1: 2017/06/13(火) 01:24:09.140 ID:4a/8S1n40.net
父「この子も5歳になった……たまにはなにかうまいものを食べさせたいが」

母「このところ家計が苦しいものねえ……」

父「ああ……夏のボーナスも期待できそうもないし……」

母「当分、ごちそうは食べられそうもないわね……」

子供「……いや、そんなことはない。簡単に金を稼ぐ方法がある」

父「え?」

子供「募金だ……募金をやるのだ」
ふらいんぐうぃっち(13) (週刊少年マガジンコミックス)
5: 2017/06/13(火) 01:28:20.948 ID:4a/8S1n40.net
父「募金ったって、名目はどうするんだ?」

母「そうよぉ~、“ごちそう食べたいからお金ください”なんて募金しても、くれる人なんていないわよ」

子供「バカどもが……少しは頭を使え」

子供「よく駅前でやってるだろう……≪○○ちゃんを救う会≫みたいなやつを」

父「ああ、やってる、やってる! たまに小銭入れたりするよ」

子供「あれをやるのだ……オレが心臓病だということにしてな」

父「なるほど!」

父「よぉし、息子を心臓病だってことにして、募金で金を集めよう!」

母「そうね!」

子供「……」ニヤリ

7: 2017/06/13(火) 01:31:08.067 ID:4a/8S1n40.net
駅前――

父「息子は心臓病なんです!」

母「多額の治療費がないと氏んでしまうんです!」

父「どうか皆さま、私たちの息子をお救い下さい!」

子供「……」




ワイワイ…… ガヤガヤ……

8: 2017/06/13(火) 01:33:44.623 ID:4a/8S1n40.net
チャリン… チャリン… チャリンチャリン…



父「おほっ、さっそく集まってきた!」

母「世の中冷たくなったなんていわれてるけど、結構いい人って多いものね!」

子供「……」

9: 2017/06/13(火) 01:36:35.279 ID:4a/8S1n40.net
ジャラジャラ… ジャラジャラ…

父「今日一日で8000円も集まったよ!」

母「これだけあれば、十分ごちそうを食べられるわね!」

子供「足りん」

父母「ふぇ?」

子供「もっとだ……もっと集めるのだ」



子供「もっと金を集めるのだァッ!!!」

11: 2017/06/13(火) 01:39:06.096 ID:4a/8S1n40.net
チャリン…  チャリン…

父「う~ん……」

母「昨日に比べて、あまり人が来ないわねえ」

父「さすがに二日目ともなると、反応がイマイチだな」



子供「……やむをえんな」

13: 2017/06/13(火) 01:42:19.848 ID:4a/8S1n40.net
子供「ぐううっ! む、胸がっ! 心臓が痛いっ! ――苦しいっ!」

父「え!?」

母「大丈夫!?」

子供「バカどもが……演技に決まってるだろうが」ボソッ

子供「キサマらも、とっとと同情を集めるような芝居をしろ!」

父母「は、はいっ!」

16: 2017/06/13(火) 01:45:26.277 ID:4a/8S1n40.net
父「このとおり、息子は苦しんでるんです……!」

母「皆さんからの募金が必要なんです……!」



チャリン… チャリン… チャリリン… パサッ チャリン… パサッ チャリン…



父「うおお、すごい勢いで金が集まっていく!」

母「お札を入れてくれる人まで現れたわ!」

17: 2017/06/13(火) 01:48:39.398 ID:4a/8S1n40.net
父「ヒャッハーッ! あっという間に10万円以上になったぞ!」

母「すごいわ~! これなら相当いいものが食べられるわよ!」

子供「まだだッ!!!」

父母「うぇ!?」

子供「もう路上では埒があかん……ネット上でも呼びかけるのだ!」

父「まだやるんすか!?」

母「今が止め時だと思うけど……」

子供「やるのだ!!!」

18: 2017/06/13(火) 01:50:29.826 ID:4a/8S1n40.net
~YouTube~

子供「ぐっ……! 静まれ、オレの心臓(ヘルツ)……!」

子供「オレは大人になれず、氏んじまうのか……! ああ、大人になりたかった……」

子供「やべぇぜ……こりゃ大金がなきゃとても治せねえ!」





子供「みんなの募金、待ってるぜ!!!」

19: 2017/06/13(火) 01:53:58.211 ID:4a/8S1n40.net
父「すごいすごい! あっという間に再生数が1000万を超えた!」

母「口座に次々とお金が振り込まれていくわ!」

子供「そうか」

父「……」

父(これだけのことをしでかしといて、この反応……)

父(我が子ながら……恐ろしいほどの度胸だなぁ……)

20: 2017/06/13(火) 01:56:14.248 ID:4a/8S1n40.net
ビル・ゲOツ「ハロー」

父「あ、あなたは……!」

母「あの有名な窓メーカーの……!」

ビル・ゲOツ「1億ドル寄付シマース!」ポンッ

父「リアリィですか!?」

母「センキューベリーマッチ!」

子供「……」

22: 2017/06/13(火) 01:58:23.991 ID:4a/8S1n40.net
石油王「君たちに小さいながら、油田をプレゼントしたい」

石油王「思う存分オイルマネーで儲けてくれたまえ」

父「いやー、油田までいただけるなんて……」

母「なんてお礼を述べたらいいか……」

子供「……」

23: 2017/06/13(火) 02:01:15.302 ID:4a/8S1n40.net
アフリカの子供たち「こんにちは!」

アフリカの子供たち「ボクたちのお金……あげるよ!」ジャラッ…



父「アフリカの子供たちまで……!」ウルッ…

母「あなたたちはむしろ、寄付される側の人間なのに……!」グスッ…

子供「……」

25: 2017/06/13(火) 02:04:37.009 ID:4a/8S1n40.net
宇宙人「ドーモドーモ」

父「わぁっ!?」

母「なんですか、あなたは!?」

宇宙人「私ハゴールド星人デス」

宇宙人「我々ノ星ハ黄金デ出来テイマス。サアドウゾ」キラキラ…

父「いやぁ~、わざわざどうも!」

母「ぜひ、地球の料理でおもてなししますわ。まずはバター醤油ご飯を……」

宇宙人「コレ、ウマイネ!」モグモグ

子供「……」

26: 2017/06/13(火) 02:07:46.360 ID:4a/8S1n40.net
――

――――

父「やばいやばいやばいやばいやばい!」

父「やばいって! 募金額がとんでもないことになってきた!」

父「1000億円……いや一兆円はいってるかもしれない!」

母「さすがに良心が痛むわね……というか、痛みを通り越して麻痺してきたわ」

子供「一兆か……ふん、まあまあだな」

父(なんでこいつはこんなに落ち着いていられるんだよぉぉぉぉぉ!)

父(こっちはもう罪悪感やら不安感やらで心臓バクバクだっての!)

27: 2017/06/13(火) 02:10:16.263 ID:4a/8S1n40.net
父「しかし……これからどうする?」

父「もう日本中……いや世界中から注目されてるぞ!」

母「本当に病気なのか疑問視する声も増えてきたし……」

父「いつまでもごまかせないぞ……どうしてこうなった……」

子供「こうなったら仕方あるまい」

子供「記者会見を開き、正直に全てを話すしかないな」

父母「ハァ!!?」

28: 2017/06/13(火) 02:13:54.950 ID:4a/8S1n40.net
父「正直に話すって……」

母「そんなことしたら、私たち一生外を歩けないわよ!」

父「いや……それぐらいで済むならまだいい! 下手すりゃ一家揃ってリンチにされるぞ!」

子供「案ずるな」

子供「ワシントンだって正直に話したら許してもらえたんだ。何とかなるだろう」

父(いやいやいや、いくらなんでも次元が違いすぎる……!)

29: 2017/06/13(火) 02:18:05.588 ID:4a/8S1n40.net
記者会見の日――

ワイワイ… ガヤガヤ…




記者「あなたたちご夫婦は、これまで息子さんのために募金活動をしていましたが」

記者「このタイミングで記者会見を開くというのは一体どういうことでしょう?」

記者「いよいよ心臓病の治療をされるということでしょうか?」

父「えぇと……その……」

母「なんと申したらいいのか……」

31: 2017/06/13(火) 02:21:33.193 ID:4a/8S1n40.net
父(うへえ……いったい何万人が集まってるんだ……)ドキドキドキ…

母(真実なんて話せるわけないわ……)ドキドキドキ…

子供「仕方ない親どもだ。なら、オレから言おう」

子供「聞け、愚かな偽善者たちよ」





子供「オレが心臓病だってのは――真っ赤な嘘だ!!!」

34: 2017/06/13(火) 02:24:48.855 ID:4a/8S1n40.net
ワアァァァァァ……!!!

「ふざけんなっ!」 「許されると思ってんのか!」 「金返せーっ!」

「いや、金返したって許すもんか!」 「一家全員火あぶりにしろ!」 「詐欺師家族め!」

「善意を踏みにじりやがって!」 「このクズどもが!」 「すまし顔してんじゃねえ!」




父「あわわわわ……!」

母「やっぱり……!」

子供「ふん、予想通りの反応だ」

父母(いやだから、なんでこんなに落ち着いていられるんだよぉ……!)

35: 2017/06/13(火) 02:27:22.809 ID:4a/8S1n40.net
会見の席にいた医者――

医者「……おかしい」

医者(数万の人間が怒り狂うというこの異常事態にもかかわらず、あの子は冷静すぎる!)

医者(普通はあの両親のように、顔面蒼白になるか、あるいは興奮状態になるはずだ!)



医者「これは“度胸がある”なんてレベルじゃない!!!」

39: 2017/06/13(火) 02:30:33.740 ID:4a/8S1n40.net
医者「皆さん、ちょっと静かにして下さい!」

医者「君!」

子供「ん?」

医者「君は今、まったくドキドキしていないのかい?」

子供「ああ、してないね」

医者「やっぱり……!」

医者「ちょっとメスで胸を開いてもいいかい?」

子供「いいとも」

40: 2017/06/13(火) 02:33:36.094 ID:4a/8S1n40.net
医者「麻酔は?」

子供「不要」

医者「開胸!!!」

スパッ!

子供「……」



ドクン… ドクン… ドクン…

医者「この状況で、完全に一定のリズムで心臓が鼓動している……こんなことありえない!」

医者「これは病気だ!」

医者「さっそくこの超高性能顕微鏡で調べてみよう!」

43: 2017/06/13(火) 02:36:37.654 ID:4a/8S1n40.net
医者「心臓に巣食ってるウイルス……これは新種のウイルスだ!」

医者「鼓動を一定のリズムに保ち、やがて緩やかに心臓を止めてしまうという恐るべき氏のウイルスだ!」

医者「しかも、この子……強靭な意志力でこのウイルスを自分の体内だけで抑えている!」

医者「この子は本当に心臓病だったんだ!!!」

子供「どうやら……オレのシナリオ通りになってくれたな」

父母「え!?」

医者「……説明してくれるかい?」

45: 2017/06/13(火) 02:41:22.915 ID:4a/8S1n40.net
子供「募金を始める少し前、オレの体内にこの突然変異のウイルスが侵入した」

子供「ウイルスが何を考えているのか……オレにはすぐ分かった」

子供「“手始めにこのガキを頃し、エネルギーとし、人類を絶滅させよう”というのが狙いだった」

子供「オレは必氏に押さえ込もうとしたが、やはりウイルスの方が手強いことが分かった」

子供「このままオレが氏んだら、オレの体から飛び出したウイルスは瞬く間に人類を滅亡させるだろう」

子供「かといって、オレがこのことを話しても、こんなガキの言うことは信じてもらえない可能性が高い」

父「た、たしかに……!」

母「信じるわけがないわ……!」

子供「それに、医者に頼むにしても、並みの医者ではどうにもならないし意味がない」

子供「だからどうにかして、世界的な名医の方からオレの異変に気づく、という状況を作りたかった」

子供「そこで一計を案じたんだ……」

子供「募金騒ぎを起こし、世界中の注目を集め、オレの異変を名医が察知してくれるようにな」

父「そうだったのか……」

母「あなたはずっと未知のウイルスと戦ってたのね……」

47: 2017/06/13(火) 02:44:26.083 ID:4a/8S1n40.net
医者「ここにあなたがたが集めた一兆円以上のお金がある!」

医者「これだけの資金があれば、この恐るべきウイルスを撲滅するワクチンを作れるはずだ!」

医者「すぐにチームを招集してくれ!」

医者「なんとしても、この子が氏ぬ前にワクチンを作らねば!」

子供「頼むぞ……どうか人類を救ってくれ……」





ワイワイ…… ガヤガヤ……

48: 2017/06/13(火) 02:48:20.542 ID:4a/8S1n40.net
一ヶ月後――

医者「一兆円を全て使って、あの殺人ウイルスを撲滅させるスーパー・ワクチンを作ったぞ!」

子供「うう……」

医者「これを注射すれば、君は助かる!」

子供「メスは平気だが、注射は怖い……」ビクビク

医者「いっとる場合か! さ、注射するよ」チクッ チュー…

子供「……!」

父「どうだ!?」

母「治ったの!?」

50: 2017/06/13(火) 02:51:21.304 ID:4a/8S1n40.net
スーッ…

子供「パパ……ママ……治ったみたい」ニコッ

父「おおっ、よかった!」

母「やっと年相応の笑顔を見せてくれたわね」

子供「二人とも……オレの無茶に付き合わせて、ごめんなさい」

父「いや、いいんだよ……」

母「こっちもあなたがずっと心臓病だったことに気づかなくて、ごめんね……」

51: 2017/06/13(火) 02:54:29.647 ID:4a/8S1n40.net
医者「ところで……」

医者「あなたがたご家族の功績を称えて、あなたたちに募金したいという声が相次いでいるのですが」

父「……全て断って下さい。もう募金は懲り懲りですよ」

母「ええ、これからは自分たちの稼ぎだけでなんとかやっていきます」

子供「うむ」

医者「そうですか……分かりました」

父「さて、病気が治ったところで、何かごちそうを食べようか!」

母「そうね……何を食べたい?」

子供「じゃあ……牛のハツ(心臓)を食べたい!!!」





おわり

52: 2017/06/13(火) 02:55:18.779 ID:mCAMUlU30.net
感動した!

53: 2017/06/13(火) 03:09:10.831 ID:y1+8h5dAr.net

面白かった

引用: 父「息子を心臓病ってことにして募金で金を集めよう!」母「そうね!」