お話がありますの…」

詠矢「え?俺に?…」

詠矢「(あー、こないだは出しゃばり過ぎたしなあ…約束も守らなかったし…)」

詠矢「(さすがにお小言かな?)」

詠矢「ん…と…なんだい?」

白井「詠矢さん…」

白井「ジャッジメント…やりません…こと?」

845: 2013/01/22(火) 23:44:15.03 ID:OFtBr7qi0
こんばんわ。
後編が書きあがりましたので投下します。

846: 2013/01/22(火) 23:45:26.97 ID:OFtBr7qi0
(ジャッジメント177支部)

詠矢「俺が…ジャッジメント?」

白井「そうですの」

詠矢「はあ…って…俺に…勤まるのかね?」

白井「…あくまでわたくしの判断ですが」

白井「詠矢さんの格闘術、捕縛術に関しては…」

白井「あらためて訓練が必要のないレベルですし」

白井「判断力や倫理観も十分にお持ちです」

白井「加えて、あなたの絶対反論(マジレス)…は」

白井「能力者の犯罪に対して、切り札となる可能性もあります」

詠矢「…ずいぶんと評価してもらってるのはうれしいけど…」

詠矢「俺が…ねえ…」

847: 2013/01/22(火) 23:48:54.92 ID:OFtBr7qi0
詠矢「っても、急に志願してもなれるもんなのかい?」

白井「もちろん、訓練と試験は必要となりますが…」

白井「詠矢さんなら問題なくクリアできると思います」

白井「いかがでしょう、我々は慢性的に人手不足です」

白井「あなたのような方に加わって頂ければ…」

白井「なんというか…その…」

詠矢「…ん?」

白井「たっ…頼もしい…かと…思いまして…」

初春「…」

初春「…(うわぁ、白井さん無理してるなあ…)」

詠矢「…」

詠矢「…そう…なんか…な?」

初春「えっと…ですね」

初春「…私もそう思います…よ?」

詠矢「…」

848: 2013/01/22(火) 23:49:29.26 ID:OFtBr7qi0
詠矢「…んー…」

珍しく声に出して悩むと、詠矢は後頭部を数回掻き毟る。

詠矢「…ちょっと時間くれないかな?」

詠矢「いろいろ考えること多くてさ…」

白井「わかりました。確かに急に決められるものではありませんね」

白井「決心が付くまで…しばらく待たせていただきますわ」

詠矢「ん…ゴメンな…」

白井「…いえ、それはかまいません」

白井「よいご返事を…期待していますわ」

詠矢「…んと…じゃあ…これ…」

どこからとも無く紙袋を取り出す。

詠矢「ロールケーキなんだけどさ…」

白井「いつもありがとうございます」

白井「お茶でも入れましょうか?」

849: 2013/01/22(火) 23:50:43.27 ID:OFtBr7qi0
(とあるコンビニ)

詠矢「…」

上条「…20円のお返しになりまーす…」

詠矢「…」

上条「ありがとうございましたー…」

詠矢「…」

詠矢「…あっ…ありがとうございました…」

上条「…」

上条「詠矢…品出し終わったのか?」

詠矢「ん…と…これで終わり…だ…」

詠矢は倉庫から持ってきた商品を並べ整頓する。

上条「…どした、詠矢?」

詠矢「いや、別にどうもしねえけど…?」

上条「なんか考え事か?」

詠矢「まあ…考えてるのは…いつものことだけどさ…」

上条「なんか…違うな…」

詠矢「何がだよ…」

850: 2013/01/22(火) 23:51:20.25 ID:OFtBr7qi0
上条「だってさあ、お前って考え事してるときって」

上条「どっか楽しそうなんだよな…」

上条「…でもさっきまでは違った。本気で悩んでる感じだったぜ?」

詠矢「…そっか…そうだったか…」

詠矢「上条サンなかなか鋭いねえ…」

上条「なんかあったのか?俺でよかったら相談に乗るぜ?」

上条「まあ…詠矢が考えてわからない事が」

上条「俺に答えられるとは思わねえけどさ…」

あくまで軽く、上条は自嘲気味に笑った。

詠矢「いやいや…そういう言葉は一番ありがたいさ」

詠矢「やっぱ、持つべきものは友達だねえ…」

詠矢「そこまで言ってもらったんじゃあ…黙ってるわけにもいかんね」

上条「…やっぱ、なにかあるんだな?」

詠矢「心配してもらうようなことじゃないんだけどさ…」

851: 2013/01/22(火) 23:52:02.14 ID:OFtBr7qi0
詠矢「ジャッジメントやってみないかって…誘われたんだよ」

上条「へえ…。誘われたって言うと…やっぱ白井か?」

詠矢「あ、うん」

上条「で、やってみるかどうか悩んでるってわけか…」

詠矢「まあ、そういうわけだな」

上条「ジャッジメント…か…」

上条「じゃあ、俺が思ったこと、ストレートに言ってみていいか?」

詠矢「お、貴重なご意見賜れますか?」

上条「んじゃ…俺は詠矢なら、やれると思う」

詠矢「…そうか…な?」

上条「お前とは会ってからあんまり経ってねえけどさ」

上条「今まで一緒にやってきたことを考えれば…素直にそう思えるぜ?」

詠矢「…」

詠矢「そっか…。そいつは褒めてもらってるてことで、いいのかな?」

上条「おいおい、そんなモン疑う余地無く褒めてるんだろうが」

852: 2013/01/22(火) 23:52:40.84 ID:OFtBr7qi0
上条「少なくとも、お前は自分の力がどうやったら人の役に立てるかって」

上条「いつも考えてるだろ…それくらいは俺にだってわかる」

上条「だからさ、そういうとこだけ考えてみても…」

上条「向いてるんじゃないか?ジャッジメント…」

詠矢「…そうか…ねえ…」

上条「あくまでこれは俺の意見…だけどな」

詠矢「そりゃま、決めるのは俺…だわな」

詠矢「わかってんだけどなあ…」

上条「…」

詠矢「お、お客さんだぜ。無駄話は終わりだ…」

上条「あ、いらっしゃいませー!!」

??「あ、いたいた、ここだったのねえ!」

詠矢「…!!」

上条「えっと…何か…?」

詠矢「母さん!!」

853: 2013/01/22(火) 23:53:27.40 ID:OFtBr7qi0
上条「…えっ!!」

??「寮の近くのコンビニで働いてるって聞いてたけど…」

??「結構数があるのよねえ、探しちゃったわよ、もう!」

上条「え…と…もしかして…詠矢…くん…のお母さんです…か?」

??「あらあら…こちら…もしかして上条さん?」

沙希「空希の母の、詠矢沙希(ヨメヤ サキ)と申します。いつも息子がお世話になって」

母と名乗った女性は、上条に向かって深々と頭を下げる。

上条「え…と…いや…こちらこそ…」

つられた上条も同じように頭を下げる。

詠矢「母さん!来るなら来るで先に連絡ぐらいしてくれよ!!」

沙希「なに言ってんのよ、こういうのはいきなり来るから面白いんじゃない!」

詠矢「って…もう…」

沙希「ねえ、この方、電話で何度かお聞きした上条さん?」

詠矢「まあ…そうだけど…」

沙希「まあまあ、始めましてぇ…」

854: 2013/01/22(火) 23:54:20.42 ID:OFtBr7qi0
上条「あ、どうも…です…」

沙希「空希の友達になってくださったそうで、ありがとうございます!」

沙希「もー、この子昔から小うるさい子でねえ、友達なんて出来たこと無かったんですけど」

詠矢「…母さん…やめてくれって…マジで…」

詠矢はたまらずレジの上に突っ伏す。

沙希「あらそうなの?」

上条「えっと…俺も…詠矢…くん…にはお世話になってまして…」

日本の母親がもつ独特の迫力に気圧される上条は、たどたどしく答える。

沙希「これはこれは、ご丁寧にどうも」

詠矢「…いいからさ…もう…」

詠矢「俺、もう少しでバイト終わりだからさ…どっかで待っててくれよ…」

詠矢「そう…今日はお仕事終わりなのね…じゃあ丁度いいわ」

沙希「…ねえ、空希。今日が何の日か覚えてる?」

詠矢「…」

詠矢「…忘れるわけ…ねえっしょ…」

沙希「じゃあ、行きましょうか」

詠矢「行くってどこにだよ…」

沙希「そりゃ決まってるじゃない」

沙希「お墓参りよ!」

855: 2013/01/22(火) 23:55:07.48 ID:OFtBr7qi0
(とある墓地)

詠矢「まったく…母さんは強引だねえ…」

沙希「何よもう、まさか嫌だったって言うの?」

詠矢「いや、そんなことはねえけどさ…」

詠矢「今年は帰らないつもりだったから…」

学園都市から電車を乗り継ぎ数時間、詠矢の実家に程近い場所に、その小さな墓地はあった。

沙希「あら、まさかお金の心配とかしてたの?」

詠矢「え?…そりゃまあ…新幹線とか結構かかるし…母さんだって楽じゃないだろうから…」

沙希「もう…相変わらず心配性ねえ」

沙希「大丈夫よ!学費だってそんなに高くないし。空希が出て行って逆に楽になってるぐらいよ?」

詠矢「なら…いいんだけど…さ」

沙希「はいはい、いいから。お墓洗ってあげて?」

詠矢「んー…」

856: 2013/01/22(火) 23:55:58.65 ID:OFtBr7qi0
たわしと雑巾を受け取ると、詠矢はバケツに張った水を墓石にかける。

それからしばらく、親子二人は言葉も少なく淡々と作業を進める。

墓石を洗い、花を供え、火を付けた線香を立てる。

独特な香りと共に、静かに煙が立ち上がる。

詠矢「…」

沙希「…」

二人はほぼ同じタイミングで手を合わせ、目を閉じた。

詠矢「…」

沙希「…」

拝み終わった後も、詠矢は静かに墓石を見つめている。

沙希「空希…?」

息子の横顔に何かを感じ取った母は、静かに語りかけた。

詠矢「…ん?」

沙希「お父さんのこと…まだ…割り切れてない?」

857: 2013/01/22(火) 23:56:49.63 ID:OFtBr7qi0
詠矢「そりゃ…ね…」

詠矢「警察官が殉職なんて…あることなんだろうけどさ」

詠矢「あの…氏に方は…な…」

沙希「そうね…。私にとっても、父さん…流(ナガル)さんはとても大切な人だった…」

沙希「それを急に…あんな形で…だもんね…」

詠矢「悲しいとか辛いとか言うのはもうねえけどさ…」

詠矢「まだ、ちょっとね…」

沙希「…そう」

沙希「…」

沙希「ま、仕方ないわよね」

沙希「でもきっと空希なら、考えて考えて、その向こうに必ず答えを見つけてくれるわ!」

詠矢「こういうのって…考えてどうにかなるもんなのかね…」

沙希「あなたはずっとそうやってきたでしょ?だから大丈夫よ!」

858: 2013/01/22(火) 23:57:27.14 ID:OFtBr7qi0
詠矢「なーんか、信用されてんだか放任されてんだか…ねえ」

詠矢「でも…ここに来て…悩んでることの答えが一つ出たよ…」

沙希「あらそうなの?ならよかったじゃない」

詠矢「んじゃあ…早速帰って話しないとな」

沙希「…今日はもう遅いでしょ?泊まっていきなさい」

沙希「久しぶりに帰ってきたんだから…ゆっくりしていきなさいよ」

詠矢「そっか…そだな…そんなに慌てて帰ることもないか…」

沙希「そーそ、たまには母さんの言うことも聞いて頂戴!」

沙希「どうせロクなもの食べてないんでしょ?ついでだから…」

沙希「何か美味しいもの食べに行きましょ!!」

859: 2013/01/22(火) 23:58:16.20 ID:OFtBr7qi0
(学園都市 とある駅)

詠矢「さあて…戻ってきた…か」

実家で一晩過ごした詠矢は、翌日の午後に学園都市に戻っていた。

詠矢「んじゃ、早速連絡しねえとな…(ポチポチ)」

詠矢「……あ、白井サンかい?いきなり電話して悪いね」

詠矢「いやいや…うん…ちょっと話したいことあってさ…」

詠矢「今から会えないかな?…うん…あ、そうなんか…」

詠矢「んじゃ、そっちまで移動するよ…うん…」

詠矢「じゃあ後で…(ピ)」

詠矢「よっと…」

目的地が決定した詠矢は、淡々と歩き出した。

860: 2013/01/22(火) 23:59:15.78 ID:OFtBr7qi0
(とあるショッピングモール)

詠矢「いやいや、どーもこんちわ…」

白井「こんにちわ…何のご用ですの?」

詠矢「ちょっと話したいことがあってねえ…」

詠矢「しかし、外出中だったのか…もしかして仕事中かな?」

白井「いえ、今日は非番ですので…ちょっとショッピングですわ」

詠矢「へえ、一人でかい?」

白井「ええ、あいにく皆さんお忙しいようで…」

白井「お姉さまは言わずもがな…ですわね…」

詠矢「なるほどねえ…じゃあ、用事が済んでからでいいよ」

詠矢「せっかくの休み、邪魔しちゃ悪いしね」

白井「よろしいのですか?」

詠矢「ん、まあ別にそこまで急ぐ話でもねえし…」

詠矢「出来れば早く話してえなと思ってただけだからな」

詠矢「んじゃ、ごゆっくり…時間があれば後で電話してくれ…」

861: 2013/01/22(火) 23:59:56.95 ID:OFtBr7qi0
白井「…」

立ち去ろうとする詠矢の背中を、白井が見つめる。

白井「…」

白井「…!(あ)」

突然、白井の中に何かが閃いた。なにやら含みの有る笑顔が自然と浮かぶ。

白井「ちょっとお待ちください詠矢さん!」

詠矢「…ん?どしたね?」

白井「どうせお暇なのでしたら…」

白井「荷物持ちをお願いできませんこと?」

詠矢「そりゃーアレかい?買物に付き合えってこと…かい?」

白井「まあ、そういうことですわね」

詠矢「そりゃまあ…楽しそうだけどねえ…」

白井「詠矢さん、いろいろなことにご興味があるようですが」

白井「女の過酷な買物に付き合ってみるのも、よい経験になりましてよ?」

白井はふふんと鼻を鳴らすと、挑発するような笑顔を浮かべて見せた。

862: 2013/01/23(水) 00:00:36.62 ID:4llnpRlv0
詠矢「…(あ、なんか悪い顔してる)」

詠矢「まあ…いいぜ…お役に立てるんなら…」

白井「では、決まりですわね、参りましょう」

詠矢「うい…」

白井「(フフフ、わたくしが今日どこに行こうとしてたか…)」

白井「(想像も出来ないでしょうね…)」

白井「(ちょっと最近やられっぱなしで面白くありませんでしたの)」

白井「(今日は、少々困らせてやりますわ…)」

白井「…ンフフフフ…」

詠矢「…」

詠矢「…(なんだかねえ)」

白井の背中から立ち上る黒いオーラに不安を感じつつも、その後を黙って付いていった。

863: 2013/01/23(水) 00:01:29.56 ID:4llnpRlv0
(とあるランジェリーショップ)

詠矢「(うわ…なんだこの店)」

ショッピングモールのはずれに有るとある店は、妖艶な店構えのランジェリーショップだった。

白井「(驚いてますわね…しめしめ…)」

白井「さ、入りますわよ…」

詠矢「お…おう…」

詠矢「(おーう…店構えもすごいが売ってるモンもすげえなあ…)」

詠矢「(おわっ!これとか…こんなデザインでどこ隠そうっていうんだよ…)」

詠矢「白井サン…いつもこんな店来てるのか?」

白井「ええ、普通のお店では、わたくしの趣味に合う品があまり手に入りませんでしたが…」

白井「最近ここを見つけまして…重宝しておりますのよ?」

詠矢「あ…重宝って…そうなんか!?」

答える詠矢の声が思わず裏返る。

白井「そうですわよ?…ほらほら…詠矢さん、こういうのいかがでしょう?」

詠矢「って…それ殆ど紐じゃ…」

ただひたすら動揺する詠矢。その姿を白井は満足げに見る。

864: 2013/01/23(水) 00:02:19.83 ID:4llnpRlv0
白井「(フフフ…やはりこの手のことには免疫が無いご様子…)」

白井「(もう少しからかって差し上げましょうか…)」

白井「こっちなかなかいいですわねえ…」

白井「いかがですか詠矢さん?」

詠矢「いや、そう聞かれてもだな…えっと…」

詠矢「…ん…?」

白井「どうしましたの?」

詠矢「…白井サン、こういうの着るんだよな…?」

白井「ええ…もちろんですわよ?」

詠矢「…」

詠矢「…ダメだな…」

白井「はい?」

865: 2013/01/23(水) 00:02:56.29 ID:4llnpRlv0
詠矢「似合わねえよ…」

白井「…え?」

詠矢「白井サン、体細いんだからさ、こんな露出度の高いもの着ると」

詠矢「下着だけ浮いちまうぞ」

白井「…な…」

白井「なんですの!人の趣味にケチつけないで頂けますの!?」

詠矢「いや、好き嫌いとは別にだな、似合う似合わないっていう判断基準は明確に有る」

白井「…え?あ、いや…でも動きやすさと掃き心地重視ですから…」

詠矢「あー、違うぞそれ。布地が少ないほど動きやすいと思ってるのは完全な誤解だ」

詠矢「最近の下着は機能性が高くてなあ」

詠矢「体型をサポートして、動きを補助してくれるものが沢山ある」

詠矢「特に白井サンは職務上動き回ることが多いし」

詠矢「こんなネタ重視のもの身に付けてちゃダメだ」

866: 2013/01/23(水) 00:03:27.72 ID:4llnpRlv0
詠矢「…んー」

白井「…」

白井「あの…詠矢さん?」

一人考え込む詠矢。白井はおずおずと声をかけた。

詠矢「確か、その手の店がこのモールにあったはずだ…」

白井「…あの…聞いてます?」

詠矢「よし、見に行ってみよう、確か(ガシッ)こっちだ!」

白井「え?…って…あわわわぁ!」

詠矢は白井の手首を掴むと、そのまま腕を引いて移動を始める。

白井は転移で逃げることも忘れ、引きずられるように連れて行かれてしまった。

867: 2013/01/23(水) 00:04:10.48 ID:4llnpRlv0
(とある学生寮 上条の自室)

上条「それじゃあ、詠矢をジャッジメントに勧めたっての、美琴だったのか?」

御坂「そそ、黒子に言ってみたの」

テーブルの上に並べられた惣菜に箸を伸ばしつつ、上条は言った。

上条「はー…、美琴からそんな話を出してたなんてなあ」

御坂「そう?私は向いてると思うけどなあ…」

上条「そりゃ俺だってそう思うけどな、ちょっと意外だったぜ?」

御坂「んー…ちょっと…心配なことがあってね…」

上条「…心配って、何だよ」

御坂「黒子のことよ…」

御坂「あの子、ずっとジャッジメントの仕事と、私のことばっかりだったから…」

御坂「私が当麻と付き合いだしてから、ちょっと元気なかったのよね…」

上条「そりゃ、申し訳ないつーかなんていうか…」

御坂「だから、喧嘩友達でも出来ればなあ…ってね?」

上条「喧嘩友達かぁ?…まあ、確かにあんまり仲良さそうじゃないけどな。あの二人」

868: 2013/01/23(水) 00:04:53.59 ID:4llnpRlv0
御坂「ううん、それは多分違う…」

御坂「言い争えるってことは、相手のことを認めてるってことだもん」

上条「そんなもんなんか…ねえ」

御坂「ま、当麻にはいくら説明してもわからないだろうけどー」

上条「なんだよ、その手の話になるといつもその結論ですな」

御坂「だってそうじゃない…まあいいけどさ」

御坂「とにかくあのコ、しっかりしてるようで危なっかしいトコもあるから」

御坂「詠矢さんみたいな人が支えてくれればいいかなって」

上条「確かに、アイツなら力にはなってくれるだろうな…」

上条「ってもよ、危なっかしいって言えば美琴も同じだぜ?」

御坂「…いーのよ。私には当麻がいてくれるから」

上条「お、そっちに落としますか御坂センセー」

御坂「ふふっ…」

微笑を交わす二人。食事は静かに進んでいった。

869: 2013/01/23(水) 00:05:35.29 ID:4llnpRlv0
(とあるショッピングモール フードコート)

詠矢「…まことに申し訳ございません…」

小さなテーブルを挟んで差し向かいに座る二人。

詠矢はそのテーブルに手をつき、膝を擦り付ける勢いで頭を下げていた。

白井「まったく…詠矢さん思ったより強引ですのね…」

白井は膝元に置いた紙の手さげ袋に目を落としつつ言った。

詠矢「女の子に下着を勧めて買わせるとか、我に返ってみるとなんと大それたことを…」

白井「もういいですわ…詠矢さん…。最後はちゃんと納得して決めましたし」

白井「店員の方の説明を聞くうちに、わたくしも少し興味がわきましたわ」

詠矢「いやほんとゴメン。論証に入るとつい熱くなっちまって…」

白井「あら、これも論証ですの?」

詠矢「問題に対して思考し、対策を考えて結論を出す。同じことだよ」

許しを得たと解釈したのか、詠矢は静かに頭を上げた。

870: 2013/01/23(水) 00:06:19.92 ID:4llnpRlv0
詠矢「とにかく、気に入らなかったら弁償するからさ」

白井「お気になさらず…下着の一つや二つ着こなしてみますわ」

詠矢「ん…、そういってくれると気が楽だね」

白井「…」

詠矢「…」

会話が終わった後に、なんとも言いがたい間が発生する。

詠矢「…えっとな?」

口火を切ったのは詠矢の方だった。

白井「なんでしょう?」

詠矢「用事も終わったみたいだし、話…いいかな?」

白井「ええ、よろしいですわ…」

詠矢「こないだの、ジャッジメットやってみないかって話だけどさ」

詠矢「申し訳ないけど、お断りさせてもらうわ…」

白井「…」

871: 2013/01/23(水) 00:07:13.20 ID:4llnpRlv0
白井「そう…ですの…」

白井「残念ですわ…。引き受けていただけるものだと、思っておりました…」

詠矢「ゴメンな?」

詠矢「理由…説明しといたほうが、いいかな?」

白井「…差し支えなければ、お聞きしたいですわ」

詠矢「俺の父さんがさ、警察官だったんだ」

白井「だった…過去形ですの?」

詠矢「ん、まあ、殉職してるんだよ」

白井「…!!、そう…でしたの…」

詠矢「白井サンさあ、何年か前に、くすり中毒の暴力団員が、銃を持って民家に立てこもった事件って覚えてるかな?」

白井「ええ…たしかあの時、対応した警官が…え!?…まさか?」

詠矢「そう、そのとき撃たれて氏んだのが俺の父さんなんだ」

白井「…」

872: 2013/01/23(水) 00:08:08.72 ID:4llnpRlv0
詠矢「父さんは厳格で正義感の強い人だった」

詠矢「最後の最後まで、警察官としての正しさを貫いて」

詠矢「ヤク中のヤクザを安全に確保しようとして…殺された」

詠矢「結構それから大変でさ、心無い奴からいろいろ言われたよ」

詠矢「臆病者とか、腰抜けだとか…なんで先に撃たなかったんだとかさ」

詠矢「それでちょっと荒れてた時期もあったんだけどね…」

白井「…」

詠矢「まあいいや、そんな話は」

詠矢「でも俺は父さんのやったことは間違っていないと今でも思う」

詠矢「現行の法規の中で、最大限正しい判断だったと思う」

詠矢「でも…もし、相手の安全を省みなかったら、『正しい』判断をしなかったら」

詠矢「父さんは氏なずに済んだんじゃないかと思うと…ね」

白井「…」

873: 2013/01/23(水) 00:08:47.40 ID:4llnpRlv0
詠矢「俺の悪い癖で、いろいろ考えすぎちまってさ」

詠矢「そういうことに整理が付いてない人間が、ジャッジメントみなたいな公的な機関で」

詠矢「働いちゃいけないと思うんだよな…」

詠矢「…ってまあ、そういうわけなんだ」

白井「…」

白井「わかりました」

白井「そのようなご事情がおありなら…仕方ありませんわね…」

白井「わたくしこそ、詠矢さんの心情も考えず」

白井「勝手なことを言いまして…申し訳ありませんでした…」

詠矢「いやいや、謝らないでくれよ!そんなことわかるわけないんだからさ!」

白井「いえ…でも…」

詠矢「こっちこそご期待に添えなくて申し訳ない!」

白井「…」

白井「…詠矢さん」

詠矢「…ん?」

874: 2013/01/23(水) 00:09:13.68 ID:4llnpRlv0
白井「詠矢さんのお父様の判断、わたくしも正しかったと思います」

白井「ですが、わたくしも同じような状況になった場合、どのような判断が出来るかわかりません」

白井「同じく法を守るものとして、この話は深く心に刻み付けておきたいと思います」

詠矢「そっか…なんかありがとな?」

詠矢「父さんを認めてくれる人が増えて、ちょっとうれしいよ」

白井「恐縮…ですわね…」

詠矢「んじゃあ…話は終わりだね」

詠矢「俺は失礼するよ」

詠矢は静かに席を立つ。

詠矢「んじゃ、またなー」

白井「ええ…また…」

遠のいていく詠矢の背中を、白井は静かに見つめていた。

875: 2013/01/23(水) 00:09:52.31 ID:4llnpRlv0
(常盤台中学学生寮 御坂と白井の自室)

白井「…ふむ」

自室に一人の白井は、買って来たばかりの下着をなんとなく身に着けてみた。

白井「試着のときにも思いましたが…確かに動きやすいですわね」

白井「肌と衣服が衣服が触れ合うことも少ないですし…着心地も悪くありませんわ…」

四肢を軽く動かし、白井は着心地を確かめる。

御坂「ただいまー」

突然扉が開かれる。

白井「お、お姉さま…おかえりなさいまし…」

枕を引っつかんで慌てて体を隠す白井。

御坂「あら…どうしたのその下着」

白井「えっ…いえ…ちょっと…着心地を…」

御坂「ちょっと見せてよ!」

枕を剥ぎ取る御坂。白井にはもう隠す手段はない。

白井「…」

876: 2013/01/23(水) 00:10:36.52 ID:4llnpRlv0
御坂「いいじゃない、ちょっと地味だけど落ち着いた感じで」

御坂「似合ってるわよ?」

白井「あ、ありがとうございます…」

御坂「でもどうしたの?いつものと全然違うじゃない?」

白井「えと…いえ…たまにはちょっと…変化球をと…」

御坂「アンタはいつも着てるのがデッドボール並の変化球でしょうが…」

御坂「たまにはそういうストレートなものも着なさいって…」

白井「お…お姉さまには言われたくありませんわ!!」

白井「お先にお風呂失礼します!」

御坂を押しのけ、白井は逃げるように脱衣場に入ってしまった。

御坂「…なに慌ててるんだか」

御坂「ま、いっか。なんか元気出たみたいだし…」

愛すべき後輩の様子に、御坂は素直に微笑む。

それぞれの思いを包み込みながら、学園都市の夜は静かに更けていった。

877: 2013/01/23(水) 00:11:16.71 ID:4llnpRlv0
以上となります。
この話はこれで完結です。
ありがとうございました。

878: 2013/01/23(水) 00:32:28.40 ID:OjKSQPXvo
乙!

引用: 絶対反論(マジレス)こと詠矢空希(ヨメヤ ソラキ)は落ちていた。