1: 2010/03/19(金) 16:28:51.93 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「みなさーん、こーんにーちはー」

<コーンニーチワー

朝倉「あらあら、元気いっぱいねー」

長門「……」

朝倉「私たちはボランティアで小学校に読み聞かせして回ってる北高の生徒です」

長門「……」

朝倉「今日はみんなに、おもしろいお話をいーっぱい読んであげるからねー」

<ワーイ ワーイ
「涼宮ハルヒの憂鬱 Ⅱ」
3: 2010/03/19(金) 16:31:53.91 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「じゃあ、私はあっちのクラスでやるからね」

長門「わかった」

朝倉「頑張ってね」

長門「……」コクン

朝倉「みんなはこっちのお姉さんに読み聞かせしてもらってね~」

<ハーイ

長門「……」

5: 2010/03/19(金) 16:34:12.11 ID:nVhNY3Ir0


朝倉「……めでたしめでたし」

パチパチパチパチパチ

朝倉「みんな楽しんでくれたかなー?」

<オモシロカッター

<モットヨンデー

朝倉「あらあら、喜んでくれたみたいね~」

朝倉(……有希はもう終わったかしら)

朝倉「ちょっとお姉さん隣の教室に行ってくるから、待っててね」

6: 2010/03/19(金) 16:37:51.40 ID:nVhNY3Ir0

ガララッ


朝倉「有希? まだ終わら……」

長門「あ――ア。外道祭文キチOイ地獄。さても地獄をどこぞと問えば。娑婆というのがここいらあたりじゃ……」

朝倉「ちょっ……何読んでんの!?」

長門「ドグラ・マグラ」

朝倉「!?」

7: 2010/03/19(金) 16:43:58.34 ID:nVhNY3Ir0

長門「スカラカ、チャカポコ。スカラカ、チャカポコ……」

朝倉「ちょ、ちょっと!! そんなの読んだら子供たち泣いちゃうわよ!! やめなさい!!」

長門「やだ」

朝倉「えっ!?」

長門「読み始めてしまった以上、最後まで読まなくては……続きが気になって夜眠れなくなる」

朝倉「そういう問題じゃないでしょ!!」

<コワイヨー

<ワケワカンナイヨー

長門「放棄せずに最後までやり通す……これは私の役目」

朝倉(どうしてこうなった)

長門「チャカポコチャカポコ……」

9: 2010/03/19(金) 16:48:18.80 ID:nVhNY3Ir0



朝倉「反省会です」

長門「……」

朝倉「なんであんなもの持って来たの? 打ち合わせの時の絵本はどうしたの?」

長門「子供の活字離れが叫ばれる昨今、幼い頃から文学文芸に親しむ事は」

朝倉「黙らっしゃい!!」

長門「……」

10: 2010/03/19(金) 16:53:12.77 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「いくらなんでも子供たちには難解すぎるでしょう!? トラウマになりかねないわ!!」

長門「……」シュン

朝倉「なんで私がいけないみたいな顔するの!! どう考えたってあなたがいけないでしょう!?」

長門「……そう」

朝倉「もうこんな事しないでよ!?約束よ!」

長門「……」コクン

12: 2010/03/19(金) 16:58:29.42 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「いい? 今日はこれを読むのよ」

長門「……はらぺこ、あおむし」

朝倉「小学校低学年なんだから、優しく、はっきりした声で読んであげるのよ。わかった?」

長門「……」コクン

朝倉(……本当に大丈夫かしら)

15: 2010/03/19(金) 17:03:43.36 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「みなさーん、こーんにーちはー」

<コーンニーチワー

長門「…………」

朝倉「私たちはボランティアで小学校に読み聞かせして回ってる北高の生徒です」

長門「…………」

朝倉「今日はみんなに、おもしろいお話をたくさん読んであげるからねー」

<キャーキャー

17: 2010/03/19(金) 17:06:36.57 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「大丈夫? 一人でちゃんとできる?」

長門「……大丈夫」

朝倉「こっちのお姉さんがこのクラスのみんなに絵本を読んでくれるからねー」

<ハーイ

朝倉「頑張ってね」

長門「……」コクン

朝倉「……」

20: 2010/03/19(金) 17:12:41.17 ID:nVhNY3Ir0


朝倉「……おしまい」

パチパチパチパチ

朝倉「みんな、面白かったかな~?」

<タノシカッター

<モットヨンデー

朝倉「そう、よかった」

朝倉(あっちはまだ終わってないみたいね……)

22: 2010/03/19(金) 17:17:07.09 ID:nVhNY3Ir0


ガララッ


朝倉「……有希?」

長門「イア! イア! クトゥルフ・フタグン!! フングルイ・ムグルウナフー・クトゥルフ・ル・リエー」

朝倉「ちょっとぉぉぉ!!!」

長門「なに」

朝倉「何じゃないわよ!! 何を、何を読んでるんだあんたはっ!!」

長門「クトゥルフの呼び声」

25: 2010/03/19(金) 17:21:57.09 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「やめっ!! 今すぐやめなさいっ! 聞いてるの!?」

長門「イア!! イア!! メネ、メネ、テケル、ウパハルシン――」

<ウェェェーン

<コワイヨー

<イア! イア!

朝倉(……なんだこれ)

28: 2010/03/19(金) 17:27:31.43 ID:nVhNY3Ir0


朝倉「なぜ正座させられてるか分かるわね?」

長門「……?」

朝倉「キョトンとするな!! 分かってんだろ本当は!!」

長門「H・P・ラヴクラフトは偉大な作家」

朝倉「そういう事を聞いてるんじゃないの!! はらぺこあおむしはどうしたの!?」

長門「燃した」

朝倉「はぁ!!?」

長門「嘘。置いてきた」

30: 2010/03/19(金) 17:33:41.89 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「ふざけるのもいい加減にしなさいよ!! なんでそんな積極的にトラウマを植え付けようとするのっ!!」

長門「トラウマ? 怪奇小説はエキサイティングで非常におもしろ」

朝倉「もういいわよっ!! 次ちゃんとやんなかったら怒るからねっ!!」

長門「今も怒ってる……」

朝倉「どうでもいいでしょ!? 大体あなたは……」

長門「うっ……ぐすっ……」

朝倉「!? ちょ、ちょっと……」

長門「私はただ……みんなに本の素晴らしさを知ってもらおうと……」

32: 2010/03/19(金) 17:39:29.78 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「……」

長門「っ……うう……」

朝倉「分かった。あなたの気持ちはよく分かりました。でも、ちゃんと適した場所でやらないと逆効果よね?」

長門「……」

朝倉「だから、次からは小さい子が喜んでくれるような本を読みましょうね?」

長門「……」コクン

朝倉「分かった?」

長門「わかった」

朝倉「本当?」

長門「ほんと」

34: 2010/03/19(金) 17:47:41.84 ID:nVhNY3Ir0



朝倉「はい。今日あなたが読むのは何て本ですか?」

長門「ぐりとぐら」

朝倉「練習した通りにできますか?」

長門「できる」

朝倉「本当ですね?」

長門「本当」

37: 2010/03/19(金) 17:56:51.26 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「……今日はみんなに、おもしろいお話をいっぱい読んであげますよー」

<ワーイ ワーイ

朝倉「……読み始めていいわよ」

長門「わかった」

朝倉「……」

長門「ぐりとぐら」

<ワーイ グリトグラダー

長門「ぼくらの なまえは ぐりと ぐら」

38: 2010/03/19(金) 18:02:25.23 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「……」

長門「このよで いちばん すきなのは おりょうりすること たべること……」

朝倉(大丈夫……かな?)

朝倉「じゃあ、私は隣に行ってるから」

長門「……」コクン

朝倉(なんだ、やればできるじゃない)

41: 2010/03/19(金) 18:07:45.36 ID:nVhNY3Ir0

十分後



長門「ぶすぶす燃えるオッOイ。ぐち゛ゅぐち゛ゅ燃える足の指。燃えろよ燃えろよステーシー! アチョー! ヒャハハハハハハハハ」

長門「はぜて飛んだステーシーの中指が松井の背中と服の間に入り『ギャギャギャギャッ』と叫ぶ松井は砂ぼこりを立て地面を転げ回る」

長門「ボクン! ボクン! グエッ! グエッ! ウヒハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハ」

朝倉「はい強制終了っ」

ドムッ

長門「ぐふっ」

45: 2010/03/19(金) 18:11:39.15 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「ごめんね、このお姉さんちょっと体調が悪いみたいで、今日はもう帰ります」

<コワイヨー

<ウェェェェン

長門「ぐっ……卑怯……っ」

朝倉「お前もう喋んな」

長門「……」

47: 2010/03/19(金) 18:16:18.58 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「ブッ刺すわよ」

長門「ごめんなさい」

朝倉「何これ? 何を読んでたの?」

長門「大槻ケンヂの……ステーシー」

朝倉「ふざけてるの?」

長門「今までは少し古典っぽすぎたと思い……わりと最近のものを」

朝倉「喋らないでくれる?」

長門「……」

55: 2010/03/19(金) 18:55:33.67 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「もう我慢の限界だわ。頃すわよリアルに」

長門「……」プルプル

朝倉「そんな憐みを誘う顔をしても無駄よ」

長門「だって……」

朝倉「……」

長門「だって……読みたかったんだもん」

ザクッ!

長門「!!」

朝倉「次に何かやらかしたら、本当に刺すからね」

長門「……わかった」

62: 2010/03/19(金) 19:09:01.57 ID:nVhNY3Ir0


朝倉「今日はみんなに楽しい絵本をたくさん読んであげますからねー」

長門「……」

<ワーイ ワーイ

朝倉「今日は一緒の教室でやるからね」

長門「……」

朝倉「なんで始めからこうしなかったのかしら」

長門「……」

64: 2010/03/19(金) 19:19:56.31 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「さて、今日の本はー?」

長門「……100万回生きたねこ」

朝倉「……」

長門「100万年も氏なないねこがいました。100万回も氏んで、100万回も生きたのです」

朝倉(ちゃんと読めてるわね。子供たちも食い入るように見てる)

長門「りっぱなとらねこでした……」ペラッ

朝倉(退屈だなぁ……有希を見張るとはいえ、何もしてないのは詰まらないわ)

長門「……次の日も、次の日も、ねこは白いねこのところへ行って言いました……」

朝倉(眠くなってきちゃった……)

朝倉「……」こっくりこっくり

70: 2010/03/19(金) 19:22:37.28 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「……ん?」

長門「――その刹那。粉塵が辺りを包み込んだ。『ふん――他愛無い』リョウは嘆息し」

朝倉「ちょっ……!! 何を、読んで」

長門「?」

朝倉「なんで……それをっ……!?」

長門「朝倉涼子の自室の机の引き出しから」

朝倉(かなり前に書いた私の自作小説が……!! なんで有希の手に……!!)

長門「顔が真っ赤」

朝倉「やめて!! 読まないで!! 今すぐ破り捨ててぇぇぇ!!」

長門「……」ニヤニヤ

74: 2010/03/19(金) 19:26:05.11 ID:nVhNY3Ir0

<ツヅキマダー?

<ヨンデヨンデー

長門「子供たちも読みたがってる」

朝倉「うわああああああああああん!!」


ガララッ


長門「……行ってしまった」

79: 2010/03/19(金) 19:31:41.89 ID:nVhNY3Ir0

長門「状況は一転した」

朝倉「うっ……ううっ……氏にたいよぉ……」

長門「これがこちらにある以上、あなたは私に従った方がいい」

朝倉「酷いわ……」

長門「北高にばらまく事さえ私には可能」

朝倉「わあああああああああ!!! やめてやめてやめてぇぇ!!」

長門「これからは私のチョイスで本を選ぶ」

朝倉「……大変な事になるわよ」

長門「構わない。私は私の読みたい本を読むだけ」

82: 2010/03/19(金) 19:42:10.71 ID:nVhNY3Ir0

長門「~♪」

朝倉(どうしよう……このままじゃ大変だわ)

長門「……ブツブツ」

朝倉(ここら一帯の子供たち全員が精神的外傷を得る事に……)

長門「乱歩……澁澤……マルキドサド…………ブツブツ」

朝倉(これはまずい)

長門「……」ピクッ

朝倉「どうしたの?」

長門「いい事を思いついた」

84: 2010/03/19(金) 19:49:20.53 ID:nVhNY3Ir0

長門「学校中の本棚の中身をすげ替える」

朝倉「……」

長門「全て私好みの本にする」

朝倉(確実に暴走し始めてるわね)

長門「図書室も、学級文庫も、教科書の中身も」

長門「全て替えてしまえば、きっとみんな読まざるを得ない」

長門「みんな私の趣味を理解してくれる……みんな分かってくれる……」

朝倉「……」

87: 2010/03/19(金) 19:52:58.38 ID:nVhNY3Ir0

朝倉(そうか……有希は寂しかったんだ)

長門「…………」

朝倉「ごめんね、有希。私……」

長門「……」

朝倉「有希の事、全然分かってあげてなくて」

長門「……」

朝倉「あの時……」

88: 2010/03/19(金) 19:57:34.21 ID:nVhNY3Ir0




喜緑「ねぇ長門さんっていっつも本読んでるけど」

長門「……」

喜緑「どんな本読むの?」

長門「……」

朝倉「私も知りたいかもー」

長門「……言っても、分からないと思う」

喜緑「そんなぁ水臭いわ。見せてよー」

朝倉「あっ……この作者知ってる」

長門「……」

朝倉「猟奇的っていうか、すっごくエグいの書くんでしょ?」

89: 2010/03/19(金) 20:03:25.31 ID:nVhNY3Ir0

喜緑「うわぁ、本当?」

朝倉「ちょっと引くわ」

長門「……」

喜緑「長門さん……こういうのばっかり読んでるんだ」

長門「……」

朝倉「もっと明るいの読みなさいよ。女の子なんだから」

長門「……」





長門「あなたたちは何も分かっていない」

長門「猟奇怪奇工口グロには他には無い面白さがある」

長門「読んでもないくせに……知ったような口を、聞かないで……」

91: 2010/03/19(金) 20:08:17.69 ID:nVhNY3Ir0

朝倉「あの時は……酷いこと言っちゃって、ごめんね」

長門「……」

朝倉「そうだよね……好きなものを否定されたら、誰だって傷付くよね」

長門「……」

朝倉「ごめんね」

長門「……いい」

朝倉「……」

長門「もう、許した……」

朝倉「……有希」

93: 2010/03/19(金) 20:15:08.57 ID:nVhNY3Ir0

長門「だから、読んで」

朝倉「……へ?」

長門「分かってくれるのなら、まず読んで。面白いから」

長門「まずはラヴクラフト全集を、読み終わったら乱歩と夢Q、澁澤龍彦あたりは絶対に押さえておきたい」

長門「面白いから。読んで。今すぐ」

朝倉「え、ちょ、ちょっと」



徹夜でクトゥルフ漬けになった朝倉さんは発狂寸前だったとさ

そして一カ月後、そこには楽しそうに工口グロを語り合う二人の姿が!


<終>

100: 2010/03/19(金) 20:33:50.83 ID:Ny6CSSJ20
>>1乙

引用: 長門「有希と涼子の」 朝倉「読み聞かせ教室~」