電車でもめる酔っぱらいと高校男児 乗客が見て見ぬふりをしていると… By - grape編集部 公開:2020-08-13 更新:2020-08-13 grape Awardgrape Award 2020grape Award エッセイエッセイ電車高校生 Share Post LINE はてな コメント ※写真はイメージ 2020年8月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。 『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。 『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる 今回は、応募作品の中から『光の国からの使者はいるんだ』をご紹介します。 光の国からの使者はいるんだ もう30年近く前の、ある爽やかな光景が忘れられない。 その日私は、いつもの3時間残業を1時間で切り上げて会社を出た。ターミナル駅から私鉄に乗り、コンビニで缶ビールでも買って帰ろうなどと思ううち、うとうとし出した。 するとどこか遠くで男の怒鳴り声がする。そう思ったのは私が居眠りをしていたせいで、それは目の前で繰り広げられていた。 「なんや、お前。高校生やろ?」 「だから何なんですか?」 50年配の男と男子高校生がもめている。事情の発端がよくわからず、しばらく聞いていたが、どう見ても高校生が酔っ払いに絡まれているようだ。 ーこんな時間から相当飲んでるな。 席はちらほら空いているが二人はドアの前で立ったままだ。酔っ払い男はますますヒートアップし、いまにも高校生に掴みかからんばかりだ。見るとどの乗客も体を硬くし、薄目を開けて見て見ぬ振りをしている。なかには寝ているふりをしているような者もいる。 かくいう私も、はっきり目覚めるにつれ体がこわばってきた。 ー助けてやりたいが、下手に口を出して怪我をさせられてもなあ……。 そんな自己弁護をしている時だ。酔っ払い男が高校生の胸を拳で突いた。 ーやばい。これは大ごとになるぞ。 そう思った時、それまで寝たふりをしていると思っていた30歳くらいの男性が、突然、席を立った。 「そんなことをしたらダメでしょ!」 男性は躊躇せずに酔っ払い男の腕を掴んだ。男は「せやかて、こいつが悪いんですねんで」などと言いながら、なおも高校生に暴力を振るおうとする。ちょうどその時、列車が停車しドアが開いた。その駅が彼の降りる駅だったのか、高校生は出口へと向かう。そして男性に一礼して降りていった。 ーやれやれ。 私を含めみながそう思っただろう。 ところが今度はその酔っ払い、止めに入った男性に絡み始めたのである。しかも、男性が席に着くとその隣に座って「あれはあいつが悪い」と言い訳がましいことを言う。 ー彼、どうするんだろう? すると次の駅でその男性が降りて行った。しかし酔っ払い男は降りずに、反対側に座っていた若い女性に絡み始めたのだ。 ーああ、勇敢な彼。降りて行かないで。 心の中で情けないことを考えながら窓から外を見ると、さっきの男性が走って駅員のところに行き、なにやら告げている。駅員はさっと敬礼をして、駅舎に駆け込むのが目に入った。 次の駅に着くと駅員が2名乗り込んできて、酔っ払い男はそのまま御用となったのである。絡まれていた女性はもちろん、乗客はみな笑顔だった。 あの勇敢な男性ももう還暦を迎え、高校生はいい中年のおじさんになっているはず。 乗り合わせた私たちはもちろん、高校生だった彼には「この国もまだ捨てたもんじゃない」と思う記憶になったことだろう。 grape Award 2020 応募作品 テーマ:『心に響くエッセイ』 タイトル:『光の国からの使者はいるんだ』 ペンネーム:かず爺 エッセイコンテスト『grape Award 2020』開催中! 2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。 第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。 今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。 『grape Award 2020』詳細はこちら [構成/grape編集部] 人に貸したプラ容器 返却されたものが?「この手があったか」「マネする!」「人から借りたプラ容器は…」女性の行動に称賛と共感の声! かわいらしい柴犬を写した1枚 しかし、背後の貼り紙を見ると…?かわいい柴犬と対照的な厳しいポイ捨て禁止の貼り紙。 Share Post LINE はてな コメント
2020年8月現在、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催しています。
『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集。
『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる
今回は、応募作品の中から『光の国からの使者はいるんだ』をご紹介します。
光の国からの使者はいるんだ
もう30年近く前の、ある爽やかな光景が忘れられない。
その日私は、いつもの3時間残業を1時間で切り上げて会社を出た。ターミナル駅から私鉄に乗り、コンビニで缶ビールでも買って帰ろうなどと思ううち、うとうとし出した。
するとどこか遠くで男の怒鳴り声がする。そう思ったのは私が居眠りをしていたせいで、それは目の前で繰り広げられていた。
「なんや、お前。高校生やろ?」
「だから何なんですか?」
50年配の男と男子高校生がもめている。事情の発端がよくわからず、しばらく聞いていたが、どう見ても高校生が酔っ払いに絡まれているようだ。
ーこんな時間から相当飲んでるな。
席はちらほら空いているが二人はドアの前で立ったままだ。酔っ払い男はますますヒートアップし、いまにも高校生に掴みかからんばかりだ。見るとどの乗客も体を硬くし、薄目を開けて見て見ぬ振りをしている。なかには寝ているふりをしているような者もいる。
かくいう私も、はっきり目覚めるにつれ体がこわばってきた。
ー助けてやりたいが、下手に口を出して怪我をさせられてもなあ……。
そんな自己弁護をしている時だ。酔っ払い男が高校生の胸を拳で突いた。
ーやばい。これは大ごとになるぞ。
そう思った時、それまで寝たふりをしていると思っていた30歳くらいの男性が、突然、席を立った。
「そんなことをしたらダメでしょ!」
男性は躊躇せずに酔っ払い男の腕を掴んだ。男は「せやかて、こいつが悪いんですねんで」などと言いながら、なおも高校生に暴力を振るおうとする。ちょうどその時、列車が停車しドアが開いた。その駅が彼の降りる駅だったのか、高校生は出口へと向かう。そして男性に一礼して降りていった。
ーやれやれ。
私を含めみながそう思っただろう。
ところが今度はその酔っ払い、止めに入った男性に絡み始めたのである。しかも、男性が席に着くとその隣に座って「あれはあいつが悪い」と言い訳がましいことを言う。
ー彼、どうするんだろう?
すると次の駅でその男性が降りて行った。しかし酔っ払い男は降りずに、反対側に座っていた若い女性に絡み始めたのだ。
ーああ、勇敢な彼。降りて行かないで。
心の中で情けないことを考えながら窓から外を見ると、さっきの男性が走って駅員のところに行き、なにやら告げている。駅員はさっと敬礼をして、駅舎に駆け込むのが目に入った。
次の駅に着くと駅員が2名乗り込んできて、酔っ払い男はそのまま御用となったのである。絡まれていた女性はもちろん、乗客はみな笑顔だった。
あの勇敢な男性ももう還暦を迎え、高校生はいい中年のおじさんになっているはず。
乗り合わせた私たちはもちろん、高校生だった彼には「この国もまだ捨てたもんじゃない」と思う記憶になったことだろう。
grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響くエッセイ』
タイトル:『光の国からの使者はいるんだ』
ペンネーム:かず爺
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2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。
第4回目となる2020年は、例年通りの『心に響く』というテーマと、『心に響いた接客』という2つのテーマから自由に選べます。
今回も、みなさんにとって「誰かに伝えたい」と思う素敵なエピソードをお待ちしております。
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[構成/grape編集部]