1: 2009/02/19(木) 21:15:52.13 ID:TNZr4+Cs0
うにゅん

雪華綺晶「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん」

雪華綺晶「……別に呼ばれていないけど」

トコトコ

雪華綺晶「お姉さま達は上でしょうか」

ヨジヨジ

雪華綺晶「桜田家の階段は私には急すぎます」

雪華綺晶「……なにやら騒がしいですね」

雪華綺晶「あら、貴方こんなところでなにやっているの」

雪華綺晶「あっ、見つかってしまいました大佐」

真紅「大佐って誰なのだわ」
ローゼンメイデン 愛蔵版 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
2: 2009/02/19(木) 21:18:49.15 ID:TNZr4+Cs0
翠星石「遅いですぅ、真紅! 一体どこで油売って……」

ニコニコ

翠星石「ん、何やら視線を感じるですぅ」

ニコニコニコニコ

翠星石「おかしいですねぇ……視線は感じと姿は見えず」

雪華綺晶「翠薔薇のお姉さまっ! 」

翠星石「ほわちゃー!?!? 」

雪華綺晶「ビックリしてるの? 」

翠星石「いきなり視線にお前みたいなわけわからないドールが現れたら誰でもびっくりするですぅ! 」

雪華綺晶「末の妹にそんな暴言なんて。少しドキドキしましたわ」

翠星石(感じるですぅ、とてもデジャブに近い何かを感じるのですぅ)

真紅「じゃあ雪華綺晶の相手はあなたに任せるわ。私はこっちでデビルサマナーの続きをするのだわわ」

翠星石「あっ、ずるいですぅ!! 翠星石もまだ全然進めてないんですよぉ」

3: 2009/02/19(木) 21:20:37.69 ID:TNZr4+Cs0
ガシッ

翠星石「うっ」

雪華綺晶「……」

翠星石「そ、そんな潤んだ瞳で見ても翠星石は」

雪華綺晶「うるうるうる」

翠星石「し、しゃーねーですぅ!こっちでおとなしく画面見てやがれですぅ」

雪華綺晶「おとなしくしてます、お姉さま」

カチカチ

真紅「ムドムドムドムド」

翠星石「そいつは反射ですぅ」

真紅「!!……だわわ!?」

翠星石「少しは学習しやがれですぅ」

真紅「と、とりあえず紅茶でも飲んで落ち着くのだわわん」

翠星石「その間に翠星石のデータを進めるのですぅ」

4: 2009/02/19(木) 21:22:14.02 ID:TNZr4+Cs0
真紅「……やっぱりそんな子供だましのゲームより紅茶を楽しんでいる時間のほうが幸せなのだわ」

翠星石「ぶっ通し15時間のやつがいうセリフですかぁ」

真紅「うるさいのだわ」

雪華綺晶「紅薔薇のお姉さまは紅茶を飲むと幸せ……? 」

真紅「ええ、そうなのだわ。このひと時のために私はいるのだもの」

雪華綺晶「……」

翠星石「えっと、まず魔人バアルと女神アナトを業魔殿で合体するですぅ。そうすれば氏神モトの完成で」

『合体事故が発生しました』

翠星石「……ほぁぁぁ!?!?」

雪華綺晶「……幸せ」

5: 2009/02/19(木) 21:23:31.83 ID:TNZr4+Cs0
◎月×日

今日は紅薔薇のお姉さまの家へ勝手に遊びに行きました。

それというのもやることがないからです。

もう日記だけの生活は飽きました。ひとり麻雀ももう限界です。

ですからたまには外へ行くのもいいものです。

外にはもう花の芽が顔を出し始めていました。

いったい何故勝手に芽を出すのか不思議でたまりません。

外の世界は謎で満ち溢れています。

それはそうとお父様、今日紅薔薇のお姉さまが聞きなれない言葉を話していました。

『幸せ』

というものです。辞書で調べてみるとそれは

『運がよいこと。また、そのさま。幸福。幸運』

ということらしいのです。紅薔薇のお姉さまは紅茶を飲んで運がよかったのでしょうか?

明日からもう少しこのことについて調べてみたいと思います。

6: 2009/02/19(木) 21:27:42.18 ID:TNZr4+Cs0
みつ「カナ、はいあーん」

金糸雀「あーん、かしらみっちゃん!!」

うにゅん

雪華綺晶「……このヒラヒラで可愛らしい部屋は」

金糸雀「むぐむぐ……やっぱりみっちゃんの卵焼きが一番かしら」

みつ「そうやって卵焼きを頬張るカナも可愛いわ、ほんと可愛くて味見してみたくなっちゃう」

金糸雀「みっちゃん??」

みつ「カナ……もう私我慢できな」

雪華綺晶「こんにちは、黄薔薇のお姉さまとそのミーディアム」

みつ「ほわぁぁぁ!?!?」

雪華綺晶「何かお邪魔でした?」

8: 2009/02/19(木) 21:32:50.57 ID:TNZr4+Cs0
みつ「い、いやそんなことないわよ!?カナがかわいくてつい、なんてこともないのよ!?」

雪華綺晶「そう、ですか。黄薔薇のお姉さま、押し倒されているところ悪いのですが少し聞きたいことが」

金糸雀「カナに質問に来るとは末の妹はわかってるかしら! このローゼンメイデン一の策士」

雪華綺晶「策士の件は置いておいて」

金糸雀「……」

雪華綺晶「実はかくかくしかじかで」


…………

金糸雀「要するに幸せって何かしら、ってこと? 」

雪華綺晶「ええ、別にそれでいいです」




10: 2009/02/19(木) 21:37:29.00 ID:TNZr4+Cs0
金糸雀「前にそんなSSがあったような気がするかし……じゃなくて」

雪華綺晶「?? ともかく、私は黄薔薇のお姉さまの『幸せ』というものを聞きに来たのです」

金糸雀「幸せ、って一言にまとめるのか簡単だけどそれはとても奥深い話なのかしら」

みつ「あら、カナったら珍しく難しい顔してる・・・・・・デジカメ、デジカメっと♪」

金糸雀「そもそも幸せの意味から」

雪華綺晶「あっ、もうそれは調べました」

金糸雀「そ、そうかしら、まったく勉強熱心で困ったかしら」

みつ「あったあった、はーいカナと雪華綺晶ちゃんこっち向いてー」

カシャカシャ

みつ「あー、もうその困った表情のカナも可愛い可愛い可愛い!!」

金糸雀「み、みっちゃん」

みつ「そんな表情が見れて今日は幸せだわー」

雪華綺晶「!!」

12: 2009/02/19(木) 21:42:40.29 ID:TNZr4+Cs0
雪華綺晶「黄薔薇のお姉さまのミーディアム」

みつ「あら、何かしら雪華綺晶ちゃん」

雪華綺晶「あなたの『幸せ』は写真を撮ることなのですか? 」

みつ「んー、少し違うなぁ。私は別に写真が趣味なわけじゃないのよ。カナと雪華綺晶ちゃんが可愛く撮れて幸せって感じかな」

雪華綺晶「ミーディアムの幸せは黄薔薇のお姉さまの可愛い写真を撮ること、なのですね」

みつ「けどやっぱり一番の幸せは何って言われたらそれはカナとの毎日の生活かなぁ」

雪華綺晶「写真を撮ることだけじゃないのですね」

みつ「ええ、そうね。やっぱりカナがいないと今の私は成り立たないもの」

金糸雀「み、みっちゃん……」

みつ「あー、その感動で泣きそうなカナもいただきぃ」

カシャカシャ

14: 2009/02/19(木) 21:47:30.87 ID:TNZr4+Cs0

雪華綺晶「……それで黄薔薇のお姉さまの幸せは何ですか」

金糸雀「カナの幸せは……やっぱりみっちゃんとの生活かしら」

雪華綺晶「それでは黄薔薇のお姉さまはそのミーディアムと同じことが幸せなのですね」

金糸雀「けどそれとおんなじ位バイオリンと一緒の時間も幸せなのかしら」

雪華綺晶「それは同等の幸せ? 」

金糸雀「順位は付けられないかしら。どっちもカナにとっては大事だから」

雪華綺晶「参考になりました、黄薔薇のお姉さま」

トコトコ

みつ「えー、もう帰っちゃうのー雪華綺晶ちゃん!!もう少し遊んで行ってよ~!まだ可愛いお洋服とか来てもらってないないないぃ~!!」

ガシッ!

雪華綺晶

15: 2009/02/19(木) 21:50:13.90 ID:TNZr4+Cs0
雪華綺晶「あっ、えっとその」

みつ「はいはいこっちこっち!」

雪華綺晶「あの、その黄薔薇のお姉さまのミーディアム!?」

みつ「あっ、これとかいいわよねぇ、んーけどこっちのほうが」

雪華綺晶「……黄薔薇のお姉さま」

金糸雀「みっちゃんの病気みたいなものかしら、諦めるのに越したことはないのかしら」

雪華綺晶「これも黄薔薇のお姉さまのミーディアムの幸せですか……」

みつ「あー!どれもいいから迷っちゃう~」

19: 2009/02/19(木) 21:56:15.34 ID:TNZr4+Cs0
×月▽日

今日は黄薔薇のお姉さまのところへと『幸せ』について聞きに行きました。

黄薔薇のお姉さまのミーディアムはお姉さまと一緒にいることが一番の幸せ、ということらしいのです。

お姉さまもそれと一緒、けどそのほかにもバイオリンと一緒にいることも幸せらしいのです。

ということは『幸せ』というものは何か、いや誰かと共にいるのが幸せなのでしょうか。

それが自分の好みものであればなおさら幸せ、ということ。

となれば私はこのフィールドに散らばるオセロや将棋、nのフィールドに散らばっていた数々の物と一緒にいるのが幸せということになります。

けどそんな気持ちにはなりません。いつも一緒にいるからです。私はここから外の世界に出たことはごく最近の事ですから。

じゃあ今までの私は自分では知らずに幸せを感じていたことになるのではないのでしょうか、お父様。

……もう少し考えてみたいと思います。

21: 2009/02/19(木) 22:02:17.27 ID:TNZr4+Cs0
真紅「えっ、今なんと言ったの、雪華綺晶」

雪華綺晶「ですから、紅薔薇のお姉さま、『幸せ』とはなんなのですか」

真紅「また難しいことを」

蒼星石「あっ、雪華綺晶じゃないか珍しいね」

翠星石「げっ、またきやがったですぅ」

雪華綺晶「こんにちは、蒼薔薇のお姉さま、翠薔薇のお姉さま」

蒼星石「別にいいじゃないか翠星石、僕だっていつもお邪魔しているわけだし」

翠星石「それとこれとは話が別なんですぅ」

蒼星石「で、雪華綺晶、一体どうしたんだい? 」

雪華綺晶「それがですね……あーなってこーなってそれがこう」

・・・・・・・・・・・・・・

蒼星石「なるほど、幸せ探しか」

23: 2009/02/19(木) 22:06:36.28 ID:TNZr4+Cs0
翠星石「また妙なことやりやがってるですね、この妹は」

真紅「まぁ、興味深いことでもあるのだわ」

蒼星石「雪華綺晶、幸せの意味は」

雪華綺晶「もう調べました」

蒼星石「……そう、じゃあいったい何でまた」

雪華綺晶「お姉さま方の幸せを教えてもらいたくて」

蒼星石「なるほどね、みんなの幸せか。雛苺とかはわかりやすくていいよね」

翠星石「あいつはイチゴ大福だけあればいいんです」

雪華綺晶「食べもの……ですか」

蒼星石「そうだね、食べることが幸せ、という人はいっぱいるからね。真紅だってそう」

真紅「私は紅茶なのだわ」




26: 2009/02/19(木) 22:10:54.14 ID:TNZr4+Cs0
翠星石「あとくんくんですね」

真紅「そ、そうね確かにくんくんと一緒にいるときは幸せよ」

雪華綺晶「くんくん……あの探偵ですね」

真紅「ええ、彼ほど紳士で頭が切れるお人はいないのだわ」

蒼星石「僕は……なんだろうなぁ」

翠星石「蒼星石はあんまり詳しく話さなくていいですぅ」

蒼星石「えっ、なんでだい? 」

翠星石「変態っていうものは自分で気がつかないからたちが悪いんですぅ」

蒼星石「???」

ジュン「ただいまー。おっ、蒼星石と雪華綺晶来てたのか」

蒼星石「お邪魔してます、ジュンくん」

雪華綺晶「……こんにちは」

28: 2009/02/19(木) 22:15:28.28 ID:TNZr4+Cs0
雪華綺晶「ミーディアム、ミーディアム」

くいくい

ジュン「ん、なんだよ雪華綺晶」

雪華綺晶「幸せを教えてください」

ジュン「幸せ? そうだなぁ」

翠星石「……」

ジュン「特にないな。自慢じゃないけどこう引き籠ってるとあんまり大きなこともおこらないからさ」

雪華綺晶「単調な生活には幸せは無い、と」

ジュン「そういうわけじゃないと思うけど……ほらなんていうかさ、深い幸せだったものもいつの間にか薄まっちゃう、みたいな」

翠星石「そ、そうですぅ!! このチビ人間ったら翠星石たちが居てあげてるのにこの言い草なんですぅ、薄まったんですぅ」

29: 2009/02/19(木) 22:23:28.36 ID:TNZr4+Cs0
ジュン「薄まったというか、無くなったというか」

真紅「けど生活は変わったでしょ」

ジュン「まぁ、そう考えるとそれも幸せの一種か? 」

真紅「さぁ。本人のとらえ方次第なのだわ」

雪華綺晶「……で、翠薔薇のお姉さまの幸せは」

翠星石「翠星石は……その、えっと、あの」

じーー

ジュン「なんでボクを睨むんだよ」

蒼星石「……罪だよね」

真紅「……罰なのだわ」

翠星石「……ハァ」

ジュン「な、なんだよお前ら」

雪華綺晶「ミーディアムさんがペルソナなのでしょうか、それとも翠薔薇のお姉さまですか」

蒼星石「ん、最悪両方だね」

30: 2009/02/19(木) 22:27:44.02 ID:TNZr4+Cs0
真紅「たち悪いのだわ」

雪華綺晶「私にはまだわかりません」

トコトコ

真紅「あら、雪華綺晶帰るの? 」

雪華綺晶「ええ。十分勉強になりました。ありがとうございます、お姉さま」

真紅「そう、それはよかったのだわ」

雪華綺晶「それでは」

トコトコ

真紅「雪華綺晶、また遊びに来なさい」

雪華綺晶「…………はい」

うにゅん

32: 2009/02/19(木) 22:34:43.46 ID:TNZr4+Cs0
×月◎日

今日は紅薔薇のお姉さまの所へ行きました。

やはりそれぞれお姉さまには『幸せ』というものがあるらしいです。

蒼薔薇、翠薔薇のお姉さまの幸せは結局わからず仕舞いでしたが。

けどあの時の翠薔薇のお姉さまは、いつぞやの紅薔薇のお姉さまと少し似ていました。

そう、確かくんくんという名が出た時のお姉さまと一緒。

ということは紅薔薇のお姉さまの『くんくん』というポジションに翠薔薇のお姉さまは『ジュン』が入っている、ということになります。

ミーディアムはくんくんのようなのでしょうか、私にはそれはわかりません。見えません。

けど翠薔薇のお姉さまはミーディアムと一緒に居たい、それはわかったような気がします。

……最近、私も思うのです。寂しい、と思うことが。

昔はそんなこと無かったのに、不思議な気分です。最後に、紅薔薇のお姉さまに言われた一言が嬉しかった、また来てもいいことに。

やはりここは寂しいのでしょうか、一人は。

33: 2009/02/19(木) 22:40:11.90 ID:TNZr4+Cs0
うにゅん

雪華綺晶「こんにちは、黒薔薇のおねえさ……あれ」

めぐ「あら、雪華綺晶」

雪華綺晶「ミーディアム、黒薔薇のお姉さまは」

めぐ「今日はまだ来てないわよ」

雪華綺晶「そうですか。ではまた今度」

めぐ「ちょっと待ってよ。少しお話しましょうよ」

雪華綺晶「……」

めぐ「大丈夫、食べたりしないわ」

36: 2009/02/19(木) 22:45:11.97 ID:TNZr4+Cs0
雪華綺晶「では少しだけ」

めぐ「そうこなくちゃ。じゃあこっちへおいで」

トコトコ

めぐ「よいしょ、と。けっこう重いわね」

雪華綺晶「まぁ、それ相当は」

めぐ「で、何お話しましょうか」

雪華綺晶「そうだ、ミーディアムにも聞きたいことがあるのです」

めぐ「聞きたいこと?私でよければ答えるけど」

雪華綺晶「あなたにとっての幸せ、というものを教えてほしいのです」

めぐ「幸せ、ね。何でまたそんな事を? 」

雪華綺晶「私にはまだ幸せ、というものがわからないので。知りたいのです、幸せを」

めぐ「そう」

37: 2009/02/19(木) 22:51:17.82 ID:TNZr4+Cs0
めぐ「幸せってとても難しいことよ、本当に」

雪華綺晶「そうなのでしょうか、今まで聞いてきたところ、みんな何かしら幸せを得ています」

めぐ「私に幸せというものは・・・…その、なんていうかなぁ」

雪華綺晶「それは悩むもの、なのですね」

めぐ「例えばのお話をしましょうか。たとえばここに裕福な人と貧しい人がいました。その人たちが住んでいる国である政策が取られた。皆の財産を平等にしようと」

雪華綺晶「そうすれば貧しい人は助かりますね」

めぐ「ええ、そうね。貧しい人は『普通の人』に、けど今まで普通より上の生活を送っていた人は『普通の人』に格下げになってしまったよね」

雪華綺晶「そうですね」

めぐ「その時、皆がそれで幸せ? 」

雪華綺晶「いえ、それは違います。裕福な人は前よりグレードが下がっているのですから」

めぐ「そうよね、けどみんな『普通の人』よ。みんな同じなのに幸せは平等ではないの」

雪華綺晶「……??」







38: 2009/02/19(木) 22:57:46.60 ID:TNZr4+Cs0
めぐ「『普通の人』でもみんなが同じでも幸せというものは平等ではないの。いつもその個人に影響をするのよ」

雪華綺晶「はぁ」

めぐ「私に例えてみれば、私がもしもこの病気が治って平穏な、昔みたいな生活にもどれたらそれは幸せだわ」

雪華綺晶「そうですね」

めぐ「だけどその幸せは普通の人にとっては『いつものこと』『普通』でしかないの」

雪華綺晶「と、いうことはそれは各個人、幸せは違うということですか」

めぐ「そういうことよ。みんな幸せなんていうものは違うの。それが当たり前、そうじゃなかったらそれを巡って今頃生命体は滅亡しているわ」

雪華綺晶「……皆ちがうのですね」

めぐ「ええ。みんな、ね。もちろんそれが被っちゃうこともあるわ、それはベクトルが同じ方向、っていうだけなんだけど」

雪華綺晶「……ミーディアムの、今の幸せはなんですか? 」

めぐ「私の幸せ。そんなものはこの入院生活では見いだせなかったわ。逆に不幸な事ばかりよ。こう生きていることすら、そう思えるわ」

40: 2009/02/19(木) 23:03:57.70 ID:TNZr4+Cs0
めぐ「だけど私のもとに水銀燈が来てくれた。それからの私は幸せだったの、いいえ今でも幸せだけど」

雪華綺晶「黒薔薇のお姉さまですか」

めぐ「ねえ、雪華綺晶。幸せっていつわかると思う? 」

雪華綺晶「私にはまだわかりません」

めぐ「私にもそれが確定、なんてはいえないけど多分、多分よ。幸せっては後からふと思うのよ。気がつくの」

雪華綺晶「……後から」

めぐ「それが本当の幸せ、ってやつなんだと思うわ。ふと、今私は幸せだって」

雪華綺晶「それが本当の幸せ……?」

めぐ「私にもわからないけど、それが本当の幸せと私自身は思ってる」

雪華綺晶「そうですか……そうなのですね」

ひょい

めぐ「帰っちゃうの? 」

雪華綺晶「ええ。有益なお話ありがとうございました」

めぐ「こちらこそありがとう。ごめんね、こんな押しつけで」

41: 2009/02/19(木) 23:06:29.24 ID:TNZr4+Cs0
トコトコ

雪華綺晶「最後に……ひとついいですか」

めぐ「何、かしら」

雪華綺晶「ミーディアム、貴方は今、幸せですか? 」

めぐ「……どうかしら」

雪華綺晶「……」

めぐ「けど、けどたぶん前よりは幸せよ。それは断言できる」

雪華綺晶「ではまた」

うにゅん

めぐ「……幸せ、か」

50: 2009/02/19(木) 23:37:00.27 ID:TNZr4+Cs0
×月□日

『幸せ』

それはとても難しい。けど私にもようやくそれが分かってきたかに思える。

『幸せ』というものは想いなのだ。それは物質ではなく、思考。

そしてそれは全ての生命体が持つ者、求めるもの。しかしそれはある、たった一つのものなのではない、誰もが独自の『幸せ』を持っていて、それを感じているのだ。

すべての人に幸せは共通していて、それは各個人違う、違うもの。

……そう、それはすべての生命体が持っていなくてはおかしいもの。けどそれを私は得ていない。

持つべきものなのにそれを持ててはいないのだ。

柿崎めぐは言う、それは必氏に見つけるものではなく、後からふと気がつくものだと。

しかし私の過去は変わらない生活。ただ孤独な。

そこに幸せは見いだせるのだろうか。見いだせるはずがない。

お父様、私はどうすればいいのですか。雪華綺晶にはわかりません。『幸せ』を理解したはずなのに、理解したはずなのに。

51: 2009/02/19(木) 23:44:13.30 ID:TNZr4+Cs0
×月▲日

今朝、nのフィールドに変化が起きました。地震、とでも表現したほうがいいでしょう。この空間にもこんな事があると知りました。

けどその地震のせいなのでしょうか、思ってもみないことが起こってしまいました。

なんと表せばいいのでしょうか、監獄なんて言う言葉が最適なのかもしれません。あるいは迷宮。

お父様、私は雪華綺晶はこのnのフィールドから出られなくなってしまいました。

私が思うに今しばらくまっていればすぐに復旧するとは思います。

いい機会なのかもしれません。これでゆっくり『幸せ』について考えることができます。

53: 2009/02/19(木) 23:50:22.02 ID:TNZr4+Cs0
■月×日

あれからもう2週間が経ちました。2週間前の私を罵倒したい気分です。

2週間ここで私は独りでした。前と変わらない生活です。たった独り、孤独な生活。

だけど変なのです。お父様、私は何か、なんといえばいいかわかりませんが何か物足りない、充実しない生活だと思えてしまうのです。

寂しい、のでしょうか。ええ多分私は寂しいのですね。孤独が寂しいと。

……いけない、染みが出来てしまいそうです。字が滲んでしまいました。だけどこの気持ちは収まらないのです。

寂しいとは辛いのですね。今までの生活は辛かったわけではないのに、今はとても、とても辛いのです。


55: 2009/02/20(金) 00:01:28.34 ID:fS8s0+jF0
■月★日

寂しい、寂しい、寂しい。

独りになりもう3週間が経過しました。

この間、私は『幸せ』について考えました。だけどそれもこの不安に押しつぶされてしまうのです。

お姉さま、ミーディアムに会いたい。またお喋りがしたい、お姉さまの傍らでゲームを見ていたい、またあの変な衣装に着替えたい。

あの時はあんなに楽しかったとは思いもしませんでした。

だけどそれももう叶いません。いつかは出られるでしょう、けどそのいつかにお姉さま達が、ミーディアムがいるとは限りません。

お姉さま、雪華綺晶はここにいます。

お姉さ

61: 2009/02/20(金) 00:07:45.72 ID:fS8s0+jF0
私がその筆を置いたのは何かこの空間に異変を感じたからだ。

地震、ではない。何かこの空間でそう言い表していいかわからないが、外側から押されているような、圧迫されるような感覚。

このまま潰されるのだろうか。

けどそれもいいと、少し思ってしまった。永遠ではないとはいえ、ここで孤独に生きるのはもう限界なのだ。

ここで幕を閉めた方が私にとって『幸せ』なのだと。

なんて寂しい幸せなんだろうか。私が遂に掴んだ『幸せ』はこんなにも辛い。

また涙が零れた。我慢していたのに、また。案外私は泣き虫だったらしい。

……しょう、雪華綺晶……

あれは黒薔薇のお姉さまの声でしょうか。

……だわ、水銀燈……

幻聴すら聞こえます。まるでお姉さまがいまそこにいるように。

そばに来てくれるような、そんな

64: 2009/02/20(金) 00:16:41.10 ID:fS8s0+jF0
「雪華綺晶!! 」

紅薔薇のお姉さまの声が響いたと同時にnのフィールドの壁に小さな穴が開きました。声はそこから聞こえます。

「いるの、雪華綺晶!?」

私は思わずその穴に縋り寄りました。います、ここに雪華綺晶はいます、と。

「この手を掴みなさい雪華綺晶、もうこれから離れ離れになることがないように」

その小さな穴から紅薔薇のお姉さまは必氏に手を伸ばしてくれました。私はその手を必氏に掴みました。

お姉さまの手、紅薔薇のお姉さまの手。

「掴んだのだわ、蒼星石穴を広げて頂戴」

「僕に任せて……はあぁぁ!!」

蒼薔薇のお姉さまが発した声と共にその小さな穴がようやく私一人分くらいの穴まで広がりました。

「さぁ、今のうちなのだわ」

引っ張られたその手に私は従おうとしましたが

「あっ、日記帳」

多分、私がいなくなればこの空間は開くことはない、あの日記帳に会うことも、無い。

67: 2009/02/20(金) 00:21:33.86 ID:fS8s0+jF0
「日記帳が! 」

「そんなのにかまっていたらもうここから出られないのだわ! さぁ、雪華綺晶早く!」

「けど、けどあの日記帳は私自身なんです!!」

日記帳には私のすべてが書かれている。あれは私と同等。だからだから……

「今は貴方のほうが大切なのだわ。日記帳はいつでもまた書けるけど貴方は一人しかいないのだから!」

お姉さまは強く腕を引っ張りました。

「さぁ、早くもう持たないのだわ」

「……はい」

私はお姉さまに従いました。段々と小さくなる穴から私はようやくその身を外の世界へと出すことに成功したのです。

「……お姉さま」

私は顔をあげました。

69: 2009/02/20(金) 00:26:41.56 ID:fS8s0+jF0
「よかった、本当に」

紅薔薇のお姉さまが言いました。

「貴方がいなくなってから皆で探していたのよ」

「そうですぅ、まったく世話の焼ける末の妹なのですぅ」

翠薔薇のお姉さまが少しそっぽを向きながら私に愚痴を溢しました。

「本当ぉ。手間がかかったわぁ」

なんて言いながら水銀燈のお姉さまが私の頭を撫でてくれました。

「カナのお手柄かしら」

「ヒナも頑張ったの~」

「ほんと、良かったよ」

お姉さま方が笑いかけてくれます。

「……お姉さま」

気がつくとまた私は泣いていました。

けどこれは悲しい涙ではなく、

喜びの涙なのでしょう。

72: 2009/02/20(金) 00:34:41.06 ID:fS8s0+jF0
■月×日

また日記を始めたいと思います。あの日記帳は無くなってしまいましたが、紅薔薇のお姉さまが、また書けばいいのだわ、と新しい日記帳をくれました。

今日が新日記の一日目です。

お父様に報告したいことがあります。私にも『幸せ』というものがあったことを。

悲しき幸せではありません。私は本当の『幸せ』を見つけられた、いや見つけたのではありませんね。

私は幸せだったのです。幸せなのです。お姉さま達と居るときから、いられることがとrても幸せなのです。

過去の私は孤独でした。それが耐えられなかったのは、この『幸せ』を自分でも知らない内に感じていたからなのでしょう。

柿崎めぐは言っていました。「幸せっては後からふと思うもの」と。

お父様、今私は幸せです。本当にそう思えるのです。良かった。私がローゼンメイデンで、この世に生を言えるものを受けて。


あっ、お姉さま達が私を迎えに来てくれたようです。今日はみんなでピクニックと言っていましたから。

続きはまた帰ってきてからゆっくりと書こうと思います。

では行ってきますね、お父様。

73: 2009/02/20(金) 00:36:16.66 ID:fS8s0+jF0
おわりです。


74: 2009/02/20(金) 00:36:57.42 ID:YCcDR5E20
乙!
面白かったです

76: 2009/02/20(金) 00:37:51.01 ID:fS8s0+jF0
きらきーかわいいよきらきー

保守してくれた人たちありがとう~

じゃあお休みなさい(・∀・)ノシ

77: 2009/02/20(金) 00:39:41.05 ID:qXzUCoIJO

引用: 雪華綺晶「私は幸せを感じたい」