1: 2014/08/06(水) 21:28:28.71 ID:+tngz1Ep0

妖精さん「提督さーん」

提督「うん?」

妖精さん「提督さんに命令書が届いてるのぜ」

 ―― 貴官ラハ大規模作戦デノ功績少ナカラズ。 ――

 ―― ツイテハ貴官ニ一週間ノ休暇ト帰省用ノ車券(往復券二枚)ヲ与エル。 ――

 ―― 二枚ハ貴官ノ家カラノ要請デアル。同行者一名アリトノ旨。 ――

 ―― 尚コノ休暇ハ貴官ノ家ニモ通達済ミデアル。存分ニ休養サレタシ。 ――




3: 2014/08/06(水) 21:31:29.40 ID:+tngz1Ep0

■ひとりめ

提督「ああ、ありがとう。しかし、大規模作戦が終わった直後にか? 参謀部も忙しいな……」

妖精さん「大事なことのぜ」

提督「ああ、読む読む。……うん……えっ……はぁッ!?」

妖精さん「すたこらさっさのぜ」

提督(……不味いことになった)

妖精さん「魚雷作ったのぜ」

提督(大規模作戦は激戦だった。だが、働きすぎといわれるほど働いた結果、なんとか無事に乗り切れた。それはいい)

妖精さん「主砲作ったのぜ」

提督(とはいえ損耗激しく、艦娘たちの艤装も相当疲弊している。暫く実戦は難しい。まあ、仕方ない)

妖精さん「失敗したのぜ」

提督(そこで参謀部は、恐らく慰労のつもりだろう、俺に一週間の強制休暇を与えてきた)

妖精さん「那珂ちゃん……解体するのぜ?」

提督(しかもご丁寧に帰省用の汽車の券までつけて、だ。しかも、家にはもう知らせてあるらしい)

提督「しない」

提督(となれば、帰らないわけには行かない……んだが、問題は)

妖精さん「おう」

提督「どうせ暫く帰らないからって、今度帰る時は婚約者を連れてくってちょっと前の手紙に書いちゃったんだよなぁ~ッ!!」

妖精さん「のぜっ!?」

4: 2014/08/06(水) 21:32:14.94 ID:+tngz1Ep0

提督「もちろん俺には婚約者どころか恋人もいない。……いて欲しかった……」

妖精さん「言えばいつでもなってくれそうな娘はたくさんいるのぜ」

提督「うん? 何か言ったか?」

妖精さん「気のせいのぜ」

提督「ん、そうか。まあ相手の都合が悪かった、で乗り切れる気もするんだが、次の休暇なんていつかわからんしなぁ」

妖精さん「大変のぜ?」

提督「ああ、両親も安心させたいしな。……仕方ない。こうなったら方法はひとつしかない、か」

妖精さん「独り言が多い提督さんのぜ」

提督「日がな一日執務室にいればそうもなる」

妖精さん「そういうもんのぜ。それで、方法のぜ?」

提督「……ああ。どうせ俺がいない間は鎮守府も動かないんだ、艦娘に恋人役を頼もう……」

妖精さん「……お奨めははしない、のぜ」

提督「まあなあ、彼女らも俺なんかの恋人役は気がすすまんだろうが……」

妖精さん(鈍感のぜ……)

提督「上官命令ということで諦めてもらおう。擬装用にケッコンカッコカリ指輪も用意しておかないとな」

妖精さん(嵐の予感のぜ!)

5: 2014/08/06(水) 21:33:45.53 ID:+tngz1Ep0


提督「問題は誰に頼むか、だけどなあ……」

妖精さん「本気のぜ?」

提督「ああ。こんなこと秘書艦くらいにしか頼めないな、と思ってさっき呼び出しといた」

妖精さん「どうなっても知らんのぜ……」

 コン、コン

提督「おっと、言ってる傍から来たか。わざわざすまんな、入ってくれ」

38: 2014/08/07(木) 00:32:19.56 ID:nuqzGyh60

曙「来たわよ、クソ提督! 何? 何か用?」

提督「あー……そうだ、俺の秘書艦って曙だったんだよな……」

妖精さん「いろんな意味で拙いのぜ」

提督「俺もそんな気がしてきた」

曙「ちょっと、呼び出しといてなんなのよ!」

提督「が、この際だ……っよし、覚悟完了! というわけで、だ、曙」

曙「な、なによ……」

提督「頼む。俺の、婚約者になってくれないか」

妖精さん「どうしてそこで決め顔なのぜ」

曙「!? バッ、バッカじゃないの!? クソなの!? 氏ぬの!?」

提督「おう、新しい罵倒だなそれ……クソなの、って確認されてもそう呼んでんのはお前だけだよ」

妖精さん「ちゃんと説明した方がいいと思うのぜ」

提督「……おう、そうだったわ」

39: 2014/08/07(木) 00:34:02.57 ID:nuqzGyh60

...

......

.........

提督「と、言うわけなんだが」

曙「はあ? あたしをそんな茶番に付き合わせようっての? クソ提督の面目躍如ね!」

妖精さん「褒めてるようで褒めてないのぜ」

提督「だよな、曙ならそう言うと思ったよ。すまんな、別の相手に頼んでみる」

妖精さん(なんでそこでもうひと押ししないのぜ!)

曙「……待ちなさいよ」

提督「おう」

曙「……よ」

提督「おう?」

曙「どうしてあたしなのよ」

提督「そりゃ決まってるだろ。曙が一番信用できるからだよ。責任感強いし、一度決めたらやってくれるからな」

曙「……ッ! い、一番、ね……あたしが……そう……」

40: 2014/08/07(木) 00:35:26.63 ID:nuqzGyh60

提督「とは言え、流石に無理強いはできないしな。曙がダメとなると、天龍あたりに……」

曙「し、仕方ないわね」

提督「……うん? どうした?」

曙「やってあげてもいいって言ってるのよ、このクソ提督!」

提督「どういう心境の変化だ……いや、曙にやってもらえるならそれ以上のことはないが」

曙「いいから! で、出発はいつなわけ?」

提督「ああ、明日の朝一の汽車だな。すまんが、よろしく頼む……ところで」

曙「何よ」

提督「クソ提督、はなんとかしてくれないか。仮にも婚約者の呼び方じゃないだろ」

曙「……そ、そうね」

提督「艦娘であることは言うつもりだから、提督、とかでいいんだが……」

曙「御両親の前で言わなければいいんでしょ。考えておくわよ」

提督「ん、頼む。悪いな。帰ってきたら間宮のアイスでも御馳走する」

曙「ふんっ。別に、お礼が欲しくてやるんじゃないわ。こう言うのも秘書艦の仕事だからよ」

提督「……いや、別に仕事では」

曙「し・ご・と・だ・か・ら・よ」

提督「……お、おう、よろしく頼む……」

41: 2014/08/07(木) 00:38:53.89 ID:nuqzGyh60

...

......

.........

曙「……しっかし、なんにもないところね」

提督「まあ、な。とは言えこっちは深海棲艦も出ないからな。時間と平穏だけはたっぷりある」

曙「そんなとこで育ったあんたみたいのが、なんでまた軍に入ったわけ?」

提督「なんでだろうな。俺も不思議なんだが……まあ、でも後悔はしてないよ」

曙「……いつ氏ぬかもわかんないじゃない」

提督「それもなんでだろうなあ。でも、曙たちがいるからな」

曙「何よそれ」

提督「さあなあ。それなりに幸せ、ってことかもな……お、見えたぞ、あれが家だ」

曙「……玄関の前に、やたら人がいるんだけど……」

提督「……。出迎え、かな」

曙「だとしたら暇人だらけね。流石クソ提督のご家族だわ」

提督「田舎は娯楽も少ないからな」

曙「はあ? 娯楽扱いとか冗談じゃないわ」

提督「そう言わずに付き合ってくれ……数日だけだから、な」

曙「仕方ないわね。あたしに十分感謝しなさいよ」

提督「そりゃもう、な……たっだいまー!!」

曙「い、いきなり大声出さないでよ……!」

50: 2014/08/07(木) 21:35:02.69 ID:nuqzGyh60

...

......

.........

 おう、よー帰ったな!

 坊主が少将かー、出世したもんだのー。

 そっちがええなづけって子かの?

 爺さん、許婚だよ。

 まーたちっこい子を連れてきたもんだな!

 少将さまともなると嫁もちっこくてもええんだなー。

 まだ嫁じゃねーべよ。

 ほれほれ皆の衆。父さんと母さんが待ってるでよ、はよ家に入れてやらんかよ。

 それもそっだな。

 んだな。

 暫くいるんだべ? また来るでな。

 ええなづけさんにウチの野菜食わせてやっぺよ。

 爺さん、許婚だよ。

.........

......

...

52: 2014/08/07(木) 21:35:44.74 ID:nuqzGyh60

曙「……すごい、歓迎ぶり、だったわね、クソ、提督……」

提督「……だな。なんでだ……?」

父「ふ。この村で将官は初めてだからな。みな嬉しいのだろう。己も鼻が高い」

曙「ッ!?」

提督「……そ、か。ただいま、親父。外出てたのか?」

父「ああ、買い物に行っていた。よく帰ったな。……そちらが?」

提督「あ、うん。婚約者の……」

曙「曙です。よろしくおねがいします、お義父様」

提督「ッ!?」

父「……ふ。馬鹿息子には勿体無い娘さんを見つけたようだな」

提督「え、いや、曙?」

曙「……どうかした、あなた?」

提督「いや、だってお前……って足、足踏んでッ……!?」

曙「ど・う・か・し・た?」

提督「い、いや、なんでもない」

父「どうした。母さんが待っている。入れ」

提督「あ、うん」

53: 2014/08/07(木) 21:36:57.19 ID:nuqzGyh60

提督「ただいま、母さん」

母「おかえり。お父さんもお帰りなさい」

父「ああ、帰った」

母「その子が彼女さん?」

提督「ああ、「曙です。よろしくおねがいします、お義母様」……うん」

母「礼儀正しいいい子ねえ。少し……その、歳は離れてるみたいだけど」

提督「あー、曙は艦娘でさ。駆逐艦だから小さくは見えるけど……」

父「成程な。曙さん、こいつが上司で苦労されているだろうが、何卒よろしく頼む」

母「あら、艦娘さんじゃ仕方ないわね。そうすると、孫は戦いが終わるまでお預けかしら」

曙「ま、孫ッ!? あたしが、クソ提と……むぐっ!?」

父「……む」

提督「か、母さん、気が早い!」

曙「むぐむぐー!(口押さえんな、クソ提督!)」

母「あらあら、仲がいいのね。でも孫の話は早かったかしら?」

父「……いや、今でいい」

提督「え?」

曙「む?(え?)」

父「孫は戦いが終わってからでいいが、今その話をすることに意味はある」

提督「父さん?」

曙「むぐーむぐ?(お義父様?)」

54: 2014/08/07(木) 21:38:43.04 ID:nuqzGyh60

父「戦いが終わってから、ということは、必ずそれまでは生き残る、と言うことだ」

提督「……あ」

父「それはお前だけではない。曙さんも必ず生き残らせる、と言うことだな」

提督「……ああ」

父「駆逐艦娘さんということは、護衛艦、被害担当艦ということになろう」

曙「ぷはっ! ……そ、そうなるわ……なり、ますね」

父「……。ならば、曙さんに戦いが終わるまで生き残ってもらうということは。お前がそれだけの指揮をする覚悟をすることだ」

提督「……ああ」

曙「……」

父「曙さん」

曙「は、はい」

父「不肖の息子ではあるが、よろしく頼む」

母「よろしくね?」

曙「……はい」

父「……おっと、済まんな。もういい時間だ。母さん、昼にしよう。素麺がいい」

母「はいはい。ふたりともそれでいい?」

提督「ああ」

曙「は、はい!」

55: 2014/08/07(木) 21:39:35.91 ID:nuqzGyh60


...

......

.........

母「お風呂沸いたから入っちゃいなさい」

提督「ああ、曙を先に」

母「曙さんならもう入ったわよ?」

提督「うん? ならいいか……」

56: 2014/08/07(木) 21:40:38.06 ID:nuqzGyh60

...

......

.........

提督「風呂、風呂っと。鎮守府の風呂もいいが、家の風呂も……」

ガラガラッ

曙「……ひゃうっ!?」

提督「……」

曙「……」

提督「……」

曙「……クソ提督、何か言い遺すことはある?」

提督「……やっぱ小さいな……じゃなくて、す、すまん! すぐ出て……って外から鍵閉まってる!?」

母『先に入ったとは言ったけど出たとは言ってないわよ~』

提督「母さんの仕業か! なんでこんなことを!」

母『婚約者なんだもの、ふたり水入らずの時間も必要よね~』

提督「だからって風呂場かよ!」

母『一時間後くらいにまた来るわ~♪』

提督「……」

曙「……」

57: 2014/08/07(木) 21:41:17.23 ID:nuqzGyh60

提督「……すまんな。1時間は出られないらしい。俺は端にでも」

曙「……ぃぃゎょ」

提督「うん?」

曙「いいわよ。入んなさいよ。……その方が見えないだろうし」

提督「いい、のか?」

曙「裸で外にいて風邪なんかひかれたらたまんないわよ! 背中合わせならギリギリいけるでしょ!」

提督「……ああ」

ちゃぽーん

58: 2014/08/07(木) 21:42:35.30 ID:nuqzGyh60

曙「……」

提督「……」

曙「……ねえ」

提督「うん?」

曙「こんなときしか聞けないと思うから、聞くけど。昼のあれ……本気、なの」

提督「昼の?」

曙「あんたのお父さんと話してたやつ。覚悟、って」

提督「ああ、あれか。本気だぞ。曙だけじゃない。俺は誰も沈めない……そのつもりだ」

曙「……だったら」

提督「……」

曙「だったら、あたしを外しなさいよ」

提督「……厭だ、って言ったら?」

曙「……ッ! あたし“曙”なのよ! 知ってるでしょ! 護れなかったの!」

提督「……」

曙「秘書艦も! 潮にでも任せたらいいじゃない! なのに!」

59: 2014/08/07(木) 21:43:28.11 ID:nuqzGyh60

提督「だから、だよ」

曙「……何なのよ」

提督「お前が“曙”だから。だから、今度は護れるようにしよう、って頑張ってくれてる」

曙「……何、それ」

提督「俺をクソ提督なんて呼ぶのも、そうして自分が憎まれとけば、何かあったら自分のせいにできるから、って思ってるから」

曙「……ッ! そ、そんなんじゃないわ!」

提督「そんな頑張ってる子は、報われなきゃダメだ。だからさ、みんなを護って、曙も生きて、……俺も、生きて」

曙「……生きて?」

提督「そうしたら、お前が言うだろ。私に十分感謝しなさい、このクソ提督! って」

曙「……言う、かもしれない」

提督「俺だけじゃない、今度はきっと……みんなが、お前に感謝する。俺は、そんな日を目指してる」

曙「……」

提督「ま、そういうわけで、だ。いやでも付き合ってもらうからな」

曙「……この、クソ提督」

提督「おーう。クソ提督の下についたと思って諦めてくれ」

曙「……ブクブク(この、バカ)」

提督「って、何で沈んでるんだ!?」

曙「ブクブクブク!(あんたが恥ずかしいこと言うからよ、クソ提督!)」

60: 2014/08/07(木) 21:45:23.81 ID:nuqzGyh60

曙「……ねえ」

提督「うん?」

曙「あんたは、戦いが終わったらどうするの」

提督「そうだな。こっち戻ってきて……学校の先生でもやるかなー」

曙「……その時、あたしはどうすればいいと思う?」

提督「好きにすればいいんじゃないか?」

曙「何それ」

提督「俺なんかの下につかなくてよくなるし、艦娘が急に不必要になるわけじゃなし。続けるなり、止めるなり」

曙「……バーカ。バーカバーカ!」

提督「え、今俺いいこと言わなかったか? バカって」

曙「クソ提督はクソ提督だったってことよ!」

提督「お、おう……」

母『そろそろ鍵開けとくわね~』

提督「……出るか」

曙「……そうね。あ、クソ提督はあたしがいいって言うまで目ぇ閉じてなさいよ!」

提督「はいはい」

61: 2014/08/07(木) 21:46:58.74 ID:nuqzGyh60

...

......

.........

ガトンゴトン ガトンゴトン

曙「なんか、一週間あっという間だったわね」

提督「だなあ。……しかし、一週間ですっかり曙は俺の嫁になっちゃったなあ」

曙「はあっ!?」

提督「いや、そうじゃなくて! 家の連中がそう思ってる、って意味でな?」

曙「……ああ、そういうこと」

提督「戦い終わったら、曙連れて帰らないと親父に殺されそうだわ……ははは」

曙「別に、それなら大丈夫……やっぱり、大丈夫じゃないわ」

提督「じゃないのかよ」

曙「し、仕方ないわね! その時はまた一緒に行ってあげるわよ! 秘書艦の仕事だもの!」

提督「いや戦い終わったら秘書艦じゃないだろ」

曙「し・ご・と・だ・も・の!」

提督「……お、おう」

曙(あんたがいない時に教えてもらったけど、あんたの小細工なんて最初からバレてたのよ)

提督「さて、また忙しくなるな……」

曙(でも、ついてきたあたしを見て安心したって言ってた。あんたの本気も聞けた)

提督「……あ、忘れてた」

曙(だから、あたしもずっとあんたについてってあげる。十分感謝しなさい、クソ提督!)

提督「なあ、曙」

曙「何よ」

提督「ケッコンカッコカリ一式、お前に渡そうと思って持ってきてたんだ。どうせなら親の前で渡せばよかったな」

曙「……そ、そういうことは早く思い出しなさいよ!」

62: 2014/08/07(木) 21:47:41.45 ID:nuqzGyh60

提督「ははは、悪い悪い。……受け取ってくれるか?」

曙「仕方ないわね。……ほら」

提督「うん? どうしたよ手なんか出して」

曙「~~っ! 気づきなさいよ! あんたがあたしの指に嵌めるのよ!」

提督「あ、そうか。えーと……これで、よし、と」

曙「ふんっ。受け取ってあげるわ。……ご両親に挨拶までしたんだから」

提督「ああ、悪かったな」

曙「仕方ないじゃない。だから、これからも。ずーっと、ずーっと」


 ――戦いが終わったその先も、よろしくね、クソ提督!


(ひとりめ 曙編 おしまい)

63: 2014/08/07(木) 21:52:55.48 ID:wmkkqptzo
乙ー 曙ちゃんカワイイ


次回:提督「頼む、婚約者になってくれ!」ふたりめ 白露編



引用: 【艦これ】提督「頼む、婚約者になってくれ!」