361: 2011/05/10(火) 01:23:44.35 ID:q4HsgTy50

前回:鑢七花「・・・どこだ?ここ」麦野「学園都市よ!」【前編】

とあるサロン。


御坂美琴と同じく、学園都市最強の七人の超能力者の一人、麦野沈利はそこに居た。

いつも『アイテム』が拠点としているサロンだが、そこには麦野一人しかいない。


「………で、結局は見つからないの?」


『……ぅぅ…』


麦野は大きなソファに座り、いつも指令を下す電話の『声の主』と携帯で話していた。


『しょ、しょうがないじゃない!…だって、目標の行動パターンも目撃情報もバラバラだし、警備員や風紀委員の襲撃にあっても一蹴してしまうし……。情報があっても、どこにいるのかわからないのよ!』


「泣き事いってんじゃないわよ、さっさと仕事しろ。あん時豪語していたのは嘘だったのか?」


『…くっ…』


「……たっく…あんたが大丈夫だ、すぐ見つけると言ってスタンバイしていたのに」

携帯電話を肩と首で挟み、麦野は太腿に置いたパソコンのキーボードを叩いていた。

「あんたが仕事しないから、こっちがあんたの代わりに仕事してんのよ」


『…面目ない』


麦野はとある刑務所にいるハッカーの少年から、ハッキングプログラムのUSBをぶんどったのだが…。

彼女はとある風紀委員の支部をハッキングしたが、逆にこっちがハッキングされた。

もう、そのプログラムは使えないようにされた。

どこの誰がかしれないが、相当の手練れだ。


「で今、私はネットの掲示板から、あいつの情報を集めているの」


『………』


「でも、あんたはあんたで仕事しな」


『……はい…』

とある魔術の禁書目録 4巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

362: 2011/05/10(火) 02:42:32.04 ID:q4HsgTy50

麦野は電話を切り、PCに向かう。


(あの後、警備員と風紀委員からの襲撃に度々あっている。範囲は絹旗と戦った場所より30km……。襲撃の全てを返り討ちにした)

麦野はPCから目を離し、カバンからお茶の入ったペットボトルを取り出して飲む。

(その範囲からさらに10km離れたビルの屋上で風紀委員一人を倒した後、行方知れず……)


「しっかし、ホントに行動範囲広いわね、こいつ……」



掲示板には『なぞの侵入者、学園都市を練り回る!目撃者、情報頼む!!』とある。

この掲示板は秒単位で更新されている。…ほとんどは興味半分面白半分のスレばかりだが。


しかし鑢七花の行動は正確にとらえていた。

絹旗最愛との戦いや、警備員と風紀委員を返り討ちにしたことや、白井黒子が倒されていたこと……。

その情報源はきっと、現場を直接みた野次馬達だ。


麦野はそこを突いた。役立たずの『声の主』のよりも情報は効率よく入ってくる。

ネットを使った人海戦術だ。


しかし、入ってくる情報はどれも滅茶苦茶だ。


そこは『声の主』が言っていたことがわかる。

例えば、『街中にいた』目撃情報Aがある。しかし、2分後には『そこの10km先の路地裏にお入っていくのを見た』という目撃情報Bが出てくる。

人間は2分で10kmは移動できない。果たして、どっちが本当の侵入者か?

情報の混乱である。


因みに混乱の原因はこうだ。

情報Aは七花が警備員や風紀委員の追跡から必氏に逃げている時のものだ。当時、七花はランダムかつ全速力で逃げていた。

おわかりの通り、七花の全速力は普通のそれの比じゃない。10kmを2分で走るなんて、御茶の子さいさいだ。


普通の人から見れば、七花は空間移動したかのようだ。もしくは七花が何人かいるように見える。


ゆえに情報が混乱するのだ。現にその話で掲示板は大盛り上がりだ。



このように『声の主』が言った通り、『情報があってもどこにいるのかがわからない』構図になってしまったのだ。


363: 2011/05/10(火) 03:03:17.99 ID:q4HsgTy50

麦野は掲示板の更新をした。


すると、新しいスレがあった。

「…ん~?」

実に興味深いものだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

762 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします [saga]:20--/09/05(火) 01:23:44.35

なんか、十七学区の操車場で大爆発があって、焼野原になったらしい

今回の事には関係ないと思うが、一応言っておく



つーか、ホントにいるのか?そんなマンガみたいな超人は

梁山泊のじーさんじゃあるまいしww


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


とあった。


「――――――!!」


麦野は即座に立ち上がり、サロンから速足で出て行った。


確信はない。しかし自分の直感が告げている。

鑢七花だと。





368: 2011/05/10(火) 21:20:54.77 ID:q4HsgTy50


「…チッ…遅かったか……」


麦野は十七学区のとある操車場に来ていた。

もうそこには鑢七花の姿はなく、警備員が現場検証をしていた。


警備員と風紀委員が規制をかけている。

その規制の向こうを一目見ようと駆けつけた野次馬がウジャウジャといる。


麦野はその野次馬の中にいた。


確信はないが、鑢七花絡みの事件だとすると、いったい誰が……?


麦野が物に耽っていると……。


「すげぇな、どうなったらこうなるんだよ」

麦野のすぐ傍で事件を見ていた、不良少年3人組が面白そうに話していた。

「だよな、これも超能力ってヤツか?良いよなぁ、オレもこんな能力欲しいなぁ~」


麦野は(なんだ、ゴミクズ共がただクッチャべってるだけか、耳障りだから喋んな、蛆虫)と聞き流そうとした時だ。




「なぁなぁ、この爆発って『発電系能力者』がやったらしいんだってよ!」


「――――――――!!」

麦野は目を見開き、彼らの話を聞き漏らさないよう、注意深く聴く。


「さっき、あっちの方で警備員が話していたのをたまたま聞いた」

「お前また盗み聞きかよ!……ロクなことになんねーぞwww」



369: 2011/05/10(火) 23:37:08.66 ID:q4HsgTy50


「……っふふ…ふふふふふふふふ……」

麦野は笑いそうになるのを必氏に堪えた。


「……!?」

不良少年達は気味悪そうに麦野を見る。


(ああ、なるほどなるほど、そう言うことね……ハイハイ)


ついついニヤニヤとしてしまう。


(この規模の爆発を起こせる『発電系能力者』つったら、アイツしかいないわね)



『オッサンとは聞き捨てにはできないね』

『オッサンとは聞き捨てにはできないね』


電話が鳴る。この着信は、あの女からだ。

ピッ!

「もしもし?」


『あ、麦野? 情報よ十七学区の操車場で……


「遅いわよ、鈍間。こっちはもうそこについてんだっつーの」


『…え?』


「全く、アンタはねぇ。私を舐めてんの!? なんで私より早く仕事始めたのに、私より遅いのよ!!」


『ぅぅ…』


「……まぁ、あんたを今すぐクビにしたいんだけど……、私が撒いた種だから人の事いえないから、あんまり言わないけど……」


麦野は『声の主』に言い放った。



「………あんた、ダメな女ね」



『~~~~~~!!』


「悔しかったら、せめて私のお願いだけでも叶えて欲しいわね」


『……え?』



370: 2011/05/10(火) 23:52:16.09 ID:q4HsgTy50

「警備員にスパイを紛れ込ませなさい。……んで、アイツの居場所を調べ出させるのよ」


『……ああ、はい、わかったわ。それ位は何とかできそうよ』


「…とか言って、ヘマするなよ」


『言わないでよ! 言われるとホントにしちゃうでしょ!!』


「ああ、いいからさっさと行って来い」


『………こいつらときたらぁ~~~!!! お、覚えt…』

ピッ


麦野は電話を切った。


こういう手の奴は、怒らせてからの方が役に立つ。





「さ~て、面白くなってきたわね」


先程の不良少年だ言ってた、『発電系能力者』というのは、


十中八九、『超電磁砲』御坂美琴だろう。


これは根拠のない勘だが、御坂美琴は負けたのだろう。


結局はわからず仕舞いなのか…

371: 2011/05/11(水) 01:15:38.47 ID:wACmSEpq0


結局、鑢七花の所在はわからず仕舞いなのか……。



麦野は操車場を離れ、十七学区のとある駅の近くの喫茶店に入り、一旦休憩をとる事にした。



「……レモンティーとケーキを一つずつ…」


「かしこまりました」


麦野は奥の窓側の席に座った。

日当たりが良い、しかしきつくない、お茶をするなら取って置きの席だった。

麦野は『アイテム』のメンバーで行動する時以外のプライベートの時間、よくここの店でお茶をする。


ここは値段が安い割には美味しい紅茶が飲める、麦野お気に入りの店だ。

初めて入った時から、ずっとここへ通っている。

麦野はすっかり、この店の常連となり、ここのマスターとも顔見知りとなってしまった。


「お待たせしました。レモンティーとケーキです。………それと、ケーキをもう一つおまけしておきました」

「あ、ありがとうございます」

常連には、こういったいいことがたまにある。


麦野は『アイテムのリーダーの麦野沈利』から、『ただの女の子の麦野沈利』になった。

ここには、あの路地裏のような臭いはしない。血みどろの光景もない。


そして、自分が血で汚れるようなことはない。


ここは、そういった物騒なモノはない。

ここは平和なのだ。だから心地いい。


確かに、あの路地裏の血の臭いは嫌いじゃない。むしろ楽しいことがある。あの弱い者を徹底的に踏み躙る感覚がたまらなくなってくる。


それに、滝壺と絹旗とフレンダとも仲が良い。ずっとこのままでいられたら……、そんな、らしくないことを考える時だってある。



でも、ここの静かな雰囲気と、古いアナログレコーダーから優しいクラシック流れてくる所が、本当に気に入っているのだ。

372: 2011/05/11(水) 01:48:56.66 ID:wACmSEpq0

麦野はレモンティーを啜る。

「うん、おいしい」

よかった、いつもと変わらない味だ。

続いてケーキの端をフォークで切り、口に入れる。

口の中が甘い香りでいっぱいになる。

甘いものを食べると、肩の力が抜け、ついリラックスしてしまう。



ふと、麦野は窓の外を見る。


もう陽は傾き始めていた。もう学校が終わり、帰宅する者、今からアルバイトがある為、急いで駅に向かう者、これから友人とカラオケしようと数人でカラオケ店に入る者、恋人一緒に一つのパフェを突いている者……。

店の近くの駅には色々な人が幸せそうな顔で過ごしていた。


(私も超能力者じゃなくて、ただの女の子だったら、友達と一緒に遊んだり、彼氏ができたら一緒にパフェを食べたりしてたのかな……)


きっと、もうただの女の子に戻るという願いは叶わないだろう。

こんな血生臭い女は一生血生臭いままで、ずっと過ごすのだろう。


そういえば、同じ超能力者である、かつて戦った、忌々しい女…御坂美琴は、自分よりランクが高いくせに、ああいった幸せそうな生活を送っている。

麦野と美琴はかつて戦ったことがある。

その後、友好関係からスリーサイズまで、彼女の素性をとことん調べ上げた。


彼女は私と同じ超能力者なのに、闇に堕ちてはいない。

そのことが腹が立って仕方がなかった。

もしかしたら、嫉妬しているかもしれない。


(……は~、昔の私が言ったらなんて言うんだろうなぁ)


典型的な嫌な性格のお嬢様だった私だきっと『俗物』と吐き捨てていただろう。



373: 2011/05/11(水) 02:16:26.38 ID:wACmSEpq0

「あの~、なにかお悩みですか?」


「え?」


麦野は急に誰かから声をかけられ、びっくりした。


声をかけたのは、この店のマスター(年は六〇代半ばの白髪と口髭が素敵なご老人)であった。




「えっと…どうして?」


「はい、お客様がとても寂しそうな表情をされていたものですから…」


「…あ…///」

麦野はちょっと恥ずかしくなった。そんなに顔に出ていたか…。


「…なにか、お困りでしたら、是非言ってください。少しならば、お役に立てるかもしれません」


「ふふふ、ごめんなさい。こればっかりは言えないわ……」


マスターは少々残念そうな顔をする。


「じゃあ、マスター。マスターから見て私ってどう見える?」


「それはそれは、とてもお美しいお嬢さんですよ」


「……そう」


「なぜそのようなことを?」


「……いえ、なんとなく……」


麦野は顔には出していないが、内心とても嬉しかった。




麦野はレモンティーとケーキ二つを食べ終え、お会計を支払おうとした、しかし


「あ、お会計は結構です」


「え?でも…」


「…実は、この店は今月で閉める事になりました」

374: 2011/05/11(水) 02:31:43.77 ID:wACmSEpq0

「え…?」


「ここの近くの駅の中に新しい喫茶店ができまして、ここより安くて美味しいらしく…。どうやらここでの経営は難しくなりまして…」


「そうだったんですか……」


「いつも来てくださって、本当にありがとうございました」


マスターは深々と頭を下げる。


「いえ…そんな…」


「…本当に、ありがとうございました」










麦野は店を出た。


駅まで、少し歩く。


20m程歩いた所で立ち止まって、さっきの喫茶店の方へと振り返る。


(もう、ここも無くなるのか……)



すると、電話が鳴った。

『声の主』からだ。(例の着信は流石に恥ずかしいので消した)


「見つかったの?」


『ええ、確かな情報よ』


「意外と早かったわね」


『ふん、敬いなさい! こんなことがあろうかと、あらかじめに警備員と風紀委員にどれぞれスパイを入れていたのだぁ!!』


「……あんた」


『なに?』


「その存在、忘れていたでしょ。………もしそうじゃなかったら、もっと早く情報が入ってくるはずだもの」


『………』


「図星?」



375: 2011/05/11(水) 02:45:33.92 ID:wACmSEpq0

『はい…』


「とにかく、その詳細を教えて」


『わかったわ、それは今、地図と一緒にメールで送るから』


「わかった」













――――――――――――――――――――――――――――――


「で、今に至るの」


ここはとある病院。


麦野沈利は滝壺理后とフレンダ=セイヴェルンに今までの事を説明していた。


「で、むぎのは今からそこに行くの?」


「そ」


「でも、結局一人で行くのは危険よ」


「大丈夫、アイツがいる所は実は警備があんまりいないのよ」


「だから一人でも大丈夫と?」


「そういう事。……じゃあ、行ってきます」



「あ、麦野!」

「いっちゃった…」


「………」

三人はただ、麦野をずっと見ていた。


後ろで、絹旗最愛が見ていたことには気づかずに

378: 2011/05/11(水) 19:09:45.06 ID:wACmSEpq0


「……ぅぅ……、……いけね、寝てた。……どこだ?ここ…」


鑢七花は第十学区のとある留置所で目を覚ました。


(…あれ?そういえば俺どうしたんだっけ?)


御坂美琴との戦いでの…というより最後の電気ショックのせいで記憶が曖昧だ。



(…え~と、確か寝てたら変な雷女に襲われて、返り討ちにして、もう少しで倒せるまで行って…)


七花は記憶を順々に思い出そうとする。


(止めを刺す時に、…急に背中に何か当たったと思ったら、いきなり眠くなって………そしたら、あいつに抱き着かれて、雷落とされて…)


七花は思い出そうとするが…。


「だめだ、これ以上は覚えていない………はぁ」


七花は落ち込む。


(もう少しで勝てたのに、勝てる勝負に負けてしまった…)


「はぁ」


実際には電撃を喰らった七花は、まだ意識があった。そして電池切れの美琴に改めて止めを刺そうとしたが、ミサカ17600号の狙撃に撃たれた。


麻酔銃で撃たれた七花は倒れ、警備員の手により、留置所に送られた。


そして目覚め、今に至る。

379: 2011/05/11(水) 22:16:11.90 ID:wACmSEpq0

「……で、ここはどこだ?」


七花は立ち上がって、現在地の確認を取ろうとした。


ガシャン…


鎖が絡む音が足元から聞こえた。

「……?」

両足に短い鎖のついた足枷が填められていて、立ち上がれない。

「…な」

鎖は地面へと繋がっていて、うまく動かないようにされている。


「な、なんだよこれぇ!」


しかも腹部と首にも枷がつけられていた。


「やっと目覚めたじゃん」


「…お前は…黄泉川…」


七花は鎖の束縛を無視して、立ち上がろうとする。


「おっと、あんまり動くと…」


「…痛ってぇ!!」


「……と、遅かったじゃん」


どうやら、美琴との戦いで負傷した両腕はまだダメージが抜けていなかった。

腕が焼けるよう痛い。


腕には包帯がグルグルと巻かれていた。


382: 2011/05/11(水) 23:01:50.03 ID:wACmSEpq0

「一応、応急措置はしておいたけど、あんまり動かないことじゃん」


「ててて……って、ここはどこだ」


「ここは第十学区にある、留置所じゃん。お前は今日…と言っても、もう昨日か、ここに運ばれた。本来、不法侵入者は一晩二晩、この牢屋で過ごし、罰金を払った後、学園都市の外へ追放する……。筈だったんだが」


「なんだよ」


「お前、この街で散々暴れまくってくれたじゃん? それで修理代と慰謝料と罰金が、お前に請求されてるじゃんよ」


「は?」


「まぁ…ざっと占めて約16億円か…。要はお前に16億円の借金があるじゃんよ」


「え…?」


「もちろん、16億なんて金は一生の内には集まらない数字だ。そこでだ、お前には特別な処置が下されるらしい」


「ちょっと待て。言っていることがわかんねぇんだが……てか、お前ら俺の話一回も聞いてくれないのなぜなんだ!?」


「詳しい話は明日になったら聞くじゃん。それよりも、お前のその体を何とかするじゃん。 医者が驚いていたじゃん、どうしてそんな体で動けるんだってな」


そういって、黄泉川は去って行った。


「じゃあな、おやすみ」


「おい!ちょっと待て!!」


ガシャン……!!


鉄格子が閉まる音が周囲に響く。





「くっそ、なんなんだ……」


七花には珍しく、苛立ちを覚えた。

誰も自分の話を聞いてくれない、聞こうともしない。

襲ってくるのがあちらなのに、全てが自分が悪い事になってしまっている。

それが腹立たしくてしょうがなかった。


385: 2011/05/11(水) 23:31:34.71 ID:wACmSEpq0


とがめが氏んで、尾張城での戦いを生き延び、とがめが言っていた地図作りの旅を、なぜかついてきた否定姫と一緒にしていたら、

突然異世界に飛ばされて、襲われ、逃げて、捕まって…挙句の果てには正当防衛の筈なのに借金ができたそうな…。


「不幸だ…不幸すぎる…」



何がいけなかったのだろうか、最初っから大人しく捕まっとけば良かったのか?



七花は落ち込んだ。ただただ落ち込んだ。

なぜ自分がこんなことになってしまうのだろう…。


「とがめだったら、こんな時どうすんだろう………?」




と、その時、牢屋の遠くで爆発が起こった。




「―――――――――――!!?」




「な、なんだ!?」

「侵入者です!!」

「なにぃ!? 何人だ!?」

「ひ、一人です!!…ぅ…ぅぁ……ぐわああああ!!」

「どうした!!」

「お、恐ろしく強いです!! 銃が効きません!!」

「な、なにぃ!? …ええい、俺が出る!! ショットガンで吹っ飛ばしてくれる!!」

「しかし、侵入者は学生の模様!!」

「んな…なにぃ!?………て、うわあああああああああああああああああ!!」



遠くから銃声と悲鳴と何かが焼ける音がした。

それはどんどん近づいて来た……。

煙が周囲に立ち込めた。座っている七花の口や鼻に煙が入ってきて、ゴホゴホッと咽せ返ってしまう。




そして

「はぁ~~い、お久しぶりね、鑢七花。元気にしてたかにゃ~ん? よくも私の顔に膝蹴りしてくれてたわね!!」

麦野沈利は七花の牢屋の前に立っていた。


389: 2011/05/12(木) 00:23:59.60 ID:pAwGFRXx0


「お前……」


「なに? あまりにも王道過ぎる救出方法に、感動して涙が出てきちゃった?」


「……誰だ?」


「……………………………………………………………………は?」


「いや、ちょっと待て、なんかこう、もう少しで出てきそうなんだ……、ええと…」


「折角かっこよく登場したのに、スッゲェ萎えるわ」


「待て待て、喉に引っかかって出てこない感じ…」


「ごめん、帰っていい?」


「あ、思い出した! 俺がここに来てから最初に出会った奴か!!」


「…ふ~、やっと思い出したか…。まぁいいわ、すぐに逃げるわよ」


麦野は鉄格子の鍵を自分の能力の熱で溶かして開けた。


中に入ると、次に七花の足、首、腹部の枷も熱で溶かして外す。


「…ぅ熱!」


「我慢しなさい」


枷を全て外して、外にでる。


そこには車が一台、止まっていた。


「こっちこっち!早くしてください! 通報を受けて警備員と風紀委員が来ます!!」


『アイテム』の下っ端組織の下っ端が車の中で早く早くと急かす。


麦野が、車を珍しそうに見る七花を先に足蹴りして詰め込む。


「っ痛てぇな、おい!」


麦野は「膝蹴りのお返しよ!」七花に吐き捨てながら車に乗る。


「出て」


車は勢い良く発進した。

そして、すぐに見えなくなった。


400: 2011/05/12(木) 15:22:19.32 ID:pAwGFRXx0

七花が留置所を脱出した頃


「今戻りました」


黄泉川愛穂は自分が所属する警備員第七三支部に帰ってきた。


「おお、戻ったか」


支部にいたのは、上司である美濃谷肖像だけであった。


「黄泉川、ちょいとこっちに来て茶でも飲まんか。わざわざ静岡から取り寄せたお気に入りだ」


美濃谷は棚から湯呑を二つと急須を出した。

「ここの茶葉はどうも好かん。やはり、人の手で丹精込めて作ったものが一番だ」

ポットのお湯を茶葉が入った急須に注ぐ。


「登条もそんなことを言ってましたね」


「ああ、しかし彼奴が言っていることは間違っちゃあおらんが、五月蝿くてたまらん。どうしたものか…」


「あはは、そうですね」


美濃谷は急須と湯呑を盆に乗せて運ぶ。


「そこのソファに座れ」


二人はテーブルを挟んで、対になって置いてあるソファに向かい合って座った。


「…他のみんなはどこへ行ったんですか?」


「もう帰らせた。黄泉川、あの小僧はどうだった?」


「…いえ…特には…。ただ、いくら大罪人でも、可哀そうでした。……鑢七花はここに来てから、誰も話を聞いてくれないと言ってました」


「そうか…」


401: 2011/05/12(木) 15:50:19.39 ID:pAwGFRXx0

美濃川はお茶を湯呑に少しずつ、交互にいれる。

美濃谷は黄泉川の前に湯呑を出す。黄泉川はそれを両手で持ち、少し飲む。


「…番茶ですか」


「そうだ、出来立てだ」


美濃谷も自分のお茶を啜る。


「うん、うまい」


「話を戻しますが。一応アイツとの面会時間をとっておきました。午後には行きます」


「いや、その必要はない。お前が行く時には、小僧はおらん」


「…? それはどう言う意味ですか…?」


その時、急に机に置いてあった電話機が鳴った。

黄泉川はすぐに受話器を取る。


「はい、こちら警備員七三支部」


美濃谷は落ち着いた対応をする黄泉川を見ながら、お茶を啜る。



「………はい。…はい…え、ちょっと、それって……!?………はい…はい、わかりました」


黄泉川は受話器を置いた。


「……鑢七花が、留置所から脱走したそうです…。今、第十学区の警備員が調査と追跡をしているそうです」


「そうか」


「美濃谷先生、先生が言っていた意味はこのことですか?」


「いや、別の意味だ。流石にここまでは予想していなかったよ」


「……とりあえず、留置所に戻ります!」


黄泉川はソファから立ち上がろうとした。


「行くな!!」

しかし美濃谷が黄泉川の腕を掴み、止めた。


「な…なんですか!?」


「留置には行くな」

402: 2011/05/12(木) 16:08:02.88 ID:pAwGFRXx0

「なぜですか!」


「いいから行くなと言ってる」


「答えになっていません! もし、あいつがまた暴れて、子供たちに何かあったら…!」


「わしは、お前の命の心配をしているのだ」

美濃谷は声色を低くして言った。

「…な…」


ただそれだけで、黄泉川は動けなくなった。


「詳しくは言えん。これは学園都市の『闇』の問題だ」


美濃谷の眼力のせいで、声のせいで、何十人、いや何百人もの人が自分の体を押さえ付けていような錯覚が起った。


「下手すると…氏ぬぞ」


黄泉川は美濃谷の忠告に応じ、ソファに座る。



「別の話をしよう。登条が例の爆発現場で拾った物…なんだかわかるか?」


「あれって、髪の毛でしたよね」


「どうだ、おそらく小僧のだろう。そこでだ、昔からの知り合いの医者にDNA鑑定をしてもらったのだが…少々面白い結果が来てな」





403: 2011/05/12(木) 16:44:20.51 ID:pAwGFRXx0


――――――――――――――――――――――――――

その数時間前、第七学区の病院。


「麦野、大丈夫かな」

『アイテム』の構成員であるフレンダ=セイヴェルンは、先程出て行った『アイテム』リーダー 麦野沈利を心配していた。


しかし、同じく『アイテム』構成員 滝壺理后が言った。


「大丈夫、むぎのは絶対に帰ってくる」


「そうだと良いんだけど…」


そこへ、冥土返しが歩み寄ってきた。


「ちょっといいかい? ちょうど時間が空いてるから、一つ面白い話をしようかな」


「なに? せんせい」


「とりあえず、そこのテーブルの席にでも掛けてくれないか? 立ち話は年寄りには少々きつくてね?」


冥土返しが指をさす方にはテーブルと、それとセットのイスがあった。

フレンダと滝壺はそのイスに、並んで座った。

いた
「ちょっと待っててね? 昔からの知り合いの警備員から貰ったお茶葉があるから、それでお茶にしながら話そう。今、それと茶菓子を持ってくるからね?」


冥土返しは踵を返し、お茶葉と茶菓子を取りに、自分の仕事部屋に戻る。


「あと、そこのお嬢さんも一緒にどうだい?」


「「!?」」

滝壺とフレンダは同時に立ち上がる。


「バレてましたか…」


三人の視線の先には、ひっそりと隠れていた、『アイテム』の構成員 絹旗最愛がいた。




404: 2011/05/12(木) 17:37:05.61 ID:pAwGFRXx0


「さて、先程のことなんだけどね?」


席には、滝壺、フレンダ、絹旗が並んで座り、向かいに冥土返しが座っていた。

フレンダはどんな話だろうと、ワクワクしていた。

しかし

「その前に、ちょっと生物の勉強をしよう」


「…って、あれ? なんで? しかも私が嫌いな生物…」

フレンダがプレゼントをお預けされた子供の様な顔をする。


「まぁまぁ、そう言わずに」


冥土返しはコホンと咳払いを一つする。



「まず、ヒトの体は細胞の集合体なのは知っているよね?」


「はい」「その位は…」「それなら超常識です」


「その細胞を作る為にはDNA…いわゆる人体の設計図みたいのが必要だ。そのDNAを元に細胞が作られ、人体が作られる…ここまではいいかい?」


「はい」「超大丈夫です」「そこはこの前TVで見た」


「細胞を形成するためにはDNAだけじゃ出来ない。設計図だけで家を建てれないだろう? それと同じで、建てる為には大工や木材が必要だ。

その木材がタンパク質で、大工の役をするのがRNAというものだ。RNAは色々な働きをしている。

ここからは難しいから、あとで詳しく言うけど、

簡単に言うなら、DNA(設計図)を見て、それを元に細胞(建造物)を建てる…それがRNAだ。…色々と端折ったけど、大丈夫かい?」


「大丈夫」「なんとか」「ごめん、もうついていけない…」


「要は、大工が家を設計図通りに作るような感じだよ?……まぁ変更はするけどね?」


「???」


「まぁ、あとで調べてくれ。滝壺さん、ヒトのDNAとチンパンジーのDNAはどれくらい違うか知ってるかい?」


「1%」


「良く知ってるねぇ。じゃあ、ヒトとヒトのDNAの違いは?」


「0.1%」


「そう、簡単に言うと、フレンダさんと絹旗さんのDNAは0.1%しか変わらないってことだよ?」


「あ、そういうこと…。じゃあ結局、先生と私も、DNAはほとんど同じって事こと?」


「そう。で、問題はそのDNAの違いだ」

405: 2011/05/12(木) 18:08:12.85 ID:pAwGFRXx0


「君たちが言っていた……鑢七花くんだっけ? そのお茶のお茶葉をくれた警備員の友人がね? 彼の毛髪を、絹旗さんと戦った場所から発見して、 一応この国の誰か調べる為だからDNA鑑定してくれって、僕の所まで持ってきてね?」


「もしかして、そのお礼にこのお茶を?」


「そうだよ。口に合わなかったかい?」


「いえ、超美味しいです」


「そうかい、なら良かったよ。…昔から強引な人だったからねぇ。仕方なく鑑定したところ、驚きの結果が出たんだよ……」


冥土返しは一旦、お茶を飲む。


「実はね、彼のDNAは…………」







「ヒトのものとは違うんだよ」





「へ?」

フレンダが素頓狂なリアクションをする。


「せんせい、それってどういう事なんですか?」


「うん、彼のDNAはヒトとは若干違っていたんだよ。およそ0.25%。小さな違いだけれど、とても大きな違いだよ?…絹旗さん、君は鑢くんと戦った時、不思議に思わなかったかい?」


「…? 何がですか?」


「うむ、滝壺さん。能力追跡で君は彼を能力者に見えたかい?」


「いや、やすりしちかから、AIM拡散力場は検出されなかった。………彼は学園都市の人間じゃない」


「な…」


「そういう事だ。滝壺さんから聞いていたけど、彼、粉塵爆発の燃焼速度より速いんだって? なぜ彼は超能力を使えないのにそこまで速く走れたのだろうね…? その身体能力は一体どこから来たんだろう?(……魔術の可能性もあるが、この子達には伏せておこう)」


406: 2011/05/12(木) 18:25:26.49 ID:pAwGFRXx0

――――――――――――――――――――

ここは警備員七三支部。


「と言うことだそうだ」


「……と言うことは、彼は人間じゃないと?」


「それは例えだ、確かに人間だそうだ、構造的にの話だが。 まぁ確かに生身で操車場を壊滅状態にできるなら、人間ではないな」


「……、彼はどうなるのでしょうか」


「まぁ、もしもDNAの事がバレたら、小僧は実験台にされるかもな…」


「…!」


「でも、あいつはそんなことはさせないと思うがな」


「…それはどういう…?」


「こっちの話だ、気にするな…。……飲み終わったな。もう帰れ、もう2時を回ってる」


「…あの…」


「どうした?」


「どうして、この話を…? もしも私がどこかの研究者にこの情報を金で売るかもしれないのに」


「ふん…」

美濃谷は笑う。

そして、こういった。

「それは、お前がそんなことは絶対にしないと思っているからだよ」





「さ、帰った帰った。良い子はもう寝る時間だ」


「……お、おやすみなさい…」

黄泉川は納得しなかったが、結局は帰って行った。


美濃谷は二つの湯呑と急須を盆に乗せて、流し台へと持って行った。


軽く水洗いをしてから、さっさと片づけた。

407: 2011/05/12(木) 18:51:02.32 ID:pAwGFRXx0

――――――――――――――――――――――

その頃、第十学区の留置所。


「おい、おい、おいおいおい!! どぉなってんだぁ!?こりゃあ!?」


白衣を着た、いかにも科学者といった格好の男が大声で騒いでいた。



「はい、侵入者 鑢七花は先程ここから脱走、車に乗って逃走中とのことです。外から襲われたらしく、恐らく協力者がいるようです」


「あーそーゆーこと…。ご報告ご苦労さん!!」


男の周囲には黒装束…全身黒色の防具服を着た集団がマシンガンや手榴弾などの重装備を持って集まっていた。


「で? お前らは何をしていたのかなぁ?」


男の目の前には、麦野にボッコボコにされた、留置所の警備をしていた物たち、五人が一か所に集められていた。手足には手錠が掛けられている。


「…私たちはいつも通りに犯罪人を警護していたら、急に何者かに襲われて…気がついたらこの有様だ」


男の質問に留置所の職員が答えた。


「はい、役立たず。……やれ」


「…な、何を…?」

黒装束の一人が質問に答えた職員を引っ張り出した。

「うわっ!」


「じゃあな、役立たず君」

「ちょっと、何を…」

それが彼の遺言だった。


黒装束の三人が彼の目の前に立ち、


マシンガンで撃ち始めた。



蜂の巣になった職員はしばらくは愉快に踊ったが、マシンガンの弾が無くなると、赤いオブジェになって地面に転がった。

408: 2011/05/12(木) 19:10:27.72 ID:pAwGFRXx0


「「「「……………………………………………」」」」


唖然と同僚の氏を見た四人。


一方

「あひゃぁぁぁああああ!!!」

白衣の男は楽しそうに笑っていた。


「おいおい、聞いたかよ、今のぉ!! あいつの最期の言葉 最ッ高に笑えるよなぁ!! かっこわりぃぃ!!」


彼の問いかけには誰も応えない。


「まぁ、アイツは惨めな役立たずだったけど、最期に俺を爆笑させたからイイ人生だったじゃねえか!!」


あっははははは!!と高らかに笑う男。


「あ、悪魔だ……」

ボソリと、職員の一人が言った。 いや言ってしまった。


「ああ? オメェ、今なんつった?………アア!?」


男はその職員の胸倉を掴んだ。


「オメエさん、俺を悪魔と……ほぉ、悪魔と。……へぇ、悪魔と…」


「ひぃ」


「おい!!こいつもだぁ!!」


男は職員を先程の、処刑場へと放り出した。


「……やぁ…やめてくれぇええええええ!! 頼む!! たすけ…」


ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ…………………


「ぎゃああああああああああぁぁぁぁ…………」


断末魔は発砲音にかき消され、代わりに赤い液体を撒き散らしながら肉片と化した。



「ぎゃあはははははははははははははははははははははははははははぁ!!」


そしてまた男は笑う。

409: 2011/05/12(木) 19:29:29.37 ID:pAwGFRXx0

「なにあのお助け頂戴的な台詞はぁ!! なんなんだこの集団は!!芸人集団かコン畜生ぉ!!」


「あわわわわわ…」

怯える残り三人になった職員たち。


「おい、責任者は誰だ?」


男の問いに、麦野にショットガンをブチかまそうとした男が答える。

「お、俺だ…」

どうやら、彼がこの留置所の責任者らしい


「さて、ここで問題です!! 今、ワタクシが一番知りたいのは何でしょうかぁ!?」


やけにハイテンションな出題者に責任者はビックリしながら答えた。


「……なにぃ!……げ、現状報こk…」

「はい、ざんねーん!!」

言い終わる前に、責任者の男の顔面に膝蹴りを叩き付ける。


「ぐゎああああああああ!!! ……なにぃ……!!」

男は彼の後頭部を掴み、地面に叩き付ける。

一回じゃない、二回、三回……。

「俺が言いたいのはなぁ。現状報告じゃなくて、…その協力者の特徴とかぁ!! どこに逃げて行ったかぁ!! 奴らの目的とかぁ!!そんなモンなんだよぉ!! なーんでそんなチョー簡単なクイズがぁ!!わかんねぇのかなぁ!! テメェはよぉ!!!」


男は大声で叫び続けながら、叩き付け続ける。

ゴシャ…ゴシャ…ゴシャ…と骨が砕け、肉が潰れる音が、地面とリズミカルに奏でる音が響いていた。


「はぁはぁはぁはぁ」

男は手を止めた。


責任者の彼は意識はあるようだが、虫の息だ。


「飽きた。こいつもやってくれ」

「ラジャー」


そして、責任者の彼もまた。ただの肉片となった。


そして、また男は笑う。…………………笑わなかった。

410: 2011/05/12(木) 19:50:27.28 ID:pAwGFRXx0

「ん~。なんかこれも飽きて来たなぁ~。おもろねえわ」


そして男はとうとう二人になった職員を見下ろした。


「ま、そういう事だわ。わかるよね? 俺が言いたいこと」


コクコクコクと職員二人は高速で頷く。

そして高校生位の女の子がここを襲い、鑢七花を連れて、車に乗って去って行ったことを告げた。


「よーし、いい子だぁ! お礼に命は免じてやろう」


ホッと安心する二人。


しかし、



「え~。只今よりぃ~第一回 こんな留置所職員はいらないから氏刑だ裁判を開廷します」


え?何言ってんだこの人?という顔で男を見た。


「罪人はこの二人ぃ! 罪名は学園都市にやって来た侵入者君を取り逃がした罪だぁ!! よって氏刑!! 以上裁判終わり!! 」


「………」


呆然と氏刑判決を受けた二人。


「引き続いてこれより処刑をはじめまぁ~す!! みなさん拍手ぅ~!!」


…………………。


「拍手」


…パ、パチパチパチパチパチ…。


「はぁくぅしゅっ!!」


ウオオオオオオオオオオオオオオ!!

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!


413: 2011/05/12(木) 20:12:59.70 ID:pAwGFRXx0

後ろで黒装束の集団が雄叫びをあげながら、拍手する。



「ちょっと待て、命は免じるって…」


「ああ、それは、この俺の質問に答えなかったからだよぉ」


「…んな理不尽な…!!」


「理不尽だろうが、デヴィ夫人だろうがぁ!! …今はこの俺様が法律だぜぇ……。かー、言ってみたかったんだよなぁ~この台詞!! さて、おい!こいつら黙らせろ!」


黒装束の集団から二人、職員の口に縄を噛ませ、喋られないようにした」


「んんんんんんんん!!」

「んん!!………んんんんんんんんんんん!!」



「よし、右のこいつはあそこの壁に張り付けとけ、左のこいつはテキトーに吊るしとけ」


「「んんんんんんんんんん!!」」

黒装束がそれぞれ二人を担ぎ、男の言われた通りにする。




「よーし、第一班と第三班は、壁に張り付けた奴を的に遠距離ライフルで射撃訓練だ。いきなり頃すなよ、手足から順々に当てていけ」

「ラジャー!」


「第二班のジャックとクレイジョーとミハイルは吊るされたアイツをバットでバッティング練習だ。テメーら今週の日曜の教師対抗野球大会の我がチームのクリーンナップだからな、しっかりフルスイングで練習しとけよ。 そして前回惨敗した、MAR木原ライフラインマンズのヘボピッチャーに、あたかも先日の阪神×巨人の如く、クリーンナップ三連発をお見舞いするのだぁ!!」

「「「ラジャー!」」」


「で、残りは俺と一緒に留置所の調査だ」

「ラジャー」



414: 2011/05/12(木) 21:53:16.74 ID:pAwGFRXx0

「あーあーあー、そりゃまぁ、派手にやってくれちゃってぇまぁ…」


留置所の中はまるでレーザーを連発したかのような痕が沢山あった。


(女子高生に襲われて…とか言ってたな、あいつら……。痕から見て、この火力は…アイツしかいねえ。……麦野だ)


「まったく変な仕事増やしやがって。 折角俺たちみんなで飲み会やって、いよいよ二次会行くぞぉ~って時にアレイスターから電話かかって来て、仕事の依頼とか…。で、いざ来てみたらこんなのか…ふざけてんじゃあねェええよ、まったくよぉ!!……うおっとと…」


男はフラついた。

そう、この男を始め、黒装束の集団全員で第三学区の高級居酒屋で宴会をして、男の奢りで二次会にカラオケでも行こうぜという勢いだったが、急遽仕事が入り、酔ったまま、この留置所に来たのだ。



そして、仕事の内容は 留置所にいた鑢七花が逃げたので、それの追跡。それと職員の処罰である。


はずがない。



「…お水をお持ちいたしました」

「おお、すまねえな」

男は部下から貰ったペットボトルの水をグイッと一気飲みする。


「…ぷはぁ! うっめぇなぁおい!」



酔っ払い男は熱で溶けて壊れた牢屋の前まで来ていてた。


(ここに鑢とか言ったヤツがいたのか……)

男は中に入り、あたりを見渡す。


(情報によると、奴は街をウロウロしていたら、警備員に捕まってが、脱出、そのあと喧嘩を売ってきた『アイテム』の小娘を返り討ちにしたあと逃亡した。後も警備員と風紀委員に何度か襲われるが、全て返り討ちにしている。 数時間後、十七学区の操車場で『超電磁砲』とドンパチやって敗れ、警備員に捕まり、ここに収容され、脱走。そして今に至る。……こんなものか…)

417: 2011/05/12(木) 22:32:01.03 ID:pAwGFRXx0


男は溶けた鎖を見つけ、手に取る。 大分冷めたが、まだ生ぬるい。


(学園都市の防衛力の司る警備員と風紀委員が全く歯が立たなかったってか…。まったく、どんな奴か見てみたかったねぇ)




男はすくっと立ち上がり、周りで作業(と氏刑)をしている部下に大声で命令した。


「おいテメーらぁ、撤収だ!! 各自、後片付けを始め、終わり次第においとますんぞ!」


「「「ラジャー」」」


(まったく、ホントに残念だよ。…使えるような奴ならウチに入れてもいいってアレイスターが言っていたのによぉ)


男は牢屋からでる。

「全くよぉ、折角人が気持ちよく飲んでたのに仕事が来て、酔ったまま頑張って出勤してきたのによぉ。結局は来てみても、何もなかったてか、何だそりゃ、どこのコメディーだよ、おい!」

ぶつぶつ小言を言いながら速足で留置所をでる。


「おい、そこのキタネェ物体もちゃんと後始末しとけよ」

彼は地面に転がったオブジェ三体と、三人のバッターにタコ殴りにされた潰れたトマトと、壁に張り付いた赤いシミを指さし、第一班と第三班とジャックとクレイジョーとミハイルにそう指示した。

後始末には30分もかからない。

日が昇る頃には、氏体も赤い血痕もきれいに消え、ただ穴だらけになった留置所があるだけになるだろう。


「ああ~~もう、来て損した。 オメェら!それ終わり次第に宴会の続きやんぞ!! 集合場所は第四学区のスナックだぁ!!」


「「「「「「ラジャー!!!」」」」」


「俺は先に行ってるからなぁ、じゃあな!!」


男は車(恐らく留置所の職員の車だろう)に乗り、去って行った。






男の名は 木原数多。

研究者である。


そして学園都市統括理事長 アレイスターの直属部隊『猟犬部隊』の指揮官でもある。



そして、木原がここに来た理由は一つ


侵入者と思しき人物、鑢七花を拘束すること。



木原はアレイスターから使えるのならば部隊に配属させても良し、そうでなければ実験台にしても良し。


そう、伝えられていた。

423: 2011/05/14(土) 21:35:14.16 ID:YvL2rYOd0


一方、第七学区の病院。

ここでは冥土返しは滝壺理后・フレンダ・セヴェルン・絹旗最愛の四人とテーブルを挟み、向かい合わせで会話していた。

今は冥土返しは三人に『鑢七花のDNAは人間じゃない』と説明し終わった所だ。



「……という訳だ。」

一拍おいて、冥土返しは三人に訊く。

「何か質問はあるかい?」


「あの…」

絹旗最愛が口を開いた。

「鑢七花のDANが人間のと0.25%違うという事はわかりました。 じゃあ鑢七花は人間じゃないってことですか?」


「うむ、それはわからないよ。結局、人間と違う所はその0.25%だけだった。 失礼だけど、1%のチンパンジーより人間に近い」


そこへフレンダが口を挟んできた。

「わかりやすく言うと、結局チンパンジー以上人間未満ってな訳よ」


「いや、ちょっと違うね」


「ありゃ…」


冥土返しはフレンダの意見を否定する。

「確かにチンパンジー以上だが、人間未満じゃない。 話通りと男なら、彼は“人間”上の“人間”だよ」


「せんせい」


今度は滝壺が口を開いた。


「人間以上の人間って、それはもう人間じゃないじゃないんですか?」


その質問に冥土返しは答える。

「いや、実はそうじゃない。彼のDNAは確かに違っていた部分があったが、その他の部分はちゃんとした“人間”だったんだよ」


「なるほど…」

滝壺は質問の返しはちゃんと理解が出来たようだ。


「………?」

しかし、フレンダの頭の上には?マークが乱立している。

424: 2011/05/14(土) 22:06:14.91 ID:YvL2rYOd0

「まぁ、詳しいことは彼が来て、ちゃんと調べてから話すよ」



すると、コツッ…コツッ…コツッ……とテーブルのある、休憩室の横にある、外へと続く廊下の奥から、ヒールの踵が床を蹴るような足音が聞こえてきた。

その足音の他にズル…ズル…ズル…と何か重たい物を引きずる音も聞こえる。


「…おっと、噂をすれば帰ってきたようだね」


暗い闇に包まれた廊下の中から麦野沈利が現れた。……………鑢七花を引きずって。


「ただいま」


「お帰り、どうやら無事だったみたいだね?」

冥土返しが麦野の前に出る。


「ふん、あんな陳腐な留置所なんて私の敵じゃないわよ」


「そうかい、それはよかった」



「麦野ぉ!!」

「!!」


急にフレンダが麦野に抱き着いてきた。

麦野はバランスを崩すが何とか持ちこたえる。


「おっと、フレンダ…。離しなして、重い…!」


「麦野ぉ~!」


「ちょっと、フレンダ…」


「むぎの、ふれんだの気持ちもわかってあげて? みんな心配してたけど、ふれんだは一番むぎのの事を心配していたの」


「滝壺……」


「そうですよ、私も超心配してたんですから…」


「絹旗…」


麦野はふっと微笑んだ。


「みんな、ありがとう」




と、その時

「あのよ、感動の再開中に申し訳ないんだけれどよ。どうして俺は縄で縛られているんだ?」

麦野の足元から声が聞こえた。


麦野の足元には、頑丈そうな縄でグルグル巻きにされた鑢七花が転がっていた。

425: 2011/05/14(土) 22:06:14.57 ID:YvL2rYOd0

「まぁ、詳しいことは彼が来て、ちゃんと調べてから話すよ」



すると、コツッ…コツッ…コツッ……とテーブルのある、休憩室の横にある、外へと続く廊下の奥から、ヒールの踵が床を蹴るような足音が聞こえてきた。

その足音の他にズル…ズル…ズル…と何か重たい物を引きずる音も聞こえる。


「…おっと、噂をすれば帰ってきたようだね」


暗い闇に包まれた廊下の中から麦野沈利が現れた。……………鑢七花を引きずって。


「ただいま」


「お帰り、どうやら無事だったみたいだね?」

冥土返しが麦野の前に出る。


「ふん、あんな陳腐な留置所なんて私の敵じゃないわよ」


「そうかい、それはよかった」



「麦野ぉ!!」

「!!」


急にフレンダが麦野に抱き着いてきた。

麦野はバランスを崩すが何とか持ちこたえる。


「おっと、フレンダ…。離しなして、重い…!」


「麦野ぉ~!」


「ちょっと、フレンダ…」


「むぎの、ふれんだの気持ちもわかってあげて? みんな心配してたけど、ふれんだは一番むぎのの事を心配していたの」


「滝壺……」


「そうですよ、私も超心配してたんですから…」


「絹旗…」


麦野はふっと微笑んだ。


「みんな、ありがとう」




と、その時

「あのよ、感動の再開中に申し訳ないんだけれどよ。どうして俺は縄で縛られているんだ?」

麦野の足元から声が聞こえた。


麦野の足元には、頑丈そうな縄でグルグル巻きにされた鑢七花が転がっていた。

429: 2011/05/15(日) 03:40:28.89 ID:y9CeNQet0

冥土返しは彼に訊いた。

「君が鑢七花くんかい?」


「ああ、そうだが」



「へ~、これが例の…」


「あ、フレンダは身近に見るのは初めてだったわね」


「結構体が大きいけど……意外と普通だね」


「いや、色々とおかしいでしょ、恰好とか顔とかの傷とか」


「いやいや、私が想像していたのは毛深くて腕とか足とかが丸太みたいで、メッチャごっつい大男だったんだけど…。先生、これどこからどう見ても人間じゃないですか」


「は?」

「おいそれってどういう…?」


「それは今から調べるよ。滝壺さん、さっきの説明を麦野さんに。鑢くんはちょっと僕について来てね?」


「わかった。むぎの、ちょっと来て」


「はいはい、じゃあオッサン、後はよろしく」


「君、まだ懲りないようだね? 鑢くんはついて来てね?」


「いや、俺は縛られて動けないのだが…」


「じゃあ絹旗さん、手伝って?」


「超わかりました」


冥土返しは検査室へと向かう。

絹旗は七花に巻かれている縄を持って、彼の後をついて行く。


「ちょっと、いったいどこへ行くんだ?」


「ついて来れば超わかります」


「んなこと言われても……。って絹旗じゃねーか」


「あ、名前をやっと超覚えておいてくれましたか」


「ああ」

430: 2011/05/15(日) 03:46:28.75 ID:y9CeNQet0

「早くしないと、置いて行っちゃうよ?」


「はーい。んじゃ、早く行きますか」


「あ、ああ」


「って行っても、引きずって行くのは少々キツイですね…。…それでは、………ぃよっと」


絹旗は七花の巨体を軽々と持ち上げ、走って冥土返しの後を追って行った。










「むぎの…」


「なに?」


「どうして、あの人を縛ったの?」


「だって、急に暴れたら大変じゃない」


「……それだけ?」


「それだけ」


「むぎのって、相変わらず酷い事をするよね」

























今日はここまでです。ありがとうございました。

432: 2011/05/15(日) 18:21:06.14 ID:y9CeNQet0



午前5時40分

学園都市を覆っていた、黒く染まりきっていた空がだんだん青色に変わっていく。

夜が明けた。

この学園都市に乱立するビル群の隙間に朝日が差し込んでくる。



その眩い光を窓から浴びながら、麦野沈利は朝を迎えた。

麦野はテーブル席に座り、紙コップに入ったコーヒを飲む。

向かいの席には滝壺理后とフレンダ・セルヴェルンがお互いに寄り添って眠っていた。

彼女らの肩にはそれぞれ毛布が掛けられていた。

これは麦野が掛けたものだ。


ムニャっとフレンダは寝言を言う、その拍子に毛布が肩からズルッと落ちる。

それを見た麦野は微笑みながら、さっさとその毛布を元の場所へ戻す。

まるで我が子等を見つめる母親か、小さな妹達の世話をする優しい姉のような表情だった。


そこへ

「やあ、おはよう」

「ひゃあ!」

冥土返しがやって来た。

麦野は彼の突然の登場で、少々可愛らしい悲鳴を上げる。

「な、なんだ、あんたか…。(…さっきの見られてないよな?)」ドキドキ

「驚いたよ、君にもそんな一面があるとは思わなかったよ」

「!!」

冥土返しは微笑ましそうな顔で彼女を見る。

「なんだよ、お、女がちょっと可愛い悲鳴をあげたら、ダメなのか?」

「いや、それもあるし、ダメじゃないけど。 私が言っているのは、君が彼女らに向けていた表情だよ?」

「な……!」カァー///

「いや、ホントにいい顔だったよ。君いいお母さんになれるよ?」

「……こんのぉ…オッサン…」

「いや実に善いことだと思うよ?」

「~~~~~!!」

「君のその気持ち、忘れてはいけないよ?」

「」


麦野は驚く、なぜなら冥土返しの微笑ましい表情が一転して、急に真面目な顔になったからだ。

433: 2011/05/15(日) 19:26:13.79 ID:y9CeNQet0

「そ、そんなことより、検査は終わったのかよ」

「ああ、きっきち全て終わったよ?」

「結果は?」

「それは後程、みんなが集まってから話すよ。とっても興味深い内容だったからね」

「……」

「しかし、今日は流石に疲れたよ。なにせ、あまりにも彼の話は医者として、とても面白かったから、つい徹夜になってしまってね?」

冥土返しは一つあくびをした。

「僕はもう休むよ。今日は運良く休みだからね、ゆっくり休ませてもらうよ?」

そして、ある病室を指でさした。

「君は彼女ら二人を連れて、そこの病室のベットで寝かせておくれ。 生憎あそこの六人部屋しか相手無くてね、鑢くんも絹旗さんもあそこで寝ているから、余っているベッドを適当に使ってね? 一人入院しているから、静かに頼むよ?」

「わかったわよ」


麦野は二人の体を一遍に肩で担ぎ、冥土返しが指した病室へ入って行った。


冥土返しはそれを確認し、クルリと踵を返して帰路につく。


病院を出て、自分の車に乗ろうとすると…。

ヴゥゥゥゥゥ…ヴゥゥゥゥゥゥゥゥ…

電話が鳴った。


この時間帯に待っていた様に電話を寄こすのは、きっと彼しかいない。


「おはよう、美濃谷くん?」

『どうだ、検査の方は。面白い結果が出たか?』

「うん、とても面白い結果がね? 君のお陰だよ、こんな楽しい思いが出来たのは…」

『礼なら、あの口煩い方方のひよっこに言ってくれ、毛髪はあいつが発見した』

「そうかい、登条くんかい…。 次、ここに来るときがあったら、サービスしておくよ」

『だからと言って、あまり甘やかすなよ。 あいつはすぐに調子乗るからな』

「いや、あの子は現代医療の大きな一歩を、僕にくれたんだからね? 本当にナイスプレーだよ?」

『そうかい……好きにしな』



「ところで、例の留置所の事なんだけど」

『ああ、猟犬部隊が出たそうだな』

「表向きでは、第十学区の警備員だけどね。 木原数多は、結局あそこにいた職員は皆頃しだろう」

『だろうな、きっと明日のニュースで流れるだろう。行方不明者としてな』

「相変わらず物騒な事ばかり…。困ったものだね」

『全くだ、黄泉川の奴が留置所から例の小僧が逃げたと知った途端に現場に行くって言いやがった。あの時は正直焦ったよ』

「ははは、若い時の君にそっくりじゃないかい? その熱くなると止まらなくなる性格がね?」

『はん、俺はもっと冷静だったよ』

「それはどうかな?」


冥土返しはハハハと笑う。電話の相手も同じように笑う。

434: 2011/05/15(日) 19:45:28.40 ID:y9CeNQet0

『さて、これからが本題だ。 この後、あの小僧をどうする? 外へ追い出すのか? それとも、この街の闇の世界へと叩き落とすか? どの道、あの小僧からすれば地獄だぞ?』

「心配ないさ、僕の性格はわかっているだろう? 僕の患者は絶対に見頃しにはさせないし、見捨てない。 秘密裏だけど、しばらくは匿うつもりだよ?」

『しかしお前の事だ、小僧を色々と調べて、なにかするつもりだろう?』

「ふふふ、それはどうかな?」

『まぁとりあえず、検査結果は後で聞く。今聞きたいが無理だ。なにせ朝帰りだ、カミさんが頭に角を立てて玄関に仁王立ちだろうからよ』

「君も大変だねぇ?」

『お前もな。 …じゃあ切るな、あの小僧の事はそっちで任せた』

「うん、わかった。ではまた」

『ああ』


冥土返しは携帯の電源ボタンを押して、ポケットの中に携帯を突っ込む。


そして車に乗って帰って行った。


438: 2011/05/15(日) 22:45:00.92 ID:y9CeNQet0

そして丸一日がたった。

時間はお昼時、麦野沈利とフレンダ・ゼイヴェルンは病院の食堂で、朝食を食べていた。

麦野は焼鮭定食。フレンダは鯖の味噌煮丼。


「あんた、鯖が好きだっていてたけど、丼はないんじゃないの?」


麦野はフレンダが美味しそうに食べている丼の中を怪訝する。


「いや、結局これはなかなかおいしいって訳よ」

しかしフレンダはご飯の上に乗せた、味噌と煮汁で煮込んで柔らかくなった鯖を大きな口で頬張る。

「んまー」


フレンダはフニャ…と満足そうな顔をする。

そんなフレンダを見た麦野は鮭の身を箸で器用に崩して、少し摘まんで口の中に入れる。


「フレンダ、あんまり気の抜けた顔をするんじゃないよ。だから任務の時なんて最後の最後で詰めが甘くなるんだ」

「だってぇ~、メッチャクチャうまいんだもん。 まぁ、これを見つけた時はどうしようか迷ったけど…」

「……そういえばあんた、鯖は鯖でもサバ缶が好きじゃなかったっけ?」

「しょうがないじゃん、だってこの病院ってコンビニないし、外へ行こうとしても歩くの面倒クサイし」


フレンダは丼の中の、味噌の風味がタップリとついたご飯を、ガツガツと食べる。


「まぁでもぉ~、これは当たりね、結局は世紀の大発見だったって訳よ」

「だからと言って、急いで食べると喉に詰まるわよ…っともう遅いか」


フレンダはご飯を喉に詰まらせ、ゴリラが如く胸を高速で叩く。


「ほらお水飲みな」


麦野が差し出したコップをフレンダは奪い取り、一気に飲んだ。


「………ぷっはぁ!! し、氏ぬかと思った…」

「たっく」


麦野はさっさと焼鮭定食を食べ終え、そそくさと食堂から出て行った。


「ちょっと、待ってよぉ!」


フレンダは急いで丼を食べ終え、麦野の後をついて行った。

441: 2011/05/15(日) 23:35:30.94 ID:y9CeNQet0

モード二人は鑢七花がいる病室へ向かった。


「麦野、結局アイツは起きてるかな?」

「さぁね」


七花は未だに眠っていた。

なにせ、ここの世界に来てからはずっと戦いっぱなしだったし、美琴との戦いのダメージは大きかったからだろう。



「…と、ここだったわね」

ガラッと病室の戸を開ける。



昨日の麦野も寝た、あの六人部屋だ。窓側から右と左に三つずつベッドが並んでいた。左の窓に窓に面したベッドが七花のベッドである。

その隣が滝壺、その隣がフレンダ、そして滝壺の向かいが麦野のであったベッドだ。

あと、麦野の隣のベッドは先に入院していた人のベッドである。

因みに絹旗は元から入院中で、別の病室にいたからここにはいなかった。



麦野とフレンダと滝壺は、昨日はただ泊まるだけだったので、もうこのベッドは使わない。

今は窓側のベッドが使用中なだけで、他のベッドはキレイに整理整頓されている。(これは滝壺がヒッソリとやっていた)


麦野は戸を開けた時の状況は、窓側の二つのベッドがそれぞれカーテンを閉めていた。


二人は右側のベッドの前まで行き、カーテンをそっと開けると、そこには鑢七花がスースーと寝息を立てていた。



442: 2011/05/15(日) 23:36:18.03 ID:y9CeNQet0
「結局まだ寝てるか…」

「しょうがない、また今度きましょう」

「しかし、何度見てもいい寝相ですね」


七花の体は掛布団から1cmも出ていなかった。


「麦野とは大違い…イタタタタタタタッ」


麦野はフレンダの脇腹をギューッと抓る。


「何か言った?」

「いいえ、何も!」

「ならいい」

麦野は脇腹から手を離した。

「さて、それじゃ絹旗の病室へいくわよ」


そこへ


「むぎの、ふれんだ、来てたの?」

「「ぅわああああああああ!」」


滝壺理后が後ろから麦野達に声をかけた。


「うるさい」

「あ、滝壺か。ホントに空気薄いね」

「やすりしちかの様子を見に来たの?」

「うん、結局先生がこの人が起きないと、検査の結果は言えないって訳だから、こうやって定期的に来ているの」

「へぇ、そうなの」

「まぁ、この様子だと結局まだ起きないと思う訳だから、また来るね」

「うん、わかった」


と、そこへ一人のナース(なかなかの美人である)がやって来た。 その手にはなぜか尿瓶が握られていた。

445: 2011/05/16(月) 00:01:15.62 ID:gbTYnNXl0

「あ、こんにちは~」

ナースは笑顔でこちらに笑顔を向ける。

「あ、こんにちは」

あいさつを滝壺が返す。


ナースは七花の布団をめくり、下半身が完全に出す。

そして、七花のズボンを思いっきり脱がした。(その時は普通の病院が支給している寝間着だった。袴は美琴戦で破いた所を修復中)

「「!?」」

いきなりの出来事に、何が何だか理解不能になる麦野とフレンダ。


「それじゃ、尿をとりますね~」

そしてナースは七花の股を広げ……。


――自主規制――


「ふぅ、結構出ましたね~。それではまた来ますね~」

ナースは暖かい尿持って、嵐のように去って行った。


「「………………………」」


呆然となる麦野とフレンダ。一連の事を何食わぬ顔で見ていた滝壺。


「わ、私、男の人の…あの…その…、あ、あれを…生で…見るの……初めて……」

と麦野。


「わ、私は……昔…小さい頃とかは……見た事は………あったけど…………。大人の人のは……初…」

とフレンダ。


「私は、初めて見た時は二人と同じだったけど。もう慣れた」

と滝壺。



「……………」

「……………」

「……………」

黙りこくる三人。

すると滝壺は…。


「あの人のって………結構大きい…///」

「「それをいわないでぇ」」


446: 2011/05/16(月) 00:16:17.95 ID:gbTYnNXl0

「…ってことがあったの」

「そうだったんですか」

「「………………」」


ここは絹旗の個室。

滝壺が先程起きた一連の事を絹旗に報告する。


忘れようとする麦野とフレンダの二人だが、また思い出してしまったのか、顔が少し赤い。


「でも麦野って、戦闘時とかで超下ネタ言ってません?」

「あ、あれは本とか小説とかで書いてあったのを、そのまま使った訳で…」

「一体どんなモンよんでるんですか」

「……まぁ、け、結局まだあの人は起きていないんだし、このままズルズル行っちゃうのもなんだから、先生にやっぱり結果の方を教えてもろおうよ」


赤い顔でフレンダは話題を変える。

その意見には、みんな賛成した。


「それじゃあ、早速行きましょうか」

絹旗はベッドから降りて、さっさと戸へと歩く。


すると



『『ああああああああああああああああああああああああああああああ!!』』



声が聞こえた。


七花の病室からだ、二人分の声が妙に協和音を奏でて響き渡る。


「な、なんですか?」

「とりあえず、いってみよう」


四人は走って、七花のいる病室へと向かう。



「どうしたんですか!?」

絹旗が叫びながら戸を開ける。



そこには………。

453: 2011/05/16(月) 19:02:19.73 ID:gbTYnNXl0


あれ? ここってどこ…?

森の中っぽいけど……。


てか、私って…何したんだっけ?


確か、目を覚ましてたら、妹達がいて、……確か10032号だっけ。


で、あいつの事についての話を聞いて


そのあと、昼寝をして……。



あ、そうか、これは夢の中なんだ……。たまにあるのよね、夢の中にいるっていうことがわかるの……。



スタ…スタ…スタ…


あれ?誰か来る?

とにかく隠れなきゃ…。

ガサガサ…



来た来た、こんな森のなかに何の用かしら……。

………あいつは!

鑢七花……!

どうしてここに?


…て、あれ?

顔は確かにアイツだけと、傷跡がない…恰好も大分違う…。ってか、なんちゅう大きな樽を持ってきてんのよアイツ。


ええい!直接聞くのが一番!


ガサガサ!!

鑢七花!!アンタここで何やってんのよ!!



「………………………」スタスタスタ…


……って無視!?

ねぇ、聞いてんの!?…ねぇ、ねぇってば!!


「………………………」スタスタスタ…


…もしかして見えてない?

この感じ…どこかで…。



はっ、木山晴生…。

木山春生記憶を見た時と同じ感覚……!

456: 2011/05/16(月) 20:10:41.82 ID:gbTYnNXl0

そうか、ここは鑢七花の記憶の中……。

これなら、アイツの手掛かりが見つかる。



とりあえず、ついていこう…。



「………………………」スタスタスタ…



ん、なにか水が流れる音がする…。


…あ、滝があった。


…でも、誰かいる…。

奇麗な白髪…。 でもなんで白髪?



「おい」


あ、振り向いた。

すごい美人……。

でも変な恰好…。

しかも刀さしてる。


「本土の人間か?初めて見た」


……、今の『本土の人間か?』って…。もしかして、ここって島なの?


「刀か…それも初めて見た」


私も初めて見た。


「別によそ者だろうが、誰だろうが、入ってくるのは別にいいんだけれどよ、…えっと、この島への刃物の持ち込みは固く禁じられている」


やっぱり島だったんだ…。


「そうか」

「そうだ」

「それは失礼した。知らなかったものでな、許しておけ」


うわぁ、この人、声が凄く綺麗。…恰好変だけど。




457: 2011/05/16(月) 20:33:49.06 ID:gbTYnNXl0





「そうだ、あんた何しに来た」

「この島に 虚刀流六代目当主 鑢六枝殿がおられると聞いたが、そなた知らぬか?」

「親父なら氏んだよ。一年前に」


「……そうか」


なんか気まずいわね。



「今じゃ俺が当主だ。 虚刀流七代目当主 鑢七花」

「まぁ、及第点と言ったところだな」

「何の話だ?」

「ああ、こっちの話だ」

「親父に用事だったようだけど、悪かったな」

「ああ、確かにその通りだが少し違う。用があったのは、虚刀流当主にだ。ゆえに六枝殿の用事は、そなたへの用事に代わったのだ」

…どういうこと?

「名乗りが遅れたな、私の名前はとがめという」

「とがめ? 変な名前」

確かに変な名前…。

「コホン、幕府の軍所の総監督 奇策士を生業としておる」

奇策士ってなに?…つーか幕府って何!?

「まずは虚刀流。試させてもらう」

いきなり刀を抜いた!? いつの時代よ!?

「富岳三十六刀工の一人・壬生傘麿の初期の作品だ」

「試す?」

「言葉通りの意味だ。参る!! キエ―――!!」

そして、斬りかかった!ホントにいつの時代よ話よ!?

「ギャッフン!」

派手にコケた……。ダサッ。てかギャフンて…。






それが、美琴の夢の始まりだった。

458: 2011/05/16(月) 22:23:45.75 ID:gbTYnNXl0














美琴は夢を見ていた。

十二本の刀を集める旅の物語と、一人の男…否、一本の刀の物語を………。

美琴は、その一年の旅の歴史を七花の記憶として見ていた。


鑢七花という刀の人生の物語を…。

それとその所有者、奇策士とがめという女の物語を……。








「―――――――はっ」


御坂美琴は目を覚ました。


むくっと、起き上がる。

「……………」

何時間寝ていたのだろう?

美琴はキョロキョロと周りを見る。

四方カーテンに包まれたこの空間には誰もいない。


枕を見ると、汗と涙でぐっしょりと濡れていた。


「……うわ…」


ベッドの傍らにある手鏡を手に取り、自分の顔を見る。

涙の痕が頬にくっきりとつき、目蓋が腫れている。


「…うっわぁ……」


溜息をつきながら布団をめくり、ベッドから降りる。


「しゃあない、顔洗ってくるか…」


そして、カーテンを引いた。



そして、そこにいたのは………。

461: 2011/05/16(月) 23:09:05.60 ID:gbTYnNXl0

しちかくーん、しちかくーん?


「………ぅ……」


しちかくん、おきてぇ~


「ぅん…」


「起きなさい!」


「うわ!」

「やっと起きたわね?」

「ぇ…?否定姫?どうしてここに!?」

「まったくぅ…どうして、こうも毎度毎度、面倒なことに巻き込まれるの~?まぁいいけど、面白いし」

「ぇ?ちょっと、なんで?」

「んまぁ、その辺は後でわかるから、今は手っ取り早く要件を言うわね?」

「え?あ、ああ」


「七花くん、この後あなたはとっても面倒くさい事に巻き込まれるわ。いや、原因はあなたかもしれないわね」


「……それって、どういう…」

「まぁ、最初のうちは何とかなるでしょう。でも後々、いくらあなたでも本当に苦しい戦いが待ち受けているわよ。気を付けなさい?」

「おい、それってどういう…?」

「あ、もう時間みたいだから、もう帰るね?じゃあね~」

「おい!もっと説明してけよ!意味わかんねぇよ!とがめといい、あんたといい、どうして詳しくは言ってくれないんだ!!」









「――――――――――――――ーはっ」


鑢七花は目を覚ました。

むくっと起き上がる。

枕は汗でぐっしょりと濡れていた。

顔に汗がべったりと張り付いていた。

その中の一本は目に入りそうだ。


「……ところで、ここはどこだ?」

その時、七花は自分が来ているのが着物でなく、無地の寝間着のような恰好だと気付く。

「とりあえず起きるか…」

七花はベッドから降り、周りを囲み、周囲との境を区切るらしき布(カーテン)を引く。


すると、そこには……

462: 2011/05/16(月) 23:39:25.35 ID:gbTYnNXl0


御坂美琴がカーテンを開けると、そこには鑢七花がいた。


鑢七花が布を引くと、そこには御坂美琴がいた。


「……………」


「……………」


見つめ合う二人。


「スゥー…」

「スゥー…」

同時に息を吸う。

そして




「「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」




お互いを指さしながら、絶叫した。


「あ、あんたは…や、鑢七花ぁ!?」

「あん時の雷女ぁ!?」

「ど、どどど、どうして、こ、こんなところにいんのよ!?」

「知らねえよ!てか、お前もなんでそんなとこにいんだよ!!」

「こっちは、散々あんたに苛められてボロボロになって、入院中よ!」




463: 2011/05/16(月) 23:39:59.04 ID:gbTYnNXl0


「どうしたんですか!?」


「あ、絹旗!」

「ああ?こっちは今は取り込み中……よ……」


絹旗の後ろには、麦野沈利がいた。


「…あんた…第三位…。『超電磁砲』…!!」

「あ、あんたは、あん時の年増と…爆弾魔ぁ!?」

「だぁれが年増だごらぁ!!」

「お、落ち着いてください、麦野。ここは病院です。暴れては超ダメです!」


美琴に襲いかかろうとする麦野を絹旗は羽交い絞めにして止める。


「フーフーフー」

獣の如く息を荒げる麦野。



「なんだい?どうしたんだい?まるでお祭り騒ぎじゃないか?」

「ここは病院です。みなさん、静かにしてください、とミサカはあまりにも五月蝿いお姉さまを睨みつけます」

冥土返しがやってきた。その後ろに御坂妹がついて来ていた。

464: 2011/05/17(火) 00:25:03.91 ID:NX5tNPcD0

「な、オッサン!」

「リアルゲコ太!」

「二人とも、本当に失礼だね…」


「せんせい、今日は休みじゃなかったのでは?」


「そうだったんだが、実はミサカ10032号さんの調整があったのを忘れていてね?」

「そうだったんですか。と、ミサカは自分の存在を忘れられていた事実を突き付けられ、少々ショックを受けます」


「へ~、これが前に麦野が言っていた、妹達ですか…。超そっくりです」

「遺伝子的に同じですから、とミサカは胸を張りながら自慢してみます」

「でも、オリジナルにはスペックは超低いんですよね」

「グサッとミサカは何かに刺されたような気分になります」

「つーか、こんなのがあと一万いるとか、気持ち悪いわね」

「ぐはっとミサカは自分の存在自体を否定され、座り込んで地面を弄ります」


なんだか御坂妹の所だけ、トーンが暗い気がする。


「大丈夫、そんなあなたも私は応援しているから。さ、立って?」

「おお、まるであなたは天界におわします天女様の様だと、ミサカは涙を流しながらジャージを着ているお姉さまが差し伸ばしてきた手を取り、立ち上がります」



「そんなことより、なんで俺はここにいるんだ?それと、この雷女」

「ちょっと私には、ちゃんとした『御坂美琴』っていう名前があるんだからね!」

「ああ、それにはちゃんとした訳があってね?それは後で話すよ。それより、君たちのその恰好を何とかしないのかい?」


「あ」

美琴は汗でビショビショになった頭を思い出して、恥ずかしくなった。


「……?」

一方、七花はなんとも気にしてはいないようだ。

465: 2011/05/17(火) 00:38:41.65 ID:NX5tNPcD0


すいません。中途半端ですが、眠いんで落ちます。


明日こそ、序章の最終話です。

468: 2011/05/17(火) 13:04:47.74 ID:NX5tNPcD0


「さて、早速説明を始めるよ?」


今、一同がいるのは病院内の会議室兼視聴覚室。

冥土返しは片手に資料を持ち、教壇に立つ。

「前回、フレンダさんは僕の説明について来れなかったからね、色々と編集してきたよ」

スクリーンを下げ、パソコンを操作して、パワーポイントを立ち上げる。

スクリーンには『鑢七花の検査結果発表』とデカデカとした文字が映し出された。

「おお、すげぇ」

七花は驚く。

「うん、出来るだけわかりやすく説明するからね?それでもわからなかったら、いつでも質問するんだよ、フレンダさん?」

「う…」

「じゃあ、説明を始めるよ?」



「ちょっと待った」

「なんだい?、麦野さん」

「いきなりなんだけど、質問」

「はいどうぞ」


「なんでここに部外者がいるのよ」


麦野の隣には、『超電磁砲』こと、御坂美琴が座っていた。そしてその隣に御坂妹も座っていた。

「なに、来ちゃいけないの!?」

「あったり前だ、クソガキ!!テメーはこのデカブツと200%関係ねーじゃねーか!!」

「あるわよ!!私はね、コイツとやりあってんの!!で、コイツの事が気になったから、ついてきたのよ!」

麦野と美琴は犬と猿よろしくいがみ合っていた。

「まぁまぁと、ミサカは余りにもしょうもない喧嘩をしているお姉さまを止めようとします」

「まぁまぁ、落ち着いてください麦野。先生が超困ってます」

「うるさいわよ!私はね、コイツに貸した借金の返済がまだなのよ!」

「それはこっちの台詞よ!あの時、バテッバテのグローキーの女の子に散々腹蹴ったり、ビーム撃ちまくりやがって!あん時の借り、返えさしてもらうわよ!」

469: 2011/05/17(火) 13:49:43.12 ID:NX5tNPcD0

「なぁなぁ絹旗、こいつらってどう言う関係なんだ?」

七花は絹旗にヒソヒソと訊いた。

「二人は以前、とある事情で戦ったことがありましてね。その時は第三位はバテバテで麦野が超有利だったんでしたが、結局は勝負がつかずに終わってしまったんです」

「そうだったんだ。で『第三位』ってのは」

「この学園都市で超能力者は七人しかいません。その七人の内の三番目に強いのが、あの『超電磁砲』こと御坂美琴です。で、それに次ぐ第四位が、我ら『アイテム』のリーダー、麦野沈利です」

「へ~、じゃあ、あの雷女の方が強いのか?」


「んなわけないでしょうが!!」

と、麦野の首だけこっちに向き、鬼の顔で怒鳴ってきた。

「いい?確かにあの時は勝負つかずで終わったけど…。それはあのバカ(フレンダ)が爆弾と導火線を回収して逃げたからよ!それが無ければテメーなんか消し炭にしてたわよ!!」

「え!?やっぱり私のせい!?」

「へ~、なに?言い訳?年上のくせに言い訳するんだぁ~?大人げないわよオバサン!!」

「オバ…オバサンですって!?こぉんの小娘ぇええ!」

「かかってきなさいよ年増!この前のお返しに焦げたトーストみたいにしてあげるわ!!」

「ああ、やってやるよ!テメーのような小便臭いガキなんか、真っ黒焦げの備長炭にしてやる!!」


「こらこら、いい加減にしなさい」

「絹旗、結局このケンカって何の話から始まったんだっけ?」

「ほら、あの二人は七花さんとどういう関係なのかって超くだらない話です」


「あ、そうだ。クソガキ!結局あんた、アイツとどういう関係よ!?」

「あ!?さっき言ってたでしょう!?戦ったのよアイツと!なかなかの善戦でね、もう少しで倒せそうだったわよ!」


「善戦って、最初っから最後までボッコボコにされていた奴が、なにいけしゃあしゃあと…とミサカはお姉さまの余りにも酷すぎる見栄の張りっぷりに呆れます」

と、御坂妹が溜息交じりで言った。

「な…っ」

「なに!?アンタ、アイツにボロ負けしたの!?ダッセェーー!!学園都市の第三位様が何やっているんですぁ!?」


「とか言うお前も、一発で俺にやられただろうが」

と、七花はおかしいなぁという顔で麦野に言った。

「…ぅ……」


「「……………」」

沈黙。



「まぁ、二人とも同じ穴の“ムシナ”ってことか」

「“貉”です七花さん。諺を間違えるなんて、超かっこ悪いですよ?」

470: 2011/05/17(火) 14:12:15.36 ID:NX5tNPcD0


「それじゃ、気を取り直して始めるよ?」


冥土返しの目の前には、右からフレンダ・滝壺・麦野・絹旗・七花・美琴・御坂妹が並んで座っている。

さっき席順を変えた。また喧嘩をしてもらっては困る。


「とりあえずフレンダさん、先日の七花くんのDNAについての復習はしてきたかい?」

「…何とか滝壺に教えてもらいました」

「ふれんだが理解するのに一時間かかりました」

「うん、御坂姉妹には説明はまだだったね?内容は君たちに配った資料に書いてあるから、見ていておくれ」

「わかったわ」「わかりました、とミサカは机の上に置いてあった資料に目を通します」

パラパラパラ…

「なかなか面白いないようね」「なるほど、これはすごいですね、とミサカは驚きを隠せません」

「ちょっと、一分もかかってないのに、もう理解したの?」


「「え?速読って誰でも出来ないの?」ですか?とミサカは今度はそこのアホっぽい外人に驚きます」

「……………」




472: 2011/05/17(火) 21:35:13.96 ID:NX5tNPcD0



「さて、前回は彼のDNAは我々のとは違うということが判明したことを話した。でもわかったのはそれだけ。

しかし今回は鑢くんの協力のもとDNA鑑定以外の事もやった。それで検査結果だ出たので、早速発表したいと思う」



「先生、思ったんですけど、検査結果が出るのが超早くありません?本当にできているんですか?」

「ふふふ、僕を見くびってほしくないね?学園都市と僕の技術力と合わせれば、出来ないことは無いよ?例外を除いてはね?安心してくれ、ちゃんと検査結果は出しているよ?」






「今回検査したのは以下の通り、心拍数・肺活量・体力測定・血液検査・脳内検査……など、計30。視力検査からMRIまでなんでもやった。

そこでより一層、鑢くんの体の事が詳しくわかった。



最初に我々と変わらない所から…。鑢くんの体の成分は“一般的な人間”と同じであることがわかった。

水:65%・蛋白質:15%・脂質:13%・核酸:1%・炭水化物:2%・無機物:3%…。これらは鑢くんの体の成分であり、ほぼ平均値だった。

体を形成する物質は人間と変わりなかった。よって『鑢七花』は人間であることがわかった。



次に我々と違う所だ、先程言った通り、鑢くんの体は確かに人間だった。

しかし、絹旗さんや御坂さんが見たように、明らかに彼の身体能力は人間の領域とはかけ離れたものだった。

実際に心拍数・肺活量・体力測定で色々と調べたところ、それぞれの数値は一般人とは比べ物にはならない程にね。


まず、心拍数の最高値と最低値の差が大きい。通常時は一般的な値より下がだ、いざ戦闘になると一般人なら倒れてもおかしくない数字になった。また、肺活量の数値も高い、一般の約七倍近くあった。


そこでなぜそのような身体能力がついたか原因を探ってみると、ある事実にたどり着いた。


私は鑢くんの血液を採り、成分を見ると、血液中のヘモグロビンが酸素を運ぶ量が通常よりかなり多く、数も多かったことがわかった。

また、血管も硬く、なかなか破れにくくなっていた。これなら血液がどんなに速く流れても、血管が破れ、血栓ができることはない。


ここまではいいかい?」

475: 2011/05/17(火) 22:14:18.21 ID:NX5tNPcD0

「せんせい、ふれんだの耳から煙が出てます」

「……滝壺さん、あとでフレンダさんにわかりやすく教えてあげてね?」

「わかりました」




「その次に、鑢くんの骨と筋肉について調べた。


滝壺さんと御坂さんからの供述によれば、鑢くんの身体能力は超人を超えるものだったらしい。


しかし鑢くんの体は大きいが細い。

筋肉はあるが、コンクリの壁をも貫くほどの筋力があるとは思えない。


そこで鑢くんの体の筋肉の質と骨密度と強度を調べた。


すると、両方とも我々のその性質とはかけ離れていたことがわかった。


鑢くんの骨・筋肉の長さ太さは一般的だが、強度と密度が一般の比じゃなかった。


例えば、フレンダさんが鉄の壁に貫手を思いっきり出しても、突き指か下手すれば骨折だ。

しかし彼の場合は、貫手は壁をも貫く。


まぁ、強度の数値を言ってもわからないと思うから、簡単に言うと。

僕たちの骨や筋肉は糸ならば、彼は針金ってところだ。


要は彼はヒトより何倍も強度が高いってことかな。


その他の彼の運動能力はオリンピック選手の比じゃなくてね。

動体視力・瞬発力・持久力・耐久性・耐乳酸……どれも超人の域だ」

476: 2011/05/17(火) 23:28:13.10 ID:NX5tNPcD0


「さて、ここまで色々と検査の結果を発表した訳だが、私はある仮説を立てた。

それは、彼の遺伝子…と言うよりRNAの方に彼の身体能力の謎が隠されている。、


前回言ったように、RNAはDNAの情報を読み取り、アミノ酸で蛋白質、細胞を作る…

そして、鑢くんのDNAはヒトと0.25%の違いがあると言う話をした。


原因はそこにある、0.25%の違いにあると見た。

さっき言った我々との身体の違いは、その0.25%だろう。


じゃあその、0.25%の変化の原因はなにか?

それはRNAにあった。

RNAには色々は種類があって、

一つ目はDNAの情報を正確に読取り、翻訳する、メッセンジャーRNA(mRNA)。

二つ目は原料となるアミノ酸を運搬するトランスファーRNA(tRNA)

三つ目はmRNAが翻訳した情報を読取り、tRNAが持ってきたアミノ酸で細胞を作る、リボソームRNA(rRNA)

そして、それらを指揮している、最も重要なRNAである、ノンコーリングRNA(nRNA)


そんなRNAを鑢くんの細胞は一般人より多くあった。



滝壺さんは大工が家を建てるのを例にしてたよね?

それを使って詳しく言うと、

DNAは設計図、mRNAは指示書、tRNAは運搬業者、rRNAは大工…。

そしてnRNAはそれらを指揮する親方の様な存在だ。


実はそのnRNAは唯一、蛋白質を形成する能力はない。その為、長年注目されずにいたが、最近急に注目され始めた。

なぜかと言うと…。


nRNAにはDNAの命令文を書き換える能力がある。


人間の細胞の核の中にはDNAとRNAがある。

RNAはDNAの命令文の通りに動き、細胞を作る。

しかし、どうしても周りの環境の変化や何らかの事情により、変更しなければならない。

そこでnRNAの出番だ。

nRNAは環境や事情にに合わせて、DNAの命令文の内容を付け加えたり、消去していく。

因みに現代では、癌やエイズなどの細胞の病気を治す特効薬としての研究が進められているんだよ?



鑢くんはヒトよりRNAを多く持っている。

…と言うことは、ヒトより細胞を多く作れるし、DNAの情報の変更もヒトより早くできる。


きっと、君の人生…または君の親、祖父…の世代から続けられてきた、DNAの情報の変更が君の体の作りを変えて来たんだ。


だから、鑢くんの体は一般人より超人的に優れているんだ。



これで、僕からの発表を終わるよ?わかったかい?」

482: 2011/05/18(水) 00:30:31.93 ID:EVQx49rR0

「ええ、理解したわ」

「なんとか…」

「要はそのRNAが七花さんの…いや、七花さんの血筋の者のDNAを変えたんですか…。超わかりました」

「……………………」プシュー…

「せんせい、ふれんだが耳からだけじゃなく、鼻と口からも煙が出てきました」


「まぁあれね、一族揃って超人って訳か…(…なるほど、四季崎って奴はこれを狙てたんだ)」

「お姉さま、それはちょっといきなりすぎでは?とミサカはお姉さまの大雑把っぷりに呆れます」


みんな、なんとか理解できたようだ。…………一人を除いてだが。


「鑢くん、君の体の事だけど、わかったかい?」

「いや、難しい話はわからなかったけどよ、まぁあれだ、俺の親父が強くなればなるほど、親父が生んだ息子の俺は親父ぐらいに強くなり、俺がもっと強くなればなるほど、俺の息子が俺くらいに強くなるってことか」

「そう言う事」

「なるほど、これで虚刀流が四季崎記紀の血刀だってことが納得できたぜ」

「…は?」

「シキ…ザキ…?」

「いや、こっちの話だ」

七花は誤魔化そうとする。

「それについてだが、検査の間に鑢くんの半生を聞かせてもらってね?」

「そうなんですか?」

「まぁな」

「そこでだ鑢くん。君、今ここで君が僕にしてくれた話をしてくれないかい?」

「ああ、別にいいが…」


そして七花は一同に、自分の歩んできた人生を話そうとするが。


「ああ、ちょっと待って?御坂さん?」

「あ、はい。なんですか?」

「君、鑢くんの記憶を読み取ったでしょ?」

「え?なんでそのこと…!?」

「木山春生の例があるからね?実験を兼ねてやってみなよ?」

「え?御坂さん他人の記憶を読めることが出来るんですか?超凄いです」

「お姉さまは身体に流れる電気を伝って、記憶を読み取ることができるのです、とミサカはお姉さまの代わりに説明します」

「で、私にその逆をやれと?」

「うん、できるでしょ?」

483: 2011/05/18(水) 01:16:39.98 ID:EVQx49rR0

冥土返しは美琴に、美琴が見た七花の過去の夢を他のメンバーに電気を介して送れと言っていた。

「いやでも、何があるかわかんないでしょ?」

「できないのかい?」


「………やってやろうじゃないの。みんな、私が電気を送るから捕まって!」


麦野や絹旗を含め、冥土返し以外のメンバーは美琴の身体に触る。……フレンダは未だに頭の回路がショート中なので、その時は椅子の上で煙を目・鼻・耳・口から焚いていた。


そして、美琴はそれぞれの体に電気を流し、記憶を流す。

「行くわよ!」

ビリッ…



「「「「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」」」」



麦野・絹旗・滝壺・七花は美琴の電気に感電した。


「「「な、なにしやがる…」」」プスプスプス…

麦野達は髪の毛がチリチリになった頭で美琴に抗議する。

「しょうがないじゃない!木山の時だって、偶然だったし、高電圧を流した後だったんだもん!!」

「じゃあ、そこのお前の妹は無事なんだ!?」

「私はお姉さま同じ電撃使いですので、その位の電圧なんて何でもないです、とミサカは一人優越心に浸ります」




「もういい、俺が直接言う」

七花はチリチリ頭になった髪などどうともせず、直接口で説明する。









484: 2011/05/18(水) 01:25:24.14 ID:EVQx49rR0











「なるほど、これが七花さんの過去ですか。超壮絶ですね」

「まさか、こんなことがあったなんて…」

「意外です、とミサカは驚きます」

「自分の過去を他人に言うのって、結構恥ずかしいんだが……」


「終わったかい?」

「ああ」

七花は冥土返しに知らせる。

「うん、僕が思うに、君のご先祖様である鑢一根は、きっとさっき言った君の体のこと…RNAの体質であって、他は僕たちと一緒だった。そこへ四季崎記紀なる人物は君の鑢一根に接触し、虚刀流という流派を起こさせることを薦めたんだろう」

「なるほど」



「で、一応聞きたいんだけど、麦野さん?」

「なに?」

「彼を君が呼んだのかい?」

「ええ、まあそうなるわね」

「で、帰し方がわからず、証拠隠滅のため消そうとしたと…」

「ま、まあそうね…」


「うん、君が悪いね」

「麦野が超悪いです」

「アンタが悪い」

「あなた、さっきから思ってたのですが、本当に極悪ですね、とミサカは麦野沈利の行動にドン引きします」


「…ぅ」


「結局は私は麦野の尻拭いの為にボロボロになったんですか…」

「…ぅぅ」


「麦野さん、鑢くんに何かいう事があるんじゃないのかい?」

「わ、悪かったわね……」ボソッ

「よろしい」


すると冥土返しはドアへと歩いて行った。

「みんな来てくれ、見てほしいものがある」

485: 2011/05/18(水) 01:59:48.44 ID:EVQx49rR0

「ここは?」


「ここは私が病院の地下に密かに作らせた訓練所兼避難所だよ」


ドーム状の建物をそのまま地下に入れた様な建物だった。

野球が余裕でできそうな位の広さだった。


「この地下は特殊な構造でできていてね?あるビルに使われている素材を使っている。御坂さんの『超電磁砲』でもビクともしないと踏んでいるよ。試してごらん?」


美琴は早速、超電磁砲を壁に向かって撃ってみた。

「あ、ホントだ壊れない」

「うん、ここでどんなに暴れても、被害はないし、迷惑も掛からない」

「これが見せたいものか?」

「そうだよ?」



「で、麦野さん。試しに鑢くんを呼んだ時の様に何か読んでみたらどうだい?そうすれば、鑢くんが元の世界に戻れる手掛かりが見つかるかもしれないよ?」

「……無理ね、あの時は本当に適当にやったから、どうやってこの世界に呼んだかは覚えてないわ」

「……そうかい…。残念だよ、あの学園都市最強の七人の一人である麦野さんでも無理か…しょうがないね。しかたのない、君ならできると思ってたんだけどね」

「……わかったわよ、やるわよ!やればいいんでしょ!?」


「わかればいいんだよ」

「ったく…」




486: 2011/05/18(水) 02:11:55.21 ID:EVQx49rR0


「じゃあ、始めるからどいてて。……………えっと、…えい!」

ボンッ

突然爆発が起こる。


「……?……!!なにか出てきた!」

「これは……」

何かが床に落ちている。


それは小判だった。


「小判!?」

美琴がその小判を拾う。

「…こんな小判、見たことないんだけど…」

「七花さん、この小判ってあなたの世界のじゃありませんか?」

「ん?どれ…。…………………………ああ、こんなのを俺見たことあるよ」

「て事は…?」

「ええ」

「……麦野さっきの様なのをもう一回やって、七花さんを帰せないですか?」

「……一応やってみるわね」



「……………えい!」



ドォオン!!


と先程より大きな爆発が起った。


「------------!?」


そのあと、何かが風を斬る音を立てながら降ってきた。

そしてキィィィン…と床に刺さる音を立てて落ちた。


爆発による砂煙が晴れ、落ちてきた物の正体が現れた。

「「「「「「-------------!?」」」」」」」




それは黒かった。


それは黒い煙を立てていた。


それは長細かった。


それは刀だった。


それは毒刀 鍍だった。



四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本が一本、毒刀 鍍は麦野の目の前で床に刺さっていた。

501: 2011/05/18(水) 15:41:40.72 ID:EVQx49rR0

ここは第七学区のとある病院。

そう、ここはとあるカエル顔の医者が在籍している病院だ。


虚刀流七代目当主 鑢七花はその病院の地下にいた。

そこで七花をこの世界に呼んだ、学園都市最強の七人の超能力者 麦野沈利は元の世界に戻どそうとしていた。


しかし七花は元の世界に戻れなかった。






代わりに、四季崎記紀が造りし完成形変体刀 十二本が一本、毒刀 鍍が麦野の目の前の床に刺さっていた。


「――――な…!!」

七花は驚く。


「なにこれ?……刀?」

麦野は鍍を掴もうとする。



「…ッっ!!お、おい!!それを持つなっ!!!」


七花は吠える。


すぐ横にいた絹旗はビックリして耳を塞ぐ。

「…え?なんですか?七花さん。いきなり…、耳鳴りしちゃったじゃないですか」


「それどころじゃねぇ!麦野それには触るな!!!」

七花は顔を真っ赤にして叫ぶ。



502: 2011/05/18(水) 15:42:46.73 ID:EVQx49rR0



しかし、麦野の手は鍍の柄を握っていた。

「……ぁ」

七花の顔は赤から青にサーッと変わった。


「どうしたのよ?そんなに叫んで…」

「おいその刀を今すぐ離せ!!」

「はぁ!?あんた、何言って…」

麦野は七花が何を言っているのか理解できなかった。

そして…。



ドクンッ…


「な……、なに…?」


ドクンッ…


「…ぅ…ぁ……」


ドクンッ…



麦野はいきなり苦しみ始めた。

「な?麦野!?どうしたんですか!?」

「ちょっと、なによ!?どうなってんのよ!?」

「わかりません、とミサカはガクガクと私の体を揺らすお姉さまに言います……」

「鑢くん……これは一体?」

「毒刀 鍍だ…。俺が言った十二本の内の一本だ」

「え?それって、七花さんが全部壊したって…」

「ああ、その筈だったんだが…。とにかく、みんな逃げろ」

503: 2011/05/18(水) 16:01:22.11 ID:EVQx49rR0

「でも麦野が…」



「わ、私の体に…何か…何かが入ってくる……っ」


麦野は刀を持ったまま悶える。


「…ぅ…ああああああああああああああああああああ!!!」


彼女はビクビクッと痙攣し、

「……………」

静かになった。


「………麦野?」

絹旗はそっと麦野に言葉をかける。


「…ぁ…」

「麦野!よかった無事なんですね!麦野!」

絹旗は安堵の表情で叫ぶ。


しかし



「あー、麦野ってぇのはコイツの事か?」



声は麦野だ、しかし立ち振舞いや口調は彼女の物とは全く違う…。

「麦…野…?」

「ああ、残念だったなぁ…。コイツの体は、今じゃあ俺のモンだ」

「そんな…なんで…?」

絹旗は麦野…いや麦野の体を乗っ取ている者が言っていることがわからなかった。

「おい、そこのにぃちゃんから聴いてねぇのかよ?コイツの記憶にはあったぜぇ?………毒刀 鍍の事とか、その特性とかよ…」

「な…?」






「まぁとりあえず、久しぶりだなぁ、虚刀流」


「ああ、こっちこそ久しぶりだな。………四季崎記紀」


そう、四季崎記紀は毒刀 鍍の力で麦野沈利に憑依したのだ。

504: 2011/05/18(水) 16:19:14.65 ID:EVQx49rR0


「いやぁしかし、コイツの記憶を見たんだけれどよぉ。この街ってぇのはスゲェおもしれぇな!!」

麦野…いや四季崎の顔がニヤニヤと歪む。

「……ん?…んん…?」

と、四季崎は急に考えるように黙り込んだ。


「………ははははは!!……いやぁ、いやぁ…いやぁ…ホントにおもしれぇこと考えちまったよ…」

「………」


絹旗は麦野の変わり果てた姿に唖然とし、御坂姉妹は何が何だかわからずに突っ立ている。

ただ、七花は四季崎を睨み、冥土返しは興味津々で見ている。

話について来ているのはこの二人だけのようだ。



「おい虚刀流…てめぇ、あの後も散々暴れまくったようじゃねーか。相方殺されたつって怒って、尾張城を潰しに行ったとか…。まったくスゲェ話だよ」

「俺はそんなことのために尾張城に行ったんじゃない。氏に場所を求めて行ったんだ」

「まぁ、それも俺の計画通りだよ。………しかし、歴史に負けちまったとは思わなんだけどな…。そこでだ、お前におもしろぇことをしてやろう!」

「何が言いたい?」

「まぁ見ておけって……」

505: 2011/05/18(水) 16:51:29.20 ID:EVQx49rR0

「させるかよ…」

七花は四季崎が行動を起こそうとする前に倒そうと、前に出る。

が、


「おっと、近づくなよ。近づくとこの娘が毒刀で串刺しだぜ?」

四季崎は自分の…いや麦野の体に刃を向ける。


「…くっ」

「おかしいなぁ?以前のお前なら人質諸共斬り頃すはずだったよなぁ?……まぁいい、そこで見てろ」


四季崎は刃を降ろす。

「しかし、コイツの体を乗っ取る時は苦労したぜ。なんせスゲェ抵抗してくるから、つい小娘相手にムキになっちまった。真庭鳳凰の時はすんなり行けたんだけどなぁ。スゲェ精神力だよコイツ。

で、コイツの能力はえーと『原子崩し』っていうのか…。この能力を利用して虚刀や毒刀をこっちに呼んだか…なるほど…。

しかし、全力を出すと体に負担がかかり、体は崩壊する……便利だが、ちと厄介だな…。まぁいいや。………えい!」


ドォォォン!と、また爆発した。

何かを呼び出した。



「―――――――…………!!」

七花たちは麦野が人質を取られている以上、動けない。



そして、四季崎が呼び出したのは……。

「―――――――ッッ!!?あ、あれは……。悪刀 鐚!!?」


四季崎の掌の上には悪刀 鐚があった。

それを迷いも躊躇もせず、脇腹に刺す。

「…………ッ!?…なっ」

絹旗は何かを叫ぼうとする。

「安心しろ、コイツは氏なねぇし、急所も外しておいた」

と、四季崎は絹旗に言った。

「さて、これで体は崩壊しない。準備は整った!」

四季崎は両手をあげて、まるで何かのショーか何かが始めようとするように。


「おい!なにをするつもりだ!?」

七花が叫ぶ。


「言っただろ?おもしれぇことだよ!!……安心しろ、氏にはしねぇ」

506: 2011/05/18(水) 17:04:28.23 ID:EVQx49rR0

「この時代ではこんなことをする時、こんなこと言うんだろ?」

四季崎は高らかに叫んだ。

「Ladies & Gentlemen!!只今より、ショーを始めます!!」



そして、四季崎は


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


また、何かを呼び出した。


四季崎の周辺から光が広がっていった……。
























光が収まる。



おかしい爆発はなかった。

しかも四季崎の周りにも七花の周りにも、何もなかった。

「……??」

七花はあたりを見渡す。

絹旗・滝壺・冥土返し・美琴・御坂妹。全員いる。(フレンダここにいない。頭がショート中だったので連れてこなかった)

失敗か?


「はぁはぁはぁ、ふぅ…。何とかできたぜ」

四季崎は荒い息で呼吸し、座り込んでいた。

「あぶねぇあぶねぇ、悪刀が無かったら三回は氏んでたな…」

「四季崎…お前、何をした?」

508: 2011/05/18(水) 17:24:27.50 ID:EVQx49rR0

七花は四季崎に訊く。

「なにって、おましれぇことだよ」

「それが何だって訊いてんだ!」

「まぁ後になってわかる…焦るな」


と、そのとき、四季崎の体は大きく仰け反った。

「………っな!?」

「!?」

「おいおい、未だに抵抗して来るぞ、この小娘…。まぁいい、そろそろ終わりにすっか…」

「麦野!」

絹旗が叫ぶ。

「むぎの…」

滝壺は心配そうな目で見つめる。


「心配すんな、コイツは生きてるよ。おい!お前医者だろ?」

四季崎は冥土返しを呼んだ。

「こいつは、しばらくは起きねえからよ。色々面倒見てくれや。俺コイツ気に入ったよ。おもしれぇ」

「心配せずともその子はみるよ。僕は医者だからね。…まぁ僕の患者をそういう風にする君の指図は受けないよ」

「そうかい」

四季崎は脇腹に刺さった悪刀 鐚を抜く、ジワジワと血が出る。

そして、麦野の能力を使って鐚をどこかに飛ばした。


「虚刀流!今回てめぇにおもしぇことをさせてやる」

「……なんだ…?」

「テメェが壊した、俺が作った完成形変体刀十二本を全てこの世界にバラ撒いた。ついでにテメェと戦った奴らもこの世界にいる。真庭忍軍から左右田右衛門左衛門までなぁ…」

「…………ッッな…!!?」

「変体刀も真庭忍軍も右衛門左衛門も、コイツらがいるとこの世界のバランスは大きく崩れる。それを食い止めろ」

「な、なんでそんな面倒くさいことを…」

七花は激昂する。

「なんでって、おもしれぇからだよ」

「さっきからおもしれぇおもしれぇって、なにがそんなにおもしれぇんだ!?」

「ふふふ、そのうちわかる…」

509: 2011/05/18(水) 17:41:54.44 ID:EVQx49rR0

「時間だ…。俺は消える」

「おい!」

「そうだ虚刀流、テメェに手土産を持ってきた」

「なっ」

「さっきまでテメェが寝てた部屋にいる。楽しみにしておけ。じゃあな」

「おい!!」


四季崎は毒刀 鍍を麦野の能力で飛ばした。



すると、毒刀 鍍の能力が消えた麦野の体は糸が切れた人形の如く倒れた。



「む、麦野!!」

「むぎの!」

絹旗と滝壺は麦野の所へ走っていった。


「ちょっと!これってどういう事よ!?」

「この世界に厄災が舞い降りてきたと言うべきでしょうか。フフ、ノストラダムスの予言は今日でしたか…とミサカは一人ごこちます」

御坂姉妹は二人でギャーギャーやっている。



そして七花は。


『七花くん、この後あなたはとっても面倒くさい事に巻き込まれるわ。いや、原因はあなたかもしれないわね』

夢で見た、否定姫が言った言葉である。




「俺のせいか………」





520: 2011/05/18(水) 21:52:49.88 ID:EVQx49rR0


あの後、冥土返しの指示により麦野は集中治療室へ向かわせた。

麦野は四季崎の言った通り、しばらくは眠ったままだそうだ。


「…………」

黙り込んだままの七花。


「七花さん、そう落ち込まないでください。七花さんが言っていたことを聞かなかった私達が悪いんです」

慰める絹旗。


「いや、別に落ち込んではないんだけれどよ…。やっぱりあん時、力ずくでも離させておくべきだったって、後悔している」

「七花さん…」

「あのね、それを落ち込んでいるっていうのよ」

「お姉さま、それは言い過ぎなのでは?とミサカはお姉さまの言葉に疑問を浮かべます」

七花と絹旗の後ろに美琴と御坂妹がついて来ている。


今、4人は自分の病室に向かっていた。麦野の方は滝壺に任せてある。


「そういえば、あいつ最後になにか言ってましたね?」

「ああ、『手土産を持ってきた』…だったっけ?」

「気になるわね…」

「一体、なんなのでしょうか?とミサカは考えます」

「いや、ぱっとは思いつくんだけれどよ…」


4人は病室の近くまで来る。

すると、部屋の入口には人だかりができていた。

病人やらナースやら医者やら職員やら…老若男女、色々な人たちが何かを見ていた。


「…?」

「なに?」

「一体なんなんでしょう?」

様子が気になる女子3人。しかし七花は

「大体予想がついた……。嫌な予感がするけど」

と言った。

しかしそういったものの、なんだかうれしそうな顔であった。



521: 2011/05/18(水) 23:08:30.07 ID:EVQx49rR0

病室の中から、何やら怒鳴り声が聞こえた。

「………な…に…!……お…っ………!!……ぉ……!?」

「………を………で…………き……!!」

何やら言い争っている様にも聞こえる。


「………しょうがねぇな、もう」

七花は人ごみの中に入っていく。


「え!?七花さん?ちょっと待ってください!」

絹旗は七花を追った。



七花は人ごみを掻き分け、病室の中に入った。

絹旗は「すいませーん通りまーす」と謝りながら人ごみを掻き分け、やっと七花に追いついた。


病室の中には一人の女が、ナース3人相手に言い争っていた。


「もう、何度言ったらわかるんですか!?警備員呼びますよ!?」

「だから言っておろう!!一体ここはどこだ!?」

ギャーギャーワーワー


その女は余りにも特徴的な恰好をしていた。

まず、この時代には不釣り合いな着物を着ていた。

しかし本来の着方とは違う。

まるで着物を重ねて重ねて、十二単の様なコテコテな着こなし方をしている。

そして何よりもっとも特徴的なのは、ざっくりと切ったようなおかっぱ頭で、

その髪の色は、白髪だった。



527: 2011/05/19(木) 00:20:25.01 ID:5Dm0Fg+Y0

「七花さん、なんなんですか?この人は……?」

絹旗は変なモノを見る目で女を見、七花に質問する。


「ん?七花…?」

と、女の耳に入ったのか、絹旗の声に女は反応する。

「七花!?七花か!?鑢七花か!?」

女は振り返り七花の所へと走ってくる。



「しーちかー!!会いたかったよぉーーー!!」


その女…、奇策士とがめは蔓延の笑みで七花に飛びついた。



「なんだ、やっぱりとがめか…」


しかし、飛びついたとがめは七花の体には届かず、七花の手前で墜落した。

「ぐほぉあああ!!」

とがめは七花の足元でヘッドスライディングをする形で着地した。
「……………」

とがめは無言で立ち上がり、七花を睨みつけて叫んだ。


「なんだってなんだぁ!お前には久しぶりに会った主との感動の再開を果たしたのに、その第一声はなんだぁ!何とも思わんのか!」

「いや、別に何とも…」

「ああそうだろう?いくらなんでもどんなものでも、一年をずっと共に過ごしてきた主と配下だ。なにも思わね訳が無い。古の武僧である武蔵坊弁慶も主を守るため敵を一人で向かい、無数の矢を受けてもなお立っておったという…。やはり愛で動く配下は命をもって主を守るものだ。七花も少しばかりだったが、私とはぐれていたのだ。いくらお前とて寂しかったに違いない…って何とも思わんのかい!!」


「ああ、そうだ」


「…七花ぁ…本当にそうなのか?寂しくなかったのか?ひもじい思いはしなかったか?辛かった時はなかったのか?」


「ああ、まったく」


「そうか!そうだったであろう!当たり前だ、例えお前でも私がいなければ何もできまい!ふふふ、やはりお前には私が必要か!!…てないのかい!!」




529: 2011/05/19(木) 00:32:32.14 ID:5Dm0Fg+Y0

「何なんですか?この人」

「何だとはなんだ。七花、この小娘はだれだ?」

絹旗が変な人を見るような顔をしてとがめを見る。

「ああ、こいつは…」


「なになに?」

「どうしたんですか?とミサカは人ごみを掻き分けてやっとここまで出てきました」


「…………七花、これはどういう事だ?」

「…はい?」

「どういう事だと言っている!?………ああそうか、わかったぞ!そなた、私というのがありながら、浮気か!!しかも全員年端のいかぬ者ばかり…そなたは少女趣味だったのか!?そうかそうか、私のようなオバアサンでは満足はできなくて、若い女に乗り移ったのかぁああああ!!」

「いや、そういう事じゃなくて…」

「そういう事だろう!?どう見たってそうではないかぁ!!」

「落ち着けとがめ!!」

「これが落ち着いていられるかぁあああああ!!」

とがめは七花の腹をポカポカと叩く。

「とがめ!」

「うるさいうるさいうるさーい!!」

すると、

「ぎゃん!!」

とがめの体がいきなりビクッと痙攣し、倒れた。

「うるさかったから、一応電撃食らわしておいたけど…。大丈夫だった?」

美琴の指から、ピリピリと紫電が光った。


532: 2011/05/19(木) 01:07:35.78 ID:5Dm0Fg+Y0

しばらくたって、目が覚め、気持ちが落ち着いたとがめに七花は今まで起こった事と、今の状況を話した。


「なるほどな。要はこの世界では私達は異物な存在で、この世界に混沌をもたらすから、それを食い止めよと…」

とがめは御坂妹が買ってきた紙コップに入ったお茶を啜る。

「まったく、どうしてこうも面倒くさい真似をするのだ、あの男は……」

「なぁとがめ、なんで四季崎は俺のもとにお前と寄こしたんだ?」

「それはあれだろう、四季崎はお前がこの世界で苦戦すると見たんだろう。保険として、そなたの相談役としてここへ飛ばしたのだろう」


「あの…七花さん、この人は一体?」

と絹旗が七花に訊く。

「ああ、ほら、言っただろう?」

「私は尾張幕府家鳴将軍家直轄預奉所軍所総監督 奇策士とがめだ。以前、七花と共に完成形変体刀十二本を集めていた」

「え?で氏んだんじゃ…」

今度は美琴が訊く。

「そうだ、確かにあの時私は氏んだ。なのにここにいる。七花、私が氏んだあと、私の亡骸をどうした?」

「近くの寺に墓を作って埋めた」

「そうか…。そうなれば体は腐って土に還るはずだ。しかしなぜかここにいる」

「あんたじゃわかんねぇか?」

「わからん。私はあくまでも奇策士だ。その分野の専門家じゃない」

「じゃあこれからどうするのよ?刀集めしなくちゃいけないんじゃないの?」

美琴はとがめに訊く。

とがめはう~んと考えた。



そして口を開いた。

「そうだな、とりあえず待とう」

「…………は?」

「第一に未だにこの世界の事が右も左もわからん。これじゃあ、いざ戦いになれば不利になる場合がある。また変体刀十二本の在り処もどこにあるのかもわからんし、こっちの世界の者も誰がどこにいるのかもわからん。とにかく今は情報を集めるのが先だ」

「なるほど…」

「時にとがめ、とっちの世界の者って一体誰が来ているんだ?」

「それは調べなくてはわからんが。まず真庭忍軍は絶対に来ておる。あと錆白兵と左右田右衛門左衛門もな…。あとは調べるしかない…」

「そうか…」

「とりあえず、ここの世界に慣れるまで、おとなしくしておこう」


「七花さん」

「なんだ絹旗」

「七花さん達がこうなったのは、もとはと言えば私達『アイテム』の責任です。……その…情報収取はこちらでしておきます」

七花の代わりにとがめが応えた。

「それは助かる。…しかし、刀がどの範囲で散らばったかはわからん。この学園都市とやらの中なのか、それとも外なのか…。でもまぁ、中のことだけでもしてくれれば助かる」

「…は、はい」


533: 2011/05/19(木) 01:10:16.90 ID:5Dm0Fg+Y0


「そうだ、七花」

「なんだ?」

「そなた、あの否定姫と一緒にいたのだな?」

「ああそうだ」

「今は?」

「知らない。はぐれたままだ」

「そうか…。まぁあの女の事だ、どこかで私達の事でも見ているのだろう…」

「そ、そうか?」

「そうだ。そうでなくては気持ち悪いくらいだ」



539: 2011/05/19(木) 01:27:33.45 ID:5Dm0Fg+Y0



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ー


その頃、とある学生マンション…。


その夕日の日差しが差し込む部屋に着物を着た女が座っていた。


『そうか…。まぁあの女の事だ、どこかで私達の事でも見ているのだろう…』

『そ、そうか?』

『そうだ。そうでなくては気持ち悪いくらいだ』


女の目の前には、大きな円が書かれた大きな紙が置いてあり、その円の中には、七花ととがめと絹旗と御坂姉妹のやり取りが映っていた。


「ふふふ、さすがにわかってるわね~。奇策士は…」


その女の金髪は短く切られていて、横に『不忍』と書かれた面が掛けられていた。


その女の名は否定姫という。



「ただいま~」

「ただいま~」

部屋に誰かが入ってきた。どうやらここの住人のようだ。

一人は買い物袋を持った、高校生くらいのツンツン頭が特徴の少年。もう一人は十代前半の幼い容姿の修道服を着た女の子だった。


「おかえり~」

「ひていひめ~、知りたいこと分かった~?」

「うん、ありがとうね、インデックスちゃん」

否定姫はインデックスの頭を優しく撫でる。

「ふう、上条さんは今日も疲れたんですよ~」

と、少年は手にしていた買い物袋を床に置き、床に座る。

「こら上条、休んでないでさっさと夕飯つくりなさい。ちゃんと頼んどいたの買ってくれたわよねぇ」

「仰せのままに買ってきましたよ、姫様……はぁ」

「そこ、溜息つかない」

「ぎゃふんっ」

否定姫は少年の頭を扇で叩く。


少年…上条当麻は頭をすすりながら台所に向かい、買ってきた食材で料理を作り始める。


540: 2011/05/19(木) 01:41:08.16 ID:5Dm0Fg+Y0


「インデックスちゃん、今日はありがとうね。未来予測の魔術と特定の人の夢の中に入れる魔術を教えてくれて」

「いいよ、ひていひめの頼みなら何でも聞くから」

「ふふふ、ありがとう」

「にしても、なにをしていたの?」

「ん~?それは、な・い・しょ♪」

「もう、ひていひめったら~」

キャキャッキャキャッ


(インデックスの子守りを引き受けてくれるのは有難いのですが、上条さん的にはこの状況はしんどいのですよー)

「何か言った!?」

「いえ、なんにでもありません!!(俺何も言ってねえ!!)」


「凄いひていひめ、とうまの心を読む魔術も使えた!!」

「インデックスちゃん、これは女の勘よ♪」

「わーすごーい」

キャイキャイワイワイ


(ちくしょう……)


「にしてもひていひめってすごいよね、あたし教えた魔術を全て一発でできちゃうもん」

「それはきっと、家計が占い師だからじゃない?」

「へ~どうなんだ~」

アハハウフフフ…


(この生活…いつまで続くのでせうか?)





551: 2011/05/20(金) 18:24:07.47 ID:k3a+lc7D0

こんにちは、今日は一日空けてお送りします。

頑張って書きます。


あと、>>521さんの要望で、書き溜めて書きます。

今まで、書いて投下、書いて投下…という風にしていたので、結構、遅くなっていました。

これからはなるべく書き溜めていきたいと思います。


しかし、途中で用事が出来てしまった場合あったり、アニメを見るときは遅くなってしまいますので、ご了承ください。


今から書き溜めるので、7時半ぐらいには投下します。

次は8時半。

その次は10時に投下する予定です。


予定より遅れてしまった場合があるかも知れないので、申し訳ございませんが、そこもご了承ください。

552: 2011/05/20(金) 18:26:26.48 ID:k3a+lc7D0
>>551 すいません>>528さんでした。

553: 2011/05/20(金) 19:35:14.49 ID:k3a+lc7D0



―――――――――第七学区の学生寮。


「はい、出来たぞ。あんたのリクエスト通り、鯛の姿煮だ」


「はい、ありがとう…。結構かかったわね」

「そりゃ、姿煮だもの」

「わーい、今日はごちそうだー!!」


否定姫は、学園都市にいる高校生 上条当麻の部屋に居候していた。

「とうま、とうま、どうしたの?今日はごちそうだよ!」

「インデックス落ち着け、暴れるな。せっかくできた姿煮がこぼれるっ」

上条は暴れるインデックスを押さえ付ける。

「インデックスちゃん?今日はお姉さんの奢りよ♪」

「やったー!ありがとう、ひていひめ!」

インデックスは否定姫に抱き着く。



「んじゃ、いただきますか」

「いただきまーす」

「いただきます」

上条と否定姫は鯛に箸を入れる。………インデックスはかぶりついた。


「おいひー!」

「そりゃ良かった」

インデックスは口の周りをカスだらけにして、美味しそうに食べる…いや喰らいつく。

「おら、汚いぞ」

上条は彼女の口の周りを近くにあったティッシュで拭いてあげる。


「………ねぇ」

と、否定姫が上条に

「この鯛、どこの鯛?」

「え?近くの魚屋のだけど?」

「どこで買ったのじゃなくて、どこの産地よ?」

「?学園都市産だけど?……口に合わなかったか?」

「いえ、ちょっと違和感があって……」

「そうか…。美味しいか?」

「いえ、中の下よ」

「さいで…」

どうやら、上条の料理の腕では否定姫の舌を唸らせることは出来なかったようだ。


554: 2011/05/20(金) 19:36:15.31 ID:k3a+lc7D0

「しかし、最初は驚いたよ。部屋に戻るとベランダにお前が引っ掛かってただからな」

「ひていひめ、あたしと同じだ!」

「でも、ホントに感謝してるわ。だって住む所と食べ物をくれるんだもの」

否定姫は鯛の身を少し箸で摘まみ、口で持っていく。

「っておい」

上条は否定姫の言葉に反論した。

「それはお前が強制的に…」

しかし。


「何か言った?」


と、否定姫は上条を睨む。

「…イイエ、ナニモイッテマセン」

蛇に睨まれた蛙のように、身をちじ込ませる上条。



「はぁ~。美味しかった」

「…って速っ!喰うの速っ!」

インデックスの鯛は身どころか、頭と尻尾以外すべてが無くなっていた。

「おいインデックス!どういう喰い方したら、そんな形跡になるんだ!?」

「え?普通」

「お前の場合は普通じゃないの!丸齧りなの!アブノーマルなの!獣なの!」

「…食べたりないから、とうまも分も食べていい?」

「聞いてんのか!?つーか食べたらダメだ!こればっかりは譲れん!」

「ちょうだい!」

「だめ!」

「え~」

「え~じゃないの!ダメったらダメ!」

「ぶ~」

「ぶ~でもダメ!」

「何でもするから!」

「…そうか。じゃあ、これからは3時のおやつはなしな?」

「…………とうまのケチ」

「どうと言え!今の上条さんはドケチ上条さんなのですよ~。お前が何を何と言おうが、この1尾 2500円もした真鯛の姿煮を渡すものかぁ!!」



555: 2011/05/20(金) 19:36:54.47 ID:k3a+lc7D0

「さ~て、さっそく食べますか!」

上条は鯛に箸を入れる。

さっきは箸を入れたが、口には持って行けず仕舞いだった。


「あーん。んん!おいしい!!俺って天才じゃないのぉ!?ここまで上手く行けるとは…」

自分が作った料理が美味しく出来たら、それは嬉しいものだ。

最初の一口目を飲み込み、また箸で身を食べる。


「うん…うん……」

幸せを、文字通り噛み締める上条。

しかし、『不幸』が代名詞の彼に、

「……ふごっ!?」

不幸が例にならってやって来た。


「歯…歯に…刺さった…」

556: 2011/05/20(金) 19:49:16.00 ID:k3a+lc7D0

魚の骨が、上条の歯に刺さった。


上条は焦る。

なぜなら、その骨は奥歯の歯茎に深く突き刺さっていたのだ。


「イテテテテテ……(一旦口にあるのを飲み込んでから抜こう)」

目に涙を溜めながら、口にある者を飲み込む。

しかし…。


「ぎゃあああ!!今度は喉に刺さったぁあああ!!」

ドタドタとのた打ち回る上条。

それを見たインデックスは…。

「隙あり!!」

上条の鯛にかぶりつき、むさぼる様に喰らつく。


「ムシャムシャムシャ…ん~おいしい~…ムシャムシャムシャ…」

「ああ…ああ…あああああ……」

それを見た上条はこの世の終わりの様な顔をしてインデックスを見た。

「お…お前…俺の…俺の鯛を……」

「ふん、隙を見せたとうまが悪いんだよ!」

「ああああああああああ…」

崩れ落ちる上条


557: 2011/05/20(金) 20:00:26.25 ID:k3a+lc7D0

しかし


「お…お…れ…の……俺の…俺の鯛を…返せぇえええええええええ!!!」

上条は諦めていなかった。


すぐさまインデックスが喰らう鯛を奪取しようとする。




「残念、もう食べ終えた」

「くそぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


そして、上条は最後の一手にでる。


「否定姫!!」

上条は否定姫の方へ体を向け、怖い顔で彼女を見る。

そして、上条は言った。



「どうか、私めに恵んでください!!」



土下座だった。


「嫌よ」

「即答!?」

「なんで私がアンタに恵んでやんなくちゃならないのよ」

「くそ、ドケチ!こうなったら力ずくで…」

「それと私の鯛、もうないわよ」

「………………………………………………………」

上条当麻 撃沈。

559: 2011/05/20(金) 20:38:35.10 ID:k3a+lc7D0

その頃、病院の七花の病室では。


「…ごめん、滝壺。もう一回言って?」

「だからね?しちかさんの体のRNAは…」


滝壺理后は先程から、やっと頭のショートから回復したフレンダ=セイヴェルンに冥土返しが鑢七花についてのことを、もう一回説明していた。


「…ごめん、専門用語ばっかりでわかんない…」

「…これ以上、噛み砕いて説明するのは無理だよ…」

「…うう…やっぱり、私の様なバカはバカのままなのね…」

「ふれんだ、ふれんだはバカじゃないよ?諦めずに頑張ろう?」


そして、もう一回説明する。


「……………」

フレンダの頭は、またショートした。

「おーい、フレンダー。しっかりしてー」

滝壺は、バンバンッと壊れたテレビの様にフレンダの頬を叩く。

「……………っは!私は何を!?」

すると、フレンダは急に意識が戻る。

本当にテレビの様だ。

「もう、ふれんだは私の説明を聞いてるの?」

滝壺は困った顔をする。

だんだん壊れたフレンダの扱いにも慣れてきてしまった。



「何を言っておる。簡単ではないか」


と七花のベッドから女の声が聞こえた。

奇策士とがめだ。

彼女は七花のベッドに乗り、周りを小学校低学年の教科書から大学の参考書まで、ありとあらゆる書物の山で固めていた。

彼女の今の恰好は余りにも目立ち、奇抜なので、季節外れだが浴衣にしてもらった。…………まぁ派手なのだが。

「あの蛙顔の医者が言いたいのは、人間というものの体は何百何千何万という年月で、土地や環境に合わせて少しずつ進化していく。

それを鑢七花の一族はたった七代でしてきたのだよ。あの文字通りの鋼の肉体にな」


「ほほう、そういう事か…」

「しかしわからん。虚刀 鑢は七花の代で完了したのではないのか?じゃあなぜ、四季崎はこのような試練を与える…?」

とがめブツブツと呟いた。

「…やっぱり、わからん。情報が少なすぎる」




560: 2011/05/20(金) 20:39:55.47 ID:k3a+lc7D0

「ねぇ、滝壺…。あの人って結局だれ?」

「ああ、ふれんだには紹介してなかったね。しちかさんの時代にいた人で、とがめさん」

「ああ、あの自分は策は打たぬが奇策は打つと言っておいて、活躍したのは二回だけ。しかもその内一回は物凄く卑怯な手で相手を倒した、あの奇策士とか言った人か」

「……おい、それは七花が言ったのか?」

とがめは声を低くして尋ねる。


「ふれんだ、七花はそこまで言ってない……」

「えっ?そうじゃなかった?」


とがめはベッドから飛び降りた。

「七花はどこだ?ちょっと、七花に訊いてくる」

と言って、出ていった。


「あ、ちょっと…」

「いっちゃった…」


「ふれんだ、あれは言い過ぎ…」

「……あんな感じじゃなかったっけ?」

564: 2011/05/20(金) 21:53:27.61 ID:k3a+lc7D0



とがめが七花を探し回っている頃、病院の中庭…。


七花は空高くに上がっている月を見ていた。



「今日は満月か……」


「いいえ、満月は明日です」


「……だれだ!?」

「私です」

「なんだ、絹旗か…驚かすなよ」

「ビックリさせてすいません。………あと、ほら少しですけど、左の方が欠けてますよ?」

「あ、ほんとだ」

「……欠けてますけど、超奇麗ですね。今日の月」

「そうだな」

「明日は超奇麗になるんでしょうね」

「そうだといいな」

他愛のない会話がトントンと続いていた。

しかし会話は続かず、しばらくは静かに月を見ていた。





565: 2011/05/20(金) 21:53:58.80 ID:k3a+lc7D0




何分か経った。

すると、絹旗が口を開いた。


「…………七花さん」

「なんだ?」

「今もまだ、落ち込んでます?」

「いや、もうそんな気持ちはねぇよ」

「そうですか、それは超よかったです」

と絹旗はホッと息をつく。

そして顔をキッとしかめて七花の顔を見た。

「しかし、七花さんをこの世界に呼んでしまったのも、今日の麦野のことも、全て私達のせいです。本当に、超すいませんでした」

絹旗は頭を深く下げる。

「お、おい、頭をあげてくれよ。別にこっちはあんた達に怒ってていたり、憎んでいてたりしてねぇから」

七花は絹旗の両肩を持ち、体を起こす。

「確かに面倒なことになったけどよ。ここへ来てからは楽しいことの方が多いんだぜ?」

「え?」

絹旗は目を大きく見開いた。返ってくる言葉は色々と予想はしてきたが、この答えは予想をしていなかった。

「ほら、なんていうか、このワクワクとした感じとかがするんだよ。俺はよ、あっちの世界でも色々な変な奴と戦ってきたけどよ、この街みたいに、みんながなんらかの能力を持ってはいなかった。けど、この街には面白れぇ奴らがいっぱいいるんだよ。だから楽しい。ワクワクする」

七花の顔は溌剌としていて、生き生きと笑っていた。

「………」

絹旗はこの笑顔がとても不思議に思えた。

絹旗は生まれてきてから十三年。色々な人の顔を見てきた。


例えば昼間の路地裏――――――――何の罪のない少年を七、八人でタコ殴りにしている、不良の顔。

例えば人気のない公園―――――――家に帰る途中の女子中学生を集団で拉致して行った、大人たちの顔。

例えば放課後の学校――――――――無能力者を的にして、3、4人の強能力者達が能力で的当てをしている時の彼らの顔。

例えば闇夜の裏街―――――――――任務で人を頃す時、殺そうとする人物の脅えた顔。

例えばとある研究室――――――――私の頭の中を弄っている時の研究者のニヤニヤとした嫌な顔。



例えば私の家―――――――――――任務から家に帰って、風呂に入った時、鏡に映った、私の人頃し様な顔。



絹旗は、七花のこんな顔は見たことがなかった。

そしてとても羨ましく思った。

568: 2011/05/20(金) 23:09:34.03 ID:k3a+lc7D0

きっとこの人は、私と同じくらい………いや、私よりも人を頃しているのかもしれない。

なのになぜ、このような顔ができるのだろうか?


「七花さん、ひとついいですか?」

「なんだ」

「七花さんは、なぜそういう風な顔ができるんですか?」

「……なんだ?いきなり」


「七花さん、私があなたと最初にあった時に言いましたよね。学園都市の超暗部組織『アイテム』のメンバーだって…」

「言ってたっけ?」

「言ってましたっ……で、その暗部っていうのはですね……学園都市の闇の組織なんですよ」

「……と言うと?」

「簡単に言うと、汚れ仕事です。私達は学園都市の不穏分子の削除及び抹消を任されています。要は人頃しです」

絹旗は自分のことを自ら笑うように話した。


そして七花に問う。

「七花さんは、私と同じ人を頃しているのに、どうしてそんなに笑っていられるのですか?」


「…………」

「答えてください」

「絹旗、お前は人を頃すことを自ら望んでやってるのか?」

「……」

「俺はまだ島から出てばっかりだった時……人を斬り頃すのに、なんの罪悪感も違和感も無かった。そうそう、俺ととがめが夜道を歩いていたら盗賊が襲ってきて、俺が斬ろうとしたら、とがめが止めた時があったなぁ」

「……」

「俺は確かに人を斬り頃した。決して少なくない数字だ。その中には俺の父ちゃんや姉ちゃんもいる。………俺が人をむやみに頃し過ぎたと教えられたのは、刀集めの最後らへんだよ」

「……」

「そいつは誠刀 銓の所有者の仙人で、こう言ってたんだ。

『君は刀集めの途中で決して少なくない人数の人間を頃しているんだよ?生きるという人間という最大の目的を阻害して、わかるかい?

人は頃したら氏ぬんだよ?そんな簡単な原理から目をそらしている。覚悟が足りない。

秤ってのは、天秤って意味だ。君は自分のやっていることが、どれほどの何と釣り合うのか、考えてみることだ』

ってな。要は人間を一人頃すのに必要な覚悟と理由がないって言われたんだ」

「………」

「で、俺は思い知らされたよ。本当に人を頃す覚悟がないってね」

「……」

「だから俺は、斬るに値しない事では人を斬らないし、斬る時には覚悟をする。斬る相手の今までの人生を、これから歩いていく筈だった人生を、俺はすべて奪っていく覚悟をな」

「……」

「話はこれだけか?先に俺はもう寝るから中に入ってるぞ」

七花は踵を返し、中庭から去っていく。

「待ってください!!」

しかし絹旗は止めた。


569: 2011/05/20(金) 23:12:43.88 ID:k3a+lc7D0

「今度はなんだ?」




「わ…私を…弟子にしてください!!」



「はぁ!?」

「だから、私を弟子にしてください!!」

「」

570: 2011/05/20(金) 23:52:00.15 ID:k3a+lc7D0


その頃、とがめは病院内と歩き回っていた。

「まったく、七花の奴はどこに行ったというのだ!?」

先程までは走っていたが、小太りの中年ナースに『走らない!!』と怒鳴られた。

ここは三階の病棟。

今は『走ってないですよ!歩いてるんです!………ギリギリ』という感じの、俗に言う“早歩き”で病院内を練り歩く。

スタスタスタスタと病室から履いてきたスリッパがうるさい。

それよりも、一刻も早く七花を見つけて、先程の暴言の真実を暴かなければ。

スタスタスタと競歩選手よろしく歩く。



しかし自称、「障子紙の如く弱い」「戦闘力はうさぎ以下」の女である。だんだん速く動いていた足は遅くなり、最後はフラフラとなって、ゼイゼイと息を苦しそうにして、窓に寄りかかった。


「ゼイ…ゼイ…ひ、久しぶりの…運動…は…堪えるな…」

とがめはふぅと息をつく

そして、ふと窓の向こうの月を見た。

「うむ、明日は満月か……」

その見上げる視線をそのまま下へ移す。

「――――ッ!!?」


七花が一人の少女と二人っきりで話していた。

二人っきりで。


「し、七花ぁああああ!!」


とがめは、疲れた身体なんてなんのそのと言わんばかりに全力疾走した。

落ちる様にして階段を降りる、その速度を保ちつつ中庭まで走って行った。

中庭まで行くと、七花と少女の話し声が、そこの曲がり角から聞こえる。


(七花め、七花め、七花めぇえええ!!やっぱり…やっぱり少女趣味だったのか!!くそ……こんな三十路の女なんていらないのか!?腐った果実はいらぬの言うのか!?……しかしパッと見て十八にもいっておらぬ、ケツの青い子供に尻尾をふりやがってぇええええ!!)

とがめは七花から2,3m程しか離れていない曲がり角で息を潜む。


(七花の奴、あんなに楽しそうに喋りおって…。よーし機会をうかがって、後ろから脅かしてやろう……フフフフフ)



571: 2011/05/21(土) 00:04:51.76 ID:idcxESTb0


そこには、七花と13歳くらいの少女が話していた。

(む?あの子は確か…絹旗とか言った奴か…。一体なんの話をしておる?)



「七花さんは、私と同じ人を頃しているのに、どうしてそんなに笑っていられるのですか?」

「…………」

「答えてください」


「―――――――――ッ!!?」


(な、なんなのだ!?この重たい空気の話は…!?)


「絹旗、お前は人を頃すことを自ら望んでやってるのか?」

「……」

「俺はまだ島から出てばっかりだった時……」



(しかも、七花が絹旗の相談に乗っておる………ありえん…。明日は雪が降るのではないか?)









「話はこれだけか?先に俺はもう寝るから中に入ってるぞ」


(七花よ、よくぞ言った…よくぞここまで成長したものだ……)グズッ


「待ってください!!」


(お?なんだ?どうした?)


「今度はなんだ?」

「わ…私を…弟子にしてください!!」

「はぁ!?」

「だから、私を弟子にしてください!!」

「」


(な、なにぃいい!?)

574: 2011/05/21(土) 01:00:28.33 ID:idcxESTb0

「わ…私を…弟子にしてください!!」

「はぁ!?」

「だから、私を弟子にしてください!!」

「」



「おねがいします!」

絹旗は頭をさげる。

「私は七花さんと戦って自分の弱さに気づきました。だから麦野はあんな風になってしまいました。………でも今の私じゃあ、もうレベルは上げられない。もう能力を上げるのは無理なんです」

彼女は頭を下げたまま、七花に頼み込む。

「でも、でも強くなりたいんです!!麦野も滝壺さんもフレンダも!!みんな!!……でもレベルが上がらない…だったら、体を鍛えれば強くなれると思ったんです!!守れるものを守りたいんです!!」

その声は悲痛なものだった。

守れるものをただ、守りたいのだ。

絶対に取りこぼさないように。

「…………お願いします!!」

叫び続けて、かすれてしまった絹旗の声は、中庭に響いた。




しかし

「だめだ」

七花は断った。



「…!!」

「だめなんだ」

「なぜなんですか!?」


「それは、虚刀流は鑢家の者にしか使えないからだ」

「」

「虚刀流ってのは初代が全く刀の才能がなかったから、初代は『刀を使わない剣術』を編み出したんだ

そもそも虚刀流は四季崎記紀の血刀だ。そう簡単に余所の人間に教えちゃあならねぇ代物なんだ」


「そんな…」

「第一、俺がお前に全てを教えたとしても、お前は虚刀流の技を使えることはできない。これは鑢のものでしか使えないからな」

「…………」

絹旗は悔しそうに項垂れる。


と、そこへ……


575: 2011/05/21(土) 01:17:49.07 ID:idcxESTb0

「七花よ、その辺にしておけ」

とがめが曲がり角から出てきた。

「…とがめ…!いつからそこにいた!?」

「最初っからだ。……時に絹旗とか言ったか」

「………はい」

絹旗はがっくりとした顔で、今でも泣きだしそうな顔をしていた。

「そなた、七花に弟子入りするとはなかなかやるな」

「はぁ」

「まぁそんなに落ち込むことはない。どうだ、君のために、この奇策士とがめ様が奇策を伝授してやろう!」

とがめはエッヘンと腰に手を当てる。

「え?」

「おいとがめ、一体何をするつもりだ?」

「なぁに、簡単なことだ」


「絹旗よ、おぬし……七花と戦え」


「はい?」

「おい、とがめ!」

「別に頃し合いをしろとは言っておらん。ただ組手をやっていればいい。勿論、絹旗は全力で頃すつもりでかかっていけ。七花は絹旗の稽古をつけやれ。虚刀流のではない、あくまで組手だ、ただ絹旗を強くする為の稽古だからな、頃すでないぞ」

「わかってるよ、そのくらい」

「だったらできるな?」

「ああ、虚刀流を教えるんじゃなくて、絹旗を強くする手助けをしてやればいいんだな?」

「そうだ」

「ならいい」




577: 2011/05/21(土) 01:18:07.22 ID:idcxESTb0
「うむ、それでいいな?絹旗」

「はい!!ありがとうございます!!」

「さっそく稽古は明日からだ、場所はどうする?」

「ああ、地下に訓練所があるから、そこ使えるんじゃないか?」

「わかった、あの蛙顔の医者に許可を取らしてもらおう」


「それじゃ、お先に失礼します!!」

「ああ、おやすみ」

「おやすみ」



「七花よ」

「なんだ」

「この街は悲しいな」

「そうだな」

578: 2011/05/21(土) 01:28:19.81 ID:idcxESTb0


「ふん、まさかおねしが人の相談役などを買って出るなど……」


「明日は雪が降るってか?」


「…まぁいい。……時に七花」


「なんだ?」


「おねし、あの娘らに私の事を『活躍したのは二回だけ。しかもその内一回は物凄く卑怯な手で相手を倒した』とか言ったようだなぁあああ!?」


「とがめ、俺の後ろに回って飛び乗って、首を絞めるなぁ!苦しい…」


「うるさいうるさい!……ていうか、私が活躍したのは、錆と姉ちゃんと日和号と汽口と戦った時の4回だ!!…まぁ確かに汽口のときは反則臭かったが、錆の戦いでは私の奇策は大活躍だったではないかーーー!!」


「わかったわかった、それ以上首を絞めんな!!」


ギャーギャーギャー………

















579: 2011/05/21(土) 01:45:38.92 ID:idcxESTb0

「七花よ、これから忙しくなるぞ」

「人を絞頃しかけておいて、しれっと無かったことにするんだな」

「そこでだ、そなたには私の命令で動いてほしい」




「嫌だ」




「…な…!?」

「嫌だ」

「…一応聞いておく、なぜだ?」

「だってあんた、俺のこと解雇したじゃないか」

「………」

「だから嫌だ」


「…じゃ、じゃあ七花、契約のし直しだ。七花、もう一度…な?」

「嫌だ」

「キーッなんでだ?どうしてだ?七花、私に惚れているのではないのか?」

「そりゃ、惚れているよ」

「だったらなぜ?」

「とがめ、あんた俺に一つ謝らなくちゃいけないことはないか?」


「??……別にないが…?」

「そうか、お前とも今日が最後か…」

「待てぇい!ちょっと待ったぁ!わかった、わかった!言う!言うから!」

「はいどうぞ」

「えっと……。旅の途中で、七花が楽しみにしていた草団子を食べてしまってごめんなさい」

「もうお別れか。とがめ、今日まで楽しかったよ」

「待てぇえええええええい!!すまん七花!わからん教えてくれぇえ!!」

「たっく…。しょうがないな…」

七花は一つ溜め息をついて言った。



580: 2011/05/21(土) 01:56:02.36 ID:idcxESTb0

「とがめ、なんであの日、一人で生きろっていった?」

「」

「そして、勝手に氏ぬな…。すげえ寂しかった……」

七花は泣き出しそうな顔をして言った。

「……それと、あんな、悲しいことを言わないでくれ…」

「……」

「それを約束するなら、もう一度あんたの下で戦うよ」

「………しょうがない、わかったよ」



「鑢七花!」

とがめは七花の正面に立ち、気を付けをした。

「あの時は、勝手に氏んでしまってすまなかった!!これから二人で一緒に戦ってくれるか!?」

「ああ、戦う」

「それともう一つ!!」

「なんだ」


「あの…その……///」

とがめはいきなりモジモジし始めた。

そして……。


「七花…まだ……私に惚れているか?」

「ああ」



「ありがとう」

「どういたしまして」

「それじゃあ、もう遅いし、中に入ろうとするか!」

「ああ」









一連のやり取りを病院の窓から、冥土返しと呼ばれる医者はずっと見ていた。


「いや本当に、青春してるねぇ?」

589: 2011/05/21(土) 15:03:53.45 ID:idcxESTb0

上条日記 9月9日


『法の書』のゴダゴダのあとワタクシ上条当麻は寝不足の目をこすりながら家に帰り、すぐさま学校に行った。

ついつい授業中寝てしまった、しかも小萌先生の授業で。


小萌先生は悲しい目をされ、クラスメイトには睨まれ、吹寄には頭突き3連発をお見舞いされた。


放課後、寝てしまった罰として、学校の清掃活動をやらされた。


学校の玄関でインデックスが俺を迎えに来てくれた。………と思っていたが、

実際は腹を空かせて、ここまでやって来たようだ。

思いっきり噛みつかれた。


590: 2011/05/21(土) 15:13:12.26 ID:idcxESTb0


――――――――――――――――――――――――――――――――――


家に帰ると、スフィンクスが俺が土御門から借りていた漫画で詰めを研いでいた。土御門曰く、もう滅多に手に入らないレアものらしい。


スフィンクを漫画から力尽くで引き離したが、時すでに遅く、漫画はただの紙屑になっていた。


こっぴどく怒鳴られると思うが、あとで土御門に謝りに行こう。……………不幸だ。



しょうがない、紙屑を掃除するついでに部屋でも掃除するか。

そう思い立って、掃除機を取り出した。

ついでに喚起をするためベランダの窓を開けた。


と、そこには着物を着た金髪の女の人がベランダの手すりに引っかかっていた。

その人は小さく「み、水ぅ…」と呟いていたので、すぐにコップに水を入れて渡した。

女の人は水を一気飲みした。


591: 2011/05/21(土) 15:24:02.45 ID:idcxESTb0

その女の人は否定姫と言うらしい。

……思いっきり偽名じゃないか。と思ったが、もう一人偽名を名乗っている居候がいるので、そこはツッコまないでおく。


否定姫にはなつかれた。優しくて奇麗な人だな~というのが第一印象だった。


俺は今晩のおかずの買い出しに行った。

冷蔵庫の中は空っぽだ、何か買いに行ってこないと、暴食シスターが暴れ出すだろう。




スーパーで色々と買い物をした。今日はお肉が安かった。

帰る途中、警備員の数が異様に多い。何かあったのだろうか?


そう思った直後、御坂に見つかった。速攻逃げた。

しかし逃げる途中でドブに足を突っ込ませてしまった。

脛の所まで泥だらけになる。


御坂に追いつかれ、爆笑された。…………不幸だ。

592: 2011/05/21(土) 16:00:53.71 ID:idcxESTb0

家に帰り、すぐに汚れた制服のズボンを洗濯機に入れよう…。

明日は授業だから、急がねば…。


そう思って洗濯機がある風呂場の脱衣所へ行った。


脱衣所に入ると、脱がれた着物が一式。恐らく否定姫が風呂に入っているんだろう。


急がねば、彼女が風呂から出てしまう。


さて、さっさとズボンを脱いで…洗濯機に突っ込んで、洗剤も入れて、洗濯開始のボタンを押してさっさと出よう。


ぽちっ…………シーン………

あ、あれ?

ぽちっ…………シーン………


あ、あれ?動かない?


洗濯機が壊れていた。


おい、しっかりしろ洗濯機!

と、バンバン叩いていると………。



全裸の否定姫が、風呂場から脱衣所に入ってきた。


…………………………………………。結構、胸あるんだな。



否定姫が顔を真っ赤にして殴りかかってきた。が、否定姫は濡れた足を滑らせた。

その時なぜか俺のパンツを掴み、ずり落とした。


否定姫の目の前には……、もうわかるだろう。

俺がビックリして股を抑える前に、否定姫はキャーーーーーーー!!と悲鳴を上げ、立ち上がった。


が、また否定姫が滑って転んだ。

何でかはわからんが、俺も巻き添えを喰らい、すっ転んだ。


そして何でか…否定姫の体は、俺の体に覆いかぶさるような体勢になった。



頭と足は逆の位置で。



593: 2011/05/21(土) 16:09:35.24 ID:idcxESTb0

簡単に言うと、俺の頭の方向には否定姫の足があり、否定姫の頭の方向には俺の足があるのだ。

ということは………。



俺の顔のすぐ前に、否定姫の“恥部”というものがあるのだ。



夏休みに神裂の裸を見た時はこっそり見えていたが、こんなアップで見るのは初めてだ。



…………?

ということは・・・・・…。

否定姫の目の前には、俺の………。


てか、俺の息子に、人の顔の様なものが当たっているのは、気のせいだろうか?


首を下に向ける。

否定姫は、顔をさっきよりも真っ赤にしていた。

そしてこっちを向いて………。






ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!






気が付いたら、朝だった。


その日から、否定姫は俺にたいして冷たくなった。


ホントに不幸だ………。



終わり

603: 2011/05/22(日) 19:49:25.33 ID:T0NpDJto0



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


学園都市に朝がやって来た。


今日も快晴である。雲は一つもない空がずっと続いている。


ここは第七学区のとある病院の個室、学園都市の大能力者の少女、絹旗最愛は目を覚ました。

今日は目覚めがよく、すっきりと起きれた。


絹旗はん~っと体を上に伸ばし、ベッドから降りる。

着ていたパジャマを脱ぎ、滝壺が家から持ってきてくれた、着替えの入ったボストンバックから、白のTシャツと赤いジャージを取り出した。

これは以前、滝壺が買ってきてくれた物だ。因みに滝壺は次いでにと、他のメンバーの分まで買ってきていた。

麦野は黄緑。フレンダは青。

フレンダは喜んでいたが、麦野はいらないと拒んだが、渋々受け取った。


その数日後、フレンダが麦野の家に行ったときの話だが、麦野はちゃんと着ているようで、外で洗濯物として乾かしてあったらしい。



まったく、素直じゃないんだから………。



ふふっとつい、笑ってしまう。

でも、その麦野は今は眠っている。冥土返し曰く、精神に大きなダメージがかかったらしい。しばらくはあのままだそうだ。




今日から鑢七花との稽古が始まる。

そう思うとワクワクしてきたと同時に、身の引き締まる思いが込み上げてきた。


強くなって、麦野や滝壺やフレンダを守ってみせる!

「………うっし!」

絹旗はジャージを纏い、病室から出て行った。





絹旗は寝たきりだった体を叩き起こす為、病院の周りをランニングをしようと外に向かう。


と途中で、ある病室に立ち寄った。

虚刀流七代目当主 鑢七花はこの病室で寝ている。


604: 2011/05/22(日) 19:50:13.75 ID:T0NpDJto0

少し覗いていこうかな…。


そっと静かに病室のドアを開ける。


病室の奥の左右2つのベッドには、カーテンが掛けられている。


右が七花のベッド、左が美琴のベッドである。

関係ない話だが、美琴は今日で退院するそうだ。昨日はミサカ10032号と何か話しをしていたらしい。

滝壺は美琴のすぐ近くにいてて、詳しくは聞こえなかったらしいが、その会話を聞いていたそうだ。


ミサカネットワークで19090号が報告したこと、例えば

授業の内容とか

昨日、今日は何があったかとか

今日の給食とか

初春飾利と佐天涙子とのやり取りとか

美琴の身代わりとなったミサカ19090号が後輩である白井黒子に危うくバージンを奪われる寸前だったとか

上条当麻にラッキースOベされたとか

偶然会った、海原光貴に追い掛け回されたとか………。

そんな他愛のないことを、美琴が学校に復帰しても19090号と入れ替わってもばれないように、

美琴に報告していた。

605: 2011/05/22(日) 20:13:54.22 ID:T0NpDJto0

話が脱線したが、絹旗は寝ている美琴を起こさないように、差し足忍び足で七花のベッドの前へと足を進める。


こういう時はなぜか無性にワクワクするものだ、テレビでやっていた寝起きドッキリをするお笑い芸人の気持ちがわかる。


絹旗はとうとうベッドの前まで来た。


そしてベッドをかこっているカーテンを持って、思いっきり引いた。


「七花さん、おはようございます。超いい朝で…す…ね…」


絹旗の台詞はとぎれとぎれになった。

無理もない、なぜなら絹旗が見たものは



ベッドの上で仲良く抱き合ったまま気持ちよく眠っている、七花ととがめだからだ。



口をパクパクさせる絹旗。

「な……な…な…、何してるんですかぁ!!?」


つい、大声を出してしまった絹旗。

ハッと大声を出してしまったが、今更もう遅い。



606: 2011/05/22(日) 20:39:18.37 ID:T0NpDJto0

「……ぅぁ…なんだ?…ああ、絹旗か、どうした?」

「……なんだ?人が気持ちよく寝ておるのに……」


ええい、こうなったらトコトン追及してやる。


「し、し、し、七花さん、とがめさん…な、なぜそんな…」

「なんだ?これのどこがおかしい?」

とがめは、寝起きの、眠そうな顔で答えた。

「いや、おかしいでしょ?だ、だ、だ、男女が同じベッドで寝ているのって、超おかしいでしょ!?」

「そうか?俺は旅の時はいつもこんな感じに寝ていたが?」

「そ、そうなんですか!?」

「ああそうだ……って、もしやお前、何か厭らしいことを考えていたのではないだろうな?」

「な、何言っているんですか!?」

「図星か?」

「な、だから…!」

「おい、あんまり大きな声を出すなよ。あいつが起き…」


「うるさぁぁぁぁい!!!」


美琴は自分のところのカーテンから、機嫌が悪い顔でこっちを睨んできた。

「昨日の衝撃の報告を聞いてこっちは一睡もできなかったのよ!?…でさっきやっとウトウト状態にまでになったのに、うるさくて結局目が醒めちゃったじゃない!!」

美琴はズカズカと七花のベッドに歩いてきた。

「まったく、この責任はどうして…くれ…る……」

そして、ベッドの上にいる、七花ととがめを見た。

「な…な…何やってんのよ!?」

607: 2011/05/22(日) 21:07:59.84 ID:T0NpDJto0

美琴は二人を指さした。

「あ、あんた達ね、ここは病院よ!?な、何やってたのよ!?この変態!」

「そ、そうですよ、第一なぜ隣のベッドをつかわないんですか!?超おかしいですよ!」


思春期真っ盛りの二人の台詞を聞いていたとがめは一つ溜め息をして、こう言った。

「あのなぁ、私が七花と一緒に寝ておるのは、昔、島を出かばかりの頃のこいつは人間と区別ができなくてな、戦いで誰が誰だかわからんで巻き添えを喰らっては困るからな。私の体臭を嗅がせていた名残だ。お前らの想像している厭らしい事ではないよ」

「いや、犬かよ」

「とがめさんって、超変わっています」

「しょうがないだろ!……まぁあの時は此奴の体に髪を巻き付けていたのだがな。……まぁいい、誤解も解けてたところで、絹旗よ何か用か?」


「…あ、はい!………………なんでしたっけ?」

「おい」

「超すいません…」

「まぁいいさ。ああそうだ、下の訓練所の使用許可は取れたぞ。今日から使ってもよいそうだ」

「あ、ありがとうございます!」

「じゃあ、早速行って来い」

「え、今ですか?」

「ああ、こういうのは早ければ早い方がいい」

「わかった」

「わかりました」


絹旗と七花は病室から出て行った。


「ねぇ、あの二人どこ行くの?」

「ああ、お前には話してなかったな。下の訓練所に行って、七花に稽古をしてもらいにだ」

「へ~、面白そうね。私も行ってきてもいいかしら」

「別にいいが、今は見るだけにしろよ」

「わかったわよ~♪」


美琴も二人の後をついて行った。

608: 2011/05/22(日) 21:44:57.38 ID:T0NpDJto0


―――――――――――――――――――――訓練所



「さて、準備はいいか?」

「ええ、いつでもいけます」


七花と絹旗は地下の訓練所の中心で向かい合っていた。

隅の方では美琴がコーヒーを飲みながら見学している。


「じゃあ…来い」

「でやぁあああああ!!」


絹旗が七花に拳を振りかざして、向かってくる。


勿論七花は手加減するが、絹旗の方は七花を頃すつもりでかかる。


絹旗の拳は七花の腹へと向かっていく。


七花は闘牛士のように右に避ける。

体勢を崩した絹旗に七花は右脚で蹴りを入れる。

「――ー虚刀流 『鬼百合』!」

七花の爪先が鳩尾に当たる。


「………!!」

絹旗の窒素装甲がビリビリと震えるのがわかる。

「…くっ」


絹旗はすかさず反撃に出る。

絹旗は七花の顔面へと右拳を振るう。

しかしそれは七花に受け止められる。

七花はその拳を握った。

絹旗はもう片一方の拳を突き出すが、それも受け止められ、七花にまた手を取られた。


七花は取った両手を捻りあげ、肩と肘を同時に極めた。

「―――虚刀流 『桔梗』!」

「ああああああああああああ!!」

絹旗は痛みで悲鳴を上げる。


「………こぉんのぉお!!」

絹旗は上に飛び、体を捻って七花の腕を振りほどく。


609: 2011/05/22(日) 21:59:57.31 ID:T0NpDJto0


「はぁはぁはぁ」

「おいおい、それじゃあこの前と同じだぞ」

「…へ、わかってます…。でも、同じと思わないでください!!」


絹旗は七花に向かって走り出す。そして拳を振り回す。

七花はそれを避けるか受け止めるかで対処していく。


「おい、どう見たって同じだぞ」

七花は絹旗の拳を避けまくる。


「ここからが違うんです!!」

絹旗は七花の鳩尾めがけて拳を突き出す。

七花はそれを左に避ける。

絹旗は体勢を崩した……その時、絹旗は七花の右足を取った。


「これで、簡単には避けれませんね!!」

「…なっ…!」

脚を取られバランスを崩す七花。

絹旗は体勢を崩した七花の鳩尾にフルスイングの右ストレートをだした。


「……ヵは…!」

七花は5mほど吹っ飛んだ。

「…ててて、油断してた…」

が、ピンピンしていた。

「やっぱお前は面白いな、それじゃこっちからも行くぜ!!」









610: 2011/05/22(日) 22:12:10.08 ID:T0NpDJto0







「お、さっそくやっているね?」

「あ、リアルゲコ太先生」

「君、そんな風に呼ばないでくれないか?……で、どうだい?彼女は」

「いや、見事に一方的ね。さっきから吹っ飛ばされまくってる」

「まぁ、初日だからね?このまま稽古とやらをしていけば、順調に彼女は強くなるよ。肉体的にも精神的にもね?」

「いいなぁ、私も戦いたくなってきた」

「そうかい?ただ一方的に吹っ飛ばされるだけだよ?」

「だって、あの二人とっても楽しそうだもの。…私も後で頼んでみようかな…」

「無理だね、これは絹旗さんの窒素装甲があってこそ出来ることだよ?普通あれだけ吹っ飛ばされてもピンピンしていられるかい?君だったら今頃首の骨が折れてるよ?」

「まぁいいわ、これ以上強くなりたいなんて思ってないし…」

「若いのに向上心が無いね?」

「あの馬鹿よりはマシよ。私がいっつも勝負を仕掛けても逃げてばっかだし、ついこの前も私に会っただけでスタコラと逃げてったのよ?」

「君、本当に彼の事が好きなのかい?」

「はぁ!?な、なななな、なに言ってんの!?なななな、なんで、あ、あんな、や、奴の事…」

「君の妹さんから聞いたよ」

「あんのぉおおおおお!!」



611: 2011/05/22(日) 22:25:59.99 ID:T0NpDJto0


「さて、もうそろそろかな……」

冥土返しはドンパチやってる二人へ大声で喋りかけた。

「おーーい、二人とも、とりあえず休憩にしよう!!」



「おい、終わりだそうだ」

「…はい…あ、ありがとう…ございました…」

絹旗はゼイゼイと息をしながら返事する。

「大丈夫か?」

「いえいえ、…大丈…夫で…す」


そこへ冥土返しが歩いてきた。

「君たち、朝ご飯まだだろう?準備がもうすぐできるから、一旦終わって食べてきたらどうだい?」

「わかった、ちょうど腹が減っていたところだ」

「わかりました…ゼイゼイ…」

「鑢くんと絹旗さんは汗をかいたからね、ここは避難所としても機能しているから一応シャワー室もあるから、そこをつかってきてね?」


「ありがとうございます…」

「ああ、わかった」

「とりあえず、先行ってるよ?」


冥土返しはそう言って、上へと戻って行った。

「それじゃあ、私も先に行ってるから!!」

美琴も上に戻って行った。



612: 2011/05/22(日) 22:49:53.89 ID:T0NpDJto0



「………それじゃ、行きますか」

「ああ」

二人は冥土返しの言っていたシャワー室に向かった。


「……つーか七花さん、汗なんて超かいてないじゃないですか」

「いやぁ、シャワー室ってのはどんなのか気になって…」

「そうですか…。しかし疲れました」

「飯食った後は休むか?」

「なに言ってんですか、やるに決まってるじゃないですか。………っておわっ!!」

その時、七花から受けたダメージで足がきていて、絹旗はつまずいき、転びそうになった。

「おっと…」

それを七花が受け止める。

「大丈夫か?」

その時の二人の顔の距離、20cm

(か、顔が近い…。ちょっと、汗のニオイとか嗅がれたらどうしよう…。恥ずかしい…///)

「大丈夫か?顔が赤いけど」

「あ、大丈夫です!はい!超大丈夫です!」

がばぁ!と飛び起きる絹旗

「…?…ならいいけど」




七花と絹旗はシャワー室に入った。


シャワー室は十二の個室があり、その中は広くはないが狭くもない、シャワーを浴びるならちょうどいい空間に分けられていた。


「なぁ絹旗、これってどう使えばいいんだ?」

「七花さん、シャワー知らないんですか?……って知らないですよね…超昔の人ですから」


絹旗は七花にシャワーの使い方の説明をする。


「ああなるほど、これで温度を調節できるのか…」

「はい、それじゃ私はこっちに入りますんで」

「そうか、じゃあ俺はその隣に行くな?」

「え?隣ですか?」

「?ダメなのか?」

「(デリカシーって言葉を知らないんですか!?)……ああ、いいですよ。お好きにどうぞ」

613: 2011/05/22(日) 23:34:17.36 ID:T0NpDJto0


二人はそれぞれ個室に入る。



絹旗は汗が染みこんだジャージと下着を脱ぎ、温かいお湯を浴びる。

隣の七花がいる個室から、お湯が七花の体に当たる音が聞こえてくる。


なんだかドキドキと心臓が小走りする。


実は先程つまずいて転んだとき、七花に受け止めてもらった時から、ずっと心臓がドキドキしている


(そういえば、あの人、ちゃんと服は脱いで入ったのでしょうか…。服を着たままで入ってましたなんてギャグ的展開なんてないでしょうね……?)

まぁそれはないだろうと、絹旗は考えた。

(いくらなんでも考えすぎか…。ん?てことは今あの人は裸…?…で、私も裸で……、隔てる物はこのプラスティックでできた壁のみ…。

てか、私がお湯浴びている音があっちにも超まる聞こえじゃないですか!!いやぁ超恥ずかしいぃ///

聞こえてないですねぇ!?シャワーの音聞こえてないですよね!?……てか、襲ってなんて来ないですよねぇ!?

……ハッ!……もしかして…わざと?……わざとこのポジションをとって、私を辱める為に…?もしくは音を聞いて何か厭らしい事でも考えているのでは!?いやだぁ超超超恥ずかしい…超恥ずかし過ぎる……///


でも……恥ずかしいのに……普通なら気持ち悪って罵るはずなのに…なんで……なんで、こんなにドキドキするんですか?

というより、さっきから、なんだか頭がぼーってするし…何なんですか、これは!?)


絹旗はお湯に打たれながら、赤くなった顔をブンブンを振る。


(ええい、しっかりしろ絹旗最愛!!)

絹旗は緩んだ気を引き締めようと、浴びていたお湯の温度を落として、冷たい水にした。

(こんな邪念なんて気合いと根性で吹き飛ばせ!!)


「絹旗ぁ」

七花が壁の向こうから呼んできた。

「…ふぇ?……あ、はい!!」

「どうしたんだ?さっきからブツブツと…なにかあったのか?」

「!!………いえ!何も!!なんっにもありません!!超ありまひぇん!!」

(噛んじゃった…。ってかさっきの口に言ってたっけ!!?………どうしよう、変な誤解されたらどうしよう!!)

「あ、あの…さっきの超聞こえてました?」

「いや?」

(ああ、よかった~)

「でも、すんげぇ鼻息荒かったからよ、気になって………」

(ぎゃああああああああああああああああああ!!聞こえていた方がよっぽど超良かった……超恥ずかじぃぃぃ(泣))

「いえ、なんでもありませんよ!!」

「?……そうか…ならいいんだ…」


614: 2011/05/23(月) 00:01:50.60 ID:gv/m+leB0




絹旗は冷たい水を浴びながら後悔した。

(ああ、超失態だ……)

しかし、水は冷たいのだが、どうしてか絹旗の体の火照りが収まらない。

(なんなんですか、もう。……ええい、こうなったら朝食を食べた後、七花さんともう一回組手して、この気持ちなんて超吹き飛ばそう。

……七花さんと言えば、あのとがめさん…一体二人の関係ってなんなんでしょう…。七花さんは雇い主だって言ってたけど、超詳し事は言わずにあやふやなままで話してたし……一体…。

てか、今朝一緒に寝てたし…ああもう、超気になるぅうううう!!

………もし、今朝の件…七花さんの横にいるのがとがめさんじゃなくて、私だったら………。

って、ぎゃあああああああああああああああああ!!超何考えているんですかぁああ!!)


絹旗はグシャグシャグシャアと髪を掻く。



(はぁなんなんですか、こんな気持ち超はじめてです…。超ドキドキしてて、頭が超ボーッてしてて。仕舞には気が付いたら七花さんの事ばかり超考えている………。……これって俗に言う………だぁあああ!!だから何考えているんですか!!)


絹旗は壁を思いっきり叩いた、七花と自分の間にある壁をだ。


その壁は木端微塵に吹き飛んだ。

そして、二人の隔てる物はなくなり、絹旗と七花のお互い体がに見える様になった。


「あ…」

「あ?」


しばらく沈黙する二人。


「あ、あ…あ…あああああああああああああああああああああ!!」

「おい、どうした絹旗、絹旗、おい、ちょっとまて」

「超氏に晒せえええええええええ!!!」

「おい、ごふっ!!」


混乱した絹旗は七花の個室に乱入し、七花の顔面を殴りつけた。

七花吹っ飛び個室を三つほど壊した。


絹旗は我に返り、七花を殴ってしまったことを今気付いた。


615: 2011/05/23(月) 00:20:32.73 ID:gv/m+leB0


鑢七花を一人で倒れ伏せさせた人間は、この世界では初めての人間だった。


「七花さん、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」

絹旗は、シャワー室に掛けてあったバスタオルで体を隠して七花が吹っ飛んだ所へ行った。


「本当に超すいません!!」

「ああ、びっくりした」

「超すいません」

「いや、いいよ。別に大した怪我もないし」

(そう言われるとなんだか傷つくな…。一応全力だったのに)





二人は別の個室へ移り、シャワーを浴び直して、体を拭いた。


七花は元々着ていた服を着て、シャワー室を出た。

が、絹旗は出てこない。


「おい絹旗、どうした?」

「あの~、七花さん…。ちょっとお願いが…」

「なんだ?」

「はい、私…実は着替えを持って来てないんですよ…で、このままだと、超汗臭いジャージを着ることになるので、私の部屋から持って来てほしいんですが…」

「ああ、わかった。今持ってくるよ」

「ありがとうございます」

七花は絹旗の着替えを持ってくるため、絹旗の病室に向かう。

すると

「おお、滝壺か。どうした?」

「せんせいが、きぬはたが着替えを持って来ていないっていうから、持ってきた」

「おお、ありがとう」

「しちかは先に行ってて、きぬはたの方は私がやっておくから」

「ありがとう。じゃあ先に行ってるぞ」






616: 2011/05/23(月) 00:30:23.12 ID:gv/m+leB0



一方、絹旗は


(うう、とんでもない事をしてしまった…。…ってあれ?何か重要なことを忘れているような…)


そうだ、壁を壊してしまった時……。鑢七花はどんな格好をしていた?


「…………~~~~~~~~~!!!!」


絹旗は言葉無く悶える。

そこへ

「きぬはた、着替え持ってきた…。きぬはた?」

滝壺理后がやって来た。


「あ、滝壺さん。超ありがとうございます!!」

絹旗がシャワー室から顔を出した。

「七花さんは?」

「先に上に戻った」

「そ、そうですか…」

「きぬはた顔が真っ赤、どうしたの?」

「いいえ、な、なんでもありません!」

「??」












620: 2011/05/23(月) 21:03:44.44 ID:gv/m+leB0


絹旗が自分の病室に着くと、机の上に朝食が置いてあった。


絹旗はベッドに座り、朝食を食べる。

しかし朝食はもう冷めてて、あまり美味しくない。


「………」

美味しくない朝食を一人寂しく、黙々と食べる。


きっと七花の病室では、七花と美琴ととがめで騒がしく朝食を食べているのだろう…。

「………寂しいな」

絹旗は、ついボソッと言ってみる。


「きぬはた?」

とそこへ滝壺がやってきた。

「あ、滝壺さん!どうしたんですか?」

「きぬはたが寂しいかなって思って…」

「ははは…」

さっきの呟きは聞こえていただろう。

(本当に優しい人なんだから…)


「あ、そうそう。さっきせんせいに言われたんだけど、ご飯食べ終わったら来てくれだって、しちかと一緒に」

「なんですか?」

「さぁ?」





621: 2011/05/23(月) 21:47:20.29 ID:gv/m+leB0





「あれ?とがめは?」

「あ、さっきリアルゲコ太に呼ばれて出て行ったわよ」


七花は部屋に着くと、そこにはしょうもない病院食を上品に食べている美琴だけがいた。


「なにか、あったんじゃない?」

「ふーん、まぁ頭脳労働はあいつの仕事だからな、俺には関係ないか…」

七花は美琴の向かいの、自分のベッドの机に置いてある朝食を食べた。

少し冷めているが、彼は食べれる物は何でも食べる。

島にいたころは、魚や兎などを自分で狩って食べていた。時には蛇も食べたこともある。


「しかし、あんたも容赦ないわね、私や絹旗さんとかの女の子を躊躇せずに蹴り飛ばすなんて…」

美琴は固い白飯をお茶で流し込む。

「いや別に俺はそんなの気にしないしな、もしお前らよりも小さいのに、俺よりも強い奴と出会ったら、そんな覚悟じゃあ俺が氏んじまう」

「そんな奴はこの世にはいないわよ」

「それはわからねぇよ」


七花は病院食のおかずをバクバクと食べる。


「………なあ、お前…ゴクッ…俺の記憶を見たんだったな。本当か?」

「………ええ本当よ」

「じゃあ訊くけどよ………」


七花は箸を置いた。



「お前から見て、俺の、とがめの人生ってのはどう見えた?」



「…………壮絶な人生ね」

「それだけか?」

「あのね、私の様な世の中なんて全くわからないガキンチョに人生論なんて訊くんじゃないわよ」

「そうか、すまなかったな」

(でも、あいつならなんていのかしら…)



622: 2011/05/23(月) 21:47:49.55 ID:gv/m+leB0

美琴は最後にデザートの青りんごゼリーを食べた。

「御馳走様でした」

と行儀よく合掌し、「着替えるから見ないでよね」と言ってカーテンを閉めた。



「………………」

黙々と、ただ飯を食べる七花。

どうやら、ここの飯は少々薄味のようだ。味がしょうもない。


七花は茶碗に米粒一つ残さず朝食を平らげた。

「御馳走様」

一番おいしかったのは青りんごゼリーだった。昼に出るかな…。


とその時、美琴がカーテンを開けて出てきた。


「どうしたんだ?その恰好」

「学校の制服よ。知らなかったっけ?今日で私は退院。もうあんた達とはおさらばよ」

「そうか、寂しくなるな」

「そ、じゃあまた会ったらよろしくね」

「ああ」

「ああそうそう、操車場の事なんだけど、全部アンタもちだからね!そこんところはわかってなさい」



そう言って美琴は病室から出て行った。


「…………なんか、もう一回出会いそうな気がするな…」

623: 2011/05/23(月) 22:07:21.39 ID:gv/m+leB0


「ふう……」

七花は息をつき、お茶を一口飲む。

(さて…絹旗との組手の続きでも行きますか)

七花はベッドから降りた。

(っと、そういえばまだ俺、寝間着のままだったな…。着物…はないんだっけ)


と、そこに絹旗がいつものフワフワとしたニットのワンピースでやって来た。

「七花さんいますか?いたら超返事してください!」

「ああ、いるよ」

「修理に出していた着物が出来ました」

「おお、ちょうどよかった」

「フレンダが超急いで持って来てくれたんですよ」

「ありがとうな」

「いえいえ、それはフレンダに言ってください。そうそう、奥の休憩室で先生が呼んでます。着替えたら来てください」

「ああ、わかった」






624: 2011/05/23(月) 22:34:57.83 ID:gv/m+leB0





「おお来たかい」

「超遅れました」


二人が休憩室に着くとそこには、冥土返し、とがめ、フレンダ、滝壺が並んで待っていた。


「おい、どうしたんだ?」

「まぁ座ってくれ。今から大事な話がある」

「?」

七花と絹旗は並んで、とがめの隣に座った。

座ると同時に、冥土返しは話を始めた。


「うん、君たちには言っておきたいことが3件ある。まず今入院している二人の件だが…」


七花と絹旗が顔を合わせる。

一体なんなのだろう?

「まず、君たちは今日で退院してもらう」

「え?」

「だって、絹旗さんの鑢くんも体の心配なんて必要ないじゃないか、病院は怪我人病人の為のものだよ?健康な人は退院するものなんだよ?」

冥土返しはそういった。確かに正論だ。だが問題が一つ、それは絹旗が言った。


「………ふと思ったんですけど、七花さんの入院代はどうなるんですか?」

そうだ、七花は今は一文無し、しかも数十億の借金を負っている。


「ああ、それなら心配しなくていい」

と、とがめが口を開いた。

「七花、そなたは私が氏んだあと、すぐに地中に埋めたんだな?」

「ああ」

「それと、私が今着ている服は私が氏んだとき着ていた物だと思うが、そうだ?」

「う~ん、とがめの服は同じ様なものばっかりだから、いまいちわからん」

「………。まぁいい、私はあの時、銃で撃たれて、その時の出血多量で氏んだ」

「ああ」

「七花よ、私の服の腹のところ……わかるか?………穴が開いておる」

「……?……!………本当だ…穴がある」

「そうだ、しかも銃で撃たれた所に穴がある。…………ということは、私は氏んだ時の状態でこの世界に来たのだ」

「ほうほう」

「それ即ち……袖には財布があるのだよ」

とがめは袖の中から花柄の可愛らしい財布を取り出す。


……………今風の、派手な、センスの悪い財布を。




626: 2011/05/23(月) 23:01:09.66 ID:gv/m+leB0

「「「「「……………………………」」」」」」

とがめの財布を見た一同は黙り込んだ。

「なんだ」

「とがめ…財布…変えたのか?」

「なんだ、悪いか?」

「いや」


「まぁいい。で、この財布の中に入っておった大判・小判を全て医者の知り合いの骨董屋と『ねっとおーくしょん』なるものに売った。それでできた金で入院代を払うという寸法だ。どうだ?なかなかの奇策だろう?」


「へ~、そのお金は結局いくらになった訳なの?」

とフレンダはとがめに訊いた。


「え~と、この世界で言うと……大体、1300万円くらいか…」


「…ぅぇ…なんで、そんなお金を持ち歩いていたの?」

「なんでって、七花が常におったからな、強盗だろうが盗賊だろうが山賊だろうが、みんなこいつが追い払っておったから、盗まれることはなかったのだよ」

「と言っても、よく宿に忘れてていたけどな」

七花が茶々を入れる。

「七花!それをいうなぁ!かっこ悪いでわないか!」

「はいはい。で、その金でその財布を買ったと」

「そうだ!いいだろう!結構高かったのだぞ!」

「いや…別に…」

七花は目を反らして答える。

そこへ、一緒に買い物に付き合っていた滝壺理后が口を挟んだ。

「正直、その財布を手に取った時は正気かと思った」

「あ、やっぱりこの世界でもとがめの趣味は異常か」

「七花ぁ!」

628: 2011/05/23(月) 23:12:08.45 ID:gv/m+leB0
すいません、遺髪の件忘れてました。

629: 2011/05/23(月) 23:29:13.37 ID:gv/m+leB0

「………ねぇ七花さん、七花さんってとがめさんの遺体を埋めるとき、遺髪をとったんでしたよね?」

「な、なにぃ!?七花、それは本当か!?」

「あ、ああ」

「お前、髪は女の命という言葉は知らんのかぁ!?」

「おい、とがめ!そんなにポカポカ叩くな!!」

「どおりでこの世界に来たとき、『あ、頭がすっきりしたな~』って思ったわ!?貴様の仕業か!!どの位切った!?どの位切った!!??」

「わかった、わかった。うるさいから静かにしてくれ。えっと、あの時、肩に届く位の長さだったから…大体これくらいか」

七花は人差し指と親指で長さを表す。


大体、15cm


「な、なぁああ!!貴様、なんてことを…なんてことをしてくれたのだぁああ!!七実に切られた時よりも短くなているじゃないかああああああああ!!!」

「しょうがないだろ……」


「ねぇ絹旗」ヒソヒソ

「なんですか、フレンダ」ヒソヒソ

「やっぱあれって、結局わざとじゃなかった訳だったんね」ヒソヒソ

「まぁ、私、最初は木村カ〇ラのマネかと超思ってたんですけど…そうじゃなっかったんですね」ヒソヒソ


630: 2011/05/24(火) 00:02:16.52 ID:dHsbPBTi0

「話が脱線したね。話を戻すよ?」

冥土返しは一つ咳払いをして言った。

「絹旗さんは自分の家があるとして、鑢くんととがめさんは、このまま病院を出たら路頭に迷うことになる。そこでだ、誰か二人をしばらく泊めてやってほしい」


「おお、それは有難い。私達はこの世界の事は右も左も知らんからな、そういう者がおれば本当に有難い」


とがめは明るい声で、助けを求めた。

しかし、

「あ、うちはパス。だって狭いもん」

「ごめんなさい。私は学生寮だから…」



「…………」

「冷たいな」



「あ、絹旗の家って。マンションだったよね?」

と、フレンダが絹旗に訊く。

「え?……ええ、確かにそうですけど…。大人二人なんて入る空間なんて…」

「絹旗、結局絹旗の部屋って何畳なの?」

「えっと……。2LKの6畳+7畳ですね」

「十分だね?」

「なんだ結局十分な訳よ」

「じゅうぶん」

「よし決まりだな」

「ああ、決まりだな」


「ちょっと、勝手に決めないでください!!」


632: 2011/05/24(火) 00:49:51.96 ID:dHsbPBTi0



「絹旗…」

七花は絹旗を見て言う。

「俺がお前のウチに行ったら…だめ…なのか?」


「(ドキッ…)…え…あの…ベ…別に…七花さんなら…いいですけど…」

「よし、いいってよ」

「へ?」

「よし、住む所は決まった所で、次のことだよ?」



「奇策士さん?あの話をよろしく」

「ああ」

とがめは話を始める。

「先日言っておった、四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本とこちらの世界の者の目撃情報を掴んだ」

とがめは写真を数枚、懐から出す。

「まずは人間の方だ。近頃、変な恰好をしている者がいるという話が『ねっと』とやらで騒がれていてな。滝壺に調べさせてもらっていたんだが………。見つかったのはこの者たちだ」

とがめは写真を七花の机に置く。

写っていたのは、


真庭鳳凰

真庭人鳥

真庭蝙蝠

真庭蝶々

真庭白鷺

真庭狂犬



真庭忍軍十二棟梁の五人だった。

「こいつらいるとなると、他の七人もいる可能性が高い。しかも、こいつらの他にも『着物を着た眠そうな男』や『傘をさした男』や『巫女装束の女』やがいるらしい」

「……あいつらか…」

七花には聞き覚えのある者ばかりだった。

「とりあえず、もう少し探りを入れてみる」

「ああ、よろしくな」





634: 2011/05/24(火) 01:21:05.48 ID:dHsbPBTi0

「次に完成形変体刀十二本の話だが…少々厄介な事になった」

「…というと?」

「今、が発見されておるのは、この三本。『千刀 鎩』『賊刀 鎧』『微刀 釵』だ」

「日和号か…厄介だな」

「今、第十九学区とやらの一角にいるそうだ。そこは幸いにも日の光の無い所でな、今は立ち入り禁止にしてあるらしい。あとの二本は発見はできたが、今はどこにあるのかは知らない」


「そうか…」


「とにかく、それも探りを入れてみる。とにかく、今は情報収集に徹する事だな」

「ああ、わかった」


635: 2011/05/24(火) 01:21:46.05 ID:dHsbPBTi0

「次に完成形変体刀十二本の話だが…少々厄介な事になった」

「…というと?」

「今、が発見されておるのは、この三本。『千刀 鎩』『賊刀 鎧』『微刀 釵』だ」

「日和号か…厄介だな」

「今、第十九学区とやらの一角にいるそうだ。そこは幸いにも日の光の無い所でな、今は立ち入り禁止にしてあるらしい。あとの二本は発見はできたが、今はどこにあるのかは知らない」


「そうか…」


「とにかく、それも探りを入れてみる。とにかく、今は情報収集に徹する事だな」

「ああ、わかった」


637: 2011/05/24(火) 01:45:32.70 ID:dHsbPBTi0

「今は敵の情報を掴むことに専念して、お前はとにかく絹旗の稽古をつけてやれ」

「…え?なんで?絹旗は関係ないだろ」

「いや、この戦いの貴重な戦力だ。奴らとの戦いで勝てる様に鍛えておけ。別にいいな?絹旗」

「ええ、こっちは別にいいですよ。むしろ超願ったり叶ったりです」

「よし、これで話はまとまったな」

「なあとがめ、3つ話があるとか言ってたけど、もう一つは何なんだ?」

「ああ、そうだった。七花よ、そなた色々と物を壊していたようだな」

「ちょっと待ってくれ、それはあっちが仕掛けてきたことで」

「つべこべ言うな。いいか七花、お前は麦野沈利が目覚めるまでの間、絹旗最愛・滝壺理后・フレンダ=セルヴェルンの組織『アイテム』と行動を共にしろ」

「それってどういう…」

「ようは麦野沈利の代わりだ」

「おい、それじゃあ……」

「安心しろ、いいか七花、これは絶好の機会だ。『アイテム』に入ることによって、変体刀や現在の所有者、真庭の者たちと戦う機会が増えるという事だ」

「………わかった」


「よし、私の話はこれだけだ」

「うむ、ありがとう。ああそうそう、絹旗さんにこれを渡しておく」

冥土返しは右ポケットから何かを取り出した。

「……カード?」

「これは地下の訓練所の鍵だよ。しばらく、あの部屋を君にあげるよ。滅多な事が無ければ使わないし。これで好きな時に鑢くんと組手をやればいい」

「あ、ありがとうございます」

絹旗は冥土返しからカードをもらった。

639: 2011/05/24(火) 01:59:32.99 ID:dHsbPBTi0


「とりあえず、今日はここで解散だよ?なにかあったら、すぐに僕に電話すること、氏んでないなら、どんな怪我や病気も治せるよ」


「――――――――――!」

七花は一瞬、姉の顔を思い出した。


「さて、僕は仕事に戻るよ?」

「じゃあ、私はさっさと帰る」

「私はむぎのの様子を見てくる」

「しょうがないけど…行きますか。七花さん、とがめさん。ウチにいきますか…」


644: 2011/05/24(火) 20:58:52.27 ID:dHsbPBTi0





「ふふふ、楽しいことになってきたわね」


ここは、上条当麻宅。

否定姫は部屋の中で、怪しげに笑っていた。


「ひていひめ、何やってるの?」

「ああインデックスちゃん、今、おねえさんは面白いものを見てるの」

否定姫の目の前には、大きな円が書かれた画用紙と、円の上に乗るように置かれた四枚の色紙があった。

その円の中には、病院で会話をする、鑢七花・奇策士とがめ・冥土返し・絹旗最愛・滝壺理后・フレンダ=セルヴェルンがいた。

「おもしろいもの?なになに!?」

インデックスは否定姫の隣に座り、円の中を喰いつくように見た。


『今は敵の情報を掴むことに専念して、お前はとにかく絹旗の稽古をつけてやれ』

『…え?なんで?絹旗は関係ないだろ』

『いや、この戦いの貴重な戦力だ。奴らとの戦いで勝てる様に鍛えておけ。別にいいな?絹旗』

『ええ、こっちは別にいいですよ。むしろ超願ったり叶ったりです』


六人の会話が流れてくる。

「……ん?ひていひめ、これって私が教えた探索魔術……。いや違う、微妙だけどパワーアップしてる。ひていひめ、もしかして…」

「ええ、インデックスちゃんに教えてもらった魔術を少しばかり工夫したわ。教えてもらった魔術は、さすがに音は拾えなかったしね」

「すごーい!素人なのにここまでできるなんて!ひていひめはもしかして天才!?」

「ふふふ、そんな大層なもんじゃないわよ…。まぁ自覚はあるけど」


「で、なにをみてたの?」

「ん~、インデックスちゃんには関係ないけど、特別に教えてあげる」

「わーい!」

「この魔術でね、私の旅の連れの行動を見てたんだけど、ちょっと面白いことがおきてねぇ~。ちょっと、高見の見学でもしようかと思ってね~」

「へ~、おもしろいことって?」

「ふふふ、それは、ヒ・ミ・ツ♪」


647: 2011/05/24(火) 22:04:54.07 ID:dHsbPBTi0


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


場所は変わって、第七学区のとある路地裏にある、バー。

ここは武装無能力者集団と呼ばれる者たちの根城だ。いや、根城の一つと言った方がいい。

そこに、三人の少年がいた。三人とも、カウンターチェアに並んで座っていた。


「なぁ、この前、チャットで色々と騒がれていた、学園都市の侵入者ってのはどうなったんだ?」

一人の少年が缶チューハイを飲みながら、隣にいた少年に訊いた。


「ああ、十七学区の操車場で何者かと交戦して敗れたらしい。でも拘束されてた留置所から協力者と一緒に脱走したらしい。しかも留置所の職員は全員行方不明になった話だ」

少年の問いに、もう一人の少年がグラスに氷とウィスキーを入れながら、軽い口ぶりで答えた。



「でも、その話題は古くなった。今じゃあ学園都市にいる伝説の剣の所有者と忍者たちってのが話題の中心だ」

少年はグラスを口にへと傾ける。

「はぁ!?なんだその中二臭がハンパないのは。今頃流行らねぇぞ、そんなマンガは」

「いや、どうやら本当にあるらしい。実際に着物を着た侍みたいな男の目撃情報があったり、他の学区のスキルアウトの奴らの何人かが、侍や忍者にのされたって話があるようだ」

「……マジかよ…」

「しかも、その剣を手に入れた者は、どんな超能力者よりの強くなれるらしい」

と言いながら、空になったグラスを置く。

「おいおい、そりゃホントの話か!?ウソだったら許さねぇぞ!!」

「ああ、しかもその剣は何本かあるらしい」

その言葉に喜び、缶を握り潰す少年。

「それほどスゲェ代物だ。これを全て手に入れたら…」

「ああ、俺達は最強だ!!」






「なぁ、そうだろ!?駒場のリーダー!!」





「………ああ、もしそのような物があったならば、是非とも手に入れたいものだ」


駒場のリーダーと呼ばれた少年は……筋肉隆々で、大きな、まるでゴリラの様な体つきだが、陰鬱な口調でコピー用紙を吐き出すような口調で応えた。

どうやらこの少年が、この武装無能力者集団のリーダーのようだ。


648: 2011/05/24(火) 22:15:47.49 ID:dHsbPBTi0


「よし、なら決まりだな。さっそく情報を集めてくる」

ウィスキーを飲んでいた少年の一人が立ち上がる。


「おお、気ぃ付けてなぁ!!」

そう言いながら、缶チューハイを飲みながら少年に手を振る。


「………今はとにかく、力を蓄えなければならない。そうしなければ俺たち無能力者は生きてはいけない…」

駒場はグラスに酒を注ぎ、グイッと一気飲みする。


「……………ってか、駒場のリーダー、あんたは何を飲んでんだ?」

「………カミュ。……………情報によるとハードボイルドな男は、カミュを飲むらしい」




スキルアウトと呼ばれる、学校に行かず、学校に行っても夜になると活動する、いわゆる不良少年少女たちだ。

しかし、一部の無能力者は違う。


何らかの事情で武装し、能力者に対抗しようとする集団だ。


そして、第七学区を統べる武装無能力者集団の中心人物は三人いる。

まずはリーダーの駒場利徳。彼は襲撃の指揮を担当。

次にウィスキーを飲んでいた、半蔵。彼は作戦計画担当である。

そしてチューハイを飲んでいたのは、浜面仕上。彼は車やバスなどの移動手段の確保担当だ。


彼らは、無能力者狩りから無能力者を守る為に行動している。


649: 2011/05/24(火) 23:01:49.25 ID:dHsbPBTi0


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

所代わって、とあるホテル最上階のスウィートルーム。


窓を背負う恰好で、ソファに座っている影が一つ。


はぁ…と溜息をつく。

別に不幸ことがあったような溜息じゃないし、困ったことがあったわけでもない。


まるで、なにかに見惚れているような溜息。


「ああ、本当にいい拾い物をしたわ」


そしてまた、溜息をした。

「計画が始まる前に、こんなものが急に出て来てくれるなんて……」



彼女は十代後半の高校生ほどの女の子だ


彼女がなぜ高校生だとわかるかいうと、彼女の恰好は学校のブレザーだ。胸についている校章を見ると霧が丘女学院の生徒だとわかる。

しかし、その制服の着方が普通のそれと違う。

上半身は、桃色の布で胸を隠して、その上にブレザーを肩に引っ掛けるような着方をしている。

校則に厳しい先生が来たら飛んできて、説教でも始めてしまうような、そんな恰好だった。


「ああ、本っ当についてる!!まるでサンタクロースがちょっと早いクリスマスプレゼントを私にくれたみたい!!」



彼女は両手をあげ、全身で喜びを表現する。

しかし、彼女の眼だけは違った。

まるで獣の様な、爛々とした眼だった。

その眼で下に置いてある“拾ってきた物”を見た。



それは刀だった。

一本じゃない。

だからって二本でもない

三本でもない。





千本の刀が床に山積みにされていた。





女子高生はそれを見て笑う。



彼女の名は、結標淡希。

学園都市最強クラスの空間移動能力者である。


彼女は数日後、ある計画を実行する。

651: 2011/05/24(火) 23:28:43.29 ID:dHsbPBTi0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

また場所が変わって、とある窓の無いビルの中…。


「アレイスター、今の状況がわかっているのか?」


そこには、少年が一人。

恰好は学校の制服のズボンにアロハシャツ。

首に金のネックレスに、目にサングラス姿の少年。


土御門元春が、部屋の長い筒に問いかけていた。


いや、厳密には“筒に”じゃない。“筒の中にいる人物”に問いかけていた。


筒の中には、人が入っていた。

髪は長く、色の抜けた銀色の髪、男性にも女性にも、子供にも大人にも、聖人にも罪人にも見える奇妙な人物が、筒の中で逆様になって入っていた。


「ああ、わかっているとも」


アレイスターと呼ばれた人物は、土御門の問いに軽く答えた。


「どう見ても、そのようには見えないのだが

「いや、わかっているとも。今回のはとても興味深い」

「そういう事を言っている場合か!」

「……」

「いいか、こんなものがこの街の至る所に散らばってんだ。いずれこの街は混乱するだろうし、氏人もでる。実際、十九学区では何人かが斬り殺された」

「氏人の一人や二人、この街では日常茶飯事だろう」

「テメェ………!・・・・・…………まぁいい、いずれ困るのはお前だからな。俺は俺のやり方で、あんな物騒なモンを回収する」

「好きにしたまえ」


そうして、同伴の空間移動能力者を引き連れて、土御門はこの部屋から出て行った。



そして、一人になったアレイスターはボソリと呟いた。

「………………本当に面白いことになってきた」

とても楽しそうに…。

652: 2011/05/24(火) 23:44:48.14 ID:dHsbPBTi0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

そして、とある研究室。

「ははははは!!」

一人の男が大声で笑っていた。

「面白れぇ!!面白すぎるぜ、あんた!!」

男、木原数多は笑っていた。


木原は誰かと喋っているようだ。

しかし研究室には木原しかいない。

一体誰と?


「そうだろう?なかなかだろう?」

誰かが答えた。


誰が?子の声は誰の声だ?どこにいる?


「しかし、学園都市の科学は世界一と思っていたが、まさかそんな法則があったなんてなぁあ!!」

木原が“誰か”に問う。

「いや、ここの“科学”とやらは面白ぇ。お前らの頭なかなか飛んでんだなぁ!?」

「はは、お前にだけは言われたくねぇな!!」


「ははははははは…」

「ははははははは…」



この部屋には木原以外、誰もいない。

もう一度言おう、木原以外誰もいない。


もし今、他に第三者がいたとすると、彼はとても気持ち悪い顔をするだろう。




なぜなら、木原数多は一人で喋っているのだから。




「っははは、いやぁ本当に、あんたとは美味い酒が飲めそうだぜぇ。四季崎さんよぉお!!」

「いや、お前とは怖くて酒が飲めんわ」

「ははは、そりゃ確かにそうだ!!」


木原の右手には、毒刀 鍍が握られていた。


655: 2011/05/24(火) 23:59:59.65 ID:dHsbPBTi0


木原は毒刀を上に掲げ、まじまじと見る

「しかし、この刀は本当に面白れぇな!こんなのがあと十一本もあんのかよ!!」

「ああ、試しに集めてみるか?」

「おお、そりゃあいい!!他にどんな刀があるんだ!?」

「おいおい、なんな為にお前の精神を乗っ取らずに、わざわざ共有させると思ってんのか!?お前の記憶を俺が読める様に、お前も俺の記憶を読める様にする為だぜ!?俺にゃ、お前が必要だからよ!!」


「おお、そうだったか……。ほう…ほう…。こりゃたまげたぜ!こんなもんあるってんなら、集めなくっちゃならなくなるじゃねーか!!」


「ふふん、俺の人生を賭けて打った刀を気に入ってもらったなら、それで十分だよ」

「いや、好きだよ?そういうの。いやはや…一刻も早く拝めたいねぇ。イチ科学者として」


その時、木原の携帯が鳴った。

「ん…もしもし?……ああ、アレイスターか………………………リョーカーイ」

木原は幾つか話した後、電話を切った。


「喜べ四季崎!!お上の許可も取れたぞ!!これで思う存分暴れられるぜぇ!!」

「おお、おめでとう。兄弟!」


「はっはぁ!楽しくなってきやがったぜぇえ!!」



656: 2011/05/25(水) 00:17:41.73 ID:C48sDT5g0

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


そして、上条当麻宅。


「ふふふふふ……あはははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!」


「うおぉ!!?」


否定姫はいきなり大笑いし始め、床に転がり、腹を抱えている。

突然の事で、学校の宿題をしていた上条当麻はビックリして飛び上がった。


「なんだ!?人が宿題をしている間ぐらいは静かにしてくれ!」

「ははははは!!………ヒー…ヒー…。ふぅ…黙ってなさい変態」

「な…なんだとぅ!?」

「息をするな覗き魔」

「あれは不可抗力だ…」

「露出狂」

「あれは、あんたがパンツをズリ落としたからだろ!!」

「インデックスちゃんはどう思うかな~」

「ああ、やめてくれ~!!」


因みにインデックスは小萌先生のマンションにいる。焼肉パーティだそうだ。


「わるかった。俺がわるかった」

「ならよろしい」

「で、なにがあったんだ?」

「アンタには関係ないでしょう」

ピシャリと一蹴。

「ッぐ…(耐えろ…耐えろ…耐えるんだ上条当麻。我慢だ。さもないとインデックスに嫌われちまう…)」

「アンタは黙って私の世話だけやってればいいの。わかる?ゴミクズ」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」

上条は顔を真っ赤にして睨む。

「インデックスちゃんはどう思うかなぁ~!」

「すいませんでした(涙)」

「よろしい」

上条は目に涙を浮かべ、宿題に向かう。



そして否定姫は、画用紙に書かれた円の中を見る。

そこには爆笑している、木原数多がいた。

(にしても、本当に面白くなってきたわね……。本当にこの世界は面白いわ…。ふふふ…)

662: 2011/05/25(水) 18:02:24.11 ID:C48sDT5g0

浜面仕上日記 七月二十日


今日から夏休みだ。

まぁ俺らからすればカンケーのない話なんだか、あちこちにイチャイチャしてるバカップルどもがウザったくてしょうがない。


腹いせに、女を二、三人つれた、チャラチャラしたバカみたいなカッコウをした奴のエキゾチックカーのタイヤを全てスぺヤタイヤにした。


小さいことだってことはわかっている。

だってケンカ強そうだったもん。





浜面仕上日記 八月一日


今日から八月だ。

街に出て、次にパクるクルマをえらんでいた。

このごろ街でるのがこらい。

そこらへんじゅうにバカップル共がイチャイチャしてるからだ。

ウゼー、ホントにウゼーんだよアイツらは、このクソ熱ッチィのにイッチャイッチャしやっがて、

熱苦しいんだよ。はなれろ、メッチャはら立つ、メッチャイライラする。







浜面仕上日記 八月七日

今日はあまりにもヒマだから、街をでた。

あいかわらずバカップルどもはイチャイチャしてる。


イライラていると、ぐうぜん、あるものと出会った。


そう、オレたちモテない男たちのオワシス。



『買い取りまっくす』




がくえんとしにもあったなんて…。


今週末にも行こうと思う。


663: 2011/05/25(水) 18:32:39.53 ID:C48sDT5g0

浜面仕上日記 八月十七日

この前、買い取りまっくすに行こうとしたが、あいにく仕事が入り、行けなかった。

しかし今日は行ける。

ルンルンとスキップしながら店内に入った。


買ったDVDは、

いつもイチャイチャしてやがるバカップルどもに、日ごろの恨みを込めて、

彼氏の目の前でキモイ男どもに犯されるという、なかなかコアな内容な物をはじめとする、数々のお宝ものを買った。


凌辱・束縛・強姦・輪姦・近親相O………


日ごろから、他のスキルアウトのメンバーにも借してやっているオレはたくさんDVDを買う。

そろそろ浜面コレクションもダンボール3つぶんとなったと思う。

しかし、オレはぜったいにお宝を捨てない。売るなんてことは同語両短!

大切に補完しておくのが、オレのポリシーだ。


そして返りに、クスリのアオキでティッシュを大漁に買って返った。








浜面仕上日記 八月二十七日

今日は先日買ったDVDを半ぞうにかした。


アジトでは、こま場のリーダがマンガを読んでいた。

題名は『ヒートガイジェイ』ってマンガだった。

リーダーから少しかりて、よんでみたが、ハードボイルドなマンガだった。

オレは昔からヒーローものしかよまない。

きょうみがなかったから、すぐにかえした。

664: 2011/05/25(水) 18:50:03.22 ID:C48sDT5g0

浜面仕上日記 八月二十八日

昨日からなんだか、こま場のリーダーのようすがおかしい。

言っていることや、やっていることが、強引ににかっこつけようとしているようにみえる。

きっと昨日のマンガのえいきょうだろう。

いしきてきにセリフをかっこよくしている


でも、すべってばっかりだった。


リーダーはなみだ目だった。





浜面仕上日記 八月三一日

今日で夏休みはおわりだ。

まぁオレたちにとっちゃあカンケーネー話だが。


今日は日記張をいつものバーにわすれてきた。

すぐに鳥に返った。

バーには、こま場のリーダーと半ぞうがいた。

2人はかなしそうな目でオレを見て、なにも言わずに方をたたき。出て言った。

なにがなんだかわからないが、まぁいいだろう。





浜面仕上日記 九月一日

今日から新楽器だ。

でもまぁ、いつものようにオレ達にはかんけいのないはなしだが…。

いつものバーに行くと、こま場のリーダーと半ぞうがオレに本をわたしてきた。

マンガか!?とおもったがちがった。

半ぞうは家に返ってからよめと言われたので、家に返ってからさっそく、本のつつみ紙をやぶいた。

その本のひょうしは、


『バカでもわかる、小1からの漢字』


だった。


いっしょにてがみも入っていた。

『お前の国語能力の低さにはビックリした。俺と半蔵の二人で買ってきたこれで、勉強してくれ。頼む 駒場利徳』

…………。

オレは日記をさいしょっから見なおした。

ところどころ、赤ペンでてんさくされている。

でも、てんさくされているのはさいしょの方だけだった。





終わり

668: 2011/05/25(水) 21:22:26.88 ID:C48sDT5g0

「さあ、着きましたよ。これが私の家です」

絹旗最愛はとあるアパートの一室のドアを開けながら言った。

彼女の後ろには、鑢七花と奇策士とがめが付いて来ていた。

「超狭いけど、自分の家みたいに思ってもらっても結構です。………でも汚したらダメですよ?」

「ああ、わかっておる」

とがめが応える。

「ここがリビング、トイレと風呂場がそこを右に、七花さんは奥の方の部屋です。私ととがめさんはその隣の部屋にいますんで、超用事があったら呼んでください」

「ああ、ありがとう」

今度は七花が応えた。

「……………ん?ちょっとまて、なんで七花と私が別々の部屋で寝なくてはならないのだ!?」

とがめが絹旗に抗議する。

「別に問題ないでしょ?まさか、年頃の女の子がいる隣の部屋で、何か超厭らしい事でもするんですか?」

「…なっ、そんな訳が無かろう///!!」

「ならいいですね!………七花さんもいいですよね」

「ああ、いいぞ」

「七花!」

「別にいいだろう?絹旗は信頼できる奴だし、誰かが襲ってきても、隣の部屋に俺がいるんだ、問題ない」

「そ、それはそうだがな……」

「決りですね(…………よし、これで今朝のようなシチュエーションは無くなった。超でかした私!」

絹旗は心の中でガッツポーズをとる。




絹旗は、ふと思い出したように冷蔵庫を開ける。

「うっわ…腐ってる…。七花さん、とがめさん、今から私は今日の昼食と夕食の食材を買ってきますんで、ここで休んでいてください」

絹旗は七花ととがめにそう言った。

「ああ、気ぃ付けてな!!」

と七花が絹旗に向かって大声で言った。

「……はいっ!」

絹旗は満面の笑みで応え、部屋の鍵を閉め、出て行った。


669: 2011/05/25(水) 22:05:13.00 ID:C48sDT5g0

「…………絹旗の奴、私に冷たくないか……!?」

「そうか?」

「ああ、そうだ。なぜなんなに毛嫌いをするのだ?意味が分からん…」

「まぁいいじゃねぇか。住む所と食べるものをくれるっていうんだからよ。ありがてぇじゃねぇか」

「……それはそうだが…」









―――――――――――――とあるスーパー

「~♪~♪」

絹旗は鼻歌混じりで、スーパーで買い物をしていた。


(今日のご飯は和食にしましょう、何がいいかな……。お、カボチャが超安いです)

と、カボチャを籠にいれる。


(しかし、今後の進展が超気になります…。確かに情報収集は大事ですが、一刻も超早く行動に移すべきじゃないかとおもうんですけど…)


と、今後の事について考えながら、棚にあったジャガイモとネギをそれぞれ四つずつ籠に入れる。


(とがめさんのいう事はイマイチ信用ならないんですが、七花さん達は刀や敵の事は超熟知してるから心配はないですが……)


続いて、ニンジン、タマネギ、ホウレンソウ、鶏肉・牛乳・ヨーグルト・食パン・コーンフレークをポイポイッと籠に入れる。


(………もし、刀が強い人に渡ったら……、例えば学園都市最強の七人の内、誰かが刀を手にしたら……)


七花の話を思い出す。

例の十二本の刀には“毒”というものがあるらしい。

人を斬りたくて斬りたくてしょうがなくなるとか…。


刀の中でも、毒刀 鍍は一番毒が強く。持っただけでも狂人廃人にしてしまうらしい。

現に麦野はその刀を持ってしまい、今は眠っている。


(麦野みたいな人が出てくる前に、氏人が出ないように、超一刻でも早く刀を集めないと…)








670: 2011/05/25(水) 22:52:49.17 ID:C48sDT5g0

絹旗はは急いで、走り出そうとした。

と、その時。

「…………ん…?」

不審な人物を見かけた。

「………」

金髪の男だ。

男は路上に止めてあった高級スポーツカーのドアの部分にへばり付き座っている男がいた。


絹旗は男の後ろに回る。

「………ういしょ……もう少し……クソ……」

男は鍵穴に針金を差し込み、ドアを開けようとしている。

車上狙いのようだ。


「…………はぁ…」

絹旗は溜め息をついた。

しょうがない、止めてやろう。

気紛れだったが、彼女に妙な正義感が湧いてきた。


「………何やってるんですか?」

「!!」

男はビックリして飛び跳ねる。

「な…なんだ、おまえ」

「それはこっちの台詞です。何やってるんですか?車上狙いですか?」

「……な、こ、これは…」

「車上狙いですか、そうですか。超犯罪者ですね」

「う、うるさい!!」



671: 2011/05/25(水) 23:04:46.92 ID:C48sDT5g0

男の頭は茶髪で、鼻にはピアスが開けられていた。見た目から、高校生くらいか。

「恰好から見ると、どうやらスキルアウトのようですね」

「そ、それがどうしたってんだ!?」

「いや、超情けなくって。無能力者の犯罪組織の奴に犯罪を止めようとした自分が」

「…な……テメェ…!!」

男は絹旗に殴りかかろうとした。


しかし、

「おーい浜面ぁ!アシは確保できたかぁ!?」

「うおっ、やべっ忘れてた!!……今はテメェに構っている暇はねーんだ!」

「はいはい、それではまた」

絹旗はそこから去って行った。



「……超無駄な時間を過ごしてしまいました。急がないと」







「…………ックッソ…」

「おい、まだか!?早くしないと追手が来ちまう!!」

「わーってるよ。ちょっと待ってろ半蔵!!………よし、出来た!!乗れ!!」

「よし来た!」


二人は、浜面仕上と半蔵はスポーツカーに乗り込み、猛スピードで逃げて行った。

672: 2011/05/25(水) 23:32:47.42 ID:C48sDT5g0



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


駒場利徳が率いるスキルアウトの隠れ家であるバー。

そこに駒場利徳がいた。

彼はバーカウンターでグラスを傾けている。



その後ろのには、ざっと百人弱の少年少女たちが顔を並べていた。

彼らは静かに、ある者たちとある物の到着を待っていた。


すると、バァン!!と勢いよくドアが開けられる音が響いた。

「今戻った!!」

「た、たすかったぜぇえ!!」


浜面仕上と半蔵の二人だ。

半蔵の手には、長い筒の様な物を布で包んだ物が握られていた。


「おお、浜面さんだ…」「半蔵おかえり」「良く帰ってきたな」…………。

と、駒場の後ろにいる百人の少年少女たちは二人が帰ってきたことに安堵した。


しかし、駒場は眉一つ動かさずに言った。

「………例の物は?」

「ああ、勿論!!」

駒場の問いに半蔵は、嬉しそうに答える。

半蔵は手に持っていた物の布を剥いだ。布に入ってたのは筒だった。

そして筒を閉じていた蓋を開け、中に入っていた物を取り出す。



「とりあえず、一本だ!!」


半蔵は物を駒場に見せつける様に前に出す。






半蔵の手には

四季崎記紀が造りし完成形変体刀十二本が一本。



『絶刀 鉋』が握られていた。







673: 2011/05/25(水) 23:56:27.78 ID:C48sDT5g0

「おお、」「ナイスッ!」「よくやった!」……とバックが称える。



「まったく、大変だったんだぜ?この刀が別のスキルアウトが持っていて、それを奪いに行くなんて。本当に無茶な仕事だったぜ」

「いいじゃねー浜面。こうやって生きて帰れたんだし」

「まぁそうか。ははははは」

笑いあう二人。


「で、そっちはどうだったんだ?駒場のリーダー」

と、浜面は駒場に訊く。


「………ああ、作戦通り上手くいった。問題ない」

駒場は親指で後ろを指した。

「………こちらも、上手く手に入った」





駒場が指さす方には、刀があった。


しかし、刀とは違う。


「おいおい、これだ刀だって?冗談じゃねぇよ」

浜面が駒場に文句を言う。

「………いや、これは刀だ。実際にこれの部品のつなぎ目には鋭利な刃がついている。一見はただの趣味の悪いガラクタなのだがな。立派な刀だ」

駒場は立ち上がり、その“刀”とやらに近き、それを撫でた。



その刀は大きな体格の駒場と同じ位の大きさのドデカい“刀”だった。

そしてその刀は確かに“刀”なのだが、“刀”とは違う。

一般の者が思う“刀”とは全く違う、むしろ正反対の位置に存在するもの。



それは“鎧”


そう、その“刀”とは…。






『賊刀 鎧』だった。






676: 2011/05/26(木) 00:30:28.44 ID:jPLDsCYt0


「………ここに、二本の刀が集まった」

駒場は浜面と半蔵をはじめとする、自分の仲間に振り向いた。


「………半蔵、情報ではこのような刀はあと何本ある?」

「俺がわかっているのは、あと二本。まず一本は結標淡希っていう、空間移動系最強クラスの大能力者が持っている。次の一本は十九学区にある。これは危険だそうだから、後回しだ」

「………そうか。どちらかを取っても、俺たちには危険だな…。しょうがない、とりあえずこの二本で動くか。………半蔵は今後も刀の情報を探ってくれ」

「ああ、わかった」


「なぁ半蔵、試しにその刀で試し斬りしようぜ!」

と浜面が半蔵に言った。

「そうだな、やってみるか。……じゃあ、その空き缶をこっちに投げてくれ」

「わかった、ほれ」

浜面は空き缶を半蔵に向かって投げる。

それを半蔵は、剣道の面の様にたった斬る。



空き缶はスパァン!と軽く真っ二つになった。


「おおお…」

「なんちゅー斬れ味だよ…」


感動する二人。



「なぁ駒場、この刀、俺がもらっていいか?」

と半蔵が言った。


「………ああ、別に構わんが」

「おい半蔵、お前ってそんな派手なモンは嫌いじゃなかったっけ?」

「いいだろ別に、そんなもん、俺の勝手だ」

と半蔵は“刀”をまじまじと見る。

と、その時。

「……………………『絶刀 鉋』……」

「なんだ?半蔵」

「いや、この刀の名前だよ、急に頭に浮かんできた。……うん、この刀は『絶刀 鉋』だ」

「変な名前だな」

「うるせぇ。……………で、そっちの鎧は誰が着るんだ?」

677: 2011/05/26(木) 00:52:22.38 ID:jPLDsCYt0
「……………俺が着よう。この中では、俺しか着れないからな」

駒場は鎧を見て答える。

「ああ、リーダーであるアンタが着るべきだ」

半蔵は『絶刀 鉋』を筒の中に入れる。

「とりあえず、着てみなよ」

「…………そうするか」

駒場は鎧を着始めた。


「………むぅ…いささか重いな…」

重い鎧を何とか着終わり、感触を確かめるように手をグッパグッパしてみる。


「…………うむぅ、意外と着心地がいいな。しかも着ていた時の重さが嘘のように感じない」

ピョンピョンと……いや、ガシャンガシャンと飛んでみる。



「…………気に入った。これはいい」

駒場の表情はわからないが、声は少し弾んでいるように感じた。


「…………半蔵」

「なんだ?」

「…………お前の気持ちがわかったぞ、なるほど、これは面白い。…………賊刀………そうか、『賊刀 鎧』だ。この刀の名前は『賊刀 鎧』だ。

「そのまんまだな」

と浜面は茶々を入れる。



とその時




「駒場さん!大変です!!鎧の方を持っていた奴らがこっちに来てます!!みんなマシンガンとかミサイルとか持って来てきてやがる!!」


「…………そうか……。みんなは裏門から撤収。浜面班と半蔵班の二手に分れて逃げろ」

「おい、駒場のリーダー!あんたは!?」

浜面は駒場に問う。

「俺はみんなの足止めをする」


「駒場さん!」「駒場のリーダー!!」「リーダー!」「リーダー!?」

バックのメンバーが心配する声がバーの中で響く。




「………おいおい、合唱するなら、そんな寂しそうな歌にするな。せめて歌うなら、俺も含めて、みんなで楽しい歌を歌おうじゃないか」


そう言い残して、駒場利徳はバーを後にした。

仲間を助ける為に。

678: 2011/05/26(木) 00:59:52.80 ID:jPLDsCYt0




今日はここまでです。

最後の駒場のリーダーのハードボイルド(?)っぽくしてみました。

どうだったでしょうか…。



絹旗といい、浜面といい、七花といい、とがめといい、

主要キャラのキャラが変わって行ったり、口調が安定しなかったり、

しかも地の文もワンパターンと来た。

大変読み難いと思いますが、そこは目を瞑ってください。



あと、上条当麻日記に続き、浜面仕上日記を投下しました。


感想を言ってくれると嬉しいです。(ソフトにお願いします)


では、また明日。

691: 2011/05/26(木) 15:58:02.31 ID:jPLDsCYt0


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


九月十三日 鑢七花がこの世界に来て、数日過ぎた。


ここ、第七学区の病院の中の訓練所で、ドゴォォォオオン!!と、何かがぶつかったような轟音が響く。



虚刀流七代目当主 鑢七花は、学園都市の大能力者で、暗部組織『アイテム』の構成員 絹旗最愛と組手をしていた。


さっきの轟音は七花が絹旗を掌底で吹っ飛ばした音だ。



「おーい、大丈夫か?」

七花は絹旗に話しかける。


「イテテテテ、超大丈夫です。超惜しかったです、もう少しで一本取りそうだったのに……」

絹旗はクラクラする頭を抑えて、立ち上がる。

「ああ、確かにさっきのは危なかった。でも、俺はお前を吹っ飛ばしたぜ?ほら来いよ」

七花はニヤニヤと笑いながら、絹旗を挑発する。

「……あとで油断したなんて言わないでください!!」

絹旗は猛ダッシュで七花にへと駆ける。

しばらくは絹旗も七花と応戦していたが、

やはり吹っ飛ばされる。


「あああああああ、もう!惜しいいい!!」

「ははは!」

「もう一丁!!」

「おお、来い!!」


ガッガガガガガガ!!ドゴォ!!ヒュン!ドゴォォォォオオオン・・・・・…!!











692: 2011/05/26(木) 16:37:18.06 ID:jPLDsCYt0


「しかしまぁ、良く続くものだな」

訓練所の隅のベンチに、奇策士とがめが座って、彼らの組手を見学していた。


「いや、全ては君のおかげだよ?」

「おお、来ておったのか」

後ろから、冥土返しがやって来た。

「君のおかげで、彼女の『強くなりたい』という願いが叶うかもしれない」

「いやいや、私は提案しただけで、行っているのは絹旗本人だ。私は何もやってなどおらぬ」


そうだ、初日の絹旗は酷かった。七花にボコボコにされていたのだ。

夕方には終わったが、七花がボロ雑巾になって気を失った絹旗を負ぶって帰る始末。

その次の日もそのような感じだった。

掌底を喰らえば吹っ飛び。

腹を蹴られればゲロを吐き。

頭を叩かれれば気を失う。

そんな日々が三日ほど続いた。


「しかし、君も考えたものだねぇ?これが奇策って奴かい?」

冥土返しは感心したように、向こうの組手を見ている。

「何が言いたい?」

とがめはニヤニヤとにやける。


「ははは、そう隠さないでいいよ?わかってて提案したんだろう?」

冥土返しは楽しそうに言う。




「あれが、奇策士流の脳開発かい?」




とがめは彼の言葉を聞いて、

「ははははははははは!!気付いておったか!!そうかそうか!」

楽しそうに笑った。

「そうだ、聞いたところによると、この学園都市は“超能力”という、摩訶不思議な力を、子供の頭の中の脳を弄ることで発生させておる」

「弄るなんて聞き捨てならないね?せめて『開発』と言ってほしいね?」

「大して変わらんだろう?しかし、それでは限界がある」

「そうだ、現に全く能力が発生しない…というのは本当に稀だが、本当に小さくて役に立たない位の能力しか出せない子達が六割もいる。そして能力者の頂点の超能力者は七人しかいない」

「うむ、どうやらこの街は、『どう脳を開発すればレベルがあがるか…』しか考えておらぬようだ」

693: 2011/05/26(木) 17:28:22.62 ID:jPLDsCYt0

「そこでだ、『私は脳をどう弄るか能力が強くなるか』ではなく、『脳以外をどう鍛えれば強くなるか』と考えたのだ」

とがめは腕組みをして、自慢げに語る。

「私は『彼女の脳の伸びしろはもうない』と踏んだ。しかしそれは『脳を弄って能力を伸ばす方法』での話だ。私はそういう方向とは真逆の『戦闘で強制的に能力を伸ばす方法』を提案した。絹旗は今まで、戦闘での本当の命の危険にされされたことがない。そこで七花が絹旗と戦い、ボコボコにされ続けることで、絹旗の中で眠っていた潜在能力を恐怖心とそれに回避しようとする、人間が元々持っている本能で抉じ開けようと考えたのだ」


向こうでは、絹旗が七花の踵落としを喰らっていた。


「本来、彼女は『戦って成長する人間』だ。それを学園都市の『机に向かっただけで成長する方法』での“脳開発”だけでは完全に成長できん」

「しかし、絹旗さんは日ごろから頃し合いばかりしている、暗部の人間だよ?なんで今まで成長できなかったんだい?」

「それは恐らく、今まで自分より強い相手と対峙してこなかったからだろう。しかもその頃し合いとやらは短期決戦ですぐに片が着く。これじゃあ成長できん。……………って、わかっていて質問するなっ!」

「ああ、ごめんごめん。ようは、鑢くんと長時間戦わせて、生命の危険による成長で、絹旗さんの超能力と戦闘能力を上げさせるんだろ?」

「ああ、そういう事だ。実際に、もうその兆しは見えて来ておる。例えば、最初は七花の動きにまったく着いていけなかったが、もうそれについて来ておる。また、体を包んでいた窒素の量が多くなってきておるし、質も高くなってきておる。以前は七花の掌底をモロに喰らっていては気絶しておったのに、今じゃあピンピンしておる」


そして…ととがめは絹旗を指さした。


「絹旗は能力を工夫して使っとる。以前より足が速くなっておるだろう?それは、ただ足が速くなってきたということもあるが、殆どは足の裏に窒素を集めて、地面を蹴る力を強くしておる。そうすれば七花の異常な移動速度にも対応できる。むしろ七花を追い込む場面も出てきた。いずれは七花が絹旗に殴り飛ばされる場面も見れるかもしれん」

とがめは鼻息を荒くして語る。

「なるほど…。しかし絹旗さんとは面識が短いのに、よくそこまで彼女の性格を把握できたね?」

「ふん、私を誰だと思っておる。奇策士だぞ?頭が良くて機転が良く、人間を見る目が無いわけがなかろう」


とがめは、がっはははははぁ!!と古いアニメの悪役よろしく高笑いする。



694: 2011/05/26(木) 18:34:35.60 ID:jPLDsCYt0

「まぁ、あんな無茶な稽古…いや修行と言うべきか、そんなのが出来るのは、絹旗の才能があるからだよ。普通の人間なら、とっくの昔に氏んでおる」

「まぁ、そうなるだろうね?………あ、そうそう」

と、冥土返しが何かを思い出したようだ。


「君たちが言っていた、『賊刀 鎧』と『千刀 鎩』の話…聞いたかい?」

「ああ、『千刀 鎩』は結標淡希という大能力者が持っており、『賊刀 鎧』は駒場利徳という『武装無能力者組織』とやらの頭が持っておるらしいな。しかもその組織には『絶刀 鉋』もあるそうな。滝壺から聞いたよ」

「ああ、それがね?結標淡希が動き出したそうなんだよ」

「なに?」

冥土返しは胸ポケットから一枚の紙を取り出し、それの内容を見ながら言った。

「以前、『樹形図の設計者』という、学園都市最高の演算機器なんだけどね?それが何者かに破壊されてしまったんだけど、その残骸を集めようとしているようなんだよ」

「そうか……。それは恰好の機会だな」


とがめはスクッと立ち上がり、殴りあっている七花と絹旗に向かって叫んだ。


「七花!!絹旗!!一旦、終了だ!!こっちに来い!!」




「あ?」

「なんでしょうか?」

とがめの声は彼らに聞こえてたようだ。二人は走ってとがめへと向かってくる。


「なんだよとがめ、折角いいとこだったのに…」

七花と絹旗はとがめの目の前に来た。

「この前言っていた『千刀 鎩』の所有者である結標淡希が動き出した。そこで今夜、私達は彼女が持っている変体刀を奪うぞ」

「おい、なんで今じゃないんだ?」

と七花が訊く。

「きっと昼間はあちらはあちらで戦いを始めるだろう。そうすれば戦闘を見れば結標の戦い方もわかるし、戦力もいくつか落ちているだろう」

「ああ、なるほど」

七花は納得したように、拳を手の中でポンッと叩く。


「とにかく、七花と絹旗は休んでおけ。日が沈んだら動くぞ!!」


698: 2011/05/26(木) 20:55:38.16 ID:jPLDsCYt0
さて、夕方の続きです。

699: 2011/05/26(木) 21:39:26.94 ID:jPLDsCYt0

――――――――――――――――――――――――――――――――

九月十四日‐夕方。

見事な夕日が学園都市を包む。

明日は晴れだろう。


しかし、二人の少女がいる、この路地裏はそんなことなど関係なかった。



結標淡希はある者と対峙していた。

白井黒子。風紀委員第一七七支部に所属している、常盤台中学一年の大能力者。

十数日前、虚刀流七代目当主 鑢七花と戦い、負けている。


「…………大人しくそのケースをこっちに渡しなさい」


黒子の右肩にはワインのコルク抜きが、左脇腹にはダーツが、それぞれ痛々しく刺さっていた。

黒子の表情は痛みで歪む、額には脂汗がにじんでいる。

しかしその痛々しい体とは逆に眼は、鋭い。

その視線で、キャリーケースの上に座る、結標を睨む。



「ふふ、あなたには何を言ってもしょうがないのね……」

結標は、黒子の台詞に呆れ返っていた。

「あなたはあの女に利用されいているだけってなんで気づかないの?」

「…………お姉さまは、そんな方ではありません」

「ふん、あなたは大層その“お姉さま”にご執心なのね。いいわ、頃してあげる♪」


その時、白井黒子は気付いた。

結標淡希は肩に何か担いでいる。

「………?」

「ふふ♪これが気になる?」

結標は肩に担いでいるものを黒子に見せた。


700: 2011/05/26(木) 22:13:56.31 ID:jPLDsCYt0

それは、野球のバットケースの様な……一つで十本ぐらい入る物だ。

そのケースは野球のそれの三倍の大きさがあった。

チャックで蓋を閉められたそれを、結標は自慢げに黒子に見せびらかす。

「なんなのですか…?それは。ケースだけじゃ、わかりません………」

「ふふふ、そう焦らないの。いいわ、見せてあげる♪」

結標のテンションがさっきから妙に高い。

そのテンションに、黒子はついていけなかった。

「~~♪」

結標は鼻歌を歌いながら、チャックを開ける。


「……それは!?」

「ふふふ、さすが風紀委員さんね、これの噂は聞いている様ね」


ケースの中には、『千刀 鎩』が三十本ほど入っていた。


「そうよ、これがあの“刀”よ」

結標はその『鎩』の一本をケースから取り出し、抜いて見せた。

「あなたも聞いたことがあるでしょ?今、学園都市じゃ、謎の人物と一緒に、謎の刀が現れてた…って言うのを」

「あ、あんなの…ただの噂ですわ!?刀を持っただけで、超能力者や大能力者よりの強くなれる筈がありません!!……ッ痛っ」

「あんまり大きな声をださないの、傷口開いちゃうわよ?」

結標は『鎩』の刀身をうっとりと見つめる。

「……第一、あなたが喧嘩を売って、カッコ悪くボロ負けした、鑢七花はどうなのよ。彼の名前、書庫には無かったそうね。あなた、能力者じゃないどころか、学園都市の人間でもない人間に、オシッコチビって敗けちゃったのよ?かっこ悪くってありゃしないわ」

「…………くっ」

「悔しそうな目で見ないの。あ~怖い怖い。良かったわねぇ、『お姉さま』に尻拭いしてもらって」

「あなた……もう許しませんわ…。こんな屈辱は初めてです…」

黒子は顔を真っ赤にして、目を限界にまで見開き、結標を睨む。彼女のツインテールの髪を逆立たせて叫ぶ。

「氏ねぇええええええええええええええええええええええええ!!!!」

黒子は結標に特攻していく。

手にはダーツが握られていた。

ブゥンッ!!と黒子は拳を振るう。

しかし、結標はそこにはもうおらず、黒子の拳は空振りした。

黒子はその反動で、盛大に転んだ。


701: 2011/05/26(木) 22:42:29.01 ID:jPLDsCYt0

「あっははははは!!流石は風紀員様、気迫の籠った拳ですこと。あははははははは!!」

結標は足をバタバタさせながら笑う。いや、哂うと言った方が正しい。

「しかし、一年前までランドセルを担いでいた小学生ってのは本当らしいわね。まったくこんな小便臭いお子様にまで働させるとは、風紀委員も落ちぶれたものね。ほら、さっさと起き上がって、もう一回さっきの根性を見せてよ?」


しかし黒子は立ち上がってこない。

泥だらけになって、地べたを這いつくばる。

「あら、どうしたの?まさかさっき転んだとき、肩に刺さっていたコルク抜きが最後まで刺さっちゃったの!?」

どうやらそのようだ。血が彼女の方から指先までダラーと流れている。抜いたら出血多量で氏ぬだろう。


「あら、一生の不覚だわ。せっかく考えてきたネタの練習台を見つけたのに、練習する前に戦闘不能にさせてしまうなんて……」

結標は手を頭に当てて悔やんだ。

「しょうがないわね、それじゃ一発本番で第三位をやっちゃいましょうか……」


ピクンッと黒子の肩が動いた。

「い…今…なんて、言いました?」

黒子は右肩を左手で抑えながら、立ち上がる。


「ふふふ、もう一回、わかりやすく言ってあげましょう」

結標は黒子に哂いながら言った。

「この刀、『千刀 鎩』で、学園都市最強の超能力の一人、第三位 御坂美琴を倒すっていうの。わかる?」

「……なんの為に?」

「それは決まっているでしょう?彼女がこの残骸を組み立てるのを妨害してくる可能性があるからよ。そんな人物、放っておく訳が無いじゃない」

とキャリーケースをコンコンと叩きながら説明する。


「……………そ……と……」

「なに?聞こえないわ」

「………………そんなこと、させませんわ」

「出来るの?私より、遥か弱いあなたに」

「…………なにがあろうと、絶対にお姉さまのところへは行かせませんわ!!」


「いい、心意気ね。気に入ったわ」



702: 2011/05/26(木) 23:16:30.76 ID:jPLDsCYt0

黒子は太腿に隠してあったダーツと、ポケットにあった呼びのダーツをすべて出した。

(………1、2、3、4、5……ダーツは全部で一五本。あっちはざっと三十本。能力ではこっちが負けている。どうこの状況を打破しましょうか………)

黒子は自分の状況を整理する。……が

(……………っく…血を流し過ぎで…クラクラするですの…)


「ふふっ♪どうやら血が足りなくて困っているようね。お姉さんが助けてあげましょうか?」

「ハンッ!こんなもの屁でもないですわ。さぁ、かかって来てださいな。速攻で終わらせます」

(強がってはみたものの、流石にキツイですわね。こういう時は速攻勝負で方をつける!!)


「いいわ、お望み通り、速攻で終わらしてあげる。後悔しても遅いわよ?」

と結標は『鎩』が入ったケースを前に出した。



「これから、とっても面白いものを見せてあげる♪」



突然、『鎩』三十本の刀身が消えた。

いや、違う。結標淡希が自分の能力である『座標移動』で刀をどこかへ移動させたのだ。




三十本の『鎩』は、黒子、結標の周りの地面や壁に突き刺さっていた。



「―――――………ッッッ!!?」

黒子は辺り一面に散らばまられた『鎩』に驚く。

自分の足元にまであるのだ、まるで自分の武器を使ってくださいと言っているようだ。



「余所見なんて、余裕ね。もう戦闘は始まっているのよ?」

と、両手に『鎩』を持った結標は笑いながら言う。


そして、黒子に向かって右手に持っていた『鎩』を思いっきりブン投げた。

「……………!?」

『鎩』はブンブンブン…!と風を斬り裂く音を奏でながら回転し、黒子の胴に向かって襲ってくる。




703: 2011/05/26(木) 23:42:05.64 ID:jPLDsCYt0

「なんなのですか?それ」

それを黒子は空間移動で上空に飛び、避ける。


「簡単すぎて、欠伸が出ますわ!」

黒子は、今度は結標の上後ろに空間移動し、後頭部にドロップキックを食らわそうとする。

が、しかし


「読んでたわよ。それ」

「――――――!!」


いきなり黒子の目前に、回転する『鎩』が一本飛んできた。

結標が投げた物だ。

「……ぅわ!!」

黒子はドロップキックを止め、体勢を崩して、仰け反るようにして避ける。

ドテッっと背中から着地した。

「――――~~~~~~!!」

しかし衝撃は傷口に響き、激痛が黒子を襲う。


「何やってんのよ、ぼーっとしてると首が無くなるわよ?」

「…な!?」

そう、黒子の目の前には斬首をしょうと、『鎩』が回転しながら落ちてくる。

黒子はそれを転がりながら避けた。……肩と脇腹の傷には気を付けて転んだので問題ない。


「……………っぷはぁ!!」

「そらぁ!まだまだ!!」


今度は後ろのから『鎩』が二本、黒子を突き刺そうと、ダーツの如く向かってくる。

それをマトリックスよろしく避ける黒子に、今度は上から五本の『鎩』が落ちてくる。

それを空間移動で5mほど奥に避ける。しかし下から『鎩』が回転しながら上がってくる。顔を上げて避けるが、顎をかすめた。

そして上から、ギロチンの様に『鎩』が刃を下にして落ちてくる。

それを空間移動で避ける。しかし、そこにはまた『鎩』が待ち構えていた。


704: 2011/05/27(金) 00:00:31.42 ID:IVbycCIz0



「……??!……!!?」



どこから攻撃が来るのか、わからない。

いきなり“刀”が現れ、自分を斬り殺そうとする。

空間移動して避けても、先を読まれてそこで串刺し。

空間移動を使わずに、体を捩じって避けても、そこで斬首。


それを避けるために、また空間移動しても『鎩』が待ち構えている。
もう何が何だかわからない。


どのみち、白井黒子は結標淡希の半径3mも近付けない。

いや、近付こうとするが。“刀”がそれを邪魔する。



しかも、空間移動の十一次元の演算はこう連続で使うと、相当負担がかかるのだ。


そして、白井黒子は…………。

「ヒュー…ヒュー…ヒュー…」

虫の息だった。


「あら、もう終わり?お姉さんまだ満足してないわよ?」

「………うる…ヒュー……さい…ヒュー…ですわね……」

「もういいわ、終わりにしてあげる」


結標はハァと溜め息をついた。まるでつまらない物を見るような目つきだ。


すると。

「―――――――――…………ッッ!!?」

目の前にあった、三十本もの『鎩』が消えた。

結標が『座標移動』させたのか…!?どこに!?



「上よ」

「!!」


上から、雨の様に、大量の『鎩』が降ってきた。

ズドドドドドドドドドドドドド…………!!!。

と、金属の豪雨はド派手な音を立てて地面に突き刺さる。


白井黒子は……。

705: 2011/05/27(金) 00:18:36.42 ID:IVbycCIz0

白井黒子は上にいた。

最後の力を振り絞り、空間移動して避けたのだ。


「……どうですか…、あなたの攻撃を最後まで避けましたわよ!さぁ、今度はこっちから……」


が、しかし。


「悪いけど、それも読んでるわよ?」

黒子の背後から、一本の『鎩』が遅れて落ちてきた。

「………っな!?」

もう空間移動は使えない黒子には、空中での身動きが取れない。

「しまっ…!」



落ちてきた『鎩』は、黒子の体を貫いた。



「ぐ、ああああああああああああああああああああああああああ!!」

刺された黒子は、そのまま地面に落下する。

「かはぁっ!!」

重力によって、地面に叩き付けられた黒子は、悶絶する。

いや、悶絶しようにも、両腕が動かない。



しかし、そこに結標淡希が近づいて来た。

「ほらお嬢さん。おねんねにはまだ早いわよ」

と言って、黒子の髪を持ち、引きずった。


「ああああああああああああ!!?」


黒子はただ、痛そうに叫ぶだけだ。

疲労で抵抗すら出来ない。


結標は黒子の髪を離した、その代りに足首を持ち、体を一回転回してから壁に叩き付けた。

「ぐはあ!!」

そして、『鎩』で黒子の脇腹へ『座標移動』させる。脇腹には峰が向けられていて、体を傷つけないようにした。

706: 2011/05/27(金) 00:40:04.88 ID:IVbycCIz0

「さっきの上空で刺さったところ、左肩か……。よかったわね、あなた運がいいわ」

結標は黒子の足元の壁に『鎩』を左右に三本づつ、並んで突き刺す形で座標移動させ、それの柄の上に立った。


「さて、これからどうしようか……。ふふふ♪良い事思いついた♪」

と、結標は何か思いついたようだ。


結標は手に、『鎩』を一本手に座標移動させる。

それを黒子の制服の中へとツッコミ、制服を斬った。


「あら、あなた貧相な体の割には、なかなかいい趣味の下着着てるのね。年の割にガンバるわね…ふふふ」


「~~~~~~~///!!」

黒子は顔を赤くして結標を睨む。

「……安心しなさい、私はあなたと違ってレOじゃないの。襲わないわ。ただ、面白いことをするだけ…」

「な…何を…?」


結標は足元に刺さっていた『鎩』を座標移動させた。



黒子の股の下に。刃を上に向けて。



「~~~~~///!!?」

結標は黒子の耳元でささやく。


「ねぇ、もしあなたの脇の下にある、二本の『鎩』を抜いたら、あなたの体はどうなると思う?」


「……………」

黒子の顔は朱から青へと、サーッと変わった。


「××××から頭の先へと、体は真っ二つになるよね?」

結標淡希は白井黒子の耳元でささやいた。甘噛みでもしているのかように。




707: 2011/05/27(金) 00:57:04.56 ID:IVbycCIz0

「ねえ、これ、抜いていい?」

結標は股の下の『鎩』の刃を撫でる。

と、結標の指先が斬れ、刃に少しの赤い血が滴った。


「あ、血が出ちゃった…」

「……………ガチガチガチガチ……」

黒子の目は迸り、瞳孔が開いている。

さっきから顎の震えが収まらない。


「ねぇ、こんな斬れ味のいい刀で斬ったら、文字通り真っ二つになるわね。……何か言いたいことはある?」


「ど、ど、どうして、こんなこと……」


「ふふ、知りたい?簡単よ?『鎩』っていう字は、金偏に頃すと書くわ。私は『千刀 鎩』の所有者。私が頃したい者は頃し、頃したいと思ったら頃す。ただそれだけよ。ね?簡単でしょ?」


「そんなことの為に……、お姉さまを…?」

「まぁそれも違うくはないわね。でも、第三位を頃すのはちゃんとした理由があるからよ」

「………」

黒子は俯いた。

「ねぇ、氏ぬ覚悟はできた。…………まぁ、私達の仲間になるっていうんなら、助けてやってもいいけど」

「…………」

「ねぇ、聞いてるの?」

結標の問いに、黒子は。

「………ペッ」

黒子は結標の顔に唾した。




「…………」

「あなたの様なクズ人間にしたがうなら、お姉さまの為に氏んだ方が一千万倍マシですわ!!」

黒子の眼は強く、気高いものだった。



「……………そう、残念ね」

結標は無表情で、そういった。

709: 2011/05/27(金) 01:04:24.32 ID:IVbycCIz0


周りに、警備員たちが集まっていた。

その中に初春飾利もいる。


「白井さん!!」


初春は黒子の方へと走って向かって行った。


「初春…」

「白井さん!!」

警備員に毛布を掛けられ、それに包まった黒子に、初春は抱き着く。


「白井さん……こんなに怪我して……」

初春は泣きじゃくりながらギュッと抱く。


「初春…わたくしは…生きているのでしょうか…?」

「生きてます!!生きてなかったら、こうして抱き着いてないでしょう!!」

「……………生かされましたか……また……」







710: 2011/05/27(金) 01:11:32.88 ID:IVbycCIz0

経緯はこうだ。


結標淡希は白井黒子の脇の下にあった『千刀 鎩』に手を掛け、一気に引っこ抜き、殺害しようとしたが、


ウゥ~ウゥ~……!

『……ッチ!警備員か……、白井さん、命拾いしたわね。あなたとはまたどこかで会いそうだわ』

と言って、地面や壁にあった、全ての『鎩』を保管してあった野球のバットケースのようなケースの中に座標移動させた。


『それでは、また……』

と言って、ケースを肩で担ぎ、キャリーケースをもって、消えた。




その後、白井黒子は駆けつけた警備員に助けられた。


そして今に至る。

711: 2011/05/27(金) 01:27:38.82 ID:IVbycCIz0

(悔しい…悔しい…悔しい…)


「白井さん?」

「え?…あ、初春、どうしましたの?」

「どうして、泣いてるんですか?」

「え…?」

黒子の目には確かに、涙の滴が、目じりにあった。


「ああ、すいません、恥ずかしい所を…」

「恥ずかしくないですよ」

「!!」

「恥ずかしくありません、だって氏んでしまっては、そんな感情、持てないでしょう?」

「……!」



「だから泣いていいんです。大声出して泣いていいんです。鼻水垂らして泣いていいんです。だって、私達はまだ、子供じゃないですか」


その言葉には、なぜか心の中にあった楔を外してくれた。

そんな気がした。


ただ正確にわかることは、初春の姿が滲んで見えることと、『泣きたい』という感情が止まらないという事だった。





「…………ぁ、ぁ、あ、うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」





黒子は泣いた。ただ泣いた。大声を出して、鼻水を垂らして、泣いた。


「はい、はい、よしよし…」


初春は黒子を抱き寄せ、背中をポンポンと優しく叩く。


眼から涙が止まらない。

悲しい。悔しい。辛い。怖い。

そんな感情が黒子の涙と一緒に流れた。

712: 2011/05/27(金) 01:35:12.68 ID:IVbycCIz0






――――――――――――――――――――――――――――――――


「本当に手助けしなくても良かったのか?」

「ああ、おかげで目標の攻撃方法がわかった」

「あんたも鬼だな」

「なにをぉ!?私のどこが鬼だというのだ!?」

「性格」

「…………それは自覚はある。そもそも私が氏んだ時に話しただろう。私の全ては駒であると」

「そうですかい」

「七花さーん、いきますよ~!?」

「おお、今いく!!」



ここは先程、白井黒子と結標淡希が戦っていた路地裏の壁の上……様はビルの屋上。

そこに鑢七花・奇策士とがめ・絹旗最愛がいた。

彼らは、最初の目標である、結標淡希の偵察にやって来た。

おかげで良いデータがとれたそうだ。


そして、彼らは戦場へと赴く。

目標は、結標淡希。

目的は、結標淡希が所有している『千刀 鎩』の回収である。



713: 2011/05/27(金) 01:39:42.80 ID:IVbycCIz0

今日は以上です。


書いている途中から、「あれ?これ本当にあわきん!?」と思っちゃいました。

ワタクシ、禁書キャラの中で最も大好きなあわきんを、あんな変態キャラにしてしまうとは……。

よりによってあわきんを…(泣)


全国の結標淡希ファンの皆さん、本当にすいませんでした。

こんな変態キャラにしちゃって、本当にすいませんでした。

714: 2011/05/27(金) 01:42:28.96 ID:rHcDfPdg0

あわきんはきっと刀の毒に当てられただけなんだ

720: 2011/05/27(金) 18:07:05.22 ID:IVbycCIz0

こんばんわ、今日も必氏こいて書いていきます。

721: 2011/05/27(金) 18:08:48.06 ID:IVbycCIz0

と、言いたいとこでしたが、ご飯焚くのを忘れていたので、外食してきます。


七時から七時半には戻るかも。

723: 2011/05/27(金) 19:49:24.79 ID:IVbycCIz0

帰ってきました。

いざ、書きます。

724: 2011/05/27(金) 20:05:47.54 ID:IVbycCIz0

「………そう、………うん、わかった。ありがとう、初春さん」

御坂美琴は携帯電話を閉じ、ポケットに入れる。

初春飾利から、『今日、白井さんは忙しいので帰ってこれない』という電話だった。


「…………そんなの、嘘に決まってるじゃない……」

恐らく、結標淡希とぶつかって戦ったが、敗けたのだろう。

「……………私のせいだ……。……ごめん黒子…」


ここは常盤台中学の女子寮の、美琴と黒子の部屋。美琴は自分の机の引き出しを開け、ゲコ太貯金箱を取り出した。


「これは、私が撒いた種。始末はきっちりとる………。覚悟していなさい…………結標淡希」


美琴は貯金箱の底についてあった蓋を取り、中に入ってあったゲームのコインを二十枚ほど取り出し、左右のポケットに入れた。

そして、貯金箱を机の上に置いたまま、美琴は部屋化から出て行った。



725: 2011/05/27(金) 20:41:48.39 ID:IVbycCIz0



―――――――――――――――――――――――――――

その頃、虚刀流七代目当主 鑢七花は通学用に使われるサイズの小型バスの中にいた。


七花の他には、奇策士とがめと、この世界で知り合った能力者『アイテム』構成員 絹旗最愛と、同じく『アイテム』構成員 滝壺理后が一緒に乗っていた。


「なぁとがめ、あいつ…結標淡希って奴の攻略法はわかったのか?」

「……いや、これはやってみなくてはわからんものでな、おすすめできん。しかし、あの摩訶不思議な攻撃のタネがわかった」

「どんなのだ?」

「絹旗よ、結標淡希の能力、『座標移動』は物体を別の座標に移動するのであったな?」

「ええ、超その通りです。『座標移動』はA地点にある物体をB地点に超移動する事です」

「すまん、言っている意味が分からん」

七花が困った顔をした。

それをとがめは呆れた。

「しょうがないな。七花よ、例えるなら将棋の五の三にある駒を、七の二に移動させる感じだ」

「将棋はわからん」

「…………だめだ、座標どころか表もわからん奴に説明しても無駄だな」

「……面目ない」

因みにとがめは小学校の教科書から大学の参考書を全て読破した。その内容を頭の中に詰め込み、理解している。


「まぁ、超簡単に言ったら、物体を別の場所へ超飛ばすんです」

「ああ、なんとなくわかった」

「七花!なぜ私の説明がわからんで、絹旗の説明がわかるのだ!?」

「さあ?」

「さあじゃないだろう!?」

「まぁまぁ……」


と、車の隅の方でチビチビとお茶を飲んでいた滝壺理后がピクっと眉を動かした。


「………東北東から信号がきてる……。何者かが、戦闘を行っている模様…」

726: 2011/05/27(金) 21:00:29.19 ID:IVbycCIz0

「……超本当ですか?運転手、至急そこに行ってください!!」

絹旗は、ハンドルを握っていた運転手に指示をだす。

因みに運転手は『アイテム』の下っ端組織から派遣されたチンピラである。



「そこってどこですか!?」

と運転手は曖昧な注文にツッコみを入れる。

「滝壺さん、助手席に行ってください!」

「わかった」

滝壺は絹旗に言われた通り、助手席に移動する。



「で、結標淡希の、あの摩訶不思議な攻撃は何なんだ?」

「ああ、それはだな?」



その時、急に爆発音が響いた。


ドォォォォオオオオン!!



車が振動に、ビリビリと共鳴する。

「うぉ!なんだ!?」

「結構近いぞ!」

七花ととがめと絹旗は爆発した所を探す。

「!!ありました!七花さん、とがめさん、あそこ!!」

絹旗はあるところを指さす。


そこは、モクモクとビルの間から昇って行く煙をだった。


「あそこは……?」

とがめは運転手に訊く。

「ああ、あそこは建設途中の建物です。あそこは人がほとんど通らないから、隠れ家としてはちょうどいい所かと」

「そんなことはどうでもいい!!とにかくあそこへ進め!!」

「は、はい!!」



727: 2011/05/27(金) 21:57:57.86 ID:IVbycCIz0




煙がモクモクと上がっていく、きっと警備員がすぐにでもやってくるだろう。

そう、御坂美琴は思った。

ここはとある建設途中の建物を建てる工事現場。

その太い骨組みの陰に、五十人くらいの拳銃やマシンガンを持った者たちが身を潜めていた。


その中の一人が前に出て来て、拳銃を撃ってきた。

しかし、美琴は磁力の力で防ぐ。

そして、指でコインを弾き、超電磁砲を撃った。


「……ぐわぁぁああああ!!」

数人が吹っ飛んだ。

心配せずとも、頃してはいない。ちゃんと外した。


美琴は鉄骨の上にいる、ある人物に向かって叫んだ。

「ねぇ、出てきなさいよ卑怯者!!」

「なに?呼んだかしら、常盤台の『超電磁砲』さん?」

そこには、結標淡希が鉄骨の上に、足をブラブラさせながら座っている。

「しかし卑怯者とは心外ね。あなただって、あなたを慕ってくれる、可愛い後輩を私に当てさせて、ボロ雑巾にさせたじゃない……。まぁさせたのはあたしだけど」


「………あれは、私がアンタらを足止めしようと信号を止めたら、アンタらが走って逃げだした。黒子はたまたま風紀委員の仕事で来ただけよ」

「言い訳にしか聞こえないわね」

「アンタがどう思っているかは知らないわ……」


「それより、ちゃんと言ってあげなかったの?あの日、八月二十一日の事…。可哀そうに、大好きな先輩の事をなんにも知らないで……」

「アンタに私と黒子のなにがわかるっていうの!?とにかく、こっちに降りてきなさい!!」

「それは無理な相談ね、だってそこに降りたら『どうぞ私を頃してくださ~い(涙)』って言っているようなもんじゃない!私は自頃するつもりもないし、する予定もないわ!」

結標は哂いながら美琴に言う。

「あなた、怖いんでしょ!?七月二十八日に破壊された“樹形図の設計者”の残骸を組み立てられ、またあの『悪夢』を呼び覚まさせたくないんでしょ?」

結標は美琴を哂う。哂い続ける。美琴は手を握りしめる。強く握りしめすぎて、掌から血が、タラ…タラ…と流れている。

「だったら私を早く頃しなさいよ!そんなところでボーゼンと突っ立っているんじゃなくて!あなたは超能力者なんでしょ?第三位の常盤台のお嬢様なんでしょ?だったら私なんて雑魚、瞬殺じゃない!」

美琴は黙って結標の言葉…暴言を聞く。

「まぁ、私はさっき言った通り、ここには氏にに来たんじゃなくて、あなたを頃しに来たの。ねぇ、さっさと殺されてくれない?」


728: 2011/05/27(金) 22:18:28.90 ID:IVbycCIz0


結標淡希の言葉に美琴は……。



「あははははははははははははははははは!!」



大きく笑っていた。

「な…!」

さすがの結標も驚く。


「ははは……“樹形図の設計者”が組み立てられるのが怖いですって?あの『イカれた実験』が再開されるのが怖いって?」

美琴は何かを吐き出すように、思いっきり笑った。

「ははははははははははははははははははははははははは!!!!!!……………………はぁはぁはぁ」

美琴はようやく笑うのを止めた。

「な、何が可笑しいの!?」

結標が叫ぶ。


「……はぁ……そんなの、当たり前じゃない!!」


美琴は叫ぶ。


「なに?アンタ、私が怖くないって思っていたの!?っざけんじゃないわよ!!あんなの、怖いに決まってるじゃない!!アンタみたいな雑魚に、イチイチ確認されんでもわかっとるわ!!」


美琴の周りに高圧電流が流れる。彼女の髪は逆立ち、眩い光を放つ。


「黒子にそのことを話さなかったのは、この学園都市の“闇”の存在のことを隠すため。………あの子たちの平和を守るのが先輩の役目でしょうがぁぁぁぁあ!!!」


美琴はポケットからコインを取り出し、全力の『超電磁砲』を放った。



光と熱の矢は、爆風と爆音を伴って結標の頭まで飛んでいく。



矢は、鉄骨の建物を貫き、暴風で骨組みはバラバラになった。

ガラガラ…と鉄骨だけで作られた建造物は崩れていった。





729: 2011/05/27(金) 22:48:03.32 ID:IVbycCIz0

「はぁはぁはぁ」

美琴は荒い息を整える。


バラバラに崩れ、ただの鉄骨置き場となった工事現場に砂煙で覆われた。



「…………そんなモンで、氏んでなんかいないわよね!?」

美琴は遠くまで聞こえる様に話す。

誰に?決まっている。

「いや~凄いわ、流石♪。これが『超電磁砲』ね?凄い威力ね」

「次が外さないわよ?」

「ふふっ♪怖い怖い」

結標は哂う。

「でもねぇ?私にはこれがあるのよ!?」



結標は手元に『千刀 鎩』五百本を座標移動させた。



「ふふ♪あなた、串刺しと斬首……どっちがいい?」



結標はその内の二本を持ち、他を美琴の周囲に座標移動させる。


「―――――――――――…………………ッッ!!?」


美琴は辺りの刀を見る。


「………!!これってまさか!!」

「あら、あなたの耳にも入っていたの?………まぁその内、公で報道されるかもせれないわね……」


「アンタ、これで何をするつもり!?」




「ふふふ♪Let's showtime♪」

730: 2011/05/27(金) 22:49:46.51 ID:IVbycCIz0

今日は早いですが、これで終わります。

明日は早くから書こうと思います。


それではまた…

次回:鑢七花「・・・どこだ?ここ」麦野「学園都市よ!」【後編】

引用: 鑢七花「・・・どこだ?ここ」麦野「学園都市よ!」