1: 2008/09/05(金) 23:10:26.14 ID:5n/QRI6i0
翠星石「どうせ翠星石なんてアリスゲームで負けて消える運命ですぅ」
翠星石「チビ人間も真紅真紅うるさいですし・・・」
翠星石「翠星石なんていてもいなくても一緒です」
翠星石「もう楽になりたいですぅ」



朝、桜田家

のり「あら、おはよう翠星石ちゃん」
雛苺「おはよーなのー!」

翠星石「ぼー・・・」

雛苺「・・・?」
翠星石「あれ?チビ人間と真紅はまだ寝てるですか?」
のり「二人ならもう起きて、二階に行ったわよ」

翠星石「ふーん・・・そーですか・・・」
のり「翠星石ちゃん?」

3: 2008/09/05(金) 23:12:23.34 ID:5n/QRI6i0
ガチャリ キィー・・・

ドアの隙間から二階を覗く翠星石

JUM「お前またなに読んでんだよ?」
真紅「うるさいわねJUM、あなたは黙ってパソコンでもやってなさい」
JUM「これで下らない恋愛小説とかだったら笑えるんだけどな!」
真紅「っ・・・!下僕が余計な詮索をするものじゃないわ!」


パタン・・・

翠星石「またいつもの調子ですか」
翠星石「・・・」

11: 2008/09/05(金) 23:15:18.72 ID:5n/QRI6i0
夕方

真紅「!」
JUM「どうしたんだ?」
真紅「どうやら、お客のようね」
雛苺「巴?巴なのー?」
真紅「いいえ、招かれざる客よ」


鏡の部屋

真紅「やっぱりあなたね、水銀燈」
水銀燈「やっぱりとはご挨拶ね真紅ぅ、家の中を滅茶苦茶にされたくなかったらついてらっしゃぁい?」
真紅「言われなくてもそうするのだわ」

nのフィールドに消えていく真紅と水銀燈

雛苺「雛も行くー!」
蒼星石「待って、雛苺!僕の後についてきて」
雛苺「わかったのー!」

翠星石(・・・翠星石は別に行かなくても一緒ですよね・・・)

蒼星石「・・・翠星石?」
翠星石「・・・」

翠星石「ゆ、許せんです水銀燈!返り討ちにしてやるですぅ!」

12: 2008/09/05(金) 23:17:20.92 ID:5n/QRI6i0
水銀燈「あらあら、お約束の団体様ってわけ真紅ぅ?そんなに私が怖いのぉ?」
真紅「・・・私は奪うつもりはない、ただ、今の生活を守りたいだけ」

水銀燈「なぁんていって、隙あらば奪おうって気配が隠しきれてないわよぉ?」
蒼星石「くっ・・・水銀燈!」

水銀燈「安心して頂戴、今回はゲストを呼んであるから退屈させないわぁ」
真紅「なんですって!?」
薔薇水晶「・・・さ、アリスゲームを始めましょう」

翠星石(すごいだるいです、帰ってずっと寝ていたいですぅ・・・)

キィン!
 ガキィン!

真紅「はっ!」
蒼星石「今だっ!」

ガキィン
キィン

真紅「うっ」
蒼星石「ぐぅ・・・」

薔薇水晶「・・・弱い」
水銀燈「四人もいて情けないわねぇ・・・」

蒼星石「く・・・そお!!!」

14: 2008/09/05(金) 23:20:10.23 ID:5n/QRI6i0
飛び掛ろうとした蒼星石を翠星石が制止する。
翠星石「もうやめるです、蒼星石」
蒼星石「止めないで翠星石!」

真紅「翠星石、こうなった以上は逃げても同じことなのだわ・・・」
翠星石「逃げる気はないです」
雛苺「どうするの翠星石ー?」

のろのろと水銀燈の前に歩いていく翠星石

蒼星石「翠星石・・・?」
真紅「ちょっと翠星石!危ないわ!」


ぽかーんとしている水銀燈の眼前で立ち止まると、俯いたままぽつりと呟く。

翠星石「翠星石のローザミスティカやるから今日は帰るです」

真紅「!!」
蒼星石「な・・・」

21: 2008/09/05(金) 23:25:13.95 ID:5n/QRI6i0
水銀燈「翠星石、あなた・・・」
薔薇水晶「どちらにせよ同じこと・・・後ろの三人も一緒にローザミスティカを差し出しなさい・・・」

蒼星石「翠星石!何考えてるんだ!」
真紅「雛苺!」
雛苺「はいなの!!」

雛苺の苺轍が翠星石を捕え、真紅達のもとへ引き摺る。
しかし、翠星石はもはや無抵抗。
力のない苺轍ではのろのろと引き摺ることしかできない。

蒼星石「だ、だめだ、あれじゃ間に合わないよ!」
真紅「水銀燈が混乱しているうちに助けないと・・・!!」

気の遠くなるような長い間行われてきたアリスゲーム。
今まで誰一人失わず、誰一人獲得しなかったローザミスティカがこんな形で手に入る。
水銀燈は本来喜ぶべき状況に混乱していたが、
翠星石が救出されようとしているのを確認すると我にかえった。



水銀燈「・・・わかったわ、望み通りにしてあげる」

23: 2008/09/05(金) 23:30:04.47 ID:5n/QRI6i0
無表情だった翠星石が少しだけ微笑んで呟く。
翠星石「これで・・・やっと楽になれるですね…」

水銀燈「この子・・・!」

決意を固め突撃した水銀燈だったが翠星石の異常な態度に再び迷いが生まれる。
一瞬躊躇した水銀燈の刃に、すんでのところで蒼星石が割って入った。

ガキィィーーーン・・・

突撃する水銀燈と交差する形で翠星石を抱きかかえ、
真紅達のもとに着地する蒼星石。

再び目の光を失った翠星石が蒼星石から目を逸らしたまま悪態をつく。
翠星石「・・・余計なことするなですぅ」

蒼星石「世話の焼ける姉を持つと苦労するよ」

蒼星石はそう言うと力なくその場に倒れ動かなくなった。

真紅「蒼星石!!」

水銀燈の刃は蒼星石に致命傷を与えていた。
駆け寄る真紅に蒼星石のミスティカが吸い込まれていく。
一瞬の出来事だった。

真紅「蒼星石・・・嘘・・・」
雛苺「いや・・・いやー!!」
翠星石「・・・そん・・・な」

24: 2008/09/05(金) 23:35:27.65 ID:5n/QRI6i0
動かなくなった蒼星石を抱きかかえたまま硬直していた真紅だったが、
やがてその怒りを露にする。

真紅「水銀燈!!!」

怒鳴ると同時に無数の薔薇の花弁が水銀燈と薔薇水晶を襲う。
まともに貰った二人は壁に叩きつけられ、力なく地面に落下した。

水銀燈「ぐぅっ!」
薔薇水晶「強い・・・」

態勢を立て直した水銀燈は、さらに攻撃を仕掛けようとする真紅を確認すると口を開いた。
水銀燈「まぁどうせそのローザミスティカも私のものになるし・・・また遊んであげるわ真紅ぅ」

そういい残すと水銀燈と薔薇水晶は去っていった。
蒼星石のローザミスティカを得た真紅はより強敵となったため、退却したのだ。
後には水銀燈の去った方向を睨みつける真紅と、
動かなくなった蒼星石を抱きかかえる雛苺、それを呆然と眺める翠星石がいるだけだった

真紅「・・・どういうつもりなの、翠星石」

後ろを向いたまま真紅が問う

翠星石「・・・すまんです、すまんです」

うつむいたまま謝罪を繰り返すことしか翠星石にはできなかった。

25: 2008/09/05(金) 23:37:28.10 ID:5n/QRI6i0
翌朝、桜田家

のり「あらみんな、おはよう」
真紅「・・・」
雛苺「・・・」
JUM「どうしたんだお前ら、元気ないぞ?」
真紅「なんでもないのだわ」

JUM「そういえば翠星石はどうしたんだ?」
雛苺「そういえば見てないの・・・」

昨日の惨劇を思い出した真紅が小刻みに震えながら呟く。
真紅「あの子が何を考えてるのか、私にはもう、わからないわ・・・」

JUM「仕方ない、起こしにいってやろう」

27: 2008/09/05(金) 23:40:01.42 ID:5n/QRI6i0
JUM「ったく、まだ鞄の中で寝てるよ」
真紅「これは・・・」

鞄の中で眠りについている翠星石。
蒼星石の形見・レンピカが微かに反応する。

雛苺「どうしたの真紅?ちゃんと生きてるよ・・・?」
真紅「彼女は夢の世界にいるわ」
JUM「そりゃ人形だって夢ぐらいみるだろ」
真紅「いいえ、JUM、あなたならわかるはずよ・・・」

JUM「はあ?・・・まさか!」
真紅「ええ、彼女は夢の中に閉じ込められている」
雛苺「そんなの酷いの!水銀燈の仕業ね!?」

真紅「恐らく・・・彼女自身がやったことよ」
JUM「なんだって・・・?」

JUM「確かに最近のあいつは様子がおかしかったな」
真紅「ええ・・・」
JUM「だからって自分を夢に閉じ込めることないだろ!蒼星石を呼んでこよう!夢の扉を開いてもらうんだ!」

真紅・雛苺「・・・」

JUM「どうしたんだお前ら?助けたくないのか?」

真紅はしばらくうつむいていたが、決意したように顔を上げると話し始めた。

真紅「実はね、JUM・・・昨日・・・」

30: 2008/09/05(金) 23:42:47.68 ID:5n/QRI6i0
JUM「そんな・・・ローザミスティカを渡そうとした翠星石の身代わりになって」
JUM「蒼星石は・・氏んだのか?」

真紅「ええ」

JUM「なんでそんな真似を・・・自殺と一緒じゃないか!」
JUM「こうなったら直接本人に聞いてみるしかないな」

雛苺「でもどうやって夢の中にはいるの?蒼星石はもういないの!」

JUM「レンピカがいるじゃないか」
真紅「・・・」


迷いながらもレンピカで夢の扉を開く真紅。

真紅「いいみんな、良く聞いて頂戴」
真紅「翠星石に会っても、絶対に彼女を刺激しないで諭すこと、いいわね」

JUM「ああ」
雛苺「わかったの」

氏んだように眠る翠星石の頭上に展開された夢の扉。
真紅たちは恐る恐るその中へ歩を進めた。

31: 2008/09/05(金) 23:47:05.78 ID:5n/QRI6i0
JUM「これが・・・」
雛苺「翠星石の、夢?」

移動した先は小奇麗な狭い部屋が一つあるばかり。

真紅「彼女は以前から様子がおかしかったけれど、今度のことでさらに色々なモノを喪失したようね」
真紅「ここまで整理された夢の世界は見たことがないわ」

その部屋は飛び降り前の自殺者が揃えた靴に良く似ていた。

JUM「僕の夢でさえあんなに広かったのに、どうなってるんだ」
真紅「夢の世界は希望や欲望、怒り、喜び、様々な感情で形成されるもの」
真紅「それを喪失したなら狭くなってしまうのは必然よ」

JUM「じゃあ翠星石の夢にはもう何もないのか?」
真紅「一つだけあるわ」

真紅「それは彼女の記憶」
真紅「この部屋は彼女の記憶だけが集まった、いわば翠星石そのものね・・・」

32: 2008/09/05(金) 23:49:19.60 ID:5n/QRI6i0
JUM「翠星石そのものったって・・・こんな狭い部屋でどうしろっていうんだ?」
雛苺「JUMの部屋より狭いのー」
JUM「お、お前は黙ってろ!」

真紅「・・・たとえばこの机」

真紅が古びた机の引き出しを開けると光の玉が出てきた。

JUM「なんだこれ?」
真紅「恐らく翠星石の記憶の一部・・・いつのものかはわからないけど」

36: 2008/09/05(金) 23:53:49.97 ID:5n/QRI6i0
三人が光の玉に触れると、辺りが闇に包まれ、やがて光が差してきた。

JUM「・・・ここは、街?」
真紅「そのようね」

夜の街を月の光が照らしている。
真紅達のそばにある井戸に月の光が反射され、辺りをかろうじて照らしていた。

雛苺「雛、ここ知ってるのー」
真紅「雛苺、説明して頂戴」
雛苺「ここはねー むかしなの!」
JUM「説明不足感が否めないな・・・」

真紅「私達は一定期間眠り、そして目覚め、それを繰り返す」
真紅「どうやらここは数巡前の、昔の世界」

JUM「どうして雛苺が知っててお前はここを知らないんだ?」
真紅「私達は全員一斉に目覚めるわけじゃないわ」
真紅「数体しか目覚めずにその巡が終わることもあるのだわ」

真紅「つまり、ここは私が目覚めていなかった、私の知らない世界」

37: 2008/09/05(金) 23:57:44.38 ID:5n/QRI6i0
JUM「でもさ、随分と寂れた街だな、人っこ一人いないぞ」
真紅「今は夜だもの、仕方ないわ」

真紅達が話していると、遠くから近づいてくる足音が聞こえる

真紅「シッ・・・その井戸の陰に隠れるわよ」
JUM「あ、ああ・・・お前らは見つかったらまずいからな」
雛苺「うゆ・・・あ!あれ!」

近づいてくる二つの小さな影
しだいにはっきりと姿が見えてくる
翠星石と蒼星石だった

JUM「翠星石!」

38: 2008/09/05(金) 23:58:23.02 ID:5n/QRI6i0
翠星石「・・・で蒼星石、聞いてるですぅ?」
蒼星石「聞いてるよ、でも彼は一応マスターだからね、翠星石も良くなかったと思うよ」

JUM「おい!おいってば!」
雛苺「蒼星石だー!会いたかったのー!」

翠星石がぴたりと立ち止まる。

JUM「な、なあ・・・」

蒼星石の方を向いて怒鳴りはじめる翠星石。

翠星石「あいつのどこがマスターですか!さっさと契約を解除するです!」
蒼星石「契約を解除したら僕らはまた眠らなくちゃいけなくなるよ・・・」
翠星石「・・・」

JUM「お、おい 僕だよ!って昔じゃ知らないか・・・」
真紅「無駄よ、JUM」

40: 2008/09/05(金) 23:59:01.02 ID:5n/QRI6i0
真紅「どうやら私達は見えていないみたいね」
JUM「え?」
真紅「・・・」

翠星石に向かって突っ込んでいく真紅。

JUM「お、おい真紅!」

真紅はそのまま翠星石をすり抜けると立ち止まり、振り返った。

真紅「ここは翠星石の記憶世界だもの、考えてみれば当然ね」
JUM「なんだこの透明人間みたいな状況・・・」

JUMが頭を抱える。

真紅「いいえ、JUM この世界自体、ホログラム映像のようなもの・・・」
真紅「言うなれば私達以外が透明人間のようなものね」

42: 2008/09/06(土) 00:00:06.35 ID:zmnqTbJ70
雛苺「えー、話すことも触ることもできないの?」
JUM「じゃあ、僕らにできることは何もないのか?」

真紅「そうね、確かに私達は見ることしかできない」
真紅「けれど彼女が変わってしまった原因を探ることはできるわ」

JUMと雛苺は暫く困惑した表情だったが、
遠ざかっていく翠星石と蒼星石を指さして『追うわよ』とジェスチャーする真紅につられて後を追っていった。

話をしながらちんたら歩く二人の後を、堂々と尾行する三人。
どうやら二人はミーディアムに愛想を尽かし、家出したところらしい。

JUM「それにしてもどこに行くんだ?街からどんどん離れていくぞ」
真紅「わからないわ・・・」
雛苺「雛もう疲れたのー」

やがて山道の奥に小屋が見えてきた。
今にも崩れそうな木造の小屋だった。
翠星石と蒼星石はそこに入っていく。

JUM「・・・どうする?」
真紅「入るしかないわ」

45: 2008/09/06(土) 00:03:39.69 ID:zmnqTbJ70
小屋の中に入り、二人の間に腰をおろす三人。
雛苺に至っては体が半分ほど翠星石と被っている。

JUM「はは、なんだこの状況」

苦笑いするJUMをよそに口論は続く。

蒼星石「だからもうマスターのところに戻ろう?」
翠星石「・・・勝手にすればいいですぅ」
蒼星石「そんなことできるわけないじゃない・・・」

不毛な口論が長時間続いていたが、やがて翠星石は疲れきって眠ってしまう。

46: 2008/09/06(土) 00:08:17.51 ID:zmnqTbJ70
熟睡する翠星石をじっと見つめる蒼星石。
真紅とJUMは蒼星石を見つめている。
雛苺は翠星石よりも先に眠りに落ちていた。

やがて蒼星石が立ち上がった。
翠星石に背を向け、ドアに手をかけると一度だけ翠星石の方を振り返り、
そのまま小屋を出て行った。

JUM「・・・おい、真紅」
真紅「Zzz・・・」
JUM「真紅ってば!」
真紅「・・・はっ!ちょ、ちょっと雛苺!なにを寝ているの!」
雛苺「うゆー・・・」
JUM「蒼星石が出ていっちゃったぞ?」
真紅「寝ている翠星石を置いていくなんてあの子らしくもないわね・・・」

48: 2008/09/06(土) 00:11:24.49 ID:zmnqTbJ70
JUM「どうするんだ?」
真紅「・・・このまま翠星石の様子を見ていましょう」

JUM(こいつここで寝たいだけじゃないだろうな・・・)

やがて最後まで頑張っていたJUMも眠ってしまい、
気づけば朝になっていた。

JUM「うわ、いつの間にか朝じゃないか!!」

先に起きていた真紅に問い詰める。

JUM「翠星石は?」
真紅「焦らなくてもそこにいるわ」

51: 2008/09/06(土) 00:40:27.53 ID:zmnqTbJ70
JUM「翠星石・・・?」

翠星石は膝を抱えてうずくまるように座りながら泣いていた。

翠星石「うっ・・・うっ・・・蒼星石・・・蒼星石・・・」

真紅「・・・蒼星石に捨てられたと思っているのね」
雛苺「翠星石かわいそうなの」

やがて翠星石は泣くのをやめ、ただ黙って座っていた。

JUM「目がうつろだ・・・大丈夫か翠星石」

52: 2008/09/06(土) 00:44:10.66 ID:zmnqTbJ70
どれぐらい経っただろう。
翠星石は本当に、ただ黙って座っているだけだった。

JUM「翠星石・・・いい加減立ち直って蒼星石のとこに帰ったらどうなんだ?」

幾度と繰り返されてきたJUMの無駄な問いかけ。

JUM「まあ、聞こえてないんだろうけど・・・」

そう言ってごろんと寝そべったJUMだったが、すぐに起き上がった。
翠星石が反応したのだ。

53: 2008/09/06(土) 00:47:41.89 ID:zmnqTbJ70
翠星石「・・・あ」

JUM「翠星石!僕だよわかるか!って、あーもう、僕はお前の未来のミーディアムだ!桜田JUMだ!」

翠星石「・・・嘘」



しばらく一人相撲ととっていたJUMだったが、やがて翠星石の視線が自分に向けられていないことに気づく。
振り向くと燕尾服を着た兎が立っていた。

真紅「ラプラスの魔・・・!」

57: 2008/09/06(土) 01:12:35.54 ID:zmnqTbJ70
ラプラスの魔「ご機嫌麗しゅう、第三ドール」

翠星石「・・・もう、終わりですか?」

ラプラスの魔「いかにも。この時代はこれにて終幕。暫しの眠りについて頂きます。」

翠星石「お前にこんなこと言っても聞いてくれるわけねーですけど・・・」

翠星石は少し俯いて下唇を噛み締め、やがて顔を上げると口を開いた。

翠星石「最後に蒼星石に会わせて欲しいです・・・」


ローゼンメイデンはいつ目覚めるかわからない。
下手をすると次に目覚めたときは蒼星石はもういないかもしれない。
なにより、自分がこれから長い眠りにつくという現実が翠星石には氏にも似た恐怖だった。
恐怖を前にして、素直な気持ちで本音をぶつけた。

58: 2008/09/06(土) 01:18:46.98 ID:zmnqTbJ70
ラプラスの魔「おや?第四ドールに会わせて欲しいと・・・」

無表情なラプラスの魔が少し笑ったように見えた。

ラプラスの魔「と、いうことは彼女はここには来ていないのですかな?」

翠星石「・・・どういうことです?」

ラプラスの魔「私の親切心が働きましたねぇ・・・」
ラプラスの魔「あなたのところに来る前に第四ドールのところへ行ってきたのですよ」

翠星石「それは・・・いつのことですか・・・?」

ラプラスの魔「およそ600分前・・・この小屋と蒼星石のミーディアムの家を・・・」
ラプラスの魔「10往復ほどする余裕があるはずなんですが、はてさて」

翠星石「な・・・」

ラプラスの魔「どうやら第四ドールは最後の時をミーディアムと過ごす決断をしたご様子」

翠星石「そん・・・な・・・」

ラプラスの魔「それでは悠久の眠りへ、ご招待しましょう」

翠星石「そんな、そんな、そんな!!蒼星石!!!蒼星石ィーーー!!!」


ラプラスの魔が手を上げると翠星石の足元に巨大な空洞が出現し、
二人ともその中へ落ちていった。

60: 2008/09/06(土) 01:27:07.08 ID:zmnqTbJ70
真紅達が気づくと元の部屋に戻っていた。

JUM「あの二人にあんなことがあったなんて・・・」
雛苺「蒼星石酷いのー!」
真紅「蒼星石にどういう事情があったかなんてわからないもの、一概に酷いとは言えないわ」
雛苺「うゆー」

真紅「ただ、彼女がこの体験で大切なものを失ったことは確かなようね・・・」
JUM「大切なもの?」

真紅「あのときまできっと翠星石は、蒼星石に絶対的な信頼を置いていたはずよ」
真紅「盲目的に信頼する心、それを彼女は失ってしまった」

JUM「そんなこと言ったって、いつもうちで仲よさそうにしていたじゃないか」
真紅「それは表面上はそう見えたでしょうね、内心、蒼星石に対する迷いと疑いで満ちていたはずよ」

雛苺「そんな・・・かわいそうなの・・・」

62: 2008/09/06(土) 01:36:17.14 ID:zmnqTbJ70
JUM「でもさ、それって当たり前のことなんじゃないのか?」
JUM「盲目的に信頼する心?そんなの持ってる奴、きっと一人もいないよ」

真紅「・・・ええ、そのとおりね」、JUM」
真紅「成長する過程で人間は皆、その心を失っていく、裏切られて、傷ついて学習するのね」
JUM「・・・」

真紅「ただ私達ローゼンメイデンは停滞した存在、狭い輪の中で生き続ける人形・・・」
真紅「一度疑う心を抱いたら、長い時をともに過ごしてきただけに、心からの信頼なんて不可能だわ」
真紅「人間とは違うの、新たに信頼する相手がいくらでもいる人間とは・・・」

JUM「そんな・・・」

真紅「それこそ翠星石は自分の半身を失ったような喪失感だったでしょうね・・・」

そこまで言うと真紅は黙って俯いてしまった。

JUM「

67: 2008/09/06(土) 02:15:30.48 ID:zmnqTbJ70
自分達にも思うところがあったのだろうか、真紅と雛苺が黙ったまま呆然と立っている。
いたたまれなくなったJUMが声をかける。

JUM「どうする、皆?もう、帰ろうか?」

その一言に真紅が気づいたように反応する。

真紅「それはダメよ、JUM」
真紅「ここで私達が逃げたら誰が翠星石を助けるの?」

JUM「ああ、そうだな・・・」

JUMは小さく頷くと、
まだ信用に足る仲間がいることを翠星石に教えてあげたい気持ちになった。

74: 2008/09/06(土) 02:48:57.38 ID:zmnqTbJ70
JUM「でもさ、探すっていったってほかの記憶はどこにあるんだ?」

ゴソゴソと先ほどの机を漁るJUM

JUM「もうこの引き出しには何もないみたいだぞ」

雛苺「うゆー この本が怪しいの!」
JUM「なんだこれ、読めないぞ」
真紅「みんなの汽車 と書いてあるのだわ」

JUM「なんだそりゃ?児童本か?」
真紅「見たところそのようね・・・」

真紅がその本をそっと開くと、周囲が暗闇に包まれた。

75: 2008/09/06(土) 02:51:47.57 ID:zmnqTbJ70
JUM「・・・そろそろ光がさしてきてもいいころだと思うんだけど」
雛苺「暗いのー」
真紅「どうやら、もう記憶の世界に来てしまったようね」

JUM「真っ暗じゃないか・・・」
真紅「光があるところまで歩くわよ」

雛苺「暗いの嫌ー!ベリーベル、助けて!」

JUM「おっ、明るい」
JUM「苺、お前意外と賢いな・・・誰かさんと違って」

JUMが横目でホーリエのことをすっかり忘れていた真紅を見ると、
真紅は既に歩き始めていた。

76: 2008/09/06(土) 02:55:47.00 ID:zmnqTbJ70
カァーン!!
 ガギィーン!!
 カァーン!!   カァーン!!


JUM「なんだろう、あの音?」
真紅「行ってみましょう、見つかる心配なんてしなくていいのだから」
JUM「そ、それもそうだな」


金属がぶつかるような音の先、もぞもぞと蠢く何かがあった。

真紅「あれは・・・人間?」
JUM「こんな暗闇の中で何を掘ってるんだ?」

79: 2008/09/06(土) 03:05:01.92 ID:zmnqTbJ70
真紅「それにしても皆、酷くやつれているわ・・・」
雛苺「無理矢理やらされてるみたいなの、かわいそうなのー」

JUM「無理矢理・・・?そうか、わかったぞ」

一番早く事態を把握したJUMは得意げに腰に手を当てる。

真紅「教えて頂戴、JUM」

ややめんどくさそうに真紅が問う。

JUM「これはな、奴隷だよ、奴隷」
雛苺「どれい?」
真紅「対価のない強制労働ね」

JUM「ん・・・?」

JUMが目を凝らして奴隷の群れを見ると、人周り小さい影がせっせと動いているのが見えた。

80: 2008/09/06(土) 03:10:29.64 ID:zmnqTbJ70
JUM「まさか・・・おい!あれ翠星石じゃないか!?」

奴隷と判明した直後だけに三人とも慌ててその影に近づいていく。
炭なのか、ホコリなのか、何かにまみれて翠星石は近くからみても真っ黒だった。
それでもせっせと動いて必氏に掘っていた。

JUM「翠星石・・・」

JUMは涙を隠すそぶりも見せず、翠星石を見つめながら泣いた。
真紅は顔を逸らして堅く目を瞑った。

81: 2008/09/06(土) 03:14:55.68 ID:zmnqTbJ70
真っ暗な中でさらに真っ暗な穴を掘っている。
三人は時に人間達に押しのけられながらも必氏に掘る翠星石を応援することしか出来なかった。

JUM「これ、いつまで続くんだよ・・・」
真紅「なにかの鉱物があるようでもないし、目的がわからないわね・・・」

恐らく丸一日は経っただろうか。
作業する翠星石達の背後を監視していた男が休憩を告げる。

雛苺「やっと、終わったの?」
JUM「・・・」

91: 2008/09/06(土) 04:54:40.83 ID:zmnqTbJ70
大勢の人間がその声を聞くと同時にその場にだらりと座りこむ。
その中で翠星石だけはだるそうな体を引きずりながら歩いている。

JUM「あいつ・・・どこに行こうってんだ?」
雛苺「翠星石、休まないと氏んじゃうの・・・」

翠星石の後をついていくとそこにはある人間が、他の人間と同様に休憩していた。

翠星石「マスター、お待たせですぅ♪」


JUM「なんだ、過酷に見えるわりには元気そうで安心したよ」
真紅「マスター・・・?」

94: 2008/09/06(土) 04:59:13.15 ID:zmnqTbJ70
真紅「おかしいわね・・・」
JUM「どうしたんだ真紅?」

真紅「さっきの記憶で、ミーディアムに蒼星石を取られて絶望していたのに・・・」
真紅「マスターだなんて呼んで懐くなんて考えられる?」

JUM「さあ・・・よっぽど良いミーディアムなんじゃないのか?」

真紅「やれやれ、あなたってほんと鈍いわね、JUM」
JUM「なんだよ、勿体ぶらずに言えよ」

真紅「あれだけの絶望の後で懐くなんてことはありえないわ」
真紅「現に、あなたの元に来たときも酷い人間嫌いだったでしょう?」
JUM「何が言いたいんだ?」
真紅「この記憶はさっきよりも過去のものね・・・」

95: 2008/09/06(土) 05:05:54.51 ID:zmnqTbJ70
JUM「なるほど・・・言われてみればこんな酷い奴隷制度、相当昔だな」

雛苺「翠星石とミーディアムが喋ってるの」
真紅「JUM、その話は一旦やめにして、話を聞くわよ」
JUM「ああ」


翠星石は過酷な労働を強制されているにも関わらず、ニコニコ顔で話している。

ミーディアム「お疲れ様、翠星石」
翠星石「マスターもお疲れの様子ですね、全身真っ黒ですよ?」
ミーディアム「ハハハ、君もだよ」
翠星石「え?・・・必氏に掘ってて気づかなかったですぅ」

ミーディアムは優しそうな顔立ちの小柄な男性だった。

ミーディアム「それにしても・・・翠星石には悪いことをしたね」
翠星石「なーに言ってるです、誇り高きローゼンメイデンとして当然のことです!」
ミーディアム「・・・」

真紅「何?何があったの?」
JUM「僕が聞きたいぐらいだよ」

96: 2008/09/06(土) 05:09:19.35 ID:zmnqTbJ70
翠星石「とにかく、このバカタレトンネルを完成させれば晴れて自由の身です!」
ミーディアム「そうだね、あと一息だ、頑張ろう翠星石!」

周囲で寝ていた奴隷が怒声をあげる。
男「おいお前らうるせえぞ!」
男「寝ないと氏ぬんだ!俺を頃す気か!」

翠星石「ひっ・・・じゃ、じゃあまたくるです」

そういうと翠星石は手を振りながら去っていった。

99: 2008/09/06(土) 05:12:32.47 ID:zmnqTbJ70
JUM「さっきトンネルって言ったよな」
真紅「ええ、どうやらトンネルを掘っているようね」
雛苺「わーい!汽車が走るのー!」

JUM「みんなの汽車、か・・・」
真紅「そろそろ完成すると言っていたわね」

真紅「とにかく、翠星石と一緒に私たちも休憩しましょう」
雛苺「賛成なのー!」
JUM「そうだな、流石にもう疲れたよ」

三人は、隅で眠る翠星石を囲むようにして眠りについた。

100: 2008/09/06(土) 05:18:30.27 ID:zmnqTbJ70
疲れきっていた三人は泥のように眠った。
起きて周囲を見ると、相変わらず昼か夜かも分からない闇の中。

JUM「翠星石がいないぞ」
真紅「翠星石どころか作業していた奴隷達が忽然と消えてしまったわ・・・これは一体・・・」
雛苺「なんだか嫌な予感がするの・・・」

三人がうろうろしていると、まだ残っている人間達がいた。
近づいて話を聞く。

男1「おい、起きたら皆いねえけどどうしちまったんだ?」
男2「さあ・・・俺が聞きたいぐらいだ」

JUM「こいつらも事態が把握できてないみたいだな」
真紅「もしかしてトンネルが完成したんじゃないかしら?」
雛苺「トンネルが完成したら向こう側が見えるはずなの!まだできてないよ真紅ー!」

真紅「それもそうね、じゃあ何故・・・?」

戸惑っている真紅達のもとに一人の男が走ってくる。

102: 2008/09/06(土) 05:25:15.06 ID:zmnqTbJ70
走ってきた男「おーいお前ら!さっさとここを出ろ!逃げるんだ!」

男1「一体どうしちまったんだ?」
男2「そんなことしたら領主様に殺されるぞ」
走ってきた男「俺ぁ、その領主様ん所から逃げてきたんだ」

男1「なんだって?よく無事だったな」
男2「近づくな!お前と一緒にいるところが見つかったら俺まで殺される!」
男1「大体、あと少しでトンネルが完成ってときになぜ逃げなきゃならねえんだ?」
男2「今まで頑張ってきた意味がなくなるじゃないか」
走ってきた男「いいから黙って話を聞け!」

走ってきた男は凄い剣幕で怒鳴ると、呼吸を整えて話始めた。

走ってきた男「俺は領主のとこで奴隷をやらされてたんだが」
走ってきた男「こっちに移されるときにな」
走ってきた男「ちょいと小耳にはさんじまったんだがよ・・・」

走ってきた男「ここを掘り続けても海にぶち当たるだけらしいんだ・・・」

男1・男2・JUM・真紅「!!」

104: 2008/09/06(土) 05:31:41.22 ID:zmnqTbJ70
男1「そんな、じゃあ俺らが今までやってきたことはなんだったんだ?」
男2「そうだ、俺はそんな話信じないぞ・・・」

走ってきた男「ここは自由の汽車が走る道なんかじゃないんだ」
走ってきた男「俺達を全員、無駄な労働と屈辱の果てに、皆頃しにするための暗い棺おけだったんだよ・・・」

男2「領主は俺達を頃したかっただけなのか・・・?」

走ってきた男「もともと敵国だった俺達を生かしておくような男じゃなかったんだ!!」
走ってきた男「労働による過労氏、トンネルが海まで繋がれば溺氏・・・」
走ってきた男「そして、もし感づかれた場合は入り口を封鎖して窒息氏だ、頃しのフルコースだよこのトンネルは」

最後の一言を聞いた二人の男は一目散に逃げ出す。

走ってきた男「あ、ったく待てよ!親切で教えてやってんのに!」
走ってきた男「これで全員だな、よし俺も逃げるぞ!」

唐突すぎる展開に呆然と立ち尽くす三人だけが闇に取り残された。

107: 2008/09/06(土) 05:34:43.97 ID:zmnqTbJ70
JUM「いくら敵国の奴隷とは言え、なんて奴なんだ・・・」
真紅「よくもまあこんな残酷なことを思いつくものだわ」

JUM「翠星石は!?」
真紅「入り口に向かったはずよ、行きましょう!」

雛苺「あれ?なにか聞こえるの・・・」

JUM「この声は・・・翠星石!?なんで?」


三人は翠星石の声がする方へ向かっていった。

108: 2008/09/06(土) 05:49:31.91 ID:zmnqTbJ70
見ると翠星石が相変わらず作業をしている。

ミーディアム「・・・翠星石、もういいんだ、やめろ」
翠星石「マスター、諦めちゃダメです!」
ミーディアム「もう僕のことはいいから逃げてくれ」
翠星石「嫌です!」

翠星石のミーディアムは足に重傷を負っていた。
もともと手作業でトンネルを掘ること自体に無理がある。
トンネルのそこら中には落石にやられた氏体が転がっていた。

JUM「あの足、きっと落石でやられたんだな」
真紅「なんて酷いタイミング・・・」

翠星石「掘り続ければ、きっと向こう側に出られるです!」
翠星石「汽車に乗って一緒に帰るです!」

作業を続ける翠星石を見つめるミーディアム。

ミーディアム「お前には本当に悪いことをしたな、娘の身代わりにしてしまうなんて」
翠星石「・・・」

JUM「そうか、翠星石はミーディアムの娘に成りすまして代わりにここまできたんだな」
真紅「ええ、きっと戦争で敗れた時に本物の娘はどこかに匿ってもらったのね」

真紅「ただ・・・その領主という人物がこれだけ狂っていると・・・」

『本物の娘の命も怪しいものだわ』
真紅はとっさにその言葉を飲み込んだ。

109: 2008/09/06(土) 05:56:40.10 ID:zmnqTbJ70
半身を起こした状態で翠星石と話していたミーディアムが、
突然顔を両手で覆い、うなだれはじめた。

ミーディアム「どうせ娘ももう殺されたんだ!くそ!!」

翠星石「そんなことないですよ、マスター」

ミーディアム「こんなところで、無意味なトンネルで僕は氏ぬんだ!」
ミーディアム「最期に、せめて娘に会いたかった・・・」

翠星石「翠星石が最期まで一緒にいるです」

ミーディアム「人形に何がわかる・・・」
翠星石「!!」
作業していた翠星石がミーディアムの方に顔を向ける。


『お前のことは本当の娘のように思っているよ』

翠星石「・・・っ」
一瞬固まった翠星石だったがすぐに作業に戻った。

110: 2008/09/06(土) 05:59:10.36 ID:zmnqTbJ70
翠星石「・・・」

翠星石は声を頃して泣きながら作業をしていた。
それを見た三人も泣いた。
泣かずにはいられなかった。


ドォォ・・・ォォ・・・

重く、低い轟音があたりに響いたかと思うと三人の視界は一瞬で土に埋まった。

63: 2008/09/07(日) 23:43:48.48 ID:H8BuEZvR0

突然の出来事に取り乱す雛苺。
突然360度が土砂に包まれたのだから無理もない。

雛苺「いやぁー!助けて真紅、JUM!!」

真紅「安心しなさい雛苺、私達なら平気よ・・・」
JUM「流石に僕も氏んだかと思ったよ」

真紅「それよりも、翠星石とミーディアムはどうなったのかしら・・・?」
JUM「・・・」

65: 2008/09/07(日) 23:47:10.76 ID:H8BuEZvR0
突如、辺りが光に包まれる。
真紅達は気づくとnのフィールドにいた。

真紅「ここは・・・nのフィールド?」
JUM「あれは・・・翠星石」

そこには真っ黒でボロボロの翠星石が横たわっていた。
それを覗き込むようにラプラスの魔が立っている。

ラプラスの魔「どうやらもうこの体は使いものにならないようですね・・・」

JUM「そんな!」
雛苺「翠星石氏んじゃうのー?」
真紅「ここは彼女の記憶よ、その心配はないはず・・・」

68: 2008/09/07(日) 23:52:41.17 ID:H8BuEZvR0
ラプラスの魔「まあいいでしょう、体ならば換えが効く」
ラプラスの魔「ただし魂だけは別です、魂はこの世にたった一つ、換えは効きません」
ラプラスの魔「あなたがアリスゲームに負けても今回のようにはいきませんよ、第三ドール?」

そう言うとラプラスの魔が手をかざす。
その手に向かって翠星石のローザミスティカが吸い込まれていく。

JUM「や、やめろー!!」

記憶であることも忘れてラプラスの魔に突進するJUM。
それを見た真紅が冷静に制止する。

真紅「落ち着きなさいJUM、ここは記憶の世界だと何度も言っているでしょう」
真紅「それにどうやら、直してくれるみたいだわ」

ローザミスティカを回収したラプラスはその場から消えた。
翠星石の抜け殻だけが横たわっているnのフィールド。
徐々に辺りが暗闇に包まれる。

69: 2008/09/07(日) 23:57:21.25 ID:H8BuEZvR0
JUM「戻ってきたのか・・・?」

真紅達はもとの部屋に戻ってきていた。
ただし、少しだけ違和感があった。

雛苺「このおっきい箱なんだろー?」

部屋の中央に大きな木箱が置かれている。

JUM「なんだこれ、鍵がかかってるのか?よし、開けてみよう!」

相手が木箱ということもあって自信満々に木箱を壊しにかかるJUM。
安易に手を出さない方がいいと制止した真紅だったが、
興味がないわけではないので傍観していた。

JUM「はあ、ふう、だめだこれ、開かないよ」
真紅「夢の世界の物だから、単純に物理的衝撃で開けられる代物ではなさそうね・・・」

77: 2008/09/08(月) 00:28:29.56 ID:9BeFkj+K0
真紅「一旦この箱のことは後に回したほうがよさそうね」
JUM「ああ、そうだな・・・それにしてもさっきの記憶はひどかった」

真紅「常軌を逸した領主の残酷さ、氏を前にしたミーディアムの本音・・・」
真紅「彼女が人間嫌いになるのも仕方のない体験だったといえるわ・・・」

JUM「で、どうする?箱を後回しにしてほかを探すのか?」
真紅「それしかないじゃない」

部屋を漁りはじめる真紅。

JUM「なんかあったら声をかけてくれ、僕はもう少しこの箱を調べるよ」

80: 2008/09/08(月) 00:31:51.36 ID:9BeFkj+K0
雛苺「本棚にはもう何もなさそうなの」
真紅「狭い部屋なのに、なかなか見つからないものね・・・」

真紅「それにしても寒いわ、あら、暖炉があるじゃない」

火は消えているものの古びた暖炉が備え付けられていた。

真紅「なにかしら・・・」

暖炉に薪を入れようとした真紅が何かに気づく。

JUM「どうした?何かあったのか?」
真紅「・・・なんでこんなものが」

81: 2008/09/08(月) 00:35:30.19 ID:9BeFkj+K0
JUM「なんだこりゃ?銃?」

暖炉の中には金属製の、銃のようなものが置いてあった。
JUMがそれに手を触れると銃口から光が飛び出して、
三人は記憶の世界に連れていかれた。


JUM「うーん・・・今度は随分と眩しいところだな」
真紅「ここは・・・」
JUM「なんだ真紅、知ってるのか?」
真紅「ええ、あなたたちの世界に来る、一巡前の世界よ」

83: 2008/09/08(月) 00:38:25.29 ID:9BeFkj+K0
JUM「へー、それじゃ最近ってことか?」
真紅「ええ、何か手がかりを掴めるかもしれないわね」

それを聞いたJUMは、自分の知っている光景がそこにあるものと信じて歩を進める。
しかし、彼の目に飛び込んできたのは全く予想外の物だった。

JUM「なんだ、これ・・・?」

見渡す限り荒野が続いている。
地平線が見えるほどに広い荒野に三人は立っていた。

JUM「どこの国だよ・・・」

84: 2008/09/08(月) 00:40:33.36 ID:9BeFkj+K0
辺りに翠星石がいる気配はない。

JUM「どこをどう探せばいいんだ?」
真紅「・・・足元よ、JUM」

足元を見ると、マンホールのようなものが設置されている。
その周りを囲むようにしてライトが照らしていた。

JUM「あれのおかげで明るかったのか・・・そういえば空に太陽はおろか月すら見えないぞ」
真紅「進めばわかるわ」

86: 2008/09/08(月) 00:45:42.79 ID:9BeFkj+K0
マンホールを開けると下に降りる梯子が続いていた。
梯子を下まで降りると、妙な空間が広がっていた。

JUM「周りがぼんやり明るい・・・壁自体が光ってるのか?」
真紅「ええ、その通りよ、JUM」
JUM「こんなもの僕は見たことないぞ?」

真紅「ここはあなたたちの世界の未来にあたるのだもの、知らなくて当然ね」
JUM「未来?」
真紅「私達の行き先に時系列は関係ないわ」
JUM「どういうことだ?」

真紅「あなたたちにとっては未来でも、私たちにとっては過去ということよ、JUM」
JUM「なんだかややこしいなあ・・・」

87: 2008/09/08(月) 00:50:09.88 ID:9BeFkj+K0
JUM「ここは地球なんだよな?」
真紅「それは間違いないはずよ」
JUM「なんでこんな地底人みたいなことになってるんだ?」
真紅「人間は自然に淘汰されたらしいわ、直接現場にいたわけじゃないからわからないけれど・・・」
JUM「人類の最期は核による自爆だと思ってたけど・・・結局は自然か・・・」

ここが何年先の未来なのかJUMには見当もつかなかったが、
自分のいる地球とあまりにも様子が違うため感傷にひたることもなかった。

JUM「人間はぼちぼち生き残ってるみたいだな」

会話している間も、時々人間が通りすぎていく。

真紅「ええ、私のミーディアムもこことは違うけれど、同じように地下で生活していたわ」

88: 2008/09/08(月) 00:55:25.07 ID:9BeFkj+K0
三人が迷路のような道を歩いていると、なにやら話し声が聞こえる。

女「お願い、もうあなたしか頼る人がいないの」
翠星石「うるさいです!てめぇらで勝手にやってろですぅ!」

JUM「翠星石じゃないか!」

女「食料がなくなれば私達は氏ぬしかないの」
翠星石「翠星石には関係ないです・・・」
女「後生よ翠星石!隣のシェルターまで行って、食料ととってきてくれるだけでいいの?ね?」
翠星石「自分達でやればいいじゃねえですか・・・」
女「私達に残された武器はもうこれしかないの・・・何度も説明したでしょう?」

そういうと女は先ほど暖炉の中で見た銃を取り出す。

89: 2008/09/08(月) 01:00:50.86 ID:9BeFkj+K0
翠星石「またそれですか・・・」
女「向こうのシェルターに入ったらすぐここを引いてくれればお仕舞いだから、お願い」

女が銃の引き金に指をかけ、撃つ真似をする。

女「この銃は、撃てば致氏性の毒ガスが発生して、シェルター一つぐらいなら楽に落とせる代物よ」

JUM「なんだそれ?意味あるのかそんな銃」
真紅「・・・自決用の銃、らしいわ」
JUM「!!」

翠星石「う、うるせえです!誇り高い薔薇乙女になんて真似させる気ですか!」
女「・・・わかってくれないのね」

93: 2008/09/08(月) 01:08:29.21 ID:9BeFkj+K0
恐らくミーディアムであろうその女は説得を諦めたのか、部屋の中へ入っていった。

翠星石「最低な人間に巻かれちまったですぅ・・・」

そうこぼすと、翠星石も部屋の中へ入っていく。

JUM「翠星石に頃しを頼むなんて、なんてやつだ・・・」
雛苺「翠星石ろくなミーディアムがいないの」
真紅「あなたたちはこの時代の事情を知らないから、そう言えるのね・・・」

JUM「そんなに切羽つまってるのか?」
真紅「見てのとおり外にはもう植物も動物もいない、氏の荒野が広がるばかり」
真紅「残った僅かな食料はあるけれど、それが尽きたら氏ぬしかない、そんな絶望の世界よ」
JUM「じゃあここは・・・人類絶滅の少し前の世界なのか?」

真紅「私は途中でリタイヤしたから断言はできないけれど、恐らくそうでしょうね」
JUM「リタイヤ?」
真紅「ミーディアムが氏んだのよ」
JUM「・・・」

95: 2008/09/08(月) 01:12:38.57 ID:9BeFkj+K0
真紅「とにかく、部屋に入ってみましょう」

部屋に入ると、そこにはベッドだけが置いてある殺風景な空間が広がっていた。
ベッドには先ほどの女が寝ている。
部屋に隅にポツンと鞄が置いてある。

JUM「翠星石・・・寝てるのかな?」
真紅「そのようね、少し待ちましょう」

しばらくすると鞄が開く音がした。
鞄から翠星石がのそのそと出てくる。

雛苺「翠星石起きたの・・・どこか行くみたいよ?」

翠星石は鞄を閉め、ミーディアムの方を見ようともせずに部屋を出て行った。

97: 2008/09/08(月) 01:15:45.92 ID:9BeFkj+K0
三人はもう手馴れたもので、ほとんどぴったりとくっついて後をつける。
翠星石の横顔が見える。
少しにやけていた。

JUM「なんでにやついてんだこいつ?」
真紅「向かっている先に楽しいことでもあるのかしら?」

少し離れた部屋に行くと、翠星石がドアの前でノックする。
恐らくドアの前で待ち伏せしていたのであろう、
ノックと同時に住人が飛び出してきた。

100: 2008/09/08(月) 01:22:46.08 ID:9BeFkj+K0
笑顔で翠星石を迎えたのは少女だった。

少女「待ってたよ!ささ、あがってあがって!今日は何して遊ぶ?」
翠星石「まったく、いきなり出てくるのはやめろって言ってるです、心臓にわりぃですぅ」

そうこぼす翠星石の顔は相変わらずにやけていた。
三人も後を追って部屋に入る。
中はミーディアムの部屋と同様に、ベッドが一つだけ。

JUM「両親はいないのかな?随分小さい子みたいだけど・・・」
真紅「恐らく、失ったんでしょうね・・・私のいたシェルターでも似たような子が沢山いたわ」
雛苺「お母さんもお父さんも氏んじゃったの?かわいそうなの・・・」

恐らく両親を失ったのであろうその少女は、
翠星石とベッドの上に座って楽しそうに喋っていた。

102: 2008/09/08(月) 01:29:52.76 ID:9BeFkj+K0
真紅「背丈が翠星石と一緒ぐらいね・・・まだ小さいのに不憫なものだわ」
JUM「でも、楽しそうに笑ってる・・・翠星石もいいとこあるな」

少女「えー、トンネルなんて作ってたの?」
翠星石「そーです、周りのだらしない人間がばったばったと倒れていく中、翠星石だけは掘り続けてたですよ」
少女「うっそ、一人で完成させちゃったの?」
翠星石「・・・」

一瞬曇った表情を見せたした翠星石だったがすぐに笑顔を取り戻す。

翠星石「当たり前ですぅ、翠星石が完成させたトンネルには見事な汽車が走ったんですよ♪」
少女「すごーい!ローゼンメイデンってなんでもできるんだねぇー」
翠星石「えっへん、ですぅ」

興味深々で話を聞いていた少女のお腹が鳴る。
悲しそうな顔でお腹をさする少女。

少女「・・・ご飯、は出せないよね?」
翠星石「それは・・・無理ですぅ 翠星石はドラ○もんじゃねえです」

一瞬沈んでいた少女だったが、翠星石のその一言でまた笑顔を取り戻す。

103: 2008/09/08(月) 01:33:44.01 ID:9BeFkj+K0
しばらくの間、二人のおしゃべりが続き、やがて翠星石が帰ることを告げた。

翠星石「そういえば、お腹は大丈夫ですか?」
少女「うん、大丈夫だよ 一日一食は大人の人たちが分けてくれるし・・・」
翠星石「それならいいんですが、限界がきたら翠星石に言うですよ?」
少女「大丈夫大丈夫、そんなことよりまた遊びにきてね♪」
翠星石「じゃ、またですぅ」


JUM「このままじゃあいつ、あの子のためにさっきのアレ、やっちゃうんじゃないか?」
真紅「・・・もしそうだとしても、あの子を軽蔑しては駄目よ」

暫く沈黙する三人。

105: 2008/09/08(月) 01:38:55.85 ID:9BeFkj+K0
それから何日間か、同じような日々が続いた。
一日一食という状況でも少女の体には不足ではないらしく、
予想に反して少女が痩せこけるようなことはなかった。

JUM「意外と平気そうだな、良かった」
真紅「でも、いずれ食料は底をつくわ・・・」

それからさらに何日かして、真紅の心配が的中した。
翠星石が部屋を訪問するたびにみるみる痩せこけていく少女。
そのたびに大丈夫か問う翠星石だったが、少女は大丈夫の一点張りで取り付く島もない。

JUM「おい、あれって・・・」
真紅「ええ、どうやら最悪の状況になってしまったようね」

106: 2008/09/08(月) 01:45:03.81 ID:9BeFkj+K0
その日、部屋に帰った翠星石は寝ていたミーディアムをたたき起こす。

翠星石「人間!起きるです!」
女「・・・どうしたの翠星石?食料をとってきてくれる気になった?」
翠星石「アヤにちゃんと一日一食分けてあげてるですか?」

アヤというのはどうやらあの少女の名前らしい。
それを聞いた女は黙ってしまった。

翠星石「どうなんですか!明らかに何も食ってねーです!」
女「・・・仕方ないのよ」
翠星石「どういう意味ですか?」
女「もう残りが少なくなってきて、大人達もろくに食べていないの」
翠星石「だからって!一日一食すら食べれなくなったら氏んじゃうです!」
女「無いものはしょうがないじゃない・・・」

そこまで言った女の目が、急に大きく開く。

女「そうね、一つだけ助ける手段があるわね」
翠星石「・・・なんですか?」
女「これよ」

女が例の銃を取り出して翠星石に渡した。

翠星石「・・・」
女「もうこれしかないの、わかって頂戴?」

108: 2008/09/08(月) 01:51:56.71 ID:9BeFkj+K0
JUM「あのアヤって子を人質にとられたようなもんだな」
雛苺「翠星石、人を頃しちゃうの・・・?」
JUM「冷静に考えれば、なにも頃す必要はないんじゃないか?」

真紅「・・・それは違うわ、JUM」
JUM「え?」
真紅「これだけ極限の状態に達してしまったら、食料をくださいと頼んだところで無駄よ」
真紅「現に私のいたシェルターでも同じような相談をしていたわ・・・」

JUM「それで、そこの人達は結局、他のシェルターに行ったのか?」
真紅「ええ、毒ガス銃を撃つ人と、食料を回収しに行く人に分けてね」
JUM「なんで分ける必要が・・・」
真紅「これはあくまでも自決用の銃、撃った本人は確実に氏ぬわ、人間ならね」

真紅「結局、銃の毒が強すぎて誰も食料を取りにいくことが出来ずに、私のシェルターにいた人々は全滅したわ」

それを聞いたJUMは、これから恐らく翠星石が実行するであろうことに絶望的な結果しか想像できなかった。

112: 2008/09/08(月) 02:11:54.31 ID:9BeFkj+K0
翌日、いつものようにアヤの部屋を訪ねる翠星石。
ノックをしても出てこない。

翠星石「アヤー?来たですよー?」

しばらく待ってもアヤが出てこない。

翠星石「・・・スイドリーム!!」

JUM「どうするつもりだ?」
真紅「恐らくスイドリームでドアを破壊するつもりね」

翠星石がドアを壊しにかかろうとした瞬間、ドアが開いた。
げっそり痩せこけたアヤが、おぼつかない足取りでドアを開けてくれたのだ。

翠星石「アヤ・・・?大丈夫ですか?」
アヤ「うん、ぜんぜん大丈夫だよ」

いつもはベッドに並んで座り、会話をする二人だったが、
今日はアヤがベッドに寝たまま、翠星石の話に相槌を打つだけだった。
真紅達の目から見ても、もうじき命の灯火が消えるのは明らかだった。

113: 2008/09/08(月) 02:15:12.30 ID:9BeFkj+K0
いつもより早くアヤの部屋を出た翠星石は、しばらくドアの前で立ち止まる。
やがて懐の銃を確認すると、シェルターを出て行った。

真紅「いよいよ、来るべきときがきてしまったようね・・・」
JUM「見たくないな・・・」
真紅「目を逸らしては駄目よ、ついていきましょう」

翠星石はシェルターから出ると、銃を携えて一人荒野を歩く。
三人はその寂しげな背中を見つめながら後を追う。

やがて、元いたシェルターと同様の、マンホールのような入り口が見えてきた。

JUM「あそこか・・・」

115: 2008/09/08(月) 02:19:06.75 ID:9BeFkj+K0
一瞬の出来事だった。
翠星石は蓋を開けるとすぐに銃を撃った。
何かが射出される音がして、人間の短い呻き声がそこらじゅうに響いた。
その場で固まる三人。

しばらく三人が呆然としていると、背中に大量の食料を抱えた翠星石がシェルターから出てきた。

雛苺「うっ、うっ、ひどいの、ひどいの・・・」
真紅「雛苺・・・」
雛苺「わかってるの、翠星石は悪くないの、でもひどいの・・・」

JUM「しかし、シェルター一つ潰して得た食料があれだけか・・・本当に限界なんだな」

シェルター一つ分の生命と引き換えに得た食料を持って、翠星石が元のシェルターに帰った。

119: 2008/09/08(月) 02:22:01.83 ID:9BeFkj+K0
シェルターの入り口にはミーディアムが待ち構えていた。

女「翠星石!!やってくれたのね!みんな!食料よ!」

見ると周囲に他の大人も集まっている。

JUM「あいつ・・・一番最初にアヤって子のとこにいきたかっただろうな」
真紅「これだけ騒ぎになったら渡さないわけにいかないでしょうね」

しぶしぶ食料を渡す翠星石だったが、
『これだけは渡せねえですぅ』と言って僅かな食料だけは手元に残した。
さらに、アヤへ一日一食供給することを大人達に約束させるとアヤの部屋へ飛んでいった。

120: 2008/09/08(月) 02:24:24.23 ID:9BeFkj+K0
アヤ「翠星石、どうしたのこれ?」
翠星石「へへーん、翠星石は今日からドラ○もんですぅ」

翠星石「ほらほら、そんなより早く食うです」
アヤ「ありがとう翠星石!大好き!」

無我夢中で食料を食べるアヤ。
それをニコニコ顔で見つめる翠星石。

JUM「この状況だけ見れば幸せそうにみえるけど、なんだか複雑だなぁ」
真紅「ええ、この食料もすぐに尽きるもの・・・」

122: 2008/09/08(月) 02:29:51.41 ID:9BeFkj+K0
数日後、またしても同様の状況に陥ってしまう。
翠星石にもはや迷いはなかった。
一度目と同様にして近隣のシェルターから食料を奪い続けた。

JUM「もうやめろ、翠星石」
真紅「JUM・・・」
JUM「こんなことしたって一緒じゃないか!いつかは底を尽きてしまうじゃないか・・・」

食料を抱えて帰るところの翠星石に向かってJUMが怒鳴る。

真紅「あの子が氏ぬところだけは見たくない、その執念が罪悪感を麻痺させているのね」

125: 2008/09/08(月) 02:38:04.80 ID:9BeFkj+K0
それから数ヶ月、数多のシェルターを犠牲にして翠星石とアヤのいるシェルターは生き延びた。
それでも食料は尽きる。
翠星石はそのつど食料を奪いに行く。

翠星石「今日は大量ですぅ・・・」

背中に大量の食料を、風呂敷に包んで自分のシェルターへ持ち帰る。
飢えきっていた大人達が凄まじい勢いで我先にと駆けつける。
翠星石はいつもどおり、約束をとりつけてアヤの取り分を残して食料を渡す。

翠星石「アヤー!元気してたです?」
アヤ「うん、翠星石のおかげで元気!」

いつものように渡された食料を必氏に食べるアヤ。
そして笑顔で眺める翠星石。

アヤ「あ、翠星石!鉛筆持ってきてよ!お絵かきしよう!」
翠星石「いいですよー」

自分の部屋に鉛筆をとりに行く翠星石。

127: 2008/09/08(月) 02:41:59.45 ID:9BeFkj+K0
そこには翠星石のミーディアムが倒れていた。

翠星石「え?ちょっと、人間、なんてとこで寝てるですか!」

女「ぐ・・・う・・・」

ミーディアムが苦しそうに体を起こす。
明らかに健康な人間の顔ではなかった。

女「あんたの持ってきた食料・・・毒が・・・」

翠星石「え!!」

それを聞いた翠星石は急いでアヤのもとへ戻る。
途中で倒れている大人達を何人も見かけ、焦りがさらに募る。

JUM「毒?毒って?なんで・・・?」
真紅「今回奪った先のシェルターでは、もともと自決する覚悟を決めていた、ということじゃないかしら」
JUM「そんな馬鹿な・・・一生懸命、毒入りの食料を奪ってきたってのか?」
雛苺「アヤも氏んじゃうの?」

130: 2008/09/08(月) 02:45:29.98 ID:9BeFkj+K0
アヤの部屋に突撃する翠星石。

翠星石「はぁ、はぁ・・・アヤ!!」
アヤ「鉛筆持ってくるのにそんな急ぐことないよー」

予想に反してアヤは食料を食べ終わった様子だったが、無事だった。

JUM「最悪の結果を予想してたんだが・・・なんでだ?」
真紅「わからないわ・・・たまたま毒の入っていない食料があったのかもしれない」

翠星石はアヤを抱きしめると、大声で泣き始めた。
アヤが無事だったことによるうれし泣きと、
倒れる人間達を目撃したことによって蘇った、罪悪感による涙だった。

132: 2008/09/08(月) 02:49:43.10 ID:9BeFkj+K0
アヤ「どうしたの翠星石?」

アヤの問いかけで翠星石は我に帰る。

翠星石「・・・ここのみんな、氏んじゃったですよ?」
アヤ「え?」
翠星石「だから、これからはアヤ一人で生きていかなきゃいけないです」

JUM「他にも生きている人がいるかもしれないのに・・・」
真紅「どちらにせよ集団が一旦崩れたら後は散るしかない、そういうものよ」

アヤ「翠星石が一緒なら平気だよ?」

それを聞いた翠星石の表情は一瞬緩んだが、
すぐに絶望の顔色に変わった。

『第三ドール、あなたにはこれから眠りについていただきます』

138: 2008/09/08(月) 02:56:44.69 ID:9BeFkj+K0
JUM「ラプラスの魔!」
真紅「どうやら翠星石のミーディアムが亡くなったようね」

翠星石「な、なにを言ってやがるです?」
ラプラスの魔「ミーディアムを失ったあなたには眠っていただくほかありません」

ラプラスの魔を睨み付ける翠星石だったが、
抵抗しても無駄であることを彼女自身が一番知っていたため、
すぐにその気持ちは萎え、よろよろとその場にへたりこむ。

アヤ「翠星石、大丈夫?」
翠星石「アヤ・・・翠星石はこれから少し出かけてくるです」
アヤ「えー?なんで?どこに?」
翠星石「ちょっと遠いところです、でも、でも」

翠星石「アヤががんばって生き抜いていたら、また会えるですよ」
アヤ「そんな・・・行かないで翠星石!」
翠星石「・・・」
アヤ「・・・わかったよ、私、頑張って生きるから!また会えるんでしょ?」
翠星石「約束ですぅ」

約束の指きりをする二人。
ラプラスの魔が手をかざすと、翠星石の足元に暗闇が出現し、
翠星石はその中に飲み込まれていく。

真紅達はただ呆然と、指きり状態のままないているアヤを見ていることしかできなかった。

142: 2008/09/08(月) 03:07:11.35 ID:9BeFkj+K0
やがて三人は元いた部屋に戻っていた。

JUM「なあ、あれってあのあとどうなったんだろうな・・・」
真紅「わからないわ、あれよりも未来には行ったことがないもの」

真紅「あの体験で翠星石は激しい罪悪感と自己嫌悪に陥ってしまった・・・」
真紅「けれどアヤが生きていたという希望はある」
雛苺「そーなの、きっとあの子なら大丈夫なの!」
真紅「どうもわからなくなってきたわね・・・」

JUM「どういうことだ?」
真紅「確かに翠星石は過去に傷を持っている」
真紅「けれど、人間嫌いはあなたと過ごすうちに解消されていったわけだし、心の傷も癒えていったはず」

JUM「よく考えれば、本格的におかしくなったのはごく最近の話だけど・・・」
真紅「ええ、その通りよ」
JUM「じゃあ最近何かがあったってことか?」
真紅「氏を自ら望むほど決定的な何かが、どこかで起きたはず・・・」

考えこむ真紅とJUM。
雛苺が苺大福を取り出してつぶやく。

雛苺「このうにゅー、あのアヤっていう子にあげたかったの・・・」

手を滑らせ、取り出した苺大福を床に落としてしまう。

雛苺「あ!」

143: 2008/09/08(月) 03:10:17.51 ID:9BeFkj+K0
雛苺「翠星石だー!」

JUM「なんだって!?」
真紅「翠星石・・・?」

ベッドの下に翠星石が居た。

JUM「おい!翠星石!・・・ってこれ・・・」

良く見ると翠星石の姿をしたぬいぐるみだった。

真紅「ぬいぐるみのようね」
JUM「なぜこんなとこに」

拍子抜けしたJUMがぬいぐるみを取り出すと、
辺りが光に包まれた。

145: 2008/09/08(月) 03:15:10.46 ID:9BeFkj+K0
眩しい光に包まれる三人。
先ほど行った未来にあった照明とは違う眩しさだった。

JUM「なんだ、ここ・・・」
雛苺「なんだかきたことがあるような気がするの」
真紅「確かに、私もそんな気がするわ・・・」

光の中に木製の椅子がいくつか置かれている。
そこには人形が座らされていた。

JUM「あれは・・・真紅!」
真紅「そんな・・・まさか・・・」

椅子に座らされていたのはローゼンメイデンだった。
その中に翠星石の姿も確認できる。

147: 2008/09/08(月) 03:17:26.65 ID:9BeFkj+K0
JUM「みんな、眠ってるのか・・・?」

真紅と雛苺はその場で固まっている。

やがて微動だにしないローゼンメイデンのもとに、一人の男がやってきた。

JUM「あれはまさか・・・ローゼン!?」

ローゼンと思しきその男の顔は光に包まれて見えなかったが、
人形達の服装や髪を順番に整えていく。

真紅「お父様・・・!」
雛苺「おとうさまー!!」

耐え切れずにローゼンに飛びつく二人。

148: 2008/09/08(月) 03:20:08.02 ID:9BeFkj+K0
JUM「これが、翠星石の原初の記憶なのか・・・?」

真紅と雛苺はローゼンの傍に寄り、切なげな表情で見つめている。


JUM「お前達もこの記憶があるのか?」

雛苺「しっかり覚えてるの!」
真紅「ええ、お父様の顔は相変わらず思い出せないけれど・・・」

152: 2008/09/08(月) 03:26:12.36 ID:9BeFkj+K0
やがてローゼンがローザミスティカを取り出して人形に与えていく。
ローザミスティカをもらった人形達が目覚めていく。
目覚めたドールは順番にローゼンに抱えられ、どこかにつれられていく。


JUM「・・・なんでこんな記憶があるんだ?おかしくないか?」

ローゼンを見つめることに熱中していた真紅が、否定的に返事をする。

真紅「何を言っているの?JUM」

JUM「だって・・・目覚める前の記憶がなんであるんだよ?」
真紅「・・・!」
雛苺「え・・・」

JUMがそれを口に出した瞬間、優しい光に包まれていた周囲がブレ出す。
ブレは激しくなり、砂嵐のようになってしまった。

JUM「うっ・・・目が痛い」

真紅と雛苺はもはや見えなくなってしまったローゼンを探している。

153: 2008/09/08(月) 03:30:34.10 ID:9BeFkj+K0
砂嵐が止むと、真紅達はもとの部屋に戻っていた。

JUM「なんだったんだ、一体・・・」
真紅「・・・」

雛苺「あ、あれ JUM、それなに?」

雛苺が指をさした先、JUMの首に首飾りがかけられていた。

JUM「なんだこれ?僕こんなの知らないぞ」

ローゼンが消えてしまったショックで喋らなかった真紅が口を開く。

真紅「鍵、のようね・・・」
JUM「鍵?もしかして・・・」

部屋の中心にある木箱。
JUMが開けようと何度も試みたが開かなかった木箱。
鍵をさしてゆっくりまわしてみると、カチャリと小さな音がして簡単に開いてしまった。

JUM「開いちゃったな・・・」
真紅「開いてみましょう」

158: 2008/09/08(月) 03:33:04.92 ID:9BeFkj+K0
木箱を開くと、そこには大きめの木箱に不釣合いな、
小さい写真立てが一つ飾られていた。
写真立ての写真は黒ずんでおり、見えない。

JUM「見えないな・・・」

JUMが写真立てを手にとると、辺りが暗闇に包まれた。

160: 2008/09/08(月) 03:35:30.36 ID:9BeFkj+K0
JUM「なんだ、また記憶の世界に来ちゃったのか?」
真紅「そのようね・・・」

やがて光がさし、辺りの様子が見えてくる。
いつもと違ったのは、そこが見知った風景であったこと。

JUM「ここって・・・僕んちじゃないか」
真紅「現代の記憶、かしら・・・?」
JUM「いよいよ原因をつかむときがきたみたいだな」

真紅達に緊張が走る。

163: 2008/09/08(月) 03:38:22.71 ID:9BeFkj+K0
居間で待っていた三人だったが、翠星石はおろか真紅や雛苺も現れる気配がない。
時計を確認した真紅がぽつりと呟く。

真紅「この時間なら私達はくんくん探偵を見ているはずね・・・」
JUM「お前らが留守にするなんてありえないしなあ」

JUM「うーん、nのフィールドにでも行ってるのかな?」
真紅「考えられるわね、或いは、二階に集まっているのかもしれないわ」

165: 2008/09/08(月) 03:41:18.15 ID:9BeFkj+K0
二階に登ろうとした真紅達を雛苺が制止する。

雛苺「みんな、これ!これ見て!」

何かを指さす雛苺。
その先にはカレンダーがあった。

真紅「!!」
JUM「ここは・・・三年後の世界だったのか」

カレンダーは三年後のものに取り替えられていた。
よく見ると、周囲の様子も少しだけ変わっている。

真紅「現代ではなかったようね・・・」
JUM「じゃあ結局、原因はわからないんじゃないか?」

168: 2008/09/08(月) 03:43:30.04 ID:9BeFkj+K0
真紅「ともかく、二階に行ってみましょう!」

階段を上がる真紅と雛苺。

JUM「おいおい、未来の僕とご対面か・・・ちょっとやだなぁー」

苦笑いをするJUMだったが、興奮が隠し切れない。
三人はゆっくりとJUMの部屋へ入っていく。

171: 2008/09/08(月) 03:50:00.76 ID:9BeFkj+K0
ドアを開けると、そこには『酷い』としか形容のしようがない空間が広がっていた。
部屋中がゴミにまみれ、小奇麗だったJUMの部屋は影も形もなくなっていた。
のりが運んできたであろうご飯の食器がそこらじゅうに、食べ残しを乗せたまま散乱している。
薄暗いゴミ溜めの中で、パソコンのモニターだけが不気味に光っていた。

JUM「なん・・・だよこれ・・・」

少しだけ明るい未来を期待していたJUMは、ふらふらとよろめく。
その足が何かに当たる。

JUM「ペットボトル・・・?」

黄色い液体が入ったペットボトルが、足元に大量に並べられていた。
内容物を想像するのは簡単だった。

JUM「うそだろ・・・うそだろ・・・」

JUMが頭を抱えて呻きだす。
真紅と雛苺も驚愕の表情で固まっている。

やがて部屋の中から音がした。
パソコンの下で寝ていたらしい何者かが起きたのだ。
どんな生活をしたら三年でここまで変わってしまうのか、
そんな疑問を投げかけたくなるほどJUMは無残な姿になっていた。

175: 2008/09/08(月) 03:53:32.00 ID:9BeFkj+K0
JUMは起き上がったその体勢のままでパソコンをやり始めた。

JUM「うそだ・・・こんなの・・・」

この状態を見れば、JUMの不登校は解決されず、
もはや社会的に隔絶された存在となってしまっていることは明らかだった。

真紅「JUM、しっかりして頂戴・・・」
雛苺「JUM・・・」

未来のJUMがパソコンを弄る音だけが響く、嫌な空間。
やがて玄関のドアを開く音が静寂を破った。

177: 2008/09/08(月) 03:56:54.40 ID:9BeFkj+K0
その場にいることが辛かった三人は、玄関へ向かう。
どうやらのりが帰ってきたようだった。
のりは帰宅するとすぐに食事の用意を始めた。

JUM「・・・」

それを申し訳なさそうな顔で見つめるJUM。

やがて料理が完成し、のりが二階へ登っていく。

のり「JUMくーん、ご飯できたけどどうするー?」
未来のJUM「・・・おいといて」
のり「・・・わかったわ」

のりは小さく溜息をつくと、ドアの前に食事を置いた。
その後ろ姿は寂しさに満ちていた。

181: 2008/09/08(月) 04:00:05.57 ID:9BeFkj+K0
その日は、未来のJUMが一度も下に降りてこないまま終わってしまった。
翌朝、のりが二階に登っていく。

真紅「何をしに行ったのかしら・・・?」
JUM「わからないよ・・・どうせ、僕なんて・・・」

のりが息を切らしながら二階から戻ってくる。
大量のゴミや食器を抱えている。
JUMはたまらずその場から逃げ出す。

真紅「JUM!」

真紅と雛苺がJUMを追って家を出る。


186: 2008/09/08(月) 04:05:07.84 ID:9BeFkj+K0
家の庭でJUMが泣いていた。

真紅「JUM・・・」
JUM「うっ・・・ひっく・・僕なんてどうせ生きててもお姉ちゃんに迷惑かけるだけなんだ・・・」

しばらくオロオロしていた真紅だったが、小さく頷くとJUMに平手打ちをする。

パシィーン!!

JUM「痛っ・・・なにすんだよ!」
真紅「落ち着きなさいJUM、あなたが絶望している場合じゃないのよ」
JUM「う・・・」
真紅「あなたの未来はあなたが変えればいい、それだけのことじゃない」
JUM「でも・・・こんなの見ちゃったらもう・・・変えれる気なんてしないよ・・・」

パシィーン!!

真紅「目を覚ましなさい、JUM!」
真紅「私達は何のためにここにきたの!?」

JUM「・・・翠星石を助けるため」
真紅「そうよ・・・あなたの未来についてはまた考えればいい、わかるわね?」
JUM「・・・ああ、それもそうだな」

真紅の必氏な説得の甲斐もあって、やっとのことでJUMが正気を取り戻す。

193: 2008/09/08(月) 04:09:56.54 ID:9BeFkj+K0
JUM「って言ってもさ、そもそも翠星石も、お前らだっていないじゃないか」

ぶたれた頬をさすりながらJUMが言う。
真紅は『うーん・・・』と小さくうなると、目を瞑って考えをめぐらせている。

やがて玄関からのりが出てきた。

真紅「何をしに行くのかしら?」
JUM「買い物、じゃないかな・・・」

何の気なしにのりの後をつける三人。
やがて到着したのは新聞社の営業所だった。
のりはその中へと入っていく。

JUM「うちは新聞とってないはずなんだけどなあ」

202: 2008/09/08(月) 04:16:57.24 ID:9BeFkj+K0
しばらく待っていると、重そうに大量の新聞を抱えたのりが出てきて、
自転車のカゴにそれを積んでいく。
つみ終わると、のろのろと自転車をこぎ始めた。

JUM「新聞配達・・・?なんで?」

混乱するJUM。
桜田家は裕福な両親がおり、アルバイトの必要などなかったはずなのだ。
営業所から話し声が聞こえる。

男1「あの姉ちゃんもかわいそうだよなあ・・・」
男2「ああ、聞いた聞いた 両親がだいぶ前になくなって、一人で切り盛りしてるってな」

JUMの顔が強張る。
JUM「パパとママが氏んだ・・・?」

男1「なんでもな、引き篭もりの弟の面倒まで見てるってうわさだぜ?」
男2「うへー、あの子若いのに・・・もう人生終わってるなぁ・・・」

JUMが悔しそうに拳を握り締める。
のりに対する罪悪感と、なにより未来の自分に対する怒りで爆発しそうだった。

205: 2008/09/08(月) 04:23:52.74 ID:9BeFkj+K0
やがて新聞配達を終えたのりは他のアルバイト先にもまわり、
帰宅したのは夜だった。

のりは家に帰ると、JUMの食事を二階へ運び、
居間の掃除をしてソファに寝転んだ。

JUM「ごめん・・・ごめん・・・」

目を瞑って謝罪を続けるJUM。
やがてのりが思い出したように立ちあがり、引き出しから書類を取り出す。
高校には行かなかったであろうJUMのために用意した、大検受験の書類であった。

必要事項を記入し終えた状態の書類。
恐らくのりが記入したであろうその書類を、手にとって見つめるのり。
やがて小さく溜息をつくと、大事そうにその書類をしまった。

208: 2008/09/08(月) 04:27:09.36 ID:9BeFkj+K0
やがてのりも眠り、桜田家は静寂に包まれた。

JUM「ごめん・・・」

寝ているのりに深々と謝罪するJUM。
三人も軽く眠り、やがて朝になった。

真紅「・・・それにしても妙ね」
雛苺「雛たちいつになったらくるの?」
JUM「・・・そういえば、二階はあまりよく見ていなかったな」

真紅と雛苺の顔が強張る。

真紅「まさか・・・あのゴミの中に私達が?」
雛苺「いや・・・」

210: 2008/09/08(月) 04:29:31.19 ID:9BeFkj+K0
もしnのフィールドに行っていたとしても、長時間の活動はできないはずである。
真紅達がいるとすれば、もはや二階しかなかった。

JUM「・・・行こう」

気の進まない顔でJUMについていく真紅と雛苺。
氏刑台を登る氏刑囚のようにその足取りは重い。

すると、後ろからドタドタとのりが登ってきた。
ゴミを片付けにきたのだろう。

212: 2008/09/08(月) 04:33:17.99 ID:9BeFkj+K0
真紅達は階段の途中で止まり、ぽかーんとドアを眺めている。
のりが部屋にいる間は、何故か入ってはいけないような気がしたのだ。
少しでも二階に行くまでの時間を後にしたいという心理が働いたためだった。

階段の途中で立ったまま真紅が口を開く。

真紅「それにしても、今までの記憶と違った妙だわ、この世界」
JUM「そうだよな・・・わざわざ鍵がついてたことに関係しているのかな?」
雛苺「今まではすぐに翠星石に会えたの・・・」

どう考えても、今までと異質な状況に戸惑う三人。
やがて掃除を終えたのりが出てくる。
昨夜よりもさらに大量のゴミを抱えている。

JUM「危ないなぁ・・・」

216: 2008/09/08(月) 04:37:12.81 ID:9BeFkj+K0
のり「あっ」

一瞬の出来事だった。
のりは足を滑らせ、階段の一番したまで落下してしまったのだ。

JUM「のり!!」

慌てて駆け寄る三人。
辛うじて息をしていたのりだったが、頭から大量の血が流れ、虫の息だった。

JUM「うそだろ・・・なんでこんなもの見せるんだよ・・・やめてくれよ!!!」
雛苺「のりー・・・」

のりが苦しそうに呟く。

のり「神様、どうか・・・JUMくんを守ってあげてください・・・」

同じような願掛けを数度繰り返した後、のりは事切れた。
三人は亡骸となったのりを囲んで、
最期まで弟の幸せを祈り続けた姉を想い、泣いた。

222: 2008/09/08(月) 04:40:21.97 ID:9BeFkj+K0
やがて視界が真っ白になった。

JUM「うっ・・・うう・・・なんだよ、次は何が起きるんだよ・・・」
真紅「おかしいわね、私達が出ないまま記憶が終わってしまったの?」

しばらく元の部屋へ戻るのを待っていた三人だったが、何も起きない。

真紅「・・・なんだというの?」

やがて空間に声が響いた。

『桜田のり、聞こえますか』

224: 2008/09/08(月) 04:43:47.79 ID:9BeFkj+K0
JUM「なんだこの声?」

『あなたの魂は選ばれました』

真紅・雛苺「??」

『純粋に弟を想う気持ちにより、あなたの魂は光輝き、選定されるに至ったのです』
『おめでとうございます』

JUM「なにを言っているんだ・・・?」

『あなたはこれから誇り高きローゼンメイデン第三ドール、翠星石として生きていかねばなりません』

『したがって原初の記憶は改竄させていただきます・・・』

真紅「ローゼン・・・え・・・?」
JUM「は・・・あ・・・?」
雛苺「へ?」

232: 2008/09/08(月) 04:49:27.07 ID:9BeFkj+K0
JUM達が前に見た『原初の記憶』。
それは、自分が元々人形であると薔薇乙女が思い込むように植えつけられた、
偽りの記憶だった。
JUM達が今目にしているのは、本当の意味での原初の記憶、
翠星石誕生の瞬間だったのだ。

やがて白い光の世界からもとの部屋へと戻ってきた。
三人は動揺を隠せない。

JUM「意味がわからない・・・翠星石がのり?」
真紅「そんな、改竄・・・?お父様との記憶は・・・嘘?」
雛苺「うゆー」
真紅「じゃあ私は?私も元は人間だったというの・・・?」

突然のことで混乱してしまい、もはや三人はばらばらに独り言を口にするだけだった。

『みんな、長い記憶の旅、お疲れ様ですぅ』

三人が振り向くとそこには翠星石がいた。

241: 2008/09/08(月) 04:58:10.52 ID:9BeFkj+K0
JUM「お前・・・!」
雛苺「また、記憶の翠星石なのー?」
真紅「・・・どうやら、本物のようね」

翠星石「安心するです、記憶じゃねーですよ」

JUM「どういうことか説明してくれ」

翠星石「・・・自分がのりだったなんて、翠星石だって知らなかったですよ」
翠星石「みんなが記憶の鍵を開けてくれたおかげで知ることができたですぅ」

真紅「私も元は人間だったというの!?」
翠星石「そうです、雛苺も、水銀燈も、元は人間です」
真紅「そんな・・・」

ローゼンメイデンとしてのプライドが人一倍高かった真紅は動揺を隠せない。

翠星石「お父様なんて最初からいなかったです・・・」
真紅「じゃあ、私達は何のために戦っているの?」

翠星石は少し考えてから答えた。

翠星石「それは翠星石も知らんです・・・」
翠星石「ただ、人間達の魂の中でもっとも輝いた魂を選定して、ローゼンメイデンとしている者がいることは確かですぅ」

真紅「翠星石!あなたは納得できるの!?自分が、のりだなんて!突拍子もなさすぎるわ!」

247: 2008/09/08(月) 05:04:21.85 ID:9BeFkj+K0
ヒステリックに真紅が怒鳴りつける。

翠星石「翠星石は・・・納得せざるをえないんです」

JUM「どういう・・・ことだ?」
真紅「そういえばあなたは最近様子がおかしかったけれど・・・それと関係しているの?」

翠星石「・・・ローゼンメイデンが出現する場所は、時系列を無視してるです」
真紅「それは知っているわ」
翠星石「さらに、次元も完全にランダムなんです」
真紅・JUM「!!」
雛苺「うゆ?」

翠星石「つまり簡単に言っちゃえば、同じ次元の同じ時間に二度くることはまずないはずなんです」
真紅「・・・でしょうね」
JUM「次元まで超えるなんて・・・その何者かってのは神か何かなのか・・・?」

翠星石「ですが・・・今回はそのまぐれが起きちゃったみたいですぅ」

きょとんとしていた三人だったが、
真紅とJUMがはっとした表情を見せる。

251: 2008/09/08(月) 05:08:32.31 ID:9BeFkj+K0
翠星石「同じ次元・同じ時間に同じ魂が二つ存在してはいけないんですぅ」

JUM「そうか、のりがいるから・・・」
真紅「存在してはいけないって、どうなってしまうの?」

翠星石「本来いてはいけない方の魂が消えるみたいです、つまり翠星石ですね」

翠星石はニコっと笑った。

真紅「そんな・・・」

翠星石「だから、今翠星石の魂からいろんなものが抜けていってるです」
翠星石「そろそろこの部屋も消えてなくなっちまうです、みんなも逃げたほうがいいですよ」

愕然とする三人。

真紅「どうりで・・・過去の記憶に原因なんてなかったわけね」

257: 2008/09/08(月) 05:13:01.81 ID:9BeFkj+K0
ふと周りを見渡すと、少しづつ物が消えていっている。

クローゼットが消え、椅子が消え、ベッドが消え、
『毒ガス銃』が隠してあった暖炉が消え、
『みんなの汽車』が置いてあった本棚が消え、
『蒼星石との記憶』が入っていた机が消えた。

やがて、偽りの記憶が施されたぬいぐるみが消えると、
そこには翠星石とJUM、真紅、雛苺、そして写真立てだけが残った。

写真立てには桜田家の家族写真が飾ってあった。

263: 2008/09/08(月) 05:19:42.09 ID:9BeFkj+K0
真紅「翠星石・・・」
JUM「蒼星石のことも、未来のことも、全部消えてしまったのか」

翠星石「蒼星石・・・?」

記憶を失った翠星石はきょとんとしている。
やがて写真立てが少しづつ消えていく。
原初の記憶のみとなった翠星石が口を開く。

翠星石「JUM君、これからもしっかり生きてね」

突然の台詞に息を呑むJUM。

翠星石「引き篭もりでも、ニートでも、生きていてくれればお姉ちゃん安心だから」

状況を把握したJUMが泣きながらその場にへたれこむ。
それを見た翠星石がJUMに近づき、頭を撫でる。
写真立てが消え去った。

翠星石「世話の焼ける弟を持つとお姉ちゃんも苦労するわ・・・」

笑顔のまま翠星石も消え、やがて夢の世界が消えた。

269: 2008/09/08(月) 05:24:00.61 ID:9BeFkj+K0
元の世界に戻ると、動かない、人形となってしまった翠星石が鞄に横たわっていた。

真紅「翠星石・・・結局救えなかった・・・」
雛苺「翠星石氏んじゃったの?」

下からのりの声が聞こえる。

のり「みんなー、ご飯できたわよー?」

凄まじい勢いで下に降りていく三人。

のり「あらどうしたの?そんなに急いじゃって・・・」

三人はのりの手伝いをここぞとばかりにすると、眠りについた。

273: 2008/09/08(月) 05:33:21.05 ID:9BeFkj+K0
やがて、真紅達はラプラスの魔に迎えられ、連れられていった。
この時代でのアリスゲームは翠星石の強制リタイヤによって終わってしまったらしい。
JUMは思いを馳せる。
彼女達は今どの次元にいるのか?過去にいるのか?未来にいるのか?
きっともう会えないだろうということは理解していたが、不思議と寂しさはなかった。
真紅達が、なにより翠星石が教えてくれたものがJUMに勇気をくれた。

自分の身を案じながら氏に、ローゼンメイデンとなった姉。
あるときは多くの人間を犠牲にし、一人の少女を救った姉。
あるときは奴隷達と希望を求めてトンネルを掘り続けた姉。
気の遠くなるような長い時間をローゼンメイデンとして生き続け、
そして最期にはやはり自分の身を案じてくれた姉。

その姉から貰った勇気がJUMにはあった。
そして今日もJUMは、元気に挨拶して家を出て行く。

『行ってきます』


翠星石「氏にてぇですぅ」 完

283: 2008/09/08(月) 05:44:08.18 ID:9BeFkj+K0
何度もスレを立て直すという無様なまねをしたにもかかわらず、
皆さん最後まで付き合ってくれて本当にありがとうございました。
お疲れ様でした。

285: 2008/09/08(月) 05:51:21.71 ID:5WEznsalP BE:125989722-PLT(23001)
今追いついた!
お疲れ!

304: 2008/09/08(月) 11:55:21.50 ID:r0hJTXvOO

引用: 翠星石「死にてぇですぅ」