1: 2010/09/05(日) 20:59:46 ID:RATKg0lM0

2: 2010/09/05(日) 21:00:33 ID:RATKg0lM0



 希望の星

 
 希望を断つ者


 真実を求めて




( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

最終章 透明の世界  第二十五話「正位置と逆位置の『星』」



 『塔』から見える空に、星々が瞬く。
 遥か太古の建造物の中では遠景が流れている。
 蒼穹に世界の景色をちりばめたような幻想的で奇妙な空間。
 
 冗談のように広大な円形の踊り場が広がってる。
 登って来た階段は背後に、先に進む階段は前方に。 
 二つの階段の前には数名の人間達。
葬送のフリーレン(13) (少年サンデーコミックス)
3: 2010/09/05(日) 21:01:20 ID:RATKg0lM0

 僕達四人から一人が前に歩いて行く。
 目の前に立つ、五人に向かって。
 やがて立ち止った彼は言葉を続けた。

(´・ω・`)「やあ、ようこそ……」

 手首が返されて、杖の中から透明な刃が現れる。
 放り投げた鞘が軽い音を立てる。

(´・ω・`)「バーボンハウスへ……!」

 そのまま、刃が軌跡を描く。

( ゚∀゚)「……!」

 槍はジョルジュの腹部へと走った。

( ^ω^)「……」

 僕は息を吸い込みながら魔法を起動する。
 ここまでは、予定通りだ。
 
 彼らの思惑とは違い、守護者ショボンが世界では無く、僕達の側についている。
 一番の切り札を切ったのだ。

4: 2010/09/05(日) 21:02:01 ID:RATKg0lM0

―塔 階層19 踊り場 ( ^ω^)―



 守護者とは、国と世界を守る者の名。
 それは各国の戦争を防ぐ事はもちろん、魔王と魔物達への対抗でもある。
 全てにおいて世界を基軸として行動すべきなのだ、守護者は。
 もちろん現在の守護者はそうしている。

 今回の魔王決戦においてイレギュラーが幾つか起きていた。
 ゼアフォー介入による世界の混乱と、国の統制の乱れ。
 神の武器不在による戦力低下。
 それらに伴う穴埋め。
 
 つまり、民間に属する僕や、国政に関わらない人間の行動である。
 僕達などは守護者指揮下にあろうとも、戦役の深い部分に踏み込み過ぎた。
 魔王の姿は、その最たる例であろう。

 知りすぎてる、状態の僕達には常にまとめ役兼監視役が付けられたのだ。
 黄の国の守護者ショボン。
 慣れ親しんだ顔ならば監視も容易くなる。
 その後、余計な事さえしなければ、監視という事実も自然消滅する。

 世界の平和という形を構築できさえすれば良い。
 あるいは、魔王さえ倒せれば事は簡単に済んだのかもしれない。
 事実、ショボンは他の守護者に僕達の行動報告を行っていた。
 魔王決戦までは。

5: 2010/09/05(日) 21:02:44 ID:RATKg0lM0

 ところが『世界』において決定的な出来事が発生する。
 謎の彗星『ラグナロク』の到来だ。
 今にして思えば、それが転換点になったのかもしれない。
 いや、そんなものは幾らでもあった。

 ある時は偶然で。
 ある時は単純な興味で。
 ある時は、まがいなりにも信念を持って。
 結果こうして守護者達と向かい合っているのだ。

 ショボンは白の国での転移の直前にジョルジュへと目線だけで合図を送っていた。
 『監視を続行する』と。
 彼は世界を裏切った事になる。
 僕達もだが。
 
 見越していたのだ。
 ショボンは、後々自分の合図が効いてくると。
 そして今、効果を生んでいる。

 僕達も動きださなければならない。
 一瞬の戦いになる。
 
 何故、僕達はわざわざ世界を相手にしているのか。
 考えてみても実のところ、理由はぼやけていた。
 ただ、ただ漠然とした不安感に導かれて、未来の予測を見て。
 演算の予測が確実に起こるものだと思ったからなのである。

6: 2010/09/05(日) 21:03:56 ID:RATKg0lM0

 世界を敵に回す理由にしては安いかもしれない。
 それでも、確かな意思がある。
 理由なき意思でも、力になるはずだ。

 真実を求めて。
 守護者達との、一瞬を。
 もしかしたら、最後には理由はいらないのかもしれない。
 僕は僕の役割を全力で果たすだけだ。

 無駄な事を考えがちな頭を律して、鼓舞して。
 
 さあ、行こう。


( ゚∀゚)「……!」

 ショボンの一撃からジョルジュは身をかわした。

川 ゚ -゚)「姉上!」

ノハ;゚⊿゚)「え!?」

 クーは叫びながら、しぃへと風を纏い切りこむ。

ξ゚⊿゚)ξ「しぃさん!」

 一方、ツンはヒートの間合いへと突っ込んだ。

(*゚ー゚) 「……ッ!?」

7: 2010/09/05(日) 21:04:37 ID:RATKg0lM0

 クーの刀を、しぃが魔力で受け止めた。
 刹那の間、相手を混乱させるには十分な手である。

(´・ω・`)「ッ!!」

 ショボンは、ジョルジュを攻撃した後、全力の踏み込みからプギャーへと突きを放つ。

(;^Д^)「うぐッ!?」

 致命傷にはならないが、受ければ十分に行動不能になる一撃。
 プギャーは身を傾けて被害を最小限にとどめた。

 全員が動く中、僕は『隙間』に全神経を集中させている。
 それは、ジョルジュとショボンの間。
 槍を振り切った軌跡ぶんの、微かな穴。

 風に押されながら駆け抜ける。
 だがすぐにジョルジュが僕の前に立ちはだかる。
 何かを狙っている事はバレているらしい。

 守護者ジョルジュが放つ特大の火球が迫る。
 一度、地面を蹴って方向を転換した。

( ゚∀゚)「……クー!?」

 深緑の魔力を散らして、しぃを抜いたクーの刀がジョルジュを襲う。

8: 2010/09/05(日) 21:05:21 ID:RATKg0lM0

川 ゚ -゚)「御免!」

 ジョルジュの場合、頃すつもりで叩きこまなければ行動不能には出来ないだろう。
 打ち合わせ通りにクーの刀が全霊の『布石』となる。
 更に生まれた隙を掻い潜って、僕はジョルジュの隣をすり抜けた。
 易々と見逃してくれるはずはなく、背中にジョルジュの魔法の気配を感じる。

( ゚∀゚)「チッ!」

 間に合うか、間に合わないかの一撃。
 果たして攻撃は空を切った。
 結果は、それ以上だが。

 ジョルジュの魔力がクーの魔力と連鎖して、場に残る。

ξ゚⊿゚)ξ「……!!」

( ゚∀゚)「!?」

 ヒートを無視して目の前に移動してきたツンにジョルジュが驚く。
 その手には、魔法陣が展開していた事にも気が付いただろう。
 エクスプロージョンが炎の爆発なら、ツンのそれは氷の斬撃。
 四天王の一体、イフリートをも滅した青の高位魔法『エーリヴァーガル』。

 さすがのジョルジュにも手痛い攻撃になるはずだ。
 冷気の集約を背に感じながらも、一気に速度を上げる。
 風の加護を得て、更に前へ。

9: 2010/09/05(日) 21:06:13 ID:RATKg0lM0

 そして、空に登る階段へと飛び込んだ。
 一度足をつき、魔法を起動、背後にいる誰もが見えなくなる程、前へ。
 
 完全に予定通りだ。
 神と出会う僕がどうなるのか、どうするのか。
 残った三人が守護者相手にどこまで時間を稼げるのか。
 ここから先には不確定な要素が山ほどあるが。

 何にせよ、僕がやる事は決まっている。
 『鍵』と共に『塔』の頂点へ。
 皆を代表して、神の顔を拝んでやろう。

 どこまでも続く階段を、どこまでも走っていく。
 向かう先から声が、聞こえる。
 そんな気がした。

10: 2010/09/05(日) 21:06:56 ID:RATKg0lM0

―塔 階層32 踊り場  ('A`)―


('A`)「えーと……」

从 ゚∀从「『塔』だよなぁ、ここって?」

('A`)「いえ、知らないんですけど」

 パンデモニウムの森からなので、大概の事には驚かない。
 たとえ俺達がいきなり『塔』らしき場所に転移されたとしても。
 起きた事も異常だが、目の前の光景は更に以上であった。

 広大に広がる暗闇。
 その中に螺旋状に配置された、これまた巨大な円形の踊り場。
 彼方では、まるで万華鏡の様に大陸の景色が移り変わっている。
 星の海にいるのではないかと錯覚するようだった。

从 ゚∀从「いやまぁ……俺も何となくだけどさ」

('A`)「俺も何となく、そうは思いますけどね」

 根拠は皆無であるが、現在地は『塔』に間違いないだろう。
 何故かと聞かれると困るのだが、分かるのだ。
 昔から知っている事であるかのように、世間の常識であるかのように。
 加えて、ここが塔であると刷り込まれたのは、つい先程だろう。

11: 2010/09/05(日) 21:07:50 ID:RATKg0lM0

 正確に言えば転移されると同時に。
 俺と、恐らくハインも感覚的に現地の情報を叩きこまれたのだ。
 実に不思議な事だが間違いない。
 俺の精神はともかく、俺の知識がそう理解している。

从 ゚∀从「……何で飛ばされたんだろうな」

 場所の情報は頭にある。
 しかしながら、理由が欠落していた。
 守護者であるハインはともかく、俺ごと飛ばす道理があろうか。

('A`)「あなたは守護者だからでしょう?」

从 ゚∀从「んな下らねぇ話なのかよ」

('A`)「どう思うか知りませんが、それが一番しっくりくるじゃないですか」

 適当に相手をしながらも、森の中に残る連中の事を考える。
 リリも、あの兄弟みたいな奴らも、生き残っているだろうか。

 ―運が良ければな。

('A`)「え?」

从 ゚∀从「ん?」

12: 2010/09/05(日) 21:08:46 ID:RATKg0lM0

 何だ今のは。

 ―今のは?

(;'A`)「声?」

 ハインの方向を向いてみると、俺と同じ表情で突っ立っていた。

从 ゚∀从「おいドクオ。今何か言ったよな?」

(;'A`)「……いいえ」

 ―嘘つくな。

 本当だ。
 俺は何も口に出していない。

从 ゚∀从「マジか」

 ―まぁ、いいか。

(;'A`)「いい訳ないでしょう。変な声が聞こえてるんですから」

 俺は今、『変な声』へと受け答えしなかっただろうか。
 ハインではなく『声』の方へ。

13: 2010/09/05(日) 21:09:31 ID:RATKg0lM0

从 ゚∀从「……」

(;'A`)「……」

 ―お前は?

 俺はドクオだ。

 ―だよな。

 向かい合った俺達は、言葉も無しに意思疎通を計ってみた。
 大変残念な話であるが、成功を収めた。


 それから暫くの間二人は、驚き、慌てふためいた。
 やがて、良く分からないままに一つ発見をした。
 俺達がいる踊り場は魔力の濃度が非常に高いのだ。
 非常に、というのは神の武器が発する魔力以上にである。

 上と下に続く階段に挟まれた踊り場で、
 訳の分からない意思疎通を延々と続ける訳にもいかない。
 現在のテレパシー能力発現については適当に仮説を打ちだすとしよう。

 つまり『魔力は意思の力で操る物であり、魔力は魔法の構成物である』。
 これに『魔法使いは魔力によって他者の意思に干渉出来る』。
 という未確認事項を代入して無理やり問題を解決したという事にしたのである。
 確かにギコ王の一件にはそういう噂もあったが無茶な解法だ。

14: 2010/09/05(日) 21:10:34 ID:RATKg0lM0

 ともかく、今からどうするべきかを決めなければ。
 勿論俺は階段を進んで地上に出たいのだが、下が地上である保証もないのだ。
 一連の相談を全て言葉にする事無く終わらせて、数瞬の空白。
 意思疎通の間に無駄な時間がゼロだったため恐ろしく早い相談であった。

从 ゚∀从「疲れる。やっぱ口でいいや」

 冷静だな、この人。

从 ゚∀从「悪かったな」

 聞こえていた。

(;'A`)「……とりあえず、階段降りましょうか?
     最悪、下なら星の海まで辿りつく事はないでしょうし」

从 ゚∀从「うーん、まぁそうだな」

 勿論、星の海というのは冗談であったが『塔』は空の中へとそびえる。
 もしかしたら本当に、あり得るのかもしれない。

从 ゚∀从「どっちでもいいわ、んな物」

 踵を返して下りの階段へと歩き始める。
 靴が階段を叩く音。
 何かが階段を、上がって来たのだ。

15: 2010/09/05(日) 21:11:57 ID:RATKg0lM0

 俺達が一歩退いて身構えていると、現れたのは男であった。
 人のよさそうな顔、長身の体にマントを羽織っている。
 はめている手袋の紋章を見る限り、赤の魔法使いだろう。

(;^ω^)「……ハインさん!?」

 ハインの知り合いなのか。
 それは好都合だ、探索人数は多い方がいいだろう。

(;^ω^)「……おかしいお。ここは次元の連続性が無いはずだお。
      ハインさんには合わないはずなんだお! ……あ、そうか……」

(;'A`)「あんた何言って……」

 奇妙な事を口走る男に不信感を覚えながらも、俺は口を開いていた。
 だが、この場では言葉の必要がなかったのだ。

 『塔』の内部では『時間』が確立してしない。
 全ての階段、全ての踊り場、全ての扉が。
 一貫性なく、バラバラに繋がっているのだ。
 いまだに誰もいなかった時間の階層もある可能性が高い。

从 ゚∀从「お前、何でそんな事知ってんだ?」

(;^ω^)「それは19階層を抜けて、5階層と100階層を通ったからですお。
      各データベースを頭に放り込まれたら僕でも分かりますお」

 さっぱり分からない。

16: 2010/09/05(日) 21:12:48 ID:RATKg0lM0

(;^ω^)「とにかく! 僕は進まなきゃいけないですお! 通して下さいお!」

 何故か分からないが、男から全力の意思が伝わってくる。
 意思疎通が可能な状況で、こうも直線的な感情をぶつけられたら俺だったらどいてしまう。
 だが、男の意思には明らかに諦めも含まれていた。
 通れるとは思っていないような、俺達を障害とみなしているかのような。

从 ゚∀从「ああ、行きな」

(;^ω^)「え!?」

从 ゚∀从「どうしたよ? 別に俺達は道をふさいじゃいねーよ」

(;^ω^)「……本当に?」

从 ゚∀从「嘘にしてやろうか?」

17: 2010/09/05(日) 21:13:36 ID:RATKg0lM0

(;^ω^)「失礼しますおっ!」

 それだけ言うと、ブーンは急いで走り去って行った。
 確かに階段の中頃でその姿は掻き消えていく。
 違う次元とやらにいったのだろう。

(;'A`)「ブーンは何やってたんですか?」

从 ゚∀从「え? ブーンの奴を知ってんのか」

(;'A`)「あぁ……アイツ、ブーンって言うのか」

从 ゚∀从「……思った以上に、意思疎通とやらは高精度なようだな?」

 相変わらず、ハインは楽しそうに言うのだった。

18: 2010/09/05(日) 21:14:33 ID:RATKg0lM0

―塔 階層78 踊り場 ( ^ω^)―


 二人と分かれた僕は少し前の事を回想していた。

( ^ω^)「……」

 守護者達を振り切ってから、延々と階段を走る。
 気が付けばひとつ階層を抜けていた。
 巡る景色が周囲を包む蒼穹の中を通り過ぎていく。
 螺旋状にどこまでも続く階段地帯は、果たして終着点があるのだろうか。

 走りながらも自分の感覚が鋭敏になってきている事に気が付いた。
 無意識のうちに、何かが頭の中に入り込んでくるのだ。
 一体何であるのか。
 答えは、知識であった。

 『塔』という未知の領域。
 それにまつわる奇妙な仕掛けやカラクリ。
 古代の人間達が、塔を作りだした人間達が持つ知識が頭の中に入ってくる。
 膨大な情報の中から一つを引き上げてみた。

 塔の内部構造だ。
 どうすれば、神の住まう場所まで辿りつけるのか。
 この問いの正確な答えは出ないらしい。
 どうやら、『知識』は『神』という存在を規定できないのだ。

19: 2010/09/05(日) 21:15:45 ID:RATKg0lM0

 そうなると、全能の存在が塔の内部に存在する訳ではないのだろうか。
 では世界の神とは如何なる存在であるのか。
 『知識』は一定の情報に規制をかけているように感じられた。
 
 いいだろう。
 ならば元々の予定通り、上って行こう。
 今現在の塔内部情報を引き出して連続した次元ルートを頭に浮かべる。
 
 残る守護者はハインだけであった。
 あの場にいなかった以上、これから会う可能性が生じる。
 人間がいない次元を通りながら進めばいいのだ。
 そろそろ、階層を抜ける。

 そして、あっさりと守護者ハインと紫の魔法使いドクオに出会ってしまった。
 最悪に近い話である。
 忘れていた、僕達は『神』に異常があるからと行動を起こしていたのだ。
 ならば『塔』に異常があっても不思議ではない。

 ところが、二人は僕をすぐに通してくれた。
 パンデモニウムから転移したばかりで、状況を完全に飲みこんでいない二人を、
 勢いだけで置き去りにするのは気がひけたが仕方がない。

 すぐに階層を抜け、次は54階層を選択して走る。
 暫く経ってから一つ気が付いた。

20: 2010/09/05(日) 21:16:29 ID:RATKg0lM0

( ^ω^)「……ドクオ?」

 彼は、名を名乗っただろうか。
 二人はパンデモニウムの森から来たと言っただろうか。
 言ってる訳がない。
 ここまで短い時間で、そうも正確に二人の状態を理解できるはずはないのだ。

(;^ω^)「何でだお……?」

 多くの人間が、パンデモニウムで亡くなった。
 地獄を生き抜いて辿りついた場所が『塔』だとは。
 何故、僕より大変な思いをしている人間が、そんな運命なのだろう。
 パンデモニウムで戦ったのだから、もう休んでもいいではないか。 

 しかし何よりも心配な事があった。
 彼らも、ジョルジュ達の側につくのだろうか。
 考えがまとまらない。

 まるで、二人分の思考が僕の頭の中に取り付けられたかのようだ。
 僕は考える中で、ふと思った。
 もしかしたら彼らにも僕の思考が入り込んだのではないだろうか。
 
( ^ω^)「……」

 もし、そうならば。
 願うのは、『神』への疑問だ。
 僕達の行動の原点。
 感覚的とも言える『それ』を感じ、万が一理解したならば。

21: 2010/09/05(日) 21:17:13 ID:RATKg0lM0

 残る仲間達を、助けて欲しい。

 続く階段の先から、声が聞こえる。
 果たして誰に向けられたものだろうか。
 次元を越えて、時間を越えて、きっと辿りつく。
 
 次の階層は30だ。
 突如として、頭の中に映像が広がった。

22: 2010/09/05(日) 21:18:00 ID:RATKg0lM0

―塔 階層32 踊り場  ('A`)―


 世界の神。
 破滅の予測。

 全く、知らない所で苦労している人間もいるものだ。
 ブーンという奴に比べたら、俺はぬるま湯人生もいいところに思える。
 加えて良い情報もくれるとは。
 上がれば『神』、下れば『守護者』。

 もし後者と戦うならば、つまりブーン達の側につくならば。
 破滅か氏の二択という訳だ。
 これまで何度も氏という物を体験してきたが、これ程真に迫る予想があっただろうか。
 どちらを選んでも大差が無いようにも思える。

 結局は氏ぬのだから。
 それでもなお、神に会い未来の予測を変えようとする者達がいる。
 世界の守護者と戦ってまで未来を見ようとする者達がいる。
 俺の常識には無い事だった。

 見える神である守護者達を相手にしようとは。
 変人を通り越して酔狂だ。
 だが、それも悪くない。
 一つの、生き方だ。

24: 2010/09/05(日) 21:18:58 ID:RATKg0lM0

从 ゚∀从「変な連中だよなぁ」

('A`)「そう、ですね」

 ハインは、どう思っているのだろう。
 反射的にそう考えた自分に苦笑いした。
 ここなら相手の考えも心も分かるのだ。
 
 俺は、ハインの考えを知ろうとはしなかった。
 少し慣れれば相手の感情を理解しない事も出来たのだ。
 もっともそれは『俺』がなのであって、ハインには俺の考えが筒抜けなのだが。
 一つ、引っかかる事があるのだ。

从 ゚∀从「お前はどうすんだ?」

 ハインから意思ではなく、言葉が飛んできた。

('A`)「……?」

 何故、意思疎通を使わないのだろう。

从 ゚∀从「どうも性にあわねぇんだよ。口を使わねぇのは」

 成程彼女らしい。
 普段口を使わない俺と同じ考えだった。
 まるで俺の頭を覗いたかのような事を言うハインに向かって言う。

('A`)「……まぁ、会話って言ったら口でしょうね」

25: 2010/09/05(日) 21:20:09 ID:RATKg0lM0

从 ゚∀从「ああ全くだ。テレパシーなんか使ってるから、滅びたんだよ」

 ハインは塔に広がる闇の中を見上げた。
 そして、俺は先程の質問に答えた。

('A`)「俺は、下に行こうと思います」

 守護者に会って、どうするつもりなのだろう。
 いや、答えは出ているのだ。

从 ゚∀从「氏ぬぜ?」

 予想通りの答えに、少し安堵感を覚えた。

('∀`)「でしょうね」

 ハインが少し笑った。

从 ゚∀从「お前の笑顔気持ち悪ぃな!」

 放っておいてほしい。
 というか、俺は笑ったのか。
 今笑うというのは、気味悪がられても仕方がない。

从 ゚∀从「……そう言うとは思ったけどな」

 背を向けながら彼女が続ける。

26: 2010/09/05(日) 21:20:55 ID:RATKg0lM0

从 ゚∀从「……俺は、上に行く」

 そう言うとは思っていた。

('A`)「じゃあ縁があったらまた何処かで」

从 ゚∀从「おう、次あったら何か奢れ」

('A`)「王族が庶民にたからないでください」

从 ゚∀从「はは、そう言やそうだな」

 二人の距離が開く。 

从 ゚∀从「なら、次あったら何か食わしてやるよ」

('A`)「期待しておきます、一応」

 薄い影が遠ざかる。

从 ゚∀从「じゃあ、またな!」

('A`)「……はい、またいつか」

 そして、何でもない様に二人の姿は互いに視認できなくなった。

 巡る景色が輝く。
 それは、山であったり海であったり。
 何でもない町並みであったり。

27: 2010/09/05(日) 21:21:37 ID:RATKg0lM0

 見飽きたそれらか、とても懐かしく思えた。
 蒼穹の空に世界が宿っている。
 目にした物が現実になっていく。

 空中で意識が組みあがる。
 星色が、『塔』に満ちた。

 多数の意識の集合体。
 どうやら、古代の世界は、現実という物をそう規定したらしい。
 頭の中に入ってきた情報から、適当にそれを拾い上げた。



最終章 透明の世界  第二十五話「正位置と逆位置の『星』」  完

28: 2010/09/05(日) 21:22:56 ID:RATKg0lM0
以上で本日の投下を終了します。
お疲れさまでした。

ここあたりから伏線回収が集中しますので、
文章が乱れる事を先にお詫び申し上げます。

33: 2010/09/06(月) 20:33:37 ID:oc9mdO4g0



 神話の彼方

 
 二つの存在


 魔法の世界




( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

最終章 透明の世界  第二十六話「正位置と逆位置の『月』」



 神話を幾つか知っている。
 どれも、分かりやすい共通点があった。
 空に浮かぶ、二つの月だ。

 神話は伝承する。
 
 たとえ真相とはかけ離れていたとしても。
 歪な形に変貌していたとしても。
 古の世界の姿を。

34: 2010/09/06(月) 20:34:20 ID:oc9mdO4g0
 
 時が流れても、消える事はない。
 二つの月という世界の起源。
 暗雲が晴れ、無色の月明かりが塔に満ちる。

 階段は続く。
 空へと向かって。
 星の海へと向かって。

 世界はまだ、神話の中にある。

35: 2010/09/06(月) 20:35:03 ID:oc9mdO4g0

―塔 階層30 踊り場 ( ^ω^)―


 頭の中に映像が広がった。
 それはごく自然な物であり、それでいて受け入れがたい物でもあった。
 まるで遠くから見るように男女七名の姿が映る。
 三人の仲間と、四人の守護者達が。

 間違いなく、今現在の出来事であろう。
 いや、次元の差があるので正確には数分前になるのだろうが。
 
 僕を突破させたツン達は、そのまま守護者達と対峙している。
 まだ追いつかれていないのは戦闘が継続中だからか。
 果たして守護者相手に数分もの間持ちこたえる事ができるのか。
 
 僕はいまだ情報の操作に慣れていないためか、現在時間の情報を閲覧できない。
 ならば、今は急ぐ。
 他の選択肢はなさそうだ。

36: 2010/09/06(月) 20:35:47 ID:oc9mdO4g0

―塔 階層19 踊り場―


 言葉で時間を稼ぐ事は最初から考えていない。
 僕を逃がし、そのままジョルジュの撃破に移る。
 他の守護者の攻撃をかわして彼だけを戦闘不能に持ち込むのは至難だが、
 ならばと言って全員を相手にするのは現実的ではない。

 頭を潰す。
 その後、指揮の乱れた隙を突き各個撃破に移る。
 作戦の全てはジョルジュ撃破に集約されるのだ。
 
 そして、僕を逃がした現在の隊列。
 必殺の一撃への布石は次々と打たれていく。

 ツンの高位魔法エーリヴァーガルが空間を寸断し、ジョルジュ一人を遠ざける。
 惜しくも直撃には至らなかったが、彼の左腕は氷漬けになった。
 プギャーはショボンの槍を受けて行動不能。
 しぃは後方にいる為、防衛には間に合うまい。

 ヒートだけ自由に動ける時間を作ってしまった。

ノハ;゚⊿゚)「クー……二人も止めろ!」

 二本の刀を振り上げ、クーへと軽く一撃を加える。

川 ゚ -゚)「姉上、それでは止まらんぞ」

37: 2010/09/06(月) 20:36:43 ID:oc9mdO4g0

 迷いのあるヒートの太刀筋は見切られた。
 クーの反撃が空間に煌めく。
 だが、守りに入れば手加減する必要が無い。
 全ての攻撃を凌ぎ切り、二人の距離が開く。

 これで時間は生まれた。
 機動力に優れるクーが更にジョルジュへの打撃へと移る。

( ゚∀゚)「……」

 ジョルジュの右手を中心に魔力が広がっていた。
 それは、純粋な赤の力。
 彼は僅かな時間の間に武器を起動した。

 一つだけではない。
 他の守護者達もそれぞれの魔力を放つ。
 プギャーも傷を負っているが紫の閃光に包まれていた。
 考えられていた事だ、ギコからプギャーへと、『武器』は受け継がれている。
 
 『神の武器』が姿を現す前に。
 ツンの魔法がジョルジュの動きを制限し、クーの刀が逃げ場を打ち消す。
 矢のように伸びる岩の槍が正面からジョルジュに走った。

 咄嗟に斜め前に飛び出す。
 先に待つのは、槍を構えたショボンだ。
 もはや体勢の修正は効かない。

38: 2010/09/06(月) 20:37:34 ID:oc9mdO4g0

 必殺の一撃。
 ジョルジュの腹に向かって、ショボンの槍が瞬く。
 そして、槍は貫いた。

 何も無い空間を。
 ジョルジュの姿は消えて、ただ、風が舞っている。
 
(´・ω・`)「……起動を許したか」

 誤算だ。
 まさか、守護者達の指揮を行っているのが彼女だったとは。

ξ゚⊿゚)ξ「……神の武器」

 彼女を中心に、隊列が整っていく。
 音楽を演奏するかのように。

川 ゚ -゚)「厳しいな」

 勝機は消えた。
 四つの神の武器に正面からでは、相手にもならない。

 僕の頭に情報が流れ込む。
 『神の武器』の名前が。
 恐らくだが、三人の仲間達にも伝わった様に感じる。

39: 2010/09/06(月) 20:38:36 ID:oc9mdO4g0

( ^Д^)「……」

 回復を受けたのか傷が完治している、プギャー。
 両腕に、紫に輝く巨大な篭手。
 ニダヴェリール・トールハンマー。

(*゚ー゚) 「……」

 奥に佇み、城ほどもある巨大な氷の狼を従える、しぃ
 ニヴルヘイム・フェンリル。

 彼らは風を纏っていた。
 緑色に輝きながら流れる疾風。
 その中心点で、彼女は空から見下ろす。

ノパ⊿゚)「……」

 三対の天使の翼。
 緑光を纏い、二本の刀で戦場を指揮する、ヒート。
 アルフヘイム・スキーズブラズニル。

 成程、風の奏者、という訳だ。
 守護者達をまるで駒の様に風を使って移動させ、
 音楽でも奏でるように攻撃防御の作戦立案を行う。
 『神の武器』ゆえに成せる芸当だ。

40: 2010/09/06(月) 20:39:37 ID:oc9mdO4g0

 だが、変わらず一番の問題は『騎士』であろう。
 普段は拳を武器とする彼に、騎士に剣が与えられたのだ。
 国の守護者、世界の守護者、ジョルジュに。

( ゚∀゚)「一撃で、決めるぞ」

 赤く輝く、魔力の大剣。
 ムスペルヘイム・レーヴァテイン。
 各神の武器の名称および情報が頭に響く。
 冗談ではない力だ。

 こんな物が六つもあれば確かに『魔王』を封印できるだろう。
 表舞台に現れていない最後の武器。
 その、残る一つに検討を付けつつも思った。

(*゚ー゚) 「ジョルジュ君」

( ゚∀゚)「分かってる。頃しはしないさ」

 世界の敵である者達でも、頃しはしないと言う。
 油断でも慢心でもない。
 事実であった。

( ゚∀゚)「おい! これは痛いぞ!」

 レーヴァテインを構えたジョルジュが叫ぶ。
 振り上げた刃に爆炎が揺らめく。
 ツン達は動く事が出来なかった。
 少しでも踏み込めば、焼き尽くされることが分かっていたのだ。

41: 2010/09/06(月) 20:40:48 ID:oc9mdO4g0

 まるで氏への秒読み。
 殺さないと宣言されていても、明確な氏が迫る。

 そして炎に沈んだ。
 塔の中が深紅に彩られる。
 炎の大海、火の雨、熱の大気。
 振り上げた剣が振り下ろされた。

 赤の暴風雨、その中で爆発が連続して起った。
 全てを飲みこんで、炎は舞いあがる。
 永遠とも思える赤の時間は過ぎ去り、焦土と化した踊り場が戻ってきた。

 三人は皆、床に倒れている。
 命に別条は無いが、火傷や打撲により行動は不可能だろう。

(;^Д^)「大丈夫か!」

( ゚∀゚)「待て、動くな」

 何かを感じ取ったのか、ジョルジュがプギャーを制す。
 行動不能とはいえ策があると警戒したのだろうか。
 答えは、下の階層にあった。

ノハ;゚⊿゚)「ッ!?」

 一閃が走り、ヒートの翼が砕け散った。
 再構築までに少々時間がかかる。

42: 2010/09/06(月) 20:41:55 ID:oc9mdO4g0

(;^Д^)「うわっ!」

 再び、閃光のもとプギャーの篭手に亀裂が走る。

( ゚∀゚)「ッ!!」

 ジョルジュはレーヴァテインを振り、高速で迫る『何か』を切り払った。
 続けざまに舞い落ちる光を次々と叩き落とし、いきなり上空を通る巨大な陰を炎の渦に巻き込んだ。
 だが、巨大な影はそのまま姿を消して、そこから小さな人影が飛び降りる。
 飛び降りる中、身を翻した影は細長い光を守護者達に投擲した。

 それは一瞬で巨大な光の『柱』を形作った。
 黄金の光が穿つ。
 真正面から、ジョルジュが受け止める。
 赤と金、二色の中心で無色が生まれた。

 やがて波打ちながら形を持った光の柱。
 途方もない程大きな、金色の『槍』であった。
 切っ先はジョルジュが構えた武器と噛み合っている。
 力の均衡が崩れ、黄金の槍は魔力へと戻っていった。

 だが、ジョルジュのレーヴァテインにも刃こぼれが発生した。
 さすがは神の武器、既に修復が完了していた。
 では『槍』のほうはどうなったのか。
 煌めく光が、『持ち主』を照らし出す。

43: 2010/09/06(月) 20:42:58 ID:oc9mdO4g0

( ´∀`)「……ふぅ、やっぱり疲れるね」

 純粋な魔力が再び槍の形をとって彼の手に収まった。
 黄金の神の武器、天空より降り立った勝利の槍。
 ミドガルド・グングニル。
 最後に残った神の武器を操るのは、先代地の賢者。

( ´∀`)「……」

 先代黄の守護者は、危なげなく『青の魔法』を起動する。
 背後に倒れている仲間達を回復した。

(´・ω・`)「……うわ、師匠?」

 すぐさま意思を取り戻したショボンがかすれ声で言った。

( ´∀`)「何だその反応、助けてあげたのに」

ξ;゚⊿゚)ξ「モナーさん……」

( ´∀`)「お久しぶりだモナ、ツンさん」

 片手を上げてツンにも応対している。

川 ゚ -゚)「あなたは確か……」

( ´∀`)「君はクーだね? 大戦の時は小さかったんだがね」

44: 2010/09/06(月) 20:44:03 ID:oc9mdO4g0

 どうやらクーとも顔を合わせた事があるらしい。
 相手によって次々と口調を変えながら、やがて言葉は背後から前方へと向かう。

(*゚ー゚) 「モナーさん。お久ぶりですね」

(;^Д^)「なんでここに……」

 しぃの挨拶を受け流し、プギャーの分かりきった質問に答える。

( ´∀`)「進歩しねぇな。俺の位置を見ろよ」

 神の武器を少し振りながら、プギャーを威嚇する。
 まるで人格が変わったかのように凶悪な目をしていた。

ノハ;゚⊿゚)「おいおい、あんたまで……よりにもよってだな」

( ´∀`)「気に病む事はありません、何せ私一人ですし……」

 時に高みから見下す様に。
 モナーは会話の主導権を握っていく。
 それは『塔』の一部階層では役に立たない技術であったが、
 効果のある場所では効果があり、結果として行動を支配していた。

( ´∀`)「数と武器に任せて一気に叩けるよ」

 四人の守護者を前にしても余裕は崩れない。
 何か策でもあるのか。
 予想外の侵入者に、意識のノイズが酷くなっていく。
 つまり、僕の頭に映る映像が乱れていたのだ。

45: 2010/09/06(月) 20:44:48 ID:oc9mdO4g0

 神の武器を携えた者が現れたと言う事は、
 それだけエネルギーに誤差が生じたのだ。
 莫大過ぎる誤差を埋めるのには時間がかかる。

( ´∀`)「さぁて、ではどうぞ」

 モナーはグングニルを構えながら微かな笑みを浮かべた。
 僕達の考えていた策の中に可能性の一つとして、
 確かに彼の介入は考えられていた。
 勿論、僕達の敵としてであったが。

 所が何が起こったのかモナーは武器をジョルジュ達に向けている。
 更に先程、彼は青の魔法を使っていた。
 モナーが複数属性を操ったという記録は無いし、ショボンも言っていない。
 隠していたのか、最近使えるようになったのか。

 全てまとめてジョルジュが聞く。

( ゚∀゚)「時間がねぇ。一言で返せ、何故だ?」

 何故、僕達に助力するのか、複数属性を使えるのか。
 今まで何をやっていたのか。

( ´∀`)「『神』にガタがきてるから」

 当たり前の事を言う様な顔だ。
 言葉で時間を稼ぐつもりは、やはり無い。

46: 2010/09/06(月) 20:46:06 ID:oc9mdO4g0
 
( ´∀`)「つーか正直……」

 グングニルを一回転させて構えなおす。

( ´∀`)「君たちも薄々感じてるだろう? 神の不具合」

( ゚∀゚)「ッ!」

 ジョルジュの剣が槍によって阻まれる。

( ´∀`)「図星か、馬鹿正直な奴だ」

 足払いをかけながら、槍を振り下ろす。
 今は短槍の形に収まっているグングニルだが、威力そのものは変わらない。
 狙い違わずジョルジュの頭へと疾駆する。
 ヒートの力により、赤の守護者は掻き消えたが、彼が立っていた地面は粉砕した。

( ´∀`)「分からないはずはないぞ。
      何せ、『武器』は神と直結、ないしそれに近い状態にあるんだからな」

 何者だ、この人。
 塔を登るたび更新されていく頭の中の情報、それを上回る知識。
 もしかしたら、モナーは塔の頂上まで来た事でもあるのか。

( ´∀`)「最初の違和感は……お前達同様。
      『神の武器』を使った瞬間だ」

 戦いながら良く通る声で喋る。
 説得のつもりか、盤外からの攻撃か。

47: 2010/09/06(月) 20:46:58 ID:oc9mdO4g0

( ´∀`)「作為ってのか? どうも『武器』が信じられねぇ」

 前進をバネにして放たれた神の槍が、魔力の奔流となり、巨大な刃を生む。
 ガラスが砕ける様に離散した刃は莫大な範囲を攻撃する。

(*゚ー゚) 「行って! フェンリル!」

 しぃの号令が下り、氷の魔獣が巨体を突撃させた。
 水晶の狼は無数の刃を受けてなお止まらずにモナーへと走る。

( ´∀`)「君たちも暇なら加勢してはどうだね」

 モナーは背後の三人に声をかけながら、『緑の魔法』にて飛翔する。
 フェンリルの牙が空間を切り裂くのを眼下にした。

(´・ω・`)「師匠って緑の魔法とか使えましたっけ?」

 状況を掴めないショボンが珍しくずれた質問をする。

( ´∀`)「まぁ、大戦後に……」

 別の場所に着地したモナーは何時の間にか手に戻っているグングニルを振った。
 床が隆起して先へと続く階段が塞がれる。

( ´∀`)「モララーと連絡を取り合っていたのは僕だけってことさ」

 含みのある言い方。
 氏してなお、モララーは謎を残してくれるようだ。

48: 2010/09/06(月) 20:48:06 ID:oc9mdO4g0

(;^Д^)「あの人、元の体に戻る事だけが目的じゃなかったのか」

 プギャーも事情を心得ているらしい。
 
 さすがに情報伝達が速い。
 モララーが機械の体を持っている事、
 その他の情報を大陸に持ち帰ったのは僕達以外にはジョルジュだけだ。
 もっとも、情報網が無ければ大戦を収めるなど出来なかっただろうが。

( ´∀`)「彼は、恐らく人間として唯一、『神』の概念を知った。
      そして同時に魔法の心理に辿りついたのだろう」

 グングニルがモナーの手から消えた。

ノパ⊿゚)「上だ!」

 瞬時に気が付いたヒートが叫ぶ。

 塔の内部では景色は移り変わり、空が覗いていた。
 夜の暗雲を切り裂いて光が迫る。
 問いかけと返答を持ってして、モナーは守護者達の虚を突く。
 勿論、材料は全て真実だ。

 ミドガルド・グングニルが再びその姿を現す。
 すなわち、黄金に煌めく巨大にして長大な槍。
 切っ先を地面に、蒼穹を打ち抜き、目標を穿つ。

49: 2010/09/06(月) 20:49:06 ID:oc9mdO4g0
 
 四人の守護者を滅する。
 その確かな意思は、真っ向から受け止められた。
 残る四つの神の武器が閃光となって迎撃したのだ。

 紅の炎、青の牙、緑の刃、紫の光。
 かくしてグングニルは粉砕されて魔力の塵となった。
 だが、塵は地面には還らずにモナーの手へと戻る。

( ´∀`)「仕切り直しだ、お前らもいいな?」

 モナーの号令。
 場の全員が、それぞれ向かい合った。
 今、流れる時間が世界を左右すると信じて。

50: 2010/09/06(月) 20:50:15 ID:oc9mdO4g0

―塔 階層31 踊り場  ('A`)―


 一階層下った。
 変わらず、世界を巡る景色。
 ただ顔見知りの一人を除いては。
 
 彼は前に会った日と変わらずに白いローブを纏っていた。
 踊り場の真ん中で、じっと俺を見ている。

(`・ω・´)「やぁ、また会ったね」

 もはや聞くまい。
 『塔』の内部に常識なんぞ通用しないのだ。

('A`)「お久ぶりですね……ショキンさん?」

 名前が上手く思い出せない。

(`・ω・´)「シャキンだよ、すまないけど」

 妙な沈黙。
 微妙な間。

('A`)「……奇遇ですね、こんな所で」

(`・ω・´)「ああまったく」

51: 2010/09/06(月) 20:51:21 ID:oc9mdO4g0

 適当に挨拶しながら通り過ぎるとしよう。
 シャキンが次に言葉を発したのは、俺が目の前に来た時だった。

(`・ω・´)「戦うのかい? 守護者と」

 そんな事は知ろうとすれば知れるのではないか。
 思って、気が付いた。
 どうやら俺が今いる階層では他人の心は分からないらしい。

('A`)「……」

 分からなかった。
 理由が無いのだ。
 だが俺もハインも漠然とした不安を抱えている。
 それは今や危機感へと変わっていた。

(`・ω・´)「ま、どっちでもいいか。僕はこれを預ける。
       それが役割でね」

 シャキンが差し出したのは水晶の剣だった。
 古代語と数式が内部に刻まれた、まさしく遺跡の一部と言った様相だ。
 加えて無色の光が、ぼうっと浮かび上がっている。

('A`)「何ですコレ」

 さすがに剣を渡されたら聞くべきだろう。
 まさかとは思うがコレで戦えというのか。

(`・ω・´)「『神の武器』だよ、無色の」

52: 2010/09/06(月) 20:52:24 ID:oc9mdO4g0

('A`)「……魔法にそんな属性ありましたっけ?」

(`・ω・´)「あったんだよこれが」

('A`)「……そうですか」

 貴重を通り越して物騒極まる得物だ。
 というか何だって俺に。

(`・ω・´)「ああ、別に使わなくてもいいよ。
       君が手に取れば体内に分解されるから、好きにして」

 手の先が透明な剣の柄に触れると言うとおり、俺の体に光が消えていった。
 そして同時に信じられない程の魔力が体内から満ちてきた。

(;'A`)「うわ……何だ?」

 圧倒的な力だ、これではまるで『彼ら』のようだ。

(`・ω・´)「鍵は造られた。これで君は守護者となった」

 実に勝手な話である。
 流れで人に仕事を押し付けないでもらいたい。
 そんな思いを知ってから知らずか、シャキンは俺が降りてきた階段の方へと向かう。

(`・ω・´)「一応言っとくけど、何を守護するかは自分で決めてね」

('A`)「……」

53: 2010/09/06(月) 20:53:19 ID:oc9mdO4g0

 何かを聞かなければならない。
 恐らく、答えてくれるだろう。
 だが今何を聞いても、答えからは遠ざかるような気がした。

('A`)「……名前」

(`・ω・´)「……?」

 シャキンが足と止める。
 ならば、この場では変わらない物を聞けばいい。

('A`)「この剣、なんて名前なんです?」

(`・ω・´)「コア・01……いや、コードは『ユグドラシル』だよ」

 意味するところは曖昧だが確かに名前は受け取った。

('A`)「分かりました。じゃあ俺は下に行きますんで」

(`・ω・´)「うん、君の勝利を願うよ。星の海でね」

54: 2010/09/06(月) 20:54:09 ID:oc9mdO4g0

 墓への道連れには勿体ないが、剣には覚悟してもらおう。
 目の前の階段を降りれば守護者達が待っている。
 構わないのか、『お前』は。
 ユグドラシルに語りかける。

 まるで鏡のように。
 俺の心を映すように、ユグドラシルが震えた。
 臆病なくらいが丁度いい。

 目指すは、19階層。
 お前の友人が5つも集まっている。

55: 2010/09/06(月) 20:55:12 ID:oc9mdO4g0

―塔 階層110 ( ^ω^)―


 揃っていく。
 それは歯車であったり、ピースであったり。
 先程、全ての神の武器が表舞台に一度は現れた事になる。
 かと言って僕の役割に変更は無い。

 あと少しだけ、時間を稼いでくれ。
 僅か一階層だと言うのに、遠い。
 ノイズ雑じりだった19階層の映像が再度鮮明に展開される。
 戦況は均衡を生んだらしい。


( ゚∀゚)「……随分と時間をやっちまった」

 ため息を吐きつつ、ジョルジュがぼやく。
 確実に彼は、彼らは迷っていた。

(*゚ー゚) 「ツンちゃん、ブーン君は何をしに行ったの?」

 分かりきっているようで、事実分からない事をしぃが問う。

ξ゚⊿゚)ξ「この世界の神に会うために……ちょっと走らせてます」

 それは僅かばかり過去の話。
 
川 ゚ -゚)「姉上、いつだったか勝負のついていない試合があったな」

56: 2010/09/06(月) 20:56:25 ID:oc9mdO4g0

ノパ⊿゚)「……もう何年も前の話じゃないか」

 まだクーと戦う事を躊躇うヒートが答えた。

川 ゚ -゚)「いい機会だ、ブーンが走っている間に決着を付ける」

 今、僕達の道は続いている。
 ほんの少し違う場所で、確かに同じ道が。

( ^Д^)「……ジョルジュさん、良いんですか、これで」

 プギャーの顔にも疑問が浮かんでいる。
 『自分達のしている事』は世界の為なのだろうか、と。

( ゚∀゚)「いいんだ、これで。『武器』あるんだ、正しいはずだ」

 ジョルジュがレーヴァテインを振りかざす。
 同時に気が付いた事だろう。

(´・ω・`)「やあ、ようこそ……再度、バーボンハウスへ」

 ショボンは罠を張っていた。
 モナーによって砕かれた地面に、自分の魔力を這わせていたのだ。

(´・ω・`)「先制は貰うよ。ツン! クー! 一気に叩く!」

( ´∀`)「さて、どこまで持つか……」

57: 2010/09/06(月) 20:57:43 ID:oc9mdO4g0

 ショボンは無数の岩の槍を全方位から守護者達に浴びせかける。
 勿論、ダメージにはならないが時間は稼げた。
 それで十分だった。
 ショボンのゴーレムが完成し、全員が戦闘隊形に移るには。

 僕に戦いの帰趨は確認できなかった。
 予想する事も出来ない。
 短い時間とは言え、僕は『塔』の演算装置に頼り切ってしまった。
 人間的な予測能力が欠落している。

 不確定要素のみを繋ぎ合わせて不明瞭な結論をだす事を頭が拒否する。
 この妙な現象は元に戻ると確信しているが、現時点ではどうしようもない。

 気が付けば、101階層と言う螺旋階段を上っていた。
 いつ終わるかも分からない無限の螺旋。
 情報は既に途切れ、『何か』に導かれて階段を走る。

 『塔』はやがて石造りの古風な物へ変わっていく。
 規則的に並んだ窓がいつからか僕の右側に出現している。
 
 息苦しいような。
 体にまとわりつく物は、よく知った『力』。
 世界にはそれが満ちている。

58: 2010/09/06(月) 20:58:34 ID:oc9mdO4g0

 魔力溢れる世界を眼下に、螺旋階段を駆け上がる。
 外は闇に包まれていた。
 月光だけが、開け放たれた幾つもの窓から差し込む。
 月明りを踏みつけ、ただ走る。

 声が聞こえる。
 階段の先から。
 星の海から。


 ―「君」は何故、ここにいる―

 ―理由はなんだ―


 外が移り変わる。
 景色が流れて行く。
 街、平原、山脈、遺跡、そして無窮の空。

 ようやく、前に大きな扉が見えた。
 駆け寄り、手をかける。

 たとえ理由が無かろうと。
 世界で弱き存在であろうと。
 確かな意思がここにある

59: 2010/09/06(月) 21:00:03 ID:oc9mdO4g0

 ―望まなくても……―

 ―全てが溢れているだろう―


 軋む音を響かせ、扉は開け放たれた。
 虹色の光が二つ。
 水面の上に投げかけられている。
 ふと、体にまとわりつく感覚が消えた。

 それが、不安感と違和感を生み、僕は自分へと声を発した。
 否定される訳にはいかない。
 僕の世界に、確かにあるのだ。


 ―それでも真実を求めるなら、もう少し進めー

 ―君の「世界」には、何がある?―

 ―遥か先であろうと、辿りつく為に……―

 ―知っているべき事は、一つの事実でいい―



 『この世界には魔法がある』


最終章 透明の世界  第二十六話「正位置と逆位置の『月』」 完

60: 2010/09/06(月) 21:00:49 ID:oc9mdO4g0
以上で投下を終了します。

63: 2010/09/07(火) 20:41:25 ID:vl9EA7T60



 ある世界の興亡

 
 最果ての者


 古い物語




( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

最終章 透明の世界  第二十七話「正位置と逆位置の『太陽』」

64: 2010/09/07(火) 20:43:35 ID:vl9EA7T60

 途方もない程、昔の話。
 国々は世界の果てをも掌中に収める為に力を合わせた。
 七つの国から、七人の科学者が集まった。
 彼らは次々と真理を解明していく。

 やがて、研究の対象は地上から駆逐された。
 一つ惑星を支配下におさめ、科学者たちは空を見上げた。
 彼らは探求した、世界の為に。
 誰もが幸せな、理想の世界の為に。

 かくして星の海へと船は旅立った。
 時間は流れ、七人の科学者の子供たちが探求を継いだ。
 無数の事実が浮かび上がり、無数の人々消えていった。
 
 多くの犠牲を払って探求はどこまでも続く。
 ただ、良い世界を目指して。
 地上に戻った彼らは幾つかの建物を建造した。
 それらは世界の空を切り裂く巨大な塔であった。

65: 2010/09/07(火) 20:44:43 ID:vl9EA7T60

 塔の役割は、星の海にある無限の活力を、
 大地で使えるように変化して広める事だった。
 まさしく、一つの革命であった。
 無限の力を世界は手に入れたのだ。

 理想の世界が、目の前に広がっていた。
 誰もが幸せな世界が。
 そして理想を実現した七人の探求者達は、
 活力の名を取って、こう呼ばれた。

 『魔法使い』、と。

66: 2010/09/07(火) 20:45:26 ID:vl9EA7T60

―塔 頂上 ( ^ω^)―


 そして視界は開けた。
 どことも知れない、綺麗な場所だった。

 見渡す限り、湖が広がっている。
 だが足を踏み入れても沈む事は無く、波紋が広がるだけだ。
 無数の星が煌めく夜空には、月と太陽が共存している。
 赤と青、対照的な明かりは、すぐに白と黄色に変わった。

 湖から岩が一つ突き出している。
 岩の上で、灰色のローブがなびいた。

( ^ω^)「さあ来たお!」

 そう言った所で、僕が来る事を相手が望んでいたかは知らない。
 灰色のローブが湖に降りた。
 波紋が、水面に移る光が揺らして進んだ。

|::━◎┥「歓迎しよう。赤き魔法使い」

 ハグルマの王が応える。
 数ヶ月前、紫の王城で会った時は印象が違う。
 本当に『神』だからだろうか。

67: 2010/09/07(火) 20:46:08 ID:vl9EA7T60

( ^ω^)「……僕は『どうすれば』良いお? あなたを倒すのか、従うのか」

 我ながら、馬鹿ばかしい質問だ。
 こんな事を相手に聞いてどうなる。

|::━◎┥「役割をこなす、それは君の美徳だ」

 ハグルマの王はゆっくりと続ける。
 諦観、だろうか。
 そういった印象をおぼろげながら感じる。

|::━◎┥「幸い、少し時間がある」

 仮面が空を向く。

|::━◎┥「今度ばかりは君が自分で決めるといい」

 突然、夜空に浮かぶ月が二つにずれた。
 強い風が湖を吹きすさぶ。

68: 2010/09/07(火) 20:47:09 ID:vl9EA7T60

( ^ω^)「……僕には時間が無いお!」

 詠唱と同時に魔法が起動し、僕の両手に赤く灯る。
 このまま一撃、打撃に移ろうとした瞬間、魔法が砕け散った。
 間違いなく、魔力を打ち消す無音の衝撃『破魔』であった。
 やはり思い通りにはいかない。

|::━◎┥「……あるのさ、君にも時間が。
      『彼』が繋ぐ時間の間、退屈しないように一つ昔話をしよう」

 古い話を。
 彼はそう言うと、確かな声で語り始めた。

69: 2010/09/07(火) 20:47:53 ID:vl9EA7T60

 魔法使い達は尚も探求を続けた。
 無限の力、繁栄を極める世界の中で。
 まだ謎に満ちた星の海が彼らを駆り立てる。
 研究者達に追随し、多くの人間達が空へと向かう。

 増えすぎた人間達は開拓を始めたのだ。
 それは、形を成した。
 すなわち第二の月。
 人によって作られた模倣の月が、地上に瞬きを投げかける。

 星の海に人間が住むようになった。
 星の海に、歪みが生まれていた。
 だが、人間達がそれに気が付く事は無い。
 歪みに微かな危機感を抱いたのは、他ならぬ魔法使い達であった。

 世界が変わり始める中で、再び発明が生まれる。
 星の海より生まれる無限の活力が、人間を介する事を可能としたのだ。
 それは極小の機械の様な物で、体に同じく抗体を持つ者達に言語の壁を越えさせた。
 抗体は、身の一部を機械化する物であった

 機械の体を持つ一部の人類は、完全な意思疎通を実現した。
 言語はいらない、距離もいとわない。
 人の意思は世界を越える。

70: 2010/09/07(火) 20:48:49 ID:vl9EA7T60

―塔 階層19 踊り場―



( ´∀`)「まぁ、こんなもんさ……」

 体の節々から血を流すモナーが近くの陰にそう言った。

ξ;゚⊿゚)ξ「さすがに……」

 何に答えたか、ツンが伏したまま声を出す。

川 ゚ -゚)「負けか。やはり……という感じだが」

 折れた刀を離さないクーも、砕けた地面に膝をついている。

(´・ω・`)「十分だよ……後はブーンがどうしたかだね」

 仰向けに倒れ、虚空を見上げるショボンが彼らの総意を現した。

 そして向かい合う四人が歩を進めてきた。

( ゚∀゚)「心配すんな、氏にはしねぇ。すぐ戻るから大人しくしてろ」

 守護者達の関心は既に塔の頂上に移っているらしい。
 まったく、負けた方の四人も相当な使い手だと思うのだが。
 大体一人は先代の守護者なのではないのか。
 神の武器グングニルが良い証拠だ。

71: 2010/09/07(火) 20:49:32 ID:vl9EA7T60

(*゚ー゚) 「これ、薬置いてくよ。みんな、早く先に行こう」

 守護者しぃ、四人の中で一番危険に感じる。
 原因は恐らく『神』への盲信だ。
 決戦のおりは心強かったが、今はこういったのが一番怖い。

ノハ;゚⊿゚)「クー、大丈夫だからな! すぐ戻るからな!」

 それにしても連中、余裕だ。
 守護者とは圧倒的な存在である事を再確認する。

(;^Д^)「……ん? 誰だ」

 四人の守護者の内一名が、俺に気が付いた。
 長い階段を静かに歩いていたはずだったが結構目立つらしい。

( ゚∀゚)「……まだ何かいんのか」

 苛立ちをあらわにジョルジュが俺を睨みつける。
 恐怖は確かにある。
 だが、俺の中でやるべき事は決まっていた。

('A`)「……」

 階段を下りる。
 百段以上ある階段も、現在は二段程の意味しか持たず、
 あっという間に俺の脚は踊り場を踏んだ。

72: 2010/09/07(火) 20:50:24 ID:vl9EA7T60

(*゚ー゚) 「先に言うよ……」

 道を開けろ、そう言われるより先に俺は言った。

('A`)「先に言います、あたな方の邪魔をします」

 魔法を起動した。
 紫色の光が俺の左手に集まり、球体を形作る。
 まずは精製された柄を握り一息に引き抜く。
 紫の魔法剣が一振り。

 とりあえず少しだけ時間を稼いでやる、ブーン。

( ゚∀゚)「どけ」

 明確な殺意。
 俺の対して手加減はないらしい。
 それはそうだ、何せ知り合いではないのだから。

 動かないと見るや、ジョルジュは一直線に疾駆した。
 到達点には俺がいる。
 刃と刃のぶつかり合いになる。

 赤い光が視界を覆った。
 砕け散った紫の剣が周囲を舞いながら、吹き飛ばされた。
 剣圧だけで人体を吹き飛ばせるものなのか。
 そんな事を考えた。

73: 2010/09/07(火) 20:51:14 ID:vl9EA7T60

 勿論、予想の上だ。
 やはり使わねばならない。
 何かの縁だ、力を見せろ『ユグドラシル』。

 不可視の衝撃の後、時間は動き出した。
 地面に到達した俺はどう見えたのだろう。
 気が付けば、両足で地面を踏みしめ、右手に水晶体を掴んでいる。

( ゚∀゚)「……!?」

 危険とみたジョルジュが退く。

ξ;゚⊿゚)ξ「透明……」

 明かりだった。
 ぼんやりと、それは現実の中に出現している。

川 ゚ -゚)「あの光……確かモララーの」

 水晶の剣、無色の刃、透明な武器。
 何やら柄の部分に穴が空いている。
 貰った時には無かったはずだ。

 この穴、形に見おぼえがある。
 首から下がったマタンキの遺品を取り出した。
 透き通った紫の石が、何かを訴えるように淡く輝く。

74: 2010/09/07(火) 20:51:57 ID:vl9EA7T60
 
 方向を合わせて、押し込む。
 ぴったりと柄の中に収まった。
 そして、『石』の記憶が『ユグドラシル』に刻まれた。
 旅で、決戦で、パンデモニウムで、氏した人間達の記憶が。

('A`)「知らねぇだろうから教えてやる」

 氏の記憶が魔力へと変わる。
 魔力は、意思へと昇華する。

(#'A`)「あんたら英雄の陰で、あんたらを信じて氏んだ奴らの事をな」

 知らず知らずの間に俺は叫んでいた。
 目的は頃す事でも傷つける事でもない。
 ただ、記憶を伝える為に。

 『武器……接続』

 ユグドラシルが俺に声をかけた。
 古代語ではなく、現代の言葉で。

75: 2010/09/07(火) 20:52:45 ID:vl9EA7T60

 二つ目の月が完成してから時間が流れた。
 しかし、魔法使い達は年老いていない。
 機械の体を持つ者は増えて、星の海に思いをはせる。
 人間は増えていく。

 大地と月、二つの住処で魔法は発展した。
 機械の身を持たぬ者でも、生身のままで魔法が使えるように。
 生活の中で、人々は魔法を使い、無限とも言える発展を夢見た。
 いや、人間は星の海を越えると確信していた。

 星の海という永劫の探究。
 森羅万象の真理へと、人間は旅立った。
 炎の星を越え、木々の星を越え、土の星を越え。
 視界に映った世界を越えて、暗闇と臨む。

 その先に更なる理想郷への鍵があると信じて。
 魔法使い達は世界の為に、まさしく身を捧げた。

76: 2010/09/07(火) 20:53:49 ID:vl9EA7T60

―塔 頂上 ( ^ω^)―



(;^ω^)「悠長に伝承なんか……!」

 魔法が無いなら素手でもいい。
 確実に世界は破滅へと向かっている。
 『塔』を上って来たからこそ、分かる。
 道中で断片的に渡されたデータが像を結びかけていた。

 足元に広がる水面を疾走した。
 一歩ごとに波紋が広がり、無数に混じり合っていく。
 太陽と双月の下、右腕を走らせる。

 仮面を狙った僕の腕が空中で静止した。

( ^ω^)「……!」

 僕の拳は、仮面の僅か手前にあった。
 間合いは十分に詰めたはずである。

|::━◎┥「かくして、大いなる魔法使い達は星の海の果てを目指した」

 ハグルマの王が一歩だけ足を進めた。
 彼が座っていた岩だけが僕の眼前に残る。
 消えたのだ。

 どこにだ、振り返った僕は既に無数の剣に取り囲まれていた。

77: 2010/09/07(火) 20:55:14 ID:vl9EA7T60

( ФωФ)「……」

 入って来た扉は消え去り、代わりに一人の男が。

(;^ω^)「……っ」

 瞬き一回。
 剣は消えて、水面が揺れた。
 再び周囲に人影が消える。

 違う、ここにいる。
 頭に聞こえた声の方へと首を動かす。

(`・ω・´)「会うのは初めてか、君にとっては」

(;^ω^)「ショボン……?」

 反射的に出た声を遮って返答が来た。

(`・ω・´)「弟が世話になってるね。僕はシャキンだ」

 確か、ショボンの兄は行方不明だっただろうか。
 居るとなると辿りついたのか、『塔』に。

 何かが頭の上で輝いた。
 二つの月明かりが、太陽の光以上に浮かび上がった。
 僕の視線は岩の辺りまで回帰する。

78: 2010/09/07(火) 20:56:17 ID:vl9EA7T60

 黒いローブのロマネスク。
 白いローブのシャキン。
 そして、三人目の影が交差して灰色の姿へと帰結した。

|::━◎┥「結果から言おう。星の海の果て、人間達はそこに至った」

 歯車の王は灰色のローブを翻す。
 三人は一人、等価の存在である。
 情報が頭の中に届いた。

(;^ω^)「……あなた達は、何なんだお」

|::━◎┥「今現在は『塔』から世界を見守る管理者だ」

 管理者という言葉に途方もない違和感を覚えた。

( ^ω^)「管理……何をどうやって管理してるんだお」

 次々と情報が送られてくる。
 世界の管理、項目は多岐に及ぶ。
 だが、今やその殆どが点検を中止していた。
 『塔』の機能に障害が発生しているのだ。

(;^ω^)「……これは」

 現在の管理状況。
 その中でも最大の優先度を占めていたのは『人口の管理』。
 増えすぎたならば、除去される。
 人口調節の方法は数あれど、一番規模の大きい物がある。

79: 2010/09/07(火) 20:57:13 ID:vl9EA7T60

(;^ω^)「そんな理由で戦争を起こしていたのかお……!」

 古来より続く争いの歴史。
 戦争により魔王が目覚めるとする常識。
 管理されているのだ。
 この世界は。

|::━◎┥「私は最後の管理者だ。他の個体は機能を停止している」

 ならば、目の前の者が『神』というのは間違っていない。

(;^ω^)「じゃあ、ゼアフォーは……」

|::━◎┥「彼は私が造った世界介入用の独立AIだ。
      各地を回り戦争を発生させるべく行動させていた」

 本来ならば大戦が起これば人口は調節された。
 しかし今回、僅か七年の歳月しか猶予が生まれなかった。
 人口や文明の復興が想定以上の速度で進んだのだ。
 何故だろう。

(;^ω^)「……いや」

 そのような事はどうでもよかった。
 問題なのは、『多くの人間を消す力』。
 つまりは驚異の象徴である存在が世界にはある。

80: 2010/09/07(火) 20:58:03 ID:vl9EA7T60

(;^ω^)「魔王だお、魔王は!」

 事実のみを、ハグルマの王は伝えた。

|::━◎┥「その通りだ。『魔王』は『神の武器』の一つ」

 白の魔法の、と付け加えた。
 全ての『神の武器』が揃う。
 七色と透明の力が。

|::━◎┥「一応は私が所持している。今は修復中だが」

 神の武器を振るう者。
 それは一つしかないだろう。
 僕の考えを読んだかのように声が続く。

|::━◎┥「勘違いをしては困るな、私は『神』などではない。
      『武器』を完全に使えるのは人間だけだ」

 つまり、ハグルマの王は人間ではない。

|::━◎┥「そう言えばまだ名乗ってなかったな……」

 そう言うと、仮面をはずした。
 素顔には見おぼえがある。

81: 2010/09/07(火) 20:58:49 ID:vl9EA7T60

(-_-)「私の固有コードはヒッキー、最後のプロトナンバーだ」

 白の守護者シューと同じ顔だ。
 機械の体を持つシューと。

(;^ω^)「ヒッキー……シュー……だったら体は」

 与えられた情報。
 それらを何とか繋ぎ合わせる。
 シューは、ヒッキーより後のナンバーを持っている。
 ヒッキーに比べると幾つかの機能が削られているらしい。

(-_-)「機械だ。命令は『世界のハグルマを円滑に回す事』」

 古代語の訳で自身への命令を説明し、背後の岩へと背を預けた。
 
 断片的で抽象的であった過去の歴史が像を結ぶ。
 一欠片の真実が手の上に。

82: 2010/09/07(火) 20:59:45 ID:vl9EA7T60

 七人の科学者が造りだした『魔力』。
 その実体は、宇宙物質ダークマターを転用した『ナノマシン』。
 見えないエネルギーなどではない。
 小さなナノマシンを大気中に集中する事で現象を発生させるのだ。

 起動スイッチは脳波だ。 
 微細な電流であるそれを読み取り、ナノマシン達が周囲のナノマシンに伝える。
 こうして『魔法』は発現し、発動者の意思を伝えるのだ。
 条件を満たした者なら、誰でも使えた。

 簡単な事だ。
 管理マシンを体内に持てばいい。
 要するに証明書である。
 昔は全身を機械にするしかなかったが、やがて半身になり一部になっていく。

 やがて管理マシンから生体ナノマシンを体に持てばいいだけになり、
 機械人間達はいなくなった。 
 残ったのは無限の力と、後に完全なコミュニケ―ションを実現する人間。
 そして人間に支配されるロボット達だった。

 現在の、世界の源流が生まれた。

 人間は増え、宇宙に生活の場、『コロニー』が生まれるのは必然であった。
 地球より小さくて丁度二つ目の月に見える。
 通称、第二の月『セカンドムーン』などと呼ばれた。

 大気中ナノマシンと、コロニーの管理を行うのは八つの『塔』
 宇宙まで届く塔が、その時代には惑星から生まれていく。
 まさしく宇宙開拓の時代だった。

83: 2010/09/07(火) 21:00:50 ID:vl9EA7T60

 空に浮かぶ二つの月。
 溢れる無限の魔力。
 今に伝えられる伝承の、繁栄の時とも言えた。
 その後、人類は宇宙の果てに辿りつく事になるのだ。

 宇宙航海時代が終わっても、
 人間は他の星に生命体を見つける事はなかった。
 太陽系が属する銀河に、人間が蔓延してもだ。
 果たして、何故。

 多くの人間達が疑問に思う中、七人の科学者達が戻って来た。
 宇宙の果てを見て。
 銀河を外から見て。
 戻って来た。
 
 彼らの母星、『地球』へと。

84: 2010/09/07(火) 21:02:01 ID:vl9EA7T60

―塔 頂上 管理ルーム ( ^ω^)―



(`・ω・´)「君は二属性の魔法を使える事を疑問に思った事はないか」

 気が付くと水面も太陽も月も消えていた。
 代わりに、白い金属の床がどこまでも冗談のように広がっていた。
 遠くは白い靄に様に見え、はっきりとしない。
 床の四角い継ぎ目だけが視界に黒という色を残す。

(`・ω・´)「そして恐らく、こう認識しているはずだ」

 『何故、周りの者は二属性の魔法が使えないのか』

 意識だけで、シャキンと言葉が重なった。

(`・ω・´)「それが答えさ。使えるんだよ、二つどころか何属性でも」

 言っている事に不思議な点は何も無い。
 僕が抜けているからだろうが、僕に複数属性という認識が出来たのは最近だ。
 以前は大体どの魔法も同じだろうと思っていた。

(`・ω・´)「君の認識の甘さゆえに、君の力は常識から外れた」

 どこまでも白い空間でシャキンが近づいてくる。

(`・ω・´)「『使える』と認識すれば魔法というコードは起動するのさ。
       最も、こういった常識は前の時代に定められて公布されたらしいが」

85: 2010/09/07(火) 21:02:51 ID:vl9EA7T60

 使える。
 頭の中で再度呟くと、僕の手には紫の光や青の光がついては消える。

(`・ω・´)「コードという鍵、魔法という鍵、役者も揃った」

 白亜の広間に黒が一点。
 姿が入れ替わっている。

( ФωФ)「まだ身内に疑問があるだろう、モララーというな」

 黒いローブの男が、ロマネスクが背後に立っていた。

( ФωФ)「彼の出自は知っていよう、大昔の開拓民だ。
        遺跡によって機械の体を得てはいたが」

 彼は驚いた僕に構わず話を続ける。

( ФωФ)「問題になってくるのはモララーの目的だ。
        元の体に戻る事が一つ、そのついでに各地のデータベースを見ていた。
        それで知ったのだろう。『亡霊の復権』を」

 靄がかった空間に巨大な映像が映し出された。
 それは、広い墓地であったり、暗い氷山であったり。

( ФωФ)「かつてあった戦争の後、未来の世界に復活すべく眠りについた人間達だ。
        各地にある遺跡の中で条件にあう日を待っているのだろう」

 僕の頭の中に旅の記憶が呼び覚まされた。
 それは、黄の国の大きな遺跡や海底洞窟に先にあったドーム状の建造物。

86: 2010/09/07(火) 21:03:48 ID:vl9EA7T60

( ФωФ)「防衛システムとして、『龍』が配備されていたようだが模造品も多かったようだ。
        モララーは各地の動力を破壊して、古人の復活を妨げていた。人の事は言えぬがな」
 
(;^ω^)「モララーさんがそんな事を……」

( ФωФ)「おぼろげながら知った『魔王の復活条件』を防ぐためだった。
        多くの人間がコールドスリープから醒めれば、人口は爆発的に増える。
        そして先の大戦のおりにモナーと出会い、強度歩調を取った」

 そんなところだろう、と言った時、背後に映っていた映像が途切れた。

(;^ω^)「モナーさんはそれだけ信用できる存在。
      悪く言えば、『神』を信じない人間だったって事かお」

( ФωФ)「加えて言うなら、他の守護者が心のどこかで『神』を信じ過ぎた。
        『彗星』から世界を救ったのは……モララーが人間だったからだろうな」

 水晶の彗星、ラグナロク。
 魔王決戦のさなかに大陸に降り立った光は、管理者達でも手の施しようが無かった。
 水晶衝突の未来は、因果律の中に確固として存在していたのだ。

( ФωФ)「だからこそモララーの働きは大きい、管理者の支配を受ける俺達では動けない。
        機械でありながら支配を免れ、透明な力を行使する彼のみが、救世主たりえた」

 彗星の破壊、と言わなかった以上、破壊されたのは模倣された世界の方だ。

( ФωФ)「然り。彼は世界を創造した、だが、疑問点はあるだろう」

87: 2010/09/07(火) 21:04:47 ID:vl9EA7T60

 確かに。
 明らかな問題点が一つある。

( ^ω^)「……何処に造ったか、かお」

 世界は完全に模倣された。
 ならば、大きさまで同じはずだ。
 特異点であったモララー本人を除き、寸分たがわず。

( ФωФ)「そうだ、空間には属性がある、同じものは同一空間に存在できない」

 その通りだ、場所がない。
 とは思うが僕も塔の頂上まで走り抜ける最中にデータベースを閲覧している。

( ^ω^)「答えは、『隣の次元』だお」

 僕の回答を待っていたかのように、ロマネスクの姿が掻き消えた。
 既に背後に居る事が分かった。

88: 2010/09/07(火) 21:05:31 ID:vl9EA7T60

(-_-)「我々の短い旅も終りに近づいている。
     この最後の欠片をもって、終着点だ」

 古代の言葉が翻訳されていく。

(-_-)「先程の結論、宇宙の果てについてだが……」

 白い床が、動き始めた。
 天へと向かって。

(-_-)「特別な事は無い、『何も無かったのだ』」

89: 2010/09/07(火) 21:06:17 ID:vl9EA7T60

 地球に戻った七人の魔法使い達は、急いだ。
 彼らはあまりにも優れた存在だった。
 それゆえに、森羅万象の流れを読んでしまう。
 望む望まざるに関わらず。

 見立てでは、数年持たずに大きな戦いが始まるだろう。
 宇宙開拓の時代は、彼らの中では終焉を迎えている。
 果たして最果てで何を見たのか?

 それは、摂理の様な物であった。
 全ての存在を否定する『ライン』が引かれていた。
 黒く、白く、石の様であり、水の様であり、真実であった。
 宇宙の果ては、存在する『無』が横たわっているのだ。

 最果てに触れた者はいない。
 いや、正確には居たのかもしれない。
 触れれば、存在できない、存在しなくなる。
 ゆえに誰が触れたのかは分からない、触れた者はいない。

 それらの事実を彼らに教えたのは、恐らくは摂理か、『無』の意識だろう。
 超越不可能の『無』は、宇宙開拓をそれ以上不可能にする事と同じだ。
 例えば多くの人間がそれに触れれば、間違いなく世界は傾く。
 多くの人間と繋がった人間は、それ位、消失には弱くなっている。

 宇宙開拓は、世界の為に終えるべきだ。
 閉じられた楽園で、生きるべきだ。
 七人の魔法使い達は、そう取り決めた。
 迫る大戦に追い立てられるように。

90: 2010/09/07(火) 21:08:14 ID:vl9EA7T60

 開拓を止める声、開拓を進める声。
 不協和音が宇宙に鳴っていた。

 起点は、『塔』、すなわち軌道エレベータの相互転移を可能にした事だった。
 各『塔』を介して世界を行き来出来るようになった人間達は、地上を掌握する。
 当然ながら更なる宇宙開拓に乗り出そうとした。
 だが、地球の人間達は宇宙に気を払っていない。

 七人の魔法使い達の意思を受け、二番目の月は開拓を止める前線基地へと変貌していた。
 天と地、宇宙と地球を介する星間戦争。
 これから、永きにわたる『魔法戦争』が始まる事になった。

 百年。
 実に戦争は続いた。
 皮肉にも、戦いの中で宇宙間使用に耐える魔法技術は大成する。
 果てのある宇宙は、それにどのような意味を与えるのだろう。

 星の海を渡る船、機械の巨人、破壊の兵器。
 魔法と共に戦禍は広がり、銀河は虹色に輝く。
 戦いの終りが来た。
 終結の鍵となったのは、魔法以前の古い力、破滅の力。

 『核』と呼ばれる、世界を形作る物を反応させたエネルギーだった。
 古代から歴史の表舞台に殆ど出現しない存在。
 全てを消滅させる光が、第二の月に閃いた。

 大きな打撃を受けたコロニーは戦闘継続が不可能になった。
 『魔法戦争』は地球の勝利という形で幕を閉じる。
 それが文明消滅の始まりともなった。

91: 2010/09/07(火) 21:09:05 ID:vl9EA7T60

 魔法を危険視する風潮。
 意識を繋げる事への不安。
 力を持つ者への不信感。
 そして、人間という種の是非。

 混乱続く地球は一つの計画を実行する。
 月、つまりコロニーの牢獄化だ。
 高い能力を持つ者や危険と判断された者がコロニーへと幽閉される。
 能力があるゆえに、世界を憂う者が多かった。

 コロニーは戦争後、誰も立ち入っていなかった。
 核の影響もあるであろうし、高い能力を持つ魔法使いも生き残っているだろう。
 要するに戦争後、コロニーは閉鎖状態が続いていたのだ。
 次々と、幽閉される者が送り込まれていった。

 だが、コロニーは打撃により自活できない状態にもある。
 内部にいる者達はその内氏んでしまうだろう。
 地球側の代表はコロニーから人間を一掃するつもりでいた。

 魔法戦争中、宇宙軍の指揮を執っていたのは七人の魔法使い達だ。
 彼らは開戦時には体を失っていたと思われる。
 だが、魔法を継ぐ存在であった彼らは、意識を介して人間の中で生きていた。
 そうまでして生きた理由は、ひとえに世界の為であった。

 意識は、世界を越える。
 月と言うコロニーの中で、意識は集まっていった。
 世界とは、意識の集まりである。
 当時の規定によるならば、地球のすぐ近くで『世界』が誕生したのだ。

92: 2010/09/07(火) 21:10:16 ID:vl9EA7T60

 純粋意識の世界が。
 誕生した『新世界』は、『世界の為に』浸食を始めた。
 全ての法則も定理も、もはや意味は無かった。
 新たに創造された『世界』が古き世界を消滅させんと膨張を続ける。

 それは、戦争などとは言わない。
 世界の存亡と、生き残りをかけた意思のぶつかり合い。
 星の海に意識が散っていく。
 万能となった人間達は、やはり神ではなかった。

 新世界という神に対して、多くの犠牲を払いながらした事。
 『否定』であった。
 全世界の力で、『新世界』つまり『神』を否定したのだ。
 神の存在は一瞬の揺らぎを余儀なくされた。

 僅かばかり力の弱まった『神』を、隣の次元に追いやる。
 次元を超える方法をもたらしたのは他ならぬ『神』であった。
 ここに、世界の封印が行われた。

93: 2010/09/07(火) 21:11:00 ID:vl9EA7T60

―塔 頂上 軌道エレベータ ( ^ω^)―



 昇っている。
 眼下に惑星を見ながら。
 薄い雲の壁を通り、星の海へ。

(-_-)「理解に至っただろうか」

( ^ω^)「……」

 宇宙の果てに存在する『無』。
 かつて勃発した『魔法戦争』。
 終末の時に生まれた『新世界』。
 いずれも現代を生きる僕の認識を越えていた。

(-_-)「だろうな。しかしながら、もはや状況は避けられない」

 白い雲を抜けた。
 大気圏内を、惑星と言う球体を感じながら進む。

( ^ω^)「何が迫っているんだお」

(-_-)「それくらいは解して欲しかったが……それも因果か」

94: 2010/09/07(火) 21:11:58 ID:vl9EA7T60

 地表内部に存在する量子演算装置を繋ぎ、未来を予測する。
 留意しなければならない。
 僕も、ヒッキー達と等価の存在へとなりえる。
 気を付けていても時間の問題だろうが。

(;^ω^)「これ、どうにかならないのかお?」

 頭の中に嵐が吹き荒れているようだ。
 幸いにも内部が空っぽだったので整理、
 つまり精神の再構築には時間がかからない。
 飲まれれば、僕も管理者、といった所か。

(-_-)「もう少しで宇宙に至る。
     莫大なエネルギーを使えば精神固定は容易い」

(;^ω^)「あんまり人の精神力を過大評価しないでほしいお」

(-_-)「だからこそ、ここに辿りつけたのだ」

 星の回廊を越えた。
 音が消えた。

( ^ω^)「……」

 目の前に黒い『海』が広がっていた。
 無数の星が、淡い光と共に蒼穹に浮かんでいる。
 足元には白い床。
 遥彼方に青い惑星が、それでもなお巨大に存在していた。

95: 2010/09/07(火) 21:12:46 ID:vl9EA7T60

(-_-)「用もなくこんな場所まで来る訳はない」

 まるで確認するかのようにヒッキーが言葉を紡ぐ。

(-_-)「因果から離れた世界に、皮肉にも太古の因果が訪れる」

 星の海に『管理者』の声だけが響いていた。
 そこに徐々にだが奇妙な音が混じりこんでいく。

( ^ω^)「世界の果て……『無』ってやつに行くのかお?」

(-_-)「そんな必要はない。破滅が来てくれる」

 その言葉が意味するところ。

(-_-)「そうだ。彗星ラグナロク同様、これもまた因果」

 星の海が揺らぐ。
 暴風雨の様な衝撃が断続的に発生する。

(-_-)「今日、この日……」

 宇宙に何かが現れた。
 それは、映像の様でもあるし、物体の様でもある。
 逆三角形の紋章が古代語を伴って浮かぶ。
 紋章の中心に、無機質な眼光を感じる。

(-_-)「『封印』は破壊される」

96: 2010/09/07(火) 21:13:41 ID:vl9EA7T60

 そして星の海に亀裂が走った。
 星空を砕きながら、それは浸食を始める。
 いや、古代の戦いを鑑みるなら、浸食を再開した。
 目の前で、新たなる世界が封印を破る。

(;^ω^)「神、かお」

(-_-)「その認識は一部において正しい。
     あれこそが『神』にして『新世界』、そして『無』……」

 理解不能にして全てを内包する虚無。
 存在自体が矛盾しながら、その矛盾すらも破壊する超存在。

(-_-)「あんなものに文明の利器で挑もうとしたのが間違いなのかもしれない。
     しかしながら常識は捨てがたい」

 ゆえに、古の人類は『神』に敵対するため、名前を付けた。
 ただ感じることしか出来ない存在に。

97: 2010/09/07(火) 21:14:24 ID:vl9EA7T60

(-_-)「敵対コード……」

 彼方に見える逆三角形の紋章の周りに、一文字ずつ記号が現れる。
 まるで封印としての抵抗を見せるようだ。

 『t』 『a』 『n』 『a』 『s』 『i』 『n』 『n』

 文字列は、僕の中に意味を結ばなかった。

(-_-)「……タナシン」

 星の海に、虚無が波紋を生む。



最終章 透明の世界  第二十七話「正位置と逆位置の『太陽』」  完

101: 2010/09/08(水) 21:17:53 ID:DMu/Jaec0



 再臨せし虚無との邂逅


 裁く者と裁かれる者


 神々の黄昏



( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

最終章 透明の世界  第二十八話「正位置と逆位置の『審判』」

102: 2010/09/08(水) 21:18:55 ID:DMu/Jaec0

 神の封印を終えて、人間達は疲れ果てていた。
 必要であったのだ。
 より強き意思を持つ者が。
 心を持った、人間が。

 最後の選択は、心を強化する為の文明放棄。
 新たなる世界体制の下に子孫たちにより強い心を持たせる。
 今現在を生きる自分たちには、もはや弱い心しかない。
 残った者達も『魔法使い達』と同じ様に、自らを犠牲にしたのだ。

 時を越え、理想の世界が再び訪れる事を願って。

 魔法を七つの力に制限し、後の魔王という抑止力を付ける。
 戦争を常識的に封じ、精神意識の発達を促す。
 人間性の強化は果たして成功したのか。
 答えは、まだ像を結んでいない。

 因果を表舞台から消し去り、マホウは世界に残る。
 魔法の下、国は生まれて行った。

 ロマネスクと呼ばれる者が武器を使い、
 魔王という抑止力を打倒する事で世界体制は確立した。
 守護者と魔王、魔物達の緊張均衡状態。

 そして全てを知ったロマネスクは管理コンピュータに飲み込まれ、
 管理者として世界を見守る。
 人間であった彼は、最後の意思として古代遺跡の破壊を行っていた。
 奇しくも、その行動はモララーと重なる事になる。

103: 2010/09/08(水) 21:19:48 ID:DMu/Jaec0

 時折、魔物を使い環境を整備しながら、永い時を世界は過ごす。
 シャキンという冒険者が塔を訪れたのは世界が終りに近づく頃であった。
 意思を実行する人格が足りなかった状況から、シャキンは塔に飲み込まれ、
 管理者の一人となった。

 それが、塔による浸食であったのか、シャキンの意思であったかは分からない。
 だが彼もまた世界の未来を迎える為に『神の武器』の使用者を探していた。
 武器は魔法と同じで誰でも使える力だ。
 こうした事実があるだけに、使用者は慎重に選ぶ必要がある。

 今や八年前となった魔王大戦。
 六名の若者たちに『神の武器』が与えられた点には理由がある。
 あの頃、若者達は世界を守るという所に全力を尽くしていた。
 意味するのは破壊者となりえない事だ。

 限定的にではあるが暴走を起こさぬ使用者。
 方向性は気にならない。
 一点に意思を集中していれば、操る事は容易い。
 分かりやすい敵を向けてやればいいのだから。

 それは彗星ラグナロクを破壊する力となりえたが、
 力の集中は彗星衝突に間に合う事は無かった。
 後の未来、その最後の時間を、僕は進んできた。

104: 2010/09/08(水) 21:21:04 ID:DMu/Jaec0

―宇宙空間 エリア・ヴィーグリーズ ( ^ω^)―



 僕達、世界の人間達が『塔』と呼ぶ物。
 その終着点は星の海であった。
 漆黒の世界には音がない。
 虚空続く宇宙で、降臨しようとしていた。

 逆三角形の封印を、幾つかの古代文字を破壊して。
 外敵を現すコード、名前が頭の中に反響している。
 新たなる世界にして『無』、『有』を浸食する存在。
 おおよそ理解の範疇を越えたモノ。

 人は、それを『神』といったのではないか。

 波紋が広がった。
 害意、悪意、敵意、負の意識が波となって押し寄せている。
 間違いなく、全ては破壊されるだろう。
 破滅こそが『神』の目的だ。

( ^ω^)「……タナシン」

 そっと、神の名を繰り返す。
 塔の頂上で待っていたのが、古代の破壊者だとは思わなかった。

(-_-)「気に病むな。誰がここに至っても不思議ではなかった。
     君の力が足らなかったゆえに、君がここにたどり着いたように」

105: 2010/09/08(水) 21:22:18 ID:DMu/Jaec0

 世界は、恐らく既に因果の呪縛から解き放たれている。
 古代にタナシンを封印した時から。
 自分でも意外だった様に、ヒッキーはそう言った。
 その顔にはおかしみすら浮かんでいた。

(-_-)「だから、こういった奇妙な事も起きうる」

 言葉が変だったのでヒッキーの方を振り返った。

从 ゚∀从「話は半分くらい聞いたぜ」

 白い床に突如として守護者ハインリッヒが、いた。

(;^ω^)「うわ! ハインさん!? やっぱりこんな所まで僕を止めに!?」

从 ゚∀从「あーいや、何だかよく分からなかったからこっちに来たのさ」

 鍵も開いてたしな。
 そんな声も聞こえた。

(;^ω^)「ってことは……」

从 ゚∀从「一勝負やるんだろ? あれと」

 ハインの指が砕け行く封印へと向いた。

从 ゚∀从「なんだってんなら付き合うぜ?」

(;^ω^)「……本当ですかお?」

106: 2010/09/08(水) 21:23:08 ID:DMu/Jaec0

从 ゚∀从「おまえちょっと疑り深くなったよな」

 珍しくハインがため息をついた。
 その肩に白い手がおかれる。

lw´‐ _‐ノv「いやー何分旅路が苦しかったもので……」

从 ゚∀从「苦労してんだな……誰だあんた」

 光の聖女が、やはり突然その場にいた。

(;^ω^)「……シュー?」

 どうなっているのだ。
 ハインは塔にいたのだからまだしも、シューは空中庭園に残してきた。
 可能にする手は、魔法だった。
 ならば情報の伝達も完了しているのだろう。

lw´‐ _‐ノv「転移魔法だよ。
       ここまでの正式座標に何か動きがあったし魔力も回復したし」

 それで来てしまうのはどうかと思うが。

lw´‐ _‐ノv「ふふ、あれと勝負すんだろ? 付き合うぜ!」

(;^ω^)「本当に状況分かってんのかお」

 僕自身分かっていないが、それでも伝承を聞いている。
 とてつもなく危険な存在である事は感覚的に分かっていた。

107: 2010/09/08(水) 21:23:57 ID:DMu/Jaec0

lw´‐ _‐ノv「まぁ、私は機械だから理解は出来たけどね」

从 ゚∀从「俺も何となく分かっているぜ」

(;^ω^)「そりゃ頭の良い事で」

 そうであった、基本的に僕は平均以下だ。
 状況を整理してシンプルにまとめる。
 定めれば良い。
 僕の目的は何だ。

 ここまで僕を送ってくれた仲間達がまだ地上にはいる。
 それだけでいい。
 『神』を撃滅しなければ、星は終わる。
 それだけでいい。

( ^ω^)「……取りあえず、目の前の奴を叩くお」

从 ゚∀从「簡単でいいな」

lw´‐ _‐ノv「シンプルだね」

 僕達の意思は固まった。
 あなた達はどうだ。

109: 2010/09/08(水) 21:24:58 ID:DMu/Jaec0

(-_-)「それが人間の選択ならば、私は従おう」

 管理者が、背後で演算処理を始めた。

( ФωФ)「俺もまた役割を果たそう」

 勇者が、ハインの隣に立つ。

(`・ω・´)「僕はこの時の為に準備してきた訳だからね」

 探求者が、シューの隣に現れる。

 合計六名。
 かつて全世界が一丸となり相対した『神』に、たったそれだけで挑む。
 だが、希望はある。

(`・ω・´)「一人、透明の剣が塔に残った。彼が『神の武器』を繋ぐかもしれない」

 宇宙で命運を賭けて戦いながら、地上の決着こそが地球を左右する。
 奇妙な図式だった。

( ^ω^)「……」

 しかし、ちょっとばかり遠くないだろうか。
 ここから神を殴りに行くのでは大変だ。
 僕が考えている間に、真横では何やら事が進む。

110: 2010/09/08(水) 21:25:53 ID:DMu/Jaec0

(-_-)「ナンバー……いや、シュール。君に『神の武器』を譲渡する」

lw´‐ _‐ノv「魔王?」

(-_-)「今の人間達はそう呼ぶが、正式名称は違う」

 ヒッキーが両腕を広げると、高速で数式が空間を走り抜けていく。
 
(-_-)「ハインリッヒ。神の武器を起動しろ」

从 ゚∀从「……? ああ」

 すると、僕は二度目の『ヨトゥンヘイム・ヨツムンガルド』を見る事になった。
 変わらず、影が揺らぐその姿は、形に変異をきたしていた。
 決戦の時は獣そのものであったが、目の前にあるのは巨大な人影。
 人間の形を模している。

从 ゚∀从「……こんなんだったかな」

(;^ω^)「あんたが忘れてどうするんですかお」

 だが、青い眼光は依然変わっていない。

lw´‐ _‐ノv「これがコードかい?」

(-_-)「ああ、そうだ」

111: 2010/09/08(水) 21:27:01 ID:DMu/Jaec0

 一方でシューが片手を掲げると空間に白い数式が羅列する。
 僕達の頭に『白の神の武器』、その名称が響く。
 
 『ヴァナヘイム・フレイヤ』

 長い時間を魔王と呼ばれた神の武器が姿を現した。
 内部に空洞を持つ、光の鎧。
 脚部までも完全に修復された姿で、ヨツムンガルドの隣に浮かぶ。

(-_-)「魔法連鎖を行う。二人とも魔力を解放しろ」

 魔女と聖女の力、すなわち黒と白の力が反発し、展開していく。
 目の前に浮かぶ二つの神の武器が動き出した。

( ФωФ)「定理入力完了」

(`・ω・´)「融合を開始するよ」

 ヨツムンガルドとフレイヤ。
 神の武器は、その真の姿へと昇華した。
 無限の魔力を纏う光の巨人。
 青い眼光が、装甲の奥で輝いた。

(;^ω^)「くっついたのかお?」

(-_-)「ヨツムンガルドはそれぞれ武器の核となる。
     フレイヤは基本兵装の一つ、定理を操る鎧だ」

112: 2010/09/08(水) 21:27:54 ID:DMu/Jaec0

从 ゚∀从「何でもいいけど、二つが一つになったら損じゃね?」

(-_-)「仮想動力炉において魔法連鎖が行わなければ出力が出ない」

 黒と白を一つにした事でエネルギーは反発して爆発的に増殖する。
 加えて疑似的に物理法則をも操れる。
 破魔の鎧である魔王の力で、地上にある規模の魔法なら無力化も可能だ。

lw´‐ _‐ノv「それよりブーン、さっさと動かして」

(;^ω^)「どうやって……? その前にアレで戦うのかお?」

(-_-)「これより我々は、自身を魔力へと還元して神の武器と融合する」

(;^ω^)「危なくないのかお」

(`・ω・´)「やんなくても危ないけどね」

 『神』を眺めながらシャキンが言った。
 どことなくショボンと似た喋り方である。

 一瞬、景色が揺らいだと感じると、僕達は『神』に近づいていた。
 正確には巨人の眼の内部へと移動していたのだ。
 円形の広間に沿って、皆は並んでいた。
 何故か僕は中心にいる。

lw´‐ _‐ノv「搭乗場所は左目なんだね」

113: 2010/09/08(水) 21:28:48 ID:DMu/Jaec0

( ФωФ)「右目にするか?」

lw´‐ _‐ノv「どうする、ブーン?」

(;^ω^)「どっちでもいいお! て言うかコレを僕が動かすのかお」

 正直なところ、こんな物に乗って戦うのであれば僕より他の者の方がいいだろう。
 僕は先程まで肉弾戦を挑む予定だったのだから。

(-_-)「君以外は機体、魔力制御で手が離せない」

从 ゚∀从「消去法ってやつだな」

 堪ったものではないが、仕方がない。
 どうせ戦うつもりだったのだ。

(-_-)「……オペレーションを開始する」

 作戦目的は、『神』の破壊および封印、ないし消滅。
 背後の星、地球の命運は賭けられた。

( ^ω^)「じゃあ、取りあえず……」

从 ゚∀从「いや、全力でやれ!」

lw´‐ _‐ノv「一撃必殺!」

(;^ω^)「耳元で騒ぐなお」

114: 2010/09/08(水) 21:29:50 ID:DMu/Jaec0

 魔力が体にまとわりつく。
 右腕を掲げ、描かれた数式の紋章と共に振り抜く。
 魔力が波となって宇宙空間を走る。
 一度、目を閉じて開いた。

 景色は巨人のものと同じになっている。
 まるで、僕自身が光の巨人となったようだ。

( ^ω^)『……!』

 左平手を前に、右手を背後に引き絞る。
 完全に復活する前なら動きも自在とはいくまい。
 動けない相手になら気を練った最大の一撃を使える。
 これまでの旅では使う機会が無かったが、今なら条件は揃う。

 背中の装甲が動き、魔力を推進剤として噴出させる。
 
(`・ω・´)「次元ルートを確保」

 体が沈む、姿勢が前傾へと移行していく。

( ФωФ)「魔法定理を完成、スタンバイ」

 星の海を、蹴る。
 同時に詠唱を開始した。
 惑星を越えて、銀河を越える。
 数光年を助走に使った物理干渉。

115: 2010/09/08(水) 21:30:49 ID:DMu/Jaec0

 右手に魔法を展開する。
 地上には無い魔法を。

( ^ω^)『……これで!』

 『プリズム・ブロウ』

 暗い混沌、という姿無き神に、魔法によって右手が接触した。
 闇の中にプリズムを投げ込み、その反射で真意を照らし出すつもりであった。
 だが即座にはじき出された演算を理解して僕は一気に離れる。
 一瞬遅ければ、僕は問答無用で飲み込まれていただろう。

 瞬きをする。
 僕は搭乗口に戻っていた。

(; ω )「……」

 自然と片膝をついてしまった。
 反撃されたのではない。
 『世界』を浸食できる存在が、『僕』を浸食出来ないはずは無かっただけだ。
 目の前が黒く染まる。

 闇の中に落ちる寸前で、四人の姿が僕を救った。

116: 2010/09/08(水) 21:32:05 ID:DMu/Jaec0
 
从 ゚∀从「なるほどな、精神干渉って感じか」

lw´‐ _‐ノv「こりゃ殴り倒すのは無理かな」

 魔女と聖女が僕に精神介入して、辛うじて正気という所まで持ってきた。

(`・ω・´)「さすがに神だけあるよね」

( ФωФ)「……行動停止は避けたいものだが」

 更に探求者と勇者が崩壊しかけた精神をバックアップ。
 即座に正常にまで回復させる。

(-_-)「……言っておくが、タナシンを物理攻撃で破壊するのは不可能だぞ」

 何か考えがあるとでも思ったのか。
 人間ではない管理者が、呆れたように言った。

(;^ω^)「僕が動く前に言えお」

 精神的な存在を物理でどうこうしようとは、考えてみればおかしい。
 タナシンという神は、古代人の意識が集積した、一つの世界だ。
 ゆえに僕達も精神でかからなければならない。
 どれほどの力を使っても、人間が宇宙を破壊できない事と同じく。

 その為に、ここに魔法がある。
 
(`・ω・´)「相対距離に変更なし」

117: 2010/09/08(水) 21:33:18 ID:DMu/Jaec0

 数光年を移動した僕達だが、機体の位置は固定されている。
 要するに、背後に地球がある点に変わりは無い。

( ФωФ)「敵影の出力上昇」

 神が封印を更に壊す。
 逆三角形の紋章が宇宙に砕け、銀河を背にして散っていく。
 星の海に、色が現れた。
 光のカーテンがはためく。

 虹色の宇宙が広がる。
 神が、その姿の一端を晒した。

(-_-)「精神防壁を展開する」

 見ただけで気を狂わすには十分なその姿。
 一度、理解可能なようにプログラムを挟む必要がある。
 それでも精神的に打撃を受けたようだ。
 足元がふらつく。

 同時に思い出した。
 地上の方で、『事』を上手くまとめてくれなければ、神の破壊は不可能だ。
 一時でも六人で倒そうと思った自分を戒める。
 『神』、タナシンの『浸食の光線』が僕達の横を駆け抜けた。

(;^ω^)「!」

(-_-)「抜かれたぞ!」

118: 2010/09/08(水) 21:34:19 ID:DMu/Jaec0

(`・ω・´)「座標入力完了、転移魔法を起動」

 時間と空間を越えて、『浸食』に追い付く。
 虚空を走り抜ける光を、真正面から受け止めた。
 僕達が乗る機体の左腕が、吹き飛んだ。
 そして星の中に赤く霧散していった。

从;゚∀从「腕とられちまったじゃねぇか」

lw´‐ _‐ノv「修復魔法を起動するけど、少し時間かかるよ」

 何とか一撃は凌いだが、次を防げる保証は無い。
 とはいえ、背後の地球に一発でも届けば惑星そのものが終わりかねない。

(;^ω^)「何か! 盾とかは無いのかお!」

 僕が叫んだ隙に、既に第二撃が迫っていた。

119: 2010/09/08(水) 21:35:15 ID:DMu/Jaec0

―塔 階層19 踊り場  ('A`)―



 精神を繋げる事を目的とするなら、ブーン達の願いと一致する。
 俺は、ただパンデモニウムの森で氏んだ連中を伝えたいだけだ。
 そのついでに、守護者達の説得もしてやる。
 手にした剣『ユグドラシル』から、星の海の情報が微かに聞こえていた。

 本当に微かであった。
 数名の声が、ぼやけた霧の中から聞こえるようだ。
 実際に何が起こっているかなど、理解できるはずはない。
 それでも、『塔』の行方が世界において重要な事は理解できた。

 神の武器はそれぞれが属性を司る動力、とでも言えばいいのか。
 元々の使い方が、環状に配置してエネルギーを生み出す点にあったのだ。
 今、星の海の戦いにおいて、力が欠けている。
 白と黒だけでは脅威を退ける事が出来ない。

 かと言って武器を奪い取るのは難しい。
 最高峰の魔法使い達が相手なのだ。
 ならば俺の取れる行動は絞られる。
 神の武器『ユグドラシル』を使い、精神干渉を行う。

 一種の説得、という形になる。
 向こうで倒れているブーンの仲間と、まずは接触するべきか。
 一人より何人か集まった方が強い意識になるだろう。
 剣から緑の魔法を引き出されて、起動した。

120: 2010/09/08(水) 21:36:21 ID:DMu/Jaec0

 幾つかの属性が使えるようだ。
 守護者達の間を飛びぬけて、ブーンの仲間達の目の前へとたどり着く。
 俺以外全員が驚く中で、足元に剣を突き立てる。

('A`)「剣にあんたらの魔法をぶつけろ! 早く!」

 精神の結合には魔法を介する。
 剣、『ユグドラシル』から次々と情報が伝達されていく。
 瞬く間に、ツン、クー、ショボン、モナーとの意識結合を完了した。
 後は、守護者を一人ずつ取り込んでいくだけだ。

 何とも物騒な使い方だが、この世界が懸かっているのだ。
 使える手は使わなければならない。
 『剣』を引き抜いた。
 足元、両腕、剣先、意識を集中する場所が流れていく。

 まずは守護者ヒートだ。
 クー、あんたが中心となれ。
 箱でも動かす様に、クーの意識を前面に押し出す。
 とはいえ、彼女は現状を理解できていないのだろうが。

川;゚ -゚)『……面妖な』

('A`)『他ならぬブーンの頼みだ』

川;゚ -゚)『……? これは……承知した』

121: 2010/09/08(水) 21:37:13 ID:DMu/Jaec0

 現状、俺とクーも意識を結合している。
 時間を与えれば情報を送ることも可能なのだ。
 おぼろげながら俺の言う事を理解したであろうクーは、目の前へと意識を戻す。
 上空に浮かぶ守護者ヒートに向かうべく、魔法を起動する。

 ユグドラシルから魔法を受け取る。
 透明な光が俺の背後に浮かんだ。
 すぐさま水晶で出来た『翼』を構築し、空へと舞い上がらせる。
 既に、現在地はヒートの真上であった。

 不意を突いた形だが、ヒートの『神の武器』にユグドラシルが食い込んだ。
 すかさず、俺達の意識に取り込む。
 俺がヒートを抱えて地面に降りた時には、意識の取り込みは完了していた。
 少しの間、自分の思想と、俺達の思想との乖離で混乱するかもしれない。

 床に彼女を下ろしつつ、次の行動に移る。
 相手が驚いている今こそが俺達のつけいる隙なのだ。
 迷いなく、守護者プギャーへと向かっていく。
 剣から魔法の抜き出し、起動した。

 先程と同じく、左手に水晶の欠片が集まる様に、砲台を形成した。
 紫の高位魔法である『キャノン』と同じ形であった。
 相手が相手だ、直撃させるつもりで撃たなければ、目くらましにもならない。
 無色の閃光に隠れて、プギャーに迫る。

 確実に、プギャーは左に逃げる。
 足運びから未来演算し、剣を構えた。
 斬り込む。
 跳躍すると視界が反転してプギャーの背後に出た。

122: 2010/09/08(水) 21:37:56 ID:DMu/Jaec0

 相手も剣を精製して迎撃を行う。
 体のすぐ近くをかすめる剣を感じながら、対照的に俺はユグドラシルを振り上げる。
 そしてプギャーの『神の武器』を一気に『斬り抜けて』、意識を取り込む。
 人と魔法を介して、更に高速な精神の接続を可能とする。

 それが透明な力と五色の魔力を司る『神の武器』、ユグドラシルの特性だ。
 更に現在の俺は『塔』の演算装置と繋がって短期的な未来予測も出来る。
 あと数秒でヒートとプギャーは正気を取り戻すだろうが、
 同じ時間の間に残る二人を片付けなければならない。

 次に狙うのは守護者しぃだ。
 従えるのは莫大な質量を持つ、青の神の武器。
 巨大な狼の形を取るそれは、精神接続可能な核の部分までを氷が邪魔をしている。
 どうにかして氷の装甲を破壊する必要があるだろう。

 ツン、集中して準備しておけ。
 やや遅れて返事が届く。
 体調でも悪いのかと思ったが、守護者と一戦交えて体調が良くても問題か。
 それにもまして様子がおかしい。

ξ;゚⊿゚)ξ『……落ち着かないんだけど』

('A`)『どうにかしておけ』

 既に間近に見える、しぃの神の武器。
 ジョルジュが参戦してくるまでに勝負を決めなければならない。
 腰を低く落として、剣を下に構える。
 赤の高位魔法を起動した。

123: 2010/09/08(水) 21:38:54 ID:DMu/Jaec0

 魔法陣に数式が刻まれて赤い反応を生む。
 閃光と共に、火炎が爆発した。
 巨大な狼が退く。
 氷の装甲は、健在だ。

 硝煙を突き破って、赤い剣閃。
 ジョルジュとの合流を許してしまった。
 たとえそれでも目的の変更は無い。 
 守護者しぃをまずは取り込む。

 ジョルジュとすれ違うように、空中を駆け抜けた。
 それなりの高度がついた辺りで急降下。
 青の神の武器、その懐に陣取る。
 狼の両眼に睨まれた。

 襲い来る爪をかわして、再度、赤の魔法を起動する。
 今度は氷の一部分を打ち砕けた。
 剣を天に向けて、突き上げる。
 そのまま巨大な狼と共に空中に飛び出す。

 真横に、剣を引き抜いた。
 青の神の武器が、光へと還っていく。
 並はずれた質量を魔力で制御しているのだ。
 しぃが混乱状態になれば、姿を保てないのも無理はない。

 ツンが精神結合を開始する。
 完了を待ちたいが、ジョルジュが乗ってきてくれるか。

124: 2010/09/08(水) 21:39:46 ID:DMu/Jaec0

('A`)「……この辺でいいんじゃないですか?」

( ゚∀゚)「……」

 双方の動きが止まっていた。

('A`)「神の武器もまた、意識結合を促すはずです。
    所持者であるあなたが分からないんですか」

 もう、分かっているだろう。
 ここで俺達が戦っていても星は破壊される。
 ジョルジュの答えを待つ。

( ゚∀゚)「……武器は神が与えた物だ」

 俺の意識は決まった。
 最後に、一言だけ。

(#'A`)「下らねぇ意地だな」

 やはり、ジョルジュは気が付いていた。
 だからこそ、俺の一撃が簡単に通る。
 赤の神の武器をユグドラシルが通り抜けた。
 誰一人として傷つける事無く、精神の統一は成った。

 少しばかり、それぞれの意思の乖離を収める為に時間がかかる。
 剣を下して息を吐きだした。
 なれない事は遠慮したいものだ。
 見上げると立体映像の夜空が浮かんでいた。

125: 2010/09/08(水) 21:40:51 ID:DMu/Jaec0

('A`)「……」

 星の海はどうなっているのだろう。

(´・ω・`)「……ドクオ、ブーンは?」

 俺の名を呼んだショボンが心底不思議そうな顔をしている。
 当然ながらドクオと言う発言に対してだ。

( ´∀`)「意識結合というやつさ。魔法を介しての精神干渉だ」

 先程、俺は意識介入を行ったが、一人だけまともに機能していなかった。
 それは魔法の正体を知っていたからなのか。
 もしくは効力だけを理解しているのか。
 いずれにしても一言で解してくれるだろう。

('A`)「あなたは?」

( ´∀`)「モナー。今は遺跡巡りが趣味な、しがない旅人だよ」

 そういう事か。
 各地のデータベースの閲覧と古代語の知識。
 古代の意味を、自力で理解できる人間。
 一つの天才の形だ。

 性格はねじ曲がり過ぎて、まともとは言えないだろうが。

('A`)「そっちの二人は無事か」

126: 2010/09/08(水) 21:41:50 ID:DMu/Jaec0

 背後で片膝をついていたクーが立ち上がる。

川 ゚ -゚)「……あぁ、なんとか。ツン……?」

 それでも返事の無い、小さい方を助け起こす。
 症状を確認する為に意識介入を強める。

ξ;゚⊿゚)ξ「うーん……」

 元々体力がない劣等の遺伝子が確認された。
 それを魔法で補っていた。
 過去に薬の投与もあり、現在は魔力枯渇が起こっているようだ。
 これまでの行動は天性の魔法センスでこなしていたのか。

('A`)「どうにかできるか? 『ユグドラシル』」

 剣が答える。
 幾つか情報が流れて、最後に俺に決定を迫って来た。
 『神の武器』ユグドラシルの核の一部をツンに融合させる。

川 ゚ -゚)「それに危険はないのか」

('A`)「一時的に『塔』の心臓部となるみたいだ。
    状況が状況だけに、何とも言えない。仲間のあんたらに任せたい」

 だが、ツンは少ない体力の大半を魔力に頼っていたのだ。
 このまま衰弱氏もありえない話ではない。

('A`)「……いや」

127: 2010/09/08(水) 21:42:36 ID:DMu/Jaec0

 二つに一つなのは、星の海と、この星と同じか。

('A`)「ツンの安全確保にはこれしかない」

(´・ω・`)「なら僕は君に任せるよ」

川 ゚ -゚)「……私もだ。それだけの意思があるのなら」

 意識結合を行っていたのだった。
 俺の声が、聞こえたのだろう。

('A`)「分かった。『ユグドラシル』、頼む」

 透明な光がツンへと届く。
 魔法数式が立ち並ぶ古代の光が、彼女の魔力を繋いでいく。
 以外にも一瞬で事は終わった。

ξ゚⊿゚)ξ「……あれ?」

 一番不思議そうな顔をしたツンが周囲を見回している。
 ひとまずは問題ないだろう。
 クーとショボンに、お前らから説明しろと言っておく。
 
('A`)「後は……上った方がいいか」

 出来る限り、星の海の近くへ。
 剣に浮かぶ数式をいくつか選びだす。

('A`)「全員聞け、これから転移魔法を使う」

128: 2010/09/08(水) 21:43:23 ID:DMu/Jaec0

 わざわざ大声を出す必要はないのだが守護者達にも聞こえるように言う。
 軌道エレベータは既に使用できないが、
 大展望台辺りまで行けば星の海の情報が届くかもしれない。

 『座標固定 定理確立 起動』

 ユグドラシルの声がよく聞こえるようになってきた。
 霧の様な転移を終えて、目を開く。
 一筋の光が夜空を走り抜けていくのが見えた。
 空を走り、途中で別れ、霧散していく。

 何年も前から世界に流星が落ちていた。
 それは、封印の弱体化による神の一時復活に関係していたのだ。
 微かな干渉ならば『塔』の力で跳ね返す事が出来る。
 封印の破壊された現状では不可能な話だ。 

 世界は昔から危うい状況にあったのだろう。
 今もまた、幾つもの流星が光線を描いていた。

129: 2010/09/08(水) 21:44:23 ID:DMu/Jaec0

―宇宙空間 エリア・ヴィーグリーズ ( ^ω^)―



 神の凶弾が弾け飛び、消えた。

 残る右腕が勝手に何かを掴んだのだ。
 大きく、真横に抜き払った。
 無くなった左腕を軽く感じる。
 僕は搭乗口に立ったまま、映像を見ている気分だった。

( ФωФ)「……ブーン、代わりに赤の魔力伝達を担当しろ」

 僕達の乗る光の巨人は、『剣』を抜いていた。 
 無色の光を湛える水晶の剣。
 
 『イミテーション・ソード』

 古代の兵器である『剣』を模した魔法。
 勇者が剣を手にしたのだ。

( ФωФ)『参る』

 ロマネスクが戦闘を行う代償はある。

(-_-)「総出力及び最大魔力回転率に変更あり……機体総戦力マイナス32.88%」

 全ては僕が問題なのであるが。

130: 2010/09/08(水) 21:45:15 ID:DMu/Jaec0

从#゚∀从「このヘタクソ!」

(;^ω^)「すいませんお」

 ハインに怒られながらも僕が赤の魔力を繋ぐ。
 ロマネスクの機体操作は確かのものであった。
 未だに『神』姿は闇の中にある。
 精神防壁は僕達の乗る機体の周囲に黒い竜巻を発生させている。

 前の魔王決戦で体験したが、対象の意識を強制的に低下させる効力がある。
 加えて互いの姿を隠してしまうのが利点と弱点だ。
 周囲の状況を映す地図、レーダーに情報があるため行動には問題ないのだが。

(-_-)「交戦を開始。敵影封印率は5.3%を切った」

 まだ封印の名残がある。
 どうにかして決着をつけたい。
 全員が、そう思っているのだ。

 渦巻く様な奇妙な軌跡を残して『神』に迫る。
 迎撃のために放たれる閃光を悉く弾き飛ばし、一撃を加えた。

( ФωФ)『127名分の精神浄化を完遂……効果無し』

从#゚∀从「なら俺がやるよもう!」

 持っていた透明な剣が鎌へと変貌を遂げる。
 操縦を担当する人間が変わったのだ。
 その性格通り、ハインは真上から一直線に斬り付けた。

131: 2010/09/08(水) 21:47:07 ID:DMu/Jaec0

从 ゚∀从「……いいや、お前がやれ」

(;^ω^)『諦めるんじゃねーお』

 まるで効果がうかがえない。
 反対に、『神』タナシンは益々力を回復している。

( ^ω^)『でも、何か効果的な攻撃は無いのかお?
      他の神の武器がまだないなら、防御だけでも』

(-_-)「大魔法がある。この距離なら有効だが一撃しか撃てないぞ」

( ^ω^)『効果は?』

(-_-)「指定範囲内の物理存在を消滅させる」

( ^ω^)『時間稼ぎくらいにはなるかお!』

 承諾した。
 これらの会話を一瞬で終えて、機体を走らせる。
 彼方に見える虹色の銀河へ向かって。
 タナシンの目の前まで相対距離を縮めて、魔法を起動する。

 『ニーベルンゲン』

 発動した大魔法に呼応して、僕達の乗る機体に白い翼が構築される。
 風の無い宇宙空間を羽が舞い落ちていく。
 天地定まらぬ虚空に光の柱が立ち並ぶ。
 魔王決戦で僕達が受けた魔法を、今、神に向かって放つ。

132: 2010/09/08(水) 21:48:50 ID:DMu/Jaec0

 搭乗口で僕は透明な拳銃を握っていた。
 引き金を引けば、純白の裁きが下る。
 かつて魔王と呼ばれた神の武器は、両手を広げていた。
 まるで天使の様に。

 指に力を込める。
 あっけない程、簡単に空間が『消える』。
 地上で受けた一撃は、ごく僅かな出力しかなかったのだ。
 閃光の中にタナシンを探した。

 魔王フレイヤを中心に、宇宙が無くなっていた。
 あるのは淡く白い空間。
 それも幅を縮めて、やがて暗闇に飲み込まれて元に戻る。
 僕が指定した空間、タナシンがいた場所は既に存在しない。

 『神』、タナシンがこの程度で消えうせるはずはないが、
 再構築まで時間を要するだろう。
 未だ残っていた純白の世界が消えると同時に、悪寒が走った。

(;゚ω゚)『……!』

 目の前に、いた。
 神の鉄槌が数秒前に僕達を吹き飛ばしている。
 そこに無量大数の閃光が追撃で迫る。
 加えて、神自身が数式を羅列して空間ごと突っ込んで来た。

133: 2010/09/08(水) 21:49:53 ID:DMu/Jaec0

 自身の状態はと言えば、
 右腕消失、左足粉砕、背面推進装置貫通、各部動力完全停止。
 損傷がひど過ぎる。
 ただの一撃で、神の武器は壊滅状態に陥っていた。

(;゚ω゚)『――!』

 声が音を結ばない。
 背後に近付く地球と、目の前に迫る神に、どうすれば対応できるのか。
 惑星、銀河、時空を砕き割り、破壊が近づく。

 そして、一秒が経った。

 無量大数の閃光、砕かれた星の、銀河の、時空の破片。
 脅威は見当違いの方向に飛んで行った。

(-_-)「間にあったのか」

(`・ω・´)「本調子とはいかないけどね」

 無数の閃光は四つの魔獣によって弾かれたのだ。
 赤、青、緑、黄。
 それぞれの魔力が、視界に映る。

 僕達は、気がつくと『空中庭園』に倒れこんでいる。
 正確に言えば僕達の乗る機体がだ。
 感覚を機体と同調させている為にそう感じる。

134: 2010/09/08(水) 21:50:55 ID:DMu/Jaec0

 大気圏を抜け出した空中庭園ウルド。
 いや、宇宙にある今、その肩書は変わる。
 多目的飛行要塞ウルド。
 巨大な大地は、神の武器を修復する機関だったのである。

 更に、幾つかの古代兵器を備えている。
 主に魔法大戦で使われた古い生体兵器などが。

(`・ω・´)「回転率が下がってるのは、まぁ我慢してもらいたいね。
       動力的にだいぶ無理をしたんだ、誰の所為かは分かるだろう」

(;^ω^)『僕が動力盗んだ訳じゃないお』

(-_-)「……デコイ四機とも稼働には問題ない」

 地上で魔王の配下であった4体の戦士。
 四天王。
 魔王を使っているのだから、当然彼らも制御下にある。

 さて、神とて何もしていないと言う事は無い。
 阻まれているだけで。
 直径50mの剣が、宇宙空間で神を防いでいるのだ。
 勿論のこと、そんな物を振りまわしている者がいる。

 まず『彼』は龍に乗っている。
 いつぞや出会い、そして海に消えた水晶の龍に。
 ドラゴンを駆るその姿はおとぎ話に出てくる龍騎士そのものだ。
 『彼』は黒いローブを着ている。

135: 2010/09/08(水) 21:51:55 ID:DMu/Jaec0

从 ゚∀从「あれ、野郎は確か……」

 言われなくても分かる。

(`・ω・´)「彼は純正アンドロイドだ。スペアボディだってあるよ」

(-_-)「もっともアレは破壊に特化した特殊兵装だが」

 ひるがえったローブの下に水晶を散りばめた様な鎧が見えた。
 それが突撃魔法兵装ヴァルキリーと命名されている事は分かるが、
 効果の程はさっぱりだ。

 直径50mの魔法剣が叩き折られた。
 『龍騎士』が大きく旋回して、僕達の前に来た。
 背を向けたまま停止する。

(`・ω・´)「彼と四天王は惑星防衛に回すべきだと進言するよ」

(;^ω^)『……じゃあそうしてくれお』

 僕の発音が終わると同時に龍騎士の答えが返って来た。

( ∴)「了解。対象惑星を防衛します」

 今のボディに壊れている部分は無い。
 完全な発音で、龍騎士ゼアフォーは答えを返した。

136: 2010/09/08(水) 21:53:01 ID:DMu/Jaec0

( ^ω^)『……!』

 確かに意識を感じた。
 先程、地上での戦いは帰結を迎えた。
 塔の頂上に、彼らは集ったのだ。

从 ゚∀从「手札は揃った、ってやつか?」

 ゆっくりと、要塞を支えに『神の武器』が立ち上がる。
 魔力による修復はほぼ完了していた。

lw´‐ _‐ノv「やっこさんもね」

 神もまた封印を完全に克服したのだ。
 混沌の中に『人間の手』や『龍の頭』や、『悪魔の翼』が飛び出している。
 世界にある物が、次々と闇の奥に見え隠れする。

137: 2010/09/08(水) 21:54:16 ID:DMu/Jaec0
 
 あるいは、星の海に行きついた者達。
 四機の魔獣。
 仮面の龍騎士。

 魔女と聖女。
 勇者と探求者。
 管理者と愚者。

 そして、星の海を見つめる者達。
 五色の守護者。
 世界を憂う仲間達。

 地球という惑星。
 『星の守護者』は、たったこれだけか。
 自分に問いかけた。

 いいや、もっといるはずだ。
 誰、としっかり思い浮かばない多くの顔。
 それくらいに不完全なのだ。

 だからこそ存在している。

138: 2010/09/08(水) 21:55:08 ID:DMu/Jaec0
 
 神、完全なる世界。
 対の存在は、だが存在していた。

 神の武器を使えるのは人間だけ。
 そんな言葉を思い出す。

 ならば、完全ではなくとも。
 
 僕達もまた――



( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

最終章 透明の世界  第二十八話「正位置と逆位置の『審判』」 完

146: 2010/09/09(木) 20:50:29 ID:rX.QEq7Y0




 愚者の旅路


 完全な存在


 不完全な世界で





( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

最終章 透明の世界  最終話「正位置と逆位置の『世界』」

147: 2010/09/09(木) 20:51:18 ID:rX.QEq7Y0

 その真意を。
 何故、破滅へと向かう。
 理由なんてもので動いていない事は分かっている。
 その心に、何がある。

 答えないなら、こちらだけは言っておこう。
 
 そうか、距離が遠すぎる。
 答えられないのも無理はない。
 ならば今から歩いて行く。

 少しだけ、待っていてほしい。

148: 2010/09/09(木) 20:52:05 ID:rX.QEq7Y0

 相対距離に変更なし。
 以前変わらず、背後に地球、目の前に『神』タナシン。
 手札は増えている。
 四天王、龍、ゼアフォー。

 そして要塞ウルド。
 星の海に浮かぶ陸地で、『神』の姿を茫然と眺めていた。

 『神』、タナシンは世界なのだ。

 次元が渦巻く中心点より、何かが飛び出してきた。
 『人間の手』や『龍の頭』や、『悪魔の翼』。
 『機械片』、『生体物質』、『七色の光』。
 思い浮かぶ限りの世界、その欠片達。

 全てが、次元がねじれている地点を中心として発生している。
 それら混沌を統括するように、『神』は完成した。
 数多の矛盾を虹色の翼が肯定する。
 腰から下に混沌を携えた『天使』であった。

 姿を醜悪と感じる事は無かった。
 タナシンは既に新たなる存在だ。
 正しいのだ。
 今、僕達が住む世界がそうであるように。

149: 2010/09/09(木) 20:53:13 ID:rX.QEq7Y0


 機械の翼を持つ男は、神に会いに行く。

 神の怒りをかい、男は月に閉じ込められた。

 滅びゆく世界で天使が剣を握る。

 彼女は己が命を持って一つの月を壊した。

 月の欠片が落ちる中、人間と巨人は世界に立つ。

 新たなる世界が始まった。


 昔話は真実を伝える。
 現在は、新たなる時間を刻む。


 砕けた月は海に残る。

 閉じ込められた者は浸食を始める。

 月の欠片の記憶は薄れる。

 光落ちる中、守護者は暗き海に臨む。

 破滅の時が近づく。

150: 2010/09/09(木) 20:54:15 ID:rX.QEq7Y0

―宇宙空間 エリア・ヴィーグリーズ ヴァルハラ宙域―



 虹色の翼を持つ天使。
 浸食する混沌。
 神。
 新たなる世界。

 全ての肩書を持ってして理解が及ばない。
 タナシンは、封印を完全に打ち破り、遂に完全覚醒の時を迎えた。

 振動する星の海。
 虚無の声が届いて来る。

 『天使』の口がゆるやかに開いた。
 虹色の翼が広がり、無数の定理を刻む。
 星の海は、一挙に数式が漂う異空間へと変貌した。
 無量大数の比ではない数の砲撃が飛んで来るだろう。

152: 2010/09/09(木) 20:55:07 ID:rX.QEq7Y0

(;^ω^)『こんなの防げないお!』

从 ゚∀从「四天王! 散開しろ! ブーン、俺達は正面だけ受け止めるぞ」

lw´‐ _‐ノv「魔法入力……いけるよ」

 要塞ウルドからの魔力供給を受けて、もう一度、使える。

(-_-)「ターゲット有効射程内」

 僕の左手に透明な拳銃が再び出現した。

( ФωФ)「待て、引きつけろ」

 構えて、狙いを定める。

(`・ω・´)「……十分な距離だ」

 詠唱が完了した。
 起動する。

 『ニーベルンゲン』

 がちり、と聞こえないはずの音が聞こえた。
 機体の右腕が再生する前であろうと、撃てるものは撃てる。
 純白の羽が舞って、物理存在を消し飛ばした。

 無量大数を越えた閃光の一部。
 つまり正面に残ったタナシンの攻撃は、二つ。

153: 2010/09/09(木) 20:56:30 ID:rX.QEq7Y0
 
( ^ω^)『腕に魔力を!』

 僕の呼びかけに五人が応え、透明な光が左腕に現れた。
 まだ大魔法ニーベルンゲンの痕が残った白い空間で、左腕と閃光が衝突した。
 意識接続を行う魔法、プリズムの乱反射。
 僕の意識は確実に削られたが、再び仲間によって構築される。

 隙間を通って来たタナシンの閃光が、機体の脇腹に直撃した。
 確かな痛み、それを介して神の意識が流れ込む。
 像が結ばれていく。
 他ならぬ『神』、タナシンは、世界の為に破滅を導くのだ。

(`・ω・´)「修復を開始。追いつかないな」

 機体の右腕が意識から抜け落ちた。
 僕は、果たして右腕という物が存在したかどうかを判断出来なくなっている。

( ФωФ)「デコイ四機、防衛を成功。ただし行動は不可能」

 タナシンは姿を次々と変貌させていく。 
 今や、それは白と黒の境界となっていた。
 祝福する様な天使が、混沌の龍の上から生えている。
 背後には、人間や生物や機械のパーツがバラバラに発生していた。

(-_-)「ゼアフォーは行動可能だ。防衛を続行させる」

 再び、奇妙な数式が星の海を泳ぐ。

154: 2010/09/09(木) 20:57:28 ID:rX.QEq7Y0

lw´‐ _‐ノv「……接続を完了」

从 ゚∀从「聞こえてんのか! おまえら!」

 急に現実が戻って来たようだった。
 この場にいないはずの人間は、簡単にいる事に出来るのかもしれないが。

(´・ω・`)「感度良好ってところかな」

 ショボンは既に僕の隣にいた。

川 ゚ -゚)「無事だな、ブーン」

 クーも隣に現れる。
 『道』が出来たのだ。
 塔と星の海を繋ぐ見えない回路。
 魔法の道が。

( ^ω^)『ツンは!?』

川 ゚ -゚)「ドクオが処置した。今は塔の心臓部となったらしい」

 どういう事だ。

ξ゚⊿゚)ξ「とにかく『塔』ユグドラシルに接続された物に命令を下せるって事」

 いきなり背後から声が飛んできた。

( ^ω^)『無事ならいいお!』

155: 2010/09/09(木) 20:58:25 ID:rX.QEq7Y0

 僕達が短い問答を続けている間、ショボンもまた無言の問答を終えていた。

(`・ω・´)「……」

(´・ω・`)「……」

 そして、僕に向かって言う。

(´・ω・`)「今、師匠が残りの守護者の意識をここに持ってくる」

 短い時間で済む事だった。
 だが、『神』は時間を与えてはくれない。

川 ゚ -゚)「やるのだろう」

 クーに応える。

ξ゚⊿゚)ξ「命令するよ、要塞ウルドは盾になって!」

 ツンの声と同時に世界が動き出した。

(-_-)「それでも手数は足りない」

 ただ冷静にヒッキーが言う。
 四天王が行動不能なら、それもまた事実だ。

( ФωФ)「ならば……!」

156: 2010/09/09(木) 20:59:49 ID:rX.QEq7Y0

 龍騎士ゼアフォーが飛翔する。
 空中庭園ウルドが前進する。
 勇者ロマネスクが、星の海に飛び出した。

( ^ω^)『ロマネスクさん!』

 呼びはしたが、僕には彼が何をするのかが分かっていた。
 星の海を駆けるロマネスクが僕達の乗る機体と、大きく距離をとっていく。
 各員が、離れたのだ。

 再び、神が浸食を始めた。
 巨大な人の手が、ゼアフォー達に伸び、龍を握りつぶした。
 辛うじて残ったゼアフォーは、腕に一撃を加えて攻撃の阻止を成功させる。

 真正面にある要塞ウルドは、無量大数の砲撃で粉砕された。
 砕けた破片が、目の前に迫る。

 そして、勇者ロマネスクは、『神』と一人で相対した。
 攻撃させる前に先手を打って動きを止めようというのだ。
 透明な剣が、タナシンに届く前に止まった。
 無数の機械で構成された槍の様な物体が、突き出したのだ。
 
( ФωФ)「……ぐっ」

 貫かれていた。
 腹部を通り抜けて背中で止まっている。
 しかし、ロマネスクは獣の様な笑みを浮かべていた。

157: 2010/09/09(木) 21:02:46 ID:rX.QEq7Y0

( ФωФ)「ふふ……役割は果たしたぞ!」

 紫が煌めく。
 蒼穹の世界が、一色に染め上げられた。
 魔法は意識を繋げる。
 ロマネスクは神と繋がった。

 刹那、機械の槍を通して、神の半身が吹き飛んだ。
 たかだか一人の意思で『神』の体を削り取る。
 次いで莫大なエネルギー反応。
 勇者は、神の一部と共に命を落とした。

 これで、何も残っていない。
 防御する力は、既に使いきったのだ。
 タナシンの修復は完了寸前である。

 要塞ウルドの破片に隠れて凶弾が現れた。

 一瞬、僕達は気を緩めてしまった。
 手段は無いと思ってしまった。
 だから、『神』の一撃は止められない距離に達している。

(;゚ω゚)『……うわああああぁっ!』

 機体の左腕で弾く。
 遅かった。

158: 2010/09/09(木) 21:03:45 ID:rX.QEq7Y0

(-_-)「……浸食、防衛に失敗」

 『神』タナシンの閃光が走る。
 中ほどで一部は弾いたが、大きな部分が星に向かって落ちて行った。

(;゚ω゚)『……』

 焦燥感は無かった。
 自分を責める気持ちもない。
 世界が滅ぶ様を、想像した。

 『まだだ……』

 星の声が聞こえる。
 一瞬、そう錯覚した。

159: 2010/09/09(木) 21:04:35 ID:rX.QEq7Y0

―塔 頂上―



 流星は神の光。
 洒落た比喩である。

('A`)「いいんですか? そんな簡単にこっちについて」

 空を見ていた。

( ^Д^)「俺は元々気が進んではいかなったから」

 流された奴はいる。

ノパ⊿゚)「……どうだろう? クーと、戦いたくなかった」

 個人的な奴もいる。

(*゚ー゚) 「今だって神を信じているよ」

 変わらない奴がいる。

 別に守護者が敵だろうと味方だろうと星は滅ぶ。
 ならば、争う意味がない。

160: 2010/09/09(木) 21:05:27 ID:rX.QEq7Y0

( ´∀`)「彼らは強情だからね」

('A`)「……あんたが言うか」

 手厳しいね、そう頭の中に届いた。

( ゚∀゚)「それより……」

 空を見ていた奴が、俺に振り返った。

( ゚∀゚)「……来るんじゃねぇのか」

 ジョルジュは何でもないように言う。
 下手をすれば世界が滅ぶのだが。

('A`)「さて、ブーン次第でしょう」

( ゚∀゚)「……なら来るな」

 さほどブーンは信用されてないらしい。
 とは言え、この時点で、『来る』事は薄々分かってはいた。
 同時に思う。
 この人は何故、星を守るのか。

161: 2010/09/09(木) 21:06:21 ID:rX.QEq7Y0

( ゚∀゚)「……これまで生きて来たからだ」

 誰でも、そうなのだ。
 当たり前に生きてきた。
 だから、これからも当たり前に。
 最も保守的な、その為の変革。

 世界の為に自分を変える。
 困難な事だった。
 それでも、守護者は自分を変えた。
 この世界の為に。

 それは、どこぞの神と同じかもしれない。
 見えているだろうか。
 互いが見えない距離がある。
 世界はそれくらいに不完全だ。

 やがて時は訪れる。
 天空に七色の光が満ちた。
 幻想的な虹が星を染め上げる。
 『神』が放った、浸食だ。

 運が悪かったと言うしかない。
 確かにあなは『神』かもしれない。
 だが、こちらには『神の武器』がついている。
 ゆえに、土壇場でこんな事を立案、実行出来る。

162: 2010/09/09(木) 21:07:36 ID:rX.QEq7Y0

('A`)『まだだ……』

 お前が走った時間はまだ無駄にはならない。
 止まるな。
 そのまま行けばきっと、ソラも飛べるはずだ。

(*゚ー゚) 「行くよ!」

 しぃの号令で、巨大なる狼『フェンリル』が姿を現す。
 全員が背に立っている。

ノパ⊿゚)「翼を!」

 ヒートがスキーズブラズニルの翼でフェンリルを浮かす。
 虹色の光に向かって、俺達は天へと昇る。

( ^Д^)「先行する!」

 プギャーは既に砲台トールハンマーを構えていた。
 紫色の魔力が放出される。

( ´∀`)「中心点をねらえ!」

 モナーが勝利の槍グングニルを投擲する。
 黄金の柱となり、虹色と結合した。

163: 2010/09/09(木) 21:08:50 ID:rX.QEq7Y0

 緑と青の神の武器も魔力へと戻り、虹の浸食へとぶつかる。

( ゚∀゚)「よく見える……! 全ての『塔』が」

 世界に『塔』は幾つかあった。
 今は機能停止していても、動力が生きている可能性がある。
 塔の心臓にして神の武器『ユグドラシル』。
 強制的に全ての塔に接続できる。

 それらを中継点にすれば、魔法陣が完成する。
 完全な球体の、奇妙な魔法陣が。
 そして、球体の中にあるのは星だ。
 残る一つの条件で地球そのものを包む、長大な魔法陣が形成できる。

 重力から解き放たれ、俺は剣を虹に振り下ろした。

('A`)『――!!』

 一つの条件とは、莫大な動力だ。
 地球上に存在しないような規格外のエネルギー。
 意外にも、都合よく目の前にある。

 俺が振り下ろした神の武器ユグドラシルに亀裂が走った。
 さすがに厳しいのか。

( ゚∀゚)「いいや! どうにかする!」

164: 2010/09/09(木) 21:10:03 ID:rX.QEq7Y0

 ジョルジュの炎剣レーヴァテインは、振り抜けた。
 エネルギーの逆流が起こり始めた。
 全員の動きが、止まった。
 残る攻撃手段はユグドラシルだけだ。

 よりにもよって俺に最後を任せるのか。
 いいさ、ここまできたら成功させてやる。
 ただし、俺がついて行くのはここまでだ。

 全霊の力を込めて。
 全力の意思を込めて。

 神の武器、透明な剣『ユグドラシル』が、振り抜けた。

 右腕の先で、ユグドラシルが砕けていく。
 よくやってくれた。
 ついでに、俺にしては上出来だ。

 目の前で虹色の光が停滞した。
 止まったエネルギーを吸収し、世界全土にある『塔の跡』に供給。
 たとえ伝達がうまくいかなくても他の『塔の跡』がそれを埋める。
 莫大なエネルギーだった。

165: 2010/09/09(木) 21:10:57 ID:rX.QEq7Y0

 意識が遠ざかっていく。
 やはり、お前らにつきあっていられるのも、ここまで。
 『神の武器』ユグドラシルの破片が空に舞って昇る。
 行く、らしい。

 光に埋まっていく世界。
 落ちていく。
 世界を救う、というのはあまり柄ではない。
 だから。

 『それは、あんたに頼んだ』

166: 2010/09/09(木) 21:12:12 ID:rX.QEq7Y0

―宇宙空間 エリア・ヴィーグリーズ ヴァルハラ宙域―



 世界を、魔法陣が包む。
 魔法陣は魔法を刻み。
 魔法は、意識を繋ぐ。

 振り返ると、世界があった。

 人が、物が、光の中に佇んでいる。
 遥かな遠景に、地球が浮かぶ。
 世界は神話と同じく、一つになった。
 意識が世界を形作る。

 やがて僕達へと光は伸びて来る。
 撃ち返されたタナシンの浸食は、純粋な魔力の道だ。
 
 全ての人が、全ての神の武器が、一つに繋がった。

 意思という魔法の原動力が惑星規模で集まる。
 それを、五色の魔法連鎖と、二色の反発の渦へと投げ込む。
 無限となった。
 世界の意思が『統一』されたのだ。

(-_-)「……呆れるほどだ。こうも強引に、意識結合を行うとは」

 機械であるヒッキーだからこそ、この博打は出来なかったのだろう。

167: 2010/09/09(木) 21:14:36 ID:rX.QEq7Y0

(`・ω・´)「悪くない。ロマネスクの造った時間、無駄にはならなかった」

 何処かで、シャキンは予想していたのかもしれない。
 今の状態を。

( ^ω^)『僕達は……どうするお?』

 誰ともなく、呟いた。
 とてつもなく大きな声で、答えが返って来た。

 それは、旅の仲間。
 それは、守護者。
 それは、世界に生きる者達。

 全ての人々は、答えを出した。

ξ゚⊿゚)ξ『こうなったら、やるしかないでしょ』

( ^ω^)『あぁ、そうだお!』

 ツンに応えた。
 仲間達に応えた。
 守護者に応えた。
 世界に、全員で応えた。

168: 2010/09/09(木) 21:15:27 ID:rX.QEq7Y0

( ^ω^)『神に会いに行くお!』

 目の前にいる『神』に。
 僕達の世界そのものと、精神を結合させる。
 世界の意思と、神の意思を。
 
 だから。
 少しだけ、待っていてほしい。

169: 2010/09/09(木) 21:16:18 ID:rX.QEq7Y0
 
 修復を完了した。
 無くなっていた右腕も、淡い光を携えて、そこにある。
 守護者達の意思が、神の武器を導く。
 機体の姿が変貌していた。

 輝く緑の翼。
 煌めく青の鎧。
 右腕に構える紫の砲台。
 左手に持った黄金の槍。

 白と黒の力が透明な光となって迸っていく。
 人間の、世界の咆哮が、どこまでも拡散した。
 目の前にある星の海が硝子細工の様に淡く見えた。

 限りなく、透明の世界だ。

 機体の翼がはためき、星の海を泳いでいく。
 瞬く間に、数光年の距離を縮める。
 砲台を構えた。
 『神』タナシンの無数の触手が、直線を描き宇宙を割る。

( ^Д^)『撃ち抜くぞ!』

 紫の魔力が、空間を揺らす衝撃と共にそれらを覆い尽くす。
 空いた円状の穴を、更に駆ける。
 待ち構えていたのは、無量大数の閃光だった。
 既に放たれている。

170: 2010/09/09(木) 21:17:15 ID:rX.QEq7Y0

( ´∀`)『神ってわりには、読めるね』

 モナーによって、投擲は終了していた。
 時間ごと切り裂く一撃は、確かに『神』の攻撃も消し飛ばしている。
 勝利の槍は『神』タナシンまで達していた。
 背後から迫る触手に追われるように、前へ。
 
 不意に、視界の隅に奇妙な物が見えた。
 口に見える。
 気が付けば飲み込まれる直前であった。

( ∴)『――』

 直径50メートルの紫の剣が、押さえつける。
 先に進め。
 ゼアフォーから聞こえた。

 緑の翼が翻り、『神』の目の前まで迫っている。
 とてつもなく巨大な龍の顎を確立変動を持ってしてもかわしきれず、
 片翼を失った。

ノパ⊿゚)『邪魔だっ! 吹き飛べ!」

 神の武器と共に、龍の顔は跡かたも無くなる。
 頭上へと目を向ける。
 小惑星を挟んで、天使が、微笑んでいた。

 悪寒は確信へと転じる。

171: 2010/09/09(木) 21:18:29 ID:rX.QEq7Y0

 周囲に無数の剣や槍等の武器が並んでいる。
 どの切っ先も、間違いなく僕達を向いて。
 隙間なく、突っ込んできた。

(*゚ー゚) 『神よ、御加護を』

 青い鎧が光を返す。
 宇宙の白黒が逆転し、静寂が訪れた。
 全てを凍りつかせる禁忌の定理。
 紛れもなく時間が止まっていた。

 僅か数秒。
 機体が包囲を抜け出すには十分であったし、
 神の武器が耐えきれず崩壊するにも限界の時間であった。
 機体の姿は元に戻った、それでも力は残っている。

 止まらない。
 振り上げていた。

( ゚∀゚)『焼き尽くせ、神を!』

 閃光が集まり形成された深紅の剣が宇宙を照らし出す。
 微笑む天使の肩口に、まるで太陽が出現したかのようだった。
 星の海を蒸発させる。
 炎が、舞う。

 理解できぬ苦悶の声が、天使の口から漏れ出ていた。
 呪詛を受けた神の武器、炎の剣が、真っ二つに折れる。

172: 2010/09/09(木) 21:19:28 ID:rX.QEq7Y0

( ゚∀゚)『……!』

 ジョルジュは、いや、守護者達は詠唱を刻む。
 全てをジョルジュという一点に賭けて。

( ゚∀゚)『……ガントレット!』

 『神』タナシンの頬を殴り付けた。
 宇宙に激震が走る。
 星の海に波が巻き起こる。
 十分な隙だ。

(´・ω・`)『右腕はある! 動力もある!』

 ショボンが定理を入力した。

川 ゚ -゚)『まだ、剣は無くなっていない!』

 僕の右手が何かを掴む。
 僕達の乗る機体が、柄を握った。

ξ゚⊿゚)ξ『接続準備完了! ブーン!』

 引き絞っていた右手に力を込める。
 全身の力を使い、右腕を突き出す。

( ^ω^)『おおおおおおおおぉッ!!』

173: 2010/09/09(木) 21:20:57 ID:rX.QEq7Y0

 透明に輝く剣、最後の神の武器。
 ユグドラシルが宇宙を走っていく。
 世界を貫く光だった。

 『神』タナシンの身を、剣が突き抜けている。

 二つの世界が一つになっていた。

 神の、天使の手が伸びる。
 人差し指の先に光が灯り、僕達の機体の左肩を撃ち抜いた。
 双方共に満身創痍。
 どちらが、真の世界となってもおかしくはない。 

 それよりも僕は知りたかった。
 『神』の真意を。
 あと少しで聞けるのだが。
 手段は、簡単に思いついた。 

 既に機体は動ける状態に無い。
 ならば、歩いて行くだけだ。
 ついでと言ってはなんだが、二つの世界の最終接続をやれば良い。

( ^ω^)『ツン、ちょっと行って来るお』

ξ゚⊿゚)ξ『気をつけて。わたしは機体とみんなの意識制御をやるよ』

 そう言って、笑顔で送り出してくれた。
 他の仲間達と守護者は、外に出て僕の援護をしてくれるようだ。

174: 2010/09/09(木) 21:22:03 ID:rX.QEq7Y0

(-_-)『宇宙空間内での生命活動に支障は無い。
     ここにいる人間は、既に体を魔力と置き換え終わっている』

 星の海に出ながら、ヒッキーがそんな事を言っていた。
 海なのだから生身でいいだろう。
 最後の最後で怒られそうなので言わなかった。
 気味の悪い事に、ヒッキーは笑っていた。

 機体の右手に握られた柄。
 そこから伸びる透明な剣。
 道は、ある。

 右腕を真横に振り払う。
 無色の剣に降り立った。
 さほどの距離ではない。
 地を、剣を蹴る。

 体が滑りだす。
 『地球と全く同じ』感覚だが、どこか違和感がある。
 それでも宇宙に結んだ定理により、ここは地球と同じ環境だ。

 暑い。
 まるで砂漠を走っているかのように、遠く景色が霞む。
 それが皆が神と戦っている影響だとすぐに分かった。

从 ゚∀从『おい! そっから先は援護できねぇぞ!』

 ハインの声が届いた。
 剣の道も中ほどを過ぎている。

175: 2010/09/09(木) 21:23:06 ID:rX.QEq7Y0

 温度が下がり、五色の魔力が舞い落ちる。
 秋の森林はこんな感じだった。

lw´‐ _‐ノv『完成……ブーン、これが最後の鍵だよ!』

 シューからコードを受け取った。
 『神』との接続は、これで可能だ。

 寒く思う。
 無色の光が、雪の様に星の海を彩る。
 積もる事の無い雪は、僕の知らない雪だ。

 剣の道が終わった。
 剣を蹴り、宙へ。
 目の前に、あまりにも巨大な天使がいた。
 ジョルジュの殴った顔の部分に亀裂が走っている。

 体勢は整っていた。
 後は、右腕を打ち出すだけ。

176: 2010/09/09(木) 21:23:52 ID:rX.QEq7Y0

 これが、僕達の世界の意思だ。
 あなたが『神』として何も言わなくても、これが僕達だ。
 右腕を走らせた。

 『プリズム・グローブ』

 頬の亀裂に確かに当たった。
 光が反射する。
 暗い星の海を消し去るかのように。
 二つの世界は完全に結合の時を迎えた。

 僕は、光に導かれるままに、『神』タナシンの中に立っている。

177: 2010/09/09(木) 21:25:00 ID:rX.QEq7Y0

― 融合世界 コロニー中心区画 ―



 靴音だけが、響いている。
 純白の空間がどこまでも続く。
 恐らく、無限に続いている。

 暫く歩くと、終りは見えた。
 廃墟となった人工の月、その中心部。
 やはり白い空間に、一人立っている。
 声をかけようとすると先に話しかけられた。

 『何故、破滅なのか』

 男は言う。
 元より世界には、世界を無くしてしまいたいという衝動がある。
 絶望した自分達は容易くそれを選んだのだと。
 だが、破滅には一定の真理もある。

 人の心は振り子と同じで単純だ。
 その意思を達成させてやるのもまた、一つの救いではないか。
 破滅こそが望まれていたとも、言えるのだ。

 『だから。私達は世界の為に戦った』

 女は言う。
 世界で、自分達は生きた。
 無限に続くと思っていたのだと。

178: 2010/09/09(木) 21:26:00 ID:rX.QEq7Y0

 誰の為でもない。
 全ては、己が住む世界の為だ。

 『だが、古き世界は生きる事を望んだ』

 男であった。
 女であった。
 『神』タナシンの中にある意識だった。
 それら全てが、目の前に立つ影なのだ。

 そして、彼らこそが魔法使い達だ。
 魔法という力の原点。
 真理を解き明かした者達。

 『世界は変わったのだろう』

 破滅を食い止める為に、否定された神。
 力を捨てた人間達。
 時は流れた。

 破滅は否定されず、肯定もされなかった。
 神は、タナシンは聞いたのだ。
 僕達の世界の声を。

 『私達は消えよう。世界を去ろう』

 この、世界の為に。
 僕達は生きると言った。
 世界で。

179: 2010/09/09(木) 21:27:05 ID:rX.QEq7Y0

 僕は消えゆく神に向かって口を開いた。

( ^ω^)『全ての人がどう言うか分からないですお』

 何せ、世界全ての意識を統括はしても支配はしてない。
 だから僕と数名の人間の意見になってしまう。

( ^ω^)『ありがとう、と言いますお』

 この世界を作ってくれて。
 魔法を、造ってくれて。

 不思議そうに影が振り返る。

( ^ω^)『僕達は魔法がある世界で生きますお』

 魔法という力が縁を生んだ。
 縁は、世界を連なる。

 『それが魔法の正しい在り方だ』

 はっきりと、言葉に笑みが含まれた。
 そうだ。
 魔法もまた、世界の為にあるのだ。
 望んだ在り方だった。

180: 2010/09/09(木) 21:27:59 ID:rX.QEq7Y0

 『ならば私達も礼を言おう』

 影が、形を結ぶ。
 少しだけ振り返った。

(  ω )『私達の魔法を、そう使ってくれて』

 何処かで見た様な顔だった。
 毎日の様に近くにいたような、少し違う様な。

(  ω )『だが、この物語は世界に歪みを生む』

 影は、何かを僕に手渡した。
 まるで自分達の存在を残すかのように。
 渡された物を確認する前に更に言葉が続く。

(  ω )『そして全ては正常に戻る。私達が去ってもだ』

 意識が遠のいていく。
 まだ話したい事があったはずだ。
 それが形にならない。

(  ω )『遥遠い世界の友。ありがとう、と言うよ』

 それを最後に、視界は白くなった。
 『神』タナシンも、神の武器も、全て。
 白くなり、黒く落ちていった。
 正常に戻るのだ。

181: 2010/09/09(木) 21:28:56 ID:rX.QEq7Y0

 『魔法使い達』は背を向けた。
 閃光の果てに歩き出す。
 追う事が出来なかった。
 僕は、残された世界にいる。

 白と黒の欠片が春の花の様に舞う。
 完全な世界は去った。
 自らが、もはや必要の無い事を悟り。
 
 不完全な世界が残った。
 古の昔と変わる事無く、そのままに。

 神話は続く。
 星の光を取り戻して。
 太陽が輝き、月が煌めく。

 変わらない、新しい世界が始まった。





( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです

最終章 透明の世界  完  最終話「正位置と逆位置の『世界』」  完

182: 2010/09/09(木) 21:29:50 ID:rX.QEq7Y0



― エピローグ 背面 ―



 風が吹いていた。
 街道が三方向に走っている。
 馬車を待っている訳ではない。

 少し、話をしていた。

(-_-)「私はヒッキーという者だ」

 最後に名前だけ伝えて、二人の旅人から離れる。
 北へ続く街道を歩いて行く。
 歩きながら、数ヶ月前の事を思い出す。

 本当に、人間が神を滅ぼしたのだ。
 内容がどうであれ、事実はそうなる。
 そして神の力によって真実は記憶の霧中に眠る。
 世界が一つになった事を憶えている者はいない。

 彗星衝突後の被害も目立たなくなっていた。
 国々は落ち着きは取り戻している。
 人々も変わらずだ。

183: 2010/09/09(木) 21:30:41 ID:rX.QEq7Y0

 だが、忘れられた者もいる。
 モララーやロマネスク。
 塔にいた多くの機械達。

 人は人が伝える。
 ならば機械は誰が伝えるのだ。
 伝える者など、いなかった。

(-_-)「……ならば」

 立ち止っていた。
 私が記憶に留めよう。
 伝わる事はないだろう。
 だが、忘れられる事はない。

(-_-)「お前達は、私、ヒッキーが連れて行く」

 誰ともなしに空に言う。
 随分と人間慣れしてしまったものだ。
 そんな、言動と行動に苦笑した。

(-_-)「お前も来るのか」

 返事は分かっていたが、一応聞いた。
 私以外誰もいなかったはずの街道に黒い影が舞う。

184: 2010/09/09(木) 21:31:25 ID:rX.QEq7Y0

( ∴)「……」

 一度だけ頭を下げて、また消えた。
 ゼアフォーもまた世界に生きている。

 白の国はまだ遠い。
 それもいいだろう。
 世界は、管理されるものではなくなった。

 時間はある。
 自由もある。
 案外、そういう世界なのかもしれない
 街道は続く。

 目指す所はあるのだ。
 顔を合わすべき者もいる。
 全てのものが溢れていた。
 一歩つづ、進む。

 遥か、北へ。

185: 2010/09/09(木) 21:32:26 ID:rX.QEq7Y0

― エピローグ 逆位置 ―



 ヒッキーと名乗る一人が、去っていった。
 この流れで俺も離れる事が出来たが、何故かしなかった。
 風が吹く。

 目の前が旅人が訪ねる。
 あなたはどちらへ。

('A`)「赤の国です」

 春も近い。
 雪見をしに来たのだが、どうもこんな季節になってしまった。
 どこで寄り道をしたのやら。
 そもそも、あまり長居も出来ない。

 地元、紫の国に呼び出しをくらっている。
 生き残ってしまった以上、約束は約束だ。
 もう少し待っていろ、リリ
 生き残っている事は何となくだが確信出来た。

 まるで世界が一つになった事があったかのように。
 声が届いた気がしたのだ。

186: 2010/09/09(木) 21:33:39 ID:rX.QEq7Y0

 自分の世界に入っていた俺に、旅人が呼びかけた。
 適当に返事をしながらも腰を浮かせた。
 そろそろ行こう。
 名前を聞かれた。

('A`)「俺はドクオです」

 街道を西に歩いていく。
 暫く進めば、赤の国だ。
 とはいっても2、3日かかる。
 何故だか、とても短く思う。

 今までの旅が過酷すぎたのか。
 などと一人呟いた。

 少し前まで、俺はパンデモニウムの森にいた。
 何処か遺跡のような場所で転移された様な気がする。
 しかし目を覚ました時には、やはり同じ森の中であった。

 隣にいたハインも首を傾げていた。
 森は、静かである。
 戦っていた時の、薄暗い気配も感じない。
 魔物達の姿も見当たらなかった。

187: 2010/09/09(木) 21:34:25 ID:rX.QEq7Y0

从 ゚∀从「……帰るか。なぁドクオ」

 闇の魔女は、楽しげだ。
 時間はかかった物の脱出には成功できた。
 一体この騒ぎは何だったのか。
 それも紫の国に戻ったら調べてみるつもりだ。

 パンデモニウムを西側に出てしまった。
 南下すると、結局この道を通る事になる。
 折角なので赤の国にも寄っていこう、そう考えたのだ。
 どうせ時間はある。

 風の中に、陽光が落ちている。
 伸びた影。
 土の匂い。
 街道は西に続いてた。

 良い天気だ。
 先の先まで見える。
 雨が降る事は無いだろう。
 赤の国に着くまでは、光の下を歩ける。

('A`)「……おいおい」

 そんな事を口走った。
 お前って確か、太陽嫌いじゃなかったか。
 長い旅だったように思う。
 変わった点が、まさかそんな所か。

188: 2010/09/09(木) 21:35:19 ID:rX.QEq7Y0

('A`)「そんなもんかぁ……」

 旅に出れば、もっと大きな変化があると思ったが。
 他に探しても見つからない辺り、以上で全変化点だ。
 もっとも目的は赤の国に着く事だったような気がする。
 何だって北国に行きたがっていたのか。

 いざ目の前にすると感慨がない。
 我ながら詰まらない男である。
 だが、今更ねじ曲がった根性は治せない。
 付き合って行くしかないのだ。

('A`)「……」

 ふと立ち止まると、もうひとつ足音がとまった。
 振り返ると犬がいた。
 腹に大きな傷痕がある。
 どこかで見た事があるような。

 思い出せそうで思い出せない。
 ずっと、こちらを見ている。

('A`)「……来るか?」

 一回だけ、良く聞こえる声で返事が返って来た。
 急に出来た旅の道連れに話しかけながら更に進む。

189: 2010/09/09(木) 21:36:13 ID:rX.QEq7Y0

 季節は流れる。
 やがて、冬が訪れる。
 その前に紫の国に戻ろう。
 
 犬にしてみれば、雪はどうなのだろう。
 その辺を駆けまわったりするのだろうか。

 色々考えようとしたが、止めた。
 だが気分は乗っている。

('A`)「よし。勝負だ!」

 足元の犬に向かって道の先を指し示す。
 どっちが早いか。
 俺が走り出す前に、犬はかなり先まで走りきっている。
 何という負け戦。

190: 2010/09/09(木) 21:37:00 ID:rX.QEq7Y0

('A`)「そう言えばお前、名前は?」

 俺が叫ぶと、やはり一度だけ返事があった。
 それでは分からないのだが。
 種族から見れば、そのままの名前でいいか。
 勝手に決定した。

 たとえ絶望的な差でも、やってやれぬ事はない。
 距離を埋めるという目的を確かに決めた。
 そして、一歩。

 走り出す。

191: 2010/09/09(木) 21:38:01 ID:rX.QEq7Y0

― エピローグ 正位置 ―



 長い旅が終わって二カ月程が過ぎている。
 塔の中で、僕達は守護者と共に目を覚ました。
 追われていたと思ったが、守護者は僕達を追う気が無くなっていた。
 総勢十名が塔の中で呆けるという珍しい状況だった。

 そそくさと去ろうとするモナーを取りあえず捕まえて、
 その後の事を話し合う。
 シューも勿論加わっている。

 論議の結果の末、僕達の手配は無くなった。
 僕達に何もする気が無いのだから、もっともだ。
 一番大きな決定がある。
 白の国の事を各国王に伝える。

 光なき地。
 北の大地の再開拓が始まるかもしれない。
 先に帰ってシューが伝えておくと言う。
 危険な為、快諾とはいかないだろう。

lw´‐ _‐ノv「じゃあまた、皆で」

 再開を約束して、光の聖女は去った。

 その後はそれぞれが国に戻って行った。
 例外はあったが。

192: 2010/09/09(木) 21:38:49 ID:rX.QEq7Y0

 プギャーは紫の国に。
 忘れがちだが、彼は守護者である。
 同盟軍解散後は平時の職務に戻るのだ。
 雷の射手の気は重い。

( ^Д^)「色々あるだろうしな……」

 立場の悪い国の立て直し。
 世継ぎの問題。
 ギコの葬式。
 紫の国は、戦後最も苦しい状況になる。

 それでも各国の守護者達は連携して戦争を回避する。
 言われずとも、それが皆の盟約だ。
 八年前から、いや、古代からの。

 クーとヒートは緑の国へ。
 戦後が忙しいのは、どこも同じだ。
 相変わらず単純に風の奏者は叫ぶ。 

ノパ⊿゚)「帰るぞ! クーッ!」
 
 とは言え、守護者ではないクーは単なる姫の立場。
 何かするのだろうか。

193: 2010/09/09(木) 21:39:44 ID:rX.QEq7Y0

川 ゚ -゚)「するさ。しばらく民衆に下ろうと思っている」

 クーは王族だが、民の生活を知る為に城下で暮らすらしい。
 もちろんヒートに知られると面倒なので僕とツン、ショボンのみに言う。
 クーらしい選択と言えば、そうなのかもしれない。

 ショボンは黄の国に、そしてモナーも連行された。

( ´∀`)「僕もヤキが回ったもんだモナ」

 などと嘯いている。
 きっと職務につかずに何処かへ旅立つだろう。
 元々が一所に留まれない人間だった。

(´・ω・`)「国で先生でもやって余生を過ごすよ。誰かと違って」

 誰か、に関しては後日談がある。
 ショボンの兄であるシャキンは姿を現していないのだ。
 僕とツンの前以外には。
 恐らくだが、地の賢者は気がついていたのだろう。 

 だからと言って、ショボンが国に帰る事には変わりは無い。
 平時と変わらず、緩やかな時間が流れる場所に。

194: 2010/09/09(木) 21:40:40 ID:rX.QEq7Y0

 青の国には、しぃだけが。
 
(*゚ー゚) 「私も、きっと大変になるかな」

 しぃは神の信者である。
 僕達は何も憶えていない。
 だが、何かがあった事を憶えている。
 水の巫女は、その信仰を根底から揺るがされる事になる。

 それは信仰を持つからこその苦痛だろう。
 国の代表として職務放棄もできない。
 それでも彼女なら耐え抜くだろう。
 強い女性だった。

 赤の国にジョルジュが戻る。
 国の守護は炎の騎士の務めだ。
 しかし、その後に彼の拳に迷いが生じた。
 僅か一ヶ月後に守護者の職をを辞して、他の役職についた。

 後釜に据えられそうになったのは、まさかの僕である。
 冗談ではないと全身全霊で断った。
 結果、ジョルジュの弟子である若干十代の女の子が守護者になった。
 守護者の低年齢化が各国の悩みとなるのは時間の問題だろう。

195: 2010/09/09(木) 21:41:31 ID:rX.QEq7Y0

( ゚∀゚)「自分で考えて動け」

 後に守護者の後見人、兼学園の教師となったジョルジュの口癖だ。
 手を焼いた数名の男女を思い出して言っているらしい。
 その男女に失礼でしょうが。
 僕が面と向かってそう言ったら殴られた。

 手を焼いた男女とやらが何となく分かる。

 世界を臨む塔に、ツンは残る。
 それは奇妙な話なのだが、全員が分かっていた。
 少なくとも半年、ツンは塔から離れられない。
 それが塔の心臓部となった代償だろう。

 取り外しの処理に時間がかかるらしい。
 外から見れば、ツンには何もくっついてないのだが。
 仕方が無いので、僕も塔に居座る。
 半年分の食料はどう考えても誰かが運ばなくてはならない。

ξ゚⊿゚)ξ「おかえり」

 戻った僕に、ツンは声をかける。
 ひどく懐かしいと思った。
 彼女の下に戻ってくるのは、緑の国で生活していた時以来だ。
 今は無き、両親の姿を見た気がした。

196: 2010/09/09(木) 21:42:24 ID:rX.QEq7Y0

 僕が外に出ている間、ツンの相手をしていたのはシャキンだ。

(`・ω・´)「……君、偉いよね」

 結構ツンの相手は大変らしい。
 実態を持たないシャキンは、機械の体の完成を待っているらしい。
 旅に出たいとのこと。
 ショボンに顔を合わせる気は無い。

 今更、会えるか。
 いつもそう言っていた。
 シャキンが塔を出る時、南に歩いて行った。
 黄の国に向かっているようにも見えたが、その後は分からない。

 皆、何処かで憶えている。
 忘却の果てでも、何があったのかを。
 僕の中におぼろげに浮かぶ『神』の姿。
 その思い出話をするのは、もう少し先になる。

 もうすぐ、ツンも塔から出られる。
 皆忙しいだろうが、集まってもらえるか聞いて回っていた。
 先程、ジョルジュとナオルヨに約束を取り付けた事を思い出しながら、
 街道でドクオ、ヒッキーと名乗る旅人と別れた。

 翠緑の平原に風が吹いている。
 馬車を待っている訳ではない。
 ただ、空を見ていた。
 気付かずに流星が流れない事を祈っている。

197: 2010/09/09(木) 21:43:24 ID:rX.QEq7Y0

 よく分からない心情だった。
 西を向けば、旅の出発点。
 北には、暗い大地への道。
 東、先で二つに分かれている。

 それぞれ紫の国と、青の国へと繋がる。
 少し、歩いていこう。
 次の旅を思いながら手元のカードの束をきる。
 タロットだ。

 塔で目を覚ました時、何故か僕の手に握られていたのだ。
 変な事もあるものだった。
 これを、出会った旅人に引いてもらった。

 ヒッキーと名乗る男は、一枚取り、裏面だけを見て戻した。
 当然、僕には表面が見えている。
 ドクオがカードを表に返す。
 逆位置だった点に、苦笑していた。

 僕も、同じくカードを引いた。
 表に返す。
 正位置だ。

 笑いながら、束をしまった。
 こんな偶然もあるのか。
 僕達は同じカードを引いたのだ。
 『世界』、まで至ったつもりはないのだが。

198: 2010/09/09(木) 21:44:30 ID:rX.QEq7Y0

 それでも、『愚者』の新しい旅が始まる。
 祝福と思っておこう。
 自由なんて我儘な物だ。

 立ち上がると、景色も一緒についてきた。
 抜ける青空。
 広がる平原。
 世界は、どこまでも続いていた。

 息を吸い込みながら顔を東に向ける。
 風がぶつかって、マントが翻った。
 明日、馬車をつかまえればいい。
 もし馬車がなければ、歩こう。

( ^ω^)「さて、行くかお」

 また、各地を回るのだ。
 自分の意思で。
 あの日と、何処か似ている。

 生きる。
 魔法のある世界で。
 
 確かな思いで、一歩を踏み出した。

199: 2010/09/09(木) 21:45:11 ID:rX.QEq7Y0





( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです




"The End"

200: 2010/09/09(木) 21:50:42 ID:rX.QEq7Y0

『あとがきにかえて』

以上で、
( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです
は完結です。

この話をどれくらいの人が読んだのか。
どれくらいの人に納得してもらえたのか。
それは分かりません。

ですが、かろうじて完結までこぎつける事が出来ました。
支援や乙をくれた人。
読んでくれた人。
避難所の管理人さん。


すべての人にお礼を申し上げ、あとがきと代えさせて頂きます。

2010年9月9日

202: 2010/09/09(木) 21:55:55 ID:0jlHYdVE0

面白かったです。
お疲れ様でした

引用: ( ^ω^)ブーンの世界には魔法があるようです