1: 2024/06/16(日) 15:41:27 ID:???00
かのん「ふんふーん♪ 音楽科の授業は楽しいなー♪」

可可「カノン、またこっちの授業サボって音楽科に行くデスか?」

かのん「だって音楽科の方が楽しいんだもん! 私、普通科じゃもう満足できないよ!」

すみれ「全く……好きにしなさいよ。あんた音楽科じゃないんだから、単位取れなくても知らないわよ?」

かのん「単位なんて恋ちゃんに頼めばどうにでもなるよ! じゃ、行ってきまーす!」

可可「カノン……」


かのん「今日っは確かっ声楽の授業ー♪ ……ん? 何この張り紙」

『普通科生徒は授業中の音楽科に立ち入らないように 理事長』

かのん「……」

かのん(私は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の理事長を除かなければならないと決意した)

2: 2024/06/16(日) 15:47:47 ID:???00
理事長「今日もいい天気ね……」

かのん「理事長!!」ドガォッ

理事長「なんです騒々しい。今は授業中の筈ですよ」

かのん「この張り紙はどういうことですか!? 音楽科の授業を普通科の生徒は受けちゃいけないってこと!?」

理事長「その通りです」

理事長「音楽科の生徒からも苦情が来ているんですよ、普通科の生徒が潜り込んで勝手に授業を受けてるって」

かのん「そんなのは差別です! いじめじゃないですか!! 苦情を言った方を排除してください!!」

理事長「はぁ……あのね、渋谷さん。音楽科と普通科では授業料が違うんです」

理事長「貴女が入った普通科は入学金15万円、授業料が年間で70万ですね?」

かのん「全部親が払ってるのでよく知りませんけど……そんなところですね」

3: 2024/06/16(日) 15:53:48 ID:???00
理事長「それに対して音楽科は専門的な科目をやる都合上、普通科よりも多い年間130万の授業料を払ってもらっているの」

理事長「それを同列に扱ったら、多く授業料を貰っている意味がありません。文句があるなら音楽科に編入しなさい、以上です」

かのん「そんな……!!」

かのん「そんなのっておかしいよ!! 私はただ、ただ歌いたいだけなのに……っ!!」ポロポロ

理事長「渋谷さん……」

かのん「理事長の……!!」スッ

理事長「! やめなさい! それは大切な古伊万里の壺……!!」

かのん「わからず屋!!」パリィィィン

理事長「あ……ああ……100万もした古伊万里が……」

かのん「理事長、考え直してくれましたか?」

理事長「……学です」プルプル

かのん「はい?」

理事長「退学です!! 今すぐ退学の処理をします、親御さんに連絡をするから待っていなさい!」

4: 2024/06/16(日) 16:00:10 ID:???00
かのん「た……退学!?」

かのん(そんなのあんまりだよ……! 私はただ、思いっきり歌いたいだけなのに……!)

かのん(なんで理事長は分かってくれないの!?)

理事長「1年時から度々音楽科の授業に潜り込む問題児だと思っていましたが、ここまで話が通じないとは思いませんでした」

理事長「留学の話も取り消しですね……全く」ピポパ

かのん「ま、待ってください! 留学って!?」

理事長「まだ正式決定ではないので伝えていませんでしたが、渋谷さんにはウィーンの音楽学校から留学のオファーが来ていたんですよ」

理事長「退学になる今となってはそれもたちきえですけれど」

かのん(海外の音楽学校に留学!? そんな……思いっきり歌えそうな環境なのに……!!)

かのん「待ってください理事長!!」

理事長「……」ピタッ

かのん「1日だけ私に時間を下さい。今割ったのと同じ古伊万里を探してきます」

かのん「だから……退学だけは許してください! お願いします!!」

5: 2024/06/16(日) 16:05:38 ID:???00
理事長「……この壺と全く同じものなんてこの世にはありません。それに、明後日にはこの壺を見に我が後の出資者がやってくる予定だったんです」

理事長「それに、同等の壺を買うには最低でも100万はかかります。そんな金額、高校生の貴女に払えるわけが……」

かのん「信じてください!」

かのん「明日の夕暮れまでには戻ります! だから、退学だけは……!!」

理事長「……いや、やはり信じられないわ。退学処理を進めます」

理事長「私は元々人を信じるような性質の人間ではありません。恋の母親のように甘い人間なら耳を貸したかもしれないけれど」

かのん「うぅ……」

ガラッ

千砂都「理事長、私からもお願いします!」

かのん「ちぃちゃん!?」

理事長「嵐さん!? 授業はどうしたんですか!」

6: 2024/06/16(日) 16:10:33 ID:???00
千砂都「かのんちゃんが音楽科に忍び込んでこないから不思議に思って探してたんだよ」

千砂都「そんなことより理事長! お願いです、かのんちゃんを信じてあげてください!」

理事長「嵐さん……」

千砂都「かのんちゃんは勇気があって、強くて、とっても歌が好きなんです。どんな時も私の心を暖かくしてくれる、大切な人……」

かのん「ちぃちゃん……」

千砂都「だから、かのんちゃんが出来るって言うならきっと出来るんです! 私、そう信じてるんです」

千砂都「私はかのんちゃんの、親友だから……!」

かのん「ぢぃぢゃんっ……!!」ポロポロ

理事長「し、しかし……そんな……」

かのん「なら、提案があります! 私は……人質として、親友のちぃちゃんをここに置いていきます!」

7: 2024/06/16(日) 16:13:55 ID:???00
理事長「えぇ!?」

かのん「私が古伊万里を持って戻らなかったら、ちぃちゃんを代わりに退学にしてくれても構いません」

かのん「それだけの覚悟を持って私は……古伊万里探しに挑みます!」

千砂都「かのんちゃん……」

理事長「え、いや……え!? 代わりに退学!?」

千砂都「分かった、人質になるよ! 私はかのんちゃんを信じる!」

かのん「ありがとう!」

「「うぃっすうぃっすうぃっすー!!」」

理事長(嘘でしょ……? 私の目の前で何が起こってるの……?)

9: 2024/06/16(日) 16:17:27 ID:???00
かのん「それじゃ行ってくるよ、ちぃちゃん、理事長!」

千砂都「頑張ってねかのんちゃん! お金が足らなかったら、いつもみたいに私の口座から持っていっていいから!」

かのん「ありがとう、ちぃちゃん。大好きだよ」チュッ

千砂都「私も……」

理事長「……戻ってくるのよね? ちゃんと……」

理事長(もし戻ってこなかったら私、このアホの代わりに優秀な嵐さんを退学にしなきゃいけないの……?)

かのん「はい! 明日の日暮れまでにきっと戻ってきます!! 私は絶対にちぃちゃんを見捨てたりしません!」

かのん「ちぃちゃんと私は親友だから!」

10: 2024/06/16(日) 16:25:24 ID:???00
かのん「行ってきます!」タタタッ

理事長「……本当にいいの?」

千砂都「はい! きっと戻ってきますから!」キラキラ

理事長(新興宗教のパンフレットみたいな目してる……)



かのん「はぁ……はぁ……」

かのん「古伊万里ってどこにあるんだろ? そもそも私、いくら持ってるんだっけ?」

かのんの所持金:825円

かのん「買えるかな……? 足りなかったらちぃちゃんのお金使えばいいか」

かのん「勿体無いけどちぃちゃんを退学から救う為だし、しょうがないよね」

かのん「まずは通学路で見かけた古道具屋さんに……」

『カラオケ新装オープン! 今なら800円で1日歌い放題!』

かのん「!?」

かのん「800円で歌い放題!? 凄い! 行かなきゃ!!」

13: 2024/06/16(日) 16:33:34 ID:???00
店員「24時間歌い放題コースですね?」

かのん「はい!」

かのんの所持金:25円

かのん「らら~~♪」



恋「どうしたんですか、皆を集めて……?」

夏美「どうせまたかのん先輩が何かしでかしたに決まってますの」

メイ「なんで千砂都先輩は縄で縛られてんだ? そういうのも好きだからいいけどよ」

理事長「鬼塚さんの言う通りです。実は──」

カクカクシカジカ

すみれ「──はぁ!? かのんが戻ってこなかったら千砂都が退学ぅ!?」

可可「高い壺を買う必要まであるデスかー!?」

すみれ「何考えてんのよ千砂都!? あいつ絶対戻ってこないわよ!?」

千砂都「戻ってくるよ、かのんちゃんは私の親友だもん」

メイ「嘘だろ……かのん先輩にも千砂都先輩にもいなくなってほしくねぇよ……」

メイ「始まりの五人が一つでも欠けたら、それはもうLiella!じゃねぇよ……」ポロポロ

理事長「そうならない為に貴女達に集まってもらったのよ」

14: 2024/06/16(日) 16:40:59 ID:???00
きな子「私達そんな大金持ってないっすよ!?」

恋「私は持ってますけどかのんさんの為に使うくらいならSteamでクソゲーを漁ったほうが有意義です」

夏美「老後資金に積み立ててますの……」

理事長「違うわ、渋谷さんがキチンと古伊万里を探しているか見張ってほしいのよ」

すみれ「見張る?」

理事長「私も怒って大人気ない真似をしてしまったから……もし古伊万里を見つけてくることが出来なくても、明日の日暮れまで全力で探し続けたなら許してあげようと思うの」

理事長「渋谷さんと親しい貴女達なら怪しまれずに見張れるでしょう?」

四季「確かに。追跡装置は持ってる」

メイ「こら四季! 前に先輩達の位置情報を勝手にハックするなって言っただろ!?」

四季「ごめん。けど、今はこれが必要だから」

15: 2024/06/16(日) 16:44:23 ID:???00
すみれ「何さらっと怖いことを……まぁいいわ。ええと……」

可可「しゅみれ、かのんはどこにいるデスかー?」

すみれ「……」

『カラオケスーパースター』

すみれ「……!?」

恋「はぁ!?」

理事長「どうですか? 真面目に探していそうですか?」

すみれ「ははははい! 古物商を回っているわね!!」

きな子「全然カラオケなんか行ってないっす!!」

すみれ「きな子!!」

理事長「? それでは頼みましたよ」

恋「はい!」

17: 2024/06/16(日) 16:48:28 ID:???00
恋「……で、どうします?」

夏美「どうするもこうするもないですの! なにカラオケで歌ってるんですのー!?」

すみれ「知らないわよ! 馬鹿だとは思ってたけどここまで馬鹿なんて……!」

すみれ「千砂都なんてキラッキラした目でかのんのこと信じてんのよ!? どう言えばいいのよ!?」

メイ「伝えられるわけないだろ!? 泣いちゃったらどうすんだよ!?」

可可「な、なんとかしてかのんを古伊万里探しに……」

四季「……」ポチポチ

メイ「こんな時になに呑気にスマホ触ってんだよ」

四季「LINE。かのん先輩に」

19: 2024/06/16(日) 16:54:48 ID:???00
かのん「ふふ~~♪ いやー楽しいなー♪」

かのん「ちぃちゃん達も呼んじゃおっかなー? けどそうすると私が歌う時間が……ん?」

かのん「四季ちゃんから?」

四季『コんにちは
   イつもみたいに
   マるがすき
   リえらもだいすき』

かのん「なんだろこれ? やっぱあの子頭おかしいのかな?」

かのん「んん……? なんだか変な感じが……?」

かのん「あーーーーっ!!! 古伊万里!! 忘れてた!!」



四季「かのん先輩は恐らく先頭の文字に気付かない。けれど潜在意識に作用して古伊万里のことを思い出す」

きな子「そんなに上手く行くっすかね」

すみれ「いや、動いてるわ! カラオケを出たみたい!」

四季「手分けしてサポートした方がいい。スマホに全員分の追跡アプリを送っておくから」

恋「ありがとうございます! 私の位置情報は後で消しておいてくださいね!!」

20: 2024/06/16(日) 17:01:11 ID:???00
きなC斑

きな子「かのん先輩はこっちに向かったんすよね?」

夏美「ここは古道具屋がある通りですの!」

夏美「にゃっはー♪ やっぱりかのんさんもちゃんと探す気がありましたの! 信じてましたのー♪」

きな子「そうっすよ! かのんさんはやっぱり良い人っす!」

きな子「前だって東京から北海道までお父さんの忘れ物を届けに来たっすから!」

夏美「あれはちょっと引きましたの」

かのん「はっ……はっ……」タタタッ

夏美「おっ、来ましたの!」

きな子「古物商に入ったっす!」

21: 2024/06/16(日) 17:04:53 ID:???00
かのん「……」ウロウロ

きな子「かのん先輩、ちゃんと見て回ってるっすね」

夏美「ちなみにここって古伊万里ありますの?」

きな子「一応事前に調べておいたっすけど、高い古伊万里はないっすね」

夏美「うーん……安いので妥協する可能性もありますの」

かのん「あのーすいません! ここって100万円くらいの古伊万里の壺って無いですか?」

店主「ないなぁ。最近脱サラして始めたばかりでね。退職金と貯金を注ぎ込んだとはいえまだまだ……」

かのん「ちぇっ! 使えないなぁ!」バンッ

店主「あっ!! 棚が!!」

22: 2024/06/16(日) 17:08:28 ID:???00
パリンッパリンパリンッ

店主「あ……あぁ……必氏に集めた焼き物が……!!」

かのん「早く次の古道具屋に行かなきゃ……」タタタッ

店主「私の貯金が、退職金が……げほっ、おえっ、ぁ……」

店主「ひ、ひひっ……ひひひっ……」ポロポロ

きな子「とんでもないことになってるっすよー!?」

夏美「見なかったことにしますの! 巻き込まれる前に!」

きな子「で、でもあの店主さん泣き笑いしながら失禁して……」

夏美「今はそれどころじゃありませんの! 千砂都先輩の退学がかかってるんだから!」

きな子「そ、それはそうっすけど……」

夏美「見失う前に走りますの!!」タタタッ

きな子「待ってくださいっすCEOー!」タタタッ

店主「……ひひ、ぁ……警察……呼ばなきゃ……」

23: 2024/06/16(日) 17:14:34 ID:???00
きな子「えっと、あれ……追跡アプリではどうなってるっすか?」

夏美「全力で走ってますの! ……あれ? でもこの方向って……」

かのん「ただいまー!」

夏美「……家に帰りましたの? なんで一旦自宅に?」

きな子「……あ! 分かったっすよ! かのんさんはお金がないから、お母さんに話してお金を貰おうとしてるんすよ!」

夏美「きっとそうですの! 怒られると思いますけど、そこは忍耐、我慢ですのー!」

かのん「走ったら汗かいちゃった、シャワー浴びるね」

かのん母「こんな汗だくになって何してたのよ?」

かのん「ちぃちゃんを救う為に走ってたんだよ!」

かのん母「千砂都ちゃんを?」

かのん「うん! ちぃちゃんの為だから必氏になっちゃって……てへへ」

かのん母「よく分からないけど良い子だったわね。シャワー浴びたらご飯にしましょ」

かのん「はーい!」

24: 2024/06/16(日) 17:19:50 ID:???00
きな子「……中々出てこないっすね」

夏美「金額が金額ですの。きっとお父さんとも話して、大説教されてますの……」ブルブル

きな子(けど、かのんさんならきっと説教を乗り越えてまた走り出すはずっす!)

きな子(きな子達を勧誘した時の、あの大好きなものに夢中になれる純真なかのんさんなら……!!)


かのん「それでねー、可可ちゃんが授業中に大きなクシャミをしてね」モグモグ

かのん母「はいはい、食べながら喋らないの」

ありあ「お姉ちゃん、いっつも楽しそうに学校のこと話すよね」

かのん「凄く楽しいよ! ちぃちゃんがいて、可可ちゃんがいて、皆がいて……毎日が楽しくて楽しくて仕方ないくらい!」

25: 2024/06/16(日) 17:24:43 ID:???00
かのん「でも……そんな日々も続かないかもしれないんだ」

かのん母「何かあったの?」

かのん「うん、実は……」


きな子「……」ウツラウツラ

夏美「寝ちゃ駄目ですのー!!」

きな子「……ううん。むにゃ」

夏美「もう、きな子ってばお子様ですの! すぐに寝ちゃって……」

きな子「すぅ……すぅ……」

夏美(……かわいい寝顔ですの。無防備に寝ちゃって、私が男だったら危ないところですの)

夏美(例えばこんな風に顔を近付けられたりして……)

夏美(いい、匂いがしますの……ほんの少し汗ばんでるのに、全然不快な感じがありませんの)

夏美(きな子……)スッ

ええーーーーーっ!!!

夏美「!」ビクッ

きな子「うぉ!? ……どうしたんすか夏美ちゃん、こんな近くで」

夏美「なんでもないですの! それより今の声は!?」

26: 2024/06/16(日) 17:28:10 ID:???00
かのん母「本当なの!?」

かのん「うん……」

ありあ「そんな……お姉ちゃん、信じられない……」

かのん母「まさか……かのんが」

かのん母「留学するなんて……!!」

かのん「ほら、やっぱり私って凄く歌が上手だからさー」

かのん「普通科なのに留学しちゃうなんて、音楽科の子たちにはちょっと悪いかなーとは思うけど♪」

かのん母「よかったわね……一度歌えなくなっても頑張ってきたかいがあったじゃない!」

ありあ「おめでとうお姉ちゃん!! お祝いしようよ!」

かのん「うん! 今日はパーティーだよ!!」

27: 2024/06/16(日) 17:32:24 ID:???00
きな子「zzz」

夏美「zzz」

すみれ『もしもし! ねぇ、かのん家から動いてないわよ!? もしもーし!?』



翌朝

かのん「ふぅ……眠いなぁ」

かのん「昨日走り回ってたから足が痛いや。なんで走り回ってたんだっけ?」

かのん「そうだ! 古伊万里だ!」

かのん(退学になっちゃうちぃちゃんを魔の手から救う為に、邪智暴虐の理事長に古伊万里を渡さなきゃいけないんだ!)

かのん(クソ……理事長め! 理不尽な要求を……!!)

かのん「けど財布の中には……」

25円

かのん「流石に買えないよね、これじゃ。ちぃちゃんのお金使わせてもらお……」

28: 2024/06/16(日) 17:36:16 ID:???00
ククすみ恋斑

きな子『……ということで気付いたら寝てたっす』

夏美『面目ないですの……』

すみれ「別に構わないわよ。交代で一晩中動きを見張ってたけど、かのんもあの後家から出なかったから」

可可「今日にかけて英気を養ったってことデスね」

恋「忘れてただけだと思います。かのんさんはそういうところありますから」

恋「前も一緒に遊ぼうって言ったのを忘れてましたし……」 

すみれ「はいはい。……おっ、動いたわよ」

すみれ「夏美ときな子は外で寝てて身体が痛いでしょ? 家に帰ってもう一回寝ときなさい。こっちで追うから」

きな子『お言葉に甘えさせてもらうっすよ』

すみれ「さて……かのんは何処に向かうのかしら」

30: 2024/06/16(日) 17:39:13 ID:???00
かのん「んー……」

可可「どこ向かってるデスかね?」

恋「古物商なんてこっちにありましたっけ?」

すみれ「ないと思うけど……あっ、コンビニに入ったわよ!」

かのん「……」ピッピッ

すみれ「ATM操作してるわね」

可可「お金を引き出してるみたいデス」

すみれ「古伊万里を買う為の資金かしら? 100万も持ってるなんて意外と節約家じゃない」

恋「いや、多分あれ千砂都さんのお金ですね」

すみれ「はぁ!?」

31: 2024/06/16(日) 17:44:22 ID:???00
恋「音楽科の授業で一緒になった時にチラッと聞いたんですよ」

千砂都『私の銀行カードはかのんちゃんが持ってるんだよ』

千砂都『お金を借りに来る度に私の手を煩わせるのも悪いから、って今は自分でおろしてくれてるの。優しいよね、かのんちゃん』

すみれ「DVでも受けてんの?」

可可「レンレン、その時殴ってでも止めるべきデシタ」

恋「いやもぅ……関わりたくなくて、あの二人の関係」

恋「千砂都さんのバイト代のほとんどをかのんさんがどうでもいいことに使ってるんですよ!? 意味が分からないですもん」

すみれ「実際怖いけど……お、出てきたわね」

かのん「……」ニコニコ

かのんの所持金:48万8025円

32: 2024/06/16(日) 17:48:51 ID:???00
可可「わわっ!? こっち来マス!」

恋「あの……思ったんですけど、かのんさんに伝えて一緒に探すことは出来ないのですか?」

すみれ「無理ったら無理よ! 理事長に言われたのは見張ることだけ! 手助けしたら退学措置だってどうなるか分からないじゃない!」

すみれ「少なくとも千砂都だけは救わなきゃ……!」

恋「確かにそうですね。かのんさんはともかく千砂都さんは我が校に必要な人材です」

可可「ククはかのんも好きデスけど……」

かのん「ふふー♪ 結構入ってたなー♪ 何買おうかなー♪」

すみれ「嘘でしょ」

すみれ「何買おうかなって言ってるわよあいつ。古伊万里ピンポイントじゃなく」

かのん「ちょっとぐらい豪遊してステーキ食べちゃおうかなー♪」

33: 2024/06/16(日) 17:52:33 ID:???00
かのん「……ってイヤイヤ! 気を引き締めなきゃ渋谷かのん!! これはちぃちゃんを助ける為のお金だよ!」

かのん「古伊万里古伊万里……けど歩くのも疲れるんだよね」

かのん「……」チラッ

TAXI

恋「ま、まさかタクシーを乗り回すつもりでは……?」

すみれ「千砂都の金でタクシーに……?」

かのん「ダメダメ! 流石にタクシーはダメだよ!」パシッ

すみれ「ホッ」

かのん「うーん、でも足が……そうだ!」

可可「今度はどこに……サイクルショップ?」

すみれ「自転車使う気!? 追跡装置があるとはいえ追いつけないわよ!?」

34: 2024/06/16(日) 17:57:45 ID:???00
恋「ま、まぁ我々もレンタサイクルでも借りれば問題は……」

かのん「ありがとうございまーす♡」

すみれ「……」

かのん装備
バリヂストン ランカー(ロードバイク) 12万
オシャレサイクルウェア 1万5000円
ヘルメット 8000円
計 14万3000円

所持金34万5025円

すみれ「えっ、買ったの?」

恋「買ってますねあれは」

すみれ「……」パシャ

可可「しゅみれ!?」

すみれ「……あ、もしもし千砂都? 今送ったLINE見た?」

すみれ「あの悪魔、あんたの金でロードバイク買ってたわよ?」

恋「ちょっ!? そんな酷いことを……」

35: 2024/06/16(日) 18:04:05 ID:???00
千砂都『……うっ』

千砂都『うっ、ぐすっ……』

すみれ「ごめんね、泣かせるつもりじゃなかったんだけど。ただもうアレとは縁を切った方がいいって……」

千砂都『ロードバイクに乗ったかのんちゃん尊い……かっこよすぎる……写真見ただけでもう、もう限界すぎるよ』

千砂都『生で見たかったなぁ……うぅ……ひぐっ』

すみれ「ありがとう切るわねバイバイ」プツッ

恋「だから言ったじゃないですか、ヤバいって」

可可「チサトがかのんを見る目は、メイメイがクク達の着替えをチラチラ見てる時よりヤバいデス」

すみれ「あの、提案なんだけど」

すみれ「もうご飯食べて、スポッチャ行って、カラオケ行って帰らない?」

可可「かのんのことはもういいデスかー?」

すみれ「もうなるようになったらいいわよ、あんなの」

恋「スポッチャ? 楽しそうですね!」

すみれ「そうと決まったら早速出発ったら出発よ! ギャラクシー!」

ワイワイキャッキャッ

37: 2024/06/16(日) 18:12:28 ID:???00
四季メイ斑

すみれ『というわけで私達スポッチャ行くから!』プツッ

四季「残るは私達だけ」

メイ「ええっ、私もスポッチャ行きたかったのに!」

メイ「ローラースケートでバランス崩した振りして身体を触りまくれるんだぞ!? いいなぁ! ズルい!!」

メイ「恋先輩は本人の無知さもあってゲーム後のマッサージって名目で全身触れるけど、他の先輩はレアなんだ!」

恋『あっ……んっ、これ、本当にっ、マッサージっ、ですか? なんっ、だか……あんっ♡』

メイ『マッサージだよ? まさか恋先輩はマッサージで気持ちよくなっちゃう破廉恥な人じゃないよな?』

四季「そんなメイも私は好きだよ」

メイ「っつーか、すみれ先輩達の話だとかのん先輩、ロードバイク乗ってんだろ? 無理だろ追いつくの」

メイ「あれ全力で漕いだら40キロくらい出るからな? 原付き並み」

四季「問題ない。此方も移動手段はある」

38: 2024/06/16(日) 18:15:17 ID:???00
メイ「ほー? どこに……」

四季「……」ひょい

ボウン

メイ「……ロードバイクだな」

四季「そう」

メイ「どこから出した?」

四季「秘密」

メイ「一台しかないけど?」

四季「漕ぐのはメイ。荷台はオプションで付けた。私はそっち」

メイ「はぁ!?」



メイ「ぐぬぬぬぬ」ジャコジャコ

四季「次を左、かのん先輩は大手の古物商に向かってる」

39: 2024/06/16(日) 18:20:52 ID:???00
かのん「……」ジャコジャコ

かのん(風を切って走るのって気持ちいいなぁ。普通の自転車とは体勢が違うから最初は慣れなかったけど)

かのん(スピード出して走るのがこんなに気持ちいいなんて……!)

かのん「……っと、ついたついた。ここだよね、『ギャラクシー古物商』」

かのん「ロードバイクは……えっとなんだっけ? 地球ロック? だっけ? で柱にタイヤと真ん中繋いで」

かのん「○ルターロック、のアラームをオンにしてと」

かのん「よーし、古伊万里探すぞー!」

メイ「ぜぇ、ぜぇ……」

四季「着いた。ありがとう」

四季「かのん先輩は中に入ったみたい、先に行ってるから息整えたら来て」

ボウン

メイ(ロードバイクが消えた……四季の科学力は相変わらずわけわかんねぇ……)

40: 2024/06/16(日) 18:32:08 ID:???00
かのん「えーっと……すいません」

古物商「はいはい、どうされました?」

かのん「古伊万里の壺を探してるんですけど、100万円くらいの」

古物商「古伊万里ですね? いいのが揃ってますよ」

古物商「古伊万里以外でも美濃焼信楽焼益子焼なんかも揃えてますんで。最近だと九谷焼なんかもいいのが入ってますね」

かのん「? とりあえず古伊万里を」

古物商(参ったな、間違いなく冷やかしだぞこりゃ)

四季「古伊万里を探すところまではいけた」

メイ「そりゃあるだろこれだけ大きい店なら。後は買えるだけの金を持ってるかだよな」

四季「断言する」

四季「無い」

41: 2024/06/16(日) 18:35:51 ID:???00
古物商「そうですね、この壺でしたら大体100万ほどで」

かのん「じゃあそれ買います!」

古物商「へ!? お、お金はお持ちで?」

かのん「はい、勿論!」

34万4905円

古物商「……」

かのん「?」

古物商「あの、失礼ですが……3分の1ほどしかないように見えますが」

かのん「はい! だから値切ります! これで100万の壺を売ってください!」

メイ「正気か?」

四季「正気じゃないけど本気だとは思う。けど、あの壺……」ピピッ

四季「1800円の価値しかない真っ赤な偽物」

メイ「どっちみち駄目じゃねぇか!!」

42: 2024/06/16(日) 18:41:42 ID:???00
古物商「いや、流石にそれは……!」

かのん「むぅー……!!」

古物商「むくれられても……!」

かのん「お願いします!」ガバッ

かのん「大切な……大切な親友の人生がかかってるんです! どうかお願いします!」

古物商「き、きみ! 頭を上げなさい!」

かのん「お願いします! ……お願いします!!」

四季「……」

メイ「……かのん先輩はさ、多分ずっと真面目にやってきてたんだよ」

メイ「そりゃ私達の目には傲岸不遜で、勝手気ままで、不真面目で、駄目な先輩で、人の心を持ってないようにしか見えないけどさ」

かのん「お願いします! どうか、このお金で!」

メイ「本人はいつだって真剣なんだよ」

43: 2024/06/16(日) 18:46:09 ID:???00
四季「……はぁ」テクテク

メイ「あっ、おい四季!?」

古物商「だから顔を上げ……ん? キミ、この子の知り合いかい?」

かのん「四季ちゃん?」

四季「……」スッ

古物商「?」

四季「……」ボソッ

古物商「……」

古物商「あの、この壺……無料で差し上げますんで」

かのん「えっ!?」

古物商「友を思う気持ちに心を打たれましたんで、無料でいいです……はい……持っていってください」

メイ「何言ったんだお前……?」

四季「出入り業者の女の子との浮気の証拠と粉飾、不正の証拠を警察にリークしようかって」

メイ「私、四季の敵じゃなくて心底ホッとしてるよ」

かのん「ありがとうございます! 四季ちゃん、メイちゃんもありがとう!!」

メイ「気を付けて帰ってくれよ、かのん先輩!」

四季「急いで。日暮れまでに着かなきゃ意味がない」

かのん「うん!!」

44: 2024/06/16(日) 18:50:24 ID:???00
かのん「よし……壺をくくりつけてと」

かのん「行くぞー!」ジャコジャコ

かのん(待っててね、ちぃちゃん! 絶対に間に合うから……絶対に、ちぃちゃんを退学になんてさせないから!!)

千砂都『うぃっすー!』

かのん(ちぃちゃん……)

千砂都『かのんちゃんが夢中になれるものを見つけたように、私も夢中になれるものを見つけてみるよ!』

かのん(ちぃちゃんっ……)

千砂都『待ってかのんちゃん! それ私の学費なの、それ持っていかれると……パチOコしたいのは分かるけどそれだけは許して! ぐげっ』ドゴッ

かのん(ちぃちゃん!!)

かのん「はぁ……はぁ……」

かのん(日が暮れてきてる……でも大丈夫! この調子なら間に合う!!)

かのん(間に合──)

キキーッ!!!

45: 2024/06/16(日) 18:55:07 ID:???00
かのん「……」トボトボ

ドライバー『ご、ごめん! 怪我はないかい!』

かのん『は、はい。少し転んだだけで……あっ!』

かのん(壺、割れちゃった……)

かのん(ロードバイクも曲がっちゃってまともに走れない……)

かのん「うっ……ううっ……」

かのん(ごめんねちぃちゃん……私、やっぱりダメダメだ)

かのん(壺もないし駄目かもしれないけど、もう一度理事長に謝ってみよう。せめてちぃちゃんの退学だけは阻止しなきゃ)

かのん(全部……全部全部全部全部、私が悪いんだから)

かのん(本当は分かってるんだよ。悪いのは私だけなんだって、みんなは巻き込まれて迷惑してるんだって)

かのん「……ごめん、ちぃちゃん……っ!」ポロポロ

「あの……ちょっとよろしいかの?」

かのん「は、はい?」ゴシゴシ

「結ヶ丘女子というのはどちらにいけばいいんですかの?」

47: 2024/06/16(日) 18:59:15 ID:???00
理事長「……日暮れです。結局渋谷さんは戻ってきませんでしたね」

メイ「そんな!? 確かに壺を手に入れて向かってたんだぞ!?」

四季「不可解」

夏美「まさか事故にあったんじゃ……? いやですの……」

理事長「約束は約束です。渋谷さんは間に合わなかった……ほんの一瞬でも他人を許し、人を信じようとした私がバカでしたね」

理事長「嵐千砂都さん、あなたは望んで人質になりました。その意味が分かりますね」

千砂都「……はい。分かっています」

きな子「ま、まさか理事長!? 本当に!?」

理事長「嵐さん、あなたを退学処分に──」


「待ったー!!」

48: 2024/06/16(日) 19:03:02 ID:???00
かのん「はぁ……はぁ……」

メイ「かのん先輩!」

千砂都「かのんちゃん……戻ってきてくれたんだね……」ポロポロ

理事長「僅かに遅かったですね、もう日は沈みましたよ」

理事長「それに壺も持ってはいないようですが……」

かのん「っ……」

かのん「ちぃちゃん、私を殴って」

千砂都「えぇ!?」

かのん「帰り道に壺を割って、移動手段も無くして、私は一瞬ここに来ることを諦めかけた」

かのん「殴ってもらわなきゃちぃちゃんと対等な友人でいることはできない」

49: 2024/06/16(日) 19:07:26 ID:???00
千砂都「……」グッ

バァンッ

夏美「ひええ……」

きな子「痛そうっす……!」

かのん「……ありがとう、ちぃちゃん」

千砂都「かのんちゃん、私のことも殴って」

千砂都「私も一瞬、かのんちゃんが帰ってこなかったらどうしようって思っちゃった」

千砂都「このままじゃ私も、対等な友人にはなれないよ」

かのん「っ……うん!」グッ

バキィッ

千砂都「う……かのんちゃん、かのんちゃんが帰ってきてくれて……嬉しいよぉ!!」ギュッ

かのん「ありがとう、ありがとうねちぃちゃん……!!」ギュッ

理事長「なっ……で、では百歩譲って帰ってきたことにしましょう。しかし壺は……?」

「もういいじゃないですか、理事長さんや」

50: 2024/06/16(日) 19:13:48 ID:???00
理事長「はい? ……あ、あなたは!?」

出資者「確かにあの古伊万里は見事だったかもしれませんよ、しかしですねえ」

理事長「出資者の金有様……」

かのん「えっ……このお爺さんが出資者なの!?」

かのん(確かに出資者が見に来るとか言ってたけど……)

出資者「ここに来るまでに、渋谷さんから事のあらましは聞きましたよ。素晴らしいではありませんか」

出資者「私は古伊万里よりも、彼女達の美しい友情の方が何倍も、何十倍も価値あるものだと思うのです」

理事長「しかし……」

出資者「それでも納得がいかない、というものはあるでしょう。ですので、これを」ファサッ

理事長「これは……古伊万里の壺!?」

出資者「自慢しようと持ってきたものですがね、渋谷さんに差し上げますよ。これをあなたが受け取れば、何の問題もありません」

かのん「あ……ありがとうございます!」

理事長「っ……そう、かもしれませんね」

51: 2024/06/16(日) 19:18:43 ID:???00
理事長「確かに私は……心のどこかでずっと澁谷さんのことを疑っていました」

理事長「どうせ来ないのだろうとタカをくくり、彼女達の友情さえも鼻でせせら笑っていました」

理事長「しかし……こうして無事帰ってきて、お互いを殴り、抱き合う姿を見て私は恥ずかしくなったのです」

理事長「音楽科だ、普通科だに拘りこんなに素晴らしい生徒を退学処分にしようとした自分のことが……」

理事長「澁谷さん、嵐さん。退学は取り消しよ、私も仲間に入れてはくれないかしら」

かのん「勿論です!」ギュッ

夏美「美しい光景ですの……」ポロポロ

きな子「うっ、うっ。いい話っす……」

四季「この感情は、何。これが、涙──」スーッ

メイ「いいなぁ。私も入りたいな」

52: 2024/06/16(日) 19:26:15 ID:???00
かのん「ありがとう! みんなありがとう!」

かのん「私、ウィーンに留学しても、きっと皆の事は忘れないから……!!」

かのん(最高の親友として──)

 その時、一人の警官が現れて黒の手錠をかのんに捧げた。かのんは、まごついた。佳き友は気をきかせて教えてやった。

千砂都「そういえばかのんちゃんが最初に入ったっぽい古物商、あの後警察に電話してたみたいで事情聴取に来てたよ。この警官さんは良い雰囲気でかのんちゃんをなかなか逮捕出来ないのがたまらなく口惜しいみたいだね」

警官「器物破損の疑いで逮捕する!!」

理事長「流石に逮捕されたら退学させるしかないわね……」

かのん「逮捕!? 退学!? 綺麗に終わるところだったのに……」

かのん「あんまりだー!!」

 かのんは、酷く赤面した。

     (古伝説と、シルレルの詩から。)



53: 2024/06/16(日) 19:30:03 ID:???00
かのんの名字は渋谷じゃなく澁谷です
脳氏変換してたごめん
恋ちゃん好き

57: 2024/06/16(日) 20:47:35 ID:heSNCpFA00
イイハナシダナー

引用: かのん「ちぃちゃんと私は親友だから!」