1: 2010/06/29(火) 23:23:11.00 ID:29qn51o0

13: 2010/06/30(水) 18:01:02.02 ID:Xt4V1.M0
とある部屋――。

狭く、窓も無い部屋の下、上条と一方通行は紙束の資料を読む作業に追われていた。
傍らでは、無言の御坂妹が行儀よく椅子に腰を掛けたまま、2人の様子を眺めている。

一方通行「大事の前の再確認だからしょうがねェが、目の疲れが半端ねェな」

上条「そう言うなよ。もうあと数日で全てが始まるんだから」

一方通行「にしても、アイツはあのまま放っておいていいのかねェ?」

上条「あいつって? 御坂たちのことか?」

上条は顔を資料に向けたまま、視線だけチラッと一方通行に寄せる。

一方通行「“22匹目の養殖魚”のことだよ」

上条「ああ……」

一方通行「何でもアイツ、外の週刊誌の記者と接触してペラペラ話してるそうじゃねェか。こっちは楽園だの、もう心配する必要も無いだの……。危機感というもンがまるでねェ。恩を仇で返すとはこのことだろ」

上条「別に匿名で取材受けてんなら大丈夫だろ。あの連中だってそっちに構ってるだけの余裕は無い。それにあいつはもう海にいるから“養殖魚”じゃないぞ」

一方通行「ンなこたァ、どうでもいい。アイツのせいでこっちの活動に支障きたされても困るンじゃねェか?」

上条「その活動にしたって、もうほぼ終わってる。後は本番の大事が控えてるだけ……。本番が失敗すりゃ、当初の予定通り、御坂たちをターゲットにするだけ。ま、今のところその可能性が高いけどな……」

至極簡単に、上条は言う。

一方通行「フー…まァ、オマエが気にしてないなら、別にいいンだけどよ……」

上条「で、他に心配事は?」

一方通行「あァ? いや、特にこれといったことはな…。懸念材料も、もうねェだろうし……」

御坂妹「そのことについですが……」

ずっと2人の会話を聞いていた御坂妹が、呟くような声で小さく手を上げた。

上条「ん?」

一方通行「あン?」

上条と一方通行は姿勢はそのままに、視線だけ御坂妹の方へ向ける。

御坂妹「お姉さまたちのことはもう放っておいてよいのですか? とミサカは訊ねてみます」
とある魔術の禁書目録 30巻 (デジタル版ガンガンコミックス)

14: 2010/06/30(水) 18:08:23.95 ID:15FDBqU0
一方通行「なンだ、またそのことかよ」

御坂妹「そうなのですが……一方通行、貴方だってお姉さまたちの存在を危険視してませんでしたか? とミサカは確認します」

一方通行「はァ!? いつ俺が超電磁砲どもを危険視したよ? 俺は、足元をうろつくネズミがいれば目障りだから、潰しておいたほうが気が楽でいいンじゃねェか、って言っただけだ。そもそも何で実質上、学園都市最強の俺が中学生のガキどもを危険視しなくちゃならねェ?」

御坂妹「そうなのですか?」

一方通行「あったりめェだろ。つーか、最近はアイツらの動きが全くねェから忘れてたぐらいだぜ」
一方通行「どうせもう嫌になったンだろ? そりゃあよく考えれば分かるわな。俺たちに1度叩き潰されてンだから。だから、いっそのこと引き上げたンだよ。『戦略的撤退』ってヤツだ。無駄なことに力を消耗するのは割りに合わない、って判断したンだろ。そこら辺は、さすがに超電磁砲と言ったところか」

御坂妹「しかし、お姉さまがそう易々と引き下がるでしょうか。あの4人は半端な気持ちでやっているとは思えませんが、とミサカは疑問を提示してみます」

一方通行「あァ? なンだ? やけにアイツらの身を持つなァ。以前は俺と同じく、オマエもアイツの動きを目障りだとしか見てなかったくせに。超電磁砲どもに負けて感化されちまったのかァ?」

御坂妹「そ、そんなことはありません。ミサカはただ……」

2人の応酬を、上条はただ視線を移し変えるだけで眺めている。

御坂妹「貴方はどう思いますか? とミサカは矛先を変えてみます」

再び資料に目を戻そうとしていた上条に、御坂妹が質した。

上条「ん? 俺か? 俺は前に言った通りだよ。俺は、あいつらが諦めるとは思えない。何せ、御坂がリーダーなんだからな。だが、大した脅威にもならないと思ってる。それだけだ」

御坂妹「そうですか……」

答えることだけ答えると、上条と一方通行は再び資料に目を戻した。

御坂妹「………………」

御坂妹は簡単に話を済ませられたことに多少、不満を覚える。

一方通行「くだらねェこと言ってないで、オマエもやることやれ」

資料から視線を外さずに一方通行は告げる。

上条「…………………」

御坂妹は上条を見る。彼は既に今の話は意識の外のようだった。

御坂妹「…………………」

これ以上発言できる空気ではないと感じ取った御坂妹は部屋を出て行った。
そんな彼女の行動を気にすることもなく、上条と一方通行は資料を読み続けていた。

15: 2010/06/30(水) 18:15:22.54 ID:sISNFik0
3日後・夜――。

美琴「午後10時30分……そろそろね」

美琴は腕時計を覗き、言った。

美琴「ご飯も食べたし、用意は全て整ったわ」

黒板のようにマジックペンで塗り潰されたホワイトボードの前に立ち、美琴は親友であり戦友たちの顔を窺う。
みな、恐怖の色は無い。ただ、覚悟を決めた勇気ある表情をしていた。

美琴「いいわね? 奴らと戦闘に入ったら、今まで練習したシミュレーションを思い出して。それだけでなく、実際に現場のシチュエーションもリアルタイムに考慮して臨機応変に動くの」

黒子と佐天と初春が頷く。

美琴「一方通行を倒す秘策は簡単と言えば簡単だけど、本番1回きりのチャンスしかない上、その状況を作り出すまでが厄介よ。だけど、貴女たちなら出来ると私は心の底から信じてる」

次いで美琴は、優しい目で3人を見据えた。

美琴「それから最後に言っておくけど、絶対に簡単に氏のうとはしないで。これだけはお願い。全員、生き延びるために努力して」

黒子佐天初春「はい!!」

その元気の良い返事に、今度は美琴が頷くと彼女は自身の右手を見つめた。

美琴「(私の電撃が……役に立つものだって、レベル5の超能力者としての誇りなんだってことを、自らの手で証明してみせる!!!)」

1度、目を瞑った美琴は顔を上げ、3人を見る。

16: 2010/06/30(水) 18:21:17.45 ID:sISNFik0
美琴「私たちは4人で1つの“超電磁砲(レールガン)組”。一心同体よ。私たちが力を合せれば、1+1+1+1も、100×100×100×100になる」

黒子佐天初春「はい!」

美琴は腕を前に突き出す。
3人もそれに従い、細く、白く、小さく、華奢な4本の腕が十字をつくる。

美琴「私たち4人が組めば、どんな敵も恐くない。例えそれが、上条当麻と一方通行だったとしても。……だから、全身全霊で頑張りましょう」



美琴「超電磁砲(レールガン)組、ファイトオオオオオッ!!!」





美琴黒子佐天初春「ファイトオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!」





力強い声と共に4つの腕が虚空へ振り上げられる。彼女たちは今、再び戦場へ出陣する。
グラビトン事件、木山春生(AIMバースト)、スキルアウト(ビッグスパイダー)、テレスティーナ=木原=ライフラインと、数々の強敵と対峙し撃破してきた彼女たちの次なる相手は、最強の楯と最強の矛を持つ最大の宿敵・上条当麻と一方通行――。

28: 2010/06/30(水) 22:14:54.22 ID:n63cw3.0
第7学区・郊外――。

午前2時過ぎ。
人気の無い暗闇を、とある3人は駆け抜けていた。
月が出ていない上、空は曇に覆われてるせいか、ほんの数m先は漆黒に包まれており、まるで得体の知れない怪物が大きな口を開けて餌を待っているような威圧感があった。

上条「…………………」

一方通行「…………………」

しかし、そんな状況に恐怖どころか不安も覚えず、2人の少年は目的地へ向けて走っていた。
1人は、あらゆる攻撃を反射し様々なベクトルを操る、学園都市最強の超能力者(レベル5)・一方通行(アクセラレータ)。
そしてもう1人は、あらゆる異能の力を打ち消す『幻想頃し(イマジンブレイカー)』を右手に備えた無能力者(レベル0)・上条当麻。

打ち止め「…………………」

そんな百戦錬磨の2人に並ぶように、1人の幼女がトコトコとついて走る。
上条たちが走る速度を落としているためか、それとも彼女が全速で走っているためか、置いていかれる様子はない。
彼女の名前は『打ち止め(ラストオーダー)』。学園都市第3位の超能力者・御坂美琴の軍用量産モデル『妹達(シスターズ)』の司令塔的存在だった。

一方通行「しっかしよォ上条」

上条「あん?」

走りながら、一方通行が上条に声を掛けた。

一方通行「こうして見ると学園都市も平和に見えるもンだねェ」

上条「まあ今は深夜だからな。テログループとかもお眠りしてるんだろ」

一方通行「なるほどなァ。ま、こンな夜中にこンな寂しいところ走り回ってるのは俺たちみたいな物好きだけってことかァ」ニヤニヤ

打ち止め「こーら、2人とも無駄口叩いてないで走る走る! ってミサカはミサカは体育の先生気分」

一方通行「あァ? いつからオマエは教師になったンだ?」

打ち止め「えへへーたった今……」

一方通行「ちょっと待て」ピタ

ふと、その言葉と共に一方通行が突然立ち止まった。
不審に思った上条と打ち止めも1歩遅れて立ち止まる。

29: 2010/06/30(水) 22:21:28.08 ID:n63cw3.0
打ち止め「何どうしたの? ってミサカはミサカは疑問を感じてみたり」

上条「おい急ごうぜ。こんなところで油売ってる場合じゃねぇんだ」

上条と打ち止めが一方通行を促す。

一方通行「黙れ」

2人の意見を遮るように一方通行は一言言い放つ。

上条「………………」

打ち止め「………………」

仕方なく2人も口を閉ざす。

打ち止め「…………………」

一方通行「…………………」

上条「…………………」

しばらくの間、静寂がその場を包み込んだ。辺りは、不気味なほど静かで真っ暗だ。
と、その時だった――。





ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!






31: 2010/06/30(水) 22:27:57.42 ID:n63cw3.0
1つの轟音と共に、闇夜を真っ昼間に変えるような青紫色の光が周囲にほとばしった。

上条「!!!!!!」

一方通行「!!!!!!」

打ち止め「!!!!!!」

その光の先端が、立ち止まっていた上条たちの足元を貫く。が、咄嗟に彼らはずば抜けた反射神経でそれを回避した。
打ち止めの服の裾を掴みながら一方通行は右方向に飛び、上条は右手を前に突き出すように左方向へ飛んだ。

上条「……………っ」

地面に着地する3人。

打ち止め「うわ、一体何が起こったの!?」

一方通行「誰かの気配がしたと思ったらこれだァ。全く、危なっかしいったらありゃしねェ刺客さンだなァ」

片膝を地面につきながら、一方通行は打ち止めを庇うようにして警戒の視線を流す。
光と地面の激突で舞い上がった砂煙が晴れていく。

一方通行「さァて……どンなお客さンだァ?」

ニヤニヤと笑いながら、一方通行は前方を見据える。

打ち止め「誰かいるの?」

上条「…………………」

32: 2010/06/30(水) 22:33:16.87 ID:n63cw3.0






「ちょろっと~、そう簡単に避けられると自信無くしちゃうじゃなぁい」







33: 2010/06/30(水) 22:38:17.27 ID:n63cw3.0
唐突に、暗闇の中から1つの高い声が聞こえてきた。女――それも子供の声だ。

一方通行「………なるほどなァ。オマエだったってか」ニヤリ

その正体に気付いた一方通行が、同じレベルを持つ超能力者として、その2つ名を呼ぶ。

一方通行「『超電磁砲(レールガン)』……」

次いで、上条も口中に呟き、その人物の名を確かめた。

上条「御坂……」ボソッ

美琴「あら? 男2人に名前を覚えられてるなんて嬉しいわね。あんたらのことだから忘れてると思ってたわ」

砂煙の中から歩いてきた1人の少女。
身体中に紫電を纏った彼女の正体は、常盤台中学のエースにして、最強の『電撃使い(エレクトロマスター)』・御坂美琴。学園都市第3位の実力を誇るレベル5の超能力者だ――。

打ち止め「お姉さま!? どうしてここに……!?」

その姿を見た打ち止めが驚きの声を上げる。

一方通行「で、今更オマエ1人でこンなところに来て何になるってンだァ?」

大して驚くこともせず、一方通行は楽しむように問い掛ける。
しかし………




黒子「あら、誰がいつ1人だって仰いました?」





34: 2010/06/30(水) 22:44:26.26 ID:n63cw3.0
不意に、美琴の後ろから声が1つ増えた。

一方通行「テレポーター……」

上条「白井…」

黒子「ご機嫌麗しゅう殿方のお二方。そしてお姉さまの妹さま」

打ち止め「お姉さまだけでなく、ツインテのお姉ちゃんまで……?」

一方通行「ほォ……」

上条「…………………」

3人の予想を裏切るように、更に声は増える。

佐天「2人ってわけでもないですよ」

そしてもう1つ。

初春「もしかしたら4人かもしれませんね」

暗闇から発せられた3つの声の主は、正面で堂々と立つ美琴の側に順に歩み寄る。

一方通行「黒髪の無能力者に……」

打ち止め「お花のお姉ちゃんまで!?」

上条「…………………」

目の前に現れた4人の少女。彼女たちは上条と一方通行に挑むような視線を向け、力溢れるオーラを放っていた。

一方通行「超電磁砲(レールガン)、オマエまだ懲りてなかったのか」

美琴「“超電磁砲(レールガン)”じゃないわ。“超電磁砲(レールガン)組”よ。見て分からない?」

一方通行「あァ?」

美琴「あんた、まさか私だけが戦闘要員で、この子たちは見物人とでも思ってないでしょうね?」

腰に手を当て、美琴は一方通行に語りかける。

35: 2010/06/30(水) 22:50:42.36 ID:n63cw3.0
一方通行「はァ? おいおい冗談よせよな。2週間前のこと忘れたとでも言うのかァ?」

美琴「忘れてるわけないでしょ。あんたたちに完膚無きまでに倒されたんだから」

一方通行「それでまた無謀にも残りのガキどもも連れて来たってのかァ? 学習能力あンのかオマエ」

黒子「残念。学園都市第1位の頭脳もそこまですか」

美琴と一方通行の会話を遮るように、黒子が横から割って入った。

一方通行「何!?」

佐天「学習能力無いのは貴方なんじゃないですか? ねぇ初春?」

初春「そうですねー。もしかして脳みその機能も反射しちゃってるんじゃないですか? フフ……」

一方通行という強敵を前にして、彼女たちは余裕の表情を作っている。それが気に入らないのか、一方通行は多少苛立ちを覚えた。

一方通行「そうかい……そうかいそうかい………。そうかいそうかいそうかい………そうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかいそうかい!!!!!!!!」

片膝を地面についていた一方通行がズアッと立ち上がる。




一方通行「いいね! いいねェ!!! 最っ高だねェ!!!!!」




満面の笑みを浮かべ、一方通行は楽しげに叫ぶ。

36: 2010/06/30(水) 22:56:23.54 ID:n63cw3.0
打ち止め「一方通行?」

一方通行「打ち止め、オマエ、離れた所にいろ」

打ち止め「え?」

一方通行「どうやらコイツらは相当のドMらしいぜェ。あれだけやられてもまた懲りずにやって来てるンだからなァ!!!」

美琴「………………」

やる気を見せた一方通行を前にしても、美琴たちは微動だしにない。

一方通行「上条」

上条「ん?」

一方通行は傍らにいた上条に呟く。

一方通行「文句ねェよな!?」

上条「…………………」

無言で返す上条。彼は今、美琴の顔を見据えている。

美琴「…………………」

美琴もまた、上条を睨み返す。
2人の間に流れる独特の鋭い空気。上条はそれを感じ取り、言葉にならない威圧を美琴に向けていた。
しかし、美琴は何も応えない。まるでそれが、何の意味も無いと言うように。

上条「御坂………」

美琴「上条当麻………」

互いの宿敵の名を呼び合う上条と美琴。
彼らの脳裏に、因縁の相手との記憶が蘇る。一晩掛けて追いかけ、追いかけ回されていた日々のことを。
妹達(シスターズ)を助けるために鉄橋で言い争い、本気で電撃を浴びせ浴びせられた8月21日のことを。
そして、初めて本当の宿敵として戦った2週間前のことを――。

37: 2010/06/30(水) 23:02:36.76 ID:n63cw3.0
一方通行「こンなところでイチャついてンじゃねェぞオマエら。上条、『返事が無い』って言うのは『了承』と捉えるぜェ!!!」

上条「その前に1つだけ聞いておく」

一方通行「あン?」

一方通行の言を無視し、上条は数m先に立つ4人の少女を捉える。

上条「お前ら、本当に俺たちとやる気か? 今ならまだ見逃してやってもいいんだぞ」

侮蔑とも取れる言葉を美琴は軽く受け流す。

美琴「冗談言わないでよ。私たちはこの2週間、あんたたちを倒すために努力して来たのよ。2週間前の私たちと同じだとは思わないことね」

一方通行「おーこわいこわい」ピュ~

一方通行が小さく口笛を吹く。

一方通行「氏ンでも構わねェんだな?」

ドスの効いた脅しをかける一方通行。しかし、4人の少女たちは簡単には怯えない。

美琴「再び巡ってきたこのチャンス。今回を逃したら次はいつになるのか分からない。なのに、本気を出さないと思う? 嘘偽りなく、私たちは貴女たちを頃す覚悟も出来てるし、自分たちが氏ぬ覚悟も出来てるわ」

上条「御坂、言うのと実際にやるのとは違うんだぞ」

美琴の言葉を聞いた上条が彼女に忠告する。
しかし、美琴はそれでも取り合わない。

美琴「ほざきなさい。今夜、あんたたちに見せてやるわ。女の子の底力ってやつを」

上条「…………………」

39: 2010/06/30(水) 23:09:24.23 ID:n63cw3.0
美琴「なに『納得出来ない』って顔してんの? そんなにおかしい? 寧ろ私たちのほうが納得出来ないわよ。黄泉川先生や寮監までもあんたたちの仲間だったんだからね」

上条一方通行「………………」

打ち止め「どうしてそれを……?」

打ち止めは素直に驚いたが、上条と一方通行は僅かに目を細めるだけだった。

美琴「そういうわけで、黄泉川先生と寮監のメールを盗み見させてもらったわ。『3日後午前2時、我々3人は第7学区のこのルートを使ってアジトへ戻る』って内容のね! お陰でここで待ち伏せすることに成功したわ」

上条一方通行「………………」

美琴「それともう1つ。私たち、氏ぬ覚悟は出来てるけど、氏ぬつもりはないから。ただ、生き残りあんたたちを倒すためだけに全身全霊を込めて戦わせてもらうわ!!」

上条と一方通行という最強の敵を前に、キッパリと言い切った美琴。
彼女のその姿は、まさに学園都市第3位の超能力者(レベル5)として凛としたものだった。

一方通行「なンだそりゃあ。結局氏ぬのが怖いンじゃねェか?」ケラケラ

上条「無理するなら、帰ったほうがいいぞ」

それでも上条と一方通行は、まるで美琴たちを心配するような、それでいてある意味、見下し侮蔑するような言葉をかける。

黒子「それは貴方がたの物差しでしょう」

不意に、黒子が口を開いた。

佐天「あたしたちがどんな思いでこの2週間やって来たか、その成果を見せてあげますよ」

初春「後で後悔しないで下さいね」

佐天と初春も後に続く。

41: 2010/06/30(水) 23:17:28.94 ID:n63cw3.0
美琴「そう、だから…上条当麻、一方通行……」

そして、彼女たちは口を揃えて宣言する――。







美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!!!!!!」







まるで静かな闇夜を切り裂くような、迷いの無い、ハッキリとした言葉だった。
少女たちの宣戦布告を正面から受け取り、2人の男は僅かに眉を顰めこう返した。







上条一方通行「………やってみろ」







その返答を合図に、戦闘は開始された――。

49: 2010/06/30(水) 23:32:47.56 ID:0G4.btYo
美琴「そう、だから…上条当麻、一方通行……」

そして、彼女たちは口を揃えて宣言する――。







美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!!!!!!」







まるで静かな闇夜を切り裂くような、迷いの無い、ハッキリとした言葉だった。
少女たちの宣戦布告を正面から受け取り、2人の男は僅かに眉を顰めこう返した。







上条一方通行「………やってみろ」


61: 2010/07/01(木) 21:33:27.94 ID:eQ1Xhtw0



美琴「うらああああああっ!!!!!!!」



バチバチバチッ!!!!!

男のような猛々しい声と共に、美琴は地面に向けて電撃を発した。
その強力な雷光が上条と一方通行の視界を覆い、2人は反射的に回避行動を取らざるを得なかった。
再び辺り一面は砂煙に覆われ、上条と一方通行は知らず知らずのうちに互いの距離を大きく開けていく。

一方通行「まさか俺の方が初めに回避運動取らされるとはなァ」

と言いつつ、余裕綽々の表情で周囲を見回す一方通行。
そこは、鉄骨や木材などが広場の隅に並べられている資材置き場だった。状況としては2週間前と似ている。

一方通行「月が出てねェのか。真っ暗闇なのは不便だが、所詮は不便なだけだ」

空を見上げそう呟く一方通行。
デフォルトで反射を設定している彼にしてみれば、闇討ちなんてものは何の脅威にもならない。

一方通行「ン?」

ポケットに両手を突っ込みながら前を向く一方通行。
誰かが2人、進路上に立っている。

一方通行「さァて超電磁砲(レールガン)、まずは敗者復活戦ってところかァ?」

ニタニタ笑う一方通行だったが、1秒後、目の前に立つ人物を確かめて彼の表情に変化が訪れる。

一方通行「はァ!!??」

62: 2010/07/01(木) 21:39:21.97 ID:eQ1Xhtw0
頓狂な声が思わず漏れ出る。無理も無かった。彼の目の前には、同じレベル5の美琴ではなく、黒子と佐天が立っていたのだから。

一方通行「おいちょっと待て。超電磁砲はどうした?」

黒子「何か、お姉さまでなくては不都合なのでしょうか?」

下げた両手の指の間に金属矢を挟み、黒子は言う。
その金属矢は以前と違い、手作り感があったがそれでも得物としては十分に効果を発揮出来そうなものだった。

一方通行「いやいやいや、オマエら俺が誰だか分かってンですか? もしかして、戦闘開始1分でボロ雑巾確定ルートをお望みなンですかァ?」

佐天「御坂さんなら、あっちにいますよ」

佐天は右手に持ったバットの先端を一方通行の後ろの方に向ける。つられて彼が振り返ると、確かに少し離れた所に上条に向かい合うようにして立つ美琴の背中が見えた。

一方通行「なンだそりゃァ? オマエら、戦いのセオリー無視してンだろ? どう考えてもオマエらに勝機なンてねェぞ? だってオマエら、たかがレベル4のテレポーターと、レベル0の無能力者だろ? 万に一つでも勝つつもりなら、超電磁砲が俺と勝負すべきだろ?」

一方通行は本当に疑問を感じているように唱える。

佐天「そんなの貴方の偏見でしょう? たまに言われません? 頑固だって。あたし、頑固な男って嫌いです」

一方通行「あァ?」

黒子「それに私たち、今日はとっておきの“秘策”を持って来てますの。ゆめゆめ、中学生が相手だからと油断してレベル4とレベル0のコンビに負けないことですわね」

一方通行「…………………」

佐天「………………」

黒子「………………」

一方通行「………………アハハ」

黒子佐天「?」

歪んだ笑みを刻む一方通行。

一方通行「……………アヒャハハハ」

失笑がその歪んだ口から漏れ出る。

一方通行「アヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!」

黒子佐天「…………………」

一方通行「おもしれェよオマエら!!!! マジおもしれェ!!!! いいぜ、そのおもしろさに免じて遊ンでやるよ!!!!!!」

一方通行の両手が大きく広げられる。

63: 2010/07/01(木) 21:46:21.33 ID:eQ1Xhtw0
美琴「そりゃあああああ!!!!!!」

バチバチバチッ!!!!!

上条「無駄だ」

バギィィィン!!!!!

一方通行が黒子と佐天と対峙していた頃、美琴と上条の戦闘もまた、既に始まっていた。

美琴「もう1発!!!!!」

バチバチバチッ!!!!!

上条「無駄だって言ってんだろ」

バギィィィン!!!!!

雷撃の槍を放つ美琴。そしてそれを右手の幻想頃し(イマジンブレイカー)で打ち消す上条。

美琴「ホント、ムカつくほど反則な右手持ってるわよねあんた。改めて思い知らされるわ」

上条「俺のことより、白井たちはいいのか?」

美琴「ん?」

上条「相手は一方通行だぞ。白井たちには荷が重すぎると思うんだが。お前が行かなくていいのか?」

至って平静に問い掛ける上条。今、彼と美琴との距離は10mも開いていない。

美琴「ちょっと、私の後輩侮辱してない? あの子たち、あれでもやるのよ」

上条「それは街の不良1人や2人が相手の場合だろう。今の相手は一方通行だぞ。スキルアウトならまだしも、無謀にもほどがあると思うけどな」

美琴「優しいのね。でも心配しなくても大丈夫よ。私たちにはとっておきの“秘策”があるから」

64: 2010/07/01(木) 21:52:27.75 ID:eQ1Xhtw0
上条「秘策?」

ピクと眉を動かす上条。

美琴「教えてあ~げな~~~~い!!!!」

軽い言葉を放ちながらも、美琴はいつの間にか手にした砂鉄剣を上条狙って薙ぐ。

美琴「余所見してんじゃないわよ馬鹿!!!!」

上条「フン」

バギィィィン!!!!!

当然、上条の右手は砂鉄剣すらも打ち消してしまう。
隙ができた美琴に逆にカウンターを食らわそうとする上条だったが、その拳にはどこか力が篭っていない。そのためもあってか、美琴は簡単に後ろに飛んで回避できた。

美琴「何あんた? 今、私を小突こうとしただけでしょ? 本気でやりなさいよ。氏ぬわよ」

上条「言ってろよ」

美琴「あんたがね」

上条は、相変わらず身体中から放電している美琴を見据える。

上条「(全身全霊の攻撃と言っておきながら、簡単に右手で防げる攻撃だ。相手が俺だから無意識のうちに手加減でもしてるんだろうな。なら、話は簡単だな)」

美琴「ジロジロ見ないでよ気持ち悪いわね」

上条「ちょっと本気を出させてもらうぞ」

上条は右手を握り、一気に駆ける。突然の行動と、男子高校生の歩幅を予測していなかったのか美琴は慌てたように後ろへ下がった。

美琴「チッ」

電撃を放つ美琴。右手を突き出す上条。
因縁の対決は更にヒートアップする。

65: 2010/07/01(木) 21:58:32.19 ID:eQ1Xhtw0
佐天「フッ!」

軽く息を吐き、佐天は地面に落ちていた小石をバットで飛ばす。狙いは、前方の一方通行。

ガッキイイイン!!!!

一方通行「ふぁ~~あ」

もちろん小石は跳ね返され、佐天の下に戻っていく。
戻ってきた小石を咄嗟にバットで防ぐ佐天。心地良い音を響かせると、小石はあらぬ方向へ飛んでいった。

佐天「………………っ」

ヒュヒュヒュヒュン!!!!

一方通行「ン?」

唐突に、一方通行の頭上に現れる複数の金属矢。それらは重力に従って一方通行の脳天に向かって落ちていく。

カンカカカカン!!!!

黒子「…………!!」

当然、跳ね返された金属矢は、雨粒が地面に落下するように四方八方に飛び散る。

一方通行「蚊でも止まったかァ?」

66: 2010/07/01(木) 22:04:26.78 ID:eQ1Xhtw0
軽口を叩く一方通行。そんな彼の目の前にはいつの間にか8cmぐらいの硬球が迫っていた。

一方通行「お?」

佐天が用意していたボールを飛ばしてきたのだ。

一方通行「動かないのもつまンねェ」

一方通行は目の前に迫った硬球を右手で払う。
払われたボールは信じられないほどの速さで虚空を切り裂き、やがて100m先のプレハブ小屋の壁をドスンという音を立てて突き抜けた。

一方通行「やれやれェ…」

目を瞑る一方通行。
しかし容赦なく、金属矢が背後から襲い掛かる。同時に、地面をバウンドしイレギュラーな軌道で2個目の硬球が一方通行に向かう。

一方通行「………………」

正面と背後から同時に攻撃が来たのにも関わらず、一方通行は回避運動を取ろうともしない。
思った通り、金属矢と硬球は簡単に跳ね返されてしまった。

一方通行「(2週間前みたいに、がむしゃらに突っ込ンで来ねェな。寧ろ連携した攻撃を放って来やがる。ま、それがどうした、って感じなンだが……)」

佐天「………………」

黒子「………………」ブンッ

正面の佐天の側に、黒子がテレポートで戻ってくる。
無言の2人を見て、一方通行は指で耳の中を掻きながら退屈そうに訊ねた。

一方通行「で」
一方通行「“秘策”ってまだァ?」

67: 2010/07/01(木) 22:11:08.55 ID:eQ1Xhtw0
同時に行われる2つの戦闘。打ち止めはその展開を少し離れた所から眺めていた。

打ち止め「……お姉さまの相手が上条さんで、あのツインテお姉ちゃんと黒髪ロングお姉ちゃんが一方通行の相手?」

首を傾げる打ち止め。

打ち止め「…普通、逆じゃないかなぁ? 一方通行なら同じレベル5のお姉さまが相手したほうが良いだろうし、上条さん相手なら、あのツインテお姉ちゃんと黒髪ロングお姉ちゃんのコンビの方が有利な気がするけど……」

打ち止めは推理をするように顎に手を添える。

打ち止め「むー……なんか前回戦った時の組み合わせの方が良かったと思うんだけど、ってミサカはミサカは疑問に思ってみたり」
打ち止め「でも……」

チラッと打ち止めは2つの戦闘を見る。

打ち止め「お姉さまたち、前回に比べて動きが洗練されてるような……」

と、そこで打ち止めはあることに気付いた。

打ち止め「あれ? お花のお姉ちゃんがいない?」

キョロキョロと周囲を探してみる打ち止め。
前回のように、いつの間にか人質に取られていたなどという事態に陥って一方通行たちに迷惑は掛けたくなかった。

打ち止め「あ、いた。あんな所に……」

見ると、随分向こうの方で初春が木材に腰を掛けている姿が見えた。
ここからはよく見えないが、足の上にノートパソコンを乗せているようだ。
暗闇の中、ボウッとパソコンの光が浮かび上がっている。

打ち止め「何やってるんだろ? ってミサカはミサカは新たな疑問に首を傾げてみる」

68: 2010/07/01(木) 22:16:17.41 ID:eQ1Xhtw0
一方通行「つまンねェからこっちから仕掛けさせてもらうぞ」

黒子佐天「!!!!!!!!」

片方の戦闘に大きな動きがあった。一方通行が攻撃に回ったのだ。

一方通行「シッ!!!」

地面を蹴り、通常の人間では信じられないほどの速度で低空を飛行する一方通行。
彼が伸ばした手が佐天の身体へ伸ばされる。

佐天「!!!!!」

ドッ!!!

と、予想を反し、一方通行は佐天の足元の地面へ拳を叩き入れる。同時に、佐天に向かって放たれる石つぶて。
しかし………

一方通行「何?」

一方通行が顔を上げると、佐天はいつの間にか2mほど後ろに離れており、石つぶての雨から逃れていた。

一方通行「(フェイントで思考能力をストップさせ、その隙に地面から石つぶてを浴びせようと思ったが……何でコイツは素早く俺の攻撃から逃れられた?)」

考えても仕方が無い。今、一方通行の背後近くには黒子の気配がある。
一方通行は悟られないよう足首をグルリと回転させ、今度は黒子の足元へ拳を叩き込もうと………

黒子「…………!!」

……したところで、黒子は一方通行の動きを1秒前に読んでいたかのようにテレポートして消えた。

一方通行「(コイツら……っ! 僅かだが反応が早い……。どういうことだ!?)」

立ち上がる一方通行。数m先に並ぶ黒子と佐天。

一方通行「ン?」

暗くて分かりにくいが、黒子と佐天の左耳付近に注意を向けてみると、何か異物のようなものが見て取れた。

一方通行「(なンだありゃ?)」

更に目を細めてみるとその正体が分かった。

69: 2010/07/01(木) 22:23:26.82 ID:bNssrMY0
一方通行「(ヘッドセットか…!?)」

縦長に細い、通信用のヘッドセットが、黒子と佐天の長い髪に隠れるように左耳に装着されている。

一方通行「(誰かから指示でも受けてンのか? 超電磁砲か? いや……)」

一方通行は振り返ってみるが、美琴は今、上条との戦闘に集中していて指示を飛ばせるような状況ではない。

一方通行「(待てよ……)」

一方通行は周囲に視線を走らせてみる。

一方通行「(あの頭お花畑がいねェぞ)」

ふと、彼の視線がある一点で止まった。そこだけ光が浮かび上がっていたので暗闇の中でもすぐに分かった。
随分離れた所だが、頭に花飾りをつけた少女が木材に腰掛け、何やら手元のパソコンらしきものを操作している。

一方通行「(あンな所に……。もしかして指示出してンのはアイツかァ?)」
一方通行「(だが、こンな月も無い暗闇の下でどうやって状況を把握して指示を出してやがる? ほンの数m離れただけでほとンど見えなくなるンだぞ)」

黒子「余所見ですか?」

一方通行「あァ?」

唐突に、声が掛けられた。

黒子「余所見をして大丈夫なのですか?」

一方通行「まさかとは思うけどさァ……オマエらの“秘策”って、ヘッドセットのことじゃねェよなァ?」

僅かに黒子と佐天の顔が動く。

一方通行「そンなの期待外れどころじゃねェぞ。あァ、心配するな。あのお花畑は大して脅威にもならないだろうから、別に手出ししたりはしねェよ」

黒子佐天「…………………」

余裕たっぷりげに告げる一方通行。しかし、彼は知らない。初春がわざわざ戦闘から離れた所で暗闇の中、何故パソコンを操作しているかを。

一方通行「おっと、1つ言い忘れてたことがあったぜェ」

黒子佐天「?」

一方通行「俺たちが誘拐してぶっ頃した常盤台の高飛車な生徒さァ……」

黒子佐天「!!!!!!」

一方通行「それまでは偉そうな口きいてた癖に、氏ぬ間際になってビビって震えてやがンの。で、こう懇願するンだよ…『氏にたくない…助けて』ってなァ! あの顔は最高だったなァ!! オマエらにも見せてやりたっかたぜェ」

黒子佐天「………………っ!!」

70: 2010/07/01(木) 22:30:12.65 ID:bNssrMY0
心の底から楽しむように一方通行は語る。
その態度に1度は怒りを露にした黒子と佐天だったが、すぐに彼女たちの顔は静かになった。

黒子佐天「…………………」

一方通行「(なンだ? 挑発に乗らねェ)」
一方通行「なンだよなンだよなンなンですかァ? つまンねェなァおい」

そんな一方通行を見て、黒子と佐天は頷き合う。

一方通行「おっと、第2ラウンド開始か?」

ふと、その瞬間、黒子と佐天が消えた。
無論、そのからくりは分かっている。黒子が空間移動(テレポート)を使ったのだ。

一方通行「どういう攻撃が来るのか楽しみ……」

一方通行は途中で言葉を止めた。いつの間にか、佐天の顔が目の前にあったからだ。
不意をつかれ、少し驚く一方通行。

一方通行「はァ?」

抜けたような声を出す一方通行を前に、佐天は眼前に何かを素早く持ち上げた。

71: 2010/07/01(木) 22:35:12.01 ID:bNssrMY0
それが何であるかを気付くより早く………




バシャッ!!!!!!!




唐突に、莫大な光量が一方通行を襲った。

一方通行「ぐあぁっ!!!!」

両目を覆う一方通行。

一方通行「目が!! クソッ!! ヤロウ!!!」

苦しむ一方通行に追い討ちをかけるように、今度はテレポートした黒子が彼の耳に何かを近付けた。




パアアンッ!!!!!!!




今度は、一方通行の耳の側で大音量の爆音が発せられた。

一方通行「うがぁぁぁっ!!!!!」

左手で左耳を抑える一方通行。
一方通行「チクショウ!!! 耳まで……っ!!」

75: 2010/07/01(木) 22:41:18.94 ID:bNssrMY0
黒子と佐天がとった方法は簡単だった。

大量の光と音で一方通行の目と耳を一時的に封じたのだ。
彼女たちが手にしているもの。それは、ストロボカメラとデジタルピストルだった。

一方通行「ぐおおおおお」

2人はそれらによって即席で特殊閃光音響手榴弾(フラッシュグレネード)の効果を生み出したのだった。
まずは手の内がバレないように、黒子がテレポートで佐天を一方通行の眼前まで一瞬で飛ばし、間髪入れずストロボで視界を奪い、次いで視覚が奪われている間に、追撃でデジタルピストルを耳元で撃ち、聴覚までも奪ったのだ。

一方通行「うおおおおお」

月も出てないこんな真っ暗闇だからこそ、一方通行が光量を反射していないと捉えるのが普通だ。音にしても、戦闘を行うには最低限必要だからこし反射していないはず。だったら簡単だ。後はその隙をつけばいいだけだった。

一方通行「うがああああ」

黒子と佐天の顔に歓喜の表情が浮かぶ。

佐天「やった!!」

黒子「効きましたわ!!」

79: 2010/07/01(木) 22:46:50.46 ID:bNssrMY0




一方通行「なァンてな!!!!!」ギャン!!




黒子佐天「!!!!!!!!!」

突如、一方通行が自分の目を覆っていた両手を離し、不気味な笑顔を露にした。

一方通行「確かに、俺の隙をついたいい策だったなァ?」

体勢を戻しながら、一方通行は語る。

一方通行「でもよォ、この策には欠点があるンだわ」

腰を大きく屈め、一方通行が攻撃の姿勢をとる。

一方通行「俺の反射は、許容量を超えたものも自動で反射するンだよ」

そして、最後に彼は1つだけ訊ねた。

一方通行「で、まさか今のが“秘策”ってヤツゥ?」

黒子「!!!!!」

佐天「!!!!!」

ドッと地面を蹴り、一方通行が2人に襲い掛かる。

一方通行「そンな陳腐な秘策で倒せる最強じゃねェぞォ!!!!!」

バガッと一方通行は、目にも止まらぬ速さで黒子の手に握られていたデジタルピストルを破壊した。

黒子「きゃぁ!!」

次いで、一方通行は間髪与えずに佐天のストロボも破壊しようとする。
それに気付いた佐天はバットを構え直そうとするが……

一方通行「遅せェぞ!!!」

それより早く一方通行がストロボカメラを破壊し、彼は佐天の身体にその腕を伸ばそうとした。

80: 2010/07/01(木) 22:53:27.89 ID:R6khucU0
黒子「佐天さん!」

佐天「!?」

ブンッ!!

テレポートした黒子が一瞬佐天の側に現れ彼女と共に消えた。
一方通行の手が虚空を掴み取る。

一方通行「おっと……」

彼は頭上を仰ぎ見る。どうやら黒子と佐天の2人は空中へ逃げたようだった。

一方通行「なるほど」

ドッ!!

空中数十m上から地面へ向けて落下中の2人に向かって、一方通行は一直線に飛んでいった。

一方通行「鬼ごっこの始まりだァ」ニヤァ

花火のように飛んできた一方通行が黒子と佐天を捕まえようとする。
しかし……

ブンッ!!

一方通行「!?」

不意に、彼の目の前から2人が消えた。

一方通行「今度は下だなァ」

ベクトルのエネルギーがゼロになると、彼は落下すると共に、今度は地上にテレポートした2人に向かっていった。

一方通行「オラオラ逃げやがれェ!!!」

黒子「くっ!!」

佐天「!!!」

ブンッ!!

一方通行が地面に落下したと同時、またも黒子と佐天がテレポートで消える。

81: 2010/07/01(木) 23:00:23.46 ID:DtQhIO60
一方通行「で、また上かァ?」

バガッ!!!

彼は地面を割り、大小様々な破片を作ると、それらを蹴り上げ、空中高くへ向けて飛ばしていった。

一方通行「よっと!」

次いで彼は空中へテレポートした2人の元に向かう。

ボシュウウウウウ

一方通行「あ?」

ふと、黒子の手元から何やら白いモヤのようなものが噴き出してきた。
そして彼女たちはモヤだけを残し、今度は別の空中の場所へテレポートする。

一方通行「どこまで逃げたって同じだぞ」

ベクトルの勢いが無くなり落下してきた、先程蹴り上げた破片のうちの1つに足をトンと乗せ、彼は空中で方向転換し、黒子と佐天を追う。

一方通行「またか」

見ると、また黒子の手元からモヤのようなものが噴き出していた。

一方通行「捕まえたァ!!」

空中の黒子と佐天に向けて腕を伸ばそうとする一方通行。しかし、またしても彼女たちはモヤだけを残してテレポートしてしまう。
当然、一方通行はそれだけで諦めることなく、再び頭上から落下してきた破片に足を乗せ方向転換し、2人を追う。

一方通行「せいぜい逃げるこったな」

そうして、黒子と佐天と一方通行は三次元的に鬼ごっこを繰り返していった。
ある時は地上に、またある時は空中へと、様々な場所にテレポートする黒子と佐天。そして、自身のベクトルと落下する破片を用いて彼女たちを追う一方通行。
その間にも、黒子は手元からモヤを出し続け、気付くと周囲は真っ白な煙で覆われていた。

82: 2010/07/01(木) 23:06:13.31 ID:DtQhIO60
一方通行「どうやらあのテレポーターが持ってたのは煙幕弾のようだな……。辺りを煙で覆おうとしたことで俺の視界でも奪うつもりだったかァ?」

言いつつ、一方通行はまるで鬼ごっこを楽しむように、テレポートで逃げる2人を追う。

一方通行「だが…この暗闇の中では、逆にオマエたちの位置を露呈させてるもンだぜ? ありがたいこった」

ドン!!!!!

一方通行は更にスピードを増し、テレポートで逃げる黒子と佐天を追いかけていく。
地上から空中へ一直線に、空中から空中へ斜めへ、空中から地上へ斜めに、空中から地上へ一直線に、彼は狭い箱の中で兆弾しまくるスーパーボールのように、猛スピードで2人を追い続ける。

黒子「しつこいですわね……!!」

佐天「しつこい男は嫌いです…!!」

一方通行「ふはははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!!!」

高笑いを挙げる一方通行。
と、その時だった。

一方通行「!!!!????」




グラリ




一瞬、視界が揺らいだ気がした。

83: 2010/07/01(木) 23:12:18.64 ID:DtQhIO60
一方通行「…………っ」

同時に、脳がクラクラと回った気がした。

一方通行「なん………だ?」

黒子「………………」

一方通行「くっ!」

気にせず、一方通行は黒子たちを追い続ける。
しかし………

一方通行「!!!!????」

また、グラリと揺れた。

一方通行「チッ……何だ……」

視界が揺れに揺れ、脳が回りまくる。
空中を飛行していた彼は、何とか体勢を立て直そうと試みた。
しかし………



一方通行「(……ちょっと待て………どっちが上でどっちが下だった……?)」



何とか周囲の状況を確かめようとするが、上と下の区別がつかない。
今、どこを飛んでいるのかも分からない。
おまけに視界は揺れるし、頭が回る。
全周が暗闇に覆われ、白い煙幕だけが漂っている。

一方通行「(あ、こっちが上か……)」

一方通行がそう判断を下した次の瞬間………




ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!




彼は地面に激突し、十何mも地面を滑り、やがて資材の束に突っ込んでいった。

84: 2010/07/01(木) 23:19:19.08 ID:DtQhIO60
黒子佐天「…………………」

しばらくすると、黒子と佐天がテレポートで一方通行の側まで降りてきた。

ガラガラ…ガラン

一方通行「…………………」

頭を抑えながら、一方通行が資材を押しのけて這い出てくる。
常人ならここで氏んでいるところだが、無論、彼は落下の衝撃による傷すら1つも負っていない。
しかし、黒子と佐天の狙いは別にあった。

黒子「ご機嫌いかが?」

佐天「急に1人で落っこちて自爆しちゃいましたけど、大丈夫ですかぁ?」

一方通行「………………」

2人を一瞬睨むと、彼は立ち上がろうとした。

一方通行「!!??」

しかし、一方通行の身体はフラフラと揺れ、1秒後には地面に四つん這いになっていた。

黒子「おやおや、学園都市最強の四つん這いの姿が見られるなんて、滅多に無いですわね」

佐天「ストロボカメラが残ってたら、写真撮ってるところなんですけどねー」

黒子と佐天は、四つん這いになった一方通行を見下すようにして話す。

黒子「何が起こったか教えて欲しいですか?」

一方通行「…………………」

一方通行は何も答えない。ただ、地面に伏せたまま頭を抱えている。

85: 2010/07/01(木) 23:26:39.62 ID:DtQhIO60
黒子「“空間識失調”ってご存知ですか?」

一方通行「!」

佐天「戦闘機のパイロットがたまに陥る症状らしいです」

黒子「何でも、周りが空や海で囲まれてたり、暗闇だったりする場所で飛び続けたら上下の方向が判断つかなくなるらしいです」

佐天「貴方、あたしたちを追いかけるために猛スピードで上行ったり下行ったりしてましたよね。しかも、こんな月も出ていない真っ暗闇の中、煙幕に覆われた状況で」

一方通行「………………」

黒子「もう分かりましたよね? 貴方の身に何が起こったのか」

冷静に、黒子と佐天は説明を続ける。

佐天「貴方は、外からの攻撃を一切受け付けません。物理的攻撃であっても能力であっても、全て跳ね返してしまう。だったら………」


黒子「  内  部  か  ら  攻  撃  す  れ  ば  ど  う  で  し  ょ  う  ?  」


一方通行「………っ」

佐天「テレポートでわざと貴方を誘い込み、上下左右色んな場所に逃げ続け、煙幕で視界を狭める。そうすることで貴方の視界は暗闇と白い煙だけに覆われ、上下の向きもどっちの方向に飛んでいるのかも分からなくなり、一時的に空間識失調に陥ったんです」

黒子「先程私たちが何故、ストロボとデジタルピストルで貴方の目と耳を封じようとしたのか分かりますか?」

佐天「平衡感覚を奪うためですよ。気付きませんでしたか? さっきは上手くいきませんでしたけど、今はその状態に陥ってるはずです」

一方通行「………………」

黒子「如何です? 種も仕掛けもない、実に簡単な方法でしょう?  さ  い  き  ょ  う  さ  ん  ♪  」

2人の説明を聞き終え、一方通行はただ一言言い放った。

一方通行「ガキどもがっ……!」

89: 2010/07/01(木) 23:33:26.09 ID:DtQhIO60
その光景は打ち止めにとって信じられなかった。
それもそのはずで、まさか学園都市最強の超能力者が、レベル4とレベル0のコンビに不覚をとり、あまつさえ地面に四つん這いにされていたからだ。

打ち止め「そんな……一方通行……!!」

打ち止めの顔が蒼ざめていく。
あの一方通行が、あの最強の一方通行が、2人の少女を前に足を地面につくなんて有り得ないはずなのだ。
しかも相手は同じレベル5の超能力者でもない。歴戦の強敵を撃破してきた一方通行が、女子中学生に負ける。あってはならないことだった。
我慢出来ず、打ち止めは叫んでいた。

打ち止め「一方通行!!!!!」

91: 2010/07/01(木) 23:38:53.16 ID:DtQhIO60
上条「一方通行……!!」

愕然とした。
今まで共に肩を並べて戦ってきた、学園都市最強の男が四つん這いになってる姿なんて今までに1度も見たことがなかったからだ。

上条「そんなことが……」

美琴との戦闘中、不意に、向こうの方で何かがぶつかる音が聞こえたかと思ったら、数秒後そこには地面に伏せている一方通行の姿があった。
上条は知っている。一方通行の強さを。一度、敵対し頃し合った仲だからこそ、その限界を知らない強さを知っている。
しかし今、一方通行は2人の女子中学生を相手に頭を垂れるような形でうなだれている。

美琴「………………」

美琴は、絶望ともとれる表情を浮かべた上条に気付くと、横目で後ろを窺った。
どうやら、彼女たちは上手くいったようである。僅かに笑みを浮かべると、美琴は顔を正面に戻した。
そこにはまだ、呆然としている上条の姿がある。

ブオンッ!!!!!

上条「!!!!!」

そんな上条に向けて、美琴は再び砂鉄剣を振るう。間一髪、屈み込むことでそれを避ける上条。

上条「(こいつっ……!!)」

美琴「なに? お友達が心配? それは大変ね」

更に美琴は砂鉄剣で袈裟斬りを試みるが、上条はずば抜けた反射神経でそれを回避する。切られた上条の前髪が数cmほど空中を舞った。

美琴「甘いわね」

バチバチッ!!

バギィィィン!!!!

体勢を崩した上条に、美琴は左手で電撃を発する。慌てたように上条はそれを右手で打ち消す。

美琴「そろそろクライマックスでもいっとく?」

ブンブンと美琴は砂鉄剣を振るう。

上条「(この野郎……マジで俺を頃しにきやがった……)」

92: 2010/07/01(木) 23:45:24.16 ID:DtQhIO60
上条は美琴を睨み据える。

美琴「しつこい男は嫌われるわよ?」

ニヤリと美琴が笑った。

上条「!!!!!?????」

目にも止まらぬスピードで砂鉄剣が上条に向かって伸びてきた。

上条「くっ!!!(そういや伸びることも出来るんだったか!!)」

バギィン!!!

間一髪、上条は砂鉄剣を右手で打ち消す。

上条「!!!!!!!」

しかし、たった今消したはずの砂鉄剣がもう1本、上条の右側面の氏角から迫ってきていた。

上条「なっ……」

咄嗟に彼はそれを避けるように地面に転がった。
伸びた砂鉄剣がそのまま頭上を通り過ぎていく。

上条「剣が…分かれてるのか!」

見ると、美琴の手元から伸びた砂鉄剣が途中で分岐していた。

美琴「驚いた?」

上条「チッ」

上条が体勢を立て直すより早く、頭上を通り過ぎたはずの砂鉄剣の切っ先が、蛇のような軌道を描き彼の元へ戻ってくる。

上条「(1本だけなら、まだ対処出来る)」

そう思い、上条は右手を前に突き出す。

美琴「あら? いいの? 後ろには対処しなくて」

上条「!!!!!!!!」

93: 2010/07/01(木) 23:52:46.42 ID:GCDwvSc0
美琴が発した言葉に、上条は背後に悪寒を感じた。
彼の視界に、目の前から向かいくる砂鉄剣の切っ先と、そして先程打ち消したはずのもう1つの切っ先が分岐点の根元から再生され、上条の背後に回り込むのが映った。

上条「………っ」

前と後ろから、二又に分かれ伸びた砂鉄剣の切っ先が彼を襲いかかる。

上条「うおおおおおおお!!!!!!」

バギィィン!!!!

上条は振り向くこともせず、右手だけを裏拳の要領で後ろに薙ぎ払い、背後から迫っていた砂鉄剣の切っ先を打ち消す。
同時に、その勢いで右半身を後方に、左半身を前方に逸らし僅かに身体を右側に向ける。

ビュン!!!

上条の服の左肩部分を切り裂くように、砂鉄剣が通り過ぎていった。

バギィィン!!!

当然、上条は通り過ぎたその砂鉄剣を見逃さず、瞬時に打ち消す。

美琴「やるわね……」ボソッ

振り返る上条。
そんな彼に休む間を与えることなく、再び砂鉄剣が襲ってきた。

94: 2010/07/01(木) 23:57:18.14 ID:GCDwvSc0
上条「くっ!!」

根元から伸びた2つの砂鉄剣がそれぞれ右側面と左側面から上条に向かっていく。

美琴「同じように避けられるかしら!?」

2つの砂鉄剣の切っ先が挟み撃ちの要領で上条の身体に突き刺さる。

美琴「!!??」

と、その瞬間だった。
上条はずば抜けた反射神経で咄嗟に頭を屈み込み、砂鉄剣の攻撃から逃れた。

美琴「なっ!?」

目標を失った2つの砂鉄剣は上条の頭上で衝突する。
そこへ、上条が右拳が叩き込む。

バギィィン!!!!

衝突したことで1本になっていた砂鉄剣は上条の幻想頃しによってバラバラと姿を崩していく。

98: 2010/07/02(金) 00:02:50.10 ID:q1UM.y.0
上条「ハァ……ゼェ……」

上条は美琴を見据え、立ち上がる。

美琴「チィッ……!! なら…これならどうよ!!」

今度は、3つに分岐し伸びた砂鉄剣が、連携して上条を狙ってきた。
全てを打ち消す余裕は無いと考えたのか、上条はバックステップでそれらをかわす。

ドッ!!

ドッ!!

ドッ!!

かわされた砂鉄剣の切っ先が次々と地面に突き刺さっては、再び上条に攻撃を仕掛けていく。

美琴「防戦一方じゃない?」

上条「……………っ」

美琴「じゃあもっと大サービス♪」

バチバチバチッ!!!

上条「!!!???」

上条を狙っていた3つの砂鉄剣が青白い光を纏い始めた。
それはまるで、全身に電気を纏った三頭の蛇のようだった。

上条「(こいつ……っ!)」

美琴「更に大サービス♪」

その言葉と同時、電気を纏った砂鉄剣は更に分岐し、やがて切っ先が8本に分かれ伸びた砂鉄剣が出来上がった。


美琴「私の新技『紫電八岐之大蛇(エレクトロ・パイソン)』食らいなさい!!!!!」


上条「!!!!!!!!」

101: 2010/07/02(金) 00:09:26.48 ID:9yI8YGg0
まるで主人の命令に従うように、電気を帯びた8つの砂鉄剣は上条に向かっていった。

上条「………っ」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!!!!!!!!!!!


全方向から上条に向かって砂鉄剣が振り下ろされた。
その衝撃で辺りに砂煙が舞い、視界が遮られる。

美琴「……ハァ……ゼェ……」

常人なら大怪我だけでは済まないはずだ。
美琴は砂煙で覆われた前方を見つめる。

美琴「ハァ……ゼェ……」

と、その時だった。

美琴「!!!!!!!」

砂煙の中から、突如上条が飛び出してきた。

美琴「な、何で!?」

上条「自分で考えろ!!」

美琴の眼前まで迫る上条。

美琴「ひっ」

バギィィィン!!!!

しかし彼は美琴の顔面を狙うことなく、代わりに彼女の手元の砂鉄剣の根元に右拳を叩き込んだ。

104: 2010/07/02(金) 00:15:25.27 ID:9yI8YGg0
バシュウウウウウウ

砂鉄剣が姿を崩していく。

美琴「はっ!」

横目で上条に見られた美琴は、攻撃を警戒しそのまま大きく後ろへ下がり、上条に備えた。

美琴「?」

が、上条は美琴を見つめたまま動かない。

美琴「な、何よ…」

上条「別に。随分見ない間に進化したもんだなと思って」

そっけなく上条は言う。

美琴「そ、そうだったわ! どうやってあんた、私の新技から逃れられたのよ」

上条「簡単なことだ。砂鉄剣はさっき俺の周囲360度から襲ってきたが…前方の砂鉄剣だけ右手で打ち消してその隙間を通ってここまで来ただけだ」

美琴「………っ」

上条「満足したか?」

美琴「ホンッとうに、ムカつくほど戦い慣れてるわね、あんたって……」

美琴は上条を睨む。

105: 2010/07/02(金) 00:20:34.42 ID:9yI8YGg0
黒子「さて、降参いたしましたか?」

佐天「あたしたち優しいから、そのままの姿勢で謝ったら許してあげないこともないですよ?」

一方通行「………………」

黒子と佐天の2人は一方通行を見下し言う。

一方通行「フー………」

黒子佐天「!!!!!?????」

だが、そんな2人の言葉を無視するように一方通行は立ち上がった。

黒子「そんな……何故?」

佐天「まともな人間ならしばらく立ち上がれないはずなのに……」

一方通行「まともな人間ならな?」

黒子佐天「!!!!!」

顔を片手で覆っているため、一方通行がどんな表情をしているのか分からないが、間違いなく彼は元気そうだった。

一方通行「俺を誰だと思ってる?」ギロリ

黒子佐天「ひっ」

一方通行の獰猛な目が黒子と佐天に向けられた。

106: 2010/07/02(金) 00:26:40.69 ID:9yI8YGg0
一方通行「俺は既に地上にいるんだぜ? いつまでもペチャクチャと話してりゃあ、平衡感覚も戻るわな」

黒子佐天「そんな……」

2人は言葉を失くす。
確かに、一方通行は普通の人間ではない。もしかしたら、彼女たちが話している間に脳内のベクトルを操って自身の状態を元に戻したのかもしれない。
実際、一方通行が体内のベクトルまで操れるのかどうかは分からなかったが、彼の姿を見ているとあながちあってもおかしくないことに思えてしまう。

一方通行「早くトドメを刺しときゃ良かったのに……要領悪いなァ。ま、外側から攻撃出来ないからあンな方法取ったンだろうがな」

黒子と佐天が慄いて後ずさる。

一方通行「さァて、こっちもお礼をしてやらねェとなァ」

一方通行は肩をコキコキ鳴らすと、顔を2人に見据えた。

黒子佐天「!!!!!」

一方通行「ちょっと本気出させてもらうぜ?」

黒子と佐天の顔が蒼くなる。

一方通行「最終ラウンド……反撃タイムの始まりだァ」ニヤァ

黒子佐天「!!!!!!」

1秒後、一方通行は2人に向かって突進していった。


ドッ!!!!!!


人智を越えた容赦の知らない怖ろしい魔手が彼女たちに襲い掛かった。

131: 2010/07/02(金) 21:25:03.58 ID:fdfJNg60
一方通行「ちょっと本気出させてもらうぜ?」

立ち上がり、一方通行は言った。
それは、つい先程まで平衡感覚を失っていたとは思えない姿だった。

黒子「…………っ」

佐天「あ……あ……」

相手はあの、学園都市最強の超能力者だ。
たかがレベル4とレベル0のコンビが、ちょっとした小細工程度で倒そうとすることが、土台無理な話だったのかもしれない。

一方通行「最終ラウンド……反撃タイムの始まりだァ」


ドッ!!!!!!


一方通行が地面を蹴り、一瞬で佐天との距離を詰めてきた。

佐天「!!!!!」

一方通行「加減してやるから、我慢しろよォ!!」

ニヤリと笑って、一方通行はその手を佐天の身体に触れようとする。

佐天「やっ……」

両手で防御体勢を取ろうとする佐天。

一方通行「おしおきの時間だァ!!!!!」




ドゴオオオオッ!!!!!




と、突然、地面から大音量が響いた。

134: 2010/07/02(金) 21:32:18.88 ID:Kx/c/4U0
一方通行「何!?」

佐天「えっ……」

佐天の身体を掴もうとした一方通行の手が虚空を切る。
空中で持て余した手を伸ばしたまま、彼は佐天の姿が視界から下方へと流れていくのを見た。

一方通行「なンだ?」

一瞬、佐天が地面にめり込んだのかと思った。
しかし、実は違った。佐天と共に周囲の風景も下へ流れている。いや、そうではなく、一方通行の視界が勝手に上の方へと流れていっているのだ。

一方通行「!!!??」

不安定な足場に違和感を覚え、足元を見る一方通行――自分の身体が空中3m付近で浮いていた。

一方通行「は?」

否、正しくは3mも競り上がった地面の中心に彼は立っていたのだ。
眼下を窺うと、こちらを見上げている佐天と、少し離れた所で木材の束に手を伸ばしている黒子の姿が………

一方通行「アイツ!!」

彼は今、5mほどの距離を開いてそれぞれ両隅の地中から垂直に突き出し縦に重ねられた2つの木材―合計4本の木材によって3mも盛り上げられた地面の真ん中に立っていたのだ。
一方通行の視点からは見えなかったが、その図は『┏┓』のような、まるでテーブルを横から捉えた形をしており、その中心部で立つ彼はようやく自分の身に何が起こったのか理解したところだった。

一方通行「(一部の地面の両隅から、地中にテレポートした木材を突き出させて、そのまま俺が中心部に立っていた地表部分を押し上げたのかっ!)」

木材の束の前で、振り返るように一方通行を睨む黒子。僅かに彼女の顔からは汗が流れ、息も荒くなっている。

黒子「いくら貴方が何でも反射出来ても、実際に反射を行ってるのは身体の周りにある膜のようなもの。貴方の下にある地面……しかも、貴方が立っている所とは別の場所の地面が反射しているわけではありませんものね……」

だから一方通行は一部の地面ごと空中へ押し上げられた。まるで、リフトや昇降機、エレーベーターが自動的に人間を上階まで運ぶように。
不安定に揺れる4本の木材。その根元には、黄土色の土や粘土が耕されたように剥き出している。

一方通行「………………くかか」

佐天「?」

黒子「?」

一方通行「くかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかかっかかかかかかかかか」

135: 2010/07/02(金) 21:39:32.37 ID:xzYWGV60
目元を暗くし、一方通行は笑う。
やがて彼は叫んだ。

一方通行「で、もしかしてこれが“秘策”ゥ?」

ドッ!!!

一方通行が競り上がった地面の上から飛び降りた。彼の身体はミサイルのように佐天の下へと高速で向かっていく。

ズガッ、と一方通行が佐天を掴もうとした時、再び彼の手が虚空を切った。

一方通行「!!??」

目の前で、4mほどの間隔を開け地中から出てきた2本の木材が両隅部分にそれぞれ縦に重ねられていく。
見上げると、今度は佐天の方が5mは競り上がった地面の上に立っていた。

佐天「わっ!」

一方通行「………っ!!」

改めて黒子の方を振り返る一方通行。

黒子「ハァ……ハァ……」

睨む黒子の手元から、木材が全て消えていた。

一方通行「このっ……ヤロォ…っ!!」ギリィッ

歯を噛み、青筋を立て一方通行は叫ぶ。

一方通行「うおりゃァァァァァァァァァァァ!!!!!!」

ドゴッ!!!!

目の前に立つ木材に一方通行が拳を叩き込む。
当然、バランスを崩された木材は揺れ、上にいた佐天の足元も揺れた。

佐天「きゃああああ!!!」

ガラガラと両隅2本の木材が倒れ落ち、1テンポ遅れて競り上がった地面も落ちてきた。
しかし、佐天が一緒に落下してくる気配は無い。まるで危ない場所から逃げるため一瞬で消えたように。

一方通行「!!!!」

崩れ落ちる地面や木材の隙間から前方に見えたのは、黒子に寄り添うようにくっつく佐天の姿だった。

一方通行「……ガァキ……どォ…も…がァ……っ!!」ギリギリギリ

136: 2010/07/02(金) 21:46:24.56 ID:xzYWGV60
上条「クソッ」

その頃、上条と美琴の戦闘も更に激しさを増しつつあった。

美琴「ラァッ!!!」

迫り来る電撃を右手で打ち消す上条。彼は時折、視線をある方向へチラチラと向けている。

美琴「そんなにお友達が気になるの? でも、それが命取りよ!!」

先程までは、伸びた砂鉄剣による中距離戦闘が行われていたが、現時点では互いの身体を目の前に視認出来る近接戦闘に移行していた。
美琴が右手に持つ砂鉄剣が、上条から向かって左斜め下方から迫り来る。

上条「チッ!」

厳しい体勢を維持しながらも、上条は何とかそちらに右手を伸ばそうとする。が、

美琴「そっちばっかりに気を使ってていいの?」

上条の視界の右端に青紫色の筋が見えた。

上条「(まずい!!)」

このまま砂鉄剣を右手で受ければ、反対方向から襲い来る電撃の直撃を受けることになる。逆に、電撃を右手で防いだとなると、砂鉄剣の斬り上げを食らうことになる。無論、両方とも打ち消す余裕は無い。

美琴「もらった!!」

上条「………っ!!」

バギィィィン!!!

美琴「!?」

上条が咄嗟にとった行動。それは、左下から迫りくる砂鉄剣を右手で打ち消しながら、そのまま左斜め前方奥へ転がり込むものだった。

137: 2010/07/02(金) 21:52:23.05 ID:xzYWGV60
前回り受身を取った勢いで、振り返る上条。
地面に片膝をつけた体勢で次の一手に備えようとするが、予断を与える間も無く彼の眼前に電気に纏われた美琴の左手が迫っていた。
それが上条の顔を襲う。

上条「くっ!!」

上体を後ろへと反らし何とかかわす上条。美琴の腕が虚空を薙ぐ。
が、そこで左脇腹に鈍い衝撃が走った。

美琴「チェイサーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」

ドゴッ!!!!!

上条「ぐ…お……っ」

美琴の蹴りが決まったのだ。
上条は地面に盛大に転がる。

上条「ぐっ……」
上条「!!!!!」

目を開けた上条の眼前に、いつの間にか再び出現していた砂鉄剣の切っ先が迫っていた。それを紙一重で避けると、砂鉄剣は顔の数cm先の地面に突き刺さった。

ドスッ!!

ホッとしたのも束の間、砂鉄剣はもう1度振り上げられ、またもや上条の顔面を狙う。

バギィィン!!!

だが今度は少し余裕が出来たため、上条は右手で砂鉄剣を打ち消した。隙を突きそのまま美琴の足を払う。

美琴「あっ」ガクッ

美琴がバランスを崩した一瞬を見計らい、上条は1度、横に転がると素早く立ち上がった。

138: 2010/07/02(金) 21:58:39.01 ID:xzYWGV60
再び対峙する美琴と上条。

上条「ゼェ……ハァ……」

美琴「ハァ……ゼェ……」

互いの手の内を知り尽くしているからこそ、繰り広げられる互角の戦い。
因縁の相手との、いまだかつてない本気の氏合に彼女たちの流す汗は尋常ではない。

上条「……なるほどな。これがレベル5の本気の本気ってやつかよ…ハァ……ゼェ」

美琴「……あんたこそ、その本気の本気についてくるなんて化け物じみてるわね…ゼェ……ハァ」

上条「これでも半端な気持ちで数々の修羅場を潜ってないんでね」

2人は、互いの実力を認め合うように笑みを浮かべる。

上条「だが分からねぇ……。何で2週間前にこの実力を出さなかった?」

美琴「はん! そんなことも分からないの?」

上条「お前だけじゃねぇ。一方通行と戦ってる白井と佐天もだ。2週間前とはまるで別人……。お前はお前で動きが以前より洗練されてる気がするし、あの2人は連携が取れている。一体何で……」

美琴「簡単よ」

美琴は、みたび手にした砂鉄剣を右肩に担ぐ。

上条「?」

美琴「あんたたちに勝つため」

上条「………………」

美琴「そのためだけに、みんな自分の分野を磨き、努力し、力を高め、時には切磋琢磨し……。それ以外の理由が必要なの?」

汗で濡れた額にシャンパンゴールドの髪の毛をひっつけながら、美琴は不適に笑う。

上条「それで2週間でここまで来たってのか? お前ら本当に女子中学生かよ」

美琴「最近の女子中学生は成長が早いのよ」

上条「フン、早すぎだろ…」

美琴「そんなことはどうでもいいわ。私たちが知りたいのは1つ」

上条「あん?」

美琴「何で私たちの友達を誘拐して頃したの?」

139: 2010/07/02(金) 22:05:19.80 ID:xzYWGV60
美琴は上条を睨むようにして訪ねる。

上条「………………」

しかし、上条は何も答えない。

美琴「何よ? 答えられない理由でもあるわけ?」

上条「………………」

美琴「言いなさいよ!!!」

不意に、美琴の声に怒号が混じる。よく見ると、彼女の目元が潤んでいた。

上条「………………」

そんな彼女から1度目を逸らすと、上条は答えた。

上条「俺たちに勝ったら教えてやるよ………」

美琴「……っ」

挑発じみていない、どこか優しさが篭ったような、それでいて何か覚悟を決めたような、上条の返答はそんな印象だった。
そんな上条を見て美琴は一瞬躊躇う。

上条「もう1つ、分からないことがある」

話を変えるように上条が言った。

美琴「?」

上条「いくらお前らがこの2週間で進化したとはいえ、あまりにも動きが的確すぎる。まるで、誰かに操られているような……いや、誰かの指示をリアルタイムで受けてるのか……?」

美琴「ふふん、いいところに気付いたわね」

美琴がどや顔を浮かべた。

上条「?」

美琴「そりゃ、バックアップ要員ぐらい必要でしょ?」

上条「バックアップ要員……?」

要領を得ない上条は一瞬、キョトンとした表情を浮かべたが、数秒後、その表情は驚愕のものに変わった。

上条「まさか…っ!!」

140: 2010/07/02(金) 22:12:30.77 ID:xzYWGV60
視界の端にチラッと映る、1つの光。
その光は、少し離れた場所から発せられたものだが、その光源は1人の少女が手に抱える物体で………

上条「あの花飾りの子か!?」

美琴「ご名答」

ニヤリと美琴が笑った。

美琴「あの子、体力はまるで駄目でね。腹筋も1回すら出来ないのよ。だけど彼女、あれでも黒子のパートナーとしてジャッジメントやってるのよね。何でか分かる?」

上条「??」

美琴「あの子…初春さんはパソコンのスキルだけでジャッジメントに入ったほどなの。それほど彼女の情報処理能力は並外れているのよ」

チラッと初春の方を窺う上条。
彼女はただ、戦闘にも加わらず暗闇にその幼い顔をパソコンの光で浮かび上がらせている。

美琴「黄泉川先生があんたたちの仲間だって気付いたのも、元はあの子がアンチスキル本部のサーバーに侵入したのが切っ掛け。あんたたちが今日、この場所を通るって分かったのも、あの子が黄泉川先生と寮監のパソコンをハッキングしてくれたから」

上条は呆然と美琴の言葉を聞いている。

美琴「それと、ここに来るまでわざわざ監視カメラを操作したのも彼女よ」

上条「何だと?」

美琴「私たち、今追われの身でしょ? 街中に出たらそれだけで監視カメラに映ってしまう。でも私たちは現にこの資材置き場まで余裕で辿り着いている。何をしたか分かる?」

上条「?」

美琴「簡単よ。監視カメラの視界に出る直前に物陰からカメラを細工したの。つまりは、監視カメラのセンターに侵入して、あらかじめ盗んでおいた録画映像を数分間だけその上から再生させたってわけ。そうしたら、実際は私たちが通りを横断していても、センターは何でもない無人の映像が映されている。どう、初春さんすごいでしょ?」

上条「………………」

美琴「今この時も、このヘッドセットを通して私たちに逐一この場所のリアルタイムの状況を教え、指示してくれてるのも彼女」

そう言って美琴は左耳に装着されたヘッドセットをコンコンと叩く。

上条「!!!!!」

上条は驚いたが、すぐさま頭に浮かんだ疑問を口にした。

上条「……いや待て……馬鹿を言うな。こんな月明かりも無い真っ暗な夜中に、あんな離れた場所から戦闘の状況を把握出来る訳が無いだろ。ほんの数m離れただけでほとんど何も見えなくなるんだぞ」

美琴「いつ私が、初春さんが肉眼でこの状況を把握してるって言った?」

上条「何?」

141: 2010/07/02(金) 22:19:14.62 ID:xzYWGV60
美琴「彼女は大した能力も持たないレベル1よ。そんな特別なことが出来るわけないでしょう」

上条「…じゃあ何で?」

美琴「さぁ? “ずぅっとずぅっとずぅぅぅっとお空の上”から監視でもしてるんじゃないの?」

歳相応のイタズラじみた表情を浮かべ、美琴はケラケラ笑う。まるで子供が手品の種を明かすように。

上条「空の……上……?」

上条は反射的に頭上を仰ぐ。
そこには、星も見えずただ真っ黒に染まった空が雲に覆われていて……

上条「まさか……」

サアッと上条の身体中から血の気が引いていく気がした。



上条「  人  工  衛  星  ……?」



上条は、たった今自分が吐き出したはずの単語に、現実感を覚えられなかった。

上条「監視衛星を………ハッキングしたのか!!??」

クスクスと美琴は小悪魔な顔を見せて言う。

美琴「何でか知らないけどねー……学園都市の監視衛生を管理するセンターのセキュリティが脆くなってたのよ。だから初春さんに頼んで……」




美琴「  ハ  ッ  ク  し  て  も  ら  っ  ち  ゃ  っ  た  ♪  」




上条「!!!!????」

142: 2010/07/02(金) 22:26:18.26 ID:xzYWGV60
美琴「最初は、本当にただ試してみるだけだったのよ。衛星で私たちの行動が把握されていないか確かめるためにね。でもあら不思議。蓋を開けてみれば衛星のセキュリティは何と、かなりの低レベルまでグレードダウンしてました。それでも普通の人だったらハッキングなんて無理だったんだけど、あの子はやってのけたわ」

上条「………………」

開いた口が閉まらなかった。

美琴「最初は何かの罠かとも思ったけど、どうやらそんな気配は無いし。だから、本番の今日も使わせてもらいました♪」
美琴「ちなみに、彼女のパソコンには今も衛星から捉えたここの状況がリアルタイムで映ってると思うけど、何と初春さん特製ソフトウェアによる、暗視モードつき♪」

上条「!!??」

美琴「更には、あのノートパソコンに初めから取り付けられてたカメラ機能も同様に暗視モードで使われてます!」

上条「(馬鹿な………)」

絶句、とはまさにこのことかもしれない。
上条には美琴が今言ったことが信じられなかった。あんな話を聞かされれば無理も無い。
だが、美琴や黒子、佐天は上条や一方通行の攻撃に対し、その場その場に合わせた臨機応変な反応を示している。
美琴の話が全て嘘と考えられることも出来たが、ここでハッタリを掛ける場面でもないだろう。

上条「……………っ」

となると、今、この資材置き場は、頭上からは衛星によって監視され、側面からは初春のノートパソコンのカメラ機能で監視されていることになる。それもリアルタイムで、暗視モードというアドバンテージまで付加されて。
恐らく、初春の手元にあるパソコンの画面には、緑色に染められた両方の映像が並んで今も流れているはず。初春はそれを元に美琴や黒子、佐天に指示を出しているのだ。

美琴「ねー初春さん?」

振り返り、初春の方に顔を向ける美琴。
ヘッドセットを通して会話を聞いていたのか、初春がこっちを向き手を振った。

146: 2010/07/02(金) 22:33:35.75 ID:xzYWGV60
上条「お前ら……」

美琴「逆に言うと、ここまでしないと、あんたたちを倒せないでしょうね……」
美琴「前回は氏ぬ思いをした初春さんだったけど、諦めかけてた私たちを諭してくれたのはあの子だし、今回一番貢献してくれたのも彼女。どう? 強い子でしょ?」

上条「………………」

美琴「でも、初春さんもすごいけど、黒子も佐天さんも、あんたたちを倒すためだけに自分の限界を突破したわ」

顔だけは初春の方に向けながら、美琴は横目で上条を見やる。
彼女の声は先程までとは違って、静かで真剣そのものだった。

美琴「もちろん私もね……」

上条「ふっ……上等じゃねぇか。ならもう1度、お前らを打ち負かしてやるよ。2度と立ち向かってこれないようにな!」

上条は右手を握る。

上条「俺たちに勝てるって妄想を抱いてるなら、まずはそのふざけた幻想を………」


ビュオッ!!!


と言う音と共に一筋の青白い光線が上条の耳元を音速で通過した。



ズッドオオオオ………ンンンッ!!!!



直後、数十m背後で爆発が起こった。

上条「……………っ!!」

美琴「……私たちに勝てるって妄想を抱いてるなら、まずはそのふざけた幻想をぶち頃す!」

ニヤッと笑う美琴。
前方に突き出された彼女の右手は、直前まで握られていた物体が飛んでいったためか、親指だけが上条を向いていた。
決着は近い――。

149: 2010/07/02(金) 22:39:45.77 ID:xzYWGV60
一方通行「(超電磁砲だと? まさかアイツも苦戦してやがるのか?)」

背後を振り返り、一方通行は口中に舌打ちした。

黒子「お分かり頂けましたか?」

一方通行「あン?」

黒子「私たちの覚悟が」

一方通行「覚悟ねェ……確かにそれは分かった。レベル4とレベル0のコンビでここまで俺を翻弄したのはお前らが初めてだ」

黒子佐天「…………………」

一方通行「それは褒めてやるぜ。だがなァ……肝心の俺に傷1つついてねェのも事実だよなァ?」

余裕を見せる一方通行。そんな彼を、黒子と佐天は黙って睨む。
今も、一方通行の背後10数m先で戦う上条の顔と美琴の背中が、美琴が身体から発する電撃の光によって垣間見えた。

黒子佐天「…………………」

一方通行「“秘策”とやらも全部尽きたようだし。そろそろここで終わりにしとくかァ」

両手を広げる一方通行。

黒子佐天「!!!!!」

黒子「す、少しお待ちになって下さいまし!」

一方通行「あァ?」

水を差されたように一方通行の表情が歪む。

黒子「貴方にお聞きしたいことがあります」

一方通行「聞きたいこと?」

黒子「そうですわ! それを聞いてからじゃないと貴方を倒しても溜飲が下がりません」

佐天「それぐらいわがまま聞いてもらってもいいと思いますけど」

一方通行「…………………」

ジッと一方通行は怪訝な表情で2人を見つめる。

黒子佐天「…………………」ゴクリ

一方通行「まァいいか。なンだよ? 冥土の土産でも欲しいのかァ?」

153: 2010/07/02(金) 22:47:05.96 ID:xzYWGV60
一方通行は広げていた両腕を腰にあてた。

黒子「言ってなさい。私たちが聞きたいのは、何故、私たちの友達を誘拐しあまつさえ殺害したのか、ですわ」

佐天「固法先輩に泡浮さん、湾内さん、婚后さん。それに学園都市の学生たち。何で彼女たちが殺されなきゃならないんですか!?」

一方通行「ンだ。そンなことかよ」

黒子「そんなことですって?」

一方通行「知りたいか? 知りたいよなァ? じゃあまず俺個人の理由を教えておこうか」
一方通行「アイツらの氏に際の顔を見てると興奮するからだよ!!!」

黒子佐天「…………っ」ギリッ

歯を噛み締める2人。
今も美琴と上条は一方通行の背後10mほど先で戦闘を繰り広げている。




ズオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!

放たれる超電磁砲(レールガン)。

バギィィィン!!!!!

それを打ち消す幻想頃し(イマジンブレイカー)。

上条「ハァ……ハァ……何度やっても……」

ズオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!

バギィィィィン!!!!!!

上条「これで3連続……!! 超電磁砲の連発とか何考えてやがんだ!!!」

美琴「………………」

身体中から放電しながら、美琴は軽いバックステップを踏みつつ上条の追撃を食い止める。
彼女は出し惜しみもせずに、超電磁砲を連続で上条に向けて撃ち続けていた。

上条「そうかよ……お前、本気の本気で俺を頃す気だな?…ハァ…ゼェ…」

美琴「今頃気付いたの? 馬鹿?」バチバチッ

美琴が発する電撃によって、暗闇の中、彼女の顔が点滅するように浮かび上がる。

154: 2010/07/02(金) 22:53:41.76 ID:xzYWGV60
上条「っ!!」
上条「いいぜ御坂……それなら、俺も出し惜しみはしない。お前の頬を思いっきりぶん殴って気絶させてでもお前を止めてやる!!」

ダッと上条は本気で駆ける。彼の右手の拳はこれまでにないほど強く握り締められている。

美琴「今更フェミニストぶるとか笑っちゃうわね!」

ズオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!

バギィィィン!!!!!!

再び、放たれる超電磁砲とそれを打ち消す幻想頃し。

上条「歯ァ食いしばれよ!!!」

上条の拳が美琴を狙う。



黒子「そんな理由で、固法先輩たちを頃したのですか?」

佐天「信じらんない」

一方通行「オマエらの信じられないことなンてこの学園都市には幾らでもあるンだよ」

黒子「それでも…許されませんわ」

佐天「そうですよ」

俯く黒子と佐天。それを見て一方通行は溜息を吐く。

一方通行「さてと、そンじゃまあ……」

黒子「あ、貴方には良心の呵責というものが無いのですか!?」

一方通行「あン?」

話を終えようとしていた一方通行だったが、黒子がそれを許さなかった。

佐天「そ、そうですよ! 無いんですか!?」

一方通行「(なンだコイツら?)」

黒子「ご両親や先生から人を頃すことは駄目と教わらなかったのですか!?」

佐天「それですそれ! 教わらなかったとかおかしくありませんか?」

一方通行「いや、俺に今更そンなこと言ってもなァ」

159: 2010/07/02(金) 23:00:24.44 ID:U1vB5ko0
一方通行はそう言って顔を少し左の方に向けた。

黒子佐天「!!」ビクッ

一方通行「(…ン? なンだ? ただ顔を動かしただけなのにビクつきやがって……)」

彼は後ろに何かあるのかと振り返ろうとしたが……

黒子「やはり貴方の道徳心は間違ってますわ!」

佐天「そうです! 間違ってます!!」

2人分の声に引き止められた。

一方通行「俺に道徳とか馬鹿らしいにも程があるだろ」

いちいち大声で突っかかる黒子。それに倣う佐天。明らかに2人の様子がおかしい。

一方通行「(なンだ? 時間稼ぎでもしてンのか? つっても、こんなところで時間稼ぎしても意味ねェしなァ)」
一方通行「何度も言わせンな。俺は人を頃すのに戸惑いもしない人間。良心の呵責だの道徳だの知ったこっちゃねェンだよ!」

黒子「酷い…」

佐天「可哀想な人……」

一方通行「は? 酷い? 可哀想?」

一方通行はその言葉にキョトンとする。

一方通行「あひゃはははははははははははは!!!!! 笑わせるぜ!!!! 酷いですかァ? 可哀想ですかァ? オマエら分かってねェよ!! やっぱり俺のこと何にも分かっちゃいねェ!!!」

意外にもツボに嵌ったのか、一方通行は数秒前に感じていた疑問も忘れて爆笑を始めた。

黒子佐天「………………」

一方通行「そンな陳腐な言葉で俺が頃しを止めるとでも思いまちたかァ? 世間知らずなお嬢ちゃァァン?」

黒子佐天「………っ」

一方通行の言葉に怒りを露にする黒子と佐天。今も一方通行の背後数m先では上条と美琴が戦闘を繰り広げている。


上条「クソ! ちょこまかと…っ!!」

相変わらずバックステップで逃げる美琴。それを追う上条。

美琴「………………」

バリバリバリッ!!!!

161: 2010/07/02(金) 23:06:38.82 ID:U1vB5ko0
雷撃の槍が上条を襲う。

上条「無駄だ!!」

バギィィィン!!!

幻想頃しがそれを打ち消す。

美琴「ふっ!!」

息を吐き、美琴は間髪入れず砂鉄剣を上条に叩き込む。

バギィィィン!!!!

当然、それも打ち消されてしまう。

次いで、電撃を飛ばしてみるが、上条はいとも簡単にそれも打ち消す。
これ以上やっても無駄だと思ったのか、美琴は身体から電気を発するのを止め、逃げに徹することにした。

上条「どうやっても、お前の負けだ御坂!!!」

美琴「…………っ」

上条と美琴の距離は1mほどまで接近している。
辺りは真っ暗闇で、おまけに美琴も電気を発するのを止めたため、明かりといったものは完全にその場から途絶えていた。そのせいか視界は極端に狭くなり、至近距離にいる彼女の顔以外は何も見えなかったが、上条は諦めなかった。むしろ、美琴を殴り倒そうとすることだけに意識を向けていたと言える。

美琴「くっ!!」

上条は、隙さえあれば、彼女の頬にその拳を叩き込もうと本気で踏み込む。

上条「終わりだ!!!」

追い詰められた美琴。
上条は絶好の機会を得、右拳を限界まで後ろに引き付ける。遠心力をも考慮した本気の拳が美琴の頬に照準を定める。
決着の時が訪れた――。

一方通行「所詮は、お前も! お前も! あの花飾りも! そして超電磁砲も!! 世間を知らないただのガキなンだよ!!!!」

声高々に、笑い続ける一方通行。
彼は今、自分が唱える演説に酔っているためか、ほぼ自分の世界に入り込んでいる。その姿は既に黒子と佐天のことなど知ったこっちゃない、と言うように意識が軽く飛んでいた。

黒子「………………」

佐天「………………」

もはや反論する素振りを見せず、黒子と佐天は冷めた目で見つめていた。

一方通行「だから俺に何を言っても……」

167: 2010/07/02(金) 23:12:35.95 ID:U1vB5ko0
黒子「お待たせしましたわ」

一方通行「あ?」

黒子が唐突に声をかけた。
興を削がれたような顔で、苛立ちを見せた一方通行は黒子と佐天を見た。

佐天「待たせちゃいましたね」

一方通行「何言ってンだオマエら?」

怪訝な表情を浮かべる一方通行。



黒子「これが本当の“秘策”ですわ」



一方通行「は?」

美琴「待たせたわね」

上条「なに!?」

美琴「これが本当の“秘策”よ」

ニヤリと口元を緩め、地面から10㎝ほど跳ねる美琴。一瞬、上条はその笑みに呆気に取られたが、すぐに我に返った。
そして、上条は美琴の頬へと強烈な右ストレートを叩き込む!!!




初春「今ですみなさん!!!!!!」




その時、どこからか久しぶりに聞いた声が轟いた。

172: 2010/07/02(金) 23:17:29.58 ID:U1vB5ko0
その声に合わせるように美琴は大声で叫んでいた。




美琴「アクセラレェェェェェェェタァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」




一方通行「あン?」

その一瞬は、まるで長い時のように感じられた――。

振り返る一方通行。

空を切る上条の右拳。

その拳が頬に触れるか触れないかの刹那で思い切り屈み込む美琴。

遠心力を残したまま勢いの減じない上条の右拳。

そして、その右拳の先には振り返った一方通行の顔が―――。


一方通行「は?」


上条「しまっ……!!!!」







ドゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!







一方通行「!!!!!!!!??????????」

182: 2010/07/02(金) 23:23:24.51 ID:U1vB5ko0
上条「――――――――――――!!!!」

打ち止め「――――――――――!!!!」

美琴「…………………」



ドシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!



上条の拳によって一方通行の身体が何mも吹き飛ばされ、固い地面を転がっていく。
この世で唯一、反射を受け付けない右手によって殴られた彼の身体は、何度かバウンドした後、摩擦音を立ててようやく止まった。

打ち止め「………………」

上条「…………………」

言葉を失くす上条と打ち止め。無理も無い。
一方通行は同じ仲間であるはずの上条によって吹き飛ばされたのだから。

一方通行「――――――――」

ピクリとも動かない一方通行の身体。

上条「アクセラレ…………」




初春「佐天さん!!!!」




その声に応じるように、いつの間にか上条の右側面近くまで接近していた佐天がバットを強く握り締める。

196: 2010/07/02(金) 23:30:27.35 ID:U1vB5ko0
佐天「でやああああああああああああ!!!!!!!!!!!」

腰を極限まで屈めた佐天は、上条の左足の脛を狙って思いっ切りバットを振り切った。


ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


上条「!!!!!!????????」

鐘が鳴ったような音が響き、上条は何が起こったのか理解する間も無いまま、うつ伏せに地面に倒れ込んだ。

上条「ぐがっ!!!」

黒子「シッ!!」

と、そこへ追い討ちをかけるように黒子が金属矢をテレポートする。
1度空中で消えた金属矢は1秒後、再び空中に現れ、やがてうつ伏せに倒れる上条を張り付けるように彼の服やズボンの裾を地面と繋ぎとめた。

上条「!!??」

上条は自分が動けない状態であることに気付いたが、時既に遅い。
顔をグググと限界まで上げた上条が横目で窺うと、そこには2人の少女と、もう1人の少女――右手に紫電を発生させている御坂美琴の姿が見えた。

上条「…!!」

咄嗟に右手を構えようとする上条。が、当然ながら金属矢によって裾と地面が繋がれているため右手は動かない。

美琴「……どう? 思い知った?」

美琴は笑みを浮かべる。


美琴「これが私たちの全力よ!!!!!!!」


ビリビリバチバチバチッ!!!!!!!!

美琴の右手から電撃が放たれた。




上条「ぐあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!」





203: 2010/07/02(金) 23:37:04.17 ID:U1vB5ko0
上条の身体中を駆け巡る雷のような衝撃。そのあまりのパワーに、上条はガクガクと全身を揺らす。

黒子佐天初春「………………」

美琴「………………」

美琴たちの顔を、青白い光が照らし出す。彼女たちの眼前で、上条は悶え続ける。



上条「が……………」



やがて、電撃は止み、それと共に上条はその場に崩れ落ちた。

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

先程の喧騒が嘘のように、辺りが静寂に包まれた。唯一、聞こえてくるのは、4人分の今にも掻き消えそうな小さな吐息だけだった。

美琴「…………………」

美琴たち4人はその場にしっかりと立ち、上条と一方通行は地面の上で倒れ気絶していた。
その状況を把握し、1つ大きな溜息を吐くと、美琴は一言呟いた。






美琴「私たちの……勝ちよ」







314: 2010/07/04(日) 02:18:35.55 ID:OIGz7FY0
初めは何が起こったのか理解出来なかった。いや、その状況を信じたくなかったのかもしれない。
忠告通り、離れた場所から目の前で繰り広げられる2つの戦闘を眺めていた。絶対にあの2人――上条当麻と一方通行が負けるはずがないと信じて。だが、現実は違う様相を見せた。

打ち止め「一方通行………」

呆然と、その名を口にする。レベル4とレベル0の女子中学生のコンビによって悪戦を強いられ、同じ仲間であるはずの上条に殴られた末、地面の上で気絶した最強の超能力者の名を。

打ち止め「一方通行!!!!!」

倒れた一方通行を見て、耐え切れなかったのか、打ち止めは走り出していた。その顔に不安だらけの表情を浮かべながら。

黒子「お姉さま」

美琴「ん?」

地面にうつ伏せに倒れた上条のすぐ側に立っていた美琴、黒子、佐天、初春の4人。
彼女たちは突然発せられた子供の声を聞き、そちらに注意を向けた。打ち止めが必氏の形相で走ってくるのが見えた。

美琴「まだ終わってないわ。黒子、お願い」

黒子「了解」

そう言って、黒子は美琴の側から消える。

打ち止め「え?」

数秒後、黒子は打ち止めを連れて美琴の元に戻ってきていた。

打ち止め「お、お姉さま?」

後ろから黒子に両肩を掴まれるように立つ打ち止め。彼女は目の前に倒れている上条を見て、そして後ろを振り返った。

美琴「どうしたの打ち止め? そんなに信じられない? この状況が?」

不適な笑みを浮かべる美琴。

目の前にはうつ伏せで倒れた上条の姿。顔を右に向けると、数m先には仰向けで気絶した一方通行の姿が見える。
百戦錬磨のはずだった彼らは敗れた。4人の女子中学生によって。

打ち止め「あ……う……」

この場に残ったのは打ち止め1人。逃げようにも、背後には美琴たち4人が立っている。
打ち止めは頭の中で考える。

打ち止め「(ツインテのお姉ちゃんと黒髪ロングのお姉ちゃんが、時間稼ぎで一方通行の足を止め気を引いている隙に、お姉さまは上条さんを誘い込むようにバックステップで一方通行に近付いた……)」

美琴「初春さんの指示で上手く一方通行の背後に近付けたものね」

打ち止め「!」ビクッ

316: 2010/07/04(日) 02:24:16.66 ID:OIGz7FY0
初春「いえいえー褒められると照れます」

佐天「でも初春の指示が無ければ、あたしたちもあそこまで上手く動けなかったよ」

黒子「一世一代の大芝居を打った甲斐があるということですわ」

美琴「敢えて、上条当麻に超電磁砲(レールガン)を連発することで私が本気であることを見せ付けた。そうでもしないと、あいつは本気で私に殴りかかってこなかったでしょうね。まんまとノってくれて良かったわ」

打ち止め「(何てこと……お姉さまは上条さんに本気を出させて、周囲に気を配る余裕も無い状況に追い込み、自身は誘うように一方通行に近付いた。そして追い詰められた振りをして、上条さんが本気の拳を振るった時に……)」



   ――「アクセラレェェェェェェェタァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」――



……大声を出して背後にいる一方通行を振り向かせた。と同時に自身は素早く屈み込み、上条は勢いを残したまま、その右拳を吸い込まれるように一方通行の左頬に叩き込んだのだ。
   
打ち止め「………っ」ゾクッ
打ち止め「(そんな……僅かでもタイミングがずれたら簡単に失敗するのに……)」

もう1度、打ち止めは振り返り美琴の顔を見る。

美琴「1回限りの“大秘策”。上手くいったようね」

打ち止め「(これが……ミサカのお姉さま……)」

感心したように、あるいは恐怖を覚えるように打ち止めは美琴の顔を見つめた。

打ち止め「……………っ」

レベル5第3位の超能力者・美琴が主導していたとは言え、実際に黒子や佐天、初春の協力が無ければ最強の楯と最強の矛を持つ上条と一方通行は倒せなかったはずだ。
そう、彼女たちは宣言通り勝ってみせたのだ。この2週間で高めた己の力と、互いのサポートや連携でハンデを埋めることによって。

打ち止め「…………………」

と、その時だった――。





「やって……ハァ……くれたなァ……ゴホッ」






317: 2010/07/04(日) 02:30:38.87 ID:OIGz7FY0
離れた場所から、声が聞こえた。殺気にも似た強大な威圧感を覚え、美琴たちは咄嗟にそちらを振り返った。

一方通行「……まさか……ハッ…上条の拳を……ゲホッ……使うとは……」

気絶していたはずの一方通行が、フラフラと揺れる身体を立ち上がらせようとしていたのだ。その顔には、怒りのようなあるいは享楽のような表情が浮かんでいる。

美琴黒子佐天初春「一方通行!!??」

打ち止め「ア……一方通行!!」

一方通行「……だが…それで…終わりだと……思った…かァ?」

大ダメージを食らってるにも関わらず、立ち上がろうとする一方通行。まさにその姿は怪物だった。

美琴「………………」

呆然とその様子を見つめていた美琴。我に返った彼女だったが、その顔に焦りは浮かんでいない。

美琴「はん! さすがは第1位、と言ったところかしら? でもその状態で動けるの? しかも……」
美琴「  打  ち  止  め  を  人  質  に  と  ら  れ  た  状  況  で  」

一方通行「あァ?」

打ち止め「あっ!!」

打ち止めの両肩を後ろから強く握り、黒子がその様子を一方通行に見せつける。

一方通行「人質だと?」

美琴「まさかあんたを倒したことで私たちが油断してると思った? もしもの時の予備プランぐらい考えてるに決まってるでしょ?」

一方通行「ふン……別にそのガキがどうなろうが……知ったこっちゃ……ねェが……」

打ち止め「!」

一方通行「ソイツに……手を出した瞬間……オマエらの……有利な状況は……覆るぜェ……」

美琴「よく言うわ。本当は心配で心配でたまらないくせに」

一方通行「ほざけ……俺が心配だと? どの道、オマエが……そのガキに手を出せるはずねェよ……」

息を切らしながらも、一方通行は確信めいた笑みを浮かべる。

美琴「私はね」

一方通行「何?」

美琴「でも、この場でこの子に何かをしなくても、違う場所でならどうかしら?」

318: 2010/07/04(日) 02:36:34.79 ID:OIGz7FY0
一方通行「……まさか!」

一方通行は打ち止めの肩に両手を置く黒子を見る。それに気付いたかのように、佐天と初春が黒子の両端から彼女の腕を掴んだ。

黒子「その通り。貴方が少しでもその場所から動けば、私はこの子を連れてここから空間移動(テレポート)します」

打ち止め「えっ!?」

一方通行「…………そういうことかよ」

だが、と一方通行は笑みを浮かべて……

一方通行「……オマエが1度にテレポート出来るのは、自分を含めて3人まで。打ち止めと誰かもう1人を連れてテレポートするにしても、最低でも2人は残っちまうよなァ?」
一方通行「どうせ、1人は超電磁砲が残るンだろうが……あと1人はどうする? レベル1の低能力者かレベル0の無能力者がここに残ったって、俺に瞬殺されるだけだぜェ?」

佐天「………………」

初春「………………」

一方通行は脅迫めいた言葉を告げるが、佐天と初春は特に反応しなかった。

黒子「いつの話をしていらっしゃいますの?」

一方通行「あ?」

美琴「あんた、さんざん言ったのに覚えてないの? 私たちはこの2週間、あんたたちを倒すために努力した、ってね」

美琴は一方通行を見据えながら、親指を隣にいる黒子に向ける。

美琴「この子、この2週間で自分を含めた最高4人までなら一緒にテレポート出来るようになったわよ」

一方通行「なンだと?」

黒子「とは言え、テレポートの1度の飛距離は1mも伸びていない程度。まだまだレベル5には程遠いですがね」

そう言う黒子の両腕をそれぞれ佐天と初春が掴んでいる。
今の黒子は、1度に4人をテレポート出来る。見た限り、その言葉は嘘では無いようだ。

一方通行「…………………」

美琴「あんたがそこから1cmでも動いたら、すぐさま黒子がこの子たちを連れてここから逃げる手筈になってるわ」

一方通行「簡単に言うが……例えテレポーターどもがここから逃げられたとしても、そのクソガキをどうにか出来るとでも思ってンのか?」

美琴「あら? また忘れたの?」

一方通行「あァ?」

美琴「戦う前に言ったじゃない。『私たちはあんたちを頃す覚悟は出来てる』ってね」

320: 2010/07/04(日) 02:42:33.56 ID:OIGz7FY0
打ち止め「!!!!!」

一方通行「………………」

美琴「私はともかく、この子たちには『何も喋らないようなら、あんたらの好きな方法で吐かせてもいいわよ』って言ってあるわ」

打ち止め「えっ!?」

打ち止めの肩がビクッと震えた。しかし、それを見ても一方通行は顔を崩さずに言う。

一方通行「いつまでも逃げれると思ってンのか? 俺が全力を出せば、3日もあればこの学園都市から逃げたオマエらを探し出すことぐらい可能だ。その先に待ってる結末は、ずばり鮮血エンドってところかァ?」

その言葉に、僅かに黒子と佐天と初春が強張る気配が伝わった。
が、実際は、美琴も打ち止めに手を出すつもりは無く、一方通行も今の言葉は脅しに使っただけだった。
2人のハッタリ合戦は尚も続く。

美琴「3日、ねぇ……。3日もあれば、何でも出来ると思うけど? 打ち止めの消息が3日も掴めない、って言う状況はあんたに耐えられるのかしら?」

一方通行「ほざけェ。そのクソガキがどうなろうが俺には関係ねェ。笑わせンなよ」

美琴「そう、じゃあやってみる?」

一方通行「やってやろうか?」

ジリと、一方通行の足が動く。
それに答えるように、美琴が身体中から電気を発する。

黒子佐天初春「………………」ゴクリ

打ち止め「お姉さま……一方通行……」

佐天と初春が黒子の両腕を握る手に力を込める。黒子もより強く打ち止めの両肩を掴む。
状況は一瞬で変化する。
風が凪ぐ。
無言の静寂が暗闇を包み込み、張り裂けそうな緊張感が周囲を漂う。
しかし、その瞬間だった。





「それまでだ……」






321: 2010/07/04(日) 02:49:03.08 ID:OIGz7FY0
しかし、変化は起こらなかった。1つの声が、強制的にその状況に幕を下ろした。

美琴「あんた!!」

一方通行「オマエ……」

打ち止め「あっ!!」

黒子佐天初春「!!!!!」



上条「2人とも、やめろ……」



地面に倒れていた上条が僅かに動いた。彼はまだ痺れが抜け切らない身体を何とか動かそうとする。

上条「もう、いい………」

一方通行「あァ?」

上条「もう、十分だ………」

喋ることさえ辛そうに必氏に身体を動かそうとする上条を、美琴は呆然と見つめる。

美琴「……何が『もういい』よ……。何が『もう十分だ』よ………ふざけないでよ!!!!」

美琴の身体を纏う電気が強みを増す。
2人の会話を、黒子たちは無言で眺めている。

上条「全部話す」

美琴「え?」

黒子佐天初春「!!??」

上条「お前らに黙ってたこと、全てを話す」

322: 2010/07/04(日) 02:55:28.34 ID:SnU0rx60
そう言って、上条は金属矢で地面に繋ぎ止められた服の裾をビリビリと破らせながら上体をゆっくりと起こした。

黒子「あ……」

美琴「待って」

再び金属矢を構えようとした黒子を、美琴は制止する。

上条「見ての通り、俺たちの負けだ……約束通り、全て教えてやる」

打ち止め「……上条さん……」

上条「いいな? 打ち止め、一方通行」

打ち止め「………うん」

上条の問いに、静かに答える打ち止め。
一方通行は、しばらく黙っていたが、やがて顔を横に向けて「チッ」と舌打ちしただけだった。
それを確認すると、ボロボロに痛む身体を無理矢理動かしながら上条は美琴たちに顔を向けた。

美琴黒子佐天初春「!?」

美琴「な、何よ……。何が今更『約束通り、全て教えてやる』よ……」

勝手なことを言うな、とばかりに美琴は抗議の声を上げる。

黒子「そうですわ! 貴方がたはご自分のやったことが理解出来ていまして?」

佐天「たった一言謝ったところで許されると思わないでよね!」

初春「失った人は戻って来ないんですよ!」

目に涙を溜めながら、彼女たちは震えた声で主張する。

上条「…………確かに、どちらにしろ俺は許されないかもな」

フッと上条は自分を皮肉るような笑みを浮かべた気がした。

美琴「?」

上条「御坂」

不意に、上条は真剣な表情で美琴の顔を見据えた。

美琴「な、何よ!? 早く教えなさいよ!!」

323: 2010/07/04(日) 03:01:33.00 ID:SnU0rx60
2人はしばらくの間、お互いの顔を見つめ合っていた。

美琴「…………………」

上条「…………………」

そして、次の瞬間、上条は信じられないことを言い放った。

上条「お前らの友達は生きている」

美琴「え………?」

思わず口から出てきた言葉はそれだけだった。
目を丸くし、キョトンとした顔で唖然とする美琴たちを見、上条はもう1度、確認するように言った。






上条「お前らの友達は全員、生きている」






凪いでいた風が止まった――。

362: 2010/07/04(日) 21:10:25.59 ID:At2rjnk0
美琴たちは今、上条たちに連れられて四角柱状の空間を、それぞれの階の外周の壁を沿うように設置されている幅2mほどの通路を歩いていた。落下防止用の対策は簡素に備えられた手すりぐらいで、少しでも手すりから身を乗り出せば終わりだった。
彼女たちは先程から、階段を下り通路を歩き、角を2回ほど曲がりまた階段を降りるといった具合に同じ動作を繰り返しながら階下を目指していた。
辺りは暗闇に包まれており、御坂妹の持つF2000アサルトライフルのフラッシュライトや、上条が持つ懐中電灯だけが頼りだった。

上条「詳しいことはアジトに着いてからだ」

黒子「貴方、先程私たちの友達は生きている、と仰いましたよね?」

佐天「まさかそれは嘘で、これはあたしたちを誘い込む罠とかふざけたこと言わないよね?」

初春「何とか答えて下さい」

4人はひたすら抗議にも似た疑問の声を上げる。しかし、先頭を歩く上条は何も答えない。

御坂妹「良いのですか、とミサカは訊ねます」

上条のすぐ横を、FN F2000を抱えた御坂妹が一行を先導するように歩く。

上条「……………………」

美琴「どうして何も答えないの?」

上条のすぐ後ろを歩く美琴。彼女は今、打ち止めと手を繋いで歩いていた。

打ち止め「♪」

先程まで敵対していた仲であるにも関わらず、打ち止めはオリジナルの美琴と手を繋いで楽しそうだった。
手を繋ぐよう求めたのは打ち止めで、美琴は少しうろたえたが、自分の幼い頃の外見に似た女の子の笑顔を見て断ることも出来ず、しぶしぶ承諾したのだった。

一方通行「うっさいヤツらだ。もっと静かに出来ねェのか」

殿を歩くのは一方通行だ。彼は、目の前でギャアギャア声を上げる黒子たちを見て不満気だった。
一行は今、アジトを目指し歩いている。
先程まで対立していた彼らが呉越同舟で行動を共にしていたのには訳があった。

363: 2010/07/04(日) 21:15:56.10 ID:At2rjnk0
小1時間ほど前――。

打ち止め「ねぇ大丈夫? ってミサカはミサカは心配してみる」

美琴の電撃を浴び、ガタガタになった身体を無理矢理起こそうとする上条に、打ち止めが心配して寄り添う。

上条「まぁ、あいつの電撃は浴び慣れてるからな」

一方通行「それはそれで問題だと思うがなァ」

軽口を叩くように一方通行も近付いてきた。

上条「打ち止め、護衛のためだ。御坂妹を呼んでくれ。今の俺や一方通行は万全な状態じゃないから、もしもの時に備えられない」

打ち止め「分かったちょっと待っててね、ってミサカはミサカは元気にお返事!」

そう言って打ち止めはミサカネットワークにログインする。

一方通行「別に俺はこのままでも大丈夫だけどなァ」

上条「そう言うな。万が一に備えてだ。あ、それと打ち止め」

打ち止め「なぁに?」

上条「御坂妹に、主要メンバー全員をアジトに呼ぶよう頼んでくれ」

一方通行「おいおい全員かよ。こンな夜中に集まるかどうか分からねェぞ」

上条「いいんだ。無理にとは言わない。ただ『御坂たちが説明を求めてる』って言えば、来てくれる確率も高くなるかもしれない」

打ち止め「はーい!」

美琴「…………………」

目の前で勝手に進められていく話から置いてけぼりを食らったように、美琴たちは黙ったままその場に立ち尽くしている。

上条「さて、これでいいか」

美琴「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

上条「ん?」

耐えられなくなったのか、美琴が上条を呼び止めた。

美琴「一体どういうことなの!? あんた、さっき『お前らの友達は生きてる』って言ったわよね?」

上条「………ああ」

美琴「それは本当なの?」

364: 2010/07/04(日) 21:21:24.87 ID:At2rjnk0
黒子「嘘じゃありませんわよね?」

佐天「その場の方便とか言ったら怒るよ!」

初春「どういうことかちゃんと説明して下さい!」

4人分の少女の抗議を前に、上条は至って冷静に返事する。

上条「『お前らの友達が生きてる』っていうのは本当だ。嘘じゃない。固法美偉も、泡浮万彬も、湾内絹保も、婚后光子も、そして今まで俺たちが誘拐した学園都市の学生たちもみんな生きてる」

美琴「なっ…」

あまりにも簡単に言い切った上条の言葉に美琴は一瞬どう反応していいのか分からず、その視線を一方通行に向けてみた。

一方通行「ったく、自分で全部白状しちゃいやがって……。世話ねェな」

そのまま、美琴は打ち止めにも顔を向ける。

打ち止め「本当だよお姉さま! この2人は誰も頃してないよ! だからこれ以上2人を傷つけないで!」

打ち止めの必氏の懇願を聞き、美琴がたじろぐ。

黒子「しかし、私たちには何が何やらさっぱり分かりません」

美琴「そうよ。ちゃんと説明しなさい」

伸びをし、上条は自分の身体の調子を確かめると、美琴たちを見て言った。

上条「俺たちのアジトで説明する。御坂妹が着き次第、出発するからそれまで待ってろ」

美琴「…………っ」

367: 2010/07/04(日) 21:26:27.82 ID:At2rjnk0
以上の経緯で、美琴たちは上条に連れられアジトに向かっていたのだった。

黒子「しかし、何10年も前に立ち入りが禁止された共同溝は私たちも隠れ家の出入りのために利用していましたが、こんな場所にもこんな大きな共同溝があったのですね」

美琴たちは四方を見やる。確かに、廃墟にするにはもったいないぐらいの広大な空間だった。

上条「学園都市には地下の空間はいくらでもある。最新の共同溝や下水道は監視カメラなどで見張られてたりする場所もあるが、こういった古い共同溝は別だ。一部のスキルアウトたちも好んで使ってる」

初春「確かに、地下は監視カメラや衛星の氏角になりやすいですからね」

佐天「そんなに地上から身を隠してでも、誘拐を行いたかったんですか」

上条「…………………」

美琴「よっぽど今は答えたくないようだけど。自分たちの縄張りに誘い込んでからのほうが、話を有利に進めるとでも思ってるのかしら?」

一方通行「オマエらペチャクチャうっせェぞ。黙って歩けねェのか」

美琴「黙って歩ける状況じゃないでしょ!」

一方通行「あァ?」

打ち止め「もーう一方通行!」

一方通行「チッ」

険悪な雰囲気を発しながらも、彼女たちはようやく上条たちのアジトに到着した。

美琴「あれが……あんたたちのアジト?」

吹き抜けの広大な空間をひたすら下へ降り、更にいくつもの共同溝を奥に進んだ所に、彼らのアジトはあった。
見た限り、特別大きいとも言い難い。ただでさえ狭い空間の中に、申し訳無さそうに嵌められたような小さな建物があった。

上条「昔、作業員が寝泊りに使ってた場所だ。一応、簡単な発電施設で屋内の電気はまかなっている」

美琴「(私たちの隠れ家より小さいけど、随分本格的ね)」

アジトに向かって歩く一行。と、アジトの木製のドアの前に2人の人間が立っているのが見えた。

美琴「誰!?」

黒子「新たな敵ですの!?」

警戒し、美琴と黒子が身構えた。

上条「よく見ろ」

美琴黒子「え?」

368: 2010/07/04(日) 21:32:20.09 ID:At2rjnk0
促され、目を細めて見てみると、2人の人間はどこか見覚えのある装甲服を着、胸元にアサルトライフルを抱えていた。

美琴「アンチスキル!?」

上条「黄泉川先生の部隊の人たちだ」

美琴黒子佐天初春「!」

上条「すいません、お騒がせして」

そう言って、上条は門番の警備員2人に話しかけた。

警備員A「事情は黄泉川中隊長から聞いている」

警備員B「君はリーダーだからな。さあ、早く中へ入りなさい」

リーダーである上条が部下たちに敬語を使うのもどこか違和感があったが、元々は生徒と教師の関係だ。不思議は無い。

上条「御坂」

美琴「え? 何?」

上条「俺と一方通行と打ち止めで先に事情を説明してくる。お前らは御坂妹とここで待ってろ」

美琴「ちょっ」

呼び止めようとする美琴の手から打ち止めが離れ、更には彼女の横を一方通行が通り過ぎていく。
そのまま3人は木製の小さなドアを開けると、中に入っていった。

美琴「あ……」

手を伸ばしたまま固まる美琴。
まさか部屋の中からアンチスキルが大勢出て来て捕縛されないだろうか、という不安が過ぎる。
ふと、彼女が横に顔を向けると御坂妹と目が合った。

美琴「あんた……」

御坂妹「お願いですからここで静かに待っていて下さいね、とミサカはお姉さまに偉そうに指示します」

美琴「………………」

御坂妹「………………」

10分後、ドアが開き、上条が中に入るよう促してきた。
美琴たち4人は1度、互いの顔を見合わせるとゴクリと唾を飲み干し、敵のアジトへ足を踏み入れた。

369: 2010/07/04(日) 21:38:12.03 ID:At2rjnk0
そこは、アジトと言うにはあまりにも小さくみすぼらしい場所だった――。
見上げると、そこには天井の中央に古い蛍光灯が1つ寂しそうに垂れ下がってるだけで、当然ながら非常用の電灯といったものはない。部屋の真ん中には机が置かれているが、これも縦1m50cm、横2mぐらいの地味で汚れがついた、セールで買ってきたような古びたものだった。その机を境に、一方に即席に用意された4つの椅子が、一方に長ソファが向かい合って置かれていたが、その椅子とソファだけで部屋の面積のほぼ半分が占められていた。

美琴「…………………」

正直、部屋はかなり狭い。ソファの後ろにはコーヒーポッドや本を並べた幅50cmも無い棚が壁に沿うようについている。部屋の隅には小さな冷蔵庫が置かれていたが、それすらも部屋をより狭めているのに一役買っているような印象があったほどだ。
上条曰く、この部屋は作戦会議を行うメインルームらしいが、それにしてはあまりにも狭い。美琴たちが一時的に使っていた隠れ家のほうが贅沢な造りと言えた。

美琴「…………………」

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

無言になる美琴たち。と言うよりも何かを喋りたくても喋れない雰囲気がその部屋には流れていた。
彼女たちが座る椅子の向かい側、長ソファに腰を掛ける9人の人間は、一切の発言を許さないような威圧感を放っており、正直、美琴たちはそれを前にして気圧されていたのだ。

上条「ここにいる9人が、俺たちの仲間の主要メンバーだ」

そう告げる上条。美琴たちはそのメンバーを一瞥する。そこに座っていたのは、通常では信じられない組み合わせのメンバーだった。

まず、一番右端で白衣のポケットに手を突っ込んでいるのは、美琴たちがよく世話になる第7学区の名医。『冥土返し(ヘブンキャンセラー)』と呼ばれるカエル顔の医者だ。
その隣で同じく白衣を纏い、手と足をそれぞれ組んでいる若い女性は、かつての教え子たちを助けるため『幻想御手(レベルアッパー)』を開発した末、美琴たちと対立することになった木山春生である。
一方、ソファの左端では気弱そうな性格をしている眼鏡の若い女性が、その隣では腕を組み目を閉じているこちらも若い女性がいるが、彼女たちは黒い戦闘服のようなものを身に纏っている。彼女たちはアンチスキルの隊員、黄泉川と鉄装。1週間前まで美琴たちの謹慎を見張っていた張本人たちである。
更に、黄泉川の隣に座る女性は美琴と黒子が日頃から最も世話になっている人物だった。彼女のあだ名は「寮監」。美琴と黒子の私室がある常盤台中学学生寮の管理人だった。今、彼女は足を組み、光る眼鏡に右手を添えていた。

そして、中央に座る4人。彼らこそ、美琴たちが最もよく知る人物たちだった。

向かって中央2人の右の人物に寄り添うように座っている彼女は、どう見ても9人の中で浮くほど幼い。動くたびに揺れる頭のアホ毛が可愛らしい彼女の名前は『打ち止め(ラストオーダー)』。9969人の『妹達(シスターズ)』を統べる司令塔的存在だ。
対して、向かって中央2人の左の人物の隣に座る少女は今も肩にFN F2000と呼ばれるアサルトライフルを掲げている。頭に付けられたゴーグルだけは違ったが、それ以外は美琴の外見とほぼ瓜二つだった。彼女は、『妹達(シスターズ)』の検体番号10032号。あだ名として、「御坂妹」と呼ばれていた。

最後に、一連の事件の中心人物が中央に2人――。

右に座るその人物は腕を組み、伸ばした足の先も組んでいるが、どこかやる気の無いように明後日の方向を見上げている。白い肌に白い髪。華奢な身体を持つ彼は、美琴たち4人の宿敵の1人。事実上、学園都市の頂点に君臨する、最強の超能力者(レベル5)『一方通行(アクセラレータ)』だった。
そして、左に座る人物。美琴たちの友達を誘拐し、殺害したと思われる計画の首謀者である彼は、膝の上で両手を組み、美琴たちを見据えている。異能の力であるのなら、どんな能力も打ち消してしまう『幻想頃し(イマジンブレイカー)』と呼ばれる右手を持つレベル0の高校生。最も美琴との因縁が深い彼の名は上条当麻。

計9人のメンバーが、美琴たちの正面で並んで座っていた。
その光景は、どこか貫禄を感じさせ威圧感も半端ではなかった。少年漫画だったなら背景に「ドン!」と言う擬音でも描き込まれてそうなほど威厳のあるものだった。その9人分の言葉無き威圧に対し、女子中学生である美琴たちは借りてきた猫のように縮こまっている。

370: 2010/07/04(日) 21:45:26.11 ID:At2rjnk0
美琴「…………………」

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

彼女たちは並んだ9人の顔を無言でチラチラと窺う。

上条「で、だが……」

美琴黒子佐天初春「!」ビクッ

一方通行「プクク…w」

上条「ハァ……」
上条「それで、何から聞きたい?」

その言葉にハッとし、美琴は我に返った。

美琴「そ、そうよ! き、聞きたいこと! あるわよ!!」
美琴「ま、まずはゲコ太! それに木山春生!」

ズアッと立ち上がり、美琴が右端2人の人物を指差す。黒子たち3人が立ち上がった彼女を見上げた。

美琴「ど、どういうことなの!! 何で貴方たちが、こいつらの仲間なの!? 訳分かんない」

美琴の言葉に同意するように、黒子と佐天と初春もカエル顔の医者と木山を見る。
美琴たち4人分の眼差しを受け、耐え切れなかったのか初めに口を開いたのはカエル顔の医者だった。

カエル医者「すまないね、君たちを騙していた形になって。謝っても許してもらえないだろうね?」

美琴「なっ…」

言葉を詰まらせた美琴を助けるように黒子が援護する。

黒子「私たちは3週間ほど前、先生たちに泡浮さんの携帯電話の指紋鑑定を頼みましたわよね? 覚えていますか?」

カエル医者「ああ、覚えているよ」

木山「………………」

黒子「それは、泡浮さんと湾内さんの2人が、誘拐犯と思われる2人組の暴漢に襲われた時に……」チラッ

一瞬、黒子は上条と一方通行に視線を向けた。

上条一方通行「…………………」

373: 2010/07/04(日) 21:51:24.49 ID:At2rjnk0
黒子「そのうちの1人が、泡浮さんの携帯電話に触れた可能性が高かったからです。だから、私たちは先生に、そして木山先生にも指紋鑑定を頼んだのです」

美琴「そうよ。私たちは先生たちのこと信じて頼んだのに……。本当は、こいつかこいつの指紋、出てきたんでしょう?」

美琴は上条と一方通行を順に指差す。

カエル医者「そうだよ?」

美琴黒子佐天初春「!!!」

美琴「やっぱり……」

佐天「でも、どうしてあたしたちには『男のものと思われる指紋は出てこなかった』って嘘吐いたんですか?」

初春「やっぱりそれは上条さんたちの存在を気取られなくなかったからですか?」

佐天と初春もようやく話に加わった。
4人の少女の質問に、カエル顔の医者は更に心苦しそうな顔を浮かべて答える。

カエル医者「……そうだよ?」

美琴黒子佐天初春「………っ」

カエル医者「僕は初めから上条くんや一方通行の仲間だったんだ。だから、彼らに疑いが向くのを防ぐため敢えて嘘を吐かせてもらったんだ。ただ、やっぱり君たちはそこで有耶無耶に終わらせるほど友達に対して薄情じゃなかった。だから木山くんにも続けて指紋鑑定を頼んだんだろうね?」

美琴「そ…そうです……でも…」

黒子「木山先生は、指紋鑑定を調べることはおろか、私がやめてほしいと頼んでおいたアンチスキルへの携帯電話の提出を勝手に行いました。それは何故ですの?」

責めるような黒子の言に、ずっと黙っていた木山が口を開いた。

木山「……私は初めから、上条くんたちの仲間ではなかった。本当のことを言うと、君に頼まれた通り指紋鑑定はしたし、実際に上条くんの指紋も出てきたんだ」

黒子「じゃあどうして!?」

カエル医者「僕が止めたんだよ」

美琴黒子「え?」

美琴たち4人の視線が再びカエル顔の医者に向けられる。

カエル医者「僕が事情を説明したんだ。だから木山くんには、君たちに泡浮くんの携帯電話を返さないよう言ってそのままの足で黄泉川くんに渡すよう仕向けたんだ」

黄泉川「…………………」

木山「……先生の話を聞いて私も協力させてもらおうと思ってね。君たちには冷たい対応をしてしまったことは謝るよ。別に許してもらわなくても構わんがね」

美琴黒子佐天初春「………っ」

375: 2010/07/04(日) 21:56:52.80 ID:At2rjnk0
寮監「お前ら、黄泉川先生の部隊が12日の夜に、泡浮と湾内の失踪について寮に捜査しに来たのは覚えてるな?」

美琴黒子「!!」

今度は、左端の方から声が聞こえた。寮監だった。

美琴「寮監……」

黒子「……覚えてますが、それがどうしましたの?」

寮監「あの時、お前ら管理人室に来て『依頼した鑑定で誘拐犯と思われる男の指紋は出なかった』と不満気に語ってたよな?」

美琴黒子「………………」

寮監「今だから言うが、その時私は確信したよ。ああ、これはこいつらここで諦めないな、と。もう1度、別の方面に泡浮の携帯電話の指紋鑑定を頼むだろうな、と。だから……」

途中で言葉を切る寮監。それに続けるようにカエル顔の医者が説明する。

カエル医者「だから、それを聞いた僕が上条くんたちに頼んで、君たちが他に指紋鑑定を頼めるような人物がいないか調べてもらったんだ。そうしたら、木山くんの名が浮上してね。彼女とは知り合いだから、僕が直接止めに行かせてもらったんだ」

次々と大人たちは隠されていた真相を打ち明けていく。美琴たちは置いてけぼりを食らわないよう話について行くだけで必氏だった。

黒子「……それで、泡浮さんの携帯電話は今どこに?」

黄泉川「一時期は私の部隊が預かってが、後に泡浮本人に返したよ」

今度は黄泉川が言った。

美琴黒子佐天初春「…………………」

結局、彼女たちは裏で繋がった大人たちのいいように動かされ、翻弄されていただけだったのだ。いじめっ子たちに奪われパス回しをされている自分の私物を必氏に取り戻そうとするいじめられっ子のように。

初春「あの……黄泉川先生」

おずおずと、初春が小さく手を挙げた。

黄泉川「ん? 何じゃん?」

片目を開け、黄泉川は生徒に質問された教師のように反応した。

初春「先生も初めから上条さんたちの仲間だったんですよね?」

恐る恐る訊ねる初春を、美琴たちは不安げに見る。

黄泉川「そうだが?」

376: 2010/07/04(日) 22:02:18.80 ID:At2rjnk0
初春「なら質問なんですけど、実は泡浮さんと湾内さんの誘拐事件を調べるため、2人が誘拐犯……つまりは上条さんと一方通行さんのことでしょうけど……」チラッ

上条一方通行「………………」チラッ

初春「と、とにかく泡浮さんと湾内さんが誘拐犯と思われる暴漢2人に襲われた時の現場の監視カメラの録画映像を調べてみようと思ったんですよね!」アセアセ

黄泉川「……それで?」

初春「それで……泡浮さんたちが言ってた11日付けの現場の第7学区の18番通りの録画映像を見てみたんです。そうしたら、ある2点…初めは16時20分頃だったかな? それで次が多分その5分後ぐらいだったと思いますけど、一瞬、画面が揺れたと言うかノイズが走った記憶があるんです。確か、黄泉川先生にも1度電話で訊ねて聞いたはずですけど……」

佐天「あ、そういえばあったね」

黄泉川「…………………」

初春「その時は先生『たまにこういうことがある』って言ってましたけど、もしかして本当は、黄泉川先生が細工したんじゃないですか…? アンチスキルなら、簡単に監視カメラの映像を見たり出来る権限持ってますし……」

逃亡中の身であった美琴たち4人が、地上を通るために密かに一時的に監視カメラの映像をダミーの映像に切り替えたことがあったからこそ、初春はそのことを思い出したのだった。

初春「違いますか?」

黄泉川「その通りじゃん」

きっぱりと黄泉川は言った。

初春「やっぱり……」

黄泉川「上条と一方通行が泡浮と湾内を襲った時は、珍しく夕方で監視カメラのある一角で試みた誘拐だったからな。まあこいつらは監視カメラの氏角は初めから計算して2人を追い詰めようとしたんだが、その時は失敗して泡浮と湾内に逃げられたじゃん」

上条一方通行「…………………」

黄泉川「ま、だから万が一に備えて、その時の監視カメラの映像を細工して、泡浮と湾内が襲われた事実そのものをメディア上から消したんじゃん」

鉄装「実際に細工したのは私ですけどね」

鉄装が申し訳無さそうに横から付け足した。

佐天「あ、あたしも分からないことがあるんですけどいいですか?」

次いで佐天が手を挙げた。

黄泉川「何だ?」

佐天「初春が侵入したアンチスキル本部サーバーから得た誘拐事件資料では、黄泉川先生の部隊の報告では、泡浮さんと湾内さんが失踪したのは18日午前0時30分頃から2時30分頃ってなってましたけど…嘘っぱちですよね? だって、その日その時間帯はあたしたちが上条さんたちと戦ってた時だもん」

黄泉川「その通り嘘っぱちじゃん。お前らがアンチスキル本部の取り調べで『18日午前0時30分頃に上条たちと会っていた』と証言しても、私たち実際に捜査を行った当の部隊が公式報告として『泡浮湾内両名の失踪・誘拐は18日午前0時30分頃~午前2時30分頃に行われた』と記述してるじゃん。普通なら、誘拐を行っていた時間帯にお前らがその当の誘拐犯たちに会えるはずがないと考えるだろ? だとしたら子供であるお前らの証言の信憑性は低くなる。ま、一種のアリバイ作りってやつじゃん」

子供、と言われたことで佐天の顔が少しムッとなる。

黒子「では、実際に泡浮さんと湾内さんの誘拐が行われたのは、11日から12日に掛けてなんですね? 12日の夜にはその件で黄泉川先生の部隊が寮に捜査しに来ましたし」

378: 2010/07/04(日) 22:08:44.34 ID:At2rjnk0
黄泉川「ああ。11日の夕方頃だな」

黒子「11日の夕方頃?」

黒子は顔をしかめ、美琴と顔を合わせる。美琴もどこか不思議そうな顔をしている。

美琴「11日の夕方頃……って言うと、ちょうど泡浮さんと湾内さんが誘拐犯の暴漢に襲われそうになった直後で、私が彼女たちをジャッジメント支部に連れてった時間帯じゃ……」

黒子「それで確かその時は、隣の支部が爆発事件に巻き込まれたとかで、黄泉川先生の部隊が私たちの支部に警護にやって来た時でしたわよね……?」

と、そこで美琴と黒子の表情が変わった。

美琴黒子「まさか!!!」

黄泉川「ああ。お前らが今想像した通りじゃん」

佐天「え? どういうことですか?」

初春「な、何ですか? 一体?」

鉄装「えっとね、11日の夕方、隣の学区のジャッジメント支部爆発事件を受けて、私たちの部隊がジャッジメント第177支部の警護のために出向いたでしょう?」

鉄装は、分かりやすくゆっくりと説明する。

佐天初春「は、はい……」

鉄装「その時、泡浮さんと湾内さんも支部にいたでしょう? 彼女たちを寮まで車で送って行ったのは誰かな?」

佐天初春「あ……」

ゆうやく2人も気付いたようだった。

黄泉川「彼女たちを寮に送る、とお前らに言っておいて実際は上条たちに途中で引き渡してた、ってことじゃん」

寮監「私とも話はついていたからな。黄泉川先生と口裏を合わせて、翌日の事件発覚時には、常盤台の教師やお前らに『昨夜、アンチスキルの黄泉川という方にわざわざ2人を送っていただいた。その後の巡回の時には部屋にいた』と嘘を吐かせてもらった」

謎が解けたように、美琴たち4人は納得した顔をする。

黄泉川「私の部隊なら、管轄から考えてお前らの支部の警護に就かされることは大体予想が着いてたじゃん。お前らの行動を監視するためにも、ちょうど良いだろう、と考えていたんだが、まさか初っ端からお前らの支部で上条たちが取り逃がした泡浮と湾内に会えるとは思わなかったからな。偶然だったが、御坂が私に2人を送るよう頼んできたし、都合が良かったのでそのまま車で彼女たちを連れ出したってわけじゃん」

黒子「では、わざわざ泡浮さんと湾内さんの誘拐事件に報道管制を敷いたのは……」

黄泉川「ああ、さっき説明した日付の矛盾が、事情を知る寮内関係者にバレないようにするためだ。報道されてないことに疑問を抱いてアンチスキルに問い合わせても、門前払いを受けるように仕向けてもある」

黒子「本当に、やってくれますわね……」

寮監「私も、寮内でことごとくお前らの行動を止めようとしていたんだがな……私の手ではじゃじゃ馬は扱いきれなかったようだ」

黒子「こっちの気も知らないで……」

380: 2010/07/04(日) 22:13:54.95 ID:At2rjnk0
美琴「でも道理で寮監も黄泉川先生も見張りの警備員たちもみんな、執拗に私たちの行動を制限しようとしてたわけだわ」

黄泉川「私はお前らの推理力に感服するじゃん。私らが全部白状するまでにそこまで大体の予想を組み立ててるなんて、本当、子供ってのは成長が早いもんじゃん」

美琴「ふん。さんざん言ってくれて……」

ともあれ、これで美琴たちが抱いていた疑問はほぼ解決した。
だが、まだ肝心なことは聞いていない。

美琴「って、そうじゃないわ。私たちが本当に知りたいのはその先!」
美琴「答えなさい! 私たちの友達はどこにいるの!? そして何であんたたちはこんなことをしでかしたのか!!」

美琴は責めるように、あるいは罵倒するように大人たちを指差して質問する。しかし、その視線は正面の上条に据えられていた。

上条「…………………」

黒子「そうですわ! 本当に生きているのなら、今、固法先輩たちがどこにいるのか教えてくれないと信用出来ませんの!」

佐天「あたしたちのこと散々馬鹿にして……。答えない、とか言ったら許しませんよ!!」

初春「一刻も早く、みなさんの無事を確かめておきたいんです!!」

美琴「言いなさい!!」

美琴の最後の言葉はほぼ怒号だった。

上条「外だよ」

美琴「なに?」

ずっと黙っていた上条が久しぶりに口を開いた。しかし彼がたった今言ったその意味を瞬時に理解出来なかったのか、美琴は怪訝な顔をした。
それを汲んだのか、上条は分かりやすいように更に言葉を付け加えた。

上条「御坂たちの友達が今、どこにいるか。彼女たちは……」





上条「学園都市の『外』にいる」





美琴黒子佐天初春「!!!!!?????」

381: 2010/07/04(日) 22:19:29.27 ID:At2rjnk0
美琴「何ですって!!??」

黒子「学園都市の……」

佐天「『外』……?」

初春「『外』ってつまり、学園都市にはいないってことですか!?」


上条「そうだ」


4人たちを見つめ、上条はきっぱりと重い声で言い切った。

一方通行御坂妹打ち止め「…………………」

美琴「な……な……」
美琴「ど、どうして? 何で学園都市の『外』なんかにいるの? い、意味分かんないわよ!!」

黒子「貴方の仰ることが本当だとしても、学園都市の外に出るのがどれほど難しいか承知していますか?」

上条「…………………」

上条は喋らない。まるで何か躊躇している感じだった。

一方通行「ふン」

そこへ御坂妹が上条の耳元に近付き、ヒソヒソと何事か囁き始めた。

美琴「!?」

御坂妹「ここから先は核心に迫ります。もし話し辛いならミサカが代わりに彼女たちに全てを打ち明けますが、とミサカは助言します」ヒソヒソ

上条「………いや。俺が首謀者だったんだ。俺が直接話さなきゃ、意味がない」ヒソヒソ

チラッと美琴を窺う上条。

美琴「!」

御坂妹「分かりました」

上条の耳元から御坂妹は離れる。

上条「……すまん待たせたな。こっからが大事な話なんだ」

美琴「……さ、さっさと言いなさいよ」

上条「ああ」

383: 2010/07/04(日) 22:24:32.63 ID:At2rjnk0
上条は1度、深く目を閉じる。ゴクリ、と美琴たち4人は喉を鳴らす。
そして上条が再び目を開けたと同時、彼は話し始めた。

上条「お前ら、最近こんな噂聞いたことあるか? 『学園都市内部で内紛が起こる』とか『学園都市のXデーは間近』だとか……」

佐天「……それなら、耳にタコが出来るほど聞きましたけど」

初春「学生たちの間でもよく流れてました」

黒子「ネット上の掲示板でもしょっちゅう見かけましたわね」

美琴「でも、それが何だって言うの? 所詮は噂でしょ? そりゃあ今、学園都市中でテロとか要人暗殺とか連発してるけど」

初春「そうそう。それで確か学園都市全校に休校措置がとられたままなんですよね?」

佐天「何でも今、学園都市には世界中のテログループや秘密結社、過激新興宗教団体、他にもどっかの特殊部隊だのが紛れ込んでる、って話だったっけ?」

思い出すように、美琴たち4人は噂の内容を語る。

上条「その噂は実は、俺たちが流したんだ」

美琴黒子佐天初春「え?」

4人の視線が一斉に上条に向けられた。

美琴「……ま、待って。…あ、あんたが発信元だったの?」

黒子「……言っておきますけど、事件やテロが起きてるのは事実ですが……上条さん、根拠の無い、人々を無駄にパニックに陥らせるような噂を流せば、場合によっては罪に問われますわよ」

上条「ああ、知ってるさ。ただしそれは………」


上条「  噂  が  嘘  だ  っ  た  場  合  だ  ろ  ?  」


美琴黒子佐天初春「!!!!!」

384: 2010/07/04(日) 22:29:27.94 ID:At2rjnk0
黒子「……どういうことですの?」

初春「まさか、その噂が実は本当だったとか……じゃ、ありませんよね?」

急に真剣な顔つきになる4人。しかしその表情はどこか不安気だ。

上条「そのまさかだ。噂は本当なんだ」

美琴「そんな!?」

佐天「じゃ、じゃあ……あの連日起こってるテロや要人暗殺は全て……」

上条「ああ。実際に学園都市に潜入してるテ口リストや秘密結社、特殊部隊、他にも傭兵といった連中が起こしてる」

美琴「……ウソ……」

上条「本当だ」

美琴たちは愕然としたような顔をする。取り敢えず彼女たちは上条の次の言葉を待っているようだ。

上条「過去にもそう言った連中は学園都市に潜んで人目のつかないところでチマチマと工作活動(サボタージュ)してたんだが……今回はその規模が違う。断言させてもらうが……」





上条「  学  園  都  市  は  、  じ  き  崩  壊  す  る  」






385: 2010/07/04(日) 22:35:03.46 ID:At2rjnk0
美琴「なん……」

黒子「…ですって!?」

佐天「は、はぁ? な、何言ってるんですか???」

初春「そんな見え透いた嘘はやめて下さいよ。この学園都市が崩壊?? あ、有り得ませんって」

4人は、上条が告げた真実を必氏に否定しようとする。しかし………

一方通行「……………けっ」

御坂妹打ち止め「…………………」

上条以外の人間に注意を向けてみると、何故か全員含みを持ったような顔で押し黙っている。

大人たちはどこかやり切れない、という感じで各々があらぬ方向を向いている。美琴たちが上条の言葉の真意を確かめようとする素振りを見せても、誰も視線を合わせてこなかった。
その行為は暗に、上条の言葉に真実味を持たせているようなものだった。

上条「ほら、お前ら、俺たちを倒すために監視衛星の管理センターを乗っ取ったって言ったろ?」

初春「!」

上条「あれは、センターのセキュリティが甘くなってたから乗っ取れたんだと思うが、それ以前にセンター自体がまともに機能してないんだよ。みんな、学園都市崩壊の兆しを察して、ある者は逃げ、ある者は仕事を放り出したんだ」

美琴黒子佐天初春「…………………」

唖然となる4人。

美琴「……ふ…ふふふふふ。何言ってるのあんた? 正気? 今まで何度もそう言った危機に遭ってきた学園都市が!! そんな簡単に崩壊するはずがないでしょう!? 世界が滅んでも、唯一生き残ってそうなこの街が……」

黒子「…お姉さまの言う通りですわ! どこから仕入れた情報かは存じませぬが、貴方がたのほうがその情報に惑わされている、といった可能性もあるでしょう!?」

初春「これ以上、お願いですから、私たちを小馬鹿にしないで下さいよ……」

佐天「そうだよ……。冗談にしても程があるよ……」

学園都市は彼女たちの生活の基盤、そして能力者である証。今後、長年付き合っていくはずである街が、人生とも直結する街が、崩壊するなど彼女たちにとっては最も考えられないことだった。
目の前にいる9人の誰かが「嘘だ」と言ってくれればそれでいい。それでいいはずなのに、誰も口を開かない。沈黙が続けば続くほど、上条の言葉に真実味が増してくる。

美琴「誰か答えてよ!!!」

しかし、誰も無言のままだ。

カエル医者「……君たちは……」

これ以上美琴たちを放っておけなかったのか、耐えかねたかのようにカエル顔の医者が口を開いた。

カエル医者「………君たちは、アレイスター=クロウリーと言う人物を知ってるかな?」

386: 2010/07/04(日) 22:42:03.85 ID:iIqeVyY0
カエル顔の医者はそれだけ質す。

美琴「……アレイスター……」

黒子「……クロウリー?」

佐天「…誰ですかそれ?」

初春「…外国の方ですか?」

カエル医者「君たちとも深い関わりがある人物だよ」

目を伏せながら、カエル顔の医者は説明を続ける。しかし、美琴たちは分からないようだった。

美琴黒子佐天初春「????」

カエル医者「この学園都市の、最も偉い人だよ」

黒子「…最も偉い? …と言うことは……」

美琴「統括理事長!!」

佐天「え!? そうなんですか? あたし、その人のこと一度も見たことありませんよ」

初春「……私も知りませんでした」

カエル医者「知らなくて当然。いや、能力者と言えど君たちのようなまだ普通の女子中学生は知らないほうがいい、と言えばいいのかな?」

美琴黒子佐天初春「??」

一方通行「オマエらとは住む世界の全く異なる人間だ。色ンな意味でな」

不意に、一方通行が発言した。

一方通行「あンなヤロウのこと、オマエらが無理して覚える必要は無ェ」

打ち止め「…………………」

美琴「………?」

腕組みをしたまま、明後日の方向に視線を向け呟く一方通行。
何故彼がこの地点で突然、話に割り込んだのか。それは分からなかったが、妙にその口調には美琴たち4人を気遣うような感じだった。
美琴は『絶対能力進化(レベル6シフト)実験』の件から、学園都市上層部が外道で腐り切っていることは知っている。しかし、それがどこまでの規模までかは知らなかった。もしかしたら一方通行は、その統括理事長に苦い思いを味わわされた経験があるのかもしれない。

美琴「……そ、それで、その統括理事長がどうかしたの?」

取り敢えず美琴は次を促してみた。

カエル医者「まあ、その男はずっと色々と怪しいプランを進めていたわけなんだけどね……」

388: 2010/07/04(日) 22:47:51.73 ID:iIqeVyY0
佐天「怪しいプランって何です?」

一方通行「………っ」ギロリ

佐天初春「ひっ」

佐天の言葉を聞いた途端、一方通行が彼女を睨んだ。まるで「興味本位で深く突っ込もうとするな」と言っているような目つきだった。

カエル医者「……やれやれ。まあそうなんだが、その男、ある日長年温めていたプランを全部放り出してしまってね。旧知の仲である僕でも彼が何故そうしたのかは全くもって分からない。ただ、彼のその突然の行為が原因で今の学園都市の惨状があるのも事実なんだ」

美琴「アレイスター=クロウリーね………」

まるで恨みが篭ったような声で美琴はその名を呟き、そして訊ねた。

美琴「そいつは今どこに?」

明らかに美琴の口調が変わった。彼女がここでアレイスターの居場所を聞いた意図は大体、予想がつく。

一方通行「…………………」

上条「…………………」

カエル医者「残念だが、君が動いたところで何も出来やしないよ?」

美琴「何ですって?」

一方通行「…………ふン」

カエル顔の医者の発言には2つの含みがあった。
それは、最強の超能力者・一方通行ですらアレイスターの前では手駒だったことを考慮した上でのこと。そしてもう1つ。





カエル医者「だって僕が彼を頃したからね」





美琴「………………は?」

395: 2010/07/04(日) 22:54:57.10 ID:iIqeVyY0
美琴「……は? は? えーーーーーーーっ!!!???」

カエル医者のあまりの唐突の告白に、美琴は間抜けな声で叫んでいた。

黒子「せ、先生が統括理事長を頃したと仰るのですの!!??」

カエル医者「ああ」

佐天「えーっと…それって……」

初春「事実上、学園都市のトップの人がいなくなっちゃったってことですよね?」

カエル医者「まあ、そうなるかな?」

美琴「(ゲコ太が人を……それも昔からの知り合いを頃したの?)」

佐天初春「へ、へぇ……」

普段、世話になっている名医が殺人を犯したという事実に衝撃を覚える4人。
しかし、彼女たちはアレイスターのほうについては深く考えない。どうも彼女たちにはアレイスターという人物が殺されることが、彼に振り回された人々にとってどれほど想定外のことなのか理解出来ないらしい。

カエル医者「全くもってふざけた話だよ。自分でこんな街を作って怪しいプランを立てておきながら、いきなりそれを放棄するんだ。その挙句、学園都市を崩壊させようだなんて、まるで遊びに飽きた子供が『いらない』と言って積み木をぶっ壊してしまうみたいなもんだ」

愚痴を零すようにカエル顔の医者は話を続ける。

カエル医者「だから彼の元まで行って真意を訊ねてみたんだよ。本当の理由は結局曖昧にして教えてくれなかったが、学園都市を破壊するのは本気だったらしくてね? 彼を無理矢理フラスコから出して、即効性の毒薬を注射させてもらったよ」

美琴黒子佐天初春「…………………」

4人は「フラスコって何? 科学の実験に使うフラスコのこと?」と言った表情を浮かべる。

カエル医者「僕自身、彼があんなにあっさり氏ぬとは思わなくてね? まあ彼は1度過去に大きな挫折をしてるからね。どんなに人智を超えたように見えても所詮は彼も人間だったということだ」

一方通行「俺は今もアイツがどこかで飄々と生きてて、身内で滅ぼし合ってるこの現状を見て平気で笑ってるような気もするがなァ……」

冗談では無く、さもありなん、といったような感じで一方通行は言う。

396: 2010/07/04(日) 22:59:45.09 ID:iIqeVyY0
カエル医者「まあ……数年後、どっかでバッタリ会いそうな気もするよね? ただまあ、この学園都市においてはもう彼自体の脅威は去ったと見てもいいだろう」

黒子「……しかし、現状は学園都市は毎日のように事件が起きている始末です」

美琴「結局はその統括理事長の思惑通りってことじゃない」

一方通行「そうだなァ。アイツの最後っ屁の処理なンてドロドロにクソ汚くてやりたくなかったが……」

ニヤニヤと笑ってそう語る一方通行を見て、美琴たちは嫌な顔をする。

打ち止め「あ、コラ! レディの前でそんな汚い言葉使わないの!」

一方通行「あ? 悪ィ悪ィ」

カエル医者「そうなんだよ。彼自体の脅威は去っても彼が残した脅威の芽は摘み取られていないんだ。だから……」





上条「だから俺たちがその残された脅威を取り除くために立ち上がったんだ」





上条が言った。右拳を握りながら……。

465: 2010/07/05(月) 21:48:21.38 ID:CEQvaq60
上条は言う。右拳を握りながら。

上条「だから俺たちがその残された脅威を取り除くために立ち上がったんだ」

美琴「……………(あいつ……)」

黒子「……そうですか。事情は大体分かりました。それで、その残された脅威の芽はやはりこの現状、そしてそこから導かれる『崩壊』という結末なのですか? 私たちとして、その辺りは詳しく知りたいと思っているのですが」

上条「分かった。それを今から説明する」

美琴たちは上条の言葉に耳を深く傾ける。

上条「アレイスター=クロウリー統括理事長がいなくなった以上、現在、学園都市に残ってる連中は所詮小物ばかりだ。だが、その小物が今は、全ての黒幕となっている」

美琴「全ての黒幕?」

上条「ああ」

黒子「それは一体誰ですの?」

上条「科学者たちだよ」

美琴黒子佐天初春「!」

黒子「科学者……つまりは研究者の方々ですか?」

上条「ああ。統括理事長も氏んで、統括理事会も殺されたり逃げたりして実質上機能が停止し、研究者の一部が暴走を始めたんだ。そこへ、他国の特殊部隊やら傭兵やらゲリラやらテログループだのが密かに学園都市崩壊の噂を聞きつけ、この機会を逃さんと学園都市に乗り込んで来て、テロや要人暗殺とか好き勝手やってるんだ」

佐天「それってつまり、研究者と『外』から来たテログループたちが争ってる、ってことですよね?」

上条「そうなるな」

初春「研究者の方々がどのように暴走しているかは知りませんけど、『外』から来た凶悪犯を止めようとしてるのは確かなんじゃないですか?」

上条「いや、そんな単純な構図でも無くてな」

御坂妹「『外』から来た凶悪犯たちと対立してるのは、自分たちの利益が失われるのを恐れてのことです。別に学生たちを守るといった使命感があるわけでありません、とミサカは説明します」

佐天「じゃあ、その研究者たちの利益って何です?」

上条「学園都市の学生たちだ」

美琴黒子佐天初春「?」

美琴「どういう……」

上条「アレイスターが残した脅威の芽。それは、学園都市に残った科学者たちにその権利を明け渡すことだった。その中身は『学生たちを自由にしてもらっていい』というふざけたもんだった」

美琴黒子佐天初春「!!!!!!!」

466: 2010/07/05(月) 21:54:30.98 ID:CEQvaq60
御坂妹「つまりは『学園都市の学生を使ってどんな実験をしても自分はもう知ったところではないから好きにしろ』ということですね。しかも学園都市の提携機関から密かに莫大な費用が支払われるとかで、私利私欲に走った研究者たちが血眼になって我先にその状況を確立しようと試みてるようです、とミサカは詳細説明します」

佐天「ちょ、ちょっと待って下さいよそれ!!」

黒子「そうですわ! 勝手過ぎます!!」

初春「人権無視にもほどがあります!!」

美琴「…………………」

彼女たちはまるで、上条たちが当の黒幕であるように攻め立てる。

一方通行「ふはは。こりゃァ傑作だわ…ククク」

黒子佐天初春「!」

その時、一方通行が笑みを零した。黒子と佐天と初春はそんな彼を睨む。対して、一方通行は気にしていない、という感じで組んでいた両腕をソファに広げるようにして言った。

一方通行「なァ、超電磁砲?」

美琴「…………………」

佐天「ふざけないで下さいよ! 何がおかしいんですか!!」

一方通行「オマエらの抗議があまりにも現実知らずだったからなァ。『人権無視』だと? この学園都市に自分で来ておいてよくそんなこと言えるなァ。ンなもン、この街の学生にあって無いようなもンだ」

打ち止め「アナタ!」

一方通行「事実じゃねェか」
一方通行「新手の詐欺ばりに胡散臭いキャッチコピーに惹かれてよォ……まだガキの身でわざわざ親元離れてこの学園都市にやって来たのはオマエらだろうがァ。それとも何だ? で、身に付いた能力はどうだ? オマエらに幸福だけをもたらしたのか?」

美琴「…………………」

一方通行「学園都市に来なけりゃ、暗部の世界に浸ったりスキルアウトになることも無かった連中がどンだけいると思ってる?」
一方通行「特に無能力者なンて可哀想だよなァ? そンだけしておきながら、周囲から期待を寄せられておきながら、なーンにも身に付かないなンて。来ただけ無駄、って奴だ」

佐天「あ…あたしはそんなんじゃありません……! 友達もたくさん出来ましたし……」

泣きそうな目で佐天が訴えた。

一方通行「ま、能力者だろうが無能力者だろうが関係ねェよ。オマエら……いや、俺たち学生はなァ『モルモット』なンだよ!!」

黒子「!!」

佐天「!!」

初春「!!」

一方通行の断言に、3人は絶句した。

468: 2010/07/05(月) 22:00:41.67 ID:CEQvaq60
初春「……そりゃ、私たちはある意味で学園都市の実験に付き合ってるってことになります。でも『モルモット』は言いすぎなんじゃないですか?」

一方通行「おい超電磁砲、あンなこと言ってるぜ、オマエの友達」

美琴「…………………」

俯き加減で美琴は一方通行を、そして次に御坂妹をチラッと見た。

御坂妹「………………」

一方通行「超電磁砲、オマエは知らないとは言わさないぜ。オマエは学園都市の闇の一端…『絶対能力進化(レベル6シフト)実験』に不本意な形とは言え関わってたンだからよォ」

美琴「………………」

御坂妹「………………」

打ち止め「………………」

上条「………………」

当事者たちの間に、彼らだけしか理解できない空気が流れる。
それを感じ取った黒子たち3人は、美琴から先日語られた『絶対能力進化実験』や『妹達』の中身を思い出す。

黒子「……だからとは言え」

一方通行「オマエらも、直接触れてないにせよ、その一端は垣間見たはずだ。『置き去り(チャイルドエラー)』の件でなァ」

黒子佐天初春「………っ」

木山「ふん」

彼女たちは思い出す。とある実験とそれが生み出した悲劇を。そしてその黒幕の女の言葉を。

一方通行「今更、何も知りませンでしたなンて面すンじゃねェ! この学園都市に来た時点で暗に分かってたはずだろうがァ! 自分たちは『モルモット』でもあるとなァ!!」

叫ぶ一方通行。

打ち止め「………………」

黒子たちは怯えるように僅かに肩を震わせたが、一方通行の怒りは本当は彼女たちに向けられたものではなかった。そんな彼を見て、打ち止めは悲しそうな顔を浮かべた。

上条「もうやめろ一方通行。あいつらに八つ当たりしても大人気ないだけだ」

打ち止め「そうだよ一方通行。お姉ちゃんたちに非はないよ、ってミサカはミサカはなだめてみる」

一方通行「………チッ」
一方通行「まァ怒鳴ったのは悪かったな。こっちも散々嫌な目に遭わされたからなァ。今になって簡単に全てを放り投げられて苛立ってただけだ」

黒子佐天初春「………」

469: 2010/07/05(月) 22:06:44.40 ID:CEQvaq60
美琴「……その苛立ち、ってのは私が接触してたスキルアウトにも向けたの?」

一方通行「あン?」

唐突に、美琴が一方通行に訊ねた。まるで何かを責めるように。

美琴「忘れたなんて言わせないわよ。私があんたたちの情報を得るために接触してたスキルアウトを見せしめに虐頃したのはあんたでしょ!!」

一方通行「………………」

美琴「何よ? 答えられないの?」

何も答えない一方通行を横目で窺っていた黄泉川が1つ溜息を吐くと代わりに話し始めた。

黄泉川「確かに、我々がスキルアウトを雇ってたのも事実だし、一方通行が奴らを虐頃したのは事実だ」

美琴「!」

黄泉川「だがあれは何もお前らへの見せしめのためじゃなかったじゃん」

美琴「え?」

黄泉川「これは私たちアンチスキルでも知らなかったことだが、奴らを雇って協力させてるうちに、奴らが今までこの学園都市でやってきたことが明らかになってな。何でも、仕事のためとはいえ、何の罪も無い一般の学生を頃してたことが発覚したじゃん」

美琴「あ……」

そう言えば、2週間前に上条たちと戦った時に、一方通行がそんなことを言っていた気がする。

黄泉川「そのまま放っておけば、また凶行を起こしかねない、と思って何とか私たちがアンチスキルの立場から対処しようとしたんだが、その前に……」

黄泉川が1拍置いて言う。

黄泉川「これ以上犠牲者が増えるのを危惧した一方通行が独断で奴らをヤりに言ったんじゃん」

一方通行「………………」

美琴「そ…そうだったの?」

黄泉川「気付いた時には時既に遅し。仕方がないから、私たちの部隊が取り敢えず奴らのアジトに突入するだけして、そこに落ちてた御坂の髪の毛を、お前らを動けなくするために利用させてもらったわけじゃん」

美琴「………………」

打ち止め「だから本当は一方通行はお姉さまたちへの見せしめのためにやったわけじゃないんだよ? まあそれでも勝手に動いて勝手に頃しちゃったのは早急すぎる機もするけど、ってミサカはミサカは一方通行にちょっと恐い顔で睨んでみる」

一方通行「ふン」

美琴黒子佐天初春「………………」

結局スキルアウトの虐殺は、美琴たちへの警告でも見せしめでもなく、一方通行が自分の信念に従った結果だったのだ。確かに、方法が過激だとは言え、これ以上無駄に学生たちの犠牲者が増えることがなくなったのも事実だった。

470: 2010/07/05(月) 22:12:30.54 ID:CEQvaq60
一方通行「まあいい。上条、話続けてやれ」

上条「ああ。……と、どこまで話したか」

御坂妹「研究者たちが利益のために動き始めてる、というところまでです、とミサカは耳打ちします」

上条「そうだったそうだった」

上条は話を再開する。再び美琴たちが彼の話に耳を深く傾ける。

上条「で、問題はここからなんだ」

美琴黒子佐天初春「?」

上条「対立する研究者と『外』から来た連中。これだけならまだ、分かりやすい構図なんだが、ある時この関係に変化が生じたんだ」

美琴「変化?」

上条「ああ。研究者の一部が、『外』から来た連中の一部と組みやがったんだ」

美琴「……? それって……」

上条「武力で勝てないと判断した研究者が、敵対してる連中に密かに呼びかけたんだ。で、即席とはいえ、利害の一致した一部の奴らが手を組み、その勢力が現在進行形で大きくなっている」

そう説明した上条だったが、美琴や黒子は不思議そうな顔をした。

黒子「……いえ、おかしくありませんか? 元々『外』から来た方々は、学園都市のやり方や存在が気にいらずに破壊工作を行っていたのでしょう? 研究者たちと手を組むなんて、仲間を裏切る行為ではありませんか?」

上条「言ったろ。利害が一致したんだ。何も『外』から来た連中が全員、信念を持って学園都市の破壊活動を行ってるわけじゃない。と言うのも、中には雇われただけの人間も多いからだ。他にも、嫌々付き合わされてる奴もいるはず」
上条「研究者たちはその隙をついた。何しろ、学園都市の秘密技術も手に入れられるし、人によっては憎しみの対象だった能力を持つ学生を『実験の協力』を建前に、自分の良い様に出来るんだ。そればかりか、研究者側の仲間になれば、学園都市提携機関からの莫大な投資の恩恵だって貰うことが出来る。そうして、研究者たちは一部の寝返ったテログループ、傭兵、ゲリラ、特殊部隊隊員、秘密結社メンバーなどと多国籍の一代勢力を築きつつあるってわけだ」

それが学園都市の現状だった。
目を丸くして話を聞いていた美琴たちは、やがて各々が思っている感想を口に述べた。

美琴「何よそれ……。結局、自分の目的より金のほうが大事、ってこと?」

佐天「腐ってますね思考が」

御坂妹「まあお姉さまの言う通りですね。でも、当然ながらいまだ研究者側と対立する組織も多いです。これからはその2者の衝突も増えることでしょうね、とミサカは推測してみます」

黒子「信じられませんわ。私たちの知らない間にそんなことになってたなんて……。当の学生は蚊帳の外ですか」

初春「結局、私たちは研究者の人たちに好き勝手されるか、『外』から来た人たちに殺されるのかの二者択一しかないんですか?」

悔しそうな表情を浮かべる黒子に対し、初春は今にも泣きそうだ。美琴と佐天は今にも怒り出しそうな雰囲気がある。

上条「だからだよ。そんなふざけた争いに巻き込まれないように、俺たちは学生たちを誘拐して学園都市の『外』に逃がすようにしたんだ」

美琴「……でも、いくら何でも『外』まで逃がすだなんて大袈裟じゃ……。それともいつか戻ってくるの?」

471: 2010/07/05(月) 22:19:08.31 ID:CEQvaq60
上条「違う。初めに言っただろ? 『学園都市は、じき崩壊する』って。もう、終わるのが決まってるんだよ」

黒子「そんな根拠の無い……」

佐天「そうですよ。やっぱり学園都市が崩壊なんて信じられません」

上条「敢えて言うなら現状が根拠だ。それに……恐らく1ヶ月ぐらい先だろうが、研究者側が対立する全ての組織に総攻撃を加える計画情報も掴んでる。そうなりゃもう学園都市はもたない」

美琴「研究者研究者言ってるけどさ、私たち学生をどうにかするにしても、対立する組織に総攻撃を加えるにしても、ただの実験しか出来ない人たちに何が出来るって言うの? 手を組んだ過激派連中に裏切られて銃で撃たれたら終わりじゃない」

当然の疑問を放つ美琴。しかし、そこで会話が途切れた。

美琴黒子佐天初春「?」

急に誰も返答を寄越さなくなったのだ。美琴たちはそんな上条たちを見て不審を覚える。

美琴「な、何よ? みんなして急に黙っちゃって……」

上条「御坂、もう研究者たちは“ただの”研究者じゃないんだ……」

やがて、上条が口を開いた。

美琴「はぁ?」

カエル医者「きっと彼ら、アレイスターから何らかの助言を受けたんだろうね?」

上条「ぶっちゃけ言わせてもらうとだが……」




上条「一部の研究者たちが能力者になってるんだ」




美琴黒子佐天初春「!!!!!!??????」

474: 2010/07/05(月) 22:24:28.53 ID:CEQvaq60
美琴「は? ど、どういうことよそれ!?」

黒子「嘘は仰らないで下さいません!? 能力は学生しか得られないものでしょう?」

カエル医者「そうとも限らないんだよね? 一応年齢制限は設けてるだけで。ただ実際に試した大人がいなかったから、どうなるかは分からなかったんだよ? 危険もあるだろうしね」

初春「でも能力者になるには『自分だけの現実(パーソナル・リアリティ)』を認識することが必要不可欠じゃないですか!?」

佐天「そ、そうだよ。研究者の人たちはそれを認識した上で能力者になったとか言うの? いや全然信じられないですけど」

4人は狼狽するように反論する。
彼女たちにとって、『能力者』であることは学園都市の学生でもある証なのだ。それを、同じ街の住人とは言え、今まで能力に目覚めてなかった大人たちに横取りされるのは信じたくなかったのだ。

上条「そこまで詳しいことは分かってない。ただ、俺たちは実際に能力を使った研究者もこの目で見てる」

美琴黒子佐天初春「………………」

一方通行「アレイスターのヤロウが何らかの反則的な助言を研究者どもにしたのは確かだな。ま、中には能力使って自爆したヤツもいたし、俺たち学生が使うようなものほど洗練されてなくて不安定なのは見て分かる」

上条「問題はその即席で能力を手に入れた研究者たちが、いち早く『実験材料』を得るため密かに学生たちを拉致してることだ」

美琴「………拉致?」

ここで止まっても意味は無いので、美琴は訊ねてみた。

上条「ああ……報道もされてないが、今現在も研究者たちに拉致されてる学生がいる」

美琴「それって……」

黒子「そんなこと知りませんでしたわ……。それは本当ですの?」

上条「本当だよ。分かっただろ? 学園都市の現状が。こんな酷いことが実際に行われてるんだ。上層部の連中がいなくなって暴走してんだよ」

初春「じゃあもう……私たちは、実験材料にされるか、『外』から来た人たちに殺されるかないじゃないですか……」

絶望したように初春が言葉を震わせて言う。彼女に影響されたのか佐天も顔を蒼ざめた。

上条「だからこそ、だ。だからこそ俺たちが学園都市の学生を『外』に逃がしてるんだ」

その一言に、美琴たちはまたも押し黙る。

一方通行「最初はよォ、何とかして研究者どもを止めようと思ったンだわ。で、出来る限り戦力集めて対策も練りに練ったンだよ。が、想像してた以上にヤツらも強くてなァ……。ま、簡単に数の差ってのもあるンだが、圧されに圧されて今じゃ、俺たちの組織も弱体化したってわけだ」

佐天「警備員(アンチスキル)は?」

一方通行「ン?」

初春「そ、そうですよ! 警備員(アンチスキル)は何をやってるんですか!?」

475: 2010/07/05(月) 22:30:25.04 ID:CEQvaq60
自然に彼女たちの視線が、左端の2人に注がれた。

黄泉川「…………………」

鉄装「……そのことだけどね」

佐天と初春に訊ねられ、鉄装が何か説明しようとしたが、それより先に黄泉川が懐から1つの紙を取り出しそれを広げて見せた。

美琴「何ですかそれ?」

黄泉川は目を瞑ったまま説明を始める。

黄泉川「アンチスキルの情報部に密かに回された命令書じゃん。『アンチスキル第73活動支部・黄泉川一等警備士、鉄装二等警曹、および右の者が指揮する中隊に注意されたし』」

美琴「どういう意味ですか?」

鉄装「つまりね……」

黄泉川「アンチスキル上層部も、研究者たちとグルってわけじゃん」

美琴「なっ!?」

黒子「そんな馬鹿な!?」

黄泉川「アンチスキル上層部の動きが怪しいと踏んで、密かに探りを入れてたのがアダになったじゃん。確証までは得られてないだろうが、私たちが上条たちの仲間であることは、ある程度バレてるかもな」
黄泉川「結局はそういうこと。街の治安を司る組織の上の連中まで奴らに与してたなら街の安全なんて、ろくに守られないも当然」

4人は驚愕したように言葉を失くす。しかし美琴は何かを思いついたように訊ねた。

美琴「ちょっと待ってよ……。それってつまり、黄泉川先生の部隊はアンチスキル上層部と対立してるってことですよね?」

黄泉川「そうだが?」

美琴「つまりは、学園都市の『外』に学生たちを逃がしてるのも大体バレてるのよね?」

黄泉川「……まあ、恐らくはそうなんじゃないのか?」

美琴「なら、どうしてアンチスキルは、私たちが謹慎を受けた時、私を支部へ移送してまで束縛しようとしたの?」

黒子「…確かに、立場が違うとは言え『誘拐犯を追っていた』のは事実。もしかしたら私たちから有力な情報を得られたかもしれないのに。逆効果になるようなことをしてますわね」

美琴に続き、黒子も疑問を口にしてみる。

黄泉川「支部へ移送を決定したのは私だ。うちの支部はまだ上層部に掌握されてなかったし、潜り込んでる敵のスパイも少数だったから、何なら御坂を一時的に私の目が行き届く支部で預かろうと思っただけじゃん」

美琴「なっ………」

黒子「ハァ…。まあ大方分かりましたわ。どちらにしろ、固法先輩たちは今も『外』で生きているのですね?」

476: 2010/07/05(月) 22:36:25.79 ID:CEQvaq60
上条「ああ、そこは安心しろ。日本政府がバックについているNGOとかの連合団体が彼女たちをちゃんとした施設で匿ってる。だから心配するな」

その言葉を聞き、黒子たちは表情を緩ませた。

佐天「良かったー」

初春「ホッとしました~」

黒子「取り敢えず、先輩たちの安否を確認出来ただけでも一安心ですわね」

3人は本当に安堵したかのように顔を見合わせ、笑顔を浮かべる。
しかし、1人だけはまだ納得出来ないような顔をしていた。

上条「どうした御坂?」

美琴「…………………」

上条「まだ聞き足りないことがあるか?」

美琴「ねぇ………」

俯き、膝に置いた拳を握りながら美琴は言う。

上条「?」

美琴「つまりは、あんたたち、学園都市の学生たちをこれから起こる惨状から回避させるために誘拐してたのよね?」

上条「? そうだけど?」

美琴「なら1つだけ提案があるんだけど……」

黒子「お姉さま?」

佐天初春「御坂さん?」

477: 2010/07/05(月) 22:41:30.01 ID:CEQvaq60
美琴は顔を正面に据える。

一方通行「(まさか……)」

打ち止め「(もしかして……)」

御坂妹「(お姉さま……それだけはいけません……)」

何かに気付いた一方通行たちが不安を抱くように美琴の顔を見た。
そんな彼らの心中など気付くはずもなく、美琴は言った。




美琴「私たちにも、協力出来ることない?」




上条「!!!!!!」

不適に笑みを浮かべて美琴は訊ねた。

美琴「ね? どうかな?」

黒子「それは確かに、いいかもしれませんわね。私たちも何かお力添えが出来るかもしれません」

佐天「ですよね! 協力するには人が多い方がいいでしょうし」

初春「私もそう思いますね」

新たに飛び出した目標を前にして、美琴たちは嬉しそうだ。しかし、対する9人の表情は硬い。
そんな中、上条は黙って目の前の4人たちを見据えていた。彼は思う。

上条「(これを恐れてたんだ……)」

478: 2010/07/05(月) 22:47:09.96 ID:CEQvaq60
美琴は言う。自分たちも協力したい、と。
現状を知り、驚き、または絶望した彼女たちが提案したのは上条たちへの協力だった。
しかし、僅かに希望を抱き始めた美琴たち4人に対して、事情をよく知る上条たち9人の雰囲気はまるで異なる。どうも、望まぬ形が展開されていることに危惧を覚えているようだった。

御坂妹「本気で言っているのですかお姉さま? とミサカは訊ねてみます」

上条「…………………」

美琴「あぁー? そう言ったじゃない。あんたたちは学園都市を守るため、私欲に走った研究者たち相手に戦ってきたんでしょ? なんなら話は簡単。私たちは戦力になるわ。だから、協力する」

どや顔で美琴は自分の胸を叩いた。
御坂妹は上条は見る。どうやら黙ったまま何か考えているようだ。

黒子「お姉さまは学園都市第3位のレベル5ですからね。これほど頼もしい人材もいないでしょう。私もレベル4ですが、出来ることはあるはず」

初春「私は戦えないですけど、後方支援とかなら出来るかもしれません」

佐天「あたしはそうだなー……バット持って特攻とか? お願いですからあたしだけ仲間外れは嫌ですよ」

もうその気になっているようで、4人は好き勝手に自己アピールを始めている。
御坂妹は相変わらず黙ったままの上条を横目で見、そして彼の頭越しに一方通行と視線を交わした。

一方通行「アホかオマエら。誰がオマエらなンて戦力に入れるなンて言ったよ」

美琴黒子佐天初春「!?」

急に一方通行が4人を突き放すような発言をした。

美琴「な、何よそれ? どういう意味?」

黒子「私たちが役に立たないとでも?」

一方通行「相手は、ただの研究者じゃねェンだぞ。俺たちみたいに能力を得てやがるンだ。しかもなァ、厄介なのはそれだけじゃねェ。アイツら、仲間に『魔術師』も加えてやがるンだぞ」

は? というように美琴たち4人の顔がキョトンとなった。

美琴「魔術師?w」

上条「…………………」

一方通行「さっきは言及しなかったが、学園都市には今、魔術師も潜り込ンでやがるンだ。それも結構な数のな。上条によると、魔術世界は無事平定されたようだが、個人個人は関係ねェらしい。無国籍無所属の魔術師どもが今を機に学園都市の中を蠢いていやがる。しかもソイツらの一部も研究者どもと手を組ンだって話だ。危険極まりない状況なンだよ」

美琴「あんた魔術とか何言ってんの? 正気?」

黒子「この学園都市で魔術とか、何を言っているのやら」

馬鹿にするように言う美琴と黒子。
彼女たちは科学一辺倒の学園都市で暮らしているのだ。オカルト的なものを信じられないのは無理も無い。

484: 2010/07/05(月) 22:54:10.37 ID:CEQvaq60
一方通行「そりゃァオマエ、俺だって初めて魔術を見た時は信じられなかったぜ。だがなァ、ソイツらが学園都市に今潜ンでるのも事実だ。ま、信じたくねェなら信じなくても構わねェがな」

美琴黒子佐天初春「?」

御坂妹「補足だけしておくと、お姉さまたちの周りに魔術めいた雰囲気を持つ方はおられませんでしたか? あるいは今までに魔術に関わるような単語をどこかで見たとか聞いたとか、とミサカは訊ねてみます」

そう言われても美琴たちはピンと来ない。が、思い出してみると確かに科学では説明出来ないような話を聞いた覚えが何度かある。それに、随分前に学園都市が世界から宣戦布告を受けた時、学園都市は『世界には魔術の名を語る科学的超能力開発機関がある』とか言っていた気がする。あれもその1つなのだろうか。

美琴「(あ……そう言えば……)」

美琴は思い出す。いつも上条の側にいた銀髪碧眼の外国人のシスターのことを。
そう言えば、彼女はただの修道女だけに収まらない雰囲気を持っていたような覚えがある。まさか彼女も………。

一方通行「あァ…まァ、今はそンなのは関係ねェ。どちらにしろ、オマエらの協力はいらねェ。オマエらのお守りなンてゴメンだからな」

美琴「なっ!」

黒子「……どういうことでしょうそれは?」

一方通行「オマエらの戦力はアテにならねェ、って言ってンの。一言で分かれ」

佐天「はあ? 何言ってるんですか貴方は。あたしはともかく、御坂さんや白井さんは力になるでしょう」

初春「わ、私もいたら心強いと思いますよ!」

一方通行の言葉にカチンと来たのか、彼女たちは各々抗議の声を上げた。

一方通行「黙れ!!!!!」

美琴黒子佐天初春「!!!!!」

一方通行が一喝した。美琴と黒子は言葉を詰まらせ、佐天と初春は肩をビクと震わせた。

一方通行「オマエらは何も知らねェからそンなことが言えるンだ。今まで俺たちがどれほどの犠牲を出してきたか、分かンのか? 本来ならここにいる主要メンバーも倍はいたンだぞ」

美琴たちは目の前にいる9人の顔を見やる。
誰もかれも、何も発せずあるいは視線を逸らしてあらぬ方向を見ている。現在の会話の進行は上条たちに任せているようで、自ら何かを発言しようとする雰囲気は無い。

一方通行「義妹を無事『外』に逃がしたはいいが力尽き氏んだバカヤロウ、かつての仲間たちを逃がすために氏んだ哀れな女、テメェが惚れてる女の世界を守るために氏んだキザ男。どれだけいると思ってやがる?」

打ち止め「または、旧友の研究者を止めに行ったけど殺されちゃった研究者、とかね……」

黄泉川「生徒たちの無事を祈って非力ながら私たちに手を貸したってのに、何も出来ないまま銃で撃たれた不器用な教師もいたじゃん……」

一方通行「とある無能力者の男とレベル4の女は無事『外』に逃げれたが、あれは例外だ。これ以上俺たちに協力するのが難しい状況に追い込まれたから、アイツらだけは先に『外』に逃げるよう俺たちが促したンだ。まァ、その過程でソイツらと親しかったレベル4の女が命落としてるけどなァ」

美琴黒子佐天初春「…………………」

一方通行「いずれにせよ、オマエらがアイツらの代わりになれるとは思わねェな」

491: 2010/07/05(月) 23:02:18.25 ID:zqNzPm.0
一方通行は断言する。
しかし、美琴たちはそんなことで諦めない。そもそも彼女たちは今、一方通行たちがその名を挙げた人物たちがどれほどの強さを持っていたのか、どれほどの実力者だったのかを知らない。だから彼女たちには一方通行たちが自分を馬鹿にしているように思えた。

美琴「随分と見下してるわね……」

黒子「よっぽど私たちが邪魔なのでしょうか?」

初春「私たちこれでも4人で修羅場は潜り抜けてます」

佐天「そうだよ。グラビトン事件とかレベルアッパーとか、ポルターガイストとか」

一方通行は頭に手を置き、またそれか、と呟く。

一方通行「分かった。明言してやる。オマエらが経験してきた修羅場なんて、所詮放課後のクラブ活動みたいなもンだ」

美琴「なっ!?」

佐天「クラブ活動ですって!?」

初春「ば、馬鹿にしないで下さい!」

黒子「どこをどう見たらクラブ活動になるのかお教えして頂きたいですわね!!」

一方通行「前も言ったと思うが……オマエらは本当の修羅場を知らない」
一方通行「だが…俺も、そしてこいつも……」

一方通行は親指で隣の上条を指差す。

上条「…………………」

一方通行「オマエらとは比べられないほどの氏線を掻い潜って来た。何度も何度も氏にそうになってなァ。今まで氏ンで行ったヤツらも同様だ。学園都市の暗部で、毎日氏と隣り合わせの極限の生活を送っていやがったほどの連中だ。そンなアイツらでさえ、簡単にくたばったンだぞ? オマエらがアイツらの代わりになれるかボケ」

美琴「好き勝手言って……」

一方通行「そンな俺からしたら、オマエらのやって来たことなンてガキどものクラブ活動にしか見えないンだよ。『暗部』の『あ』の字でさえ知らない、そこら辺の中学生に毛が生えたようなヤツらを仲間になンて出来るか。1日で氏ンじまうのが目に見えてるぞ」

黒子佐天初春「………っ」

4人は怒りを露にしたような顔を見せるが、一方通行は特に気にする素振りを見せない。

美琴「ふん。随分偉そうにしてるけど『暗部』を知ってるレベル5があんただけだと思ってんの?」

一方通行「じゃあ逆に聞くが、オマエは他のレベル5のほとンどが俺みたいに『暗部』にドップリ漬かってたって知ってンのか?」

美琴「え?」

御坂妹「お姉さまは恐らく、ミサカたちの存在や『絶対能力進化実験』について仰られているのでは?」

美琴「そ、そうだけど……何よ?」

503: 2010/07/05(月) 23:09:13.95 ID:zqNzPm.0
御坂妹「残念ですが、あれだけでは『暗部を知り尽くしている』ことにはなりません。ほんの少し触れただけです、とミサカは睨むお姉さまに対して反論します」

美琴「あんた……」

まさか実験の被害者側だった御坂妹からそんな言葉が出るとは思わなかったのか、美琴は信じられないという顔を作る。

御坂妹「それにお姉さまがたは、何故ミサカたち……いえ、上条さまと一方通行がお姉さまたちのご学友たちを『誘拐』と称してまで学園都市の『外』に逃がしていたのか。その理由が分かりますか?」

美琴「え? 何よそれ?」

黒子「どういう意味ですの?」

初春「何か理由があったんですか?」

佐天「は、早く説明してよ」

御坂妹「元々、ミサカたちは暴走した研究者たちを止めるために仲間を集めて戦っていました。ですが、犠牲が増えたことでそれも難しくなり途中で方針を変換したのです。出来るだけ多くの学生を『外』に逃がす、という風に」

美琴「だからどうしたって言うのよ」

御坂妹「初めはランダムに選んだ上で学生たちを『外』に逃がしていました。それなのに、です。不思議に思いませんでしたか? 最近はお姉さまたちのご学友の方々ばかりが誘拐されるのが」

美琴「あ……」

佐天「確かに……固法先輩に、泡浮さんに、湾内さんに、婚后さんに……」

初春「確かに皆さん、私たちと親しい人たちですよね」

佐天「元々、あたしたちの友達の仇を討とう、と言うことで独自に調査を始めたんだよね」

黒子「では何故、私たちの友達ばかり逃がしたんですの?」

御坂妹「それは……」

御坂妹は上条と一方通行を一瞥する。

上条一方通行「…………………」

御坂妹「……まぁ、元は上条さまの提案に一方通行が賛同して始まった形だったんですが……」




御坂妹「お姉さまがたが『外』に行っても、寂しくないようにとの配慮です」




美琴黒子佐天初春「え?」

517: 2010/07/05(月) 23:15:45.47 ID:zqNzPm.0
御坂妹「いずれお姉さまも、白井さまも、佐天さまも、初春さまも、4人ご一緒に学園都市の『外』に逃がす算段は整えてあります。その時、お姉さま方が少なからず寂しい思いをしないようにと、特に親しかったご学友の皆様を予め『外』に逃がしていたのです。上条さまと一方通行の方針によって」

美琴「は……あ?」

上条一方通行「…………………」

呆然とする美琴たちに、上条と一方通行は何も答えない。
上条は膝の上で手を組んだまま視線を逸らし、一方通行は下らない、といった表情で虚空を眺めている。

御坂妹「お姉さまのご学友、および今まで我々が逃がしてきた学生たちは全て氏んだことになっています。あくまで、学園都市内部に限った話ですが。研究者たちはより良い素材を実験に使用したいため、学園都市の学生たちのデータを躍起になって集めています。ならば、いっそのこと『外』に逃がした学生たちは氏んだことにするほうが都合が良いのです」

打ち止め「そのためにわざわざ、ミサカたち仲間内で隠語を作ったりもしたんだよね」

美琴「隠語?」

打ち止め「うん。現在の学園都市の状況を元に、学園都市の『中』を『地獄』と称したり、『外』を『天国』とか『楽園』とか称したり。他にも、学園都市という壁に囲まれた世界で能力開発を受けた学生を『養殖魚』って言ったり、それに対して学園都市を『生簀』と言ったり、『外』を『海』とか言ったり、逃がす対象の学生を『目標(ターゲット)』って言ったり…後は『外』に逃げることに成功したことを『氏んだ』って暗喩したり、ってミサカはミサカは色々ぶっちゃけてみる」

御坂妹「まあ、それだけしないと、ミサカたちのやってることは敵に勘付かれて失敗しかねないと判断したのです。ただ、22番目に『外』に逃がした学生が、週刊誌の記者から取材を受けたことを知った時は冷や冷やしましたが……」

美琴「………………」

御坂妹「まあ話を戻しますが、そういった理由から学園都市での書庫(バンク)などのデータベースでは、お姉さまたちのご学友は皆氏んだことになっているのです、とミサカは説明を続けます」

美琴「………」

御坂妹「本当は色んな状況下において氏を偽装するのが1番だったのですが、最後にはそんな余裕も無くなってしまって……。固法さまは何とかテロの爆発に巻き込まれて氏んだように見せかけましたが、泡浮さまと湾内さまからはもう、無理矢理彼女たちを連れ出して、表向き『誘拐された末氏亡』とさせて頂いているのです」
御坂妹「もっと余裕があれば多くの学生たちを助けられたはずなのですが……時間も無かったので、お姉さまたちのご学友を集中して『外』に逃げ出すようにしたんです、とミサカは説明します」

美琴「方法なんて知らないわ」

御坂妹「は?」

御坂妹によると、上条たちが美琴の友人を集中して誘拐していたのは、彼女たち4人が『外』に逃げた時のためだと言う。要するに、『外』で生活を始めるにあたって、少しでもそれが寂しいものにならないようにとの配慮だったのだ。
だが、美琴たちは納得出来ない。勝手に自分たちを逃がすと決めていたことも腹が立ったが、何よりそういったふざけた配慮をされたのが見下されたように思えるのだ。

美琴「何で…もっと早くそれを言わなかったのよ?」

黒子「そうですわ。もっと早くに言っていれば、こんなややこしい事態にはならなっかたはずでしょう?」

御坂妹「それは……」

言い淀む御坂妹。

一方通行「オマエらに言うと、今みたいに真っ先に『協力する』って言いかねないからだよ」

御坂妹に続くように一方通行が言った。

525: 2010/07/05(月) 23:23:34.50 ID:zqNzPm.0
佐天「それの何がいけないんですか!?」

一方通行「確かに、超電磁砲の威力は脅威的だし、テレポーターの能力も便利だ。だが、俺たちがオマエらの協力を拒む理由は単に力の強弱だとか経験してきた修羅場の質だとかそれだけじゃねェンだ。この件は学園都市の闇にも繋がってる」

美琴「だから何? だったら関わるな、って言うの!?」

一方通行「ああそうだよ! 超電磁砲、オマエは7人のレベル5の中でも珍しく『暗部』に関わっていない、普通の世界で生きてやがる。これが、レベル5の人間にとってどれほど例外で羨ましいことか分かるか?」

ずっと低い調子で話していた一方通行が美琴を見据える。

美琴「で、でも私だって、私だって……」

一方通行「『妹達』のことがどンだけ外道か、どンだけ腐り切ってるのか、そンくらい痛いほど分かってンだよ!!」

御坂妹「………………」

打ち止め「………………」

一方通行「だが逆に言うとなァ、オマエはそれだけだ。オマエが関わった学園都市の闇なンてまだ僅かでしかない。俺のように『暗部』にドップリ漬かってる人間とは違ってなァ!! だからこそオマエは、ソイツらと!」

黒子佐天初春「!」

一方通行が黒子と佐天と初春を指差す。

一方通行「ソイツらと! 普通の女子中学生らしい生活が送れてンだ!! それを分かれよ!! 闇に生きる人間たちにとって、オマエの住む世界がどンだけ光輝いて見えンのか考えたことがあるか!?」

美琴「あ……う……」

一方通行「そンなオマエらが!! わざわざ闇に寄り添ってまで、命を危険に冒すなンてふざけてンのにも程があるだろうがァ!!!!!」

打ち止め「一方通行、落ち着いて」

息を荒くした一方通行に、打ち止めが寄り添うように止めに入る。

530: 2010/07/05(月) 23:28:39.66 ID:zqNzPm.0
カエル医者「そしてそれは、上条くんや一方通行だけの願いじゃない。僕たち大人にとっても同じことなんだよ?」

美琴黒子佐天初春「…………………」

黄泉川「子供を守るのが大人たちの役目じゃん」

鉄装「ですよね」

寮監「お前たちの安全を見守るのも寮監としての務めだしな」

一方通行の勢いに圧されたのか、大人たちも次々と口を開く。

木山「君らの幸せな生活は枝先や春上の希望ある人生にも関わっている。よって、彼女たちも既に『外』に逃がしている」

初春「えっ!?」

御坂妹「それだけでなく、佐天さまと初春さまのご学友3名も先日『外』に逃がしました」

佐天「それってまさか……アケミとむーちゃんとマコちんのこと?」

初春「そんな……いつの間にそこまで……」

美琴黒子「……………」

あまりの手際の良さに、4人は感心するというよりも、ただ呆然とするだけだった。

寮監「僭越ながら私も今まで出来ることをやらせてもらっていた。『外』に逃がすことが決まった常盤台生徒の詳細資料を上条たちに渡したり、とな。結局、逃がせたのは泡浮、湾内、婚后の3人だけだがわがままを言わせてもらうと、寮の生徒全員、逃がしてやりたかったな……」

黒子「寮監……」

美琴「じゃ、じゃあ何で? それなら事情だけでも説明してくれてもいいじゃない!? 何であんな突き放すようなことしてたのよ!?」



上条「お前らを守るためだ」



美琴「…………え?」

532: 2010/07/05(月) 23:33:47.31 ID:zqNzPm.0
ふと、上条が口を開いた。

上条「実は、学生たちを『誘拐』と称して『外』に逃がしている活動の途中にな、敵側から警告があったんだ」

美琴「警告?」

上条「ああ。『これ以上我々の研究材料である学生を逃がすような真似をすれば、その学生を容赦なく頃す』ってな」

美琴黒子佐天初春「………!?」

上条「初めは『外』に逃がすと決めていた学生には脱出についての詳細を予め話してたんだが、その警告を機に出来なくなってな。無闇やたらに前もって学生と会っておくのは危険と判断して、それからは誘拐じみたことをやってその脱出道中で真相を話すようにしてたんだ」

美琴黒子佐天初春「………………」

上条「だけど、警告を受けた時、ちょうど『外』に逃がす予定の1人の女子学生がいたんだ。その子はとても心配性でな、急に脱出に関する情報を得られなくなった上、俺たちとも接触出来なくなったことで不安に駆られたんだ。で、それを見かねた俺たちの仲間の1人が、その子に事情を説明した上、脱出の内容についても話しちまったんだ」

美琴「………それで、その子どうしたの?」

上条「…………………」

そこで上条が言葉に詰まった。

美琴「?」

代わりに、一方通行が口を開いた。

一方通行「氏ンだよ」

美琴黒子佐天初春「…………え?」

一方通行「その女子学生は脱出予定日の数日前に、親友にもう会えないことを示唆するようなこと言っちまったンだ。で、それがどんなルートで漏れたのか知らねェが、敵の研究者たちにその女子学生の存在がバレちまった。それで、運悪くソイツは殺されちまったンだよ………」

美琴「そんな……」

一方通行「で、『責任を持って俺が彼女をずっと守る』とかそンな臭いこと言って、女子学生と懇意になってた俺たちの仲間も、女子学生の側にずっと付いてたンだが、それでもヤツは守りきれなかった……。守りきれず、2人は一緒に氏ンじまったンだよ………」

打ち止め「……2人は『外』へ出たらもう1度、改めて一緒に生きていこう、って約束してたの。ミサカたちもみんな、そんな2人を暖かい目で見守ってたんだけど……だけど……だけど……」

美琴黒子佐天初春「…………………」

美琴たち4人は、一方通行の話を聞き、言葉を失くす。彼女たちの目元はその話を聞いて潤んでいるように見えた。

一方通行「笑っちまうよなァ? 普段は『根性だ気合だ』って叫んでうるさかったヤロウが、1人の女守るためにあっけなく氏ンじまうンだからよ………」

言葉とは裏腹に、一方通行の声は静かだった。

547: 2010/07/05(月) 23:40:40.41 ID:zqNzPm.0
御坂妹「だから我々は決めたんです」

美琴「!」

御坂妹「これ以上同じような犠牲を出さないために、そしてお姉さまたちをそのような危険な目に少しでも遭わせないように、敢えて口を閉ざし、なるべくお姉さまたちと接触しないようしていたのです」

美琴「…………………」

御坂妹「そもそも、学園都市がまた元の状態に戻れば、お姉さまたちを『外』に逃がす必要は無いのです。だから敢えて、学園都市の闇にも繋がる我々の活動にお姉さまたちを巻き込まず、全てが元の鞘に終われば一番だったのです。ですが、学園都市が元に戻る可能性は既に低く、お姉さまたちも我々の想定以上の動きをし、挙句、上条さまと一方通行を倒してまで、真実を知ってしまいました」

美琴黒子佐天初春「………………」

御坂妹「それは仕方の無いことです。ですが、これだけは伝えておきます……」

美琴黒子佐天初春「?」

御坂妹「お姉さまたちに真実を語らなかったのは、これ以上『外』に逃がす学生たちが同じ目に遭わないようにと情報漏えいを危惧してのこと。そしてお姉さまたちを冷たく突き放さそうとしたのも全て、敵側に我々との接触を疑われてお姉さまたち4人が狙われるのを避けるためだったのです、とミサカは打ち明けます」

一方通行「本当はオマエらを完膚無きまでに叩きのめしたら諦めると思ったが、逆効果だったようだな……」

御坂妹「ミサカも一方通行も方法が過激だったのは自覚していますが、それらは全てお姉さまたちの安全を思ってのことなのです、とミサカは申し訳無さそうに語ります」

黄泉川「お前らを謹慎してたのも、敵からの襲撃から守るためだったが、寮から逃げ出した時は冷や冷やしたじゃん。ま、敵がお前らに疑いの目を向けなかったから結果、良かったがな」

美琴黒子佐天初春「…………………」

4人は絶句する。
何ということだろうか。結局、上条や一方通行たちが美琴たちに再三警告し、突き放し、冷たくし、その強大な力を容赦無く振るったのは、美琴たち4人が目障りで邪魔だったからではなかったのではなかったのだ。寧ろ逆に彼らは美琴たちを守るために再三警告し、突き放し、冷たくし、強大な力を容赦無く振るっていたのだ。

そう、全てが、逆だったのだ。
真実を話せば、美琴たちは必ず協力を申し出てくるのは予想の範疇だった。しかし、上条たちの活動は学園都市の『闇』にも繋がること。『光』の世界で楽しく普通の女子中学生として生活を送っていた美琴たちを、彼らは巻き込みたくなかった。事情を話せなかったのも、冷たく突き放していたのも、美琴たち4人を敵から守るため。そして、既に氏んだとある上条たちの仲間と女子学生の悲劇を繰り返させないため。そう、それで美琴たちが諦めれば良かった。だからこそ上条と一方通行はその絶大な力で彼女たちを叩きのめした。だが、美琴たちは諦めなかった。諦めず、結局、奇跡的な確率とはいえ、上条と一方通行を倒してしまったのだ。

美琴「…………………」

虚無感が美琴を襲う。
では、美琴たちのこの3週間は何だったのだろうか。彼女たち4人は一体何のために共に誓い、努力し、戦ってきたのか。
今聞いた話が本当ならば、美琴たちは自分や友達を地獄の目に遭わせた上条たちに反撃するのではなく、自分や友達を守ってくれていた上条たちに、何の事情も知らないまま歯向かっていたことになる。
しかも、上条たちは何の文句も言わず憎まれ役を演じていたのだ。詰まるところ、美琴たちのこの3週間は、そんな彼らの想いをフイにするような、意味の無い日々だったのだ。

美琴「…………………」

呆然とする美琴。

551: 2010/07/05(月) 23:46:51.08 ID:zqNzPm.0
上条「御坂」

美琴「!?」

と、ずっと視線を逸らしていた上条が久しぶりに美琴を見た。

美琴「な、何よ……」

上条「分かったろ? 俺たちはこれ以上、大切な人たちを失いたくないんだ。だからせめて、ここだけは引いてくれないか?」

突き刺すような、どこか悲しみに満たされた上条の目が美琴を貫く。それは、頼みというよりは願いに近かった。
上条や一方通行たちは、美琴たちの幸せを望み、美琴の友人たちを『誘拐』と称して学園都市の『外』に逃がしていたのだ。それを美琴たちに打ち明けなかったのは、彼女たちの安全を想ってのこと。だから彼らは黙っていたのだ。わざわざ、自分たちが殺されそうになるほどの憎まれ役を買って出ても、だ。

美琴「………………」

美琴は思う。
そんな方法でしか美琴たちを守れなかった上条と一方通行はどれだけ不器用なのだと。不器用すぎて笑ってしまいたいぐらいだった。だがしかし、彼らが取ったその方法は、考えられる限り最良の策であり、それは全て美琴たち4人を想ってのことだったのだ。

黒子「…………………」

佐天「…………………」

初春「…………………」

それまでの勢いが嘘かのように、黒子と佐天と初春が黙り、俯いた。彼女たちの手は膝の上で握られ、油断すれば今にも涙腺が崩壊しそうだった。
だが、もう彼女たちに反論する気は無かった。上条たちの真意を奥深くまで知ってしまったのだから。

美琴「………っ」

しかし、当然ながらそんな簡単に諦められない者もいた。
美琴は、何も喋れなくなった黒子たちを見、唇を噛むと立ち上がった。

美琴「納得出来ない……そんなんで納得なんて私は出来ないよ!!!」バチバチッ

彼女の身の回りに火花が散った。
だが、大人たちはふと視線を寄越しただけで、無理に止めようとしなかった。

556: 2010/07/05(月) 23:51:39.81 ID:zqNzPm.0
美琴「どうして? どうしてよ? 私は……あんたたちのこと……ずっと…ずっと……友達のことを……誘拐して……頃してた凶悪犯だって……思ってたのに」

美琴の言葉が震える。

黄泉川「…………………」

鉄装「…………………」

美琴「あれほど憎んだのに……でも本当は……それは…私たちを思ってのことで………挙句、私たちを助けようとしてくれるなんて………」

美琴の目尻に涙が溜まっていく。

寮監「…………………」

カエル医者「…………………」

美琴「そんな……優しくされたのに……私は何も出来ない……協力することも……恩を返すことすら出来ないなんて……」

遂に彼女の目元から涙が流れた。

打ち止め「…………………」

御坂妹「…………………」

美琴「そんなのって……ヒグッ……そんなのって……ウグッ」

彼女の声に嗚咽が混じる。

一方通行「…………………」

美琴「そんなのって無いよ!!!!!」

上条「…………………」

うなだれるように上条は顔を下に向けている。
美琴の必氏の問い掛けに、彼が何を思っているのか。それは全く読めなかった。

美琴「答えてよ!!」




美琴「“当麻”!!!!!!!」




上条「………………っ」

562: 2010/07/05(月) 23:56:47.60 ID:zqNzPm.0
静寂がその場を流れる。
耐え切れなくなったのか、黒子と佐天と初春も美琴に続いて泣き始めた。

黒子「お姉さま……グスッ」

佐天「御坂……さん…ヒグッ」

初春「御坂さん……グスッグスッ」

しかし、それでも上条は答えない。

御坂妹「……………………」

現状を鑑み、御坂妹は美琴と上条の顔を交互に見る。そして1度目を瞑ると、彼女は美琴に向かって静かに口を開いた。

御坂妹「  イ  ン  デ  ッ  ク  ス  」

上条「!」ビクッ

美琴「は?…グスッ」

御坂妹「『インデックス』という少女を、お姉さまはご存知ですか?」

御坂妹は、美琴を見つめて質す。

美琴「インデックスって……グスッ……あの子でしょ? ……こいつといつも一緒にいた……外国人の……ヒグッ…シスターの…女の子……」

御坂妹「ええ。ミサカも会ったことがあります。その少女です」

美琴「それがどうしたって言うのよ?」

場違いな質問に美琴は違和感を覚える。
そんな美琴を見、次いで上条を見ると、御坂妹は一拍置いて言った。






御坂妹「彼女、氏にました」






美琴「え……?」

568: 2010/07/06(火) 00:03:39.23 ID:9yAEp3A0
美琴は初め、その言葉の意味に理解が追いつかなかった。

御坂妹「3週間も前でしょうか……インデックスさんは、何者かに殺され、氏んだのです……」

美琴「嘘……でしょ?」

あのインデックスが? と頭の中で続ける美琴。彼女の脳裏に、とあるシスターの女の子の笑顔が蘇る。

美琴「嘘でしょ!? 3週間前って……私、あの子に会ったわよ!?」

責め立てるように美琴は訊ねる。
そんな彼女を見ても『インデックス』という少女が誰のことなのか分からないのか、黒子たちは黙ったまま美琴を見つめている。だが、何やら大変なことが『インデックス』という少女に起きたのは理解出来ているようだ。

御坂妹「恐らく、その数日後に殺されたのでしょう……」

美琴「そんな……何で……」

上条「おかしいよな?」

美琴「え?」

上条「信じられないよな普通?」

不意に、上条が喋った。だが、その表情はうなだれているため見えない。

上条「あいつ、3週間前までは元気だったんだぜ? いつもみたく『お腹すいたー』ってさ」

美琴「何が……あったの?」

上条「俺、危ないからってインデックスに『俺たちの活動に関わるな』って注意してたんだ。なるべく家から出ないように言ってさ……」

上条の言葉が震える。

上条「でも……あいつ、よっぽど俺のこと心配だったんだろうなぁ……ある日、言いつけを破って家から街に飛び出したんだ」

美琴「………………」

上条「そしたらさ……あいつ、どうも刃物で刺されたらしいんだよ……」

淡々と、一つ一つ思い出すように上条は語る。

上条「それで……氏んじまった………」

美琴「………っ!」

上条「………氏んだんだよ………」

そこで、上条は1度、言葉を詰まらせた。

569: 2010/07/06(火) 00:09:36.53 ID:9yAEp3A0
上条「……犯人は……学園都市の能力開発を人道に反する、って主張してた過激派テログループの1人だった……。それで……インデックスが氏んでから2週間後ぐらいだったかな……。犯人を突き止めた……インデックスの旧知の魔術師が単身、そのテログループのアジトに乗り込んで行った……」

美琴「………」

上条「でも……そこには……テログループが雇った…強力な魔術師が1人いて………。テログループを壊滅したはいいものの……その…インデックスの旧知の魔術師も……相討ちで氏んじまった………」

上条の握られた拳がカタカタ震える。

上条「せっかく……インデックスと一緒に、魔術世界を平定したって言うのに……。これで魔術の世界に平和が訪れたのに……。もう、インデックスが狙われることはなくなったのに……。ようやく…インデックスが幸せな人生を歩み始められるところだったのに………」

自責の念に染められた後悔だけの言葉がただただ紡がれる。

上条「……守るって……約束したのに………」
上条「頼む、“美琴”………」

ボソッと告げた後、上条がゆっくりと顔を上げた。




上条「引き下がってくれ………」




苦痛に歪ませた顔から、大量の涙を流し上条は懇願した。

上条「もう……これ以上……大切な人を……失いたくないんだよ………」

再び、うなだれるようにして上条は嗚咽を始めた。それを慰めるように、御坂妹が彼の背中に手を置く。

上条「……チクショー……俺のせいだ……俺のせいで……インデックス………」

自分を責める上条に、御坂妹が貴方の非ではありません、と慰めの言葉を掛ける。
一方通行や打ち止め、大人たちはただ静かに彼の嗚咽を聞いているだけで、余計な発言をしようとしない。
黒子と佐天と初春もまた、全てが全て話を呑み込んでいたわけではなかったが、目の前の男の泣き叫ぶ姿を見てこれ以上、口を開こうとは思わなかった。

上条「……フグゥ……クソッ……」

自分の膝を叩き泣く上条。

美琴「…………………」

そんな彼を見て、美琴は一歩下がり、そのまま重力に引かれるようにドスンと椅子に腰を掛けた。

美琴「……………………」

もはや彼女に、反論する気は一切残っていなかった。
上条の嗚咽だけがいつまでも部屋に響いていた――。

570: 2010/07/06(火) 00:10:12.70 ID:9yAEp3A0
>>1です。
すいません長くなりました。
今日は以上です。
ありがとうございました。
美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」2【後編】

573: 2010/07/06(火) 00:13:01.13 ID:/AYFPASO
乙!!!!!!!!!!!!

引用: 美琴黒子佐天初春「貴方たちを全力で倒す!」 vs 上条一方通行「……やってみろ」2