ファクトチェックアワード2023


誤・偽情報の氾濫が民主主義を脅かす問題となってきている中、人々がそうした情報に惑わされにくい社会を築くためには、公正で質の高いファクトチェックに接する機会が増え、真偽不明情報に対する人々の免疫力を高めることが重要と考えられます。

このたび、ファクトチェック活動の推進・普及に取り組んできた当法人は、社会的関心の高い事柄に関して人々を誤解させるおそれのある情報を検証し、正確な事実を共有することに貢献した作品を顕彰し、その社会的意義を広めるため、この賞を設けました。

審査・選考は、外部の視点を取り入れ公正に行うことを重視し、外部の学識経験者3名およびFIJ理事2名(ファクトチェックの実践活動に関与している理事を除く)の委員により実施しました。

(2023年6月21日発表。募集時のページはこちら

選考結果

「高額医療費負担廃止検討」のニュースをめぐる他制度との混同のおそれについて注意を喚起した記事 (リトマス)

(授賞理由)
「高額医療費負担廃止検討」の報道記事が発端となり「高額療養費制度」と混同したとみられる議論がネット上で広がっていたことから、両制度の違いを解説し、誤解に注意するよう喚起した記事である。人々の社会生活に関わる公共性の高いテーマであり、元の記事が「正確」であっても「誤解」は生じうることを考えると、その「誤解を解く」ことの意義は大きい。ファクトチェック可能な事実とその対象とならない個々人の意見・態度の表明とを区別したうえで、「正しく理解」した批判も取り上げる点でバランスも取れている。誤った解釈による混乱を防止しようとした取り組みとして、ファクトチェックが果たしうる役割の一面を示した。

(受賞作)
「高額医療費負担廃止検討」は正確だが誤解に注意 利用者へ返金の「高額医療費制度」とは別制度 (リトマス 2022年10月3日掲載)


(5作品、メディア名の五十音順)

「英国女王の国葬でも議会の議決をとっている」との政治家の発言を検証した記事 (InFact)

(授賞理由)
政府が安倍晋三元首相の国葬儀実施を国会での決議を経ずに決めたことが大きな議論となる中で、有力な国会議員が英国女王の国葬を例に批判した発言内容の真偽をファクトチェックした記事である。国葬儀の議論に影響を与えうる言説を見逃すことなく、確実な情報源である英国議会に問い合わせ、発言した議員に指摘したことで、当該発言の訂正につながった。党派的な視点抜きに丁寧に検証を行っている。発言の訂正は主要メディアでも報じられて、国葬儀をめぐる議論に一石を投じた。

(受賞作)
【Fact Check】石破元幹事長「イギリスではエリザベス女王の国葬でも議会の議決をとっている」は「誤り」 英国議会が回答 (InFact 2022年9月17日掲載)

ワクチン接種時の心筋炎・心膜炎の頻度に関する厚労省のリーフレットを検証した記事 (InFact)

(授賞理由)
ワクチンの安全性に関する厚生労働省のリーフレットに記載された情報がミスリードを招く可能性があることを指摘した記事である。図表にまとめられている数字の出典にあたり、その意味を検討することで不適切な比較を指摘しており、目を引き、わかりやすい図表現の問題を取り上げた点も評価できる。人々の関心や公共性の高いテーマであり、このリーフレットが撤回されたという意味でも、社会的インパクトが大きい。公的機関の情報発信のあり方やデータの取り扱い方についても問題提起するものとなった。

(受賞作)
【Fact Check】 ワクチン接種時の「心筋炎・心膜炎」の頻度は、新型コロナ感染時よりも低いのか? (InFact 2022年3月3日掲載)

「ブチャの市民虐殺はフェイク」とのロシア側主張を覆す決定的証拠や証言に関する一連の報道 (TBS)

(授賞理由)
ロシアのウクライナ侵攻における「ブチャの虐殺」をフェイクと批判したロシア側主張の真偽を検証した一連の報道番組である。現地での住⺠取材や防犯カメラ映像の分析など、多面的に丁寧に取材を重ねることによって堅実な検証を行っている。駐日ロシア大使へのインタビューで見せられたロシア側の宣伝動画にも重大な誤りがあったことを現地取材と証拠画像に基づき明らかにし、インパクトは非常に大きい。戦闘とセットで展開される情報戦の一端を詳らかにし、幅広い層の視聴者に考えさせる構成にもなっていた。

(受賞作)
「私たちは目の前で起きたことを忘れない」ロシアが“フェイク”と断ずる市民虐殺 主張覆す決定的証言と映像を入手 (TBS 2022年4月23日放送「報道特集」)
“ブチャでの市民虐殺はフェイク”ロシア最大の嘘を暴く決定的映像と証言 (TBS 2022年8月14日放送「NO WAR プロジェクト つなぐ、つながるSP『戦争と嘘=フェイク』」)

人気イベント開催地近くのホテルの価格高騰に関するネット上の噂を検証したファクトチェック特別番組 (日本テレビ)

(授賞理由)
人気イベント開催地近くのホテルが宿泊予約を一方的にキャンセルし、数十倍に値上げしたというネット上で広がった言説について検証したもので、ファクトチェック特別番組で放送された。事実Aと事実Bがあった場合、AとBの関係を論理的に説明するCという解釈が生み出されるという流言の典型例について、視聴者が理解しやすいように解説している。番組では丹念に調査が行われるだけでなく、タレントや漫才コンビが情報の真偽判断や判断の理由を説明することで、真偽の確認方法が身近に感じられる工夫がなされている。視聴者の情報リテラシーの涵養にもつながるものだった。

(受賞作)
「ホテルが勝手に予約キャンセル、価格数十倍に」は本当? 来月開催の羽生結弦さんの単独イベント ファンの予約殺到で、バズったツイートの真相は (日本テレビ 2022年11月20日放送「ザ・ファクトチェック」)

「ドローンで撮影した静岡県の水害」として拡散した画像がAI生成と指摘した記事 (BuzzFeed Japan)

(授賞理由)
静岡県を襲った台風水害に関連して、Twitterで拡散した画像投稿が虚偽であることを指摘した記事である。AI画像作成ツールを用いた検証作業とともに、静岡県への直接取材で実際には水没が起きていないことも確認している。他のメディアも取り上げたが、この記事が最も早く、画像が投稿された当日のうちに発表され、投稿者本人がAIで作成したと認めるきっかけとなった。災害時のファクトチェックが迅速に行われた成功例である。AIを用いた虚偽情報の拡散リスクを明らかにした点でもインパクトが大きかった。

(受賞作)
「ドローン撮影した静岡県の水害」と虚偽画像が拡散。AIでフェイク生成? 県は「デマやめて」 (BuzzFeed Japan 2022年9月26日掲載)

応募状況

応募総数 39点

たくさんの作品をご応募いただき、ありがとうございました。

選考委員
選考委員長
松田 美佐
中央大学教授

小笠原 盛浩
東洋大学教授

宮崎 洋子
慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究所リサーチャー

藤村 厚夫FIJ副理事長
スマートニュース(株)フェロー

乾 健太郎FIJ理事
東北大学教授
選考委員長コメント
 ときに社会混乱を引き起こし、民主主義を危うくするフェイクニュースの拡散に対し、ファクトチェック活動を通じて対抗する試みが世界中で広がりをみせています。今回、日本国内で日本語で発表されたファクトチェック作品のなかから、第一回ファクトチェックアワードとして、大賞1作品と優秀賞5作品を選出しました。初回選出のこれらの作品はそれぞれ個性的で、今後のファクトチェック活動の可能性を多様に示すことができたと考えます。
 ファクトチェック活動のさらなる拡大と浸透に、この賞が貢献することを期待しています。

授賞式
日時:2023年6月21日(水) 午後3時30分〜(オンライン開催

選考基準等

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