カメラが故障し、涙する女性 店員のおじさんがとった行動は… By - grape編集部 公開:2020-09-25 更新:2020-09-25 grape Awardgrape Award 2020grape Award エッセイエッセイカメラ店員 Share Post LINE はてな コメント ※写真はイメージ 2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。 『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。 『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる 今回は、応募作品の中から『私にぴったりのカメラに出会うまで』をご紹介します。 これは、とある小さな中古カメラ屋さんの話である。 私は、その前日に、銀座のカメラ屋さんで、中古のフィルムカメラを購入した。私はずっと、フィルムカメラが欲しくて、何ヶ月も色々と調べ、詳しい知人に相談もしていたが、なかなか踏ん切りがつかないまま、東京中のカメラ屋さんを巡っていた。 しかしある日、銀座のショーウィンドウに並んでいたカメラが目に止まった。値段は一万円。かわいらしいデザインと、あまりない機種という物珍しさで、思わず衝動買いしてしまった。 翌日、私は通りがけの写真屋さんで、ネガフィルムを購入した。カメラ初心者の私は、写真屋のおばさんに、フィルムの入れ方を教えてください、とお願いした。 おばさんは、「珍しい機種ね」と言いながら、喜んでフィルムを入れてくれた。私も、念願のフィルムカメラで写真を撮れると思うと、ワクワクした。 「記念の一枚目は、おばさんにしますね」私はシャッターを切った。カメラは微動だにしなかった。「あれ、おかしいな」私は、もう一度シャッターを切った。しかし、カメラは、静かなまま動かなかった。 動かないカメラを眺めていると、思わず涙がこぼれ落ちた。やっとの思いで出会えたカメラが、壊れていたことが、ただただ悲しかった。 私は、おばさんが教えてくれた、近くの中古カメラ屋さんへ足を運んだ。店内では、おじさんが一人、机に向かってカメラの修理をしていた。壁の棚には、たくさんのカメラが窮屈そうに並んでいた。 私は、壊れたカメラをおじさんに手渡し、事情を説明した。おじさんは、カメラを手に取ると、残念そうに話した。 「モーターが壊れているね。こういうカメラは、電化製品だから、同じ部品を購入しないと直せないんだ。これは珍しいから、部品はもう見つからないな。何もできなくて、ごめんね」おじさんは、カメラを机に置いた。「でも、昨日買ったんでしょう?どのお店?」 私は、銀座のカメラ屋さんの名前を伝えた。するとおじさんは、電話をかけ始めた。そして電話を切ると、「レシートを持っていけば、返品できるよ」と静かに言った。 その瞬間、このおじさんに私のカメラを見つけてもらおう、と思った。 「あの、私にぴったりの、軽くて、小さくて、壊れないフィルムカメラを、代わりに選んでください」 おじさんは、恥ずかしそうにアハハと笑った。 「そんなもの、ないよ」 困惑したように笑いながら、おじさんは、店内を歩き始めた。棚からカメラを手にとっては、考え込み、棚に戻す、をずっと繰り返していた。 「あっ!」 おじさんは、店の奥の部屋に駆け込んだ。出てくると、手には小さな赤いカメラを持っていた。 「これはね、ハーフカメラ。普通の二倍の写真が撮れて、その分小さいんだよ。機械式だから、壊れても直せる。全部修理したばかりで、新品同様だよ。ただ外見が、元々はグレーの皮なんだけど、全部貼り直して、思い切って赤にしちゃった。でもあなたなら似合うよ。一万円。どうかな」 軽くて、小さくて、壊れなくて、たくさん撮れて、大好きな赤色のカメラ。 おじさんは、壊れたカメラからフィルムを取り出すと、フィルムの入れ方と出し方を、一から教えてくれた。おまけとして、ストラップとレンズのフィルターをつけてくれた。 「これからたくさん、いい写真を撮ってね」 私にぴったりのカメラが、やっと見つかった。 「記念の一枚目は、おじさんにしますね」私はシャッターを切った。カメラは、カシャ、と機械音を鳴らした。「ハーフだから、二枚分撮れるんですよね。じゃあ、もう一枚」私はもう一度、シャッターを切った。私の新しいカメラは、しっかりと、おじさんのはにかんだ笑顔をフィルムに焼き付けた。 grape Award 2020 応募作品 テーマ:『心に響いた接客エッセイ』 タイトル:『私にぴったりのカメラに出会うまで』 作者名:花田 玲奈 エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定! 2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。 さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。 心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに! 『grape Award 2020』詳細はこちら [構成/grape編集部] 人に貸したプラ容器 返却されたものが?「この手があったか」「マネする!」「人から借りたプラ容器は…」女性の行動に称賛と共感の声! かわいらしい柴犬を写した1枚 しかし、背後の貼り紙を見ると…?かわいい柴犬と対照的な厳しいポイ捨て禁止の貼り紙。 Share Post LINE はてな コメント
2020年5~8月にかけて、ウェブメディア『grape』では、エッセイコンテスト『grape Award 2020』を開催。
『心に響く』と『心に響いた接客』という2つのテーマから作品を募集しました。
『grape Award 2020』心に響くエッセイを募集! 今年は2つのテーマから選べる
今回は、応募作品の中から『私にぴったりのカメラに出会うまで』をご紹介します。
これは、とある小さな中古カメラ屋さんの話である。
私は、その前日に、銀座のカメラ屋さんで、中古のフィルムカメラを購入した。私はずっと、フィルムカメラが欲しくて、何ヶ月も色々と調べ、詳しい知人に相談もしていたが、なかなか踏ん切りがつかないまま、東京中のカメラ屋さんを巡っていた。
しかしある日、銀座のショーウィンドウに並んでいたカメラが目に止まった。値段は一万円。かわいらしいデザインと、あまりない機種という物珍しさで、思わず衝動買いしてしまった。
翌日、私は通りがけの写真屋さんで、ネガフィルムを購入した。カメラ初心者の私は、写真屋のおばさんに、フィルムの入れ方を教えてください、とお願いした。
おばさんは、「珍しい機種ね」と言いながら、喜んでフィルムを入れてくれた。私も、念願のフィルムカメラで写真を撮れると思うと、ワクワクした。
「記念の一枚目は、おばさんにしますね」私はシャッターを切った。カメラは微動だにしなかった。「あれ、おかしいな」私は、もう一度シャッターを切った。しかし、カメラは、静かなまま動かなかった。
動かないカメラを眺めていると、思わず涙がこぼれ落ちた。やっとの思いで出会えたカメラが、壊れていたことが、ただただ悲しかった。
私は、おばさんが教えてくれた、近くの中古カメラ屋さんへ足を運んだ。店内では、おじさんが一人、机に向かってカメラの修理をしていた。壁の棚には、たくさんのカメラが窮屈そうに並んでいた。
私は、壊れたカメラをおじさんに手渡し、事情を説明した。おじさんは、カメラを手に取ると、残念そうに話した。
「モーターが壊れているね。こういうカメラは、電化製品だから、同じ部品を購入しないと直せないんだ。これは珍しいから、部品はもう見つからないな。何もできなくて、ごめんね」おじさんは、カメラを机に置いた。「でも、昨日買ったんでしょう?どのお店?」
私は、銀座のカメラ屋さんの名前を伝えた。するとおじさんは、電話をかけ始めた。そして電話を切ると、「レシートを持っていけば、返品できるよ」と静かに言った。
その瞬間、このおじさんに私のカメラを見つけてもらおう、と思った。
「あの、私にぴったりの、軽くて、小さくて、壊れないフィルムカメラを、代わりに選んでください」
おじさんは、恥ずかしそうにアハハと笑った。
「そんなもの、ないよ」
困惑したように笑いながら、おじさんは、店内を歩き始めた。棚からカメラを手にとっては、考え込み、棚に戻す、をずっと繰り返していた。
「あっ!」
おじさんは、店の奥の部屋に駆け込んだ。出てくると、手には小さな赤いカメラを持っていた。
「これはね、ハーフカメラ。普通の二倍の写真が撮れて、その分小さいんだよ。機械式だから、壊れても直せる。全部修理したばかりで、新品同様だよ。ただ外見が、元々はグレーの皮なんだけど、全部貼り直して、思い切って赤にしちゃった。でもあなたなら似合うよ。一万円。どうかな」
軽くて、小さくて、壊れなくて、たくさん撮れて、大好きな赤色のカメラ。
おじさんは、壊れたカメラからフィルムを取り出すと、フィルムの入れ方と出し方を、一から教えてくれた。おまけとして、ストラップとレンズのフィルターをつけてくれた。
「これからたくさん、いい写真を撮ってね」
私にぴったりのカメラが、やっと見つかった。
「記念の一枚目は、おじさんにしますね」私はシャッターを切った。カメラは、カシャ、と機械音を鳴らした。「ハーフだから、二枚分撮れるんですよね。じゃあ、もう一枚」私はもう一度、シャッターを切った。私の新しいカメラは、しっかりと、おじさんのはにかんだ笑顔をフィルムに焼き付けた。
grape Award 2020 応募作品
テーマ:『心に響いた接客エッセイ』
タイトル:『私にぴったりのカメラに出会うまで』
作者名:花田 玲奈
エッセイコンテスト『grape Award 2020』の審査員が決定!
2017年から続く、一般公募による記事コンテスト『grape Award』。第4回目となる2020年の審査員には、grapeでも人気の漫画『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』シリーズでおなじみの漫画家・松本ひで吉さんが決定しました。
さらに『Jupiter』などの作詞を手がけた作詞家でエッセイストの吉元由美さんや、映画化もされた『スマホを落としただけなのに』などで人気を博する小説家の志駕晃さんも審査員として作品を読みます。
心に響く作品として選ばれるのは、どのエピソードでしょうか。結果発表をお楽しみに!
『grape Award 2020』詳細はこちら
[構成/grape編集部]