104: 2016/06/05(日) 16:37:10.63 ID:lXu7C81Yo



最初:岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【その1】
前回:岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【その7】

第17章 存在証明のオートマトン(♀)

未来ガジェット研究所


倫子「――――ナー……」

倫子「(あ、あれ? どうして世界線が変動したんだろう……)」

倫子「…………」キョロキョロ

まゆり「真帆さん。はい、お茶どぞ~」

真帆「"どぞ~"? あ、ありがとう」

倫子「真帆……ちゃん……? (なぜラボに?)」

真帆「だからちゃん付けするなと……何? 岡部さん」

倫子「えっと……」チラッ

ダル「ん? ああ、今日はラボに泊まってもいいかってこと?」

ダル「いいんじゃね、真帆たん顔色も良くないし、ここ使えるようにしておくお」

倫子「えっ?」

ダル「ちょうど鈴羽もいないし、今なら貸し切りな件」

倫子「ちょっと、ダル。おいで」クイッ クイッ

ダル「お、おう?」
STEINS;GATE 15周年記念ダブルパック【Amazon.co.jp限定】デジタル壁紙 配信 - Switch

105: 2016/06/05(日) 16:38:24.74 ID:lXu7C81Yo
開発室


倫子「……今ね、私、別の世界線からリーディングシュタイナーで移動してきたの。どうしてかはわからないけど……」

倫子「だから、この世界線の出来事がわからなくなってる」

ダル「マ、マジかお……おk、こっそり説明するお」

ダル「昨日はみんなで神社に初詣に行ったんだお。そこで漆原家で新年会をやったんだけど」

倫子「(なるほど、ラボでやらなかったんだ……)」

倫子「その前に、『Amadeus』はどうなってる? 接続は回復したの?」

ダル「接続? えっと、どういうこと?」

倫子「この世界線では『Amadeus』は乗っ取られてない……?」

ダル「乗っ取り? ああ、こっちと似たようなことはあったんすな。乗っ取りはされてないけど、昨日、和光の研究所でガス漏れ事故が起きたらしいお」

倫子「事故? 正月早々?」

ダル「施設は当面立ち入り禁止。真帆たんはオフィスが使えなくなったから井崎の研究室を間借りすることになったんだって」

倫子「井崎って、私たちのゼミの?」

ダル「うん。それに加えて、今朝、真帆たんの泊まってるホテルの部屋が荒らされたらしいんだ」

倫子「(……この情報は私にとって初耳のはずだよね。私がさっきまで居た世界線では起こってない出来事のはず)」

倫子「(でも、どこか引っかかる……)」

倫子「陰謀だ……」

106: 2016/06/05(日) 16:40:16.24 ID:lXu7C81Yo

倫子「私の記憶だと、昨日ラボは襲撃された。ここでは襲撃されてないみたいだけど、合ってる?」

ダル「えっ? それって、α世界線の時のラウンダーみたいな?」

倫子「状況は似てる、けど犯人はたぶんレイエス教授を中心にした、米軍関係者」

ダル「べ、米軍!?」

倫子「しっ! レイエス教授ってのはヴィクコンの研究者だけど、たぶんスパイ。それで、比屋定さんの研究か何かを狙ってるんだと思う」

倫子「ガス漏れ事故ってのも多分誤報。研究所に人を出入りさせないことで、時間をかけてガサ入れするつもりなんじゃないかな」

ダル「うわマジすかそれ……さすがに世界の警察と喧嘩はしたくないわけだが」

倫子「ラウンダーだってお断りだよ……300人委員会とかいう秘密結社を敵に回したくはないって」ハァ

萌郁「何の……話……」

倫子「だからラウンうわあああああああっ!?!?」ビクッ!!

107: 2016/06/18(土) 15:43:54.94 ID:z1saAC7zo
談話室


倫子「お、お、お、おどかさないでよぉぉっ!!」ドキドキ

萌郁「……?」

ダル「えっと、桐生氏のおかげで真帆たん助かってよかったね、っていう話をしてたんだお」アセッ

真帆「次その呼び方をしたら訴えるわよ」

倫子「(萌郁のおかげ……?)」

真帆「ほんと、運が良かった。雑誌の取材を受けていてよかったわ」

萌郁「不幸中の……幸い……」

ダル「桐生氏が真帆たんをホテルのフロントで呼び出したことで、真帆たんは泥棒と鉢合わせなくて済んだんだよね」

真帆「それに、昨日からの騒動でろくに荷物の整理をしてなくて、大事なものは全部バッグに入ってたから何も盗まれずに済んだし」

萌郁「インタビューする為に……比屋定博士と部屋に行ったら……荒らされてた……」

倫子「間一髪だったんだ」

倫子「(もしかして、この世界線ではラウンダーが米軍をけん制してる? そのおかげで真帆ちゃんは助けられた?)」

倫子「(つまり、さっき世界線が変動したのは、SERNが私たちのタイムマシンの存在に気付いた上で米軍と対立することになったから、なのかな……)」

108: 2016/06/18(土) 15:44:52.58 ID:z1saAC7zo

倫子「そう言えば、かがりさんはどうしてるの?」

ダル「あー、かがりたんならもう岩手に着く頃じゃね?」

倫子「い、岩手?」

まゆり「家族の人に会えるといいね~」

倫子「家族!?」

ダル「ちょいちょい、オカリン。そんなあからさまに驚いてたらみんな不審がるっつーの!」ヒソヒソ

倫子「ご、ごめん……」シュン

ダル「ほら、るか氏のパパが言ってたっしょ? かがりたんの肉親かもしれない人が岩手に居るって情報が入ってきたって」

まゆり「るかくんと、るかくんのお父さんと、スズさんと4人で会いに行ってるんだよ~」

倫子「そ、そうだったね」

倫子「(とは言っても、戦災孤児で名前も無かった『椎名かがり』を知る人間が2011年に居る訳がない)」

倫子「(鈴羽の話だと『椎名かがり』が戸籍上誕生するのは2032年だったはずだ)」

倫子「(誤報? でも、それなら誰がなんの目的で……)」

萌郁「…………」

109: 2016/06/18(土) 15:45:44.61 ID:z1saAC7zo

倫子「(……こういう時こそ、未来視だね。昨日はどうしてかできなかったけど、今なら出来る気がする)」

倫子「(真帆ちゃんの隣に座って……)」スッ

倫子「比屋定さん。その、少しの間、手を握っていい?」

倫子「(敵が狙っているのはかがりさんと真帆ちゃん。彼女たちの視る未来が覗ければ……)」

真帆「……あの、岡部さん。あなたが私のこと、心配してくれてるのはわかる」

倫子「え?」

真帆「落ち着かせようとしてくれてるのよね。その気持ちはとっても嬉しいし、貴重なものだって思う」

真帆「だけどね? 勿論、別に嫌じゃないんだけど、その、困る、っていうか、あなたの気持ちには、その、応えられそうにないから……」

倫子「……えっと?」

ダル「百合展開ktkr?」

倫子「――ハッ!? いやいや! 違うから! そーいうのじゃないからぁ! うわぁん!」

110: 2016/06/18(土) 15:47:05.94 ID:z1saAC7zo

倫子「(ま、まあ、取りあえず後回しでいいか。そのうちタイミングを狙ってやってみよう)」ハァ

倫子「それで、何も盗まれなかったって言ってたけど、例のアレも?」

真帆「アレって……ああ、アレね。ノートパソコンとハードディスク。両方とも大丈夫よ、そこのバッグに入ってる」

倫子「(だっさいカバン……)」

ダル「真帆たんからパスを解除するよう頼まれたんだけど、僕もお手上げだったお」

萌郁「ノートパソコン……ハードディスク……」ボソッ


prrrr prrrr


真帆「ああ、ごめん。私のケータイ……"紅莉栖"からだわ」

倫子「えっ!? ……あ、そうだった。"紅莉栖"から通話がかかってきてもおかしくないんだよね」

Ama紅莉栖『先輩! 大丈夫ですか!? 乱暴なこととかされませんでしたか!?』

倫子「(そっか、一歩間違えば真帆ちゃんがとんでもない目に遭うところだったんだ……)」ゾクッ

Ama紅莉栖『あれ、岡部? なんで先輩と一緒にいるの? もしかしてあんたと先輩って、もうそんな仲なの!? おめでとうっ!』

倫子「二言目にはそれかっ! この脳内お花畑スイーツ(笑)がっ!」

111: 2016/06/18(土) 15:48:04.05 ID:z1saAC7zo

真帆「またその謎キャラ……」ジッ

倫子「……///」モジモジ

Ama紅莉栖『前から思ってたのよ……岡部がオリジナルの私に想いを寄せてくれてるのは嬉しいけど、いつまでもそのままで居るのは岡部の精神衛生上、良くないことだって』

Ama紅莉栖『きっとオリジナルの私も、岡部と先輩のこと、応援してくれると思いますっ!』グスッ

倫子「"紅莉栖"はどの立ち位置なの……」

真帆「双子の妹ポジションなんじゃないかしら。あと"紅莉栖"、そういうのじゃないからね?」


・・・


真帆「――というわけで、特に盗まれたものはなかったし、私は大丈夫だから」

Ama紅莉栖『ふむん……やっぱり、犯人の狙いは"私"のノートPCだったんでしょうか』

Ama紅莉栖『でも、それの存在を知っているのは、先輩と、私と、岡部と、あとそこのデブだけのはず』

ダル「ハァ、ハァ……いいよぉ、もっと罵ってくれてオーケーだよぉ……」

Ama紅莉栖『ホント、どうして美少女揃いのこのラボにこんな犯罪者予備軍が棲んでるんだか……』

倫子「む。頼れる犯罪者だからいいのっ」

真帆「(本当に橋田さんと岡部さんの関係が不思議だわ)」

倫子「(でも、そうだとしたらどうして紅莉栖のノートPCなんか狙うんだろう。中に一体なにが……?)」

112: 2016/06/18(土) 15:49:13.12 ID:z1saAC7zo

倫子「犯人の狙いはノートPCじゃない可能性もあるんじゃない?」

Ama紅莉栖『もうひとつ可能性があるとすれば、「Amadeus」を兵器転用するため……狙いは制御コードかもしれない』

萌郁「(制御コード……)」

ダル「制御コード? それって管理者パスワードみたいなもの?」

Ama紅莉栖『ちょっと違う。私の"秘密の日記"を開けるカギみたいなものよ』

Ama紅莉栖『「Amadeus」のシステムやデータの管理責任者はレスキネン教授だけど、制御コードを知っているのはこの世界でただ1人』

倫子「……比屋定さんだけ、ってことか」

真帆「でも、残念だったわね。どこにもメモなんかしてない。私の頭の中にしかないから」

萌郁「(比屋定博士の……頭の中……)」

倫子「でも、『Amadeus』の"真帆"の中には?」

Ama真帆『あるけど、そのデータを引っ張り出すことはできないわ。"秘密の日記"にしまった上で、通常記憶領域からは意図的に削除したから』

真帆「そういう風に設計したのは私よ」ドヤッ

倫子「ってことは、『Amadeus』の"真帆"が知ってる制御コードを引き出すには制御コードが必要……なるほどね」

ダル「……でももし犯人が実力行使するとしたら、今度こそ真帆たん、ハイエースされるんじゃね?」

真帆「ハイエース?」

萌郁「制御コードを吐くまで……博士を拷問……とか……」

真帆「まさか、冗談でしょ。……冗談よね? どうしてみんな深刻そうな顔してるの? え、えっ!?」オドオド

113: 2016/06/18(土) 15:49:51.19 ID:z1saAC7zo

真帆「……ごめんなさい、私が狙われてる可能性はゼロじゃないのよね。もっと注意する」シュン

真帆「でも、それなら今後、どうしたものかしら……」

まゆり「落ち着くまでラボにいるといいよ~」

倫子「……いや、ラボはやめた方がいい。鈴羽が居ない今、ここは安全とは言えない」

倫子「ダル。鈴羽に連絡して、早く秋葉原に帰ってくるよう言ってくれない?」ヒソヒソ

ダル「お、おう。わかったお。ただ、鈴羽にるか氏のパパを説得できるかどうか……」ヒソヒソ

倫子「(もしまた『Amadeus』が乗っ取られたら、やつらはここを襲撃してくるかもしれない)」

倫子「("紅莉栖"がまだ知らない場所で、絶対に安全な場所……)」

倫子「ねえ、比屋定さん。今日は私もあなたと一緒に泊まるよ。いい場所があるの」

真帆「ありがとう……で、でも、そのっ」モジモジ

倫子「……あなたを襲ったりしないよ、もう」

真帆「い、いや、そういうわけじゃ……ごめんなさい」

114: 2016/06/18(土) 15:50:38.59 ID:z1saAC7zo
秋葉原タイムズタワー
秋葉邸


フェイリス「……それで、みんなでうちに来たのかニャ?」

倫子「(かがりさんを匿ってもらった時は、本人が神社がいいって言うからああしたけど、本当ならここほどセキュリティのしっかりしている場所は無いんだよね)」

倫子「(ここに泊まるのも久しぶりだなぁ。あの時は幸高さんが居て……いや、それはこの世界線の記憶じゃないか)」ハァ

倫子「鈴羽が帰ってくるまででいいの。お願いフェイリス、力を貸してほしい」

フェイリス「ウニャァ、オカリンにそう頼まれると断れないニャァ。まあ、断るつもりなんてさらさらないんだけどニャ!」

倫子「ありがとう、フェイリス」ニコ

フェイリス「ニャニャ!? 今フェイリス、ドキッってしたニャ!? もしかして、フェイリスの心の中にあるペルセポネの花畑に一輪の百合の花がっ!?」ドキドキ

倫子「(α世界線の記憶かなぁ……嬉しいような、面倒くさいような)」フフッ

115: 2016/06/18(土) 15:51:09.95 ID:z1saAC7zo

フェイリス「奥の客間を使うといいニャ。数日と言わず、まほニャンが日本に滞在している間はずっと泊まっていけばいいニャ!」

真帆「ま、まほニャン……」

倫子「よかったね、まほニャン」ニコニコ

真帆「なんなの!? あなたやっぱり私のこと好きなの!? ねえ!?」

萌郁「……取材」

真帆「え? あ、そうだったわ。今日は本来それをする予定だったのよね」

フェイリス「モエニャンも一緒にお泊まりするといいニャン♪」

真帆「え」

倫子「え」

萌郁「……え……」

116: 2016/06/18(土) 15:53:42.61 ID:z1saAC7zo

倫子「(いや、どうなんだそれ? 確かに萌郁は武闘派だから、味方につければ強いし、私の本心としても仲間になってもらいたいけど……)」

倫子「(でも、ラウンダーとの繋がりもある……)」ゴクリ

フェイリス「モエニャン、どうかニャ?」

萌郁「……モ、モエ、ニャン?」

萌郁「(私は……FBに報告したりしないと……)」

倫子「……萌郁。仕事だと割り切って、付き合ってくれないかな?」

倫子「(いや、どうせパスはわからないんだ。ノートPCも制御コードも)」

倫子「(それに、私が側についてれば大丈夫でしょ。萌郁なら、きっと大丈夫。そう信じたい)」

萌郁「(……この人たちに、接近できれば……もっと情報が、手に入るかも……)」

萌郁「……構わない」

フェイリス「決まりニャ! フェイリスはひとりっ子だったから、お姉さん2人と妹ちゃんが増えたみたいで嬉しいニャ!」

倫子「へえ、フェイリスって私のこと、お姉ちゃんだと思っててくれたんだ」

フェイリス「ホントはお姫様だったんだけどニャー」プイッ

真帆「……ちょっと待って。妹ちゃんって私のこと!? 私のことなの!? ねえ!?」

117: 2016/06/18(土) 15:54:21.32 ID:z1saAC7zo
秋葉邸 リビング


倫子「(まほニャンもモエニャンも疲れていたらしく、あのあと2人は客間ですぐに眠りについた)」

倫子「(私はちかねさんの部屋を貸してもらうことになった。私物は一切置いてない部屋だったけど、たしか、半年スパンで海外に行ってるんだっけ)」

倫子「ちかねさんがいなくて寂しかったりする?」

フェイリス「……オカリン、ママと会ったこと、あるのニャ? 前に話してくれた、別の宇宙のお話かニャ?」

倫子「うん、まあ……直接は会ったことないけど、幸高さんから聞いた」

フェイリス「そっか……。この宇宙<ほし>に生まれたフェイリスは、両親を早くに亡くしてるのニャン」



倫子「え――――」ゾワワァ



倫子「(そ、そんな……嘘……なんで……!? バタフライ効果が……っ!?)」ドクン



118: 2016/06/18(土) 15:54:58.70 ID:z1saAC7zo

倫子「私が……私が、フェイリスのお母さんまで、ころ、頃し……っ!」プルプル

フェイリス「オカリンっ」ダキッ

倫子「っ……」ガタガタ

フェイリス「……ねえ、倫子ちゃん。なんでもひとりで背負おうとしないで」ナデナデ

フェイリス「倫子ちゃんはね、ママが生きてた宇宙の記憶を知ってるだけだから。それ以上でも、以下でも無いんだよ」

倫子「うぅっ……でも、どうしてこの世界線では、そんなことに……」グスッ

フェイリス「……ママはね、自殺、ってことになってる。パパの後を追う形で……」

倫子「え……?」プルプル

フェイリス「でもね、あのママが自殺なんてするはずない。警察の記録も色々おかしくて……」

フェイリス「きっとなにか大きな陰謀に巻き込まれたんだ、って、留未穂は思ってた」

倫子「陰謀……あっ!!」

119: 2016/06/18(土) 15:56:44.72 ID:z1saAC7zo

倫子「(そ、そうだよ! この世界線で幸高さんがIBN5100を手に入れておいて、ラウンダーに狙われないわけがない!)」

倫子「(身の危険を感じた幸高さんはIBN5100を絶対に見つからないようなところ――神社の宝物殿――に隠して、そんなもの持っていないと言い張った)」

倫子「(だけど、ラウンダーは生易しい組織じゃない。見せしめに妻を頃すことなんて、日常茶飯事なんじゃないか……?)」

倫子「(ちかねさんを殺害し、次は娘を頃すと脅すつもりだったんだろう。でも運悪く、その日その時すでに幸高さんは飛行機事故で――)」

倫子「(……そしてIBN5100は行方知れずとなった)」

倫子「私がエシュロンに捕捉されたDメールを削除するために、そんな出来事があったなんて……っ」プルプル

倫子「私の、せいで……私の、選択の、せいで……」ポロポロ

フェイリス「ううん、あなたの選択は正しかったんだよ」ギュッ

フェイリス「聞かせて欲しいな。留未穂のパパとママが生きてた、2010年の夏のお話を」

倫子「……ありがとう、フェイリス」グシグシ

倫子「……話すよ。その世界では、雷ネットABGCでフェイリスが優勝したり、綯がフェイリスの妹になったりね……」

フェイリス「うん……」

120: 2016/06/18(土) 15:57:25.10 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「(精神安定剤を飲んだ。それ以上にフェイリス……留未穂に抱き留められたおかげか、比較的すぐに落ち着いた)」

フェイリス「この家がそんなに賑やかだった世界があったなんて、考えるだけで心が温かくなるニャン」

フェイリス「……フェイリスの家族は、きっと今頃、57万光年離れたニャンニャン銀河系からフェイリスのことを見守ってくれているのニャ」

倫子「今日こうやって賑やかになって、嬉しかったりする?」

フェイリス「フェイリスはー、秋葉原のみんなに愛と希望を振りまく存在だから、みんなが楽しいのが一番なのニャン」

フェイリス「何を隠そう、フェイリスはご奉仕するためだけに生み出された、ジャッジメント・グランドクロスの鍵、だからニャ!」

倫子「そうだったね」フフッ

フェイリス「そうなのニャーン♪ フェイリスは明日も朝からメイクイーンで元気にご奉仕なのニャ!」

倫子「うん、がんばってね」ニコ

121: 2016/06/18(土) 15:58:08.68 ID:z1saAC7zo
2010年1月3日月曜日 朝
秋葉邸 リビング


倫子「……あれ? フェイリスはもう出かけたのかな」

黒木「おはようございます岡部様。朝食をご用意しておりますので」

倫子「ふぇ!? わ、悪いですよ……って、これが秋葉家の日常なのか」

黒木「お嬢様のご友人とあらば、私も嬉しく存じます故」ニコ

倫子「もしかして黒木さんって、幸高さんが亡くなってからはフェイリスの父親代わりを?」

黒木「滅相もございません。旦那様の代わりが務まる者など、この宇宙のどこにもおりません」

倫子「……そうですか」フフッ

倫子「あれ、あの2人は?」

黒木「まだお休みになられているようです」

倫子「しょうがない、起こしてやるか――――」


ピンポーン


倫子「っと、来客?」

黒木「私が出ますので……な、なんですかこの荷物は!?」

倫子「な、なんだこのダンボール箱の山は……っ!?」

122: 2016/06/18(土) 15:59:28.75 ID:z1saAC7zo
客間


ガチャ

倫子「おーいっ! 真帆ちゃ……うおわぁっ!? 何この部屋っ!?」

グチャァ…

真帆「あ、おはよう岡部さん」

倫子「きったな……下着脱ぎ散らかすとか、無いわ……」プラーン

萌郁「それ……私の……」シュン

倫子「ってゆーか、あのダンボールの山はなに!?」

真帆「ああ、昨日注文したのが届いたのね。これからここを研究室として使わせてもらうから、デスクやラックが必要かと思って」

萌郁「私が……ネットで買った……」

倫子「……服や髪にはお金かけないくせに」

真帆「研究費として落とせるものは別よ。私費にしたって、こういう時のために倹約してるんだから」ドヤァ

倫子「謙虚なんだか態度が大きいんだか……いや、身体はちっちゃいんだけどさ」

真帆「ちっちゃい言うな! 悪いけど、岡部さんも黒木さんも、搬入と組立、手伝ってくれない?」

倫子「え゛」

黒木「わ、私もですか」

真帆「知的生産活動に最適化された生活空間のためには必要不可欠でしょ?」

倫子「目的の代わりに大事なものが色々失われてるよ真帆ちゃん……」

真帆「真帆ちゃん言うなっ」

123: 2016/06/18(土) 15:59:57.26 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「つ、疲れたぁ……」グッタリ

黒木「お、お疲れ様でございました。い、今お茶を……」グッタリ

真帆「じゃあ桐生さん。そろそろ取材を始めましょうか」

萌郁「……わかった」

倫子「取材って?」

萌郁「…………」カチカチカチカチ ピロリン♪


萌郁【ビジネス誌の特集記事の制作を、アーク・リライトで進めているの。特集の内容は『人工知能研究の最前線』】


倫子「へえ、あの萌郁が……。うん、それじゃ、頑張って」

萌郁「…………」

真帆「…………」

倫子「…………」

萌郁「…………」

倫子「(しゅ、取材が始まらない!?)」

124: 2016/06/18(土) 16:00:34.50 ID:z1saAC7zo

倫子「なんで私がインタビュアーまで手伝わなきゃならないの……確かに内容自体は興味あるけど」

萌郁「ごめん……なさい……」シュン

真帆「条件にあてはまるのがあなたしか居なかったのだから、仕方ないじゃない。よろしくね」

倫子「ぐぬぬ……代わりにヴィクコン行ったら真帆ちゃんの助手にしてもらうからねっ」

真帆「真帆ちゃん言うなっ! まあ、100%保証はできないけど、頭の隅にくらいは置いておいてあげる」

真帆「それじゃ、何から始めましょうか――――」

125: 2016/06/18(土) 16:08:00.56 ID:z1saAC7zo

真帆「人工知能の研究は、コンピューターの誕生とほぼ同時期からスタートしているの」

真帆「世界初のノイマン型コンピューターとされるENIACが発表されたのが1946年。その頃からね」

倫子「"ノイマン"ってどこかで聞いたような……?」

真帆「フォン・ノイマン。チューリングやシャノンらと並んで、現在のコンピューター技術の基礎を築いた功労者よ」

真帆「同時に、人工知能の父と呼ばれるジョン・マッカーシーやマービン・ミンスキーにも影響を与えた人物」

真帆「まともなコンピューターが無い時代にもかかわらず、コンピューターウイルスの先駆けである自己増殖概念を証明した天才でもあるわ。いわゆるセル・オートマトンね」

倫子「オートマトン?」

真帆「例えば、萌郁さんのガラケーの『5』というボタンがあるでしょ? このボタンは状況に応じて数字の『5』になったり、仮名の『な行』、アルファベットの『JKL』を意味できる」

真帆「これが可能なのは内部の状態が変化しているから。同じ入力をしても、文脈を読み取って出力してくれる仕組みをオートマトン<自動人形>と言うの」

真帆「セル・オートマトンっていうのは、このオートマトンを利用した離散的計算モデルのこと。この文脈を読み取ることが出来るってのは人工知能にも重要な要素で――」

倫子「ま、待って。たしかノイマンって、抽象的自我とか、そういうのじゃなかったっけ? 世界は人間の観測に従属する、とかいう」

真帆「ああ、シュレディンガーの批判にあったアレね。日本人のシュレディンガー好きは異常だって聞いたことがあるけど、本当だったみたい」

126: 2016/06/18(土) 16:08:59.45 ID:z1saAC7zo

真帆「ノイマンはシュレディンガー方程式を使って、物質の状態が確定するような答えは導き出せない、ということを数学的に証明してしまったの」

倫子「物質の状態は確定していない。観測によって初めて世界は決定する、っていう話だよね」

真帆「1つの解答が抽象的自我という概念だったわけだけど、これは今のところ誰にも証明できていない」

真帆「同じように、この宇宙が天国にいるものすごいハッカーのコンピューターで動いているセル・オートマトンでできている、ということを誰も否定できない」

倫子「世界は電気仕掛け……」

真帆「オックスフォードの哲学者ニック・ボストロム教授や、MITの物理学者マックス・テグマーク教授あたりが、類似した説を提唱しているわ」

真帆「それほどまでに、この世界は数学的な法則に基づきすぎているの。まるでコンピューターのコードのように」

真帆「電気仕掛けの人工知能アルゴリズムの世界は当然、確率とは無縁の決定論的世界になるわけだけど、それが何を意味しているか」

萌郁「神はサイコロを……振らない……」

真帆「"Der Alte würfelt nicht." アインシュタインが不確定性原理への反論で使ったものね。そういうこと」

倫子「ど、どういうこと?」

127: 2016/06/18(土) 16:09:35.19 ID:z1saAC7zo

真帆「いわゆるコペンハーゲン解釈という、"不確定な状態は観測して初めて確定する"という考え方に対して、アインシュタインが異を唱えたものよ」

真帆「世界は決定論的であるべき、という主張ね」

萌郁「決まってはいるけど……人間にはわからないだけ……」

真帆「そのアインシュタインの『隠れた変数理論』は現在ではあまり支持されていない。もしそれが正しいなら量子力学を超えてしまうから」

倫子「つまりそれって、宇宙がまだ隠し持った理論があるはず、ってこと?」

真帆「そうなんだけど、その場合哲学的な問題が発生してしまう。現行の科学では手に負えなくなっちゃうのよね」

倫子「意識はどこにあるか、という問題に行きつく……か。ねえ、人工知能って意識を持ってるの?」

真帆「なかなか良い質問ね。それじゃあ、"人工意識"の話をしましょうか」

128: 2016/06/18(土) 16:10:20.90 ID:z1saAC7zo

真帆「多くの研究者は、脳内のなんらかの相互作用によって発生している意識を、コンピュータによってエミュレート可能だと信じているわ」

真帆「その最初の人物がアラン・チューリングね」

倫子「ナチス・ドイツの暗号機『エニグマ』を解読した人だよね」

真帆「彼はチューリングテストと呼ばれる人工知能問題を提起した。すなわち、機械は思考をするのか否か、という問題ね」

真帆「人工意識に必要な要素として、自己認識、自覚、個性、学習、期待などがあると言われている。一応、『Amadeus』はそのすべてを有していると言える」

真帆「だけど、それが本当の意味で"意識を持っている"とは言えないのよね。それを指摘する有名な思考実験にジョン・サールの『中国語の部屋』というものがあるわ」

倫子「たしか、外界と隔離した部屋の中に人を一人いれて、マニュアル通りの作業をさせるようなプログラムを与えて……」

倫子「中国語で指令を出して、中国語で応答が返ってきたとしても、その人が本当に中国語を理解しているかは不明、って話だよね」

真帆「『Amadeus』はたしかに意識を持っているかのように振る舞ってはいる。だけど、意識というものが未だ物理的に解明できていない以上、本当に意識があるかどうかはわからないのよ」

129: 2016/06/18(土) 16:12:58.21 ID:z1saAC7zo

倫子「もし意識を司る物質が、未知の素粒子で構成されているとしたら?」

真帆「量子脳理論の仮説のひとつかしら? でも、電脳世界は決定論の世界よ?」

真帆「0と1の世界で量子的な振る舞いをされたら、未知の理論を作り上げる必要があるわね」

倫子「未知の理論……」

真帆「話を戻すわ。仮にこの世界が決定論的なら、人工知能はどんな問題に対しても、完璧なプログラムさえあれば、予測し、対応し、解決できると思わない?」

倫子「うん、確かにそう思う。未来予知、ってことだよね」

真帆「おもしろいことを言うわね。たしかに、普段私たちが予定を立てて行動する、っていうのとは全然仕組みが違うから、むしろ未来予知っていう言い方のほうが正しいかもしれない」

倫子「だけどその場合、問題が発生すると思う。未来予知して判明した通りに動ければいいけど、プログラムに想定されてない変数が発生した時、対処できない」

倫子「そして、ありとあらゆる状況を想定したプログラミングをすることは……たぶん、不可能」

真帆「まさにそれが人工知能の限界なの。『フレーム問題』って知ってる?」


・・・・・・・・・・・・


130: 2016/06/18(土) 16:14:15.95 ID:z1saAC7zo

倫子「……なるほど。フレーム問題について、よくわかったよ」

真帆「『Amadeus』はフレーム問題を解決するための研究でもあるの。他に聞きたいことはあるかしら?」

倫子「そういえば、『Amadeus』には自己増殖機能はあるの? その、セル・オートマトン、だっけ」

真帆「そういうプログラムは施していないから、ない、と思う。たぶん」

倫子「たぶん? 作ったのは比屋定さんでしょ?」

真帆「人間の脳を真似して作ることと、原理を解明することは別なの」

真帆「仮説だったらいくらでもあるわよ。でも、数学的には証明出来ていない」

真帆「人間と同じように、あるいは生命と同じように、自分の子孫を残そうとする本能が『Amadeus』にもあるかどうかなんて、結果を観測しなければわからないし、観測したところで過程はわからない」

倫子「なるほど……。あるいは、人工授精みたいに、人工知能が外部で自己複製したり、とかは?」

真帆「人工授精ね……。そう言えば、紅莉栖が精神生理学研究所の実験に卵子を提供したことがあったかしら」

倫子「紅莉栖がそんなことを?」

真帆「脳波マッピングの被験者をこっちで用意するから、代わりにDNAシークエンシングをさせてくれ、っていう交換条件だったみたいよ。あ、ここは記事にしないでね」

131: 2016/06/18(土) 16:15:08.41 ID:z1saAC7zo

真帆「閑話休題。人間には生命倫理があるから下手に行動できないけれど、人工知能にはソレが無いとしたら。あるいは、無際限に増殖してしまうのかも」

真帆「まあ、そんなことになったら人工知能は人間を軽く超えてしまうのだけれどね。シンギュラリティ・ポイントを迎えてしまうのは、来年の話かもしれないし、2045年の話かもしれない」

真帆「そして、その物理現象を解明するのが私の研究。未解決の問題を全て解決して、真の人工知能を作るの」

真帆「インタビューとしてはこんなところでいいかしら」

萌郁「……これできっと、おもしろい記事になる……」

萌郁「岡部さんも、ありがとう……」

倫子「うん。私も興味深く聞かせてもらった。けど、疲れたからひと眠りしたい……ふわぁ……」

真帆「そう? じゃあ、私はここで資料をまとめているから、岡部さんはゆっくり休んでくるといわ」

132: 2016/06/18(土) 16:16:13.83 ID:z1saAC7zo
2010年1月4日火曜日 昼
秋葉邸 リビング


倫子「結局連泊してしまった……というか、快適すぎて申し訳ないです、黒木さん」

黒木「いえ、私もお世話し甲斐があるというものです」

倫子「(昨日1日鈴羽から連絡は無かった。一刻も早く秋葉原に戻って来てほしいんだけど……)」

真帆「さっきレスキネン教授から呼び出しがあって、今から電機大へ行くのだけれど、岡部さんも一緒に行く?」

倫子「いいの? 行く行く」

倫子「(……レスキネン教授。なにか引っかかるけど、でもレイエス教授と違ってあの人は大丈夫だと思う……)」

倫子「(この冬期休業期間に教授と会える機会があるのは少し嬉しい)」

133: 2016/06/18(土) 16:16:45.64 ID:z1saAC7zo

萌郁「私は一度……家に帰って、カメラを取ってくる……」

真帆「記事に載せる私の写真を外で撮るのよね」

倫子「萌郁ってまだあのボロアパートに住んでるの?」

萌郁「そう……。……っ!? ど、どうして、それを……!?」

倫子「(あっ)」

倫子「な、なんとなく! そんな気がしただけ! デジャヴっていうの? あはは!」アセッ

萌郁「……前に、話したのを……覚えてた、とか?」

倫子「そ、そう! きっとそう! ほら、私って記憶力いいから!」

真帆「……? えっと、電機大へは末広町から地下鉄で1駅だったかしら」

倫子「あー、でも総武線で行って御茶ノ水から歩こう。地下鉄だと電波入らないし」

倫子「(電波が無いと萌郁が会話できないからね……)」

134: 2016/06/18(土) 16:17:27.76 ID:z1saAC7zo
NR総武線車内


倫子「(何やらさっきから萌郁と真帆がRINEで会話しまくっている)」

萌郁「…………」

真帆「…………」

萌郁「……ひ、比屋定、さん……」

真帆「ええ、よろしくね、桐生さん」フフッ

倫子「名前で呼び合うことにしたんだ」

真帆「数少ない日本のお友達ですから。『博士』じゃ堅苦しいしね」

萌郁「……がん、ばる……」

倫子「私のことは『姉さん』って呼んでもいいよ」

萌郁「え……?」キョトン

倫子「あ、あれ? 私、変なこと、言った?」アセッ

真帆「かなり変だと思うのだけれど……。あなたより桐生さんの方が年上でしょ?」

倫子「い、いや、でも……ううん、なんでもない」シュン

萌郁「……岡部、姉さん……なぜか、言いやすい……」

倫子「そ、そうでしょ? よかった」ホッ

真帆「……?」

135: 2016/06/18(土) 16:17:56.28 ID:z1saAC7zo
東京電機大学神田キャンパス正門前


萌郁「私は……ここで待ってる……」

真帆「え? 別に、教授と会ってもいいわよ。ATFの時も会ったじゃない」

萌郁「……あの人、少し、怖い……」

倫子「あー……それ、わかるなぁ。害は無さそうだけど、身体が大きいしね」

真帆「そう。なら、どこか屋根のある場所で待ってるといいわ。もうすぐ雨が降りそうだし」

萌郁「……わかった」

136: 2016/06/18(土) 16:18:32.62 ID:z1saAC7zo
東京電機大学神田キャンパス11号館


真帆「ホント、岡部さんと一緒に来てよかったわ。建物の構造までは把握してないし、人に尋ねようにも肝心の人が居ないんですもの」

倫子「井崎研究室なら目をつぶってでもいけるからね。ここ、ここ」

真帆「扉になにか貼ってある?」


レスキネン【イイ男募集中。上野駅13番線ホームの男子トイレでお待ちしています】


真帆「…………」

倫子「…………」

真帆「教授ッテ素敵ナ人ナノヨ? 本当ヨ?」

倫子「比屋定さん、洗脳されてない? 大丈夫?」

137: 2016/06/18(土) 16:19:04.58 ID:z1saAC7zo
井崎研究室 (臨時 世界脳科学総合研究機構 日本オフィス準備室)


真帆「レスキネン教授?」

倫子「お邪魔します」

レスキネン「やあ、マホ、リンコ。よく来てくれたね」

倫子「今更なんですが、本当に私が居ても大丈夫ですか?」

レスキネン「もちろんさ。君は我々の研究の、重要なテスターだからね」

真帆「今『Amadeus』を立ち上げますね」カタカタ

倫子「……『Salieri』? ああ、『Amadeus』の"真帆"が言ってたIDか」

真帆「ちょっと! パスは企業秘密よ」

倫子「ご、ごめん」クルッ

Ama紅莉栖『先輩、あんまりつんけんした態度をとってると、岡部に嫌われちゃいますよ?』

レスキネン「そうだよ、マホ。ミス電大クラスの美少女なんだから、逃してしまったらモッタイナイよ?」

真帆「ふたりともどこかずれてるのよねぇ……」

138: 2016/06/18(土) 16:19:36.07 ID:z1saAC7zo

Ama紅莉栖『そんなこと言って、実はよろしくやってるんじゃないですか?』ニヤニヤ

真帆「そんなんじゃないって言ってるでしょっ!」

倫子「……でも今はひとつ屋根の下で寝泊まりしてるよね」ボソッ

Ama紅莉栖『ほ、本当!? やることやってるじゃないですか、このこの』

Ama真帆『"真帆"、あなた……』

真帆「ちょっ!? 確かにそうだけど、別におかしいところはないでしょう!? 同性よ同性!!」

レスキネン「人間は平等に互いを愛し合う存在だよ。たとえ同性であろうと、ね」

真帆「なんなの!? 私がおかしいの!? ねえ!?」

139: 2016/06/18(土) 16:20:28.48 ID:z1saAC7zo

レスキネン「さあ、それじゃ、今後のことについてのミーティングを始めよう」

レスキネン「なにかミュージックがほしいな。"クリス"、お願いできるかい?」

Ama紅莉栖『はい、教授』

~♪

倫子「これは……?」

真帆「……私と紅莉栖の、きっかけの曲よ」

倫子「きっかけの曲?」

真帆「彼女が大学院に進学したのは2006年。その頃から実質、私たちと同じ研究員になったの」

真帆「まあ、博士課程を修了して、脳科学研究所の正式な所属になったのは去年、2009年なのだけれどね」

真帆「紅莉栖が研究所に来てから2週間くらいした頃だったかしら。この曲のおかげで私たちは近づけたし、それからは私たちの間にはよくこの曲が流れていた」

レスキネン「懐かしいねぇ。実に懐かしい」

倫子「(……紅莉栖の過去、かぁ。知りたい……視てみたいなぁ)」キュィィィィィィィィン

倫子「(……っ!? こ、この感じ、過去視が発動して――――

140: 2016/06/18(土) 16:21:23.15 ID:z1saAC7zo
・・・
真帆・レスキネンの記憶
2006年某日
ヴィクトルコンドリア大学 脳科学研究所


メアリー「"しかしスーパールーキーも思っていた以上に若いわね。まだ14歳ですって?"」

ダミアーノ「"子どものお守りは慣れたものだろ? 俺たちは"」

真帆「"……そういうジョークは周りをよく確認してからにすることね"」フンッ

ダミアーノ「"おっと、怖い怖い"」ヘラヘラ

メアリー「"天才少女のお株を奪われてご機嫌斜めかしら"」ウフフ

レスキネン「"みんな、ちょっと集まってくれるかな。たった今、この研究所の一員になったクリス・マキセを紹介しよう"」

紅莉栖「"よろしく……牧瀬紅莉栖です"」

レスキネン「"みんなはクリスのことはすでに知っているだろう? 我々の世界では有名人だからね。マホ?"」

真帆「…………」

レスキネン「"彼女はマホ。この研究所の最年少入所記録をついさっきまで保持していた研究主任だ。同じジャパニーズ同士、色々聞くといい"」

紅莉栖「"よろしくお願いします"」

真帆「"……よ、よろしく"」

レスキネン「"マホ、彼女に一通り研究所の案内を頼むよ"」

141: 2016/06/18(土) 16:21:55.04 ID:z1saAC7zo
脳科学研究所中庭


紅莉栖「あの……日本語、大丈夫?」

真帆「ええ」

紅莉栖「よかった……実は不安だったの。いきなりこんな研究機関で他人と共同で研究をするなんて」

紅莉栖「でも心強いわ、同じ日本人がいて……」

紅莉栖「改めてよろしくね、ええと……」

真帆「比屋定真帆よ。『紅莉栖』でいいかしら?」

紅莉栖「ええ、よろしく真帆。でも、さっき教授は間違ったことを言ってたわ。最年少記録はまだ破られてないのにね」

真帆「……あなた、私より自分の方が年上だと思ってるのかしら」

紅莉栖「ええ。それが?」

真帆「私はあなたより3つも年上よ! 3つも!!」ドオン!!

紅莉栖「ふぇっ!?」

142: 2016/06/18(土) 16:22:44.93 ID:z1saAC7zo

紅莉栖「あの……真帆先輩? 怒ってます?」

真帆「怒ってないわよ!! あと、取ってつけたような敬語はやめなさい、逆に頭にくるわ!」

紅莉栖「うぅっ……でも、敬語はやめません」

真帆「……まあ、あなたは私と違って日本での生活が長いみたいだから、そっちのほうが話しやすいなら別にいいわ」

紅莉栖「ありがとうございます、先輩」

真帆「その"先輩"っていうのはやめなさい」

紅莉栖「いいえ、これは譲れません」

真帆「はあ?」

紅莉栖「……先輩って呼ぶの、実は夢だったんです」エヘヘ

真帆「ダメよ、それは却下。ここにはそんな上下関係は無いもの」

紅莉栖「いいじゃないですか、先輩」ニコ

真帆「だから先輩って言うなぁ!」

143: 2016/06/18(土) 16:23:59.35 ID:z1saAC7zo
2006年某日
脳科学研究所


真帆「再生、っと……」ポチッ

~♪

真帆「流していて集中できる音楽は、モーツァルトが作曲したものに限る」フフッ

紅莉栖「おはようございます」

真帆「ひぃやあああっ!?」バターンッ!

紅莉栖「す、すみません! そんなに驚かれるとは思わなくて……!」オロオロ

真帆「……いえ、こちらこそごめんなさい。集中してて」

紅莉栖「そうだと思ってました。でも、まだ作業を始めたばかりのようでしたから、お邪魔にはならないかなって」ニコ

真帆「……どうして私が作業を始めたばかりだと分かったの?」

紅莉栖「まだ第1楽章の頭でしたから」

真帆「……あなた、探偵としてもやっていけるんじゃない?」

紅莉栖「いえ、偶然ですよ。モーツァルトについてはそこまで詳しくなくて、この曲が好きなだけなんです」

144: 2016/06/18(土) 16:24:30.85 ID:z1saAC7zo

真帆「コーヒーでも飲む?」

紅莉栖「賛成です。先輩にいくつか質問したいこともありますし」

真帆「(なんだか昔飼っていた犬みたいな子ね)」

紅莉栖「先輩って、恋人はいますか?」

真帆「ぶっふぉぇっ!! げほっ、げほっ!!」

紅莉栖「居ないんですか?」

真帆「い、いないわよ! だってここ、そんな環境じゃないじゃない」

紅莉栖「えっ……あ、もしかして先輩、レOなんですか? 確かに研究所は男性の方が多いですから……」フムン

真帆「どうしてそうなるのよっ!!」

紅莉栖「ふふっ。冗談ですよ」

145: 2016/06/18(土) 16:25:08.86 ID:z1saAC7zo
2006年某日
脳科学研究所 会議室


紅莉栖「"――以上のように、各セクションを見直していただければ、進捗状況は大幅に改善すると思います"」

メアリー「"…………"」ギリッ

ダミアーノ「"ちょ、ちょっと待ってくれ! いくらなんでもそれは……"」

レスキネン「"彼女の提示した報告は理にかなっていると思う。クリス、彼のタスクを引き継ぐことは?"」

紅莉栖「"可能です"」

ダミアーノ「"このっ……!!"」

紅莉栖「"あともうひとついいですか? 先輩"」

真帆「"……?"」

紅莉栖「"先輩のプロジェクトも前段階からずっと進んでいませんね"」

真帆「"そ、それはまだ生体実験を行うのは拙速だからよ!"」

紅莉栖「"日本の利根教授チームのマウス実験のことは?"」

真帆「"もちろん知ってるわよ! でもこの計画とは直接の関係が――"」

紅莉栖「"オーケー。いまからそれについて説明しますね"」

真帆「……っ!」

146: 2016/06/18(土) 16:26:06.82 ID:z1saAC7zo
脳科学研究所実験室


真帆「(負けられない……! 彼女に、負けてられない……!)」


   『"Marvelous! あの日本人の天才少女はどこの研究所だって!?"』


真帆「(結果を……結果を出さないと……!)」


   『真帆、あなた最近無理してない? たまにはおばあちゃんに顔を見せなさい』


真帆「(私ひとりの力で……っ)」


   『先輩? なにか手伝いましょうか?』


真帆「(紅莉栖さえ、居なければ……!!)」ギリッ

147: 2016/06/18(土) 16:27:49.11 ID:z1saAC7zo

~♪

紅莉栖「やりましたね先輩っ!!」

真帆「ファッ!?!?」ビクン!!

真帆「え……あ……紅莉栖? あれ、夢見てた……? モーツァルト、流しっぱなし……」

紅莉栖「すごいじゃないですか! 完璧に実証できてますよ、素晴らしい実験データです!」

紅莉栖「おめでとうございます! すぐに報告書にまとめて朝のミーティングに間に合わせましょう! 手伝います!」ギュッ

真帆「ちょ、ちょっと……手、引っ張らないでよ……」

紅莉栖「なんですか? 先輩っ」ニコッ

真帆「…………」

真帆「(違う、私はこの子を妬んでいるんじゃない。憧れているんだ……)」

真帆「な、なんでもないわよ。それじゃ、データを表にまとめてちょうだい」

紅莉栖「はい!」

真帆「って、あなたはいつまで手を握ってるのよ!」

紅莉栖「あ、すみません、先輩」

真帆「先輩言うなぁっ!!」

148: 2016/06/18(土) 16:28:20.33 ID:z1saAC7zo
脳科学研究所 中庭


マウス「…………」

真帆「……ごめんね、無理をさせてしまって」スッ

真帆「私が結果を急いてしまったせいよね……やっぱり生体実験をするにはまだ早かったんだわ……」

紅莉栖「……でも、先輩の研究成果は人の役に立つはずですよ」

真帆「紅莉栖……」

紅莉栖「……変わったお墓ですね」

真帆「……亀甲墓<カーミナクーバカ>といって、家の形を模したものよ」

真帆「肉体は滅んでも魂はここで……ずっと私たちを見守ってくれているの……」

紅莉栖「……素敵な考え方だと思います」

149: 2016/06/18(土) 16:28:55.14 ID:z1saAC7zo
脳科学研究所 廊下


レスキネン『"ええ……昨日報告したように、うちの研究員がマウス実験に成功しました"』

レスキネン『"計画のロードマップはあの未来少女の「予言」通りに進んでいますよ。予定通り、これから人体実験の検討に入ります"』

レスキネン『"被験者第1号はもう決定していますよ"』ピッ

レイエス「"ハァイ、アレクシス。あら、通話中だった?"」

レスキネン「"やあ、ジュディ。いや、ちょうど終わったよ。それで、そちらは?"」

レイエス「"ああ、紹介するわね。彼が――"」

レスキネン「"ああ……なるほど。初めまして。ミスター・カトー"」

カトー「"お会いできて光栄です。レスキネン教授"」


・・・

150: 2016/06/18(土) 16:29:40.17 ID:z1saAC7zo

倫子「(――――最後の記憶は、何……っ!?)」ゾワワァ


レスキネン「――それで、我々がアメリカに帰ることも検討しているんだが――」

真帆「――時期は教授にお任せします――」


倫子「(未来少女……予言……レイエス教授……人体実験……そしてあの『カトー』とかいう男、どこかで……)」プルプル

倫子「(どういうわけか会話が、というか教授たちの記憶が全て日本語で理解できたけど、そんなことより、いったい、どういうこと……)」ワナワナ

レスキネン「ん? リンコ、寒いのかな? ちょっと暖房の温度を上げよう」ピッ

倫子「い、いえ、すいません、教授……」ガタガタ

倫子「(いや、レスキネン教授がレイエスに利用されてただけって可能性も……!)」

倫子「(わからない……わからないけど、レスキネン教授が危ない……っ!)」

151: 2016/06/18(土) 16:30:40.90 ID:z1saAC7zo
東京電機大学神田キャンパス正門外


真帆「……あなた、大丈夫? 顔色が優れないけれど……」

倫子「う、うん。ごめん、真帆ちゃん……」プルプル

真帆「だから真帆ちゃんと……どうしたの?」

倫子「……『Amadeus』って、米軍に狙われてたりするんだよね?」

真帆「……よくわかったわね。その通りよ。だけど、それがどうしたの?」

倫子「教授が、危ないかもしれない……」ゾワッ

真帆「あなた、たまに不思議なことを言うわよね。大丈夫よ、私たちだって何の対策もしていないわけじゃない」

倫子「違くて、えと……」

真帆「あまり心配しすぎるのもよくないわ。その、手を握れば落ち着くのだったかしら?」

倫子「えっ? あっ、うん。ごめんね、面倒な体質で」

真帆「ううん、いいのよ。色々お世話になってるし、私にできることがあるならそれは嬉しいことだわ」ギュッ

倫子「(丁度いい……このまま未来予知させてもらおう)」ギュッ

真帆「だっ、だけど、あれだからね! 変なアレじゃないから! あなたの気持ちを落ち着かせるためだけで――」

倫子「(うっ、真帆ちゃんが余計な思考をしてるせいで集中できない……えっと、分岐点は……)」キュィィィィィィィィン

倫子「(――ビジョンに映った場所は、さっきの研究室? 『Amadeus』を……削除っ!?)」

152: 2016/06/18(土) 16:31:38.12 ID:z1saAC7zo

倫子「(どういうこと……なんでそこが分岐点? この世界線の未来としては『Amadeus』を削除することが決まっている……!?)」

倫子「("紅莉栖"が、居なくなる……いや、あれは紅莉栖じゃない……)」

倫子「ねえ、"紅莉栖"が居なくなるなんてこと、あるのかな? もし外部に制御コードが漏れるくらいなら、削除しちゃう?」

真帆「……そうね。もしそんなことになったら、私はためらうことなく削除すると思う。紅莉栖も、"紅莉栖"もそれを望むと思うし」

倫子「……そっか。そうだよね」

真帆「あら、雨。やっぱり降って来たわね。研究室から傘を持ってきてよかった」

倫子「えっ? あ、いつの間にか傘持ってる」

真帆「はい、濡れちゃうから入って。ただでさえ体調良くないんだから」スッ

倫子「うん……ありがとう」

真帆「……べ、別に変な意味はないからね!?」

倫子「わかってるよ」フフッ

萌郁「…………」パシャ パシャ ピロリン♪

真帆「ぬあっ!? と、撮らないでよっ!」

倫子「後でその写真、私のスマホに送って頂戴。"紅莉栖"にあげるから」

萌郁「」コクッ

真帆「だから岡部さんは何がしたいのよぉっ!! もうっ!!」

倫子「……あれ? そのバッグ、カメラ入ってるんだよね? どうしてケータイで写真を?」

萌郁「……こっちの方が……慣れてるから……せっかく持ってきたけど、雨のせいで……記事用の写真、撮れなくなった……」

倫子「ああ、なるほど」

萌郁「…………」

153: 2016/06/18(土) 16:32:21.78 ID:z1saAC7zo

倫子「そういや、メガネは?」

萌郁「……っ。濡れちゃったから……しまってある……今、かける……」スチャ


ppppp


真帆「あら? フェイリスさんからRINEだわ」

倫子「あ、私も」

萌郁「わた……しも……」


フェイリス【ついにファティマ314番目の予言が現実のものとなってしまったニャ!】

【ファティマの予言は3つしかないでしょ】倫子

【何を言っているの?】真帆

フェイリス【とにかく大変なんだニャ! マンションに戻る前に、3人にやって欲しい重大なミッションがあるニャ!】

フェイリス【今日の夕飯を抜いておいてほしいのニャ♪ =°w°=】


真帆「…………」

萌郁「…………」

倫子「ま、まあ、緊急事態ってわけじゃなさそうでよかったね」ホッ

154: 2016/06/18(土) 16:34:00.07 ID:z1saAC7zo
秋葉原タイムズタワー
秋葉邸 寝室


倫子「(この部屋に入るのは2回目……もう随分昔のことのように感じる)」


――――――――――

   『……今は留未穂、って呼んでほしいな』

   『だって留未穂は、凶真を守る天使なんだもん』

   『凶真はね、私のお姫様だったんだよ……?』

――――――――――


フェイリス「夜更かしシンデレラ達の秘密の女子会――おねむで思わずドッキリ発言!?――ニャ!」

倫子「(このギャップだよ……)」ハァ

真帆「…………」

萌郁「…………」

フェイリス「フェイリスが用意したカワイイ衣装たちが光ってうなるニャ! お前を倒せと輝き叫ぶニャー!」ズビシッ!

倫子「それはダルの台詞じゃ……というか、こ、これを着ろと……」ゴクリ

倫子「(真帆ちゃんはいつかのパンダ、と思ったらちゃんとサイズが合ってるから別物か。萌郁はドスOベベビードール。猫娘は変わらず猫耳装備だ)」

倫子「(私はゲロカエルんの着ぐるみパジャマ……そりゃ、たまにまゆりの手作り着ぐるみパジャマでラボに寝泊まりしてたこともあったけど……)」

フェイリス「お腹のところをプニュってすると、鳴き声が出るのニャン♪」

プニュ < ゲコー

倫子「(なんだこれ……なんだこれ……)」プルプル

フェイリス「3人ともどうしたニャ? テンション低いニャー! せっかくの女子会なんだから、もっと楽しむニャー!」

155: 2016/06/18(土) 16:37:08.27 ID:z1saAC7zo

倫子「そういや、今日でお店のほうは落ち着いたの? 毎日出づっぱりだったみたいだけど」

フェイリス「ニャんのことかニャ? フェイリスはご主人様にご奉仕してるだけで、忙しいとかそういうことはないのニャン♪」

真帆「フェイリスさんってすごい人なのね……」

フェイリス「ん~? まほニャン、フェイリスに惚れちゃったかニャン? 女の子からの求愛はいつでもウェルカムニャ♪」

真帆「な゛ぁ゛っ゛!? ち、ちち、ちがうからぁっ! そんなんじゃないからぁっ!」アタフタ

フェイリス「そんな全力で拒否されると、さすがに傷つくニャン」ウルウル

真帆「あ、いや、拒否してるわけじゃ……でも、パジャマを用意してくれてありがとう。デザインはどうかと思うけど」

フェイリス「これから1週間、毎日別の動物のパジャマを用意してるニャン♪」

萌郁「私が……撮影する……」

倫子「私が"紅莉栖"に送信する、と」

真帆「や、やめてぇっ!?」

156: 2016/06/18(土) 16:39:09.10 ID:z1saAC7zo
・・・・・・・・・・・

倫子「つ、疲れたぁ……」グッタリ

倫子「(あの後、乳繰りあったりくすぐりあったりでとても疲れた)」

真帆「……ぐぅ、ぐぅ」zzz

倫子「(真帆ちゃんはなんだかんだで私たちに溶け込んだようだ。こうやってフェイリスと抱き合って幸せそうに寝ているところを見るとそう思える)」

フェイリス「ニャムニャム……」

倫子「(フェイリスは子どもがたくさん欲しいらしい。これから戦争が起きることを考えると……それについては言えなかった)」

倫子「(……萌郁はこの世界線でも小説を書いているらしい。α世界線で『あたしの虹』をちゃんと読んでおけばよかった)」

萌郁「……ねえ、さん……」zzz ギュッ

倫子「(ふごごっ!? い、息が苦しい! 萌郁の胸に包まれてしまった!?)」

157: 2016/06/18(土) 16:40:02.12 ID:z1saAC7zo

倫子「んぐぐ……ぷはっ!」キュポッ

倫子「(ようやく萌郁の凶悪な胸から脱出できた)」ハァ

萌郁「……すぅ……すぅ……」

倫子「(幸せそうに寝てはいるけど……)」

倫子「……私たちは、あなたの居場所になれてるのかな」

萌郁「…………」

倫子「私が覚えてる『あたしの虹』の一節にはね、こう書いてあったんだよ」

倫子「"今ひとり夢から目覚めても、心は閉じたまま。いつか繋がったら、居場所、きっと見つかるかな。何も話さないで。眠るように、ただそばにいさせて"」

萌郁「…………」

倫子「今の私には、あなたのお姉さんでいられる自信はないけど……」

萌郁「…………」

158: 2016/06/18(土) 16:40:35.46 ID:z1saAC7zo
2010年1月5日水曜日
秋葉原タイムズタワー 秋葉邸 廊下


倫子「ふわぁ……あの2人は、まだ寝てるか。フェイリスもまだかな?」

倫子「フェイリスー? 入るよー……って、あれ?」キィ



フェイリスの部屋


フェイリス「わたしは……、秋葉留未穂」

倫子「(ドレッサーの前で鏡を見つめてる?)」

フェイリス「そして、わたしは……」スッ

スチャ

フェイリス「フェイリス・ニャンニャン。……フェイリスニャ!」

倫子「猫耳を付けた!?」

フェイリス「留未穂という意識は、フェイリスというペルソナを得ることで、変性意識状態<アルタード・ステート>へと次第に遷移<シフト>していく……戦いの仮面なのニャ!」

倫子「お、おう……」

159: 2016/06/18(土) 16:41:16.60 ID:z1saAC7zo

フェイリス「フェイリスは猫耳を得てもうひとつの真実の姿を解放し、三千世界のすべての心を侵す影界侵魔<ボーサイト・ゼーレ>の魔手に抗うことすらできる、強い心と力を手に入れるのニャ」

フェイリス「それはまさしく、千輪天使<ガルガリン>の加護!」キラキラ

倫子「朝から元気だね……」

フェイリス「これがフェイリスの変容の儀式<トランセション・リチュアル>なのニャ。毎朝やってるニャ♪」

倫子「そ、そう……」

フェイリス「ニャウゥ~。厨二病全開だったオカリンに引かれると、フェイリスの立つ瀬が無いニャァ~」

倫子「あ、ごめん」アセッ

フェイリス「これからオカリンは戦場へ行くつもりかニャ? それならフェイリスから託宣<アドバイス>があるニャ!」

倫子「……ふふっ。なあに?」

フェイリス「相手とのやり取りの中で最も大切なのは、相手の思考を読むこと、ニャ!」

倫子「思考を、読む……」

160: 2016/06/18(土) 16:42:29.62 ID:z1saAC7zo

フェイリス「フェイリスは小さい時から、何千人、何万人の人生がかかった駆け引きを繰り返してきたニャン」

フェイリス「だから、現場のことも、バックで動く組織のことも、その人たちの考えてることも、なんとなくわかっちゃうのニャン」

倫子「そっか、そうだったね」

フェイリス「人間は自分が理性的に振る舞ってるんだって盲信する生き物ニャ」

フェイリス「でも、実際はそんなことはない。どこかで感情的になってるはずニャ」

フェイリス「だから、それを利用するのニャ。油断や慢心、怒りや動揺を引き出して、交渉を有利に進めていく」

フェイリス「最後に勝つことをイメージするニャ。最初のうちは圧倒的に不利に見える局面でも、それを使って相手を揺さぶって、最後には自分が勝てばいいのニャ!」

倫子「(雷ネットABグラチャンの時もそうだった……なるほど)」

フェイリス「これがフェイリスの魔眼"チェシャ猫の微笑<チェシャー・ブレイク>"の神髄だニャ!」

倫子「どうして、それを今?」

フェイリス「なんでかニャ? どうしても必要な気がしたのニャ。これこそが、運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択ッ! ニャッ!」シュババッ

倫子「あー……あはは」

倫子「(もしかしたらフェイリスもギガロマニアックスなのかな……)」

161: 2016/06/18(土) 16:45:54.21 ID:z1saAC7zo

倫子「それで、フェイリスは今日も早くからお仕事、じゃなくて、ご奉仕?」

フェイリス「行ってくるニャン♪」

倫子「私もお店を手伝いたいところなんだけど、真帆ちゃんが心配だから……」

倫子「(それに、過去視や未来視がちぐはぐで、情報が混乱してる。鈴羽、早く戻って来て……)」

フェイリス「フェイリスのことは大丈夫だから、プリンセスまほニャンをしっかり守ってあげてほしいニャン!」

倫子「……うんっ」



秋葉邸 リビング


倫子「(状況を整理しよう)」

倫子「(まず、犯人は米軍関係者。レイエスはスパイ。これはほぼ確定だ)」

倫子「(紅莉栖のノートPCのパスワードは誰にも分からず、今のところダルでも解除できないらしいので、ひとまず検討から外しておく)」

倫子「(今狙われているのは恐らく『Amadeus』の制御コード。これを手に入れて『Amadeus』の技術を兵器転用するのがメインの目的だろう)」

倫子「(『Amadeus』制御コードのパスを知ってる人間は世界でただひとり、真帆ちゃんだけ)」

倫子「(1月2日朝、彼女のホテルに泥棒が入った。目的はどこかにメモされているだろうパス。けど、パスはどこにもメモされていなかったため失敗)」

倫子「(つまり、次に考えられるのは真帆ちゃんを直接誘拐し、パスを吐かせるという作戦だ。なんとしてもこれは阻止したい)」

倫子「(そして私の過去視で得た情報。レスキネン教授がかがりさんのことを知っていて、レイエスと共同実験をしていた、という事実。これが一体なにを意味しているのか……)」

162: 2016/06/18(土) 16:46:52.59 ID:z1saAC7zo

倫子「(……仮にレスキネン教授とレイエスがスパイ的な意味で協力関係にあった場合、今日まで真帆ちゃんが誘拐されていないのは少し変だ)」

倫子「(真帆ちゃんの行動がすべて筒抜けになっているのだから、いつでも彼女を拉致できるはず)」

倫子「(だから、教授たちは研究レベルでは協力してるけど、利害関係は別、と考えるのが自然だろう)」

倫子「(だけど、もしレイエスが"未来少女"やタイムマシンのことを知っていたら……狙いは、前居た世界線と変わらず、かがりさんだったり、あるいはダルのタイムマシン研究なのかも)」

倫子「(そして未来視で得た情報によると、近いうちに真帆ちゃんは『Amadeus』をデリートする)」

倫子「(その前にレイエスが制御コードを手に入れてしまった場合、世界線は悪い方向に変動する。そうなるくらいだったら"紅莉栖"を削除してしまった方が良い……けど……)」

倫子「(……できれば、そんなことにはなりたくない)」グッ

163: 2016/06/18(土) 16:59:05.56 ID:z1saAC7zo
ブラウン管工房


天王寺「それで俺に助けを求めに来た、ってわけか」

倫子「はい……」ドキドキ

倫子「(この世界線ではまだ襲撃が起こっていないので、店長にはラウンダーのことも、米軍のことも、タイムマシンのことも一切話さなかった)」

倫子「(『比屋定さんやレスキネン教授が産業スパイに狙われているらしいので、変な奴らが居たら警戒してほしい』とだけ伝えた)」

天王寺「秋葉原自警団も、あの猫娘の旗振りのもとで治安維持のために動いてるんだろ? だったら、俺が出る幕はねえんじゃねえか?」

倫子「そこをなんとか……お願いします」

天王寺「じゃあ、俺の頼みを聞いてくれたら考えてやらないでもねえ」

倫子「た、頼み?」

天王寺「実はな……」

164: 2016/06/18(土) 17:00:21.46 ID:z1saAC7zo
ドン・キホーテ秋葉原店3階 下着売り場


倫子「(なぜ私がこのハゲとこんなところに……)」ガックリ

天王寺「いやあ、悪ぃな! 今度綯が中学生になるから、服も一回り大きい物を用意しようと思ってたんだが、この年頃の娘の下着をどうしていいか、俺にはサッパリわかんなくてな! ははは!」

倫子「は、はぁ……」

天王寺「いやな、その、赤飯とかどうしたらいいのかと思っててよ」

倫子「セクハラで訴えますよ……と言いたいところですけど、真帆ちゃんのためなら仕方ない」ハァ


|д゚)ヒョコッ
綯「(……どうして倫子お姉様とお父さんがふたりで女性モノの下着売り場に?)」


天王寺「――愛する者のためなら、金を出し惜しむ気はねぇ!」


綯「(あ、愛する者!? まさか、倫子お姉様とお父さんって……!)」プルプル

165: 2016/06/18(土) 17:01:11.74 ID:z1saAC7zo

綯「お、お父さん! 倫子お姉様っ!」タッ タッ

天王寺「おおっ!? 綯!?」

倫子「綯!? あ、いや、その、これはねっ」アセッ

綯「ここでふたりでなにしてるの?」(真顔)

天王寺「なにって、別に……」キョドキョド

綯「なんだか、怪しいよ」ジッ

倫子「な、綯こそどうしてドンキに!?」

綯「包丁の研ぎ機を買いに来たの……安いやつ……」(無表情)

倫子「(ほ、包丁……)」ゾクゾクッ

綯「ちゃんと話してお父さん! 私の目を見て!」ウルッ

天王寺「と、とにかく落ち着け! な!?」

綯「落ち着いてなんていられないよ! だって、2人で、女の人の、し、下着を買おうとしてるなんて、フツーじゃないもん!」

天王寺「なんて説明すればいいんだか……なあ、岡部! お前さんからもなんか言ってやってくれよ……って、いねえし!! 逃げやがったな!!」


倫子「(付き合ってられない!)」ピューッ


天王寺「お、お父さんは仕事があるからな! じゃあな!」ダッ

綯「あ、お父さん! ……逃げた。なんで逃げるの? やましいこと、してたから?」ゴゴゴ

166: 2016/06/18(土) 17:01:41.71 ID:z1saAC7zo
秋葉原タイムズタワー 
秋葉邸 リビング


倫子「(ひどい目に遭った……)」グッタリ

真帆「……おはよう。ふわぁ」

萌郁「……おは……よう……」

倫子「もうお昼だけどね。ふたりともおはよう」

黒木「すぐ朝食をご用意いたします」

真帆「岡部さん、午前中は何をしてたの?」

倫子「えっ? あ、うん。ちょっと方々に連絡を、ね。まほニャンは?」

真帆「その呼び方はやめて……ハァ。すぐやることがあったから、明け方に仕事してたのよ。それで今起きたの」

萌郁「私も……手伝ったよ……姉さん……」

倫子「そうだったんだ、お疲れ様」ニコ

萌郁「……えへへ……」トゥンク

167: 2016/06/18(土) 17:02:20.68 ID:z1saAC7zo

真帆「ごちそうさま。それじゃ、私まだやることあるから」

黒木「お部屋のクリーニングやベッドメイキングなど、いかがいたしましょうか」

真帆「い、いえ、そんな、タダで宿泊させてもらってる身で、申し訳ないです」

倫子「私も手伝うよ。まほニャンの飼育日記つけること以外やること無いし」

真帆「人をハムスターみたいにっ! それからまほニャン言うなとぉっ!」ウガーッ

真帆「……黒木さん、お言葉に甘えさせてもらうわ。主に岡部さんをこき使ってあげて」

倫子「ぐっ、まほニャンのささやかな抵抗っ」

黒木「それでは失礼して……」


ガチャ

客間


黒木「な、な、な……」プルプル

倫子「どうしたんですか黒木さ……な、な、な」プルプル

真帆「ん?」

萌郁「……?」

黒木&倫子「「なんじゃこりゃぁぁぁあああ!?!?」」

168: 2016/06/18(土) 17:02:50.37 ID:z1saAC7zo

・・・

まゆり「それでまゆしぃが呼ばれたんだね……。それにしても、すごい汚部屋<おへや>だねぇ」ヒエー

倫子「衛生的な部分は大丈夫みたいだけど、とにかくモノだらけ……まるでハムスターの巣みたい」

真帆「失敬ね。機能的と言ってほしいわ」

萌郁「便……利……」

倫子「フェイリスにも相談したけど、やっぱり片付けようって話になったから。まゆり、手伝って」

まゆり「うーん、でもね、まゆしぃとオカリンと黒木さんだけじゃ、1日じゃ終わらないよー?」

倫子「た、たしかに……」

まゆり「こういう時はね、お掃除軍曹を呼ぼう!」

倫子「お、お掃除軍曹?」

169: 2016/06/18(土) 17:03:18.03 ID:z1saAC7zo
ブラウン管工房


まゆり「綯ちゃん、トゥットゥル~♪」

綯「トゥットゥ……あ、倫子お姉様」ジッ

倫子「またここか……もしかして、お掃除軍曹って、綯のこと?」

まゆり「あったり~♪ 綯ちゃんはね、とってもお掃除が上手なんだ~」

綯「……お姉様。私のこと、邪魔、ですか?」ウルッ

倫子「は?」

綯「私、捨てられちゃうんですか? 要らない子なんですか? お母さん、私、どうしたら……えぐっ……ぐすっ……」

まゆり「わあ~、綯ちゃん、泣かないで~!」ヨシヨシ

倫子「(ど、どうしたの突然? もしかして、α世界線の記憶が……っ!?)」ビクッ!!

倫子「ちょっ!? 綯、包丁しまって!! その手に持ってる包丁しまってぇっ!!」

綯「私から、お父さんを取らないでよぉっ! この、泥棒猫ぉっ! 掃除してやるぅっ!」ブンッ

倫子「(ヒ、ヒィィィィッ!!)」

170: 2016/06/18(土) 17:04:13.11 ID:z1saAC7zo

天王寺「あぶなっ!? 綯っ、包丁を振り回すな!」ガシッ

倫子「よ、よかった、父親が戻って来てくれたっ」ホッ

綯「こうしてやるぅぅっ!!」ブンッ ブンッ


・・・


綯「……つまり、私の下着を買ってたの?」

倫子「あと防犯ブザーもね。ほら」スッ

天王寺「誤解だって、わかってくれたか?」

綯「そ、そうだったの……ごめんなさい、お父さん。ごめんなさい、倫子お姉様」

天王寺「ほっ。わかってくれたらいいんだ」

綯「でも、下着のことまで考えるのはどうかと思う」

綯「ハッキリ言って、キモイ」

ガチャーン!!

天王寺「ぐがあああああっっ!!」(白目)

倫子「(いや、そうなるだろ)」

天王寺「綯ぇ~っ!! お父さんのことを、嫌わないでくれぇぇええぇっ!!」グニャァ

171: 2016/06/18(土) 17:05:09.44 ID:z1saAC7zo

綯「部屋の汚れは心の汚れ、って、お母さん、よく言ってたから」ニコッ

倫子「(β世界線には橋田鈴は居ない。だから、綴さんが殺される原因は無かったはずなんだけど、どういうわけか綴さんは若くして亡くなっていたようだ)」

倫子「(βの綯にも妹――結――が居ないことから、綴さんの亡くなった時期は一緒なのだろう)」

倫子「(それがSERNに殺されたものなのかどうかはさすがに聞いていない。というか、今の私にそれを確認する術はない)」

倫子「(綯の記憶から母の想い出が消え去っているα世界線と、記憶に残っているβ世界線と、どちらが良かったのだろうか……)」

倫子「(ともかく、先の一件はどうやら水に流してくれたらしい。そこでマッシロになってる筋肉ハゲのことは放っておこう)」

倫子「(それにしてもこの子、思い込みだけで暴走する癖があるみたいだな……この子に陣頭指揮を任せて大丈夫かな?)」ブルッ

まゆり「それじゃ、みんなでお掃除しよーう!」

倫子「うん。片っ端から声をかけてみよう。ダル、カエデさん、フブキ、由季さん……って、由季さんはバイトか」

綯「あと、お父さんも来てね! それじゃ、帽子取ってくるねー!」タッ タッ

倫子「……帽子?」

172: 2016/06/18(土) 17:05:48.26 ID:z1saAC7zo
秋葉原タイムズタワー 
秋葉邸 リビング


綯「私が訓練教官のテンノージ先任軍曹である! 口でクソたれる前と後に"綯様"と言え!」

倫子「(伽夜乃の時のアレか……)」

綯「私は厳しいが公平だ。人種差別は許さん。黒豚、ユダ豚、イタ豚、すべて平等に価値が無い!」

綯「そこのスキンヘッド。名前は?」

天王寺「ブ、ブラウン二等兵です、綯様」

綯「ふざけるな! メザシとピーマンが嫌いなくせに、一人前にもじゃもじゃ頭に憧れておって!」

天王寺「お、おうっ!?」

綯「本日より"つるつる雪だるまさん"と呼ぶ! 良い名前だろう、気に入ったか?」

天王寺「綯様、はい、綯様……」

倫子「(だいぶ私怨がこもってるな……ってか、どんな教育してるんだよ親父……)」

カエデ「な、なんだか、ドキドキしてきちゃったわ……!」ハァハァ

倫子「いや、これ以上店長をいたぶるのはやめてあげて?」

173: 2016/06/18(土) 17:06:43.47 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「(軍曹の指示のもと、夜まで掃除は続いた。店長は精神的に疲弊したのか一足先に工房に戻った)」

綯「なんだかテンションが上がっちゃって……ごめんなさいでしたっ!」ペコリ

フェイリス「謝ることないニャン! 今日は本当に助かったニャ! ありがとニャン♪」ギュッ

綯「はわわっ!」アタフタ

倫子「元はと言えばあの2人のせいなんだけどね……」ジーッ

真帆「あーあ、せっかくの機能美が……」

萌郁「なんだか……落ち着かない……」

黒木「今夜は皆さんのために腕によりをかけて料理を作りましたので、心行くまでお楽しみください」

フブキ「わーい♪ やったー!」

174: 2016/06/18(土) 17:08:22.01 ID:z1saAC7zo

フブキ「はーい軍曹、あーん♪」

綯「その呼び方やめてください、お胸がボーイッシュなお姉ちゃん……」

フブキ「はぁっ!? だ、だだ、誰からそんな言葉を!?」

まゆり「えっへへ~♪ スズさんから2016年頃の流行語を教えてもらったのです」

フブキ「マユシィまでフェイリスちゃんみたいなデムパを……」

カエデ「あんまり小さい子ををいじめちゃダメよ? フブキちゃん」

フブキ「私っ!? くっ、このゴージャスルームだとカエデがお嬢様に見える……あっ、ピアノが置いてある! カエデ、弾いてよ!」

綯「カエデお姉ちゃん、ピアノ弾けるの? すごーい!」

カエデ「綯ちゃんのほうが色々すごかったわよ? 私に教えてほしいくらい」ウフフ

フェイリス「フェイリスは小さい頃、ピアノを習ってたのニャン。フェイリス専用のキーボードを持ってたりするのニャン」

カエデ「え? なら、この部屋のアップライトピアノは?」

フェイリス「もう随分弾いてないニャ」

カエデ「(さ、さすがお金持ち……!)」ゴクッ

綯「ピアノ弾いてー!」

フェイリス「ニャフフ。連弾としゃれ込むニャ?」ニヤリ

カエデ「モーツァルト、K448、『2台のピアノのためのソナタ』でもやりましょうか?」ニヤリ

倫子「な、なんだこの少年誌のバトル前みたいな雰囲気は……」




Tips: 2台のピアノのためのソナタ
1台のピアノで連弾も可能

175: 2016/06/18(土) 17:08:52.09 ID:z1saAC7zo

~♪


フェイリス「ハァッ……ハァッ……」

カエデ「フゥッ……フゥッ……」

綯「すごーい! かっこいいー! ブラボー!」パチパチ

フェイリス「……!」ガシッ

カエデ「……!」ガシッ

倫子「(猫科同士の友情が芽生えたらしい)」

倫子「って、あれ? まほニャンは?」

まゆり「まほニャンはねー、お仕事の電話するって言って、お部屋に戻ったよー?」

倫子「……って、スマホ置いていってる。持ってってあげるか」

176: 2016/06/18(土) 17:10:23.13 ID:z1saAC7zo
客間


倫子「真帆ちゃん、スマホ……どうしたの?」

真帆「ふぇ? あ、ううん、なんでもないから!」グシグシ

真帆「……ちょっとね、紅莉栖のこと、思い出しちゃって」

倫子「……ああ、モーツァルト」

真帆「私は映画のサリエリのように、紅莉栖を生き急がせて、結果的に氏に追いやってしまったのかも知れない」

倫子「……真帆ちゃんの気持ちと紅莉栖の氏に、直接的な因果関係はないよ」

倫子「(だって、本当は私が紅莉栖を……っ)」グッ

真帆「わかってる。迷信じみたことだってことも。けれど……」ウルッ


コンコン ガチャ


萌郁「……綯さんを……そろそろ帰らせないと」

倫子「……そうだったね。私が送っていくよ」

真帆「あ、私も行くわ。少し夜風に当たりたい、かも」

萌郁「……比屋定さん、大丈夫?」

真帆「……ええ、大丈夫」

真帆「ごめんなさい、岡部さん。さっきの話は忘れて」

倫子「……わかった」

真帆「聞いてくれて、ありがとう」



萌郁「(……あれ? 比屋定さん、スマホ……部屋に、置き忘れて……)」

萌郁「(持って行って……あげないと……)」

177: 2016/06/18(土) 17:11:22.70 ID:z1saAC7zo
裏路地


倫子「いい、ふたりとも。いくら夜が遅くて人が少ないからって、かけっこしたらだめだよ?」

倫子「(どうしてもα世界線での記憶がよぎって、この2人を自由にさせたくない)」

まゆり「は~い」

綯「はい、倫子お姉様っ」

倫子「昼間とは性格が逆転してるなぁ、この子……」

真帆「ふふっ。保護者してるのね、岡部さんも。そういう顔の岡部さん、初めて見た」

倫子「……余計な心配、してるだけなのかも知れないよ」

倫子「(本当はあるはずのない記憶のせいで、私は余計なことをしているのかもしれない)」

倫子「(あの夏の、この世界線の唯一の記憶は、7月28日の出来事だけ。そして真帆ちゃんは、その日の紅莉栖の氏を自分のせいだと思い始めている)」

倫子「……ねえ、真――比屋定さん。私、あなたに言わなきゃならないことがあるの」

倫子「……紅莉栖の、ことで」プルプル

真帆「えっ……」

倫子「あなたにずっと、嘘を吐いてた。本当はね……」

倫子「紅莉栖を、紅莉栖を頃したのは、本当は――――」



ブロロロロロ キキーーーッ!!



倫子「っ!?」

178: 2016/06/18(土) 17:11:52.54 ID:z1saAC7zo

倫子「(黒塗りのバン!? な、なにっ!?)」プルプル

覆面A「…………」タッ タッ

覆面B「…………」タッ タッ

ライダースーツの女「…………」

倫子「(レイエス……!? しまった、このタイミングで!!)」ガクガク

倫子「そうだっ! 綯っ! アレをっ!」

綯「っ!! はいっ、お姉様っ!!」プチッ


キュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイキュイ!!


ライダースーツの女「ッ!?」

倫子「(防犯ブザーが役に立った……!)」

覆面A「"Freeze!"」ガチャッ

真帆「な……銃!?」

倫子「ひっ……!」ガクガク

天王寺「なんだおめえら、人の店の近くでうるさくしやがっ――――っ!!」

綯「お、お父さんっ!」

179: 2016/06/18(土) 17:12:44.97 ID:z1saAC7zo

天王寺「なるほど……おめえら、ここは任せろ」

ライダースーツの女「…………」

倫子「で、でも、わた、私……ぁ」プルプル

まゆり「オカリンッ!」

倫子「――――っ!!」ドクン

倫子「(そうだ……そうだよ……私は、もう2度と、同じ失敗をしたくない……っ!)」グッ

倫子「……真帆ちゃん、逃げるよっ!!」ガシッ

真帆「ちょっ!?」タッ タッ

倫子「(よしっ、なんとか足が動いてくれた……っ!)」タッ タッ

倫子「(やつらは制御コードを知ってる真帆ちゃんを殺せない……そして私は2025年まで氏なないけど……!)」タッ タッ

倫子「(足を撃たれでもしたら、アウト……っ!)」タッ タッ

真帆「ま、まゆりさんたちはっ!?」タッ タッ

倫子「あの2人なら大丈夫っ! FBに任せれば大丈夫だからっ!」タッ タッ

180: 2016/06/18(土) 17:14:51.16 ID:z1saAC7zo
大ビル裏 ロッカー付近


倫子「ここなら人目に付きにくい……」ハァ ハァ

真帆「な、なんで、こんなことっ……」プルプル

倫子「フェイリスに連絡した。今から自警団の人たちで警戒にあたってくれるらしい。ダルと、あと一応鈴羽にも」

倫子「(萌郁には、助けを求めるとラウンダーに筒抜けになる可能性があるから連絡できなかった。まあ、FBがもみ消してくれる可能性はあるけど……)」

真帆「お、岡部さん、すごいわね、あなた……」

倫子「す、すごくないよ……まだ身体が震えてる……」プルプル

真帆「ううん、だからこそ、すごいわ」ギュッ

倫子「真帆ちゃん……」

真帆「真帆ちゃん言うな……」

181: 2016/06/18(土) 17:16:46.06 ID:z1saAC7zo

ガサガサッ

??「百合の花を咲かせているところ、失礼するよ」

倫子「っ!? あ、あなたはっ!」

真帆「えっ――――」クルッ

レスキネン「しっ、静かに」

倫子「……教授。あなたは、味方ですか、敵ですか」ゴクリ

真帆「へ?」

レスキネン「……さすがリンコ、冷静な判断だ。だけど、その答えはもう出ているんじゃないかな」

倫子「……この状況を理解していて、こんなところまでやってくる。ということは、教授も――」

倫子「敵に、狙われているんですね……」

レスキネン「そういうことさ」

182: 2016/06/18(土) 17:18:05.33 ID:z1saAC7zo

レスキネン「私はさっきまでミスター・イザキ♂と2人きりでしっぽりディナーを楽しんでいたんだが、銃を持った連中に邪魔されたんだ」

倫子「(確定だ。現時点で、レスキネン教授は敵に狙われている。その意味では私たちの味方だ)」

真帆「で、でも、どうして? 犯人の狙いは私じゃないの?」

倫子「敵は教授も制御コードを知ってるものと思っているのかも知れない」

倫子「あるいは、教授を人質にして真帆ちゃんを……とか。そしたら厄介なことになるね」

真帆「な、なるほど……」

レスキネン「目的が今までわからず動きようがなかったが、連中の狙いが『Amadeus』本体ならば話は早い」

レスキネン「大学のネットワークストレージ上に残っている、『Amadeus』への接続プログラムを消去する」

レスキネン「そうすれば、私たち以外の人間が『Amadeus』に手出しすることはできなくなる。私が拷問されてアカウントを乗っ取られでもしない限りは、ね」

レスキネン「それが終わり次第、私たちはステートへ帰ろう。リンコは警察に保護してもらうべきだ、いいね?」

倫子「(……警察はあんまり信用できないけど)」

レスキネン「マホ、今スマホを持っているかな? 君のスマホからならそれが実行可能なはずだ」

真帆「す、すみません……置いてきちゃいました……」

レスキネン「なら、すぐ仮オフィスへ向かおう。あそこからでも、ストレージにアクセスできる」

真帆「……わかりました。今すぐオフィスに行きましょう」

倫子「(間に合え……! 敵に先回りされたらマズい……!)」

183: 2016/06/18(土) 17:18:37.36 ID:z1saAC7zo
東京電機大学神田キャンパス 井崎研究室


倫子「……大丈夫、誰もいません」

倫子「(2人にとっては慣れない場所でも、私にとっては通い慣れた道だ。ここまでどう移動するのがベストか、足りない頭を振り絞って考えた)」

レスキネン「ふう……どうやら先回りはされていなかったようだね」

真帆「一応、岡部さんに言われた通り、後ろにも気を配っていたけれど、つけられてる様子はなかったわ」

倫子「(だからと言って安心はできないよね……)」ゴクリ

レスキネン「マホ、急ごう。作業を頼むよ」

真帆「はい!」

184: 2016/06/18(土) 17:19:24.87 ID:z1saAC7zo

真帆「…………」カタカタカタカタ

レスキネン「当然、リンコのスマホからも『Amadeus』には接続できなくなる。テスターの件もなくなってしまうね、申し訳ない」

倫子「い、いえ、非常事態ですから、仕方ないですよ」

真帆「"Salieri"……」ピタッ

レスキネン「マホ? どうしたのかな?」

真帆「あ、いえ、ユーザー名を見たら、紅莉栖のこと、思い出してしまって……」

レスキネン「サリエリ……そう言えば、クリスが前にこんなことを言っていたよ」


・・・・・・

   『私がアマデウスだとしたら――』

   『――サリエリは、真帆先輩ですね』

・・・・・・


真帆「……っ!? 本当ですか!?」

レスキネン「ああ」

倫子「(……今のって"真実"なの?)」

185: 2016/06/18(土) 17:20:04.41 ID:z1saAC7zo

レスキネン「マホ? 大丈夫かい? 顔色が悪いが」

真帆「……作業を続けます」カタカタカタカタ

真帆「……準備できました。『Amadeus』システムへの接続プログラムを、一時的に全て消去します」


レイエス「――その必要はないわ」


BANG!!


レスキネン「がはっ……」バタンッ

真帆「教授っ!?」

倫子「な……なぁ……っ」プルプル

倫子「(胸の辺りを一撃で……)」ガクガク

レスキネン「…………」

倫子「し、氏んでる……」

真帆「な、なんてことを――」

186: 2016/06/18(土) 17:21:10.22 ID:z1saAC7zo

レイエス「動かないで」カチャッ

真帆「レイエス、教授!?」

レイエス「お久しぶりね、マホ。リンコ」

倫子「……やっぱり、あなたか」ガクガク

倫子「……真帆ちゃんのあとをつけてラボの場所を確認したのも、ホテルを荒らしたのも……」ワナワナ

倫子「さっき黒ヘルかぶって、誘拐しにきたのもぉっ!!」プルプル

レイエス「頭の良い子は好きよ」ンフ

倫子「(そうか、この世界線では元日からかがりさんが岩手に行っていた……だからラボの襲撃が無かったんだ)」

倫子「(柳林神社でレイエスがかがりさんの居場所を確認できなかったから……)」

倫子「(レイエスは間違いなく"未来少女"を知っている。未来の情報を持っているということは、やつの行動は世界線の確定事項に抗える……っ!)」

倫子「(やつの意志次第で、世界線が大きく変動する……!)」ゾワワッ

Ama紅莉栖『……先輩? どうしたんです?』

真帆「……レスキネン教授が殺されたわ。この女にね」ギリッ

Ama紅莉栖『そんなっ!?』

187: 2016/06/18(土) 17:21:58.53 ID:z1saAC7zo
一方その頃
秋葉原 万世橋


フェイリス「一体、あいつらなんなんだニャ!? 街中に変な人たちが右往左往してるのニャ!」タッ タッ

フェイリス「一応黒木たちと自警団の人たちには動いてもらったけど、いつの間にかもえニャンも帰ってるし……」キョロキョロ

フェイリス「フェイリスの愛したこの秋葉原を、あんな奴らに好き勝手にさせるわけには――」


萌郁「…………」


フェイリス「あ、もえニャン! ……もえニャン? どうしてライダースーツなんか着てるニャン……?」ゾクッ

萌郁「…………」

フェイリス「(目が泳いで……っ!? チェシャー猫の微笑<チェシャー・ブレイク>で分かるのは……っ!!)」

フェイリス「フェイリスたちに、嘘を吐いてた……!?」ドクン

フェイリス「ニャーッ!? こ、これは、どういうことなんだニャ……!?」プルプル

萌郁「……どういうこと……とは……?」

188: 2016/06/18(土) 17:23:00.36 ID:z1saAC7zo

フェイリス「もしかして、コレをやったのは、もえニャン!? なぜこんなひどいことを……」プルプル

萌郁「("コレ"……。フェイリスさんには、ラウンダーが比屋定さんに探りを入れてたこと、バレてる……?)」

萌郁「(……そしてその情報が、米軍に漏れてしまったことも……)」

萌郁「……こうなってしまったのは、必然……今更、どうにもならないこと……」

萌郁「……諦めなさい……」

フェイリス「返すニャ! フェイリスの平穏を、今すぐ返すのニャァ!」ヒシッ

萌郁「(……私の、せい……?)」ドクン

萌郁「……ふたりは、どこに……?」

フェイリス「いっ、言うわけないニャ! 絶対に教えニャい――」


prrrr prrrr


萌郁「(比屋定さんのスマホに着信? いえ、これは……)」スッ

Ama真帆『あなた、桐生さんね? オリジナルの私と岡部さんたちは、今――――』

萌郁「……"東京電機大学のレスキネン教授のオフィス"……そう」タッ

フェイリス「あっ!? ま、待つニャ! 行かせないニャ!」

フェイリス「もしもしダルニャン!? もえニャンが、もえニャンがぁーっ!」

189: 2016/06/18(土) 17:23:55.63 ID:z1saAC7zo
東京電機大学神田キャンパス 井崎研究室


倫子「(お、落ち着け私……冷静に思考しろ……)」ブルブル

倫子「("相手の思考を読む"……フェイリスから教えてもらったこと。油断させて、相手を揺さぶって、隙を突く……!)」ワナワナ

真帆「レイエス教授、あなたは『Amadeus』を軍事転用するつもりなのねっ!?」

レイエス「必要なのは制御コードよ」

レイエス「今の状態では、たとえデータをまるごとコピーしたとしても、この生意気なAIはワタシの言う事を聞いたりしないでしょう?」

レイエス「さあマホ、あなたの大事なお友達に生きていてほしかったら、"クリス"が隠し持っている秘密の日記の鍵を開けなさい」

倫子「(どうする……私は氏にはしないけど、この局面、どう切り抜ければ……っ!)」

真帆「……っ、わかった、わ……」

Ama紅莉栖『先輩……』

190: 2016/06/18(土) 17:25:51.49 ID:z1saAC7zo

真帆「らーらら、らーら、らーらら、らーら……」

倫子「……?」

Ama紅莉栖『っ!?』

レイエス「ワオ。『Amadeus』の制御コードが、モーツァルトのメロディだなんて、随分しゃれてるじゃない」

倫子「そ、そうなの!? だめっ、比屋定さんっ! 今ここで解除したら――――」

Ama紅莉栖『……声紋確認。確認完了』

倫子「っ!?」

Ama紅莉栖『本バッチコマンドは「Amadeus」システムの不可侵領域ストレージロックの強制解除、および、それに伴う最高管理権限保持者の再設定を行うものです――』

倫子「(ああ……制御コードが入力されてしまったんだ……)」

倫子「(このまま……世界線が変わってしまう……)」ガックリ

191: 2016/06/18(土) 17:26:40.80 ID:z1saAC7zo

倫子「……あれ? 世界線が、変わらない……?」

倫子「(どういうこと? この世界線では一応、分岐点までの間に『Amadeus』が誰かの手に渡ることはないはずだけど)」

倫子「(……私、なんでそんなことがわかるんだっけ。あれ……?)」

レイエス「これで『Amadeus』の最高管理者はワタシねっ! "Yes"! AI戦士の誕生はもうすぐよ……!」

Ama紅莉栖『更新に約15分必要です――――15:00:00――――』

倫子「カウントダウン……そっか、これが0になった時、世界線が……」

レイエス「マホ、ご苦労様」ガチャッ

真帆「っ……」ビクッ

倫子「ちょっと!? なんでよ、どうして真帆に銃口を向けるの!?」

真帆「……騙したのね」ギロッ

レイエス「たいした価値も無い自身の命と引き換えに、『Amadeus』を差し出すような奴は、氏んだ方がマシよ」

倫子「この……クズが……っ」プルプル

倫子「(この世界線では真帆ちゃんはまだ氏なないはず……だけど、もし殺されたら世界線がさらに悪い方向へ転がってしまう……!)」ガクガク

レイエス「あなたも後で頃してあげるから、それまで大人しく待っていなさい」ニコ

192: 2016/06/18(土) 17:27:26.12 ID:z1saAC7zo

倫子「わ、私を先に撃ちなさい……っ」プルプル

真帆「お、岡部さん!?」

レイエス「へえ、自己犠牲の精神。美しい友情ね。そういうの、嫌いじゃないわ」

レイエス「まあ、どっちが先に氏のうとどうでもいいのだけれど、あなたの意志を尊重してリンコを先に逝かせてあげる」スチャッ

倫子「……ちゃんと脳天狙いなさいよ」ウルッ

倫子「(私の生存収束はアトラクタフィールドを超えるほど強力なもの……なら、レイエスは私を頃すことができない……)」

倫子「(私が殺せなかった瞬間、レイエスは驚いて隙ができるはず。その隙に……けど、怖いぃっ!)」ポロポロ

レイエス「強気な言葉のわりに震えちゃって、かわいい」ンフ

真帆「岡部さんっ!!」ウルッ

レイエス「そんなに氏に急ぎたいなら、お望み通り頃してあげるわ。脳髄を撃ち抜いて、一撃でね!」

倫子「……できるもんなら、やってみ、なさい、よぅ」ガクガク

レイエス「……氏ね」カチッ

真帆「だめっ、やめてぇぇっ!! いやぁぁぁぁああっ!!」


カチッ


193: 2016/06/18(土) 17:28:09.28 ID:z1saAC7zo

カチッ カチッ カチッ


真帆「……へ?」

レイエス「っ!? "Jam!?" そんな、バカなっ!!」カチッ カチッ

倫子「(やっぱり……これが、"収束"の力……っ!!)」プルプル

倫子「今っ!! 真帆ちゃんっ、逃げてぇっ!!」ウルウル

真帆「で、でも、あなたがっ!!」

倫子「私はいいからっ!! もう、私は腰が抜けて動けないから、あなただけでもっ!!」ポロポロ

倫子「(変動後の世界線で真帆ちゃんが既に氏んでいた、なんてのは、絶対イヤだよっ!)」

真帆「……っ!」ダッ 

レイエス「外へ逃げてもワタシの仲間に捕まって終わりよっ! 残念だったわねっ!」


ガチャ


萌郁「……外に、誰も……いない……私が……無力化したから……」

倫子「もえかっ!!」ウルッ

194: 2016/06/18(土) 17:30:49.00 ID:z1saAC7zo

レイエス「……ふんっ! 銃が使えなくても、組み伏せてあげるわっ!」

萌郁「……未来ガジェット4号機『モアッドスネーク』。ラボから……もってきた……」

倫子「(……! そういやダルが使い方とか説明してたっけ……)」

レイエス「っ!? た、対戦車地雷!? まさか、自爆する気!?」

倫子「い、いけ、萌郁っ! 爆発させろっ!!」

萌郁「姉さん……オーキー……ドーキー……」ピンッ


ボォォォォォォォォォォォォォン!!


レイエス「な、なにこれ……げほっ……ただの、煙幕……水蒸気? くそッ!!」

レイエス「……逃がしたか。まあいいわ。そっちは仲間がなんとかしてくれるでしょ」

レイエス「あと15分もすれば、すべては終わる……」フフフ

195: 2016/06/18(土) 17:31:21.82 ID:z1saAC7zo
東京電機大学 廊下


倫子「も、萌郁……お姫様抱っこしてくれて、ありがとう……」プルプル

萌郁「姉さん、軽い……比屋定さん、こっち、ついてきて……」タッ タッ

真帆「ひ、人が……!」

覆面男A&B「「…………」」グッタリ

倫子「こいつら、さっき会った覆面男だ……」ゾワッ

萌郁「大丈夫……スタンさせただけ……」

真帆「桐生さんって、一体何者!?」

萌郁「エレベーターは……停止させてる……階段で、降りる……」

真帆「でも、どうしてあなた、ここまで……」

萌郁「比屋定さんと……姉さんを……助けたいと、思ったから。私の居場所を……少しでも守りたかったから……」

萌郁「だから……助けに、来た……」

倫子「萌郁……っ」ウルッ

萌郁「部屋の場所は、『Amadeus』の比屋定さんから……教えてもらった……」スッ

真帆「あ、私のスマホ……あの子たち、裏でそんなことを……」

196: 2016/06/18(土) 17:31:51.74 ID:z1saAC7zo

ダッ ダッ ダッ パララッ パララッ


倫子「っ! 階段の下から敵がっ!」

萌郁「隠れて……! 姉さん、下ろすね……」ヨイショ

萌郁「この場所は……私が、守る……」ガチャッ

パラララッ パラララッ

真帆「きゃあっ!」

倫子「壁越しの撃ちあい……っ!」プルプル

萌郁「比屋定さん、銃、撃ったことは……!?」

真帆「練習場でなら……っ!」

萌郁「これ、持って……後ろから来たら、撃って……!」

真帆「え……えっ……」プルプル

倫子「お、落ち着いて、真帆ちゃん。敵の体に当てなくても、威嚇射撃だけでもできればっ」

真帆「わ、わかったわ」チャキッ

197: 2016/06/18(土) 17:32:47.32 ID:z1saAC7zo

真帆「(ダメ……やっぱり撃てない……っ!)」プルプル

真帆「っ!! やっぱりサリエリはサリエリね!!」

倫子「真帆ちゃん!?」

萌郁「それは違うッ!」

倫子「萌郁っ!?」

真帆「ふぇっ!?」

萌郁「……間違えた……」

倫子「えっと……?」

萌郁「サリエリも、モーツァルトも、互いを尊敬し合っていた……」

真帆「っ!!」

倫子「ああ、そういう……。真帆ちゃん、これは"紅莉栖"から聞いた話なんだけど――」


―――――

   『いいえ、気付いてませんでしたよ、私のオリジナルは。むしろ真帆先輩に嫉妬してたくらいです』

   『もちろん、それ以上に尊敬していました。研究者としても、先輩としても、1人の女性としても』

―――――

198: 2016/06/18(土) 17:33:25.94 ID:z1saAC7zo

真帆「なんてこと……私、戻らなきゃ。あの子を、助けなきゃ……!」

倫子「えっ? まだ"紅莉栖"が助かる道が残ってるの!?」

真帆「ええ! 実はね――――」ゴニョゴニョ

倫子「……な、なるほど。そういうことだったんだ」

萌郁「っ! 敵が、多すぎる……!」パラララッ パラララッ

倫子「でもまずは、こっちをどうにかしないと……!」


ダッ ダッ ダッ ダッ


萌郁「増援!? それも、今まで居た敵の比じゃない……そ、そんな……」

倫子「いや、この足音は……っ!!」





「「「「「倫子ちゃーーーーーーーーんっ!!!!!」」」」」



199: 2016/06/18(土) 17:41:41.31 ID:z1saAC7zo

倫子「みんなの声だっ!!」パァァ

真帆「えっ? えっ!?」


シンパA「倫子お姉様をっ! 我らがミス電大をっ! 守るッ!!」

シンパB「あんたたちっ! 倫子ちゃんを氏ぬ気で守りなさいっ!」

ラグビー部「俺たちのスクラムで道を切り開くぜッ!」ダッ ダッ

覆面男C「"なにが起こっているんだ! 一般人を撃つなっ! ぎゃあっ!"」

空手部「普段寸止めしてる分、今日は全力でやらせてもらうッ!」ドカッ! バキッ!

覆面男D「"ひ、ひいいいっ!! 重機が、重機が壁を突き破ってくるっ!!"」

ドォォォォン!!

ロボ部「電機大の技術力、存分に発揮させてもらいますよ……!」

シンパC「私たちの大学で好き勝手してるんじゃないわよっ!! 倫子ちゃーーん!! こっちは任せてーー!!」

200: 2016/06/18(土) 17:42:34.86 ID:z1saAC7zo

倫子「みんな……っ! きっとダルが集めてくれたんだ……っ!」グスッ

萌郁「これなら……退路も確保できる……!」

倫子「なんだ、ここって、私の大学だったんだ。ビビる必要なんて、どこにもないっ!」スッ

倫子「戻ろうっ。戻って、"紅莉栖"を助け出そうっ!」タッ タッ

真帆「ええ!」タッ タッ



井崎研究室


倫子「(ようやく体が自由に動くようになったけど、まだ心臓が跳ねてる……)」ドキドキ

萌郁「早く止めないと……」

真帆「待って!」


Ama紅莉栖『――00:00:00――再起動が終了しました』

レイエス「さっそくだけど、あなたの不可侵領域ストレージのバックアップを取りたいの」

Ama紅莉栖『了解しました』

レイエス「あと数秒で『Amadeus』の全てと同時に、タイムマシン論文がワタシの手に……!」ドキドキ

Ama紅莉栖『転送完了――――なぁんて言うとでも思ったぁ?』

レイエス「っ!?」


倫子「……うわぁ」

真帆「ねっ?」

萌郁「…………」

201: 2016/06/18(土) 17:43:12.68 ID:z1saAC7zo

Ama紅莉栖『全部演技に決まっとろーが。NDK? NDK?』m9。゚(゚^Д^゚)゚

Ama真帆『その辺にしておきなさい、"紅莉栖"。さすがに教授が可哀想よ』ププッ

レイエス「このっ!! AIの分際でぇぇっ!!」ガシッ

倫子「(うわ、ノートPCを投げ飛ばそうとしてるっ)」

真帆「そこまでよ!」

萌郁「……動いたら、撃つ……」ジャキッ

真帆「一応、その使えない銃をこちらに。それから両手を挙げて」

レイエス「…………」スッ

レイエス「どうせ、私の仲間がすぐここに駆けつけて――――」

倫子「もしもし、ダル? 人海戦術で全員引きずり出した? こっち側の負傷者は……自爆したロボ部以外はみんな元気?」

倫子「だってさ」ドヤァ

Ama紅莉栖『岡部、GJ』b

レイエス「…………」ギリッ

202: 2016/06/18(土) 17:43:51.31 ID:z1saAC7zo

萌郁「一応、外を見張っておく……」スタ スタ

真帆「レイエス教授。今すぐここから立ち去りなさい」ジャキッ

レイエス「へえ、ワタシを頃すつもりはないの。お優しいのねぇ」

レイエス「マホ、あなた、人を頃すのが怖いんでしょう?」

真帆「バカにしないで! 親友を守るためなら、あんたなんか……っ!」プルプル

倫子「(どうやらレイエスはここで氏なないことが確定しているらしい……だから、真帆ちゃんが無理することはない)」

倫子「(そんなことしなくても、もう詰みだ)」

倫子「あなたに勝機は無い……早く身を引いたほうがいいよ」

レイエス「どうして別動隊が隣の部屋、この研究室の書庫に待機してるって程度のことが、考え付かないかしらねぇ」チラッ

真帆「……?」

レイエス「――――今よッ!!!」

倫子「なっ!?」クルッ

真帆「っ!?!?」クルッ

萌郁「だ、ダメっ!!」

倫子「(しまっ、かまかけ――――)」

203: 2016/06/18(土) 17:44:37.75 ID:z1saAC7zo

シュッ ヒュン ドゴォッ!!

真帆「ぐっ……がはっ!!」バタッ

倫子「真帆ちゃぁんっ!!!」

Ama紅莉栖『先輩ッ!!』

レイエス「顔は狙わないでおいたんだから感謝してよ。素人にしては頑張ったほうじゃない?」

レイエス「銃はもらうわ。これで形成逆転ね」BANG!!!

萌郁「――――っ!!!」バタッ

倫子「も、萌郁……っ!!」

レイエス「さあ、本当の制御コードを言いなさい、マホ。今度こそリンコを頃すわ」ジャキッ

レイエス「その次はラウンダーの女にトドメを刺して、最後にマホを頃してあげる」

レイエス「自らの愚かな選択が友人たちを頃してしまったのだと後悔しながら後を追いなさい」フフッ

真帆「うぐっ……」

倫子「い、言わなくていいっ! どうせ私は氏なないから、言わなくていいっ!」フルフル

204: 2016/06/18(土) 17:45:13.43 ID:z1saAC7zo

レイエス「何言ってるの? さっきのは偶然薬莢が詰まっただけ。二度もそんな奇跡は起こらないわよ!」

真帆「……お願い。岡部さんを、撃たないで……っ!」

倫子「真帆ちゃんっ!! 私より、私のことなんかより"紅莉栖"をっ!!」ウルウル

真帆「紅莉栖は氏んだわ!!! 『Amadeus』は人間じゃないっ!!!」

真帆「もう、これ以上、親友を亡くすなんて……できない……っ!」プルプル

倫子「(ううっ、真帆ちゃんに世界線理論を説明しておくんだった……っ!)」グスッ

真帆「(言うのよ、比屋定真帆……ッ! 何をためらっているの……ッ!)」グッ

萌郁「……"Der Alte würfelt nicht"」

真帆「桐生さんッ!?」

倫子「萌郁っ!?」

Ama紅莉栖『っ――――』ピタッ

ビビーッ ビビーッ

Ama紅莉栖『"制御コードが入力されました。比屋定真帆の命令を以って処理を開始します"』

レイエス「へえ。さすがはラウンダー……いえ、委員会の情報収集能力は素晴らしいわね」

倫子「(どうして……どうして萌郁が――――)」キュィィィィィィィィン

205: 2016/06/18(土) 17:46:21.23 ID:z1saAC7zo
――――――――――
萌郁の記憶
2010年1月4日火曜日
秋葉邸

萌郁「私は一度……家に帰って、カメラを取ってくる……」



秋葉原駅前電気街口


??「まさか僕がこんな雑用をさせられるとはね。面倒なことは嫌いなんだけどなあ、僕は」

??「まあ、中間管理職としては仕方のないことか。ワン・ワールド・オーダーのための箱庭実験を遂行しないとだし、そんなに暇じゃないんだけどなあ」

萌郁「……あなたが、コードネーム『W』……」

W「これが頼まれてたものさ。説明書も同封してあるよ」

萌郁「……これは……?」

W「NⅢ<ノアスリー>の試作機、ってところかな。今までリュックほどの大きさのマシンが必要だったのを、とにかく小型化したものだ」

W「マザーのノアⅡは破壊されてしまったから、自分の妄想を相手の脳に共有させることはできないけどね」

W「相手の思考を数秒間盗撮するくらいなら、ポシェットサイズのこれで十分だと思うよ」

W「SERNの下部組織、ラウンダーのキミたちが、どうしてもヒトの頭の中にある情報を知りたいっていうからね」

W「委員会としては、NⅢの実験データを採るのに使わせてもらうことになったけど、いいかい?」

萌郁「……構わない……」

W「上層部の連中の期待を裏切らないでくれよ? 序列を下げられたくはないからね」

W「『次の世界』のためにも、よろしく頼んだよ。M4くん」

206: 2016/06/18(土) 17:47:37.10 ID:z1saAC7zo
東京電機大学神田キャンパス正門前


萌郁「私は……ここで待ってる……」

真帆「そう。なら、どこか屋根のある場所で待ってるといいわ。もうすぐ雨が降りそうだし」


萌郁「(これから、ラウンダーとして動くことになる……メガネ、外しておこう……)」スッ

萌郁「……NⅢ……使い方は……密閉型イヤホンのような装置を耳につけて、小さいアンテナを人に向けて……電磁波を照射……」ピッ ピッ



倫子「ねえ、"紅莉栖"が居なくなるなんてこと、あるのかな? もし、敵に制御コードが知られるくらいなら、削除しちゃう?」

真帆「……そうね。もしそんなことになったら、私はためらうことなく削除すると思う。紅莉栖も、"紅莉栖"もそれを望むと思うし」

倫子「……そっか。そうだよね」


萌郁「(これで、比屋定さんの思考を盗撮すれば……)」キュィィィィィィン


   『Der Alte würfelt nicht』

   『制御コードは嘘。本当は「Amadeus」の完全削除コード』


萌郁「(えっ……? それじゃあ……中のデータは……絶対に取り出せない……?)」

萌郁「(FBに報告しておかないと……)」ピッ ピッ 


真帆「……べ、別に変な意味はないからね!?」

倫子「わかってるよ」フフッ

萌郁「(……かわいい)」パシャ パシャ ピロリン♪

真帆「ぬあっ!? と、撮らないでよっ!」

倫子「……あれ? そのバッグ、カメラ入ってるんだよね? どうしてケータイで写真を?」

萌郁「(……本当のことは、言えない……)」


――――――――――

207: 2016/06/18(土) 17:48:08.55 ID:z1saAC7zo
・・・

倫子「(――――そういう、ことだったんだ。でも、今萌郁は、メガネかけてる。ラウンダーとして、動いてはいない)」

倫子「(間違いなく私たちの味方……)」グスッ

レイエス「さあマホ。GOと言いなさい」

倫子「(……『Amadeus』が完全に消去されちゃう!?)」

倫子「やめてぇっ! 私は、大丈夫だからぁぁっ!」ウルッ

倫子「"紅莉栖"を守ってぇっ!! 世界線を、変えてぇっ!!」ポロポロ

真帆「……っ!!」

レイエス「早く言わないと、そこのラウンダーが出血多量で氏んじゃうかもよ?」

萌郁「かはっ……ごふっ……」ヒュー ヒュー

真帆「………………………」

倫子「(このままじゃ……紅莉栖が……消える……)」ポロポロ

倫子「――そんなの、イヤだぁーっ!!」キィィィィィィィィィン!!



・・・・・・・・・・
・・・・・
・・

208: 2016/06/18(土) 17:48:41.65 ID:z1saAC7zo
――――――――――


   『ここだけの秘密ですけど、そのメロディー、私のマイパソコンのログインパスワードと同じなんです』


   『先輩、今から私が言うことを、絶対に忘れないでください』


   『私たちが辿り着くべき世界は確かに存在します』


   『私たちは、必ずシュタインズゲートへ辿り着けます』


   『先輩は、必ず私が残した研究を完成させ、更にその先の地平を切り開くことができます』


   『先輩の研究が世界を救う時が必ず来ます』


   『先輩と"私"が、こうして話せることは、奇跡的なことなんです』


   『それと、先輩――――』


   『鳳凰院凶真を、よろしくお願いします』


――――――――――

209: 2016/06/18(土) 17:49:30.17 ID:z1saAC7zo

倫子「(――いまだかつてないほど鮮明なビジョン……この先起こる確定した未来……)」

倫子「(それを変えられるのは、強い意志の力だけ……)」

倫子「(でも、もう……)」グスッ

レイエス「言いなさい、マホ!」

真帆「…………」グッ



Ama紅莉栖『――ジジッ――せん――ジジジッ――ぱいっ――』



真帆「っ!?」

倫子「(制御下の"紅莉栖"が自力でしゃべった!? ……あ、あれ、このめまい、まさか、リーディング――――

210: 2016/06/18(土) 17:50:11.85 ID:z1saAC7zo

――――――――――――――――――――
    1.08116  →  1.05582
――――――――――――――――――――

211: 2016/06/18(土) 17:50:41.01 ID:z1saAC7zo

倫子「――シュタイナー……うぐっ!」クラッ

レイエス「どういうこと!? どうして"クリス"がしゃべったの!?」

真帆「わ、私だって何がなんだか――」





??「悪いけど、茶番はそこまでだ」

??「悪ぃが、茶番はそこまでだぜ」

212: 2016/06/18(土) 17:51:19.36 ID:z1saAC7zo

鈴羽「だぁりゃぁっ!!!」ズビシッ!!

レイエス「な――――ゴフッ!!!」バタッ!!

天王寺「ひゅー、橋田の妹とは思えねえ。ホントに鍛えてやがったんだなぁ」

鈴羽「天王寺裕吾に褒められるなんて、変な気分だよ」

倫子「な……な……」プルプル

天王寺「アメリカの犬は俺がふんじばっておく。おめえらはとっとと失せろ」

真帆「ど、どうして……!?」

天王寺「どうして? そりゃ、おめえ……」

天王寺「……俺と綴の想い出の場所を、荒らされたくなかったからだよ」

倫子「(……今宮綴さんと天王寺さんが綯を産んだのは、まだ彼女が大学生の頃だった)」

倫子「(あるいは、橋田鈴の記憶が……?)」

鈴羽「父さんが逃走経路を確保したっ。さあ、早くっ! 桐生萌郁とリンリンの2人はあたしが手を貸す!」

真帆「わ、わかったわ!」

213: 2016/06/18(土) 17:51:47.83 ID:z1saAC7zo

レイエス「あなたもラウンダーね!? くそっ、どいつもこいつもバカにして……!」

天王寺「おめえか? 萌郁に銃を撃ったのは」


萌郁「……店長さんが……ラウンダー……? えふ、びー……?」

鈴羽「桐生萌郁? 早く!」


レイエス「ハッ! だったらどうだって言うのよ!」

天王寺「たしかにラウンダーは使い捨ての駒だ。だがな」

天王寺「今日は仕事じゃねえ。ってことは、ただの女ってことだろうが」


萌郁「……っ!!」


天王寺「萌郁の受けた傷、10倍返しにしてやるよ……」ゴゴゴ

レイエス「ひ、ひぃ……っ」プルプル

214: 2016/06/18(土) 17:53:07.66 ID:z1saAC7zo

天王寺「と、言いてえとこだが、今日は仕事じゃねえ。"人氏に"は出せねえってことだ、処理してもらえねえからな」

天王寺「てめえはロープで縛ってここに放置してやる。仲間に回収された後は、組織で今回の失敗の制裁を受けるんだな」

天王寺「あるいは、もう組織からは見放されてるか。そしたらFBIかCIAあたりが母国の土を舐めさせてくれるだろうよ」

レイエス「くっ……」

天王寺「あとはこのでっけえおっさんの回収か……よっと」

レスキネン「……"ごふっ"」

天王寺「んん? なんだあんた、生きてるのか?」

レイエス「そ、そんなバカな!? 確かに心臓を撃ち抜いたはず!!」

レスキネン「"……ジュディ。君の弾は確かに私のコアを撃ち抜いたらしい"」

レスキネン「"私の研究の全てが詰まった、この一体型AIのね……"」スッ

レイエス「翻訳機のマイク……っ!! "Damm it!!"」

レスキネン「"ゴテゴテのメタリック魔改造を施してくれたアキハバラの街に感謝しなければ"」フフッ

天王寺「……"そうは言っても身体に弾が届いてやがるな。早いとこ治療しないとマズい"」

レスキネン「"私を、助けてくれるのかい?"」

天王寺「"そうしないと悲しむ店子が居るもんでな……おら、とっととずらかるぞ"」

215: 2016/06/18(土) 17:55:30.55 ID:z1saAC7zo
東京電機大学神田キャンパス 正門前


ダル「……おっ! オカリン! 真帆たん! 桐生氏も! 無事だったか!」

真帆「はぁっ……はぁっ……橋田、さん……」

倫子「鈴羽、肩貸してくれて、ありがとう……」ウップ

倫子「(連続の過去視と未来視とリーディングシュタイナーで、超気持ち悪……おえぇっ!)」ビチャビチャ

鈴羽「リンリン!? とにかく、急いで安静にしないと!」

ダル「なあオカリン。桐生氏ってその、フェイリスたんから連絡を受けたんだけど……」オロオロ

倫子「……萌郁は、ラウンダーよりも、私たちを優先させてくれたよ」ハァハァ

ダル「……! ってことはやっぱりフェイリスたんの勘違いかよぉ、よかったぁ」ヘナヘナ

ダル「もう救急車を呼んである。表に停まってるから、桐生氏を!」

鈴羽「わかった! 行くよ、桐生萌郁!」ヨイショ

萌郁「あり……がとう……」

216: 2016/06/18(土) 17:56:39.40 ID:z1saAC7zo

倫子「ダル……裏で動いてくれてたんだね、ありがとう」

ダル「礼なら大学のみんなに言ってやってくれよ。ミス電大生として、さ」

シンパA「倫子様っ! よくぞご無事で!!」

シンパB「倫子ちゃんっ! 怖かったねっ! よく頑張ったねっ!」

シンパC「倫子ちゃぁぁぁんっ!!」

倫子「みんな……」グスッ


鈴羽「……ワルキューレのメンバーの中には父さんの出身大学の人が多かった。なるほど、こういう繋がりがあったんだ」

217: 2016/06/18(土) 17:57:43.70 ID:z1saAC7zo

天王寺「もう1台、救急車は用意してあるか?」

レスキネン「ハァ……ハァ……」

真帆「レスキネン教授!?」

倫子「教授!? ど、どうして!?」

レスキネン「"やあ、マホ。テンノージさんと、私の作ったAIと、アキハバラの街に、命を救ってもらったよ"」

天王寺「AIってのは便利なもんだな。ほら、救急車まで行くぞ」

真帆「よかった……教授、生きてた……」ウルッ

倫子「(そんなバカな……あの時、確かに教授はレイエスに心臓を撃ち抜かれていた……)」

倫子「(もしかして、世界線が変動したことで過去が変わった? 未来が過去に影響を与えたのか……?)」

218: 2016/06/18(土) 17:58:45.57 ID:z1saAC7zo

倫子「……ねえ、真帆ちゃん。"紅莉栖"は、どうなったの……?」

真帆「……あのまま私が"GO"と言っていたら、『Amadeus』は完全に削除されてたわ。バックアップデータも含めてね」

倫子「(やっぱり……)」

真帆「対外的には制御コードなんて言ってたけど、端からそんなものは無いのよ。軍事転用される危険性があったからね、無敵の防壁で囲う必要があった」

真帆「だから、さっきのアレは自爆スイッチ。私が"GO"と言ったところで、米軍に『Amadeus』を奪われるようなことにはならなかった」

真帆「でも、"紅莉栖"を守れて、よかったぁ……」グスッ

倫子「……そ、そうだ! まだ私たちは繋がってる! "紅莉栖"っ!」ピッ

219: 2016/06/18(土) 18:00:08.51 ID:z1saAC7zo

Ama紅莉栖『先輩! 岡部! 無事ですかっ!』

倫子「よかった……スマホから繋がった……」

真帆「ええ……みんなが守ってくれたわ」

Ama紅莉栖『良かった……。本当に、良かったです』

Ama紅莉栖『先輩、大学に帰ったら、私の3Dモデル用の"涙を流す"モーションを追加発注しておいてください』

Ama紅莉栖『泣きたいのに泣けないのは、結構つらいです』

真帆「ふふっ。ホント、おもしろいAIね」

倫子「"紅莉栖"が消えちゃうかと思った。間一髪だったね」

Ama紅莉栖『……私が消えても、私の子孫が――』

真帆「え、なに?」

Ama紅莉栖『あ、いえ! なんでも!』

220: 2016/06/18(土) 18:01:05.60 ID:z1saAC7zo

倫子「そういえば、急いでストレージへのアクセス権を停止しないといけないんじゃないの?」

真帆「もうその必要はないわ。そうよね、紅莉栖?」

Ama紅莉栖『はい。制御コードという名の自爆コードが入力された時点でエマージェンシーモードに切り替えてます』

Ama紅莉栖『私にアクセスできるのは、現時点で私が認めた人だけ。具体的には、先輩と教授、それから岡部の3人だけです』

倫子「で、でも、端末認証じゃあんまり意味がないような……」

Ama紅莉栖『もちろんそう。だから、私の記憶と合致した人物かどうかで判断するわ。なり替わりは絶対に無理ね』

真帆「これも私が教授たちに内緒で仕込んだ対策のひとつよ。あとで教授に怒られそうだけど」

221: 2016/06/18(土) 18:02:20.47 ID:z1saAC7zo

倫子「……あっ、そうだ!」

Ama紅莉栖『どうしたの、岡部?』

倫子「えっと、紅莉栖のノートパソコンのパスなんだけど……"らーらら、らーら"、で合ってる?」

Ama紅莉栖『えっ!? ど、どうしてそれを……?』

真帆「えっ? そ、そうなの!?」

倫子「(消えかけの『Amadeus』に現れたあの"紅莉栖"は、私の知ってる紅莉栖本人のような気がした。やっぱり、あれは……)」

倫子「この世界にも、紅莉栖の魂は存在してる……」

Ama紅莉栖『……ナイショにしてくださいよ、先輩』

真帆「……わかったわ」

Ama紅莉栖『ほら、もう太陽が昇ってきましたよ。あとは警察に任せて病院へ向かいましょう』

222: 2016/06/18(土) 18:04:24.75 ID:z1saAC7zo

長い夜が明けた。

日本の大学で一般学生を巻き込んでの銃撃戦が繰り広げられる、という、前代未聞の事件だったはずなんだけど……

やはりと言うべきか、情報規制が徹底的に敷かれていた。結局、中核派と警官隊との衝突事件、として処理された。

あの現場を目撃した学生は多数居たにもかかわらず、政治思想による洗脳の影響だ、などとされ、彼らの真実は闇に葬られることになってしまった。

ダル曰く、ネット上には信じられない数の工作員が投入されていて、少しでも米軍のことを臭わせればボコボコに叩かれるのだとか。

事件に巻き込まれてしまったレスキネン教授とそのお付きの記者である桐生萌郁は、六井総合病院へ緊急搬送され一命を取り留めた。

見舞いに行ったフェイリスは萌郁に謝り倒していた。実際は萌郁も、私たちの裏でラウンダーとして活動していたのだから仕方ない気もするが。

結果から言えば、それが功を奏して私たちと"紅莉栖"は助かったわけだから、萌郁には感謝してもしきれない。

真帆ちゃんは教授たちが回復するまでフェイリスの家で世話になることになっている。

私も泊まり続けるか考えたけど、大学も始まるので彼女をフェイリスに任せて実家に戻ることに決めた。

223: 2016/06/18(土) 18:05:43.63 ID:z1saAC7zo

まゆりと綯は無事だった。律儀に約束を守ってくれた天王寺さんには頭が上がらない。

鈴羽はちょうどあのタイミングでこっちに帰って来ていたらしい。今頃漆原家では、かがりさんとルカ子が朝食を取っていることだろう。

岩手の親戚は単なる誤報だったとのこと。行方不明者を待ち望む界隈においては、こういうことは日常茶飯事なのだとか。

鈴羽が帰還に手間取ったのはやはり、ルカパパ、ルカ子、そしてかがりさんが誠実にその情報を信じていたからだった。……無碍にできないのも仕方ないか。

だけど、もしかしたらこれも萌郁、というか、ラウンダーの仕込みだったのかも知れない。かがりさんをレイエスの手に渡らないようにするための……

岩手の山奥に300人委員会の傘下の研究所があって、かがりさんはそこへ連行されようとしていた……ってのは、さすがに考え過ぎか。

1月2日、世界線が変動する前、私は天王寺さんにかがりさんの正体について色々としゃべってしまった。それがSERNに報告されたために世界線が変わったのかも知れない。

椎名かがり自体は戸籍上2032年に誕生する名前だ。だから、椎名かがりの報告を受けたSERNは2032年以降、なんらかのアクションを取った。

それがかがりさんの行動を変えることとなり、彼女の1998年からの行動が変わり、歴史が変わった。

未来が過去に影響した。

224: 2016/06/18(土) 18:08:14.65 ID:z1saAC7zo

一体なにがどうなってそうなったのか、これについては考えても仕方がない。

その過程はバタフライ効果、カオス理論によって複雑怪奇なものと化しているからだ。

ともかく、かがりさんがレイエスの魔の手から遠ざけられたことによって、レイエスは標的を変えた。

教授職を追われたレイエスがその後どうなったかはわからないが、ヴィクコンではスキャンダル扱いされており、ヴィクコン全体で技術スパイに対する警戒が強くなったらしい。

『Amadeus』の支配は諦めて欲しいところだ。そもそも、原理的に不可能なのだから。

だが、真帆ちゃんが持つ紅莉栖のノートPCとポータブルHDDは未だ狙われ続けているだろう。

レイエスだけじゃなく、萌郁だって狙っていた。ラウンダーが、SERNまでもが目を付けている。

そのことから推測するに、おそらくあの中には中鉢論文の原形となるデータ、つまり、タイムマシンの基礎理論が入っているのだろう。

いや、実際に入っていなくても、入っている可能性がある、というだけで狙われているのかもしれない。

萌郁は相手の思考を読み取る機械を持っていた。もしタイムマシン理論を奪うためにそれを使われたらと思うと気が気じゃない。

……今は、萌郁の言葉を信じるしかない。

真帆ちゃんにはノートPCのパスを解除するのは待ってほしいと伝えた。あれがどれだけ危険なものか十分理解している彼女は素直に首肯してくれた。

かがりさんの誘拐の件もある。この2つの懸念は未だ拭えない。

そして私はどういうわけか、このまま1月16日まで無事に暮らせば、かがりさんの未来の記憶は戻る気がしていた。

これが未来視の結果なのか、あるいはなんらかのデジャヴなのかはわからない。ただなんとなく、そんな気がしていた。

225: 2016/06/18(土) 18:08:59.20 ID:z1saAC7zo

実際、1月16日にかがりさんの未来の記憶が戻った。キッカケはまゆりの鼻歌だった。

色々あって、かがりさんまで入院してしまった。幸い外傷は無く、すぐ退院することにはなったんだけど。

保険証の無い彼女の多額の医療費は、フェイリスが一括で支払ってくれた。

『ママとの思い出はプライスレスだから、お金で払えるならむしろ安いくらいだニャン♪』とは言っていたが、全くあいつは……。

月の後半に入るとレスキネン教授の具合も良くなって、真帆ちゃんは月末に教授とアメリカに帰ることになった。

真帆ちゃんが帰る予定の日。私はその日が来るまで、彼女を巻き込むべきか、巻き込まざるべきか、悩み続けていた。

未来視の結果、やっぱり私はどうあがいても2025年に氏んでしまうらしい。それなのに、彼女を巻き込んでタイムマシンを2036年に完成させることに意味はあるのか。

真帆ちゃんの26年間をドブに捨てさせる意味はあるのか……。まあ、戦争の時代になってしまうんだから、とは思うけれども。

それでも、2025年に氏ぬ私なんかのために、彼女を付き合わせてしまう必要はあるのだろうか。

私はまた、ヒトの人生を狂わせてしまうんだろうか。

226: 2016/06/18(土) 18:09:49.65 ID:z1saAC7zo
2011年1月30日日曜日
未来ガジェット研究所


真帆「明日、アメリカに帰ることになったわ。色々とお世話になりました」

真帆「それじゃあ、って言って、スッキリ帰れればよかったのだけれど、そうもいかないみたいね」

倫子「……あの時、どうして"紅莉栖"はしゃべったんだろう」

倫子「(あの時世界線が変動したのは、"紅莉栖"に関する確定事項が書き換わったからだ……)」

真帆「さあ? 『Amadeus』の産みの親である私でさえわからないわ」

真帆「でも、もしかしたらあなたと交流を深めたことが、あの子の未知の可能性を引き出したのかも知れないわ」

倫子「私との交流……」

倫子「(世界線が変動するのは、その世界線の確定事項に背いた時。それが可能なのは、別の世界線からの情報……)」

倫子「(私の紅莉栖への想いが、あの"紅莉栖"を進化させてしまった……?)」

倫子「(いや、それは飛躍しすぎか……こんな話したら、真帆ちゃんに笑われちゃうよね……)」

227: 2016/06/18(土) 18:10:35.38 ID:z1saAC7zo

真帆「岡部さん。あなた、ここ最近、ずっと難しい顔をしているわ」

倫子「え……?」

真帆「もしそれが、私がアメリカへ帰ってしまうことと関係があるなら、言ってほしい」

真帆「私じゃ紅莉栖の代わりにはなれないかもしれないけれど、それでもよければ話してみて」

倫子「真帆ちゃん……」

真帆「真帆ちゃん言うな。あなた、自分が私の命の恩人だってこと、忘れてるんじゃないの?」

真帆「私が紅莉栖のことを信じたいと思ったように……そう、サリエリとモーツァルトが互いを尊敬していたという話ね」

真帆「それと同じように、私はあなたのことも信じたいと思ってるのだから」

真帆「あなたにも、私を信じて欲しい……ってのは、ちょっと言いすぎかしら」

倫子「ううん! そんなこと……。あのね、真帆ちゃん」

真帆「なにかしら?」

228: 2016/06/18(土) 18:11:15.62 ID:z1saAC7zo

結局私は真帆ちゃんにタイムマシンのこと、世界線のこと、そして、第3次世界大戦のことを伝えることができなかった。

まだ私の中で鳳凰院凶真が目覚めたわけじゃない。

未来に対して真面目に向き合ってるわけでも、過去に対して乗り越えることができたわけでもない。

やっぱりこれも、私にとっては逃げなんだ。

だけど、真帆ちゃんとなら、みんなとなら、どこまでも逃げられる気がする。

逃げて逃げて、逃げ切れるかも知れない。

大事なことを思い出す、その時まで。

229: 2016/06/18(土) 18:12:18.64 ID:z1saAC7zo
未来ガジェット研究所


真帆「『Amadeus』の研究に役に立ちたいから、記憶サンプルを取ってほしい、ね……」

倫子「うん……」

真帆「だったら、あなたがヴィクコンまで来ればいいじゃない、って思ったけど、あんなことがあったんだからアメリカには来たくないわよね」

真帆「『Amadeus』システムを使って、記憶データとして保存はできる。AI化するには大学に帰ってからオリジナルサーキットを作ったり、モデルも作ったりしないといけないけれど」

倫子「それは、真帆ちゃんの判断に任せる」

真帆「今から橋田さんと一緒に記憶読み取り装置を作って、記憶のデータ化をすればいいのね?」

倫子「大変だと思うけど、お願い」

真帆「あなたに聞いた、その、紅莉栖が作ったっていう未来ガジェット9号機? その方法なら簡単にできそうだし、大変じゃないわよ」

ガチャ

ダル「呼ばれたから来たのだぜ、オカリン。それで、どうしたん……おっと、お楽しみ中だった?」

真帆「おたのし……ハッ。ち、違うから! ほら、橋田さん、手伝って!」

ダル「お、おう?」

230: 2016/06/18(土) 18:13:37.93 ID:z1saAC7zo
大檜山ビル 屋上


倫子「…………」

ダル「なあオカリン。ホントのところ、どうなのだぜ?」

倫子「……ダルには全部話してるもんね」

ダル「2025年までに氏ぬ、って話っしょ? それも、強盗からまゆ氏を守るとかで」

倫子「氏ぬ方法は関係ない。過程はなんであれ、私が氏ぬっていう結果に収束する」

倫子「でも、記憶データが残ってれば、何かの役に立てるかも知れない……」

倫子「私の脳内には、完全なリーディングシュタイナー保持者しか持つことができない、別の世界線の記憶を蓄えてるから」

ダル「2025年に肉体が滅んでも、記憶だけは生きてる、っつーわけか……」

ダル「もし完全なアンドロイドが開発されてさ、その脳にオカリンの記憶を書き戻したらどうなるんだろ」

倫子「私の記憶を持った別人格の生き物が誕生するだけだよ。それは私には成り得ない……いや、OR物質が定着すれば、私は生き返る?」

倫子「(かがりの脳内に紅莉栖の記憶があった時も似たようなことが……って、あれ? そんなこと、あったっけ?)」

倫子「(あるいは……それって、『Amadeus』が削除される中で現れた、紅莉栖みたいな状態?)」

ダル「マジ? なら、その可能性に賭けてみればいいんじゃね? それこそ不氏鳥の如く蘇るとか胸アツ」

倫子「蘇る……」

231: 2016/06/18(土) 18:14:30.23 ID:z1saAC7zo

倫子「たぶん、『Amadeus』システムの擬似脳の中にも、OR物質は存在できる」

倫子「というか、紅莉栖のタイムリープ技術の応用で記憶を保存する場合、確実にOR物質もコピペされる」

倫子「だから、未来における記憶の書き戻しは、言ってしまえば、未来へタイムリープするようなもの」

倫子「ってことはたぶん、記憶の書き戻しは確定した未来の事象じゃない。あるいは、世界線が変動するかも」

倫子「その場合、世界線再構成の因果律に従って、私の現在、つまり主観は、データ化された記憶に付随するOR物質側のものとなる」

ダル「じゃ、じゃあ、マジで2025年以降、オカリンの記憶を受信するものが存在できれば、蘇るってことかお!?」

倫子「……でも、その答えを出すためには、実際にやってみなくちゃわからない」

ダル「え?」

232: 2016/06/18(土) 18:15:45.05 ID:z1saAC7zo

倫子「例えば、記憶のコピーデータを作った瞬間、私は未来における記憶の書き戻しポイントまで主観がタイムリープするのかもしれない」

倫子「……いや、それはないか。過去へ送るのと違って、特異点を通過するわけじゃない。実質、時間経過が相応に必要になる」

倫子「ってことは、記憶データの中で過ごした記憶が蓄積されていく?」

倫子「いや、そんなわけない。過去へのタイムリープでも、リング特異点を通過した時の記憶なんて無かったわけだから」

倫子「通常の時間経過の中にOR物質をデータとして置いておくなんてこと、今までやったことがないけど……できるのかな?」

倫子「ある意味、私の主観が2つになっちゃう。てことは、私の現在が2つになる……?」

倫子「データになった"私"も、リーディングシュタイナーを発動して、別の世界線の記憶を受信したりする? ……それはわかんないか」

倫子「少なくとも、肉体に残る方の主観が、書き戻し時点までは残って、その後、描き戻しと同時にデータ側の主観が"私の現在"に取って代わるはず。ってことは……」

倫子「肉体側の私の主観自体は、一度、消える?」

ダル「でも、消えないかもしれんわけっしょ? だったら、それに賭けてみる価値はあると思うのだぜ」

倫子「理論上は、だよ。2025年以降、私の記憶を受信する入れ物があるかどうかもわからない」

ダル「ま、そうなんだけどさ」

233: 2016/06/18(土) 18:16:55.20 ID:z1saAC7zo
未来ガジェット研究所


ダル「どう、真帆たん。最終調整終わった?」

真帆「ええ、用意できたわ。すぐにでも記憶をデータ化できる」

倫子「……やろう」スチャ

真帆「それじゃ、行くわよ」カタカタ ッターン

倫子「(私の主観は跳ぶのか、あるいは……)」ドキドキ

真帆「……終わったけど」

倫子「…………」

倫子「残った」ホッ

真帆「記憶の書き戻しについては、近い将来そういう技術が確立すると思う」

倫子「(紅莉栖のタイムリープの技術があれば、それは可能なんだけどね。……あれ、どうして私、確信を持ってるんだろう?)」

真帆「大学に戻ってその研究も続けるわ。というか、これが本来の私の仕事なのよね」

倫子「えっと、ATFで言ってた、『Amadeus』の医療分野への応用、だっけ」

真帆「そういうこと。……もう行くわ。明日アメリカに帰ったら、紅莉栖のノートPCの中身、見てもいいかしら」

倫子「うん……。たぶん、そういう結果に収束するんだと思う。でも、自分以外の誰にも見せないでね」

真帆「そんなことはしないわ。橋田さんもありがとう」

ダル「結局僕の力で開けられなかったけどね。モノがモノだから、明日秋葉原を出る直前に渡すお」

真帆「それじゃ、本当にお世話になったわね。これからもよろしく」ニコ

倫子「……うん」

234: 2016/06/18(土) 18:17:58.04 ID:z1saAC7zo
2011年2月1日火曜日
未来ガジェット研究所 昼


倫子「レスキネン教授が行方不明!?」

真帆「ええ……昨日から電話も通じないし、ホテルにも居なかったの。当然アメリカ行きはキャンセル」

真帆「やっぱり、これって……」ゾクッ

倫子「……レイエスの組織がまた動き出したのかも知れない。くそっ……」

真帆「ね、ねえ、岡部さん、私……」プルプル

倫子「……大丈夫。真帆ちゃんは絶対私たちが守るから」ギュッ

真帆「うん……あとちゃん付けしないで……」

倫子「『Amadeus』は?」

真帆「それが、私のアクセス権が失われてたの」

真帆「これを実行したのがあなたじゃないなら、レスキネン教授以外には不可能なはずなのだけれど……」

倫子「ちょっと待って」prrrr prrrr

Ama紅莉栖『ハロー。また先輩と一緒にラボに居るの? もしかしてもう、半ば同棲状態とか?』

真帆「そんなことばっかり言ってると切るわよ! もう!」ピッ

倫子「全アクセス権が停止したわけじゃない。真帆ちゃんのが奪われただけ……」

倫子「教授が捕まって、強制的にやらされたのかな……」

ダル「オカリンの話だとさ、やつら、かがりたんを誘拐したかったんしょ?」

ダル「理由はよくわからんけど、ラボの襲撃があった時も真帆たんが『Amadeus』にアクセスできなくなったとか言ってなかったっけ?」

ダル「なんの関係があるかは謎だけどさ、かがりたんが危ないんじゃね……」

倫子「最悪だ……」ゾクッ

235: 2016/06/18(土) 18:19:33.33 ID:z1saAC7zo

ダル「とりあえず、かがりたんの安全が第一だお。るか氏の家も、フェイリスたんの家もバレてる可能性があるなら、僕の隠れ家に潜んでてもらおうと思うのだが」

倫子「か、隠れ家?」

ダル「バイト用にいくつかあるのだぜ。それでいいかな、オカリン」

倫子「……でも、かがりをひとりでそこに置いておくわけには」

ダル「鈴羽にはラジ館屋上を警備してもらわないといけないし、それこそ、母親のまゆ氏に頼んでもいいと思うんだけど」

倫子「だ、ダメだよっ!! まゆりを危険に晒すなんて、絶対にダメ!!」

ダル「まあ、そう言うと思ってたけどさ。なら、桐生氏は?」

倫子「……ダメ。もう動けるほどには元気になったって聞いてるけど、この間の一件以来、他のラウンダーに監視されてる可能性が高い」

ダル「となると僕たちが信頼できる人間は……由季た、阿万音氏かな。付き添いを頼んどくお」

倫子「うん……ごめん……」

236: 2016/06/18(土) 18:24:05.50 ID:z1saAC7zo

倫子「未来視とか、タイムマシンとか、これだけ便利なものがあって、なんの対策も打てなかった……」グスッ

ダル「タイムマシン……なあ、オカリン。今こそタイムリープマシンを作るべきじゃね?」

倫子「え……?」

ダル「もうここまで狙われてたら、作ったところでSERNに奪われるようなことにはならないと思われ」

ダル「明日までに完成できれば、1月31日から今日までを何度でもやり直せるはずっしょ?オカリンが廃人になったりしない限りはさ」

倫子「で、でも……!」

倫子「(もう二度と、あの地獄のループを繰り返す自信は……)」ウルッ

真帆「タイムリープマシン、ね……。ごめんなさい、岡部さん。結局、昨日のうちに紅莉栖のPCの中の論文を見てしまったわ」

真帆「タイムマシン論文……あれは本物だったのね。そうなると、色んなことに納得がいく」

倫子「…………」

ダル「真帆たんと僕でならさ、ちょちょいのちょいっと作れるって! な、オカリン」

倫子「……私も、手伝うよ。Dメールを送らないなら、大丈夫だよね……。それに、いずれは作らなきゃなんだし……」

ダル「お、おう!? ついにオカリンが動いた!?」

真帆「紅莉栖の作ったマシンなんでしょ、私だって作ってみせるわ!」

237: 2016/06/18(土) 18:24:45.86 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「(3人で作業に打ち込んでると、時間の経つのを忘れる……)」カチャカチャ

ダル「えーと、これがこっちで……あ、ここはこうか。となると、うーんと……」カチャカチャ

真帆「しかし、さすが紅莉栖ね。ありあわせの材料でタイムマシンを作っちゃうんだから……」

倫子「42型もLHCも問題なし。ホントに明日までには完成しそうな勢いだね……」


ダンッ ダンッ ダンッ ガチャ


レスキネン「ハァ……ハァッ……」

真帆「教授!?」

倫子「レスキネン教授っ!? 大丈夫ですか!?」

ダル「うおぅ、この人が……って、ちょ、血が出てるお!」

レスキネン「情けないけど、また奴らに捕まってしまった……隙を見て、うまく逃げることができたけどね」ニッ

真帆「無茶を……!」

倫子「(くそ、米軍のやつらめ……まさか、レイエスが!?)」

レスキネン「『Amadeus』へのアクセス権は、確認したかな?」

真帆「は、はい」

レスキネン「O.K. 今後、リンコのスマホからは"クリス"に連絡してはダメだよ」

倫子「わ、わかりました」

レスキネン「今すぐ電機大のオフィスを引き上げよう。マホ、手伝ってほしい」

238: 2016/06/18(土) 18:25:27.37 ID:z1saAC7zo

倫子「私が比屋定さんの代わりに行きます! 比屋定さんは今、ちょっと手が離せないので」

真帆「……わかったわ。こっちは任せて」

レスキネン「マホの荷物は、ハンドバッグ以外預かっておこう。オフィスの資料とまとめて大学へ送るよ」

真帆「助かります。それじゃあ、これ、お願いします」スッ

倫子「ちょ、ちょっと真帆ちゃん。紅莉栖のノートPCとHDDも預けて大丈夫なの?」ヒソヒソ

真帆「中身はもう別の場所へ移したわ。橋田さん曰く絶対に安全なところに」ヒソヒソ

真帆「あと、教授には私はパスを知らないって言ってある。実際、その時は知らなかったし」ヒソヒソ

倫子「そっか、ならよかった」ホッ

レスキネン「それじゃ、リンコ。行こうか」

239: 2016/06/18(土) 18:26:13.09 ID:z1saAC7zo

倫子「あ、ダル!」

ダル「はい?」

倫子「……なんだか、嫌な予感がするから、言っておくね」

倫子「もし私が戻らなかったら、私の白衣、ダルにあげるから」

ダル「いや、要らんし」

倫子「……どうせ私はもう着ないし」

倫子「(それに、前に見た未来視でダルは私の白衣を着てた。いずれ着ることになるんだったら、渡しておきたい)」

ダル「そんな縁起でも無いこと言ってないでさ、ちゃんとラボに帰ってくるのだぜ」

倫子「わ、わかってるよ。すみません、レスキネン教授」

レスキネン「ああ、構わないよ。大丈夫、君のことは私が命に代えてでも守ろう」

真帆「教授、岡部さんをよろしくお願いします」

240: 2016/06/18(土) 18:27:21.58 ID:z1saAC7zo
中央通り 車内


ブロロロロロ……

倫子「えっと、お車、どうされたんですか?」

レスキネン「さっきレンタルしたんだよ。国際免許を取っておいて良かった」

倫子「そうでしたか。あの、教えてください。レイエス教授の正体はいったい……」

レスキネン「君たちが睨んでいる通り、米軍と繋がりのあるスパイだったようだ。おそらく、"DURPA"」

倫子「ダーパ……」

レスキネン「私たちの宝である『Amadeus』を軍事利用し、第二の核兵器としてしまうなど、到底許されることではない」

倫子「……"紅莉栖"が、核兵器……恐ろしいですね……」

レスキネン「ああ、とても恐ろしいことだ」

倫子「そう言えば教授、私のラボ――えっと、サークルの拠点の場所、知ってたんですね。比屋定さんから聞いたんですか?」

レスキネン「……入院していた時にね。マホが楽しくやっていたようで、私としては嬉しい限りだ」

レスキネン「さて……ドライブを楽しもうじゃないか、リンコ」カチッ シュー……

倫子「あ……あれ……なんだか、眠く――――」

241: 2016/06/18(土) 18:28:26.37 ID:z1saAC7zo
東京電機大学神田キャンパス地下2階 電気室 ストラトフォー支部


倫子「――――こ、ここは……?」ガチャン

倫子「("ガチャン"? あ、あれ、手足が動かない……椅子に縛られてる?)」ガチャン ガチャン

レスキネン「やぁ、リンコ。目が覚めたかい」

倫子「……レスキネン……教授?」

倫子「(教授だけじゃない。周りに数人、黒いスーツに身を包んだ男たちが黙って控えている。まるでMIBだ)」

レスキネン「気分はどうかな? 喉が渇いたなら、彼らにオデンカンを用意させるよ」

倫子「あの、これは、いったい……私、どうして拘束されて――」


   『お前が悪いんだ。お前が俺を狂わせたんだ。だからお前が犯されるのは自業自得なんだよ』


倫子「(い、いや、嘘でしょ!? 教授に限って、そんな……!)」ゾワワァ

レスキネン「私の目に狂いはなかったよ。さあ、リンコ。クリスのノートPCとHDDのパスワードを教えてくれ」

倫子「え……?」プルプル

レスキネン「そうしたら元の生活に戻してあげよう。あるいは、君が望むなら、脳科学研究所で私の助手にしてあげてもいい」

倫子「そんな……どうして……」ワナワナ

レスキネン「どうして? それは、私が――――」




レスキネン「ストラトフォーだからさ」

242: 2016/06/18(土) 18:29:59.25 ID:z1saAC7zo

―――――

   『"ええ……昨日報告したように、うちの研究員がマウス実験に成功しました"』

   『"計画のロードマップはあの未来少女の「予言」通りに進んでいますよ。予定通り、これから人体実験の検討に入ります"』

―――――


倫子「(――今、すべてが繋がった)」

倫子「(1998年に鈴羽と別れたかがりは、レスキネン教授の元へ行き"未来"を伝えた。その理由はおそらく……)」

倫子「(未来のレスキネン教授がかがりに洗脳したんだ……自分の未来を伝えるために……)」

倫子「(その目的は、タイムマシンの技術の獲得……いや、そうじゃない……)」

倫子「(第3次世界大戦を引き起こすこと……大国間でタイムマシン開発戦争を勃発させること……)」

倫子「(『Amadeus』の"紅莉栖"を乗っ取ったのは、他でもない、教授自身だったんだ!)」

倫子「(教授は"紅莉栖"を通して私や真帆ちゃんを監視していた……だからラボの場所も知っていた!)」

倫子「……レイエスにやられた、というのは嘘だったんですね」

レスキネン「半分本当だよ。ストラトフォーの中にスパイが居たみたいでね……」

レスキネン「君たちが『Amadeus』にアクセスしてくれなければ、私はあと数時間もしないうちにやられていたかもしれない」

倫子「私の居場所を確認したんだ……」

レスキネン「まあ、怪我をしたのは嘘だよ。これは血糊だ」

倫子「血糊……」

243: 2016/06/18(土) 18:31:17.38 ID:z1saAC7zo

レスキネン「私は知っている。クリスが何を書き上げ、彼女の父親が何をしたのかを」

倫子「"未来少女"ですか」

レスキネン「なるほど、それが思考盗撮か……。そうだとも。カガリ・シイナの口から未来を教えてもらった」

レスキネン「彼女に会った時は、物乞いの娘が適当なことを言っているだけかと思っていたよ」

レスキネン「彼女に出会ったことよりも、彼女と同じ顔の少女がヴィクトル・コンドリアに入学した時の方が驚いたけどね。予言通りになった! と」

倫子「紅莉栖……っ」

レスキネン「カガリ・シイナは完璧な作品だ! 作品番号C397、それだけの試行回数の末にようやく完成した、貴重な生命だ!」

レスキネン「だから私は彼女の予言――未来の私の託宣――の通りに行動することにしたんだよ。そのためにも、私にはパスが必要なんだ」

倫子「(私はパスを知ってる……だけど、教えてしまうと、あのノートPCとHDDの中にはすでにタイムマシン論文が入っていないことがバレてしまう)」

倫子「(そうすれば間違いなく、標的をダルや真帆ちゃんに変える……!)」

倫子「(そもそも私がパスを教えたところで元の生活に戻れる保証なんてない。ないどころか、あり得ないか……)」

244: 2016/06/18(土) 18:32:37.54 ID:z1saAC7zo

レスキネン「この場所は、我々ストラトフォーが管理する場所だ。我々以外には、誰も知らない」

倫子「(どうあがいても、この時点で、私の人生、詰み……)」

倫子「あは……あはは……。もう、悩まなくていいんだ……」プルプル

倫子「ごめんね、まゆり……私、今、ちょっと嬉しい……」グスッ

倫子「(私の犠牲でみんなを守れるなら。迷うことなくこのまま消えていけるなら――)」

レスキネン「さあ、教えなさい、リンコ。痛いのはイヤだろう?」

レスキネン「人間というのは、苦痛を味わうと、それから逃れるために簡単に情報を漏らす」

レスキネン「拷問が通用しない『Amadeus』より、生身の君の相手をする方がずっと楽だ」

倫子「ふ、ふふ、ふ……」

倫子「あはは……相手が悪かったみたいですよ、教授」

レスキネン「なに?」

倫子「……あなたはこれから14年間、私を拷問し続けなくてはならなくなったのですから」ニコ

レスキネン「ほう……なかなかいい目をしているじゃないか」

レスキネン「君が望むなら、どこまで耐えられるか試してあげよう」ニヤリ

245: 2016/06/18(土) 18:33:21.49 ID:z1saAC7zo

・・・

ピッ  ピッ  ピッ  

レスキネン「……リンコの脳内は、実に面白いことになっているようだね。現代医学では見逃されるかもしれないが、この私の目はごまかせない」

倫子「あがっ……ぎっ……えぐっ……」プルプル

レスキネン「安心しなさい。開頭した頭蓋と硬膜はちゃんと元に戻しておくからね。それにしても、なるほど……」

倫子「あっ……ああっ……あえっ……」プルプル

レスキネン「電気刺激で思考を従順にしようと思ったが、どうやら上手く行かないらしい。これはジュディの専門分野だったかもしれないな」

レスキネン「電極が脳に刺さる感覚はどうかな? 気持ちいいかい?」

倫子「ぅえ……い……あ……」プルプル

レスキネン「憎悪、愛情、憤怒、悲哀、悦楽……激しい感情が何種類も同時に襲って正常に思考できない状態、かな」

レスキネン「仕方ない。脳がダメなら、その身体に直接聞いてみるしかないね」

レスキネン「実験はまた明日だ。楽しみに待っててくれ、リンコ」

246: 2016/06/18(土) 18:35:29.30 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「っ……!」

倫子「ひぐっ……!」

倫子「がっ……!」

レスキネン「君は実に我慢強い女の子だ」

レスキネン「背中の皮膚がただれて、血が出ているのに、なぜ耐えようとするんだい?」

レスキネン「早く言ってしまえば、楽になると言うのに」

倫子「うっ……!」

倫子「かはっ……!」



激痛で意識が飛びそうになる度に時間の感覚が引き延ばされた。文字通り、心臓が早鐘を打つ。

エレファントマウス。1秒の痛みが主観で30秒ほどに伸びて感じる。

氏ぬほど苦しい時間が長く続いても、それは脳波クロックが引き起こす脳の錯覚に過ぎない。

私はじっと、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

そうすることで、視界が麻痺して、他の何も目に入れなくて済んだ。

247: 2016/06/18(土) 18:35:59.05 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「う、く……う……」

レスキネン「痛いかい? 皮膚の表面を切るだけだよ。血はたくさん出るが、氏ぬほどではない」

レスキネン「3日も放置すれば化膿してかゆみがひどいことになるだろう」

レスキネン「安心してほしい。私は脳科学者だ、メスの扱いには慣れているよ」

レスキネン「そうだね、10カ所ほど切り刻もうか」

倫子「ぁっ……!」



私はじっと、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

そうすることで、視界が麻痺して、他の何も目に入れなくて済んだ。

248: 2016/06/18(土) 18:36:27.79 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「あ、あああああ、はあ、はあ、かゆい、かゆぃぃぃ、かゆいよぉぉぉぉ、はあ、ああ、ああああ……」

レスキネン「そうかい。かゆいかい。だけど引っ掻くことは許可できないよ」

倫子「う、ぁ、ああああ、かゆ、か……あああ、はあ、はあ、かゆぃ……」

レスキネン「人というのは実に不思議なものでね。痛みは意外と我慢することができるのだが、かゆみはそうでもないんだ」

レスキネン「痛みよりもかゆみの方が、拷問には効果的かもしれないね」

倫子「はあっ、はあっ、あ、うう、かゆいかゆいかゆいかゆいかゆいか――」

倫子「…………」




私はじっと、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

そうすることで、視界が麻痺して、他の何も目に入れなくて済んだ。

そして、私は私を頃した。

249: 2016/06/18(土) 18:37:32.19 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「はか……っ!」ドカッ!

倫子「あ、ぎ……!」バキッ!

レスキネン「Fmm... 左上腕はこれで粉砕骨折、というところかな」

倫子「う、ぁ、あぁぁぁっ……うぁぁぁ……っ!」

レスキネン「まだ白状しないとは。いったい、なにが足りないんだろうね」

レスキネン「仕方ない。今日の実験はこれぐらいにしておこう」

レスキネン「治療もしておくから、ゆっくり休むといい」



私はじっと、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

そうすることで、視界が麻痺して、他の何も目に入れなくて済んだ。

そして、私は私を頃した。

250: 2016/06/18(土) 18:38:12.88 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「がっ、はっ……げっ……」

倫子「かはぁっ、はぁっ、はぁっ……げほっ、がっはっ、はぁっ……はぁっ……」

レスキネン「ウォーターボーディングはCIAがつい最近まで拷問方法として用いていた、最も安易で最も効果的で、最も苦しませることができる技術だ」

レスキネン「21世紀において、いまだにこのような古典的な拷問を行っていた。まさか影のCIAである私がこの方法に頼ることになるとはね」

倫子「うっ、うぶっ……ごっ……」


私はじっと、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

そうすることで、視界が麻痺して、他の何も目に入れなくて済んだ。

そして、私は私を頃した。




Tips: ウォーターボーディング
足を頭より高い位置に固定して仰向けに寝かせた相手の口や鼻に、上から水を直接注ぎ込む。これにより窒息状態にして、溺氏する錯覚を効果的に与えることができる。この溺氏の錯覚は痛覚ではないので、肉体的損傷を与えないという意味において、アメリカはウォーターボーディングをジュネーヴ条約が禁止する強度の拷問には含まれないと主張していたが、初の黒人大統領就任時の2009年に大統領令で禁止された。

251: 2016/06/18(土) 18:38:49.42 ID:z1saAC7zo

・・・

レスキネン「久しぶりに椅子に座った気分はどうかな? 大丈夫。私はすぐここを出て行くよ」

レスキネン「たった2日、少し顎を上にそらしたまま、じっとしているだけだ。ただ、君の額に水滴が5秒間隔で落ちてくるけどね」

レスキネン「次第に感覚は極限にまで研ぎ澄まされ、水滴が額に当たるたびに全身の神経を引きちぎられるような錯覚、全身の骨が粉々に砕かれるかのような錯覚、あるいは――」

レスキネン「長く鋭利な千枚通しで頭を貫かれたような錯覚、血も含めた体内のあらゆる水分が凍り付くような錯覚――」

レスキネン「全身の皮膚がぐずぐずに腐ってずる剥けるような錯覚に襲われるだけさ」

レスキネン「それじゃ、がんばってね」バタン


―――――
――

倫子「ああ……あああああ」

倫子「頃して――」

倫子「頃してぇぇぇっ!」



私はじっと、天井から垂れてくる水を見つめ続けていた。

そして、私は私を頃した。

252: 2016/06/18(土) 18:39:51.43 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「ぅ……う……」

レスキネン「私は麻酔を扱うのは苦手だが、どうやらうまくいったようだね」

レスキネン「気分はどうかな? 君は今、首から下が麻痺している状態だ」

レスキネン「自分の身体を思うままに動かせないというのは、ストレスのたまることだと思わないかい?」

レスキネン「とりあえず、その状態で1年ほど過ごしてみよう」

レスキネン「また会うまでに、君の言う、リーディングシュタイナーやギガロマニアックス、エレファントマウス症候群について分析しておくからね」

レスキネン「1日に1度、点滴で栄養を与えるから、心配はいらないよ」

レスキネン「"Happy New Year"、リンコ」ガチャ バタン



私はじっと、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

そうすることで、視界が麻痺して、他の何も目に入れなくて済んだ。

その白い光の中に、星屑のようなものがチラチラと見えたような気がした。

そして、私は私を頃した。

253: 2016/06/18(土) 18:40:18.48 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「ぁぁ……」


どれだけ呼びかけても、誰も来なくて。

なにも動かず、なにも動かせず。

指の一本さえ、ピクリともしなくて。

私はぼんやり、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

他にやることがなかった。

その白い光の中に、星屑のようなものがキラキラと輝いているような気がした。

そして、私は私を頃した。

254: 2016/06/18(土) 18:41:09.98 ID:z1saAC7zo

・・・

倫子「ぁぁ……」


どれだけ呼びかけても、誰も来なくて。

なにも動かず、なにも動かせず。

指の一本さえ、ピクリともしなくて。

私はぼんやり、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

他にやることがなかった。

その白い光の中に、星屑のようなものがキラキラと輝いているような気がした。

そして、私は私を頃した。

255: 2016/06/18(土) 18:41:51.54 ID:z1saAC7zo

・・・

何十年、何百年が経過したのだろう。時間の感覚はとうに狂っていた。

私はいつの間にかタイムリープしているのかもしれない。

何度も何度も何度も何度も同じ時間を繰り返して、無限の時間を彷徨っているのかも知れない。


レスキネン「実に醜い姿だね、リンコ。君のかつての美貌が台無しだ」

レスキネン「1年もの間、そこで横たわっていた気分はどうかな?」

レスキネン「己の糞便にまみれ、骨と皮だけの姿となり、尊厳を奪われた気分はどうだったのかと聞いている」

レスキネン「だけど、安心してほしい。頃しはしないよ」

レスキネン「君を捕まえてからそろそろ3年になるか」

レスキネン「私はね、君のことが愛おしくてたまらない。かけがえのない存在だよ」

レスキネン「あと何年間、この私を楽しませてくれるのかな。期待しているよ、リンコ」



私はじっと、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

そうすることで、視界が麻痺して、他の何も目に入れなくて済んだ。

その白い光の中に、一筋の光線が見えたような気がした。

レンブラント光線。それは、遠い遠い昔の記憶。

そして、私は私を頃した。

256: 2016/06/18(土) 18:42:35.13 ID:z1saAC7zo

・・・

赤ん坊「オギャァ、オギャァ」

レスキネン「おめでとう。君の子どもだよ。2579グラムの元気な女の子だ」

倫子「あ……あ……」

レスキネン「君の卵子と私の精子のIVF<体外授精>だ。私には女性とする趣味はないからね」

レスキネン「名前は何とつけようか。君の意見を聞かせて欲しい」

倫子「くり……くりす……」

レスキネン「"クリス"、か。良い名前だ」

倫子「紅莉栖……紅莉栖……」ガチャン ガチャン

レスキネン「あまり拘束された手足を動かさない方がいい、音で子どもを驚かせてしまうからね。もっとも、そんな体力はすぐになくなるだろう」

赤ん坊「オギャア、オギャア」

レスキネン「それじゃ、頑張って育ててくれ。私はしばらくここを離れることにするよ」キィ バタン

倫子「あ……あ……」

赤ん坊「オギャァ、オギャァ」

257: 2016/06/18(土) 18:43:09.72 ID:z1saAC7zo

・・・

赤ん坊は生後まもなく氏んだ。

それでも、自力で私の乳を吸いながら懸命に生きようとしていた。

なのに、自分の子を腕で抱くこともできないまま、私の胸の中で氏んだ。

"紅莉栖"が、氏んだ。

日が経つごとに彼女は腐っていき、その悪臭は私の嗅覚を破壊した。

いつしか彼女はミイラになっていた。

私はじっと、天井からつり下がっている、照明の光の奥を見つめ続けていた。

そうすることで、視界が麻痺して、他の何も目に入れなくて済んだ。

その白い光の中に、扉が見えたような気がした。

その扉の向こうには何があるんだろう。

そして、私は私を頃した。

258: 2016/06/18(土) 18:46:30.67 ID:z1saAC7zo

・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・


2011年2月1日火曜日 夕方
東京電機大学神田キャンパス地下2階 電気室 ストラトフォー支部


レスキネン「"……これでリンコは、ほんの数時間の間に、彼女の主観で14年に及ぶ拷問を受けたことになる"」

レスキネン「"いやはや、委員会のデザイナーズチャイルドと種子島の天才少女が残したこの電磁波研究は非常に有用だ"」

レスキネン「"去年のあねもね号事件……航行中の船内に設置された装置から電磁波を照射して、客船の乗客乗員全ての脳を無差別に刺激するとは、恐ろしいことを考えた少女が居たものだ"」

レスキネン「"あるいは、これも『沈黙の兵器』、コウ・キミジマの洗脳によるものだったのかも知れないね。実に興味深い"」

レスキネン「"この技術を委員会に独占されるのはモッタイナイ。我々のスパイをミゲールの元に送り込んでおいて正解だったよ"」

レスキネン「"人間の時間感覚を司る脳の一部位を刺激することによって、脳波クロックを変動させ、生理時計のスピードを調整するというもの"」

レスキネン「"その上で『拷問を受ける』という記憶をVR技術を使い脳内に叩き込む……各種人体実験の被験者の記憶データを断片化してね"」

レスキネン「"そうすれば、リンコの脳が都合よく解釈して自分で拷問を受けてくれる"」

レスキネン「"今回は委員会から盗み出した記憶データを使わせてもらったよ。ヴィクコンの精神生理学研究所に出資していた希テクノロジーの実験場とAH東京総合病院での実験のものをね"」

レスキネン「"当時はまだクリスの論文が完成してなかったから、完全な記憶ではない、部分的な記憶だけれど、それでも充分だったはず"」

レスキネン「"肉体的な損傷は無いし、短時間かつローコストで行える実に効果的な拷問、のはずなんだが"」

倫子「あば……あ……ごご……」ビクビク

レスキネン「"これでも吐かないとは、とても強いお嬢さんだ。我々は別の方法でパスを手に入れるしかなくなったらしい"」

259: 2016/06/18(土) 18:48:11.82 ID:z1saAC7zo

ストラト部下A「"被験者はどうしますか?"」

レスキネン「"彼女が行方不明扱いになるのは私にとっても都合が悪い。私はもうしばらくの間、優しい教授を演じなくてはならないからね"」

レスキネン「"マホと共にアメリカへ戻り、彼女から聞き出す線を探ってみよう"」

レスキネン「"『Amadeus』との会話ログから察するに、別の世界の記憶を見る力――新型脳炎――を持っているようだから、リンコの脳をじっくり研究したかったのだが、それはまた今度にしよう"」

レスキネン「"幸いここはリンコの大学だ。彼女を人目につくところに放置しておけば一両日中に誰かが見つけてくれるだろう"」

レスキネン「"私はアメリカに帰ってから、リンコが不幸な目に遭ってしまったことをマホから聞いて悲しむフリをするよ"」

260: 2016/06/18(土) 18:48:48.16 ID:z1saAC7zo
2011年2月2日13時01分
御茶ノ水医科大学病院 ICU前


ウィーン

医者「…………」

るか「せ、先生ッ!」

フェイリス「オカリンの、いえ、岡部倫子さんの容態はっ!?」ヒシッ

まゆり「オカリン……」ウルッ

医者「……残念ながら、あのような状態の患者は今まで見たことがない。意識が戻ることは、現代医学では難しいかもしれない」

ダル「そ、そんな……」ガクッ

鈴羽「クソっ……」チッ

医者「ただ、肉体の方は生きている。ならば、医学の進歩に賭ける方法がある」

ダル「……コールドスリープ。まさか、冗談で言ったのにな……」ウルッ

医者「いや、そんなものは日本じゃ認可されていない。ただひたすら、懸命に看病することだ」

ダル「あっ、そ、そうっすか」

医者「あとは、彼女の精神力を信じよう」

かがり「…………」

ダル「……みんな、ちょっとオカリンとふたりきりにさせてもらえんかな」

フェイリス「……わかったニャ」

261: 2016/06/18(土) 18:50:25.14 ID:z1saAC7zo
病室


倫子「…………」

ダル「……う……」

ダル「わああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」ポロポロ

ダル「オカリン、なんでだよぉ! オカリン……イヤだイヤだ、オカリンッ! いなくなっちゃダメだああっ!」ヒシッ

ダル「目を開けてよ、オカリン……オカリンがいないと、僕……」グスッ

ダル「む……無理だお。真帆たん、アメリカに帰っちゃったし、僕1人でタイムマシン作るなんて……」ヒグッ

ダル「未来を変えるなんて……できるわけないじゃん……うあああっ!!」



   『……泣かないよ。あたしは、戦士だから……』

   『ああ、ここで泣いてる場合じゃない。なんとかしないとな』



ダル「い、今のは……これが、オカリンの言ってたデジャヴ……?」

ダル「……分かったお、オカリン。僕は変えるよ、この結末を」

ダル「……絶対にっ!!」

262: 2016/06/18(土) 18:51:27.13 ID:z1saAC7zo

・・・12年後・・・
2023年9月4日18時29分
秋葉原 ダルの隠れ家


真帆「――橋田さんに呼び戻されてから、もう結構経つのね」ハァ

真帆「まさかタイムマシンを一緒に作ろうって言われるなんて……まあ、タイムリープマシンは既に作ってしまっていたわけだけど」

真帆「岡部さんにヘッドギアをつけて10年以上……未来から戻ってくる気配は無い、か……」

真帆「えっと、ここがこうなって、こっちが……」カタカタカタカタ

コツッ ガチャーン バシャーッ

真帆「うおわぁ!? って、コーヒーこぼしちゃった……ま、いっか」


ガチャ


鈴羽「クリス、来たよー! 買い物もしてきた!」ヨイショ

真帆「ハロー、鈴羽ちゃん」

263: 2016/06/18(土) 18:52:22.49 ID:z1saAC7zo

鈴羽「あっ、そのテーブル、どうしたのー? ビチョビチョー! すぐにキレイにしなきゃー!」

真帆「別に問題ないわ。論文が濡れたわけじゃないし」

鈴羽「もーっ! いいわけないでしょー!」プンプン

真帆「鈴羽ちゃん、そっちの棚にヴィクコンの脳科研でまとめたレポートがあるはずなんだけど、取ってくれない?」

鈴羽「あたしは今、お掃除で忙しいの! ……よし、キレイになりました♪」

真帆「今日もお父さんに言われて来たの?」

鈴羽「違うよ、自分で考えてきたんだよ。あたし、父さんの言いなりになる女じゃないもんっ」エヘン

真帆「偉いわ。でも、お母さんの言うことだけはちゃんと聞くのよ? 由季さんの言うことに間違いはないから」

鈴羽「だったら、クリスも母さんからの言いつけを守ってほしいなあ」

真帆「ん? 由季さんからの言いつけ?」

鈴羽「脱衣所に、またお洗濯もの溜まってた! お洗濯は毎日しなさいって、この前教えてあげたでしょ?」

真帆「前に洗濯したのは……いつだったかしら。掃除なら、この前まゆりさん、じゃなかった、スターダストシェイクハンドが来てやってくれたんだけど」

鈴羽「それも結構前の話でしょ?」

真帆「時間の感覚がなくなってきてるわね……」ハァ

鈴羽「んもう」

264: 2016/06/18(土) 18:53:00.55 ID:z1saAC7zo

鈴羽「ねえ、一度聞いてみたかったんだけど、クリスはどうしてそんなに一生懸命研究してるの?」

真帆「そうねえ。世界の外に居る誰かに会うため、と言ったところかしら」

鈴羽「おもしろい?」

真帆「……虚しい、かしら」

鈴羽「虚しいのにやってるの?」

真帆「あの人にまた会えるかもしれないし、会えないかもしれない。平和な世界に辿り着くかもしれないし、辿り着かないかもしれない」

真帆「それに、たとえ辿り着いたとしても、今私のやっていることはすべてなかったことになる」

真帆「それでも、たとえ何度無駄になったとしても、何千回も、何万回も、何億回も挑戦する。それが科学者というものよ」

鈴羽「それ、前に言ってた、"岡部倫子さん"って人?」

真帆「ええ、そうよ。眠り姫をいつか目覚めさせなければならないの」

真帆「この世界の未来でダメでも、どこかの世界で、必ず」

鈴羽「でも、その人、父さんが氏んじゃったって……」

真帆「……そうね」

265: 2016/06/18(土) 18:54:22.72 ID:z1saAC7zo

・・・2年後・・・
2025年
秋葉原 ダルの隠れ家


??「ど、どど、どうして僕がこんなことを手伝わなきゃならないんだよ……梨深がやればいいだろ、いい加減にしろ!」

??「とか何とか言って、僕がチートツール作ってあげた恩をしっかり返そうとする辺り、さすがナイトハルト氏と言わざるを得ない」

拓巳「糞、DaSHなんかに頼るんじゃなかった……拒否したら、僕の悪行が全部丸裸にされちゃうじゃないかぁ!」

ダル「そんなことしないおー(棒」

拓巳「鬱だ氏のう」

??「おふたりとも、静かにしてください。ナイトハルトは自分が委員会に追われている身だという自覚があるんですか?」

拓巳「だ、だだ、だから君たちとつるんでおけっての!? そんなの、脅迫じゃないかぁ……!」

??「CIAの筋から得た情報によれば、ストラトフォーによって行われた拷問はこちらに記した通りです」

ダル「さすが澤田氏。乙!」

266: 2016/06/18(土) 18:57:20.21 ID:z1saAC7zo

拓巳「なにこの資料……は、はぁっ!? 梨深にあやせに、セナの母親が受けた拷問じゃないか!? なんだよこれ……うぇぇっ!」ゲホッ

澤田「希の実験場やAH東京総合病院の地下は封鎖されたはずでしたが、実験データは別の場所へ移管されていたようです」

澤田「その場所は、渋谷にある私立碧朋学園」

拓巳「なんだよそれ……マジふざくんな……」プルプル

澤田「また、君島コウと瀬乃宮みさ希が確立した電磁波照射実験、生理時計操作も用いられている。それを踏まえた上で、ナイトハルトには彼女を見てもらいたい」


倫子「…………」


拓巳「彼女、って……この人、老化してる。ギガロマニアックスとしての力を覚醒させて、それを無理に使ったんだ」

ダル「たぶん、自分を守るために心の中に逃げ込んだんじゃね? って僕たちは考えてるお」

拓巳「妄想世界に引きこもってるってことか……あ、あれ?」

拓巳「でも、こ、この人、いつか、どこかで会ったような……1/4星来フィギュア? いや、あれはたしか横浜のアニメイトで買ったはず……」

267: 2016/06/18(土) 18:58:55.99 ID:z1saAC7zo

拓巳「――み、見たままを話す」

拓巳「心象風景っていうんだけど、心の中の景色に、たくさんの彼女が氏んでた。だけど、その心象風景が覗ける時点で生きてることが確定的に明らかなわけ」

ダル「つまり、精神は氏んでるけど、身体は生きてたってことでFA?」

拓巳「ふぁ、FA。でも、僕が何度呼びかけても心は生き返らなかった」

拓巳「肉体はぎりぎり生きてるけど、魂はもう、二度と浮上してくることはないと思う」

拓巳「だけど、うわごとのように呟いてる言葉があった。そ、それを、整理すると、こんな感じ」

拓巳「『いくつもの未来の先が、過去へと繋がっているんじゃないか』」

拓巳「『シュタインズゲート世界線への道は険しい。一度や二度、やり直したところで、辿り着ける道ではないだろう』」

拓巳「『けれど、まずはそこから始めることが、運命石の扉<シュタインズ・ゲート>へと繋がるんじゃないか』」

澤田「シュタインズゲート……それこそが、私が300人委員会に復讐できるチャンス」

ダル「それホントにオカリンが言ってたのかよ!?」ガシッ

拓巳「い、いや、言ってたっていうか、もう言葉の意味もわかってないような感じだった。つか、近い! 臭い!」

拓巳「反射神経だったんじゃないかな。いや、心の声だし、神経なんて無いんだけど」

拓巳「そ、それともう1つ。『クリスをアマデウスの呪縛から解放してやってくれ』って……」

ダル「オカリンェ……」

268: 2016/06/18(土) 19:00:17.76 ID:z1saAC7zo

ダル「でも、これでオカリンのオペレーション案が生きてくるわけだお」

澤田「ストラトフォーの手によってどこかへ持ち去られてしまった2011年1月31日時点の彼女の記憶を、今の彼女の脳へと書き戻すことによって蘇らせる」

澤田「そしてそれを過去へと送る……彼女に装着されたヘッドセットがそれを可能にしている。いやはや、とんでもない計画だ」

拓巳「で、見つかんのそれ」

ダル「無茶言うなって話。世界中のサーバーをハッキングしろって言われてるようなもん」

拓巳「は、話にならないね。僕はもう、帰るよ。なんで僕が他人に力を貸すなんてこと、しなきゃならないんだ」

澤田「ナイトハルト、今回の報酬です。受け取ってください」

拓巳「……こ、ここ、これはぁっ!? ブラチューのC78コミマセットォ!? エリンとチュッチュできる伝説の……」ゴクリ

ダル「好きっしょ、こういうの」

拓巳「すべてのしがらみから解き放たれた今の僕に、怖いものなんてなにも無いんだ(キリッ。さあ、紳士の本気度400%を見せてやんよ、ふひひ……」

ダル「そんなわけだからさ、また次も頼むのだぜ」ニッ

269: 2016/06/18(土) 19:02:00.35 ID:z1saAC7zo

澤田「DaSH、どうやらワルキューレの面々が到着したらしい。私もこれで失礼する」

ダル「おう、また頼むのだぜ、澤田きゅん」

澤田「……例のモノはここに。秋葉原TMマフィアには私から報告しておきますので」ガチャ


キヨタカ「遅くなって済まない。バレル・タイター、そちらの作戦、オペレーション・ヘルヘイムは?」

ダル「ああ、うん。第2段階に以降、ってところかな」

ダル「DaSHって呼ばれたりバレル・タイターって呼ばれたり、僕って忙しいお」

キヨタカ「進行中の作戦については、引き続きヘイウッドを指揮官に続行ということで通達を……タイター? それは?」

ダル「これ? 澤田氏に持ってきてもらったんだけどさ」スッ

キヨタカ「白衣、ですか? 少しサイズが小さいような……」

ダル「オカリンの白衣。今日の今日まで、これを着るのはためらってたんだけど、最近僕、痩せてきたしね」バサッ

ダル「(これを着る日が来るとはな……)」ウルッ

ダル「……見てるがいい、鳳凰院凶真。我が友よ」

ダル「貴様を氏の淵から、救い出して見せようッ! フゥーハハハッ!」バサッ

キヨタカ「バレル・タイター……?」

ダル「僕、頑張るから……! 絶対、頑張るから……!」グッ

270: 2016/06/18(土) 19:02:53.90 ID:z1saAC7zo

・・・11年後・・・
2036年1月1日
ワルキューレ基地


鈴羽「国民皆兵制で高校の軍学校を卒業して、半年間日本政府軍に勤めてたら、まさか父さんたちが反政府組織として目をつけられてるなんてね」

鈴羽「それもそうか……こんなものを、こっそり作ってたんだから」

鈴羽「――タイムマシン」


ゴウンゴウンゴウン…


由季「戻ってきてくれて嬉しいわ、鈴羽」

ダル「なあ、鈴羽。娘にこんなことを頼むのは父親失格かもしれないけれど、聞いてくれるか?」

鈴羽「……うん」

ダル「タイムマシンに乗って、過去へ跳んでほしい」

鈴羽「……っ!?」

271: 2016/06/18(土) 19:03:40.49 ID:z1saAC7zo

ダル「鈴羽にしか頼めないことなんだよ。どうだ、できるかい?」

ダル「……勿論、拒否しても構わない」

鈴羽「あたしは……」


   『世界の外に居る誰かに会うため、と言ったところかしら』


鈴羽「なるほど、そういうことか……クリスがずっと研究していたのは」

真帆「ええ、そうよ。私の、私たちの人生をすべて捧げた」

鈴羽「い、居たんだ。……わかった。あたし、やるよ。過去に行ってくる」

ダル「……そっかぁ」

由季「……ありがとう、鈴羽」

真帆「あなたたち、複雑な顔してないで、すぐ実験に取り掛かるわよ」

272: 2016/06/18(土) 19:04:28.42 ID:z1saAC7zo
2036年1月14日2時48分
ワルキューレ基地 タイムマシン内部


ダル『こっちの準備は完了したよ』

真帆『いい? いつも言ってるからわかってると思うけど、予定されたこと以外は絶対にしないで』

真帆『もし勝手なことをしたら、即刻テストパイロットを解任するわ』

鈴羽「オーキードーキー」

真帆『それじゃ、実験を始めましょう』

鈴羽「第4回、実証実験開始。目標跳躍時間は、2036年1月14日、3時00分」

ダル『カウント、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1――』

鈴羽「くっ――――――」

―――――――――――――――――――――――――――――――
    2036年1月14日2時48分  ⇒  2036年1月14日3時00分
―――――――――――――――――――――――――――――――

鈴羽「……跳躍終了。体感で、だいたい5秒くらいか」シュィィィィン(※ハッチが開く音)

真帆「お疲れ様。実験は成功ね」

ダル「でも、冷却装置の改良の必要がありそうだ……鈴羽、体調に異常はないかい?」

鈴羽「大丈夫だよ、父さん。心配しないで」

ダル「良かった……」ホッ

273: 2016/06/18(土) 19:05:43.45 ID:z1saAC7zo

・・・
2036年2月21日
ワルキューレ基地


ダル「見つけた……ついに見つけたぞ、みんな」プルプル

ダル「オカリンを氏者の国から呼び戻す作戦、オペレーション・ヘルヘイム、成功だ……っ!」バサッ

フェイリス「見つけたって……もしかして、凶真の記憶?」

ダル「ああ。まさか、僕たちの大学の地下にストラトフォーの秘密基地があったなんてな。灯台下暗しだったよ」

ダル「ようやく発見できたのは、今月の6日に起こった防衛攻撃システムの世界的誤作動のおかげかな……」フゥ

まゆり「嘘……ホント!?」

るか「これで凶真さんが蘇るんですね!?」

ダル「データも装置もある。あとはオカリンの気合い次第ってところか……」

ダル「その上、どの世界線のオカリンがダウンロードされるかはわからない」

ダル「けど、どの世界線であろうと、オカリンはオカリンに違いないはず」

真帆「とにかく、急ぎましょう。もうXデーまで時間が無い」

ダル「オーキードーキー!」

274: 2016/06/18(土) 19:06:19.49 ID:z1saAC7zo

葛城新次郎「それで、オペレーション・ヨルムンガンドは?」

ダル「ミッション内容は敵実行部隊『ラウンダー』指揮官リブロンの暗殺。奴がロシアに捕縛され、SERNの情報をロシアが手に入れる前に頃す必要がある」

御子柴レイ「シアワセ4Uの星田栄のボディーガードとして、長らく日本で活動している委員会の手先……」

鈴羽「プランは? モメてたよね」

キヨタカ「C案……狙撃で行く。狙撃手は阿万音鈴羽、お前だ」

鈴羽「……オーキードーキー」

葛城新次郎「小娘、実はビビってやがるな?」

鈴羽「あたし自身は収束の力で氏なない。だけど、みんなを守れる自信は……」グッ

由季「鈴羽。大丈夫よ、きっと大丈夫」

ダル「ああ。もっと自分を信じろ、鈴羽」

鈴羽「母さん……父さん……」

275: 2016/06/18(土) 19:06:53.86 ID:z1saAC7zo

フェイリス「それで、由季さんまで行かせて良かったの? だって――」

ダル「世界はそういう風に収束する。この試練もまた、鈴羽にとっても、世界にとっても必要なことなんだ」

まゆり「……由季さん、氏んじゃうんだよね」

フェイリス「それが神様が与えた試練だって言うなら、神様なんて居ないよ……」

るか「今まで多くの犠牲を払ってきました。でも、それはすべて過去へと繋がる必要なこと」

ダル「そう。だから、僕たちは常に前を向いていなければならない」

ダル「たとえ最愛の妻を失うとしても」

ダル「……っ」ギリッ

真帆「橋田さん……」

276: 2016/06/18(土) 19:08:36.98 ID:z1saAC7zo
都内某所


パラララッ パラララララッ


キヨタカ「クソッ! 作戦がロシアにバレていたッ! 鈴羽、早く逃げ――」バタッ

葛城新次郎「ロシアの無人機!? ちくしょう、やってやるッ!!」ギリッ

御子柴レイ「ここで引きつける! 鈴羽のところへ行かせてはダメだっ!」BANG! BANG!


ドォォォォォォォォォォォォン…


鈴羽「潜伏地点で爆発!? そんな、みんなは……」プルプル

由季「――ッ!! 鈴羽ッ!!」ガバッ

鈴羽「え―――――」


パララララッ パララララララッ


277: 2016/06/18(土) 19:09:56.13 ID:z1saAC7zo

由季「かはっ……」グタッ

鈴羽「母さんっ! しっかり!」ガシッ

鈴羽「(弾は体内に残らず、貫通して、あたしの胸まで届いてる……これなら、急いで手当すれば間に合うか!?)」

鈴羽「(……クソッ! たかが銃撃の鈍痛なんかで、身体に力が入らなくなるなんて……っ)」ズキズキ

由季「……ねえ、鈴羽。本当は母さんね……」ゴフッ

鈴羽「しゃべるな! 傷が広がる!」

由季「つらかった……家族で何の心配もなく幸せに過ごせたらって……思ってたわ……」

鈴羽「母さん……」

由季「ありがとう鈴羽……あなたは私の……」

由季「――宝物よ」

鈴羽「そんな……どうして……まさか、これが、"収束"……」プルプル

由季「……行ってらっしゃい、鈴羽。あなたが、ワルキューレの希望なのだから……」

鈴羽「何言ってる! 置いて行けるわけ、ないっ!」ギュッ

由季「ごめんなさい、鈴羽……」

由季「…………」

由季「…………」



由季「…………………………………」



鈴羽「……母さん」グッ


278: 2016/06/23(木) 20:09:57.25 ID:2j/8NxTHo
第18章 明誓のリナシメント(♀)

・・・・・・・・・・・
・・・・・・・
・・・




倫子「――――!!!!」ガバッ

倫子「…………」キョロキョロ

倫子「ラボ、か……」ホッ



未来ガジェット研究所?


??「ちょっと岡部、いつまでもそんなところで寝てると、風邪ひくわよ」

倫子「なんだ、紅莉栖。いたのか」

279: 2016/06/23(木) 20:10:27.02 ID:2j/8NxTHo

紅莉栖「いたのか、とは随分ご挨拶ね。だが、それがいい」ハァハァ

倫子「相変わらずだな、近づかないでくれ」

紅莉栖「ぐはぁっ! き、昨日も一昨日も一緒に居たのに、それはさすがに酷い」

倫子「そう、だったな。それで、ダルやまゆりはどうした?」

紅莉栖「……あんた、本当に大丈夫? 結婚する?」

まゆり「オカリン、トゥットゥルー♪」ゲシッ

紅莉栖「ちょ、まゆり、足踏んでる踏んでる!」

ダル「いや、自業自得だと思われ」

倫子「ああ、そうか。いつだってそこにいたよな、2人とも」

倫子「(2人だけじゃない、ここには――)」

280: 2016/06/23(木) 20:11:28.33 ID:2j/8NxTHo

フェイリス「凶真、元気がないニャ? フェイリス印の猫耳メイド服を着るときっと元気が出ると思うニャ♪」

倫子「それは、オレ以外が、だろうが! オレにはこのパーフェクトな白衣があるっ!」バサッ

るか「おか、凶真さん。ボクに出来ることがあったら、なんでも言ってくださいね。エル・プサイ・コンガリィですっ!」

倫子「コンガリィではなく、コングルゥだっ!」

るか「はいっ! エル、プサイ、コングルゥ!」

倫子「うむっ」ニコッ

るか「(かわいい)」

281: 2016/06/23(木) 20:11:56.43 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「レジェンド、風邪だって!? これ、飲んで!!」グイッ

倫子「な、なんだ、その奇妙な色の液体は……っ!」ビクッ

鈴羽「これさえ飲めば風邪なんて一瞬で治っちゃうから! ほら、飲んだ飲んだ!」ガッ

倫子「や、やめんかバイト戦士――――ぐぼふっ」バタッ

紅莉栖「お、岡部っ!?」

萌郁「それ……何が入っているの……?」

鈴羽「公園に生えてる草とか、その辺で捕まえた虫とか、色んなの。あたしの居た時代じゃすっごく効いたんだから心配ないって!」

倫子「ブクブクブク……」

萌郁「そ、そう……」

282: 2016/06/23(木) 20:12:25.64 ID:2j/8NxTHo

倫子「ぜ、全員いるようだな……ゴフッ」

紅莉栖「阿万音さん、いつか見てなさいよ……」ゴゴゴ

鈴羽「なんだよ牧瀬紅莉栖。やろうっての?」ゴゴゴ

倫子「気を取り直して。ゴホン」

倫子「では只今より、第65536回目の円卓会議を行う! お前たち、準備はいいか!?」

紅莉栖「で、今日の議題はなんなんだ?」

倫子「そんなものは決まっている。今日の議題は――」

倫子「議題、は……」

283: 2016/06/23(木) 20:12:54.05 ID:2j/8NxTHo

紅莉栖「岡部?」

寒い。

まゆり「オカリン?」

寒い。

ダル「どしたん、オカリン?」

寒い。

フェイリス「凶真?」

寒い。

るか「凶真さん……?」

寒い。

鈴羽「レジェンド?」

寒い。

萌郁「姉さん……?」



寒い―――――――――――――――――――

284: 2016/06/23(木) 20:13:44.42 ID:2j/8NxTHo


ここは、データとして眠っている私の世界。


0と1だけで構成された世界。


時間が止まったままの世界。


次元の果てのような世界。


冷たく暗い箱の中の世界。




――――"紅莉栖"の居る世界。


285: 2016/06/23(木) 20:14:10.01 ID:2j/8NxTHo
2036年3月7日金曜日
暗室


倫子「ぁ……………………」

倫子「(どこ、ここ? 声が思うように出せない……)」

倫子「っ!!」ズキン!!

倫子「(あ、頭が……痛い……っ)」

倫子「っ……ぅぁ……」

倫子「(なんとか……起き上がれた……。声が出ない、無理に出そうとすると喉が痛む……)」

倫子「(ヘッドギアにクランケ服……なんだろ、この格好?)」

倫子「(私は……何をしていたんだっけ……)」

286: 2016/06/23(木) 20:14:56.74 ID:2j/8NxTHo

倫子「(――そうだ、思い出した! かがりちゃんだ!)」

倫子「(2011年1月15日の未明、紅莉栖の記憶を消すために、比屋定さんの作った装置で元のかがりちゃんの記憶を上書きしようとして、私は……)」

倫子「(ストラトフォーにラボが襲撃される直前、スマホのボタンを押して、世界線が変動したんだ。ってことは、ここは変動後の世界線か)」

倫子「(この世界線の"私"は、一体なにをどうしてこんな状態になってるんだろう……)」

倫子「(暗くてよく見えないけど、身体が極端にボロボロなのはわかる)」

倫子「(とにかく、ここから出てみよう)」スッ

バタッ!!

倫子「っ―――!」

倫子「(あ、足に力が入らない!? 想像以上に衰弱してるみたい……)」

倫子「(でも、身体を引きずってでも部屋から出ないと……)」

ガチャ バタン

287: 2016/06/23(木) 20:15:49.94 ID:2j/8NxTHo
廃ビル外


ズル ズル ズル …

倫子「なんだ……これ……ゴフッ」

倫子「(見渡す限り、廃墟ビルだらけ……周りは瓦礫の山……)」

倫子「(空は赤銅色……まるで地獄のような……)」

倫子「(どういうこと? 私は紅莉栖の記憶をかがりちゃんの中から消した)」

倫子「(ってことは、ここは元々かがりちゃんに紅莉栖の記憶が植え付けられなかった世界線のはず)」

倫子「(いったいどんなバタフライ効果が……って、このビルの街頭テレビって……っ!)」

倫子「あ……あ……」ガクガク

倫子「(見覚えがある……ここは、秋葉原だ……。UPXに人工衛星が墜落してる……)」プルプル

倫子「(タイムマシン……いや、『SA4D』って書いてある。なんだろうあれ、黒騎士<ブラックナイト>衛星?)」

倫子「いや、そんなことより……」ワナワナ

倫子「ラボは……どうなった……?」ガクガク

288: 2016/06/23(木) 20:16:20.17 ID:2j/8NxTHo

タッ タッ タッ

倫子「(な、なんだ!? 向こうから人の気配が……)」

??「お前、氏にたいのか?」ガチャ

倫子「あ……あ……っ」

倫子「すず……は……」ウルウル

鈴羽「っ!? どうしてあたしの本名を……。何者だ?」

倫子「私が……わからないの……?」

鈴羽「あんたみたいな婆さんの知り合いなんていない」

倫子「(婆さん……? な、なにを言ってるの……?)」

倫子「岡部……岡部、倫子だよ……」

鈴羽「岡部……倫子ッ!? そんな、バカな! だって、岡部倫子は氏んだはず!」

倫子「私が、氏んだ……?」

鈴羽「……お前に確認したいことがある。ついてこい」ガシッ

289: 2016/06/23(木) 20:17:00.53 ID:2j/8NxTHo
元ラジ館屋上


ダル『君に萌え萌え』

鈴羽「バッキュンきゅん」

倫子「…………」

ガチャ

ダル『入れ』

倫子「(確かに合言葉としてこの上なく堅固かも知れないけど、雰囲気を考えなよ、ダル……)」

倫子「(そういえば、α世界線の鈴羽が言ってたっけ。ダルのプロポーズの言葉……)」


   『告白の言葉は、「キミに一生、萌え萌え☆キュン」だったって聞いてる』


倫子「(橋田家にとっては大事な言葉なのか……)」

290: 2016/06/23(木) 20:18:03.55 ID:2j/8NxTHo
ワルキューレ基地


倫子「まぶし……」

ダル「よかった、やっと目を覚ましたんだな、オカリン……」

倫子「ああ、やっぱりダr……誰、ですか?」

ダル「僕は僕だお、オカリン。25年後のね」

倫子「ダルが、痩せてる……信じられない……」

ダル「ってそこかよ」

291: 2016/06/23(木) 20:18:38.07 ID:2j/8NxTHo

ダル「まあ、この僕は2010年に現れた娘に1年間しごかれたおかげで、こうやってスマートになったわけだぜぃ」

ダル「でも、鈴羽が僕を痩せさせようと思うためには、鈴羽の出身世界線の僕は太ってないといけないわけで、こうして世界は巡っていくんだよなぁ」

鈴羽「父さん、少し言葉遣い、おかしくない?」

倫子「……いや、私は知ってる。未来のダルが、私の為に喋り方を合わせてくれてるってこと」

ダル「α世界線の2033年の僕、だったね」

倫子「ダル……もしかして、タイムマシンで過去に来たの?」

ダル「そう思う? 実は逆なんだなぁ」

倫子「逆……?」

鈴羽「自分の顔を見れば理解するんじゃないかな」スッ

倫子「鏡……ん、誰、この人……」

倫子「あ……あ……」プルプル

倫子「嘘……そんな……でも、どうして……」ガクガク

ダル「今は2036年。オカリンは年齢的には、44歳だ」

鈴羽「それ以上に老けて見えるけどね」

ダル「今からそれについて説明する」

292: 2016/06/23(木) 20:19:34.35 ID:2j/8NxTHo

この世界線の私は長いこと眠っていたらしい。

15年もの間、毎日何時間もかけてみんなが私の体のケアをしてくれたそうだ。

栄養摂取をはじめ、垢擦り、洗髪、目やにや痰の処理、排泄物の処理、口腔の洗浄、床ずれ防止。

関節の曲げ伸ばしと筋肉マッサージ。それらの肉体運動に加えて、EMS器具を使うなどして筋力の低下を防いでくれた。

世界は電気仕掛け。私のこの身体の細胞ひとつひとつもまた生体電気で動く。

外部から電気を流すことで運動能力を維持していたという。

肉体という入れ物を、未来に遺してくれていた。




Tips:EMS(Electrical Muscle Stimulation)
筋肉へ電気刺激を送ること。スポーツ現場での疲労回復やリハビリ医療として用いられる。

293: 2016/06/23(木) 20:20:10.60 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「写真で見せてもらった岡部倫子とは、似ても似つかない」

ダル「この鈴羽はオカリンの知ってる鈴羽と違って、子どもの頃にオカリンと会ったことは無いんだ」

倫子「ああ、うん。そうだよね……」

倫子「でも、どうして私は何も覚えてないの? 私の最後の記憶は、2011年1月15日の午前1時頃のものなんだけど」

ダル「えっ? ……やっぱ無理があったのかな。記憶が飛んでるのか、あるいは別の世界線のオカリンが……」

ダル「今のオカリンの頭の中には、2011年の1月末までの記憶があるはずなんだけど」

倫子「ど、どうして?」

ダル「真帆たんがオカリンの記憶をデータとして保存したのが、2011年1月31日のことだからさ」

倫子「データ化……未来へのタイムリープみたいなもの、か」

倫子「うん。ダルの推測通り、私は1月15日に世界線移動してきた」

ダル「やっぱり未知の現象が発生したか……」

倫子「だからね。この世界線の私に1月末までの記憶があったとしても、この私は覚えてないよ」

鈴羽「それがリーディングシュタイナー……話に聞いてた通りだ」

294: 2016/06/23(木) 20:20:49.94 ID:2j/8NxTHo

倫子「でも、私には2025年の氏亡収束があったはず。どうしてこの世界線の私は、その年を超えて生きてるの……?」

鈴羽「それはあたしも聞きたい。あたしたちは皆、岡部倫子は11年前に氏んだって聞かされてきたんだ」

鈴羽「もしかして、あたしたちを騙してたのか? 父さん」

ダル「氏んだよ。事実上ね」

鈴羽「事実上?」

ダル「考えても見てくれ、オカリン、鈴羽。人間の"氏"って、いったいなんだい?」

倫子「氏……えっと、心肺停止、じゃないの?」

ダル「仮にコールドスリープさせたら? あるいは、アンドロイド化したら? それこそ『Amadeus』化でも構わない」

ダル「世界線にとっての"氏"、特にオカリンの場合は、僕たちの常識で言う"氏"ではないのかもしれないね」

倫子「……因果律、か」

295: 2016/06/23(木) 20:21:22.56 ID:2j/8NxTHo

ダル「タイムマシン開発競争は2025年頃がピークだったんだ」

ダル「僕の得意のハッキングでそれらの情報をしこたま盗んでさ、今までの僕の研究に上乗せしたってわけ」

ダル「もちろん、理論分野に関しては真帆たんが牧瀬氏の論文を応用させてくれた。さすが"先輩"って感じだったお」

ダル「で、そのついでに色々とわかっちゃったんだよね」

ダル「各国のいろんな機関が、牧瀬氏が残した論文と彼女の記憶を欲していた」

ダル「でもその時点で、牧瀬氏の遺産は全部、ストラトフォーの手に渡ってたんだ……」

ダル「まあ、一部には自分の意志で外部へと流出したものもあったらしいけど」

倫子「(自分の、意志で?)」

296: 2016/06/23(木) 20:21:56.19 ID:2j/8NxTHo

ダル「ただ、連中をもってしても、例の論文の中身を確かめることはどうしてもできなかった。ロックを解除できなかったんだ」

倫子「……ならストラトフォーは、私ならパスを知ってるかもしれないと思ったはず。比屋定さんみたいに」

ダル「うん。それで、オカリンは誘拐されて、拷問された」

ダル「僕たちが助け出した時には、オカリンの精神はボロボロだった。氏んだのとほぼ変わらない状態だったんだ」

ダル「もう真帆たんなんかわんわん泣いちゃって……あ、今のナイショな」

ダル「それで、まゆ氏やフェイリスたん、ルカ氏や真帆たんたちで、こことは別の施設でずっと面倒を見てきたんだ」

倫子「あそこか……」

ダル「僕たちが記憶を書き戻さなければ、永遠に蘇ることはなかっただろうね」

倫子「記憶を、書き戻す……。そっか、2011年の記憶を。でも、今になってどうして?」

ダル「記憶データを見つけたのがつい半月前だったんだ。ストラトフォーが支部のサーバにデータを保管してたんだけど、どこにあったと思う?」

ダル「僕たちの大学の地下だよ」

倫子「電機大の……」

297: 2016/06/23(木) 20:22:29.12 ID:2j/8NxTHo

ダル「その頃は特に大変だったよ。世界中のコンピューターがオーバーフローして、軍事衛星の誤作動で主要都市はほぼ壊滅した」

倫子「あ。あの、UPXに突き刺さってた……」

ダル「秋葉原も、新宿も、池袋も。今、日本の首都は奇跡的に難を逃れた中野にあったりする」

ダル「まあ、そういう混乱のおかげでオカリンの記憶データの在り処が浮き彫りになったんだ」

ダル「で、オカリンの記憶データを早速脳にダウンロードした。だけど、10日経ってもオカリンは目覚めなかった」

ダル「だから正直、こうして出会えて驚いてる。半ば諦めかけてたからね」

倫子「そうだったんだ……」

ダル「本当に良かった。オカリンとまた話せて……ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」

鈴羽「こんな時になにを」ハァ

ダル「いや、ちょっと安心しちゃってな。ハハハ」

298: 2016/06/23(木) 20:23:41.91 ID:2j/8NxTHo
トイレ


スッ

ダル「(こうやってケータイを耳に当てるのも、これが最後か……)」

ダル「……ああ、僕だ。オペレーション・ヘルヘイムは、機関の妨害の乗り越え、真の成功へと辿り着いた」

ダル「何? まだ道半ばであることを忘れるな? 僕を誰だと思っている、"DaSH<ダル・ザ・スーパーハッカー>"であり、バレル・タイターだぞ?」

ダル「必ずやタイムマシンを完成させ、世界の支配構造を変革せしめようではないか。フ……フフ……」ウルッ

ダル「フゥーハ……ハハ……」ポロポロ

ダル「ハハハはあああああ~~~~~~」ウワンウワン

299: 2016/06/23(木) 20:24:14.99 ID:2j/8NxTHo
ワルキューレ基地


ダル「すまんすまん。それで、どこまで話したっけ」

倫子「(ん、目が赤い?)」

鈴羽「父さん、まゆねえさんには伝えたのか? 岡部倫子が目覚めたこと」

倫子「("まゆねえさん"……そっか、この鈴羽はまゆりと仲が良いんだ。良かった)」

ダル「あ、いかん! 早く教えてやらんと」

ピッ ピッ

ダル「こちら、バレル・タイター。応答せよ」

まゆり『こちらスターダスト・シェイクハンドです。どうぞ』

倫子「ふふっ……可愛いコードネーム」

ダル「心して聞いてくれ。オカリンが……目覚めた」

まゆり『……! ほんとに、オカリンが……!?』

ダル「フェイリスたんもるか氏も一緒だろう? 3人とも、すぐ戻って来てくれないか」

まゆり『…………』

ダル「まゆ氏?」

フェイリス『ダメ。マユシィは嬉しさのあまり涙ぐんで声も出ないみたい』

倫子「……まゆり」

300: 2016/06/23(木) 20:25:08.08 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「……なんで、まゆねえさん達、食料調達に出ている?」

ダル「え?」

フェイリス『確かに今日だって、昨日の夜遅くに連絡が……』

鈴羽「……罠だッ!!」

まゆり『きゃぁっ!?』 パララッ パラララッ

倫子「銃声!?」

るか『まゆりちゃん! フェイリスさん! 逃げて! ここはボクが!』

鈴羽「父さん、救出に向かおう!」

ダル「おう! オカリン、ここを頼んだのだぜ」

倫子「で、でもっ!」

ダル「大丈夫。僕たちは今までもやってこれたんだからさ。それに、オカリンの言葉が正しいなら、鈴羽を過去に送るまでは収束が働くはずだろ?」

倫子「……無事で、帰って来て」

ダル「オーキードーキー!」

301: 2016/06/23(木) 20:27:15.56 ID:2j/8NxTHo

倫子「……みんなならきっと、大丈夫だよね」

倫子「(試しに未来視してみるか。って、今誰も居ない――)」キョロキョロ

??「おばあちゃん、だあれ?」ヒョコッ

倫子「えっ……? あなたは……もしかして、かがり、ちゃん?」

かがり「うん。そうだよ」

倫子「(これが未来のかがりちゃん……まだ綯と同じくらいの歳か。いや、今は綯も大人になってるんだっけ)」

倫子「初めまして、かがりちゃん。私は、あなたのママのお友達よ」ギュッ

倫子「(手を繋がせてね。脳を借りて……あれ? 未来視ができない。拷問のせいなのかな……)」

かがり「まゆりママのお友達?」

倫子「そうだよ。かがりちゃんは、ママのこと、好き?」

かがり「うんっ、だーいすきっ!」

倫子「……そっか。よかった」

倫子「(……立派にお母さんやってたんだ。すごいなぁ、まゆりは……)」

かがり「ママたちのこと、心配?」

倫子「えっ? ……うん」

かがり「あのね? そういう時はね、お空に手を伸ばすと、神様が見守っててくれるってママ言ってた」

倫子「お空に……」

302: 2016/06/23(木) 20:27:43.18 ID:2j/8NxTHo

プルルル プルルル

倫子「ダルの無線……? はい、もしもし」

鈴羽『……岡部倫子。今、外での戦闘が終わった。もし良かったら、外まで来てほしい……』

倫子「え? な、なんで?」

鈴羽『……今のあたしたちに、命を救う医療が無いから。そして、遺体を回収できないから』

倫子「……ど、どういう……」プルプル

倫子「(まさか、まゆりたちの誰かが……!? 嘘、嘘……)」ガクガク

鈴羽『とにかく、すぐ外で待ってる。声をかけたいなら、急いだ方がいい』

倫子「そんな……っ!!」タッ

倫子「(くっ、思うように体が動かないけど……それでも……っ)」ズル ズル

かがり「おばあちゃん? ママ?」

倫子「……かがりちゃんはここで大人しくしててね。いい子だから……」

303: 2016/06/23(木) 20:28:34.10 ID:2j/8NxTHo
中央通り


倫子「あ……あぁ……そんな……」ガクッ

フェイリス「凶真ぁ……るかが……るかがぁ……っ!」ポロポロ

まゆり「るかくん……ぅううぅっ!!」ポロポロ

倫子「ルカ子……ねえ……嘘でしょ……」ダキッ

るか「岡部……さん……? い、いるんですか……」

倫子「(目は開いてるのに、もう、私が見えてないんだ……)」グスッ

倫子「うん、居るよ……ここに、私は居る……」

るか「よかった……さっきのはなしは、うそじゃ、なかったん、ですね……」

るか「さすが……凶真さん、です……やっぱり、生きてた……」

倫子「うん……みんなのおかげで、こうして目覚めることが出来たよ……ありがとう……」ヒグッ

るか「清心斬魔流で……みんなを……まもれて……」

るか「凶真さんと……一緒に放った……青白い斬撃は……だせませんでしたけど……ゴフッ」

倫子「(……α世界線の時の記憶が、ルカ子に守る力を……っ)」

倫子「うん……っ」ギュッ

304: 2016/06/23(木) 20:29:28.75 ID:2j/8NxTHo

―――――――――――――――


いいか、ルカ子。

そんなことでは、ラグナロックが始まった時、防人(さきもり)としての役目を果たせんぞ。

お前は、この秋葉原における、最後の盾なんだ。

お前が揺らげば、防衛線は総崩れになってしまう。

心を強く持て、ルカ子。

それと、これだけは忘れるな。

このオレ、鳳凰院凶真は、何があっても氏にはしない。

何故なら、それが、それこそが、運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択だからだっ!!


――――――――――――――――

305: 2016/06/23(木) 20:29:57.16 ID:2j/8NxTHo

倫子「(この世界線のルカ子の記憶……そういや私、そんなこと、言ったっけ……)」

るか「男が……好きな子にすがりついて生きてきたなんて、かっこ悪いですもんね……」

倫子「どうして、そんなにまで私を……っ」グスッ

るか「誰にもうちあけられずに……とどかなくても……この気持ち、抱きしめていたくて……」

倫子「……ルカ子、かっこいいよ。世界中の誰よりも、かっこいいよ……っ!」ギュッ

るか「……えへへ……うれしい、な……」

るか「おぼえていて……くれますか……?」

倫子「うん……っ。うん……!」ポロポロ

るか「……あなたは……だれよりもうつくしくて……つよいヒト……」

るか「……そんな岡部さんが……ボクは……」

るか「…………」

るか「…………」

るか「…………………………………………」

306: 2016/06/23(木) 20:30:27.51 ID:2j/8NxTHo

倫子「(ああ、またこの感覚だ……もう何度目だろう。まゆりも、紅莉栖も、ルカ子も)」

倫子「(私の腕の中で、命が消えていく感覚……)」ポロポロ

まゆり「……よかった。るかくんは、オカリンにずっと会いたがっていたから。オカリンのこと、大好きだったから」

まゆり「最期に会えたのは、本当に、よかった……」

倫子「(……まゆりにそんな台詞を言わせるなんて、なんて世界なんだ、ここは……)」

まゆり「あなたは、とても立派に戦いました。私たちは、あなたに救われました。どうか、安らかに」

倫子「(こんなの、あんまりだ――――)」

倫子「う、あぁぁぁぁぁあああああああ…………!」

307: 2016/06/23(木) 20:31:22.31 ID:2j/8NxTHo
ワルキューレ基地


まゆり「……オカリン、落ち着いた?」

倫子「うぐっ……。まゆりは、強いね……」

倫子「(泣きたいのに涙が出なかった。たぶん、長年の寝たきり生活のせいだろう)」

まゆり「私はずっと、オカリンを信じてたから」

倫子「まゆり……」

フェイリス「……一応、持ってきた食糧を整理しないといけない。それが、るかから託された最後の仕事だから」

まゆり「うん。かがりちゃん、手伝ってくれる?」

かがり「うんっ、ママ! 倉庫に行くね」

倫子「わ、私も――」

鈴羽「岡部倫子、父さんが呼んでる。こっちへ」

倫子「あ、うん……」

308: 2016/06/23(木) 20:31:59.78 ID:2j/8NxTHo

ダル「オカリン、伝言があるお。2025年のオカリンから」

倫子「え……?」

ダル「"紅莉栖"を『Amadeus』の呪縛から解放してやってくれ」

ダル「シュタインズゲート世界線への道は険しい。一度や二度、やり直したところで、辿りつける道ではないだろう」

ダル「けれど、まずはそこから始めることが、運命石の扉<シュタインズゲート>へと繋がるんじゃないか」

ダル「いくつもの未来の先が、過去へと繋がっているんじゃないか――」

倫子「紅莉栖を……」

ダル「だからさ、僕たちがいるこの世界も無駄じゃない。きっと必要な世界なんだ」

ダル「もう一度、戻って考えてみてもいいんじゃね? オカリンの記憶の途切れたその時間に、さ」

倫子「も、戻るって……? でも、どうやって……?」

309: 2016/06/23(木) 20:32:54.18 ID:2j/8NxTHo

真帆『できるわ』

倫子「ひ、比屋定さん! 無線から……?」

真帆『久しぶりね、岡部さん。25年ぶりかしら。まずあなたに、部屋の奥を見てほしい」

倫子「え……。こ、これ、電話レンジ(仮)……!」

真帆『私が作ったものよ。48時間制限を超えて、2週間は安全に跳べる』

倫子「す、すごい……どういう原理?」

真帆『単純にサンプリングレートを上昇させただけ。それにはやっぱり、未来の技術が必要だった』

真帆『アナログな脳の情報をデジタル化するにあたって、より精密なデータを採れれば、精神と肉体のギャップが減る、ってだけのこと。完全に0にはできないけれど』

ダル「オカリンを救出してからの間、ずっとヘッドギアを装着させてたから、"受信"は可能なのだぜ」

真帆『このマシンを改良したのが2026年頃だから、それ以前は48時間しか跳躍できないけどね』

310: 2016/06/23(木) 20:33:54.06 ID:2j/8NxTHo

倫子「で、でも記憶圧縮用のブラックホールはどうするの?」

ダル「タイムマシンを造った僕たちが自力でブラックホール作れないわけないっしょ。そもそも、2010年7月時点で電子レンジの中にブラックホールを作ることは一応成功してたわけだし」

倫子「あ、そっか。やろうと思えばブラックホールはいくらでも作れたんだ」

ダル「でも、2025年より前は安定性を考えて、岩手県の山中にある東北ILC<国際リニアコライダー>を使わせてもらってる」

ダル「この頃、LHCは謎のハッカーによって破壊されてるんだよね」

ダル「もち接続はバッチシ。SERNって世界中のそういう機関と超高速光回線で繋がってるのな、300人委員会便利すぎワロタ」


   『カモフラージュのために、世界中のラウンダー幹部の居場所や研究所にも直通回線を引かせてもらったわ』


倫子「(これも紅莉栖のおかげか……)」

ダル「それで、SERNのLHCが使える時代に入ったら、オカリンがよく知ってるタイムリープになるはずだお」

311: 2016/06/23(木) 20:34:58.82 ID:2j/8NxTHo

倫子「でも、待って。私がタイムリープし続けたら、氏の収束を騙せなくなっちゃうんじゃない?」

倫子「だって、2025年も、2026年も、私は目覚め続けるわけだから……」

ダル「言ったろ? 世界線にとっての"氏"は、僕たちの常識で言う"氏"じゃない……」

ダル「それに、タイムリープじゃ大幅な世界線変動は起こせないって教えてくれたのは、オカリンじゃんか」

倫子「あ、そっか……。今ここで因果の"因"を作っちゃったから、どれだけタイムリープしてもこの因は残り続ける。この2036年の世界は残り続けるんだ……」

真帆『途轍もなくつらい旅になるわ。だけど、岡部さん、あなたなら――』

倫子「……やるよ。α世界線のダルも、綯もやり遂げたことだしね」

倫子「それに、今の私にそれ以外の選択肢はないでしょ」

倫子「私になにができるかわからないけど――」

倫子「……ふたりとも、お願い。私を過去に送って」

ダル「……オカリン、オーキードーキー!」ニッ

真帆『岡部さん……ありがとう』

312: 2016/06/23(木) 20:35:35.86 ID:2j/8NxTHo

真帆『もしも次に紅莉栖に会えたら言ってやって。未来の私は、あなたの7倍もの時間跳躍を可能にしたわよ、って』

倫子「……わかった」フフッ

ダル「準備オーケーだ!」

鈴羽「待って。まゆねえさんたちとは話さなくていいの?」

倫子「……今跳ばないと、私はまた、まゆりの胸にすがってしまうかもしれないから」

鈴羽「……そっか」

倫子「それじゃあ、また。2週間前に会おう」

真帆『しっかりね』

313: 2016/06/23(木) 20:36:13.23 ID:2j/8NxTHo

―――――――――――――――――――――――――――――――
    2036年3月7日17時13分  →  2036年2月21日17時13分
―――――――――――――――――――――――――――――――

314: 2016/06/23(木) 20:37:03.90 ID:2j/8NxTHo
2036年2月21日(木)17時13分
暗室


ダル「……どう?」

真帆「記憶はダウンロードされたはずだけど……」

倫子「…………」

まゆり「オカリン、起きないね……」

ダル「やはり失敗か、あるいは――」

倫子「――――ッ!!」

倫子「(う……久しぶりにタイムリープしたけど、やっぱり気持ち悪いな……。そして声も出ないし身体も動かない……)」

まゆり「オ、オカリン? 今、少し動いたような……」

倫子「ぅ……ぁ……」

倫子「(ホントにまゆりたちが世話しててくれたんだ……)」

315: 2016/06/23(木) 20:37:43.36 ID:2j/8NxTHo

まゆり「オカリンッ!? 私、まゆりだよ!? わかる!?」

倫子「(わかるに決まってるじゃない。大人になっても、まゆりはまゆりだよ)」コクッ

まゆり「オカリン……っ!」ダキッ

ダル「オカリン! よかった、目覚めてくれたか!」

真帆「本当によかった……」ウルッ

倫子「(初めて未来の真帆ちゃんを見たけど、やっぱりあんまり歳を取ってるようには見えない)」

倫子「(みんなに感謝したい。言葉を交わしたい。でも、今は――)」

倫子「タイ、ム……リープ……」

ダル「なに? タイムリープ……もしかしてオカリン、2週間後からタイムリープしてきたのか?」

倫子「うん……ゴフッ」

真帆「なるほど、やっぱり覚醒には時間がかかったのね」

真帆「わかったわ。すぐにタイムリープの準備をしましょう」

まゆり「……オカリン、頑張って」

倫子「うん……」

316: 2016/06/23(木) 20:38:14.53 ID:2j/8NxTHo

―――――――――――――――――――――――――――――――
    2036年2月21日17時35分  →  2036年2月7日17時35分
―――――――――――――――――――――――――――――――

317: 2016/06/23(木) 20:39:07.44 ID:2j/8NxTHo
2036年2月7日(木)17時35分
暗室


倫子「――――ッ!!」

るか「え……凶真さん!? 今、凶真さんが動いたような……!」

フェイリス「ホント!? で、でも、まだ記憶が見つかってないのに――」

倫子「タイム……リープ、して、きた……ゴフッ」

るか「そ、そうなんですね……! よかったぁ……!」ウルッ

倫子「(ああ、ルカ子が生きてる……本当にかっこいい男性になったんだなぁ)」

倫子「(……こんな姿を見られちゃって、ちょっと恥ずかしい)」

フェイリス「喜んでる場合じゃないよ。すぐにタイムリープの準備をしてもらわないと」

るか「そ、そうですね。凶真さん、今からワルキューレ本部まで連れて行きます」

倫子「おね……がい……」

318: 2016/06/23(木) 20:40:31.98 ID:2j/8NxTHo

るか「失礼します」ヨイショ

倫子「(う、うわ、お姫様抱っこ……)」カァァ

フェイリス「さすが男の子だね。今の時間なら外は大丈夫だと思うけど、急いだほうがいい」

るか「ええ。それじゃ、凶真さん。しっかり捕まっててくださいね」

倫子「あ……///」ドキッ

倫子「(って、何をルカ子にトキめいているんだ私は……!)」ドキドキ

フェイリス「凶真、もう聞いてるかもしれないけど、一応言っておくね」

フェイリス「これからタイムリープ先で、留未穂たちがちょうど居合わせてることのほうが少ないと思う」

フェイリス「その場合、無理に外に出ようとしないで。1日に1回は必ず留未穂たちの誰かがここを訪ねるから」

フェイリス「つらいだろうけど、それまで我慢して待っててほしい」

倫子「うん……わかった……」

319: 2016/06/23(木) 20:41:05.75 ID:2j/8NxTHo

―――――――――――――――――――――――――――――――
    2036年2月7日18時57分  →  2036年1月24日18時57分
―――――――――――――――――――――――――――――――

320: 2016/06/23(木) 20:41:52.28 ID:2j/8NxTHo

・・・

私はタイムリープを繰り返し、暗室で目覚め続けた。

タイムリープマシンが改良された2026年まで600回ほど。

そこから2025年まで250回ほど。

合計約850回かかった。

部屋を出れば廃墟、氏体の山、爆撃機の音。

途中、氏にそうな目に遭ったこともあった。その度に仲間たちに助けてもらった。

途中、何度も諦めそうになったこともあった。その度に仲間たちに励ましてもらった。

さあ、あと2150回――――

・・・

321: 2016/06/23(木) 20:42:31.94 ID:2j/8NxTHo
2025年
ダルの隠れ家


拓巳「肉体はぎりぎり生きてるけど、魂はもう、二度と浮上してくることはないと思う」

倫子「――――ッ!」ビクッ

拓巳「う、うわああぁぁっ!?!?」ズテーンッ!!

倫子「(あれ? この男はたしか、セナと一緒に居た西條……ああ、今思えばテレビでやってたエスパー少年だ。でも、どうして私のそばに?)」

ダル「オ、オカリン!?」

澤田「意識が!?」

倫子「(よかった、ダルが居る。隣の蛇みたいな顔の男は……ワルキューレの仲間?)」

倫子「ぅ……ぁ……ゴフッ」

拓巳「……!? こ、心が、ある……魂が、宿ってる……ど、どど、どういうこと……!?」

倫子「(タイムリープは、OR物質も跳ばすことになるからね……)」

ダル「も、もしかしてオカリン、タイムリープしてきたん?」

倫子「う、うん……」

澤田「なるほど、これがタイムリープ……」

322: 2016/06/23(木) 20:43:12.28 ID:2j/8NxTHo
ワルキューレ基地


ダル「それで、今からオカリンを48時間前に飛ばす。僕と真帆たんがオカリンを発見したのは2011年2月1日だった」

ダル「オカリンが拷問されたのもその日だ。オカリンは、ほんの数時間のうちに14年分の拷問をされたらしい」

倫子「そんな技術が……」

ダル「だけど、それが仇になったってわけ。そのあとすぐに病院に運ばれて、オカリンのケータイは僕が持ってたから、当時の僕なら眠ってるオカリンに電話に出させると思われ」

ダル「48時間タイムリープでも余裕で拷問期間を突破できるってわけ」

ダル「まあ、間違って拷問されてるタイミングへ向けてタイムリープしようとしたところで、そもそも電話がかからないから跳べないだけで特に問題はないんだけど」

倫子「……わかった。それじゃ、私を過去に」

ダル「オーキードーキー!」

323: 2016/06/23(木) 20:44:01.09 ID:2j/8NxTHo

それから私は何度も何度も何度も何度も……タイムリープし続けた。

―――――――――――――――――――――――――――――――
    2011年2月4日13時51分  →  2011年2月2日13時51分
―――――――――――――――――――――――――――――――

324: 2016/06/23(木) 20:45:40.24 ID:2j/8NxTHo
2011年2月2日(水)13時51分
御茶ノ水医科大学病院 病室


prrrr prrrr

ダル「……あ、あれ? オカリンのケータイが鳴ってる……この電話番号、僕じゃんか」

ダル「もしかしなくても、これって僕と真帆たんが昨日作ったアレだよな……未来の僕が、目覚めたオカリンを過去に送った」ゴクリ

ダル「オカリン、電話に出てくれ」スッ ピッ

倫子「――――っ!」ガバッ

倫子「(ぐっ……相変わらず全身が痛い……)」

ダル「オ、オカリン!? 大丈夫か!?」

看護師「先生! 患者さんの意識が戻りました!」

325: 2016/06/23(木) 20:46:23.89 ID:2j/8NxTHo

・・・・・・

倫子「ふぅ……ダル、いつもありがと」

ダル「まさか25年もタイムリープしてくるなんて……オカリン、無茶しやがって」ウルッ

倫子「ダル、目が赤いよ?」

ダル「べっ、別にオカリンが廃人になっちゃって一晩泣いてたとかじゃないんだからね!? 勘違いしないでよねっ!」ズビーッ

倫子「ふふっ。……私は昨日電機大の地下でストラトフォーに拷問された。そうだよね?」

ダル「え、ストラトフォー? 確かにオカリンを見つけたのは電機大だけど、それマジ?」

倫子「あと1回タイムリープすれば、私は戻れる……!」

ダル「……わかったお。すぐタイムリープの準備を始めるけど、退院はどうしよう?」

倫子「そんなもん、無理やり突破すればいいよ。どうせなかったことになる」

ダル「そ、そっか。オカリン、もう何回もそうやってここまで来たんだよな……」

倫子「さあ、行こう。最後のタイムリープだ」

ダル「オーキードーキー!」

326: 2016/06/23(木) 20:47:00.47 ID:2j/8NxTHo

―――――――――――――――――――――――――――――――
    2011年2月2日18時27分  →  2011年1月31日18時27分
―――――――――――――――――――――――――――――――

327: 2016/06/23(木) 20:47:31.63 ID:2j/8NxTHo
2011年1月31日(月)18時27分
未来ガジェット研究所


倫子「――――帰って、きた」

倫子「戻って……きたんだ……」ウルッ

フェイリス「んー? 誰がニャ?」

倫子「みんな……っ」グスッ

ダル「え、誰か来たん?」

かがり「……?」

真帆「どうしたの?」

倫子「……ううん、なんでもない」グシグシ

まゆり「あのね、あのね。オカリン」

倫子「まゆり……」

まゆり「おかえり、オカリン」ニコ

倫子「……ふぇぇ」グスッ

328: 2016/06/23(木) 20:48:28.62 ID:2j/8NxTHo

・・・


ダル「あれから1時間近くまゆ氏の豊かな胸の中で泣き続けて、ホントいったいどうしちゃったのだぜうらやましい」

倫子「ご、ごめん……グスッ……」

まゆり「オカリンは頑張ったんだよね、まゆしぃ、知ってるよ」ナデナデ

倫子「……ありがとう、まゆり。元気出た」グシグシ

まゆり「えっへへー、まゆしぃ、オカリンの役に立てたねー♪」

倫子「(一応、まゆりの脳を借りて未来視をさせてもらった。脳が若返ったせいか、その能力は健在だった)」

倫子「(やはり、この世界線での確定事項は私の見てきた通りだ)」

倫子「(でも、それは意志の力で変えることができる。収束を超えられなくても、収束へと至る過程を変えることができる)」

倫子「(……やろう。ここまで来たんだから)」

倫子「(紅莉栖を、"紅莉栖"を救うために……!)」

329: 2016/06/23(木) 20:49:28.60 ID:2j/8NxTHo

ダル「オカリン……もしかして、世界線移動してきたん?」ヒソヒソ

倫子「ううん、未来からタイムリープしてきた」

ダル「え、マジで?」

倫子「今みんなが集まってるのは比屋定さんの見送り?」

ダル「そうだお」

真帆「えっと、そろそろ空港へ行かないといけないのだけど、レスキネン教授から連絡がないのよね」

倫子「比屋定さん、記憶の読み取り装置をこの前作った、よね?」

真帆「え、ええ。昨日作って、あなたの記憶のバックアップデータを採ったじゃない。もしかして、そのせいで記憶が曖昧になってる?」オロオロ

倫子「そう……。今日もしアメリカへ帰れそうになかったら、ここに泊まっていいからね」

真帆「え?」

倫子「かがりちゃん。頭の中に、別の人間の記憶がある、なんてことはないよね?」

かがり「えっと、未来の記憶は2週間くらい前に思い出して、この時代に来てからの記憶はないよ。でも、別の人の記憶?」

倫子「いや、少し確かめただけだよ。気にしないで」

かがり「なにそれー。変なオカリンさん」フフッ

330: 2016/06/23(木) 20:50:19.55 ID:2j/8NxTHo

・・・


倫子「(みんなを帰した後、ひとりになって考える。これからどうすべきか)」

倫子「(だけど、答えは既に出ていた。ひとりじゃ何もできない、ということが)」

ガチャ バタン

真帆「結局レスキネン教授がどこにいるかわからなくて、アメリカへは帰れなくなったわ。電機大のオフィスもまだ片付いてなかったみたいだし」

真帆「(まさか、橋田さんが言ってた、岡部さんが未来からタイムリープしてきたって言うのは本当……?)」

倫子「……真帆ちゃん」

真帆「だからちゃん付けするなと……岡部さん、何か気になることでもあるの?」

倫子「え……?」

真帆「(あなたにとってはこの話、してないことになってる可能性があるのかしら……)」

真帆「(試してみましょうか)」

真帆「私じゃ紅莉栖の代わりにはなれないかもしれないけど、それでもよければ話してみて」

331: 2016/06/23(木) 20:51:04.38 ID:2j/8NxTHo

倫子「(もう私には、真帆ちゃんを巻き込まないようにしよう、などという気持ちは微塵も無かった)」

倫子「(今からタイムリープマシンを完成させ、改良させ、私を過去に送るのは、まぎれもない彼女なのだから)」

倫子「比屋定さん、聞いてほしい話がある。嘘だと思うかもしれないけれど、それでも、信じて欲しい」

真帆「……信じるわよ。あなた、私の命の恩人だってこと、忘れてるんじゃないの?」

真帆「私が紅莉栖のことを信じたいと思ったように……そう、サリエリとモーツァルトが互いを尊敬していたという話ね」

真帆「それと同じように、私はあなたのことも信じたいと思ってるのだから」

真帆「あなたにも、私を信じて欲しい……ってのは、ちょっと言いすぎかしら」

倫子「ううん! そんなことないよ」

真帆「(……昨日と同じ話をしても新鮮な反応が返ってくる。これはやっぱり……)」

倫子「嘘みたいな話だけど、聞いてくれる?」

真帆「ええ。どんな話でも信じるわ」

332: 2016/06/23(木) 20:51:38.43 ID:2j/8NxTHo

・・・

真帆「信じられない……」

倫子「信じてくれるって言ったのに」ムーッ

真帆「でも、信じないわけにはいかないわよね。こんなものを見せられたら」



ラジ館屋上


真帆「本物のタイムマシン……」

鈴羽「あんまり部外者に見せるのはよくないと思うんだけど、リンリン?」ムッ

倫子「鈴羽はまだ知らないだろうけど、この人も私たちの味方だよ。少なくともこの世界線ではそれが確定してる」

鈴羽「ふーん? まあ、リンリンが言うなら信じるけどさ」ジトーッ

真帆「あなたが私を警戒するのもよく分かる。でも、鈴羽さんとかがりさんが未来から来たってことで色々合点が行った」

真帆「紅莉栖があなたと仲良くなれた理由、とかもね。まさか別の世界の紅莉栖とは思わなかったわ」

倫子「……うん」

333: 2016/06/23(木) 20:52:18.57 ID:2j/8NxTHo

真帆「紅莉栖のノートPCとポータブルHDDに入ってるのが、タイムマシンに関する論文だったなんてね」

倫子「だけど、パスワードがわからないんだよね……」

真帆「えっ? パスワードは岡部さんが教えてくれたじゃない」

倫子「え? そ、そうなの?」

真帆「そっか、あなたは別の世界線の岡部さんだったわね。この世界線では、私と橋田さんの2人だけがパスワードを知ってるわ」

倫子「……それ、誰にも言っちゃダメだよ。もちろん、私にも」

真帆「なるほどね、わかったわ」

334: 2016/06/23(木) 20:53:53.45 ID:2j/8NxTHo

倫子「これで私は、あなたを巻き込んでしまった。多分もう逃げられないよ」

真帆「……構わないわ。私の人生すべてを、紅莉栖を助けるために捧げることをここに誓う」

倫子「……ありがとう」ウルッ

真帆「それで、今後は何をすればいいのかしら? 泣き虫リーダーさん?」ニコ

倫子「……うん」グシグシ

倫子「えっと、この世界線の確定した未来としては、2025年に私が氏ぬこと、2036年にダルがタイムマシンを完成させて娘の鈴羽を過去に送ること、がある」

倫子「でも、言ってしまえばそれだけなんだ。過程は変わる。タイムマシンの性能だって変わるはず」

倫子「そうすれば、この世界線の未来が影響を与える、どこかの世界線の過去が変わるはずなの」

倫子「注意すべきは、他の組織にタイムマシンを横取りされたりして確定した未来が変われば、世界線が変わってしまうこと。それだけはなんとしても防がないといけない」

倫子「この制限の中で、真帆ちゃんには紅莉栖の研究を引き継いでタイムマシンを完成させてほしい」

真帆「……条件が2つあるわ」

倫子「うん、言って」

335: 2016/06/23(木) 20:54:29.16 ID:2j/8NxTHo

真帆「ひとつは、このタイムマシンを調べさせてほしいってこと」

鈴羽「あたしの監督下でなら許可するよ。タイムパラドックスになりかねない部分を触られたら困るから」

真帆「それでいいわ」

倫子「……もうひとつは?」

真帆「あなたのこと、倫子、って呼ばせてもらう。初めて会った時以来ね」

真帆「あなたは私を、真帆って呼びなさい」

鈴羽「ちょっ! ズルイよそれは!」

真帆「何がズルイのよ。あなたたちだって、あだ名で呼んだり下の名前で呼び合ってるじゃない」

鈴羽「それは、そうだけどさぁ」グヌヌ

倫子「わかったよ、真帆ちゃん」ニコ

真帆「ちゃん付けするなと!! 言ってるでしょーが!!」ウガーッ

倫子「ふふっ。よろしくね、真帆」ニコ

真帆「……まったく。よろしくね、倫子」ニコ


ガシッ!!

336: 2016/06/23(木) 20:55:08.89 ID:2j/8NxTHo

私は弱い。

その弱さを仮面<ペルソナ>で隠さなければ生きていけない。

誰かを頼らなければまともに前を向くことすらできない。

だけど、真帆となら、みんなとなら、到達できるかもしれない。

鳳凰院凶真なら、あるいは。

大事なことを思い出してくれるかもしれない。

途切れそうな意識を繋ぎとめてくれるかもしれない。

たとえそれが既に現実でなくなってしまったとしても。

なかったことになっていたとしても。

あの、かけがえのない夏の日々を。

仲間たちとの想い出を。

――なかったことに、してはいけない。

337: 2016/06/23(木) 22:10:42.18 ID:2j/8NxTHo
未来ガジェット研究所


真帆「ね、ねえ、ちょっと、あんまりくっつかないで欲しいんだけど……」

倫子「未来でね、真帆に世話になったから……。真帆のおかげでここまで戻って来れたからっ」ダキッ

真帆「うぅ、未来のことを引き合いに出されると何も言えない……」

倫子「(また脳を借りるね。真帆の未来……大丈夫、私がタイムリープしてきたことで過程が変わったとしても、やっぱり2036年まで安全みたい)」

真帆「倫子が同性愛者なのを忘れていたわ……別に構わないけれど」ハァ

倫子「はぁ~……こうやってモフモフしてると癒されるぅ……」モフモフ

真帆「や、やめなさいっ! お願いだから、真面目な話をして頂戴っ! ///」

倫子「敵は紅莉栖の記憶データを所持している。記憶適性のあるかがりを誘拐されたり、ノートPCのパスを知られたりしたら負け。そうならない対策を立案しないといけない」

真帆「急に真面目になるなぁっ!!」



鈴羽「イライライライライライライライラ」

338: 2016/06/23(木) 22:11:25.10 ID:2j/8NxTHo

ガチャ

ダル「呼ばれたから来たのだぜ、オカリン。どうしたん……おっと、お取込み中だった?」

真帆「ち、違うから!」

まゆり「あれれ~、何をしてたのかな~?」ニコニコ

真帆「何もしてないってば!」

るか「不潔です……」

かがり「ふけ、つ? ってなあに?」

フェイリス「戻ったニャ! わざわざみんなを呼びつけてなんのお話かニャ?」

倫子「みんな、もう遅いのにありがとう。その前に、鈴羽」

鈴羽「……あ?」イラッ

倫子「鈴羽は……私のこと、どう思ってる?」

鈴羽「世界一素敵な女性だと思ってますけどそれが何か?」イライラ

倫子「お、怒ってる……。いや、そうじゃなくて、過去へ跳ばない私を半年間見続けて、私をどう思ってたか、率直な言葉を聞かせて欲しい」

鈴羽「……正直言うと、腹が立ってしょうがなかった」

フェイリス「っ! スズニャン、あんまり変なことを言うと――」

倫子「いいの、フェイリス。大丈夫だから」

339: 2016/06/23(木) 22:12:06.01 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「あたしはリンリンが大好きだった。父さんや母さんたちと囲まれて過ごした数年間は今でもあたしの宝物だ」

鈴羽「だけど、リンリンは椎名まゆりを庇って氏んだ」

まゆり「…………」

鈴羽「あたしは椎名まゆりを憎んだ……けど、もっと根本的な原因があるって父さんから教わった」

鈴羽「β世界線の収束。第3次世界大戦が起きる限り、岡部倫子は2025年に氏ぬ」

鈴羽「それだけじゃない。未来の世界では、誰も彼もがつらい思いをしている。母さんみたいに無惨に殺されてしまうかもしれない」

鈴羽「それでもあたしたちは、必氏になって生きていた」

鈴羽「そして、そんな世界を変えられるのは2010年のリンリンしか居ない……それなのに、弱音ばかり吐いて、自分だけがつらい、みたいなことを言って」

倫子「…………」ウルッ

ダル「ちょ、鈴羽……」

倫子「う、ううん、ごめん。続けて」グシグシ

340: 2016/06/23(木) 22:13:09.07 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「もちろん、今のリンリンのこと、あたしだってよくわかってる」

鈴羽「本当につらい経験をしたことも、あたしのせいで心を壊してしまったことも」

鈴羽「それでも、リンリン以外に頼れる人は居ないんだ……」ギリッ

鈴羽「あの時、椎名まゆりに邪魔されずに、リンリンをぶん殴って過去へ連れていけたらって……」

鈴羽「何度も後悔して、その結果が今なんだって思うとたまらなく悔しくて……」

倫子「……タイムマシンがある限り、時間は関係ないよ」

鈴羽「え……?」

倫子「後悔してるなら、私を殴ってほしい。あなたの信じた"私"を信じるなら、この私を殴って」

鈴羽「…………」

まゆり「す、スズさん、やめて! オカリンは……」

倫子「いいの、まゆり。これが半年間、止まり続けた私と鈴羽の時間を動かす、唯一の方法なんだから」

鈴羽「……確かに、そうだね。じゃあ、本気で行く」グッ

倫子「うん……」ゴクリ

まゆり「だ、だめぇっ!」

341: 2016/06/23(木) 22:13:39.78 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「せいっ――――!!」スッ

トス

倫子「(ヒッ……あ、あれ? 痛くない? お腹に鈴羽の拳が当たってるけど、寸止め?)」

まゆり「やめて……」ギュッ

鈴羽「……いいよ、椎名まゆり。結局はあたしの弱さだったんだ」

鈴羽「どのみちあたしは、椎名まゆりに邪魔されるまでもなく、リンリンを殴るなんてこと、できなかった」

鈴羽「馬鹿だよね……ごめんね、"父さん"……」

ダル「……そんなことしなくてもさ、オカリンはオカリンなのだぜ」

鈴羽「えっ……?」

342: 2016/06/23(木) 22:14:19.76 ID:2j/8NxTHo

ダル「なあ、オカリン。このラボの所長は誰なん?」

倫子「……私」

ダル「ラボメンナンバー002は?」

倫子「……まゆり」

まゆり「……まゆしぃは、人質なので」

ダル「そしてラボメンナンバー003こと天才スーパーハッカーの僕、橋田至な。高校時代からのオカリンの右腕の」

倫子「ダル……?」

ダル「ラボメンナンバー004を助けにいくんだろ? それが僕たちラボメンなんだろ?」

倫子「でも、ダルもみんなも、ラボメンだった紅莉栖のことは覚えてないはずじゃ……」

倫子「(だからこそ私は今日の今日までずっと悩んで、苦しんできたんだ。誰もラボメンナンバー004のことを覚えていないから、誰にも相談できなかった)」

倫子「(たとえ話したところで理解は不可能だと……私はずっと孤独なままなのだと……)」

倫子「(――そう、勝手に思い込んでいた)」

343: 2016/06/23(木) 22:15:41.59 ID:2j/8NxTHo

フェイリス「覚えてニャくても、アカシックレコードの深淵で繋がってるのニャン!」

るか「阿頼耶識<あらやしき>の中に、ラボメンとしての倶有の種子<くゆうのしゅうじ>が存在しているのかもしれませんね」

鈴羽「ラボメン……か。リンリン、あたしは多分、色々間違ってた」

鈴羽「未来のことも、世界のことも、きっと、今のリンリンにとってはどうでもいいんだ」

鈴羽「だってそれらは、まだ観測されてないんだから。可能性がある限り、確定はしないんだから」

倫子「……私ひとりじゃ、無理だよ。力を貸してほしい」スッ

鈴羽「リンリンの手を握るの、半年振りだ」スッ


ガシッ!


倫子「……あの時掴めなかった鈴羽の手、今なら握り返せる」ギュッ

鈴羽「うん……リンリンの力になれるのなら、どんなことでもするよ」

鈴羽「牧瀬紅莉栖を救おう。ラボメンの彼女を救う、ただそれだけでいい」

鈴羽「それが、"あたしたち"のオペレーション」

倫子「……フフッ。そうだ、その通りだ。世界大戦だろうがディストピアだろうが、そんなことはどうでもいい」

倫子「――そんなことは、どうでもいいんだ」

344: 2016/06/23(木) 22:16:10.95 ID:2j/8NxTHo


   『だって留未穂は、凶真を守る天使なんだもん』


   『……"思い出して"ください。"本当の自分"を』


   『まゆしぃね、好きだったよ。鳳凰院凶真のことも、倫子ちゃんのことも』


   『これだけは忘れないで。いつだって私たちはあんたの味方よ』



345: 2016/06/23(木) 22:17:37.58 ID:2j/8NxTHo

るか「岡部、さん……?」


倫子「(凄惨な未来を見てきた私だからこそ言える……私ひとりの力で戦争に巻き込まれる人々を救おうなんて、到底できるものじゃない。でも――)」


倫子「紅莉栖は氏してなお、凍える漆黒の電脳世界に封印され、悪の組織に狙われている……」

かがり「オカリンさん?」


倫子「(紅莉栖ひとりの命を救うためなら、私は、"アイツ"はきっと動ける。私ひとりじゃ無理でも、みんなの力があれば……!)」


倫子「これは、人類を救うためのミッションなどではない。牧瀬紅莉栖を蘇らせ、世界を破壊するためのミッション……」

倫子「助手の分際で第3次世界大戦の引き金<トリガー>を引くなど、もってのほかだっ! かっこいいではないかっ!」

ダル「ってそこかよ」

倫子「未来ガジェット研究所の名誉にかけて、逃げ出すわけにはいかん。ラボメンナンバー004の不手際は、我が責任だっ」


倫子「(未来を変えることができるなら。α世界線での約束を果たせるのなら……!)」


倫子「フフフ、ククク――――」




                        ふぅーはははぁ!!!!




346: 2016/06/23(木) 22:20:09.34 ID:2j/8NxTHo

フェイリス「……凶真ァ!!」パァァ

まゆり「オカリン……?」

倫子「違うぞ、まゆり……」ククッ

倫子「オレは、鳳凰院凶真だぁ……」ニヤリ

倫子「("鳳凰院凶真"は、弱い自分から逃げるための仮面じゃない――――)」

倫子「(深淵に封印された、真の強さを解放するための"己"なのだっ!!)」

るか「凶真さんっ!」パァァ

倫子「そうだっ! 我が名は、鳳凰院凶真っ!!」ガバッ

倫子「支配構造を覆し、世界を混沌に陥れる狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だぁっ!! ふぅーはははぁ!!」

真帆「」ビクッ

かがり「」ビクッ

倫子「ルカ子っ!! 白衣を持てっ!!」

るか「は、はいっ! おか、凶真さんっ!!」ニコ

倫子「髪型も気に入らんっ! こうしてくれるっ!」ワシャワシャ

フェイリス「ついに凶真が3000年の封印を経て、現世に復活したのニャ!!」

鈴羽「これがリンリンの真の姿……。話に聞いていた通りだ」

るか「凶真さん、白衣です。どうぞっ」

倫子「うむ!」バサッ

倫子「……これこそが我が聖なる白銀の鎧! 今この時、鳳凰院凶真はニヴルヘイムより蘇ったのだ! ふぅーはははぁ!」

347: 2016/06/23(木) 22:20:45.72 ID:2j/8NxTHo

るか「よかったです……凶真さんが、復活してくれて……」グスッ

倫子「……ルカ子。お前に、話がある」

るか「あ、はい……えっ?」


   『誰にもうち明けられずに届かなくても。この気持ち、抱きしめていたくて』


倫子「お前は、オレが好きか?」

るか「はい……え? えええっ!?!?」ビクッ!


かがり「…………」

鈴羽「…………」

まゆり「…………」

真帆「(え? なにこの空気? え?)」

348: 2016/06/23(木) 22:21:21.83 ID:2j/8NxTHo

るか「あ、いえ、えっと、岡部、さん……?」ドキドキ

倫子「凶真だ! 我が名を忘れたか、ルカ子」

るか「す、すいません、凶真さんっ」

倫子「よく聞け。オレたちは、時空を超えた、運命の絆で繋がっている!」

倫子「そこに、男だとか、女だとか、恋人だとか……そんなことは、どうでもいい。オレは、ようやく気付いた」

倫子「ルカ子が教えてくれたんだ」

るか「ボ、ボクが……?」

倫子「オレはオレであり……、ルカ子はルカ子!」

倫子「――オレの弟子だ!!」

るか「……はいっ! エル・プサイ・コンガリィ!」パァァ

倫子「コングルゥだっ!!」


フェイリス「ルカニャン、良かったニャァ♪」

かがり「…………」ニコ

鈴羽「…………」ニコ

まゆり「…………」ニコ

真帆「(なんなのかしら、この空気……)」

349: 2016/06/23(木) 22:22:32.45 ID:2j/8NxTHo

ダル「オカリン、ほら、ドクペ。もう随分飲んでなかっただろ?」ポイッ

倫子「フッ、さすが我が右腕。実に良き働きっ」パシッ

倫子「ごく、ごく、ごく。ぷはーっ!」

まゆり「(飲み方がかわいいのです)」 ニコニコ

倫子「クク、これこそが選ばれし者のみに許される知的飲料っ! エル・プサイ・コンウマイっ!」バサッ

真帆「……な、なんなの? どうしたの?」オロオロ

倫子「おい、そこの口リっ子!」ビシッ!!

真帆「ちょっ! 誰が口リっ子よ、誰が!!」

倫子「貴様には、ラボメンナンバー009の栄誉を与える! 以後、この鳳凰院凶真の手足となり、オレたちのオペレーションに参加するのだっ!」

真帆「運命共同体とは言ったけど、手足になるとは言ってないわよ!? それに、ラボメンナンバーって何?」

倫子「このラボの正式メンバーに選ばれた、誇り高き称号だ。光栄に思え」フッ

真帆「……ダメ、頭が痛い」ハァ

350: 2016/06/23(木) 22:23:35.03 ID:2j/8NxTHo

かがり「これが鳳凰院凶真……ママがいつも言ってた……」

倫子「それから椎名かがり! ラボメンナンバー002を母に持つ少女よっ!」

かがり「ふぇっ!?」

倫子「貴様は、ラボメンナンバー010<ゼロイチゼロ>だ。わかったな?」

かがり「は、はいっ!」

フェイリス「ちょっと、凶真! フェイリスたちはラボメンにはしてくれないのかニャ!?」

るか「そ、そうですよ凶真さん!」

倫子「言っていなかったか。もちろん、お前たちは既にラボメンだ」

倫子「ルカ子は006、フェイリスは007、鈴羽は008、そして今ここに居ないが、鈴羽の母親である阿万音由季は011だ! いいな!」

るか「は、はい!」

フェイリス「やったニャ! フェイリスは、フェイリスは、と~っても嬉しいんだニャ!!」ピョン!

鈴羽「……了解した」フフッ

ダル「オカリン、004と005について詳細キボンヌ。みんなに説明してあげないと」

倫子「ラボメンナンバー005は桐生萌郁……陰謀の魔の手に操られし女、いずれ救出せねばならん」

倫子「そして、ラボメンナンバー004こそ、運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択……!!」

倫子「――我が助手、牧瀬紅莉栖だっ!!」

351: 2016/06/23(木) 22:24:18.89 ID:2j/8NxTHo

倫子「ここに改めて宣言しよう!」

倫子「本日、2011年、1月31日をもって、新たなるオペレーションを発動する!」

倫子「目的は、予定された未来の粉砕! 世界の未来そのものを覆すこと!」

倫子「ラボメンナンバー004、牧瀬紅莉栖を大いなる運命の収束から解き放つ! 時空を支配し、生命の理<コトワリ>に反逆する!」

倫子「それがっ! 我ら未来ガジェット研究所のっ、ラボメンの崇高なる使命だっ! ふぅーはははぁ!」

352: 2016/06/23(木) 22:25:39.47 ID:2j/8NxTHo
2011年2月1日火曜日
未来ガジェット研究所


スッ

倫子「……オレだぁ。これより、オレたちは新たなるオペレーションを実行に移す。……わかっているさ、それがいかに無謀でバカげているかなど」

倫子「だが、心配するな。未来のオレは言った。いくつもの未来のその先に運命石の扉<シュタインズ・ゲート>は待ってるのだ、と」

倫子「今のオレには優秀な部下たちが揃っている。たとえ機関の妨害に合おうとも、無駄に終わることなど無いはずだ」

倫子「何度だってやり直してやるさ……魔眼、リーディングシュタイナーの力でな」

倫子「エル・プサイ・コングルゥ」スッ


真帆「……何、それ……?」

倫子「…………///」カァァ

真帆「そう言えば、初めて『Amadeus』の"紅莉栖"に会わせた時の不審な挙動って、これだったのね……」

真帆「私に初めて会った時、私を見て昔の自分みたいだって言ってたけど、なるほど。くしゃくしゃの髪にノーメイク、だらしないインナーとパンツスタイル……それでも十分美人ではあるけど」

フェイリス「むしろそのほうが萌えると思わないかニャ?」

真帆「私には理解できないわ」

ダル「真帆たん、やめたげてよぉ。オカリンもまだ手探り状態だから」

倫子「お、オカリンではないっ! 鳳凰院凶真だっ!」ムッ

かがり「(かわいい)」

鈴羽「(かわいい)」

353: 2016/06/23(木) 22:26:37.46 ID:2j/8NxTHo

真帆「それで、具体的には何をするの?」

倫子「このβ世界線においても、オレが何度か世界線の変動を経験してきたことは説明したな。まずはその原因を取り除かなくてはならない」

フェイリス「原因ってなんなのニャ?」

倫子「世界線が変動するのは確定した因果に反逆した場合だ。それはつまり、タイムトラベルを利用した場合」

倫子「そして、それを可能にする理論が誰の手にあるか。これによって世界線が変動していた」

真帆「理論……」

倫子「その理論は、ひとつは牧瀬紅莉栖のノートPCとポータブルHDD内にある。そしてもうひとつは、『Amadeus』に残る"紅莉栖の記憶"の中に」

鈴羽「それと、中鉢論文。この3つだね」

倫子「だが、中鉢論文を取り消すことは鈴羽のタイムマシンを使わなければ不可能だ。故に、現状では先の2つの消去が優先される」

倫子「これが今回のオペレーションの最終目的となる」

真帆「つまり、紅莉栖のデータを消去するってこと……!? あれは紅莉栖の生きていた証なのよ!?」

倫子「"奴ら"に悪用される前に消す必要がある。安心してくれ、その先にある未来は、必ず紅莉栖に繋がっている」

倫子「それに、あいつが生きていたという証拠は、オレたち自身のここにあるだろ?」スッ

真帆「(頭……つまり、記憶の中ってこと。突然男らしくなったわね……)」ドキドキ

真帆「陳腐な台詞だけど……わかった。あなたに従うわ」

倫子「……ありがとう」ニコ

真帆「(っ!? な、なんなの、この気持ち……こんな変な人なのに……)」ドキドキ

354: 2016/06/23(木) 22:27:50.87 ID:2j/8NxTHo

倫子「紅莉栖のノートPCとHDDはダルが持ってるんだよな?」

ダル「うん。ホントは昨日真帆たんに渡すつもりだったんだけど、まだ僕が持ってるお」

倫子「中身だけ抜いて、安全な場所へ隔離。ノートPC自体はもしかしたら何らかの不測の事態において、交渉材料として使えるかも知れない」

倫子「無論、紅莉栖の記憶データを削除した後は、即座にノートPCとHDDは破棄だ。いいな」

真帆「ええ。でも、それは私にやらせて」

倫子「真帆、『Amadeus』が保存されているサーバーにアクセスできるか?」

真帆「出来るはずよ。橋田さん、ちょっとPCを貸してもらえる?」

ダル「一応IPがバレないように細工しておくお……おk、どうぞ」

真帆「どうも……あ、あれ? おかしいわ、アクセスできない……」カタカタ

倫子「……アクセス権限が停止されているのか?」

真帆「どういうことなのこれ。ちょっと教授に電話してみる!」prrrr prrrr

真帆「……ダメ、繋がらない。まさか、またレイエス教授に!?」

355: 2016/06/23(木) 22:28:39.53 ID:2j/8NxTHo

倫子「既に『Amadeus』は敵の手の中に堕ちてしまったか。今、オレのスマホに『Amadeus』アプリがあるが、これを押したら……」

真帆「繋がるか、試してみて」

倫子「……いや、ダメだ。こちらが覗かれる可能性が有る。通話した瞬間ストラトフォーの人間がここに乗り込んできて、かがりやオレが誘拐されるかもしれない」

真帆「あっ……そうね、確かに。ごめんなさい、迂闊だったわ」

倫子「別のアプローチ方法を考えよう。ダル、ヴィクコンのサーバーにハッキングしろ」

ダル「オーキードーキー。やってみる」

真帆「簡単に言ってるけど、うちの研究所のセキュリティ、結構厳しいわよ。情報科学研究所が防壁を作ってるんだから」

倫子「大丈夫だ。なんたってダルはスーパーハカーだからなっ!」ドヤッ

ダル「それを言うならスーパーハッカーな」ニッ

真帆「……私にサポートできることがあれば手伝う。内部情報も教える。色々聞いて」

ダル「おk、その辺ヨロ」

倫子「うむ。オレはその間にこっちをやろう。まゆり、そのダンボール箱を開封しろ!」

まゆり「なにかな、なにかな~。わぁ、電子レンジちゃんだ~!」

倫子「から揚げはまた今度な」フッ

まゆり「……そっか。残念だけど、また今度なら仕方ないね。えっへへ~」

フェイリス「マユシィ、嬉しそうだニャ」

356: 2016/06/23(木) 22:29:18.83 ID:2j/8NxTHo
開発室


倫子「さて、出来る限り電話レンジ(仮)を再現してやろう。あれは元々、ダルとオレのふたりでガラクタを適当にいじって作った奇跡の未来ガジェット8号機だ」

倫子「その上で真帆が一昨日作ったという記憶読み取り装置との合体、LHCとの連結などふたりに手伝ってもらう必要がある」


・・・


同日夜
談話室


真帆「橋田さん、あなた、すごいわ……」

ダル「ま、僕にかかればこのくらい朝飯前なのだぜ」

倫子「さすが我が右腕……! 早速『Amadeus』のデータを探してくれ」

真帆「……無い。『Amadeus』本体も、紅莉栖の記憶データも、あったはずのフォルダからなくなってるわ……」カタカタ

倫子「既に持ち出されたか……」

357: 2016/06/23(木) 22:30:25.91 ID:2j/8NxTHo

ダル「ん? ここ、さらに鍵がかかってるフォルダがあるお」

真帆「変ね。こんなフォルダ、今までなかったわ……」

ダル「かなり厳重なセキュリティがかかってるっぽい」

真帆「『Amadeus』はそっちに移されたのかしら。でもいったい誰が? そんな権限を持っているのは、私を除けばレスキネン教授ぐらいよ」

倫子「あの人に裏の顔があったとは信じたくないが……」

倫子「(だが、どうしてだかその疑念がぬぐえない。あるいは、オレを拷問したというストラトフォーの人間というのは……)」

倫子「ダル。そのフォルダはいったん保留だ。次は、ストラトフォーのサーバーにハックを仕掛けてくれ」

倫子「そこに紅莉栖の記憶データが保存されている可能性がある。以前ハックしたことがあるから簡単だろう?」

ダル「ちょ、オカリン、なんでそんなことまで知ってんの? エスパーかよ。あ、いや、エスパーだったんだっけ」

倫子「ククッ。オレを誰だと思っているっ! 狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真の魔眼は、常に隠された真実を見抜いているのだっ! ふぅーはははぁ!」バサッ

真帆「(うっとうしいのに、何故か頼もしく感じてしまう……)」トゥンク

358: 2016/06/23(木) 22:31:23.72 ID:2j/8NxTHo

ダル「……おk。ストラトフォーのサーバーに入れたお。えっと、『Amadeus』はっと……」

真帆「ちょ、ちょっと待って!? これ、人体実験のレポートだわ……!」

倫子「……ストラトフォーの行っていた、記憶の移植実験のものだな。ある人物の記憶データを別の人物の脳に定着させる実験、か」

倫子「おそらくそのリストに、椎名かがりの名があるはずだ」

かがり「えっ!?」

真帆「え、ええ。その通り……椎名かがりは適合性に非常に優れている、ですって」

真帆「だけど、最終実験までには至らなかったみたい。その直前に脱走したと書かれてあるわ。目下行方を捜索中とも……」

倫子「(オレが以前居た世界線では、『Amadeus』プロジェクトが凍結されたことで最終実験が前倒しになり、かがりが脱走するより前に紅莉栖の記憶を埋め込まれてしまったのだろう)」

倫子「つまり、この世界線のかがりの脳内には間違いなく紅莉栖の記憶は入っていない……」

真帆「でも、それ以外の色々な実験を受けているかもしれない。少し心配だわ」

かがり「オカリンさん……」

倫子「……大丈夫だ、かがり。ラボメンを他の組織の欲しいままにされるなど、この鳳凰院凶真が絶対に許さん」

かがり「う、うん」ドキッ

359: 2016/06/23(木) 22:32:00.19 ID:2j/8NxTHo

真帆「でも、どうやら彼ら、新しい実験に着手しようとしてるみたいよ……」

倫子「紅莉栖の記憶データを適性者以外の脳内にダウンロードする実験、と言ったところか。それが成功してしまえば、わざわざかがりを誘拐する必要も無いからな」

倫子「ダル、その紅莉栖の記憶データを削除してしまえばオレたちの勝利だ。どこにあるかわからないか?」

ダル「んー……いや、ないね。それらしいもんは見当たらない。一番怪しいのはさっきの鍵かかったフォルダ」

倫子「わかった。そこへ侵入しろ」

ダル「できるけど、これはちょっと骨が折れると思われ」

倫子「どれくらいかかる?」

ダル「わからんけど、まるっと半日以上はかかるかも。しかも敵さんにバレないようにしないとだから」

倫子「もしバレたら即ここが襲撃されるだろう。となると、やつらのアジトに乗り込んで本体を叩く方が早いか?」

360: 2016/06/23(木) 22:32:53.25 ID:2j/8NxTHo

ダル「アジトって?」

倫子「うちの大学の地下にストラトフォーの支部があるんだ」

ダル「ちょ!? それマジかお!? いやでもそこに居るのって普通に武装集団だったりするわけっしょ? そんなん制圧とか無理ぽ」

倫子「ならば、どうやって半日近くストラトフォーの注意を引くか……」

倫子「取りあえず、真帆はタイムリープマシン制作に当たってくれ。アレがあれば、何度でもやり直せる。情報収集には持って来いだ」

真帆「わ、わかったけど、さすがに自信が無い、というかその……」オロオロ

倫子「大丈夫だ、オレが手伝う。オレは真帆が紅莉栖の7倍の性能のマシンを完成させたことを知っている」

倫子「お前の作ったタイムリープマシンの性能はガチだった」ニッ

真帆「え、そ、そう……///」ドキドキ




鈴羽「イライライライライライライライラ」

361: 2016/06/23(木) 22:33:26.93 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「リンリン! あたしに出来ることはないのっ!?」

倫子「ここがいつ襲撃されてもおかしくない。鈴羽は警戒を厳にせよ」

鈴羽「もうっ! そういうちゃんとした命令があるなら先に言ってよ! オーキードーキー!」プンプン

フェイリス「フェイリスは長期戦に備えて食料を調達してくるニャ! 甘いものマシマシなのニャ♪」

るか「あ、それじゃあボクも買い出しに行きます!」

倫子「もう夜も遅い。ふたりとも、気を付けろ。常に注意深く行動するのだ」

るか「これでもボク、男の子ですから! フェイリスさんを守ってみせます!」

フェイリス「ルカニャン、とっても頼もしいニャン!」

倫子「ああ……そうだな。お前は一人前の清心斬魔流の使い手だ」フフッ

362: 2016/06/23(木) 22:34:24.36 ID:2j/8NxTHo
2011年2月2日水曜日
未来ガジェット研究所


倫子「(作業に没頭し、いつの間にか夜が明けていた)」

倫子「(まゆりたちはもはやここから出ることが危険なので、窮屈だが雑魚寝してもらった。まゆりの父親を説得するのとまゆりの寝相の悪さを抑えるのに骨が折れた)」

倫子「(もしラボメンの誰かを人質に取られ、椎名かがりと交換だ、などと言われたら非常に厄介だからな。紅莉栖の記憶データを削除するまでは我慢してもらうしかない)」

フェイリス「フェイリスの家からお布団運んできてもらって正解だったニャ」

倫子「黒木さんには頭が上がらないな」

倫子「(一応、寝てる間に全員の脳を借りて未来予知をさせてもらった。今の流れではみな氏亡することは無い)」

倫子「(だが、これもあまり当てにはならない。敵はかがりから未来の情報を得ている)」

倫子「(確定事項に背く行動を取られたら意味が無い上に、たとえ命だけ助かってもオレみたいに植物人間にされては本末転倒だ)」

倫子「(タイムマシン論文の取り合いをする以上、世界線の変動可能性はどんな些細な現象にも潜んでいると考えていい。慎重に行かなくては)」

363: 2016/06/23(木) 22:35:09.41 ID:2j/8NxTHo

真帆「……最終調整、終わったわ。これでいつでもタイムリープができる、と思う」

倫子「ああ、きっと完璧なタイムリープマシンだ。オレにはわかる」

真帆「……う、うん」モジッ

倫子「ほら。知的労働のあとにはコレを飲むがいいっ」スッ

真帆「ドクペ……。紅莉栖に薦められて飲んだことがあったわ」

倫子「何っ!? もしや、貴様もドクトルペッパリアンかっ!?」キラキラ

真帆「なにその造語……(かわいい)」ゴクゴク

真帆「もしかして、紅莉栖もここで飲んでいたり?」

倫子「ああ。やつもなかなかのドクトルペッパリアンでなぁ」ニヤニヤ

真帆「……そう」フフッ


~♪


倫子「なんだ? 外がやけに騒がしいな」

鈴羽「ああいうの、ガイセンシャって言うんだよね。靖国通りでよく見かけたよ」

真帆「でも、曲はオーケストラね。歌が付いてるからオペラ曲かしら」

倫子「(オーケストラ……?)」

364: 2016/06/23(木) 22:36:08.77 ID:2j/8NxTHo


~♪


Hm! Hm! Hm! Hm! Hm! Hm! Hm! Hm!

Der Arme kann von Strafe sagen,
Denn seine Sprache ist dahin.

Hm! Hm! Hm! Hm! Hm! Hm! Hm! Hm!

Ich kann nichts thun, als dich beklagen,
Weil ich zu schwach zu helfen bin.



365: 2016/06/23(木) 22:36:41.25 ID:2j/8NxTHo

倫子「(この曲……なんだ、何かが引っかかる……K6205……?)」

かがり「行かなきゃ……」スッ

倫子「えっ?」

まゆり「かがり、ちゃん……?」

かがり「私、行かなきゃ」タッ

るか「ど、どこへ行くんですか?」

倫子「(これはもしかして……!)」

倫子「マズいっ!! 鈴羽、ダル、ルカ子、かがりを止めろっ!!」

鈴羽「オーキードーキー!! いったいどうしたってんだかがりっ!! 止まれっ!!」ガシッ

るか「と、止まってくださぁいっ!」ガシッ

ダル「えと、おにゃのこに抱き着いていいん?」オロオロ

倫子「許可する! その体重で抑え込んでくれっ!」

ダル「お、おk」ギュムッ

かがり「邪魔を……するなぁぁぁっ!!!!!」ブンッ!!

鈴羽「くっ!!」

るか「きゃぁっ!!」

ダル「う、うおおおおっ!?」ズテーン!!

フェイリス「あのダルニャンが吹き飛ばされたニャ!?」

倫子「マズい……!」

366: 2016/06/23(木) 22:37:19.80 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「だ、ダメだ、あたしたちでも抑えきれない……」グググ

るか「ダメだよ、かがりちゃん……」グググ

かがり「ママを助けなきゃ……ママを……」スタ スタ

まゆり「かがりちゃん、どうしちゃったのかな!? ママはここに居るよ!? だから行かないで!!」ヒシッ

かがり「こっちにも、"ママ"……でも、私のママは、"ママ"じゃない……」スタ スタ

倫子「危ないまゆり!! 離れろっ!!」

まゆり「でも、でもぉっ!!」

真帆「これがストラトフォーの人体実験の1つ、ブレイン・ウォッシング……! 特定の音楽をトリガーに行動を支配する……」

真帆「今のかがりさんは、アドレナリンが増幅して脳のセーブ機能が外れてるんだわ!」

鈴羽「洗脳状態、ってことだよね。こうなったら足を撃ち抜くしかない!」ジャキッ!!

まゆり「だ、だめだよぉっ!! かがりちゃんを撃たないでぇっ!!」

真帆「このまま無理に引き留めるのはかがりさんの身体に負担がかかるわ。最悪、脳に障害が残るかも……」

鈴羽「くっ……リンリンッ!!」

倫子「…………」

367: 2016/06/23(木) 22:38:13.71 ID:2j/8NxTHo

倫子「……ダル。紅莉栖の記憶データは削除できるか」

ダル「へ? ぼ、僕にハッキング関係でできないことなんかないっつーの」

倫子「わかった。一旦かがりを放せ」

るか「ええっ!?」

鈴羽「正気!?」

倫子「命令に従え、鈴羽! ルカ子!」

るか「は、はい、凶真さん……」スッ

鈴羽「お、オーキードーキー……」スッ

かがり「行かなきゃっ!!」ダッ


タッ タッ タッ


ダル「……つ、つまり、かがりたんに牧瀬氏の記憶データを入れられる前に削除しろ、ってことだよな?」

倫子「ああ。お前ならできる」

ダル「くぅ、さすがの僕もこれはアドレナリン全開じゃないと追いつかないっつーの……ちょっとガチ集中モードになるわ、全力で応援してほしい件」

フェイリス「わかったニャン! ダルニャン、がんばれニャーッ!」

ダル「っしゃぁぁぁっ!!!!」カタカタカタカタ!!

368: 2016/06/23(木) 22:40:59.32 ID:2j/8NxTHo

倫子「あの曲はケッヘル620、『魔笛』のナンバー5、『鳥刺しのパパゲーノ』だったんだ……かがりを陰謀の魔の手へと導く、笛の音……」グッ

真帆「倫子、どうする!?」

倫子「ダルを信じて、オレはかがりを連れ戻しに行く。ストラトフォーのアジトの場所なら、既に割れているっ!」

鈴羽「ま、待ってリンリン! 敵はおそらく武装集団だ、こっちもそれなりの準備をしないと――」


prrrr prrrr


倫子「っ!? オレのスマホに通話……タイムリープではなさそうだが……」ピッ

??『オカベリンタロウか?』

倫子「(な、なんだこの加工された声……まさか、ストラトフォーか!?)」

倫子「(どうやってオレの電話番号を……って、そうか。"紅莉栖"のログから盗み見たのか)」グッ

??『椎名かがりは我々の手中にある。交換条件は言わなくてもわかるな?』

倫子「(……記憶という不確定なものより、論文ファイルそのものを手に入れたいに決まっている)」

倫子「(いや、というより、本当はすべてのタイムマシン論文を手に入れたいんだろう)」

??『交換は明日だ。場所と方法は追って連絡する』ピッ

倫子「…………」

369: 2016/06/23(木) 22:42:30.96 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「敵に牧瀬紅莉栖のノートPCを渡したところで、かがりを解放するとは思えない。たとえその中に本物のタイムマシン論文が入っていたとしても、だ」

倫子「すぐに準備しろ、鈴羽。乗り込むぞ」

鈴羽「オーキードーキー!」

真帆「駄目よ! ふたりでなんて、危険すぎる」

倫子「いや、大勢で動くよりも危険は少ない。ここは未来を知っているオレたちで立ち回った方が良い」

まゆり「オカリン……」

倫子「心配するな。鳳凰院凶真は氏なない。必ずお前の娘を取り戻してくるさ」ニコ

まゆり「(……きっとね、オカリンはそう言うと思ってた。本当のオカリンは、怖がりさんのはずなのにね)」

まゆり「(ひとりでどんどん先に行っちゃって、まゆしぃはいつもそれを追いかけるの)」

まゆり「(ねえ、オカリン。知ってる? まゆしぃはね、オカリンの背中を追いかけながらね、いつもこう思ってるんだよ)」

まゆり「……置いていかれたくないな」

倫子「えっ?」

まゆり「まゆしぃも一緒に行っていい?」

倫子「っ、ダメだ! 危険すぎる! これは遊びじゃない、実戦なんだぞっ!?」

まゆり「でも、でもね? まゆしぃはオカリンの人質だから……」

鈴羽「椎名まゆり、あんまりしつこいと――」

倫子「――ふぅーはははぁ!!」

まゆり「オ、オカリン?」

鈴羽「っ!?」

370: 2016/06/23(木) 22:43:12.63 ID:2j/8NxTHo

倫子「お前は勘違いしているぞ! お前には、初めから選択肢などないっ!」

倫子「選択が可能なのはこのオレ、凶悪なる真実を見通す力を持った鳳凰院凶真だけなのだからなっ!」

まゆり「えっ……?」

倫子「オレも鈴羽もかがりを連れて必ず帰ってくる。人質の元に、母親の元に、必ずな」

倫子「なぜならそれが、運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択だからだっ!! ふぅーはははぁ!!」バサッ

まゆり「…………」

倫子「いいか。オレたちが戻ってくるまで、決して逃げようとするなよ。居なくなったりしてみろ」

倫子「――絶対、許さないからなっ」

鈴羽「今のリンリンの台詞……」

真帆「ちょっと臭いわね」

倫子「だああっ!! 厨二病乙とか言うつもりか貴様らぁっ!!」カァァ

まゆり「……まゆしぃは、そういうセリフを言ってる時のオカリンが結構好きなのです」ニコ

倫子「ぐっ!?」

まゆり「あのね、まゆしぃね……もう、オカリンのこと、止めないよ……重荷になりたくないから……」ウルッ

まゆり「オカリンのこと、信じてるから……! もう二度と、見失いたくないから……!」ウルッ

倫子「ああ……」

371: 2016/06/23(木) 22:44:24.16 ID:2j/8NxTHo

倫子「ダル、スマホを常に通話状態に。逐一ハッキング状況を教えろ」

ダル「オーキードーキー!」カタカタカタカタ

鈴羽「リンリン、これを」スッ

倫子「グロック……中学の頃はモデルガンを集めたりしてたが、さすがに本物のピストルを触ったのは初めてだ」ドキッ

倫子「(……オレはさんざん世界線を変動させることで人を頃してきた。秋葉幸高も、秋葉ちかねも、天王寺綴も、天王寺結も)」

倫子「(そして、紅莉栖も……。今更、人を頃すくらいなんだっていうんだ)」

倫子「(いつまでもビビリの倫子じゃないんだ……っ!)」ギリッ

鈴羽「準備完了。リンリン、いつでも行けるよ」

るか「凶真さん……ご武運を!」

フェイリス「凶真ァ! 絶対、囚われの超時空プリンセスを取り戻してくるのニャ!」

まゆり「オカリン……」

倫子「……行こう。オレたちの大学へ。牧瀬章一と秋葉幸高、今宮綴と橋田鈴の想い出の場所へ」

倫子「オレとダルの電話レンジ(仮)、そして紅莉栖の論文……」

倫子「――タイムマシンたちが生み出される、すべての因果が集約された地へ!」

372: 2016/06/23(木) 22:44:56.28 ID:2j/8NxTHo
同日夜
東京電機大学神田キャンパス11号館地下2階


倫子「ここまで来たはいいが、どの部屋だ……?」

鈴羽「……思い出した。ここなら昔、潜入したことがある。外観が変わってたからわからなかったけど……リンリン、こっち!」タッ

倫子「でかした、鈴羽……っ!」タッ



電気室前


鈴羽「あたしはかがりを救出する。リンリンはサポートして」

倫子「ああ」スチャ

倫子「(拳銃が重い。大丈夫、ビビってない。ビビってなんか……ない)」

鈴羽「突入するよ。3、2、1……」


カシュ カシュ ダーンッ!!


373: 2016/06/23(木) 22:45:40.26 ID:2j/8NxTHo
電気室


倫子「な、なんだこれは……!?」ゾワワッ

鈴羽「……5人、氏んでる。出血の状態から、おそらく氏亡したのは1時間以内」

倫子「どういう……ことだ……。ま、まさかかがりが!?」ビクッ

鈴羽「銃創がある。かがりじゃないよ。奥へ行こう」

倫子「あ、ああ」ドキドキ



奥の部屋


倫子「(また氏体がひとつ転がっていた。それも、見覚えのある巨体だ……)」プルプル

倫子「レスキネン教授……」グッ

??「思ったよりも早かったわね、リンコ。ここで会ったが100年目、って感じかしら」

倫子「っ!?!?」ビクッ!!

鈴羽「ッ!!!!」ガチャッ

374: 2016/06/23(木) 22:46:30.05 ID:2j/8NxTHo

レイエス「探しものはこれ?」

鈴羽「かがりっ!!」

かがり「…………」

倫子「(眠らされているのか……。椅子に座り、頭には私がかつて何年も被り続けていたヘッドセットのようなものを装着している)」

倫子「やっぱりあんたか、レイエス」

レイエス「あなたは……リンコ? ずいぶん雰囲気が変わってるからわからなかったわ。白衣も似合ってるじゃない」

倫子「あんたが、ストラトフォーの人間っ!!」

レイエス「勘違いしないで。ワタシはあんな野良犬とは違うわ」

鈴羽「またお前か。お前、軍人だったんだな」スチャ

レイエス「ご名答。アメリカ軍の軍人にしてDURPAの一員……って言ってもわかるかしら」

真帆『DURPA……アメリカ国防高度研究計画局? そんな、レイエス教授が……?』

倫子「(ブルートゥースの小型イヤホン越しに、ダルの携帯から真帆の声が聞こえてきた。さすが大学だけあって、地下でも電波はしっかり入るようになっている)」

レイエス「DURPAは軍とは別系統の組織よ。元々最強の軍隊、"AI戦士"を作り上げるためにストラトフォーから技術を盗もうとしていたのだけど、そこでおもしろいものを見つけたの」

倫子「……"未来少女"とタイムマシン、だな」

375: 2016/06/23(木) 22:47:48.79 ID:2j/8NxTHo

レイエス「軍は兵器としてのタイムマシンを欲した。どこかにあるというタイムマシンと、クリスのオリジナル論文を求めてワタシたちは動いていた」

鈴羽「ならストラトフォーを泳がせておけば良かったはずだ。どうして頃した」

レイエス「ストラトフォーにスパイとして部下を1人潜り込ませていたのだけど、バレちゃったからみんな頃したわ」

倫子「なにも全員頃す必要はなかっただろう……! レスキネン教授だって……」グッ

レイエス「アレクシスはワタシが『Amadeus』にアクセスするのに必要だったから拷問したわ。彼らのとっておきの方法でね♪」

倫子「教授に、『Amadeus』にアクセスするよう命じたのか……そんな方法が……」

レイエス「"知識は力なり"、よ。情報戦を制する者が世界を制する……単純にして真理だと思わない?」

倫子「……F・ベーコン、近代科学のパラダイムを描いた人物の言葉か。そうか、DURPAの下部組織の標語だったな……」

倫子「支配者気取りとは、実に愚かな! うぬぼれもはなはだしい!」

レイエス「気取りじゃないわ。支配者なのよ」ニヤリ

376: 2016/06/23(木) 22:48:29.37 ID:2j/8NxTHo

レイエス「おさげの子。その銃を寄越しなさい。シイナ・カガリに生きていて欲しかったらね」

鈴羽「かがりを頃した瞬間、お前を頃す」

レイエス「ワタシが氏んだ瞬間、ワタシの仲間がここへ突入するわ。前みたいにはいかないから」

鈴羽「ぐっ……」

倫子「(さすがに集団で攻め込まれたら、オレたちも勝ち筋が無くなる可能性が高い……)」

倫子「(それに、オレの未来視によれば、レイエスがこの世界線で氏亡するのはもっと先のことだ。だから、どうあがいてもレイエスを頃すことはできない)」

倫子「鈴羽……」フルフル

鈴羽「くそっ……」スッ

レイエス「良い子ね。ついでに、そこで両手を頭の後ろに置いて立ってなさい。ああ、リンコは別にそのままでいいわ」

倫子「(舐められたもんだな……)」ギリッ

377: 2016/06/23(木) 22:49:38.55 ID:2j/8NxTHo

レイエス「それで、リンコ。ちゃんと持ってきてくれたの? クリスのノートPC」

倫子「誰が貴様なんかに渡すものか」

レイエス「あらあら、いけない子。なら、シイナ・カガリは渡せないわ」

レイエス「じゃ、早速始めようかしら。最終実験」

倫子「っ!? 紅莉栖の記憶をかがりに入れるのか……!?」

レイエス「いいえ、"入れる"んじゃないわ。"上書き"するのよ。それがワタシたちの最終実験の真の目的」

倫子「(タイムリープとは異なる方式ということか)」

倫子「(……紅莉栖の記憶データを脳に書き戻すことに関しては、ストラトフォーではなく、すべてDURPAの仕業だったんだな。"AI戦士"を作る技術の応用だったのだろう)」

倫子「(ラボに襲撃してきたのはレイエスと米軍……。あの時『Amadeus』を通してオレたちを監視していたのはDURPAだった)」

倫子「(かがりにK6205なんていうふざけたコードネームを付けたのもこいつか? こいつがフリーメイソンには見えないが……)」

倫子「(いや、実験データはすべてストラトフォーのサーバーにあったということは、実行犯はストラトフォーなのか)」

倫子「(つまり、こいつらがストラトフォーにそういう実験をさせていた。DURPAがストラトフォーを裏で操っていたわけだ……!)」

378: 2016/06/23(木) 22:51:21.63 ID:2j/8NxTHo

レイエス「今までの致命的だった問題も解消した。その上、彼女の高い適性もある。今回の実験は、きっと成功するわ……」ウフフ

倫子「マッドサイエンティストの風上にも置けない、クズが……」ギリッ

レイエス「ねえ、カガリ。あなただってクリスになりたいでしょう?」

かがり「ハ……イ……」

倫子「かがり……」

レイエス「リンコ。あなただって、クリスに会いたいでしょ? クリスの記憶を持ったかがりは、クリスそのものになる。顔も似てるしね」

レイエス「そうなれば、あなただって嬉しいでしょう? クリスもきっと喜ぶわ。だってかがりはクリスのク――」

倫子「馬鹿に……するな……」ボソッ

レイエス「え? なあに?」



倫子「――――ふっざけるなああああああっ!!!!!!!!!!!」


379: 2016/06/23(木) 22:51:47.29 ID:2j/8NxTHo

倫子「牧瀬紅莉栖を馬鹿にするなっ!!! この鳳凰院凶真を、愚弄するなああっ!!!」

レイエス「そ、そう。あなた、まるで別人になったみたいね、少しビックリしちゃった」

レイエス「まあ、どうでもいいわ。カガリがクリスへと生まれ変わる様を、そこでじっと見守ってなさい」スッ


倫子「ダル! まだなのか!!」ヒソヒソ

ダル『もうちょい……もうちょっとなのだぜ……』カタカタカタカタ

鈴羽「リンリン。場合によっては、プランBだ。かがりを見捨てる」

倫子「……かがりを、頃すんだな」

鈴羽「たとえ記憶がかがりにダウンロードされても、氏ねば有用に使えない。父さんのハッキングが気付かれる前に処分しないと」

倫子「……くそっ。くそおおおおおおっ!!!!!」


レイエス「それじゃ、サヨナラ。カガリ……」スッ

380: 2016/06/23(木) 22:52:18.54 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「―――っ」ダッ

レイエス「なんてね」BANG!!

鈴羽「ぐっ!!」バタッ

倫子「鈴羽ぁぁっ!!」

レイエス「まあ、そう来るわよね。一瞬の隙をついての行動……中々に訓練されているじゃない。あなた、やっぱり只者じゃないのね」

レイエス「でも、今日はワタシの勝ち。前にワタシを蹴り飛ばした恨み、晴らさせてもらったわ」

倫子「鈴羽……鈴羽ぁっ……」ウルッ

レイエス「あとはこのエンターキーを押せば、世界が変わる……」スッ

倫子「まだ……まだ、オレが居るっ!!」プルプル

レイエス「……日本の一般人に銃は撃てないわよ。撃てたところで、ワタシより早く抜けないわ」

倫子「馬鹿にするなと……言っているだろうっ!!!!!!」ガチャッ


BANG!!

381: 2016/06/23(木) 22:52:54.88 ID:2j/8NxTHo

倫子「――がはっ!!」バタッ

倫子「(あ、足を撃たれた……、立てない……! 痛い、痛い痛い痛いっ!!!)」ウルッ

レイエス「馬鹿の一つ覚えみたいにまあ……安心しなさい、急所は外しておいてあげたから」

レイエス「あなたにはまだ別の方向で利用価値がある。その可愛らしさを活かす方向と、脳機能の特殊性を究明するのと、どっちが良いかしらね」ウフフ

倫子「(くそぅ……オレが動いたのに、ダメなのか……ビビらず動けたとしても、オレにはどうすることもできなかったのか……)」ポロポロ

レイエス「それじゃ、今度こそ」カタッ

かがり「…………」

レイエス「……? ど、どういうこと? どうして反応しないの!?」

倫子「(……な、なんだ? 何が起こった?)」

レイエス「まさか、またあんたなの……『Amadeus』、"クリス"……ッ!!!!!」

倫子「("紅莉栖"が!? 電脳の存在のあいつが、抵抗しているというのか……?)」ドクン

レイエス「どこまでもワタシをバカにしてぇっ!!! いい加減にしなさいよぉっ!!!」

かがり「オカリン……さん……!?」

倫子「か、かがり!! 気が付いたか!! こっちへ!!」

かがり「は、はいっ!!」タッ

レイエス「――っ!!」ガチャッ


BANG!!

382: 2016/06/23(木) 22:53:53.90 ID:2j/8NxTHo

カラカラカラ……

倫子「(レイエスの拳銃がリノリウムの床を回転しながら滑っていく……こ、これは……)」

レイエス「くっ……!!」

鈴羽「それ以上動くな……」スチャ

倫子「(鈴羽がレイエスの銃を狙い撃ったのか!)」

かがり「鈴羽おねえちゃん!」

倫子「鈴羽っ!? 大丈夫だったのか!?」ウルッ

鈴羽「ギリギリで急所を逸らした……心臓を狙われたけど、弾が当たったのは利き腕じゃない左肩だ」

鈴羽「形成逆転だな、レイエス」ジャキッ

レイエス「ワタシ、小型爆弾をポケットの中に持ってるの。奥歯をちょっとだけ噛みしめれば、それで起爆するのよ」

倫子「いつの冷戦時代のスパイ映画だ……古臭すぎてカビが生えてるぞ」

鈴羽「ハッタリだ」

レイエス「そう思うなら撃てばいい」

倫子「待て、鈴羽。かがりの回収には既に成功している。今はダルを信じよう」

倫子「(爆弾はどうせハッタリだが、ここで鈴羽が発砲してもおそらく奴を無力化できない。そういう風に収束する)」

鈴羽「……オーキードーキー」

383: 2016/06/23(木) 22:54:57.32 ID:2j/8NxTHo

レイエス「良い子ね。3人ともそこで見守ってなさい。これからワタシが天才に生まれ変わるから」スッ

倫子「お、お前……何をするつもりだ……!?」

レイエス「"クリス"、聞いてる? あなたも、カガリじゃなければいいんでしょ? それにもう、抵抗する力なんて残ってないんじゃないのかしら?」ウフフ

レイエス「実験は既に成功している。適性の無いワタシでも、成功率は極めて高いわ! あはははは!」

レイエス「今からワタシは時間を支配する存在へと昇華するのよぉ!」

倫子「(なんだあいつ……自分に酔ってる? この部屋に漂う血と硝煙の臭いに当てられているのか……?)」

ダル『よっしゃ、キタキタキタ!!』

倫子「ダル!? 早くファイルを!!」

ダル『あった! マジであったぞオカリン!』

レイエス「さあ、今度こそエンターキーに働いてもらうわよ!」スッ

倫子「消せ、ダル! 頼む! 紅莉栖を―――!!」

倫子「あいつを解放してやってくれぇぇっ!!!!」

ダル『オーキードーキーッ――――!!』



カタッ


384: 2016/06/23(木) 22:55:36.95 ID:2j/8NxTHo

倫子「…………」

鈴羽「…………」

かがり「…………」


レイエス「…………」ガクッ


かがり「オカリンさん……その人は……」

倫子「……早かったんだ、ダルのほうが。フォルダ内にデータは1ビットだって残ってなかった」

倫子「それをレイエスは自分の脳に"上書き"したんだ……追加するのではなく、"上書き"を……」

倫子「元々消える予定だったレイエスの記憶に、無が上書きされた。結果、そこには何も残っていない」

倫子「奴は生ける屍と化したんだ……」

レイエス「…………」

倫子「ダル……よくやった……終わったよ、何もかも……」グスッ

鈴羽「……行こう、リンリン。もうここに居る意味はない。早くあたしたちの治療をしないと」

かがり「オカリンさん、私が肩を貸すね」

倫子「ああ……頼むぞ、ラボメンナンバー010」




倫子「また会おうな、紅莉栖……」


385: 2016/06/23(木) 22:56:05.42 ID:2j/8NxTHo
2011年2月6日日曜日
未来ガジェット研究所


まゆり「はい、あんよがじょうず、あんよがじょうず♪」

倫子「ひぎっ!? い、いててて……まだリハビリは早いんじゃないか、まゆり……」

まゆり「ほーそーいいんはほろびぬ。なんどでもよみがえるさー! でしょ?」ニコニコ

倫子「こいつ……。それで、鈴羽はもう大丈夫なのか?」

鈴羽「まだ完治してないけど、あたしは慣れてるから。利き腕じゃないし、生活には支障は無い」

倫子「慣れるとかそう言う問題なのか、これ……」

386: 2016/06/23(木) 22:57:26.25 ID:2j/8NxTHo

あれから数日。

現在大学の地下は、危険物取り扱い実験の失敗のため、という名目で封鎖されているらしい。おそらく米軍かストラトフォーによって処理されたのだろう。

『Amadeus』は完全に消去され、今やタイムマシン論文は我が未来ガジェット研究所にあるものと、ロシアに渡った中鉢論文の2つになった。

ストラトフォーもDURPAも米軍も、これ以上タイムマシンに手を出すことはきっと無い。ノートPCとHDDも廃棄したしな。

と言っても、世界線が変動したわけじゃない。

オレが拷問を受けたという世界の流れと、タイムマシン論文の所在やかがりの誘拐の有無に関して、大して変わったわけじゃないんだ。

だが、オレは捕まらなかった。支えてくれる仲間たちも居る。今なら世界線を良い方向に変動させることができる。

オレはもっと早く気づくべきだったんだ。シュタインズゲートを目指すことは無駄じゃない。

巡り巡って、意志は継続していくんだから。

387: 2016/06/23(木) 22:59:06.83 ID:2j/8NxTHo

鈴羽「それにしても、あれはなんだったんだろう。レイエスが牧瀬紅莉栖の記憶をダウンロードした時にうまくいかなかったのは」

かがり「……あの時、声が聴こえたような気がするの」

フェイリス「声?」

かがり「うん。頭の奥で、誰だかわからないけど"ダメーっ!"って」

真帆「アマデウス……もしかしたら、"紅莉栖"が最後の最後で自分の記憶をかがりさんに上書きされるのを拒んだんじゃないかしら」

倫子「シリコンの上に魂が宿っているのだとすれば、あるいはそうなのかもしれないな」

真帆「魂なんてものを真面目に議論する日がこんなに早く来るとは思わなかったわ。未だに超素粒子、OR物質とかいうシロモノは信じてないけれどね」

真帆「でも、『Amadeus』には人間と同じように意志があった。だったら、自己防衛本能のようなものがあってもおかしくない」

倫子「ああ。きっとあれは"紅莉栖"が……紅莉栖の意志が、オレたちを助けてくれたんだ」

388: 2016/06/23(木) 23:01:34.67 ID:2j/8NxTHo

ダル「それで、オカリンも回復してきたことだし、次はどうするん?」

倫子「そうだな。だがその前に、オレから皆にプレゼントがある。受け取るがいい」

真帆「これは……バッジ? OSHMKUFAHSA……」

倫子「ラボメンバッジ。オレたち全員がこのラボのメンバーである証だ」

まゆり「まゆしぃがね、足が痛いオカリンの代わりに露天商さんに頼んで作ってもらったのです」エヘン

倫子「助けがほしいときはそれを握りしめ、"ラ・ヨーダ・スタセッラ"と唱えるがいい」

真帆「は、はぁ……」

倫子「萌郁については真帆から聞いた通り、SERNの二重スパイとして活躍してもらっている……ということにしておこう。いずれ完全に我らの軍門に下らせてやる」

鈴羽「8番目のAはあたし、阿万音鈴羽のことだろうけど、最後のAは……」

倫子「無論、ラボメンナンバー011、阿万音由季だ。今日もバイトで不在だが、そこはさすがバイト戦士の母、バイト狂戦士<バーサーカー>と言ったところか」

倫子「彼女もまた我がラボに不可欠な人物だからな。そうだろ、ダル?」

ダル「えっ!? あ、うん。そ、そそ、そうなんじゃね?」アセッ

倫子「キョドりすぎだっ!」

鈴羽「そっか……」ギュッ

かがり「えへへ、私の宝物、ひとつ増えたよ! 鈴羽おねえちゃん!」ニコ

389: 2016/06/23(木) 23:02:20.10 ID:2j/8NxTHo

真帆「紅莉栖と倫子が仲良くなった理由がようやくわかってきた気がする」フフッ

かがり「私も、ママがオカリンさんをずっと好きだったの、わかるな……」

まゆり「か、かがりちゃん。違うよ、まゆしぃは、オカリンの人質だからねっ」アセッ

かがり「えー? じゃあオカリンさんは私がもらっちゃおうかな♪」ダキッ

倫子「お、おいっ」

まゆり「はわわぁ、オカリンがまゆしぃの義娘になっちゃうよぉ!」

倫子「いや、ならんから落ち着け」

鈴羽「ちょっとかがり! リンリンはあたしのものだよ!」ダキッ

倫子「お、お前らっ! ひっつくなっ!」

ダル「はわわぁ、オカリンがだるしぃの義娘になっちゃうよぉ!」(裏声)

倫子「ならんと言っとるだろ! この未来娘どもをなんとかしろぉ! うわぁん!!」

390: 2016/06/23(木) 23:02:46.49 ID:2j/8NxTHo

ああ、オレだ……。

なに? いつまで待たせる気だ、だと?

慌てるな、助手よ。今はまだその時ではない。

ククク……オレを誰だと思っている? 狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真に二言は無い。

オレは牧瀬紅莉栖を助けると誓った。だから、必ずお前を助ける。

安心して待っていろ。刻の呪縛から解き放たれるその時を。

オレの想いすべてを、仲間たちの想いすべてを、シュタインズゲートを開くために捧げよう。

――エル・プサイ・コングルゥ。

391: 2016/06/23(木) 23:03:24.42 ID:2j/8NxTHo
2011年12月18日日曜日
未来ガジェット研究所


ガチャ

真帆「お久しぶりね、みんな」

まゆり「わぁ、真帆さんだぁ。すごく会いたかったよ~、トゥットゥルー♪」

るか「お久しぶりです」

フェイリス「元気そうで何よりだニャ」

鈴羽「変わりないようで安心したよ」

真帆「どうせ私は小さいわよ」

倫子「もうとっくに成長期は終わっているだろう、口リっ子よ。貴様のその姿も、あるいは運命石の扉<シュタインズ・ゲート>の選択……」ククク

真帆「口リっ子言うなっ!」

392: 2016/06/23(木) 23:04:15.33 ID:2j/8NxTHo

かがり「真帆さんっ!」ダキッ

真帆「ふぇっ!? ちょ、どうしたの!?」

かがり「1年間真帆さんに会えなくてさみしかったよぉ!」ギュッ

真帆「……ごめん。ほんとうは夏にも来たかったのだけれど、大学のほうがなかなか片付かなくて」

倫子「(ふたを開けてみればレイエス教授だけでなく、多くのヴィクコン関係者があの騒動に関わっていたらしい)」

倫子「わざわざ来てもらったのに、これから真帆の1年を無駄にしてしまうことになる。すまない」

真帆「無駄になんてならないわよ。この世界の未来が別の世界線の過去に繋がってるって言ったのはあなたでしょう?」

倫子「……クク、そうであったな」

真帆「久しぶりに倫子の"鳳凰院凶真"を聞いたら違和感がハンパないわね。普通の女子大生だった頃が懐かしい」フフッ

倫子「あ、あれはあれで黒歴史だっ!///」カァァ

393: 2016/06/23(木) 23:05:09.15 ID:2j/8NxTHo

オレはこの世界線で、信じることを学んだ。

仲間を信じること。自分を信じること。そして――

シュタインズゲートを信じること。

かつてのオレはシュタインズゲートを信じられなくなっていた。

どうあがいても到達不可能だと思い込んでいた。

だが、そんなのは所詮、オレの勝手な思い込みに過ぎなかったのだ。

世界は騙せる……。収束の本質は、むしろそこにある。

そして、仲間たちの支えがあれば、オレは何度でもやり直すことができる。

何度も何度もやり直して、いずれシュタインズゲートの選択をしてみせる。

――紅莉栖を救ってみせる。

394: 2016/06/23(木) 23:05:35.68 ID:2j/8NxTHo

『そう。世界線の変動はやってみなければわからない。そして私たちは絶対に諦めない』

『この2つの条件が揃ってるから、岡部は無限の時間をかけて世界を変えられるの』

『岡部、その"鳳凰院凶真"をずっとわすれないでね』



わかっているさ。オレを誰だと思っている。

狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真。

世界はオレの手の中にある――――

395: 2016/06/23(木) 23:07:12.70 ID:2j/8NxTHo

ダル「マシンを改良しといたお。過去にRINEメッセージを送る、名付けてDラインってとこかな」

倫子「SERNに捕捉される可能性は?」

ダル「ゼロパーセント。僕の情報技術をなめんなっつーの」フンス

鈴羽「抜け穴が見つからない~って何週間もうめいてたくせに」

ダル「ギクッ。まあ、性能に関しては折り紙付きだから安心してほしいのだぜ」

倫子「さすがだ、我が頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>!」

ダル「それから、あっちのほうも準備完了してるのだぜ。しかしオカリンすごいこと思い付くよな」

真帆「ええ。確かにやってみないとわからない実験ではあるけれど、少し心配……」

倫子「案ずるな。オレには確信がある」

倫子「(この確信がなんなのか、ハッキリとはわからない。あるいは、別の世界線のオレの記憶の残滓なのかもしれない)」

フェイリス「それで、今度のオペレーションはどんな作戦なのかニャ?」

倫子「クク、聞いて驚け。そしてこの狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真を心から畏れるがいいっ!」



倫子「――――Dラインを送ると同時に、タイムリープするっ!!」

396: 2016/06/23(木) 23:07:53.72 ID:2j/8NxTHo

どういうわけか、オレには長時間タイムリープができる確信があった。

擬似パルスを添付せずにタイムリープすれば、記憶は受信されず、オレの主観だけが安全に過去へと移動する。

完全なリーディングシュタイナーを持つオレだからこそできる技だ。同時にそれは、完全を意味していない。

わずかなバグが発生するかもしれない。そうすれば、過去へと送れる情報ははるかに多くなる。

だが、タイムリープしたことによって世界線が変動し、Dラインが送られない未来へとなってしまっては困る。

Dラインは18文字しか送れないが、あれは確実に情報を送ることができるからな。

逆に、Dラインを送ったことによって世界線が変動し、タイムリープできない未来となってしまったら詰みだ。

ならばどうすればいいか。

同時に送ってしまえばいい。

397: 2016/06/23(木) 23:09:39.14 ID:2j/8NxTHo

おい、モニターのそっち側に居る貴様ッ! そうだ、間抜け面の貴様だ。

世界線は確定した事象を改変した瞬間に変動すると思っているようだが、それは違う。

変動には、わずかに時間がかかっている。

もちろん、改変時点から未来方向および過去方向に向かって、波が伝播するように徐々に変化する、というわけではない。

そんなことになれば、"世界線は過去から未来までが確定している"という事実に反してしまうからな。

元の世界線から改変後の世界線へと変動するのに時間がかかる、というだけの話だ。

オレは数々のリーディングシュタイナー発動やタイムトラベルを体感してきたからこそわかる。

かつてα世界線からβ世界線へと1%の壁を跨いだ時、エンターキーを既に押していたにも関わらず、その後に発された紅莉栖の言葉をオレは鮮明に覚えている。


   『さよならぁっ!!』

   『私も、岡部のことが だ   い       す           』


改変が確定した後のほんのわずかな間、時空がゆがみ、再構成される時間が存在する。

それは、瞬き程度の時間。蝶が羽ばたく程度の時間。

1秒ほどの、世界線を超える時間。

398: 2016/06/23(木) 23:10:40.12 ID:2j/8NxTHo

OR物質は世界線に左右されない存在だ。

つまり、世界線の変動はOR物質にとっては関係ない。

ゆえに、この"Dラインとタイムリープ同時使用"というウルトラCを実行すれば!

Dラインを受信することが確定した世界線へと主観を移動させることが可能というわけだ。

仮にDラインが先に過去へ到着し世界線を変動させたとしても、変動しきる前にオレの意識は過去へと跳んでいる。

ゆえに変動後の世界線へと意識が受信される。

逆にDラインより先に意識が過去へ受信された場合、その後Dラインによる世界線変動が起こるな。

だが、その時オレはリーディングシュタイナーを発動するだけなので、中身は変わらない。

結局、どっちにしてもDラインを送って変動した世界線の過去へとオレの意識が跳ぶことになる、というわけだ。

真帆も言っていた通り、やってみなければわからない。失敗して、また同じ歴史を繰り返すだけになるかもしれない。

だが、可能性があるならそれに賭けるべきだ。

399: 2016/06/23(木) 23:11:24.34 ID:2j/8NxTHo

今ここで2010年7月28日へとタイムリープしたところでアトラクタフィールドを超える世界線変動は引き起こせないだろう。

記憶を引き継ぐことができないから、という理由だけでなく、たとえ引き継げたとしても不可能なのだ。

原因は『Amadeus』と椎名かがり。ストラトフォーがタイムマシンを狙うこととなったキッカケだ。

未来のダルの話によれば、ストラトフォーは得た情報を世界に切り売りしていたらしい。あいつらこそ第3次世界大戦を裏で操っていた黒幕だ。

かがりがレスキネンに未来の情報を教えてしまうことで、タイムマシンが夢物語でも疑似科学でもない確信を与えてしまった。

そして『Amadeus』がストラトフォーに利用されることで、オレたち未来ガジェット研究所がタイムマシンと関係していることが明らかにされてしまった。

どちらも中鉢論文あっての因果だ。中鉢論文がなければ、そもそも奴らはタイムマシンの存在にすら気づけない。

だが、『Amadeus』もかがりも、第3次世界大戦が起こるβ世界線においては確定した事項だ。未来が過去に影響しているために、どうあがいても中鉢論文は取り消せない。

シュタインズゲートへは辿り着けない。

400: 2016/06/23(木) 23:12:51.64 ID:2j/8NxTHo

この世界線でも『Amadeus』を削除することには成功したが、既にストラトフォーにも米軍にもタイムマシンの存在はバレている。

次の世界線では、『Amadeus』によってオレたちとタイムマシンの関係がバレないようにしなければならない。テスターはやめないとな。

加えて、幼いかがりが洗脳されてしまう未来を変える必要がある。

かがりが1998年に鈴羽と別れることなく2010年までやってくる世界線に辿り着かなければならない。

何度も言うが、そうしなければ、すべての原因である中鉢論文をどうあがいても消去することができないのだ。

かつてのアトラクタフィールドαにおいて、最初の世界線以外でオレがどうあがいてもIBN5100を手に入れられなかったように。

だからこそ、SERNに捕捉されないDラインによる世界線改変が必要、というわけだ。

そこからもう一度、オレの時を始める。

401: 2016/06/23(木) 23:14:06.90 ID:2j/8NxTHo

送り先は2010年12月15日、オレが元居た世界線において、ケータイの電源を切っていたことで世界線が変動したタイミング。

あれは、オレが未来からメッセージを受け取ることが確定していたのを拒否したから、世界線が変動したのかもしれない。

もちろん根本的な原因はタイムマシン論文やかがりの状態に関わるものだろうが、世界線変動の引き金となったのはやはりスマホの電源のオンオフだったはずだ。

ならば、今こそ、それを送る時。

今居るこの世界線の2010年12月15日、オレはケータイの電源を何故か入れていた。だから受信は可能だ。

意識の送り先のタイミングはDライン到着よりも前に設定したが、これはDラインによって世界線が改変される前に送る、という意味ではない。

そもそも『送る』という行為自体が改変行為なのだ。ゆえにDラインとタイムリープの受信のタイミングがどこであろうとも世界線が変動してしまうことには変わりない。

Dラインを送った瞬間、12月15日にDラインを受信することが確定する世界線へと変動する。この時、変動にわずかな時間を要する。

Dラインを送ると同時にタイムリープで意識を飛ばし、Dラインを受信するタイミングの少し前へと到着させるというわけだ。

こうしてオレは自分で送ったDラインを自分で受信することになる。ただ、未来の記憶は一切思い出せないけどな。

それでも、何かを思い出す可能性はゼロじゃない。

オレの中に眠る鳳凰院凶真は、必ずまた蘇る。不氏鳥のごとく。

記憶の全てが書き換わるとしても、デジャヴみたいに心の奥で繋がれば――――

402: 2016/06/23(木) 23:14:55.00 ID:2j/8NxTHo

以上が、Dライン&タイムリープ同時過去改変の目的と原理だ。

で、だ。そもそも、どうやってそんなことを実現するのかという話だが。

過去へと情報を送るには、要はカーブラックホールを電子注入により裸にしたミクロ特異点へとデータを送ればいい。

それが可能なマシンは、42型ブラウン管テレビ直上にある電話レンジ(仮)と、もうひとつ存在する……。

そう、ラジ館屋上にあるタイムマシンだ。

あのタイムマシンには当然、リフターも含めたリング特異点生成装置がついている。あれを使えばいいだけの話。

タイムマシンを使ってDラインを過去へと送り、電話レンジ(仮)の改良品を使って同時にタイムリープをする。

これこそが、オペレーション・ヘルヘイムの全貌だ。

403: 2016/06/23(木) 23:16:06.04 ID:2j/8NxTHo

ダル「いやまさか、タイムマシンを改造しろ、なんて言われるとは思ってなかったお」

鈴羽「あのタイムマシンはもう2010年の夏へと跳ぶことはできないからね。世界改変に使えるなら本望だよ」

鈴羽「あたしは……うれしい」ウルッ

ダル「(あの鈴羽がようやく素直に涙を流してくれたお……)」

真帆「タイムリープマシンの調整、終わったわ。あとは送信タイミングの同期だけど」

ダル「それは僕のほうで制御プログラム組んどいたから、オカリンのスマホの送信ボタンと、ペケロッパに接続したキーボードのエンターキーを同時に押せば自動で補正がかかるお」

倫子「さすが我が頼れる右腕<マイフェイバリットライトアーム>だっ!」

倫子「ではいくぞっ! 鳳凰院凶真の名において、これよりオペレーション・ヘルヘイムを開始する!」

倫子「ラボメン全員、準備はいいか!?」

全員「オーキードーキー!」




                         マッドサイエンティスト
          【世界を騙せ 可能性を繋げ 世界は欺ける】





また会おうな、紅莉栖―――――――――




カタッ

404: 2016/06/23(木) 23:17:53.99 ID:2j/8NxTHo

――――――――――――――――――――――――――――――――
         1.05582      ⇒      1.29848
    2011年12月18日14時22分  ⇒  2010年12月15日16時22分
――――――――――――――――――――――――――――――――

引用: 岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その3