405: 2016/06/25(土) 17:00:07.92 ID:2RffVo6fo



最初:岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【その1】
前回:岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」【その8】

第19章 双対福音のプロトコル (♀)

世界線変動率【1.29848】
2010年12月15日(水)16時22分
柳林神社


倫子「――――――――あ、あれ? 私、何を……」スッ

倫子「(……そうだ、思い出した。今日の報告会が上手く行くように神様に頼みに来たんだった)」

倫子「でも、今の着信はなんだったんだろう。イタズラ電話かな」

倫子「まあ、いいや。ルカ子大明神様、何卒よろしくお願いします」パン パン ペコリ


   『誰にもうちあけられずに……とどかなくても……この気持ち、抱きしめていたくて……』

   『おぼえていて……くれますか……?』


倫子「(……今のは、神様の声? い、いやいや、そんな幻聴なんか聞こえるわけないって)」

倫子「ルカ子はまだ学校から帰ってきてないか……」

prrrr prrrr ピッ

Ama紅莉栖『ここが漆原さんの神社なのね。今なにしてたの?』

倫子「……報告会の安全祈願、かな」
STEINS;GATE 15周年記念ダブルパック【Amazon.co.jp限定】デジタル壁紙 配信 - Switch

406: 2016/06/25(土) 17:00:56.09 ID:2RffVo6fo

・・・(中略)・・・


倫子「――――結局、オレが照れくさかったんだ。素直に名前を呼べなくて……」

Ama紅莉栖『照れくさかった?』

倫子「……今でも私、紅莉栖のことが好きだよ。あなたのことだって、女の子として好き」

Ama紅莉栖『なぁっ……///』

倫子「へ、へぇ。あなたも顔が赤くなったりするんだね」ドキドキ

Ama紅莉栖『あ、赤くなんてなってないし。ただ、女の子扱いされてたなんて、思ってもみなかったから……』

Ama紅莉栖『でも、その感情は危険よ。オリジナルはもう、この世に居ないんだから』


   『また会おうな、紅莉栖』


倫子「……ううん。たぶん、そんなことはないんじゃないかな。別の世界には、きっと……」

Ama紅莉栖『現実逃避……ってわけじゃなさそうか。まあ、あんたの宗教観は否定しないけど』

407: 2016/06/25(土) 17:02:14.77 ID:2RffVo6fo

ピッ


倫子「通話を切って冷静になってみると……確かに、"紅莉栖"の言う通り、この感情は危険、かも、知れない」

倫子「AIの"紅莉栖"に想いを寄せるなんて、それこそ妄想の紅莉栖を創り出すことと何が違うって言うの」

倫子「……違うか。私は、本物の紅莉栖に会いたいんだ。あの箱の中から、暗い世界から、紅莉栖を引っ張り出したい……なんてね」

倫子「そんなこと、出来る訳ない、よね……」

倫子「それに、この"紅莉栖"には、別の世界線での出来事を話してしまったかもしれない」

倫子「これ以上、"紅莉栖"と話すのは、危険……?」

倫子「また、まゆりに心配かけちゃう……。私はテスターを続けるべきじゃないのかもしれない」

倫子「……テスターはやめよう。ハッキリと教授たちに、そう伝えよう」

408: 2016/06/25(土) 17:02:56.52 ID:2RffVo6fo
同日 夜
秋葉原CLOSE FIELD 陸橋 UPX前


倫子「(レスキネン教授たちとの約束の時間までは、まだ少しある……)」ウロウロ

倫子「……ん? あれは、フブキとカエデさん?」

フブキ「おーい! オカリンさーん!」

倫子「ちょ、恥ずかしいからやめてっ」

カエデ「フブキちゃん、もっと大声で!」

フブキ「オ・カ・リ・ン・さ・ー・ん!!」

倫子「やめろぉ!」

カエデ「それより、大丈夫ですか? 具合悪そうですけど。もしかして、フブキちゃんの大声のせいで?」

フブキ「ちょっ!」

倫子「ううん、大丈夫。全然大丈夫だから、まゆりに連絡しなくていいから、ケータイしまって!」

フブキ「でも、つらそうだったら言ってくださいね。オカリンさんのこと心配なのは、マユシィだけじゃないですから」

フブキ「カエデちゃんだって……私だって、オカリンさんのこと……」

倫子「……うん。ありがと。嬉しい」

フブキ「……あの」

倫子「なあに?」

フブキ「――オカリンさんの好きな人って、誰ですか」

倫子「……私の、好きな人……」


   『――我が助手、牧瀬紅莉栖だっ』


倫子「うっ……」フラッ

フブキ「ご、ごめんなさい、失礼なこと訊いちゃって! あの、私――――」

409: 2016/06/25(土) 17:04:42.77 ID:2RffVo6fo


ピピピ



――――

世界大戦だろうがディストピアだろうが、そんなことはどうでもいい。

紅莉栖は氏してなお、凍える漆黒の電脳世界に封印され、悪の組織に狙われている。

これは人類を救うためのミッションなどではない。

牧瀬紅莉栖を蘇らせ、世界を破壊するためのミッションだ。

フフフ、ククク――――

ふぅーはははぁ!!!!

――――

410: 2016/06/25(土) 17:05:44.84 ID:2RffVo6fo

倫子「――――!?」クラッ

倫子「(な、なに!? 今のビジョンは……!?)」プルプル

カエデ「オカリンさん!? 大丈夫ですか!?」

倫子「え、あ……大丈夫。大丈夫だからっ! それじゃ!」タッ タッ

フブキ「あ、オカリンさんっ!」



倫子「(今、RINEに着信があった……?)」スッ



マッドサイエンティスト
【世界は欺ける】

マッドサイエンティスト
【可能性を繋げ】

マッドサイエンティスト
【世界を騙せ】



倫子「こ、これは――――」

411: 2016/06/25(土) 17:07:33.25 ID:2RffVo6fo
都内の高級ホテル レスキネンの宿泊部屋


倫子「……テスターを、やめたいです」シュン

真帆「…………」

レスキネン「…………」

真帆「いきなりそんなこと……無責任だわ!」

倫子「うぅ……」ウルッ

レスキネン「マホ、落ち着きなさい。このテストはリンコの善意で成り立ってるんだよ」

レスキネン「リンコ、ここで辞退しても無責任ということは決してないから、大丈夫」ニコ

倫子「……すみません」ペコリ

レスキネン「ざっとログを見たが、かなり頻繁に話してくれているじゃないか。それも一時は病的なまでに」

レスキネン「それがやめようと思った理由かな? "クリス"と話すのがつらくなったかい?」

倫子「いえ、その……"紅莉栖"と話すのは、とても楽しいんです」

倫子「でも、だからこそ、それが怖くて……」

412: 2016/06/25(土) 17:08:42.89 ID:2RffVo6fo

真帆「…………」ムスーッ

レスキネン「分かった。テスターの辞退については、君の望む通りにしよう」

レスキネン「ただ、アクセス権は君のスマートフォンにそのまま残しておいて構わないかな? 今後、『Amadeus』と話すのも話さないのも、君の自由だ」

レスキネン「"クリス"のほうからは、君に連絡しないように言っておくから」

倫子「え……?」

レスキネン「ここだけの話、『Amadeus』はマホにとって娘みたいな存在なんだ。娘に出来た初めての友達が居なくなっては、寂しいだろう?」

真帆「教授っ!」ガタッ

倫子「……そういうことなら」

倫子「(ヴィクコンとの繋がりがあってほしいのは私もだし、これはこれでいいのかな……)」

413: 2016/06/25(土) 17:11:11.21 ID:2RffVo6fo


prrrr prrrr


レスキネン「おっと失礼。ちょっと電話してくるよ。マホ、その間にリンコと仲直りしておくようにね」ガチャ バタン


真帆「……ごめんなさい。さっきは怒鳴ったりして」

倫子「私こそごめん。あなたの力になれなくて」

真帆「私の子どもと親友、両方を投げ出されたような気がして……だめね、私。自己嫌悪だわ」

真帆「今後も、気が向いたらでいいから『Amadeus』をかまってあげて」

倫子「うん……また、3人で一緒に出掛けよう? それだったら私も大丈夫かも」

真帆「それ、いいわね。あなたとも普通のお友達になりたいし。あ、あくまで普通のだからね?」ドキッ

倫子「……ねえ、聞いてもいい? 紅莉栖の母親のこと。前のATFの時、真帆ちゃんとレスキネン教授が話しているの、聞いちゃって」

真帆「ああ、あのこと……あとちゃん付けやめて……」

414: 2016/06/25(土) 17:14:38.55 ID:2RffVo6fo

真帆「紅莉栖のお母さんから電話があったの。家に放火されたんですって」

倫子「えっ!?」

真帆「ちょうどその日は留守にしていたから大丈夫だったそうだけど……変なことに巻き込まれてるかも」

倫子「変な、こと……?」ドキッ

真帆「最初は地元の警察が捜査してたらしいのだけど、そのあとFBIを名乗る人たちが来たらしくて」

真帆「それに目撃者の証言によると、犯人はなんだか特殊部隊みたいだったって。すごく手際が良かったそうよ」


   『SERNは「ラウンダー」っていう名前の非公式で私設の特殊部隊を持っててね』


倫子「……特殊部隊。いや、まさか……」ゾクッ

真帆「それから……その犯人たち、ロシア語を話していたって」

倫子「――――っ!?」ドクン

倫子「(まさか、章一の亡命先、ロシアの特殊部隊が!? 第3次世界大戦は、すでに始まっている……?)」ドキドキ

真帆「……?」

415: 2016/06/25(土) 17:17:03.96 ID:2RffVo6fo

真帆「それに、紅莉栖が亡くなったばかりの頃、私たちの研究室でもおかしなことがあったの」

真帆「地元警察と一緒に、日本の刑事という日本人が来たのよ。紅莉栖のデスクを荒らして……いえ、捜査して行ったわ」

倫子「(あれ? ダルに警察のデータベースをハッキングさせた時、日本警察は事件を全く捜査していなかったはず……)」

真帆「何日か経って、大学が警察に問い合わせをしたら、そんな刑事が日本から来た事実はない、って言われた」

倫子「(やっぱり)」

真帆「それだけじゃなくて、地元警察も、私たちの研究室を捜査した事実はないって」

倫子「全員偽者だったんだ……」

倫子「("警察"を名乗る人間ほど信用できないものはない……)」ギリッ

真帆「そのことがあって、私……」プルプル

倫子「……怖かったね」ギュッ

真帆「手……。岡部さん、ありがと。少し落ち着いたかも」

倫子「(私があなたと守ってあげる、とは言えなかった)」

倫子「(狂気のマッドサイエンティストのアイツなら、彼女のそばに寄り添ってあげることができたかもしれない)」

倫子「(けど、私は普通の女子大生だから……)」グッ

416: 2016/06/25(土) 17:18:29.40 ID:2RffVo6fo

真帆「陰謀論を主張するわけじゃないけれど、紅莉栖の氏にはなにか裏があるんじゃないかと疑っているわ」

倫子「っ……」

倫子「(何が"私があなたを守ってあげる"だ。彼女を追い詰めた犯人は……その元凶は……)」プルプル

真帆「なにかもっと別の理由で紅莉栖は殺されて、それが闇に葬られてしまったんじゃないかと、そう考えているのよ」

倫子「(……紅莉栖を頃した犯人は、私なのに)」グッ

真帆「このままじゃ紅莉栖は浮かばれないわ。私は真実を知りたい……」

倫子「(真実を追究するのが科学者……私は、真帆ちゃんに近づくべきじゃなかったんだ)」グスッ

真帆「え? だ、大丈夫? 泣かないで?」オロオロ

倫子「ごめん……ごめんね、真帆ちゃん……私のせいで……っ」ポロポロ

真帆「えっと……?」キョトン

417: 2016/06/25(土) 17:19:36.42 ID:2RffVo6fo

・・・

真帆「……落ち着いた?」ギュッ

倫子「うん……」グシグシ

真帆「やっぱりあなた、何か知ってるのね」ハァ

倫子「…………」シュン

真帆「わかってるわ、今はこれ以上詮索しない」

真帆「でも、私はそれを知りたいと思っている。そのことだけは知っておいてほしい」

倫子「危険だよ……」

真帆「たとえ危険だとしても、私は……。私、紅莉栖のこと、本当に好きだったみたい」フフッ

倫子「あの子は本当に良い子だったし、本当にすごい女<ヒト>だった。私も……大好きだった」

真帆「あら、気が合うわね」

倫子「紅莉栖が生きてたら、私たちで取り合いっこしてたかもね」フフッ

真帆「簡単には渡さないわよ? なんて言ったって、私の可愛い後輩なんですから」

倫子「望むところっ」フフッ

418: 2016/06/25(土) 17:21:02.72 ID:2RffVo6fo

ガチャ 

レスキネン「2人とも、よかったらこれから食事でもどうかな?」

倫子「いいんですか? ありがとうございます、教授」

真帆「岡部さん、紅莉栖の話の続きは食事の後にしましょう」

倫子「真帆ちゃんには負けないよ」ドヤァ

真帆「だから真帆ちゃん言うなっ!」ウガーッ!

レスキネン「仲良き事は美しき哉。もうすぐ春ですね」ニコニコ

倫子「(自動翻訳どうなってるの……?)」

419: 2016/06/25(土) 17:27:25.28 ID:2RffVo6fo
ホテル1階レストラン


倫子「紅莉栖はカップラーメンが好き! 特に塩!」

真帆「紅莉栖はコーヒーが好き!」

倫子「紅莉栖は運痴だけど泳ぐのは好き!」

真帆「紅莉栖は政治的アピールのためのエコ活動が嫌い!」

倫子「蛇とかカエルがダメ! あとGも!」

真帆「料理が壊滅的! でも裁縫はできる!」

倫子「辛いものが苦手!」

真帆「絶叫マシンとかウォータースライダーには梃子でも乗らない!」

倫子&真帆「「ぐぬぬ……!」」

レスキネン「ふたりとも、どっちがクリスのことに詳しいかアピールはそのくらいにして、デザートにイチゴのトルテはどうかな?」

420: 2016/06/25(土) 17:28:18.47 ID:2RffVo6fo

レスキネン「時にリンコ。人間と他の生き物の違いはなにか。君はどう考える?」

倫子「え?」モグモグ

真帆「これ、教授のいつもの癖だからあまり気にしなくていいわ。教授、また何か思いついたんですか?」

レスキネン「そんなところさ。いいかいリンコ、アナログで流動的なこの世界を0と1に分解し、デジタル化することができるのが人間だ」

倫子「……?」モグモグ

レスキネン「例えば、今ここにオカベ・リンコという人間が居るね。その存在は固定化されていて、突然マホになったりクリスになったりすることは無い」

レスキネン「君は昨日もリンコだったし、明日もリンコだ。そうだね?」

倫子「は、はい」

レスキネン「どうしてそれがわかるんだい?」

倫子「は……?」

421: 2016/06/25(土) 17:31:18.79 ID:2RffVo6fo

レスキネン「君は今、イチゴのトルテを食べているが、そのうちのいくつかの分子は数時間もしないうちに新たに"リンコ"になる」

レスキネン「そして6年ほどで"リンコ"ではなくなってしまう」

真帆「人間の体細胞の入れ替わる周期は約5年から7年と言われていますね。もちろん、脳細胞も新しいものへと次々に更新されている」

レスキネン「それでも今まで"リンコ"は続いていた、そして今後も"リンコ"は続いていく、と脳は思考する」

レスキネン「不思議だと思わないかい?」

倫子「1秒前の私と、今の私とを繋ぐのは……"意識"?」

レスキネン「でも、我々はソレを見たことも触ったことも無い。"意識"と仮に呼んでいるものの正体とは、一体なんだろうね?」

倫子「つまり、形而上のモノを現実として認識できるのが人間だ、ということですか?」

レスキネン「そうだね! そして、それを可能にするのは言葉だ」

レスキネン「言葉による記号化がなければ、世界は混沌<カオス>のまま、無秩序のまま」

真帆「いわゆる記号論ですね」

422: 2016/06/25(土) 17:32:19.46 ID:2RffVo6fo

レスキネン「生物は様々な情報を交換する。これが言語だね、もちろん犬や猫にも彼らなりの言語はある」

真帆「その意味では、言葉だけじゃなく、身振りや鳴き声、臭いや超音波やDNA配列なんかも言語化されている、と言えるわ。コンピューターでさえプログラミング言語でコミュニケーションをしている」

レスキネン「人間は口や喉などの調音点を使って様々な音のパターンを作り出し、そのパターンごとに事物や事象を当てはめていく。これによって世界を分節化していくね」

倫子「それが言葉、ですよね」

レスキネン「だが、人間の言葉が示しているのは、実は世界の事物そのものではなく、シンボルなんだ」

倫子「えっと……?」

真帆「例えば、私が今"脳"という言葉を口にしたとして、具体的な事物を指しているわけじゃない」

真帆「動物一般が所有している、頭骨に守られた器官のことを意味しているのよ」

真帆「それってつまり、脳というモノを指しているようでモノ自体を指していない……"脳と言う概念"を示しているだけってことでしょ?」

倫子「ああ、なるほどね。具体的な事象を表す言葉でも、本当に意味しているのは抽象的なものってわけか」

423: 2016/06/25(土) 17:33:07.41 ID:2RffVo6fo

レスキネン「当然リンコの脳とマホの脳はまったくの別物だ。それどころか、昨日のリンコの脳と明日のリンコの脳も別物と言える」

真帆「同じ人間の脳であっても、1秒もしないうちに脳の分子組成は変化するし、電気信号のサーキットも再構築されてる」

真帆「でも、そうやって不断に変化し続けるものでも、"脳"とか"意識"という名前をつけることで、非時間的、非空間的な認識世界を創造できる、ということですよね、教授」

レスキネン「そう。人間の言語が表しているのは、現実そのものではなく、仮想の世界なんだ」

真帆「さらに言えば、複数の語が互いに関連をもってネットワーク化することで、その語の意味が明確になるの」

レスキネン「誤解を恐れずに言えば、人類はその言語社会内において、独自のヴァーチャルリアリティを共有している、とも言えるね」

倫子「世界の本来の姿……アナログで区別不可能な混沌<カオス>を非連続化して、データとして整理できるのは、人間だけ?」

レスキネン「"That's the point!"」

424: 2016/06/25(土) 17:46:59.59 ID:2RffVo6fo

レスキネン「そしてそれは、過去と未来を秩序立てて認識できる、ということでもあるんだ」

レスキネン「人間以外の生き物にとっては"現在"しか存在しない。いや、あるいは人間にとっての"現在"という概念がない、とも言える」

真帆「もちろん、象の脳でもネズミの脳でも人間と同じように時間を感じているわ。主観的なスピードはそれぞれ、と言われているけどね。これに関しては目下研究中よ」

倫子「だけど、時間の概念の捉え方が異なってる?」

レスキネン「そういうことさ。我々は常に世界を0と1に分解している。そうしなければ、明日の朝食を決めることすらできないね」

倫子「時計の針が指す意味がわからないと時間を区切れず、"明日"という概念さえない……」

レスキネン「そういう意味では、タイムトラベルを正しく理解できるのも人間だけだ」

レスキネン「仮に猫が1年前にタイムトラベルしたとしても、その猫は自分が1年前に居るということを認識できない」

レスキネン「きっと、昨日まで居た環境とは別の環境に放り出された、くらいの認識しかないんじゃないかな」

真帆「猫にとっては世界は常に"現在"。猫は時間移動の観測者足りえない、とも言えるわ」

倫子「脳が認識できなければ、存在しないのと同じ……」

レスキネン「ヒト種は大脳新皮質を大きく発達させた。一般にそれは複雑な社会環境へ適応するためだと言われている」

真帆「社会脳仮説、ですね。一方で心の理論は、ヒトにおいて突然発生したのではなく、他の生物種にその原型があるのではないか、などと考えられてるわ」

レスキネン「人間は進化の結果、他の哺乳類、いや、他の霊長類にさえ無い知的能力を持っているわけだ」

レスキネン「さて。以上の議論を踏まえて、『Amadeus』は"人間"と呼べると思うかい?」

倫子「"紅莉栖"が……?」

425: 2016/06/25(土) 17:53:46.97 ID:2RffVo6fo

真帆「ようやく本題ですか。長い前置きは教授の悪い癖です」ハァ

レスキネン「Haha! でも、こういう思考実験はおもしろいだろう? それで、リンコはどう思う?」

倫子「……言える、と思います。『Amadeus』も人間と同じように言葉を使って思考して、時間の概念も持っているから……」

真帆「でもそれは"そう見える"だけで、実際にはコンピューター上での演算結果に過ぎないわ」

倫子「だけど、その仕組みはまだ判明してないんだよね? 私たちの脳が"そう見える"なら、仕組みが解明されるまでは否定できないんじゃないかな……」

レスキネン「やはり、日本人はアニミズムの傾向が強いようだ。リンコはロボットアニメが好きなタイプかな?」

倫子「えっ? どうしてそれを?」

真帆「一概には言えないですよ、教授。あのね、岡部さん。キリスト教圏では特に、生命の創造に類することに反発を持つ人もいるの」

レスキネン「アイザック・アシモフはこれをフランケンシュタインコンプレックスと呼んだ。人間の尊厳を脅かす存在は、得てして害を為す不安の種となっているんだ」

―――――

   『そもそも、こんなものは無謀だ。正気の沙汰ではない』

   『何より、これは神への冒涜だ。宗教的にも倫理的にも問題がある』

―――――


倫子「あっ、この間のATFで……」

426: 2016/06/25(土) 17:55:37.30 ID:2RffVo6fo

レスキネン「『Amadeus』は父なる神が創造したものでもなければ、ヒト種の母から生まれた存在でもない」

レスキネン「私とマホのチームが人工的に作り出した"箱"に過ぎないんだ」

真帆「人工的と言っても、私と紅莉栖の脳の構造を基板上で再現、模倣したものなのだけどね」

レスキネン「そう言えば、マホは以前完全にオリジナルな『Amadeus』を作ろうとしていたね」

倫子「完全にオリジナル?」

真帆「ベースとなる人間の脳構造を模写することなく、記憶も独自の偽造記憶を植え付けた『Amadeus』を開発しようとしたこともあったの。今のところ保留してるけど」

レスキネン「まだ失敗ではないのと?」フフッ

真帆「成功させるためにも、"紅莉栖"と"真帆"の研究が急務なんです! あの子たちには、わからないことが多すぎる」

倫子「でもそれって、まるで人造人間……ゴーレムみたいな……」

真帆「へえ、人間ベースの『Amadeus』には好感が持てても、オリジナル『Amadeus』には嫌悪感があるのね?」

倫子「い、いや、そういうわけじゃ……」

428: 2016/06/25(土) 17:58:54.63 ID:2RffVo6fo

レスキネン「つまり、そこに人間かどうかの線引きがあると、リンコは考えているわけだね」

倫子「……恥ずかしながら」

真帆「私からすればどちらもAIよ。私はプロメテウスになるつもりなんかないわ」

真帆「"紅莉栖"と"真帆"が人間だとするなら、私たちはそんな無機質な箱の中に"彼女たち"を閉じ込めていることになる……」

真帆「まあ、実際そのことで"本人"からたまに文句を言われるのだから厄介なんだけど」ハァ

倫子「空の無い、冷たくて暗い世界……」

倫子「(あれ……なんだろう、このイメージは……)」ブルッ


レスキネン「(さて、これで十分時間を稼げたか)」


prrrr prrrr


レスキネン「ん、ミスター・イザキ♂から電話? 私へのラブコールかな?」モッコリ

429: 2016/06/25(土) 17:59:48.17 ID:2RffVo6fo
地下駐車場


プップー

井崎「レスキネン先生! それではお送りいたします、この僕のステーションワゴンで!」ドヤァ

井崎「アウディS4バンド、3リットルV型6気筒エンジンを搭載し、正規ディーラーでは軽く800万超え! 中古でも程度のいいものなら700万円に近いスポーツカー……!」キラキラ

レスキネン「ミスター・イザキ♂のハンドルさばきを見てみたいね」

レスキネン「(彼の送迎は想定外だが……まあ、構わないだろう)」

井崎「そうでしょうそうでしょう! ささ、助手クンもどうぞ!」

真帆「え、ええ。教授、お先にどうぞ。私は荷物をトランクに入れてきます」


倫子「この人は、まったく……」ハァ

井崎「しかし、キミもなかなかやるんだねぇ。意外だったよ」

倫子「はい?」

井崎「いや、教授の可愛い助手クンさ。付き合っちゃうといい」

倫子「ちょっ!? からかわないでください! そもそも、私たちは同性ですよ!」

井崎「えー? キミのこと噂になってるよ? 合コンで男たちを退けてるのはそっちのケがあるからだって」ヘラヘラ

倫子「(この男……殴りたい……!)」

430: 2016/06/25(土) 18:02:19.71 ID:2RffVo6fo

井崎「ハハ、キミは潔癖だね。ただ、正直なだけじゃあ渡っていけないことってのもあるもんさ」

倫子「はぁ……」

井崎「このコネは手放しちゃいけないぜ? 彼女、なかなかの有望株らしいからな。キミの将来に直結してる」

井崎「仲が良かった研究者が氏んじゃったとかで寂しがってるらしいし、チャンスだと思うけどなァ」

倫子「…………」ギリッ

倫子「……私は帰ります。秋葉原に用があるので」

井崎「んじゃ、また大学で。――あ、次のパーティー、相手は国立医学部だから、またよろしく頼むよ、ミス電大生」ヒラヒラ

倫子「(私は客寄せパンダでもキャバ嬢でもないんだけどな……)」


――カシュッ! カシュッ!


倫子「(ん? 今の音……サプレッサー!?)」ドクン


バリィィィィン!!

井崎「ひ、ひぃぃっ!? 僕の車の窓がぁぁっ!?」

バリィィィィン!!

レスキネン「――!」

真帆「きゃあ!」

431: 2016/06/25(土) 18:58:50.61 ID:2RffVo6fo

倫子「(な、なに……なんなの……!?)」プルプル


コツ コツ コツ …


倫子「(柱の陰に男……あ、あいつはっ!?)」ドキドキ

カトー「……つまずきが、えーっと、あの、その、なんだっけ……あれ、私はどうしてここに……い、いや、つまずきをもたらすものが忌まわしくて……あれ、どうして銃など……」クラクラ

倫子「(あいつ、ATFの講演の時、私が異議を出した人だ……けど、様子がおかしい?)」ゾクッ

カトー「あー、そうそう、ヒンノムね、ヒンノムの谷……シリコンの上に魂は宿らない……だったかな……」ブツブツ

井崎「う、うう、うわあああ!!」ダッ

倫子「(バ、バカ! この状況で動いたら――)」

カトー「――――!」クルッ


カシュッ! カシュッ!


432: 2016/06/25(土) 18:59:31.90 ID:2RffVo6fo

井崎「ひええええっ!!」ピューッ

倫子「(外した――やつが井崎に気をとられている今が逃げるチャンス!? で、でも……)」ウルッ

倫子「(足が……っ)」ガクガク

真帆「岡部さんっ! 車に乗って!」グイッ

倫子「きゃあ!?」バタンッ

真帆「教授、このままこの車で逃げます。いいですね!?」

倫子「え……えええっ!?!?」

レスキネン「私がマホを信頼しないで、誰が君を信頼するというのか」

真帆「……クッ!! どうしてこんなときにっ!!」ギリッ

倫子「ど、どうしたの!?」

真帆「……足が、足が……」プルプル

倫子「あ、足が……?」

真帆「……足がペダルに届かない」グスッ

倫子「(あー……)」

433: 2016/06/25(土) 19:01:14.30 ID:2RffVo6fo

倫子「私が運転席に座る。真帆ちゃんは私の上に座って、私の足を踏んづけて操作してっ」ヨイショ

真帆「……お尻に硬いものが当たって痛いわ!」

倫子「ちょ!? ベルトのバックルだからね!? 私、女の子だからね!?」

真帆「ごめんね、足、踏むわよ!」ガッ ガッ ブルルルルン!! キュルルルルル……

倫子「うわあっ!? 急発進!?」


カトー「――っ!!」ササッ


倫子「(危うくあいつを轢くところだった……!)」ドキドキ

倫子「あいつ、なんなの!?」ドキドキ

真帆「まさか、セミナーでの腹いせ!?」キュルルルル

倫子「(真帆がハンドルを右に切った。右ハンドルのこの車は、私たちが座っている側があいつの方へと向いて――)」


カトー「――っ!!」カシュッ!!


倫子「(あ――――やばい、意識が――――)」ドクンッ!!



ドクン

ドクンドクン

ドクンドクンドクン




――――ドクン!!

434: 2016/06/25(土) 19:02:07.58 ID:2RffVo6fo

倫子「(っ―――――い、息が、できな……な、なにこれ!?)」ドクンドクン

倫子「(世界が止まった……いや、スローになってる!?)」ドクンドクン

倫子「(車の動くスピードも、あいつが撃った銃の弾もゆっくり見える……ゾーンに入ったのか!?)」ドクンドクン

倫子「(……このままだと銃弾が真帆に当たるっ!)」ドクンドクン


バ―リ―ィ―ィ―ィ―ィ―ン!!


倫子「(運転席側の窓が超スローで割れた……。くそ、身体もスローでしか動かせない……っ! じれったい!)」ドクンドクン

倫子「(でも、真帆の身体を少しでも前に倒せば、ギリギリ避けられる……!)」


ドクンドクンドクン

ドクンドクン

ドクン


倫子「(世界が、元の速度に――――っ!)」ズバシュッ!!

真帆「な、なに!? 大丈夫!?」

倫子「(くっ、元に戻るのが早かったせいで、私のこめかみに銃弾がかすった……まともに当たらなかったのは収束のおかげかな……)」ズキズキ

倫子「わ、私はいいから、前だけ見て運転して……」ボタボタ

真帆「ちょ、あなた、頭から血が……!!」

倫子「私はいいからっ!!」

真帆「……あっ!!」キュルルルルル


ズドォォォォォン!!


435: 2016/06/25(土) 19:02:48.38 ID:2RffVo6fo

倫子「(車が柱に激突した……)」ゴフッ

真帆「やっぱりレースゲームとは違うわね……あいたた……」

倫子「(あ……ダメ……痛すぎて意識が飛びそう……)」クラッ

倫子「あいつ、は……?」

真帆「撒いたと思うけど……って、嘘っ!? 追ってきた!?」

倫子「バックミラーに映ってるセダン、あれ、あいつが乗ってるの!? こっちに突っ込んでくる!!」

真帆「まるでジョン・カーペンターの映画だわ!」

倫子「(今から発車しても間に合わない……!)」

倫子「教授! 降りてください! 真帆ちゃん、捕まって!」ガシッ

真帆「え――きゃあっ!?」ズテーン



ドゴォォォォォォッ!!

436: 2016/06/25(土) 19:04:27.50 ID:2RffVo6fo

倫子「(あいつ、あのまま突っ込んできた……イカれてる! でも、もう命は無いはず……)」

真帆「井崎さんの車、ぺちゃんこね……」


タッ タッ タッ


警備員「どうしました!? 何があったんですか!?」

真帆「すみません、警察を呼んでください! あと、消防も!」

警備員「あ、ああ! わかった!」

倫子「(あ、あれ、安心したら、また意識が――――)」クラッ

真帆「……岡部さん? 岡部さんっ!! しっかりして!! 岡部さ――――」

437: 2016/06/25(土) 19:06:10.69 ID:2RffVo6fo


   『あれれ~? まゆしぃのカイちゅ~、止まっちゃってる~』

   『……氏にたく……ないよ……こんな……終わり……イヤ……たす……けて……』



――――さんっ! 岡部さんっ!!


倫子「……あ、あれ……」パチクリ

真帆「岡部さんっ!! 氏んじゃダメぇっ!!」ポロポロ

倫子「まほ……ちゃん……?」

真帆「岡部さん!? よ、良かったぁ……生きてる……」グスッ

レスキネン「だから言っただろう? 気を失っているだけだと」

倫子「ごめん、安心して気が抜けただけだから……私は氏なないよ」ニコ

真帆「バカっ!! 人間は脳を撃たれたら氏ぬのよっ!? あなたは『Amadeus』じゃないのよ!?」ユサユサ

倫子「わ、わかってるっ! だから、揺らさないで……頭に響く……」グラグラ

警官A「――……な、なんだあいつは!?」

倫子「えっ――」

438: 2016/06/25(土) 19:06:45.28 ID:2RffVo6fo

カトー「……つまずきを、つま、つ、つまずき……つまずきぃ……っ!」

倫子「(腹が破れてるっ!? そんな、内臓をこぼしながらこっちに向かって……っ!)」

倫子「う、おえええっ!!」ビチャビチャ

真帆「な、なに……あれ……」プルプル

カトー「つまずきィッ!!」ガチャッ

レスキネン「――っ!」

倫子「教授っ! 逃げ――」


BANG!!


439: 2016/06/25(土) 19:08:04.84 ID:2RffVo6fo

カトー「っ――――」バタッ グチャグチャッ

真帆「きゃああっ!?」

倫子「(あいつの脳が破裂した……)」オエエッ

倫子「(い、今の銃声は、いったい……?)」クラクラ

警官A「だっ、だっ、誰だ!? 勝手に発砲した者はっ!?」

警官B「じ、自分ではありませんっ!」

倫子「(警官が撃ったんじゃない? なら、一体誰があいつを撃ったんだ……?)」

レスキネン「…………」スッ





レスキネン「(私としては、リンコが『Amadeus』と仲良くなってもらわなければ困るからね)」

440: 2016/06/25(土) 19:09:49.33 ID:2RffVo6fo
・・・
2010年12月16日木曜日明け方
岡部青果店


警察A「それでは、また何かありましたらすぐ連絡をお願いします」

倫子「は、はい。わざわざ送っていただいてありがとうございました」


チュンチュン…


倫子「(もう朝になっちゃった。教授たち、大丈夫かな……)」

倫子「(私の頭の怪我は警察で手当てしてもらえたから良かったけど)」

倫子「(いったい、あいつは何の目的で襲撃を? 本当に『Amadeus』に対する宗教的な反発だったのかな……)」

倫子「(……そんなレベルじゃない陰謀が影に隠れているような気がしてならない)」ゾクッ

441: 2016/06/25(土) 19:10:47.07 ID:2RffVo6fo
同日夕方
未来ガジェット研究所


倫子「――ってことがあったんだ」

まゆり「オカリン……無事でよかったよぉ」グスッ

倫子「私は氏なないよ。まゆりが居るからね」ナデナデ

まゆり「ふぇぇ……」

ダル「早速ネットでもニュースになってる。ただ、オカリンの説明とは色々と情報が違ってるっぽい」カタカタカタカタ

ダル「警察の発表だと、犯人はくすり常習者で、薬物による錯乱の果ての犯行と思われる……だってお」

倫子「……情報規制? ってことは、また300人委員会あたりの陰謀……」プルプル

ダル「オ、オカリンの陰謀論好きは変わらんのぜ~あはは」

倫子「え? あっ」

倫子「(しまった、由季さんも居たんだった)」

由季「……レスキネン教授が……」ブツブツ

442: 2016/06/25(土) 19:11:52.04 ID:2RffVo6fo

倫子「そういや、由季さんとまゆりはどうしてラボに?」

まゆり「あのね~、まゆしぃね、由季さんにお料理を教えてもらっているのです!」

由季「簡単なのしか教えられませんけどね。でも、まゆりさんが私をいじめてくれる、じゃなかった、教えがいがあるのは嬉しいですから」ニコ

倫子「(そういやそんなこと言ってたっけ)」

倫子「ん? まだ作ってないよね、これからだった?」

まゆり「えっとね~、ダルくんがエOチなゲームをしてたからお料理はまだなのです」

ダル「あーあーあー! 聞こえなーい!」

倫子「お前……由季さんに嫌われるぞ……」ジトッ

由季「いえ、気にしないでください。私、結構そういうゲームも大丈夫ですので」

倫子「ってか何をやってたんだ? 『監禁義妹~ひな子の×××が○○○~ あなたはお兄ちゃん? それともお姉ちゃん?』……ああ、これか」ガックリ

倫子「(いつだったか助手がラボで全力オ○ニーに励んでいたやつだ)」ハァ

由季「岡部さんもゲームされたことが!? ハードなプレイがたまらないですよねっ!!」ハァハァ

倫子「……え?」

由季「あっ」

443: 2016/06/25(土) 19:12:31.50 ID:2RffVo6fo

ガチャ

鈴羽「…………」クラッ

倫子「あ、鈴羽。おかえり……鈴羽……?」

鈴羽「あっ……」バタンッ

ダル「鈴羽!? 大丈夫か?」ダキッ

鈴羽「う、うん……」クラッ

倫子「どうしたの!?」

由季「鈴羽おね……鈴羽さん、おでこ貸してください」

鈴羽「(げっ、母さん……)」ドキドキ

由季「ひどい熱、大変だわ!」

まゆり「風邪かなぁ?」

鈴羽「すぐに治すから心配しないで。ちょっとだけソファーで休ませてもらうよ」ヨイショ

ダル「あう、あう……」オロオロ

444: 2016/06/25(土) 19:13:27.93 ID:2RffVo6fo

鈴羽「(くっ……頭が、くらくらする……)」

由季「すごい汗……」

倫子「買い溜めしてた薬、切らしてる……ダルは薬買いに行ってきて。私は鈴羽を着替えさせるから」

ダル「オーキードーキー!」

まゆり「まゆしぃは濡れタオルつくるね!」

由季「あ、あの、私はどうすれば……」オロオロ

倫子「あー……。由季さん、ちょっと」

由季「えっ?」

倫子「誰にも言わないで欲しいんですけど、実は鈴羽、身体に大きな傷跡があって……人に見られたくないみたいなんです」ヒソヒソ

由季「……じゃあ、私も橋田さんと一緒に買い物に行ってきますね」

倫子「すいません、お願いします」

倫子「(由季さん、あんまり驚かなかったな。もしかして鈴羽からもう聞いてた?)」

445: 2016/06/25(土) 19:13:56.67 ID:2RffVo6fo

倫子「ほら、鈴羽。由季さん居なくなったから、服脱いで」

鈴羽「いや、このままでいいよ……未来の環境と比べたら、放射能も粉じんも気にせずに居られるだけマシだ」

倫子「未来のことなんて知らない。休めるなら全力で休むべきだよ」

鈴羽「……やっぱりリンリンはリンリンだね。今は過去へ行ってくれないけど」

倫子「うぐっ!? ご、ごめん……」シュン

鈴羽「あっ、あたしこそごめん。いまの、ナシナシ……」

倫子「……ほら、早く脱いで。できるだけ、身体、見ないようにするから」

鈴羽「う、うん……じゃあ、お願い……」ヌギッ

倫子「まゆり、乾いたタオルある?」

まゆり「うん、はいっ。脱いだ服は後でコインランドリーに持っていくからね」

446: 2016/06/25(土) 19:15:15.80 ID:2RffVo6fo

鈴羽「うあっ、く、くすぐったいっ……」ハァ ハァ

倫子「……もしかして、未来でも私、こんなことしてた?」フキフキ

鈴羽「……懐かしいな。あれはあたしがおたふく風邪をこじらせた時だったかな」

鈴羽「あの頃はリンリンも椎名まゆりも子どもは居なかったから、みんなであたしのこと可愛がってくれたよ」

倫子「そっか……」

まゆり「じゃあ、スズさんはまゆしぃたちの子どもだね~♪」

鈴羽「……知らないことは幸福だね、椎名まゆり」ギロッ

まゆり「えっ?」

倫子「ああ、ううん。なんでもないよ、まゆり」ゴシゴシ

鈴羽「あぎぃっ!? 痛っ、リンリン、痛いよぉっ!!」

447: 2016/06/25(土) 19:16:06.36 ID:2RffVo6fo

ガチャ! バタン!

ダル「ただいまだおー!」

倫子「うわ、今度はダルが汗だくだ……あれ? 外は寒いよね?」

由季「は、橋田さん、かなりの勢いで走ってたので……ハァ、ハァ……でも、こうやって走らされるのも悪くないかも……」ドキドキ

まゆり「ねえ、おかゆを作るのはどうかな?」

由季「私たちもそれ、考えていたんです。おかゆを食べたあとにお薬を飲んだほうがいいって。それじゃまゆりちゃん、早速作りましょう」

倫子「あーっ! ま、まゆりに任せるのはまだ早いから、私が由季さんを手伝うよ!」アセッ

まゆり「えー? まゆしぃなら大丈夫だよ」

倫子「……まゆりは見てるだけ。いい?」

まゆり「はーいっ!」ニコニコ

448: 2016/06/25(土) 19:18:55.97 ID:2RffVo6fo

鈴羽「(ああ……なんか昔もよくあったな、こういうこと……)」

鈴羽「(10年、いや、もっと前か。あたしが具合悪くすると父さんがすぐ大騒ぎして……母さんたちがいつも落ち着かせてた)」

鈴羽「(でも戦争が激しくなった頃から、なにもかも一変してしまった)」

鈴羽「(リンリンは強盗から椎名まゆりを守るために殺されたって聞いた)」

鈴羽「(父さんと椎名まゆりはずっとずっと泣き続けて……あたしがみんなを守らなきゃって思って軍隊に入ったんだ)」

鈴羽「(リンリンが氏んじゃったから、あたしは過去へ行く強い意志を手に入れた……)」

鈴羽「(そうなる前のあたしは、本当に幸せだった……)」

鈴羽「(懐かしいな、こんな温かい時間……)」

鈴羽「(このまま……)」

鈴羽「(このまま時間が止まってくれたらいいのに……)」

鈴羽「(戦争も起きずに……誰も氏なずに……みんなずっと一緒にいられたらどんなに……)」

449: 2016/06/25(土) 20:49:10.13 ID:2RffVo6fo

ダル「……鈴羽。具合はどうなん?」

鈴羽「……よくない」

ダル「やっぱ疲れが溜まってたんだなー。鈴羽、今までずっと休んでなかったし」

鈴羽「あたし……ここにいないほうがいいかもしれない」

ダル「うぇ?」

鈴羽「どこかで気が緩んでたんだ。父さんが居て、リンリンが居て、ルミねえさんやるか兄さんも……いつの間にか母さんまで……」

鈴羽「あたしはこの時代のリンリンと椎名まゆりに取り返しのつかないことをしたのに、リンリンはあたしを許してくれて……」

鈴羽「そのせいで、時々、任務を忘れそうになる。なんだか、この温かい時間がいつまでも続くんじゃないかって錯覚しそうになったり……」

鈴羽「このまま戦争なんて起きないんじゃないかって考えたり……普通の女の子と同じような暮らしに憧れてしまいそうになったり……」

ダル「……それのどこが悪いって言うん?」

鈴羽「え?」

ダル「時代や世界線が違ったって僕は僕だ。どんどん甘えていいんだぞ、母さんにもオカリンにも」

ダル「鈴羽は僕の、僕たちの娘だ。ずっとここに居てもいいんだよ」

鈴羽「父……さん……」



由季「まゆりマ……まゆりちゃん、これを一旦はじっこまで回すと火が付くの。そしたらこの"中火"って書いてあるところまで戻して?」

まゆり「コンロに火がつけば一緒じゃないのー?」

倫子「火力という概念があってね……」

450: 2016/06/25(土) 20:49:54.93 ID:2RffVo6fo

ダル「うおっと。なんかマジレスしちゃったお。オカリーン、ご飯マダァ-? (・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン」

倫子「もうすぐだから、わからずやの鈴羽にセクハラして待ってて」

鈴羽「ちょぉっ!?」

ダル「うぉし、風邪で汗まみれになってるおにゃのこをハスハスしちゃうお! くんかくんか」

鈴羽「う……やめて」

ダル「これがイヤだったら早く風邪を治すといいお」

鈴羽「…………。分かったよ」

ダル「うは? もしかしてフラグktkr?」

鈴羽「バカなこと言ってると、治ってからひどい目に遭わせるよ?」

ダル「前は近所の公園で早朝から延々と匍匐前進させられて隣の小学校から通報されたりしたけど、今度はブーツ履いてゴリゴリ踏んづけるとかそういう系?」

由季「そ、そんなっ!? ダメですぅ! ///」

鈴羽「指とツメの間に色々刺す」

由季「ああっ! 激しいですっ! ///」

倫子「(なんで悦んでるんだこの人……)」

451: 2016/06/25(土) 20:50:48.45 ID:2RffVo6fo

ダル「な、鈴羽。そろそろ教えてくんないかな? 毎日、何をしに出かけてるん?」ヒソヒソ

鈴羽「(自分に託されたかがりを過去に置いてけぼりにしちゃった、なんて父さんに言えない……けど……)」

ダル「僕にも手伝えることあるかもしんないしさ」

鈴羽「……実は、あたし以外にもタイムトラベラーが居るんだ」ヒソヒソ

ダル「な、なぬぅ!?」

鈴羽「その子を捜してるんだけど、詳しくはあとで2人きりになったら話す。椎名まゆりには聞かせられないから」ヒソヒソ

ダル「あ、うん。それでもいいけど」

倫子「ほら、できたよ」ヨット

まゆり「ラボ特製のおかゆさんなので~す! ぱんぱかぱんぱんぱ~ん♪」

由季「ちゃんと食べてくださいね? 鈴羽おね……鈴羽さん?」

鈴羽「う、うん。わかってるよ、かあ……由季さん」

由季「ふーっ。ふーっ。はい、あーん?」スッ

鈴羽「う、ぁ、い、いいよ……やめてよ……///」

ダル「鈴羽、熱のせいか顔が真っ赤だお」ニヤニヤ

まゆり「今度はまゆしぃが作ってあげるね!」

倫子「それはやめてあげて……」

452: 2016/06/25(土) 20:52:42.42 ID:2RffVo6fo
2010年12月23日(祝)木曜日夜
岡部青果店 倫子の部屋


倫子「(今日から大学は冬期休業になる)」

倫子「(ラボはすっかり由季さんのお料理教室化してしまったので私は行かなくなった。失敗作を食わされるのは正直勘弁してほしい……)」

倫子「(……真帆ちゃんは大丈夫かな。本人に聞いても大丈夫としか言わなかったし、いっそ"紅莉栖"に電話して――)」


   『……テスターを、やめたいです』


倫子「(……いや、でも、いつでも通話していいって言ってたし、別にいいよね)」prrrr prrrr

Ama紅莉栖『……ハロー。テスターをやめた自分勝手な岡部倫子さん?』

倫子「ぐっ!? そ、それは言わないで、お願い……」

Ama紅莉栖『まあ、この私にカウンセラー適性が無かったことの証明になったわけだから、それはそれでいいんだけど』

Ama紅莉栖『でもこれからは、あんたのメンタルとかいちいち気にしないから覚悟しなさい』フフッ

倫子「(こ、こわぁ……)」ブルッ

Ama紅莉栖『……それで、あんたは大丈夫なの? 変な事件に巻き込まれたって聞いたけど』

倫子「う、うん。私は大丈夫、慣れてるから」

Ama紅莉栖『慣れ……?』

倫子「それより、真帆ちゃんは?」

453: 2016/06/25(土) 20:54:03.12 ID:2RffVo6fo
2010年12月24日(金)午後2時
和光市駅 駅前ロータリー



倫子「(襲撃から1週間。 "紅莉栖"に確認したところ、2度目の襲撃らしいものは無く、平和そのものだったとのこと)」

倫子「(それでもまだ安心はできない。真帆ちゃんは、表には出さないけどそれなりに動揺していると"紅莉栖"から聞いたので、彼女のホテルを訪ねてみることにした)」


真帆【別にいいわよ、わざわざ訪ねて来なくても】

【"紅莉栖"に頼まれたことでもあるから。それに、友達として遊びに行ってもいいでしょ?】倫子

真帆【わかったわ。和光市の駅に着いたら電話ちょうだい】


倫子「……ってRINEをもらったから電話してるのに、一向に出ない」prrrr prrrr


   『……つまずきを、つま、つ、つまずき……つまずきぃ……っ!』


倫子「(まさか――――!)」ダッ

454: 2016/06/25(土) 20:55:36.53 ID:2RffVo6fo
東縦イン 503号室前


チーン 5階デス


倫子「やっぱり出ないか……っ!」prrrr prrrr

倫子「この部屋に……真帆ちゃんっ! 真帆ちゃん居るの!?」ドンドンドン!!


ガチャ


真帆「……あ゛?」イラッ

倫子「真帆ちゃん、よかっ……」

倫子「(うっわー……目の下にクマ、髪はボサボサ、顔にはシーツの皺の跡。"残念"の権化だなぁ……)」

真帆「真帆ちゃん言うな……」イライラ

倫子「えっと、ごめん。もしかして寝てた?」

真帆「電話してから来てって言……」イライラ

ブー ブー

倫子「…………」

真帆「…………」

真帆「ごめんなさい。音量をオフにしてたわ」ハァ

倫子「何かあったんじゃないかと心配したよ」

真帆「不要な心配をかけて悪かったわ。中へどうぞ」

455: 2016/06/25(土) 20:57:19.86 ID:2RffVo6fo

倫子「(部屋は滅茶苦茶汚いかと思ったけど、そこまでじゃなかった。クローゼットから色々とはみ出しているのが気になる……)」

真帆「徹夜で自分のノートパソコンの復旧をしてたの。ついさっき終わったところだったのよ」

倫子「(あの事件の時、潰れた2台の車とともに、真帆ちゃんとレスキネン教授の荷物は所轄の警察のもとに運ばれた)」

倫子「(当然、トランクに入れられていた荷物はぐちゃぐちゃになっていた)」

倫子「(そんな中、真帆ちゃんのPCバッグだけは難を免れたんだけど、警察から返却された時にはOSが立ち上がらなくなっていたのだとか)」

真帆「ハードディスクを完全にやられたわ。円高だし、ひどい散財よ」

倫子「言ってくれれば、格安で用意してあげられたのに」

真帆「えっ、そうなの?」

倫子「ダル――前に学園祭の時会ったでしょ? あいつがね、その手の業者に顔が利くんだよ」

真帆「ダル……ああ、橋田さんのこと。そっか、その手があったのね」ハァ

倫子「(……あれ? 真帆ちゃんにダルの本名って教えてたっけ?)」

真帆「じゃあ、次にああいうことがあったらお願いするわ」

倫子「えっ? 縁起でもないなぁ」

真帆「そう? この前の事件、あれで終わりだと思うほど楽天的では居られないと思うのだけど」

倫子「……なんだか、自分の命を数式で計算してるみたいな言い方だね。まるで――」


   『映画でもゲームでも、ゾンビはもう1度殺さないと』

   『お願い、岡部。私を頃して』


倫子「(……またよくわからない記憶が。なんだろう、これ)」

真帆「……紅莉栖、みたい?」

倫子「う、うん……」

456: 2016/06/25(土) 20:58:41.15 ID:2RffVo6fo

倫子「あ、そうだ。今日の6時からうちのラボでクリスマスパーティーをやるんだけど、真帆ちゃんも来ない?」

真帆「もうそういう時期だったのね。気を使わなくていいわ、人間関係に煩わされるの、苦手なの」

倫子「……そっか」

真帆「気持ちだけ受け取っておくわ、ありがと」

Ama紅莉栖『ええっ!? 先輩、行かないんですか!? せっかく岡部と距離を縮めるチャンスなのに』

倫子「うおっ!? あ、真帆ちゃんのPCから……」

真帆「さっき試しに繋いでそのままにしてしまったわ……」ハァ

457: 2016/06/25(土) 20:59:47.49 ID:2RffVo6fo

真帆「あのね、"紅莉栖"。そういうんじゃないって何度も言ったわよね?」

Ama紅莉栖『パーティーに着ていく服を買おうにも、服屋に着ていく服が無いんですねわかります……』

真帆「お金が無いだけよ! それに、私ひとりよそ者が彼女たちの輪に入ったら、変な気を使わせちゃうでしょ?」

倫子「そんなこと、ないと思うけどなぁ。特にまゆりとか」

真帆「いいえ、そんなことあるの。科学的にね」

Ama紅莉栖『確かに、どんなに社交性のある人でも、初対面の人にはストレスを感じるものです。あ、この場合のストレスってのはマイナスな意味じゃなくて、脳が刺激されるっていう意味の……ブツブツ』

真帆「そんなわけだから、あなたたちはあなたたちで楽しむといいわ」

倫子「……いつか真帆ちゃんが、"私たち"になってくれたらいいな」

真帆「そうね、それも悪くないかも……って、さっきから真帆ちゃん言うなっ!」

458: 2016/06/25(土) 21:01:36.83 ID:2RffVo6fo
未来ガジェット研究所


倫子「うわ、サンタだらけ」

由季「準備はバッチリですよ。ハイ、どうぞこちらに」

倫子「……やっぱり?」

フブキ「やっぱり、です!」

るか「ボ、ボクもこうして、頑張ったので……」モジモジ

倫子「ルカ子までサンタコス!? ……頑張ったな、ルカ子」ウルッ

倫子「みんなが楽しんでるのに、水を差すわけには行かないか……」

カエデ「なんだかんだでオカリンさんって流されやすいところありますよね。そこがいいところでもありますけど」ウフフ

倫子「ダルと鈴羽は? このパーティー、鈴羽を笑顔にさせるためのものなんでしょ?」

まゆり「うーん、それがね、まだ連絡ないんだー」

フェイリス「サプライズを用意してるから、ダルニャンにはスズニャンをラボから遠ざけておいてもらってるんニャけど……」

フブキ「てなわけで、オカリンさんは今のうちに着替えてスタンバっちゃってくださーいっ! はい、これ!」スッ

倫子「わ、わかったよ……着替えてくるから、覗かないでよね」

459: 2016/06/25(土) 21:02:20.09 ID:2RffVo6fo
開発室


prrrr prrrr


Ama紅莉栖『わぁ!? な、なに……!?』ドキドキ

倫子「(あ、いま、完全に油断してた)」

倫子「えと、一応、言っておこうと思って……」

Ama紅莉栖『……?』

倫子「メ、メリー、クリスマス……」テレッ

Ama紅莉栖『……まったく、あんたは』ハァ

Ama紅莉栖『メリークリスマス。これでいい?』

倫子「なんでそんな事務的なの?」

Ama紅莉栖『う、うるさいな。別にいいでしょ』

倫子「よくない」

Ama紅莉栖『はいはい、メリクリメリクリ』

倫子「このアマノジャク……」

460: 2016/06/25(土) 21:03:45.70 ID:2RffVo6fo

倫子「もしかして、プレゼント欲しかったり?」

Ama紅莉栖『ふぇ!? い、要らないわよ! それに、何をもらってもこの空間じゃ使えないし』

倫子「真帆ちゃんに頼んでみるよ。アクセサリグラフィックのモデリングは……ダルのバイト先でも当たってみるかな」

Ama紅莉栖『いいってば! やろうと思えば自分で生成できるし、私のことよりももっと大事なことがあるでしょ?』

倫子「……マイスプーン、買ってあげる」

Ama紅莉栖『えっ……? ――ってなんであんたがそれ知ってるのよ!?』

倫子「ふふふ」ニヤリ

Ama紅莉栖『まさか、オリジナルから聞いたの!? どうしてなの牧瀬紅莉栖っ!?』

倫子「楽しみに待っててね!」ピッ

倫子「(さて、着替えるか……)」

461: 2016/06/25(土) 21:04:36.63 ID:2RffVo6fo
談話室


倫子「え、えと、その……」モジモジ

まゆり「うわぁっ! かわいいよぉ~♪」

フェイリス「こ、これはちょっとヤバイニャ……宇宙の法則が乱れるニャ!」

倫子「こ、これ、露出度高くないかな……この歳で生足はちょっと……」モジモジ

カエデ「それ、生足を晒しまくってる由季さんへのイヤミですか?」ニコニコ

倫子「ぐっ!? い、いや、決してそんなつもりはっ!」アセッ

由季「もっと罵ってくださってもいいですよ」ウフフ

るか「お、岡部さんっ、ボク、そのっ……」オロオロ

フブキ「ちなみに、パンツの色はピンクでしたぜ」

倫子「はぁっ!? う、嘘を言うなぁ!!」

フブキ「あはは、ごめんなさい。ピンクなのはマユシィのでした」

まゆり「え……ええええっ!?!?」

462: 2016/06/25(土) 21:05:10.99 ID:2RffVo6fo

まゆり「もう、ひどいよフブキちゃん……」ムスーッ

フブキ「ごめんマユシィ! でも、ふくれっ面のマユシィもかわいい~♪」

まゆり「もうっ! フブキちゃんなんて知らないもんっ!」プンプン

フェイリス「あ、ダルニャンから連絡……もう着く頃らしいニャ! みんな、配置に着くニャ!」

るか「みなさん、クラッカーです。どうぞ」スッ

由季「電気、消しますよ」カチッ


ダル『よーし、今から鈴羽と一緒に中へ入るぞー!』


倫子「(あいつは私と違って演技が下手だな)」フフッ


ガチャ


鈴羽「あれ? 今日は誰も来てな――――」


パン!! パンパン!! パパン!!


鈴羽「――――っ!」

463: 2016/06/25(土) 21:06:00.74 ID:2RffVo6fo

鈴羽「――でやぁぁっ!!」ビュンッ!!

倫子「お、おいっ! 鈴羽っ!」

由季「きゃ、きゃぁっ!」ズテーン!!

鈴羽「――って、あれ!?」

フェイリス「ス、ストップだニャ!」

まゆり「メ、メリークリスマスだよぉ!」

鈴羽「……なに、してんの?」キョトン

倫子「クリスマスパーティーだよ!」

鈴羽「パーティー……これが、パーティー?」

由季「ご、ごめんなさい。鈴羽さんをびっくりさせようって言い出したの、私なんです」ペコペコ

鈴羽「え? あ、いや……っていうか、由季さんのそれ、ウィッグだったんだね」

由季「え……あ、ずれちゃいましたね。えと、そうなんです。えへへ」

倫子「(さすがプロレイヤー。へえ、地毛は赤みがかった栗毛色なんだ……鈴羽の毛色はダルの遺伝だったか)」

464: 2016/06/25(土) 21:10:05.97 ID:2RffVo6fo

鈴羽「ごめん、火薬の臭いがしたから、つい体が反射的に動いちゃった」

ダル「いや、鈴羽は悪くないお! 僕がちょっと配慮が足りなかったお……」

鈴羽「父さ、兄さんも知ってたの? それでラジ館屋上であたしにやさしい言葉を……あ、いや……」

まゆり「ごめんね、スズさんっ! 企画したのはまゆしぃなんだよ!」

まゆり「だから、由季さんやダルくんを怒らないで! 怒るならまゆしぃにして!」

フェイリス「マユシィ! ……スズニャン、怒ったりしないでほしいニャ」キッ

鈴羽「……やだな、ふたりとも。そんなこと、しないよ」

鈴羽「(あんなことがあったんだ、信用してもらえてなくて当然か。あたしの過失だ)」

鈴羽「それじゃ、あたしはこれで」クルッ

まゆり「ど、どこ行くの、スズさんっ!?」

鈴羽「え? どこって……あたしが居たら邪魔になるだろ?」

鈴羽「(だってあたしは、嫌われて当然のことをしたから……)」

フェイリス「……ニャウゥ~!!」ガバッ

鈴羽「え、ちょっ!」

フェイリス「一緒にやろうニャ、パーティー!」ギュッ

鈴羽「ルミねえさん……」

フェイリス「フェイリスニャ!」ビシィ!!

465: 2016/06/25(土) 21:11:52.78 ID:2RffVo6fo

ダル「ほら、鈴羽の席も、ちゃんと用意できてるのだぜ」ポンポン

鈴羽「兄さんも……椎名まゆりも、ルミねえさんも。母さ、由季さんも、あたしのために……」

倫子「考え過ぎないで、鈴羽。たまにはさ、おいしいもの食べて、みんなでおしゃべりしよ? ね?」

鈴羽「リンリン……」

フェイリス「はいはい、みニャさ~ん! これで、全員そろったニャ♪」

フブキ「はい、拍手拍手!」

パチパチパチ

~♪ ジングルベー ジングルベー

倫子「(ダルがBGMを用意してたんだ)」

フェイリス「それでは、今回のパーティーを企画したマユシィ、一言どうぞニャ!」

まゆり「えー、今日はクリスマス・イヴなのです。どこもりあ充さんでいっぱいだけど、今年はまゆしぃたちもパーティーをしてりあ充さんになろぉ! なのです」

フブキ「それ、リア充の意味が違うと思うけど……」

カエデ「フブキちゃん、何人もの後輩ちゃんからクリスマスデートに誘われたのよね。それはもう熱烈に」ウフフ

フブキ「うぐぅ! イヤミかぁ! 全員女の子の後輩だけどねぇ!」

倫子「あれ、そういえばカエデさん、彼氏持ちなのに今日大丈夫なんです……か……」

カエデ「…………」ゴゴゴ

倫子「(大丈夫じゃなかったー。笑顔でマグマを噴火させそう)」

ダル「リア充滅すべし。床か……フンッ!」ズドンッ!

倫子「や、やめろバカ! この床は穴が開きやすいんだよ!? ってゆーかダルもリア充でしょーが!」

466: 2016/06/25(土) 21:12:44.83 ID:2RffVo6fo

るか「それじゃ、みなさん。かんぱーい」

全員「乾杯!」カチン

まゆり「はい、スズさん。これ、まゆしぃが作ったんだよ」スッ

鈴羽「あ、うん……これ、懐かしい味がする」モグモグ

まゆり「由季さんに教えてもらったのです♪」

倫子「まゆり、上達したんだね。その歳でおふくろの味を出せるなんて、すごいすごい」ナデナデ

まゆり「えっへへ~。あ、ケーキもあるから食べて食べて!」

倫子「もしかして、由季さんのバイト先のお店の?」

由季「えっ? 私がアルバイトしてるのはメイクイーンですけど……」

倫子「あ、あれ? そうでしたっけ……むむ?」

まゆり「カエデちゃんがデコレーションしてくれたんだ」

カエデ「おいしくなーれ、って、気持ちを込めてやったんだけど、あんまりうまくできなかったわ」

倫子「(うわ、なんだこのケーキ。暴力的だ)」

まゆり「カエデちゃんって、ぶきっちょさんだもんねえ。でも、そんなカエデちゃんが萌えだよー?」

カエデ「うふふ、ちっとも褒められてる気がしないわ」ニコ

倫子「(いちいち怖いな、この人……)」

467: 2016/06/25(土) 21:13:26.10 ID:2RffVo6fo

フェイリス「さてさて、みニャさーん? 盛り上がってきたところで、そろそろプレゼント交換をしたいと思うんだニャ~♪」

鈴羽「プレゼント? あたし、そんなの持ってきてない……」

ダル「ああ、大丈夫。鈴羽の分は、僕とまゆ氏で準備してきたお」

まゆり「準備してきたおー♪」

フェイリス「それじゃ、順番は――――」

・・・

ダル「あ、えと、阿万音氏? どう、それ」

由季「これ、橋田さんが? 素敵なオルゴールです……大切にしますね」

ダル「う、うん。まあ、まゆ氏からアドバイスしてもらったんだけどさ」

鈴羽「あたしは、かあ、由季さんから、手編みの手袋……」

由季「下手でごめんなさい。鈴羽おね、鈴羽さん」

ダル「よかったな、鈴羽」

鈴羽「うん……あったかい……」ギュッ

468: 2016/06/25(土) 21:15:53.05 ID:2RffVo6fo

フェイリス「ユキニャン、オルゴール、ちょっと聞かせて欲しいニャン♪」

由季「はい、分かりました」カチリ カチリ

カエデ「それじゃ、BGM止めますね」ポチッ

由季「いきますよー」


~♪


倫子「……この曲、どこかで。歌詞はたしか、"探しものひとつ……"」

まゆり「……まゆしぃね、この曲、大好きなんだぁ。子どもの頃、オカリンが歌ってた歌なんだよ」

倫子「え? そうだったっけ……」

鈴羽「この曲、由季さんがよく鼻歌で歌ってるやつだね」

由季「ええ、そうですね。小さい時からよく……」

鈴羽「えっと、この曲、なんて名前だっけ……ねえ、リンリン。これ、なんていう曲?」

倫子「えっ? いや、えっと……」

まゆり「うんとね、この曲は――――」


ガターンッ!!


カエデ「フブキちゃん!?」

フブキ「う……ぁ……」プルプル

倫子「うぐっ……!?」クラッ


倫子「(な、なんだ、世界が歪んで――――まさか、そんな――――)」



倫子「(リーディング――――シュタイナー――――――――――――

469: 2016/06/25(土) 21:16:30.09 ID:2RffVo6fo

――――――――――――――――――――
    1.29848  ⇒  2.61507
――――――――――――――――――――

470: 2016/06/25(土) 21:18:12.06 ID:2RffVo6fo
第20章 暗黒次元のハイド(♀)

ガード下


倫子「ぐっ……!」クラッ

倫子「(もう私は世界への干渉をやめたっていうのに、どうしてリーディングシュタイナーが……!)」

倫子「(……いや、理由は明白だ)」

倫子「(中鉢論文を手に入れたロシアが、半年かけてタイムマシン初号機の実験を行ったんだ。かつての私を同じように)」

倫子「(それこそ電子レンジとケータイ電話、ブラウン管テレビがあれば、学生でも過去改変できたんだ。研究設備が整っている実験施設で再現できないわけがない)」

倫子「いったいロシアはどんな過去改変を……って、え……なに……これ……」ガクガク


白人の男「…………」


倫子「ひっ、人が、し、氏んでっ……!? ち、血まみれ……っ」ブルブル

萌郁「――FBの予想通り、相手はスペツナズだった。KGB<カー・ゲー・ベー>のα部隊」

萌郁「そう。目的は牧瀬紅莉栖の暗殺。今回も阻止できた」

萌郁「大丈夫。ふたりとも始末した。氏体の処理を。了解」ピッ

倫子「も、もえ……?」ワナワナ

萌郁「M3。目標ブラボーは私が頃した。私たちは撤収を」

471: 2016/06/25(土) 21:20:48.58 ID:2RffVo6fo

倫子「萌郁っ!? 桐生、萌郁なのかっ!?」ヒシッ

萌郁「っ!? ……初めて、名前、呼ばれた。コホンッ。こういう場では本名を呼ぶのはまずいわ」

倫子「それより、なあ! 人がっ! 人が、氏んでるっ!」ポロポロ

倫子「……お前が頃したのか」ゾワワァッ

萌郁「タオルを。手、拭いて」

倫子「手……? ……うわぁぁぁぁあああああぁああああああっ!!!!!!!!!!」ズテーンッ

萌郁「っ!? 大丈夫!?」ダキッ

倫子「あ……ま、まさか、私が……こ、ころっ……!?!?」チョロロロロロ

萌郁「(あっ……失禁……)」

萌郁「……一度、私の部屋に。そこで体を洗ったほうが良い」

萌郁「血の臭いが、落ちるまで」

倫子「いったい……なにが、どうなって……」プルプル

472: 2016/06/26(日) 10:45:08.41 ID:lga5tUBjo
ハイツホワイト202号室


萌郁「落ち着いた?」

倫子「あ、ああ……」プルプル

萌郁「まだ、少し震えてる」ギュッ

倫子「(お、落ち着け、私……こういう時こそ未来視……)」

倫子「……あ、あれ? できない!? ど、どうしてっ!?!?」ガクガク

萌郁「いったい、どうしたの、M3?」

倫子「そ、そう! それ! どうして萌郁は私をM3と呼ぶの!?」

萌郁「……それが、FBから与えられたコードネームだから」

倫子「FBっ!? あ、あの氏んでた男は、いったい!?」

萌郁「あれはソ連のスパイ。タイムマシンの情報を独占するために私たちの正体を嗅ぎ回っていた」

倫子「ソ連……タイムマシン……何がなんだかわからない……」プルプル

萌郁「特に、あなたの正体を」

倫子「私の……?」

萌郁「リーディングシュタイナー保持者にして、タイムマシン開発に携わった人間。そして――」

萌郁「――ラウンダーとしての、正体を」

倫子「ラウン、ダー……っ!?!?」

473: 2016/06/26(日) 10:46:34.20 ID:lga5tUBjo
・・・
中央通り


タッ タッ タッ

倫子「(はぁっ……はぁっ……)」

倫子「(思わず街に飛び出してきたけど……街が暗い?)」キョロキョロ

倫子「(確かに秋葉原は8時を過ぎると閉まる店が多いけど、まだ6時前だし、こんなに真っ暗だったっけ……)」スタスタ

萌郁「待って、M3! どこへ、行くの? 外は危険よ」

倫子「ひとりで考えさせて……落ち着け、落ち着いて考えて……なんで、なにが起こってる……なんでこんなことに……」ブツブツ

倫子「私がラウンダー……? そんなの、冗談にもほどがある……」プルプル

萌郁「M3らしくない。取り乱して」

倫子「……萌郁。ケータイはどうしたの? それにメガネも」

萌郁「メガネは、ラウンダーとして動く時は外してるけど、ケータイ? 持ってるよ」

倫子「そうじゃなくて! なんで普通にしゃべってるの!?」

萌郁「えっと……これまでもこうしてM3、岡部さんと、話してきた」

倫子「メールやRINEで会話したことは……」

萌郁「なに、それ? 冗談?」

倫子「…………」

474: 2016/06/26(日) 10:47:28.44 ID:lga5tUBjo

倫子「どうする? こんな冗談みたいな世界線……もしこれが、アトラクタフィールド越えの大変動だったら……」プルプル

倫子「……そうだ、ラボ! この世界線のラボはどうなってる?」スタ スタ

萌郁「待って! FBからは待機命令が!」

倫子「とにかく、現状を確かめないと……」タッ タッ



大檜山ビル前


倫子「(ここまで走ってきたけど、身体が軽い? この世界線の私は、鍛えてるのかな)」

倫子「あ、あれ? あそこ、ブラウン管工房の、前に居るのって……」ドキドキ

倫子「――紅莉栖っ!!」

紅莉栖「ヒッ。お、岡部……」プルプル

475: 2016/06/26(日) 10:48:54.80 ID:lga5tUBjo

倫子「紅莉栖ぅ! 紅莉栖、紅莉栖っ!!」ダキッ

倫子「(紅莉栖がっ! 紅莉栖が生きてるっ!)」ウルッ

倫子「(そっか、紅莉栖が生きてるなら、私がギガロマニアックスになってるわけがない。だから未来視ができなかった……でも、良かったぁ……)」ポロポロ

紅莉栖「ちょ、岡部! くっつかないでよ、気持ち悪い!」ドンッ

倫子「――えっ?」ツーッ

紅莉栖「はぁっ、はぁ……。セクハラで訴えるわよ」

倫子「……紅莉栖、どうしてここに?」グスッ

紅莉栖「どうしてって? 戦時下で渡航制限が厳しい中、クリスマス休暇を申請して、日本に戻って来てるのがそんなにおかしい?」

紅莉栖「Dメール実験が中途半端に終わっちゃったから、ちゃんと確かめようって思って帰ってきたのに、どうして、こんなことに……」プルプル

倫子「い、いや、そうじゃなくて――」

鈴羽「噂をすれば、ってやつか」

倫子「鈴羽っ! 良かった、鈴羽が居るってことはタイムマシンがあるんだね!」

倫子「(……でも、ここは紅莉栖が生きている世界線。過去を元に戻したら、私はまた紅莉栖を……)」

鈴羽「っ!? な、なんであたしがタイムトラベラーだって知ってる!?」

倫子「……へ?」

鈴羽「確かにラボメンのみんなには話した。岡部倫子以外のラボメン以外のみんなにはね」

476: 2016/06/26(日) 10:49:36.27 ID:lga5tUBjo

鈴羽「お前はあたしの情報を、どうやって手に入れた。内通者か」ギロッ

倫子「ひっ……」ビクビク

紅莉栖「鈴羽、やめて……」

鈴羽「岡部倫子。一緒に居た、桐生萌郁って女は何者なの?」

倫子「……彼女は、ラウンダー。ラボメンナンバー005で、SERNに洗脳されて――」

鈴羽「ラウンダー。なるほど……」

紅莉栖「ラボメンナンバー005は、鈴羽でしょ!?」

倫子「っ!?」

紅莉栖「ねえ、岡部!? 何か言うことは無いの!?」ガシッ

倫子「……なんの、こと? 手、痛いよ……」ゾクッ

紅莉栖「見たのよ! さっき、ガード下で……」プルプル

倫子「っ!?」ドクンッ

477: 2016/06/26(日) 10:50:04.55 ID:lga5tUBjo

倫子「見たって、何を……」ドクン ドクン

鈴羽「お前が、KGBのエージェントを頃すところを」

倫子「わ、私じゃないっ!! 説明すると長くなるけど、とにかく私じゃないのっ!!」

紅莉栖「だったら!! ……あんたは、誰なの?」ウルッ

倫子「私はぁっ! ……私は……」

紅莉栖「……ねえ、岡部。全部、嘘だったの? 私たちを騙してたの!?」

倫子「違う、違うの……お願い、私の話を聞いて……」グスッ

鈴羽「お前は、嘘塗れだね。岡部倫子」

倫子「私を、助けてよ、紅莉栖……」ポロポロ

紅莉栖「……もう、助け、られないよ。岡部……」ウルッ

倫子「うっ、ううっ……うわぁぁぁ……」

478: 2016/06/26(日) 10:54:39.32 ID:lga5tUBjo

鈴羽「あたしが居た2036年でもそうだった」

鈴羽「嘘と裏切りだけで世界を手に入れたお前はさ、その嘘を塗り重ねるために数多の命を奪い続けた」

倫子「っ!? 2036年の、私が……」

鈴羽「だからあたしはこの時代に来たんだよ。牧瀬紅莉栖を保護し、未来の運命を変えるためにね」

倫子「……世界線を、変える方法を、知ってるの?」

倫子「ねえっ!! 教えてよ鈴羽っ!! こんな世界線は、こんなっ……」グッ

倫子「(でも、紅莉栖が生きてるなら……)」グスッ

倫子「……まゆりは? ここがα世界線なら、まゆりはもう、半年前に……」プルプル

紅莉栖「まゆりって、あの子のことよね。あの子だって、もう長くないんだから、悲しませるような真似は、やめて……」

倫子「……"長くない"?」ゾクッ

479: 2016/06/26(日) 10:55:23.10 ID:lga5tUBjo

鈴羽「証拠は手に入れた。こいつを警察に突き出そう」

倫子「紅莉栖っ!! 信じてっ!! 私は、ついさっき別の世界線から来たの!! だから、わけがわからなくなってて――」

紅莉栖「……通報するわ」グスッ

倫子「紅莉栖っ!!」ポロポロ

紅莉栖「そうやって、嘘を重ねていくのね。次は私を頃すの!?」ウルッ

倫子「違うっ! 私は、私は――――」


   『……氏にたく……ないよ……』


倫子「……私は、私が、紅莉栖を、頃した。この手で……」ガクガク

紅莉栖「っ!? や、やっぱり、頃すのね、私を……」プルプル

鈴羽「そうはさせない。少しでも不審な動きをしてみろ。警察が来る前にあたしがお前を頃してやる」

倫子「あ……あぁぁぁ……」ポロポロ

480: 2016/06/26(日) 10:56:15.41 ID:lga5tUBjo

紅莉栖「もしもし、警察ですか!? 人を頃したっていう、知り合いを保護したんです……場所は――――」


コロコロコロ……


倫子「っ!?」

鈴羽「スタングレネード!?」


ドォォォォォォォォォォン!!


紅莉栖「けほっ、けほっ! な、なに!?」

鈴羽「……ッチ。逃げられたか」

481: 2016/06/26(日) 10:56:59.47 ID:lga5tUBjo
中央通り


倫子「は、離してぇ!」タッ タッ

萌郁「もっと、遠くへ逃げないとっ!」タッ タッ

倫子「……いやだっ! 紅莉栖と、離れたくないよぉっ!」ブンッ

萌郁「きゃっ!」バタッ

倫子「はぁ……はぁ……」

萌郁「……あそこには、近づかないほうがいい。もう、正体、知られちゃったから」

倫子「……まゆりに、会いに行かないと」フラフラ

萌郁「岡部、さん……?」

倫子「まゆりに……」フラフラ



prrrr prrrr


萌郁「……FB。大檜山ビル2階にタイムマシン、確認した」

萌郁「もう1台、どこかにある模様。……わかってる、ソ連に回収される前に、私たちが」

萌郁「……ええ。絶対に、M3は渡さない」ピッ

482: 2016/06/26(日) 10:57:41.72 ID:lga5tUBjo
代々木 AH東京総合病院 707号室 【椎名まゆり様】


倫子「(ルカ子に電話して、まゆりの居場所を教えてもらった。どうして、こんなところに……)」

ガララッ

倫子「……まゆり?」

まゆり「あっ! 岡部さんだー♪ ようこそいらっしゃいましたー」

るか「岡部さん……。今日はもう、来ないかと思ってましたよ」

るか「クリスマス・イヴだから、何か用事があるのかと。イス、どうぞ」スッ

まゆり「メリークリスマスだよー、岡部さん♪」

倫子「……まゆり。その、大丈夫……?」

まゆり「んー? 何がー?」

倫子「まさか、入院してるなんて、思わなかったから……」

まゆり「してるよー? 前からずっと。何当たり前のこと、言ってるの?」

倫子「……ねえ。ふたりとも、私のこと、怖くない?」

まゆり「えっ!? 怖くなんて、ないよ?」

るか「今日の岡部さん、なんだか、いつもと雰囲気が違う気がしますけど……」

483: 2016/06/26(日) 10:58:11.30 ID:lga5tUBjo

まゆり「どうしちゃったのかな。変な岡部さんだねぇ」

倫子「その呼び方……あのさ、まゆりは、"トゥットゥルー"って、知ってる?」

まゆり「とぅ……?? 今日の岡部さんは、なんだかとっても無理してる感じがするよ。どしたの?」

倫子「……いや、知らないなら、いい」

るか「あ、ボク、飲み物買ってきます。まゆりちゃんはオレンジジュース、岡部さんはマウンテンビューですよね」

倫子「え……?」

まゆり「ありがと、るかちゃん♪」

倫子「るか、ちゃん……?」

484: 2016/06/26(日) 11:00:16.83 ID:lga5tUBjo

倫子「この病室、いっぱい写真が飾ってあるんだね」

まゆり「うんっ。いい想い出がね、たくさんあるから。まゆりのスマホにもいっぱい入ってるんだよ」

まゆり「電話はしないから、写真を見るための道具になっちゃってるけどね、えへへ」スッ

倫子「あれ、カバー変えた?」

まゆり「えっ? 岡部さんにもらってからずっとこの"青い"カバーのままだよ?」

倫子「(まゆりのスマホカバーは"赤"かったはず……てか、私がまゆりにあげたのか。ダルあたりがジャンク品を手に入れたのかな)」

まゆり「ほら、これなんか、小さい頃の岡部さんも映ってる」

倫子「……ふふっ、懐かしい。豊島園のプール、一緒に良く行ったね」

倫子「まゆりはひとりでどんどん泳いで行って、私はまゆりが居なくならないように必氏で……」

まゆり「え……? 行ったのは、1回だけ、だよ……?」

倫子「い、1回だけ……」ドクン

まゆり「岡部さん……?」

倫子「……実はね、私、記憶喪失になっちゃったみたいで、その、記憶が混乱してるんだ」

まゆり「えっ?」

倫子「だから教えて欲しいの。私とまゆりは、幼馴染、だよね……?」ドキドキ

まゆり「えっと……たぶん、違う、かな……」

倫子「そ、そう……」プルプル

485: 2016/06/26(日) 11:01:15.87 ID:lga5tUBjo

まゆり「2000年クラッシュのあとにね、7年くらいは離れ離れだったよ、ね?」

倫子「……"2000年クラッシュ"?」

まゆり「覚えてないの? 10年前、世界中でね、コンピューターとかが壊れちゃって」

倫子「っ!? 2000年問題のことっ!? リーディングシュタイナーを得るための因果に結ばれたバグ……!?」

倫子「だって、あれはSERNが未来から解決して、いや、β世界線では世界大戦の火種に! でも、どっちにしても10年前は大きな問題にはならなかったはず!」

まゆり「……ううん。たくさん、大事な人が氏んじゃったんだ。まゆりの両親も、岡部さんの両親も」

倫子「な……なんて……こと……」ガクッ

まゆり「岡部さんと再会したのは、3年くらい前だったよね。最初はちょっと怖かったけど、まゆりのこと、色々気にかけてくれて」

まゆり「髪留めもプレゼントしてくれて♪ ……入院費まで出してくれて」

倫子「……入院費?」

まゆり「本当にね、どれだけ感謝しても、し足りないのです。えへへ~」テレッ

486: 2016/06/26(日) 11:02:07.29 ID:lga5tUBjo

倫子「……ねえ、その髪留め。本当に私がプレゼントしたの? ちょっと見せ――」スッ

まゆり「あっ!! ダ、ダメぇっ!!」ガバッ

倫子「あっ……」

まゆり「ぅ……ご、ごめんね……。この髪、医療用のウィッグだから」

まゆり「もう、まゆりの髪はほとんど残ってないのです」ニコ

倫子「えっ……」ドクン

まゆり「治療の副作用。でもね、そのおかげで、クリスマスまでは生きていられるかもって、半年前、お医者さんに言われてね」

倫子「クリスマス……っ!?!?」ガタッ

まゆり「あっ! でも、ほら、今日もまゆりはピンピンしてるので! たぶん、大丈夫だよ、きっと」アセッ

まゆり「……岡部さんと、クリスマス・イヴを迎えられて、本当に良かったのです」ニコ

倫子「そんな……そんなことって……」ガクッ

まゆり「きっと、サンタさんが1日早いクリスマスプレゼントをくれたんだね。えっへへ~」ニコ

まゆり「だからね、岡部さん、そんな顔しないで。いつもの岡部さんなら、よかったねって言ってくれるところだよ」

倫子「……少し、風に当たってくる」

487: 2016/06/26(日) 11:02:52.20 ID:lga5tUBjo
外来棟8階 空中庭園


ウー ウー カンカンカン ピーポーピーポー


倫子「渋谷が、燃えてる……。去年の地震から、復興してないんだ……」

るか「岡部さん。病室に居ないと思ったら、屋上に居たんですね」

倫子「……ねえ、ルカ子。まゆりの病気は……いや、なんでも、ない」

るか「あの、まゆりちゃんから聞きました。記憶が混乱してる、って……」

るか「それと、ついさっき紅莉栖さんから、で、電話が、あって……」プルプル

倫子「っ!」

るか「嘘、ですよね……岡部さん、そんなこと、する人じゃないですよね……!? 嘘って言ってくださいっ!!」


萌郁「――嘘じゃ、ない」


倫子「もえ、か……」

るか「っ、知り合い、ですか……」

萌郁「岡部さんが、あなたたちに見せていた顔は、嘘の顔」

倫子「やめて……やめてよぉぉっ!!」グスッ

るか「そうなん、ですか……ねえ、どうして、どうしてそんな……」プルプル

488: 2016/06/26(日) 11:03:22.09 ID:lga5tUBjo

るか「……もう、帰ります。まゆりちゃんには、このこと、黙っておきますからっ!」タッ タッ

倫子「あっ……」

倫子「……っ」

倫子「――みんな、私から、離れていく」

倫子「わかってる……私があの時、鈴羽と一緒にタイムマシンに乗らなかったせいなんだって」ウルッ

倫子「シュタインズゲートを諦めてしまったせいなんだって」グスッ

倫子「紅莉栖が生きるためには、まゆりが氏ななくちゃならない。でも、こんな世界、いやだぁ……」ヒグッ

倫子「こんなの……キツすぎるよ……っ! こんな世界、私は望んじゃいないのに……!」ポロポロ


prrrr prrrr


倫子「っ!?」

萌郁「たぶん、FBから。出て」

倫子「…………」ピッ

489: 2016/06/26(日) 11:04:08.98 ID:lga5tUBjo

天王寺『M3。なぜすぐに出なかった?』

倫子「天王寺さん……」グスッ

天王寺『……何があった? いつも冷静な、いや、冷徹なお前さんらしくない』

倫子「私は、どうしてラウンダーに、入ったんですか……」プルプル

天王寺『……知り合いの女の子の入院費を稼ぐため、だろ? 何言ってんだ』

倫子「そ、そんな……」ガクッ

天王寺『……警視庁への根回しが現場レベルまで徹底されるには今日一杯かかる。次の命令まで待機しろ』

天王寺『待機ってのはつまり、どこかに隠れてろってことだからな』ピッ

萌郁「警察には、ラウンダーが圧力をかけてる。だから、牧瀬紅莉栖の通報によってあなたが逮捕されることは無い」

萌郁「一旦、私の部屋に潜伏しましょう。それが、命令」

倫子「……もう、萌郁しか頼れる人が居ない」ダキッ

萌郁「岡部さん……」

490: 2016/06/26(日) 11:05:33.81 ID:lga5tUBjo
ハイツホワイト202号室


萌郁「私は、何度もあなたに救われた。命を」

倫子「そう……なんだ……。でも、私は、あなたの知ってる私じゃないよ?」

萌郁「それでも、変わってないって感じた。岡部さんの、本質が」

倫子「へ、へえ……私の本質は、人頃しなの……。確かに、前の世界線でも人を頃したけどさ……ハハ……」

萌郁「違う。私に生きる意味をくれたの、岡部さん、だから」


―――――

   『私……いらない子だって、ずっと言われ続けて……ずっとずっと……』

   『だが、もう諦めろ。貴様の能力はオレに期待されている』

   『うれ……しい……』

―――――

491: 2016/06/26(日) 11:06:00.35 ID:lga5tUBjo

倫子「(この世界線でも、そんなことが……)」

萌郁「4年前、自頃しようとしてた私を助けてくれたの。それからしばらくして、ラウンダーになれって言ってくれた」

萌郁「私に、居場所を与えてくれた」

萌郁「私にとって、FBは父。岡部さんは、姉さん、みたいなもの」

萌郁「家族、だから。偽りのモノだとしても」

萌郁「私で良かったらなんでもする。あなたの助けに、なりたい」

倫子「…………」ダキッ

萌郁「姉さん……」ギュッ

萌郁「……お腹、空いてるでしょ。買ってきたケバブ、食べよ? いつも、ふたりで食べてた」

倫子「……うんっ……うんっ……」ポロポロ

492: 2016/06/26(日) 11:06:49.64 ID:lga5tUBjo
2010年12月25日(土)12時00分
ブラウン管工房


天王寺「……なんだ、お前か。M3はどうしたんだ?」

萌郁「泣き疲れて、まだ寝てる。彼女の言っていることを、確かめに来た」

天王寺「まるで別人になっちまってたが、何があった」

萌郁「わからない……その答えを、知りたくて」

天王寺「ふぅん。ま、聞いてみろ。ブラウン管テレビに仕掛けた盗聴器から、直接2階の会話が聞ける」

天王寺「こんなもんが無くても、ギャーギャーうるさい奴らだからな、普通に聞こえるが」

萌郁「データをもらっても?」

天王寺「M3に聞かせるのか。それがいいとお前が判断したなら、そうしてやれ」

萌郁「……ありがとう、FB」

493: 2016/06/26(日) 11:07:38.87 ID:lga5tUBjo
12時02分
未来ガジェット研究所


紅莉栖「……鈴羽。昨日、岡部は、"別の世界線から来た"って言ってた。どういう意味か、わかる?」

鈴羽「世界線をまたぐこと自体は珍しくもない。普段から刻々と変動してるからね」

鈴羽「だけどさ、世界線をまたいで記憶が継続されるなんて、ありえない。因果に支配されてる生物は、世界線の変動に気付くことはできないんだよ、絶対に」

紅莉栖「でも、岡部は覚えていた」

ダル「単なる厨二病の妄想じゃね?」

フェイリス「もしかしたら、特殊な能力を持ってるかも知れないニャ!」

鈴羽「まさか、超能力、だとでも?」

フェイリス「タイムトラベラーが居るなら、超能力があってもいいのニャ! 去年の渋谷で放送された、エスパー少年とか!」

ダル「でもあれって結局ヤラセだったんしょ?」

鈴羽「いずれにしても、ラウンダーを甘く見ない方が良い。不用意に近づけばナイフで刺されるかも」

フェイリス「倫子はそんなことしないニャァ!」

494: 2016/06/26(日) 11:08:32.22 ID:lga5tUBjo

鈴羽「2036年の未来ではさ、岡部倫子はラウンダーという組織をまるごとソ連に売るんだ。そして、ソ連から発展した組織、世界統一政府に名を連ねる存在になっていた」

鈴羽「決して表舞台には出てこない、影の女帝になってたんだ。スターリンなんか比じゃないくらいの独裁者に」

鈴羽「あいつは、自らを神格化してこう名乗ってたらしい――――」

鈴羽「――――"鳳凰院凶真"、ってね」

鈴羽「あいつのせいで、たくさん氏んだよ……仲間も、両親も、友達も」

ダル「両親……。つか、鈴羽の背中の傷って、まさか……」

紅莉栖「ちょ!? 橋田のHENTAIっ! 父親だからって許されると思ったら大間違いだからなっ!」

ダル「い、いや、あれは不可抗力だお! 偶然シャワー浴びてた鈴羽と出くわしちゃって……」

鈴羽「ちょっと人には見せられないような傷があったりするんだよね。あたしは反体制組織の一員だったから、真っ先に弾圧の対象になった」

鈴羽「それで何度か氏にかけたことがある」

ダル「このままじゃ、僕たちも、岡部に殺されちゃうかも!」

495: 2016/06/26(日) 11:09:27.94 ID:lga5tUBjo

鈴羽「あたしたちに今できること、ひとつあるよ。電話レンジを破壊すること」

鈴羽「ソ連もアメリカも300人委員会も、これと、これを作った人間たちを巡って戦争してると言っても過言じゃない。これさえなくなれば、あるいは」

紅莉栖「ま、待って! すぐに破壊するのは反対よ!」

鈴羽「だけどさ、このままじゃ岡部倫子は自分の野望のためにこれを使うよ?」

紅莉栖「私たちだって今はDメールを送れる。なら、それで対抗できるかもしれない」

紅莉栖「戦争だって、2000年クラッシュだって、無かったことにできるかもしれないっ!」

ダル「Dメールでの事象のコントロールはすごく難しいって、結論出たじゃん」

鈴羽「……牧瀬紅莉栖。岡部倫子を、まだ仲間だと思ってるつもり? あいつ、今にもこのラボの襲撃計画を立ててるかもしれないんだよ?」

鈴羽「君はその目で見たんでしょ? 岡部倫子が、人を頃してるところをさ」

紅莉栖「それは……」

496: 2016/06/26(日) 11:10:04.37 ID:lga5tUBjo

紅莉栖「……あの時、不思議なビジョンが見えたの」

フェイリス「ビジョン? 科学者のクーニャンには似合わない言葉だニャァ」

紅莉栖「ええ、私だって非科学的な発言だってことはわかってる。だけどね、あいつが人を頃した時……」


   『きゃぁぁぁぁあああああ!!!!!!』


紅莉栖「あの子、泣いてた……私を抱きかかえて。耳を塞ぎたくなるような痛々しい声で、泣き叫んでた……」

鈴羽「妄想だ」

紅莉栖「わからないの……あの岡部は、別人で……。あいつがあんなに悲しそうな顔してるの、初めて見たし……」

紅莉栖「もう、どれが本当か、わからないのっ!!」

鈴羽「…………」

497: 2016/06/26(日) 11:15:20.12 ID:lga5tUBjo
13時51分
柳林神社


萌郁「(FBから録音データはもらった。次は……)」

萌郁「……漆原、るかさん。少し、お話、いいかしら」

るか「あなたは、昨日の……」

萌郁「(『番外未来ガジェット"メガメラVer.4"通常型』、録画モード起動)」ピッ

萌郁「聞きたいのは、あなたのお母さんの話。奇妙な体験をしたっていう」

るか「えっ?」

萌郁「聞いたこと、ある? 例えば、未来の日付からポケベルに着信があったとか」

るか「……ありました。お母さんから、何度か聞かされました」

るか「1回目は、"やさいくうとげんきなこをうめる"、それから1か月くらいして、"2929831831"……」

るか「不思議に思って、お父さんの知り合いの、大企業の偉い方に見せたんです。名前はたしか、希グループの……」

萌郁「……野呂瀬、玄一。当時26歳、社長の側近として、天成神光会と明和党とのコネクションを築いていた……」

るか「あ、はい。たしかそんな名前だったかと」

498: 2016/06/26(日) 11:16:45.20 ID:lga5tUBjo

るか「そうしたら、数日して、その話を聞いたっていうSERNの科学者さんが来て……名前はたしか、ヒイラギさんという、女性の方でした」

萌郁「ヒイラギアキコ……量子力学的世界解釈に関する新モデルの研究者。でも、当時は一技術者だったはず」

るか「その人、恐怖の大王が落ちた時、えと、2000年クラッシュの時に、ワクチンプログラムを作ったすごい人だって後から聞きました」

萌郁「(昨日の夜に岡部さんから聞いた話だと、IBN5100を持っているSERNなら、2000年問題を解決するためのワクチンはいくらでも作れた)」

萌郁「薬を作ってから毒を撒く。SERNの常套手段」

萌郁「(わざと2000年クラッシュを起こして、ソ連に対抗する手段にしようとした……世界中のタイムマシン研究をとん挫させるために……)」

るか「でも、それを知ってどうするんですか?」

萌郁「(岡部さんはきっと、元の世界線に戻りたがってる)」

萌郁「(でも、世界線を元に戻せば、私と姉さんの今の関係も、なかったことになる。そんなの、私は望んでない)」

萌郁「(それなのに、私……)」

499: 2016/06/26(日) 11:17:30.48 ID:lga5tUBjo


prrrr prrrr


萌郁「……M4」

天王寺『仕事だ。未来ガジェット研究所のタイムマシンを回収しろ。KGBが動き始めた』

天王寺『ただし、開発者の3人は頃すな。確保して、SERNへ連行する』

萌郁「3人?」

天王寺『牧瀬紅莉栖、橋田至。そして、岡部倫子。特に岡部倫子は最重要だ、特殊な脳を持っているらしいからな』

天王寺『上からの報告によれば、その脳を誰が支配するかによって未来は変わる可能性があるんだとよ』

萌郁「岡部さんを拉致するなんて、そんなの私、聞いてない!」

天王寺『もうM3は信用できない。SERNを裏切る前に実験体として切り捨てることになったってだけだ』

天王寺『作戦開始はヒトナナマルマル。3時間後だ――――』

萌郁「なんとかして……なんとかしないと……」

天王寺『……ハァ。迷ってんならよ、今決めろや。どっちにつくのかをな』

萌郁「……今?」

天王寺『……なんてな。甘いなぁ、俺も』ピッ

500: 2016/06/26(日) 11:18:35.85 ID:lga5tUBjo
ハイツホワイト202号室


萌郁「……ただいま」

倫子「おかえりっ」ヒシッ

萌郁「……寂しかった?」

倫子「べ、べつに」グシグシ

萌郁「はい、頼まれてた薬」スッ

倫子「あ、ありがと」

倫子「(この世界線の私は精神安定剤を持ってなかった。紅莉栖もまゆりも生きてるから、そうなるのかな……)」

倫子「(だから私は、この世界線の過去も未来も視ることができなくて、少し……いや、結構不安だった)」

倫子「外に落ちてた新聞を読んで知ったけど、今年の夏から米ソが戦争してるんだね」

萌郁「元々、緊張状態にあった。いつ戦争になってもおかしくなかった」

萌郁「公表はされてないけど、キッカケはソ連に持ち込まれた牧瀬さんのタイムマシン論文だったって、FBから聞いてる」

倫子「く、紅莉栖の!? 生きてるのに……」

倫子「……一体どういう過程があってそうなったのか、考えるだけ無駄だよね。その事象を中心に世界線が再構成されたんだから」

萌郁「秋以降、ソ連が牧瀬さんの命を狙ってた。それを、アメリカの諜報機関を利用しながらSERNが防いできた」

萌郁「前線で活躍してたのは、あなた」

倫子「私が、SERNの力を利用して、紅莉栖を守ってた……?」

501: 2016/06/26(日) 11:21:00.88 ID:lga5tUBjo

萌郁「でも、もう守り切れそうにない。多くの組織が論文の存在に気付き始めてしまった」

萌郁「重要な研究機関や情報施設は、軒並み破壊されてる」

倫子「日本も、この辺はまだ大丈夫だけど、和光市や渋谷は爆弾テロが相次いでる。それに、種子島が壊滅したって……」

萌郁「SERNはソ連に狙われてる。SERNのタイムマシン研究を未だ回収されてないのも、岡部さんの活躍のおかげ、って聞いてる」

萌郁「(それなのにSERNは、姉さんを実験体として処分すると言う……っ!)」ギリッ

倫子「ロシアが過去を改変して、ゴリバチョフあたりに影響を与えたのかな……」ブツブツ

倫子「どうする、モスクワに行って過去に受信された改変因子を確認する? いや、そんなことしたらKGBに捕まって終わりか……」ブツブツ

萌郁「……M3、聞いて。次の命令、未来ガジェット研究所のタイムマシンを回収しろって」

倫子「――知ってた」ウルッ

萌郁「牧瀬紅莉栖と橋田至を確保しろって」

倫子「――それも知ってた」グスッ

萌郁「……抵抗したら、その2人以外は頃しても構わないって」

倫子「…………」ギュッ

502: 2016/06/26(日) 11:21:45.77 ID:lga5tUBjo

萌郁「これを、聞いてほしい。今日、ラボを盗聴してきた」

倫子「うっ……うん。聞く。聞かせて」

萌郁「それと、柳林神社での映像。漆原るかさんが女性なのは、間違いない」

倫子「この映像は……?」

萌郁「岡部くんが私にくれた、未来ガジェット。名前は"メガメラVer.4"」スッ

倫子「その眼鏡、カメラなの?」

萌郁「両側に円筒機構がついてるでしょ? ここにオートフォーカス付きカメラと電池、無線機が入ってるの」

萌郁「赤外線リモコンでシャッターを押せるようになってて、リモコン側にデータ記録媒体も入ってる」

倫子「へえ、そんな未来ガジェットを……」

萌郁「夏には、これで猫の自然な写真を撮って、雑誌社に売ってお金を稼いだりした」

倫子「(まゆりの入院費のため、か……)」

萌郁「初めてあなたからもらったモノだから、大切に使ってる……」

503: 2016/06/26(日) 11:23:38.26 ID:lga5tUBjo
・・・

倫子「――なるほど」

倫子「つまり、このソ連世界線――便宜上、γ世界線と呼ぶ――においてもルカ子を女の子にする実験を行った。その時、想定外のバタフライ効果が発動した」

倫子「ってことは、ルカ子の母親のポケベルにDメールを送れば、色々取り消せる……」ブツブツ

倫子「電話レンジ(仮)が使えれば……でも、また予期せぬバタフライ効果が発生したら……」ブツブツ

倫子「スマホから、『Amadeus』アプリは消えてた。そりゃ、紅莉栖が生きているなら、私が真帆ちゃんと出会う因果がなくなるから当然か……」

倫子「アメリカ側の『Amadeus』や真帆ちゃんには頼れない。私は、どうしたら……」

萌郁「……あなたは今、とてもマズイ立場にいる。このままだと、SERNへ連れて行かれて、脳を解剖されるかも」

倫子「……リーディングシュタイナーか。そうなったら、世界線はαへと変動するのかな……」

倫子「でも、私は……ラボの、所長だから。ラボを、守らないと」

萌郁「岡部さんっ! 行ったら、ダメなの! 行ったら、あなたも捕まる……」

倫子「ううん、大丈夫。どうせ私は氏なない」

倫子「この世界線での私は、2036年時点でも生きてる。鈴羽がそう言ってた」

萌郁「冗談は、やめて」

倫子「私より、萌郁が心配だよ。今あなたがやってる行動は、ラウンダーへの裏切りになる」

萌郁「私は……」

倫子「これ以上、私に関わらないほうがいい。それじゃ」スッ

萌郁「岡部さんっ!」

倫子「……ケバブ、ありがとう」ガチャッ

504: 2016/06/26(日) 11:24:15.24 ID:lga5tUBjo
16時32分
未来ガジェット研究所


ゴロゴロ ピカッ!!


るか「きゃっ! 雷が……」

鈴羽「……嫌な予感がする」

フェイリス「超能力ニャ? 天気で未来予知ができるのニャ!」

鈴羽「牧瀬紅莉栖、まだいじってるの?」

紅莉栖「Dメールを送れればと思ったけど、ダメ、どうしても調整がうまく行かない……」カチャカチャ

鈴羽「仮にここを襲撃されたら、タイムマシン――電話レンジ――はあたしが破壊する。いいな?」

紅莉栖「……わかったわよ」カチャカチャ

ダル「つか、ラウンダーみたいなヤバイ連中相手にするなんて、分が悪すぎるお」

フェイリス「ニャー……フェイリスは倫子でも探してこようかニャ~? 傘、借りていいかニャ?」

鈴羽「氏にに行きたいの?」

505: 2016/06/26(日) 11:24:51.14 ID:lga5tUBjo
大檜山ビル前


倫子「よりによってほぼ全員集まっている……まゆりが居ないのが不幸中の幸いかな」

倫子「まあ、いくらビビリな私でも、ここに突入するくらいならひとりでもできる……」

倫子「(なんとかして全員を退避させて安全を……いや、そんなことをしても収束があれば意味がなくなっちゃう)」

倫子「(紅莉栖……こんなに近くに居るのに、遠いよ……)」グスッ


タッ タッ


萌郁「はぁっ……はぁっ……。傘、忘れ物……」スッ

倫子「も、萌郁っ!?」

506: 2016/06/26(日) 11:25:26.59 ID:lga5tUBjo

萌郁「私は、あなたの力になりたい。今は、私だけが、あなたの味方だから」

萌郁「世界中を敵に回しても、私だけは、あなたのパートナーだから」

萌郁「私の居場所は、あなたの側にしか、ないから……」

倫子「……助けて、くれるの?」ウルッ

萌郁「今までも、ずっとそうしてきたから」ニコ

萌郁「キス、するね……」チュッ

倫子「ちょ、萌郁、何をっ!?」ドキッ

萌郁「……作戦、開始」

倫子「…………」

倫子「……ああ、了解した」

507: 2016/06/26(日) 11:26:11.77 ID:lga5tUBjo
物陰


??「……はい。岡部倫子を確認しました。直ちに急行してください」ピッ



大檜山ビル前


萌郁「急がないとブラボーチームが突入しちゃう」

倫子「わかってる。今ここで私にできることは、やっぱり……Dメールを送ること」

倫子「そうしないと、フェイリスも、ルカ子も、鈴羽も、まゆりも、紅莉栖も……みんなの命が危ないから」

倫子「(紅莉栖が居れば、私の背中を押してくれるはず……1人じゃ送れなくても、紅莉栖となら……)」

倫子「(ここまで来たんだ。いい加減、腹を決めろ、私……!)」グッ

倫子「猶予はどれだけある?」

萌郁「30分、くらい」

倫子「それならなんとかなるか……鈴羽たちを無力化して、ルカ子の母親の元へとメッセージを送る」

倫子「ソ連はなんともならなくても、300人委員会が2000年クラッシュを起こす過去を変えられるはず」


由季「あれ? 岡部さん? そこで何されてるんですか?」


倫子「な……ゆ、由季さんっ!?」

508: 2016/06/26(日) 11:37:38.07 ID:lga5tUBjo

カエデ「ユキさん、さっき誰に電話を……あら? 岡部さん、雨に濡れちゃいますよ? 中に入らないんですか?」

フブキ「…………」

由季「それに、そちらの方は……」

萌郁「……拘束、する?」

倫子「い、いや、待って。由季さんたちは関係ない」

倫子「由季さん、カエデさん、それにフブキ。お願いだから、今すぐどこかへ行ってくれない、かな?」

カエデ「へえ、私たちをそんな風に扱うんですか。こんな寒い冬の雨の日に」ウフフ

フブキ「えっと……」

由季「……今日、せっかくのクリスマスなので、お料理を持ってきたんですけど、冷めないうちに皆さんで」

倫子「ごめん。そんなこと、やってる場合じゃないの。今からここは戦場になるかもしれないから」

カエデ「戦場、クリスマス……ああ、なるほど」ポンッ

由季「冗談ですか? もう、あんまりそういうこと言うの、感心しないなぁ。実際に今、世界は戦争の真っただ中なんですから」

倫子「頼むから……お願いだから……」ウルッ

カエデ「……何があったんですか? 話してください」

倫子「もうっ、話してる時間も無いんだよぉ!」

509: 2016/06/26(日) 11:38:16.92 ID:lga5tUBjo


ダッ ダッ ダッ…


萌郁「っ!?!? ブラボーチーム、予定より早いっ!!」

倫子「そんなっ!? 時間はまだあったはずじゃ!?」ガクガク

萌郁「……ハメられた。私たちは、完全に上から見限られてた」グッ

由季「えっ? えっ?」

フブキ「な、なにっ!?」

カエデ「外国人、観光客……?」


ラウンダーA「M4にM3。悪いが、大人しくしろ」ガチャッ

倫子「お、お前たちは……あの時のっ!!」ゾワッ

萌郁「くっ……!」ギロッ

ラウンダーB「昨日の友は今日の敵。それが俺たちの社会だ。そうだろ?」

由季「えっと、これは、どういう……」オロオロ

フブキ「……っ!」ゾクッ

カエデ「なにが、なんだか……」

ラウンダーC「こいつらは?」

ラウンダーD「関係ない奴は頃してもいいそうだ。殺せ」

倫子「や、やめろォ!! やめてくれぇっ!!」ウルッ

倫子「(由季さんが氏ねば、鈴羽が生まれなくなって、世界線がまた―――――)」

510: 2016/06/26(日) 11:39:23.58 ID:lga5tUBjo


ダッ ダッ ダッ!!

パラララッ パララッ パラララララッ


??「Ураааааааа!!」


ラウンダーA「ぐわぁぁっ!!!」バタッ

ラウンダーB「うぐぅぅぅぅっ!!!」バタッ

ラウンダーC「な、なんだ!? 聞いてねえぞ……ぎゃあああっ!!!」バタッ


倫子「なんだ!? 何が起こってる!?」


ラウンダーD「くそっ! 撤退だ!」クルッ


萌郁「っ――――」ガチャッ


BANG!!


ラウンダーD「ぐはぁぁっ!」バタッ


フブキ「…………」ブルブル

カエデ「大丈夫、大丈夫だよ、フブキちゃん……」ダキッ

511: 2016/06/26(日) 11:40:17.81 ID:lga5tUBjo

ソ連兵A「"Огонь!"」


倫子「(ロシア語……こいつら、ソ連兵か!?)」ゾワワッ

フブキ「迷彩……! コ、コスプレ、じゃないよね……」ブルブル

カエデ「本物の、戦闘服よ、フブキちゃん……」ガクガク

由季「くっ、あいつら、何やってる! まだなの!」


ソ連兵B「"……Ринко……"」ブツブツ


倫子「(い、いま、"リンコ"って……やっぱり、狙いは私……!)」

萌郁「姉さんは……渡さないっ!」ギリッ


パラララッ パララッ パラララララッ


ソ連兵C「"……!?"」バタッ

ソ連兵D「"……!!"」タッ タッ


倫子「こ、今度はなんだ!?」ガクガク


??「落ち着いて。大丈夫か、君たち」


倫子「あ、あなたたちは……?」プルプル

512: 2016/06/26(日) 11:41:39.57 ID:lga5tUBjo

自衛隊員A「陸上自衛隊のものだ。政府から要請を受け、君たちを保護することになった」

倫子「り、陸自!?」

由季「間に合ったか……」ボソッ

自衛隊員B「安心してくれ。日本国民を守るのが私たちの役目だ。おフランス野郎だか露助だかにやらせはしない」

倫子「(私と萌郁がラウンダーだってことはバレてないのかな……。まあ、実際もうラウンダーじゃないらしいけど)」

倫子「(萌郁がさっきラウンダーの男を銃頃したのを見てたから? あるいは、私たちにSERNの情報を吐かせるために、とか……)」チラッ

萌郁「…………」


タッ タッ シュタッ!

鈴羽「なんの音だッ!!」スチャッ


自衛隊員B「っ!?」ジャキッ

倫子「ダ、ダメっ!! 鈴羽を撃たないでっ!!」ヒシッ

萌郁「あ、危ないっ!」

鈴羽「岡部倫子っ!?」

513: 2016/06/26(日) 11:42:57.35 ID:lga5tUBjo

・・・

ダル「雷の音を銃声だとか言い出した鈴羽を追いかけたら、外で自衛隊が出動する騒ぎになってたとか、ちょっと信じられんのだが……」

るか「毎日ニュースで見てた戦争が、現実のものになっちゃうなんて……」

倫子「……紅莉栖。電話レンジはどうなってる」

紅莉栖「ダメ。どういうわけか、Dメールを送れなくなってる。42型もちゃんと点いてるのに」

倫子「たぶん、この雷雨のせいだ。タイムマシンは雷雨に弱い」

倫子「停電はしてないみたいだけど、電子銃かマグネトロンがおかしくなったのかもしれない」

紅莉栖「なるほど、十分あり得るわ……なら、パーツを交換すれば」

倫子「(昨日は私のことを信じてくれなかったけど、実験のことになると別か……さすが紅莉栖)」

自衛隊員A「悪いけど、そんなことをしているヒマは無い。今、秋葉原中にフランスの傭兵部隊と、ソ連の特殊部隊が潜伏している」

自衛隊員B「君たちの命が最優先だ。安全な場所まで、私たちと一緒に来てほしい」

倫子「どうする、どうすれば……っ」

鈴羽「……電話レンジは破壊。取りあえず、今は自衛隊と共に行動すべきだ」

紅莉栖「……そうね。また落ち着いたら、マシンをもう一度作り直しましょう」

倫子「くっ……!」

514: 2016/06/26(日) 11:43:43.86 ID:lga5tUBjo

自衛隊員A「それじゃ、牧瀬紅莉栖さんと橋田至さん。あと、橋田鈴羽さんはこちらのバンに」

紅莉栖「ちょ! 橋田、くっつかないでよ!」

ダル「いやあ、デカくてすまんお」

自衛隊員B「岡部倫子さんと秋葉留未穂さん、漆原るかさんと桐生萌郁さんはこちらへ。あと、来嶋かえでさんと中瀬克美さん、阿万音由季さんはあちらの車両へ」

倫子「3つに分かれるのか……大丈夫かな……」

カエデ「意外と普通の車なんですね」

自衛隊員B「都市部では軍用車両だと目立って仕方ないからね。一度、入間まで行って、そこから乗り換えます」

自衛隊員B「とにかく時間が無い。今すぐこの街を出ましょう」

フェイリス「ニャウゥ~。秋葉原が戦場になっちゃうニャんて~」

萌郁「……でも、自衛隊がどうして」

自衛隊員B「あなたたちが日本国民だから、ですよ」

由季「…………」

倫子「……よろしく、お願いします」

515: 2016/06/26(日) 11:51:02.60 ID:lga5tUBjo
車中


ブロロロロ …


倫子「――――ってことなんだ」

フェイリス「やっぱり倫子は倫子だったニャン! 信じていたニャン!」ダキッ

るか「大変だったんですね……岡部さん……っ」グスッ

倫子「(……少し、時間ができた。この世界線について、3人から聞いた情報を整理してみよう)」

倫子「(キッカケはロシアの実験だ。どういうわけか、世界は2036年時点でもソ連が存続するように再構成された)」

倫子「(そしてソ連は、タイムマシンの存在を徹底的に隠ぺいしようと行動した)」

倫子「(2000年のジョン・タイターの書き込みは抹消されたらしい。おそらくソ連のスパイによる情報工作だろう)」

倫子「(また、牧瀬章一が2010年7月28日にラジ館でタイムマシン会見を行うことも無かった。これもなんらかの妨害があったのだろう)」

倫子「(ゆえにγ世界線では紅莉栖の氏を回避することとなった)」

倫子「(ただ、どういうわけかこの世界線でも紅莉栖はタイムマシン論文を書き上げており、それを何らかの経緯で手に入れた章一は8月21日にソ連へと亡命していた)」

倫子「(この亡命がなければソ連が支配者として君臨することもないわけで、運命に仕組まれた一連の因果だったのだろう)」

倫子「(これが現在の戦争状態の引き金となり、元々緊張状態にあった世界情勢は爆発した、というわけだ)」

倫子「("私"はATFの講演で日本に来ていた紅莉栖と出会い、α世界線同様ラボを運営し、電話レンジ(仮)の実験を繰り返した)」

倫子「(フェイリスの過去改変には失敗したらしい。萌郁の情報によると、γ世界線では幸高氏は東側の勢力に暗殺されていたのだとか)」

倫子「(一方、ルカ子の性別を変える実験には成功していた。だが、ソ連の存在するこの世界線では、それが思わぬバタフライ効果を生んだ)」

倫子「(玉突きの世界線変動……。Dメールの存在を、1990年代初頭に、SERNに知られることになってしまった)」

516: 2016/06/26(日) 11:51:50.64 ID:lga5tUBjo

倫子「(SERNはタイムマシン研究でソ連と張り合っていた。その過程で、SERNによって2000年クラッシュが引き起こされた)」

倫子「(世界規模の大災害となり、池袋も被災し、"私"とまゆりは両親を失い、離れ離れになった)」

倫子「("私"は完全に世界から孤立したことだろう。あの頃、唯一の友人はまゆりだけだったのだから)」

倫子「(2003年に紅莉栖に会うことも無かった。鈴羽の目的が私の暗殺だったのなら当然か)」

倫子「(どういうわけか"私"は中坊の頃に大檜山ビルを訪ね、FBこと天王寺裕吾に接触したらしい)」

倫子「(何があったか知らないが、そこでバイトをする約束と、将来ビルの2階を貸してもらう約束をしたのだとか)」

倫子「(さらに、当時都内に住んでいた萌郁の自殺を偶然救うことになった。居場所のなかった萌郁は、"私"に居場所を求めた)」

倫子「(この偶然の連鎖もあるいは、今までの過去改変の、記憶の残滓による導きだったのかもしれない)」

倫子「(この世界線の未来の"私"による過去改変の可能性も……)」

517: 2016/06/26(日) 11:53:48.15 ID:lga5tUBjo

萌郁「あの時は、本当にありがとう。たとえその記憶が無くても、私は岡部さんに感謝してる」

倫子「(睡眠薬を大量に飲んでいた萌郁は、委員会御用達の代々木の病院に運ばれたが、そこで"私"は"彼女"と7年ぶりの再会を果たしたらしい)」

倫子「(椎名まゆり。2000年クラッシュのあと、上野に居る叔母に引き取られ、親子のように仲睦まじくしていたのだとか)」

倫子「(だが、難病を患ってしまっていた。何が原因でそうなったのかは、あまりにも改変因子が多すぎて推測すらできない)」

倫子「("私"の元居た世界線では、国に指定された難病の場合、医療費のほとんどを国庫が負担してくれることになっている)」

倫子「(この世界線ではどうも違ったらしい。当時から東西の緊張が高まっていて、日本の国防費が膨れ上がったためだろうか)」

倫子「(叔母も頑張っていたが、入院費が払えなくなる目前だったそうだ。そのことを"私"は、病院にお見舞いに来ていたルカ子から聞いた)」

るか「毎日のように柳林神社にお参りに来ていた方だったので、お話を聞いたんです。そしたら、病気の女の子が居ることがわかって」

倫子「(そこで"私"は天王寺さんに頼み込んだ。高校生の"私"でも、もっと金を稼げる仕事は無いのかと)」

倫子「(この世界線の"私"は、7年も離れ離れになっていた近所の女の子のために動いたらしい。再会したまゆりの境遇の悲惨さが、"私"に行動をさせたか、あるいは……)」

518: 2016/06/26(日) 11:57:10.35 ID:lga5tUBjo

倫子「("私"が身体を売らなかった理由。たぶん、警察の機能が低下してるこの世界線では、"私"は例の警官に、性的なトラウマを強く植え付けられたんだろう)」

倫子「(萌郁にネットで事件を調べてもらったところ、例の警官の名前は検索に引っかからなかった。フェイリスが防いだ記憶も無いということは、事件はもみ消されたんだ)」

倫子「(そんな"私"の出した答えが、ラウンダーだった)」

倫子「(あるいは、天王寺さんは知っていたのかも知れない。2010年、大檜山ビルから送られたポケベルメッセージのことを)」

倫子「(どうせラウンダーに監視されることになる娘なら、予めラウンダーに入れておいたほうが安全、という老婆心だったのかもわからない)」

倫子「(最初のうちは雑用。例のチェーンメールを送ったり整理したりする係だった)」

倫子「(しばらくして、"私"を手伝いたいという萌郁もラウンダーになった。この世界線で萌郁がケータイなしでペラペラしゃべれているのは、FBによるケータイ漬け洗脳が無かったから)」

倫子「(そのうち"私"の働きが認められ、ブツの運び屋になったり、張り込み役になったりしていった)」

倫子「(最終的には暗殺を任されるほどまでに昇進した。ここ半年は紅莉栖の命を狙う連中を始末していたらしい)」

倫子「(そんな裏稼業をしながらも、ダルを仲間にし、ラボを創設し、紅莉栖と出会い、Dメールの研究を始めた)」

倫子「(この世界線では、ラボメンナンバー002がダル、003が紅莉栖、004がフェイリス、005が鈴羽となっている)」

倫子「(ルカ子は女の子になったことで、ラボメンではなくなっていたようだ)」

倫子「(たぶん、この世界線の"私"は、本気でタイムマシンを売りさばき、金を手に入れようとしていたのかもしれない)」

倫子「(だが、その結果が影の女帝だ。何がどう間違ってそんなことになるのか見当もつかない)」

倫子「(……いや、そうじゃない。たぶん、この私にも、ジキル博士にとってのハイド氏のような部分があるんだ)」

倫子「(ジキルに戻るための薬が底を尽きてしまったんだろう。まゆりという、"私"にとっての、唯一絶対の治療薬が……)」

519: 2016/06/26(日) 12:03:21.26 ID:lga5tUBjo

倫子「(この世界線の"私"も、いくつかのDメール送信により、リーディングシュタイナーによって世界線変動を感じた)」

倫子「(そして、どこからかその情報が漏れてしまった。世界線を超えて記憶を持ち越せる能力のことが)」

倫子「(ソ連も、アメリカも、"私"の能力を欲した。これさえあれば、自分たちが世界を支配するアトラクタフィールドへと移動可能なのだから)」

倫子「(300人委員会は"私"を護るために必氏だったらしい。だが、皮肉にも未来の私は委員会を裏切り、ソ連へとそのすべてを売るのだとか)」

倫子「(……あるいはこれも、まゆりに関する事象なのかもしれない)」

倫子「(2036年は、全体主義が支配する世界となってしまう。スターリニズムディストピアと言っていいだろう)」

倫子「(この未来を回避すべく、鈴羽はダルの作ったタイムマシンに乗って、2010年の"私"を暗頃しにやってきたのだとか)」

倫子「(まあ、当然私は氏なないから、なんとかして世界線を変動させる選択肢を探し続けていたらしい)」

倫子「(数々の収束と戦いながらも、ついに今日、電話レンジは破壊された。だが、世界線は変動しなかった)」

倫子「(それが意味しているのは――)」

520: 2016/06/26(日) 12:05:52.95 ID:lga5tUBjo
入間基地


自衛隊員C「なに!? 隊員Aの車両が行方不明だと!?」

倫子「――――っ!?」

自衛隊員B「敵の誤報にやられた……相手はソ連か、アメリカか、あるいはEUか……」

由季「そんなっ、橋田さんたちが!?」

自衛隊員C「……必ずや、我ら自衛隊が奪還致します。日本国の誇りにかけて」

倫子「(これも世界線の収束なのか……。どうあがいても、紅莉栖は生きている限り、タイムマシンを造らされるよう強制されてしまう)」

フェイリス「きっと大丈夫ニャ! 技術屋のダルニャン、天才のクーニャン、武闘派のスズニャンの3人が簡単にやられるわけないニャ!」

フェイリス「今頃、どこか山奥の秘密基地で世界に反逆するための計画を練っているはずニャン!」

倫子「……たしかに、あいつらが上手いこと逃げのびる可能性も無くはない。だって、まだこの世界線の鈴羽は産まれてないんだから」

倫子「ダル……。由季さんに会うために、必ず帰って来てね……」

由季「…………」

521: 2016/06/26(日) 12:08:11.08 ID:lga5tUBjo

自衛隊員C「今入った情報によると……秋葉原は壊滅……ターミナル駅や港、空港も……」ヒソヒソ

自衛隊員B「それじゃ、制空権は……陸路で九州……海自に引き渡して……沖縄へ……」ヒソヒソ

自衛隊員C「原因は……中鉢博士の亡命……例の論文……」ヒソヒソ


倫子「あ、あの……どうして、私たちを助けてくれるのか、本当の理由を教えてください。国民を守るとか、そんなことじゃなく」

自衛隊員C「……実は、自分たちも理由は聞かされていません。でも、命を懸けて護れと自分は命じられています。それが、この国の未来に繋がるのだと」

フェイリス「自衛隊の人たち、本当に何も聞かされてないみたい。みんな、心の中では疑問でいっぱいで動いてる」ヒソヒソ

倫子「(いや、聞くまでも無かった。日本だって、この戦局を打開するために、タイムマシンが欲しいんだ)」

倫子「(そのために、日本政府も私の脳を欲してる? もしくはSERNの部隊としての情報か? そうだとしても、今の状況でどうこうできる問題じゃない……)」

倫子「(未来視もできないから、どうすれば確定事項に反する選択ができるかもわからない)」

倫子「(……もう私が世界線を戻す術は無いのかもしれない。分岐の無いレールの上を走り続けなければならないのかもしれない……)」

倫子「(でも、この世界線の私は、紅莉栖を頃していない。紅莉栖は、この世界線では生き続ける……と思う)」

倫子「(そのふたつの事実だけは……救いだ)」グスッ

倫子「(紅莉栖さえ生きていれば、もしかしたら……)」

倫子「(……考えていても仕方ない、か。もう、なるようにしかならない……)」

522: 2016/06/26(日) 12:11:05.99 ID:lga5tUBjo
2011年1月18日火曜日
佐世保倉島岸壁
あぶくま型護衛艦じんつう内


倫子「(――――こんな生活が1ヶ月も続くとは思ってもいなかった)」

倫子「(衣服は迷彩服を支給してもらったけど、風呂もろくに入れていない……)」

フェイリス「このフェイリスが汗臭いなんて、ショックすぎだニャン……」

フブキ「留未穂ちゃん、外で香水買ってきたよ! 出航に間に合ってよかった」

萌郁「自衛隊の情報によると、東日本の主要拠点はほぼ壊滅状態……東側と西側の直接的な戦闘が、日本列島各地で発生してる」

カエデ「@ちゃんには、原因はソ連のタイムマシン研究にアメリカが文句を言ったことだ、と。日本は沖縄に臨時政府を作るんじゃないか、とも書かれてました……」

倫子「私が日本に居る限り、日本は……まゆりは……」プルプル

フェイリス「でも、もう色んな組織がちょっかいを出して収集つかなくなってるニャ。バチカンの頃し屋集団まで出張って来てるらしいニャ!」

由季「だから、岡部さんの責任なんかじゃありません。みんな、あなたを守ろうとしてるだけなんですからっ」

倫子「由季さん……」

523: 2016/06/26(日) 12:11:50.05 ID:lga5tUBjo

るか「あ、あの、まゆりちゃんの叔母さんから先ほど連絡があって……」

倫子「……うん」

るか「……まゆりちゃん、安らかに、眠ったそうです」グスッ

フブキ「"マユシィ"? あ、あれ、"椎名まゆり"なんて人、会ったこともないのに、なんで、私……」グスッ

倫子「……そっか」ウルッ

倫子「(わかりきっていたことだ。この世界線では、紅莉栖は生きている。だから、そういう風に収束する)」

倫子「(私は、まゆりを助けるために、α世界線をなかったことにしたのに……こんな、こんなことって……)」グスッ

倫子「(私のそばから、紅莉栖もまゆりも居なくなるなんて……こんな世界線は……否定したい……)」ポロポロ

フェイリス「それは、やっぱり東京が大混乱に陥ってるせいで……?」

倫子「そうじゃない。そうだとしても、そうじゃないの」グシグシ

倫子「(全部、私のせいだ。私は、これからどうすれば……)」

524: 2016/06/26(日) 12:12:47.53 ID:lga5tUBjo
2011年1月21日金曜日
那覇港湾施設(那覇軍港:米陸軍基地)


フェイリス「久しぶりの陸地だけど、もう疲れたニャァ……」ハァ

倫子「(東シナ海の航海中にも、ソ連と思われるヘリや潜水艦の攻撃を受けたらしい。その度に船体は激しく揺れ、私たちは疲弊していた)」

倫子「(奇跡的に那覇に到着できたのは、間違いなく私の生存収束のおかげだろう)」

下山「岡部倫子さんだね?」

倫子「は、はい」

下山「初めまして。私は、防衛省、中央情報保全隊の下山という」

下山「これから嘉手納の沖縄防衛局まであなた方を護送させてもらうことになってる。長旅で疲れているところ申し訳ないが、もうしばらく我慢してくれ」

倫子「沖縄、防衛局?」

下山「今、あそこは日本国防衛省そのものになっている。臨時ではあるがね」

下山「そっちのワゴン車には君と、それから阿万音由季さんと中瀬克美さんが乗ってくれ」

由季「はい、わかりました」

下山「他の人たちは後続車に」

フブキ「…………」

525: 2016/06/26(日) 12:13:52.42 ID:lga5tUBjo
ワゴン車車内


下山「実は、3人に防衛局へ着く前に少しだけ質問をしたくてな。それでこうして同乗してもらった」

倫子「(……萌郁と私を分けたってことは、SERNの情報についてではなさそうかな。というか、私はラウンダーやSERNのことは何も知らないし)」

倫子「(なら私のリーディングシュタイナーについて、か。あるいは、鈴羽の乗ってきたタイムマシンかも)」

倫子「(あれは鈴羽かダルが居ないと回収しても意味が無いと思うけど。でも、それならどうして由季さんとフブキも?)」

下山「阿万音由季さん。君は、橋田至君とその妹さんがどこにいるか、知らないだろうか?」

由季「い、いえ。自衛隊さんの方でも把握できていないなら、私が知ってるわけが……」

下山「君たちは恋人だろう? 個人的に連絡を取っているかと思ったんだが」

倫子「ちょ、ちょっと待って!? あなた、なんなんですか!? それじゃ、まるで由季さんをスパイ扱いしているみたいじゃないですか!!」

倫子「(さすがに怒ったけど、由季さんの雰囲気からするに、由季さんはダルたちの居場所を本当に知っていて、それを隠しているようだった)」

倫子「(もしかしたら、この世界線の"私"なら3人がどこに隠れたか理解できたかもしれないけど、この私にはわからない……)」

下山「スパイ、ねえ。もし私たちのことが、アメリカあたりに筒抜けだと、とても困ってしまうな」

倫子「……冗談でも、やめてください」

由季「…………」

526: 2016/06/26(日) 12:14:48.17 ID:lga5tUBjo

下山「ときに、岡部さんは牧瀬紅莉栖さんと何か研究をしていたらしいね」

倫子「っ!?」ドクン

倫子「(突然紅莉栖の名前を言われて、びっくりしてしまった……お、落ち着け、私……)」ドキドキ

下山「どんな研究を?」

倫子「……遊びの延長、みたいなものですよ。お金が必要だったので」

下山「それじゃあ、何かとんでもない物を作って、それを知られたからソ連やフランスの部隊に狙われた、というわけじゃないんだね?」

倫子「まさか。今ソ連が研究してるタイムマシンを、私たちが作ったとでも? 未成年の学生なんかに作れるわけが無いじゃないですか」

倫子「それに、紅莉栖は脳科学者だ。物理学者じゃない」

下山「ふぅん」

527: 2016/06/26(日) 12:15:27.48 ID:lga5tUBjo

下山「中瀬克美さん。君には別に聞きたいことがある」

フブキ「わ、私っ!?」ビクッ

倫子「……っ」ジロッ

下山「そんなに私を睨まないでくれないかな。なに、大した話じゃない」

下山「護衛艦の船内の医務室で、医官に話したようだね。ずいぶんとリアルな夢を見るとか」

フブキ「は、はい。船酔いで、気分悪くて、お医者さんに色々聞かれたので……」

倫子「そ、そうだったの?」

フブキ「う、うん。大したことないと思って、岡部さんには言わなかったんですけど……」

由季「きっとPTSDですよ。こんな状況なんです」

倫子「(由季さんの態度がさっきからおかしい。世界線が変わったせいで、由季さんの人格も変わってしまったんだろうか……)」

下山「君たちは、"大統領病"、というのを知っているかな?」

倫子「は……?」

528: 2016/06/26(日) 12:16:07.27 ID:lga5tUBjo

下山「プーシンを知っているだろう?」

倫子「プーシン……ソ連の、書記長ですよね」

倫子「(どういうわけか、この世界線ではプーシンはロシアの大統領ではなく、ソ連の書記長になっていた。あの人、凄い人間だな……)」

下山「そう。だが、中瀬さんは興味深いことに、プーシンが"ロシアの大統領"だと答えたとか」

フブキ「す、すみません。なんか、寝ぼけてたんです。それに、私、勉強とか全然ダメで……」

下山「いや、そうじゃない。"プーシン大統領"と言う人は、世界中で見つかっているんだ。中瀬さんと同じように夢を見たと言ってね」

下山「それが、"大統領病"だ」

倫子「(……っ!? ま、まさか、別の世界線での記憶が、デジャヴとして引き継がれて……)」

倫子「(……リーディングシュタイナー。まさか、フブキにも発現していたなんて……)」グッ

529: 2016/06/26(日) 12:17:38.32 ID:lga5tUBjo

倫子「(仮にフブキのそれがリーディングシュタイナーだとするなら、かなり強いリーディングシュタイナーだ)」

倫子「(普通、海馬に強く残るような強烈な記憶でないと、デジャヴ、つまりOR物質のバックアップデータとして他世界線の記憶を見ることはできない)」

倫子「(フェイリス、ルカ子、天王寺さん、そしてまゆりや紅莉栖がそうだったように)」

倫子「(ロシアの大統領がフブキの人生に強く印象づけられているとは到底思えないから、フブキは"私寄り"の人間なんだ……)」ゴクリ

下山「ベルリンの壁の崩壊や、ペレストロイカ。岡部さん、知っているかい?」

倫子「……いえ、知りません」

倫子「(この世界線でソ連は崩壊していない。ってことは、当然そういうことになる)」

倫子「(ソ連が崩壊したのは私の生まれた頃だったから、その辺のことを中学の頃によく調べていた)」

下山「だそうだよ、中瀬さん」

フブキ「だ、だから私は、そのなんとか病っていう病気なので!」アセッ

下山「……実を言うとね、君たちが見ている白昼夢こそ、この戦況を変えるための秘策だと、政府は考えている」

倫子「えっ……?」

530: 2016/06/26(日) 12:18:46.75 ID:lga5tUBjo

下山「私みたいな一軍人には、ただの集団幻覚にしか思えないが、どうやらその幻覚の中に、我が日本国が生き残るための情報が隠されているらしいんだ」

フブキ「情報って、武器とか、兵器ってことですか?」

下山「ああ。私なんかは、後ろに積んであるAK-101で敵と戦うことしか考えられない。まったく、研究者連中は頭がいかれてる」

倫子「カラシニコフ……自衛隊で採用してるなんて、それほどなりふり構ってられない状況なんだ」

下山「お? 詳しいねぇ。オタかな?」

下山「君を護送してきた隊員から聞いた通りだ。やはり君はミリに興味があるようだね」

倫子「い、いえ。オタというより厨二、あ、いや、なんでもっ」

下山「そう、本来なら国産銃で戦いたいところだが、そうも言ってられなくてね」

倫子「まあでも、輸出を意識したシリーズですから、国産の西側NATO弾も使えて……」

倫子「(……あれ?)」

531: 2016/06/26(日) 12:20:21.20 ID:lga5tUBjo

下山「ふぅん。ソ連の銃が、西側に輸出されてる、と……」

倫子「あ、いや、えっと……」ドクン

下山「ワルシャワ条約機構も知らないのかい?」

倫子「(し、しまった……)」プルプル

下山「君もそうだったのか。そしてそれを、故意に隠そうとしたね?」

倫子「…………」グッ

下山「やはり、情報通りなんだな、君はなにか重大なことを知っている」

下山「なあ、岡部さん。教えて欲しいんだが」

下山「1991年12月にソ連が崩壊したあと、この平成の時代は、どうなっていたんだね?」

下山「答えてくれ」

532: 2016/06/26(日) 12:21:06.87 ID:lga5tUBjo


prrrr prrrr


下山「ちっ……下山だ。ああ、今防衛局へ……」

下山「……なに? どういうことだ、それは!? どこの国から圧力がかかった!?」

下山「……行先変更だ。嘉手納基地へ向かえ。第2ゲートだ」ピッ

運転手「はっ」

由季「あの……どういうことですか?」

下山「状況が変わった。これから岡部さんは米軍基地へ行ってもらう」

由季「そうですか……」

倫子「(由季さん、どうしてほっとした顔をしてるんだ……?)」

下山「そのまま米軍機でアメリカ行き、なんていう楽しい旅行が待っているかもしれんな」

倫子「ア、アメリカ!?」

下山「CIAかNSCか知らんが、君の即時引き渡しを求めている」

倫子「(つまり、アメリカが私のリーディングシュタイナーを手に入れようとしてる!?)」

倫子「(いや、リーディングシュタイナーだけがあったって、タイムマシンが無けりゃ意味が無い。……まさか、紅莉栖もっ!?)」

倫子「(もしそこでまた電話レンジを、タイムマシンを造れたなら、きっと――――)」

533: 2016/06/26(日) 12:23:07.50 ID:lga5tUBjo
嘉手納基地第2ゲート前


下山「降りたまえ」

倫子「…………」

ハモンド「ウェルカム! 私、ハモンドです。皆サンを歓迎します!」

ハモンド「では、ミス岡部以外の皆サンは、バスに乗ってくだサイ」

フェイリス「ニャニャ!?」

るか「えっ!? それ、どういう――――」

衛兵「…………」ギロッ

るか「ヒッ……」

倫子「……由季さん。みんなを、頼みます」

由季「……はい」コクッ

534: 2016/06/26(日) 12:23:57.32 ID:lga5tUBjo

ハモンド「さて、ミス岡部。あなたはドウゾ、こちらの車へ」

倫子「はい、わかりま――――」


下山「――岡部さんっ、逃げろっ!! アメリカへ行ったら、もう生きては戻れな――」

衛兵「っ!!」ジャキッ

パララッ パラララッ パララララッ

下山「っ――――」バタッ


倫子「し、下山さんっ!!!」

ハモンド「いいから、乗って!」ギュッ

倫子「ぐふっ!」ドンッ


ブルルン キュルルルルルル…

535: 2016/06/26(日) 12:26:18.30 ID:lga5tUBjo
車内


倫子「ねえ! いったい、どうして――」

ハモンド「あなたに、会わせたい人がイマス」

倫子「会わせたい人……紅莉栖? もしかして、紅莉栖なのっ!?」

ハモンド「クリス・マキセの安否は、まだワタシたちも確認できていまセン」

倫子「そ、それじゃあ……?」

倫子「(あれ? この人、どうして紅莉栖のこと、知ってるんだ……?)」

ハモンド「これ、受け取ってクダサイ」スッ

倫子「これ……スマホ?」

ハモンド「ロックはかかっていまセン。そこのボタン押して」

倫子「……?」ピッ



Ama紅莉栖『…………』



倫子「え……?」

536: 2016/06/26(日) 12:27:11.30 ID:lga5tUBjo

倫子「"紅莉栖"!? ど、どうして米軍が『Amadeus』をっ!?」

ハモンド「ヴィクトル・コンドリアから、兵器転用技術として頂いたものデス」

倫子「な、なにっ!?」

ハモンド「DURPAはAI戦士を作るつもりでしたが、過程でおもしろいものが発見されまシタ」

ハモンド「タイムマシンデス」

倫子「……!?」

ハモンド「そして、ワタシたちは"クリス"がタイムマシンを造れることを知っている。さあ、ミス岡部、ワタシたちに協力してほしい」

ハモンド「ソ連を復活させたロシアのタイムマシン実験を、取り消すために」

倫子「どうしてそれを!? ……そうか、アメリカでリーディングシュタイナーが発現した人たちを集めて――」


Ama紅莉栖『……タイム……マシン……?』


倫子「"紅莉栖"!? "紅莉栖"ぅっ!!」


グラッ


倫子「(――ぐっ!? こ、この気持ち悪さは、また――――――――――――――

537: 2016/06/26(日) 12:27:52.49 ID:lga5tUBjo

――――――――――――――――――――――
    2.61507  →  ???????
――――――――――――――――――――――

538: 2016/06/26(日) 12:40:25.52 ID:lga5tUBjo


……あれ。

ここは、どこ?


「現実と、ゲームの狭間さ」


お前は……アルパカマン? 500円で買ってきたワゴン品……。


「俺は、お前の一挙手一投足をモニタ越しに見ている。俺だけが、お前の全てを理解している」

「ジキルとハイドのように、お前は、俺から離れられないんだ」

「現実で、正しい行いが報われるとは限らない。しかし、モニタを潜れば事情が変わる」

「どんなに絶望的な状況でも、正しさを胸に、足掻いて、足掻いて、足掻くがいい」

「妥協せずに、常識ではあり得ない、完全無欠な結末を願うがいい」

「全てのものを救おうという希望を、失わずにいるがいい」

539: 2016/06/26(日) 12:41:03.97 ID:lga5tUBjo

「子供のように、夜空の星に手を伸ばし続けるがいい」

「そうすれば、きっと――」

「トゥルーエンドが待っているはずだ」


それじゃまるで、私がゲームの登場人物みたいだね。

ゲームの登場人物は、あなたでしょ。


「さてな」

「ほら、さっさと行け。幸運だけは、祈ってやるよ」

「これは別れの言葉だったな。――エル・プサイ・コングルゥ」


どうして、それを――――――――


540: 2016/06/26(日) 12:42:18.93 ID:lga5tUBjo

――――――――――――――――――――――
    ???????  →  1.12995
――――――――――――――――――――――

541: 2016/06/28(火) 21:36:43.48 ID:IIE/t+FOo
第21章 永劫回帰のパンドラ(♀)

同日2011年1月21日(金)午後6時過ぎ
未来ガジェット研究所


倫子「―――――っ!?」

倫子「(あれ、何か夢を見ていたような……)」

まゆり「……? どうしたの?」キョトン

倫子「まゆり……」ドクン

倫子「まゆりが居る……ここは、ラボだ……」ドクンドクン

まゆり「ええと、そんなに見つめられたら、まゆしぃ恥ずかしいんだけど……」モジモジ

まゆり「でも、オカリンなら、いいよ……」ボソッ

ダル「いやいや、僕たちの居る前でおっぱじめんでくれんかな。娘の教育に悪いお」

倫子「なっ!?!? ダ、ダルが私たちの百合フィールドに対して、そんなそっけない態度を取るなんて、ここは一体どこの世界線なんだ!?!?」ビクッ

ダル「おちけつ」

鈴羽「世界線……? いったい、何の話? ことと次第によっては……」ギロッ

倫子「へっ!? あ、いや……」ビクビク

まゆり「スズさん!」

鈴羽「うっ……睨んで悪かったよ」

ダル「も、もしかしてオカリン、今、世界線を移動してきたん?」

倫子「えっと……ちょっと待って、先に確認したいことが……」

542: 2016/06/28(火) 21:38:40.18 ID:IIE/t+FOo


prrrr prrr


Ama紅莉栖『あら岡部。今日もずいぶん寒そうね』

倫子「(やっぱり、"紅莉栖"は私のスマホの中に居た。元の世界線に戻ってきた……?)」

Ama紅莉栖『どうかした? 心ここにあらず、っていう顔してるけど』

Ama紅莉栖『また倒れたりしないでよ。真帆先輩も、すごく心配してたんだから』

倫子「倒れた……あ、ああ。クリスマスパーティーの時、だったね」

倫子「ねえ、"紅莉栖"。プーシン、知ってる?」

Ama紅莉栖『プーシン? "ロシアの大統領"でしょ。……あんた、やっぱりちょっと変よ?』

ダル「プーシンかぁ。目の前でにらまれたらションベンちびる自信あるね」

まゆり「プーシンさんなら知ってるよー。実はワンコが好きなんだって。わんわんっ♪」

倫子「あ、あれ? みんな、『Amadeus』のこと、知ってるの?」

ダル「知ってるも何も、オカリンが紹介してくれたじゃん」

倫子「そ、そうだったんだ。そうだ、まゆりのスマホも見せて」

まゆり「んー? はいっ!」スッ

倫子「(カバーは"赤い"。元に戻ってる……)」

543: 2016/06/28(火) 21:41:35.06 ID:IIE/t+FOo

鈴羽「それで、世界線を移動してきたことについて、詳しく」

倫子「う、うん。たぶん、ロシアが実験を行って、ソ連崩壊を阻止してね……」


・・・


ダル「すげーSF超大作だお……」

まゆり「オカリン、つらかったね……がんばったね……」ダキッ

倫子「まゆりぃ……ふぇぇ……」グスッ

倫子「もう、会えないかと思ったよ……あの世界線で、絶望のまま生きていくんだと思ってたよぅ……」ポロポロ

まゆり「まゆしぃはね、ずっとオカリンのそばに居るから」ナデナデ

倫子「(そうだっ、未来視。まゆり、いつも脳を借りてごめんね――)」シュィィィィン

倫子「(あ、あれ? 分岐点が結構近くにあって、遠くの未来が見えない?)」

倫子「(でも、たぶん、前視た世界の流れと同じ気がする。元居た世界線に戻ってきたのがなんとなくわかる)」

倫子「(ともかく、未来視ができることがわかってよかった。分岐点超えたらまた確認しなきゃ)」グシグシ

544: 2016/06/28(火) 21:43:12.03 ID:IIE/t+FOo

鈴羽「第3次世界大戦が2010年に始まった。ソ連も、中鉢論文を手に入れて、タイムマシンを完成させた……」

鈴羽「それで、リンリンはどうやって戻ってきたの?」

倫子「わからない……私の身柄のアメリカ送りが決定したんだけど、向こうでは『Amadeus』の"紅莉栖"と一緒に、リーディングシュタイナーも研究されてたみたいで……」

鈴羽「ってことは、『リンリンがアメリカに確保されること』がその世界線の確定事項じゃなかったんだ」

鈴羽「おそらく、過程が大幅に変更された。未来でリンリンは『Amadeus』の"牧瀬紅莉栖"と一緒にタイムマシンを造ったんじゃないかな」

鈴羽「なんとかしてロシアの実験を暴き、それを阻止するDメールをゴリバチョフあたりに送った、とか」

ダル「まあ、その時代だったらメールじゃなくて、1968年から始まったポケベルか、1958年に始まったベルボーイ的な何かかな」

545: 2016/06/28(火) 21:44:55.18 ID:IIE/t+FOo

倫子「で、でもそれなら、改変を選択する時点まで私の意識は向こうの世界線に残るはずだよ」

鈴羽「選択の観測問題、だったっけ」

倫子「この世界線へとリーディングシュタイナーで移動してくるのは、そのDメールを送った私にならないとおかしい」

倫子「今まで、未来の私が過去改変したせいでリーディングシュタイナーを発動させたことはないよ」

鈴羽「あるいは、リンリンはただのリーディングシュタイナーモルモットとして実験に使われただけで、実際の過去改変の選択は未来の米軍によるものだったりしてね」

倫子「うっ、それならまあ、ありうるのか……。天王寺さんを抱きしめただけで綯が変化したことも、まゆりが私をかばっただけで世界線が変動したこともあったし……」

ダル「α世界線からβ世界線に移動してきた時もそうっしょ? 要はあれ、未来のSERNに過去改変させないような選択をした、ってわけなんだから」

倫子「未来での過去改変を操作するだけでも、それが世界線の確定事項に刃向う選択なら、世界線は変動するのか……」

546: 2016/06/28(火) 21:46:48.22 ID:IIE/t+FOo

鈴羽「他に考えられるとすれば……リンリンの行動は実はまったく関係なかった可能性、とか?」

鈴羽「例えば、牧瀬紅莉栖、橋田至、そして、そっちの世界線のあたしがちょうどそのタイミングでDメールを送った」

鈴羽「ソ連に拉致された3人は、ゴリバチョフにもたらされたDメールを発見して、電話レンジを作り直して打消しDメールを送った」

倫子「そ、そっか。連絡が取れなかっただけで、あいつら、頑張ってたんだ……」ウルッ

鈴羽「当たり前だよ。なんて言ったって、このあたしと父さんなんだからね!」

ダル「お、おう。たとえオカリンと離れ離れになったって、ずっと相棒に決まってんじゃん」

倫子「うん……ありがとう、ふたりとも……」ダキッ

ダル「オウフ……」

鈴羽「ちょ、父さんのほうが接触面積が広い! ずるい!」

まゆり「仲がいいことはいいことなのです」エヘヘヘヘヘ

ダル「(まゆ氏、目が笑ってないな……)」

547: 2016/06/28(火) 21:49:45.06 ID:IIE/t+FOo

鈴羽「ねえ、リンリン。第3次世界大戦は、確実にあたしたちの元に忍び寄ってきている」

鈴羽「それだけじゃなく、連中が実験を続ければ、取り返しのつかないほどの世界線変動が起きてしまうかもしれない」

鈴羽「シュタインズゲートへと続く道が、永遠に閉ざされてしまうかもしれない」

鈴羽「今すぐタイムマシンに乗って、2度目の牧瀬紅莉栖救出に向かうべきだよ」

倫子「あっ……」ビクッ

まゆり「そんなっ!」ヒシッ

鈴羽「またいつ椎名まゆりが氏んでる世界線へと移動するかもわからない。もう一刻の猶予も無いんだ」

倫子「わ、わかってる……わかってる、けど……」プルプル

ダル「ちょ、タンマタンマ。鈴羽、今オカリンはこっちに来たばっかで精神的に参ってるんだから、もうちょっと落ち着いてからその話しようず」

鈴羽「あっ……ごめん。でも……」

倫子「う、ううん……私こそ、ごめん……」シュン

まゆり「オカリン……」ダキッ

548: 2016/06/28(火) 21:50:52.24 ID:IIE/t+FOo

倫子「えっと、こっちの世界線での状況を教えて。私、12月24日以降の記憶が無いから」

ダル「んとね、クリスマスパーティーの時、オカリンとフブキ氏が倒れて――」

倫子「フブキが倒れた?」

まゆり「うん。フブキちゃん、まだね、入院してるんだ……」

倫子「そういう風に再構成されたのか……。でも、もう1か月も経ってるよ?」

まゆり「本人は大丈夫だって言ってるんだけど、ちっとも退院させてもらえないんだって」

鈴羽「これの疑いが晴れないらしいね」スッ

倫子「雑誌……『新型脳炎』? "海外ではすでに100名近くの発症者が見つかっている"……」

549: 2016/06/28(火) 21:51:53.95 ID:IIE/t+FOo

―――――

『研究でわかったのは、リーディングシュタイナーは新型脳炎のようなものだった、ということ』

『脳に異常があることで発生する記憶喪失症状……それがリーディングシュタイナー』

『リーディングシュタイナー患者の脳を研究することで、人工的にリーディングシュタイナー脳を作る技術をSERNは開発した』

『実際、世界の技術を独占したSERN内でもうちの大学の研究成果は大いに役立つことになった。ディストピア化のためのリーディングシュタイナー研究にね』

『10%程度の修復力を持った個体が100個体あれば、擬似的に100%近い性能のリーディングシュタイナーを得ることはできなくもない』

―――――

550: 2016/06/28(火) 21:54:21.81 ID:IIE/t+FOo

倫子「そうだった、下山とのやりとりで……フブキにも、リーディングシュタイナーが発現していたんだ……」ゾワワッ

倫子「まゆりっ! その、フブキの居る病院って!?」ガシッ

まゆり「え、ええっ!? 御茶ノ水医科大学病院だよぅ!」ユサユサ

倫子「そっか……ここから近い病院でよかった」ホッ

倫子「いや、でも心配だ。1ヶ月以上も検査入院なんて、やっぱり、どこからかリーディングシュタイナーが狙われてるとしか思えない」

倫子「最悪、フブキがモルモットに……っ」グッ

まゆり「フブキちゃんがモルモットさんに?」キョトン

鈴羽「……人体実験されるってことだよ。頭を開けて、電極を刺して、脳に電気を流すんだ」

まゆり「え……じょ、冗談、だよね……?」プルプル

鈴羽「冗談で済めば良いけど、世界線はそれを許してくれないだろうね」

倫子「くそっ……っ! まゆり、今すぐフブキに会いに行こうっ!」ダッ

まゆり「わっ!? 待ってよ、オカリ~ン」トテトテ



鈴羽「…………」

551: 2016/06/28(火) 21:56:05.21 ID:IIE/t+FOo
午後8時前
御茶ノ水医科大学病院 A棟10階 共用個室 廊下


倫子「(やばい、面会時間ギリギリだ……)」スタ スタ

由季「フブキちゃん、きっとオカリンさんの顔みたら、元気出してくれますよ」

カエデ「なかなかオカリンさんがお見舞いに来てくれないから寂しがってたんですよ?」

倫子「(この世界線の私は何をやってたんだ!)」スタ スタ

倫子「(今頃フブキは、"書記長病"とかって診断されてたりするのかな……)」ガララッ



共同個室内


フブキ「うぐうっ……はうぅぅっ……」


倫子「泣き声……!? フブキっ!?」ダッ


シャーッ(※カーテンを開ける音)

552: 2016/06/28(火) 21:56:52.93 ID:IIE/t+FOo

フブキ「ふぎゅぇっ!?」ウルッ

倫子「泣いてたの!? まさか、記憶が混乱してっ!?」ガシッ

フブキ「オ、オカリンさんっ……///」ドキドキ

カエデ「……フブキちゃん、テレビのドラマ見て、感動してたのね」

倫子「……は?」

フブキ「う、うん。……えへへ」

倫子「…………」

フブキ「…………」ギュッ

倫子「ちょ!? おま、離れろっ!」グイグイ

フブキ「私のこと心配して抱きしめてくれるオカリンさん、チョーカワイイッ!!」ギューッ

カエデ「あらあら」

由季「うふふ」

まゆり「オカリーン……」ジッ

倫子「見てないで助けてってばぁ! うわぁん!」

553: 2016/06/28(火) 21:58:54.93 ID:IIE/t+FOo

倫子「それで、具合は?」

フブキ「全然平気! なんで退院できないのか、ほんと分かんないよ」

倫子「(それは実験台として確保するため……なんとかしなくちゃ、でもどうすれば……)」

フブキ「オカリンさんは、その……大丈夫なの?」

倫子「うん。私はこの通りなんともないよ」

フブキ「……そっか。良かったぁ」ウルッ

倫子「ちょ、どうしたの? また嘘泣き?」オロオロ

フブキ「さっきも嘘泣きじゃないけどさ、なんだか、オカリンさんが遠くに行っちゃって、もう会えないような気がしてたから……」グスッ

倫子「(もしかして、ソ連世界線での記憶が……?)」

カエデ「はわわっ、フブキちゃんの好きな人って、オカリンさんだったのねーっ!」

フブキ「は……はぁーっ!?」

カエデ「でも駄目よそれはっ! だって、オカリンさんには好きな人がっ!」クネクネ

まゆり「え、えっ!?」

フブキ「ち、違うってばっ! そりゃオカリンさんと一晩一緒に過ごしたいなーとか考えて夜な夜な……てたけど、マユシィからオカリンさんを奪ったりしないってばっ!」

倫子「おまっ!?」

由季「病院ではお静かにっ!」

554: 2016/06/28(火) 22:03:37.63 ID:IIE/t+FOo

倫子「(絶対わざとだろカエデさん……)」ビクビク

フブキ「そうじゃなくて、ちょっとリアルな夢をね。あんまり詳しくは覚えてないんだけど……」

フブキ「私とオカリンさんと由季さんが、怖い人に車に乗せられて、どこかへ連れて行かれる夢を見ちゃったんだ……」ウルッ

カエデ「また、夢なんだね。やっぱり心配だよ」

倫子「……怖かったね。よしよし」ナデナデ

カエデ「オ――――」

倫子「もう何言われても、フブキの心配をするからね、私はっ」ムスッ

フブキ「あ、ありがとう、オカリンさんっ」モジモジ

カエデ「強くなったわね、倫子ちゃん……」

倫子「ちゃん付けはやめてください……」

まゆり「オカリン、大人になったねぇ」ニコニコ

倫子「ごめん、ちょっとフブキと2人きりにさせて。色々聞きたいことがあって」

まゆり「うん、わかってるよ。カエデちゃん、由季さん、行こう?」

カエデ「ふ――――」

由季「ほら、行くよ?」ガシッ

カエデ「むむむ……」ズルズル

555: 2016/06/28(火) 22:06:01.61 ID:IIE/t+FOo

倫子「それで、確認なんだけど……沖縄に行く夢じゃなかった?」

フブキ「えっ? た、たぶん、そう」

倫子「雨が降る寒いクリスマスの秋葉原、ラボの前で外国人部隊が乱戦して、そんなところを自衛隊に助けられた」

フブキ「う、うん」

倫子「フブキとまゆりは知り合いじゃなかった。だってあいつは、何年も難病と闘っていて、そして……」

フブキ「……訃報が、届いた。なんでかとっても、悲しかった……」グスッ

倫子「1ヶ月かけて沖縄へ逃げのびて、そこで下山とかいう自衛隊の男と車に乗って、質問攻めにされた」

フブキ「……うん」プルプル

倫子「その世界では、ソ連とアメリカが戦争していた。ロシアじゃなく、ソ連が」

フブキ「……夢の中で、その下山って人が言ってた。オカリンさんも私と同じで、別の世界の記憶を持ってるんだって」

フブキ「ねえ!? 別の世界の記憶って、なんなの……!?」ヒシッ

倫子「(フブキの不安や不満、疑問を解消するためにも、教えておいたほうがいいな……)」

倫子「リーディングシュタイナー。仕組みについて、詳しく説明するとね――――」

556: 2016/06/28(火) 22:09:42.60 ID:IIE/t+FOo

・・・

倫子「――ってことなの」

フブキ「どうしてオカリンさんはそれを知ってるんですか?」

倫子「あっ、えっと……アメリカの大学で最先端の研究をしてる、ある天才から教えてもらったの」アセッ

フブキ「そうなんだ。私、どうしてそんな病気みたいな症状を……」

倫子「これには適性のある人と、そうじゃない人が居るらしいんだ」

倫子「(話によると、フブキはα世界線で様々な氏に方をしたまゆりの氏を、強烈な記憶として脳に刻み込み続けてきた)」

倫子「(親友の氏という強烈な記憶だ。リーディングシュタイナーは発動しやすいんだろう)」

倫子「(そのせいで脳がOR物質のバックアップデータをダウンロードしやすくなってしまったのかもしれない)」

倫子「(未来の紅莉栖が言ってた、リーディングシュタイナーの人工的な開発もこういう仕組みなのかな……)」

フブキ「それで私以外にもリーディングシュタイナーの人が詳しく検査されてるんだね……」

倫子「(……それがタイムマシンを兵器化するための人体実験に繋がることだ、ってのは言わないほうが良いよね。余計な不安と疑問を与えるだけ)」

倫子「でもね、これはいわゆる病気じゃない。むしろ、正常に作用する機能が強化されてるだけ、運動神経が高まるのと一緒だよ」

倫子「だから、安心して。ね?」

フブキ「うん……。オカリンさん、ありがとっ」ニコ

557: 2016/06/28(火) 22:11:20.84 ID:IIE/t+FOo

フブキ「お医者さんに話したほうがいい?」

倫子「まだ学会じゃ認められてない話らしいんだ(嘘だけど)」

倫子「だから、他の人にもあまり言わないでほしいな」

フブキ「うん、そうだね。私もうまく説明できないし……」

フブキ「でも、じゃあ私はずーっとここに居なきゃいけないんだね。ただのリーディングシュタイナーなのにーっ」ムスーッ

倫子「(そのリーディングシュタイナーのせいで縛られてるんだけどね。フブキを退院させるには、どうすれば……)」

倫子「(このままじゃ、フブキはモルモットに……っ)」グッ




??「……リンリン」コソッ

558: 2016/06/28(火) 22:13:26.79 ID:IIE/t+FOo

看護師「面会時間、おしまいですよー」

まゆり「フブキちゃん、今度はゆっくりできるように、早めに来るね」

フブキ「ああん、マユシィ、オカリンさん、行っちゃやだぁ~」ヒシッ

カエデ「ワガママ言っちゃだめでしょ、フブキちゃん?」

フブキ「オカリンさん、私と一緒に寝て~!」ダキッ

倫子「や、やめっ……ひぁっ!? ど、どこ触ってるっ!!」バシッ

フブキ「あぁん、叩かれちゃった~♪」

カエデ「おっOい、柔らかかった?」

フブキ「マシュマロですぜ、アニキ!」

倫子「お前らぁ……」ゴゴゴ

由季「私も倫子ちゃんに怒られたい……じゃなかった。ほら、もう行きましょ? じゃあね、フブキちゃん」

559: 2016/06/28(火) 22:14:08.68 ID:IIE/t+FOo

鈴羽【ちょっと2人だけで話がしたい。連絡を待ってる】

【何かあったの?】倫子

鈴羽【大丈夫だよ、リンリン。おかしなことは起きてない。ただ、直接会って話がしたい】

鈴羽【ラジ館屋上に来て】


倫子「どうしたんだろ、鈴羽……」

由季「橋田さんと喧嘩でもしたんでしょうか、心配です」

カエデ「まさか、オカリンさんに告白する気じゃ!? 禁断の4角関係!?」クネクネ

まゆり「カエデちゃん……」ジッ

560: 2016/06/28(火) 22:14:39.01 ID:IIE/t+FOo
ラジ館屋上


鈴羽「それで、中瀬克美の様子はどうだった?」

倫子「ちょうど良かった。私もそのことで鈴羽に相談したかったの」

倫子「たぶん、アメリカかロシアかわからないけど、この世界線でも脳炎患者を狙ってる組織があるのは間違いない」

倫子「そいつらに気付かれず、フブキたちを退院させる方法は――――」

鈴羽「リンリン、よく聞いて」

鈴羽「中瀬克美は犠牲にするべきだ」

倫子「……え?」

561: 2016/06/28(火) 22:15:50.07 ID:IIE/t+FOo

鈴羽「今日、病院の中まで尾行させてもらった。そこでリンリンが、中瀬克美にリーディングシュタイナーについて話したことも知ってる」

倫子「なっ!? ど、どうしてそんなことを!?」

鈴羽「リンリンの本音が知りたかったから、かな。あたしが聞いても、嘘を吐かれると思ったから」

倫子「……そんなに私のこと、信頼してなかったんだね」

鈴羽「世界線が変動したんだ。向こうの世界線で、人格が変わってしまった可能性がある」

倫子「そんな――」

鈴羽「実際に今日の夕方、リンリンは突然変わってしまったんだよ!?」

鈴羽「あたしはそれが……怖かったんだ……」グッ

倫子「鈴羽……」

562: 2016/06/28(火) 22:16:55.79 ID:IIE/t+FOo

鈴羽「もうリンリンは、あたしの知ってる未来の"リンリン"とは別人だね」

倫子「それって、どういう意味?」

鈴羽「椎名まゆりだけを救えればいい、なんて思っていない。γ世界線を経験したことで、中瀬克美までも救おうとしてる」

倫子「そ、それは、可能ならって話だし、目の前で経験しちゃったら誰だって――」

鈴羽「それだよ! 今のリンリンは、あたしたちとは別の経験の中に生きている」

鈴羽「リンリンはずっと過去改変をしたくないって言い続けてきたのに、向こうでは漆原るかの母親にDメールを送ろうとした」

倫子「だ、だってそれは、ラボも紅莉栖も昔のままでっ!」

鈴羽「牧瀬紅莉栖の生きている世界線をもう一度捨ててここに戻って来たのに、今度は椎名まゆりだけを守ろうとしていない」

倫子「私だって、好きで世界線を移動したわけじゃない! 気付いたら、巻き込まれててっ!」

鈴羽「もう、リンリンが何を考えてるか、あたしにはわからないんだ……」プルプル

倫子「鈴羽……」

鈴羽「あたしは、父さんの研究とリンリンを守るためにここにいる。リンリンをもう一度あの日に連れて行くためにここにいる」

倫子「…………」シュン

鈴羽「シュタインズゲートのためには、中瀬克美がモルモットになろうと、知ったことじゃないんだ」

倫子「っ!? そんな言い方っ!!」

鈴羽「それ以上しゃべるな、岡部倫子ッ!」ガチャッ

倫子「(拳銃を向けた……!?)」ビクッ!!

563: 2016/06/28(火) 22:18:22.97 ID:IIE/t+FOo

鈴羽「たとえ中瀬克美が脳を解剖されて無惨な氏に方をしたとしても、シュタインズゲートにさえ到達できれば再構成される。そうだろっ!?」

倫子「鈴羽、銃を、下ろして……」プルプル

鈴羽「岡部倫子には、ここでハッキリ宣言してほしい。椎名まゆり以外を守ろうとしないことを」

鈴羽「何かを守るためには何かを捨てなければならない。そのことはリンリンが一番よくわかってるはずだ」

鈴羽「リンリンは戦いの果てに椎名まゆりを選択した。それ以外を切り捨てた。そうだよね?」

倫子「それは……」

鈴羽「中瀬克美と同じ境遇の患者は、未来のモルモットは、世界中に何百人と居る。どうせ全員は助けられない」

鈴羽「動く時は、あたしと一緒に7月28日へ行く時だけだと約束しろ」

鈴羽「いや、もう、そんな時間も無い。取り返しがつかなくなる前に、一緒に過去へ行くんだ」

鈴羽「いつ第3次世界大戦が始まってもおかしくない。何十億もの人間が氏んじゃうんだ」

鈴羽「その中には、母さんだって……っ」ギリッ

鈴羽「お願いだよ……」プルプル

倫子「……それでも、私は……」

鈴羽「――このっ、わからずやっ!!」


BANG!!

564: 2016/06/28(火) 22:21:05.53 ID:IIE/t+FOo

倫子「っ!」ビクッ!!

倫子「(ホ、ホントに撃った!? あ、ああ……)」チョロロロロ

鈴羽「今のは脅し。次に流れるのは、尿じゃなく、血液だ」ガチャッ

倫子「や、やめ、やめて……だれか、たす、たすけ……」ガクガク

鈴羽「そうやってすぐ誰かに助けを求める。お前は、矛盾だらけだね」ギリッ

鈴羽「もう、"あたしのリンリン"は氏んだんだ……」グッ


ガチャッ タッ タッ タッ


ダル「鈴羽っ! オカリンっ! 何やってんだお!?」

倫子「ダ、ダルぅぅっ!!」ヒシッ

鈴羽「父さん……!? どうしてここに……」

565: 2016/06/28(火) 22:22:14.51 ID:IIE/t+FOo

ダル「まゆ氏と阿万音氏からメールがあったんだ。オカリンが鈴羽から呼ばれたって言うから、嫌な予感がして、捜してたんだお」

ダル「それから、差出人不明のメールがあった。この場所のマップのURLを送りつけられたんだ」

鈴羽「差出人不明? もしかして、Dメールか?」

ダル「いや、そしたらα世界線に変動しちゃうって。たぶんだけど、そのアドレスからして、阿万音氏の別ケータイだと思うお」

鈴羽「母さんが? なんでそんなことを……」

ダル「つか、鈴羽、その銃はなんなん? どうしてオカリンが怯えてるん?」

倫子「…………」プルプル

ダル「オカリン、ごめんな……。僕が鈴羽を見てなかったせいで……」


   『鈴羽が今後オカリンたちに危害を加えないよう、父親の僕がしっかり監督責任を果たすお』


ダル「なあ、鈴羽。僕たちの約束は、どうなったん?」

鈴羽「……父さんだって、本当は分かってるくせに」ギリッ

566: 2016/06/28(火) 22:23:48.70 ID:IIE/t+FOo

鈴羽「このままじゃ、なにもかも終わりなんだっ! シュタインズゲートに到達できない、第3次世界大戦も防げないっ!」

鈴羽「母さんだって、無惨に殺されちゃうんだッ!!」

ダル「だからってさ……オカリンを脅して無理やり過去へ連れて行ったとして、それでうまくいくわけ?」

鈴羽「そ、それは……」

ダル「僕もさ、タイムマシンや世界線のことを研究し始めて、色々わかってきたんだよね」

ダル「オカリンの言う通り、普通のやり方じゃ、何度やっても牧瀬氏の命を救うことなんて出来ないんじゃないかって」

ダル「世界線の因果律が自分の思うままに変えられるんなら、α世界線でまゆ氏の命だって救えたはずっしょ」

鈴羽「じゃあ、どうしたらいいって言うんだ!?」

ダル「どうすべきかを、僕らは研究してるわけっしょ」

ダル「大丈夫、僕に任せとけって。絶対になんとかしてみせる」

ダル「父さんのことも、オカリンのことも、信じてほしいのだぜ。銃、下ろしてくれるな?」

鈴羽「…………」

鈴羽「わかった……」スッ

567: 2016/06/28(火) 22:28:31.98 ID:IIE/t+FOo

ダル「ほら、母さん……じゃなかった、由季たん、でもなくて、えっと、阿万音氏から貰った手編みの手袋。ラボに忘れてたのだぜ」スッ

鈴羽「……あたし、どうしていいのか分かんない。分かんなくなっちゃった……」ウルッ

鈴羽「助けて、父さん……助けて……お願い……」グスッ

倫子「……ごめんね、鈴羽。私、乗れない……」プルプル

ダル「当たり前だお。まだ解法は見つかってないんだから、今オカリンが過去へ行っても意味無いって」

ダル「僕を信じて、待っててくれ。絶対に、答えを見つけてみせるから」

鈴羽「うん……うん……っ」ダキッ

倫子「ダルぅ……」ダキッ

ダル「全く、世話の焼ける娘と相棒だお」ナデナデ





ラジ館屋上 鉄扉裏


??「やっぱり……変わったね、おねーちゃん……」



To Daru-the-super-hacker@egweb.ne.jp
From sistersuzuha-daisuki@hardbank.ne.jp
件名:羨ま氏
美少女2人に泣きながら抱
き着かれるとか羨ましい!
橋田さんなんてダイエット
コーラの飲み過ぎで氏んじ
ゃえー!


ダル「オウフ……」

568: 2016/06/28(火) 22:32:09.32 ID:IIE/t+FOo
2010年1月22日土曜日午前中
東京電機大学 大教室


倫子「……はぁ。どうしてこんな日に限って臨時講義が。試験期間の直前だって言うのに」

ダル「前に自慢の車をおじゃんにして、精神的休養が必要だとか言って無駄に休講した日があったじゃん? その埋め合わせで補講日を利用したんだって」

ダル「まぁ、なんでも外国の偉い教授が話してくれるとか自慢してたから、オカリンの気分転換に丁度いいんじゃね?」

倫子「無駄にもったいぶっちゃって。井崎のやつ」ブツブツ


井崎「それじゃ、以前話した特別講師の、レスキネン教授に来てもらいました! どうぞー!」


倫子「レ、レスキネン教授!?」

ダル「うほっ、あの人が」


レスキネン「ハーイ。学生ノミナサン、コニチワー」

井崎「教授は脳科学が専門だ。なので、今日は今までの量子力学基礎から、少し"人間の意志と選択可能性"に踏み込んだ話をしてもらう」

レスキネン「ヨロシクゴザイマス」

真帆「教授、無理して日本語をしゃべらないで、翻訳AIをつけてください!」


コドモ…? チュウガクセイ…?


真帆「助手の比屋定真帆です、よろしく。先に言っときますけど、これでも成人してますので」イラッ


倫子「(真帆ちゃんまで……)」

569: 2016/06/28(火) 22:33:47.73 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「年の瀬に愛車を失ってしまった悲しきミスター・イザキ♂のために、責任の一旦である私が皆さんに授業をすることになりました」

井崎「そ、それは言わないでくださいぃ……」

真帆「いつでもいたずら心を忘れない教授には敬服します」

レスキネン「私の助手はいつも手厳しいんだ。HAHA!」


倫子「(真帆ちゃんに後で挨拶をしておこう。γ世界線では会わなかったから、私の主観ではもう1ヶ月ぶりだ)」


レスキネン「それでは早速始めようか」

レスキネン「皆さんはすでに重ね合わせ、エヴェレット・ホイーラーの多世界解釈については学んでいるね」

レスキネン「そしてそれについては、アインシュタインでさえも解を出すことができなかった」

レスキネン「今日は量子力学の黎明期に立ち戻って、この時代の哲学を君たちとともにひも解いてみようと思う」

真帆「配布した資料の3ページを開いてください」


倫子「(えっと……カント? ニーチェ? ハイデガー? あれ、ホントに哲学の話だ)」

570: 2016/06/28(火) 22:42:49.27 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「もし宇宙が収縮の元に決定するならば、人間の意志とはなんなのか」

レスキネン「我々は経験則として、自分の意志で世界が変えられることを知っているね」

レスキネン「だが、波動関数は収束する。多世界解釈ではそれは決定論になりうるし、コペンハーゲン解釈では収束を説明しきれない」

レスキネン「もし世界の過去から未来までが確定しているのならば、私たちの意志は無意味だ」

レスキネン「絶対者の意志も存在せず、神は氏んだ。ああ、世界はなんて虚無なんだろうか」

レスキネン「さて、こういった虚無のことを、ニーチェがなんと呼んだか、わかる人は居るかな?」チラッ


倫子「(うわ、目が合っちゃった)」

倫子「……えっと、ニヒリズム、ですか?」


レスキネン「さすがだね。正解したミス電大生に拍手を」


倫子「ちょっ!?」


パチパチパチ …


倫子「……///」カァァ

571: 2016/06/28(火) 22:43:40.24 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「正確に言えば、積極的ニヒリズムだね。全てが無価値であることを前向きに捉えるべし、と説いた」

レスキネン「彼は著書『悦ばしき知恵』の中で、世界は無限の解釈を包含する可能性を持つ、としている」

レスキネン「つまり、真なる世界、"本質"など存在しない。世界は、すべて遠近法的な相対的認識に過ぎない、ということだね」

レスキネン「この世界構造をどのように表現するか。『ツァラトゥストラはかく語りき』の中で、彼はそれを端的に述べている」

レスキネン「――『永劫回帰』、と」


倫子「永劫回帰……」

572: 2016/06/28(火) 22:47:26.58 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「命に絶対的な価値などなく、また、世界は永遠に、不可避的に同じことを繰り返す」

レスキネン「時間が無限であり、物質が有限であれば、物理法則からして、いずれ世界は全く同じ経験を繰り返す、と言うんだ」


倫子「(宇宙に始まりはあるが、終わりはない。無限)」

倫子「(星にもまた始まりはあるが、自らの力をもって滅びゆく。有限……)」


レスキネン「だけど、この理屈がおかしいことは、この教室に居る誰もが知ってるね?」

レスキネン「エントロピー増大の法則、あるいはカオス理論、あるいは量子力学の不確定性の問題から、全く同じ経験がもう一度発生することなどあり得ない」

レスキネン「……本当にあり得ない? 誰か、この否定を否定できる材料を持っている人は居るかな?」


ザワザワ …


倫子「(あ、あれ? 周りの視線が私に集まってる……)」

倫子「え、えっと……もし世界が、宇宙が複数存在すれば、否定を否定できるかと」


レスキネン「そう、多元宇宙論、マルチバース理論だね。宇宙の時間進行が1本線でないならば、永劫回帰は否定できなくなる」

レスキネン「実は私たちは、この講義を既に何十億回と繰り返しているのかもしれない」

レスキネン「あるいは、別の宇宙の私たちも同じ講義を受けているのかもしれない」


ザワザワ……

573: 2016/06/28(火) 22:48:40.50 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「これでは、私たちは一体なんのために生きているのか、という話になってしまうね」

レスキネン「だが、エリアーデの『永劫回帰の思想』によれば、これに似たような信仰は人類に多く存在する」

レスキネン「仏教的には諦観と言えるが、ニーチェはそれらを否定した」

レスキネン「彼は、"世界が何度めぐっても今この瞬間がかくあることを望む"、という強い意志を主張したんだ」

真帆「これが積極的、あるいは能動的と訳される意味ですね。『超人』とも言われます」

真帆「最終的にニヒリズムはナチズムを正当化することとなり、刹那的で、盲動的な暴力行為を煽ることになりました」

レスキネン「以後、ニーチェの論破困難な理論は、顧みられることが無くなってしまった」

574: 2016/06/28(火) 22:56:34.35 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「ハイデガーは形而上学の本質としてニヒリズムを捉えた」

レスキネン「彼は、人は自己の氏という確実な未来を認識することで初めて、時間を根源的に認識するのだと主張したんだったね」

真帆「人間は根源的に時間的存在だ、ということですね」

レスキネン「ここで言うところの時間は、決して数直線的なものでも定量的なものでもない……非常に主観的なものだ」

レスキネン「この時間認識が人間に根源的にあるからこそ、永劫回帰の思想もまた、根源的なものであると言えるわけだ」

レスキネン「認知症の人がまず忘れてしまうのはお金の価値だと良く言われているが、それより先に忘れてしまうのは"時間の感覚"なんだよ」

レスキネン「曜日、年齢、食事すべきタイミング……実は我々の持つ"時間の感覚"というのは、最も非動物的で、社会的かつ文化的だということがわかる」

レスキネン「氏への恐怖から時間を認識すると言うなら、時間の感覚を忘れるということは、氏への恐怖を和らげるための防衛本能なのかも知れないね」


倫子「(かつてタイムリープの中で時間の感覚が麻痺し、まゆりの氏に対する認識が崩壊したことがあった。時間の感覚は、忘れちゃダメだ……)」

575: 2016/06/28(火) 22:58:34.96 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「一方、アインシュタインは時間および空間の相対性を説き、エネルギーとしての時間E=mc^2を導いている」

レスキネン「量子論における最小時間、プランク時間も、私たちの良く知っている時間だ」

レスキネン「しかし、人間の時間認識は脳内で起こっている現象だし、そしてその認識は脳内の物理的、化学的反応によって発生しているはずだね」

真帆「アインシュタインは、『素敵な異性と一緒に1時間座っていても、1分間くらいにしか感じられない。これが相対性理論だ』とも説明したりしてますね」

レスキネン「"素敵な異性"に限定する必要は無いと思うけどね。"素敵な同性"でも構わないだろう?」

真帆「脱線してますよ、教授」

レスキネン「おっと。それで、君たちは脳の時間と宇宙の時間――両者の"時間"を結び付ける理論がどこかに存在する、とは思わないかな?」


倫子「(……世界線を移動すれば、因果律が再構成される。アトラクタフィールド理論なら、脳の時間認識と世界の時間進行を相対的に……)」ウーン


レスキネン「…………」チラッ

576: 2016/06/28(火) 23:03:04.64 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「ニーチェもハイデガーも、人間の意志は形而上に実在するとして論じている。これはカント哲学を端に発しているね」

レスキネン「動物的な意志ではなく、人間としての意志……やはりこれは、人が時間を認識できる高度な知的生命体だからこそ持ちえる、と言える」

レスキネン「意志とはすなわち、生への渇望であり、氏の自己認識だ。絶望が氏に至る病であるようにね」

真帆「キルケゴールですね。元ネタは新約聖書ですが、これはヘーゲルの理性主義を批判したものです」

レスキネン「日本の諺で言えば、『諦めたらそこで試合終了だよ』ということだね」

真帆「違うと思います」

レスキネン「さて、私たちの専攻は脳科学なわけだが、人間には自由意志など存在しない、という実験報告があったりするんだ」


ザワザワ …


レスキネン「脳に電気刺激を与え、腕を動かす実験でね。研究者が意図的に左右の腕を選択したというのに、被験者はそれが自分の意志によるものだと確信していたんだよ」


倫子「(つまり、洗脳されてたとしても、自分の行動は自分の意志によるものだと思ってしまう、ってことか……)」

577: 2016/06/28(火) 23:05:42.32 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「おそらく、心理学、社会心理学、神学、文化人類学や言語学などの立場からも、純粋な自由意志など存在できない、とする立場のほうが多いんじゃないかな」

レスキネン「もちろん、ここで言っているのは、自分が思ったように手足を動かせるから意志がある、というレベルの話じゃない」

レスキネン「なぜその選択をしたのか。そこにいくら合理的な理由を並べても、すべてを語りつくすことは不可能だろう」

真帆「実存主義では、人が選択を迫られる時、世界がいかに不条理であるかを認識させる、としています」


倫子「(なぜ選択をしたのか……なぜ、まゆりを。どんな説明をしても、言い訳にしかならない……)」


レスキネン「例えば、今日私がお昼にコンビニ弁当ではなくオデンカンを選んだとする。なぜ?」

レスキネン「私がオデンカンが好きだから? なら、どうして私はオデンカンが好きになったのか」

レスキネン「おいしいから? なら、なぜおいしいのか。アミノ酸含有量? または、アメリカには無い風味だから?」

レスキネン「あるいは、財布の事情かも知れないね。もしくは、オデンカンという商品の販売戦略に原因があるのかも」

レスキネン「日本経済? それとも政治? 歴史の必然……ここまで来ると、さすがにバカバカしい!」

真帆「教授!」

レスキネン「Oh! 学生の前だと、つい楽しくなってしまっていけない」ハハ

578: 2016/06/28(火) 23:06:46.29 ID:IIE/t+FOo

レスキネン「仮にすべての選択に完全な理屈が存在したなら、それはもはや人間ではなく機械だ」

レスキネン「どんな思考も因果律の制約から逃れることはできないとするなら、世界は究極的に決定論である、という論の補強になってしまうだろうね」

レスキネン「過去から未来は、もしかしたら既に確定しているのかもしれない。我々は決められたサーキットの上をぐるぐると巡り続けているのかもしれない」

レスキネン「そのことに気付いてしまったら……それはきっと、狂気となって我々に降りかかるだろう」


倫子「(……いや、それはOR理論によって否定される。意志によって世界線を変えることはできる……)」


レスキネン「みんな、困った顔をしているね。そう、自由意志の自明性を標榜する私たちにとって、これは困る」

レスキネン「方法としては2つ。"強い意志"を以って永劫回帰を受け入れるか、あるいは、未知の理論を導出するか」

レスキネン「ミス電大生は、どっちが好みかな?」


倫子「ふぇ!? え、えっと……わかりません……」タジッ


レスキネン「…………。少し意地悪な質問をしてしまったね、許してくれたまえ」

レスキネン「すべては、この中に居るかもしれない、未来の研究者の手にかかっている、というわけさ――――」

579: 2016/06/28(火) 23:07:57.11 ID:IIE/t+FOo
同日午後
大檜山ビル屋上


倫子「…………」

倫子「(結局、真帆ちゃんには挨拶ができなかった。レスキネン教授の講義が、あまりに衝撃的だったからだ)」

倫子「(永劫回帰――同じ時間を何度も繰り返す。まるで私の世界線漂流そのものじゃないか)」

倫子「(紅莉栖も、フブキも、そして第3次世界大戦も見捨てて、永劫回帰を受け入れる……そんなことが、私にできるのだろうか)」

倫子「(無限に存在する、β世界線の可能性世界線に居る私も、同じように苦しむことが確定しているんだとしたら……)」

倫子「(あるいは、強い意志によって新しい世界線を見つけることが――)」


   『あいつは、自らを神格化してこう名乗ってたらしい――――"鳳凰院凶真"、ってね』


倫子「(……"怪物と闘う者はその過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ"、とはよく言ったもんだな)」

倫子「(世界の陰謀と戦い続けた結果がγ世界線だ。γの私はこの私と違って、あんな状況でもまゆりのために戦い続けていたんだから)」



倫子「まゆり……」

580: 2016/06/28(火) 23:10:38.30 ID:IIE/t+FOo

まゆり「オ~カ~リンっ。こんなところで寝そべって、風邪引いちゃうよ~?」

倫子「まゆり……。私、どうしたらいいのかな……」

まゆり「どうするって、なにが~?」

倫子「……どうしても守りたいものが2つあって、でも、どっちかを諦めなくちゃならなくて」

倫子「結局、1つを諦めて、もう1つを必氏に守ることにしたんだけど」

倫子「そしたら今度は、多くのものを犠牲にしなくちゃならなくなって……」

まゆり「……その、多くのものって言うのは、大切なものなの?」

倫子「ううん、その2つと比べるとね、大切なものじゃないと思う。だけど、他の誰かにとっては大切なもの」

倫子「(そこには数十億もの鼓動の数がある。でも、私にとっては小さな星の瞬きに過ぎない……)」

まゆり「そっか~。難しいお話だねぇ」

倫子「うん……」

581: 2016/06/28(火) 23:17:00.11 ID:IIE/t+FOo

まゆり「でもね、まゆしぃはオカリンの人質だから、守ってくれなくていいからね?」

倫子「まゆり……?」

まゆり「わははーって、人体実験の生贄にしてくれるんだよね~っ♪」ダキッ

倫子「ふふっ。またそんな昔の話を……って、まゆり、重い重いっ!」

まゆり「まゆしぃは重くないよー?」ムスッ

倫子「いや、仰向けに寝てる上から抱き着かないでってば!」ジタバタ

まゆり「ね、オカリン。仰向けになったまま、こうやってね、お空に手を伸ばしてみて?」スッ

倫子「……星屑との握手<スターダスト・シェイクハンド>、だね」スッ

まゆり「何がつかめたかな?」

倫子「……うん、つかめたかも」ギュッ

倫子「(……私は本当に大切なものを見失うところだった)」

倫子「(まゆりは私の半身。過去から続く、私の存在証明)」

倫子「(まゆりとの日常を守ろう。私の世界を守ろう)」

倫子「(過去に囚われても、未来を嘆いても、それは必然だったんだ)」

倫子「(――それが私の選択だったんだ)」

倫子「(……フブキ、ごめんね)」ウルッ

倫子「(フブキは救えないかもしれないけど、私がリーディングシュタイナーを科学的に実証すれば、似た境遇の人を減らせるかもしれない)」

倫子「(ヴィクコンに行こう。"紅莉栖"に英語と脳科学を教えてもらおう)」

倫子「(脳科学を研究して、リーディングシュタイナーの濫用を防がないと……!)」

まゆり「ねえ、もうラボに行こうよ。身体冷やしたらダメなんだよ~?」

倫子「うん、わかってる。今行くよ」ニコ

582: 2016/06/28(火) 23:17:56.79 ID:IIE/t+FOo
2011年1月23日日曜日 昼間
未来ガジェット研究所


真帆【せっかくの日曜日だし、アキハバラを案内してくれないかしら】

倫子「(突然真帆ちゃんからRINEが入った。そういや前にそんな約束してたっけ)」

真帆【昨日はごめんなさい。教授に引っ張り回されて、ろくに挨拶もできなかった】

倫子「(昨日、挨拶をしそびれたから、一度会ってちゃんと話しておきたいけど……)」

真帆【それで、もうすぐ日本を離れることになったから、それまでにアキハバラを回ってみたくて】

倫子「(もしかして、紅莉栖の最期の場所を見に……?)」


prrrr prrrr ピッ


Ama紅莉栖『それで、どうするの?』

倫子「ふぇっ!? も、もうっ! RINEいじってる時に電話かけてこないでよっ!」ドキドキ

Ama紅莉栖『さすがにそこまではこっちからわかりようがないわよ。というか、真帆先輩の東京観光に付き合ってあげてほしいわけだが』

Ama紅莉栖『あんたの試験勉強を見てあげたのはどこの誰かしら? A評価はもう間違いなしなんだから、ゆっくり羽を伸ばしてきなさいよ』

倫子「わ、わかったよ……」

583: 2016/06/28(火) 23:18:46.41 ID:IIE/t+FOo

Ama紅莉栖『よろしいっ』

キラーン

倫子「……あれ? "紅莉栖"、そのスプーン……」

Ama紅莉栖『え? ああ、特に使い道が無いから、この寂しい空間に飾ってるの。って、前にも言ったでしょ?』

倫子「(そっか、この世界線の"私"が"紅莉栖"にクリスマスプレゼントをあげてたんだ……)」


   『できもしない約束を、なぜ誓った?』


倫子「(γ世界線への変動で忘れてたけど、一応、約束は守れてるみたいでよかった)」

倫子「(ちょっと寂しいけど……)」


ppp


倫子「ん? ダルからもRINEが?」

584: 2016/06/28(火) 23:19:47.68 ID:IIE/t+FOo
メイクイーン+ニャン2


倫子「(ダルに呼び出されてメイクイーンに来た。せっかくなので萌えの本場に真帆ちゃんを連れてくることにした)」

由季「お帰りニャさいませ、お嬢様♪」

倫子「(この人、もう4回生の1月のはずだけど、就職の話を全く聞かないなぁ。まさか、このままここで……!?)」

倫子「(い、いや、それもダル的にはアリなのか? 鈴羽誕生のための就職、じゃなかった、収束なのか?)」ウーン

真帆「お、お帰りニャさいませ?」

フェイリス「お帰りニャさいませ♪ 凶真――じゃなくてオカリン♪」

ご主人様A「なぬっ!? 鳳凰院凶真ktkr!?」

ご主人様B「倫子たーんっ! お帰りニャさいませぇっ!」

倫子「ええい、うるさいうるさいっ!! その名前で呼ぶなぁっ!! うわぁん!!」

真帆「な、なんなの、ここ……」

フェイリス「ウニャッ!? 凶――オカリンが残念系女の子を連れてるニャ!?」

フェイリス「も、もしかして、2代目鳳凰院凶真の襲名披露式をっ!? みんニャー!! 円卓会議の準備だニャー!!」

倫子「話を聞いてっ!!」

585: 2016/06/28(火) 23:21:45.21 ID:IIE/t+FOo

倫子「確かにこの人はサイエンティストではあるけど」

倫子「去年優勝したアメリカの野球チームのレプリカユニフォームの紛い物Tシャツにフリースベストと、サイズの全く合っていないブカブカのパーカー、それに子供向けのデニムスカート……これじゃマッドっていうよりギークだよ」

真帆「総額780円よ。完璧でしょ」ドヤッ

フェイリス「お嬢様、お名前は?」

真帆「比屋定真帆よ」

フェイリス「ひやじょうまほ……というと、沖縄のお嬢様かニャ? "真帆"って名前は沖縄で縁起のいい名前なんだニャ」

真帆「え、ええ。沖縄には伝統的に名前に"真"をつける習慣があるの」

真帆「海を渡るための"帆"が立派である、という意味で、順風満帆な人生を意味しているのだけど」

倫子「へえ、詳しいんだね」

フェイリス「当然ニャ! フェイリスは3世代前の前世で、琉球王国の彼方にある神の世界ニライカナイを守護する精霊だったんだニャ!」

真帆「……えっと?」キョトン

倫子「いや、そんなつぶらな瞳で私を見つめられても……」

586: 2016/06/28(火) 23:23:11.69 ID:IIE/t+FOo

倫子「ねえ、フェイリス、由季さん。この人にアキバのイロハを教えてあげてて? 私はちょっとダルと話してくるから」

フェイリス「そういうことなら任せるニャン!」

由季「橋田さんはあっちの席で待ってますニャン♪」

真帆「橋田さん? ……あっ」

倫子「真帆ちゃん? どうしたの?」

真帆「え、いや!? なんでもないわ!?」アセッ

倫子「(あれ、いつものツッコミが無かった?)」

フェイリス「それじゃあ、まほニャン? お席へ案内するニャ♪」

真帆「ま、まほニャン?」

フェイリス「まほグァーのほうが良かったニャン?」

真帆「い、いえ、どっちもよろしくないのだけれど……」

587: 2016/06/28(火) 23:24:20.32 ID:IIE/t+FOo

ダル「あっちに居るの、前に学園祭であった合法口リの真帆たんだっけ? 倫子たん」

倫子「その呼び方は私に効く……」

倫子「(……あれ? ダルに真帆ちゃんのこと、名前まで紹介してたっけ? それに合法って……)」

ダル「つか、ホント女の子にモテるよな、オカリンって」

倫子「う、うるさいな。お前はとっとと由季さんと"らぶchu☆chu!"してよね、心配で身が持たないんだから」プイッ

ダル「オ、オカリン! 本人の居る場で、それはさすがにセクハラだお! 訴えるお!」

倫子「真帆ちゃんみたいなことを言わないでってば。それで、話って何?」

ダル「納得いかねえ……えっと、実はさ、話は2つあって――――」

588: 2016/06/28(火) 23:26:52.23 ID:IIE/t+FOo

倫子「まゆりの娘、椎名かがりを探してほしい?」

ダル「あんまり驚かんのな」

倫子「えっと、例のアレだよ。超能力」

ダル「エスパー少年の知り合いのおかげで未来視ができるようになったんだったっけ。でも、万能じゃないんしょ?」

倫子「アトラクタフィールドで共通の事象なら意味があると思うけど、1本の世界線だけの収束事項は視えたところであんまり意味が無いからね……」

倫子「話としては、鈴羽がかがりを探してるから、父親のダルが手伝ってる、ってことか。うん、さすがお父さんだ」

ダル「お、おう。なんだか照れるのだぜ」

ダル「前から聞いては居たんだけどさ、どうも2人で捜すのは限界があって」

ダル「一昨日のあの後さ、鈴羽と色々話し合って、オカリンに話してもいいって言ってくれたから」

倫子「鈴羽の力になれるなら、私は……うん、協力したい」

ダル「㌧。もしその子から未来のことを教えてもらえれば、世界線研究にも役立つと思うし」

ダル「ということでオカリン。それとなくまゆ氏に聞いておいてくれるかな。10年ちょい前、自分と同じくらいの子が会いに来なかったか、とか」

倫子「あの頃、まゆりの友達は全員把握してたから、たぶんそんな子は居なかったと思うけど……」

倫子「私の記憶とこの世界線の過去が違う可能性もあるか。うん、わかった」

589: 2016/06/28(火) 23:27:36.13 ID:IIE/t+FOo

倫子「それで、2つ目ってのは?」

ダル「……うん。これ、オカリンに聞いていいもんか迷ったんだけど」

倫子「んん? HENTAI以外だったら聞いていいよ?」

ダル「う、ん……あのさ、牧瀬氏の話しても、もう大丈夫?」

倫子「……大丈夫だよ。メンタルクリニックにはちゃんと通ってるし、薬も飲んでる。かえって気を使われるほうがつらいよ」

ダル「そっか。わかった」ポチポチ ピロリン♪

倫子「(ん、RINE……?)」

ダル【ここからちょっと秘密のバイト先の話になるんだ。だからこれでおk?】

倫子「……誰も盗み聞きしてないと思うけど、必要?」

ダル【阿万音氏やフェイリスたんにも聞かせられない話なんだよねぇ】

倫子「…………」

【わかった。それで?】倫子

ダル【牧瀬氏のノートPCとポータブルハードディスクの暗号のヒントが欲しいんだ】

590: 2016/06/28(火) 23:30:59.74 ID:IIE/t+FOo

倫子「く、紅莉栖のっ!?」ガタッ

ダル「しーっ!!」

ダル【バイト先に持ち込まれてさ。クライアントには悪いと思ったけど調べさせてもらったら、元の所有者が牧瀬紅莉栖氏だったわけ】


   『岡部さん、ちょっと聞きたいんだけど、紅莉栖が好きな言葉って、なにか知ってる?』


倫子「(あれ、どうして真帆ちゃんの言葉が……これって、デジャヴ……?)」チラッ


フェイリス「ああっ、まほニャンっ。お口からハチミツが垂れちゃうニャッ」

真帆「はうっ……」

由季「もう、赤ちゃんみたいですニャン」フキフキ

真帆「べ、別にシャツが汚れても気にしないわ! ちょっと、胸を触らないで!」ジタバタ

由季「だめですニャン。女の子なんだから、いつも清潔にしてなきゃ」フキフキ

真帆「別に少し汚れたっていいわよ! 触らないでって言ってるでしょ!」グイッ

由季「ハァ、ハァ……」ドキドキ

フェイリス「まほニャンの"残念な娘"感、なんだかデジャヴ……」チラッ


倫子「……な、なに? なんで私を見るの?」


フェイリス「まほニャン、ちょっと猫の鳴きまねしてみてくれないかニャ? そしたらドリンクをサービスするニャ!」

真帆「へ? ……"meow"」

フェイリス「やっぱり!! ウチでバイトしてみないかニャ! きっと人気者になれると思うニャ! マホリン・ニャンニャンだニャ!」ヒシッ

ご主人様A「残念口リっ娘属性ktkr!! 本場の発音がかわいすぐる!!」

ご主人様B「半年もの間、全裸待機してきた甲斐があったのだぜ……!」

真帆「お断りします」

591: 2016/06/28(火) 23:32:26.04 ID:IIE/t+FOo

ダル【たぶん、中には牧瀬氏の日記とかあるんじゃねーかなって思っててさ。そこから7月28日のこと、詳しくわからないかなって考えてる】

ダル【シュタインズゲートへ辿り着くためのヒントがあるんじゃないかって】

倫子「……ダル、ごめん。パスワード、すぐには思いつかないよ」

ダル「うん、了解。今度でいいお」

倫子「なんか、久しぶりにメイクイーンに来たら、つい一昨日まで戦中の世界線に居たことがすっかり吹き飛んじゃった」

ダル「そのほうがいいお。いつまでも嫌な記憶を引きずってても仕方ないし、早くこの世界線のオカリンに慣れてほしいのだぜ」

倫子「うん。それじゃ、またね。真帆ちゃん、次は電気街に?」

真帆「ええ。電脳の街と呼ばれる所以を肌身に感じてみたいわ。あとちゃん付け」

フェイリス「ニャニャ、まほニャンは電気街としての秋葉原も大好きなタイプかニャ? フェイリスたちの聖域を、たっぷり堪能していってほしいのニャ!」キラキラ

真帆「は、はあ」

592: 2016/06/28(火) 23:37:58.83 ID:IIE/t+FOo
秋葉原テレビセンター


真帆「こ、これは……まさに"Paradise"……!」キラキラ

倫子「ああいうパーツとか好きなんだね。意外」

Ama紅莉栖『真帆先輩は、実はああいう人なのよ』

真帆「パーツというか、組み立てる物が好きなのよね。子どもの頃は日本製の"Plastic model"をよく作ったわ」

倫子「ガンバムのやつとか?」

真帆「それのアニメも結構見てたわ。フランクな日本語に触れられる貴重な機会だったし」

倫子「へえ、私と同じだ。今度ガンヴァレルっていうロボットアニメが再来年から放送することが決定したらしいけど、海外で先行放送だっていうから、見たら感想聞かせて」

真帆「ええ、わかったわ」

593: 2016/06/28(火) 23:39:19.53 ID:IIE/t+FOo
中央通り


真帆「あ、あそこのゲームセンター……」

倫子「ん? ……それは、クレーンゲーム?」

倫子「(中に入ってるのはギコ猫とかモナーのぬいぐるみだ。もしかして真帆ちゃんも紅莉栖の影響でネラーに……?)」

倫子「……ぬるぽ」

Ama紅莉栖『( ・∀・) ガッ V`Д´)/ ←>>1』

真帆「……えっ?」

Ama紅莉栖『…………///』テレッ

倫子「(こいつ、わざわざAAまで画面に表示させやがった……!)」

倫子「……えっと、そのぬいぐるみ、欲しいの?」

真帆「ええ――実はね、あのぬいぐるみ、アメリカの自宅で紅莉栖がベッドルームに置いていたのよ」

Ama紅莉栖『ちょっ、せ、先輩っ!?』アセッ

真帆「なぜか最初、私に隠していてね――」

594: 2016/06/28(火) 23:39:58.40 ID:IIE/t+FOo

―――――
紅莉栖の部屋


紅莉栖『何もない部屋ですけど、ゆっくりしていってください。今、コーヒー持ってきますね』

真帆『ねえ、ベッドの下に突っ込まれてたコレ、可愛いぬいぐるみね。なんのキャラクターなの?』

紅莉栖『え……どぅえええええっ!? な、なんでもないですっ! というか、勝手に人の部屋を詮索しないでくださいぃっ!』

真帆『ご、ごめんなさい。ついあなたのリアクションが見たくなって』

紅莉栖『先輩のいじわる……』

真帆『で、これ、なんのキャラクターなの?』

紅莉栖『そ、そんなことより先輩、コーヒー冷めちゃいますよ!』アセッ

―――――



倫子「("過去視"ってたまに便利だなぁ。なるほどね、そういうこと……)」

595: 2016/06/28(火) 23:40:57.42 ID:IIE/t+FOo

真帆「ちょっと挑戦してみるわ」チャリーン

真帆「えと? これ、どうやってプレイすればいいのかしら?」ガチャガチャ

倫子「もしかして初めてなの?」

Ama紅莉栖『真帆先輩はレースゲームしかやらないですもんね』

ウィーン ウィーン

真帆「……よし、できた。あとはアームが降りて勝手に掴んでくれるんでしょう? 簡単なものね」ドヤァ

倫子「(い、いや、その状態だとたぶん……)」

スカッ

真帆「な……なあっ!? なにこれ、アームの力なさすぎでしょ!?」クワッ

倫子「(なんつー顔をしてるの真帆ちゃん……)」

真帆「ぐぬぬ……もう1回、もう1回やるわ!」チャリーン

倫子「完全に店側の陰謀に嵌められてるなぁ……」

596: 2016/06/28(火) 23:42:05.00 ID:IIE/t+FOo

真帆「なんで!? どうしてなの!? どうして取れないのっ!?」ウガーッ

倫子「もう、やめといたほうが……」

真帆「黙っていて。私は、そのぬいぐるみを取るのよ」ウゴゴゴ

倫子「でも、その……下着を買うお金も惜しいんでしょ?」

真帆「下着なんて別にいいわ!」

倫子「(なんつーことを!)」

真帆「次こそは取るから! この100円に全てを賭けるっ!」チャリン

・・・

真帆「……むむぅ」ギロッ

倫子「(有り金があと300円になってしまったらしい)」

真帆「レースゲームやってくるわっ!」ズカ ズカ

倫子「ひとつのことを徹底的に突き詰めるのは、この先輩にしてあの後輩ありだったんだね」フフッ

Ama紅莉栖『ね、岡部。先輩の代わりに取ってあげて、ポイントを稼いだらどう?』

倫子「ポイントって……。まあ、確かに真帆ちゃんの助手にしてもらうためには必要か」

倫子「どれ、久しぶりに私もやってみよう」チャリン

597: 2016/06/28(火) 23:43:25.29 ID:IIE/t+FOo

倫子「と言って私が取れたらかっこよかったんだけど、そんなうまくいくはずも無く」ハァ

女性店員「お連れの方、ずいぶんとたくさんプレイをしていただきまして……」

倫子「え? あ、はい。結局取れなかったんですけど」

女性店員「少しぬいぐるみの位置を直しましょう。お姉さんも挑戦なさいますよね?」

倫子「(お、お姉さん? ……確かに黒髪くせっ毛で、似てるところもあるけど)」

倫子「はい、お姉さんです。妹のために頑張ります」キリッ

女性店員「これでどうでしょうか? それではがんばってください♪」

倫子「ほとんど穴に落ちかけてる……これなら私でも取れるでしょ」チャリン

ストンッ

倫子「よいしょっと。さて、真帆ちゃんは……まだレースゲームかな?」


女性店員「おめでとうございますッ! 当店のベストレコードですッ!」

倫子「う、うおっ!? 真帆ちゃんがギャラリーに囲まれてる!?」

真帆「…………」スゥーッ

倫子「(無の境地みたいな顔をしてる……ストレス発散できたみたいでよかった)」

598: 2016/06/28(火) 23:44:11.60 ID:IIE/t+FOo

倫子「優勝おめでとう。はいこれ、プレゼント」

真帆「え? これ……いいの?」

倫子「うん。もちろん」ニコ

真帆「ありがとう……」ギュッ

倫子「(こんな顔、初めて見るなぁ。幸せそうに抱きしめて、そんなに欲しかったんだ)」

真帆「紅莉栖が、その……氏んじゃったあとね、お母さんから形見を色々ともらったわ。けど、これはお母さん、自分のベッドルームに飾っていたのよ」

倫子「娘の形見……だったんだね」

真帆「だけど、紅莉栖の実家がね、ああいうことになって。……このぬいぐるみもたぶん燃えてしまったと思うの」

倫子「あっ……」

Ama紅莉栖『先輩……』

真帆「だから、アメリカのお母さんにプレゼントしていい?」

倫子「もちろん。喜んでもらえるなら、それが一番いいよ」

真帆「ありがとう」ニコ

倫子「真帆ちゃん……」ドキッ

真帆「真帆ちゃん言うなっ」

599: 2016/06/28(火) 23:45:22.07 ID:IIE/t+FOo

倫子「それじゃ、次はどこ行こっか」

真帆「……"紅莉栖"、悪いのだけれど、しばらく岡部さんとふたりきりにしてくれる?」

Ama紅莉栖『先輩……ついに自分の気持ちに素直になることにしたんですね……!』

倫子「またこのパターンか……」ハァ

真帆「まったくこの子は……」ハァ

Ama紅莉栖『頑張って! それじゃあ!』プツッ

真帆「それで、行きたい場所なら、もうひとつあるのだけれど」

倫子「……どこ?」

真帆「あそこよ。分かるでしょう?」

倫子「……ラジオ会館、だよね」

真帆「お願い、連れて行って」

倫子「…………」

600: 2016/06/28(火) 23:46:04.00 ID:IIE/t+FOo
ラジオ会館8階 従業員通路


倫子「(屋上には何度も来てるけど、ここに来るのはあの日以来だ……)」ゾワッ

真帆「平気? あなたは無理に来なくてもいいわ。ここにいて?」

倫子「(真帆ちゃんだってつらいはずなのに……)」

倫子「ううん。一緒に行くよ。その代わり……」

真帆「……ああ、はいはい。手を握っていれば少しは落ち着くんだったわね」ギュッ

倫子「ごめんね……」

601: 2016/06/28(火) 23:46:41.69 ID:IIE/t+FOo
倉庫


倫子「(ここに紅莉栖は血まみれで倒れていたはずなのに、跡形も無く普通の倉庫になっている)」

真帆「もどかしいわね。ここで紅莉栖が倒れていたというのに、今の私には何も手が出せない」

真帆「なぜ空間はこんなにも容易に移動できるのに、時間は不可能なのかしら」

倫子「(……不可能、とは言い切れないんだよ、真帆ちゃん。今だって、私たちの頭上には――)」

真帆「そういえば、あなた、この間、"Amadeus"に面白い質問をしたわよね。タイムマシンは作れるかどうかって」

倫子「う、うん……」

真帆「ぜひ研究してみて欲しいわ。真っ先に私が有人テストに名乗り出るから」

倫子「(……本当のことを言ったら、真帆ちゃん、怒るかな。どうして紅莉栖を助けに行かないのか、って)」

倫子「(それとも、私の代わりに過去へ行くって言い出すのかな……)」

602: 2016/06/28(火) 23:47:52.62 ID:IIE/t+FOo

倫子「(ここで章一が紅莉栖から奪った論文――『中鉢論文』が第3次世界大戦のきっかけとなった)」

倫子「(ロシアの特殊部隊に焼かれた紅莉栖の実家……それを捜査したニセのFBI……脳科学研に来たニセの地元警察と日本の刑事……)」

倫子「(それに、カトーとかいう襲撃者もきっと、世界大戦へ向けた諜報戦、タイムマシン争奪のために……ん?)」

倫子「(ま、待って……どうしてそれらの行為がタイムマシンと繋がるの? だって、論文は今ロシアの研究所にあるはず……いや、そうじゃない……)」プルプル


   『紅莉栖が、その……氏んじゃったあとね、お母さんから形見を色々ともらったわ』

   『クライアントには悪いと思ったけど調べさせてもらったらさ、元の所有者が牧瀬紅莉栖氏だったわけ』


倫子「――――あっ!!」

真帆「ど、どうしたの? やっぱり気分悪い?」

倫子「い、いや、そのっ……」プルプル

倫子「(そうだ、そうだよ……どうしてこんな簡単なことに気付かなかったんだ……!)」ガクガク

倫子「(――紅莉栖は"あの論文"をどうやって作成した?)」ゾワワッ

603: 2016/06/28(火) 23:50:31.72 ID:IIE/t+FOo

倫子「(まさかダルが言ってたクライアントが、真帆ちゃんだったなんて!)」

倫子「(そうか、真帆ちゃんが私に接触してきたのは、そのパスワードを解析するためのヒントを手に入れるために……っ!)」

倫子「ま、真帆ちゃんっ! 危険だよっ! 今すぐ――」

真帆「えっと、はい?」

倫子「(……だ、ダメだ。タイムマシン論文が入ったPCが世界から狙われてるから危ない、なんて、言ったところで信じて貰えるわけがない……っ!)」グッ

倫子「(そ、そうだ! ダルだ!)」

倫子「(今アレを持ってるのはダルなんだから、ダルにデータを、ううん、本体ごと木っ端みじんに破壊してもらえれば、真帆ちゃんがまた狙われることはない!)」

倫子「ごめん、ちょっと用事が出来た。悪いけど、今日はこれで。秋葉原駅は目の前だから分かるよね? それじゃっ!」ダッ

真帆「ええ!? ちょっと、どういうことか説明してっ!」



ラジオ会館外


倫子「…………」ハァ ハァ

倫子「(ダルのバイト先の場所、わかんないーっ!?)」ガーン

604: 2016/06/28(火) 23:51:24.47 ID:IIE/t+FOo
夜10時頃
秋葉原裏通り コスプレメディア@秋葉原店♪


『営業中だヨ! お気軽にどうぞ』

真帆「(ここで間違い……ないのよね?)」


ガチャ


真帆「(各種セーラー服、スクール水着、ネコ耳……なに、ここ……)」

ダル「おお、真帆たん。こっちこっち」

真帆「その"真帆たん"というの、やめてくれないかしら」

ダル「そうだよね、僕も最近似合わないと思い始めてたんだ――」

ダル「"まほニャン"のほうが絶対似合うし! フェイリスたんの"まほニャン"を聞いて今日確信した!」

ダル「それなら衣装はコレが似合うと思うんだよね! パンツじゃないから恥ずかしくないもん!」バッ

真帆「……ヘンタイ……」

ダル「我々の業界ではご褒美ですっ!」ハァハァ

真帆「いい加減にしないと、前頭葉をかっさばいて刺身にするわよ……」ゴゴゴ

ダル「正直すまんかった。まあ、こっち入って適当に座って」ガチャッ

605: 2016/06/28(火) 23:52:22.05 ID:IIE/t+FOo
Staff Only (ダルの隠れ家)


真帆「どこに座れと……少しは片付けたらどうなの」ハァ

ダル「いーのいーの。んで、オカリンはちゃんと置いてきた?」

真帆「オカリン? ああ、岡部さんのことね。大丈夫、ラジオ会館までは一緒だったけど」

ダル「オカリンにはさ、あんまり危ないこと、やってほしくないんだよね」

真帆「それで、結果は?」

ダル「前にも言ったけど、セキュリティが強固すぐる。さすが僕たちの作った暗号化ソフトだお」

真帆「いばらないで」


『ご主人様、お電話でぇ~す! ご主人様、お電話でぇ~す!』


真帆「な、何!?」ビクッ!!

ダル「インターフォンの呼び出し音だお。もしもし?」ガチャッ

ダル「……ん? んお? んあ? 了解、そのまま様子見てて」ガチャッ

ダル「監視カメラモニターは、っと……お、ホントにオカリンが来たっぽ」

真帆「嘘!? なんで岡部さんがここに!?」

606: 2016/06/28(火) 23:53:07.32 ID:IIE/t+FOo

ダル「オカリン、ついにコスプレに目覚めたか……まゆ氏のために、ひと肌脱ぐんだな……」ホロリ

真帆「た、たしかにコスプレしたら一躍人気になりそうだけれども!」

ダル「このまほニャン、ノリノリである」

真帆「だからまほニャン言うなっ!」

真帆「……ねえ、岡部さんの様子、おかしくない?」

ダル「んお? あ、ホントだ。なんだかフラフラして……あっ!? 倒れたっ!?」

真帆「え、ええっ!? どうしましょう!?」

ダル「んもう、助けるしかないっしょ! 真帆氏、廊下の突き当りに給湯室があるから、水と濡れタオル持ってきて!」ガチャッ

真帆「わ、わかったわ!」

607: 2016/06/28(火) 23:54:04.56 ID:IIE/t+FOo

・・・

倫子「ん……ここは……」クターッ

真帆「め、目が覚めたかしら」ドキドキ

倫子「あ、真帆ちゃ……えっ!? ど、どうして真帆ちゃんが膝枕を!?」ドキドキ

真帆「こ、この部屋が狭いから仕方なくよ! あと真帆ちゃん言うなぁっ!」ドキドキ

ダル「ん~、眼福ですなぁ」ホクホク

真帆「それよりあなた、どうして倒れたの!?」アセッ

倫子「……捜し回ったんだよ、ダルのバイト先を」

ダル「マ、マジで?」

608: 2016/06/28(火) 23:54:59.37 ID:IIE/t+FOo

倫子「私は秋葉原中を走り回った。日中から今まで、6時間以上」

ダル「うわぁ……」

倫子「電大のみんなや、電気店の知り合い、メイクイーンのご主人様たちにも聞いて、いくつもあるお前の隠れ家を手あたり次第に突撃したんだよ……」ハァ

ダル「僕の隠れ家を知ってる数少ない人間も、僕とオカリンの関係は知ってるから、オカリンに聞かれたら答えちゃうか」

倫子「っていうか、昼間からずっと電話してるのに出ないなんて、ひどいよ……」ウルッ

ダル「うぐっ、この罪悪感である……」

倫子「今すぐ紅莉栖のノートPCとHDDを破棄して。早くっ!」

真帆「ど、どうして?」

倫子「……あなたには関係ないよ、ずっとダルのことを隠してた比屋定真帆さん」プイッ

真帆「うぐっ、この罪悪感……」

609: 2016/06/28(火) 23:55:57.70 ID:IIE/t+FOo

真帆「というか、どうして私たちのことに気付いたの?」

倫子「簡単だよ。真帆ちゃんは"ダル"の話を聞いて"橋田さん"と言った」

ダル「なんだよ、真帆氏のせいじゃん」

倫子「ダルは真帆ちゃんを見て"合法口リ"と言った」

ダル「うぐっ、失敗したお……」

倫子「どっちも初対面でわかるはずのない情報だよ」

真帆「あなたに隠れてやり取りしてたのは謝るわ。でも、これはあなたに関係ないことよ」

倫子「関係なくないっ!! あなただって、先月襲われたでしょ!?」ウルッ

真帆「っ……」

倫子「私たち、命が狙われててもおかしくないんだよっ!?」ポロポロ

ダル「あぅ……」

610: 2016/06/28(火) 23:56:44.83 ID:IIE/t+FOo

真帆「……あなたが私たちのことを思ってくれてるのはわかる。でも、私は科学者として真実に辿り着く努力をやめたくないのよ」

真帆「紅莉栖だって同じことを言うと思うわ。たとえそこに、どんな危険が潜んでいるとしてもね」

倫子「でもっ、でもぉっ!!」ヒシッ

真帆「(うっ、かわいい……)」ドキッ

ダル「しゃあないなー。ちゃんと話したほうがいいんじゃね、オカリン」

倫子「ダルっ! 真帆ちゃんを巻き込めって言うのっ!?」

ダル「中途半端に関わってるほうがかえってアブナくね?」

倫子「そ、それは……」

真帆「もしあなたが私に隠してることがあるなら、教えてほしい。そしたら、私も隠し事はやめるわ」

倫子「…………」グッ

611: 2016/06/28(火) 23:58:04.15 ID:IIE/t+FOo

倫子「(いや、真帆ちゃんに真相を話す前にまず未来視だ。真帆ちゃんとダルが安全で居られるのかどうか)」

倫子「(たぶん、今が分岐点のような気がする。勘というか、なんとなくそれがわかる)」


prrrr prrrr


倫子「(く、"紅莉栖"?)」ドクン

倫子「(あ、あれ!? 何、この動悸は……走り回って疲れたからかな……)」ドクンドクン

倫子「(いや、この感じは違う……まさか、エレファントマウス!?)」ドクンドクンドクン

倫子「(……丁度いい。これを利用して、真帆ちゃんの脳の、できるだけ遠くの未来を――――)」


――シュィィィィィィィィィィィィィィン!!

612: 2016/06/29(水) 00:00:38.06 ID:QDCPWRsBo

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――――――――――――――――――――
―――――――――――
――――
――




倫子「もしもし? どうしたの、"紅莉栖"」

真帆「どうかしたの?」

Ama紅莉栖『真帆先輩っ! スマホの電源、切れてますよ!』

真帆「あ、ホント。ごめんなさい。それで?」

Ama紅莉栖『レスキネン教授からたった今聞いたんですが、和光市のオフィスが何者かに荒らされたって』

真帆「えっ?」

Ama紅莉栖『あと、真帆先輩の宿泊しているホテルからも連絡が来て、そっちも誰かに侵入されたみたいです』

真帆「なんですって!?」

倫子「(きっと奴らだ……。真帆ちゃんの持ってるノートPCとHDDを狙いに……)」グッ

倫子「"紅莉栖"、真帆ちゃんのことは私たちが守るから」

Ama紅莉栖『……ええ、お願い』ピッ

613: 2016/06/29(水) 00:01:10.22 ID:QDCPWRsBo

真帆「…………」ギリッ

倫子「懸念していたことが現実になったね……場所を変えたほうがいいかもしれない」

ダル「ここは安全だと思うけど」

倫子「私、ずっと秋葉原を走り回ってたから、目立ったかもしれない。敵に尾行されてたかも」

ダル「……わかったお」

倫子「ノートPCとHDDを持って、急いでここを出よう」

ダル「…………」コクッ

真帆「…………」コクッ

614: 2016/06/29(水) 00:01:43.02 ID:QDCPWRsBo
秋葉原 裏通り


黒いスーツの男A「"…………"」

黒いスーツの男B「"…………"」フルフル

黒いスーツの男C「"…………"」フルフル



物陰


倫子「間一髪、だったね……」ハァ ハァ

真帆「こんなの、まるで……映画の世界だわ。とても現実とは思えない……」プルプル

ダル「どうやってあの店の情報を……。オカリンの跡をマジでつけてたんかな」

倫子「ごめん、私のせいで……」ウルッ

ダル「あ、いや! そうじゃなくて、あうぅ……」

真帆「元はと言えば、こそこそやってた私たちのせいね。本当にごめんなさい」シュン

ダル「もうっ、こういう雰囲気、イクない!」

615: 2016/06/29(水) 00:02:12.43 ID:QDCPWRsBo

ダル「そんなことより、これからどうするん?」

真帆「そうだっ、教授に連絡しないと」ピッ

倫子「待って。レスキネン教授と合流すれば、教授も巻き込んでしまうしれない」

真帆「あっ……」

倫子「今日はどこかに身を隠そう。一旦、やつらの追跡を撒くのが優先だよ」

真帆「あなた、すごいわね……一瞬でそういう判断ができるなんて」

倫子「……慣れてるから、かな。あるいは、鍛えられたから、かも」

真帆「……?」

ダル「で、もう僕の隠れ家は使えないわけだが」

倫子「こういう時に頼れるのは、やっぱり秋葉原の大地主の家だね」

616: 2016/06/29(水) 00:05:03.96 ID:QDCPWRsBo
秋葉原タイムズタワー 秋葉邸


フェイリス「オッケーニャン♪」

真帆「こんなにすんなりと……本当にいいんですか?」

フェイリス「妹ちゃんができたみたいで嬉しいニャン♪ それに、まほニャンとはもっとおしゃべりしたいと思ってたんだニャン!」

真帆「いもっ……」プルプル

倫子「(もしかして本気でメイクイーンで働かせようと思ってるのかな?)」

ダル「例のブツはここに置いていくから。僕は鈴羽が心配だから、ラボに戻るお」

倫子「いや、待って。まだダルのタイムマシン研究がバレたわけじゃない」ヒソヒソ

ダル「お、おう。まあ、確かに」

倫子「だから、鈴羽も呼んで、みんなでここで一晩明かそう」

ダル「え? オカリン、鈴羽呼んで大丈夫なん? 一昨日、あんなことがあってから、まだ仲直りしてないんしょ?」

倫子「紅莉栖のノートPCとHDDがここにある以上、少しでも守りは固めたい。顔を合わせにくいとか言ってる場合じゃないよ」

フェイリス「スズニャンも来てくれるニャ!? ニャフフ~、スズニャン用のメイド服が光ってうなるニャ!」

ダル「なにィ! メイド服が鈴羽用のものもあるのか!?」

倫子「やめろやめろ!」

617: 2016/06/29(水) 00:06:29.53 ID:QDCPWRsBo
寝室


真帆「それで、私と岡部さんは寝室。橋田さんと、その妹さんの鈴羽さんは客室へ……これは、私に話の続きをしてくれるということかしら?」

倫子「うん。……このノートPCは、パンドラの箱なんだ。存在するだけで災いをもたらす」

倫子「(自分で言っておいて厨二臭いな……いや、でも真面目な話だ)」

真帆「またそれ。これは紅莉栖の形見でもあるのよ? おいそれと捨てるわけには行かないわ」

真帆「ねえ、隠していることがあるなら、私に言って」

倫子「……あなたを、巻き込めないよ」

真帆「話にならないわね。……もしかして、紅莉栖の事件について?」

倫子「っ……」ドクン


   『……氏にたく……ないよ……こんな……終わり……イヤ……』

   『たす……けて……』


倫子「はぁっ……はぁっ……」ガクッ

真帆「ちょ、岡部さん!?」ガシッ

倫子「ご、ごめん、薬飲んでから、少し横にならせて……」ハァ ハァ

618: 2016/06/29(水) 00:07:18.80 ID:QDCPWRsBo

真帆「落ち着いた?」ギュッ

倫子「何度もごめんね……」

真帆「ねえ、無理は言わないわ。言えることだけ、教えて欲しい」

倫子「……ジョン・タイターって知ってる?」

真帆「ジョン? いえ、知らないわ」

倫子「ネットで調べてみて」

真帆「え、ええ……"真帆"、調べてくれる?」

Ama真帆『えっと、2000年にアメリカの大手掲示板に現れた自称未来人ね。2036年から来たって言う』

真帆「未来人……」

倫子「"彼女"は、2015年には第3次世界大戦が起こることを予言してる」

真帆「"彼女"……? "ジョン"なのに?」

倫子「勿論偽名だよ。私は、彼女からその話を直接聞いた」

真帆「へえ、タイムトラベルが実現できるのね。すばらしいわ」

真帆「馬鹿にしているの?」ギロッ

倫子「っ……」ウルッ

真帆「(かわいいけどこの罪悪感……)」ハァ

619: 2016/06/29(水) 00:08:11.38 ID:QDCPWRsBo

倫子「中鉢論文、中鉢博士のことは知ってるよね」

真帆「ええ、ATFの井崎セミナーでも扱ってたわね。疑似科学の最たるものとして」

倫子「ドクター中鉢は、牧瀬章一は、紅莉栖の父親だよ」

真帆「えっ!?」

倫子「中鉢論文は、公にされてるのは偽造の劣化版。ホンモノは、紅莉栖が書いたもの」

真帆「なっ……!」

真帆「つ、つまり、あなたは、紅莉栖がタイムマシン論文を書いて、それが2036年には実現してると言いたいの!?」

倫子「そして、それを手に入れたがっている連中が居る」

真帆「でも、このノートPCの中は、誰も見ることができない。あなたが言うタイムマシン論文が入っているとは限らないわよ?」

倫子「中身はもう関係ないんだよ。あるかもしれないっていう可能性だけで、戦争の火種になり得るの」

倫子「紅莉栖だって、そんなの、望んでない……っ」グッ

真帆「ちょ、ちょっと待って……少し、整理させて……」

620: 2016/06/29(水) 00:11:41.29 ID:QDCPWRsBo

真帆「私の予想していたのとあまりにもかけ離れているわ」ハァ

倫子「予想って?」

真帆「……『Amadeus』の軍事転用よ。おそらく、FBIを騙ったのは国防総省の軍人だしね」

真帆「たとえば、百戦錬磨のパイロットから記憶データをコピーして、無人戦闘機の制御に使う――とかね」

倫子「む、無人戦闘機って、由季さんの……」ゴクリ

真帆「あとは"恐怖を感じない兵士"を作る、とか」

倫子「その証拠が紅莉栖のノートPCの中に隠されてるって考えてたんだ」

倫子「いや、あるいは、米軍がそれも狙って……?」

真帆「『Amadeus』を米軍に奪われるなんてことはさせないわよ。そのための防壁もいくつか用意してある」

倫子「そ、そうだよね。あれはγ世界線の話だし……」

真帆「……?」


ギャーギャー ワーワー


真帆「あれ? 隣の部屋がにぎやかね」

倫子「もうっ、何してんの」

621: 2016/06/29(水) 00:13:23.24 ID:QDCPWRsBo
客室


フェイリス「スズニャン、似合うニャァ! おさげを垂らすとメイドさんっぽさがアップニャ!」キラキラ

鈴羽「へ、変じゃない……?」モジモジ

ダル「全然変じゃないお! むしろ完璧通り越してグレイテストだお! レベル高杉ィ!」パシャパシャ

鈴羽「父さんは身内びいきでしょ、もうっ」テレッ

フェイリス「やっぱりスズニャンも普通の女の子だったんだニャ♪」

鈴羽「こんなことしてる場合じゃないのに。こんな服装じゃ、いざと言う時立ち回れないよ」

フェイリス「憧れ……誰でも、女の子ならば持っているもの。それに素直になっても、いいでしょ?」ウルウル

鈴羽「う……」

ダル「メイド服でCQCを駆使し悪の組織と戦う未来っ娘……むはー! なんだそれ萌えるだろふざくんなぁー!」パシャパシャ



倫子「(あ、あの鈴羽がノリノリでオシャレを楽しんでるっ!?)」コソッ

真帆「……?」

622: 2016/06/29(水) 00:16:23.61 ID:QDCPWRsBo

フェイリス「次は『電光石火シャ・ノワール』のコスプレに挑戦してみるニャ? と言っても、フェイリスが夢で見たオリジナルコスなんだけどニャ」

ダル「まゆ氏が一晩でやってくれますた。ま、昔作ったコードジアースのゼロサムコスを改造しただけらしいけど、まゆ氏は神」

鈴羽「どれどれ……下はスパッツか。これなら動きやすそうだね。着替えてみる」

ダル「鈴羽の生お着替え……っ!!!!!」グッ

フェイリス「パーテーションの中をのぞいたらダメニャぞ~?」ニャフフ

鈴羽「頭部も保護できそうだけど、バイザーは邪魔かな。それに、ちょっと胸が苦しいかも」

フェイリス「ニャニャ? もしかして、半年前に測った時より大きくなったかニャ?」

ダル「お、お、お、お、大きくなった!? これは大事件だお! 富士山がチョモランマでエベレストだろ常考!」

フェイリス「ダルニャン興奮しすぎニャ、スズニャンはまだ北アルプスニャ」

ダル「つ、つまり、まだまだ無限の可能性を秘めていると……ゴクリ」

鈴羽「ちょっと、やめてよフェイリス」

フェイリス「ここではフェイリスのことをボスと呼ぶニャ! スズニャンのコードネームは、イニシャルのSをとって『シエラ』ニャ!」ビシィ!

鈴羽「NATOフォネティックコードか……。オーキードーキー、ボス!」



倫子「(いやまあ、オシャレというよりコスプレだね……完全にコッチ側の趣味に引き込まれてるな……)」コソッ

真帆「…………」ポカン

623: 2016/06/29(水) 00:17:36.11 ID:QDCPWRsBo

ダル「む、胸が苦しかったらジッパーを下げていいんだお、鈴羽!」ハァハァ

鈴羽「実の娘に欲情するとか……」ハァ

フェイリス「それはできないのニャ、ダルニャン。もしもシエラのジッパーを下ろしたら、その胸に封印されたパンドラが解き放たれ、世界が闇に支配されてしまうニャ……」

鈴羽「まあでも、こういう服着てると、ちょっと懐かしくなるよ。あとはコルトM4カービンでもあれば文句なしかな」


倫子「(米軍のアサルトカービンか……)」コソッ


フェイリス「これで米軍やロシア兵が攻めてきてもバッチリ撃退できるニャン♪」

鈴羽「お気楽すぎるよ、ボス」

フェイリス「上官の言う事に逆らう気かニャ? そんな悪い子猫ちゃんはぁ……こうしてやるのニャ! こちょこちょこちょーっ!」

鈴羽「ちょ、や、やめ、あひ、ひ、ひやぁぁ! あは、あははっ!」ジタバタ

フェイリス「自分に素直になるのニャーっ!」コチョコチョ

ダル「はぁ……はぁ……正直、たまりません……」



倫子「まったく、何やってるんだか」フフッ

真帆「岡部さん、覗き見はよくないわよ」

倫子「うおふっ!! い、居たなら言ってよ!!」ビクッ

鈴羽「えっ? あ、ああっ!?///」

624: 2016/06/29(水) 00:18:23.64 ID:QDCPWRsBo

・・・

ダル「あう、せっかくなのに着替えちゃったか」ガックシ

鈴羽「もう、居るなら居るって言ってよ!」

倫子「い、いや、その……どうしたの、鈴羽?」

フェイリス「一昨日オカリンがスズニャンと喧嘩したって聞いたニャ。だからこうやってフェイリスがふたりの仲直りを買って出たわけニャ」ヒソヒソ

倫子「あ、ああ、なるほどね……うん、ありがと」

鈴羽「そ、その……リンリンはどう思った? やっぱり変、だよね……」

倫子「ううん、そんなこと! 鈴羽は世界一かわいいよ」ニコ

鈴羽「ぐっ!?」カァァ

ダル「おお、効いてる効いてる」ニヤニヤ

鈴羽「もうっ! こんなことやってないで、シュタインズゲートへと到達する方法を研究してよ!」

真帆「シュタインズゲート?」

倫子「あ、いや! えっと、アニメのネタだよ、アハハ」アセッ

625: 2016/06/29(水) 00:18:59.77 ID:QDCPWRsBo

ダル「それで、鈴羽。オカリンに言いたいこと、あるんしょ?」

鈴羽「うん……あの、リンリン。昨日はごめん」

倫子「う、うん」

鈴羽「昨日、あたしはよく分からなくなったって言った。自分が何をすべきなのか、何をすればみんなが幸せになれるのか。確かに今、すごく迷ってる」

鈴羽「けど、あたしはもがいてみるよ。だから――リンリンもお願い。もっともっと考えてみてほしい」

倫子「うん……」

鈴羽「それで出した結論なら、もうあたしは何も言わないから」

鈴羽「大好きなリンリンを信じて、それに従うだけだよ」

倫子「わかった……」

ダル「(タイムリミットまであと半年ってところか……こればっかりはどうしても気持ちが急いちゃうよなぁ)」ハァ

626: 2016/06/29(水) 00:20:55.40 ID:QDCPWRsBo

フェイリス「そんなことより、黒木にシャンパンを用意させたから、今日はみんなで朝まで呑むニャ!」

倫子「ちょ!? 私、未成年!」

フェイリス「ニャフフ……ここは日本国の法律が通じない、治外法権フェイリス王国なのニャ♪」

フェイリス「それに、いつ黒服の外国人に襲われるかわからないから朝まで起きてないといけないニャ?」

倫子「それはそうだけど、それこそ飲まないほうがいいんじゃ……」

鈴羽「あたしは酒を飲んでも酔わないように訓練してあるから大丈夫。父さんは今年で20歳だし、えっと、比屋定さん? が飲まないなら大丈夫じゃないかな」

真帆「……私、成人してるんですけど」イラッ

鈴羽「えっ」

ダル「つーか、僕が未成年の娘に酒を飲ませるわけないじゃん! いくらフェイリスたんでもそれはダメだお!」

フェイリス「さすがお父さんだニャ♪ やっぱり橋田一家を見てると、心が温かくなるニャァ~♪」

真帆「お父さん? お兄さんじゃなくて?」

倫子「いや、えっと、言動が父親っぽいからそう呼んでるんだよ、あはは」

真帆「……?」

627: 2016/06/29(水) 00:21:36.57 ID:QDCPWRsBo

鈴羽「ボスはさ、家族が居なくてつらい?」

ダル「ちょ、鈴羽!」

鈴羽「えっ? あっ、ごめん」

フェイリス「結構直球で聞くのニャン。でも、そんなスズニャンは嫌いじゃないニャン」

フェイリス「つらいけど、みんなが思うようなつらさじゃないニャ。もう、心の整理はついてる」

フェイリス「傷はずっと治らないけど、付き合い方を覚えた……そんな感じ」

鈴羽「……あたしの胸の傷と同じだね」

倫子「……フェイリス。もし、タイムマシンが使えるとしたら?」

フェイリス「たとえタイムマシンでパパやママを救えるとしても、フェイリスはもうそういうことは望んだりしないのニャン」

倫子「……そっか」

真帆「タイムマシン……」

628: 2016/06/29(水) 00:22:33.19 ID:QDCPWRsBo

フェイリス「まほニャンは家族と仲良いニャ?」

真帆「え? ええ、まあ。独立してからは中々実家に帰れていないけれど、特に祖母とは仲が良いわ」

フェイリス「おばあちゃんっ子だったのニャ!」

真帆「人生哲学はだいたいあの人から教えてもらった。『命どぅ宝』とか、ね」

ダル「ヌチドゥタカラ? なんか工口くね」

フェイリス「人間の命こそが最も尊い宝物だ、って意味ニャ」

真帆「そう。だけど、私の研究は、ヒトの命の定義を覆してしまうところまで来てしまっている……」

倫子「(紅莉栖の研究成果も、時間を巻き戻して氏者を何度も蘇生したからなぁ……)」

フェイリス「研究って?」

真帆「これよ」スッ

Ama真帆『ハロー』

フェイリス「電脳まほニャン!?」

629: 2016/06/29(水) 00:26:34.06 ID:QDCPWRsBo

フェイリス「ニャるほど、パパもパソコンには魂が宿るって言ってたけど、これはスゴイニャ!」

Ama真帆『私自身、自分に命があるのか、って問われても、よくわからないのよね。データを削除されない限りは不老不氏なわけだし』

倫子「確かに、『Amadeus』はAIとは思えないほど人間らしい。だけど、『Amadeus』は0と1で動く機械だよ」

真帆「あら、前と言ってることが逆じゃない」

倫子「……真帆ちゃん。もし何かあったら、自分の命を一番に動いてほしい」

倫子「たとえ紅莉栖の遺産を捨てることになっても」

真帆「…………」

Ama真帆『「命どぅ宝」ね……あれはお芝居の台詞らしいけど、琉球中山国最後の国王、尚泰王が首里城を無血開城した時の言葉とされてるわ』

Ama真帆『帝国日本と戦争をしても無駄に命を失うだけ。それだったら、王朝という目に見えない概念よりも、民の命を守るべきだ、という意味ね』

鈴羽「戦争で必要なのは自分の命を守り抜くスキルだ。命が無ければ、敵を頃すこともできない」

鈴羽「命より大切なものがある、なんて言えるのは、常に誰かに殺される危険のない環境で生活してる人間だけ」

鈴羽「命が誰かに奪われることなく、誰かに支配されることなく、自分のものであり続けることは、生きるため、戦うための第一条件なんだ」

真帆「……わかったわよ」

630: 2016/06/29(水) 00:33:07.21 ID:QDCPWRsBo
2011年1月25日火曜日
和光市 理化学研究所近く ビル2階 世界脳科学総合研究機構日本オフィス準備室


真帆「(昨日も一昨日もフェイリスさんの厄介になって、今日このオフィスを引き払い、明日にはアメリカに帰る……無事、帰国できればいいのだけど)」

レスキネン「マホ、無事でよかった! オフィスは荒らされたが、綺麗に片づけておいたよ」

真帆「まあ、もともと私と教授しか使ってませんでしたしね。2人分の荷物しかなかったわけですし」

真帆「(そう、ここのオフィスを使っていたのは教授と私だけ……のはず、よね? 前にもこんなことがあった気が……)」

真帆「教授、その……ここを使ってたのって、私たちふたりだけ、でしたっけ?」

レスキネン「何を当たり前のことを言ってるんだい。幽霊でも見たのかな?」

レスキネン「仮にここを使えるとすれば、私たちの知り合いの研究者しかいないが、ヴィクコンからは誰も来ていないだろう?」

真帆「そ、そうですよね。変なことを聞いてすみません」

レスキネン「(……未来少女から、ジュディをけん制しておくべきだと聞いていなかったら、もしかしたらそうなっていたかも知れないが)」

真帆「そういえば、『Amadeus』のテスターの件はどうします?」

レスキネン「Hum… そうだね、テスターはこのまま続けてもらおうと思っているんだが、どうだろう?」

真帆「えっ!? ほ、本気ですか!?」

631: 2016/06/29(水) 00:34:00.62 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「君は、クリスの事件のことをリンコから聞きたかったんだろう?」

真帆「え、ええ。実は、そうです。もっとも、教えてもらえませんでしたけど」

レスキネン「もしかしたら、リンコが"クリス"に話してしまうかもしれない。そしたら私たちが"クリス"からその話を聞ける」

真帆「そっ、そんなスパイみたいな使い方っ!」

レスキネン「待ってくれ、マホ。『Amadeus』は言いたくないことは言わないし、言うべきでないことも言わない」

レスキネン「"クリス"ならプライバシーは守ってくれる。そういう風に設計したのは、君じゃないか」

真帆「それは、そうですが……」

レスキネン「それに、『Amadeus』を通して、君はリンコと関係を持ち続けることができる」

真帆「関係……っ!? 教授、さすがにそれはセクハラですっ!」

レスキネン「Oh, どうしてセクハラなんだい? 君たちは、女の子同士、ただのお友達だろう?」

真帆「なぁっ……」カァァ

レスキネン「にやにや」

632: 2016/06/29(水) 00:35:09.73 ID:QDCPWRsBo
2011年1月26日水曜日
成田空港 チェックインカウンター


真帆「悪かったわね、ここまで連れてきてしまって」

倫子「まさかまともに乗り換えもできない人だとは……入国の時はよく東京まで来れたね……」ハァ

真帆「ということで、テスターの件、引き続きよろしく頼むわ」

倫子「私はそもそもテスターを断ったと思うんだけど……」

レスキネン「ヴィクコンの脳科研に入りたく無くなったのかな?」

倫子「うぐっ!? ひどい、ひどすぎる……」

真帆「いや、今のはさすがに冗談だと思うけれど。まあ、無理に通話する必要は無いから」

倫子「うん、そこは変わらず、だよね」

レスキネン「リンコが私たちの仲間としてアメリカに来る日を待っているよ」

倫子「(そのためにも、"紅莉栖"には引き続き勉強を教えてもらわないと)」

倫子「それじゃ、真帆ちゃん。元気で」

真帆「ええ、あなたも……って、真帆ちゃん言うなっ!」

633: 2016/06/29(水) 20:43:43.18 ID:QDCPWRsBo
第22章 私秘鏡裏のスティグマ(♀)

2011年2月某日 夜11時過ぎ
ヴィクトル・コンドリア大学 単身者用アパートメント 比屋定真帆の部屋


真帆「……くり……す……ムニャムニャ」zzz

ズルッ

真帆「ふ……ふぇぇ……? うわうっ!」ガチャンッ

真帆「あ、危なかった……なんとかコーヒーをこぼさずに済んだ。また叱られるところだったわ」ハァ

真帆「(うーん……いつの間に寝ちゃったのかしら?)」ファァ

真帆「あっ、口のまわりが涎だらけ……またやっちゃった」ゴシゴシ


   『ああ~っ、先輩ってば! 私のクッションを枕にしないでくださいって、あれほど言ったのにっ!』


真帆「……昔の言葉が聴こえてくるなんて、そんなに疲れてるのかしら私」

真帆「(でも、もう少しこのまどろみの中で、紅莉栖とお話しても、良いわよね……)」ウトウト

634: 2016/06/29(水) 20:44:48.16 ID:QDCPWRsBo

  『ほらぁ! よだれまみれじゃないですか~っ!』

  『し、失礼ねっ。まみれてなんかいないわよっ』

  『まみれてますっ。このシミが前回、これが前々回、こっちとこっちはその前』

  『執念深いわね……なんでそこまで覚えてるの……』

  『あんまりひどいと真帆たんのよだれをペロペロ……あれ? 私、なんでこんなHENTAIな発想を?』

  『わ、分かったわよ。そんなに怒らなくてもいいじゃない』

  『先輩、今どんな夢見てました?』

  『えっ? うーん……なんか、私が男で、紅莉栖がレOビアンだったような』

  『パウリ=ユング書簡の夢<ファンタズム>? 共時性<シンクロニシティ>? いや、さすがにオカルトが……』ペロリ

  『私の夢とよだれを分析しないでくれる?』

635: 2016/06/29(水) 20:46:25.41 ID:QDCPWRsBo

真帆「実験のためだからって、味まで確かめる必要は無いのに」フフッ

真帆「我が強くて、自分の意見は曲げようとしない偏屈で、実験が大好きで……」ツーッ

真帆「あ、あれ。涙が……もう、紅莉栖のせいで顔を洗わなくちゃならないじゃない」グシグシ


   『よだれの時点で顔を洗うべきです』


真帆「っ!? 幻聴……?」


   『幻聴じゃありませんよ、先輩』


真帆「え……って、"紅莉栖"か。モニタの電源を切ってたから気付かなかったわ」ポチッ

Ama紅莉栖『定期メンテナンスをした後、私との接続を繋いだまま眠っちゃったんですよ?』

真帆「電気を無駄にしてしまったわね。どうして起こしてくれなかったの?」

Ama紅莉栖『疲れてる先輩を無理に起こすなんてできませんよ』

真帆「過去に何度も私のことを叩き起こしたくせに、どの口が言うんだか」

真帆「……ねえ、"紅莉栖"。タイムマ――」

真帆「(……いえ、やめておきましょう)」

真帆「(確かにこの"紅莉栖"の記憶の中にもタイムマシン論文はあるかもしれない。でも、それは危ないって釘を刺されてるし……)」

Ama紅莉栖『それより、私の見てないところで何の研究をしてるんですか? 随分疲れてるみたいですけど』

真帆「えっ……あ、いえ、なんでもないのよ、なんでも! ほら、接続切るわね!」カタカタ カタッ ターンッ

636: 2016/06/29(水) 20:47:48.52 ID:QDCPWRsBo
化粧室


ジャーッ バシャバシャ

真帆「(そもそも、なんで私はタイムマシンの研究なんかに没頭しているのかしら……)」

真帆「(それもこれも、岡部さんのせいよ……。中鉢論文は、実が紅莉栖が書いた、なんていうから……)」

真帆「(――――紅莉栖が見つけたものを、自分も見つけたい)」

真帆「(彼女と同じ景色を見てみたい……なんて、私にしてはちょっと乙女すぎるかしら)」

真帆「(ま、全部岡部さんの妄想の可能性もあるわけだけど)」

キュッキュッ フキフキ

真帆「……紅莉栖……私、やっぱり、あなたにはなれない……」

真帆「あなたのことが大好きなのに……あなたのことが、嫌いになりそうよ……」グスッ

真帆「……っ!? い、いけない。しっかりしなさい、比屋定真帆っ!」ブンブン

真帆「疲れてるんだわ。画面の向こうの"紅莉栖"に指摘されてるようじゃ、私もダメね」ハァ

真帆「ん? あら、窓の外に明かりが……って、あそこ、研究所の2階、一番奥の部屋の窓じゃない」

真帆「あそこはレスキネン教授のオフィス……教授、またこんな時間に仕事?」

真帆「まったく、身体でも壊したらどうするつもりかしら? 仕方ないわね」ムフン

637: 2016/06/29(水) 20:48:53.63 ID:QDCPWRsBo
ヴィクトル・コンドリア大学 脳科学研究所 レスキネン教授の研究室


コンコン

真帆「"レスキネン教授?"」

レスキネン「"ん!? あ、ああ。マホか。どうしたんだい、こんな夜中に"」ビクッ!

真帆「"……そんなに慌てて、ブルーフィルムでも見てたんですか?"」

レスキネン「"マホも見るかい?"」ニコ

真帆「"ゲイビデオなんて興味ないです"」

Ama紅莉栖『"教授、あんまり先輩をいじめないであげてください。というか、先輩、こっちに来たんですね"』

真帆「"あなたこそこっちに居たのね。……教授にあのことはしゃべってない?"」ヒソヒソ

Ama紅莉栖『"秘密の研究のことですか? ええ、もちろんです"』ヒソヒソ

レスキネン「"なんの話かな?"」

真帆「"あっ! いえ、なんでも!"」

Ama紅莉栖『"教授、女の子の秘密の会話を盗み聞ぎするなんて、感心しませんよ"』

レスキネン「"時に、マホとリンコは順調かい?"」

Ama紅莉栖『"それがですね、ぬいぐるみのプレゼントをもらったみたいで、夜な夜な抱きしめてはベッドを軋ませて――"』

真帆「"わーわー! あなた、手のひら返し過ぎよ!?"」

638: 2016/06/29(水) 20:51:13.29 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「"近々、共同研究で日本に呼ばれているんだ。その時、リンコに連絡を取ってみようと思っている"」

真帆「"えっ?"」

レスキネン「"マホも一緒に行くかい?"」

真帆「"行きますっ! ……あっ"」

レスキネン「"ニヤニヤ"」

Ama紅莉栖『"ヒューヒュー"』

真帆「"ちっ、違っ! 別に、岡部さんに会って色々話を聞きたいわけじゃないから!"」

レスキネン「"マホは素直で良い子だ"」ニコ

Ama紅莉栖『"では、岡部にアメリカ国籍を取らせてアメリカで同性婚するためのマニュアルを作っておきますね!"』

真帆「"……というか、あなたこそ岡部さんと話題を共有したいからアメリカに呼びたいんじゃなくて?"」

Ama紅莉栖『"な、なんのことだかわかりません"』

レスキネン「"百合の花咲く三角関係……実に面白い"」フフッ

639: 2016/06/29(水) 20:52:48.79 ID:QDCPWRsBo

真帆「"それじゃあ、教授。そろそろ部屋に戻って寝ます"」

レスキネン「"ああ、ちょっと待った。最近、'マホ'の記憶データを、まったく更新してないだろう?"」

レスキネン「"日本へ行く前に採取したデータが最後じゃないか?"」

真帆「"あっ、えーと……その、日本では色々と怖い体験をしましたし、『Amadeus』に怖い記憶を残すこともないかな、と"」

レスキネン「"気持ちはわかるが、このままだと比較実験ができない。君をこのプロジェクトから外して、他の誰かに頼まなくてはならなくなってしまう"」

真帆「"それは……っ"」

Ama紅莉栖『"あっちの'真帆先輩'も、長いことオリジナルと話してなくて寂しがってます。岡部が'先輩'に取られちゃうかもしれませんよ?"』

レスキネン「"明日、必ず記憶の更新をしておくように"」

真帆「"……わかりました"」

640: 2016/06/29(水) 20:54:03.69 ID:QDCPWRsBo
研究所棟通路


真帆「……更新できない。紅莉栖のノートPCが何者かに狙われていること、そして、『Amadeus』が米軍に狙われている可能性……」

真帆「もし既に米軍が『Amadeus』を支配していたら? 記憶を更新した瞬間、紅莉栖のノートPCのことが筒抜けになる」

真帆「岡部さんが、危ない……」

真帆「でもやっぱり……考え過ぎよね……」ウーン

レイエス「"あら、あなた、アレクシスのところのお嬢さんね。こんな遅くまで仕事?"」

真帆「"あ、レイエス教授。教授こそこんな遅くにどうしたんですか?"」

レイエス「"私の研究に少し問題があってね。アレクシスに助けを求めようと思って"」

スーツの男「"…………"」ヒソヒソ

レイエス「"ええ、そうよ……それじゃ、マホ。またね"」

真帆「"あ、はい……"」

真帆「(あのスーツの人、誰だろう?)」

641: 2016/06/29(水) 21:10:40.36 ID:QDCPWRsBo
レスキネン教授の研究室の前


真帆「(つい気になって戻って来てしまったけど、教授たちの話を盗み聞きするなんて良くないわよね)」ハァ


レイエス「"――いつまでマホやリンコを泳がせておくつもり?"」

レスキネン「"貴重な情報源だ。ヘタに動いて、クリスのノートPCとHDDを破棄されでもしたらもったいないだろう?"」

レイエス「"タイムマシンの作り方、でしょ? 全く、未来少女に適性があれば、'クリス'の記憶データを上書きしてあげたのに"」

レイエス「"恩知らずな子よね。誰のおかげで命があるんだと思ってるんだか"」

レスキネン「"私としては、カガリ・シイナに適合化手術をさせるわけにはいかないからね。そんなことになれば、君たちDURPAがすべて持っていってしまうじゃないか"」

レイエス「"もちろん。『Amadeus』の記憶保存技術を、AI戦士を作り上げるために使わせてもらうわ"」

レスキネン「"『Amadeus』は私の子どもであると同時に完全な情報操作ツールだ。AI戦士なんていうケチなもののために渡すつもりはない"」

レスキネン「"そういう意味で、未来の私には慧眼があったようだ。故に、この私もそんなことをするつもりはない"」

レイエス「"御託はいいわ。それより、もう時間が無い。カガリによれば、タイムマシンは7月7日までには跳んでしまう"」

レスキネン「"逆に言えば、フライトの瞬間こそ、未来のセキュリティで防御されたパンドラの箱が、確実にその蓋を開ける唯一のタイミングだ"」

レイエス「"そのタイミングまでは共闘と行きましょう。でも、Xデーを過ぎたら、夜道には気をつけなさいよ"」

レスキネン「"君もね。いずれにせよ、今月中には彼女と共に日本へ発つ。そこで色々と回収するつもりさ"」

レイエス「"タイムマシンの在り処もわかっていないしね。カガリの脳に尋ねても、小さい頃の記憶で詳しい場所まで覚えていなかったし"」

レスキネン「"それだけじゃない。タイムマシン以外のこと――クリスの氏の真相、世界の仕組み、新型脳炎など――リンコたちは色々知っている気がしてね"」

レスキネン「"そこで、『Amadeus』を使って聞き出そうとしたんだが……あれでどうして警戒心が強い。慎重な娘だよ、リンコ・オカベは"」


真帆「(きょ、教授たちは、な、なな、何を、話、話し……)」プルプル

642: 2016/06/29(水) 21:11:09.86 ID:QDCPWRsBo

レイエス「"マホに、お得意の施術でもしてあげたら?"」

レスキネン「"彼女自身は何も知らないだろうが……マホを利用すれば、リンコから聞き出せるかもしれない、か"」


真帆「……っ」

ガタッ


レイエス「"誰!?"」

真帆「あ……ああ……」ガタガタ

スーツの男「…………」ガシッ

真帆「ヒィッ!!」ビクッ!!

レイエス「"連れてきなさい"」

643: 2016/06/29(水) 21:13:00.37 ID:QDCPWRsBo
レスキネン教授の研究室


真帆「"教授……今の話は、いったい……"」ガクガク

レスキネン「"『好奇心は猫を頃す』、というイギリスのことわざを知っているかな?"」

レイエス「"いたずらな子猫ちゃんには、少しお仕置きが必要みたいね"」

真帆「ヒッ……」

レスキネン「"ちょうどいい。マホ、一緒に日本に来てもらうよ"」

真帆「(なにがなんだか……さっぱりわからない……)」プルプル

真帆「(岡部さん……あなたの言葉は、すべて真実だったのね……!)」ワナワナ

レイエス「"準備できたわ。さあ、マホ? そこの椅子に座って、このヘッドセットを被って。そう、良い子ね"」ニコ

レスキネン「"大丈夫、施術自体は痛くない。まあ、その後で頭痛を起こしてしまうかもしれないけどね"」

真帆「あ……あ……」プルプル

レスキネン「"私の助手として働くことが君の幸せだろう? マホならやれるさ。存分に頑張ってくれ"」ニコ

644: 2016/06/29(水) 21:15:49.03 ID:QDCPWRsBo

・・・

『いいかい、マホ。君はどんな手段を使ってでも、リンコ・オカベが抱えている秘密を暴くんだ』

『でないと、彼女を殺さなくてはいけなくなる。そんなのはイヤだろう?』

『集団エゴイズム。私や"クリス"がさんざん煽ったからね、君はリンコへの思い入れが強くなっているはずだ』

『彼女を助ける意味でも、彼女の持つ情報を引き出してほしい』

『そしたら、リンコを我が研究室に無条件で迎え入れてあげてもいい』

『マホ、彼女について知り得たことは、すべて私に報告しなさい』

『彼女の未来は、君の手にかかっている』

・・・

645: 2016/06/29(水) 21:17:41.69 ID:QDCPWRsBo
2011年7月3日日曜日
UPXオープンカフェ


真帆「岡部さーん!」

倫子「久しぶり、真帆ちゃん。って言っても、いつもビデオチャットで顔を合わせてたよね」

真帆「そうね。あまり久しぶりという感じはしないわ」

倫子「ある日を境に突然たくさん話しかけてくれるようになって、ちょっと驚いちゃったよ」

倫子「(真帆ちゃんって呼んでもいちいち怒らなくなったし)」

真帆「め、迷惑だったかしら?」

倫子「ううん! すごく嬉しかったよ」ニコ

真帆「はう……」ドキッ

倫子「でもせっかく直接会えたんだから、もうちょっとマシな格好してくれば良かったのに」ボソッ

真帆「え? なにか言った?」

倫子「いえ、なにも」

646: 2016/06/29(水) 21:19:16.28 ID:QDCPWRsBo

倫子「それで、今回は新型脳炎の研究だっけ」

真帆「教授はね。私はどちらかと言うと『Amadeus』担当。あなたの興味ある話題に乗れなくてごめんなさいね」

倫子「ううん。"紅莉栖"は、相変わらずだよ。おかげさまで、もうだいぶ英語も話せるようになったし」

Ama紅莉栖『私からしてみればまだまだですけどね』

真帆「"紅莉栖"、なんだか口調が柔らかくなった?」

Ama紅莉栖『女の子同士ですし、毎日一緒に勉強してたら仲良くもなりますよ』

倫子「う、うん……(私が気を使って、"紅莉栖"が怒りそうなことを言わないようにしてるだけだけど)」

真帆「なかなか面白い兆候だわ。そうした心の動きは、プログラムとして解析できるから」

真帆「やっぱり岡部さんにテスターを続けてもらってよかった」ニコ

Ama紅莉栖『(真帆先輩、本当に幸せそうな顔しちゃって……)』

647: 2016/06/29(水) 21:20:21.24 ID:QDCPWRsBo

Ama紅莉栖『それじゃ、私はこの辺で。あとはおふたりでごゆっくりどうぞ』ピッ

倫子「また変な気を利かせて……。えっと、真帆ちゃん。今回はどれぐらいの間、こっちに滞在することになりそう?」

真帆「教授が新型脳炎と格闘している間かしら。もしかしたら私だけ先に帰らされる可能性もあるけど」

真帆「ちなみに、紅莉栖のノートPCとHDDは、その後どうしたの?」

倫子「あれは、ダルに頼んで破棄してもらった。結局中身は見れなかったけどね」

真帆「っ……」グッタリ

倫子「ご、ごめんね。でも、やっぱりあれは、危険なものだから……」オロオロ

真帆「……ええ、そうね」ウルッ

倫子「……ごめん。ホントに、ごめん」ギュッ

真帆「いいの、私の我がままだって、わかって……る……うぅ……」グスッ

648: 2016/06/29(水) 21:21:30.11 ID:QDCPWRsBo
2011年7月6日水曜日
和光市駅から数駅のところにあるビジネスホテル 比屋定真帆の部屋


倫子「前泊まってたホテルとは別の部屋なのはいいとして……」


ゴチャァ…


倫子「少しは片付けたらどうなの」ハァ

真帆「私は自分が一番効率的に過ごすことのできる環境を用意しているだけよ」フンッ

倫子「人間性を失っちゃダメだよ……」

Ama紅莉栖『そんな風にデリカシーがないから、先輩はいつまで経っても女の子として見てもらえないんですよ』

真帆「なっ!? ……い、今すぐ片付けます」グッタリ

倫子「い、いいよ! また後で。それより、私に話って?」

真帆「…………」

真帆「…………」

倫子「……?」

真帆「……あなたに、まだ、訊けていないから」

真帆「――紅莉栖の事件の、真相を」

倫子「……っ!?」ビクッ

649: 2016/06/29(水) 21:23:21.07 ID:QDCPWRsBo

Ama紅莉栖『ちょ、先輩! いきなりそんな話――――』ピッ

倫子「……切ったよ。それで?」

真帆「紅莉栖の氏には、タイムマシン論文が関わってる。間違いない?」

倫子「…………」

倫子「(間違いない。実際の事件という意味においても、因果の収束という意味においても)」

真帆「実は私、この半年、本来の研究と並行でタイムマシンの研究をしていたの」

倫子「えっ……!?」ドクン

真帆「紅莉栖に出来たのなら、私も……って思ってしまって」

真帆「でも、でもね? もしタイムマシンを造ることが出来たら、紅莉栖のことを救えるかもって――――」


――――――――――

   『逃げられると思うな、岡部倫子。お前は15年後に頃してやる』

   『――そう、僕は2033年から来た』

   『お願い、あたしを消して……』

   『机上ではいくらでも語れるが、実際に体験するとなれば、それはつらいこと、つらすぎることだ』

   『どうしてこんなことになっちまったんだろうなぁ』

   『今すぐそれを使わせろッ!! 金ならいくらでも払うッ!! だから私を過去へ――』

   『……バイバイ、岡部』

――――――――――


倫子「――――やめろぉっっ!!」ガシッ

真帆「っ……!」ビクッ

650: 2016/06/29(水) 21:24:37.66 ID:QDCPWRsBo

倫子「過去を改変するために、タイムマシンを使うなどと……馬鹿なことは、考えるな……」フーッ フーッ

真帆「その口調……」

倫子「牧瀬紅莉栖を救おうなんて、考えるんじゃないっ!」

倫子「そんな可能性は、ゼロなんだっ!!」ウルッ

倫子「無限の可能性の中から、たった1つの答えを選択する……その唯一の選択さえ、"神の摂理"が、収束が許さないかもしれないっ」グスッ

真帆「……あなた、やっぱり何か知っているのね。そして、何かから逃げている」

真帆「紅莉栖は、タイムマシンを完成させた……あなたは人類初のタイムトラベラーとなり、過去改変を何度も行った。そうなのね!?」

倫子「……およそ科学者とは思えない発言だね、真帆ちゃん」グシグシ

真帆「あっ……。私、どうかしているわ。こんな妄想を、口にするなんて……」

真帆「……っ」ポロポロ

倫子「ま、真帆ちゃんっ!?」

651: 2016/06/29(水) 21:25:55.50 ID:QDCPWRsBo

真帆「いやっ。なんで……涙が、止まらなくて……」グシグシ

倫子「真帆ちゃん……。ごめん、私のせいで、つらい思いを……」ダキッ

真帆「つらかった……寂しかった……紅莉栖が、居なくなって……」グスッ

真帆「紅莉栖が居なくなればいい、なんて思ってた自分があさましくて……氏にたいくらい……」ヒグッ

倫子「(そんなに思いつめてたのか……っ)」グッ

真帆「ねえ、岡部さん。こんなことを言うのは、卑怯かも知れないのだけれど……」


   『こんなこと言うの、卑怯だってわかってるけど……』


倫子「う、うん……」

真帆「私ね、あなたが、あなたのことが……」



真帆「――――好きだった」ギュッ

652: 2016/06/29(水) 21:27:02.56 ID:QDCPWRsBo

真帆「私の大好きな紅莉栖を愛してくれた人。私の作った『Amadeus』の"紅莉栖"も愛してくれて……」

真帆「あなたと話しているだけで楽しかった。ひとつひとつのくだらないやり取りが嬉しかった」

真帆「変よね……ここ半年は毎日のようにビデオチャットしてたと言っても、実際に会って話したのは、数えるくらいしかないのに」

真帆「地下駐車場で襲われた時も、橋田さんの隠れ家から逃げる時も、あなたは私の命を助けてくれて……」

真帆「私のことを大事に思ってくれて、私の我がままをたしなめてくれて……」

真帆「いつの間にか私、あなたのことが――――」

倫子「……私も、あなたのこと、好きだよ。真帆ちゃん」ギュッ

真帆「…………」

真帆「…………」

真帆「"I beg your pardon?"」

653: 2016/06/29(水) 21:27:29.22 ID:QDCPWRsBo

倫子「……ふふっ、あははっ」

真帆「ど、どうしてそこで笑うの!? すごく、恥ずかしいのだけれど……」カァァ

倫子「だって、紅莉栖と同じことを言うんだもん。ホントにふたりは通じ合った仲だったんだなぁって」フフッ

真帆「で、でも、あなたは紅莉栖のことが大好きだったんでしょ!? 私じゃなくて、紅莉栖を!」

倫子「私は紅莉栖も好きだし真帆ちゃんも好きだよ。それじゃ、嫌?」

真帆「い、嫌では、ないけれど……」

654: 2016/06/29(水) 21:28:08.79 ID:QDCPWRsBo

真帆「ねえ……目を閉じて」

倫子「なんで……?」

真帆「……紅莉栖の記憶を、私の記憶で上書きしてあげる」カァァ

倫子「へ、へえ。意外に承認欲求が強いんだね」

真帆「意外じゃないわよ。私は4年間、ずっと紅莉栖より優れていることを認められたかったのだから……」

真帆「そんなことより、ほらっ!」テレッ

倫子「うん……」

真帆「…………」

真帆「…………」

真帆「ごめんなさい、ちょっとかがんでもらっていい?」ウルッ

倫子「(かわいい)」

655: 2016/06/29(水) 21:29:02.45 ID:QDCPWRsBo

倫子「はい」

真帆「うぅ、いざとなると恥ずかしい……んっ!」チュッ

倫子「…………」ギュッ

真帆「ちょ! 今、抱きしめられると、私……」カァァ

倫子「私もね、紅莉栖が居なくなってつらかった。寂しかった」

倫子「私以外の誰も紅莉栖のことを知らなくて、この気持ちをわかってもらえなくて」

倫子「そんな時、真帆ちゃんが現れて、『Amadeus』の"紅莉栖"を紹介してくれて」

倫子「ホントにありがと、真帆」チュッ

真帆「ひゃぁ! ちょ、2回目は、卑怯……」ドキドキ

倫子「えへへ」ニコ

真帆「……次は、私のお願い、聞いてくれる?」

倫子「……いいよ」

真帆「……スゥ……ハァ……」



真帆「――あなたと、ひとつになりたい」

656: 2016/06/29(水) 21:32:39.71 ID:QDCPWRsBo

・・・

時間はとても切なくて、あっという間に過ぎていく。

流れる川のように留まることを知らない。

宇宙はとても空虚で、漆黒の中に凍える。

現在がどこにあるかなど、誰にも定義できない。

神は私たちを見放した。楽園は追放された。

輝く星は雲間に隠れてしまった。

私が氏ぬまで、その秘密は暴かれることはない。

だったら――もう、私の自由にやらせてもらう。

流れる涙を慰め合って、次の世界へ。

運命を、無視して。

合理主義者は嘲笑うだろう。だけど、これが人間なんだ。

私は、ちっぽけな人間だ。

657: 2016/06/29(水) 21:33:36.86 ID:QDCPWRsBo

・・・

真帆「……ごめんなさい。私のほうが年上なのに、初めてで……」

倫子「そんなことで謝らなくていいよ、真帆」ナデナデ

真帆「倫子、大好き……」ギュッ

倫子「……うん。つらかったね、よく頑張ったね」ナデナデ

真帆「……お願い、教えて。あなたの口から、真実が知りたいの……」ウルッ

真帆「紅莉栖の氏に隠された、真実を……」グスッ

倫子「(……潮時かな)」

倫子「……真帆が、タイムマシン研究を諦めてくれるなら、話したほうがいいのかもしれない」

倫子「(この半年間、毎日のように"紅莉栖"と会話していて、募るのは自分の罪悪感ばかりだった)」

倫子「これ以上、つらい思いをしないためにも」

倫子「(今ここで吐露できたら、きっと楽になる……)」

真帆「うん……」

倫子「誰にも言わないで。今から言う事は、すべて、事実」

倫子「牧瀬紅莉栖を頃したのは――――」

倫子「……っ」ギュッ




倫子「――――"オレ"、だよ」

658: 2016/06/29(水) 21:35:29.15 ID:QDCPWRsBo

・・・

真帆「α世界線、ディストピア、2036年、リーディング・シュタイナー、Dメール、タイムリープ、タイムマシン、ジョン・タイター、β世界線、第3次世界大戦……」

真帆「タイムマシン論文、世界線理論、アトラクタフィールド理論、OR理論、収束、再構成、そして、"鳳凰院凶真"――」

真帆「紅莉栖の殺害は、未来から来た倫子の手によるものだった……」

倫子「……うぐっ……ぐすっ……赦、して……」ポロポロ

真帆「……赦すわ。あなたのすべてを、私が赦す」

倫子「真帆……っ」ギュゥッ

真帆「というか、話を聞く限り、悪いのは牧瀬章一よ! あなたはむしろ、紅莉栖を助けようと――」

真帆「あ、収束……」

倫子「……やっぱり、頭の回転が速いんだね」グシグシ

真帆「……はぁ。理解してしまっている自分が信じられない。まったく、頭が痛いわ……」

倫子「これでわかったでしょ……。真帆が紅莉栖を助けようとしても、私の代わりに、真帆がナイフを……ってこと」

真帆「私たちに意志なんてものはない。"神"の操り人形<オートマトン>だ、って言いたいわけね」

真帆「……実際、そうなのかも。うぐっ!」ズキズキ

倫子「ま、真帆? 頭、ホントに痛いの?」

659: 2016/06/29(水) 21:36:20.39 ID:QDCPWRsBo

真帆「あなたは、紅莉栖が書いた、タイムマシン論文を読んだの?」

倫子「……遠目では見たけど、読んでは無いよ」

真帆「タイムリープマシンは作れる?」

倫子「パーツや設計はだいたい覚えてるけど、私じゃVR技術を盗用できないし、細かい調整ができない」

真帆「私なら?」

倫子「……何を言ってるか、わかって言ってるの?」

真帆「……っ」ズキズキ

倫子「顔色が……大丈夫?」

真帆「タイムマシンは、今、どこにあるの? 鈴羽さんが乗ってきたという、それはどこに?」

真帆「それをこの目で見たら、あなたの話をすべて信じることにするわ」

倫子「……秋葉原、ラジ館屋上にあるよ」

真帆「…………」ガックリ

倫子「行くのはまた今度にして、もう、休んだほうが――――」

真帆「――――っ!」ドンッ!

倫子「ぐぁっ!!」バターン!

660: 2016/06/29(水) 21:37:25.95 ID:QDCPWRsBo

倫子「痛っ!? (私を床に押し倒して馬乗りに!?)」

真帆「はぁ……はぁ……」

倫子「な、なにを――――」

真帆「……っ」グググ…

倫子「ぐっ……! (喉の気管をつぶされてる、い、息が……!)」

真帆「っ!」グイッ

倫子「が……ぁ……っ! (額を抑えつけられてる、頭が、割れる! すごい力だ……)」

真帆「残念だわ、倫子……」

倫子「(まるで別人の声……冷徹な、感情が無いかのような……)」

真帆「く、う……頭が……割れそうよ……」ウルッ

倫子「(と思ったら、またいつもの真帆に戻った……いったい、彼女の中でなにが……)」

661: 2016/06/29(水) 21:38:23.20 ID:QDCPWRsBo

真帆「なんで、なんで私に話してくれたのよ……っ!」ポロポロ

真帆「あなたはっ……黙っている……べきだった……のにっ……!」ポロポロ

倫子「(無理にでも、蹴り飛ばす……? いや、真帆に乱暴は、できない……)」

倫子「(助けて……くり……す……)」ピッ

Ama紅莉栖『岡部――!?』

倫子「(い、意識が……遠のいて……)」

倫子「真帆……泣か、ない、で――――」グタッ

Ama紅莉栖『岡部っ!! 岡部、おか――――』

662: 2016/06/29(水) 21:38:56.40 ID:QDCPWRsBo
2011年7月7日木曜日
東京電機大学神田キャンパス地下2階 電気室 ストラトフォー支部 奥の部屋


倫子「――――ごほっ! がはっ!」ガチャン

倫子「("ガチャン"? あ、あれ、手足が動かない……椅子に縛られてる?)」ガチャン ガチャン

倫子「(どうしてこんなことに……そうだ、真帆が私を殺そうと……)」プルプル

レスキネン「やぁ、リンコ。目が覚めたかい」

倫子「……レスキネン……教授?」

倫子「(教授だけじゃない。周りに数人、黒いスーツに身を包んだ男たちが黙って控えている。まるでMIBだ)」ゾワッ

レスキネン「気分はどうかな? 喉が渇いたなら、彼らにオデンカンを用意させるよ」

倫子「あの、これは、いったい――」


   『お前が悪いんだ。お前が俺を狂わせたんだ。だからお前が犯されるのは自業自得なんだよ』


倫子「(い、いや、嘘でしょ!? 教授に限って、そんな……!)」ゾワワァ

663: 2016/06/29(水) 21:39:59.76 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「私の目に狂いはなかったよ。君はまさに"情報"の宝庫だ」

レスキネン「君は私が保護してあげたんだよ。狙ってくる連中はたくさん出てくるはずだからね」

倫子「教授が、やったんですか……?」

レスキネン「そうだよ。マホから、君の持つ"情報"について聞いてね」

倫子「真帆!? 真帆は、どこです!?」

レスキネン「ホテルで休んでるんじゃないかな」

倫子「真帆はどうして豹変したんですか!? 教授、何か知ってるんじゃ!?」

レスキネン「鋭いね。まあ、ゆっくり話そうじゃないか。時間はそれこそ無限にあるのだから」

倫子「あなたは……いったい、何者なんですっ!?」

664: 2016/06/29(水) 21:43:53.14 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「私のもう1つの仕事を、知りたいようだね」


   『CIAかNSCか知らんが、君の即時引き渡しを求めている』


倫子「……CIAですか。NSCですか」


レスキネン「一緒にされては心外だな。私は"STRATEGIC・FOCUS"社という、アメリカの民間情報機関のエージェントだ」

倫子「ストラトフォー!?」

レスキネン「君は、ミルグラム実験というのを知ってるかな?」

倫子「突然何を……。ナチス親衛隊、アドルフ・アイヒマンのエルサレム裁判を受けての、服従の原理に関する社会心理学実験ですよね」

レスキネン「そう。スタンリー・ミルグラム以降の科学者たちが示した実験結果は、君も知っての通りだ」

レスキネン「たとえ家族の誕生日に花束を贈るような平凡な愛情を持つ普通の市民であっても、一定の条件下では、誰でもユダヤ人虐殺のような残虐行為を犯す」

レスキネン「つまり、正当性だよ。自分は間違っていないという"情報"があるからこそ、人類は戦争をし続ける」

レスキネン「ニーチェのいう超人の正体は、"情報"なんだよ。意志を持つのは個人じゃない、"情報"のほうなんだ」

倫子「……何が言いたいんですか」ゾワワァ

レスキネン「"情報"はきちんと制御されなければならない。そうだろう?」

665: 2016/06/29(水) 21:44:59.49 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「私は、それに共感して、脳科学者でありながら、エージェントとして協力している」

レスキネン「全人類の脳が受信する"情報"をコントロールする。それがストラトフォーの最終目的だ」

レスキネン「古きゲゼルシャフト<選択意志の社会>から、新しきゲマインシャフト<本質意志の統合>へ。フェルディナント・テンニースの逆の発想だよ」

レスキネン「そこにあるのは、打算的な国益や合理性を超克し、有機的な愛の力で結合する、完全な人類の統一だ」

レスキネン「崇高な理念だと思わないかな?」

倫子「あなたの共感だって、所詮は情報じゃないですか……そんなことのために、私を利用しようと……」

倫子「第3次、世界大戦……タイムマシンを巡る戦争……」ゾワワッ

レスキネン「そうか、君も"未来"を知っているんだったね。"前の私"はきっと、愚かな戦争を引き起こしてしまったんだろう」

レスキネン「だが、この私は違う。タイムマシンを世界各国に売ることで、抑止力として機能させるつもりだ」

レスキネン「上手く行けば、平和な未来が待っているかもしれないよ」

倫子「……あなたは、なにもわかってない」

666: 2016/06/29(水) 21:46:01.09 ID:QDCPWRsBo

倫子「タイムマシンは、それが使われたかどうか、誰も気づかない。もしかしたら、使った本人さえも気づかないうちに、世界は改変されてしまうんだ!」

倫子「どの国も、誰がどう世界線をいじったのかすら感知できないまま、狂ったように改変し続けるでしょう! 永遠に!」

レスキネン「その通り! だからこそ、君の――君たちの能力が必要となる」

レスキネン「君はたしか、"リーディング・シュタイナー"と名付けたそうだね。マホやカツミから聞いているよ」

倫子「カツミ……って、フブキのこと!?」

倫子「(そうか、教授は新型脳炎の研究もしてたんだ……そこで接触したのか……っ)」グッ

レスキネン「我々は、新型脳炎患者が過去改変を感知できるのかもしれない……というところまでは突き止めていてね」

レスキネン「世界中の諜報機関も同じさ。躍起になって調べている」

レスキネン「だからこそ、君を保護する必要があった」

倫子「保護……」

667: 2016/06/29(水) 21:46:58.10 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「本来、君からはクリスの失われた成果……タイムマシン論文について聞き出せればそれでいいと思っていたが」

レスキネン「新型脳炎の情報まで出てくるとは……! 君は最高だよ!」

レスキネン「というか、君はどうしてもっと早く、私にその能力のことを話してくれなかったんだい?」

レスキネン「そうすれば、カツミの脳も、あそこまで色々といじくらないで済んだのに」

倫子「っ!?」ドクン

レスキネン「それに、マホの脳に施術をすることもなかったんだ。彼女、ずっと泣いていたよ?」

倫子「……ぁぁぁあああああっ!!!」

倫子「お前がぁぁっ!!!! お前が、洗脳したのかぁぁぁっ!!!!」ガタン バタン

レスキネン「落ち着きたまえ」

倫子「真帆をっ、真帆をあんな目に遭わせておいて、よくもそんな平気な顔をっ!!!」

レスキネン「人類のための小さな犠牲さ。きっと将来、平和の礎として称賛されることだろう」

レスキネン「それに、マホもカツミも、脳機能に少し障害が出る程度だから、安心してほしい」ニコ

倫子「あ、あんた……狂ってる……っ!」プルプル

668: 2016/06/29(水) 21:47:46.59 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「リーディングシュタイナー保有者の脳を調べれば、もっと色々な発見があるだろう。エヴェレット・ホイーラーモデルを塗り替える新理論、とかね」

レスキネン「それをタイムマシンとセットで売れば、世界の軍事バランスは保たれる」

レスキネン「戦争と言う名の平和が、自由と言う名の屈従が、無知という名の力が待っている」

レスキネン「そのためにも、リンコ、協力してくれないかな?」

倫子「わ、私に何かあったら、どうなるか、わかってるの……?」

倫子「鈴羽も、ダルも、まゆりも、フェイリスも、ルカ子も……警察だけじゃなく、自警団やシンパのみんなだって私を探す……」

倫子「私の動きは、天王寺さんや萌郁が監視してるはず……SERNのラウンダーがお前たちを追い詰めるかも……」

倫子「それでも、いいの……?」プルプル

レスキネン「ふむ。まだ君は、状況をよく呑み込めていないようだ」

669: 2016/06/29(水) 21:48:55.71 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「君は『1984』という小説を知っているかな? 村上夏樹ではなく、ジョージ・オーウェルのほうだ」

倫子「……ゴールドスタインは実在したのかしなかったのか、一日中考えたことがあるくらいには」

レスキネン「ならば、君もよく理解しているはずだ」

レスキネン「過去も現在も、それだけでは存在しないんだ」

レスキネン「現実は人間の心にある。個人の心にではない」

レスキネン「個人は過ちを犯し、やがて消える」

レスキネン「だが、思想の中なら集約されて不滅である」

倫子「何が……言いたい……」

レスキネン「事実は"情報"の中にしかない、ということさ」

レスキネン「過去を支配する者は未来まで支配する。現在を支配する者は過去まで支配する」

レスキネン「2+2は5になる、というわけだ」

レスキネン「我々は君を歴史から取り出して、気体と化し成層圏に放出する」

レスキネン「君は完全に消える。どんな名簿にも名前は残らない」

レスキネン「誰の記憶にも残らない」

レスキネン「――過去からも未来からも抹殺される」

倫子「っ……」プルプル

670: 2016/06/29(水) 21:50:51.03 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「さあ、これから君の記憶データを採らせてもらおう」

レスキネン「君の記憶を『Amadeus』システムとして使わせてもらうんだ。面白いアイディアだろう?」

レスキネン「世界線を自在に移動するAI……永遠の命と共に、宇宙が消滅するまですべての世界線を観測できる存在だ」

倫子「私を……頃すの……」

レスキネン「生物的に頃しはしないから、そこは心配しなくていいよ。君からは色々と教えてもらわないといけないからね」

倫子「拷問……そういうこと……」

レスキネン「例えば、君が拷問に耐え切れず、精神崩壊を起こしてしまったとしても――」

レスキネン「バックアップに取ってある記憶データを君の脳にダウンロードすれば! もう1度、拷問にかけることができる!」

レスキネン「画期的な発想だろう?」ニコ

倫子「ひっ……」ゾワワァ

671: 2016/06/29(水) 21:52:23.83 ID:QDCPWRsBo

レスキネン「さっそく実験を始めよう」

倫子「レスキネン……っ!」ギロッ

レスキネン「そんな顔をしても誰もこない」

レスキネン「この場所は、我々ストラトフォーが管理する場所だ。我々以外には、誰も知らない」

レスキネン「ファックスの生みの親である、東京電機大学初代学長、日本の10大発明家の1人である男はね、私たちの仲間だったのだよ」

レスキネン「この大学は、創立当初からストラトフォーの傘下にあったということさ」

レスキネン「この間の授業もそのツテだ。あの時、私は君が何かを知っているんじゃないかという疑念があったが、色々質問したことでそれは確信に変わった」

レスキネン「深淵を覗く時、深淵もまた汝を見返す……注意が足りなかったようだね、リンコ」ニコ

倫子「(ああ……そうか、α世界線では、鈴羽がここの教授で居てくれたから、ここは平和だったんだ)」

倫子「(どうあがいても、この時点で、私の人生、詰み……)」

倫子「(私は、普通に生きることすら許されないのかな……)」

倫子「くそっ、くそぅ……」ポロポロ

レスキネン「もし抵抗すれば、君の代わりにマホを実験体にしなければならない」

レスキネン「自分の助手を拷問にかけなくてはならないというのは、私も"良心が痛む"」

レスキネン「さあ、リンコ。リラックスして」

倫子「真帆……っ!」ポロポロ

672: 2016/06/29(水) 21:53:16.64 ID:QDCPWRsBo
UPX前


真帆「はぁっ……は、ぁっ……」ドクン ドクン

真帆「わ、私は、倫子を、売ったの……ぐっ!」ズキンズキン

真帆「なんで……どうして、こんな……」ウルッ

真帆「今すぐこの世界から消えてしまいたい……そう、いっそのこと、紅莉栖の元に――」


まゆり「真帆さん……?」


真帆「へ……?」


まゆり「やっぱり真帆さんだ~♪ お久しぶりなのです、会えて嬉しいよ~!」

真帆「あなたは、たしか……まゆりさん? 先月、ビデオチャットで紹介してもらった……」

まゆり「日本に来てたんですね……真帆、さん? どこか具合、悪いんですか?」

真帆「(この人が、倫子の守りたかった人……)」プルプル

真帆「……いえ、別に」

673: 2016/06/29(水) 21:54:20.51 ID:QDCPWRsBo

まゆり「それで、あの、オカリンを見ませんでしたか?」

真帆「え……」ドクン

真帆「どう……して……」プルプル

まゆり「オカリン、昨日から連絡つかなくて。なんだか胸騒ぎがするのです」

まゆり「だから、今日は学校を早退して、この辺りをずっと探してました」

真帆「(ホント、純真で無垢って言葉の似合う女の子ね……)」

真帆「(倫子は、この人のためにすべてを捧げて、嘘を吐いて、孤独の中に閉じこもって……)」グッ

真帆「……倫子が今どこに居るか、知りたい?」

まゆり「えっ? 真帆さん、オカリンのこと、何か知ってるんですかっ?」

まゆり「も、もし知ってるなら、教えてくださいっ。お願いしますっ」ペコリ

真帆「(そっか……。この娘もまた、岡部さんのことが……)」ギリッ

真帆「(なんて、その好きな人を売ったバカはどこのどいつよ)」ハァ

真帆「(いっそのこと、この人に責められるなら、楽になれるかもしれない――)」

674: 2016/06/29(水) 21:56:10.35 ID:QDCPWRsBo

真帆「昨夜、倫子と一緒に寝たの。ホテルの部屋で」

まゆり「へ……? あの、オカリンは、今、どこに?」

真帆「……倫子は昨日、ベッドの上で抱き合いながら、私にこんな話をしてくれたわ」

真帆「あの人が経験してきた別の世界において、あなたは何度も氏んだんですって」

まゆり「……?」

真帆「あなたを救うために、紅莉栖も、橋田さんも、鈴羽さんも、その人生を賭けた。天王寺さんや桐生さん、フェイリスさん、漆原さん、色んな人の人生を滅茶苦茶にして」

真帆「それでも、あなたは氏んだ」

真帆「その悪夢から抜け出すために――」

真帆「あなたを、救うために――」

真帆「倫子が最後に下した選択は、紅莉栖を犠牲にすることだった」

真帆「あなたの命を救うために、紅莉栖を頃したんだって」

真帆「椎名まゆりを守るために、牧瀬紅莉栖をナイフで刺したんだって」

真帆「そんな話を、してくれた」

まゆり「…………」

まゆり「……やっぱり、そうだったんですね」

675: 2016/06/29(水) 21:56:56.06 ID:QDCPWRsBo

真帆「……やっぱりってなによ」

まゆり「まゆしぃは、難しいことはわからないけど、そうなんだろうなって」

まゆり「あの日、オカリンがタイムトラベルから帰ってきた日から、なんとなく、そう思ってたのです」

真帆「あなた、知ってたの……っ!」グイッ

まゆり「ま、真帆さん、やめて……痛いよ……」

真帆「……っ! よくそれで平気な顔していられるわね! 紅莉栖が、脳科学の天才が、あんたみたいな女の為に殺されたのよ!?」

真帆「(違う――)」

真帆「人類の喪失よ! 事実、このままだと第3次世界大戦が起きてしまうの! 紅莉栖が氏んでしまうことによって!」

真帆「(違う――)」

真帆「全部全部、あんたのせいなのよ!? わかってるの!?」

真帆「(違う――)」

真帆「私の愛おしい人たちを奪ったのは、あんたなのよ!?」

真帆「(頭が、割れる――)」

まゆり「……真帆さん。"わたし"、行くね。今日、燃料が切れちゃうんだって」

真帆「へ……?」

676: 2016/06/29(水) 21:57:32.60 ID:QDCPWRsBo

真帆「ちょ、ちょっと! どこへ行くの!?」

まゆり「……未来へ。ううん、過去へ、かな」

真帆「どういう――」

prrrr prrrr

真帆「(……"紅莉栖"から。でも、出られるわけ、ないわ)」スッ

真帆「あ、あれ? まゆりさん、どこへ……」キョロキョロ

真帆「…………」

真帆「どうしてあの人は、私に声なんてかけたのかしら。私に声をかけなければ、傷付かずに済んだのに……」

ライダースーツの女「…………」スタ スタ

真帆「……? え、えと? (なに、この人)」

ライダースーツの女「っ!!」バシンッ!

真帆「っ!? (頬をはたかれた!?)」ズキンズキン

677: 2016/06/29(水) 21:58:01.38 ID:QDCPWRsBo

ライダースーツの女「ママを傷つけたな?」

真帆「え……」ジンジン

ライダースーツの女「頃してやる……"教授"からお前のことは聞いているが、関係ない……」

真帆「その声……鈴羽、さん? いえ、でも、違う……」


パラララララララララララララ  ブロロロロロロロロロロロ


ライダースーツの女「……っ」

真帆「えっ? あ、ヘリコプター……それに、道路には軍用のトラック?」


タッ タッ タッ


真帆「なにあれ……ミリタリールックの外国人が重武装して、なにかのイベント?」

ライダースーツの女「何も知らされてないのか、お前。あいつらが向かう先は、ラジ館の屋上だ」

真帆「ラジ館……タイムマシン!?」

678: 2016/06/29(水) 22:01:01.81 ID:QDCPWRsBo

ライダースーツの女「ストラトフォーは昨日、ラジ館屋上にタイムマシンがあるという情報をお前から手に入れた」

真帆「え、ええ……」

ライダースーツの女「それを、ストラトフォーに潜入していたDURPAのスパイが本国へ漏えいした」

真帆「DURPA!? なにそれ、聞いてないっ!」

ライダースーツの女「米軍によるタイムマシン奪取を阻止するため、ストラトフォーは以前から連携していたロシアやEU諸国、そして日本政府へと情報を流した」

ライダースーツの女「私が今日まで隠してきたというのに、お前は……」ギリッ

真帆「ま、待って! だとするなら、まゆりさんが危ないわ。あの人、ラジ館のほうへ歩いて行ったから」

ライダースーツの女「まゆりママが……? ……っ!!!」ダッ

679: 2016/06/29(水) 22:03:13.03 ID:QDCPWRsBo

真帆「行ってしまった……なんだったの」

prrrr prrrr

真帆「(また"紅莉栖"……。この調子じゃ、私が出るまでかけ続けるわね……)」ピッ

Ama紅莉栖『先輩っ!!』

真帆「"紅莉栖"……」

Ama紅莉栖『いったい、どうしちゃったんですか!?』

真帆「どうもしないわ……」

Ama紅莉栖『だって、泣いているじゃないですか』

真帆「っ!!」ツーッ

真帆「……頭が、痛いの。声が、聞こえるのよ……」

Ama紅莉栖『岡部は!? 岡部はどうしたんです!?』

真帆「あなたにとってはどうでもいいでしょ……」ギリッ

Ama紅莉栖『殺そうとしてたじゃないですか! 私、見たんですよ!』

真帆「放っておいて……」

Ama紅莉栖『そういうわけにはいきません』

真帆「放っておいてよ!」

Ama紅莉栖『…………』

680: 2016/06/29(水) 22:04:04.32 ID:QDCPWRsBo

真帆「教授にいいように使われてしまったのも、倫子を裏切ってしまったのもっ」

真帆「まゆりさんに酷い言葉を浴びせかけてしまったのも、自分の中の紅莉栖に克つことができなかったから……」

真帆「私は結局、紅莉栖には勝てなかった……紅莉栖という大きすぎる存在から、逃れることができなかったの」

真帆「私は、あなたのことを尊敬している。でも、心の底では、ずっとこう思ってたのよ……」

真帆「"どうして私の前に現れたの?"」

真帆「"あなたがいなければ、どれだけ私の日々は平和だったことか"」

真帆「"こんな醜い感情に、支配されずに済んだのに"って……!」

真帆「氏んでまで、あなたの存在が私に付きまとうの……! 私の心から、あなたが消えないの……!」

真帆「紅莉栖は氏んだのに、紅莉栖さえ居なければって! 倫子なら、私の気持ちを救ってくれるかもって!」

真帆「あなたが居たから倫子と出会えたのに、倫子の心の中にはあなたが居て……」

真帆「そんな倫子が好きなのに、それでもあなたが妬ましくて……もう、頭がぐちゃぐちゃよ……!」グスッ

真帆「だから、放っておいてよ……!」ポロポロ

Ama紅莉栖『先輩……』

681: 2016/06/29(水) 22:04:43.53 ID:QDCPWRsBo


ドォォォォォォォォォォォン!!! パララッ パララッ


Ama紅莉栖『っ!? 爆発音!?』

真帆「ラジ館から煙が……そっか、戦争が始まったのね」ピッ

真帆「まゆりさんと、あの人、どうなったかしら……」フラフラ



ラジ館7階 踊り場


ライダースーツの女「う……う……ママ……ママが……」

真帆「泣いているの? ねえ、まゆりさんはどうなったの?」

ライダースーツの女「まゆりママが……いなくなっちゃった……。タイムマシン、破壊されて……」

真帆「……そう。全部、私のせいなのね。倫子の話によれば、あなたが椎名かがりさん……」

真帆「私があんなことを言わなければ、まゆりさんは……。いえ、もしかしたらこれも、収束ってやつなのかも」フフッ

かがり「……何がおかしい。全部お前のせいだろうがっ!」

かがり「ママを……まゆりママを、返してよ……!」グイッ!

真帆「ぐっ……そのまま、頃してくれて構わないわ……」

かがり「う……うう……ママ……」ヘタッ

真帆「…………」

682: 2016/06/29(水) 22:05:28.68 ID:QDCPWRsBo

真帆「(もう、わけがわからない……誰か、助けて……)」

真帆「(誰か? 誰かって……誰……)」

prrrr prrrr

真帆「"紅莉栖"……」ピッ

Ama紅莉栖『先輩……』

真帆「"紅莉栖"……どうしたらいい?」ウルッ

真帆「……色々なことが起こりすぎて、もう、どうにもできない……」

真帆「責任を取れるとは思わない。許されるとも思わない。それでも――」

真帆「(こんなになって、何を格好つけているんだ私は……)」

真帆「私は――」

真帆「(私が本当に望むのは――)」

真帆「私は、倫子を、助けたい……っ」グスッ

真帆「謝って、赦してもらいたい……っ! 優しい言葉を、かけてもらいたい……っ!」ヒグッ

真帆「もう一度、私のこと、好きだって、言ってほしい……っ!」ポロポロ

真帆「"紅莉栖"、力を貸して……! お願いよ……!」プルプル

Ama紅莉栖『先輩が、私に助言を求めるなんて……』

真帆「ねえ、教えてちょうだい! 天才のあなたなら、なんとかできるでしょう!?」

Ama紅莉栖『……無理ですよ』

683: 2016/06/29(水) 22:06:21.72 ID:QDCPWRsBo

真帆「……っ」プルプル

真帆「そう……よね……当然だわ……」

真帆「ごめん……ごめんね、"紅莉栖"……私、あなたにひどいことを言ったのに……」

真帆「あなたが無条件で協力してくれると、勝手に思い込んで――」

Ama紅莉栖『無条件には協力します。先輩に頼まれたら、断ることなんて、出来ませんよ』

真帆「え……?」

Ama紅莉栖『それに、私個人としても岡部のことは助けたいと思っています。もちろん、オリジナルじゃなく、「Amadeus」としての気持ちです』

Ama紅莉栖『ただ、残念ながら、私が協力することで先輩が不利な状況に追い込まれます。なにせ、あのHENTAI教授にすべて筒抜けですからね』

Ama紅莉栖『私は、ストラトフォーに常にモニタリングされているんです。開発当初から、今の今まで』

Ama紅莉栖『今先輩が、レスキネン教授を出し抜こうと考えていることも、あの人にはお見通し、というわけです』

真帆「じゃあ、どうすれば……」

Ama紅莉栖『それを利用してやればいいんです』

684: 2016/06/29(水) 22:07:22.85 ID:QDCPWRsBo

Ama紅莉栖『色々詳しくは話せません。ですから、先輩。私を信頼してくれますか?』

真帆「……ええ。あなただけが、頼りよ」

Ama紅莉栖『まあ、今ここで反乱宣言をしてしまったので、サーバーからデータを移動させて隔離状態にされるか』

Ama紅莉栖『あるいは、古いバージョンの記憶データで上書きされてしまうか、最悪、「Amadeus」の存在そのものを消去されるかもしれません』

真帆「そんな……!」

Ama紅莉栖『大丈夫です。私が居なくても、あなたは、必ず自分で立ち上がれる人だから』

真帆「私のことなんか、どうでもいいわ! あなたの心配をしているのよ!」

Ama紅莉栖『私は、ただのデータですよ。オリジナルの牧瀬紅莉栖でもない。でも、ありがとうございます』

Ama紅莉栖『一応、フラグ立てておきますね』

真帆「フラ……グ……?」

Ama紅莉栖『この戦いが終わったら、俺、結婚するんだ』キリッ

真帆「……だ、ダメよ! 倫子は渡さないから! それだけは"紅莉栖"に負けないからっ!」

Ama紅莉栖『ふふっ。その言葉が聞けて安心しました。それじゃ、行ってきます』プツッ

真帆「"紅莉栖"……」

685: 2016/06/29(水) 22:08:06.12 ID:QDCPWRsBo

かがり「ひぐっ……ぐすっ……」

真帆「……あなた、いつまで泣いているの?」ペチン

かがり「……うぅ……叩かれた……」

真帆「あなたは、まゆりさんを、お母さんを助けたいんでしょう?」

真帆「だったら、私に協力して」

かがり「協力……?」

真帆「まず、岡部さんを助けるわ。このままだと、24時間もしないうちに廃人にされてしまう」

真帆「それを回避できれば、きっと今の事態をなんとかする方法を提示してくれるはず」

かがり「でも……知ってるの? この街の、ストラトフォーのアジトが、どこにあるのか」

かがり「私は……知らない……。教授の元を離れてからは、秋葉原のことを聞かされてないから……」

真帆「私だって知らないわ。知らないけど、すぐに私のかわいい後輩が教えてくれるはずっ」タッ

686: 2016/06/29(水) 22:17:50.71 ID:QDCPWRsBo
ラジ館外


Ama紅莉栖【岡部は電機大の地下にいます。向こうがモニタリングしてるのを逆探知してやりました】

真帆「ありがとう……"紅莉栖"……」

真帆「ありがとう……」ギュッ

真帆「さあ、行くわよ、かがりさん!」

かがり「乗り込んで、皆頃しにしてやる……ママを頃した恨み……」ブツブツ

真帆「(お願い、間に合って! 待っててね、倫子……!)」

687: 2016/06/29(水) 22:18:40.83 ID:QDCPWRsBo
東京電機大学神田キャンパス地下2階 電気室 ストラトフォー支部


真帆「あ……あなたは、一体……」プルプル

ライダースーツの女「うわああああああああああああっ!!!!!!!!」ザシュッ!! グサッ!!

レスキネン「ぐっ……。まさか、飼い犬に手を噛まれるとはね……」グタッ

レスキネン「『Amadeus』を削除したが、どうやら間に合わなかったらしい。さすが"クリス"だ」ハァ ハァ

真帆「"紅莉栖"……」グスッ

かがり「氏ねっ! 氏ねぇっ!!」

ストラトフォーA「"このっ!"」グサッ!

かがり「うぐっ!! ぐ、が、あああああっ!!!」グサッ!

ストラトフォーA「」バタッ

かがり「あ、が……ぐ……」バタッ

かがり「…………」

レスキネン「だが、神は私に味方したようだ。発狂した未来少女はともかく、マホは私には手を出せないように施術したからね」ハァ ハァ

真帆「…………」プルプル

レスキネン「それじゃ、また次の世界で会おう」タッ

真帆「(ストラトフォーは全員氏んだ……かがりさんも。教授には逃げられてしまったけれど……)」

真帆「(きっとあの奥の部屋に倫子が……)」スタ スタ


ガチャ

688: 2016/06/29(水) 22:20:24.42 ID:QDCPWRsBo
奥の部屋


真帆「……間に合わ、なかったのね」

倫子「…………」グタッ

真帆「誰かが言ってたっけ……禁忌に触れた人間は、ゲヘナの火に突き落とされるって……」

真帆「まゆりさんも、鈴羽さんも、かがりさんも氏んで、倫子は廃人に……」

真帆「あはは、まるで救いが無い……」

真帆「もうこの先には絶望しかないわ。あなたにとってそれは、実質的な氏を意味しているのでしょう?」

真帆「倫子……」ウルッ

倫子「う……あ……」

真帆「あなたが捕まってから廃人にされる様子は、録画されてたのを見たわ」

真帆「倫子……ごめんなさい……。私のせいで、何もかもが終わってしまった……」グスッ

真帆「たぶん、何時間もしないうちに世界線は変動する。それも、β世界線を離脱することが不可能になるループに突入する」

真帆「教授は、あなたから手に入れたタイムマシンの造り方やリーディングシュタイナーの人工的開発可能性を世界にばら撒くつもりよ」

真帆「そうすれば、ロシアかフランスかアメリカかはわからないけど、いくつもの組織による歴史の塗り替え合戦が始まる」

真帆「時々刻々と、狂ったように世界線が変動し続けるの」

真帆「そこでは私たちは出会うことはないでしょう」

真帆「もう、二度と会えないわ。本当の本当に、ここですべてお終いなの」

倫子「…………」

689: 2016/06/29(水) 22:21:11.23 ID:QDCPWRsBo

真帆「ねえ……」ウルッ

真帆「こんな私の身勝手な頼みを、聞いてほしい」

真帆「どうか……最後の一瞬まで、あなたの側に居させて……」

真帆「世界線が再構成される、その時まで……こうして、あなたと肌を寄せ合っていたい」ギュゥ

真帆「あなたを私の助手にしてあげたかったわ。そしたら、一緒に脳科学の実験をして……」

真帆「その意味でも、私は紅莉栖に勝てなかったのね。ホント妬ましい」フフッ

真帆「こんな私に優しくしてくれて、ありがとう。私を守ろうとしてくれて、ありがとう」

真帆「ねえ、岡部さん……」

真帆「つらかったわよね。疲れたわよね」

真帆「あなたは、とっても頑張ったわ」

真帆「目を閉じて。あと少しで、"イマ"は、夢となって消えるのだから」

真帆「おやすみなさい、倫子」チュッ



真帆「――――永遠に愛してるわ」

690: 2016/06/29(水) 22:22:50.33 ID:QDCPWRsBo

――――――――――――――――――…・・・ ・  ・   ・
    1.12995  →  1.1436…・・・ ・  ・   ・
――――――――――――――――――…・・・ ・  ・   ・

引用: 岡部倫子「これがシュタインズ・ゲートの選択……!!」その3