1: 2010/08/04(水) 14:14:34 ID:CqaK5ZdI0

2: 2010/08/04(水) 14:16:03 ID:CqaK5ZdI0


 力無き者へ

 
 そこは生氏の狭間


ブーンの世界には魔法があるようです― ('A`)ドクオ編― 

外伝 空白の旅人  第十一話「逆位置の『力』」


 要するに傭兵として捨て駒になれという話だった。

 だいたいが、戦力不足といっても民間人を使うのはどうだ。
 それは中には強力な魔法使いもいる。
 しかし大部分は最低限の魔法しか使えない。
 幾ら集まった所で統制すら取れない寄せ集めになるに決まっている。

 ところが国としては寄せ集めで良いらしい。
 撃ち漏らした魔物に突撃させて詰めとする遊撃隊としての運用が目的だからだ。
 何人氏のうが補充にはさほど困らない。
 俺達は寄せ集めなのだから。

 独立遊撃隊所属ドクオ=デプレ。
 俺の名ばかり階級である。
葬送のフリーレン(13) (少年サンデーコミックス)
3: 2010/08/04(水) 14:17:01 ID:CqaK5ZdI0
―パンデモニウム前 平原 東側―


 雨が降る平原を進む。
 まるで夜の様に暗い空に、どこから魔物が出るかも分からない恐怖を抱いた。
 もう少し明るければ生存確率は上がるのだが。
 右手に精製した紫の魔法剣サンダーソードに目をやり、再び周囲へと感覚を広げた。

 羽織ったマントを叩く雨、頬を切るような冷たい風。
 どことなく、嫌な感覚を呼び起こす。
 一か月を超える従軍生活で多少は俺の勘も磨かれているのかもしれない。
 とは言え、まさか俺が本当に軍で剣を振るう事になるとは。

 人生何があるか分かったものではない。
 軍団の進行速度が弱まった。
 先頭集団に騒ぎがあるらしい。
 剣を下に向けたまま、都合の良さそうな場所を探す。

 後方で程良く広く、かつ誰かが近くにいる様な場所を。
 実戦経験の無い人間は前に出てすぐに氏んでしまう。
 少し考えれば分かりそうな事ではあるが混乱した戦場では右も左も分からない。
 俺にある多少の実践と旅の経験が俺を生き長らえさせていた。

 不思議な物だ、氏んでもいいと思っている人間が生きる為に知恵を働かせるとは。
 そうなると実際は氏にたくないと考えているのだろうか。
 どちらにせよ暫くは戦ってやろう。
 いつの間にか退屈な感覚は生活から消え去っていた。

4: 2010/08/04(水) 14:18:30 ID:CqaK5ZdI0
 魔物の舞台と本格的にぶつかった。
 味方の陣の内側に入り込んだ魔物の残党は結構大きな規模であった。
 俺達が約1000、魔物が目算1500。
 このままでは打ち破られてしまうだろう。

('A`)(向こうだな)

 魔物の位置を特定して少し距離を取る。
 出来る限り軍団の真ん中に位置どれば魔物と隣接して戦うはめにはならない。
 俺が戦うのは混戦になった時のみだ。
 そうでなくては命がいくつあっても足りない。

 だが今回ばかりは我儘は言っていられない。

 右側から鉄がぶつかり合う音。
 前方からは人と魔物の叫び。
 あまり聞こえていなかった戦場の音も今では立派な情報源である。
 慣れとは恐ろしい。

 状況としては苦しい。
 前方部隊に斜めから突っ込まれたのだろう。
 俺達は陣形を組んで組織だって動いている訳ではない、
 正規軍の指揮官の下に移動して少数の敵を打ち倒す事を信条としている。

 とれる戦術は突撃のみ、相手が少なければこれで問題ない。
 だが多ければ戦術そのものが破たんする。
 つまり、俺達は開戦以来初の危機に見舞われていた。

5: 2010/08/04(水) 14:19:13 ID:CqaK5ZdI0
 サンダーソードを斜めに構えながら戦場を駆ける。
 敵の少ない方へと。
 移動中にすれ違った魔物をすれ違いざまに切り裂きながら辺りを見渡す。
 指揮官の行方が分からない。確か馬に乗っていたはずだが。

 斬ってきた魔物を振り返れば、鹿や狼等が機械化した大型の物が目立つ。
 隊長格は自身の馬の混乱を恐れたのかもしれない。
 指揮官が討たれれば指揮系統は無くなる。
 元々ない統制が乱れれば俺達は全面潰走してもおかしくない。

 伯仲した戦力なら隊長は慎重な行動を望まれる。

 かと言って俺が何かする訳ではない。
 向かってきた三匹の魔物を素早く斬り捨て、背後から迫っていた虫の魔物を貫く。
 俺は自分自身の判断で戦うし、逃げる。
 周囲の傭兵や一般人達を見ながら身を引く局面の算段を考えていた。

 ゴキブリを大きくして半身を機械にしたような魔物が数匹集まり、隣で戦う男にたかっている。
 俺は同じ目に逢わぬように一匹を両断して大きく距離を取った。
 距離を取った先でカマキリ型の魔物と鉢合わせになったので、これを三枚におろす。
 息が上がってきた。

 降りしきる雨のおかげで体温を奪われる。
 滲む視界に奇妙な魔物が入り込んでいた。

6: 2010/08/04(水) 14:21:18 ID:CqaK5ZdI0
('A`)(……?)

 黄金になびくタテガミ。
 威風堂々とした四肢に、全身を覆う機械。
 見知った魔物ではなく機械そのものといった姿であった。

 周囲からざわめきも聞こえる。
 危険な存在である事は見れば分かるが、背を向けるのは御法度だ。
 魔物の思考は基本的に元の動物に準じる。
 獣の前で背を向けて逃げればどうなるか。

 疾風の如く駆け抜けた金色のタテガミが近くを逃げる傭兵の背を喰い破った。
 鮮血がほとばしり雨を吹き飛ばす程の咆哮が発せられた。
 百獣の王、誰かがそう呟く。
 仰々しい、相当に厄介な相手らしい。

 雨でかじかんだ手にもう一本の剣を精製する。
 紫色の光が剣の形を成す。
 新しい魔法剣で近くの狼型の魔物を二つにして百獣の王から少しずつ離れる。
 来ないならよし、来るなら何本の剣を砕いても相手になってやる。

 本意ではない重度なる戦いで俺の魔力は高まっていた。
 魔法の訓練は実践が最も適しているのだ。
 自身の意思は魔法そのもの、今は昂揚感も手伝って負ける気がしない。
 瞬間的に俺の魔力は自分の限界を超えていた。

7: 2010/08/04(水) 14:23:02 ID:CqaK5ZdI0
 殺気を感じたのか百獣の王は俺を睨みつけている。
 鈍化した雨粒を挟んで一瞬だけ互いに間合いを測る。
 そして一回瞬きをする時間の間に斬り抜けた。

 貫いている。

 百獣の王が俺の腕を。

(;'A`)「ぐ……あ……」

 即、出血多量で意識が揺らぐ。
 だが戦いの昂揚が消え去る前に百獣の王は地に伏した。
 紫の魔力が戦場に満ちて救世主の到来を告げた。

(,,゚Д゚)「敵の親玉は討ち滅ぼした! 一気呵成に攻めろ!」

 透明でありながら紫に輝く二つの魔法銃が何者であるかを表す。
 紫の国、少し間に王を辞したが今では彼はギコ王と呼ばれている。
 だがその名よりも前守護者ギコと言った方が伝わるだろう。

(,,゚Д゚)「しぃ、再生魔法を」

(*゚ー゚) 「うん。負傷者はできるだけ固まって!」

 青の再生魔法、リジェネレイト。
 実物を見るのも受けるのも初めてであったが、凄い魔法であった。
 完全に斬り裂かれて粉砕された俺の片腕が完全な状態まで回復したのだ。
 効果は広域に及んで守護者しぃを中心に百名程が魔法を受ける事が出来た。

8: 2010/08/04(水) 14:24:00 ID:CqaK5ZdI0
(;'A`)「本当に治ってる……」

(,,゚Д゚)「おい!」

(;'A`)「……え?」

(,,゚Д゚)「せっかく味方がいるんだ。敵を選んで一気にかかれ」

(;'A`)「あ、え……えーと、はい……」

(,,゚Д゚)「全員分かったか! 後僅かで魔物は全滅だ! 気を抜くな!」

(*゚ー゚) 「負傷者は出来るだけ後方に避難して!」

 ギコ王の声で士気は雨天を吹き飛ばさんとする勢いで高まり、趨勢は決した。
 二人の守護者がいて普通の魔物に勝ち目などある訳がない。
 という事は先程相手をした百獣の王も普通の魔物に含まれるのだろうか。
 神と言うのはつくづく、ことさら武勇に関しても平等ではないらしい。

 呆けている間にギコは走り去り、しぃも何もなかったかの様に負傷兵の下へと行く。
 少しの間動けそうになかった。

 俺が立ちあがった頃には雲の隙間から光がさしていた。
 雨粒で濡れた平原が太陽の光で輝く。
 完全な勝利を感じる。
 きっと向こうでは生き残った者が休息を取っているだろう。

9: 2010/08/04(水) 14:25:04 ID:CqaK5ZdI0
 自分の甘さとおごりを恥じつつも歩き出す。
 戦いはまだ続く。
 その中で得る事が出来る勝利というのも悪い物ではない。
 勝利の美酒が光輝く平原という形で現れている。

 大戦が終わった後に果たして生きているのか分からない。
 力の無い俺がどうすれば生き抜けるだろうか。
 自身が認める勝利を得る為には何をすればいいのだろうか。

 考え事を続けながら顔を上げた。
 黒い雲から覗く青空、差し込む陽光が光のカーテンを形作っている。
 答えは出なかった。
 それでも、一つだけ思いついた事がある。

10: 2010/08/04(水) 14:25:52 ID:CqaK5ZdI0
 無い力でも、それを尽くしてみよう。
 妙な感覚だが、精々後悔のない戦いを。
 限界を超えた先ならば氏しても心を地に残す事はないはずだ。
 俺なりの覚悟であった。

 もう戦略的には敵陣の奥と言っても問題ない位置に部隊はいる。
 終りが訪れようとしているのだ。
 人間か、それとも魔王か。 
 長い戦いの終りが。

 決戦は、きっと近い。


外伝 空白の旅人  第十一話「逆位置の『力』」 完

15: 2010/08/11(水) 12:54:28 ID:kuhqu7z20



 流星降り注ぐ光の戦地


 道化師達の宴と終焉と



( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

第五章 漆黒の魔王  第二十話「正位置と逆位置の『吊された男』」


―大陸連合軍 本部 上空 ( ^ω^)―


 ハインが黒の国でドラゴンから飛び降りた時と全く同じ光景だった。
 とは言え今回乗り付けたのは世界最高の魔法使いが集まる連合軍駐屯地。
 数回だが魔法で攻撃されてしまった。
 
 最強の生物であるドラゴンがいきなり現れたのだから、
 当たり前と言えば当たり前なのだが。
 古代遺跡プロトドラゴンを使う事で僕達は信じられない速度で大陸に回帰を果たしたのだ。

16: 2010/08/11(水) 12:55:12 ID:kuhqu7z20

 久しぶり、と言っても数日ぶりの大陸の空気が出迎えてくれた。
 張りつめた緊張感は現在の情勢に関係しているのだろう。
 兵舎を行きかう衛生兵達を見ても、魔物の勢力が増しているのを感じる。

(*゚ー゚) 「……おかえり皆、だよね?」

 彼女が驚いているのも自然な反応である。
 それでも駆け寄ってきた守護者しぃに僕達十人が応答した。
 戦力として、形にはなっていただろうか。

 ワイバーンの王、プロトドラゴンへと乗り込んで一部は先行して大陸に戻る事になった。
 往復できないのは一回大陸に戻るだけでドラゴンは力を使い果たすからだ。
 暫くすると、ドラゴンは鋼鉄の体から響く鼓動を止めた。
 古代の遺跡が永き命を終えた瞬間。

『残存エネルギー0.1%、全ての機能を強制終了します』

 結局、存在自体が何であったのか分からぬままドラゴンは動かなくなる。
 鉄の塊となった最強の存在は夕日を受けて物哀しげに佇んでいた。
 だが動かなくなった存在に気を取られてばかりはいられない。
 僕達には大仕事が残っているのだ。
 
 僕、ツン、クー、ショボン、プギャーに加えて大陸に戻ったのは黒の軍の精鋭。
 すなわちハインと四名の強力な魔法使いが先行して駐屯地にやってきたのだ。
 サスガ兄弟は事情を察して後で戻る事を快諾してくれた。
 今頃、事後処理を終えたミルナ王の乗る船で大陸に向かっているかもしれない。

17: 2010/08/11(水) 12:56:02 ID:kuhqu7z20
 後詰めとなる黒の軍勢の本隊合流まで一か月程。
 それに合わせて周囲に散らばる各国の散兵を集約して五国の王も戦地に立つ。
 決戦への意気が周囲に満ちている。
 肌で張りつめた空気を感じながら現総大将フサギコ王の下へと報告に向かった。

(´・ω・`)「……」

 ショボンとしぃは先に他の守護者達の下へと向かって行った。

18: 2010/08/11(水) 12:57:01 ID:kuhqu7z20
―世界同盟軍 本部前広場  ('A`)―


 『黒の魔女』と呼ばれる守護者ハインリッヒが軍に加わった。
 後に黒の王ミルナ、赤の王スカルチノフ、緑の王フォックスがそれぞれ集結。
 大きく強化された軍団の士気は否応なしにも高まる。
 俺がこんな生活を開始してから二カ月強だろうか。

 今まさに、魔王との決戦が幕開けようとしている。
 曇に覆われた暗い空、肌を斬るように冷たい空気。
 自分で吐き出した白い息を見て気が付く。
 もう冬になって暫くたっていたのだ。

 雪でも降りそうな天気だ。
 そんな事を思いながら目の前の演説に再び耳を傾ける。

ミ,,゚Д゚彡「……世界の命運は諸君の働き一つで変わる」

 中央に立つのはフサギコ王。
 今回の間接的な原因を作ったのは彼であり、その汚名をそそぐ為に総大将となったのだろうか。

(,,゚Д゚)「……」 
 
 フサギコ王の後にも一人。
 副大将を務めるのはギコ王子。
 少し前まで王を務めていた人物であるだけに王子の呼び名には違和感がある

19: 2010/08/11(水) 12:58:07 ID:kuhqu7z20
/ ,' 3「……」

爪'ー`)y‐「……」

 その両隣にはそれぞれスカルチノフ王とフォックス王が立つ。
 
( ゚д゚)「……」

 ミルナ王もまたじっと兵士たちに視線を向けている。
 王のいない青と黄の国は除き、全ての王が一堂に会すのは一体何十年ぶりなのだろう。 
 まるで牽制し合っているように鋭い瞳の諸王、その背後には世界に名だたる守護者達が。

 『炎の騎士』ジョルジュ。
 『水の巫女』しぃ。
 『地の賢者』ショボン。
 『風の奏者』ヒート。
 『雷の射手』プギャー。
 『闇の魔女』ハインリッヒ。

 世界最強の魔法使い、守護者。
 七年前に魔王を封印した彼らに兵士たちは絶対の信頼を置く。
 加えて王がいれば士気においての問題は起きないだろう。
 俺自身、目の前の力には安心感を覚えている。

ミ,,゚Д゚彡「……我らは既に魔王の喉元に剣を突き付けている!
      この戦いを最後に人間と魔王の因縁に終止符を打つ!」

 腹の底から力が湧きあがって来るようだった。
 周りの兵士、傭兵問わず同じだろう。

21: 2010/08/11(水) 12:59:17 ID:kuhqu7z20
ミ,,゚Д゚彡「決戦の時は来た! 立て! 勝利は我ら人間が掴み取るのだ!
      そして、再びこの地で汝らと生きて相見えようぞ!!」

 空気が揺れて衝撃が軍勢全てを包み込む。
 鬨(とき)の声が戦列に高く鳴り響いていた。
 全員が手にした魔法、魔法器、武器を掲げる。
 俺も気が付けば紫の剣を曇天に突き上げていた。
 
 軍勢がパンデモニウムの森と向かい合う。
 ゆっくりとだが軍団が動き出している。
 開戦の時だ。

22: 2010/08/11(水) 13:00:00 ID:kuhqu7z20
―世界同盟軍 独立突入部隊 ( ^ω^)―


 全ての守護者は一部隊に集まっていた。
 何をするのかは考えるまでもない、魔王に直接対決を挑むのだ。
 
 六人の守護者と副大将を務めるギコ。
 各国から三名ほどの精鋭と僕とツンとクー。
 総勢約30名の部隊だ。

 この決戦部隊を守るために陣形を楔型に組まれた部隊が前方に展開している。
 混戦なっても敵陣深く入り込める様に考えれらていた。
 準備は出来うる限り行った。
 残るは全力で魔王を討つ。

 まさか僕が魔王と実際に戦うことになるとは。
 僕は全力で、戦うだけだ。

( ゚∀゚)「お前ら! 準備はいいか!」

 七年前もリーダー役だったらしいジョルジュが声を上げた。

(*゚ー゚) 「絶対に油断はしないで。相手は魔王だよ」

 皆を気遣いながらしぃもジョルジュに続く。

ノパ⊿゚)「大丈夫だ! ここにいるのは世界最強の魔法使い達! 勝てる!」

 そしてヒートが全員の気持ちを統一していく。

23: 2010/08/11(水) 13:01:05 ID:kuhqu7z20
从 ゚∀从「魔法は心の力、負けるのは負けたと思った時! 負けるなよ! 全員だ!」

 ハインリッヒが魔法の基本を叫ぶ。
 それが魔王にも負けぬ心となるだろう。

(,,゚Д゚)「終わらせよう! 皆、手を貸してくれ!」

 ギコが拳を掲げると同時に全員の拳が上がった。

 軍団が前へと進んでいく。
 右翼左翼共に全ての属性の魔法使いを組み込んで敵勢を受け止める方陣で進む。
 中央には矢型の陣を突出させて背後に控える決戦兵力の道を作る。。
 戦術の要である中央兵力を生かすためにより勢いのある迅速な攻撃が序盤戦の目的だ。

 前方、パンデモニウム付近で剣戟と魔法の光が見えた。
 散兵として最前線を駆ける騎兵隊が、まずは魔物の陣形を崩しにかかったのだろう。
 歩兵である本隊の機動力は魔物に大きく劣る。
 騎兵がどこまで敵を散開させてくれるかも第一突撃の成功に関わるのだ。

 しかし、現在位置から見えるのは密集した兵達の後ろ姿だけ。
 全体の動きが見えれば戦いを制するのは簡単だというのに。
 逐一報告に訪れる伝令の情報だけが焦る心を静めてくれた。

24: 2010/08/11(水) 13:01:57 ID:kuhqu7z20
―パンデモニウム前 平原 高台 |::━◎┥―


 曇天が少し明るくなった。
 やはり時が近づいている。
 かつて弾きだされた演算結果を思い浮かべながら戦場を見る。
 血と鉄の臭い、揺れる大気、響く怒号。

 いつの時代も戦争は変わらない。
 今、騎兵隊の攻撃が始まった。

(‘_L’)「突入する!」

 騎兵隊の隊長が銀色の剣を掲げて魔物への初撃を加えた。
 隊長自身は魔法が使えないが、本人の能力、統制、共に高い次元で完成している。
 まさに手足の様に騎兵隊を操りながら的確に魔物たちの陣形を崩していく。
 一気に斬り抜けて小回りで迂回、再度陣形へと突撃するようだ。

 攻撃自体は成功だが位置の微妙なずれは失敗だ。
 騎兵部隊の先に待つのは大型魔物の一団。
 作戦目的を果たした騎兵隊は壊滅する。

 演算終了。

 騎馬部隊は潰走し、隊長は片腕を失う。
 次の瞬間にはその通りになり、本隊の戦闘が始まった。

25: 2010/08/11(水) 13:03:12 ID:kuhqu7z20
|::━◎┥「陣形破壊の代償に片腕か……」

 安く、合理的な取引だ。
 腕を組みつつも変わらず戦況を見守る。
 やがて動くその時が来るまで。

 人間達の戦力は決戦にしては乏しい。
 兵士を集約しきれなかった事が痛手となっている。
 とは言え魔法の力を考慮に入れれば単純に数だけとも考えられない。

 対して魔物たちの戦力は人間を上回り膨大だ。
 人間達の選んだ対応策は、黒の魔法。
 突撃の直前に同盟軍の兵力は一気に膨れ上がった。
 
 黒の召喚魔法、ブラックレギオン。
 骸骨そのままの顔を持つ不気味な兵士達が、剣を持ち戦列に加わっている。
 黒い鎧を音も無く揺らして横長の陣を作る。
 後方、本部にて黒の王ミルナが黒い輝きに包まれていた。

( ゚д゚)「……敵勢前列が厚い。我が軍勢では押し潰しきれぬ」

ミ,,゚Д゚彡「右翼を動かせ」

 連絡を行う部隊を走らせ、フサギコは目の間の地図へと視線を移す。
 王達の指揮もまた私の視界に入ってくる。

26: 2010/08/11(水) 13:04:16 ID:kuhqu7z20
 魔法の弓矢が飛ぶ局面へと入った。
 六色入り乱れる混戦。
 本隊前列は突撃での敵陣踏み込みが上手くいかなかった。
 魔王のいるパンデモニウムまでは大きく距離が残っている。

 暫くして魔物の前線に同盟軍の右翼が突撃を成功させた。
 側面から攻撃を受けた魔物たちは殲滅され、陣形に隙間が生まれた。
 同盟軍の当初の予定とは違うのだろうが、背に腹は代えられない、といった所だ。
 パンデモニウムに突入する独立部隊が前へと進む。

|::━◎┥「ゼアフォー」

 私の声に反応して影の様に現れる。

( ∴)「……」

 ゼアフォーの黒いローブが揺れる。
 
|::━◎┥「七名では多い。一人、除去しろ」

( ∴)「……」

 一度、頭を下げて姿が掻き消えた。
 戦場に私自身が一つの異分子を投げ込んだ。
 後は時に任せるのみ。
 気を抜いた瞬間、意識が僅かに遠のく。

27: 2010/08/11(水) 13:05:05 ID:kuhqu7z20
( ФωФ)「……」

 いつの間にかロマネスクが私の近くまで意識を持ってきていた。
 私の姿が霧のように散っていき、代わりにロマネスクを形作る。

( ФωФ)「システム展開、一号を起動」

 守護者達の力を開放するらしい。
 今更何の意味がある。
 そう尋ねた。

( ФωФ)「彼らも簡単には屈しない。七年前と変わらない話だ」

 それに、とロマネスクは言う。

( ФωФ)「俺もそうだった」

 かつての勇者は変わらぬ瞳で戦場を見る。
 私と同等の存在である彼の目には、また違って見えるのだろうか。

 『神の武器』、その内二つが解放された。
 それもいいだろう。
 気が付けば面白い人物が戦場を訪れている。
 戦はロマネスクに預け、私は遠くへと意識を伸ばした。

28: 2010/08/11(水) 13:05:56 ID:kuhqu7z20
―世界同盟軍 独立突入部隊 ( ^ω^)―


 芳しくない戦況からも、何とか陣形に隙間を作りだしてくれた。
 この機を逃すわけにはいかない。

( ゚∀゚)「行けそうだ!」

 ジョルジュが戦闘から声を上げる。
 炎が一団の周囲を走り抜け、魔物たちを蹴散らした。
 続いて紫の弾丸、緑の風が吹き、道を示しだす。

(,,゚Д゚)「よし……ん?」

 僅かに驚いた様な顔をしたギコは自身の両手へと目を移す。
 双銃を握る両手には既に紫色の光を纏っているが、
 その手の更に外側から強い魔力が発せられていた。

(,,゚Д゚)「これは……何故、今」

 不思議な顔をしたままのギコは銃を魔力へと還元して構えを解く。

(*゚ー゚) 「それって……使えるの!?」

(,,゚Д゚)「……らしいな」

 敵陣に開いた隙間は魔物たちによって閉じられつつある。
 だがギコの瞳には、現状を問題視する様子がなかった。

29: 2010/08/11(水) 13:06:54 ID:kuhqu7z20
(,,゚Д゚)『ニダヴェリール……』

 ギコを中心として圧倒的な物量の魔力が集まっていく。
 味方である部隊の人間を押し飛ばす程の勢いでギコの魔力は膨れ上がる。
 このまま戦場を覆い尽くすかに思われた力は瞬時にしてギコの両腕に集まった。

(,,゚Д゚)『……トールハンマー』

 詠唱が終了して武器が形作られた。
 長方形に伸びる巨大な一対の篭手だった。
 
(,,゚Д゚)「どうやら、神は味方してくれたみたいだな」

 ギコが両の手を組むと、そこには巨大な砲台が完成していた。
 実体を持つ砲台に魔力が走り、奇妙な武器が敵陣を向いている。
 いまだ、僕達の周囲には息が詰まる程の魔力があふれ出している。

(;^ω^)「これ……何だお」

(*゚ー゚) 「神の武器、だよ」

 突如としてギコが発現した異常な物体の正体を知っているのは六人しかいない。
 紫色に輝く巨大な砲台と魔力。
 七年前の魔王大戦で振るわれし神の力。
 神の武器の一つ、『ニダヴェリール・トールハンマー』。

 魔王を封印したと同時に使えなくなったらしいが、
 こうして魔王と共に復活を遂げたのかもしれない。
 ならば他の武器はどうなのだろうか。

30: 2010/08/11(水) 13:07:47 ID:kuhqu7z20
( ゚∀゚)「さぁな。でも、今は一つあれば十分だ。やるぞ!」

 守護者達が大きく前へと走る。
 パンデモニウムへと神の武器が銃口を向ける。
 音が消えた。

 トールハンマーから放たれた紫の閃光は大きく戦場を削りとっていく。
 同時にジョルジュもエクスプロージョン・バーストで攻撃範囲を広げた。
 焼け野原となり、一本の黒い道ができた平原には二つの魔力が残っている。
 しぃとショボンはそれぞれ有利となる属性を生かして巨大な壁を生み出した。

 爆風が吹き荒れ、粉塵が舞う中、戦場に壁が現れた。
 大地の壁と、氷の壁。
 二つに挟まれた焼け野原はパンデモニウムへと続く道。
 駆け抜ければ、魔王が待っている。
 
 もちろん躊躇する道理はなく、走り出す。
 焼けた道を走る僕達の向かい側から煙を突き破って人影が現れた。

(;^ω^)「ゼアフォー!?」

 一瞬仮面が光を返したのを見て思わず叫んだ。
 相手を見ずに誰か分かったのは初めてではないだろうか。
 
( ∴)「……」

 思った通り黒のローブに妙な仮面。
 三十人の突入部隊を一人で相手にしようというのか。

31: 2010/08/11(水) 13:08:45 ID:kuhqu7z20
(,,゚Д゚)「破魔が来る! ヒート、全員を飛び越えさせろ!」

 名の通り魔法を破壊する力『破魔』。
 今ここで、それを受ける訳にはいかない。

ノパ⊿゚)「分かった! 全員! ちょっと跳ねろおぉ!!」

 ヒートの魔法が烈風を呼びだして全員を遥か上空まで放り投げる。
 全員が放物線を描きゼアフォーの反対側へと飛ぶ中、
 ギコは地面に向かって神の武器を振るった。
 大陸を砕かんばかりの勢いでトールハンマーが迅雷を叫ぶ。

 突入部隊のしんがりに着地したギコは噴煙の様な煙へと向き直る。

(,,゚Д゚)「全員行け。奴には普通の魔法が通用しない」

 神の武器であるトールハンマーの一撃でもゼアフォーは滅んでいない。
 ギコは確実にそう思っている。
 僕も全く同じ気持ちであった。
 得体のしれない『破魔』を使いこなす存在が簡単にやられるはずがない。

( ∴)「……ギコ=デルタを確認。除去しまス」

 くぐもった声が聞こえた。
 ゼアフォーが来ていた黒いローブは焼き消えている。
 曇り空から漏れる微かな光が、彼がローブの下に纏っていた漆黒の鎧に映る。
 ギコが装備してるた銀色の鎧と対をなしているようだった。

(,,゚Д゚)「借りは返すぞ。ゼアフォー!」

32: 2010/08/11(水) 13:10:38 ID:kuhqu7z20
 ジョルジュに促されて前進を続ける突入部隊から一人、
 ギコがゼアフォーへと向かって行った。
 
(*゚ー゚) 「後でね、ギコ君!」

 その背中にしぃの声が飛んだ。
 パンデモニウムに向き直るりギコの無事を願いつつ走る。
 残った僕達突入部隊が敵陣を突き抜けた。
 
( ゚∀゚)「パンデモニウムまで一直線だ! 雑魚を蹴散らせ!」

 隊列を組んでいない魔物を打ち払いながら更に進む。
 夢中で走る中、気が付けば夕暮れを迎えていた。

ノパ⊿゚)「ジョルジュ、本隊は劣勢みたいだ! 急がないと!」

 魔法を使った跳躍で味方の位置と状況を確認したヒートが叫んだ。
 急がねばならないのは全員だった。
 突入部隊が急がねば本隊が負けかねないし、
 本隊が動けなければ僕達が背後を突かれる。

 撤退は出来ない。
 守護者達が開いた敵陣の隙間は既に閉じられている。
 そして負ける事も許されないのなら、勝つまで進み続けるしかないのだ。
 無論、ここにいる全員がそう思っているだろう。

 数分でパンデモニウムの森に突入出来ると思った時、暗闇が現れた。

33: 2010/08/11(水) 13:11:46 ID:kuhqu7z20
( ^ω^)「!?」

 体にまとわりつく様な、体温を奪われている様な。
 薄暗い、霧と同じ姿をした闇。
 前にも一度、見た事があった。
 低い咆哮がどこからとも無く聞こえる。

 嵐の如く動き出した暗闇が一点、恐らく中心部を残して吹き荒れる。
 中心点と思わしき場所には不自然な一色があった。
 白い光が、闇からこぼれている。
 何にせよここで立ったままでいるのは危険だ。 

 そう思った僕は闇に沈んだ周囲から逃げるため、光に向かって走る。
 突入部隊の仲間達はどこにいるのか。
 闇の外はどうなっているのか。
 様々な事が頭を支配していく。

 闇のどこかにいるのだ。
 きっと、その存在が思考を乱しているのだ。
 僕は頭で膨らみ続ける思考を打ち消けそうとした。
 だが、どう頑張っても頭には『想い』のような訳の分からない思考が浮かんでいた。

 そうしている間に、闇を抜けた。
 暗闇と思考の嵐は止んで、心の中には空白が生まれている。
 取り戻した意識を目の前に向けた。
 白き光の主がいた。

34: 2010/08/11(水) 13:12:52 ID:kuhqu7z20
 何が、漆黒の魔王だ。
 世界に伝わる伝承も信じられた話ではない。
 しかし無理のない事ではある。
 大きく、光を見上げていく。

 十分どこかの国の城くらいの大きさはある。
 鉄屑を集めて形成された下半身と鎧に包まれた上半身。

 ムカデの足と芋虫を混ぜ合わせたような腰から下は禍々しい。
 だが上はどうだ。
 曇りない純白の全身鎧が閃光を放ち、そこに削り込まれた女神の姿が映える。
 唯一、頭部の兜から覗く、空洞の目が暗い影を残している。

 まるで神の国を導く『聖王』。
 白磁の姿は全てを威圧し、煌めきは全ての動きを止める。
 古より続く戦いが終わらないのも合点がいく。
 こんな物に人間が勝てるわけがない。

 神々しい光を放つ様はそれだけで正義と力を感じさせた。

( ゚∀゚)「七年前はあれが両足で動いたんだ」

 勢いよく真横見ればジョルジュが忌々しそうな目で光を見ていた。

(*゚ー゚) 「うん、まだ治ってないんだね」

ノパ⊿゚)「本当にまた会うとは思わなかった」

 守護者達が闇を抜けて集まっている。

35: 2010/08/11(水) 13:13:53 ID:kuhqu7z20
从 ゚∀从「気圧されるなよ」

(´・ω・`)「まさか魔王がここまで目立つとはね」

(;^Д^)「この光……魔法なのか……?」

 他の突入部隊の人員達もほとんどが集まりきった様だ。
 魔王と対面していた時間は永遠にも感じられた。
 双方がいつまでも動かない訳はない。
 短い永遠が終りを告げて、空間内に魔力が高まっていく。

 暗闇の中心で、人間達と、光の魔王との決戦が始まる

( ゚∀゚)「『破魔』がこない、中身も修復しきってないみたいだ!」

 ジョルジュがフレアナイトの魔法、赤の鎧を体に流しながら支持をする。

( ゚∀゚)「それぞれ三人は俺についてこい! 他は上手くやれよ!」

 事前に考えられていた通りに全員が動き出す。
 魔王はわざわざ森の外に出てきてくれた。
 吹き荒れる闇を払う事ができれば他の兵力も動員して一気に倒せるかもしれない。
 そう考えた矢先にジョルジュが向かった先の空間が歪む。

 ジョルジュ指揮下の三名が歪んだ空間の中に消えた。
 血が出る事はなかった。
 存在自体を消されてしまったのだ。
 いずれも赤の国の精鋭、強力な魔法使い達であった。

36: 2010/08/11(水) 13:14:54 ID:kuhqu7z20
 その場には魔王が振り下ろした左腕が残されている。
 動いた事実が後から付いて来た様な、奇妙な一瞬だった。
 歪んだ軌跡を残して魔王は元の姿勢へと戻る。
 初めて魔王と相対する人間全員に戦慄が走った。

 魔王が止まったかに見えたのは間違いだ。
 今度は魔王の光が増している。
 膨張を続ける魔力が魔王一身に集まっていた。

(;゚ー゚) 「全員集まって!」

 しぃの一声で体が自由を聞くようになった。
 突入部隊が集まった所で、しぃは防御魔法を起動。
 青い球体に部隊全員が包まれる。
 一安心、となる訳はない。
 
 眼前では見たこともない程の規模で何かが起ころうとしている。
 澄んだ光の音が響いていた。
 防御壁を挟んで魔王を見据えると何かが魔王の背に出現している。

ξ;゚⊿゚)ξ「天使の、翼?」

 ツンが端的にそれを現す。
 純白の魔力で成形された翼が魔王に呼応して大きく広がった。
 危険とみたショボンが岩の壁を出現させて更に防御を固める。
 見えなくなったはずの魔王から、閃光が放たれるのが分かった。

 踏みしめる地面から光の柱が幾つも立ち上り、魔王からも嵐の如き閃光が。
 恐らくまだ準備段階であろう反応でショボンが起動した大地の壁は崩れ去った。

37: 2010/08/11(水) 13:15:54 ID:kuhqu7z20
 魔王が大きく両腕を広げた。
 天を仰ぐように、鉄がひしゃげた様な咆哮がこだまする。
 そして、漆黒の嵐の内部は白の世界に変わった。
 衝撃と轟音によって、どうなっていたのかを確認する事は出来ない。

 幸い意識は失わなかったが、天使の羽が降り注ぐ中、地に伏していた。
 青草が生えていた地面は荒野に変貌して冷たくなっている。
 感覚の薄い体を何とかして起こす。
 煌めく羽の奥に、魔王が悠然と存在していた。

 これでは兵士が何人いたところで意味がない。
 存在としての格が違いすぎる。
 寒気が襲い、震えが体を支配した。
 完全な恐慌状態に陥る寸前で、僕は倒れていない六人を見た。

 魔王撃破の旗印、守護者達の姿であった。

( ゚∀゚)「しぃは回復に回ってくれ、俺とヒート、ハインで攻める。
      プギャーとショボンは援護を頼む」

 魔王の攻撃など気にもしていない様子でジョルジュがそう言った。
 先手を打たれ、突入部隊の作戦は意味の無い物となってしまったが、
 まるで当たり前の様な対応である。
 七年前はどんな戦いを演じたのだろう。

(;゚ー゚) 「……無事でね」

 とりあえず守護者全員の回復を終えたしぃが後方に走る。
 残る五名が魔王に向かって行った。

38: 2010/08/11(水) 13:16:47 ID:kuhqu7z20
 疾駆する三人の守護者達を、ショボンの防壁とプギャーの砲撃が守る。
 空間を渦の様に歪ませる拳を紙一重でかわしながらジョルジュが踏み込んだ。
 それだけで巨大な腕に向かって高位魔法エクスプロージョンが炸裂する。
 爆風の中から現れた魔王の腕に傷は無い。

 同時に斬りこんだヒートの刀がジョルジュと同じ位置にぶつかる。
 しかし僅かにも食い込んだ様子はない。
 追撃に出ていたハインの鎌でも変わらず攻撃の意味がなかった。

(;^ω^)「……」

 最強の人間を選りすぐってもこれだ。 

川;゚ -゚)「……良くない状況だ」

(;^ω^)「クー、無事かお」

川;゚ -゚)「ああ……少々打ち所が悪かったが」

 刀を支えにクーがよろよろと立ち上がる。
 すると周囲に青い光が小さく現れて数名の傷が回復した。

ξ;゚⊿゚)ξ「これで少しは動ける?」

 突入部隊の数名が立ち上がり礼を言うが、
 治った所で現状が最悪極まるのは変わりない。

(;゚ー゚) 「動ける人はこれで全員かな……ブーン君達、魔法連鎖でいくよ」

39: 2010/08/11(水) 13:17:52 ID:kuhqu7z20
(;^ω^)「今更魔法連鎖をしても意味は……」

 魔法連鎖、紫の首都で一回だけ試した事があるが辛うじて成功した様な物だ。
 確かに魔力を増大させる事が出来るのだが魔王に効果があるかと問われれば、
 絶対にないと言わざるを得ない。

(;゚ー゚) 「連鎖をジョルジュ君に繋ぐんだよ。きっと、意味のある攻撃になる」

 世間的に公表されていない魔法連鎖の勝手が分かるのは守護者と僕達だけだった。
 神の武器が手元にない以上は、手段が限定される。

(;゚ー゚) 「他のみんなはブーン君達を守って。今はこれしか手がないんだ」

 そうだ、何もしなければ魔王に殺されるだけ。
 だったら一回くらい反撃してみるべきだ。
 自分に言い聞かせて背後の二人を見る。
 ツンとクーが頷いた。

 他の面々も了承してくれたらしく、目の前で戦い続ける守護者達へと視線を向ける。
 一気に魔王へと走る。
 減ったとはいえ突入部隊の兵力は二十名を超える。
 全員が魔法を起動しながら走れば目立つ。

 守護者と戯れに拳を交えていたかのように何気なく魔王が振り向く。
 確認した瞬間、しぃの防御壁が現れ、更に歪曲していた。
 これでしぃの魔法を連鎖に組み込む隙は無くなった。
 揺れる地面に何とか踏みとどまり、クーと呼吸を合わせる。

40: 2010/08/11(水) 13:18:39 ID:kuhqu7z20
川 ゚ -゚)「合わせろ、ブーン!」

 刀に揺れる深緑の魔力が軌跡を描き、空間に広がる。
 やがて魔力は風となって僕の背中に吹き付ける。
 緑の光を喰らい、僕の魔力が増大した。
 赤い光は淵から炎を生みながら腕に集約され、蕩(たゆた)う。

 しぃは障壁を操っているため動けない。
 ならば次に繋ぐのはツンだ。

( ^ω^)「ツン! 準備は!?」

ξ゚⊿゚)ξ「問題なし!」

 位置を認識して魔法陣を展開、その真下でプギャーが拳を上げる。

( ^Д^)「ショボン! 連鎖だ!」

 プギャーの右腕に精製された巨大な砲台を魔法陣に合わせた。
 紫色の雷光が周りを埋めつくす闇の嵐を駆け抜けて遥か天へと昇る。
 
(´・ω・`)「三人とも! 魔力が行きます!」

 前方で戦い続ける三人の守護者に聞こえるように大きく叫ぶ。 
 昇って行った一筋の光を触媒として、『門』が開く。
 空間に残る光を左右に開く様にして魔力の巨人が現れた。
 いつも召喚しているゴーレムが黄金の光だけで構成されているような物だった。

41: 2010/08/11(水) 13:19:51 ID:kuhqu7z20
ノパ⊿゚)「受け取ったあぁッ!!」

 二本の刀が左右に大きく開く。

 魔力が五属性を一周し、更に膨張を続ける。
 守護者ヒートによって黄金の巨人は大烈風へと分解、昇華を遂げた。
 かなり離れた地点で見守る僕達が軽く吹き飛ばされる勢いで魔力が暴走回転する。
 地面に鎌を突き立てたハインの上空でジョルジュが右腕を振り上げる。

( ゚∀゚)「ここだ、魔王!!」

 大嵐が吹き荒れる中、首を少しだけ動かした魔王がジョルジュと対峙する。
 空間が鳴動し、ジョルジュの右手一点から全てを吹き飛ばすような威圧が生まれた。
 それは周囲の烈風を全て吸収した事を意味する。
 ジョルジュの咆哮と魔王の呻き、赤と白の二つの光、一つの瞬間。

 突入部隊全力全霊の一撃を放つ。
 七連魔法連鎖の光は血よりも赤い魔法の光となり、ジョルジュの右腕と共に前へ。
 一瞬だが僕の目は捉えた。
 純粋な超高熱となった魔力が空気を燃やし尽くす。 

 爆炎が形を成し、尚も強く燃え盛る。
 深紅の刃が魔王の胸へと叩きつけられた。
 魔王が立つ地面もろ共に、赤の奔流に包まれた。

 奇妙な事に、詠唱は場にいた全員に聞こえただろうと確信ができた。
 高位収束魔法、エクスプロージョン・ブレード。
 全魔力を一つの刃の形に込めて打ち出す、単純ながら最大の威力を作る方法だった。
 単純とは言っても、実際に行える人間は彼しかいない。

42: 2010/08/11(水) 13:20:50 ID:kuhqu7z20
 一瞬にして目の前で発動した魔法の全貌が頭に流れた。
 遅れて幾重にも別れた爆発が連続して魔王の胸で起こる。
 爆風を受けて空中から舞い戻ったジョルジュがしぃの前に着地した。
 火の粉と赤の魔力が雨の様に降り注いでいる。

 闇の嵐の中で、噴煙が立ち上り続けていた。

(;゚∀゚)「……」

 着地と同時に右腕に装備している籠手を打ち捨てる。
 赤熱化した魔法器は溶岩の様に溶けて嫌な音を立てていた。

(;゚∀゚)「やっぱ『武器』無しじゃ厳しいか……」

 変わらず魔王を睨む姿に嫌な予感を禁じえず、そっと魔王へと目を向ける。
 微かに晴れた爆煙の先には確かに変化はあった。
 白磁の閃光が輝く鎧で僅かな、ほんの僅かな亀裂が。 
 それが、存在しうる物全てを灰燼に帰せしめると確信出来た魔法の全てだった。

 ジョルジュが言ったのは捨てた魔法器という武器ではなく、
 『神の武器』という意味であったのだ。
 
 現れた事実は、突入部隊にそれだけの結果を提示した。

43: 2010/08/11(水) 13:21:36 ID:kuhqu7z20
―パンデモニウム前 平原 ('A`)―


 ここはどの辺りだろう。
 無我夢中で戦い進んできたが、所在が分からないのは不安を煽る。
 両手で淡く輝くサンダーソードを取り回し、
 向かって来たカマキリのような魔物を斬り捨てる。

 さすが友軍扱いだけあって『突撃、各個戦闘』という簡単な指示しかされていない。
 先方として突撃されられたのは迷惑極まるが、
 後続の部隊に紛れれば後は密集からの混戦になる。
 少しずつ自然に後退を続ければ魔王とやらのいきなりの攻撃にも巻き込まれにくいだろう。

 混乱する戦場で一瞬だけ空を確認する。
 暗い曇天だった。
 面倒な話だ、これではまた視界が悪くなる。
 夕暮れも近い、無理に敵陣深く位置取る必要はない。

 向かってくる魔物を叩きながら道をそれて進んでいると真横から爆音が届いた。
 いや、これは雷音だろうか。
 落雷の地では二人の影が壮絶極まる氏闘を演じている。
 あまりの格の違いで暫くの間、理解する為の努力を怠った。

 片方はかつての守護者ギコ。
 銀色の鎧を装備しており、腕には奇妙かつ巨大な篭手がくっついている。
 もう一方は仮面をつけた黒い鎧の人物。
 俺としては、こちらの方が問題である。

44: 2010/08/11(水) 13:22:41 ID:kuhqu7z20
( ∴)「……」

 何か奇妙な言語を、くぐもった声で呻きながらギコの魔法剣を避ける。
 仮面の鎧を音も無く揺らして右手には紫の魔法、左手には赤の魔法。
 炎と雷の軌跡を残しながら緑色の風で大きく距離を取った。
 仮面の人物が立っていた場所には氷の刃が残っている

 金色の魔力を纏い、大地を隆起させて空中に踊りでた後に大きく両手を広げた。
 現象も音も無く、衝撃が遠くの俺を含めて円形に広がる。
 何も起こっていないのだが、確かに何かが起こった。
 そんな印象だった。

(,,゚Д゚)「……」

 ギコは怒りを現す顔で魔法の剣を分解した。
 抜けて行った無音の衝撃は魔力を尽く弾き飛ばす。
 結果として、周囲にいた全員の魔法が『消えた』。

(;'A`)「え!? いや……あれ?」

 手にしていた魔法剣が消え去り、空白の手が妙に軽かった。
 何度詠唱を繰り返しても魔法剣は精製されない。
 問題なのは武器が作れない事ではなく、武器が無い事だった。
 まだ魔物は幾らでもいる。

 正面切って迫ってくる下級の魔物ですら今の俺では相手にならない。
 どうするか思案していると腰のベルトに下がったナイフに手が触れた。
 無いよりマシだと判断して構えてみる。
 使っていた魔法に比べるといかにも頼りない。

45: 2010/08/11(水) 13:23:48 ID:kuhqu7z20
 飛びかかってきた魔物の生身の部分の肌を浅く斬り裂き、双方すれ違う。
 地に足がついた所で反転してナイフを突き出す。
 魔物に深々と突き刺さった所から黒い鮮血が吹き出して俺の腕を染める。
 もう一度勢いをつけて突き出して止めを刺す。

 魔物一匹で随分と息が切れた。
 兵士達の中では喰い殺されてしまった者もいるらしい。
 一気に劣勢となった部隊が大きく後退する。
 面倒な事になったと、気が付けば吐き捨てていた。

 近場に倒れていた兵士の亡骸から軽めの剣を抜きとる。
 贅沢や綺麗事は言っていられない、今はコレで凌ぐしかないのだ。
 魔法に比べれば重い、鉄の剣だった。

 魔法が無い状態でもギコは戦い続けている。
 両手の奇妙な篭手を組み合わせて巨大な砲台を形作り、
 とんでもない威力の雷撃を操っている。
 まさかとは思うが、噂に聞く『神の武器』なのだろうか。

 そうであれば何故魔法が使えない中、一人だけ魔法を使えるのか説明がつく。
 だが如何に強力な力でも間合いには支配されてしまうらしい。
 砲台の内側にまで入り込み、仮面の人物が拳を振る。
 青い火花が散り、ギコが一歩退く。

 ギコはただで攻撃を受けた訳ではない。
 腰から下がっていた片刃の剣を仮面の下、首元へと振るう。
 相手は微かに身を浮かせて胸の鎧で弾く。
 ギコが飛び退き、二人とも距離が開く。

46: 2010/08/11(水) 13:24:39 ID:kuhqu7z20
 双方共に魔法だけではなく体術にも精通している。
 かつての守護者であるギコは魔法武器を操っていたのだから当たり前だが、
 仮面の方は何者なのだろう。
 しばし頭から放り出していた疑問が帰ってくる。

 奴は何故、五色の魔法を多重使用できるのだろう。
 さらに言えば仮面の人物が奇妙な衝撃を放ってから魔法が使えなくなった。
 魔法を支配しているとでも言うのか。
 そう思ったが、仮面の方も魔法を使っていない。

 成程、自身も一定のルールに縛られているのかもしれない。
 ならば数は大きな利となる。
 大勢で斬りかかれば、恐らく倒せる。
 そう思ったのは俺だけではない事が分かった。

 数名の、どれも強そうな魔法使いがギコの加勢に走る。
 常識で考えて仮面の人物さえ居なくなればギコの周囲が一番安全だ。
 つかず離れず、が丁度いい。
 俺も間合いを開けてギコの方へと移動を始める。

( ∴)「……!」

 背中から走り抜けた衝撃が帰って来た、そう感じる。
 空気や足元の草が動いた事実は無いが、確かに分かった。
 衝撃はそのまま仮面の人物の周囲で球状に留まった。
 球体の内側で魔法の光が迸る。

(,,゚Д゚)「……結界、か」

47: 2010/08/11(水) 13:25:25 ID:kuhqu7z20
 ギコの隣を加勢に来た魔法使い達が駆け抜けていく。
 今まで衝撃によって息苦しい何かに覆われていたが、
 まるで霧が晴れたようにすっきりとした空間、そこで魔法が起動される。
 瞬時にして魔法が使えるようになった事を、察知した事が彼らの技量を示す。

 だが奇妙な結界は健在である。
 加勢の魔法使い達は刹那にして斬り倒された。
 原因は彼らの魔法が仮面の人物の結界に掻き消された点にある。
 敵の目の前で丸腰、それでは氏んでも文句は言えない。

(,,゚Д゚)「そこの者!」

 ギコが叫んだ。

(,,゚Д゚)「お前だ、お前!」

 何やら俺の方向を指さしている。

(;'A`)「あ、俺ですか!?」

(,,゚Д゚)「……他は全滅だ! お前しかないだろうが!」

 気が付けば魔物の大部隊が仮面の人物を挟んで後方から向かってきている。
 味方はと言えば壊走していた。
 少し気を抜きすぎたらしい。
 俺の理解を待たずにギコが続ける。

(,,゚Д゚)「悪いが、万が一の時にはゼアフォーに止めを刺せ!
     この戦役の勝敗に関わる! 頼んだぞ!」

48: 2010/08/11(水) 13:26:14 ID:kuhqu7z20
 ゼアフォーと発音しながら仮面の人物を顎でしゃくる。
 万が一というのはギコが氏んだ場合だろうか。
 どうやら人を見る目が無いらしい、どう見ても俺では相手にならない。
 仮に相手が瀕氏でも変わりなく、である。

(;'A`)「……」

(,,゚Д゚)「何としてもだぞ!」

 ギコは手にした鉄の片刃剣を左手に持ち替えて疾駆する。
 覚悟の瞳、その下の口が小さく言葉を紡いだ。

(,,゚Д゚)「冴えない最期になりそうだ……」

 ギコは正面からゼアフォーに対峙する。
 片刃の剣が夜空を映して、結界にすべり込む。
 魔法でさえなければゼアフォーの結界も効果を成さない。
 ギコの刃はゼアフォーの首へと直線を描く。

 紫の剣が閃く。
 鮮血が舞う。

 ギコの背から刃が生えている。
 片刃の剣がゼアフォーに届く前に、ギコは魔法剣に貫かれたのだ。
 ここから見えるギコの横顔は、笑っている。
 事前に武器を持ち替えたため自由になった右手が結界の内側で魔法を紡ぐ。

49: 2010/08/11(水) 13:26:58 ID:kuhqu7z20
 振り下ろされる紫電の魔法剣。
 小さな電気音がとてつもなく大きく聞こえた。
 ゼアフォーが全力で体を動かす。
 それでも、ギコの魔法剣はゼアフォーの肩口から胸まで深く食い込んだ。

( ∴)「!?」

(,,゚Д )「やはり『ここ』で『生み出した魔力』なら使えるらしいな……」

 結界の内側で二人が硬直する。
 腹部と口から血を流しながら、ギコが左手の剣を捨ててゼアフォーの肩を掴む。

(,,゚Д )「さ、て……少し、面を貸して……もらう、ぞ」

 息も切れ切れにギコの口が言葉を発する。
 とてつもない物量の魔力が空間に生まれていく。
 発生源は、ギコの両腕の篭手であった。
 やはり何か特殊な物だ。

 だが一対の篭手は砲台としては間合いが狭すぎて使えない。
 ギコがとった策は、莫大な力の魔法転用であった。
 即座に魔力が長方形に集まり、砲台を形作る。

(,,゚Д )『プラズマ……シューター』

 詠唱が完了すると同時に無数の高位魔法が空間に出現する。
 ゼアフォーを取り囲むように浮かんだ幾つもの砲台は、全て結界の内側にあった。
 どれをとっても間違いなくキャノン級の魔法だ。

50: 2010/08/11(水) 13:27:46 ID:kuhqu7z20
( ∴)「……!」

 ゼアフォーは急いで結界を体に引っ込めようとしている。
 一度体に戻せば、再度広範囲に使用できるのかもしれない。
 何にせよ、もはや意味は無い。
 戦いのプロではない俺でもよく分かる。

 ゼアフォーは消え失せる。
 ギコと共に。

 無数の砲台に紫電の光が灯る。
 一瞬の静寂を時の流れに挟んで、高位魔法が炸裂した。
 丁度ゼアフォーに結界が戻りきり、ギコの魔法は何者にも遮断されない。
 平原を雷光が走り抜け、蹂躙し、燃やし尽くす。

 天からではなく地面から発せられる轟雷が閃光と共に戦場に響き渡る。
 立ち上る煙すらも雷が吹き飛ばし、綺麗な視界が開ける。

 ギコやゼアフォー、敵の大群。
 どうやら、その程度の事は些細な話だったらしい。
 遠方であるのと、自分の戦いゆえに気が付かなかったが、
 パンデモニウムの前では漆黒の嵐が発生している。

 更に言えばその上空。
 曇り空は消え、いつの間にか晴れた夜空が覗いている。
 天空を埋める雲は吹き飛ばされて螺旋を描く。
 流星舞う星の海には、『終り』を確信させる物が風景画の様に無機質に映っていた。

 誰も、五色の魔力が雪の様に降る戦地で、ただ流星の夜空を凝視している。

51: 2010/08/11(水) 13:28:33 ID:kuhqu7z20
―世界連合軍 本陣 |::━◎┥―


 平原には戦いの音が鳴っていた。
 『私』の『視界』は好きではない音だ。
 ゆっくりと、数名の男に近づいていく。
 懐かしい、と私の中にも感覚が伝わった。

 対象者との精神結合も楽ではない。
 視界を共有するだけで莫大な演算が必要となる。
 『終り』を迎えようとしている中で何故こうして無駄な行動をしているのか。
 何故かは分からなかった。

/ ,' 3「久しいな、そして来るにしても遅い到着だ」

 アラマキ王が気が付き、振り向いた。
 赤い装飾が入った鎧には『視界』も見覚えがある。

爪'ー`)y‐「君が顔を見せたって事は……どうやら単純な話じゃないらしいですね」

 フォックス王も甲冑を揺らして一度だけこちらを見た。

『ええ、全くです。どうしたものか……』

 声が遠くから、近くから私の頭に響く。
 精神結合をしていても思考や感覚、その他行動は対象者による物。
 どうしてもラグが生じる。

52: 2010/08/11(水) 13:29:33 ID:kuhqu7z20
ミ,,゚Д゚彡「しかし、我が子や有望な若者を氏地に立たせる、か。
      老いたものだな、我々も」

 嘲笑を浮かべながらフサギコ王が口を動かした。

( ゚д゚)「もう何年経ったかも忘れてしまった、お前達と共に戦ったのも」

 ミルナ王は遠い日を思い出す様に戦場へと視線を移す。

『あの頃は、つーさんも元気でしたねぇ。僕も若かった』

 青の国で王女を務めた、『つー』も今や遠い昔の人物だ。
 時に取り残された様な奇妙な感覚。
 私にも理解できた。
 彼らの会話は少しの間続いたが、すぐに終りを迎えようとしている。

/ ,' 3「ぬしの顔は別段変化していないぞ」

『いや、変わっているでしょう……昔は戦場に立つ事すらできなかったのですから」

ミ,,゚Д゚彡「まぁ、昔話はこの辺りでいいだろう。貴様はどうするのだ?」

『変な事を聞きますね。あなた達も魔法を使うのでしょう。
僕も微力ながら共に、どうやらこの『神の武器』も使えそうですしね』

 視界の付近で膨大な魔力が光を生んでいく。

( ゚д゚)「ほう……ならば突入部隊もどうにか出来ているかもしれん」

53: 2010/08/11(水) 13:31:07 ID:kuhqu7z20
爪'ー`)y‐「不吉な事を言いますねぇ……
       娘二人が向かっているのです、そうでなくては困ります」

/ ,' 3「いずれにせよ、我らは平原を制するしか手はあるまい。
    小僧、後の事は考えてあるのか?」

 互いに親しい仲でなければ判断がつかないような小さな笑み。
 アラマキ王にはそれが浮かんでいた。

『この年で小僧はどうかと思いますが……
一応、僕も突入部隊の後詰めに行きたいと』

ミ,,゚Д゚彡「まずは目の前に並んでいる魔物どもを殲滅する事に集中せよ。
      我らの、最後の戦だろうからな」

 戦地に立つ。
 最後の控え兵力が投入され、魔力の波が生まれていく。
 青の力を抜いた五色の魔法が刻む。
 王達の召喚魔法を。

 闇の軍勢。
 炎の魔人。
 雷と風の怪鳥。

 そして、黄金纏う大地の巨兵。

 彼らの召喚完成を見る事は叶わなかった。

54: 2010/08/11(水) 13:32:14 ID:kuhqu7z20
『この辺りでいいかな? ハグルマの王』

 私の精神に言葉が叩きつけられる。
 夢から覚めるように、白みがかった視界が色を取り戻す。
 気が付けば平原の高台に舞い戻っていた。
 驚いた、精神結合を意思だけで解除可能だったとは。

|::━◎┥「……」

 再び私は気を抜いていたらしい。
 自身の体が白い霧となって新しい体を作りだす。

(`・ω・´)「全ての『武器』が解放された。これで良かったのかい?」

 白のローブがなびく。
 私と同等の存在であるシャキンの目には、私はどう映っているのだろう。
 色々な思考が頭を走っているようだ。

|::━◎┥「お前はどう思うのだ」

(`・ω・´)「さぁね、でも何事にもイレギュラーはあるよ」

|::━◎┥「かつてパンデモニウムを踏破した経験か」

(`・ω・´)「そんな詰まらない話じゃない。分かっているんだろう?
       これで『武器』という道具は揃った。後はまだ見えない『役者』さ」

55: 2010/08/11(水) 13:33:24 ID:kuhqu7z20
 果たして来るのだろうか。
 彼は確かにキカイだ、つまり合理的に動く。
 だが元は人間だ、人間とはどこまでも合理的には動かない。
 時を置いたのは自らの力の回復を狙っている。

 そう仮定するならば確かに一瞬だけ『終り』を防げるかもしれない。

(`・ω・´)「演算は解を導いた。そして、その上で例外を生む事がある。
       見ていればいい。どうせ僕達自身には時間があるんだから」

 だが、存在しない因果律は調べようも確かめようもない。
 どちらに転んでも、崩れる。
 因果律という未来演算は。

 パンデモニウムの森、その前に広がる漆黒の嵐。
 平原で散る無数の命。
 本陣より出撃した四体の召喚魔法。

 響く。
 星の海、宇宙より来る星の音が。
 天空の暗雲を突き破り現れた、終焉の訪問者。

 世界に因果の風が吹き始めた。
 照合を開始した。
 終焉の名、それだけを声にならぬ声にして、最期としよう。

56: 2010/08/11(水) 13:34:19 ID:kuhqu7z20
―独立突入部隊 ( ^ω^)―


 魔王が退いた。
 正確には殴り飛ばされた。
 何にだ。
 僕は魔王から目を離して隣へと顔を向ける。

从 ゚∀从『ヨトゥンヘイム……』

 漆黒よりもなお暗い光。

从 ゚∀从『ヨツムンガルド!』

 影が形を成している。
 
从 ゚∀从「ジョルジュ! そっちは!?」

 巨大な獣の姿だ。

( ゚∀゚)「まだ解放されない!」

 魔力の乱気流が地面を砕く。

(*゚ー゚) 「今はハインちゃんだけだよ! 少し時間を稼いで!」

57: 2010/08/11(水) 13:35:37 ID:kuhqu7z20
 結集した魔力が弾け飛び、魔獣が姿を現した。

从 ゚∀从「あいよ! 行くぞ……ヨツムンガルド」

 神の武器のひとつ『ヨトゥンヘイム・ヨツムンガルド』。
 魔王と対極をなす存在だった。
 僕の想像とも真逆であったが。
 ヨツムンガルドの肩に乗り、ハインが鎌を突き出した。

 影が揺れ動く巨大な魔獣。
 鋭利な五本の爪、大きく開いた口。
 炎の様にに揺らめく幻影の如きその身を、青い眼光だけがとどめている。
 突入部隊を救う『神の武器』はまさしく『魔王』のそれであった。

 『聖王』と『魔王』が漆黒の嵐の中で対峙する。
 ヨツムンガルドの咆哮で揺れ動く地平に片膝をつく。
 狂わんばかりの声が頭までかき乱す。
 恐怖、憤怒、悲しみ、憎しみ、負の心が体を支配していく。

 自分が何を思っているのか分からないまま、一瞬の時が流れた。
 爆音が鳴り響き、魔力の雨が飛び散る。
 ヨツムンガルドと魔王が互いに両腕を噛み合わせていた。
 風圧だろうか、気が付けば僕は地面に背中を打ちつけている。

 白と黒の魔力。
 雨の様に降り注ぐ二つの魔力が漆黒の嵐を打ち消していく。
 嵐は止み、再び世界とつながった。

58: 2010/08/11(水) 13:37:05 ID:kuhqu7z20
 この世の物とは思えない二つの力が平原に現れている。
 背後を見れば、赤と金色の巨人が大地を揺らし、
 紫と緑の怪鳥が天空を走る。
 
 魔物との戦いも佳境を迎え、骸骨の兵士達が無音の殺戮を繰り返す。
 兵士たちも負けてはいない。
 魔王を前にしても、果敢に戦を演じている。

 七色の魔力が今やゆっくりと、雪の様に降り注ぐ。
 魔法の戦場が眼前に現れていた。

 僕が見た中で最高に美しく、最悪の景色であった。

 赤、青、緑、守護者達の体に不安定な魔力が集中している。
 まずヒートの体にギコと同じ様な反応が起きた。

ノパ⊿゚)「……! よし! これで武器が……あれ?」

 神の武器を精製するかに見えた力は霧散し、再度集まろうとしている。
 まるで武器自身の意思が弾かれているようだ。

(*゚ー゚) 「武器にならない……?」

 しぃも同じ状況であった。

( ゚∀゚)「何だってんだ……ん?」

 ジョルジュの体に集まりかけた力も同じく飛び散っていく。
 飛び散って行く先をジョルジュが追うと、やがて空へと顔が向いた。

59: 2010/08/11(水) 13:38:13 ID:kuhqu7z20

(; ゚ω゚)「……」

 開戦してから今現在までの情報が全て頭から抜け落ちた。
 はっきりとそう感じるし、今更どうでも良い。
 地面から草が舞いあがり、土が持ち上がり、岩が浮く。
 そのまま、空へと吸い込まれている。

 体が軽い。
 僕まで空にある『物』に吸い込まれそうだ。

(; ゚ω゚)「何だお……あれ」

 巨大、などという言葉では小さい。
 見上げた空全てをおお尽くす程の『水晶』。
 ひし形で透明な水晶が透明な光と共に舞い降りている。
 先端部がまっすぐこちらを向き、水晶の奥に星の海を映す。

 内宇宙 因果律 演算測定 結果 彗星名称『ラグナロク』 照合完了。
 不意にそんな言葉が頭を通り抜けた。

ξ;゚⊿゚)ξ「ラグナロク?」

川;゚ -゚)「ないうちゅう? 何だ、今のは」

 どうやら僕だけはではないらしい。

60: 2010/08/11(水) 13:39:33 ID:kuhqu7z20
(;゚∀゚)「アレがラグナロクって名前なんじゃねぇの?
     ご丁寧に挨拶して落っこちて来るつもりか知らねぇが……
     こっちは今、世界賭けて喧嘩してんだぞ!」

 星の海を映す水晶に向かってジョルジュが叫んだ。
 他の守護者達は何やら考えていたり、武器を作っていたり。
 まだ行動する精神力があるのは驚嘆に値する。
 僕はもう多すぎる情報のお陰で思考を放棄していた。


 今あるのは天に浮かぶ水晶、その下で噛み合う魔王とヨツムンガルド。
 視界に移るその景色だけが全てになっていた。

 次いで、水晶が落ちる音が聞こえる。
 空気が擦れる、甲高い音。
 緩慢でありながら高速で時が流れていく。
 圧迫された風が大地に吹き荒れる。

(; ゚ω゚)「で、どうしますかお?」

(;゚∀゚)「……どうすっかな」

 光り輝く夜空から幾重にも流星の線が引かれ、魔力の雪は逆流して空へ降る。
 奔流が生まれた。
 別の世界にいる気分だ。
 恐らく、それほど遠い表現ではないだろう。

 突如として現れた異常世界にて、魔王とヨツムンガルドが腕を離して距離を取った。

61: 2010/08/11(水) 13:40:43 ID:kuhqu7z20
从;゚∀从「何だ何だ」

 慌てながらハインが城の様な巨体から飛び降りて僕達の側へと移動する。

 威風堂々と向かい合う二人の巨神、その間に舞い降りようと速度を上げるラグナロク。
 透明な光が陽光の如く降りそそぐ。
 世界は終わるのだ。
 確信した直後、今度は背後から異常が生まれる。

『……システム掌握完了、悪いが借りるよ。君達のヨツムンガルドを』

 白いローブが翻り、疾風となり駆け抜けていく。
 突入部隊全員を抜き去り、なお先へ。
 目的地はどうやら魔王とヨツムンガルドの間、すなわちラグナロクが舞い降りる地点。

( ∵)『相互干渉波、展開。連環機構、確立。よし……!』

 フードが外れると、奇妙な仮面が現れた。
 紫の王城であった仮面の魔法使い、ビコーズの姿であった。

( ∵)『守護者達よ! 武器を作れ!』

 両腕を広げながら叫ぶ。
 ビコーズを中心として、僕達の立つ大地には細波のように、透明な魔力が生まれていく。

ノパ⊿゚)「……ジョルジュ! 武器が作れそうだ!」

 何度も『神の武器』精製を試みていたヒートの声は、
 他の守護者達も突き動かす。

62: 2010/08/11(水) 13:41:49 ID:kuhqu7z20
(*゚ー゚) 「うん! 今なら作れるみたい!」

( ゚∀゚)「この波のお陰か……? だが、アンタ! 神の武器で破壊を!?」

 そうだ、武器があろうが魔法が使えようが、天空より現れた『ラグナロク』はどうする。

( ∵)『彗星ラグナロクは僕がどうにかしよう! 君達は連環システム……魔法連鎖を!』

 突っ立って話を聞いていた僕は、前に会った彼とは違う印象を受けた。

从;゚∀从「武器が一個たりなくね?」

 ハインの疑問にビコーズは後方を指し示す。
 戦場に立つ召喚魔法ゴーレムの肩から、眩い金色の閃光が放たれていた。

(´・ω・`)「師匠も来てたんだ……もっと早く来てくれれば助かったのに」

( ゚∀゚)「相手が相手だ、期待すんなよ。それより! これでいいのか!」

 正体不明のビコーズに頼るほど現状は意味不明である。
 現れた彗星、戦いを止めた魔王とヨツムンガルド。
 流星と魔力、そして閃光が降りしきる中でビコーズが呟く。

( ∵)『十分だ、さあ行くよ。この世界を『造る』!』

 色が消える。
 音も風も時間も、全てが止まった。
 感覚も無くなり、ただ意識だけが残って前を見る。

63: 2010/08/11(水) 13:43:13 ID:kuhqu7z20
 しかし、硝子細工のように透明な世界は確かにまだ存在していた。
 空も大地も、透明な世界があった。

 絵画に色をのせていく。
 世界にはゆっくりと色が入り込んでいく。
 七色の魔法の色が。

 一瞬の幻想が掻き消える。
 今だ目の前にはラグナロク、魔王とヨツムンガルド、ビコーズが存在している。
 衝撃とならない力がビコーズの仮面を砕き、ローブを破る。
 背を向けたビコーズの背には白い鎧が見えた。

 魔王が白い塊となり溶ける。
 ヨツムンガルドが黒い塊となり溶ける。
 超高密度の魔力となった二体はビコーズの背に交差して、翼を形作った。
 白磁と漆黒の、一対の翼を。

 一歩、退いた。
 ビコーズが振り向き、大声で叫ぶ。

( ・∀・)『全員そのままだ! 君達は全員、最も『近く』にいる!』

 仮面の下の顔は見知った人物であった。
 敗れた白いローブがマントの如くはためく。

(; ゚ω゚)「モララーさん!?」

 反射的に名前を叫んだ。

64: 2010/08/11(水) 13:44:20 ID:kuhqu7z20
( ・∀・)『ブーン君、北へ。僕が今、君に理解できるように言えるのはそれだけだ』
 
 常軌を逸した『光』により体が動かせない。
 ラグナロクが近づく。
 より一層強くなる閃光。

 光の海を無様にかき分けながら、それでも前を見る。
 地面に着こうとするラグナロク、両手と翼を広げたモララー。
 もう一度だけモララーの名を叫んだ。

(; ゚ω゚)「――!」

 僕の声が空気を揺らす事は無かった。

( ・∀・)『君達が、世界を救う事を願って……』

 モララーが笑う。
 再び世界が硝子細工に変わる。
 衝突したラグナロクと世界に、亀裂が走った。

 緩慢に砕け始める全て。
 どこまでも透き通った景色。

65: 2010/08/11(水) 13:45:20 ID:kuhqu7z20
 頭の中に言葉が響いた。
 僕だけではない、戦場にいる者全て。
 いや、世界中の者全てに聞こえた、そう感じる。
 モララーが造った物の名前だ。

 イミテーション・プラネット――

 終りが来た。
 自分が叫んでいる事も分からない程の轟音。
 降り注ぎ、割れ、砕く、水晶。
 無数の直線と弧を描き、舞い落ちる光。

 透明な光に導かれた今、この瞬間。

 世界は、終焉を迎えた。


第五章 漆黒の魔王 完  第二十話「正位置と逆位置の『吊された男』」  完

66: 2010/08/11(水) 13:46:21 ID:kuhqu7z20
以上で今回の投下を終了します、お疲れ様でした。
きちんと『世界』まで続きます。

68: 2010/08/11(水) 15:02:11 ID:nBhvCdCUO
乙~

引用: ( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです