396: 2020/02/18(火) 23:37:41.77 ID:Yxrt9fKO0


最初から:少年「アヤカシノート」第一幕

前回:少年「アヤカシノート」第九幕

■終幕 友達■


ーーー9月3日 学校ーーー



ガヤガヤ



「おはよ!」

「久しぶりー!なんか焼けたね?」

「夏休み中ずっと外で部活してたからさ~」



ワイワイ



少年「……」テクテク

「あ、先生おはようございます」

教師「おう、おはよう。結構遅刻ギリギリだぞ?始業式の日だからって甘く見てはもらえんからな」

「はーい」

少年「……」テクテク

少年(…皆、すっかり元通りだ)

少年(何事もなかったみたいに学校へやってきて、前と同じ日々を過ごしていく)

少年(事実、皆にとっては何もなかったんだろうけど…)

少年「……」テクテク

少年(夏休みの間、僕は少女さんを探し続けた)

少年(神社には勿論、あの池にも学校にも足を運んだ)

少年(結果は言わずもがな。手掛かりを見つけるどころか、日に日に薄れていく彼女の痕跡を忘れないようにするだけで精一杯だった)

少年(…いつの間にか、少女さんのLINEが消えていた。登録していたはずの電話番号も)

少年(少女さん家を訪ねてはないけど、行ったところできっと……)

少年「………」テクテク

少年(それでもきみは確かに存在していたんだ)

少年(きみから預かったこのバットが、それをはっきりと主張してくれる)

少年「……」テク...



(教室のドア)



少年(……)

ガラッ

「!…なんだ少年か。先生が来たのかと思ったぜ」

「なぁそれより続き話してもいいか!?夏祭りで見かけたそのめっちゃ可愛い子がさ──」

ザワザワ



(空いた少女の席)



少年「………」

少年(……だよな)
見える子ちゃん 1 (MFC)

397: 2020/02/18(火) 23:42:43.38 ID:Yxrt9fKO0

派手娘「ちょっと、邪魔」

少年「あ、ごめん」ススッ

派手娘「ボケッと突っ立ってないでとっとと席着けば」トットッ

少年「…うん…」

トットットッ

少年「……」

同級生A「そんでよー、──!」ペチャクチャ

同級生B「またあのアホから──」ケラケラ

少年(あいつらに絡まれなくなったこと以外は、進級したての頃と変わらないな)

少年「……」

少年(…前、何をして過ごしてたっけ)

教師「うーっす。HR始めるぞ」ガララ

教師「お前らちゃんと勉強してたかー?夏サボった奴は冬にかけてやらんと本当に行けるところなくなるからな?」

派手娘「……」フテブテー

教師「…派手娘」

派手娘「なんですか?」

教師「足、直しなさい」

派手娘「………」

ガタン

教師「連絡事項と配布物が大量にあるから、ちゃっちゃと片付けてく──おっと、まず出席か」

教師「あー、初っ端から来てない奴がいるな。あいつは夏期補習もサボってたなそういや…」

教師「まあいい」

教師「同級生A」

同級生A「うぃ」

教師「同級生B」

同級生B「はーい」

教師「二つ編み」

二つ編み「はい」

398: 2020/02/18(火) 23:44:26.99 ID:Yxrt9fKO0

少年(…やっぱり、もう一回トドノツマリ様に掛け合ってみた方がいいのかな)

少年(あの人だけじゃ難しいって言ってたけど、もうそれくらいしか僕に思い付くのは──)

教師「猫──」





ダッダッダッ ガラッ!





猫又娘「ごめんなさーい!遅れましたー!」





少年「!!」

派手娘「……はぁ…?」

少女「もう…どうせ遅刻なんだから歩いてっても変わらないのに…!」ゼェ..ゼェ..

猫又娘「えー?出席終わるまでに着いたらセーフだよ!それくらいおまけしてくれるよね、先生!」

教師「ダメだ」

猫又娘「」ガーン

少女「ほら」

教師「ま、その心意気は褒めてやろう。早く席に行け」

猫又娘「うー…」トボトボ

教師「猫又娘、お前は後で職員室だ。夏の補習の件について話がある」

猫又娘「あんまりだっ!」

教師「自業自得だ」





399: 2020/02/18(火) 23:46:47.23 ID:Yxrt9fKO0
ーーー始業式後ーーー

猫又娘「うぇー…少女さーん、信じらんないくらいの量の追加課題出されたー」

少女「気の毒にね。応援してるよ」

猫又娘「手伝ってー!」ウエーン

少女「無理だよ!ぼくも夏の課題全然やれてないのに」

少女「訊くならちゃんと夏休み満喫してた人にしなくちゃ」

少女「ね、少年君」

少年「……あ」

少年「え……少女、さん?」

少女「なに?」

少女「…お」

カラン

少女「バット、ちゃんと持っててくれたんだね」

少女「ありがと」フフッ

少年「ほ、本物?」

少女「……うん」



少女「約束。また会えた」



少年「──!」バッ

──ピタッ...

少年(…あっぶな)

少女「わ…よく自制してくれたね。教室の真ん中で抱き着かれるのはさすがにぼくでも恥ずかしいよ」クスッ

少年「ご、ごめん」

少年「でもなんで…いつから…?」

少女「気が付いたのはついさっき」

少女「起きたら今日だったんだ。戻ってこれたのが本当に今日なのか…そこはあんまりよく分からないけど、すくなくともあの日から今日までの記憶は無いし、宿題も真っさらだったから」

猫又娘「夏の補習もサボってることにされました…うぅ…」

猫又娘「だからせめて遅刻だけは避けたかったのにぃ…」

少女「夏休み過ごせてたところであなた、宿題なんてやらなかったでしょうに」

猫又娘「そそそ、そんなことないよ!生まれ変わった私の切れ味、甘くみてるなっ!?」

少年「切れ味ってそういう使い方するっけ…」

派手娘「ふーーん?是非見てみたいものね」

猫又娘「」ビクッ

猫又娘「やー…どーもどーも」アハハ...

400: 2020/02/18(火) 23:51:05.65 ID:Yxrt9fKO0

派手娘「どうせあのインチキマジックでお茶を濁すだけでしょうが」

派手娘「しかも、なーにさも何でもありませんでしたって顔で居るのよ。封印されたんじゃなかったの?」

猫又娘「封印されたんはさ、妖禍子じゃん?」

猫又娘「だから私も少女さんも人間の部分だけがこうやって戻ってこれたと思ってるんだー」

猫又娘「…まあつまり、私のマジックパワーはもう使えないんよね…」トホホ

派手娘「へぇ、そういうこと」

ガシッ

猫又娘「…にゃ?」

派手娘「じゃあ小賢しい真似はもう出来ないのね。残念だわー、あんたの手品楽しみにしてたのに」ニコニコ

猫又娘「ははは…それはどうも」

猫又娘「あの、この手は…?」

派手娘「ん?安心しなさい。最低限の勉強くらい、あたしが直々に仕込んであげる」ニッコリ

猫又娘「遠慮しますっ!!?」

派手娘「あんたのためを思ってやってやんだから感謝して欲しいわねー」ズルズル

猫又娘「いーやーだー!そもそも仕込むってなにさ!?教える、じゃないん!!?」ヒキズラレー

タスケテー!

少女「あーあ、行っちゃった」

少女「ま、あれくらい荒療治しないとやるようにならないから丁度いいかもね」

少年「………少女さん」

少女「ん?」

少年「また、よろしく」

少女「……」

少女「…友達として?」

少年「え?それはどういう…」

少女「ふふっ。さぁ?」

少年「なんだそれ…!気になる、教えてくれよ!」

少女「知らなーい。きみから言ってくれないならぼくも教えないよ♪」

少年「なっ…」

少年「………僕は………ただ、きみが………」

少年「……………」

401: 2020/02/18(火) 23:53:31.18 ID:Yxrt9fKO0

少女「…ね」

少女「今日、久々に二人野球しに行こうよ」

少年「!…いいけど」

少女「猫又娘さん、二つ編みさんと、派手娘さんも誘えば来てくれるかな?」

少年「それもう二人ではないよね…」

少女「始まりはきみとぼくの二人だったんだから"二人"でいいじゃない?」

少女「それより、さ!」



ギュッ(手を握られる)



少年(…あ)

少女「声かけに行かないと、二つ編みさん帰っちゃう」

少女「行こ?」

少年「…行くか」



402: 2020/02/18(火) 23:54:51.92 ID:Yxrt9fKO0





『9月13日  眩しいくらい、夏晴れ

少女さんが案外、ずるい一面を持っていることを知った。包帯を着けていた頃の彼女は何となく大人しかったけど、今日は大分はしゃいでたのかな?でもそんなとこもひっくるめて、僕は……』





パタン

少年「………」

少年「………」

少年「………」

少年「……」フ...





403: 2020/02/19(水) 00:13:49.37 ID:qYbXnGr+0
ーーーーーーー

「C、帰ろうぜ……ってなんでそんなに菓子ばっか持ってきてんだ?」

同級生C「あれ…本当だいつの間に」

「どんだけ腹減ってたんだよ」

「ちょっと俺にもくれない?」

同級生C「おぉ、いいよ。あんま取り過ぎんなよ?」

「わーってるって。これとか懐いな~。俺こっちのやつ好きな──…?お前、泣いてんのか?」

同級生C「え…?」ツー...

同級生C「は?え?なんだこりゃ…」ポロポロ

「お、おいおい…悪かったよそんなにお気に入りの菓子だと思わなくて…」

「馬鹿か、そうじゃねぇだろ絶対。どうしたんだよ?」

同級生C「分っかんね。なんだろうな」ポロポロ

同級生C「…あ、これあれだ。何となくだけどさ」ポロポロ

同級生C「──すっごい好きなものを、失くした気分、だ…」ポロポロ

同級生C「なん、だろうな…ほんと……」ポロポロ...

「何があったか知らんけどさ、元気出せよ」ポンポン

「話くらいなら聞いてやるぜ」

同級生C「……サンキューな……」





404: 2020/02/19(水) 00:15:02.09 ID:qYbXnGr+0
ーーーーーーー

二つ編み「お二人に話があります」

二つ編み父「おー、どうした?」

二つ編み母「あんまり暇じゃないから手短にね」

二つ編み「わたし、祖母の家で暮らします」

二つ編み母「……は?」

二つ編み父「…本気か?」

二つ編み「諸々の手続きはこちらの方で進めておきました。後はお二人の承諾と印鑑だけです」スッ

二つ編み「金銭のことでも一切あなた方に迷惑をかけないので安心して下さい」



ーーーーー

少女「──それ、あなたが我慢する必要ないよ」

少女「──おばあちゃんにお話してみたら?」



老婆「──ばあちゃんの家でかい?」

老婆「──…長いこと面倒見てあげられないかもしれんけども、それでいいならうちに来なさい」ニコ

ーーーーー



二つ編み(…ありがとう)

二つ編み「今までお世話になりました」ペコリ





405: 2020/02/19(水) 00:17:47.30 ID:qYbXnGr+0
ーーー神社ーーー



……………。



スッ...



幼女「………」

幼女「……」ジッ



(長い石段)



幼女「………」

幼女(心とは誠、関心の尽きぬ代物よ)

幼女(どれ程小さき存在であろうと、その在り様で如何様にも魅せる事が出来る)

幼女(…そして其れは、人のみが持つ特権に非ず)

幼女(碧のケモノ)

幼女(彼の者も又、今際の際己が心を強く鳴らし、自らの生涯と番の影を遺していった)

幼女(前者は彼等の子へ)

幼女(後者は猫又へ。……そして彼の書物へも)

幼女(なればこそ、あの書物は創造主の強き心に惹かれ、共鳴したのであろう)

幼女「……世界は、共に在る事を選択したのかもしれぬ」

幼女(そなた達が其の可能性を魅せた様に)

幼女(…住む世界異なれど、心を通わせた二つの命が在った様に)



ーーーーー

少年「──友達に、なってくれませんか?」

ーーーーー



幼女「勇む心を持つ者よ」

幼女「人と妖禍子、共存の道を示した其の所業」

幼女「礼を言う」

幼女(…ふむ、そなた達の言葉を借りるならば)





幼女「──ありがとう」





ー終わりー

406: 2020/02/19(水) 00:26:07.52 ID:qYbXnGr+0
以上で完結となります。

元にさせていただいたのは、sasakure.UKさんが出しているアルバム「摩訶摩謌モノモノシー」と「不謌思戯モノユカシー」に収録された楽曲たちです。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。

407: 2020/02/19(水) 00:53:54.71 ID:qYbXnGr+0
長編を書くのは本当に難しいですね…。
五か月もかかるとは思いもしませんでした。
書ける人は尊敬します。

次回からはまた百数レスほどのSSに戻ります。
次回は以前書いた、

  少女「お兄、すき」男「そうか」

の続編を投稿していこうと思います。

408: 2020/05/30(土) 15:25:48.80 ID:yAByYbc8O
執筆お疲れ様でした。
私も3年程前にsasakure.ukさんのア(マ)ヤカシシリーズに魅せられて何回も曲を聞き、様々な人の考察を探し、sasakure.ukさんのインタビューなども読み漁りました。
そのなかで自分なりの解釈や物語の展開を思い描いたものですが、こうして同じように曲を考察されて、それを文章にされている貴方の作品を読んでみて、納得が行っていなかった点やぼやかされて分からなかった点が鮮明になった気がします。
恐らく、所々は予想に基づいて書かれているのだと思いますが、それにしても本筋としては、ちゃんと辻褄があっており、元の曲(原作)の歌詞なども踏襲されており、素晴らしいと感じました。

正直、ここまでしっかりと考察と本筋が形にされている文章に出会えて感動しています。
一人のsasakureファンとして、貴方の事を尊敬します。

二度目になりますが、執筆本当にお疲れ様でした。

引用: 少年「アヤカシノート」