1: 2024/05/27(月) 23:31:52 ID:Bd3bItk600
──部室

かのん「まだ帰らないの?」

すみれ「ん? ん、まあ。かのんは? さっきからずーっとギター触ってるけど」

かのん「んー。なんか今はまだ帰るタイミングじゃないかなーって」

すみれ「なにそれ? 変なの」

かのん「あはは、ひどーい。すみれちゃんだってそうなんでしょ? なんか、今じゃないかな、って」

すみれ「そうね。今じゃない、ってなんか思ってる」

かのん「一緒だ」

すみれ「一緒ね」

2: 2024/05/27(月) 23:32:25 ID:Bd3bItk600
かのん「なんか色んなこと喋ったよね、この部室で」

すみれ「そうね。ほんとしょーもないことばっかり。かのんと話してタメになったことなんてないんじゃないかしら」

かのん「そうかな? ……そうかも……?」

すみれ「でも楽しかったわ。かのんと喋ってて」

かのん「それは私もそう! すみれちゃん、私の話なんだかんだ絶対ちゃんと聞いてくれるんだもん」

すみれ「そうね。……別にシカトしても良かったんだけど」

かのん「それは凹んじゃう……」

すみれ「なんか、なんでか楽しいんだよね。あんた何言ってんの? って思うこともあるんだけど、なんか楽しいのよ」

3: 2024/05/27(月) 23:33:10 ID:Bd3bItk600
かのん「ほんと? えへへ、私もすみれちゃんと話すの楽しい。時々ツッコミキツイ! って思うこともあったけど、それが居心地がいいかなっていうか」

すみれ「そう? 私は結構優しかったと思うけど」

かのん「優しいけど、優しいけどね!?」

すみれ「ほら、優しいじゃない私」

かのん「ううん、そうではないんだけど……でもすみれちゃんが優しいのは間違いないし……」

すみれ「じゃあ合ってるじゃない。私は優しい。それでいいわね」

かのん「ウン……うん」

すみれ「なんでちょっと納得いってない顔してるのよ」

4: 2024/05/27(月) 23:34:01 ID:Bd3bItk600
かのん「……でも私たちも三年生かぁ。後一年で私たちは卒業なんだね」

すみれ「そうね。もう卒業ね、私たち」

かのん「……卒業して、それぞれみんな自分の道を進んで──私たち、バラバラになっちゃうのかなって」

すみれ「……物理的にはそうなるんじゃない?」

かのん「そっかぁ……そうだよね」

すみれ「かのんは音大行くんでしょ?」

かのん「うん。私やっぱり歌が好き。歌で大勢の人の心を震わせたい。夢を私は捨てられないから」

すみれ「猫を飼うことじゃないの?」

かのん「猫? なんで?」

5: 2024/05/27(月) 23:34:59 ID:Bd3bItk600
すみれ「あんた一年生の時の自己紹介覚えてないの?」

かのん「……なんだっけ?」

すみれ「可可もきっと覚えてる。私ですら覚えてるんだもの。どこか余所余所しくて下手な愛想笑い浮かべて。『夢は猫を飼うことです』なんて言っちゃって」

かのん「やめてよぉ……忘れたい思い出なの」

すみれ「でも私はそんな愛想笑いが似合う情けなかったかのんに救われたのよ。かのんがスカウトしてくれたから、私は今ここにいる。もう一度ショウビズの世界で戦ってやるって決めたんだから」

かのん「……すみれちゃんは……そっか。女優さん? になるの?」

すみれ「そうね。かのんに貰った名刺は卒業までに返さないといけないと思う。あの名刺のおかげで立ち上がれたから」

かのん「……」

すみれ「もうあの名刺がなくても私は大丈夫。やっていける。だから、名刺は返す」

かのん「なんだか寂しいよ、すみれちゃん」

6: 2024/05/27(月) 23:36:16 ID:Bd3bItk600
すみれ「なんで?」

かのん「なんでって……だって、すみれちゃんがLiella!に入ってくれたきっかけだし……なんかそれを返されちゃうと……」

すみれ「退路を断つ。あの名刺は大切な思い出で心の拠り所だけど、それを甘える場所にはしたくないの。かのんに救われたあの感覚を、甘やかすために消費したくない」

かのん「すみれちゃん……」

すみれ「それに名刺を返したからって、私たちの関係が無くなるわけじゃない。この二年間、こんなに中身のない話を積み重ねてきたのよ」

すみれ「私たちの関係が失われるわけない。それともかのんは音大に行ったら私の事忘れるの?」

かのん「忘れないよ! 忘れるわけない!」

すみれ「じゃあ大丈夫。私だけじゃない。可可も、千砂都も、恋も。私たちが離れ離れになっても。Liella!という枠から飛び出しても、私たちはここでつながってる」

かのん「……うん。そうだよね」

すみれ「可可は中国に帰っちゃったら中々会えないかもだけど」

かのん「寂しいじゃん!」

7: 2024/05/27(月) 23:36:56 ID:Bd3bItk600
すみれ「それでも私たちなら大丈夫じゃない?」

かのん「……そんな気がしてきた。なんの根拠もないけど」

すみれ「そうね。私も何の根拠もないけど。たぶん私たちならきっと大丈夫」

かのん「……変な話だよね。去年、私たちあんなに揉めたのにね」

すみれ「……それ掘り返すの?」

かのん「すみれちゃんだって私の嫌な思い出、掘り起こしたじゃん」

すみれ「……あの時かのんに殴られてもいいかな、とは思った」

かのん「……私は……あの時ほんとにショックだったんだよ……」

すみれ「……一年生にも嫌われるって思ってた」

かのん「ほんとだよ……ほんと……すみれちゃん……ひどいよ」

8: 2024/05/27(月) 23:37:37 ID:Bd3bItk600
すみれ「ごめん。謝っても……どうしようもないけど、ごめん」

かのん「……でも、すみれちゃんがあんな風にいっぱいいっぱいになることあるんだなって、意外だったかな」

すみれ「……冷静じゃなかったけどね。今思えばもっといいやり方はあったと痛感してるし反省してる」

かのん「ん。反省できてよろしい」

すみれ「何様よ」

かのん「ふふっ。すみれちゃんの才能を見抜いてスカウトした者です!」

すみれ「……やれやれ。なんであんたにスカウトされちゃったのかしらね」

かのん「ねえ、卒業した後も私たち、こうやってお喋りできるかな?」

9: 2024/05/27(月) 23:38:18 ID:Bd3bItk600
すみれ「……どうかしら。女優とシンガーソングライターがお互い暇って言うのも、夢はないわね」

かのん「……確かに……」

すみれ「私もかのんも忙しくて。それでも会って喋りたいって。顔つき合わせて、話したいって思ってたら。場所は違えどきっとまた同じことができる」

かのん「そうだね。私たち、きっと話したい事沢山出来るよね」

すみれ「そうね。仕事の話とか。音楽の話とか」

かのん「恋ちゃんのスマホに保存されてたエOチな画像の話聴いてないし」

すみれ「恋がゲーム中にヘンな声出すのもね」

かのん「私のくしゃみ、もっともっと可愛いくしゃみに進化してるかもよ」

すみれ「あんたの胸も大きくなってるかもね」

かのん「ひっど!」

10: 2024/05/27(月) 23:38:55 ID:Bd3bItk600
すみれ「どうする? あんたの胸、滅茶苦茶デカくなってたら」

かのん「四季ちゃんくらいおっOいの大きい澁谷かのんって名乗る」

すみれ「身の程を弁えなさいよ」

かのん「あっはは! もし大きくなったら名乗るって話! あははは!」

すみれ「あはははっ、ほんとおかしい。そういう話もしたわね……っくく……」

かのん「育乳もしたもんね!」

すみれ「あの後! メイの鼻血止めるの大変だったんだからね!?」

かのん「いやぁ、あの後私も最後可可ちゃんにちょっとドン引かれちゃってぇ!」

すみれ「ええ? あはは、あんたなにしたの?」

11: 2024/05/27(月) 23:39:29 ID:Bd3bItk600
──────

────

──

すみれ「……でもこうやって二年間振り返るだけで、色んなことが始まったわね」

かのん「そうだね……色んなことが始まって、終わって……私たちの高校生活も終わって、マルガレーテちゃん達も卒業して、Liella!もなくなって──」

すみれ「ラブライブっていう大会もなくなって、いずれスクールアイドルっていうものも、なくなるんでしょうね」

かのん「そうなると寂しいね、やっぱり。始まったものは、終わっちゃうんだよね」

すみれ「……そうね。もしかしたらいつか、私とかのんのこんな気楽な関係も、終わるときが来るのかもね」

かのん「……来ちゃうのかな」

すみれ「……来るかもね」

12: 2024/05/27(月) 23:40:13 ID:Bd3bItk600
かのん「……もしそうなってもさ。私は『すみれちゃんと話してたあの時間が楽しかったな』って思えててさ」

すみれ「私が『かのんと喋ってた時間が楽しかったな』って思えてたら……?」

かのん「……それだけで、私たちが出会って、こうやって話して、仲良くなった意味は、ずっと無くならないね」

すみれ「……そうね。私もそう思う」

かのん「ほんと!?」

すみれ「ま、あんたとの会話なんて言った通りほんとに何の中身もない、スッカスカな会話だけどね」

かのん「ひっどぉ!?」

すみれ「でもそれでいいんでしょ。中身のない、ぺらっぺらなものでも、それを積み重ね続けて──」

すみれ「他人にはチリが積もった山に映ったとしても、私たちにとっては大切なもの。違う?」

かのん「……すみれちゃん……」

13: 2024/05/27(月) 23:40:43 ID:Bd3bItk600
すみれ「ふふん。そういうことでしょ?」

かのん「……なんだか輝いて見える……」

すみれ「私をスカウトしたときもそうだったでしょ」

かのん「……」

14: 2024/05/27(月) 23:41:16 ID:Bd3bItk600
どんよりとした雲と鬱陶しく降る雨のなか、すみれちゃんは通りの一角で踊っていた。

──見~ちゃった!

あの時のすみれちゃんが輝いていたか、と聞かれるとそうではなかったと思う。すみれちゃんはずっと煌めいていた。

──すみれちゃんを見て、私思った。センターやってみようって。

すみれちゃんはスポットライトを浴びて輝くだけじゃない。自ら光を放ち、煌めける人だって。私も、そういう『輝く』だけじゃなくて『煌めく』人になりたいって。

──諦めない限り、夢が待っているのは、ずっと先かもしれないから。

私もすみれちゃんみたいに『煌めく』人になる。その夢を諦めたりはしない。夢を追って道が分かれても。私もすみれちゃんも、場所は違えど、そこで煌めく人同士で居たい。

15: 2024/05/27(月) 23:41:51 ID:Bd3bItk600
かのん「んー。嘘。やっぱりすみれちゃんは輝いてないかな?」

すみれ「え!? 何!? 嘘なの!?」

かのん「うん。すみれちゃんは輝いてるんじゃない。煌めいているんだよ」

すみれ「……はい? 煌めき?」

かのん「そう、煌めいてるの。きらきら光って、見た人の視線を逃さない」

すみれ「それって輝いてるってことじゃないの?」

かのん「それが違うんだなぁすみれちゃん」

16: 2024/05/27(月) 23:42:25 ID:Bd3bItk600
すみれ「はぁ……? どう違うのよ……」

かのん「教えなーい!」

すみれ「えぇ……? いいわよ、自分で調べるから──」

かのん「あ、ダメダメ! それじゃつまんないよー!」

すみれ「ええ? 気になるじゃない。今教えてよ」

かのん「ううん……じゃあこうしよ? 私が一人前のシンガーソングライターになって。すみれちゃんが一人前の女優さんになって──」

かのん「私たちが今みたいな関係だったら──教えてあげる!」

がたっ

17: 2024/05/27(月) 23:43:31 ID:Bd3bItk600
すみれ「あ? かのん、ちょっと──!?」

かのん「今日はどこ寄って帰る? 私新しい弦を買いに行こうと思うんだけど!」

すみれ「ちょっと、勝手に話を進めないでって!」

かのん「その後でフラペチーノの新味食べて、ちぃちゃんとこも寄っていこうよ! いいでしょ? すみれちゃん!」

すみれ「……たく。わかった、わかったわよ! とことん付き合ってやるったら付き合ってやるんだから!」

かのん「うん! とことんのとことんのとことんの──最後の最後のさいごまで、付き合ってよね!」

すみれ「……ええ、とことんのとことんのとことんの──最後の最後のさいごまで、あんたに付き合ってやるわ!」

──ばたんっ

18: 2024/05/27(月) 23:46:22 ID:Bd3bItk600
──今日もまだまだいっぱい遊ぶぞー!
──はいはい、食べ過ぎだけは勘弁してよね。
no title




かのん「すみれちゃーん」すみれ「ん?」 了

19: 2024/05/27(月) 23:47:09 ID:15dQDU3w00
かのすみ良いよね…

引用: かのん「すみれちゃーん」すみれ「ん?」