1: 2010/06/07(月) 18:24:51.65 ID:/WCxYmg0
禁書サイドと超電磁砲サイドが交わればどのようになるのかと思い、スレ立てさせてもらいました。
矛盾が出ないよう原作も読み込みましたが、一応、原作未読者の方も読めるようにしています。
結構長くなると思います。一応バトルとシリアスものを目指してるつもりですが拙い表現もあるかもしれません。
あと「禁書サイド」=「魔術」っていうわけではありません。ここでの「禁書サイド」は世界観じゃなくて登場人物を指してます。
取り敢えず投下していきます。

3: 2010/06/07(月) 18:30:21.48 ID:/WCxYmg0
学園都市――。


美琴「喉乾いたわね……」

美琴は、とある食堂に入る――。
食堂、と言っても実際は内装が洋風の洒落た店内だ。メニューも、女の子向けばかりの軽食が揃っており、学園都市の女子学生たちに人気だった。

美琴「黒子も初春さんもジャッジメントの仕事だし、佐天さんは学校で補習。暇なのは私だけか……」

美琴はカウンターに向かい、レモンティーとサンドイッチを注文する。グラスの乗ったお盆を受け取ると、彼女は窓際の席に座った。

美琴「何よみんなして。暗い顔しちゃって…」

見渡した所、店内にはある程度女子学生たちが来客していたが、みな、あまり明るい顔をしているとも言えず、どちらかと言うと暗い表情を浮かべて会話をしていた。

美琴「以前4人で来たときは、店内は黄色い声で溢れかえってたって言うのに…。本当に今時の女子学生っ?って思うほどテンション暗いわね……。まあ、仕方ないけど…」
美琴「長居したってつまんないわね。帰ろうっと」

席を立ち上がり、グラスをカウンターに返そうとしたところ、美琴は誰かと衝突した。
相手が持っていたお盆が床に落ちる。

美琴「あ、ごめんなさい!」

女の子「大丈夫大丈夫。もう食べ終わったところだから」

美琴「そう、でも手伝うわ」

美琴は床に落ちた紙くずを拾い、ゴミ箱に捨てる。

女の子「ありがとう。いい人ね。みんなが疑心暗鬼になってる今では、ちょっとした気遣いが胸に響くわ」

美琴「どういたしまして」

ニコッと笑顔を見せる美琴。女の子も笑顔で返した。

女の子「あ」

美琴「どうしたの?」

女の子「席にケータイ忘れちゃったわ」

美琴「そう。じゃあ、私はもう帰るから」

女の子「うん、またね。元気でね」

美琴「貴女もね」
とある魔術の禁書目録 30巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

4: 2010/06/07(月) 18:41:22.25 ID:gNYZGno0
女の子は忘れた携帯電話を取りに行くため、席に戻って行った。
美琴はそれを見届けると、食堂を後にした。

美琴「さてと、どこ行こうかな…」





ズドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!!!!





――直後、激しい音が爆ぜ、突風が美琴を襲った。
視界が揺れに揺れ、身体が浮遊するような感覚を味わった美琴は、誰かの叫び声が自分の耳を突き抜けてくる中、鈍い音と共にアスファルトの地面に叩き付けられた。

美琴「ぐっ……!!」

何が起きたのかも理解出来ず、耳に霞がかかったような状況で、美琴は何とか身体を動かしてみる。
どうやら五体満足であることは確かなようだ。ところどころ、肌から出血してはいたが。

美琴「い……たい……」
美琴「あ………」

口中に血の味を噛み締めながら美琴がゆっくりと目を開けると、そこには誰かが倒れておりその人間の身体中から大量の血が流れ出ていた。

美琴「……氏んでる……」

急いで辺りに視線を巡らせてみる。
煙が周囲を覆い、モノが焼ける臭いが鼻をつんざく。
明瞭とも言いがたい光景の中に浮かび上がってきたのは、何体もの氏体と鮮血に染まりまくった地面だった。

「痛い痛い」

「いてぇぇ……チクショウ…」

「誰か助けて……」

幾つもの悲痛な呻き声を聞き、何とか身体が動くことを確かめた美琴は、側にあったポールに手を預け、よろよろと立ち上がった。

美琴「…………………」

つい2分前まで美琴がいた食堂の入り口からは黒い煙が吹き出ており、店内の状況は壊滅的と言えた。

美琴「………店が……無くなってる……」

阿鼻叫喚の地獄の中、美琴は茫然とその光景を眺めていた――。

18: 2010/06/07(月) 22:14:14.12 ID:Vf2bu9U0
ジャッジメント第177支部――。

美琴「っ…」

黒子「我慢して下さいましお姉さま。かすり傷で済んだのが不幸中の幸いでしたわ」

哀しそうな表情を見せる黒子に腕を見せ、美琴は応急処置を受ける。

初春「……御坂さんが無事で、本当に良かったです…グスッ」

美琴「泣かないでよ初春さん…。私はもう大丈夫だから、ね…」

初春「はい……」

支部には、黒子と初春がおり、美琴負傷の報を聞くと、佐天も馳せ参じて来た。

佐天「あ、御坂さん、ニュースやってますよ!」

美琴「え?」

4人は部屋に備え付けられたテレビに目を向ける。

『今日午後4時13分頃、喫茶店『ファニーランド』で発生した爆発事件についての続報です。
アンチスキルによると、現場は学区内に住む能力者たちの女子学生たちの憩いの場所となっており、氏傷者は少なくとも10人は越す模様です。
現場で採取された形跡から見るに、アンチスキルはこの爆発は意図的に起こされたものとして捜査を進めており、同部隊隊長は、この件について『能力者たちが多数集まる「ファニーランド」を狙った爆発テロとして、警戒レベルを上げると……』

佐天「…また、テロですね」

黒子「今回も能力者が狙われてますの……」

初春「これで、今月に入って5件目…。しかも被害者の中には無能力者もいることから、無差別テロであるのは明らか…。もう嫌です、こんなの……」

佐天と黒子と初春が、元気の無い声で話す。

20: 2010/06/07(月) 22:24:06.07 ID:mH9WXJw0
黒子「テロだけでなく、学園都市の要人暗殺も行われてますの。それどころか一昨日には、レベル4の学生が何者かによって殺害されています」

美琴「やっぱり…本気で今、学園都市ってやばい状況にあるのね…。こんなんじゃ、うかうか外出も出来ないわ……」

美琴は握り締めた手を見つめた。

美琴「……………………」

そして彼女は、先程自分が巻き込まれた爆発現場の様子を思い出す。

美琴「(私……あの時、何も出来なかった……。大勢の人たちが苦しみ、氏にそうだったのに……)」

彼女は悔しそうに顔を歪める。

美琴「(何がレベル5よ……何が『超電磁砲(レールガン)』よ。傷ついた人も助けられない超能力者に何の意味があるの!?)」

美琴の葛藤に気付いていないのか、黒子たち3人は会話を続ける。

黒子「ネット上では、『学園都市崩壊のXデーはもう間近』などとも噂されてますの…」

初春「何で……こんなことに……私たちはただ、普通に生活してただけなのに……」

黒子「学園都市の外では、私たちを『普通』ではない、『化け物』と称している方々や団体が増え始めてますの。彼らによれば、私たちは脅威であり、排除すべき対象とのことですわ」

佐天「確か、『神に背く者には鉄槌を』って言って、色んな国の色んな秘密結社の工作員が学園都市に潜り込んでる、って噂も聞きます。もしかしたら、一連の爆発事件はその人たちによるものなんじゃ…」

黒子「可能性は充分有り得ますわね。どちらにしろ、我々『風紀委員(ジャッジメント)』や『警備員(アンチスキル)』が全力で対策を行っているので、すぐに事態は沈静化しますわ」

美琴「なら、いいけどね……」

黒子佐天初春「…………………」

美琴の言葉を機に、4人は一斉に黙りこくった。

21: 2010/06/07(月) 22:32:31.43 ID:mH9WXJw0
初春「ところで、固法先輩遅いですね……。確かお昼頃から、アンチスキルとの合同捜査に向かっていたはずですけど…」

黒子「そう言えばそうですわね。連絡もありませんし……」

Prrrrrrrrrrr.....

その時、支部の電話が唐突に鳴り始めた。

佐天「あ、電話だ」

黒子「固法先輩ですわきっと。どれどれ」

ガチャッ

黒子「はい、もしもし。こちらジャッジメント第177支部の白井と申し……」
黒子「………えっ!?」
黒子「…そ、それは本当ですの??」

突然、黒子の表情が一変した。

美琴佐天初春「???」

黒子「………そんな…」
黒子「………何で…」

幽霊でも見たような口調で、黒子は言葉を搾り出す。

美琴「何? どうしたの黒子?」

初春「白井さん?」

佐天「何かあったんですか?」

22: 2010/06/07(月) 22:40:21.52 ID:mH9WXJw0
美琴たちが心配して声を掛ける。

黒子「分かりましたわ……。これから向かいますの…」

トーンを低くし、黒子は震える手で電話を切った。

美琴「ちょっと黒子? 何があったのか言いなさいよ」

顔面が蒼白になった黒子の顔を見、美琴は異常な空気を察知する。
そして、黒子は静かに、一言だけ呟いた。

黒子「……固法先輩が……」

美琴「?」





黒子「…氏にましたの……」





美琴佐天初春「……………え?」

衝撃的な事実が、4人を襲った。
そして、彼女たちはこの時知る由もなかった。これが、地獄の日々の始まりを告げる合図だったことに――。

31: 2010/06/08(火) 21:52:46.22 ID:0/g74E.0
第7学区・とある病院――。

美琴「先生!」

カエル医者「やあ君たちか」

黒子「固法先輩は? どこですの!?」

初春「氏んだなんて嘘ですよね!?」

佐天「だって昨日まであんなに元気にしてたんですよ!!」

懇願するような表情を浮かべ、美琴たちは固法の検氏を担当したカエル顔の医者に詰め寄っていた。

カエル医者「残念ながら……」

カエル顔の医者がまるで自分の身内が氏んだように静かに答える。

黒子佐天初春「そんな……!!」

初春「…先輩……固法先輩………やだぁ……グスッ…ヒグッ…」

佐天「初春、大丈夫…?」

初春「だって……何で……急に…」
初春「わあああああああああああああああああああん」

耐え切れなくなったのか、初春が泣き始めた。

佐天「初春……グスッ…泣いちゃ、駄目だよ……グスッ」

佐天も初春に影響されたのか声に嗚咽が混じる。

黒子「……どうして…こんなことに…」

カエル医者「……………」

美琴「先生…」

蛙医者「ん?」

美琴「ならせめて……固法先輩の遺体と……会わせてください…」

黒子「お姉さま…」

美琴「最後に、最後だけでも……今までお世話になったお礼を言っておきたいんです……」

美琴はカエル顔の医者を見据えて頼み込む。

33: 2010/06/08(火) 21:59:42.48 ID:0/g74E.0
黒子「そうですわ……。私も同じです。先生、お願いしますわ」

佐天「あたしからもお願いします!」
佐天「ね、初春も、そうでしょ?」

初春「ヒグッ……ヒグヒグッ…はい…グスッ…お願い…じまず…」

4人は目に涙を浮かべてカエル医者に懇願する。
無言でそれを見ていたカエル医者だったが、やがて彼は口を開いた。

カエル医者「……それは無理なんだよ……」

美琴黒子佐天初春「何で!!??」

カエル顔の医者の言葉に美琴たちは抗議にも似た声を上げた。

カエル医者「僕としても会わせてあげたいんだがね?」

美琴「じゃあ、どうして!!」

カエル医者「“物理的に”、不可能なんだよ…」

黒子「物理的?」

一言聞いただけでは、カエル顔の医者が何を言っているのか分からなかった。
彼も美琴たちの表情を見てそれを汲み取ったのか、ゆっくりと言葉を付け足した。

カエル医者「ああ……何故なら彼女は…」





カエル医者「爆氏したからね」





美琴黒子佐天初春「え………」

美琴たちの脳内が真っ白になった。

35: 2010/06/08(火) 22:06:27.61 ID:0/g74E.0
ジャッジメント第177支部――。

初春「グスッ…ヒグッ…ヒッグヒッグ…」

美琴「……………」

黒子「……………」

佐天「……………」

静寂な室内に、初春の嗚咽だけがこだまする。
黒子は手にした固法の遺品である歪んだ眼鏡を見つめていた。

佐天「……まさか、固法先輩も爆発現場にいたなんて…」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

カエル医者「固法くんは、あの爆発に巻き込まれて氏んだんだ」

美琴「そんな……!!」

カエル顔の医者は美琴たちから視線を外し、事の顛末を打ち明けた。

カエル医者「たまたま、テログループの手掛かりを求めてあの喫茶店にいたとの話みたいでね?」

美琴「じゃあ…私と同時刻に店内にいたんだ」

カエル医者「その可能性が高いね?」

美琴「………………何で…」

言葉を失くす美琴。それを横目で窺い、黒子が訊ねた。

黒子「では、固法先輩の遺体は……」

36: 2010/06/08(火) 22:10:29.21 ID:0/g74E.0
カエル医者「無い…と言えば、嘘になるね?」

黒子「え?」

カエル医者「正確にはある。だが、“ある”だけだ」

佐天「先生、それってどう言う……」

初めは、カエル顔の医者の使う日本語がおかしいのかと思った。
だが、次に彼が発した言葉を聞き、美琴たちは衝撃を受けた。



カエル医者「君たちが見るもんじゃない」



美琴黒子佐天初春「!!!!!!!???????」

カエル医者「これは現場に残ってた彼女のものだ。君たちが持っておくんだ。いいね?」

そう言ってカエル顔の医者は懐からある物を取り出し、黒子に渡した。

黒子「これは……固法先輩の眼鏡…」

初春「固法先輩……」ガクッ

急に、初春がその場に崩れ落ちた。

佐天「初春! どうしたの!? 初春!!」

佐天が初春の身体をゆする。

カエル医者「ショックで気絶したようだね? ちょっと病院のベッドを借りるといい」

黒子「……ではお言葉に甘えさせてもらいますわ」

佐天「……じゃ、あたしが運びます。よいしょ……」

佐天が初春をおぶる。
美琴はその光景を見て、口中に一言呟いていた。

美琴「(固法……先輩……)」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



37: 2010/06/08(火) 22:16:42.58 ID:0/g74E.0
美琴「私が……あの時、店内の固法先輩に気付いていれば、あるいは…」

悔しそうに、美琴が話す。

黒子「お姉さま、もう過ぎたことです。今更仮定の話をしても仕方がありませんわ」

佐天「白井さん……」

美琴「黒子…過ぎたことだなんてよく言えるわね」

黒子「私だって…グズッ……本当は…ヒグッ…どうしようも…グスッ」

黒子の言葉に嗚咽が混じり始めた。

御坂「黒子……」

佐天「やめてよ白井さんまで…。みんなして、泣かないでよ…。初春もさあ、いい加減泣き止んで……」

初春「だって…グスッ…だってだって…ヒグッ」

佐天「何言ってるの初春……グスッ…あれ?…何でだろ……あたしまで…グスッ」

部屋に3人分の嗚咽が響く。

美琴「何よ、佐天さんまで……」

佐天「そういう御坂さんだって……グジュッ」

美琴「え?あれ? …何でだろ?」

美琴は自分の目元に触れた。小さな水滴が指についた。

美琴「う……う……」

黒子「おねえ……さま…まで…グスッ…」

佐天「……みんな…ヒグッ…泣き虫…なんですね…グスッ」

初春「……御坂…さん…グスッ」

美琴黒子佐天初春「わああああああああああああああああああああん」

限界だった。彼女たちも所詮は普通の女子中学生でしかなく、感情を制御する能力までは持ち合わせていなかったのだ。
顔を見合い、4人は互いを慰めるように寄り添って泣きじゃくっていた。

38: 2010/06/08(火) 22:20:10.05 ID:0/g74E.0

『臨時ニュースです!! 先程、第6学区で大きな爆発が……』

『昨夜、自宅で殺害された科学者の服に付着した髪の毛から…』

『見て下さい!! あの煙! まだ避難を終えていない生徒たちが中に……っ!!』

『カメラを止めろ!! ここはアンチスキル指定立ち入り区域だ!!』

『現在、一部の学区でスキルアウトたちによる暴動が起きているとの情報が…』

39: 2010/06/08(火) 22:26:21.96 ID:0/g74E.0
翌日・ジャッジメント第177支部――。

初春「……………」ウツラウツラ

部屋の一角にあるスチールデスク。そこで初春は、電源が点いたままのパソコンを前にして座っていた。
頭がリズムを刻むように上下に揺れる。

初春「はっ!」
初春「……ダメダメ」ブンブン

目下、初春は眠気と格闘していた。

初春「……………」ウツラウツラ

ピトッ

初春「ひゃう!」

初春の目が大きく開かれる。どうやら冷たい何かを頬っぺたに押し付けられたようだった。

初春「あ、佐天さん…」

佐天「大丈夫? ちょっと休んだら?」

初春が顔を向けると、缶コーヒーを持った佐天がそこに立っていた。
佐天は初春に缶コーヒーを渡す。

初春「ありがとうございます。でも、今は休んでる暇は無いですから……」

ゴクゴクと初春は行儀よく缶をあおる。

佐天「そうだよね……」
佐天「白井さんは大丈夫?」

佐天は後ろに顔を向けた。黒子がデスクに座りパソコンのキーボートを叩いていた。

黒子「当たり前です。徹夜など、ジャッジメントにとって日常茶飯事ですわ」
黒子「しかし眠いことも確か……ふぁーぁ…」

佐天「白井さんも缶コーヒー、飲みます?」

黒子「ではお言葉に甘えて」

佐天「はい」

黒子に缶コーヒーを渡す佐天。

佐天「無理は駄目ですよ」

40: 2010/06/08(火) 22:33:00.25 ID:0/g74E.0
黒子「ありがとうございます」

佐天「それで、どうです? 何か新しいこと見つかりました?」

黒子「見つかるも何も……所詮はジャッジメントに回ってくる情報なんて限られてますの」
黒子「一連のテロ騒動や要人暗殺に関する重要情報はアンチスキルの方で一元化して管理されてますし、私たちが触れられる情報は僅か」
黒子「一応、管轄区内として、昨日の『ファニーランド』での捜査は我々に任されてる部分は大きいですが」

佐天「で、テログループの尻尾とか掴めました?」

黒子「ダメですわ。せいぜい分かるのは爆発現場で氏亡が確認された学生たちの直前の行動や友人関係のみ。しかし、やはり彼女たちから犯人の足跡を辿るのは無理ですわね」

佐天「そっかー。じゃあ初春は?」

初春「zzzzz......」

佐天「あらら、寝ちゃってる」

黒子「初春も徹夜でしたからね」

佐天「みんな頑張ってるんですね」

黒子「…殉職した固法先輩を頃した犯人を見つけるまでは、絶対諦めませんの。それは恐らく初春も同じはず」

佐天「悔しいですよね……」

黒子「ええ、とても……」

一時、静寂が漂った。

『新しい情報が入ってきました』

その時、テレビからニュースを報せるアナウンサーの声が聞こてきえた。

佐天黒子「!!」

『第7学区の学生2名が行方不明となった事件について、捜査を進めていたアンチスキルは事件発生から4日後の今日、更なる情報を求めて学生2名の顔写真を公開しました。2日前の朝、『友達が帰らない』という通報を受け、アンチスキルが捜査を開始していましたが……』

佐天「今度は誘拐事件ですか…っていうか、最近誘拐事件もかなりの頻度で増えてますよね……」
佐天「何かもう学園都市、世紀末状態じゃないですか……」

黒子「上から小耳に挟んだ話ですが、現在、学園都市には各国の工作員だけでなく、特殊部隊、秘密結社、新興宗教団体などが紛れ込んでまるで戦国時代の様相を示しているそうです。噂では、『内戦勃発』も間近だとか…」

佐天「あたしたちは、どうなるんでしょうか?…正直、恐くて仕方ありません」

黒子「大丈夫ですわ。学園都市がそう易々と崩壊することは有り得ません。所詮、他国の工作員だろうが、軍隊だろうが、こちらには能力者が五万といるのですから」

佐天「……なら、いいんですけど」

41: 2010/06/08(火) 22:40:40.58 ID:0/g74E.0
とある公園――。

美琴「………まただ。またあいつが来ない」

自動販売機の側のベンチに腰掛け、缶ジュースを飲む美琴。

美琴「ここ1週間、あいつの顔全然見ないわね。もしかして避けられてんのかしら?」

美琴は空を仰ぎ見、溜息を吐き出す。

美琴「いい天気ねー。こうしてると、平和なんだけどねー」

顔を正面に戻し、続きを飲もうとした美琴の目にある人物の姿が映った。

美琴「あれは……!!」




インデックス「………とうま……」トボトボ

公園の一角を、彼女は暗い表情のまま歩いていた。頭の中に10万3000冊の魔導書を記憶するイギリス清教会の修道女――インデックスだった。

美琴「ちょっとあんた!!」

と、突然インデックスは声を掛けられた。

インデックス「え?」
インデックス「うわ、短髪!」

急に美琴が現れたためか、お化けを目撃したように驚くインデックス。

美琴「うわ、って何ようわって」

インデックス「………」ダッ

何故かインデックスが、慌てたように逃げ出そうとする。

美琴「あ、こら逃げるな!」

ガシッ

咄嗟に、インデックスの腕を掴む美琴。

42: 2010/06/08(火) 22:47:29.73 ID:0/g74E.0
インデックス「は、離すんだよ短髪」

ニャ~

インデックスの胸の中の三毛猫、スフィンクスが鳴いた。

美琴「ちょっとあんたに聞きたいことがあるのよ」

インデックス「知らないんだよ知らないんだよ。とうまは何も関わってないんだよ」

美琴「はあ?」

インデックス「はっ!」

しまった、と言うように口を両手で塞ぐインデックス。

美琴「あんた、あいつ…上条当麻がどこにいるか知らない? 近頃見かけないんだけど」

インデックス「私は何も答えちゃいけないんだよ」

美琴「何言ってんの?」

必氏に何やら弁解するインデックスに対し、美琴は怪訝な顔をする。

ニャ~

インデックス「わっ、駄目だよスフィンクス。黙ってるんだよ!」

ニャ~

インデックス「じゃ、じゃあ私はこれで行くから!」

美琴「え、ちょっと待ちなさいよ」

インデックス「短髪も気をつけるんだよ」

美琴「え?」

それだけ残すと、インデックスは走り去っていった。

美琴「あ、逃げた……」
美琴「もう、逃げ足速いわね…」

美琴は呆然と彼女の姿を見送る。

43: 2010/06/08(火) 22:55:05.34 ID:0/g74E.0
夕方・裏通り――。

泡浮「随分遅くなってしまいましたわね」

湾内「早く寮へ戻りませんと」

夕日が落ち始めた頃、常盤台中学に通う2人のお嬢さま――泡浮と湾内は寮への帰路に着いていた。

泡浮「にしても、本当に学園都市はどうなってしまうのかしら?」

湾内「恐いですわね」

不安を口にする彼女たち。

ズッズウウウウウウウン!!!!!

その時、遠くの方から何かが爆発する音が聞こえてきた。

湾内「今のは……」

泡浮「とても遠くに感じられましたが、またしてもどこかで事件かテロが起こったのでは……」

2人は顔を見合わせると無言になる。

湾内「………………」

泡浮「………………」

湾内「…急ぎましょう」

泡浮「ええ」

小走りになる2人。そう広くもない道を彼女たちは2人して駆ける。
辺りに人はおらず、先程の爆発もあってか、彼女たちの焦燥感は増しつつあった。

泡浮湾内「!!??」

急に立ち止まる2人。

泡浮「…あ、あれは…?」

湾内「……何でしょう? 嫌な予感がします。迂回した方が良さそうでは?」

2人の視線の先に、夕日を背にして立っている1人の男がいる。
ポケットに手を突っ込んだその男の顔は逆光になっていて判然としないが、どうやら湾内と泡浮の2人をじっくり見つめているように見えた。

泡浮湾内「……………」ゾクッ

44: 2010/06/08(火) 23:02:51.64 ID:JOGmnjk0
2人の脳裏に、最近頻発中の行方不明事件が蘇る。
視線をゆっくりと交わした2人は踵を返し、急いで別の路地へ逃げ込んだ。

泡浮「ハァハァハァ……」

湾内「ハァハァハァ……」

泡浮湾内「!!!!!」

また立ち止まる2人。
彼女たちが恐怖の視線を注いだその先には、先程とはまた別だが1人の男が立っていた。
その男の背後の空は既に暗くなっていて、顔は判然としない。

泡浮湾内「………っ」

寄り添った2人が来た道を引き返そうと後ろを振り向いたとき、彼女たちの目の前に、また男が1人立っていた。

泡浮湾内「!!!!」

恐らくは、先程の通りで待ち伏せしていた男だ。

泡浮「いや……」

湾内「た、助けてください……」

泡浮と湾内は弱々しく言葉を搾り出す。
しかし、2人の男たちは彼女たちを挟み撃ちにするように徐々に距離を縮めてくる。

泡浮「通報……しますわよ!」

携帯電話を取り出す泡浮。
後ろから迫ってきた男が泡浮の携帯電話を奪おうと触れた。

泡浮「やめて!!」

咄嗟に泡浮は手を引っ込める。

湾内「来ないで……」

男たちとの距離は既に半径2メートル以内。
泡浮と湾内は前から迫ってきた男に視線を向けた。

男の口元が、不気味に歪んだ――。

46: 2010/06/08(火) 23:37:50.30 ID:hR4QmeM0
時間は少し遡り…ジャッジメント某支部――。
連日のテロや殺人・誘拐事件などの影響を受けてか、室内は普段より何倍もの学生たちで溢れていた。

「本部には連絡取れたのか!? アンチスキルは何て言ってるんだ? 全然、情報が回ってこないじゃないか!!」

「スキルアウトの暴動だぁ? 知るかそんなこと、他の支部へ回せ!!」

怒号が飛び交い、熱気が充満する。元々、学区内でも比較的施設が大きかったためか、現在ここに詰めているジャッジメントの学生の数は50人近くに昇っていた。

「支部長~!」

「あ?」

1人の女子生徒が慌てて支部長と呼ばれた男の下に駆け寄ってきた。彼女の手には1つの箱が収められている。

「何だそりゃ?」

「たった今、アンチスキルの方がこちらの物を届けに来ました~」

「箱?」

「何か、昨日起きた放火事件の現場に捨ててあったものらしいです。アンチスキルでは調査優先レベルが低いとのことでこちらに回してきたとか」

「チッ、俺たちはアンチスキルの残飯処理じゃないってのに……。しかも忙しいこの時に。もういい。俺が調べとくからお前は仕事に戻れ」

「分かりました」

女子生徒が机に戻っていくのを見届け、支部長は箱に手をかけた。

「一体、今更何だってんだ。………って、何だコリャ?」

箱の中には、粘土状のものと時刻を刻むデジタル式の表示盤が入っていた。

「………時計?」

何か、様子がおかしい。しかし、今こうしている間にも、表示盤に刻まれた数字は「00:10」……「00:09」と1つずつ数字を減らしていっている。

「!!!!!!!!」

嫌な予感が、支部長の頭を過ぎった。

「お……

カッ!!!!!!!!!!!!!!!

箱を運んできた女子生徒に声を掛けようとする時間すら許されなかった。
直後、ジャッジメント支部は一瞬で炎と爆音に包まれた。

48: 2010/06/08(火) 23:44:34.84 ID:hR4QmeM0
ジャッジメント第177支部――。

黒子「何ですって? ジャッジメントの支部が狙われた!?」

初春「ええっ??」

電話を手にし、大声で聞き返す黒子。
初春が驚嘆の声を上げる。

黒子「……分かりましたの。気をつけますわ」ガチャン

黒子が電話を切る。

初春「白井さん!!」

不安な表情を浮かべ、初春が立ち上がる。

黒子「今言った通りですわ。隣の学区にある支部で爆発がありましたわ」

初春「そんな……っ!!」

佐天「怪我人は、いたんですか?」

黒子「まだ具体的なことは分かりませんが、氏傷者は50名近くになるとのことですわ」

初春「……酷い……何て、酷いことを……」

ショックの余り、初春は無意識に椅子に腰を降ろした。

佐天「何でジャッジメントの支部が狙われたんですか?」

黒子「分かりませんが、恐らくまたどこかのテログループがやったのでしょう。あの支部は高レベルの能力者がたくさん在籍していましたから……」

佐天「またですか…。みんな無関係なのに…。どうしてこんなことに……」

黒子「とにかく、こちらも不審物には注意せよ、とのことですわ」

佐天「どういう意味です? もしかしてこの支部も爆発されるってこと?」

初春「ええっ!! そ、そんな……」

黒子「落ち着きなさいな初春。そう連続してジャッジメントの支部を狙うと、警戒されるのはテログループも分かっているはずです。彼らもそういった点は注意するでしょう」
黒子「取り敢えず、最寄りのアンチスキルの部隊が用意出来次第、ジャッジメントの全支部に速やかに警護につくことが決まりましたの。ですから、我々の業務に支障はありませんわ」

佐天「でもまさか、ジャッジメントの支部まで狙われるなんて……。これで学生の被害も一気に増えましたね」

黒子「犯人たちももっと過激になるでしょうね。もしかすれば近いうち、学園都市内の全校に休校措置が出されるかもしれませんわ。そうなる前に事が収まればいいのですが……」

49: 2010/06/08(火) 23:51:30.06 ID:hR4QmeM0
初春「……………」

佐天「初春、元気出しなよ。落ち込んでても仕方がないよ」

初春「だって、無実の人が……それも私たちとそう年齢も変わらない人たちが氏んだんですよ……。こんなの…酷すぎるじゃないですか」
初春「それに、この学園都市にいる限り……いつ私たちも同じ目に遭うか分からない……。ジャッジメントの私たちなら特に……。嫌ですよそんなの……逃げる場所も無いのに…」

佐天は初春の手を見る。彼女の手は僅かに震えているようだった。

佐天「……………」

黒子「……………」

美琴「みんないるー?」

出し抜けに後ろから声を掛けられ、3人は肩を少しビクつかせた。

黒子「あ、あらお姉さまでしたの…」

美琴「何よ? 私だと何かダメだった?」

黒子「い、いえ別に。それで、どうかしましたの?」

美琴「実は……」

黒子「あら、貴女がたは……」

泡浮「こんにちわ」

湾内「お邪魔します」

佐天「あ、湾内さんと泡浮さんだー」

黒子たちが美琴の背後を見ると、そこには泡浮と湾内が行儀よく立っていた。

初春「何かあったんですか?」

美琴「うん、実はちょっとねー」
美琴「ほら、ここに座って」

泡浮湾内「はい……」

促され、椅子に座った泡浮と湾内の顔はどこか怯えているようにも見えた。

黒子「それで、一体何が?」

美琴「実はさっき、帰り道で会ったんだけどさ。何か2人とも、誰かに襲われかけたみたいで」

黒子「襲われた??」

50: 2010/06/08(火) 23:57:57.48 ID:3BDUCYM0
初春「だ、大丈夫だったんですか?」

泡浮「ええ…取り敢えずは……」

と、言うものの泡浮と湾内の表情は暗い。

佐天「何それ……。襲った人の特徴は覚えていますか?」

湾内「それが…暗い路地でよく見えなかったので……。ただ、男性の2人組みであったことは覚えています」

美琴「確か、挟み撃ちにされて路地裏に追い込まれたんだっけ?」

泡浮「ええ。でも、2人して必氏で逃げたので、何とか捕まらずに済みましたわ」

黒子「襲われたのはいつどこで?」

泡浮「確か…第7学区の第18番通りだったかと……」

湾内「時間は…あんまり覚えていないんです。襲われた後、2人でずっと逃げてましたから。でも確か、16時から17時の間ぐらいだったかしら……」

初春「あそこは、昼でも人通りが少ない場所ですからね。でも無事で良かったです」

佐天「男2人で追い詰めて、女性を襲おうとするなんて最低ですね」

泡浮「…とても怖くて……何かされるのではないかと……今思い出しても…震えが…」

湾内「……また狙われるのではないか、と思うと……」

黒子佐天初春「……………」

完全に怯えている泡浮と湾内の2人。
今現在の学園都市ではどこで何が起こっても仕方がない状態と言えたが、固法の件もあり、彼女たちもまた他人事とは言えなかった。

美琴「ねぇ、泡浮さん、湾内さん」

泡浮「はい?」

湾内「…何でしょう?」

美琴「何かその男たちの手掛かりとか無いの?」

泡浮と湾内が出来るだけ元気を取り戻すように、美琴はなるべく優しい口調で訊ねた。

泡浮「手掛かり…ですか……」

美琴「うん。何でもいいんだ。もしあったら、そいつらを摘発するのに有利なものになるかもしれないし。外部の人間ならともかく、学園都市内に住んでる奴だったとしたら、すぐ見つかると思うわ」

泡浮「そう…言われましても……」

51: 2010/06/09(水) 00:04:46.77 ID:eCnvMVA0
湾内「怖くて…逃げるだけで精一杯だったので……」

美琴「そっか…」

泡浮と湾内は一生懸命思い出そうと試みる。

泡浮「………………」

湾内「………………」

泡浮「あ!」

美琴「?」

泡浮「お待ちになって」

何かを思い出したのか、ガサゴソと学生鞄を漁る泡浮。美琴たちはその様子を見守った。

泡浮「これですわ!」

泡浮が取り出したのは、彼女の携帯電話だった。

初春「ケータイ…ですか……?」

泡浮「ええ」

黒子「でも、それが何の手掛かりに?」

泡浮「この携帯電話を、男の1人が触れたのです!」

美琴「ホ、ホントなの!?」

泡浮「ええ、確かに見ましたわ。私が通報しようとこの電話を取り出したとき、男が奪おうと一瞬触ってきましたから」

湾内「そう言えば…そんなことが……」

美琴「なるほど! それじゃあそのケータイについた指紋を辿れば……」

初春「簡単に犯人が割り出せます!」

佐天「やったー! ざまあ見ろですね!」

美琴たちは歓喜の声を上げる。

美琴「黒子!」

黒子「分かりましたわ。では早速、指紋鑑定の依頼を出しましょう。………ですが、どこに?」

美琴「………」ニヤッ

52: 2010/06/09(水) 00:08:07.72 ID:eCnvMVA0
黒子「?」

美琴「……あの人のところなら…きっといち早く、正確な結果を出してくれるはず……」

どや顔になる美琴。

黒子「誰ですの?」

ニヤッと不適な笑みを浮かべたかと思うと、美琴は叫んでいた。

美琴「リアルゲコ太のことよ!!!!」ドーン!!!

黒子佐天初春「えっ?」

美琴「忘れたの? あの、カエル顔の先生のことよ! あの人なら、きっと……!!」

右手にガッツポーズを作り、勢いよく椅子から立ち上がる美琴。
一同は茫然としながら、彼女のどや顔を見る。

黒子「……………お言葉ですがお姉さま」

美琴「ん? 何?」

黒子「あの方は医者であって、科学者ではないのでは……?」

美琴「…………あ」

直前の体勢のまま、美琴は動きを止める。

黒子「まあ、念のため聞いてみますか」

60: 2010/06/09(水) 22:44:57.54 ID:2TB5W7w0
とある病院――。

黒子「ではお願いしますの」

カエル医者「うむ。分かったよ」

泡浮の携帯電話に付着した指紋の鑑定依頼を黒子たちから受けたカエル顔の医者。意外にも彼はそちらの畑にも精通していたのか、快く承ってくれた。
そして早速、黒子が空間移動(テレポート)を繰り返し病院まで携帯電話を持って来たのだった。

黒子「まさか先生が指紋鑑定出来るとは、思いませんでしたの」

カエル医者「これでも学園都市で一、二を争う技術を持っていると自負している医者だよ?」
カエル医者「科学の分野についても詳しいんだよ。医者が科学に精通していても、この街では何も不思議ではないと思うがね?」

黒子「クス……確かにそうですわね。ご協力に感謝致しますわ」

カエル医者「何これぐらい。ここには最新の機器が揃ってるからね。結果は早く出ると思うよ?」

黒子「ありがとうございます」

カエル医者「いやいや、君たちとは縁があるからね。これぐらい朝飯前だ」

黒子「感謝してますわ」

一礼し、黒子はまたテレポートでジャッジメント支部へ帰って行った。

61: 2010/06/09(水) 22:51:40.79 ID:2TB5W7w0
ジャッジメント第177支部――。

黒子「ただいま帰りましたわ」ブン

部屋の中央に突然出現する黒子。

美琴「あ、お帰り黒子ー」

初春「ちゃんと受け取ってくれましたか?」

黒子「もちろん。結果は早く出るそうですわ」

美琴「良かったー」

佐天「これで後は犯人を見つけるだけですね!」

美琴「泡浮さん、湾内さん、ゲコ太はとても優秀で信頼できる医者なの。だから安心して」

泡浮「はい!」

湾内「皆様、ありがとうございます!」

感謝し、頭を下げる2人。美琴たちは笑みを浮かべて彼女たちを見た。

ビーッ

その時、呼び鈴が鳴った。

初春「あ、誰か来たようですね」

黒子「どれどれ」
黒子「はい、どなたですか?」

黒子が部屋に取り付けられたテレビドアホンに応じる。

『アンチスキルのものじゃん。こちらの支部を警護しに来たじゃん』

そう言って、画面越しにIDを見せる警備員(アンチスキル)。

黒子「分かりましたわ。わざわざご苦労ですの。今迎えに参ります」

美琴「アンチスキルが来たの?」

黒子「ええ。下まで向かいに行きますわ。初春、お茶を用意しておいてくださる?」

初春「分かりました、今すぐに」ガタッ

初春に指示を出すと、黒子は下に降りていった。

62: 2010/06/09(水) 22:58:58.66 ID:2TB5W7w0
黄泉川「アンチスキルの黄泉川じゃん。どうぞよろしくするじゃん」

鉄装「同じく鉄装です。宜しくお願いします」

警備員(アンチスキル)の2人――黄泉川と鉄装が挨拶をする。

一同「お願いしまーす」

初春「はいこれ、お茶です」

黄泉川「サンキューじゃん」

美琴「(取り敢えずこれで、この支部が狙われる危険はもう無いわね)」

佐天「(あ、あの人、特別講習の時の先生だ……)」

黒子「わざわざ警護に着いて下さり、ありがとうございますわ」

黄泉川「取り敢えず、今この支部は私の部隊が守ってるじゃん。爆発物の反応もなし。安心するじゃん」

黒子「やはり、隣の学区の支部の爆発はテログループによるものなので?」

早速、黒子が気になっていたことを訊ねた。

黄泉川「いや、それはまだ分からないじゃん。ただ、支部に正体不明の怪しい男が不審物を届けに来たという証言は得ているじゃん。今、我々はその男の行方を追っているところじゃん」

黒子「なるほど」

美琴「あの……」

黄泉川「ん?」

美琴「もし良ければ、こちらの子たちを2人、寮まで届けてくれますか?」

黄泉川「どうした?」

黄泉川は美琴の後ろに視線を向けた。怯えたような顔つきの女の子が2人、立っていた。

美琴「実はこの子たち、さっき街で暴漢らしき男たちに襲われかけて……」

黄泉川「ほう、どこで?」

黄泉川が眉を顰めて聞く。

泡浮「18番通りです」

黄泉川「なるほど。あそこは人通りが少ないからな。男の顔に特徴は?」

湾内「それが……暗くてよく見えなかったので…」

63: 2010/06/09(水) 23:05:36.16 ID:2TB5W7w0
黄泉川「分かった。その件については、こちらも本部に報告上げとくじゃん」

泡浮湾内「ありがとうございます!」

泡浮と湾内がお辞儀をする。

黄泉川「鉄装、車の用意しとけ」

鉄装「え? ど、どうしてですか?」

黄泉川「私たちがこの子たちを寮まで送るからに決まってるじゃん。早くしろ」

鉄装「わ、分かりました!」

慌てるように鉄装は支部を出て行った。

黒子「申し訳ありませんわ黄泉川先生。何から何まで面倒を見てもらって」

黄泉川「なーに、能力者と言えど学生たちを守るのは教師の務めじゃん?」

ニコッと黄泉川は笑みを見せた。

黄泉川「基本的に第7学区のこの辺りは直属の管轄だから、用があればすぐ飛んでくるじゃん」

佐天「(いいなー…憧れるな、黄泉川先生…)」

佐天は目を輝かせて黄泉川を見つめる。

初春「アンチスキルの方がいれば、百人力ですもんね!」

黄泉川「よすじゃん。照れるじゃん」

Prrrrrr......

その時、黄泉川の懐の携帯電話が鳴った。

黄泉川「はい、黄泉川」

鉄装『車の用意出来ましたー』

黄泉川「了解、すぐ行くじゃん」ピッ
黄泉川「で、常盤台の寮は『学び舎の園』だったっけか?」

泡浮「あ、いえ…最近、私たちは『学び舎の園』の外の寮に移ってきたので、そちらで宜しくお願いします」

美琴「あれ? そうなんだ」

湾内「はい。寮の一部が改築中なので。一時的ですけど、婚后さんたちと一緒に移ってきたんです」

64: 2010/06/09(水) 23:13:00.90 ID:2TB5W7w0
黒子「ほーう…あの婚后さんも」

泡浮「なんでも『御坂さんたちが寂しいでしょうから私たちも移って差しあげましょう』とか何とか」

初春「(何という分かりやすいツンデレ)」

美琴「また挨拶に行っといたほうがいいかもね」

黒子「ですわね。また皮肉たっぷりの嫌味ばかり言われるのかもしれませんが」フン

黄泉川「じゃ、そういうことでそこの2人、一緒に来るじゃん」

泡浮「はい」

湾内「分かりました」

黄泉川「私たちはこの子らを寮まで送ったら、また本部へ戻るじゃん」
黄泉川「私の部下たちが支部を警護してるので問題は何もないと思うが、何か困ったことがあったらこの番号に連絡するじゃん」

黄泉川は懐から取り出した名刺を黒子に渡した。

黒子「恩に切りますわ」

泡浮「では、御坂さま、白井さん、佐天さん、初春さん、今日はお世話になりました」ペコ

湾内「とても感謝していますわ」ペコ

黒子「どういたしまして」

佐天「気を付けて帰って下さいね」

初春「また何か困ったことがあったら、遠慮なく言ってください」

美琴「いつでも私たちが助けてあげるんだからさ!」

泡浮湾内「ありがとうございます」

手を振る御坂たち。泡浮と湾内も手を振り返し、彼女たちは黄泉川に連れられ支部を後にした。

65: 2010/06/09(水) 23:20:31.60 ID:2TB5W7w0
翌日・とある病院――。

放課後、美琴と黒子はカエル顔の医者から指紋鑑定の結果が出たという報せを聞き、病院まで馳せ参じていた。

黒子「まさかこんなに早く鑑定結果が出るとは思いませんでしたわ」

美琴「さすがゲコ太ね!」

黒子「あ、いましたわ。先生~!」

遠くにカエル顔の医者の姿を視認すると、黒子が手を振った。

カエル医者「ん? おお、君たちか」

黒子「今回の件ではとてもお世話になりましたの」ペコ

美琴「ありがとうございます!」

カエル医者「あー…まあ、それはいいんだがね…?」

2人の礼を聞くと、急にカエル顔の医者の表情が申し訳無さそうに曇った。

美琴黒子「?」

黒子「どうかいたしましたの?」

カエル医者「実は……」



研究室――。

美琴黒子「指紋が出なかった!?」

美琴と黒子が同時に叫んでいた。

カエル医者「そうなんだよ」

椅子に座り、残念そうな表情を浮かべて美琴たちに話しかけるカエル顔の医者。

美琴「どうして……」

カエル医者「そう言われてもね? 採取できた指紋を調べてみたんだが、ほとんどが彼女本人のもの、または友人やクラスメイトと思われる常盤台中学の生徒のものばかりだったんだよ」

黒子「本当ですのそれは?」

カエル医者「ああ。学園都市上のデータベースを照合してみたが、男性の者と合致する指紋は無かったよ」
カエル医者「もしかしたら、泡浮くんの勘違いだったのかもしれないね? 実際は、携帯電話は暴漢に触れられてはいなかったのでは?」

66: 2010/06/09(水) 23:27:07.00 ID:6Rglqhk0
カエル顔の医者は顎に手を当て推測する。

美琴「でも…泡浮さんは、確かにケータイを男に触られたって…」

カエル医者「すまないね。力になれなくて。どうか許してくれないかな?」
カエル医者「これ、彼女に返しといてやってくれるね?」

泡浮の携帯電話を黒子に渡すカエル顔の医者。

黒子「……ありがとうございます。…出なかったのなら仕方がありませんわ」
黒子「…ご協力に感謝致しますわ」

カエル医者「うむ。困ったことがあったら、いつでも頼ってくれていいからね?」
カエル医者「今は学園都市も大変な時期だしね?」

黒子「…はい」
黒子「では、行きましょうお姉さま」

美琴「…………………」

黒子「お姉さま?」

反応が無いので黒子が美琴の顔を覗き込むと、彼女は納得出来ないような、そんな空気を醸し出していた。

美琴「えっ? あっ……」

黒子「帰りましょう?」

美琴「うん、分かってる……」
美琴「ありがとう……ございました…」

元気の無い声で美琴は礼を述べた。

カエル医者「うん、どういたしまして」

美琴と黒子の後姿を見送るカエル顔の医者。

黒子「泡浮さんたちには帰ったらすぐ伝えましょう?」

美琴「……ええ…」

カエル医者「……………………」

67: 2010/06/09(水) 23:36:38.83 ID:6Rglqhk0
ジャッジメント第177支部―。

佐天「ええ!? 指紋が出なかった!?」

美琴「…そうなの」

初春「どうしてです? 確かに泡浮さんはケータイを暴漢に触られたって…」

ジャッジメントに帰ってきた美琴と黒子から、病院であったことを聞いたが、どうにもこうにも佐天と初春は釈然としないようだった。

美琴「…でも、ケータイからは泡浮さんと女友達かクラスメイトの指紋しか出てこなかったって…」

佐天「じゃあ、泡浮さんの勘違いだったってことですか?」

美琴「うーん…」

黒子「駄目ですわね」ピッ

離れたところにいた黒子が、自分の携帯電話をポケットに収めた。

美琴「どうだった?」

黒子「湾内さんに電話をしてみましたが、今は電源を切ってるようで繋がりませんでしたわ」

美琴「そっか」

初春「でもこうなると、暴漢の行方が掴めませんね」

佐天「だよねー。また襲われでもしたりしたら危ないもんね」

黒子「…まあ、ストーカーでもない限り、18番通りに再び行かなければ大丈夫だとは思いますが…」

Prrrrrrr....

初春「あ、電話ですね。湾内さんからでしょうか」

支部に備え付けられた電話がコール音を鳴らす。

黒子「いえ、ケータイではないですし、きっと関係各所からでしょう」ガチャッ
黒子「はい、もしもし、ジャッジメント第177支部の白井です」
黒子「え?」
黒子「ああ……その件ですの」

急に表情を曇らせた黒子を見て、美琴たちは怪訝な表情で顔を見合わせる。

黒子「ええ。そうですよ…それで?」
黒子「えっ……!?」
黒子「そ、それは本当ですの!!??」

68: 2010/06/09(水) 23:44:29.62 ID:6Rglqhk0
美琴佐天初春「???」

電話の相手に向かって大声を上げる黒子。

黒子「ちゃんと確認を取ったのですか!?」
黒子「・・・……………そうですか」

僅かに間隔があって、彼女は落ち着いたようだった。

佐天「な、なになに? どうしたの?」

初春「何だか恐いんですけど……。最近は嫌なことばっかりでしたし」

黒子「了解しましたわ」

ガチャン

電話を切り、黒子は無言で美琴たちを見つめた。

美琴「な、何なのよ黒子? 何か言いなさいよ」

初春「もしかしてまた何か事件が起こったんですか!?」

黒子「いえ…」

美琴「じれったいわね」

黒子「実は……隣の支部が、例の、お姉さまが巻き込まれた爆発事件について調査していたんですが…」

美琴「ああ、あれね」

初春「何か分かったんですか?」

黒子「どうやらその調査の過程に於いて、固法先輩の友人の証言を取ったそうですの」

70: 2010/06/09(水) 23:51:17.46 ID:XrFe1zk0
美琴「固法先輩の!?」

初春「友達の証言ですか?」

黒子「ええ」

佐天「で、何て言ってたんですその人は?」

黒子「……爆発に巻き込まれる2日前のことでしたの……。先輩はその友達に告げたそうですわ『2人組みの男に尾行されてる』と」

美琴「何ですって!?」

佐天「ス、ストーカーですか?」

初春「で、でも、それと爆発事件とどう関係が?」

黒子「それはまだ分かりませんの。ただ、固法先輩が爆発に巻き込まれる日まで何者かに追い回されていたのは事実ですわ」

美琴「それって……つまり、そのストーカーがあの爆発を起こしたってこと?」

佐天「でも、いくら何でも店を爆破して無関係の人を巻き込んでまでそんなことしますかね?」

新たに提示された事実に、美琴と佐天が推測を述べる。

黒子「確かにそうですの。爆発の件とストーカーの件は別件かもしれませんわね」

初春「とにかく、その固法先輩の友達に会ってみましょうよ!」

黒子「…そうですわね」

71: 2010/06/09(水) 23:58:35.27 ID:iaTa.PE0
それから2時間後――。

ジャッジメント第177支部には、件の固法の友人が訪れていた。

黒子「では、詳しく話して頂けます?」

目の前に座る固法の友人と対面するようにして、黒子が訊ねる。

友人「ええ。あれは2日前だったわ。思えば、美偉はその前日…つまり3日前からずっと落ち込んでたっけ…」
友人「初めは、何かプライベートの悩みがあるのかと思って、敢えて聞かずにはいたんだけど、翌日になってもずっと同じ調子だったから、ちょっと聞いてみたの。そしたら美偉、暗い顔で……」

黒子「『2人組みの男に尾行されてる』と…」

固法の友人の言葉に続くように、黒子が確認した。

友人「ええ…」

黒子の後ろで話を聞いていた美琴と佐天と初春が神妙な顔つきになる。

初春「でも、固法先輩、ジャッジメントではそんなこと一言も…」

佐天「確かに。いつも通りきびきび動いてたよね…」

黒子「固法先輩のことですの。きっと、私たちに迷惑を掛けて仕事に支障をきたせたくなかったのでしょう」

友人「ええ。本人もその後、急に明るい顔になって『私はベテランジャッジメントよ。ストーカーが襲ってきても返り討ちにしてやるわ!』って自信満々に答えてたから……」
友人「でも……まさか…それが…あんなことになるなんて……」

徐々に固法の友人の表情が崩れていく。

友人「うわあああああああん」

両手で顔を覆いながら、固法の友人は泣き始めた。
黒子は彼女の肩に手を置き、慰めるように話しかける。

黒子「まだ、その2人組みのストーカーが固法先輩を頃したとは決まってませんの。ですが、どの道犯人は我々が見つけますので、ご安心下さいませ」

友人「わああああああああああああああああん」

ずっと我慢でもしていたのか、吹っ切れたように彼女は大声で泣き始めた。

美琴佐天初春「…………………」

72: 2010/06/10(木) 00:06:14.17 ID:a9ix2gk0
夜・常盤台中学女子寮――。

美琴「はー…結局、謎は深まっていくばかりね」

黒子「そうですわね」

208号室の自室で、美琴と黒子はそれぞれベッドの上に座りながら話していた。

美琴「喫茶『ファニーランド』でのテロ爆破事件、固法先輩の氏、固法先輩の友人の証言、そして2人組のストーカー……。全部、怪しいわね。ま、今の学園都市は何が起こっても仕方がない状況なんだろうけどさ」

黒子「……精神的にも疲れてきましたわね。今日は12日ですか。事件が起こってから2日ほど経っていますが、固法先輩がいないだけで、ジャッジメントの仕事がいくぶんか滞ったような気がしますわ」

美琴「そうよね。私絶対、固法先輩を頃した犯人を見つけてやるんだから…!」

ググッと美琴は手に力を込め、宣言する。

黒子「それは私も同じですわ」

美琴「どっかのイカれたテログループか、もしくは2人組みのストーカーか…。爆氏の直接的な理由としては、前者のほうが可能性高いんだろうけど…」

黒子「…ええ」

美琴「………………」

と、そこで美琴は何かを考え込むように顔を少し俯かせた。

黒子「どうしました?」

美琴「………2人組み…」

黒子「え?」

美琴「2人組みの男……」

ボソボソと呟きながら、美琴は思考を巡らせる。



  ――湾内「それが…暗くてよく見えなかったので…。ただ、男性の2人組みであったことは覚えています」――



美琴「……!!!!! ……………ねぇ黒子…」

美琴は強張った形相で黒子に視線を向けた。

黒子「何でしょうか?」

美琴「確か…泡浮さんと湾内さんも、2人組みの男に追いかけられた、って言ってなかったっけ?」

73: 2010/06/10(木) 00:14:04.04 ID:n/t9kYA0
黒子「!! ……そう言えば確かに…」

美琴「…まさかとは思うけど、固法先輩をストーカーしてたのって…」

黒子「考えられなくはありませんわ。しかし、2人組みの男など、どこにでもいますし…。それに固法先輩をストーカーしていた2人組と泡浮さん、湾内さんを襲った2人組が同じだったとして、何か理由があるのでしょうか」

黒子は顎に手を添え考えを巡らす。

黒子「固法先輩と泡浮さんたちの接点や共通点と言えば……」

美琴「いやいや。ほら、前みんなで一緒に水着になってカレー食べたりしたじゃん? 水着モデルのときの」

黒子「あ……」

黒子の動きが一瞬止まる。言われてみればそうである。確かに以前、固法と泡浮、湾内は水着モデルの時に顔を合わせているが…

美琴「これって……偶然?」

黒子「…しかし…」

ただの思い過ごしではないだろうか、と黒子が思った時、部屋の外から何やらざわめきが聞こえてきた。

ザワザワ

黒子「ん? 何だか外が騒がしいですね」

美琴「そう言えば…」

ガチャッ

ドアを開ける美琴。彼女の目の前の廊下を、常盤台中学の教師と思われる大人たちが数名駆けていった。周りに注意を向けてみると、女子生徒たちが怯えるような顔つきでヒソヒソと話し合ってる。

黒子「どうかしたんですの?」

ドアノブに手をかけたままの美琴が気になったのか、黒子が部屋の中から声を掛けてきた。

美琴「いえ、それがよく……。あ、ねぇねぇ」

美琴は近くにいた女子生徒に話しかけてみた。

美琴「何かあったの?」

女子生徒「さぁ…何だか聞いた話によると、生徒が2人行方不明になってるとか…」

美琴「行方不明!? 誰が!?」

女子生徒「1年の、泡浮さんと湾内さん、という方たちらしいですわ」

美琴黒子「!!!!!!??????」

81: 2010/06/10(木) 21:15:37.08 ID:gzASGvE0
常盤台中学女子寮・管理人室――。

教師「では、泡浮と湾内は?」

寮監「…一通り、寮内を探してみましたが、見当たりませんでした…」

部屋に訪れた常盤台中学の男性教師3人を相手に、寮監は神妙な顔つきで話していた。

教師「いつからいなくなったか覚えてますか?」

寮監「昨日は11日でしたか…。夕方頃に、アンチスキルの黄泉川という方がわざわざ2人を送っていただいたのは確かです。その後の巡回の時には部屋にいたのですが…」

自責の念にかられているのか、寮監の雰囲気はいつもとは違って覇気の無いものだった。

教師「なんということだ…。我々はもう一度、寮内の探索に行きますので、寮監さんはアンチスキルに通報しておいてくれますか?」

寮監「分かりました」

管理人室を出て行く教師陣。
それを見てようやく寮監は溜まった疲れを吐き出すように溜息を吐いた。

寮監「フー………」
寮監「ん?」
寮監「何だお前ら?」

うなだれた寮監が部屋の外を見ると、ドアの隙間から美琴と黒子が頭を重ねるようにこちらを覗いていた。

寮監「今はややこしいから部屋に戻っとけ」

いちいち相手をする余裕も無いのか、寮監は一言だけ注意する。

美琴「あの…泡浮さんと湾内さんが行方不明になったのって、本当ですか?」

美琴が心配そうな顔で訊ねた。

寮監「………本当だ」

黒子「何故? 一体いつ??」

黒子も冷静に訊ねたが、その口調にはどこか動揺が含まれていた。

寮監「それが分からん。昨日の最後の巡回時には確かに部屋にいたんだがな」

美琴「今朝は?」

寮監「今朝はあいつら早くから部活動だ。ほら、今は『学び舎の園』の中にある女子寮が改築中であいつら今こっちに一時的に移ってきてるだろ。だから朝早くから寮を出なければならんらしい」
寮監「よって、朝の巡回時にも朝食の時にもあの2人は既に寮内にいなかったんだ。まあ、それでも特別な理由での外出は私の許可が必要なんだが、あいつらこっちの寮生活に慣れてないのかそれを忘れて行ったようでな。が、実際はそれどころか学校にも登校していなかったようだ」

そこで一息つき、寮監は何かを思い出したように美琴たちに質す。

82: 2010/06/10(木) 21:20:55.30 ID:gzASGvE0
寮監「そうか、お前ら、昨日はあの子らと一緒にジャッジメントの支部にいたらしいな。2人を送ってくれたアンチスキルの人から聞いたぞ」

黒子「ええ。ちょっと問題があったので」

寮監「2人組みの男に追い回された、というやつか?」

黒子「はい」

寮監「確か、泡浮の携帯電話を指紋鑑定に出したらしいな? 結果はどうだったんだ?」

黒子「いえ、それが泡浮さんの勘違いだったらしく…男の指紋は出なかったそうですわ」

寮監「そうか……」
寮監「どうした御坂?」

美琴「え? いや、何でも……」

声を掛けられた美琴を黒子は横目で窺う。どうも彼女は今もまだ指紋鑑定の結果に納得いっていないようだった。

寮監「…………………」

黒子「実は、今日1日ジャッジメントの支部で泡浮さんの携帯電話を預かっていたので、返そうと思い昼頃、湾内さんの携帯電話に電話をしてみたんですの」

寮監「それで?」

黒子「その時は、電源を切っているのか、繋がらなかったんですの……。今までそのことを失念していましたが、もしかしたら、もうその時にはあの2人は……」

顔を暗くする黒子。

寮監「そういうことはアンチスキルに言っておけ」
寮監「それに気に病むことではないだろう。別に、あの2人が消えたのはお前のせいじゃない」

黒子の表情から彼女の心情を汲み取ったのか、寮監が声のトーンを少し優しくして言っていた。

黒子「はい……」

寮監「…御坂もな」

美琴「……………はい」

寮監「さ、私は今すぐアンチスキルに通報せねばならんのだ。気になるだろうが、2人は部屋に戻れ」

美琴黒子「分かりました……」

寂しそうな背中を見せながら、美琴と黒子は管理人室を出て行った。
受話器を耳にあてながら、寮監は2人の姿を無言で見送る。

寮監「……………………」
寮監「……あ、もしもし、アンチスキル支部ですか? こちら第7学区・常盤台中学女子寮の………」

83: 2010/06/10(木) 21:26:36.80 ID:gzASGvE0
1時間後、アンチスキルが女子寮に到着し、教師や生徒たちへの聴取が始まっていた。

208号室・美琴と黒子の部屋――。

黒子「それは確かですの?」

携帯電話に耳を押し付け、受話器の向こうの相手と会話する黒子。

黄泉川『だから、そうだって言ってるじゃん。昨夜、確かに私と鉄装が泡浮と湾内を寮まで送り届けたじゃん』
黄泉川『わざわざ、寮監さんにまで事情を話したじゃんよ。嘘だと思うなら、寮監さんに聞いてみればいいだろう?』

黒子「いえ、寮監からは、既にその話は聞き及んでおります」
黒子「問題はあの時、泡浮さんと湾内さんにおかしな様子は無かったということですの」

美琴「………………」

黄泉川『もしかして家出の可能性とか? そんなことするような雰囲気じゃなかったじゃん。ちゃんと笑顔で手を振ってまで分かれたじゃん』

黒子「……そうですか」

静かに、黒子は答えた。

黄泉川『とにかくこっちもそっちに向かいたいところだが、私も鉄装も他の仕事に追われててな。一応、常盤台中学も私の直属の管轄内だから、部下たちがそっちに行ってるが…まあ何か新しいことが分かったらこっちから連絡するじゃんよ』

黒子「了解しましたわ。ありがとうございます」ピッ

電話を切る黒子。

美琴「どうだった?」

黒子「どうやら寮監の話していた通り、確かに黄泉川先生たちは昨夜、泡浮さんと湾内さんをこの寮まで送り届けたようですわ」

美琴「じゃあ、帰宅途中で誰かに襲われた可能性もないってことか」

黒子「そういうことですわね」

美琴「でも何か引っかかるのよね…」

顔を横に向け、虚空を見つめるように美琴は考え込む。

黒子「え?」

美琴「黒子、泡浮さんのケータイって今、ジャッジメントの支部に保管してるんだっけ?」

黒子「? そうですけど」

美琴「あんた、今から取りに行ける?」

黒子「え? 何故ですの?」

84: 2010/06/10(木) 21:33:06.90 ID:gzASGvE0
美琴「いえ、取りに行ったら、そのままの足で木山先生のところまで行ける?」

黒子「木山春生のところまで? 一体何故??」

突然出て来た名前に、黒子は顔を傾げた。

美琴「きっと、アンチスキルによる私たちへの聴取が始まったら、間違いなく泡浮さんのケータイは没収されることになるわ。その前に、もう1度だけ、彼女のケータイの指紋を調べておきたいの」

黒子「で、ですがどうやって…」

美琴「今度は木山先生に指紋鑑定を依頼してもらうのよ。そしたらまた、新しいことが何か分かるかもしれない。ゲコ太が見落としてたかもしれない指紋が出てくるかもしれないし」

黒子「なるほど。ですが別に、アンチスキルに没収されてもどうせまた指紋鑑定されるでしょうし、後でその結果を聞けば宜しいのでは?」

美琴「……いえ…それじゃ…ダメな気がする…」

そこで、妙な間があり美琴は自分に言い聞かせるように呟いていた。

黒子「?」

御坂「…今やっておかないと、ダメな気がするのよ……」

今度は黒子の顔を見据え言う。
ただならぬ何かを感じ、黒子は答えていた。

黒子「……………了解しましたわ」

美琴「じゃあ、急いで行ける?」

黒子「お任せくださいまし。飛ばして行ってきますわ」

美琴「宜しく頼むわ」

それを聞いて1秒後、既に黒子は部屋から消えていた。

85: 2010/06/10(木) 21:40:06.77 ID:gzASGvE0
とある研究所――。

木山「こんな遅くに君が来るとはな。思ってもみなかったよ」

白衣を纏った1人の研究者――木山春生は大して驚く素振りも見せず、突然目の前に現れた黒子にそう言った。

木山「私以外の研究者が出ていたら、とっくに門前払いにされてるところだ」
木山「…と言ったところで、君なら易々と私の部屋まで辿り着くんだろうがね…」

のらりくらりとした口調で木山は語りかける。
それに対し、黒子は伸ばした両手をお腹の辺りで交差させてかしこまっているようだ。

黒子「……夜遅くに申し訳ありませんの。ですが、緊急の用事でして…」

木山「……君の顔を見れば分かるよ、白井黒子」

白衣を纏った木山に続き、黒子は廊下を歩く。
飾りっ気のない、無機質な廊下が永遠と続く。

木山「大方、今、学園都市で多発している事件に関してかな? それも、こんな夜中に1人で来たということは、よっぽど非公式にしたいことか」

黒子「お見通しですわね」

木山「まあね。で、何の用かな?」

黒子「これです」

感情を窺わせないような声で肯定した木山に、黒子は1つの携帯電話を差し出した。

木山「…携帯電話? 誰のだ?」

黒子「私のクラスメイト、泡浮万彬さんのものですわ」

木山「これをどうしろと?」

黒子の顔と彼女の手元にある携帯電話を、視線だけ流すように交互に見る木山。

黒子「泡浮さんとその友人である湾内絹保さんは、昨日の夕方、第7学区の18番通りで正体不明の暴漢2人に襲われそうになりましたの」
黒子「その時、通報しようと泡浮さんが取り出したこの携帯電話に一瞬ですが、暴漢の1人が触れたとのことです」

木山「……その指紋を採取しろとでも?」

黒子「その通りです」

木山「何故私に頼ろうとする? 専門の機関にでも頼めばいいじゃないか」

黒子「…実は既に1回頼んでますの。ですが、暴漢の男らしき指紋は見つからず、採取出来たのは泡浮さん本人のものと、友人、あるいはクラスメイトの女子生徒のもののみ…」

木山「その…あわうき、とかいう子の勘違いでは…?」

86: 2010/06/10(木) 21:49:48.47 ID:eIK6mbk0
黒子「…それも無きにしも非ずですが、彼女たちの口ぶりを思い出すに、勘違いとは思えませんの。今ではもう、改めて確認することが出来ないのですが……」

突然表情を曇らせた黒子の顔を見、木山は怪訝な表情を彼女に向けた。

木山「どういう意味だ?」

黒子「実は先程、泡浮さんと湾内さんが行方不明になっていることが判明しましたの」

木山「…それは……大変だな」

黒子「ええ。もうアンチスキルによる聴取が始まっていますわ。いずれこのままでは、アンチスキルに泡浮さんの携帯電話も没収されてしまいます。その前にもう1度、確かめておきたかったんですの…」

木山「それで私のところにか…。だが、別にアンチスキルに没収されても構わないのでは? いずれ、頼み込めば、またその時に出た指紋採取の結果を教えてくれるだろうに…」

黒子「いえ…」

ゆっくりと黒子は目を閉じる。

木山「…?」

黒子「…それではダメなんです。そうしてしまうと、一生、泡浮さんと湾内さんの行方を見失ってしまうような……そんな嫌な予感がして……」

木山「…………………」

友達を心配する黒子の落ち込みようは半端なものではなさそうだった。

木山「なるほどな…。事情は分かった。だが、そう簡単に私を信用してもいいのかな?」

黒子「え?」

木山「私も面倒事には巻き込まれたくないのでね。君ら子供の言を無視して、アンチスキルにこの携帯電話を提出してしまうかもしれないぞ?」

黒子「……それは、有り得ませんの…」

木山「何故、そう言える?」

黒子「……何故かは、分かりませんが…何となく…貴女なら…」

木山「………………」

語尾が弱くなった黒子を見、木山は押し黙った。
黒子は下を向き、視線を逸らし、泡浮の携帯電話をギュッと握り締めている。
しばらく、静寂がその場を支配した。

ポンッ

黒子「……え?」

突然、小気味良い音が頭の上から聞こえた。

87: 2010/06/10(木) 21:52:19.77 ID:eIK6mbk0
黒子が顔を上げる。木山の手が彼女の頭に置かれていた。

木山「何だかんだ言って、まだまだ君たちも子供だな。私の教え子たちを思い出すよ」
木山「だが、その心意気は感謝するよ。バレたらジャッジメントの仕事も停職になり兼ねないだろうに…」

黒子「………覚悟しておりますの」

木山「…いいよ。君たちには枝先や春上たちの借りもあるしな」

黒子「本当ですの?」パァァ

木山「フフッ…私を信じてくれ」

まるで子供を励ます親のように木山は微笑んでいた。
それに応えるように、黒子の声に張りが戻った。

黒子「ありがとうですの!」

木山「その顔だ」

黒子「え?」

木山「笑っていると、君たちも歳相応の子供に見えて可愛いものなんだが…」クスッ

黒子「ま、まあ! 失礼ですのね。これでもレディですのよ?」プンプン

顔を膨らませる黒子を見て、木山は更に笑みを零した。

木山「では、これは私が責任を持って秘密裏に鑑定しよう。遅くとも明日の朝には結果は出るはずだ」

黒子「感謝しますわ」

88: 2010/06/10(木) 21:57:21.96 ID:eIK6mbk0
常盤台中学女子寮・208号室――。

美琴「遅いわね、黒子の奴…」

ベッドの上に座りながら、美琴は組んだ自分の腕の上で規則的に指を叩いていた。

黒子「お姉さま!」ブンッ

突如、ベッドの側に黒子が姿を現した。

美琴「黒子!」

黒子「遅くなって申し訳ありませんの」

美琴「それはいいから。で、どうだったの?」

黒子「ちゃんと木山先生に頼んできましたわ。こちらの事情も理解してくれたようで、秘密裏に調べてくれるそうです!」

美琴「よ、良かったー……」

美琴が胸を撫で下ろす。

黒子「それで、アンチスキルによる聴取は?」

美琴「さっき、隣の部屋の生徒のが始まったばかりよ。ギリギリだったわね」

黒子「それはそれは、危ないところでしたの」

美琴「どの道、アンチスキルも寮監さんから聞けることは聞いてるだろうし、泡浮さんのケータイについては事情を話さないとこっちが怪しまれるわ」
美琴「問題は、いつ、木山先生の元からケータイが戻ってくるかね」

黒子「ええ。明日中に戻ってくれば、こちらも余計な手順を踏まずにジャッジメントの公式捜査物品として普通にアンチスキルに提出できるのですが…」

美琴「とにかく、木山の鑑定結果を待つわよ!」

黒子「はい!」

89: 2010/06/10(木) 22:03:46.22 ID:z57Z5Vo0
数時間後・木山の研究室――。

木山「この指紋も、常盤台中学生徒のもの…」

泡浮の携帯電話から採取した指紋を、学園都市の学生データと照合する木山。

木山「……本当に、男の指紋は無いぞ…」
木山「やはり、泡浮とかいう子の勘違いだったのでは…?」

木山は泡浮の携帯電話をもう1度見て取る。

木山「さて、次で最後だ。この指紋がまた女子生徒のものだったら、結局のところ、その子の勘違いだったということになる…」
木山「さて、何が出てくるか…」

木山はスキャンを始める。
1秒後、その指紋の照合結果に一致する者のデータがディスプレイに表示された。
木山の目が細くなる。

木山「!!!!!!!」
木山「出た……確かに、男だ。……こいつがその暴漢とやらか…」

確かめるように、木山は顔を画面に接近させる。
と、そこで彼女は何かに気付く。

木山「待てよ……この男、確かどこかで………」




「世の中には、知ってはいけないことがあるんだよ?」




木山「!!!!!?????」

刹那、木山の背中に悪寒が走った。
誰もいないはずの研究室。
突如、後ろから掛けられた声に冷や汗が背中を伝っていく感覚を味わった木山は、ゆっくりと後ろを振り返った。

木山「……あんたは…!!」

「さて、知っちゃったからには、君をどうしようかね?」

その時、木山の目に映ったのは底無しの絶望だった―。

90: 2010/06/10(木) 22:13:19.29 ID:z57Z5Vo0
翌日・ジャッジメント第177支部――。

黒子「遅い」
黒子「…ですわね」

美琴「そうねー…もう昼過ぎちゃったのに…」

佐天「本当に木山先生、朝までに鑑定結果が出るって言ってたんですか?」

黒子「ええ。確かにそう言ってましたわ」

初春「遅いと言えば、アンチスキルからも、泡浮さんのケータイ提出の依頼電話が掛かってきませんねー」

1日の半分も過ぎた頃、美琴たち4人はジャッジメントの支部に集まって、木山からの電話を待っていた。

黒子「そうですわね。今のところはそれでややこしいことにならずに助かってるんですが…」
黒子「まあ、バレたとして、はなから承知の上。ジャッジメントの停職ぐらい、受け入れてやりますわ」

初春「でも…白井さん1人で責任を負うのも…」

黒子「もしもの話ですの。取り敢えずは大丈夫でしょう」

初春「ならいいんですけど……」

Prrrrrrr......

その時、支部の電話が鳴った。

美琴「来た!」

佐天「電話ですよ白井さん!」

初春「あわわわわ…遂に…」

黒子「さて、木山かそれともアンチスキルか…」

黒子が受話器を手にする。それを見て一同は唾を飲む。

ガチャリ

黒子「はい、もしもし……ジャッジメント第177支部の白井ですの…」

美琴と佐天と初春は会話を聞き逃さないように、黒子の持つ受話器の側に集まり、聞き耳を立てる。

木山『木山だが…』

黒子「!!」

電話の相手は木山だった。4人が安堵の表情を見せ合う。

92: 2010/06/10(木) 22:18:20.75 ID:z57Z5Vo0
指紋の鑑定結果が出たのだ。
美琴たちがヒソヒソと小声で話し合う。

佐天「よかったー」

初春「先に木山先生から連絡あってよかったですね!」

美琴「そうね」

黒子が鼻に手を当て「静かに」と言うと、3人は慌てて口に手を当て押し黙った。

黒子「これはこれは。お電話お待ちしておりましたわ」

木山『そうか。遅くなってすまんな』

黒子「いえいえ。それで早速ですが…」

木山『早速だが、悪いな…』

黒子の声を遮るように、木山は淡々と言い放った。

黒子「はい?」

木山『泡浮とか言ったか』
木山『その子の携帯電話、アンチスキルに提出させてもらった』

黒子美琴佐天初春「………………え?」

余りにも自然に紡いだその口調に、美琴たちは初めその言葉を理解できなかった。

黒子「い、今、なんと…?」

木山『聞こえなかったか? 君らが私に鑑定依頼を出してきた携帯電話だが、今朝、アンチスキルに提出させたもらったよ』

やはり、それは聞き間違いではなかった。

初春「……どういうこと?」

佐天「……何で?」

美琴「………木山先生…」

3人の顔が青ざめていく。

木山『悪いね。昨日も言ったが、余計なことに巻き込まれたくなくってね。それに、わざわざ私が君ら子供の言うことを聞く義理もあるまい』

黒子「……木山っ!!」

冷静に務めていたつもりだったが、黒子はつい感情的になってしまった。

93: 2010/06/10(木) 22:27:35.94 ID:ZGtiZXc0
黒子「裏切ったんですのね!?」

木山『裏切る? 今言ったろう? 私に君らの言うことを聞く義理は無い。申し訳ないが、事情を説明して携帯電話はアンチスキルに提出した』
木山『鑑定結果を知りたければ、後日アンチスキルに聞くといい。私より彼らの方が、より信頼性のある鑑定をしてくれるだろうしね』

反省の色も後悔の念も窺わせない木山の声に、黒子は苛立つ。

黒子「…………っ…」

木山『じゃ、私は忙しいんでこれで』

黒子「待ちなさい!」

美琴「黒子、変わって!」

美琴が奪うように黒子から受話器をひったくる。

美琴「“先生”!! 私たちは、貴女を信じて頼んだのよ!?」

木山『超電磁砲(レールガン)か…。だからどうした。今回のように大人の言動を信じないところを見ると、まだまだ君も子供だな』

美琴「何言ってるの!? ふざけないでよ!!」

激昂する美琴。

木山『ああ、そうそう。ツインテールの子に伝えといてくれ。私が事情を説明したアンチスキルの隊員、どうやら君たちの知った顔ということで、今回のことは見逃してくれるそうだ』

黒子「……黄泉川先生ですね…」

木山『そういう訳だ。力になれなくてすまんね。それじゃ』

ガチャン

ツーツーツー……

一方的に、電話は切れた。

美琴「くっ………」

ガチャン!!

叩きつけるように美琴は受話器を置いた。
彼女は握り拳をつくる。

美琴「……木山っ……」

黒子「…こればかりは仕方がありませんわ…」

と言いつつ、黒子の声は小さく弱々しい。

94: 2010/06/10(木) 22:32:56.92 ID:ZGtiZXc0
黒子「それに、木山先生が言ったように、アンチスキルでも指紋鑑定はなさるでしょう…。その結果を後で聞けば…」

美琴「ダメなのよそれじゃ……」

黒子「え?」

美琴「何でか説明出来ないけど……ここで没収されたら、もう泡浮さんと湾内さんに2度と会えないような気がして………」

思いつめるように美琴は顔を俯かせた。

黒子「お姉さま…」

佐天「御坂さん」

初春「…御坂さん」

美琴「(…あの2人にはもう会えないの……?……何か…手掛かりはないのかしら……せめて暴漢2人組みの男の顔さえ分かれば……)」
美琴「!!!!!!!!!」

と、そこで彼女は何かを閃いた。

美琴「待って……」

黒子佐天初春「え?」

美琴「そう……そうよ! 手掛かりはまだあったわ!!」

突然、美琴の明るい顔が黒子たちに向けられる。

黒子佐天初春「?????」

5秒ほど前の彼女のテンションとの違いに3人は少し驚いた。

黒子「…えっと……本当ですのお姉さま?」

佐天「でも、そんなのどこに?」

美琴「防犯カメラよ!」

黒子佐天初春「!!??」

95: 2010/06/10(木) 22:37:16.34 ID:ZGtiZXc0
美琴「この学園都市には至る所に防犯カメラが設置されてるわ。つまり!」

黒子「…防犯カメラを調べ上げれば、泡浮さんと湾内さんが暴漢に襲われている場面を発見できると?」

美琴「その通り! よっぽどの僻地じゃない限り、学園都市には数え切れないほどの防犯カメラがあるわ」
美琴「初春さん、チェックできる?」

そう言って美琴は初春の顔を見る。

初春「え、あ…多分。中にはジャッジメントやアンチスキルでは閲覧を禁止されている場所もありますけど……普通の学生区なら、大丈夫だと思います」

美琴「よし! それよ!」

佐天「でも、たくさんある防犯カメラの記録の中から、どうやって泡浮さんと湾内さんが襲われた場面を探し出すんですか? 見つけるだけでも相当の時間を要するかと思うんですけど…」

美琴の話を聞いていた佐天が不安材料を口にする。

黒子「いえ! それなら大丈夫ですわ!」

佐天「え?」

美琴に続くように、黒子も何か思いついたのか声を張り上げた。

黒子「お忘れになりましたの? あの2人、ちゃんと仰っていたじゃありませんか」

佐天「あ…」

美琴「学園都市第7学区18番通り!!」

黒子佐天初春「そこだ!!!」

彼女たちは顔を近付けて同時に発していた。

96: 2010/06/10(木) 22:42:44.69 ID:ZGtiZXc0
その頃――。

インデックス「…とうまの馬鹿。何日も私を1人ぼっちにして…許せないんだよ」

ニャ~

人気のない道を、安全ピンで繋ぎとめられた修道服を纏った少女インデックスは歩いていた。
心なしか、彼女は本気で落ち込んでいるように見えた。

インデックス「帰ってきたら、頭噛むだけじゃ済まないんだから!」

ニャ~

インデックス「スフィンクスも怒ってるの? スフィンクスも一緒にとうまにお仕置きするんだよ」

ニャ~

本当に怒っているのかは定かではなかったが、スフィンクスは鳴いて答えた。
と、その時だった。


ドガアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!


インデックス「ひっ…!」ビクッ

突如、轟音が響き渡った。
インデックスが肩を震わせる。

インデックス「…遠くで聞こえたけど、きっとまた爆発なんだよ」

ニャ~

怯えるようにインデックスは立ちすくむ。

インデックス「きっとまたどこかでテロが起こったんだ……」
インデックス「正直言って怖いんだよ……とうま……」

彼女は数日前のことを思い出す………。

97: 2010/06/10(木) 22:47:18.98 ID:ZGtiZXc0

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ステイル「インデックス、君も僕と一緒に学園都市を出るんだ」

必氏の形相で、インデックスに話しかける1人の男。黒い神父服を纏い、耳にピアスの束をつけ、目の下にバーコードのような刺青を入れた彼の名は、魔術師ステイル=マグヌスだった。

インデックス「嫌なんだよ! とうまは絶対戻ってくる、って言ったんだよ!」

しかし、インデックスはステイルの言葉を聞き入れようとしない。

ステイル「今、この学園都市には、色んな魔術師たちも潜り込んでる、って話だ。それだけじゃなく、世界中のテログループや工作員、特殊部隊もいるらしくって危ないんだ!」
ステイル「僕も色々と残って調べたいところだが、今は一時避難するのが先決だ!! 頼む! 一緒に来てくれ!!」

もはや懇願にも似た言葉を発すステイル。それでもインデックスは了承しようとしない。
彼女の頭にある最優先事項はたった1つ――1人の少年の存在だった。

インデックス「とうまは帰るって言ったんだよ! それまで私も待つんだよ!!」

ステイル「…っ……」

『とうま』という名前を出されては、もう説得の余地は無かった。
唇を噛むようにステイルは、言葉を搾り出す。

ステイル「分かった…。僕は先に学園都市を出る…。あの少年に会って帰国する算段が着いたら連絡してくれ。すぐに迎えに来る(本当は今すぐ連れて帰ってやりたいが……)」

自分の非力さにやり切れなさを感じているのか、ステイルは本当に悔しそうな表情を浮かべた。
彼としては、インデックスを縛ってでも、現在危険な状況下にある学園都市から連れ出したかったのだ。だが、インデックスの1人の少年への想いを断ち切ってまではさすがに出来なかった。

インデックス「……分かったんだよ…」

インデックスは静かに一言だけ呟いた。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


98: 2010/06/10(木) 22:52:20.68 ID:ZGtiZXc0
インデックス「……………とうま…」

ドンッ

インデックス「あ…ごめんなさいなんだよ……」

下を向いて歩いていたのか、インデックスは前から歩いてくる人間に気付かず衝突してしまった。

「……………」スタスタ

インデックスと衝突した男は足早に去っていった。

インデックス「ぶー愛想悪いなあ……」

インデックスはふてくされる。続き、彼女は正面を見やる。

インデックス「あーお腹すいたぁー」

彼女はお腹に手を当てる。


ヌチャ


インデックス「ん?」

気味の悪い感触と音がして、インデックスは咄嗟に両手を顔の前まで上げ注視してみた。

インデックス「…………何これ?」





インデックス「………血?」





自分のお腹を見るインデックス。
彼女の真っ白な修道服は鮮やかなまでに赤く彩られていた。

100: 2010/06/10(木) 23:02:19.41 ID:ZGtiZXc0
ニャ~~

不気味な液体の感触が嫌だったのか、スフィンクスがインデックスの胸の中から飛び出し、そのまま遠くへ走り去っていった。
しかしインデックスはもう、スフィンクスのことまで気がいっていなかった。
彼女は赤く染まった自分の両手とお腹を交互に見る。





インデックス「……………まずいかも……」





急速に身体から力が抜けていくのが、感じられた――。

117: 2010/06/11(金) 22:46:26.89 ID:IjY23PE0
ジャッジメント第177支部――。

美琴「どう? 何か発見した?」

初春「うーん……ダメですね…」

ジャッジメントの本部サーバーから、監視カメラのモニターセンターにアクセスし、学生区の監視カメラの録画記録を確かめることになった初春。
が、しかし、数時間経っても目星の映像を発見することが出来ず途方に暮れていた。

佐天「えっと、本当に第7学区の18番通りですよね?」

美琴「確かにそうよ。それは何度もあの2人も言ってたじゃない」
美琴「私もあの2人をここに連れて来たのは一昨日11日の放課後だった。だから……」

黒子「11日の15時から18時までの18番通りの映像を調べ上げていけば、泡浮さんと湾内さんが暴漢に遭遇した場面を捉えられるはず」

初春「そうすれば、その暴漢2人、引いては最近多発してる誘拐事件の犯人たちを見つけることができる、と」

美琴「…の、はずなんだけどね…」

4人はパソコンの前で同時に溜息を吐く。

初春「見つかりませんね…。4人で隅々までチェックしてるのに……」

黒子「恐らくアンチスキルも今頃、監視カメラの録画記録を調査してるところでしょう」

佐天「でも、それで見つからなかったら結局……どうなるんでしょう?」

初春「まさか、全て泡浮さんと湾内さんの狂言だったとか…?」

黒子「しかしそんなことして何の意味があるのやら…」

佐天「でも、結局カエル顔の先生の所では、泡浮さんのケータイから暴漢らしき男の指紋は見つからなかったんですよね?」

美琴「……そうだけど」

佐天「まさか…2人して、誘拐事件を装った家出とか…?」

美琴「ない。絶対ないわ。あの怯えよう、覚えてるでしょ? あれが狂言だったとは思えない」

佐天「確かに……」

美琴「絶対犯人はいる。今も恐らくは泡浮さんと湾内さんは誘拐された恐怖で怯えてるはず。いえ、それだったならまだいいけど、もし………」

そこまで言って言葉を切る美琴。
彼女が何を言おうとしていたのか、大体予測がついていたのか黒子たち3人も一斉に静かになった。

119: 2010/06/11(金) 22:52:53.24 ID:1miQ6Eo0
佐天「…………………」
佐天「……あたし、ちょっと聞き込みに行ってきます」

と、そこで何かを思案していた佐天が真っ先に口を開いた。

美琴黒子初春「え?」

佐天「大切な友達2人がさらわれたっていうのに、何も出来ずにいるなんて我慢できません」

勢いよく佐天は立ち上がる。

佐天「だからあたし、18番通りに行って誘拐事件の聞き込み調査に行ってきます!」

美琴黒子初春「えええっ??」

初春「ダ、ダメですよ佐天さん! あそこはただでさえ人通りが少ないんですよ! もし、佐天さんまで誘拐犯に襲われたらどうするんですか!?」

黒子「そうですわ。それにテロや爆発の危険だってあるのに……」

必氏に佐天を止めようとする黒子と初春。しかし、そんな2人の心配をよそに彼女は既にやる気満々だった。

佐天「大丈夫大丈夫! あたし、こう見えて強いですから!」エッヘン

そう言って腰に手を当てる佐天。

初春「でも……」

美琴「ダメよ佐天さん」

佐天「え?」

と、そこで美琴が横から割って入った。

美琴「そんな危ない所、行かせられない」

佐天「いや、だって……」

美琴「………………」ジッ

佐天「うっ…」

真剣な面持ちで美琴は佐天を見つめる。彼女の気迫に呑まれたのか、佐天は言葉に詰まった。

120: 2010/06/11(金) 22:58:08.10 ID:1miQ6Eo0
しかし、美琴はすぐに笑顔を見せた。

美琴「だから、私も一緒に行くわ」ニコッ

佐天「えっ?」

美琴「私も何かしたいしね。一緒に行きましょう」

佐天「御坂さん!」パァァ

黒子「しかしお姉さま…」

美琴「大丈夫。無茶はしないから。黒子と初春さんは、引き続き監視カメラのチェックお願い」
美琴「ね!」

ウインクをしてみせる美琴。

黒子「………………」

黒子は一度溜息を吐くと、口元を緩めた。

黒子「分かりましたわ。全身全霊を込めて頑張らせて頂きますの」
黒子「ですわよね初春?」

黒子は椅子に座る初春の肩にポンと手を置くように訪ねる。

初春「はいもちろん! 何時間でも何日でも何ヶ月でも何年でもやってみせます!」

威勢良く初春は答えた。

美琴「よし! じゃあ絶対に泡浮さんと湾内さんの誘拐犯を見つけるわよ!」

黒子佐天初春「はい!!」

121: 2010/06/11(金) 23:06:05.02 ID:w47THlw0
それから2日間、美琴と佐天は18番通りを中心に聞き込みを行い、黒子と初春はジャッジメントでの業務を監視カメラのチェックにひたすら費やした。しかし………

第7学区・18番通り――。

佐天「…っていう事件なんですけど、何か知ってることとかありませんか?」

学生「そう言われてもなー」

通りを歩いていた男子学生に聞き込みを行う佐天。あまり人気の無い通りだったので、貴重な情報を逃すまいと彼女は詰め寄るように訊ねていた。

佐天「何でもいいんです! どんなに些細なことでも!!」

学生「俺も最近、怖くてあんまり外出しないんだよ。ここに来たのだって久しぶりだし…。悪いな」

そう言って、学生は去っていった。

佐天「……ダメか。やっぱり目撃情報すら手に入らない。ま、そんなのあったら、アンチスキルが既に誘拐犯を捕まえてるよね…」

美琴「………………」

その日の聞き込みも終え、2人は支部への帰路に着く。

佐天「2日合わせて既に50人以上に聞き込みを行いましたけど、全然手掛かり見つかりませんね」

美琴「…………………」

佐天「まあ、普通の学生がそんなこと知ってるはずないですもんね」

佐天は苦笑いする。と、その時、美琴がボソッと呟いた。

美琴「…普通の学生、ならね」

佐天「え?」

美琴「ごめんなさい佐天さん。ちょっと私、用事あるからさ。先に支部まで戻っててくれる?」

佐天「用事?」

美琴「そ! ちょっとしたことだから」

美琴は片目を閉じ、顔の前で手を合わせる。

佐天「……それぐらいは別にいいですけど」

美琴「ごめんね! じゃ!」

佐天「あ、御坂さん」

呼び止める間もなく、美琴は走っていった。

122: 2010/06/11(金) 23:16:46.66 ID:w47THlw0
ジャッジメント第177支部――。

佐天「ただいま帰りましたー」

黒子「お帰りなさい」

初春「お帰りなさい佐天さん」

佐天が支部に戻ると、黒子と初春の2人はパソコンに向かってキーボードを叩いていた。
2人とも忙しいのか、振り返ろうとしない。

黒子「どうでしたか?」

黒子がパソコンの画面を眺めたまま、佐天に問い掛ける。

佐天「ダメです。全然ダメ。手掛かりなんて何1つ得られないですね」

お手上げだ、と言うように佐天はソファに腰かける。

佐天「白井さんはどうですか?」

黒子「今、黄泉川先生から送られてきたアンチスキルの一連の誘拐事件の資料をチェックしていますの」

佐天「へー、どうです?」

黒子「大したことは分かりませんが…ここ2、3週間で30名近くにものぼる学生が行方不明になっておりますの。一応、僅かながら誘拐現場の目撃談もありますが、犯人も一筋縄ではいかないのか手掛かりとなるものは何1つ残っていません」

佐天「そうなんだ。他には何か有力な情報とかないんですか?」

黒子「それがまったく。どの学生にも共通点は見当たりませんし。被害者たちの能力レベルも、無能力だったりレベル1だったり、3だったりと様々。誘拐現場も学園都市全域に及んでますわね」
黒子「まあ、同じ地区の学生ばかり狙っていても、足がつくでしょうし…。ですが、ここまでしてアンチスキルが手掛かり1つ得られないということは、よっぽど相手は手馴れているということ」

多少、苛立ちを思わせるような口調で説明する黒子。どうも犯人発見の決め手となる情報が少ないためか、自分で喋っていてイライラしているようだ。

黒子「しかも、誘拐された学生の中にはレベル3の強能力者もいます。と、いうことは誘拐犯はレベル4以上の能力を持つ可能性も高いですわ。しかし、それほどの高位能力者なら、例えば、統率のとれた組織を使えば1度にもっと複数の学生を短期間で誘拐することも可能なんでしょうけど、そうしないということは敢えてそこに目的があるのか、それともそんな組織を持つほどの余裕もないのか……」

佐天「でも! レベル4以上の能力者だとしたら、結構絞れてきませんか!?」

飛び上がるように大声で推測を声にする佐天。

黒子「いえ、あくまで可能性の話ですの。もしかしたら、学園都市外部の人間の仕業かもしれませんし。アンチスキルの捜査がいまいち進まないのも、外部の治安機関との連携がいまいち進まないから、という理由があるからかもしれません」

佐天「………結局、何1つ手掛かりが見つからない、ってことかぁ」

力が抜けたように佐天はソファにグタッと背中をもたれかける。

123: 2010/06/11(金) 23:23:30.59 ID:GVqSu3I0
黒子「それにしても、こちらの捜査資料……泡浮さんと湾内さんについての証言が載ってませんね」

佐天「え?」

黒子「私とお姉さまが、寮でアンチスキルから聴取を受けた時、泡浮さんと湾内さんが暴漢に襲われた時のことについて証言したのですが、その記録がここに記載されてませんの」
黒子「まあ…ここに載せるほど大事な情報でもないと判断なさったのでしょうが……」

佐天「…ふーん」
佐天「あ、初春はどーお?」

佐天は今度は初春の方へ向かう。彼女は監視カメラの録画映像のチェックを行っているようだった。

初春「うーん……」

佐天「どうしたの?」

初春「佐天さん、何か変だと思いませんか、この映像?」

顎に手を添えながら、初春は首を傾げる。

佐天「え? どれどれ?」

佐天は初春が見ている画面を覗き込む。

初春「泡浮さんたち、確か『16時から17時頃の間に暴漢に襲われそうになった』って言ってましたよね?」

佐天「うん」

初春「これ、16時20分頃の映像なんですけど…ここ、分かりますか?」

佐天「え?」

初春「見えました?」

佐天「え? いや、分かんなかった…」

初春「じゃあもう1度」

巻き戻し、再生する初春。

初春「ほら…16時21分34秒のとき、少し画面が揺れているように見えません? 何かノイズが走ったような……」

目を細め佐天は画面を凝視する。路地裏の見える18番通りの一角。誰も映っていないが、夕方の歩道の映像が見てとれた。

佐天「あ…確かに」

初春「ですよね?」
初春「それで……」

125: 2010/06/11(金) 23:30:25.29 ID:jSrIUMI0
今度は早送りをし、しばらくして初春は再生ボタンをした。

初春「16時26分50秒です。…ほら!」

佐天「あ」

初春「普通に見てたら気付きませんけど、何かまたここでも画面が揺れたというか、ノイズが走ったと思いません?」

佐天「うーん…微妙だなあ。それぐらい、よくあることなんじゃないの?」

初春「でも気になるんですよね……」

また首を傾げると、初春は立ち上がった。

佐天「ん? どうするの?」

初春「ちょっと、アンチスキルの方にも連絡してみます」
初春「えっと…白井さん、黄泉川先生から貰ったケータイ番号を書いた紙、どこです?」

黒子「白板に貼ってありますの」

パソコンを見ながら黒子は答えた。

初春「あ、あったあった本当だ」

ホワイトボードから紙を取り、それを見ながら初春は電話の番号を押す。

ピポパポ

Rrrrrrrrrr...

初春「あ、黄泉川先生ですか? ジャッジメント第177支部の初春ですけど…ちょっと気になることがあって…」
初春「ええ、そちらにも少し確認してほしいことが……」

ジャッジメントとして仕事をこなす初春と黒子を、佐天は交互に見る。

佐天「(さすが2人とも…)」
佐天「にしても、御坂さんはどこに行ったんだろ?」

126: 2010/06/11(金) 23:37:45.77 ID:jSrIUMI0
第7学区・某所――。

スキルアウト「ボ、ボ、ボス!! ボスぅぅぅ~!!!!」

リーダー「ああ?」

スキルアウト「た、大変です!!」

リーダー「どうしたっつぅんだよ騒がしい」

学生区から外れた場所にある廃ビルの一室。10人も満たないが、スキルアウトの不良たちがたむろっていた。
急いで駆けてきたスキルアウトの1人は息を切らしながら、ソファに座るリーダーの前で膝をついた。

スキルアウト「ハァ…ハァ…大変ッス!」

リーダー「だから、何だよ?」

スキルアウト「と、常盤台の……」

リーダー「?」

スキルアウト「常盤台のレベル5、超電磁砲(レールガン)が1人で乗り込んで来ました!!」

リーダー「なにぃっ!?」

ざわめくスキルアウトたち。
リーダーは無意識に立ち上がっていた。

リーダー「な、何で超能力者がここに……」

美琴「さあ、何故かしらね」

一同の注目が部屋の隅に注がれる。そこには、1人の少女が立っていた。
常盤台のエース・超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴だった。

リーダー「超電磁砲……」
リーダー「な、何しにきやがった!? 無能力者相手にウサ晴らしにでもしにきたか?」

強がっているが、リーダーの顔は慄いている。

美琴「いえ、聞きたいことがあるの」

リーダー「あぁ?」

美琴「第7学区にはびこるスキルアウトのグループの中でも、あんたたちは普通のゴロツキとは違うみたいね」

リーダー「………………」

黙り込むリーダー。美琴はそんな彼の様子を気にする素振りも無く続ける。

127: 2010/06/11(金) 23:45:30.62 ID:XutmIr.0
美琴「隠したって無駄だから。ちょっと不正な手段を使ってスキルアウトの独自ネットワークを盗み見させてもらったけど、あんたち、今まで色んな裏組織に雇われてたみたいね」

リーダー「で、だから何だってんだよ?」

美琴に攻撃の意思が無いのを感じ取ったのか、リーダーは既に落ち着いて話に応じていた。

美琴「要するにあんたたちは、ヤバメな犯罪グループの使いぱっしりをしてるってことでしょ?」

リーダー「ふん。よく調べたもんだ。が、だったらどうした? 俺たちのようなはぐれ者は生きてくだけで精一杯なんだよ。お前みたいなお嬢様と違ってなあ!!」
リーダー「そのためならどんな組織だろうとパシリぐらいしてやるぜ」

リーダーは悪ぶることなく、寧ろそれが自慢であるかのように答える。

美琴「別にあんたたちの犯罪自慢を聞きにきたわけじゃないわ」

リーダー「そうかい、じゃあ何しに来た?」

美琴「………最近、この辺りで誘拐事件あったのよ。私と同じ常盤台の生徒2人が失踪したって……」

リーダー「………………」ピクッ

僅かに、リーダーの眉が動いた。

美琴「何か、知ってるわね?」

ドスの利いた声を響かせ、美琴はリーダーを睨みつけた。
同時に、彼女を囲っていたスキルアウトたちが殺気立つ気配が部屋中に広がった。

美琴「…連れさられたの、私の友達なのよ…」
美琴「知ってること、洗いざらい全部話さないと痛い目に遭うわよ」

しばらく、その場に静寂が舞い降りた。
スキルアウトたちはいつでも美琴に飛び掛ることも出来たのだが、美琴とリーダーの膠着の前をして叶わずにいた。

リーダー「………………」
リーダー「ふん」

美琴「?」

リーダー「何しに来たかと思えば、そんなことか」

ややあってリーダーはつまらなさそうに口を開いた。
ソファにドカッと腰を降ろし、リーダーは腕組みをする。

美琴「そんなことですって?」キッ

リーダー「お前はどうも俺たちのことを理解してないようだな。俺たちは、学園都市内で蠢く様々な裏組織の雇われ傭兵みたいなもんだ。それで生計を立ててんだ。分かるだろ? 雇用主との間には毎回、守秘義務が発生する。で、あるのに、俺たちがその契約を破って秘密をペラペラ喋ってみろ。もう誰からも信用されなくなって仕事も来なくなっちまう」

美琴は睨んだままリーダーの話に耳を傾ける。

128: 2010/06/11(金) 23:52:32.16 ID:XutmIr.0
リーダー「そういうわけで、俺はお前に仕事のことに関しては何も言うことが出来ない。今、俺たちが誰かに雇われているのか、それとも雇われていないのか、たとえ雇われていたとしても、その雇用主は誰なのか、その仕事内容はなんなのか。…それら全部、打ち明けるなんて馬鹿な真似はしねーんだよ」

美琴「………………」

リーダー「残念だったな。帰んな超電磁砲。ここにいても埒はあかねーぞ、ククク」

リーダーの笑い声に反応し、周りのスキルアウトたちが「そうだそうだ」「帰れ帰れ」と野次を上げる。

美琴「………そう」

リーダー「世間知らずなお嬢様は家に帰って誘拐犯にビビッて泣いてりゃいいんだよ、あっはっはっは」

口を大きく開けて笑うリーダー。

スキルアウト「ボス!!」

リーダー「あ?」

部下から掛けられた声に、リーダーが閉じていた目を開いた瞬間だった。
そこで彼が見たのは、剣のようなものを持って突進してくる美琴の血気迫った顔だった。

リーダー「!!!!!!!!!!」

ジャキン!!!

美琴が砂鉄を集めて作った剣が、鋭い音を響かせ紙一重でリーダーの顔の側の壁に突き刺さる。

リーダー「……は……あ……が…」

ソファに左足だけを掛け微動だにしない美琴。
あまりの出来事に、リーダーは言葉を失ってしまう。

スキルアウト「てめぇ!!」

怒ったスキルアウトたちが美琴に殴りかかろうとする。

ビリビリビリッ!!!!

スキルアウト「ぐああっ!!!!」

美琴「邪魔しないでくれる? 今、こいつと1対1(サシ)で話してんのよ。次、邪魔したら本気でいくからね」

尖ったような美琴の視線と言葉に、スキルアウトたちは蛇に睨まれた蛙のように動けなくなった。

美琴「さて……ボスさん?」

美琴は砂鉄剣を壁から抜き取ると、今度はそれをリーダーの顔の前に突き出した。

リーダー「ひっ!!」

129: 2010/06/12(土) 00:00:08.34 ID:OCgUDnE0
美琴「別にね。私は、貴方たちを傷つけようとか、アンチスキルに通報しようとか、そんな気はないの。ただ貴方の反応次第では、例外もあるけどね…」

リーダー「れ、例外……?」ブルブル

美琴「私が今、知りたいこと教えてくれる? そうしたら、口の中を剣で貫かれて氏ぬなんて無残なことにならないと思うわよ?」

リーダーは美琴の顔を見る。本当に美琴に頃す気があったのか無かったのか分からなかったが、彼女の言葉には、全てを従わせるような強制的な力があった。

美琴「教えてくれないならもういいわ。もう用済みよ」

リーダー「!!!!!!!」

美琴は剣を振り上げた。

リーダー「ま、待て待て!!」

美琴「…何よ?」

間一髪、砂鉄剣が虚空で動きを止める。

リーダー「わ、分かった。教える。教えるから、それをしまってくれ」

美琴「本当?」

リーダー「ほ、本当だ」

美琴「嘘じゃない?」

リーダー「う、嘘じゃねぇ…。俺も、今回の雇い主とだけは早く縁を切りたいと思ってたんだ…。だから……」

目を瞑り、両手を振って懇願するリーダー。

美琴「そ。じゃあ教えてくれる?」

そう言って、美琴は砂鉄剣をリーダーの顔から離した。

リーダー「………と、言っても、あまり詳しいことまでは知らない」

美琴「え?」

リーダー「い、いやいや本当なんだ。と、とにかく聞けよ」

美琴「分かったわ」

美琴が1歩下がると、リーダーは一息つき、やがて話し始めた。

130: 2010/06/12(土) 00:08:12.08 ID:HOZ8Lek0
リーダー「……雇い主、って言っても実際には会ったことがないんだ。今回、俺らが請け負ってる仕事は全部、電話を介して指示される」

美琴「ふーん」

リーダー「仕事内容は、学園都市内の逃走ルートを考えることだ」

美琴「どういうこと?」

リーダー「例えばだ。もし誰かを誘拐するとした場合、その地域の中で一体どの場所が、誘拐を行いやすいのか。そしてどのルートを使って逃げれば、人目に触れにくく監視カメラの氏角をつくことができるのか」
リーダー「そういうのを考えるのが俺たちの役目なんだ。俺たちは今まで色んな組織と関わって、そういう裏の道には詳しいからな。おあつらえ向きの仕事ってわけだ」

美琴「じゃあ、あんたたちが考えた逃走ルートを使って誘拐犯たちは学園都市の学生たちをさらってる、ってわけ?」

リーダー「多分な…と言うのも、俺たちは逃走ルートの情報を提供するだけで、実際に犯行には加わってないから細かいことまでは分からねぇ」

まるで自分は主犯じゃないですよ、と言うようにリーダーは語る。
美琴にしてみれば、間接的に関わっているだけでも本来なら許せなかったが。

美琴「………………」

リーダー「だが、奴を辿るのは難しいかもしれないぜ?」

美琴「どうして?」

リーダー「あいつ、念を入れているのか、俺たちには誘拐実行現場は正確に伝えねぇんだ。毎回、『○○学区の○○周辺から、××学区の□□周辺まで逃げられるルートを教えろ』っていう風に指示してきやがる」
リーダー「始めのポイントと終わりのポイントを曖昧にしやがるんだ。だから、毎回どこで誘拐を行っているのかも分からないし、どこに学生たちを連れ去っているのかも分からねぇ」

美琴「そうなんだ」

リーダー「これを見ろ」

そう言ってリーダーは懐から1枚の地図を取り出すと、ソファの側に置かれてあったガラスの机の上にそれを広げた。見たところ、第7学区の地図のようである。

美琴「これって……」

リーダー「今言った、逃走ルートのいくつかだよ」

地図には、第7学区をまたぐように、何本かの歪つな線が書き込まれていた。そのどれにも共通しているのが、線の端と端がそれぞれ同じ色のマークで囲まれていることだ。その両端のマークの横には、「A-25」など同じ英数字が並んで書かれてある。ただし、マークの色や英数字は線によってそれぞれ違うようで、隣の線を見てみると、その両端のマークの横には「D-14」と書かれてあった。が、中には英数字が書かれていない線もあり、どういう風に区別されているのか美琴にはさっぱり分からなかった。

リーダー「この地図を元に、雇用主に逃走ルートを教えているんだ。もちろんこの地図の中に書かれてあるのは、盗まれた時のためにと、ダミーのルートも書き込んであるがな」

美琴「ふーん。この両端のマークは何? 線によって色が違うけど」

リーダー「それは単に、スタート地点とゴール地点を表してるだけだ。別にどっちがスタートでどっちがゴールかはどうでもいいから、同じ線の両端にあるマークは同じ色にしてある。ただ、ややこしいから別の線ではそれぞれ他の色でマークしてるけどな」

美琴「じゃあこの『A-25』とか『D-14』って英数字がマークの横に書かれてる線は何?」

次々と質問を繰り出す美琴に、リーダーは「遠慮のないやつだ」と1拍置いてから説明を続けた。

131: 2010/06/12(土) 00:15:30.20 ID:HOZ8Lek0
リーダー「それは地下のルートだ」

美琴「地下?」

リーダー「ああ。主に今では使われなくなった『共同溝』を利用したルートだ。ただし、ルートによっては、今も使われている共同溝を一部に組み込んだものもある。まあ、ちゃんと監視カメラやセキュリティを避けたエリアを組み込んでるし問題はないんだがな」

美琴「へえ」

美琴は感心したような声を上げる。意外と緻密に考えられているらしい。

リーダー「で、その『A-24』だの『D-14』って言う数字は入口のことだ」

美琴「入口?」

リーダー「ああ、入口と言っても大層なもんじゃなく、ただのマンホールなんだけどな。その数字はマンホールの蓋に刻まれてるものだ」

美琴「あ、そうなんだ」

リーダー「マンホールって言っても、設置箇所は色々あるようでな。例えば、人目がつくような大通りの道路にあるマンホールは『A-○○』、人目につかないような裏路地にあるマンホールは『D-○○』って言うようにアルファベットでランク分けされてるんだ。『A』ランクのマンホールは今でもバンバン使われている共同溝に繋がってるが、逆に『D』ランクぐらいになると、今では使われていない、点検もほとんど行われていない共同溝に繋がってる」

美琴「じゃあ、アルファベットの後ろにくっついてる数字のほうは?」

リーダー「それは単に、『同じ数字が刻まれたマンホールとマンホールは一直線で繋がってますよ』って印だ。まあ実際には曲がり道もあるし、階段の上り下がりもあるんだけどな」

美琴は地図の端から端までを見渡す。
『A-24』だの『B-32』だの『A-11』だの『C-43』だの『B-21』だの『D-02』だの『D-16』だの様々なルートが見て取れる。その中でも、スキルアウトたちが根城にしているこの廃ビルの1番近くにあるのは、『D-14』マンホールらしい。恐らくそのマンホールも日頃から利用しているのだろう。試しに『D-14』の線を辿っていくと、終点は第7学区の裏路地の一角だった。

美琴「よくそこまで調べたわね」

リーダー「これだけやっとかねぇと仕事は来ないからな」

美琴「(なるほど。随分と本格的に調査されてるわね。…さて、誘拐犯の足跡を辿るには、どのルートが使われたのか聞くのが一番だけど……もっと手っ取り早い方法の方がいいわよね)」

リーダー「これが俺たちが知ってる全てだ」

美琴「…分かったわ、教えてくれてありがとう」
美琴「言った通り、あんたたちのことは見逃してあげるから安心して。それに、すぐにでも誘拐犯の尻尾捕まえてこれ以上好き勝手にはさせないわ」

リーダー「そ、そいつは助かるぜ。電話だけの接触とは言え、あいつは声だけで他人を殺せそうな恐ろしい奴だからな。正直、そんな人間とこれ以上会話するなんてこっちも懲り懲りだったんだよ」

美琴「だから1つ頼まれてくれる?」

132: 2010/06/12(土) 00:22:29.19 ID:B6VnT4Y0
リーダーの言など知ったこっちゃない、と言うように美琴は発していた。

リーダー「え?」

美琴「いや?」

そう言って美琴は再び砂鉄剣を胸の前にかざす。

美琴「あんたたちもその雇用主とは縁を切りたいんでしょ? だったら、そのためにも私が全力を尽くしてあげるから、ちょっとぐらい協力しなさいよ」

リーダー「なななな何だよ? 何が目的だよ?」

目の前にかざされた砂鉄剣の切っ先を見つめるようにリーダーは問う。

美琴「その誘拐犯をおびき出して欲しいのよ」

リーダー「はぁ!?」

美琴「電話番号は知ってるんでしょ? だから、奴らをおびき出すことぐらい出来るでしょ?」

リーダー「バ、馬鹿言うなよ! 言っとくけど、お、俺はあいつに会うつもりとか全くねぇからな!!」

リーダーはうろたえるように必氏に断ろうとする。

美琴「大丈夫。会うのはあんたたちじゃないから」

リーダー「え?」

美琴「じゃ、頼んだわよ」

それだけ言って、美琴は踵を返した。
さんざん好き勝手にされたのに、悠然と部屋を出て行く美琴をスキルアウトたちはただ黙って見送ることしか出来なかった。

161: 2010/06/12(土) 21:23:03.49 ID:mvmfvdw0
ジャッジメント第177支部――。

美琴「たっだいまー」

佐天「あ、帰ってきました!」

ドアを開け、美琴が室内に入ってくる。
部屋の中央では、黒子と佐天と初春がお菓子を食べながら一服していた。

黒子「随分と遅かったですわね」

佐天「結局、どこ行ってたんですかあの後?」

美琴「ん、ちょっとねー」

黒子「………………」

軽く美琴は受け流す。

初春「あ、御坂さん、これ食べます?」

美琴「ありがとう初春さん」
美琴「で、どう? そっちは何か発見した?」

椅子に座り、初春から受け取ったミニサイズのバームクーへンをほお張る美琴。

黒子「進展なし、ですわ」

美琴「そっか……」

黒子「アンチスキルから送られてきた資料をもう1度隅から隅までチェックして、書庫(バンク)の中から、誘拐を実行するのに都合の良い能力を持つ学生を探してみましたが、結局みんなアリバイがあって見つかりませんでしたの」

黒子は紅茶を飲みながら説明する。

黒子「固法先輩が巻き込まれた爆発事件も同様に調査してみましたが、目ぼしいことは見当たらず。一応、アンチスキルが容疑者を拘束したという話は聞いていますが、ただ偶然現場近くにいた万引き犯である可能性が高いとか」

初春「私は、監視カメラの映像で気になることを黄泉川先生に聞いてみたんですけど……」

続き、初春が会話に入ってきた。

美琴「気になること?」

美琴は眉をひそめる。

初春「はい。4日前の11日、第7学区18番通りの映像なんですけど、16時21分34秒と16時26分50秒のところで微妙にノイズが走って画面が揺れるんです。ほんと、よく見ないと気付かないんですけど……」
初春「で、アンチスキルの黄泉川先生にも確認してもらったんです」

美琴「それで?」

162: 2010/06/12(土) 21:30:51.78 ID:hi1q2i60
初春「ただ、黄泉川先生が言うには『たまにこういうことがある』らしくて…」

佐天「あたしと御坂さんの聞き込みでも、手掛かり1つ見つけられなかったし、全然進みませんね……」

4人は無言になる。
彼女たちも所詮、能力以外は普通の女子中学生。出来ることはどうしても限られてくる。

美琴「(やっぱり……頼りはあれしかないか…)」
美琴「(みんなには黙ってて悪いけど……)」

顎の下で手を組み、チラッと美琴は黒子たちの顔を一瞥する。

黒子「取り敢えず、今日の仕事はこれで終わりにしましょう」

佐天「そうですね」

初春「分かりました」

一服も終え、3人はソファから立ち上がる。

美琴「……………」

と、いつまでも黙りこくり座ったままの状態の美琴を不審に思ったのか、黒子が声を掛けた。

黒子「お姉さま?」

美琴「え? ん? 何?」

黒子「大丈夫ですか? 何か考えごとでも?」

美琴「あ、何でもないから心配しないで」

黒子「そうですか……」

美琴「さ、明日もがんばろー!」

強引に話を終わらせるように、美琴は腕を上げ叫ぶ。

佐天初春「おー!」

黒子「(お姉さま……また何か1人で抱え込んでいますわね……)」

163: 2010/06/12(土) 21:36:15.52 ID:hi1q2i60
翌朝・常盤台中学女子寮――。

ザワザワ

美琴「ん? 何だろ?」

廊下を歩く美琴。奥の方から何やらざわめきが聞こえたので、彼女は人だかりが出来ているホールに向かった。

美琴「ねぇねぇ、どうしたの?」

生徒「あ、御坂さま。ほら、ご覧になって」

美琴「え?」

美琴は生徒たちが見つめる掲示板に視線を移す。
そこには、『休校のお知らせ』という告知が書かれた紙が貼られていた。

美琴「休校?」

黒子「あ、お姉さま!」

美琴が眉をひそめていると、人だかりの中から黒子が手を振りながら駆けてきた。

美琴「黒子、休校って…」

黒子「見ての通りですわ。頻発するテロや要人暗殺を受けて、学園都市中の学校に休校措置がとられましたの」

美琴「そうなんだ…」

寮監「その通りだ」

美琴「!!」

突然、背後から大人の女性の声が聞こえた。
美琴と黒子が振り返ると、そこには光る眼鏡に片手を添えながら立つ寮監の姿があった。

寮監「ここにいる生徒たちに告ぐ。知っての通り、本日から常盤台中学は休校となった。学校の指示通り、貴様らは休校措置が解除されるまで、寮から外出してはならん!!」

ええええええええええええ、と女子生徒たちが同時に抗議の声を上げる。

寮監「黙れ!!!」

シーン……

寮監が一喝するやいなや、女子生徒たちが一瞬で静かになった。

寮監「貴様も例外じゃないぞ、御坂」

美琴「えっ!?」

164: 2010/06/12(土) 21:43:56.55 ID:rpgWs3.0
光る眼鏡の奥から寮監の鋭い目が美琴に向けられた。

寮監「ジャッジメントの学生だけは、所属する支部に限って外出は許されているが…」チラッ

黒子「……はい」

寮監「一般学生は外出禁止だ」

美琴「そんな!」

寮監「特に御坂、お前はよく支部に通い詰めているらしいな」

美琴「それは……友達の失踪事件の調査で…」

美琴の声が弱まる。

寮監「そんなものは白井たちに任せておけばいい。とにかく、規則を破ったら休校措置が解除されても、一定期間の外出禁止とするからな」

美琴「そんなの……」

寮監「以上だ! お前らもどうしても外出したいときは私の許可を得てからにしろ!!」

ホールに集まった女子生徒たちに再び一喝すると、寮監は悠然にスタスタと来た道を戻っていった。

美琴「……………」

黒子「お姉さま…」

落ち込んだ素振りを見せる美琴の顔を、黒子が心配そうに覗き込む。

美琴「黒子、ごめん…」

黒子「気にしておりませんわ。泡浮さん、湾内さんのことは私にお任せ下さいまし」

美琴「………………」

黒子はそう言うものの、美琴は黙っているしか出来なかった。

165: 2010/06/12(土) 21:49:50.97 ID:rpgWs3.0
ジャッジメント第177支部――。

黒子「とにかく、お姉さまの落ち込みようは半端ありませんの…」

初春「佐天さんも同じです。せっかくみんなで犯人を追い詰めようとしていたのに……」

部屋のソファに座って向かい合い、黒子と初春は残念そうに会話する。
心なしか、いつもより室内が寂しく思えた。

初春「御坂さんも悔しいでしょうね」

黒子「まあ…ならいいんですけど…」

初春「……? どういう意味です?」

黒子「どうもお姉さま、何か隠しているような気がしますの」

虚空に視線を向け、黒子は推測を口にする。

初春「隠してる? …って何をですか?」

黒子「それが分かれば苦労しませんが……」
黒子「とにかく、私たちはお姉さまや佐天さんの分も頑張ることです」

初春「そうですね! ジャッジメントの意地を見せてやりましょう!!」

元気一杯に初春はガッツポーズをしてみせた。

黒子「ええ……(お姉さま……)」

166: 2010/06/12(土) 21:54:17.48 ID:rpgWs3.0
とある廃ビル――。

スキルアウト「ボ、ボス!! 来ましたぜ!!」

リーダー「あ? 誰が??」

慌てて駆けてきた部下の1人に、漫画を読んでいたスキルアウトのリーダーは僅かに顔を上げた。

スキルアウト「超電磁砲(レールガン)です!!」

リーダー「来たか……」

部下たちが騒然とする中、リーダーの男は漫画を捨てて立ち上がった。

美琴「元気してる?」

と、スキルアウトたちが準備に時間を割く余裕すらないまま、美琴はいつの間にかフロア内に侵入していた。

リーダー「昨日会ったばっかじゃねぇか」

溜息を吐くようにリーダーはぼやく。

美琴「あら、そうだったっけ? 色んなことあって1週間は経ってると思ったわ」

リーダー「確か、休校措置出されてたよなぁ? いいのかよ、こんなところにいて?」

美琴「ふん、別に処罰なんて怖くともなんともないわ。友達を取り戻すためならね」

腰に手を当て美琴はいたって平然と言う。

リーダー「そうかい…」

美琴「で、連絡は取れたんでしょうね?」

顔を横に向けたまま、美琴は目をリーダーに向けた。

リーダー「ああ…大変だったんだぞ。あれから何度も電話して…15回目でようやく出やがった」

美琴「そう、それで?」

リーダー「話はつけた」

美琴「………………」

何の反応も見せず、美琴は押し黙る。

167: 2010/06/12(土) 22:01:38.91 ID:.6Tinfw0
リーダーの口元がニヤリと歪んだ。

リーダー「上手いこと乗ってくれたぜ」

美琴「で、いつ?」

リーダー「明後日だ」
リーダー「明後日の夜12時。つまりは明々後日18日午前0時っていうことになるな。場所は、この資材置き場だ」

そう言ってリーダーは地図を広げ、印をつけた場所を美琴に見せる。

美琴「ふーん…ありがとう。でもよく向こう、乗ってくれたわね」

地図に顔を向けたまま、美琴はリーダーに視線を流す。

リーダー「いずれ働いた分の金の受け渡しが必要になるんだ。『口座は足がつく危険もあるから直接受け取りたい』って言ったらあっさり承諾してくれたぜ」

美琴「そう、罠じゃなきゃいいけど。ま、どっちみちあんたたちには関係ないわね」

リーダー「…お前、マジで一人で行く気なのか?」

心配、とまではいかなかったが、多少信じられないという顔でリーダーは美琴に質した。

美琴「そうよ。ろくに捜査の手掛かりも掴められないアンチスキルに任せて、取り逃がされても困るし。それに私は第3位のレベル5よ。コソコソと人の目を盗んで学生を誘拐するような卑怯な奴に負ける気なんてしないし」

リーダー「ふん、まあ止めはしねぇぜ」

美琴「じゃあ、お世話になったわね。ありがとう。また何かあれば来るわ」

リーダー「待てよ、これ持ってけ」

踵を返した美琴に、リーダーが後ろから呼び止めた。

美琴「……何これ?」

美琴は差し出されたリーダーの手元を見る。

リーダー「見れば分かるだろ? 拳銃だよ」

御坂「…私にはそんなの…」

リーダー「だろうな。が、自衛用だ自衛用。わざわざ能力使わなくても、これちらつかせるだけで、大の男も怯むもんだ」
リーダー「だから持ってけよ」パシッ

美琴「…………………」

美琴のお陰で、雇用主との関係が切れることに対するお礼からの行動なのだろうか。リーダーは美琴に拳銃を渡していた。

168: 2010/06/12(土) 22:08:33.20 ID:t5.awfo0
2日後・常盤台中学女子寮――。

美琴「待ち合わせの時間まで、あと12時間を切ったわね…」

1人、美琴は部屋の中で地図を広げ、件の場所を確認する。

美琴「見てなさいよ誘拐犯。あんたたちなんて必ず、私がとっ捕まえてやるわ」
美琴「場合によっては……」

ベッドの下から取り出した拳銃を見つめる美琴。

美琴「……そう、これは私1人で決着を着ける…。黒子たちを巻き込むわけにはいかない……」
美琴「これ以上、私の大切な人を失いたくないから……」

美琴は拳を握り締めた。

美琴「………………」

Prrrrrrrrrr.....

美琴「はいもしもし」

反射的な行動だった。
深い考え事をしていた美琴は突如鳴ったコール音を聞き、無意識のうちに手元にあった携帯電話に出ていた。

美琴「もしもし?」




『ふざけた真似を続けるなら命の保障はないぞ』




美琴「え?」

169: 2010/06/12(土) 22:17:14.62 ID:hb08PNI0
一瞬、頭が真っ白になった。


『お友達がまた氏んでもいいのか?』


美琴「……な、何言ってるの?」

状況が理解出来ないのか、美琴はうろたえるように訊ねていた。
彼女の言葉を気にすることなく、相手は答えた。

『泡浮万彬、湾内絹保。2人の行方を追っても無駄だ』

美琴「!!!!!!!!!」
美琴「……あ、あんた誰よ!?」

想像もしていなかった者からの電話。相手は機械で声を変えているのか、酷く無機質で無感情な印象を受けた。

『もう一度言う。深追いするな。これは命令だ。従わなければ……頃す』

美琴「…頃す……ですって?」

それを聞いた瞬間、美琴はぶち切れていた。

美琴「ふざけんじゃないわよ!! あんたが泡浮さんや湾内さん、学園都市の学生をさらった誘拐犯ね!!」

『こちらのことなどどうでもいい』

対し、電話の声はいたって冷静に答える。

美琴「どうでもよくないわよ!! この卑怯者!! 正々堂々と出てきなさいよ!!!」
美琴「……いいわよ。やってみなさいよ。殺せるもんなら頃してみなさいよ!! ただし、私が誰だか知ってて言ってるんでしょうね!!??」

『超電磁砲(レールガン)』

美琴「!!」

『君の身元は既に判明している』

美琴「(こいつ……私をレベル5の超能力者だと知ってて、『頃す』とか息巻いてんの?)」
美琴「あんた……!!」



『お友達のように深い海の底に沈められて氏にたくはないだろう?』



美琴「え……」

172: 2010/06/12(土) 22:24:43.13 ID:bbnLoC60
続けて電話の声に抗議をしようと思った美琴だったが、その言葉で強制的に遮られてしまった。

『我々は単なる誘拐犯ではない』
『君のお友達、泡浮万彬と湾内絹保のことだ。彼女たちは今、冷たくて暗い海の底で、安からに眠ってる』

美琴「…………氏ん……でるの……?」

不意に告げられた衝撃の真実。
美琴は言葉を紡ぐのも出来ず、ただ呆然とする。

『足に重りをつけられてな』

美琴「…………嘘…よね?…」

『嘘をつく必要が無い』

美琴「あんたが……頃したんだ……」

泡浮と湾内の最後の笑顔が美琴の脳裏に蘇る。

美琴「あんたが!! 頃したんだ!!!!」

徐々に、美琴の心の奥底から言い知れぬ感情がフツフツと沸き上がってくる。

美琴「許さない!!! 絶対許さない!!!!」
美琴「私の後輩を…友達を頃すなんて!!!! 絶対にあんたを見つけ出して跡形が無くなるまで燃やし尽くしてやる!!!!」

激昂する美琴。彼女は我を忘れたかのように、大声を吹き込む。

美琴「これ以上、あんたの好きにはさせない!!」

『なら、やってみるか?』

機械を使って話しているはずの無機質な声が、受話器の向こうで笑ったような気がした。

美琴「え……」

電話の声は言う。

『ジャッジメント第177支部』

美琴「!?」

『今、そこに……君の友人か……』
『ツインテールの少女と、頭に花飾りをつけた少女、それと…黒い髪をストレートに伸ばした少女がいるな………』

美琴は走り出していた。
相手の声を最後まで聞き終えるのも待たず、彼女は部屋のドアを開け、廊下を全速力で駆けていた。

173: 2010/06/12(土) 22:34:13.76 ID:YNadw660
前方に、寮監が現れる。

寮監「こら御坂!! 廊下を走るな!!! ……御坂!!!」

美琴「………………」

寮監「外へ行くつもりか!? 許さんぞ!!!」

寮監が正面に立ち、美琴を捕まえようとする。しかし彼女はそれを猫のようにすり抜け、寮を出て行った。

寮監「御坂!!!」

後ろから寮監が叫ぶ声が聞こえるが、無視する。と言うよりも、そんな声は既に意識の外だった。

婚后「あら御坂さん、どこへ行かれるのですか? ……って、あら?…なんとまあ、お忙しい方ですわね」

寮を出ると、美琴は早速携帯電話から「黒子」の連絡先を表示し、発信ボタンを押した。

Rrrrrrrr....

しかし…

Rrrrrrrrr....

何度コール音が鳴っても、黒子が電話に出る気配はない。

美琴「黒子!! 何で出ないのよ!?」

次に美琴は「初春さん」の表示を呼び出し発信ボタンを押す。

Rrrrrrrrrr......

が、しかし。

Rrrrrrrrrr......

美琴「何で!? 何で初春さんまで出ないの!???」

またもやコール音が続いただけで、初春が出ることはなかった。最後に彼女は、「佐天さん」の連絡先を表示し発信ボタンを押した。

Rrrrrrrrrr......

が、何故か佐天にいたっても電話に出ないのだ。

美琴「何で!? 何で出ないのよ!!!」

泡浮と湾内の2人のことを美琴は思い出す。彼女は不安に駆られ、足を速めた。

美琴「……黒子……佐天さん……初春さん……。……みんな、無事でいて!!」

174: 2010/06/12(土) 22:40:53.95 ID:SGK.5xI0
息も絶え絶えに、彼女は走る。休校措置が発令されていたためか、通りには目立つほど学生はいない。
もうどれほどの時間が経ったのだろうか。そう思った時、眼前に1つの建物が見えてきた。

美琴「見えた! ジャッジメント第177支部!!」

見たところ、別に爆発したわけでもなく、火事になっているわけでもない。
建物の周囲にはいつものように、黄泉川の部隊のアンチスキルたちが警護についていた。

警備員「おいこら待て!!」

警備員の検問を突破し、美琴は突き進む。
飛ぶように階段を駆け上がった彼女は、支部のドアを破壊するような勢いで押し開けた。



美琴「…………ハァ…ハァ…ハァ…」



立ち止まり、息を切らしながら、室内を見つめる美琴。

美琴「…………ハァ…ハァ…」

175: 2010/06/12(土) 22:46:25.16 ID:SGK.5xI0
そんな彼女の姿を、不思議そうに3人の少女が見つめていた。

黒子「あら、お姉さま、どうかしたんですの?」

キョトンとした顔で黒子が訊ねる。

美琴「………………」

佐天「すんごい汗かいてますよ!」

驚き、佐天も声を上げた。

初春「何か急用でも?」

初春が首を傾げて言う。

美琴「フフ……」

黒子佐天初春「????」

美琴「……フ…」

壁にもたれかけるように、美琴はその場に崩れた。

黒子「お、お姉さま!!」

黒子と佐天と初春が駆け寄ってくる。

佐天「しっかりしてください!」

初春「何があったんですか!?」

美琴「フフ……いえ…何も…何もなかったわ……」

黒子佐天初春「?」

美琴の行動がさっぱり理解出来なかったのか、黒子たちは顔を見合わせた。

警備員「おいこら! 君、勝手に入っちゃいかんだろ」

美琴を止めようとした警備員がしばらくして室内に入ってきた。

美琴「ああ…すみません…」

黒子「この方は私の先輩です。心配はいりませんわ」

警備員「…何だ。ならいいんだが…」

警備員も美琴の顔を覚えていたのか、すぐに下に戻っていった。黒子がドアを閉めると、美琴はヨロヨロと立ち上がった。

176: 2010/06/12(土) 22:52:27.55 ID:SGK.5xI0
初春「御坂さん、冷たい水です」

美琴「ああ、ありがとう初春さん」

初春から受け取った水をゴクゴクと一気飲みする美琴。

黒子「で、どうしたんですのお姉さま? そんなに慌てて…」

一息つき、美琴は目に入った椅子に腰をかけた。

美琴「……警告があったわ」

黒子佐天初春「え?」

美琴「泡浮さんと湾内さんの件、私たちだけで独自に調べてたけど……」
美琴「さっき、どこから嗅ぎつけたのか…誘拐犯が自ら私のケータイに電話してきたわ」

黒子佐天初春「ええっっ!!??」

3人は驚愕の声を上げる。

黒子「ゆ、誘拐犯ですって!?」

初春「ほ、本当に電話が掛かってきたんですか!?」

佐天「一体何で……」

美琴「だから、警告よ」

黒子「警告?」

美琴「これ以上深入りするな、ってね……。で、そいつがあんたたちの安全を脅かすようなこと仄めかすから、急いで走ってきたってわけ……。みんな、何ともなくて良かったけど……」

本当に安心したように、美琴は息を大きく吐き出した。

黒子佐天初春「………………」

誰かが息を呑む声が聞こえたような気がした。

美琴「あいつ……絶対に許せない……」

黒子「そ、それでどうされたんですか?」

組んだ両手に顎を置き、言葉を震わせる美琴を見て、黒子は疑問を口にした。

美琴「………黒子、初春さん、佐天さん……」

潤んだ目を3人に向ける美琴。その表情に、3人は言葉を失う。
意を決し、美琴は言葉を搾り出していた。

177: 2010/06/12(土) 22:58:33.33 ID:SGK.5xI0
美琴「……泡浮さんと湾内さんは既に殺されてるわ……」

黒子佐天初春「!!!!!??????」

佐天「ど、どういうことですかそれ!!??」

黒子「誘拐犯がそう言いましたの!?」

美琴「ええ……」

初春「そんな……何で……酷い………酷すぎる……」

3人は愕然とした表情になる。

美琴「だから、同じ目に遭いたくなかったら、もうこれ以上深追いはするなって……」

黒子「……そんな…そんなこと、尚更出来ませんわ。私たちの…私たちの友達を頃しておいて……」

佐天「……何のために…ここまで…やってきたんだろ……」

初春「泡浮さん…グスッ……湾内さん…ヒグッ」

美琴「…………………」

涙を浮かべる3人を前に、無言になる美琴。
と、その時だった。

Prrrrrrrrrrrr!!!!!!

悲しみに暮れ、ただ泣くことしかできない彼女たちの雰囲気をぶち壊すように、支部の電話が鳴った。

Prrrrrrrrrrrr!!!!!!

黒子「……グスッ…私がとりますの…」

赤くなった目を拭き、黒子が受話器をとる。

黒子「はい、こちらジャッジメント第……え? どなたですの? ……はぁ?」

美琴たちは頓狂な声を上げた黒子を怪訝な顔で見る。

美琴「どうしたの黒子?」

黒子「何だか理解出来ませんが、分かりましたわ……」

そういうと、黒子は電話のスピーカーボタンを押した。

黒子「お姉さま、知らない人が『とにかくスピーカーを押して全員に聞こえるようにしろ』と……」

178: 2010/06/12(土) 23:04:38.11 ID:SGK.5xI0
美琴「?」

『超電磁砲、お友達が無事で良かったな』

美琴「!!??」

その機械のような声に、美琴は覚えがあった。

佐天「…グスッ…知り合いですか御坂さん?」

驚いた顔で美琴は言う。

美琴「………知ってるもなにもこいつは、ついさっき……」

『君たちの友達を誘拐し、更には頃した犯人だ』

黒子佐天初春「!!!!!!!!!!」

『君たちへの要求は1つ』

美琴たちの反応を気にするつもりもないのか、電話の声は普通に話を続けた。
しかし、それで黒子たちが納得するはずがない。

黒子「お待ちなさい!! 貴方が泡浮さんと湾内さんを頃した犯人ですのね!?」

佐天「どうしてこんなことをしたのよ!! 答えろ卑怯者!!」

初春「…私たちの……友達を返してください……!!」

『君らのことなど知ったことじゃない。君らの愚痴を聞きに電話をかけたわけではない』

美琴「…………っ…」

その遠慮も配慮も無さすぎる声に、美琴は改めて怒りを覚える。

『要求はただ1つ。これ以上、我々に深追いするな。それだけだ』

佐天「ふざけないでよ!! あんたに友達を失った悲しみが分かるって言うの!?」

黒子「絶対に、貴方を追い詰めてみますわ……すぐにでも!!」

『なら、こっちも君たちには容赦しない。我々の計画を邪魔するなら、君たち4人を頃す』

黒子佐天初春「!!??」

機械で声を変えているとは言え、その言葉が嘘だとは思えなかった。
受話器の向こうの人間が本気であることはその口調からすぐに理解出来た。

179: 2010/06/12(土) 23:10:31.66 ID:SGK.5xI0
佐天「フン、今更恐くないわよ! やってみなさいよ!!」

黒子「そうですわ。返り討ちにしてやりますの!!」

初春「……中学生だからって、舐めないで下さい……」

それでも少女たちは怯まない。

『そうか。ならばせいぜい健闘したまえ。こちらも容赦しない。以上だ』

美琴「待ちなさいよ!!」

それまで黙っていた美琴が、黒子たちを押しのけて電話に近付いた。

美琴「いい気にならないでよ! あんたなんか、この私がじきじきに倒してやるんだから!! 私は、学園都市第3位の超電磁砲(レールガン)なんだからね!!」

『過信している人間ほど終わりはあっけないもんだ。そう、君らの先輩の……』
『 固 法 美 偉 の よ う に ね 』

美琴「え……」

黒子「今なんと……」

佐天「固法先輩って言った?」

初春「こ、固法先輩がどうしたんですか!?」

『理解出来なかったか? そうだ、爆氏した固法美偉。彼女も我々が頃した』

金槌で頭を殴られたような、大きな衝撃が美琴たちを襲った。

佐天「あんたが……あんたが…固法先輩も頃したって言うの……?」

初春「そんな…固法先輩まで………酷すぎる!」

黒子「……何てことを。では、貴方があの『ファニーランド』をテロ爆破した張本人でもありますのね!?」

『もう君たちとの問答も飽きた。君たちに出来るのは、普段通りに生活を送ることのみ。もし我々の邪魔をするというのなら、覚悟しておくことだ』

美琴「待ちなさい!!!」

最後に美琴が叫んだが、その時には既に通話が切れ、ツーツーと空しい音が鳴り響くだけだった。
しばらくの間、押し黙り微動だにしない4人。みな、赤くなった目に涙を溜め、ただ悔しそうな表情を浮かべていた。

180: 2010/06/12(土) 23:18:08.60 ID:KTi5jTQ0
美琴「…………………」

伸ばした両手を机に置き、美琴は1人黙考する。

美琴「(………どうして…こんなことに……何で…固法先輩まで……やっぱり、私の能力なんて人を助けられないんじゃない…っ!!)」

1度閉じた目を再び開ける。

美琴「(………どちらにしろ、このまま奴らを放っておくわけにはいかない……当初の予定通り、今夜、奴らを待ち伏せして……)」
美琴「(……でも…もし失敗したら……もし失敗して…報復に黒子たちが奴らに殺されでもしたら……)」

そんな彼女の脳裏に、とある人物の顔が蘇る。

美琴「(……あんたなら…あんたなら……どうする? ……いえ…あんたなら…私の妹達を助けたときみたく、何も考えずに猪突猛進に向かっていくんでしょうね……)」

もちろん美琴の頭に浮かんだ、とある人物は今、彼女に答えを提示してくれない。

美琴「(……でも怖い…怖いのよ……もし…失敗したらどうしようかって……私の大切な友達に危害が及んだらどうしようかって……そう思うと怖いのよ……)」

美琴はギュッと握り拳を作る。

美琴「(……でも、あんたは違う……あんたは…相手がどんなに自分より強い人間でも……例え相手が最強の超能力者だったとしても……信念1つで果敢に立ち向かう……だけど、私は怖いのよ……1人で全てを背負いきれるのか……1人で、自分の行動の結果に責任をもてるのか……)」

ふと美琴は、とある実験が中断された日のことを思い出す。

美琴「(…そっか……今のあんたが…私を見たら、怒るでしょうね……また1人だけで無茶しようとして……お得意の説教を何時間にも渡って、垂れるんでしょうね……)」

美琴はチラッと後ろに視線を移す。ただ、泣くことしか出来ない親友たちの悔しそうな顔が目に入った。

美琴「(……みんな…とても悔しそう……。そうだよね……固法先輩を殺されて…泡浮さんと湾内さんを助けることも出来ず……今までの行動も全て水泡に帰そうとしてる…)」
美琴「(……そう…これは、私だけの問題じゃないんだ……。私には、頼りになる親友がたくさんいるんだから……)」

意を決し、美琴は黒子たちに振り返っていた。

黒子「グスッ……」

佐天「グズズ……」

初春「ヒッグ…ヒッグ…」

美琴「黒子、佐天さん、初春さん……」

声を掛けられ、3人が顔を向ける。みんな歳相応に、子供のような泣き顔を浮かべていた。

黒子佐天初春「??」

美琴「私の話、聞いてくれる?」

181: 2010/06/12(土) 23:25:20.32 ID:KTi5jTQ0
とある廃ビル――。

スキルアウト「ボス!! 逃げて下さ……グエッ!!!」ドスッ

リーダー「チッ……!!」

そこらじゅうに赤く染まった氏体が転がる中、リーダーは何とか廃ビルからの脱出を試みようとしていた。
しかし、目の前に立つ人間がそれを許すはずも無かった。

リーダー「…全員やられたか……」

辺りを見回す。室内に残ってるのはリーダーと侵入者1人のみ。
その状況はもはや、『戦闘』とは言えない、ただの『虐殺』だった。

リーダー「フンッ! 舐めてもらっちゃ困るぜ。これでも俺は学園都市の裏を歩いてきた男だぜ?」

拳銃を取り出すリーダー。狙いを定め、引き金を引いた。
その瞬間、侵入者が歪な笑みを口元に浮かべた。

リーダー「!!!!!!!」
リーダー「何故だ……何で…」

近付く侵入者。
リーダーは、ゆっくりと近付いてくる絶望を目の前に、言葉を失くした――。

182: 2010/06/12(土) 23:32:38.21 ID:KTi5jTQ0
美琴「……以上が、私が考えてたことよ…」

美琴は全てを語る。今まで黒子と佐天と初春に密かに行っていたことを。

初春「今日の夜0時……。誘拐犯が……」

佐天「じゃあ、御坂さんがこの間、あたしと別れた後って…」

美琴「ええ。スキルアウトの集団と接触をとっていたのよ。奴らに…誘拐犯に辿り着くためにね」

美琴の突拍子も無い告白に、3人は驚きの表情を隠せない。

黒子「何故そんな危ないことを!! どうして黙ってらっしゃったんですの!?」

心配の含んだ声で黒子は美琴に怒る。それを見て美琴は一瞬、目を伏せ語った。

美琴「……ごめん黒子。でも私、どうしても許せなかったのよ…あいつらが…。…危険なことになるって分かってたから、貴女たちを巻き込みたくなかったの……」

黒子「……そんなこと。もう、私たちは既に危険に巻き込まれていますわ」

初春「そうですよ。だから覚悟して、この調査を始めたんじゃないですか…」

佐天「ずるいですよ御坂さん。あたしたち、今まで色んな苦楽を共にしてきた仲間じゃないですか。なのに黙ってるなんて……」

美琴「…仲間…か」

3人の言葉を前に、美琴は優しい笑みを刻み膝の上で組んだ手元に視線を移した。

美琴「……でも、危険なのよ? 今まで何人もの能力者を誘拐してきた奴らと直接会うのよ?」

黒子「お姉さま…今更ここまで来て、私たちを蚊帳の外に置くのはずるいですわ」

初春「私たち、どうしても固法先輩や泡浮さん、湾内さんの仇を討ちたいんです。そのために…ここまでやって来たんですから…」

顔を上げる美琴。天井に見える蛍光灯の光が、妙にぼやけた。

美琴「……いいのね? 本当に?」

黒子「くどいですわよお姉さま」

初春「もう私たち、覚悟は出来てます」

佐天「虚空爆破(グラビトン)事件、幻想御手(レベルアッパー)、ビッグスパイダー、そして乱雑開放(ポルターガイスト)。様々な修羅場をあたしたちは4人で潜ってきたじゃないですか」
佐天「多分、あたしたちほどこんな修羅場くぐった人間なんてこの学園都市にいませんよ!!」

初春「そうですよ。そんな私たちが、そう簡単に負けるとも思いません」

黒子「何しろこっちには、レベル5の超能力者であるお姉さまがついていますものね!」

184: 2010/06/12(土) 23:39:48.62 ID:KTi5jTQ0
笑顔を浮かべ、美琴を見つめる黒子と佐天と初春。
彼女たちの顔からは既に、涙は消え去っていた。

美琴「みんな……」

佐天「はい!」

と、突然、佐天が腕を前に差し出した。

美琴「ん? 何?」

佐天「分かってないなあ。“戦友”の証ですよ」

チッチッチ、と言うように佐天がウインクしながら説明する。

初春「戦友?」

佐天「そ! あたしたちは親友であると共に戦友なんです。“どんなに厳しい状況も、4人一緒で乗り越える”って証ですよ。だからさ、ほら、御坂さんも、初春も、白井さんも」

初春「あ、はい! 戦友です戦友」

初春は腕を差し出し、佐天の手にコツンと当てる。

黒子「まったく、佐天さんらしいですわね」

黒子も初春に続く。

美琴「恥ずかしいわね、ったく…」

そして、美琴も腕を前に突き出した。細く、白く、小さく、華奢な4本の腕が十字をつくる。
しかし、そこに結ばれた絆は固かった。

185: 2010/06/12(土) 23:48:01.44 ID:KTi5jTQ0
佐天「じゃ、これからあたしたち“超電磁砲(レールガン)組”は一蓮托生です」

黒子「れぇるがん組?」

佐天「御坂さんをリーダーとした、女の子4人による精鋭集団ですよ!」

美琴「リ、リーダーってそんな…」

初春「しかも精鋭ですか?」

佐天「あたしたちは4人で1つの“超電磁砲(レールガン)組”。一心同体なんです。あたしたちが力を合せれば、1+1+1+1も、100×100×100×100になる」
佐天「さ、御坂さん、気合入れましょう気合!!」

美琴「………フッ…分かったわ」

気合を入れるように美琴が口元を緩める。

美琴「私たちが4人組めば、どんな敵も恐くないわ。だから、頑張りましょう」



美琴「超電磁砲(レールガン)組、ファイトオオオオオッ!!」





美琴黒子佐天初春「ファイトオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!」





4人の少女たちのか弱くも力強い声が響き渡った――。

210: 2010/06/13(日) 16:05:02.31 ID:6uDnSF60
夜・ジャッジメント第177支部――。

美琴「現在時刻21時30分。奴らと顔を合わすことになる時刻まで、残り2時間30分…」

美琴は時計を見る。
側では、佐天と初春が間食をとりながら、美琴がスキルアウトから貰った地図を確認していた。

美琴「あと30分したら出るわよ。2人とも、大丈夫?」

佐天「はい! 大丈夫です! 見て下さい! 以前、テレスティーナを倒すためにキャパシティダウンを破壊したこのバット!」
佐天「ずっと支部に保管しておいて正解でしたね! これで敵をボッコボコにしてやるんです!」

どや顔で佐天はブンブンとバットを振り回す。

初春「あ、危ないです佐天さん」

佐天「あはは、ごめんごめんー」

美琴「佐天さん、バットを振るのは、まず相手の話を聞いてからね。勢いあまって突っ込んでいかないように。それにバットで殴られただけで大抵の人は氏んじゃうからね」

一応、苦笑い気味に美琴が注意すると、佐天は明るい顔で言い放った。

佐天「保険ですよ保険!」

黒子「お姉さま、陰から様子を見てきましたわ」ブンッ

その時、部屋の真ん中に黒子が突然現れた。

美琴「どうだった?」

黒子「この支部の警護に就いているアンチスキルの数は多く見積もっても10人以上。正面から出て行ったら、有無を言わさず止められますわね」

誘拐犯を待ち伏せするためにはまず支部から出なければならなかったが、当然こんな夜中に出て行こうとすれば警護に就いている警備員に止められるのは必至だった。
黒子はそういった状況を踏まえテレポートで支部の外まで移動し、警備員に見つからない場所から支部の警護の様子を確かめていたのだ。

黒子「なら…」
黒子「2回に分けて私のテレポートで、アンチスキルの見えない場所まで3人を移動させるしかありませんわね」

美琴「分かったわ。大変だけど宜しくね」

黒子「ええ。お任せを」

黒子が頷く。

Prrrrrrrrrr.....

黒子「あら、電話」ガチャッ
黒子「はい、もしもしこちらジャッジメント第177支部の白井ですが……」

213: 2010/06/13(日) 16:12:45.61 ID:aYP5vdY0
寮監『くぉらぁぁ!!! 白井!!! 御坂を出せ御坂を!!!』

黒子が言い終わるより先に、電話の向こうから怒号が聞こえてきた。

黒子「げ、寮監…」

美琴「マジで?」

美琴と黒子はあちゃー、というように顔をしかめる。

寮監『お前、昼に電話したら『御坂はいない』ってほざきやがったな!? さっき、黄泉川先生経由で警護の警備員から話聞いたら、そこに御坂いるって話じゃないか!』

黒子「あんらぁ…何のことですかしら?」

顔から冷や汗を流しながら、黒子はシラを切る。

寮監『とぼけるな! お前はともかく、御坂は外出禁止中なんだぞ!』

黒子「いや、それは……って、あ…」

美琴「もしもし? 御坂ですけど?」

黒子から受話器を奪う美琴。

寮監『やっぱりそこにいたか! お前、今外出禁止中だと分かって……』

美琴「ごめんなさい寮監」

寮監『あ?』

美琴「今日だけは譲れないんです。帰ったら、罰でもなんでも受けますから…今日だけは見逃して下さい」

真剣な声で、僅かに頭を垂れる形で電話の向こうの寮監に美琴は答える。

黒子「お姉さま…」

佐天初春「御坂さん…」

寮監『ふざけるな! 私の役目は常盤台生徒の寮での安全を守るためにだな! ……』

ガチャン

美琴「………………」

静かに、美琴は受話器を置いた。

黒子「宜しいのですか?」

美琴「寮監には悪いけど、今日だけは……ね」

美琴は柔らかい微笑みを見せる。

214: 2010/06/13(日) 16:20:35.36 ID:aYP5vdY0
美琴は柔らかい微笑みを見せる。

Prrrrrrrrr

その時、また電話が鳴った。

美琴佐天初春「!!」

黒子「またですか。結構、しつわいですわね」

呆れたような顔で黒子が受話器をとる。
ぞんざいな感じで受け答えした黒子だったが、電話の相手は寮監ではなかった。

黒子「はい、もしもし白井ですが……って、あら黄泉川先生?」

美琴「なんだ、寮監じゃないのか」ホッ

黒子「え!? それは本当ですの!?」

美琴佐天初春「?」

黒子「そ、そうですか……分かりましたわ…情報提供、ありがとうございます…」
黒子「え? あ、滅相もありません。まさか、そんなこと、おほほほ…」
黒子「ああ、お姉さまですか?」チラッ

美琴「どうしたの?」

黒子「分かりました。明日には必ず……はい。お休みなさいませ」

ガチャン

美琴「私の名前が出てたけど、何かあったの?」

黒子「どうやら、寮監がお姉さまの居所を聞いた時、かなり心配してたらしくて…それもあってか、黄泉川先生から『関係ない生徒は早く帰るように』と注意を受けましたわ」

美琴「そうなの。でもまあ、どうせいいわ。今日で決着を着ければいいことだし」

佐天「あたしも密かに来ちゃった系だから、そこは気にしないでいいんじゃないですか?」

至極のん気に言ってみせる佐天。初春が苦笑いする。

初春「もう、佐天さんったら」

佐天「あはは」

美琴「それで、最初のほう、随分驚いてたけど何があったの?」

黒子「そう!! それですの!! お姉さま、大変です!!」

215: 2010/06/13(日) 16:28:10.73 ID:Minq5mo0
突然、黒子が血相を変えた。
その変わりぶりに、美琴たちが驚く。

美琴「え? 何々!?」

黒子「お姉さま、誘拐犯の情報を得るために接触していたスキルアウトのグループがいたでしょう?」

美琴「え、ええ…」

黒子「今日夕方頃、そのグループが廃ビルで壊滅された状態であるのが発見されましたの!!」

美琴「な、何ですって!!??」

初春「え…それって…つまり、どういうことですか?」

黒子「分かりませんわ。ただ全員、氏んでいたらしくて……」

美琴はそれを聞いて眉をひそめ、顎に手を添えた。

美琴「何かあったのね……」

佐天「何か、って何がです?」

美琴「多分、誘拐犯である雇用主から、臨時雇いのスキルアウトの連中を、消さなければならないことが起こった、ってとこかしら……」

黒子「もしかして、私たちの情報が漏れたのでは?」

美琴「なら、すぐにでもこちらに電話を掛けてきてもおかしくないんだけどね。相手はこっちの携帯番号を知ってるんだし…」

黒子「どうなさいます? やめますか?」

美琴「いえ、まだ気付かれていないはず。ここで奴らを取り逃がしたら、次いつチャンスが出来るか……だから、予定通り、今夜は奴らに会いに行くわ」
美琴「でも…やっぱり、常識が通用しないイカれた狂人みたいね。仕方が無いわ」

そう言って、美琴は隠していた物を取り出した。

黒子佐天初春「!!!!!!!!!」

それを見た黒子たちの表情が一変する。

216: 2010/06/13(日) 16:35:28.73 ID:Minq5mo0
黒子「お、お姉さま…それ…」

美琴「見ての通り、拳銃よ」

佐天「どこで手に入れたんですかそんなの?」

美琴「その壊滅したスキルアウトのリーダーから貰ったのよ」

初春「わ…すごい…本物の拳銃ってこうなってるんですね……」

黒子と佐天と初春は物珍しいものを見るように、机の上に置かれた拳銃を覗き込む。

佐天「あれ? ジャッジメントって拳銃の訓練も受けるんじゃないの?」

黒子「初春は握力がない上に、体力も皆無ですからね。一応、後方支援が専門ですから、拳銃の訓練は免除されているんですよ」

佐天「そうなんだー」

黒子「私のような前線に立つジャッジメントですら、銃の訓練はほんの僅かしかやったことがありませんからね」

初春「だから本物の拳銃を間近で見るのはこれが初めてなんです」

普段見慣れないものを前にし、彼女たちは興味深そうに話をしている。

美琴「まあ、もしもの時の保険よ。相手が例え、牙を向いて襲ってきても私が超電磁砲でぶっ飛ばすから大丈夫だろうけど……万が一、ってこともあるしね」
美琴「誰でもいいわ。私以外で誰か、持っておいてくれる?」

黒子佐天初春「………………」

美琴はそう言うが、拳銃ほど女子中学生に縁遠く似合わない得物もない。
3人はゴクリと喉を鳴らし、互いの顔を見る。



美琴「……じゃあ名乗り出ないようだから、私が決めるわね」



217: 2010/06/13(日) 16:42:36.19 ID:Minq5mo0
午後22時――。

美琴「行くわよ!!」

美琴の鋭い眼光が、目の前に並ぶ少女たちの顔を見据える。
みな、彼女たちの表情は真剣そのものだった。

佐天「泡浮さんと湾内さんのために!!」ブンブンッ

バットを振り回す佐天。

初春「固法先輩のために!!」

グッと初春は拳を握る。

黒子「そして、私たちのためにも……」

黒子はフル装備の金属矢を革ベルトで太股に装着する。



美琴「超電磁砲(レールガン)組、出動!!!」





美琴黒子佐天初春「おーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」





繊細だが、力強い声と共に美琴たちは腕を一斉に挙げた。
彼女たちは今、誰にも負ける気はしなかった。
今宵、4人の少女は戦場へ出陣する――。

242: 2010/06/13(日) 21:43:14.31 ID:iWKmmLw0
学園都市某所。学生は滅多に寄り付かないような郊外の寂れたエリアに、その資材置き場はあった。
物陰に隠れ、目の前の空間を見つめる美琴、黒子、佐天、初春の4人。
資材置き場は広く、イメージとしては体育館ぐらいの大きさがあった。
しかし、逆に言えばその中央に立っているだけで目立ってしまい、狙われた者は不意を衝かれることになる。

佐天「……来ませんね」

黒子「現在時刻23時50分。私たちが来てから既に20分は経っていますわ」

目的の人物がなかなか姿を現さないことに焦りを感じているのか、佐天と黒子がそう言う。

美琴「待ち合わせ時刻は0時よ。だけど、油断しちゃダメ。広場の隅々までよく目を通して」

初春「…緊張しますね……」

彼女たちの鼓動と共に、時間はただ過ぎていく。

23時55分…

23時57分…

23時59分…

そして、遂にその時刻が訪れた。



美琴「午前0時よ」



4人の顔が強張る。

黒子「……………」ゴクリ

佐天「……………」ドキドキ

初春「……………」ドキドキ

静寂がその場を支配する。
それぞれ、目につく場所に視線を流す彼女たち。しかし、何者かが現れる気配はまるで無い。

243: 2010/06/13(日) 21:50:36.38 ID:iWKmmLw0
5分後――。

佐天「…ぜ、全然来ないですね…」

静寂に耐えられない、と言うように佐天が言葉を紡ぐ。

黒子「5分ぐらいの遅延は想定内ですわ」

初春「でも、もしこのまま来なかったら…」

黒子はそう言うが、初春は懸念を口にする。
美琴はそんな3人を前に、自分に言い聞かせるように声を上げる。

美琴「来る! 絶対来るわ!!」

が、しかし、それから25分経っても誰1人その場に姿を現れなかった。
4人の間に、無駄足だったのでは、という空気が流れ始める。美琴はそんな空気を感じ取り、冷や汗を流す。

美琴「(ここで来なかったら……私たちのこれまでの行動は全て無駄になる…そんなの嫌。来るなら来なさい…)」

美琴は、より気合いを入れて目の前の広場を見据えた。

246: 2010/06/13(日) 21:58:34.13 ID:iWKmmLw0
その頃、美琴たちの焦りも限界にまで来ていた。

黒子「………………」

佐天「………………」

初春「………………」

美琴「………………」

誰も、何も喋ろうとしない。否、喋ることが出来なかったのかもしれない。
やはり、無駄骨だったか、という落胆と絶望が彼女たちの心を支配し始めたとき、ソレは訪れた。

247: 2010/06/13(日) 22:01:44.34 ID:iWKmmLw0






「あァれェ? こンな寂れた場所に似ても似つかない、4匹の子猫ちゃンたちが紛れこンでるぜェ~」







250: 2010/06/13(日) 22:09:22.63 ID:NwFQ4G60
神経を逆撫でするような、しかしその言葉1つだけで人間を殺せそうな、鋭い声が背後から美琴たちを貫いた。

美琴黒子佐天初春「!!!!!!!!!!!!!!!」

一斉に、4人は後ろを振り返る。しかし、声の主の姿は見えない。




「いけねェなァ……ここは子猫が遊びに来るような場所じゃねェンだ」




暗闇から再び、殺気に包まれたような声が届く。そのあまりの強大過ぎる威圧感に、美琴たちは声を忘れるほど戦慄していた。

美琴「だ……誰よ!」

何とか美琴が言葉を搾り出す。

251: 2010/06/13(日) 22:15:38.47 ID:NwFQ4G60
やがて、コツコツと誰かが歩いてくる足音に気付くと、美琴は身体中に電気を纏い始めた。
同様に、黒子も太腿の金属矢に手を添える。佐天はバットを握る手に力を込め、初春もまた前方に意識を集中させた。



「おいおい、つれねェなァ……誰とはねェだろ。あンなに激しくヤり合った仲じゃねェか」



突風に吹かれたような殺気が4人を襲う。
美琴はそんな男の言葉と声を聞き、心の奥底に眠っていたはずの恐怖が蘇るような感覚を覚えた。

美琴「(この声……どこかで……)」

美琴が思考を巡らす暇も無く、遂に、その男は姿を現した。


「よォ、久しぶりだな超電磁砲(レールガン)」


ニヤリと不気味な笑みを口元に刻んだその男。
美琴はその男を知っていた。嫌と言うほど知り尽くしていた。
彼女は驚愕と恐怖が混合した視線を向ける。
そこに立っていたのは、紛れもなく、学園都市最強の超能力者“一方通行(アクセラレータ)”だった。





「………一方通行(アクセラレータ)……!?」






253: 2010/06/13(日) 22:22:34.17 ID:NwFQ4G60
思わず出た言葉はそれだった。寧ろ、それ以外の言葉は出てこなかったと言える。
彼女にとって、あまりにも予想外の人物が唐突に目の前に出現したからだ。

黒子「お、お姉さま、知り合いですの!?(この殺気と威圧、只者じゃありませんわ!)」

続いて黒子も何とか声を絞り出す。それを皮切りに、佐天も初春もまたようやく声を上げた。

佐天「この人、能力者なんですか!? 御坂さん!?」

初春「この人の能力値は!? レベル3!? それともレベル4とか!?」

一斉に、喋り出す彼女たち。しかし、その声はどこか震えている。
それは、目の前で獰猛な殺気と威圧感を放つ一方通行によって生み出された動揺とも言えた。

一方通行「あン? 何だ超電磁砲、俺のこと教えてなかったのかよ…」

美琴「…………っ…」

夢でも幻でもない。今、自分の目の前に立つのはあの学園都市最強の超能力者・一方通行(アクセラレータ)だ。
しかも、見たところ彼は以前ついていた杖も、能力を制御するチョーカー型の電極バッテリーも首に巻いていない。どこからどう見てもそれは健康な人間そのもの。間違いない。彼は今、完全回復して最盛期の力を取り戻している。
美琴の脳裏に、彼の人智を越えた無慈悲なまでの強さが蘇ってくる。

一方通行「いや、無理か。そもそもここに来るのが俺だと分かってたンなら、ダチをわざわざ連れてくる危険冒すわけねェもンなァ」

佐天「み、御坂さん! この人の能力は何なんですか!?」

黒子「レベルの位は!? お姉さま!!」

焦りを隠しきれず、彼女たちは一斉に混乱する。

美琴「……こいつの能力は……ベクトル操作…」

初春「ベクトル……操作? 聞いたことありません。こ、この人の序列は!?」

信じられない、という表情でありながらも、美琴は何とか説明を口にする。
黒子たちは、自分がよく知るレベル5の美琴がここまで慄いている姿に不安を覚える。

美琴「第1位よ」

黒子佐天初春「え………」

美琴「こいつは……学園都市の230万もの頂点に立つ超能力者、最強のレベル5、一方通行(アクセラレータ)よ!!」

258: 2010/06/13(日) 22:29:35.18 ID:NwFQ4G60
美琴は、不安を搾り出すように大声を張り上げた。

黒子「……超能力者……」

佐天「最強……」

初春「……レベル5?」

初めて幽霊を見るように、彼女たちは恐る恐る一方通行の顔を見た。

一方通行「よく言えましたァ! 超電磁砲には花丸をあげねェとな!!」ニヤァ

誰かの歯がカタカタ鳴った。誰かの震えが肌越しに伝わってくる気がした。無理もない。今、目の前にいるのは、学園都市の頂点に立つ人間なのだから。
そんな一方通行を前に彼女たちは今、まるでライオンと対峙した子猫のように小さくなっていた。

美琴「……して…」

一方通行「あン?」

美琴「どうして!? …どうして固法先輩を、泡浮さんを、湾内さんを頃したのよ!!!!」

恐怖と焦りを隠しつつ、美琴は必氏に搾り出した言葉で一方通行に詰問していた。
それを黒子と佐天と初春が不安げに見つめる。

美琴「……あんた…改心したんじゃなかったの……。一般人に危害は加えないんじゃなかったの? ……どうして、何の罪も無い人たちを……」

語尾が弱くなる。そんな美琴を無表情で見ていた一方通行は口を開いた。

一方通行「俺に聞くなよ」

美琴「何ですって……?」ギリッ

思わず、と言うように美琴が一方通行を睨む。
そんな彼女の行動など気にする素振りも見せず、一方通行は答える。

一方通行「首謀者は俺じゃねェ」

美琴「え?」

一方「だろ?  三  下  ァ  」

ニヤリと再び一方通行が笑った。
彼の視線を辿り、美琴たちが振り返る。
そして、1つの声が暗闇の奥から聞こえた。

259: 2010/06/13(日) 22:36:41.40 ID:NwFQ4G60






「……久しぶりだな……“ビリビリ”」







265: 2010/06/13(日) 22:44:51.27 ID:NwFQ4G60
美琴は目を丸くする。
そこに現れたもう1人の男。その姿を視認して、彼女は言葉を失った。





「警告したのに……何で来ちまったんだよ、お前は……」





一方通行とは違い、殺気も、威圧感も無く、寧ろどこか悲しそうな表情と声をした男は、美琴を見つめそう言った。

黒子「貴方は……!!」

ようやくその姿を確認し、黒子もまた驚きの声を上げた。

佐天「だ……誰?」

初春「知ってるんですか、2人とも!?」

新たに現れた男を前に、また別の懸念と恐怖を抱いた佐天と初春が訊ねていた。

美琴「あ……あ……何で…何で…あんたが……」

「…………………」

美琴の声が震え出す。目を瞑るもう1人の男。

「こんな形で、お前と会いたくなかったのに……」

美琴「何であんたがここにいるのよ!!!」


美琴「上条当麻!!!!」

上条「御坂………」


美琴の目の前に立ったもう1人の男――上条当麻は、美琴の声を受け悲しそうな表情で彼女を見つめた――。

268: 2010/06/13(日) 22:51:29.89 ID:NwFQ4G60
美琴と黒子と佐天と初春の4人を挟み撃ちにするかのように、一方通行と上条は暗闇に立つ。
彼女たちは小さく寄り添って事の成り行きに身を任せるしかなかった。

上条「わざわざ警告したはずだろ、電話まで掛けて……」

美琴黒子佐天初春「!!!!!?????」

黒子「では……貴方が、あの電話の主……」

佐天「じゃあ、こいつらが……こいつらが、固法先輩たちを頃した犯人なんだ……っ!!」

初春「どうして、あんなことを!?」

憎しみが篭った目で3人は上条を睨み据える。
対して、上条は素っ気無く言う。

上条「答える義務は無い」

黒子「……っ!!」

佐天「ふざけないでよ!!」

初春「何て血も涙も無い人なんですか……」

上条「御坂」

美琴「……何よ!?」

上条は黒子たちの言を無視するかのように美琴に顔を向ける。
美琴は、失望と驚愕と絶望が混ざったような表情で目に涙を溜め上条を睨み返した。

上条「今すぐこいつらを連れて帰れ。そして、言ったようにもう2度とお前たちはこの件に関わるな」

美琴「……勝手なことを…」





「ほーら、だからお姉さまは来るって言ったでしょ? ってミサカはミサカは勝ち誇った顔をしてみる!」





美琴「え……?」

277: 2010/06/13(日) 22:58:43.17 ID:NwFQ4G60
一方通行「うっせェよ。つーか何でお前までついてきたンだよ」

「だぁってぇー」

その場に似合わないような、子供の声が響いた。
上条に気を取られていた美琴が再び一方通行の方を振り返ると、確かにそこには10歳ぐらいの1人の女の子が立っていた。

美琴「……あんた……打ち止め(ラストオーダー)?」

目を丸くし、美琴は眼前の女の子に訊ねていた。

打ち止め「こんばんわお姉さま! …とお姉さまのお友達! ってミサカはミサカは元気に挨拶してみる!」

一方通行の手を握りながら、『打ち止め(ラストオーダー)』と呼ばれた女の子がペコと子供らしい可愛いお辞儀をする。

佐天「……誰?……御坂さんに似てるけど…」

黒子「…お姉さまの妹さまですか?」

初春「あ、貴女…もしかして、アホ毛ちゃん……?」

美琴と瓜二つな女の子の顔を見、3人が各々思っていることを口にする。

美琴「………っ……打ち止め……どうしてあんたまで……」

打ち止め「? どうして、ってミサカがこの人と一緒にいたら悪いかな? ってミサカはミサカは疑問を口にしてみる」

美琴「だって……あんた、こいつらが何やったのか分かってるの?」

自分の末妹のような存在である打ち止めに、美琴は衝撃を受けたような顔で質す。

打ち止め「それはもちろん! モガガ」

一方通行「もう黙ってろお前。ややこしィから」

打ち止め「ブー……あなたってばいじわるぅ」

ふてくされる打ち止め。そんな彼女を片手1つであしらいながら、一方通行は美琴たちに顔を向ける。

一方通行「どうも、オマエらには脅しも通用しねェようだな。スキルアウトの一団壊滅させただけじゃ、刺激足りなかったみてェだな」

美琴「……あんた!」

一方通行「あァ、俺がやったぜ。情報漏らしてたンだからその制裁は受けねェとなァ!」
一方通行「それがオマエらへの脅しにもなると思って、敢えてこっちから警告せずに放置してたンだが……まさかそれでもノコノコこんなところまで来るとは思わなかったぜ。危機感無さ過ぎ!」

美琴「……何て事を…」

美琴は唇を噛む。

278: 2010/06/13(日) 23:05:50.69 ID:NwFQ4G60
上条「だからと言ってわざわざ頃す必要は無かったろ、一方通行」

一方通行「はァ? だからお前は甘いンだよ上条」
一方通行「アイツら、スキルアウトにしてみれば筋の通った連中なンだろうが、仕事のためには無実の一般人を頃すようなこともしてたンだぜ? 本人たちは雇用主の依頼だからと、生きるためだと自分の意思に反して渋々やってたみたいだが、どっちにしろやってることは外道そのものだろ。そンなクズどもが氏ンだところで誰も困らねェだろ。ま、今の俺らもアイツらと変わンねェのかもしれねェがなァ?」チラッ

美琴黒子佐天初春「!」

一瞬、ニヤリと笑って一方通行が美琴たちを一瞥した。

打ち止め「でも上条さんの言うことも一理あると思う、ってミサカはミサカは主張してみたり」

一方通行「あーうっせェうっせェ」

上条「やれやれ」

自分たちを無視し、頭越しに行われる会話を前に美琴たちは胸の中で何かが湧き上がってくる感覚を覚えた。

佐天「(……何なのこいつら…。人の友達を頃しておいて、こんな余裕綽々で…。ムカつく……)」
佐天「(こんな奴らに……固法先輩は……泡浮さんは……湾内さんは……)」

ギリッと唇を噛み締め、佐天はバットを強く握り締める。

佐天「ふ………」

初春「佐天さん?」

佐天「ふざけんなああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

美琴黒子初春「佐天さん!!!」

美琴たちが止める間もなく、佐天はバットを持って一方通行に突進していった。

美琴「ダメ佐天さん!! そいつだけは!!!」

282: 2010/06/13(日) 23:13:04.78 ID:DmLQYHI0
バットを構え突進してくる佐天を見、一方通行は待ってました、と言わんばかりに不気味な笑みを刻んだ。
佐天が思いっきり振ったバットが一方通行の顔を狙う。しかし……

佐天「きゃあああああああ!!!」

その瞬間、バットは大きく弧を描き弾き飛ばされ、佐天もまたすごい衝撃と共に後ろへ転倒した。
どのようにベクトルの向きを操ったのか、佐天に怪我はない。と言うよりも、攻撃を加える直前に何らかのベクトル操作で佐天を押し戻したようにも見えた。が、どの道それは佐天を気遣っての行動ではなかった。初っ端から遊び相手が簡単に減ってしまうのはつまらない。美琴には、一方通行がそんなことを楽しげに言いたそうに見えた。

一方通行「いいぜいいぜ、始めようぜェ!!!」

顔に傷を1つもつけることなく、一方通行は足元にあった木材に手を伸ばす。

美琴「!!!」

佐天に危険が及ぶのを察知した美琴は、飛び出し、一方通行の足元へ電気を飛ばした。

黒子「お姉さま!!」

初春「佐天さん! 御坂さん!!」

黒子と初春が無意識に体勢を起こす。
一方通行の足元に散乱していた砂塵が小爆発を起こし、それが辺りに撒き散らせる。

上条「!! チッ……!」

戦闘が始まってしまった。その状況に対して舌打ちするように、上条は砂煙に顔を覆いつつ、足を前へ踏み出した。


こうして、美琴・黒子・佐天・初春 vs 上条・一方通行の戦いの火蓋が切って落とされた――。

345: 2010/06/14(月) 22:29:02.91 ID:pAArqkA0
誰がどこにいるのか判別もつかない砂煙の中、黒子は目を細めながらも状況を把握しようと努めた。

黒子「…あの学園都市第1位……とてつもない殺気と威圧でしたわ。お姉さまは一体どこに……」

ふと、彼女は砂煙の中に美琴の後姿を確認した。

黒子「あ、お姉さま!」

次の瞬間、黒子の頭上をバックステップで美琴が、それを追うように一方通行が飛び跳ねていった。

黒子「お姉さま!……ハッ!?」

美琴を追おうとしたのも束の間、黒子は背後に何者かの気配を感じ取り咄嗟に振り返った。
砂煙の中に1人の影が浮かび上がる。
やがて砂煙が晴れていくと、その人間は姿を現した。

上条「………………」

無言でその場に立ち、黒子を見つめていたのは上条だった。
黒子はその顔を見ているうちに、怒りが込み上げそして叫んでいた。

黒子「どうして固法先輩たちを頃しましたの!?」

上条「………………」

しかし、上条は何も答えない。

黒子「何か答えたらどうですの!?」

怒りに任せ黒子は突進し、上条の腹部に手を触れる。

黒子「(空中5mほど頭上にテレポートして、地面に落下させてやりますわ!)」

しかし……

黒子「あら……?」

唖然とする黒子。
上条はうんともすんとも言わず、その場に立ち止まっている。

黒子「何故……ハッ!」

上条「忘れたのかよ白井?  俺  の  右  手  に  何  が  あ  る  の  か  」

変わらず、低い声のトーンでそう呟いた上条の顔を見、黒子は悪寒を覚えた。

黒子「(まずい……っ!)」

347: 2010/06/14(月) 22:37:07.11 ID:pAArqkA0
一端、上条から離れようと1歩後ろへ下がろうとする黒子だったが、その余裕が与えられる間は無かった。

ギシィ!!

素早い動きで上条が両手を器用に使って黒子の腕の関節を背後から極めた。

黒子「くっ…! 不覚……!!」

上条「………お前ら…」

上条が何かを言いかけた時だった。

佐天「うおおおおおおおおおおおお!!! 白井さんから手を離せええええええええええええ!!!!」

バットを手にした佐天が上条に向かって暗闇から飛び出してきた。

佐天「おりゃあああああ!!!」

バットを振る佐天。
しかし上条はそれをヒラッとかわしてみせる。

佐天「!? 逃げるな!!」

佐天は続けてバットを右に、左に、上から、下から、あらゆる方向から力のまま振り抜く。

佐天「これでも! キャパシティダウンを破壊したバットなんだ!! 食らったら、一たまりもないはず!!」

ブンッブンッと佐天はバットを振りまわすが、上条は黒子の腕を極めながらも全ての攻撃を難なく回避する。
ずば抜けた反射神経だった。

佐天「クソ! 何で当たらない!?」

上条「それはなあ……」

勢い余って、佐天は前方につんのめりそうになる。

上条「街の不良なんて、大多数で凶器を振り回してくるからだよ」

佐天「!!!」

上条「対して君の場合は…脇も締まってない、軌道が単調、バットの重さにつられてる、で簡単に避けられるんだよ」

佐天「……くっそおおおおおおおおおお!!!!」

転倒しそうな身体を何とか保ち、佐天は強く地面を踏む。そのままの勢いで、彼女はバットを右に薙いだ。

348: 2010/06/14(月) 22:45:03.02 ID:pAArqkA0
上条「おっと……」

しかし決定打にはならず、バットは上条の髪の毛にほんの少しだけ触れると虚空を引き裂いた。

佐天「きゃっ!」

思いっきり振り切った挙句、上条にかわされたせいか、佐天は派手に仰向きに倒れてしまった。

黒子「佐天さん!」

上条「おいおい」

手の力が緩まったのか、黒子は上条の身体から解き放されてしまう。
急いで彼女は倒れた佐天に駆け寄った。

黒子「大丈夫ですか!?」

佐天「へ、平気です……。それよりあいつ、何の能力なんですか?」

黒子「あの方は全くの無能力……レベル0ですわ…」

起き上がる佐天を手伝いながら、黒子は何とか言葉を紡ぐ。

佐天「は? レベル0?」

黒子「ええ…。しかしそれでありながら、右手には超能力を何でも打ち消す力を備えています」

佐天「ど、どういう……」

黒子「さっき、私が彼を飛ばそうとした時、手で触れてもテレポートできなかったでしょう? それも右手の力です。一切の攻撃能力は持っていませんが、最強の防衛能力ですわ」

そう言って黒子は上条を見据える。

佐天「それでも……レベル0?」

黒子「ええ」

佐天「(…でも、さっきの身のこなし、只者じゃなかった…。いくらそんな不思議な能力があっても、レベル0の無能力であそこまで強くなれるの?)」

上条「話は済んだかよ?」

敢えて手も出さず、ずっと2人の様子を見ていた上条が静かに問う。
共に肩を貸し合って立ち上がった黒子と佐天は上条を睨み据えた。

上条「…………………」

349: 2010/06/14(月) 22:53:34.41 ID:pAArqkA0
その頃、美琴の方は、一方通行との戦闘がヒートアップしていた。

一方通行「どうした逃げるだけかァ!?」

電気を発しながらも、美琴は軽快なバックステップとジャンプで一方通行の追撃から何とか逃れていた。

美琴「えやぁ!!!」

バチバチバチッ!!!!

耐えかねたのたか、美琴が一方通行に向かって雷撃の槍を飛ばす。
しかし、一方通行がそれを右手の甲で弾くと一気に霧散してしまった。

一方通行「オマエ、俺の身体がどうなってンのか知ってて攻撃してンのか? 自爆しちまうぞ。まあ上条のような幻想頃しがあれば話は別だけどなァ。それとも木原神拳でもやってみっか?」

ニヤニヤと一方通行は言う。彼の言うことはもっともで本来なら一方通行の身体に当たった雷撃の槍は跳ね返って美琴に向かうはずだった。だが、そうならなかったのは一方通行が雷撃の槍を右手の甲で弾いたからだ。しかし彼は、自分が傷つく恐れがあるから弾いたのでなく、美琴が傷つく恐れがあるから弾いただけなのだ。
もちろんそれは美琴を思っての行動、とは言い難くどちらかと言えば一方通行にとって戦闘があっけなく終了するのがつまらなかったためだ。

美琴「………うりゃああ!!」

次いで、美琴は砂鉄を集めて作った剣を振り回す。が、しかし、一方通行はそれを掴むと彼女の身体ごと、空中へ飛ばしてしまう。10mほど一直線に吹き飛び、やがて美琴は地面に落下した。

美琴「……くっ…」

ポケットに手を突っ込んだまま、一方通行は美琴に接近する。

一方通行「おィおィ、こっちは本気を出してないどころかまだ何1つ攻撃してないンだぜ? そんな早くくたばってもらっても、つまらねェだろう?」

楽しそうに、一方通行は笑う。

美琴「…ハァ…ハァ…ハァ…」

一方通行「撃てよ」

美琴「…ハァ…ハァ…」

美琴は一方通行を睨む。

一方通行「お前の切り札……超電磁砲(レールガン)、俺に撃ってみろよ」

美琴「くっ……」

一方通行「やってみろよほらァ!! 状況は何も改善しねェぞ!! ひゃははははははは!!!!」

351: 2010/06/14(月) 23:00:37.97 ID:UWYkmp60
2つの戦闘がまさにワンサイドゲームな展開で行われる中、少し離れた所で打ち止めはその様子をじっくりと眺めていた。

打ち止め「ハァ……なんかつまんない、ってミサカはミサカは愚痴ってみる」
打ち止め「完全復活した一方通行とは言え、お姉さまならダメージ1つぐらい負わせられると思ったけど劣勢だね。お姉さまの戦闘を目の前で見られるって思って楽しみにしてついてきちゃったけど、期待して損した感じ、ってミサカはミサカは冷めた目で溜息を吐いてみる」

チラッと打ち止めは逆方向に視線を移す。

打ち止め「あっちもダメだね。あのツインテールのお姉ちゃん、レベル4って話だからちょっとは期待したけど全然ダメ。それと、あの黒髪のお姉ちゃんはバット持ってるから能力者じゃないのかな?」

打ち止めはその場で上体を僅かに反らし、退屈そうに頭上を仰ぐ。

打ち止め「つまんないつまんないつまんないつまんないつまんなぁ~い、ってミサカはミサカは更に愚痴ってみる」
打ち止め「これじゃあ勝負にもなってないよ。あーもう、あの2人遊んでないで早く終わってくれないかな? 退屈過ぎる~、ってミサカはミサカはもう他人事」

打ち止めはそう言って、あくびをした。

354: 2010/06/14(月) 23:06:30.61 ID:UWYkmp60
美琴「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」

ポケットからコインを取り出す美琴。視線の先の一方通行の姿を捉えると、容赦なく彼女は超電磁砲(レールガン)を発射した。



ズッオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!



その轟音に、その場にいた者たちが咄嗟にそちらに視線を寄越す。

黒子「お姉さま!」

佐天「御坂さん!?」

上条「…………………」

打ち止め「………………」

美琴「ハァ…ハァ…ハァ……」

目の前の空間を見つめる美琴。超電磁砲によって巻き起こされた砂煙が彼女の視界を覆う。
超電磁砲を放ったと同時に、咄嗟に痛む身体を出来るだけ動かし回避行動を取った美琴だったが、超電磁砲が跳ね返ってくることはなかった。
その理由として考えられる可能性は2つ。1つは、先程のように戦闘を終わらせたくない一方通行がわざと手を出し超電磁砲を霧散させた可能性。そしてもう1つは、超電磁砲が一方通行に直撃した可能性………。




一方通行「こンなもンか」




美琴「!!!!????」

目を細めていた美琴の前に、突如、一方通行がミサイルのように猛スピードで突進してきた。
回避する間もなく、美琴は一方通行の蹴りによって地面を転がった。

355: 2010/06/14(月) 23:12:37.44 ID:UWYkmp60
黒子「お姉さま!!」

上条「余所見してる暇、あるのか?」

黒子「くっ……」

佐天「白井さん、先にこいつを倒しましょう!」

黒子「ええ!」

両者の距離は約5mほどだ。が、上条は微動だにしない。
そして、突然黒子が上条の視界から消え失せた。

上条「………」

1秒後、黒子は上条の背後に現れた。今まさに彼女は上条の背中を蹴り飛ばそうとしていた。

上条「遅い」

刹那の速さで振り返る上条。

黒子「え……」

空中で一瞬静止した黒子の腕を掴み取ると、上条はそのまま彼女を地面に叩き下ろす。

黒子「ぐっ…あっ……」

逃げられぬよう右手で腕を掴み、小さな背中に膝を押し付けて動けないようにする。

上条「直接、俺の身体に触れて効かないと思ったら、自身をテレポートさせて背後から奇襲……お前の戦術はバレバレだ」
上条「それに、お前が消えてから背後に現れるまでのタイムラグを俺が知らないとでも思ったか?」

黒子「くっ……」

悔しそうな目を浮かべて黒子が横目で上条の顔を睨み上げる。

佐天「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

不意に佐天の声がこだまする。上条がそちらに顔を向けると、佐天がバットを構えて走ってくるのが見えた。

356: 2010/06/14(月) 23:18:27.65 ID:UWYkmp60
上条「またそれか」

思いっきり振り下ろされたバットを左手で掴む上条。佐天の動きが停止する。

佐天「なっ……」

上条はバットを強い力で素早く引っ張る。それにつられ、佐天が前のめりに倒れそうになる。

佐天「きゃっ!」

しかし上条はそのままの勢いでバットを押し戻した。

佐天「きゃあ!!」

受け身も取れず、佐天は後方に仰向けに倒れ込んだ。

黒子「佐天さん!!」
黒子「くっ……離しなさいですの!! そんな汚れた手で私に触れないで……くあっ」ギュウ

上条「あまり動くな。こっちもお前をこれ以上、痛い目に遭わせたくないんだ」

黒子「何を舐めたことを……」

359: 2010/06/14(月) 23:28:37.93 ID:UWYkmp60






「動かないで下さい!!!」







360: 2010/06/14(月) 23:35:41.74 ID:UWYkmp60
出し抜けに、甲高い声が一方通行の耳に届いた。

一方通行「あァ?」

興を削がれた、と言うように一方通行が顔を上げた。

美琴「!?」

一方通行につられ、美琴も声がした方に視線を寄越す。

上条「…あれは……」

上条たちもまた、そちらの方に注意を向けた。





初春「動いたら……この子を頃しますよ!!!」カチャリ





見ると、少し離れた所で初春が拳銃を持ち、その銃口を打ち止めの頭に向けていた。

367: 2010/06/14(月) 23:42:40.45 ID:UWYkmp60
黒子「初春!!」

佐天「初春!! …くっ…」

美琴「初春さん!!」

一方通行「そういやァ……さっき、頭に花生やしたヤツも見かけたっけかァ…」

初春は、全ての状況を把握できる場所で、打ち止めを人質にとっている。
美琴は一方通行の足元でうずくまり、黒子は上条によって組み伏せられたまま。佐天もまたダメージを負ったのか、地面から起き上がれずにいた。現状、動けるのは初春しかいなかった。

一方通行「てっきり逃げたかと思ったが…コソコソと移動してたのか…」

美琴「あの拳銃……」

初春の手元に注意を向ける美琴。その手に握られていたのは、攻撃的な能力も持っていない、その上で華奢な身だからと言う理由で、美琴が支部を出る前に初春に託したものだった。

初春「これ以上御坂さんたちを傷つけたら……この子を撃ち頃します……っ!」

打ち止め「………………」

初春の声は明らかに震えている。そんな初春を、打ち止めは冷めた目をして横目で窺がっている。

時が止まったように、辺りが静寂に包まれる。

美琴「ダメ! ……初春さん…あなたの力だけでは……」

黒子「初春! 馬鹿な真似はお止めなさい! こやつらは私たちだけで倒します!!」

佐天「そうだよ初春! 早くそれを降ろして……!!」

必氏に説得の声を上げる美琴たち。対して、上条と一方通行は特に興味が無いように無言のままだ。
埒があかないと思ったのか、初春は更に拳銃を打ち止めのこめかみに突きつける。

初春「私は本気ですよ!!」

初春の手は震えに震え、右手の人差し指もトリガーガードに添えられておらず今すぐにでも引き金が引かれそうだった。
しかし、上条と一方通行からは何のアクションも無い。

打ち止め「無駄だよお姉ちゃん」

初春「え?……」

371: 2010/06/14(月) 23:50:27.26 ID:UWYkmp60
唐突に下から聞こえた声に気付き、初春は涙を浮かべた顔をそちらに向けた。

打ち止め「お姉ちゃん、ミサカを頃すどころか傷つける気も一切ないでしょ?」

初春「なっ……」

打ち止め「そんなこと、お姉ちゃんの顔見てたらすぐに分かるよ。ミサカが気付いてるんだから、あの人が気付いてないわけないよ」

初春「!!」

絶句する初春。

打ち止め「ってミサカはミサカは断言してみたり!!」ニコッ

一方通行「そういうわけだァ……嬢ちゃん」

初春「!?」

一方通行「ガバメントかァ。いい銃持ってンじゃねェか。かつてアメリカで製造されたヤツだ。つゥか、持ってて重たくねェの?」
一方通行「だけどそれ、そのまンまの状態じゃ撃てねェぞ」

初春「え? え?」

オロオロと、初春は手元の拳銃を見てとる。

一方通行「いや、ガバメントはダブルアクションじゃなくてシングルアクションだからまず初めに撃鉄を……って…」

初春「え、あ…えーっと…え? あ…あ…」

一方通行「ハァ…」

そこで一方通行は説明するのも億劫になったのか、片手で頭を抱えて溜息を吐いた。
そしていまだ自分の持つ拳銃を見て焦っている初春をジッと横目で見る。

一方通行「なァ嬢ちゃん、オマエ覚悟あンのか?」

初春「えっ…」

376: 2010/06/14(月) 23:57:23.83 ID:UWYkmp60
一方通行「そのガキを撃つ覚悟、あンのかって聞いてンだ」

一方通行は先程までとは違った雰囲気を放ち、初春を見据える。

初春「覚悟……?」

一方通行「別にオマエだけじゃねェ……そこのテレポーターも」

黒子「!」

一方通行「バット持った嬢ちゃンも」

佐天「!」

一方通行「超電磁砲も…」

美琴「!?」

一方通行「ハナっから、俺たちを全力で頃す覚悟でここに来てンだろうなァ?」

美琴たちは一瞬、黙りこくる。
誰も即答しようとしない。それはまるで一方通行の問いに真っ正面から肯定出来る自信が無い、と言っているようなものだった。

佐天「あ……当たり前でしょ!! …じゃなきゃここに来るはずがない!!」

地面の上で痛みに顔を歪めながらも、佐天はそう叫ぶ。

黒子「そ…そうですわ。私たちは相手が誰だろうと……全力で頃す覚悟をもってここに来ましたわ!!」

美琴「そうよ……私たちは…氏ぬ覚悟も出来てる!…」

次々と、声を上げる3人。
一方通行は顔も動かさず聞き入れる。まるで、言い訳のような彼女たちの言葉を。

一方通行「嘘つけェ」

美琴黒子佐天初春「!!??」

美琴「な…なんですって?」キッ

一方通行「大体オマエら、俺たちを頃す覚悟があるってことは、それに見合う実力が自分たちにあると思ってるからだよなァ?」
一方通行「でなきゃ、超電磁砲やテレポーターはともかく、こんな所にまで普通の中学生のガキがついてこれるわけねェ」

佐天初春「………っ……」

一方通行「独自の調査でオマエらのお友達を頃した誘拐犯が、ある程度の実力を持つ能力者であることも判明していたはずだァ。それを分かってて尚、ここに4人で来たってことはだ」

一方通行は1拍置いて言う。

一方通行「自分たちに誘拐犯の能力者を倒せるだけの実力と自信が少しでもあると思ったからだ。違うかァ?」

377: 2010/06/15(火) 00:04:43.04 ID:SRWvneI0
佐天「そ…そうだよ!! それが何か悪いの!?」

一方通行「じゃあその根拠は何だ?」

佐天「え?」

一方通行「その結論に至った根拠だよ」

佐天「根拠って……」

美琴「そんなの簡単よ…くっ」

美琴が痛みに耐えながら言葉を紡ぐ。

上条「………………」

美琴「これでも私たち、数々の事件を4人一緒で乗り越えてきたのよ……。例えレベル5の私でも、この子たちがいなかったら、解決出来なかったり、もしかしたら氏んでいたかもしれないことだってあったわ」

一方通行「………ほゥ」

佐天「あんたは知らないでしょうけど…あたしたちは、グラビトン事件、レベルアッパー、ビッグスパイダー、テレスティーナの暴走……と、ただの学生じゃ遭遇しないような修羅場を一緒に潜ってきてるの!!」
佐天「そう……あたしたち4人でどんな修羅場も潜ってきた。だから……」

一方通行「だから? だから俺たちを殺せると思ったか? それでこのザマかァ?」

美琴たち4人の過去を簡単に否定するかの如く、一方通行は追い討ちを掛けるように更に問い詰める。
反論しようとしても、一方通行の指摘する通りほぼ戦闘不能になっている4人の現状では説得力が無かった。

美琴黒子佐天初春「…………っ……」

一方通行「オマエらやっぱり甘すぎるわ。そして世間を知らない子供(ガキ)だわ」

美琴「…子供…ですって?」ギリッ

一方通行「簡単に言うとだなァ…お前らが潜ってきた修羅場なんて、俺が味わってきたソレと比べたら、足元にも及ばねェ…ただのガキのお遊戯なンだよ」

美琴黒子佐天初春「なっ!?」

一方通行「テレスティーナ=木原ちゃンだっけかァ? 聞いてるぜェ。オマエ、アイツに苦戦したらしいじゃねェか。レベル5の癖に情けねェと思わねェのかよ? あンな奴、俺にかかれば楽勝なンだがなァ」

美琴「……あんたは…曲がりなりにも学園都市最強……だからそんなことが言えるのよ…!」

一方通行「そうかァ? だとしたらアイツはどうだ?」

そう言って、一方通行は上条の方に指を指す。

上条「………………」

381: 2010/06/15(火) 00:11:25.82 ID:SRWvneI0
一方通行「アイツはレベル0の無能力者だぜェ? なのにアイツは自ら厄介ごとに突っ込み、今までいくつもの事件を解決してきてやがった。実際、俺を倒したのもあのヤロウだぜ? それは覚えてるだろ?」ニヤァ

美琴「……だから、何よ?」

黒子「(…あの殿方が……)」

佐天「(レベル0の無能力者が……学園都市最強の超能力者を倒した!?)」

信じられない、と言うように黒子と佐天が上条に顔を向けた。

一方通行「アイツも、オマエらとは……質も! 経験も! その危険度も! 全く比較に出来ねェほどの氏線を今まで何度も潜ってきやがった。例えアイツが全くの無能力者だろうと、オマエらには勝てねェよ」

黒子佐天「くっ……」

一方通行「オマエらは、学園都市を余りにも知らなさ過ぎるンだよ。学園都市の裏の世界がどンだけ汚れてるのか、どンだけ洒落にならない世界なのかを知らない」

そう語る一方通行の目には美琴たちに対するただの侮蔑とも見下しとも言い難い、何かがあった。まるで本当の地獄を知っているような、それでいて地獄を知った気でいる4人に僅かながら苛立ちを抱えているようなそんな感じだった。

一方通行「知らないのにオマエらは、過去の大したこともない経験を根拠に自分たちの力を過信して、俺たちに勝負を挑みやがった。おまけに、敵を頃す覚悟も自分が氏ぬ覚悟もないと来たもンだ」
一方通行「だから、お前らは子供(ガキ)なンだよ」

一方通行の最後の言葉は、どこか真剣に聞こえた。
黒子も佐天も、自分たちの自信を打ち砕かれたようにうなだれている。もはや、彼女たちに戦意は残っているとは言い難かった。

美琴「……子供じゃない…」

一方通行「あァ?」

382: 2010/06/15(火) 00:17:29.17 ID:SRWvneI0
美琴「私たちは……子供じゃない!!!」

最後に残った力を振り絞って、一方通行を睨みつつ美琴は叫んでいた。

一方通行「…………そうかよ」
一方通行「いいぜ。だったら、オマエらの覚悟ってヤツを今ここで確かめてみようか!?」

再び、一方通行が笑う。

美琴「!?」

その場を離れた一方通行が目にも止まらない速さで、移動する。

美琴「何を…?」

並べられた鉄骨に視線を流すと彼は打ち止めに声を掛けた。

一方通行「打ち止め!!」

打ち止め「ん?」

打ち止めがキョトンと一方通行のほうに顔を向ける。

一方通行「ちょォっと、その嬢ちゃンから離れてろ……危ないからなァ」

打ち止め「はーい!」

元気な返事をし、打ち止めは初春に目も暮れず小走りで離れていった。

初春「あ、ちょ、ま、待って……」

人質だった打ち止めに逃げられ、狼狽する初春。

一方通行「嬢ちゃン」

初春「!」

一方通行「オマエが氏ぬ覚悟出来てるか、見てやンよ」

そう言って、一方通行はニヤリと笑う。

上条「!!」
上条「おい、待て……どうするつもりだ一方通行」

この状況にして、上条が久しぶりに口を開く。
しかし、一方通行は既に聞いてはいなかった。

384: 2010/06/15(火) 00:23:38.67 ID:SRWvneI0
黒子「まさか……初春!!」

佐天「…初春!! 逃げて!!」

黒子と佐天が顔を蒼ざめ叫ぶ。
ようやく初春も、自分が置かれている状況を理解した。
が、時既に遅しだった。

一方通行「はっはァ!! その幻想をぶち頃すってなァ!!!」

そう言うと一方通行は足元にあった鉄骨を1つ空中高くに蹴り上げ、同時に自身も上空に飛び上がった。
間髪入れず、彼は鉄骨に手を触れた。まるで撫でるような仕草だったが、それだけで十分だった。

一方通行「バイバァイ」ニヤァ

上条「一方通行!!!」

美琴「やめてえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!」

美琴の悲痛な叫び声がこだまする。
それを合図にするかのように、鉄骨は目にも止まらぬ速さで初春目掛けて一直線に落下していった。

初春「え……?」





ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!






386: 2010/06/15(火) 00:28:27.36 ID:SRWvneI0
その時、時間が停止した。


上条「…………!!」

打ち止め「…………………」

黒子「――――――!!!」

佐天「―――――――!!!」

美琴「――――――――」

一方通行「………………」ニヤァ


誰かが叫んだような気がした。誰かが泣いたような気がした。だが、誰も何も聞こえなかった――。
この時、一方通行の手によって、初春は鉄骨の下敷きにされた………

390: 2010/06/15(火) 00:34:35.19 ID:SRWvneI0





初春「はっ!!」





……かに見えた。

初春「………はっ……あっ……あが……」

気付くと、初春は地面に腰をペタンと降ろし、息継ぎにもならない息継ぎをしていた。

初春「…はっ……かっ…あああ…」

どうやら、自分がまだ生きていることを状況から理解した彼女の背中に、冷や汗の滝が流れ落ちる。見ると、鉄骨は彼女の目の前に剣のように突き刺さって屹立していた。
そして、音が戻り、再び時間も動き出す。

佐天「初春!!!!!!」

黒子「初春!!?? 良かった……生きてますの……ああ」

美琴「初春さん!! 大丈夫!? 怪我はない!?」

初春の無事を確認した美琴たちが泣きべそをかきながら叫ぶ。

初春「わた……わたし……あ…あああ……」

呂律も回らない初春が自らの下半身の異変に気付く。

一方通行「はっはァ! こりゃあ傑作だぜェ!!」

初春「やだ……わたし…ああ、見ないで……///」カァァ

一方通行「怖かったかァ? お漏らししちゃうほど怖かったでちゅかァ?? ヒャハハハハハハハハハ!!!!!!」

美琴「コイツ……」ギリ

黒子「許せませんの…」

佐天「ざけやがって…」

怒りの視線が一方通行に注がれる。

上条「おい、一方通行!」

391: 2010/06/15(火) 00:41:13.95 ID:SRWvneI0
その時、ずっと様子を見守っていた上条が声を上げた。

一方通行「あァ? 何だ上条?」

上条「殺さない、って約束したはずだろ!?」

一方通行「あァ。だから頃してねェし、誰1人氏ンでねェだろ?」

上条「にしても、やり過ぎだお前!」

一方通行「やり過ぎ? はン、どこがだ? 俺は、コイツらが『覚悟がある』って言ったからそれを見させてもらっただけだぜェ。ま、結果は見ての通りだ」

一方通行は初春に顔を向ける。

初春「ひっ!」

一方通行「自分たちが本物の修羅場を知ったような口でギャアギャア叫ぶから、ちと試してみたが……化けの皮を剥がしてみれば、結局は現実が見えてねェ、ただのガキだったわ」

初春「はうう……」ガクッ

美琴「初春さん!」

初春がその場に倒れ込んだ。

一方通行「気絶したか。まァ、そういうこった」

上条「………………」

一方通行「コイツらは自分たちの力を過信してたンだよ。ンで、ノコノコとここまでピクニック気分でやって来て、完膚無きまでに俺たちにやられてやがる。大方、舞い上がってたンだろうなァ。一緒に修羅場を潜り抜けてきた4人なら何でも出来る、って。が、俺たちの前ではこのザマだ。……情けないねェ、超電磁砲」

一方通行はしたり顔で美琴を見る。

美琴「何ですって?」

一方通行「レベル5のオマエがついていながら、友達ごっこに感化されて、お友達巻き込んでェ。あァ、やっぱりオマエも所詮はガキだってことだ」ニヤッ

美琴「こいつ……」

黒子「………くっ」

佐天「うっ……クソォ…」

上条「………………」

黒子「………」チラッ

佐天「………」チラッ

上条が一方通行に気を取られている隙に、黒子と佐天が目配せをする。

392: 2010/06/15(火) 00:47:33.09 ID:SRWvneI0
上条「どっちにしろ、お前はやり過ぎだ」

一方通行「あァはいはい、分かりましたよ。オマエがリーダーだもンな」

美琴「……リーダー?」

一方通行「あァ、言ってなかったっけか? コイツが俺たちのリーダー、ってわけだ」

美琴「!?」

美琴は目を丸くして上条を見やる。しかし、上条は特に反応も示さない。

上条「……………」

一方通行「上条」

上条「ああ」

黒子「…うっ!」ドスッ

突然、上条が掴んでいた黒子を強引に引っ張り上げ、その鳩尾に当身を入れた。

美琴「黒子!」

黒子が気絶したのを確認すると、上条はようやく彼女を腕から離した。

佐天「えやあああああああああああ!!!!!」

その時、佐天が最後の力を振り絞ってバットを持ち上条に向かってきた。
振られたバットを難なくかわし、上条は佐天の後頭部に手刀を食らわす。

佐天「かはっ……」

そのままの勢いで、佐天は地面にうつ伏せに倒れ込んだ。バットが地面を転がる乾いた音が響く。

美琴「佐天さん!」

一方通行「俺の目を盗もうったってそうはいかないぜェ? 嬢ちゃンたち」

一方通行は美琴の顔を歪んだ笑みで見つめる。

一方通行「で、残るはオマエだけだがどうすンの? まだやる?」

まだ遊ぶ? という感覚で一方通行は訊ねる。

美琴「当たり前……」

上条「帰るぞ一方通行」

一方通行「ンン?」

394: 2010/06/15(火) 00:53:25.84 ID:SRWvneI0
上条「用は済んだ。こいつらへの脅しも十分効いただろうし、2度と馬鹿な真似はしないだろ」

美琴「…何を…!!」

上条「これ以上、無理にこいつらを傷つける必要はない。帰るぞ」

一方通行「ふン…まァ、リーダー様がそう言うなら仕方ねェか…正直、遊び足りない気もするが…」
一方通行「打ち止めァ!!」

その言葉に反応するように、どこにいたのか打ち止めが暗闇から飛び出してきた。

打ち止め「はーーーーい! ってミサカはミサカは一方通行に突進!」

一方通行「うぜ」ヒョイ

打ち止め「あう! もう、よけないでよ照れ屋さん!」

一方通行「だァれが照れ屋だアホ。帰ンぞ」

打ち止め「了解!」ビシッ

美琴「ま、待ちなさいよ打ち止め!」

打ち止め「んー? なぁにお姉さま?」

地面に倒れていた美琴が背後から打ち止めに声をかけた。打ち止めが楽しそうに振り返る。

美琴「あんた、何でこいつらと一緒にいるのよ? こいつらが、何やってるか知ってて一緒にいるの?」

打ち止め「知ってるよ?」

美琴「なっ」

10歳ほどの女の子のあっさりとした答えに絶句する美琴。

打ち止め「だってこの人たちは……」

上条「もういいだろ。さ、帰ろう」

一方通行「ほら、行くぞクソガキ」

と、打ち止めがそこまで言いかけて上条と一方通行が打ち止めを促した。

打ち止め「OK!!」

一方通行にくっつくように打ち止めは歩き始めた。それを確認し、上条も一歩遅れて歩き出す。

美琴「“当麻”!!!!!!」

399: 2010/06/15(火) 00:59:24.18 ID:SRWvneI0
美琴は一言叫んでいた。

上条「………………」

後ろを振り返らずに、上条は立ち止まった。

美琴「…何で、こんなことするの?」

上条「………お前らには知る必要のないことだ」

美琴「……それで、納得しろっての?」

上条「……お前らは、“その時”が来るまでジッとしてろ」

美琴「え?」

上条「じゃあな、“ビリビリ”」

美琴「私……!!」

再び、上条が立ち止まる。一方通行と打ち止めは数m先でその様子を見ている。

美琴「私……あんたを信じてたのよ!!」

美琴の悲痛な叫びに上条の目が、伏せられる。

上条「…悪いな御坂」

美琴「!!」

上条は歩き出し、やがて一方通行と打ち止めの横に並ぶ。

美琴「……ふざけんな…………ふざけんな……」

目に涙を溜め、美琴は全身に紫電を纏う。
そして彼女は、ポケットから最後の1枚のコインを取り出した。

美琴「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」



ズオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!



放たれる超電磁砲。一方通行と打ち止めがゆっくりと振り返る。

401: 2010/06/15(火) 01:05:58.76 ID:B1LMPnU0




バギィィン!!!!




美琴「ハァ…ハァ…ハァ…」

コインが着弾した地点から煙が漂う。
そして…

上条「………………」

そこには、上条が右腕を突き出し立っている姿があった。

上条「……レベル0の俺すら倒せないなら、もう2度と関わるな」

美琴「………っ……」

最後にそれだけ残し、上条は再び背を見せて一方通行と打ち止めと歩き出した。

美琴「クソッ!」

徐々に、3人の姿が小さくなっていく。

美琴「クソッ!! クソッ!!!」

美琴の両目から大量の涙が零れ落ちる。

美琴「何で……私の超電磁砲(レールガン)が……効かないのよ!!」
美琴「友達も守れない……友達の仇も討てない……そんな超電磁砲に……何の意味があるのよ!!」

やがて、上条たちの姿は暗闇に消えていった。

美琴「……信じてたのに……」
美琴「………信じてたのに…」

美琴「信じてたのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」

次の瞬間、フッと事切れたように彼女は地面に倒れ伏せた。
こうして美琴たちの長い1日は、『屈辱』と『完全敗北』という名の下に終わりを迎えた。
気絶した後も、美琴の双眸から涙が途切れることは無かった――。

402: 2010/06/15(火) 01:12:31.40 ID:B1LMPnU0

ガバッ!!!

目覚める美琴。

美琴「………夢…?」

開口一番、出てきたのはその単語だった。

美琴「…悪夢でも、見てたのかな…?」

彼女にとって、あまりにも信じられなかった状況を思い出し、そう呟く。
ふと視線を前方に上げた。
いつもの見慣れた寮の部屋じゃない。だとすると、そこは……

黒子「お姉さま、お目覚めになられましたか?」

真横から知った声が聞こえ、美琴はそちらに顔を向けた。

美琴「……黒子?」

そこには、ベッドの上で元気の無い顔を浮かべる黒子の姿があった。

美琴「ここは?」

黒子「病院ですわ。お姉さま、1日近く眠っていて心配しましたわ」

キョロキョロと室内を窺う美琴。確かにそこは、病室だった。独特の薬品めいた臭いが鼻を刺激する。

美琴「病院……じゃあ…今のは……」

黒子「残念ながら、現実ですわ」

そう言って、黒子は暗くなった顔を俯かせる。
彼女の顔を見つめていた美琴は、腹の底から何かが沸き上がってくる感覚を覚えた。

美琴「…………っ!!」
美琴「………何で夢じゃないのよ…? …何で現実なのよ!!」



   ――「……レベル0の俺すら倒せないなら、もう2度と関わるな」――



最後に見た少年の顔が蘇る。

美琴「何であいつが……っ!! …何であいつが……っ!!!」

404: 2010/06/15(火) 01:17:39.79 ID:B1LMPnU0
ワナワナと手を震わせる美琴。それを見た黒子が目を伏せる。

黒子「………あの後、私たちは全員が気絶していたところを近くの病院に運び込まれましたの。お医者様によると通報は匿名の人間から。おそらく、上条さんたちが通報したのでしょうね……」

美琴「…………ふざけやがって…!!」

ギュウッと美琴は唇を噛み締める。
彼女には許せなかった。友達を頃した上条のことが。その上条に傷1つつけられなかった自分の無力さが。そしてそんな敵に堕ちた少年から情けをかけられたことが。

黒子「……あの3人の行方は不明です。あの後、どこに消えたのか。駆けつけた救急隊員が現場に来たときには、倒れている私たち以外に人の気配は無かったようです」

と、そこで美琴はあることを思い出す。

美琴「そうだ! 佐天さんと初春さんは!? 無事だったの?」

黒子「え? ああ…2人とも命には別状はありません。ただ、初春が少々……」

美琴「!?」

美琴は初春のことを思い出す。彼女が今回1番氏ぬ思いをした張本人だ。美琴が彼女に拳銃を渡したことで、彼女は氏ぬよりも怖い目に遭い、挙句、みんなの前で女の子としては屈辱的な大恥をかかされてしまったのだ。

美琴「初春さんがどうしたの!!??」

ガラッ

と、その時、病室のドアが開けられる音が響いた。2人ともその瞬間、ビクッと肩を震わせた。

佐天「白井さん、また来たよ…って御坂さん! 起きたんですか!?」

扉を開けるなり、美琴の姿を視認した佐天が大声で駆け寄ってきた。

美琴「…ええ、たった今ね…」

佐天「良かった~」

美琴「それより、初春さんはどうしたの!? 無事なの?」

佐天「ああ…命に別状はありません。けど、余りに怖い思いしたからか、放心状態で……。お医者さんが言うには、じきすぐに症状は戻るらしいですけど…」

美琴「放心状態……」

俯く美琴。それを見て、佐天は慌てふためいた。

佐天「あ、気にしないで下さい。別に御坂さんのせいじゃありませんよ!」

美琴「でも、唯一攻撃手段を持っていないからって、彼女に拳銃を渡したのは私よ……」

佐天「だけどそれは御坂さんが責められるようなことじゃないですよ」

407: 2010/06/15(火) 01:23:30.49 ID:B1LMPnU0
黒子「そうですわ…。真に悪いのは、彼女をそこまで追い詰めたあの2人……」

はた、と黒子の言葉で室内が静かになった。3人は、憎き敵の顔を思い出す。
白い髪に白い肌を持つ、それでいて全身から殺気を容赦なく垂れ流す華奢な少年。そして、寝癖の鎮まらない髪をツンツンと立てた幸薄そうな少年。大して歳も変わらないのに、彼女たちはその2人に完膚なきまでに叩き潰された。

美琴「………………」

ベッドから出、美琴の足は部屋の入り口に向かった。佐天が道を開ける。

黒子「…お姉さま……信じられないのは分かります。それは私も同じですから。ですが、昨夜起こったことは確かに事実。あの殿方が何故、学園都市第1位の超能力者と組んでいたのかは図りかねますが、上条さんが固法先輩や泡浮さん、湾内さんを頃したのは事実ですの…。だから…」

美琴「……あーあ…」

黒子「え?」

美琴「もう少しだったのになぁ……。もう少しで、固法先輩たちの仇を討てたのに……」

黒子と佐天に背中を向け、天井を見上げる美琴が呟く。

美琴「でも次は絶対に仕留めてやるんだから! そうだよね、黒子? 佐天さん?」

黒子「え…ああ…はい。そうですね……」

佐天「も、もちろんですよ……」

美琴「うん、そうよね…」
美琴「………………」

黙りこくった美琴を見つめる2人。

黒子「お姉さま……」

美琴「何よ?」

黒子「泣きたい時は、泣いていいんですのよ……」

美琴「………………馬鹿。知ってるわよ…」

そう言って美琴は、顔も見せないまま病室を出て行った。
しばらくして、病室の外から美琴の嗚咽が聞こえてきた。
黒子と佐天もまた、ぶつけどころのない己の悔しさを噛み締めていた。

456: 2010/06/16(水) 21:12:20.32 ID:6klXirUo

            BGM:Close your eyes



当麻「お前か・・・」



御坂「アンタね・・・」



当麻「そうだ・・・俺が・・・魔王だ」








御坂「当麻ぁああああああ!!!」



>>455が言ったせいで・・・

459: 2010/06/16(水) 22:09:34.15 ID:pGXaOCY0
3日後・ジャッジメント第177支部――。

ガチャリ、と扉が開かれる音がした。
久しぶりに見る支部は、4日前、誘拐犯たちを絶対倒すと4人で意気揚々に出ていった時のままだった。

黒子「………………」

美琴「何よ黒子、入らないの?」

後ろから美琴に促され、黒子は室内に足を踏み入れる。

美琴「フー…4日前のままね」

美琴がソファに腰を降ろすと、黒子はパソコンの電源を入れた。

美琴「……これから、どうすんの?」

黒子「…どう、とは?」

美琴「やっぱり、あいつらのこと調べんの?」

ふと、無言になる室内。彼女たちは、上条からこれ以上「深入りするな」と警告されている。

黒子「……そう…ですわね。調べましょうか…」

美琴「何か気にかかる言い方ね。もしかして嫌なの?」

黒子「……それを言うなら、お姉さまのほうでは?」

黒子は冷めた目で美琴を見る。

美琴「何ですって?」

黒子「いつものお姉さまなら、何度も負けようが、その都度諦めずに障壁に立ち向かっていくはずです。ですが、この3日間、お姉さまから積極的に『誘拐犯を追い詰めよう』といった意志や言葉を聞きませんでしたの。まあ、今回は特例中の特例ですから……」

美琴「何それ? まるで私がもう、やる気がないみたいな言いようじゃない」

黒子の口調に美琴が少し苛立ちを見せた。

黒子「違うのですか?」

美琴「…………違う……わよ」

黒子「嘘をつかないで下さいまし」

美琴「何ですって!?」バチバチッ

460: 2010/06/16(水) 22:16:36.02 ID:pGXaOCY0
美琴が立ち上がり、電気を発する。黒子は一瞬、ビクと肩を震わせた。

佐天「こんにちわー。初春、復帰しましたよー」

出し抜けに、明るい声がドアの方から響いた。美琴と黒子はそちらに注意を向ける。

初春「ごめんなさい。ご迷惑掛けましたー」

佐天に続き、軽く礼をした初春が部屋に入ってきた。

美琴「佐天さん、初春さん……」

佐天「ん? あれ? どうしたんですか? 何か雰囲気が……」

ピリッとした空気を感じ取ったのか、佐天が疑問を口にする。

黒子「…別に大したことではありませんの。少しお姉さまの意固地に呆れてただけで……」

美琴「はぁ? それを言うならあんたでしょ黒子?」

佐天「な、何かあったんですか?」

妙に喧嘩腰な2人を見て戸惑う佐天。

黒子「お姉さまったら、もうやる気は無いくせに、まだ誘拐犯の調査について続けるつもりですの」

佐天「え…」

美琴「やる気がないのはあんたでしょ。言わなくても態度で分かるわよ」

初春「わっわっわっ」

居たたまれなくなったのか、初春が困惑の声を上げる。

美琴「佐天さんはどうなの?」

佐天「え…?」

美琴が突然、佐天に顔を向け訊ねてきた。

美琴「佐天さんは、誘拐犯…“上条当麻”と一方通行の2人をまだ追い続けたい…?」

佐天「それは……」

461: 2010/06/16(水) 22:23:43.84 ID:pGXaOCY0
途端に、佐天が俯く。

佐天「……そりゃ、もちろんそうですよ……。あいつらは、固法先輩や泡浮さん、湾内さんを連れ去り頃した張本人ですよ? きっと、他に誘拐された学生たちだって既に殺されてるはずです」
佐天「御坂さんと白井さんはあの2人の知り合いだからまだ信じられないところもあるかもしれませんが、あたしにとっては憎き仇でしかありません。だからあたしは…あの2人を許せません……」

美琴黒子「………………」

佐天「だけど…許せないのと、諦めないのはまた別問題です」

美琴黒子「?」

佐天「……正直なことを言うと、あの2人と対峙してとても怖かったです…。まさか、2人のうちの1人が学園都市最強の超能力者だなんて夢にも思いませんでしたし……それに、実際に戦った上条とか言うあの高校生……。半端ない強さでした。いえ…強い、って言うよりかは凄まじく戦い慣れてるって言うか…。とにかく信じられませんでした。あたしと同じレベル0の無能力者なのに、あそこまで強くなれるなんて……」

佐天の言葉は静かでどこか暗い。

佐天「正直、同じ目に遭っていたらあたしも初春みたいになったと思います」

初春「佐天さん…」

佐天「それほど、あいつらは強かった…怖かった…。もう2度と会いたくないほどに。あたしたち4人なら何でも出来るって思ってたけど、その自信も見事にあっさり打ち砕かれて……」

徐々に佐天の口調は弱々しくなっていく。喋っているうちに3日前の状況が思い出されているようだ。

佐天「正直、御坂さんより強い人たち相手にこれ以上は……」

美琴「………………」

佐天「だから、本当のところを言わせてもらうと……固法先輩たちには悪いけど……もう……」

そこで言葉は途切れた。
一斉に無言になる美琴と黒子。2人が言いたかったことは全て佐天が代弁してくれた。
一気に、室内に諦めの空気が漂う。しかし、1人だけ諦めていない者がその場にいた。




初春「本当にこのまま終わっていいんですか!?」




美琴黒子佐天「!!??」

不意に、か弱くも怒りを混ぜた声が聞こえた。

462: 2010/06/16(水) 22:31:32.65 ID:pGXaOCY0
初春「本当に、諦められるんですか!?」

美琴「初春さん?」

3人が顔を上げると、初春が真剣な表情をして美琴たちを鋭い目で捉えていた。

初春「ここで諦めて、まだあの人たちの凶行を放っておくんですか? 固法先輩たちのような被害者がまた出るかもしれないのを、むざむざと見過ごすんですか?」

美琴黒子佐天「!!!」

初春「……敵討ち…それも大事かもしれません。だけど、固法先輩たちが望んでいるのは、これ以上自分たちと同じ被害者が出ないことなんじゃないですか!?」

美琴黒子佐天「…………っ」

3人は普段からは考えられない、初春の気迫に呑まれそうになる。

初春「きっと、このままだとあの人たちはまた犯行を重ねます。そうなるとまた、罪も無い学生たちが犠牲になります。それを、固法先輩たちが許すでしょうか!?」
初春「誘拐犯まで辿り着いたのは、私たちしかいないんですよ? 私たちが今、最もあの2人の近いところにいるんですよ? なら、それを活かさない手はないんじゃないんですか!?」

佐天「初春は……怖くないの?」

初春「そりゃ、私だって怖いですよ。思い出すだけでも怖いですよ……」

美琴たちは初春を見つめる。その言葉通り、彼女の足はワナワナと震えているようだった。
しかし、初春は目に涙を溜めながらも続ける。

初春「でも、私はこのまま彼らを看過できません。これ以上、彼らの手によって学園都市の学生たちが被害に遭うなんて考えたくもありません。それ以前に、私は悔しいんです……」
初春「全力で立ち向かった私たちが負けたのは確かに実力差からです。それは認めます。でも、私が悔しいのはあんな、人の命を何とも思っていない人たちに、私たちの信念を馬鹿にされたことです」

美琴「信念……」

初春「確かに私たちには覚悟が足りなかったかもしれません。力も無かったかもしれません。でも、それでも『何があっても誘拐犯たちを追い詰める』って誓った私たちの決心を、あの2人は貶しました」

美琴は思い出す。上条の言葉を。



   ――「………お前らには知る必要のないことだ」――


   ――「……お前らは、“その時”が来るまでジッとしてろ」――


   ――「……レベル0の俺すら倒せないなら、もう2度と関わるな」――



無意識に、美琴の拳が強く握られた。

463: 2010/06/16(水) 22:38:19.96 ID:pGXaOCY0
初春「確かに、あの2人と私たちの実力の差は歴然です。3日前の戦いがそれを証明しています」

黒子「…それは言われなくても嫌ほど身に染みましたわ…」

佐天「そうだよ。あのレベル0の高校生だって強かったけど、もう1人は学園都市最強のレベル5だよ? そんなの、どうやってもあたしたちに敵いっこないよ…」

負けたショックがいまだ抜け切れていないのか、黒子と佐天は弱音を吐く。

初春「だけど、今は状況が違います。私たちは既に、あの2人の実力を目の当たりにしています。3日前は、彼らがどんな人間で、どんな能力者なのか、どれほどの実力を持っているのか、など全く知らない状況で真っ正面からほとんど策の無いままぶつかっていきました」
初春「じゃあ逆に、彼らを倒す……いえ、倒さなくても、せめて追い詰められる策を考えてみてはどうでしょうか?」

美琴「………………」

黒子「…どうやってですの? 貴女も見たでしょう。あの2人は超能力者としても無能力者としても、反則レベルの力の持ち主です」

初春「ええ、でも…人間である以上、どこかに隙が、弱点が必ずあるはずなんです。あの2人と相まみえたのはほんの僅かな時間ですが、その僅かな時間のうちに、彼らはその手の内を見せています。格下と見下した私たちを徹底的に絶望させるためだけに、自分たちの力を自ら披露しているのです。そこが、彼らの突破口です。そして、その突破口を元に、いくつでも策は立てられるはずです!」

初春の声に覇気が宿る。

初春「確かに彼らは強いです。でも、私たちの実力を見下してること、私たちに手の内を見せたこと。この2点の僅かな隙間に、私たちが彼らを攻略するための道があると思います!!」

美琴「!!!」

黒子佐天「………っ」

黒子と佐天は押し黙る。
自分たちは怖気づき、既に厭戦気分であったと言うのに、一番怖い目に遭わせられたはずの初春は、諦めるどころか、上条と一方通行を再度倒すことを考えていたのだ。
正直なところ、彼女たちは初春の止め処ない強い意志を前に、逃げ腰だった自分を恥じ言葉を失くしていた。

美琴「初春さん…」

初春「はい?」

ずっと黙って聞いていた美琴が口を開いた。

美琴「貴女の言いたいことは分かったわ。でもね、私は同じレベル5の第3位でありながら、たった2つしか序列が離れていない一方通行に一度も勝ったことがないの」
美琴「……あいつとは、色々あって何度か敵対したことあるけど、1回も勝つことが出来なかった……。いえ、傷1つつけることさえ出来なかった……。一方通行の絶望的な実力の前では、私の超電磁砲(レールガン)も赤子の手をひねるようなもの。攻撃することすら躊躇ってしまう。まさにその名に相応しい“最強”の力……」

初春「………………」

美琴「そして、もう1人の上条当麻。こいつは全くの無能力のレベル0だけど、その右手には超能力を何でも打ち消す幻想頃し(イマジンブレイカー)が備わっている。最近は会ってなかったけど、以前までは日常茶飯事に遭遇してたわ」

美琴は遠い日の記憶を思い出すように語る。これからはもう、味わうことが出来ないだろう一晩中追って追いかけられた日々のことを。

美琴「私はあいつの右手の力が信じられなくて、毎回会うたびに攻撃を仕掛けてたけど…その都度、私の攻撃はいとも簡単にかき消されてたわ……」

464: 2010/06/16(水) 22:46:36.76 ID:pGXaOCY0
美琴「分かる? レベル5第3位の私すら簡単にあしらうあの2人。それほど、あいつらの力は反則なの。それでも初春さん、あいつらに勝てるって断言できる?」

何かの真意を問うように美琴は初春に相対する。

黒子佐天「……………」

初春「出来ません」

美琴「……………」

初春「でも、御坂さん、基本的にその2人とはいつも1人で立ち向かってたんですよね?」

美琴「…? そうだけど?」

初春「なら、可能性はあります。僅かですけど彼らを攻略する方法が見つかるかもしれません」

美琴「どうやって?」

美琴が眉をひそめる。対し、初春は満面の笑みで、至極簡単に、それが当然であるかのように答えた。

初春「だって、私たちがいるじゃないですか」

美琴「!」

初春「私たち4人で1人だって…4人合わされば、何でも出来る、って言いませんでしたか?」

黒子佐天「あ…」

初春「ね? 私たちは戦友であり4人で1つの“超電磁砲(レールガン)組”。一心同体なんです。私たちが力を合せれば、1+1+1+1も、100×100×100×100になる。そうでしたよね、佐天さん?」

佐天「あ…うん。そうそう!」

初春「御坂さん、白井さん、佐天さん。あの2人に完全勝利出来る可能性は100%も無いと思います。ですが、4人で知恵を振り絞ったら1%ぐらいの可能性は出てくるかもしれません。もう1度、考える直すことぐらい出来るんじゃないでしょうか?」

黒子「…………」

佐天「…………」

誰も何も喋ろうとしない。いつもとは雰囲気が違う初春の問いに、彼女たちは逡巡するように黙っていた。
その時だった。

美琴「ふっ……」
美琴「あはははははははははははは」

黒子「お姉さま?」

突如、笑い出す美琴。黒子と佐天がそんな彼女を奇異の目で見る。

美琴「ふふ…ふふふ」

465: 2010/06/16(水) 22:53:14.48 ID:pGXaOCY0
佐天「ど、どうしたんですか急に?」

美琴「いえ……なーんか、今までウジウジ悩んでた自分が馬鹿馬鹿しくなって…」

佐天「はぁ?」

何かが吹っ切れたように、美琴は明るい調子で話す。

美琴「だって、一番怖い目に遭ったのは初春さんのはずなのに……初春さんが一番あいつらにやり返そうって思ってるんだもん」

初春「えっ? えっ?」

美琴「それが何よ。私はやる気を完璧に無くしちゃってさあ。ホンット、バッカみたい!」

黒子佐天初春「??」

美琴「それで何がレベル5よ。何が超能力者よ。何が超電磁砲(レールガン)よ。笑っちゃうわね」

言いたいことを言い終え、美琴は初春に笑顔を見せた。

美琴「初春さん…ありがとう」

初春「えっ?」

美琴「貴女のお陰で目覚めたわ。……気持ち、切り替えないとね!」

そう言って美琴は初春にウインクする。

初春「え……あ…はい!」

初春もまた、美琴の言葉に笑顔で返した。

美琴「で、黒子と佐天さんはどうすんの?」

黒子佐天「え?」

美琴「別に今ここで抜けても臆病者扱いなんてしないわ。やめるのも、1つの勇気だから。それはそれで賞賛すべきことだわ」

黒子と佐天は顔を見合わせる。しばらくして、彼女たちは笑みを浮かべ合った。

黒子「なーに仰っているのでしょうかお姉さまは」

佐天「今更やめる? そんなかっこ悪いところ見せられませんよ。まだ、あいつらに仕返しもしてないのに」
佐天「初春1人にかっこいい思いはさせないぜ?」ニヤリ

初春と美琴に影響されたのか、黒子と佐天の声に元気が戻る。

初春「佐天さん、白井さん…」

466: 2010/06/16(水) 23:00:22.02 ID:pGXaOCY0
美琴「じゃあいいわね。改めて言うけど、私たちの敵は、一方通行と上条当麻。一筋縄じゃいかない奴らよ?」
美琴「氏ぬ気でないと、逆に痛い目見るわよ」

腰に手を当て、美琴はやる気を取り戻した3人の顔を見る。

黒子「それはもう十分身に染みて承知しておりますわ」

佐天「あいつらにも指摘されたことですしね」

初春「それが分からないで諦めないほど、私たちは馬鹿じゃありません」

美琴「そうね。では、各自まずは“自分が出来ること”を再確認すること。自分の得意分野を振り返るのよ。いいわね?」

黒子と佐天と初春は元気良く頷く。

美琴「じゃあ、超電磁砲(レールガン)組、再始動よ!!!」

美琴黒子佐天初春「おーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」

儚くも、力強い声を上げる4人。
彼女たちは意気揚々に気合いを入れる。黒子と初春は自分のデスクに着きパソコンのブラウザを開き、佐天は支部に置かれている武器類の物色を始める。美琴は大量のコインを集めるべく、ゲームセンターに向かおうと………




黄泉川「そこまでじゃん!!」




バンッと、勢いよく支部の扉が開かれた。
驚き肩をビクつかせ、美琴たちはそちらの方に注意を向けた。
そこには、アンチスキルの黄泉川と鉄装が2人、険しい顔をして立っていた。

黒子「黄泉川先生?」




黄泉川「ジャッジメント第177支部はただ今をもって、その全ての業務を凍結する」




美琴黒子佐天初春「!!!!!?????」

467: 2010/06/16(水) 23:07:16.57 ID:pGXaOCY0
初春「ど、どういうことですか先生!!」

信じられない、というように初春が黄泉川に駆け寄る。

黄泉川「どうもこうもない。今まで知った仲と言うことで大目に見てきたが、さすがに限界じゃん。ここ最近のお前らの行動は許容範囲を逸脱している」

黒子「そ、それは……」

黒子たちは困った顔を見せ、どうしよう、と無言で美琴に訴える。
しかし、美琴は黄泉川を見据えたまま何も答えない。

黄泉川「捜査の重要な証拠となる携帯電話を、アンチスキルの許可を得ずに勝手に他の機関に指紋鑑定依頼する。休校措置が出てるにも関わらず、無断で外出する。そして御坂……」

美琴「…」ピクッ

黄泉川「壊滅したスキルアウトの一団のアジトからお前の毛髪が見つかったぞ」

美琴「…………」

黒子佐天初春「!!!」

黄泉川「手口から見て、奴らを頃したのはお前の仕業じゃないんだろうが……何らかの情報を得るために奴らと接触していたな?」

美琴「……………」

黄泉川「どちらにしろ、アンチスキルの中にはお前がスキルアウトを壊滅したと疑ってる連中がいるじゃん」

黄泉川の言葉に、黒子と佐天と初春が声を上げた。

黒子「そ、そんなお姉さまはただ……!!」

佐天「そうです! 御坂さんはスキルアウトを頃してなんかいませんよ!!」

初春「そうだ、聞いてください黄泉川先生! 最近学園都市の学生が誘拐されてる事件で私たち遂に……」

黄泉川「うるさい!!!!」

黒子佐天初春「!!!!!」

黄泉川「キャンキャンキャンキャンうるさいじゃん」

黒子佐天初春「なっ……」

黄泉川「このかしまし娘どもが。ちょっとは静かに出来ないのか」

3人は怒鳴られたショックからか、黄泉川の顔を唖然と見返す。

黄泉川「今まで色んな事件を解決してきたお前らだから見逃してたが……これ以上は看過出来ないじゃん。よって、処分内容が決定するまで、当支部は凍結。お前らは、私の部下たちの監視の下、自宅にて謹慎してもらう」

黒子佐天初春「そんな!!」

468: 2010/06/16(水) 23:14:30.82 ID:2J65Eag0
黄泉川の言葉を聞き、一斉に彼女たちは抗議の声を上げるが……

黄泉川「黙れ!!」

黒子佐天初春「ひっ」

またも、黄泉川の発する大人特有の気迫に慄く3人。

黄泉川「ジャッジメントだろうが、レベル5だろうが、お前らはまだ子供じゃん」

美琴「…」ピク

黄泉川「ここからは大人の領分。大人には、子供を守る役目がある。お前らの安全を守るためにも、従ってもらうぞ」

黒子「お姉さま…」

佐天「御坂さん…」

初春「御坂さん…」

今にも泣きそうな顔で、3人は美琴を見つめる。無表情で黙っていた美琴はようやく口を開いた。

美琴「みんな、ここは黄泉川先生に従いましょう…」

黒子佐天初春「そんな!」

美琴「耐えることも、1つの戦いよ」

黄泉川「良いことを言うじゃん御坂。強者には我慢も必要不可欠な要素じゃん。…鉄装、この子らを頼む。家まで送り帰して、謹慎生活中の詳細も説明してやってくれ」

鉄装「分かりました。さ、みんな、いつまでも我が儘言ってないで行くわよ」

互いの顔を見ると、4人は不服そうにトボトボと鉄装に従った。

美琴「1つ、あんたたち“大人”に言っておくことがあるけど……」

ふと、美琴が立ち止まり呟いた。

黄泉川「……何だ?」

美琴「“子供”を舐めないことね。“子供”ってのは“大人”の気付かないうちに、成長してるもんなんだから……」

鉄装「……………」

黄泉川「………フン、胸に留めておくじゃん」

それだけ言い残すと、美琴は鉄装に従って部屋を出て行った。

470: 2010/06/16(水) 23:21:36.55 ID:2J65Eag0
常盤台中学女子寮――。

寮監「ふざけるな!!」

バンッ、と机を思いっきり叩く音が響く。その音に驚き、黒子は肩をビクつかせた。
美琴と黒子の2人は今、寮の管理人室にいる。

寮監「勝手な行動ばかり起こしよって…。周りの迷惑になると考えんのか!?」

寮監は怒りに溢れた顔を美琴と黒子に向ける。

寮監「いくらレベル4とレベル5とはいえ、中身はまだ子供だな」

美琴「(またそれ…)」

黒子「寮監様、どうかお話を聞いてくださいまし。私たちは……」

美琴「無駄よ黒子。どうせ聞いたって信じてくれないし相手にもしてくれない」

黒子が何とか事情を説明したが、横から美琴が止めた。

美琴「学園都市の“大人”ってそういう薄情な人が多いからね」

黒子「お、お姉さま…」

寮監「ああ? 随分と大層なことを言うじゃないか。やはりお前らには再教育が必要なようだな」

寮監の額には青筋が浮かんでいた。

472: 2010/06/16(水) 23:27:19.50 ID:2J65Eag0
常盤台中学女子寮・某室――。

ベッドに腰掛ける美琴。その感触は自分の部屋のものと同じもので、寝心地は良い。それだけでなく、その部屋は浴室やトイレもついており、美琴が普段暮らす部屋とは大して変わらない。ただし、じめじめしていること以外は。

美琴「部屋の空気が淀んでいるわね」

その部屋に窓と呼べるものはなかった。ついているにはついているのだが、壁の最上部に小さな窓枠が並んでいるだけで、外の景色を眺めたりと窓としての本来の使い方が出来ない。しかも鉄格子まで嵌められており、仮にそれを破壊しても人間1人脱出出来るだけのスペースは無かった。

美琴「さながら牢屋ね」

寮監によると、その部屋は校則を破ったり、寮の規則を守らなかったりする生徒を謹慎させるためにわざわざ作られたものらしい。ここ数年は使われたことはなかったが、今回は特例ということで美琴が閉じ込められることになった。

美琴「あー囚人になった気分」

部屋には通信手段となるような電話やパソコンがなく、暇潰しのために少量の本が置いてあるだけである。もちろん美琴の携帯電話も取り上げられており、部屋の外には黄泉川の部下のアンチスキルの隊員が部屋の見張りについている。
さながらその部屋は陸の孤島だった。

美琴「寮にこんな部屋があったとはねー」

美琴は扉に近付く。そこには、食事の受け渡し用の投函口がついているが、どうやら室内からは開けられないらしい。鍵はついているようだが、対能力者用に簡単には突破されないよう何らかの細工がなされているのは容易に想像出来た。
顔を上げると、天井の隅に監視カメラらしきものまで設置されている。どこか別室で彼女の様子をモニターしているのだろう。
しかし、何より問題なのは、美琴は今自分がいる部屋の場所を知らないことだった。目隠しされ、エレベーターに乗せられやって来たので、そこが何階なのか、そして何号室なのかも分からなかった。故に、

美琴「……破壊して逃げることも出来ないのよね…。壁か天井か床に超電磁砲でもぶっ放して、もしそこが誰かの部屋だったら大変だし、ドアを能力で破壊しても偶然通りかかった誰かを傷つけたら怖いし」

474: 2010/06/16(水) 23:34:21.50 ID:2J65Eag0
何より、もし彼女が何らかの抵抗を試みた場合、別の場所で謹慎されている3人の罪が重くなるどころか身の安全を保障できない、と警告されていた。
黄泉川の性格を考えると、後者の言は中身がハッタリの警告だろうが、前者ばかりは実際に嘘とも思えなかった。要するに彼女は、物理的にではなく状況的にがんじがらめにされていた。

美琴「…そういや黒子はどうなったんだろ? 佐天さんや初春さんはどうしてるのかな?」

ボフッとベッドの上に仰向けになる美琴。ふと、3日前の夜のことを思い出す。



  ――「……レベル0の俺すら倒せないなら、もう2度と関わるな」――



美琴「………………」
美琴「…必ず、這い上がってもう1度あんたのところに辿り着いてやるんだから…覚悟しておきなさいよ上条当麻!!」

美琴はグッと握った拳を上げる。

美琴「あんたが私たちのことを何も出来ない子供だって見下してるなら………」





美琴「まずはそのふざけた幻想をぶち頃す!!!」






475: 2010/06/16(水) 23:36:40.66 ID:2J65Eag0
>>1です。
今日は以上です。
急に話の流れの雰囲気が変わりまして申し訳ありません。
明日もまた投下出来ると思います。
それではまた明日の夜に。
ありがとうございました。

476: 2010/06/16(水) 23:41:52.51 ID:UoSWUCw0

引用: 美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」