378: 2014/08/25(月) 22:54:32.06 ID:+BVRrU7g0

最初:提督「頼む、婚約者になってくれ!」ひとりめ 曙編
前回:提督「頼む、婚約者になってくれ!」ごにんめ 潮編

■ろくにんめ

提督「……ああ。是非、行かせてもらう。……善いことだ」

コン、コン

あきつ丸「特種船丙型、あきつ丸。入るであります」

提督「……ああ」

あきつ丸「提督殿……と、電話中でありましたか」

提督「……いや、部下だ。……ああ。あきつ丸だ。……ああ。では」

あきつ丸「よろしかったのでありますか?」

提督「……丁度、終わるところだった」

あきつ丸「そうでありますか」

提督「……」

あきつ丸「……」

提督「……」
艦隊これくしょん -艦これ- おねがい!鎮守府目安箱 1 (電撃コミックスNEXT)
379: 2014/08/25(月) 22:55:13.17 ID:+BVRrU7g0

あきつ丸「……」

提督「……」

あきつ丸「……あの、提督殿。自分は心眼通ではありませんので」

提督「……同郷の友人だ。貴艦も知っている」

あきつ丸「は、電話のお相手でありますか。自分にも面識がある提督殿のご友人と云いますと、以前此方に来られた……」

提督「……憲兵だ」

あきつ丸「あの大尉殿でありましたか。あれ以来間諜の真似事をしなくてよくなりましたし、いずれ御礼をしたいものであります」

提督「……気にするな」

あきつ丸「いえ。自分が今ここにいられるのは大尉殿と提督殿のお陰でありますので」

提督「……俺は何も」

あきつ丸「していない、と仰るでしょうが。自分は提督殿に救われたようなものでありますよ」

提督「……どういう」

あきつ丸「本来ならば、間諜は処刑されてもおかしくありませんから。提督殿が無口だったからこそ、自分が諜報活動を行なうのは無理だと判断されたのでありますよ」

提督「……成程」

382: 2014/08/25(月) 22:57:14.43 ID:+BVRrU7g0

あきつ丸「はい。提督殿に救われたこの命であります。提督殿のために散らす覚悟は……」

提督「許さん」

あきつ丸「……は?」

提督「……命を、惜しめ」

あきつ丸「それは、自分がいずれ陸軍に戻るからでありますか?」

提督「……いや」

あきつ丸「それでは、自分たち艦娘が海軍にとって重要な存在であるからでありますか?」

提督「……いや」

あきつ丸「……では、その……自分は、自惚れても……」

提督「……いずれ、話す」

あきつ丸「……あ、はい! そうでありますね! 了解であります!」

提督「……」

あきつ丸「……」

提督「……」

あきつ丸「……あの、提督殿」

提督「……行くか」

あきつ丸「は?」

383: 2014/08/25(月) 22:59:06.50 ID:+BVRrU7g0

提督「……今の、電話でな」

あきつ丸「提督がご友人とされていた電話でありますか?」

提督「……奴の、弟が」

あきつ丸「はい」

提督「……結婚するそうだ」

あきつ丸「はあ」

提督「……来週、式でな。招待があった」

あきつ丸「提督殿は出席されるのでありますね? しかし、自分は艦娘であります。直接の……陸軍からの命令がない限り、鎮守府から離れる訳には」

提督「……問題ない」

あきつ丸「は?」

提督「……これを」

あきつ丸「……指輪、でありますか? 自分は、ケッコンカッコカリには練度が足りておりませんが」

提督「……本物だ。俺の婚約者になれ」

あきつ丸「は……は!?」

提督「……指揮官の身内なら多くは言われん」

あきつ丸「提督殿? それはそうかもしれませんが、しかし、自分は……そ、それに、憲兵大尉殿にはまたこちらに来ていただいても……」

提督「……陸が、懐かしくはないか」

あきつ丸「は。それは、自分は陸軍でありますから、その……」

提督「……ならば、今夜の汽車で出る」

あきつ丸「り、了解であります!」

384: 2014/08/25(月) 23:00:12.21 ID:+BVRrU7g0

提督「……ところで」

あきつ丸「は?」

提督「……用事では、なかったか」

あきつ丸「は、忘れておりました! 昼食ができたそうであります!」

提督「……先に、言え」

あきつ丸「申し訳ないであります……」

393: 2014/08/30(土) 01:15:01.01 ID:lg09fu9e0

...

......

.........

ガタンゴトン ガタンゴトン

提督「……」

あきつ丸「提督殿」

提督「……?」

あきつ丸「いえ。先程からずっと微笑んでおられましたので。なにかよい景色でもあるのでありますか」

提督「……すまん。……貴艦が、面白いと思ってな」

あきつ丸「自分が、面白い……で、ありますか」

提督「……輸送能力ならば他の追随を許さない貴艦が、このような電車に揺られているのが、な」

あきつ丸「……! 提督殿!」

提督「……?」

あきつ丸「提督殿のそのように長い言葉を、自分は初めて聞いたように思うであります」

提督「……そう、だったか」

あきつ丸「なるほど、やはり帰省というものはよいものなのでありますな。寡黙な提督殿がこのように饒舌になるのですから」

提督「……そう、か?」

あきつ丸「そうであります。それと、先程の話は自分も不思議に感じていたところでありますよ。提督殿と同じでありますね」

提督「……貴艦も、頬が緩んでいる」

あきつ丸「そ、そうでありますか? だらしない顔をお見せしてしまったでありますか? しかし、自分は、いつもそうであるわけでは」

提督「……判っている。珍しい物を見られた」

あきつ丸「は。ならば、よかったでありますが」

提督「……偶には、するといい」

あきつ丸「……提督殿がそう仰るのならば……はっ! ま、また頬が緩むところでありました!」

提督「……そう、か」

394: 2014/08/30(土) 01:15:47.68 ID:lg09fu9e0

あきつ丸「ところで提督殿。なぜ自分を、その、婚約者、などと偽装してまで連れて行ってくださるのでありますか」

提督「……気になるか」

あきつ丸「もちろんであります。ご友人の結婚式であれば提督殿だけで足りるはず。自分が随伴する理由がないであります」

提督「……友人の、頼みだ」

あきつ丸「は? それはその、憲兵大尉殿でありますか」

提督「……渡すものが、あるらしい」

あきつ丸「はあ。自分は憲兵大尉殿から頂くようなものはないと思いますが。それに、それこそ憲兵大尉殿が鎮守府へこられた時でも」

提督「……面倒な話、かも知れん」

あきつ丸「提督殿も、詳しい話はご存じないのでありますか?」

提督「……ああ」

あきつ丸「そうでありましたか。しかし、少し残念であります」

提督「……?」

あきつ丸「自分はその、旅行など出来ると思っておりませんでしたし。……提督殿とならば……あ、いえ! 大したことではないのでありますが!」

提督「……俺も、帰省などめったに出来ん」

あきつ丸「仕方ないであります。鎮守府は国土防衛の最前線でありますから」

提督「……故に、俺はこの旅を楽しむ。……貴艦も、付き合え」

あきつ丸「は……はっ! 了解であります!」

395: 2014/08/30(土) 01:17:49.92 ID:lg09fu9e0

...

......

.........

提督「……待たせたか」

憲兵大尉「そうでもない」

提督「……肩の雪を掃ってから言え」

あきつ丸「お久しぶりであります、憲兵大尉殿。特種船丙型、あきつ丸であります」

憲兵大尉「ああ、久しぶりだな。一瞥以来か。……態々、すまんな」

提督「……いや。……おまえが呼ぶなら、よほどの理由だろう」

憲兵大尉「道端ではし難い話だ。雪も降っている。後で聞かせよう。あきつ丸」

あきつ丸「はっ!」

憲兵大尉「こいつとの旅は退屈ではなかったか」

あきつ丸「いえ、そんなことは。心地よい一時でありました」

提督「……おまえ」

憲兵大尉「ふ。海軍の男は本当に艦に好かれるな。……まあいい。車を用意してある。家まで送ろう」

提督「……善いのか」

憲兵大尉「悪ければこんなところまでは来ん。気にするな」

あきつ丸「電車といい車といい、自分は運ばれてばかりでありますね」

憲兵大尉「ふ、確かに丙型の貴艦にとっては妙な感覚だろうな。……おい」

提督「……ああ」

憲兵大尉「式が済んだ後、そうだな、大晦日の夜でどうだ。うちに来い」

提督「……ああ。呑るか」

憲兵大尉「呑ろう」

あきつ丸(……なんだか、羨ましいであります)

憲兵大尉「あきつ丸。よければ貴艦も来るといい。綺麗どころがいたほうが酒も進もう」

あきつ丸「はっ! ……は!?」

提督「……おい」

憲兵大尉「ふ。そう怒るな。あの男ではあるまいし。手を出す心算はない」

提督「……まあ、よいが」

396: 2014/08/30(土) 01:19:05.42 ID:lg09fu9e0

...

......

.........

提督「……」

憲兵大尉「……」

提督「……」

憲兵大尉「……」

提督「……いい式、だったな」

憲兵大尉「……ふ。まさか弟が艦娘と結婚するとは思わなかったがな」

提督「……」

憲兵大尉「……」

提督「……」

憲兵大尉「……ふ」

あきつ丸「……あの」

提督「……?」

憲兵大尉「うん?」

あきつ丸「おふたりとも、先ほどからほとんど黙って飲んでおられますが……あの」

提督「……退屈、か」

あきつ丸「いえ、自分は提督殿を眺めているだけでも」

憲兵大尉「ふ。羨ましいやつだ」

あきつ丸「い、いや、その」

提督「……友と飲むのは、それだけで楽しいものだ。……だが、退屈させたなら謝ろう」

憲兵大尉「……ふふ、あの無口が随分喋るようになった」

提督「……放っておけ」

397: 2014/08/30(土) 01:20:04.17 ID:lg09fu9e0

憲兵大尉「だが、確かにあきつ丸には悪いことをしたな。行くか」

提督「……」

あきつ丸「行く、とは?」

憲兵大尉「ああ。そろそろでな……」

ゴォォー……ン ゴォォー……ン

憲兵大尉「……丁度か。除夜の鐘だ。今から歩いて、初詣としゃれ込もう」

提督「……二年参りか」

憲兵大尉「巡視も兼ねるが、な。どうする。そちらはこのまま呑んでいてもいいが」

提督「……付き合おう」

あきつ丸「お、おふたりが行くなら自分もお供するであります!」

提督「……足元に、気をつけろ」

憲兵大尉「ああ、あきつ丸は夜の雪道は初めてか。ならばかんじきが……」

あきつ丸「かんじき、でありますか?」

憲兵大尉「……いや。おまえが支えてやれ」

提督「……なに?」

憲兵大尉「おまえは慣れているからな。構わんだろう」

提督「……構わんが」

憲兵大尉「ならばそうしろ。さて、行くか」

あきつ丸「提督殿、結局自分はどうすれば」

提督「……俺の手に、掴れ」

あきつ丸「……はっ!」

398: 2014/08/30(土) 01:21:05.92 ID:lg09fu9e0

...

......

.........

憲兵大尉「覚悟はしていたが、大変な人出だな」

提督「……ああ」

あきつ丸「鎮守府には決まった人員しかいませんので、このような人出は久しぶりに見るであります」

憲兵大尉「ふ。物珍しがるのはいいが、逸れるなよ」

提督「……あきつ丸」

あきつ丸「は! 尽力するであります!」

憲兵大尉「ふ。どうやら、心配はなさそうだ」

399: 2014/08/30(土) 01:21:56.53 ID:lg09fu9e0

...

......

.........

提督「……あいつめ」

あきつ丸「逸れるな、と言われた憲兵大尉殿ご自身が逸れてしまったは仕方ないでありますね」

提督「……仕方のない奴だ」

あきつ丸「……もしや、気を使ってくださったのでありましょうか」

提督「……?」

あきつ丸「いえ、なんでもないであります。提督殿。列も進んでおりますし、仕方ありません。初詣を済ませてしまいましょう」

提督「……そう、だな」

あきつ丸「ほら、空いたでありますよ。行くであります!」

提督「……ああ」


ガラガラガラ   パンッ パンッ   


提督「……」

あきつ丸「……」

400: 2014/08/30(土) 01:22:45.04 ID:lg09fu9e0

あきつ丸「提督は、何か願いごとをされたのでありますか」

提督「……貴艦は、どうだ」

あきつ丸「は。自分は、この身が沈むまでご奉公が出来るよう願ったであります」

提督「……その願いは、叶わない」

あきつ丸「は?」

提督「……俺は、貴艦を沈めない」

あきつ丸「しかし、提督殿」

提督「……先に、この戦いを終わらせる。その為に、粉骨砕身する。……改めて、そう誓ってきた」

あきつ丸「誓った、とは?」

提督「……神社は、願い事をする場所では、ない」

あきつ丸「そう、でありましたか。お恥ずかしいことであります」

提督「……だが、日々努力する者の心願くらいは、叶えてくれよう。……別の願いも、考えておけ」

あきつ丸「……ふふっ」

提督「……どうした」

あきつ丸「一年の計は元旦にあり、と云うであります。今日の様子ならば、今年は提督殿とたくさん話ができそうと思ったのであります」

提督「……努力、しよう」

あきつ丸「はい。日々努力していただければ、提督の心願も叶うでありますな」

提督「……意味が、違わないか」

あきつ丸「同じであります!」

憲兵大尉「ああ、ここにいたか」

401: 2014/08/30(土) 01:24:03.65 ID:lg09fu9e0

提督「……ああ」

あきつ丸「憲兵大尉殿」

憲兵大尉「すまんな、言った自分が逸れては仕方ない」

提督「……おまえらしい」

あきつ丸「いえ、ご無事で何よりであります。……自分の為に、ありがとうございました」

憲兵大尉「ふ、礼を言われるようなことはしていないが、な」

あきつ丸「ふふっ」

提督「……どうした」

あきつ丸「提督殿と憲兵大尉殿の仲がいい理由が、なんとなくわかったのであります。おふたりとも、よく似ているのであります」

憲兵大尉「この仏頂面と、か」

提督「……この仏頂面と、か」

あきつ丸「ふふっ、あはははっ! そっくりであります!」

提督・憲兵大尉「「……」」

402: 2014/08/30(土) 01:24:51.49 ID:lg09fu9e0

...

......

.........

ガタンゴトン ガタンゴトン プァー

提督「……」

あきつ丸「……」

提督「……あきつ丸」

あきつ丸「なんでありましょう」

提督「……奴の、用事は」

あきつ丸「は、無事に済んだであります。ほかの艦娘がいるところでは渡し辛い、とのことでありましたので」

提督「……結局、なんだった」

あきつ丸「これでありますよ」

提督「……憲兵徽章、か?」

あきつ丸「はい。特務で憲兵として採用する、とのことでありました」

提督「……なるほど、な」

あきつ丸「憲兵大尉殿によれば、自分が間諜であることを強要されながら軍規を遵守し活動を行なわなかったことを評価されたそうですが……どういうことでありましょう」

提督「……奴なりに、気を使ったな」

あきつ丸「お分かりでありますか?」

403: 2014/08/30(土) 01:27:07.40 ID:lg09fu9e0

提督「……憲兵は、海軍においては海軍大臣の差配を受ける」

あきつ丸「はあ。海軍の憲兵は海軍の命令系統に入る、と言うことでありますね」

提督「……必要であれば、国内を動くことも可能だ」

あきつ丸「……。つまり、それは」

提督「……暫く、俺の下で自由にしろ、と言うことだ」

あきつ丸「例えば今回のような場合、自分は憲兵であるので海軍所属として提督の指示で動け、婚約者などと偽装する必要がなくなる、と言うことでありますか」

提督「……ああ」

あきつ丸「……。なるほどであります。でしたら、こちらの指輪は提督殿にお返しします」

提督「……俺にも、使う宛はない」

あきつ丸「いえ。……提督殿もいずれ、一人の女性を選びましょう。そのとき必要になるはずであります」

提督「……そう、か」

あきつ丸「そうでありますとも!」

404: 2014/08/30(土) 01:27:40.07 ID:lg09fu9e0

提督「……」

あきつ丸「……」

提督「……俺の顔に、何か付いているか」

あきつ丸「いえ。ただ見ていただけであります」

提督「……そう、か」

あきつ丸「……そうであります」

提督「……」

あきつ丸(そうであります。今回は必要に駆られて借り受けたまでのこと。お返しするであります。ですが、いつか)

405: 2014/08/30(土) 01:28:47.23 ID:lg09fu9e0



 ――いつか、そのときが来たら。
 あなたに自分を選んでいただけるよう努力すると。
 初詣の時、自分は本当は、そう誓ったのでありますよ、提督殿。



406: 2014/08/30(土) 01:29:28.09 ID:lg09fu9e0

あきつ丸「提督殿」

提督「……ああ」

あきつ丸「これよりこのあきつ丸、本領発揮するでありますよ!」

提督「……ああ。期待、している」

あきつ丸「お任せ下さい、であります!」

(ろくにんめ あきつ丸編 おしまい)

407: 2014/08/30(土) 01:30:27.46 ID:BNzeHtD7o
乙~ いい感じだねえ


次回:提督「頼む、婚約者になってくれ!」ななにんめ 武蔵編



引用: 【艦これ】提督「頼む、婚約者になってくれ!」