1: 2008/09/19(金) 21:17:25.53 ID:NnJX6zpg0
昭和58年6月 雛見沢村
その村の田んぼのあぜ道に
行商人クラフト・ロレンスと賢狼ホロは立っていた
「おい、ホロ……」
「訳が分からぬのはわっちも同じじゃ。」
「賢狼のお前にも分からないとなると……お手上げだな。」
「数百年と生きてきたが……こんな経験わっちにもありんせん。」




2: 2008/09/19(金) 21:19:10.96 ID:NnJX6zpg0
何が起こったんだ……
とりあえず現状の確認だ
『霧に飲み込まれたと思ったら見知らぬ場所に立っていた』
道に迷ったとか眠っていたとかそんなちゃちなもんじゃ断じてない
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった……
俺たちは確かに見渡す限りの平原を歩いていたはず
それが突然の濃霧に見舞われ、荷馬車を降り
少し周りを歩いていたら荷馬車まで消えた
そして霧が晴れたと思ったらここに立っていたと言う訳だ

4: 2008/09/19(金) 21:20:46.56 ID:NnJX6zpg0
昔どこかで旅人を異世界に誘う悪魔の伝説を聞いたことがある
まさかその悪魔にやられたというのか……?
ちらりとホロを見る
ホロは周りをきょろきょろと見回し、しきりに耳を動かしている
と、ホロの耳の動きがぴたりと止まった
「誰か……来るようじゃの。」

6: 2008/09/19(金) 21:22:04.23 ID:NnJX6zpg0
「誰って、人か?」
「うむ……数は……おそらく一人。」
そう言ってホロが目を向けた先に俺も目を向ける
それとほぼ同時に角から人影が姿を現した
見たところ少年のようだ
歳は十代半ばといったところか
見た目はホロと同じくらいに見え、見慣れない服装をしている
よし、迷っていても仕方ない、まずは話しかけよう

8: 2008/09/19(金) 21:23:33.17 ID:NnJX6zpg0
俺はすぐさま気持ちを切り替え、商人の笑顔で話しかける
こんな状況でも商人用の笑顔を作れる自分に少し関心半分呆れ半分だな
「あの、すみません。私たち旅の者なのですが……。」
そう話しかけた途端、少年は慌てふためいた
「えっ!?が、外人……!?そ、ソーリー!
えっと……アイキャントスピークイングリッシュ!」
「は?いや、その……。」

9: 2008/09/19(金) 21:25:14.00 ID:NnJX6zpg0
「う、ウェル……えっと……その……。」
「ぬし様よ、まずは落ち着いてくりゃれ?」
相変わらず混乱している少年にホロがゆっくりと話しかける
「へ?に、日本語?はは……なんだよチクショー……。」
どうやら落ち着いてくれたようだ
これで質問に入れそうだな
「あの……よろしいでしょうか?」
「あぁ、す、すみません……取り乱しちゃって……
何か用だったんですよね?」
「はい、私たち、旅の者なんですが……
ここはなんというところか教えていただきたいのです。」
「旅?観光ですか?
この村の名前は、雛見沢村です。いい所ですよ。」
少年は嬉しそうにそう言った

10: 2008/09/19(金) 21:26:42.92 ID:NnJX6zpg0
ヒナミザワ…やはり聞いたことのない名だ
ホロの方を見るも首を横に振られてしまう
「そうですか。ありがとうございます。
あぁ、申し遅れました。私はクラフト・ロレンス。
商売上じゃロレンスで通ってます。こちらは連れのホロ。」
「あ、どうも。俺は前原圭一です。」
……やはり聞きなれない語幹だ
少なくともさっきまで居た平原、あの辺りの村では
このような名前はない

11: 2008/09/19(金) 21:28:47.70 ID:NnJX6zpg0
と少し考えていると、彼が口を開いた
「あの、もういいでしょうか?友達と約束があるので。」
「あ、それは申し訳ありません。最後にもう一ついいでしょうか。
このあたり、どこかに宿はありませんか?」
「あぁ、それならこの道を真っ直ぐ行って山を下って
興宮の町まで出ればあると思いますよ。それじゃ、俺もう行きますね。」
「えぇ、ありがとうございました。」
そうして少年、圭一さんは走って去って行った

12: 2008/09/19(金) 21:31:11.44 ID:NnJX6zpg0
しばらくその背中を目で追っていると、
ふいにホロに話しかけられた
「さて、ぬしよ。これからどうするつもりかや?」
「まずは宿の確保だ。どうやら町があるらしいからな。
それから町で情報収集して現状を把握しよう。」
「んむ、そうじゃの。」
そう言ってホロはうなずき、俺の手を取った
「じゃが、わっちにはそれよりもっといい案がある。」
「なんだ?」
「腹が減った。」
「言うと思ったよ。」
俺とホロは教えてもらった道を歩き出した

13: 2008/09/19(金) 21:33:01.39 ID:NnJX6zpg0
「もー!遅いでございますわ皆さん!
ぷんぷんぷんでございますのことよー!」
「ごめんねごめんね。はぅ~……。」
「いやー、ごめんごめん。
圭ちゃんがなかなか来なくってさー。」
「圭一なら仕方ないのですよ。にぱー☆」
「やっぱり俺なら納得なのかよ……。
まぁ今回は確かに遅れたのは俺だけどな……。
でもちゃんとやむを得ない事情があるんだぜ?
実はレナとの待ち合わせ場所に向かう途中で……」

16: 2008/09/19(金) 21:35:48.69 ID:NnJX6zpg0
「な、なんだこれは……!?」
「ぬし……わっちはもう……
この賢狼の頭ですらどうにかなってしまいそうじゃ…。」
町へ出て一番最初に何か得体の知れない物が目に飛び込んできた
馬並み……いや、馬よりも早く動く『何か』だ
しかもよく見ると中に人が入っている
他に、車輪のような物が二つ付いた『何か』に人が乗っていたり……
建物も見たことのない形をしているものばかりだ
「ぬしよ……やはりわっちら、
悪魔にたぶらかされておるんじゃろうか……?」
「……少なくともこの世界は俺たちが居た世界とはまったく違う……
どこか別の世界であるということだけは確かなようだ……。」

20: 2008/09/19(金) 21:38:25.24 ID:NnJX6zpg0
歩きながら俺たちは出来るだけ落ち着いて
この世界について考え、話し合った
もちろん周りを歩く人々に聞かれないよう注意しつつだ
「問題は、この世界がどこまで
俺たちの世界と同じか、ということだと思うんだが。」
「んむ、わっちもそう思う。
ということはやはり情報収集は不可欠じゃの。」
「見たところ、住人が『人間である』ことには間違いは……どうした?」

21: 2008/09/19(金) 21:41:28.66 ID:NnJX6zpg0
俺の言葉は急に立ち止まったホロによって途切れた
見ると、ホロは一点に目を奪われている
その視線の先には……
「お前なぁ……こんな時にも食い意地は消えないんだな。」
「腹が減っては戦は出来ぬと言うじゃろ。
まずはあの旨そうなリンゴでわっちの空腹を満たしてからじゃ。
そうじゃないとわっちのこの賢い頭も働きんせん。」

22: 2008/09/19(金) 21:43:52.79 ID:NnJX6zpg0
「ったく……わかったよ。だが一つだけだからな。
今は荷馬車はないんだ。そう何個も買ったら……」
「いちいち細かいことを言う雄じゃの。
そのくらいわっちも分かっておる。」
「どうだか。」
そんなやりとりをしながら店に入っていく
と、おそらく店主と思われる男が出てきた
「はいいらっしゃい!何にします?」
「このリンゴをひとつ頂けるでしょうか。」
「おぉ外人さん、あんた日本語上手だね!
はいよ毎度!一個130円ね!」
「130……円……?」

23: 2008/09/19(金) 21:46:45.20 ID:NnJX6zpg0
「ぬし……」
「仕方ないだろ。
使われてる貨幣までまったく違うものだったんだから。」
「分かっておる……分かっておるんじゃが……。うぅ……りんご……。」
ホロはしつこくリンゴに執着しているようだが
今はそれに構っている暇はない
これは早く解決策を見つけなければ本気で困ることになる

24: 2008/09/19(金) 21:48:57.37 ID:NnJX6zpg0
貨幣が使えないのなら宿を取ることも食事もできない
今日明日くらいは携帯している干し肉で我慢できるだろうが
今日明日で元の世界に帰れるだろうと考えるのは
あまりに楽観的というものだ
なんとかしないと……

25: 2008/09/19(金) 21:51:12.59 ID:NnJX6zpg0
そう悩ませている頭にホロの声が割って入る
「それでぬしよ、今どこへ向かっておるのかや?」
「さっきの村だ。金が使えないとなると今夜は恐らく野宿だろうからな。
こんな町の中より先ほどの村の近くの方が人目につかなくていい。」

29: 2008/09/19(金) 21:54:21.41 ID:NnJX6zpg0
時間はまだ夕方
ようやく日が傾き始めたくらいだ
俺とホロは再び雛見沢へ戻ってきていた
さて……野宿の場所を探すか……
ホロに声をかけようとしたのと同時に、
そう遠くないところから賑やかな声が聞こえた
俺が聞こえたのだから当然ホロにも聞こえているだろう
声のする方を見ると、五つの人影が見えた
その中に見覚えのある人物が
先ほどの少年、前原圭一だ

31: 2008/09/19(金) 21:59:34.00 ID:NnJX6zpg0
彼、圭一さんの他には恐らく同い年くらいの少女が二人、
それに年齢二桁もいかないくらいの幼い少女が二人いた
そんなことを考えている内に向こうがこちらに気付いたようだ
「あ、ロレンスさん、ホロさん。また会いましたね。」
最初に声をかけてきたのは圭一さん
そして次々と他の少女たちも口を開く
「あるぇ?圭ちゃん知り合い?ってことは……」
「この人たちがさっき言ってた観光の人かな、かな。」
「みぃ。ようこそ雛見沢へ、なのですよ。にぱー☆」
「観光は楽しめましたかしら?いいところでございましょう?」
初対面にも関わらずまったくためらう様子も無く
次々と話しかけてくる彼女らに少し圧倒される
だがそんな俺に比べ、ホロは何故か少し楽しそうに見えた

34: 2008/09/19(金) 22:02:03.99 ID:NnJX6zpg0
「えっと、確か……ロレンスさんだっけ。
あなたたち、何日くらいこっちにいるの?
今日でもう帰っちゃうの?」
背の高い少女が話しかけてきた
他意はないのだろうが、いきなり核心をつくような質問
どう答えるべきか考えていると、ホロが口を開いた
「ふむ…実はしばらくここに住むことになりそうじゃ。」
「!?お前何を……」
ホロの予想外の返答に驚き食って掛かろうとしたが、
ホロの目を見て押し黙る
賢狼の目は「まぁ黙って見ておれ」と、そう言っていた

37: 2008/09/19(金) 22:05:13.99 ID:NnJX6zpg0
ホロの言葉を聞いた栗毛色の髪の少女が嬉しそうに口を開く
「あははは!じゃあじゃあ、レナたちお友達になれるかな!かな!」
「そうじゃの。友達になってくりゃれ?」
「をーっほっほっほ!お安い御用でございますわー!」
「見たところ俺と同じくらいの歳だな。
まさかこの期に及んで同年代の友達が増えるたぁ思っても見なかったぜ!」
「みぃ、圭一の青い性が爆発してしまいかねないのです。
ホロ、気をつけるのですよ。にぱー☆」
「初対面の女の子に何とんでもないこと吹き込もうとしてやがる!!」

38: 2008/09/19(金) 22:08:19.05 ID:NnJX6zpg0
そんな皆の様子を見、ホロはとても面白そうにくっくっくと笑っている
だが分からない
さっきの発言、いったい何を考えて……
といまだ困惑している俺を尻目に、ホロが口を開いた
「じゃが……ここでひとつ問題がありんす。
わっちらには……家も金もありんせん。」

39: 2008/09/19(金) 22:11:14.42 ID:NnJX6zpg0
「え……?」
ホロの言葉に皆の表情が一気に変わった
構わずホロは言葉を重ねる
「わっちら、実は訳ありで旅をしとる。
家がないのは野宿でなんとかなるんじゃが……
とうとう金も食料も尽きてしまいんす。いったいどうしたらよいものか……。」
「そうなんですの……大変でございますわね……。」
「その『訳』というのは敢えて聞きませんです。」
「あぁ、誰でも触れられたくない過去のひとつやふたつあるからな。
人の過去をほじくり返そうと思うほど俺たちは野暮じゃないぜ。」
「ねぇ魅ぃちゃん……なんとかしてあげられないかな……。」
「うーん……バイトの紹介……くらいなら
してあげられないこともないんだけど……。」

40: 2008/09/19(金) 22:14:17.15 ID:NnJX6zpg0
「バイト……とは何かや?」
「雇ってもらって簡単にする仕事だよ。
あたしが知ってるとこの時給なら普通に働けば
一日分の食費くらいなら余裕で稼げるけど……。」
その言葉にホロは満足げにうなずいて口を開く
「それで十分じゃ。住む場所なら気にすることはありんせん。
わっちら野宿は日常茶飯事じゃからな。のう、ぬしよ。」
「え?あ、あぁ、そうです。
働けるところを紹介していただけるだけで十分です。
それにお金が貯まればそれで宿を取りますので。」
いきなり話を振られ少々戸惑ってしまったが
話の流れは良い方向に向かっているようだ
「うーん……そっちがそれでいいならいいんだけどさ……。」

41: 2008/09/19(金) 22:17:49.09 ID:NnJX6zpg0
「はぅ……でもでも、お金が貯まるまでの間
ずっと野宿なんて可哀想じゃないかな……。」
栗毛色の少女がそう呟く
だがこちらとしては本当にもう十分だ
そう言おうとしたその時
髪の短い幼い少女が突然顔を上げ、口を開いた
「そうですわ、いいことを思いつきましてよ!」
「みぃ?なんなのですか?」
「圭一さん、お金が貯まるまで
あなたのお家に泊めてさしあげてはいかがでございましょう?」

42: 2008/09/19(金) 22:20:11.86 ID:NnJX6zpg0
いきなり自分の名前を出された圭一さんはあからさまに動揺する
「はぁ!?な、なんで俺の家なんだよ!?」
「あぁ~、そう言えば圭ちゃんの親御さん、
今日から一週間東京に行ってるんだったね。」
「はぅー!一週間あればきっとお金も十分貯まると思うな、思うな!」
「ご両親がいらっしゃらないのでしたら
説得の必要もありませんものね。我ながらナイスアイデア!ですわ~!」
「べ、別に俺の家じゃなくても、
梨花ちゃんと沙都子の家でもいいじゃねぇか!」
「ボクたちのお家には寝るスペースも布団もありませんです。」

43: 2008/09/19(金) 22:22:23.05 ID:NnJX6zpg0
「ぐっ……!そりゃそうだが……。」
圭一さんはかなり押され気味のようだ
とここで突然、背の高い少女がにやりと笑った
「あ、もしかして圭ちゃあん……くっくっく……」
「な、なんだよ……気色悪い笑い方して……」
「ホロと同じ屋根の下で寝るのが恥ずかしいんじゃないの……?」
「なっ……!」
俺は思わずホロの方を見る
ホロは顔を赤らめ少しうつむき、手で口を隠し目を泳がせている
俺には分かる
もちろん演技だ

44: 2008/09/19(金) 22:25:01.20 ID:NnJX6zpg0
しかしホロと初対面、しかも平静でない圭一さんに
これが演技だと見抜けるはずもなく、さらに狼狽しているようだ
そして……
「ば、馬鹿!んなわけねぇだろ!?分かったよ泊めてやる!
泊めりゃいいんだろ泊めりゃあよぉ!!」
その威勢の良い圭一さんの態度に
少女たちがおぉ~と歓声をあげる

45: 2008/09/19(金) 22:28:09.51 ID:NnJX6zpg0
「でも……本当にいいんですか、圭一さん?
見ず知らずの人間を泊めたりして。」
「えぇ、こうなったのも何かの縁でしょう。
それに悪い人じゃなさそうですしね。」
「圭一……わっちゃあ嬉しい……!」
そう言ってホロは圭一の腕に抱きつく
俺にはホロの牙がはっきりと見えたが
圭一さんは一気に顔を赤くしてうろたえた
一瞬、背の高い少女の表情が凄いものになった気がしたが……
気のせいということにしておこう

47: 2008/09/19(金) 22:31:28.48 ID:NnJX6zpg0
そろそろ日も沈みきろうとしている
とここで圭一さんが口を開いた
「あ、そうだ。そう言えばみんなはまだ
自己紹介してなかったんじゃないか?」
「あぁそうだよ!おじさんすっかり忘れてたわ。もう歳かねー……
あたしは園崎魅音。魅音でいいよ。」
「竜宮レナです。レナって呼んでね!はぅ!」
「北条沙都子ですの。沙都子と呼んで下さって構いませんわよ。」
「古手梨花と言いますです。梨花でいいのですよ。にぱー☆」
「では私も改めて。クラフト・ロレンスです。こちらは連れのホロ。」
つい癖でホロのことも紹介してしまった
まずかったかと思いホロをちらりと見るとニヤニヤと笑っていたので
そこまで気にすることではなかったようだ
自己紹介も終わったところでそこで解散
それぞれの家路につくことにした

48: 2008/09/19(金) 22:34:00.99 ID:NnJX6zpg0
なんでこんなことに……
ホロとロレンスさんを連れて歩きながら
俺は若干の後悔に苛まれていた
だが……
「楽しみじゃの。
誰かの家に泊めてもらったことなどあったかや?」
こんなホロの嬉しそうな声を聞いていると
そんなちっぽけな後悔はどこかに吹き飛んでいってしまいそうだ

49: 2008/09/19(金) 22:37:03.97 ID:NnJX6zpg0
「興奮しすぎてあまり迷惑をかけるんじゃないぞ。」
「くふ、わっちゃあ別な意味でも胸がどきどき
興奮してしまうかも知りんせん。
なにせ、こんな男の子と一緒に泊まれるんじゃからな。」
そう言って腕にしがみついてくるホロ
俺がまた狼狽しかけたその時、ロレンスさんが話しかけてきた
「圭一さん、こいつの言葉は決して鵜呑みにしないように。
こいつはこうやって純粋な男心を弄ぶのが大好きな奴なんです。
私も散々な目に遭わされてきましたからね。」
なん……だと……?

50: 2008/09/19(金) 22:39:28.82 ID:NnJX6zpg0
「こらぬし、余計なことを言うでない。
それに散々な目とはなんじゃ。
そんなにわっちに擦り寄られるのが嫌なのかや……?」
「上目遣いでそんな顔をしても無駄だ。
そう何度も同じ手に引っ掛かってたまるか。」
「ふん、つまらん雄じゃの。」
なるほど……確かにこれは……
まるで梨花ちゃんばりの狸っぷりだな……
あの子とは結構気が合うかも知れない

51: 2008/09/19(金) 22:42:10.24 ID:NnJX6zpg0
ロレンスさんによってホロへの認識を改めたところで、
ふと彼女がこちらを向き直し話しかけてきた
「じゃが泊まるのが楽しみなのは本当じゃ。
やはり野宿よりはきちんとした場所の方がいいからの。
この時期は虫が多くて参りんす。」
この言葉に嘘はなさそうだな
「そうか……やっぱり野宿って大変なんだろうな……。
あ、もうすぐ着くぜ。ほら、あの建物だ。」

53: 2008/09/19(金) 22:44:06.29 ID:NnJX6zpg0
圭一さんに案内され、奥に通される
「ちょっと待ってて下さいね。今食べ物の準備しますから。
テレビでも見てて待っててください。リモコンはそこにありますから。」
そう言われ、俺とホロはイスに座らされる
圭一さんが去ったあと、俺はホロと顔を見合わせる
先に口を開いたのはホロだった
「ぬし、『てれび』『りもこん』とはなんじゃ?」
「俺のこの顔を見てもなお、俺が答えられると思って
その質問をしたというのならさすがは賢狼様だな。」
「じゃろうな……。」

54: 2008/09/19(金) 22:47:20.36 ID:NnJX6zpg0
「どうやらそこの四角い物が『てれび』、
そして今お前が手に持っているものが『りもこん』らしいんだが……。」
「『テレビでも見てろ』というのは
そこの箱を見ていろということなのかや……?」
「そんなことして何が面白いんだ。
おそらくその『りもこん』で何かするんだろう。少し貸してみろ。」
「んむ。ほれ。」
「この凹凸が少し気になるな……。ん……!?
押せる……!こいつ、押せるぞ……!」
「押せるのかや?なら片っ端から押しんす!」
「あぁ、まずはこれから……」
と左上の大きな丸い突起を押した途端……!
「ほわぁ!?」
「あひゃあ!?」

56: 2008/09/19(金) 22:49:43.30 ID:NnJX6zpg0
「なんて声出してるんだお前。」
「それはぬしにも言えるセリフじゃ。しかしこれは……」
「あぁ……動く……こいつ動くぞ……!平面で人や物が動いている……!」
「ここに来てから驚かされっぱなしじゃな、ぬしよ……。」
「あぁ、まったくだ……。」
この世界の奇異さに改めて驚いているところに
圭一さんが手に器を持ってやってきた
「すみません、俺料理できないもので……
カップラーメンで我慢してください。」

58: 2008/09/19(金) 22:52:03.24 ID:NnJX6zpg0
「ふぅ…少し足らぬ気もするが……まぁ概ね満足じゃな。」
「偉そうな奴だな……ったく……。すみません圭一さん。
でも分かったでしょう?これがこいつの本性なんです。」
そのロレンスさんの言葉に俺は苦笑いを返しておく
確かにこの偉そうな……よく言えば堂々とした振る舞いは
初対面の時とはまるで別人だ
ロレンスさんの苦労、痛み入るぜ……

59: 2008/09/19(金) 22:54:11.24 ID:NnJX6zpg0
ロレンスさんと笑い合い一息ついた後、ホロが口を開いた
「しかしこのラーメンとやらはなかなか美味かったの。
ぬし、食べたことはあるのかや?」
「ん?あぁ、だいぶ前だが似たようなものは
一度だけ食べたことがあるな。味はこれとはだいぶ違ったが。」
「豚骨しょうが味は珍しいですからね。
まぁ外国の人なら食べたことなくてもしょうがないでしょう。」
とここでふと思い出した俺は二人に声をかける
「二人とも、風呂に入ってきたらどうです?
もう沸いてますからいつでも入れますよ。」

60: 2008/09/19(金) 22:56:27.52 ID:NnJX6zpg0
風呂か……ずいぶん長い間入ってない気がするな……
そんな懐かしさにも似た感覚に浸りつつ
ふとホロの方を向くと、ホロの頭上には疑問符が浮かんでいた
「ぬし……風呂とは何かや……?」
案の定、小声で訊ねてくる
「お前以前、ニョッヒラで湯に浸かりに行ったと言っていただろう。
あれが風呂の一種だ。温かい湯に浸かり、心身を癒す。
それと体の汚れを落とすためだな。」
こちらも圭一さんに怪しまれない程度に小声で返してやると
ホロは「ほぅ…」と感心したようにうなずく
そして圭一さんの方に向き直り、口を開いた
「んむ、お言葉に甘えて入らせてもらうとしよう。」
「あぁ、そこの廊下を進んで……」
次にホロは俺に向かって声をかける
「では行こうかの、ぬしよ。」


61: 2008/09/19(金) 22:59:19.54 ID:NnJX6zpg0
「い……いいい今なんて……!?」
まずいと思った時には既におそく、
圭一さんの耳に今の言葉は入ってしまったようだった
「あ……あんたたち……一緒に風呂に入ってんですか……!?」
圭一さんがわなわなと体を震わせてそう言う
そしてさすがは賢狼
今の失言に早くも気付いたようだった
「い、いや……今のは……そうじゃ!風呂の場所が分からんじゃろうから、
ぬしも着いてきて場所を確かめろ、と言いたかったんじゃ。」
「そ、そうです。別に一緒に風呂に入ろうと誘っていたわけではありません。」
とっさにしてはなかなか良くできた言い訳だ
さすが賢狼
「あ、あぁなんだ……そういうことですか。
びっくりさせないでくださいよ……ははは……。」
どうやら納得してくれたみたいだ

62: 2008/09/19(金) 23:01:48.60 ID:NnJX6zpg0
圭一さんに場所を教えてもらい、二人で場所の確認に行く
彼は寝床の準備をすると言って二階へと上がってしまった
「まったく……いくら食後でも気が緩みすぎだ。
風呂は裸になる場所なんだから男女が一緒に入ることは
まずあり得ないことくらいお前なら気付くはずだろう?」
「失態はきちんとその後の機転で取り返したじゃろうが。
それともぬしは終わったことをうじうじ言うような
つまらない雄だったのかや?」
「俺はお前の油断を注意しているんだ。」
そうこうする内に圭一さんに言われた場所に着く
扉を開け、またさらに内にあった扉を開けると
そこには湯気が立ち込めていた

63: 2008/09/19(金) 23:04:03.34 ID:NnJX6zpg0
「ほぅ……すごい湯気じゃの。」
「あぁ、どうだホロ。湯加減をみてみろ。」
そう言って湯船にかけられていたふたを外す
ホロは張られている湯に手を触れ……
「ぬしよ、順番はぬしが先じゃ。」
「ん、どうした?」
「この湯はわっちには少し熱すぎる。ぬしが先に入って冷ましてくりゃれ。」
まったくこのわがまま娘は……と思って俺も触ってみるが
それほど熱くはなくむしろちょうど良かったのでまぁ良しとしよう
「ならお前は先に圭一さんのところへ戻っていろ。
俺はこのまま浸かってから戻る。」
「んむ、じゃあの。」

64: 2008/09/19(金) 23:07:24.44 ID:NnJX6zpg0
「よし、まぁこんなもんでいいだろ。」
ホロとロレンスさんには親父とお袋の布団で寝てもらえばいいから
寝床の準備は特に問題なく終わった
俺がリビングに戻ると同時にホロも戻ってきた
「ん、なんだ?まだ入らなくていいのか?」
「わっちには少し熱すぎた。わっちの連れが先に入って冷ましんす。」
そいつは悪いことをしたな……調節を少し間違ったか……?
「いや、連れは別に平気な様子じゃった。
わっちが少し熱がりなだけじゃろうよ。」
「あれ、俺もしかしてまた思ったことをそのまま口に出してたか?
だめだこの癖……はやく何とかしないと……。」
そう言うとホロはくすくすと笑った

65: 2008/09/19(金) 23:09:03.31 ID:NnJX6zpg0
「このくらい、口に出されずとも分かるわいな。
わっちは人の思考を読むのが得意じゃからの。」
「思考を読むって……心が読めるってことか?」
「それは少し違う。いくらわっちでも心を読むことはできんせんがな。
ぬしのような単純な者……よく言えば純粋な心の持ち主じゃな。
それが相手ならこの程度の思考を読むくらい赤子の手を捻るより簡単じゃ。」
なんだか少し馬鹿にされてるような気がするが…
素直にそれはすごいな
もしこいつがうちの部活に入れば魅音にだって負けないかもしれない

66: 2008/09/19(金) 23:11:55.64 ID:NnJX6zpg0
ふぅ……いい湯だったな……
温かい湯に浸かったのなど本当に久しぶりだ
そんな若干の感動を胸に先ほどの場所へ戻ると
ホロと圭一さんが会話をしていた
「ありがとうございました圭一さん。とても気持ちよかったです。」
「あ、ロレンスさん。あ……寝巻きあったほうがよかったですか?
準備しますよ。」
この言い方だと、この世界の常識でも別に寝巻きはなくても問題ないようだな
「あぁいや、大丈夫です。私たちの国ではその習慣はありませんので。
そこまで気を使っていただかなくても結構ですよ。」
「そうですか……じゃあホロ、入ってこいよ。
もういい具合に冷めてるだろ。」
「んむ、では入ってこようかの。」
そう言ってホロは奥へと姿を消した

67: 2008/09/19(金) 23:14:14.72 ID:NnJX6zpg0
「ところでロレンスさん……
あなたたち、どのくらい雛見沢に住む予定なんですか?」
二人きりになったところで、俺はロレンスさんに
気になっていたことを質問する
ロレンスさんは数瞬後、ゆっくりと口を開いた
「それが……まったく決まってないんです。
もしかしたら明日でお別れかも知れないし、
ひょっとしたら一生ここに住むかも知れない。
訳は言えませんが……このような状況なんです。」
謎だ……
そんな状況に陥る理由がまったく想像できない

68: 2008/09/19(金) 23:16:10.08 ID:NnJX6zpg0
圭一さんには悪いが俺たちの正体を明かすわけにはいかない
のちのち面倒なことになってもらっても困るからな……
そうだ、ここでいろいろとこの世界のことについて
怪しまれない程度に聞いておくのもいいだろう
まずは手始めに……
「圭一さん。」
「はい?」
「あなた、狼についてはどう思いますか?」
「へ?狼って……犬に似てるあの狼ですか?
どう思うって……かっこいいと思いますけど……。それが何か?」
「あぁいえ、単なる世間話です。とくに深い意味はありません。」

69: 2008/09/19(金) 23:18:31.97 ID:NnJX6zpg0
「それと、この村やあたりの町に教会はありませんか?」
「教会って……イエス様だかキリスト様だかのあの?
この辺りには確かなかったと思いますけど……。」
教会自体は存在しているようだな
しかし彼の様子を見るにつけて、その影響力や権力は
俺たちの世界ほど強くはないようだ
俺はさらに質問を続ける
「ところで、この村にはこの地の神様がいたりはしますか?」
「あぁ、一応『オヤシロさま』って神様がいますけど。
なんでも縁結びの神様とかで。あ、ほら。覚えてます?
さっき外で俺たちと一緒に居た、小さい髪の長い女の子。」
「あぁ、たしか…古手梨花さんでしたね。その子が何か?」
「あの子がオヤシロさまの神社の巫女さんで、
村のお年寄りたちにオヤシロさまの生まれ変わり、
って言われてるんですよ。」
ほぉ……あの子が神の生まれ変わりか……
とてもそんな風には見えなかったが……

70: 2008/09/19(金) 23:21:12.85 ID:NnJX6zpg0
それからしばらく俺がロレンスさんに質問されたり
質問したりして会話は続いた
いったいどのくらいの時間が経っただろう
ふいに俺はおかしなことに気が付いた
「ロレンスさん……ホロ、遅くないですか?」
俺がそう言うとロレンスさんも少し真剣な表情になり言った
「確かに……すでに私が入った時間の何倍も経過していますね。」
女の子の風呂は長いと聞くが……これは少し長すぎじゃないか?
少し心配になってきたな……
「ちょっと声をかけてきます。ロレンスさんも来ますか?」
「えぇ、私も少し心配なので。」

71: 2008/09/19(金) 23:23:43.90 ID:NnJX6zpg0
風呂場のドアの前まで来たが、中から物音が一切しない
「おい、ホロ。どうしたってんだ?少し長すぎじゃねぇか?」
ドアをノックし、軽く声をかける
だが返事はない
「おい、ホロ!中にいるのか?いるなら返事をしろ!」
ロレンスさんが少し大きめの声を出すが反応がない
なんだ?もう風呂からあがっちまったのか?
「ホロ!返事をしろ!ホロ!」
「もしかしたらもうあがったのかも知れません。
俺、少し家の中を探してきますね。」
そう言い、脱衣所を出ようとした瞬間
「……ぬ………し……………」
「!?ホロ!!」
かすかに聞こえたホロの声は
現状が明らかに緊急事態であることを俺たちに告げた
ロレンスさんがドアを開け浴室に入り
大きな物……ぐったりとしたホロを担いで出てきた

72: 2008/09/19(金) 23:26:55.42 ID:NnJX6zpg0
「おい、ホロ!しっかりしろ!俺だ!ロレンスだ!わかるか!?」
「ぬ、し……あぁ……大……丈夫……じゃ……」
ロレンスさんの呼びかけに応じるホロは
どうやら少しずつ意識がはっきりしてきたようだ
しかしその時俺は別の物に目を奪われ、
ほっと胸を撫で下ろす余裕などなかった
「ホロ……お前……その耳と尻尾……本物か……?」
「っ……!!」
「……はは……すまんの……ぬしよ……。見られて……しまったようじゃ……。」

73: 2008/09/19(金) 23:29:37.20 ID:NnJX6zpg0
しばらくするとホロはかなり回復
原因はただ単にのぼせてしまっただけらしい
風呂があまりに気持ちよすぎてついウトウト
そのまま眠ってしまってそれと同時にのぼせが進行したそうだ
こいつ……ほんとに賢狼か……?
だが今はそんなことを気にしている場合ではない
説教は後回しだ
今は圭一さんに俺やホロのことを洗いざらい吐いているところだ
「……というわけなんです……。」
「信じて……くれるかや……?」
圭一さんはしばしの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた
「……なんで黙ってたんだよ……。」

75: 2008/09/19(金) 23:32:08.15 ID:NnJX6zpg0
「す、すみません……。しかし……」
「言い訳なんか聞きたくねえ!
なんでそいつを黙って俺の家に泊まりにきたんだ!」
だめだ……完全に怒らせてしまった……
ちらりとホロを見る
ホロの目はこう言っていた
『ぬし、もうここを出よう……。』
あぁ……そうだな……
そしてさらに圭一さんの怒声は続く
「なんで!本物の獣ミミ獣シッポ娘がいるって!
教えてくれなかったんだよおおおお!ちくしょおおおおおおおお!!」

80: 2008/09/19(金) 23:35:55.69 ID:NnJX6zpg0
「「………へ?」」
「もっと早く!せめて俺の家に着く前に言ってくれれば!
ミミ穴開きのキャップと!シッポ穴開きのパジャマを準備できたってのに!
それなのに……それなのに……!どうしてこんなことに!
ぅあ……あ……くっ……あぁぁああ……あああぁあぁああぁあぁ!!!」
「圭一……?ぬし一体何を……。」
「あの……圭一さん……?」



>>74
アドバイスありがとう
すごく嬉しい

81: 2008/09/19(金) 23:38:17.27 ID:NnJX6zpg0
「ロレンスさん!あんた男だよな……。男ならどうして……どうして分からない!!
どうして俺の意を汲み取ってくれない!!
あんたさえ……あんたさえ……
……いや待てよ……?そうだ……!シッポの穴がないなら
ズボンを下げればいいんじゃないか……!なんてこった……俺としたことが
こんな基礎中の基礎、ベースオブベースを忘れていたとは……
萌えの伝道師Kの名が泣くぜ!
そうだよ……ズボンをシッポの生え際の辺りまでしか上げられないことによって
尻の割れ目がぎりぎり見える……!あともう少し下まで行くのは贅沢か……!
という絶妙なラインまで見ることができる!
これも素晴らしいじゃないか!なぁ、ロレンスさん!」
「え、あの、は、はぁ……。」
「くぅ~あんたも分かってくれたか!あんたも漢だったんだな!」
「………ぬしら……。」

82: 2008/09/19(金) 23:41:08.71 ID:NnJX6zpg0
「……ふぅ……ようやくKOOLになったぜ。
まぁ事情は大体分かりました。本来なら信じられない話ですが、
目の前に獣娘がいるんです。
これは信じざるを得ませんからね。それにこの世界の住人じゃないってんなら
これまでの微妙な違和感も納得ます。」
「信じてもらえてありがたいです。
それで、できればこのことは他の人には話さないでいただけると……。」
「ん……仲間に隠し事ってのは少し気が乗りませんね……。
それに部活メンバーには話しても大丈夫だと思うんですけど……。」
「そうなんですか……?ホロ、お前はどう思う?」
「わっちが見た限りではあの中に悪い人間はおらん。
それに圭一も嘘をついてはおらんようじゃしの。」
「そうか……。わかりました、では彼女らにも折を見てお話しましょう。」

83: 2008/09/19(金) 23:43:52.58 ID:NnJX6zpg0
その後、俺とホロは圭一さんに寝室へと案内された
もういちいち驚かないが、床に布をひいて寝るのがこの世界の習慣なのだろう
もそもそと寝床に入る
ん、思ったよりもずっと快適だ
これなら今日の精神的な疲れもあってすぐに眠りにつけるだろう
案の定、隣のホロは早々と寝息を立てていた
その寝息を聞いているとこちらまで眠くなってくる
……いつ皆に話そうか
明日にでも話した方がいいだろうか
そんな思考はいつの間にかごちゃごちゃに混ざって
深い眠りの中に溶けてなくなった

84: 2008/09/19(金) 23:46:24.07 ID:NnJX6zpg0
「あぅあぅ……こんなこと初めてなのですよ……。」
「そうね……少なくとも、綿流しまで一週間を切った頃に
訳ありの旅行者が来る、なんてことは今までなかった。」
「あぅ……でも梨花……あまり期待しすぎると……。」
「うるさいな……。いつもと違うことがあったんだもの。
少しぐらいわくわくしてもいいでしょ?それとも何?
100年生きたお婆ちゃんはわくわくするのも許されないってわけ?」
「あぅあぅ……あぅあぅあぅあぅ……!」
「……わかってるわ……冗談よ。あんたは私のことを心配してくれてるのよね。
からかって悪かったわ。」
「あぅ……梨花ぁ……。」
「でも、こんな滅多にないイレギュラーだもの。
この世界くらいは少し楽しませてちょうだい。」
「あぅぅ……あぅあぅあぅ……。」
「うぅん……梨ぃ花ぁ……?誰と……お喋りしてるんですの……むにゃむにゃ……。」
「ほら、沙都子が起きちゃうわよ。
私はもう寝るわ。おやすみなさい、羽入。」
「……おやすみなさい……なのです……。」

85: 2008/09/19(金) 23:48:56.45 ID:NnJX6zpg0
「ん……朝か……。」
カーテンの隙間から差し込む光と鳥の鳴き声で目が覚める
「ありゃあ……夢……だったのか……?」
常識で考えりゃそうだ
本物の獣の耳と尻尾が生えた少女なんているわけが
「どんな夢を見たのかや?」
「ウッディ!!」
「なんじゃ?昨日の出来事を夢だとでも思ったのかや?かわいい奴じゃの。」
てっきり夢だと思っていたそれそのもの、賢狼ホロがそこにいた
驚く俺を華麗にスルーし、けたけたと笑っている

86: 2008/09/19(金) 23:51:00.03 ID:NnJX6zpg0
「し、しかもなんでお前!俺の布団に入ってんだよ!いつの間に!」
「なんじゃ……嫌だったかや……?」
ホロはあからさまに肩をがっくりと落とし、悲しそうな声で言う
「い、いや……べべ別に嫌ってわけじゃ……」
慌てて否定しようとしたが、俺の言葉はホロの笑い声にかき消された
「ぷっ……あははは!ぬし、本当に可愛い男の子じゃな!
これはわっちの連れ以上かも知れぬ!」
「誰が可愛い男の子だ。」
「あ、ロレンスさん……」
いつの間にか部屋の入り口にロレンスさんが立っていた
「ったく……圭一さんを起こしに行ったきりなかなか帰ってこないと思ったら……
いい加減、純粋な男心をからかうのはやめろよ。」

87: 2008/09/19(金) 23:54:02.76 ID:NnJX6zpg0
朝食は適当にパンやら何やらを準備した
そして今日は月曜日だから学校に行かなくては
「それじゃあ出かけてきますね。帰るのは夕方になりますんで、
それまで家でゆっくりするなり雛見沢を散歩するなりしててください。」
「えぇ、お気を付けて。」
ロレンスさんにそう言って玄関を出る
ちなみにホロはというとリビングのソファで思い切りくつろいでいた
ったく……さすがは賢狼というかなんというか……堂々としたもんだぜ

88: 2008/09/19(金) 23:56:50.41 ID:NnJX6zpg0
「む……ぬしよ、夕方までどう過ごすつもりかや?」
圭一さんを見送り家の中へ戻ると
ホロがソファに寝そべったまま首だけこちらへ向けて聞いてきた
どうやら会話の内容はすべて聞こえていたようだ
「そうだな……この辺りの地理もまだ分からない。
というわけで、村の探索でもしたらどうだろう。」
「それもいいが……その間この家は誰が見るのかや?」
「あ……」
「決まりじゃな。わっちが村の探索に出る。ぬしは留守番じゃ。」

89: 2008/09/19(金) 23:59:41.98 ID:NnJX6zpg0
どうしてそう決まったのかは分からないが
別に依存があるわけではない
今回はそのままホロの提案を受け入れることにした
「ただし、もう一眠りしてからじゃ。
いろいろなことがあって、わっちゃあ少し疲れた。」
疲れてなくてもいつも寝ているだろう、
という言葉はギリギリで飲み込んだ
嫌味を嫌味で返されるのが落ちだ
「くふ、ぬしもよく分かっとるではないか。」
もう少し早く飲み込むべきだったらしい

92: 2008/09/20(土) 00:01:39.03 ID:FkjlcymD0
「んっ……ふぁあ~……。」
大あくびと共にホロはもそりと起き上がり
そのままの流れで俺に話し掛けてくる
「ぬしよ。干し肉はまだあろうの?
昼食代わりに持っていく。少しよこしてくりゃれ?」
「数はそんなにないからあまり多くは渡せないぞ。ほら。」
「む……まぁ仕方あるまい。では行ってくる。夕方頃には帰りんす。」
「くれぐれも正体はばれないようにな。
それと初めての土地だからな。道に迷うんじゃないぞ。」
「わっちを誰じゃと思っておる。」
心配はないだろが一応声をかけておいたら
予想通りの言葉が返ってきたのがすこし可笑しかった
「あぁ、分かってるさ。それじゃ気を付けてな。」
「んむ。」

94: 2008/09/20(土) 00:04:12.30 ID:FkjlcymD0
のどかな所だ
麓の町は自分たちがいた世界とは随分違っていたが
こうして村を歩く分には元の世界とあまり変わらない
連れからいただいた干し肉をかじりながらそんなことを思う
「……ん?誰ぞかおるようじゃの。」
遠くに人影を確認する
見たところ若い男女のようだ
近くまで寄ると向こうもこちらに気付いたようだ
「あら……?見かけない子ね……ジロウさん、お知り合い?」
「んー?……いや、僕も見たことないなぁ……君、旅行者か何かかい?」
「んむ……まぁそんなところじゃ。」

95: 2008/09/20(土) 00:06:27.99 ID:FkjlcymD0
「まぁせっかく出会ったんだし、これも何かの縁ってことで自己紹介でもしようか。
僕は富竹。フリーのカメラマン。この雛見沢にはたまに来るんだ。」
「鷹野三四よ、よろしくね。」
「わっちはホロ。まぁよろしくの。」
「それにしてもこんな時期に旅行だなんて変わった子ねぇ……。
綿流しのお祭りは今週の日曜日よ?
もしかして勘違いしちゃったかしら?くすくす……。」
「あはは……鷹野さん……ちょっと失礼だよ……。」
「あらぁ……ごめんなさい?別に馬鹿にするつもりはなかったのだけど……
気分を悪くしたなら謝るわ。」
……少し勘に障る小娘だ
だがここは大人な対応を返しておこう
それに気になる言葉もあった
「わっちゃあ別に気にしちゃあおらぬ。
それより……ワタナガシ……とは何かや?
聞くところによるとこの村の祭りのようじゃが。」

96: 2008/09/20(土) 00:08:20.66 ID:FkjlcymD0
「綿流しを知らないってことは、
お祭りのために観光に来たわけじゃないのね……。くすくす……
だとしたらますますおかしな旅行者さんだこと……。」
「綿流しっていうのはね、一年間使ってきた布団なんかを供養する祭りで……」
「今は……ね……くすくすくすくす…。」
「今は……?どういうことじゃ?」
「綿流しを知らないなら……オヤシロさまのことも教えてあげないとね……
それから……祟りのことも……くすくすくす……。」
「ちょ、ちょっと鷹野さん……。旅行者の人にそんなことを教えるのはさすがに……」
「あらぁいいじゃなぁい……。それにここまで単語を並べられて
詳しく教えられないなんて……そっちの方がひどいと思わない?ね、ホロちゃん?」

97: 2008/09/20(土) 00:10:05.81 ID:FkjlcymD0
鷹野、富竹から聞かされた話はなかなか不気味な話だった
自分も神と呼ばれて長いが
そのような祟りなどを下す力は持ってはいない
だがこの世界の神……いや、元の世界にも
そのような力を持った神は実在しているのかも知れない
ふと自慢の耳に鐘のような音と賑やかな声が入ってきた
音のする方を見ると木造の建物が見える
と、中から小さな人影がわらわらと出てきた
そのうちのいくつかはそのまま走り去り、自分とすれ違う
いくつかは建物の前の広場で遊び始めた
気になる……少し立ち寄ってみよう


98: 2008/09/20(土) 00:10:33.97 ID:uf7KHgCAO
さる退治

99: 2008/09/20(土) 00:11:21.61 ID:FkjlcymD0
携帯でさる退治しながらスピード上げて書こうと思う

100: 2008/09/20(土) 00:12:29.33 ID:FkjlcymD0
学校生活はいつも通りだ
いつも通りの授業、いつも通りの弁当
自分が今、リアル獣少女の存在を確認したというとんでもなく素敵な……
もとい異常な事態に置かれているとはとても思えない
そしていつも通りの部活の時間……のはずだったが
それは決していつも通りではなかった
「よぉーっし!それじゃあみんな!部活を始めるよー!」
「「「「おーっ!」」」」
「今日のゲームは何にしよ……ん?」
ゲームを選ぼうとロッカーの方を
振り向きかけた魅音の動きが突然ぴたりと止まった
見ると、魅音の視線が外に向かってそのまま動かない

101: 2008/09/20(土) 00:13:30.74 ID:FkjlcymD0
「はぅ?魅ぃちゃんどうしたの?」
「外に何かあるんですの?」
「いや……ほら、あそこ……。あれ、ホロじゃない?」
「みぃ……?あ、ほんとなのです。」
「げっ!まじかよ……。
散歩してもいいとは言ったが……なんで学校に来ちまうんだ……。」
そんなことを言ってるうちにホロもこちらに気付いたようだ
すたすたとこちらへ歩いてくる
「はて……ぬしら、こんなところでいったい何をしておるのかや?」

102: 2008/09/20(土) 00:13:38.33 ID:uf7KHgCAO
書くと言うよりは投下するの方が正しいか

103: 2008/09/20(土) 00:14:24.02 ID:FkjlcymD0
「そりゃあこっちのセリフだよ!お前、何しに来たんだ?」
「そんなに怒鳴らんでもよかろう。
それとも……ぬしはわっちがいると迷惑なのかや……?」
ホロは上目遣いにそう言ってくる
「ひゅーひゅー!熱いねお二人さーん!おじさん妬いちゃうよー!」
「はぅ~!こ、こんなの良くないと思うな!良くないと思うな!」
「ぐっ……!もう騙されてたまるか!おいお前ら!
こいつの演技に騙されるんじゃねぇぞ!こいつは梨花ちゃん以上の狸だ!」
「り、梨花以上の……!?ホロさん……恐ろしい子……。」
「みぃ……ボクは狸さんより猫さんの方がいいのです……にゃーにゃー。」
(猫かぶってる、とも言いますです……あぅ。)
「なぜか今夜はキムチを食べたい気分になりましたです。にぱー☆」

104: 2008/09/20(土) 00:15:22.11 ID:FkjlcymD0
少し落ち着いてきたところで、魅音が不敵な笑みを浮かべる
「まぁそんなこんなでホロがここにいるわけなんだけど……。
くっくっく……こうなったら次の展開はもう決まってるよね!」
「けっ!相変わらずえげつないマネしやがる!」
「はぅ~!ホロちゃんがここにいて、部活メンバーが揃ってるなら!」
「をーっほっほっほ!特別ゲスト参戦、というわけでございますわね!」
「みぃ……ホロ、かわいそかわいそなのです。にぱー☆」
「……?ぬしら、わっちにも分かるように説明してくりゃれ。
置いてけぼりでは困りんす。」
「つまり、ホロに我らの部活に参加してもらうということなんだよ!」

109: 2008/09/20(土) 00:21:05.25 ID:CcLT5odE0
「部活……?」
「我が部はだな、複雑化する社会に対応するため活動ごとに提案されるさまざまな条件下、
時には順境、 時には逆境からいかにして……」
「つまり、みんなでゲームをして遊ぶ部活なのです。」
「ホロさん、トランプのジジ抜きはご存知ですかしら?」
「いいや、聞いたことがありんせん。」
「ルールは簡単だから、すぐに覚えられるよ!はぅ!」
「ルールを覚えるだけなら簡単なのです。にぱー☆」
「あぁ、ルールを覚えるだけならな……!」
「ふむ……それなら、ルールを教えてくりゃれ。」

111: 2008/09/20(土) 00:22:34.67 ID:uf7KHgCAO
ルールを聞いたホロは、さすが賢狼、すぐに理解したらしい
……そうだ、大切なことを思い出した
こいつ確か相手の思考を読めるんじゃなかったか?
いや、そうだとしても
こいつら部活メンバーは相手に思考を読ませないことに長けた連中だ
いくらホロでもそう易々とは読めないだろう
そうこうするうちにカードを配り終わった
俺たちはいつも通り、みんなのカードの傷をチェック
俺も慣れたもんだぜ……
と、ホロが口を開いた
「……ぬしら、それは少しわっちが不利すぎではないかや?」

112: 2008/09/20(土) 00:23:50.82 ID:uf7KHgCAO
一同、驚く……!
「ホロ……あんたもしかして……。」
「このカード、傷がかなり付いておる。
ぬしら、この傷を全て覚えておるのではないのかや?」
「はぅ……ホロちゃんすごいな、すごいな!」
「まさか配られた瞬間にガン牌に気付くとは……
圭一さんが警戒するのも無理はありませんわね……!」
「みぃ……まさかここまでの実力者だったとは、なのです……。」
「だから言ったろ?こいつには気を付けろ、ってな。
だがな……ガン牌に気付いたからって勝てるってわけじゃねぇぜ!」

114: 2008/09/20(土) 00:25:53.04 ID:uf7KHgCAO
案の定、頭の回転は数百年を生きる賢狼にふさわしい
人間離れしたものを持っているが……記憶力自体はそこまでじゃない
悪くはないがそれでも人間の範疇のようだ
できるだけ傷を覚え、自慢の耳で思考を読み善戦するも
やはり結果としてはビリ
「というわけで、今回の優勝はあたし!そしてビリはホロ!」
「はぅ……でも危なかったかな、かな!」
「ホロのやつ……終盤に行くにつれて勝ちが多くなってきやがったな。」
「あと数回ゲームをするだけで
もうわたくし達と大差ない実力になるんではないですの……?」
「恐ろしい人材なのです……みぃ……。」

117: 2008/09/20(土) 00:29:53.52 ID:uf7KHgCAO
「んむ……大きな不利があったとは言え……やはり悔しいの……。
まぁよい。ぬしらなどすぐに赤子の手を捻るようにほふってやるからの。
覚悟しておくことじゃな。」
「おぉおぉ言ってくれるねぇ~。上等じゃないの。
と、今はそんなことより……お待ちかね罰ゲームだよ!」
「罰……ゲーム……?」
「ほらほらホロちゃん!くじ引いて引いて!何が出るかな、何が出るかなー♪」
レナはそう言ってホロにくじ入りの箱を渡す
「この箱から紙を取り出せば良いのかや?どれ……。」
「引きましたわね!さぁ、読み上げてくださいまし!」
「屈辱に歪む顔が見ものなのです。にぱー☆」
「なに……『スクール水着に着替える(猫耳尻尾首輪付き)』
……なんじゃこれは……?」
「げっ!ま、まじかよ……!」

118: 2008/09/20(土) 00:31:18.51 ID:uf7KHgCAO
まずい……まずいぞ……!KOOLになるんだ前原圭一!
と、とにかく、この罰ゲームはやばい!
「お、おいみんな……初っ端からこんなどぎつい罰ゲームって
ホロが可哀想じゃないか……?」
「へ?またまた圭ちゃ~ん、なーにを甘っちょろいこと言ってんだか!」
「罰ゲームは絶対、なんだよ!だよ!」
「いつから圭一さんはそんなへたれになったんですの?」
「チキン野郎は帰ってママのおっOいでもしゃぶってろなのです。」
ですよねー
ってなんかさり気なくひどい言葉が聞こえたような気がしたが……
気のせいだよな?うん、きっと気のせいだ

119: 2008/09/20(土) 00:31:59.53 ID:FkjlcymD0
ホロに小声で話しかける
「おい、ホロ……どうするよ?」
「そうじゃの……丁度いい機会ではないかや?
仲間に隠し事をするのはいやなんじゃろ?」
「お、おいおい……お前はいいのかよ……?」
「わっちゃあぬしの人を見る目は信用していいと思っとる。
ぬしが打ち明けて大丈夫と思うならぬしに任せる。」
そう言ったホロの顔は真剣そのものだった
「……そうか……よし!お前の気持ち、受け取ったぜ!」
俺はホロから顔を離し、みんなの方へ向き直る
「みんな!聞いてくれ!大事な話がある!」

120: 2008/09/20(土) 00:33:39.65 ID:uf7KHgCAO
「ん?どったの圭ちゃん。そんな改まって。」
「何かな、かな。」
俺はホロの頭に手をやり、みんなに見えるように帽子を取った
「この頭部を見てくれ。こいつをどう思う?」
「これは……動物の耳、ですわね。」
「耳なのです。」
「すごく……かぁいいです……。」
「ふぇ?なになに?どういうこと?
あっ、さてはあれだね!すでに装備完了だったと。
くぅ~っ!なかなかやるじゃんホロ!侮れないよ!」

122: 2008/09/20(土) 00:34:12.41 ID:FkjlcymD0
「いやいやよく見ろ。ホロ、動かせるか?」
「む。こうかや?」
そう言うと同時に、ホロの耳がぴくぴくと動く
「う、動いたぁ!?どうなってんの!?」
「それだけじゃないぜ。ほれ。」
俺はホロの腰に巻かれていた布を取る
そこには立派なふさふさの尻尾
ホロはそれをわさわさと動かす
「はううううう!!!!かぁいいいいよおおおおおおおお!!!!!!」
「な、何がどうなってるんですの!?訳が分かりませんでしてよー!」
「み、みー!まるで本物なのです!」
(は、羽入!いったいどうなってるの!?なんなのコレ!)
(あぅあぅあぅ!パネェのです!パネェのです!)
(だめだこいつ……早くなんとかしないと……。)

124: 2008/09/20(土) 00:35:43.96 ID:uf7KHgCAO
みんなを落ち着かせ、俺はホロとすべてを話した
「……という訳だ。信じてくれるか?」
「信じるも何も、こんなの見せられちゃ信じるしかないじゃん……。」
「ホロさんが狼の化身……。まるでファンタジーですわね……。」
「みぃ……オヤシロさまもびっくりなのですよ……。」
(パネェのです!まぢで超やべぇのです!あぅあぅあぅ!)
「はぁはぁ……ホロちゃん……はぁはぁ……
かぁいいよ……はぁはぁ……うっ……!ふぅ……。」

125: 2008/09/20(土) 00:36:19.76 ID:FkjlcymD0
「落ち着いたか?レナ。斜め45°のチョップは効いただろ。」
「しかしぬしら、そんなに驚かんでもよかろう。
人の体にただ耳と尻尾が付いただけではないか。
この様子じゃと本当の姿など絶対に見せられぬの。
まぁもとより見せるきなどありんせんがな……。」
「本当の姿っていったら……狼の姿?」
「はぅ~。レナは狼さんかっこいいと思うな、思うな~。」
「ただの狼ではありんせん。人の背丈など優に越す巨大な狼じゃ。
人も動物もそんなわっちの恐ろしい姿を見て恐れおののく。
わっちはもうそんな風に見られるのは嫌なんじゃ。」

126: 2008/09/20(土) 00:37:37.52 ID:uf7KHgCAO
そう言ったホロの顔はどこか寂しげに見える
「ホロさん……。それなら、見せる必要はありませんわね。」
「みぃ。ホロが見せたくないのなら見せなければいいのです。
でも、ボクたちはその姿を見ても恐れない覚悟はできていますですよ。」
「あぁ、その通りだ。不意打ちはさすがに驚いちまったが
正体が分かってんならびびるこたぁねぇ。
そんなチキンは少なくともこの中にはいないぜ!」
「ぬしら……。ふふ、口先だけは立派じゃの。」
ホロはそう言って茶化したが、
その表情にはもう先ほどの暗い影は残っていなかった

127: 2008/09/20(土) 00:38:09.39 ID:FkjlcymD0
「と、いうわけで。まさか忘れちゃいないよね?罰ゲームだよ罰ゲーム!
猫耳尻尾はもう立派な物が付いちゃってるから仕方ないとしても、
首輪とスク水はしっかり着用してもらうからね!」
そう言って魅音はロッカーから首輪とスク水を取り出す
しんみりとした空気をぶち壊す魅音の発言……許せるッ!
こんな空気の壊し方なら大歓迎だぜ!
「はぅ~!楽しみだな、楽しみだな~!早く早く~!」
「それをわっちに着ろと……首輪じゃと……?
このわっちに首輪を付けろというのかや…このたわけが!」
「スクール水着よりも首輪の方に反応するんですのね……。」
「わっちを誰じゃと思っとる!誇り高き狼じゃ!
それを……まるで犬のように……!くっ……!」
「存分に屈辱を味わうが良いのです。
それが罰ゲームの目的なのですよ、にぱー☆」

128: 2008/09/20(土) 00:39:16.38 ID:uf7KHgCAO
「さぁホロ、観念するんだな!とっとと着替えて来い!はははは!」
「くっ……この屈辱……許しはせぬ!」
そしてホロは服に手をかけ……な、なにぃ!?
「だわーったたたた!ちょっ……ホロ!あんた何やってんの!」
「何って……着替えようとしておるだけじゃろう。
何か問題があるのかや?」
「だだだだめだよホロちゃん!こんなとこで服なんか脱いじゃ!
ほら!こっちこっち!こっちの部屋で着替えて!」
そうしてホロはレナに連れられ教室を移動していった

129: 2008/09/20(土) 00:39:44.98 ID:FkjlcymD0
「みぃ……圭一、前かがみになってどうかしましたですか?
お腹が痛いのですか?なでなでしてあげますです。」
「ちょっ……!やめ、やめてくれ!」
「…?圭一さん、お具合が悪いのでしたら
保健室へ言った方がいいのではありませんこと?」
「確かに具合が悪そうだねぇ……主に下半身の。くっくっく……」
「やかましい!セクハラはやめろ!」

131: 2008/09/20(土) 00:41:15.06 ID:uf7KHgCAO
な、なんとかオットセイ☆も収まってくれたし……
あとはホロの罰ゲームを見るだけだ
と、教室の扉が開いた
そこにいたのは……こいつは……あ、やばいまたオットセイ☆が……
「これでいいのかや?このわっちが首輪など……屈辱的じゃ……!」
首輪だと……?そんなことはどうでもいい!
見ろよ!あの尻尾の生えてる部分!そこだけ布が盛り上がって……ずれて……
尻が……尻が……!あぁああ!見えそうで見えない!もう少し!もう少しなのに!
だがこの見えそで見えないのが最高だ!たまらん!

132: 2008/09/20(土) 00:42:03.56 ID:FkjlcymD0
「圭ちゃん……あんたって人は……。」
「圭一くん……ちょっと自重した方がいいと思うな……。」
「け、圭一さんの……不潔うううううう!!」
「沙都子がまたひとつ大人の階段を上りましたです。」
げっ!まさかまた思ってたことそのまま口に出してた!?
「ぬしよ……。」
「ほ、ホロ……違う、違うんだ……!これはその……!」
「発情もほどほどにの……?」
あぁ……完全に引いてやがる……\(^o^)/

133: 2008/09/20(土) 00:43:04.82 ID:uf7KHgCAO
外が少し暗くなってきたかという頃に
玄関から声が聞こえてきた
圭一さんが帰ってきたのだろう
「ただいまー……。」
「あぁ、おかえりなさい圭一さん。
ところでホロを見かけませんでしたか?
あいつ、出掛けたきり帰ってこな……ってなんだホロ。
圭一さんと一緒だったのか。」
「なんじゃ。何か文句でもあるのかや?」
いきなりの不機嫌っぷりに少したじろぐ
「圭一さん……ホロの奴、何かあったんですか?」
ずかずかと家の奥へと入っていくホロを尻目に圭一さんに話しかける
「いや……それが実は……」

134: 2008/09/20(土) 00:43:35.61 ID:FkjlcymD0
「あぁなるほど……あいつ、プライドは妙に高いですからね……。
まぁそんなことでいつまでもへそを曲げている程あいつも子供ではありません。
時間が経てば機嫌も直るでしょう。」
俺はそう言って軽く笑っておく
「そうですか?それならいいんですけど……。」
圭一さんが答えた直後、奥からホロの声が聞こえてきた
「ぬしら何しとる。わっちゃあ機嫌が直る前に飢え氏にしてしまいそうじゃ。
夕飯の支度を早くしてくれれば助かるんじゃが?」
その声を聞き、二人でハァとため息を漏らし、
苦笑いしてお互い顔を見合わせ声のもとへと歩いていった

135: 2008/09/20(土) 00:45:48.33 ID:uf7KHgCAO
圭一さんに話したとおり夕食を食べ終わる頃には
ホロはすっかり機嫌を直しいつもの調子に戻っていた
そしてそのまま何事もなく就寝……
と思いきや、意識がなくなる直前にホロが話しかけてきた
「ぬしよ。まだ起きとるかや?」
「ん、どうした?」
「今日、気になる話を聞いた。」
「どんな話だ?元の世界に戻る手がかりでも見つけたか?」
「いや、それとは違うんじゃが……この土地の神の話じゃ。」
「この土地の神……?別に土地に神がいること自体は珍しくもないだろう。」
「まぁ聞きんす。わっちが聞いたのは……
この土地の神と祟りの話じゃ。」

136: 2008/09/20(土) 00:46:19.57 ID:FkjlcymD0
「あぅあぅ……あぅあぅあぅあぅ……!」
「うるさいなぁ…驚いてるのは私も同じなんだから
あんたひとりで騒がないでよ。それに沙都子が起きちゃうでしょ。」
「でもでも……異世界の住人なんて信じられないのです!
そんなオカルト信じられないのです!」
「あんたが言うセリフじゃないことだけは確かね。」
「あぅ!」
「そりゃ普通は信じられないわよ。
でもあの耳と尻尾を見せられればむしろ
この世界の住人だって言うほうがどうかしてるわ。そう思わない?」
「そ、それは確かにそうですけど……。」

137: 2008/09/20(土) 00:47:25.23 ID:uf7KHgCAO
「ま、少なくとも今回の雛見沢はなかなか面白そうね。
こんなこと……今までなかった。くすくすくすくす……。」
「……梨花……その……あまり……」
「あまり期待しすぎるな?それはちょっと難しいわね。
だって、今回はこんなに違う。
こんなイレギュラーが起こって結果はいつも通りなんて……。
そんなのあまりにも……。」
「梨花……。」

138: 2008/09/20(土) 00:47:56.50 ID:FkjlcymD0
「んっ……朝か……。」
あまり夢見がいいとは言えなかった
寝る直前にホロから聞かされた、「オヤシロさまの祟り」の話のおかげだ
圭一さんは「縁結びの神」だと言っていたような気がするが……
それとは別に祟りもするということなのだろうか
祟りの存在自体はそこまで珍しい話ではない
元いた世界でもいくつかそのような話は聞いたことがある
だが、それらは全て遥か昔の言い伝えだった
今現在も祟りが起き、村人が氏んでいるというのは聞いたことがない
俺が知らないだけかもしれないが、
聞いたことがないだけに不気味な話だった
圭一さんやあの少女たちもこの話を知っているのだろうか……
行商人としての癖かは知らないが、
こういうことについてさらに知りたくなってしまう

139: 2008/09/20(土) 00:49:30.92 ID:uf7KHgCAO
「それじゃ、行ってきます。
今日も帰りは昨日と同じくらいになると思いますんで。」
「えぇ、お気をつけて。あ、そうだ。
今日、私も圭一さんの通う学校へ行ってみてもいいでしょうか?」
そう言うと、やはり不思議そうな顔をされた
圭一さんだけでなく、ホロにもだ
「……?放課後だったら別に構わないと思いますけど……。」
「なんじゃ。わっちの学校での話を聞いて羨ましくなったかや?」
「いや、この世界の学校は俺の知っている学校と随分違うみたいなんでな。
少し興味がわいた。では夕方頃に行けば大丈夫ですね?」
「あ、はい。それじゃ俺もう行きますね。レナが待ってるんで。」

140: 2008/09/20(土) 00:50:04.43 ID:FkjlcymD0
「で?本当の理由を教えてもらえるかや?」
圭一さんを見送ってしばらく後、ホロが訊ねてきた
「やはり勘付かれたか。別に学校自体に興味がわいたのも嘘じゃないさ。」
「つまり本当はもっと他のものに興味がわいた、と。」
「あぁ。俺が今知りたいのは昨夜お前が話してくれた
『オヤシロさまの祟り』だ。」
「それについてあやつらに訊ねるつもりかや。
知っているかどうかも定かではないというのに……。
仮に詳しく知れたとしてどうするつもりかや?」
「別にどうするということはないさ。単なる好奇心だ。
しかしどうした、お前はなんだか反対しているように見えるが?」
「別に反対というわけではありんせん。じゃが……。」
「だが?」
「なにやら……聞いてはならぬことのような気がする。」

141: 2008/09/20(土) 00:51:46.49 ID:uf7KHgCAO
「おっしゃあ~!部活だ部活!さぁ魅音!今日のゲームはなんだ!?」
「くっくっく……そうだねぇ……。今日のゲームはぁぁぁ……!」
「魅ぃ、誰か来ますです。」
魅音が高らかに今日のゲームを宣言しようとした瞬間
梨花ちゃんが割って入った
「あ、あるぇ~?ちょっと梨花ちゃん空気読もうよ……
なんかおじさん恥ずかしい人みたいじゃん……。」
「あれは……ホロさんにロレンスさんですわね。」
「はぅ~、ほんとだほんとだー。
今日は二人で部活しにきたのかな、かな!」

142: 2008/09/20(土) 00:52:09.01 ID:FkjlcymD0
「あ、そういえば言ってなかったな。
ほら、二人とも違う世界から来たってのは昨日話しただろ?
それで元の世界の学校とこの世界の学校の違いを見たいんだってさ。」
「へぇ~。うちの学校なんか見たって参考にならないと思うけどな~。」
「はぅ……雛見沢分校はちょっと特殊だもんね。」
「興宮の学校を教えて差し上げた方が良かったかも知れませんわね。」
「そうとも知らずかわいそかわいそなのです。にぱー☆」
なんてやってる内に二人とも来た
「どうも、圭一さんから話は聞いてますか?」
「くふ。わっちの連れが勉強したいそうじゃ。
いろいろ教えてやってくりゃれ?」

143: 2008/09/20(土) 00:53:24.69 ID:uf7KHgCAO
「ほぅ…それはすごいですね…。
こちらでは子供は誰もが皆学校へ行くよう定められていると…。」
「そうだよ。しかしロレンスさんの話を聞いていると
あっちの世界はこっちよりずいぶんと遅れてるみたいだねぇ。」
「魅ぃちゃん、遅れてるなんて言っちゃ失礼だよ…。」
「はは、お気になさらないで結構ですよ。」
聞けば聞くほど違いが出てくる
やはりなかなか面白いな

144: 2008/09/20(土) 00:53:44.15 ID:FkjlcymD0
……さて、だいぶ会話は進んだ
そろそろ本題に移らせてもらうとするか
「あ、そうだそう言えば少し関係ない話になりますが
お訊ねしてもよろしいでしょうか。」
「ん?オッケー。おじさんたちになんでも聞きな!」
「はい、『オヤシロさまの祟り』について詳しくお聞かせ頂けますか?」

空気が変わった

145: 2008/09/20(土) 00:54:48.42 ID:uf7KHgCAO
聞くべきではなかった
そう思ったと同時にその数瞬の沈黙は破られた
「………どこで聞いたの?」
少女の声を恐ろしいと感じたのは間違いなく初めてだ
そのあまりの空気の変わりようにたじろぐ
「あ、いえ、その、聞いたのは私でなくホロでして。」
「……ホロちゃん、誰に聞いたのかな、かな。」
「確か、鷹野と富竹とかいう二人組みじゃ。」
「また鷹野さんか……仕方ない人だねまったく……。」
再びの沈黙
永遠に続く深い沈黙のように思われたが
それは意外にもあっさりと破られる

146: 2008/09/20(土) 00:55:16.52 ID:FkjlcymD0
「お、おいおい……なんだお前ら……。なんか怖えぞ……。」
「え、え?今レナ怖くなってた?はぅ……ごめんねごめんね。」
「いや~……この話題になるとどうにもダメだわ。
盛り上がるような話題じゃないしね……。」
「みぃ、ボクと沙都子はお買い物があるので先に帰りますです。
さ、行きましょう沙都子。」
「あ、はい……ですわ……。
それでは皆さん……お先に失礼させて頂きますわね……。」

148: 2008/09/20(土) 00:56:20.27 ID:uf7KHgCAO
沙都子さんと梨花さんが去って行くのを見送った後、
魅音さんが口を開いた
「うーん……本当は新しく来た人には知られたくなかったんだけど……。
知られちゃったもんはしょうがないか……。」
「圭一くんは知ってたのかな?オヤシロさまの祟りのこと。」
「あぁ……診療所に行ったとき、村の老人が話してるのを聞いた。」
「とりあえず二人ともどこまで聞いたのかを話してみて。
ロレンスさんの知りたいことはそれから話すよ。」

149: 2008/09/20(土) 00:57:13.44 ID:FkjlcymD0
「そっか……それだけしか知らなかったんなら仕方ないかな、かな。」
「そうだね。許してあげよう。」
一通り話し終わったあとの魅音さんとレナさんのこの言葉が気になった
「あの……それはどういう……?」
「……二年目の祟りの犠牲者……崖下に転落した夫婦ってね、
沙都子の両親なんだよ。」
「なっ……!まじかよ……!」
圭一さんが驚きの声をあげる
「三年目の祟りの犠牲者はね、梨花ちゃんのご両親なの。
四年目の犠牲者は沙都子ちゃんの叔母さんとお兄さんの悟史くん。」
そうか……沙都子さんと梨花さん、
二人の様子がおかしかったのはこういう訳が……

151: 2008/09/20(土) 00:59:08.32 ID:uf7KHgCAO
「……すみませんでした。そのような事情があったとは知らず
興味本位で彼女たちの前でこの話題を出してしまい……。」
「わっちも謝る。連れを止めるべきじゃった……。」
「ううん、知らなかったんだからしょうがないよ。」
「もし知ってて話題に出したんだったら……
あははは!すごーく怒ってたかな、かな。」
「俺も知らなかったよ……
梨花ちゃんと沙都子ちゃんがそんな境遇に立たされてたなんて……。」
「だからさ、もうこの話題は禁止ね。言いふらしたりするのもなし。
なのに鷹野さんめ……いつか痛い目見せてやる……。」
「み、魅ぃちゃん……物騒だよ……。」

152: 2008/09/20(土) 01:00:23.76 ID:FkjlcymD0
やれやれ、また鷹野か……
彼女の悪癖もどうにかならないものだろうか……
横を歩く沙都子の顔をちらりと見る
私の視線に気付いたらしい
沙都子はこちらを見て、笑っていった
「どうしましたの、梨花?わたくしの顔に何かついてるんですの?」
「みぃ。沙都子の顔があまりに可愛くて見とれてしまったのですよ。にぱー☆」
「もう、梨花ったら……。冗談はやめてくださいまし!」
ふたりで笑い合う
良かった、心配はいらないみたいだ

154: 2008/09/20(土) 01:01:25.34 ID:uf7KHgCAO
気が付くと既に神社の階段だ
「それではわたくしはお夕飯の材料を買いに行きますわね。
確か今日の当番はわたくしでございましたでしょう?」
「みぃ、ボクも付いて行くのです。」
「いけませんわ。梨花はわたくしの荷物を持って先に帰っていてくださいまし。
あ、お風呂もいれておいて欲しいですわね。」
そう言って沙都子は私にかばんを押し付け、とっとと駆け出してしまった
「あ、沙都……ま、いっか。」
沙都子に言われた通り、お風呂を入れて待っていよう
今日の夕飯はなんだろう
久しぶりに野菜炒めが食べたいな……

155: 2008/09/20(土) 01:03:03.20 ID:FkjlcymD0
>>153
ありがとう
でも結構眠気がやばい



「ふむ……しかし今日は部活とやらがなかったのが残念じゃの。
せっかくわっちの屈辱を晴らせると思っていたんじゃが……。」
「はははは!いくら賢狼とは言ってもそう簡単に
俺たち部活メンバーが負けると思うなよ?」
「ふん!たかだか十数年しか生きとらん分際で何を偉そうに。」
楽しそうだな……
圭一さんとホロ、
夕食を食べながら言い合いをする二人を見てつくづくそう思う
こうしてみると仲の良い兄弟のようだ
元の世界に戻ったらもう一人くらい旅の連れを見つけてもいいかも知れない
ホロとの二人旅がなくなるのは少し惜しい気もするが
それも十分に補って余りあるほどの楽しさがありそうだ

156: 2008/09/20(土) 01:04:29.25 ID:uf7KHgCAO
「ぬしよ。」
「ん?」
夜寝る前に、またホロが話しかけてくる
「大勢の旅、というのも楽しいかも知れんの。」
「なんだ藪から棒に……と言いたいところだが、俺も同じことを考えていた。」
「くふ、じゃろ?しかしぬしはわっちとの二人旅がいいのではないのかや?」
「お前と二人きりですり減らす心の損害を考えれば
お前と誰かが戯れていてくれた方が得だ。
商人は損得勘定でものを考えるからな。」

158: 2008/09/20(土) 01:04:58.42 ID:FkjlcymD0
「ふん、つまらぬ雄じゃの。しかし、部活とやらは本当に楽しみじゃ。
明日こそあの小僧と小娘どもを手玉に取ってくれよう。」
やれやれ……本当に負けず嫌いだな……
「なら早く寝ることだな。」
「うむ、そのつもりじゃ。」
その晩はそれが最後に交わした言葉だった

159: 2008/09/20(土) 01:06:01.60 ID:uf7KHgCAO
「あぅあぅ……梨花……お酒はダメなのですよ……。」
「……うるさいな……。」
「あぅ……でも……飲みすぎると体に……」
「うるさいって言ってんでしょ!
飲まないと……お酒の力を借りないとおかしくなっちゃいそうなのよ!」
「梨花……。」
「なんで!?なんでなの!?せっかく今回は楽しめると思ったのに……!
なんでこうなるのよ!!最悪だわ……もうこの雛見沢は終わり……。
今回は誰がおかしくなるのかしら……。あははは……あはははははは!」
「あぅあぅ……あぅあぅあぅ……。」

160: 2008/09/20(土) 01:06:31.25 ID:FkjlcymD0
「それじゃ行ってきますね。ホロ……お前やっぱり今日も……?」
「もちろんじゃ。なんじゃ、怖気づいたかや?」
「ケッ、誰が!上等だ!返り討ちにしてやらぁ!」
「ははは、まぁまぁその位にして。
ほら、早くしないと遅れてしまいますよ?」
「あ、はい!それじゃ、また夕方頃に帰りますんで!」
朝から元気な少年だまったく…
「よし、わっちは決戦に備え眠りにつくとしようかの。」
「お前なぁ……起こすのは誰だと思ってるんだ。」
「わっちのような美少女を起こせるんじゃ。幸せ者じゃのおぬし。」
もういちいち突っ込むのも面倒だ
軽く頭を小突いておくだけにした

161: 2008/09/20(土) 01:07:54.34 ID:uf7KHgCAO
「では行ってくる。留守は頼んだぞぬしよ。」
「別にお前のために留守を預かってるわけじゃないんだがな。」
連れとそんなやりとりを軽く交わし、外へ出る
まだ部活が始まるまでは少し時間があるから軽く散歩でもして行こう
今日はどんな遊びをするのだろうか
まぁ、たとえどんな遊びであろうともこの賢狼にかかれば朝飯前だ
そんなことを考えながらしばらく歩いていると
見覚えのある姿が目に飛び込んできた
「あれは……沙都子……?」

162: 2008/09/20(土) 01:10:06.97 ID:uf7KHgCAO
彼女の両手は大きな荷物でふさがっている
そしてその表情はどこかおかしい
顔は下を向き、目は虚ろだ
自分がかなり近くに寄るまで向こうはこちらに気が付かなかった
「沙都子……ぬし、何をしとるのかや?学校はどうしたのかや?」
「え、ホ、ホロさん!?
えと……これはあの……ちょっとお家の用事で……。」
「家の用事……?ぬし、確か梨花と二人で暮らしておるはずでは……。」
「あの……実は昨日、街からおじ様が帰って来ましたの。
それで以前のお家のお掃除やお買い物を頼まれたんですのよ。」

163: 2008/09/20(土) 01:10:24.48 ID:FkjlcymD0
「……そうじゃったか。ならばわっちも手伝おう。どれ、その袋をひとつ貸しんす。」
「え、悪いですわ……。そんな……。」
「何を言うとる。それともわっちがこの程度の荷物も持てぬ軟弱者であると?」
「いえ……決してそんな意味では……。」
「ならとっとと渡しんす。ほれ……よっ……と。」
「あ……ありがとう……ですわ。」
……重い
おそらく沙都子よりも力は強いであろう自分ですら重く感じるのだ
それをこの小柄な少女が……
おじというのはどんな輩なのだろうか
顔を拝ませてもらわねばなるまい

164: 2008/09/20(土) 01:12:13.16 ID:FkjlcymD0
「ありがとうございましたわホロさん……。」
「……ここが沙都子の以前の家かや。」
「えぇ。……あの、ホロさんはこれから部活に出るのでございましょう?
だったら早く行った方がいいですわ。」
……急かしている
早く行けと急かしている
まるでここに居られてはまずいかのように
その理由はすぐに分かった
粗暴な音と共に家の窓が開けられ、人影が姿を現す
「沙都子ぉ!はよせんねこのダラズ!
買い物ひとつ行くのに何分かかっとんじゃこのボケぇ!」

166: 2008/09/20(土) 01:13:14.39 ID:uf7KHgCAO
沙都子はびくりと体を震わせ、縮こまっている
一目見ただけで分かった
こいつが諸悪の根源
こいつが沙都子を変えた原因
男がその醜悪な眼差しをこちらへ向けてくる
「……あぁ?なんじゃいおどれは。」
「え、えと……わたくしのお友達ですわ。
荷物を運ぶのを手伝ってくれたんですの。」

167: 2008/09/20(土) 01:13:41.92 ID:FkjlcymD0
「おぉそうかいそうかい。悪ぃのぉお嬢ちゃん。
沙都子ぁ今ちぃっと忙しいんよ。学校にそう伝えとってくれんかいね。
家の用事でお休みしますってのぉ。がっはっはっはっは!」
「……。」
「あの、ホロさん!早く行ってくださいまし!
わたくしは大丈夫ですから!お願いですから早く!」
「そういう訳だんね。ほれ沙都子、さっさと入ってこんかい。」
そう言って男は乱暴に窓を閉め、姿を消した

168: 2008/09/20(土) 01:14:44.97 ID:uf7KHgCAO
「ぬし……。」
「わたくしは……お家の用事が終わったらすぐに学校に行きますわ。
ですから、心配なさらなくても大丈夫ですのよ!をーっほっほっほっほ!」
「……分かった。じゃあの、また学校で…。」
「えぇ、また、学校で……。」
何も言えなかった
沙都子のあまりに必氏な態度に何も言うことができなかった
粗暴な親は何度も見てきた
虐げられる子も何度も見てきた
しかし……なぜだろう
あの沙都子があんなに変わり果ててしまっている
そのことがこの胸を深くえぐる

169: 2008/09/20(土) 01:15:03.63 ID:FkjlcymD0
学校に行くと魅音が自分に気が付いた
「あ、ホロ……。その……せっかく来てくれたのに悪いんだけど……。」
「分かっておる。部活はないんじゃろ?」
「え?あ、うん……。メンバーが一人欠けちゃってるし…。」
「梨花ちゃんも体調悪いみたいだしな……。」
「とても部活なんてする気分じゃないかな……。」
ひどく陰鬱な空気だ
真実を話そう
自分が今見てきたことを皆に話そう

173: 2008/09/20(土) 01:16:34.20 ID:uf7KHgCAO
「さっき沙都子に会った。」
そう言うと皆が一斉に口を開く
「え!?どこで!?なんで!?」
「ホロちゃん、それ本当!?」
「ホロ!詳しく教えてくれ!」
「沙都子の…おじが帰ってきたそうじゃ。」
「ッ…!!」
息を呑む音が聞こえた
「な、なんだ……?沙都子のおじって……?それがいったい……。」
「そっか……圭一くんは知らないんだよね……あの人のこと……。
あのね……沙都子ちゃんのおじさんは……」

175: 2008/09/20(土) 01:17:13.00 ID:FkjlcymD0
俺がレナと魅音から聞いた話は……とんでもない話だった
沙都子が……虐待に遭ってるって……!?
「……っざけんなよ……!なんでだよ!なんでそんな屑のせいで沙都子が……!」
「お、落ち着いて圭ちゃん……!あんまり熱く……」
「これが落ち着いていられるか!くそ……くそっ……!
おい、ホロ!お前沙都子に会ったんだよな!ならどうして何もせずここに来た!
なんで無理矢理にでも連れて来なかったんだよ!?なんで……」
「圭一くん!!」
レナの叫びで正気に戻った
俺はあろうことかホロの肩を掴み、ホロを責め立てていたのだ
怒りに任せて何の罪もないホロを……
「っ……ごめん……ホロ……。その……今の、忘れてくれ……。」

176: 2008/09/20(土) 01:18:40.03 ID:uf7KHgCAO
「いや……わっちも何もできなかった自分に腹が立っておった。
圭一がわっちを責めるのも無理はないことじゃ……。」
「いや、すまなかった……。ありがとう、レナ……。止めてくれて……。」
「ううん、圭一くんがそんなに怒るのは
沙都子ちゃんのことが大切だからだもんね。仕方ないよ。
今はそれより、どうすればいいのかを考えよう?」
レナの言うとおりだ
今なすべきことはひとつ
どうすれば沙都子を解放してやれるのかを考えること
それだけだ

177: 2008/09/20(土) 01:19:15.83 ID:FkjlcymD0
「じゃあ私は知恵先生に報告してくるよ。」
そう言って魅音は部屋を出て行く
「知恵先生……とやらは頼りになるのかや?」
魅音が教室から出ていった後、皆に訊ねた
「生徒思いのいい先生だよ。何よりも先に生徒のことを考えてくれる。」
「だが先生ばかりを頼りにしていちゃダメだよな。
俺たちでももっと手を考えないと……。」
皆必氏に頭を巡らせている
だが……
「ぬしら……すまぬ。わっちはぬしらの助けになるには
あまりにもこの世界に関して無知すぎる。
わっちは……あまり役に立ちそうにない。」

179: 2008/09/20(土) 01:21:00.81 ID:uf7KHgCAO
皆さぞ失望するだろうと思って身構えた
しかし帰ってきた反応は予想外のものだった
「おいおいおい!どうしたんだよ珍しく弱気じゃねぇか!」
「ホロちゃんらしくないかな、かな!
ホロちゃんが知らないことはレナたちが教えてあげるよ!」
「狼の化身というスペシャルゲストを使わない手はないからね!」
「おわっ!魅音いつの間に!」
「だからさ、ホロ。あんたも力を貸して。」
皆の温かい視線が集まるのを感じる
そうだ……何を弱気になっていたのだ
今こそ賢狼ホロの実力の見せ所ではないか
どんな手を使ってでも沙都子を救い出す
それが知恵であろうと……力であろうと
どんな手を使ってでも

180: 2008/09/20(土) 01:21:24.83 ID:FkjlcymD0
家に帰り、ロレンスさんにも事情を伝える
「……という訳なんです。何か良い方法はないでしょうか?」
「私たちの世界ではそのような場合、
解決策としてそこを逃げ出し職を見つけ働く、
という手がありますが……それもあちらの世界では難しいです。
それはこの世界では有効でしょうか?」
「それは雇い主のところへ住み込みで……ですか?」
「んむ、そういうことになるじゃろうの。」
ん……これは少し非現実的だな……

181: 2008/09/20(土) 01:22:27.79 ID:uf7KHgCAO
「申し訳ありません、お世話になっておきながらお役に立てず……。」
俺の考えが表情に出ていたのだろうか
ロレンスさんが謝ってきた
俺は慌ててフォローを入れる
「いえ、とんでもないです。
少し難しいですが、最終手段として使えるかもしれません。
とりあえず、今日はもう遅いので寝ましょう。
明日も沙都子を救う方法を考えなければなりませんからね。」
「それもそうじゃの。」
「さっきも話した通り、魅音が言うには知恵先生が児童相談所に
電話してくれるみたいですし。
他の手を考えるのはまだそんなに焦る必要もないでしょう。」

182: 2008/09/20(土) 01:22:49.52 ID:FkjlcymD0
「児童相談所というのは信頼できる機関なのですか?」
「俺もよく分からないんですけど……
まずは明日学校に行ってからですね。」
「んむ、そうじゃの。そうと決まれば就寝じゃ。
ではおやすみのぬしよ。」
「おやすみなさい、圭一さん。」
「えぇ、おやすみなさいロレンスさん。おやすみ、ホロ。」
きっと児童相談所がなんとかしてくれる……
そんな淡い期待を胸に、俺はゆっくりと眠りについた

183: 2008/09/20(土) 01:24:00.46 ID:uf7KHgCAO
「梨花……。」
「何よ……また何か文句あるの?」
「あぅ……今日の学校での態度…気をつけた方が……。」
「……もう終わった世界でみんなと仲良くしてなんの意味があるって言うの?
もう誰とも話したくない。誰にも近付きたくない。そんな必要もない。」
「で、でも……今回はホロもいますし……!」

184: 2008/09/20(土) 01:24:16.66 ID:FkjlcymD0
「確かにあの子の知恵はすごいでしょうね……。
でもここじゃ何の役にも立たない。あの子自身も言ってたじゃない。」
「でもでも、そのあとみんなが……」
「はいはい分かった分かった。もういいわ。
今まで通りやればいいんでしょ?でもとにかく私はもうこの世界は諦めた。
傍観者に回る。みんながあがくのを見て楽しむことに決めたの。」
「梨花……。」

185: 2008/09/20(土) 01:25:35.72 ID:uf7KHgCAO
「様子見……だって……!?」
翌日学校に行き、沙都子の登校を確認して安心しかけたのもつかの間、
魅音から聞いたのは信じたくない話だった
「な、なんで!どうして!!」
「しっ……!圭ちゃん声が大きい……!沙都子に聞こえるよ……。」
「あ、あぁすまん……でもなんでそんなことになっちまったんだ……?」
「ボクがお話しますです。圭一、廊下へ。」
「え、梨花ちゃん……?」
昨日からずっと誰にも近付かず、誰とも話さなかった梨花ちゃんが
急に話し掛けてきたことに、俺は少しだけ驚いた
梨花ちゃんに手を引かれるままに、俺は廊下へと出る

186: 2008/09/20(土) 01:26:07.80 ID:FkjlcymD0
「嘘の通報……!?それが理由で様子見になってるのかよ!」
「その通りです。つまり、いくら通報してもその真偽が疑われる。
危機感が伝わらない。そういうことなのです。」
「そんな……馬鹿なことが……!」
俺が俯くと、梨花ちゃんが声をかけてきた
「どうですか圭一。これでもまだ……沙都子を救い出せると思いますですか?」
冷たい言葉
まるで俺たちの行動を無駄な努力だと嘲笑っているかのような……
そんな印象さえ受ける
いったい……どうすれば……
俺がそんな梨花ちゃんの言葉に何も答えられないでいると
ふいに後ろから声がかけられた
「まったく意味がなかった、という訳ではありませんよ。古手さん。」

187: 2008/09/20(土) 01:27:06.83 ID:uf7KHgCAO
「知恵先生……。」
「児童相談所の職員の方が定期的に北条さんの家を訪問するそうです。
ですから北条さんの叔父さんも、少しは自分の行いを省みるでしょう。」
「そう……なんですか……。それで、少しは良い方向に向かうんでしょうか?」
「えぇ、きっと。」
なんの確証もないが、俺の心はより所を求め、知恵先生の言葉に安堵した
だが梨花ちゃんは、そうじゃなかった
「何も分かってないくせによくも抜け抜けとそんなことを……。」
「え……?梨花ちゃん今なんて……?」
「……なんでもないのですよ……。」

188: 2008/09/20(土) 01:27:29.83 ID:FkjlcymD0
「あらあら圭一さん、どこに行ってましたの?
どうせ職員室で知恵先生にお説教されてたに違いありませんわ!
をーっほっほっほっほっほ!」
「……教室に戻ってくるなりそれかよ!」
「みぃ。圭一は知恵に怒られて泣きそうだったのですよ。にぱー☆」
「り、梨花ちゃんまで……!」
「だっひゃっひゃっひゃ!圭ちゃんその歳になって怒られて涙目って……。」
「はぅ~!泣きそうな圭一くんかぁいいな、かぁいいな~!」
「をーっほっほっほ!ざまぁないですわね!」
「てめぇら黙って聞いてりゃいい加減言いやがって!
そこに直れ!成敗してくれる!」
いつも通りだ……
最初は様子見と聞いて驚いたが……
少しは良い方向に向かうなら……これで良かったのかな

189: 2008/09/20(土) 01:29:12.23 ID:FkjlcymD0
みな知恵先生の言葉に、また沙都子がいつもと変わらない
様子を見せていることに安堵し、その日から綿流し前日の土曜日……
つまり今日まで部活こそないものの今までと大して変わらない日常を過ごした
そして今は昼時
学校が終わり、午後は祭りの準備の手伝いに行くつもりだ
みんなで校舎を出るとホロが立っていた
「なんだ、お前も準備の手伝いに行くのか?」
「わっちは見学じゃ。祭りの準備というのはどの村でも
祭りと同じくらい面白いものじゃからの。」

190: 2008/09/20(土) 01:30:00.27 ID:uf7KHgCAO
「あら、そんなことを仰らずにホロさんも参加すればいいですのに。」
「そうだよ。みんなで協力し、準備が完了したときの達成感!
そしてそのあとの一杯が最高なんだから!くぅ~!たまんないね~!」
「ほぅ……それもなかなか良いの。」
「魅ぃちゃん…一杯ってもちろんジュースかお茶だよね、よね?」
そんな談笑をしながら校庭を歩いていた
その時だった
「ほらパスパース!」
「行くぞ~。それ!」
「わっ!お前どこ投げて……あ、危ない!」

191: 2008/09/20(土) 01:30:32.98 ID:FkjlcymD0
「沙都子、危ねぇ!」
校庭でボール遊びをしていた子供たち
一人が誤って投げたボールが沙都子目掛けて飛んできた
「え?」
沙都子は振り向くが、すでに遅い
ボールは目の前に迫り、そして……
「きゃあっ!!」
沙都子に直撃した……!
「沙都子!」
「沙都子ちゃん!」

192: 2008/09/20(土) 01:31:59.11 ID:uf7KHgCAO
慌てて駆け寄り、沙都子に声をかける
「沙都子!大丈…」
しかし俺の言葉は最後まで発せられることはなかった
おかしい
沙都子の様子が、おかしい
「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

193: 2008/09/20(土) 01:32:52.09 ID:FkjlcymD0
「沙都子……ちゃん……?」
「沙都子……あんたいったい……。」
沙都子はしゃがみ込み、頭を抱えて壊れたラジオのように繰り返す
「ごめんなさいごめんなさいもうしませんからやめてくださいなげないでくださいなぐらないでください……」
「沙都子……ぬし……。」
そこへそのボールで遊んでいた少年たちがやってきて異変に気付く


「北条……?どうしたんだよ、具合でも悪いのか……?」
そして少年が沙都子の肩に触れた瞬間
  
バチンッ!!

物凄い勢いで少年の手が弾かれ……
「ひ……ぃやああああああああああああああああああ!!!!!!」

194: 2008/09/20(土) 01:34:18.78 ID:uf7KHgCAO
「ッ……!?沙都子!?どうしたんだよ!」
「ぃやああああ……!!助けて……!助けてぇえええ……!!!
うわぁあああああああああん!!!!助けてよぉおおお!!!!
にーにー!にーにぃいいい!!!わぁぁあああああああぁあああん!!!!」
沙都子は地面にうずくまり泣き叫ぶ
俺たちが唖然とする中ただ一人、梨花ちゃんが口を開いた
「みんな!入江を、入江を呼んで来て欲しいのです!
誰でもいいから急いで!早く!」

195: 2008/09/20(土) 01:36:11.80 ID:uf7KHgCAO
「え?あ、うん!監督だね!?わかった!すぐ診療所に電話するよ!
待っててね沙都子ちゃん、梨花ちゃん!」
レナがそう言い校舎の中へ駆けて行く
それを確認した梨花ちゃんは沙都子を抱きしめ
必氏に沙都子をなだめている
「沙都子……大丈夫なのです。ここにはおじはいません。
沙都子をいじめる人は誰もいないのです。だから落ち着いて……。」
まったく付いていけない俺たちは呆然とするしかない
「ぬしよ……沙都子はいったい……。」
「わからねぇ……何がどうなってるんだよ……くそ……くそっ…!」

196: 2008/09/20(土) 01:40:54.95 ID:FkjlcymD0
入江が来るまで早くてあと10分程度か……
沙都子を抱きしめながらそう思っていたところに、ふいに声が聞こえた
「梨花ちゃん!監督連れてきたよ!」
「沙都子ちゃん!大丈夫ですか!?」
「レナ、入江……!どうして……学校に来ていたのですか?」
「職員室に行ったら知恵先生と監督が話してて……。」
「えぇ、たまたま知恵先生に用事があって……それより沙都子ちゃんは!?」
「はい、少し落ち着いてきたところなのです……。」
「では急いで私の車に。診療所に運びましょう。
みなさんは……お見舞いはご遠慮願います。
沙都子ちゃんが心配でしょうが今は我慢してください。」
そう言って入江は優しく沙都子を抱き上げ車へと向かう
その後ろ姿をみんなただ立ち尽くし見ているだけだった

198: 2008/09/20(土) 01:43:13.61 ID:FkjlcymD0
「梨花ちゃん……沙都子はどうしちまったんだ……!?」
入江の姿が見えなくなった頃、圭一が口を開いた
「沙都子ちゃん……やっぱり……やっぱり叔父さんに……!」
レナが声を震わせながら呟く
「わっちらが……もっと何かしてやるはずじゃった……。」
「沙都子は……沙都子の心は……叔父の虐待でもうボロボロだったのです。
いつ壊れてもおかしくなかった。それが今日だった。それだけなのですよ……。
何をしてもしなくても……変わらないのです。」

199: 2008/09/20(土) 01:47:03.76 ID:uf7KHgCAO
私はもう傍観者
もうどうでもよかった
「……そっか……やっぱり叔父か……あの屑が……。」
だから、魅音の様子がおかしいことに気付いても別に驚きはしなかった
「明日は綿流しか……ちょうどいいね……。
なんだ……最初からこうすればよかったんじゃん……。」
あぁ、今回は魅音か

201: 2008/09/20(土) 01:51:04.21 ID:FkjlcymD0
「ねぇ梨花ちゃん。沙都子はやっぱり入院するんだよね?どのくらい入院するの?」
魅音が話しかけてくる
みんなは魅音の様子に気付いていない
いや、気付いているのかも知れないが何をしようとしているか気付いていない
「少なくとも……明日のお祭りにはいけないと思いますです。」
「みんな……お祭りなんて行く気分じゃないよね?」
「あぁ……沙都子の気を少しでも晴らそうと思ってたのによ……。」
「沙都子ちゃんが大変なのに……楽しめるはずないよ……。」
「そっか、そうだよね。なら明日は自宅待機。
沙都子が回復するのを祈ろう。それじゃ今日はこれで解散し……」
これで明日の晩に鉄平が居なくなるわけだ
そう思った瞬間、声が割って入った
「待ちんす。魅音……ぬし、何を考えておる?」

202: 2008/09/20(土) 01:52:42.70 ID:uf7KHgCAO
これは少し予想外だった
ホロは魅音の考えに気が付いた……?
「……何?どうしたのいきなり。」
「質問しておるのはこっちじゃ。ぬし、何を考えておるのかや。」
そのただならぬホロの様子にみんな怪訝そうな顔をしている
「ホ、ホロちゃん……?」
「お前までどうしちまったんだいったい……。」
「黙りんす。わっちは魅音に聞いておる。」
その少女の外見とは似ても似つかない迫力に
私も含めみな少し気圧される
「……別に何も考えてなんか……」
「嘘じゃな。」

203: 2008/09/20(土) 01:53:18.34 ID:FkjlcymD0
「ぬし、そのような手に訴えて本当に良いと思っておるのかや?」
「ッ………。」
「その手を血に染めてまで沙都子を救い出したとして、
本当に幸せなのかや?」
「血に染めるって……魅音、お前まさか……!」
「沙都子ちゃんの叔父さんを……頃すつもりなの……!?」
みんな次々と口を開く
そしてわずかな沈黙のあと、魅音が口を開いた
「……他に何か方法があるわけ?」

205: 2008/09/20(土) 01:54:31.73 ID:uf7KHgCAO
そして堰を切ったように魅音が次々と言葉を繋ぐ
「沙都子の叔父を頃す以外に何か方法があるわけ?
ないでしょ!?最初からこうすればよかったんだ。
こうすれば沙都子を救い出せた!
幸い明日は綿流し。人一人氏んでも何もおかしくない!
オヤシロさまの祟りに見せかけてあの屑を!害虫を!駆除できる!
それが明日という日なんだよ!まさか止めないよね?
だって他に方法はない。コレしか方法は……」
「ありんす。」
魅音の言葉を遮ったのはとても静かな声だった

206: 2008/09/20(土) 01:55:24.28 ID:FkjlcymD0
声の主はホロ
魅音はそんな彼女をせせら笑うように言う
「へぇ~。これ以外に方法があるっての?言ってごらんよ」
「わっちが、叔父を雛見沢から追い出す」
「あんたが?どうやって」
「わっちの正体を忘れたわけではなかろう?」
正体
その言葉に圭一とレナが同時に反応する
「ホロちゃんの正体って……もしかして……?」
「お前、恐れられるのは嫌じゃなかったのかよ!?」

208: 2008/09/20(土) 01:57:19.07 ID:uf7KHgCAO
そうだ、圭一の言うとおり、確か彼女は
自分を畏怖の目で見られるのを嫌っていたはず
しかしホロはにやりとした笑みを浮かべ言った
「この場合は例外じゃ。
気に食わぬ相手を脅すことほど楽しいことはありんせん。
それに、最初からこうしておけば良かった。
姿を見られる恐れや、この世界の決まりに従って解決すべきじゃと、
そのようなことを考えておったが……そんな問題ではなかった。」

209: 2008/09/20(土) 01:59:27.01 ID:FkjlcymD0
そして魅音の方を向き直り言葉を重ねる
「どうじゃ魅音?わっちに任せてはくれぬかや?」
魅音はしばらくホロの目を品定めするように見て、
それからゆっくりと口を開いた
「……任せていいんだね?その代わり絶対だよ。
『きっと救い出す』じゃない。『絶対救い出す』。約束しな」
「んむ。約束する。」
……あぁ……私の意志はこんなにも弱かったのか
また、期待してしまいそうだ
沙都子を救い出せるのではないかと
次の瞬間、私はホロに近寄りこう言っていた
「ホロ……沙都子のこと、頼むのです……!」

210: 2008/09/20(土) 02:01:34.65 ID:uf7KHgCAO
家に帰り、ロレンスさんにことの経緯を話す
「そういう訳じゃ。ぬし、協力してくりゃれ?」
「話の流れは分かったが、協力って……何をすればいいんだ?」
「叔父を適当な理由をつけて外に連れ出し、
わっちが待っておる人気のない場所へと誘い出してくれればよい」
「場所は明日の午前中に俺が案内して教えておきます」
「……わかりました。交渉は商人の最も得意とするところですからね。
必ず叔父を連れ出して見せますよ」
「くふ、心強いのぬしよ」
ロレンスさんが快く承諾してくれて良かった
あとはこの二人のことを信じよう
信じることしかできないのが悔しいが仕方がない
今まで俺たちが何もしなかったことの結果がこれなのだ

212: 2008/09/20(土) 02:02:13.75 ID:FkjlcymD0
そしていよいよ翌日の夜
自分と連れは圭一に言われた場所で時間が来るのを待っていた
祭りの一番の目玉、奉納演舞の時間に合わせて計画を実行する
時計の見方はすでに学習済み
この針がちょうど真上を指した時がその時だ
天候はお世辞にも良いとは言えないが、雨は降ってはいない
祭りは予定通りに行われている
「じゃが……これはおそらく一雨くるじゃろうの」
「雨が降っていようがいまいが関係ない。
俺たちはただ彼女を救うだけ。そうだろう?」

213: 2008/09/20(土) 02:04:05.19 ID:uf7KHgCAO
ふん、生意気を……
だがまぁ連れの言うとおりだ
むしろ雨が降ってくれた方が人目につく危険性も薄くなって良いかも知れない
「む。ぬし、そろそろ行った方が良いのではないかや?」
「あぁ、そうだな。じゃあ行って来る」
「よもやしくじりはすまいな?わっちゃあそれが心配でたまらん」
「大丈夫だ、安心しろ。そっちこそちゃんと麦は持ったか?
いよいよとなって麦がないとなれば笑い事じゃないぞ」
「なぁに。その時はぬしの生き血をもらいんす」
「それは勘弁願いたいものだな」
そんなたわいないの会話を交わし、連れは鉄平の家へと向かった

214: 2008/09/20(土) 02:04:57.29 ID:FkjlcymD0
「ん…?おい、見ろ。誰か来たぞ」
「え?本当だ。おい、大石さんに連絡しろ」
「分かってる。あぁー、もしもし。
こちらA班。大石さん、聞こえますか?」
『はぁいはい、聞こえていますよぉ。どうしました?』
「はい、北条家に一人……若い男のようです。訪ねてきました」
『その男の顔に見覚えは?園崎の人間だったりしません?』
「いえ……すみません。
玄関で何か話しているようですがここからじゃよく見えなくて……。
あっ、今北条鉄平が男に連れられて外へ向かいました」
『すぐに追ってください。もちろん気付かれないようにですよ?』
「了解しました。おい、行くぞ」
「あぁ」

215: 2008/09/20(土) 02:05:58.61 ID:uf7KHgCAO
「おい兄ちゃん。どこまで連れて行く気かいね」
「もう少しです。あ、ほら。あの人ですよ。」
鉄平を誘い出すことには成功した
しばらく歩きようやく予定の場所に着く
鉄平はホロに気が付き、声をかける
「おどれかいな。わしに律子のことで話があるん言うんは」
ホロは答えない
黙ったままのホロに鉄平が食って掛かろうとする
「おい、なに黙っとんじゃこのダラズが。おどれわしをナメ……」
そこで鉄平は言葉を止める
なぜなら、目の前の女が急に服を脱ぎ出したからだ

216: 2008/09/20(土) 02:07:05.03 ID:FkjlcymD0
「なんね…最初からそういうつもりかいね。
律子の奴、これで許せとでも言うつもりかい。うぇっへっへっへ……」
律子とかいう女が自分の代わりの女の体をひとつ差し出した、
とでも思ったのだろう
鉄平が下品な声で笑い、ホロに触れようとする
と、その瞬間
ホロが初めて口を開く
「……雨じゃの」
「あぁん?何言っ……ぅおわ!?」
ホロの発言の直後、突然の土砂降り
そしてホロは麦を口の中に入れた

217: 2008/09/20(土) 02:08:38.73 ID:uf7KHgCAO
「ちぃっ……雨なんか降りよって……
あぁ?おどれ何を…………!?ひぃ!?」
鉄平が雨に気をとられ、少し遅れてホロの行動に気付いた一瞬の後、
目の前に立っていたのは少女ではなかった
巨大な、人一人丸呑みにできるほどの狼だ
あっという間に鉄平は腰を抜かし、その場にへたり込む
「ひぃいいい!?た、助け……!」

218: 2008/09/20(土) 02:09:47.23 ID:FkjlcymD0
俺は腰を抜かしている鉄平に近付き、話しかける
「あなた……オヤシロさまの祟りをご存知でしょう?」
「ひっ!?ォ、オヤシロさま……?ま、まさか……!?」
「そして今日が何の日かも……分かってますよね?」
「そんな……お……お助けください……」
もうすっかり腑抜けになってしまった鉄平にホロは声をかける
「ぬしよ……幸いわっちゃあ気分がいい。
わっちの条件を飲むなら
わっちがぬしを飲むのを勘弁してやらんこともありんせん」

219: 2008/09/20(土) 02:11:00.39 ID:uf7KHgCAO
その言葉に恐怖の中にわずかな希望を見出したようだ
心底安心したように鉄平が口を開く
「ほ、本当ですか!?じょ、条件というのは……?」
「今すぐここから、雛見沢から立ち去れ。
そしてもう二度と雛見沢に近付くな。
そうすれば今回だけは見逃してやろう」
「あ、ありがとうございま……!」
「十数える間にわっちの目の前から姿を消すが良い。
この牙の餌食になりたくなかったらの」
そう言ってホロは口を歪め牙をむき出しにする
「ひっ!?ひぃいぃいいいいいいいいいいい!!!」
情けない悲鳴をあげながら鉄平は脱兎のごとく駆けだした

220: 2008/09/20(土) 02:11:49.26 ID:FkjlcymD0
「くそ……ひどい雨だな……。おい、北条鉄平は見えるか?」
「ダメだ……。さっきのままでもかなりギリギリだったってのに
こう土砂降りになられちゃ何も見えやしない……ん?」
「なんだ、どうした?」
「おい、アレ見ろ!誰か走って……鉄平か!?」
「なんだ……?まるで何かから逃げるみたいに……
まぁいい!とにかく追うぞ!見失ったら困る!」
「あぁ、行こう!」

221: 2008/09/20(土) 02:12:56.36 ID:uf7KHgCAO
「やれやれ……しかし下品な男じゃったの。
このわっちをあんな目で見おって……不愉快じゃ」
「まぁまぁ、あれだけ脅したんだ。それで十分だろ」
「いまだにあの男の視線が体に纏わり付いているようにすら感じる。
ぬしよ。もっとわっちの体をみてくりゃれ?
ぬしの視線でわっちの体を清めたい」
「っ……お前なぁ……。人をからかうのもいい加減にしろよ」
くっくっくとホロは笑う
「ま、何はともあれ……作戦は成功だ」
「んむ。これで沙都子の敵はもうおらぬ。
急いで圭一たちにも報告してやらねばの」

222: 2008/09/20(土) 02:13:39.21 ID:FkjlcymD0
「うまくいった!?本当か!」
家に戻り計画の成功を伝えると圭一さんは顔を輝かせてそう叫んだ
「んむ。あの怯えようじゃと、二度とここへ戻って来ぬどころか
しばらくは夜も眠れぬ日が続くじゃろうの。くっくっく……」
「そうか……それじゃあもう沙都子は救われたんだな……」
「えぇ。もう彼女を虐げる者はいません。
退院すれば今までの日常が戻ってくるでしょう」
「はは……やった……やった……!二人ともありがとうございます!
そうだ!みんなにも連絡してやらないと……!」
そう言って彼はその場を離れる
あとには俺とホロだけが残された

223: 2008/09/20(土) 02:14:40.41 ID:uf7KHgCAO
「ぬしよ」
「ん?」
「わっちゃあ疲れた。もう眠りたい」
「しかしお前、全身ずぶ濡れじゃないか。
風邪をひいても困るだろう。風呂に入った方がいい」
「相変わらず世話焼きじゃの」
「俺はお前のことを心配して言ってるんだぞ。まったく……」
「くふ、分かっておる」
とにかくこれでこの騒動は一段落着いた
宿と食事の恩も、これで少しは返せただろうか

224: 2008/09/20(土) 02:15:22.93 ID:FkjlcymD0
「……本当……なのですか……!?」
「あぁ、ホロとロレンスさんがうまくやってくれた。
これでもう北条鉄平は雛見沢には帰ってこねえ。
さっき監督に沙都子の様子を聞いてみたが、
だいぶ安定しているらしい。あしたには面会も大丈夫だとよ!」
「そう……ですか……。ご報告ありがとうなのです、圭一。
二人にもお礼を言っておいてくださいなのです。
ではまた明日会いましょうです。おやすみなのですよ。にぱー☆」
「あぁ、おやすみ梨花ちゃん」
圭一の別れの挨拶を聞いてから、静かに受話器を置く

227: 2008/09/20(土) 02:17:29.84 ID:uf7KHgCAO
……信じられない
今まで一度も打ち破ることのできなかったこの袋小路を……
最悪の運命を……覆した……
「はは……あはははは……!羽入……聞いた……!?
沙都子が……沙都子が救われた……!あの叔父から……解放された……!」
「はい、はい……!梨花……僕も嬉しいのですよ!」
「やっぱり……今回は何かが違う……!今回こそ……この世界こそ!
氏の運命を覆せるかも知れない!そうでしょ、羽入!」
「……僕も……少しそんな気がしてきました。
あの二人は……確かにその力を持っているかもしれない。」
こんなに清清しい気分になったのは何年ぶりだろう
やっぱりこの世界は……とても面白い

228: 2008/09/20(土) 02:18:14.95 ID:FkjlcymD0
「お、ホロ!来やがったな!」
翌日の放課後も、ホロはやってきた
「んむ。向こうで連れも待っておる」
「じゃあさっそく行こうかね!」
「うん!早く沙都子ちゃんの顔が見たいな、見たいなー!」
「みぃ…レナがお持ち帰りしてしまわないよう見張るのが大変で
ボクは沙都子の顔を見ることができないに違いないのです」
どっと笑い声が広がる
今日は今から部活の代わりに沙都子のお見舞いだ

229: 2008/09/20(土) 02:19:43.73 ID:uf7KHgCAO
「えっと、北条沙都子のお見舞いに来た者ですけど……」
「あぁ、お友達の方たちですね。入江先生からお話は伺ってます」
魅音が受付の人と話をしている間、俺は少し考え事をしていた
沙都子に叔父のことをどうやって話そう……
うまくごまかせるかどうか……もしくは素直に全部話すか
ここへ来る途中でもみんなと少し相談したのだが
結局結論は出ず、沙都子の様子を見て判断する、ということになった
と、ここで魅音の呼ぶ声がする
「みんないいよー。こっちこっち」
「あぁ、行こうぜみんな」

231: 2008/09/20(土) 02:20:06.96 ID:FkjlcymD0
部屋へ入ると、監督と沙都子の姿が目に入った
二人ともすぐこちらに気付き、口を開く
「あぁ、お待ちしていましたよみなさん」
「あらあら……もう、お見舞いだなんて結構ですのに。
わたくしはほらこの通り、もう全然へっちゃらですのよ!」
姿を見て安心するのは馬鹿だと学んだばかりなのにやはり安心してしまう
だが今回は安心して大丈夫だろう
もう叔父はいないのだから
とここで、監督が首をかしげながら口を開いた
「おや……すみません、そちらの男性と女性は……?」

233: 2008/09/20(土) 02:21:09.39 ID:uf7KHgCAO
「あぁ、そう言えば監督は初対面でしたわね」
「そんじゃあ自己紹介からだね!はいどうぞお二人さん!」
魅音に促され、二人は自己紹介を始める
「初めまして、クラフト・ロレンスです。
ロレンスで通っています。以後、お見知りおきを」
「わっちゃあホロじゃ」
「あ、どうも。私は入江京介と申します。どうぞよろしく。
お二人はどういう……?」
「レナたちの新しいお友達なんだよ!はぅ~!」

234: 2008/09/20(土) 02:21:44.53 ID:FkjlcymD0
「そうなのです。最近引っ越してきたのですよ」
「そうですか。最近雛見沢に新しい家が建ったとは聞きませんが……」
「ま、まぁ今はそんなのどうでもいいじゃないですか!」
「はぁ……ま、それもそうですね。」
なんとかごまかせたか……?
まさか本当のことを話すわけにゃいかねぇしな……

235: 2008/09/20(土) 02:22:51.88 ID:uf7KHgCAO
それからしばらく楽しい話題に花を咲かせた
「わっちがそう言うと圭一、顔を真っ赤にさせての……」
「だわーっ!馬鹿!それを思いださせるんじゃねぇ!」
「え、なになに圭ちゃあん。そういうのが好きなわけ?くっくっく!」
「はぅ~!圭一くんそういうのはまだ早いと思うな!思うな!」
「みぃ……ボクも負けてられないのですよ。大人になったら
圭一をボクの魅力でメロメロにしてやるのです。にぱー☆」
「梨花さん……何もホロみたいな奴に対抗意識を燃やさなくても……」

236: 2008/09/20(土) 02:23:28.96 ID:FkjlcymD0
「梨花ちゃん……あなたは大人になってはいけません!
沙都子ちゃんも!ずっとそのままの姿でいてください!」
「監督……そういう発言は控えたほうがよろしいのではございません?」
楽しいな……
俺たちはやっぱりもとの日常に戻って来れたんだ
そう思ったその時だった

「おんやぁ?何やら楽しそうですねぇ~んっふっふっふ。
ぜひ私も混ぜて欲しいものですなぁ。」
明らかな『非日常』が現れた

238: 2008/09/20(土) 02:24:31.86 ID:uf7KHgCAO
男が現れた瞬間、空気が張り詰めたものになった
「大……石……」
そう呟いた魅音の表情からはどう見ても好意的な感情は読み取れない
張り詰めた空気の中、次に口を開いたのは監督だった
「……大石さん。何の御用ですか?ここは病室ですよ。お話は外で……」
「あぁいやいや。本当はそのつもりはなかったんですが……
ここでお話させてください。」
そして大石という男はちらりと沙都子へ目を向け言葉を重ねる
「丁度いい、ですからねぇ……んっふっふっふ……」
丁度いい、だって……?こいついったい……

239: 2008/09/20(土) 02:25:02.50 ID:FkjlcymD0
大石の視線は沙都子から再び監督に向けられる
「入江先生、北条沙都子さんと…二人で話すわけにはいきませんかねぇ?」
「そ、そんなこと……!」
監督が拒否の言葉を遮ったのは、沙都子本人だった
「監督、私は構いませんわ」
「沙都子ちゃん……!」
「ほぉら、沙都子さんもこう言ってることですし……
ちょーっとだけでいいんですよぉ。
それともなんですか?何かいけない理由でもあるんですかぁ?」
「っ……分かりました。ただし、医者として二人だけにするわけにはいきません。
私も同席します。それと、時間は五分です。それ以上は認められません」
「ふぅ……けち臭いですねぇ……。まぁいいでしょう。
それではみなさん、席を外していただけますね?」

240: 2008/09/20(土) 02:26:30.49 ID:uf7KHgCAO
「おい魅音、あいつ一体何者なんだ?」
部屋から出て、小声で訊ねる
「興宮署の大石って刑事だよ。オヤシロさまの祟りのことを嗅ぎ回ってる。
それどころか一連の事件をあたしら園崎家が
起こしてるんじゃないかって疑ってるんだ」
魅音は嫌悪感を剥き出しにして答えた
「なるほどの……。それはぬしがそんな顔になるのも無理はない」
「同感だな。俺たち商人も疑い疑われ生きていかなきゃならないが
やはり疑われるというのは気分の良いものじゃない」

241: 2008/09/20(土) 02:26:58.65 ID:FkjlcymD0
「でも……沙都子ちゃんに話があるって何なのかな?
やっぱり叔父さんの……?」
「はい……たぶんそうと思いますです」
「大石の奴、沙都子に変なこと吹き込まなきゃいいんだけど……」
「監督もいるしたぶん大丈夫だとは思うが……」
そんな会話をしている内に、五分が経った
時間通り、部屋のドアが開けられ、中から大石と監督が出てくる
「ふぅ……それではみなさん、お邪魔しましたねぇ。よいお年を」
「何もお役に立てなくてすみませんでしたね。ではお気をつけて」

242: 2008/09/20(土) 02:28:17.74 ID:uf7KHgCAO
大石の姿が見えなくなったのを確認し、監督に訊ねる
「監督、あいつ何の用事だったんですか?」
「内密に、と言われたのですが……
とても内密にできるような話ではありませんからね。
大石さんも私が黙っているとは思ってないでしょう。
……昨晩、沙都子ちゃんの叔父さんが行方不明になったそうです」
やっぱりか……

243: 2008/09/20(土) 02:28:45.18 ID:FkjlcymD0
「それで、沙都子ちゃんは大丈夫なんですか?」
レナが入江に訊ねる
これは私もすごく気になるところだが……
「心配はありません。そこまでのショックは受けていないようです。
念のため後ほど検査しておきますが……。
みんな、沙都子ちゃんの所へ行ってあげてください。
もうすぐ診療所を閉めますからね。少しでも多く居てあげてください」
「うん、分かったよ。行こうみんな」
魅音のあとに続きみんな部屋の中へ入っていく
でも、私はその場に残っていた
入江にどうしても聞いておきたいことがあったのだ
「……?梨花ちゃん、どうしました?」
「入江……富竹と鷹野は今どうしていますか?」

244: 2008/09/20(土) 02:30:03.14 ID:uf7KHgCAO
「ッ……!!」
「入江、答えてください。富竹と鷹野は今……生きていますか?」
しばしの沈黙の後、観念したように入江は口を開く
「……どうしてそのことを……?」
やっぱり……この二人はダメだったか
「噂に聞いたのですよ」
「おそらく梨花ちゃんが聞いたとおりです。
富竹さんと鷹野さんは昨晩、綿流しの夜にお亡くなりになりました」
「富竹は喉を掻き毟って、鷹野は岐阜の山中で焼氏……ですか」

245: 2008/09/20(土) 02:30:32.65 ID:FkjlcymD0
「どうしてそこまで…いえ、聞かないでおきましょう
その通りです。鷹野さんはドラム缶に入れられ……
富竹さんは…おそらくL5を発症。理由は分かりません。
富竹さんは注射を受けていたはずですし、
鷹野さんが殺される理由も私には思い浮かばない」
「そうですか……。入江、ひとつお願いがあります。
何があっても、自殺だけはしないでくださいなのです」
「……?わ、わかりました。肝に銘じておきます。」
「わかれば良いのです。
ではボクも沙都子のところに行ってきますですよ。にぱー☆」

247: 2008/09/20(土) 02:31:33.26 ID:uf7KHgCAO
賑やかなお見舞いが終わって、
みんなが帰って、どれくらいが経っただろうか
もう外は真っ暗だ
この診療所にはもう自分一人しか残っていない
いや、緊急のときのために誰かいるかも知れないが
少なくとも自分の周りには誰もいない
みんながお見舞いに来てくれて嬉しかった
いっぱい迷惑かけたのに、心配かけたのに、
全然怒ってなくて、優しかった

248: 2008/09/20(土) 02:32:22.20 ID:FkjlcymD0
叔父さまが行方不明だと聞いたときは
ちょっとびっくりしたけど、大丈夫
みんなのおかげですぐに元気になれた
監督が言うには明日にはもう退院できるそうだ
やっと部活ができる……すごく楽しみだ
よし、今日はもう寝よう

  ガタン

……え……?

249: 2008/09/20(土) 02:33:36.41 ID:uf7KHgCAO
病室のすぐ外から物音
耳を澄ませると、男の声が聞こえてくる
「誰か居たか?」
「いや、居ない。次の部屋へ行こう。」
もう一人の自分が警鐘を鳴らす
明らかにおかしい不穏だ危険だ異常事態だ逃げろ隠れろ身を潜めろ
  
ガチャッ!

250: 2008/09/20(土) 02:34:00.30 ID:FkjlcymD0
「……ここも誰もいない。次へ行くぞ。」
……間に合った
ベッドの下から見えた足は部屋を出て行く
だがまだ安心はできない
完全に人の気配がなくなるまでベッドの下から動かない方がいい
……しかし、彼らはいったい何者なのだろう
強盗……と考えるのが妥当だろうか
だとしたらここから逃げ出さなければならない
部屋の近くに人の気配がしなくなったら窓から出よう
そして真っ直ぐに自分の家へ、梨花のもとへ戻ろう
はやくここから逃げたい
はやく梨花に会いたい

251: 2008/09/20(土) 02:35:12.49 ID:uf7KHgCAO
「ぬしよ……つまりどういうことかや?」
「あぁ……簡単に言うとどうやら
火山ガスか何かが沼から噴出して家にいると危険だ、
ってことらしい」
「それで一箇所に避難している……とそういう訳ですか?」
そういう理由で今俺たちはガスマスクを着けた男たちに誘導され
雛見沢分校に向かっている
とここでホロがぽつりと呟いた
「……どうも腑に落ちぬの」
「?なんだ、どうした?」
「このわっちらを誘導しておる奴ら……何か変じゃ」
「変って……何が変だってんだ?」
「それが分かれば苦労せぬ。しかし……何か違和感がある」

252: 2008/09/20(土) 02:35:38.35 ID:FkjlcymD0
「状況はどう?小此木。」
「今のところは順調ですん。滞りなく『避難』していますんね。
三佐はなぁんも心配することはありません」
「そう。ならいいの。『避難』が完了したら伝えなさい」
「了解しました」


253: 2008/09/20(土) 02:36:56.94 ID:uf7KHgCAO
学校に着くと、そこには見知った顔があった
「あ、圭ちゃん、それにホロ、ロレンスさん。
みんなもここに避難だったんだ?」
「なんだ?お前らも学校に避難だったのかよ」
よく見るとクラスメートはほぼ全員揃っているようだ
「でも……梨花ちゃんと沙都子ちゃんがいないね。はぅ……」
「沙都子は診療所じゃったから別の場所に避難しておるとして……」
「梨花さんはどうしたのでしょうか……」
と、ここで教室の戸が不意に閉められた
「ん、なんだ?全員の避難が完了したってことか?」

254: 2008/09/20(土) 02:37:22.12 ID:FkjlcymD0
「三佐、『避難』完了しました」
「そう……滅菌作戦、始めなさい!」
「了解、滅菌作戦開始しろ」

「第一小隊、了解。これより滅菌作戦を開始する」
ぴくりとホロの耳が動いたのが見えた
その瞬間、室内に何かが投げ込まれる
そしてその物体は音を立てる……そう、何か気体が噴出しているような……

255: 2008/09/20(土) 02:38:57.19 ID:uf7KHgCAO
俺も含め圭一さんたちが困惑する中、ホロが突然大声をあげた
「ぬしら!息を止めて目を瞑りんす!」
「え!?な、わ、わかった!みんな息を止めて!」
「あ、うん!」
「あぁ!」
ホロの突然の指示にみな困惑しつつも息を止め、目を閉じる
俺も例に漏れないのだが……
目を瞑る直前に見たのはホロが麦を手に掴む姿だった
おいおい……また服を台無しにする気か……?
そして聞こえた轟音と直後のさわやかな風
ホロの巨大化と共に建物が崩れ去ったのだということは
容易に想像がついた

256: 2008/09/20(土) 02:39:22.41 ID:FkjlcymD0
男たちは自分の目を信じたくなかった
当然だ
目の前にいきなり巨大な獣が現れたなど、信じられるはずがない
「う……嘘だろ……!?」
「あ……ぁあ……あ……!」
その獣はじろりと男たちの方を向き、巨大な牙を剥き、言った
「ぬしら……覚悟はできておるんじゃろうな?」
「ぅ……あああああああああああ!!」

258: 2008/09/20(土) 02:41:07.73 ID:uf7KHgCAO
『こちら鶯3!し、至急応援を……うわああああああああ!!!』
「なんだ!どうした!?おい!」
『こ、こちら鶯8!化け物です!巨大な!
犬のような、狼のような姿の化け物が!
営林署前で暴れています!隊員は皆……ぎゃああああ!!!!』
「おい!応答しろ!第一小隊!応答しろ!……くそ!」
「何!?どうしたというの!?」
「わかりません……!しかしおそらく営林署の鶯たちは……おそらく全滅でしょう」
「な……!何を言ってるの!?そんなことあるわけないじゃない!
いったい何が起こったのよ!!」
「ただ聞こえた情報は……『狼の化け物に襲われた』……と」

259: 2008/09/20(土) 02:41:37.26 ID:FkjlcymD0
「はぁ……はぁ……はぁ……梨花……!待っていてくださいまし……!」
診療所からの道はこんなにも遠かっただろうか
やはり叔父の一件で体力が落ちたのだろうか
診療所から脱出し終え、
そんなことを考えるながら自分の帰るべき場所を
古手神社を目指して走り続ける
止まるとさっきの診療所にいた奴らに見つかるかもしれない
今はただ走り続けるしかない

261: 2008/09/20(土) 02:43:10.89 ID:uf7KHgCAO
ホロはおそらく敵と思われる輩を一掃したあと、
ちらりとこちらに目配せし、一瞬で山の中へと消えた
なるほどな、そういうことか
ホロの意図を理解した俺はまだ目を瞑り続けている皆に声をかける
「みなさん、もう目を開けていいですよ!
それと圭一さん、魅音さん、レナさん。私についてきてください。」
「へ?あ、あぁはい!な、なんだったんだ今の……?」
「わかんない…ていうか何これ!建物壊れてんじゃん!」
「はぅ……ちょっと展開についていけないかな、かな……」
「何が起こったのかは進みながら説明します。
さ、とにかく私についてきてください」

262: 2008/09/20(土) 02:43:55.02 ID:FkjlcymD0
森の中を進みながら、俺は皆に事情を説明した
「へっ!?あれみんなホロがやったってのか!?」
「ちょっと信じられないかな……」
「ホロが真の力を発揮した、ってこと?」
「はい。詳しい理由は分かりませんが…まぁ本人に聞いてみましょう。
こちら方で身を潜めて待っているはずです」
ホロの正体は巨大な狼だとは聞いていたが……
営林署が壊れるほど巨大だったとはな……
「ところで……他のみんなはどうすんの?営林署に置き去りでいいの?」
木々の中を進みながら魅音が訊ねた

263: 2008/09/20(土) 02:44:54.02 ID:uf7KHgCAO
「さすがに何も知らない人たちにホロの本当の姿を見せるわけには……」
「ん~、ま、そりゃそっか」
魅音が納得したところで俺もロレンスさんに質問する
「ロレンスさん、ホロはどの辺に隠れてるんです?」
「えぇ、もうすぐのはずですが……。
……ホロ、聞こえてるか?お前の耳なら多少距離があっても聞こえるだろ?」
ロレンスさんがそう言うと、山の奥からゆっくりと、巨大な影が姿を現した

264: 2008/09/20(土) 02:45:18.75 ID:FkjlcymD0
「ッ……!!!」
正直、悲鳴を押し頃すのに必氏だった
レナと魅音を見ると、二人も俺と同じなようだ
そんな俺たちを巨大な影は見て、口を開いた
「やれやれ……まぁ押し殺せただけでも褒めてやるとするかの」
確かに、ホロだった

265: 2008/09/20(土) 02:46:09.81 ID:uf7KHgCAO
「すまん……正直結構びびっちまった」
「でもさ……その出で立ちはちょっと卑怯なんじゃないの……?
それじゃ初見で驚くなって方が無茶だっての……」
「まぁそれはわかっておる……しかしぬしら、もう平気なのかや?」
「ん?何がかな、かな」
「いや、妙に慣れるのが早いと思っての。
わっちの連れなど二度三度見ぬと慣れはせんかった。
ぬしら、連れよりずっと肝が据わっておるぞ」
「ほっとけ……」

266: 2008/09/20(土) 02:46:33.42 ID:FkjlcymD0
「だってよ、姿は確かに厳ついけど中身はホロだろ?」
「安全が分かってんなら怖がる必要もないしね!」
「それによく見ると……かぁいいかも……はぅ」
「かわいい……?このホロが……かわいい……?」
ロレンスさんは思い切り疑問符を浮かべる
「ほぉ……この姿でもわっちの魅力が分かるとは。
ぬし、なかなかやるの」
「って、そんなことより早く本題に入ろうぜ!」
「あ、そうだよ!ホロ、あんたなんであんなことしたの?」

267: 2008/09/20(土) 02:47:31.61 ID:uf7KHgCAO
途端にホロの目つきが……たぶん鋭くなった
「……わっちらを部屋に集めた人間共が投げ入れた物……
あれからは……毒の気が噴出しておった」
「ど、毒の気って……毒ガスってことか!?」
「じゃあレナたちは殺されそうになってたの!?」
「そんなこと……なんであたしらが……!」
みな口々に口を開く
「理由はわっちにも分からぬ。
あぁ……奴らのうち一人でも連れてくるべきじゃったか。
わっちとしたことが……失態じゃったの。」
「仕方ないさ。
あの状況じゃそんなことに気を回す余裕なんてあるはずもない」

268: 2008/09/20(土) 02:47:55.66 ID:FkjlcymD0
ここで大変なことを思い出す
他のみんなもほぼ同時に気が付いたようだった
「そ、そうだ!梨花ちゃんは!?梨花ちゃんはどこにいるの!?」
「ホロちゃん!梨花ちゃんを探しに行こう!急がないと……!」
「そうだ!それに診療所の沙都子も……!」
俺たちは次々と叫ぶ
そしてそれをホロは冷静な言葉で遮った
「落ち着きんす。ぬしらはここを動かぬ方がよい。
見つかるとまた危険じゃ。わっちが探しに行こう。
暗闇に乗じて素早く移動すれば誰かに見られる心配もないじゃろ」

269: 2008/09/20(土) 02:49:27.02 ID:uf7KHgCAO
と、ここでロレンスさんが口を開く
「しかしホロ、見当は付いているのか?」
「まずは古手神社からじゃ。
そこに居らぬ様であれば匂いと音を探りながら探す。
心配はいらぬ、すぐ戻る」
「うん……気をつけてね、ホロちゃん」
「沙都子と梨花ちゃんのこと、頼んだよ」
「俺たちはここで待ってりゃいいんだな?絶対に戻ってこいよ!」
「うむ。では行ってくる」
そう言ってホロは地面を蹴り、一瞬で闇に溶け込んだ

271: 2008/09/20(土) 02:50:02.42 ID:FkjlcymD0
神社はすぐに見えた
この村自体、それほど広くはない
あの場所からならこの狼の体から見れば目と鼻の先だ
しかし……おかしい
神社が近付くにつれ、妙な臭いがする…
そう、これはまるで……血の臭い
「……梨花っ……!無事でおれ……!」

273: 2008/09/20(土) 02:51:14.17 ID:uf7KHgCAO
「はぁ……はぁ……もう少しで……ございますわね……」
もう古手神社はすぐそこだ
そこの道を曲がれば階段が見える
もうすぐ……もうすぐ梨花に会える
この不安から解放される
最高の安らぎの場所で……安心を得られる
もうすぐ……もうあと少しで……

274: 2008/09/20(土) 02:52:01.46 ID:FkjlcymD0
ずしん……と着地の音がしたかは分からないが、とりあえず神社に着いた
そしてさっきから異様なまでの悪臭が鼻をつく
人間には気付くかどうかは分からないがこのするどい鼻には少しきつい
その悪臭……血の臭いの元へ少しずつ近付く
いやだ……見るのが怖い……
このような種の怖さを経験したのは久しぶりだ
さっきから最悪な予想ばかり頭の中にこびりついて離れない
そして……その予想は的中した
「ッッ!!くっ……!!!」
臭いを放っていたのは……『古手梨花だったもの』だった

275: 2008/09/20(土) 02:53:02.59 ID:uf7KHgCAO
梨花の亡骸に、一歩ずつ歩み寄る
「梨……花……」
前足でいくら触れても……鼻面でいくら押しても……
梨花だったものは動かない……
身近な友人の氏というものはここまでつらいものだったのか……?
今すぐ狂ってしまいたい
とてもまともでなどいられない

276: 2008/09/20(土) 02:53:47.83 ID:FkjlcymD0
だが……自分には使命がある
沙都子を探し出し、連れて行き、圭一たちにこのことを知らせねば……!
混乱しかけた頭を使命感で落ち着かせる
そして落ち着いた瞬間、今まで気付かなかったことに気付いた
……背後に人の気配
振り向くとそこには……沙都子がいた
「沙都子!ぬしは無事じゃったんじゃな!よかっ……」
沙都子のもとへ寄ろうとして、ふと異変に気付く
沙都子の様子がおかしい
「ひ……ぃ……ば……ばけ……もの……」

278: 2008/09/20(土) 02:54:53.81 ID:uf7KHgCAO
その瞬間、全身の血液が冷水に変わる
自分が最も恐れていた反応だった
「沙都子……わっちじゃ……ホロじゃ……!」
今の自分の姿……初めて見る沙都子にとって、
それは確かに化け物以外の何物でもない
だが言葉を話せばきっと分かってくれる
そう思った
しかし、甘かった
「梨花を……よくも梨花を……!!
ひと……ひとごろし……人頃しいいいいいいいいいいい!!!!!!!!」

279: 2008/09/20(土) 02:56:06.27 ID:FkjlcymD0
今の状況を客観的に考える
自分は今、沙都子にどのように見えているのか
後ろには血まみれの梨花の氏体
そして……自分は先ほど、梨花に触れた
血まみれの前足、血まみれの鼻先、口先
「ち、違う!わっちではない!これはわっちではない!」
「来るな!化け物ぉおおおおおおおおお!!!!」
沙都子はそう叫び、脱兎のごとく駆け出す
「待ちんす!」
そう叫び、一足飛びで沙都子の前を塞ぐ
「ぁ……」
沙都子は蚊の鳴くような声を出し、そのままパタリと倒れてしまった
失神したか……
だが都合が良い
そのまま沙都子を軽く咥え、皆のもとへ戻ろう

280: 2008/09/20(土) 02:57:33.73 ID:uf7KHgCAO
ホロに気を失った沙都子さんを渡され、
そして明かされた事実は信じたくないものだった
「そんな……梨花ちゃんが……嘘だろ……?」
「梨花ちゃん……そんな……そんな……嘘だ……嘘だぁぁ……!」
「なんで……?なんで梨花ちゃんが殺されなくちゃいけない訳!?
それにあたしたちも……!意味わかんないよ……!」
彼女の親友だった彼らはみんな悲しみに打ちひしがれている
彼女とほとんど付き合いのなかった俺でさえこの胸の痛みだ
彼らの痛みはとても推し量ることはできない
「ホロ……それは……確かだったのか……?」
「うむ……わっちが行った時には……すでに……」

282: 2008/09/20(土) 02:58:10.86 ID:FkjlcymD0
周囲が嗚咽に包まれる中、ホロの耳がぴくりと動いた
「ぬしら、逃げんす」
「……え……?」
「追手じゃ。人数は多い。学校の方から大勢来とる。
今は悲しみに打ちひしがれる時ではない。
沙都子を連れて、すぐにここを離れるんじゃ。今ならまだ十分間に合う」
もう追手が来たのか……
俺も皆の方に向かってはっきり言った
「……ホロの言うとおりです。今すぐ逃げてください」
「で、でもホロちゃんと……それにロレンスさんは……!?」
「わっちらは奴らを潰してくる」

283: 2008/09/20(土) 02:59:10.76 ID:uf7KHgCAO
「でもでも、きっとあいつら……
今度はもっと強力な武器を持ってくるよ!」
「魅音の言うとおりだ!いくらホロでも危険すぎる!
それにどうしてロレンスさんまで!」
「なぁに……わっちらは平気じゃ。
それにわっちゃあ連れと常に共におらぬと
元の世界に戻ったときに困りんす」

284: 2008/09/20(土) 02:59:34.30 ID:FkjlcymD0
そう言って笑うホロの背中に乗りながら俺は言った
「もしかしたら……私たちはあなた方を助けるために
この世界に誘われたのかも知れませんね。
梨花さんは助けることはできませんでしたが……
せめて救える命くらいは救わせてください」
「それがわっちらの罪滅ぼしと思って、の」

285: 2008/09/20(土) 03:00:57.86 ID:uf7KHgCAO
皆が何か言う前に、ホロは地面を強く蹴る
追手までは距離があるとは言っても
ホロの足なら恐らくあっという間に鉢合わせだろう
そして恐らく俺が地面に降り、
少し乱れた髪と服を整えるうちに全てが終わる
と、突然ホロが足を止めた
「どうした、ホロ。何かあったか……?」
そう訊ねた瞬間、辺りが強い光に包まれ、
俺は気を失った

286: 2008/09/20(土) 03:01:23.58 ID:FkjlcymD0
「……はっ!!……はぁ……!はぁ……!こ、ここは……!?」
目を覚ますとそこには……星空、そして平原
先ほどまでいた森の中ではなかった
「なんじゃぬし。夢でも見たかや?」
隣から聞こえた声に慌てて横を向く
そこには狼の姿ではない、いつも通りのホロがいた
「……!おい……ここは……どこだ……!?
圭一さんは?魅音さんは?レナさんに沙都子さんは!?」
そう言うと、ホロはぽかんと口を開けて言った
「ぬし……わっちから見れば子供と言っても、
もういい歳じゃろ?夢と現実の区別くらい付けんす」
ゆ……め……?夢だって……?
「ホロ、今のは」
「夢じゃ」

287: 2008/09/20(土) 03:02:30.82 ID:uf7KHgCAO
きっぱりと、やけにきっぱりとそう言い切られた
「ほれ、わかったらさっさと寝るんじゃな。睡眠は健康の秘訣じゃろ?」
そう言い、ホロはまた丸くなって寝てしまった
さっきまでのは……全部夢だと……?
…………嘘だ

288: 2008/09/20(土) 03:02:56.63 ID:FkjlcymD0
信じられる訳がない
こんなこと、絶対に信じられるか
ホロの言うことだろうが何だろうが、
絶対に信じられるか
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
……なんだろう 虫にでも刺されたのだろうか
さっきからやけに 手首と 喉が 痒い

290: 2008/09/20(土) 03:04:14.90 ID:uf7KHgCAO
前原圭一
雛見沢大災害を生き残り、親戚宅に引き取られる
しかし同年8月、階段から転落、頭部を強く打ち
病院に運ばれるが間もなく氏亡

竜宮礼奈
雛見沢大災害を生き残り、元母親とその再婚相手宅に引き取られる
しかし同年7月、母親、再婚相手、その子供と共に自宅で遺体として発見
母親、再婚相手、子供は三人とも包丁で全身を刺され氏亡
竜宮礼奈は自らの喉を掻き毟り氏亡していた
凶器と見られる包丁には竜宮礼奈の指紋が付着していたことから
竜宮礼奈が一家全員を頃し、心中したものとされている

292: 2008/09/20(土) 03:04:53.23 ID:FkjlcymD0
園崎魅音
雛見沢大災害を生き残り、両親宅に引き取られる
しかし同年8月、暴力団同士の抗争に巻き込まれ、重症
病院に運ばれるが間もなく氏亡

北条沙都子
雛見沢大災害を生き残り、気絶していたこともあり入院
しかし数日後、自ら喉を掻き毟り氏亡

293: 2008/09/20(土) 03:07:01.38 ID:uf7KHgCAO
気が付くと私は自分の家の寝床だった
「……んっ……。……はぁ……また……か……」
ついため息が出てしまうのも仕方ないだろう
「……羽入、いるの?」
「はい、梨花……。いますですよ」
「今は何月の何日?」
「6月3日なのです」
「前回もまたダメだったみたいね……」
「はい、梨花……残念ながら……」
「前回は……前の世界は確か……」
思い出した
「そう、レナが狂った世界だったわね」
「はい、その通りなのです」

294: 2008/09/20(土) 03:08:07.87 ID:FkjlcymD0
…………くすくすくす……そう、それでいい……
前の世界のことは、忘れなさい……
前の世界のゲームは、言わば反則
他のゲームの駒を使うなんて
ルール違反以外の何物でもない、そうでしょう?
だから、この世界はなかったことにしましょう
古手梨花はあくまでも
この世界の駒でゲームに勝たなくてはならない
ま、当たり前のことだけれどね……
くすくすくすくすくす……

296: 2008/09/20(土) 03:12:24.12 ID:FkjlcymD0
終わりです
ここまで付き合ってくれた人、ありがとうございました

今回もだいぶ叩かれたけど
支援してくれた人たちのおかげで頑張れました

でも正直ひぐらし×狼は無謀だった
前書いたひぐらし×ローゼンのやつはかなり良い感じだったんだけど

というわけでお疲れ様

298: 2008/09/20(土) 03:13:22.47 ID:1iFJkAjLO
面白かった 乙
ロレンスとホロどうなった

299: 2008/09/20(土) 03:13:34.28 ID:3+9eYfXz0

301: 2008/09/20(土) 03:14:30.14 ID:V375E9abO
ちょうど読み終わった

302: 2008/09/20(土) 03:14:55.34 ID:/OxVl2UyO




確かにロレンスどうなった?

305: 2008/09/20(土) 03:17:24.23 ID:uf7KHgCAO
ロレンスたちがどうなったのかはご想像にお任せします

308: 2008/09/20(土) 05:11:07.22 ID:Fso4Wi7m0

なかなか後味の悪い終わり方……実にひぐらしらしいな

引用: 賢狼ホロとロレンスが雛見沢に迷い込んだようです