1: 2010/08/20(金) 14:11:49 ID:yJZz7cfo0

2: 2010/08/20(金) 14:12:38 ID:yJZz7cfo0



 終末を越えて


 至る、破滅へと
 


( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

第六章 白銀の夢  第二十一話「正位置の『氏神』」


 終わった世界で目を覚ます。
 硬い床が頬の横にある。
 頭が覚醒していく。
 身を起こすと、体の節々が痛んだ。
葬送のフリーレン(13) (少年サンデーコミックス)
3: 2010/08/20(金) 14:13:20 ID:yJZz7cfo0
 床に当たった靴の音が響く。
 石の様だが鉄の光沢がある壁、一面がそのような材質に見える。
 だが大きく開いた壁の穴もあった。
 穴の外には青空が広がっている。

 恐る恐る、開いた穴に近づいてみると外は草原であった。
 なだらかな緩急をもって緑の世界が続く。
 反対、つまり背後を見れば無機質な建造物が幾重にも通路を張り巡らしている。

 遺跡だろうか。

 彗星ラグナロクにより終焉を迎えたはずの世界で、僕が最初に考えた事だった。

4: 2010/08/20(金) 14:14:16 ID:yJZz7cfo0
―現在地 不明―


 まずは僕自身が無傷なのか。
 問題無く動いている体だが、何処かに大ケガをしている可能性もある。
 マントの下を入念に調べてみる。
 透明な物体が服の下から落ちて、軽い音を立てた。

 拾い上げてみると、それは水晶の様な物であった。
 巨大な結晶を適当に割れば、手の上にある物体の形になるだろう。
 体に問題は無かったが、身に覚えの無い物体が服下から発見された。
 一応手に持ったまま今度は建物の外に出てみる。

 静寂極まる世界にあるのは緑と青の境界。
 建物の方へと振り返る。
 
(;^ω^)「何だお、これ」

 思わず呟いてしまった。
 見てきた王城を越えるほどに高い、塔であった。
 しかしながら世界の中心にたつ『塔』ではない。
 後者は明らかに純白であったが前者は灰色である。

 暫く呆けた後、足元には硝子の破片が落ちている事に気がついた。
 目の前の塔には上空高くまで正方形の穴が無数に空いている。
 塔には窓があったのだ。
 何らかの理由で壊れてしまったのだろう。

5: 2010/08/20(金) 14:15:17 ID:yJZz7cfo0
 落ち着き払って建物を調べてはいるが、実際の所は危険だ。
 何を隠そう僕は現地どころか、何故この世界があるのかすら分かっていないのだ。
 確かに世界は砕け散った。この目で見ている。
 にもかかわらず僕は無防備にも立ち尽くしているのだ。

 つまり、ただ立っている訳にはいかない。
 周辺には敵となる者がいるのか、誰か他に人がいないか、食料はあるのか。
 探すべき情報は山ほどある。
 
 まずは建物の周りを一周してみよう。
 そう決めた僕は数分かけて辺りを見て回ったが特に何も発見できなかった。
 これ程見通しが良い中で何も見つからないならば残るは建物を探索する他ない。
 覚悟を決め、取りあえず、仕方なく、塔へと舞い戻った。

(;^ω^)「誰かいますかおー!」

 音だけはよく響くので声を出せば誰かに届くかもしれない。
 返事が来る事を祈りつつ建物の通路から顔だけ出して様子を窺う。

「ここにいまーす!」

(;^ω^)「!」

 本当にいるのか。
 急いで声の方向へと向かっていく。

6: 2010/08/20(金) 14:16:30 ID:yJZz7cfo0
ξ;゚⊿゚)ξ「あ! ここで……ブーン?」

(;^ω^)「ツン! 良かった、無事かお」

 建物の中で最初に出会った人物はツンであった。
 これは幸運と言える。
 僕とツンの魔法があれば当面の温度、水分問題を解決できる。
 
 加えてツンがいたという事は、
 周囲にいた突入部隊の人間達に出会える可能性があるという事だ。
 二人で再開を喜んでいると、僕はツンの背後に何者かがいる事に気づく。

lw´‐ _‐ノv「いやー良かったよ。こんな所で再開できるなんて」

(;^ω^)「……ツン、誰だお」

ξ;゚⊿゚)ξ「……え? いや、知らないんだけど……いつからそこに?」

lw´‐ _‐ノv「君が起きて、誰もいなくて少し泣いた辺りから」

ξ゚⊿゚)ξ「……」

 ツンにくっついてきたのは、珍妙な女性であった。
 初対面の人間と訳のわからぬ再開を果たした僕達は混乱の極みにあった。
 それはそうだろう、突入部隊どころか軍で見かけた事も無い。
 女性の兵士は数少ないから大体は頭に入っている。

 目の前の人物は、ともすれば凶悪な魔物が化けている可能性も否定できない。
 もちろん、そんな事を言ってしまうとツンもそうなってしまうのだが。

7: 2010/08/20(金) 14:17:32 ID:yJZz7cfo0
(;^ω^)「待て。落ち着くお、全員いったん距離を取るんだお」

ξ;゚⊿゚)ξ「そうね、何が起こるか分からないもんね! でもわたしは泣いてないよ!」

lw´‐ _‐ノv「何何? ゲームでも始まるの? あ、でもやっぱり泣いてたよ」

 僕達三人は正三角形の頂点へとそれぞれ移動しながら慌てふためく。
 一名を除いて。
 
(;^ω^)「今はツンが泣いたかどうかはいいお。あなたは誰だお」

lw´‐ _‐ノv「君は誰だね?」

ξ;゚⊿゚)ξ「ツンです……いや、わたしなの?」

 それぞれ身を構えなおして僕とツンの視線が一点に向かう。

(;^ω^)「ツンじゃなくて、あなただお」

lw´‐ _‐ノv「まさか私の事か」

ξ;゚⊿゚)ξ「まぁ……」

 一瞬の間をおいて、とんでもない一言が帰って来た。

lw´‐ _‐ノv「……お久しぶり、魔王です」

8: 2010/08/20(金) 14:18:35 ID:yJZz7cfo0
 名を聞いた瞬間、僕達が自分でも驚く程の速度で魔法を起動。
 する事は出来なかった。
 魔法が形を結ばない。
 『破魔』の状態であった。

lw´‐ _‐ノv「ごめんね、嘘だよ。ホントはシュールっていうの」

 全力で逃げようとしていた僕とツンは何とか踏みとどまった。

(;^ω^)「……そんな嘘で誰が得するんだお」

ξ;゚⊿゚)ξ「もしかしたら本当に魔王かも……」

lw´‐ _‐ノv「君たちゃ疑り深いねぇ」

(;^ω^)「あんたのせいだお!」

 やや憤慨した様に、シュールは一歩飛びのいて自身のスカートの袖をつまむ。
 そして軽く身を下げる。
 見る者が見れば完璧な礼であった。

lw´‐ _‐ノv「そもそも、こんな可憐な魔王がいるかね!?」

(;^ω^)「自分で言うかお……」

lw´‐ _‐ノv「更に言うならば私が魔王なら既に君たちは灰燼に帰している!
       君だったら自分の敵に容赦しないだろう!?
       これでもまだ私の言う事を信じないのか!」

9: 2010/08/20(金) 14:20:03 ID:yJZz7cfo0
 自分で疑惑を生んだというのに、それを見事に棚に上げるあたり、奇妙な人物である。

(´・ω・`)「君達何やってんの」

 間抜けな状況ではあるのだが。
 緊張の真っただ中で背後から声をかけれるのは堪ったものではない。
 反射の勢いで右腕を振ると、脳天へと杖の応酬を受けた。

lw´‐ _‐ノv「立派な杖だねぇ~」

 シュールが楽しそうに身を乗り出す。

(´・ω・`)「光栄だね。でも君はちょっと怪しすぎるかな」

 シュールの背後から銀色の刃と、鋼の篭手が突きだされる。

川 ゚ -゚)「ちょっと……」

( ゚∀゚)「……こっちに来な」

 ショボン、クー、ジョルジュにより、一気にシュール包囲網が完成する。
 それでも顔色一つ変えずに言ってのけた。

lw´‐ _‐ノv「どれも良い魔法器だよね~」

 地に伏した僕の上で楽しそうな笑顔が見えた。

10: 2010/08/20(金) 14:21:40 ID:yJZz7cfo0
 取りあえず僕が倒れていた地点へと全員で移動して、シュールを取り囲む。
 囲まれている当の本人は相変わらず笑顔なので調子が狂う。

( ゚∀゚)「さーて、近くにいたのはこんだけか」

 守護者ジョルジュが一行を一通り見ながら、まず喋る。

( ゚∀゚)「誰か、この状況について分かる人。魔王とか軍とか」

 そう尋ねるジョルジュの顔に期待はない。
 恐らく全員が状況を把握どころか認識するのに精いっぱいだろう。
 僕の考えとは裏腹に、声を上げる者が一人いた。

lw´‐ _‐ノv「はーい」

( ゚∀゚)「マジで? さすがだな、見知らぬねーさん。だがその前に素性を話せ」

lw´‐ _‐ノv「任せたまえよジョルジュの旦那。まずここは……」

( ゚∀゚)「うん、何で俺の名前知ってんのかな」

 どこまでも自分のペースで話すシュールにはジョルジュも相手をやり難そうだ。
 更にシュールの怪しさが一層高まっている。
 次の一言は更に意味深であった。

lw´‐ _‐ノv「そりゃ君が神の武器『ムスペルヘイム』の権利者だからだよ。
       武器の世界影響は私達にも何となく分かるからね。
       逆に言うのなら他の人についてはほとんど知らない」

11: 2010/08/20(金) 14:22:49 ID:yJZz7cfo0
ξ゚⊿゚)ξ「でも私の名前も知ってたような……」

lw´‐ _‐ノv「出会いがしらに喋ってれば誰でも分かるよ。
       あー、それとさ、そろそろ出発しない? 道中で腹が減って倒れるのは嫌だし」

(´・ω・`)「質問を変えるけど、君は何をしたいの?」

lw´‐ _‐ノv「私は皆さんを村に呼びたいのさ、世界の厄介事について村長が話したいんだって。
       ……村と言っても結構大きいよ? そうだなぁ、赤の国の首都くらいかな……」

 次々と一人で会話を成立させるシュールに、置いていかれる僕達。
 僅か数分でこの図式が成り立っていた。

( ゚∀゚)「幾つか答えろ。そしたらついてく」

lw´‐ _‐ノv「うむ、言ってみたまえ」

 胸をそらすシュールと一瞬目を取られるジョルジュ。
 どこに来てもジョルジュだと言えた。

川 ゚ -゚)「ついて行くのか? あまり賢明とは……」

(´・ω・`)「まぁそうだけど、彼女が僕達を騙す理由が今はないよ、多分」

(;^ω^)「確かに……取って食うなら一人一人でいいはずだお」

ξ゚⊿゚)ξ「それに私達、他に頼れる人もいないしね」

12: 2010/08/20(金) 14:24:45 ID:yJZz7cfo0
 背後で密談する僕達を放っておき、二人は会話を進める。
 見知らぬ場所で目覚めた僕達にとっては貴重な情報源だ。 

( ゚∀゚)「まず一つ。世界ってどうなったの?」

lw´‐ _‐ノv「取りあえずは存続したっぽい」

( ゚∀゚)「二つ。ここ、どこ?」

lw´‐ _‐ノv「君たちが言う所の『北の大地』」

( ゚∀゚)「……三つ。今はいつ?」

lw´‐ _‐ノv「大体11月の初め、私は暦に詳しくないから」

( ゚∀゚)「四つ。何故魔法が使えない?」

lw´‐ _‐ノv「この周辺では私の許可が必要。あ、許可しよっか? 
       『神の武器』は問題なく使えるよ」

 シュールの指が複雑な軌道を描いた後、一回手を叩く。
 白い光が弱く出現して鍵を開く様な音がした。
 次の瞬間には確かに僕の体に魔力が回復していた。
 ジョルジュは自身の手に赤の魔法を起動しながらごく自然にシューに尋ねた。

13: 2010/08/20(金) 14:25:38 ID:yJZz7cfo0
( ゚∀゚)「五つ。あなたのスリーサイズは……」

lw´‐ _‐ノv「最近測ってないね~。五歳当時のデータで……」

 そんな二人をツンがぶん殴り、蹴っ飛ばしてからジョルジュが最後の質問をぶつけた。

(#)゚∀゚)「最後に、あんた誰だ?」

lw´‐ _‐ノv「シュール・スト・ナイト・オーツ=ホワイト。シューって呼んでね」

 そうして、壁にあいた穴に近づいて弱い日の光を浴びる。
 小さく一回転すると、スカートが花のように舞う。
 光の下に立つ彼女は突然にして高貴な存在になったように思えた。
 大きく礼をしながら、こう続けた。

lw´‐ _‐ノv「最果ての村より参りました。『白の国の守護者』が皆さまをお送りします」

 無機質な青空を背にしていたため、白の守護者シューの表情は見てとれなかった。

14: 2010/08/20(金) 14:26:30 ID:yJZz7cfo0
―北の大地 詳細不明―


 北の大地というのは赤の国を形容する場合が多い。
 しかし、地図を見ると『北』の位置には空白が描かれている。
 実際の位置において、赤の国は大陸北西だ。
 ここは、どうやら最後の開拓地という意味の『北の大地』らしい。

 所で、現在地にも増してシューも怪しい。
 白の国などとは聞いた事がない。
 所在が北の大地、未開拓の位置にあるのなら納得かもしれないが。

( ^ω^)「それで……」

(´・ω・`)「さっきの小難しい単語も一つづつ潰していきたんだけど」

lw´‐ _‐ノv「えー、きっと村長が教えてくれるってー。大体私だって分からないんだよ」

 僕達はシューに連れられて塔を登る。
 外に出ずに何故が上を目指すのはシュー曰く、特別な構造があるから。
 塔内部は非常に分かりやすい造りになっている。
 ほぼ全ての階層が似通っており、更に各部の階段が延々と頂上まで続く。

 幾つもの割れた正方形の窓から光が入り込んで内部は明るい。
 響く靴音が止んだ所に屋上への扉があった。

川 ゚ -゚)「魔物は飛び出してこないだろうな」

 刀を抜きながらクーが尋ねた。

15: 2010/08/20(金) 14:27:21 ID:yJZz7cfo0
lw´‐ _‐ノv「そうだね……この辺りはいないかな」

 そう言うと躊躇なくシューは扉を開く。
 浅く光が差し込み、向こう側が見える。
 塔の屋上にあったのは、奇妙な事に草原であった。

( ^ω^)「……ああ、成程。これが錯覚ってやつかお」

 僕が一人腕を組んで納得していると、
 シューに首根っこを掴まれて一つ下の階層に連れて行かれた。

w´‐ _‐ノv「ご覧ください。何と眼下には草原があります」

( ^ω^)「不思議だお」

川 ゚ -゚)「不思議だな」

ξ゚⊿゚)ξ「不思議ね」

(´・ω・`)「そんな生易しい話かな、これ」

 陸地の下に陸地がある点について、シューは昔からそうだと言う。
 ただ、塔の下にある草原には『限り』があるらしい。
 
 ある場所まで進むと見えない壁があるため進めなくなってしまうのだ。
 また、草原の景色に黒い四角が歪んで映りこむ事もあるそうだ。
 精巧に作られた草原の模倣ではないかと考えられているのは、恐らく正しい。

16: 2010/08/20(金) 14:28:37 ID:yJZz7cfo0
( ゚∀゚)「まぁ、実は大陸にもあるよな。
      何だって造られたかは知らねぇけど」

 ジョルジュは七年前の旅で幾つか似たような遺跡を見た事があると言う。
 かつての文明には、大陸も、北の大地もお構い無しだったのだ。
 古代に思いを馳せるのも程ほどに、僕達は上の草原へと足を踏み入れた。
 
 音と、風が無い、無機質な草原を進む。
 歩くだけなのだが何故か精神がすり減る。
 暫く考えていると答えはすぐに思い至った。

 自然の中と認識している場所だが、ここは自然ではない。
 生き物を拒絶するかの如く、生存を許さないかのように。
 冷たい空気が肺に入り込んできた。

w´‐ _‐ノv「ここを抜けるよ」

 どこまでも草原だった視界には蜃気楼のように揺れて何かを生んでいく。
 それが結晶でできた山であると分かった時には、辺りは夜の闇に包まれていた。

 どうも魔王と出会った瞬間から僕の常識は意味を成さない。
 本当に世界は終わって、新しい存在になった可能性もある。
 僕の知る世界は、目の前に広がる幻想世界ではない。
 
 星の無い夜空の下で妖しくぼやける結晶の山。
 辺りにも同じく結晶の欠片が散らばり、光を放っている。
 
( ^ω^)「そう言えばこれ、もしかして同じ物かお?」

17: 2010/08/20(金) 14:29:49 ID:yJZz7cfo0
 起き上った際に発見された水晶を取り出してみる。
 周囲の破片と同く、ぼやけた光を持っていた。

w´‐ _‐ノv「君が持っていたなら、多分同じ物かな。
       世界が終った時に見なかった? 見なかったなら……知らない」

 終焉の瞬間を思い出すとぞっとしない。
 目の前であれ程奇妙かつ冷たい衝撃が全身を走ったのだ。
 何度思い出して嫌なもので、思わず身震いした。
 背後の数名も同じような反応をしている。

(´・ω・`)「これ普通の魔法鉱石じゃないかな」

 僕から水晶を取り上げながらショボンが品定めする。
 何があっても不思議ではない状況なので、
 目の前の山が巨大な魔法鉱石である事もありえる。
 角度により七色の妖艶な光をたたえる姿は、長く見ていると目が痛くなる。

 それが巨山として置いてあるのだから嫌になる。

w´‐ _‐ノv「あ、ほらほら。あの辺に入口があるでしょ?」

 シューが指さす先には確かに入口らしき場所があるのだが、
 透明なうえに鏡の如く光るので果てしなく視認し難い。
 踏破する事になった前代未聞の迷宮は、
 僕達を威圧するように、ぼやけた光を返した。

18: 2010/08/20(金) 14:30:35 ID:yJZz7cfo0
―北の大地 水晶洞窟―


 マントを着た何者かの姿を見て驚く。
 それが鏡のような水晶に映った自分であると気がつき安堵する。
 洞窟に入ってからというもの、これの繰り返しであった。

 加えて足元では魔法鉱石の輝きが常に反響している。
 歩を進めるたびに淡い光が散り、足音と共に透明な洞窟内に響く。
 幻想の洞窟は常に乱反射して移り変わる。
 僕はいつの間にか、とてつもなく広い空間と錯覚していた。

 実際の所としても六人が余裕を持って歩けるのだから狭い訳ではない。
 
w´‐ _‐ノv「はい、次を右ー」

 一面水晶の世界を迷いなく歩けるのはシューのお陰である。
 内部構造を理解していない人間ならば洞窟に入った瞬間迷うだろう。
 それほどに複雑かつ難解な場所だ。
 
 大広間に出た僕達は一応休憩をする事にした。
 未知の場所を進むのは思いのほか精神力を要する。
 様々な場所を見てきたが今回ばかりは理解の範疇を越える。
 呼吸を整えながら顔を天井へと向けた。

 透明なのだから外の夜空が見えるかと思うが、
 反射した光に遮断されて透明という色の無い色だけが映っている。
 何もない空間に放り出された様な気味の悪い感覚が背中から湧いてきた。
 まさか歩きながら酔うとは。

19: 2010/08/20(金) 14:31:23 ID:yJZz7cfo0
 誰もが喋らずに、ただ目の前の光景に見入っていた。
 長いような短いような、何かがずれた世界でシューの飽きた様な欠伸が耳に届いた。
 
w´‐ _‐ノv「そろそろ行こうよ」

 目もとの涙を払いながら、詰まらなそうに言うシュー。
 それを見た全員が腰を上げると、すぐさまシューは笑顔になって移動が再開された。
 道なき道を行く軍行はいまだ暫く続きそうだ。

 それから何日歩いたかは分からない。
 案内をするシューですら時間間隔を失うというのだ、
 誰一人として正確な日時が分かる者はいない。
 それでも歩を進める。

 今できる事は、ただそれだけなのだから。
 移動を開始してから大きな危機は無く、誰とも会わず。
 会話も無くなって時間が経つ。
 ただ足音と光が響く水晶の中を歩き続けた。

 幾度目かの小休止で自分の体を見ると覚えの無い傷がついていた。
 いずれも行動に支障はないので無視していると、
 他の全員にも小さなケガが見られた。

w´‐ _‐ノv「え? さっき戦ったじゃない、防衛キカイと」

 不審に思う皆の中でシューだけは傷の原因を知っているらしい。

w´‐ _‐ノv「まぁ場所が場所だからねー。みんなの魔法一発で片付いたよね」

20: 2010/08/20(金) 14:32:09 ID:yJZz7cfo0
 思い出しながら話された事は僕達の記憶にはない。
 確かに体内の魔力は僅かに消費されているし、傷もある。
 戦った事実だけを何処かに落としてきてしまった、シューはそう言った。
 来た道を振り返っても、やはり思い出す事は出来ない。

 まるで夢の中にいるかのような、すっきりとしない感覚。
 移動を再開した僕は気をつけながら歩いた。
 記憶を落とさないように。
 そう考えた直後、周囲の水晶達が敵意を向けた、そう感じた。

 鼓動が強くなり呼吸がずれる。
 視界が黒くなった。
 気が付けば、僕達は暗闇の中を歩いている。
 全員が正気を取り戻したように顔を見合わせた。

w´‐ _‐ノv「もうすぐだよ」

 ただ一人、シューだけが明るく言葉を発する。
 
( ^ω^)「……いつ洞窟を抜けたんだお」

 自分から疲れた声が出てきて驚いた。
 体の疲労に精神が追いついていない。

w´‐ _‐ノv「一時間くらい前かな。時と時の狭間には目を光らせないといけないよ」

 北の大地では大陸とは違う時間が、根底から違う時間が流れているらしい。
 注意していなければ自分がどうしたかさえ意識に入り込まない。
 僕は深呼吸をして感覚をはっきりとさせる。
 そうしなければ、今度こそ時間の狭間に取り残されるような気がした。

21: 2010/08/20(金) 14:33:24 ID:yJZz7cfo0
 気を引き締めると自分が坂道を上っている事に気づく。
 丘の頂上は、もうすぐだった。
 星も月も無い夜空を通り、暗闇の丘を登りきった。
 ぼやけた光が視界いっぱいに入り込んでくる。

 思わず息を飲む。
 白い幻影が確かに浮かんでいた。
 霞む残光を放つ巨大なガラス玉が暗闇に放り出されている。
 漆黒の景色に揺らぐそれは、楽園にも見えた。

 光を受けて周囲の景色も明らかになる。
 荒野が続いていた。
 その中には鉄屑が散らばり、荒廃した文明の跡が垣間見れる。
 自分が踏みしめた鉄の感触を感じて、何とか現実を認識できた。

22: 2010/08/20(金) 14:34:35 ID:yJZz7cfo0
w´‐ _‐ノv「……」

 シューは無表情で巨大な光へと片手を掲げ、そして真横に切った。
 感じられない衝撃が刃となって広がる。
 暗闇に浮かぶ球体には無数の亀裂が走った。

 僕が澄んだ衝撃音を感じた時に、球体は砕け散った。
 破片は次々と細分化されて鉄屑の荒野に降り注ぐ。
 暗くなるどころか淡い光が満ちていく。
 
w´‐ _‐ノv「こうしないと……入れないからね」

 表情は変えずに様々な感情が混ざった目でシューが呟く。
 巨大な破片が幾重にも重なって地面に散らばる。
 黒の荒野に白が降る。

 一瞬の間だと感じた。
 白銀の夢が終わるまで、僕達は立ち尽くしていた。

23: 2010/08/20(金) 14:35:49 ID:yJZz7cfo0
―白の国―


 確認されていない国家。
 あるいは大陸にもあるのかもしれない。
 だが世界地図が存在する現状ではとても小さい国になる。
 僅かな未開拓の地域を除けば、一応人間は世界を踏破しているのだ。

 僕達はその僅かな未開拓の国にいる。
 暗闇に覆われた大地に浮かぶ閃光の世界。
 それが黒の守護者ハインの制御する大魔法、
 島を覆い尽くす領域を生み出す物と同様な原理である事が分かる。

 とはいえ原理は同じでも効果は違う。
 展開された白の領域には外部干渉を受け付けず、何より明るく温かい。
 陽光を遮断する黒の魔法と単純に対の存在とは言えない。

 シューの解説を適当に聞き流しつつ周囲を眺める。
 異様な光景だ。
 光に満ちた空間内には地面から空まで、あらゆる物が構築されている。
 全てが魔力によって発現している点が違和感が体現した。

 幾何学模様が曲がりくねる家々、鉄と石の中間といった石畳。
 最奥に佇む城は無数の柱が乱雑に並び支えている。
 民衆たちは全員がローブを目深にかぶって顔は見えない。
 ふらふらと道の隅に跪いて、祈りを捧げる姿勢で不気味に呻く。

24: 2010/08/20(金) 14:36:41 ID:yJZz7cfo0
(   )「聖女様、聖女様が戻られた」

 道の側面へと並ぶように何人もが低い声を上げる。

(   )「戻られた、戻られた」

 奥に見える城へと続く道が瞬く間に人間の線に挟まれた。

(   )「戻られた、光の聖女様が」

 光の聖女、シューへと捧げられる低い祈りは延々と響く。
 黙って歩く僕は確かに視線を感じていた。
 ローブの下に、狂気の視線を。
 城に辿りつくまで嫌な汗が止まる事は無かった。

 
 柱が幾重にも立ち上り、崩れかけそうな城を支える。
 振り返ればどこまでも白くて影の無い世界。
 陰影を失った城の中へとシューを先頭に入り込む。
 靴が地面を叩く音すら煩く感じる程の静寂があった。

('、`*川「……」

 エントランスで、白い法衣を着た老婆が恭しく頭を下げた。
 老婆の姿が光と共に霧散したかと思うと、
 僕達と老婆は見知らぬ個室へと移動している。
 延々と続く奇妙な現象から、大陸の件まで、聞かねばならないだろう。

25: 2010/08/20(金) 14:37:34 ID:yJZz7cfo0
( ゚∀゚)「で、どうなってんだ?」

 何からどうすれば良いのか判断がつかない。
 ジョルジュが僕達の心情を代弁する。

('、`*川「疑問に思うは当然の事。私達の知る限りをお話します」

 老婆がゆっくりと言葉を紡ぐ。
 優雅とも言える発音には気品すら感じさせる。

('、`*川「私の名はペニサス。ここ、白の国で代表を務めております。
     私達自身の話よりも、今は他の状況のお話を優先いたします。」

 ペニサスは椅子を勧めながら自分も腰を下ろした。
 個室はやはり白で埋めつくされていたが、
 外と違いごく普通の木製の机椅子と石壁が布で覆われているだけであった。

('、`*川「まず、大陸に起きた動乱。その後の状態を簡単ながら……」

 やはりゆっくりと腕を動かして光の集合体を生み出していく。
 四角くまとまって中に絵を映し出した。

(´・ω・`)「これは決戦地かな……ん? 動いてる……」

 四角の中には景色があった。
 魔王と戦った平原には、大小様々な水晶が散乱している。
 よく見れば多くの人間達が行き来していた。
 衣服は鎧を着た者が多い、兵士だろうか。

26: 2010/08/20(金) 14:38:47 ID:yJZz7cfo0
('、`*川「これが決戦地の現状です。
     世界の終焉は一人の男により一応は回避されました。
     男、とは貴方方も知る、モララーという者です」

 人間達が無事であって一安心だ。
 魔王の姿が無いのなら取りあえずは問題が無い。

(;^ω^)「やっぱりモララーさんだったのかお」

 ビコーズという名の仮面、その下にあった素顔は記憶違いではなかった。
 
('、`*川「モララーは機械となっても自我を保ち続けた稀有な人物です。
     彼はそれゆえに『無色の魔法』を行使できたのです」

川 ゚ -゚)「無色と言えば……確かに視界全てが透明になっていたな」

('、`*川「はい、人間一人が行使するにはあまりにも巨大な精神力が必要。
     機械の体だからこそですが数百年もの間、彼は力を振るい続けました」

( ゚∀゚)「なんだそりゃ? モララーの奴はそんなに爺さんなのか?」

('、`*川「彼は数百年前に紫の国で生を受け、その後、開拓民となった人間です。
     あの頃は北の大地へと人間達は進出しようとしていました」

 ペニサスが四角い光へと手をかざすと違う映像が現れた。

('、`*川「しかしご覧の通り、北の大地は常闇の世界。
     陰の中には古い時代の遺産が無数に乱立しています。
     中には、現在にあってはならない物も」

27: 2010/08/20(金) 14:39:57 ID:yJZz7cfo0
 暗闇の大地を空から見下ろす映像が流れる。
 幾重にも重なった建物、鉄塔、ひび割れた地面が不気味に並ぶ。

('、`*川「開拓など出来る訳はありません。
     モララーは遺産に足を踏み入れ、望まずして機械の体を手に入れてしましました。
     彼が白の国を訪れたのはそれからです」

ξ;゚⊿゚)ξ「その後、モララーさんは何を?」

('、`*川「大陸へと戻って行きました。自身の体の再生と、古の秘密を求めて。
     モララーは恐らく何かを掴んだのでしょう。だからこそ、この世界を存続させた」

( ゚∀゚)「つーかどうやって世界を守ったんだ?」

('、`*川「貴方たち守護者が使う『神の武器』、それらを連環させ、まず力場を展開、
     膨大に膨れ上がった魔力にて『世界』を完全に模倣して造り上げたのです。
     結果、彗星によって終焉を迎えたのは模倣された世界だけ。
     とはいえ模倣された世界の欠片は降り注いだようですが」

 先程の映像では決戦地に水晶の欠片が山ほど落ちていた。
 僕の服に紛れていてたのは、世界の欠片だったのだ。

(;^ω^)「すごい話だお……じゃなくてモララーさんは!? 無事なんですかお!?」

 大声になってしまったが、ペニサスは顔を横に振った。

28: 2010/08/20(金) 14:41:13 ID:yJZz7cfo0
('、`*川「全てを模倣する、色の無い魔法でも特異点となった自分自身だけは造りだせないのです。
     モララーは自身を砕き、未来へと繋いだのでしょう」

(;^ω^)「……そんな」

 モララーの氏。そして世界の存続。
 とりあえずは世界そのものの無事が確認できたが、
 他にも分からない事は山ほどある。
 そもそもペニサスの言う事を全部信じるかも問題なのだが今の所、他に手は無い。

( ゚∀゚)「……まぁ大陸の状態は分かった。次はここだ」

 ため息交じりに言うジョルジュの指は床をさしていた。
 自分達が何故ここにいるか、白の国とは何なのか。
 それらすべてが内包された言葉だった。

( ゚∀゚)「これに関しては、まず何故俺達がここにいるのかってのを教えて欲しい」

 そうだ、他にも北の大地にいる突入部隊や軍の人間がいるのなら救出の必要がある。
 むしろ五人だけしかいないという事がおかしい。
 魔王との決戦にあたり、人間は相当数が集まっていたのだから。

('、`*川「それに関しては簡単です。私が貴方方五人を魔法にてお呼びしました。
      白の魔法とは、そういった効力を生むのです」

 白い光。それを最後に見たのは何時だっただろうか。
 紫の首都で見た転移を行う光、ではない。
 近い記憶が戦慄を生む。

29: 2010/08/20(金) 14:42:17 ID:yJZz7cfo0
(;^ω^)「その白い光って……いや、その魔法は……」

('、`*川「はい。白の魔法は魔王の振るう力です」

 息を飲む声が聞こえた。
 それが自分の物かどうなのかを判断する前にペニサスに詰め寄る。

(;^ω^)「なんで魔王が! 白って神聖な色じゃないんですかお!?」

 古来より純白は正義を現す聖なる色。
 魔法、という体系の中にも存在を確認されなかったからこそ、その意識は根深い。
 もっとも目の前に展開されては認識を改める必要があるのだが。

('、`*川「そのような考え方もできます。しかし、何を持って神聖と言うのでしょう?
      当然の事ながら、貴方の言う魔王にも正義があるのでは?
      無為に破壊を望むのなら、モララーの力となり世界を救う事はないでしょう。
      世界模倣の膨大な魔力を増幅させた光は魔王の物でもあるのです」

(;^ω^)「それは……」

 確かに魔王の目的が分からない。
 魔物を生み、人を頃す。大昔から続いてきた事だけに意味はあるに違いないのだが。
 それよりも魔王が白の魔法を行使するならば、嫌な結論にたどり着きそうな空白が頭に浮かんでいた。
 七つの魔法の光がぐるぐると頭の中を回る。

 何かを思いつきそうな所でペニサスの声が僕を現実に引き戻す。

30: 2010/08/20(金) 14:43:35 ID:yJZz7cfo0
('、`*川「……お話を戻しましょう。
     私の魔法、『ホワイトサモン』で魔王の近くにいた召喚限界人数である五名を無理やりに呼び出したのです。
     お恥ずかしい事ですが座標指定が上手く確立できず、離れた地点にしか召喚出来ませんでした」

 聞きなれない単語があるが、要約すればペニサスは僕達を召喚したと言う。

('、`*川「理由は二つ。
     世界を完全模倣できるかは確実ではなく、もし終焉が現実の物のなれば、
     崩壊の遅れるであろう白の国でその後の事を大陸を代表してお話したかった事」

 指を一本立てながら僕達を一度見回す。

('、`*川「残る一つは、存続した世界で貴方方に一つの質問を。
      そのお答えによってはお願いしたい事が、そして選択して頂きたい事があるからです」

 ペニサスの灰色の瞳に光が宿った。
 有無を言わせない迫力の様な物も感じる。

(´・ω・`)「そして終焉を乗り越えた現状、僕達は質問と選択を受ける必要があると」

 ペニサスはゆっくりと頷いた。
 必要がある、と尋ねたのは捨て置けない重要な問題だからと考えられるからであろう。

('、`*川「……神、という支配から離れる覚悟はありますか」

 突拍子もない話だ。
 そもそも『神』が存在するのだろうか。

('、`*川「正確には神に準ずる存在です」

31: 2010/08/20(金) 14:44:27 ID:yJZz7cfo0
( ゚∀゚)「それを『神の武器』という信託を受けた俺に聞くのか。
      神の声によって俺たち、守護者は前大戦を戦ったんだぞ。
      わざわざ逆らうと思うか?」

 ジョルジュが一番に質問に答える。

('、`*川「守護者ならば、そうでしょう。神とは人の心をも捕えます。
      では、他の方々は如何ですか?」

 目を細めてペニサスがジョルジュ以外を追っていく。
 
川 ゚ -゚)「その質問に何の意味が? 
     私達は神のよる恩恵、『神の武器』こそあれ、反逆する理由がない。
     更に言えば支配されてすらいない」

('、`*川「……神の支配は視認不可にして無意識。
     こうしている今でさえ、支配の外とは言い切れないのです」

ξ゚⊿゚)ξ「それって運命を支配する神がいるって事ですか?
      青の国でも、そういう考え方はあったけど……」

 それぞれが『神』の姿を思い浮かべながら口を開く。
 僕の頭にもおぼろげな神の像が結ばれる。
 だが、取りあえず気になる事があった。

(;^ω^)「あの……」

('、`*川「何でしょう?」

32: 2010/08/20(金) 14:45:17 ID:yJZz7cfo0
(;^ω^)「神様って良い人ですかお?」

('、`*川「……」

 神が人間に対して良い感情を持っていれば、支配とやらから離れる必要はない。
 逆ならば今、人間がいる事が疑問だ。
 神がその気になれば人間など一蹴できそうなものである。

(;^ω^)「……」

('、`*川「……神は、人間に対する感情を持ちません。
     ただ、支配するだけです」

ξ゚⊿゚)ξ「何故、運命支配の神様に逆らわないといけないんですか?」

 ツンが言った事は僕も思った事である。
 上手くまとまらなかったが最終的には理由に帰結する。

('、`*川「それは理由があれば反逆もする、と捉えてよろしいのですか?」

(;^ω^)「うーん、まぁそうなりますかお?」

 ペニサスが微かに微笑んだように思えた。

('、`*川「実のところは私自身が『神』をおぼろげながらにしか理解していません。
     理由を提示する事は出来ません。
     にも関わらず神の支配を語るには白の国の源流に関わりがあります」

33: 2010/08/20(金) 14:48:19 ID:yJZz7cfo0
 周囲の景色が移り変わる。
 今度は鋼鉄に囲まれた灰色の部屋であった。
 そこかしこから伸びる黒い管などを見ると、ワイバーンと一戦を交えた山を思い出す。

('、`*川「白の国は神の子孫。機械の民なのです」

 ペニサスが手袋をはずして机に置く。
 背後の機械と全く同じ物で構成された鉄の手が現れた。

(;^ω^)「! じゃあモララーさんと同じ!?」

('、`*川「彼は体の全てを機械にされてしまった。
     私達は体の一部が生まれつき機械なのです。
     そうでなければ『氏』がありません、それでも寿命は比べるべくもありませんが」

ξ;゚⊿゚)ξ「と言う事は民衆全員が機械の体をもっているんですか?
       でも……あの様子はちょっとおかしいような……」

 城に至るまでの民の様子は異常そのものであった。
 まるで大昔の狂信者である。

(;^ω^)「確かに……シューへの異常なまでの信仰心みたいなのがあったお」

w´‐ _‐ノv「そりゃしょーがいないよね」

 ずっと黙っていたシューが口を開いた。

34: 2010/08/20(金) 14:50:17 ID:yJZz7cfo0
('、`*川「私達は機械の体で数百年を生きるのです。
      朽ちていく同胞たちといずれ滅びゆく自分達。
      自身を増やす事の出来ない私達が、どうやって精神を保ちましょう?
      国政を預かる私に出来たのは、救いの宗教をしいて狂気の方向を変える事でした」

川 ゚ -゚)「ならば、民衆達は……」

 クーが立ち上がって声を荒げる。

('、`*川「はい、彼らの精神は崩壊しています」

 政を行う者が、その手段をとっていいのか。
 国として既に形骸化しているのではないか。
 一瞬だがそんな事を思う。

(´・ω・`)「……あなた方は機械の体を持ち、神の子孫。
       それらを信じるとすれば……『神』とやらは何らかの形で機械と関係が?」

 もちろん現代の人間達が作れる技術の機械ではない。
 古代の超文明が残した遺産に類する高度な機械の事だろう。

('、`*川「その通り……神とは、機械的な思考を持ちます。そして恐らく壊れるか、破たんを開始している」

 光の魔王に暗闇の大地、更に機械の神。
 事態は急速に展開している。

('、`*川「しかし、どこまで正しいのか。
      私もこの感覚を正確に伝えられないのがもどかしい……」

35: 2010/08/20(金) 14:51:09 ID:yJZz7cfo0
( ゚∀゚)「……もういい。いつまでも話して分かるような物じゃないんだろう?
      さっさと話を終わらせようぜ。俺は、神と争うつもりはない」

 ジョルジュは腕を組んで言い放った。

('、`*川「ですが緩やかに破滅の時は迫るでしょう。
      機械の体から、おかしな神の意識が感じ取れるのです。
      いや、世界の神ですら、うかがい知れぬ何かが始まろうとしているのかもしれない……」

 そこまで言ってペニサスは諦めたような顔をした。
 そして顔を上げた。

('、`*川「あなた様の言うとおり、私の感覚を正確にお伝えする事は出来ないでしょう。
      では、不十分な材料しかありませんが『選択』を」

 一瞬だけ静けさが戻った室内。
 身構える僕達にペニサスが言う。

('、`*川「神、世界、そして魔法。
      いずれにせよ全ての真相を求めるか、もしくはよく知る大地へと戻るか。
      ですがお忘れなきよう。『神』はおかしくなり始めている」

 再び全員が沈黙した。
 どう選択すれば良いのか、見当すらつかない。

36: 2010/08/20(金) 14:52:33 ID:yJZz7cfo0
('、`*川「これは神へと進む道か、神から離れる道かです」

 僕に神と向かい合う覚悟があるだろうか。
 幾つもの思考が頭を飛び交う。
 安全か、危険か。
 疑惑か、真実か。

( ゚∀゚)「何のつもりだ? まず、俺達たった五人に決めろってのか?」

('、`*川「誰でも良かった、とお答えしましょう。
      決戦の地で魔王と対峙するのならば、世界を憂う者である事は明白。
      大陸の代表としては問題ありますまい。
      貴方方は偶然にも白の国へと来て、偶然にも『選択』をするのです」

ξ;゚⊿゚)ξ「じゃあ白の国の人達じゃ駄目だったんですか?」

('、`*川「私達には、どうやら世界を憂う気持ちはありません。
      いつか開ける天地を待ち続ける空虚な心のみ。
      貴方達にその希望を託そうという気持ちが無いかと聞かれれば、
      あると答えるしかありません」

 ですが、と言って目に力を込める。
 この老婆は時折凄まじい程の気迫を感じさせる。

('、`*川「白の魔法は真相への糸口。守護者シューはその案内人。
      世界の最奥へと至るには白の国を通る必要があったのです。
      終焉を乗り越えた人間達が何処に向かうのか。
      私達の役割は傍観する事。世界の記憶を機械の身に刻む事」

37: 2010/08/20(金) 14:53:30 ID:yJZz7cfo0
 ペニサスが立ち上がった。

('、`*川「お見せ頂きたい、世界の、貴方達の行く末を。
      如何なる道であろうと白の民はそこに希望をのせましょう。
      さあ、『選択』を」

 ジョルジュもまた立ちあがって重苦しく口を開いた。

( ゚∀゚)「俺は神によって武器を与えられた。
      同時に声を、今の世界を守れと神の声を聞いた。
      だから神に従う。
      あんたらの言う通りになる勇気は、今の俺にはない」

 その顔には何故か苦渋の選択であるかのような表情が浮かんでいる。
 すぐに決断したジョルジュが、何故。
 
('、`*川「分かりました。残る四人の方々は?」

 ペニサスの眼光が飛んできたので思考は断ち切られ、
 僕が焦る事になってしまった。
 ただ、漠然とした不安が胸に渦巻ている。
 それに気がついていた。

(;^ω^)「え!? いや、うーん。僕が選ぶには、ちょっと荷が重いと……」

 茶を濁して時間を稼ぐ。
 稼いだ所で意味が無い事は分かっているのだが、
 いくらなんでも議題が重すぎる。

38: 2010/08/20(金) 14:54:29 ID:yJZz7cfo0
 真実を求めて神へと近付くか、不安を抱えて大陸へと戻るか。
 前者はどんな危険が待っているか分からず、更に神への反逆にも近い。
 後者はおかしくなり始めた神をそのままに、何かが起きるまで待つ事になる。

 一見、前者の方に道理があるようにも感じる。
 しかしながらジョルジュが後者を選択した時点で、
 もう一方を選択したならば衝突の可能性もある。
 加えて下手をしなくても危険な選択である事も考えられた。

 二択を行ったり来たりしている中で頭が混乱してきた。
 もう十分に訳の分からない場所にいるのだし、危険にも慣れた。
 不安要素を一つ一つ理由をこじつけて潰して純粋な問いを頭に浮き彫りにする。
 そして混迷を極めた僕の頭は、考えそのままを口から出した。

(;^ω^)「……神様が調子悪いなら……まぁ、見てきても……いいんじゃないかお?」

 そう言った後に若干の後悔はあった。
 問い、においてこれは神への反逆と取れる。
 それでも、僕は正体不明の不安感を払拭できなかった

( ゚∀゚)「おいブーン」

 ジョルジュは僕の名前を呼んだだけだった。
 二択の答え双方が出会った場合、実際にはどうなるのだろう。

39: 2010/08/20(金) 14:55:22 ID:yJZz7cfo0
ξ;゚⊿゚)ξ「……うん、そうかも。だって何もしないと悪い事が起こるかもって事でしょ?」

 微かな逡巡の後にツンも口を開いた。
 神の武器も何も持たない人間からすれば、ツンの考えに行きつく。
 今から大陸の人間を連れてくれば同じ事を言うだろう。
 奇妙な不安感は、それくらい異常な物であった。

 だが、守護者とは国の重要人物。
 守護者の意向に反対するならば、国への反対ともなりえる。
 最終的には王が決定を下す事だが、王とて元守護者の人間がいると記憶していた。

川 ゚ -゚)「……神とやらがおかしくなっているのなら正すのが道理だな。
     神に道理が通じるかはさておき」

 自らが一国の中枢にいるクーは多少強気に判断できる。
 堂々とそう言った。

 意外にも最後まで黙っていたのはショボンになった。

(´・ω・`)「何も選ばないって自由はありませんよね。
       だったら仮に選択を終えたとして、僕達はどうなるのです?」

('、`*川「大陸へと回帰を。どちらも、変わりなく」

( ゚∀゚)「おい! だから何言ってんだ!」

 ジョルジュが焦る様に叫ぶ。
 短気だが冷静ではある彼には珍しい事だった。

40: 2010/08/20(金) 14:56:17 ID:yJZz7cfo0
(´・ω・`)「やれやれ……」

 肩を落としながらショボンが僕外側へと回る。
 いつの間にか、ジョルジュと僕達は二分されていた。

( ゚∀゚)「お前ら! 考えろ、国々も神の加護を信じているんだぞ」

 ジョルジュが僕達四人へと向き直る。
 言うとおりだ、現在の国々もまた何かの形で神へと信仰を持っている。
 僕達の言った事は、国家反逆罪にもあたるかもしれない。
 
 しかし今の僕は夢の中にいるようにぼんやりした心地で、
 自分の発言への恐怖は無かった。
 ジョルジュの叫び声にかぶさるようにペニサスが声を出した。

('、`*川「承知しました。ではこれより貴方達を大陸へとお送りします」

( ゚∀゚)「ちょっと待てって……」

 ジョルジュが何かを言おうとしてるが、構わずに続ける。

('、`*川「神の武器『ムスペルヘイム』の権利者、ジョルジュ様。
      『塔』への道を開きます。
      彼らとの再会はかの地で……」

 ジョルジュの足元から光に包まれていく。
 
(;゚∀゚)「転移!? ……!」

(´・ω・`)「……」

41: 2010/08/20(金) 14:57:10 ID:yJZz7cfo0
 声と共に、その姿は霧散する。
 それをショボンは厳しい目で見ていた。

('、`*川「さぁ、時が再び動き始めました。
      何が正しかったのか、何が過ちだったのか。
      全ては時に任せましょう」

 ペニサスが頭を下げると同時にシューが一歩前に出る。

w´‐ _‐ノv「それじゃあ前から言われたとおりに?」

('、`*川「そうですよ。貴女の役割を果たしなさい」

w´‐ _‐ノv「……」

 少しだけ寂しそうな顔をしたシューが僕の隣に立つ。

w´‐ _‐ノv「はい、永い時をお世話になりました」

('、`*川「私もです……ありがとう」

 シューがいつもの笑顔で頭を下げる。
 ふっとペニサスの顔に様々な感情が生まれた。

('、`*川「シューをお願いいただけますか?」

(;^ω^)「あの……訳分からないですお。
      シューも僕達と来るんですかお?」

42: 2010/08/20(金) 14:58:57 ID:yJZz7cfo0
('、`*川「その通りです。それが白の守護者の役割。 人の道となる事がです」

(;^ω^)「? じゃあ僕達どうすればいいんですかお?」

('、`*川「全員そのまま動かずに。大陸までお送りします」

(;^ω^)「来たばっかりだお……」

ξ;゚⊿゚)ξ「……そういう問題じゃないけど」

 ジョルジュと同じ様に五人の足元から光が包む。
 視界に水が入り込んだようにぼやけていく。

('、`*川「貴方達が世界を救う事を願って……」

 隣を見ると、シューは複雑な表情をしていた。
 それがどんな意味を持つのか、僕には分からない。
 白の国で過ごした彼女らの永い時間を想いながら、
 僕の視界は薄く白い光に覆われた。

 夢の中にいたような白の国での時間。
 それを無くさない様に、強く心に刻んだ。


第六章 白銀の夢  第二十一話「正位置の『氏神』」  完

43: 2010/08/20(金) 14:59:43 ID:yJZz7cfo0
以上で本日の投下を終了します。
お疲れ様でした。

44: 2010/08/20(金) 15:37:02 ID:ZiXzB24cO


さぁ読むぞ

引用: ( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです