1: 2010/07/21(水) 21:37:39 ID:kCdNmJmI0

2: 2010/07/21(水) 21:40:11 ID:kCdNmJmI0


 強固なる意思


 示した力


( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

第五章 漆黒の魔王  第十九話「正位置の『力』」

 
 五種類の魔法の光が兵士たちの多様さを思わせる。
 そう認めた矢先に正面に映えるパンデモニウムの森が明るく見えた。
 魔物の出撃かと思ったが勘違いだったようだ。
 ゆっくりと空へと視線を移す。

 高い空が急速に赤みを増している。
 夏の日に見る頭上にはいつもどおり高い雲が見えた。
 夕日によって眩い赤で強弱をつけられた一面。
 こんな時でもなければ、もっと眺めていたい。

 そう思いながら次の日の青空も、夕立も過ぎ去り、日々は流れていった。
 疲労の溜まった体を動かして長い時間が過ぎたと振り返っても、
 たった一ヶ月ほどの出来事なのだ。
葬送のフリーレン(13) (少年サンデーコミックス)
3: 2010/07/21(水) 21:40:58 ID:kCdNmJmI0
 ずっと続くかに思えた真夏の太陽はなりを潜めて、秋の足音が聞こえる。
 では、この戦いはいつまで続くのか。
 やはり僕達の時代における二度目の魔王大戦はまだ続くのだろう。
 
 魔王が封印されてから、たった七年しか過ぎていないというのに。


 魔王、再臨。
 その知らせは世界を一瞬にして世界を駆け巡った。
 疑惑に包まれ、開戦までの道を作った紫の国は、
 後に埋め合わせをしなければならないだろう。
 
 しかし、ばらばらになりかけた五国は皮肉にも魔王の復活により団結を強めた。
 魔王に対するべく調印された『魔法の盟約』。
 歪の起きた五国は全ての軍事力、国力を投入する総力戦の形を取り脅威に相対す。
 だれもが自分達の行く末を感じながら。

 連合軍と呼ばれる魔法使い達の軍団。
 魔王軍と呼ばれる魔物達の軍勢。
 それぞれは同一の戦地、北の平原ににらみ合っていた。
 人間達は平原の先、パンデモニウムの森より出撃する魔物に殲滅戦を繰り返す。

4: 2010/07/21(水) 21:42:04 ID:kCdNmJmI0
 魔王と呼ばれる存在は人間達の前に姿を現さない。
 パンデモニウムの周囲に暗い瘴気を張り巡らせ、その奥に威を構える。
 ただ、魔王という名の威圧だけで人間達を踏みとどまらせていた。
 大戦の英雄も例外とは言えない。

 それほど魔王と魔王軍は強大な力を持っている。
 その姿、その目的、その意味。
 全てをパンデモニウムの闇に隠しながら。


―紫の国北部平原 五国連合軍本部―


 各国の兵士達の行き交う駐屯地でつかぬ間の休憩を終えて立ち上がる。
 今日やるべき任務は荷物の移動。
 もう僅かで全て移し終わるだろう、算段をつけて兵舎をくぐる。
 意外と残っていた食糧の箱にため息が出た。

 特務赤魔法兵ブーン=ホライゾン。
 クー=スナオ指揮下の特務部隊構成員が現在の僕の役割、階級だ。
 物々しい名前とは裏腹にやっている事は雑用である。
 魔物と一戦交えた後には衛生兵としても駆り立てられた。

 僕たちは名目上戦場にいながら全くと言っていいほど戦闘をしなくて済む。
 自ら志願し、戦場に出られるならばいいと言っていたクーは不満そうだが、
 武士に二言は無いと雑用に甘んじている。

5: 2010/07/21(水) 21:42:53 ID:kCdNmJmI0
 僕がこの階級についているのはジョルジュの使いとして各国を回り、
 紫の国では四天王へと形だけの高位魔法を放った実績からと言われている。
 ツンも同様であり、僕達の位置を裏付ける物は分かりやすく言えばコネだ。
 守護者の方々が手を回してくれたのは火を見るより明らかだろう。

 僕としてはありがたいが、周囲から見ればとてつもなく浮く存在である。
 もちろん隊長のクーも同じ階級のツンも浮きっぱなしだ。
 僕が他の兵士と微妙な距離を保っているのもそこに起因する。 
 しかし前線に出るのは遠慮したいので、多少の不自由は仕方がなかった。

 僕達三人だけの部隊が仕事を片付け、それぞれ休もうとした夜。
 暫くぶりの人物が顔を見せた。

(´・ω・`)「やあ、久しぶりだね」

 現在は黄の国代表を務めるショボンだ。
 本国から自衛のために作られた部隊が僅かばかりに参戦しており、
 その指揮を引き受けている。
 今や立派な軍内の有力者だった。

 しかしその有力者が僕達の前に姿を現す事はほぼ無い。
 ショボンは確実に面倒事を持ってきたのだろう。

(´・ω・`)「そんな嫌そうな顔しなくてもいいのに」

 どうやら顔に出ていたらしい。
 僕とは対照的にツンとクーは目を輝かせていた。
 雑用ばかりで暇だったのであろうが、実際に戦場に出ていればそうは思えないだろう。

6: 2010/07/21(水) 21:43:37 ID:kCdNmJmI0
(´・ω・`)「……うん、期待されても困るけど。
       とりあえずついてきてよ。本部から命令が下るから」

 準備をする必要もなく僕達は一際大きな兵舎へと歩を進めた。
 戦場において各国の有力者が集まる本部である。
 といっても中は広間だけの簡単な造りだ。
 現在は長期化しそうなこの戦争のために一応の前線基地が建造されている。

 それまでの繋ぎといった役割が今僕達が歩いている本部だ。
 すれ違う人物ほとんどが各国の軍部関係者なのは五国が魔王大戦に総動員を行っているからだ。
 さすがに王たちは本国へと帰還しているが戦力の中心地はパンデモニウムの前。
 仮に今どこかの国へと攻め込めば確実な勝利を物にできるだろう。

 もちろんそんな事をすれば他の四国を相手に回すことになるが。
 今も移動を続け、ここに向かう五国の兵士たちを思い浮かべながらぼんやりと考えていた。

( ゚∀゚)「……いや、モララーから連絡はねぇ。アイツ何やってんだろ」

(*゚ー゚) 「撹乱で時間を稼いでくれてはいたらしいけどね。
     また何か隠れて動いてるんだよ、モララーさんのお陰で兵力が減らなかったんだし」

 そういえばモララーともあれから会っていない。
 軍の中に紛れ込んでいたりするのだろうか。
 僕達が数名の守護者の前に並び、気付いた守護者が立ちあがった時、僕は頭から考え事を追い出した。

7: 2010/07/21(水) 21:45:47 ID:kCdNmJmI0
川 ゚ -゚)「特務部隊隊長クー=スナオ。参りました」

ξ゚⊿゚)ξ「同部隊揮下の……」

( ゚∀゚)「まぁいいっていいって。これ公式な場じゃねーし」

(*゚ー゚) 「久しぶりだね、ギコくん地図だしてー」

(,,゚Д゚)「おう」

 会って早々地図を広げられた。
 もとより前回の魔王大戦を旅した彼らだけに息は相当に合っていた。
 ヒートの姿が見えないために周囲を見ていたクーにしぃが一言。

(*゚ー゚) 「ゴメンね。ヒートちゃんは今警戒にあたってるんだ」

 そう聞いたクーが安心したように地図に視線を移して、
 今回の僕達への指令が下された。

( ゚∀゚)「ちょっとここに行ってきてくれ」

 ジョルジュが指さすのは僕達が暮らす大陸の南。
 から更に海を経て浮かぶ島国。

(´・ω・`)「黒の国だよ」

(,,゚Д゚)「やっぱ全軍集まっても戦力不足だからな。
     黒の魔法ならそれを補う力があるんだ。俺達じゃ使えないのは残念だが」

9: 2010/07/21(水) 21:46:32 ID:kCdNmJmI0
 王の役職を父であるフサギコへと返上して口調まで七年前に戻ったギコが付け加えた。
 しかし黒の国。何故今になってこちらから連絡を取る気になったのだろう。

( ^ω^)「もしかして黒の国は魔王復活を知らないんですかお?」

( ゚∀゚)「いや、知ってんじゃね? 一応船で手紙出しているし」

(,,゚Д゚)「それで動かないなら理由がある。
     予定では昨日連絡が帰ってくるはずだが、まだ返事が届かなくてな」

( ^ω^)「船で行くって……往復一か月で済むんですかお?」

(*゚ー゚) 「船は一週間くらいかかっちゃうね。でも陸地なら八部衆の皆だから凄いよ」

( ^ω^)「ああ……あの超人の」

( ゚∀゚)「いやー俺達も凄いぜ? なぁギコ」

(,,゚Д゚)「ああ、正直その辺の魔物なら負ける気がしねぇ」

 何の対抗意識か知らないが二人が旅の思い出話を始める中、
 しぃが地図に線を引いていく。

(*゚ー゚) 「それで、この後正式な使者としてショボンくん達に行って欲しいんだ。
     私たちは帰ってくるまではここで現状を何とかするよ」

(´・ω・`)「なるほど、対魔王なら正式な声明で動かざるを得ませんしね。
       これで反応が無ければ魔王に組する……ですか」

10: 2010/07/21(水) 21:47:30 ID:kCdNmJmI0
(,,゚Д゚)「変な言い方をすんるんじゃねぇ。……合ってるが」

(*゚ー゚) 「でも、黒の国は魔王側じゃないよ。
     今回のは七年前も騒ぎになっていたアレだよねぇ」

( ゚∀゚)「……いやだな、それ」

(,,゚Д゚)「……二度と会いたくないな、ありゃ」

( ^ω^)「これから行くって人の前で……」

 数時間後、軍議の中で僕達に正式に指令が下った。
 黒の国へ使者として出向け。
 守護者ショボンを代表として守護者プギャーもそれに付き添う。
 そして配下として特務部隊、僕とツン、クーが同行する事となった。

 二名の守護者を欠こうとも戦場に残るは大戦の英雄。
 往復滞在二ヶ月ほどならばよほどでは無い限り持ちこたえられるだろう。
 移動能力に優れる訳でもない僕達が早馬ではあるが普通に移動するのだ。
 多少時間がかかるのは仕方の無い事だ。

( ^ω^)「……」

 ざっと移動ルートを眺めていくと、ある部分で目が止まった。
 経路中、黄の国を大きく横切ることになっている。
 
( ゚∀゚)「……以上だ。近い間にアラマキ王とフサギコ王がこの場に来る。
     以降の総大将は彼らに任せる、それまで諸君の奮戦を期待する。
     何か言いたい事がある者は?」

11: 2010/07/21(水) 21:48:16 ID:kCdNmJmI0
 慣れない言葉で喋りずらそうに締めくくったジョルジュに向かってそっと手を上げた。
 思い出した旅を辿ると、もうあれから数ヶ月の月日が流れていたのだ。


―黄の国―


 移動を開始してからというもの、以外にも過酷な旅が始まった。
 今までは馬が疲れ次第適度な休息が入っていたものの、
 一刻を争う現状では休んでいる暇は無い。
 常に馬を入れ替えての昼夜を問わない移動が続く。

 大陸を寸断する巨大な壁、『灰色の障壁』を迂回して内陸を小回りで進む。
 紫の国の中を気にせず進めた事だけが状況が移った事を感じさせる。
 いつか来た黄の国では冷たい風が吹き抜け、一足早く冬の準備を始めた森達が出迎えてくれた。
 そして内陸を進む森の間にぽっかりと開けた空間がある。

 青空の覗く森の真ん中。小さな村があるのだ。
 森の中にも僕達の旅の足跡があった。

( ´_ゝ`)「おお! ブーンにツンじゃないか、久しぶりだな!」

(´<_ ` )「ショボン様も何故このような場所に」

 サスガ兄弟の二人。変わらず煤けた服を着て鉄の塊を弄っていた。
 それぞれ挨拶を交わしながら僕達の状況を説明する。
 当然、この村にも魔王復活の話は伝わっており、小さな緊張感の様な物も感じる。

12: 2010/07/21(水) 21:48:59 ID:kCdNmJmI0
( ^ω^)「……という訳で黒の国まで行かなきゃいけないんですお」

ξ゚⊿゚)ξ「ブーン……もしかして」

( ^ω^)「そうだお! そろそろ完成しているかと思ったんだお」

ξ゚⊿゚)ξ「してる訳無いでしょ! そんな簡単に空飛べる機械なんか」

( ^ω^)「そうなんですかお?」

( ´_ゝ`)「うーん……まぁ形は出来てるんだけどなぁ。
      今作ってる奴は大型の動力を乗せようと思ったんだけど、丁度いいのが無くて」

(´<_ ` )「あと少しなんだけど戦争の都合上、魔法鉱石も無いしな」

(´・ω・`)「ん? 待って、魔法で動くの?」

( ´_ゝ`)「ええ、魔力を鉱石で活性化させて純電力へと変換、それらをこっちの特殊感応素材で……」

川 ゚ -゚)「すまないが簡単に言ってもらいたい」

(´<_ ` )「紫の魔力または魔法鉱石があれば良いかな。いずれにしても膨大な規模で」

13: 2010/07/21(水) 21:49:43 ID:kCdNmJmI0
( ^ω^)「……」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

(´・ω・`)「……」

川 ゚ -゚)「……」

 僕達一行は長旅で酔った為か背後で静かにしていた人物に視線を移す。

( ^Д^)「……え?」

( ´_ゝ`)「何だ何だ、その間抜け面は?」

( ^ω^)「あの人紫の国の守護者ですお」

(´<_ ` )「なんと! アニジャよ、大量の魔力があればいけるぞ!」

( ´_ゝ`)「落ち着けオトジャ、万が一魔力がヘタレていたら話にならん」

(;^Д^)「無礼な奴らだな……」

(´<_ ` )「うむ、そうだったな。ちょっとよろしいですか? はい」

(;^Д^)「何だこの透明なボールは」

( ´_ゝ`)「そこに毎秒20くらいの魔力を注いでみてくれ」

(;^Д^)「いやいや、全く単位が分からないけど……こんなもんか?」

14: 2010/07/21(水) 21:50:24 ID:kCdNmJmI0
 プギャーに手渡された人の頭ほどの球体は魔力を受けて強く輝く。
 微細な熱を感じるのは電力を帯びているからだろう。
 周囲に発生している魔力を考えて、僕なら五分で力尽きる規模である。

( ´_ゝ`)「ああ、OKOK。そのまま何時間持つ?」

(;^Д^)「こんなの何時間やったって大丈夫に決まってるだろ……
      寝てても出来るぞ」

 それを聞いた瞬間サスガ兄弟二人の顔が変わった。
 ついでに僕もプギャーの偉大さに驚いた。

(´<_ ` )「アニジャ!」

( ´_ゝ`)「ああ! ただの間抜けじゃなかったな!」

(;^Д^)「人のこと間抜け呼ばわりするのは顔だけにしとけよ!」

( ´_ゝ`)「そうなれば話は早い! 取り付けだ、オトジャ!」

(´<_ ` )「分かっている! 時にブーン」

( ^ω^)「?」

(´<_ ` )「ちょっとプギャーさんが入るくらいの長方形の箱を作っておいてくれ。
      木材はその辺にあるから」

( ´_ゝ`)「出発はすぐだぞ! しっかり準備しとけ!」

(;^Д^)「……俺どうなっちゃうの?」

15: 2010/07/21(水) 21:51:08 ID:kCdNmJmI0
 そう言ってサスガ兄弟は小屋の奥へと引っ込んだ。
 残された僕達は四苦八苦してプギャーがすっぽり入るくらいの箱を作り上げた。
 木材切断にはクーの刀が役立った、本人は不服そうであったが。
 
 同時に馬車の御者には港と軍団本部への連絡を任せる皆を伝える。
 半信半疑の様子であったが、僕にしてもそれは大差が無いのかもしれない。
 そして更に数十分後にはサスガ兄弟の『飛行機関』がその姿を現した。

( ^ω^)「……これは」

(´・ω・`)「うん、凄いね」

 長い楕円形の機体が二つ横並びになり、二枚の翼が上部に並ぶ。
 機首には両方とも回転する板の様な物がくっついている。
 しっかり家程もある大きな乗り物であった。
 僕達が乗り込むのは翼と本体の間にある空間らしい。

ξ゚⊿゚)ξ「ホントに飛ぶの?」

 丈夫そうなゴーグルと何故かマフラーを巻いたアニジャにツンが疑うように質問した。

( ´_ゝ`)「ククク……数分後驚き惑うがいい小娘!」

ξ#゚⊿゚)ξ「……」

(´<_ ` )「まあまあ……アニジャよ細部のチェックは?」

 機体の制御を行う先頭部から同じような格好をしたオトジャが顔を出す。

16: 2010/07/21(水) 21:51:53 ID:kCdNmJmI0
( ´_ゝ`)「問題ない。じゃあ全員乗り込め」

ξ゚⊿゚)ξ「いきなり!? 試しに飛行すればいいのに!」

( ´_ゝ`)「大丈夫だって、飛ぶから」

ξ;゚⊿゚)ξ「イヤ! 放して! 氏ぬ!」

川 ゚ -゚)「……墜落しても私の魔法がある」

ξ;゚⊿゚)ξ「……」

 一瞬の隙を突いてアニジャがツンを飛行機関に放り込む。
 続いて抱えていた兜の様なものを投げ込む。

( ´_ゝ`)「ヘルメットを被れ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「うああぁ!」

( ´_ゝ`)「今だ! 全員乗れ!」

( ^ω^)「全員乗りましたお! ……あれ、プギャーはどこだお?」

 残る者達も全員ヘルメットとゴーグルをつけて席についている。
 僕達五人が何とか入れる位の空間だ。
 体を固定するベルトの締め付けが若干苦しい。

( ´_ゝ`)「さっきお前らの足元に組み込んだ」

17: 2010/07/21(水) 21:52:35 ID:kCdNmJmI0
 そういわれて足元にあった小窓を開く。

( ^Д^)「……」

 プギャーの後頭部が確かに見えた。恐らく機体下部でうつぶせになっているのだろう。
 そうして静かに小窓を閉じた。

「……開けとけよ」

( ^ω^)「いや……やりずらいかと思って」

(´<_ ` )「よし、各部エネルギー伝達完了。補助バッテリー充填完了。
      現エンジン状況は!?」

( ^Д^)「オールグリーン……」

( ´_ゝ`)「よし飛ぶぞ!」

 十分に回転をした機首の板(プロペラと呼ぶらしい)。
 機体を支える三つの車輪が回り出して徐々に前進を始める。
 加速。馬車を越える速度で森の間を機体が疾駆した。
 視界の森が線の様に流れて、風を切っていく感覚が僕達を包む。

 風を切る音と地面から伝わる衝撃が消える。
 一瞬の浮遊感。 
 何だか分からない間に僕達は『空』を進んでいた。

18: 2010/07/21(水) 21:53:29 ID:kCdNmJmI0
(;^ω^)「飛んだのかお……?」

(;´_ゝ`)「え? マジで?」

(´<_ `;)「お前が驚いてどうする」

ξ;゚⊿゚)ξ「……飛んでる、の?」

川 ゚ -゚)「間違いない。絶景かな絶景かな」

(´・ω・`)「機体の魔力伝達は十分みたいだね。
       驚いた、自国の辺境に飛行機関を完成させる技師がいたなんて」

( ^Д^)「……前が見えない」

 思い思いの感想を持ちながらも眼下の森から離れる。
 風に乗ってゆっくりと上空へと移動していく。
 紫色の魔力が細かい粒となり機体の背中からはらはらと落ちていた。
 それを落としているのが鉄の塊だと知れば、地上に人々はさぞ驚くだろう。

 もちろん一番驚くのは搭乗している者達だ。
 全員が呆けたように周囲を、澄み切った青空を視界に収めている。

19: 2010/07/21(水) 21:54:49 ID:kCdNmJmI0
(;´_ゝ`)「……飛んだじゃないか」

(´<_ `;)「ああ、成功してみると驚くな」

 サスガ兄弟の顔が驚きから徐々に変化していく。

( ´_ゝ`)「……」

(´<_ ` )「アニジャ……」

( ´_ゝ`)「オトジャ……本当にこんな物完成させるなんて……」

 二人は笑顔で拳を突き合わせた。

( ´_ゝ`)(´<_ ` )「流石だよな俺ら」

 飛行機関は、風を切り天空を進む。
 間近で見る空はどこまでも青く、そして透明であった。

20: 2010/07/21(水) 21:55:40 ID:kCdNmJmI0
―黒の島付近 上空―


 目を覚ますと暗い雲のすぐ下にいる事に気が付いた。
 空を飛んでいるという信じがたい現実が冷たい空気を通して伝わってくるようだった。

 僕達が地上から離れて次の日の朝、黒の島へと到達を果たそうとしている。
 本当に寝ていても食事をしていても魔力を注ぎ続けるプギャーは凄いが、
 何時までも都合良くはいかない。
 魔力が幾らあろうが、筋肉が硬直してしまう事が問題なのだ。
 
 とはいえ杞憂に終わるだろう。
 何せ、黒の島は目の前に姿を表わしているのだから。
 一つの異常事態を覗いては。

(;^ω^)「あのー今何時ですかお?」

( ´_ゝ`)「朝八時過ぎだ」

(;^ω^)「何でこんな真っ暗な上に月まで出てるんですかお?」

( ´_ゝ`)「……」

(;´_ゝ`)「……ホントだ! 何で!?」

 そう、現在は朝だが、どう見ても『夜』なのである。
 気味の悪い事この上ない。
 満点の星に迎えられて島の全景を捕らえる。

21: 2010/07/21(水) 21:56:21 ID:kCdNmJmI0
 暗がりの中、月明りが起伏を映し出す。
 巨大な山脈を囲うように陸地が続いている。
 霞かかった山の頂点には何か小さな物が飛び回っているのが分かる。
 この飛んでいる物は事前に聞いていなければ気にも留めない事象だった。

 奇妙な銀色の月を眺めつつ数時間。
 昼前の『夜』、僕達は黒の島の片隅へと上陸を果たした。
 快適な着陸とは言えなかったが。

( ^ω^)「……」

( ´_ゝ`)「まぁ……ね」

(´<_ ` )「着陸まで責任は持てんよな……」

ξ;゚⊿゚)ξ「ちょっと! やっぱり落ちたじゃない!」

(´・ω・`)「正確には崖に少しぶつかっただけだよ」

川 ゚ -゚)「吹っ飛んでったプロペラがあったぞ」

( ´_ゝ`)「良かった、これで治るぞ。多分」

 車輪とプロベラが見事に吹き飛んだ飛行機関の前。
 岩場の中にあいた広場で立ち往生をしていた。 

(;^Д^)「……え……着いたのか?」

 プギャーが這い出してくるのが見える。

22: 2010/07/21(水) 21:57:35 ID:kCdNmJmI0
(´・ω・`)「黒の国の人たちに僕達の姿はきっと見えてるよね。
       近くに大きな町が見えたから行ってみようよ」

(;^Д^)「よいしょっと……多分、必要無いと思うぞ。
      基本的に外部の問題は守護者任せだからな、この国。
      少しすれば兵士と一緒に来る……あ、ほら」

 息を荒げたプギャーの言うとおり岩場の先の丘から人影が迫ってくるのが分かった。
 数名程というところを見ると確かに守護者を含んでいるのかもしれない。
 妙な緊張を感じるのは、後方とはいえ戦場にいたからであろうか。
 戦場では小さな事でも命取りになる。開戦間もない頃に身をもって知ったのだ。

从 ゚∀从「やあ皆さんお早うお早う。で、何これ? おいプギャー、何だこれ」

 若干鋭い眼をした黒服の女性が先頭を歩くのが確認できる。
 果たして僕達の前に立った数名は守護者の一団であった。
 内一名の女性が僕達の真横で佇む飛行期間に指さしながら挨拶も無くそう言った。

(;^Д^)「ハイン……まずは人間側に興味を示せよ」

从 ゚∀从「えー、だってスルーするのは勿体ないだろ?」

(;^Д^)「……はぁ。相変わらずだな」

 プギャーと彼女は大戦時からの盟友である。
 二人とも守護者に近しい人物だった事に起因する訳で、
 まだその頃は二人とも有名人ではなかったのだ。

23: 2010/07/21(水) 21:58:31 ID:kCdNmJmI0
 現、黒の守護者、ハインリッヒ=トール。
 偶然かららしいが前大戦時は若干13歳で神の武器と呼ばれる力を振るった。
 その力たるや魔王本体をたった一人で食い止めるほどであったらしい。
 しかしながら神の武器も魔王も戦っている場も、かつての守護者以外に見たものはいない。

 魔王との決戦地が世界を見下ろす塔の下。パンデモニウムとあっては無理からぬ事だった。
 決戦には大きな兵力を割くことはできなかった。
 かの森に満ちる魔力を破る事がかなうのは神の武器に選ばれた者だけなのだ。
 パンデモニウムに取り込まれれば永劫魔物と共にさまよう事になると言われる。

 帰ってきた者が守護者だけなのだから、あながち迷信とも言えまい。
 そして詳しいパンデモニウムの状態について守護者たちは黙して語らない。
 パンデモニウムとは。魔王の姿とは。塔とは。
 全ては現在の状況が動いた時に明らかになるのかもしれない。

从 ゚∀从「あ、そうだ朝なんだよな。忘れてた」

 大陸で聞いた話を頭の中で繰り返しているとハインリッヒが右手を振り上げた。
 それに答えた様に夜空に幾つもの亀裂が走った。
 割れた夜空の隙間から眩しい陽光が差し込み、崩れた夜空は黒い光となって世界に還っていく。
 冷たい空気に日の光が熱を加えて世界が移り変わる。

 夜は砕け散り、朝が訪れたのだ。
 急激に明るくなった周囲に顔をしかめつつも空を仰ぐ。
 今まで飛んできた夜空が消えたという事実が現実感を遠のかせる。
 未だ夜空の破片は空を舞っていた。

24: 2010/07/21(水) 21:59:37 ID:kCdNmJmI0
从 ゚∀从「さて、手紙は貰ってるから行こうぜ。お互い話もあるだろ。七名様ご案内~」

 返事も待たず意気揚々と歩きだすハインリッヒを追いかけながらショボンに聞いてみる。

( ^ω^)「これは魔法なのかお?」

(´・ω・`)「うん、大魔法だね。この島は白夜の国だから」

 大陸の南に位置する黒の島では季節により日が落ちない時期が続く。
 その為か夜を生み出す魔法が生み出された。
 島とはいえ巨大である。それを長い時間人間一人で覆うには大きな魔力が必要だ。
 
 人間離れした芸当を可能にしたのはやはり国の文化。
 そして何世代にも渡り自分たちの魔法体系を築きあげた魔法使いの一族は王の称号を得た。

 魔力は遺伝すると考えられているためか世襲が主となり、何世代も王の一族は続いている。
 ハインリッヒもまた古代の血族なのだろう。
 先の大戦から守護者と呼ばれ始めたハインリッヒは国で初の二つ名をもつ事となった。
 『闇の魔女』。魔王の深淵たる魔力に、名前からして恐らく同じ力で対抗する者の名だ。

 
 空から見た町は王都であるらしい。
 急ぐ僕達には幸いであった。
 道中右手に見えるのは島の中心にある山だった。
 空に揺らめきを残す煙はそれが活火山である事を示していた。

25: 2010/07/21(水) 22:00:25 ID:kCdNmJmI0
 大陸と気候が違うのは文字通り肌で感じる。
 汗を拭いながら山岳を抜けると平地に通じていた。
 例の生き物の甲高い鳴き声に嫌な圧迫感を覚えつつも、道なき道を行く。
 全てが生きた島の地表の下に、鼓動を感じられるようだった。

 息苦しくなった僕が羽織ったマントを外したと同時に崖の下に王都が現れる。
 建造物には遠目にも、実りの少ない厳しい土地で生き抜くための機能性が感じられた。
 崖を大回りして坂道を下りようやく町の中へと入る事が出来たのは夕刻の事。
 いつまでも白く揺らめく太陽が町を照らしている。

26: 2010/07/21(水) 22:01:38 ID:kCdNmJmI0
―黒の国 首都 王の城―


 城、と言うにはいささか質素だが頑丈そうな石造りの建物。
 大きさは普通の家を三軒並べたものと同じくらい。大陸ならば館で通るだろう。
 入口に立つ見張り役も一人だったのは小さい分守りやすいからであろうか。

 内部も実に質素なものであった。
 これで王の威厳が守れるのかどうか分からないが、そこまでは僕の考える範囲ではない。
 今は扉の先にいるであろう黒の王への対面を待つのだ。

从 ゚∀从「客だ客だ~」

( ゚д゚)「静かにせんか」

 やかましく扉を開くと向かい見えたのは初老の男性であった。
 きつい目のお陰であまりこっちを見て欲しくない顔をしている。
 その目がどことなく守護者ハインリッヒに似ているのは気のせいではない。

从 ゚∀从「親父よ、そんな事は気にするもんじゃねぇ。
      それよか大陸からこんなに人が来たんだぞ親父」

( ゚д゚)「……親父親父って。まぁいい、諸君席にかけてくれ」

 ハインリッヒの実の父にあたる黒の王に促されて僕達は長テーブルに合わせて座っていく。

( ゚д゚)「改めて名乗ろう、黒の王をやっているミルナ=トールだ。
     わざわざの足労、すまなかったな。何やら珍しい方法で上陸したらしいが……
     まぁそれについては現在どうでもいいのか」

27: 2010/07/21(水) 22:02:33 ID:kCdNmJmI0
从 ゚∀从「んで俺がハインリッヒ。気軽にハインって呼んでくれ。
      普通なら大臣たちも並ばせておきたい所だが取り込んでてな」

 王自らが先に名乗るなど珍しい事だ。
 やはり大陸から離れた地では独自の風習があるのだろう。

( ゚д゚)「先日の書状の件だが、目を通したのは数日前。
    恥ずかしい話だが我が国では内乱の様な事が起こっていてな。
    私も前線で指揮を執っていたのだ」

 ミルナ王の言う内乱。
 大陸でも予想された話だが聞く所によると正解のようだ。
 活火山の生きる黒の島に生息する幻獣、ワイバーンの活動期がやってきていた。
 ドラゴンに酷似した姿を持つ彼らは、その能力も勝るとも劣らない。

从 ゚∀从「駆除なんて生易しい話じゃないぜ?
      軍を総動員しても数が減らないんだから。
      それ考えたら多少返事が遅れたくらいで……」

( ゚д゚)「ハイン、失礼だぞ。
    ……とは言え我が国の実情である事に変わりはない。
    使者の者たち、我らは今すぐに魔王への戦列に加わる事は困難だ」

 魔王との対抗に力を割き自国が滅んでしまったでは話にならない。
 ミルナ王の言う事はもっともであるが、
 問題となるのは大陸の同盟軍が正式に使者を発表した点だ。
 黒の国の状態にかかわらず戦列に加わらねば、大陸の民達の不満は募るだろう。

28: 2010/07/21(水) 22:03:29 ID:kCdNmJmI0
 当然これは苦しい選択だった。

(´・ω・`)「その代わりと言っては何ですが我々も黒の国でワイバーンとの戦いに力を貸しましょう。
       ここにいるのは紫の国の守護者、確たる戦力です。
       黄の守護者たる私も微力を尽くします」

( ゚д゚)「……黒の国への外交を担当していたのは誰だ?」

(´・ω・`)「概要自体は青の国の代表、守護者しぃです」

 驚いた。あの優しい人が他国に脅迫じみた選択を迫るとは。
 やはり魔王との戦いは予断を許さないのだろう。

( ゚д゚)「なるほど……確かに聡明な人物だったな」

从 ゚∀从「……」

 ミルナとショボンが話す間ハインは残る僕達を眺めていた。
 
( ゚д゚)「分かった……ともかくも今日は休まれよ。軍議をするには疲れているだろう。
     部屋を用意してある、誰か案内しろ」

 すぐに客室へと案内された僕達が空の長旅の疲れで眠りに就くのは早かった。
 戦争に深くかかわっていないサスガ兄弟は終始居心地が悪そうだった。
 次の日の軍議でもサスガ兄弟の二人は事情を話して飛行機関の修理へと向かっていった。
 彼らと僕らにはそれぞれ役割があるのだ。

29: 2010/07/21(水) 22:04:59 ID:kCdNmJmI0
(´・ω・`)「という訳で予定通りワイバーンとの戦いをさっさと終わらせるよ。
       分かってる事ならもうちょっと人手が欲しかったけどね」

( ^ω^)「全くだお」

(´・ω・`)「君の言う飛行機関じゃなかったら人手そのものはもう少し多かったけど」

( ^ω^)「まあまあ、プギャーもいるしきっと早く終わるお」

( ^Д^)「相手はワイバーンだぞ。俺だってそう何体も倒せないと思うんだが……」

ξ゚⊿゚)ξ「そんなに強いの?」

( ^Д^)「戦った事は無いけど魔物とは何か違うらしいからな。
      ちゃんと作戦立てていかないと」

川 ゚ -゚)「まず相手は空にいるのだろう? 私とブーンは接近出来るだろうが……」

( ^ω^)「いや僕は緑の魔法不得意だからそんな真似できないお」

 僕達は移動する間も幻獣ワイバーンへの対策を考えていた。
 城の一角に容易された簡単な大広間へと入った僕達はそれぞれ席に着き、
 黒の国現地で編み出された対ワイバーン戦術となるまで集中する。

( ゚д゚)「まずこの者達が大陸よりの使者、紫と黄の国で守護者を務める二人だ」

 ショボンとプギャー、その部下にあたる僕達が名乗り終わるとすぐにワイバーンの話に移った。
 魔王如何にかかわらず黒の国においての大問題なのだろう。

30: 2010/07/21(水) 22:05:49 ID:kCdNmJmI0
( ゚д゚)「さる決戦にあたり力強い戦力を得られたのは喜ばしい事だ。
    使者の者達には決戦部隊の中に……」

从 ゚∀从「待ってくれ」

 この軍議は決戦前の確認のような物だったのだろうが、
 ミルナ王の言葉を遮りハインが声をあげた。

( ゚д゚)「……何だ」

从 ゚∀从「この前も言ったんだがワイバーンをいくら倒してもきりがない。
      奴らは幾らだって数を回復できるんだから」

 ワイバーンが幻獣と呼ばれる由縁にその特異性がある。
 幾ら倒しても勢力が衰える事は無く、際限なく数を増やしていく。
 その為に数年の休眠期で軍団を揃えて活動期を凌ぐしかない。
 悪循環を打ち破り殲滅を図るには王を討つしか手が無いと考えられている。

 何故数が減らないのかも判明してない以上とりあえず親玉を叩くしかない、
 ハインが言うのは概ねそういった事であった。

从 ゚∀从「数年前にもワイバーンの王を討ちとる為に軍団を動かしたが、
      何もできないまま炎の息吹でやられちまった。
      この前例を踏まえて王の巣穴に挑むのは少数先鋭であるべきだ」

( ゚д゚)「お前……」

31: 2010/07/21(水) 22:07:06 ID:kCdNmJmI0
从 ゚∀从「ああ、今度こそワイバーン王の撃破を狙いたい。
      せっかく戦力が大陸から来てくれたんだしな」

 ハインは嬉しそうな顔で僕達を見回す。
 戦力を借りに来た僕達を戦力と取られるのは何か奇妙だった。

从 ゚∀从「黒の魔法は数に対抗するのは、そこそこ得意だがサシは苦手。
      軍から先鋭を選んでも使者のこいつらを超える力にはならないと思うんだ。
      だったら俺を含めて合計三人の守護者が揃っている今こそワイバーンを打倒する良い機会だろ」

( ゚д゚)「……」

 ミルナ王はじっとハインを見た後、僕達へ向き直った。

(´・ω・`)「……勝機はありますか?」

( ゚д゚)「無いという訳ではない。我らも親玉に近い巨大なワイバーンを討ちとれているからな。
     だが、行ってくれるのか?」

32: 2010/07/21(水) 22:07:50 ID:kCdNmJmI0
(´・ω・`)「私たちの任務は黒の国への使者。加えて必要とあらばその力になる事です。
       一刻も早く大陸から魔王を駆逐する為に我々は全力を尽くします」

( ^Д^)「私も異論はありません。
      ただ、この作戦にあたりワイバーンの情報を閲覧したいとは思います。
      簡単とは程遠い戦いになるでしょうから」

 代表者二名の決定はそのまま僕達の決定だ。
 人でも魔物でもない存在ワイバーン、いかにも僕には手に余る相手だ。
 実際の戦いはショボン達がどうにかするだろうが自分の身をうまく守れるだろうか。
 頼りない魔力の宿る両手を見ても自信は湧くはずもない。

 それでも行くしかないのだ。
 僕は今、軍に所属する兵士なのだから。

33: 2010/07/21(水) 22:08:52 ID:kCdNmJmI0
―黒の島 中央部 活火山内部―

 行動は迅速に。
 その日の間に作戦は発動した。

 全ての戦力を動員した黒の軍団がワイバーンの侵攻を防ぐ間に僕達の作戦は進む。
 難しい話ではない、ミルナ王率いる黒の軍団がいつも通りに戦う。
 僕達はワイバーンの王を叩くべく急いで巣穴へと向かう。
 本隊でハインの抜けた穴は厳しいだろうがあくまで防衛を意識すれば歴戦の魔法使い達は遅れを取らないだろう。
 
 危険に思える作戦でも三名の守護者が集まっていればさほど問題はないのではないか。
 狭い洞窟を進みながら考える。
 だが問題としてなぜ僕をわざわざ連れてきたのかは疑問が残る。

(;^ω^)「暑い……で、何で僕なんだお? ついでにツンも僕より魔力上だけど一般人レベルだお」

 硫黄の立ち込める活火山内部は薄暗く、とてつもなく温度が高い。
 地獄にでも迷い込んだのかと思ったが砂漠も似たような物だったと思い出す。

(´・ω・`)「何度も言うけど集団戦闘するなら強い個人の力より、連携の取れた数なんだよ。
       同じ魔法使いなら確実な連携が取れたほうが総合戦力は上になるんだ。
       まぁ、これが兵士とかだと軍規やら何やらで面倒になるのさ、これが」

34: 2010/07/21(水) 22:10:01 ID:kCdNmJmI0
从 ゚∀从「そんな深い事気にすんなよ、俺の見立てじゃお前さんも弱くねぇ。
      戦いってのは立ち回りだからな。経験だよ、経験」

( ^Д^)「悠長だな……もうどこからワイバーン来てもおかしくないんだぞ」

 先頭を歩くショボンとハイン。しんがりを務めるプギャーに挟まれ、僕、ツンとクーが進む。 
 黒の兵士の中から誰か選んで連れてきてもよかったらしいが、洞窟にも似た狭い地形では大差はない。
 涼しい顔をした三人の守護者は警戒しつつも会話に応じる。
 やはり戦いや移動も経験により差が生じるのだ。

从 ゚∀从「こっから更に暑いぜ~俺も引くレベルだ!」

ξ;゚⊿゚)ξ「元気ですね……」

从 ゚∀从「おうよ、それが取り柄だからな!」

川 ゚ -゚)「この温度……溶岩が……」

(;^Д^)「大声だすなよ、来るぞ」

 僕の頭上を飛び交う言葉。
 最初は追っていたがやがて面倒になり止めた。
 全ての原因は目の前に広がっている。

 僕達は火山の中心に出た。
 眼下には深紅に、黄金に、黒に、色を移りかえる溶岩が生き物の様に声を上げて蠢く。
 足元の石が弾かれて目の前の炎の地獄に消える。
 どうやら本物らしい。

35: 2010/07/21(水) 22:11:04 ID:kCdNmJmI0
 結論が遅れるのは僕の頭が熱に負けたからであろう。
 何が魅力でワイバーンもここを住処に選んだのか。
 言葉だけが連鎖する頭で下ばかり眺めていると何かが空気を揺らした。

( ^Д^)「……ほらな」

 プギャーが展開した魔法大弓、バイオレットボウの弦がしなる。
 透明でありながら紫色の弓は右手を添えると新しい矢を生んで戦闘態勢を続けた。

( ^Д^)「総員目的地へ走れ! 上は気にするな、俺が落とす!」

从 ゚∀从「だってさ! 急ぐぞ!」

 未だ状況を掴めない僕へのいらぬ気遣いか、巨大な影が目の前から迫る。
 背後から紫色に煌めく矢が飛翔し影を蜂の巣にしてようやく思い出した。
 僕達はワイバーンの住処にいる事を。

 業火満ちる足元から、紫色の雨が空に向かって降る。
 トカゲに翼の手を付けたようなワイバーンが落ちていく。
 ようやくワイバーンの姿を認識できた、確かにドラゴンそっくりである。
 相違点は『腕』だ。ドラゴンと違い腕そのものが翼となり役割を果たしている。

 戦闘能力も恐らく高いのだろうが大きさは比べるまでもなく小さい。
 プギャーの弓矢が数匹のワイバーンを倒せたのはその小ささゆえ、
 攻撃に有効性があったからに他ならない。

( ^Д^)「普通に戦えるもんだな……」

36: 2010/07/21(水) 22:11:56 ID:kCdNmJmI0
(´・ω・`)「恐らく幼いワイバーンだと思うけどね。
       この火口は空まで直線だからワイバーン側に逃げ場がない。
       逆にいえば山頂付近に出れば僕達は狙い撃ちにされかねないよ。
       出来る限り数を減らしたい所だけど……」

 ショボンも走りながら岩を動かしたりしながら道を開く。
 プギャーと二人だけの魔力消費でワイバーンの王まで辿りつきたい。
 ハインという切り札の温存は何よりも優先されるのだ。

(;^ω^)「明るい……外かお」

 別段風があるわけでもないが灼熱の火山を進んできた為か涼しく感じる。
 もっともその間隔は長く続かないだろうが。

ξ;゚⊿゚)ξ「ようやくね……でもワイバーンは!?」

川 ゚ -゚)「背後に山ほどいる。目的地は!」

(´・ω・`)「むこうかな? うん、あれだね」

 冷静に周囲を確認しているショボンだが上空からは大型のワイバーンが数体迫っている。
 加えて火口からはい出てくる幼生体の方も無視はできない。
 足元から湧く熱気で息苦しく、果たして逃げ切れるのか。
 早くも包囲された感があるが僕達の周囲に構えるのは世界に名だたる守護者たちでもある。

 ショボンを中心として瞬時に状況を判断。
 隊列を組みなおして前へと走る。
 僕達の先、石の飛び出した急な山道の上に鉄の壁が見えていた。
 壁の造り重厚かつ堅牢であり、とてもではないが今現在作り出せる様なものではない。

37: 2010/07/21(水) 22:12:56 ID:kCdNmJmI0
 大昔の遺跡なのだろう。見て分かるのはこのくらいか。
 先行するハイン、続くクー、その後ろに僕。
 背後ではツンによる回復を受けながらショボンとプギャーが幾つもの影と戦っている。

 今後は先行する僕達が前の壁を飛び越えて奥の状況を確認する訳だが、
 僕自身は空を飛ぶワイバーンからの攻撃に耐えきれるだろうか。
 ぐんぐんと近づく鉄の壁から距離を測り、勢いに任せて地を蹴る。
 同時に緑の魔法を起動して風の力を借りた。

(;^ω^)「おっ……と!」

 空中にいる上重力に引きずられたのでは視界は急激に狭まる。
 前の二人がどうなったかまだ分からないが確実に僕よりうまくやるだろう。
 着地した先に見た壁の厚みは小さな川幅ほどもあった。
 どうやったらこんな物が作れるのか気になるが今は空からの脅威に備える。

川 ゚ -゚)「前方に二……左右より各三。捌ききれますか?」

从 ゚∀从「まぁ任せな」

 黒い光を散らしながらハインは小さなワンドを取りだした。
 瞬時に集まった魔力がワンドを中心として黒く透き通る大鎌を形作った。
 守護者ハインリッヒの精製黒魔法ダークサイズ。
 他の魔法特性を幾つか併せ持つのが黒魔法の特異な点である。

从 ゚∀从「前の二匹は頼むぜ! 背後からも来てるから一応気をつけろよ!」

38: 2010/07/21(水) 22:14:03 ID:kCdNmJmI0
(;^ω^)「……本当に僕達が前を相手にするんですかお?」

从 ゚∀从「いいから行けよ、何とかなるって」

川 ゚ -゚)「ブーン私は右を叩く。左は任せたぞ」

(;^ω^)「ワイバーンとタイマン……?」

从 ゚∀从「それじゃあ張り切って行ってみよー」

 言うが早いか二人は踵を返してそれぞれの敵へと向かっていく。
 僕も空から襲い来るワイバーンへと視線を合わせる。

(;^ω^)「……」

 赤の魔法は既に両手にまとっている。
 数か月の戦いを潜り抜けたとはいえ所詮は僕だ。
 ワイバーンとの戦力差は歴然もいい所と判断される。
 さらに魔力の残量をかんがみれば空へと上がれるのは一回、それも片道だ。

 勝利できる可能性の方が低い。
 やはり取る戦術は一つ。

(;^ω^)『……ファイアレガース』

 詠唱を完成して足へも魔力の武器を発動。
 空中に上がる為の魔力を潰して専守防衛を図る。
 耐えていればその内誰かが助けてくれるだろう。
 構えを取りながら幻獣、ワイバーンを待ち構える。

39: 2010/07/21(水) 22:15:08 ID:kCdNmJmI0
 合わせた。
 一直線に迫るワイバーンの爪を平手で押す。
 海底洞窟で目にしたドラゴンの一閃よりは遥にやさしい一撃だった。
 しかし、受けに使った右手の魔法には亀裂が走っている。

 揺らめく魔法の光に入った亀裂。
 それを修復する前に空中から再びワイバーンが迫る。
 息を吸い込み一気に吐き出しながら右足を振り上げて迎撃を試みた。
 結果は右手と全く同じであった。

 襲い来る三度目の爪。
 今度は僕に到達する前に崖の下へと落ちて行った。
 ワイバーン自身が真っ二つとなって。

从 ゚∀从「ほらな、これが戦えない人間ならもう殺されてるぜ?
       ここまで耐えられるなら弱くないって事だ」

(;^ω^)「あんまり心臓によくないですお……」

 両方から迫っていたワイバーン六匹を手にした鎌で文字通り刈り、
 おまけに僕の方まで移動してきたのだから守護者とはやはり人間離れしている。
 クーも自身の敵を片付けた頃に、黄の魔法で地面を隆起させたショボン達も合流を果たした。
 
(´・ω・`)「急いで横穴を探さないと」

 頭上に空があっては多勢に無勢。
 僕達の頭には大量に現れるであろうワイバーンへの対策が流れていた。

40: 2010/07/21(水) 22:16:06 ID:kCdNmJmI0
ξ゚⊿゚)ξ「ん……あそこに水があるみたい」
 
 ツンが指さすのは山岳の陰に位置だった。
 見ようとしてやけに視界が白んでいる事に気が付く。
 足元にあるのは鉄の壁、一面銀色に輝き太陽を照り返している。
 気が付けば僕達は相当量の水分を失っていたのだ。

( ^Д^)「休む、とまではいかなくても水を補給した方がいいな」

川 ゚ -゚)「飲めればいいが」

从 ゚∀从「自然環境には自信のある黒の国」

( ^ω^)「とりあえず早く行ってみるお」

 大陸で見るよりも青く見える空には落ちる事の無い太陽が輝く。
 永遠の陽光はそのまま僕達への障害になっていた。

41: 2010/07/21(水) 22:17:13 ID:kCdNmJmI0
―黒の島 活火山 中腹―


 ツンにより湧き水は問題なく飲めるものである事が分かった。
 それぞれ水を補給して空になった水筒にもいっぱいに詰める。
 一連の動作を素早く終わらせて太陽から逃げるように横穴に入り込む。
 だが火山内部は外よりも温度が高い。

(;^ω^)「よくこんな過酷な場所で生き抜けるお」

从 ゚∀从「ま、ワイバーンは人間とは構造が違うからなー」

 僕は黒の国の人々について言ったつもりであったが、
 住む人間からすれば現状が普通なのだから生き物の適応力は本物である。

 硫黄が再び鼻につく。
 また火炎地獄である火山中央内部を進むのだろう。

(;^ω^)「それでワイバーンの王ってどんな奴なんだお?」

(´・ω・`)「資料がなかったんだよね。そりゃ出会って生きて帰った人がいないから当たり前だけど」

从 ゚∀从「何故か分からないけど、最近はたまに戦場の後方を飛んで帰るぞ。
      見た感じ単なるでっかいワイバーンだと思うんだけどな」

ξ゚⊿゚)ξ「でも戦力はその辺のと比べ物にならないんじゃないんですか?」

从 ゚∀从「それが正確に分からんねーから守護者三人も動員してるんじゃねーか」

43: 2010/07/21(水) 22:18:26 ID:kCdNmJmI0
( ^Д^)「確実な手ではないけど、できる限り素早くワイバーンを撃退しないと魔王が問題になるからな」

 何にしても魔王という存在によって行動が圧迫されている。
 だからこそ大陸、ひいては世界の重要戦力を危険地帯に投げ込んでいるのだ。
 
从 ゚∀从「……近いかな?」

 溶岩が叫ぶ炎の海から螺旋状に伸びる火山内部も終りが見え始めていた。
 頂上という訳ではなく一つの抜け穴を登り出たのだ。
 やはり中腹から動いてはいないのだが明らかに景観が変化している。
 とてつもなく広い空間、足元には穴のあいた石が足の踏み場もないほど転がっていた。

 頭上には再びの青空。
 周囲には僕達を囲むように鉄の壁が。
 先程飛び越えた壁だろう。
 山の中に突如として現れる円状に開いた空間、何か異質な空気を感じる。

 しかしどこかで見たことがあるような気もする。
 背筋に嫌な悪寒が流れていく。

( ^Д^)「……」

川 ゚ -゚)「……」

 事前に武器を構えている二人を見て思い出した。
 昔一度だけ入った事がある、コロシアムと呼ばれる施設を。
 幻獣達の闘技場、いや、処刑場ではないだろうか。
 よく見れば足元の転がっている物は石ではなく骸骨だったのだから。

44: 2010/07/21(水) 22:19:33 ID:kCdNmJmI0
 壁を飛び越えて三匹の幻獣がその姿を現した。
 明らかに戦ってきたワイバーンよりも巨大だ。
 この処刑場で散って行った骸骨達の仇になるのだろうか。
 いずれにせよ王に行き当たる前に大きな障害にぶつかってしまった。

ξ;゚⊿゚)ξ「何か凄いの来たけど?」

(´・ω・`)「倒さなきゃ扉もゆっくり開けられないだろうねぇ」

 ショボンが指さす先、周囲を囲む壁に大きな扉が見える。
 背後にも同じ形の扉が。
 円形の壁の内側に僕達はおり、先に見える壁が火山の側面にめり込んでいる。
 火山の最奥へと続く扉に間違いないだろう。

从 ゚∀从「おい、一匹は俺が潰すから後は任せた」

( ^Д^)「……分かった」

 プギャーは高位魔法バイオレットキャノンを起動して答える。
 圧縮された魔力を放つ強力な魔法であるが、威力を出すために連射がきかない。
 移動しながら使うのは難しいが迎撃に使うならこれ程効果的な魔法もないだろう。
 紫色に輝く大砲はプギャーの右肩から構築され突き出した手を中心として完成した。

 一か月の軍務であらかたの基本的魔法知識は僕の頭に入っていた。
 むしろ入っていなければ氏んでいたかもしれない。

45: 2010/07/21(水) 22:20:48 ID:kCdNmJmI0
从 ゚∀从「……ッ!」

 一歩前に出たハインが手にしている鎌を大きく真横に振りかぶる。 
 十分に力を込めた後、軌道を描き、振った。
 押された空気が僕達を駆け抜けて鎌は一直線に飛んでいく。
 ハインは、手にしていたダークサイズの魔法をワイバーンに向かって投げつけたのだ。

 得物を失ったハインの前に隊列を組んで並び、それぞれ意識を魔法と敵に向けていく。
 そして何の事は無く、あっさりと、吹っ飛んで行った鎌は一匹の大型ワイバーンの首を寸断した。
 戦闘開始の合図であったかのように残る二匹のワイバーンが迫る。

( ^Д^)「……!」

 次いで紫色の閃光が一方のワイバーンを包む。
 魔法の大砲に穿たれた幻獣は目の前に広がる処刑場に塵となって落ちていく。
 
(´・ω・`)「……」

 かと思えば詠唱を終了したショボンが黄金の光をその目に湛えて手にした杖を突きだす。
 間をおかずに突如として目の前に出現する岩の巨人。
 召喚魔法ゴーレム。
 数カ月の旅で幾度となく助けられた黄金の化身である。

 体躯と同じく巨大な拳が大空へと走った。
 吸い込まれる様にワイバーンを捉えて、姿そのものを完全に粉砕する。
 その後すぐにゴーレムは金色の粒子となって散っていった。

 三人がそれぞれ魔法を振るっただけで脅威は取り除かれる結果となった。

46: 2010/07/21(水) 22:21:40 ID:kCdNmJmI0
(;^ω^)「いっそ僕達いらねーお」

(´・ω・`)「来てるよ」

(;^ω^)「?」

从 ゚∀从「後ろ」

 ハインが指さす方向、背後の空には視界を埋めつくさんばかりのワイバーンが見えた。
 さすがに対処しきれる数ではない。
 僕の動揺を移すように両手の魔法が大きく揺らめいた。

(; ゚ω゚)「どうすんだお!」

ξ;゚⊿゚)ξ「多いって!」

( ^Д^)「前の扉を開けに行け!」

 プギャーが紫の大砲を構えながら叫ぶ。

ξ;゚⊿゚)ξ「どうやって!?」

( ^Д^)「知るか! ハイン!」

从 ゚∀从「はいよ!」

 ハインが投げた鎌が上空から落ちてきて手に収まる。
 彼女に言われプギャー以外は先行して扉の方に走り出した。
 だが辿りついた先の扉も簡単に開いてくれる訳もない。

47: 2010/07/21(水) 22:22:43 ID:kCdNmJmI0
川 ゚ -゚)「下がれ! 切り開く!」

 扉中央に走る隙間を狙い、クーの刀が虚空を走る。
 果たして、切っ先は確かに食い込んだ。
 鍛錬を欠かさぬクーの剣技は次へと動作を繋ぐ。
 刀の柄を手で押し込み扉を開く楔としたのだ。

川 ゚ -゚)「ツン!」

ξ;゚⊿゚)ξ「うん!」

 微かに空いた隙間にツンの青い光が入り込む。
 青の魔法特性により増幅された純粋な魔力が弾けて一度だけ扉を左右に大きく開いた。
 一度だけ、である。
 どんなからくりか知らないが閉じようとする力が働いていた。

 目で確認した僕は反射的に体をすべり込ませて両手を広げる。
 凄まじい力が僕の両側面から押し潰さんばかりにかかった。

从 ゚∀从「よくやった! おーい、プギャー!」

 僕以外の四人は既に扉の奥へと入り込んでいる。
 状況を見越していたのかプギャーは既に大きく後退していた。
 呼ばれてすぐにこちらに駆け出す。

(# ^ω^)「おおおおぉ……」

 僕は気合を入れて扉を押し返そうとしているが、やはり厳しい。
 徐々に扉の隙間が狭まっている。

48: 2010/07/21(水) 22:23:48 ID:kCdNmJmI0
ξ;゚⊿゚)ξ「がんばって! 後少し!」

(;^ω^)「限界……だお……」

 目の前で応援された所で僕の魔力残量が増える訳ではない。
 力が抜ける瞬間にプギャーが僕の真横をすり抜けて扉の奥へと飛び込んできた。
 安心して僕も手を離して前へと飛び込む。
 轟音とともに扉は閉じ、難事は去ったのである。

 と思ったが僕は何かに引っ張られて無様に顔面から転んだ。

(;^ω^)「何……だお……?」

 やっとの思いで背後を見るとマントが扉に挟まれていた。
 盛大にため息をつきながら引っ張ると乾いた音を立てて千切れる。
 こうしてまた僕のマントに年季が入った。

(;^ω^)「いやー危なかったお」

 僕は呟きながら扉から続く道を眺める。
 暗闇に続く一本の白い通路が不気味に佇む。
 それは火山道の赤い地獄よりも、もっと地獄らしく感じた。
 
 所で帰りもまた扉を開けて帰るのだろうか。
 前にいる全員に向かって発言してみたが誰も答えを持っていなかった。

49: 2010/07/21(水) 22:24:59 ID:kCdNmJmI0
―黒の島 中央部 未確認回廊―


 どのくらい歩いただろう。
 暗闇は時間感覚を鈍らせる、今までの旅でもそうだった。
 だから、奇妙な回廊を抜けた先で急に灯った光を見て心底驚いた。
 きっと他の皆もそうであろう。

 明るくなった周囲には見たことも無い機械が一面に広がっている。
 機械の上で赤や青、様々な色の光が行ったり来たりしていた。
 注意深く見ると全ての機械が大小さまざまな線で中央の箱の様な物に繋がれている。

(´・ω・`)「この線って……」

(;^ω^)「知ってるのかお?」

(´・ω・`)「ほら、黄の国の遺跡でもあったじゃない」

ξ゚⊿゚)ξ「あの大きい魔物に繋がってたわね」

(;^ω^)「ドラゴンの遺跡かお、確かそんなのもあったお……」

 どこに何がいるか分からないのでそれぞれ注意して辺りを調べている内に聞き取れない音が響いた。
 とても早く流れた言語の様な音は少しの間を置いて聞き取れる様になった。

『初期化を完了。対象アンノウンを人間と判断……』

 理解できない単語が流れ、尚も止まらない。

从 ゚∀从「何だ?」

50: 2010/07/21(水) 22:26:09 ID:kCdNmJmI0
(´・ω・`)「まぁ待ってよ壊すのは早いって」

 僕達全員が音の発信源、つまり中央に置いてある箱の前に並ぶ。
 この『箱』の真ん中にはガラス張りの黒い部分があり、埃で更に黒くなっていた。
 試しに少し埃を払うと何か文字が映りこんでいた。

( ^Д^)「……古代語か?」

(´・ω・`)「うん……管理、機構……?」

 まがいなりにも賢者の二つ名を取るショボンには古代語の知識もあるらしい。
 だが、理解は必要なかった。僕達は『箱』と喋る事が出来たのだ。

『……言語認識を再確認、同時に人物映像を登録、初期設定。
命令系統確立、稼働率76.4%、起動します』

川 ゚ -゚)「何か始まるのか?」

『起動完了、独立生体管理システム名称ウートガルザ・ロキへようこそ。命令を入力してください』

( ^ω^)「……」

 皆、僕と同じ顔をしているであろう。

从 ゚∀从「何? 命令?」

 沈黙を破ったのはハインだった。
 別の道も見当たらず、先に進むのが面倒になったのかもしれない。

51: 2010/07/21(水) 22:27:12 ID:kCdNmJmI0
从 ゚∀从「だったらワイバーン消してくれ」

 また無茶な話を言うものである。
 僕達は一応周囲の機械を片手で触ったり見たりしているが大きな変化はない。

『固有名詞ワイバーンの定義を入力してください』

 機械からの返答で再び僕達全員の視線が集まる。

从 ゚∀从「いや、ワイバーンだよ!」

『エラー。固有名詞ワイバーンの定義を入力してください』

从#゚∀从「だから! この島の周り飛んでる物騒な奴らだろうがッ!!」

 道中の過酷さも相まってハインは苛立っている様子に見えるが、
 実際の所は彼女の性格が短気なだけである。
 かつての守護者はずいぶんと偏った性格の人間ばかりが集まっている。
 訳の分からぬ機械を前に僕は今、思考の停止を体験していた。

(´・ω・`)「よく調べて無いのに……できる訳が」

『単語より検索を開始……1件を確認。飛行生体ユニット‐タイプ2A7782Gと予測。
モデルを表示します』

(´・ω・`)「……」

 すると今度はワイバーンが目の前に現れた。

(;^ω^)「うわ!」

52: 2010/07/21(水) 22:28:14 ID:kCdNmJmI0
 反射的に大きく飛びのいたが特に動く様子もない。
 ショボンが杖で突いたら杖がワイバーンをすり抜けるという怪事も起きている。

( ^Д^)「絵……みたいな物なのか?」

(´・ω・`)「多分ね。しかしどうなってるんだろう」

 興味深そうに見ているショボンをよそに再びハインが声を上げる。

从 ゚∀从「これこれ、これでいいからさっさと吹っ飛ばせる物ならやってみろ!」

『了解。飛行生体ユニット‐タイプ2A7782Gおよび変異種を根絶します。
最終確認後再び命令をお願いします』

从 ゚∀从「はいはい綺麗に消して……」

『了解』

从;゚∀从「できんの!?」

(´・ω・`)「だから考えなしに動くと危ないんだよ!」
 
 動かずにじっと次の動きを待つ。
 不安に駆られた体が反応を待つように緊張を高めていく。
 それら僅かな間をおいて、激震が部屋を襲った。

(;^ω^)「ちょっ、表どうなってんだお!?」

53: 2010/07/21(水) 22:29:06 ID:5I0xDqIE0
『了解、本システムよりもっとも近い重要ポイントを出力します』

 とっさに出した言葉によって部屋は様々な景色を映し出した。
 今まで通ってきた道であった。
 中には活火山の映像もあり、とんでもない事が起こっている。

 空中を舞っていたワイバーンが急に動きを止め、火口へと落ちていく。
 溶岩の中へと消えた直後、同じ地点で巨大な爆発が起こる。
 同じ事が様々な場所で発生していた。

( ^Д^)「……根絶って……これがか。まるで自爆じゃないか」

(´・ω・`)「溶岩に衝撃……? まずいよ、これじゃあ火山の活性化になる」

『飛行生体ユニット‐タイプ2A7782Gの生体余剰が過分である事が発覚。
現在地崩落確立95.9%、脱出を提案します』

从;゚∀从「俺知らなかったもん!」

(;^Д^)「ふざけてる場合か!」

从 ゚∀从「じゃ逃げようぜ!」

 背を向けて駆け出すハインを呼びとめる様に声が響く。

『了解、脱出システムを起動します。
外部探索移動機体プロトドラゴンへのハッチを開きます』

 『箱』の声と同時に奥へと道が開いた。

54: 2010/07/21(水) 22:30:27 ID:kCdNmJmI0
(´・ω・`)「こっちに行こう、どうせ戻ってもワイバーンの爆発の巻き添えだよ!」

从 ゚∀从「分かった!」

 短い通路を通り抜け、風の吹き抜ける暗い空間で僕達は見た。
 灰色の、鉄で出来た龍の姿を。
 龍のわき腹には小さな扉の様な穴が開いる。

(;^ω^)「ドラゴンの腹に入れって言うのかお!?」

(´・ω・`)「この辺りが落ちる確率九割超えてるらしいけど、どっちがいい?」

 そう言われても若干の恐怖がある。
 問答無用で龍の中に詰め込まれたので問答自体に意味はなかったが。

 
 内部は手狭であった。
 椅子の様な座る場所が十個程と、訳の分からない機械群が周囲を覆っている。
 深い理由は無いが見てるだけで息苦しくなる。

从 ゚∀从「で、どうやって逃げんの?」

『外部探索移動機体プロトドラゴンへようこそ。オートマチックで起動……』

从#゚∀从「うるせぇ! 早く飛べよ! 飛ぶんだよな? このなりで歩ったりしないだろうな!?」

 この傍若無人な態度はどこかで見た事があるが、
 彼女もまた大戦の英雄に関わったのだから仕方がない。

55: 2010/07/21(水) 22:31:42 ID:kCdNmJmI0
『了解、飛行モードに移行します。各自シートを締めて衝撃に備えてください』

 龍の内部にも『箱』と同じ画面があり、恐らく目の前を映し出している。
 そして目の前をふさいでいた壁が取り払われて、青空が鮮やかに目に入り込んだ。
 今、飛び立とうと龍が翼を広げた。

『カウントを開始、10カウント後にカタパルトから飛行へとはいります」

『10』

『9』

ξ゚⊿゚)ξ「あれ、何か似たような事を少し前に……」

川 ゚ -゚)「不思議だな。サスガ兄弟の飛行機関の方が安全に思える」

『5』

『4』

从 ゚∀从「さーて、どうなるのかな」

(;^Д^)「……まぁ箱に入れられなかっただけマシか」

『2』

『1』

56: 2010/07/21(水) 22:32:28 ID:kCdNmJmI0
『カタパルトよりうち出します』

 体が何かに強く押される。
 そのまま椅子に頭を強打した。
 やわらかい素材であったため助かったが、これ程の勢いがあるとは。

 頭を押さえながら前を見直すと、既に龍は空へと舞っていた。

57: 2010/07/21(水) 22:34:10 ID:kCdNmJmI0
―黒の国 上空―


 前日と同じ景色が目の前に広がっている。
 顔に叩きつけられる風や温度といった面では室内にいるだけあって差はあるが。
 背後では相変わらずワイバーンの自爆が進んでいる。
 いったい何が何やらといった感覚だが、それにすら若干慣れ始めていた。

(;^ω^)「僕達どうなるんだお?」

(´・ω・`)「まぁ、試しに同じ要領でやってみたら……」

 前置きをしてからショボンは僅かに腰を浮かしてハインに言う。

从 ゚∀从「着陸できないか? 
      目標地点は目の前の建物がいっぱいある場所の手前くらいで」

『了解、目標地点を仮定認識。モニターに出力します」

 ショボンの考えの通りに機械の龍は話を聞いてくれた。
 空を映す画面に移る町、その手前に赤い四角が現れる。
 着陸するといった意味だろう。

从 ゚∀从「へぇ、凄いなぁ遺跡の技術ってのは。
      それにしてもワイバーンの王はどこにいたんだろ」

川 ゚ -゚)「……忘れていましたね」

( ^Д^)「大体姿を見た事がないからな。
      あの騒ぎなら出てきそうなもんだが……」

58: 2010/07/21(水) 22:36:01 ID:kCdNmJmI0
(´・ω・`)「まさか……今乗ってる奴じゃないよね?」

从 ゚∀从「……なるほど。納得のでかさだしな」

( ^Д^)「……それでいいのか」

从 ゚∀从「別に」

『着陸へとシークエンスを移行します』

( ^Д^)「そうか……だが待て。
      つまり俺達は撃破ターゲットで町に乗り込もうとしている訳か?」

从 ゚∀从「うん」

(´・ω・`)「君ならもしワイバーンの王が首都に向かってきたらどうする?」

从 ゚∀从「殴る」

从 ゚∀从「……」

(;^ω^)「機械さん! もっと手前でお願いしますお!」

 今乗っている『龍』は黒の軍団に確実に攻撃されるだろう。
 顔さえ出せれば問題は収まるが個室である上に空にいる。

ξ゚⊿゚)ξ「町の外に人が集まってるわね」

(´・ω・`)「そうなるよね。もう僕色々疲れちゃってさ」

59: 2010/07/21(水) 22:36:51 ID:kCdNmJmI0
ξ゚⊿゚)ξ「確かに疲れたわね」

 二人とも窓から外を見るような気軽さであった。

(;^ω^)「ドアを開けて叫べば……」

川 ゚ -゚)「そもそも開くのかこれは」

(; ゚ω゚)「下! 軍団が何か弓みたいなの構えてるお!
      撃たれるお! 避けられないのかお!?」

 僕の叫びは『シークエンスの中止は認められません』という答えで恐らく却下された。
 代わりにハインが腕を組みながら機械に言う。

从 ゚∀从「入口を開けろ」

川 ゚ -゚)「外に出るのですか!?」

从 ゚∀从「おう、一足先にな」

『警告。ゲート解放は室内に危険をもたらす可能性が高まります』

从 ゚∀从「構わねぇ」

『了解、高度可能領域に到達、ゲートを開放します』

60: 2010/07/21(水) 22:38:05 ID:kCdNmJmI0
 一瞬にして入ってきた扉が開くと、凄まじい風が室内に吹き荒れる。
 耐えきれない程ではないが空中だからこうなるのだろうか。

从 ゚∀从「じゃ、行って来る」

ξ;゚⊿゚)ξ「えーと……大丈夫なんですか?」

 親指を突き出してツンに答えるとハインは空へと飛び出した。
 少しだけ風に吹き飛ばされて後方に流れたが、
 次の瞬間には黒い輝きを残して僕達が乗る龍の前にいた。

 黒い魔力が解放される。
 まるで空の一点に夜が訪れたようだった。
 黒の国でこれ程の魔力を扱えるのはハインただ一人。
 十分、地上へのサインにはなるだろう。

 ハインの魔力は翼をなしていた。
 蝶の様な形の羽が漆黒の軌跡と塵を残して地上へと彼女を送る。
 飛ぶのではなく空気を受けて滑走してゆっくりと下りてく。
 黒の魔法をもってしても人間を飛ばすのは容易ではないという事か。
 
(´・ω・`)「これで一区切り、かな」

 その呟きが聞こえた時、僕の体にも一気に疲労が現れた気がした。
 火山内を移動した時間だけでも丸一日以上がかかっている。
 元が一般人の僕には少々堪えたらしい。
 ハインに遅れながらゆっくりと下りる龍の中で地上を見ながら意識を落とした。

61: 2010/07/21(水) 22:39:16 ID:kCdNmJmI0
 次に目を覚ましたのは病室の天井だった。
 見知らぬ部屋で目を覚ますのは一度や二度ではない。
 きっとまた軽傷で運び込まれたのだろう。

 窓から差し込む月明かりが眩しく感じる。
 視界の大部分に闇が広がっている。
 それが何だか、懐かしかった。

 ベッドから身を起して大きく伸びをしてからドアを探す。
 腹が減っていたのだ。
 何も考えずに食糧を探そうとしているのは自分でも驚きである。

 そして誰にも会わずに建物から出てしまった。
 戻って一言、出かけると伝えた方がいいだろう。
 再び扉をくぐろうとしたらツンが出てきた。

ξ゚⊿゚)ξ「あれ、ブーン」

 手には籠が下がっている。
 誰かの手当てでもしていたのだろうか。

( ^ω^)「ツンかお。体は大丈夫かお?」

ξ゚⊿゚)ξ「まぁね、昔とは違うわ」

 ツンは小さく笑いながらリンゴを差し出してた。
 籠には他にも色々な果物が覗いている。

( ^ω^)「くれるのかお?」

62: 2010/07/21(水) 22:39:56 ID:kCdNmJmI0
ξ゚⊿゚)ξ「どうせ食べ物でも探しに行くんでしょ」

( ^ω^)「よく分かったお。じゃ遠慮なく」

 リンゴを手に取りツンに背を向けながら片手を上げた。

( ^ω^)「少し散歩に出るお。誰かに会ったら伝えといて欲しいお」

 散歩と口にするのも久しぶりだ。
 海を介した異国で、しかも夜の散歩というのも趣があるのではないか。
 月を見ながら歩を進める。
 
 しかし何故が足音が二つ聞こえる。
 不審に思いながらも振り返るとツンが付いてきていた。

ξ゚⊿゚)ξ「私も行く。どうせ暇だったしね」

( ^ω^)「お、じゃあ行くお」

 ツンと歩く。
 どこを目指しているわけではない。
 静かな町と空をただ見ていた。
 昼間よりも冷えた空気、太陽よりも明るい月が僕達を手助けする。
 
 夜空があるという事はハインが発生させたのだろうが、
 昼間にあれだけ戦ってなお魔法を使えるのだから守護者とは恐ろしい。
 妙な事を意識したためか僕達は妙な場所へとたどり着いた、いや戻ってきた。

63: 2010/07/21(水) 22:42:09 ID:kCdNmJmI0
( ^ω^)「これに乗って帰ってきたのかお……」

 鉄の龍、ワイバーンの王。
 二つの名を持つ巨大な遺跡。
 昼間と変わらない姿で街の前に鎮座している。
 ワイバーンも、この王も、全ては古代遺跡だったのだ。

 迷惑な遺産にため息をつきながら眠る前を反芻する。
 リンゴを一かじりしながら龍に近づくと今度は二人の男が顔を出した。

( ´_ゝ`)「おい、そっちはどうだ」

(´<_ ` )「これは奇妙だ。翼の間に可動部位が山ほどある」

( ^ω^)「二人とも何やってんですかお?」

( ´_ゝ`)「こんなもん見せられて黙ってられるか」

(´<_ ` )「長年の研究を軽く上回られた訳だしな」

 飛行期間の作成者である二人には興味の対象だろう。
 むしろ分解して調べてもおかしく無い程の関連性がある。
 
( ´_ゝ`)「壊しはしないから安心しろ」

64: 2010/07/21(水) 22:43:23 ID:kCdNmJmI0
 龍からレンチが落ちてきて頭に直撃しそうになったので退散する。
 ツンの隣にはいつの間にかクーが立っていた。

川 ゚ -゚)「君達も散歩か」

 彼女もまた時間を潰しにきたのだろうか。

ξ゚⊿゚)ξ「寝なくていいの?」

川 ゚ -゚)「十分寝たよ。少し腹が減ってな」

ξ゚⊿゚)ξ「……はいこれ」

 クーに黄色くて細長い果物が手渡される。

川 ゚ -゚)「すまないな……何だこれは」

ξ゚⊿゚)ξ「バナナって言うらしいわね」

川 ゚ -゚)「ふむ」

 そのままバナナにかじりついたクーが微妙な顔をしていると、
 町の通路から小さい人影がぬっとあらわれた。

(´・ω・`)「やあ、ようこそバーボンハウスへ」

( ^ω^)「ここはショボンの家じゃないお。ていうか何でここに」

(´・ω・`)「いいじゃない別に。はい」

65: 2010/07/21(水) 22:44:34 ID:kCdNmJmI0
 ショボンは僕に小さな硝子のカップを手渡した。
 中には液体が入っている。
 暗闇なので色はよく見えない。

(´・ω・`)「リキュールって言うらしいよ」

 飲んでみると喉を焼くように熱い液体が腹に滑り落ちていった。
 酒であった。

(´・ω・`)「そっちも飲むかい?」

 人数分用意されたカップをツン達に向けながら言う。
 どうやら用意してきたらしい。
 皆がここに来ると思ったのか、それとも一応持ってきたのか。

川 ゚ -゚)「頂こう」

ξ゚⊿゚)ξ「私もー」

( ^ω^)「ツンはちょっと控えるお」

ξ゚⊿゚)ξ「少しだけだって」

 そしてそれぞれにリキュールが行き渡る。
 サスガ兄弟の二人は作業に没頭しているためいらないと断った。

(´・ω・`)「プギャーもハインも寝てるから僕達だけで乾杯かな?」

川 ゚ -゚)「寝ながらでも夜空を作っておけるのか……」

66: 2010/07/21(水) 22:45:30 ID:kCdNmJmI0
ξ゚⊿゚)ξ「今はいいじゃない。ほらブーン、乾杯の音頭を」

(;^ω^)「僕かお」

 一応まとめ役はショボンなのだが。
 そう考えもしたが口に出すのは無粋というものか。

( ^ω^)「えーと、じゃあ皆の無事と作戦の成功を祝して……」

 全員がカップを少し持ち上げる。
 月の光を受けて、四つ光が地面に小さく揺れた。

( ^ω^)ξ゚⊿゚)ξ「乾杯!」川 ゚ -゚)(´・ω・`)

 かちりと、カップがぶつかる済んだ音が月下に小さく響いた。

 四人でこんな事をするのも、もうあまり無いだろう。
 恐らくワイバーンの脅威は取り除かれた。つまり黒の国が魔王戦線に出る。
 軍団が結集すれば大陸で起こる事象はたった一つ。
 黒の国を同盟に加えて再び大陸を戦火が包むのだ。
 
 魔王との決戦は、目前に迫っている。



第五章 漆黒の魔王  第十九話「正位置の『力』」 完

67: 2010/07/21(水) 22:46:12 ID:kCdNmJmI0
以上で本日の投下を終了します。
誤爆失礼しました。

68: 2010/07/21(水) 22:51:44 ID:ng0VuYdc0
乙ー

引用: ( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです