33: 2008/12/16(火) 00:16:34 ID:QB1eHhb+


太陽が燦々と陽光を降注ぐ昼過ぎに、私は目を覚ました。
ゆるりと上体を起こすと自然と欠伸が一つ。眠気覚ましに伸びをする。
眩しい光に目を細めながら窓外を覗いてみると、すでに太陽は抜けるような青空の中央に陣取っていた。
吉瑞を思わせる良い天気だ。
(ぐ~)
お腹が鳴った。身体が食欲を訴えている。
「昼か……」
――なんでこんな遅くに起きているのか?
それはきっとネウロイのせいだ。
あの満月の夜に現れたネウロイは、今迄に無く強力で三人掛りでやっと倒したのだ。
だから、危険な夜間哨戒が原則二人組になったのは当然で、その役、詰まりは、サーニャの僚機を私が買って出たのも当然なのだ。
さしずめ、サーニャのナイトウィッチならぬ騎士(ナイト)ウィッチである。
こんなジョークが頭を過るほど、今日は頗る調子が良い様だ。
「食堂に行くか」
欲の赴くままそう呟くと、すぐ隣りに寝てるはずの、可憐で可愛く、天使と見紛う程の神々しい秀麗な、愛しのサーニャを、食事に誘うべく起こしに掛かる。
「おいサーニャ、起きろ」
振り向きながら言葉を発する。
――居ない
見ると、ベッドの半分は綺麗に修繕されており、その上に、これまた綺麗に畳まれた私の衣服がちょこんと置かれていた。
私はガクンと肩を落とし、溜め息を付きながら酷く落胆する。
そしてそのままベッドに潜り込み不貞寝を始めた。

暫くするとまた
(ぐ~)
と、腹の虫が鳴いた。
「腹減ったな……」
勘弁した私はのそりと起き上がると、綺麗に畳まれた衣服を手に取り、サッと着替えた。

暗雲たる気持ちで食堂へ足を運ぶ。
食堂に差し掛かった所で突然、パッと腕を捕まれ、後ろ向きのまま、あれよあれよと言う間に、何処かの空部屋に連れ込まれてしまった。
「誰だよもう、人が憂鬱な時にこんなこと…」
背後の人物に向かって、心底恨めしそうに文句を言うと
「ごっめーん、エイラ。 お願い、許して」
なんて、てんで悪びれた素振も無い飄々しい詫びが返って来た。
振り返ると、金髪のカールスラント人が満面の笑みを放っていた。
「なんだよ、ハルトマン。用がないならもう行くぞ」
「ちょ、ちょっと待って。用ならちゃんとあるから」

34: 2008/12/16(火) 00:18:32 ID:QB1eHhb+
少し慌てながらそう言うと、ハルトマンは徐にポケットに手を突っ込み、中をまさぐり始めた。
はい、と手渡されたのは四つ折りにされた紙。
はぁ、まったく。カールスラント人ならそれらしく、どっかの大尉みたいに、規律に厳しく愚直でこんな面倒な事をせずに、ジャガイモ相手に電撃戦でも仕掛けていろよな…。「こら、そこ、そんな面倒臭そうな顔をするな」
「お腹が減って氏にそうなんだ。他の奴に相手してくれよ」
「そんな事言わないでさ。それにね、これはエイラにとっても凄く重要なことなんだよ」
「私に?」
「多分エイラの憂鬱の遠因が載ってる筈だよ」
この憂鬱の原因といえば……
訝りながらも、誘惑に負けて紙を開ける。
えー何々……ウィッチ隊相関図?
紙面には501の皆の名前と、関係を表すのであろう矢印が書かれていた。
―――――ん?
「なーハルトマン。この高村って奴は誰なんだ?」
「おいおい、注目する処が違うだろ」
呆れられながらも、此処だよと、指で指された場所に目をやると、私とサーニャの名前が書いてあった。
見ると、見事に″エイラ″から″サーニャ″へ矢印が引かれている。
瞬時に頭に血が上る。
顔はきっと茹蛸みたいに赤く火照っているのだろう、すごく熱い。
なんだよ。これかよ。私をからかいに来たって言うのかよ。
きっと何処かで笑いを噛み頃しているだろう、シャーリーやルッキーニが待ってましたとばかりに飛び出してきて、私の頭をぱんぱんと叩きながら
「大丈夫だって! この事は内緒にしといてやるからさ!」と笑い転げながらやってくる筈だ。
だけど、何時になっても奴等がやってくる気配は無かった。
それどころか、何分も紙に顔を吸い付く用にしてこの醜態を隠しているのに、それをハルトマンは一向に追究しようとしない。
不信に思って、紙を少し離して盗み見てみると、ハルトマンは腕を胸の前で組みながら目を瞑ってうんうんと言わんばかりに頭を上下させていた。
益々わけがわからない。
頬の上気が治まると共に、ハルトマンに尋ねてみた。
「なあ、ハルトマン。此が一体何だってんだよ?」
するとハルトマンは首の上下運動を止めて、ぷるぷると肩を震わせ始めた。
げっ、何か不味い事でも言ったか。
「馬鹿! サーニャの事なんかどうでもいいっての! それでも女か!」
突然の咆哮に私はたじろぐしかない。

35: 2008/12/16(火) 00:20:02 ID:QB1eHhb+
大体なんで奴が怒っているのかも分からないのだから、対処しようがないってものだ。
「な、なんで怒るんだよ。何か気に障る様な事でもしたか?」
「貸して!」
ハルトマンはそう言うと、私の手から紙を取り上げた。
「此を見ても何も感じないわけ?」
そう言ってハルトマンが指差した処を目をやると矢印の線があった。
誰のかな、と目を動かすと…………サーニャのだ!
素早く紙を奪い返して、まじまじと張り付く様に何度も何度も見返した。
だけど、やっぱり、その矢印は″エイラ″ではなく何度見たって″宮藤″の方へ指していた。
「やっと理解できたか」
そう言いながら、奴はぽんぽんと私の肩を叩いてきた。
……やっぱりそうか……やっぱり最初から私を馬鹿にするつもりだったんだ!
ふつふつと怒りがたぎりだす。
私が怒りをぶちまけようとしたその時
「そこでエイラ、私とさ、同盟を組まない?」
へっ? 何を言ってるんだ?
あっけらかんとその場で固まっていると、本日三回目の指差し。
視線を移すと、なんとまぁ、あの御堅い大尉殿から宮藤に矢印が伸びているじゃないか。
やっと状況を理解できた。
「ねー、どう?」
冷静になった頭をフル回転させる。
そもそも、まだ会って数週間足らず。そんな短時間で人を好きになれる筈がない。
それに、バルクホルン大尉に色恋沙汰は似合わないし、サーニャだって何時も一緒の私なら兎も角、宮藤を好きになるなんて、そんな兆候も見た事ないし、そう、有り得ないさ。
「落ち着いて考えてみろよ。全然信憑性無いし、大体、大尉が人を好きになるなんてありっこ無いって。何処から持って来たのか知らないけど、きっと誰かのイタズラだろ」
「でも、これ持ってたのマロニーだよ」
「そ、そんなわけ無いだろ」
「この前あいつが来た時さ、落としていったんだよ、この紙を」
「な、何を根拠に…」
「信じる信じないは自由。だけど、私が言ってる事は全部本当だよ」
うぅ、この顔はどうにも冗談では無さそうだ。一体私はどうすれば…
(ぐ~)
しまった! もぉ、何もこんな時に鳴らなくてもいいだろ、この腹は!
「まぁいきなりだと混乱しちゃうよね。いいよ。返事は後でいいから。先にご飯食べてきて」
にこっとした笑顔で言い放ったハルトマンの言葉に甘えて、私は部屋を後にした。

36: 2008/12/16(火) 00:21:22 ID:QB1eHhb+
食堂へ続く廊下を歩きながら、私はどうしたものかと思案する。
サーニャが宮藤の事を好き?
断じて有り得ない!
サーニャと宮藤が喋ってる所なんて見た事無いし、仮に、仮にそうだとしてもおっOいマイスターの宮藤がサーニャに興味を示す筈が無い。
そうだそうだ。これは唯のハルトマンの杞憂だよ。
ははっ、全くまだまだ乙女だなハルトマンも。
はぁ、こんな事で悩んでたなんて馬鹿らしいや。
それより、サーニャと午後から何をしようか?
タロットかな? ははは、なんて考えている内に、もう食堂まで十mを切っていた。
取り敢えずは腹拵えだ。
お腹を擦りながら、ハルトマンになんと説得しようかと考える。
あと、五m。
三mといったとこで、中から談笑の音が漏れてきた。
誰だろう、と中を覗くと……サーニャと宮藤だ!
咄嗟に壁に身を隠す。
な、何でサーニャと宮藤が一緒に居るんだ!
そんな、まさか、もしかして本当に…
ぶるぶると頭を振って馬鹿な考えを振り払う。
仲間なんだから、会話するぐらい普通だろ。
自分に言い聞かせる様にそう呟いた。
そうさ、だからさっさと中に入って仲間に会おうじゃないか、なぁ、エイラ。
なのになのに、どうして私の身体は中に入るの拒むのか。
サーニャに早く会いたいのに、どうして。
どうしようもないので、しゃがみ込み顔だけ出して、二人を覗く。
嗚呼、サーニャがあんなに楽しそうに笑ってる…
「どう見ても恋する乙女だね」
「わっ!」
突然の上方からの声にびっくりして、情けない声を上げてしまった。
又も壁に身を隠す。

……良かった。会話はまだ続いてる。気付かれてはないようだ。
「いきなり叫ばないでよ。びっくりするじゃん」
にひひ、と笑いながらそう言うのは勿論
「それはこっちのセリフだぞ! ハルトマン!」
精一杯の弱音での怒鳴り声。
だけど、私の怒りなど気にも止めず、「あははごめんね」なんて返してくるハルトマン。予想通りだ。
相手をしても無駄なので、監視行動を続行する。
暫く観ると、会話と言うものの、喋っているのは宮藤だけで、サーニャはこくこくと頷いて、時たま二三、言葉を返しているだけである。
だけど、それでもサーニャは何だか楽しそうで、一生懸命耳を澄して、宮藤の言葉にこくこくと反応している。

37: 2008/12/16(火) 00:23:28 ID:QB1eHhb+
「頬が少し赤いね」
さすがにもう驚かない。
そして、サーニャの頬に目を移す。
うわ、本当に赤いよ。
「これはもう決まりだね」
「頬が赤いのは、サーニャが照れ屋さんだからだろ」
この答えは私の願望に近い。
数分の沈黙の後、今度はバルクホルン大尉が二人に近付いてきた。
視認後「トゥルーデ」と消え入りそうな弱々しい声が頭上から耳に響いた。
目線を上げると、ハルトマンは身体をわなわなと震わせていた。目尻に涙まで浮かべて。
嗚呼、こいつだって辛いんだ。
さっきまでは、心底むかついたけど、今では同情心がそれに勝る。
しかし、食堂に大尉が居たなんて全く気付かなかった。
他にも誰か居るのかも知れない。
視線を巡らすと、厨房にリーネが居た。
うわっ、めちゃくちゃ睨んでるよ。超怖い。
しかもなんか手に包丁持ってるし、危な―――わっ! 目が遭った! やばい殺される!
危険を察知した私は、ハルトマンの手を取ると、一目散に先の空部屋に駆け込んだ。
全力で走ったものだから息が荒げる。
しかし、リーネのあの目は狩人の目だった。野兎を狩る狐の目だ。
このままだと、サーニャが危ない。危険だ。
もうつべこべ言ってる暇はない。サーニャを守るためなら何だってしよう。何故なら私はサーニャのナイトウィッチなんだから。

「はぁはぁ、突然走り出して何なのさ」
その問いは無視。
「ハルトマン」
「何さ?」
「同盟を結ぼうか」

今日この日、此処に、宮藤の魔の手からサーニャと序のバルクホルンの純潔と貞操と主に胸を守るため
(そしてリーネからサーニャを守るため)に反宮藤同盟がエイラとハルトマンの間で締結されたのであった。

では失礼しました。

38: 2008/12/16(火) 00:51:14 ID:mYZ+w0Ud
>>37
GJ! リーネ怖いよリーネw
同盟の行方が続き気になります。

引用: ストライクウィッチーズpart14