69:◆G0oHLodvIk 2009/04/05(日) 23:33:54.42 ID:MX/6xrxHO
『黒い薔薇、紅い薔薇』



とある夏の日のこと。
桜田家では少年が復学に向けて努力を重ねていた。

ジュン「一次関数はここまでだな、次の単元は……っと」

真紅「ジュン、一段落ついたみたいね。紅茶をいれて頂戴」

ジュン「仕方ないな、またすぐに勉強するから今だけだぞ?」

真紅「わかったわ」

そうしていつもの日常が過ぎていく。
なんの変哲もない、いつもの日常。
アリスゲーム

72: 2009/04/05(日) 23:40:10.69 ID:MX/6xrxHO
真紅「平和ね。平和すぎて不気味なくらいだわ」

真紅が独り言をつぶやくぐらい、平和な日常を過ごしていた。
アリスゲームという言葉すら忘れてしまう程に。

真紅「ジュン、遅いのだわ……」

退屈を持て余す真紅の元に、二つの鞄が飛んでくる。

翠星石「お邪魔するのですぅ」

蒼星石「お邪魔します」

翠星石と蒼星石。
双子でありながら、全く違う性格の二人。
真紅の退屈はほんのつかの間だった。

74: 2009/04/05(日) 23:46:39.09 ID:MX/6xrxHO
翠星石「真紅、ちょっと相談があるですぅ」

真紅「何かしら?」

翠星石「実は、蒼星石のことで……」

--蒼星石が学校で虐められている。
というのを真紅が知ったのはこの時が初めてだった。

真紅「それは大変ね。それで、何か対策はあるの?」

翠星石「そのために真紅のところに来たんですぅ」

その一言で真紅は困惑する。

真紅「私に何ができるのかしら?」

翠星石「真紅は何かとレディー、レディーってうるせーです。だから、蒼星石にレディーらしい振る舞いを教えてやってほしいのです」

真紅「一言多い気がするけど。わかったのだわ。蒼星石、ついていらっしゃい」

蒼星石「よろしくお願いするよ」



そういって真紅は蒼星石を下の部屋へ連れていった。

78: 2009/04/05(日) 23:51:42.90 ID:MX/6xrxHO
真紅「ジュン、蒼星石のぶんの紅茶を追加して頂戴」

翠星石「ついでに翠星石のぶんもお願いするです」

ジュン「いつの間にお前ら……わかったよ」

少しの時間をおいて、三人分の紅茶が運ばれる。

真紅「あら、ずいぶんと上手くなったわね。さすが私の家来なのだわ」

ジュン「家来じゃないって言ってるだろ」

真紅「蒼星石、レディーというのはね……」

ジュン「無視かよ。まあ良いや。僕は勉強してくるからな」

真紅が蒼星石にレディーの振る舞い方を指導する
おどおどしながらそれを真似る蒼星石。
微笑みながらそれを見つめる翠星石。
この瞬間も、至って平和だった

81: 2009/04/05(日) 23:55:09.72 ID:MX/6xrxHO

真紅「そうよ、貴女なかなか筋が良いわね。良い感じなのたわ」

翠星石「流石は翠星石の妹ですぅ」

蒼星石「えへへ。ありがとう、二人とも」

平和でゆったりとした日常、ゆっくり、ゆっくりと時が過ぎていった。

84: 2009/04/06(月) 00:06:17.39 ID:FBAU067AO
真紅「その調子よ、蒼星石。次は外に出ましょう」

翠星石「外?外で何をするですか?」

真紅「蒼星石は人に見られる事に慣れないといけないのだわ」

蒼星石「でも……恥ずかしいよ……」

真紅「視線による刺激で、自分を磨くのだわ」

真紅の提案により、三人は外に出た。
その時だった。
いつであろうと、平和な日常は突然に崩れる。
三人を襲う漆黒の羽根。

真紅「ホーリエ!」

真紅がすかさずホーリエで三人を護る。

真紅「水銀燈!何故貴女がここにいるの!?」


86: 2009/04/06(月) 00:07:01.08 ID:FBAU067AO
真紅の呼びかけで羽根の雨が止んだ。
そして美しい銀髪と漆黒の羽根……水銀燈が姿を表す。

水銀燈「決まってるじゃなぁい。ローザミスティカを奪いに来たのよぉ」

真紅「全く、忙しいわね!翠星石、蒼星石、下がってなさい!」

翠星石「…で、でも!」

真紅「早く!あとでレディーについてはちゃんと指導するわ!今は下がって!」

真紅の叫びを聞いて翠星石が家の中へ逃げ込む。
後を追うようにして蒼星石も。

真紅「ここでは戦いたくないわ。場所を移しましょう、水銀燈」

水銀燈「いいわぁ。場所がどこだろうと、私が勝つのに変わりはないもの」

そして二人は別々に、街の外れにある公園へ向かった。

88: 2009/04/06(月) 00:13:39.58 ID:FBAU067AO
二人が公園に着いたのはほぼ同時刻。
先に真紅が呼びかける。

真紅「水銀燈、貴女もよくやるわね。でも、良い加減に終わりにしましょう。私は戦いたくないのよ」

水銀燈「何を言ってるのかしらぁ?私は貴女をジャンクにするまで、戦うのをやめないわ!」

真紅「話しても無駄なようね。ホーリエ!」

水銀燈「今日こそジャンクにしてあげるわぁ。メイメイ!」

二人が戦いを繰り広げているさなか、公園にはある人影が近づいていた。

白崎「おやおや、水銀燈と真紅?今日も熱い戦いをしていますねぇ」

白崎「しかし、いつまでたっても進展が無いのはつまらない。私が決着を手伝いましょう」

そうつぶやき、白崎が何かを取り出す

白崎「ふふっ、これで水銀燈と真紅の戦いに終止符が打たれるでしょう」

90: 2009/04/06(月) 00:20:16.12 ID:FBAU067AO
水銀燈「なかなかやるじゃなぁい。それでこそ倒しがいがあるわ!」

真紅「減らず口を叩いてる暇があるのかしら?後ろが開いてるのだわ!」

二人は未だ互角の戦いを繰り広げていた。
一進一退の攻防。そこに、何かが飛んでくる。

真紅「危ない!何、これは?」

水銀燈「何よ、これぇ?人の勝負に水を差さないでほしいわぁ」

二人のもとに飛んできたもの。
それは、鋭いクナイだった。
恐らく、直撃すれば一溜まりもないだろう。

水銀燈「まぁ良いわぁ。続けましょう、真紅!」

二人は尚も勝負を続ける。

白崎「ふむ、タイミングを計った方が良さそうですね」

92: 2009/04/06(月) 00:23:01.05 ID:FBAU067AO
水銀燈「これで終わりよおっ!」

真紅「水銀燈、後ろががら空きなのだわ!」

水銀燈「しまっ……


白崎「今だ!」


白崎の手からクナイが放たれる。
猛スピードで水銀燈の元へ向かうクナイ。
その時だった。

真紅「危ない!」

咄嗟に水銀燈を庇う真紅。
気がつけば真紅の胸にはクナイが突き刺さっていた……

95: 2009/04/06(月) 00:34:14.24 ID:FBAU067AO
水銀燈「うそ……でしょ……?」

真紅「水銀燈、無事だったのね?よかっ……た……」

水銀燈「イヤ、イヤよ!真紅、真紅ぅぅぅ!」

白崎「おや、これは予定外ですね。しかし、それも面白い」

真紅の胸には確かにクナイが刺さっていた。
恐らく致命傷だろう。


96: 2009/04/06(月) 00:35:24.95 ID:FBAU067AO
水銀燈「真紅!貴女……胸に……」

真紅「何故……?水銀燈、何故……貴女は泣いて……いるの?貴女の……望みは……私が壊れる……こと……」

水銀燈「イヤよ!真紅、貴女がいなくなるのはイヤ!昔みたいに、微笑んでよ!」

真紅「貴女……普段と言ってる事が全然……違う……じゃな……い……」

水銀燈「そんなことどうでも良いのよ!真紅!私、ずっと……昔みたいに仲良く……」

真紅「だったら……何故……戦い……を……?」

水銀燈「そうするしか、貴女とコミュニケーションを取れなかったのよ!」

真紅「素直じゃ……ないの……ね……」

そう言って、真紅は力尽きた。
真紅の身体から力が抜けていくのが、水銀燈には痛いほどにわかった。

水銀燈「真紅!真紅!返事して!イヤ、こんなのイヤよ!真紅ぅぅぅぅぅ!」

水銀燈の悲痛な叫びだけが、空に響いた。

99: 2009/04/06(月) 00:42:45.23 ID:FBAU067AO
--ここは?

--海みたいなところね。息は出来る。

--そう、私は氏んでしまったのね。

--どこか遠いところへ旅立つのだわ。

--ふふっ、呆気ないわね。私の最期。

--結局、水銀燈と仲直りできず仕舞い。


100: 2009/04/06(月) 00:44:11.06 ID:FBAU067AO
--何故かしら?涙?レディーには似合わないのだわ……

--私、泣いてる。水銀燈……

--眩しいわね。光?あれは……?

--お父……様? お父様なのですか?

--待ってください、お父様…… 嗚呼……行ってしまった……

--これは、ローザミスティカ?

--お父様、また私に命を与えて下さるのですね!?

--ありがとうございます!

--水銀燈にまた会えるわ。なんて言おうかしら……



………………

101: 2009/04/06(月) 00:49:53.39 ID:FBAU067AO
真紅「……ここは?」

ジュン「真紅!やっと起きたのか!」

翠星石「心配したですぅ……」

蒼星石「良かったぁ。」

真紅が目覚めたのはジュンの部屋だった。
ジュンが事情を説明する。

水銀燈が泣きながら真紅を家に運んで来たこと。
水銀燈が戦いの顛末を話し、自分が真紅の手当てをしたこと。
翠星石と蒼星石が付きっきりで見守っていたこと。

真紅「そう。皆、ありがとう。蒼星石にはまた、レディーというものを教えてあげるのだわ」

蒼星石「ありがとう」

真紅「そういえば、水銀燈は?」

ジュン「後ろ、見てみなよ」

そう言われて真紅が振り返る。
そこには水銀燈の寝顔があった。

ジュン「水銀燈、ずっとお前に添い寝してたんだぜ。起こしてやってくれ」

104: 2009/04/06(月) 00:58:39.71 ID:FBAU067AO
真紅が水銀燈の頬をつっつくと、水銀燈が目を覚ました。

水銀燈「ん~むにゃむにゃ……はわっ!真紅!」

真紅「水銀燈、おはようなのだわ」

水銀燈「真紅、無事だったのね!どれだけ心配したか……」

真紅「悪かったのだわ。水銀燈、貴女に言いたい事があるの」

水銀燈「なぁに?真紅」

真紅「本当は、私はずっと貴女が好きだったの。せっかく二度目の命よ。これからは仲良くしましょう」

水銀燈「好きって……ま、まぁ私も貴女のコト、キ、キ、キキキライじゃないわよっ//」

真紅「素直じゃないのね」

二人の姿をニヤけながら見つめるジュンと翠星石。
蒼星石は微かにはにかんでいた。


107: 2009/04/06(月) 01:03:16.10 ID:FBAU067AO
水銀燈「ニヤけてんじゃないわ!もう!//」

翠星石「これは貴重な水銀燈ですぅ」

ジュン「全くだ」

真紅「あら、気がついたら蒼星石がいないのだわ」

翠星石「蒼星石なら下に行ったですぅ。二人の邪魔にならないようにって」

ジュン「じゃあ、僕らも行くか。仲良くな、お二人さん」

水銀燈「よ、余計なお世話よぉ!//」

こうして、再び平和な日常が戻ってきた。
一人の仲間を増やして。





『黒い薔薇、紅い薔薇』fin.

109: 2009/04/06(月) 01:08:40.98 ID:FBAU067AO
こんな夜遅くまで付き合っていただいて嬉しい限りです。
『黒い薔薇、紅い薔薇』と『庭師の恋』は繋げていますが、細部の表現に矛盾も残ります。
ので、別物の作品として見ていただいても構いません。
例えば『庭師の恋』で蒼星石は真紅と水銀燈が付き合っているのを「信じがたい」としていたりするのに、『黒薔薇紅薔薇』では真紅の告白を見ています。
この辺は私のミスですので、気になっていたらすみません。

最後に一言だけ言わせていただきます。

「百合こそ至高」

ありがとうございました。

110: 2009/04/06(月) 01:09:59.61 ID:tmPeNnwnO
水銀燈は好きじゃないけど真紅にデレる銀は好きかも

引用: ローゼンメイデンの百合SS「庭師の恋」