1: 2007/03/11(日) 23:58:00.80 ID:AOHwOeuH0

60: 2007/03/12(月) 00:36:48.99 ID:kRneU/f4O
魅音が歯を剥き出して笑った。


切っ先が触れてる所から血が出ている……氏んでしまう…。


その時、風を切る音がした。


その刹那、魅音の目が見開かれ、前につんのめるとそのまま倒れた。


一体何が起こったのだろう。圭一は首を押さえながら前を向いた。


そこには鉄パイプを手に、息を切らしてたっている魅音がいた。


いや、魅音じゃない…魅音は気絶している…じゃあ一体この女は…。


「アンタは一体誰だ…」


圭一がたずねた


「私?…私は詩音…園崎詩音…。」
くそみそテクニック スクリーンクリーナー 阿部さん

78: 2007/03/12(月) 00:52:43.97 ID:kRneU/f4O
「双子だったのか…」

「ええ…そうなの。」

詩音が思い出したように告げた。


「魅音を拘束しないと。ヤバいわよね。圭一君?魅音の足を持ってくれる?独房に運ぶから。」


詩音が魅音の腕をもち、圭一が足を持つ。


そして独房に運び終えると鎖で吊し、扉に施錠した。


これで大丈夫。やっと捕まえた…。あとは…外に助けを呼びに行くだけだ。


「あのね、圭一君…梨花ちゃんが…殺されたわ…。」


詩音がうつ向いたまま言った。
圭一が奥の独房を見に行く。


梨花が鎖で吊されたまま絶命していた。どうやらナイフで滅多突きにされたようだ。

血まみれだ。

104: 2007/03/12(月) 01:09:41.94 ID:kRneU/f4O
「……て…さいよ!……いしさ……」


不意に通路から声がした。


「誰か来た!隠れて!」

詩音に引っ張られる形で圭一は物陰に隠れた。


誰かが近づいて来る。一人ではないようだ。最低でも二人…。

337: 2007/03/12(月) 17:15:17.17 ID:kRneU/f4O
誰かが部屋に入って来る気配がした。


ゴニョゴニョと梨花の氏体がある独房の前で何かを話している。


「ンッ……ううん…」


突然魅音の声がして、話声がパッタリと止む。


続いて訪れる沈黙。


そして金属で金属を擦る不快な音がした。
バールで魅音の入っている独房の扉を壊そうとしているようだ。


しかもあれは…阿部さん……?


轟音がして、頑丈な独房の扉がバールの前に白旗を上げた。

352: 2007/03/12(月) 17:27:28.75 ID:kRneU/f4O
すかさず黒いシャツを着た中年の男が独房の中に入り、魅音の鎖を外そうとする。


まずい…魅音が…


「待って!止めて!そいつを放さないで!そいつは魅音よ!」


詩音が立ち上がって叫んだ。


二人がびっくりした様子でこちらを見た。


「誰だい?」


阿部が目を細めてこちらを見た。
中年の男がこちらに銃を向けている。
誰も背後に注意を向けていない!畜生!本当に危ない奴はアンタらの背後にいるんだぞ!!!


そしてその二人の背後の暗がりで何かがうごめき、何かが閃く…。


あれは…ナイフ…

363: 2007/03/12(月) 17:43:10.27 ID:kRneU/f4O
阿部は魅音によく似た叫び声が背後から聞こえ、ギョッとした。


慌てて背後を振り返り、目を凝らす。

二人分の人影がこちらを向いて立っていたが、薄暗いせいか人相など細かい所はよく分からなかった。


「誰だい?」


阿部は人影に話しかけた。
返事はない。


阿部は大石の方を向いた。
人影に銃を向けている。


阿部が大石に口を開きかけた瞬間、人影が切迫した様子でこう怒鳴った。

「後ろ!!」

その怒鳴り声が終るか、終わらない内に、大石の体が一瞬こわばる。

そして、目を見開くと前にドサリ、と倒れた。

背中から出血している。

阿部は何が起こったのか皆目見当がつかずにキョトンとした。

376: 2007/03/12(月) 18:14:37.64 ID:kRneU/f4O
大石が血を流して倒れた。
人影の辺りから非難がましい悲鳴が聞こえた。


「魅音!お願い!もう止めて!」


暗がりから声がする。毒々しい韻を含んだいやらしい声だ。


「阿部さん……お願いだから…氏んで…」


暗がりで銀色の何かが輝く。

そして人影が少しずつ…少しずつ…現れる。


魅音……手にナイフを握っている。


クソッ!こいつは詩音なんかじゃない!


魅音だ!


阿部の反応が一瞬遅れた。

暗がりから銀色の物体が閃き、反応が遅れた阿部の腹部に深々と刺さる。

387: 2007/03/12(月) 18:21:34.85 ID:kRneU/f4O
阿部の腹部に激痛が走り、続いて焼けるような灼熱感を帯びる。


「ハアッオ"!」


阿部は腹部を押さえて倒れこんだ。


「阿部さん!!」


人影の方から声がした。圭一の声だ。

あの人影は圭一だったのか…。
激痛によって途切れ途切れになる思考でぼんやりと阿部は考えた。


「詩音と圭ちゃん…次はアンタらの番だよ。」


遥か頭上で魅音の声がした。

続いてパタパタと足音が響く。


「逃げ…ろ…。逃げなさ…い…。」


大石がかすれた声で言った。

407: 2007/03/12(月) 18:56:47.36 ID:kRneU/f4O
二人分の人影が逃げる足音がし、続いて魅音が後を追う足音がした。


「阿部さん……すいません…ドジ踏んじゃいました…。」


大石が仰向けになりながら、言った。


「うかつでした…まさかこっちが魅音だったとは……」


阿部は腹を押さえながら大石の側へと這っていく。
阿部の傷は激痛こそすれ、出血は大した事なかった…。

しかし大石の方の出血は甚大で、ドクドクととめどなく流れていた。


「大石さん…大丈夫かい?」


「阿部さん……私は多分助かりません…出血が酷すぎる…。」


大石が天井を仰ぎながら、遠い目で言った。


既に大石の周りには、彼を中心に血の水溜まりが出来ていた。

417: 2007/03/12(月) 19:03:14.80 ID:kRneU/f4O
大石が何かを思い出したかのように阿部の方を向いた。
目にともる光が徐々に弱々しくなっていった。


「そうだ、阿部さん…あなたに……渡したい物が有ります…」


大石がシャツのポケットをまさぐって、ところどころ土で薄汚れた白い紙切れを取り出した。


「……入江先生の遺書です…出来れば…出来ればあなたには見せたくは無かった…最期の最期まで…………この村には知っていい事と……悪い事があって…知らない方が…」


「幸せな事もある……だろ?」


入江先生の遺書を受け取りながら阿部が続けた。

425: 2007/03/12(月) 19:18:51.33 ID:kRneU/f4O
阿部は遺書を開いてみた。


入江先生の遺書は乱雑な字で埋めつくされていた。
まるで何かに追い立てられ、最期の最期に覚悟を決めて急いで書いたかのように……。


『…この遺書を誰かが見ているという事は私は既に氏んでいる事でしょう…。
私はこれ以上…彼の罪を増やしたくない…それ故に自殺を決意しました。』


入江先生の遺書はありがちな展開で導入されていた。
入江先生……何があったんだ…。

439: 2007/03/12(月) 19:31:25.87 ID:kRneU/f4O
遺書はこう続いている。


『私はこの場を借りて、あの殺人事件の事について触れたい。


あの連続猟奇殺人事件が起こった時、私はまだ医師を志す学生でした…。
それはそれは酷い事件で、8人もの少年少女の命が奪われたと聞きました。

警察の公式発表によると犯人はまだ捕まっていません…。

しかし…実は犯人はその時村人の手によって集団リンチにあい、もうとっくに氏んでいるのです……。』


阿部の脳裏に、雛見沢に越して来た時に見た幻覚がよぎる。


ガレージの窓から見た幻覚…幻聴…。

455: 2007/03/12(月) 19:53:36.23 ID:kRneU/f4O
『殺された犯人の名前を言ってしまうと……信じてもらえないかもしれません。しかし私には言う義務があります。
信じられないかもしれませんが、その犯人は

…最近この村に引っ越して来た阿部高和さんです。』

阿部は混乱した…いや、まさか……そんな馬鹿な…馬鹿な事があってたまるか。
阿部は何とか落ち着くように自分に言い聞かせて遺書の続きを読んだ。

『しかも阿部高和は私の同級生でした。
彼は雛見沢に住んでいたんです。

信じられないという方は診察室の机に写真が入っているのでそれをご覧になって下さい。

阿部高和と、同じく同級生だった鷹野三四が並んで写っている写真があります。わたしが撮った写真です。』

「阿部さん…アンタは雛見沢に住んでいたんだ。…そして殺人事件を起こした。」

大石がしわがれ声で阿部に言った。

「いや…何かの間違いだ…俺の出身は…」
「出身は……どこです?」

大石が強い口調でたずねた。

「出身は…出身は…」
綺麗に記憶がそこだけが欠落していた。
クソッ!何故だ?何故思い出せない!

良く考えてみると雛見沢に来る前の記憶すら無かった…。どこに住んでいて…どのような職業についていた

471: 2007/03/12(月) 20:10:17.70 ID:kRneU/f4O
遺書は無情にも続く。

『前述の通り…確かに犯人である阿部は村人の手によって殺されました…。

だけどリンチの直後に信じられない事が起きました…。
阿部は生き返ってきたのです。

あれだけ殴らようと、蹴られようと…。』

阿部の頭のフィルムがこんがらがる……そして阿部のフィルムは物語の冒頭へ…。




夢の世界………気がつくとそこはガレージだった。そして、あの時のようにガレージの窓から外を眺めている。

あの時のように村人何人かが、何かを取り囲み、それに向かって斧や鍬を振り上げては、振り下ろしていた。
凄まじい罵声と、叫び声が聞こえる。

まさか…あれが…おれ?

「そうよ…あれがあなた…。これで分かったでしょ?何でここにあなたが来てはいけないのかが…。」

あの時のように鷹野の声が背後から響いてきた。

「あれはあなたよ…。下劣で最低な殺人鬼…それがあなた…。」
気がつくと鷹野が阿部の脇に立ち、リンチの様子を眺めていた。

どこかでひぐらしが鳴いている。

481: 2007/03/12(月) 20:21:51.90 ID:kRneU/f4O
辺りが静かになる……聞こえるのは木立が風でそよぐ音…そして……ひぐらしの鳴く音…。


村人達が取り囲んでいた何か…を殴るのを止めて、立ち尽した。

その何か…は倒れたまま動かなかった。


村人達はまるで赤ペンキでも被ったかのように血で真っ赤になっていた。


誰も…何も言わない。沈黙が辺りを包んだ。


突然輪になっていた村人の中心がざわめき、悲鳴を上げた。


そして何か…を取り囲んでいた輪が、今度はその何か…から避けるように広がった。


恐怖と混乱のどよめきが起きる…。

497: 2007/03/12(月) 20:33:58.52 ID:kRneU/f4O
うろたえ、恐怖する村人の中心に、阿部は目を凝らした。


さっきまで…さっきまで倒れていた血まみれの何か…が今度は立ち上がり、ただただ虚空に視線を向けていた。
その顔はまごうことなき若かりし頃の阿部高和本人であった。


あれだけ殴られ、蹴られ、切られ、刺されて生きていられるはずなどない!!


「この事件以来…アンタの存在は神格化される事になる……つまりアンタがオヤシロ様の生まれ変わり…って事になるのよ。」


嘘だ!…嘘だ!…嘘だ!


「これで分かったでしょ?オヤシロ様なんて居ないのよ…だってアンタがオヤシロ様なんだもの…フフッ…。」


鷹野が見放したようにそう言うと、スッと姿を消した。


阿部の意識が夢の世界から現実へと引き戻される。

509: 2007/03/12(月) 20:40:57.00 ID:kRneU/f4O
入江先生の遺書はまだ続いていた。
乱雑だった字が更に乱雑になる。


『阿部高和の存在がオヤシロ様の生まれ変わりになる…。
そして阿部は姿を消しました。
勿論村人はその出来事を隠蔽しました。殺人事件の犯人は…阿部高和は…いなかった…。最初から…。』


遺書のところどころに液体を垂らして乾かしたようなふやけた跡があった。
多分入江先生は泣きながらこの遺書を書いたのだろう。


『しかし…彼は…オヤシロ様は突然帰って来てしまった。

私は…彼の事が好きでした。
だから何とかして彼を助けたかった…しかし…私は今…彼に殺されようとしています…。』

539: 2007/03/12(月) 21:14:07.15 ID:kRneU/f4O
『私は今診察室でこれを書いています…。
ドアが…いつまで持つかわかりません。

私は、彼に殺されて、彼の罪を増やす位なら…氏を選びます…。

これを読んだ方…この遺書を決して阿部高和には見せないで下さい…それだけが…私の最期の望みです…。』


遺書はここで終わっていた。
余りの空白部分には血がついた指や手で押し付けたと思われる跡がべっとりとついていた。
乾きかけの血糊の跡から、自殺現場がいかに凄惨だったかを物語せる。


そしてその余白の隅の部分に小さく…本当に小さく…明らかに入江先生とは異なる筆跡で何かが書いてあった…。


『8月×日…火山、噴火、毒。』


今日の日付だ…。


「畜生!何だってんだよ!」


阿部は凄まじい不快感に襲われ、遺書をクシャクシャに丸めて、投げ捨てた。


大石がゼエゼエと苦しげな息遣いをしながら、阿部を見た。

545: 2007/03/12(月) 21:20:19.68 ID:kRneU/f4O
「阿部さん…今の…私には……あなたにかけるべき言葉が……分かりません…しかし…」


大石が震える腕を上げて、阿部に拳銃を差し出す。


「これで……これで…最期のけじめをつけるべきだと……思います。……どうか……どうか…園崎魅音を…これで…。」


不意に地面が揺れた。地震だ…結構大きい……。

地面の下で何か…とてつもない力を秘めた物がうごめき、さかんに外に出ようとしていた。

557: 2007/03/12(月) 21:35:21.72 ID:kRneU/f4O
「あまり…時間がないようです…阿部さん…頼みましたよ…。」

そういうと大石は阿部にウィンクをした。

阿部は大石の拳銃に手を伸ばすと、それを受け取った。

「なあ…大石さん…。」
阿部が大石に話しかけた。

「アンタになら…掘られても良かったぜ…。」
大石はクツクツと笑った。

「私もですよ、阿部さん……さあ、無駄話はここまでです。あまり時間がありません。お行きなさい。多分彼らはこの先の地底湖です…。」

大石がポケットから煙草を取り出して、くわえると火を付けた。
そして旨そうにふかす。
「必ず迎えに来てやる…それまで氏ぬなよ!」

阿部が大石に強い口調で言った。
大石は分かった分かった、だからもう行け、という感じに何度も頷いた。

阿部は腹部を押さえて立ち上がると、三人が走っていった方向に走り出した。

阿部の足音が遠ざかるのを確認すると大石はそっと呟いた。

「すまないな、阿部さん…待ってらんねぇんだ……先に…行ってるからな…。」

大石の口から煙草がホ口リ、と離れて、地面に落ちた。

大石は二度と動かなかった

578: 2007/03/12(月) 21:50:44.43 ID:kRneU/f4O
阿部は走った…。


腹部の傷が少しずつ擦れ、動いたせいで凄まじい苦痛をもたらした。


奥に進むにつれて硫黄の臭いが濃くなっていった。どうやら噴火は本当の事らしい。


そして湿度と気温が急に高くなり、蒸し暑くなる…まるでサウナだ…。

まるで沸騰する鍋に顔を近付けた時のような暑さだ。


今までの出来事や、腹部の傷、蒸し暑さのせいで意識が朦朧とした…。

だが阿部は走り続けた…けじめをつけるために…。

591: 2007/03/12(月) 22:00:24.75 ID:kRneU/f4O
同時刻……地底湖。


圭一は詩音の手をとって走って走って走り続けた。


しかしいくら走っても魅音は二人にしぶとくついてきた。


「絶対に!絶対に逃がさないんだからね、前原圭一!」


魅音がナイフを手の中でチャカチャカ鳴らしながら追いかけてくる。


奥に進むにつれて酷く…蒸し暑かった…それに、硫黄臭かった。


詩音が苦しそうに咳をした。


圭一の肺は、今にも破裂しそうな位であった。

618: 2007/03/12(月) 22:12:17.20 ID:kRneU/f4O
急に開けた場所に出た。


その途端に凄まじい熱気と湯気が辺りを包んだ。

圭一はむせかえるような硫黄の臭いのなか、手探りで奥に進もうとした。

「駄目!危ない!」

詩音が圭一の腕を引っ張った。

「地底湖が…地底湖が…。」

圭一は立ち上る湯気の中に目を凝らした。

何と、二人の目の前数メートル先に巨大な地底湖があった。

しかし湖のそこら中からボコボコと泡をたててしきりに沸騰していた。

湯気がもうもうと立ち込める。
これ以上は進めなかった。

二人は後ろを振り向いた。

もうもうと立ち込める湯気の中で、一つの人影が二人の事を黙って凝視していた。

「圭ちゃん…詩音…行き止まりだね…」

625: 2007/03/12(月) 22:23:13.70 ID:kRneU/f4O
「おじさん走って疲れたよ……でも、もう終わりだよ…圭ちゃん…詩音…」


ナイフを構えた魅音が二人ににじり寄っていく。

二人はあとずさった。


「圭ちゃん、詩音…後ろは熱湯だよ?落ちたらそれこそ茹で蛸になっちゃうよ?」


ボコボコと、地底湖が音を激しくさせる。


「行くも地獄…戻るも地獄…。二人に選ばせてあげるよ。」


魅音がケタケタ笑いながら言った。

645: 2007/03/12(月) 22:35:51.55 ID:kRneU/f4O
「魅音!お願い!もう止めて!」


詩音が圭一の前に立って叫んだ。


魅音の顔が般若のようになる。


魅音はそのまま無言で詩音に近付くと、肩口をナイフで刺した。


「アアアッ!」


詩音が悲鳴を漏らした。


「アンタはいつもうるさいのよ…いちいち!」


魅音がグリグリとナイフを動かして傷口をえぐる。
詩音の悲鳴が更に大きくなる。

650: 2007/03/12(月) 22:44:59.93 ID:kRneU/f4O
「止めろ!魅音!」


圭一が魅音に飛びかかった。

魅音は詩音に突き立てたナイフを抜くと、飛びかかる圭一に向けて払った。


圭一の喉が切り裂かれた。
圭一の喉から鮮血がほとばしる。


「やだ!圭一君!圭一君!」


圭一は喉を押さえてうずくまった。


魅音は勝ち誇ったような顔をして、二人を見下ろした。

690: 2007/03/12(月) 22:58:38.65 ID:kRneU/f4O
「どうやら…おじさんの勝ちだね…二人とも」

魅音がいつもの…いつもの部活で出すような快活な声で言った。


圭一は喉を押さえながら、虚ろな目で詩音を見た。

目を瞑って泣いていた…。


これで…これでおわり?


魅音が、わざとゆっくり、ゆっくりとナイフを振り上げていく。


魅音の顔は邪悪な笑みで満たされていた。


遂に頭上までナイフを振り上げた。


「じゃあね…二人とも…天国で仲良くね…」


どうやら、これまでらしい。

圭一は喉を押さえながら静かに目を閉じた。

716: 2007/03/12(月) 23:09:35.50 ID:kRneU/f4O
圭一の脳裏に楽しかった日々の事が駆け巡る。


学校が終るとすぐに、いつもの部活のメンバーで田舎道を他愛もない世間話でもしながら歩いて、阿部さんのガレージへ向かう。


圭一達が工場に行くと、阿部さんはいつも椅子に座ってラジオを付けっぱなしで昼寝をしていた。

いたづら好きの沙都子が寝ている阿部さんの耳元で起きろー!と、大声を出すのだ。


阿部さんがびっくりして椅子から転げ落ち、眠たい目を擦る。

僕たちはいつまでも、いつまでも笑っていた…。

743: 2007/03/12(月) 23:21:56.74 ID:kRneU/f4O
最後ぐらい、最期ぐらい…笑って氏にたかった。


圭一は目を閉じたまま。奇跡を祈った。


突如として轟音が二発轟いた。


圭一はびっくりして目を開けた。

詩音も顔を上げた。


ナイフを振り上げた魅音の、腹部の辺りに、ドングリほどの小さい穴が二個開いていた。

穴の周囲では、服の生地が少し黒く焦げていた。


魅音は何が起こったのか分からず、ただ呆然と服に開いた二つの穴を見つめていた。

しばらくして魅音の服に血がにじんでいく。

774: 2007/03/12(月) 23:38:48.44 ID:kRneU/f4O
魅音は血を吐き、膝をついた。


魅音が血で濡れた口をテラテラさせて、うつ向いたまま今までとは考えられない優しい声でいった。


「あのね………圭ちゃん…おじさん本当にね…本当に圭ちゃんの事…好きだったんだよ……大好きだったんだよ…」


魅音は湿っぽい咳をすると、崩れ落ちるように倒れた。


倒れてもなお、天使のような安らかな顔をしていた。


圭一は入口の方を向いた。

阿部が腹を押さえたまま、銃を構えて立っていた。


「阿部さん!」

802: 2007/03/12(月) 23:47:52.21 ID:kRneU/f4O
「良かった…阿部さん…生きてたんですね?」


圭一が青白い顔で無理矢理笑顔を作った。


詩音が安心したのか、はたまた魅音が氏んだからなのか、声を上げて泣いていた。


「きっちり……落とし前をつけてやったぜ」

阿部が頷きながら呟いた


「さあ…阿部さん…帰りましょう」


圭一が阿部に手を伸ばした。
しかし阿部は首を横に振った。


「駄目だよ、圭一。俺は帰れない…すまない。」

823: 2007/03/12(月) 23:59:32.20 ID:kRneU/f4O
圭一の笑顔が一瞬にして悲しげな表情に変わる。


「阿部さん…どうして?…阿部さん…阿部さん…」


阿部は二人を抱き起こした。そして二人を抱き締めた…しっかりと…。


「お前らは生きろ…俺は…俺は…無理なんだ。」


阿部は笑顔でそう言った。だが目からは涙が流れていた。


「阿部さん…どうして?…一緒に逃げようよ…阿部さん!」


「どうしても…どうしてもいけないんだ…。」

847: 2007/03/13(火) 00:12:07.64 ID:49nFCUf9O
「さあ…いくんだ。俺に何度も言わせるなよ。」

阿部が二人を入口の方に押しやる。
しかし圭一が動かずに、阿部の方をいつまでも…いつまでも見ていた。

「阿部さん…」

「行くんだ…圭一…」
「でも…」

「行けーーー!!」

阿部が圭一に向かって怒鳴る。


「詩音…圭一を…連れていってくれ。…頼む。」


しばらく間を置いて、詩音が頷いた。そして圭一の腕を引っ張っていく。


「阿部さん…阿部さん…」


湯気にまかれて圭一の姿がほとんど見えなくなるまで阿部は笑顔で手を振り続けた。

そして圭一の姿が完全に見えなくなると、阿部は声を出して泣いた。心の底から…。

877: 2007/03/13(火) 00:24:56.72 ID:49nFCUf9O
阿部は深呼吸をすると、手にした拳銃をこめかみへと持って行った。

真実を知った以上、阿部にはこれ以上生きていく事が出来なかった。


「ごめんな…圭一…さよなら…さよなら…」


阿部は拳銃の撃鉄を上げた。
ガチリ、という金属音が響いた。

その時、突如として地震が起きた。
今までとは比べ物にならない程の大きな地震だ。

背後の沸騰した地底湖が爆ぜ、噴水のように熱湯が噴き上げられる。

湯気とは違う、白いガスがもうもうと上がり、阿部を包んだ。

その直後、一発の銃声が唐突に響いた。

白いガスは阿部を包み終えると、全てを飲みこまんとして、凄い勢いで地下に充満していった。

905: 2007/03/13(火) 00:32:55.88 ID:49nFCUf9O
19××年8月×日…。


雛見沢村で未曾有の大災害が起きた。


発生した火山ガスにより、村人の95パーセントが氏亡。


氏者1000人を超える大災害となった。


無論火山ガスは地下からも発生し、全てを飲み込んでしまった。


日本政府は自衛隊の派遣を決定し、救助活動と、調査の両方にあたった。

934: 2007/03/13(火) 00:43:21.56 ID:49nFCUf9O
「ここはひでぇ…氏体だらけだ。」


自衛隊員の一人が思わず呟いてしまった。

無理もない…。


この井戸に偽装した地下だけで、もう4体もの遺体を収容したからだ。


一人は鎖に縛られたままの他殺体で、一人は白い布を被せられたままの他殺体で、残りの二人は入口付近でおり重なるように倒れていた。

喉に傷がある男の子が緑の髪の毛のポニーテールの女の子を守るように…。


自衛隊員はガスマスク越しにため息をついた。まだ…こんなに若いのに…。


多分…ここに生存者はいないだろう。

半ば諦めて付近を捜索する。

その時突如として大声が地下に響いた。


「おい!生存者がいたぞ!」

961: 2007/03/13(火) 00:52:00.57 ID:49nFCUf9O
「おいおい…マジかよ。」


自衛隊員達はただただ信じられない面持ちだった。


ここが火山ガスの噴出口の一つになっているのだ。
普通の人間なら即氏する程の硫化水素の濃度である。


「生存者だ!通してやれ!」


自衛隊員の一人に肩を貸され、その生存者は弱々しく洞窟の奥から歩いて来た。


「君…名前は?」


肩を貸していた自衛隊員がたずねた。


「…詩音…園崎詩音…。」

974: 2007/03/13(火) 00:54:23.31 ID:AE8nYNFyO
阿部さんは…?

次回:阿部高和が雛見沢村に引越して来たようです。【その8】


引用: 【阿部と】阿部高和が雛見沢村に引っ越して来たようです【大石】