1: 2007/03/31(土) 00:02:25.31 ID:WUIOEbrM0
「入ったら?」
 一年五組で俺を待ち受けていたのは、以外な人物だった。
「お前か……」
「そ。以外でしょ」
 普段と何一つ変わらない柔和な笑顔を俺に向け、朝倉涼子は机に上り、何やら右手を振り上げている。
 それこそどこぞの親方の如く流麗なフォームで金槌を釘に打ちつける姿は……、って。
 ……あのー、朝倉さん? あなたは一体何をやっておいででしょうか?
「今、空間閉鎖中なの。ちょっと待っててね」
 いや、さっぱり意味が解らんのだが。とにかく朝倉の行動を見る分には、扉を封鎖せんとしていることだけは解る。
 ていうかだな、お前。そういう所有権が学校に帰属するものに破損というか何というか、学校とか生徒会とかその他もろもろの、
「あ、ごめんね。そこの釘取ってくれない?」
 イエッサー。
涼宮ハルヒの憂鬱 ねんどろいど 朝倉涼子&拡張パーツセット (ノンスケールPVC&ABS塗装済み可動フィギュア)
5: 2007/03/31(土) 00:10:44.27 ID:WUIOEbrM0
「ありがと」
 俺から数本ばかりの釘を受け取ると、またすぐさま親方モードに突入する朝倉。
 えーと、ここでだな。今の俺の立ち位置を確認してみよう。
 机の上に立って金槌をスローイングしまくる朝倉。その下で釘の箱を抱えている俺。という構図が出来上がるわけだ。
 つまりだな、学校の規定によりスカートを着用している朝倉の下から、不可抗力で俺がそれを見上げているという形になるわけだ。
 要するに今現在、俺の視覚に多大なる問題が発生しているわけで、しかもこの朝倉のルックスときている。
「朝倉」
「なに?」
「いや、あの、なんというかだな」
「どうしたの?」
「今お前はスカートを履いている。それは解るな?」
「もちろん、見ての通りよね」
「スカートというものはだな、パンツのようにあらゆる角度から内部の情報をシャットダウンできるものではない。これも解るか?」
「だからどうしたの? それも当然よね」
「……そうか。いや、やっぱりお前は優等生だと思ってな。すまん、忘れてくれ」

12: 2007/03/31(土) 00:22:17.75 ID:WUIOEbrM0
 こうして数十分に渡り、俺は脳内で色々な情報爆発の抑制を強いられつつも、朝倉の助っ人活動にいそしんでいた。
「ふう。これで完成ね。ありがと」
「ああ。で、用事ってのはこれだけか?」
「ううん。ここからが本題なの」
 相変わらずの満点笑顔を俺に向けつつ、朝倉はやおら机から足を下ろす。そこから覗く純白の何かがこの期に及んで眩しく、蛍光灯の必要性を疑ってしまいそうなほどだ。省エネに秀でた朝倉涼子。
 なんのキャッチフレーズだ一体。
「あのね、何も変化しない観察対象に飽き飽きしてるのね。だから……」
 またもや意味の解らんことをのたまいながら、朝倉はスカートのポケットから、
「あなたを頃して涼宮ハルヒの出方を見る」
 ボトル入りの醤油を取り出した。
 いや、待て。今朝倉はなんて言った。俺を頃す? なぜ? ホワイ?
 ていうか、
「で、その、なんだ。お前はその醤油を凶器として俺を頃したいというわけか」
「うん」
 俺は頭を抱えた。

13: 2007/03/31(土) 00:32:44.64 ID:WUIOEbrM0
「……よし、解った。百歩譲って俺を頃したいということに関しては、この際目を瞑ろう」
「あら、潔いのね」
「でだ。どうやったらその醤油が凶器となりえるのか、その経過を説明してもらおうじゃないか」
 朝倉は満面の笑みを一ミリも崩すことなく、
「人間はね、醤油を大量に飲むと氏に至るみたいなの。知ってる?」
「……ああ。残念ながら俺は知っているようだ。で、お前がそれを俺に飲ませるというわけか」
「そ。簡単でしょ?」
 簡単なのか。どうやって俺に飲ませ……、
「おわっ」
 朝倉は瞬時に俺との距離を詰めて密着するや否や、左腕を俺の首に回し、右手でボトルの注ぎ口を俺の唇に押し付けてきた。
 ついでに何か二つの柔らかい物も腕に押し付けられ、むしろそっちの方が色々な意味でタチが悪い。
「ま、待て! 落ち着け朝倉! まずはそのボト、ふごっ」
「無駄なの」
 とうとうボトル、と朝倉の指が俺の口内に突っ込まれた。

17: 2007/03/31(土) 00:42:01.41 ID:WUIOEbrM0
もう早いとこ完結させるかw

19: 2007/03/31(土) 00:42:34.67 ID:WUIOEbrM0
 タプタプと口内に醤油が注ぎ込まれるが、正直朝倉の指のせいでなんだかどうでもよくなってきた。舐めたりしたら怒られるだろうか。
「ぶほっ」
 むせた。
 朝倉の整った顔が醤油まみれになるが、当の本人はさほど気にはしていないようで、
「氏ぬのっていや? 殺されたくない? わたしには有機生命体の氏の概念がよく理解出来ないけど」
 とかまたわけの解らんことを言いながら、俺の口に入っていた指を舐めている姿が妙に工口い。
「解ったからまず離れろ。頃すとかは後でじっくり聞いてやるとして、とにかくこの密着感は俺の中の色々な規制に引っ掛かる」
 俺は理性を保てるあいだに朝倉から身を剥がすまいと、力づくで引き剥がそうとするが、
「最初からこうしておけばよかった」
 身体が動かせなくなっている。アリかよ。反則だ!
 いや、まあこれはこれで、俺の本能が暴走しそうになったとしても朝倉の身の安全は確保できる。俺の方は知らんが。

23: 2007/03/31(土) 00:49:03.31 ID:WUIOEbrM0
「じゃあ、氏んで」
 そう言って朝倉はボトルを自分の口に含み、醤油を自分の口内へと流し込んで、
 ……って、いやいやいや。ちょっと待て。醤油を飲むのは俺の方であって朝倉ではない。
 だが朝倉は今自分の口に醤油を流し込んでいるわけで、そこから導き出される結論はおそらく。
 いかん。いかんぞ。それは間違っても今の俺と朝倉に許される行為ではない。一億万歩譲って世間的に許されたとしても俺自身が全力を以って阻止しなければならない。
 とにかくそれだけはあらゆる理由が積み重なってマズイことこの上ない。
「……ん」
 必要以上に艶のある声を出して、朝倉の顔が俺の顔に近づいてくる。
 それこそ二つの唇の距離がゼロになろうとしたその時。

40: 2007/03/31(土) 01:00:25.09 ID:WUIOEbrM0
 凄まじい爆音と共に、教室の扉と一緒に壁がぶち破られる音が鼓膜を揺らす。
 瓦礫の山と共にそこに現れたのは……、

 大型ショベルカー、とそれに乗った長門有希の小柄な姿だった。

 あのー、長門さん? あなたまで一体何をやっておいでで……。
「一つ一つの釘の打ち込みが甘い」
 長門は、ショベルカーに乗っていること以外はいつもと変わらず平坦な様子で、
「板の立て付け角度も、トラスの構造も甘い。だからわたしに気付かれる。侵入を許す」
「邪魔する気?」
 ……もう勝手にやってくれ。
 お、そういえばもう身体が動くな。長門が破ったところからお先させてもらうとするか。
「鍋とカセットコンロによるその調味料の蒸発を申請する」
「やってみる? ここではわたしの方が有利よ」
 適当にドンパチやっている長門朝倉コンビを横目に、俺は教室を後にした。

41: 2007/03/31(土) 01:00:54.57 ID:WUIOEbrM0
すまん、強引なオチになったw

43: 2007/03/31(土) 01:02:05.21 ID:C+2OYxjo0
これで終わりと申すかwwwwwwwwwww

55: 2007/03/31(土) 01:18:05.06 ID:WUIOEbrM0
  『シークエンス2』

 
「入ったら?」
「お前か……」
「そ。以外でしょ」
 またもや昨日と変わらない柔和な笑顔を俺に向け、朝倉涼子は鍋をカセットコンロにかけて湯を沸かしているように見える。
 あのー、朝倉さん? 昨日に引き続き、あなたは一体何をやっておいででしょう?
「これ、昨日長門さんから貰ったの」
 ああ、そういえば教室出る時に長門がそれらしき台詞を吐いてたな。で、
「湯を沸かしてどうする気だ。まさかそれで俺を釜茹でにして頃す気じゃなかろうな」
「それでもいいんだけどね」
 違うのか。じゃあなんだ、あれか。熱いおでんで、どこぞの微妙な人気を誇る芸人みたくリアクションを取るとか、そういうことは御免被るぞ。
「え? ダメ?」
 って、合ってんのかよ!







59: 2007/03/31(土) 01:47:41.41 ID:WUIOEbrM0
じゃあ、話は一気に変わるが、涼宮ハルヒの激奏やってた時なんだけど。
当日、その激奏スレで現地組の実況待ちの合間合間に書いて落としてたやつがあるんだ。
それここで落としていいなら、それ落として終わるw

64: 2007/03/31(土) 01:56:12.30 ID:WUIOEbrM0
『開演直前』


「ちょっと、あんたなに緊張なんかしてんのよ」
 鋼の心臓を装備してそうなこいつにしてみれば、2.5人の前だろうが2500人の前だろうがどっちでも構わんのだろうが、こちとらタンパク質の心臓を持つ凡庸たる一般人である。一緒にしてもらわないでいただきたい。
「しゃきっとしなさいしゃきっと! 開演時間もう過ぎちゃってんのよあんた!」
 舞台袖から観客席にまで声が漏れそうな勢いで、ハルヒは俺に捲くし立てている。
「あのな、この状況で平然としてられるのはお前と……長門……と古泉くらいだ」
「なにそれ。ほぼ団員全員じゃない」
「はは。僕はこれでも一応緊張しているんですけどね」
 いや、なんというか、朝比奈さんを見てるとだな、俺たち5人分以上の緊張感がせめぎ立ててくるような感じは否めないだろ。
「……ふ、ふえぇ」

65: 2007/03/31(土) 01:57:31.95 ID:WUIOEbrM0
『鶴屋さんの場内アナウンス直後』


 どうやらそろそろ開演のようだ。観客席に注意事項のアナウンスが、ってか鶴屋さんじゃないかこれ。
「む、あたしより先に出張るなんて、やるわね鶴屋さん。みくるちゃん! 仮にも鶴屋さんの親友なんだから、対抗して何かアナウンスしてやりなさい!」
 例のごとく無茶苦茶な理屈で、ハルヒは朝比奈さんの可憐な唇にマイクを押し付けている。
「え、ええ! 無理、無理ですよぉ!」
 朝比奈さんは抵抗を試みるが、ハルヒにしてみればそんなもんは暖簾に腕押しである。なんだか口に押し付けられてる物体が無駄にやらしい物に見えてきた。
「早く言っちゃいなさい! 始まっちゃうわよ!」
 朝比奈さんは何かを決意したような表情で、
「とっとと席に戻りやがれ、ですよ」
 いやいや朝比奈さん、キャラじゃないでしょそれは。

66: 2007/03/31(土) 01:58:44.78 ID:WUIOEbrM0
『イベントパート終了後』


 なんだか特定の人物の独壇場だったような気がしないでもないが、とにかくイベントパートに無事終止符を打つことが出来た。
「いい感じだったわね。きっとこれに恐れをなして、さだまさしも次のライブからはMCを控えめにしてくるに違いないわ」
 さだまさしがどこでこのイベントを拝見しているのかは甚だ疑問だが、ハルヒ的には満足のいく出来だったらしい。俺にはグダグダ感が会場内を漂ってるのをひしひしと肌で感じたのだが。
 いや、つうかその原因はだな、
「ていうかだな、お前、しゃべりすぎだ。会場から立ちこめる妙にどんよりとしたオーラを感じなかったのかお前は」
 ハルヒは何か核廃棄物でも見るような目で俺を見やり、
「は? 可哀想ねあんた。空気の"く"も読めないような人間だったなんて。皆あたしの超絶トークに聞き惚れてたのが解らなかったわけ?」
「始まる」
 とにかくこうして長門の宣言を以って次のライブパートの幕が上がったのである。

67: 2007/03/31(土) 02:00:07.78 ID:WUIOEbrM0
『鶴屋さんの「めがっさいいじゃないかっ」終了直後』


 鶴屋さんが出番を終え、高々とした笑いと共に舞台袖へと引き返してきた。
「にゃははっ。いやー、めっさ気持ち良かったっさ! これはくせになりそうだっ」
 ゼンマイ人形のように俺の肩をばしばし叩きながら、鶴屋さんがライブの醍醐味というものを俺に伝えようとしてきた。
「お疲れ様です、鶴屋さん」
「お疲れお疲れー。さーあ次はキョンくんの番にょろ? いっちょかましてきておくれっ」

69: 2007/03/31(土) 02:01:46.69 ID:WUIOEbrM0
『「激奏」終了直後』


「…………」
 この三点リーダは長門が発するものではない。誰あろうあのハルヒである。
「いやよかった。大成功ってことでいいよな」
 俺が労ってやろうと声を掛けるもほぼ反応を見せず、先程からずっと顔を俯けている。
「……うぅ、うぐ……うぅ……」
 そして、ハルヒは今どういう状態にあるのかというと、これを認めてしまえば俺の中の色々な認識が崩れ去って俺自身も何か良くないことになりそうなので、とりあえずハルヒは呻いているということにしておく。
「正直、驚きです。涼宮さんも感極まったのでしょう」
 ここは古泉の台詞も聞こえないことにするのが得策だろう。
 とにかく俺たちはこの一大イベントを大成功させることが出来たわけであり、今は楽屋へと足を運んでいる最中である。いやマジでよかったよかった。
「ぐす……うぅ……」
 ハルヒの調子はまだ復旧の兆しを見せない。くそ、なんか俺まで変な気分になってきたじゃないか。
 行く先は急な下り階段に差し掛かる。
 とここで、
「ん?」
 ハルヒは赤く腫れた目を俺に隠しつつも、俺より先に階段を下り始めた。
「どうしたハルヒ?」
「……なんでもない」
 と言いつつも、顔は俯けているが体は俺を見上げるようにこちらを向けている。  
 そう、階段は急なのである。
 ハルヒは自分がこんな状態にも拘らず、忘れていない。

 安心しろハルヒ。俺にあの三日間の記憶はないが、もうあんなことなんてないだろうからさ。
 だから、ありがとな。そして、


「ハルヒ。お疲れ様」

70: 2007/03/31(土) 02:03:49.64 ID:WUIOEbrM0
激奏の内容知らないと解り辛いやつばっかだけど、とりあえずおしまい。
読んでくれた人ありがとう。
ノシ

引用: キョン「あのー朝倉さん? あなたは一体何をやって」