1: 2013/06/13(木) 19:15:28 ID:jXMQemmI

ぼく「うん、おかあさんとペット屋さんでみた」

少女「ウーパールーパーはね、子供の体のまま大人になるの」

少女「大人の体になれば、陸に上がることができるのに」

少女「子供の姿のまま、ずっと水の中で暮らすの」

少女「大人になった自分の姿も、水の上の世界も知らずに」

少女「子供の姿のままで、ずっと生きていくのよ」

2: 2013/06/13(木) 19:17:57 ID:jXMQemmI
少女「背、伸びたね」

少女「少し前までは、こーんなにちっちゃかったのに」

ぼく「大げさだなあ、そんなにちっちゃくなかったよ」

少女「寝る子は育つって言うからね」

少女「きみは、遊び疲れたらすぐ寝ちゃう子だったし」

少女「実際、何度きみの家までおんぶして送り届けたことか」

ぼく「うう、ごめんなさい・・・」

3: 2013/06/13(木) 19:20:29 ID:jXMQemmI
少女「フフ、怒っているわけじゃないの」

少女「しっかり食べて、しっかり寝て」

少女「しっかり育つことが、子供の仕事だからね」

ぼく「・・・うん」

ぼく「よーし!ぼく早く大きくなって、おねえさんよりも、もっと大きくなる!」

少女「きみだったらすぐに大きくなれるわよ」

少女「そうね、きっと私の背なんて・・・すぐに抜かれちゃうくらいに」

4: 2013/06/13(木) 19:22:51 ID:jXMQemmI






少女「背、抜かれちゃったね」

僕「僕も、もう中学生だからね」

少女「体つきも、すっかり男の子っぽくなっちゃって」

僕「部活やり始めたからかな、最近は食べても食べてもすぐお腹減るし」

少女「柔道部だっけ?またハードな部活に入ったねえ」

僕「男子たるもの、お姉さんの一人や二人、守れないといけないからね」

5: 2013/06/13(木) 19:24:54 ID:jXMQemmI
少女「一人や二人って、きみはいつからそんなにモテモテになったの?」

僕「言葉のあやだよ、僕のお姉さんは、お姉さん一人だけ」

少女「・・・年上をからかうのは、感心しないなあ」

僕「別にからかってるわけじゃないんだけどね」

少女「体は大きくなっても、中身はまだ子供なんだから」

少女「お姉さんを口説きたいなら、もうちょっと大人にならないとね」

6: 2013/06/13(木) 19:26:49 ID:jXMQemmI




少女「・・・きみはまた、随分と大きくなったね」

僕「それは、もう高校生だしね」

少女「そうじゃなくて、確かに私は背が小さいほうだけど・・・」

少女「それでも、頭二つ分くらいは大きいよね」

僕「まあ、今190近くあるし、筋肉もだいぶ付いたしね」

少女「何食べたらそんなにでかくなるんだか・・・」

僕「そう言うお姉さんは、変わらないよね」

僕「・・・初めて会った時から、変わらないままだ」

7: 2013/06/13(木) 19:31:45 ID:jXMQemmI
少女「・・・・・」

少女「・・・ねえ、知ってる?」

少女「人間が、人間に進化した原因」

少女「動物の世界には、幼い頃の外見のまま性的に成熟する現象があるの」

少女「ネオテニーっていってね、分かりやすい例がウーパールーパー」

少女「ウーパールーパーのようなサンショウウオは普通、大人になったら陸で暮らすの」

少女「だから、子供の頃にあったエラは消えて、陸で生きれるよう肺で呼吸するようになるわ」

8: 2013/06/13(木) 19:34:06 ID:jXMQemmI
少女「でも、ウーパールーパーはエラが消えないまま、子供の姿でずっと暮らすの」

少女「冷たい水の中で、ずっと、ずうっと」

少女「・・・人間は、チンパンジーのネオテニーだと言われているわ」

少女「チンパンジーが子供のまま、大人になった姿」

少女「それが私たちの祖先」

少女「・・・まあ、そういう説もあるってだけの話だけどね」

少女「あくまでも仮説。・・・つまらない話に付き合わせちゃってごめんなさい」

僕「・・・うん」

少女「・・・でも、チンパンジーのネオテニーが人間だとしたら」

少女「人間のネオテニーは・・・一体何者になるんでしょうね」

9: 2013/06/13(木) 19:36:52 ID:jXMQemmI






少女「きみも無事に大学生かー」

僕「一時はどうなるかと思ったけどね」

少女「ふふん、偉大なる先生に感謝したまへ」

僕「ははー。全てはあなた様の指導のおかげです」

少女「くるしゅうない」

僕「ありがたやありがたや」

10: 2013/06/13(木) 19:41:53 ID:jXMQemmI



少女「・・・きみに告白されたあの日から、もう一年か」

僕「あっという間だったね」

少女「・・・本当に私なんかでよかったの?」

僕「お姉さんだからよかったの。ほかの人なんて考えられない」

少女「ごめんなさい、きみを疑ってるわけじゃないの」

少女「でも、時々不安になるの。私、普通じゃないから・・・」

僕「僕は気にしないよ。周りがなんと言おうとも」

11: 2013/06/13(木) 19:46:49 ID:jXMQemmI






少女「ついにきみも立派な社会人か」

僕「まだ内定しただけだよ」

少女「でも第一希望でしょ?このご時勢に」

僕「運が良かっただけだよ、たまたま面接官が気の合う人だったから」

少女「またまたご謙遜を」

僕「いえいえ滅相もない」

12: 2013/06/13(木) 19:48:32 ID:jXMQemmI
少女「・・・きみはどんどん大人になっていくね」

僕「どうしたの、いきなり」

少女「きみがスーツを着た姿を想像したらさ。不意にきみが子供だった頃を思い出しちゃって」

少女「きみにもね、ぼくはまだこどもがいい~だなんて、言ってる時期があったのよ?」

少女「あれからもう、20年近く経つわけだ」

13: 2013/06/13(木) 19:51:17 ID:jXMQemmI
少女「・・・・・」

少女「きみだったら、もっと都会の、それこそ一部上場企業とかにいけたんじゃない?」

少女「わざわざこんな田舎にとどまらなくても、」

僕「待って」

少女「きみにはもっと、活躍できる場が」

僕「待ってってば!」

僕「・・・僕はね、家から近くて、定時に帰れる職場じゃなきゃイヤなの」

僕「他に理由なんて」

少女「私は!」

14: 2013/06/13(木) 19:55:26 ID:jXMQemmI
少女「・・・私は、きみの枷にはなりたくないよ」

少女「きみは、きみの好きなように生きればいい」

僕「・・・ハァ、強情なんだから」

僕「・・・それなら、僕は好きなように生きさせてもらうよ」






僕「河川敷の公園に、桜を見に行こう」

15: 2013/06/13(木) 19:58:48 ID:jXMQemmI
少女「い、いきなり何の話よ」

僕「春になったらさ。ブルーシートでも敷いて、二人で桜を見ながらサンドイッチを食べよう」

僕「夏には二人で花火大会に行こう」

僕「お姉さんは小さいから、手をつないで。二人でりんご飴をなめながらさ」

僕「秋には栗拾いに行こう」

僕「二人でカゴいっぱいの栗を拾って、家で栗ご飯を作ろう」

僕「冬は二人でこたつに入りながら、ミカンを食べよう」

僕「年末年始の特番を見ながら、一日中ゴロゴロしよう」

16: 2013/06/13(木) 20:02:00 ID:jXMQemmI
僕「晴れの日は二人で洗濯物を干そう」

僕「雨の日は二人でDVDを見よう」

僕「いつか二人の住む家を買おう」

僕「日当たりのいい、庭付きの家を買おう」

僕「庭では家庭菜園をしよう」

僕「二人が好きな野菜を植えて、朝食には必ずサラダをつけよう」

僕「・・・そうやって、なんでもない日常を、二人で生きていこう」

17: 2013/06/13(木) 20:05:01 ID:jXMQemmI
僕「これが、僕の望む生き方だよ」

少女「・・・ありがとう」

少女「やっぱり、きみは大人だよ」

少女「わたしよりも、ずっとね」

少女「・・・わたしはずっと、きみが大人になっていくのが怖かった」

少女「わたしだけが取り残されるのが・・・怖かった」

少女「でも、今はもう違う」

少女「きみが私の前に立って、手を引いてくれるのなら・・・」

少女「・・・私も、私の好きなように生きようかな」

18: 2013/06/13(木) 20:07:27 ID:jXMQemmI







少女「きみが私の旦那さんになるだなんて、あの時は思いもしなかったなあ」

僕「あの時って、どの時?」

少女「中学生のきみに口説かれたとき」

僕「・・・あの時はね、ちょっと大人ぶりたい時期だったんだよ」

僕「まあ、僕の気持ちはお姉さんと出会った時から変わってないけどね」

少女「そうね、少なくとも口説き文句は中学生の時と変わってないわね」

19: 2013/06/13(木) 20:13:05 ID:jXMQemmI
僕「・・・。じゃ、じゃあお姉さんは、いつから僕と結婚したいって思ってたわけ?」

少女「そんなのは最近よ。君が社会人になったあたりかな」

僕「えー、こんなに付き合い長いのに」

少女「フフ、きみのお嫁さんになれるとは私も思ってなかったからね」

少女「でも、ずっと前から、ずっと一緒にいたいって思っていたけど」

僕「・・・面と向かってお姉さんに言われると、なかなか照れるな」

少女「あら、いつもはもっと甘ったるいセリフ言ってるじゃない」

僕「僕から言う分にはいいんだよ」

20: 2013/06/13(木) 20:17:24 ID:jXMQemmI






少女「さて、問題です。今日は何の日でしょうか?」

僕「20回目の結婚記念日。僕と、お姉さんの」

僕「毎年やってるんだから。忘れるはずないよ」

少女「君が耄碌してないかと思ってね。ほら、ボケ予防は早いうちからの方がいいって」

僕「まだそんな歳じゃありません。ほら、こんなに若々しい顔してるでしょ?」

少女「若作りしてるってのはわかるけど・・・ねえ?」

僕「ねえ?って、僕そんなに老けた?」

21: 2013/06/13(木) 20:19:23 ID:jXMQemmI
少女「なんかお高い洗顔液とか使ってるみたいだけど、シワは増えたよね」

僕「うぐっ」

少女「最近よく白髪染めしてるとこ見るし」

僕「なっ・・・それは・・・」

少女「隠れてやってるんだろうけど、結構目撃してるのよ」

少女「バレないようにやってるのがねえ・・・。余計に哀愁を誘ってるというか」

僕「ぐぬぬ・・・。」

22: 2013/06/13(木) 20:21:43 ID:jXMQemmI
少女「・・・年相応でいいのよ、君は」

少女「年をとるってことは、悲しいことじゃないんだから」

少女「君には、老けていく権利があるんだから」

僕「・・・・・。」

僕「僕は・・・、ただ・・・」

少女「っと、年寄りくさい話はここまでにしましょ」

少女「こんなことより、今年は一体なんのプレゼントをくれるのかな?」

僕「ん、お、おっほん!そうだね、今年は期待しててって言ってたしね」

僕「いやー、今年はいつも以上に気合を入れたよ。なんてったって20回目の節目の年だしね!」

24: 2013/06/13(木) 20:25:06 ID:jXMQemmI
僕「そう言うお姉さんこそ、今年のプレゼント交換は何を用意してくれたのかな?」

少女「よくぞ聞いてくれた。今年は結構ひねらせてもらったよー」

僕「ほほう。実は僕も、そこそこひねってるんだよね。」

僕「去年はお姉さんからだったよね?」

少女「うん」

僕「それじゃ、今年は僕からだね」

僕「じゃあ、ちょっと鏡の前に移動しよう」

少女「お、さてはネックレスか何か?」

僕「まだ内緒、てか言わないでよ当てられたら困るし・・・」

僕「よし、それじゃ目つぶって・・・」

僕「はい、記念すべき20個目のプレゼント。目、開けていいよ」

25: 2013/06/13(木) 20:29:36 ID:jXMQemmI
少女「・・・。これもしかして・・・」

僕「なかなかきれいな髪留めでしょ。しかもこれ、オーダーメイド」

僕「あしらってる花のデザインについては・・・。まだヒ・ミ・ツ」

少女「このデザイン、桔梗でしょ」

僕「ありゃ、もしかして知ってた?」

僕「いやーなんていうか、ちょっとベタすぎたかな?」

少女「・・・ううん、・・・ありがと」

僕「・・・うん、どういたしまして」

少女「本当に、ありがとう。多分、今までで一番嬉しいよ」

26: 2013/06/13(木) 20:33:00 ID:jXMQemmI
僕「よかった、喜んでもらえて僕も嬉しいよ」

少女「・・・よし!そしたら、次は私のプレゼントだ」

僕「お、待ってましたよ!」

少女「正直、方向性は若干かぶるんだけど・・・はい!」

僕「おお、タイピン!しかも、すごいきれいな花の模様が彫ってある」

僕「それで方向性がかぶるってわけね、ちなみに・・・お恥ずかしながら、なんて花?」

少女「これはね・・・スターチスっていう花だよ」

27: 2013/06/13(木) 20:35:32 ID:jXMQemmI







少女「長いあいだ、おつとめご苦労様でした」

僕「お姉さんこそ、長いあいだ支えてくれてありがとう」

少女「これから、またよろしくね」

僕「こちらこそ、これからはずっと一緒にいれるんだから」

僕「・・・うん。これからも、ずっと一緒にいよう」

少女「フフ、まるでプロポーズみたい」

僕「もう一度、式をあげようか?」

少女「それもいいわね。また永遠の愛を誓ってくださる?」

僕「もちろん。何度だって誓うさ」

28: 2013/06/13(木) 20:40:13 ID:jXMQemmI






少女「そろそろなの?」

僕「うん。もう長くないってさ」

少女「・・・・・」

僕「悲しむことはないよ。僕も、正直名越り惜しいけどね」

僕「僕は本当に幸せだった。満たされていたよ」

僕「だからこそ、やり残したことはいっぱいある。心残りも」

僕「ただ、後悔はしていないよ」

少女「私もだよ」

29: 2013/06/13(木) 20:48:21 ID:jXMQemmI
少女「・・・君と出会えて良かった。君と話せて良かった」

少女「君と恋に落ちて良かった。君と触れ合えて良かった」

少女「君と食事できて良かった。君と同じベッドで寝れてよかった」

少女「君と旅を出来て。君と年を越せて」

少女「君とテレビが見れて。君とお花見ができて」

少女「君と海で泳げて。君と山に登れて」

少女「君とお祭りに行けて。君と抱き合えて」

少女「君と・・・・・。」

30: 2013/06/13(木) 20:51:25 ID:jXMQemmI
少女「君が、いつか私に言ったような」

少女「なんでもない日常を、二人で生きれて」

少女「・・・本当に・・・良かっ・・・た・・・」

僕「・・・・・。」

僕「僕も、お姉さんと生きてこれて。本当に良かった」

僕「・・・僕はね・・・」

僕「結婚式で、嘘をついたよ」

31: 2013/06/13(木) 21:03:12 ID:jXMQemmI
僕「氏が二人を分かつまで、ってやつ」

僕「はは、氏に分かたれる愛なんて、誓えないよ」

僕「・・・僕はね。あの時、永遠の愛を誓ったんだ」

僕「お姉さんって、実は寂しがり屋だからさ」

僕「僕の体がなくなっても」

僕「せめて、愛だけでもあっちの世界から届けようって」

僕「そう、誓ったんだ」

僕「そして、もし生まれ変われたならば」

僕「もう一度、お姉さんと出会って」

僕「また、なんでもない日常を二人で生きようって」

僕「そう、誓ったんだ」

33: 2013/06/13(木) 21:05:14 ID:jXMQemmI
僕「・・・ねえ、お姉さん」

僕「お姉さんは嫌いだったかもしれないけど」

僕「・・・僕はね、好きだったよ。ウーパールーパー」






そろそろ終わりが近い

僕という個体の火が消えてゆくのが分かる

走馬灯というものだろうか・・・

過去の断片が蘇ってくるのは

34: 2013/06/13(木) 21:15:25 ID:jXMQemmI


「ウーパールーパーって、知ってる?」


「背、伸びたね」


「・・・年上をからかうのは、感心しないなあ」


「ふふん、偉大なる先生に感謝したまへ」


「・・・きみはどんどん大人になっていくね」


「きみが私の前に立って、手を引いてくれるのなら・・・」

35: 2013/06/13(木) 21:16:25 ID:jXMQemmI

「でも、ずっと前から、ずっと一緒にいたいって思っていたけど」


「さて、問題です。今日は何の日でしょうか?」


「本当に、ありがとう。多分、今までで一番嬉しいよ」


「これはね・・・スターチスっていう花だよ」


「フフ、まるでプロポーズみたい」

36: 2013/06/13(木) 21:20:00 ID:jXMQemmI




そういえばいつかお姉さんが言っていたな・・・

ネオテニーという言葉を

僕の体は成長し、老い、滅びを迎えようとしている

変化を止めることはできなかった

それなら僕の心はどうだっただろう?

僕は変わらずにいれただろうか?

子供の頃の僕から、変わらないものがあっただろうか?

・・・そうだな、今ならはっきりと言える・・・




・・・・・僕は・・・・・




37: 2013/06/13(木) 21:24:33 ID:jXMQemmI




少女「・・・最後まで、私のことを「お姉さん」って、呼んでくれて」

少女「・・・私のために、変わらないでいてくれて」

少女「・・・私に変わらないものをくれて」





少女「ありがとう」





38: 2013/06/13(木) 21:25:16 ID:jXMQemmI



桔梗。  花言葉は  変わらない愛、変わらない心

スターチス。  花言葉は  変わらない誓い、永遠に変わらない心



おしまい。

39: 2013/06/13(木) 21:45:37 ID:x4976MN2
乙!

引用: 少女「ウーパールーパーって、知ってる?」