1: 2009/02/14(土) 04:44:15.43 ID:dU1ETi+X0
~はじめに~

この読みものは拙作「水銀燈の今宵もアンニュ~イ」と同じ設定を使い回しています。

温泉編終了後の話ですが知らなくても普通に読めます。

今回は視点がころころ変わります、わりと短いですが最後までお付き合いいただけたら幸いです

シリーズ



水銀燈のアンニュ~イな一日

水銀燈の今宵もアンニュ~イvol4

水銀燈の今宵もアンニュ~イvol5

水銀鐙の今宵もアンニュ~イvol6

水銀燈のアンニュ~イな一日:温泉編

興味の出た方はどうぞごらん下さっていただけると幸いです
人形師
#誤字脱字がやたら多いのは仕様です。

3: 2009/02/14(土) 04:48:16.93 ID:dU1ETi+X0
2/13 23:56
Fragment Mercury Lampe

柄にも無く緊張している。

この時間まだ彼が起きているのは調査済みだ。ここはnのフィールド、出口は彼のPC画面

―――彼・・・桜田ジュン。真紅達のミーディアム。

そして未来のマエストロ

「一番乗りはやっぱり私であるべきよねぇ」

そう思っての待機。明日は―――いや、もう数分後にはバレンタイン

くだらない風習。

けれども―――

「悪くないわねぇ」

手には紙袋。

今日の昼過ぎに料理番組スタジオを占拠して作り上げたものだ。

最初のうちは湯栓を知らなく焦がしたり妙な形になったりしたけど・・・

男性スタッフが我先にと奪い合うようにして貪り食べたので無駄にはなっていないから良しとする。

6: 2009/02/14(土) 04:52:22.19 ID:dU1ETi+X0
ピピッ

アラームが日付が変わった事を知らせる。

「さあ、いくわよぉ」

一人ごちて勢いよくnのフィールドから飛び出す

「ん?・・・うわあああっ!?・・・・・・って水銀燈!?」

「はぁい、こんばんわぁ」

今回は羽根を撒き散らさず普通に降り立つ。

ジュンは椅子ごと下がって降り立つスペースを作ってくれる。

つまんなぁい。

「・・・あんまり驚いていないわね?」

「十分驚いてるよ!まったく、一体何の用だよ?」

「毎日遅くまで勉強に励んでいるあなたにご褒美をもって来たのよ」

そう言って紙袋をかかげる。

―――いらえはない。

7: 2009/02/14(土) 04:56:47.75 ID:dU1ETi+X0
「?・・・ちょ。ちょっとぉ?どうしたのよぉ?」

さすがに反応がないのは予想していなかった、何かまずい事でもあったのだろうか?

「あ、ごめんごめん、いや、ちょっと予想外というかなんで?というかだったから・・・ありがとな、水銀燈」

「・・・あなたって時々凄い失礼よね・・・・まあ、まだ年若いし大目に見てあげるわぁ・・・。それよりも食べて御覧なさい?」

「食べる・・・?食べ物なのか、これ?」

・・・呆れた・・・今日渡すものと言ったらチョコレート以外の選択肢なんかないだろうに・・・

「お・・・お馬鹿さぁん!今日渡すものと言ったらチョコレートでしょう?」

「え?・・・あ、今日バレンタインか・・・え・・・ええっ!?チョコレート!?お前が僕にっ!?」

これだから引きこもりは・・・

日付の感覚がなくなっていたみたいねぇ。

それはそれとしてこのまま騒がれていては真紅達が起きてしまうので黙らせる事にする。

邪魔されたくないしね。

「落ち着きなさい」

おでこに向かって軽いジャブ

「あいてっ!?」

9: 2009/02/14(土) 05:01:08.67 ID:dU1ETi+X0
「それから私はお前でなく水銀燈、何度も言うけどちゃんと名前で呼びなさぁい?」

「う、悪い、言われてから意識はしてるんだけど驚いたりするとつい・・・って、でも、おま・・・じゃなくて水銀燈だって僕の事あなたっていうじゃないか」

「あら、淑女が殿方に呼びかけるときはかまわないのよぉ?それに名前で呼ぶときもあるでしょう?」

それに―――私が有象無象を呼ぶときはあなたじゃなくてアンタなのよねぇ・・・

―――わざわざ教えてはやらないが。

「それじゃあ・・・いただきます。」

「どうぞ、おあがりなさい」

ジュンが口元に運ぶのをじっと見つめる・・・

「ん・・・苦っ!?・・・ビターチョコか・・・なんだっけこれ・・・トリュフ?それにしても苦いぞ、これ」

「あら、そんなに苦いかしらぁ?」

くすくすと笑いながらしかめっ面のジュンに問いかける。

袋の上の方のはブラック&ブラックだ、相当苦いに違いない。

「驚くほど苦い。正直嫌がらせかとおもったぞ」

「・・・ごめんなさぁい・・・せっかくだから手作りしてみたのだけれど・・・」

俯いてしょんぼりする・・・フリ・・・

11: 2009/02/14(土) 05:06:32.16 ID:dU1ETi+X0
「あ、いや、これはこれでうまいよ、ほら甘いと思って食べたから、びっくりしただけで」

すぐフォローが入る

人の気持ちを決して無下にしない・・・男として最低限の気配りだが出来ない男の多い事多い事

この少年はちゃんと持っている。

「甘い方が好みだったかしら?」

「まあ、どっちかというと。だけどこれもちゃんと食べるぞ」

もう言ってもう一つつまんで口にする、一瞬眉をしかめるが何事もなかったように咀嚼し飲み込む

「ふふ、じゃあ、甘くしてあげるわぁ」

紙袋に手を入れて下の方から一つ引っ張り出す。

見た目はさほど変わらないが実は微妙に色が薄い。

「今から魔法をかけるわよぉ」

「魔法?」

12: 2009/02/14(土) 05:11:32.14 ID:dU1ETi+X0
「そ、あなたが私を・・・私を・・・」

続きが出ない・・・さすがにメルヘンチックすぎて私のキャラではない

「私の事を想っていてくれる分だけ甘くなるわぁ」

言い替えた、本来は「愛してくれている分だけ」だが、さすがにそれは気恥ずかしい。

・・・めぐならさらりと言うのだろうけど、私には無理

「なっ・・・なんだよそれ」

これでも大分効いているようだけど・・・

取り出したチョコレートを口元に持って行って「ちゅっ」と音を立てて口付ける

そして・・・

「はい、ジュンあーん。甘いわよぉ」

「なっ!?」

激しく動揺するジュン、・・・私だって実はもういっぱいいっぱいなのだけれど―――

「ほおら、ジュン。あーんしなさい」

「あーん、って、いいよ、自分で食べるから!」

「だめよぉ、こうやって食べないと甘くならないのよぉ」

14: 2009/02/14(土) 05:17:07.51 ID:dU1ETi+X0
しばし無言で見詰め合う・・・めぐのよくやるちょっと物寂しげな雰囲気で見つめる。

「・・・あーん」

勝った!

心の中でガッツポーズ・・・・・・テンションがおかしい

やはり自分もかなりキてるのだろう

「はい、ジュン」

指先で口に押し込む、唇に指先を軽く触れさせてクスリと笑い問いかける

「お味はどう?」

「甘い・・・」

呆然とつぶやく。

呆然としてるのは味のせいだけじゃないのでしょうけど。

「あら、それほどまでに私を想っていてくれるなんて光栄だわ」

そしてとっておきの笑み、個人的には垂れ目気味になるので好きではないのだけれど・・・

めぐが我を忘れてとびかかってくるぐらいには可愛いらしい。

16: 2009/02/14(土) 05:23:31.84 ID:dU1ETi+X0
「うあ・・・そ・・・そうかな・・・?」

「はい、もう一つ・・・あーん」

「う・・・あーん」

今度は素直に口を開く

指先で口腔内まで押し込んで・・・舌先に指が触れる

「私の指も甘いわよぉ?」

「!」

あわてて離れるジュン。真っ赤になっているが多少冷静さを取り戻したようだ

たたみかけすぎたわぁ・・・

甘いチョコは3つ。後一つネタバレしないように処理しなければならない

だけど、この状況ではもうあーんは無理だろうから・・・

「はむっ・・・ジュン、あまーいキスはどうかしら?」

自分で口に入れて証拠を隠滅、ついでにもう一回揺さぶっておく。

「え・・・ん・・・いやいやいや、ダメだってば!」

18: 2009/02/14(土) 05:29:47.03 ID:dU1ETi+X0
!?

迷った?それとも呆けていた?

迷ったのなら少し・・・嬉しいわね。

「そう、ざんねぇん」

そう言って窓をあける。

月が綺麗だ。

「行くのか?」

「あまりあなたの邪魔しては悪いしね・・・夢をかなえるための努力はどんなに泥臭くても美しいものよ、頑張りなさい」

「ありがとな、水銀燈」

「ふふっ、今日はいい日になりそうね、ジュン」

19: 2009/02/14(土) 05:34:37.47 ID:dU1ETi+X0
翼を広げて夜空に飛び立つ。

冷たい夜の空気が気持ちいい、nのフィールド経由にしなかったのはほてった心身を冷やすため。

今日ジュンはいくつチョコをもらうのかしらね・・・

何はともあれ一番乗りだし、想像以上に効果的だったみたいだし・・・

「こうかはばつぐんだ!かしらね」

一時期やりこんでいたゲームの言葉がしっくり来る。

槐堂に寄ろうかとも思ったが、どうせめぐのことだから起きて待ち受けているのだろう。

めぐがやきもちやかない程度にはいまのやり取りを面白おかしく話すのもいいだろうとおもう。

さあ、病院に帰ろう。

21: 2009/02/14(土) 05:39:57.87 ID:dU1ETi+X0
2/14 06:52

Fragment Jade Stern

「あなたも私も 今を抱きしめてだいじなことを探しましょうよですぅ~♪」

ふふん、やはりこの翠星石がこういったイベントではちょっとばかり有利ですね。

お気に入りの歌を口ずさみながら湯煎したチョコレートを手早く型へ。

チョコケーキの粉も混ぜておく。

「それはLove? それはfriend?どっちも欲しいですぅ♪」

義理チョコとかいう風習もある事ですし、みんなに配る分もちゃんと作るのが才色兼備で気配りも出来る翠星石のいいところですぅ

ついでにあまったチョコは焼いたクッキー浸してお茶受けにでもするですかねぇ・・・

あとは・・・

ちらりと大きい型を見る。

巨大なハート型。

いの一番に流し込んだのでもう少しで固まりそうだ。

23: 2009/02/14(土) 05:47:24.97 ID:dU1ETi+X0
「あら、翠星石ちゃん早起きねぇ、バレンタイン?」

起きてきたのりが声をかけてくる。

「あ、のり、すってです、今日は朝ご飯手伝えねーですよ、あ、チョコレートいちおーのりのぶんもあるですよ」

すでに出来ていた分をちょちょいとまとめて小さいかごに。リボンをかけてのりに渡してやる

「ありがと、翠星石ちゃん、お手伝いは気にしないで。どうせ今日は学校休みだしゆっくり作るわ、簡単でいい?」

「正直むせ返るチョコの臭いであんまり食欲ねーですよ・・・ってのり!チョコクリスピーは最悪のチョイスだとおもうですぅ!」

牛乳とチョコクリスピーを準備しているのりをあわてて止める

・・・時々ネタか本気でボケてるかわかんねー行動するからのりは侮れないです・・・

「あら、せっかくバレンタインだしいいかなっておもったのだけど・・・?」

「せめてシリアルにしやがれですぅ・・・」

ぶつぶついいながらも手は止めない。

こっちはみんなに配るように混ぜて焼くだけの簡単なチョコケーキ・・・といってもさすがに数を作るのは大変ですけど。

小さい一口チョコも量産。

ちいと手が疲れてきたですね・・・もう一踏ん張りですぅ。

24: 2009/02/14(土) 05:53:01.37 ID:dU1ETi+X0
オーブンにケーキをぶち込んで型にいれたチョコの固まり具合をチェック・・・いい感じですぅ

「あら、大きなハート型、翠星石ちゃん、これ誰にあげるの?・・・ジュン君?」

「バババババ馬鹿言うんじゃねーですのり!これは・・・その・・・そう、お父様の分ですよ!日本には陰膳という風習があるらしいですからそれですぅ!」

「あら?そうなの?ジュン君よろこぶと思うんだけどなぁ」

「チビ人間が喜ぶとか、翠星石には関係ねー事ですぅ!」

うう・・・またやっちまったです・・・別におっきいチョコぐらい普通にあげたってかまわねーとおもうんですが・・・

バレンタインは女性から男性にチョコレートをあげるっていうのがこの国の風習みてーですから・・・男性はチビ人間しかいねーですし・・・

それに好きか嫌いかで言ったら・・・まあ、わりと好きなんじゃねーかって翠星石は思うですよ。

恥ずかしくていえねーですけど。

25: 2009/02/14(土) 05:58:38.48 ID:dU1ETi+X0
「文字はやっぱりお父様ラブですかねえ・・・書きにくいからLOVEだけで妥協するですかねぇ・・・」

のりに聞こえるように独り言。

いや、聞かせるのだから一人芝居と言うべきですかね・・・

文字を書く作業・・・

温めて柔らかくしたホワイトチョコでLOVE・・・上手に書いてはダメです・・・見た目にゆがんだぐらいで・・・

ん、いい具合に汚くなったです、これなら・・・

「あーっ!もう!失敗したですぅ!!見るですのり、せっかくのチョコレートなのに字が歪んだですよ!」

「あらあら、本当ねえ、でもこれぐらいなら大丈夫じゃないかしら?ちゃんとラブってよめるわよ?」

「駄目ですぅ、お父様は完璧な少女を求めてるです、こんな完璧じゃないのを供える訳にはいかねーですよ」

なるたけ困った顔をのりにみせる・・・心の中で10秒数えてからしょうがないという風に切り出す。

「しかたねーですから、これはチビ人間にでもくれてやる事にするです、べ、別に翠星石は誰にやってもいいんですけど、のりには今あげたですし・・・」

「ふふっ、ジュン君きっと喜ぶわよ」

「べべべべべつに喜んでもらおうとかおもってねーですぅ!失敗作の処分で、いわば廃棄物の処理ですぅ!」

あまり上手くいかなかったですけど・・・一応の大義名分はこれで立ったです・・・

26: 2009/02/14(土) 06:03:03.83 ID:dU1ETi+X0
っと、オーブンが呼んでるです、チョコケーキは取り出してすぐは切れねーですから・・・

「その間にラッピングするとするですかね・・・」

小さいかごに料理用シートを引いてチョコの粒を数個、チョコクッキーを2枚づつ。チョコケーキの入るスペースは空けて・・・

「もうぶった切っていーですかねえ・・・」

ケーキナイフでさくさくと・・・小さめに切って盛り付ける。

かごごとビニールで包んで上をねじってリボンで止めて・・・

「完成ですぅ・・・ん、こっちの失敗作・・・むき出しで渡すのは翠星石のセンスにかけて許せねーですねぇ」

ちらとのりを窺う

「そうね、翠星石ちゃんの思う様にすればいいと思うわ」

免罪符を貰った罪人のように。

後にのりはそういってくれやがったです。

ラブチョコも用意しておいた箱に入れてリボンをかけて・・・

メッセージカードは・・・「勘違いするなですぅ」・・・もう少し字の勉強すればよかったですね・・・

28: 2009/02/14(土) 06:09:23.11 ID:dU1ETi+X0
これが翠星石には精一杯ですぅ・・・はふぅ・・・

しかし・・・もう8時前だと言うのにまだ起きてきやがらねーです。

毎晩遅くまで勉強とかしてるみてーですけど・・・はやくしねーとチビチビとか真紅とガチあうじゃねーですか・・・

・・・階段を下りる足音・・・?

ジュンですかね・・・

廊下に出て窺うとちょうどジュンがトイレに入るところだった。

キッチンに戻ってチョコを持って廊下で待ち構える。

さすがにトイレ出た直後にはイヤですから・・・洗面所の後ぐらいですかね・・・

トイレから出てきたジュンが手と顔を洗って洗面所から出てきたのを見計らって声をかける

「やい!チビ人間!」

「ん?ああ、翠星石か、おはよう」

「おはようです・・・じゃなくて・・・リアクション薄いですよ?」

「まだ眠いんだよ・・・なんか用か?」

「調子狂うですねえ・・・お父様に供える予定だったのですが失敗したんでチビ人間にくれてやるですぅ」

30: 2009/02/14(土) 06:22:10.90 ID:dU1ETi+X0
なるべく平静にかるく手渡す。

うう、ドキドキもんですぅ・・・

「チョコレートか?ありがとな」

「べ、べつにてめえの為に作ったんじゃねえです、失敗したけど捨てるのもったいねえですからくれてやっただけです!」

あふれる毒舌、止まらない勢い。

うう、こんなこと言うつもりじゃねえですのに・・・

ふつーにバレンタインだからくれてやるですぅ・・・で十分ですのに・・・

「そうか、でもありがとな」

ぽんぽんと頭をかるく叩かれる。

時々ジュンはずるいですぅ・・・泣きたくなるぐらい優しくしてくるですから・・・

31: 2009/02/14(土) 06:28:09.26 ID:dU1ETi+X0
「やい!チビ人間!!」

「なんだよ、まだ何かあるのか?」

「来年はお前のためにも作ってやるですよ!」

「来年まで居座るつもりかよ・・・」

そう言いながらもジュンの目は優しい。

「だから、た、たまには翠星石の機嫌を取るといい事があるかもしれないですぅ、抱っことか髪のセットとか!」

言うだけ言ってリビングに引っ込む。ジュンは基本的に昼ごろまでは部屋にこもる。

「わかったよ、たまにな」

階段を上るジュンがそう言ったような気がしたですぅ・・・

さあ、とりあえずキッチンを片付けることにするですか!

ニヤニヤこっちみてるのりはガン無視ですぅ!

33: 2009/02/14(土) 06:31:15.21 ID:dU1ETi+X0
2/14 09:44

Fragment Kanarienvogel

「ふんふんふーん」

すらすらとメッセージカードを書き連ねて行く。

市販のチョコレートに添えるだけで手作り並に好感度アップ!

「楽してズルして好感度アップかしら~♪」

知り合いはほとんど女性なのでお歳暮とかそんな感じで配る。

「えっと、これが水銀燈で、翠星石、蒼星石、真紅、雛苺、薔薇水晶と雪華綺晶、めぐめぐに・・・いちおう雛苺の・・・トモエだったかしら?も・・・」

でもよく知らない人だし何書こうかしら?

とりあえず当たり障りの無い言葉でも書いておく。

34: 2009/02/14(土) 06:34:57.63 ID:dU1ETi+X0
「うーん、そしてジュンの分は・・・」

みっちゃんが忙しいときなどよく桜田家に預けられるのでジュンは知らない人間では無い・・・

だけども正直何かメッセージを書くとなると・・・

「特に書く事とか無いかしら~・・・なんでなのかしらねぇ」

多少気難しいが別にこれと言って悪し様に言うほど酷くはなく、時折優しく、気配りも出来るが。全く我関せずの時もあったり・・・

「普通?ではないし・・・」

そう、普通などでは無い。

少なくとも普通の人間はあんなにも真紅を、翠星石を、雛苺を・・・・・・そして水銀燈さえも・・・

―――惹きつけない。

「カナはお父様みたいな包容力のある素敵な男性が好みなのだけれど・・・」

そんな自分からしても時々心引かれる瞬間が無いとは言い難い。

たまーに、ドールとかに対する態度がお父様とダブる気がするのよねぇ・・・

「罪な男、語感が悪いかしら・・・」

そもそもメッセージカードに書く言葉では無い。

的ははずして無いと思うんだけど・・・単なる嫌味になっちゃうかしら・・・

37: 2009/02/14(土) 06:41:45.34 ID:dU1ETi+X0
「むー・・・」

がじがじとペンの尻をかじりながら悩む。

あたりさわりがなく、それでいて印象に残る・・・

そんな文章考えられるならコピーライターでもやるかしらーっ!

心の中で叫んで少々落ち着く。

「お歳暮みたいに今年もよろしくとかでいいのかなと思うんだけど・・・」

いわゆる義理チョコだし、うかつな事を書いて姉妹を敵に回したくはないし・・・

それでも一石を投じるぐらいには波風立てたいという悪戯心もある。

・・・・・・

38: 2009/02/14(土) 06:45:57.53 ID:dU1ETi+X0
悩んだ末にこう書く。

「みっちゃんと 姉妹の次に 好きかしら」

575で綺麗にまとまっているし、姉妹の次と書く事によってある程度のネタ感がでてる・・・と思う。

「まあ、義理チョコだし、これぐらいでいいのかしらね」

綺麗に包装してメッセージカードを添えて・・・

「先に槐堂まわってくるかしら・・・、あ、槐の分ないかしら!・・・・・・まあ、いらないわよね」

そうひとりごちてnのフィールドへ

みっちゃんの分はテーブルに・・・そういえばみっちゃんどこにいったのかしら・・・?

39: 2009/02/14(土) 06:49:13.24 ID:dU1ETi+X0
2/14 10:19

Fragment Kleine Beere



「ねえねえ、のり、もういい?もういい?」

湯煎されたチョコの前でフルーツを片手に待機

うにゅー、やっぱり苺が最初なのよ、ヒナの名前のチョコレートをジュンに食べてもらうの。

「そうね、もういいかしらね、熱いから気をつけてね」

「うぃ、大丈夫なのよ。んしょ、まずは苺なのーっ!」

串に刺した苺を溶けたチョコに、満遍なくコーティングされたら、作業台に刺して固まるまで休ませておく

「んと、次は・・・また苺なのーっ!」

串に刺した苺を溶けたチョコに、満遍なくコーティングされたら、作業台に刺して固まるまで休ませておく

「いい感じなの、そしたら・・・苺なのーっ!」

串に刺した苺を溶けたチョコに、満遍なくコーティングされたら、作業台に刺して固まるまで休ませておく

「次は・・・やっぱり苺なのーっ!」

串に刺した苺を溶けたチョコに、満遍なくコーティングされたら、作業台に刺して固まるまで休ませておく

42: 2009/02/14(土) 06:53:16.08 ID:dU1ETi+X0
「そして、極めつけにいち・・・」

「ちょ、ちょっとヒナちゃん?」

「ほえ?どしたののり?」

「バナナとかマシュマロとかスポンジとかは使わないの?」

「あや?・・・ヒナすっかり忘れてたの!ジュンにヒナたべてもらいたかったから!」

「ヒナちゃん、言いたい事はわかるけど不穏な言動よ・・・」

「うにゅ?」

とりあえず手にしたのだからとまた苺をコーティング。

さすがに次は苺以外・・・フルーツつながりでバナナ。

半分にカット(のりがしてくれた)したバナナに串を刺して・・・

「むー、綺麗につかないの」

上手く満遍なくチョコがつかない

「バナナは大きめだから結構難しいのよね・・・ヒナちゃん私がやろうか?」

のりの申し出。

43: 2009/02/14(土) 06:58:01.45 ID:dU1ETi+X0
「ノン!ヒナが一人でやるの!ジュンにヒナ頑張ったねって褒めてもらうの!」

「あらあら・・それなら、いっそのこともっと細かくきっちゃおうか?小さければ簡単なのよ」

「うにゅー・・・ならそうしてもらうの」

刃物はのりは使わせてくれない。

火も一人だとあまりいい顔はされない

ヒナが一番小さいから・・・?

だけどこのままじゃ終わらないのよ。ヒナだってちゃんとがくしゅーしてせいちょーしてるんだから。

とりあえず刃物解禁が今の目標。

そうすればジュンに何か作ってあげる事だって出来るの。

「はい、どうぞ」

「ありがとなの」

今度は綺麗にチョコレートがつく。

作業台に刺して固まるまで休ませておく。

46: 2009/02/14(土) 07:01:49.54 ID:dU1ETi+X0
そういえばと思いたってのりに問いかける

「あれ?そういえばのりはチョコレートしないの?」

「作らないのっていみかしら?うーんとね、前はそうしてたんだけど・・・」

「今日はしないの?」

「そうね、みんながジュン君にあげるから私は別にいいかなって」

「ノン!それはダメなのよ!うーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・のりもいっしょに作るの!」

「え?ヒナちゃん一人でやるって・・・」

「本当はそうしたいのよ、でももうのりに手伝ってもらってるし、ジュンだってのりのチョコレート欲しいと思うの!」

「ジュン君はいつもいらないって言ってるし、そんな事無いわよ」

「のり!今日は何の日?」

「バレンタイン・・・よねえ」

「じゃあ、何をあげる日?」

「・・・チョコレート?」

47: 2009/02/14(土) 07:04:31.68 ID:dU1ETi+X0
「ノン!今日あげるのは気持ちなのよ!優しい気持ちだったり、恋心だったり、のりはジュンに気持ちあげないの?」

ややあってのりがいらえを返す。

「ヒナちゃん、私にも手伝わせてくれないかな?」

「うぃ!当然なの!のりはマシュマロとスポンジ頼むの!ヒナは苺をやるから!」

「だからヒナちゃん、苺ばっかり・・・」

「いいの!これはヒナの気持ちなのよ、のりの気持ちは?」

「そっかぁ、じゃあ、私はふっかふかのマシュマロなきもちかなぁ」

わいわいと二人で作る

ぴんぽーん

「たのもーかしらーっ!」

「うにゅ?カナリアなの?カナリアーっ!こっちきてカナリアもてつだうの!」

え?なになにどうしたのかしら?

そう言いながらキッチンに金糸雀が入ってくる

48: 2009/02/14(土) 07:10:35.22 ID:dU1ETi+X0
「バレンタインなの!ジュンにあげる分カナリアも手伝うの!」

「あ、チョコレート・・・私はもう買ってきたかしら、はい雛苺とのりさんにも」

「ありがとなの、でもこれは気持ちなのよ、だからカナリアも手伝うの、とりあえずカナリアの気持ちを食材で表現するの」

「食材でって・・・」

「ありがとうカナちゃん。で、どれがいい?あるものならなんでもいいわよ」

「ヒナは苺なのーっ!」

「私はマシュマロ」

「むむむ・・・じゃあカナは・・・玉子焼きに挑戦して見るかしら!」

「斬新なの、でもおいしいかも」

「卵って以外にあいそうな気がするわ・・・試してみましょうか・・・」

「カナが焼くのよ!みっちゃん直伝のあまぁいやつかしら!」

―――――――――

49: 2009/02/14(土) 07:14:08.25 ID:dU1ETi+X0
「ちょ・・・ちょっと作りすぎたかしら・・・」

「ハンペンとチョコレートがこんなにおいしいとはびっくりなの」

「うどんとか正気の沙汰とは思えなかったけどいがいに食べられるものね・・・」

キッチンには大量の試作品。

美味しいものもあればとても食べられないものまでさまざま

玉子焼きが想像以上に美味しかったためエスカレートしすぎた結果だ

「楽しかったのー」

「ああ、夕飯の買い物しなくっちゃ・・・」

「だれも止めなかったのが敗因かしら・・・」

階段を下りる音

「ねーちゃん、なんか食べるもの・・・うわなんだこの有様!?」

50: 2009/02/14(土) 07:16:51.65 ID:dU1ETi+X0
「ごらんの有様なのー」

「えっとチョコレート・・・あ、ねえねえ、ジュン君おねーちゃんからチョコ貰ったら嬉しい?」

「え、・・・そりゃあ、まあ、普通に・・・」

「普通に嬉しいってジュンはいっているかしら」

「勝手に代弁するなよな、まあ、そんな感じだけどさ・・・」

「ジュン君・・・」

「うわっ!?ねーちゃんいきなり抱きつくなっ!息が・・・うぷっ!」

「ジュン登りーっ!ほらカナリアも!」

「じゃ、じゃあ失礼して・・・肩にでも乗らせてもらうかしら・・・あ、これチョコレート」

「あふぃがほぉ・・・ぷはっ!ありがとな」

「のりとヒナとカナリアで作ったのもこっちにあるのよ、食べて食べてーっ!」

「ん、まあ、飯の代わりに・・・もらうかな。ありがとな雛苺、金糸雀・・・ねーちゃんも」

「ジュンくぅぅぅぅん!」

「だから抱きつくなって、こらっ!お前たちものぼるなっ!」

51: 2009/02/14(土) 07:20:52.77 ID:dU1ETi+X0
2/14 14:11

Fragment Lapislazuri Stern

ど・・・どうしよう・・・

チョコレートを手にしたまま僕は途方にくれていた。

見た目は普通のビックサイズ板チョコ・・・

翠星石や真紅に気兼ねして・・・と言うわけではないのだけれど・・・見た感じ相当地味だ。

だが実はかなりお高いチョコレートをとかしてわざわざこの形にして包装し直したもの

水銀燈のラジオで結構まとまったお金が入ったのもこの暴挙に弾みをつけた

「一時間ぐらいで4万とか入ってるもんなぁ・・・」

市販ので済ませるつもりだったのだが、なぜか妙にラヴいのばっかりしか置いていなくて・・・

やっぱりハート型とかは大分気恥ずかしいし、せめて味だけでも・・・とおもって結果こんな珍妙な代物になってしまった

「うああ・・・やっぱりやめておこうかなぁ・・・でもジュン君にはお世話になっているし・・・」

53: 2009/02/14(土) 07:22:13.93 ID:dU1ETi+X0
まあ、ちょっとわくわくはしてたけどさ・・・僕もなんだかんだ言っても乙女なんだろう、こういったイベントは楽しいと思う。

だけどなあ・・・渡す相手が問題だ。別にジュン君に含むところは無い。無いはず。無いはずなんだけど・・・

うああ・・・、そりゃ好きか嫌いかでいわれればもちろんジュン君のことは好きだ。

女の子として好きかときかれても・・・たぶん好きなんだろうなとはおもう。

恋愛というよりは憧れに近いものだとは思うけれども・・・

だけどなあ・・・

翠星石、僕の双子の姉。口は悪いけど本当はとっても優しい。

たぶん、僕がジュン君を好きとかいったら、自分は身を引いて、そして人知れず心を痛めるのだろう。

まあ、そこまで僕がジュン君を好きとかいうんではないけれど。気を使わせるのも何だしなあ・・・とは思う。

「えーい!女は行動力!」

鞄にのって二階の窓へ、近頃は鍵をかけて無いので一旦ホバリングしてカラカラと窓を開ける。

55: 2009/02/14(土) 07:25:31.75 ID:dU1ETi+X0
「おじゃましまーす」

一応声をかけてから入る。

「ん、あ、蒼星石か、みんななら下だぞ?」

・・・いきなり鉢合わせた。

いや、この時間はジュン君はここにいる事の方が多いのだけれど、やはり心の準備する時間が欲しかったと思う。

「あ、うん、それもあるんだけど・・・」

「ん?どうした?何か困りごとか?」

こういうときに察しないのはジュン君の凄くダメなところだと思う。

がっついてチョコは?と聞かれるのはそれはそれで幻滅するのだろうけど。

「う、まあ、困りごとと言うか・・・」

「みんなに話せない話か?」

「いや、みんなに話せないと言うか、わざわざ話すほどの事じゃ無いって言うか・・・」

本当にイライラするほど察しが悪い、それでいて的にぎりぎりかするぐらいなのがさらに性質が悪い。

「真紅とか翠星石でも呼ぶか?あと僕は席を・・・」

その二人を呼ぶのは凄く勘弁してもらいたい、というかこのままでは呼ばれてしまいそうだ。

56: 2009/02/14(土) 07:27:57.39 ID:dU1ETi+X0
「もう!今日はジュン君にこれを渡しに来たんだよ!はい!」

鞄からA3ぐらいのサイズの巨大板チョコを取り出してジュン君に突きつける。

「ん・・・あ・・チョコレートか?」

「確認しなくても今日は何の日かわかってるよね?あとごく普通の買った板チョコだから期待しないでね」

照れもあってやや早口でまくし立てて押し付ける。

とりあえずこれで肩の荷が下りた。やっぱり勢いでこんなイベントに参加するもんじゃないな、と思う。

「ありがとうな、蒼星石」

「な・・・なんだか改まって言われるとちょっと気恥ずかしいかな・・・」

すこしくすぐったい。そして、結構嬉しい。

来年も参加しようかな・・・って思うぐらいには。

「僕こそありがとう」

「ん?なんで蒼星石がお礼言うんだ?」

「それは内緒だよジュン君」

57: 2009/02/14(土) 07:30:30.02 ID:dU1ETi+X0
僕たちドールを受け入れてくれる稀有な存在。

そして僕たちを物じゃなくてちゃんと個人として見てくれる。

そんなジュン君だから・・・

「あー、翠星石に先こされてなければなあ・・・」

「何か言ったか?」

「ううん、なんでも無いよ、じゃあ、僕は下で・・・この時間はみんなくんくんかな?」

「と言うか年中無休でくんくんだ。放送して無いときはDVD流しっぱなしだしな」

初期のころのならそらで台詞言えるよ。とジュン君は苦笑する。

それはそれだけ真紅といた時間・・・ちょっとだけ悔しいかな・・・

「来年は僕も手作りに挑戦して見るから、期待しててよね、じゃあ下に行くね」

「ああ、ゆっくりしてけよ・・・お前も来年の話か・・・」

最後に何か言っていたけど聞こえなかった。

さあ、リビングでみんなと一緒にくんくんを見よう!

59: 2009/02/14(土) 07:33:55.67 ID:dU1ETi+X0
2/14 16:29

Fragment Mitu

「ごめんねぇドール販売の所得税分準備して置くのすっかり忘れててすっごいピンチ!なのよ。と、いうわけでジュンジュンへのチョコレートはポッキーでーす!」

「いきなり下に引っ張ってって、いきなり何の話だよ!それにいったいなにがあった!?」

「え?だからチョコレートの」

「じゃなくて、ドール販売!僕も一枚噛んでるんだし、貰った分の中からいくらか・・・」

ホント、いい子よねぇ・・・普通これぐらいの年頃ってもっとお金に執着もつものなのだけど・・・

「それはダメ」

少しきつい口調で言葉をさえぎる

「私の取り分とかは共同のときはちゃんと貰っているし、ジュンジュンがフルオーダーで作ったときはそれはジュンジュンの仕事なわけ、私は宣伝になればそれでいいし」

「そういっても、貰いすぎだとおもうんだけどな・・・」

このいいざまだ。

正直言ってジュンジュンはもっと天狗になってもいいと思う。

それだけの技量がある、並の作者ではすでに太刀打ちできないほどの―――

62: 2009/02/14(土) 07:37:11.10 ID:dU1ETi+X0
だけどジュンジュンには壁がある。大きい、大きすぎる壁

伝説の人形師ローゼン。

調べれば調べるほど強大にして偉大。

嘘としかおもえないような逸話も、ローゼンメイデンが実在している事から見て本当に違いない。

そしてジュンジュンはそれと自分を比べる。

私みたいな凡人からするとそれは正気の沙汰とは思えない。

魚と水中で競争し、鳥と空で競争する。

勝負にすらならないはずの行為。

・・・驚く事に時を重ねるごとに少しづつ・・・少しづつだが近づいている気がする。

ジュンジュンはまだ若い、もしかすると晩年には・・・

「みっちゃんさん?」

声をかけられて思考の海から舞い戻る。

「ああ、ごめんごめん、ま、こういうのは大人が頭悩ませる事だって覚えておくと幸せになれるかもね」

「あるとこから出せばいいと思うんだけどなぁ・・・」

63: 2009/02/14(土) 07:39:06.58 ID:dU1ETi+X0
「はいはい、ぶつぶつ言ってないで、おねーさんのポッキーはちょっと一味違うわよぉ」

そういってポッキーを取り出して・・・

「はいジュンジュン、かじってかじってー」

そういってポッキーを咥える。

ジュンジュンはしばし呆然としていたがそれが何を意味するかわかって猛烈に反発してくる。

「ばっ・・・何かんがえてるんだよ!」

「はにっへ、ほっひーへーむ、ひらはい?(何って、ポッキーゲーム、知らない?)」

「知らないし、やらないよ!」

「いっほんはへ、ひやらっららほひゅうでほへはひいはん(一本だけ、嫌だったら途中で折ればいいじゃん)」

「う、何言ってるかわかる自分がいやだ・・・」

ジュンジュンは押しに弱いのはよくわかっている、このままなし崩しにファーストキス(推定)をうばっちゃうわよ

「ははふぅ(はやくぅ)」

64: 2009/02/14(土) 07:43:01.91 ID:dU1ETi+X0
2/14 16:35

Fragment Tomoe

「えい」

草笛さんの咥えているポッキーを手刀ではじいてへし折る。

はじくときにのどの奥に当たったのか草笛さんがむせているが・・・気にしない事にする。

「桜田君、はい、私から」

「ちょ、まだ私のターン!」

草笛さんが何か言っているが右から左へと聞き流す。

「柏葉・・・ありがとな」

「ううん、普通に買ったやつだから、そんなにありがたがらないで」

いきなり手作りとかは重いだろうし、チョイス的には間違っていないはず・・・

「雛苺にお土産もって来たついでだし、あ、でも一生懸命選んだから、喜んでくれると嬉しいかな」

重くならないように、それでいてなるべく印象にのこしたい。

相反する二つの性質を最も活かせるように言葉を選ぶ。

65: 2009/02/14(土) 07:46:25.76 ID:dU1ETi+X0
―――もともと桜田君の事はそんなに気にしてはいなかった。

―――ただの幼馴染だった。

―――ある日突然気がついた。

あれ?桜田君はこんなに格好よかったの?

私は最初のうちに戦う資格をなくしたからわからなかったけど・・・

戦いの中で、真紅ちゃんたちとの日常の中で、桜田君は変わっていった。

皆に追いつこうと図書館で勉強をしている真剣な横顔。

同年代の男子は決して見せない、男の顔。

一度意識したらもうダメだった。もともと桜田君を嫌いでは無い。

疎遠になっていただけで昔はよく遊んで気心も知れている。

ずるい事を言えば雛苺とずっと一緒にもいられる。

68: 2009/02/14(土) 07:49:26.56 ID:dU1ETi+X0
「うん、嬉しいよ、そういえば小さいころは普通にこうやってくれてたよな・・・何年ぶりだっけ?」

「小学校の・・・二年ぐらいまでだから6年・・・かな?」

「ああ、そうだ・・・なんでくれなくなったんだっけ?」

「周りに冷やかされて・・・」

そう、あのぐらいの年齢は些細なことで交友が崩れてしまう。

おかげで遠回りをしたのか、それともおかげで桜田君の魅力に気づけたのか・・・

いまはまだ結論が出ないけど・・・

「ああ、そうだった、ごめんな、あのときブスとか言って」

「ううん、気にして無いから」

「勢いとはいえブスって言うとか酷かったよな・・・」

まじまじと顔を見てくる、ちょっとはずかしい。

69: 2009/02/14(土) 07:54:02.70 ID:dU1ETi+X0
「こうしてみてると綺麗だよな・・・柏葉って、ってゴメン!忘れて!」

「あ、あはははは」

びっくりした。

綺麗だって。

驚きすぎて乾いた笑いしか出ない。

ぽろっと思わず口をついて出た感じだから嘘では無いと思う。

「じゃあ、ジュンジュン私は美人ー?」

草笛さん邪魔。

「あー、まあそれなりには」

少なくとも私の圧勝みたい。

だけども・・・ちらりと後ろを見る。

そこには強敵が自分のターンを待ち構えていた。

70: 2009/02/14(土) 07:56:07.66 ID:dU1ETi+X0
2/14 16:51

Fragment Megu

「はい、桜田君」

「あ、ありがとう柿崎さん」

渡すときに正面から目を見て微笑む。

水銀燈ほどの破壊力は無いけれども、私だって自他共に認める美少女、笑顔の使い方は熟知している。

「残念だけど手作りじゃないの、ゴメンね?」

「あ、いや、そんな、貰えるだけでぜんぜん嬉しいって言うか、まさか柿崎さんまでくれるとは思わなかったって言うか・・・」

「ごめんなさい、私、一度でいいからこういうイベントに参加してみたかったの、だけど知り合いの男の人は桜田君しかいないし、迷惑かけてゴメンね」

「そんなことないよ、うん、凄く嬉しいよ」

背後で巴ちゃんが過剰反応している、みっちゃんさんは・・・まあ、どうでもいいかな。

いまのところ確実なライバルは巴ちゃんだけのようね。

71: 2009/02/14(土) 07:59:59.26 ID:dU1ETi+X0
「桜田君、またラジオに呼んでいいかな?桜田君相手だとすっごいはなしやすいの」

ライバルの入ってこれないフィールドに持ち込む。

ずるい卑怯は敗者の戯言。

「水銀燈も桜田君相手だと話が弾むみたいだし」

「そうかなぁ、水銀燈にはなんかいじられてる気がするんだよなぁ・・・」

牽制でもあるけど実際に次の仕事に繋ぎを作るのは大事だ。

「他の子達にも頼みたいんだけど・・・桜田君が言ってくれればみんないい返事くれると思うから・・・」

「そうかな、一応言って見るけどイヤだって言われたら無理には出さないけど、いいかな?」

「それでいいわ、ありがとう。桜田君」

お礼を言うときにも目を見て微笑む。

視線を合わせて微笑むのはかなり有効だ。

「水銀燈もみんなと仕事したそうだったし・・・」

水銀燈を持ち上げるのを忘れない。

74: 2009/02/14(土) 08:04:35.60 ID:dU1ETi+X0
「え?水銀燈が?「めんどくさぁい」とかいいそうなんだけどなぁ・・・」

「あら、水銀燈はけっこういいお姉さんなのよ?」

「んー・・・・・・そうかもな、結構いいところあるし」

昨日の夜の話をしたくてうずうずする。

そんな爆弾は投下しないけども。

直撃弾ではなくかする程度で揺さぶる。

「それに水銀燈は桜田君の事気にいっているみたいよ、ちょっと妬けちゃうなぁ」

「いっ!?」

「あら・・・なにか思い当たる事とか?」

「な・・ないよ!うん、ないから!」

モロバレ、あ、巴ちゃんも何か感じたみたい。

みっちゃんさんは・・・どうでもいいわね。

「あとで水銀燈に聞いてみようかなぁ」

「いや、本当に何も無いからさ」

うろたえる桜田君は可愛いかもしれない。

75: 2009/02/14(土) 08:09:10.90 ID:dU1ETi+X0
ピピッ

アラームがなる・・・5時15分。

6時までには病院に戻らないと・・・

「ごめんなさい、もう病院に戻らないといけない時間だわ」

「あ・・・うん、タクシーとかいる?」

「迎えが来るから大丈夫、今日は私のわがままにつき合わせてごめんなさい」

「いや、だから嬉しかったから、気にしないでよ」

「本当にありがとう。またね」

「うん、また」

玄関先にはすでに車が待っている。

乗り込んで出るときに、ちらりとみると巴ちゃんに何か言われていた。

ふふっ、うまくあしらえればもう少しいい男になるかもね。

水銀燈みたいな事を思いながら病院に向かった。

76: 2009/02/14(土) 08:12:49.82 ID:dU1ETi+X0
2/13 19:26

Fragment Reiner Rubin

「さてと、これで明日の準備は出来たですぅ、あとは朝からちゃっちゃっと作っちまうですよ」

翠星石が明日作るチョコレートの準備をしている。

「真紅はどうするですか?一緒に作るです?」

「私は作らないわ、バレンタインなんて世間が勝手にブームを作り上げているだけじゃなくて?」

「まあ、それはそうなんですけど・・・ほら、こういうのは踊らされるのも楽しいものだと思わんですか?」

一理ある、あるけれども・・・

「ローゼンメイデンとしての誇りを持ちなさい。まあ、べつにあなたのやる事まで口出しするつもりは無いのだけれど」

「そうですか・・・じゃあ明日は翠星石だけで作るですよ」

「そうなさい」

79: 2009/02/14(土) 08:17:17.44 ID:dU1ETi+X0
2/14 13:36

Fragment Reiner Rubin

昼食後のひととき。くんくんをみながらのティータイム。

お茶受けは翠星石の作ったチョコクッキーとカナリアと雛苺のつくった得体の知れ無い物

「んでね、ジュンが「おお、うまいな、びっくりしたよ」っていったのよー」

「カナの玉子焼きチョコも高評価だったかしらー」

「そう、よかったわね」

「そういえば真紅はチョコあげないの?」

「私はそういった軽薄なイベントに興味ないの」

「うにゅー。けーはくとかそう言うんじゃなくて気持ちなのよ、気持ち!真紅はジュン嫌い?」

「あら?ジュンの事は好きよ?当たり前じゃなくて?」

「さらっと言ったかしら・・・」

「じゃああげればいいの」

「だからわざわざイベントでしなくてもいいのじゃなくて?とおもうのよ」

81: 2009/02/14(土) 08:20:26.17 ID:dU1ETi+X0
2/14 18:22
Fragment Reiner Rubin

「もう帰ったのかしら?」

「あ、真紅ちゃん。うん、みんな帰ったわ、ジュン君もてもてねぇ・・・真紅ちゃんはジュン君に・・・」

「あげないのだわ」

「・・・・・・ねえ、真紅ちゃん、それはあげたくないの?それともあげたいけどあげれないの?」

「な、何を言いたいのかわからないわ、のり」

「庭の物置の陰」

「うっ・・・」

「やっぱり真紅ちゃんだったのね、無理に凝ったもの作らなくてもいいのに」

「だって翠星石が・・・」

「翠星石ちゃんはパティシエと言ってもいいぐらいの腕前だから、比べちゃダメよ」

「うう・・・どうしよう・・・どうすればいいのかしらのり」

「もう、じゃあ今からやるのよーくみててね」

「わ、わかったのだわ」

83: 2009/02/14(土) 08:24:45.33 ID:dU1ETi+X0
2/14 23:02

Fragment Reiner Rubin

「ジュン」

「ん?あれ?真紅起きてきたのか?」

鞄を空けてジュンに呼びかける。

相変わらずジュンは夜更かしをして勉強に励んでいる。

それも学校の勉強だけでは無い、ドールの勉強、外国語、そして錬金術。

いつかサクラダメイデンが生み出されるときが来るのかもしれない。

夜勉強するのは私達が昼間騒がしいせいもあるのだろう

凄く申し訳無い気がする。

「喉が・・・喉が渇いたのだわ」

「ん、紅茶か?ちょっと待ってろ、一区切りつけたら―――」

「自分でいれるからいいわ、ジュンは勉強していなさい」

86: 2009/02/14(土) 08:29:53.00 ID:dU1ETi+X0
階段を下りてキッチンへ・・・

お湯ではなく牛乳を・・・そして・・・

二階にあがってジュンに声をかける。

「ジュンも飲むでしょう?」

「ん、そうだな、貰おうかな・・・ん、この臭いは・・・」

「と、糖分は勉強とかで脳を使うときには凄く重要なのだわ。だから、ジュンはこれをのみなさい」

温めたミルクでたっぷりのチョコレートをとかしたチョコドリンク。

本式は生クリームとか入るのだけれど、今回は翠星石の作り置きしてあった生チョコを使って失敗しないように工程を省く。

「ありがとな、真紅」

「け・・・家来の体調管理も主人の仕事だからよ・・・それにまだまだ寒いしし、温まるのにもいいと思うから」

「ふう・・・うまいな・・・うん、今日はもう勉強やめだ」

「えっ!?なにか飲み物に問題でもあったの?」

「美味すぎるから勉強やめにするよ」

88: 2009/02/14(土) 08:34:34.82 ID:dU1ETi+X0
そういってこっちに歩いて来て私を抱っこする。

「きゃっ、ちょっとジュン!いきなり何をするのよ」

「そういえばしばらく勉強勉強で、真紅とまともに話してなかったなぁって思ってさ」

「それはそうだけど・・・いいの?」

勉強が遅れればその分復帰も遅れる。

それはあまりよろしくないと思う。

「うーん、あんまりよくないかもしれないけどさ。なんていったらいいんだろう」

私をベッドに下ろしながらジュンは言葉を続ける。

「それは他の物と比べたり、選んだりしちゃダメなものだと思うんだよな。真紅が寂しい思いをして勉強進めてもきっとダメなんだと思う。髪いいか?」

「・・・そうなのかしら・・・私が枷になっているのだとしたら、どうか気にしなくて。・・・いいわよ、ジュンに梳いて貰うのも久しぶりね」

89: 2009/02/14(土) 08:35:48.82 ID:dU1ETi+X0
しばし無言。

髪を梳く音だけがかすかに聞こえる。

「いつか・・・」

「なぁに?」

「いつか、ローゼンを超えて見せるからな」

「お父様を超える・・・ジュン、それは限りなく果てしない道のりだわ・・・でも、あなたなら出来るような気がするわ」

「がんばるよ、みんなアリスになれば二度と悲しい争いなんか起きないと思うからな・・・」

みんなアリス!?

その発想はなかった、ジュンはいったい果てしない愚か者か、それともいつの時代も異端者扱いされる先駆者となるのか・・・

「楽しみにしてるわ、ジュン」

今日は鞄で眠りたくない・・・このまま、ジュンに梳られて・・・

私は眠りに落ちた。

Rozen Maiden Fragment
~fin~

104: 2009/02/14(土) 09:36:00.86 ID:1Y1grreB0
乙y

引用: 水銀燈のアンニュ~イな一日番外編。ローゼンメイデン・フラグメント