1:2017/10/12(木) 00:31:03.164
居酒屋――

課長「みんな、今日もご苦労さま! 今夜はパーッとやろう!」

課長「最初は……とりあえずビールいっとこうか」

先輩「そうですね」

同僚女「はーい!」

新人「あ、すんません。オレはカシスオレンジで」

課長「そ、そうかね」



2:2017/10/12(木) 00:32:14.077 ID:Ud3QvjdQ0.net
こういう新人はカシオレなんて知らないからウーロン茶なんだよなあ
6:2017/10/12(木) 00:34:35.208
課長「じゃあビール三つとカシスオレンジ一つを頼んでもらおうか」

新人「はいッス!」

新人「しっかし皆さん、ビールなんてよく飲めるッスね~」

先輩「え?」

新人「あんなの苦いだけじゃないッスか! はっきりいってビールなんてクソッスよ!」

課長「なんだと……?」ピクッ
7:2017/10/12(木) 00:37:16.646
課長「……」ガタッ

先輩「……」ガタッ

同僚女「……」ガタッ

新人「え、どうしたんスか? いきなり立ち上がって」

課長「どうやら、君には教育の必要があるようだな」

新人「え……?」

課長「……」ザッザッザッ…

先輩「……」ザッザッザッ…

同僚女「……」ザッザッザッ…

新人「あ、あああああ……! うわぁぁぁぁぁっ!!!」
8:2017/10/12(木) 00:38:12.286 ID:i0iHuA0Fr.net
こわい
10:2017/10/12(木) 00:40:45.991
新人(オレは三人がかりであっという間に押さえ込まれ、目隠しをされてしまった)

新人(いったいオレはどこに連れていかれるのだろう……)

ブロロロロ…

新人(車に乗せられてる……)

新人(まさか……このまま山に運ばれてOされてしまうんじゃ!?)

新人(だ、誰か助けて……!)

…………

……
14:2017/10/12(木) 00:44:08.425
キキッ

課長「着いたぞ、目隠しを取ってやってくれ」

先輩「はい」シュルル…





新人「こ、ここは……!?」
16:2017/10/12(木) 00:47:40.764
工場長「お待ちしておりました」

新人「……へ」

新人「あ、あんたは?」

工場長「わたくし、当ビール工場の工場長です」

新人「ビール工場……!? まさか!?」

課長「今日はよろしくお願いします。勉強させていただきます」

工場長「こちらこそ」

新人「教育ってこういう方向ッスか!?」

先輩「他にどういう方向があるんだよ。ま、俺も初めてだけどさ」

同僚女「あたしもはじめてだから楽しみ~!」
22:2017/10/12(木) 00:50:26.548
ビール工場――

工場長「それではまず……ビールはどこで生まれた酒か、ご存知ですか?」

新人「え……!?」

新人「うーんと……ドイツッスか? やっぱり」

工場長「たしかにドイツはビールで有名ですが、そうではないんです」

新人「じゃあどこなんスか?」

工場長「有力な説は、メソポタミアのシュメール人発祥といわれています」

新人「メソポタミア!? って、あのメソポタミア文明の……!?」

工場長「そうです。現在でいうと、イラクあたりになりますね」
24:2017/10/12(木) 00:53:27.758
工場長「ビールは紀元前から存在し、ワインの次に歴史の古い酒といわれています」

新人「そんな古いんスか!」

工場長「“目には目を、歯には歯を”で有名なハンムラビ法典にもビールに関する記述があります」

課長「ほう、どのような?」

工場長「ビールの代金は必ず穀物で支払わねばならない、だとか」

工場長「それと、ビールを水で薄めて売ったりしたら死刑、なんて法律もあったようですね」

新人「死刑! ひええ、おっそろしい……」
25:2017/10/12(木) 00:56:39.866
工場長「その後、ビールはヨーロッパへ伝わりました」

工場長「宴会好きなバイキングの戦士達は、敵の頭蓋骨を杯にしてビールを飲んだという話もあります」

先輩「あのツノ生えた兜をつけた豪傑たちが、ワイワイ宴会やってる絵が見えてくるな」

同僚女「ホント!」

工場長「中世においては、荘園や修道院ではビールの醸造が義務付けられていました」

工場長「ビールは栄養補給の手段としても重宝され、“液体のパン”とも呼ばれていたそうです」

新人「ビールで栄養補給とは、向こうの人は豪快ッスねえ~」

工場長「当時のビールは今のビールに比べるとずっと薄かったですから」

工場長「それに、ビール製造には煮沸した水を使うので、普通の飲み物より安全性も高かったそうです」
26:2017/10/12(木) 00:57:39.010 ID:i0iHuA0Fr.net
新人素直
27:2017/10/12(木) 00:58:05.066 ID:gqW6hJXW0.net
だからなんだよって話なんだが
美味しいかどうかの話だろ
28:2017/10/12(木) 00:59:45.073
課長「日本にビールが伝わったのは、いつ頃のことなんですか?」

工場長「日本の文献にビールが登場するのは、1724年、徳川吉宗の時代です」

工場長「この時は、ビールは『なんの味わいもない』と酷評されてしまったようですね」

先輩「暴れん坊将軍の時代か!」

新人「へぇ~、そんなに昔なんスか。てっきり明治あたりになってからかと……」

先輩「なんで?」

新人「いや、なんとなく……江戸時代とビールってなんか合わないじゃないッスか」

同僚女「時代劇でビールが出てきたら、ちょっとビックリよね」

工場長「たしかに、本格的に日本に醸造所ができるのは、明治時代になってからですね」
29:2017/10/12(木) 01:02:18.598
工場長「ところで……」チラッ

新人「なんスか?」

工場長「ビールはなにで出来ているか、ご存じですか?」

新人「え……麦ッスよね」

工場長「そうです。他には?」

新人「他……? えぇと……アルコールとか?」

新人「麦とアルコールをミキサーで混ぜて……的な」

課長「乱暴すぎるよ、それは」

アッハッハッハッハ……
32:2017/10/12(木) 01:05:48.017
工場長「ビールの原料は、大きく分けて四つ」

工場長「まず、先程おっしゃった麦ですね」

工場長「大麦を発芽させた、“麦芽”が原料となります」

工場長「二条大麦がビールの原料に適しており、ビール大麦などとも呼ばれたりします」

同僚女「どうして適してるんですか?」

工場長「二条麦は種子が大きく、醸造の管理がしやすいためです」

同僚女「なるほど!」
33:2017/10/12(木) 01:06:41.127 ID:DDBT1DI00.net
お前リアルではビールの工場長だろ
34:2017/10/12(木) 01:08:24.399
工場長「二つ目がホップ」

新人「ああ、ビールのCMでもホップがどうのってよく聞くッスね。でもホップってなんなんスか?」

工場長「クワ科の多年生の植物です。見た目はこんな感じです」

新人「植物なんスか! パッと見は緑の松ぼっくりって感じッスね!」

先輩「ホップはどういう役目があるんですか?」

工場長「ビールに苦みや香りを与えてくれます」

工場長「他にもビールの泡持ちをよくしたり、腐敗を防ぐ作用もあります」

新人「メチャクチャ重要じゃないッスか!」

工場長「ええ、ビールの中核をなす原料といっても過言ではありません」
35:2017/10/12(木) 01:11:45.172
工場長「三つ目は水です」

工場長「もちろん、ただの水でいいというわけではなく」

工場長「厳しい条件や品質管理をクリアした水が使用されます」

課長「料理は水が命といいますが、ビール造りも水が命、というわけですな」

工場長「おっしゃる通りです」

工場長「そして、その他の原料として米やコーンスターチなどが用いられます」

新人「米は分かるッスけど、コーンスターチってなんスか?」

工場長「トウモロコシから作ったデンプンです」

工場長「酒以外にも、ケーキやアイスなどさまざまな料理の材料に使われますね」
36:2017/10/12(木) 01:14:22.038
工場長「では、いよいよ製造工程をご紹介いたしましょう」

工場長「まずは、二条大麦から麦芽を作る≪製麦工程≫から入ります」

工場長「大麦からホコリやゴミを取り除き、浸麦槽で水分を含ませます」

同僚女「ふむふむ」

工場長「そして水分を含ませた麦は、発芽室で発芽させます」

新人「なんだか、まるでもやしみたいッスね!」

工場長「そうですね。麦芽は麦のもやしともいえるでしょう」
37:2017/10/12(木) 01:15:05.388 ID:4hIa9tl60.net
いい上司だなぁ
39:2017/10/12(木) 01:17:44.293
工場長「発芽しかけた麦芽は、焙燥します」

先輩「バイソウ?」

同僚女「なんだか、あまり聞かない言葉ね」

工場長「熱気で乾燥させ、芽の成長を止める工程です」

工場長「これを行うことで、麦芽の保存性を高めることもできるのです」

先輩「へぇ~」

同僚女「メモメモ」
41:2017/10/12(木) 01:20:18.565
工場長「麦芽が出来上がったら、次に≪仕込工程≫に入ります」

工場長「麦芽をローラー式の粉砕機で粉砕して、ひきわり状態にします」

先輩「やっぱり細かく粉砕した方が、きめ細やかな味になったりするんですかね?」

工場長「そんなことはありません。細かすぎると麦芽の皮に含まれるタンニンが多く出てしまい」

工場長「エグ味の原因になってしまいますから」

先輩「その絶妙な砕き具合を生み出すのも、相当な時間がかかったんだろうな……」
42:2017/10/12(木) 01:23:51.249
工場長「砕いた麦芽は米やコーンスターチといった副原料を混ぜ合わせ」

工場長「お湯の入った糖化槽に入れられます」

工場長「この際、麦芽の働きでデンプンが糖分へと変化します」

工場長「こうしてできたドロドロした液を糖化液と呼びます」

新人「なんだか理科の実験を思い出すッスね~。唾液でデンプンが糖分になるってやつ」

先輩「懐かしいなオイ」

工場長「この液をろ過したものを、麦汁と呼びます」
43:2017/10/12(木) 01:24:33.960 ID:lImPNgGNa.net
ビール工場周辺ってクソ臭いよな
府中本町の近くのやつとかやばい
44:2017/10/12(木) 01:24:55.073 ID:46fczPM20.net
詳しすぎだろwww
45:2017/10/12(木) 01:26:22.408
工場長「麦汁にホップを加え、煮沸します」

新人「出た、ホップ!」

工場長「これにより、ビール特有の苦みや香りが生まれるのです」

工場長「また、麦汁中のたんぱく質を分離凝固させ、液を澄ませる働きもしてくれます」

新人「ホップさまさまッスねえ」

課長「ホップのおかげで、ビールがステップして、売上がジャーンプ! ……なーんて」

新人「……」

先輩「……」

同僚女「……」

課長「……ごめん」

工場長「えーと……煮沸が終わった麦汁は、冷却され≪発酵工程≫へと移されます」
47:2017/10/12(木) 01:27:40.505 ID:80zAFwTAr.net
課長アウトー!
50:2017/10/12(木) 01:29:32.677
工場長「5℃ほどで冷却された麦汁には酵母が加えられ、発酵タンクへと入れられます」

新人「発酵って言葉だけは知ってるんスけど、具体的にどういうことが起こってるんスか?」

工場長「酵母とは菌類の一群のことですが、酵母が麦汁中の糖を食べ」

工場長「アルコールと炭酸ガスを作り出してくれるんです」

新人「へぇ~」

課長「君もこれから経験を積んで、社会人として発酵してくれたまえよ」

新人「はいッス!」

課長(よし、今のでさっきの醜態は取り戻せた!)
53:2017/10/12(木) 01:33:23.180
工場長「ちなみに発酵には“上面発酵”と“下面発酵”の二種類があります」

同僚女「どう違うんですか?」

工場長「上面発酵ビールは、発酵中に液の表面近くに浮かび上がって」

工場長「泡の層を作る性質を持つ酵母を使用します。上面発酵ビールはエールなどと呼ばれます」

工場長「一方、下面発酵ビールは低温で働く酵母を使います」

工場長「この酵母は発酵が終わるとタンクの底に沈む性質があるのです」

同僚女「だから、上と下ってわけですね」

工場長「はい」

工場長「ちなみに、今日本で主流になってるのは下面発酵のビールですね。今作ってるビールもこちらです」

工場長「いわゆるラガー・ビールというやつです」

新人「ラガーってラグビーのことじゃなかったんスね……」

課長「両者の味の違いは?」

工場長「上面発酵ビールは香り高く、下面発酵ビールはすっきりした味わい、といわれますね」
54:2017/10/12(木) 01:35:07.544
先輩「発酵はどのぐらいかかるんです?」

工場長「7~8日で、発酵は終わります」

工場長「が、この時のビールはまだまだ味が粗く、“若ビール”と呼ばれます」

同僚女「やっとビールになったけど、まだまだこれからってとこね」

課長「ちょうど今の君がこのぐらいかねえ」

先輩「だといいんですけどね、アハハ」

工場長「ですので、この若ビールは0℃の低温で≪貯蔵≫され、熟成されることになります」
56:2017/10/12(木) 01:38:40.752
新人「熟成はどのぐらいかかるんスか?」

工場長「どのぐらいだと思います?」

新人「そうッスね……発酵の倍で二週間ぐらい?」

工場長「数十日、四週間ぐらい、あるいはもっとかかります」

新人「そんなに!?」

新人「ビールってもっとパパーッと作ってるイメージがあったッスけど、時間かかるんスねえ……」

同僚女「ビールは一日にしてならず、ね」
57:2017/10/12(木) 01:42:08.917
工場長「熟成を終えたビールはろ過され、さまざまな容器に≪パッケージング≫されます」

新人「ふえぇ~……これでやっとこさ出荷ってわけッスか」

新人「いやー……作ってる人の苦労も知らずに、クソとかいって申し訳なかったッス」

課長「いやいや、分かってくれればいいんだよ」

工場長「それでは……出来たてのビールを飲んでいかれますか?」

四人「はーいっ!」
58:2017/10/12(木) 01:45:16.970
工場長「それではどうぞ!」

課長「カンパーイ!」

部下三人「カンパーイ!」

カチンッ

ゴクゴク…

課長「うまいっ!」

先輩「出来たてはやっぱ違いますね!」

同僚女「どう?」

新人「いやー……うまいッスね」

新人「でもやっぱ、オレは甘い酒のが好きッスかね~」

同僚女「あらら」ガクッ
61:2017/10/12(木) 01:50:07.792
工場長「ハッハッハ、それでかまわないんですよ」

工場長「世の中、色んな味覚の人がいますから、私もビールを強要するようなことはしたくないですし」

課長「む、たしかにその通り……」

先輩「最初はビールってのが常識だって考えてた俺たちも、考えるところがありますね」

工場長「かくいう私もプライベードじゃ、バリバリの日本酒派ですからね! これ内緒ですよ!」

新人「マジッスか~!」

アッハッハッハッハ……
65:2017/10/12(木) 01:53:20.117
新人「でもま、慣れると……グビグビいけるッスね」グビグビ

先輩「おう、飲め飲め!」

課長「いやぁ~……今日は来てよかった……」ゴクゴク

同僚女「課長ったら、新人君への教育なんてここへ来るための建前だったんでしょ?」

課長「バレたか」

新人「よぉ~し、ホップの入ったビール飲んで、軽やかステップ、会社の業績をジャンプさせるッス!」

アッハッハッハッハッハッハ……
67:2017/10/12(木) 01:57:03.845
課長「あ~……飲んだ、飲んだ」ゲェップ

課長「今日はありがとうございましたぁ~」ヒック

新人「ごちそうさまでしたッス!」

工場長「ありがとうございました」

課長「よっしゃ、じゃあ帰ろう!」

先輩「ヒャッホーッ!」

同僚女「は~い!」

新人「ウィーッス!」
69:2017/10/12(木) 02:00:27.021
新人「……あ」

先輩「どした?」

新人「オレたちって、たしかここまで車で来たッスよね?」

先輩「ああ、オレが運転したんだ」

同僚女「それがどうかしたの?」

新人「みんな、しこたま飲んじゃって……オレたちどうやって帰るんスか?」

課長「あ」

全員「……」

課長「仕方ない……工場に戻って、タクシー呼んでもらおう……」







~ おわり ~
70:2017/10/12(木) 02:02:00.261 ID:d/T3vcrG0.net
なんだこの勉強スレ
72:2017/10/12(木) 02:06:23.339 ID:VlY6oROgr.net
地味に面白かったぞ
73:2017/10/12(木) 02:07:18.220 ID:WsPxUrzfr.net
あんまビール飲めんけど楽しめたわ乙