151: ◆g4b7GjYsgg 2010/09/03(金) 21:45:08.07 ID:oGxd2nsF0
親が寝るまで本格的な書き込みが出来ない、半にーとの作者です。

【阿部曝し篇】阿部高和が雛見沢村に引越して来たようです【前編】

お待たせしてしまい、申し訳ありません、必ず最後までやり遂げる所存で御座いますので、ご指導ご鞭撻宜しくお願い申し上げます

160: 2010/09/04(土) 00:05:48.13 ID:oGxd2nsF0
「それで、俺達に出来る事は何かあるのかい?」

「とにかく緊急マニュアルを発動させないことです…女王感染者である梨花ちゃんも守らなければなりません…。」

「あら…皆さんお揃いで、どうしたのかしら。」

診察室の入口から淫靡な韻を含んだ、嫌らしい声が聞こえた。

五人はその場で振り返った。 そこには梨花ちゃんの頭に銃を突き付けた鷹野が立っていた。

「貴様…あの時の…!」 阿部が鷹野に飛び掛からんと身構えた。

「動かないで!…動くと梨花ちゃんの頭がざくろのように粉々になるわよ…勿論、他のみんなの頭もね。」

鷹野が入口から診察室に入ると、ぞろぞろと羽入、沙都子、レナも入って来た。

三人の後ろには自動小銃を構えた作業着姿の男が立っていた。

「鷹野さん…これは一体…。」
くそみそテクニック スクリーンクリーナー 阿部さん

161: 2010/09/04(土) 00:09:05.07 ID:hauPxY+e0
富竹が鷹野と拳銃を交互に見ながらたじろいだ。

「あら、ジロウさん…奇遇ねぇ…こんな所で一体何をしてるのかしら?」

「鷹野さん…馬鹿な事は止めてこっちに銃を渡すんだ。」

富竹は手を前に出して、鷹野ににじり寄って行く。

「馬鹿な真似はやめる事ね…貴方の脳筋な頭に風穴が開く結果になるわよ。」

ジロウは構わずににじり寄る。

「落ち着いて話をしよう…君と僕の仲じゃないか…さあ、鷹野さ…。」

そこまで言ったジロウだったが、そこで雷鳴の様な銃声が響き、部屋に酸っぱい火薬の臭いが充満した。

銃口から発射されたホローポイント弾は、富竹の硬い頭蓋に命中し、潰れて歪んだ後に、頭蓋から脳をえぐり、脳の中の何もかもを削岩機の様に目茶苦茶にした後、それらを伴い後頭部から飛び出した。

血の混じった泥炭の様な白い脂肪の塊が、後ろに立っていた三人を襲った。

三人は赤いペンキを被ったかのように、全身血まみれになった。

富竹はもんどりうって床に倒れ、血の水溜まりを作った。

162: 2010/09/04(土) 00:13:25.18 ID:hauPxY+e0
富竹の脳しょうを浴びた三人は一瞬息を飲み、魅音は手をばたつかせ、毛髪が混じったそれを慌てて払い落としていた。

「…こうなりたくは無かったら黙ってついて来る事ね。」

鷹野は無表情のまま言い放った。

「鷹野さん…富竹さんは貴方の恋人だったんじゃ…。」

入江が脳を滴らせながら、放心状態で言った。

「あっちがどう思ってたかは知らないけど、私には都合のいい道具だったわ。」

「…彼のズボンのポケットを見てもまだそんな事が言えますか…。」

ようやく目に光りを宿した入江が怒りを押さえながら言った。

「一体何を言ってるのかしら…。」

「…ポケットを見てみるんだ…早く…。」

入江の言葉に、鷹野はこちらを警戒しながら、富竹の氏体のポケットをまさぐった。

そこには小さな黒い箱が入っていた。

163: 2010/09/04(土) 00:17:02.94 ID:hauPxY+e0
鷹野は怪訝な顔で、小さな箱を開けた。

そこには小さなダイヤモンドがあしらわれた指輪が入っていた。

「ある日、彼から相談を受けたんです。私が一体どうしたんだと尋ねると、彼は頭を掻きながら照れ臭そうに言いました。鷹野さんにプロポーズをしたい、入江先生…僕は一体どうすればいいんでしょう…彼女は喜んでくれるでしょうか…。
彼は不安げではありましたが、さも嬉しそうに私に言ってくれました…これがそんな彼に対してする仕打ちですか!」

鷹野はしばらく、その指輪を手を震わせて何とも言えない表情で眺め、富竹の亡きがらを寂しげな表情で見つめた。

そして、高笑いをすると指輪を放り投げて、言い放った。

「なんて憐れなジロウさんなの!」

阿部は我慢の限界を迎え、鷹野を見据えて怒鳴った。

「これが本当に人間のする事かよ!お前ら人間じゃねぇ!」

阿部はそう怒鳴ると、鷹野に飛び掛かった。

だが、鷹野は目の前に来た阿部の股間に銃を突き付けて言った。

「あなたはすぐには殺さない…あなたの睾丸を、陰頚を潰して、あなたの目の前でこの子達を散々苦しめて頃してあげる…それからあなたよ…いいの?タマが吹き飛ぶわよ…。」

阿部は依然として、怒りに身を震わせながらも、鷹野を茶化すかのように軽い口調で言った。

164: 2010/09/04(土) 00:22:04.69 ID:hauPxY+e0
「そりゃあタマげたな…。だがアンタは必ず膝まづき、俺のタマをしゃぶりながら俺に許しを乞う事になるだろう。その時はタマのシワの間までねっとりしゃぶらせるからな。…かならずだ。」

それを聞いた鷹野は顔をしかめて、怒声を上げた。

「上等だわ!このホ〇男!」

鷹野はそう言うと、阿部の股間をスラリと伸びた長い脚で蹴り上げた。

「ハアッオ"!」 阿部は前屈みになって悶えた。

「タマらん!」

「さあ、楽しい楽しい茶番は終わりよ。来なさい!」

鷹野はそう言うと、入江を含めた八人を地下へと連れて行った。

「後でじっくり頃してあげるわ。それまでそこで大人しくしてなさぁい。」

八人を詩音が縛られている監禁部屋へと入れ、鍵を閉めた。

「明日の綿流し後に緊急マニュアルを発動します…。一切合切容赦無く粉砕するのよ。」

鷹野は満面の笑顔で声を張り上げた。

「私は全知全能の神になるのよ!」

165: 2010/09/04(土) 00:25:19.41 ID:hauPxY+e0
「詩音!大丈夫だったか?」

詩音の拘束を解きながら圭一が尋ねた。

「…圭ちゃん…お姉…皆…助けに来てくれるって信じてた…。」

「残念だが、詩音…助けはしたが、今度は俺達に助けが必要だ。」

阿部がマジックミラーを覗き込みながら言った。

「なあ、沙都子…ヘアピンなんか持ってないか?」

沙都子はすぐさま、靴の中から隠し持っていたヘアピンを取り出すと、阿部に手渡した。

「備えあれば嬉しいですわよ、阿部さん。」

「憂い無しだぜ、我が妹分。」

阿部は訂正しながらニコリと微笑んだ。

そして、施錠された扉に飛び付くと、鍵穴にヘアピンを差し込んでガチャガチャと解錠を試みた。

「阿部さん、どうする気ですか?」 入江が心配そうに阿部を覗き込んだ。

166: 2010/09/04(土) 00:29:54.97 ID:hauPxY+e0
「穴にコイツを差し込んで開けるんですよ…ここをこうしてえぐる様にゴリゴリしてやると、穴が泣いて喜んで、しまいにはイッちまうんですよ…こんな風にね。」

扉はガチャリと快感に悶えて、イッた。

「俺は先に出て、ここを制圧する…お前らは俺が合図をしたら出てこい。…こうなりゃ全面戦争だぜ!」

阿部はそう言うと、皆の制止を聞かずに、扉から外へと飛び出して行ってしまった。




施設の構造上、恐らく警備室があるだろう…そこを抑えれば大抵のカタが付くだろう。

ただ問題は、警備室の場所を入江先生から聞き忘れてしまった事だ。

どうした事か…阿部は無機質な白い廊下の壁に背を預けて、途方にくれた。

「阿部さん!」 横から押し頃した声がして、阿部は飛び上がった。

そこには姿勢を低くしてチョコチョコとこちらに歩いてくる入江の姿が見えた。

「道案内が必要でしょう。」

167: 2010/09/04(土) 00:34:54.00 ID:hauPxY+e0
阿部の横にピタリと張り付いて、入江は言った。

「助かるよ入江先生…所で警備室はどこだい?そこを押さえたい。」

「そこの廊下を突き当たった右の部屋です。」

阿部はそれだけを聞くと、素早い動きで警備室を目指し、扉を蹴破った。

中では五人程の山狗が、作業をしていたが、全員面食らった様子で慌てふためいていた。

阿部は手近な椅子を素早く掴んでブンと投げた。

警備システムを統括している端末に椅子がブチ当たり、火花を散らして沈黙した。

阿部は近くに立っていた山狗の後頭部に、すれ違い様に肘鉄を食らわせ、昏倒させた。

そして、進路にいた二人には走ってきた勢いのまま両手を広げたラリアットを食らわせた。

二人は宙返りしそうな勢いで頭を床に強打し、自動小銃を使う間もなく同じく昏倒した。

残りの二人は既に自動小銃を構えて、こちらに油断無く向けていた。

さすがの精鋭、山狗部隊だ…俺の動きにひけを取らない。

阿部は両手を広げて、二人に言った。

「俺は丸腰だ…明らかに俺が不利だ…だからゲームをしよう…二人いっぺんじゃなく、一人ずつ…ナイフで戦おうじゃないか。」

168: 2010/09/04(土) 00:39:57.18 ID:hauPxY+e0
山狗の二人は始め唖然としていたが、阿部の言葉の意味を悟ると、互いにニヤリと笑みを浮かべて、自動小銃を置き、ナイフを取り出して構えた。

「で、お前の武器は?」 山狗の一人がニヤニヤとナイフを手の中で弄びながら、言った。

「俺かい?俺はコイツだ…。」

阿部はそう言うとつなぎのポケットから先程使ったぐにゃぐにゃのヘアピンを取り出して、指先で摘んでユラユラ揺らした。

「…舐めやがって!」 山狗の一人は激昂して、ナイフを突き立てんと阿部に飛び掛かかった。

阿部はそのナイフを持つ手をガシリと掴むと、捩り上げ、振り上げたヘアピンを山狗の喉元に振り下ろした。

ブチュッと厭な音がして、ヘアピンは山狗の喉に深く食い込み、山狗は結核患者の痰の絡んだ咳の様な声を上げて地面に倒れ、絶命した。

一部始終を見ていた山狗は怯えた様子でナイフを前に構えて、阿部を見つめている。

阿部は不敵な笑みを浮かべて、再びポケットをまさぐった。

次に阿部の手に握られていたのは百円ライターだった。

俺はこれで戦うがお前はどうする?と言うような表情で阿部が山狗に目配せをする。

山狗は雄叫びをあげると、阿部に突進した。

169: 2010/09/04(土) 00:45:22.40 ID:hauPxY+e0
阿部はそれを受け流すと、首根っこを掴み、だらし無く開いた山狗の口にライターを押し込み、下顎を思い切り殴った。

口の中に入れられたライターは歯と歯の間にガチリと挟まれるのと同時に爆発し、破片を四散させた。

口の中の至る所にプラスチックの破片が突き刺さり、口から血を流しながら、情けない悲鳴を上げてナイフを取り落とした。

どうやら勝負がついたようだ。

阿部は手近なテーブルに山狗を押さえ込むと、ズボンを脱がせた。

「さて、楽しいお話をしようか…鷹野はどこにいる?」

山狗は口を押さえながら首を横に振った。

「喋らないか…なら下の口に聞こうか。」

阿部は自分の中指をしゃぶって唾液を付けると、山狗のア0ルに思い切り中指を突っ込んだ。

「アッー!」 山狗から悲痛な悲鳴が漏れる。

「この辺りに前立腺があるんだ。どうだい?」

阿部は山狗の直腸の中で指をくねらせた。

「ンアッー!や…止めて下さい…。」

「喋らないと、ああ…次はフィストだ…。」

172: 2010/09/04(土) 01:04:50.75 ID:hauPxY+e0
阿部は指を抜くと、拳を作り、山狗の目の前でちらつかせた。

「わ…分かった…鷹野三佐は…司令車で、どこかに出かけた…山狗のバンも複数同行している…た…多分…雛見沢の近郊の森だ…間違いない…それ以外はしらないんだ…頼むからフィストはマジ勘弁!」

「なんだお前根性無しだな」

阿部は棒読みでそう言うと、山狗の首にチョップをお見舞いした。

山狗はビクンと体を引き攣らせると、おケツ丸出しで気絶した。

阿部は剥き出しになった山狗をみて、ゴクリと唾を飲むと周りを見回して、誰もいない事を確かめた。

誰もいないと分かると、阿部は机に突っ伏す山狗の腰を掴んで、つなぎのジッパーをゆっくりと下ろしていった。

そして、阿部は膨張しているムスコを取り出し、山狗のア0ルにあてがった。

「阿部さん!無事でしたか?阿部さん!」

警備室の入口から入江先生の声が聞こえて、阿部は慌ててムスコを隠した。

「入江先生…警備室は確保したよ。ここはほぼ制圧済みだ。」

ほどなくして、入江先生が入って来た。

「すごい…阿部さん…一人でこれを…?」

「ああ、すこし苦戦したがね。…鷹野は近くにいるそうだ。こちらから仕掛けないか?」

174: 2010/09/04(土) 01:09:58.58 ID:hauPxY+e0
阿部はそう言うと、床に落ちていた自動小銃を手に取り、入江先生に手渡した。

入江は慣れない様子で、自動小銃を構えた。

「使い方がよく分からないです…。」

「簡単さ…安全装置を外して、引き金をひけばいい。それでタマが出る。」 「阿部さんの武器は?」

「俺は武器を使わない主義だ。常に裸一貫だ。」

阿部は自信満々にそう言うと、胸を張りながら警備室を出た。

すれ違い様に駆け付けて来た山狗の残党に、流れるような上段回し蹴りをお見舞いし、そのまま裸一貫で施設を闊歩した。




「鷹野三佐…診療所からの通信が途絶えました。」

司令車の中で山狗が慌てた様子で、鷹野に告げた。

鷹野は黒メーテルな出で立ちで、顔を鬼のように歪ませながら語気を荒げた。

「何か問題でも起きたの?!この役立たず!無線を貸しなさい!」

175: 2010/09/04(土) 01:14:51.32 ID:hauPxY+e0
山狗から無線をもぎ取ると、強い口調で無線に言った。

「こちら司令部、診療所応答しなさい!」

唐突に無線から声が聞こえた。

「ハロー、こちら診療所…聞こえてるか、鷹野三四。」

「何か問題でも…」 鷹野を遮り、声の主は続けた。

「今アンタに舐めてもらうためにタマをピカピカに磨きあげてるよ…それこそ聖母マリア様がむしゃぶりつきたくなる程にな。」

鷹野は一瞬何が起きたのか分からない様子で、無線をしばらく眺めてからゆっくりと呟いた。

「…阿部…高和…。」

「今からそっちに行くから待ってろ…もしかして怖がってんのか?…小便は済ませたか?ア0ルの掃除は?部屋の隅でガタガタ震えて命乞いをする準備はいいか?…鷹野…今からそこに行くからじっくりと俺のタマを堪能してくれ。」

鷹野は舌打ちをして、山狗を睨み、そして落ち着くように深呼吸をして静かに言った。

「私が保有する山狗部隊は精鋭中の精鋭よ。あなたたちが勝てる訳が無いの…諦めて投降なさい…悪い様にはしないわ。」

その言葉を聞いて、阿部は鼻でそれを笑うと、蔑むように言った。

176: 2010/09/04(土) 01:21:19.20 ID:hauPxY+e0
これ以上戯れ事を言うとただじゃおかねえ、男でも女でも俺に勝負を挑んで勝った奴はいねぇ…」

鷹野は激昂して無線機を床にたたき付けて怒鳴った。

「周辺の警備を強化なさい!阿部一派を見つけ次第射頃していいわ。」

鷹野はそう言うと腕を組んで爪を噛んだ。

はたして阿部はどうでるのか、見物だ…。




外は既に暗くなり、相変わらず蛙が鳴いていた。

「これからどうする?」 魅音が阿部に尋ねた。

「鷹野が前倒しで、緊急マニュアルを発動する可能性は十分有り得る。…先回りして叩く必要があるな。」

「阿部…戦うならボク達も一緒に…。」

「駄目だ。」 勇ましく共闘を申し出た梨花に、阿部が即答した。

178: 2010/09/04(土) 01:25:52.98 ID:hauPxY+e0
「お前達は園崎家に匿ってもらえ。危険すぎる。安心しろ…俺が一人でカタを付ける。」

阿部はつなぎの腕を捲ると、診療所の前に止めていた、自分の車に乗り込んだ。

「わたくしのトラップも…圭一さんの策略も…レナさんの行動力も…役に立ちますわ。だからわたくし達も一緒に。」

「駄目だ。お前らは足手まといだ。…大人しくしていろ…大丈夫だ。入江先生…コイツラをお願いします。」

阿部はそう言うと、キーを回して、エンジンをかけて、土煙を上げながら行ってしまった。

「阿部さん…」 圭一が呆然と阿部が遠く離れていくのを見つめた。

それがまるで末期の別れかのように、七人は動けないでいた。

「そんな…阿部さん…酷いよ…一人だけで…私たちはそんなに信用出来ないのかな…かな。」

レナが俯きながら呟いた。

179: 2010/09/04(土) 01:30:51.71 ID:hauPxY+e0
雛見沢近郊の森で、緊急マニュアルの発動を待つ山狗達は、自動小銃を携えて、森の中を巡回していた。

恐らく夜明け前には緊急マニュアルを発動し、この村は破滅するだろう。

「おい…なんだありゃ…」

三人一組で行動していた山狗の一人が何かを見つけた。

それは森の木陰に止められた一台の車だった。

その車はまごうことなき阿部の車であった。

「司令部!こちら巡回部隊ひばり三!今阿部のものとおぼしき車を発見し…。」

そこまで言ったとき、たった今、隣で周囲を警戒していた山狗が、短い悲鳴と共に消えた。

残された二人は互いに顔を見合わせながら、自動小銃を構えて、周囲を見渡した。

「ひばり三…一体どうした!応答せよ。」

無線機から小此木の声がして、慌てて無線機を口元に寄せて言った。

「司令部…現在我々は正体不明の敵に攻撃を受けて…。」

再び短い悲鳴がして、もう一人の山狗も消えた。

180: 2010/09/04(土) 01:35:05.87 ID:hauPxY+e0
ただ一人残された無線機を持った山狗はヒィと情けない声をあげて、怯えた草食動物のようにキョロキョロと辺りを見回し、後ずさった。

「どうした!何があった!状況を報告せよ!」

震える手に携えられた無線機が虚しく小此木の声を流し続ける。

後ずさった山狗は何かにコツンとぶつかって止まった。

山狗は恐る恐る振り返った。

「こんばんわ…いい夜だな。」

そこには山狗が考えつくであろう最悪の存在が、不敵に立ち尽くしていた。

山狗の口から絹を引き裂くようなかん高い悲鳴が漏れるのはそれからすぐの事であった。




「ひゃああああ!アッーアッー!ひゃああああ!アッー!」

既に悲鳴しか聞こえなくなった無線を切ると、小此木が後ろを振り返り、鷹野に呟いた。

「奴がきたようです。」

鷹野は依然として爪を噛みながら、一部始終を眺め、言った。

「…増援が必要ね…残存している山狗には引き続き警戒を指示、待機中の山狗には出動命令を。とにかく殲滅するのよ!」

182: 2010/09/04(土) 01:41:16.88 ID:hauPxY+e0
「了解!」 小此木は再び無線機を手に取ると、指示を出し始めた。

「…大丈夫よ…すぐにカタが付くわ。」 鷹野がニヤリと微笑んだ。




ひとしきり楽しんだ阿部は再び闇に身を沈めた。

ゲリラ戦法は阿部の十八番だった。 身をひそめる阿部のすぐ近くが急に騒がしくなり、辺りが昼のように明るくなった。

どうやら、サーチライトを点けたようだ。それもかなり狭い間隔でだ。

阿部は茂みから顔を出して、森の奥を眺めた。

三人一組の山狗部隊が、まるで山狩りのように、密集し、一列にこちらに向かって来ていた。

ざっと数十人はいそうだ。 流石の阿部もこれほどの人数を相手にするのは骨が折れた。

阿部は手近な石を手に取ると、一列にこちらに向かって来る山狗の一人の股間に向けて投げつけた。

丁度それが股間に当たり、その山狗は前屈みに倒れて悶え苦しみ始めた。

183: 2010/09/04(土) 01:45:54.50 ID:hauPxY+e0
阿部は再び石をてに取り投げた。

また山狗の一人の股間に当たり、山狗が股間を押さえて、呻きながら倒れた。

「あそこだ!あの辺りにいる!撃て撃て!」

一人の叫びを合図に山狗達は一斉に自動小銃を構えて、前方に向けて撃ち始めた。

それこそ銃という銃が閃光と爆音と硝煙の煙を上げながら、銃弾を四散させた。

山狗の集団の前に生えている木や草が飛び散り、粉々に砕けていく。

暴力的な伐採行為はやがて止み、静寂が辺りを包んだ。

山狗の誰もが目標の沈黙を疑わなかった。

それもそうである…あれほどの銃弾を浴びて、生き残れる生物は、この地球上に存在しない。

例えオヤシロ様が、宇宙人だったとしても胸を張って言えただろう。

山狗の誰もが顔を見合わせながらニヤニヤと笑みを浮かべた。

だが、突然木の上から石つぶてが一線、サーチライトに向かって飛んできて、辺りを照らしていた光が消えていくと、山狗の笑みが砂浜から波が引くように消えていき、代わりに恐怖と不安を帯びた表情が浮かび上がっていく。

ついに最後のサーチライトが轟音をあげて砕け散ると、いよいよ山狗部隊に混乱と恐怖の恐慌状態が訪れた。

つい先程までM16アサルトライフルを嬉々とした表情で撃ちまくっていた隣の同僚が、突然悲鳴とともに木陰に引っ張り混まれると、いよいよ至る所で、怯えた声と、疎らな銃声が聞こえた。

184: 2010/09/04(土) 01:50:52.00 ID:hauPxY+e0
その混乱の最中、暗闇から何者かが飛び出して来て、鋭い蹴りやパンチでまず、銃を出鱈目に撃っていた隊員が片付けられ、一人、また一人と闇に消えていった。

「退却!退却だ!」

徐々に隊員が消えていく状況に業を煮やした部隊長が退却を宣言し、各個隊列を崩しながら後方へと退却を始めた。

阿部はその様子を見て取ると、ニヤリと微笑み、気絶した隊員を縄で拘束した。




「一体どうしたの?阿部はどうなったの?」

息も絶え絶えで逃げ帰って来た隊員達を前に、鷹野が鬼気迫る声で尋ねた。

「三佐…この人数の山狗部隊と対等に張り合い、多数を戦闘不能にさせました…奴はバケモノです…一旦診療所に戻って装備を整えましょう…奴には20ミリ機関砲かミニガンでも無い限り勝てない…。」

部隊長の進言を一通り聞いていた鷹野は、溜め息を付くと、腰のホルスターから拳銃を取り出し、部隊長の喉に押し付けて、躊躇いも無く引き金を引いた。

部隊長の気管や食道、その後ろにある背骨がぐちゃぐちゃにひしゃげ、噴水のように血が吹き出た。

部隊長は目を見開いて、喉を押さえると、息をしようともがき、やがて倒れて動かなくなった。

一部始終を呆然と眺めていた山狗部隊達に向かって鷹野は怒鳴った。

「よくお聞きなさい!我々に後ろは存在しないの!前に進む道のみがあるのよ!例えそこに何があろうとめ貴方達は行くしかないの!もし今度退却しようとする者がいたら私が喜んで射頃するわ!いいわね!」

誰も何も言えない状態のまま、鷹野は再び声を張り上げた。

「阿部は後回しよ。ここには数人を残して、雛見沢の住人達を学校に集めて、ガスで皆頃しにしなさい!」

185: 2010/09/04(土) 02:08:53.25 ID:hauPxY+e0
「三佐の命令だ。行け!」

小此木がそう命令すると、山狗部隊が三人を残して、バンに乗り込み、雛見沢村に向かって山を下りて言った。

鷹野と小此木は下って行く車列を暫く眺めると、鷹野が言った。

「この辺りに手榴弾のトラップと動体探知器を仕掛けなさい。いいわね、小此木。」

「仰せの通りに。」 そう言うと小此木は森の中へと消えていった。

鷹野は小此木が行ったのを確認すると、司令車であるバンの中に戻り、端末の前に置かれていた椅子に腰掛けた。

まさか阿部がここまでやるとは…。 鷹野はイライラとした様子で、爪を噛んだ。

「ンアッー!」

その時であった…車の外からこの世の物とは思えない様な喘ぎが聞こえ、そして数発の銃声が響いた。

鷹野はハッとしてバンの入口を見た。

後部の扉の窓からマズルフラッシュがチカチカと輝き、悲鳴の大きさに反比例して、次第に銃声の数が少なくなり、やがて悲鳴も銃声も聞こえなくなった。

鷹野は呆然と扉を眺めた後、おもむろに立ち上がり、ゆっくりと扉を開けて、宵闇の広がる外に出た。

少し開けた場所に無造作に三人がズボンを足首の辺りまで下げられて、横臥していた。


阿部だ…。

187: 2010/09/04(土) 02:14:58.36 ID:hauPxY+e0
鷹野は慌てて腰のホルスターに納められている拳銃を取ろうとした。

だが、グリップを握った所で、自分の手の上に暖かい手が置かれた事に気付いた。

「チェックメイト…。これでやっと…二人きりになれたな…。」

耳元でそう囁かれ、鷹野はクスリと笑い、グリップから手を離した。

「何故私がここにいると分かったの…?」

「…血さ…アンタからプンプンと血と牝の臭いがしているからさ…三四…生理だろ?ん?」

阿部が鷹野の長い髪を後ろから抱きしめて嗅ぎながら、尋ねた。

途端に鷹野は顔を赤くして、股間を両手で押さえた。

「腐っても、アンタは女の子だな…。ここをこうしてやると、すぐに声が出るぞ。」

阿部は後ろから、O房に手を回して、ギュッと強く揉みしだき、指を巧みに動かしながら鷹野の耳を甘噛みした。

弾力のある、形の良い胸が、阿部の手の中で弾け、踊る。

「あっ…。」

鷹野の口元から甘い声が出た。

「やっぱりアンタは女の子だな三四…。」

阿部の舌が耳から蛞蝓が這うように、ゆっくりと首筋に移動し、鎖骨の辺りまでをなめ回した。

191: 2010/09/04(土) 02:25:21.95 ID:hauPxY+e0
「あんまり調子に乗るなよ…ブルーカラーのクソタレが!」

阿部の後頭部に冷たい金属の感触がし、後ろから声がした。

小此木が自動小銃を片手で構え、阿部の後頭部に強く押し付けた。

「小此木!」

鷹野はそう言うと、阿部からすかさず離れ、乱れた着衣と髪を、顔を赤くしながら、慌てて直した。

「早くそいつを拘束なさい!私が直々に手を下すわ!」

小此木はニヤリと笑うと、銃床で阿部の首筋をしたたかに打ち付けた。

阿部はそのまま地面に倒れて気絶した。

「呆気ねぇこって…。」 小此木がフンと鼻で笑うと、無線が鳴った。

「こちらひばり全部隊、住民を全て制圧しました。これから学校へと移動します。」

「了解。学校で準備が出来次第指示を待て。」

小此木が無線に向かってそう言うと、いまだに顔を赤くしながら、胸元と股間の違和感を感じている鷹野を見ながら呟いた。

「鉄の女もベッドでは生娘みたいに悶えるんかいなぁ…。」

「な…何か言った…?」 「いえ…別に…?」

恥ずかしげに髪を撫で付けながら言った鷹野に小此木は笑みを浮かべながら鼻で答えた。

192: 2010/09/04(土) 02:29:51.64 ID:hauPxY+e0
同時刻…雛見沢分校



突然寝込みを襲われ、拘束された知恵留美子は、ぞろぞろと他の村人と一列に並んで、学校の教室に入れられて、呆然としていた。

辺りを見回すと、同じく寝込みを襲われて、呆然とする村人や、自動小銃を振り回して怒鳴る山狗に怯えた表情を浮かべる者など様々な様子が見て取れた。

知恵もこれから何が起きるのか不安げに、銃を構える人物を見ていた。

「…先生…知恵先生!」

突然声をかけられた知恵は飛び上がる程驚き、声がした方向を向いた。

そこには夏にも関わらず、相変わらず暑苦しい黒い着物を身につけた、園崎魅音と詩音の母親である、園崎茜がいた。

「園崎さん!無事ですか?」 「ああ、今のところはね。」

茜は山狗を凝視しながら言った。

すると、山狗がおもむろに、こちらを一瞥し、銃を天井に向けて威嚇射撃をした。

大きな銃声が教室に響き、村人のどよめきの至る所から悲鳴が上がった。

面食らう村人を前に、山狗が声を張り上げた。

193: 2010/09/04(土) 02:35:03.07 ID:hauPxY+e0
「大人しく我々の言うことを聞いていれば危害は加えない…約束しよう。…ただ騒いだり逃げたりした場合は俺ではなくコイツが諸君の対応をすることになる。」

山狗はそう言うと、構えた銃をポンポンと叩き、続けた。

「逆らったり逃げたりした場合は、諸君よりも遥かに早く走れるコイツの銃弾が諸君に挨拶のキスをする事になる。…かなり激しいキスだ…氏ぬ程にな。…賢明なる諸君はそのまま黙って大人しくしている事だ。」

山狗は高圧的にそう言うと、油断なく銃を村人達に向けながら椅子に座った。

知恵と茜は二人並んで座り、息を飲んだ。

すると、突如として、教室の扉がガラリと開き、三人の山狗が入って来た。

その三人の山狗は教室の中の村人をジ口リと見渡すと、並んで座る知恵と茜に視線を絞り、じっとりと見つめた。

そして、椅子に座る山狗に耳打ちをすると、コクリと頷く山狗を尻目にノシノシとした足どりで、二人に近づいてきた。

丁度二人の前まで来ると、しゃがみ込み、まるで夏のアスファルトの上で放置され、ベタベタに溶けた飴玉のような粘つく笑みを浮かべて言った。

「この女ども、たまんねぇな…。」

しゃがみ込んだ山狗はそう言うと、知恵の頬に指を這わせ、スベスベとした白い肌を堪能した。

「ふ…ふええ…。」

知恵はワナワナと震えて、怯えた表情を浮かべた。

「ちょいとアンタ!嫌がってるだろ!やめな!」

茜が山狗に向かって声を張り上げた。

194: 2010/09/04(土) 02:39:55.78 ID:hauPxY+e0
山狗はヒュウと口笛を吹き、改めて茜をジロジロと眺めた。

「気の強い女は好きだ…散々犯して屈服させたいって思うよな…。」

相変わらず粘つく笑みを浮かべながら言った。

「ああ…もう我慢出来ねぇぜ!」

しゃがみ込む山狗の脇に立っていた一人が息を荒げてカチャカチャと音を立ててベルトを外そうとした。

「おい!」

途端に後ろで椅子に座ってこちらを眺めていた山狗が声を上げた。

「やるなら他所でやれ。」

「…それもそうだな…命令が下るまでまだ時間はたっぷりありそうだ。他所でじっくり楽しもうじゃないか。」

山狗達はそう言うと知恵と茜の腕を持ち上げ、立たせて、歩き始めた。

突き付けられる銃口を前に、二人は成す術もなく、振り回された。

腕を強く捕まれ、これから犯されんとする事を悟った知恵の脳裏に、無鉄砲で、優しくて力強い阿部が唐突に浮かんだ。

「阿部さん…助けて!」 無力な知恵には、ただ祈る事しか出来なかった。

195: 2010/09/04(土) 02:46:34.89 ID:hauPxY+e0
酷い頭痛と、頭の周りを小煩く飛び回る蚊の羽音で、阿部は目を醒ました。

頭がガンガンと痛み、思わず顔をしかめた。

「あら…お目覚めかしら、トラブルメーカーさん?」

不意に頭の上から声がして、阿部は空を仰いだ。

そこには拳銃を握って、こちらをしたり顔で見つめる鷹野がいた。

「三四!」 阿部は叫び、飛び掛からんと、手に力を込めた。  

だがそれも虚しい結果に終わった。

阿部は後ろ手に縛られて、司令車であるバンにもたれるように座らされていたからだ。

「あらあら、威勢が良いわね…この糞犬は!」

語気を荒げた鷹野は、履いているハイヒールで、阿部の顔を踏み付けた。

阿部は顔をしかめた。

「私の靴を舐めなさぁい…そしたら許してやらない事もないわよぉ?」

グイグイとハイヒールを押し付ける鷹野の目をジッと見つめた阿部は、ボソリと呟いた。

196: 2010/09/04(土) 02:49:52.12 ID:hauPxY+e0
「タマを舐めさせて、ケツを舐めさせてやる!」

阿部の言葉を鼻で笑った鷹野はハイヒールを阿部の顔から離し、握っていた拳銃を阿部の頭に向けた。

「私の奴隷になれば、いままでのおイタは許してあげる…私の靴に付いた犬の糞を舐めるのよ…それから貴方の名前も変えるわ…ポチ…。」

加虐的な笑みを浮かべる鷹野の後ろで、その様子を、ニヤニヤと腕を組みながら、小此木が眺めていた。

「嬉しいお誘いたが…お断りしとくよ…アンタには絶対に俺を傅かせる技量は無い…残念だな。」

と、したり顔の阿部。 「そう…なら氏になさい。」

鷹野はそう言うと、阿部の頭に銃を突き付けた。

阿部は銃口を仰ぐと、ニコニコと、爽やかな笑みを浮かべていた。

「これから氏ぬんだぜ…何故笑う?」

小此木の問いに、阿部は悠々と答えた。

「第二次大戦下、フランスのレジスタンスはドイツ兵に捕まって銃殺される時、笑ってたそうだ。処刑される時に笑いながら氏ぬ事は敵への最大級の侮辱と同時に最高の栄誉だったんだ。笑えよ三四。」

「貴方が氏んでから存分に笑うわ。」

198: 2010/09/04(土) 02:54:54.73 ID:hauPxY+e0
鷹野はそう言うと、激鉄を起こして、引き金に指をかけた。

その刹那、森から閃光が轟き、火の玉の群れが鷹野を襲った。

火の玉の一つが、鷹野の銃を構える手に当たり、余りの熱さに、鷹野が銃を取り落とす。

途端に爆竹が投げつけられ、それが小此木の足元で爆裂し、凄まじい音と煙を上げた。

突然の出来事に小此木が 大層驚き、その場に尻餅を付いた。

阿部はそれを見逃さなかった。

阿部は後ろ手に縛られながらも立ち上がり、熱さにたじろぐ鷹野を体当たりで退けると、尻餅を付いた小此木の顔面に渾身のドロップキックを叩き込んだ。

小此木は強烈なドロップキックに、地面に頭を強打するまえに失神した。

すると、森の影から一斉に何者かが飛び出してきて、鷹野に飛び掛からんとした。

鷹野はそれをすんでで避けると、ポケットからスタングレネードを取り出し、すぐさまピンを抜き、目と耳を覆った。

次の瞬間、強烈な光と爆音が当たりに轟き、全ての者の視界と聴覚を奪った。

その場にいた全員がしばらく前のめりになるなか、徐々に視界が利いてきた阿部は、辺りを見回した。

そこには打ち上げ花火や爆竹を手に、屈む圭一達の姿があった。

199: 2010/09/04(土) 03:01:42.64 ID:hauPxY+e0
どうやら阿部の言うことを無視して、阿部を助けに来たらしい。

阿部は改めて鷹野を探した。

しかし鷹野はどこにもいない…阿部は再び辺りを見回して鷹野を探した。

途端にエンジン音が響き、司令車のバンが阿部目掛けて発進してきた。

阿部はすんででそのバンを避けた。

どうやら鷹野はバンに乗って逃げ出したようだったが、まずは圭一達の介抱が先だ。

「大丈夫か?」 阿部は圭一達に駆け寄った。

全員閃光と爆音にやられて、感覚が麻痺している以外、特に外傷が無いのを見て取ると、阿部はホッとした。


入江を含めた七人全員が落ち着くと、阿部は改めて怒りをあらわにした。



200: 2010/09/04(土) 03:05:13.92 ID:hauPxY+e0
「何故来た。危険なのは分かっていただろうに!」

「だけと阿部さんは助かったんだぜ。恨みっこ無しだ。」

圭一が親指を立てながら、誇らしげに言った。

「青二才が…偉そうによく言うぜ。」

阿部はため息をつきながら言った。

「でも皆阿部さんの力になりたかったし、なにより大好きな雛見沢をまもりたかったんだよ。怒らないで。」

魅音が阿部に言った。 阿部は七人を改めて見つめた。

全員の目には情熱と闘志が爛々と燃え盛っていた。

皆が皆、仲間を…雛見沢を守るという固い意志がジンジンと阿部に伝わった。

阿部は腰に手を当ててしばし考えると、再びため息をついて言った。

「分かった。お前らには負けるぜ、まったく。」

203: 2010/09/04(土) 03:09:54.67 ID:hauPxY+e0
「阿部…ありがとなのです!」

羽入と梨花は目を輝かせて喜んだ。

「皆様、良かったですわね…これで胸を張って戦えますわよ。」

「これも一重に圭一君のお陰だよ…だよ。」

「早速で悪いんですが、時間が無い…早く鷹野さんを追い掛けて、緊急マニュアル発動を阻止しないければなりません…。」

入江が皆を見据えて言った。 「阿部さん、行きましょう。」

「そうは言うけど、詩音…足が無いよ…。」 魅音が困った様に言った。

「…足ね…。」

阿部はそう呟くと、手近にあった山狗のバンの運転席側の窓を肘で叩き割ると、ドアを開けて、ハンドルの下の配線をいじくり出した。

特定の配線をショートさせると、間髪入れずにバンのエンジンがかかった。

204: 2010/09/04(土) 03:11:23.56 ID:hauPxY+e0
「これで足が出来たぜ。さあ、皆乗れ。」

運転席に座った阿部が言った。

「さすが自動車修理工…見事なモノです…。」

入江が感心して何度も頷いた。

「入江先生、のんびりしてる暇は無いよ…さあ、行こう。」

後部席からレナが入江に言った。

入江が慌てて乗り込むと、阿部はエンジンを吹かしながら言った。

「ちと揺れるぜ…捕まってな。」 バンは土煙を上げながら急発進して、学校を目指して走り出した。




薄暗い教室に連れて来られた知恵と茜は乱暴に、教室の中に押し込まれた。

三人の山狗は、二人を突き飛ばすと、ニヤニヤと二人を眺め、後ろ手で教室のドアを閉めた。

「さあ…お楽しみといこうかね…。」 山狗達はそう言うと、こちらにノソリノソリと歩み寄ってくる。

223: 2010/09/04(土) 11:01:09.36 ID:hauPxY+e0
知恵と茜は、お互い寄り添って目をつむっていた。

「まずはこっちからだな。」

山狗は茜を突き飛ばし、除けると、知恵のか細い腕を掴み、床へと投げ飛ばした。

突き飛ばされた茜を、もう一人の山狗が後ろから抱え込み、羽交い締めにする。

短い悲鳴を上げ、ワンピースのスカートからスベスベと透き通るような白い太ももをのぞかせて倒れた知恵に、山狗が覆いかぶさる。

「イヤッ…やめて…。」

知恵が手足をバタつかせ、必氏で抵抗した。

山狗は、知恵に馬乗りになると、抵抗する知恵の手を頭の上で組ませて、片手で床に押さえ付けた。

もう片方の空いた手で、抵抗して暴れる知恵のワンピースのボタンを一つ一つゆっくりと外していく。

「止めな!…やめろ!」

羽交い締めにされていた茜が、知恵が犯されんとする光景を見て、声を張り上げた。

「…お前も後で可愛がってやるから、黙ってな。」

羽交い締めにしている山狗がそう言うと、茜の頬をベ口リと舐め上げた。

226: 2010/09/04(土) 11:09:53.72 ID:hauPxY+e0
「…あ…。」

知恵の吐息に混じって、甘い声色の声が漏れた。

山狗は舌で乳Oを弄び、吸ったり舐めたりを繰り返した。

「知恵先生…!」

茜は、知恵の体が玩具にされるのを黙って見ているしかなかった。




と、その時であった、校庭の向こう側から突如としてクラクションと共に、けたたましいエンジン音が響き、白いバンがこちらに全速力で突っ込んで来るのが見えた。

夢中で乳Oを吟味していた山狗が、チュポンと音を立てて、乳Oから口を離すと、窓から外を見た。

知恵は慌てて山狗から離れて、部屋の隅へと逃げ出した。

「一体なんだありゃあ…。」

茜を羽交い締めにしていた山狗がボソリと呟いた。

その隙に乗じて、茜が山狗の腹部に肘打ちをすると、腹を抱えて、うずくまる山狗の手を離れて、知恵の元へと駆け寄った。

呆然と迫り来るバンを眺めていた山狗が思い出したかのように、慌てて無線機を取り出すと、冷静を装い言った。

「各員へ通達…不審なバンが校舎に突っ込んで来る…。凄い早さだ…。」

227: 2010/09/04(土) 11:15:14.13 ID:hauPxY+e0
その無線を聞いたのか、慌てた様子の山狗二人組が、校舎から校庭へと、飛び出し、バンの前に立ちはだかると、バンに向けて発砲した。

銃から放たれた弾丸が、バンパーや、フロントガラスを砕き、火花を散らせたが、バンは止まらなかった。

バンが最早止められない事に気付いた頃には既に遅く、逃げる間もなく、フロントに吹き飛ばされ、易々とバンより高く跳ね飛ばされて行った。

「ヤバいぞ!」

それが山狗の最期の言葉になった。

バンは木製の校舎の壁を突き破ると、部屋の隅にうずくまる知恵と茜を上手い具合に避け、立ち尽くす山狗三人を飛び散る瓦礫や破片とともになにもかもを轢き潰してようやく停止した。

呆然とした表情でバンの残骸を見つめる知恵と茜の前で、運転席が開くと、揚々とした様子で阿部が出て来て言った。



「オッOイには気をつけろよ。」

228: 2010/09/04(土) 11:19:14.33 ID:hauPxY+e0
そして、ゾロゾロと目を回し、頭を押さえた七人がバンから出てきた。

「シューマッハでもここまでの運転は出来ないよ…。」 と、魅音。

「二人とも無事かい?」

阿部が知恵と茜の前にしゃがみ込むと言った。

「私たちは大丈夫だ…だが村の人達がまだ捕まってる!」

茜が阿部を仰ぎながら言った。

「分かった。助けにいく…二人はここにいろ…。」

そう言うと阿部達八人は、破壊し尽くされた教室を出て行った。

「…しっかりね…。」

いまだ放心状態の知恵を抱き抱えながら、茜が阿部達八人の背中に呟いた。

229: 2010/09/04(土) 11:23:59.72 ID:hauPxY+e0
バンが衝突し、校舎の一部を破壊された校舎の中は、蜂の巣を突いたような騒ぎになった。

バンが衝突した際の轟音に、鷹野は職員室から飛び出して、手近で右往左往していた山狗の首根っこを捕まえて叫んだ。

「阿部が来たわ!ガスで村人もろとも始末なさい!そのあと急いで撤収よ!」

山狗は心得たというようにうなづくと、ガスマスクを被り、廊下を駆けて行った。

「阿部という男を見くびっていた…あの男一人で…計画が台無しだわ……。」

鷹野は小脇に抱えた、雛見沢の研究書類の束をギュッと握り締めて呟いた。

「…おじいちゃん…お父さん…お母さん…助けて…。」

その声は校舎に響き渡る喧騒に掻き消された。

230: 2010/09/04(土) 11:30:31.24 ID:hauPxY+e0
狗は司令車からガスが入った、葉巻程の金属製の筒を抱え込むと、校舎に向かって走り出した。

この神経ガスは近年、中東においてクルド人やアフガニスタンの人々に使用された恐ろしいガスだ。

最早気化したそれを吸い込むまでもなく、皮膚に一滴でも付着すれば、激しい痙攣と内臓出血を引き起こし、5分と立たずに氏んでしまう恐ろしいガスだ。

筒に守られている限りは漏洩の心配も無い…。

だが根こそぎ漏れたりすれば自分から半径数十メートルの生物は自分もろとも全滅である。

仮に皮膚に液体や気体が付着、暴露したとしても、三分以内に、山狗全員に配られている解毒剤を注射すれば助かるのだが、心臓に直接注射しなければならない…どちらにしても地獄のような話であった。

自然と緊張が走る…。

と、その時、 自分の脇でジャンプスーツをガサガサと音を立たせながら走っていた山狗の一人が消えた。

驚いて振り返ると、校庭にぽっかり空いた穴に落ちて、もがいているようだった。

慌てて助けだそうとした他の山狗が、穴の縁に手をかけた瞬間、穴はさらに広がり、助けだそうとした山狗もろとも二段仕掛けになっていた落とし穴の奈落の底へと消えていった。

この校庭は罠だらけだ…恐らく凄腕のトラップマスターが敵側にいるようだ…。

残った山狗は、二次被害を避けるため、落とし穴に落ちた同僚達を泣く泣く見捨て、ソ口リソ口リとしのびあしで校舎を目指した。

231: 2010/09/04(土) 11:35:51.30 ID:hauPxY+e0
「みぃ…みぃ…。」

どこからか、猫のような鳴き声が聞こえてきて、ガスマスクと防護服を着た山狗達が周囲を見回した。

すると校舎の脇に立っている大きな杉の木の脇に、長い綺麗な黒髪をなびかせたペド好みの幼女が立っていた。

山狗の一人が、その幼女に銃を向けた。

「待て。そいつは古手梨花だ。殺さずに確保するんだ。」

ガスを持った山狗が、顎で合図をすると、今しがた銃を構えていた山狗が地雷原でも歩くかのように、ゆっくりと梨花の元へと歩いていった。

何事も無く、梨花の前にたどり着くと、梨花の顔の前に目線を合わせるように屈み込み、言った。

「もう逃げられないぜ、観念しなお嬢ちゃん…。」

「にぱー!」 満面の笑顔でそう答える梨花に、山狗は首を傾げた。

「2%?」

その刹那、その山狗の足元の地面が土煙を上げて持ち上がり、山狗の足首に纏わり付いた。

校庭の砂から突如として持ち上がったのはロープだった。

232: 2010/09/04(土) 11:40:53.27 ID:hauPxY+e0
ロープに足首を捕られた山狗は悲鳴を上げる間もなく、校舎の屋根へ続くロープに引っ張られて消えてしまった。

先の森での戦闘で、阿部への恐怖が発露し、それを引きずっていた山狗の隊員達に戦慄が走った。

校庭で立ち尽くし、同僚が屋根へと消えていくのを目撃した山狗の一人が、耐え兼ねて、銃を取り落とし、嗚咽をこらえて逃げ出した。

その山狗は穴だらけの校庭を縫うようにして走り抜け、校門へとたどり着いた所で、パチンとゴムが弾けるような音と共に倒れた。

山狗の隊員達は一斉に音がする方に視線を傾けた。

そこには校舎の二階の窓からパチンコを構えた圭一と詩音がいた。

二人はこちらにパチンコを構え直すと、パチンコ玉を放った。

反撃する間もなく背後の山狗達が倒れ、至る所に点在する落とし穴に仰向けのまま落ちて行った。

最早残された山狗は数えるぐらいしかいなかった。

「怯むな!相手はガキどもだ、阿部は居ない!とっととガスを撒いて始末しちまおう!」

ガスを持った山狗はそう言うと、落とし穴を飛び越えて、パチンコの十字射撃を走り抜け、校舎の昇降口へとたどり着き、後ろを振り返った。

233: 2010/09/04(土) 11:44:54.51 ID:hauPxY+e0
後ろに居たはずの数人の山狗は全て、トラップとパチンコの十字射撃の犠牲となっていた。

「クソッ!」 山狗はそう悪態をつくと、村人達が居る教室を目指して駆けた。

山狗が教室にたどり着き、扉をガラリと開けると、そこはもぬけの殻だった…いや、厳密には二人の人間がそこには居た。

一人はズボンを脱がされ、オケツ丸出しで、うつぶせに倒れている山狗と、もう一人は…窓の側に置かれている椅子に鎮座し、タバコを旨そうにふかしている阿部高和…。

「村の人達は、魅音と入江先生達がとっくに逃がしたよ…他の奴らも安全な場所に避難をし始めている…。この学校に残ってるのは俺とアンタだけだ。」

阿部はこちらを見もせずに、タバコをふかしながら言った。

「鷹野はどこだ?ヤツにはタマの貸しがあるんだ。」

阿部の問いに答えるように、山狗はナイフを取り出した。

「面白ぇ…。」 阿部はタバコを投げ捨てると、山狗に向き直り、手を広げて言った。

「来い!」

山狗は阿部に突進するかとおもいきや、ナイフを逆刃に持ち、阿部に投擲した。

阿部は咄嗟に避けようとしたが、間に合わなかったようだ。

ナイフは阿部の鎖骨の下に深々と刺さった。阿部は呻き声を上げて、床に膝を付いた。

すかさず山狗が阿部に走り寄り、阿部の顔面にパンチをお見舞いして、床に倒すと、ナイフを乱暴に抜いた。

237: 2010/09/04(土) 13:02:50.30 ID:hauPxY+e0
阿部は小さく苦痛の悲鳴を上げた。

山狗は阿部の血がテラテラと光る、そのナイフを、今度は反対側の肩に突き立てた。

阿部はあまりの苦痛に声を上げた。

「仲間の敵だ…苦しんで氏ね。」

山狗は突き立てたナイフをえぐり、傷口を広げた。

ぐじゅぐじゅと阿部のつなぎに血が広がる。

ふと、阿部は山狗が片方の手に握る、金属製の筒に目が行った。

恐らくこれが毒ガスなのだろう…毒とくれば、万が一のため、解毒剤があるのが相場だろう。

阿部はめざとく、山狗の腰にぶら下がるポーチを見つけた。

解毒剤はおそらくポーチのなかだろう。

阿部が考えを巡らせている事などつゆしらずに、山狗が阿部の肩からナイフを引き抜くと、頭上に振り上げて、自らガスマスクを剥ぎ取ると言った。

「何か言い残す事はあるか?」

阿部は苦痛に顔を歪めながらも、ニヤリと微笑み、言った。

238: 2010/09/04(土) 13:09:12.41 ID:hauPxY+e0
御馳走をたらふく食わせてやる!」

そう言うと、山狗の片方の手でおざなりになっていた神経ガスの筒を奪い取り、開けた。

プシュッと圧縮された空気が漏れるような音がして、中から数珠繋ぎになった緑色の球が5、6個出てきた。

「…よせ…やめろ…。」

すっかり怯えきった、山狗に構わず、阿部はその数珠繋ぎの球を山狗の口に全て捩込むと言った。

「喰え!うまいぞ!」

阿部は山狗の顎に渾身のアッパーカットを叩き込んだ。

山狗の口の中で、球が弾け、中からブクブクと泡立つ液体が飛び出して来た。

山狗はその場で体をのけ反らせると、血と神経ガスと唾液と吐瀉物が入り混じった、ネバネバした液体を吹き出し、体を強張らせた。

阿部にも変化が訪れた。

まず、腕と顔の筋肉が硬直し始めて、自由に動かせなくなり、頭痛と吐き気、目眩に襲われた。

徐々に体が痙攣していく…阿部は力を振り絞り、痙攣し、ガクガクと体を上下させる山狗のポーチを奪うと、中から、注射器を取り出した。

239: 2010/09/04(土) 13:12:50.65 ID:hauPxY+e0
サリンの特効薬であるバムは心臓に注射する事で、その効用を発揮する…阿部は震える手で苦心しながら、狙いを定め、自身の胸の真ん中目掛けて注射を突き立てた。

薬液が心臓に注入され、阿部の全身を堪え難い苦痛が襲った。

阿部は床に臥し、二、三回体をビクつかせた。

あまりの苦痛に、このまま気絶してしまいたい衝動に駆られたが、まだ本丸である鷹野がいる…タマも乾いたままだ…。

阿部は歯を食いしばり、立ち上がると、足を引きずりながら、教室を後にし、鷹野を追い掛けた。

240: 2010/09/04(土) 13:17:43.43 ID:hauPxY+e0
鷹野はただただ必氏に森の木立の中を駆けていた。

総ての計画が水の泡に終わり、自らの自負や信念さえも、風前の灯である…彼女はただただ、ここから逃げ切り、全てを精算させるという、微かな希望にすがっていた。

涙を必氏で堪え、衣服やストッキングをボロボロにさせ、息を切らせて逃げ回る彼女に、最早以前の様な威厳や尊厳は感じられなかった。

「お父さん…お母さん…おじいちゃん…おじいちゃん…。やだ…やだよ…こんなの…もう、やだよ…。」

譫言のようにそう呟く彼女は、森を抜け、河原にたどり着くと、そこにある石に躓き、転んでしまった。

大事そうに抱えていた書類が、転んだ拍子に宙を舞い、辺りに散乱した。

「いや…イヤアアアア!」

鷹野は反狂乱になって泣き叫び、書類をかき集めたが、散り散りに散乱した書類は虚しく風に飛ばされて、枯れ葉の如く虚空を切っていく。

「だれか…助けて…助けて…。」

鷹野は河原に座り込み、涙を流して呟くと、腰のホルスターから、拳銃を取り出した。

夜が明け、昇りかけた太陽の光が銃身に反射するそれは、鷹野に救いを与える救世主に思えた。

241: 2010/09/04(土) 13:19:04.87 ID:hauPxY+e0
「もう…もう、終わりなの…生きる意味も希望も無い…。」

鷹野は拳銃を震える手で握り締め、こめかみに銃口を押し付けた。

そして、深呼吸をすると、一気に引き金を引いた。

だが、撃鉄はカチリと空を切り、弾は発射されなかった。

何の因果か、最後の一発は、不発の欠陥品であった。

鷹野は泣き叫び、拳銃を投げ捨てると慟哭した。

膝をつき、幼児のように泣きわめく、鷹野の背後の地面がジャリッと音を立てた。

涙で目を腫らした彼女が後ろを振り返る。

そこには両肩を血で真っ赤にした阿部が立っていた。

「あ…ああ!」 鷹野は言葉にならない声を上げて、小石や砂を引っ掻き、這いずって逃げ出した。

だが、そう遠くまでは逃げられない…。

阿部は何とも言えない表情で、そんな惨めな鷹野の側まで歩み寄ると、しゃがみ込み、おもむろに喋り始めた。

242: 2010/09/04(土) 13:27:29.27 ID:hauPxY+e0
「昔の事だ…俺がまだ糞坊主だった頃、俺は孤児院に居た。…山奥にあるそこは地獄と言っても差し支えがない程にひどい所だった…逃げ出したり、ささいな何かをしくじったり…職員の気に障る様な事をすれば、虐待が待っていた…。
何度も何度も許しを懇願しても、虐待は止まない…。俺を含め、そこに居た奴らは全員絶望していたんだ…俺達はやがて犬のように氏んでいく運命なんだってね…。」

寂しげな顔で俯きながら、語り始めた阿部を、鷹野は赤くなった目で見つめていた。

「そんなある日の事だ…ある女の子が新しく入って来た。綺麗な金髪をした聡明そうな女の子…俺は彼女を見るなり、胸が高鳴り苦しくなった…今なら分かる…俺はその娘に恋をしちまったんだ。
それから俺はその娘をみるたびに思いを馳せ、いつか喋るだけでいい…彼女とふれあいたかった…そんなちっぽけな希望が生まれた…そんな日々の事だった…掃除当番が倉庫になった時…彼女が同じ倉庫の掃除を任されたんだ。
嬉しくて飛び上がりそうだったのを覚えてる。」

鷹野は阿部の言葉に耳を傾けた。いつしか河原は二人の空間へと変貌していた。

「倉庫で二人きりになって恥ずかしそうにはにかむ彼女に、俺は苦心してやっとの思いで手に入れたチョコレートをやった…彼女は喜んでた。それから一月…俺は夢のような時間を過ごした。
彼女と時間が許すまで夢中でお喋りをした…俺も彼女も、まるで夏の空のように澄んでいた。その一月は俺にとってかげかえの無い物になったよ。だけど楽しい時間程あっという間に過ぎ去るもんだ…俺は最後の倉庫の掃除の日…彼女と最初で最後の口づけを交わした…。
それから一月かけて廃材を削って作った人形をプレゼントしてやった…はかなくて尊いもんだった…。それからだ…その日を最後に…彼女は俺の前から姿を消しちまった。風の噂で聞いたが、彼女は施設から単身逃げおおせて、どっかの偉い博士の家に引き取られたらしい。
だが確信は無かった…もしかしたら職員に殺されたのかもしれない…彼女に会いたい…今でもそう思ってる。」

それまで黙りこくって話を聞いていた鷹野が口を開いて、消え入りそうな声で尋ねた。

243: 2010/09/04(土) 13:34:36.65 ID:hauPxY+e0
「何故…そんな事を私に話すの…?」

「さあな…それは俺にも分からない…ただ、アンタのこんな姿を見てたら自然と口をついて出ちまったんだ。…タマも朝露で湿っぽい…。」

阿部は立ち上がると、山間から顔を出す朝日を仰いだ。

「その月の最後に…お役所様に、施設の実態がバレて…そこは取り潰しになった…マスコミや警察の執拗な追及に、所長が首を括ったんだ…俺としては何とも思わない…ざまあみろとさえ思った…。
俺は別の施設に移される事になった…山の麓にある慈愛の家だ…あんな所よりも遥かにマシな所さ…。皮肉な話だ…脱走なんかせずに、後少し我慢してりゃ、その娘とその娘の友達は幸せになれただろうに…。」

阿部はフウと息をついた。鷹野は顔を伏せ、ただ押し黙っていた。

「移送の途中だった…俺はふと地面を見た。そしたら彼女に上げた人形のカケラが落ちてた。本当に小さな小さなカケラだったが、俺は一目で、それが何なのかわかった。一月かけて自分が作ったもんだ…分かるのは当然だったが、何か運命的な物を感じたよ…
今でもお守りみたいに持ってる…大切な宝物さ。」

阿部は改めて鷹野の方を向くと、しゃがみ込み、つなぎの胸ポケットから黒く薄汚れた木の欠片を取り出した。

阿部はその欠片を大事そうに手の平に置いた。

鷹野はハッとして、自身のポケットから不細工な木の人形を取り出した。

244: 2010/09/04(土) 13:40:00.65 ID:hauPxY+e0
二人は無言で、木の人形の欠けた部分とカケラを繋ぎ合わせた。

朝日の光に照らされ、神々しく輝くそれらはピッタリと一致し、くっついた。

「これが…これがこの物語の結末か…。」

集落の辺りが、パトカーや消防車、救急車、自衛隊のトラックのエンジン音やサイレンで煩くなった頃、二人は不細工な人形を間に、手を取り合って、おしどりのように寄り添って座った。

太陽が二人を祝福したいのか、非難したいのか、分からなかったが、眩しい位の陽の光で二人を包んだ。

「…悪魔はいると思う?」 唐突に鷹野が問うた。

「片方を信じてるんだ。蔑ろには出来ないさ。」

「ならこれは悪魔の仕業ね。…何もかも失って、あなたとのちっぽけな思い出と皮肉な巡り会わせだけが残った…。」

鷹野が寂しげに太陽を仰ぎながら言った。

遠くからヘリの音が聞こえて来た。

いよいよ村は大騒ぎだ。

245: 2010/09/04(土) 13:45:23.92 ID:hauPxY+e0
「俺は同性愛者だ…アンタを除けばほとんどな。…真っ当な人生はとうに後ろに置いてきた…いや、アンタの言う悪魔に盗られてきたのかもな。」

阿部が自嘲的な笑い方をすると、河原にかかる橋の方を向いた。

そこには一台のパトカーが止まっており、欄干から大石がこちらを見つめていた。

何とも哀しげな目だ。

阿部は再び目を逸らした。

サイレンがこちらに向かってけたたましく鳴り響いて来る…。

「阿部さん!」

河原の向こうから圭一の声が聞こえた。

鷹野と寄り添って座る阿部を、怪訝に思うような声だ。

「阿部さん…鷹野さん…何が起きたんですか?」

圭一の横に立ち尽くしていた入江が、尋ねた。

阿部は入江達七人の方を向かずに言った。

「遠い昔に忘れ去って来た物を、二人で取り返して来た所だ。…何の心配も無い。」

阿部がゆっくりと呟いた。

246: 2010/09/04(土) 13:52:18.58 ID:hauPxY+e0
ふと、橋を見遣ると、サイレンを鳴らしたパトカーや自衛隊のトラックが大挙として押し寄せ、橋を瞬く間に埋め尽くした。

パトカーやトラックから大勢の人間が、降りて来て、河原へと下って来る。

蟻の大群の様に、河原へと詰め寄り、二人を取り囲むと、言った。

「例の二人を発見、残存する山狗部隊に降伏を勧告、確保します。」

慌ただしい様子でそう言うと散り散りに散って行った。

「六月を…とうとう運命に抗って、忌まわしい六月を乗り越えた…。」

梨花が今まで聞いた事も無いような声色で呟く。

「ボク達は…ついに勝ったのですよ…何者でも無い…全て阿部のおかげなのです…。」

羽入が興奮気味にそう答えた。

「私達の出番が少なかったのが…残念だねぇ。」

「でも、終わり良ければ全てよしだよ…だよ。」

魅音や詩音、レナ達は寂しげに寄り添う阿部と鷹野を眺めながら言った。

「君達が詩音ちゃんと沙都子ちゃんかい?」

唐突に自衛隊らしき人物に、声をかけられ、目をまるくした。

247: 2010/09/04(土) 14:02:19.33 ID:hauPxY+e0
「はい…そうですけど…。」

訝しげな表情で、詩音が答えた。

「実は診療所を調査中に、一人の青年を保護してね…。訳を話したら君達に会いたいと言っていたんだ…。丁度こちらに向かって…あ、来た来た、彼だよ。」

橋から河原へと続く道を、大きな熊の縫いぐるみが歩いていた。

二人は最初なにが起きたのか、誰が来るのか…信じられないでいたが、やがてそれが確信に変わると、心のそこから叫んでいた。

「悟史君!」 「にーにー!」

熊の縫いぐるみの脇からひょっこりと顔をだしたのは紛れも無い、北条悟史だった。

詩音と沙都子の二人は、悟史に駆け寄る…。

「にーにー!にーにー!もう会えないかと思ってましたわ!」

248: 2010/09/04(土) 14:07:56.27 ID:hauPxY+e0
「こんな可愛い妹をほったらかしてる兄がいるもんか…。」

足元に抱き着いて来た沙都子の頭を撫でてやると、沙都子は有らん限りの声を上げて泣き叫んだ。

しばらくそうしていると、悟史が抱えていた熊の縫いぐるみを沙都子に差し出した。

「約束は守ったよ…欲しがってた縫いぐるみ。ちゃんと買って来たよ…。」

縫いぐるみを沙都子に渡すと、今度は縫いぐるみを抱きしめて、再び泣き叫び始めた。

悟史はその様子を笑顔で眺めると、今度は詩音の方を向いた。

「やあ、詩音。」

「こ…こんにちは、悟史君。」

たどたどしい会話をすると二人ははにかむように笑い、そして見つめ合った。

しかし、詩音は顔を歪めると、我慢が出来なくなって、悟史に抱き着くと泣きながら言った。

「おかえり、悟史君…ずっと…ずっと待ってた…もう何処にも行かないでね…。」

悟史は詩音を抱き返すと改めて目をつむり、言った。

「もう…何処へも行かないよ…ずっと…ずっとね。」

249: 2010/09/04(土) 14:12:57.77 ID:hauPxY+e0
「この前打った特効薬の試作品が効いたようですね…。副作用も見当たらない。雛見沢研究は成功ですよ、鷹野さん!」

入江の言葉に、鷹野は少しはにかんだように見えた。

「…きっと新しい人生は取り戻せるはずさ…きっとな。」

抱き合う悟史と詩音を見つめながら、阿部は言った。

鷹野からは返事が無かったが、そのかわり鷹野はコクリと頷いた。

「阿部さん…再会の余韻に浸っている所申し訳ありませんが…我々は鷹野三四を逮捕しなければなりません…今まで目をつむってましたが、阿部さんあなたもです…。」

大石がじっと阿部と鷹野を見据えて言った。

「…いいわ。連れて行って。」

鷹野はそう言うと、立ち上がり、大石の前に手を差し出した。

大石はフウと息をつくと、黙々と彼女に手錠を付けた。

「待って…皆に一言謝らなければならないわ・・・・ごめんなさい。」

手錠をかけられた手を下に向けて、鷹野は深々と頭を下げた。

251: 2010/09/04(土) 14:19:29.54 ID:hauPxY+e0
大石は隣でその様子を、形容し難い表情で見遣ると前を向いた。

保護された村人や、入江、悟史に詩音…他の部活メンバーも複雑な心境で、深々と頭を下げて謝罪する鷹野を見つめていた。

「行きましょう…。」

鷹野に向けられた気だるい非難の雰囲気に気まずさを感じた大石が、彼女をパトカーにのせるべく、河原を後にしようとした。

「大石さん!ちょいと待ってくれ!」

今まで黙って下を向いていた阿部が大声でそう言うと、鷹野と大石のもとに走って行った。

「…これはアンタが持つべきだ…。持っててくれ。」

阿部はそう言うと、カケラが繋ぎ合わさり、完全になった人形を、鷹野に手渡した。

「阿部さん…。」

「水臭い、高和と呼んでくれ…。俺も三四って呼ぶから…。」

鷹野は首を横に振って答えた。

「…美代子よ…田無美代子…。」

252: 2010/09/04(土) 14:24:35.28 ID:hauPxY+e0
阿部は恥ずかしそうにはにかみながら言った。

「これから美代子に…手紙書くよ…だから、返事をくれると……嬉しい…凄く嬉しい…。」

阿部は顔を紅潮させながら、鷹野を抱擁した。

鷹野は目を閉じで、甘んじてそれを受け入れた。

「書く…書くわ…絶対に…。」

大石は呆れた様に、苦い笑みを浮かべながら、頭を掻いていた。

他の村人や部活メンバーにも自然と笑みが広がった。

そんな幸福な一時を打ち破るかのように、河原の向こうから怒声と銃声が鳴り響いた。

「よせ!止まれ!」

制服警官が複数、こちらに何かを追うように走り寄ってくる。

制服警官が追う先には、拳銃を構えた、小此木の姿が見て取れた。

253: 2010/09/04(土) 14:29:50.25 ID:hauPxY+e0
小此木は、阿部に銃を向け、首を掻き毟って血塗れにしながら一直線にこちらに走り寄って来た。

「危ない!皆さん、伏せて!」

ざわめきと混乱の中、何が起きたのか分からずに鷹野を抱きしめる阿部の肩越しに、鷹野は小此木が構える銃の銃口が、黒い光を携えているのを確認した。

鷹野は自分を抱く阿部を押し、突き放した。

阿部はそのまま後ろに倒れて尻餅を突く。

阿部は驚いた様子で鷹野を見上げた。

鷹野は涙を溜めた目を綻ばせ、笑顔のまま口を動かして何かを言った。

周りの喧騒や車輌の音に掻き消されたが、鷹野が何を言わんとしてたのか、阿部は悟った。





「さよなら」

255: 2010/09/04(土) 14:35:44.20 ID:hauPxY+e0
不意に銃声が響き、それが亡霊の叫び声のように反響し、こだました。

銃声とともに発射された弾丸は、空気を切り裂いて突き進むと、阿部の頭上を通り、鷹野の胸へと吸い込まれた。

鷹野の胸に開いた小さな穴から鮮血が吹き出し、鷹野は膝をつき、その場で眠るようにうつぶせに倒れた。

喉を掻き毟りながら発狂する小此木を取り押さえる制服警官達の騒ぎをよそに、阿部は何が起きたのか分からないでいた。

鷹野から流れでる鮮やかな鮮血が、より一層現実を不確かな物にしている。

阿部の中で時間が止まった。

何もかもが静かな時の中で静止するかのように、何も聞こえなくなった。

目の前がモノクロの無声映画の様に色彩を無くし、鷹野と、鷹野から流れる朱の暴力だけが色を持つ世界に、阿部はいた。

阿部は漆黒の最中に立ち上がると、朧げな足付きでフラフラと、鷹野の元に歩み寄り、膝をガクリと地面に付けると、彼女を抱き抱えた。

まるで人形の様に、力無く阿部の腕に抱かれている鷹野は、既に事切れていた。

安らかに目を閉じる彼女が、もう阿部に温もりを感じる事も無ければ、手紙の返事を書く事も無かった。

鷹野の手からホ口リと何かが落ちた。

256: 2010/09/04(土) 14:40:17.44 ID:hauPxY+e0
それは、あの不細工な人形であった。

先程繋ぎ合わせたカケラが再び本体を離れ、傍に落ちている。

もう繋ぎ合わさる事は無いだろう。

阿部は、震える手で、それらを掴み上げた。

鷹野の血に濡れたそれらは、既に魂を失っていた。

「嘘だろ…?こんなの…有りかよ…。」 阿部が始めて言葉を発した。

警官に押さえ付けられて暴れる小此木以外、誰も何も言わなかった…いや、言えなかった。

「あ、あれ…」

皆が押し黙る中、羽入が不意に川の方を指差して呟いた。

その場にいた全員がそちらの方を向き、一様に驚き、その光景にただただ呆然としていた。

阿部は鷹野から目を放し、おもむろに川の方を向いた。

257: 2010/09/04(土) 14:44:50.94 ID:hauPxY+e0
川には、誰が流したかいざしらず、無数の真っ白な綿が、川の流れに身を任せる様にユラユラと所狭しと流れ、日の光りを受けて、真冬の新雪の如き、清々しい程に白く輝いていた。

まるで金剛石を紡いで糸にし、それを丁寧に編み上げて、綿にし、キラキラと虹色に輝く水晶の川の上を流れ、そこに金や銀の粉を塗したかのような神秘的な光景だった。

奇しくも今日は綿流しの 日だ…。

その光景に誰もが目を奪われ、言葉まで奪われた。

「綿流しは腹わたを流すんじゃない…魂を流して、氏者を弔う祭なんだ…。」

魅音が消え入りそうな声で言った。

「…俺の人生は糞に塗れていた…。まるでそびえ立つ糞だ。」

鷹野の亡きがらをそっと地面に寝かせ、手を胸の上で組ませてから立ち上がり、川から鷹野へと視線を移し、見つめながら言った。

「…そんなおれの人生に光りを挿して、導いてくれたのが彼女だった。心の底で、彼女はおれの唯一の生きがいだったのかもしれない。…だが、彼女はもういない。」

阿部は再びしゃがみ込むと、鷹野の力無き手に人形を握らせた。

「涙は既に涸れ果てて・・・これで俺はまた、糞に逆戻りだ。」

258: 2010/09/04(土) 14:52:36.50 ID:hauPxY+e0
綿が流れる綺麗な川を背に、阿部は立ち尽くした。

だが、すぐに、黒いスーツに身を包んだ、いかにもな風貌の男女三人組が、黒いハイヤーから降りて来て、阿部の元へとやって来て言った。

「阿部高和!東京の命令であなたを拘束しに来たわ。大人しくついて来て。」

三人組の中央にいた、いかにも高飛車そうな、他人を下卑る喋り方をする女が阿部に言った。

「拘束しに…?何故だ?」

「我々への攻撃や侮辱は、許されないわ。」

阿部は改めて三人組に向き直ると鼻で笑って言った。

「…侮辱だと?侮辱ってなんだ?」

そう言うやいなや、中央にいた女の鼻っ柱目掛けて強烈なパンチを叩き込んでから言った。

「これか?」

259: 2010/09/04(土) 15:00:07.39 ID:hauPxY+e0
白目を剥き、鼻血を出して倒れている女に代わり、横に控えていた黒スーツの男達にしたり顔でそう言うと、踵を帰して歩きはじめた。

「待て!止まれ!」

女の介抱もそこそこに、男達は拳銃を取り出すと、阿部に向けた。

すると、今まで黙っていた、村人や部活メンバー達が、阿部に向けられた銃口に立ちはだかった。

「村を助けてくれた阿部ちゃんに、銃を向けるのはワシ達が許さん!なあ、みんな!」

公由村長の掛け声に、その場にいた全員がおうと大声で返事をした。

村の全員の今にも飛び掛からん程の鬼気迫る殺気に、二人はタジタジになり、震える手で銃を仕舞った。

「クソッ!なら三佐の遺体だけでも…。」

男の一人がそう言うと鷹野の氏体に手をかけようとした。

「あーあー!駄目ですよ。鷹野さんの御遺体はこちらで手厚く葬るつもりなんですから。」

入江が声を張り上げると、村人の誰かが出てけ、と叫び、河原の石を投げた。

260: 2010/09/04(土) 15:04:53.71 ID:hauPxY+e0
それが丁度、意識を取り戻し始めた、女の額にガツンと当たり、女は再び、気絶した。

村人総出の出てけコールと石つぶての雨に、二人は女を抱き抱えると、尻尾を撒いて逃げ出した。

出てけコールが鳴り響く中、圭一は阿部の方を振り返った。

阿部は既に河原の向こうに消え去ろうとしていた。

圭一は殺到する村人を、押し退けて、阿部の元へと走り寄った。

「阿部さん!どこにいくんだ!」

「さあな!」

言葉を返す阿部の元へと、圭一は走っていったが、遥か遠くを歩く阿部には到底追いつけなかった。

261: 2010/09/04(土) 15:12:31.72 ID:hauPxY+e0
「阿部さん!また皆で遊べるかい!」
再び圭一が尋ねると阿部は笑い声とともに言った。
「慌てるな坊や!きっと帰ってくるさ!」
そう言った途端、阿部は遥か遠くで霧のように消えてしまった。

それを遠目から、手を繋いで見ていた梨花と羽入は何かを心得たかのように微笑み、そして互いに顔を見合わせた。

「敢えてさよならは言わないわ・・・。」

梨花が、羽入を見つめながら言った。

「・・・梨花。」

「ほら・・・早く行きなさい・・・あんたの片道切符はもう既に発行されてるんだから。」

梨花はそれだけを言うと、羽入から離れて歩き始めた。

「梨花!ボクたちはまた・・・またいつか会えますよね?」

「・・・さあね・・・神のみぞ知る事ね・・・。」

皮肉めいた言い方をした梨花はますます羽入から離れていく。

羽入はちょこんとお辞儀をすると、その場から、霞のように消えた。

誰も知らない可愛い神様は、その存在の一切を消し去った。

梨花は、羽入がいなくなっていることを確かめるかのように振り返ると、ニコリと微笑んだ。

262: 2010/09/04(土) 15:19:17.00 ID:hauPxY+e0
数年後・・・誰も知らない土地にて。




阿部は新しい相棒ともいえる愛車、フィアット500にもたれかかるように座り、タバコをふかしながら遠くにきらめく海を眺めていた。

どこまでも続くよう海は、雲が無ければ、空とくっついてしまうのではないかと錯覚させられるほど、蒼く青く広がっていた。

「阿部、いつまでタバコなんかすってるのですか?」

助手席の窓からひょっこりと顔を出した、羽入は膨れ面でそう言った。

「海を見てたのさ・・・。今日もどこかで俺が知らない世界が息づいている。」

阿部がフウ、煙を一吹きして、言った。

「それで、次はどこへ行くのですか?」

「そうだな・・・このまま海沿いに行こう・・・うみねこの鳴き声が聞こえるところにでも・・・。」


263: 2010/09/04(土) 15:22:42.37 ID:hauPxY+e0
阿部はそういうと、運転席に飛び乗った。

「さあ行こう、羽入!いざ新天地へ!」

「レッツゴーなのです。」

二人は笑い合うと、車を発進させた。

海沿いの道を、キラキラ走る車は、止まることを知らない遠い異国の風のように道を駆け抜けていく。





今日もどこかで、阿部のつなぎの胸ポケットの中で、人形のカケラがキラキラと光っていた。








264: 2010/09/04(土) 15:24:02.38 ID:OQ2UhnL90
阿部さんである必要がなかった

265: 2010/09/04(土) 15:26:12.00 ID:/7sczDP30
しかし阿部さんだったからよかったのかもしれない

266: 2010/09/04(土) 15:27:57.08 ID:hauPxY+e0
お付き合い頂いた皆様、最後まで御覧下さった皆様、有難う御座居ます。

批判等も含め、自分自身程度の低さを自覚しておりますが、これからも御指導御鞭撻の程、宜敷く御願い申し上げます。


もしよろしければ、今後の参考に感想等を御聞かせ頂ければ、幸いで御座居ます。

277: 2010/09/04(土) 18:27:25.87 ID:hauPxY+e0
てす

278: 2010/09/04(土) 19:59:36.39 ID:hauPxY+e0
>>276
梨花とともに長い間、欠片を彷徨っていた羽入にとって、その束縛から解放された羽入にとって、阿部は新たなる旅のパートナーといいますか
とにかくロゴスでは語れない何かに引かれたのでしょう。

と、解釈しております。

引用: 阿部高和が雛見沢村に引越して来たようです・阿部曝し篇