815: 2016/05/20(金) 22:16:45.12 ID:0H+hoDdro



最初:岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【その1】
前回:岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【その6】

第15章 二律背反のデュアル(♀)


倫子「(い、いや、紅莉栖が居るわけがないっ。まさか、また私はイマジナリーフレンドを創り出した……?)」

倫子「(……それはない、か。どういうわけか、ギガロマニアックスの力が使えなくなってるんだから……)」

倫子「(と、ということは、つまり……っ!?)」ドクンッ!

紅莉栖「……あけまして、おめでとう」ニコ

倫子「え、あ……」ドキドキ

紅莉栖「それにしても珍しいわね、あんたがここに顔を出すなんて」

倫子「ぅ……あ……」ウルウル

紅莉栖「岡部……?」

倫子「紅莉、栖……う、うぅ……」グスッ

紅莉栖「ちょ、どうしたの突然」

倫子「紅莉栖……なの……?」ウルッ

紅莉栖「……大丈夫? 何か悪いものでも食べた?」
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816: 2016/05/20(金) 22:17:16.72 ID:0H+hoDdro

倫子「紅莉栖……っ」ダキッ

紅莉栖「ふおわぁっ!?!? な、なな、なんぞぉぉぉっ!?!?///」ドキドキ

倫子「あったかい……生きてる……」ポロポロ

紅莉栖「り、倫子たん……ハァハァ……」

倫子「HENTAI……っ」ギュッ

紅莉栖「……ホントに、どうしちゃったのかな」ナデナデ

倫子「……もう少しだけ、このまま……」ギューッ

紅莉栖「……心配しないで。もう、平気だからね……」

倫子「紅莉栖ぅ……うわぁぁぁぁん……っ」ポロポロ

紅莉栖「大丈夫よ……大丈夫だから……」ギュッ

817: 2016/05/20(金) 22:18:44.11 ID:0H+hoDdro

倫子「ご、ごめんね、紅莉栖……急に泣きついたりして……」グシグシ

紅莉栖「私としては役得……いえ、不謹慎だったわね。ごめん」

倫子「不謹慎……?」

紅莉栖「思い出したんでしょう? まゆりのこと……」

倫子「(薄々気付いていた。紅莉栖が生きているということは、ここは――)」

倫子「α、世界線……」ガクッ

倫子「また、私は、まゆりを、頃し――うぐぅっ! お、おえぇっ!!」ビチャビチャ

紅莉栖「だ、大丈夫!?」サスサス

倫子「ごめんね……ごめんね、まゆりぃ……っ」ポロポロ


   『オカリンの……役に……立て……たよ……』


倫子「ぁ……っ、ぁ……」ガクガク

紅莉栖「お、落ち着いて、岡部っ!」

倫子「はぁ……はっ……はぁっ……」プルプル

紅莉栖「ほら、深く息をはいて」ギュッ

倫子「はぁっ……はぁ……っ」

818: 2016/05/20(金) 22:22:02.62 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「ごめん……私が余計なこと言っちゃったから……」

倫子「う、ううん……そうじゃないの……そうじゃ……」プルプル

紅莉栖「……薬、飲む? 水、持ってくる」クルッ

倫子「え……? あ、私のポケットに、精神安定剤……」

倫子「(そっか、この世界線でも、"鳳凰院凶真"は氏んでたんだ……。服装も白衣じゃなくて女子大生ファッションのまま)」

倫子「(つまりここは、ラウンダーの襲撃が無いα世界線……)」

倫子「(SERNに拉致されて異国の地でその復讐心を燃やすことなく、秋葉原の日常、緩慢な時間の流れの中で心を頃してしまった未来……)」

紅莉栖「はい、水。ゆっくり飲んで」

倫子「うん……ダルは?」

紅莉栖「橋田? 橋田も最近は来てないわ。あんたも、相当久しぶりよね」

倫子「紅莉栖はラボに……?」

紅莉栖「……時々ね。じゃないと、寂しいだろうと思って……航空チケット代もLCCなら安いし」

倫子「……そっか。まゆりの、ために……」

819: 2016/05/20(金) 22:24:01.88 ID:0H+hoDdro

倫子「紅莉栖……ねえ、もう1回、ぎゅってして」

紅莉栖「え……い、いいの?」ハァハァ

倫子「いいよ……」ダキッ

紅莉栖「う、うぉぅ……くんかくんか」ギュッ

倫子「まゆりは、氏んじゃったんだね……」グスッ

紅莉栖「……うん」

倫子「紅莉栖は、生きてるんだね……」ヒグッ

紅莉栖「え? ……うん」

倫子「(どうして……? 私は、何度もまゆりを見頃しにして、それを乗り越えるために、紅莉栖を何度も頃したのに……)」ウルウル

倫子「(また、私に選べって言うの……? 神様は、なんて残酷なの……)」

倫子「私は、Dメールを送らないといけないのかな……」

紅莉栖「……電話レンジ(仮)は、あんたが破棄させたんでしょ。忘れたの?」

倫子「え……あ、うん。そうだった、ね……」

紅莉栖「…………」

820: 2016/05/20(金) 22:25:59.33 ID:0H+hoDdro

倫子「(そっか。SERNの襲撃が無いってことはつまり、8月13日にタイムリープマシンの公表宣言をせず、破棄したってこと)」

倫子「(そして破棄を確認した天王寺さんがSERNに報告していた……だから襲撃がなかった……)」

倫子「(だけど、電話レンジ(仮)が無いってことは、もう、β世界線に戻れないんだ……)」

倫子「(私は、選択をしなくていい……もう私の責任じゃない……)」ドクン

倫子「(私は、仕方ないと言って、まゆりを諦めることができる……っ)」ドクンドクン

倫子「(私は、紅莉栖と一緒に歩んでいける……っ)」ドクンドクンドクン

紅莉栖「……ねえ、岡部。すごい汗。シャワー浴びてきたら?」

倫子「えっ……あ、ホント。ごめん、汗臭かった?」

紅莉栖「う、ううん! むしろ良い匂いだったわけだが……それでも、気分をスッキリさせてきた方がいい」

倫子「……わかった。私の脱いだ服、漁らないでね」

紅莉栖「ふぇっ!? そ、そんなことしないわよぉ?」ドキンッ

倫子「……別に、いいけどさ」フフッ

紅莉栖「…………」

821: 2016/05/20(金) 22:27:12.62 ID:0H+hoDdro
シャワー室


シャー

倫子「(ここがα世界線ってことは、SERNが2036年にディストピアを作り上げる未来が確定してるってこと)」

倫子「(つまり、私が元居た世界線の2034年において、SERNがタイムマシン開発に成功してしまった……そして過去が書き換えられた)」

倫子「(紅莉栖は言っていた。SERNがタイムマシンを完成させるには、Zプログラムと、紅莉栖の頭脳が必要だって)」

倫子「(ということは……あの時。天王寺さんはSERNへすべてを報告したんだ。私たちのタイムマシンについて)」

倫子「(その瞬間、SERNがタイムマシンを完成させる未来が確定したために、世界線はαへと変動した)」

倫子「(でも、どうして……? 当然、報告を受けたSERNはラウンダーに命じて私たちを拉致する)」

倫子「(そこで私がすべてをゲロった? 完璧なタイムマシンがラジ館屋上にあること。紅莉栖の頭脳が未だアメリカの大学のサーバ内にあること)」

倫子「(まゆりの命と引き換えだと言われれば、私はためらうことなく洗いざらい白状したかもね)」

キュッ キュッ

倫子「(……まあ、この辺は考えるだけ無駄か。かつて夏にα世界線を漂流した時も、バタフライ効果による過程の変化は複雑怪奇だったんだから)」

倫子「(原因と結果だけがハッキリとしている。原因は、SERN。結果は、まゆりの氏。それが、α世界線)」

倫子「(そして、もう2度と世界線を元に戻すことはできない……手許にタイムマシンが無いから。でも、紅莉栖は生きているからやろうと思えば――――っ!?)」

倫子「(ま、まさかあいつ……っ!!)」ダッ

822: 2016/05/20(金) 22:29:01.11 ID:0H+hoDdro
開発室


倫子「紅莉栖っ!!」ダッ

紅莉栖「え? きゃぁっ!! お、岡部、すっぽんぽん……!!///」ドキドキ

倫子「やっぱり……紅莉栖、それ……」プルプル

紅莉栖「あー……参ったな。見つかっちゃったか」

倫子「未来ガジェット、8号機……また、作ったんだね……」

紅莉栖「……言ってみれば『電話レンジ改』ね。ううん、(仮)が付くんだった。だから、『電話レンジ(仮)改』が正しいか」

倫子「名前なんてどうだっていいよ。作り直したってことは……」

倫子「世界線を……戻すつもり、だね……」

紅莉栖「……これ、完成したのはね、実は1か月以上前なの。と言っても、私の再構築された記憶の上では、だけどね」

倫子「え……?」

紅莉栖「この世界線は、実際は数分前にアクティブになった。だから、本当の意味での"昨日"は存在しない。世界5分前仮説みたいなもの」

紅莉栖「だけど、唯一の例外を除いた世界人類全員の記憶の中に"昨日"は存在する。脳がそう認識してる限り、"昨日"は現実になる」

紅莉栖「私の記憶としては、今この瞬間まで18年間生きてきた命があるように錯覚している。実際は数分前に生き返ったゾンビ。そうでしょ?」

紅莉栖「映画でもゲームでも、ゾンビはもう1度殺さないと」

倫子「……何を……」

823: 2016/05/20(金) 22:30:29.53 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「岡部はついさっき、β世界線から来たのよね」

倫子「それは……」

紅莉栖「このα世界線はね、いくつかのDメール実験の中で、ロト6のDメール実験のみ大幅な世界線変動に成功した世界線」

紅莉栖「あんたはそこで2度目の世界線変動を観測した。1度目は7月28日にβ世界線から来た時ね」

紅莉栖「それ以降、あんたにリーディングシュタイナーが発動することはなかった。Dメールを過去に送ること自体は何度も成功したけど、世界線が大きく変わることは無かった」

倫子「……なら、この世界線でもエシュロンにDメールが捕捉されているの?」

紅莉栖「それは8月1日に柳林神社からあんたと私で手に入れたIBN5100を使って、8月17日にSERNに橋田がクラッキングしたことによって解決した」

倫子「え? それなのに世界線はβへと変動しなかった?」

倫子「……そっか、この世界線では、紅莉栖がSERNで研究しない代わりに、『Amadeus』が使われてるんだ」

倫子「そして、鈴羽から1%の壁を越えるよう言われたんだね。ラウンダーの脅威も教えられた?」

紅莉栖「未来人のでっち上げ話にビビッたあんたは、タイムリープマシンへと改造していた未来ガジェット8号機を、1度も実験をすることなく、公表宣言もせずに破棄した」

紅莉栖「これでここがラウンダーに狙われる危険は無くなった、ってわけ」

倫子「(SERNの擬似スタンドアロンサーバからDメールデータを削除できたんだから、ラボは未来のSERNから監視されていなかったわけだ。いつかの、綯のDメールで改変された世界線に似ている……)」

倫子「待って……そうなると、1%の壁を越える方法は、なんなの……?」

紅莉栖「あんたはその方法を選択できなかった。というより、阿万音さんから聞かされてた『椎名まゆりが氏ぬ』という未来が、実現しない可能性に賭けた」

紅莉栖「ここは……そういう世界線。まゆりが、運命に殺されただけの、むなしい世界」

倫子「まさか紅莉栖、2034年からタイムリープしてきたり……?」

紅莉栖「……そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。あんたに観測できないことは、判別ができないのと同じことよ」

824: 2016/05/20(金) 22:31:43.23 ID:0H+hoDdro

倫子「で、でも、どうして私がβ世界線から来たって……」

紅莉栖「言動を見てればわかる。そうでなきゃ、あんたがあんなことをするはずないもの」

倫子「あんなこと?」

紅莉栖「っ……だ、だから、その……あんな風に私を抱きしめたりとか……そういう……こと、よ」モジモジ

倫子「(そっか……この紅莉栖は、あの暑い夏の日、私と抱き合ったことを知らないんだ……)」

紅莉栖「さらに言えば、その世界線の変動は誰か別の人の手によるもので、あんたが好きこのんで変動させたわけじゃない……当たってる?」

倫子「さすが、私の大好きな紅莉栖だね……」

紅莉栖「はぅっ! ど、どうしてそういうこと、恥ずかしげも無く言えちゃうかな……」ドキドキ

倫子「私っ、紅莉栖のことが――」

紅莉栖「ストップ。それ以上はダメ」

紅莉栖「あんたは、自分の意志でα世界線に来たことはない。あんたの意志が選ぶのはいつだって、β世界線」

紅莉栖「私じゃなく、まゆりの命なの。忘れないで」

倫子「あ……ぁ、っ……」

825: 2016/05/20(金) 22:32:34.26 ID:0H+hoDdro

倫子「ごめん……ごめんねぇ、紅莉栖っ……うぅっ……」グスッ

紅莉栖「謝るな、バカ。あんたが自分で決めたことでしょうが。だったら、自分の選択に自信を持ちなさい」

紅莉栖「それにね、あんたの選択はたぶん間違ってなかった」

紅莉栖「この半年間、この世界線の岡部は、ずっと自分を責めてた……それこそ、心を壊してしまうほどに……」

倫子「……もしかして、妄想のまゆりを創り上げたり?」

紅莉栖「そう。アルパカスーツを作って、自分はアルパカマンなんだって暗示をかけて、それを着てる時だけ、居もしないまゆりとおしゃべりしてた……って、橋田から聞いた」

倫子「……相当に痛々しいね」

紅莉栖「タイムリープマシンを破棄して正解だったわ。もしアレがあったら、あんたは永遠にまゆりが生きている時間をループし続けたと思う」

紅莉栖「そんなの、地獄と変わらない」

紅莉栖「でも私は、そんな岡部を、どうしてあげることもできなかった……」

紅莉栖「だって、あんたの苦しみは私のせいだから……」

紅莉栖「私を生かすために、あんたは苦しんでたんだから……」

826: 2016/05/20(金) 22:33:04.01 ID:0H+hoDdro

倫子「どっちにしても結局、私はずっと後悔し続けるんだ……」

倫子「α世界線にいても、β世界線にいても、それは変わらない」

倫子「ハハ、バカみたい。私の感情は、私の意思は、神に操られるだけの、道化に過ぎなかった――」

紅莉栖「しっかりしなさい、岡部倫子!」

倫子「紅莉栖ぅ……」ウルッ

紅莉栖「なんて顔してるのよ、あんたらしくない」

紅莉栖「私の好きな鳳凰院ちゃんは、もっと自信に満ちた顔してなきゃ」

紅莉栖「ここにいてもあんたは幸せにはなれない。ずっと後悔の念を拭うことはできないの」

紅莉栖「そして、それは私も同じ……」

倫子「でも……でもぉっ! 私は、紅莉栖がいないと、何もできなくて……っ!」ウルウル

倫子「シュタインズゲートを目指すことを、諦めて……っ!」ポロポロ

紅莉栖「……私はもう、そうやって苦しむあんたを見ていたくない」

紅莉栖「私にだって、世界を選択する権利はある。違う?」

倫子「でも、でもっ……」グスッ

827: 2016/05/20(金) 22:35:36.84 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「止めても無駄よ。私はやるからな」クルッ

倫子「いやだよぅ……離れたく、ないよぉ……っ」ポロポロ

紅莉栖「(……かわいい)」ギリッ

紅莉栖「この世界線の出来事は、あんたにとってつかの間の夢だったのよ」

紅莉栖「……β世界線に行ったら、私のことは忘れなさい」

倫子「そんなこと、できるわけないよぉっ……」ポロポロ

紅莉栖「かわいいな、まったくもう……ハァ」

紅莉栖「だーめ。ほら、小指出して」スッ

紅莉栖「ゆびきりげんまん、嘘ついたら海馬に電極ぶっ刺す、指切った」ニコ

倫子「……語呂が悪いよ」グスッ

紅莉栖「ほっとけ」

828: 2016/05/20(金) 22:36:22.75 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「私との出会いも――」


・・・

倫子『牧瀬ぇ……紅莉栖ぅ……!!』ダキツ

紅莉栖『(な、なんぞーっ!? 突然残念系美少女に泣きながら抱きつかれるとか、これなんて工口ゲ!?)』

・・・


紅莉栖「言葉を交わしたことも――」


・・・

倫子『オレみたいな……その、痛い子が友達で、お前は満足なのか?』

紅莉栖『あんたのラボは幼稚だけど……居心地がいい』

・・・


紅莉栖「一緒に研究を進めたことも……」


・・・

紅莉栖『……もし、私が記憶を失ったら?』

倫子『その時はオレが覚えていてやる。そしてお前に思い出させてやる』

・・・


紅莉栖「全部、忘れなさい。いいわね」




倫子「……うん」グスッ

829: 2016/05/20(金) 22:37:28.72 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「ふ、ふーん。忘れちゃうんだ、私のこと」

倫子「ホントにお前は……面倒臭い女だね……クリスティーナ……」ウルッ

紅莉栖「ふふっ、冗談。嘘よ、嘘……」

紅莉栖「……阿万音さんから教えてもらったことだけど。SERNは、完璧なタイムマシンを完成させるの。この私抜きで」

紅莉栖「だけど、そうは言っても私の頭脳は必要。『Amadeus』はSERNが支配した」

倫子「(私の知ってるα世界線でも『Amadeus』研究自体はSERNのもとでリーディングシュタイナー研究として活用されてたんだっけ……)」

倫子「私のスマホから『Amadeus』のアプリが消えてたのも……?」

紅莉栖「へえ、β世界線では"比屋定"先輩あたりと交流してるのね。α世界線では交流してなかったでしょ?」

倫子「そっか、『Amadeus』研究が紅莉栖の大学で存続してたとしても、α世界線だと私との接点は無いもんね……あ、あれ? "真帆"先輩って呼んでないの?」

紅莉栖「マホ? 誰それ」

倫子「比屋定真帆。紅莉栖の可愛い先輩でしょ?」

紅莉栖「可愛い? 彼、男よ? 骨太でガッチリした、いかにも島の男って感じの」

倫子「(……α世界線では"比屋定くん"だったんだ! それでα世界線のクソレO紅莉栖は比屋定先輩には興味が無かったのか……)」

830: 2016/05/20(金) 22:40:27.91 ID:0H+hoDdro

倫子「この世界線のSERNは、Zプログラムと、『Amadeus』の"紅莉栖"で完璧なタイムマシンを作り上げる」

倫子「そして、過去を自分たちの都合のいいように書き換えた……」

倫子「(私がさっきまで居たβ世界線で、SERNが『Amadeus』を支配するような事象改変が発生した)」

倫子「(『Amadeus』の"紅莉栖"が私に助けを求めてきたのは、そういうことだったんだろう)」

倫子「(だから、どういう過程かはわからないけど、この世界線のSERNが『Amadeus』を支配するように収束した)」

倫子「(というか、辻褄合わせの再構成が発生した)」

紅莉栖「……『Amadeus』の私は、未来のことを知らないからね。脅されなくても、人類のための研究だって信じ込んだまま、タイムマシンの平和利用を夢見て、パパと一緒にSERNに協力しているのかも」

紅莉栖「だからね? Dメールで『Amadeus』研究をとん挫させてしまえば、SERNは完璧なタイムマシンを造れなくなる。タイミングとしては2010年の夏へ送るつもり」

紅莉栖「そして私はそれを18文字で実現する方法を知ってる。これでも研究チームの一員だからね」

倫子「だけど、Dメールを送ればまたエシュロンに捕捉されて、ラボは監視され、今度は生身の紅莉栖が狙われて、結局α世界線のままなんじゃ……」

紅莉栖「送り先はとある宗教団体。送り主は今回、牧瀬紅莉栖である必要性は無い」

紅莉栖「匿名<アノニマス>として送って、神からの啓示か何かだと思って貰えれば結構」

紅莉栖「これなら、たとえDメールがエシュロンに捕捉されても、岡部も橋田も牧瀬も文面に出てこない」

紅莉栖「未来のSERNがラボを監視する理由にならない」

紅莉栖「タネさえわかっちゃえば、世界を騙すなんて簡単なんだって、阿万音さん言ってたわ。あんたも経験があるんじゃない?」

倫子「(た、確かに、そう。私だって、エンターキーひとつでアトラクタフィールドをあっけなく跳び越えたんだから……)」

831: 2016/05/20(金) 22:41:09.58 ID:0H+hoDdro

紅莉栖「あとは送信ボタンを押すだけ。それじゃあね、岡部……」ニコ

倫子「……ホントに、送るんだね」

紅莉栖「大丈夫よ。あんたなら、きっと」

倫子「紅莉栖ぅ……」ダキッ

紅莉栖「ちょっ、私まで濡れちゃうじゃない……ハァハァ」

倫子「…………」ギュッ

紅莉栖「(かわいい)」

紅莉栖「向こうに行ったらちゃんと髪乾かしなさいよ? って、その必要はないか」

紅莉栖「岡部……良い、目覚めを」ポチッ

倫子「ま、待って、紅莉―――――

832: 2016/05/20(金) 22:42:11.10 ID:0H+hoDdro

―――――――――――――――――――
    0.57182  →  1.05364
―――――――――――――――――――

833: 2016/05/20(金) 22:44:50.80 ID:0H+hoDdro
未来ガジェット研究所


倫子「……ぁ……あぁ……」

倫子「(肌に直接伝わっていたはずの温もりが、そこにはなかった――)」

倫子「……くり、す……」ツーッ

まゆり「オカリン、どうしたの? 具合悪い?」

倫子「(まゆりが生きている……それだけでここがβ世界線だと確信できる)」

倫子「(忘れろ……あれは、夢だったんだ……)」グシグシ

倫子「……ううん、大丈夫だよ。まゆり、少し手をぎゅってしてもらえる?」

まゆり「うん、いいよー」ギュッ

倫子「(本当は手を握らなくても出来るけど、この方がしやすいんだよね、未来予知……よし、力はもう復活してる)」

倫子「(……まゆり……鈴羽……紅莉栖? あ、いや、かがりさんか。うん、大丈夫。この世界線はβ世界線だ)」

倫子「まゆりは、私が守る――」

まゆり「え~? 違うよ~」

倫子「……えっ?」

まゆり「まゆしぃはオカリンの人質だから、守られたらダメなんじゃないかな?」

倫子「……ふふっ。意外と細かいことにこだわるんだね、まゆり」

まゆり「えっへへ~」

倫子「(まゆりはまゆりで、人体実験の生贄にされたい、とか考えてたりするのかな?)」

倫子「……もう二度と、どこへも行かせないからっ」ギュッ

まゆり「……えへへ」

834: 2016/05/20(金) 22:47:27.60 ID:0H+hoDdro

るか「お薬、飲みますか?」

倫子「あ、ルカ子。平気だよ、心配かけてごめんね」

かがり「ほんとに? 無理しちゃだめだよ?」ジーッ

倫子「紅莉っ!? じゃなかった、かがりさんか……うっ、顔が近い……」ドキドキ

倫子「(元の世界線と特に変わった様子はない、か)」

倫子「(……かがりさんに紅莉栖の面影を求めちゃダメだ)」ブンブン

倫子「ちょっとお腹が空いちゃっただけ。朝から何も食べてなくて」アセッ

かがり「もう、オカリンさんはスタイルいいんだから、ご飯を抜くダイエットなんかしたらダメだよ」プクーッ

かがり「そういうのはダルおじさんに任せておけばいいんだって」

倫子「(そうそう、オカリンさんにダルおじさ……ん?)」

835: 2016/05/20(金) 22:48:12.63 ID:0H+hoDdro

まゆり「だったら、まゆしぃがなにか作ってあげるよ~」

かがり「えっ、ママが? 私はママのトンデモ料理を食べるの好きだけど、オカリンさんにはまだ早いよ」

るか「あ、じゃあボク、何か買ってきます」タッ ガチャ バタン

まゆり「もう。かがりちゃんもるかくんもそういうこと言うんだから~。由季さんに教えてもらってるから大丈夫だよ~」

倫子「ま、待って! どういうこと……!?」

倫子「(かがりさんの言動が、おかしい!?)」

倫子「えと、かがりさん……?」

かがり「やだなぁ、オカリンさん。私のことは"かがりちゃん"でいいって言ってるのにー」ムーッ

倫子「まさか、記憶を取り戻してる?」

まゆり「かがりちゃんのことは、オカリンが教えてくれたんだよ~?」

倫子「(私にそんな記憶はない。ということは――)」

倫子「ここは……どこなんだ……?」

836: 2016/05/20(金) 22:49:53.64 ID:0H+hoDdro

ガチャ バタン

るか「表通りの自動販売機で、おでん缶、買ってきました。寒いので、ちょうどいいかなと思って」

かがり「わーい、おでん缶だーっ♪ 私、これ大好きなんだ」

るか「へえ、未来でもおでん缶、売ってるんだね」

倫子「(ルカ子にかがりちゃんが未来人だってことがバレてる……)」

かがり「ううん、私ね、おでん缶を"教授先生"からもらったことがあるの。その人、おでん缶が好きで、自分で作ってたんだよ」

まゆり「自分でかぁ、すごいねぇ。きっとまゆしぃたちとお話が合うね!」

倫子「(教授……先生……オデンカン……)」

まゆり「かがりちゃん、薩摩と牛すじ、交換する?」

かがり「いいのっ!? うんっ!」ニコ

倫子「私と交換した時はさんざん渋って、竹輪と交換になったのに……」モグモグ

まゆり「えー、しむっらのはオカリンれしょー?」モグモグ

かがり「ママ、口にモノを入れたまましゃべっちゃいけないんだよ?」

倫子「かがりちゃん。食べながらでいいから、もう少し、質問させて?」

かがり「なあに?」モグモグ

837: 2016/05/20(金) 22:51:24.70 ID:0H+hoDdro

・・・

倫子「……それじゃあ、ここに来たのはルカ子の家に居候していたところを、私がまゆりに紹介する形で?」

かがり「覚えてないの? 私と一緒で記憶喪失になっちゃったのかな……」シュン

倫子「えと、つまり、1998年から2010年までの12年間の記憶だけ失っていて、自分が子どもだった時の記憶は思い出した?」

かがり「思い出したっていうか……お寺で目覚めた時も、ちゃんと覚えてたよ?」

かがり「あとね、オカリンさんに初めて会った時、初めて会った気がしなかったの。これってきっと運命だよね! わーい!」ダキッ

倫子「(それは前も言ってたけど、どうしてだろう?)」 グリグリ

倫子「(ともかく、この世界線では『Amadeus』研究が2010年夏にとん挫する、という事象が発生しているはず)」 グリグリ

倫子「(それによってかがりちゃんの記憶欠如の仕方が変わっている。『Amadeus』研究に近かった人間の行動が変わり、それがかがりちゃんに影響した?)」 グリグリ

倫子「って、暑苦しいから離れなさいっ!」グイッ

かがり「きゃっ! もー、やったなー!」キャッキャッ

倫子「あ、あれ……? かがりちゃんの足元の、床が、綺麗……」

倫子「(昨夜レイエス(仮)たちが襲撃してきた時、威嚇射撃が床を貫いたはず。それが無いということは……)」

838: 2016/05/20(金) 22:52:43.49 ID:0H+hoDdro

倫子「昨日はどうだった?」

まゆり「昨日のパーティーのこと? すっごく楽しかったよー」

かがり「鈴羽おねーちゃんと久しぶりに組み手できて痛気持ち良、じゃなかった、楽しかったよ! オカリンさんとはまたいつかやろうねっ!」

倫子「(確定だ。昨夜の襲撃は無かった)」

倫子「(前のβ世界線でレイエス(仮)たちは、研究施設から脱走したかがりちゃんを取り返しに来たはず)」

倫子「(でも、この世界線では違う。かがりちゃんは未来の記憶を覚えたまま施設を出た。それが意味してるのは……)」

倫子「(わからないけど、襲撃がズレた可能性が高い。襲撃が起こってない現状では、レイエスに問いただしたところで、はぐらかされて終わりだろう)」

倫子「(攻めるなら、相手の尻尾が出てからじゃないといけない。今日明日以降も警戒しておく必要がある、か……)」ハァ

まゆり「ところで、かがりちゃん。時間大丈夫?」

かがり「うん、大丈夫。休憩時間はもう終わってるから、店長に怒られちゃう」ドキドキ

まゆり「それ、大丈夫って言うのかなぁ?」

倫子「店長? ってことは、バイトしてるんだ」

かがり「そうだよ、下のブラウン管工房で……って、この前言ったじゃん。オカリンさんも一緒にバイトする?」

倫子「い、いや、遠慮しとくよ。冬なのにあそこ、暑苦しいし」

倫子「(襲撃と関係なくバイトしてる……これも何かの収束なのかな?)」

かがり「それじゃ、怒られにいってきまーす!」ビシィ

倫子「(かがりちゃんってM……?)」キョトン

839: 2016/05/20(金) 22:53:34.47 ID:0H+hoDdro
裏路地


倫子「この世界線の"私"の行動が不可解だったけど、かがりちゃんに子どもの頃の記憶が元からあったなら、まゆりと引き合わせてもおかしくないのかもしれない」

倫子「そうだ、『Amadeus』アプリは……やっぱり、無いよね」

倫子「あれ? でも、真帆ちゃんの電話番号は登録されてる……?」

倫子「(もしかして、前の前に居た世界線の因果が辻褄合わせで再構成された?)」

倫子「(ギガロマニアックスの力で、過去が見れれば便利だったんだけどなぁ)」

倫子「というか……」

倫子「もう二度と、紅莉栖の声、聞けなくなっちゃったんだね……」グスッ


   『大丈夫よ。あんたなら、きっと』


倫子「大丈夫じゃ、ないよぅ……」ヒグッ

840: 2016/05/20(金) 22:54:21.57 ID:0H+hoDdro
UPX1階 オープンテラス


倫子「ごめんね、こんなところまで来てもらって」

真帆「別に構わないわ。丁度近くまで来てたから」

倫子「(この子がα世界線では男の子だったなんて信じられないなぁ……)」

真帆「あれ? なんだか目が赤いようだけど?」

倫子「えっ!? あ、うん、ちょっと目にゴミが」グシグシ

真帆「で、話って?」

倫子「……『Amadeus』のことなんだけど」

真帆「……え!? あなた、どうして知ってるの?」

倫子「(そりゃ、ビックリするよね……だって、去年の夏に凍結されてるはずだもん)」

倫子「紅莉栖から聞いてたんだよ」

真帆「あ、そう……。あの子、あなたにそんな話までしていたのね」

真帆「実はね、去年の夏――紅莉栖の事件があった、あの後に凍結されたの」

倫子「そうだったんだ。でも、どうして?」

真帆「……なんでも、外部団体からクレームが入ったんですって。神の御業に触れてはならない、とかなんとか」

倫子「そ、それだけ? それだけで、研究が中止になっちゃったの?」

真帆「ええ。少なくとも、私はそう聞いてるわ。いきなり研究は中止だって言われて、教授たちも随分怒ってた」

倫子「(紅莉栖がどうやって18文字で世界線を変えたのかはわからないか。別の世界線からのメッセージは神託扱いされてるらしい)」

841: 2016/05/20(金) 22:55:33.52 ID:0H+hoDdro

倫子「そうそう。レイエス教授って、どういう人?」

真帆「どういうって……私たちの脳科学研究所の隣の棟の、精神生理学研究所の研究者よ」

真帆「南部出身で、オープンな性格っていうか、ヒマさえあれば学生たちとバスケしてるような人。学生には人気があるわ」

倫子「その、精神生理学について、詳しく」

真帆「そうね……私たちが脳そのものの機能研究をしているとすれば、精神生理学は、脳の活動によってもたらされる心の働きや病気とか、医療に近い分野を専門としてるわ」

倫子「たしか、90年代にVR技術を確立させて、特許をとったんだよね」

真帆「詳しいわね……。そう、VR技術」

真帆「盲目の人に外部機器で撮影した映像の光信号を脳の電気信号に変換することで外の風景を見せることができる、っていうものね」

倫子「(まるでギガロマニアックスのリアルブートみたい)」

倫子「脳科学研究所と共同研究をしたり?」

真帆「よくあるわ。実際、レイエス教授とレスキネン教授が共同のチームだったこともある。テーマは、記憶のねつ造。私も関わった」

倫子「……軍事転用される危険性は?」

真帆「へえ……やっぱり岡部さんって慧眼があるんじゃない?」

真帆「紅莉栖がよく言ってたわ。『精神生理学研究所に、まるで軍から派遣されているような人たちが出入りしてる』って」

真帆「だから私も、精神生理学研究所が、記憶のねつ造と合わせて『Amadeus』の軍事転用を極秘で計画してるんじゃないかって疑惑を持ってたこともある」

倫子「記憶のねつ造と『Amadeus』の軍事転用……映画でよくある話は、AIを兵士の頭に植え付けて最強の戦士を作る、とかかな」

倫子「……それが現実になると考えると、ちょっと怖いね」

真帆「だけど、レスキネン教授が居る限りそれはありえないわ。あの人は根っからの学者だし、『Amadeus』への愛情は並々ならないものだったもの」

真帆「それに、私だって軍事転用なんてさせるつもりはなかった。色々と対策を立ててたわ」

真帆「まあ、それも去年の夏にプロジェクトが凍結されたことで無駄に終わっちゃったけど」

倫子「(この調子だと、比屋定さんにレイエス教授を探ってもらうのは無理そうかな……何より彼女を危険に晒すことになるし、やめておいた方がいいか)」

倫子「(別の線を当たってみよう――)」

842: 2016/05/20(金) 22:56:37.20 ID:0H+hoDdro

倫子「(そう言えば、『Amadeus』が無いのにどうして私と真帆ちゃんは出会ってたんだろう?)」ウーン

真帆「どうしたの?」

倫子「えと、その……私たちが出会った時のことを思い出してたの」

真帆「ああ。あの時のこと。ああいう偶然ってあるのね……」

倫子「偶然……だったのかな(かまをかけてみよう)」

真帆「偶然でしかないでしょう? だって、私たちはまだお互い知り合ってなかったんだし、ラジ館に居合わせる必然性もなかったんだから」

倫子「そう! ラジ館ね、ラジ館……ってことは、紅莉栖の……」

真帆「紅莉栖が最期を迎えた場所に、私はどうしても行ってみたかったのよ」

倫子「…………」プルプル

真帆「オカルト的な考え方って大嫌いだけど、あなたと出会えたのは、紅莉栖が繋いでくれた縁なのかもしれないわね」

倫子「……それは、間違いじゃないよ。真帆ちゃん」

真帆「真帆ちゃん言うなっ! ま、あと10日くらいしたらあなたたちともお別れしなくちゃいけないのだけれどね」

倫子「そっか、研究が忙しいんだっけ。真帆ちゃんって呼ばれなくなって寂しくなっちゃうかな?」

真帆「ならないわよっ! SNSで連絡くれなくても別にいいからねっ!?」

倫子「うん、わかった。紅莉栖大好き同盟として、コミュニティでも作ろっか」ニコ

真帆「わかってないじゃないっ! あなた、本気でやりそうね……」

843: 2016/05/20(金) 22:57:48.25 ID:0H+hoDdro
裏路地


倫子「(ホントにβ世界線に戻って来ちゃったんだなぁ。そうだ、今の話を"紅莉栖"にも――)」

倫子「って、もう"紅莉栖"も居ないんだった」

倫子「(……紅莉栖がいけないんだ。紅莉栖のせいで、私はまた……)」

倫子「(なんだか、気持ちが熱くなってくる……)」

倫子「(なんとか、しなくちゃ……私が、この世界の真実を見極めないと……)」グッ

844: 2016/05/20(金) 23:00:07.92 ID:0H+hoDdro
柳林神社 漆原家


倫子「ごめんね、急に押しかけて」

るか「いえ、ボクとしては嬉しいです……!」

かがり「オカリンさんと一緒だーっ! やったーっ!」ダキッ

倫子「ちょ、ちょっとかがりちゃん!」

かがり「良い匂い……ハスハス」ギュッ

栄輔「可愛い女の子なら大歓迎だよ。ゆっくりしていくといい」

倫子「(この人の言う"可愛い"はもう、犯罪的な響きしか無いな……)」ゾワッ

ルカ姉「あれ、またお客さん?」

倫子「えっ? あ、ルカ子のお姉さん!」

ルカ姉「おおー、あんたが噂に聞く倫子ちゃんか」

ルカ姉「ここで出会えるとは、ひっさしぶりに家に帰って来てよかった。なるほど、超可愛いな……」ジロジロ

るか「お、お姉ちゃん! 岡部さんが、困ってるよぅ……」

倫子「(この人が、幼いルカ子を着せ替え人形にして遊んでいた張本人か。初めて会ったけど一発でルカ子の姉だとわかった)」

倫子「(ルカ子の話だと、いつもは家に寄りつかないらしい。父親のせいかな。まあ、さすがに三が日は帰ってきているんだね)」

倫子「(フブキとは違う意味でボーイッシュだ。いや、ボーイッシュっていうより男勝り、って感じか。スケバンとか似合いそうなタイプ)」

ルカ姉「クソ親父のことは私が縛っておくからさ、ゆっくり風呂に浸かっておいでよ」

栄輔「あ、あはは……」

るか「でも、岡部さん。どうして急にうちに泊まろうと?」

倫子「えと、ルカ子がパパさんにプレゼントしたいものがあるってRINEで言ってたでしょ? 一緒に考えようかなって」

るか「ボクのためにそこまで……うぅっ、岡部さん……」ウルッ

倫子「(本当はかがりちゃんが今日にでも襲撃されたら困るからだけど……こういう時、女で良かったなと思う)」チラッ

かがり「一緒にお風呂に入って体の洗いっこ……」ハァハァ

845: 2016/05/20(金) 23:01:09.79 ID:0H+hoDdro
るかの部屋


倫子「はふぅ~、いいお風呂だった~」ポカポカ

倫子「(やたらとスキンシップを求められたけど、まあ、10歳の子どもならこんなものだよね)」

かがり「楽しかったねー、オカリンさん♪ えへへ……はぁ、はぁ」ツヤツヤ

倫子「あのね、かがりちゃん? 頭脳は子どもかもしれないけど、身体は大人なんだから、湯船で泳いだりしちゃダメでしょ?」

るか「いえ、大丈夫ですよ。うちのお風呂、広いですし」

かがり「でも、るかくんと一緒にお風呂入れないなんて、本当に男の子だったんだね……小さい時は全然気づかなかったよ」

倫子「確かに、ルカ子とならお風呂に入っても違和感が無いかもしれないね」フフッ

るか「え……えええっ!? だ、だめですよ、岡部さん! で、でも、このチャンスを逃していいの、るか! ボクはどうすればっ!」オロオロ

かがり「オカリンさんの裸、すっごくセクシーだったよ」ヒソヒソ

るか「そ、そ、そうなんですかぁ……」ドキドキ

倫子「い、いや、期待させて悪いけど、冗談だよ……?」

るか「……あ、あはは。わかってましたよ、今こそボクが女の子っぽい見た目だってことが活かされる時だと思ったりなんてしてませんよ……」シュン

かがり「るかくん、ドンマイ!」

846: 2016/05/20(金) 23:02:22.93 ID:0H+hoDdro

るか「はい、湯上りの冷茶です。どうぞ」

倫子「おっ、ありがとう。気が利くね」ゴクゴク

るか「(かわいい)」

かがり「ねえ、るかくんってホントは誰が好きなの? まゆりママ? それとも、オカリンさん?」

るか「ブフォ! かはっ……けほっ……」

倫子「あー……だ、大丈夫? ルカ子?」トントン

るか「あ、はい。すいません、さすっていただいてありがとうございます……」

倫子「(……でも、このままルカ子が私に気持ちを寄せていても、幸せにはなれないよね)」

倫子「あのさ、ルカ子ならまゆりと付き合っても私的にはオッケーだよ」

るか「え……ええっ!?」

かがり「そしたら私に兄弟ができるね! 姉妹かなぁ?」

るか「かがりちゃん!」カァァ

かがり「あれ? 座布団の下にパスケースが……あーっ! オカリンさんの写真が入ってる!!」

るか「」

かがり「やっぱりるかくんの好きな人ってオカリンさんだったんだー!」キャッキャッ

るか「こ、これはっ、フェイリスさんがボクに売ってくれた、あ、いや、えっと、もらったもので、決してその、やましい意味ではぁぁぁっ!!」ウルッ

倫子「(子どもって残酷だなぁ……)」ゾクッ

847: 2016/05/20(金) 23:03:01.75 ID:0H+hoDdro

TV『さて、それでは次の特集です。今、世界で記憶の再生技術に関する研究が進められているのはご存知でしょうか』


倫子「あの、ルカ子? 私は気にしてないからね?」

るか「……いえ、その、ボク、恥ずかしいです」シュン

かがり「元気出して、るかくん!」


TV『今日は、その最先端を走る、あるアメリカの大学の特集です』


倫子「……あれ、ヴィクコン?」

るか「えっと、ここが比屋定さんの通ってる大学なんですか?」

倫子「うん。へえ、テレビで取り上げられるなんて」

かがり「え……あれ……」ドクン

るか「かがりさん? どうしたの?」


TV『――つまり、ある対象の特徴に反応する神経細胞に電気が流れることでレセプターが増え、樹状突起棘が縮んで電気が流れやすくなるために……』


かがり「…………」

倫子「かがりちゃん、熱心に聞いてるけど、わかるの?」

るか「かがりさん、すごいですね。ボクにはなにがなんだか」

かがり「そう? そんなに難しい話じゃないよ」

848: 2016/05/20(金) 23:03:40.50 ID:0H+hoDdro

かがり「記憶は、脳の中の海馬っていうところが司ってるんだけど、その中に歯状回って呼ばれるところがあるのね」

かがり「そこで行われる神経細胞の生産が、既存の神経回路の再編を引き起こすの。それによって、記憶の忘却が誘発されるんだ」

かがり「で、この研究チームがマウス実験をしてみたら、記憶のねつ造が見られたっていう話」

かがり「あ、ほら。あの奥の部屋で先輩がマウス実験してたの」

倫子「……ねえ、ルカ子。どう思う?」

るか「えっと……かがりさんが子どもの頃、未来であの大学に居た、とか?」

倫子「でも、"先輩"って言ってた……。日本人なんて滅多に居ない大学で、"先輩"なんていう上下関係があると思う?」

るか「そ、それは……」

かがり「あれ? おかしいな……知らない場所のはずなのに……」


TV『この部屋で行われた、マウスを使った実験。それによって研究チームは――』


倫子「まさか、リーディングシュタイナー?」

かがり「りーでぃんぐ……?」

倫子「えっとね、別の世界の記憶かもしれないってこと」

るか「フェイリスさんがいつも言ってるやつですね。前世の記憶が、って」

かがり「前世の、記憶……」

849: 2016/05/20(金) 23:04:58.30 ID:0H+hoDdro
2011年1月3日月曜日
ブラウン管工房


倫子「(この世界線では天王寺さんとも萌郁とも協力関係になかった。襲撃が無かったのだから当然だ)」

倫子「(だからこうしてもう1度、頼み込みに来た)」

倫子「(萌郁への依頼は簡単だった。この世界線では椎名かがりが発見されてからは、かがりちゃんの身辺調査を既に頼んでいたらしい)」

倫子「(だから、ただRINEで一言、引き続きかがりちゃんが12年間何をしていたか調べてくれ、と頼むだけだった)」

倫子「(ジュディ・レイエスの身辺調査も合わせて頼んだ。ラウンダーの諜報力で埃が出てくれればいいんだけど……)」

倫子「(もちろん、α世界線で仕入れた情報の一切を伝えなかった。……ラボメン、というか、仲間にすることはできなくなったけど、これでいい)」

天王寺「いいか? お前さんの頼みを聞いてやるわけじゃねえ。それだけは忘れるんじゃねえぞ」

倫子「感謝します」

倫子「(なんとかかがりちゃんを守る約束を取り付けた。2回目だからお手の物ではあるけれど、こんな大男とこの狭い空間に居るのは生理的にキツイ)」

倫子「(もちろんタイムトラベルや世界線の話は一切していない。ただ、ラウンダーのFBであることを綯にバラされたくなかったら手伝え、とだけ伝えた)」

天王寺「おい、岡部。お前さんら、いったい何に関わってやがる」

倫子「それは――」

天王寺「話せねえってか。頼み事するだけして、随分と虫のいい話だな」ギロッ

倫子「ヒッ! ご、ごめんなさいっ」プルプル

850: 2016/05/20(金) 23:05:32.85 ID:0H+hoDdro

天王寺「……ふん。だがそれでいい」

倫子「え……?」ウルッ

天王寺「情報ってのは最後の切り札だ。そこでぺらぺら喋っちまうようなら、俺は降りてたぜ」

倫子「(どうやら私は正解を引き当てたらしい。これで世界線がαへと変動することなく、天王寺さんと共闘できる)」

天王寺「お前さんも、新しいバイトも、俺からしたら娘みたいな年頃だからな。なにかと心配してるんだ。それは信じてくれて構わねえ」

倫子「……あなたが実はマザコンなことも、知ってますよ」フフッ

天王寺「は、はぁ!? まさか、綴から聞いたのか!?」

倫子「情報は最後の切り札、ですよね?」ニコ

天王寺「生意気になりやがって……これならまだ、変人だった頃の方が良かったかもな」ハァ

倫子「(さて、次はかがりちゃんの記憶のことだね)」

851: 2016/05/20(金) 23:07:22.99 ID:0H+hoDdro
未来ガジェット研究所


かがり「それで、改まってお話って、何かな?」

倫子「ちょっと待ってて。もうひとり、呼んでるの」

かがり「もうひとり……? もしかして鈴羽お姉ちゃんと3人でくんずほぐれつ――」


コンコンコン ガチャ


真帆「おじゃまします」

かがり「あ、真帆さんだー。こんにちはー」ニコ

真帆「ハロー。元気? ……それにしても、本当に紅莉栖に似てるわよね。一部を除いて」ジーッ

かがり「いやん、えOち」キャッキャッ

倫子「それで、比屋定さんに確認したいことがあるんだけど……」

852: 2016/05/20(金) 23:08:00.25 ID:0H+hoDdro

・・・

真帆「じゃあ何? 彼女がうちの大学に居たかもしれないっていうの?」

倫子「(この世界線、この時代とは限らないんだけどね)」

かがり「ちょっと待って。そんなこと言われても私、そんな大学知らないよ」

倫子「記憶っていうのは、無意識レベルで覚えているものもある。そうだよね?」

真帆「それを脳科学専攻に聞く?」

倫子「マウス実験で記憶のねつ造が見られたって話を、この子知ってたんだけど」

真帆「えっ? それって、私が4年間積み上げてきた研究じゃない……で、でも、もしかしたら、別の研究所のモノかも」

倫子「それにこの子、記憶の仕組みについて説明できてた。自分は10歳までの記憶しかないのに、だよ?」

真帆「それもこれも、別にうちの学校に所属してなくても入手できる情報よ」

倫子「それは、たしかに……」

853: 2016/05/20(金) 23:08:33.39 ID:0H+hoDdro

かがり「っ……」クラッ

倫子「かがりちゃん? どうしたの?」

かがり「ちょっと、頭が……痛い……」

倫子「少し横になる?」

かがり「ううん、だい、じょうぶ……痛いくらいが、気持ちいい、から……」ハァハァ

倫子「(なぜ興奮する。頭大丈夫かな、二重の意味で)」

真帆「脳に負担がかかったのかしら……本当に平気?」

かがり「は、はい、大丈夫です。ありがとうございます、先輩」

真帆「だったら、いいのだけど……」

倫子「ちょ、ちょっと待って。今――」

真帆「うん、私も気づいた。"先輩"って……」

かがり「ふぇ?」

倫子「変なことを訊くけど、比屋定さんのことを先輩って呼ぶ人間は……」

真帆「紅莉栖しか居ない。研究所に日本人は私たち2人しかいないから」

倫子「どういうこと……?」

854: 2016/05/20(金) 23:09:25.13 ID:0H+hoDdro

ガチャ バタン

ダル「おつー。あ、真帆たんも来てたん」

真帆「その呼び方はやめて」

倫子「そうだよ、ダル。真帆ちゃんって呼んでいいのは私だけだから」

真帆「岡部さんって天然なの? それとも策士なの? ねえ?」

ダル「駅前のアトルでプリン4つ買ってきたからみんなで食べようず」

かがり「わーい、プリンだぁっ!」

倫子「(こういう反応は、間違いなく10歳の女の子だ)」

ダル「あ、スプーン入ってねえし。店員のお姉さん、ドジっ娘であったか」

倫子「スプーンなら流しにいくつかあったよね……あ、3本しかない」

かがり「私の分は大丈夫です。マイスプーンもってますから」

倫子「…………」

真帆「…………」

ダル「かがりたん、そんなもん持ってるん?」

かがり「え? あれ……私が持ってるのって、うーぱのキーホルダーだけだったような……」ウーン

倫子「かがりちゃん。あなたは、牧瀬紅莉栖のことを知ってるの?」

855: 2016/05/20(金) 23:10:36.47 ID:0H+hoDdro

かがり「紅莉栖……牧瀬、紅莉栖……くっ……」ズキン ズキン

倫子「む、無理はしなくていいよ」アセッ

かがり「……ううん、大丈夫、だから、オカリンさん、何か話して」

倫子「……比屋定さん」チラッ

真帆「……うん」コクッ

倫子「わかった。かがりちゃん、また、いくつか質問するね。あなたのパパはどこに居る?」

かがり「パパは、氏んじゃった……戦争で……」

倫子「栗ご飯と言ったら、何を思い浮かべる?」

かがり「カメハメ、波……?」

真帆「……?」

倫子「っ……! い、今、一番欲しいものは……?」ドキドキ

かがり「マイ、フォーク……」

倫子「……2003年、7月23日は、何の日」

かがり「私の、11歳の、誕生日……パパに、怒られた日……パパが家を出ていった日……」

倫子「日本へ留学した時の学校は、どんなところだった?」

かがり「それはまだ……だって私、準備すら終わってなくて……高校じゃなくて大学院がよかったんだけど……」

倫子「タイムマシンは、作れると思う?」

かがり「えっと、それは……11の理論では無理、でも、未知の理論でなら否定はできない……」

真帆「これって……」

856: 2016/05/20(金) 23:11:51.87 ID:0H+hoDdro

倫子「ねえ、比屋定さん。『Amadeus』は凍結されたって言ってたけど、"紅莉栖"の記憶データってまだ存在してるの?」

真帆「え? ええ、たぶん。破棄はされていないはずだけど」

倫子「アクセスできる人間は?」

真帆「ごく限られた人間だけよ」

倫子「具体的には?」

真帆「私やレスキネン教授、他に助手が何人か。そして、紅莉栖……」

倫子「レイエス教授も、じゃない?」

真帆「え? ええ、そうね。あの人も、直接は無理でも間接的には可能なはず」

倫子「……その記憶データを、人間の脳に移植することって、可能だったよね?」

真帆「ちょ、ちょっと待って! なんとなく、言いたいことはわかる。わかる、けど……!」

倫子「私の仮説、聞いてくれる?」

かがり「……えっと?」

倫子「かがりちゃん……。あなたの頭の中には――」

倫子「――牧瀬紅莉栖の記憶が移植されている」

857: 2016/05/20(金) 23:21:11.53 ID:0H+hoDdro
同日 夜
未来ガジェット研究所


鈴羽「かがりの頭の中に、牧瀬紅莉栖の記憶が入ってる?」

倫子「冷静だね。もしかして、2036年では普通のことなの?」

鈴羽「普通じゃないけど、洗脳兵士なら居たよ。最強の兵士の記憶を追加挿入した上で、恐怖を感じない存在」

鈴羽「元々持ってる記憶に上書きするんじゃなくて、記憶を追加するだけから、元の自分を忘却してしまったり、二重人格ということにはならない」

倫子「(洗脳実験……有名なのは、1940年代にCIAが行ったという子どもを使った洗脳実験とか、MKウルトラ計画とか……)」

倫子「(でも、一体誰がなんのために……レイエスが? やっぱり、『Amadeus』が凍結されたことが原因なのかな……)」

倫子「(例えば、『Amadeus』研究に時間を割く必要がなくなったことで、洗脳研究の方が進歩してしまった……)」

倫子「(それで、かがりちゃんが施設を脱走する前に紅莉栖の記憶挿入実験が成功してしまった、とか?)」

858: 2016/05/20(金) 23:22:30.23 ID:0H+hoDdro

鈴羽「かがりの様子は?」

倫子「今はルカ子の家で休んでもらってる」

鈴羽「その、比屋定真帆は?」

倫子「『Amadeus』の記憶データを移植できるかどうかを検証してみるって言って帰ったけど……もしかして、鈴羽。比屋定さんを疑ってる?」

鈴羽「あたしの知ってる未来に『比屋定真帆』なんて人間は居なかったからね。とぼけてるだけで、主犯の可能性が高い」

鈴羽「本人にそのつもりが無くても、後ろから操られていたり、洗脳されてる可能性だってある」

倫子「……理屈では、そうなる。かがりちゃんにわけのわからない施術をしたのは、間違いなくヴィクコンの、それも『Amadeus』研究に携わってた人間の誰か」

倫子「今のところ、犯人はレイエス教授だって踏んでるけど、それも世界線が変わったから微妙なところ」

鈴羽「世界線が、変わった?」

倫子「それについては後で詳しく話すよ、鈴羽」

倫子「私は比屋定さんが犯人だってのは信じたくない……なんて、こんな甘いこと言ってたらダメだよね」

鈴羽「……リンリンらしくなってきたね」

倫子「比屋定さんにはタイムマシンの話は一切しちゃダメ。その代わり、彼女が敵に近いところにいることを利用する。これでいいよね」

鈴羽「最高にクールだよ、リンリン……!」

859: 2016/05/20(金) 23:23:58.56 ID:0H+hoDdro

倫子「でも、かがりちゃんが未来で記憶移植施術をされていたとしたら?」

鈴羽「むしろその方が技術的には可能性が高い。それに、かがりはよく『神様の声が聞こえる』って言ってた」

倫子「神様の、声……?」

倫子「(たしか1940年代の開頭手術で、側頭葉シルヴィウス溝に電極を差し込み電気刺激を与える、っていうのがあった)」

倫子「(その結果、患者は神の声を聞く、天使を見るという神秘体験をすることがわかった、というのをどこかで読んだことがある)」

倫子「(ってことはやっぱり、かがりちゃんは少なくとも未来で、脳に電極をぶっ刺されている……)」ゾワワッ

ダル「でもさ、他人の記憶をぶち込まれるなんて大掛かりな実験をされたら、そのときのこと覚えてるはずじゃね?」

鈴羽「あるいは、全く別の施術と称して洗脳をした。それこそ、PTSD治療なんていう体のいい名目があった」

鈴羽「と言っても、2036年でもそんな技術は軍機だよ。何より目的がわからない」

倫子「そうだね、未来で紅莉栖の記憶を入れたなら目的がわからない。となると、2010年の夏以降、紅莉栖が氏ん……亡くなった後に記憶を追加したと考えるべき、か……」

倫子「私が前に居たβ世界線では、かがりちゃんが施設を脱走するまでに記憶移植実験は実行されていなかった」

鈴羽「まさか一度α世界線へと変動していたなんてね……」

倫子「そして、この世界線では脱走のタイミングまでに実験していた、っていう仮説が正しいとするなら、記憶が追加されたのは今から1、2か月前」

倫子「この場合、目的は間違いなく"紅莉栖の記憶データの有用化"。『Amadeus』が凍結されたことで、別の媒体を使って紅莉栖の記憶を有意味化する必要性があった」

鈴羽「牧瀬紅莉栖の記憶の中にある天才性を引き出すことで軍事技術を確立させるため、とかかな。人間を媒体としたAIを作るってことか」

倫子「あるいは、タイムマシンを造られてしまうかもしれない……」

ダル「媒体って……つか、誰がそんなことを?」

倫子「紅莉栖自身なら、それが可能」

鈴羽「彼女は、そんなマッドサイエンティストみたいなことをする人だったの?」

倫子「う、うん……。正直私は、あいつは世界一のマッドサイエンティストだと思ってる」

ダル「うわぁ……」

860: 2016/05/20(金) 23:25:21.71 ID:0H+hoDdro

倫子「それでも、紅莉栖が倫理的にそういうことをするとは思えない。誰かに脅されたとか、紅莉栖の研究が悪用されただけ、ってなら別だけど」

ダル「例えば、幽霊になった牧瀬氏の魂がかがりたんに乗り移った、的なことだったりして」

倫子「(もしこの世界線の7月28日に脳外へ放出された紅莉栖のOR物質が、かがりちゃんの脳に入って記憶の修復力が働いたとしたら……?)」

倫子「(いや、その場合、紅莉栖が日本に居た時の記憶も思い出すことになるはずか)」

倫子「それはないよ。かがりちゃんは紅莉栖が日本に居た時のことは知らないみたいだったから」

ダル「いや、冗談だってばよ」

鈴羽「かがりは1998年にヴィクコン関係者の誰かに捕まり、最近まで日本のどこかの研究所に監禁されてた?」

倫子「多分、その可能性が高いと思う。そこで未来人としての記憶の分析と、紅莉栖の記憶の埋め込みが行われた」

ダル「でもそれなら、どうやってかがりたんは施設を抜け出したん?」

倫子「たぶんだけど、あまり公に出来ないことだから、関係者の人数も少ないはず。監視なんかほとんどしてなかったんじゃないかな」

鈴羽「記憶が戻った瞬間、衝動的な行動に出た。それなら敵の気を逸らすこともできたかも」

倫子「偶然が重なって、今私たちの元で保護できた。あるいはこれは、シュタイ……いや、なんでもない」

鈴羽「……?」

倫子「だけど、奴らは今私たちの近くにいる。どこからか常に監視していると思った方がいい」

倫子「未来人が関わってる以上、かがりちゃんを誘拐された瞬間、世界線が最悪の方向に変動する、なんて可能性もある」

ダル「とんでもないことになってきたお……」

861: 2016/05/20(金) 23:26:45.17 ID:0H+hoDdro

鈴羽「あたしには未だに信じられないよ。どうしてあの泣き虫のかがりがそんなことに……」

ダル「そうだお。記憶を入れるだけなら別にかがりたんである必要はなくね? どうしてかがりたんをわざわざさらうん?」

倫子「人間の脳ってのはHDDみたいに単純じゃない。たとえば、男の記憶を女に入れるなんてことは、脳の構造からして無理だと思う」

倫子「かがりちゃんの脳は……たぶん、紅莉栖の記憶を入れるのにマッチしてたんだと思う」

鈴羽「つまり、かがりは牧瀬紅莉栖の記憶を入れても氏亡したり記憶障害になったりしない程度に適性が高い貴重なサンプル、ということか」

倫子「その理由はもしかすると、未来で脳をいじられたことに起因するのかもしれない」

ダル「と、とにかく、かがりたんの脳内から牧瀬氏の記憶を消せば僕たち大勝利ってことでFA?」

鈴羽「中鉢論文が世界大戦の引き金を引いたように、牧瀬紅莉栖の記憶も同様の効果があるはず」

鈴羽「もしそうなら、これはあたしのミッションでもある」

鈴羽「なにより、かがりに罪は無い。あたしはかがりを救いたい」

862: 2016/05/20(金) 23:30:30.46 ID:0H+hoDdro

倫子「……何もしなくても、かがりちゃんの中で紅莉栖の記憶が蘇らない、っていう可能性もある」

倫子「(それはない……虫の知らせ、というか、私の未来予知によれば、この世界線の確定した未来として、かがりちゃんに紅莉栖の記憶が蘇ることが、なんとなくだけどわかる)」

倫子「(でもこの世界線はβ世界線だ。敵勢力にかがりちゃんが軍事転用されてパワーバランスが崩れディストピアに、ということは起こらないらしい)」

倫子「(つまり、確定した未来としては、かがりちゃんが紅莉栖の記憶を全て思い出した上で、このままラボでこっそり暮らしていく――)」

倫子「(それは、幸せなことなのか? 椎名かがりとしての記憶をすべて失うことが……)」

倫子「(それに、たとえそうなったら、常に世界線変動の危機にさらされ続けることになる……)」

倫子「(それを回避するように動くということも、やっぱり世界線が変動することを意味する、けど……)」

倫子「(私はどこかで思っているんだ。紅莉栖の記憶を消すことが、再度紅莉栖を頃すことになるって――)」

倫子「うっ……」フラッ

ダル「だ、大丈夫かお?」

倫子「うん……仮にかがりちゃんに紅莉栖の記憶が蘇っても、誘拐されなければいい。まずは守りを固めよう」

鈴羽「それじゃ、しばらくは様子を見る?」

倫子「敵の状況がわかってないんじゃ、攻勢に出るのは危険。時間が経てば、向こうから尻尾を出すかもしれない」

ダル「ま、こっちのことがほとんどバレてるってんなら、下手に動けない罠」

863: 2016/05/20(金) 23:31:01.52 ID:0H+hoDdro

倫子「(もしかして、この世界線ではレイエス以外にもラボにスパイが……?)」

倫子「そう言えばダル。由季さんはどうしてる?」

ダル「由季た……阿万音氏なら、毎日バイト忙しいみたいだお」

倫子「(この三が日、ずっとバイトしてるのか。さすがバイト狂戦士<バーサーカー>……)」

倫子「なんのバイトしてるの?」

鈴羽「ケーキ屋さんだって。父さん、今度遊びに行ってあげてよ?」

ダル「でも、ちょっと遠いんだよねぇ」

倫子「お父さん?」ニコ

ダル「あ、はい。娘のために頑張ります」

倫子「(やっぱり由季さんはシロだ。女の勘がそう言ってる)」

864: 2016/05/20(金) 23:32:37.95 ID:0H+hoDdro

倫子「ん? でもケーキ屋でバイトなのに、12月24日にダルとデートしてたんだよね? 一番の繁盛期よりダルを優先させるとか、愛されてるね、ダル」

ダル「いや、デートっつーか、鈴羽のお膳立てだったっつーか」

鈴羽「父さんが態度をハッキリさせないのがいけないんだよ」

倫子「鈴羽のおかげでダルは由季さんに萌え萌えキュンになったみたいだよ。ラボで盛大に独り言つぶやいてた」

ダル「……ちょぉぉっ!?!? い、居たなら声かけてほしかったわけだが!」

鈴羽「頑張った甲斐があったよ」ドヤァ

ダル「やべ、【どう見てもカルピスです本当にありがとうございました】より恥ずかしいかも」ドキドキ

倫子「黙れHENTAIっ!!」

ダル「まあでも、僕なんかにクリスマス付き合ったのせいで、この三が日に連勤する羽目になったっぽい。なんか知らんけど、阿万音氏、自分を追い込むクセがあるんだよね」

鈴羽「未来の母さんは過酷な環境下での労働ほど燃える、って言ってたよ。強い人だなぁって思って、あたしは尊敬してる」

倫子「(それってただドMなだけじゃ……。これも鈴羽を誕生させるための収束なのかな……)」ジーッ

鈴羽「……?」

865: 2016/05/20(金) 23:33:16.57 ID:0H+hoDdro
2011年1月4日木曜日
未来ガジェット研究所


真帆「――なるほど、ね」

倫子「(今日は比屋定さんがラボにやってきて、かがりちゃんにいくつか質問をした。私の仮説の検証作業だ)」

かがり「なにかわかりましたか、先輩」

真帆「間違いなくあなたは紅莉栖の記憶を持っている……と言っても、完全にすべてを思い出せているわけじゃないみたい」

倫子「呼び起されるものと、そうじゃないものがあるってこと?」

真帆「そういうことになる。けど、本当に信じられない……というか、信じたくない……」

真帆「それってつまり、うちの研究所に裏切者が居る、ってことじゃない……」プルプル

かがり「あの……私、どうなっちゃうの、かな……?」

倫子「(……大丈夫だよ、とは言えなかった。だって、この世界線で確定しているのは……)」

真帆「かがりさん。付き合わせて悪かったわね。ゆっくり休んで」

倫子「今日はもう帰るの?」

真帆「ええ。自分なりに、まだ検証できることは残っていそうだから……」

倫子「……レスキネン教授に確認を?」

真帆「それも含めて、よ」

倫子「……誰も信用しない方がいい。気を付けて」

真帆「……。それじゃあ、また……」

ガチャ バタン

866: 2016/05/20(金) 23:34:16.34 ID:0H+hoDdro
2011年1月6日木曜日
未来ガジェット研究所


かがり「ごめんなさい。オカリンさんにはいろいろ迷惑かけちゃって」

倫子「そんな、別に迷惑だなんて思ってないよ。それで、調子はどう?」

倫子「(今日、下でのバイトは天王寺さんの都合でお休みらしい。せっかくなので2人でゆっくり話し合ってみることにした)」

倫子「(私がここに来たことで入れ替わりに鈴羽は出て行った。タイムマシンの整備にあたるらしい)」

かがり「んとね……前に比べると、紅莉栖さんの記憶が出てくることが多くなったかも」

倫子「……本来なら、ちゃんとした専門機関で検査してもらうのが、一番いいんだけど」

倫子「(医者に説明しようが無いんだよね……。未来人で、陰謀によって記憶喪失になり、別人の記憶が埋め込まれてる……トンデモの三重奏だ)」

かがり「検査かぁ、懐かしいなあ。子どもの頃もね、検査ばっかりしてたの……痛くて気持ち良かったよ……」ウットリ

倫子「(このまま紅莉栖の記憶が彼女を支配していったら、どうなっちゃうんだろう)」

倫子「(OR物質が、かがりの脳を紅莉栖の脳だと認識する、なんてこと、あるんだろうか)」

倫子「(もしそうなったら、正真正銘、紅莉栖になっちゃう……?)」

867: 2016/05/20(金) 23:34:58.99 ID:0H+hoDdro

かがり「んー……」ジーッ

倫子「な、なあに?」ドキッ

かがり「んとね、改めて考えると、こうしてオカリンさんと話してるの、不思議だなあって」

倫子「不思議? かがりちゃんが産まれる前に、私が氏んじゃってるから?」

かがり「うん。オカリンさんのことはママやダルおじさんのお話に聞くだけだったから」

倫子「(この子がα鈴羽みたいな鳳凰院信者にならなくて良かった……)」ホッ

かがり「ちょっと憧れてたんだー。ママを助けてくれた人って、きっとかっこいい人なんだろうなって。ホントはすっごい美人さんだったわけだけど」

倫子「助けて……? ああ、まゆりの婆さんが亡くなった頃の話だね。まゆり、いい歳してまだその話を……」

かがり「お前はオレの人質だー、って」フフッ

倫子「わ、笑わないでよぅ……」

かがり「私ね、オカリンさんの話をする時のママの顔がだーいすきなの」ニコ

倫子「……そっか」

868: 2016/05/20(金) 23:35:40.07 ID:0H+hoDdro

グー

かがり「あ、お腹が鳴っちゃった」

倫子「もうお昼だね。カップ麺ならあるけど、それでいい?」

かがり「うんっ! 私ね、カップ麺食べてみたかったの!」

倫子「(未来じゃ食べたこと、なかったんだ。その上ラーメン好きの紅莉栖の記憶があるから、食べたくてしょうがないのかな……?)」

倫子「醤油と塩、どっちが……って、塩がいいよね」

かがり「え? うん、塩の方がいい気がした。食べたこと無いのにね」

倫子「フォークの方がいい?」

かがり「うんっ。お箸使うの苦手で、まゆりママにいつも怒られてたんだー」

倫子「はい、これ。プラスチック製だけど、かがりちゃん用に買ってきたの。あげるね」スッ

倫子「(紅莉栖用に買った時は、あの後萌郁から脅迫メールが来て、全力でラボに走って、まゆりとシャワー浴びてる紅莉栖を罵ったんだっけ……)」フフッ

かがり「えっ? いいの? やったーっ! かがりの持ち物がもう1個増えた♪」

かがり「……なんだか、ずっとこれが欲しかった気がする。これも、紅莉栖さんの記憶なんだよね……」

倫子「(やっぱり……)」

かがり「ねえ、オカリンさんは紅莉栖さんのこと、好きだったの?」

倫子「え――――」

869: 2016/05/20(金) 23:36:19.82 ID:0H+hoDdro

倫子「……好きだったよ。私は、彼女と出会って、人生が大きく変わった」

かがり「素敵だね。どんな人だったの?」

倫子「気になる?」

かがり「自分の頭の中にある記憶の持ち主のこと、もっと知りたいよ」

倫子「あの子は……とにかく、好奇心の強い子だった。今のかがりちゃんみたいにね」

かがり「ふむふむ」

倫子「その上頑固で、生意気で、根っからの真面目っ子で、仕切りたがりの委員長タイプで」

倫子「強がりなのに寂しがり屋で、友達を作るのがとっても下手くそで」

倫子「……私を守るために、なんでもしてくれた」

倫子「本当は嫌なのに、私に全力ビンタしたり、本当は嫌なのに、私の前で悪人を演じたり」

倫子「それが本当に私を守ることになるって信じて、人生を賭けて私を支えてくれた」

倫子「何度も何度も、どの世界線でも、何十年という時間を超えて、私のために動いてくれた」

倫子「私のために怒ってくれた。私のために突き放してくれた」

倫子「私のために……抱きしめてくれた」ウルッ

かがり「ふぇ~、大人だなぁ。憧れちゃう」

870: 2016/05/20(金) 23:37:01.40 ID:0H+hoDdro

倫子「まあ、いつも『倫子ちゃん、ペロペロー』とか言ってる、どうしようもないHENTAIだったんだけどね」フフッ

かがり「そ、そうなの? 意外だなぁ」

かがり「……倫子たんハァハァ」デュフフ

倫子「ちょ、やめてよー」アハハ


   『あなたと、1つになりたい』


倫子「…………」ウルッ

かがり「オカリンさん……?」

倫子「あ、いや……」グシグシ

かがり「……なんだかね、オカリンさんたちと知り合えて良かったなーって、すっごく思うの」

倫子「えっ……。それは、どっちの記憶?」

かがり「両方、かな……紅莉栖さんってもしかして友達居なかった?」

倫子「うん、あの子はアメリカでも小学生の頃に出会った幼女の面影だけで――」

かがり「……?」

倫子「(――いや、これはα世界線の記憶だ。こっちの紅莉栖の記憶じゃない)」

かがり「オカリン……さん……」フラッ

倫子「え……だ、大丈夫? かが……紅莉栖?」ダキッ

かがり「頭……頭が……っ」ズキズキ

871: 2016/05/20(金) 23:37:27.72 ID:0H+hoDdro

かがり「いや……嫌だ……もう、あんなとこ、帰りたくない……」ウルウル

かがり「助けて……誰か……誰かここから出して!」ポロポロ

倫子「(錯乱しているっ!?)」

倫子「お、落ち着いて! えっと、こういう時、どうしたら……」オロオロ

倫子「――かがりちゃん。大丈夫、大丈夫だよ」ギューッ

かがり「う、あぁ……はぁっ……オカリン……さん……」グスッ

倫子「……少し落ち着いた? ソファーで横になってて」

かがり「うん……」

872: 2016/05/20(金) 23:38:04.41 ID:0H+hoDdro

・・・

かがり「すぅ……すぅ……」zzz

倫子「(さっきのかがりちゃんの発言、『ここから出して』……。やっぱりこの12年間、どこかに監禁されてたんだ)」

ガチャ

まゆり「かがりちゃん! オカリン、かがりちゃんの様子は?」

るか「大丈夫ですか!?」ウルウル

倫子「(かがりちゃんが錯乱したことを2人にRINEで連絡しておいた)」

倫子「うん、今はよく眠ってる」

るか「そうですか、それならよかったです」ホッ

まゆり「かがりちゃん……」

かがり「ん……あれ? ここ、どこ……」

倫子「目が覚めたみたいだね」

かがり「あなたは……?」

るか「落ち着いて。ここはラボですよ」

かがり「ラボ……? 日本語……?」

倫子「(ん……? なにか、様子がおかしい……?)」

873: 2016/05/20(金) 23:39:38.50 ID:0H+hoDdro

かがり「あ、そっか……私、レスキネン教授に交換留学するように言われて……」

かがり「ATFでの講演の準備もしないと……」

かがり「あれ? 論文は!? パパに見てもらおうと思って、頑張って書いたんだけどっ」

まゆり「留学? 講演? 論文?」

倫子「……っ!?」

倫子「(間違いなく紅莉栖の記憶だ……紅莉栖は『Amadeus』に記憶をアップロードするより前にタイムマシン論文を書き上げていたのか……)」

倫子「(――『Amadeus』の記憶データの中に、タイムマシン論文の情報が入っているっ!?)」ゾクッ

倫子「(敵の目的って……まさかっ)」ゴクリ

倫子「落ち着いて、かがりちゃん。それはあなたの記憶じゃない。あなたは、椎名かがりよ、牧瀬紅莉栖じゃない」

かがり「かがり……私は、椎名、かがり……」プルプル

まゆり「か、かがりちゃん!? ママがわかる!?」

かがり「ママ……う……ああっ、ぁ……っ!」

るか「大丈夫!?」

かがり「――――ああああああああああああああ!!」バタッ!!

874: 2016/05/20(金) 23:52:45.29 ID:0H+hoDdro
柳林神社


るか「もう、大丈夫、だからね……」

かがり「……う、うん」グッタリ

倫子「(意識を失って気絶したかがりちゃんをルカ子に運んでもらった)」

倫子「(こういう時、やっぱりルカ子は男の子なんだなと実感する。日々の鍛錬のおかげなのかな……なんて)」

倫子「ルカ子、かがりちゃんのこと、お願いね」

るか「はい。それにしても、一時はどうなることかと……」

倫子「……私も驚いた。だけど、だいぶ落ち着いたみたいで良かったよ」

倫子「(……陰謀を差し置いても、かがりちゃんを病院に連れて行くべきかもしれない)」

倫子「(いや、それだけはダメだ。かがりちゃんの中に紅莉栖の記憶、タイムマシン論文がある以上、それが世界線変動の引き金となってしまう)」

倫子「(AH東京総合病院みたいなところへカルテが流れてしまったら、敵にかがりを差し出してしまうようなものだ。どんな病院にも連れて行けない)」

倫子「(……そんなの、私のエゴだ)」

倫子「ごめんね、みんな……」

まゆり「オカリンが謝ることないよ」

るか「……あ、あのっ! 岡部さんに、お伝えしたいことがありますっ」

倫子「え?」

875: 2016/05/20(金) 23:53:14.73 ID:0H+hoDdro

るか「……すべて、凶真さんから教えてもらったことなんですけど」

るか「理不尽に屈して己を変えようとするのは、単に自分を歪めてしまうだけの行為に過ぎない」

るか「それは変わることでもなんでもなく、ただ逃げてるだけ」

倫子「…………」

るか「それも前向きに生きるためではなく自分を追い込むだけの逃げで、最終的には自分を歪めてしまうことになる」

るか「そういうことを岡部さんは言ってくれたんです」

るか「そして岡部さんは、ボクの師匠になってくれたんです。理不尽な現実に立ち向かう、心の強さを鍛えるための師匠に」

倫子「(うん、全部覚えてるよ。去年のゴールデンウィークに、私が厨二病全開で言ったことだ……)」

るか「そしてその時以来、ボクは……こんなこと、弟子のボクが言うのはおこがましいと思うんですけど……」

るか「――"思い出して"ください。"本当の自分"を」

倫子「本当の、自分……」

まゆり「るかくん……」

876: 2016/05/20(金) 23:54:19.44 ID:0H+hoDdro

るか「す、すいませんっ! 出過ぎたことを……」

倫子「……ううん。そろそろ、私も腹をくくらなきゃいけないのかもしれない」

倫子「時間は、待ってくれないから……」

まゆり「えっと、今日はまゆしぃもかがりちゃんと一緒にるかくん家に泊まることにするね」

倫子「うん、お願い。ルカ子、ふたりをよろしくね」

るか「は、はいっ! ボクが守りますっ!」

倫子「私はラボに戻って、鈴羽に説明してくる。比屋定さんにも、助けてもらおうと思う」

倫子「――なんとかしなくっちゃ」

877: 2016/05/20(金) 23:55:52.79 ID:0H+hoDdro
未来ガジェット研究所


鈴羽「かがり、ひどいの?」

倫子「今は落ち着いてる。けど、一時はかなり混乱してた」

真帆「急に呼び出されて何かと思ったけど。やっぱり……紅莉栖の記憶?」

倫子「うん。間違いない。私たちがやるべきは――」

倫子「かがりちゃんの脳から、紅莉栖の記憶を消去すること」

倫子「(紅莉栖のタイムマシン論文を消滅させること――)」

倫子「そうしないと、かがりちゃんの容体がどんどんひどくなっていくかもしれない」

真帆「それで私の力が必要だ、って考えてるみたいだけど、どこまで協力できるか……」

倫子「(協力してもらうにしても、かがりちゃんの素性は明かせない。比屋定さんに一からタイムマシンや世界線の説明をするのは危険だ)」

真帆「この前、レスキネン教授に確認してみたんだけど、紅莉栖の記憶データは凍結されたままで、誰もアクセス出来ないはずだと言っていたわ」

真帆「ただ、それが事実かどうかを確かめる権限は、今の私にはない」

真帆「それに、プロジェクトが凍結される前に何者かがデータを持ち出したことだって考えられる。いわゆるハッキングってやつ」

真帆「でも、いったい何の目的で?」

鈴羽「…………」チラッ

倫子「…………」フルフル

878: 2016/05/20(金) 23:56:57.61 ID:0H+hoDdro

倫子「おそらく、紅莉栖の頭脳を軍事転用するためだと思う」

倫子「紅莉栖は稀代の天才だよ。その記憶データを生身の人間に持たせて、新型兵器の開発に協力させたいはず」

真帆「オッペンハイマー博士を思い出すわね……米軍ならやりかねない、か」

倫子「(仮想敵は"世界の警察"か……)」

鈴羽「実際、かがりの口からそれが可能な論文の存在が明らかになったらしいんだ。悪いけど、比屋定真帆には具体的な内容は話せない」

真帆「紅莉栖の論文の中身に興味はあるけど、あなたたちが私を守ろうとしてくれてるのもよくわかる」

真帆「かがりさんの容体が悪化している今だけは、自分の好奇心を押し頃しておくわ」

倫子「……ありがとう」

真帆「でも、それなら『Amadeus』ごと奪取すればいいだけの話よ。どうして生身の人間に記憶を入れる必要があるの?」

倫子「『Amadeus』はしゃべりたくないことはしゃべらない。そうだよね?」

真帆「え、ええ」

倫子「でも、紅莉栖の記憶を持っただけの、精神年齢が10歳の女の子だったら、どう?」

真帆「……?」

倫子「例えば……まゆりを頃す、って脅されでもしたら」

真帆「っ!? そ、そんなの、現実離れし過ぎよ! 岡部さん、私をからかうつもりなら――」

鈴羽「拷問でも、自白剤でもいい。生身の人間であれば、催眠にかけて記憶を引き出すこともできる」

鈴羽「比屋定真帆。真実から目を背けて、一時の安穏に逃げるの?」

真帆「は、はあ!?」

倫子「比屋定さん。可能性はゼロじゃない。ううん、私は高いと思ってる」

倫子「今は、私を信じて欲しい」

真帆「……わかったわよ。岡部さんは信じる」ハァ

真帆「でも、一連の話を100%信じるわけじゃない。私は私で反証のための材料を探すわ」

倫子「うん、ありがと」ニコ

真帆「っ……」ドキッ

879: 2016/05/20(金) 23:59:17.41 ID:0H+hoDdro

鈴羽「他人の脳に別人の記憶を移植することで、どんな不具合がある?」

真帆「ふたり分の記憶がひとつの脳に混在することで、脳への負担はかなり大きくなってるはず」

真帆「……いつ齟齬を起こしてもおかしくないわ。実際に今、そのエラーが起きつつある」

倫子「(長時間タイムリープの危険性と同じ、ってことか)」

真帆「実験としては失敗の類でしょうね。身体へのリスクがあまりにも高いもの」

鈴羽「このままかがりを放っておくと……牧瀬紅莉栖になる、なんてことは、ある?」

真帆「記憶と人格は別物よ。脳の中で記憶を扱うのは、海馬と大脳皮質。一方で、人格は前頭前野の働きによって形成されている」

真帆「それらの働きは、お互い密接に繋がっている部分も大きいわ」

真帆「このまま放っておいた場合、最悪、かがりさんの人格は崩壊を……」

鈴羽「く……」

倫子「なんとかしてそれを防ぎたい。かがりちゃんの脳から、紅莉栖の記憶を削除したいの」

倫子「紅莉栖の記憶が悪用されるなんて許せない。かがりちゃんを利用して、なんて、もっと許せない」

倫子「(だけど、それを防いだら世界線が変わる……っ。覚悟を決めろ、私……っ!)」グッ


880: 2016/05/21(土) 00:00:25.78 ID:qjKOjM6xo

真帆「……ひとつ手があるとするなら、もう一度過去のかがりさんの記憶を上書きすること、かしら」

真帆「そもそも、かがりさんの記憶を操作した人間は、かがりさんの記憶をかがりさんの脳内に残すつもりは無かったと思うの」

倫子「実験は失敗だった、ってことだよね」

倫子「(記憶を思い出せないようにするには、トップダウン検索信号を機能させないようにすればいい)」

倫子「(だけど、そんなことをしたら新しく追加した紅莉栖の記憶も思い出せなくなる)」

倫子「(実験後、即座に紅莉栖の記憶を思い出すことはなかった。紅莉栖の記憶を埋め込むだけ埋め込んで、トップダウン検索信号が機能しなければ、そういうことになるだろう)」

倫子「(この調整がまだうまく行ってなかったんだ。かがりちゃんの10歳以前の記憶は消すことができなかった。それだけじゃない――)」


   『いや……嫌だ……もう、あんなとこ、帰りたくない……』

   『助けて……誰か……誰かここから出して!』


倫子「(実験中の記憶だって、完全には消せていなかった。思い出して錯乱したこともあった)」

倫子「(だけど、ここ数日は紅莉栖の記憶の方を思い出しつつある。OR物質の記憶バックアップも、徐々に侵食されているはずだ)」

真帆「だったら、もう一度かがりさんの記憶を、きちんとした装置で脳に上書きしてあげれば、あるいは」

鈴羽「だけど、かがりの記憶データが無いと意味が無い」

真帆「バックアップが取ってあることを期待するしかないわね」

倫子「(おそらくバックアップデータはどこかに保存されている。未来の、しかも別の世界線の貴重なデータだ、みすみすドブに捨てるとは考えにくい)」

881: 2016/05/21(土) 00:01:40.68 ID:qjKOjM6xo

鈴羽「装置はどうする?」

倫子「比屋定さんが作る」

真帆「ふぇっ!?」

倫子「紅莉栖は以前、人間の脳が思い描いた映像信号を、他の人の脳に投影するマシンを作った。記憶上書きマシンだって、仕組みはほとんど一緒のはず」

真帆「た、たしかにあの子ならできるかも知れないけど、私には……」

倫子「その作り方を、完全じゃないけど、ある程度は私だって理解してる。だから、私が比屋定さんのサポートをすれば、作れると思う」

倫子「(要はタイムリープマシンをカー・ブラックホール抜きで作ればいいんだ。ある程度青写真を提示すれば、比屋定さんならきっと作れる)」

真帆「でも、記憶データのバックアップがどこにあるかっていう問題がある。これを突き止めないと、マシンを作っても無意味よ」

倫子「(OR物質の記憶バックアップは……いや、リーディングシュタイナーをかがりちゃんに発動させる方法は不安定だから、出来れば普通のデータが欲しい)」

倫子「……ダルに、ペンタゴンをハッキングさせる」

真帆「そんな単純な話じゃない。ハッキング自体は可能だとしても、米軍組織のどこにあるかって話になるし、そもそも米軍とは限らない」

倫子「取りあえず、萌郁……探偵の報告を待とう。私たちは記憶上書き装置を完成させる。比屋定さん、お願い」

真帆「たまに強引なところがあるわよね、岡部さんって……でも、そういうの嫌いじゃないわ」

鈴羽「マゾなの?」

真帆「違うわよっ!!」ウガーッ

真帆「紅莉栖が作ったマシン……私にだって、作れるはず。やってやろうじゃない」フッ

倫子「ありがとう、真帆ちゃん!」ダキッ

真帆「ちょっ!? ……必要なものを和光の研究所とホテルに取りに戻るわ。開発は明日からね」ドキドキ

882: 2016/05/21(土) 00:02:25.94 ID:qjKOjM6xo
和光市 理化学研究所近く ビル2階 世界脳科学総合研究機構日本オフィス準備室


真帆「紅莉栖が日本に来てから作ったものを、岡部さんに教えてもらうことができただけでも収穫ね……いえ、それよりもかがりさんが心配なのだけれど」

ガチャ

真帆「え……な、なにこれ……荒らされてる……!?」

レスキネン「マホ! 大変だよ。何者かが侵入したらしいんだ」

レイエス「ワタシが来た時には、こんなに荒らされていたの。ワタシは幸い持ち物が少なかったから被害はたいしたことないけど、アナタたちは……」

レスキネン「してやられたよ。企業スパイかもしれないね」

真帆「こ、こんな何もないところで? 狙うなら普通隣の理化研を――」


   『誰も信用しない方がいい。気を付けて』


真帆「(……そもそも、このオフィスの存在を知ってる人間なんて、それこそ内部の人間しかいない)」

真帆「(まさか、教授が……? 第一発見者は、レイエス教授……)」プルプル

レスキネン「とにかく、君も何か盗まれていないか調べたまえ」

真帆「は、はい……」

883: 2016/05/21(土) 00:04:10.13 ID:qjKOjM6xo

真帆「なにも、盗られていませんでした……」

レスキネン「PCの中も確かめてみたが、第三者にアクセスされた形跡は見られない」

レスキネン「マホ、本当に何も盗られていないかい? 例えば、君が持っていたノートPCとか」

真帆「えっ? はい、あれならホテルに置いてあるので――」

真帆「(……いえ、だって、あのPCを教授たちが狙う理由が無いじゃない。何を疑っているの、私……)」

レスキネン「そうか。ならいいんだが」

レイエス「どうする? 警察に通報する?」

レスキネン「何も盗られていないなら、事を荒立てない方が良い。それこそ、犯人の思うツボかも知れないからね」

レイエス「そうね……少し、様子を見ましょうか」

真帆「(一度いぶかしむと、すべてが怪しく思えてくる……)」

884: 2016/05/21(土) 00:05:40.62 ID:qjKOjM6xo

真帆「あの、教授。実はお願いがあるんです」

レスキネン「なにかな?」

真帆「今、私たちが研究や発表会で忙しい時期だっていうことはわかっています。ですが、私に数日休暇をいただけないでしょうか」

レスキネン「もしかして、ガールフレンドでもできたかな?」

真帆「……普通の女友達ならできましたけど」

レスキネン「素晴らしいッ! それなら私が君の休暇を認めてあげよう」

真帆「い、いいんですか?」

レスキネン「愛を育むことも研究者にとっては必要だよ、マホ」

真帆「だから違うんですってば!!」

888: 2016/05/21(土) 00:28:42.17 ID:qjKOjM6xo
2011年1月11日火曜日
未来ガジェット研究所


倫子「(色んな方面から探りを入れてみたけど、何一つ成果を得られずにいた)」ハァ

倫子「(最後の手段として、レイエスを拘束して吐かせる、という手が無くは無いけど、米軍を敵に回して勝てるビジョンが見えない)」

倫子「(かがりちゃん、というか、紅莉栖のタイムマシン論文が敵に奪われたら一巻の終わりだ。世界線が悪い方へ変動する)」

倫子「(それを確実に回避する方法は、この世界線の確定事項ではない、"記憶の上書き"……)」

倫子「(記憶を上書きすることと記憶を取り戻すことは、検索信号の問題があるからイコールじゃないけど、少なくとも紅莉栖の記憶は消える)」

倫子「(記憶挿入実験は、α世界線の紅莉栖のDメールによって発生してしまったバタフライ効果だ)」

倫子「(だから、"記憶の上書き"を実行すれば、記憶挿入実験はなかったことにならざるを得ない)」

倫子「(それしかかがりちゃんの脳から紅莉栖の記憶が消える因果律の整合性が取れないからだ)」

倫子「(かつてエシュロン内部のDメールデータを削除しただけで、IBN5100の移動経路が変わった時と同じような、歴史の辻褄合わせが発生する)」

倫子「(かがりちゃんに紅莉栖の記憶が元々入っていない世界線へと変動させる……そういう世界線を私は一度観測している……)」

かがり「すいません、真帆先輩。オカリンさん。私のために……」

真帆「ううん、あと少しで出来そうだから。それに、これは私のためでもあるんだし……」フラフラ

倫子「比屋定さん、眠そうだね……」フラフラ

真帆「そういう岡部さんも……でも、本当におもしろいわ。紅莉栖って本当に天才だったんだって思い知らされるけど」

倫子「そんな。比屋定さんだって、私のアバウトな設計図からうまく仕上げてくれたじゃない」

真帆「アイディアのアウトラインさえ示してくれれば、あとはだいたいどこに何を当てはめれば良いかが見えてくるものよ」

真帆「私のアイディアじゃないのが、少し悔しいわ」フフッ

倫子「真帆ちゃん……」

真帆「真帆ちゃん言うな……」クターッ

889: 2016/05/21(土) 00:32:28.03 ID:qjKOjM6xo

真帆「それにしても、携帯電話を使うだなんて、普通考えないわ。たとえ考え付いたとしても、実行に移そうなんて思わない」

倫子「神経パルス信号を外部から脳に送る方法として、送話口からこめかみに向けて0.02アンペア程度の微弱な放電現象を起こす。これが可能な機能がケータイにあったってだけ」

倫子「(これさえも300人委員会の陰謀かもしれないんだけどね)」

かがり「側頭葉に神経パルス信号が流れた瞬間、記憶の埋め込みが完了しますけど、これだけだと記憶を思い出せないままになって、上書きは失敗してしまう」

かがり「そこで、擬似パルスを流すことで前頭葉からトップダウン検索信号を発信させる、という話でしたね」

倫子「(そう。ここで上書きした記憶を100%"思い出す"ことができる)」

倫子「(OR物質の記憶バックアップデータも数日のうちに更新される。要はタイムリープと同じ原理だ)」

倫子「(ただ、それは健常な脳においての話。かがりちゃんが意識レベルで思い出すことができるかはわからない)」

倫子「(それでも、少なくともこれによって2度と紅莉栖の記憶を"思い出す"ことができなくなる……はず)」

真帆「問題は、どうやって記憶を圧縮させるか、よね」

ダル「それについては、目下僕が毎日徹夜で頑張ってるわけだが」

鈴羽「父さん、がんばって。愛娘が応援してるよっ」ダキッ

ダル「みwなwぎwっwてwきwたwww」カタカタカタカタ

鈴羽「」グッ

倫子「(いや、そんなドヤ顔されても……)」

890: 2016/05/21(土) 00:33:15.76 ID:qjKOjM6xo

倫子「(電子レンジ内にカー・ブラックホールを作る必要は無いからそもそも電子レンジが必要無いけど、記憶圧縮用のミニブラックホールはSERNのLHCに作ってもらわないといけない)」

真帆「でも、紅莉栖はどうして記憶圧縮なんて方法、思い付いたのかしら。自分の妄想を他人に見せる装置には必要ないはずだけど」

かがり「確かに。私も疑問です」

倫子「そ、それは、ほら、セレンディピティってやつだよ。開発の途中で、関係ない技術が誕生しちゃうっていう」

真帆「なるほどね。結局紅莉栖は天才で、所詮私はサリエリだったってこと」

かがり「どういう意味ですか?」

真帆「自分の胸に聞きなさい」

倫子「…………」

倫子「かがりちゃん、あんまり、紅莉栖の記憶中心でしゃべらない方がいい」

かがり「えっ? あ、ご、ごめんなさい、私……」

891: 2016/05/21(土) 00:34:12.29 ID:qjKOjM6xo

かがり「……ねえ、オカリンさん。もしもね、椎名かがりの記憶が失くなって、完全に紅莉栖さんの記憶に入れ替わるとしたら――」

かがり「そしたら私は、牧瀬紅莉栖になっちゃうのかな?」

真帆「あなたは確かに顔が似てるけど、そんなことは無いわ。記憶と人格は――」

かがり「でも、もしもだよ? もしも、そうなるなら……オカリンさんや真帆さんは、嬉しい?」

倫子「私は……」


   『……氏にたく……ないよ……』

   『こんな……終わり……イヤ……』


真帆「……ちょっと待って、岡部さん。今、どうして言い淀んだの?」

倫子「え――――」

真帆「私たちが今、何を作っているのかわかってる!? 何のために動いているのか、わかってるの!?」ガシッ

倫子「っ……痛いよ……」

ダル「ちょ、真帆氏おちけつ」

真帆「……ごめんなさい。睡眠不足でイライラしてた」

倫子「わ、わかってる……ごめん……」

かがり「……意地悪な質問だったね。私はね、椎名かがりで居たいよ」

倫子「……私は、紅莉栖の記憶を、消したい」グッ

真帆「岡部さん……」

892: 2016/05/21(土) 00:35:02.56 ID:qjKOjM6xo

・・・

ダル「キターーーー!」

真帆「出来たわ!」

かがり「やりましたね!」

倫子「良かった……私はほとんど何も手伝ってないけど、ここまで再現できるなんて……」

倫子「(タイムリープマシンと違って電子レンジが無いだけでなく、VRヘッドセットも無い。記憶データを新たに作る必要は無いからね)」

倫子「(だからこのマシンは、単純に記憶データにデコードプログラムを仕込んで、LHCで圧縮、携帯電話から放射する、というもの)」

倫子「それにしても、よくこの短時間で……」

真帆「かがりさんの中に紅莉栖の記憶が残ってたことも開発を後押ししてくれたわ」

倫子「いや、それでも完成させたのは比屋定さんの力だよ。本当にすごい」

かがり「そうですよ、先輩。実際に作ったのは先輩なんですから」

真帆「ありがとう。その言葉、素直に受け取っておくわ」

真帆「ふう……それじゃ、私はちょっと眠らせてもらう。さすがに疲れ――」

prrrr prrrr

真帆「もう、誰よ。人がこれから寝ようって時に……はい、もしもし?」シャーッ (※開発室のカーテンを閉める音)

倫子「真帆ちゃんも紅莉栖と同じで律儀だなぁ。アメリカの人ってみんなこうなのかな?」

真帆『ふえっ!?』

倫子「ど、どうしたの!?」

893: 2016/05/21(土) 00:35:48.62 ID:qjKOjM6xo

真帆「ホテルから電話があって……荒らされたって……私の泊まってた……ホテルの部屋……」ワナワナ

ダル「マジかお……」

真帆「今から警察に連絡するから、何が盗まれてるか調べるためにも、早く戻って来いって」プルプル

倫子「……罠だ。比屋定さん、ここを動かない方が良い」

ダル「いやでも、ホントに大切なもんが盗まれてたらヤバいっしょ」

真帆「一応、大切なものは全部ここに持ってきているけれど……実は、この前オフィスも荒らされたことがあって……」

倫子「同一犯だとして、比屋定さんのホテルの部屋を知っていて、オフィスに侵入できる人物。可能性があるのは……」

真帆「……レスキネン教授と、レイエス教授よ」

かがり「そんな!? 教授たちが!?」

ダル「ヴィクコン関係者かぁ……」アチャー

倫子「そのふたりが米軍組織のスパイである可能性、だね」

真帆「さすがにここまで来ると、私も否定できそうにないわね……」

倫子「ふたりのどちらか、あるいは、共謀、ということも考えられる」

ダル「久々にオカリンの陰謀論が聞けて嬉しいけど、マジな話っぽいなこれ……」

894: 2016/05/21(土) 00:38:18.14 ID:qjKOjM6xo

ダル「つか、真帆たんの研究はそのふたりも共有してるわけっしょ? なら何を探してるん?」

真帆「見当はついてるわ……紅莉栖のノートPCとHDDよ」

かがり「私の……」

倫子「その中にも、兵器転用できる技術が書かれた論文が入っているんだ。かがりちゃんの脳内と同じように」

かがり「アレのことですよね……そりゃ、パパと共同研究すればいつかは実現できる可能性があるかも、と思って書いたものですけど、まさかホントに……」

真帆「ということは、かがりさんを誘拐する件は諦めたってこと?」

倫子「同時並行で探ってる、ってところじゃないかな。でも、比屋定さんに不信感をもたれても構わなくなってるってことは、かなり焦ってるんだと思う」

倫子「(わからないけど、ロシアやSERNなんかの敵対組織に先んじる必要があるんだろう。このまま勢力が拮抗したままであってほしいけど……)」

ダル「つか、そのPCって、この前真帆たんが僕に託したやつ?」

倫子「えっ?」

真帆「実はね、どうしてもパスワードを解析したくて。ここに籠るようになってから、橋田さんにお願いしたの」

倫子「それじゃ、今そのノートPCは……」

ダル「僕のヒミツのアジトにあるのだぜ。つっても、まだパスワードは解析できてないけどね」ヒソヒソ

倫子「そ、そっか。なら、よかった」

ガチャ

鈴羽「ただいま……なにかあった? 空気が沈んでるけど」

倫子「それが……」

895: 2016/05/21(土) 00:39:55.26 ID:qjKOjM6xo

・・・

鈴羽「つまり、敵が動いた。しかもかがりの対処が急を要する、と」

真帆「私が居るせいかわからないけど、かがりさん、どんどん自分を見失っていってるわ」

かがり「ご、ごめんなさい、先輩……うぅ……」

倫子「もう、時間が無い。悠長に構えている場合じゃなくなった」

倫子「(危険を冒してでも動くしかない、か……)」

倫子「……お願い、みんなの力を貸してほしい」

ダル「お? オカリン久々の作戦立案? これは胸が熱くなるな」

鈴羽「リンリンのオペレーションか……あの頃はごっこ遊びだったけど、懐かしすぎて涙が出そう」

倫子「まず、状況を整理しよう」

倫子「(前の世界線の襲撃者と、この世界線でかがりに記憶を上書きしたやつらとは同じはず)」

倫子「敵の正体については、レイエス教授は確定。レスキネン教授もその可能性が高い。そして、ふたりは米軍組織のスパイの可能性、ただし詳細は不明」

倫子「敵の目的は紅莉栖の論文を奪うこと。兵器転用するためにね」

倫子「そのために、論文の入っているかがりちゃんの頭脳、あるいは、紅莉栖のノートPCを奪取しようとしている」

倫子「現状、かがりちゃんの紅莉栖化がひどくなってきてる。早いところ、敵の所属している組織を特定したい」

倫子「そこにかがりちゃんの記憶のバックアップがあるはず。そしたらダルにハッキングしてもらって、記憶データを入手する」

ダル「任せろっつーの!」

倫子「そして、敵も手段を変えてきている。長年築いてきただろう比屋定さんとの信頼関係をかなぐり捨てて、比屋定さんの持ってる紅莉栖のPCを盗もうとしてるんだ」

倫子「奴らも焦ってる。だったら、こっちからエサを撒けば間違いなく食いついて来る」

真帆「ちょっと待って!? もしかして、岡部さんの作戦って……」

鈴羽「囮を使って、釣りをする、ってことだね」

倫子「そういうこと」

896: 2016/05/21(土) 00:41:32.87 ID:qjKOjM6xo

倫子「できるだけかがりちゃんに危険が及ばない形で実行したい。何か案はある?」

鈴羽「そのレイエスとかいう人を拉致して拷問すればいいんじゃないの?」

ダル「ちょ」

倫子「相手はプロだよ。本丸を叩いてもうまくかわされると思う」

鈴羽「なら、将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、だ」

倫子「えっと……?」

鈴羽「リンリンの話だと、かがりを誘拐しようとしたやつらは、ライダースーツの女を除いて斥候だった。雇われ兵なら、簡単に口を割るはず」ヒソヒソ

倫子「なるほど……」

鈴羽「あたしがかがりの変装をして夜道を出歩くよ。あたしを誘拐しようとしたら、反撃して、敵の中でも弱そうな奴を生け捕りにする」

鈴羽「そして、誰に命令されたかを吐かせる」

ダル「い、いや、さすがに鈴羽が危険すぎるお!」

かがり「そうだよ! 鈴羽おねーちゃんに危険なこと、してほしくないよ!」

倫子「店長に協力を要請しよう。それから、萌郁にも」

ダル「桐生氏? そういや確か、裏稼業に片足突っ込んでる関係で護身術も身につけてるとか言ってたっけ」

倫子「そっか、この世界線ではまだ話してなかったっけ。萌郁はね、あれでも隠密行動のプロなんだよ」

ダル「あ、だったら桐生氏に情報をリークしてもらうってのはどう? 決まった時間帯に椎名かがりの目撃情報がある、ってのを流してもらえれば」

真帆「ま、待って! その作戦で正体がつかめたとしても、それこそここに軍隊が乗り込んできてもおかしくないわ!」

倫子「その前にかがりちゃんの記憶を上書きする」

真帆「上書きできたって、その後のことはどうするの!?」

倫子「大丈夫。その後のことは考える必要が無い」

倫子「(世界線が変わるからね)」

真帆「は、はあ!?」

鈴羽「論文が消滅したなら、奴らがここを襲う意味がなくなる。無駄に事を荒立てるなんてことはしないよ」

倫子「私を信じて。真帆ちゃん」

真帆「い、いや、物証を出してほしいのだけれど……んもう……」

897: 2016/05/21(土) 00:44:28.30 ID:qjKOjM6xo

倫子「かがりちゃん。ちょっと、手を握ってもらっていい?」

かがり「え? い、いいけど……」ドキドキ

倫子「(この作戦自体が、私が持ってる別世界線からの情報によって立案できたもの。だから、既にこの世界線の確定した流れからは外れている)」ギュッ

ダル「おお、百合フィールドktkr」

かがり「はわわぁ……///」

倫子「(作戦が成功しても失敗しても世界線は変動する。敵が勝つか、私たちが勝つか……)」

倫子「(今の作戦をできるだけ具体的に頭に思い浮かべる……この世界線の未来として確定しているのは……)」ギュッ

倫子「(……やっぱり、ここが襲撃される。記憶の上書きの前にかがりちゃんは誘拐されて、私たちは強制連行、か……)」

倫子「(敵さんが本当にタイムマシンを完成させちゃったら、アトラクタフィールド越えの大問題になっちゃうな……)」

倫子「(ともかく、襲撃の前にかがりちゃんの記憶の上書きに成功して、紅莉栖の記憶が完全にかがりちゃんの脳から消えれば、世界線は変動する。ここが分岐点)」

倫子「(成功した場合、『かがりちゃんの脳内に紅莉栖の記憶が無い』が確定した事象となるように、歴史は辻褄合わせの再構成をする)」

倫子「(『Amadeus』が凍結された歴史を残したまま、敵がかがりちゃんの脳内に紅莉栖の記憶を埋め込むことができなかった世界線がアクティブ化するはずだ)」

倫子「(完全な上書きに失敗した場合は、どうなるかはわからない。でも、少なくとも世界線は変動する)」

倫子「(あとは意志の力だ。未来を変えたいと願う、意志の力……!)」

898: 2016/05/21(土) 00:47:44.28 ID:qjKOjM6xo
2011年1月15日(土)午前0時過ぎ深夜
裏路地


外国人の男A「椎名かがりだな」

かがり(に変装した鈴羽)「…………」

外国人の男B「大人しくしていれば手荒な真似はしない」

かがり(鈴羽)「(外国人が3人に、チンピラが3人か)」

チンピラA「楽な仕事だよな、女を1人攫うだけでいいなんて。ね、シドさん?」

かがり(鈴羽)「(シド?)」

4℃「ガイアは言っている、このふざけた街のふざけた時代で生きていくためには、リーガルハイに手を出さなければいけないのさ……」

外国人の男C「("リーガルハイ"って脱法ドラッグのことじゃ?)」

チンピラB「ヴァイラルアタッカーズがブラックリストに載ってるから、こういう仕事でしか金を稼げないなんて、さすがシドさんっす!」

4℃「ブラックとは名ばかりのダーティーなリストに名前を載せやがったあのメス猫にはアブソリュートリー、いつか仕返ししてやる……」

チンピラA「つーか、シドさんが英語できたなんてマジかっけぇっす!」

4℃「言葉はライブだぜ。俺の本場仕込みのブレイキーな英語についてこれるか?」

外国人の男A「("ブロークン"じゃないのか?)」

チンピラA「かっけぇ!」

チンピラB「マジイカすぜ、シドさん!」

かがり(鈴羽)「(蹴っていいかな……)」

899: 2016/05/21(土) 00:48:33.44 ID:qjKOjM6xo

かがり(鈴羽)「でやぁぁぁっ!!」シュバッ!!

外国人の男C「オォォォォォオオ!!」ガクッ

かがり(鈴羽)「だりゃぁぁぁっ!!」シュババッ!!

チンピラA「ぶべらっ!!」

4℃「ひ、ひぃぃっ!」

チンピラB「なんだこいつ! 聞いてねえぞ!」ダッ

天王寺「――――ッ!!」ブンッ!!

外国人の男B「ぐあああああっ!!」

チンピラB「ぎゃああっ!!」

天王寺「おいおい、静かにしな。あんまりうるさくすると、おめえらも困るんじゃねえのか?」




物陰|д゚;)倫子「ひ、ひぇぇ……すごいぃ……」ビクビク

900: 2016/05/21(土) 00:49:18.29 ID:qjKOjM6xo

ダル『もしもし? そっちはどう? 鈴羽は大丈夫?』

倫子「う、うん。全然心配いらない。すごすぎだよ……」

ダル『そりゃあ、僕の娘だからね』

倫子「運動神経はトンビとタカだけどね」



外国人の男A「て、撤収!」

天王寺「おっと、そうはいくかよ」ガシッ

外国人の男A「くそッ!」BANG!!

外国人の男A「――――」バタッ

天王寺「っち、自頃しやがった……!」

4℃「な……なっ……!?」ガクガク

鈴羽「リンリン、そっち!! 敵が向かった!!」

倫子「えっ!? えっ!?」オロオロ

4℃「くそっ、逃げるがラビットだ! ハァッ、ハァッ!!」タッタッ

鈴羽「捕まえて!!」

倫子「い、いや……いやぁっ!!」ブルブル

萌郁「……任せて……!」シュバッ!!

4℃「ゴフッ!!」バタッ

天王寺「よし、捕まえてやるっ!! 萌郁、そのまま離すんじゃねえぞ!!」

萌郁「…………」コクッ

901: 2016/05/21(土) 00:50:04.73 ID:qjKOjM6xo

鈴羽「リンリン、怪我は?」

倫子「だ、だだ、大丈夫……」ガクガク

鈴羽「ごめんね、怖い思いをさせて。だけど、神の目には現場を記憶しておいてもらいたかったから」

4℃「んんんんんーー!」フゴフゴ

倫子「(あれ? こいつ、どこかで見たことあるような……何故か吐き気がするけど……)」ウップ

天王寺「舌ァ噛み切るんじゃねえぞ? 天王寺さんの汗が染み付いた手拭いでも食べてな」ギュッギュッ

4℃「んんんんんーー!!」ジタバタ

天王寺「んじゃまずは指でもつめて――」チラッ

倫子「…………」ブルブル

天王寺「あー……しょうがねえな。おひげジョリジョリで勘弁してやる」ジョリジョリ

4℃「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ーー!!」ジタバタ

倫子「これがラウンダーのやり方……なんて恐ろしいんだ……」ガクガク

萌郁「ちょっと……違う……」

902: 2016/05/21(土) 00:51:06.58 ID:qjKOjM6xo

天王寺「で、おめえさん達の元締めは誰だ?」

4℃「だ、誰がしゃべるかよ、スキンヘッドタフガイ……つーか、しゃべったらキリングされちまう……」

天王寺「ほう、ケツの穴を広げてほしいのか? おん?」

4℃「しゃべりますすいませんホント勘弁してください何も知らなかったんです」

天王寺「最初からそうすりゃいいんだ」

4℃「…………」ボソボソ

天王寺「……なに? お前らを雇ったのはさっき自頃した男で、そいつの元締めはストラトフォーだと? また面倒なやつらが……」

倫子「(ストラトフォー!? 影のCIAと呼ばれる、アメリカの民間情報会社……!)」

倫子「(軍事に特化していると云われてるけど……そっか、それで……)」

倫子「ダル! 今すぐストラトフォーのサーバーにハッキングをかけてくれ!」

ダル『オーキードーキー!』

天王寺「しかし、民間企業の、金で雇われてるやつらが、自決までするか?」

4℃「お、俺は知らねぇ! あの外国人ども、言葉の通じねえクレイジーだったからな!」

鈴羽「洗脳された軍人なら、あるいは」

萌郁「洗脳……軍人……」

天王寺「たとえ米軍だろうが構わねえ。綯の日常を守る、ただそれだけだ」

天王寺「じきにやつらも次の手を打ってくる。後始末は俺に任せて、おめえらは行け!」


   『ここは任せたぞミスターブラウン! ふぅーはははぁ!』


倫子「は、はいっ! 後のことはお願いしますっ!」ダッ

天王寺「……どうも調子が狂いやがる」

903: 2016/05/21(土) 00:52:52.70 ID:qjKOjM6xo
未来ガジェット研究所


倫子「はぁっ……はぁっ……、ハッキングは!?」

ダル「前に遊びでハッキングかけた時のルートがあるから、今探ってるとこだお……!」カタカタカタカタ

かがり「はぁ……は、ぁ……」グッタリ

鈴羽「かがり!  しっかりしろ!」

まゆり「かがりちゃん!!」

倫子「(容体が極めて悪い……っ、かがりの自我が崩壊するのは時間の問題か!?)」

フェイリス「自警団の人たちには既に動いてもらってるニャ。だけど、こっちは素人集団だから、どこまで相手になるか……」

倫子「いや、奴らは人の目があるだけで動きづらいはずっ」

るか「僕も五月雨を持ってきました……!」

倫子「うん……心強い」ニコ

904: 2016/05/21(土) 00:53:29.64 ID:qjKOjM6xo

かがり「ねぇ……ママ……私、このまま消えちゃうの、かな……?」

まゆり「大丈夫だよ。きっとオカリンとダルくんがなんとかしてくれるからね」

かがり「オカリン……さん……?」

倫子「心配しないで。きっと、きっと大丈夫だから」ギュッ

かがり「……岡部……、私を……消して……」

倫子「――えっ」

かがり「彼女の中から……私を、消して……」

倫子「くり……す……?」プルプル

かがり「ごめんね……岡部……」ツーッ

倫子「(ち、違う。紅莉栖の記憶はデータであって、魂じゃ、ないんだから……)」

905: 2016/05/21(土) 00:54:01.50 ID:qjKOjM6xo

倫子「ダル……っ! 急いで……っ!」ウルウル

ダル「……もうすぐ、もうすぐ……!」カタカタカタカタカタカタカタカタ

鈴羽「マズいよ、リンリン。窓の外、何人か集まって来てる……」

ダル「よし、こいこいこいこい……」カタカタカタカタカタカタカタカタ ッターン

ダル「っしゃ!! キタキタキター!! ビンゴー!!」

真帆「重要そうなファイルの中から、サイズの大きなものを選んで!」

ダル「オーキードーキー! これかな? お、でも中にもファイルいっぱいだお」カチカチッ

倫子「(これがやつらの人体実験の成果か……ゼリーマンズレポートを思い出す)」ゴクリ

倫子「あった! K6205だっ!」

ダル「なんだかよくわからんが、これを転送すればいいんだな!?」カチカチッ

鈴羽「早く! 完全に囲まれた!」

倫子「準備はいい!?」

真帆「待って!!」

906: 2016/05/21(土) 00:54:58.80 ID:qjKOjM6xo

倫子「ど、どうしたの比屋定さん……目つき、怖いよ……?」ビクッ

真帆「……本当にうまくいくのかしら? もし失敗したら、かがりさんの命が――」

倫子「……あなたに説明できなくて悔しい。でも、絶対に大丈夫」

倫子「私を信じて欲しい」

倫子「(世界線さえ変動すれば、かがりちゃんは元々記憶埋め込み実験をされてない歴史に再構成されるはず。だから、きっと元気になるはずだ)」

真帆「で、でも、私の作ったものなのよ? 紅莉栖じゃなくて、私が――」

倫子「私が保証する。比屋定さんの理論も、技術も、完璧だって」ニコ

真帆「岡部さん……」トゥンク

倫子「かがりちゃん、行くよ……いいね?」

かがり「うん……」

ダッ ダッ ダッ

鈴羽「来たっ!!」

倫子「ダル、送信してくれっ!!」

ダル「オーキードーキーッ!!」ッターン!!

prrrr prrrr

倫子「(私のスマホが鳴った。ストラトフォーのサーバに保管されていたかがりちゃんの記憶が、フランスを経由して私のケータイへと届いたんだ……!)」

907: 2016/05/21(土) 00:57:21.12 ID:qjKOjM6xo

倫子「(あとはこれにかがりちゃんを出させれば――)」スッ

かがり「あのね、岡部さん……」

倫子「な、なに……?」ピタッ

かがり「私……たぶん、岡部さんのこと……あなたのこと……」

倫子「え――――」


バターンッ!! 


鈴羽「交戦するっ!!」

るか「岡部さんは、ボ、ボクが守りますっ!!」


倫子「(私は……今、何を……すべきなの……このまま通話ボタンを押していいの……)」

倫子「教えてよ、紅莉栖……あなたが居ないと、私……」プルプル

かがり「……岡部。手を、貸して」スッ

倫子「えっ……?」





かがり「――バイバイ、倫子ちゃん」  【通話】ピッ

908: 2016/05/21(土) 00:58:28.73 ID:qjKOjM6xo

―――――――――――――――――――
    1.05364  →  1.06476
―――――――――――――――――――

909: 2016/05/21(土) 00:59:23.91 ID:qjKOjM6xo
第16章 相互再帰のマザーグース(♀)

未来ガジェット研究所


倫子「…………」

倫子「……リーディング……シュタイナー……」ウルッ

倫子「……あの言葉は、紅莉栖のもの、だったのかな」グスッ

倫子「って、うわ、部屋が真っ暗だ」

倫子「(この世界線の"私"はソファーで寝てた? そりゃ、深夜だもんね、当然か……)」

倫子「(あ、あれ、意識したら突然ものすごい睡魔が……)」フラッ

倫子「……ぐぅ」zzz

910: 2016/05/21(土) 00:59:57.31 ID:qjKOjM6xo
2011年1月15日土曜日
未来ガジェット研究所


まゆり「ねえ、起きて~。もうお昼だよ~?」

倫子「んぅ、あと5分……」ムニャムニャ

まゆり「起きないとね~、ギュッてしちゃうよ~♪」ギュツ

倫子「やわらかぁ……」ムニャムニャ

まゆり「でもそろそろかがりさん来ちゃうかな。ねえ、オカリン、起きて?」ユサユサ

倫子「かがり……? か……かが……かがりっ!?!?」ガバッ

まゆり「きゃぁっ!」

倫子「まゆり、かがりちゃんは!? かがりちゃんはどうなった!?」ガシッ

まゆり「ど、どうなったって、なにが?」ドキドキ

ダル「ちょ、突然どしたん!?」

911: 2016/05/21(土) 01:01:57.70 ID:qjKOjM6xo

・・・

倫子「――つまり、かがりちゃ、じゃなかった、かがりさんはまだ記憶を取り戻してないんだね?」

まゆり「そうだよー? どうしちゃったのかな、オカリン」

倫子「(良かった、戻ってきた……! 1月2日に分岐する前の世界線に戻ってきたんだ――)」

倫子「(いや、完全に戻ってきたわけじゃない。その世界線とはわずかに変動率がズレているはずか)」

倫子「(α世界線の紅莉栖の改変によって、『Amadeus』プロジェクトが夏に凍結される因果は残っているから、その1点だけが違うことになる)」

倫子「(スマホには……やっぱり、『Amadeus』アプリの跡はない)」

倫子「(『Amadeus』プロジェクト凍結のおかげで、私が"紅莉栖"に「椎名かがり」を検索してもらったりすることが無くなったため、向こうにこっちの情報がバレることもなかった)」

倫子「(だから襲撃が起こらなかった。これで少しはマシな世界線にやってこれた……)」ホッ

まゆり「はい、オカリン、麦茶どうぞ~。ダルくんもどうぞ~」

ダル「まゆ氏まゆ氏、そこは、お茶どぞ~でヨロ」

倫子「……久しぶりの日常だ」エヘヘ

912: 2016/05/21(土) 01:07:44.20 ID:qjKOjM6xo

倫子「そう言えば、かがりさんはどうして今日ラボに来るんだっけ」

ダル「オカリンが呼んだんじゃん。昨日、RINEで連絡よこしたっしょ。今日の正午にここに集合って」

ダル「第3回、かがりたんの記憶を取り戻す方法を考える会!」

まゆり「まゆしぃも参加できたらよかったんだけど、今日はバイトがあるので」

倫子「あ、ああ……なるほど、ね。そうだったね」

倫子「(この世界線でかがりさんが未来人であることを知っているのは、私とダルと鈴羽の3人だけ。店長にも、まゆりにも教えていないことになっている)」

倫子「(そしてどういうわけか、この世界線でのかがりさんは未来の記憶も失っている)」

倫子「(過去に来てからの12年間の記憶、そして子どもの頃の記憶……記憶の上書きによって紅莉栖の記憶は消せたらしいけど、記憶を取り戻すことにはならなかったらしい)」

倫子「(あるいは、まだ記憶を取り戻してないだけで、この世界線の未来では記憶を取り戻すことが確定している? そうやって再構成されたのかな……)」

ダル「ま、今のところ成果ゼロだけども」

倫子「焦らずいこうよ。時間はあるって」

倫子「(これでしばらくは、タイムマシンや世界線、陰謀とかと関わらなくて済むよね……)」

倫子「(昨日まで居た世界を、"なかったこと"にできた……戻って来れた……)」

倫子「(ホントによかった。私の選択が、上手く行ったんだ)」ホッ

913: 2016/05/21(土) 01:09:04.94 ID:qjKOjM6xo

まゆり「あ、ねえねえオカリン。この歌知ってる?」

倫子「歌? いきなりどうしたの、かわいいなぁ」ナデナデ

まゆり「わわっ、今日はオカリンご機嫌だねぇ、えっへへ~」

まゆり「えっとね、こういう歌なんだけど……」


  さ~が~し~もの ひとつ~

  ほ~し~の~ わらうこえ~

  か~ぜ~に~ またたいて~

  てをのば~せば~ つかめるよ~


倫子「歌、上手くなったね」ニコ

まゆり「そ、そうかなぁ?」テレッ

倫子「(β世界線では、まゆりって音痴じゃないのかな? もしかして、この世界線の子どもの頃の私がまゆりに歌を教えた、とか?)」

倫子「それで、その歌がどうし――」


ガタッ


かがり「……っ!?」ガクガク

914: 2016/05/21(土) 01:10:32.86 ID:qjKOjM6xo

まゆり「あ、かがりさん。トゥットゥルー……どうしたのかな、大丈夫?」

かがり「そ、そ、その歌……私、知ってる!」ブルブル

まゆり「ええっ!?」

倫子「そうなの!?」

かがり「その……歌……」フラッ

バタンッ

まゆり「かがりさん!?」

ダル「ちょ、ま、うぇ!?」

かがり「…………」ウーン

倫子「ダル、手当てを! かがりさん、しっかりして! かがりさ――――」

936: 2016/06/04(土) 17:20:10.86 ID:fKB73eEWo


   『この歌は、ママとかがりちゃんを繋げてくれた歌なの』

   『かがりちゃんには、この歌、覚えておいてほしいな』

   『いつか、かがりちゃんが大事な人と出会った時のために』

   『その人が泣いている時、笑顔になってもらえるように』


かがり「……っ」ウーン

ダル「だいじょぶかな? 病院に連れて行った方がよくね?」

倫子「……それはダメなの、ダルはわかるでしょ?」

ダル「あ、そっか。うーん、つらいとこっすなぁ」

かがり「ママ……行かないで……ママッ!」ガバッ

倫子「うおふっ!?」ゴチン

かがり「あ、あいたたた……」ズキンズキン

倫子「いてて……」ズキズキ

ダル「頭と頭をモロにぶつけたっぽいけど、中身入れ替わったりしてない?」

倫子「この程度でOR物質が入れ替わるわけないでしょ……」ズキズキ

ダル「いやぁ~、せっかくのラッキースOベ展開が台無しっすなぁ」

かがり「ラッキースOベ……わ、私、もう一度気絶します!! それで今度は岡部さんに、キ……///」

倫子「い、いや、やめて……」ジンジン

937: 2016/06/04(土) 17:22:28.78 ID:fKB73eEWo

倫子「かがりさんはあの歌を知ってるようだったけど……」

かがり「あっ……そ、そうです! 私、あの歌を知ってるんです!」

かがり「どこかで聞いたことがあって……ずっとずっと昔、子どもの頃に!」

ダル「おお、ktkr!」

倫子「(側頭葉って耳に近いんだよね。タイムリープの時も、ケータイから記憶を移せるのはそれが理由だったし)」

倫子「(よく認知症の人が子どもの頃に覚えた歌だけは歌える、という話を聞く)」

倫子「(たしか、大脳皮質の聴覚野において、言語や音感という聴覚刺激を学習する臨界期が10歳くらいまでなんだとか)」

倫子「(だから、たとえ記憶をすべて忘却していたとしても、かがりさんが今、日本語をしゃべってるのと同じように、歌の響きをゲシュタルトとして覚えているわけだ)」

かがり「まゆりさんは!? まゆりさんにあの歌のこと、教えてもらわなきゃ!」

倫子「まゆりはメイクイーンのバイトがあって、かがりさんと入れ違いに出てったよ」

かがり「そう、ですか……」シュン

ダル「かがりたんのこと、すごく心配してたお。昼だけの緊急サポートで入ったらしいから、バイトもすぐ終わるって」

941: 2016/06/04(土) 17:26:26.17 ID:fKB73eEWo

倫子「(歌もまた情動記憶と結びついてるはず。これでも一応、脳科学について少しは勉強してるんだから)」

倫子「他に、あの歌で何か思い出したことはないかな?」

倫子「何があったとかのエピソード記憶じゃなくていい。その歌を歌うと、どんな気持ちになるかとか、触覚や嗅覚として思い出すことはない?」

かがり「ええと……なんだか、あったかい気持ちがします。あと、柔らかくて、良い匂いがするような……」

倫子「(かがりさんにあの歌を教えたのは未来のまゆりなんだから、ある意味当然か。けど、その言葉を本人の口から聞けてよかった……)」ホッ

かがり「それになんだか、岡部さんの顔が目に浮かぶんです。あと、夏の雨の日のむせかえる土の匂い」

かがり「やっぱり、岡部さんに会えたのは運命だったのかな……」テレッ

倫子「(未来でまゆりが私の写真を見せたりしたのかな?)」

かがり「でも、誰から聞いたとか、どこで覚えたとか、そういうのは全然……」

ダル「歌がトリガーになって記憶が蘇ったらいいんだけど」

倫子「そんなに簡単なものじゃないよ。だけど、可能性が無いわけじゃない」

ダル「オカリン、ひとまずまゆ氏に聞いてみるのがいいんじゃね?」

倫子「うん……確かに、まゆりがそもそもあの歌をどこで覚えたのかは気になるかも」

倫子「(いや、ホントはそれよりも、かがりさんをまゆりと会わせることでOR物質を励起状態にさせ、自発的に未来の記憶を取り戻してもらいたい)」

倫子「(私が全て話すのはダメ。また倒れられて、それこそ修正不能なダメージが入っちゃうのは怖いから)」

かがり「すみません……ご迷惑をおかけして……」

倫子「ううん。私はね、あなたの力になれることが嬉しい。だから謝ることなんて無いよ」ニコ

倫子「(まゆりの娘と言うならなおさら。1秒でも多く幸せな時間を手に入れて欲しい)」

かがり「お、岡部さん……」トゥンク

ダル「ごめん、僕は午後から用事あるから、オカリン、かがりたんを頼んだのだぜ」

倫子「おう、任せとけ……ゲフンゲフン、わかったよ」

946: 2016/06/04(土) 17:29:07.10 ID:fKB73eEWo
メイクイーン+ニャン2


まゆり「オカリン! かがりさん! ごめんね~、迎えに来てくれて~」トテトテ

まゆり「かがりさん、大丈夫? ホントはまゆしぃもかがりさんのそばに居たかったんだけど……」

倫子「このオレが居たのだから心配ない……あ、いや、なんでもないっ」モジモジ

かがり「ありがとう、まゆりさん。もう大丈夫だよ。心配かけてごめんなさい」

まゆり「よかった~。でも、どうして迎えに来てくれたの~?」

倫子「まゆりに聞きたいことがあって。さっき口ずさんでいた歌について」

まゆり「あの歌? あれね~、スズさんが歌っていたのを聞いて覚えたんだ~」

倫子「鈴羽が?」

倫子「(未来のまゆりが鈴羽にも教えたのかな? 鈴羽とかがりさんで一緒に歌ってたことがある、とか……)」

まゆり「うん。スズさんね、どうじん……えっと、文章を書きながらこの歌を小さく口ずさんでたんだよ」

倫子「(鈴羽が文章? ダルのタイムマシン理論構築の手伝いでもしてるのかな。実際α世界線では教授だったわけだし)」

倫子「(ともかく、鈴羽にかがりさんの前であの歌を歌ってもらえば、新しい刺激になるはず)」

倫子「それなら、次は鈴羽を当たってみよう」

かがり「ありがとうございます!」

まゆり「まゆしぃも一緒に行く! かがりさんを見てるとね、なんかしなきゃっていう気持ちになるの」

倫子「(……ひとつ前の世界線の記憶を、リーディングシュタイナーとして思い出してるのかな?)」

949: 2016/06/04(土) 17:30:18.36 ID:fKB73eEWo
大檜山ビル前


まゆり「あれ? スズさんの自転車がないね」

倫子「そういえば、鈴羽ってブラウン管工房でバイトしてるの?」

まゆり「そうだよ~。たしか、1月の2日からね、ラボを守るついでにバイトもしなきゃって」

倫子「(自転車を衝動買いして金欠にでもなったか……これもリーディングシュタイナーのせいかな)」

天王寺「おう、嬢ちゃんたち。なんか用か?」

倫子「あの、鈴羽、知りませんか?」

天王寺「ああ、あいつなら今日は上がったぜ。午後から用事があるとかでな」

倫子「そういやダルもそんなこと言ってたな……2人でデートかな?」

まゆり「えっ? ええーっ!? そ、それはダメだよぅ! スズさんが幸せになれないよぅ!」アセッ

倫子「ふふっ。冗談だよ、まゆり」


倫子【今どこ?】

【とらのあな】鈴羽


倫子「……何してんの?」

951: 2016/06/04(土) 17:31:08.17 ID:fKB73eEWo
とらのあな秋葉原店Cイベントフロア


モブA「『静かなる殺戮者』先生! 一生手を洗いません!」

モブB「『静かなる殺戮者』先生のサインは家宝にします!」

鈴羽「はい、次の方ー……って、げ! リンリン!? それにかがりも!? 椎名まゆりまで!?」ガタッ


まゆり「ついに出版できたんだね~♪ おめでと~なのです! あ、3部くださ~い」

倫子「……ホントに何やってんの?」ヒキッ

かがり「『異世界を脱出したと思ったらまた異世界だった! ~厨二少女の場合~』……帯には、"キミはシュレディンガーの猫を救えるか!?"……?」

モブC「主人公の『鳳凰院凶真』のモデルになった実在の人物が居るって本当ですか、先生!?」

倫子「おいコラ……」ジロッ

鈴羽「あちゃ~……」

955: 2016/06/04(土) 17:32:45.63 ID:fKB73eEWo

鈴羽「いや、えっと、将来的にリンリンはワルキューレを立ち上げるわけで、協力者を集めるためにも、今のうちから神格化しておかなきゃって思ったんだよね」アハハ

倫子「(α鈴羽の記憶を断片的に思い出してるんだろうか)」ゾクッ

鈴羽「売り上げはワルキューレの活動資金にできるし」

倫子「自転車の購入で出た思わぬ損失の穴埋めのためでしょ?」ジロッ

鈴羽「あ、あはは……」

かがり「でもすごいですね、結構売れてるんですか?」

鈴羽「ああ、販路確保はフェイリスに手伝ってもらった」

倫子「全部合点が行った」

鈴羽「父さ、兄さんからα世界線のリンリンの話を聞いたんだ。あたしの執筆活動を応援してくれたよ」

まゆり「まゆしぃもね、少しだけ手伝ったのです。えっへへ~」

鈴羽「……うん。その点だけは感謝するよ、椎名まゆり」

倫子「(ラボで日がな何をやっているかと思えばそんなことを……。確かにダルとまゆりが入り浸っているなら、色々アドバイスはもらえるだろうけども!)」

倫子「(まあ、まゆりと鈴羽の仲が良くなったならいっか)」

鈴羽「それに『鳳凰院凶真』の熱狂的なファンは既に居るみたいだったからね。望まれた出稿だった、ってわけ」

倫子「鳳凰院凶真のファン?」

ご主人様A「僕は倫子たんの復活を信じてるお!」

ご主人様B「フェイリスたんの厨二とやり合えるのは鳳凰院凶真だけだお!」

倫子「お、お前らかーっ!!」

958: 2016/06/04(土) 17:34:27.48 ID:fKB73eEWo
中央通り


まゆり「ふむふむ……おおおーっ!」ペラッ ペラッ

かがり「なるほどなるほど……さすが鳳凰院凶真さん……」ジーッ


倫子「(椎名家はさっきの本をじっくりと読んでるようだ。一応フィクションってことになってるから問題ないけど……うーん……)」

倫子「それで、鈴羽……カクカクシカジカ……」

鈴羽「ああ、あの歌? あれは母さんから教えてもらったんだよ。小さい時に」

倫子「じゃあやっぱりかがりさんは由季さんか鈴羽から?」

鈴羽「それはないよ。かがりがまゆねえさんの養子になったのは、母さんが氏んだ後の2032年だから。あたしも人前で歌ったことはないし」

倫子「まゆりには鼻歌を聞かれてたみたいだけどね。でも、それなら由季さんは誰から?」

鈴羽「さあ? 本人に聞いてみなよ。あたしはちょっとタイムマシンの整備があるから」

倫子「……ホントにタイムマシンの整備?」ジロッ

鈴羽「うっ!? いや、えっと、かがりのこと、よろしくね! それじゃ!」ピューッ

倫子「あっ、逃げた!」

961: 2016/06/04(土) 17:35:22.55 ID:fKB73eEWo

倫子「……ってわけで、鈴羽は由季さんから聞いたんだって」

倫子「(まゆりたちに話した内容はほとんど誤魔化した。このまゆりにはかがりさんが未来の娘だってことをまだ教えられないからね)」

まゆり「それじゃー、次は由季さんだね」

倫子「(かがりさんが、あの歌から鈴羽が自分のお姉ちゃんだってことを思い出せなかった時点で、もう歌の出処を探す意味は無い、か)」

倫子「(と言っても、今のかがりさんにとっては唯一の手掛かりなわけで。知りたがってるから付き合ってあげよう)」

まゆり「……由季さん、電話に出ないから、RINE送っておくね」

かがり「なんだか大事になってしまって……すみません」シュン

まゆり「気にしなくていいよ~! まゆしぃはかがりさんとこうしてお散歩出来て、楽しいのです」ニコニコ

倫子「(まゆりと歩いているうちに、未来でもそうしていた記憶を思い出すかもしれない)」

かがり「私もです。まゆりさんとお話してると、なんだかゆったりした気分になるんです」

まゆり「えっへへ~、うれしいなぁ♪」

かがり「岡部さんとお話してると、なんだか胸がドキドキしちゃうんです……///」

倫子「お、おう?」

963: 2016/06/04(土) 17:35:54.19 ID:fKB73eEWo

まゆり「あ、由季さんから。"実は今、橋田さんとデート中"だって~」

倫子「クリスマスデートに引き続き、随分仲が進展してるみたいだね」

まゆり「んっと……由季さん、夕方にはラボに来るみたい」

倫子「デートの邪魔しちゃ悪いからラボで待とうか」

かがり「そうですね。待ちましょう」



UPX1階オープンテラス


まゆり「……あっ! オカリン、あそこ!」

倫子「え? あ……! ダルと、由季さん! デート中のところに遭遇しちゃった!?」

かがり「ど、どうしましょう!」

倫子「興味ない。行こう」スタスタスタ

まゆり「あぅ、待ってよオカリーン」

965: 2016/06/04(土) 17:36:42.74 ID:fKB73eEWo
未来ガジェット研究所


まゆり「由季さん、トゥットゥルー♪」

由季「まゆりちゃん、トゥットゥルー♪ お邪魔しますね」

倫子「それで、ダル? オープンカフェでの食事はおいしかった?」ニコニコ

ダル「なんぞその棘のある言い方……」


・・・

由季「……ああ、その歌、よく知ってます。というか、最近覚えたので」

倫子「最近?」

由季「私、お菓子教室でバイトしてるんです。そこの生徒さんがよく歌ってて、いつの間にか覚えちゃいました」

倫子「(あれ? 由季さんってケーキ屋さんでバイトしてるんじゃ……掛け持ちか)」

倫子「その生徒の人って、私の知り合いだったりする?」

由季「うーん、それはないと思います。割とお年を召している女性なので。岡部○○さんって言うんですけど」

倫子「な……な……なあああっ!?」

まゆり「え……ええええっ!?」

由季「え、えっ!? どうしたんですか、岡部さん、まゆりちゃん!?」

倫子「……それ、私のおふくろ」

まゆり「オカリンのおかーさんだ……」

968: 2016/06/04(土) 17:37:50.26 ID:fKB73eEWo

岡部母『いつもうちの倫子がお世話になっているようで……』

由季「いえいえ! こちらこそ、ビックリしちゃいましたよー」

倫子「みんなの前でうちの親と電話するの、やめて、恥ずかしい……うぅ……」カァァ

由季「それで、お母様はその歌をどこで覚えたんですか?」

岡部母『倫子が中学生の頃よく歌っていたんですよ。それで私も覚えちゃいまして』

倫子「え?」

まゆり「……ああーっ! そ、そうだよオカリン! まゆしぃがね、元気になった頃に歌ってたよ!」

まゆり「一緒にお風呂に入った時に、オカリン、湯船で気持ちよさそうに歌ってた!」

かがり「一緒にお風呂……いいなぁ」

まゆり「それがキッカケでまゆしぃ、お歌の練習をするようになったんだった……」

倫子「……え?」

岡部母『あの頃は倫子も色々あって……そんな中、あの子があの歌を歌っているのを聞いていると、つらい現実の中に希望が見えるような気がしたんです』

倫子「(たしかにあの頃……学校社会で排斥され、唯一の友人のまゆりが失語症になり、私自身は警官に……だけど、その歌、私、歌ってたっけ?)」

969: 2016/06/04(土) 17:38:44.68 ID:fKB73eEWo

まゆり「でもでも、それじゃあ、オカリンはどこでその歌を覚えたの?」

倫子「お、覚えてない……いや、歌を歌ってたこと自体、覚えてないの」

倫子「(私が2010年7月28日まで居た方のβ世界線の過去では歌ってなかった? でも、どうして……)」

かがり「でも、そうなると手掛かりがなくなっちゃいましたね……」シュン

まゆり「……ねえ。池袋、行ってみない?」

倫子「え? どうして?」

まゆり「そしたらオカリンもあの頃のこと、思い出すかも! オカリンがその歌をどこで覚えたかも思い出すよー」

倫子「(完全なリーディングシュタイナーを持つ私は、変動後の世界線の過去の記憶を思い出すことが出来ないんだけど……)」

倫子「(まゆりやおふくろの脳を借りて過去視することもできるけど、あの荒んだ時期の私のことをそこまでして思い出す必要も無いか)」

倫子「(なんにせよ、かがりさんともう少し散歩してみるのもいいかもしれない)」

倫子「……わかった、行こう」

かがり「あ、ありがとうございますっ!」パァァ

972: 2016/06/04(土) 17:39:31.73 ID:fKB73eEWo
2010年1月16日日曜日曇り
雑司ヶ谷霊園


倫子「それにしても、まゆりは相変わらずの雨女だねぇ。今にも雨が降りそうなのに、また傘持ってきてないの?」

まゆり「えっへへ~。オカリンに買ってもらったビニール傘ね、うちにいっぱいあるんだ~♪」

倫子「捨てちゃいなよそんなの……」

まゆり「えぇ~、もったいないよ~」

倫子「(まゆりには謎の収集癖があるんだよね……雷ネット翔カードとか、うーぱグッズとか)」

かがり「雨、降って来ないといいですね」

倫子「って、かがりさんも傘持ってきてないんだ。このままだとみんなでビショビショ確定だね」シュィィン

倫子「(……あ、今、無駄に未来視をしてしまった。このままだとみんなでビショビショ確定らしい)」

倫子「(ちょっと未来のことを考えるだけで発動するのは面倒くさいなぁ、これ……まあ、世界線を改変するのも面倒だし、濡れてもいいや)」

まゆり「あのね、まゆしぃは素敵なお友達をおばあちゃんに紹介できるのが、楽しみなのです♪」

975: 2016/06/04(土) 17:40:35.25 ID:fKB73eEWo
椎名家之墓墓前


まゆり「それでね…………だからね…………えっとね…………」ニコニコ


かがり「お、岡部さん。あの……あれ、大丈夫なんですか? ずっとお墓の前で独りごとを……」

倫子「心配しなくていいよ。あれはまゆりの儀式みたいなものだから」

かがり「本当におばあちゃん子だったんですね……。お婆さんが亡くなって、自分の世界に閉じこもるようになってしまったまゆりさんを岡部さんが繋ぎとめたんですよね」

倫子「っ!? ま、まゆりから聞いたの……?」

かがり「とても素敵なお話でしたよ。狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真さん」ニコ

倫子「あ、あの頃は私も必氏で、そのっ……」モジモジ

かがり「(かわいい)」

かがり「あ、降ってきました」

倫子「えっ?」


ポツ ポツ ザァァァァ……


981: 2016/06/04(土) 17:42:17.60 ID:fKB73eEWo

まゆり「ひゃー! ずぶ濡れだよー!」タッ タッ

倫子「こんな日に白のブラウスなんか着てくるんじゃなかった!」タッ タッ

かがり「うふふ、でもなんだかお魚さんになったみたいで楽しいです――――あっ」ピタッ

まゆり「ねえ、かがりさん! まゆしぃの家で一緒にシャワー……あ、あれ?」

かがり「…………」

まゆり「かがりさん? どうしたの?」

かがり「……聞こえる。……声が、聞こえる。神様の、声が……」

倫子「神様の、声……?」


   『かがりはよく「神様の声が聞こえる」って言ってた』


倫子「まさか、幻聴!? だ、ダメだかがりさん! 落ち着いて、動かないで!」

かがり「行かなきゃ」タッ タッ

まゆり「ど、どうしちゃったのかな!?」

倫子「今かがりさんの脳内に、居もしない幻が現れてるんだ! このままだと……!」ドクン

まゆり「そっちは車道だよぉ! ダメぇっ!」

かがり「行かなきゃ――――」


プァァァァァァァン キキィィーーーーーーッ!!


倫子「危ないっ――――!!」ドクンドクン

倫子「(あ、あれ――――景色が、どんどんゆっくりに見える――――)」ドクンドクンドクン

倫子「(もしかしてこれが――――エレファントマウス――――これなら、助けられる――――)」ドクンドクンドクン

倫子「(――――!? なんだ!? 記憶が、頭に流れ込んで――――――――


2: 2016/06/04(土) 17:45:44.19 ID:z77h0KA2o

・・・

かがりの記憶
2005年6月30日
山奥にある施設の一室


ポツ ポツ ザァァァァ……


かがり「……窓の外、雨の音。水の、匂い……」


   『ママがかがりちゃんくらいの歳の頃はね、雨が降るのは楽しみだったんだ』


かがり「ママ……? ママに会いたい……」

かがり「……? これ、じゃま……頭のも、体じゅうについてるひもも……」ブチッ ブチッ

かがり「窓の外、雨、ママ……会いたい……」


   『今日のご褒美は要らないのかい?』


かがり「"教授"さんのごほうび、痛くて気持ちいいやつ……それも好きだけど、ママに会いたい……」

かがり「あの窓の外に、ママが……?」

かがり「私の体なら、窓を開ければ、通れるかな……」ヨイショ

3: 2016/06/04(土) 17:46:19.57 ID:z77h0KA2o
駐車場


かがり「わふっ!」ポフッ

かがり「あ、あれ? 窓の下、やわらかい……だんぼーる?」


ブルン!! ブロロロロロロ……


かがり「トラックの荷台……ママのところに連れて行ってくれるの?」

かがり「待っててね、ママ……今いくからね……」


ザァァァァ……


かがり「(雨が痛くないなんて、変な感じ……なんで変なんだろう?)」

4: 2016/06/04(土) 17:47:04.09 ID:z77h0KA2o
雑司ヶ谷霊園付近


ブロロロ…… キィー


かがり「トラック、止まった……? ママがここにいるの……?」

かがり「降りなきゃ……よいしょ、きゃっ」ドテッ

かがり「いたた……でも、いつものごほうびよりは痛くないなぁ」


ブルン!! ブロロロロロ……


かがり「トラック、行っちゃった……。ママ……ママ、どこに居るの?」


   『後で君を迎えに行くからね』


かがり「"教授"さんが迎えにくるまでに、ママをみつけなきゃ……」

5: 2016/06/04(土) 17:48:08.92 ID:z77h0KA2o
都電荒川線 都電雑司ヶ谷駅ホーム上ベンチ


かがり「……雨、やまないなぁ」

少女「……迷子ですか?」

かがり「(この子……とっても美人。でも、中身は私に似てる……)」

少女「……私も、小さい頃から知ってる女の子が、ずっとふさぎ込んでて、なんて言ってあげたらいいかわからなくて、自分には、何もできないのかなって」グスッ

かがり「女の子……?」

少女「椎名まゆりっていう、幼馴染なんです」

かがり「椎名……まゆり……」

かがり「(なんだろう……とっても大切なひびき……うた……?)」


   さーがーしーもの、ひとつー

   ほーしーのー、わらうこえー

   かーぜーにー、またたいてー

   てをのばーせばー、つかめるよー



少女「……素敵な歌、ですね」

かがり「(どうして私、歌を……)」

少女「……私にも、まゆりの心をつかむこと、できるでしょうか」

かがり「…………」

少女「……私は行きます。まゆりの心を取り戻しに」

少女「あなたも……きっと見つかると思います。大切な探し物」ニコ

かがり「…………」ドキッ

少女「……ありがとう」ダッ

かがり「(……天使)」

6: 2016/06/04(土) 17:48:58.11 ID:z77h0KA2o

レスキネン「捜したよ、かがり」

かがり「教授……今私、ここで天使に会ったんです」

レスキネン「ほら、行こう」スッ

かがり「この世のものとは思えない、とっても可憐な女の子で……すごく胸が、ドキドキしました……」

レスキネン「どうしたんだい?」

かがり「……きっとこの雲の隙間から、天使が降りてきてくれたんだなぁって」

レスキネン「洗脳が弱くなっている……。明日からはご褒美を増やしてあげないとね」

かがり「……私、行かなきゃ。天使が私を、ママに会わせてくれるっ」ダッ!!

レスキネン「おっと、また逃げられてしまった。まあ、すぐに戻ってくるだろう」prrr prrr

レスキネン「"私だ。例の街宣車を頼む"」


かがり「行かなきゃ……行かなきゃ!」タッ タッ


プァァァァァァァン キキィィーーーーーーッ!!


・・・


7: 2016/06/04(土) 17:50:49.11 ID:z77h0KA2o
2011年1月16日日曜日
御茶ノ水医科大学医学部付属総合病院


かがり「…………」

かがり「……生きて、る?」

まゆり「かがりさん! オカリン、かがりさん気が付いたよ!」

倫子「かがりさんっ!」

かがり「私……」

倫子「……トラックにはねられたの。っていっても、ケガはなくて、気を失ってたから救急車を呼んだんだけど」

まゆり「オカリンがね、守ってくれたんだよ。かがりさんが無事でよかったぁ……」ウルウル

まゆり「2人とも氏んじゃったのかと思って……まゆしぃは……まゆしぃはぁ……」グスッ

倫子「……私は氏なないよ。絶対に」

倫子「(2025年までは、絶対に氏なない。それがわかっていたからあの時、かがりちゃんを助けるために道路に飛び出すことができた)」

倫子「(それに、エレファントマウスで主観時間が引き延ばされた。だから的確にかがりちゃんを救うことができた)」

倫子「(どういうわけか、かがりさんの過去の一部を見ることになっちゃったけど……まさか、過去で私たちが出会っていたなんて)」

かがり「私も、ぼんやり、覚えてます……岡部さんが、飛び出してきてくれたこと……」ウルウル

かがり「ごめんなさい。私、どうかしてた。ありがとう、大好きっ」グスッ

8: 2016/06/04(土) 17:51:55.74 ID:z77h0KA2o

まゆり「よかったよぉ、かがりさぁんっ!!」ダキッ

かがり「まゆり、さん――――」ドクン

かがり「(この、匂い……やわらかさ……あたたかさ……間違いない……)」ドクンドクン

かがり「……ママ……ママだ……」プルプル

倫子「……えっ?」

かがり「……やっと、会えた!!」ギューッ!!

まゆり「ひあっ!?」

倫子「かがりさん!? もしかして、記憶が戻ったの!?」

倫子「(……5年前にも同じようにトラックに轢かれそうになったから、それがキッカケで記憶が戻ったんだ)」

かがり「ママのこと……思い出したよっ! 私、ママに会うために、未来から来たんだよっ!」ウルッ

まゆり「ええーっ!? ど、どういうことなのかな!?」オロオロ

かがり「私は椎名まゆりの娘、椎名かがりだよっ!」

まゆり「えええ!?」

9: 2016/06/04(土) 17:52:54.79 ID:z77h0KA2o

かがり「ママは、私に生きる意味を与えてくれた。私を危ない目に遭わせないために、一番安全なところへ逃がしてくれた」

かがり「ママが幼かった頃の、まだ平和だった日本でなら、安全に暮らせるだろうって」

まゆり「ほぇぇ……」

かがり「ママ……会いにきたよ……」グスッ

まゆり「かがりちゃん……」ダキッ

かがり「うぅぅぅぅっ……」ポロポロ

まゆり「独りぼっちにしてごめんね……つらかったよね、寂しかったよね……」ナデナデ

かがり「あのね、ママ……岡部さんがね、私たちを引き合わせてくれたんだよ……」

倫子「……記憶を取り戻せたのは、かがりさんの意志の力だよ」

かがり「ううん、そうじゃないの。そうじゃなくてね……」

かがり「過去にも……私たちは出会っていたんだよ……! ママを繋ぎとめてくれてたんだよ……!」

倫子「(この私じゃなく、この世界線の過去の"私"なんだけどね……でも、それも私には変わりない、か)」

倫子「(私には確かに"まゆりは昔から音痴だった"という記憶がある)」

倫子「(それが意味しているのは、β世界線の中には、かがりさんが2005年の池袋に現れない世界線もある、ってこと)」

倫子「(かがりさんがストラトフォーに捕まるのは、β世界線の収束じゃない……)」

倫子「(いや、今はそんなこと、どうでもいいか。それよりも、今は――)」

倫子「……うん、そうだった。私たちは既に知り合っていたんだ」

倫子「久しぶり、かがり」ニコ

かがり「うん……っ!」パァァ

10: 2016/06/04(土) 17:54:53.03 ID:z77h0KA2o

かがりはすべての記憶を取り戻した。

未来の記憶も、1998年から行われた、とある施設での拷問まがいの記憶操作実験も。

2005年に脱走したことも。

もちろん、ルカ子のところに保護されてからの記憶もある。

……かがりの敵は、やっぱりレイエス教授とレスキネン教授だった。

かがりの記憶からだと、2人が本当に所属している組織がどこなのかはわからなかったけど、米軍と繋がりがあるのは間違いない。

『Amadeus』が夏に凍結されているこの世界線では、かがりを誘拐しにラボを襲撃する事態は今のところ発生していない。

そもそもこの世界線ではかがりの脳内にタイムマシン論文は無いわけで、奴らとしても未来の記憶を失ったはずのかがりのことは優先度が低いのだろう。

私とダルと鈴羽と、店長さんや萌郁、フェイリスやルカ子で警戒を厳にしていれば、きっと大丈夫だ。未来予知でも、分岐点まではかがりが安全であることがわかった。

それなら今は、失った母との思い出を取り戻してほしい。

誰も時を止められはしないから。時はいつか、幸せさえ例外なく奪っていく。

だからこそ、大切にしたい。儚く脆いホログラムだとしても。

――――私は、平穏な日々を取り戻した。

11: 2016/06/04(土) 17:57:37.44 ID:z77h0KA2o

・・・

ラボは2度目の夏を迎えた。

かがりの"神様の声"は半年と経たないうちに聞こえなくなったらしい。

洗脳はある程度時間が経つと解ける、ということがわかった。記憶を取り戻せたことが大きかったのだろう。

あの歌のおかげだ。

この世界線の"私"が聞いたという、私とまゆりを繋げてくれた歌――

この世界線の"私"を、鳳凰院凶真へと導いてくれた歌――

未だ鳳凰院凶真は私の中で眠ったまま。

たまに出てくることもあるけど、今でも誰かに揺り起こしてもらうことを待っている。

まゆりなら、もうお昼だよ~なんて、どこか抜けた声で起こしてくれるんじゃないかな。

12: 2016/06/04(土) 17:59:34.75 ID:z77h0KA2o
2011年7月7日木曜日
未来ガジェット研究所


鈴羽「……ありがとう、リンリン。"すべて"を話してくれて」

鈴羽「(α世界線での出来事……あったかもしれない可能性……新しい理論……リンリンが犠牲にし続けた仲間たちの想い……)」

鈴羽「(そして、β世界線収束の抜け穴の可能性、かがり……)」

倫子「ごめんね、鈴羽……やっぱり、鳳凰院凶真は目覚めなかったよ……」グスッ

鈴羽「ううん、リンリンは悪くない。あたしが牧瀬紅莉栖を救ってくるから、安心して」

鈴羽「リンリン、幸せになってね。椎名まゆりと仲良くね」

鈴羽「かがりを、よろしく」

倫子「うん……ごめんね、ごめんね……っ」ヒグッ

鈴羽「…………」クルッ


ガチャ バタン


13: 2016/06/04(土) 18:01:18.46 ID:z77h0KA2o
ラジ館屋上


鈴羽「……ホントにいいの? 椎名まゆり」

まゆり「うん。かがりちゃんから聞いたの。未来のまゆしぃのこと」

鈴羽「あたしの知ってる椎名ま…… "まゆねえさん"は、いつもぼんやりと空を眺めてた」

鈴羽「濁った空を見上げてる笑顔は――」

鈴羽「いつも、寂しそうだったよ」

まゆり「……オカリンがまゆしぃをかばって氏んじゃうんだよね」

鈴羽「まゆねえさんは、そのことに責任を感じてるみたいだった。あの時のあたしは当然の報いだ、なんて、ひどいことを考えてたけど」

鈴羽「やっぱり、見てて痛々しかった」

鈴羽「それとさ、まゆねえさんはよくこんなことを呟いてたよ」

鈴羽「『あの日、わたしの彦星さまが復活していたら、すべては変わっていたかもしれない』」

まゆり「……"まゆしぃ"はオカリンの人質だから、オカリンの人質じゃないわたしは、"まゆしぃ"じゃなくて"わたし"なんだね」

まゆり「わたしがね、わたしを取り戻した時。オカリンがわたしを繋ぎとめてくれた時」

まゆり「雲の隙間から降ってきた星屑は、わたしの彦星さまだったの」

鈴羽「確かにリンリンは織姫さまってより彦星さまって感じだね」

まゆり「ねー」

14: 2016/06/04(土) 18:02:01.47 ID:z77h0KA2o

鈴羽「やっぱり、かがりが記憶を取り戻したから?」

まゆり「ううん、その前から。オカリンの笑顔にはね、鳳凰院凶真の笑顔が必要なんだって気付いてからは、もう決めてたんだよ」

鈴羽「決意は固いんだね。わかった、それじゃハッチを開けるよ。あたしに続いて乗り込んで」シュィィィン

まゆり「今なら、お空のお星さま、掴めるかな……」スッ

鈴羽「……星屑との握手<スターダスト・シェイクハンド>、か」


タッ タッ タッ


かがり「ママ……」ハァ ハァ

まゆり「あ、かがりちゃん。トゥットゥルー♪」

かがり「どうしたの? どうして私をここに呼んだの?」

鈴羽「……かがり!? お前、どうして――」

かがり「それはこっちの台詞だよ! 2人で何してるの!?」

鈴羽「まゆねえさん……。かがりには秘密にしておくって、約束したじゃないか」

まゆり「黙っててごめんね、スズさん。どうしてもかがりちゃんには、ちゃんとお別れを言っておきたかったの」

15: 2016/06/04(土) 18:02:53.12 ID:z77h0KA2o

かがり「なんのことか、わかんないよっ……!」

まゆり「あのね。ママはね、これからスズさんと一緒に、タイムマシンに乗るの」

まゆり「大事な人に、目を覚ましてもらうために」

かがり「……無理だよ。世界線は収束しちゃうの」

まゆり「うん、わたしじゃ変えられない。でもね、オカリンは別なの」

まゆり「オカリンには、未来を変える力がある」

まゆり「そのオカリンを――あの日のオカリンの背中を、ちょっとだけ押すぐらいなら、わたしにも出来るはずだから」

まゆり「ママはね、まゆしぃは、もう一度会いたいの。鳳凰院凶真に。わたしの彦星さまに」

16: 2016/06/04(土) 18:03:39.27 ID:z77h0KA2o

かがり「私は……? 私は、どうなるの!?」

かがり「シュタインズゲートに到達すれば、戦争が起きないかもしれない」

かがり「そうすれば、たくさんの人が救われるかもしれない」

かがり「だけど、そしたら私は、ママと会えないよ……」グスッ

まゆり「……そんなこと、ないよ。きっと会えるよ」

まゆり「本当のお父さんとお母さんがいて、幸せに暮らしてるかがりちゃんにね、近所のおねーさんとして会いに行くから」

まゆり「だから、かがりちゃんは、なんにも心配しなくていいんだよ」

かがり「私のことを覚えていないのに、どうやって会いに来てくれるの!?」

まゆり「ママには、きっとかがりちゃんがわかるよ。だってね、それが運命だもん」

まゆり「ママとかがりちゃんの絆は、どんなことにも負けたりしないんだよ」

かがり「ママ……」

まゆり「そろそろ行くね」ニコ

17: 2016/06/04(土) 18:04:25.92 ID:z77h0KA2o

タッ タッ タッ ガチャッ!

倫子「はぁっ、はぁっ……かがり、どこに居るかと思ったらこんなところに……」ハァ ハァ

まゆり「オカリン!?」

かがり「オカリンさん……」

倫子「あ、あれ……なんで、まゆりが……? ま、まさか……お前……」プルプル

かがり「待って! 私が行く! ママは、この平和な時代で、オカリンさんと暮らすべきだよっ!」タッ

まゆり「あっ、かがりちゃん!」


タッ タッ タッ……


鈴羽「かがり、お前正気か――!?」

かがり「ママ! 岡部さんは私がなんとかしてみせる!」

かがり「だから、そこで待ってて!」


まゆり「かがりちゃん!」

倫子「かがりっ!」


かがり「鈴羽おねーちゃん。ハッチを閉めて」

鈴羽「……わかった」


シュィィィィン……


かがり「ママ! 私、ママのことずっと愛してる!」ポロポロ

かがり「過去も、今も、未来でもっ!」ポロポロ

18: 2016/06/04(土) 18:05:44.63 ID:z77h0KA2o
タイムマシン内


鈴羽「……まさか、もう一度お前と乗ることになるとは思わなかった」フフッ

かがり「……一番最初に戻っただけだよ」グシグシ

鈴羽「行くよ、かがり。場所はまゆねえさんの言った通り、2010年8月21日の、奇跡の1分間……」

鈴羽「あの1分間は、β世界線で唯一、リンリンが存在していない時空間。つまり、神の目が観測していないデッドスポット」

鈴羽「収束を無視して、タイムマシンで過去を改変できる、唯一の場所なんだ」

鈴羽「それ以外の時間に現れちゃうと、タイムパラドックスが起こって、世界線にとんでもない影響を与えてしまう」

鈴羽「もちろん、2010年7月28日には行ける。この場合、収束を利用して過去を改変できることになる」

鈴羽「だけど、そこにもう一度行くべきはリンリンだってまゆねえさんが言ってた」

かがり「……ううん、7月28日に行こう。11時49分頃。到着と同時に私たちは降りて、マシンだけどこかへ跳ばす」

鈴羽「えっ?」

かがり「……正直に言うと、私の言葉が岡部さんに響くとは思えない。ママにも、未来の娘だって言っても、すぐ信じて貰えると思えない」

かがり「だから、7月28日。私たちの到着の1分後に現れるはずの、1回目の岡部さんたちのサポートをしてあげればいいんだよ」

かがり「それがこの『椎名かがり』だからこそできる、唯一の方法だと思うから」

鈴羽「……確かに、筋は通ってる。元々、あたしもそこへ行くつもりだったしね」ピッ ピッ

鈴羽「――準備できた。行くよ」

かがり「うんっ」

19: 2016/06/04(土) 18:06:37.45 ID:z77h0KA2o
ラジ館屋上


まゆり「かがりちゃん!」

倫子「かがりっ!」


バチバチバチバチッ!!  キラキラキラ……


倫子「放電現象……燐光……それに、オゾンの臭い……っ!」

倫子「(ホントに、過去へ行ってしまうの、かがり……)」

倫子「ごめんね……ごめんね……」ウルッ

倫子「私のせいで……私が……」グスッ

まゆり「……自分を責めないで、オカリン」ダキッ

まゆり「こっちのオカリンはね、もう十分頑張ったと思うな。あとは、過去のオカリンに任せようよ」

まゆり「きっと、かがりちゃんが幸せをプレゼントしてくれたんだよ。だから、オカリン、一緒に笑わなきゃ」

倫子「ごめんね……ごめん……」ヒグッ


まゆり「……まだまだ、まゆしぃはオカリンの人質を卒業できそうにないね。えへへ」ウルッ


キィィィィィィィィィン!!


倫子「(ああ、本当にタイムマシンが行ってしまう。過去を改変して、世界が変わってしま――――――――

20: 2016/06/04(土) 18:08:12.77 ID:z77h0KA2o

―――――――――――――――――――
    1.06476  →  1.06475
―――――――――――――――――――

21: 2016/06/04(土) 18:11:41.52 ID:z77h0KA2o
????


倫子「……リーディングシュタイナー。この独特のめまいは、間違いない」

倫子「もう慣れてきちゃったのかな。あんまり痛みは感じなかったけど」

??「それはそうよ。だって、ほとんど世界線変動率は変化してないはずだから」

倫子「……まぼろし?」

??「何を言ってる。これは紛れもなくあんたの網膜を通りあんたの脳が見せてる実体だ」

倫子「……ふふっ。なんだか、こうしてまた会うことにも慣れてきちゃった」

??「慣れってのは記憶の作用なの。『現在の環境にストレスや緊張を感じる必要はない』ってのを脳が記憶することによって発生する」

倫子「やっぱり本物なんだね」ダキッ

??「ちょ!? あ、あんたにとっての本物の定義がなんなのか不明だけど――」

倫子「うるさいっ」チュッ

??「ん……んんんんーーーーっ!?!?」ジタバタ

倫子「……前、α世界線に行った時は、パニックになって何もできなかったから」エヘ

??「こ、この私に百合属性はないと言っとろーが!」

倫子「……ただいま、紅莉栖」

紅莉栖「……おかえり、岡部」

22: 2016/06/04(土) 22:13:23.46 ID:z77h0KA2o
地下鉄旧万世橋駅倉庫


倫子「ここ、どこ? すごく狭くて暗いけど」

紅莉栖「廃線になった地下鉄の駅の事務所の倉庫よ」

紅莉栖「東京地下鉄道の旧・万世橋駅。昭和5年1月に開業し、翌6年11月に廃止された幻の駅」

紅莉栖「外に出るには一旦下水道に出てマンホールを上がればいい。ラオックスの裏に出るわ」

倫子「状況を説明してほしいんだけど……」

鈴羽「それについてはあたしから」

倫子「鈴羽……? もしかして、私がさっき見送った鈴羽?」

鈴羽「アタリ。リンリンにとっては1分ぶりだろうけど、あたしにとっては1年ぶりってところ」

倫子「えっ……ってことは、ここはシュタインズゲート!? かがりは過去改変に成功したの!?」ドキッ

紅莉栖「そんなわけない。ほとんど変わってないって言ったじゃない」

倫子「で、でも、どうして紅莉栖が……? ここは、またα世界線なの……?」

23: 2016/06/04(土) 22:18:42.09 ID:z77h0KA2o

紅莉栖「実を言うと、あんたとはほとんど初めましてなのよ、私」

紅莉栖「正確に言えば1年ぶりだけど、あの時は突然あんたが"報告"を始めたからほとんど会話できなかったし」

倫子「"報告"……あ、ああ。機関への報告、っていうか、私の独り言、か」

紅莉栖「……まあ、日本に来て初めて興味を持った人と、こうして再会できたのはうれしい」

鈴羽「"リンリン"はあたしが今日初めてここに連れてきた。前の世界線であたしとかがりが跳び立ったタイミングに合わせてね」

倫子「え……?」

紅莉栖「でも大丈夫。あんたのことは阿万音さんから聞いてる」

紅莉栖「……あんたが、私なんかのために命がけでがんばってくれてたんだと思うと……不思議な気持ちよ……」

紅莉栖「全く知らない人のはずなのに、嬉しくて、申し訳なくて……こんなの、非科学的なんだけど……」

倫子「紅莉栖……」

鈴羽「順を追って説明するよ。一足飛びに話しても混乱するだけだろうし」

倫子「……お願い、鈴羽」


・・・

24: 2016/06/04(土) 22:20:28.28 ID:z77h0KA2o
世界線変動率【1.06475】
2010年7月28日11時49分
ラジ館屋上


キィィィィィィィィィン!!


鈴羽「……あたしたちが乗ってきたタイムマシンは事象の地平面<イベントホライゾン>に跳ばした。たぶん、7000万年前くらいのアキバに墜落するんじゃないかな」

鈴羽「1分もしないうちに、2回目の振動がこのビルを襲う。体感的には、1回の振動に感じるはずで、事象としては過去を変えずに済む」

かがり「さ、岡部さんたちが来る前に行こう、鈴羽おねーちゃん!」

鈴羽「待って。まずは屋上に身を隠そう。"1回目のあたし"がドアを壊した後に内部に侵入するよ」

鈴羽「"1回目のあたし"の行動は覚えてる。その隙をつけば」

かがり「わかった……!」


キィィィィィィィィィン!!

バチバチバチッ!! キラキラキラ……


鈴羽「きた……! 1回目の、あたしとリンリンが……!」


25: 2016/06/04(土) 22:21:02.19 ID:z77h0KA2o

"鈴羽(1回目)"「……っ!? マズい! 誰か来る!」

"倫子(1回目)"「マズいもなにも、"オレ"が地震の元を調べようと階段を駆け上がっているのだ」

"鈴羽"「リンリンは隠れて! あたしがなんとかする!」

"倫子"「なんとかって……ああ、そうだった。あの時なんとかしたんだ、"お前"は」

"倫子"「なら大丈夫だ。オレはこのまま進んで、複雑な構造になっているラジ館の階段で"オレ"をやり過ごす」

"鈴羽"「わかった! 行って!」


タッ タッ タッ


鈴羽(2回目)「……まだ動いちゃだめだよ、かがり」

かがり「うん……」

26: 2016/06/04(土) 22:22:47.99 ID:z77h0KA2o

倫子(0回目)「……?」キィッ

キラキラキラ…

倫子「なんだこの燐光は……チャフか? 爆発か?」

倫子「いや、それよりも―――」

倫子「アレは、なんだ?」

"鈴羽(1回目)"「近寄らないでくださーい」

"鈴羽(1回目)"「記者会見は予定通り始めますので、もうしばらくお待ちくださーい」

倫子「人工衛星? いや、もしかして、中鉢の用意したタイムマシンの模型か何かか?」

倫子「いや、違う。これは陰謀の匂いがするな……それはカモフラージュで、きっと何かを隠蔽したいに違いない」

"鈴羽(1回目)"「下がってくださーい、お願いしまーす!」

倫子「あぅ、すいません」ビクッ

まゆり「はぁっ、やっと追いついた……ねえオカリン、まゆしぃね、うーぱのガチャポン見つけたから一緒に見にいこうよー」

倫子「え? あ、ああ。心配かけてすまなかったな、まゆり」

キィィ バタン

"鈴羽(1回目)"「……よし、追い払った。あと何人くらい屋上を調べに来るかな……」


かがり「ママ……っ」

鈴羽(2回目)「あの"あたし"はあと8分ここで待機して、屋上を訪ねてくる人を追い払うんだ」

鈴羽(2回目)「その後"あたし"は内部へ侵入して、未来から来た方のリンリンに過去の人が接触しないよう誘導するから、その隙に」

かがり「12時になったら私たちも中へ入るんだね?」

鈴羽(2回目)「そういうこと」

27: 2016/06/04(土) 22:30:37.89 ID:z77h0KA2o

鈴羽「でもかがり。本当にいいんだな?」

かがり「タイムトラベル中に説明したでしょ。この作戦なら牧瀬紅莉栖さんを救えるって」

かがり「牧瀬紅莉栖さんを救えれば、きっと岡部さんは、もう一度、時を始めることができる」

かがり「あの岡部さんは、きっと私のよく知ってるオカリンさんと繋がるはずだから」

鈴羽「確かに理に適ってる。けど――」

かがり「私にはオカリンさんほどのリーディングシュタイナーはない」

かがり「だけどね。オカリンさんが話してくれた、牧瀬紅莉栖さんの記憶があった時の私のことがね」

かがり「今の私には、ほんの少しのデジャヴとして視えてる」

かがり「オカリンさんに説明してもらうまでは、神様の声の残滓かなにかだと思ってたけど」

かがり「(教授たちはリーディングシュタイナー、というか、新型脳炎の研究もやってたみたい)」

かがり「(そのせいなのかはわからないけど、なんとなく、牧瀬紅莉栖さんの考え方を覚えてる気がする)」

鈴羽「……牧瀬紅莉栖だった時の記憶が、確信させてるんだな?」

かがり「うん。だからね、鈴羽おねーちゃん。大丈夫だよ」

鈴羽「で、でも、かがりがっ……」

かがり「シュタインズゲートを観測すれば、私もおねーちゃんも再構成される」

かがり「ここでの別れは、最後の別れじゃないって。ママが教えてくれたから」

鈴羽「……オーキードーキー」

28: 2016/06/04(土) 22:31:36.78 ID:z77h0KA2o
ラジ館7階踊り場


倫子「オレだ。"機関"のエージェントに捕まった……ああ、牧瀬紅莉栖だ、あの女には気を付けろ……」

紅莉栖「……」ヒョイ

倫子「あ、何をする! オレのケータイを返せぇ!」ジタバタ

紅莉栖「……って、電源入ってないじゃない」

倫子「小癪な真似を! 卑怯だぞぉ!」ジタバタ

紅莉栖「……こっちだぞー」プラプラ

倫子「か、返せよぉ……」ウルッ



鈴羽「(かわいい)」

かがり「(かわいい)」

29: 2016/06/04(土) 22:34:45.47 ID:z77h0KA2o

倫子「フン! 天才脳科学者よ、次会う時は敵同士だなっ!」プルプル

倫子「さらばだっ、ふぅーはははぁ!」ダッ

まゆり「あ、待ってオカリン」

紅莉栖「嫌われちゃったかな……」



鈴羽「それじゃ、かがりの作戦通りに行こう」タッ

かがり「うんっ」タッ



鈴羽「牧瀬紅莉栖だな」

紅莉栖「うわぁっ!? えっと、どちら様?」

かがり「――ママ?」

紅莉栖「マ、ママ? 私が? あなたの?」キョトン

かがり「(あれ? 何を言ってるんだろう私、ママはまゆりママ1人だけなのに……)」

鈴羽「悪いけど、キミを気絶させてもらうよ」シュバッ

紅莉栖「ぐはっ、恐ろしく早い手刀―――――」バタッ

30: 2016/06/04(土) 22:37:18.39 ID:z77h0KA2o
7階従業員通路奥給湯室


かがり「……どう、かな?」

鈴羽「うん。この暗がりじゃ、牧瀬紅莉栖にしか見えない。明るいところに出ないように気を付けて」

鈴羽「牧瀬紅莉栖が父親と7年間会ってなくて良かった。それまで電話もしてないらしいから、声が変わってても、見た目が変わっててもわからないはずだ」

かがり「ちょっと胸がキツいけど……」ムニムニ

紅莉栖(下着姿)「…………」

鈴羽「問題はタイムトラベル1回目のリンリンを騙すことだけど、状況が状況だろうし、冷静な判断はできないと思う」

鈴羽「あたしは牧瀬紅莉栖が目を覚まさないよう見張っておく。その後、例の秘密のスペース、地下鉄旧万世橋駅に連行する」

かがり「ここは2010年だから、まだあそこは片付いてないね。また掃除しなきゃだね」

鈴羽「2011年に見つけておいてよかったよ。都合のいい隠れ家を」

鈴羽「台詞は覚えてる?」

かがり「バッチリ。オカリンさんから聞けてよかった」

鈴羽「リンリンはひたすら謝りながら話してくれたよ……」

かがり「オカリンさんの想いを無駄にしたくない。だから、台詞は間違えない」

かがり「いざって時は牧瀬紅莉栖さんの記憶、デジャヴを思い出してみる」

鈴羽「これ、中鉢論文。ここでこれを破り捨てることができないのが悔しいけど……頼んだぞ、かがり」スッ

かがり「うん。それじゃ、行ってくる」タッ



かがり「――バイバイ、おねーちゃん」

31: 2016/06/04(土) 22:38:11.11 ID:z77h0KA2o
2010年7月28日水曜日12時26分
ラジ館8階 従業員通路奥 倉庫


スタ スタ スタ ピタ


かがり「…………」ニコ


コツ コツ コツ …


中鉢「こんなところに呼び出して、なんのようだ」

かがり「あのね、パパ。読んでもらいたいものがあるの――」


・・・(中略)・・・


中鉢「ふむ、悪くない内容だ」ペラッ ペラッ

かがり「本当っ!? ホントに本当!? どこかに読み飛ばしとか、読み間違いがあったりしない!?」パァァ

中鉢「っ、面倒臭い娘だ……紅莉栖は昔からそうだった……」ボソッ


・・・(中略)・・・


かがり「――まさかパパ、盗むの?」

中鉢「なんだとっ!?」バチンッ!!

かがり「きゃぁっ!!」バタンッ

かがり「はぁっ、はぁっ……」

32: 2016/06/04(土) 22:38:46.01 ID:z77h0KA2o

・・・(中略)・・・


中鉢「私を、バカにするなぁ!」ダッ

倫子「う、うわああああああああっ!!!!!」ダッ

中鉢「な―――」


ドンッ!!

ズテーン  カラカラカラ…


中鉢「き、貴様はあの時の! ……そうか、紅莉栖と示し合わせて、私の会見を台無しにしたのだなッ!?」ギロリ

倫子「……っ!」ブルブル

中鉢「私をバカにした者は、1人残らず頃してやる……ッ!」ハァ ハァ

中鉢「今の私にはタイムマシンがある、完全犯罪などし放題だっ! ハ、ハハ、ハーハッハッハァッ!!」

倫子「たすけ、て……くり、す……っ!」ポロポロ

かがり「―――岡部っ!!」

33: 2016/06/04(土) 22:39:43.04 ID:z77h0KA2o

かがり「やめて、パパ!」ガシッ

中鉢「邪魔をするなぁ!」グヌヌ

かがり「あんただけでも、逃げてっ! 岡部さんっ! 岡部ぇっ!」

倫子「――っ!」ポロポロ

かがり「早くっ! これ以上、パパを抑えられないっ!」グッ

中鉢「頃してやるッ! お前達2人とも、頃してやるッ!」グッ



倫子「……脚が、動かないっ」ポロポロ



中鉢「どけェッ!! 私の邪魔をするなァッ!!」ブンッ

かがり「きゃぁ―――――」


グサリ


倫子「――――――え?」

34: 2016/06/04(土) 22:40:51.54 ID:z77h0KA2o

中鉢「……ふはは、バカどもにはふさわしい末路だ」

中鉢「この論文は頂いていく。ヒヒ、ハハハ」タッ タッ タッ


かがり「……っ!」ゴフッ

倫子「なん……で……」

かがり「あなた……を……まもれな……かはっ……」ハァ ハァ

倫子「どう……して……」

かがり「父親を……人頃しには、できない……」

かがり「それに……たすけてって、言ってくれた……から……」

かがり「見ず知らずの……あなただけど……まもりたいって……思った、から……」

かがり「友達になりたかった……から……好かれたかった……から……」

かがり「バカだね、私……迷惑、かけちゃって……」

倫子「あ……あ、あ……」

かがり「ねえ……わ……たし、氏ぬの……かな……」

かがり「……氏にたく……ないよ……」

かがり「こんな……終わり……イヤ……」

かがり「……ごめんね……おかりん、さん……」

かがり「……がんばれ……りん……こた……ん……」

かがり「…………」





倫子「きゃあああああああああああああああああ――――――――――――!」



35: 2016/06/04(土) 22:41:58.38 ID:z77h0KA2o
一方その頃
地下鉄万世橋駅倉庫


紅莉栖「(……ん、ここは……?)」パチクリ

紅莉栖「(って、えっ!? 手足が椅子に拘束されて、猿ぐつわを咬まされてるせいでしゃべれない!?)」モゴモゴ

紅莉栖「(それに私、服着てないじゃない! 下着姿で暗室に拉致とか……もしかしなくてもこれって……)」ガクガク

鈴羽「目が覚めたようだね、牧瀬紅莉栖」

紅莉栖「(だ、だれ……? 女……?)」ビクビク

鈴羽「あたしは阿万音鈴羽。安心して。誘拐でも、とって食おうってわけでもない」

鈴羽「あたしは2036年の未来から君を救うために来た――」

鈴羽「――タイムトラベラーだよ」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「…………」

紅莉栖「ん゛ん゛ん゛ーーーーっ!!!!! ん゛ん゛ん゛ーーーーっ!!!!!」ジタバタ

鈴羽「ちょっ」

36: 2016/06/04(土) 22:46:41.13 ID:z77h0KA2o

鈴羽「動くな。あまり暴れて、無駄にカ口リーを消費されても困る」ガチャッ

紅莉栖「(ピストル……日本で持ち歩いてるとか、やっぱりこの人ヤバい……ッ!)」ガクガク

鈴羽「ってゆーか、どうして信じてくれないの? タイムマシン理論を完成させたのはキミじゃないか」

紅莉栖「(えっ……? ってことは、SF展開でありがちな、タイムマシン作った瞬間未来から自分が飛んでくる、的な? あるあ、ねーよ!)」

鈴羽「キミの書き上げたタイムマシン理論が第3次世界大戦のキッカケとなった。未来では人口は10億人にまで減ってる」

紅莉栖「(は……?)」

鈴羽「そして、この未来を変えられる人間は、世界でただひとり。岡部倫子……鳳凰院凶真だけ」

紅莉栖「(あ、あの白衣の子……?)」

鈴羽「岡部倫子は、リンリンは2011年7月7日に、今あたしたちが居る世界線へと移動してくるはずなんだ」

鈴羽「その時までキミを生存させておくのがあたしの使命」

紅莉栖「("世界線"? もしかしてこの人も、パパと同じでジョン・タイター信者なのかしら)」

37: 2016/06/04(土) 22:47:48.68 ID:z77h0KA2o

鈴羽「だけど、キミに確定した事象を変えられてしまうと計画に支障をきたすからね。今日から約1年、そのままじっとしててもらうよ」

紅莉栖「(このまま……1年!? う、嘘でしょ!?)」ガタッ

鈴羽「あるいは、大人しくあたしの命令を聞いてくれるっていうなら、ある程度の自由は認めてあげる」スッ

紅莉栖「かはっ……はぁ、はぁっ……。まずは、あんたの知ってる理論を全て話してみなさい」

紅莉栖「少しでも破綻してたら、あんたをただのサイコだと診断するから」ギロッ

鈴羽「理論の部分は、だいたい2000年に書き込んじゃったけどね。知らない? ジョン・タイターっていう名前」

紅莉栖「し、知ってるに決まってるでしょ。あの頃、パパと私とで、世界線理論について徹底的に議論し合ったわよ」

紅莉栖「パパに希望を与えたジョン・タイターが居たからこそ、私はタイムマシンに肯定的になれたわけで……」

鈴羽「あれ、あたし」

紅莉栖「え……?」

鈴羽「あたしの言葉は妄想なんかじゃないよ。今から話すことは、すべて真実だ――――」

38: 2016/06/04(土) 22:50:38.85 ID:z77h0KA2o
・・・
世界線変動率【1.06475】
2011年7月7日木曜日
地下鉄旧万世橋駅倉庫


鈴羽「――――と、これがこの世界線での過去」

倫子「……かがり……ごめんね……」グスッ

鈴羽「かがりは運命を変える戦士になったんだ。誇らしいことだよ」

紅莉栖「そのかがりさんって人が……私の身代わりとして、なんて、すごく複雑な気分……」

倫子「で、でも、司法解剖でもされれば、紅莉栖じゃないってバレるんじゃないの?」

鈴羽「牧瀬紅莉栖殺害事件はなんらかの圧力によってもみ消されてる。忘れたの?」

倫子「あ、そっか……」

紅莉栖「ママや真帆先輩には訃報だけが届いてる。遺体の確認はさせてない」

紅莉栖「つまり、"牧瀬紅莉栖"は社会的に氏んでることになってるってわけ」

倫子「氏んでることに……っ!?」

倫子「そ、そうだよっ!? どうしてβ世界線なのに紅莉栖が生きてるの!?」

倫子「紅莉栖が生きてるなら、すべて問題無いっ!!」

紅莉栖「……今日、あんたをここに呼んだのは他でもない。私の願いを聞いてもらうためよ。七夕だしね」

倫子「紅莉栖の、願い……?」

紅莉栖「お願い、岡部――――」




紅莉栖「私を頃して」

39: 2016/06/04(土) 22:52:07.72 ID:z77h0KA2o

倫子「な、なな、何を言って――」

紅莉栖「私の書いた論文のせいで、私のパパのせいで、世界中の人が不幸になるなんて耐えられない」

紅莉栖「それに、ここはあんたにとっても椎名まゆりさんにとっても幸せな世界線とは言えない」

紅莉栖「だから、第3次世界大戦もディストピアの専制支配も発生しない世界線、シュタインズゲートを目指してほしい」

倫子「……やっぱり、紅莉栖はそう言うんだね。まるで自分の命を数式で計算してるみたいな言い方」

紅莉栖「α世界線の私が何をどう言ったかは阿万音さんからの伝聞でしかわからないけど、最大幸福を考えたらそういう結果になった」

倫子「よく鈴羽の言うことを信じたね」

紅莉栖「仮説としてはね。今日の今日までずっと客観的データが欲しいと思ってた」

紅莉栖「でもま、あなたのリーディングシュタイナーをこの目で観測しちゃったから。さっき信じることにした」

紅莉栖「……私たち、その、身体の関係まで、持ったのよね?」モジッ

倫子「そ、それは……っ」

紅莉栖「……覚えてなくてごめんね。ううん、思い出せなくて、か」

倫子「……あなたはあなただよ。他の誰でもない、牧瀬紅莉栖」

倫子「私はリーディングシュタイナーを持ってる。すべての世界線の記憶を覚えてる」

倫子「そんな私だからこそわかるの。どの世界線の、どの時間、どの場所に居ても、あなたは私の大好きな紅莉栖だった」

倫子「記憶なんか無くても、意志は継続してる。紅莉栖の意志も、絶対」

紅莉栖「……うん」

40: 2016/06/04(土) 22:52:59.35 ID:z77h0KA2o

倫子「私ね、β世界線の紅莉栖にどうしても伝えたいことがあったの」ギュッ

紅莉栖「ふぇっ!? ちょ、手……///」

倫子「あなたは、望まれない存在なんかじゃない。世界に不要な存在なんかじゃない」

倫子「少なくとも、この私が望んでる……現実はそうならなかったけど」

紅莉栖「うん……それも阿万音さんから色々聞いた。青森に行った時の話を聞いて、正直今でも信じられない」

倫子「そっか……」ダキッ

紅莉栖「(温かい……私たち、生きてるんだね……)」ギュッ

紅莉栖「……あんたが私を愛してくれてるのも、よくわかってるつもり。今日、会いに来てくれてありがとう」ウルッ

紅莉栖「一度私を頃して、それからシュタインズゲートで蘇らせてほしい」グスッ

倫子「うん……うん……」ウルッ



鈴羽「感動の再会は後にしてくれないかな?」ジロッ

倫子「(……もしかして鈴羽、α世界線での記憶を思い出してる?)」ゾクッ

41: 2016/06/04(土) 22:54:24.21 ID:z77h0KA2o

紅莉栖「私は1年間、色んな仮説を立てつづけた」

紅莉栖「β世界線の収束から脱出し、シュタインズゲートへと到達するためにはどうしたらいいのか」

紅莉栖「その結果、私が2010年7月28日に氏亡している世界線へと、もう何度か行ってもらわないといけないことが結論として出た」

倫子「どういうこと……?」

紅莉栖「それを説明する前に、まずは世界線について話をさせてほしい」

紅莉栖「どうして私がβ世界線の2011年に存命しているのか。世界線の収束とはなんなのか」

紅莉栖「さ、講義を始めるわよ。阿万音さんにホワイトボードを用意してもらった」

鈴羽「最初はあたしのことを犯罪者扱いしてたのに、3日後にはこの通り雑用扱いだったよ」ヨイショ

倫子「……また紅莉栖の理論が聞けるんだね。嬉しい」エヘヘ

42: 2016/06/04(土) 22:55:38.48 ID:z77h0KA2o
       ,, ,, 
その1ヽ(*゚д゚)ノ【世界線にとって"氏"とは何か】


紅莉栖「まず、β世界線において私が生存している理由を話す」

紅莉栖「わかりやすく言えば、"牧瀬紅莉栖が氏ぬ"は、β世界線の収束、つまり、全β世界線において確定している事象ではないの」

倫子「そう、なの?」

紅莉栖「ねえ、岡部」

紅莉栖「"氏"って、何?」

倫子「え……?」

紅莉栖「心肺停止のこと? でもそれなら、心肺は機能してるのに、脳すべての機能が不可逆的に回復不可能な段階まで低下した状態はなんなの?」

倫子「それは、脳氏……。たしか、国によって"脳氏"の定義は異なる……あっ」

紅莉栖「そう。"氏"っていうのは所詮、人間の尺度に過ぎない」

紅莉栖「何をもって氏とするか、なんて、人間の勝手な都合なのよ。だから、国や社会集団、宗教や信仰によって見解が異なっている」

紅莉栖「この宇宙、世界線にとって大事な物理的現象は、人間が氏ぬことじゃないってこと」

倫子「なら、世界線にとって大事なことって、一体なんなの……?」

紅莉栖「因果律よ」

倫子「因果律……」

43: 2016/06/04(土) 22:57:09.00 ID:z77h0KA2o
       ,, ,, 
その2ヽ(*゚д゚)ノ【世界線と因果律の関係】


紅莉栖「ある物事が起きる結果には、必ずそれを引き起こす原因が存在する」

紅莉栖「通常、氏という結果の原因には、そこに至る直接的な事象、例えば病気や事故なんかが考えられるけど、それは原因とは断言できない」

倫子「本当の原因は、違う?」

紅莉栖「だからこそ、α世界線ではラウンダーが関わらなくてもまゆりさんは氏んでしまった」

紅莉栖「原因は、事件の引き金と言える事柄のはず……当然それは、あんたがα世界線を観測したこと」

倫子「最初のDメール……ってことは逆に言えば、紅莉栖が氏ぬのは、私がβ世界線を観測したから?」

紅莉栖「でも今私は生きている。まあ、社会的には氏んでるわけだけど」

紅莉栖「これについて詳しく説明するために、まず世界線と因果律の関係について考えてみましょうか」

倫子「出た、科学番組風ナレーション」フフッ

鈴羽「この喋り方、なんとかならないの?」

倫子「これがいいんだよ、鈴羽」

44: 2016/06/04(土) 22:58:15.36 ID:z77h0KA2o

紅莉栖「世界線には、時間順序保護仮説が言うように、因果律を成立させる働きがある」

紅莉栖「世界線の確定した事象としては、基本的にタイムトラベルは存在しない。質量保存則やエネルギー保存則が崩壊しちゃうから」

紅莉栖「タイムマシンを使うと、大なり小なり必ず世界線が変わるのはそのため」

紅莉栖「例えばDメールを1週間前に送ろうと思った時、世界線の確定した事象として『1週間前にDメールを送らない』が存在してる」

紅莉栖「その世界線の先にある未来は、あんたが『1週間前にDメールを送らない』を選択した未来になってる」

紅莉栖「だけど、あんたはそれを無視して確定した事象を改変、つまり『1週間前にDメールを送る』を選択したとする」

紅莉栖「『1週間前にDメールを送る』が確定した瞬間、1週間前にDメールが届くわけだけど、それは確定事項から外れた因果を作ることになる」

紅莉栖「確定事項から外れたことで世界線は変わり、『1週間前にDメールが届く』という事象を因果の起点として、因果律に矛盾が無いように世界線が再構成される」

紅莉栖「つまり、再構成された世界線は、1週間前にDメールが届いたことで変化した世界。そこでは新しい因果律が成立している、というわけ」

倫子「で、でも、再構成後の世界線には未来から来たメールが、受信履歴として存在しているはず……元の世界線は消滅するのに、その証拠は残る……」

紅莉栖「そうね。確かにアクティブ世界線1本だけを決定論的に見ると、そのメールはどこから来たの? という話になる」

紅莉栖「そもそも、α世界線でもβ世界線でも、2036年に阿万音さんが過去へ跳ぶことが確定している。というより、2036年に阿万音さんが過去へ跳ぶ世界線をα世界線とかβ世界線と定義してるわけね」

紅莉栖「だから、よりマクロな視点で世界線の束を見る必要がある。これがアトラクタフィールド理論の基礎」

45: 2016/06/04(土) 23:00:45.28 ID:z77h0KA2o

紅莉栖「そこで、ゲーデルのCTC、closed timelike curve<時間的閉曲線>、という考え方が出てくる。アインシュタイン方程式の厳密解の1つよ」

倫子「(なんかすごいカッコイイ……)」

紅莉栖「時空が自転している場合、未来と過去は因果律的に繋がっている……過去と未来という概念は局所的にしか存在しなくなる、というもの」

紅莉栖「つまり、ある世界線の未来を原因として、別の世界線の過去に結果が生じても問題は無い、ということ。多世界解釈的な考え方だけど、これがアトラクタフィールド理論の特徴ね」

鈴羽「ある世界線の未来が、別の世界線の過去に繋がっているってことだね。その連鎖の中で、類似した世界線の束のことをアトラクタフィールドと呼ぶんだ」

倫子「エヴェレット解釈とコペンハーゲン解釈のいいとこどりだから、そういう考え方になるのか……」

紅莉栖「α世界線はね、2036年がディストピアである、という因を起点として過去が発生している。円環に閉じた因果が大局的に成立しているのよ」

紅莉栖「同様にβ世界線も、2036年が大戦後の焼け野原である、という因を起点として過去が発生している」

倫子「未来が、過去を作ってる……?」

46: 2016/06/04(土) 23:01:59.96 ID:z77h0KA2o

紅莉栖「それを可能にしているのはやっぱり、2036年から跳ぶ阿万音さんであり、それを支えた橋田や由季さん、そしてあんたの存在が不可欠」

紅莉栖「可能性世界線が無限に存在していることで、可能性世界線間をまたぐ因果の環が発生していると想定できる。ちなみに、因果の始点は無限遠点という理論上の存在にすぎない」

鈴羽「円周曲線の始点は、存在するけど存在しない、ってことだね」

紅莉栖「あんたが観測できる範疇で考えるなら、アトラクタフィールド内のタイムトラベルに起因する因果は無限ループし続けているように感じるはず」

紅莉栖「それは、世界線1本の中の因果律においては、いわゆるタイムパラドックスと呼ばれるような存在」

紅莉栖「α世界線でのラボメンバッジや、β世界線での『星の奏でる歌』のようにね」

倫子「ああ、なるほど……メビウスの輪とか、無限階段のだまし絵、みたいな感じかな……」

紅莉栖「次に、確定した事象とは何か、収束とは何かについて、答えられる?」

倫子「……世界線は過去から未来まで確定している、いわば決定論の世界。そこで発生する事象が、収束?」

紅莉栖「でも、決定論の世界なら、岡部はどうして確定した事象を改変できたの? 最初に送ったDメールの時なんか特に」

倫子「そ、それは……」

47: 2016/06/04(土) 23:33:47.50 ID:z77h0KA2o
       ,, ,, 
その3ヽ(*゚д゚)ノ【収束と"確定した事象"の改変について】


紅莉栖「収束、波動関数の収縮ってのは、そういうことじゃない」

紅莉栖「可能性世界線は、アクティブ世界線に重ね合わせの状態で存在している」

紅莉栖「電子レベルのミクロスケールだけじゃなく、世界線というマクロスケールにおいても、事象を観測するまで、自分がどの世界線に所属しているのか判断できない」

倫子「分岐点ごとに選択肢が用意されているギャルゲーのようなもの……?」

紅莉栖「ある意味ではそうね。選択肢1、2、3……が用意されてて、その選択は不確定の状態になっている」

紅莉栖「観測者が居る世界線が、選択肢1の世界線なのか、選択肢2の世界線なのかは、事象を観測するまで不確定である、ってこと」

倫子「不確定……」

紅莉栖「だけど、世界線は過去から未来までが確定している。だったら、世界線がアクティブ化していれば、いずれかの選択肢が確定しているはずなのよ」

倫子「むむむ……?」

48: 2016/06/04(土) 23:34:54.57 ID:z77h0KA2o

倫子「じゃあ、選択肢1が確定している世界線に居る人間は、どうやっても選択肢2、3を選べないってこと?」

紅莉栖「話のミソは、『いずれかの選択肢が確定しているはずだ』というだけで、『どの選択肢が選ばれているか』は問題ではない、ということ」

紅莉栖「この"観測"というのは、言ってしまえば人間の認識に過ぎない。脳の中で発生する、電気信号に過ぎないの」

紅莉栖「これを保証してくれているのが、世界線の再構成に巻き込まれない、OR物質の存在。フォン・ノイマンの言う抽象的自我のような存在ね」

鈴羽「人間のココロは、量子力学を越えた特別な存在であり、人間が観測すると物質の状態は決まる……だっけ」

倫子「そっか、ギガロマニアックスの妄想を現実にするのと同じなんだ。だから、脳の電気信号さえ操ってしまえば、実際の現実は別物でもいいってこと?」

紅莉栖「ううん、そうじゃない。これを批判したのがシュレディンガーだったわけだけど、猫は氏んでいるか生きているか、ってやつね」

紅莉栖「猫が氏んでいるアトラクタフィールドをβ、生きているアトラクタフィールドをαとしましょう」

紅莉栖「さあ、どっちを選ぶ?」

49: 2016/06/04(土) 23:36:32.41 ID:z77h0KA2o

倫子「猫は、氏んでいる場合がβとして確定していて、生きている場合がαとして確定していて……」

倫子「でも、箱に猫が入っていない可能性もあるはず。2匹入ってるかも」

倫子「もちろん、重ね合わせとして、複数の世界線の可能性が存在している。だけど――」

倫子「箱を開けるまで、観測者は観測ができない……ってことは、箱を開けずに中を変化させることができれば……」

紅莉栖「……わかってきたみたいね」

紅莉栖「通常では、箱を開けるしか観測する手段が無い。開けた時に観測した状態が、その世界線で選ばれていた選択肢、ということになる」

紅莉栖「でも、私たちにはタイムマシンがある」

紅莉栖「収束に邪魔されない行動によって、箱の中の因果律を変化させることができれば、理論上全ての選択肢が観測可能になる」

紅莉栖「これを利用すれば、収束なんてものはあってないようなものになる」

倫子「最初のDメールの送信、あれ自体はβ世界線の収束を邪魔するものじゃなかった。だから送信できた……」

倫子「結果、エシュロンに傍受されたせいで因果律が大幅に書き換わり、アトラクタフィールドを超える変動が起きた……」

倫子「箱の中で、世界が変わったんだ。箱を開けた時、私は秋葉原から人が消滅した状況を観測した」

倫子「そこが、最初のα世界線……」

紅莉栖「箱を開けた時、猫が眠っていても、氏んでいても、収束に必要な物理現象が全く同じだった場合、世界線的には同じこと。つまりね――」

紅莉栖「――β世界線の収束として、牧瀬紅莉栖の氏は確定していない」

50: 2016/06/04(土) 23:39:45.96 ID:z77h0KA2o

倫子「なんとなくだけど、言いたいことはわかったよ」

倫子「今目の前に居る紅莉栖は、実は『Amadeus』をインストールした精巧な人型ロボットで、全人類が氏ぬまでそれを認識できなければ、その事実は世界にとってもなかったことと同義……みたいな?」

紅莉栖「行動的ゾンビの一種ね。かなり極論だけど、そんな感じ。もちろん私は正真正銘ホンモノの牧瀬紅莉栖よ」

鈴羽「それはこのあたしが保証する。ずっと監視してたからね」

倫子「で、でも、だったらα世界線のまゆりは、どうして氏ななきゃならなかったの……?」

紅莉栖「2010年8月13日、あるいは14日、あるいは15日……岡部がまゆりさんの氏を認識することがα世界線にとって必要十分条件である、というだけで、まゆりさんが生物的に氏ぬ必要は実は無かったの」

紅莉栖「だから、例えばSERNがまゆりさんを拉致して、翌月に頃してから過去に送ったり、過去に送られた時点で氏亡したとしても、ゼリーマンになったまゆりさんの写真を岡部が見るタイミングの方が重要だった」


・・・
from 閃光の指圧師
sub 岡部さんに話がある
これから、行くね。私はど
うしたらいいかわからなく
て。 萌郁
▼添付ファイル有

『外国の新聞記事……。1961年、2月28日……。ゼリーマン……』

・・・


倫子「っ!? い、いや、でもあれは、ゲルまゆは、夢だったはず……」プルプル

紅莉栖「あんたが見る夢は、あったかもしれない可能性でもある。未来予知だのリーディングシュタイナーだのOR物質の相互作用だのが複雑に絡み合って働いてるからね」

51: 2016/06/05(日) 00:03:15.23 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「ただ、現実問題、α世界線ではまゆりさんの氏を回避するための手段がなかったんだけど」

倫子「え……あ、タイムマシンが過去にしか行けなかったから……」

紅莉栖「それもある」

紅莉栖「仮に未来の岡部が、まゆりさんの氏を偽装しろ、っていう指令を阿万音さんに託して過去に送るとするでしょ?」

紅莉栖「そしてそれを阿万音さんが、2010年の岡部に隠れてコッソリ実行するとする」

鈴羽「あたしなら正確無比に実行するだろうね」

紅莉栖「実際まゆりさんは生きてるんだけど、岡部はまゆりさんが氏んだと勘違いすることになるわよね?」

紅莉栖「すると、岡部はどうする?」

倫子「……あっ」

紅莉栖「その場合も岡部はまゆりさんを救うためにタイムリープしたり、Dメールを打ち消したりするはずでしょ」

紅莉栖「そうすれば、阿万音さんの行動はなかったことになる。タイムマシンが過去にしか行けないα世界線では、この指令には意味が無いの」

紅莉栖「結局、岡部がまゆりさんの氏を認識することで初めて、FG204型が誕生するのよね」

倫子「……私みたいな弱い人間が世界の支配構造を変えてやろうなんて本気で思って行動するには、まゆりが氏ぬしかなかった、ってことだよね」

倫子「そのことは今の私の存在、まゆりが居ることで世界を変動させないようにした私の存在が証明してるか……」ウルッ

鈴羽「リンリンは強い。自分を信じて!」

紅莉栖「ふむん……"岡部倫子は弱い"という命題を論破してあげないといけない、か」

紅莉栖「なら、次は岡部だけが観測者たりうる理由を説明するわよ」

倫子「えっ……?」

52: 2016/06/05(日) 00:24:39.89 ID:lXu7C81Yo
       ,, ,, 
その4ヽ(*゚д゚)ノ【改変の観測と可能性について】


紅莉栖「選択肢の選び方について。結論を言えば、その世界線で確定していない行動をすればいいということ」

紅莉栖「だけど、普通は収束事項の事象改変は出来ない。未来が過去を確定しているからね」

鈴羽「でも、それを覆せる存在が、タイムマシン以外にもうひとつある」

倫子「リーディングシュタイナー……別の世界線の情報を元に行動できれば、現在世界線で確定してる事象にそむく行動を選択できる」

紅莉栖「そういうこと。さらに言えば、完全なリーディングシュタイナーを持つ人間にしか確定した事象の改変を"観測"することはできない」

倫子「私だけが事象を変化させることが可能ってこと?」

紅莉栖「うーん、ちょっと違うかな」

紅莉栖「もちろん、私にだって世界線変動を引き起こす行動を取ること自体は可能よ」

紅莉栖「タイムマシンを使わなくても、別の世界線の情報がなくても、収束の範囲内でなら今すぐにでも改変できる」

53: 2016/06/05(日) 00:26:25.09 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「例えば、今ここで私がペンを指で回すとする。バタフライ効果が発生しないなら、これは世界線にとっての収束事項じゃない」

紅莉栖「だから、ペンを回さない選択も可能なの。選択が変われば世界線変動率も変わるわ。限りなくゼロに近い変化でしょうけど」

紅莉栖「世界線は過去から未来までが確定してると同時に、無限の可能性が重なり合わせの状態で存在してる。世界線は常に変動してるの」

紅莉栖「ただ、収束事項にそむく選択はできない。大幅な世界線変動を引き起こすには、やっぱりタイムマシンを使うのが手っ取り早いわね」

紅莉栖「だけど、たとえタイムマシンを使ったとしても、私は変動を観測することができない」

紅莉栖「気が付かないってことは、脳にとって存在しないのと同じよ」

紅莉栖「その場合、仮に世界線が変動していたとしても、世界線変動率を考慮すること自体が無意味になる」

紅莉栖「世界線理論に意味があるのは、リーディングシュタイナーによって変動が観測できる、という前提があるから」

紅莉栖「つまり、完全なリーディングシュタイナー保持者が観測した現実が、新しい世界線として再構成されている、としても問題ないの」

倫子「それで、私だけが観測者たりうる、ってことなのか……」

紅莉栖「逆に言えば、あんたが選択しなかった可能性世界線は、永遠に現実化することができない」

紅莉栖「今この瞬間に大きな分岐点が存在したとして、岡部にリーディングシュタイナーが発動しないとする」

紅莉栖「そうすると、今の岡部にはその分岐点から可能性世界線へと変動させることは永遠に不可能になる」

倫子「でも、タイムリープすればやり直せる」

54: 2016/06/05(日) 00:29:52.30 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「そうね。過去に主観を移動させてやり直すことができる」

紅莉栖「実際、まゆりさんを救うことはできなくても、SERNへのクラッキングはタイムリープでやり直せた」

倫子「まゆりをタイムリープで救えなかったのは、未来の因が過去の果を決定しているから、だったよね」

倫子「β世界線へと移動する選択をできなかったことが2036年の因を産み出しているわけだから、タイムリープではその果となってるまゆりの氏を覆せなかった」

紅莉栖「世界線を跨いだ因果律が成立している、と考えることもできる」

紅莉栖「アトラクタフィールドの収束事項を改変することはタイムリープ自体では不可能だけど、アトラクタフィールドそのものを越えるような事象改変のやり直しは可能だった」

倫子「……ん? あれ?」

紅莉栖「タイムリープによる事象改変は不可。事象改変の選択が可能な状況下で、その選択をしなかった未来からタイムリープしてきて、もう一度選択をやり直すことで事象改変することは可。オーケー?」

倫子「う、うん」

紅莉栖「なぜなら、可能性さえそこにあれば、実際に選択するのは"現在の岡部の主観"なわけだからね」

紅莉栖「だけど、Dメールとか、自分の"現在"を過去へ送らない過去改変の場合は別」

紅莉栖「実際に分岐点において可能性世界線を選択するのは、Dメールを送信した人間の主観じゃなく、Dメールを受信した方の人間の主観だから」

紅莉栖「このDメールを受信した方は、まだ選択の場所、分岐点を経過していないわけだから、観測をする可能性は確かにある」

紅莉栖「ただし、同時に観測しない可能性も存在している」

55: 2016/06/05(日) 00:31:39.36 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「岡部が2010年8月17日にα世界線をβ世界線へと変動させた時も、可能性としては『エンターキーを押さない』という選択肢があった」

倫子「実際に私は一度、その選択肢を選んでしまった」

紅莉栖「というか、その時の世界線にとってはそっちの方が確定した未来だったわけよね。エンターキーが押されるまでは世界線は変動せず、2036年はディストピアになっている」

紅莉栖「その世界線の2025年に岡部はラウンダーに殺されるらしいけど、その岡部は、エンターキーを押さなかった場合の未来の存在」

紅莉栖「そしてSERNへの復讐を誓ったその岡部は、ダイバージェンスメーターを作ったり、ワルキューレを組織したりして2036年時に阿万音さんを過去へ送れるような準備をしていく……」

倫子「あ、あれ? ちょっと待って。その私はもう、鈴羽を過去に送る必要はないんじゃないの?」

倫子「だって、エンターキーを押すところまで行ったなら、押せばいいだけ……?」

紅莉栖「ところが、タイムリープをしない限りは、岡部とその仲間たちは何があっても阿万音さんを過去へ跳ばすような準備をすることになる」

紅莉栖「それがα世界線の収束、歴史の辻褄合わせ。あるいは、世界線を跨いだ時間的閉曲線の因果律」

紅莉栖「じゃあもし、『エンターキーを押さない』を選択してしまった岡部が、過去の岡部に『エンターキーを押す』よう命じたDメールを送ったらどうなると思う?」

倫子「えっと、それなら過去の私が世界線をβ世界線へと変動してくれるから……でも、送信した方はα世界線の未来に居るんだから、2036年の収束に向かって……あ、あれ?」

56: 2016/06/05(日) 00:32:37.43 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「仮に2025年にDメールを送信して、2010年8月17日の岡部にエンターキーを押すよう命じたとしましょうか」

紅莉栖「その場合、2025年の岡部はリーディングシュタイナーを発動して、β世界線へと移動するの?」

倫子「……Dメールを送信しても、受信した私が、エンターキーを押さない可能性が残ってる」

倫子「むしろ、α世界線の確定した未来としては、そっちが収束だから……」

倫子「2025年の私はDメールを送信して世界線が変動したとしても、別のα世界線の2025年へと変動するだけ?」

紅莉栖「正解よ。これがアトラクタフィールドの収束と世界線1本の収束の意味の違いってわけ」

57: 2016/06/05(日) 00:33:58.73 ID:lXu7C81Yo

倫子「で、でも、私が今年の1月2日にα世界線に移動した時は、紅莉栖はDメールを送ることでβ世界線へと変動させたよ!?」

倫子「Dメールでアトラクタフィールドは越えられるんじゃ……?」

紅莉栖「それはあの時、"『Amadeus』がSERNに支配されること"がα世界線を成立させている根源的な事象だったから可能だった芸当よ」

紅莉栖「Dメール送信それ自体が一次的な改変事象だったわけ」

紅莉栖「さっきの話の"2025年Dメール"の場合、これは二次的な改変事象になる。一次的改変事象はクラッキングの準備をして『エンターキーを押す』ことなわけだからね」

紅莉栖「2025年の送信時点では、世界線の変動が最低2回行われなければアトラクタフィールドを越えられないことが確定しているの」

紅莉栖「なんらかの理由でタイムリープができない場合、2025年の岡部の主観は2025年中に氏ぬしかない。それがα世界線の収束」

紅莉栖「一方、Dメールを受信した2010年8月17日の岡部が『エンターキーを押す』を選択できた場合、8月17日の岡部の主観はβ世界線へと移動する。同時にα世界線はなかったことになる」

紅莉栖「α世界線の8月18日の岡部の主観も、8月19日の岡部の主観も、2025年の岡部の主観も、全部なかったことになるのよ」

紅莉栖「選択をしなかった主観たちは、世界線を跨いだ因果律としても、OR物質を構成する因果律としても存在できない。その理由はわかるでしょ?」

倫子「えっと、8月17日に選択をしなかった存在たちは、8月17日に選択がされた場合、因果として存在できないから……?」

紅莉栖「そういうこと。8月18日以降のα岡部の主観は、世界線変動を観測できないままなかったことになる。当然リーディングシュタイナーを発動してβ世界線へ移動することはない」

倫子「なるほど……」

58: 2016/06/05(日) 00:36:38.05 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「アトラクタフィールドを越えるのに必要なことは、1975年から2036年までの歴史を一気に塗り替えるような根源的事象の一次的改変である、ってことはわかるわね?」

倫子「でも、私が最初にβ世界線からα世界線に移動したのは、Dメール送信が原因だったよ?」

紅莉栖「あれはDメールの本来の使い方で過去改変したわけじゃないでしょ。受信者である橋田の行動を変えたの?」

倫子「あそっか」

紅莉栖「別世界線の存在の決定的証拠、しかも岡部がタイムマシンを作ってしまったことの証拠を、タイムマシン研究機関SERNが捕捉してしまったこと」

紅莉栖「それが、約60年間に及ぶ因果の連鎖を円環状に閉じさせる巨大な時間的閉曲線を産み出してしまった」

紅莉栖「タイムリープでの過去改変が世界線内の時間的閉曲線に囚われているとすれば、Dメールやタイムマシンでの過去改変はアトラクタフィールド内の時間的閉曲線に囚われていると言える」

紅莉栖「もう一度言う。最終的にアトラクタフィールドを越えるために必要なのは、過去改変じゃない」

紅莉栖「もちろん、過去改変を使うことで色んな情報が手に入るし、確定した事象も、世界線レベルでなら改変が可能だから、意味があること」

紅莉栖「だけど、最後の決め手は、岡部の主観の"観測"にある。根源事象の改変を観測して初めて、重なり合わせの可能性が"確定"する」

59: 2016/06/05(日) 12:54:00.94 ID:lXu7C81Yo
       ,, ,, 
その5ヽ(*゚д゚)ノ【RSによる世界線変動の観測と可能性について】
                      RS:リーディングシュタイナー


紅莉栖「もうちょっと掘り下げて考えてみましょうか」

鈴羽「まだやるんだね……まあ、時間はあるからいいけどさ」

紅莉栖「アトラクタフィールド内における世界線変動じゃなく、アトラクタフィールド越えの事象改変における二次的改変と一次的改変の違いについて」

紅莉栖「アトラクタフィールド内の世界線変動においては、玉突き世界線変動が可能になる。アトラクタフィールドレベルの収束にさえ触れなければいくらでも世界線は変動するからね」

倫子「過去の私に、『Dメールを送れ』、っていうDメールを送った場合、送信した方の私は過去の私がDメールを送ったことで再構成された世界線へと変動する、ってことだよね。それは感覚的にわかる」

鈴羽「実際リンリンはそれと同じことを一度やってる。α鈴羽を引き留めるな、って過去の自分にメールして、タイムマシンを8月9日に飛ばしたでしょ?」

倫子「あ、そっか。あれって、鈴羽にタイムマシンを使わせるようDメールを送ったことになるわけだから、玉突き世界線変動みたいなことが起こってたわけか」

鈴羽「変動幅自体は極小だっただろうけどね」

紅莉栖「そうじゃなく、収束を突破するための事象改変の場合。つまり、収束を作り出している根源的事象を改変する場合を考えてみる」

紅莉栖「α世界線においては最初のDメールデータだったり、『Amadeus』がSERNに支配されることだった」

紅莉栖「β世界線においては私がタイムマシン論文を書き、それが外部へ漏れること、ね」

紅莉栖「岡部が過去の自分にDメールを送って事象改変を命令する場合、送信時の岡部の『送信する』という選択と、過去の岡部が『確定事象を改変する』という選択の、2つの選択が発生することになる」

紅莉栖「この『送信する』が二次的改変、『確定事象を改変する』が一次的改変にあたるわけね。オーケー?」

倫子「お、おーけー」

60: 2016/06/05(日) 12:55:04.03 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「まず、『送信する』という選択ができた時点で世界線は変動する。送信時点の世界線の確定事象に背いたことになるからね」

紅莉栖「この時、送信者の岡部はどこへリーディングシュタイナーを発動して移動するのか」

倫子「それは……えっと、Dメールを受信した方の私が、過去の分岐点で確定事象を改変できた場合、さらに世界線が変動した先の……とは、ならないんだよね」

紅莉栖「そう。アトラクタフィールドとしての収束事項に関しては、Dメールを送ったところで、受信した岡部が『確定事象を改変しない』として世界線の未来は確定してしまう」

倫子「それが1%の壁……なんだもんね」

紅莉栖「だから、仮にDメールを過去の岡部に送信しても、リーディングシュタイナーが発動して移動する先の世界線は、Dメールを受信した岡部が『確定した事象を改変しない』を選択した世界線になる」

紅莉栖「猫を生かすためにタイムトラベルしろ、ってDメールを送っても、送った岡部が観測できるのは、猫が氏んだ世界だけってこと」

紅莉栖「なぜなら、送った側は既に決まった未来の因によってアトラクタフィールドの中に拘束されてしまうから」

61: 2016/06/05(日) 12:56:25.91 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「ちなみに、この猫は、たとえ人間であったとしても観測者たりえない。ゆえに"ウィグナーの友人のパラドックス"は起こらない」

紅莉栖「複数の世界線を認識できる存在にしか、その世界を確定させる観測はできないからね」

倫子「それじゃ、猫を生かすことはできない……ってわけじゃなさそうだね」

紅莉栖「Dメールを受信したことで猫が生きている可能性が発生する場合、それは間違いなく世界線が変動したことに意味があるということ」

紅莉栖「Dメールを受信した岡部が『確定事象の改変』を選択できたなら、当然猫が生きていることを確定事象として再構成された世界線へと変動する」

紅莉栖「Dメールを送信した岡部は当然、"なかったことになる"」

倫子「つまり、ソレを観測できる可能性があるのはDメールを受信した方の私だけ……送信した方の私には、永遠に猫の生を観測できない」

倫子「そもそも、この私はそんなDメールを受信していない……だからこうやってβ世界線に居る訳で……」

紅莉栖「猫の生が確定した瞬間、猫が氏んでる可能性は消滅するわけだけど、その時世界線の変動を観測できるのは、その時に改変を選択できた岡部の主観だけ」

紅莉栖「Dメールを送信した方の岡部はこの一次的改変を選択できないから、リーディングシュタイナーを発動して猫が生きている世界線へと移動することはできない」

倫子「……そろそろ、何が言いたいかわかってきた」

紅莉栖「今の岡部が、シュタインズゲートを選択できる分岐点を通過した存在だった場合、しかもそれがタイムリープで戻れない場所だった場合――」

倫子「――この"私"は、永遠にシュタインズゲートを観測できない」

62: 2016/06/05(日) 13:17:34.12 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「まあ、実を言うと、今から2010年7月28日へとタイムリープできたところで、シュタインズゲートの観測は不可能なんだけどね。それについては後で説明する」

紅莉栖「だけど、そうだとしても、過去の岡部になら選択できる可能性がある。今の岡部には無理でも、別の世界線の過去に居る岡部になら、ってこと」

紅莉栖「仮に過去の岡部がシュタインズゲートを観測したとして、そいつからすれば今のあんたは"なかったことになる"。今のあんたの主観が消滅するってわけ」

紅莉栖「今の岡部の主観が存在するからDメールが届くわけだけど、シュタインズゲートを観測してしまえば、β世界線未来の主観存在にタイムパラドックスが生じるからね」

倫子「うん、それはさっきのα世界線の例でよくわかった」

紅莉栖「一方、今の岡部の主観からすれば、Dメールを送信しても今の岡部が消滅することは無い」

倫子「……なんとなく、わかる。矛盾してる話のようで矛盾してないことも」

倫子「私の主観としては、シュタインズゲートを観測できなかった可能性世界線へとリーディングシュタイナーを発動するだけ、だよね」

鈴羽「そして2025年に氏ぬ……でももしリンリンがDメールを送った後、新しくタイムマシンを造って、2010年7月28日に行って牧瀬紅莉栖を救って、論文を消したらどうなる?」

紅莉栖「この私の認識として、あの会場に居た最初の岡部と、階段で出会った方の未来岡部との見分けがつかない状態だった、っていうのがあるのから、それが制限かしら」

紅莉栖「明らかに歳を取っていたら、それこそ変な世界線へと変動すること間違いなしよ」

鈴羽「じゃあ、実行するのはDメールを受け取った方の8月21日のリンリンだとして、2025年のリンリンが、シュタインズゲートへと変動するタイミングに存在したら?」

紅莉栖「その場合、どうなるかわからないわね。変数が多すぎる」

紅莉栖「ただ、たとえシュタインズゲートへの変動のタイミングに巻き込まれたとしても、未来から来た方の岡部の主観は、シュタインズゲートへは移動できないと思う」

紅莉栖「だって、そうなったらシュタインズゲートの8月21日に岡部が2人居ないといけなくなる。そういう風に再構成、歴史の辻褄合わせが発生してしまう」

紅莉栖「ってことはタイムマシンが必要で、私の論文が……っていうパラドックスになるからね」

紅莉栖「その時、再構成の中で消滅するのか、あるいは収束の力でβ世界線から脱出できないのか……どちらになるかは、実際にやってみないとわからない」

63: 2016/06/05(日) 13:18:21.82 ID:lXu7C81Yo

倫子「私の主観を世界の現在に近似する、ってαの未来紅莉栖が言ってたけど、その意味がようやく飲み込めた気がする」

紅莉栖「さて、一旦講義はおしまい。ちょっと休憩しましょ」

鈴羽「はい、リンリン。ドクペだよ」スッ

倫子「あ、うん……ドクペ、ね」

紅莉栖「あんたの好物って聞いてたけど……」

倫子「うん、好物だよ。紅莉栖も好き、だよね?」

紅莉栖「ふぇっ!? あ、ドクペが、よね。ええ、嫌いじゃないわよ」ゴクゴク

倫子「ふふっ」ゴクゴク

倫子「……おいしい。もう1年は飲んでなかったなぁ」

紅莉栖「それじゃ、15分後に話を再開するわ。今のうちにトイレにでも行ってきなさい」

倫子「ホント、大学の講義か何かだなぁこれ……」

64: 2016/06/05(日) 13:19:14.10 ID:lXu7C81Yo

・・・

紅莉栖「さて、世界線にとって何が重要か、わかったわよね? 私がβ世界線の2011年に生きている理由も」

倫子「うん……2036年の状況に影響を与えるような改変さえしなければ、紅莉栖が氏ぬ必要はない、ってことだね」

紅莉栖「私がβ世界線の2010年7月28日12時39分に氏ぬ必要があるのは、それ以降私が生きていると、2036年にとって基本的に都合が悪いから、なの」

紅莉栖「未来からの情報が無いままに私が生きている場合、私は色々な行動をとって、2036年の状況を起点に作られてるβ世界線の確定した事象が改変されてしまうから」

紅莉栖「というか、そういう世界線のことをα世界線とかシュタインズゲートって呼ぶわけよね」

紅莉栖「だからこうして、私が氏ぬまで地下に潜伏して、社会的に"牧瀬紅莉栖"が氏亡していれば、氏亡収束は騙せる。理屈がわかればこういうことが可能」

紅莉栖「世界は騙せるの」

倫子「世界を……騙す……」

65: 2016/06/05(日) 13:20:47.09 ID:lXu7C81Yo

鈴羽「実際問題そうも言ってられないけどね。これから日本は中東並に治安が悪くなってテロが多発する」

鈴羽「20年代に入れば本格的に世界大戦が始まるから、食糧調達がままならないどころか、ここが治安部隊に暴かれるのも時間の問題だよ」

紅莉栖「そういう意味では私は世界を騙しきれてないのか。世界線を改変しないようにする、って意味では成功してるけどね」

倫子「でも、私がさっきリーディングシュタイナーを感じたってことは、それなりに変わってるはずじゃないの?」

紅莉栖「そうね。ある1点だけ変えさせてもらったわ」

紅莉栖「1月2日に存在したα世界線の私が送ったという、Dメール。あれを打ち消させてもらった」

倫子「え……?」

紅莉栖「スマホを見てみなさい。たぶん、『Amadeus』アプリが"復活"してるように感じるんじゃないかしら」

倫子「えっと――!? ホントだ……『Amadeus』がある……」

紅莉栖「この世界線は、1月2日にラボ襲撃事件が発生したけど、SERNがタイムマシンを完成させることにはならなかった世界線、ということになる」

紅莉栖「かつてあんたが12月15日から1月2日まで居た世界線とほぼ同一の世界線変動率なの」

倫子「私は、戻ってきた……?」

66: 2016/06/05(日) 13:23:15.74 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「厳密に言えば、完全に同じ世界線ではないけどね。私たちが行動する上では同一の世界線と見なしても問題ないレベルってこと」

倫子「そりゃ、素粒子レベルの因果律で同一かって言われれば、間違いなく変わってるもんね」

鈴羽「リンリンが経験した世界線と同じような状況になるように色々暗躍させてもらったよ。世界線維持のためにね」

倫子「でも、どうしてそんなことを?」

紅莉栖「もちろん、岡部にシュタインズゲートを観測してもらうためよ」

倫子「過去の私が、2回目のタイムトラベルに行くようなDメールを送ればいいの……?」

紅莉栖「ううん、実はそうじゃない」

紅莉栖「私の書いた論文を、岡部以外の他の組織の手に渡ることが未来で確定している場合……つまり、他の組織がタイムマシンで世界線を変動する可能性がある場合はね」

紅莉栖「過去のあんたが2回目のタイムトラベルに出発したところで、絶対にシュタインズゲートへはたどり着けない」

倫子「…………」

紅莉栖「ただ、現時点ではどの組織も可能性止まりだから、世界線はβ世界線のままだけどね。各勢力の拮抗状態がこのアトラクタフィールドの特徴と言える」

紅莉栖「たとえロシアが明日タイムマシン実験をしたとしても、それがアトラクタフィールドを越える内容、つまりタイムマシン論文の所在に関わる内容じゃなければβ世界線のままかもしれない」

紅莉栖「そういう可能性が残っている限り、私の命を救ったとしてもシュタインズゲートへは絶対に辿り着けない」

紅莉栖「私の論文がβ世界線のあらゆる収束を作り上げていると言っても過言じゃない」

紅莉栖「すべての論文を抹消、あるいは確保することが世界線の未来として『確定した事象』とならない限り、シュタインズゲートは、その門前に立つ事さえ許されないの」

67: 2016/06/05(日) 13:39:21.20 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「それじゃ、ここからはシュタインズゲートへと繋がる……と思われる仮説を説明するわ」

倫子「2限目が始まるんだ」フフッ

紅莉栖「次の図1を書いておくわね」キュッ キュッ

紅莉栖「横軸が時間、縦軸が変動率<ダイバージェンス>ね。詳細な変動率は不明だから、間隔はアバウトなんだけど」


no title

図1: 世界線漂流図1


倫子「おお……えっと、太線が私の移動してきた経路で、黒丸が分岐点?」

紅莉栖「そういうこと。α世界線については省略させてもらったけどね」

紅莉栖「おそらく、β1世界線以外においては、子どものかがりさんは未来で米軍によって洗脳されてるんじゃないかしら」

倫子「……そっか。それが根本的な原因で世界線が今まで変動してきたんだ」

倫子「未来のかがりを支配することで、つまりタイムトラベラーを操ることで過去を変えていた……」

68: 2016/06/05(日) 13:46:06.85 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「β2・4世界線では、かがりさんを施設に幽閉して、未来の記憶を消去してたのよね」

紅莉栖「結局消しきれてなくて、ママを思い出して逃亡しちゃったわけだけど」

紅莉栖「米軍としては大失敗よね、私の記憶を入れる前に逃げちゃったんだから」

紅莉栖「それでβ2世界線ではかがりさんをラボに取り返しに来た。β4世界線では、多分半ば諦めていた」

紅莉栖「その失敗があるから、未来では幼いかがりさんを洗脳する際に、過去へ伝えるメッセージとして、徹底的に未来の記憶を消すよう指示したでしょうね。失敗の原因がそれなんだから」

紅莉栖「一方、β3世界線ではかがりさんの未来の記憶は消去されていなかった」

紅莉栖「『Amadeus』凍結のために実験が前倒しになり、逃亡される前に脳に私の記憶を入れることができた」

紅莉栖「私の記憶を入れるっていう目的が達成できることがわかってるんだから、別に未来の記憶を消去する必要は無いわよね。手間だし」

紅莉栖「だから未来の米軍は、幼いかがりさんを洗脳した時の過去へのメッセージとして、未来の記憶を消去するようには伝えなかった」

倫子「……ん?」

鈴羽「どちらも因果が円環状に閉じているってことだね」

倫子「ああ、なるほど……タイムパラドックスになってるわけだ」

紅莉栖「この時間的に閉じた因果が様々なバタフライ効果を生み出すことによって、それぞれの世界線を成立させていた、ということよ」

69: 2016/06/05(日) 13:48:47.16 ID:lXu7C81Yo

倫子「ってことは、かがりが米軍につかまる因果をなんとかしないといけない、ってことだよね」

鈴羽「あたしからもお願いするよ。かがりが敵にいいようにされるなんて、あってほしくない」

紅莉栖「それを成し遂げるためには原因を根本から絶たなくてはならない」

紅莉栖「そしてそれは可能である。なぜなら、あんたは既に一度かがりさんが1998年から行方不明にならないβ世界線を観測しているから」

倫子「う、うん。私が世界線漂流を始める前のβ世界線のこと、だよね。ってことは、目指すべき世界線は――」

紅莉栖「結論から言う。あんたにはタイムリープしてもらう」

倫子「……え?」

紅莉栖「その方法は後で話す。目的は、タイムマシン論文を他の組織の手に渡らないようにすること」

紅莉栖「正確に言えば、どの組織にもタイムマシン論文が手渡らないような事象改変をしてもらう」

紅莉栖「私の書いたタイムマシン論文が無ければ、タイムマシンを巡る世界大戦は起こり得ない」

紅莉栖「米軍がタイムマシンの存在に気付き、かがりさんを操るような事態にもならない」

鈴羽「現状、米軍がかがりを操ってるからタイムマシンの存在に気付く、っていうタイムパラドックス、つまり収束が発生してるわけだけど」

鈴羽「必ずどこかに抜け穴がある」

70: 2016/06/05(日) 13:50:50.24 ID:lXu7C81Yo
       ,, ,, 
その6ヽ(*゚д゚)ノ【6つの論文を支配せよ!】


紅莉栖「タイムマシン論文は次の6ヶ所にある」

紅莉栖「中鉢論文、私のノートPC、私のポータブルHDD、この私の脳内、ストラトフォーのサーバにある『Amadeus』"紅莉栖"の記憶データの中、そして、"紅莉栖"の記憶データを入れられたかがりさんの脳内」

倫子「そ、そんなにあるんだ」

紅莉栖「さっきの図において、それぞれの世界線でどのタイムマシン論文が存在するか、を記すとこうなる」


β1:中鉢論文・ノートPC・HDD・ストラト甘栗の脳内
β2:中鉢論文・ノートPC・HDD・私の脳内・ストラト甘栗の脳内
β3:中鉢論文・ノートPC・HDD・かがりの脳内・ストラト甘栗の脳内
β4:中鉢論文・ノートPC・HDD・ストラト甘栗の脳内


倫子「"甘栗"って……『Amadeus』"紅莉栖"、の略か」

紅莉栖「もちろん、すべての世界線の2010年3月末から7月28日以前までの間、私の脳内にタイムマシン論文が存在している」

紅莉栖「それからもう1ヶ所、私の論文に準ずるものが存在してる」

倫子「えっ? 準ずるもの?」

紅莉栖「あんたの脳よ。完全なリーディングシュタイナーに加え、電話レンジ(仮)の仕組み、Dメール、タイムリープ、タイムトラベルの実体験の記憶、そして各種理論……」

紅莉栖「これだけ情報が揃ってれば、私じゃなくてもタイムマシン論文を書き上げることができるでしょうね」

倫子「私の、脳……」

紅莉栖「これからの話は、あんたの魂の指揮官があんたであり続ける、ということを前提に展開させるわよ」

紅莉栖「門<ゲート>がいかに狭かろうと、いかなる罰に苦しめられようと、あんたの運命はあんたが支配しなさい」

倫子「……私にできる、かな。うん……できる、よね」ウルッ

紅莉栖「(かわいい……あ、あれ? なに、この気持ち……リーディングシュタイナー?)」トクン

71: 2016/06/05(日) 13:52:08.42 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「コホン。えっと、世界がタイムマシン論文の存在に気付いたキッカケは、2010年8月21日にパパが亡命したことだった」

鈴羽「そこが大分岐のポイントってわけだね」

紅莉栖「中鉢論文が無ければ、私がタイムマシン論文を書いたってことが世界に知られずに済む」

紅莉栖「それと、私が普通に生きていれば私のノートPCとHDD内の論文は8月21日までに削除するはず。そう決めてたから」

鈴羽「この世界線では、あたしが牧瀬紅莉栖を拉致したからそれは叶わなかったけどね」

紅莉栖「仮に私が8月21日より前に氏亡している場合、中鉢論文を取り消す意味は無い」

紅莉栖「なぜなら、私が氏んでいるとノートPC内の論文が残って、どうあがいても第3次世界大戦が勃発するから。たとえ中鉢論文が存在しなくてもね」

紅莉栖「逆に言えば、中鉢論文を取り消すことは私が氏亡することを意味している」

鈴羽「これも未来が過去に影響を与えているんだ」

倫子「それじゃ、どうやってもβ世界線から抜け出せない――」

紅莉栖「ううん、そんなことはないわ」

72: 2016/06/05(日) 13:55:50.68 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「このβ世界線収束を騙すこと自体は簡単よ。Dメールを送ってエシュロンに捕捉されるか、SERNにタイムマシンを奪われるかで、実際に達成できた」

紅莉栖「もちろん、α世界線へと変動させても意味は無い。だけど、β世界線収束が騙せることは既に証明された」

紅莉栖「これを利用してβ世界線8月21日までの私の生存を確保することができる」

倫子「へ……?」

紅莉栖「中鉢論文が存在している限り、私の氏は必然じゃなくなる。だから今こうしてしゃべれてるわけだしね」

紅莉栖「つまり、あの日あの時、2010年7月28日の12時39分に私を生存させた後で、中鉢論文を取り消せばいい」

倫子「で、でもどうやって!? あの時、紅莉栖の氏をうまく誤魔化せたとしても、章一は論文を奪って逃走したんだよ!?」

倫子「追いかけて捕まえられるかどうか――」

紅莉栖「……あなたも見てたでしょ? 例のニュース」

鈴羽「飛行機の火災事故、だね」

倫子「……メタル、うーぱ。そうだったね、あの封筒にメタルうーぱが入ってなければ、放っておいても論文は燃えてなくなるんだ……」

鈴羽「しかも日時は8月21日。牧瀬紅莉栖が生存した後、中鉢論文を取り消す、という条件をクリアできる」

倫子「あれってどうして入ってたの? 封筒にまゆりのうーぱが」

紅莉栖「まさかあれがまゆりさんのものだとは思わなかったわ。階段に落ちてたのを、なんか可愛いと思ってつい封筒に入れちゃったの」

紅莉栖「暗かったから、名前が書いてあるなんて思わなかった……まゆりさんには悪いことしたわ」

鈴羽「いやいや、全人類に迷惑かけてるからね?」

紅莉栖「知らないわよ、そんなこと」

73: 2016/06/05(日) 13:56:26.71 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「つまり、最終的な選択としては、私を生存させた上で中鉢論文を取り消せばいいということになる」

倫子「それで鈴羽のミッションは紅莉栖を救出すること、だったんだね」

鈴羽「あたしもここまで詳しく教えられたわけじゃないけど、未来の"リンリン"はこの結論に辿り着いていたんだと思う」

倫子「だけど、メタルうーぱがあの封筒に入ることもβ世界線の収束なんだよね?」

紅莉栖「そうだと思う。だけど、どこかに抜け道があるはずよ。たとえそこに無限の選択肢が用意されていようと」

紅莉栖「これがシュタインズゲートへと至る最後の選択」

倫子「うん……」

倫子「(私もこの可能性については考えたことがある。だけど、一体どうやって正解の選択肢を引き当てれば……)」

74: 2016/06/05(日) 13:57:47.85 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「と言っても現時点では、それ以外の場所にある論文が他の組織の手に渡る可能性が残ってしまっている」

鈴羽「かがりが米軍の手に渡ることも同じ用件に含まれる」

紅莉栖「だから、まずはその可能性を消滅させておかないと、収束によってどうあがいても中鉢論文を消すことができない」

鈴羽「中鉢論文があることで、ロシアをはじめとする各組織が牧瀬紅莉栖の周囲にタイムマシン論文が存在していることに気付くからね」

鈴羽「この因果の因を無理に消そうとしても、β世界線の因果律、つまり確定事項として果が残っている世界線では、因は絶対に消えない。これがβ収束ってことだね」

倫子「私のα世界線漂流時、IBN5100がラボにある世界線以外じゃ、IBN5100がどうあがいても手に入らないのと同じ理屈か……」


――――――――――

   『コインロッカー……大ビル……前の……』

   『この世界線では岡部がIBN5100を手に入れることは絶対に不可能なんだけど』

――――――――――



紅莉栖「IBN5100がラボに無いことで、SERNはディストピアを完成させることができた」

紅莉栖「だから岡部はDメールを打ち消し続けて、IBN5100がラボにある世界線まで戻らなくてはならなかった」

倫子「このβ世界線でもおんなじことをしろ、ってことだね」

倫子「タイムマシン論文を消滅させ続けて、中鉢論文がロシアに渡ることだけが確定している世界線まで移動する。そしてその世界線で――」

紅莉栖「中鉢論文を消滅させれば、シュタインズゲートを観測できる」

75: 2016/06/05(日) 13:58:36.34 ID:lXu7C81Yo

鈴羽「それで、具体的にはその論文たちはどういう状況なの?」

紅莉栖「ちょっと整理しておきましょうか」

紅莉栖「まず、中鉢論文はロシアが持っている。手に入れてから半年以内には実験を開始しそうなもんだけど、たぶん米軍あたりがけん制してるんだと思う」

紅莉栖「次にノートPCとポータブルHDDについて、これを狙っているのはロシアとアメリカ」

紅莉栖「レスキネン教授がストラトフォー、レイエス教授が米軍だとするなら、少なくとも3つの組織に狙われてることになる」

紅莉栖「SERNが狙っているかはわからない。エシュロンをはじめとして、その諜報能力はすごいらしいから、何かしら情報を仕入れていると考えておいた方が良い」

紅莉栖「次にストラトフォーにある『Amadeus』の記憶データ。『Amadeus』に関することはすべてレスキネン教授、つまりストラトフォーによるものだと考えていいわ」

紅莉栖「だけど、かがりさんは別。かがりさんに私の記憶を入れる実験をしようとしたのは、実行犯はストラトフォーでも裏に居たのはレイエス教授のはず。少なくともβ1世界線以外では」

76: 2016/06/05(日) 14:00:17.39 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「話を聞く限り、ストラトフォーは米軍に操られているんでしょうね。『Amadeus』を横取りする形で記憶挿入実験に利用しようとしていたみたいだから」


―――――

天王寺『しかし、金で雇われてるやつらが自決までするか?』

鈴羽『洗脳されてたなら、あるいは』

―――――


倫子「(そっか、あの時のストラトフォーは、実は裏で米軍に操られていたのか)」

紅莉栖「元々米軍はストラトフォーが牛耳る『Amadeus』そのものを軍事転用することを狙ってた」

紅莉栖「ところが、探りを入れてみたらタイムマシンが出てきた。それで作戦を変更したってところかしら」

倫子「つまり、かがりを洗脳したのはどっちかわからないけど、かがりに紅莉栖の記憶を入れようとしているのは米軍、ってこと?」

紅莉栖「タイミングから考えて、洗脳自体はストラトフォーの計画だったんだと思う。未来のかがりさんを洗脳して、1998年頃に自分たちの元へ誘導したのはね」

紅莉栖「そして未来の米軍はそれを利用した。かがりさんの未来の記憶の有無を操作してるのは米軍だから」

紅莉栖「そして2010年頃、かねてから『Amadeus』を軍事転用しようとスパイしていた米軍がタイムマシン論文の存在に気付き、記憶挿入実験に着手し、ストラトフォーの研究成果を横取りしようとした」

紅莉栖「この意味で、ストラトフォーのサーバーに保存されている『Amadeus』の記憶データの中にある論文は、米軍が狙っている状況、と言える」

77: 2016/06/05(日) 14:01:23.45 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「『Amadeus』本体は問題ない。論文の内容も、ノートPCのパスとかも、あの子がしゃべるわけないから、そこは無視しても構わない」

紅莉栖「『Amadeus』本体が消滅することはどのβ世界線の未来でも確定していると思うのよね、真帆先輩の性格を考えれば」

紅莉栖「あ、ちなみに真帆先輩だけが世界で唯一『Amadeus』をデリートできる人なの」

倫子「そうだったんだ。ってことは、『Amadeus』そのものをデリートしただけじゃ、世界線は変動しない?」

紅莉栖「ううん、タイミングの問題があるから一概には言えない。利用されるだけ利用されたあとに削除する場合と、悪の手に落ちる前にデリートする場合とでは意味が変わっちゃうから」

紅莉栖「結局、単純に『Amadeus』をデリートすればいい、プロジェクトを凍結すればいい、という話じゃない」

紅莉栖「心配すべきなのはむしろ、『Amadeus』を使って岡部を懐柔して、阿万音さんのタイムマシンの在り処を吐かせることね」

紅莉栖「『Amadeus』はスパイみたいなものよ。本人にその気はないんでしょうけど」

倫子「くそぅ……」

78: 2016/06/05(日) 14:02:47.54 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「かがりさんの脳内からの消去はすでに岡部が成功した」

紅莉栖「β3からβ4への再構成によって消滅したのよね。というか、消滅させることが世界線変動のキーだった」

倫子「だけど、未だにストラトフォーのサーバには紅莉栖の記憶データが残ってる。かがりを誘拐されれば、またかがりの脳内に紅莉栖の記憶が戻ってしまう……」

紅莉栖「そうね、そうなったらまたβ3世界線に近似した世界線へと変動しちゃう。だから、ストラトフォーのサーバにある『Amadeus』内の私の記憶データの削除は必須ね」

倫子「ってことは、今からダルにハッキングさせて削除させれば世界線が変動する……?」

紅莉栖「それがそういうわけにも行かないのよね。そのステップの前に、まず私を頃す必要がある」

倫子「あっ……」シュン

紅莉栖「私が生きていることで阿万音さんとかがりさんが2011年7月7日に過去へ跳ぶ、という事象が確定しちゃうから、まずは私が氏んでる世界線へと移動すること」

紅莉栖「そうしないと、過去の岡部が阿万音さんと一緒に2回目のタイムトラベルに挑戦すること自体が不可能になってしまう」

79: 2016/06/05(日) 14:04:29.06 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「かがりさんの脳内からデータを削除できたこの世界線からなら、ストラトフォーのサーバに記憶データが存在することが収束じゃない、つまり削除が可能な世界線へと移動できる可能性がある」

倫子「でも、どこにその分岐点が……って、判明してる分岐点のうち、この世界線上にある分岐点は1月2日しかないか」

倫子「――1月2日。あの時、SERNに私たちのタイムマシンがバレてしまった……」

紅莉栖「それを取り消すためにはやっぱり、1月2日に行ってもらう必要がある。ここが必然的に第一歩になる」

紅莉栖「この世界線での確定した過去については既に私たちが観測しているわ」

紅莉栖「1月1日の襲撃の後、1月2日、あんたは天王寺さんに協力を要請するも、タイムマシンや世界線については説明しなかった」

倫子「うん。β3世界線で私がそういう風に行動したから、ここもそういう風になって再構成されてるんだね」

紅莉栖「一方、あんたが経験した1月2日に何が起こったかを要約すると、天王寺さんにタイムマシンのことをバラした上で『Amadeus』の"私"からの着信に出たことで世界線がα世界線へと変動した」

紅莉栖「つまり、『Amadeus』を乗っ取ったSERNからの通話に出てしまったのが原因ね」

倫子「えっと、萌郁にも色々話しちゃったんだけど、そっちは関係ない?」

鈴羽「関係ないみたいだよ。この世界線でもリンリンは1月2日に桐生萌郁を味方につけるためにFBの正体をバラそうとしていた」

紅莉栖「根本的な原因は、店長さんがSERNへと報告したことなの」

80: 2016/06/05(日) 14:06:29.67 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「もう一度確認しておくけど、『Amadeus』のプログラムを乗っ取ったくらいじゃ、タイムマシン論文は手に入らない。口が堅いからね」

鈴羽「『Amadeus』に脅しは聞くの?」

紅莉栖「場合による。あの『Amadeus』の"紅莉栖"だったら、真帆先輩を拷問する、とか言われただけで全面降伏しちゃうかも」

紅莉栖「だけど、それだけだと通話に出た瞬間世界線が変動したことの説明がつかない」

紅莉栖「あんたが通話に出たことで、ラジ館屋上にあるタイムマシンが橋田とセットでSERNに回収されることが確定したんでしょうね。どういう過程か、詳しくはわからないけど」

倫子「そういや、α世界線の私とダルはフランスに1年くらい拉致されるんだっけ……」

紅莉栖「だったら、通話に出なければいい。店長さんにタイムマシンのことをバラした上で『Amadeus』からの通話に出ない」

紅莉栖「そうすれば、次の世界線、"β5世界線"へと変動する」

81: 2016/06/05(日) 14:07:51.82 ID:lXu7C81Yo

倫子「でも同時に、そのβ5世界線の去年の7月28日に、紅莉栖は氏んでることになってるんだよね……」

紅莉栖「まあね……1月2日にα世界線へと移動する岡部が消滅することでβ3およびβ4世界線がアクティブ化する、という一連の流れがなくなる」

紅莉栖「それによって2011年7月7日に阿万音さんとかがりさんがふたりで過去へ跳ばなくなるから、そういうことになる」

紅莉栖「このβ5世界線は、言うなればタイムマシンがSERNに狙われるだけ狙われるけど、タイムマシンは手に入れられない世界線」

紅莉栖「米軍とストラトフォーの抗争にSERNが介入することで、岡部が論文を確保しやすくなる世界線になる……これはただの希望的観測だけど、可能性は高いと思う」

紅莉栖「それで、β5世界線に存在するタイムマシン論文は次の4カ所になる。中鉢論文、ノートPCとポータブルHDD、ストラトフォーのサーバにある甘栗の記憶データ」

紅莉栖「β5世界線では、ストラトフォーのサーバにある記憶データを消してもらう必要がある」

倫子「β5世界線ではそれが可能なの?」

紅莉栖「今このβ2世界線でも可能でしょ? ってことは、そこから派生するβ5世界線でも可能なはず」

倫子「そこでダルに頼めばいい、ってわけか」

紅莉栖「ストラトフォーのサーバに記憶データがあるだけじゃ、ストラトフォーはタイムマシン技術を確保できないからね。これが世界線としての収束だとは思えない」

紅莉栖「とは言っても、データを消すことで世界線が変動するかもしれない。しないかもしれない」

紅莉栖「こればっかりは岡部が実際に観測してみないとわからない」

紅莉栖「全ては岡部次第よ」

倫子「うん……」

82: 2016/06/05(日) 14:09:15.27 ID:lXu7C81Yo

倫子「でも、それならここからDメールを1月2日の私へ送ればいいだけじゃないの?」

紅莉栖「Dメールの情報にあんたの名前が残ることになるわよ?」

倫子「あ、そっか。そんなことしたらα世界線へと変動しちゃうのか」

紅莉栖「それに、そもそも18文字で説明しきれない。最低でも次の3つをこなしてもらう必要があるからね」


・天王寺さんにタイムマシンのことをバラす

・その上で甘栗からの電話に出ない

・かがりさんが誘拐される前にストラトフォーのサーバの記憶データを消去する


紅莉栖「一応問題ないとは思うけど、次の2つの可能性も無くは無いから気を付けなくちゃいけない」


  ・ノートPCのパスをなんらかの方法で解除され、中のタイムマシン論文が敵の手に渡る

  ・『Amadeus』がタイムマシン論文の内容やノートPCのパスワードを敵に教えてしまう


倫子「これを達成した後はどうすればいいの? その、β5世界線で世界線が変動しなかった場合」

紅莉栖「私が自信をもって説明できるのはここまで。その後は不確定要素が多すぎて何とも言えない」

83: 2016/06/05(日) 14:10:59.14 ID:lXu7C81Yo

倫子「それじゃあ、どうやって1月2日へタイムリープするの?」

紅莉栖「少し特殊なタイムリープをしてもらうわ。名前が無いと不便だから、一応RSTL<リーディングシュタイナータイムリープ>って名付けた」

倫子「おお、あの紅莉栖が積極的に変な名前をつけるなんて」

紅莉栖「べ、便宜上だから。阿万音さんから色々あんたの恥ずかしい過去を聞いたけど、そういう厨二的なのじゃないからな」

倫子「ぐぅっ!? そ、そっか、それも全部……」

鈴羽「あ、あはは……」

紅莉栖「図にするとこんな感じね」キュッ キュッ


no title

図2. 世界線漂流図2<RSTL>

84: 2016/06/05(日) 14:11:39.26 ID:lXu7C81Yo
       ,, ,, 
その7ヽ(*゚д゚)ノ【RSTL<リーディングシュタイナータイムリープ>について】


紅莉栖「まず、基本的に長時間のタイムリープはできない。この技術には、根本的な欠陥があるの」

紅莉栖「タイムリープマシンはVR技術で脳の状態を電気信号として取り出して、別の脳にコピーする。けどね、仮に同じ人間でも、物理的に全く同じ脳なんてものは存在しないわ」

紅莉栖「48時間の間に生じた僅かな身体のギャップが、コピーされた意識と齟齬を起こす。きっとあんたはタイムリープ後、違和感に襲われてるんじゃない?」

倫子「肉体と精神のズレ、だよね。うん、結構きついよ、あれ」

紅莉栖「それもまあ、短時間ならそう悪影響はないわ。でももし、連続で時間を跳び越えたら?」

紅莉栖「精神と肉体のギャップは、どんどん大きくなっていく。あんたの脳は、どんどんと軋みをあげる」

倫子「(それでも綯やダルは成し遂げたんだよね……あの不完全なタイムリープマシンで)」

85: 2016/06/05(日) 14:12:32.26 ID:lXu7C81Yo

倫子「でも、たしか長時間タイムリープは『記憶データと神経パルス信号だけを跳ばして、OR物質は除去』すれば可能なんだよね?」

紅莉栖「だけど、あんたは完全なRS持ちだからそれはできない」

紅莉栖「『仮に完全なリーディングシュタイナー保持者がOR物質を除去して記憶データを過去へ送ると、Dメール送信と全く同じ現象が起こる。"リーディングシュタイナーが発動する"』」

紅莉栖「そもそも2011年の技術でOR物質だけを除去、なんてことはできないの。それが可能だったのはα世界線の2034年であって、β世界線の未来でも可能になるかはわからない」

倫子「なら、どうするの?」

紅莉栖「簡単に言うと、あんたのOR物質だけを転送する」

倫子「『記憶だけ』じゃなく、『OR物質だけ』……?」

紅莉栖「要は擬似神経パルス信号を添付しなきゃいいのよ」

紅莉栖「前頭葉からトップダウン検索信号が発生しなければ未来の記憶は思い出せないから意味が無い」

紅莉栖「でもOR物質の受信機は脳そのものだから、OR物質だけは受信される」

倫子「だけど、『長時間タイムリープの場合、OR物質の影響で、肉体と意識のギャップが脳全体に悪影響を及ぼす』んじゃなかったの?」

紅莉栖「通常の脳ならね。これが、完全なRSを持った人間の場合は話が異なる」

紅莉栖「『タイムリープの場合、受信側にもバックアップデータが存在してるわけで、記憶の修復力が働くにしてもそちらが優先される』」

紅莉栖「だから、完全なRSがある人間は、未来の意識を受信するだけ受信して、そのデータを無視することになる」

倫子「それなら、意味がないんじゃないの……?」

86: 2016/06/05(日) 14:13:45.35 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「『OR物質そのものがリープ先の意識に主観を移動させてるわけじゃない。あくまでも、世界線再構成の性質に起因する結果論』」

紅莉栖「RSTLでは、あんたの主観だけが移動することになる。ただし、修復力は受信側のOR物質にだけ100%発揮される」

紅莉栖「この時、記憶のバックアップは作用しないし、意識も人格も精神も変化しない。だから、肉体と精神のギャップによって脳に悪影響を及ぼすことがない。」

紅莉栖「言ってしまえば、セーブデータをロードするだけね。あんたはプレイヤーじゃなくてゲームキャラクターになって、神の視点は捨てることになる」

紅莉栖「だから、あんたは未来の記憶を思い出すことができない」

倫子「それならやっぱり、意味がない気がする」

紅莉栖「それでも、あんたのリーディングシュタイナーが完璧と呼べるほどのものだとしても――」

紅莉栖「2、3日の間、デジャヴを感じることが出来る可能性は0%じゃない」

倫子「……ど、どうして? 2、3日ってのは、OR物質のバックアップデータが完全にメイン記憶に取って代わられる時間、ってのはわかるけど」

紅莉栖「今まであんたのリーディングシュタイナーは『100%』って表現し続けてきたけど、訂正する」

紅莉栖「正しくは『5σ』。ちょっと嘘を吐くけど、言い換えるなら『99.9999%以上』ということ」

倫子「……アポロ計画でのシックスナインだよね。つまり、1000000回に1回しか事故が発生しない、ってことじゃなく、実際は98%強でしか避けられなかった事故の確率……」

紅莉栖「その事故が起こる可能性に賭ける」

87: 2016/06/05(日) 14:14:46.43 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「だいたい、有機的な情報を扱ってるのに、完全無欠なんてことはあり得ないのよ。デジタル情報でさえ、どこかにバグが発生する」

紅莉栖「100%を計量するのは、物理学では不可能よ。素粒子より小さな存在が想定されているんだから、その理由は説明するまでもないわね」

紅莉栖「その、素粒子レベルで存在する誤差の可能性に賭ける。この可能性は『絶対にゼロだ』って、誰も言えないの」

倫子「つまり、未来の記憶バックアップデータが修復されるっていう、限りなくゼロに近いけどゼロじゃない可能性に賭ける、ってことか」

紅莉栖「例えば、1月1日にタイムリープして、そこから再開するとするでしょ?」

紅莉栖「そこからあんたは『あれ、この状況、前にもあったような気が……』みたいなデジャヴが発生する可能性がある」

倫子「そんな不思議な状態になったら、私はきっと未来視をする。そうすれば、今ここにある私の記憶を過去へと持っていける。そういうことだねっ!」

紅莉栖「……ギガロなんちゃらとかいう超能力には頼りたくはないから、一応、未来予知しなかった場合のことも考えてある」

倫子「リーディングシュタイナーだって超能力なのに、何を今さら」フフッ

紅莉栖「私だってギガロなんとかやリーディングかんとかが科学的に説明できることはわかってるけど、自分で証明してないから現時点ではオカルトと一緒なの!」ムスーッ

88: 2016/06/05(日) 14:15:40.54 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「仮にすべての記憶を全く思い出せなかったとしても、あんたはまたここに戻ってくるだけなのよ」

紅莉栖「だから、1月2日にβ5世界線へと行けるまで試し打ちし続ければいい」

鈴羽「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。もしかしたら、既にリンリンがいるこの地平は、何百発も試射してるかもしれないね」

紅莉栖「というわけで、成功するまで繰り返せば、いずれノイズが発生して、β5世界線へと移動できるはず」

倫子「ゴリ押し、ってことかぁ……」

紅莉栖「……アインシュタインの名言に、こういうのがあるわ。『同じことを繰り返しながら、違う結果を望むこと。人それを"狂気"という』」

倫子「狂気……」

紅莉栖「冷静に考えれば、こんな作戦、頭がおかしいわ。たとえ可能性があるからって、挑戦しようなんて思わない」

紅莉栖「普通なら、ね。でも、狂気のマッドサイエンティストなら……それに、あんたは既に同じような選択をしたことがあるでしょ?」

紅莉栖「その結果、あんたは挫折したかもしれない。でも、もう一度、新たな可能性があるとしたら?」

倫子「……可能性があるとしたら、手を伸ばさずには居られない。それが、狂気だ」

鈴羽「良い顔してるよ、リンリン」

89: 2016/06/05(日) 14:17:02.76 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「ただ、問題がひとつある。通話に出るのは絶対に岡部じゃないといけないという点」

紅莉栖「岡部以外が岡部のスマホの通話に出ると、何も起こらないか、あるいはとんでもないバグが発生するかも」

倫子「そ、そんなことがあるんだ……」

鈴羽「それこそ、もっとひどい世界線へと変動しちゃうかもしれないね」

紅莉栖「ねえ岡部。1月2日以前で、絶対にあんたが自分のスマホの通話に出るって確信が持てるタイミングってある?」

倫子「……1月1日は1日中忙しかった。移動や着替え、みんなとの食事、その後はレイエスの襲撃があって気持ち悪くて倒れてたから、私がスマホに出ない可能性がある」

紅莉栖「12月31日以前へのタイムリープとなると、OR物質の記憶バックアップが1月2日の改変時までに完全に更新される可能性があるから避けたいところね」

倫子「……そうだ。1月2日、メイクイーンで私は萌郁にRINEを教えた。あの時なら間違いなく自分のスマホを握りしめてた」

鈴羽「タイミング的には、天王寺裕吾に協力を要請する直前か……」

倫子「ここなら、間違いなく私は通話に出る」

紅莉栖「ふむん……もう少し時間的に余裕が欲しいところだったけど」

紅莉栖「まあ、そこへ向けて試射して失敗したとしても、次の周回のあんたがそのタイミングで知らない番号から電話がかかってきたことを覚えていれば、今度はそこ以外へ飛ばすことができるか」

90: 2016/06/05(日) 14:20:37.68 ID:lXu7C81Yo

倫子「タイムリープして、β5世界線に行った後のことなんだけど、紅莉栖でもわからないんだよね……?」

紅莉栖「自信は無いと言った。けど、一応、仮説はある……」

紅莉栖「そこから向かうべきはβ1世界線かもしれない。12月15日の世界線変動時、スマホの電源のonoffが何を意味していたのかわからないけど」

倫子「あの時、私が悪い選択肢を選んでしまった可能性だね……α世界線漂流の時もそうだったから、今回もそうなのかも」

倫子「スマホの電源で世界線が変わるような事象と言ったら、Dメールやタイムリープの受信しか思いつかないよ」

紅莉栖「あるいは、それに関連したタイムトラベラーの行動の変化、ね。かがりさんか阿万音さんが、岡部の影響で行動が変わることになった可能性」

紅莉栖「あの時、中瀬さん、だっけ? に『好きな人は誰』って聞かれたんでしょ?」

倫子「そんなことまで話したの、鈴羽……」

鈴羽「どんな情報でも価値があるからね」

紅莉栖「実際、価値があるわよ。スマホの電源を切っていたあの時、あんたはなんて答えようとしてた?」

倫子「それは、もちろん……」ドキドキ

紅莉栖「『紅莉栖が好き』、よね。そこで次の連鎖反応が――」

倫子「……って、自分で言って恥ずかしくないの?」

紅莉栖「え? ……あぁっ!! ///」カァァ

鈴羽「そういうのいいから」ジロッ

91: 2016/06/05(日) 14:23:25.91 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「と、とにかくだな! そこであんたは紅莉栖が……モニョモニョ、って言ったはず」

紅莉栖「それによって行動が変化した未来人が居た」

倫子「えっと……私が紅莉栖のこと好きだからって、鈴羽が嫉妬して?」

鈴羽「馬鹿にしすぎだよ。あたしはシュタインズゲートを目指すために存在してる。私情を挟んだりしない」

紅莉栖「訂正する。あんたは、好きな人が紅莉栖だと言った、というより、ある人物ではないと言ったのよ」

倫子「ある人物……?」

紅莉栖「まゆりさんでしょ」ハァ

倫子「あっ……」

紅莉栖「岡部の好きな人がまゆりじゃないことを知った中瀬さんから、どういうわけかかがりさんの耳にその情報が伝わった」

紅莉栖「そしてかがりさんの行動が変わって、ストラトフォーが米軍に支配されるような未来へと変化した」

紅莉栖「かがりさんがストラトフォーを売った可能性。実際、こちら側の世界線では米軍がストラトフォーを操ってるしね」

倫子「でも、なんでそんなことを?」

紅莉栖「わからないの? 岡部がまゆりのことを好きで居続けるため、よ」

倫子「意味が、よく……」

92: 2016/06/05(日) 14:24:51.44 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「β1世界線では、2011年7月7日、まゆりさんが阿万音さんと一緒に過去へ跳ぶ可能性がある」

倫子「えっ……!?」

紅莉栖「簡単な推論よ。中瀬さんから岡部の好きな人が自分じゃないことを知ったまゆりさんは、岡部の好きな人……"私"、を助けに行こうとする。岡部のために」

倫子「そんな……」

紅莉栖「一応、β1世界線の2036年にまゆりさんは存在してるはずだから、可能性でしかないわけだけど、可能性を根本から消すためにかがりさんは動いたはず」

紅莉栖「つまり、タイムマシンの破壊……米軍辺りにタレこんで、ラジ館屋上にミサイルを打ち込むよう言った、とか」

倫子「さすがにトンデモ話な気がする……だって、どうやってかがりはラジ館屋上にタイムマシンがあることを知ったの?」

鈴羽「リンリン、言ってたよね。β1世界線では、ラジ館屋上を何者かに覗かれて、あたしが追いかけたことがあったって」

鈴羽「そいつは多分かがりだ。だからかがりはタイムマシンの場所を知っていた。このあたしにそんな記憶はないけどね」

93: 2016/06/05(日) 14:27:29.05 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「これによってストラトフォーの優位は崩れ、米軍がひとつタイムマシン論文に近づいたことになる」

紅莉栖「だけど結局、『Amadeus』の記憶からもノートPCからもタイムマシン論文は引き出すことができなかった」

紅莉栖「そこで、2036年に過去へ跳ぶことが確定しているかがりさん、かがりちゃん? を利用して、そっちのかがりちゃんの脳に『Amadeus』の記憶を入れることにした」

倫子「過去をやり直そうとした、と……」

紅莉栖「もしかしたら、魔笛のブレインウォッシングだけじゃなく、かがりさんの脳の、牧瀬紅莉栖の記憶への適合化も実行したのかも」

倫子「つ、つまり、かがりの脳が紅莉栖の記憶を受け入れることができたのは、未来の米軍の人体実験によるもの!?」

紅莉栖「未来の技術なんて検討もつかないけどね」

紅莉栖「そもそも未来で私の記憶をかがりちゃんの脳にダウンロードできてれば、過去へ跳ばれる前に問題が解決するわけだし」

紅莉栖「ストラトフォーの最後の抵抗か、あるいは真帆先輩の危険察知によって、私の『Amadeus』は削除されてたんでしょう」

紅莉栖「ノートPCとHDDのパスワードは、たとえ米軍でも解除できないはずだし」

紅莉栖「だから米軍は過去の可能性にかけた」

紅莉栖「こうして、β1以外の世界線のループが出来上がった。つまり、かがりさんが記憶を失ってラボを訪ねてくる世界線」

倫子「そういう一連の現象が確定したから、12月15日のあの瞬間、世界線が変動した、と……」

94: 2016/06/05(日) 14:29:44.25 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「そうなると、β5世界線からβ1世界線に移動するには、12月15日のあんたに、中瀬さんの質問に答えさせなければいい」

紅莉栖「内容はなんでもいい。『好きな人がまゆり以外だ』、とさえ言わなければいいのだから、Dメールが届くだけであんたは慌てて質問に答えずに済むでしょ」

紅莉栖「まあ、あくまで仮説に過ぎないんだけどね。証明するには実験する必要がある」

鈴羽「どっちにしても、スマホの電源が問題である以上、12月15日のリンリンのスマホになにかしらアクションをする必要があるだろうね」

紅莉栖「図にするとこんな感じ」キュッ キュッ

no title

図3. 世界線漂流図3<β1世界線へ>

95: 2016/06/05(日) 14:31:04.99 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「岡部がかつて経験したβ1世界線でのストラトフォーのサーバに記憶データがあったかどうかはわからない」

紅莉栖「だけど、β5世界線から事象改変によって再構成されるβ1の近傍世界線、新β1世界線ではストラトフォーのサーバには記憶データが無い、として再構成されることになる」

紅莉栖「レイエス教授による工作が無く、『Amadeus』の記憶データは普通にヴィクコンのサーバに残っている世界になっている。だから、かがりさんの脳に入れられる危険性は無いはず」

倫子「なるほど……」

紅莉栖「それで、もし仮にDメールを送ることで新β1世界線へと世界線が再構成されたなら、岡部はリーディングシュタイナーを発動することになる」

紅莉栖「新β1世界線では私のノートPCとHDDを破壊、あるいは確保する必要があるわ」

倫子「確保ってことは……他の組織の手に渡らないようにする、ってことだよね。それってつまり、他の組織を壊滅させろ、ってこと?」

紅莉栖「壊滅とまでいかなくても、収束によって他の組織が奪取不可能な世界線へと変動できればいいの」

倫子「第3次世界大戦が終わる頃まで紅莉栖のノートPCとHDDを守り切れればいいんだよね……」

紅莉栖「それが確定事項となる世界線まで世界線が変動しきれば、いよいよ中鉢論文を取り消すだけでシュタインズゲートへと変動することになる」

紅莉栖「今の私にできるのはここまで。1年間地下に引きこもって計画を立てても、ここまでしか助けられない。ごめんね、岡部」

倫子「……ううん。いつもありがとう、紅莉栖」ダキッ

紅莉栖「ちょ!? う、うん……」

96: 2016/06/05(日) 14:32:28.05 ID:lXu7C81Yo

紅莉栖「さ、準備はもうできてる。タイムリープマシンは隣の部屋に置いてあるから、ラボの開発室まで持っていけば使えるようになるはずよ」

倫子「なっ!? つ、作ったの!? どうやって!?」

紅莉栖「あのねえ、あんたに作れたものを私に作れないわけないでしょ?」ドヤァ

紅莉栖「まあ、ペケロッパでも粗大ゴミ状態の電子レンジでもないけどね。阿万音さんに頼んで上質なものを色々買ってきてもらったわ」

鈴羽「闇金に手を出しまくったよ。どうせ返す前に世界線は変動するし、ヤクザが未来の軍人に敵う訳ないしね」

倫子「うわぁ……」

紅莉栖「どういうわけか知らないけど、頭の中でおもしろいように組立が進んでいったのよね。もしかしたらα世界線でタイムマシンの母だった時の記憶を思い出してたのかも」

倫子「(そっか、たしか紅莉栖はOR物質を除いて長時間タイムリープをしてたんだから、2010年のOR物質に未来の記憶が上書きされてたんだっけ)」

鈴羽「父さんが1月15日にSERNに繋がってる直通回線を使えるようにしてあるから、あとは42型ブラウン管テレビを点けるだけで使えるようになる」

鈴羽「もちろん、その辺のやり方も充分習熟してるから、あたしに任せて」

鈴羽「善は急げだよ、リンリン」

97: 2016/06/05(日) 14:32:57.09 ID:lXu7C81Yo

鈴羽「誤報を送ったから、今ラボには誰も居ないよ。リンリンはこっち持って。私は重たい方を持つから」

倫子「え、えっと、紅莉栖は?」

紅莉栖「私は世間に存在を知られた瞬間アウトだから、ここに残る。最後まで一緒に居てあげられなくてごめんね」

倫子「……ううん。なら、ここでさよなら、だね……」

紅莉栖「またシュタインズゲートで会いましょう」

倫子「紅莉栖……」

倫子「(運命は、こういう形に収束するんだ……)」

倫子「(ねえ、"鳳凰院凶真"……結局私はやるしかないらしい。健闘を祈ってて)」

倫子「……エル・プサイ・コングルゥ」グスッ

鈴羽「感傷に浸っててもしょうがないよ。ほら、早くいこう?」

倫子「うん……待っててね、紅莉栖……」グシグシ

倫子「あなたを……救ってみせるから……」ウルッ

紅莉栖「……うん」ツーッ




紅莉栖「――いつまでも縛り付けてごめんね。私の大切な人」

98: 2016/06/05(日) 14:33:41.00 ID:lXu7C81Yo
未来ガジェット研究所


鈴羽「――準備完了。跳躍時間も入力済み。あとは放電現象を起こして、エンターキーを押すだけ」

倫子「……また跳ぶことになるなんて、思ってもなかった」

鈴羽「怖い?」

倫子「ううん。だって、何度でもやり直せるんでしょ? それに、失敗したらまた紅莉栖に会えるわけだし……」

鈴羽「むっ。ちゃんと成功してよ、リンリン」

倫子「わ、わかってるよ。ちゃんとやる……」

倫子「(記憶を失ったとしても、私は紅莉栖を救うだろう)」

倫子「(紅莉栖を救うという行動は、私の本能に深く刻まれているはずだから)」

倫子「……行こう。鈴羽、エンターキーを」

鈴羽「オーキードーキー」



カタッ

99: 2016/06/05(日) 14:34:21.47 ID:lXu7C81Yo

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    2011年7月7日  →  2011年1月2日
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100: 2016/06/05(日) 16:33:48.20 ID:lXu7C81Yo
2011年1月2日日曜日
メイクイーン+ニャン2


倫子「RINEを教えておくね。今後はこれで連絡を取ってほしい」ピッ ピッ

prrrr prrrr

倫子「あっ、ごめん。電話だ――――」ピッ

倫子「――――」

萌郁「……?」

フェイリス「オカリン? 大丈夫かニャ?」

倫子「え……?」

倫子「(あれ? 今の、なんだったんだろ。知らない番号から……イタズラ電話? それとも――)」

萌郁「それで……私に、何をさせたいの……」

倫子「あ、うん。えっとね……」

101: 2016/06/05(日) 16:34:54.55 ID:lXu7C81Yo

・・・

フェイリス「これからどうするニャン?」

倫子「もう少し仲間を増やしておきたい……けど、どうしようかな……」

倫子「(萌郁はラウンダーの中でも下っ端だし、FBで脅しておけば裏切ることはないだろう。何より、彼女はそんなことをする女じゃない)」

倫子「(だけど、天王寺さんはどうだ……? 娘のためなら人を殺せる自殺もできる、あの人に裏切られたら……)」

萌郁「……?」

倫子「ねえ、萌郁。FBに会いたい?」

萌郁「えっ……ま、待って……考えさせて……」

倫子「(……いや、相手は相当な手練れだ。FBクラスの人間を味方につけなければ、かがりさんも、ラボも守れない)」

倫子「(そのためには、別の世界線の情報で脅すしかない……さっきまでの私だったら、怖くてそんなことはできなかったと思うけど)」

倫子「(さっきの電話……あれは、もしかして未来の私がタイムリープに失敗した? 仮にそうなら何故タイムリープをしようと思ったのか)」

倫子「(……自分の選択を改めるためだ。だったら、しないようにしようと思った方を選択すればいい)」

倫子「これから私はFBに会いに行く。萌郁、後ろからこっそりついてきてもいいよ」

萌郁「…………」

102: 2016/06/05(日) 16:35:42.08 ID:lXu7C81Yo
・・・(中略)・・・
未来ガジェット研究所


倫子「(――ギガロマニアックスの力が使えれば、全力の未来予知で、細かいことが詳しくわかったんだけど)」


prrrr prrrr


倫子「(電話…… "紅莉栖"から?)」

倫子「(どういうこと? 『Amadeus』の乗っ取りが解除されたのかな?)」


prrrr prrrr


倫子「(そういえば、謎の電話はメイクイーンに居た時にもあった……これは何かの罠?)」

倫子「(もし、あの電話がタイムリープに失敗したものだったら……私は、一体どうしたら――)」


prrrr pr……


倫子「あ……切れた……」

倫子「(いったい、なんだったんだ……っ!? こ、この目眩は……っ!!)」クラッ

倫子「まさか、リーディングシュタイ―――――――――――――

103: 2016/06/05(日) 16:36:18.50 ID:lXu7C81Yo

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    1.06475  →  1.08116
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引用: 岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その3