1: 2010/07/04(日) 13:55:22 ID:jbdk7m5c0
場所をお借りします。

この話ではブーン編とドクオ編が合流しています。
場面転換時は顔文字を境に行います。

最初から:( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです【その1】

前回:( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです【その11】

シリーズ:( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです


2: 2010/07/04(日) 13:56:29 ID:jbdk7m5c0


 運命の交差


 四天の破片舞い飛ぶ地で


( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

第四章 紫色の疑惑  第十八話「正位置と逆位置の『運命の輪』」


―紫の国 首都  ('A`)―

 
 不審な男に気絶させられ、気が付けば兵士達の駐屯所にいた。
 何故か牢獄に近い施設であった。
 兵士の裏にいた事や守護者がいなくなっていた事。
 こういった間の悪い事実があり、俺は半月も拘留されたのである。

 いくら聞かれた所で俺から得られる情報は無い。
 と、強気に言えるはずもなく出所の日が来た。
 兵士に送られながら扉をくぐる。

 もうすぐ夕刻、といった中途半端な時間だ。
 空も僅かに赤みがかっている。
葬送のフリーレン(13) (少年サンデーコミックス)
3: 2010/07/04(日) 13:57:13 ID:jbdk7m5c0
 久しぶりに外の空気を吸おうとした瞬間目の前で、
 音も無く、空へと一本の光が立ち上る。
 
 青い柱。
 
 城を支える主軸となりえる程の巨大な物体である。
 もちろん今まで見たことのない物体だ、祭りだろうか。

('A`)「……何あれ」

 そう呟いたのを聞いた兵士が背後で答える。

(;・-・ )「分かるわけないだろう。おい! 城へと使いを出せ!」

(;´・_ゝ・`)「はい!」

 控えていた兵士が走り出す。
 祭典ではないらしい。

('A`)「……」

 無言で歩きだす俺に声がかかる。

(;・-・ )「お前も気をつけろ! 非常事態かもしれん!」

('A`)「あー、はい。気を付けます」

 適当に返事を言って青い光を眺めながら道を歩く。
 他の人々は皆光に釘付けになっているのが分かる。

4: 2010/07/04(日) 13:58:18 ID:jbdk7m5c0
 この時、俺はまだ事を深刻に考えていなかった。


―紫の国 首都 ( ^ω^) ―


 窓へと駆け込む。
 区切られた空は、夕刻に近づき赤みを帯び始めていた。

(;^ω^)「光の柱……?」

 正面に霞む城と、僕達の現在地の狭間に異変が現れていた。
 少し離れた場所で青い光が、更に離れた場所で赤い柱が。
 それぞれ音も無く空へと向かって立ち上る。
 建物の上階という位置からはその二つがよく見える。 

(´・ω・`)「もしかして魔力の力場って」

( ゚∀゚)「ああ、あの場所に間違いない」

 忌々しそうなジョルジュの顔からすると相当厄介な物らしい。
 見て来て何も無かったのだから防ぎようも無かったのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「結局あれって何なんですか?」

( ゚∀゚)「んー、そうだなぁ……門、みたいなもんか?」

川 ゚ -゚)「して、何かが出てくると?」

5: 2010/07/04(日) 13:59:57 ID:jbdk7m5c0
( ゚∀゚)「たぶんな。魔物の大群、いや……」

 ジョルジュはいつの間にか魔法器を装備している。
 いつもは装着していない透明の石も篭手に追加装備していた。
 靴やローブも確認して僕達へと向き直る。

( ゚∀゚)「……四天王か? 前の大戦じゃここまでしてこなかったが」

 魔王直属、魔物と属性を統括する四大将軍の名だった。
 名前くらいなら聞いた事がある。

( ・∀・)「局面的に見て後者だろうねぇ。
      紫の国の混乱と制圧、開戦、一気に魔王を復活させる気だ。
      ここ数日で緑の国と紫の国の状況は最悪。
      下手をすればすぐに魔王復活だよ」

 モララーもマントと腕輪型の魔法器を纏い始めていた。

ξ;゚⊿゚)ξ「四天王……ここで出てこられたらどうしようもないんじゃ」

( ゚∀゚)「ところがそうでもねぇ。見ろ。門は二つ、色も二色だ。
      四天王の内二体は回復しきってないんだろ。
      今来るかもしれない奴も全快には程遠いはずだ。
      何せ俺達が前に粉々にしてやったからな」

 ジョルジュが腕を組みながら壁に背を預ける。
 どこか余裕を感じるのは戦いの年季の違いだろうか。

(´・ω・`)「……ここは紫の国。
      守護者プギャーがいれば青の四天王は何とかなりますか?」

6: 2010/07/04(日) 14:00:56 ID:jbdk7m5c0
( ゚∀゚)「ああ、そっちは心配すんな。
      プギャーもたまには【雷の射手】として働いてもらわねぇと」

川 ゚ -゚)「という事は私達で赤の四天王を討つのか?」

( ゚∀゚)「そうだ。あ、いや、俺は城に行くけど」

( ^ω^)「……」

 今気になる事を言った気がする。

ξ;゚⊿゚)ξ「わたし達と来ないんですか!?」

( ゚∀゚)「譲ちゃん、自分の事は自分で出来るだろ?」

(# ^ω^)「そういう話じゃないと思いますお!」

( ゚∀゚)「やかましい白饅頭。俺はギコの野郎に会いに行く。
      紫の国が制圧されるよか戦争が始まる方がまずい。
      さっさと勅令で軍を引かせねーとマジで魔王来るぞ」

 ジョルジュにしては珍しく筋の通った論理である。
 どこかにほころびがあるだろうと探しているとクーが話を進めた。

川 ゚ -゚)「ならば急がねばならないのではないか」

( ゚∀゚)「さっきからそんな感じだしてるだろ? 急げ急げ」

7: 2010/07/04(日) 14:01:49 ID:jbdk7m5c0
 ジョルジュに急かされ、仕方無く僕も魔法器を手にはめる。
 ツンとクーもそれぞれ準備を始めた。
 いつの間にかショボンはすぐに出られる格好になっていた。

( ・∀・)「僕も戦いには出ないよ、弱いし。情報を集めに行ってくる。
      軍や町の状態が分からないのは困るだろう?」

( ゚∀゚)「頼んだ。最悪の時は虚言流して軍二つとも混乱させろ」

( ・∀・)「それだよ、それなんだよ僕の得意分野」

 モララーという人の性格が端的に現れた一言である。
 マントを羽織り、僕の準備が完了した。

(´・ω・`)「結局僕達四人なんだね。紫の兵士、助けてくれないかな」

( ・∀・)「どうだろうね? すぐ近くの位置にいるなら援護はしてくれると思うけど」

川 ゚ -゚)「……よし。助太刀などあてにせず己の力で戦うべきだ」

 クーの用意も済んだらしい。
 黒塗りの鞘がベルトのホルダーに吊るされている。

( ゚∀゚)「軍の連中も混乱するだろうな。
      プギャーがまとめる部隊はまともに戦えるだろうが、
      その他は期待しない方がいい」

8: 2010/07/04(日) 14:02:37 ID:jbdk7m5c0
 ジョルジュは鋭くなった目で窓の先を眺める。
 彼にしてみれば七年前、共に旅をした仲間が敵側として関わっているのだ。
 心境は複雑に違いない。

ξ;゚⊿゚)ξ「ハイ、準備完了!」

( ゚∀゚)「ごくろーさん……最終確認だ、形振り構ってられねぇ」

 ジョルジュは机に広げてある地図に手を叩きつけた。
 気合いが現れているようだった。

( ゚∀゚)「まず別行動モララー」

( ・∀・)「はいはい」

( ゚∀゚)「さっきの通りだ、落ちあう場所は必要か?」

( ・∀・)「要らないよ。適当に見つけるさ」

( ゚∀゚)「次は俺、真っ直ぐ城に向かう。そう時間はかからねぇ」

 これから単独で敵地に入り込むジョルジュは地図をなぞる。
 僕達の隠れ家から霞んで見える王城でぴたりと指を止めた。

9: 2010/07/04(日) 14:03:27 ID:jbdk7m5c0
(´・ω・`)「しかし一人で大丈夫ですか? 
      兵士は少ないと言っても……」

( ゚∀゚)「問題ねぇ、前の旅はもっと酷い修羅場があったからな。
      んでお前たちだ」

 次に、表で輝く赤い柱を指さす。

( ゚∀゚)「こっからなら10分とかからないだろ。
      プギャーが片方倒して、こっちに来るまで持ちこたえればいい」

( ^ω^)「プギャーさんって強いんですかお?」

 どうもプギャーという人物が強そうだとは感じなかった。
 何というか、詰めが甘そうな印象を受けたのだ。

( ゚∀゚)「仮にも守護者だぞ? 魔力だけならギコより上だ」

川 ゚ -゚)「かつてのギコ王を超えるのか?」

( ゚∀゚)「まぁ魔力だけだって。総合スペックではギコが上だろ」

 とにかく、とジョルジュが言いながら再度腕を組んだ。

( ゚∀゚)「お前達は最悪の場合、赤の四天王を足止めしてくれればいい。
      もちろん殺っちゃってほしいけど。
      ……譲ちゃん!」

10: 2010/07/04(日) 14:04:26 ID:jbdk7m5c0
 後ろで座っていたツンが顔を上げた。

ξ゚⊿゚)ξ「え?」

( ゚∀゚)「奴の属性は赤だ。魔力は極力温存しておけ」

川 ゚ -゚)「温存してどうする。先手をうって……」

( ゚∀゚)「これだから今時の若者は! ちゃんと技があるんだよ!」

 ジョルジュも十分若者ではあると思った。

( ゚∀゚)「それにはブーン、お前もペース配分考えないとな」

( ^ω^)「……」

( ゚∀゚)「そんな嫌そうな顔すんなよ、今から必殺技を教えてやる」

 そんな物があるならもっと早く教えて欲しかったが、
 今更どうにもならない。 
 ジョルジュの言葉に耳を傾けようとしながら顔を盗み見る。

 楽しそうな、だが良い印象は受けない笑顔が浮かんでいた。

11: 2010/07/04(日) 14:05:19 ID:jbdk7m5c0

―紫の国 首都 三番本道  ('A`)―


 夕闇を背景に異変が異変を生む。

 立ち上がる青い光、その揺らめきが増している。
 勘の鈍い俺にもそろそろ分かった。
 これは魔力だ。
 膨大過ぎる魔力が空へとほとばしっている。

(;'A`)「……まずくね?」

 そしてこれは明らかに異常だ。
 王を守る近衛の兵士でも扱いきれないであろう、純粋な力。
 更にはそれが二つも。
 世界の終りも近いに違いない。

 そして長い間昇っていた光が刹那、形を成していく。
 人の姿を成していくと、更にその周りに魔力が伸びる。
 体では鋭い装甲を形作り、右腕に一本の棒として固まって行く。
 凝縮された魔力が弾けた。

 周囲に魔力が飛び散り、その姿を現す。
 青く透けた鎧と同じく青い大槍。
 体は、近くで一番高い建物以上の高さがある。

 青く輝く鎧騎士が街の中心に現れた。

12: 2010/07/04(日) 14:06:07 ID:jbdk7m5c0
(;'A`)「はあああッ!?」

 どう考えても魔物である。
 魔物は魔物でも魔王に近い存在なのではないだろうか。
 
 驚いている場合でもない、何せ俺は鎧騎士の視界の直線上にいるのだ。
 早く逃げねば踏み潰される。
 いつの間にかいなくなっている周囲の人々にしたたかさを感じつつも、
 路地の隙間に入り込もうとした。

 突然、鎧騎士が俺に背を向けた。
 王城の方角である。
 そして巨体に似合わず高々と空へ跳躍した。
 押された空気が道を吹き抜ける。

 俺は風に対して踏みとどまりながらも魔法を起動した。
 地面に魔法剣を突き刺しながら風圧に耐える。
 羽織っているマントが風にはためく。

 鎧騎士に視線を移そうとする視界を遮るように、
 間髪いれず紫色の閃光が道を満たした。
 巨大な一本の光が、頭上を、街の本道を、駆け抜けて行く。
 耐えきれず尻もちをついた俺の遥か後方で爆発音が起きる。

 直後に地響きが襲った。
 鎧騎士が地面に到着したにちがいない。
 背後の脅威はそれだけだ、遠く前方には強い紫の光が。

13: 2010/07/04(日) 14:06:58 ID:jbdk7m5c0
( ^Д^)「第三、第四小隊は民間人の安全を確保しろ! 
      残りは俺についてこい!」

 右腕から魔力を散らして一人の男が走ってくる。
 背後には数十名の兵士風の格好をした人物が追随していた。
 思い出して背後へと目をやると鎧騎士が槍を構えている。
 今にも突撃して来そうな姿勢だ。

( ^Д^)「魔法弓部隊展開! 歩兵は抜剣して援護に回れ!」

 建物を介して高台へと移る者達と魔法剣を構える者達。
 その中心で指令を出している男が右腕を空へと突き出す。
 同時に詠唱が刻まれる。

( ^Д^)『……バイオレットキャノン』

 巨大な一本の長方形が空へ飛び出し、
 その周りに同じ形をした機械の様な物体が構成されていく。
 全て紫に輝く魔法で精製されていた。
 文句のない高位魔法だった。

 大砲は男の肩から直接飛び出している。
 まっすぐ降ろして正面の鎧騎士に狙いを合わせた。
 そこまで見て、俺は路地へと引きずり込まれる。
 マントを引っ張られたらしく、布が切れる感覚があった。 

( ・-・ )「危険だ、プギャー様の直線に入らないように城まで避難してくれ。
      戦いの心得があるならば他の民間人を保護してほしい。では頼む」

14: 2010/07/04(日) 14:07:49 ID:jbdk7m5c0
 早口にそう言うと兵士は建物の中に入った。
 プギャー、あの男は紫の国の守護者だったのか。
 それよりも俺にまともな指揮能力がある訳がない。
 保護など出来ないので急いで城へと逃げるとしよう。
 
 路地の隙間から見える王城へと走る。
 背後では大きな爆発音と地を蹴る音が響いた。
 常軌を逸した音に恐怖以上の物を感じたが、立ち止まる事は出来ない。
 轟音が路地に反響する。

 音が途切れる事は無かった。


―紫の国 首都 一番本道 ( ^ω^) ―


 建物の影を縫って石の道を走る。
 空には夕闇を断ち切るように赤い光の柱が揺らめく。
 赤い光の目の前まで到着するために時間はかからない。
 走りながら魔法を起動する。

 こうなったらやってやろう。
 ジョルジュから教えられた技を使えば何とかなる。
 投げやりな気分で前へ前へと走った。

15: 2010/07/04(日) 14:08:56 ID:jbdk7m5c0
ξ゚⊿゚)ξ「わたしが来る事はもう反対しないの?」

( ^ω^)「もうしょうがないお。さっさと終わらせるお」

 僕とツンは最後尾を着いて行く。
 目の前にはショボンとクーが、更にその先を走るのはジョルジュである。
 王城へと続く道の間には赤い柱。
 西の方角からは大きな音が絶え間なく聞こえる。

 プギャーの部隊が戦いを始めたのだろう。

 目の前から莫大な魔力が放出された気がして、視線を前へと戻す。

( ゚∀゚)「来るぞ!」

 深紅の軌跡を残すジョルジュの両腕。
 僕の起動した魔法よりも濃い色をした魔力だ。
 それが斜め上に飛んで行く。
 ジョルジュは跳躍し、隣の建物の屋根を走っていた。

 赤い光の柱は形を成していた。
 巨大な人の姿だが、頭には二本の角がうねっている。
 山羊の様な頭部の影の周りに魔力が追い付く。
 首から下も同様に魔力が覆った。 

 やがて姿が定着した。
 山羊の様な頭、強靭な四肢、それら全てが甲冑を纏っていく。
 両手は魔力ほとばしる爪が構えられている。
 四天王、赤のイフリート。

16: 2010/07/04(日) 14:09:51 ID:jbdk7m5c0
 かつての大戦より復活した、魔王の将である。

 そう僕が確認できた時に、イフリートの眼前には既に守護者がいた。
 瞬時に飛翔したジョルジュは巨大な影に向かい右手を打ち出す。
 
 夕闇の空に爆発が起きた。
 高位魔法エクスプロージョンがイフリートを一歩のけぞらせる。
 煙の中、ジョルジュは四天王の肩へと着地して回転しながら数歩程足を動かす。
 背後を取ったジョルジュが右足を振り上げた。

 再度爆発がこだまする。
 左足でイフリートの後頭部を蹴り、遠く離れていく。
 そのまま王城へと向かい走って行った。
 ここから後が僕達の仕事だ。

 二度の高位魔法を受けたイフリート。
 自身の属性魔法で緩和したとはいえ頭部には相当の損傷がある。
 龍に比べれば、楽な相手だ。
 僕は自分にそう言い聞かせてイフリートとの間合いを詰める。

 しかし傷ついていても魔王の近衛たる四天王。
 僕達を確認するやいなや何発もの炎の弾丸を口から吐き出す。
 隊列を崩されすぎない程度に回避して四人は固まって本道を進む。
 イフリートまで僅かな距離を残して僕達は応戦を始めた。

 属性を考慮に加え、さらに魔力の低い僕では攻撃の意味がない。
 ツンが支援攻撃をする間護衛につきながらショボンとクーの戦いを見守る。

17: 2010/07/04(日) 14:10:50 ID:jbdk7m5c0
 赤く輝く魔力の爪が振られ、削れた地面がツンへと飛ぶ。
 僕は踏み込みながら左足を突き出し、払う。
 習得した魔法のもう一方、ファイアレガースは地面の破片を鋭利に切り裂いた。
 両腕と両足、僕が現時点で魔力を宿せる位置は合計四つになっている。

 前方では二人が上手く攻撃をかわす。
 ショボンは周囲を魔法特性で読み切り、無駄なくイフリートの攻撃を避ける。
 クーは緑の魔法で高速で移動を繰り返す。
 こうして相手の隙を窺い、機を狙う。

 多少時間がかかっても確実な攻撃をしたいのだ。
 何より僕の魔力は攻撃一回分しかないのだから。

 イフリートを睨みながら二人の動きを追った。

 ショボンが大きく動いた。
 杖を振り回し地面に金色の魔法陣を定着させる。
 雨の様に振る炎を避けつつイフリートの右側へと走る。
 必然的にクーだけが目の前に残ってしまう。

 再びショボンの魔法陣が描かれる。
 クーは炎の弾丸と魔力の爪をかろうじて回避し続ける。
 ショボンがイフリートの背後へと到達した。
 魔法陣を描きながら、黄の魔法グランドランスを起動。

 数本、岩の槍が地面から突き出た。
 イフリートの注意を引きつつ左側へと回りこむ。 
 ショボンが魔将を一周して四つの魔法陣が描かれた。

18: 2010/07/04(日) 14:11:45 ID:jbdk7m5c0
 この後は僕達も攻撃に加わる。
 首尾よく魔法陣を展開できたが、僕が上手く動けるかは別の話だ。
 出来る限りの集中で合図を待つ。

 イフリートの腕が振りあがった。
 反対にショボンの杖が地面を打つ。
 四つの魔法陣が更なる魔力で輝き、呼応し、地面が持ちあがる。
 イフリートは砕けた地表に足を取られながら空中へと浮く。 

 魔将の咆哮と石畳が砕ける音。
 普段ならうるさくて堪らないだろうが今は気にならない。
 クー、僕、ツンの順に並んだ事を確認して駆け出す。
 かすかに空を染める太陽の前に、イフリートが黄金の光と共に捉えられている。

 僕は走りながら道の先へと目をやる。
 クーが刀を数度払い、緑色に光る風を集めていた。
 魔法器である刀に全ての魔力を預けて頭上に掲げた。
 風の足場が作り上げられる。

 そこに飛びこんだ。
 赤の魔法で強化された足と、十分な助走に任せて踏み切る。
 人一人分の高度を稼げた。
 緑色の風に乗る、まだ勢いは氏んでいない。

 クーが魔法を爆発させた。
 瞬間的な上昇気流は緑の煌めきを残してイフリートへと向かう。
 視界が線へと変わっていく。

19: 2010/07/04(日) 14:12:59 ID:jbdk7m5c0
 いつの日かと同じく夢の中にいる様だった。
 空にいるのだ、まるで現実感が無い。
 どんどん迫るイフリートを視界に収めた時には僕は遥か上空にいた。
 僕は足の魔力を両手へと移した。

 黄金の光に繋がれたイフリートが口を開けた。
 もう一度、背後で風が爆発を起こした。
 放射線状に広がる空気を感じながら炎の弾丸をすれ違う様に避ける。
 真後ろにある僕の両腕に全ての力を込める。


 空中にある魔力が、繋がった。


 イフリートを抑える金色の光が緑の風を増大させ、
 僕の手へと集まってくる。
 魔法器、手袋の甲に描かれた赤の紋章が深紅の閃光を放つ。
 その時の僕はジョルジュに近づくほどの魔力を持っていただろう。

20: 2010/07/04(日) 14:14:03 ID:jbdk7m5c0
 ジョルジュの教え、強弱を利用した魔法の属性連鎖だった。

 黄の魔法が緑の魔法を強め、強くなった緑の魔法が僕の赤の魔法を高める。
 両手から満ちる魔法を前方一点へと集めながら両腕を前へと突き出す。

川 ゚ -゚)『ブーン……!』

(´・ω・`)『後は……』

 真下にいる二人の声が聞こえた気がした。

 深紅の魔力が形を成していく。
 明らかに僕の魔力ではない。
 透き通っているが、血の様に赤い。
 強化された魔力が円を描き、線を走らせ、交差していく。

 沈みきった太陽の代わりに同じ色で空を照らす。
 どうやら成功したらしい。 

 街の上空に、魔法陣は描かれた。

21: 2010/07/04(日) 14:14:57 ID:jbdk7m5c0
―紫の国 首都 三番本道  ('A`)―


 城へ逃げろ。
 それだけ言われた所で道が分からない。
 マタンキの娘を探す上で王城は完全に除外されていた。
 小走りで路地を進むのも疲れてきた。

 本道を通れば着くだろうと思っていたがそれ以上に路地が多い。
 音の遠くなる方へと向かい、やっと暗がりを抜けた。

 結局、俺は守護者プギャーの後方に出るという残念な結果になった。
 かなり離れているが戦闘能力は規格外の連中だ。
 距離などあってないようなものだろう。

 細かい事を考えている場合でもない。
 戦場に背向けて一目散に走る。
 俺は目の前に見える城に到着出来ればいいのだ。
 この非常事態、危険は全力で避けるつもりだ。

 よく見れば逃げ遅れた人が数名周囲を走っている。
 運悪く逃げ遅れた人もいるらしい、かわいそうな事だ。

('A`)(まぁ、俺もか)

 苦笑いしながら急いでいると、靴が足元の水たまりを弾いた。
 飛び散って地面へと戻る水。
 水音に確かに違和感を感じた。

22: 2010/07/04(日) 14:15:39 ID:jbdk7m5c0
 ここ最近、雨は降っていない。

 嫌な予感からか自分の周りの空間へと意識を集中した。
 まばらな水たまりにも関わらず水を弾く音が途切れない。
 音の位置は、背後だ。

(;'A`)「ッ!?」

 大きく背後に振り向く。
 街の住人の中に潜むように異形の存在が数体確認できた。

 まるで魚人であった。
 人間の肢体を持ってはいるが水かきのついた手足。
 鱗を纏った全身からはうっすらと水を滴らせている。
 手にしているのは錆びついた短槍。

 今この瞬間に現れたらしい。
 街の人々がそれに気づき、悲鳴を上げた。
 それはそうだろう。
 気付けば隣に魔物がいたなんて、下手をしなくても氏に直結する。

 それからの俺の行動は迅速だった。
 踵を返して城へと一直線。
 頭の中で思い描いた事とは裏腹に俺は魔物へ飛びかかった。
 突きだした右腕から紫の光が伸びる。

23: 2010/07/04(日) 14:16:32 ID:jbdk7m5c0
 紫の閃光が魔物を中心として弾け飛び、魔物を貫いた剣が俺の手に握られた。

 紫の魔法、その特性である『精製』、瞬時に魔力を結合させて剣を形作る。
 雷を帯びた魔法剣サンダーソードを魔物から引きぬく。
 その行動に一番驚いたのは俺だった。
 何故俺が危険を顧みずに魔物に斬り込んでいるのだ。

(;'A`)「さっさと逃げろ! 避難場所は城だ!」

 いつも出す気も起きない大声を出しながら魔法剣を構え直す。
 奇怪だった、自分の行動が。
 残る魔物は、三体。
 属性を考えれば撃破は可能だろう。

 先ほど貫いた一体もまだ息がある。
 住人の移動は進んでいるが多少残っている。
 自分の事を考えても他人を考慮に入れても短期決戦が望ましい。

 左手に起動する魔法は、楯ではなく剣にした。
 手数を増やして一気に攻めきる。

 左手の剣を振り回し牽制。
 右手の剣を振り上げる。
 左で相手の構えを崩す。
 右で首を斬り捨てる。

 機械的に魔物の首をはねた。
 鮮血を受けつつ残り二体を相手取る。

24: 2010/07/04(日) 14:17:29 ID:jbdk7m5c0
 うまく目の前を落ちてきた魔物の首を蹴り飛ばし、
 左側の魔物の気をそらす。
 両腕を高く構え、右側の魔物が構えた錆びた槍ごと叩き斬る。
 
 体勢を立て直しつつ、左手の魔法剣を残る魔物に投げつけてやった。
 さすがの魔物も驚いたことであろう。
 得物を容易く手放すのは愚策だ、誰の目にも分かる。
 もっとも、この場合、俺にはもう一本あるのだが。

 完全に虚を突かれた魚人型の魔物が地に伏したのは次の瞬間だった。

 まだ息があった最初の魔物にも止めをさし周囲を再確認した。
 俺以外には誰もいない。
 見落としているのかもしれないが、この状況で余裕がある人間もいないだろう。

 すぐに城への移動を再開した。

 先程は無我夢中だったが、何故魔物がいたのだろう。
 現れたのは巨大な魔物だけだったはずだ。
 俺は出現を目の当たりにしたが、他の魔物は見なかっただけに納得がいかない。
 大体魔王が復活する前から、あのように巨大な奴が行動開始するものだろうか。

 魔王とは何なのか。
 俺の頭の中に至極当然な疑問が生まれた。
 だが、みつかるはずのない答えを考察するよりも早く王城が見えた。

25: 2010/07/04(日) 14:18:22 ID:jbdk7m5c0
 城を取り囲むように膨大な人影が見える。
 避難してきた人物だろう。
 首都の人間が集まってきているのだから当たり前ではあるが、相当な混乱状態らしい。
 まさかと、嫌な予感を感じて走る速度を緩めて目を凝らす。

 群衆の中には、民間人、兵士、それだけではなかった。
 俺が先に戦闘した魔物が紛れ込んでいる。
 民衆の間から、兵士の列から、いたる所に潜んで攻撃を始めている。
 結果は考えるまでもなく最悪だ。

 混乱が混乱を呼ぶ。
 民衆の叫びや雑踏という音の前に、他の音はかき消される。
 
 ここは地獄か。

 混迷は極まり、地面には血が流れる。
 背後では巨大な魔物と兵士達が交戦している。
 他にも異常は幾らでもありそうだ。

(;'A`)「ちっ!」

 苛立ち混じりの舌打ちをしながら抜け道を探す。
 兵士達がいない道に少しばかり魔物がいようと、
 今の俺なら多少は捌ける。
 多少の危険を冒してでも高い場所から状況を確認したかった。

 苦し紛れに空へと視線を移す。
 あと僅かで夕日も落ちきるだろう。

26: 2010/07/04(日) 14:19:29 ID:jbdk7m5c0
 空から目線を外しつつ城壁へと続く建物をざっと目に収めて行く。
 俺の隣にある建物の屋上から屋根をつたって進めそうだ。
 取り急ぎ建物の屋上へと移動して街を見下ろす。
 驚いた事に城の敷地内には殆ど誰もいない。

 明らかにおかしい。
 混乱は仕方がないにしても非難がまるで進んでいない。
 魔物が紛れ込んでいる現状では不幸中の幸いといった所だが、
 このままでは混乱が深まるばかりだ。

 屋根をづたいに直接王城へと入るべく移動しながら考える。
 兵士の動きを見ても統制がとれている様には見えない。
 兵士自身が避難民をどこに移すべきか分かっておらず、
 多くの人間が王城を囲むばかり。

 王は何をやっているのだ。
 そう考えずにはいられなかった。

 王城が街に比べて高所にあるためか俺の体の動きが大きくなる。
 老朽化した屋根が崩れて体勢が崩れたが、すぐに受身を取り立ち上がる。
 数か月にわたるギルドの依頼請負で随分と鍛えられたらしい。

 ようやく辿り着いた王城の外壁は門の部分以外、現在地より高い。
 剣で切り崩すか、よじ登るか。
 着いてから気付いたのだが、どちらも現実的では無い。
 どうしたものかと考えていると後方から天を衝く様な咆哮が聞こえる。

27: 2010/07/04(日) 14:20:22 ID:jbdk7m5c0
 振りむくと何処から聞こえたのかはすぐに分かった。
 守護者プギャーと戦いを演じていた巨大な青騎士の物だ。
 本道の間から一本の紫の光が青騎士の胸を貫き、空へと押し上げていた。
 街の上まで浮かんだ青騎士は痙攣したかの様な動きを見せ、白い光に包まれる。

 青い鎧の下側、魔力の塊とも思える本体にヒビが入ってきた。
 青騎士の撃破に成功したのだろう、さすがは守護者だ。
 青い巨大は内側から膨らんでいく。
 だが、その鎧には亀裂が入る事はなかった。
 
 落ちきった太陽が世界を闇に閉ざすかに見えたが、
 青騎士の遥か左側では赤い魔法陣が描かれている。
 そちらでは赤い巨人が宙に浮いていた。
 今まで気が付かなかったが、戦場は一つだけでは無かったらしい。

 そんな中、青い騎士が破裂した。
 莫大な青の魔力が町に降り注ぎ、纏っていた鎧が街へと四散していく。
 
 俺の方には巨大な手甲の一部が飛んできて視界を黒く染め上げた。

28: 2010/07/04(日) 14:21:08 ID:jbdk7m5c0
―紫の国 首都 ( ^ω^) ―


 慣性に従い宙に舞った体が頂点を迎え、下降に転ずる。
 足元から風を肌に感じた。

 僕が落ちきる前に次の一手をうつのだ。
 その攻撃のための魔法陣は一つではない。

(;^ω^)「ツン!!」

 僕の声が届くはずもないが、声を張り上げた。
 この一撃で戦いが決まるのだ。

ξ゚⊿゚)ξ『分かってる!!』

 声が聞こえた。

 僕の前には赤い魔法陣が浮かんでいる。
 ツンの声に呼応して、その先に青い魔法陣が現れた。
 地上から空へと魔法を制御してるのだ、ツンの疲労は相当な物になる。

 しかし、今はツンに任せて僕はこの魔法を使う。
 
 掲げた両手の紋章が魔法陣に更なる魔力を与えて、準備が完了した。
 視界に、赤い魔力が入ってくる。
 ショボンが召喚魔法を使った時は眼光に黄金が混じっていたが、
 今の僕は赤い目になっているのだろうか。

29: 2010/07/04(日) 14:22:26 ID:jbdk7m5c0

(;゚ω゚)『……エクス、プロージョンッ!!』

 詠唱の完了を待って、はたして高位魔法は起動した。 
 爆発の紅は僕の視界を覆う中、更に奥で青い魔法陣が広がっていく。
 青い魔法陣が炎を青い光に変えて吸収した。
 魔法は連鎖する。

 発光をたたえる青い魔法陣を頭上に僕は地面へと落下していく。
 イフリートの前で魔力の塊が弾け飛んだ。
 三回の強化を経た青い魔力は更に肥大化し、魔将を包み込む。
 魔力の中からは強烈な冷気が発生していた。

 攻撃が成功した際の結果は分かっていた。
 イフリートは、凍ったのだ。
 腹部から炸裂する様に、魔力は氷の塊へと変化した。
 空中に氷の塊が現れる。

 ツンに残る魔力をほとんど使い、僕同様に一発だけの攻撃。
 高位魔法『エーリヴァーガル』がイフリートを内部から外へと刺し貫く。
 緑の国でツンが必要魔力を得て初めて使う事が出来るようになった魔法。
 龍との闘いでは、避けられてしまうだろうと使わなかった一撃だ。

 だがこれならば確実に当てられる。
 体を内部化から引き裂かれ、魔将自身の魔力が暴走する。
 勝負はついた。

30: 2010/07/04(日) 14:23:55 ID:jbdk7m5c0
 イフリートは氷と共に木っ端微塵に砕け散る。
 赤い魔力と細かい氷の雪が降る中を僕は落ちて行く。
 次の問題は着地である。
 これら全てジョルジュの教える戦い方であったが、彼は片道以外考えてくれていない。

 魔力を使い果たした僕が地面に到達すれば間違いなく原型を留めないだろう。
 受身を取れる体勢でも無ければ、そもそも高度が違う、当然魔力も切れて体の強化も無い。
 半分混乱した頭でツン達を見ると、あたふたしていた。
 そんな事でどうする。

 下にいる三人に対して少しばかりの憤りに駆られていると、
 突然真下に落ちる景色が真横に飛ぶ景色へとすり替わった。

(;^Д^)「おい! 無事か!?」

 紫の刺繍が踊る法衣をはためかせながらプギャーが僕の真横にいた。

(;^Д^)「大丈夫みたいだな、随分と無茶な戦い方だよ……」

 プギャーは建物から飛んで僕を捕まえてくれたらしい。
 偶然その場にいたのだろうが、大した反射神経である。

(;^ω^)「ジョルジュさんに言ってくれお……」

 僕が地面に着くまでに発した言葉はこの一言である。
 全ての魔力を使い果たした脱力感からか、
 プギャーが守護者であるという話はすっかり失念していた。

31: 2010/07/04(日) 14:24:48 ID:jbdk7m5c0
 だが地上でも状況は動き続けていた。
 何故かは知らないが混乱が広がっている。

(;^ω^)「どうなってんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと! 何で帰りの分の力残してないの!」

(;^ω^)「僕の魔力考えれば分かるはずだお」

 王城が目の前に見える。
 飛んでいる間に少々前に移動出来たらしい。

川 ゚ -゚)「まぁ、無事なのだから良しとしよう。
     それよりも今はジョルジュを追った方がいいのではないか?」

(´・ω・`)「そうだね。君はどうする?」

 ショボンはそう言いながらプギャーへと向き直る。

( ^Д^)「城に行くんだろ? 俺も指揮した後は城に入りたいから……」

( ^ω^)「じゃあプギャー先頭で行くお!」

(;^Д^)「お前らいつの間にかフレンドリーになったな……」

 初対面時にジョルジュにタコ殴りにされていた姿を見てしまうと、
 どうにも尊敬とは違う感情が生まれる。
 要するに僕は妙な親近感を感じたのだ。

32: 2010/07/04(日) 14:25:45 ID:jbdk7m5c0
 走りつつも互いの状況確認をすませる。

( ^Д^)「……ああ、各部隊を散開させて混乱の鎮圧を進めてる」

(´・ω・`)「守護者ジョルジュは先行して城に行ったけど、門とか開くの?」

( ^Д^)「あの人だったら壊して入るだろ。それよりお前らの魔力残量は?」

 後列を走る僕とツン、クーに向かってプギャーが前を向いたまま質問する。

ξ゚⊿゚)ξ「ほぼ無いわ。あの魔法使ったらやっぱりこうなるわね」

( ^Д^)「君とブーンは聞くまでも無かったか。クーは?」

川 ゚ -゚)「私もブーンの打ち上げと、属性連鎖に持っていかれた。
     一回突撃するくらいしか残っていない」

( ^Д^)「そうか……しかしジョルジュさんもよく属性連鎖なんかやらせたな。
      失敗したら反動くらって、魔力無い状態でやり合う事になるってのに」

(;^ω^)「やっぱあの人危ないお」

 何故にそうまで重要な情報を教えなかったのか。
 赤の守護者の恐ろしさをしみじみ感じていると、やがて王城の門が見え始めた。
 青い月が周辺を浮かび上がらせる。
 
 門を見ている間にもプギャーの周りには突然数名の影が現れ、
 一言二言を交わして消えていく。

33: 2010/07/04(日) 14:26:34 ID:jbdk7m5c0
( ^Д^)「ジョルジュさんの位置は不明らしい。
      多分城内なんだろうが……何故か城内との連携が切れてる」

(´・ω・`)「連絡が付かないの? 急いだ方がいいね」

 城門まで来るとケガ人が多い事に気づく。
 魚人の姿をした魔物の氏体も転がっている。

ξ;゚⊿゚)ξ「ケガ人と魔物だらけね……混乱は収まりだしているみたいだけど」

 ツンが痛々しそうに周囲を見回している中、一名の兵士が走ってきた。
 僕に『銃』を撃った兵士であった。

(;・-・ )「プギャー様! ……あれ、その者達は」

( ^Д^)「細かい事はいい、協力者だ。避難はどうなっている?」

(;・-・ )「はい、門番と城内共に連絡がつかないので第一魔法学校に移しました」

( ^Д^)「分かった。第二魔法学校にも可能な限り移せ」

(;・-・ )「了解しました! 手配して来ます」

 手早く話を済ませる姿を見ると、プギャーはやはり守護者なのである。
 兵士が急いで他の連絡兵達に事を伝えに行く。

34: 2010/07/04(日) 14:27:43 ID:jbdk7m5c0
 その間に僕は城壁を流し見ていた。
 上部の壁は倒壊している部分もあった。
 外壁沿いに青い鉄の様な、鎧の様な塊が幾つかめり込んでいるのが分かる。
 視線に気づいたのかプギャーが言う。

( ^Д^)「あれは青の四天王が装備してた鎧だな。
      予定では鎧ごと蒸発させるつもりだったんだが……」

(;・-・ )「駄目です! 第二魔法学校も限界です!」

( ^Д^)「なら首都内の学校全ての解放を! 蒸気列車も動かせ」

 列車という言葉に反応したショボンがプギャーに一言提案した。

(´・ω・`)「……こっちにも列車を回せないかな?」

( ^Д^)「え? ……そうか、分かった。 サウスターミナルに一台頼む!」

(;・-・ )「はい!」

( ^Д^)「それと! 俺達はこれから城に突入する。状況を確実に調べておいてくれ」

(;・-・ )「了解! 独立部隊は如何します!?」

( ^Д^)「治安維持部隊の指揮下に組み込め!」

35: 2010/07/04(日) 14:28:59 ID:jbdk7m5c0
 走り去る兵士の背中にそう投げかけてプギャーは息を吸い込む。
 右腕を空へと掲げると魔力が一気に満ちていく。
 旅に出る前に見た高位魔法と同じものだ。
 しかし、プギャーの方が色が強く、透き通った、紫の光だ。

 夜空の青い月を仰ぎ見る。
 
 燦然と輝く星達の合間を、一筋の光が駆ける。
 白い流れ星。
 空を走り、途中で別れ、霧散していく。
 随分前にもこんな流れ星を見た気がする。

 星空の下、魔力の舞う王都で、雷の大砲の城壁を砕く音が混乱続く夜街にこだました。

36: 2010/07/04(日) 14:30:11 ID:jbdk7m5c0
―紫の国 王城内 ( ? )―


 どうやら、この場に介入を続けているのは私達だけでは無いらしい。
 心当たりはある。
 しかし、確証はない。
 確定的では無い予測は信用に値しない。

 たとえそれが私個人の確信であったとしても。
 自分の考えに可笑しさを感じた。
 このような事を長年続けていると無意識の考えが多くなる。

 無駄な思考に身を任せている場合では無い。
 『ムラサキノクニ』、彼らがそう呼ぶ国の王城は私達の掌握下にある。
 それは視覚的な意味しか持たないのだが。

 感覚を動かすと、先程と変わらない城内の景色が浮かぶ。
 混乱の極みたる街とは対照的に城の中は静寂そのもの。
 幾人もの兵士が城内に倒れている。
 一見、陥落した城にも見えるが、城の主には何の変化も起こっていない。

 城内で行動しているのは現在は二名、近い間に九名へと変わるだろう。
 マントをはためかせながら一人の男が荘厳な扉を無理やり破壊して、押し開いた。
 木製のそれが軋む音と、金属の破片が赤い床を転がる。
 
 移り変わった視界の先には一人の老人が立っていた。

37: 2010/07/04(日) 14:31:14 ID:jbdk7m5c0
ミ,,゚Д゚彡「……ジョルジュか? 久しいな」

 僅かな間をおいて老人が口を開いた。
 『私』の『視界』もそれに応答する。

「ああ、あんたも元気そうだな。……ギコはどこだ? 
さっき謁見の間まで行って来たんだが、姿がなかった。
 それと、そこらじゅうの兵士が倒れてるが何があったんだ」

 視界は鮮明だ。
 恐らく、『彼』は気付いていない。

ミ,,゚Д゚彡「兵士が? それは知らぬが、何にせよ状況がはっきりとしていない。
      ギコは中央舞踏場かもしれない。最近は、よくそこに居るらしい。
      私もこの部屋から出られなかったので詳しくは分からないのだが」

 老人の顔には若干の焦りがあった。
 もっとも息子が、彼らの世界の危機の引き金に手をかけているのだ、
 親としては落ち着いてはいられないのかもしれない。

「分かった。俺は暫く城を探索する、あんたは早く外に出て詔勅を発動してくれ」

ミ,,゚Д゚彡「正式な権力は持たぬ。私は既に王では無い」

「それでもだ。もう一度魔王と戦うなんて悪い冗談だ」

 『視界』は軽口を叩きながらも一つの覚悟を持っている。
 それゆえに強い力を持つ存在なのだ。
 だが、私は彼の意思に未来を任せる事はできなかった。

38: 2010/07/04(日) 14:32:15 ID:jbdk7m5c0
ミ,,゚Д゚彡「……ではそうしよう。気をつけろ、ジョルジュ」

「おう、大船に乗ったつもりでいろ」

 そう言って視界が反転し、来た道を戻り始める。
 目指すは中央舞踏場だろう。
 背後から一言、声がかかった。

ミ,,゚Д゚彡「……すまないが後は任せたぞ、赤の守護者」

「任せな、フサギコ王」

 視界は、前へ前へと進んでいった。
 
 石造りの通路には赤いカーペットが敷かれ、一直線に続く。
 両側の壁に並べられた電灯に紫の光が淡く揺らめく。
 足音だけが静寂の城内に響いていた。

 永遠とも思える通路を抜けた先で、煌びやかな大広間が待っていた。
 一人の男と共に。
 
 もう、私は彼の視界を使わなくてもいい。
 どうせ一望できるのだ、彼らの状況を。

39: 2010/07/04(日) 14:33:13 ID:jbdk7m5c0
 金銀の刺繍がうねる床一面。
 天井に近い位置に並ぶ色とりどりのガラスが月明かりの模様を映す。
 頂点からは紫の光が部屋全体を明るく照らし出した。
 舞踏場と言うだけあり、全てが大きく絢爛豪華な装飾だ。

 ジョルジュの眼前には一人の男が、バルコニーから覗く月を背にして立ち尽くしている。
 王が代々着用する各部に銀の鎧をあしらった法衣が室内を通る風に揺れていた。
 紫の国の王、ギコがそこにはいる。

(,,゚Д゚)「……」
  _
( ゚∀゚)「……」

 ジョルジュは広間の入り口に油断なく構えていた。
 ギコの殺気を感じ取ったのだろう。

(,,゚Д゚)「ジョルジュ……何の用だ」

 ギコもまた小さく構えを作りながら言葉を投げかける。
  _
( ゚∀゚)「お前が一番分かってんじゃねぇか?」

 大股で一歩、ジョルジュが歩を進めた。

(,,゚Д゚)「すまないが見当がつかない」

 ギコもバルコニーの段差から降りる。
 互いの間合いは十歩ほど。

40: 2010/07/04(日) 14:34:14 ID:jbdk7m5c0
( ゚∀゚)「……軍を引かせろ!」

(,,゚Д゚)「断る」

 即答したギコを見て、ジョルジュは思いを固めた様だ。
 その刹那、双方の魔力が空間に広がっていく。
  _
( ゚∀゚)「……氏ぬかもしれないぜ?」

 ジョルジュの両眼に深紅の光が映り込む。

(,,゚Д゚)「それは双方に言える」

 ギコの両手に紫の光が満ちて行く。

( ゚∀゚)「仕方ねぇ、一応覚悟しな。神の名のもとに、相手してやる」

 個人的にだが最後の一言だけが、実に惜しい。
 もっとも、私が『個人的』というのも妙な話だが。
 ジョルジュが身を沈めて両腕に力を込めた。

41: 2010/07/04(日) 14:35:06 ID:jbdk7m5c0
( ゚∀゚)『フレア……!』

 ギコが両手をジョルジュへと向ける。

(,,゚Д゚)『プラズマ……!』

 構え自体が開始の合図となったようだった。
 互いの力が舞踏場に満ちる。

( ゚∀゚)『……ナイトッ!!』

(,,゚Д゚)『バレルッ!!』

 古代の単語が連なる。
 彼らの声が、彼らの意思を空間に伝えていく。
 意思によって操る力。
 この世界は、それを『マホウ』と呼ぶのだ。

 二つの色が舞踏場に陰影を描く。

42: 2010/07/04(日) 14:36:01 ID:jbdk7m5c0
 巨大な赤の光。
 ジョルジュの体の周囲に赤い線が縦方向に幾つも走りはじめる。
 同時に床を蹴って一息に間合いを詰める。
 それを目視できた時にはギコの放った魔弾がジョルジュに直撃した。
 
 空間に柱の様な巨大な奇跡を残したギコの銃撃。
 ジョルジュの体に弾丸が当たった瞬間、赤い鎧が一瞬だけ具現化し、また流れる赤い線へと戻る。

 鋭い紫の光。
 ギコの両手に握られた、精製された二丁の銃。
 紫に輝く銃器は軌跡を残して空間を走る。


 遥かな昔より続く驚異との戦いに対抗すべく、かつて赤の守護者が作りだした力。
 赤色の力を体に纏い、瞬時に鎧を精製するフレアナイト。
 物質化に合わない赤の力で鎧を無理に作りだす荒業だ。
 それでも目の前の男は常軌を逸した硬度で完成させている。

 対する紫の銃は前回の大戦でギコが発現した力。
 本人が持つ莫大な魔力をそのままに撃ち出すプラズマバレル。
 同時に、肉体活性化には合わない紫の力で体を強化している。

 過去の歴史を考えても人間個人同士の中では頂上の一戦となるだろう。

 私が予想するよりも僅かに早い速度で両者が踏み込み、肉薄した。
 ジョルジュの右腕がギコがいた空間を貫く。
 火炎が炸裂する外で深紅の明かりが広がった。

 銃口二つを目で追うと同時に左腕を防御にまわす。
 放たれた弾丸が両者の視界を、室内を、紫色に染める。

43: 2010/07/04(日) 14:37:02 ID:jbdk7m5c0
 ジョルジュは背後に一歩下がる。
 部屋の魔力が高まり紫の力が満ち、散っていく。
 しかし既にギコは紫の大剣を作りだして背後で振り上げている。
 振り下ろされる大剣を右腕で受け流した瞬間に落雷を思わせる電流と轟音が響く。
 
 音と雷撃にジョルジュはギコを見失った。

 先の剣と同じ反応の後ギコが左側へと出現する。
 再び作りだされた武器、紫の大斧の一撃はジョルジュの左脇腹へと突き刺さった。
 雷鳴が部屋を反響した。

 赤い鎧が突如として現れて刃を受けとめる。
 赤と紫の魔力が両者に吹きつけた。

 ジョルジュが間合いから外れようと飛び退く、合わせる様にギコが一歩踏み込む。
 瞬く間に精製された紫の突撃槍がジョルジュの左肩を刺突する。
 互いの魔力が爆発し、互いを弾き飛ばす。
 ようやく互いの間合いが離れた。

 ジョルジュの体のすぐ外側、赤の鎧が発現している部分。
 左の腹と右肩の鎧からそれぞれ武器を引き抜き投げ捨てる。
 魔力の線へと戻ったジョルジュのフレアナイトが軌跡を描き、再び構えを取った。

 ギコは両腕を向けて再度プラズマバレルを精製。
 一合の打ち合いではどちらにも損傷は無かった。

 規格外の力が光となって、再度舞踏場を彩る。

44: 2010/07/04(日) 14:37:52 ID:jbdk7m5c0
 やはり太古の戦争の時とは違う。

 この人間達は驚嘆すべき存在だ。
 見事に自分たちの世界を守ろうと一つの意思を持っている。
 だが、それ故に七年前は見送ったのだ。
 今必要なのは確固たる意志だけではない。

 考えている間に新しい意識が入り込んできた。
 この舞踏場の外側に意識のない人間が一人、城の廊下を走る五人。
 天より呼び寄せた物が一体。
 そして、地下から戻った影が一つ。

 どうやら舞踏場も賑やかになりそうだ。

45: 2010/07/04(日) 14:38:43 ID:jbdk7m5c0
―紫の国 首都 王城内部 ( ^ω^) ―


 紫色の電灯が一本の道に規則的に並ぶ。
 踏みつけた赤い絨毯が僕の汚れた靴で少し黒ずんだ。

 妙な気分が胸の間を支配していた。
 城の外が嘘のような静けさが、豪奢な城に不自然に残っている。
 回廊には多くの兵士が倒れていた。
 先程ツンが診たが命に別状はないらしい。
 
 プギャーが無理やり一人を叩き起して話を聞いたが、
 兵士は何も覚えてないと言っていた。
 僕達は事の真相を知るためにジョルジュまたはギコ王の元へと急ぐ。
 ギコ王がいる可能性の高いのは謁見の間か舞踏場。

 ジョルジュの居場所が分からない以上、この二つから当たって行く。
 先ほど謁見の間には誰もいない事を確認したので、
 現在僕達は舞踏場へと続く廊下をひたすら走っている。

 誰一人言葉を発する事もなく、足音だけが控え目に続いていた。
 皆感じている。
 この城に蔓延する巨大な魔力を。
 魔法に鈍感な僕でも分かるのだ、他の四人にはどう伝わっているのだろう。

 そして魔力の原因は道の先にある。
 魔王大戦の英雄の力は僕の想像できる範囲を超えている。
 この回廊が続く先は果たして何なのか。

46: 2010/07/04(日) 14:39:54 ID:jbdk7m5c0
 直線の遥か先に青い月が小さく現れた。
 二人の守護者はそこにいる。
 周囲を満たす魔力を感じながら僕達はそれぞれ走る速度を上げた。
 熱気が通路の先から僕達を包んだ。

 青い月がバルコニーから僕達を眺めている。

 やがて舞踏場へと踏み入った僕達が見たのは魔法の反応で全てが煌めく室内と、
 魔法を携えて向かい合う二人の英雄の姿だった。
 ただの二人で室内を飛び出す程の魔法を扱う光景は驚きを通り越して幻想的であった。

( ゚∀゚)「……」

(,,゚Д゚)「……」

 縦に流れる赤い線を体の周囲に展開したジョルジュと、
 生気は無いが鋭い両眼で紫に輝く銃を二つ手にした男。
 間違いなく紫の国国王ギコ=デルタだ。

(´・ω・`)「……」

 ショボンは油断なく部屋を確認し。

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

 ツンは僕同様、目の前に光景に圧倒されている。

47: 2010/07/04(日) 14:40:42 ID:jbdk7m5c0
(;^Д^)「王よ! 何をなさっている!」

(,,゚Д゚)「プギャー、貴様も私の前に立つか?」

 ジョルジュに向けていた両銃の片割れをプギャーへと向けながら小さく言う。

川 ゚ -゚)「ギコ王、何故戦を望む!」

 かつての大戦の頃からの顔なじみであるクーも前へと出る。

(,,゚Д゚)「何故……?」

 意外にもギコ王の顔にゆっくりと疑問符が浮かんだ。
 やはり、王は正気とは言えない状態なのかもしれない。
 どう考えても七年前の大戦を収めた英雄の一人が魔王の復活を望むはずはないのだ。

 同時に時間は動き出す。

48: 2010/07/04(日) 14:41:39 ID:jbdk7m5c0
( ゚∀゚)『エクス……!』

 右腕に抑えきれないほどの閃光が軌跡を残しギコ王へと駆ける。
 
(,,゚Д゚)「……!」

 完全にギコ王の虚を突いた。
 公明正大なジョルジュがこの手を使うという事は、
 相当に状況が緊迫しているという事に他ならない。

( ゚∀゚)『プロージョン……』

 ギコ王の目の前に肉薄したジョルジュの手に力が込められた。
 そんな中、ギコ王の体が横に一回転する優雅な動きを見せ、
 ジョルジュの背後へと移動する。
 だがジョルジュの方は向いていない。

 互いに背を預け合った英雄が双方共に魔法を発動。

( ゚∀゚)『バーストッ!』

 詠唱が完成した。

(,,゚Д゚)「!?」

 ジョルジュの右腕が突き出され、炎と爆発の嵐が左側の壁に向かって飛ぶ。
 深紅の光がその嵐の中に魔力を湛えている事を現す。
 反対側のギコ王は困惑した顔のまま紫の魔弾を右の壁に連射する。
 舞踏場が壊れていく。

49: 2010/07/04(日) 14:42:37 ID:jbdk7m5c0
( ゚∀゚)「あの旅で培った反射までは操れなかったようだな。
     さて、誰か知らねぇが出て来い」

 誰にともなくジョルジュが呟いた。


(´・ω・`)「プギャー、上だ」

(;^Д^)「え?」

 ジョルジュが動くと同時にショボンも動いていた。

 ショボンは舞踏場脇にあった階段で二階へと走る。
 僕達がいた丁度真上の足場で勢いを込めた仕込み槍を振り抜く。
 空気が揺れた。
 ショボンの槍から逃れた何かが空間に波紋を残しつつ現れる。

(;^Д^)「何だそれ!?」

 プギャーはそう言いながらも紫の砲台を右腕に精製して構える。
 現れた何かを狙って雷撃は天井もろ共に吹き飛ばした。
 青い夜の光が開いた穴から差し込む。

 そして英雄達が魔法を放った先からはそれぞれ見知った者が姿を現した。

50: 2010/07/04(日) 14:43:58 ID:jbdk7m5c0
( ∴)「……」

 瓦礫の隙間に足を置いた。
 黒いローブを纏った仮面の魔法使いがジョルジュの目の前に。
 炎の嵐を受けたはずであるが衣服に何ら影響は見当たらない。

( ∵)「手荒い歓迎だね」

 崩れそうな外壁に一閃が走り、白い姿が現れる。
 汚れのないローブに、仮面をつけた魔法使いがギコ王の前に。
 透明な光を放つ水晶の剣が右手に握られている。

(,,゚Д゚)「ゼアフォー。貴様……ぬう!?」

( ∴)「……」

 ゼアフォーはギコに向かって手を向け、すぐに振り払った。

 首だけ動かして黒いローブを視界に収めたギコ王は、
 頭を抱えて膝を床につく。
 頭痛か何か、これ程急激な体調はあり得ない。
 間違いなくこの部屋にここ半年の混迷を紐解く鍵がある様に思えた。 


 入口に並ぶ僕とツン、クーとプギャー。
 二階で一望するショボン。
 僕達の目の先で背を預け合うジョルジュとギコ王。
 二人の英雄をそれぞれ挟むように黒と白の仮面魔法使い。

51: 2010/07/04(日) 14:45:38 ID:jbdk7m5c0
 そして僕達の向かい側、月を背後にするバルコニーで空間に波紋が揺れる。
 ショボンとプギャーの連携を避けたのであろう『何か』だった。
 
 白でもない、黒でもない、灰色のローブ。
 深く被ったフードは相手の表情を読み取らせない。

( ∵)「やあ、久しぶり」

 灰色のローブが声を発する前に水晶の剣を構える。

(   )「ビコーズ……久しいな、と言うべきか?」

 灰色のローブが言い終わる前にビコーズが高々と跳躍する。
 無色の光が剣を覆い、兜割りをするように力を込めて真上から斬りつけた。

( ∵)「この世界にはあなたが必要なのだろう。だが、今は大人しくしてもらいたい」

 白と灰の間に黒いローブが翻る。
 
( ∴)「……」

 いつか見た紫の魔法剣が無色透明の剣とぶつかった。
 光と共に押し出された風が壊れかけの舞踏場を吹き抜ける。

 灰色のフードが外れてなびく。

52: 2010/07/04(日) 14:46:51 ID:jbdk7m5c0
|::━◎┥「止めよ。ゼアフォー」

 灰色のローブの下には機械があった。
 赤いレンズの瞳が鉄の頭部の中から覗いていた。

( ∵)「その姿でいるのかい? ハグルマの王」

 地上へと戻りながらビコーズは呟いた。
 白いローブがはためき、ビコーズの体は緑の光に包まれ、消える。
 疾風に乗り距離を詰めた透明の剣がゼアフォーへと向かう。
 ゼアフォーの持つ紫の魔法剣がそれを遮る。

( ∴)「……!」

( ∵)「そして君は消えるべきだ、世界の為に」

 仮面の魔法使い二人が鍔迫り合いを続ける。
 奇妙な魔法を使う事も、先程緑の魔法を使った事も、互いの中で完結している様だ。


 時を同じくしてジョルジュも地を蹴る。
 バルコニーに佇む灰色のローブを着た機械へ。
 
( ゚∀゚)「よく分かんねぇが……てめぇは魔王側だと判断した!」

|::━◎┥「……」

53: 2010/07/04(日) 14:47:52 ID:jbdk7m5c0
 ジョルジュと機械の背後でギコも何とか立ち上がる。
 片頭痛が収まりつつある様子だ。
 その眼には先程までは無かった生気があった。

(,,゚Д゚)「俺は……世界が……! はっ……ジョルジュ!」

 ギコは混乱している頭で周囲を見、すぐに判断を下した。
 ジョルジュの援護。
 その瞬時の判断力は大戦で培ったものだろうか。
 手に二対の銃を作り出し灰色のローブへと狙いを付ける。
 

 二人の英雄が灰色の機械と相対す。
 だが、その付近で立ち会う二人の仮面魔法使いの動きは、より早い。

( ∵)「ッ!!」

 一瞬の出来事。
 
 ビコーズが僅かに気合いを入れ、剣を振り払った。
 青色の光が周囲に飛び散る。
 舞踏場の床にうっすらと氷が生まれ、冷気を走らせる。
 
 幾つもの形をなした氷、
 まるで剣の様に鋭利なそれらが舞踏場の至る場所から天井へと向かって発生する。
 青き氷刃は列をなしてゼアフォーの元へと。

54: 2010/07/04(日) 14:48:40 ID:jbdk7m5c0
 だがゼアフォーは氷に捉えられる事はなかった。
 緑色の光が翼をなし、黒い姿を天井へと持ち上げたのだ。
 青い海の上に緑の気流が現れた様に錯覚する。

 その真下でビコーズは既に紫の砲台を腕に出現させて狙いをつけていた。
 雷光がほとばしる。
 普段は天空より降り注ぐ光が轟音とともに舞踏場の天井を完全に消し飛ばした。

 人知を超える威力であったがゼアフォーは健在だ。
 吹き飛んだ天井の淵から黄金の魔力が城の部品を動かし、盾を作っていたらしい。
 属性の強弱を利用したのだ。
 しかしビコーズが放った雷光でゼアフォーの翼は失われた。

 砕けた魔法の翼と共に落ちてくるゼアフォー。
 赤い魔力を散らせて氷を足場に空中へと躍り出るビコーズ。

 二人が衝突する瞬間に僅か遅れてジョルジュと灰色の機械も迫る。
 全霊の魔力で向かうジョルジュ、それに先駆けギコ王が援護射撃で灰色の陰に銃弾を放つ。


 今まさに全員の魔法がぶつかり合う。
 その時だった。

55: 2010/07/04(日) 14:49:58 ID:jbdk7m5c0

 目の前の世界に、衝撃が広がった。
 透明だが確かに感じるそれは球状に、場にいる全員を通り抜け、城の外へと消える。
 時間と呼ぶほどの時間でもない僅かな一瞬。

 たったそれだけで全員の魔法が、『消えた』。
 ジョルジュも、ギコ王も、白い仮面の魔法使いも。

( ∵)「……復旧、していたのか」

 唯一、色も音も無く空中に留まるゼアフォーにすれ違いざまに言った。

(,,゚Д゚)「ゼアフォー、お前は……」

 消え去った双銃、空の腕を見てギコ王がゼアフォーへと視線を移す。

( ゚∀゚)「……」

 灰色の機械に注意を払いつつジョルジュは大きく後退した。

 それぞれが大きく間隔を開きつつ、それぞれの状況を見極める。
 空中を駆け抜けたゼアフォーが灰色の機械の前へと来た所で、
 場の視線はバルコニーへと集まった。

( ゚∀゚)「【破魔】……久しぶりに見たな」

 聞いたことの無い単語だ。
 前にゴーレムが魔法を崩した事はあるが、これは違う。
 ゴーレムの咆哮は魔力の結合を解くだけであったが、
 今は魔力自体が舞踏場に存在していない。

56: 2010/07/04(日) 14:51:09 ID:jbdk7m5c0
(,,゚Д゚)「既に、魔王が……?」

|::━◎┥「否定する。この領域現象と君たちの言うマオウは直接的関係が無い」

( ゚∀゚)「だが俺達は前の魔王にこの技を使われたぜ?
     まぁ神の武器には通じなかったみたいだがな」

 灰色の機械はジョルジュの言葉を遮る様に背を向けた。

|::━◎┥「……いいだろう、お前に任せる」

 まるで塗料を被った様だった。
 ただそれだけを言い残して、灰色のローブは黒く染まっていく。
 いつの間にか頭部の機械も闇に消え、一人の男が立っていた。
 月明かりが新たなる人物を照らし出す。

( ФωФ)「……魔法は、どうやら世界において光だ、強すぎては影が大きくなる」

 事実だけを言うならば海底遺跡で出会った男がいた。
 一ヶ月前に会った際にも強大な魔力は彼の存在そのものを疑わせた男だ。
 不審な点は山ほどある。
 そもそも彼は緑の国の方角へ消えたはずだ。

( ФωФ)「だが闇が強くなり過ぎれば、小さな光では照らせない。
        均整を守ることがこの世界の勇者を生む、俺はそう思っている」

 崩れ去った舞踏場の先で月明かりを受けながら黒いローブが二つ、
 僕たちを見つめる。

( ゚∀゚)「何言ってんだ? 面倒な話はいい、お前は魔王に復活して欲しいかどうかだ」

57: 2010/07/04(日) 14:52:11 ID:jbdk7m5c0
 依然、魔法は使えないが構えをとり質問を投げかける。
 答えは決まっている様なものだが。

(,,゚Д゚)「ついでと言っては何だが私を操った魔法も教えてもらいたいな。
     いや、『認識の方向を変える』魔法か。
     魔王再臨は世界を守る、我ながらおかしな認識をうけたものだ」

( ФωФ)「デルタは紫の力を創った者。
        その末裔ならば良くも悪くも影響を受ける」

(,,゚Д゚)「王家の血……?」

( ФωФ)「薄れた血と変わらず流れる血では意味も変わる。
        彼、ゼアフォーの干渉が及ぶのは純血者だけだ。
        もちろん力にも影響を受けよう。
        例えば私の役割、ロマネスクを対象としても紫の力は意味を成す」

( ∴)「……」

 ロマネスクと名乗った黒いローブの傍ら。
 同じく黒衣のゼアフォーが要人を守るかのように無言で佇む。

( ФωФ)「もう一つ言うならば、人間の頭にも電気は流れているという事だ」

 奇妙な事を口走りながらロマネスクは僅かに顔を上げた。
 頭上満点の星空を見るように。

58: 2010/07/04(日) 14:53:10 ID:jbdk7m5c0
( ФωФ)「時は満ち欠けを繰り返す。
        欠けた時間の狭間に、お前たちの魔王が来る。
        では、汝らが勇者たる事を」

 背を向けたロマネスクが一歩進んだ。
 暗闇に隠れたローブが今度は白く染まっていく。
 被ったフードの下から小さく声が聞こえた。

 姿を思わせる透き通った声であった。

(   )「……君たちの勝利を祈るよ、この世界でね」

 先程と全く違う声、確かにそう感じた。

(´・ω・`)「! 待て」

 一番早く対応したショボンの詠唱は魔法を結ぶ事は無かった。
 それが分かっていた二人の英雄は黙って白と黒のローブを見守る。

( ゚∀゚)「……やっぱり、『転移』まで出来るのか」

 謎の二人が白い閃光に包まれ高速で夜空に舞いあがる。
 それが霧散した先には既に何者も存在しなかった。

59: 2010/07/04(日) 14:53:50 ID:jbdk7m5c0
―紫の国 舞踏場 外  ('A`)―


 冗談にしては出来すぎている。
 俺という矮小な存在の眼前にあってはならない出来事だ。
 
 何故に大戦の英雄ジョルジュとギコ王が戦っていたのか。
 仮面の魔法使い二人は論外だ。
 英雄に匹敵する魔力を容易く扱う姿は既に化け物である。

 自然と足に力が入り、走る速度も上がった。
 
 王城の外にいた俺は青騎士の撃破に伴い飛んできた鎧に巻き込まれた。
 外壁を突き破りながら城の中へと鎧ごと突入した俺は、
 運よく瓦礫が衝撃を緩和して無傷に近い状態で目を覚ました。
 と、考えるのが妥当だろう。

 当然、体中に打撲はある。
 重い体を引っ張りながら目を覚ました場所は真暗であった。
 見つけた前の隙間から見えた光景は生涯忘れることの無い悪夢となるだろう。
 逃れるように急いで階段を駆け下り、通路を走り、また階段を下りる。

 そんな中、先ほどの場面を頭の中で何度も繰り返し流れる。
 気がつけば俺は城と城壁の間の通路に出た。
 一回曲がった先に開いた城門が見える。
 人が集まっているのは緊急事態だからだろう。

60: 2010/07/04(日) 14:54:46 ID:jbdk7m5c0
 一体全体何が起こっているのか分からない。
 悪い事をした憶えも無いというのに体中打撲とは俺の運が悪いのか。
 それとも現れた魔物か、紫の王か。
 別に誰でもいいのだが休める場所を求めて城門に近づいていく。

( ・-・ )「何者だ」

 城門の扉に並んでいた兵士が声を離れた所から声をかけてきた。
 今までの状況を適当に説明する間、城門の前で老人が何か指揮をとっている。

ミ,,゚Д゚彡「第五中隊はどうか」

(;´・_ゝ・`)「準備完了しています!」

ミ,,゚Д゚彡「分かった、私は近衛の小隊と先行する。戻り次第守護者へと伝えよ」

(;´・_ゝ・`)「了解しました!」

 どうやら物騒な話らしい。
 あの歳になっても軍を動かそうという気力は素晴しいのだろうが、
 下らない戦争よりも向けるべき場所があるのではないだろうか。
 
('A`)(まぁ、俺に言われたくないよな)

 しみじみ自己完結していると先ほどとは違う兵士が前に立っていた。

( ・-・ )「お前、先ほどの魔法使いか?」

61: 2010/07/04(日) 14:55:37 ID:jbdk7m5c0
('A`)「……?」

 兵士は誰も同じような格好をしている。
 無個性な鎧を着用する集団の中で誰かを覚えているのは難しい。
 どことなく顔も同じに見えてしまう。

( ・-・ )「プギャー様と巨大な魔物が戦っている本道で会っただろう」

('A`)「……ああ。その節はどうも」

 そうだ、おそらく数刻前に俺のマントを引いて路地に引き込んだ兵士だ。

( ・-・ )「……む、今はどうでもいい話か。すまない。
      それよりお前は避難民を助けてくれたのか?」

('A`)「……そういえば魔物とは戦いました。
    誰かを助けるとか、大層な話ではありませんが」

 今度同じ状況になったら逃げる自信がある。
 本来、俺はそういう人間のはずだ。
 道で魔物に斬りかかったのは、
 恐らくこの兵士の言葉に引っかかりがあったのだ。

 俺に誰かを指揮するだの、助けるといった力はない。
 だが、それが多分に可能な状況になってしまった。
 結果としてむすばれたのは小さな自尊心、とでも言えばいいのか。
 我ながら下らない。

62: 2010/07/04(日) 14:56:19 ID:jbdk7m5c0
( ・-・ )「そうか、ならば折り入って頼みがある」

 世界とは、常に動く物だ。
 自分が何もしなくてもそれは変わらない。
 そう思っているし、事実だろう。 

 幾人もの道が絡み合い運河の如く流れていく。
 それは人が作り出した物だが、
 人では流れる方向すら変える事が出来ないのだ。
 
 そして誰も傍観は出来ない。
 そう思っている人間でもいつの間にか流れの中にいる。
 傍観者を気取る者は激流に流される中で逃避をしているに過ぎないのだろう。

 傍観者気取りとは俺の事だ。
 いつだって何もせず流れを見ているつもりだった。
 人々の行く道はどこかでぶつかり、絡み合っていく。
 やがて束になったその一本の道。

 それを運命と言うのかもしれない。
 俺は今日、傍観という逃避から無理に引き離された。
 まったく、下手に氏ぬよりも面倒である。

63: 2010/07/04(日) 14:57:53 ID:jbdk7m5c0
―紫の国 首都 王城内部 ( ^ω^) ―


 そして静寂が訪れた。
 灰色のローブだった奇怪な存在。
 黒いローブを纏った仮面の魔法使いゼアフォー。
 
 僕達がその二人を見送ったすぐ後、
 白いローブを揺らせる仮面の魔法使いビコーズも。

 三つの影。
 僕達の奇妙な邂逅は意味深な言葉と多くの謎を残して消えていった。
 彼らを追うという訳ではないが、魔王復活など冗談にもならない。
 すぐに僕達も城の外へと向かった。

(;´・_ゝ・`)「ギコ王様! プギャー様もご無事で!?」 

 大所帯で現れた僕達に驚きながらも数名の兵士が集まる。
 城の中での騒動と同時に外ではフサギコ先王が行動を開始していた。
 紫の軍と緑の軍は一進一退の牽制を続け、遂に首都より北の平原で睨みあっている。
 赤、青の国もまた紫の国の西から迫っている。 

 フサギコ先王は両軍の間へと先行して詔勅を下すとのことらしい。
 幸いにも北の平原までは急げば明日には到着できる。
 
 そう聞いた所でショボンの一言が活きる。
 サウスターミナルに来る列車が北まで素早く運んでくれるだろう。
 先王が発ったのは少し前らしい、まだ僕達も間に合う。
 集まっていた兵士達にギコ王がゆっくりと向き合った。

64: 2010/07/04(日) 14:58:38 ID:jbdk7m5c0
(,,゚Д゚)「……」

(;・-・ )「ギコ王様、ご無事ですか。ですが今の状況は……」

(,,゚Д゚)「分かっている。全ては私の……いや、俺の責任だ。
     自分の過ちは自分で正す。だが一人では不可能である事も分かっている。
     都合の良い話だと思うが、もう一度力を貸して欲しい」

(;・-・ )「はい! 我々は紫の国と共に!」

(,,゚Д゚)「すまない。現場にはプギャーを残す。
     事態の沈静化を待って北の平原へ第三師団までを率いて来てくれ」

 急いではいるがギコは的確に指示を下していく。
 ここ半年、紫色の疑惑に包まれた国の王であった者とは思えない。
 そして疑惑を向けていた配下も今はその指示を仰いでいる。
 
 それだけ人望のある先代守護者なのだ。
 彼が王となったのは間違いとは思えない。
 やはり、魔王復活を目論んだのは灰色の影達なのだろう。

( ゚∀゚)「直接じゃ列車に間に合わねーな。西のターミナルで捕まえられるか?」

 線路は首都に円を描きながら存在している。
 ジョルジュは手を回しながらプギャーに声をかけた。

(;^Д^)「今から走れば大丈夫でしょう。
      ギコ王、俺は中央広場へ兵士達をまとめに行きます」

65: 2010/07/04(日) 14:59:39 ID:jbdk7m5c0
(,,゚Д゚)「頼む。他の者たちも民の安全を優先し行動してくれ」

(;・-・ )「心得ました」

 全員が長居できるような状況には無い。
 ギコ王と僕達は西へ、プギャーは南へ、兵士達は各地へ。
 それぞれが魔王への不安を抱きつつ走り始めた。

 
 数分間走り、やがて線路が路地の先に現れた。
 町の中にぽっかりと空間が走っていく姿はいつ見ても違和感を感じる。
 ターミナルが紫色の電灯に彩られつつ列車を迎えていた。
 丁度、列車が通過する瞬間に僕達は走りこんだ。

 もうすぐ目の前を通っていく列車には王と近衛の部隊が乗っているらしい。
 ターミナルの入り口は腰ぐらいまでの高さがある。
 階段を使うこともせずに飛び乗りながら更に走る。
 そのまま列車へと飛び込んだ。

 僕達の着地地点は貨物を載せるべき部分であった。
 重力に引っ張られる感覚は気のせいでも何でも無い。
 動く床に足が着いた瞬間見事に体勢が真横に崩れる。
 着地と言うよりは転がり込んだ僕とツンとは反対に、残りは華麗に着地した。

(;^ω^)ξ;゚⊿゚)ξ「ぬうぅ……」

(,,゚Д゚)「どこか打ったか?」

(;^ω^)ξ;゚⊿゚)ξ「脳天を少々……」

66: 2010/07/04(日) 15:00:32 ID:jbdk7m5c0
(,,゚Д゚)「分かった、衛生兵はどこか!」

(;^ω^)「んな大げさな物ではありませんお」

 無理矢理ではあるが列車に乗り込んだ僕達は先頭車両に向かいフサギコ先王と合流。
 近衛部隊には衛生技能を持つ者も多く、僕とツンは手厚い救護を受けた。
 そんな僕達を尻目に守護者と王達は今後について会議を始めている。
 一応ではあるが、この場所には全ての国の重要関係者が集まっているのだ。

(,,゚Д゚)「父上、俺は……」

( ゚∀゚)「ギコ、首都では色々面倒な事があったが今はいいだろ。
     問題は俺達が開戦までに間に合うかどうかだ。なぁフサギコ王」

ミ,,゚Д゚彡「分かっている。蒸気機関は最大速度で移動している。
      到着は恐らく深夜……12時程になるだろう」

(´・ω・`)「地図を見ましたがラインを上手く切り替えれば止まらずに行けるでしょう。
      もちろん連絡手段は限られていますが」

ミ,,゚Д゚彡「む? お前は……」

(´・ω・`)「失礼。お初にお目にかかります、
       現黄の守護者の任についているショボン=バーボンと申します」

( ゚∀゚)「先代よりまともだろ?」

ミ,,゚Д゚彡「うむ……頼りにしている」

67: 2010/07/04(日) 15:01:16 ID:jbdk7m5c0
 彼らの話は尽きる事無く続く。
 僕は言わずもがな、青の国の状況はジョルジュが知っているためツンの出る幕は無い。
 クーは重要関係者の一人なので時折情報を口にしている。
 僕とツンは完全に蚊帳の外といった状況となっていった。

 今更な話ではあるが僕はこんな場所にいるべき人間ではない。
 背後で世界の行く末を決めかねない話をしているのは少々異質だ。
 だが確実に経験した戦争が再び始まろうとしている。
 それだけは、微力ながらも防ぎたいと思う。

 戦火が焼き尽くすのは物だけではないのだから。

68: 2010/07/04(日) 15:02:04 ID:jbdk7m5c0
―紫の国 北方平原 パンデモニウム前 ( ^ω^)―


 この世界には塔がある。
 魔王の封印地、パンデモニウムという森から遥か空へと向かって一筋の影が伸びる。
 それが夜でもはっきりと見えるのは、ここが紫の国だからだ。

 一際青い月を見ていると真夏の空気が冷え切って感じられた。
 窓の外には嘘のような無数の星が金銀に煌いている。
 やがて、列車は速度を緩めて平原へと横付けした。
 丘となっている北のターミナルである。

 列車を降り僕達は近衛部隊と平原の中心へと向かう。
 その先には、戦場が見えた。
 東に蠢く紫の輝き、西に構える緑の灯火。
 大勢の魔法使い同士の戦場は初めて見る。

 そして互いの軍は一触即発。
 今にも突撃を開始しそうな張り詰めた空気が、夏空の下に吹き抜けていた。
 間に合うだろうか。
 僕達の姿は闇に紛れてしまっていた。

 普段は見つかりたくない場合が多いというのに何とももどかしい。
 早く、僅かにでも早く。
 詔勅が宣言されれば戦いは無い、そう信じて足を動かす。

 目の前の軍勢が同時に動きはじめる。
 止まれ、そう叫んだと思う。
 紫色の矢が空を染め上げ、緑の光を宿した武器たちが地を駆けていく。
 こんな時に僕は足を何かに引っ掛けて転んでしまった。

69: 2010/07/04(日) 15:03:06 ID:jbdk7m5c0
 顔を上げた先に見えたのは、光の戦場。
 両軍、兵士達の魔法の輝きは暗闇を照らして夜とは思えない明るさだった。
 始まってしまった、人間達の戦争が。
 
 息が詰まるような緊張が僕の胸を貫いた。

 暗闇の中に浮かぶ戦場を包むように確かに気配が走りぬける。
 僕の緊張は目の前の戦いのためではない。
 恐らく周囲の仲間達も同じ物を感じている事だろう。
 暗闇よりも暗い意思が地面を、空を、世界の全てに広がって行くようだった。

 夜空は『黒』に照らされる。
 薄暗い闇がまるで夕暮れの様に全ての像を浮かばせる。
 それは霧の如く戦場と僕達を包み込んでいく。
 
 地面についていた手に違和感を感じたので慌てて立ち上がった。
 足元の雑草が急激に成長して踵の上辺りまで伸びていた。
 これは間違いなく何かに反応を示している。

 何が起ころうとしているのか、この場に分からない人はいないだろう。
 僕はゆっくりと立ち上がると塔の下にあるパンデモニウムに目を向けた。
 不思議と恐怖は感じない。
 それどころか僕達の方がこの場にいる事自体が問題に思えた。

70: 2010/07/04(日) 15:03:54 ID:jbdk7m5c0
 そこは魔王の封印地。
 大戦の歴史が始まり、終わる場所。
 漆黒の魔力が嵐の様に草原を吹きぬけていく。
 以前変わらず黒い霧もまた地面から湧き上がり、森の前へと集まる。

 どこかの城程に大きい魔力の塊が霧の奥で形を成していく。
 目を凝らして確認すると巨大な召喚魔法よりも更に大きい。
 災厄を招くのはいつも人間なのだろうか。
 本当にこの魔力は人間が引き起こした物なのだろうか。

 自答の果てには何も残らなかった。
 パンデモニウムの森から赤色の光が漏れる。
 半身が機械となった魔物たちが黒い霧に付き従うように列を形作る。
 彼らの圧倒的な数は軍勢と呼べる規模だった。

 そして霧は晴れる事無く草原を覆いつくす。
 その中で魔物の軍勢を操るのは生ける伝説、遥かなる脅威。
 漆黒の大海、星の海に祝福を受けるように低い咆哮がどこからとも無く聞こえる。
 
 魔王は、ここに復活を果たした。



第四章 紫色の疑惑 完  第十八話「正位置と逆位置の『運命の輪』」 完

71: 2010/07/04(日) 15:05:09 ID:jbdk7m5c0
以上で本日の投下を終了します。
お疲れさまでした。

73: 2010/07/04(日) 22:58:13 ID:f4lK7bfk0
来てたのか、乙

引用: ( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです