Harrisia属は森林性サボテンで、細長く紐状に伸び月下美人のように大きな花を咲かせます。そのうちの1種であるHarrisia adscendensの名前には、何やら一悶着あった模様です。ということで、本日はAlan R. Franckの2015年の論文、『Proposal to conserve the name Cereus adscendens (Harrisia adscendens) against C. platygonus (Cactaceae)』をご紹介しましょう。

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Harrisia adscendens
『The Cactaceae descriptia and illustration of plant of cactus family』(1920年)より


Cereus platygonusはBerlin Garden由来の出所不明資料に記述があります。しかし、その標本は見つかっていません。タイプ標本がベルリンにあった場合、第二次世界大戦により1943年に破壊された可能性があります。また、C. platygonusは栽培されている植物から記載された場合、標本は作られなかった可能性もあります。著者はC. platygonusの元資料と一致するのは、Harrisia adscendensとして知られるブラジルのCaatinga原産のサボテンであるとしています。

SchumannはCleistocactus属とされるいくつかの種とともに、C. platygonusを広義のCereus属series Graciles(列)に分類しました。CleistocactusとHarrisiaは、どちらもTrichocereus亜属とされますが、これらの関係は曖昧です。SchumannはC. platygonusは12〜15本の剛棘があるとし、Riccobono(1909)は幼時生長と解釈しました。剛棘はHarrisiaなどの多くのサボテンの幼時の茎に見られます。

RiccobonoはC. platygonusをEriocereus属としましたが、後にBritton & RoseはHarrisia属としました。学名はHarrisia platygonaとなりました。Britton & RoseはH. platygonaは、H. adscendensの丸みを帯びた目立つ稜(ribs)と比較して、平らで幅広い稜を持つとして区別しました。Britton & Roseは、ニューヨーク植物園でH. platygonaの小さな生きた植物を研究することについて言及しました。現在、C. platygonusとされるニューヨーク植物園の3つの標本は、H. adscendenrsと特徴が一致します。標本のうち1つはBritton & Roseの言及したものに由来する可能性があります。これは、「1901年、パリのSimonの植物」というラベルがあり、おそらく園芸家のCharles Simonから購入したものです。Britton & RoseはC. Simonのカタログに対し言及があります。2つ目は、Alwin Berger多肉植物ハーバリウムの「K. Sch. 99」とラベルがあり、Schumannの試料由来である可能性があります。

Harrisia platygonaがHarrisia adscendensと同種であった場合、優先される名前はH. platygonaです。しかし、H. platygonaという名前は、現在H. adscendensと呼ばれる植物とリンクした文献はありません。H. platygonaという名前はBritton & Roseの後は放棄され、2012年のFranckにより最近コメントされただけです。H. adscendensという名前を使用した文献は豊富にあり、レクトタイプ化されています。論文でもH. platygonaは参照されず、H. adscendensの名前が長く使用されています。ICN14.2条に従い、Cereus adscendensはCereus platygonusに対して保存されることを提案します。

以上が論文の簡単な要約です。
何やら長々と説明されましたが、要するにC. platygonusは割と起源があやふやですが、記述された特徴からはH. adscendensと思われるも、長く使われてきたH. adscendensを使用しましょうというだけの話です。しかし、最後の提案はCereusになっていますが、これは元の名前の命名年が早い方に優先権があるため重要だからです。分かりやすく年表にしてみましょう。

1850年 Cereus platygonus
1908年 Cereus adscendens
1909年 Eriocereus platygonus
1920年 Harrisia adscendens
              Harrisia platygona

以上のように、命名が一番早いのはC. platygonusです。ですから、このC. platygonusを受け継いだH. platygonaが規約上は正しい名前ということになります。しかし、著者はC. platygonusではなくC. adscendensを正式な名前とすることを提案しているのです。2023年現在、Harrisia adscendensが正式な学名となっており、Harrisia platygonaあるいはCereus platygonusは異名とされています。この提案は認められているようです。


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