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日本株の旗艦ファンドを新設、クロスオーバー投資で新興企業を育成=アセットマネジメントOneの杉原社長

2024年09月03日 08時30分

杉原社長

 大手運用会社アセットマネジメントOneの杉原規之社長はインタビューに応じ、日本市場の魅力を高める「資産運用立国」の実現に向けて「マザーマーケットである日本株市場の成長が欠かせない」と指摘した。その上で、①日本の大型株に厳選投資する旗艦ファンドの新設 ②未上場の段階から上場後まで継続して投資するクロスオーバー投信の立ち上げ-などの方針を明らかにした。8月初旬に乱高下した株式市場については「(株価上昇を支えてきた)構造に変化はなく、日本株は再び上値を追う展開になるのではないか」と述べた。

◆日本株アクティブ運用に注力

-「資産運用立国」実現のポイントは

杉原社長 米国では1980年代前半に、加入者が投信等で掛け金を運用する「確定拠出年金」が登場し、そこから資産運用のマーケットが成長していきた。そのベースとなったのは、マザーマーケットである米国株式市場の堅調さだ。

 日本で「資産運用立国」を実現していくには、マザーマーケットである日本株市場がしっかり成長していくことが不可欠だ。当社は「資産運用立国」の担い手として、日本株のアクティブ運用に注力し、投資家の資産の育成と、投資先企業の成長に貢献していきたい。

 具体的には、日本株に厳選投資する大型株の旗艦ファンドを作っていきたいと考えている。新たに設置した「リサーチ・エンゲージメントグループ」で、ボトムアップの企業調査を行い、中長期的な成長企業を厳選して集中投資することを考えている。シードマネーで立ち上げ、トラックレコードを作り、展開していきたい。

 また、上場前に投資して上場後も株式を継続保有するクロスオーバー投資のファンドを今月、設定した。スタートアップ企業に伴走し、日本経済の成長を加速するイノベーション(技術革新)を促進する。このファンドは、外国籍の私募投信なので、国内公募投信の基準を上回る上限30%まで未上場株を組み入れることができる。投資に慣れた富裕層を対象に、販売会社と協力して丁寧に販売していく方針だ。このほか、プライベートデットなど、国内の資産を対象にしたオルタナティブ(株や債券を代替する新しい投資商品)にも力を入れていきたい。

◆再び、上値を追う展開に

-日本株の見通しは

杉原社長 日経平均株価は8月5日、1987年のブラックマンデーを超える大幅な下落を記録した。日銀が7月末に決定した追加利上げを受けて為替が円高に振れたことや、米国の経済指標の発表で景気減速懸念が広まったことを背景に、短期的な視点で売買を行う業者の売りが相場に大きな影響を与えた。

 ただ、年金基金など長期の目線で運用を行う機関投資家は、株価下落で減少したポートフォリオの株式の配分比率を元の水準に戻すため、ポジション調整の買いを入れていた。今回の急落は、株式市場に構造的な変化をもたらすものではないと考えている。日経平均株価は、急落直後に急反発し、下落分を回復した。価格変動(ボラティリティ)も落ち着きを取り戻している。

 一方、為替相場は1ドル=140円台半ばのレンジの中に収まりつつある。日本企業の想定為替レートは145円程度なので、業績にダウンサイドの影響を与えることは、ほとんどないだろう。そうした観点から、日本株は再び上値を追う展開になるのではないかと見ている。

◆日本経済や企業の改革が継続

-日本株が底堅いのは、なぜか

杉原社長 一つ目は、日本経済の変化だ。デフレ脱却への期待は、弱まっていない。賃上げの動きが続いているが、来年の春闘においても、さらなるベースアップが見込まれている。

 二つ目は、上場企業に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請した東証のイニシアチブに対して、企業側の取り組みがますます真剣になっていることだ。これまでは、自社株買いや遊休不動産の売却などで短期的な取り組みが目立っていたが、さらに、企業の構造改革など中長期的に資本効率を高める対応が進んできている。

 三つ目は、政府が日本への投資を促す政策を進めていることだ。海外投資家の資金を呼び込み、GX(グリーントランスフォーメーション)やDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。

 このように、株価のベースとなる企業業績、日本経済のファンダメタルズ、政府の政策などが合わさって、日本株に対して中長期にポジティブな見通しを持っている。また、当社は運用会社として、こうした取り組みを後押し、好循環を加速させていきたい。

◆中長期のビジョンを示し、企業改革を促す

-議決権行使の取り組みは

杉原社長 当社は4月以降開催される株主総会から、議決権行使の基準を改訂し、例えば、企業に達成を求めるROE(自己資本利益率)や政策保有株の基準を厳格化した。また、株価を意識した経営を促す観点から、業績基準の一つとしてTSR(トータル・シェアホルダー・リターン)を導入した。TSRとは、株価の騰落と配当金を合わせた株主総利回りのことだ。

 その結果、6月の株主総会を終えた段階でみると、会社提案に対して反対票を投じる件数が増加している。取締役選任に対する反対は全体の21.4%程度になった。当社は、投資先企業の成長を一緒に実現していきたいと考えている。企業改革に対する当社の思いを伝えながら対話を重ねており、その効果が少しずつ出ていることを感じている。

 議決権行使の基準は、単に毎年厳しくしていけばいいというものではない。ただ、新たに、もう少し中期の改革ビジョンを投資先企業に示すことを考えている。具体的には、2030年に企業に求める姿について9月にもその方向感や考え方を示し、それを基に中長期目線での対話を進めていたい。

 女性取締役の比率や政策株の保有基準などは、1、2年ですぐに達成できるものではない。現在の数字だけで短期的に評価してしまうと、企業が目標に向けて進んでいくトランジション(移行)の過程をしっかりと後押しできない。すぐに結果が出なくても、例えば中期経営計画に盛り込むといった企業の取り組みを評価することで、本格的な企業改革を促していきたい。

◆企業との対話強化へ、組織改編

-エンゲージメントの取り組みは

杉原社長 エンゲージメント(投資家と企業の建設的な対話)では、財務戦略や資本効率の向上について、力を入れていきたい。2023年度に当社が実施したエンゲージメントは2000件超で、このうち、資本効率の向上をテーマにしたものは220件になっている。ROEを基準として、中長期的な目線で資本効率の改善をしっかりとモニターしていく。

 株主総会で反対票を投じることだけで、必ずしも企業改革が進むわけではない。議決権行使の前段階であるエンゲージメントが一番大切だ。議決権行使基準を満たせていなくても、企業の取り組み姿勢が理解できれば、反対票を見送ったケースは多々ある。経営陣や社外取締役との対話の件数をさらに増やし、深度を深めていきたい。

 当社は4月に、総合的な調査力とエンゲージメント活動の強化を目的として、組織改編を行った。具体的には「株式運用グループ」内のリサーチ機能と「スチュワードシップ推進グループ」、「調査グループ」を統合して、「リサーチ・エンゲージメントグループ」を新設した。

 セクターアナリストとESGアナリスト、マクロ経済アナリストが一つのグループで働くことで、財務・非財務のデータからESGや資本効率までの調査分析を合わせて提供し、エンゲージメント活動の強化に拍車をかけていく。

◆企業価値向上と社会課題解決に貢献

-金融経済教育の取り組みは

杉原社長 当社は、昨年10月、個人の資産形成や金融経済教育に関する情報発信力を強化するため「未来をはぐくむ研究所」を設立した。

 運用会社には二つの役割がある。一つは「お客さまの資産を預かって運用する」という受託者(フィデューシャリー)としての役割と、「預かった資金を投資して、企業の価値向上や社会的課題の解決につなげる」という責任ある投資家(スチュワードシップ)としての役割だ。当社は、運用会社としてこの二つの役割をしっかり果たしていくことで、日本経済に対して大きな価値を提供できると考えている。

 日本ではまだ「投資はギャンブルだ」とった意識が根深く残っている。未来をはぐくむ研究所では、運用会社の二つの役割について、様々なチャネルを通じて広く発信していくことで、投資に対する警戒感を取り除いていこうとしている。

 私自身も大学に行って投資について講義をしている。講義後に集めたアンケートを見ると「運用会社はお金を殖やすことが主な役割だと思っていたが、企業への投資を通じて企業価値を高め、社会的課題の解決につなげるという役割を担っていることを知って、運用会社に魅力を感じた」というように、二つ目の役割に賛同する声が多く寄せられる。自分の投資したお金が社会課題の解決や企業の成長につながっていくことについて、特に若い世代には共感を得られやすいようだ。

◆ファンドマネジャーを「なりたい仕事」に

-子どもたちへのアプローチは

杉原社長 小学生向けに今年3月、こどもの職業・社会体験施設「キッザニア」の企画・運営を行う「KCJ GROUP」が提供する、こども向けアプリ「キッザニア オンラインカレッジ」で、ファンドマネジャーの仕事を学べる、新しい金融経済教育のコンテンツの提供を開始した。

 コンテンツの中では、株式や債券に投資するだけでなく、投資先企業の社長と面談して企業の魅力を発見したり、有望な企業を発掘したりする場面を設けている。将来、ファンドマネジャーが、子どもたちの「なりたい職業」に登場することを期待している。

 このほか、都内の小学校の先生向けに資産運用の勉強会を開いたり、社員の子たちを集めて親子で資産運用を知ってもらうイベントを計画したりしている。子どもたちや、小学生以下の子どもを持つ若い親世代に、資産運用に対する抵抗感を無くし、資産運用の社会的な意義を知ってもらいたいと思っている。

 

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