190: 2010/03/03(水) 19:11:45.43 ID:dBt05hL+0
前回:谷口「俺、とべんじゃん!」【前編】
───翌日、朝
キコキコキコイコ
谷口「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ」
キコキコキコキコ
谷口「ハァ、ヒィ、ハァ、ウプ」
タッ
谷口「この坂を行けば……どうなるものか……。こんなフッツーのママチャリなんか車庫に置いときやがって、どーせなら電動やらロードレーサーにしてほしかったぜ」
谷口「ふぅ……。でもま、なんかきもちいいからいいか。あんぱんッ」
ギコギコギコギコ……
谷口「フゥ、フゥ、フゥ」
谷口(自転車との語り合い、パーフェクトペダリングを目指す……)
谷口(ああ、今日もいい天気だぜ)
ギコギコギコギコ
191: 2010/03/03(水) 19:12:36.29 ID:dBt05hL+0
───放課後
キョン(そうして、今日も野球に明け暮れた)
キョン(ゆっくりとだが、朝比奈さんは上達していた)
キョン(同時にその二倍はばんそうこうが増えていったが、朝比奈さんの顔からは苦しそうな表情は見られなかった)
キョン(何か吹っ切れたんだろうな)
キョン(ああ、おそらく。やっとこの時代に彼女は居場所を見つけることができたのだろう)
キョン(それがなぜ野球を練習してる間に見つかったのかわからないが、とにかく喜ばしいことだ)
キョン(よかったよかった。さて、彼女の居場所は一体誰によってもたらされた物なのか……)
キョン(鈍感の塊であるハルヒでさえ、それに気づいてるみたいだ)
ハルヒ「……」
192: 2010/03/03(水) 19:14:31.83 ID:MFcKA7LX0
古泉「ちょっと、いいですか」
キョン「なんだ」
古泉「なんだか、穏やかな顔をしていますね」
キョン「そーゆうお前もな」
古泉「僕のは地顔ですから。それはともかく、朝比奈さんのことです」
キョン「その話か。見ての通りじゃないか、幸せそうでうれしいよ、おれは」
古泉「そうですね。野球大会の頃からは考えられなかったような状態です。まさか彼女がグローブをはめて、あんなに充実した姿を見せるなんて、ね」
キョン「結構なことじゃないか。一体何の問題があるんだ?」
古泉「はい、SOS団としてはなんの問題もありません。閉鎖空間も最近は落ち着いていますから」
キョン「じゃあ一体何の話がしたいんだ?」
古泉「始めから言ってるじゃありませんか。朝比奈さんのことです。SOS団のことではありません」
193: 2010/03/03(水) 19:14:53.52 ID:NxFbS8JM0
キョン「つまり機関がらみの話ではないってことだな?」
古泉「そうです。ただし……宇宙人がらみの話ですが」
キョン「!? 長門が何かかかわってるのか?」
古泉「はい。一体どういう思惑かは知りませんが……。彼女は機関や涼宮さんが朝比奈さんと……谷口さんに近づいてほしくない、と思っている」
キョン「何?」
古泉「つまりです、二人の関係を涼宮さんの持つ神の力と係わらせたくない、そう考えている訳です」
キョン「なぜだ?」
古泉「期末テスト前のことになります。長門さんからぼくに、ひとつの打診がありました」
キョン「お前ら、二人で話すことあるのか?」
古泉「……いえ。思い返せば、会話らしい会話をしたのはその時が初めてだったかもしれません」
キョン「そうか。つづけてくれ」
194: 2010/03/03(水) 19:15:42.83 ID:MFcKA7LX0
古泉「放課後ですね、彼女が一つの情報爆発を観測した、と言い出しました。そしてそれが一体どのような属性のものなのか測りかねているようでした」
キョン「あの、長門がね……」
古泉「思えば本当はもうその場で解析は済んでいたのかもしれませんね。とにかく、それから彼女は僕に打診をしてきた」
キョン「なんて?」
古泉「この情報爆発の一件に関して、我々機関には手出しをしてほしくない、とね」
キョン「あの長門がそんなことを言い出すなんて、珍しいな」
古泉「はい。そして彼女はこう続けました。涼宮ハルヒにかかわらない事柄について、私的感情の行使は規制されていない、と」
キョン「……」
古泉「つまり、早い話がその情報爆発について、彼女は個人的な関心を抱いている。そして何らかの関与を行いたい、と考えているとみえます」
キョン「その情報爆発ってのは、結局なんだったんだ?」
古泉「……それがまことに残念ながら……まだ僕には掴めていないんです」
195: 2010/03/03(水) 19:17:03.95 ID:MFcKA7LX0
キョン「お前、じゃあなんで俺にそんな不確定な話を振ってきたんだ?」
古泉「この件に関して、僕にはバックが存在しないんです。長門さんに頼まれたとおり、機関にはその情報爆発のことを知らせていませんからね」
キョン「……」
古泉「つまり長門さんと同じように、この件に関しては個人的な関心で動いていることになります。よって僕は機関の一員としてでなく、古泉一樹としてのネットワークから情報を探さなければならない」
キョン「それで俺に声をかけた、ってことか」
古泉「その通りです。いざ機関を抜きにして人間関係を考えなおしてみたところ、貴方しか友人が思いつかなかったもので」
キョン「……なんだろうな、すごくさみしい気持ちになったよ」
古泉「僕もです」
196: 2010/03/03(水) 19:17:13.99 ID:NxFbS8JM0
古泉「とにかく、何か心あたりはありませんか? 時期的に彼ら二人と関わりがあることは間違いないんです」
キョン「心あたり、と言われても困るぞ。そもそも、情報爆発ってどーゆうときに起こるんだ?」
古泉「例えば涼宮さんに神の力が備わった瞬間、またそれを行使した瞬間などですね。流石にそれ程大きな出来事ではなかったようですが」
キョン「ううん……なんかあったかな……」
古泉「この現代にはありえないようなオーパーツの発現等もそれに当たるでしょう」
キョン「んんー」
古泉「ねぇ、お願いしますよ。僕には貴方しか頼りになる人がいないんです」
キョン「んなこと言われても……っとそーいやひとつ、おかしなことがあったな」
古泉「!! なんですか、それは!?」
キョン「谷口が、時を跳ぶことができるか? と聞いてきたことがある」
201: 2010/03/03(水) 19:45:09.22 ID:NxFbS8JM0
保守ありがとうございました!再開します!
古泉「……谷口さんが……そんなことを……」
キョン「ちょうどテスト前ぐらいのことだったとおもうがな」
古泉「……いえ、なるほど、色々なことがそれなら納得できます」
キョン「ほう?」
古泉「まず、谷口さんの野球大会での挙動不審。打席に立った時、何もないのに突然疲れていたのは、おそらく時間を巻き戻して何度もボールを見たからでしょう」
キョン「細かいところ見ていたんだな」
古泉「ヒットを打てたこと自体が驚きでしたから、印象に残っているんです」
キョン「まあ、確かに。まぐれで打てる球じゃなかったしな」
古泉「そして、決定的な物が二つ。彼がSOS団に入ったこと、そして……」
古泉「あそこで自転車に2ケツで朝比奈さんと帰ろうとしていることです!!」
古泉「……谷口さんが……そんなことを……」
キョン「ちょうどテスト前ぐらいのことだったとおもうがな」
古泉「……いえ、なるほど、色々なことがそれなら納得できます」
キョン「ほう?」
古泉「まず、谷口さんの野球大会での挙動不審。打席に立った時、何もないのに突然疲れていたのは、おそらく時間を巻き戻して何度もボールを見たからでしょう」
キョン「細かいところ見ていたんだな」
古泉「ヒットを打てたこと自体が驚きでしたから、印象に残っているんです」
キョン「まあ、確かに。まぐれで打てる球じゃなかったしな」
古泉「そして、決定的な物が二つ。彼がSOS団に入ったこと、そして……」
古泉「あそこで自転車に2ケツで朝比奈さんと帰ろうとしていることです!!」
202: 2010/03/03(水) 19:45:42.10 ID:TQzrSleh0
谷口「えと、じゃあ、しっかり落ちないようにしてくださいっす」
朝比奈「はい。私、自転車に二人で乗るの初めて! 楽しみー」
谷口「よ、よっしゃ! じゃあ行くっすよー!」
キコキコキコキコ
キョン「そーいや、今日突然自転車で来たな。自転車持ってないっつってたのに」
古泉「ふむ。朝比奈さんの雰囲気にも驚きですね、あれがオフの時の朝比奈さんなのでしょうか」
キョン「にしても、なんだか波長が合ってきてるな、あの二人」
古泉「ええ、なんだかお似合いに思えてきてしまいました」
203: 2010/03/03(水) 19:46:47.74 ID:TQzrSleh0
キョン「で、何の話をしていたんだっけ?」
古泉「まとめましょうか。まず、長門さんが情報爆発に対し個人的な関心を抱いており、機関や統合思念体とは関わらせたくないと考えていた」
古泉「そしてその情報爆発とは谷口さんが時を跳ぶ何かを手に入れたことであり、今谷口さんは持っていなかったハズの自転車に朝比奈さんを乗せている」
古泉「……つまり、少し想像しがたいことですが、長門さんは谷口さんと朝比奈さんの関係について何らかの干渉を行っているのではないでしょうか」
キョン「どんな風に?」
古泉「まだハッキリとは言えませんが……。今度長門さんと話してみることにしましょう」
キョン「……あまり下世話なことにならないようにな」
古泉「ははは、ごもっともですね。好奇心の範疇に収められるように気をつけましょう」
キョン「ま、何かわかったら教えてくれよ」
古泉「あなたもやはり、気になりますか?」
キョン「そりゃそうに決まってるだろ。朝比奈さんだぞ?」
古泉「ふふ、そうですね。それでは何かあれば一報しますよ。また、明日逢いましょう」
キョン「ああ。じゃあな」
204: 2010/03/03(水) 19:48:46.87 ID:NxFbS8JM0
───そうして、何日か過ぎた・・・・・・
キコキコキコキコ
朝比奈「もっと速くー!」
谷口「もう、これ、限界、っぽ」
タッ
朝比奈「そんなことない! ほら、立ち止まっちゃだめ! 時は待ってくれないんだから」
谷口「いやいや、俺の筋肉議決でもう限界だって結論出ましたから!」
朝比奈「なにそれw 議決で結論とかw 意味軽く重複してるよw」
谷口「ええい、嫌らしいつっこみをっ」
205: 2010/03/03(水) 19:49:07.11 ID:TQzrSleh0
朝比奈「とにかく、急がないと遅刻しちゃう!」
谷口「坂道2ケツとか・・・・・・不可能・・・・・・」
朝比奈「不可能からのぉ?」
谷口「ちっくしょお、俺の自転車は!!」
朝比奈「坂を登る自転車だ!
キコキコキコ タッ
谷口「無理ですね」
朝比奈「わかります」
206: 2010/03/03(水) 19:49:53.43 ID:TQzrSleh0
───教室
谷口「ふぃー、あっちーなー」
キョン「今日は1限いなかったな」
谷靴「え、ああ。遅刻だ遅刻。寝坊で」
キョン「隠しても無駄だ。朝比奈さんと自転車で坂登ってくるの丸見えだったぞ」
谷口「げ、マジで!? 岡部なんか言ってたか?」
キョン「嘘に決まってるだろ。その窓から坂が見えるか?」
谷口「ふっ、古典的なマジックだな」
キョン「しかしホントに朝比奈さんを自転車に乗せてきたのか。ずいぶん仲良くなったもんだ」
谷口「ま、まーな。いやいや、ほかのやつにあんまり言うなよ? 言わないでください!」
キョン「おいおい、こんなとこで秘密主義か? 中学生じゃないんだ、カップルなんて珍しくもなんともないじゃないか」
谷口「カカカカップルカカカップルカカカカッカカッカカッカップルだなどと!」
キョン「なんかの裏ワザみたいになってるぞ」
207: 2010/03/03(水) 19:50:52.85 ID:TQzrSleh0
谷口「別に付き合ってる訳じゃねーよ!マジで」
キョン「別に、そんなに否定することでもないだろうに」
谷口「便所行ってくる!!」
キョン「照れ屋というか子供というか……。ん?」
ハルヒ「……」ジーッ
キョン「な、なんだよ。おれの顔になんかくっついてるか?」
ハルヒ「……別に、なんでもないわよ」
キョン「そ、そうか?」
ハルヒ「……」
キョン「おい、やっぱりなんか言いたいことあるんじゃないか?」
ハルヒ「……別に」
ハルヒ「……ただ、夏休みになったら市営プール行かないとなー、って思っただけ」
208: 2010/03/03(水) 19:51:08.80 ID:NxFbS8JM0
キョン「うん? いいんじゃないか、涼しそうだしな。それもなんかの不思議探索か?」
ハルヒ「夏を夏らしく過ごすためにプールはかかせないって思っただけよ」
キョン「ふぅーん。なんか、珍しいな。目的もなく遊ぶなんてお前らしくもない気がするよ」
ハルヒ「別に遊びにいつも意味を求めてる訳じゃないわよ。そういうつまらない考え方してると、楽しい物も楽しくなくなっちゃうもの」
キョン「……そうだな。楽しけりゃ、それだけでいいこともあるからな」
ハルヒ「じゃあ、市営プール行く時は自転車で来なさいよ?」
キョン「は? 自転車と市営プール行くのに何の関係があるんだ?」
ハルヒ「あたしが後ろに乗せてもらうために決まってるでしょ!」
キョン「いや、決まってない。決まってないぞ。なんでそんなことしなきゃならんのだ」
ハルヒ「だって、その方が面白いじゃない!」
キョン「……やれやれ。ま、プールの前に汗をかくのも悪くないかもな。そう思うことにしよう」
ハルヒ「ちゃんと後ろ乗りやすいようにしときなさいよ! 坂道だって絶対下りて歩いたりしないんだからね!」
キョン「へいへい、せいぜい坂道のないルートを探しとくことにするさ」
キーンコーンカーンコーン...
209: 2010/03/03(水) 19:51:51.47 ID:TQzrSleh0
───放課後、野球練習後、団室
谷口「いやー、今日も疲れたぜ」
キョン「もう長いこと日照りだな。いい天気なのはいいことだが、このままだと水不足になりそうだ」
古泉「一応今日の夜から明日の朝にかけて降水確率30%になっていましたが、そんな気配微塵もありませんね」
キョン「どーせなら夜寝てる間に雨が降ってほしいもんだな。最後に雨が降ったのはいつになるんだ?」
古泉「確か……二週間前の火曜日になりますか」
谷口「よく覚えてんな、そんなこと」
古泉「ふふ、毎朝星座占いと一緒に確認していますので。ちなみにその雨が降った日、僕のラッキーアイテムは長靴でした」
キョン「ちょうどいいじゃないか。履いて登校したのか?」
古泉「ええ。それで調子に乗って水たまりで跳ねまわってたら、気づけば靴下がビショビショになっていました」
キョン「……ラッキーアイテムってのも使い用だからな」
211: 2010/03/03(水) 19:52:58.61 ID:TQzrSleh0
古泉「でもラッキーなこともありましたよ?」
キョン「どうせ大したことじゃないだろうが、一応きいてやる。何があったんだ?」
古泉「傘を忘れてビショビショになってしまいブラが透けている女子高生を見ることができました」
谷口「うっひょう! その女子、わかってるな! うちの学校か??」
古泉「喜ばしいことに、とても身近な人でした」
谷口「知り合いだったのか?」
古泉「ええ、朝比奈さんでした」
ガンッ
古泉「う、ウグ。顔面に……ティーカップとは……初体験です」
朝比奈「お茶、入れます?」
谷口・キョン「お、お願いします」
212: 2010/03/03(水) 19:53:44.50 ID:TQzrSleh0
ハルヒ「へぇー、ミクルちゃん、素はこんな感じだったのね」
朝比奈「そ、そんなことないです、今も手が滑っただけで」
ハルヒ「いいのよ、別に! どじっこで内気だった少女が成長を遂げていくなんて、宇宙人も大好きそうなシナリオじゃない!」
長門「……!!!!!!!」
朝比奈「べ、別に猫を被ったりしてた訳じゃないんですよ!? ただ……」
ハルヒ「だーかーら! 細かいことはどーだっていいのよ! だって今のミクルちゃん、前よりも楽しそうだもの!」
朝比奈「そうですか? ふふ、そうかもしれませんね」
ハルヒ「……ま、納得できないこともたくさんあるけど、ミクルちゃんがそれでいいならいいわ」
朝比奈「?」
ハルヒ「そーゆーものだもんね」ジーッ
キョン「ん? なんだよ」
ハルヒ「別に?」
213: 2010/03/03(水) 19:54:03.14 ID:NxFbS8JM0
朝比奈「あーっ! お茶っ葉切らしてました!」
ハルヒ「えー? さっきどじっこから成長したって言ったけど、まだ卒業できてる訳じゃなさそーねー」
朝比奈「ご、ごめんなさい」
ハルヒ「ま、いーわ。今日はまだ少し早いし、みんなで駅前の喫茶店でも行かない?」
古泉「いいですねぇ、僕も今日は時間があるんです」
朝比奈「丁度お茶っ葉も買わないといけないですし、行きます」
ハルヒ「良い返事ね! 有希は?」
長門「コクリ」
ハルヒ「よし! じゃあさっさと準備して、行きましょう!」
214: 2010/03/03(水) 19:54:28.66 ID:TQzrSleh0
キョン「おいおい、おれと谷口には聞かないのか?」
ハルヒ「ふふん、あんたたちの意思はきかなくたってわかってるわ。来たいでしょ??」
谷口「ほほう? でかくでるじゃねーか?」
ハルヒ「何? 来たくないわけ?」
谷口「行きたいですっ!」顔芸
ハルヒ「そう。……キョンは?」
キョン「ったく仕方ないな。付き合ってやるよ」
ハルヒ「うん! 全く素直じゃないんだから! じゃ、みんな行きましょう!」
215: 2010/03/03(水) 19:57:17.23 ID:TQzrSleh0
───外
谷口「あ、そうだ」
谷口「朝比奈さん、おれの自転車乗ってきます?」
朝比奈「え?」
ハルヒ「ちょっとあんた! そんな露骨なエコ贔屓は容認できないわよ! その自転車キョンに貸しなさいよ、後ろあたしが乗るから!」
谷口「露骨なのはどっちだよ! そんなでいいのかお前!」
ハルヒ「とにかく! なーんで二人だけ自転車で行こうなんて言い出すわけ? あんた友達集団と下校中に一人だけ先にスタスタいっちゃうタイプなの?」
谷口「ちげーよ! 朝比奈さんお茶っ葉買うっつってたろ? だから、みんなより先に行ってさっさとお茶っ葉買ってきちまえばいいじゃん、って思ったんだっての」
ハルヒ「べーつに、それなら喫茶店寄った後にすりゃいいじゃない?」
谷口「そりゃそーだけどよ。そしたら暗くなっちまうじゃねーか」
キョン「ぷっ、なんだそれ。さすがに心配しすぎなんじゃないのか?」
古泉「ふふ、ですが先に買って来てしまう、というのは別に悪い案でもないように思いますよ。どちらにせよ、谷口さんは自転車を学校に置いて帰る訳にもいかないのですから、それを有効活用するのも一つの手でしょう」
キョン「確かにそうかもな。それに手押しで下り坂は逆につらそうだ」
谷口「だ、だろ?」
216: 2010/03/03(水) 19:57:33.58 ID:NxFbS8JM0
ハルヒ「むー。みくるちゃんはどーなのよ? あんたやつの後ろに乗って下り坂をサーっと行きたくなんかないわよね?」
朝比奈「涼しそうだし、楽しそう、かな」
ハルヒ「……」
谷口「よっしゃ、じゃあぱぱっと行ってきちゃいましょう!」
朝比奈「じゃあ遠慮なくー」
ハルヒ「……」
古泉「では、またいつもの喫茶店で」
谷口「あいよ。しっかりつかまっててくださいよー!」
朝比奈「言われなくてもそうします。谷口さんの運転、さながらレールのないトロッコみたいな感じですから」
キョン「面白そうなアトラクションですね」
朝比奈「ふふ。じゃあ、行ってきますね」
タッ キコキコキコキコ...
218: 2010/03/03(水) 20:00:06.35 ID:TQzrSleh0
古泉「行ってしまいましたね」
キョン「……なんかこう目の前でまざまざと見せられると……」
古泉「さびしい、ですか?」
キョン「……そんなところだ」
古泉「それは友人に彼女ができたから? あるいは彼氏が?」
キョン「彼女、ってお前……。でも、そーゆうことなのかもな」
古泉「これから嫌でも何度も経験していくことになりますよ。友人に彼女ができて一緒にいられなくなっていく、なんてことはね」
キョン「おいおい、男友達に対して独占欲なんて抱いちゃいないぞ」
古泉「それはどーでしょう。とにかく、友人との関係は否応なしに変化していきます。自分の意思とは全く無関係にね」
キョン「そんなことぐらい知ってるさ」
219: 2010/03/03(水) 20:00:25.00 ID:NxFbS8JM0
古泉「それでも、さびしいものですね」
キョン「お前もか?」
古泉「もちろんですよ。ふふ、いずれ貴方にも彼女ができたら、もっとさびしい思いをすることになるんでしょうね」
キョン「気持ち悪いこと言うな」
古泉「おかしな意味などありませんよ」
キョン「……俺に、彼女、ね」
古泉「変わっていくことを批判する立場に立とうなどと思ってはいないのですが……。ただ……」
キョン「ただ?」
古泉「……ずっと今のように楽しければいいのにと、僕はそう願わずにはいられないんです」
キョン「……」
古泉「僕も中学の時は朝比奈さんと同じような立場でした。自由も効かず、自分が何をしているかもわからない。身動きのとれない観測者とはつまらないものです」
キョン「……」
古泉「ですが今は……なんやかんやあって楽しいですからね。SOS団には本当に感謝しているんですよ」
220: 2010/03/03(水) 20:02:17.74 ID:TQzrSleh0
ハルヒ「なーにしてんの! 走ってきなさい!」
キョン「おう」
古泉「らしくもない話をしてしまいましたね、急ぎましょう、涼宮さんが怒りだす前に」
タタタッ
キョン「なあ古泉」タタタ
古泉「なんです?」タタタ
キョン「別に彼女ができたって……変わらないもんもあるさ」
古泉「ふふ、貴方に彼女ができたら確認してみるとしましょう」
キョン「そーしてくれ」
古泉「そんなことになれば機関の仕事で大忙しになりますから、確認どころじゃなさそうですけどね」
タタタタッ...
222: 2010/03/03(水) 20:02:57.14 ID:TQzrSleh0
───朝比奈と谷口、商店街横の川沿いの道
キコキコキコイコ
朝比奈「ねえ、ちょっとここらへんで休んでいかない?」
谷口「いいっすよー」
キコキコキ....タッ
───川原
トスッ
朝比奈「ふー、後ろ座ってて疲れたー」
谷口「いやいや、何言い出すんすか、漕いでる俺の身にもなってくださいよ」
朝比奈「だからこうして休んでるでしょ。それに君はいつも坂道トレーニングしてるからもう慣れっこでしょ?」
谷口「辛さ、ってのはいつになっても慣れないものなんすよ!」
朝比奈「ごめんね?」
谷口「べ、別に全然だいじょーぶっす!」
223: 2010/03/03(水) 20:04:31.68 ID:TQzrSleh0
prrrrrr
朝比奈「携帯鳴ってるよ?」
谷口「え、あ、電話だし、どーせ涼宮からさっさとこーい!って催促っすよ。出るだけ無駄」
朝比奈「ひどいw」
谷口「全くあいつの傍若無人っぷりはビックリだ。なんであんなになったんすか?」
朝比奈「さあ、性格の構築の経緯まではわからないの」
谷口「キョンが甘やかすからあんなになるんすよね。あいつがビシっと言ってやらないといけないのに」
朝比奈「ふふ、君が言ってみれば?」
谷口「おれは言ってますけど、全然効果なしっすよ」
朝比奈「なんでだろうね?」
谷口「さあ……と、ちょっと天気悪くなってきましたね」
朝比奈「ホントだ、降ってきちゃうかも。早く喫茶店行った方が良さそうね」
224: 2010/03/03(水) 20:05:04.83 ID:NxFbS8JM0
キコキコキコ...
谷口「お茶っ葉売ってるお店ってあんな住宅地の中にあるんすね、初めて知りましたよ」
朝比奈「デパートとかにも入ってるんだけど、あのお店の方が種類が豊富だから、あそこで買うようにしてるの」
谷口「へぇー。っていうか、あの店おれの家の近くっすよ」
朝比奈「そーなの? あそこらへんに住んでるんだ。うらやましいなぁ」
谷口「お茶っ葉屋が近くにあるだけじゃないっすか」
朝比奈「あはは」
谷口「そんなにお茶好きですか?」
朝比奈「はじめは嫌だったけどねー、なんだか召使いみたいで」
谷口「あ、やっぱ思ってたんすか」
朝比奈「だってそれまではコーヒーも紅茶もお茶も何も飲んだことなかったから」
225: 2010/03/03(水) 20:06:04.58 ID:TQzrSleh0
谷口「へー、なんか意外っす」
朝比奈「今ではお茶の楽しみも知れたし、こうして自転車も自分で漕がなくていい。……うん、SOS団入ってよかったかな」
谷口「地味におれの扱い悪くないっすか」
朝比奈「いやいや、頼りにしてるよ、アッシーくん」
谷口「みょーにうれしいのが悲しい」
朝比奈「そんなことないよ」
谷口「おれの感情なのに否定しないでくださいよ」
朝比奈「君はどうだった? SOS団入れて?」
谷口「どうって……。そうっすね……なんとなく、やっぱ良かったかな」
朝比奈「なんで?」
谷口「え?」
朝比奈「なんでSOS団入れてよかったと思うの?」
226: 2010/03/03(水) 20:07:43.66 ID:TQzrSleh0
谷口「えっと、それは……」
谷口(自転車こぎながらでも、後ろからなんか妙な圧力を感じる……)
谷口(SOS団入れてよかったと思う……理由?)
谷口(そんなん色々あるけど……)
谷口(その中で一番大きいのはなんだろう)
谷口(……いやいや、そんなん分かりきってるさ)
谷口(親父の目ばっかり気にして、嫌ってるふりをしながらも影では褒めてほしがってた俺が……)
谷口(今では別の人の目線ばかり気にしてる)
谷口(その人に、必要とされているように感じられてる……それがうれしいからSOS団にいる)
227: 2010/03/03(水) 20:08:08.09 ID:NxFbS8JM0
朝比奈「谷口君?」
谷口「それは……」
谷口(でも、本当にこれでいいのか?)
谷口(何か俺は変わったか?)
谷口(周りが変わっただけで、おれは何も変わってないんじゃないか?)
谷口(親父の目が気にならなくなった? それは本当か?)
谷口(ただ、逃げ場所を見つけただけじゃないのか?)
谷口(……俺は……)
朝比奈「じゃあ先に、私の一番楽しい理由を教えてあげるよ」
谷口「え?」
朝比奈「君が……いるから」
228: 2010/03/03(水) 20:09:12.89 ID:TQzrSleh0
谷口「!!」
朝比奈「……」
谷口「……」
朝比奈「……」
谷口「……」
朝比奈「……ねぇ」
谷口「うあああああああああああああああああああ」
ブィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
テテーテレテレテレテレテレテー
229: 2010/03/03(水) 20:11:26.32 ID:TQzrSleh0
……キコキコキコ
朝比奈「ねえ、ちょっとここらへんで休んでいかない?」
谷口「え? あ……」
朝比奈「そろそろ疲れたでしょう?」
谷口「全然よゆーっす。それにほら、雨降りそうだし」
朝比奈「あ、ホントだ。なら急いだ方がいいかぁ」
谷口「……じゃあ急ぎましょう」
朝比奈「ふふ、どんなに急いでも力使わなくていいなんて楽だなー。……うん、SOS団入ってよかったかな」
谷口「!!」
230: 2010/03/03(水) 20:13:43.97 ID:TQzrSleh0
prrrrr
朝比奈「あれ、携帯鳴ってない?」
谷口「いえ、どーせ涼宮からの催促の電話っすよ。無視して、それよりさっさと喫茶店行きましょう!」
朝比奈「え、あ、ちょっと、飛ばしすぎだよ!」
谷口「いえいえ、雨が降っちゃうかもしれないじゃないですか!」
朝比奈「うわ、うわ、ひゃー」
谷口(朝比奈さんがいつもより強くしがみついてくる。なんか、鼓動が聞こえてくる気がする。これは……)
朝比奈「ねぇ、なんで私がSOS団入ったか教えてあげようか?」
谷口「いや、えと」
朝比奈「君が……」
ブィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
テテーテレテレテレテレテレテー
231: 2010/03/03(水) 20:14:52.21 ID:NxFbS8JM0
───朝比奈と谷口、商店街横の川沿いの道
キコキコキコイコ
朝比奈「ねえ、ちょっとここらへんで休んでいかない?」
谷口「……」
朝比奈「ねぇ?」
谷口「……」
朝比奈「あ、ちょっと雨降ってきそうだね。急いだ方がいっか」
谷口「……」
232: 2010/03/03(水) 20:15:59.17 ID:TQzrSleh0
谷口(どーやってしのげばいい……)
朝比奈「ふふ、どんなに急いでも力使わなくていいなんて楽だなー。……うん、SOS団入ってよかったかな」
谷口「そ、そーいえば昨日のテレビ見ました?」
朝比奈「見てないです」
谷口「そ、そーすか。いやー、うちの妹が馬鹿でですね」
朝比奈「谷口君妹いたっけ?」
谷口「……いないっす」
朝比奈「……ねえ、君はSOS団に入って楽しい?」
谷口(結局この流れか……避けられないのか……)
233: 2010/03/03(水) 20:17:30.13 ID:TQzrSleh0
谷口(でも、なんて答えればいい? 仮に答えたとして、そのあとどーすればいい?)
谷口(何もうまくいくわけない。おれなんかに。おれみたいなヘタレなんかに一体何ができるってんだよ……)
谷口(親父……朝比奈さん……)
朝比奈「ねぇ?」
谷口「……楽しいっすよ」
朝比奈「なんで?」
谷口「えと……」
谷口(てきとーに嘘ついちまえよ。そんで会話を終わらせれば……)
谷口「いや、キョンと一緒にすごしたり古泉と話しがしたりできるのが……」
朝比奈「……」
234: 2010/03/03(水) 20:19:05.97 ID:NxFbS8JM0
谷口「ってのもありますけど、本当は……」
谷口(ダメだ……。こんなおれでも、こんな場面で嘘はつきたくないんだ……)
朝比奈「……」
谷口「……」
朝比奈「じゃあ私が先にSOS団が楽しい一番の理由を教えてあげるよ」
谷口「!!」
谷口(もうすぐ喫茶店につくのに!!)
朝比奈「君が……」
prrrrrr
235: 2010/03/03(水) 20:19:48.99 ID:3n7DlQf50
谷口(しめた!!)
谷口「す、すみません! 電話です!」
朝比奈「そんなの後じゃだめなの?」
谷口「大事な電話なんです! 出ますね!」
朝比奈「……もう」
谷口(ごめんなさい、朝比奈さん……。どーせ涼宮からです……)
ピッ
谷口「はい谷口です! え……?」
朝比奈「……?」
236: 2010/03/03(水) 20:21:06.37 ID:3n7DlQf50
───そのころ、喫茶店にて
ハルヒ「ミクルちゃんおっそいわねー! もうアイスコーヒー飲み終わっちゃうわよ!」
キョン「まだ着いてから10分しか経ってないだろうが」
ハルヒ「経ってる時間なんて関係ないわ。事実として、あたしはコーヒー飲み終えそうなんだから!」
キョン「ったく。アイスコーヒーぐらいおごってやるから落ち着け」
ハルヒ「そんなの当たり前じゃない! 恩着せがましく言わないでよね。はーい注文お願い!」
ウェイター「はい、ご注文をどうぞ」
ハルヒ「アイスコーヒー一つ、ラージで! あと、いちごエクレアも頂戴」
ウェイター「かしこまりました、ご注文は以上でよろしいですか? ……ではできましたらお持ちしますので」
ハルヒ「はーい」
キョン「……ったくこいつは感謝って言葉をしらんのか」
237: 2010/03/03(水) 20:21:37.46 ID:NxFbS8JM0
ハルヒ「それにしてもミクルちゃん、珍しいわよねー、お茶っ葉切らすなんて」
キョン「そうか? そういう少し抜けてる感じ、朝比奈さんらしいと思うが」
ハルヒ「そうかしら? まだメイドが板についてないなんて……これは教育が必要ね」
キョン「やめろ、メイドをおれ好みに教育するなんて、響きが工口すぎるぞ」
ハルヒ「そこまでは言ってないじゃない」
キョン「俺が主でメイドが俺で。うお、マーベラスだ」
ハルヒ「……その組み合わせなら人手がかからなくてよさそうね」
古泉「貴方が主で執事が僕でどうでしょう?」
キョン「断る」
古泉「んふ、でしょうね」
238: 2010/03/03(水) 20:22:32.83 ID:3n7DlQf50
古泉「話は戻りますが、さっきお茶っ葉が切れていた件ですが」
キョン「なんだ? お前が深夜にでも学校に忍び込んで一人執事でもやってたってのか?」
古泉「ふふ、誰もいない夜中の学校で一人ティータイムをするというのも悪くなさそうですが……残念ですが、それをしたのは僕じゃありません」
ハルヒ「え? じゃあ誰かやったの??」
古泉「実際に学校内で飲んだかはわかりませんが……誰もいない間にお茶っ葉を外に持ち出した人物がいます」
ハルヒ「ふーん、見上げたもんね、このSOS団の団室から備品を持ち去ろうとするなんて」
キョン「誰だ? ハルヒを敵に回すかもしれないリスクを払ってまで団室からお茶っ葉を盗み出した不届きもんは?」
古泉「とても身近な人物ですよ。普段から団室に出入ることに違和感がない人物です」
キョン「……まさか」
古泉「ねぇ? 長門さん?」
長門「……」
239: 2010/03/03(水) 20:23:53.42 ID:3n7DlQf50
ハルヒ「ちょ、ちょっと! ホントなの?」
長門「……」
古泉「ふふ、実は見てしまったのですよ。僕が団室に忘れ物をしたときのことです。どこにあるのかさっぱりわからず、ついついロッカーの中に僕はとじこまってしまったんです」
キョン「状況がよくわからんな」
古泉「そして僕は3時間ほど、ロッカーの小さな隙間から団室の中をのぞいていました」
キョン「……」
古泉「夏の昼間のことでしたから、ほんとうに氏ぬかと思いました。ですがその間に様々なことがあり目の保養となったので、それは良しとしましょう」
キョン「おい、無駄な話はそこらへんにして、本題を進めてくれ」
古泉「とにかく、そうしていると何者かが団室に入ってきて、お茶っ葉をごっそり袋に入れてからすぐに立ち去って行きました」
キョン「それが長門だったのか?」
古泉「はい」
240: 2010/03/03(水) 20:25:40.63 ID:NxFbS8JM0
ハルヒ「で、有希は犯行を認めるわけ? いいえ、言い直しましょう。有希に判決を言い渡す、有罪!」
キョン「こんなつまらない証人でいいのか?」
ハルヒ「いいわ。どっちにしろもうこの事件は立件の地点で有希の有罪で決まってるのよ」
キョン「なんで?」
ハルヒ「何度も言わせないで! その方が面白いからにきまってるじゃない! 普段無口な有希が窃盗よ? あー、つまらないサスペンスでよく万引きGメンとかやってるけど、実際立ち会ってみると結構面白そうね! Gメンのバイト募集してないかしら?」
古泉「窃盗して捕まった女子高生役のオファーならSOS団に届いてますよ?」
キョン「あってえーな映像じゃないか! そんなの売れなくなったアイドルに回してくれ! こちとらまだまだ現役なんだぞ!」
古泉「売れなくなったアイドルに女子高生役は厳しいと思いますが……」
ハルヒ「ごちゃごちゃうるさい! とにかく、有希はなんでそんなことをしたのか正直に話しなさい! そしたら情状酌量の余地もあるかもしれないわ」
キョン「たった今有罪、って宣告したじゃないか。情状酌量も何もないだろ」
ハルヒ「じゃあ正直に話す刑を言い渡すわ!」
241: 2010/03/03(水) 20:26:35.20 ID:3n7DlQf50
キョン「お前な……っと、ウェイターさんがコーヒー持って来てくれたみたいだぞ」
ハルヒ「あ、ホントだ……」
ハルヒ「このポーチ、ドルガバなんだけどお気に入りなのよねー。今度御殿場のアウトレット行かない? 夏服欲しいから」
キョン「なんだ突然。というか、御殿場は遠すぎだろ。そしてドルガバ持ってる高一女子ってどうなんだ」
ウェイター「こちらアイスコーヒーといちごエクレアになります」
ハルヒ「ありがとー」
ウェイター「ではごゆっくりどうぞー」
ハルヒ「……ふぅ」
キョン「なんでいきなり服の話を?」
ハルヒ「だ、だって正直に話す刑!とかそういうノリの話を他人に聞かれると恥ずかしいじゃないの」
キョン「その自覚はあったのな」
242: 2010/03/03(水) 20:28:27.98 ID:NxFbS8JM0
ハルヒ「とにかく! 有希はその理由を話しなさい」
長門「……私は」
キョン・古泉・ハルヒ「!!!」
長門「私はただ、朝比奈みくると谷口の仲の手伝いをしたかっただけ」
ハルヒ「え、それ、どういうこと?」
長門「お茶っ葉を抜いておけば皆で喫茶店に来ることになるだろうと予測していた。加えて、その際に谷口が自転車を学校に置いていく訳にも行かず手持無沙汰になるとも想像できた」
古泉「そうすれば谷口君は自転車に乗りたいという気持ちと朝比奈さんと一緒にいたいという願望が相まって、朝比奈さんと谷口さんが二人で自転車に乗りお茶っ葉を買いに行くだろうと考えた訳ですか?」
長門「そう」
ハルヒ「なんで二人で自転車に乗ってほしかったのよ?」
長門「……」
キョン「……」
長門「私は物語に出てくるような恋愛を見てみたかった」
ハルヒ「え……」
長門「ただそれだけ」
243: 2010/03/03(水) 20:30:26.12 ID:3n7DlQf50
キョン「……それは、長門、お前自身の願望だったんだよな?」
長門「そう」
キョン「つまり、その……」
古泉「なるほど、文学少女らしい願いですね」
キョン(毎日本を読んでこんなこと思ってたのか……。自分ではなく他人の恋愛である辺り、様々なしがらみが見てとれるな……)
ハルヒ「……」
長門「……お茶っ葉を持ちだしたことについて謝罪する」
ハルヒ「いいの、いいのよ。そんなちっさいこと、気にしてなんかいないから」
長門「……そう」
ハルヒ「そんなことより、あたしうれしいのよ。しかもメッチャよ! 少しじゃないわ!」
キョン「それまたなんで?」
ハルヒ「有希もあの二人の関係を応援してるってことがわかったからよ!」
キョン「も? も、ってことは……」
ハルヒ「あたしも応援してるにきまってるじゃない! そうじゃなかったらあんな奴をSOS団に入れたりなんかしないわ!」
245: 2010/03/03(水) 20:32:07.80 ID:3n7DlQf50
ハルヒ「まあ、そーぞー通りにへたれで中々思ったような展開を見せないからやきもきしてたんだけどね」
キョン「俺には想像以上の発展を見せてるように思うがな」
ハルヒ「何? あんたも実は気になってたんじゃないの?」
キョン「ふん、気にならない訳ないだろう。朝比奈さんだぞ?」
ハルヒ「それ、どーゆう意味よ」
古泉「ふふ、大事なSOS団の仲間だから、という意味でしょう」
キョン「大体そんなもんだ」
ハルヒ「ふーん」
古泉「実は僕も二人の仲が気になっていたんですよ。加えて、できることなら上手くいってほしいと願っていました」
ハルヒ「へえ~……。……」
キョン「……どうした? 本人らにしてみればはた迷惑かもしれないが、お前のすきそうな話じゃないか。どうしてそんなにしんみりしてるんだ?」
ハルヒ「いえ、なんていえばいいのかしら……」
ハルヒ「うん、なんかメチャクチャ嬉しい……んだと思う」
246: 2010/03/03(水) 20:33:36.06 ID:NxFbS8JM0
キョン「なぜ?」
ハルヒ「なんかあたし、いつもSOS団の中でも浮いてるような気がしてたから……。ほら、みんな私が突然団室入ったりするとそわそわしてたじゃない? 実はみんなあたしのこと嫌いで、蔭口とか言ってるのかなぁ、って思ってたから」
キョン(態度にでちまってたか)
ハルヒ「なんか時々聞いたことないような単語が出てくるし……。みんな本音をいつも隠してるような気がしてたのよ」
古泉「そんなことは……」
ハルヒ「でもさっき、初めて有希ときちんとした会話ができたじゃない? それでみんなあの二人を応援してる、ってわかった。それでね、あたしやっとみんなと一緒になれた気がした」
長門「……」
ハルヒ「ようやくみんなで一丸になることができたな、って。野球の時はそーはいかなかったから……」
キョン「……お前もそういうこと考えてたんだな」
ハルヒ「どーゆう人間に見えてたのよ」
キョン「なんっていうか、能天気な奴っていえばいいのかね。人間らしい悩みのない奴だと思ってたさ」
ハルヒ「……あたしにだって悩みぐらいあるわよ。このSOS団だってそう、楽しいけど、みんなが何考えてるのか時々わからなくってイライラしてたわ」
キョン(お前の考えてることの方がよっぽど突拍子もなくて予測不可能だけどな)
247: 2010/03/03(水) 20:33:51.29 ID:3n7DlQf50
キョン「なぜ?」
ハルヒ「なんかあたし、いつもSOS団の中でも浮いてるような気がしてたから……。ほら、みんな私が突然団室入ったりするとそわそわしてたじゃない? 実はみんなあたしのこと嫌いで、蔭口とか言ってるのかなぁ、って思ってたから」
キョン(態度にでちまってたか)
ハルヒ「なんか時々聞いたことないような単語が出てくるし……。みんな本音をいつも隠してるような気がしてたのよ」
古泉「そんなことは……」
ハルヒ「でもさっき、初めて有希ときちんとした会話ができたじゃない? それでみんなあの二人を応援してる、ってわかった。それでね、あたしやっとみんなと一緒になれた気がした」
長門「……」
ハルヒ「ようやくみんなで一丸になることができたな、って。野球の時はそーはいかなかったから……」
キョン「……お前もそういうこと考えてたんだな」
ハルヒ「どーゆう人間に見えてたのよ」
キョン「なんっていうか、能天気な奴っていえばいいのかね。人間らしい悩みのない奴だと思ってたさ」
ハルヒ「……あたしにだって悩みぐらいあるわよ。このSOS団だってそう、楽しいけど、みんなが何考えてるのか時々わからなくってイライラしてたわ」
キョン(お前の考えてることの方がよっぽど突拍子もなくて予測不可能だけどな)
248: 2010/03/03(水) 20:34:37.16 ID:3n7DlQf50
ハルヒ「だけど、なんか今はそういうのなくって……グスッ……」
古泉「おや……」
キョン「お前……泣いてるのか?」
ハルヒ「!! そんな訳ないじゃない! ちょっとトイレ行ってくるから! コーヒー飲んじゃだめだからね! エクレアも!」
タタタタタ...
キョン「見間違えか?」
古泉「ふふ、そういうことにしておきましょう」
長門「……」
キョン「朝比奈さん遅いな。今頃何やってるんだろうか。谷口のやろう、ええいうらやましい」
古泉「僕にはそんなことより気になっていることがあるんです」
キョン「なんだ?」
古泉「谷口さんの能力ですよ。長門さん、説明していただけますか?」
249: 2010/03/03(水) 20:35:41.19 ID:3n7DlQf50
キョン「そういや、そんなこともあったっけかな」
古泉「何を言ってるんですか。これは僕に超能力が備わったことや朝比奈さんが未来からやってきたこととほぼ同規模の疑問だと思いますが」
キョン「そーかい。おれにとってはやっかいなことでしかないさ」
古泉「まったく……。とにかく、そろそろ説明していただいても良いのではないですか? どうやら、もう涼宮さんの能力が朝比奈さんたちの関係にかかわる様子はなさそうですから」
長門「それはどうかわからない。統合思念体は違った意見を持っている」
古泉「そうだとしても、僕らの機関はそうは考えていませんよ。谷口さんはSOS団に、ひいては涼宮さんにかかわる存在ではなく、朝比奈さん個人に付随する付着物のような物であると機関は判断しています」
キョン「付着物ねぇ」
古泉「つまり僕に谷口さんの力について話したとしても、機関にその情報は伝わりません。心おきなく説明してください」
251: 2010/03/03(水) 20:38:34.98 ID:+qys70Gn0
長門「手早く済ませる」
キョン「頼む」
長門「谷口に身に付いた力は“時を巻き戻す力”」
キョン「時を跳ぶんじゃないのか? そう谷口は言っていたが」
長門「跳ぶ、という表現はあまり相応しくない。その表現は、朝比奈みくるが存在する時間軸において作り出されたツールによる時間跳躍を説明するのにふさわしいといえる。だが谷口の持つ力は別」
キョン「つまりどういうことだ? 谷口は朝比奈さんとは違う未来から来たってことか?」
長門「違う。間違いなく、その力が身につくまで谷口は現在の時間軸における凡庸な一高校生にすぎなかった」
古泉「つまり貴方が情報爆発を観測した、と言っていたあの日に彼にその力が身に付いたと?」
長門「そう」
古泉「それは僕の超能力と同じように、ですか?」
長門「それは違う。彼はその力を体内に充填するツールを何らかの形で使用し、その力を得た」
252: 2010/03/03(水) 20:39:03.46 ID:NxFbS8JM0
キョン「体内に充填するツール? なんだそれ、注射器みたいなものか?」
長門「そのようなもの。恐らくそのツールは朝比奈ミクルとは別の未来からやってきた何者かによって運び込まれ、それを谷口は偶然使用することとなった」
古泉「なるほど……。それで、朝比奈さんの能力とは別物なのですよね? その力の内容を教えていただけますか?」
長門「時を巻き戻す力」
キョン「? 朝比奈さんと一緒じゃないのか?」
長門「朝比奈みくるの持つ時を跳ぶ力は、同一の時間軸に二人の同一人物が存在する可能性を生み出す。しかし谷口の時を戻す力は違う。復元ポイントを定め、その地点まで自分ではなく時を巻き戻す」
キョン「随分と派手な力だな、谷口らしくもない」
長門「そう。巻き戻された分はなかったこととなる。ただし、その瞬間に未来は強い反発性によって再構築される」
キョン「?」
長門「未来はほぼ決まっている。人が何人か時を跳んでやり直したところで、それは湖に石を投げ込んで水際を波立たせるのと変わらず、すぐにまた静けさを取り戻す。巻き戻しによって未来もその力に巻き込まれ一瞬姿を消すが、同時にほぼ同じ姿をまた再構築する」
古泉「つまり結果的にはほぼ時を跳ぶことと変わらないことになる、と」
長門「世界にとってはそう。ただ本人にとっては違う。その未来はなかったことになる。本人にとっては大きな出来事」
253: 2010/03/03(水) 20:40:37.91 ID:+qys70Gn0
ハルヒ「ふー! 今戻ったわよ! あれ? まだミクルちゃんたち来てないの?」
古泉「確かにそろそろついてもよさそうな頃合いですね」
ハルヒ「そうよね。もしかして事故にでもあったんじゃないかしら?」
古泉「考え方が僕の祖母みたいですね」
ハルヒ「ふぅん」
古泉「夕食に家に帰らないだけで、外まで出てきて待ってくれちゃうような方なんですよ」
ハルヒ「いいおばあちゃんじゃない」
古泉「いやいや、与えることが与えられる側にとっていつだってうれしいとは限りませんから」
ハルヒ「地味にいやなこと言うわね、古泉君って」
古泉「ゆっくりと現実を教えていく、というのが僕のSOS団における方針なんですよ」
ハルヒ「現実、ねぇ」
古泉「はい」
254: 2010/03/03(水) 20:41:33.02 ID:+qys70Gn0
カランコローン...
ハルヒ「あ、ミクルちゃんよ! やっほー、ミクルちゃーん! こっちこっちー!……って、え?」
ミクル「……」
ハルヒ「どうしたの? みくるちゃん?」
朝比奈「……」
ハルヒ「黙っててもわかんないわ。ゆっくりでいいから、あたしに話してみて?」
朝比奈「……」
ハルヒ「おk、むしろゆっくりは勘弁って言うなら、当社比三倍速でも構わないから」
255: 2010/03/03(水) 20:42:21.11 ID:+qys70Gn0
朝比奈「谷口君……」
キョン「あいつに何かあったのか?」
朝比奈「うぐっえぐっ……谷口君の……おとおさんがぁ」
キョン「? あいつの親父に何かあったのか?」
朝比奈「さっき谷口君の携帯がなって……それで……」
長門「……」
朝比奈「お父さんが、倒れたって……!ふぇええええええん」
256: 2010/03/03(水) 20:43:24.90 ID:NxFbS8JM0
───病院
谷口「……」
タッタッタッタッタ
キョン「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。た、谷口」
谷口「……」
涼宮「えと」
谷口「……」
朝比奈「……」
キョン「お父さんは、大丈夫なのか?」
谷口「……末期の……肺がんだって」
涼宮「!」
谷口「ずっと前からもうわかってたのに……入院してなかったんだってよ」
キョン「それで、今はどこに?」
谷口「病室で寝てる……。もう転移が進みすぎてて手術とかは無理だって」
257: 2010/03/03(水) 20:44:22.49 ID:+qys70Gn0
長門「……」
谷口「今日明日にすぐ……ってのはないけど、しばらく意識が戻ることはないって」
キョン「それは……なんといえばいいかわからないが……」
谷口「……」
古泉「ご家族の方はどちらに?」
谷口「……お医者さんと何か話をしてる」
古泉「貴方はここで何を?」
谷口「……」
古泉「気をしっかり持ってください。こんな時だからこそ、ね」
谷口「……俺は……」
谷口「おれは、親父に嫌われてたんだ……!! 俺が馬鹿だから……。ちくしょう!」ダダダッ
キョン「おい谷口! どこ行くんだ!」
朝比奈「わたし、追いかけます!」 タタッ
259: 2010/03/03(水) 20:46:23.81 ID:+qys70Gn0
───どしゃぶり、川原
ザーザー
谷口「……」
谷口(……やっぱり俺は何も変わってない……)
谷口(おれは親父に認められたかったんだ)
谷口(時を跳んでテストでわざわざ良い点とったのだって……)
谷口(だけど親父は俺のことを認めてくれやしなかった……)
谷口(そりゃそうさ……ズルしてんだもんな……)
谷口(結局、俺は親父から嫌われてんだ……)
谷口(だって好かれる要因がないもんな……)
谷口(一体なんで朝比奈さんは俺のことを……)
谷口(きっと朝比奈さんだってズルばっかりのホントの俺を知ったら……)
260: 2010/03/03(水) 20:46:57.95 ID:NxFbS8JM0
ザーザー
谷口「ウグッ、ヒック」
ザーザー パパパパパタパタパタパタタパタタパ(雨が傘に当たる音)
谷口「え?」
朝比奈「……やっぱりここにいた」
谷口「……」
朝比奈「あらあら、こんなに濡れちゃって。二本持ってきたから、この傘使って?」
谷口「……ありがとうす」
朝比奈「……よいしょ」隣に座る
谷口「……」
朝比奈「……」
谷口「……」
朝比奈「君に……伝えたいことがあるんです」
261: 2010/03/03(水) 20:49:59.74 ID:NxFbS8JM0
谷口「……」
朝比奈「……」
谷口「……今は何も聞きたくないっす」
朝比奈「いいえ、今聞いて。もうすぐ私は行かなきゃいけないから」
谷口「え?」
朝比奈「私は決まり事を守ることができませんでした。だからもうこの時間軸にとどまることはできないの」
谷口「一体、何を……」
朝比奈「私はきわめて私的な感情によって、でも強い思いによって、その決まりを破りました」
谷口「何を言ってるんすか、朝比奈さん?」
262: 2010/03/03(水) 20:52:05.40 ID:+qys70Gn0
朝比奈「私は君のお父さんに会ってきました」
谷口「……は?」
朝比奈「会って、少しだけ話をさせていただきました」
谷口「親父、意識を回復させたのか?」
朝比奈「いいえ、そうではないんです。でも私は会って話をしてきました。そのことについて君に伝えたいことがあるんです」
谷口「……」
263: 2010/03/03(水) 20:52:25.98 ID:NxFbS8JM0
朝比奈「本当はもっといろいろな話を君としたかったし、いろいろなところに行ってみたかった。けどお話ができるのはこれが最後です」
谷口「いったい何の話をしてるんすか、マジで……」
朝比奈「そんな風に言われても仕方ないですね。でも私のことを信頼してください。……そうとしかいえないんです」
谷口「……そりゃ朝比奈さんのことは信頼してますけど……」
朝比奈「ふふ、よかった。じゃあこれからいう言葉を忘れないでね?」
谷口「……はい」
朝比奈「君のお父さんは君のことを愛していました」
ブイイイイイイイイイン
264: 2010/03/03(水) 20:53:15.14 ID:+qys70Gn0
朝比奈「あ、も、もう本当に時間がないの! 聞いて! 谷口君!」ピカー
谷口「な、どうして!? 朝比奈さんの足元からなんか光が……!」
朝比奈「楽しかった! 君と過ごせた時間が、とても! それだけじゃ足りない?」ピカー
谷口「どうしたんですか、朝比奈さん、体が!」
朝比奈「自分に自信を持って! 勉強なんて出来なくたっていいの! 君には君にしかできないことがあるんだもの!」ピカー
谷口「そんな、どーして、朝比奈さん! 体が、透けてっ」
朝比奈「君のことを私は信頼してるから! それを……忘れないでね」ピカー
朝比奈「さよなら。楽しかった」
ブイイイイイイイイイイイイインン.....
265: 2010/03/03(水) 20:56:55.70 ID:NxFbS8JM0
谷口「??」
谷口「朝比奈さん?」キョロキョロ
谷口「あ、朝比奈さん?」
谷口「え?」
谷口「……いなくなってしまった……」
谷口「どーゆうことだ……」
タッタッタッタッタ
キョン「はぁ、はぁ、こんなとこにいたのか……」
谷口「キョン! 朝比奈さんが!」
キョン「? 朝比奈さんに何かあったのか?」
谷口「それが、朝比奈さんの体が光りだしたと思ったらとつぜん姿が見当たらなくなっちまってよ……」
266: 2010/03/03(水) 20:59:50.80 ID:+qys70Gn0
谷口「一体、なんなんだ……?」
キョン「……」
谷口「おい、キョン、お前何か知ってるんじゃないのか?」
キョン「なんで俺が?」
谷口「だってよ、長門がお前は涼宮の力のキーだっつってたぞ」
キョン「長門が……? なんでそんなことお前に教えたんだ?」
谷口「しらねーよそんなこと! そんなことより、何で朝比奈さんがいなくなったのか教えてくれよ!」
キョン「お、おれも知りたいぐらいだ。とにかく、今ここにいても仕方ないだろ。雨も強くなるばかりだ、とりあえずみんなのところに行こう」
谷口「……なんなんだよ……明日になればまた会えるんだよな……?」
キョン「……ああ、きっと会えるさ」
267: 2010/03/03(水) 21:00:29.27 ID:NxFbS8JM0
───病院、待合室
谷口「……」
ハルヒ「!! あんたどこ行ってたのよ!」
谷口「……」
キョン「すまんな、混乱してるんだ。今はそっとしておいてやってくれ」
ハルヒ「……それはわかるけど。いきなりどこかに行くからみんな心配したのよ?」
谷口「……」
古泉「まぁまぁ、こうしてびしょぬれになっている人を責めるのはやめましょう。一番つらいのは谷口君でしょうから」
ハルヒ「そうよね……。……あれ、そういえばみくるちゃんは? あんたのこと追いかけて出て行ったんだけど」
谷口「……」
268: 2010/03/03(水) 21:05:20.59 ID:+qys70Gn0
キョン「す、すれ違いになったんじゃないか?」
ハルヒ「じゃあまだ雨の中外にいるわけ!? あたし探してくる!」
キョン「あ、えーと、あ! さっき俺が探しに行くときに会ったんだ! 朝比奈さんに!」
ハルヒ「え?」
キョン「用事があったことを思い出したらしい。家に帰らないといけないことになったから、病院には戻れない、と言っていたぞ」
ハルヒ「……そう……」
古泉「どちらにせよ、もう面会時間は終わっています。わがままを言ってここに残らせてもらっていましたが、谷口君も戻ってきたことですしそろそろ……」
ハルヒ「……そうね。谷口、お母さんはついさっき家に戻ったわ。貴方も早く家に帰ってお母さんのそばにいてあげなさい。いいわね?」
谷口「……ああ」
270: 2010/03/03(水) 21:06:19.91 ID:NxFbS8JM0
───家
谷口「……ただいま」
母「おかえり」
谷口「……」
母「なかなか戻ってこないから先に帰ってたわ。どこ行ってたの?」
谷口「……ちょっと、そこらへん周ってた」
母「そう。びしょぬれじゃない。お風呂沸かしてないけど、シャワーだけでも浴びてきたら?」
谷口「……あ、あのよ」
母「何?」
谷口「えと……その……。」
母「……私は前から知っていたの」
谷口「え?」
母「お父さんが病気だっていうこと」
272: 2010/03/03(水) 21:07:34.40 ID:+qys70Gn0
谷口「なんで隠してたんだよ」
母「お父さんがそうする、って言ったから」
谷口「……なんで……」
母「わからない?」
谷口「そんなの、わかるわけねーよ」
母「……そう。ならきっと言葉で言ってもわからないでしょうね」
谷口「は? どういう意味……」
母「全く、親の心子知らずとはよく言い得た言葉よね」
谷口「なんだよ、そんなの親だって子の気持ちなんてわかんねーじゃねーか!」
母「ふふ」
谷口「……なんだよ」
母「貴方は親になったことがないでしょうけど……。私達はね、子供だったことがあるのよ?」
273: 2010/03/03(水) 21:08:57.04 ID:NxFbS8JM0
谷口「……」
母「親っていうのは自然になれるものじゃないわ。それを子供はぜんっぜん分かってないのよね」
谷口「は? 訳がわかんねーよ」
母「良い親になるために、お父さんは頑張った。私も頑張ってる。それはいやいや頑張ってる訳じゃなくて、自分の意思で頑張ってるの」
谷口「……訳わかんねーよ」
母「それでいいのよ。親がどう、とか貴方は気にする必要がないの。だって貴方は私の子供なんだから。そして、いつか誰かの親になって同じ想いを味わうんだから。ギブアンドテイクってやつよね」
谷口「病気でぶったおれる程の頑張りを甘受しろ、って?」
母「そうね。お父さんはちょっと頑張りすぎたのかも。でも、お父さんは必至で父親であろうとしたのよ」
谷口「……」
母「……ふぅ。今日は疲れちゃった。もう寝るわ。貴方も明日学校あるんだから、早く寝るのよ?」
谷口「……」
母「おやすみ」
谷口「……おやすみ」
274: 2010/03/03(水) 21:11:08.04 ID:+qys70Gn0
───谷口の部屋
谷口(親父がぶったおれたのに、お母さんはずいぶんと冷静なもんだぜ)
谷口(……前々から覚悟してたってことか)
谷口(たぶん発覚した地点でもう随分進行しちゃってて……)
谷口(その上放って置いてたから、より危険になっちまったんだろう……)
谷口(……一体なんでそんなことを)
谷口(わかんねえ、わかんねぇよ)
谷口(さっさと仕事休んで入院したらよかったのに)
谷口(そしたら親父もぶっ倒れることもなくて、今だってきっともう少しは元気な姿で……)
谷口(……でも、そうしたって、もう……)
谷口(親父は少しでも病院にいる時間を短くしたかったのか)
谷口(少しでも長く、家にいたかったのか? それとも仕事?)
275: 2010/03/03(水) 21:11:30.07 ID:NxFbS8JM0
谷口(……わっかんねぇ……)
谷口(なんでだよ、あんな俺のことを馬鹿にしてくるような親だったのに)
谷口(テストでいい点取ったって、褒めてくれもしない親だったのに)
谷口(……俺のことを嫌いで、おれも嫌い……だったハズの親なのに)
谷口(涙が……)
谷口「うぐ……ひぐ……」
……
276: 2010/03/03(水) 21:12:28.78 ID:+qys70Gn0
───翌日、学校、団室
古泉「……」
キョン「……」
長門「……」
古泉「……これは由々しき事態ですよ」
キョン「……間違いないな」
長門「……」
……。
277: 2010/03/03(水) 21:13:50.10 ID:+qys70Gn0
古泉「機関は既に閉鎖空間において戦力になり得る戦闘員を、末端から幹部クラスまで全て、閉鎖空間発生予想地点に待機させています」
キョン「……それでも足りないかもな」
古泉「……でしょうね。僕も涼宮さんへの説得作業を終えたら直ぐに現場へ直行するように指示が下っています」
キョン「今回ばかりはどうしようもないと思うが……」
古泉「全くもって予想外な出来事でした。まさか谷口さんの加入が、朝比奈さんの離脱につながってしまうとはね」
キョン「……他人からの善意が裏目るあたり、朝比奈さんらしいといえばらしいけどな」
古泉「ドジっ子じゃすみませんよ。確信犯の天然ぶりっ子だって、ここまで世界を危険にさらしたりはしないでしょう」
キョン「朝比奈さんだって好きで未来に帰った訳じゃないだろ」
古泉「好きも嫌いもありませんよ。彼女は、いうなれば責任放棄のドラえもんです」
キョン「おちつけ。代わりに代えの団員を寄こす、って未来から通達があったんだろ?」
古泉「のび太君ならドラミちゃんでも我慢できるかもしれませんが、涼宮さんが代えの劣化品で満足するとは到底思えませんね」
278: 2010/03/03(水) 21:16:37.89 ID:+qys70Gn0
古泉「そろそろ涼宮さんが来る時間帯ですね……」
キョン「なんか嫌な予感がする! とか言って一人どっかに出てったのが10分前のこと。奴のことだから、もう何か嗅ぎつけて帰ってくるだろうな」
古泉「長門さん、何とかなりませんか?」
長門「……」
古泉「そうですよね。もうこの状況は明らかに涼宮さんの力に関与する状況ですから、統合思念体からしたら観測の一択でしょう」
長門「……」
キョン「別に長門が悪い訳じゃない。とにかく、今はなんてハルヒに説明するかを考えないと」
古泉「最後の晩餐が昨日のスーパーカップだと思うと少々やるせないですよ」
キョン「縁起悪いこと言うな。あとお前夏を満喫しすぎだぞ」
古泉「そういえば谷口さんも遅いですね」
キョン「ん? あー、なんか用があるから遅れてくるってよ」
279: 2010/03/03(水) 21:17:05.68 ID:NxFbS8JM0
───理科室、ベランダ
スッ フー
谷口「久々に吸う煙草、プライスレス」
谷口「カラオケの時以来か。つってもそんなに前じゃないな」スッハー
谷口「いろいろあったから随分前のことに感じるぜ……」
谷口「野球大会でて、カラオケの後、SOS団入って……」
谷口「朝比奈さんと2ケツでチャリ乗ったりしてたな」
スッ フー
谷口「ああ、そういやどれもこれもココで時を跳ぶ力を手に入れてからだっけ」
谷口「……お、手首の数字が1になってる。この前3だったのに……」
谷口「あ、これ、力を使える回数なのか」
谷口「……あと、一回か……」
280: 2010/03/03(水) 21:21:03.50 ID:+qys70Gn0
谷口「世話になったな、この力にも」
谷口「……うん、世話になった」
谷口「俺みたいな人間が持っちゃダメだな。やりなおせるならもっと堕落しちまう」
谷口「ふぅ」
谷口「昨日はなんで時を跳んじまったんだろう」
谷口「団室行こう。とにかく、朝比奈さんに会って……話はそれからだぜ」
スッフー ゴシゴシ
谷口「よし、行くぜ!」
281: 2010/03/03(水) 21:22:06.16 ID:NxFbS8JM0
───団室
ガチャッ
谷口「お、お、お、おいすー」
ハルヒ「!!! あんた、ちょっとどーゆーことなのよ!!」
谷口「ハ?」
涼宮ハルヒはグーパンチを放った!
谷口「ソオイ! いってぇじゃねえか! 何すんだよいきなりよ!」
ハルヒ「問答無用よ! なんでミクルちゃんが転校することになったか教えなさい!」
谷口「……は? すまん、今なんて?」
ハルヒ「しらばっくれてんじゃないわよ! 最後にミクルちゃんとあったのはアンタなんだからね! 一体あんたミクルちゃんに何したのよ!」
キョン「お、落ち着けハルヒ! 別に谷口のせいで転校することになった訳じゃないぞ、親御さんの都合だそうじゃないか」
ハルヒ「そんなの信じられないわよ! 昨日まであんなにピンピンしてたのに!」
282: 2010/03/03(水) 21:22:36.73 ID:+qys70Gn0
ハルヒ「……ミクルちゃんがいなくなったのは、最近楽しそうだったことと何か関係があるの?」
谷口「え?」
ハルヒ「実は、もうSOS団やめて遠くに引っ越しできるから楽しそうだったんじゃないかしら?」
キョン「お、おい、お前何言ってるんだ。そんな訳ないじゃないか」
ハルヒ「そんなこと分からないじゃない!! いつもお茶くみばかりさせられてた欝憤が溜まってたのかもしれない!」
古泉「別にいやいやお茶を入れていた訳ではないと思います。彼女も楽しんでいたじゃありませんか」
ハルヒ「……」
キョン「なあハルヒ、朝比奈さんはきっとここで幸せだったと思うぞ? あんなに笑ってたんだ、幸せじゃないハズないじゃないか」
ハルヒ「……そんなこと、わからないじゃない」
キョン「そう卑屈になるな。そんなことより、引っ越し先で朝比奈さんが楽しくやれることを願ってやろうじゃないか」
ハルヒ「そりゃ、あたしだってミクルちゃんには幸せになって欲しいわよ。だけど、それとこれとは話が別なの! なんでミクルちゃんがいないのよ! 絶対嫌! そんなの絶対許さないんだから!」
ガチャッ タッタッタッタッタ
283: 2010/03/03(水) 21:25:22.91 ID:+qys70Gn0
古泉「行ってしまいましたね……」
キョン「ああ。全く、仲間思いなのか自己中なのかハッキリしてほしいもんだな。意見しづらいぞ」
古泉「両方なのでしょう。彼女にはSOS団しかありません。だからそのSOS団の中で幸せでいてくれるのが彼女にとってはベストなのでしょうね」
谷口「……」
古泉「ところで、さっきから僕の携帯がずっと鳴っています。感覚でもわかりますが、過去最大の閉鎖空間が発生しているようですね」
キョン「……そーいやそういう話だったな。説得失敗ってことか」
古泉「ふふ、もとより成功の見込みはありませんでしたかけどね。なのでほとんど試みもしませんでしたが、最後に涼宮さんの笑顔が見られなかったのは残念です」
キョン「……おい、マジで今日が最後の日になるのか?」
古泉「さて……。少なくともわかっていることは、明日からは世界が変わるということです。あるいは“この間”と同じようになるとすれば……生まれると言いなおした方がいいでしょうか」
キョン「……」
古泉「この間と同じ方法で切り抜けられませんかね?」
キョン「今回は無理そうだな」
古泉「……そうですか。残念です。僕ももう少しSOS団にかかわっていたかったのですけどね」
284: 2010/03/03(水) 21:26:01.33 ID:NxFbS8JM0
谷口「……」
谷口(なんとなく話は読めた)
谷口(涼宮の力で世界崩壊の危機。そのトリガーとなったのは朝比奈さんの消失、か)
谷口(やっぱ昨日光に包まれてたのはそういうことだったのか……)
谷口(もう朝比奈さんに会えないのか?)
谷口(というか、これもしかして俺のせいで世界危機なんじゃねーの?)
谷口(だって朝比奈さんが禁則事項とやらを破ったのも俺が病院を飛び出したから……)
谷口(朝比奈さんは親父に会いに行った、って言ってもんな)
谷口(……世界、終わっちまうのか)
谷口「……」
谷口(あ……そっか、そーすりゃいーんじゃねーか)
谷口「ひとつだけ、世界を救う方法があるぜ」
キョン・古泉「!」
285: 2010/03/03(水) 21:26:31.79 ID:+qys70Gn0
古泉「い、いったいそれはどーゆう……」
谷口「俺が時を巻き戻せばいいんだ。朝比奈さんが禁則事項を破る前まで、な」
古泉「なるほど! そうすれば朝比奈さんが未来に帰ることもなくなる訳ですね?」
谷口「おうよ、そーゆうことだぜ」
古泉「最高の解決策だと思いますよ。ですが……」
谷口「何か問題があるのか?」
古泉「いえ、別に……。きわめて私的な感情ですので、無視していただいて結構です」
キョン「……」
286: 2010/03/03(水) 21:28:59.71 ID:NxFbS8JM0
古泉「あたりがだんだん暗くなってきました。谷口さん、急いで準備の方をお願いします」
谷口「おうよ。……あのよ」
キョン「なんだ?」
谷口「いや、なんていうか。……色んな想いを裏切っちまってすまん」
キョン「どうしたんだ、突然」
谷口「お前らに言っても仕方がないのかもしれないけどよ……。時を跳んで、いろんな人の必氏な想いを、意味ないもんにしちまったと思うんだ」
古泉「それは……」
谷口「それがよ……申し訳なくって……」
287: 2010/03/03(水) 21:29:36.09 ID:4Hjdw0XG0
キョン「谷口!」
谷口「なんだ?」
キョン「巻き戻した世界でも、俺はお前とまた同じ関係になっちまうと思うぜ」
谷口「え……?」
キョン「そう、なりたいんだ。多分だが、時間を巻き戻して同じ場面に立ち会ったとしてもよ、人って同じ選択をしちまうもんだと思うんだ」
谷口「……そうかな」
キョン「だって過去に戻ったってその時の俺なんだ、同じもん選ぶにきまってる! だから最大限幸せを目指してやってきた結果だと思うんだ、今の自分が」
長門「……」
キョン「だから時間を巻き戻すことに気負いすることなんてないさ」
谷口「……ありがとな。でも、巻き戻したら絶対こんな事態にならないことだけは約束するぜ」
288: 2010/03/03(水) 21:31:11.02 ID:4Hjdw0XG0
キョン「ああ、頼んだぞ。もう行ってくれ」
谷口「……んじゃ、ちょっくら走ってくるわ」
キョン「おう、過去で待ってるぜ」
ガチャッ タッタッタッタッタ....
古泉「行ってしまいましたね」
キョン「ああ。さて、おれたちにできることはなくなっちまったな。ん? どーした長門?」
長門「……外」
キョン「?」
長門「窓の外」
古泉「窓、ですか……って、え?」
ガチャッ バーン!
ハルヒ「全部聴かせてもらったわよ!」
キョン「ハ、ハルヒ……」
289: 2010/03/03(水) 21:32:05.23 ID:NxFbS8JM0
ハルヒ「なるほどねぇー、ミクルちゃんが未来人でルール破ったから未来に帰ってしまったと。そんで、そのルールを破る前まで谷口が時を巻き戻そうとしてる、って訳ね?」
長門「……そう」
ハルヒ「いやー、久々に見る明晰夢だわ、これ。あたしwktkしてきちゃった!」
キョン「は?」
ハルヒ「なーんかおかしいと思ってたのよねー、朝から。だってミクルちゃんがいなくなる訳ないんだもの!」
古泉「……えっと、ですね……」
ハルヒ「それでこの面白設定! ミクルちゃんが持ってるのはドジッ娘巨O属性だけで、未来人だなんてある訳ないのに! いいわ、これぐらい楽しい夢の方が明晰夢には最適よ!」
キョン(明晰夢ってなんだ)コソコソ
古泉(夢の中で、自分が夢の中にいることを自覚し、思いのまま動くことができるという現象だと聞いています)コソコソ
キョン(なるほど、つまり今ハルヒは夢の中にいると勘違いしている訳だな? なんでそんなことに……)
古泉(わかりませんよ、実際世界は涼宮さんの願望と同化し始めている。辺りが少し薄暗いのも、“この間”の時と似ているように思いませんか?)
キョン(たしかにな……。とにかく、今はハルヒにあわせるしかないか)
古泉(そうですね。早く谷口君が時を巻き戻してくれることを祈りましょう)
290: 2010/03/03(水) 21:32:28.92 ID:4Hjdw0XG0
ハルヒ「フンフーン。よし、決めたわ! あたしも時間を跳ぶことにします!」
キョン「は? お前何を……」
ハルヒ「いい? 谷口が時間を巻き戻して、それでミクルちゃんと会うことを避けたら、結局ミクルちゃんは作り笑顔職人のままになっちゃうじゃない! あたしはそんなの嫌なのよ! だから、時を戻してもっと根本的な解決を探ることにするの!」
古泉「えっと、それは良いアイデアですね」
ハルヒ「でしょ? じゃ、有希!」
長門「……」
ハルヒ「貴方を宇宙人に任命します! いい? 貴方は宇宙人なの! それもメッチャ凄いのよ? 未来人なんて目じゃないの!」
長門「……」コクリ
ハルヒ「じゃ、そーゆーことだから、あたし達を谷口に合わせて過去に連れて行きなさい!」
長門「……了解した」
キョン「これは……全く流れが読めなくなってきたぜ……」
291: 2010/03/03(水) 21:33:45.38 ID:4Hjdw0XG0
───そのころ、谷口。自宅。リビング。
谷口「時間を巻き戻しても、自分のいる場所は変わらないからな」
谷口「戻したい時間の場所で跳ばないと」
谷口「家には、誰もいないみたいだな。親父のところにでも行ってるんだろうな」
谷口「……」
谷口「さっきキョンにはまた同じ関係に戻りたいって言ったけど……」
谷口「朝比奈さんとは、もうその関係を続けてくのは無理だよな……」
谷口「だってそしたらまた、朝比奈さんが禁則事項を破っちまうかもしれないし」
谷口「もう俺が時を跳べるのは一回きりなんだ。ミスはゆるされねーぜ」
谷口「そしたら……戻るのは、この力を手に入れる前の方がいいよな」
292: 2010/03/03(水) 21:34:14.80 ID:NxFbS8JM0
谷口「……」
谷口「もう、朝比奈さんとの思い出にも意味がなくなるんだな」
谷口「片方しか抱えてない二人の思い出って、どんな感じなんだろう」
谷口「どうでもいいか」
谷口「引きずったらつらいぜ。さ、深く考えずに……」
谷口「跳ぶとしましょうや……」
ブィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
テテーテレテレテレテレテレテー
……
TV「カンッケーないから、関係ないからっ」
293: 2010/03/03(水) 21:35:23.08 ID:4Hjdw0XG0
谷口「……」
TV「朝日で構ってもらえないからTBSでやるお!」
谷口「……ただいま」
谷口父「……ゴホッゴホッ。おい、お前もう学校の勉強はすんだのか?」
谷口「親父……」
父「どうなんだ?」
谷口「……ちょっと、出かけてくる」
父「こんな遅くにか?」
谷口「すぐ帰ってくるから」
父「気をつけるんだぞ」
谷口「……ああ。いってきます」
294: 2010/03/03(水) 21:36:14.88 ID:NxFbS8JM0
───夜、河川敷
谷口「……」
スーッ フー
谷口「静かだぜ……」
谷口「……こんな時間じゃ、水切りしてる子供もいないわな。そりゃそーだ」
スーッ フー
谷口「……」
谷口「これで良い。やるべきことをやったんだ」
谷口「達成感ぐらいあってもいいもんだと思うがな」
スーッ フー
谷口「……戻ってきたってのに、なぜかやらなきゃいけないことだらけな気がする」
谷口「とりあえず、明日から本気出そう」
谷口「しばらくここでのんびりさせてくれ」
295: 2010/03/03(水) 21:36:47.72 ID:4Hjdw0XG0
……
谷口「さて、と」
谷口「そろそろ行くか」
谷口「……」
谷口「ん? 誰か来たぞ? 暗くてよく見えないが、あれは……」
谷口「親父と……」
谷口「……まさか!?」
谷口「こっち来る、とにかく隠れねーと!」
296: 2010/03/03(水) 21:37:34.46 ID:NxFbS8JM0
───谷口から少し離れた河川敷上の道
???「わざわざこんなところまでお連れして申し訳ありません」
父「別に構わないですよ。……それで、お話があるということでしたね」
???「……はい。貴方の息子さんのことなんです」
父「……あいつのお話ですか。失礼ですが、朝比奈さんは息子とはどのようなご関係で?」
朝比奈「……高校の部活での後輩なんです」
父「なるほど、そうでしたか。一体息子はなんの部活をしているんですか?」
朝比奈「えと……ぶ、文芸部です」
父「あいつにそんな趣味があったんですか……。いや、お恥ずかしいのですが息子のことには疎くて、高校で何をしているか全くわからないんですよ」
朝比奈「そうなんですか……」
父「話の腰を折って申し訳ない。ささ、お話を聞かせて下さい」
朝比奈「……」
父「?」
298: 2010/03/03(水) 21:39:32.14 ID:4Hjdw0XG0
朝比奈「単刀直入に言います。貴方は、息子さんのことをどのようにおもっているんですか?」
父「どのように、ですか」
朝比奈「彼は、自分自身が父親に嫌われてると思っています」
父「そう息子が言ったのですか?」
朝比奈「……はい」
父「息子は私について、何と?」
朝比奈「自分が勉強が出来ないから、頭が悪いから父親に嫌われていたんだ、って」
父「そんなことを言っていたのですか」
朝比奈「……ええ」
父「そうですか」
299: 2010/03/03(水) 21:40:27.31 ID:NxFbS8JM0
───会話の近くの暗がり
キョン(なるほど、これが朝比奈さんの禁則事項破りの現場か)コソコソ
古泉(……谷口さんの父親がいなくなって、朝比奈さん一人になりましたね)コソコソ
キョン(しかしこれ、巻き戻された世界の出来事だよな? この朝比奈さんはいないハズじゃないのか? これも俺達と同じように長門の力か?)
長門(……そう。谷口の時を巻き戻す力が発現する前に、この事象に関してプロテクトをかけた。私たちも同じ様なもの)
古泉(なるほど……では、彼女はもうすぐ未来に戻って、つまり消えてしまうのですね?)
長門(……)コクリ
ハルヒ(さあて……こっからが団長の腕の見せ所よね。どうやってアイツに私のことを見直させてやろうかしら)
キョン(なんで見直させる必要があるんだ……? 何かあったか?)
ハルヒ(……あれぇ、そーいえばそうね。でもとにかくアイツにガツンと言ってやんなきゃ気がすまないのよ)
キョン(勝手な話だなおい……)
300: 2010/03/03(水) 21:41:02.50 ID:4Hjdw0XG0
朝比奈「勉強ができること、ってそんなに大切でしょうか? 彼には彼にしかできないことがたくさんあります」
父「……」
朝比奈「私だって、彼に救われました。彼は、とても優しい人なんですよ」
朝比奈「彼は勉強できないことに負い目を感じている。でも、勉強して良い大学や良い仕事につくことを親が期待するなんて、そんなこと間違っていると思います」
父「ふふ、貴方はとてもしっかりした人ですね。……そして、貴方こそとても優しい人なのでしょう」
朝比奈「……」
父「貴方は何も間違ったことを言っていない。だけど、一つだけ勘違いしていることがありますよ」
朝比奈「……え?」
父「私は確かに息子のことを何も知りません。そんなこと私自身が一番良く分かっています。ですがわかって欲しいのです。私が息子にどんな想いを抱いているか」
朝比奈「……」
父「期待? そうではないんです。親が子に対して叱るのは、何かを期待しているからじゃないんですよ」
朝比奈「じゃあ、なぜ……」
父「親だからです。愛しているからですよ」
谷口「……!!」
301: 2010/03/03(水) 21:41:28.48 ID:NxFbS8JM0
父「良い親になろうとするのは、難しいことです。愛するということは、与えるということと同議ではありませんから」
谷口「……」
父「優しくすることは簡単なことです。ですが、叱るということはとても難しい。結果、きっとうまくいかなくなってしまうのでしょう。子に嫌われたい親なんていないんですよ」
谷口「……」
父「それでも私は息子を愛している。それだけはハッキリ言えますよ」
朝比奈「……はい」
谷口(……そんなこと、親父は俺に一度だって言ったことなかったじゃねーか!)
302: 2010/03/03(水) 21:42:39.67 ID:4Hjdw0XG0
父「ただ……。言葉にしてそれを伝える勇気が私にはなかった」
谷口(……)
父「蔭ながら支えてやることで、勝手に伝えているつもりになっていたんです」
谷口(……あ)
父「相手に理解してもらおうと、私からは伝える努力を怠りました。ですが私は自分がやっていることに満足していたんです」
谷口(……まさか)
───谷口:病気でぶったおれる程の頑張りを甘受しろ、って?
───母:そうね。お父さんはちょっと頑張りすぎたのかも。でも、お父さんは必至で父親であろうとしたのよ
父「必氏に働いて、家族を養う。そして時に、二日酔いで帰ってきた息子にウコンを買っておいてやったり……。そんなことでしか愛情表現ができなかった。はは、息子が酒を飲めるような年になって嬉しかったんですよ、本当は。」
父「私は……卑怯者だったのかもしれない……」
谷口(……)
303: 2010/03/03(水) 21:43:24.62 ID:NxFbS8JM0
父「朝比奈さん。貴方からは非常に大切なことを教わりました」
朝比奈「え?」
父「いつになるかわかりませんが……いつか私も息子と腹を割って話がしたいと思います」
朝比奈「……ありがとうございます」
父「貴方はとても立派な人だ。貴方のような先輩を持てて息子は幸せ者です。これからもぜひ仲良くしてやってください」
朝比奈「こちらこそ、谷口君のような後輩を持てて……嬉しいです」
父「さあ、もう遅い。貴方はどちらにお住いですか? 車で送りましょう」
朝比奈「えっと、すぐ近くなんで大丈夫です」
父「そうですか。息子に送らせたいところなんですが、あいにく留守にしていました」
朝比奈「いえいえ……これで大丈夫です」
304: 2010/03/03(水) 21:43:52.34 ID:4Hjdw0XG0
───会話の近くの暗がり
谷口(……)
谷口(違うんだ、親父……)
谷口(親父はひきょう者なんかじゃないんだ……)
谷口(卑怯者は俺だ……ちくしょう……)
谷口(ちくしょう……俺は……)
ハルヒ「ちょっと、あんた」
305: 2010/03/03(水) 21:44:28.50 ID:NxFbS8JM0
谷口「な、どうしてお前がこんなとこにいるんだよ……!?」
ハルヒ「どーでもいいでしょそんなこと」
谷口「でも……俺に何の用だよ?」
ハルヒ「何の用? あんた副団員の癖に、SOS団のこと何にも分かっちゃいないのね」
谷口「副団員? それは跳ぶ前の話じゃ……」
ハルヒ「はぁ。ホント分かってないわ! 有希、言ってやって頂戴!」
長門「……」
谷口「長門……?」
長門「貴方には感謝している」
谷口「え?」
306: 2010/03/03(水) 21:46:20.02 ID:TJNDc/U30
長門「ヒューマノイドインターフェイスという形で地球に腰をおろしてから3年たつ。その三年間で最も濃く楽しい数週間を体験させてもらった」
谷口「……別に俺は何も」
長門「だが、貴方には悪いことをしたと思っているのも本当」
谷口「……え?」
長門「今回、私が学習したことがある」
谷口「……なんだよ」
長門「……想いを伝える言葉がどれほど人を変えるかということ」
谷口「……」
長門「私はこれまで、強い想いを抱いたということがなかった。だれかに伝えたということも」
谷口「長門……」
長門「そしてそれを初めてしたいと願った。許可して欲しい」
谷口「……ああ、言ってくれ」
長門「貴方のことを信じている。根性を、見せて欲しい」
307: 2010/03/03(水) 21:47:19.97 ID:NxFbS8JM0
キョン「……な」
古泉「……長門さんが……」
長門「過去、貴方ほど涼宮ハルヒに盾突いた男は一人を除いていない」
キョン「……む」
ハルヒ「そういえばそうね。谷口! 誇っていいわよ!」
谷口「そ、そんなもん」
長門「貴方には十分、想いを伝える強さがある」
谷口「強さ……」
長門「貴方のことを信じた私を……朝比奈ミクルのことを信じてほしい」
谷口「俺を信じた……?」
───朝比奈:君のことを私は信頼してるから! それを……忘れないでね
───朝比奈:さよなら。楽しかった
308: 2010/03/03(水) 21:47:47.48 ID:TJNDc/U30
谷口「信頼……されてたのか?」
キョン「じゃなきゃ朝比奈さんと一緒に帰らせたりしたものか」
古泉「やれやれ。野球大会の時からずっと応援していたのに気付かなかったんですか?
キョン「いけよ。朝比奈さんがいっちまうぞ?」
ハルヒ「行きなさいよ! ミクルちゃんのことを泣かせたりしたら承知しないんだからね!」
谷口「……お前ら……」
長門「信頼を……彼女にも返してあげて欲しい。彼女の為に」
谷口「うぁ……ひっぐ……」
ハルヒ「泣くには早いわよ! ほら、時間がないんだから!」
谷口「お、おう……」
ダダダダダダ
309: 2010/03/03(水) 21:48:15.55 ID:NxFbS8JM0
朝比奈「今日はお時間をありがとうございました」
父「こちらこそ。それでは……」
谷口「待て!!!!」
朝比奈「た、谷口君!?」
父「お前……どうしてここに……」
谷口「……」
谷口「ごめんなさい」
310: 2010/03/03(水) 21:48:55.30 ID:TJNDc/U30
ハルヒ(はぁ、何言ってるのよアイツは!)コソコソ
キョン(まぁまぁ……落ち着けよ。信じるんだろ?)
ハルヒ(まったく……)
朝比奈「な、何を」
谷口「俺はうそつきです。卑怯者です。なまけもんだし、人の為に自分を投げ出したりすることもできません」
谷口「テストの点だって、ズルしていい点取りました。努力なんて全然してません」
谷口「……ごめんなさい」
311: 2010/03/03(水) 21:49:52.63 ID:NxFbS8JM0
父「……」
谷口「だけど……だけど、これからいう言葉だけは……嘘じゃないです……」
父「……」
谷口「親父……これまでありがとう。頼むから……すぐに入院してくれ」
父「なぜそれを……」
谷口「俺、これから頑張るから。絶対頑張るから。今度は嘘じゃない、約束する。今、この瞬間から頑張るから」
父「……」
谷口「親父、頼むから入院してくれ。俺も、いつか親父と酒が飲みたいんだ」
父「お前……」
谷口「……頼む」
父「……そうか。わかった。そうすることにする」
谷口「親父!」
父「……先に帰る。遅くならずにお前も帰れよ?」
谷口「ああ」
313: 2010/03/03(水) 21:51:44.47 ID:TJNDc/U30
谷口「……」
朝比奈「……」
谷口「朝比奈さん」
朝比奈「……もう謝らないでください」
谷口「……はい」
朝比奈「もう私は貴方に思いを伝えたことがあるのかな?」
谷口「……はい」
314: 2010/03/03(水) 21:52:15.57 ID:NxFbS8JM0
朝比奈「良かった、肩の荷が降りたよ」
谷口(謝らないっ!)
谷口(謝っちゃだめだ!)
谷口(だってまだ終わっちゃいないんだ!)
谷口(前へ! 進め俺!)
谷口「朝比奈さん!」
朝比奈「はい」
谷口「明日! 明日食堂に来て下さい!!」
315: 2010/03/03(水) 21:52:52.07 ID:TJNDc/U30
朝比奈「良かった、肩の荷が降りたよ」
谷口(謝らないっ!)
谷口(謝っちゃだめだ!)
谷口(だってまだ終わっちゃいないんだ!)
谷口(前へ! 進め俺!)
谷口「朝比奈さん!」
朝比奈「はい」
谷口「明日! 明日食堂に来て下さい!!」
316: 2010/03/03(水) 21:53:29.81 ID:NxFbS8JM0
朝比奈「え?」
谷口「明日! 食堂に来て下さい!」
朝比奈「……」
谷口「ずっと待ってます! ずっと待ってますから! ずっと!」
朝比奈「……」
谷口「席取って、ずっと待ってます! どうしても貴方に伝えたい言葉があるんです!」
朝比奈「……でも」
谷口「絶対来て下さい、ずっと待ってますから!」
朝比奈「……」
谷口「……」
朝比奈「……はい」
谷口「……ありがとうございます」
317: 2010/03/03(水) 21:54:08.72 ID:TJNDc/U30
朝比奈「え?」
谷口「明日! 食堂に来て下さい!」
朝比奈「……」
谷口「ずっと待ってます! ずっと待ってますから! ずっと!」
朝比奈「……」
谷口「席取って、ずっと待ってます! どうしても貴方に伝えたい言葉があるんです!」
朝比奈「……でも」
谷口「絶対来て下さい、ずっと待ってますから!」
朝比奈「……」
谷口「……」
朝比奈「……はい」
谷口「……ありがとうございます」
318: 2010/03/03(水) 21:54:42.39 ID:NxFbS8JM0
朝比奈「それじゃあ、また……」
谷口「また、明日」
朝比奈「……はい」
タッタッタッタッタ
キョン「谷口、行っちまったな」
古泉「あれでよかったんでしょうか」
キョン「さあ……」
長門「……」
319: 2010/03/03(水) 21:55:25.26 ID:TJNDc/U30
朝比奈「うぅ……ひぐっ……」
ハルヒ「ミクルちゃんっ!」
朝比奈「ふぇっ? あ、涼宮さん!」
ハルヒ「ミクルちゃん、泣かない!」
朝比奈「え」
ハルヒ「泣かない! こんな時に泣いてどーすんのよ!」
朝比奈「でも……」
ハルヒ「怒りなさい! あんな想いの伝え方をした谷口の野郎、ぶっ頃してやるわって勢いで!」
キョン「いきすぎだろ」
朝比奈「……はい!」
320: 2010/03/03(水) 21:55:49.17 ID:NxFbS8JM0
長門「もう時間」
ハルヒ「話はすんだわ。離陸準備、緑一色てなもんよ!」
古泉「……いよいよ、消える訳ですね」
キョン「どうした、さっきの元気はどうした?」
古泉「空元気アピールですよ。そうでなきゃあんないらないレス二つも使いません」
ハルヒ「何よ? 古泉君乗り物酔いするタイプ? 修学旅行で吐かないようにね、変なあだ名つけられたらSOS団の名に傷つくから」
古泉「十分に留意しておきますよ」
キョン「それで、本当に一体どうしたんだ?」
古泉「……自分がこれから消える訳ですよね」
キョン「ああ、そうだな」
古泉「そういうシステムであるということを知ってしまった以上、時が巻き戻されるのに身を任せるのは少々怖いではありませんか」
321: 2010/03/03(水) 21:56:11.56 ID:TJNDc/U30
古泉「確かにこの時間の僕は生きていくのでしょう。でも、皆と同じ関係でいられる保障はどこにもないじゃないですか。楽しかったここ数週間のことを思うと……」
ハルヒ「な、何言ってるのよ! ビビリーキングは関口一人で十分じゃないの!」
古泉「ふ、ふふ。危惧する癖はいつになっても治りませんね……」
長門「大丈夫」
古泉「え?」
長門「強い思いは時を越えても変わらない。時が巻き戻った世界でも、私たちは今の私たちとなんら変わらない関係を築きあげる」
キョン「長門……」
ハルヒ「言うようになったじゃない、有希! そうなの! なんてったって私たちはSOS団なんだからね! 時の逆行? おもしろいじゃない! 時の流れなんかに左右されない本物の絆ってもんを見せつけてあげるんだから! ね? みんなっ!」
キョン「……そうだな!」
古泉「……ですね! ふふ」
朝比奈「わたしもSOS団でいられて良かった!」
ハルヒ「よっしゃあ! そうこなくっちゃあ! じゃあみんな、また明日あいましょ!」
また、明日!
323: 2010/03/03(水) 21:56:44.60 ID:NxFbS8JM0
───翌日 昼休み 食堂
谷口「よし、ちゃんと席取れてるよな」
谷口「一応三人分取っておいたけど、思えばキョン達を呼ぶ訳にもいかんな」
谷口「あとは……」
谷口「来てくれるだろうか……」
谷口「あ、あれは」
谷口「おーい、紺野せんぱーい!」
紺野「へ、あたし?」
324: 2010/03/03(水) 21:57:28.50 ID:TJNDc/U30
谷口「まま、座ってくださいよ、三人分の席取っておいたんで」
紺野「三人分? ってどーして君あたしの名前知ってるわけ? どっかで会ったっけ?」
谷口「まーまー、固いことはどーでもいいじゃないですか。そんなことより、これ!」
紺野「何これ……え、野球のチケット?」
谷口「そーっす!」
紺野「え? え? このチケットくれんの? どーゆーこと?」
谷口「Time waits for no oneっすよ? 自分に正直にならないと、間に合わなくなりますよ? あ、三枚とも差し上げます。それにここの席も全部使っちゃっていいんで。それじゃっ」
紺野「ちょ、ちょっとお!」
谷口(さて、ちょっと離れたとこから様子伺いますかね)
325: 2010/03/03(水) 21:58:17.88 ID:NxFbS8JM0
紺野「だから謝ってるじゃん! ほ、ほら、チケットあるからさ、今日いこうよ!」
千昭「えー? きょおー? どーすっかなぁ-」
功介「んじゃあ、おれと二人でいくか、マコト!」
紺野「功介! じゃあそうしよっかぁ? 千昭はいきたくないみたいだし……?」
千昭「別に行かねぇなんていってねーだろ! しーかーたーねーなぁ、お前らがそーんなに言うなんだったら、付き合ってやるよ」
功介「来たくなかったら、来なくたっていいんだぜ?」
千昭「んだと? お前こそ図書館で勉強してた方がたのしいんじゃねーの?」
紺野「まぁまぁ、とにかくさ! あたしお腹減ったし、食券買いに行こうよ!」
谷口(……。その時になれば、あいつらも走り出すだろうし。きっと心配いらないよな。そーゆーもんだもんな、こーゆーのって)
谷口(ってかついつい席譲っちまった。まぁーいーか。立って待つか)
326: 2010/03/03(水) 21:59:02.47 ID:TJNDc/U30
谷口(……)
谷口(……)
生徒A「次移動教室だし、行こうぜー」
生とB「うわ、もうそんな時間かよ」
谷口(……)
谷口(……)
327: 2010/03/03(水) 21:59:10.59 ID:NxFbS8JM0
キーンコーンカーンコーン
谷口「……」
学食のおばさん「ちょっと君、もう授業始まってるけど、いいのかい?」
谷口「……はい」
学食のおばさん「そーかい……。ここ3時までだから、それまでには教室戻りなよ」
谷口「ありがとうございます」
328: 2010/03/03(水) 22:01:37.59 ID:NxFbS8JM0
キーンコーンカーンコーン
ガチャッ
学食のおばさん「な、なんでまだこんなとこにいるんだい!? 学食しまってからずっとそこにいたのかい?」
谷口「はい」
学食のおばさん「もう5時回ってるよ? 一体何を待っているんだい? いつ約束したんだい?」
谷口「……昨日、ここで待っていると約束しました」
学食のおばさん「昨日約束して、忘れられてるのかい。ずいぶん薄情な人だね」
谷口「……信じてますから」
学食のおばさん「そうかい。それじゃあ私は帰るけど、遅くなりすぎる前に帰るんだよ??」
谷口「……はい」
329: 2010/03/03(水) 22:02:39.48 ID:NxFbS8JM0
谷口「……7時か……」
谷口「もう見回りが来て、帰らされちまうな……」
谷口「……だめかな」
谷口「いや、信じるさ」
谷口「彼女は来る。だって約束したんだから……」
───タッタッタッタ
谷口「……!」
バチーーーン!
谷口「あいたーーー!! 突然何するんすか、朝比奈さん!」
朝比奈「馬鹿! へたれ! ……好き?」
谷口「……好きです!!! 大好きです!!」
完
330: 2010/03/03(水) 22:05:43.41 ID:5Dvmlf/c0
乙
面白かった
後日談とかある?
面白かった
後日談とかある?
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