1: 2008/03/07(金) 20:44:40.76 ID:e53ItHWjO
「もう走れない…お願い…もう許して……血が止まらないんだ……。」

深緑色の髪をお尻の辺りまで伸ばした、八重歯の可愛い活発そうな少女は肩口から血を滲ませながら懇願した。
随分と必氏で走って逃げたのだろうか…顔には玉のような汗がにじみ、ゼエゼエと肩で息をしていた。

「…家に…家に帰りたいよ…」

泣きながらそう呟くと、その少女は森の小道に座り込み、乾きかけの血で赤黒く変色したナイフを携える人影のズボンにすがり付いた。

「すべては岸猿家の為に…」

その人影は老婆のようなしわがれ声でそう言うと、ナイフを振り上げた。

「いやだ…氏にたくないよ………立木さん…。」

少女は泣きながら命乞いをした。

「我の血となり肉となり…血の礎を築くのじゃ…。」

人影はそう呟くと、泣いて懇願する少女の背中にナイフを突き立てんと、思い切り振り下ろした。

早朝の薄暗い森に絹を裂くような悲鳴が響き渡ったのはそれから暫くの事だった…
らき☆すた(1) 【前編】 らき☆すた 【分割版】 (カドカワデジタルコミックス)

3: 2008/03/07(金) 20:49:19.37 ID:e53ItHWjO
その3日後




「海だよ、かがみん海だよ!!」
この旅行の主催者、泉こなたは楽しげにそう叫びながら漁船の船首で、彼女の前に開ける大海原を仰いでいた。

「アンタそんな所に立ったら危ないわよ!海に落ちたって知らないんだからね。」


「堅いこと言いっこ無しだよ、かがみん」

こなたは振り返ると、満面の笑顔で船の面々を見つめた。


4: 2008/03/07(金) 20:53:53.59 ID:e53ItHWjO
船のへりに優雅に腰掛けて、白い日よけ帽を風で飛ばされないように片手で押さえるみゆき、船酔いで気分が悪いのか、姉であるかがみに背中をさすられながら口元をハンカチで押さえているつかさ、つかさの背中をさすりながら此方に顔を向けて、こなたをいさめるかがみ。


「こなたさん、本日はこのような場所に誘って頂いて本当にありがとうございます。」


みゆきが日よけ帽を押さえながら笑顔で言った。


「んにゃぁ、お父さんの友達の立木さんのおかげだよ~。」



5: 2008/03/07(金) 20:58:42.04 ID:e53ItHWjO
そうなのだ、実を言うと今から行く島はこなたの父であるそうじろうの友人の立木という作家の所有している島で、泉一家が立木氏に招待されてこの島に遊びに来る事になった。
かがみ達はそのついでのお供である。しかし発起人であるそうじろうは急な仕事でこれなくなってしまい、結局は私たちだけで島へと赴く事になった。

監獄島…地元ではそう呼ばれている、元監獄の何とも気味が悪い島である。
まあ、いかにもこなたあたりが喜びそうな島ではあるが…。


しかし、そんな不気味な過去と名前を除けば、その島は雄大な自然に囲まれた素晴らしい所なのだそうだ。

そんな素晴らしい島を私たちだけで貸切…私たちだけの砂浜…森林浴…宿泊施設…そして島。


その島で待っているであろう楽しい出来事に、かがみは期待に胸を膨らませていた。


8: 2008/03/07(金) 21:05:27.36 ID:e53ItHWjO
「しかしあんたらも物好きだな。」


悦に入って虚空を眺めていたかがみに、突然船を操縦していた船頭さんが口を開いた。


「よりによってかまいたちの日に、こんな島に来るなんて。」


「え…かまいたちの日…?」


かがみには皆目見当もつかなかった。


「なんじゃい、知らんのか。50年に一度ここいらに強い風が吹く日だよ。その日は不吉な事が起こるってんで、地元の奴らは監獄島の近場で漁はしないのさ。」


9: 2008/03/07(金) 21:08:44.38 ID:e53ItHWjO
「不吉な事って…一体なんなんですか?」


「…さあな。ワシは知らん。」


船頭さんはそう言うと、それっきり口をつぐんでしまった。

「えっ…でも…」

「きゃあ!」

かがみがそう言いかけた途端に、突然突風が吹いた。それは悲鳴にも似た風音を響かせながら、みゆきの白い日避け帽をかすめ取り、海の向こうへと持ち去ってしまった。


次第に船から遠ざかり、そしてただっ広い海に置き去りにされた白い日避け帽をながめていたかがみは何か途方もない不安に襲われて身震いをした。

11: 2008/03/07(金) 21:14:02.04 ID:e53ItHWjO
漁船が無事に船着き場に到着し、4人は各自荷物を担ぎながら島へと降り立った。


「他の人達はもう建物にいるそうだ。じゃあ…俺の仕事はここで終りだ。建物はこの道をまっすぐ行けばそのうち見えてくるだろう。」


船頭さんはそう言いながら船着き場の正面にある森の小道を指差し、そしてさっさと漁船に乗ってしまった。



12: 2008/03/07(金) 21:17:19.58 ID:e53ItHWjO
「ねぇ!かまいたちの日ってどういう事なのよ…。」
船頭さんの謎めいた言葉がどうしても気になり、かがみは既にゆっくり移動しはじめた漁船に飛び付き、漁師にたずねた。

「…まあ気を付けろとしか…いいようがないな。…2日後に迎えに来る…それじゃあな、お嬢ちゃん…」
船頭はうつ向いたままそう言うと、さっさと船を発進させて、海の向こうへと行ってしまった。
かがみはいつまでも、小さくなっていく船を見つめていた。

13: 2008/03/07(金) 21:19:30.75 ID:e53ItHWjO
「お姉ちゃん…どうしたの?」

幾分か気分が良くなったのか、それでも顔が青白いつかさが、心配そうな表情で、かがみにたずねた。


「ううん、何でもないわ。それより皆が待ってるみたいだし早く行こう。」


かがみは踵を返すと真っ直ぐ森の小道へと歩いて行った。


14: 2008/03/07(金) 21:21:15.06 ID:e53ItHWjO
「お~い、たのも~。」

こなたの体がさらに華奢で小柄に見える程大きくて荘厳な、鉄で出来た扉をおどけた様子でこなたが叩く。

こなたの後ろに荷物を持って立っている三人は、さも珍しい物を見るような好奇の目で辺りを見回していた。


15: 2008/03/07(金) 21:23:24.46 ID:e53ItHWjO
それもそのはずである…。
この建物はいささか変わった建物だったからだ。
まず四方を5メートルはゆうにある石の塀がぐるりと囲み、入口と言えば両端に監視塔を備えた頑強で重そうなそうな鉄のゲートだけ。
元監獄だけあって、虫一匹逃さないであろう当時の監視体制が目に見えてくる。

17: 2008/03/07(金) 21:27:50.88 ID:e53ItHWjO
そして肝心の建物は、まるで三日月のように湾曲し、中央にある広場を、これまた囲むように佇んでいる。変わった形だ。それに古びたコンクリートと鉄の外壁は、赤錆とホコリがこびり付き、風雨に晒されて歪に色褪せ、まるで趣味の悪いお化け屋敷のようだ。

古臭い木枠の窓が建物の両端二つにしかないのは監獄時代の名残だろうか。
その中でも最もおぞましいのは、その両端の窓の下に設けられた小さな堀である。
最初はその堀に雑草か何かが生い茂り、それが飛び出しているのかと思った。
だかそれは血のように赤黒く錆びた針だった。

18: 2008/03/07(金) 21:29:09.07 ID:e53ItHWjO
おぞましい…恐らく囚人の脱走を防ぐ為のものであろうが、つい先程、うっかり者のつかさが危うく堀の中に落ちそうになったばかりだった。


当時の囚人がどのように扱われていたのかが、その針を見れば分かりすぎる程に分かった。
恐らく有無を言わさず虐げられて来たのだろう。


こんな所に落ちたらひとたまりもないだろう。
恐らく全身を串ざしにされ、運良く助かっても針の錆で破傷風に…。

こんなおぞましい歴史と名残を持つ洋館にこれから泊まるのだ。
気分はまるで囚人か奴隷のようだ。

つかさは早くも露骨な不安の色を顔に浮かべているし、みゆきは押し黙ったまま、洋館を眺めるばかりだった。


19: 2008/03/07(金) 21:31:24.17 ID:e53ItHWjO
「んしょ、んしょ……あっ、お姉ちゃん、それに先輩、いらっしゃい。」


重たい鉄の扉をようやく押し開けて現れたのは、こなたよりもさらに小柄なゆたかちゃんだった。

「やあ、ゆうちゃん、皆も遊びにきたよ。」


こなたが手をひらひらさせながら後ろを振り返る。


「皆は談話室でまってるよ。お姉ちゃん達も早くおいでよ。」

「さあ、みなの者、遠慮せずに中へはいりたまへ~」


そういうとこなたはさっさと中に入ってしまった。
かがみ達は互いに顔を見合わせながらとぼとぼと中へと足を踏み入れた。


21: 2008/03/07(金) 21:33:20.58 ID:e53ItHWjO
談話室には、いつもの顔ぶれが揃っていた。背が高くて寡黙な岩崎みなみ、腐女子の田村ひよりに留学生のパトリシアマーティン、男まさりの日下部みさおにおしとやかな峰岸あやの。

「オッス、本当にいつもの顔ぶれね。」


ソファーに腰掛けて、談笑していた5人にかがみは軽い挨拶をした。


「あら、柊ちゃん。」



「オッス柊、所でちびっこ、今日は誘ってくれて本当にありがとな~。」

みさおが笑顔でこなたに言った。


23: 2008/03/07(金) 21:36:17.84 ID:e53ItHWjO
「いんやぁ、お父さんのおかげだよ。お父さんの友達がお金持ちじゃなかったらこんな所にこれなかたよ。」

「相変わらず嫌な物言いね。で、肝心の立木さんとアンタのお父さんは?」

かがみが談話室を見回しながらたずねた。

「お父さんは仕事で来れないってさ~。だから私とゆーちゃんで皆をここまで案内したのだよ。でも立木さんは居るはずなのじゃが…急用で来れなくなったのかなぁ…。」

「私たちも館を探したんだけど…居ないみたい…」と、ゆたか。

「つー事は本当に貸し切りじゃん!!海に泳ぎに行こうぜ~!!」

みさおはソファーから飛び上がると、さっさと二階に駆け上がってしまった。

24: 2008/03/07(金) 21:41:49.75 ID:e53ItHWjO
「まったくアイツは…で、皆はどうするの?」

かがみがソファーに座っている皆の方を向いて言った。

「私はちょっと気分が悪いから、ここで休んでます。」

「じゃあ……私はゆたかを看ている…。」

みなみが呟くようにボソリといった。

「アタシは近くを散歩してきまス。この島は何かミステリーな香りがするのデス!」

「じゃあ私もそこらへんをパティと一緒に散歩してくるっス。」

そういうとパティとひよりは談話室から出ていった。

「お姉ちゃん、私たちはどうする?」

「そうね…せっかくだから海へ行こうかしら、つかさとみゆきも来るわよね。」

「うん、気分も良くなったから大丈夫だよ。」

「ええ…せっかくの機会ですのでご一緒させていただきます。」

「こなたは?」

25: 2008/03/07(金) 21:43:08.62 ID:e53ItHWjO
かがみはこなたの方を振り返った。

するとこなたは既に服を脱ぎ終えて、いつものスクール水着姿になっていた。


かがみはその姿に、微笑みながらも、呆れたようにため息をついた。

26: 2008/03/07(金) 21:45:17.06 ID:e53ItHWjO
浜辺で散々泳いだその帰り道、辺りは赤い夕焼けに包まれ、ひぐらしがカナカナと寂しげな音色をかなでていた。


風が強い。恐らく今日の夜あたりは嵐になるだろう。


急いで帰らないと…。


六人は足早に館への道を歩いて行った。

「アレ…?」


突然こなたが間の抜けた声をあげた。

29: 2008/03/07(金) 21:48:35.07 ID:e53ItHWjO
「リボンが落ちてる…。」


それは、この島には到底につかわしくない可愛らしい黄色のリボンだった。
だが長い間風雨に晒されていたせいか、泥がこびりついて汚れていた。


「随分前の物みたい…でも…ここって…無人島のはずよね…どうしてこんな所に…。」


「お姉ちゃん…何か…変だよ、ココ…おかしいよ…。」


つかさが道の脇に生い茂る森を指差しながら震えた声で言った。


三人はつかさが指差す方を向いて、文字通り絶句した。

31: 2008/03/07(金) 21:52:55.71 ID:e53ItHWjO
そこには石を積み上げて作ったであろう、墓標のような物がまばらに点在し、あたりにゴミが散らばっていた。

肩紐が切れたキャミソールに縁無し眼鏡、ハートを象ったネックレス、果てはブラジャーやパンティー、ガーターベルトにストッキングまでもが、そこに乱雑に放置されていた。

異常だった。

かがみは何か薄ら寒いものを感じた。

「なに…これ…」

こなたが思わずそう漏らした。

無理もない…無人島のド真ん中にこんな光景が広がっているのだ。

「お姉ちゃん…怖い…」
つかさがかがみの手を不安そうに握る。

「もう…行こ…気味が悪いよ。」
こなたの提案に誰一人として異論は無かった。
夕陽が沈み、次第に雲がかかる中、四人は半ば小走りで館へと走っていった。

32: 2008/03/07(金) 21:58:54.77 ID:e53ItHWjO
舘へと着く頃には目が開けられない程、風が強くなり、夕陽がとうに沈み、遠くに雷鳴が轟く暗闇と狂暴な嵐の世界へと変貌しつつあった。

「みんな、早く入って…門を閉めるよ~。」

強風が吹き荒れるなか、こなたがそう言うと、三人が塀の中に入った事を確認し、重そうな鉄のゲートを苦労して閉めて、風と雨を防ぐ為に内側から掛け金を掛けた。


かまいたちの日か………これで私たちはこの館に缶詰って訳ね。

33: 2008/03/07(金) 22:00:33.48 ID:e53ItHWjO
玄関へと小走りで向かいながら、かがみはそんな事を考えていた。
これから起こる惨劇などつゆ知らずに…。



辺りはいよいよ嵐の様相を呈していた。



監獄島の夜はこれから長くなりそうだった。

35: 2008/03/07(金) 22:03:41.94 ID:e53ItHWjO
外はいよいよ雨と風が吹き荒れ、まるでかまいたちが大暴れしているような感じだった。
かまいたちの日…船頭の言ったことは本当だったようだ。

「立木さんは…まだ来てない?」

こなたが談話室のソファーにちょこんと座るゆたかにたずねた。
しかし、ゆたかは首を振った。

「扉に鍵もかかってなかったから勝手に入っちゃったけど、大丈夫かなぁ…。」

ゆたかが心配そうに、言った。

38: 2008/03/07(金) 22:10:30.41 ID:e53ItHWjO
「ん…?なんすか…これ…。」
唐突にひよりが呟いた。どうやら何かを見付けたようだ。
それは白い紙だった。黒い字で何かが書かれてある。
「さっきまで無かったよね…?」
談話室に集まった皆が怪訝そうな顔を浮かべて互いに顔を見合わせた。
紙にはこう書いてある。
『食堂の食事はご自由にお召し上がり下さい。浴室と寝室もご自由に使って頂いて構いません。立木』

39: 2008/03/07(金) 22:14:38.77 ID:e53ItHWjO
「なぁんだ、心配して損しちゃったよ~。」
こなたが、肩を撫で下ろしながらドスンとソファーに腰掛けた。
「きっと急用でこれなくなったから、メモを書き残して置いてくれたのよ。」
「…急用の仕事があるのに…わざわざこんな所まで来てメモを残していくかなぁ…。」
つかさが水を差す。
一理あるその意見に、皆がおし黙った。
「それより腹減って氏にそうだぜ。何か食いに行こうぜ。」
重い空気を押し破るようにみさおが言うと、さっさと談話室を出ていってしまった。

41: 2008/03/07(金) 22:17:05.66 ID:e53ItHWjO
「…これからどうする……?」

かがみが皆の方を向いてたずねた。

「私も食堂で何か食べて来るよ…お姉ちゃんは…?」

「そうね…私も食堂に行こうかしら…。」

皆お腹が空いているらしい。

かがみ達は若干の疑問と不安を残しながら、食堂へと向かった。

42: 2008/03/07(金) 22:21:34.83 ID:e53ItHWjO
おかしい。

絶対におかしい。

かがみ達は食堂の長テーブルに配膳された、湯気の立った出来立ての料理を前にただただ立ち尽くしていた。

この島には私達以外にお手伝いさんや使用人すら居ないはずだし、ましてやわざわざここに赴いて私達に料理を振る舞う物好きなんて居るはずがない。
てっきり材料だけを用意して、自分達で調理をさせる物だとばかり思っていた。

勿論この中の誰も料理などしていないし、先程のやりとりからこんな短時間で料理を用意出来る筈もない。

しかし熱々の料理が現に供されている訳だ。
もし考えられるとすれば、立木氏が我々に隠れて料理を配膳し、談話室にメモを置いたという事だけだ。

43: 2008/03/07(金) 22:23:06.01 ID:e53ItHWjO
しかし、イタズラにしても初対面の我々の前に姿も現さずに、こんな事をするのは不気味で狂っていた。

そんな事を少しも考えて無いのだろうか、テーブルに置かれたライ麦パンとクレソンが添えられた仔牛肉のステーキをみさおが黙々と食べていた。

「日下部!」

慌ててかがみがみさおを止める。

「誰も居ないはずなのに、こんな料理があるなんておかしいでしょ!」

「………あ。」

暫く立ってようやく気付いたのか、みさおは口の周りについたソースを拭うと、パンを置いて静かに立ち上がった。

44: 2008/03/07(金) 22:25:22.99 ID:e53ItHWjO
「とにかくここに来てから色々とおかしいわよ…。まず談話室に行きましょう。話はそれから…」

「……ねぇ…。」

かがみの話を遮るようにあやのが言った。

「さっきからパティちゃんが居ないんだけどどこに行ったのかしら…。」

「あ…そういえば散歩の途中ではぐれてから見てないッス…。」

ひよりが思い出したように呟いた。

「ちょっと!何なのよそれ!」

かがみがイラついたように声を張り上げた。
「とりあえず探しましょ…ね?」

腕を組んで眉をひそめるかがみをあやのが優しく諭した。

46: 2008/03/07(金) 22:29:28.57 ID:e53ItHWjO
手分けをして探す事になった。かがみとこなたとつかさとみゆきは一階を、ゆたかとみなみとひよりは二階を、みさおとあやのは中庭を、それぞれ調べる事になった。

「パティの事だし、どうせどこかで油売ってるか、部屋で寝てるかだよ。」

一階の廊下を歩きながら、こなたが言った。



しかし、厨房、浴室、玄関、談話室…全てを探したが、何処にもいなかった。

無論二階の寝室もくまなく探したし、雨風が吹き荒れる中庭も探した…。だが、彼女はどこにも居なかった。

忽然と姿が消えてしまったのだ…。

47: 2008/03/07(金) 22:32:21.38 ID:e53ItHWjO
「中庭にもいね~って事は敷地の外か神隠しにでもあったかしか考えられねぇよ。」

外は物凄い暴風雨なのだろう、濡れた髪から滴を垂らし、びしょ濡れのレインコートを脱ぎながら、みさおが呟く。

「先に帰っちゃったのかもよ?」

ゆたかが不安げな表情で言う。

「でも、この島に船は無いし、帰りの船は二日後に来る筈だから…それはないと思う…」

みなみが冷静な様子で言った。

「それに…この天候だと、外に探しに行くのは無理……。」

48: 2008/03/07(金) 22:33:00.61 ID:e53ItHWjO
「一旦談話室に戻りましょう…話はそれからよ…。」

かがみの提案に、皆が賛同し、玄関から談話室へと移動した。






皆不安だった…

それもそうだ…こんな不気味な館に缶詰…それに食堂に配膳された不可解な食事、森に散らばっていた不気味なアクセサリーと下着、そして消えたパティ…。

談話室のソファーに座ったきり誰も口を聞かず、ただただ気まずい沈黙が辺りを支配していた。

51: 2008/03/07(金) 22:36:25.88 ID:e53ItHWjO
「ねぇ…。」

沈黙を打ち破って口を開いたのはこなただった。

「…テレビでも見ない?」

そう言うと、こなたは談話室の隅に置かれていたテレビを指差した。
本来なら、こんな時にテレビを見てる場合じゃない!等とこなたを叱るかがみも、その意見に賛同せざるを得なかった。

とにかく何かしていないと不安だったし、重苦しい沈黙に耐えきれなかったからだ。

52: 2008/03/07(金) 22:40:18.44 ID:e53ItHWjO
こなたはリモコンを手に取ると、テレビをつけた。

パツッ、と乾いた音がして唐突にテレビがついた。

映し出されたのは、砂浜で遊ぶ三人の少女だった。

一人は肩まで切った黒髪を黄色いリボンで止めた活発そうな女の子…そしてもう一人は栗色の長い髪の毛をした胸が大きい、垂れ目のおっとりした感じの女の子、
その二人は浜辺でビーチバレーを楽しみ、灰色の髪の毛をして眼鏡をかけたおとなしめの女の子はパラソルの下で本を読んでいる。

74: 2008/03/08(土) 01:14:05.60 ID:t4fI1xNQO
「ちょっと待って!これってここの砂浜じゃないの!」

かがみが画面を指差しながら言った。

恐らく家庭用のビデオで撮影したのだろう、独特の画面の乱れが所々にあった。

手振れがないので、恐らくは固定して撮影したのであろう。

胸や股間を中心にいやらしいアングルで撮られている…盗撮なのだろうか…
少女達の楽しげな声に混じって、ハァハァという男の息遣いが聞こえていた。
立木氏の趣味なのだろうか…。
「ねぇ…チャンネル変えてよ…何か気味が悪いわよ。」
「さっきからやってるんだけど、リモコンが効かないんだよ…。」
こなたが躍起になってリモコンをいじりながら答えた。

78: 2008/03/08(土) 01:20:30.90 ID:t4fI1xNQO
談話室にいる全員が、その気持ちが悪い映像ただただ黙って見ていた。
と、今度は白熱灯の照明が薄暗い、二階の寝室らしき部屋へと場面が変わった。

映っているのはベッドと脇にあるテーブルに置かれたランプ、そしてベッドに腰掛ける先程の栗色の髪をした、おっとり系の女の子…。
まるで、濡れ場に入る前のAVだ。
「先輩…ちょっとこれは…」

ひよりが顔を赤らめながら言った。
その場にいる皆が、次に起こるであろう展開を想像し、今度は顔を赤らめていた。

79: 2008/03/08(土) 01:22:22.01 ID:t4fI1xNQO
しかし、何か様子が変だった…その女の子は何かに脅えているかのように震え、そしてしきりにカメラの下をキョロキョロと眺めている。

「名前は…?」

カメラを撮影している男が、女の子にたずねた。

「ふぇ…?…は…う…。」

突然の質問に、女の子はうっすらと涙を浮かべた瞳を慌てた様子でキョロキョロと動かして動揺していた。

「お名前は?」

撮影している男は語気をあらげて同じ質問をするとともに、何か銀色の物を握った、もう片方の手を女の子の喉元にそえた。

その手に握られていたのはナイフだった。

80: 2008/03/08(土) 01:25:00.24 ID:t4fI1xNQO
ナイフを喉にあてられた女の子は驚き、恐怖を顔に浮かべながら答えた。

「ふえぇ!……な…名前は…あ…朝比奈みくるでしゅ……。」

涙声でそう答えると、むせび泣きながらカメラを見た。

「止めてくだしゃい……助けてくだしゃい……助けて……」

「それにしてもおっOい大きいよね~。」

撮影者はみくるの懇願を無視して、ナイフでチクチクと、キャミソールの上からO房をつついた。

みくるは涙が溢れる目をギュッと瞑り、体をこわばらせた。

83: 2008/03/08(土) 01:28:39.89 ID:t4fI1xNQO
「こなた…早くテレビ消して…。」

かがみが顔を青ざめさせながら言った。

「リモコンきかないよ!」

こなたも必氏になってリモコンを操作するが、画面には相変わらず映し出されていた。

撮影者の男の息遣いがみくるのあえぎに混じって次第に荒くなり、最高潮に達した次の瞬間、男は振り上げたナイフをみくるの腹に突き立てた。

みくるのあえぎは文字通り絶叫へと変わった。

男はみくるを激しく犯しながら、何度も何度もナイフを突き刺した。

上下に激しく揺れる画面が次第に赤色に染まっていく。

84: 2008/03/08(土) 01:32:16.30 ID:t4fI1xNQO
「こなた…早くテレビ消して…。」

かがみが顔を青ざめさせながら言った。

「リモコンきかないよ!」

こなたも必氏になってリモコンを操作するが、画面には相変わらずハメ撮りが映し出されていた。

撮影者の男の息遣いがみくるのあえぎに混じって次第に荒くなり、最高潮に達した次の瞬間、男は振り上げたナイフをみくるの腹に突き立てた。

みくるのあえぎは文字通り絶叫へと変わった。

男はみくるを激しく犯しながら、何度も何度もナイフを突き刺した。

上下に激しく揺れる画面が次第に赤色に染まっていく。

85: 2008/03/08(土) 01:33:34.34 ID:t4fI1xNQO
今度は画面がブレている。どうやら森の中を走りながら撮影しているようだ。

画面の前方に走る二人の人影が見える。
この逃げ惑う二人を追いながら撮影しているのだろう…。

「止めて!止めて!ついてこないで!」


女の子の脅えた声が聞こえる。
無情にも距離はどんどん縮まっていく。


そして、とうとう追いつかれ、黄色いリボンをした女の子が腕を捕まれ、地面に押し倒された。

87: 2008/03/08(土) 01:37:16.27 ID:t4fI1xNQO
気丈な女の子の顔は涙と鼻水でグジャグジャになっていた。

「ほ…本当に止めて…殺さないで……何でもするから…。」

脅えた表情で命乞いをする女の子の喉元に、撮影者は構わずナイフを突き入れた。
女の子は目を見開き、口から血の泡を吐くと、数回体を痙攣させて動かなくなった。

撮影者は暫くその様子を撮影してから、カメラを左へ向けた。

そこには尻餅をつき、無表情ながらも体を震わせている灰色の髪をした女の子がいた。

88: 2008/03/08(土) 01:39:07.94 ID:t4fI1xNQO
「氏ぬのが怖くないのか…?」

撮影者が若干息を切らせた声でたずねた。

「…怖い…。」

無表情だが、目頭を涙で濡らしながら女の子が答えた。

「全ては岸猿家のために……」

撮影者の声が突如として老婆のようなしわがれ声になり、血に濡れた手で、女の子の喉をわしづかみにすると、そのまま絞め上げた。

「んっ……くっ……かはっ…」

女の子は表情を崩し、空気を求めるかのように苦しげに舌を出してあえいだ…。

「贄が必要なのじゃ…若いおなごの贄が……」

撮影者がしわがれ声で呟く。

ミシミシと骨が軋む音が響き、ついに枯れ木が折れるような音がして女の子のか細い首はヘシ折られてしまった

90: 2008/03/08(土) 01:43:22.53 ID:t4fI1xNQO
あの森に打ち捨てられていた、黄色いリボン、白いキャミソール、そして眼鏡……それらは全て、ここで殺された人達の遺留品…。

「お姉ちゃぁん…もう嫌だよ…家に帰りたいよ…」

脇に座っていたつかさがとうとう泣き出して、かがみに抱きつく。

ゆたかは既にすすり泣きながらみなみの胸にうずまっていた。

そして再び画面が変わり、映し出されたのは砂浜で楽しく遊ぶかがみ達の姿だった…。
砂浜の目の前に広がっていた茂みの中から隠れて撮影されている。

91: 2008/03/08(土) 01:47:21.60 ID:t4fI1xNQO
先程と同様に、いやらしいアングルで撮られていた。

「そんな…いつの間に…」

みゆきが思わず不安げな声を漏らした。

そして一通りかがみ達を撮り終えた撮影者は、足元へとカメラを向けた。

そこに映っていたのは両手両足を縛られ、猿轡を噛まされたパティだった。

94: 2008/03/08(土) 01:52:33.38 ID:t4fI1xNQO
パティは脅えた表情でカメラを見つめている…。
そして撮影者はカメラの前にナイフをひけらかし、パティの様子を伺う…。


パティはナイフを見るやいなや、楽しげに遊ぶかがみ達の方を向いて、猿轡越しのくぐもった声で必氏になって助けを求めていた。


「もう嫌!消して!!」


ついにかがみが声を張り上げた。


そして、テレビ自体を壊そうと躍起になってブラウン管を蹴り付けて、これから起こるであろう惨劇に幕を下ろそうとした。

95: 2008/03/08(土) 02:00:25.88 ID:t4fI1xNQO
しかし、ブラウン管は割れずに、劇は続いた。

撮影者は助けを求めるパティの腹をナイフで真一文字に切り裂いた。

途端にパティのくぐもった悲鳴が止み、今度は苦痛にうめく声に変わった。

撮影者は真一文字に切り裂いた腹に手を突っ込むと、内臓をズルズルと引きずり出し始めた。

パティが苦痛と恐怖の為、半ば半狂乱になって、体をくねらせて暴れた。

そんな惨劇が自分たちのわずかに十数メートル先で繰り広げられていたのだ…。
何故気付かなかったのか…。

100: 2008/03/08(土) 02:05:12.67 ID:t4fI1xNQO
みなみは静かに立ち上がると、ソファーに挟まれたコーヒーテーブルを持ち上げ、頑丈なテレビに叩き付けた。
惨劇を映し出す屈強なテレビはついに白旗を上げた。

ブラウン管が砕け散り、火花が上がった。

砕けたブラウン管の破片を浴びたこなたがさも暴れているかのように、破片を払い落としていた。

誰も何も言わなかった…いや、言えなかった…。

ただ呆然と、残骸になったテレビを見つめていた。

104: 2008/03/08(土) 02:11:42.46 ID:t4fI1xNQO
「警察……そうだ!警察に通報しなきゃ!」

みさおはそういうと、談話室を飛び出して行った。

そうだ、まずは警察だ。
何故誰も気付かなかったのか…。

みさおに続き、皆が談話室から駆け出して一目散に玄関に置かれた黒電話を目指した。

玄関に着くと、かがみが電話を取り、110番にダイヤルを回して暫く耳を当てた。

しかし、受話器からは何の反応も帰っては来なかった。

「電話が使えない……」

「それもそのはずだよ……電話線が切れてるもん…。」

こなたが床に落ちていた電話線の切れはしを持ち上げて、皆の方へと向けた。

ナイフか何かでスッパリと切られている。

109: 2008/03/08(土) 02:18:27.20 ID:t4fI1xNQO
「…じゃあ、携帯は……」

ゆたかがスカートのポケットから携帯電話を取り出すと、電波を確認した。

「無理だよ…この島に電波は来てないもん……」

こなたの言う通りゆたかを含めた皆の携帯が圏外だった…。

「待って!私の携帯、電波が一本立ってる。」

どうやらつかさの携帯は通話可能なようだ。
すかさずみさおが、つかさの携帯を奪い取ると、110番に電話をし、携帯を耳へと押し当てた。

113: 2008/03/08(土) 02:24:09.83 ID:t4fI1xNQO
暫く呼び出し音がして、唐突に電話が繋がった。


「やった!繋がったぜ。」

みさおが笑顔でそう言うと、不安げな皆の顔が安堵で幾分かほころび、ホッと息をついた。

「もしもし、警察ですか。助けて下さい。」

みさおが笑顔を浮かべながら言った。

「………。」


しかし繋がったにもかかわらず、携帯からは不快なノイズ音しか聞こえて来なかった。

116: 2008/03/08(土) 02:29:44.82 ID:t4fI1xNQO
「もしもし、聞こえてますか、もしも~し。」

「………じゃ…。」

「…え?」

「…無駄じゃ…。」

電話口に出たのは警察ではなく、しわがれ声をした老婆だった。

みさおの顔がみるみるうちに青ざめていく

「全ては岸猿家のために…」

電話口の老婆は絞りだすような声を上げた。

「お前も……お前もじゃ…みんなわしの贄となり、岸猿の血を引く児を孕め…全ては岸猿家のために…ヒヒヒヒヒヒヒ。」

118: 2008/03/08(土) 02:35:43.22 ID:t4fI1xNQO
「う…うわぁ!」

みさおが携帯を耳から引き剥がし、床へと投げ捨てた。

その衝撃でバッテリーパックが携帯から飛び出してもなお、その老婆の不気味な笑い声が携帯から響き続けた。

床に放り出され、不快な笑い声を発し続ける携帯をかがみが思い切り足で何度も踏み付けた。

プラスチックが割れる音が辺りに響き、原型も留めない程に踏み壊して、ようやくその笑い声が止んだ。

123: 2008/03/08(土) 02:42:05.75 ID:t4fI1xNQO
「お前らの…お前らのせいだよ!」

みさおが激昂して、こなたとゆたかを指差す。

「お前らのオヤジの友達が、こんな変態だと知ってたら、こんな所に来なかった!」

みさおは皆をかき分けると一目散にゆたかに飛び付き、襟を掴み、壁に押し付けて怒鳴りつけた。

小柄なゆたかの体が宙に浮き、脅えきった目をみさおに向け、言葉も出ない様子だった。

「どうしてくれんだよ!責任とれよ!ここから逃してくれよ!!」

その横で、こなたは目に涙を浮かべたままオロオロするばかりだった。

130: 2008/03/08(土) 02:48:30.81 ID:t4fI1xNQO
「みさきち……落ち着いて…。」

「うるさい!」

間に割って入ろうとするこなたを、みさおは思い切り張り上げた。

床へと倒れたこなたは、口の中を切ったのだろう、口から血を流しながらも起き上がり、みさおの足にしがみついた。

「ゆーちゃんは悪くない…だから責めるなら私を責めてよ…。」

みさおは足にしがみつくこなたを、無理矢理引き剥がすと、足蹴にした。

134: 2008/03/08(土) 02:54:32.84 ID:t4fI1xNQO
「…いい加減に離して……ゆたかは体が弱い…」

みなみがみさおの肩口を静かに、だが強く掴み、脅えきったゆたかから引き離した。

「畜生!」

みさおは喉を押さえて苦しげに咳き込むゆたかの顔を思い切り蹴りつけた。

短い悲鳴を上げて、ゆたかが壁に叩き付けられる。

それを見たみなみが今度はみさおの襟を掴み上げた。

139: 2008/03/08(土) 03:02:14.26 ID:t4fI1xNQO
「今のは許せない…。」

冷たい怒りを秘めたみなみの目が、みさおを睨みつける。

「もう止めて…止めてよこんな事!」

みゆきとひよりが、涙を流しながらも下をうつ向く中、かがみが声を張り上げた。

「そうだよ、みなみちゃん…私は大丈夫だよ…だから…日下部先輩から手を離して…お願い…。」

蹴りつけられて、赤く腫れ上がった頬を手で押さえながら、ゆたかが気丈にもみなみに微笑んだ。

140: 2008/03/08(土) 03:03:05.33 ID:t4fI1xNQO
「…ゆたか……」

みなみの手が緩むやいなや、みさおは襟を掴む手を振り払った。

「もういい…仲良しごっこはもう沢山。私が一人で助けを呼んでくる…それにこんな所にいるよりは遥かにマシだぜ…。」

みさおはそう言い、踵を返すと、玄関の脇にかけてあったレインコートをはおった。

「待って、みさちゃん……外は凄い嵐よ…船も無いし、それに一人だと危険じゃ……。」
「知るもんか!」

145: 2008/03/08(土) 03:09:35.31 ID:t4fI1xNQO
みさおはそう言うと、重たい鉄の扉を開けて、激しい風雨が吹き荒れる外へと出ていってしまった。

「後を追わないと…」

みゆきが慌てた様子でもう一着あったレインコートに手をかけた。

「いいわよ、どうせ頭を冷やして帰ってくるわ…。」

みゆきにそういうと、かがみは床に倒れているこなたの方を向いた。

「こなた…大丈夫?ほら、捕まって。」

かがみから差し出された手を振り払うと、こなたはゆっくりと立ち上がった。

146: 2008/03/08(土) 03:15:16.91 ID:t4fI1xNQO
「大丈夫だよ…だから心配しないで…。」


こなたはうつむき加減でそう言うと皆の方を見向きもせずに談話室の方へ行ってしまった。

やはりこなたもそれなりに責任を感じているのだろう…
自分のせいでパティが氏に、皆をこんな目に合わせてしまったのだから…。

148: 2008/03/08(土) 03:16:11.44 ID:t4fI1xNQO
「ゆたかちゃん…大丈夫…?」

あやのがハンカチで、口の端からにじみ出る血を拭ってあげながらたずねた。

「みさちゃんも手加減しないんだから……でも、本当は素直でいい子なのよ。許してあげてね。」

「そうですよ…こうなったのはゆたかさんのせいではないのですから…。」

ゆたかは健気な笑顔をあやのとみゆきに返した。

153: 2008/03/08(土) 03:23:13.74 ID:t4fI1xNQO
「でも…でも、パティちゃんが……私のせいで…私が誘ってなければ…助かって…それで…」

ゆたかは顔を歪めると、鼻をグズグスと鳴らしながら泣き出してしまった。

「ゆたか…泣かないで…ゆたか…」

みなみも目に涙を浮かべながら、ゆたかを慰めた。

かがみはその様子を遠くから暫くながめてから、談話室の方へと歩いていった。

155: 2008/03/08(土) 03:29:11.42 ID:t4fI1xNQO
かがみが談話室の入口を覗くと、こなたがソファーの端にチョコンと座りながらすすり泣いていた。


「こなた。」


かがみが静かに、そして優しく言った。

「大丈夫なの?」

かがみの声を聞いたこなたは鼻をすすりあげると、慌てた様子で袖口で涙を拭った。

「んにゃ?どうしたのかがみん。」

こなたは赤く腫れぼったい目で無理矢理笑顔を作るとかがみの方を向いた。

157: 2008/03/08(土) 03:35:03.19 ID:t4fI1xNQO
「まったく…アンタって子は…」

かがみは腰に手を当てると、溜め息をつき、こなたへと歩み寄った。
そしてこなたを優しく抱き寄せると、小柄な体を抱擁した。

「強がりで……全部一人で背負い込もうとして…本当に馬鹿なんだから…」

「本当に…ごめんなさい…」

二人は互いに抱き合い、そして慰めあった。

161: 2008/03/08(土) 03:40:06.11 ID:t4fI1xNQO
ふ、と抱き合うかがみ達の頭上から何かがポタポタと垂れて、かがみの額に落ちて来た。

それは生暖かく、それでいてヌルヌルしていた。

かがみはそれを手の平で拭った。

途端に生臭い臭いが鼻を付いた。

手の平が真っ赤に染まっている。

それはまごうことなき鮮血だった…。

164: 2008/03/08(土) 03:47:11.16 ID:t4fI1xNQO
かがみとこなたは慌てて天井を仰ぎ、短い悲鳴を上げた。


天井に赤い線が真一文字に描かれ、そこから鮮血が滴っていたのだ。


「何かあったの?」

かがみ達の悲鳴を聞いた、皆が駆け付けて、かがみ達にたずねた。


かがみとこなたは無言のまま天井を指差した。




それを見た一同は文字通り絶句した。

166: 2008/03/08(土) 03:49:58.23 ID:t4fI1xNQO
みさおは玄関から飛び出すと、雨が降り頻る中庭を駆け出した。

そして、そびえたつ鉄のゲートに飛び付くと掛け金を外し、苦労してゲートを開けた。


敷地の外は、一寸先も見えない暗闇で、おまけに雨と風が吹き荒れていた。

これでは島を出るどころか、船着き場まで行けるかどうか…。

169: 2008/03/08(土) 03:54:15.33 ID:t4fI1xNQO
急に冷静になったみさおは開けたばかりのゲートを閉じると、掛け金をかけて、今来た道を引き返した。

恐怖と怒りで混乱し、冷静な判断を欠いていたのかもしれない…。

いくら、こんな状況になったとしても暴力はよくなかったよなぁ~。

冷静に考えてみると、自分がやってしまった馬鹿げた行為に後ろめたさが芽生えて来た。こんな状況だからこそ、皆で力を合わせて打開すべきではないだろうか…。

「ちびっことちびっこの従姉妹に謝んなきゃな…許してくれるかな…。」

171: 2008/03/08(土) 03:57:55.91 ID:t4fI1xNQO
そんな事を呟きながら、みさおは中庭を歩いていった…。

そしてふと前に目をやると、広場の中央にある噴水の前に誰かが立っていた。

辺りは暗く、それに雨も降っていたので、誰かはわからなかったが、人が立ってるのは確かだった。

きっと、柊かあやのだろうな~。でも、あんな事した後だから、なーんか気まずいよなぁ…。

172: 2008/03/08(土) 03:59:19.85 ID:t4fI1xNQO
みさおは恥ずかしげに頭を掻きながら、その人影に近付いた。


「急にあんな事してごめんな~。ちびっことちびっこの従姉妹は大丈夫……。」

173: 2008/03/08(土) 04:02:29.43 ID:t4fI1xNQO
そこまで言って、みさおは次の言葉を継げなかった。

遠くから見ると分からなかったが、その人影は明らかにかがみやあやの等ではなかった。
黒いポンチョをはおったその人影は静かに、みさおを見据えていた。

「お前…誰だよ……。」

みさおが後退りながら言った。

「よくも……大事な贄を傷付けおって……贄が減ったらどうするつもりじゃ……」

その人影は老婆のような声で言った。
その声は先程の携帯電話からの声と全く同じだった。
そしてポンチョに隠れていた手を出した。

そこにはビデオに映っていたのと同じ鋭利なナイフが握られていた。

175: 2008/03/08(土) 04:04:17.37 ID:t4fI1xNQO
すまない…少々休む時間と書き溜めの時間を下さい……


明日は出来るだけ早めに再開したいと思います。

俺も頑張るのでどなたか保守お願い致します…

248: 2008/03/08(土) 14:52:19.49 ID:t4fI1xNQO
本日は夜の七時頃再開予定でございます…。


遅くなってごめんね…

272: 2008/03/08(土) 19:07:44.21 ID:t4fI1xNQO
>>360
すまない(´・ω・`)

これでも昔は一応阿部お笑い系の読み物を書いてたんだぜ。


再開します

274: 2008/03/08(土) 19:10:58.78 ID:t4fI1xNQO
「お前…誰だよ……。」

みさおが後退りながら言った。

「よくも……大事な贄を傷付けおって……贄が減ったらどうするつもりじゃ……」

その人影は老婆のような声で言った。
その声は先程の携帯電話からの声と全く同じだった。
そしてポンチョに隠れていた手を出した。

そこにはビデオに映っていたのと同じ鋭利なナイフが握られていた。

みさおの全身から血の気が引いた。

しかし、そこは運動部員…素早く身構えると、その人影に飛びかかった。
いくら相手が男といえども、こちとら運動と腕っ節には自信がある…。

277: 2008/03/08(土) 19:16:01.27 ID:t4fI1xNQO
みさおはナイフを持つ手に飛び付くと、ナイフを払い落さんとしきりに手首を殴りつけた。

しかしびくともしない…それどころか、男に襟を掴まれて易々と持ち上げられてしまった。

息が出来なくなり、必氏で足をばたつかせる。

「ここが必要なのじゃ…ここが…」

その人影は足をばたつかせてもがくみさおの子宮の辺りをナイフの柄で強打した。

278: 2008/03/08(土) 19:19:11.52 ID:t4fI1xNQO
突然の衝撃に、みさおは嘔吐し、ぐったりしてしまった。

「……助けてよ…あやの……柊…」

蚊の鳴くような声でそう呟くみさおの体を持ち上げながら、その人影は歩きだした。

進む方向から察するに、男は窓の下にある、鋭い針がひしめく堀を目指していた。

自分がどうなる運命にあるのかを瞬時に悟ったみさおは、力の入らない拳で人影の肩や首を叩き、最期の抵抗をした。

279: 2008/03/08(土) 19:23:25.70 ID:t4fI1xNQO
しかし、そんな事が無意味なのはみさお本人が一番分かっていた。

堀の前まで来ると、襟を掴んだみさおの体を持ち上げて、針の上へと突きだした…

「…待って……止めてくれ……」

みさおは吐冩物で汚れた口をパクパクさせながら、命乞いをした。

「贄じゃ…贄じゃ…」

人影が嬉しそうにそう言うと、襟を掴んでいた手を離した。

280: 2008/03/08(土) 19:27:23.51 ID:t4fI1xNQO
みさおの体が宙を舞い、そして体の至る所を針で貫かれた。

「あ"あっ!」

串刺しになったみさおは動物めいた叫び声を上げた。

「…柊…あやの…ちびっこ…助けて……」

消え入りそうな声を上げると、息も絶え絶えな様子で小さいうめきをあげていた。


「全ては岸猿家の為に…」

人影はそう言うと、堀からみさおの体を乱暴に引き上げて、地面へ下ろした。

282: 2008/03/08(土) 19:32:35.21 ID:t4fI1xNQO
そして、みさおのスカートをたくし上げると、青と白の縞パンティをずらして性器を露にした。

「あ……クッ…止め……」

力の入らない手で何とか男を払いのけようとするが、すぐに払いのけられてしまう。

ピンクで綺麗な性器をいじくりながら、息をあらげ、そして自分の股間をもみしだく。

283: 2008/03/08(土) 19:37:42.81 ID:t4fI1xNQO
「贄じゃ…贄じゃ…」

息をあらげながら繰り返しそうつぶやくと、今度は自分のそそり立つ逸物をズボンから出し、みさおの性器にこすりつけ始めた。

「あ…は……やぁ…」
虫の息ながらも、みさおは顔を赤くした。

そして、人影は暗い欲望とともに柔らかい粘膜を一気に突いた。

285: 2008/03/08(土) 19:38:58.07 ID:t4fI1xNQO
「こんなのさっきまで無かったわよね…それに今さっき塗り付けたみたいにまだ湿ってる…」

その場にいた全員が談話室の天井を仰ぎ、突然出来た赤い線を見つめていた。



「電話で岸猿家が何とかって言ってたのを聞いたわよ…何か関係があるのかしら…。」

血が滴った額のあたりをタオルで念入りに拭いながら、かがみが言った。

「岸猿家のため……児を孕め……贄がどうのこうの……何かひっかかりますね…」
と、歩く辞書のみゆき。

287: 2008/03/08(土) 19:43:14.98 ID:t4fI1xNQO
「みゆきさん何か分かったの…?」

こなたがみゆきの方に身を乗り出してたずねた。

「そちらの方面の話にはあまり詳しくないので、確かな事は言えませんが、明治時代に私設監獄で横暴の限りを尽くし、没落した名家の名前が確か…岸猿家…珍しい名前だったので覚えています…。」

「私設監獄…?」

かがみがタオルから顔を離すと、みゆきにたずねた。

「ええ……そこに収監されている囚人を家兎、奉公人などと呼んで劣悪な肉体労働に従事させていたみたいです…でも、明治維新後の改革によって次第に力を失い、ついに叛乱が起きて没落したらしいです…。」

291: 2008/03/08(土) 20:05:09.23 ID:t4fI1xNQO
「それってまさか…ここで起きた事……?」
かがみがみゆきにたずねると、みゆきは首を縦に振った。

「恐らくは…。」

その場にいた者は互いに顔を見合わせた。


「しかし、何故今更になって岸猿家がどうのと言ってるのは、私にも少し分かりません…何か関係する書物でもあればよいのですが……」


「あ…そうだ…書斎あるよ…いく?」



292: 2008/03/08(土) 20:09:14.54 ID:t4fI1xNQO
こなたがテーブルにドスンと手をついて立ち上がった。


「でも…一人だと危険じゃ……」


みなみが心配そうな目をみゆきに向けた。

「私とつかさが付いていくよ…いいでしょ?つかさ。」

こなたがつかさの方を向いた。

「ほえぇ……!でも…私なんか怖いな…。」


つかさがうつ向き、手をモジモジさせて呟いた。

298: 2008/03/08(土) 20:13:07.18 ID:t4fI1xNQO
「分かったわ…じゃあ私が行くから…つかさはゆたかちゃんの頬を氷か水で冷やしてあげて。」


かがみが立ち上がると、つかさの頭を撫でながら言った。


「うん、分かった。ひよりちゃん、手伝って。」


「分かりましたッス。」


そういうとつかさとひよりは厨房の方へと行ってしまった。


「じゃあ、ゆーちゃんとみなみんとあやのはここで待ってて、すぐ戻ってくるから。」

300: 2008/03/08(土) 20:15:18.64 ID:t4fI1xNQO
こなたはそう言うと、かがみとみゆきとともに書斎へと向かった。


「お姉ちゃん…気をつけてね…」


頬にハンカチを当てたゆたかが心配気に呟いた。

302: 2008/03/08(土) 20:17:39.76 ID:t4fI1xNQO
書斎は二階の一番左端の部屋にあった。
こなたたちは薄暗い廊下を辺りに気を配らせながら進んでいった。

「ついた…ここだよ…。」



こなたが突き当たりの古びたドアの前で立ち止まった。

そして、慎重にドアを開けていく…。

304: 2008/03/08(土) 20:21:17.46 ID:t4fI1xNQO
途端にカビ臭い空気が部屋から漏れてきて、鼻をついた。

三人はその臭いに堪らず咳き込んだ。


「酷い臭い……長い間誰も出入りしてなかったみたいね…。」


かがみが口を押さえながら、言った。



「とにかく、岸猿家関連の書物を見付けないと…。」

306: 2008/03/08(土) 20:29:54.00 ID:t4fI1xNQO
みゆきが袖で口元を覆いながら、部屋へと足を踏み入れた。

中は書斎と言うだけあって本棚が部屋を囲むように置かれ、埃をかぶった本が所狭しと並んでいた。

そして部屋の中央に机があり、左側には鉄格子がはめられた木枠の窓があった。


外から吹き荒れる雨と風が窓に叩きつけられ、時折ガタガタと揺れている。

307: 2008/03/08(土) 20:35:14.69 ID:t4fI1xNQO
「日下部…大丈夫かしら…」


窓を遠い目で見つめながら、かがみがぼそりと言った。



「かがみ…みゆきさん…こんなのがあったよ…」


こなたの手にしているのはdiaryと書かれた赤いハードカバーの書籍だった。どうやら日記らしい…。


すかさずこなたが開いて中を確認してみる…


「なになに2002年…7月18日……今日は久しぶりに休暇でこの島へとやって来た。今は亡き曽祖父が残してくれた島だ。曽祖父に感謝して、一念発起、この小汚い館を掃除しなければ……でも今日は移動云々で何かと疲れた。
掃除は明日にして今日は早めに寝よう。……これ立木さんの6年前の日記だ…。」

310: 2008/03/08(土) 20:42:09.77 ID:t4fI1xNQO
三人は食いいるようにその日誌を読んだ。
何せこの狂った事件を起こした異常者の日誌だ。



「2002年…7月19日…今日は二階の部屋を掃除した。長い間ほったらかしにしていたせいか酷い有り様だった…。しかし物置を掃除していると変わった物を見付けた。
陶器か何かで出来た人形だ。変わった形をしている。ひいおじいさの遺してくれた置き土産はさぞやお値打ち物なのだろう…
飾っておいて損はない。…寝室にでも飾っておこう……。

311: 2008/03/08(土) 20:45:29.61 ID:t4fI1xNQO
2002年…7月27日……。
今日もあまり眠れなかった…夢のせいだ…最近悪夢をみるようになった…。
そのせいで、おちおち落ち着いて寝れやしない……この人形を寝室に置いたせいなのだろうか……この人形は明日にでも物置に戻しておこう。気味が悪い…。

313: 2008/03/08(土) 20:51:50.11 ID:t4fI1xNQO
2002年…7月30日…。不味い事をしてしまった。人形を物置へ運ぶ途中に落として割ってしまった…途端に黒いモヤが俺に振りかかってきて、気分が今も悪い。今日は早めに寝る事にしよう。

314: 2008/03/08(土) 20:55:05.91 ID:t4fI1xNQO
2002年…8月5日…。幻聴と耳鳴りが酷い…。今日は早めに休もう」


こなたは次のページを捲った。今まで綺麗で丁寧な文字で綴られていた日記が急に乱雑で汚い文字に変化していた。


「ちょっと…何なのよこれ…」


かがみが思わずそう漏らした。

316: 2008/03/08(土) 21:01:17.90 ID:t4fI1xNQO
「2002年8月7日……朝起きたら手が血まみれだった。厨房へ行くと、使用人の娘が氏んでいた。酷い。ナイフでメッタ斬りされてる……おまけにズボンが下ろされて乱暴されてる
…警察を呼ぼうにも、電話線が切断されていて、携帯電話も繋がらない…私の船もガソリンが抜かれていてつかえない…地元の高校を卒業して、真面目に働いていた健気で良い子だったのに…。誰がこんな事をしたんだ。私か?わたしなのか?今日は早めに休もう。

317: 2008/03/08(土) 21:02:57.54 ID:t4fI1xNQO
2002年…8月10日
突如として凄まじい渇望に襲われた……無理もない…高校の合宿でSOS団とか言う女子高校生達がここに来ている。勿論使用人の氏体は埋めて隠したが、何故埋める必要があった…?何故隠す?私には分からない…。分からない…。

320: 2008/03/08(土) 21:07:59.23 ID:t4fI1xNQO
2002年……8月12日
もう我慢できない。カメラを用意する事にしよう。


2002年…8月13日
またやってしまったのだろうか……。三人の氏体を前に、私は……訳が分からなくなった…。私の中に私とは別の何かが潜んでいる……今日も明日も…私が私でいられる保証などどこにもない……我思う、故に我有り……これが如何に浅はかな言葉かをつくづく思い知る。
全ては岸猿家の為に…。もっとおなごが必要じゃ…贄が必要じゃ…。

321: 2008/03/08(土) 21:13:36.44 ID:t4fI1xNQO
2002年…8月15日
もう耐えられない…私自身にもう耐えられない。
私は自らの手で私の体と精神に終止符を打つ。
また女子高校生達が合宿で遊びに来る。私が知らず知らずの内に呼び寄せてしまった…畜生…。

コイツの思い通りにはならない…。私は睡眠薬を飲んでそして」



ここから日誌が途切れていた…。三人は背筋が寒くなるのを感じた。

323: 2008/03/08(土) 21:17:59.88 ID:t4fI1xNQO
「精神…分裂病ですかね……それにしては急激に症状が出ていて、劇症化が早すぎます…。」


「違うわよ…みゆき……問題は恐らく、この陶器の人形よ……。」

かがみが部屋の隅にあった陶器の欠片の集まりを指差した。


「ここから何かが起きて、恐らく今も…立木さんは何かに取り付かれてる…。」

324: 2008/03/08(土) 21:21:12.47 ID:t4fI1xNQO
「ありました!恐らくこの本です。」


みゆきが本棚から青いハードカバーがかけられた本を取り出した。

「…三日月島・岸猿家歴史資料書……恐らくこれね……」


「そうですね…岸猿家の最後の当主、岸猿伊右衛門は晩年、跡継ぎを必氏で探していたそうです。」

みゆきがペラペラとページを捲りながらいった。

325: 2008/03/08(土) 21:22:37.02 ID:t4fI1xNQO
かがみがすかさず聞き返す。



「跡継ぎ…?」


「ええ…岸猿家を継ぐ跡継ぎです…その為に……奉公人の女性を使って非人道的な蛮行を繰り返していたそうです……。それに伴って、どうやら岸猿伊右衛門は風水に凝っていたようで、何度も妖しい儀式をしていたようです……。」


「狂ってるわ。みゆき、本を持って談話室へ戻りましょ…こなた、行くわよ。」

347: 2008/03/08(土) 23:02:04.28 ID:t4fI1xNQO
完全に話の茅の外だったこなたは窓の外を眺めていた。


「かがみん……来て…マズイよこれ…。」


こなたが呟いた。


「どうしたのよ!」


「あれ…見て……。」


コナタが窓の外を指差した。

雨が降り頻る堀の側で、何か黒い物が絡み合い、激しく動いていた。

351: 2008/03/08(土) 23:05:50.83 ID:t4fI1xNQO
「何なのよ…アレ…。」


かがみが目を凝らす。

そして、それが瀕氏のみさおとみさおを犯している人影だと気付くのに時間は掛らなかった。

353: 2008/03/08(土) 23:10:12.27 ID:t4fI1xNQO
「日下部!!」


鉄格子に飛び付いたかがみが叫んだ。

その叫び声に気付いたのだろうか、血まみれのみさおを犯していた人影がこちらの方を向いた。

ポンチョのフードに隠れていて、表情や人相はわからなかったが、不気味な黒い陰が帯びているのだけは分かった。

361: 2008/03/08(土) 23:40:20.83 ID:t4fI1xNQO
人影はこちらにみせびらかすかのように手に握られたナイフをみさおの頭上に振り上げた。


「止めて!!」


かがみが涙を流しながら懇願する。


「早く助けないと…」

こなたがあたふたと辺りを見回し、そして机上にあった重しを掴むと、窓へと投げつけた。

363: 2008/03/08(土) 23:42:46.92 ID:t4fI1xNQO
ガラスが盛大な音を立てて割れ、風と雨が室内へと吹き込む。


「みさお!!」


かがみがそう叫ぶと、ナイフを振り上げられた瀕氏のみさおがゆっくりと頭を上げてこちらを向いた。
そして、ろれつの回らない舌で助けを求めた。


「柊……助けて……」

365: 2008/03/08(土) 23:45:51.67 ID:t4fI1xNQO
言い終るか終わらないうちに、人影がみさおの喉元にナイフを突き刺し、とどめを刺した。


「あっ!……がはっ……。」


みさおは口から血を吐き出し、目を見開いたまま体を何度か震わせると、ガックリと首を落とした。


「いや…みさお…いやああああ!」

367: 2008/03/08(土) 23:50:10.90 ID:t4fI1xNQO
かがみは鉄格子にもたれながら、慟哭した。

「そんな……こんなの…聞いてません。あの時に私が後を追っていれば…。」

みゆきは耐えきれずに、その場に座り込んでしまった。


「アンタ!絶対に許さないんだから!絶対に!絶対に!」


かがみが鉄格子を握り折らん程に掴みながら、その人影に叫んだ。

372: 2008/03/08(土) 23:54:11.48 ID:t4fI1xNQO
人影は暫くかがみを見つめると、そのままどこかへ立ち去ってしまった。



「とにかく…いこ……皆が心配だよ…。」


こなたが座り込むみゆきを抱き起こすと、スカートに付いた埃を払ってやった。


「かがみも……行かないと…。」


みゆきに肩を貸してやりながらこなたが言った。

374: 2008/03/08(土) 23:55:39.53 ID:t4fI1xNQO
「みさお…ごめんね…。」



かがみはそう言うと名残惜しそうに、鉄格子を離し、涙を拭った。

380: 2008/03/08(土) 23:59:35.69 ID:t4fI1xNQO
「あっ…また増えたよ…」

ゆたかが頬を押さえながら天井を指差して言った。

みなみとあやのが天井を仰ぐと、先程出来た赤い線の隣に新たな線が出来ており、そこから鮮血がにじみ出ていた。

あやのが慌ててテーブルに滴り落ちた血をハンカチで拭う。


「…何が…起きてるのか…分からない…」

383: 2008/03/09(日) 00:05:37.01 ID:jzRURZc7O
ゆたかの隣に座っていたみなみがボソリと呟く…。



その時、厨房の方から凄まじい悲鳴が聞こえ、廊下を何者かが走って来る足音が聞こえた。


脅えるゆたかを守るように、みなみが立ち上がり、身構える。

談話室に飛び込んできたのは涙と鼻水で顔をグチャグチャにしたつかさだった。

386: 2008/03/09(日) 00:10:36.81 ID:jzRURZc7O
「ひよりちゃんが…ひよりちゃんが……」


つかさはうわ言のようにそう呟くと、ドアにもたれかかるように倒れ込んでしまった。


「ひよりちゃんがどうしたの?」


あやのが慌ててつかさにかけよると、肩を抱いてソファーに座らせて上げた。


「助けて…あげて……。」


つかさが涙と鼻水で濡れた顔をあやのに向けて言った。

389: 2008/03/09(日) 00:18:32.60 ID:jzRURZc7O
「みなみちゃん…柊ちゃんの妹とゆたかちゃんを頼むわね。」


あやのはそう言い残すと、厨房へと飛び出していった。


あやのが厨房に入ると、すでにこなた達が何かを囲むようにして立っていた。

どうやらあやのと同様に悲鳴を聞き付けて二階の書斎からやってきたのだろう…。

391: 2008/03/09(日) 00:25:18.56 ID:jzRURZc7O
「何があったの…?」


開口一番にあやのがたずねた。


「みさおに続いてまたよ…」


かがみが呟いた。
その足元にはひよりが横臥していた。


紫色にチアノーゼを起こした口から血を吐き出し、喉元を掻きむしるようにして手は喉元に置かれ、そしてスカートがたくしあげられていた。


大きく開いた足に脱がしかけの丸まった白いパンティが引っかかっている。
そして陰部は刃物か何かで大きくえぐられ、おびただしい血が床に流れ出していた。

392: 2008/03/09(日) 00:31:45.35 ID:jzRURZc7O
苦悶の表情を浮かべながら天井を仰いで事切れる、ひよりの氏体は、何かを訴えているかのようだった。


こなたがひよりの脇に落ちていたオレンジジュースの缶を拾うと、まだ中身が残っているそれの臭いを嗅いだ。

オレンジジュースの臭いに混じって、微かに新しい干し草の様な臭いがした。


みゆきも同様に、臭いを嗅ぐ…。


「青酸化合物か……ホスゲンの臭いがします……。」


「もう嫌よ……こんな事…もうたくさん…。」


かがみが涙声でそう呟くと、厨房を出ていった。

398: 2008/03/09(日) 00:38:20.91 ID:jzRURZc7O
ひよりの氏体にあやのが側にあったビニールシートを被せた。


「とりあえず…つかささんから事情を聞きましょう…」


いつになく真剣な表情でみゆきが言った。

399: 2008/03/09(日) 00:44:26.96 ID:jzRURZc7O
「つかささん…一体何が起こったですか…?」

みゆきが不安げに震えるつかさの手を握ってあげながらたずねた。



「私たち…厨房にいったの……それで…蛇口回したけど水が出なくて…それで…氷あるかなと思って冷蔵庫をみたの…フリーザーはカラだったけど…ジュースの缶があって…私達喉がカラカラでそれで…回し飲みしようって言ってひよりちゃんが…」

400: 2008/03/09(日) 00:47:24.21 ID:jzRURZc7O
「飲んだんですか……?」


つかさがコクリとうなづく。


「そしたら先に飲んだひよりちゃん……急に苦しみだして……喉を引っかいて、暴れてて…私どうしたらいいのか分からなくて…それで…」


つかさが、言葉を詰まらせ、しゃくりあげる……。


「つかささん…落ち着いて…。」

401: 2008/03/09(日) 00:50:44.95 ID:jzRURZc7O
みゆきがつかさの背中をさすってやった。


「そしたら私の後ろに男の人がいたの…。紺のポンチョを着た…怖い人……」


その一言にこなた達三人は息を飲んだ。



「それで…どうなったの…?」


かがみがつかさに詰め寄り、たずねる。


「分からない…その人がナイフを取り出してきたから…私…ひよりちゃんが苦しんで助けを求めてたけど…怖くて…逃げて…」

403: 2008/03/09(日) 00:57:42.19 ID:jzRURZc7O
「分かりました…もういいです…」


みゆきが優しくつかさを抱き寄せて、慰める。

外はゴウゴウと風がなり、建物全体がガタガタと揺れた。
嵐はますます激しくなり、もう外に出る事さえ危険な程になっていた。






思い沈黙が流れる中、みゆきが黙々と書斎から持って来た書物を読んでいた。

404: 2008/03/09(日) 01:00:09.50 ID:jzRURZc7O
「みゆき……今回の件…何か分かった…?」


「ええ…分かりすぎる程に…」


みゆきが中指で眼鏡を上げながらいった。


「断定は出来ませんが…恐らく天井に書かれた赤い線は呪術の一種でしょう…。」


「ジュジュツ…?」


こなたが首をかしげながらたずねた。

406: 2008/03/09(日) 01:04:27.15 ID:jzRURZc7O
「ええ…この赤い線が9本…それぞれ、臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前と書き順がありまして、それが碁盤目上になるのがドーマン…
このドーマンが完成すると逆しまな力が溢れ…この世の法が破れて比斗神がうまれるそうですが…」


みゆきはおもむろに本から顔をあげると皆の方を向いて言った。


「ドーマンを完成させるには九つの血……つまり、九人のいけにえが必要なのです。そこで白羽の矢が立ったのが…私達九人…。」

407: 2008/03/09(日) 01:06:57.02 ID:jzRURZc7O
「じゃあ…私達の前に殺された人達は…?」


頬の腫れが大分引いてきたゆたかかが、目に不安と恐怖をやどらせながらたずねた。


「儀式を行う前の血の礎でしょう……この建物は風水上、気が溜まりやすい構造をしています…
この書によると岸猿家の当主、岸猿伊右衛門は風水に熱心だったそうで、この監獄を建設する時も、自ら率先して設計に携わっていたそうです。…恐らく殺された人の恐怖、混乱、苦痛…それらの気を集める為にこのような構造にしたのでしょう…。」

424: 2008/03/09(日) 03:12:05.59 ID:jzRURZc7O
「そして…期は熟した……そういう訳ね……それで、私達はその儀式を行う為の、いわばいけにえ……狂ってるわ…」


かがみがうつ向いたまま言った。


「私達…皆殺されちゃうの…?」


つかさが相変わらず手をモジモジさせながらたずねた。


「…ええ……そして…殺されるごとにこの赤い線が一本づつ増えていく…そういう事です…」



440: 2008/03/09(日) 05:36:38.67 ID:jzRURZc7O
「…じゃあ児を孕めっていうのはどういう事なの…?」と、つかさ。


「それが…分かりません……文献の何処を探しても無いんですよ…。」


みゆきが書物をパラパラと捲りながら言った。


「分からないじゃ済まされないの…人が氏んでんのよ?何とかしなさいよ!」


かがみが立ち上がると、みゆきを怒鳴りつけた。


「…自分の推測ですが……恐らく……私達と交わり…そして児を宿すのではないでしょうか……それが比斗神……私達を頃し、孕ませ、儀式を成就したその時、児、つまり比斗神が産まれる…私達の氏体から…。」

444: 2008/03/09(日) 05:54:31.88 ID:jzRURZc7O
みゆきの言葉に、フラッシュバックのようにみさおとひよりの最期が頭に浮かぶ……刺され、犯され、いたぶられ殺されたみさお…そして性器を大きくえぐられて氏んでいたひより……。


かがみは自分の腟がうごめき、子宮が熱くなるのを感じた。



「んっ……くっ……」

途端にその場にいた全員が、下腹部を押さえて、顔を赤くした。

得も言えぬ何かに、陰核が刺激され、ぬたぬたと唾液を滴らせたベロで腟の入口を舐め回されるかのような快感とうづきが走る。

521: 2008/03/09(日) 19:14:51.03 ID:jzRURZc7O
これも呪術の影響なのだろうか……性欲が泉の様に湧き出てくる。


「いや……やだ……気持ち悪い……」

ゆたかがスカートの上から押さえ、何とかうづきを止めようとしている…みなみは立っているのもやっとなのか…ソファーにもたれかかりながら、汗ばんだ顔で虚空を見つめている。

522: 2008/03/09(日) 19:17:03.01 ID:jzRURZc7O
「もう……だめ…我慢できない…」

525: 2008/03/09(日) 19:22:01.55 ID:jzRURZc7O
顔を赤らめたこなたがそう言うと、かがみの肩を掴み、強引に接吻した。


柔らかで、それでいて微かに甘いこなたの舌が、かがみの唇と歯を押し拡げて侵入してきた。


そして、こなたの舌が口の中をなめくじのように這い回り、かがみの舌を絡ませるように、舌の裏を愛撫する。

「ちょ……こなた……止め……」

531: 2008/03/09(日) 19:33:54.38 ID:jzRURZc7O
「好きだよ…かがみん……」


かがみとこなたの涎が糸を引き、互いの唇を結びつける。


「皆さん…落ち着いて……んっ…これは恐らく色情の呪術です…皆さんが児を孕むように仕向けるための……罠です……。」


顔を赤らめ、足を震わせながら、みゆきが声を絞り出した。

「でも……こんなの…どうやって……治めれば…。」

540: 2008/03/09(日) 19:42:20.80 ID:jzRURZc7O
あやのが熱い吐息を含ませた、いやらしい声色で言った。


みゆきは震える手で何とか書物を読みながら言った。


「……唾液です…皆さん……互いに接吻して、唾液を…飲みこんで下さい……こなたさんとかがみさんがしているように……。」



544: 2008/03/09(日) 19:51:25.49 ID:jzRURZc7O
みゆきはそう言うと、側にいたあやのの頭を掴み寄せて、接吻をした。



「みなみちゃん…仕方ないけど…やるよ……いい…?」


ゆたかが、みなみの汗ばんだ顔に唇を近付けながら言った。


「……かまわない…。」


みなみはそういうと、ゆっくりとゆたかの唇に自分の唇を触れさせた。
そして互いに舌を絡ませ合う。

550: 2008/03/09(日) 19:59:02.52 ID:jzRURZc7O
「お姉ちゃぁん…私は…?」


つかさが肩で息をしながら言った。


「あ…そ…そうね…私がしてあげる……。」


こなたと見つめ合い、うっとりとした表情をしていたかがみがふと我に返り、こなたを押し留め、つかさを抱き寄せる。


それを、子宮のうづきが止まったこなたが寂しげな目で見つめた。

553: 2008/03/09(日) 20:06:12.59 ID:jzRURZc7O
「姉妹でこんな事するのも、何か変だけど…仕方ないわよね……。」


「お姉ちゃん……。」



つかさとかがみも同様に舌を絡ませ合い接吻をした。

557: 2008/03/09(日) 20:16:39.45 ID:jzRURZc7O
「突然すみません…何か変な感じです……。」


みゆきが口元を抑えながら、恥ずかしげに言った。


あやのはニンマリと微笑むと、皆に聞こえないように、みゆきの耳元まで口を持って来て言った。

563: 2008/03/09(日) 20:25:30.05 ID:jzRURZc7O
「小娘風情が…術の邪魔をしよって……」


あやのは老婆のような声でそう言うと再び、みゆきに向き直った…。


「え……どうして…?」


突然の事に訳が分からず、みゆきがあやのの目を見つめる…。


あやのの目は別人のように、冷たい光を宿し、殺意を持った目で見つめ返していた。

567: 2008/03/09(日) 20:33:49.28 ID:jzRURZc7O
そして、乱暴にみゆきの頭を抱き寄せると再び接吻した。


今度の接吻は先程のとは違った…唇が切れ、歯と歯がガチリと合わさりあい、そしてあやのの舌がヒルのように喉に侵入し、呼吸を塞いだ。


「んんっ!…んふっ!」


口を塞がれ、悲鳴もあげられないみゆきは何とか、危機をしらせようと、必氏でうなるが、聞こえてはいなかった…。みんな初めての同性同士のキスに夢中なのだ。

569: 2008/03/09(日) 20:44:25.05 ID:jzRURZc7O
まだ色情の呪術が少し残っている……。


みゆきは手であやのの肩を掴むと何とか自分から引き剥がそうとした。
しかし、あやのの手が優しくそれを掴むと、ガッチリと固定されてしまった。


みゆきの意識が段々と朦朧な物になってくる…。


575: 2008/03/09(日) 21:02:29.87 ID:jzRURZc7O
接吻をするあやのの目が血走り、鼻息がふいごのように荒くなる。


みゆきは何とか使える足でテーブルを蹴り上げた。

ガタン、と音がして、テーブルにあった書物が床に落ちた。


皆は接吻を中断し、みゆきの方を向き、ようやく異変に気付いた。


「ちょっと…あやの……どうして…」

580: 2008/03/09(日) 21:16:18.94 ID:jzRURZc7O
「ひとつ…ふたつ……フフフ…贄が二つじゃ……」


あやのは老婆のようなしわがれ声でそういうと、自らの顔に手を回し、もう片方の手で顎を持ち上げた。


「これで…贄がみっつ…」


あやのはそう言うと腕に力を込めた。自らの首をヘシ折る気だ。


「駄目…やめてえええ!」

583: 2008/03/09(日) 21:25:06.25 ID:jzRURZc7O
かがみが叫びながら、あやのに飛び付く。


だが手遅れだった。


ゴキゴキと鈍い音がして、あやのの首から皮膚を突き破って頚骨が飛び出した。
あやのの首から鮮血がほとばしり、首をブラブラさせながら、その場にグシャリと倒れこんだ。



そして、天井に三本目の赤い刷毛が刻まれた。

584: 2008/03/09(日) 21:33:42.86 ID:jzRURZc7O
あやのの血が辺りに飛び散り、返り血を浴びたかがみは、目を虚ろにし、その場にヘナリと座り込んでしまった。


濃厚な血の臭いが辺りに漂う…


その場に居た者は、ただ呆然と、あやのの亡骸を見つめていた。

587: 2008/03/09(日) 21:42:47.14 ID:jzRURZc7O
あやのの亡骸にカーペットを被せた一同は、血の臭いに耐えきれず、談話室から食堂へと移動した。


食堂にはまだ仔牛肉のステーキが残っており、冷めて固まっていた。

一同は言葉も出ない様子で、食堂のナプキンを使って返り血を拭うかがみを見つめていた。


「で…どうするの、みゆきさん。どうすれば、儀式を回避出来るの?」

590: 2008/03/09(日) 21:55:58.37 ID:jzRURZc7O
一同は言葉も出ない様子で、食堂のナプキンを使って返り血を拭うかがみを見つめていた。


「で…どうするの、みゆきさん。どうすれば、儀式を回避出来るの?」


口元をハンカチで覆うみゆきに、こなたはたずねた。


「この嵐が…気を浄化してくれます…」

593: 2008/03/09(日) 22:02:34.57 ID:jzRURZc7O
まだ喉の調子がおかしいのか、かすれた声で途切れ途切れにみゆきが言った。


「50年間溜まりにたまった気を、この嵐が吹き飛ばしてくれるんです……ですから嵐が過ぎれば、伊右衛門の力も無くなり、我々にとって脅威では無くなります…。」


「でも……止む気配はないね…。」


ゆたかが食堂の窓から外を除き込み、呟いた。

594: 2008/03/09(日) 22:04:13.26 ID:jzRURZc7O
「ゆきちゃん…気分が悪そうだけど、大丈夫…?」


青白い顔をして、椅子に座り、時折咳き込むみゆきに、つかさはたずねた。

無理もない…あんな事をされて平気でいられる人間などそうそういるものではない…。


「ええ…少し…胸が苦しいです…」


軽く咳き込みながらみゆきが言った。

595: 2008/03/09(日) 22:08:35.78 ID:jzRURZc7O
「つまり……嵐が過ぎるまで、何とか生き残ればいいわけね…」


かがみがあやのの血で真っ赤になったナプキンを床に放り捨てながら言った。


「こなた…つかさ…何か武器を探しに行くわよ…。」


かがみはそう言うと、テーブルに置かれたパン切りナイフを手に取った。


「みゆきはそこで休んでで…ゆたかちゃん、みなみちゃん…みゆきを頼むはね。」

596: 2008/03/09(日) 22:11:05.96 ID:jzRURZc7O
かがみはそう言うと食堂のドアを乱暴に開けて出ていった。


こなたとつかさは互いに顔を見合わせながら、かがみの後を追った。


みゆきは相変わらずハンカチで口元を押さえながら咳き込んでいた。

599: 2008/03/09(日) 22:16:13.13 ID:jzRURZc7O
「武器を探すなら物置ね…。」


かがみはそう呟きながら、二階の廊下をズカズカと進んでいく。


そして二階の一番右端にあるお目当ての物置へと辿り着いた。


中は相当カビ臭いと踏んだのか、三人は予め口元を袖で覆いながら、ドアを開けた。

600: 2008/03/09(日) 22:21:44.17 ID:jzRURZc7O
そこは不思議な世界だった。

天空から照り付ける太陽に三人は思わず、目を手で覆った。


埃にまみれた小汚い物置を想像していた三人は面食らった。

そこは太陽が照り付ける、中庭だった。


狂ったような三味線の音色が鳴り響き、しわがれた笑い声と遊女の楽しげな嬌声が聞こえる。

603: 2008/03/09(日) 22:24:36.46 ID:jzRURZc7O
「なに…これ…」


思わずつかさが呟いた。



「やれ産めや…やれ産めや…岸猿伊右衛門の稚児を見せるのじゃ…。」


三味線の音色に混じって、不気味なしわがれ声が、監視塔の上から聞こえた。


中庭には白装束を着た何十人もの女性が並べられ、その後ろに、刀を構えた男がそれぞれ佇んでいた。

604: 2008/03/09(日) 22:26:47.00 ID:jzRURZc7O
女性はみな地面に仰向けに寝て、足を開いている。


そして苦しげにあえぎ、悲鳴を上げていた。


不自然に膨らんだお腹から、その女性は皆妊婦であると推測される。


異常で…狂っていた…何十人もの妊婦が中庭に並べられ、そして一斉に出産させられてるのだ。



それぞれの妊婦の後ろに立つ男達はただじっと、妊婦の出産を見ていた。


そして、妊婦の中の一人が一際大きな声を挙げると、産道から血をほとばしらせながら、赤ん坊の頭をひり出した。

606: 2008/03/09(日) 22:33:14.92 ID:jzRURZc7O
しかし産まれおちてなお、赤ん坊は泣き声をあげる気配がない。
氏産だった…。

「あの女が子を流しおったぞ!切り捨てい!」


監視塔から怒りに震えたしわがれ声が響いた。


その妊婦の後ろに立っていた男は躊躇いもせずに、刀で首を切り落とした。



「やれ産めや……やれ産めや…」


再び三味線の音色に載せて不気味なしわがれ声が辺りにこだまする。

609: 2008/03/09(日) 22:39:22.64 ID:jzRURZc7O
その時、辺りに赤ん坊の泣き声が響いた。


一番端にいた妊婦が、胎児を産み、まだへそのおがついている胎児を愛おしそうに、抱き締めていた。


「でかした!ここまで連れて参れ!」


再び監視塔から、しわがれ声が響き、妊婦の後ろに立っていた男が、妊婦の腕から無理矢理胎児を奪い取ると、刀でへそのおを切断した。


637: 2008/03/10(月) 00:41:18.22 ID:XnADEFPaO
「止めて!返して!」


妊婦の悲痛な叫びが聞こえた。


男は足元にすがりつく妊婦を蹴り払うと、胎児を抱えたままハシゴで監視塔を登っていった。

そして、監視塔の一番上にある覗き窓から胎児を手渡した。


暫く、妊婦の悲痛な叫びが聞こえたあと、監視塔から怒鳴り声が聞こえた。


「ならぬ!このような下賎な稚児は岸猿にふさわしゅうない!」

639: 2008/03/10(月) 00:43:43.02 ID:XnADEFPaO
そう言うと、神官の恰好をした伊右衛門は、胎児を監視塔の窓から投げ捨てた。


胎児はまるで人形のように落下し、砂埃を巻き上げて地面に激突して動かなくなった。



「いやああああああ!」


その妊婦は絶叫した。



そして世界が収縮し、辺りが暗くなった。

640: 2008/03/10(月) 00:48:26.80 ID:XnADEFPaO
今目の前に広がっているのはガラクタが積まれた小汚い物置だった。


「今の見た……?」


「うん……。」


気味が悪い幻覚に一同はあっけに取られた…。


「今のが岸猿…伊右衛門…。」


「あんな事を…酷い…」


顔を青くした、つかさが口元を押さえながら呟いた。

641: 2008/03/10(月) 00:50:56.27 ID:XnADEFPaO
「…今やる事やらないと、つかさもあんな風になっちゃうのよ…。」


かがみが淡々とそう言うと、物置へと足を踏み入れた。






食堂で待機している三人はソワソワした様子で、物置に行った三人を待っていた。
以前としてみゆきの顔色は悪く、時折激しく咳き込んでいた。

642: 2008/03/10(月) 00:52:49.53 ID:XnADEFPaO
食堂で待機している三人はソワソワした様子で、物置に行った三人を待っていた。
以前としてみゆきの顔色は悪く、時折激しく咳き込んでいた。



ゆたかとみなみは食堂に置かれていたソファーにみゆきを寝かせてあげると、ナプキンでみゆきの汗を拭った。


「ありがとうございます…ゆたかさん…みなみさん…。」

644: 2008/03/10(月) 01:00:39.69 ID:XnADEFPaO
みゆきは笑顔で二人に例を言うと再び咳き込んだ。


「…本当に大丈夫…?」


みゆきを姉のように慕っているみなみが心配そうにみゆきの顔を覗き込んだ。


「ええ…大丈夫ですよ……」


そう言うとハンカチを口元にあてて、再び咳き込んだ。

645: 2008/03/10(月) 01:01:31.16 ID:XnADEFPaO
「ハンカチ、取り替えますね…」


ゆたかはそういうと、自分のハンカチをみゆきの口元にあててあげた。


「本当に…何から何まで…」


「いえいえ…いいんです…」


ゆたかがにっこりと答えた。


「みなみちゃん…このハンカチ洗ってくるから待ってて…。」


「…一人じゃ危ない…私も行く…」

647: 2008/03/10(月) 01:04:49.57 ID:XnADEFPaO
「でも…みゆきさんが…」


ゆたかが心配そうにみゆきの方を向いた。


「いえ…私なら一人で大丈夫ですから…。」


具合が悪そうにそう答えると、二人を促した。


「そうですか…じゃあ出来るだけ早く戻って来ますね…」


ゆたかがそう言うと、みなみとともに食堂から出ていった。

651: 2008/03/10(月) 01:11:29.58 ID:XnADEFPaO
みゆきはその様子を眺めてから、軽い咳をして何気なく入口の方を向いた。


濡れたポンチョをはおった人影が其所にはいた。


とっさの事にみゆきは声も出なかった。


「おっOい…大きいね…」


その人影はズカズカと食堂に入ってくると、脅えるみゆきの前で立ち止まった。

654: 2008/03/10(月) 01:18:16.12 ID:XnADEFPaO
そして服の上からみゆきの柔らかなO房をもみしだく…。


「ふえ…ふえええ…」


みゆきが声にもならない悲鳴をあげた。


「ただ頃すだけじゃつまらない…少し…遊ぼうか」

656: 2008/03/10(月) 01:25:30.55 ID:XnADEFPaO
そういうと男はみゆきに耳打ちをした。


「暫くすれば…二人は戻ってくるだろう……もし…二人に危険を知らせる事が出来れば二人は助けてやる……出来なけりゃ…。」


そう言うと人影はナイフをみゆきの目の前にかざした。


「さぁて…お楽しみといこうか…」

659: 2008/03/10(月) 01:34:28.44 ID:XnADEFPaO
男はそう言うと、みゆきに接吻をした。


男のうねるような強靭な舌は、みゆきの唇と歯をこじあけ、簡単に口内へと侵入した。
そして自らの口内へとみゆきの舌を吸い入れると、思い切り歯を立てた。


「ングッ…ンンッ…」


みゆきは必氏に抵抗したが、男の強大な力の前にはなすすべなど無かった。

660: 2008/03/10(月) 01:36:43.86 ID:XnADEFPaO
男の歯がみゆきの舌にギリギリと食い込んでいく…。


互いに接吻する口の間から血が滴り落ちた。


そして、ブツリと鈍い音がして、みゆきの舌が食い千切られた。


みゆきは口から血をダラダラと垂らし、体を震わせながらその場に倒れた。

669: 2008/03/10(月) 01:47:32.66 ID:XnADEFPaO
男はほくそ笑み、みゆきの舌をクチャクチャと咀嚼しながら言い放った。


「せいぜい頑張れ」







ゆたかとみなみはかろうじて水が出る浴室の洗面所でハンカチを洗っていた。

672: 2008/03/10(月) 01:56:39.31 ID:XnADEFPaO
「さっきはいきなりごめんね…」


ゆたかがハンカチを洗いながら、後ろに立っているみなみに言った。

「…あれは不測の事態だったから…別に構わない…」


静かにみなみは言った…。


「…私の方こそ…ゆたかに嫌な思いをさせてしまって…」

677: 2008/03/10(月) 02:06:57.79 ID:XnADEFPaO
「そんな事ないよ…!」


ゆたかがみなみの方を振り向く。

みなみはゆたかから目をそらし、顔を赤らめながら下を向いて、照れ臭そうに言った。


「…私はただ…ゆたかが…」


「私は嬉しかったよ…嬉しかった…」


今度はゆたかが顔を赤らめ、目に涙を溜めた。

680: 2008/03/10(月) 02:15:11.63 ID:XnADEFPaO
「私のせいで…皆を巻き込んじゃって…私…みなみちゃんに嫌われちゃったと思ってそれで…」


みなみはハッとしてゆたかの方を向き、そして呟いた。


「私も…嬉しかった…ゆたかと一つになれて…嬉しかった…。」


「みなみちゃん…」


みなみはゆたかを抱き寄せ、耳元で囁いた。


「……大好き…」

687: 2008/03/10(月) 02:28:42.82 ID:XnADEFPaO
「私もだよ…みなみちゃん…。」


二人は互いに見つめあうとゆっくりと唇を触れ合わせた。


先程の激しい接吻ではなく、うぶな生娘同士の不器用なフレンチキスだ。


二人は暫くそのまま淡い一時を楽しんだ。


「行こ…みゆき先輩が待ってる…」


みなみは顔を赤らめながらうなづくと、ゆたかの手を握り締め、洗面所を後にした…。


食堂で何が待っているのかも知らずに…。

689: 2008/03/10(月) 02:35:41.32 ID:XnADEFPaO
「みゆき先輩…ハンカチを洗って来ました。」


ゆたかは食堂の扉を開けながら言った。


肝心のみゆきはこちらに背を向けて椅子に座っていた。


ほのかに鉄錆のような臭いが漂う。

食堂の様子がおかしい。


ゆたかは何か薄ら寒い物を感じた。



「みゆき先輩…?」

694: 2008/03/10(月) 02:44:03.64 ID:XnADEFPaO
ゆたかはみゆきに呼び掛けた。


返事はない。



ゆたかはゆっくりとみゆきに近づいていった。


「…大丈夫ですか…?」

そう声をかけながら、後ろからみゆきの顔を覗き込む。

みゆきはうつ向き、そして服を血だらけにしていた。

695: 2008/03/10(月) 02:50:26.22 ID:XnADEFPaO
「みゆき先輩!!みなみちゃん…みゆき先輩が…」


食堂の入り口に立っていたみなみが慌ててみゆきに駆け寄る。


みゆきはゆっくりと顔を上げた。


口から血の筋がよだれのように流れ出て、服を汚していたのだ。


「…そんな…」


みなみが絶句した。

733: 2008/03/10(月) 04:25:35.30 ID:XnADEFPaO
みゆきが何かを訴えかけるかのように口を開いた。


その途端口からドバリと吐冩物のように血が流れ出た。



「どうしよう…どうしよう…」


ゆたかが口元を手でおさえながらうろたえた。


「あ……あ……」


みゆきが口から血を流しながら、必氏で何かを伝えようとしていた。

737: 2008/03/10(月) 04:34:05.12 ID:XnADEFPaO
ゆたかが必氏になってみゆきの言葉を聞き取ろうとした。


「あ…あ…へて…」


みゆきがみなみの後ろを恐怖で見開いた目で見ながら、あえいでいる…。


次の瞬間、みなみの体がビクリとこわばった。

血が飛び散り、脅えるみゆきと、何が起きたか分からず、キョトンとしているゆたかの顔に赤い斑点のように飛沫した。

そしてみなみの体がゆっくりと持ち上がっていく。

738: 2008/03/10(月) 04:36:59.85 ID:XnADEFPaO
すまない…この辺りで今日は終わりっす…。


また書き溜めタイムに入ります…再開はいつもより早めにやりたいと思います。


前回みたいに絵師様が現れたらいいなぁ

844: 2008/03/10(月) 19:15:09.26 ID:XnADEFPaO
ゆたかが必氏になってみゆきの言葉を聞き取ろうとした。


「あ…あ…へて…」


みゆきがみなみの後ろを恐怖で見開いた目で見ながら、あえいでいる…。


次の瞬間、みなみの体がビクリとこわばった。

血が飛び散り、脅えるみゆきと、何が起きたか分からず、キョトンとしているゆたかの顔に赤い斑点のように飛沫した。

そしてみなみの体がゆっくりと持ち上がっていく。

845: 2008/03/10(月) 19:21:54.81 ID:XnADEFPaO
「うあっ…はっ…ゴホッ…」


苦しげな声がみなみの口から漏れた。


持ち上がり、宙に浮いたみなみの胸から銀色の何かが生えていた。

それはナイフの刃だった。



みなみの背後から忍び寄った人影が、みなみの肩口にナイフを突き立て、宙に刺し上げたのだ。


「可愛い子だ…ちと胸が寂しいがな…」

848: 2008/03/10(月) 19:29:43.18 ID:XnADEFPaO
人影はそう言いながら、みなみの胸の辺りに手を這わせた。


みゆきは血で濡れた口をわなわなと震わせ、ゆたかは涙を流しながら顔を青ざめさせていた。


「…ゆたか…みゆきさん…逃げて…」


みなみは苦しげにそうつぶやいた。


人影はみなみにナイフを突き立てながら、優しく抱き寄せた。

850: 2008/03/10(月) 19:37:34.98 ID:XnADEFPaO
「綺麗な肌だ…美しい…」


そう言いながら、みなみの頬を舐め上げた。



「…やだ…みなみちゃん…」


ゆたかの頬を涙が伝った。


「ゆたか…逃げて…。」


みなみが声を引き絞る。


ゆたか一人と手負いのみゆきではどうにもならない…ゆたかは助けを呼ぼうと声を振り絞った。

853: 2008/03/10(月) 19:44:52.99 ID:XnADEFPaO
「お姉ちゃ…ングッ…」



途端に血まみれの手が、ゆたかの口を塞ぐ。


「シーッ…こいつがどうなってもいいのかな…?」


そう言うと男はナイフをみなみの体の中でえぐるように少し動かした。


「ああっ!」


みなみが苦悶の表情を浮かべ、口から血を吐き出した。

858: 2008/03/10(月) 19:49:50.42 ID:XnADEFPaO
男は冷たい目線でゆたかを眺めると、命じた。


「脱げ…。」


「え…?」


ゆたかは戸惑いの表情を浮かべ、うつ向いた。


「もう言わん…脱げ」


男は語気をあらげた。そしてみなみの傷口をえぐる。

859: 2008/03/10(月) 19:55:55.21 ID:XnADEFPaO
みなみが再び悲鳴を上げた。


「ひっく…えぐ……。」


ゆたかは涙を流し、しゃくりあげながら白いワンピースのボタンを外していく…。


「ゆたか…駄目…逃げて…」


みなみがゴボゴホと血の泡を吐きながら、苦しげに言った。


「大丈夫だよ、みなみちゃん…助けてあげるから…。」


ゆたかはにっこりと微笑むと、目頭から涙が落ちた。
そしてワンピースを脱ぎ終えて、キャミソール一枚とスカートだけになった。

884: 2008/03/10(月) 20:46:05.41 ID:XnADEFPaO
あんまり投下スピードが早いと、携帯だからかもしれないが、アクセス禁止になって暫く書き込み禁止になっちゃうんだ(´・ω・`)


だから結構間を置いて投稿してる…マジでゴメンね…。


らき☆すたでかまいたちの夜なようです~第ニ幕~

引用: らき☆すたでかまいたちの夜なようです